国王「さあ勇者よ!いざ旅立t「で、伝令!魔王が攻めてきました!!」完結編

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18 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 14:49:08.21 ID:Y9AZ6UEU0

結晶花『…お姉ちゃん、優しいなぁ』

結晶花『本当はもっと』

結晶花『甘えたかったな』

氷姫「結晶花…!!」

結晶花『ねえ、迷惑かもしれないけど、聞いて?』

結晶花『私の最期のお願い』

氷姫「っ、なに?」ギュッ…

氷姫「お姉ちゃん、なんでも、きいてあげるから…っ」

結晶花『えへへ。ありがとう』

結晶花『…私の、氷部署の長の座を…』

結晶花『お姉ちゃんに、継いで欲しいの』

結晶花『そして………いつの日か、また氷部署を………』

氷姫「分かった」

氷姫「いいよ、結晶花」

氷姫「それくらい、御安い御用よ」

氷姫「ね、だから、お願いだから」

氷姫「あたし、あんたと一緒に――」






――――ズンッ!!





氷姫「あ…」



19 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 14:50:10.94 ID:Y9AZ6UEU0


ゴゴゴゴゴ…



炎獣「こ、氷の城が」

炎獣「崩れていく…」

魔王「…っ!」

魔王(テレパスも、消えた…)


氷姫「っ」ガクッ…







氷姫「………………………」





20 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 14:51:28.35 ID:Y9AZ6UEU0


炎獣「………」

魔王「………氷、姫」


ズズ…


炎獣(? なんだ、この気…)

魔王「………!!」

魔王「この魔力は…っ!」


氷姫「………さな…」







氷姫「――許さない」ズズズズ…!






氷姫(全ての魔力を出しつくせ)


氷姫(破壊の衝動の全てを力に変えろ)


氷姫(もっと)


氷姫(もっとだ)





魔王「この魔方陣…!」

魔王「氷姫っ!! 駄目っ!!」



















氷姫「 究 極 氷 魔 法 ! ! 」



21 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 20:58:52.10 ID:Y9AZ6UEU0

海王「…これで、こっちの始末は終わりじゃ」

海王「しかし…寸での所で氷部署の長の継承を許してしもうたのう」

海王「なんちゅう体たらくじゃ。ぇえ?」

海王「虚無よ」

虚無「………」

海王「娘っ子一人、刈り取れんとはのう」

虚無「…うぬの使いが足を引っ張ったのだ」

海王「水精がか? カッ」

海王「使えん奴っちゅうのは、とことん使えんのう」

海王「ほいで、その水精は何処に――」


ズズ…

海王 虚無「!」

虚無「この気配は…」

海王「誰じゃ、こんな大それた事をしよるのは」

虚無「………うぬが侮った」

虚無「その娘っ子であろうな」

22 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 21:00:07.51 ID:Y9AZ6UEU0

ゴォオッ!

炎獣「なんだ!? どうなっちまったんだよ、氷姫は!?」

魔王「究極氷魔法の詠唱に入ってるんだ…!」

魔王「魔力の放出量が凄まじくて、私達が近寄ることも出来ない…っ!」

魔王(究極氷魔法は、全ての魔力を喰らい尽くして発動する魔法だ。コントロールし切れなかった時は)

魔王(死が待ってる…! 今の感情に任せた氷姫の詠唱じゃあ………!!)








ズッ

氷姫(死の行進)

氷姫(全ての敵を狩るまで止まらない死神の召喚)

ズッ

氷姫(あたし自身が冥界とのゲートになる)

氷姫(一度死神の鎌を掻い潜ったあたしはもう条件を満たしている)

ズッ

氷姫(深く潜れ。冥界はここからそう遠くない)

ズッ

氷姫(さらかる深みへ)

ズッ

氷姫(あの極彩色の世界へ)



ズッ







死神「…」

23 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 21:01:14.53 ID:Y9AZ6UEU0

氷姫(見えた…。死神だ)

氷姫(さあ! あたしの魔力を喰らえ!)

氷姫(好きなだけ喰らうがいい!!)

氷姫(代わりによこせ! お前の力を!!)


氷姫(あたしは望むっ!)

氷姫(醜い裏切り者共の断罪を!!)

氷姫(冷徹で犀利な大鎌による制裁を!!)




死神「…」ォオ…

ガシッ


氷姫(っ!?)

氷姫(どうして…。どうして、あたしの体を掴む!?)

氷姫(敵は外だ!! くそっ、言うことを聞けっ!!)

死神「…」

氷姫(…まさか)

氷姫(魔力が…足らないっていうの…?)

氷姫(それとも、あたしが、あんたを牛耳るのに値しない使い手だと…?)

死神「…」

24 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 21:02:18.82 ID:Y9AZ6UEU0

氷姫(どうしても殺さなきゃならない奴らがいるのよ!!)

氷姫(生かしておいちゃいけない奴らが!!)

氷姫(あたしは死ねないんだ、こんなところで!!)

氷姫(あいつらを殺すまではっ!!)

死神「…」

氷姫(くそ…)

氷姫(またか…)

氷姫(どうせ…あたしには何も出来ない)

氷姫(復讐の…ひとつすら………)





炎獣「お、おい…! なんか氷姫の身体が、地面に引き込まれてねぇか!?」

魔王「…!」

魔王「炎獣、ここをお願い!」

炎獣「え?」

魔王「また彼らが攻めてくるかもしれない。そしたらここを守って!」

炎獣「そりゃ、もちろんだけどよ! お前は何処行くんだよ!?」

魔王「すぐ、戻る!!」バリバリバリ…!

魔王「転移っ!!」

ギュゥン――!

炎獣「ええっ!?」



25 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 21:03:34.87 ID:Y9AZ6UEU0



冥王「………あら」

冥王「いやね、さっきは死ぬほど無様な転移を披露していたくせして、急になんて見事な転移をするんでせうか」

冥王「先ほどは手を抜いていらしたのかしら? …子猫さん」

魔王「――…お師匠様」

冥王「お前さん、情けない意気地無しのくせして、誰かのためなら無い気概を少しばかり絞り出してみせる、という所かしら」

魔王「…」

冥王「…その顔。面倒事をしこたま背負って帰って来ましたわね」

冥王「順序立てて、お話なさいませ」






金髪《………》

金髪《出来たんだな。滅茶苦茶ムズい、魔法》

魔王《ええ》

魔王《最も、あたしが転移を成功させたのは、後にも先にもこの一回きりだったのだけど》

金髪《なんで?》

魔王《え?》

金髪《なんで出来たんだ?》

魔王《…》

魔王《大切な、友達を守りたかった》

魔王《この時はただその一心だったな》

金髪《…大切な友達を、守る…》

金髪《………そうだ、俺》

金髪《俺も、守らなきゃ。赤毛を…》

赤毛《………》グタ…

26 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 21:14:47.70 ID:Y9AZ6UEU0

魔王《うん、よし》

魔王《私自身を蘇らせれば蘇らせるほど、私の杭としての役目は強まる》

魔王《ここから投げた思いの糸で、この子を引き上げる…!》

赤毛《………》

魔王《思い出せ。あの時のお師匠様のように――》

魔王《!?》グラッ

魔王《な、何!? 異様な力がこちらを引っ張ってくる!》

魔王《こんなこと、有り得ないはず!》


《――どんな、未知なる奇跡も》

教皇《私であれば可能なのだよ、魔王》


魔王《あ、あなたは!》

教皇《さあ。貴様も来い》

教皇《我が存在の中へ》

魔王《うぐっ!!》

金髪《お、おい!》












氷姫「…………」ユラ…ユラ…

炎獣「氷姫の体が、半分以上地面に呑まれちまってる…!」

炎獣「これが、究極氷魔法の代償だってのか…!? ちくしょーっ、どうすりゃいいんだ!」

炎獣「くそっ…急いでくれ、姫…!!」

炎獣「!」ピク


「――ここにおったんかい」

海王「一緒におるのは、先代の娘の手勢か?」

海王「カッ、手間が省けるわい」

虚無「………」


炎獣「…ちっ」

27 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 21:16:02.31 ID:Y9AZ6UEU0

炎獣「あんだよ、てめぇら」ギロ

海王「口の利き方のなっとらんガキじゃのう」

虚無「………気を抜くな」

海王「ふん。多勢に無勢じゃ。こっちにゃ一部隊丸々ついとるんじゃぞ」

炎獣(くそっ、やべえ。敵の数が多い。囲まれてる)

炎獣(しかもこの二人…四天王クラスのバケモンだ)

炎獣(かといってここを動くわけにはいかねぇ)チラ

氷姫「………」ユラ…ユラ…


虚無「………氷の女王は、自滅しているな。放っておいて問題ないだろう」

海王「何を日和っとるんじゃ、ワレは。邪魔するもんは全部排除すればええ」

炎獣「あんたの言う通りだな」

海王「…何?」

炎獣(へっ、四天王クラスか…)

炎獣(いいじゃねぇか。丁度いい。姫が魔王になるってーんなら、俺は)

炎獣(倒してやるよ。そんくらいの敵なんざ)


炎獣「やるんだろ、オッサン?」

炎獣「――かかって来いよ」ピシ…


海王「カッ!」

海王「面白いガキじゃのう」

海王「ええじゃろう………!」














「おやぁ――?」


「おやおやおや?」



冥王「このあたくしを差し置いて、随分盛り上がったご様子ねえ」

28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/07(土) 21:21:09.02 ID:u03vDrZq0
赤毛って字がホモに見えた
29 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 22:44:54.65 ID:Y9AZ6UEU0

海王「め…!!」

虚無「冥、王………!!」

炎獣「師匠!」パァ

虚無(馬鹿な…!! 早すぎる!!)

虚無(一体どうやって嗅ぎ付けて来た!?)

魔王「…」フラ

炎獣「姫! 大丈夫か?」

魔王「う、うん…」

炎獣「…成功させたのか」

炎獣「お前、すげーよ。ほんと」

虚無(まさか…! あの小娘が転移を成功させたのか!?)

虚無(完全な誤算だ…!!)



冥王「海王。それに虚無」


冥王「魔界の重鎮が揃いも揃ってこんな所になんのご用でせうか?」

虚無「っ…!」

海王「ぐう…!」

30 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 22:46:31.21 ID:Y9AZ6UEU0

海王「………お」

海王「お前さんこそ、どういう風の吹き回しじゃい、冥王」

海王「ここは冥界の外じゃ。お前さんが出しゃばる理由がワシにはわからん」

冥王「 へ え ? 」

海王「っ…!」

冥王「分からないんですの。そうですのね…」

炎獣「師匠! そんなことより、氷姫が大変なんだ!」

炎獣「このままじゃ――」

冥王「」グワッ

炎獣「うっ!?」






氷姫(これが、究極氷魔法を失敗した、代償)

氷姫(………生者の魂が、抜け落ちる、か)

氷姫(こういうことなんだ…って分かったときにはもう終わりなのね)

氷姫(体の感覚が曖昧で、凍りついてしまったかのように寒い。辛うじて働いてるのは頭だけで)

氷姫(その頭を…奴がはね飛ばすんだ)


死神「…」




――ヒュルヒュル!

氷姫(!? 何!?)

氷姫(天から、黒い糸が垂れ下がってきて…!)

バシッ!

死神「!」

氷姫(…死神を、縛った!?)

31 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 22:47:42.51 ID:Y9AZ6UEU0

死神「…」ググ…!

氷姫(死神が動きを封じられてる…。それと同時に、あたしの体に血の気がさしていくみたい)

氷姫(あの糸は一体どこから…? 死神を御すなんて、一体誰がそんな高位魔法を…)

氷姫(………いや。こんな滅茶苦茶を平気でしてのける存在を、あたしはひとりしか知らない)

氷姫(あの糸の先には、きっと…!)

氷姫(あの糸を辿るんだ! そうすれば戻れる!)

氷姫(まだ、私は生きれる!!)

グワッ

氷姫(! 急に、凄い力に引き上げられて――!?)






ザブン!

氷姫(…あ)

冥王「これで、満足かしら?」

魔王「!」

炎獣「氷姫!!」

氷姫(戻って…)

氷姫(来た)

冥王「本当にやかまし屋のお弟子さんを持ったもので、参っちまふわ。けれど、お前さん殺しても死なないくらいしぶといものだから」

冥王「黙らせちまふには、とっとと済ますのが一番」ポイ

炎獣「おっと!」ダキ

氷姫(わ…っ)

炎獣「大丈夫か、氷姫」

氷姫「う、うん…」

魔王「お師匠様…」

魔王「ありがとう、ございます…!」

冥王「あたくしはお前様方の便利屋ではないのですけれどねぇ、嫌だわ」

冥王「だから黙ってすっこんでいなさいな。よろしくって?」

32 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 22:49:24.97 ID:Y9AZ6UEU0

冥王「………さあて」

冥王「あたくしのお弟子さんが、とっても危険な目にあっていたようなのですけれど、何か身に覚えはなくって?」

海王「…カッ、そいつが勝手に自滅しただけのことじゃろがい」

海王「それにしてもらしくないのう。かの冥王が、そこまで弟子に愛情を注いでいたとは、初耳じゃが」

冥王「あら、勘違いは困りましてよ」

海王「あん?」

冥王「おほほほ…! やっぱりあなた様、見かけ通りに愚鈍なのんしゃらんですのねぇ」

海王「あ…!?」

冥王「あたくしのお弟子さんはね、あたくしの弟子になったその時から」


冥王「――あたくしのオモチャなんですのよ」


冥王「ですからあたくしのオモチャに手を出すなんて行為は」


冥王「あたくしの冥界への侵略行為であり」




冥王「宣戦布告に他なりませんわ」





冥界「ましてや、オモチャの分際であたくしに反旗を翻すなんて」









冥王「――許されませんのよ? 虚無さん?」ォ オ オ







虚無(超限界突破の魔力………)

虚無(我が力を持ってしてもおそらくは敵わない)

虚無(…………ここまでか)

虚無「――転移」フッ…

33 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 22:50:32.75 ID:Y9AZ6UEU0

冥王「 さ せ ま せ ん わ 」

ガシッ


虚無「!!?」

虚無(馬鹿な!! 転移体になった身体を、掴んだ!?)

虚無(そんなことが出来るのは生命体ならざる存在――)




冥王「"食"」

虚無「………え?」




―― バ ク ッ











海王「な………ッ!!」

魔王「………そ…そんな………」

炎獣「食った…!!」

34 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 22:52:18.00 ID:Y9AZ6UEU0

冥王「あら、いやだわ、うふふ」

冥王「これは存在を解体する、無属性魔法ですのよ」

冥王「別に本当に頂いたわけじゃなくってよ、いやあねぇ」


氷姫(…き…消え去ったって言うの?)

氷姫(あれだけ強力な存在だった、虚無が………)

氷姫(…一瞬にして…)



海王「そ、存在を解体する………!?」

海王「そんな化け物じみたことが、出来るわけが―― 冥王「そんなことよりも」

冥王「大事なことは、もっと他にあるでせう?」

海王「っ!!」ゾッ

冥王「お前様が、あたくしに働いた狼藉の」




冥王「"おとしまえ"、ですわぁ」

35 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 23:13:38.66 ID:Y9AZ6UEU0

海王「まっ……待ってくれい、冥王」

海王「詫びならいくらでもする。この通りじゃ!」

海王「しかし、虚無と違ってワシはあんたんとこの下僕に手ぇ出すつもりなんぞ微塵も無かったんじゃい…!」

海王「ワシの部のものが勝手に虚無に荷担しただけのこと!」

氷姫「!?」

炎獣「…水精のやつの、独断だったって言うのか!?」

魔王「そんな…」

氷姫「いや………違う」

――水精「海王様のお言い付けなんだ。逆らうわけに、いかないんだ」

氷姫「あいつは命令だって、確かにそう言ったんだ…!」

海王「…裏切り者が何を言うとったとしても」

海王「信用に値するのかいのう?」

冥王「………」

氷姫「ふ、ざけるな…!」

氷姫「本当の裏切り者は、どっちだ!!」

海王「カッ。若輩がよう鳴くわい」

海王「水部署の長として誓おうぞ、冥王。ワシにはお前さんに対する敵意はこれっぽっちも――」

ヂッ

冥王「!」

36 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 23:14:58.77 ID:Y9AZ6UEU0

氷姫(高水圧のレーザーが………っ!!)

氷姫(冥王様の、頬を…掠めた…!!)

海王「な………!!」

海王「誰じゃあ!! 勝手に仕掛けたんは!!」

海王「見つけろ!! 血祭りに上げるんじゃあ!!」

冥王「………」

海王「め、冥王…! 違うんじゃ、これは………ッ」


冥王「」スゥ












冥王「 ブ チ キ レ ま し た わ ! ! 」









37 :シップwaterfall339 [saga]:2017/10/07(土) 23:17:52.56 ID:Y9AZ6UEU0






氷姫《それから先のことは…よく覚えてないな》

氷姫《怒り狂った冥王様が、無数の軍勢を焼き尽くした》

氷姫《海王の抵抗空しく、氷の領域に集まっていた勢力は》

氷姫《奴もろとも全滅した》

氷姫《あたしの仇は、一瞬にして灰塵に帰した…》

氷姫《皆消えてなくなったわ》

氷姫《更地みたいになった氷の領域であたしたちは》

氷姫《………瀕死の重症を負った、水精を見つけたの》




水精「ぜぇ、はぁ…」

水精「なーによ、雁首揃えて…なんか、用?」

水精「ほっといても、アタイは、死ぬわさ、ぜぇ」

水精「はぁ、はは、それとも何、どうしても止め刺さなきゃ、気が済まない、て?」

魔王「…」

炎獣「…」

氷姫「…あの、冥王様への攻撃」

氷姫「あんたでしょ」

38 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 23:21:30.70 ID:Y9AZ6UEU0

水精「はは、バレちゃうか、はあ」

氷姫「死角からの攻撃だったとは言え、あの冥王様に手傷を追わせた高出力。他に、そんなことが出来る手練れは水部署にはいないわ」

水精「なにさ、誉めても何も、出ないわよ」

水精「――もう、アタイ、死ぬんだから…」

氷姫「………あんた、何がしたかったのよ」

水精「………」ゼェハァ

水精「人間から、停戦の申し出があったんだわ、さ」

魔王「!」

水精「魔界の勢力のひとつの、長の首と引き換えに」

氷姫「!!」

炎獣「…に」

炎獣「人間が…!」

魔王「…っ」

水精「話は、強大な力を持つ、闇部署の、虚無の所へもたらされた」

水精「虚無は、追い詰められていた海王様と、それから恐らく、炎部署の鳳凰にも、根回ししていた」

炎獣「!」

水精「魔王の座を争う、一勢力を排除して…人間の驚異も退ける、一石二鳥の、策として」

水精「生け贄には…トップについて間もない、未熟な結晶花の率いる、氷部署が選ばれた」

39 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 23:24:13.13 ID:Y9AZ6UEU0

水精「先代の娘…あんたに与する、雷帝と木竜は手強いから、ね」

魔王「………」

水精「虚無は、氷部の跡取りの血を、確実に絶やすために、このお師匠のところ、に、潜り込んだ」

水精「氷姫、あんたを、殺すため…」

氷姫「…」

水精「それも、失敗に、終わった。あたしの、せいでね」

水精「はっ、ざまぁ、ないわさ」

氷姫「――あんた………」

水精「アタイには」

水精「もう、先がなかっ、た」

水精「海王様に、背くわけには、いかなかったし、あんたを殺せても」

水精「口封じのため、すぐに殺される…」

魔王(………なんて)

魔王(なんて酷い、話だ)

氷姫「…っ」

水精「だから、最後のあれは、復讐、だわさ」

水精「いいように、弄ばれた、アタイから、海王様、への、ね」

40 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 23:25:18.83 ID:Y9AZ6UEU0

水精「あーあ…冥界なんて、来なければ、なぁ」

水精「そうすれば、もっと、うら若き身体を、もっとさ………」

水精「…何か………」

炎獣「水精…!」

水精「………"魔王"が」

水精「………"魔王"がいないせい…さ…全ては」

水精「…魔界を…統治する…強力な…支配者が………いなければ」

水精「………魔族…なんて………こんな…もんさ…ね」

魔王(………)

水精「――アタイ」

水精「………あんたに………勝ち………たかった」

水精「………氷の女………王………に」

水精「………ただ………誉められた………くて………」

氷姫「水精!」







水精「」





41 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 23:26:20.55 ID:Y9AZ6UEU0

氷姫「………」

炎獣「………人間の脅し。魔王の座を巡る争い」

炎獣「それが、こんな争いを引き起こしたって」

炎獣「そういうことか」

氷姫「………」

氷姫「水精も…多くの魔族も………死んで、もう戻ってこない」

氷姫(――…結晶花も)

魔王「…っ」

氷姫「………魔王の座がなんだってのよ」

氷姫「そんなことのために、こんなに殺して…っ」

氷姫「くそ…っ!」ゴッ

氷姫「くそぉっ………!」ゴッ…




魔王「………」


炎獣「…氷姫」

氷姫「うぅ…」

氷姫「うぅぅうううっ…!!」ポロポロ…


42 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 23:27:27.15 ID:Y9AZ6UEU0


魔王「ねえ、炎獣」

炎獣「うん」

魔王「………氷姫」

氷姫「…」

魔王「――………私」




魔王「私、魔王になる」





氷姫「!」

炎獣(………)







魔王「こんな争いが起こらない魔界を」


魔王「私が、作る」











魔王「絶対に」



43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/10/07(土) 23:28:02.51 ID:Y9AZ6UEU0
今日はここまでです
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/08(日) 01:29:07.68 ID:JGJM4XVA0
待ってた

大量更新おつ
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/09(月) 20:20:16.47 ID:d0Op1sF7o
おつおつ待ってた
46 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/14(土) 08:55:33.79 ID:0W6d7gZb0
>>17誤字訂正
結晶花『知ってた? お姉ちゃん、なかなか私の名前読んでくれなかったから』

○結晶花『知ってた? お姉ちゃん、なかなか私の名前呼んでくれなかったから』

次の投稿から酉を変えます↓
◆EonfQcY3VgIs
47 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 09:02:08.29 ID:0W6d7gZb0

――――――
――――
――




木竜「………なるほどのう」

雷帝「姫様が」

雷帝「そう仰るのでしたら…」

木竜「うむ」

雷帝「我らは身命を賭して、役目に当たるのみです」

木竜「………とは言え、まずは」

木竜「お帰りなさいませ。姫様」




魔王「…うん。ありがとう」

魔王「ただいま」

48 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 09:04:38.25 ID:0W6d7gZb0

炎獣「よっ、じーさん」

木竜「炎獣」

炎獣「…守ったぜ。いや、守られたのかな?」

木竜「うむ。色々あったようじゃな」

木竜「炎獣。………恩に着る」

炎獣「…へっ。よせやい、照れるべ」

雷帝「………」

炎獣「なんでムッツリ顔してんだよ、雷帝」

雷帝「…いや」

雷帝「お前の後ろに居るのは、なんだ?」

炎獣「ああ、こいつはな」

「こいつ?」

氷姫「何か態度がでかくなったわね、あんた」

炎獣「え、や、この方はですね…」

雷帝「氷の女王…氷姫」

氷姫「あら。あんたあたしのファンか何か?」

雷帝「その辺りの事情は、事前に姫様からの便りで聞いている」

氷姫「ちょっと、無視かよ!」

炎獣「おお、流石姫だな」

木竜「儂も例の現場は見てきたぞい。…究極氷魔法の、失敗。痛い目見たようじゃのう? 氷姫」

氷姫「う…うっさい!」

木竜「ほほ。…お主もしばらくは行く所もなかろう」

木竜「何よりも、姫様たっての推薦じゃ。しばらくここを、お前の家と思ってよいぞ」

氷姫「っ…」

氷姫「ま、まあ、力を貸してやらなくはないわよ」

炎獣「たはは…」

雷帝「それよりも、だ」

雷帝「…問題は、もう一人の方だ」

魔王「!」

炎獣「えっ、えっとぉ…」

氷姫「うっ…」

魔王「あ、あのね、雷帝」

魔王「これには深いワケがあって!」








「おやまあ、こんなチンケな出迎えしかないなんて、次期魔王が聞いて呆れる甲斐性だこと」

冥王「最上級の椅子とテーブル、それから紅茶の準備をする係は、何処の何方のお仕事ですの?」

49 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 09:06:51.11 ID:0W6d7gZb0

氷姫《本当に、なんの気紛れだったのか》

氷姫《修練を終えたあたしたちに、冥王様はついてきて、魔王がその座につくための協力を申し出てくれた》

氷姫《冥王様は、元々冥界という治外法権の主であると同時に、邪神を崇める司祭でもあった》

氷姫《司祭の仕事の方は、冥王様はろくにしていなかったのだけど…"魔王の承認"という大役が、その仕事には含まれていたわ》

氷姫《つまり、冥王様が「魔王はこの者だ」と言ってしまえばそれで魔王は決定してしまうわけ》

氷姫《冥王様が自ら"承認"をすることは今までに無かった。魔界の争いにおいて頂点に立った者が、形式的にそれを受けに冥界を訪れるのがそれまでの習わし》

氷姫《あたしたちの作戦は、そういうものを全部すっ飛ばして、当時の姫を魔王にしてしまおうって、そういうものだった》

氷姫《水部と闇部、それに氷部が滅んだ今、魔界の勢力図は大きく変化して》

氷姫《それぞれの部の長である木竜と雷帝、そして冥王様の試練で大魔術師の称号を手にしたあたし、そして邪神の加護を持つ魔王自身に、圧倒的破壊力の炎獣を従える一派は》

氷姫《魔界最強とも言える集団となっていた》

氷姫《ああ。結局魔王はあれっきり転移を使えなくって…あたしに転移体得の権利は移されたわ》

氷姫《納得は出来なかったけど…やはり転移はあたしの方が上手く覚えてみせた》

氷姫《ともあれ、冥王様がいつになく魔界勢力に関与した今回の王座争奪戦争は》

氷姫《冥王様の"承認"で呆気なく幕を閉じたわ》

50 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 09:14:32.64 ID:0W6d7gZb0

氷姫《元々炎獣の蘇生の時に、魔王になるっていう約束を交わしていたみたいだけど…冥王様の考えることは最後まで分からなかった》

氷姫《厄介だったのは、炎部署の鳳凰。奴は自らを四天王とすることを条件に、魔王への服従を提示してきて…》

氷姫《…え? あたしがどうして魔王について行ったか?》

氷姫《………そうね》

氷姫《他に行くべき所も無かったし…なんてのは駄目よね》

氷姫《魔王は…あたしの命を救ってくれた。その逆もあったけど…冥王様のしごきの中で、運命共同体みたくなっちゃったのよ》

氷姫《あの事件を一緒に経験した…ってこともあったし、それに何より》

氷姫《魔王なら、魔界を争いのない世界にしてくれるって、そう思った》

氷姫《あんなのは、もう二度とゴメンだったからさ》

氷姫《あたしはそのために、力を役立てたかった》

氷姫《…そうしたら、いつかあの子との…結晶花との約束も果たせるんじゃないかって》

氷姫《そう思ったのよ》

51 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 09:15:34.25 ID:0W6d7gZb0

氷姫《…あれ》

氷姫《涙、か》スッ

氷姫《笑っちゃうわね。氷の女王のくせに、涙なんて》

氷姫《でも、あたしの存在がそれだけ構築されたってことね》

氷姫《流石あたしだわ。一人でなんとかなるもんね》フフン

氷姫《………結晶花。あの日のこと、忘れたことないよ》

氷姫《必ずいつか、約束、果たしてみせるから――》


《あの日の騒乱の黒幕が誰であったか》

《お前は知らぬままなのに、な》


氷姫《っ! 誰!?》


《私か?》

教皇《お前たちを解体する者だ。よく覚えておけ》


氷姫《――敵!》ザッ

教皇《…どうやら、驚くべき速度で再構築を成し遂げたようだな。氷の女王》

教皇《しかしお前には、私に牙を向くことさえ許されない》

氷姫《何!?》


ゴポゴポ…!

魔王《…っ》


氷姫《魔王!?》

氷姫《取り込まれて、いるの!?》

52 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 09:18:03.43 ID:0W6d7gZb0

氷姫《馬鹿な…っ、あの、魔王が!?》

教皇《お前になす術などない》

教皇《そして、私の圧倒的な力の前に》

教皇《再度屈するのだ》ォオ…

 ド ッ !!

氷姫《がッ…ぁ!?》

氷姫《ぐぅ…っ!! な…なんてっ》

氷姫《なんて圧力………!!》

氷姫《これはっ…!! あの時の支配力に似てる…っ!!》

氷姫《貴…様ぁっ! また、あたしを操るつもり、か………!!》

教皇《…その未完成の状態では、本来であれば砕け散らない方が不思議なくらいだが…流石、四天王か》

教皇《だが、それも》

教皇《"仮初めの力"だ》

氷姫《何、ですっ、て!?》

教皇《お前は知らんのか? 何故貴様ら四天王がそこまで人間を圧倒できるのか》

教皇《その真実を》

53 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 09:20:56.39 ID:0W6d7gZb0

教皇《冥王が何故、魔王についてその側にいたか》

氷姫《…っ!!》

教皇《お前は何も知らないのだな》

教皇《無知なものが振るう大きすぎる力ほど、恐ろしいものはない》

教皇《排除されるべきは》



教皇《貴様らだ、四天王》






魔王《ぐっ…ごほっ…!》

魔王《苦しい…っ。くっ、取り込まれた!?》

魔王《私の存在、あと少しまで修復出来ていた、のに…!!》

魔王《なんて、強大な力…!!》

「………それで、どう…たのだ?」

魔王《!?》

「…ええ。虚無…、条件を飲む…ですよ」

「ふん。魔族も御し易くなっ…ものだ。先代魔王の存在………魔界にとって…大きかった…かもしれない」

魔王《これ、は…っ》

魔王《この人間の…教皇の、記憶っ!!》


教皇「で、その生け贄の部族には、どこが選ばれるのだ?」

魔法使い「予定通りです。氷部が選ばれました」

魔法使い「今回の一件を機に、氷姫という魔族が先代の娘の一派に合流するはずです」

教皇「これで、四天王となるべき魔族の顔ぶれが揃うというわけか」

魔法使い「ええ。ここで未来の魔王と四天王の結び付きは別ちがたくなります。冥王の後押しも相まってね」

魔法使い「台本通りですよ」

54 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 09:23:38.58 ID:0W6d7gZb0

教皇「………魔族ですら思いのままか」

教皇「そら恐ろしくすらあるな」

魔法使い「何を今さら恐れているのです?」


魔法使い「ショーは、これからでしょう?」



魔王《!!》

魔王《こ、これは…っ》

魔王《一体…――》




《転移っ!!》

――ギュオォンッ!

氷姫《魔王!!》

魔王《氷姫!?》

氷姫《脱出するわよ!!》

氷姫《ボヤボヤしていたら、あたし達の存在ごと精神を溶かされるわ!!》

55 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 09:24:29.82 ID:0W6d7gZb0

魔王《っ! だっ、駄目! 待って氷姫っ!》

魔王《今離れたら、この子が取り込まれてしまうっ!!》

赤毛《………》

氷姫《っ…! 魔王…!》

氷姫《その子は………人間なのよ!?》

魔王《…分かってる!》

魔王《でもこの子がいなかったなら! 私たちは今、この瞬間に死んでいる!》

魔王《再生が間に合わず、敵にひねり潰されていた!!》

氷姫《くっ…!!》

――金髪《お願いだよ…!!》

氷姫《………っ》

氷姫《ああ、もう!!》

56 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 09:25:36.54 ID:0W6d7gZb0

教皇《――抗うな。全ては必然――》

教皇《――そして必然の全ては我が手の内にある――》


魔王 氷姫《!!》


教皇《――考えたことはあるか――》

教皇《――今の貴様らを形作る過去が――》

教皇《――本当に本当なのか――》

教皇《――貴様ら自身が形作ってきたものが、確かなのか――》


魔王《っ!!》


氷姫《…魔王!!》ガシッ

氷姫《あたしを見て!!》

魔王《氷、姫》

氷姫《今は奴の言葉の意味を考える時じゃない!!》

氷姫《あたし達は、生き残らなきゃいけないんだ!!》

氷姫《そうでしょ!? 魔王!!》

魔王《――!》

魔王《………ごめん、氷姫…!》

魔王《そうだ…! この場を切り抜ける策を考えなきゃ…!!》

氷姫《策なら、ひとつあるわ!》

魔王《! それって…》

氷姫《魔王! あたしに》

氷姫《魔弓を撃って!!》

57 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 09:26:52.42 ID:0W6d7gZb0

魔王《っ!?》

氷姫《言っとくけど、出来うる限りパワー絞ってよ!》

氷姫《あたしがその求心力を反射して、あたし達の位置移動エネルギーに変換するっ!!》

魔王《出来るの!?》

氷姫《知らないわよ!!》

氷姫《やるしか、ないでしょうがっ!!》

魔王《………もし失敗したら…》

魔王《氷姫は…!!》

氷姫《――見くびらないでよ、魔王》

氷姫《冥王様のとこじゃ、魔力制御技術の成績は、あんたの比じゃなかったんだから…っ》ニヤ

魔王《…!》

氷姫《迷っている時間はないわよっ、魔王!!》

魔王《………分かった》

58 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 09:28:00.11 ID:0W6d7gZb0


魔王《行くよ、氷姫!!》




氷姫《来い!!》









魔王《――魔弓っ!!》
























59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/14(土) 13:00:23.25 ID:13ZcuFtzO
真由美…
60 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 13:00:37.74 ID:0W6d7gZb0









教皇《………》

教皇《逃がした…のか》

教皇《魔弓のエネルギーを利用して、空間の彼方へ飛び去った》

教皇《自殺行為になりかねんことを、よくも………》


――教皇《排除されるべきは貴様らだ、四天王》

――氷姫《………》

――氷姫《知らないわよ…!》

――氷姫《あたし達が何であろうと…!! あたしには、もう失えないものがあるの!!》

――氷姫《守らなきゃならない、友がいるの!!》

――教皇《友…?》

――氷姫《転移ッ!》パチッ

――教皇《…ぬっ。貴様――》

ギュオォンッ…


教皇《………友、か》

教皇《これもまた、お前の筋書き通りなのか?》

教皇《つくづく、憐れみ深い男だ………お前は》

教皇《まあいい》

教皇《奴らは逃げ切ったように思い込んでいるようだが、"これ"は我が手中にある》

教皇《貴様らの崩壊は………もう、すぐだ。魔王》




61 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 19:06:30.90 ID:0W6d7gZb0





氷姫《ぜっ…はっ…》

魔王《逃げ、切れた………》

氷姫《へ…へへっ…》

氷姫《どーよ。見たか》

魔王《…氷姫。あなたって人は》

魔王《いつもいつも、命を賭けるような無茶をして………そして》

魔王《救ってくれるんだね…。私たちを》

氷姫《…あんたが魔王になった今だって…妹みたいな感じだからねぇ。あたしにとっちゃ!》

魔王《ふふ》

魔王《ありがとう》


魔王《それにしても………あの魔法使いと教皇の言葉。あれは…真実なんだろうか》

魔王《いや…私達の精神を揺さぶるための幻惑?》

62 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 19:08:15.46 ID:0W6d7gZb0

氷姫《…魔王》

魔王《!》ハッ

氷姫《あんたに何が見えてるのか、あたしには分からない。敵の言葉からですら、あんたは色んなものを読み取れるんだと思う》

氷姫《ただあたし達は、迷いながらでも進まなきゃならない》

魔王《…》

氷姫《あたしは、目の前のことを切り抜けるのに必死だからね。小難しいことは、あんたに任せる》

氷姫《あんたはその眼を開き続けて。見えたものへの道は、多少無理したってあたしが切り開くわ》

魔王《氷姫………》



《うおぉ?》

金髪《ど、どうなってんだ?》

魔王《! この子…》

氷姫《ああ、移動の瞬間に引っ付かんで、連れてきたの。残して来るわけにいかないでしょ?》

魔王《――氷姫…ありがとう。本当に。これで、赤毛ちゃんも…》

魔王《…!? そんな…っ》

氷姫《どうしたの?》

赤毛《…》

魔王《ここにあるのは…再生したこの子の肉体だけだわ》

金髪《…え?》

魔王《心が、ない。………精神だけが、囚われたままになってしまっている…!》

魔王《彼………教皇に…!》

63 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 19:09:16.10 ID:0W6d7gZb0

金髪《そ、そんな》

金髪《なんで? なんでだよ!? 赤毛、どうなっちまうんだよ!!》

魔王《………魔壁の内側は、精神世界としての意義が強い空間。だから、心は存在のほとんどを占める要素よ》

魔王《このままでは、彼女は教皇に利用される…》

氷姫《一番最初に、あたし達の自我を奪った時と同じように…か》

魔王《ええ。あんなに膨大な力を受けたら、今の私たちではひとたまりもないし、それに》

魔王《この子の心が、もたずにバラバラにされてしまうわ》

金髪《! …あ、赤毛っ》

魔王《状況を打破するには、私たちの力が足りない。逃げ回るので、精一杯》

氷姫《でも、あたしはほとんどの記憶を取り戻してんのよ? これ以上、どうしろって言うのよ》

魔王《…失われたピースが、まだひとつ戻っていない》

氷姫《! それって…》

魔王《そう》

魔王《まだ記憶を取り戻していない………雷帝の存在》

64 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 19:10:59.51 ID:0W6d7gZb0

魔王《雷帝は、私だけではどうにも出来ないほどの絶望に、心を閉ざしていた》

魔王《でも力の多くを取り戻した今の私や、氷姫や炎獣との繋がりがあれば或いは、再生の道を踏み出せるかもしれない…!》

氷姫《アイツの力が戻って初めて、教皇と張り合える可能性が出てくるってわけ?》

魔王《うん…だから》ス…

金髪《…? な、なんだよ》

魔王《私たちを、雷帝の所へ連れて行って》

金髪《はあ!? オ、オレが!?》

魔王《ええ。炎獣や雷帝と私たちを、結びつけて欲しいの。あなたになら出来ることよ》

金髪《んなこと急に言われたって…!》

魔王《行く先々で、あなた達は赤毛ちゃんとの繋がりをもって姿を見せた…。そして、何故か私たちそれぞれに寄り添ってくれたわ》

魔王《そのおかげで私たちはまだ生きている。あの子達は、あなたのお友達。違う?》

金髪《そりゃ…坊主や三つ編は、オレの友達、だけど》

金髪《………》

魔王《教えてくれない? あなた達のことを》

金髪《オレ達は…》

65 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 19:12:40.71 ID:0W6d7gZb0

金髪《オレは………っ》

金髪《城下町で町の連中から逃げるとき、皆がばらばらになっちまうって、そう思って》

金髪《もう皆には会えないかもしれないと思って、それで…》

金髪《それで――》




金髪(ああ、くそ)

金髪(声が震える。足も)

金髪「秘密基地で会おうぜ! ほら、アイツら来ちまう! 早く行けって!」

赤毛「…っ!」

三つ編「――必ず」

三つ編「必ず来てよね!!」

金髪「おう、任せとけって!」

三つ編「きっとだからね!!」ダッ

赤毛「三つ編…」

三つ編「急いで、赤毛! 逃げよう!!」グイ

赤毛「…!」

「この餓鬼、なんてことしやがる!」

「巫女様が、もうあんな遠くへ…!」

金髪「うるせぇ!!」

金髪「あいつは巫女様なんかじゃねえ!! 赤毛っていう、な…!」

金髪「オレの友達なんだよッ!!」




金髪《………オレ》

金髪《本当は、泣きたかった》


66 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 19:14:08.00 ID:0W6d7gZb0

金髪《小さい子みたいにぐずりたかった…っ。離れてくないって…!》

金髪《でも、泣いたらまた、皆離れていっちゃうって、そう思った》

金髪《母さんや、叔父さんみたいに…っ!》

氷姫《…っ》

金髪《だから、必死に、オレはコドモじゃないんだって言い聞かせた…!》

金髪《オレはコドモじゃない、大人ぶって偉そうにしてるだけの奴を信用なんかしてやるもんか…って》


金髪《でも、オレ》

金髪《本当はオレ、一人が怖いだけなんだ》


金髪《ずっと思ってた…! もう一人にしないでくれって…!》

金髪《皆と、一緒に居たいって…!!》ポロ…

金髪《母さんに側にいて欲しかった…!! 叔父さんにも!!》ポロポロ…

金髪《母さんが死んじゃってから、ずっと元気がなかった父さんにも…元に戻って欲しかった!!》


金髪《一人で我慢するのは…もう》

金髪《もう…もう、我慢なんてイヤだ…!!》




金髪《――皆に、会いたい!!》







カッ





67 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/14(土) 19:15:03.61 ID:0W6d7gZb0

《やっと》

三つ編《やっと泣いてくれたね》

三つ編《金髪》

金髪《…!!》

坊主《金髪》

坊主《ごめんね、僕…。金髪に、頼ってばっかり》

坊主《金髪だって、泣きたかったよね》

坊主《ずっと…我慢してたんだよね》

金髪《坊主…。三つ編》

坊主《ごめんね》

三つ編《金髪…》

三つ編《泣いても、いいんだよ》

金髪《オレ…》

金髪《オレ》



金髪《………ぅぅうう、うあぁあぁあっ!》



68 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 19:16:25.37 ID:0W6d7gZb0


氷姫《………》

炎獣《…この子達の心の繋がりが、お互いを引き寄せたんだな》

氷姫《! 炎獣…》

炎獣《あの子供の叫びが、俺にも聞こえたんだ。これ、俺達があの子達と俺達がリンクしてるってことだよな?》

魔王《…うん。そうして私達も、引き寄せられた》

氷姫《あのやんちゃ小僧の感情が》

氷姫《あたしにも流れ込んでくる…》

氷姫《ヘンだよね。敵だと思ってた人間の気持ちと、こんなにも自分が同調してるなんてさ》

炎獣《…ああ》

氷姫《あたし達は、さ。ずっとこういうことを繰り返し続けてきたんだ》

氷姫《人間の命をひたすら奪い続けて………ここにあるのは、深い悲しみと、傷の連鎖》

炎獣《…》

炎獣《魔王と、勇者。…魔族と人間の戦争》

炎獣《分かっていた、はずなんだ。こんなこと》

炎獣《なのに、今になってどうして》

氷姫《うん…》

炎獣《――どうして、こんなに迷うんだろう》

魔王《………》

69 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 22:23:36.80 ID:0W6d7gZb0

魔王《魔王と勇者の戦い》

魔王《この戦いに、一体何の意味があるのか》

魔王《私たちは…それを考えなきゃいけなかったのかもしれない》

氷姫《意味…》

炎獣《そんなもん、あるのかよ…?》

炎獣《魔族が、魔族であるために人間を倒す。人間もおんなじだ》

魔王《…そう。まるで、生きるためには相手を殺さなきゃならないみたい…》

魔王《人は魔族を、魔族は人を、犠牲にしなきゃ生きることは出来ない…?》

魔王《私達の生は………》


魔王《相手の命を奪うために、存在してるのかな…》


氷姫《…》

氷姫《あたしには、分かんない》

氷姫《あたし達は生きていくだけで必死で、その意味なんて考える暇もない》

氷姫《毎日は死の刃を振りかざしながら行進してくる》

氷姫《息継ぎが遅れれば、あっという間に踏み潰されて、消えて無くなる他ない存在になる》

氷姫《死にたくないから、生きるのよ。誰かを犠牲にしたって》

魔王《………》

70 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 22:26:47.09 ID:0W6d7gZb0

魔王《私達もここまで、ぎりぎりの選択をしながらやってきた》

魔王《命を狙われ、逆に踏みにじるようなことをして、それに気付いてしまったとしても………それでも》

魔王《笑いあって、お互いを信じてここまで来た》

魔王《………私は、信じてる》

魔王《道は、見つかるはず》

魔王《だから進もう。見つけ出した彼の所へ》

氷姫《………ねぼすけを一人、起こしに行かなきゃ、ね》

炎獣《…ああ》


魔王《さあ、あの子達の心が繋がり合ったように》

魔王《私たちもお互いの絆を信じて…!》

魔王《そうして呼び掛けよう!》


魔王《雷帝の心に!!》



71 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 22:27:57.65 ID:0W6d7gZb0


《雷帝》

《雷帝…!》

雷帝《誰だ?》

雷帝《そこで何をしている? 止めてくれ》

雷帝《私は、もう思い出したくないんだ》

《俺達の事もかよ?》

《迷ってる俺に檄を飛ばしてくれたよな、雷帝》

《きっとお前も迷ってたのにさ》

雷帝《何の、事だ………》

雷帝《うっ…!》



ザザ…ザ


炎獣「今まで人間を殺しまくってた俺が、今さら何言っちゃってんだって感じだよな」

雷帝「…やはり馬鹿だな、お前は」

炎獣「え?」

雷帝「気を引き締めたいのならば、そんな感情はさっさと捨ててしまえ。考えるのは全てが終わってからでいい」

雷帝「迷いながら戦っていては、死ぬぞ」



《どうしてお前はそんな風に前を向けたんだ?》

《何がお前を急き立てた?》

雷帝《………私は》

72 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 22:29:13.12 ID:0W6d7gZb0

《あんた、あたしを信じるってそう言ったわよね?》

雷帝《何…?》

《言ったのよ、あの時》



氷姫「………ねえ」

雷帝「なんだ?」

氷姫「重いわね」

氷姫「信じろ…って」

雷帝「…そうだな」

雷帝「だが、今はこうも思う」

氷姫「?」

雷帝「″信じる″というのは、悪くない気分だ」

氷姫「…そ、か」

雷帝「成功させろよ。究極氷魔法」

雷帝「信じてるぞ」



ザザザ…ザザ………


《あの時のあたしに言ったことまで…無かったことにするつもり?》

雷帝《………》

《ねえ、あんたはあの時、どうしてあそこまで腹をくくれたの?》

《あんたの覚悟は…何処から生まれるの?》

雷帝《私の、覚悟…》

73 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 22:30:09.59 ID:0W6d7gZb0

《雷帝………あなたは、いつも私たちを導いてくれた》

《どんな時だって、一人冷静に状況を見ていた》

《それが、正しい選択だとひたすら信じて》

《それは、苦しい戦いだったはず》

《あなたは一人、どうしてそれをやり遂げてこれたの?》

《教えて。あなたのこと》

《あなたの、想いの理由》

雷帝《私の………想い》




ザ………ザザ…




雷帝「わ、私は…! 魔王様の為ならば、命も惜しくありませんっ!」

雷帝「魔王様は、この争いを終わらせることが出きるだけのお方だと信じています! ですから…」

雷帝「魔王様が、これ以上″力″を使い、生命を削るような事は…私がさせません」

魔王「雷帝…」


74 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 22:32:24.64 ID:0W6d7gZb0

ザザ…ザザザ………


魔王《!》

氷姫《何か見えてきたわ…。これって…》

魔王《雷帝が一歩を、踏み出したんだ》

炎獣《俺たちの声が、届いたのか!?》

氷姫《そうみたいね》

炎獣《やったぜぇ!》

氷姫《それにしても…あの雷帝がここまで殻に籠っちゃうなんてさ…一体何事なわけ…?》

炎獣《俺もそれはさっぱり…》

炎獣《ん? なあ、この雷帝が見ている景色………魔王城か?》

氷姫《これ、魔王がその座につく前の魔王城? 過去の…雷帝の記憶の中の、魔王城よ》

魔王《雷帝が、過去を明かしてくれるんだ》

魔王《一体、何があなたを傷つけたの? 雷帝…》

炎獣《お、おい! あそこに倒れてるのって…っ!》

魔王《!!》

氷姫《あれは…》

氷姫《先代様!?》




先代「」




「…これで」

女勇者「これで全てが終わった…?」

剣豪「…っ」

賢者「………こんな終わり方が…あると言うのかい?」




魔王《こ…》

魔王《これは………》




先代「」


剣豪「――魔王は死んだ」

剣豪「つまりは、全ての終わり。そう言うことだろうが」

剣豪「俺様達の冒険は、終わったんだよ………」






魔王《――お父様………っ!!》


炎獣《あ、あいつら…!!》

氷姫《お…女勇者…!?》

氷姫《………こいつら、先代勇者一行だ…!!》

75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/10/14(土) 22:38:37.06 ID:0W6d7gZb0
今日はここまでです
76 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/21(土) 09:52:50.10 ID:ib3C7KTz0

魔王《お父様っ!!》

炎獣《せっ、先代様がっ! 女勇者にやられたのか!?》

氷姫《炎獣、魔王、落ち着いて!》

氷姫《これは………もう、過去の出来事よ…!》

氷姫《あたし達は雷帝の記憶の中にいるんだ…!! あたし達は、この時の事に、関与できない!》

魔王《…っ》



女勇者「………終わったのなら、戻ろう」

女勇者「いずれにせよ、私達は」

剣豪「――勝ったんだよ!」

女勇者「…!」

剣豪「俺様達はここまで突破してきた!」

剣豪「魔王は死んだ!」

剣豪「とくりゃあ…人類の勝利だろうが!! それ以外の何がある!?」

女勇者「………ああ!」

女勇者「ああ、そうだ…!」

女勇者「私達は、勝ったんだ…っ!」

77 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/21(土) 09:53:41.58 ID:ib3C7KTz0

賢者「………………」

剣豪「…賢者。何を浮かねぇ顔してやがる?」

賢者「この魔族…――」ゴソ…

女勇者「………そいつは一体何だ?」

賢者「この者は、魔王の側近を勤めていた魔族だね」

剣豪「…ひでぇ有り様だ。こりゃあ死んでやがるな」



雷帝(………何故、だ)

雷帝(どうなって、いる…)

雷帝(何故私の体は地を這い)

雷帝(微塵も動くことが許されない…?)

先代「」

雷帝(魔王、様)

雷帝(魔王様が………)

78 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/21(土) 09:54:35.33 ID:ib3C7KTz0

木竜「ぜ…ひゅ…」

鳳凰「………ぐはっ」

雷帝(四天王が………敗れたと言うのか)

玄武「」

雷帝(玄武殿………)

雷帝(死んでいる…)

雷帝(そう、か。我々は…)

雷帝(我々魔族は………敗れ去ったのか)



剣豪「…おめぇ、本気で言ってんのか?」

賢者「…これは…もしかすれば、とんでもない事実ってことになる」

女勇者「………」

賢者「持ち帰えろう。"これ"を…」




雷帝(搾取される)

雷帝(全て奪われる)

雷帝(我らの魔界が)

雷帝(終わってしまう………!!)

79 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/21(土) 09:55:44.27 ID:ib3C7KTz0

雷帝(くそ)

雷帝(くそ…っ!!)

雷帝(なんて、無力なのだっ、私は!!)

雷帝(何一つ、守れなかった…!!)

雷帝(何一つ………)


先代『………雷帝………』

雷帝(!?)

先代『………お前に………託す………』

雷帝(魔王様っ…!?)


先代『………魔王を………』

先代『………守ってくれ………次の………魔王となる………』

先代『………あの子を………』


キラッ

雷帝(これ、は…)

雷帝(このエネルギー体は)

雷帝(剣…!)

先代『………私が………お前に与えられるのは………』

先代『………もはや………これだけだ………』

先代『………雷鳴剣………呪われた剣だ………』

先代『………守ってくれ………』

雷帝(魔王様!!)

雷帝(魔王様ぁ!!)


80 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/21(土) 09:57:14.46 ID:ib3C7KTz0

先代『………雷帝………』

先代『………呪いを………を押しつけること………許せ………』








雷帝《そうだ》

雷帝《これが、私の覚悟》

雷帝《――思い出した。私には守らなければならないものがある》

雷帝《先代様から受け継いだ、雷鳴剣にかけて》

雷帝《私は、守るために、あの日を生き延びた。だから私は――》


教皇《けれどお前はしくじった》


雷帝《!》

教皇《その雷鳴剣を用いて、戦士率いる王国軍と、盗賊率いる翼の団を壊滅せんとしたお前は》

教皇《翼の団の軍師…あの女の罠にかかって瀕死の重症を負った》

教皇《そのお前を癒さんと、集中治癒に臨んだ木竜が、死ぬことになったのだ》

雷帝《…私の、せいで》

教皇《そう、お前のせいだ》

教皇《お前はひとつも守れていない。それどころか、未熟なお前のせいで、木竜は死んだ》

教皇《お前が殺したのだ!》

雷帝《私が…》




《バーカ言ってんじゃないわよ》

教皇《!》

雷帝《…お前》


氷姫《よ》

81 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/21(土) 09:58:06.35 ID:ib3C7KTz0

雷帝《氷姫…》

氷姫《惑わされてんじゃないわよ。あんたらしくもない》

氷姫《よく見なさい。その言葉を並び立てている相手は誰?》

雷帝《………相手》

教皇《無駄だ、氷姫。貴様の微弱な波動では、こやつの精神に干渉することは出来ぬ》

教皇《弱りきった雷帝の魂は、影響力の大きい存在の侵食になすすべなどない》

氷姫《…》

教皇《そして私の大器と、赤髪の娘の膨張能力を持ってすれば、心への干渉など造作もないことだ》

氷姫《………ったく》

氷姫《ちょろちょろとあっちこっちから現れて、ホントによくしゃべる男ね》

教皇《…なんだと?》

氷姫《あーハイハイ。あたし一人じゃどう足掻いても無理だって言うんでしょ。悪かったわね、ビジャクなハドウで》

氷姫《――でも、これならどうかしら?》

炎獣《捕まえたぜ、雷帝》ガシッ

雷帝《! 炎獣?》

炎獣《もう、何処にも行くんじゃねえぞ》

教皇《!? 馬鹿な、不安定な雷帝の魂に触れている…!》

教皇《なぜ…》


《せーので声を揃えるわよ!》

《ほ、ほんとに意味あるのかよぉ?》

《いいから、ほら、行くよ!》

《《《せーの!》》》

三つ編 金髪 坊主《雷おじさーん!!》

82 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/21(土) 09:59:37.13 ID:ib3C7KTz0

教皇《!?》

雷帝《な、なんだ…?》

氷姫《ぶwwwwwww! 雷おじさんwwwwwwwww》

炎獣《こりゃあ形無しだなぁ?》タハハ…

教皇《なんだ、あの小僧共は…!》

教皇《四天王の存在同士を、リンクさせている役割を担っている…!? これではまるで…!》

《そう》

魔王《あなたにとっての赤毛ちゃんの力を、あの子達が、私たちにもたらしてくれる》

教皇《魔王…! 貴様…》

教皇《なぜ貴様が、奇跡の僧侶と同等の力を持つ存在を従えている!?》

魔王《従えてなどいないわ。彼らは自分の意思で私達に力を貸してくれている》

魔王《友達を助けたい。彼らの思いはただその一心よ》

教皇《くっ…戯れ言を…!》

魔王《教皇。あなたには、彼らの生命の結束が織り成す力は完全に計算外のようね》

魔王《あなたの状態も未だ万全ではないようだけど…ここであなたが勝負を挑むつもりなら》

魔王《私は、それに応じましょう》

教皇《………!!》

教皇《いいだろう…。ここは一旦引いてやる…!》

教皇《だが、全てが元に戻ったところで、結果は変わらん!》

教皇《私たちの力は、簡単に貴様らの結束とやらを食い破り、蝕むだろう!!》

教皇《それは単なる想像ではない!!》

教皇《歴史なのだ!!》


フッ…


83 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/21(土) 10:00:52.73 ID:ib3C7KTz0

炎獣《…いなくなったか》

氷姫《けっ、清々しいほどの負け惜しみだわ》

魔王《…》



坊主《おじさん》

雷帝《…お前》

坊主《借りていたもの、返すね》キラッ

雷帝《それは…》

坊主《僕を助けてくれて、ありがとう!》

坊主《大事なもの、なんでしょ?》

雷帝《………温かい》キラッ

雷帝《ああ、そうだ。これは、私の…魔王様への、想い》

氷姫《ちょっと!》

雷帝《ん?》

氷姫《とっととしまいなさいよ! 魔王がそこにいるのよ!》ヒソヒソ

雷帝《………!?》

魔王《…》プシュゥウ

金髪《ん? なんで赤くなってんだ?》

三つ編《ふふ。魔王さん、モテモテだなぁ》

84 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/21(土) 10:02:01.59 ID:ib3C7KTz0

雷帝《なな、なんで、魔王様がここに!?》

炎獣《今さら気づいたのかよ?》

三つ編《お兄さんも、最初はそんなこと言ってたでしょ?》

炎獣《んっ!? そ、そうだったけかぁ?》

三つ編《そうよ!》

氷姫《ったく男共はこれだから…》

金髪《姉ちゃんだって、弱音ばっかだったじゃねーか》

氷姫《うっさいわね! あんた、誰にも言うんじゃないわよ!?》

金髪《ひえっ》


雷帝《こ…》

雷帝《これは…どういうことだ?》

雷帝《いつの間にみなと、それに、人間の子供が………》

魔王《…雷帝》

雷帝《魔王様…!》

魔王《雷帝は、一人じゃないよ》

魔王《もう、充分自分を責めたよ。だから、歩き出してみよう》

雷帝《っ…》

魔王《今度は一緒に背負わせて。雷帝の傷を》

炎獣《よろけたらそん時は…肩、貸してやるぜ。ちょっとばかし熱いけどな》ニ

雷帝《炎獣》

氷姫《つまづいたら、あたしが支えてやるわよ》

氷姫《今回だけ、だけどね》

雷帝《氷姫…》

85 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/21(土) 10:03:10.83 ID:ib3C7KTz0

雷帝《私の、傷。…そうか。対峙すべき時なのですね》

雷帝《私の罪と》

魔王《雷帝の…罪?》

雷帝《あの時………先代様が亡くなった時》

雷帝《私たちの魔王城には、女勇者がその恐ろしいほどの力を以てして、潜入を為し遂げていました。………我らに感知すらさせずに》

雷帝《そして、時を同じくして魔王城では…――あるひとつの、反乱が起きていたのです》

雷帝《何百年も魔界を支え続けていたはずの、先代様に最も近しい男》

雷帝《………側近》

雷帝《奴自身による、反乱が》


86 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/21(土) 10:04:58.00 ID:ib3C7KTz0

雷帝「側近様…正気ですか!?」

鳳凰「血迷ったのかえ? 側近」

側近「いいえ。僕は至って正常ですよ」

側近「異常なのはこの事態です。あってはならないことなんです」

先代「………」

雷帝「だからと言って、そんな!」

玄武「んだ。話が飛躍しすぎだべ、側近」

側近「そんな事はありません。このまま魔王様の邪神の加護が弱まれば、確実に勇者一行に敗北します」

木竜「じゃから、殺せと言うのか? まだ赤ん坊の、その子を」

側近「はい」

側近「魔王様、僕はもう一度ここに進言します」

先代「………」

側近「あなたのお嬢様は、今の内に、殺してしまうべきです」

87 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/21(土) 10:06:04.51 ID:ib3C7KTz0

側近「邪神の加護を受けるは、魔界の全てを統治する者」

側近「王者は魔界に一人だけ。それを誰よりもよく知っているのが、あなたのはずです。魔王様」

側近「邪神の加護を受け、その力で乱世を平定し、その玉座についたあなたですから」

先代「………」

側近「時より、邪神の加護もなしに魔王の座に着くものもいましたが、いずれ全て、加護を持つ者に淘汰されてきた」

側近「その邪神の加護が、魔王様がご健在な今、その娘に受け継がれ始めている」

側近「これは、あなたが敗れることを宿命づけているのではないですか?」

雷帝「な、何を…!!」

木竜「言葉が過ぎるのう、側近」

側近「事実を言ったまでです。そしてそれに対する打開策が…」

側近「まるで魔王様から吸いとるがごとく、その邪神の加護を増していく…その赤子を殺すこと」

側近「既に魔界の王者の資格を、その子供は持っています。ともすれば、彼女はあなたの敵と言っても過言ではないはずです」

先代「………」

雷帝「魔王様…」

88 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/21(土) 10:06:55.12 ID:ib3C7KTz0


先代「ならん」


先代「この子を殺すことなど、許せるはずがない」

側近「親子の情に流されて、とるべき道を選びませんか。魔族にあるまじき事ですね」

先代「………」

玄武「いい加減にすっべ! 側近!」

鳳凰「我らが王を愚弄することは、我らを侮辱していることと同義。それ以上口を開くならば、それなりの覚悟をする事だな」

側近「…もう、ウンザリだ」

木竜「何?」

側近「邪神の気紛れに翻弄され、それを正す力も考えもない、この世界にはウンザリだと、言ったんですよ」

先代「………側近、お前」

側近「守る価値もない。ならばいっそ」

側近「僕の手で、壊してしまえばいい」




魔王《………!!》

炎獣《な、何を…》

炎獣《何を言ってるんだ、こいつ…!?》

氷姫《側近…!!》

氷姫《…この男、まさか…ここで魔族を裏切ったの!?》

89 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/21(土) 10:07:51.18 ID:ib3C7KTz0

木竜「…やる、と言うのじゃな」ザッ

雷帝「翁…!」

木竜「構えよ、雷帝。この男は、今この時を持って」

木竜「我らの敵じゃ」ギロ

雷帝「…っ!」ジャキ…!

玄武「ちィ…!」ザッ

鳳凰「四天王全員を相手にして、勝ち目があると思うのかえ? 側近よ…!」


側近「ふっ」

側近「くっくっくっ…!」

側近「いいでしょう。今こそ試される時だ」


側近「この数百年、僕の生きた証を」




側近「その身に、刻むがいい――!!」









  ゴ  ッ











雷帝《そして私たちは》

雷帝《その戦いに》


雷帝《敗北した》



90 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/21(土) 20:31:34.41 ID:kpo1ZONMO

雷帝「ぜっ…!!」

雷帝「はっ…!!」ドクン…


側近「散れッ!!」ズドンッ!

鳳凰「ぐがぁ…!!」


木竜「くっ!! 回復が間に合わぬ!!」

側近「…」ヒュ

木竜(!! 一瞬にして背後に――)

側近「弾き飛べ!!」ボンッ!!

木竜「がふっ!!」


雷帝「はっ…! はっ…!」ドクン…

雷帝(馬鹿、な…!!)ドクン…

雷帝(一体の魔族がここまでの力を有するなんて…!!)ドクン…!


側近「僕は」ゼェ…ハァ…

側近「僕は…!!」

側近「うおおおおおおおおおおっ!!」


先代「………側近…」ザッ

玄武「魔王様…ッ!! 下がっていてくれぇ!!」

先代「玄武…っ」

玄武「オラの全てをこの一撃に懸ける…ッ!!」

雷帝(駄目だ…!)

雷帝(このままでは…!!)



側近「来るがいいッ!!」

側近「玄武ッ!!」



玄武「受けてみるべッ!! 側近ッ!!」




玄武「――ぜああああぁああぁあぁああぁああああああぁああぁあぁああぁああああああぁああぁあぁああぁああ!!」




雷帝「玄武殿ぉっ!!」

91 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/21(土) 20:32:24.50 ID:kpo1ZONMO





――ズンッ









玄武「かふ………っ」



側近「………」ズボッ…


ドサ………


側近「………」

側近「さようなら…玄武…っ!!」



雷帝「ば………」

雷帝「馬鹿な…!!」



雷帝《玄武殿の肉体を…側近の腕が撃ち抜いていた》

雷帝《鳳凰の大火炎も、翁のブレスも》

雷帝《奴の狂気とも言える攻勢の前に、僅かに届かない》

雷帝《怒りに任せて突撃した私も、側近の壮烈な反撃にあい、昏倒状態に陥る》

雷帝《そして、再び目を覚ました私が見たのは》



雷帝《――事切れた先代様と》




先代「」


女勇者「…これで」

女勇者「これで全てが終わった…?」



雷帝《その前に立つ、女勇者だった》



92 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/21(土) 20:33:40.21 ID:kpo1ZONMO

炎獣《ど………》

炎獣《どういうことだよ、これ》

氷姫《…っ》

氷姫《先代様は、女勇者に破れ去った………。それだけが魔界で知られている、この日の出来事だった》

氷姫《けれど、これは…事実は、違う…!》

雷帝《………》

雷帝《おそらく、我々四天王が破れ去った後》

雷帝《先代様は、側近と戦った。そこに最悪のタイミングで――》

雷帝《女勇者の一行が、姿を現したのだ》

炎獣《側近が、先代様と四天王に反旗を翻して………その隙を、女勇者に突かれたっ…》

氷姫《まさか…》

氷姫《側近…この男…! 女勇者に与して、先代様を!?》

雷帝《………》

雷帝《奴が何を思い、こんなことを引き起こしたのか…今でも私には理解することは出来ない》

雷帝《奴の言動は異常だった。………しかし、奴の言葉の中にも事実と言えることが、ひとつだけ、ある》



雷帝《………"先代様の持つ邪神の加護が、先代様がご存命の間に魔王様へ継承されていた"》




魔王《………………》

93 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/21(土) 20:47:06.92 ID:kpo1ZONMO

雷帝《魔王様…》

魔王《………本当のことなの?》


魔王《私が、お父様の加護を奪っていたの?》


雷帝《…》

魔王《………そうなのね》

雷帝《…前代未聞の、出来事でした》

雷帝《まだ赤子であるはずのあなたに、恐るべき加護の翳りが現れ始め…》

雷帝《側近は、あなたを殺すと、言い出しました》

魔王《………っ!》ギュッ

炎獣《お、おかしいだろ!? 何で魔王を殺すなんて話になんだよ!?》

氷姫《先代様が存命の間に邪神の加護が移り変わった…》

氷姫《………その現象が続いて先代様の力が弱まれば、女勇者に勝てないと思った?》

雷帝《女勇者に勝つため…? くくっ》

雷帝《奴が魔界の正義のために事を為そうとしたと? 奴はその手で、先代様までも手にかけようとしたのだぞ…!》

雷帝《奴の言動は矛盾していた…っ! 側近は既に、狂気に支配されていたのだ!!》

魔王《………いだ…》

氷姫《――え?》




魔王《――私の》



魔王《私のせいだ》



魔王《私のせいで、お父様は》





《赤毛っ!》

94 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/21(土) 20:51:45.48 ID:kpo1ZONMO

金髪《赤毛っ!》


赤毛《………》スゥ…


三つ編《ど、どうなってるの、これ…!》

三つ編《赤毛の体が、薄れて、半透明になっていくっ!》

坊主《ねえっ!》ギュッ

雷帝《!》

坊主《た、助けてっ! このままじゃ赤毛がっ!!》

魔王《………っ!》

炎獣《くっそ! こんな時に…っ!》

氷姫《不味い…! 教皇に、存在を支配されかけてるんだ!》

魔王《…》グッ…!

雷帝《魔王様…っ》

魔王《――いまは》

魔王《懺悔の時じゃない…っ!》

魔王《まだ…!!》

魔王《まだ立ち止まれない………!!》

炎獣《魔王…》

氷姫《………あんた》

魔王《――急ごう、皆!》

魔王《まだ、考える時じゃないっ!》

魔王《私たちは》


魔王《進まなきゃ、ならない…!!》



95 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/21(土) 20:53:02.84 ID:kpo1ZONMO



キラキラキラ…

教皇《…娘の存在が、完全にこちらのものになるまで》

教皇《もう、間もなくだ》

教皇《………》

教皇《しかし、邪魔ばかりが入る。あの子供ら…》

教皇《………あれは》

教皇《貴様の差し金だな………魔法使い!》



『………あはは、バレちゃいましたか』

魔法使い『面白い余興に、なったでしょう?』



教皇《――何のつもりだ…》

魔法使い『僕はただ…女神の意思にしたがっただけですよ』

教皇《戯れるな…! こんな茶番劇がそうであってたまるか!》

魔法使い『………貴方は、案外女神のことを…何も分かってないんですねぇ?』

教皇《何だと………?》

魔法使い『忘れたんですか? 僕らの女神が――』

魔法使い『とっても、慈悲深いお方だと言うことに』


96 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/21(土) 20:54:02.03 ID:kpo1ZONMO

教皇《何の慈悲になると言うのだ? まさか、魔族共に情けをかけるとでも言うつもりか?》

魔法使い『………やれやれ』

魔法使い『貴方はどうやら、下らない政治や欲求に傾き過ぎたようですね』

教皇《何…?》

魔法使い『時には、友と語らうことも…必要だったのですよ』

魔法使い『あの子達を見て…そうは思いませんか』

教皇《………貴様、何を言っている》

教皇《貴様は――》

教皇《一体、何を企んでいる…!》


キラッ


教皇《!》



《………かげ…!》

《………赤毛…っ!》


魔法使い『おや』

魔法使い『どうやら、彼らがやってくるようですよ』

魔法使い『最終決戦ですねぇ』

教皇《ち…!!》

教皇《――私は、敗れぬぞ》

教皇《貴様がどんな邪謀を弄しようとも》

教皇《私には、未来さえ見えているのだから…!!》




赤毛《………》フワァ



魔法使い『………だと、良いんですが、ね』



97 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/22(日) 05:15:34.28 ID:WmkNYsCJ0

三つ編《赤毛…!》

三つ編《無事でいて…っ!》

坊主《うぅ…赤毛…!》

金髪《今は、想うしかねぇ! 赤毛のことを!》

金髪《きっと会えるって、信じるんだ!!》



雷帝《…》

雷帝《私たちが………人間の子供に、助けられている》

氷姫《ほら、あんたもぼさっとしてんじゃないわよ!》

雷帝《!》

炎獣《まだお前の存在は、不完全なままだぜ! 記憶のピースが揃ってねぇ!》

炎獣《時間がねぇ! 教皇と対峙するまでに、一気にお前の記憶の扉を駆け抜けるぞ!》

雷帝《…》

魔王《雷帝…》

98 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/22(日) 05:17:05.13 ID:WmkNYsCJ0

雷帝《私は…》

雷帝《私の存在は、ただ魔王様をお守りするために》

雷帝《傍らに雷鳴剣が無くなった今でも、それは変わらない》

魔王《…雷帝》

雷帝《――行きましょう》

雷帝《それが必要だと言うのなら、私の過去などいくらでも白日に曝してくれる!》

雷帝《私たちは》

雷帝《ここで立ち止まるわけにはいかないのだから!》

炎獣《へへ! らしくなってきたぜ!》

氷姫《…そうこなくっちゃ、ね!》



雷帝《そうだ》

雷帝《あの戦いを生き延びた後、私達は………》





木竜「………どうやら、鳳凰は去ったようじゃ」

雷帝「…そう、ですか」

木竜「お主は行かぬのか?」

木竜「これから、魔界は暗黒の時代となる。人間の侵略…残り少ない資源の奪い合い」

木竜「誰もが自分の身を案じることしか出来んような、混沌の時に」

木竜「そんな時に、お主は」

木竜「その赤子のために、尽くせるのか? 得体の知れぬ加護を抱く、先代様の娘に」

雷帝「…」

雷帝「そう言いながら、翁も」

雷帝「ここに残っている。………そういうことではないですか?」

木竜「ほっほ! 言いおるわい」

木竜「いつまでも若造でいるわけでは、ないようじゃな?」

雷帝「………これは」

雷帝「私の、誓いですから」

99 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/22(日) 05:18:39.84 ID:WmkNYsCJ0

雷帝《私と翁は、多くの言葉を交わさずとも、お互いを信頼し合った。背を合わせて、魔王様のために戦った》

雷帝《…小さかった魔王様を見守りながら、私と翁は、ひたすら外敵を排除した》

雷帝《我々の抱える資源を狙う者。魔族も、人間の軍隊が押し寄せたこともあった》

雷帝《雷部の者からの反逆が起こったこともあった。しかしそれも》

雷帝《私ははね除けた》




雷帝「これは何の真似だ?」


「見ての通りですわ」

吸血鬼「我らが吸血鬼一族は、あなたを部の長と認めませんと、そう言っているんですの…!」

雷帝「………」

吸血鬼「そんな娘っ子のために、部の存続を懸けるような甘い判断をするトップに、私は従う気はありませんわ…!」

電龍「吸血鬼! てめぇ、調子こくんじゃねぇぜ…!」ギリ

雷帝「待て、電龍」ス…

雷帝「…それで、どうすると言うんだ?」

吸血鬼「――決闘ですわ」

吸血鬼「あなたを倒し、わたくしが部の長につき」

吸血鬼「いずれ来る強大な魔王の、四天王となりますの…!」

雷帝「………ふむ」

雷帝「いいだろう。受けて立つ」

電龍「え、ちょっ、部長!?」

雷帝(…覚悟の上の事だ。こんなことはいくらでも想定していた)

雷帝(上位魔族を部から失うのは少しばかり惜しいが、しかし――)


雷帝「それでも、力によって従え、力によって示すのが魔族」



雷帝「――気の変わらぬ内に、かかってこい」チャキ…

100 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/22(日) 05:19:56.34 ID:WmkNYsCJ0



雷帝《…だから、姫様と呼んでいたそのお方が、魔王になると言ったその時》

雷帝《私は、私が下してきたいくつもの判断が、正しかったことを思い知った》



魔王「私、魔王になる」

魔王「魔界に、秩序と尊厳を取り戻す」

雷帝「姫様…」

魔王「私自身が、そうしたいって」

魔王「そう思ったんだ」

木竜「………なるほどのう」

雷帝「姫様が」

雷帝「そう仰るのでしたら…」

木竜「うむ」

雷帝「我らは身命を賭して、役目に当たるのみです――」

魔王「………うん。ありがとう」


雷帝(姫様…)

雷帝(お強く、なられた)

雷帝(沢山の経験をしてこられたのだろう。沢山のことを、学んでこられたのだ)

雷帝(いつの間にか、私の知らない顔をなさるようになった)

雷帝(この方は、きっと…私が思っている以上の………)

魔王「………うっ…」ズキン…!

雷帝「! ひめさ――」

炎獣「姫。平気か」パッ

魔王「…うん。ありがと、炎獣」

炎獣「へへ。姫は俺がついてなきゃダメだからなー!」

魔王「ふふ。炎獣だって、私がいなきゃダメでしょ?」

炎獣「うがっ? そそそ、そうかぁ?」

魔王「うふふ」




雷帝「………」



雷帝《その時、私は無性に》

雷帝《自分の居場所を失ったような》

雷帝《そんな心持ちになった》

101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/10/22(日) 05:20:26.08 ID:WmkNYsCJ0
ここまでです
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/22(日) 21:47:39.80 ID:J/6F9Y/Vo
次スレ立ってたのか気付かなかった

おつおつ
103 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/28(土) 13:28:07.28 ID:vwTJGK6PO

炎獣《…雷帝。お、俺、その…》

炎獣《お前にそんな気持ちをさせてるなんて知らなくてよ…》

雷帝《…ふっ》

雷帝《何を勘違いしてるのか知らんが、お前が気にすることではない》

雷帝《お前はお前の足取りで、炎獣たらしめる為の居場所を手にいれた。私は最初、お前にそれが出来なければ斬るとまで言った男だ》

雷帝《よく、魔王様を支えたな》

炎獣《あ、ああ…。そー言われっと、照れるなぁ》

氷姫《…》

雷帝《それに、私の役割はすぐに見つかる》

雷帝《我々には内外に多くの敵が居た》






氷姫「…人間からの休戦協定?」

木竜「うむ。どうやら、ただの休戦に留まらず…人と魔族の和平を目指す、というのが建前のようじゃが」

氷姫「その為に、人間の王国の、建国の儀式に出ろって…? そんなもん誰が信じるのよ」

氷姫「どうせあの時みたいに裏切るつもりなんだ…!」

雷帝「…ふむ」

魔王「………けれど、今回の人間の王は今までのどの国王よりも態度が違う」

氷姫「た、確かにそうだけど。その使者が殺されてお仕舞いってこともあるのよ!?」

魔王「…」


冥王「どうなさるの? 子猫さん。あたくし人間なんてどうでもよろしいのだけど」

冥王「あたくしがこうして後援についている以上、言われるがまま生け贄を差し出すなんてあんまりにもお粗末な顛末は、頂けないわねぇ」

104 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/28(土) 13:30:21.04 ID:vwTJGK6PO

木竜(後援などと言って、魔王城に居座っておるだけじゃろうが。全く、いつまでもでかい顔をしよって)

冥王「そもそも、人間と魔族の和平なんて聞いたこともなくってよ。魔王と勇者がいるっていうのに、そんなことが実現出来ると思いまして?」

魔王「…それは」

雷帝「――賭けてみる価値はある」

木竜「!」

冥王「…へえ?」

雷帝「例え、仮初めの和平だったとしても、我らの軍備を整えるだけの時間が稼げるのならば、やる価値はある」

雷帝「それに策略を巡らせるならば、魔王様の即位の直後にこうして話を持ちかけてくるのは、適当ではないはずだ」

雷帝「あちらも魔王様の急激な台頭に、その手腕から今までと違う未来を見越しているのかもしれない」

魔王「雷帝…」

冥王「おほほ! 可愛らしかったあの坊っちゃんが言うようになったこと!」

冥王「ですけれど、それって全部憶測に過ぎないんじゃなくって?」

冥王「それとも生け贄の使者に、お前さんがなるって、そう言うつもりかしら? 雷帝」

雷帝「私は構わない」

雷帝「いずれにせよ、今の人間の世を視察できるいい機会だ」

冥王「傲慢ねぇ…」クスクス

木竜「さて…いかがいたしますかな? 姫様」

魔王「………」

105 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/28(土) 13:31:39.74 ID:vwTJGK6PO

雷帝(魔王様…)

雷帝(あなたは、和平の可能性を捨てていないのでしょう)

魔王「雷帝…」

雷帝(危険は承知の上です。魔王様が望むのであれば、私もその道を探して参ります)コク

魔王「………分かった。雷帝、お願いします」

雷帝「はっ!」



雷帝《けれど人間は》

雷帝《魔王様の思いを踏みにじって、卑劣な罠を張り巡らせ》

雷帝《建国の儀式の場で、電龍を――》



教皇「魔族よ!! 貴様らは女神の名の元に、裁かれよう!!」

教皇「巫女たちよ、その怒りの炎を此処に送れ!!」

戦士「ちょっと待て…!」

戦士「待ってくれッ…」

戦士「何をしているんだよ!!」

戦士「操られているのか!! なあ、そうなんだろう!!」

戦士「兄上ぇッ!! 」

兄「許せよ、戦士」

兄「――やれ」



電龍「へっ…へへ…」

電龍「俺は、無理っス、わ。部長…」

電龍「お、れ、もう動け、ないっス。置いてってください、よ」



雷帝《………電龍》

106 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/28(土) 13:33:21.30 ID:vwTJGK6PO

雷帝《電龍は死を賭して私を救った。そうでなければ、私も死んでいた》

雷帝《そうまでして永らえる価値が自分にあったのか、私には分からなかった。けれど、思い悩む時間などありはしなかった》

雷帝《和平の道は閉ざされた》

雷帝《時を置かずして、人間は膨大な軍隊を送り込んでくることになる》

雷帝《不気味なほどに統率の取れた兵士達。人とは思えぬほど強力な魔法を使う魔術師》

雷帝《それまでの人間の軍とは一線を画す恐ろしい能力に、魔界大陸は危機に陥った》

雷帝《加えて、勇者が姿を現したとの情報が魔界に舞い込む》

雷帝《………私たちは、魔界を救うための作戦を打ち出した》



木竜「本当に宜しいのかのう? 姫様」

魔王「…爺。何度も皆で話し合った結果よ」

木竜「うむ…じゃがのう」

雷帝「魔王様と我々四天王による一点突破作戦。大軍の中央部を速攻をかけて崩し、殲滅。そのまま勇者撃破に向かいます」

氷姫「魔王が矢面に立つ以上、諸刃の剣ね。こちらも魔界の命を晒しているのと同じだもの」

魔王「むう。私は、そんなに頼りない?」

氷姫「そ、そうは言ってないわよ! あたしだって心配して言ってんの! あんたが敵の標的にされるかもしれないのよ?」

魔王「ふふ、ありがとう。でも、私にも覚悟は出来てる」

魔王「それに、頼れる四天王が増えたことだしね」

魔王「ね、炎獣?」


炎獣「おう!」

炎獣「つっても俺のやることは、変わらねえけどな!」

炎獣「魔王を、守る…!」

氷姫「…」

107 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/28(土) 13:36:28.12 ID:vwTJGK6PO

炎獣「今の俺たちならそれが出来る。…氷姫」

氷姫「な、なによ」

炎獣「師匠の所に居た頃から、俺たちはまた強くなった。今なら自分の戦いを、自分で出来る」

炎獣「そうだよな?」

氷姫「…ふん。当然よ。今のあたし達なら」

氷姫「――何だってやってやれるわ」

炎獣「へへ! 氷姫ならそう言ってくれると思った!」ニカ

氷姫「へ、へらへらするな! タコ! ヘボ! ボケナスっ!」

木竜「ほっほっほっ。言うとくが儂とて若いもんだけにやらせとくつもりはないぞい!」

炎獣「じ、じいさん。あのブレスだけは、うかつにぶっ放さないでくれよ」

氷姫「ホントね。より研きかけちゃって、年寄りがどこに向かってんだか」

木竜「ほっほっほっ」


雷帝「姫様…宜しいのですね」

魔王「あ、また姫様って言った!」

雷帝「あ、し、失礼しました! 魔王様!」

魔王「くすっ…。いいの、雷帝」

魔王「私たちが選べる道はいつだって少なかった。今だって、それは変わらないのかもしれないけれど」

魔王「私も、いつまでも守られてばかりいるつもりはない」

魔王「王国軍と勇者を倒して…魔界を守る」

魔王「雷帝。あなたのことも、ね」

雷帝「魔王様…」


魔王「行きましょう」



魔王「必ず………勇者を倒す」




108 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/28(土) 13:37:12.70 ID:vwTJGK6PO

冥王「…あら?」

冥王「もう出陣ではないのかしら? あたくしにわざわざ会いにいらしたの?」

雷帝「…」

雷帝「なぜ、我々に協力した?」

冥王「…おほほ。そう、そうですの」

冥王「結局答えが分からずに、その仏頂面をひっさげて今更のこのこ尋ねにいらしたのね?」

雷帝「………答えろ、冥王」

冥王「いやだわ。お前さんごときが頑張ってみたところで、あたくし微塵も怖くありませんのよ」

冥王「答える義理はありませんわ。とっとと行ってらっしゃいな。勇者討伐作戦とやらに」

冥王「また一段と強くなったのでしょう? …あなたたち」クスクス

雷帝「…」

雷帝「貴様が何を目論んでいようが、私達は必ずやり遂げる」

雷帝「せいぜい、高みの見物に精を出していろ」



冥王「…おほほ」

冥王「言われなくても、そのつもりでしてよ」ニヤァ


109 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/28(土) 13:38:00.73 ID:vwTJGK6PO


雷帝《私たちは賭けた》

雷帝《四天王として、研鑽をつんだ己の力を信じて》

雷帝《私たちは、勇者までたどり着いてみせると誓いあった》

雷帝《そして私たちは………精強な王国正規軍を撃破することになる》

雷帝《敵の内部に潜り込み、内側から切り崩す。何かが間違えば死が待つ、決死の作戦》

雷帝《それでも私たちはやり遂げた》

雷帝《敵の指令部に直接攻撃を仕掛けた私が出会ったのは》

雷帝《あの日、王国建国の儀式の動乱首謀者。………電龍の、仇だった――》





王国兵「将軍閣下! 待避を!!」

王国兵「四天王が来ますッ、お早く…ぐあぁあっ!?」

バリバリッ!!

雷帝「…貴様が」

雷帝「人間の将か」



「これはこれは、どこかで見た顔だな」

兄「――あの時殺し損ねたのが、私の運の尽きというわけだ」

110 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/28(土) 22:52:15.89 ID:L2B0drxD0

兄「なぜ、魔法感知をすり抜けて悠々とそんなところに立っている?」

雷帝「見くびるな。貴様らの小細工ごときで、我らの逆襲は止められない」

兄「…まさか測定限界を越える魔法の濃度を…?」

雷帝「それを知る暇もなく、貴様らは全滅するのだ」チャキ…

兄「………ふっ」

兄「くっくっく…」

雷帝「…!」

兄「はっはっはっは!!」

兄「………我ながら、滑稽だな!」

兄「あの日と同じことを、敵にしてやられたと言うわけか!」

兄「この技術を持ってしても…その上を凌ぐ能力を、貴様らが持っている…!」

兄「貴様はこの事を知っていたのか、教皇!!」

兄「どこかで見ているのだろう!! どうなんだ、魔法使いっ!!」

雷帝(こいつは何を言っている…?)

兄「世の破滅すら招きかねん地獄の使者共め!!」チャキ…!

兄「その力の真の意味すら知らず、命を刈り取り――そして貴様らは何も知らぬまま滅ぼされるのだ!!」

雷帝「…言いたいことはそれだけか?」

兄「はは…っ!!」

兄「私が只で死ぬと思うなよ………!!」

兄「我は………王国大将軍の息子!!」



兄「――勇者一行戦士の兄ぞッ!!」ジャキィッ!





兄「うおおおぉおおぉおおおッ!!」







111 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/28(土) 22:55:38.97 ID:L2B0drxD0



ザザァン…?


魔王「…」

雷帝「魔王様…間もなく陸が見えて参ります」

魔王「そう…」

雷帝「海を越えれば、王国領港町。人間の王の座す王城まで、数える砦はひとつのみとなります」

炎獣「砦ったって、大したことないだろっ? 俺たち四天王と、魔王が居ればさぁ!」

雷帝「敵戦力の大部分はすでに壊滅したからな。そこまで心配はいらんと思うが」

氷姫「いよいよ…ってワケね」

炎獣「でも、それはそれで物足りないないよなー…これ以上の敵がいないなんてさ!」

氷姫「馬鹿言わないでよ。王国軍の本体を壊滅できるかどうかは、賭けだったんだから。あんなのはもうゴメンよ」

雷帝「ああ…。だがその甲斐あって、人類撃破の願望は目の前だ」

炎獣「おっ!」

炎獣「見えたぞ! 陸だっ!!」

雷帝「…さて、気を引き締めて参りましょう」

氷姫「そうね。人間が、まだどんな手を隠してるか分かったもんじゃないし」

木竜「そろそろ、前線崩壊の一報が人間の王の元へ届いていてもおかしくはないからのう」

炎獣「へへっ。強い奴がいるなら、ドンと来いだぜっ!」


魔王「――みんな」

魔王「ここまで、長い道のりだった」

魔王「けど、とうとう人間をここまで追い詰める事ができた」

魔王「あと少し…あと少しの間だけ」



魔王「私に、力を貸して…!」




112 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/28(土) 22:56:42.80 ID:L2B0drxD0

雷帝《――そうして、あの港町で》

雷帝《私達の本当の戦いが始まったのだ》

魔王《雷帝》

雷帝《魔王様…。ようやく、私は辿り着いたのですね》

魔王《うん。私たちの、戦いの現実に》

炎獣《へへ。お帰り、雷帝》

雷帝《ああ…》

氷姫《遅いのよ、あんた》

雷帝《…すまん》

雷帝《ここから先は、私たちの記憶は一緒だ》

炎獣《そう、俺たちは一緒に戦い続けた》

氷姫《うん。…港町では未知の兵器を操る商人と》

炎獣《人類最強の武闘家ともやり合った》

魔王《多くの軍勢に、女神の加護を持った盗賊とも》

雷帝《そして》

雷帝《王国軍将軍…戦士と、魔法使いに扮した側近との戦いで》

雷帝《翁を失う》

雷帝《………それでも、我らは進んできた…!》

雷帝《だから!》

雷帝《もう、貴様のまやかしには乗せられんぞ! 教皇!!》




教皇《………》

113 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/28(土) 22:58:24.48 ID:L2B0drxD0

教皇《魔王。そして魔王四天王》

教皇《なぜ、貴様らは人を滅さんとする?》


魔王《私たちは、人間を滅ぼそうとしているわけじゃない》

魔王《勇者を倒し、この争いに終止符を打つつもりでいるだけ》


教皇《魔王》

教皇《貴様はそうほざくが、一体幾つの命をその手で散らした?》

教皇《いくつの希望を壊し、いくつの友情を引き裂き、いくつの愛を奪い去った?》


炎獣《これは戦いだ》

炎獣《悲しみも沢山生まれた。傷つけたのは俺たちかもしれない》

炎獣《けれど、全てを乗り越えた覚悟を、俺はこの戦いでいくつもぶつけられてきた》

炎獣《その魂は哀れまれるようなものじゃない。魔族も人間も、それは変わらない!》


教皇《…戦いは神聖だったと?》

教皇《ふん。笑わせる》


氷姫《それはこっちの台詞よ》

氷姫《策略を巡らせ、争いを引き起こしたのは誰!?》

氷姫《どうせあんたみたいな腐ったお山の大将みたいのが、裏で糸引いたんでしょうがっ! 違う!?》

114 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/28(土) 22:59:18.29 ID:L2B0drxD0

教皇《くっくっくっ》

教皇《はっはっはっはっ!》

魔王《…何がおかしいの》

教皇《戦いは私が引き起こした? お前達で戦いを終わらせる?》

教皇《驕るな、愚か者どもが》

教皇《何も知らぬ者が何を喚いても、ただのお笑い草でしかない》

教皇《貴様らは何も知らぬ…! 本当のまやかしが何かを!》

教皇《貴様らが何のために戦い、何のために生きているのかを!!》


教皇《貴様らは知らぬのだ!!》


魔王《…っ》

115 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/28(土) 23:00:25.12 ID:L2B0drxD0

雷帝《魔王様》ス…

魔王《…、雷帝》

雷帝《言ったはずだ。教皇》

雷帝《私たちはもう、その手には乗らない》

教皇《くっくっくっ…! 私の言葉を虚妄だとでも言うつもりか!?》

雷帝《例え貴様が語ることが真実であったとしても》

雷帝《私たちはここで消え去る運命など、受け入れはしない》

教皇《…!》


雷帝《無様でも間違っていても》

雷帝《私たちは前に進む為にここにいる》

雷帝《それを、今の私たちは知っている!》

炎獣《ああ!》

氷姫《そういうこと!》

魔王《………》

魔王《教皇》


魔王《私たちは、あなたに屈しない!》

魔王《――ここで、あなたを越えていく!!》




116 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/28(土) 23:20:16.35 ID:L2B0drxD0

教皇《黙れ》


教皇《黙れッ!!》

教皇《黙れッ!! 黙れッ!!》


教皇《貴様らに私を越えることなど出来ぬッ!!》

教皇《私は女神の体現者ッ!!》

教皇《貴様ら魔族に破滅をもたらす存在だッ!!》

教皇《人間の勝利は、既に決められているッ!!》

教皇《その未来は、女神によって記されているのだッ!!》


教皇《貴様らは、我が波動の前に粉々に砕け散るッ!!》

教皇《さあ!! 今こそ再び力を寄越せッ!!》


教皇《奇跡の僧侶よッ!!》



赤毛《………》フワァ…!




炎獣《来るぞ!!》

氷姫《ちぃ!!》

雷帝《構えろ!!》


魔王《私たちもぶつよう!!》

魔王《己の全存在をっ!!》

炎獣《ああっ!!》

117 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/28(土) 23:21:31.09 ID:L2B0drxD0

赤毛《………》コォオオオオオオ…


魔王《赤毛ちゃん》

魔王《今、助けるから!!》


魔王《行くよ、皆っ!!》


炎獣《うおおおおおおっ!!》


氷姫《はああああぁっ!!》


雷帝《おおおおおおおおっ!!》




 ズ ン ッ !




三つ編《すごい…》

三つ編《これが、魔王さん達の戦い》

金髪《ボヤボヤしてられないぜ》

金髪《オレ達が、あの力を赤毛に届けるんだ!》

坊主《…うんっ!》

坊主《もう怖くないよ!!》

三つ編《行きましょう!!》

金髪《ああ!!》


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