佐久間まゆ「悪い人でよかった」

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96 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 05:39:01.23 ID:c6PUDvkw0

ちひろ「戻りました」ガチャ

P「! ちひろさん……! 二人の容体は?」

ちひろ「安心してください。さっき電話で確認したら、凛ちゃんもまゆちゃんも、睡眠薬をちょっと多めに飲んじゃっただけらしいです」

P「……!」

未央「睡眠薬って……!」

ちひろ「大丈夫ですよ。死ぬことはありません。ただ……」

加蓮「……目を覚ますかどうか、ってこと?」

ちひろ「……体が衰弱している原因は恐らく精神的なものだろうと。体には基本的に異常は無いみたいですから」

奈緒「……くそ」

卯月「……凛ちゃん」

未央「しぶりん……」

奏「……」

ちひろ「……で、Pさん。どうするんですか?」

P「……分かったよ。皆、今から俺のデスクに来てくれ。そこで話すから」

ちひろ「あ、乃々ちゃんと輝子ちゃん、それと茜ちゃんもいますからね」

P「……あいつらはまゆと病院に行ったんじゃないんですか」

ちひろ「私が引き留めました。あの三人だって、話を聞く権利はあるはずですから」

P「……そうですか」

97 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 05:39:59.10 ID:c6PUDvkw0

茜「あ、Pさん! お疲れ様です! ちひろさんも!」

乃々「……」

輝子「……」

卯月「……あ、茜ちゃん」

茜「お、卯月ちゃん達も! お疲れ様です!」

奈緒「……茜はすごいな。いつも元気で」

茜「それだけが取り柄ですから!」

奏「……」

加蓮「……」

P「……全員揃ってるな」

ちひろ「……そうですね」

P「……」


P「……話すよ。俺が知ってること、全部」

98 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 05:49:25.02 ID:c6PUDvkw0

P「……まず、今日あったことについて話す」

P「昼過ぎ頃、俺は森久保と輝子から相談を受けた。『まゆが事務所に来ない』って。そうだな?」

輝子「……ウン」

P「俺はちひろさんに相談した。そしたら女子寮の鍵を貸してくれた。無論、まゆの部屋のだ」

加蓮「……それで?」

P「話を聞くためにまゆの部屋に行った。俺はそこで監禁されてたんだ」

P「……内側から南京錠をかけられた。どうすることもできなかったよ。まゆの言いなりになるしかなかったんだ」

卯月「……凛ちゃんは、どこにいたんですか?」

P「……まゆは俺にと嘘をついていた。トイレが壊れているって。凛も俺と同じように、まゆに監禁されてたんだ」

奏「じゃあPさんが監禁される前から、凛はトイレにいたってこと?」

P「……そうなるな」

ちひろ「……トイレにあった二つの携帯。一つは凛ちゃんので、もう一つはまゆちゃんのでした。それとイヤホンが隠してありました」

乃々「イヤホン……?」

ちひろ「二つ携帯には今日の通話履歴が残ってました。それもかなり長い時間の」

P「……まゆは凛に、電話越しに俺たちの会話を聞かせていたんだ」

99 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 05:50:43.58 ID:c6PUDvkw0

奈緒「な、なんでそんなこと……」

P「……一度だけ、一人でまゆの部屋を出ることができた。そのまま逃げるわけにもいかなかったから、偶々そこにいた茜にちひろさんへ伝言をした」

茜「『まゆちゃんは大丈夫』『トイレが壊れている』の二つですね!」

P「……ちひろさんもまゆとグルだったから、意味は無かったらしいけどな」

ちひろ「……さあ、なんのことでしょう?」

奏「ちひろさん。一ついいかしら」

ちひろ「なんですか?」

奏「私がちひろさんから凛の代役の連絡を受けたのが、昨日。凛は体調を崩してるって。でも今朝、凛が自宅から出るのを凛のご両親が見ている。それについ
てはどう説明するの?」

ちひろ「あら。昨日の時点で体調が悪くても、よく眠ったら翌日に回復するなんて。よくあることですよ。大事を取って、スケジュールは開けておいたんで
す」

奏「……そう」

100 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 05:51:46.23 ID:c6PUDvkw0

P「お前ら、凛の家に行ったのか?」

卯月「……凛ちゃんも最近、元気がなかったから。心配で……」

加蓮「そーだ! Pさんとっまゆちゃんと言えば! 私たち、事務所の近くのコンビニで買い物してるの見たんだよ! どういうこと?」

P「……見られてたのか」

未央「……」

P「そうだ。まゆと二人で夕飯を買いに出た。すぐに部屋に戻ったけどな」

奏「いくらでも逃げる手段はあったんじゃない? 少なくとも、その間は」

P「……申し訳ないような気がしてな」

乃々「……」

P「……それからすぐ、部屋に茜たちが来た。まゆはすぐに部屋に入れた。特に困った様子でもなかった」

奈緒「諦めたってことか?」

P「……分からない」

卯月「……」

P「……まゆはお茶を入れにキッチンのほうに行った。俺たちは話をしながら待ってたが、やけに遅いことが気になって様子を見に行った」

輝子「あ、携帯の着信も……」

P「そうだ、着信音でまゆがトイレにいることが分かった。奈緒が凛にかけた電話だ」

P「……まゆと凛は倒れていた。意識が無かったから、救急車を呼んで病院に運んでもらった。……こういうことだ」

101 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 05:52:35.17 ID:c6PUDvkw0

ちひろ「Pさん? 肝心な部分が抜けてますよ?」

乃々「そうです。Pさんがまゆちゃんじゃなくて凛さんを選んだって言うのは……」

未央「え、それってもしかして……」

茜「……ごめんなさい! 聞いちゃいました!」

加蓮「え、茜ちゃん?」

P「……茜。あの話は未央から聞いたのか?」

茜「正確には卯月ちゃん、未央ちゃん、加蓮ちゃん、奈緒ちゃんが話しているのを……」

卯月「あ……」

P「……そうか」

ちひろ「……私が言いましょうか。これは博打だったんですよ。乃々ちゃん」

乃々「……」

P「……どういうことですか」

ちひろ「言った通りですよ。まゆちゃんは博打をしたんです」

輝子「……博打?」

ちひろ「そうです。それも小さなものじゃなく、まゆちゃんはとても大きなものを賭けました」

乃々「……自分の恋心、ですか」

P「……!」

102 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 05:53:17.24 ID:c6PUDvkw0

卯月「でも、なんでそんなことをしたんですか?」

加蓮「そうだよ! 凛を拘束したりして。そんなの不公平じゃん!」

ちひろ「…………Pさん? こうなったら話さざるを得ないですよね?」

P「……」

奈緒「まだ何か隠してることがあるのか? プロデューサー!」

P「……」

ちひろ「Pさんが話さないなら私が話しますよ?」

P「……いや、俺が言います」

輝子「……フヒ」

乃々「…………洗いざらい、吐いてもらうんですけど」

卯月未央奏茜奈緒加蓮「……」

103 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 05:54:53.38 ID:c6PUDvkw0
P「……凛に抱き着かれて告白された。そのことは知ってるんだよな?」

輝子「あぁ……」

卯月「……私が見ちゃいました。ごめんなさい」

P「いや、卯月は悪くないんだ。悪いのは全部俺なんだよ」

未央「どういうこと?」

P「……あの日、あの時。俺が凛に告白されてたときに……」

加蓮「何かあったの?」

P「……同じスタジオで収録してたまゆを一人にするべきじゃなかったんだ」

奈緒「……くどいぞPさん! 何があったんだ! Pさんが凛の告白を聞き流してた間に、まゆに何があったんだよ!」

P「……」

P「…………強姦、レイプされそうになってたんだ」


輝子乃々卯月未央奏茜奈緒加蓮「…………え?」

104 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 05:55:56.32 ID:c6PUDvkw0
P「…………まゆが襲われてたんだよ。番組のスタッフに」

乃々「え、それって……」

ちひろ「……熱狂的なファンだったらしいですね。まゆちゃんのファンは過激な人が多いですから」

加蓮「いや多いですからって……洒落になんないでしょ、それ」

卯月「Pさんはその時……あっ」

P「……俺は凛に告白されてた。スタッフは数人がかりのグルだったらしい。楽屋の警備員さんもそいつらに嵌められてた。まゆを守る人は誰もいなかったん
だ」

輝子「それでまゆちゃんは事務所に来なくなってたのか……」

奏「……初耳なんだけど」

ちひろ「他のアイドルがそれを知ったら仕事に支障が出るでしょう?」

P「まゆを襲った本人は警察に突き出した。各テレビ局、ラジオ局にも注意を厳重に喚起した。警備も増やした」

未央「……」

P「でも俺がやったのは後始末だけだ。結局まゆを助けたのは、幸運にもそこを通りかかった茄子さんだった」

ちひろ「突然まゆちゃんの楽屋だけ停電して、焦った犯人が机の角に小指を思いっきりぶつけ、転げ悶えてるところに楽屋のドアがいきなり倒れてきて下敷き
になったらしいです」

輝子「こ、幸運って怖いな……」

105 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 05:57:06.24 ID:c6PUDvkw0

P「結果としては服を強引に脱がされそうになっただけで済んだ。だがまゆは深く傷ついた」

奈緒「当たり前だろ……!」

加蓮「奈緒、冷静になって」

奈緒「なんだよ! こんなの聞かされて冷静になんかなれるか! まゆの気持ちを考えると……!」

未央「……でも、誰も悪いわけじゃないんだよね。悪いのはまゆちゃんを襲った人で」

奈緒「じゃあ悪いのはまゆのそばを離れた、Pさんじゃないのか!? どうなんだよ!」

P「……」

未央「それは……」

ちひろ「……確かにPさんにも責任の一端はあります」

P「!」

奈緒「……だよな。そうなんだよな、Pさん」

P「……あぁ。さっきも言っただろ、悪いのは全部俺だ」

ちひろ「でもこれは本当に偶々起こった、不幸な事件だったの。誰も、誰かを責めたりはできない。Pさんもそのことについて負い目を感じる必要は、無いっ
てことです」

奏「……そうね。私も、そう思うわ」

奈緒「なんだよ……! 皆して大人ぶりやがって……!」ガチャ

加蓮「奈緒! どこ行くの!」

奈緒「病院だよ! 凛の所に行く! こんな話を聞くよりもずっと凛の方が心配だ!」

加蓮「待って! ねぇったら!」バタン

輝子「……」

乃々「……」

卯月「……」

未央「……」

茜「……」

奏「……」

106 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 05:58:01.17 ID:c6PUDvkw0

P「……ちひろさん。自分がやったことは話しました。次はちひろさんの番です」

ちひろ「博打のことですか? Pさんなら大体の察しはついてると思ったんですけど」

P「……とても危険な賭けです。そこまでしてまゆが欲しがったのは、いったい何なんですか?」

奏「それはPさんの……」

P「いや、それは分かってるんだ。まゆは俺に好かれたがってた。そのために俺を拘束して、誘惑して、その様を凛に見せつけて……」

卯月「……」

ちひろ「なら何が分からないんですか?」

P「……まゆはいい子なんです」

ちひろ「……」

P「佐久間まゆっていう子は可愛くて、気が利いて、面倒見が良くて、料理が上手で……」

P「……何より、誰よりも恋愛に対してまっすぐなんです」

輝子「…………私もそう思うぞ」

乃々「わ、私も……」

ちひろ「……それはPさん達がそう思い込んでただけ、じゃないんですか?」

P「! 何を……!」

ちひろ「まゆちゃんはどこか歪んでる。ただの可愛い女の子じゃない。Pさんもそこにアイドルとしての魅力を感じたんでしょう?」

P「そ、それは……」

107 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 05:59:12.88 ID:c6PUDvkw0
ちひろ「じゃあ監禁されてるときは? 『まゆちゃんがこんなことするはずない』って本気で思ってましたか?」

P「……くっ」

ちひろ「……この際だから言っときますけど」

ちひろ「私たちは所詮他人同士なんですよ。職場が同じで、同じユニットになって、一緒にいる時間が増えたところで、心の底から信頼できる仲間なんていな
いんです」

輝子乃々「うぅ……」

ちひろ「誰しも心の中に闇を持ってるんです。今回のことだってまゆちゃんの闇から目を背けていたPさんの責任……と言われても仕方ないですよね?」

卯月「……それは言い過ぎじゃないですか?」

ちひろ「あら、卯月ちゃんはそう思いますか?」

卯月「だってそんなこと言い出したら……まゆちゃんがPさんのことを好きな事自体を否定してるみたいで……」

ちひろ「……もしかしたらそうかもしれませんね」

卯月「え……」

ちひろ「成就しない恋なら、しない方がマシだったのかも」

P「ちひろさん!」

108 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:00:04.52 ID:c6PUDvkw0

ちひろ「ふふ。分かってますよ。年頃の女の子にこんなこと、言うもんじゃないですよね」

卯月「……私も凛ちゃんのところに行ってきます」ガチャ

輝子「……わ、私も……」

乃々「……もういいです。もりくぼは疲れました」

奏「……ここは空気が悪いわ」

P「……」

ちひろ「……」

未央「……」

茜「……」

P「……未央と茜は凛のところに行かないのか?」

茜「……いえ! ちょっと気になることがありまして!」

ちひろ「まゆちゃんのことですか?」

茜「もちろん! でも凛ちゃんとまゆちゃんが病院でああいう状況なんで、とりあえずPさんとちひろさんに聞いてみようかなー、と思いまして!」

P「……いいぞ。もう隠してることなんてないし、なんでも聞いてくれ」

茜「はい! では僭越ながら……」

茜「これは乃々ちゃんと輝子ちゃんに聞いたことなんですが、まゆちゃんと凛ちゃんってそんなに仲が良かったんですか?」

ちひろ「特別仲が悪いわけじゃないですよね」

P「そうだな。むしろいい方だと思ってたが……実際はそうでもなかったってことなのかな」

茜「いえ、私もそう思ってたから混乱してるんです」

P「どういうことだ?」

茜「じつはですね……」

109 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:04:58.22 ID:c6PUDvkw0


数時間前


茜「凛ちゃんとの関係……とか!」

乃々「ひっ」

茜「どうしましたか?」

輝子「あー……乃々ちゃんはちょっと凛ちゃんに苦手意識が……」

乃々「あーいえ……トラウマってほどじゃないんですが……」

茜「おおう、大丈夫ですか? 話すのがしんどいなら……」

乃々「……大丈夫ですけど。もりくぼは自分にできることをするって決めたんですけど……」

輝子「おお……乃々ちゃんが成長している……」

茜「そうですか! じゃあよろしくお願いします!」

乃々「と言ってもそんなに知ってることはないんですけど……精々仲がいいってことくらいしか……」

茜「仲がいい? それは初耳です!」

乃々「え……知らなかったんですか?」

輝子「私も知らなかった……。仲がいいって、どのくらいだ?」

乃々「頻繁に家に遊びに行くくらいには……? しょっちゅう凛さんからその話を聞かされてますし……」

輝子「え……そんなにか」

乃々「泊まりとかも結構してたみたいですけど……本当にそれくらいしか……」

茜「いえいえ! 十分ですよ! ありがとうございます!」

輝子「凛さんが……なにか関係しているのか?」

茜「んー……」

乃々「まさか凛さんと喧嘩して?」

輝子「そ、そうなのか? 茜さん」

茜「……」

乃々「な、なにか言ってほしいんですけど!」

茜「んー、わかりません!」

輝子「なんだそれ……」

茜「私の勘ですから! そんなに気にしないでください!」

乃々「はぁ……」

輝子「ほ、本当にダイジョウブなのか……」

110 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:06:48.90 ID:c6PUDvkw0

茜「……と!」

P「頻繁にお互いの家に遊びに行く? それだけ仲が良かったら……」

ちひろ「こんなことにはならなかった? 仲が良かったからこそじゃないですか?」

茜「それはありますね! 仲がいいほど喧嘩するっていいますし!」

P「それを言うなら喧嘩するほど仲がいい……まあ意味はそんなに変わらないが」

茜「というか、私も最初はそう思ってたんです。でもそれだとなんだかぱっとしないんですよねー」

ちひろ「パッとしない……ですか?」

未央「あ、それ。私も思ってたんだよね。それを言いたくて残ってたんだけど……」

茜「おお! やっぱり未央ちゃんとは気が合いますね!」

P「未央、何が腑に落ちないんだ?」

未央「あー。ちひろさんがさっき言ってましたよね? 誰しも心の中に闇を飼っている、って」

茜「まさにそこです! 私ももやもやしてたんです!」

ちひろ「それがどうかしましたか?」

未央「えーと、怒らないでくださいよ?」



未央茜「私たちから言わせてもらうと、そんなのちゃんちゃらおかしいからね!」



ちひろ「……は?」

111 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:07:52.67 ID:c6PUDvkw0

P「お、おい……」

未央「……今まで私たちは一緒に色んな困難を潜り抜けてきた。毎日のレッスンやライブツアー。ドラマや映画の役作りにも、皆で真剣に取り組んできたんだ
よ」

未央「そうだよね?」

P「……あぁ。それは間違いない」

茜「アイドルは皆に光を届けるんです。そのために、私たちはここまで頑張ってきて、これからも頑張ろうとしてるんです」

茜「……そしてそれはまゆちゃんだって、同じはずなんです!」

ちひろ「……だから?」

未央「だから今回のことも、そんな耳障りのいい言葉で簡単に片づけさせない。諦めない。まゆちゃんにはまゆちゃんの考えがあって、あんなことをしたはず
だから。私はその理由が知りたい」

茜「心の中の闇? 上等です! そんなもの、皆の力で振り払ってやりますから!」

P「お前ら……」
ちひろ「……そうですか。それじゃ精々頑張ってください」クル

ちひろ「私が知ってることは全部話しましたし、これ以上、協力できることはないですから」

未央茜「はい! ありがとうございました!」

未央「……プロデューサー!」

P「……なんだ?」

未央「……私は男じゃないし、Pみたいに大人でもないから分かんないけど」タタタ

P「?」

未央「……好きな人には好きって素直に伝えるべきだよ?」コソッ

P「……!? おまっ……」

茜「?」

112 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:08:38.72 ID:c6PUDvkw0

未央「それじゃあ私も皆のところに向かいます! 失礼しました!」

茜「失礼しました!」

ちひろ「……ねえ、二人とも」

未央「? どうしたんですか?」

ちひろ「……どうしてそこまで信じられるの? 赤の他人同士なのに」

茜「そんなことないですよ! ね、未央ちゃん!」

未央「……そうだね、茜ちん!」

未央茜「だって凛ちゃんもまゆちゃんも、私たちにとって大切な友達だから!」

ちひろ「……そうだったわね」

茜「あ、あと私はもう一つ」

ちひろ「?」

茜「約束しましたから! 私は前だけ向いて突っ走るって!」

113 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:09:22.52 ID:c6PUDvkw0

P「……行っちゃいました」

ちひろ「……」

P「……太陽みたいですね」

ちひろ「……えぇ。私には眩しすぎます」

P「……」ガチャ

ちひろ「凛ちゃんですか?それとも、まゆちゃんですか?」

P「…………ちひろさんは意地悪ですね」バタン





ちひろ「……」

ちひろ「……」


ちひろ『成就しない恋なら、しない方がマシだったのかも』


ちひろ「……」ハァ

ちひろ「……よく言ったもんよね。ほんと」

114 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:10:12.27 ID:c6PUDvkw0

未央「やー、盛大に啖呵切っちゃったね」

茜「かっこよかったですよ!」

未央「褒めるな褒めるな。して、茜殿よ。一つ尋ねたいのじゃが」

茜「はっ、なんでしょうか!」

未央「……私たちができることって、なんだろうね」

茜「……探偵ごっこや謎解きをするつもりはありませんよ」

未央「だよね。そう言うと思った」

茜「……難しいですね」

未央「私たちがしたいのはさ。自己満足とか、事件解決とか、そういうのじゃないじゃん?」

茜「そうですね!」

未央「……じゃあ、具体的に何をしよう?」

茜「……さしあたっては、お二人が目が覚めるのを待ちつつ! 私たちは私たちの仲間を慰めるべきだと思います!」

未央「だよねー、そうなるよねー……」

茜「?」

未央「……ま、それは仕方ないか!」

茜「あの、未央ちゃん? それはどういう……」

未央「すとーっぷ! 女にはしぃくれっとの一つや二つはあるものですぞ、茜どの?」

茜「な、なにー! それでは仕方ありません!」

未央「うむ、理解が早くて助かるね」

茜「それじゃあ私は病院に向かいます!」ダッ

未央「いや、行動も早いな! 待ってよー! 私もしぶりんのところ行くんだから! 一緒に行こうよー!」ダッ

115 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:15:35.55 ID:c6PUDvkw0

卯月「……」

奈緒「……」

加蓮「……」

奏「……」

凛「……」スースー

卯月「……ほんとに、眠ってる」

奈緒「そうだな。かわいいもんだ」

加蓮「……かわいそうに」

奏「……」

卯月「……死んでるみたい」

奈緒「卯月!」

卯月「だって……」

加蓮「いや、私もそう思う。凛は今、死んでるようなもんだよ」

奈緒「加蓮まで!」

奏「……凛の知らないところを覗いて、怖くなった?」

卯月「…………怖くなった、のかな。凛ちゃんが遠くに行っちゃって、帰ってこないんじゃないかって……」

奈緒「縁起でもないこと言うなよ……死んだりすることは無いって言ってたじゃんか!」

加蓮「目が覚めたとして、それは今まで私たちが知ってた凛じゃないかもしれないんだよ」

奈緒「凛は凛だろ……! そんなの私には関係ない」

奏「奈緒が気にしなくても、凛はどうかしらね」

116 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:16:23.63 ID:c6PUDvkw0

卯月「……まゆちゃんがやったことは、凛ちゃんをどれだけ傷つけたんでしょうか」

奏「どうかしら。本人に聞いてみないと分からないわね」

加蓮「……まゆちゃんってちょっと変わってるとは思ってたよ。でもほんとにこんなことする子だとは、思わなかった」

奈緒「それほど抜け駆けされたのが許せなかったんだろ……」

奏「もしも私たちがその立場だったら?」

奈緒「……想像できないよ。そんなの」

加蓮「……」

卯月「誰が悪いわけでもないのに、なんでこんなことになっちゃったんだろ……」

奏「……恋って、そういうものよ」

奏「少なくとも誰かが誰かを好きになることは尊いこと。こじれたら色々と面倒になるけれどね」

奈緒「まゆがやったこともしょうがないってことか?」

奏「ちょっと行動力が過ぎたわね。ある意味計画的でもあったようだけれど……」

加蓮「はぁ……博打のこと? あれって勝算低すぎると思うんだけど」

奏「どうかしら。そんな当て馬にあのちひろさんが乗るとも思えないけれど」

卯月「……」

凛「……」スースー

卯月「……凛ちゃん」

117 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:16:51.76 ID:c6PUDvkw0

乃々「……」

輝子「……」

まゆ「……」スースー

乃々「……かわいい寝顔ですね」

輝子「そうだな……」

乃々「……まゆちゃんがしたことは、間違ったことだったんですか」

輝子「ど、どうだろう。やったこと自体は悪いことだと思うけど……」

乃々「……」

輝子「まゆちゃんは私たちよりもずっと大人だったからな……。恋愛とか、私には分からない」

乃々「私にも分かりません……」

輝子「……私たちは、まゆちゃんを止めるべきだったのかな」

乃々「もっとちゃんと話を聞くべきだったのかも、ですけど……」

輝子「……」

乃々「……」

まゆ「……」スースー

乃々「……少なくとも、まゆちゃんは歪んでなんかいません」

輝子「あぁ。私もそう思うぞ」

118 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:17:25.06 ID:c6PUDvkw0

未央「しぶりーん……っと、みんないるんだ」

卯月「あ、未央ちゃん……」

奈緒「遅かったな。何してたんだ?」

未央「いやーあのちひろさんに喧嘩売っちゃったよ」

加蓮「? なにそれ」

未央「いやいや。こっちの話こっちの話」

奏「……大丈夫なの?」

未央「だいじょぶだいじょぶ。で、お姫様はまだ起きてないの?」

卯月「……はい」

加蓮「まだ一回も起きてない。私たちが来てからもずっと眠ったまま」

奈緒「凛、未央も来たぞ? そろそろ起きてもいいんじゃないか? な?」

凛「……」スースー

奈緒「……くそ」

奏「……」

未央「……そっか」

奈緒「……なあ。未央はどう思う?」

未央「それは……まゆちゃんのやったことについて? それとも……」

奈緒「諸々含めたぜんぶについて」

未央「……中々難しいこと聞くねー」

119 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:17:59.62 ID:c6PUDvkw0

未央「そうだなー、まずはちょっと信じられない気持ちがある」

加蓮「あー……それは私にもあるかもしんない。まさかこんなことになってるなんて思ってなかったよ」

奏「私なんか、あなた達が楽屋に来てなかったら、このことについて一切知らないままだったわよ」

奈緒「今日、私たちが卯月と未央に凛のことを相談してなかったら……奏と同じようになってただろうな」

加蓮「そう考えたら、こうやってしぶりんとまゆちゃんの境遇を少しでも知れたってことは、すごくラッキーだよね」

卯月「でも……私たちには何もできなかった……」グスッ

未央「それは違うよしまむー。私たちが今こうやってしぶりんの側にいてあげられるってことはとっても大事なことなんだよ」

卯月「でも……」

未央「……さっき茜ちんとも話したんだ。私たちがするべきことについて」

卯月「……」

未央「しぶりんとまゆちゃんが目覚めたとき、私たちがそこにいてあげられればいいな。って思うんだけど……どう?」

奏「……いいんじゃない?」

加蓮「私たちが口出しできる問題でもないからね……それがいいよ」

120 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:18:36.18 ID:c6PUDvkw0

奈緒「……」

加蓮「奈緒? またへそ曲げちゃうの?」

奈緒「……いや。もうそれはやめた。凛とまゆの気持ちとかPの対応とか、釈然としないのは変わらないけどさ」

加蓮「へえ、偉いじゃん?」

奈緒「……眠ってる凛を見たら、な。無事に目を覚ましてくれさえすればいいやって……そういう気持ちになってくるんだよ」

奈緒「それと……さっき加蓮が言ってたこと、思い出した」

加蓮「なんか言ったっけ?」

奈緒「『できることとできないことがある。目を背けるな』って」

加蓮「あはは。そういや言ったね、そんなこと」

卯月「……」

凛「……」スースー

卯月「……」

未央「……しまむー?」

卯月「……ちょっと、一人にさせてください」

未央「……いいよ。私たちはここで待ってるから」

卯月「……ありがとうございます」

121 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:19:09.08 ID:c6PUDvkw0

茜「まゆちゃん、こんばんはー……っと」

乃々「あ、茜さん……」

輝子「……流石に病院では静かにしてるんだな」

茜「ここに来るまでに看護師さんに三回も注意されましたからね!」

輝子「あ、やっぱり……」

茜「で、どんな感じですか?」

乃々「見ての通りです……反応も無いし起きる気配もありませんし……」

茜「ほあー……。人形みたいにかわいい寝顔ですねぇ」

乃々「……何してたんですか?」

茜「戦ってました!」

乃々「え、誰とですか?」

茜「ちひろさんとです!」

輝子「あー……」

乃々「あー……」

茜「な、なんですかその目は」

輝子「……茜さん。ちひろさんが言ったことについて、どう思う?」

茜「ちひろさんのどの発言についてですか?」

輝子「なんでもいい。例えば……」

乃々「『まゆちゃんは歪んでいる』って言ってました」

茜「ああ、言ってましたね」

輝子「私たちはそんなことないって思うんだけど……どうかな?」

茜「私は……歪んでない人なんかいないと思いますよ」

乃々「……」

茜「普通の人ってどこかしら歪んだり、罅があったり、弱点があったりするものですから!文字通り、完璧な人なんていないと思いますよ」

122 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:19:55.88 ID:c6PUDvkw0

乃々「完璧な人なんていない……」

輝子「……」

茜「……耳元で『おはようございます!!』って叫んだら目が覚めたりしませんかね?」

輝子「そ、それはよくないと……」

茜「あはは。冗談ですよ!」

乃々「茜さんが言うと冗談に聞こえないんですけど……」

茜「二人はどうですか?」

乃々「え?」

茜「まゆちゃんの目が覚めたら……なんて声をかけるつもりですか?」

乃々「そ、それは……」

輝子「……」

茜「ああ、そんなに難しく考えないでいいですよ!」

乃々「……」

輝子「……」

茜「……二人とも考え込んでしまいました」

輝子「む、難しいな……フヒ」

乃々「んー……」

茜「ま、まあ考えることは悪いことじゃないですからね!」

まゆ「……」スースー

輝子「……ちょっと外の空気を吸ってくる」

乃々「……わかりました」

茜「いってらっしゃい!」

輝子「……ありがとう」

123 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:27:46.79 ID:c6PUDvkw0

P「……」

P「……」

P「……俺はどうすればよかったんだろうな」

P「なぁ。教えてくれよ」

P「凛」

P「まゆ」

P「……ははっ」

P「俺なんかに答えてくれるわけないか」

P「……」

P「……俺が出来ること、しなくちゃいけないこと」

P「……」

P「……物語を、終わらせるんだ」

124 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:28:29.96 ID:c6PUDvkw0

卯月「……」グスッ

卯月「……泣いちゃダメだよ。皆だって、泣いてないでしょ?」

卯月「だから……」

卯月「……凛ちゃん」グスッ

輝子「……フヒ」

卯月「!」

輝子「ご、ごめん、なさい。偶々なんだ。本当に偶々……通りかかっただけで」

卯月「み、見ちゃいました?」

輝子「……うん」

卯月「あはは……。かっこ悪いですよね、私」

輝子「……そんなことないと思う」

卯月「……輝子ちゃんは優しいですね」

輝子「……」

卯月「……」

125 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:29:14.23 ID:c6PUDvkw0

輝子「凛さんは……?」

卯月「……」

輝子「そっか、凛さんもまだなんだ……」

卯月「……まゆちゃんも?」

輝子「……うん」

卯月「……」

輝子「……」

卯月「なんでこんなことに、って考えても、無駄なのは分かってるんです」

卯月「それでも考えちゃう。なんで、どうして、って」

輝子「……私も、だ」

輝子「……それで悲しくなって、何もできなかった自分が歯痒くて」

卯月「勝手に辛くなって」

輝子「そんな自分が嫌になって……」

卯月「……私、凛ちゃんのことなら何でも知ってると思ってたのかもしれませんね」

卯月「本当はそんなわけないのに」

輝子「……」

卯月「……」

126 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:30:12.29 ID:c6PUDvkw0

輝子「……なんて言えばいいと思う?」

卯月「え?」

輝子「まゆちゃんが目を覚まして、私はまゆちゃんになんて声をかければいいんだろうな」

卯月「……」

輝子「……それがわかんなくて、逃げてきたんだ」

輝子「私は今日、まゆちゃんに会ってるんだ。なのに止められなかった。気付けなかった」

輝子「……どんな顔したらいいかも、分かんなくて」

輝子「……怖くなって」

卯月「……私もそうです」

卯月「凛ちゃんの顔を見るのが怖くなった。私の知ってる凛ちゃんじゃないような気がして、それで……」

卯月「……」グスッ

輝子「……」グスッ

127 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:30:47.74 ID:c6PUDvkw0

輝子「……泣いてもいいのかな」

卯月「……もう泣いてるじゃないですか」

輝子「……卯月ちゃんもな」

卯月「……内緒にしてくれますか? これで終わりにしますから」

卯月「二人が目を覚ました時に、笑って迎えてあげられるように。弱い自分を倒すために……」

輝子「うん。大丈夫」

卯月「……ありがとう」

輝子「おあいこってやつだから……な」

卯月「……う」

輝子「……う」

卯月輝子「うええええん」

卯月「凛ちゃあああん」

卯月輝子「うええええええん」

128 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:31:27.24 ID:c6PUDvkw0

凛「……」スースー

奈緒「……遅いな」

未央「そうだね。ちょっと心配になってきたな」

加蓮「迎えに行く?」

未央「いや、待ってるって言っちゃったからね」

加蓮「あ、そうだった」

奏「……こんなこと言うのはあれだけど、暇ね」

奈緒「……確かにな」

加蓮「そういや私たち、いつまでここにいていいんだろうね? もう夜中だし、手続きとかしてないし」

奏「別にいいんじゃない? ここって346の直系の病院みたいだし。そこらへんはちひろさんかPがどうにかしてると思うわよ」

加蓮「あ、そうだった」

未央「ちひろさんと言えば……退屈ついでにちょっと考えてみたんだ。なんでちひろさんが関わっているのか」

奏「あら、いいじゃない」

奈緒「なんだよ奏。随分乗り気じゃんか」

奏「他人の粗を探すのって存外楽しいものよ。特に秘密を多く抱えた相手だと、ね」

129 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:32:04.28 ID:c6PUDvkw0

加蓮「……もしかして、奏って結構根に持つタイプ?」

奏「どうかしらね」

未央「あ、しぶりんが聞いたら嫌がるだろうし……ちょっとこっち寄って」

奈緒「はいはい……。で?」

加蓮「本田先生の中ではどういう結論になったの?」

未央「うん。ちひろさんは、まゆちゃんの計画を阻止したかったんじゃないかなって」

奏「それは……有り得るわね」

加蓮「うん。確かに」

奈緒「そうか? それなら最初から協力なんてしなきゃよかったじゃん」

未央「なんか弱みを握られてた……とか。完全に妄想の域になっちゃうけど」

加蓮「実は裏から手を引いてた……。十分考えられる話だね」

奈緒「確かにあのちひろさんが、黙ってまゆに従うとも思えないしなー」

奏「完全に無関係の私を巻き込んでまで……というか、凛の代役が私じゃないといけない理由って、あったのかしら?」

未央「む、それは一考の余地ありだね」

130 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:33:36.59 ID:c6PUDvkw0

加蓮「……それにしても卯月、遅いね。病院だし滅多なことはないはずだけど……」

奈緒「……私だけでも探しに行こうか」

奏「これってどんどん生存者が減っていくパターンね」

奈緒「それこそ縁起でもないこと言うなよな……」

卯月「……すいませんー。遅くなっちゃって」

奈緒「卯月! ちょうど探しに行こうと……」

輝子「お、お邪魔します……」

奈緒「輝子! どうしたんだ?」

卯月「さっき偶然会ったんです。凛ちゃんの様子も見たいって」

奈緒「そうか……。まゆはどうだった?」

輝子「眠ってる。かわいい寝顔だった……」

未央「……」

卯月「? どうかしましたか?」

未央「……いや、なんでもない」

卯月「?」

未央「……もう大丈夫?」

卯月「……はい。大丈夫です」

未央「そっか。よかった」

加蓮「……」

奏「……」

凛「……」スースー

131 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:34:54.27 ID:c6PUDvkw0

P「……」ガチャ

P「……」

P(……なにか、あるはずなんだ)

P(物語を終わらせる、なにか)

P「……」

P「……これって、不法侵入かな」

P「……」

P「……」ガサガサ

P「……」ガサガサ

P「……!」

P「……日記帳か」

P「……」ペラ

P「……これか」

P「……」

P「……これが、俺の役割だったのか」




『凛ちゃんへ』




P「……」

P「……くそ」

132 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:39:13.72 ID:c6PUDvkw0

未央「……んがっ」

卯月「……ふふ、未央ちゃん。よだれ垂れてますよ」

未央「おっと失礼……。うとうとしてた」ジュルリ

奏「無理もないわね。一日中動き回ってたんだし。ほら。あの子は完全に入っちゃってる」

奈緒「ぐおおお、すぴいいい」スヤア

未央「これはこれは……いい爆睡っぷりですな」

輝子「いびきで凛さんが起きないか心配だ……」

加蓮「それはそれでいいんじゃない? 『奈緒、うるさい』ってさ」

奈緒「うえっ……?」

奏「眠り姫のお目覚めね」

奈緒「だ、誰か私の名前呼んだ?」ゴシゴシ

加蓮「呼んでない、呼んでないよー」

卯月「いい子のなおちゃんはもうちょっと寝てていいんですよー」

奈緒「い、いや。私だけ寝るなんて嫌だ」

未央「かみやん、よだれ」

奈緒「え、あっ」ジュルリ

加蓮「凛につけてたら大惨事だったねー」

奈緒「……そうか、まだ凛は寝てるのな」

卯月「……」

133 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:39:54.09 ID:c6PUDvkw0

乃々「あ、あのー……」

卯月「あ、乃々ちゃん」

茜「こちらに輝子ちゃんがお邪魔してませんか?」

輝子「あ、はい」

乃々「戻ってこないからちょっと心配したんですけど……」

輝子「あ。そうだった……」

茜「私たちも凛ちゃんの様子を見たかったので。ちょうどよかったですよ」

輝子「ということはまゆちゃんもまだ……」

乃々「……はい」

輝子「……」

未央「こーら。また暗くなってるじゃん。くよくよしてても仕方ないよ」

奈緒「だな」

卯月「……はい」

134 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:40:28.72 ID:c6PUDvkw0

茜「……そういえば。輝子ちゃん。答えは出ましたか」

輝子「……その時になったら。自然と言葉は思いつくと思うんだ」

輝子「こんなんでいいかな……?」

茜「上出来です! ね?」

乃々「……私にもできるでしょうか」

奏「安心して? ここにも長いことぐずってた子がいるから」

奈緒「私のことか。まあ否定はしない」

卯月「……」

奏「……ふふっ」

乃々「……頑張ります」

輝子「一緒に……な」

135 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:42:00.91 ID:c6PUDvkw0

茜「……皆さんはいつまでここに?」

未央「そりゃ二人の目が覚めるまで……と言いたいけど、そういうわけにはいかないよね」

加蓮「とりあえず今晩はここに泊まるつもり。というか今から帰るにも電車ないしね」

奈緒「というかもうこんな時間か。始発までそう時間もないし、それで帰るかな」

奏「私もそのつもりよ」

茜「そうですか! じゃあそれまで皆で話しませんか?」

未央「いいね! なんについて話す?」

卯月「あの、私、考えたんですけど……」

奏「どうしたの? まゆちゃんのこと?」

卯月「はい。なんでそんなことしたんだろう、ってことが……」

加蓮「なんでって、Pさんと凛を引き離すためでしょ?」

卯月「あ、いえ……。それはそうなんだけど、私が気になったのはもっと細かいところで……」

136 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:42:43.40 ID:c6PUDvkw0

乃々「……確かに違和感はあるんですけど」

輝子「それって……?」

卯月「私がもしもまゆちゃんの立場だったら、って考えたんです。自分より先にPさんに告白した凛ちゃんに嫉妬して、引き離すために二人を監禁する……」

卯月「……なんで二人で外に出たんだろう、って」

奈緒「……確かに。言われてみれば、そんなことする必要はないよな」

茜「それなら私も!」

未央「おぉ、なんだい茜ちん?」

茜「まゆさんはその前にも一度、Pさんを部屋の外に出してます。 しかもPさんだけで!」

加蓮「あー、茜ちゃんが伝言を預かったとき?」

茜「そうです! 私がまゆちゃんなら、絶対にPさんを一人で外に出したくないです!」

輝子「……確かに」

137 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:43:34.50 ID:c6PUDvkw0

奏「茜ちゃんたちが来たとき狼狽える様子が無かった、っていうのも不自然ね。今の私たちじゃ、推論しか立てられないけれど」

乃々「……」

輝子「……乃々ちゃん? どうかしたか?」

乃々「…………まゆちゃんの目が覚めたら、そこらへんもちゃんと話してもらわないといけないんですけど」

卯月「……そうですね」

未央「……まゆちゃんは悪い人じゃないんだよね。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ不器用なだけで」

加蓮「……そうだね」

奈緒「……全く、不器用だよなー! 凛も、Pさんも、まゆも!」

加蓮(え、奈緒がそれ言う?)

輝子「でも、私たちも同じ……。そのままのキモチを誰かに伝えるのは、思ったよりも難しい……んだよな」

茜「黙っているんじゃ、気持ちは伝わらないですからね!」

奏「……面倒な生き物ね。人間って」

138 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:44:32.87 ID:c6PUDvkw0

乃々「……まゆちゃんが帰ってこないと、やっぱり机の下が寂しいんですけど」

卯月「……きっとこのことも時間が経てば、笑って話せるようになります」

加蓮「時間なんか必要ないよ。笑って迎えてあげよう。まゆちゃんや凛のためだけじゃなくて、皆の為にも」

茜「……あ、見てください!」

奈緒「どうしたんだ?」

茜「……朝焼けです! とっても綺麗ですよ!」

卯月「あ……ほんとだ……」

未央「……すごいね」

加蓮「……うん」

奈緒「……あぁ」

奏「……きれい」

乃々「ま、眩しい……」

輝子「綺麗だな……」

茜「太陽、って感じですね……」

卯月「……凛ちゃん、まゆちゃんとも、一緒に見たいですね」

未央「……見られるよ。だって毎日、陽は昇るんだし。ね?」

卯月「……はい」

加蓮「……ね、話は変わるけどさ。こないだの収録で奈緒がやらかしたこと、知ってる?」

奈緒「おい! それは秘密にするって約束しただろ!」

加蓮「いーじゃん。どうせオンエアでバレることなんだしさ」

未央「なになに? なにしたの?」

奏「興味があるわね」

卯月「気になります!」

茜「参考にさせてください!」

奈緒「なんでこう食いつきがいいかなぁ! もう!」

加蓮「えっとねー……」

奈緒「だああああ! 私をおちょくって遊ぶの、いい加減やめてくれえええ!」

「あははははは!」


凛「……」スースー

139 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:46:20.50 ID:c6PUDvkw0

数日後の深夜、一人の患者が病室から抜け出した。看護師がそれを見つけ、戻るよう説得したが、患者は聞く耳を持たなかった。小指に赤いリボンを巻いたその患者は看護師の必死の制止も聞かず、七階の窓から身を投げ出した。

地面に頭を強く打ち、即死。血に塗れながらも、その顔は幸せそうに笑っていた。

140 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:52:32.84 ID:c6PUDvkw0
*
141 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:53:42.48 ID:c6PUDvkw0

まゆ「あはは、凛ちゃんってば、おかしいですね」

凛「えー? そうかな?」

まゆ「そうですよぉ。だってゲームに負けたほうが恥ずかしい話をするっていう罰ゲームなのに、それって奈緒ちゃんの話じゃないですかぁ」

凛「そうだよ。誰にとって恥ずかしい話かは決めてなかったからね。多分さっきの話を奈緒にしてあげたら、顔真っ赤にして恥ずかしがるだろうし」

まゆ「ずるいですよぉ。まゆは凛ちゃんの恥ずかしい話が聞きたかったのに」

凛「あはは、それはまた今度ね」

まゆ「むぅー」プクー

凛「そんなにほっぺた膨らませてもかわいいだけだよ。ほらこれ見せてあげるから。機嫌直して?」スッ

まゆ「あ、これは……」

凛「前に見たいって言ってたでしょ。ハナコの写真。沢山撮ってきたよ。どう?」

まゆ「……かわいいです」

凛「でしょ? あ、それはハナコが一緒に布団に入ってきたときで、それはお風呂からあがった後のハナコで、それは……」

凛「ってごめんね。横でわーわー言って。うるさかったかな」

まゆ「いやそんな、大丈夫ですよぉ?」

凛「まあゆっくり見てよ。私は本でも読んでるからさ」

まゆ「あ、はい……」

142 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:54:52.73 ID:c6PUDvkw0

まゆ「……」

凛「……」ペラ

まゆ「……」

凛「……ペラ」

まゆ「……あ」プルルルル

凛「……ん。まゆ、どうしたの?」

まゆ「お母さんから電話みたいですよ?」プルルルル

凛「あれ、もうそんな時間?」

まゆ「はい」プルルルル

凛「ありがと」ピッ

凛「……もしもし?……うん。…………そうなんだ」

まゆ「……」

凛「……ううん、大丈夫。わかった。気を付けてね」

まゆ「……」

143 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:55:36.92 ID:c6PUDvkw0

凛「え? ……大丈夫。まゆのとこだから。……うん、わかってるって、私から言っとくから」

まゆ「ご挨拶しましょうかぁ?」

凛「いや、いいよ。はい……はい。じゃあね、おやすみ」ポチ

まゆ「……どうしたんですかぁ?」

凛「うん。お母さんとお父さんがデートで帰ってくるのが遅いんだって。それで晩御飯は自分でどうにかしなさいってさ」

まゆ「あ、じゃあ……」

凛「うん。また厄介になってもいいかな? ……実はこないだ食べたまゆの料理がすごくおいしかったから、また食べたいなって思ってたんだ」

まゆ「構いませんよぉ。むしろ凛ちゃんなら大歓迎です」

凛「ありがとう! 何か手伝おうか?」

まゆ「大丈夫ですよ。凛ちゃんはお客さんなんだから、座って待っててください」

凛「そういうわけには……」

まゆ「……じゃあ食器を並べておいてくれますか?」

凛「! わかった。任せて!」

まゆ「ふふふ」

144 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:56:21.74 ID:c6PUDvkw0

凛「ごちそうさま」

まゆ「お粗末様でしたぁ」

凛「まゆの料理はおいしいね。うちのお母さんより上手だよ。あ、食器運ぶね」

まゆ「そんな、いいですよ。お客さんなんだから……」

凛「私がしたいから、いいの」

まゆ「……じゃあお願いしますね」

まゆ「……」

凛「……一緒に、しよ?」

まゆ「……はい♪」

145 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:57:22.84 ID:c6PUDvkw0

凛「さて、どうしようか?まゆは何かしたいこと、ある?」

まゆ「凛ちゃんがしたいことなら、なんでもいいですよ」

凛「そう言われてもな……。あ、じゃあアイス食べたいな」

まゆ「アイスですか……コンビニに買いに行かないと」

凛「私が行ってくるよ。何か欲しいものある?」

まゆ「じゃあまゆも一緒に……」

凛「いーの。私がしたいって言ってるんだから。まゆはゆっくりしててよ」

まゆ「……そう、ですか」

凛「……」

まゆ「……」

凛「じゃ、行ってくるね。近いからすぐに戻ってくるよ」

まゆ「……いってらっしゃい」

146 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 06:59:27.90 ID:c6PUDvkw0

まゆ「……」

まゆ「……」

まゆ「……」

凛「ただいまー」

まゆ「あ、おかえりなさぁい」

凛「ふふふ」

まゆ「? どうしたんですかぁ?」

凛「いや、なんか新婚さんみたいだなぁって」

まゆ「……え?」

凛「いや、冗談だよ。冗談。まゆをお嫁さんにする人は幸せだろうなって思っただけ」

まゆ「そんな、まゆなんて……」

凛「ああ、そんな困った顔しないでよ。悪かったから。ほら、アイス食べよ?」

まゆ「あ、まゆのぶんも買ってくれたんですか? ならお金を……」

凛「大丈夫大丈夫。ほら。じゃん」ガサガサ

まゆ「これは……月見大福ですね」

凛「そ。私、これ好きなんだ。でも一人で二つ食べるのは欲張りすぎだから……ね?」

まゆ「…………凛ちゃんは意地悪です」

凛「一応アイドルだしね。夜食は控えるようにPからも言われてるし……」

まゆ「……Pさんですかぁ」

凛「?」

147 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 07:00:34.58 ID:c6PUDvkw0

まゆ「……それじゃ、ありがたく頂きますねぇ」

凛「ん。これで私とまゆは共犯者だ……おいし」ヒョイパク

まゆ「まゆは無罪ですよぉ? 悪いのはまゆを唆した凛ちゃんです……ちべたっ」

凛「世の中には共謀罪ってのがあるんだよ。私の口車に乗った時点で、まゆは犯罪の片棒を担いだことになってるんだ」モグモグ

まゆ「理不尽です……」ペロペロ

凛「ぷにまゆになっちゃうね」

まゆ「でぶりんになっちゃえばいいんです……」

凛「辛辣だね」

まゆ「お互いさまですよぉ」

凛「ふふっ」

まゆ「ふふっ」

凛まゆ「あははははははっ」

148 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 07:01:27.10 ID:c6PUDvkw0

まゆ「あ、凛ちゃん」

凛「どうしたの? まゆ」

まゆ「ついてますよ? ほっぺにアイス」

凛「え、ほんと? 取って」

まゆ「仕方ない凛ちゃんですねぇ……はい、取れました」

凛「ん。ありがと」

まゆ「……今日は泊まるんですかぁ?」

凛「……そうしようかな。実はもう連絡は入れてるんだ」

まゆ「そうだったんですかぁ。じゃあお風呂、入れますね。凛ちゃんから入っていいですから……」

凛「……」

凛「一緒に入る?」

149 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 07:02:18.03 ID:c6PUDvkw0

まゆ「背中流しますねぇ」ゴシゴシ

凛「あー気持ちいい。あ、そこもうちょっと強めにお願い」

まゆ「このくらいですかぁ?」

凛「そうそう。まゆ、背中流すの上手だよね」

まゆ「うふふ、ありがとうございます」

凛「……なんか久しぶりだね。二人でお風呂に入るのって」

まゆ「そうですねぇ。やっぱりちょっと狭いですけど……」

凛「でもこのくらい狭いほうが、むしろ遠慮しなくていいよ」

まゆ「そうですかぁ?まゆは凛ちゃんがいいならいいんですけど……。流しますね」ザー

凛「ありがとう。じゃあ次は私の番ね」

まゆ「……」

凛「? どうしたの?」

まゆ「……いえ、なんでもないです。お願いしますねぇ」

150 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 07:03:45.90 ID:c6PUDvkw0

凛「はー、やっぱりまゆの肌って綺麗だよね」コシコシ

まゆ「凛ちゃんの方が綺麗ですよぉ」

凛「いやー。私にはこの感じは無いなぁ。なんというか、きめ細かさ? 人形みたいというか」

まゆ「それを言うなら、凛ちゃんの肌にはハリがあります」

凛「そんなの後数年もしたら無くなるって。川島さんが言ってたもん」

まゆ「あれ、でも菜々さんは……」

凛「……あの人は例外中の例外だよ、まゆ」

まゆ「……そうですよねぇ」

凛「……ま、数年経ったら経ったで、それこそ川島さんみたいな大人っぽさがあったら、まだアイドルもやっていけるかな」

まゆ「……凛ちゃんはいつまでアイドルをするつもりなんですかぁ?」

凛「んー。考え中」

まゆ「……そうですかぁ」

凛「親もPもじっくり考えろって言ってるし。とりあえずは目の前のことに集中かな。泡、流すね」ザバー

まゆ「……ありがとうございます」

凛「先に髪、洗いなよ。浸かってるから」

まゆ「はい」

151 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 07:05:21.14 ID:c6PUDvkw0

凛「……」

まゆ「……」

凛「……」チラッ

まゆ「……」

凛「……」ジー

まゆ「……」

凛「……」ジィー

まゆ「……」

まゆ「……どこ見てるんですかぁ?」

凛「……気付いてたか」

まゆ「そんなにじろじろ見られたら、嫌でも気づきますよぉ……」

凛「いやー、柔らかそうだなって」

まゆ「セクハラ……」

凛「同性の友達だからセーフ」

まゆ「凛ちゃんじゃなかったらはっ倒してますよぉ?」

凛「そもそも私以外とは一緒にお風呂に入んないでしょ」

まゆ「それもそうですけど……」

凛「……」

まゆ「……」

凛「……」

まゆ「……」

152 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 07:06:08.55 ID:c6PUDvkw0

凛「……まゆの髪ってさ、いい匂いするよね」

まゆ「また変なこと言って……」

凛「ね。私も髪洗う時、同じシャンプー使っていい?」

まゆ「……」

凛「まゆ?」

まゆ「……それは駄目です。凛ちゃんはこっちのを使ってください」

凛「え、なんで?」

まゆ「……」

凛「……あ、ごめんね? 変なこと言って」

まゆ「いえ。こちらこそ……」

凛「……」

まゆ「……」

凛「……ねえ」

まゆ「なんですかぁ?」

凛「……私たちって、変かな」

まゆ「……」

凛「……ごめん。また困らせちゃった」

まゆ「……変じゃないですよぉ」

まゆ「まゆたちは、普通の女の子ですから」

凛「……そっか」

まゆ「……」

凛「……」

153 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 07:07:15.90 ID:c6PUDvkw0

まゆ「電気、消しますねぇ?」

凛「うん。おやすみ」

まゆ「はい。おやすみなさい」カチッ

凛「……」

まゆ「……」

凛「……」

まゆ「……」

凛「……」

まゆ「……凛ちゃん?」

凛「……どうしたの?」

まゆ「……好きな人でもできたんですか?」

凛「……なんでそう思うの?」

まゆ「……なんとなくです」

凛「……そっか」

まゆ「……」

凛「……」

まゆ「……まゆは凛ちゃんの味方ですよ」

凛「……ありがとう。でも、大丈夫だよ」

まゆ「そうなんですかぁ?」

凛「うん。だって好きな人がいるわけじゃないからね」

まゆ「あら。じゃあまゆの勘違いですか」

凛「ふふっ。そうだね」

まゆ「なんだか悔しいです……」

凛「……」

まゆ「……」

凛「……」

まゆ「……」

凛「……まゆ?」

まゆ「……」

凛「……」

凛「……おやすみ」

154 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 07:09:21.03 ID:c6PUDvkw0

P「凛! 今回の収録はすごくよかったぞ! しっかりと、緊張せずに喋れたな」

凛「……まぁ、このくらいはね」

P「……」

凛「な、何?なんか顔についてる?」

P「いや、凛も最初に比べて成長したなーって思ってな」

凛「そ、そう?」

P「うん。見違えるくらいだ」

凛「……Pのおかげだよ」

P「……ありがとな」

凛「……」

P「……で、いきなり呼び出してどうしたんだ? まだ衣装も着替えてないじゃないか。待っててやるから早く……」

凛「……」ダキッ

P「り、凛?」

凛「……なんでもない」

P「なんでもないことないだろ。いきなり抱き着いてくるなんて。人が来たらまずい……」

凛「なんでもないから!」

P「!」

凛「なんでもないから、少しの間、このままでいさせて……」

P「……凛」

155 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 07:10:33.62 ID:c6PUDvkw0

凛「…………」

P「…………」

凛「…………」

P「…………凛? もうそろそろ……」

凛「好き」

P「…………え?」

凛「……」スッ

P「……凛?」



凛「私、Pのことが好き」

156 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 07:11:59.41 ID:c6PUDvkw0

P「…………」

凛「……おかしいよね。私みたいな女子高生が、Pみたいなおっさんを好きになるなんて」

P「……おっさんって歳でもないだろ。まだ三十代だ」

凛「でも、本気なんだ」

P「……」

凛「…………返事は?」

P「…………」



P「すまん」



凛「…………わかってたよ。そう言われることは」

P「…………すまん」

凛「……謝らないで」

P「…………」

凛「…………」

P「…………凛、俺は」


ドーン


凛「な、何? 今の音」

P「地震……じゃなかったな。楽屋の方からした……」

凛「……行ったほうがいいんじゃない?」

P「……」

凛「……」

P「……すまん」ダッ


157 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 07:13:39.07 ID:c6PUDvkw0

凛「お邪魔します」

まゆ「はぁい。どうぞ上がってください」

凛「……」

まゆ「あら、浮かない顔」

凛「え、そ、そう?」

まゆ「えぇ。なんだか元気がないみたい」

凛「……」

まゆ「仕事で失敗でもしちゃいましたかぁ?」

凛「……うん。そんなところ、かな」

まゆ「……大丈夫ですよぉ。まゆは凛ちゃんがいい子だってしってますから」

凛「……」

まゆ「……今日は泊まるんですかぁ?」

凛「……いや、今日はやめとくよ」

まゆ「そうですかぁ。じゃあなにして……」

凛「……ごめん、まゆ。やっぱり私、帰るね」

まゆ「……いいですよ。何か事情があるんでしょう?」

凛「……ごめん」

まゆ「謝らないでくださいよぉ。まゆは凛ちゃんの友達ですから……」

凛「……ごめん」

158 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 07:14:37.55 ID:c6PUDvkw0

ちひろ「……私はそれには加担できません」

まゆ「……そうですかぁ。残念です」

ちひろ「どうするつもりなの?」

まゆ「決まってるじゃないですか、そんなの」

ちひろ「……Pさんはあなたのことを好きになったりはしないですよ」

まゆ「凛ちゃんがいるからですか?」

ちひろ「……よくPさんを見てるんですね」

まゆ「当然です」

ちひろ「なんで私にそのことを話したんですか? 私はここの事務員です。アイドルが勝手に危ないことをしようとしたら、止めなきゃいけないんですよ?」

まゆ「だって、ちひろさんは私と似ています」

ちひろ「……」

まゆ「……私は悪い子です。他人を利用して、他人の心を覗こうとしてるんですから」

ちひろ「……まゆちゃんはいい子ですよ」

まゆ「本当にそう思ってますか?」

ちひろ「勿論です」

まゆ「……ありがとうございます」

ちひろ「……」

159 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 07:15:27.75 ID:c6PUDvkw0

まゆ「私を止めますか?」

ちひろ「……いえ。他人の恋路を邪魔するのは事務員の仕事じゃないですから」

まゆ「……」

ちひろ「私とまゆちゃんは似てますか?」

まゆ「はい。とっても」

ちひろ「……事務員としての私はそれには加担できません。けれど」

ちひろ「……友達としてなら、協力させてもらいますよ」

まゆ「ちひろさんも悪い人になっちゃいますよ?」

ちひろ「もう十分悪い大人ですから」

まゆ「ふふっ」

ちひろ「……一つ、教えてくれますか?」

まゆ「なんですかぁ?」

ちひろ「……この計画が終わった時、まゆちゃんは幸せになってるんですか?」

まゆ「……当然です。そのための計画なんですから」

160 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 07:16:38.04 ID:c6PUDvkw0

凛「……お邪魔します」

まゆ「……はぁい。どうぞ上がってください」

凛「……」

まゆ「……」

凛「……」

まゆ「……どうしたんですかぁ?」

凛「……あのこと」

まゆ「……誰から聞いたんですかぁ」

凛「ちひろさんから……」

凛「わ、私、なんて言ったらいいか……」

まゆ「いいですよぉ。大事にはなりませんでしたし。それに……」

まゆ「凛ちゃんには、何も関係無いはずですから」

凛「……っ!」

まゆ「あら、どうしたんですかぁ?」

凛「まゆ、私……!」

まゆ「……」

凛「……」

まゆ「……」

凛「な」

凛「なんでも、ない」

まゆ「……お茶、淹れてきますね」

161 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 07:17:57.44 ID:c6PUDvkw0

凛「……」

まゆ「お待たせしました……凛ちゃん?」

凛「あ、ありがとう……」

まゆ「ふふっ。変な凛ちゃん」

凛「……」

まゆ「……飲まないんですかぁ?」

凛「あ、ごめん……」

まゆ「謝るほどのことでもないですよぉ」

凛「……」ズズッ

まゆ「……」

凛「……」

まゆ「……」

凛「……」

まゆ「……で、何しに来たんですか? 今日は特に約束はしてなかったはずですけど……」

凛「! 私はまゆが心配で……」

まゆ「……今日の凛ちゃん、なんだかおかしいです」

凛「え、おかしいって……どういう……」フラッ

凛「あれ……? なんで私、倒れて……?」

まゆ「だってほら。顔色もこんなに悪いですよぉ?」

凛「あたま、が……おも……」バタリ

まゆ「……」

まゆ「……うふふ」

162 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 07:19:11.50 ID:c6PUDvkw0

凛「んぅ……」

まゆ「あ、起きましたかぁ?」

凛「まゆ……?ここは……」ゴシゴシ

凛「……!」

凛「え、私、縛られ……!」

まゆ「はい。眠ってる間にちょっとイタズラしちゃいました」

まゆ「ちなみにここはまゆの部屋のトイレですよぉ」

凛「な、なんでこんなことするの」

まゆ「……」

凛「わ、私たち、友達でしょ?どうして……」

まゆ「……」

まゆ「……友達なんかじゃ」ボソッ

凛「え、何?なんて言ったの?」

まゆ「……なんでもありませんよぉ」ギュッ

凛「痛い!」

163 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 07:20:13.20 ID:c6PUDvkw0

まゆ「大丈夫ですよぉ。ちゃんと跡が付かないように縛ってますから……うふふ」

凛「ちょ、ちょっと……なにするの!」

まゆ「何するって……大体想像できるでしょう?」

凛「…………まさか……」

まゆ「……凛ちゃんを監禁します。うふふ。私らしいでしょう?」

凛「まゆ、まさかPさんのこと……」

まゆ「そうですよぉ? 勿論、知ってます」

凛「!」

まゆ「……まゆっておかしいですよね。自分でも分かってるんです」

凛「まゆ、あのことは……」

まゆ「黙ってください」ギュ

凛「! むぐ、うーっ!」

まゆ「……まゆは悪い子です。でもそれで幸せになれるなら、まゆはどんなに悪い人にでもなってみせます」ギュッ

まゆ「…………はい。完成です♪ これで喋れない、動けない、何も見えない。でしょう?」

凛「うーっ! うーっ!」

まゆ「……ごめんなさい。でももう戻れないんです」

凛「……!」

まゆ「……静かにしててくださいねぇ?」パタン、カチャ

164 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 07:22:22.28 ID:c6PUDvkw0

まゆ「すぐに済みますからねぇ……」ガチャ、ガチャリ

P「……分かった」バタン

まゆ「……」ガチャ

まゆ「……」カチャ

まゆ「……静かにしてますね。いい子です♪」

凛「……!」

まゆ「……喋れるようにしてあげます。でも大きな声は、駄目ですよ?」シュル

凛「! ぷはっ、けほ」

凛「……けほ……なんでPが……?」

まゆ「……なんででしょうねぇ?」

凛「……こんなこと、もうやめて」

まゆ「それはできません。ここまで来たら、あとちょっとなんですから」

凛「……まゆは何がしたいの?」

凛「私とPを監禁して、それで……」

まゆ「……さぁねぇ?」シュル

凛「!! ちょっと、どこ触って……!」

まゆ「どこって、脱がないとできないでしょう?」

凛「じ、自分でするから……」

まゆ「……そうですかぁ。じゃあまゆとPさんは買い物に行ってきますねぇ」

凛「……」




凛「……行った……のかな」

凛(やっぱりあのことが……でもこんなことになるなんて)

凛(……)

凛(Pに告白なんて、しなきゃよかったのかな……)

165 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 07:23:47.14 ID:c6PUDvkw0

凛「……」

凛「……」

まゆ「……凛ちゃん」カチャ

凛「……まゆ」

まゆ「これを飲んでください」

凛「……これはなに? 毒?」

まゆ「ちょっと眠くなるだけですよぉ」

凛「……」ゴクッ

凛「それで、どうするの?」

まゆ「……こうするんです」ゴクッ

凛「! なんで……」

まゆ「……これでまゆの出番は終了です。後は、全てがうまくいくはず」

凛「そんな……こと」

まゆ「……うふふ」

凛「……ねえ、まゆ?」

凛「……私は、まゆの友達だよね」

まゆ「……はい」

凛「……じゃあ、大丈夫、なんだよ……ね」フラッ

まゆ「……大丈夫。大丈夫です」フラッ

凛「……」

まゆ「……」

凛「……」

まゆ「……凛ちゃん?」

凛「……」

まゆ「……」





まゆ「……ごめんなさい」



166 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 07:24:31.52 ID:c6PUDvkw0
*
167 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 07:26:35.10 ID:c6PUDvkw0

P「……」

凛「……」スースー

P「……」

凛「……」スースー

P「……」

P(凛はまだ、目を覚まさない)

凛「……」スースー

P(……凛。頼むから起きてくれ)

P(じゃないとこの手紙も渡せない。俺の気持ちも、伝えられない)

P(だから……)

168 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 07:28:01.99 ID:c6PUDvkw0

凛「……」

?「……ゃん、……ちゃん」

凛「……ん、……誰?」

?「凛ちゃん、起きて。凛ちゃん」

凛「! その声はまゆ!?」バッ

まゆ「うふふ、そうですよぉ? やっと気が付きましたね」

凛「まゆ! えっと、その」

まゆ「ああ、大丈夫ですよ? 喋りたいこと、伝えたいことは全部、分かってますから」

凛「……ごめん」

まゆ「……分かってるって言ったのに」

凛「……」

まゆ「しかも謝らなきゃいけないのは私のほうです。凛ちゃんに乱暴なことをして……」

凛「そんな……何か事情があったんでしょ?」

まゆ「……」

凛「……ここはどこ?」キョロ

まゆ「……言うなれば、地獄ですかねぇ?」

凛「地獄!?」

まゆ「そうですよぉ」

凛「え! じゃあ私たち……」

まゆ「違いますよぉ? まゆはともかく、凛ちゃんはまだこっちに落ちてませんから」

凛「まゆはともかくって……!」

まゆ「……いいですかぁ? これからまゆが言うことを、しっかりと聞いてくださいね」

凛「……うん」

169 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 07:29:19.14 ID:c6PUDvkw0

まゆ「……凛ちゃんは今、眠っています。それは深い眠りです。けど、起きなきゃいけない。わかりますねぇ?」

凛「……うん。分かるよ」

まゆ「それは沢山の人が待ってるからです。卯月ちゃんや未央ちゃん。加蓮ちゃんや奈緒ちゃん。ちひろさん。もちろん、Pさんも」

凛「……! Pも……」

まゆ「だから、起きてください。そして……」

凛「そして?」

まゆ「……まゆからの手紙を読んでください。まゆが凛ちゃんに宛てた、最後の言葉ですから」

凛「! 最後の、ってことはやっぱり……!」

まゆ「全く。こんな時間があるなんて、聞いてなかったですよぉ? なんだか恥ずかしいじゃないですかぁ……」

凛「まゆ! どこ行くの! 私も付いて行くから!」

まゆ「駄目ですよぉ? 凛ちゃんはまだこっちにきちゃ駄目です」

まゆ「そっちで、精々Pさんと幸せに暮らしてください♪」

凛「まゆ! まゆは私の……!」

まゆ「……聞きません。言わないでください」

凛「まゆぅ! どうして!」

まゆ「……さぁ。そろそろ目覚める時間ですよ」

凛「まゆ! ねえ! まゆ!」

まゆ「……そんなに名前を呼んでくれて」

まゆ「……ありがとうございます」

凛「まゆ! まゆ! まゆ!」

170 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 07:30:13.25 ID:c6PUDvkw0

凛「…………!」パチッ

凛「……まゆ」

P「……!」

凛「……え?」キョロ

P「凛! 目が覚めたのか! 良かった!」

凛「へ? ぷ、ぷろでゅーさー!?」

P「すぐ医者を呼ぶからな! じっとしてろよ!」ダッ

凛「……! まゆは!?」

P「……!」ピタッ

凛「……私、夢を見たの」

P「……」

171 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 07:31:18.90 ID:c6PUDvkw0

凛「…………まゆから何か、預かってない?」

凛「手紙……とか」

P「……!!!」

凛「……あるんだ」

P「…………」

凛「……見せて」

P「…………あぁ」

凛「……」

凛「…………読んでいい?」

P「……あぁ。勿論だ」

凛「……ありがとう」

P「…………俺は外にいるから。読み終わったら、呼んでくれ」ガラッ

凛「…………」

凛「…………」スー

凛「…………」ハー

凛「…………よし」

凛「……」ペリペリ

凛「……」パサッ

凛「……」

172 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 07:34:41.27 ID:c6PUDvkw0

凛ちゃんへ

凛ちゃんへ。凛ちゃんがこれを読んでいるとき、まゆはもう凛ちゃんと話をすることはできないでしょう。なぜなら、まゆはもう死んでいるだろうから。

これは遺書ではありません。最後の最後に、自分勝手な私が縋りたかった一本の蜘蛛の糸です。悪魔の私が行く先はきっと地獄だから。凛ちゃんがこれを読むことで、まゆは凛ちゃんの中で永遠に生き続ける。だからこれは遺書ではありません。

凛ちゃんがPさんのことを好きになっていたこと、気付いてました。凛ちゃんは不器用だから、すぐに分かりましたよ?もうちょっと演技の練習をした方がいいかもしれませんね。

まゆがPさんのことを好きだから、遠慮してたんでしょう?ありがとうございます。でもそれは余計なお世話でした。そしてそれ以上に、まゆは凛ちゃんに嘘をついてほしくなかった。嘘をつく人は悪い人です。だから嘘をつく凛ちゃんは、悪い凛ちゃんです。凛ちゃんには悪い人になってほしくない。なんて、まるでまゆがお母さんみたいですね。

でも改めて考えてみると、凛ちゃんが悪い人でよかった。だってまゆも嘘をついていたから。悪い人だったから。これでおあいこ、お互い様です。

そうです。まゆは嘘をついていました。

凛ちゃんが告白してたとき、まゆがファンの人に襲われた事件のことです。実はあれはまゆが仕組んだことだったんですよ。不自然に思いませんでしたか?たまたま凛ちゃんがPさんに告白しているタイミングで。たまたま警備員さんが出払ってて。たまたままゆの楽屋に鍵がかかっていなくて、スタッフの中にまゆの熱烈なファンがいた、なんて。どう考えても出来すぎでしょう?

まゆがいつもPさんに盗聴器付きのGPSを付けていたこと、知ってましたか?知らなかったなら、これもまゆの悪いところの一つですね。実はPさんにつけてたものと同じものを、凛ちゃんにこっそり付けてたんです。場所はどこでもよかったんです。二人が一緒になったタイミングで、凛ちゃんがPさんに告白しているのが聞こえたとき。その時を見計らって、誰かにまゆを襲ってもらうようにしたんです。

あの収録の時は本当に運が良かったんですよ。たまたま、これは本当にたまたま、まゆが凛ちゃんと同じスタジオの収録で、尚且つ計画に協力してくれそうな男の人が番組スタッフの中にいたんです。協力と言っても、こっそりまゆの連絡先を渡して、楽屋に呼び出して誘惑しただけですけど。普通の男の人って単純ですよね。ちょっと流し目で見たり、ボディータッチしたり、奥の方の肌を見せるだけですぐに襲ってきました。まゆはスタンガンを隠し持ってたから、いいところで止めようと思ってたんですけど。まさか茄子さんが通りかかるなんて思ってませんでした。もしかしたら計画がうまくいったのも茄子さんのお陰だったのかもしれませんね。

なんでそんなことをしたかって?その理由だけは教えられません。凛ちゃんは知らなくていい。それはまゆの心の檻で飼い殺しておくことにします。この手紙は蜘蛛の糸と言いましたが、誰かが縋った蜘蛛の糸はいつか切れるものです。それならまゆは最初から切れ目を入れておきます。まゆが地獄に堕ちていく姿を、しっかりと目に焼き付けておいてくださいね。

ただ一つだけ言うとしたら。まゆは決して凛ちゃんやPさんが憎くてやったわけじゃありません。これはあくまでもまゆのための計画でした。その辺に転がっている滑稽な、青臭い幸せじゃなくて、私が本当に幸せになるための。

凛ちゃん。あなたは今、幸せですか?

凛ちゃんと二人で過ごした毎日は夢みたいに楽しかったです。一緒に夜ご飯を食べたり、一緒に映画を見て笑ったり、一緒に綺麗な夕焼けを眺めたり。思い返せば下らないことばかりしてたような気がするけど、まゆにとっては大切な宝物でした。凛ちゃんがまゆにハナコの写真を見せてくれたこと、ありましたよね?とてもかわいかったですよ。

でも、そのささやかな幸せは、まゆにとって本当の幸せじゃないんです。だからまゆはこの計画を立てました。そして、実行しました。

死ぬことは怖くありません。後悔もしていません。でもなんででしょう?文字を書く手が震えるんです。涙が溢れて、止まらないんです。文字が掠れて読みにくかったらごめんなさい。

さて、そろそろ垂らした糸が切れる頃です。まゆの下らない感傷は置いといて、凛ちゃんは自分の人生を選んでください。

最後に凛ちゃんへ。言いたいことは色々あるけれど、やっぱりこの手紙は凛ちゃんへの感謝の言葉で結びます。

時間は有限です。永遠のように感じてもそれは錯覚、嘘っぱちです。有限だからこそ儚く、美しく見える。そう思いませんか?そう考えたらまゆの人生なんか夢みたいに一瞬でした。でもその一瞬の隣に、凛ちゃんがいてくれて本当によかった。

ありがとうございます。

そして、さようなら。




おわり

173 : ◆Si5ECPaBLY [sage saga]:2017/09/07(木) 07:40:41.75 ID:c6PUDvkw0
以上です。
ありがとうございました。
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/07(木) 07:44:05.56 ID:dzSnqPdoo
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/07(木) 08:04:00.31 ID:HDs6aLhio
救いが無さ過ぎて不快だなぁ…
なんかこう虐待動画みたいな嫌な感じがする
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/07(木) 09:19:32.52 ID:F9uMLnaBo
不思議な感じになった乙
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/07(木) 09:19:33.89 ID:rMlfYwD5o
おっつおっつ。こういうの好き
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/07(木) 10:02:35.74 ID:Rx7RVNFSo
乙ー
179 :全治全能の未来を予言するイケメン金髪須賀京太郎様に純潔を捧げる [sage saga]:2017/09/07(木) 14:45:29.71 ID:KdHydlbg0
モバマス次のイベントとアニメは何時だ次は須賀P弘世P誠子P西條P重課金民月5000円の課金は当たり前

目当てはアーニャ幸子楓さん蘭子とシブリンハ持ってる

何時か二代目シンデレラガール上位50名限定イベント開催しそう【予言】

艦これの軽空母一隻残り空母出禁イベント化しそう後無料10連ガチャは善い文明後は10枚以上持ってる宝くじで5等以上を当てるだけ祝リリース2周年
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/07(木) 16:05:41.85 ID:mm1YOEyTO
一気読みしちゃった、乙
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/07(木) 16:52:51.34 ID:IsR0R4zNO
長いだけって感じだなぁ……つまり結局何?
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/07(木) 17:42:18.54 ID:lNNofOFW0
元々P←まゆ←凛だったのが徐々にP←凛←まゆ寄りになっていったってこと?
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/07(木) 17:56:44.74 ID:SkO8EHfjo
友情を選んだということだろ どの時点で選んだのかよくわからんけど
誕生日にそのキャラをころすSSとか初めて読みました
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/07(木) 18:44:36.09 ID:aZBKTjFpO
おつ
>>182と同じような考えに至ったけどよわからん
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/07(木) 20:33:20.87 ID:GCsIMzMA0
アンデスとか絡めておきながら
それでも初期のまゆっぽさを突き詰めた感じ
結構悪くなかった…というと語弊があるかもだけど

書式は台本なのに内実は小説的ってのもレア
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/07(木) 21:28:08.53 ID:wt226WgaO
無駄が多い気がする
女子寮の設定、ちひろ、アンデクの二人、奈緒いじり
これら登場させなくても良かったんじゃないか?
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/07(木) 21:31:09.91 ID:Y+yg3/bNo
演劇の脚本の書き方っぽいね、俺は好きだよ、こういうの
作者の意図通り感じ取れてる気はしないけど、これはまゆは賭けに勝ってるってことでいいんだよな…?
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/07(木) 21:39:35.21 ID:GCsIMzMA0
奇しくもちっひの言った闇云々は正しかったと
事務所の今後は先行き暗そうで気になるが
こういう〆方をするからにはその後のエピローグとか無いだろな
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/07(木) 21:54:59.58 ID:R4GU1McSO
よくわからなかった
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/07(木) 23:22:46.87 ID:bKN516eKo
これはまた珍しいな
作者が意図していたのかはわからんが中々不条理な作品に仕上がってる
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/08(金) 00:15:29.80 ID:1rsvfi8wo
気持ちがいい作品ではなかった
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/08(金) 01:59:59.65 ID:auHjSv75o
深い溜め息が出るが不思議と不快にならない作品だ
心的描写が過不足なくきちんとしてるからなんだろうなぁ…お見事です。
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/09(土) 00:41:10.34 ID:82mjU4eBo
この作品に出会えたことに感謝だ
おつおつ
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/10(日) 00:03:06.84 ID:TIMJsb8gO
名作かって言われるとそうじゃないけど駄作かって言われてもそうでもないかな
まゆが死んだのはちょっと陳腐かなと思わなくもないけどそれ以外は嫌いじゃない
何かを伝えたくて書きたかったというよりはただ正解はひとつじゃない人間の生をそのまま書いたって感じ
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/23(土) 02:39:02.85 ID:HJc3UVV3o
読む人のことを考えないで書きたいことを書いた感じだね
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