安斎都「高峯のあの事件簿・夏と孤島と洋館と殺人事件と探偵と探偵」

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137 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 20:35:37.41 ID:Ahhc8lJY0
まゆ「わかってたんですねぇ……」

麻理菜「そういうこと。私も沙理奈も見られていない」

椿「私達はお屋敷に戻りましたけど……」

都「古澤さんとロビーで合流して、二手に分かれました」

のあ「私と、安斎都、西島櫂は地下室へ」

真奈美「残りは食堂で待機だ」

頼子「私も食堂に」

雪菜「皆さんが来た時は停電の少し前でしたぁ」

海「ああ、悠貴ちゃんと雪菜とそれに」

雪菜「朋ちゃんはまだ、いましたぁ……」

都「そこで、停電が起こりました。そうですね?」

麻理菜「ええ。仕掛けはわかってるかしら」

由里子「うん、温室でブレーカーを落とした」

麻理菜「その通りね」

真奈美「問題は、停電後だ」

アヤ「アタシ達は部屋から出てない」

紗南「それは本当だよ」

海「朋がいなくなった……」
138 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 20:36:22.51 ID:Ahhc8lJY0
82

逢伊江館・1階・食堂

都「1回目の停電が起こりました」

真奈美「ああ」

光「アタシと由里子さんは、ブレーカーを見に行ったんだ」

由里子「頼子さんにロビーにいてもらったじぇ」

頼子「はい」

雪菜「朋ちゃん、見ていませんかぁ……?」

頼子「いいえ。出てきたのは、高峯さん、都さん、それと……」

のあ「乙倉悠貴」

都「その通りです」

光「3人ともロビーですぐに合流した」

頼子「そうですね……」

都「地下室はどうでしたか」

櫂「いたのは、あたしと二人」

雪菜「海ちゃんに手を繋いでもらいましたぁ」

海「雪菜、すごい混乱してたしさ……」

櫂「だよね?」

海「うん」

雪菜「朋ちゃんは着いて行ったとばかり……」

都「いなくなったのは停電中ですか?」

櫂「停電が回復した時には、地下室には3人しかいなかった」

真奈美「なら、藤居君はどこに行ったんだ?」

由里子「ロビーに出てきてない……?」

海「出てない、ってどういうこと」

都「部屋は、5つあります」

のあ「娯楽室、書庫、倉庫」

頼子「階段がある部屋と」

由里子「残り一つは?」

都「階段下」
139 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 20:37:39.00 ID:Ahhc8lJY0
由里子「機械室?隠れられなくはないけど……」

都「朋さんが、倉庫のカギを持っていた可能性は?」

真奈美「カギは由里子君が隠していたはずだ」

のあ「機械室のカギは?」

椿「そう言えば、写真を撮ってました」

都「南京錠があるはずです」

由里子「そもそも、機械室は違うじぇ」

都「違うとは」

由里子「南京錠のカギは、会社のメンテスタッフしか持ってないはずだじぇ」

麻理菜「それって、これかしら」

由里子「え……?」

都「どうして、それを」

麻理菜「一緒に送られてきてたわ」

都「どこのカギが知っていましたか」

麻理菜「いいえ。入ってただけ」

雪菜「どういう意味ですかぁ」

のあ「見る限り、特殊な南京錠ではないようね」

真奈美「同じ鍵が世界中にいくらでもありそうだな」

光「入れるという意思表示なのか」

海「……なら、誰がカギを持ってたの?」

都「犯人か」

真奈美「藤居朋のどちらか」

雪菜「朋ちゃんが、隠していたんでしょうか……」

のあ「それは、わからない」

都「……」

のあ「安斎都、話を進めましょう」

都「そうしましょう。朋さんがいなくなったことがわかったのは」

雪菜「真奈美さんと都ちゃんが見回りに来たからですぅ」

真奈美「ああ。全員食堂にいた」

都「停電中にどこに居たかの話を聞きましたが」

麻理菜「その時は部屋にいたけれど」

アヤ「アタシも、だ」

頼子「悠貴さんと私は食堂に」

都「地下室に行った時に、雪菜さんに聞かれました」

雪菜「朋ちゃん、食堂にいるんですかぁ、って」

真奈美「実際はいなかった」
140 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 20:38:09.18 ID:Ahhc8lJY0
櫂「それであたしが食堂に行ったけど、いなかった」

頼子「それで、悠貴さんが出て行ってしまいました」

櫂「全然、追いつけなかった」

のあ「理由は」

頼子「考えたくもありませんけれど……」

椿「次の犯行を起こさせようとした……とか」

都「沢田さん達の次の動きもありました」

麻理菜「タオルを巻いたライトを、落とした」

光「アタシと由里子さんはつられて、外に行ってしまった」

由里子「ブレーカーを落としたのは」

麻理菜「私と沙理奈じゃないわよ」

のあ「……違う」

頼子「なら……どなたなのですか」

まゆ「……」

雪菜「あの……もしかしたら」

都「気づいたことでもありますか」

雪菜「悠貴ちゃん、だったのかも……」

都「それならば、合点がいきます」

真奈美「やはり、機会をうかがっていた」

頼子「犯人をおびき出す、そんな危険なことを……」

のあ「結果は失敗だった」
141 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 20:40:13.09 ID:Ahhc8lJY0
都「一人だけ殺害方法が違いました」

真奈美「刺殺だ」

光「なんで、食堂だったんだ?」

麻理菜「食堂だったのなら、心当たりがあるわ」

都「それは、排水ですか」

麻理菜「正解。落とせるのよ、人間一人くらいは海に」

雪菜「……なんて、こと」

椿「何かが落ちる音は、その音だった……」

真奈美「藤居君の遺体は、そこにあったのか」

都「そのようです」

のあ「……安斎都、次の出来事は」

都「櫂さんが、朋さんの遺体を見つけてくれました」

櫂「うん、あたしも水の音を聞いたからさ」

都「ですが、その前です。松本さんが殺害されたのは」

真奈美「プールに自分で移動したようだが、何時だ」

麻理菜「停電とか死体が見つかった時よ。騒ぎの隙に移動した」

のあ「誰か、見ていたとしても離れるのは簡単そうね」

都「沢田さん、プールでは何を」

麻理菜「指示は、明かりをつけること、温水装置を切ること、人が来たら追い返すことだったわ」

のあ「フムン……」

都「何かのアリバイ作りのように思えますが」

アヤ「……いや、どっちかをおびき寄せただけだ」

麻理菜「……殺すための指示」

由里子「で、でもカギはしまってたじぇ!」
142 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 20:45:31.63 ID:Ahhc8lJY0
のあ「その通り」

由里子「こっちは正真正銘、スペアなんかないし」

櫂「密室だった?」

雪菜「そういうことですねぇ……」

都「藤居さんの遺体を櫂さんが引き上げてくれた後に、沢田さんが食堂へ来ました」

光「理由は、戻ってこなかったから」

麻理菜「そう、沙理奈が時間になっても帰ってこなかった」

真奈美「まずはプールを見に行った」

麻理菜「でも、カギがかかっていて入れなかった」

都「そこで、私達の所に様子を見に来ました」

のあ「その後に、私達とプールへ」

由里子「カギを開けて」

のあ「松本沙理奈の遺体を発見した」

麻理菜「……ええ」

都「沢田さん達が行ったことは、これで全てですか」

麻理菜「ええ、通信を切ること、停電を起こすこと、人をおびき寄せること、プールにいること」

海「その後が、今」

アヤ「そういうことだな」

椿「事件は、これで全てです」

光「犯人はわかったのか」

のあ「安斎都、どうなのかしら」

都「高峯さん、屋敷の見取り図を貼ってください」

のあ「わかったわ」

都「直感は外れるタイプです」

まゆ「そうなんですかぁ……?」

都「だから、全てを出すまでは犯人が誰かを決められませんでした」

海「なら、今は……」

雪菜「朋ちゃんを誰が殺したんですかぁ!?」

都「おかしくありませんか」

椿「何がでしょうか……」
143 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 20:46:17.03 ID:Ahhc8lJY0
都「朋さんを海に落とす必要性がわかりません」

のあ「……」

都「しかも、悠貴さんがキッチンで刺殺されるような事態を招いているにも関わらず」

海「必要な行動だって、ことなのか」

都「はい。では、この島の地下を見てください」

光「配管が通ってるのか?」

都「落とした排水を海まで届ける配管があります。例えば、プールの水を抜くための」

由里子「うーん……?」

都「どうして、水に遺体を浮かべていたのか。それは死亡時刻を誤魔化すためでも何でもなく」

のあ「……もう大丈夫かしら」

都「逆だったんです」

頼子「……逆」

都「犯人にこそ、水に濡れている理由が必要だった」

まゆ「え……」

都「犯人はあなたです」

のあ「……」

都「西島櫂さん」
144 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 20:47:38.41 ID:Ahhc8lJY0
83

逢伊江館・1階・食堂

頼子「……」

海「……本当なのか」

櫂「ふーん。それで?」

椿「それで、って……」

櫂「あたしが犯人だと言われただけ、探偵気取りの子供に」

都「な……」

のあ「……」

真奈美「冷静に」

都「ゴホン。わかりました。質問をします、いいですか」

櫂「いいけど」

都「殺人犯はあなたですか」

櫂「最初からそう聞けばいいのに」

まゆ「なんでしょう……」

アヤ「こずえ、紗南、近くに来い」

こずえ「あやー……だっこー……」

由里子「様子がおかしいじぇ……」

櫂「正解だよ。あたしが殺人鬼なんだ」
145 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 20:48:39.15 ID:Ahhc8lJY0
雪菜「どうして、そんな軽々しく言えるんですかぁ!」

海「雪菜、相手しちゃダメだ……ぜったいにおかしい」

櫂「スコアは悪くなかったかな」

紗南「スコア、って、ゲームじゃないんだよ!?」

櫂「そうだ、写真とか撮った?」

椿「私に言っているのですか……?」

櫂「そうだけど。シャッターチャンスだよね?」

椿「ふざけないでくださいっ!」

雪菜「この人、どこかに縛って閉じ込めないと危険です!」

櫂「友達が殺されたからって必死過ぎない?安心していいよ、もう生き残ったから」

まゆ「……ひどい」

櫂「生きてるなら、死んじゃった奴より偉いに決まってるじゃん」

雪菜「なぁ……」

海「ふざけるな!」

櫂「あらら、怒鳴られた。そうだ、探偵さん」

都「あなた、何を考えてるのですか」

櫂「あたしが質問する番だから。いいよね?」

都「……どうぞ」

櫂「探偵さんは話を聞きたいでしょ?」

のあ「……」

櫂「答えないの?」

都「私は残された人達のために、聞かないといけません」

櫂「わかった。まだ、人が来るまで時間があるし、暇つぶしが出来ないとね」

頼子「……」

アヤ「こいつ、拘束しておかないとヤバイぞ」

櫂「やだなぁ、もう試合には負けてるんだから。大丈夫だって」

光「……念のためだ」

のあ「真奈美」

真奈美「わかった。西島櫂、受け入れるか」

146 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 20:49:47.71 ID:Ahhc8lJY0
櫂「もちろん。でも、条件が一つだけ」

都「……聞きましょう」

櫂「探偵さんの推理とあたしの答え合わせを、皆で聞く。いいでしょ?」

のあ「……どうかしら」

アヤ「聞きたくもないが」

櫂「なら、話さないだけ」

アヤ「仕方がない」

雪菜「朋ちゃんの話を……」

海「聞かせてもらうから」

由里子「美里さんの仇も……」

頼子「乙倉さんについて、も」

真奈美「いいか。手を出せ」

櫂「はい。でも、残念だったな」

都「何が、ですか」

櫂「高峯さんと木場さんがいなければ、体格差で何とかできそうだったのに」

由里子「真奈美さん、お願いするじぇ。念入りに」

真奈美「……ああ」

都「あなたの夜はこれで終わりです」

櫂「わかってるよ。そんなの、ずっと前からさ」

都「真奈美さん、終わったら始めましょう。全ての話をしてもらいます」
147 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 20:50:56.25 ID:Ahhc8lJY0
84

逢伊江館・1階・食堂

雪菜「大丈夫ですかぁ……?」

櫂「うん。手も足も椅子から離れないけど、逃げようとしなければ苦しくない」

アヤ「どうして、オマエが言うんだよ……」

櫂「それじゃどうぞ、探偵さん」

都「お聞きします。まずは、沢田さんについて」

麻理菜「どうして、沙理奈を殺したの」

櫂「たぶん、勘違いしてる」

都「勘違いとは」

櫂「だって、共犯が誰か知らなかったし」

麻理菜「知らない、ってどういうこと」

櫂「ま、目星はついてたけど」

のあ「つまり、あなたではない」

都「指示したのは、あなたではないのですか」

櫂「あたし、そういうの考えるの苦手だし」

由里子「おかしいじぇ」

櫂「会場を用意するのは、役者の仕事じゃないしさ」

海「なら、誰なんだ」

櫂「うーん……知らないけど、心当たりはあるよ」

頼子「……」

雪菜「……」

櫂「間中さんじゃないのかな」

由里子「へ……?」

紗南「そんなはずないよ!」

由里子「そうだじぇ!」

櫂「殺しちゃったから、もう何もわからないけどね」

のあ「可能性は、否定できないけれど」

椿「屋敷のことも知ってて……」

真奈美「状況も操作できる」

都「だから、彼女を殺したのですか」

まゆ「自分が疑われないために……?」

櫂「心当たりはさっき、思いついただけ」

のあ「ということは、理由はもっと単純なのね」

櫂「せっかくの、なんだっけ密室だったかな」

頼子「クローズドサークル、ですか」

櫂「それそれ。せっかくのお楽しみは長く楽しまないとね」

アヤ「……」
148 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 20:52:16.20 ID:Ahhc8lJY0
櫂「単純に殺しやすかったのもあるけど」

都「どういうこと、ですか」

櫂「執務室に来たら、拒むわけにはいかないでしょ」

雪菜「……そうですけどぉ」

光「もしも、だ。それを見られてたらどうしたんだ?」

櫂「あたしのスコアは2で終わっただけ」

のあ「2?」

櫂「思い出した、さっきの推理当たってたよ」

真奈美「順番の話か」

櫂「そう。最初は渚ちゃんだよ」
149 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 20:53:57.06 ID:Ahhc8lJY0
85

逢伊江館・1階・食堂

海「……最初に連れを殺したのか」

雪菜「何を考えて……」

真奈美「殺害場所は」

櫂「砂浜。そうじゃないと海に運べないし」

都「動機は何なのですか」

櫂「動機?」

都「はい。友人を殺す理由を教えてください」

海「……」

雪菜「上手くいかないことがあったとか……」

櫂「ふっ、あはは」

椿「何かおかしいことを、言いましたか?」

櫂「そんなことない。良い友達だった。辛いことも楽しいことも共有できた」

海「それなら、なんで……」

櫂「その質問がおかしいよね」

こずえ「みんな、いっしょなのー……?」

櫂「こずえちゃんの言う通り、命は平等なんだよ。あたしが差別するわけないじゃない」

由里子「眩暈がしてくるじぇ……」

櫂「だから、命を奪うか否かの判断材料にはならない」

真奈美「大層なことを言っているようだが」

のあ「……ただの快楽殺人犯」

都「それなら」

櫂「なに?」

都「いえ、今はやめておきましょう。あなたの行動について聞かせてください」
150 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 20:56:18.70 ID:Ahhc8lJY0
86

逢伊江館・1階・食堂

まゆ「あの……」

都「どうしましたか」

まゆ「気になったことがあって……」

のあ「ジャグジーでの不審者についてかしら」

まゆ「はい」

都「私も気になっていました。ですが、あなたが犯人ならば合点がいきます」

櫂「例えば?」

まゆ「全部、あなたが仕組んだこと……」

光「そもそもお風呂場に移動したのは」

櫂「あたしのためだからね」

麻理菜「自分で、移動したの?」

櫂「感謝して……いや、あたしがするほうか」

麻理菜「言っている意味がわからない」

櫂「早めに見つけてあげて、逃げる隙をあげた。着替えで時間を稼いだ」

光「そうか、自分で見つけたのか」

櫂「でも、よく考えたら逆だよね」

麻理菜「私が捕まったら、終わりだから」

のあ「結果的に、次の犯行は起こったわ」

櫂「屋敷から連れ出すことが成功したから」

光「停電が引き起こされた」

都「思い出しましたが、地下へ行くときに妙な反応をしていました」

櫂「あたしが?」

のあ「……」

都「少し驚いたような反応をしていました」

櫂「皆に着いて行かない方が自由に動けそうだったからね」

都「ですが、地下室に来ました」

櫂「あの状況で、残るのは不自然でしょ」

のあ「……そうね」
151 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 20:56:53.63 ID:Ahhc8lJY0
櫂「停電は地下にいる時に起こっちゃったし、悠貴ちゃんがすぐにタネ明かしするし、失敗だったかな」

海「でも、朋は」

櫂「うん。チャンスは生かさないとね」

雪菜「朋ちゃんは、どうしたんですかぁ……」

櫂「あたしとのあさんに着いて行った。でも、階段の下まで」

真奈美「そこで、何をした」

櫂「気絶させて、階段室の倉庫に閉じ込めた。ああ、カギはあたしも持ってるよ」

都「その後に、素知らぬふりをして地下に戻ったのですか」

櫂「うん。二人はこっちを気にしてる余裕なんてなかったし」

都「朋さんをその後、どうしたのですか」

櫂「隙を見て、キッチンに運んだ。殺したのは、2回目の停電の時かな」

海「待って、なら……」

雪菜「朋ちゃんは、まだ生きてたんですかぁ……?」

櫂「そうだよ。運んでる時に見つかって、死んでたら言い訳できないでしょ」

雪菜「そんな……だったら」

櫂「殺される前に見つけられたら良かったのにね」

海「どうして、そんなに他人事なんだよ!」

櫂「他人だから。そこまで思い入れがないんだ」

雪菜「あなた、って、人は……なんて、ことを」

のあ「……次へ」
152 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 20:57:47.86 ID:Ahhc8lJY0
都「あなたも島の構造を知っていたのですが」

櫂「島の構造については、多分麻理菜さんと同じ人にあたしも聞いてた」

都「朋さんをキッチンに運び、下に落としたのと」

櫂「沙理奈さんを殺して、海から出てきたのは探偵さんが言った通りだよ。正解」

海「聞いていいか」

櫂「いいよ」

海「朋を殺した理由は、朋にないんだな」

櫂「もちろん。強いていうなら、あたしの近くにいたから」

雪菜「そんなぁ……」

アヤ「……まだ、動機があった方が良い」

櫂「でも、配慮はしたよ」

由里子「配慮……」

櫂「苦しませないから。首を折って終わりにしてる」

雪菜「……そんなので、納得するわけないじゃないですかぁ」

頼子「違います……」

櫂「何が?」

頼子「乙倉さんは、なぜ刺し殺されているのですか」

櫂「……」

都「犯行の全貌はわかりました。西島櫂さん、あなたが犯人です」

真奈美「状況と彼女の証言も一致した」

櫂「そもそも、警察が来たら確実にわかるでしょ」

のあ「ええ、そうでしょうね」

都「なぜ、殺人を犯したのか」

櫂「さぁ、なんでだろう」

都「乙倉さんに、何か言われましたか」

櫂「……」

まゆ「どうして、それは答えられないんですかぁ」

都「もう一歩だけ踏み込みます。いいですか」

のあ「ええ」

都「あなたが殺人に至った動機を、引き出します」
153 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 21:00:06.42 ID:Ahhc8lJY0
87

逢伊江館・1階・食堂

櫂「そんな理由を聞いてどうするのさ」

都「古澤さんが言った通り、乙倉さんだけ殺害方法が違います」

真奈美「凶器は包丁だ」

のあ「キッチンにあったもの」

都「計画的に準備した凶器ではありませんでした」

光「なんか、おかしいぞ」

都「あなたの目的が快楽殺人であるなら」

櫂「そうだね」

真奈美「先ほどの発言は、なんだ」

都「配慮と言っていました」

櫂「それが?」

都「あなたの美学を覆す理由があったのですか」

櫂「……」

都「ふー……よし」

のあ「……」

都「西島櫂さん、質問をしています。答えてください」

櫂「答えない」

まゆ「あれ……?」

櫂「そんなことを答える義務がどこにあるのさ」

都「理由が快楽殺人でないから、ですか」

櫂「……」

都「あの、高峯さん」

のあ「何かしら」

都「ひとつ、お聞きしていいでしょうか」

のあ「どうぞ」

都「彼女の、この殺人は初めてだと思いますか」

頼子「へぇ……」

のあ「私はただの物好きだから、半信半疑で聞いてちょうだい」

都「はい」

のあ「初犯ではないわ」

真奈美「私は、そんな物好きの意見に同意だ」

のあ「殺人を犯しているわ、おそらく同一の、首を絞めることで」

都「答えてください、どちらですか」
154 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 21:01:03.16 ID:Ahhc8lJY0
櫂「そうだよ。はじめてじゃない」

真奈美「だから、行動に迷いがない」

櫂「ま、そういうこと。経験が力になるのは、どんなことにも共通してるから」

都「どなたですか」

櫂「知り合いだよ。水泳の」

のあ「そちらで捕まるのも時間の問題」

雪菜「だから……事件を起こした」

櫂「思ったよりも、やってみたら楽しかった」

まゆ「……」

都「質問をします」

櫂「あたしに?」

都「あなたは嘘をつきました」

櫂「あたしは正直なつもりだけど」

都「自分の気持ちを嘘で塗り固めれば、正直な気分になれます」

櫂「……何が言いたいのさ」

都「これを、乙倉さんが持っていました」

頼子「乙倉さんのメモ帳……ですか」

都「その切れ端のようです」

麻理菜「何か、書いてあるの」

都「西島櫂さんと沢田麻理菜さんのことが書いてあります。この様子だと他の人のことも書いてあったページもあるでしょう」

櫂「……」

都「私が皆さんからお聞きしたことのような簡単なプロフィールと」

のあ「他には」

都「大会の成績と所属していたクラブ名」

麻理菜「私のことは」

都「派遣会社や参加されたイベントの名前が書いてあります」

真奈美「ネットで調べられそうなことだな」

麻理菜「そうね、心当たりがあるわ」

櫂「あたし、それなりに有名選手だったから」

都「あなたの成績が落ちていた、と書いてあります」

櫂「……それが」

都「乙倉さんに藤居さんの遺体を発見され、待ち伏せされました」

櫂「そうみたい」

雪菜「朋ちゃん、見つかってたんですかぁ……」

頼子「……ごめんなさい」
155 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 21:03:03.92 ID:Ahhc8lJY0
都「何か言われましたか」

櫂「……」

都「例えば、殺人の動機について」

櫂「何が、言いたいのさ」

都「乙倉さんはこの状況すら楽しんでいるようでした」

雪菜「……」

都「あなたが犯人だとわかっていたから、動機について推測していた」

のあ「……」

都「ただ無邪気に、自分の危険も顧みずに、あなたの本当を言い当てた」

櫂「本当、って何さ」

都「彼女もスポーツ選手でした」

櫂「……」

都「年齢はずっと下。あなたにもそんな年齢があった」

櫂「……」

都「だから、わかるけれどわからなかった」

櫂「……」

都「あなたは、快楽殺人犯なんかではありません」

櫂「……」

都「衝動殺人を嘘で塗りつぶした、ただの弱い人間です」

真奈美「……」

櫂「なにが……」

のあ「……」

櫂「お前にあたしの何がわかるっていうんだよ!」
156 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 21:05:03.92 ID:Ahhc8lJY0
88

逢伊江館・1階・食堂

雪菜「ひぃ!」

海「雪菜、大丈夫だ」

雪菜「海ちゃん……」

櫂「なんだ、なんだよ、あたしのことをわかったふりしてさ!」

真奈美「残念だが」

のあ「声を荒げた今のあなたが」

都「本物のあなたです」

まゆ「……」

櫂「だから!」

真奈美「君は殺人を嗜好する異常者ではない」

都「全ては嘘です。事実を積み重ねても、あなたは変わりません」

櫂「わかったふりしないでよ!あたしにはそれだけじゃないんだ」

頼子「……それ」

櫂「違うって言ってるじゃないか!」

由里子「話を聞いてなくない……?」

椿「そのようですね」

櫂「あたしだって、まだ変わるチャンスがあるんだって!」

のあ「……」

櫂「あたしは、進むんだ!挫折も執着も否定も殴り倒して、次へ進むんだ!」

雪菜「……」

櫂「なのに!どうして、わかったふりをするんだよ!」

都「あなたは、血も涙もない殺人鬼ではありません」

櫂「諦めなければ叶う時期は、あたしにはもう過ぎたのに、何がわかるのさ!」

海「……そうなら、殺人を犯してもいいのか」

櫂「あたしは変わらないといけないんだ。執着を捨てられるなら、殺人鬼だっていい」
157 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 21:07:21.03 ID:Ahhc8lJY0
紗南「……本当に?」

櫂「……何が」

紗南「本当に、捨ててよかったの?」

櫂「……」

紗南「だって、泳いでる時は」

櫂「うるさい!あたしが何者だろうが、今の状況は変わんないだろ!」

紗南「……」
158 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 21:09:05.77 ID:Ahhc8lJY0
アヤ「紗南、今は聞こえない」

紗南「……うん」

櫂「あたしは最初の殺人を犯した時から、こうなるしかないんだ!もう、これしかないんだよ!」

まゆ「……でも、事件は終わりました」

櫂「終わってない、終わらせない。あたしは、あたしなんだから」

のあ「彼女が認めないなら、ずっとこのままよ」

まゆ「……でも」

のあ「西島櫂、あなたは罪を償う気持ちはあるのかしら」

櫂「あたしはもう罰を受けてる。気が狂うほどに」

のあ「だめそうね。法にのっとった罰を受けなさい」

真奈美「それが人の掟だ」

都「最初の殺人は衝動でした」

アヤ「だけど、それが間違いだ。何があっても、耐えないといけなかった」

頼子「乙倉さんと……被害者を重ねたのですか」

都「そのようです。そして、他の殺人は」

真奈美「自身の変化を肯定するための行為だ」

都「あなたは乗ってしまった。この場を用意した者に」

由里子「辞めるタイミングだって、いくらでもあったはずだじぇ」

紗南「……」

光「でも、人はそんなに強くない」

都「でも、集まれば強くなれます」

櫂「スイマーは孤独なんだ」

紗南「違うよ。勘違いしてる」

櫂「……そうかもね」

都「反省は」

櫂「ないよ。どうして、なのさ。この気持ちになる状況が悪いんだ」

雪菜「どうして……どうしてですか!」

海「雪菜、すわり……」

雪菜「いいんですか!?」

麻理菜「……」

由里子「……」
159 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 21:10:29.51 ID:Ahhc8lJY0
雪菜「この人、ずっとこのままですよぉ!間違ったのに何も変わらない、変わる気もない、それじゃあ、それじゃあ……グス……だって……」

海「……」

雪菜「朋ちゃんが……報われない……大切な友達が、いなくなったのを……認められない……」

まゆ「……」

櫂「だから、他人の事情なんて知らないよ。あたしの事情も、わかんなくていい」

海「……雪菜」

雪菜「朋ちゃん……朋ちゃん……」

海「部屋に戻るよ。雪菜がこんなんだから」

都「はい。ありがとうございました」

のあ「朝になれば、人がくるわ」

真奈美「その朝も、もうすぐだ」

海「ありがと。じゃあね」

頼子「ふぅん……」

都「事件の顛末は以上です」

光「凄かったぞ!」

都「褒められてもあまりうれしくありません」

のあ「そういうものよ」

都「そういうもの、ですよね」

由里子「ここで、あたしが見てるじぇ。皆は休んで」

真奈美「お言葉に甘えることにしよう」

都「はい。おやすみなさい」

櫂「……」

のあ「おやすみなさい」

都「……」
160 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 21:10:58.94 ID:Ahhc8lJY0
椿「都さん、皆さん行ってしまいました。由里子さんに任せて帰りましょう」

都「あの、聞いていいですか」

櫂「……あたしか」

都「水泳を教えることは好きですか」

櫂「好きだよ。だから、さ」

都「本当は、慰めが欲しかったわけではないのですね」

櫂「わからない。でも、もうお前は選手としてはダメだって言われてたら」

都「……」

櫂「今のあたしがあたしの全て。だから、そんなイフはないんだ」

都「由里子さん、お任せします」

由里子「名探偵、お疲れ様だじぇ」
161 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 21:12:50.73 ID:Ahhc8lJY0
89

翌朝

希砂二島・船着き場

のあ「……明るいわね」

真奈美「目に痛い」

のあ「来たわ」

真奈美「おや」

楓「おはようございます。お散歩ですか?」

のあ「違うわ。あなたこそ、どうしたのかしら」

楓「時々来るようにツアー会社からお願いされているので。安心と防犯のためですよ」

真奈美「今日来ることは決まってたのか」

楓「そうですけれど……」

のあ「……」

楓「何か、ありましたか」

のあ「留美の同僚なだけあるわね。隠しきれなかったわ」

真奈美「隠すつもりもないが」

楓「まず、すべきことは」

真奈美「人を動かすことだ」

のあ「一緒に来た職員は、このまま本島に戻った方がいいわ」

楓「はい」

真奈美「6人くらいは乗れるか?」

楓「大丈夫です」

のあ「子供と保護者は先に本島に戻してあげたいの。いいかしら」

楓「わかりました。お伝えしておきます」

真奈美「江上君と桐野君を呼んでくる」

のあ「お願い」

楓「了解してもらいました。高峯さん、案内をお願いできますか」

のあ「ええ。話は屋敷に向かいながら」

楓「はい」
162 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 21:14:01.11 ID:Ahhc8lJY0
90

逢伊江館・玄関ホール

アヤ「おはよ」

椿「おはようございます」

のあ「おはよう。寝れたかしら」

アヤ「向こうで寝なおす」

のあ「説明が大変そうだけれど」

椿「それは、大人の仕事ですから」

アヤ「少なくともあいつらよりは大人だからな」

のあ「……そうね」

楓「しばらく本島にいらっしゃいますか」

アヤ「ああ」

楓「おそらく、私ではありませんが警察にご協力を」

椿「わかっています」

楓「お願いします」

都「椿さん、お待たせしました」

紗南「アヤさん、こずえちゃん連れて来たよ」

こずえ「あやー……」

アヤ「よし。こずえ、紗南、行くぞ」

光「アタシは残っても大丈夫だぞ」

のあ「任せなさい。任せるのも勇気の資格よ」

光「わかった。頼む」

椿「そうかもしれません。すみませんが、お先に失礼します」

楓「はい。お疲れ様でした」

都「あの、のあさん」

のあ「何かしら」

都「本島にいますので、帰る前に会えますか」

のあ「ええ。新しいことがあったら教えるわ」

都「ありがとうございます。お願いします」

のあ「また」

都「はい」

楓「行ってしまいましたけど、いいのですか」

のあ「ええ」

楓「彼女が事件を解決してくれたと、先ほど言っていましたが」

のあ「事実よ」

楓「あなたではなく」

のあ「私ではないわ」

楓「……」

のあ「犯人と遺体のどちらから、見るかしら」

楓「ご遺体の方へ。よろしいでしょうか」

のあ「わかったわ。大ホールへ」
163 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 21:15:27.04 ID:Ahhc8lJY0
91

逢伊江館・1階・大ホール

楓「……」

真奈美「ここにいたのか」

のあ「真奈美」

真奈美「警察への連絡と本島に戻れるようにお願いはしておいた」

のあ「ありがとう」

真奈美「高垣巡査部長、様子は」

楓「私は遺体を見るプロではありませんが」

のあ「感想は」

楓「犯人は殺し屋にでもなるつもり、だったのですか」

真奈美「……」

楓「首を折ることに美学を持った、殺し屋に」

のあ「……私にはわからない」

楓「……失礼しました。状況は確認しました」

真奈美「元刑事とはいえ、突然の事態だ」

のあ「理解は追いついているかしら」

楓「問題ありません。先輩から、心構えだけは教わりました」

のあ「そう」

楓「事件が起こってからしか来れないことが多いのが、警察です」

のあ「……そうね」

楓「スーパーヒーローじゃないのだから、絶対に間に合わない。なら、慌てる理由なんてないと」

のあ「留美らしい、割り切り方ね」

楓「……こうやって行動には移せますけど」

真奈美「気持ちは割り切れないか」

楓「はい……平穏を守っている方がきっと私には向いています」

のあ「……」
164 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 21:17:25.96 ID:Ahhc8lJY0
雪菜「あれぇ……開いてます」

のあ「井村雪菜」

雪菜「真奈美さん、おはようございますぅ」

真奈美「おはよう。少しは眠れたか」

雪菜「はい……朋ちゃん、見て良いですか」

楓「……」

のあ「構わないわ」

雪菜「ありがとうございますぅ……朋ちゃん、犯人捕まったから、安心してねぇ……」

真奈美「……」

楓「西島櫂さんとお会いします。良いでしょうか」

のあ「ええ」

楓「小さいですが、留置場も本島にはあります。そちらへ」

雪菜「あの……」

楓「どうしましたか」

雪菜「海ちゃんを探しに屋敷に来たんです、見かけませんでしたかぁ?」

のあ「杉坂海?」

真奈美「見かけてはいないが」

雪菜「どこに行ったんでしょうかぁ……」

真奈美「キッチンは入りたくないだろう、そうなると」

のあ「誰かに会いに行ってるのかしら」

真奈美「会うとしたら」

のあ「西島櫂くらいしかいないと思うわ」

雪菜「……あまり、会いたくないです」

楓「私が話をしますので、安心してください」

のあ「食堂へ行きま……」

な、なにやってるんだ!

雪菜「由里子……さん?」

のあ「食堂から」

楓「急ぎましょう」
165 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 21:20:11.59 ID:Ahhc8lJY0
92

幕間

逢伊江館・1階・食堂

由里子「うー……ねむい……」

頼子「由里子さん、お茶はいかがですか」

由里子「おっ、ありがと」

頼子「朝で気温が下がりましたし、温かいお茶にしました」

由里子「ふぅ……落ちつくじぇ」

頼子「湯呑は熱いので気をつけてください。西島さんは……」

櫂「……すぅ」

由里子「この通り、ウトウトしてるじぇ」

櫂「……呼んだ?」

頼子「何か、飲まれますか」

櫂「いらない」

頼子「そうですか」

海「おはよ」

由里子「海ちゃん、どうしたの?」

櫂「……」

頼子「海さんにもお飲み物を……」

海「ごめん」

由里子「ごめん?」

頼子「……」

海「アンタ、言い分は変わった?」

櫂「何を今更変えるのさ。あたしはこのあたしのままだよ。逆に聞くけど、変わったなんて言って信じるの?」

海「信じない」

櫂「なら、答えは出てるんでしょ」

海「出てる」

頼子「海さん、お茶はいかがです……」

海「どいて」
166 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 21:21:26.64 ID:Ahhc8lJY0
頼子「……お邪魔のようでしたね」

由里子「へ…」

櫂「そっか。もう、あたしはあたしの話ですら主役じゃないのか」

由里子「な、なにやってるんだ!」

頼子「……悪は砕けました。報いは必然ですよ」

幕間 了
167 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 21:22:07.12 ID:Ahhc8lJY0
93

逢伊江館・1階・食堂

楓「由里子さん!」

由里子「駐在さん、あ、あれ……」

海「は、はぁ……あぁ……」

楓「真奈美さん、彼女をお願いします」

真奈美「了解した。杉坂海、そのバットを渡せ」

海「……ほら」

楓「凶器は金属のバット……傷は頭部と首。由里子さん」

由里子「……」

楓「由里子さん、処置を」

由里子「あ、うん、やるじぇ!」

のあ「古澤頼子、何があったのかしら」

頼子「……」

のあ「古澤頼子、聞きなさい」

頼子「……あ、高峯、さん……」

のあ「外へ出ていなさい。話は後で聞くわ」

楓「杉坂さん、でしたか」

海「……そうだけど」

由里子「楓さん……その」

楓「わかっています。もう、息はありません」

海「……」

のあ「行動の結果で顔を青ざめさせるようなら、なぜそんなことを」

雪菜「あれ……海、ちゃん……?」

真奈美「井村君、入ってこない方がいい」

雪菜「え……なに……?」

海「雪菜……ごめん」

のあ「真奈美、彼女を外へ」

真奈美「わかった」

雪菜「海ちゃん……殺しちゃったの……?」

海「……」
168 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 21:24:27.84 ID:Ahhc8lJY0
真奈美「井村君、ここは出てくれ」

雪菜「海ちゃん、何をやってるんですかぁ!」

海「……復讐かな」

雪菜「そんなの、朋ちゃんも望んでませんよぉ!」

楓「……」

海「わかってるさ。けど」

雪菜「けど、じゃないですよぉ!海ちゃんだって、家族がいるのに!」

海「雪菜だって、聞いただろ」

雪菜「……」

海「どうやっても、コイツは然るべき報いは受けないよ」

楓「違います。彼女は法により裁かれるはずでした」

海「そんなの、知ってるから。誰でも知ってる。だから」

のあ「……」

雪菜「だから、海ちゃんが、やった……の?」

海「……」

雪菜「そんな必要ないのに……私だってそんなこと思ってない……」

海「わかってるよ。昨日の言ってたことも混乱してたからだって、わかってる」

雪菜「なら……やめて、言ってくれたら……絶対にそんなことさせなかったよぉ……」

海「雪菜、ごめん、二人も友達をいなくさせた」

雪菜「うぅ……ぐすん……」

海「のあさん、真奈美さん、雪菜お願い出来るかな」

真奈美「……ああ」

のあ「……」

海「お巡りさん、連れてって」

楓「……わかりました」

由里子「この事件の終わりが、これ……」

雪菜「……ぐすっ」

のあ「杉坂海が終わらせた。許されるべき方法ではないけど、それは事実よ」

真奈美「終わりにしよう。後は、警察の仕事だ」

のあ「……ええ」
169 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 21:26:17.20 ID:Ahhc8lJY0
94

7月26日(日) 午後

希砂本島・フェリー乗り場・休憩室

真奈美「ただいま」

まゆ「真奈美さん、お帰りなさい」

のあ「状況は」

真奈美「取り調べは終わりだ。自由にしていいそうだ」

のあ「……そう」

まゆ「長かったですねぇ……」

真奈美「遺体と沢田麻理菜、それと杉坂海は本土の船の中だ」

のあ「希砂島で今日やらないといけないことは、ないわけね」

真奈美「そういうことだ」

まゆ「まゆ……疲れちゃいました」

のあ「私もよ」

真奈美「帰るとしようか」

のあ「そうね。真奈美、フェリーの時間は」

真奈美「次のフェリーには間に合わないな」

のあ「次は」

真奈美「1時間後」

のあ「わかったわ。少し、出てくるわ」

まゆ「どこに行かれるんですかぁ?」

のあ「安斎都に会ってくるわ。喫茶店でお茶でもしてなさい」

真奈美「わかった。佐久間君、行こうか」

まゆ「はぁい。のあさん、気をつけてくださいねぇ」
170 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 21:27:16.52 ID:Ahhc8lJY0
95

希砂本島・船着き場

のあ「安斎都」

都「のあさん、お疲れ様です」

のあ「お疲れ様。江上椿達は」

都「取り調べも終わりました。ホテルでゆっくりしてます」

のあ「そう。帰りは何時かしら」

都「予定通りに夕方です。のあさん達は」

のあ「1時間後に島を出るわ。お別れね」

都「ええ。お聞きしていいですか」

のあ「何をかしら」

都「探偵なのですか?」

のあ「知っていたのね」

都「いえ、さっきネットで調べました。オシャレなホームページがありましたよ」

のあ「黒川千秋に言われたから、変えたのを見たのね。真奈美のセンスで外注したわ」

都「さすが、真奈美さんですね」

のあ「ええ。自慢できるわ」

都「でも、私に仕事は譲りました」

のあ「別にあなたに譲ったつもりはないわ」

都「なら、どうして探偵をしなかったのですか」

のあ「依頼を受けていないから、加えて朝に警察が来れば解決だから、かしら」

都「違います。それだけではありません」

のあ「その通り。私は探偵業よりも優先するべきことがあった」

都「はい」

のあ「真奈美とまゆを危険にさらさないこと」
171 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 21:28:09.00 ID:Ahhc8lJY0
都「やっぱり、そうでしたか」

のあ「桐野アヤのようにすべきだったかしら」

都「部屋に押し入るのは時間の問題だったと思います」

のあ「考えたくないけれど、そうね」

都「事件は解決しました」

のあ「でも、被害者は出たわ。探偵は、ほとんど事件が起こってからしか出番がない」

都「事件が進んでいく辛さも、この身をもって感じました」

のあ「探偵はそんな仕事よ。名声なんてあげられない、ただ待つだけの仕事なの」

都「わかっています」

のあ「人間も世の中も、悪い所ばかりが見えるの」

都「そうかもしれません」

のあ「警察でもない。法の後ろ盾もない」

都「はい。それでも、私にはあります」

のあ「なにが」

都「私の信じる正義があります」

のあ「それを持ち続けなければ探偵としてはいられない。それでも、探偵でいるのかしら」

都「はい。私の憧れですから」

のあ「物好きね」

都「そちらこそ」
172 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 21:28:51.86 ID:Ahhc8lJY0
のあ「先輩として忠告しておくけれど、儲からないわよ」

都「そうなのですか」

のあ「資産家の道楽なのよ」

都「黙ってもらえてたら、夢を見続けられたのに」

のあ「殺人事件に遭遇して、気分が上がらないあなたなら現実も見えるわ」

都「褒め言葉です、よね?」

のあ「受け取り方はあなたに任せるわ」

都「そういうことにします」

のあ「今度はうちに遊びにいらっしゃい。推理小説はいくらでもあるわ」

都「ぜひ」

のあ「私の家族を助けてくれてありがとう、探偵さん」

都「こちらこそありがとうございました、探偵高峯のあ」

のあ「握手を」

都「はい。これからの検討を祈って」

エンディングテーマ

The brightNess

歌 高峯のあ&木場真奈美
173 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 21:30:21.70 ID:Ahhc8lJY0
エピローグ

幕間

その人は洗面台で泣いていました。

同行者は殺人の被害者と加害者となり、彼女は一人です。

とめどない涙を流しきるように、顔を洗っていました。

洗い流せば、別の顔が見えてきます。

ぴたりとすすり泣きは止まり、彼女は顔をあげました。

頼子「こんにちは、化粧師」

赤みのがかった髪を取り出したクリームで黒に塗りつぶしていきます。

雪菜「私は井村雪菜ですよぉ」

黒くなった髪を後ろで結びました。ウェーブのかかっていた赤髪はもうありません。

頼子「あなたと名前を結びつける術を私は持っていません」

雪菜「本当に井村雪菜ですよぉ。ほら」

専門学校の学生証が私の足元に滑ってきました。それを拾い上げます。

頼子「本当に在籍しているのですか」

雪菜「堂々としていれば気づかれないものですよぉ」

頼子「偽物ですね」

雪菜「差し上げますよぉ。いらなければ捨ててくださいねぇ」

手慣れた様子で、彼女の仮面が変わっていきます。

頼子「どうやったのですか」

雪菜「沢田さん、西島さん、杉坂さんのどなたですか」

頼子「沢田さんは聞く必要はありません」

雪菜「西島さんですか」

頼子「本人から十分に聞きました」

雪菜「彼女の気持ちは面白かったですかぁ?」

実年齢に似合わないほどの厚化粧を施しています。

頼子「とっても」

雪菜「良かったぁ」

随分と年上になったようです。毒々しい赤いルージュが素顔の美しさを消しました。
174 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 21:32:20.60 ID:Ahhc8lJY0
雪菜「一緒にいた女の子、死んでしまいましたね」

頼子「舞台にあがるなら、それ相応の覚悟をしなければなりません」

雪菜「あなたも死ねば良かったのに」

そう思ってくれなければ面白くありませんね。

頼子「もとより、その覚悟ですよ」

雪菜「もしも、あなたが死んだのなら」

大きめのサングラスに、大きめのストローハット、化粧と不釣り合いな白いワンピース。

雪菜「私があなたになりますよ」

頼子「私の代わりに続けるものなんて、ありませんよ」

雪菜「あなたが見ている風景を、私が見てみたいだけです」

頼子「化粧師である方が、きっと楽しいと思います」

雪菜「キャリーケースを使う?いらないから、捨てちゃおうと思ってぇ」

頼子「いりません」

彼女の手には大きめのハンドバッグだけ。愛用の化粧ポーチはそこにしまいました。

雪菜「それじゃ、ここに置いておくけど黙っておいて。いいでしょ?」

口調も変わりました。すれ違うだけの人々に、井村雪菜と見分けられる人はいないでしょう。

頼子「その代わりに、質問をしていいでしょうか」
175 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 21:34:19.79 ID:Ahhc8lJY0
雪菜「なんか、聞きたいことでもあるの?」

頼子「杉坂海を犯行に走らせましたが」

雪菜「家族思い、友達思いのお姉さんをあの状況で狂わせるのはカンタン」

頼子「楽しかったですか」

化粧師は少しだけ驚いたようでした。その際に現れた年相応さをかき消して、言いました。

雪菜「ええ、とっても」

頼子「ふふ……それならば良いです」

雪菜「アンタともあの人とも久しぶりに会えてよかったわ」

頼子「さようなら、化粧師。市立美術館でいつでもお待ちしています」

雪菜「ばいばーい」

不格好に腰をくねらせて、井村雪菜はどこかへ行ってしまいました。

私も少し神妙な顔しながら、帰宅することにしましょう。

学芸員さんに戻らないといけませんから。

幕間 了


製作 tv○sahi
176 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 21:36:37.37 ID:Ahhc8lJY0
次回予告

本日の気温33℃。室温10℃。今日はクリスマス。

第6話
イヴ・サンタクロース「高峯のあの事件簿・プレゼント/フォー/ユー」
に続く
177 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 21:37:51.36 ID:Ahhc8lJY0
オマケ

撮影中の相談事

悠貴「頼子さん、頼子さん」

頼子「悠貴ちゃん、どうしました?」

悠貴「役について質問していいですか?」

頼子「ええ、どうぞ」

悠貴「いつものままでいいと言われたんです」

頼子「私もそう思います」

悠貴「そうですか?もっと悪い顔してると思うんですっ」

頼子「それは悪いことだとわかっているから、ですよ」

悠貴「えっと、どういうことですかっ?」

頼子「彼女は純粋に楽しんでるだけなんですよ。悪いことを悪い顔でしてるわけではありません」

悠貴「なるほど?」

頼子「リラックスしましょう。何も考えずに、お芝居を楽しみましょう。ね?」

悠貴「はいっ」
178 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 21:39:31.17 ID:Ahhc8lJY0
P達の視聴後

PaP「なぁ」

CoP「どうしましたか」

PaP「これまでがんばってきたもの、諦めるのは大変か?」

CuP「えっ、Paさん、プロデューサー辞めるんすか?」

PaP「アホか。今更、辞めるわけないだろ」

CoP「突然辞めたら、路頭に迷うだけです」

CuP「他の仕事できなそうっすもんね」

PaP「お前は口を慎め。だが、質問の答えはわかった」

CoP「それなら、いいです」

CuP「そんじゃあ、今日も輝く日のためにがんばりましょー」
179 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 21:42:57.69 ID:Ahhc8lJY0
あとがき

だいぶお待たせしました。

西島櫂は、出会いによって人生が変わってしまうキャラクター。誰に出会わせるかで、色々な物語が広がる。

書いてみてわかったけど、都の口調が硬めで探偵もの向きね。みんな、書くと良いよ。

次回は、
イヴ・サンタクロース「高峯のあの事件簿・プレゼント/フォー/ユー」
です。

それでは。
180 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2017/08/24(木) 21:44:14.94 ID:Ahhc8lJY0
高峯のあの事件簿

第1話・ユメの芸術
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1472563544/
第2話・毒花
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1475582733/
第3話・爆弾魔の本心
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1480507649/
第4話・コイン、ロッカー
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1484475237/
第5話・夏と孤島と洋館と殺人事件と探偵と探偵
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1503557618/
第6話・プレゼント/フォー/ユー
第7話・都心迷宮
第8話・佐久間まゆの殺人
第9話・高峯のあの失踪
第10話・星とアネモネ
最終話・銀弾の射手(完)

更新情報は、ツイッター@AtarukaPで。
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/24(木) 22:07:52.79 ID:aiZnF8MS0
おつ、今回も面白かった
次も楽しみにしてる
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/25(金) 08:28:02.63 ID:j5Mq0Tn7o
ホームズ読んだことないけど、モリアーティって頼子みたいだったのかなと
モリアーティよりっち乙
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/25(金) 10:01:33.92 ID:t9i7LNBDO
おつですー
待ってましたー

櫂くんのセリフに胸熱
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/25(金) 10:06:13.02 ID:7om3ByO60
もうやめないかと諦めていた
希望をありがとう
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/25(金) 20:23:45.63 ID:r05CVk0GO
読み終わりー
前半はモバマス小ネタ豊富、後半はサスペンスでたのしかった
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/04(月) 19:43:56.17 ID:MWAnBPxmo
お疲れ様でした

安斎ちゃんの成長劇読めてとても良かったです
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