国王「さあ勇者よ!いざ旅立t「で、伝令!魔王が攻めてきました!!」完結編

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118 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/28(土) 23:24:06.83 ID:L2B0drxD0


三つ編《赤毛!》

三つ編《赤毛!!》

三つ編《赤毛っ!!》

三つ編《聞こえる!?》

三つ編《あなたを絶対に連れていかせたりしないっ!!》

三つ編《私の大事な、友達なんだからっ!!》



坊主《もう一度会いたいよ!!》

坊主《僕、赤毛に話したいこと、沢山あるよ!!》

坊主《もう一度!!》

坊主《笑ってよ、赤毛っ!!》



金髪《赤毛!!》

金髪《また皆で会うんだ!!》

金髪《オレ、言ったろ!!》


――金髪「秘密結社の仲間は、ずっと一緒だ! 学校を卒業しても、大人になっても、ずっと!」

――赤毛「ずっと一緒?」

――坊主「いいなあ、それ!」

――三つ編「…私、ずっと一緒にはいれないと思うよ。みんな、おうちの仕事も違うし」

――三つ編「大人になったら、会えなくなっていくんだよ」

――坊主「そおなの!?」

――金髪「バカだなぁ、三つ編は!」

――金髪「大事なのは、仲間ってことだ。毎日一緒にいれなくなっても、仲間でいるって覚えてれば」

――金髪「いつか、会うための力になるんだよ!」



金髪《仲間だってことを覚えていればっ!!》


金髪《また、会うための力になるんだ――!!》




  ゴ  ッ  !  !






119 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/28(土) 23:25:21.15 ID:L2B0drxD0


教皇《ぐっ!!》

教皇《がぁっ!!》


教皇《なんだッ!?》

教皇《なんだこの力はッ!!》

教皇《なぜ、あの子供たちがッ、奇跡の僧侶と同じ力を持っている!!?》


教皇《なぜッ…!!》


教皇《なぜだぁァッ!!》






炎獣《うっ!! くっ!!》

氷姫《こっちも………っ!! キッツいわ!!》

雷帝《ぬう…ッ!!》


魔王《皆!!》

魔王《自分の存在を忘れないで!!》

魔王《存在を消してしまってはダメっ!!》

魔王《自分の思いを!!》

魔王《思い出すのッ!》



炎獣《お、れが…!》

炎獣《俺である…》


炎獣《思い出………!!》


120 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/28(土) 23:34:38.07 ID:L2B0drxD0

鳳凰「………何の用だ?」

鳳凰「今さら、里心でも沸いたのか」

炎獣「………」

鳳凰「? き、貴様、まさか…」

炎獣「――鳳凰。俺はあんたを、倒す」

炎獣「あんたを乗り越えて、俺が四天王になる」

鳳凰「………くくくっ。はははは!!」

鳳凰「あの日の只の親殺しが、今度は恩人まで手にかけようと言うのか!? 笑わせる!!」

鳳凰「貴様ごときに、朕が倒せるものか!! 自惚れもそこまでにするがよい!!」



炎獣「それでも俺はやる」

炎獣「そう、決めたんだ………!」





炎獣《………そうだ》

炎獣《あの時、魔王のために、氷姫や爺さんや雷帝のために》

炎獣《生きようって、そう決めたんだ》

炎獣《それが俺の》

炎獣《生きる理由なんだって》

炎獣《俺、そそかっしいから、すぐ大事なこと忘れちまうけど》

炎獣《でも、俺が戻るべき場所は…ここなんだ!》


121 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/28(土) 23:35:52.27 ID:L2B0drxD0

鳳凰「………何の用だ?」

鳳凰「今さら、里心でも沸いたのか」

炎獣「………」

鳳凰「? き、貴様、まさか…」

炎獣「――鳳凰。俺はあんたを、倒す」

炎獣「あんたを乗り越えて、俺が四天王になる」

鳳凰「………くくくっ。はははは!!」

鳳凰「あの日の只の親殺しが、今度は恩人まで手にかけようと言うのか!? 笑わせる!!」

鳳凰「貴様ごときに、朕が倒せるものか!! 自惚れもそこまでにするがよい!!」



炎獣「それでも俺はやる」

炎獣「そう、決めたんだ………!」





炎獣《………そうだ》

炎獣《あの時、魔王のために、氷姫や爺さんや雷帝のために》

炎獣《生きようって、そう決めたんだ》

炎獣《それが俺の》

炎獣《生きる理由なんだって》

炎獣《俺、そそかっしいから、すぐ大事なこと忘れちまうけど》

炎獣《でも、俺が戻るべき場所は…ここなんだ!》


122 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/28(土) 23:36:57.41 ID:L2B0drxD0

魔王《そう!!》

魔王《私たちが、私たちである証明!!》

魔王《近い自分、遠い自分!! そしてお互いを思い合う気持ちを!!》

魔王《思い出すの!!》

魔王《繋ぎ止めて!! 自分をっ!!》




氷姫《あたしがあたしである証明…!》

氷姫《ねぇ…っ、魔王…!》

氷姫《あたしさ…っ》

氷姫《あたしね…!》


氷姫《まだ、あんたに謝ってないよ…っ!》


氷姫《ひどいこと言ってごめん…って、あの時のこと…!》

氷姫《あんたは気にしちゃいないのかもしれない。もしかしたら、覚えてないかも》

氷姫《それでもね、あたしは》

氷姫《ちゃんとこの戦いを生き延びて、それで、あんたに真っ直ぐ向き合って》

氷姫《ちゃんと、謝るまで…!》

氷姫《こんなところでっ!》

氷姫《終われない!!》


氷姫《それがちっぽけだけど、ずっと捨てきれない想い!!》

氷姫《そして――!》


123 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/28(土) 23:39:10.53 ID:L2B0drxD0

雷帝《魔王様…!》

雷帝《私にとって、守るべき存在であった貴女が》

雷帝《いつの間にか、私を守るようになった》

雷帝《貴女がそうすれば、そうするほど私から遠い存在になっていくような気がした》


雷帝《貴女の隣には、炎獣がいる》

雷帝《――それでも私はここに立つ》

雷帝《この戦いが終わるまで》

雷帝《いや、終わって後も、ここは私の場所だ》

雷帝《仲間と、私が私である大事な》


雷帝《先代様。あなたが呪いと言った居場所は》

雷帝《私にとって、かけがえのないものになりました》


雷帝《私は》

雷帝《それを守るために闘い続ける…ッ!!》

124 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/28(土) 23:42:53.74 ID:L2B0drxD0

魔王《皆の、強い波動を感じる…!》

魔王《炎獣の、氷姫の、雷帝の気持ち…!!》

魔王《それらを、あの子達が拡幅してくれている!!》

魔王《教皇!! あなたには!!》

魔王《私たちは倒せない!!》


教皇《ッ!!》

教皇《何故だ!!? 私はっ!!》

教皇《もはや女神そのものとも言える力を有しているのだぞ!!?》

教皇《奇跡の僧侶までもが、手の内にあると言うのにッ!!》

教皇《…私は…ッ!!》

教皇《私は負けられぬのだァッ!!》

教皇《魔王ッ!! 人に仇なす害虫めッ!!》

教皇《貴様みたいな者が居ては…ッ!! 人類に幸福は訪れぬのだッ!!》


魔王《…っ!!》

125 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/28(土) 23:43:47.15 ID:L2B0drxD0

魔王《教皇…!!》

魔王《あなたは…!!》


教皇《クッ!! フハハッ!!》

教皇《魔王ッ!! 貴様は魔族という種を背負うには、あまりに粗末だッ!!》


魔王《っ…!》


教皇《現に今ッ!! 衝突の此の時ッ!!》

教皇《――貴様は迷っているッ!!》


魔王《!!》


教皇《私を消すことがッ!!》

教皇《勇者を倒すことがッ!!》

教皇《本当に正しいことなのかどうか、貴様には分からないッ!!》


教皇《"魔王"である自分が、正しい存在なのかッ!!》

教皇《貴様は思い迷っているのだッ!!》


126 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/28(土) 23:44:38.87 ID:L2B0drxD0


教皇《私は負けぬッ!!》

教皇《負けぬぞッ!!》



ビリビリビリビリ…!!




魔王《くっ……!!》

魔王《彼の感情や記憶が雪崩れ込んでくる…っ!?》






教皇《うおおおおおおおおおッ!!》







「いよいよですよ」

「いよいよ、勇者と魔王の戦いが"はじめからはじめる"のです」




魔王《!!》

魔王《これは――》








魔法使い「台本通りですよ」

教皇「………魔族ですら思いのままか」

教皇「そら恐ろしくすらあるな」

魔法使い「何を今さら恐れているのです?」

魔法使い「ショーは、これからでしょう?」

魔法使い「いよいよですよ」

魔法使い「いよいよ、勇者と魔王の戦いが"はじめからはじめる"のです」

127 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/28(土) 23:50:03.76 ID:L2B0drxD0


魔王《こ、これは………教皇の記憶》

魔王《あの時垣間見たものと同じ…!》

魔王《生々しい、追憶の断片…。互いの存在をぶつけあっている今、ひりひりとそれが伝わってくる!》

魔王《あれは、やはり私達を惑わすために見せた幻覚ではなかった………!!》




魔法使い「現段階で、後の魔王とその四天王がその顔ぶれを揃えました」

魔法使い「炎獣、氷姫、雷帝、木竜。彼らが、勇者討伐作戦と称して特攻をしかけてきます」

教皇「…それが、今回の魔王勇者大戦の幕開けとなるわけか」

魔法使い「ええ。一方で、間もなく王国の転覆に際して勇者一行は各々がその立場を自覚します」

魔法使い「それすなわち、商人、武闘家、盗賊、戦士、僧侶………ふふ、それに私もね」

教皇「…下らん芝居をうつものだな」

魔法使い「大事なことですよ、こういうことは。あなたも心しておいてくださいね」

魔法使い「武人の兄弟、戦士さんとその兄君の処理はあなたにかかっているんですから」

教皇「分かっている」

教皇「王家を裏切る戦士の兄に、見返りとして王国正規軍を任せてやれば良いのだろう」

魔法使い「ええ。彼はその役目を立派に成し遂げるでしょう」

教皇「くくく…。魔王と四天王に敗れる、という役目か」


魔法使い「…勇者に神託が下り、いざ旅立たんという時に、王国軍は敗れ去る」


魔法使い「そうして港町に迫る魔王と四天王を、商人さんが決死の覚悟で止めにかかる…」




魔法使い「………それが、この物語の始まりなのですから」






魔王《――ッ!!》




128 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/28(土) 23:53:05.50 ID:L2B0drxD0


魔王《………な、何? これは》

魔王《まるで…まるでこの戦いが》


魔王《………仕組まれたものだった、ような………》


魔王《…いえ、それだけじゃない…!》

魔王《まるで全ての者の運命を思いのままにしてきたみたいな言い方だ…》

魔王《これでは――》



教皇「まあいい。"女神"の啓示の導きに準ずるまでだ」

教皇「勇者一行は順に死にゆく定めだが…」

教皇「魔王もまた、人類には勝てない」

魔法使い「………ええ」

魔法使い「彼女は、人類に勝利しないでしょう………」

教皇「勇者一行も、魔王と四天王も」

教皇「その生の全ては」

教皇「既に決められているのだから」




魔王《っ!!》


魔王《私達の生が…》

魔王《…決められて、いる………………》

魔王《………まさか》

魔王《私達の思い出も…》

魔王《………こんな………》

魔王《こんなことが》

魔王《本当に――》



《姫様》

129 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/28(土) 23:54:08.16 ID:L2B0drxD0

魔王《!》

魔王《あ………》

魔王《あなたは………》


《ほっほっ。しばらくぶりですのぉ》

《とは言っても、現実世界ではあまり時は経っておらんのでしょうが、の》


魔王《――…爺》


木竜《姫様》

木竜《微力ながら、お力添えに参りましたぞ》

130 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/29(日) 00:30:45.59 ID:z9q5tTPt0

木竜《心配召されるな。教皇とぶつかりあっている姫様の意識だけを、少しばかり拝借させてもらっておりますじゃ》

木竜《儂の語りかけは、姫様にしか聞こえませぬ》ホッホ

魔王《本当に、爺、なの…?》

木竜《はい。姫様の、爺ですじゃ》

木竜《酷く曖昧なこの世界で、真実を見極めるのは難しいことやもしれませぬが》

木竜《姫様は、感じ取っておられるでしょう》

魔王《………爺だ》

魔王《本物の、爺だ…!》

魔王《生きて、いたの…!?》

木竜《…》

木竜《姫様。またそのお心を傷つけてしまうかもしれませぬが…》

木竜《爺は、死んどりますじゃ》

魔王《…っ》

木竜《魔法使いの、あの時の一撃で、儂は死にました。…けれども、この魔壁の内側の世界で》

木竜《姫様や、炎獣、氷姫、雷帝が》

木竜《何度も儂のことを繰り返し思い出してくれたからのう。どうやら、この概念世界だけの身じゃが》

木竜《一時的に意識を持つことに成功したようなのですじゃ》


魔王《………爺》

魔王《それじゃあ………》


木竜《うむ。姫様達が、存在を完全に取り戻した今》

木竜《教皇を倒し、取り囲む魔壁を破って、この空間を脱出したその時――…この儂は、また跡形もなく消え去ってしまうじゃろうのう》


魔王《そんな…!!》


木竜《ほほっ。よいのです》

木竜《生命はその循環の定めには従わねばならん。儂は充分に生きた》

木竜《魔族の生は長い。それにどんな意味があるのか、儂のような愚か者はついぞ知ることは出来なんだが》

木竜《姫様に、それに先代様に。存分にお仕えすることが出来て、楽しかった》

木竜《それに最後に》

木竜《もう一度、姫様のお役に立つチャンスに恵まれたのじゃからのう》


魔王《爺…》

131 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/29(日) 00:31:53.30 ID:z9q5tTPt0

木竜《さて、姫様》

木竜《真実を目の当たりになさって、さぞお心の内は混乱の極みでありましょうな》

魔王《爺は…》

魔王《このことを知っていたの?》

木竜《…教皇と魔法使いが、"女神の啓示"と呼ぶものを通じて、この戦いにおける多くのことを掌握していた》

木竜《ふむ。儂もこの身になってみて、初めて知り申した》

木竜《儂を遣わした者が遣わした者じゃから、かもしれんがのう》

魔王《え…?》

木竜《姫様。おそらく彼奴らは、この戦いを…いや》

木竜《それに至るまでの儂らの歩みすら、その手の上に収めておりました》

木竜《一体、どれだけの時を、彼奴らの思惑のまま動いていたのか…。口惜しいことじゃが、推し量ることすら出来ませぬ》

魔王《…》

木竜《それを可能にしたのは―――おそらく彼奴らの"女神"ですじゃ》

魔王《女、神………。けれど、女神は…っ》

魔王《女神は、勇者に加護を手に与える役割を越えることはしなかったはず…! それは、魔王に加護を与える、邪神と同じ!》

魔王《その女神が、魔族を操るだなんて、そんなことがあり得るの…!?》

木竜《本来の女神であれば、不可能やもしれませぬのう》

木竜《しかし、彼奴らの女神は、それとはまた違う存在》

木竜《教皇と、魔法使い。彼奴らは、己の目的を果たすための絶対的な存在を、独自に創り上げたのですじゃ》

魔王《…!!》

木竜《その絶対的な存在は、"啓示"という形をとって教皇と魔法使いにとるべき道を示した》

木竜《教皇と魔法使いは、それに乗っ取ってこの戦いを影で支配してきた…というわけですのう》

132 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/29(日) 00:33:04.93 ID:z9q5tTPt0

魔王《………自らの手で、そんなものを創り上げたなんて》

木竜《うむ。信じがたいことじゃが、彼奴らはそれを成し遂げ》

木竜《絶対的なその存在を、"女神"と、呼んでおる》

魔王《………》

魔王《絶対的な存在…偽りの女神》

魔王《そんなものすら創り上げた彼らの前に………何も知らない私達のこれまでは》

魔王《彼らの思うがままだった…?》

木竜《…》

木竜《それは真実のひとつですじゃ。ですがのう》

木竜《全てがそうとも言い切れませぬ》

魔王《…どういうこと?》

木竜《啓示では、どうやら本来儂が命を落としたあの魔法使いとの戦いで》

木竜《姫様。あなたが敵の手にかかるはずじゃった》

魔王《!》

木竜《ところが、実際に果てたのは儂で、姫様は今こうして教皇と対峙してせめぎあうところまで、生き延びておられる》

木竜《全ての命運を握っていたはずの教皇は、今や姫様や四天王、そしてあの子供らの前に、追い詰められている》

魔王《…》

木竜《そうして過去に倒されるはずじゃった姫様が、ついにはこの真実にまでも辿り着いてみせた》

魔王《………運命が、狂った?》

魔王《何故――》

木竜《…》

133 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/29(日) 00:34:02.66 ID:z9q5tTPt0

木竜《時に》

木竜《儂が、こうして姫様に言葉を紡ぐまでの輪郭を持つ存在となりえたのは、ある者の助力がなくしては不可能なことじゃった》

魔王《…ある、者?》

木竜《一度死した儂を、わざわざ姫様の助けとするべく寄越そうとした者がおったんじゃ》

木竜《その者はそれだけでなく、奇跡の僧侶である赤髪の少女の力に対抗するために》

木竜《彼女と繋がりをもつ少年少女を魔壁の内側へ送り込み、姫様達とリンクをさせた》

木竜《そういう要素の全てが、教皇の描いていた筋書きを大きく裏切っていったのじゃ》


魔王《………全てを握っていた教皇を、出し抜いたということ?》

魔王《そんなことが出来る人物、って――》



木竜《そう》


木竜《魔法使いじゃ》




魔王《…ッ!!》

134 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/29(日) 00:35:14.66 ID:z9q5tTPt0


魔王《魔法…使い………っ!》

魔王《………何故、彼が私達の手助けを…!?》

魔王《だって、爺をその手にかけたのは》

魔王《魔法使い自身なのに…っ!!》


木竜《…魔法使い。奴は》

木竜《"側近"である頃から、何を考えているのかよう分からん魔族じゃった》

木竜《歴代魔王に仕えながら、勇者との戦いを生き抜き…齢はあれで、儂よりも重ねておる》

木竜《いつも一人、研究や考え事に沈んでいる、近づき難い男でのう。まるで世界の秘密に常に挑みかかるつもりでいるようで…》

木竜《………あやつに敗れた時…、先代様を失ったあの日》

木竜《あやつが、想像を絶するほど途方もなく研鑽を積み上げていたことを知った》

木竜《それは、狂気と言えるほどのものじゃ》

木竜《姫様》

魔王《…》

木竜《魔法使いに何が見えているのか》

木竜《みなは、それに追いつく必要があるのかもしれませぬ》

135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/10/29(日) 00:35:43.07 ID:z9q5tTPt0
ここまでです
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/29(日) 03:37:13.04 ID:5j57rZcno
乙乙
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/08(水) 21:31:04.78 ID:kfSpgEmDO

新スレ立ってたとは迂闊だった
138 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/24(金) 23:33:49.09 ID:Pupo+1fL0

魔王《………》

魔王《うっ…!?》ズキッ

木竜《むっ、いかん》

木竜《姫様、まずは教皇を撃破なされよ!》

木竜《少ない時間の中で、考える頭を引き摺ってでも前に進まねばなりませぬ!》

魔王《………うぅっ…!》グッ…

木竜《――お辛いでしょう》

木竜《儂がその痛みを分かち合えた部分など一体いかほどだったのか》

木竜《けれども儂は、姫様が成したことを、裏切りなどとは思っておりませぬ》

魔王《っ!》

魔王《…爺、まさか》

魔王《あのことを…!!》

木竜《こういう体になったら、色々と分かるようになってのう。それでも儂は》

木竜《姫様は間違っておったと思いませぬ》

木竜《だから姫様》

木竜《己を信じて》

木竜《――――》



魔王《爺っ…!》











139 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/24(金) 23:37:07.89 ID:Pupo+1fL0


炎獣《魔王ッ!! 魔王しっかりしろッ!!》

氷姫《魔王…ッ!!》

雷帝《魔王様ッ!!》


魔王《――…っ!》

魔王《皆…!》


炎獣《魔王…ッ!》パァ

雷帝《気を取り戻されましたか…!!》

氷姫《ったく!! こんな時にあんたは、寝坊助なんだから…!!》ニヤ

魔王《ごめん…!!》


魔王《――………教皇!!》


教皇《………!!》

教皇《まだ倒れぬか!!》

教皇《しぶとい女だ…ッ!!》



魔王《皆、聞いて!!》

魔王《個々で向かっても、教皇を撃ち抜くことは出来ない!!》

魔王《私たちの存在をひとつに集めて》

魔王《一気に、教皇を穿つッ!!》

140 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/24(金) 23:38:39.04 ID:Pupo+1fL0

氷姫《オーケー!! やったろうじゃないの!!》

炎獣《っしゃあっ!! 今度こそぶっ倒してやるッ!!》

雷帝《足並みを揃えろ!! 気持ちをひとつに!!》

魔王《この戦いを乗り越えてきた私たちになら――!!》


魔王《出来るッ!!》


ゴォオオオッ!!



教皇《捻り潰してくれるわ!!》

教皇《我は森羅万象を導く存在ッ!!》

教皇《次元を生まれ返らせ光へ辿り着きしッ!!》

教皇《選ばれし生命なりッ!!》


教皇《さあッ!! 我が茫洋たる聖なる力を吸えッ!!》

教皇《奇跡の僧侶よッ!!》

教皇《そしてッ!!》

教皇《悪魔の子らを!!》

教皇《異端の進化を遂げた者共を!!》

教皇《排除せよッ!!!》





赤毛《………………》




ギュ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ ! ! !











――――フッ



141 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/24(金) 23:40:11.55 ID:Pupo+1fL0

教皇《………………!!?》

教皇《何故、だッ!?》

教皇《どうなっているッ!?》

教皇《何故、吸い込んだ私の力を――》


教皇《解放しないのだ!!?》



赤毛《………………》



教皇《――まさか》

教皇《この小娘――》



教皇《自分の意思が、覚醒したのか!!?》








赤毛《………………》









142 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/24(金) 23:41:36.27 ID:Pupo+1fL0

魔王《!!》

魔王《教皇の力が弱まったッ!!》


魔王《今だッ!!》



魔王《全力で》




魔王《ぶつかれッ!!!》







雷帝《う お お お お お お お お お ! ! 》


氷姫《は あ あ あ あ あ あ あ あ あ ! ! 》


炎獣《ガ ア ア ア ア ア ア ア ア ア ! ! 》






教皇《――――ッ!!!!》










   ド   ッ   !   !















143 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/24(金) 23:43:23.08 ID:Pupo+1fL0

















城下町
魔壁の周囲



赤毛父「………」

赤毛父(黒き壁………)

赤毛父(突如として娘を…。それに、教皇様や魔王らを覆い尽くした、この禍々しい壁)

赤毛父(この壁の内側で、何が起こってると言うんだ。………あの子は)

赤毛父(あの子は無事なのか)


「神よ………」

「…我らをお救い下さい」


赤毛父(壁の周囲には、沢山の人間が詰めかけて…祈りを捧げている)

赤毛父(何を祈るっていうんだ?)

赤毛父(この人知を越えた現象を目の当たりにして………)

144 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/24(金) 23:44:49.26 ID:Pupo+1fL0

神父「もはや、祈ることしか出来ん」

赤毛父「! あんたは…」

神父「突然目の前に突きつけられる、論理の超越。神々の奇跡」

神父「人間はそれに対して余りにも無力だ」

神父「それは、人でなくとも、名も無き魔族にとっても同じなのかもしれん」

赤毛父「…神父さん」

神父「娘が心配か?」

赤毛父「………娘を心配しない父などいない」

赤毛父「ましてや多くの人々の運命を背負うような、大それたことをしようって馬鹿な娘を持てば、誰だって………」

赤毛父「誰、だって…」

神父「………」

神父「あの娘は言った。父や母を守りたいと。…それは自分で決めた事なのだ、と」

赤毛父「………」

神父「私は、人の意思ってものを信じてる」

神父「お告げだとか、運命だとか、そういうものは、人の意思の前に道を開ける」

神父「私はそう、信じている」

145 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/24(金) 23:48:28.60 ID:Pupo+1fL0

神父「あの男は………教皇は」

神父「或いは、それに抗おうとしたのかもしれない。有事の時に、何も出来ずに終わらないために」

神父「世界の秘密にすら挑戦して、人々を守ろうとした」

神父「それが最初の思いだったはずだ…。時の流れは残酷だな」

神父「志を語り合う友でも居れば………或いは」

少年「友達なら居たよ」

少年「あの人にも」

神父「!」

神父「お前は………」

神父「………まさか…!」




少年「あなたは消えても」

少年「その思いの幾ばくかは、友達が受け継ぐよ」

少年「羨ましいな」

少年「…ありがとう、教皇」

少年「そして」




少年「さようなら」








146 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/24(金) 23:50:24.06 ID:Pupo+1fL0



ドゴォン!!





「!? な、何だ!?」

「おい、見ろ!! あそこ!!」


赤毛父「壁が、壊れた…!!」

赤毛父「っ! 何か飛び出したぞ!!」

神父「あれは!!」

神父「教皇っ!!」







教皇「がっ…………!!!」


教皇「…………馬鹿な…………!!!」




教皇「…………何故…」





教皇「……………………だ………」

――スゥ…………





147 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/24(金) 23:53:17.04 ID:Pupo+1fL0

「き、消えた…!?」

「教皇猊下のお姿が………空気に溶けて、消え失せた………!!」

「い、いやああ! 不吉だわっ…!!」

「どうなってるんだ!?」

「まさか………敗れたのか」

「教皇様が…敗けた…っ!」


「――魔王に敗けた!!」





ウワアァァァ!

ヒィイィ…!



赤毛父「そ、そんな…」

赤毛父「それじゃ………あの子は………!!」

神父「…っ!」ギュゥ


148 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 08:28:52.97 ID:IVAMhd/C0


魔王《………………》


炎獣《………やったのか…?》


氷姫《…教皇を…倒した?》


雷帝《ああ》

雷帝《我々はやり遂げた》


雷帝《だが、何故》

雷帝《最後の瞬間、敵の攻撃が止んだんだ………?》


魔王《! 赤毛ちゃん!!》



赤毛《………………》

オォオォオォオォ…!



氷姫《な、何よこれ!? あの子、物凄い波動を抱えてるわ!!》

炎獣《ど、どうなってるんだ!?》

雷帝《まさか………!》


魔王《ええ…っ!》

魔王《最後の最後で、流れ込んでくる教皇の力を解放せずに、自分の中に押し留めたんだ…!!》

149 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 08:30:39.86 ID:IVAMhd/C0

氷姫《っ! そんな…!!》

炎獣《そんな事しちまったら、自分が波動に押し潰されちまうだろ!?》

雷帝《ああ…!》

雷帝《恐らくそれを分かった上で、あの子供は………!!》


魔王《このままじゃあ、赤毛ちゃんが消滅してしまうっ!!》


魔王《一体どうすれば――!》







木竜《ひとつだけ》

木竜《方法がありますぞい》

150 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 08:36:56.08 ID:IVAMhd/C0

雷帝《!!》

炎獣《じ…っ!!》

氷姫《ジーさんっ!!》


魔王《爺…!!》


木竜《ほっほっ》

木竜《どこまで出来るか分からんが、儂の最後の力で、出来るだけのことをしてみようかのう》


雷帝《翁…っ!》

木竜《なんちゅう顔をしとる、雷帝》

木竜《束の間の、再会じゃ。もちっと晴れ晴れしい顔は出来んのか?》

炎獣《爺さんっ!!》

氷姫《ジーさん…まさか…!》

木竜《うむ》

木竜《もはや魔壁は穿たれた。皆の存在は本当の肉体に戻るじゃろう》

木竜《しかし儂は、消え失せる運命じゃ》

木竜《今の儂は、皆の想い出で作られているような存在じゃからのう》

炎獣《そんなっ…!》

魔王《………爺…》



木竜《儂の力で、皆をあの子供達一人一人に作用させる》

木竜《子供達の結び付きで、あの娘の存在を波動の渦から救い上げる》

木竜《今度は皆が、あの子供達とリンクするのじゃ》


木竜《よいな》



151 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 08:39:37.31 ID:IVAMhd/C0


雷帝《翁》

木竜《…雷帝》

木竜《そう、自分を責めるな》

雷帝《…》

木竜《儂は満足してるんじゃ。死ぬ前の最後の仕事で、お前を見事甦らせることが出来て》

木竜《老いぼれから死んでゆくのが、正しい順序だしのう! ほっほっ!》

木竜《…儂はな。安心して逝けるよ。お前さんがおれば》

雷帝《翁…》

雷帝《…本当に》

雷帝《ありがとう、ございました………っ!》

木竜《儂の魂は、お前に継承された》

木竜《好きなように、やってみせい!》

雷帝《………はいっ…!!》



炎獣《爺さんっ! 俺…!》

炎獣《俺…!!》グスッ

木竜《炎獣………。お前には、過酷な道を歩ませたと思うとる》

木竜《すまんかったのう》

炎獣《馬鹿言うなよ! 俺は…っ》グスッ

炎獣《爺さんが居たから、自分の居場所を見つけられたんだっ!》

炎獣《なあ、爺さんっ! 俺、きっと守るからっ!》

炎獣《魔王のこと、守るから………!!》

木竜《ほっほっ》

木竜《頼んだぞい。炎獣…》

152 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 08:45:49.47 ID:IVAMhd/C0

木竜《氷姫》

木竜《少しは、素直になる気になった、って顔だのう》

氷姫《あーあ…っ。まったく、さ。年寄りは説教臭くって、やんなっちゃうわよ》

氷姫《………でも本当は》

氷姫《もっと口うるさく言われてやっても、良かったんだから…》

氷姫《なんで》

氷姫《なんで、死んじゃうかなぁ………!!》ポロポロ…

木竜《…すまんの》

木竜《と言っても、お前の事はあんまり心配しとらん》

木竜《――いつまでも、姫様の良き友であってくれ》

氷姫《はいはい》グスッ

氷姫《わーってるわよ》グィ…

木竜《ほっほっ》



魔王《爺…》

木竜《姫様》

魔王《…もう、爺ってば》

魔王《いつまでたっても、姫のままなんだから》

木竜《ほっほっほっ! 赤ん坊の頃からだからのう。いかんせん、癖でしてのう》

魔王《えへへ…》
153 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 08:50:35.03 ID:IVAMhd/C0

木竜《姫様の想い。伝わっておりました》

魔王《………》

木竜《姫様は、儂に何も返せなかったとおっしゃるが、とんでもない》

木竜《儂にとっては幼い姫様との日々は、まるで孫が出来たようで――》



魔王「あ、ちょうちょだ! じい、ちょうちょだよー!」パタパタ

木竜「ほっほっ。捕まえられますかな」


木竜「ひ、姫様! しかし…!」

魔王「えんじゅうと、ふたりであそびたいのー!」

魔王「じい、あっちいってて!」

木竜「ひ、姫様…!」ガーン



木竜《ほんに》

木竜《ほんに幸せな時間じゃった》

魔王《………爺》ポロ…

木竜《姫様の成長が、嬉しゅうて》

木竜《いつの間にかそれが儂の楽しみになっとった》



魔王「私、魔王になる」

魔王「魔界に、秩序と尊厳を取り戻す」

魔王「私自身が、そうしたいって」

魔王「そう思ったんだ」



木竜《姫様。儂は、姫様に生かされとったのかもしれん》

木竜《この歳で迎えた戦いも、そのおかげで前を向けたんじゃ》

魔王《………爺…っ》ポロポロ…

木竜《だから姫様………》

木竜《………》スッ


木竜《有難う御座いました》


魔王《爺ぃっ…!》


魔王《――いかないでよ!》


魔王《死んじゃやだよっ!》


魔王《本当は私、爺に話したいこと》


魔王《まだまだ沢山あるんだよっ!!》




154 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 08:54:42.19 ID:IVAMhd/C0



木竜《姫様》


木竜《悲しむ必要はありませぬ》


木竜《命は巡るもの》


木竜《儂も、その流れの一部になるだけですじゃ》


木竜《儂の想いは受け継がれ》


木竜《儂の血や肉は、世界をさすらう風に》


木竜《大地に芽吹く木々になって》



木竜《姫様を見守っておりますじゃ》



木竜《さて》


木竜《どうやら時間のようじゃ》






木竜《儂の最後の技》




木竜《受け取って、下され………》





―― ス ゥ………






魔王《――うわあああああ!!》








155 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 18:58:20.84 ID:IVAMhd/C0






赤毛《ねえ》

赤毛《ねえ、皆》




《ん…》

坊主《ここは…》

坊主《!》

坊主《皆、起きて!》

三つ編《んん…あれ?》

三つ編《あたし達、お兄さん達と一緒に戦って…》

金髪《…ここ、どこだ?》

金髪《真っ白で何も見えねーぞ》

坊主《あ、あそこ!》

坊主《赤毛がいる!》

金髪《っ!》

三つ編《赤毛!!》


赤毛《皆》

赤毛《…ありがとう》

赤毛《あたしを追いかけて、こんな所まで来てくれて》

156 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 18:59:50.01 ID:IVAMhd/C0

三つ編《赤毛! 良かった…っ!》

三つ編《赤毛が無事で、本当に!》

赤毛《三つ編…》

金髪《…赤毛。お前、すげーよ。一人で、あんなに頑張ってさ》

赤毛《ううん、一人じゃないよ》

赤毛《皆が居てくれたから、頑張れた。怖くても、我慢できた。皆にまた、会うんだって…。その一心で進めたんだよ》

赤毛《だから、ありがとう》

坊主《赤毛…》

157 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 19:00:59.42 ID:IVAMhd/C0

赤毛《今だってね。きっと魔王さん達の力のおかげなんだろうけど、皆のおかげであたしの体は取り戻せそうだよ》

赤毛《ちょっと無理しすぎちゃって…もうダメかな、なんて思ったんだけど》

坊主《ぶ、無事なんだよね! それなら良かったっ!》

坊主《もう、一緒に帰れるんだよね!? 僕たちの城下町に!》

赤毛《…》

金髪《…赤毛?》

赤毛《きっと、体は戻れると思う。物凄い癒しの力が、体を再生してくれたから》

赤毛《でもね》

赤毛《心は戻れるか、分からないの》

三つ編《…え?》

赤毛《教皇様の波動を取り込んだ時に、あの人の感情があたしの中で爆発したの》

赤毛《今でも、その悲しみの螺旋が私の中をぐるぐる回ってるんだ》

金髪《…な、なんだよ。それ…》


赤毛《気持ちが、ぐるぐるぐるぐる》

赤毛《消えたくない、勝ち残りたい、死にたくない…》

赤毛《ぐるぐるぐるぐる、ぐるぐるぐるぐる………》

158 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 19:02:03.20 ID:IVAMhd/C0

坊主《あ、赤毛…!》

赤毛《これは、ね。多分…取り込んでしまったあたしが、向き合わなきゃいけないものなんだと思う》

赤毛《奇跡の力とか、神様の加護とか、そういうものじゃなくて》

赤毛《あたし自身が》

三つ編《………どうして?》

三つ編《どうして、赤毛がそんなことをしなくちゃならないの…?》

三つ編《帰ろうよ…! 私達の城下町にっ、あの秘密基地にっ!》

赤毛《三つ編…》

三つ編《赤毛が一緒じゃなきゃ、イヤよ!》

三つ編《私…私…っ!》

赤毛《…ありがと。でも…》

金髪《オレも一緒に引き受ける》

赤毛《え?》

金髪《赤毛だけが苦しいなんて、やっぱおかしいって!》

金髪《だったら、オレにもその苦しいのを、分けてくれ! このへんちくりんな世界なら、どーせそういうこと出来るだろ!?》

赤毛《金髪…》

金髪《一緒に苦しんで、一緒に帰ろう!》

金髪《トモダチだろ? オレたち》

159 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 19:03:25.43 ID:IVAMhd/C0

赤毛《ふふ。金髪らしいね》

金髪《な、なんだよ。笑うことねーだろ?》

赤毛《…すっごく嬉しいよ》

赤毛《ありがと》

金髪《お、おう。なんか、チョーシ狂うぜ》

金髪《赤毛は、憎まれ口叩いてるくらいじゃねーとよ》

赤毛《………》

赤毛《もう、私たちを包んでいた壁は、壊れてしまったから》

赤毛《私たちの心の繋がりも、これでおしまいなの》

金髪《………!》

坊主《そ、そんなっ》

赤毛《すぐに私たちは、元の肉体に戻るよ。だから魔法みたいなことも、もう出来ない》

赤毛《皆は目を覚ますけど…あたしは………》

三つ編《っ!》

赤毛《だから、こうやってお話し出来る時間が》

赤毛《最後のご褒美…かな》

160 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 19:05:01.47 ID:IVAMhd/C0

三つ編《………ひどい》

三つ編《ひどいよ、こんなの》

赤毛《でもね》

赤毛《例えあたしは目覚めることが出来なくても、皆としたこの冒険は、忘れないと思う》

赤毛《きっと、ずっと》

坊主《…っ》

赤毛《城下町を冒険してさ!》

赤毛《大人から逃げ回ったり…怖いことに立ち向かって》

赤毛《あの、魔王さん達の魔界の大冒険を、一緒に見て回って》

赤毛《皆で力を合わせて…戦ってさ!》

赤毛《すっごい冒険じゃない!?》

赤毛《あたし一度でいいから、こんな冒険してみたかったんだぁ…!》

金髪《赤毛…》

赤毛《皆も、大人になっても忘れないよね!?》

赤毛《ううん、きっと忘れられないよ! こんな素敵なこと!!》

赤毛《ああ、パパやママに話したら、何て言うだろう…!》

三つ編《………っ!》

161 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 19:06:36.20 ID:IVAMhd/C0

赤毛《…あ、えへへ》

赤毛《そっか。パパやママには話せないんだ》

赤毛《あたし、もう会えないから》

金髪《赤毛…っ》

赤毛《あ、やだなぁ。なんでだろ》

赤毛《泣かないでいようって、思ったのに》

赤毛《笑顔で皆とお別れしようって、決めてたのに》


赤毛《それなのに》ポロ…



赤毛《それなのに………!》ポロポロ…





坊主《…!!》

三つ編《赤毛…!》

金髪《…っ!》

162 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 19:07:55.05 ID:IVAMhd/C0

金髪《会えるっ!》

赤毛《…っ》

金髪《会えるよ、絶対!》

金髪《赤毛が全部と向き合いきった時に、きっと会えるっ!》

金髪《赤毛の父さんや母さんに、この冒険のことを話せるよ!!》

金髪《だから…!》

金髪《お別れなんて、言うなよっ!》


赤毛《き、金髪…》ポロポロ…


坊主《うん…っ》

坊主《僕たちには何も出来ないかもしれないけど》

坊主《でも、待ってる…!》

坊主《赤毛が目を覚ますのを、ずっと待ってるから!》

坊主《会えなくても、ずっと、ずっとずっとトモダチだから!》

坊主《こんな魔法がなくたって》

坊主《僕たちにの心の繋がりは無くならないよ!!》

163 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 22:33:13.42 ID:IVAMhd/C0

赤毛《うぅ…》ポロポロ…

赤毛《うううぅ…》ポロポロポロ…


三つ編《私たち》

三つ編《秘密結社の仲間でしょ?》

三つ編《仲間ってことを覚えていれば、例え離れていたって》

三つ編《また会うための力になるんだよ》

赤毛《三つ編…!》

赤毛《三つ編ぃ…!》ポロポロ

三つ編《…えへへ》グスッ

三つ編《あの時と、一緒だね…》

赤毛《………あはは…そうだね》グスッ

三つ編《絶対》

三つ編《絶対にまた会えるから》ギュッ

赤毛《…うんっ…》

164 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 22:34:11.16 ID:IVAMhd/C0

――フワァ…………


坊主《!?》

坊主《この風…外からの風だ…!》

金髪《な、なんだよ!? もう終わりかよっ!?》

赤毛《………そうみたい、だね》

三つ編《っ!!》

金髪《くそっ、なんだよ!!》

金髪《いつもいつも、世界は勝手だ!!》

金髪《オレたちの気持ちなんか無視して、勝手に進んでいくんだ!!》

赤毛《金髪》

金髪《あ、赤毛…》

赤毛《私は、もう大丈夫》

赤毛《一人でも、怖くないよ》

赤毛《皆の言葉のおかげ》


 ヒ ュ ウ ゥ ゥ ゥ ………



三つ編《か、体に感覚が戻っていく…!》

坊主《城下町の風だ…っ! 》

三つ編《町の匂い…体の温もり…》

三つ編《全部が、戻る――!》

165 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 22:34:56.64 ID:IVAMhd/C0

金髪《赤毛…!》


赤毛《…》ニコ


坊主《赤毛っ!》


赤毛《…。………》


三つ編《赤毛!!》

















赤毛「ありがと」







赤毛「忘れない」


















166 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 22:35:58.52 ID:IVAMhd/C0




















城下町

時計台の中



魔王「…」


魔王「ここは」



炎獣「…も…戻って来た…」

炎獣「のか…?」

氷姫「…うん」

氷姫「そうみたいね…」

氷姫「声も、元通りだ」

雷帝「………どうやら…我々は脱したようだな」

雷帝「魔壁を」

雷帝「…そしてここは」


魔王「………ええ」

魔王「この子達の………思い出の場所」




赤毛 三つ編 金髪 坊主「………」


167 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 22:37:02.13 ID:IVAMhd/C0

氷姫「ぐっすり、寝てるわね」

炎獣「ああ…」

雷帝「………」


魔王「………赤毛ちゃん」

魔王「あなたは、あの時…こんなに小さい体で」

魔王「教皇の波動を、たった一人で抱え込もうとしたのね」ソ…


赤毛「…」スヤ…


魔王「…ごめん、なさい」

魔王「私は、あなたを助けきれなかった………」

炎獣「…俺たちさ」

炎獣「この子に助けられてなきゃ、教皇を倒せなかったよな」

雷帝「ああ。…あの一瞬、自分を犠牲にしたこの少女のおかげで、我々は勝つことが出来た。それだけじゃない」

雷帝「この子供達の繋がりが、私達の存在を幾度も繋ぎ合わせたんだ…」

氷姫「人間の、この子が………」

氷姫「――人間は、打ち負かさなきゃいけない相手だと思ってた」

氷姫「でも、これでいいの? ………"勇者を倒す"。あたし達がすべきことって」

氷姫「本当に、そうなの…?」

168 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 22:38:12.45 ID:IVAMhd/C0

雷帝「教皇の言葉の数々は」

雷帝「必ずしも我々を惑わすためだけのものではなかったように、思う」

炎獣「あいつの言葉に、本当のことがあったってのかよ?」

雷帝「…奴は何かの真実にたどり着いていた。そうであればこそ、あそこまで強大な力を持ち得るに至ったのだろう」

氷姫「…あたし達ですら、敵わないほどの力。………女神の加護?」

雷帝「――魔王様」

雷帝「お聞かせ願えませんか。魔王様がこの戦いで辿り着いた真実を」

魔王「………うん」

魔王「私が知り得たのは、皆が教えてくれた過去と」

魔王「それを揺るがしかねない程の、恐ろしい力の存在」

魔王「それに、"魔法使い"が私たちに何をもたらしていたか………だったわ」





――
――――
――――――

169 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 22:39:18.47 ID:IVAMhd/C0

魔王「………」

炎獣「そ、んな…」

氷姫「…っ」

雷帝「………にわかには信じがたい」

雷帝「私達は、今まで奴らの思惑通りに動かされていた…それに我々四天王も、邪神の加護を持つ魔王様ですら」

雷帝「気づくことも出来ずに為すがままだった。………一体、いつから…?」

炎獣「あ、操られていたってのかよ…! 俺達ずっと!」

氷姫「………」

魔王「…雷帝、どう思う?」

雷帝「…」

雷帝「私達の全てを思うままに操る能力があるとして」

雷帝「教皇の発言の通り、その目的が魔王様…ひいては魔族の撃破なのであるとすれば、もっと分かりやすいやり方は幾らでもあったはずです」

雷帝「奴らは、我々の精神全てを支配下においている訳ではないと、私は思います。奴らが介入していたのは」

雷帝「私達の魔族の道においての、ターニングポイント。それは例えば」

雷帝「…虚無と海王による、氷部の壊滅の日」

氷姫「………っ」

氷姫「じゃあ、結晶花は…水精は………」

魔王「――彼らの計画のために、利用された」

170 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 22:40:32.27 ID:IVAMhd/C0

氷姫「………」

炎獣「氷姫…」

氷姫「そうまでして…」

氷姫「そうまでして私達をこの戦いに呼び寄せる理由は何…っ!?」

雷帝「…それは」

雷帝「この戦いの末に、王国軍の砦で消耗した私達の隙をついて、魔王様を倒す…という筋書きを実現するため、だろうな」

雷帝「我々四天王も、人間側のキーマンも、役者を一人も違えることなく、この戦いを迎えたかった」

雷帝「逆に、そこまで綿密に物語を動かさねば魔王様を討つことが不可能だと考えられていた、とも取れる」

炎獣「…でも、結局教皇は力ずくで俺達を倒しに来たぜ?」

雷帝「…我々が勇者一行と戦っている最中にさらなる技術の進歩を得て、勝利を確信していたか…」

雷帝「女神の啓示とやらがどんなものか知りようもない以上、想像することしか出来ん」

魔王「けれど結果として、教皇は私達に敗れた」

魔王「………そうするように仕向けたのは」


魔王「魔法使いだ」

171 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 22:42:59.84 ID:IVAMhd/C0

炎獣「…!」

氷姫「っ…」

雷帝「…我らを教皇に勝たせることが、奴にとって何らかのメリットがあるということになる」

魔王「………私が教皇に負けるのは、彼にとって不都合だった…?」

炎獣「あいつ…っ!」

炎獣「一体何がしたいんだよ!?」

炎獣「先代様を裏切って、赤ん坊だった魔王を殺そうとしたり!」

炎獣「爺さんを殺したりして…っ!」

炎獣「今度は俺たちの手助けだって!?」

炎獣「やってること、滅茶苦茶じゃねえか…!!」









ガタン…!


炎獣「!」バッ

炎獣「誰だ!?」ガシッ

172 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 22:44:01.38 ID:IVAMhd/C0

「ひ、ひい!」

「く、くそう…っ! こうなれば、死なば諸とも!」

炎獣「…なんだ、お前?」


「あ、赤毛さん達から離れなさい! でなければ許しませんよ!」

先生「先生は、先生ですからね! お、怒ると怖いですよぉ!」


氷姫「何よ、こいつ」

雷帝「人間か」

先生「な、なんですかっ! 人間で悪いですか! ここは城下町ですよ! 人間がいて当たり前です!」

雷帝「微々たる魔力は感じる…。が、どうやら戦闘能力はさほどでもなさそうだな」

先生「ちょっと、聞いてます!?」

炎獣「なんでぇ、脅かしやがって」

先生「おっ、脅かしたのはそちらでしょう!」

炎獣「あぁん? よくしゃべるな、お前」

先生「ひ、ひぃ」

173 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 22:46:06.02 ID:IVAMhd/C0

魔王「炎獣」

魔王「赤毛ちゃん達の事、彼に任せましょう。どうやら知らない間柄ではないようだし」

炎獣「分かったよ」パッ

先生「ほっ。あ、熱かった」

魔王「………私たちは、もう行きましょう」

氷姫「ええ…そうね」

先生「な、なんですか! やるならやったりますよ! 先生は、先生ですからねっ!」

炎獣「なあ、あんた」

先生「うわっ!? ゴメンナサイ!」

炎獣「この子達のこと」

炎獣「宜しく頼む」

炎獣「頼むよ…」

先生「…!?」

先生「…は、はい。頼まれました…。…って、何ですか!? 魔族のくせに!」

先生「頼まれるまでもありませんよっ! 先生は、先生ですよ!?」

先生「ねぇちょっと、聞いてます!?」

先生「おーい!?」



174 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 22:49:23.41 ID:IVAMhd/C0



炎獣「………なあ」

炎獣「俺達の戦いって、なんなんだ?」

炎獣「俺達四天王は、偽の女神に集められたって言うんなら…本当は違う四天王が揃うはずだったってかよ?」

炎獣「勇者一行も? …もう、わけわかんねえよ」

氷姫「魔法使いが、この魔王勇者大戦を引き起こした理由も、説明がつけられないわ」

雷帝「………そもそもの話をしてしまえば」

雷帝「大昔から続くこの"魔王勇者大戦自体の意味"を、私達は知らない」

雷帝「女神と邪神が争い続けているから。その代理戦争…ということは理解しているが、逆に言えば、それしか理解していないのだ」

魔王「………"多くの犠牲を払いながら戦い続ける理由"」

魔王「教皇は…それを知っていたのかな。それとも」

氷姫「――そんなものはひとつもない………そういうオチだったりしてね」

雷帝「理由などなかった…か。その可能性を否定しきれんのも不甲斐ないところだ。もしそうなのだとしたら…」

雷帝「その時、私達に選べる選択肢が残っているんだろうか」

炎獣「………もう、取り返しがつかない数の人間を」

炎獣「俺達は殺しちまった…」

175 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 22:51:08.08 ID:IVAMhd/C0

先生「………」

先生「…おかえりなさい」

先生「よく、頑張りましたね」

先生「皆…」

先生「そして、赤毛さん…」

先生「あなたは本当に、奇跡の僧侶となってしまった…」


赤毛「………」

176 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 22:53:00.92 ID:IVAMhd/C0

氷姫「あたし達は、勇者を倒すために今まで必死になってやってきたのよ?」

氷姫「それに意味がないなんて言われたら…なんて、そんな事。………考えたく、ないわよ」

魔王「…そうだね」

雷帝「…もう一人、警戒すべき相手がいる」

炎獣「え?」

雷帝「――冥王だ。奴は、もしかするとこの真実を知っていたかもしれん」

氷姫「! 冥王様が…?」

雷帝「…確証はないがな」

炎獣「で、でもよ…あの師匠が、人間の思惑通りにされるのを、黙って見過ごすとは思えないぜ」

雷帝「…確かに、それはそうだが…」

氷姫(冥王様…。…そういえば、あの時)


――氷姫《何、ですっ、て!?》

――教皇《お前は知らんのか? 何故貴様ら四天王がそこまで人間を圧倒できるのか》

――教皇《冥王が何故、魔王についてその側にいたか》

――教皇《その真実を》

――氷姫《…っ!!》

――教皇《お前は何も知らないのだな。無知なものが振るう大きすぎる力ほど、恐ろしいものはない》

――教皇《排除されるべきは………貴様らだ、四天王》


氷姫「………ねえ、魔王」

魔王「? どうしたの、氷姫」

氷姫「…」

氷姫「ううん…。何でもない」

魔王「…そう」

魔王(………)
177 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 22:54:44.76 ID:IVAMhd/C0

先生「赤毛さん」

先生「先生はあなたを救いたかった」

先生「あなたがこの戦いの犠牲者になることを、避けようとしたんです」

先生「…その為に、先生は方々手を尽くしました」

先生「金髪君達の想いの力を借りて、魔壁の内側に送り出しました」

先生「魔王側の勝利を確実にするために」

先生「死んでしまった木竜の思念にもお手伝いをしてもらいました」

先生「でも」

先生「あなたの心までは守れなかった」

先生「女神様も、酷いですね」

先生「やっぱり、犠牲が必要なんですか? …あなたの描く、ドラマには」

178 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 23:08:00.46 ID:IVAMhd/C0

炎獣「俺達には…何よりも先にふん捕まえて話をさせなきゃならない奴がいる」

雷帝「ああ」

氷姫「…そうね」

魔王「"魔法使い"」

炎獣「あいつの目的。それに、これまでしてきたことへのツケを」

炎獣「絶対に、払わせてやる…っ!」

雷帝「奴の思惑が見えればこの戦いの…いや、勇者と魔王の争いそのものの真理が見えてきそうな、そんな気がする」

魔王「………私達は」

魔王「すでに彼らの描いていたあらすじを逸脱した…!」

炎獣「ああ!」

炎獣「もう、好きなようには、させねえ…!」


炎獣「俺達は、俺達のもんだっ!」


氷姫「! 待って!」

氷姫「あ、あれは…」



氷姫「――一体、何?」

179 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 23:09:00.86 ID:IVAMhd/C0

先生「ツケを払わせてやる、ですか」

先生「あはは」

先生「参りましたね」

先生「………先生は」

先生「いえ」

先生「僕は」

先生「何がしたいんでしょうねぇ?」

先生「それはそうと魔王」

先生「それに四天王」












魔法使い「後ろが、隙だらけですよ?」








180 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 23:10:56.73 ID:IVAMhd/C0

雷帝「これは…」

雷帝「死体か?」

魔王「………うん」

魔王「そうみたいね」




大僧正「」




氷姫「ボロボロで、原形留めてないわ」

氷姫「物凄い魔法で、やられてる…」

氷姫(………この魔法の残り香)

氷姫(これ………)

氷姫(………もしかして!!)















魔法使い「死の波動よ」

魔法使い「敵を貫け」 ォ オ









炎獣 魔王 雷帝 氷姫 「!!!」


  ―― ゾ  ク  ッ




181 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 23:12:54.19 ID:IVAMhd/C0




雷帝(なんだこの膨大な魔力はっ!? いやそれよりも!!)


氷姫(矛先は魔王だ!! 結界を張って――こ、これ防ぎ切れるような力じゃない!!)


魔王(回避を――駄目だ、間に合わない!!)



雷帝(くっ、私が身代わりに――!!)





炎獣「っ」バッ




雷帝「!!」

魔王「炎じゅ――」

雷帝「――止せ、炎獣ッ!!」












 ド ス ッ




182 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 23:14:38.86 ID:IVAMhd/C0







炎獣「がッ」




炎獣「ふッ」














魔王「………………え」




魔王「………炎…獣………?」















炎獣「」


………ドサ…






















魔法使い「おや、死んだのは炎獣ですか」

魔法使い「まあいいでしょう」



魔法使い「――まずは一人目、ですねぇ」ニイィ



183 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/11/25(土) 23:15:53.67 ID:IVAMhd/C0




【魔法使い】



184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/25(土) 23:16:27.45 ID:IVAMhd/C0
今日はここまでです
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/26(日) 00:32:43.88 ID:FLDlGLybo
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/26(日) 01:13:20.94 ID:WOrKrdLNo
あっけねぇ
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/26(日) 21:47:13.61 ID:gX3yS1Dgo
魔法使いェ...
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/05(火) 12:23:56.82 ID:rtST7Mkf0
まだかな〜
189 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 08:54:41.85 ID:ts4DPW7U0


魔王「え…炎獣」


魔王「炎獣――」




炎獣「」




氷姫「なッ…!!」

雷帝「炎獣ッ…」

氷姫「炎獣っ!!」

雷帝(くそ!! 何故だっ!?)

雷帝(全く気配のしない所から、ここまで強力な魔法が…ッ!!)

雷帝(………いや、待て!!)

雷帝(気配はひとつだけしていた…!! とるにも足らない微かな魔力を発していただけの………)

雷帝(あの、人間が――)



魔王「炎獣」

魔王「ねえ、炎獣…」



炎獣「」



氷姫「そん、な」

雷帝「…っ!!」



魔王「炎獣」

魔王「炎獣ってば」

魔王「ねえ、炎獣」ユサ…

魔王「炎獣………」ユサユサ…








190 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 08:56:14.78 ID:ts4DPW7U0



炎獣「」ゴロン…



191 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 08:57:04.48 ID:ts4DPW7U0



魔王「どう」


魔王「して?」


192 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 08:59:19.51 ID:ts4DPW7U0

雷帝「くそ――」

雷帝「くそッ!!!」

氷姫「か、回復魔法を」

氷姫「急が、なきゃ…!!」ヒュイィ…!

氷姫「炎獣…!」

氷姫「炎獣…っ!!」

雷帝「くッ…!!」


「無駄ですよ」

「もう、彼は」


雷帝「ッ」ピクッ




魔法使い「死んでいるんですから」


193 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 09:00:40.69 ID:ts4DPW7U0


雷帝「側近ッ!!!」


雷帝「貴様ァッ!!!」ドンッ――



ズバァン!!!



魔法使い「おっとと」

魔法使い「危ない危ない」

魔法使い「鐘楼が真っ二つじゃないですか。流石の剣技ですねぇ、雷帝」

魔法使い「本調子が戻ったようですね!」


雷帝「 黙 れ ! ! 」


ビュ


――ズズゥン…ッ!!




194 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 09:04:58.55 ID:ts4DPW7U0

氷姫「…え、炎獣…」


炎獣「」


氷姫「――死んだ?」

氷姫「炎獣、が?」

氷姫「そんな」

氷姫「だって今の今まで、一緒に話してて」

氷姫「一緒に教皇を倒して」

氷姫「一緒に乗り越えてきたのに」

氷姫「………待って」

氷姫「待ってよ」

氷姫(まだあんたに、言ってないこと)

氷姫(伝えたかったこと)

氷姫(沢山………、沢山あるんだよ)



炎獣「」



氷姫「炎獣ぅ………っ!」








魔王「………………」

195 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 09:31:57.92 ID:ts4DPW7U0


雷帝「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」



ギュバンッ!!


ズッ ダァンッ!!


ビュオォウンッ!!



魔法使い「おやおや! これは凄い」

魔法使い「どうやら尚も新しい境地に達したようですね、雷帝」

魔法使い「このままでは僕も、うっかり討ち取られてしまいそうだ」

魔法使い「でもね、雷帝。…気付いています?」

魔法使い「そんなに大それた力、いち魔族が持つことが本当に許されるんですかね?」



雷帝「黙れッ!!」

ドギュッ

雷帝「黙れェッ!!」



ゴッ


――ズガァンッ!!



魔法使い「ふう、危ない」

魔法使い「…ねえ、雷帝。聡明なあなたは、薄々感じ取っていたのではないですか?」

魔法使い「例え魔王四天王と言えど、ここまで人類を圧倒することが出来るものなのか」

魔法使い「あなた達も苦難を乗り越えてきた…それは、分かりますよ」

魔法使い「お互いを信ずる絆も素晴らしいものです」

魔法使い「でもね」

魔法使い「人間だってそれは一緒でしたよね?」

196 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 09:32:40.03 ID:ts4DPW7U0

魔法使い「…勇者一行は、それぞれが英雄たる人物達でしたよ。各々の道は違えど、ね」

魔法使い「目的の為に手段を選ばない意思の強さと頭脳を持った商人さんも」

魔法使い「気の遠くなるような年月ひたすら己を鍛えぬき、遥かな高みに辿り着いた武闘家さんも」

魔法使い「多くの人を惹き付ける不思議な力と、奇跡すら併せ持った盗賊さんも」

魔法使い「どんな悲劇にも逆境にも立ち向かう勇気と信念を持った戦士さんも」


魔法使い「――沢山の物語を背負ってきた彼らを、あなた達は虫けらのように蹴散らしてきた」


雷帝「貴様…!!」

雷帝「何が、言いたい…ッ!?」チャキ…!!


魔法使い「彼らが死を賭した覚悟を決めていた時、あなたたちは何をしていましたか?」

魔法使い「やれ恋慕の情だの、"自分の気持ちと向き合う"だの」

魔法使い「ずいぶん、あまっちょろいことを言っていましたよねぇ?」

魔法使い「そんなことで、どうして人々を圧倒できたんですか?」

魔法使い「"四天王だから"、そうして当たり前ですか?」

魔法使い「違いますよねえ…?」

魔法使い「分かりませんか? 雷帝」

魔法使い「あなた達のその力は、あなた達自身の実力ではない、ということですよ」

197 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 09:33:19.77 ID:ts4DPW7U0

雷帝「何をっ………!!」


魔法使い「そうですよねぇ?」

魔法使い「――魔王」


魔王「!!」ビクッ


魔法使い「ずいぶんと、都合のいい言葉で四天王をおだてあげて戦ってきたみたいじゃないですか?」


魔王「………めて」


魔法使い「残酷なことだとは思わなかったんですか? 偽りの実力を過信する部下を見て」


魔王「や、めて」


魔法使い「教えてあげましょうよ。本当のことを」



魔王「――やめてっ!」



198 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 09:35:05.38 ID:ts4DPW7U0

氷姫「魔、王?」

雷帝「魔王様…!!」



魔法使い「あなた達が人類を圧倒できたのは」

魔法使い「魔王。あなたが邪神の加護を」




魔法使い「"四天王に密かに分け与えていたから"、じゃないですか」




魔王「…っ!!」

…ドクン…



199 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 09:36:22.99 ID:ts4DPW7U0


ズバァッン…!!


魔法使い「おっと!」

雷帝「それ以上の戯れ言は許さん…!!」ゴォ…

魔法使い「ふふ。雷帝」

魔法使い「考えていないふりは止めませんか?」

魔法使い「雷鳴剣は、先代魔王の持ち物ですよ。あの人の大いなる力を持ってして、初めて扱える代物です」

魔法使い「あなたごときが、本当に扱いきれると思ったんですか?」

魔法使い「王国軍の砦で軍師さんの罠に嵌まったあの時を思い出してくださいよ。…あんな破壊力を前にして生身の生物が生き残れるはずがありますか?」

雷帝「………っ!」

200 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 09:37:07.12 ID:ts4DPW7U0


魔王「」ガタガタ…


氷姫「魔王…? 魔王っ!」

氷姫「しっかりして…! あいつの言葉なんかに耳を貸す必要はないわ!!」

魔王「」ガタガタ…

氷姫「魔王…!?」

魔法使い「無駄ですよ、氷姫」

魔法使い「だってこれ、本当のことですから」

氷姫「…黙りなさい」ギロ…!

魔法使い「…ねえ、氷姫」

魔法使い「どうして、究極氷魔法を使ってけろりとしていられたんですか?」

魔法使い「魔力を使い切るなんて、普通の生き物なら死に直結する大惨事じゃないですか」

魔法使い「"あの頃より修行を積んだから"とか、"魔王四天王だから"とか、そんな理由で自分が生きていると」

魔法使い「本気で思っていたんですか?」


…ドクン…

…ドクン…

201 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 09:55:17.12 ID:ts4DPW7U0

氷姫「っ…!! じゃあ、何よ!!」

氷姫「あたし達の実力は、全部…!!」

氷姫「魔王から分け与えられていたものだって言うわけッ!?」



魔法使い「――当たり前ですよ」


魔法使い「先の戦いで見せた"魔壁"。壁で覆った者の存在を解体してしまうなんて」

魔法使い「そんな切り札を持っているなら、どうして今まで使わなかったんですか?」

魔法使い「出し惜しみ? ああ、必殺技は後にとっとくっていうやつですか?」

魔法使い「………違いますよねぇ」


魔法使い「"木竜が死んだから、彼の分の力を取り戻した結果、使えるようになった"んでしょう?」



雷帝「シィッ!」ヒュ

パァンッ!!

魔法使い「…ええ、あなたの勘は正しいですよ、雷帝」

雷帝(受け止めた!?)


魔法使い「これ以上、私が言葉を連ねれば」

魔法使い「魔王は、崩壊しますから」


ドクン…ドクン…

ドクン…ドクン…ドクン…



202 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 09:56:17.52 ID:ts4DPW7U0


雷帝「氷姫!!」

氷姫「っ!?」

雷帝「全力の魔法で私もろともこいつを殺せ!!」

氷姫「な、なにを………!!」


ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…


魔法使い「冥王が、なぜあなた達に付いてきたか。教えてあげましょうか」

魔法使い「魔王が持て余していた邪神の加護を――」


雷帝「氷姫ッ!!」

雷帝「早くッ!!」


ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…



魔法使い「魔王は、冥王の術によって邪神の加護をあなた達四天王に、分散していたんですよ」

魔法使い「そこであなた達は、その地力を越えた領分の力を手に入れたんです」



ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…




雷帝「氷姫ィッ!!!」


氷姫「くッ…!!」ギュウ…!!


氷姫「うあああああああああああああああああああああああああああ!!」ォオォオォオ…!!









魔法使い「そしてその秘密が明かされることを契機として」

魔法使い「冥王の術は解けることになります」


203 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 09:57:10.50 ID:ts4DPW7U0




魔法使い「――手遅れですよ」









 ド ク ン ッ … ! !














魔王「あ」















魔王「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」





ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ  ! ! ! ! !









204 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 09:57:58.01 ID:ts4DPW7U0




魔界
冥界のほとり


冥王「………」

冥王「おや。術が途切れちまいましたわ」

冥王「まさかあの子猫さん、自分で打ち明けたなんて愚かな真似をしたんじゃあ…」

冥王「いえ、それは致しませんわよねぇ。それじゃあ、自身が反動を受け止めきれずに瓦解しちまふっていうのは、ご本人が一番わかっていますもの」

冥王「いずれにせよ、暴かれてしまったんじゃあお間抜けもよい所ですけれど」


冥王「それにしても、子猫さんはこれじゃあ」

冥王「ここでドロップアウトですわねぇ…」




205 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 17:10:51.76 ID:ts4DPW7U0

雷帝「魔王様ァ!!」

氷姫「魔王っ――!?」



魔王「――」


魔王「あ――」

魔王「――ぐ」



魔王「――」


ドオォオォオォオォ…!



氷姫「な、に………これ」

氷姫(…魔王の周りに、力が渦巻いている…っ!)

氷姫(何よ…何なのよ、この気配)

氷姫(直視することすら憚られるような…圧倒的な波動の濁流)

氷姫(まるで、世界の全てを拒絶しているみたい…!!)

雷帝「く…っ!!」


魔法使い「ふむふむ」

魔法使い「予想以上の計測値ですね。邪神っていうのは、本当に大したものですよ」


雷帝「――貴様ァっ!!」ヒュッ

ズバッ!

206 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 17:11:47.64 ID:ts4DPW7U0

魔法使い「おやおや?」

魔法使い「あなたの太刀筋って、こんなものでしたっけ?」ググ…

雷帝「…っ!?」

雷帝(完全に、受け止められた…!!)

魔法使い「実感しましたか?」

魔法使い「術は解けて、 邪神の加護は魔王の元に収束したんですよ」

魔法使い「あなたにはもう先程までの力はありません」

魔法使い「夢は、醒めたんですよ。雷帝」

――バキッ!

雷帝「ぐはッ!?」


氷姫「ら、雷帝!」

氷姫「ちぃっ!」オォオォ…

魔法使い「ほう。僕ごと全てを凍てつかせるつもりですか」

魔法使い「でも、そんな大それたことが…あなたに出来るんですか?」

氷姫「何を――」

氷姫「!?」

氷姫(思うように、魔力がコントロール出来ない…っ!?)

バチバチバチ…

パァンッ!

氷姫「ぁうっ…!」

魔法使い「…やれやれ。魔力を操り切れず暴発ですか。四天王とは思えない体たらくですね」

207 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 17:14:04.12 ID:ts4DPW7U0

氷姫「…こ、こんな」

氷姫(こんなこと………っ)

魔法使い「まだ認められませんか、氷姫」

魔法使い「あなたがこれまでの戦いで人間を裁いてきた力は、仮初めの力だったのですよ」

氷姫「………!!」

魔法使い「木竜が死した時、その一人分の力の還元には堪え忍んだ魔王ですが」

魔法使い「炎獣が死に、秘密が暴露されたことによって冥王の術が解かれ、あなた達の分の力も一気に身体に戻ったことで」

魔法使い「…壊れちゃったみたいですねぇ」



魔王「――あぐ」

魔王「うぐ――」

オォオォオォオ…


氷姫「魔王…っ」

氷姫「魔王ぉ…!!」

氷姫(…駄目っ…! このままじゃ魔王が、魔王が…っ!!)

氷姫(――助けて、炎獣 )



炎獣「」


氷姫「炎、獣…」

氷姫「………」

208 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 17:14:54.53 ID:ts4DPW7U0


氷姫(………そんな)

氷姫(炎獣が)

氷姫(魔王が)

氷姫(私達の積み上げてきたものが)

氷姫(全部………全部、一瞬にして)


氷姫(消え失せったって、言うの………?)


氷姫「………………」


魔法使い「さて、抵抗しないのであればあなたも後を追うことになりますが?」


氷姫(………………か)





氷姫(勝てない)






氷姫(私は、こいつに)



氷姫(勝て、ない…)



209 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 17:19:13.78 ID:ts4DPW7U0

魔法使い「絶望しましたか。無理もありませんね」

魔法使い「まあ、私はただ、あなた達が勇者一行に与えてきた絶望の」

魔法使い「その逆を与えたに過ぎないのですがね」


氷姫「…」

氷姫「…」パキ…

氷姫「…」パキパキパキ…


魔法使い「ん?」


氷姫「…貫けッ!!」ォオ…!

――パキィンッ!!

ドスッ

魔法使い「………」

魔法使い「氷の槍…。そうですか」

魔法使い「こんな事態に陥っても、まだ戦う意思を捨てませんか。氷姫」

氷姫「…はあ…っ、はあ…っ」ブルブル

氷姫(………畜生! 震えるな…っ)ブルブル

魔法使い「…ふむ、それもよいでしょう」

魔法使い「あなたが冥王の元で魔術を修めた実力は、嘘偽りない本物ですしね。それは天才の域といっても過言ではありません」

魔法使い「それに、あなたも」

魔法使い「先代の頃からの四天王…謀略の逆巻く魔界で、魔王を守り生き残ってきた武人ですものね」

魔法使い「雷帝」

雷帝「………」ズブ…


魔法使い「あはは。後ろからひと突きにされちゃいましたか。油断しましたかね」

210 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 17:20:20.50 ID:ts4DPW7U0

魔法使い「でも今の僕って、ちょっと生半可じゃないくらい強いですよ」

魔法使い「イカサマを働いたんじゃないかってくらいにはね」

雷帝「………」

雷帝(こいつ… !)

魔法使い「実際、裏技を使いましてね。ちょっとやそっとじゃ、もう僕は死にません」ググ…

雷帝「剣を…!」

雷帝(掴んで引き抜いただと! 物凄い力…!)

魔法使い「僕って元々結構強いんですけどね」

魔法使い「今なら、こんなことも出来ちゃいますよ」チョイ

オ オ オ オ オ オ オ … !


211 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 17:23:19.30 ID:ts4DPW7U0

氷姫「な、何…!?」

氷姫(王城が………!!)

雷帝「人間の、城が………」

雷帝「………形を、変えていく…!」



ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ…!!



魔法使い「王城は、せかくあなた達が目指してきたラストダンジョンですから」

魔法使い「雰囲気があった方がいいでしょう?」

魔法使い「といっても人間の本拠地ですから、魔王城みたいな禍々しい感じよりは、こういう方が性に合っていると思うんですよ」

魔法使い「どうです? お気に召しましたか、四天王」



魔法使い「これが………かつての古代王朝都市の技術の賜物」


魔法使い「――"機械城"です」



雷帝「機械、城…!?」

雷帝(眩い光をあちこちから発して、吹き出す蒸気が靄を産み出している…。それに)

氷姫「…空に、浮いた…!!」

氷姫「こんな、巨大なものが…っ!?」


魔法使い「ああ、しまった」

魔法使い「まだ国王や女王が中に居たんでした。無事でしょうかねえ」

魔法使い「まあ、どうでもよいことと言えばそうなんですが」

212 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 17:24:54.94 ID:ts4DPW7U0

雷帝「貴様が………」

雷帝「貴様がやったのか、これを…!」

魔法使い「――雷帝、氷姫」

魔法使い「戦えるのは最早あなた達二人だけのようですが、それでも僕を討ち取ろうと言うのであれば」

魔法使い「僕はあそこで待っていますよ。まあ、今のあなた達じゃあご足労頂いても返り討ちだと思いますけど」

氷姫「ま、待てっ!」

魔法使い「せいぜい、頑張って下さい…」スッ

ヒュウゥン…!

雷帝「…!」

雷帝(転移か………)


氷姫「………な」

氷姫「なんなのよ」

氷姫「なんなのよあいつ………」


氷姫「――………ッ!!」ギュウッ



雷帝「………………」






氷姫「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ…!!」










213 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 17:28:27.42 ID:ts4DPW7U0




オォオォオォオ…

魔王「――」

魔王「あ――」

魔王「――ぎ」


雷帝「魔王、様…っ」

雷帝(自我を喪失されている…! 瞳は開いてはいるが…、恐らくあそこには何も映し出されていない)

雷帝(波動の激流が渦巻いて…今の私では)

雷帝(近寄ることすらままならない)

雷帝「………」

雷帝「炎獣…」

炎獣「」

雷帝(………冷たい。あの、炎獣の身体が…)

雷帝「………」

雷帝「失ったのか、私は」

雷帝(――またしても)


氷姫「…」

氷姫「ねえ」

氷姫「雷帝」

氷姫「………教えてよ」

氷姫「あたし達、どうすればいい?」

214 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 17:29:24.50 ID:ts4DPW7U0

氷姫「もうあたしには分かんない」

氷姫「魔力が…いつもみたいにみなぎってこないんだ」

氷姫「あいつの言葉は全て本当で」

氷姫「あたし達の全部は………」

氷姫「――間違っていたの?」


氷姫「だから、こんな風に」

氷姫「負けちゃったのかなぁ………あたし達 」


雷帝「………」

雷帝「負け、か」

雷帝「そうだな。…これは、敗北に他ならない」

雷帝「炎獣を失って………魔王様を救う手立ても分からない」

雷帝「我々自身が練り上げてきたと思っていた力を失った」

雷帝「側近に………魔法使いに、我々は屈した」





雷帝「でも、不思議だな」

雷帝「私の足は、それでも前に進もうとしている」

215 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 17:31:36.50 ID:ts4DPW7U0

氷姫「………あんた」

雷帝「大事なものの多くを一度に失い過ぎたせいで麻痺しているのか」

雷帝「元々私は、こうすることしか出来ない生き物なのか」

雷帝「………"ここまで進んできて、止まれない"」

雷帝「私を突き動かすのは、その思いだけなのだ」

氷姫「………」

雷帝「ああ、進む先には絶望しかないのかもしれない」

雷帝「あんな計り知れない力を持つ魔法使いに」

雷帝「………きっと我々は勝てない」


雷帝「それでも私は進む」

雷帝「あの機械城へ」


雷帝「――私は行く」


氷姫「………」

雷帝「………」

氷姫「………」


氷姫「あたしも」

氷姫「………あたしも、行くわ」

216 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 17:32:04.80 ID:ts4DPW7U0



冥王「子猫さんたちは人間の王国の懐深く………」

冥王「四天王が死んだり勇者一行を殺したり、大忙しのてんてこまい」

冥王「………ああ、こんな日はお茶が美味しいわ」

冥王「さてはて、そろそろお前さんが舞台に上がる番ですのよ」


冥王「――魔法使い」


冥王「教えて差し上げなさいな。無知な子猫さんたちに」

冥王「世界の、真実を」

冥王「…ああ、でも。お前さん、自分のこととなるとてんで口下手なもんだから、ろくすっぽ語れはしないんでせうね」

冥王「そうですのね。誰かさんを呼び出してお話ししてもらうといふのが一番かしら」



冥王「例えば、過去の亡霊さんなんかに、ね………」






217 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/12/23(土) 20:48:58.94 ID:ts4DPW7U0



雷帝「………」

氷姫「………」


雷帝「…辿り着いた」

雷帝(機械城の真下。しかし、これは…)

氷姫「………地面がえぐれて、更地になってる 」

氷姫「あれ、本当に浮いてんのね」

雷帝「…ああ。どういう仕組みか、想像もつかんが」

雷帝(………おそろしく巨大な建物。人間界にも魔界にも、こんなものを実現できるだけの文明が起こり得たことなどない)

雷帝(しかし…奴はこれを"古代王朝都市"と言った)

雷帝(かつて…人間の歴史上に、ここまでの技術と叡智を持ったものが存在したというのか…?)

氷姫「雷帝」

氷姫「転移であそこまで行くわよ。捕まって」

雷帝「氷姫」

氷姫「…何よ?」

雷帝「私に無理に付き合う必要はない。死ににいくようなものだ。………いいのか?」

氷姫「…死ぬにしたってね」

氷姫「ここまで来て、棒立ちでってのはごめんなのよ。倒れるときには、前のめりに倒れてやろうって」

氷姫「今は、そう思う」

雷帝「………そうか」

氷姫「捕まって」

雷帝「ああ」

ヒュウゥン…!

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