ムーディ勝山に受け流されたものたちが暮らしている街

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/05(火) 20:15:10.36 ID:oGGqqfyD0

チャラチャッチャッチャラッチャー……
チャラチャッチャッチャラッチャー……

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2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/05(火) 20:21:05.69 ID:oGGqqfyD0

 ***


「この街には慣れましたか?」

 喫茶店のマスターの問いかけに対して、
 それなりに、と私は答える。

「ただ、なんとなくですが、
 とても居心地はいいですね」

「そうでしょうとも」
 マスターは朗らかに笑う。
「ここは良い街です。
 私が言うんだから、間違いありませんよ」
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/05(火) 20:36:29.61 ID:oGGqqfyD0

「良い街ですか」

「そう、良い街です。
 この街の住民には皆、ある種の共有認識がある。
 だから連帯感というか、仲間意識というか、
 そういった感覚をお互いに持ち合わせているんですね」

「共有認識?」

「つまり、"我々は受け流されたものたちである"ということです」

 そうですか、と私はコーヒーを啜る。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/05(火) 20:43:05.98 ID:oGGqqfyD0

「あなたも受け流されてきたんでしょう?」

「おそらくは。
 ただ、よく覚えてはいないのです。
 私がどうしてこの街に辿り着いたのか」

「ああ、そうだったんですか。
 そういった人も珍しくはありません。
 一説によると、受け流された衝撃で
 記憶を失ってしまうのだとか」

「記憶を失うほどの衝撃を与える受け流しって、
 それはもはや受け流し失敗ではないのか」

「さあ、私は受け流しの専門家ではないので」

「記憶を失っている私が言うのもなんですが、
 受け流しの専門家なぞ聞いたこともない」

 マスターとカウンター越しの会話を楽しみながら、
 私はサンドイッチとコーヒーを平らげる。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/05(火) 20:45:26.24 ID:NRcSEdOm0
イッチのせいでサンドイッチとコーヒーが欲しくなった。
買いに行ってくる
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/05(火) 20:48:29.55 ID:GfZ2e6JLO
ポップコーンじゃねぇか!!
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/05(火) 20:53:38.85 ID:oGGqqfyD0

「ご馳走さま」
 私は席を立つ。
「マスター、お会計をお願いします」

「5UP(受け流しポイント)です」

 私は5回ほど何かを右から左へ受け流すような動作を取る。
 後ろから吹き出すような声が聞こえる。
 振り向くと、私以外に唯一この喫茶店にいた、
 どうやら常連らしい女性が口を抑えて笑っている。

「なんですか、それ?」と彼女は可笑しそうに私に問う。

「UP(受け流しポイント)です。
 常識も貨幣も通用しないこの街では、
 何かを受け流す動作をすることが貨幣の代替として
 使用されていると、初めてこの店に来たときに教わりました。
 ですよね、マスター」

「あれは嘘です」

 私はマスターのこめかみを殴る。
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/05(火) 21:06:39.08 ID:oGGqqfyD0
***

 私を発見したのは、この街の村長だった。

 彼によると、私は道のど真ん中で、
 呆けたように立ち尽くしていたらしい。
 らしいというのは、彼に話しかけられて
 はっと気を取り直す以前の記憶を、
 私がすっかり失っているためであった。

 そんな私に、村長はこの街の成り立ちについて語ってくれた。

「この街のあらゆるものは、
 ムーディ勝山が受け流したもので作られている。
 人も、家も、道も、食料も、形あるものは全部。
 あるいは空気や、電気。時間や、夢。
 そんな目に見えない、形のないものですら、
 ムーディ勝山が受け流したものかもしれないんだ」

「ムーディ勝山……
 いったい、何者なのです」

「はっきりと知るものは誰もいない。
 しかし一つだけ言い伝えられていることがある。
 彼は、それはそれはムーディな人物なのであると」

「その言い伝え、価値あります?」
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/05(火) 21:23:10.46 ID:gKvPD+rSO
街だけど村
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/05(火) 21:23:51.24 ID:oGGqqfyD0

 そんな暴言を吐いた私に対して、しかし
 村長は当面の住みか、古いアパートの一室まで用意してくれた。

「何から何まで、恩に着ます」

「なに、気にすることはない。
 村長として当然のことさ」

「ところで、どうして街なのに村長なのですか?」

「最初は到底街と呼べない、寂しい場所だったんだ。
 村と名乗るのもおこがましいくらいにね。
 僕は昔からここに住んでいてね……
 訳も分からず受け流されてきたものたちの
 世話をするのが、僕の日課だったよ。

 少しずつ、少しずつ受け流されてくるものが増え、
 次第に村は発展して、一つの大きな街となった。
 それでも、昔の名残で僕は村長と呼ばれている。
 そういうことだよ」

「なるほど、あなたは意外と偉大な人物だったのですね」

「君は随分失礼な言い方をするね」
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/05(火) 21:33:20.69 ID:m4Pv7EC40
これは発想の勝利
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/05(火) 21:36:26.79 ID:oGGqqfyD0

 六畳一間の和室の中には、
 意外なことに家具が一通りそろっていた。
 どれもこれも使い古しのものに見える。
 彼らも、受け流されてここに辿り着いたのだろう。

「しかし、そのムーディ勝山という人物」
 気になりますね、と座布団の上に座した私は、首を傾げる。

「そうかい?」
 村長は畳の上に寝転がり、
 肘をついて愉快そうにこちらを見ている。

「気になりませんか?
 何から何まで意味不明だ。
 右から来たものを左に受け流す。
 右とはなにか。左とはなにか。
 右からくるものとはいったいなにか。
 そもそも、なぜムーディ勝山はそれを受け流すのか。
 一切が謎に包まれている」

「そうだね、確かに不思議だ。
 しかし、それは失った君の記憶よりも気になるものなのかい?
 君、自分の名前すらまだわからないんだろう?
 記憶を失ったら、まずはそれを取り戻したいと思うのが先じゃないのかい」

「それは……」
 私は言葉に詰まる。
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/05(火) 21:40:49.22 ID:NRcSEdOm0
ただいま、レタス系のサンドイッチ買いたかったけどなかったからハムとタマゴのサンドイッチと
腹いせにハムとタマゴのスナックサンド(フジパン)買ってきてファイアの香るモカで流し込んだ、旨かった。
イッチ、ありがとう。

他の芸人の所業で出来た村とかもありそうやね。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/05(火) 21:44:06.27 ID:oGGqqfyD0

「少し気になっただけだ、無理に答えなくても良いよ。
 まあとにかく、ムーディ勝山に関しては、
 もう"そういうもの"として捉えてしまっても
 この街で生きていくには差し支えない」

「当たり前のことだと思え、ということでしょうか?」

「そうだね。
 太陽が沈めば夜が来るように、
 雲が西から東に流れるように、
 波が絶えず打ち寄せるように」

「ムーディ勝山は右から左へ受け流す」

 そういうこと、と村長は笑う。
 陽気な人だ。
 出会ってからずっと彼は笑い続けている。
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/05(火) 21:51:24.86 ID:oGGqqfyD0
 さて、と言って村長が立ち上がる。
「ここらでお暇するとするよ。
 困ったことがあったら何でも言いなさい。
 あと、腹が減ったら適当な店に行ってご飯を作ってもらいなさい。
 ここではお金は要らないから」

「分かりました。
 村長に会いたいときはどこへ行けば?」

「なあに、この街で暮らしていれば、
 きっと嫌でもすれ違うさ。
 思い出したら聞かせてくれよ。
 君の名前を」

 そう言い残して村長は玄関をくぐる。
 閉まった扉を眺めながら、私は考える。
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/05(火) 22:00:17.04 ID:oGGqqfyD0
 私は、どうして失った記憶のことよりも、
 ムーディ勝山の方が気にかかるのだろうか?

 自分の名前すらわからないこの状況においては、
 何を置いても記憶を取り戻すことが先決であると考え、
 自分の正体に至る手がかりを探し求めるのが自然なのかもしれない。

 しかし、私は自分の記憶がないことについて、
 微塵も不安感を抱いていない。
 それどころか、それはどうでもいいことだとすら感じている。

 それはつまり、
「ムーディ勝山の謎を探ることが、
 自分の記憶を取り戻すことにつながると、
 何故か私は直観している」

 腹の虫が鳴る。
 考え事はここまでだ。
 一先ずは、食事にあずかろう。
 散歩がてらご飯処を探しに、私は出掛ける。

 喫茶店のマスターにUP(受け流しポイント)を教わるのは
 この後すぐのことである。
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/05(火) 22:19:15.76 ID:oGGqqfyD0

 ***

 曖昧な街だ。
 それがここで暫くを過ごした私の印象だ。
 この街は捉えどころがなく、不確かで、ぼやけている。

 私の住むアパートは大通りに面している。
 大通りは緩やかな坂となっており、
 登れば先に挙げた喫茶店や広い公園、大型スーパー、図書館があり、
 左に進めばレンタルビデオ屋や本屋、美容室、歯医者、学校などがある。

 そういった普段よく向かう場所、目に留まりやすい場所、以外の箇所。
 言うなれば、街の細部が、曖昧になっているのだ。
 
「それがあなたの調査結果ですか?」
 すっかり行きつけになった喫茶店のマスターは、
 興味なさげに皿洗いを続けている。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/05(火) 22:32:37.09 ID:oGGqqfyD0

「そうだな、それが調査によって
 明らかとなったことだ」

「あなたのそれが"調査"なら、
 散歩が趣味の老人たちは今頃みな名探偵ですよ」

「ぬぐぅ」
 返す言葉がない。
 確かに調査とは名ばかりで、
 私は連日連夜暇を持て余して
 街を徘徊しているのみである。
 
 まずはここからと図書館に訪れてはみたのだが、
 私の望むこの街の歴史書やムーディ勝山の正体に迫る学術論文などは一切なく、
 ただ中古書籍が乱雑に書棚に収まっているだけであった。

 とりあえずと星新一の「地球から来た男」を借り、
 私の調査は手がかりを失う。

「しかし、そうは思わないか?
 例えば、街路樹の種類。
 路地に入った時の家の並び。
 遠くに見える工場の煙突の数。
 夕方に影を指す山の配置。
 そういった細かい点が、
 少しずつ変わっていっている気がするのだ」
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/05(火) 22:44:34.39 ID:oGGqqfyD0
「そうは言っても、そんな細かいところなんて覚えていませんよ」
 ねえ、とマスターは店の片隅の、例の常連客に話をふる。

 読んでいた文庫本からちらりと顔を挙げ、
 どーでもいいですよ、と彼女は言って顔を戻す。

「単純にあなたの覚え違いでは?」

 そこなんだよ、と私は勢い込んで机を叩く。

「覚えていられないのだ、"細部"を。
 例えば喫茶店の窓から見える景色。
 確かにあの位置に理容店のサインポールが立っており、
 そこから左側に見えるエアコンの室外機の上にはサボテンが並んでいたような気がする。
 しかし、それだけなのだ。
 この窓から目を離せば、すぐにどんな景色だったのか、ぼやけてしまう。
 記憶に残されるのはぼんやりとしたサインポールやサボテンだけだ。

 だいいち、人にしたってそうだ。
 数日に一回すれ違っているはずの村長、
 私は彼がどんな顔をしていたのか、全く思い出せないのだ」

「確かに、村長の顔って印象薄いですね。
 私もよく思い出せません」

「だろう?
 つまり、細部を覚えていられない、
 この曖昧さが、この街の特徴なのだと言えるのではないだろうか?」

「記憶のない人がそう言っても……」

 私は机に倒れ伏す。
 私の記憶力に関しては、確かに私も信用できない。

 

20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/05(火) 22:53:32.65 ID:oGGqqfyD0
「まあ、気長になさってくださいよ」
 皿洗いを終えたマスターは、サイフォンに点火し、
 コーヒーカップに湯を入れた
「コーヒーを淹れるようにゆっくりと。
 そうすればいずれ手がかりの方から転がり込んでくることでしょう」

「そんなものかね」

「そんなものですよ。
 私が言うのだから間違いありません」

 マスターは湯を捨て、温まったカップにコーヒーを注ぎ、
 それを啜って美味そうに嘆息した。

「気落ちした私にコーヒーサービスとかでは?」

「道楽でやってるだけの店にそんな気の利いたものはありませんよ」
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/06(水) 01:08:33.96 ID:cxaeNXJLO
ブームも過ぎ去った芸人のネタから、よくここまで展開できるなぁ…
きたい
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/06(水) 08:08:04.56 ID:Ozoec4Gwo
文章の雰囲気好き
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/06(水) 08:21:31.55 ID:xDJAVm6AO
街の村長という存在がもはやギャグに溢れてるし
それ町っぽく眺めてるわ
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/06(水) 13:03:30.25 ID:5Pt+Kd170
このスレタイでスレ開かない奴とか居んのかな
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/06(水) 16:39:16.93 ID:Ajgz/6Rs0
ムーディ勝山を知らない世代とか
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/06(水) 17:03:09.32 ID:Ozoec4Gwo
2006年くらいだっけ
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/06(水) 21:30:17.94 ID:8FNSZ91h0

 ***

「ちょっと! ちょっと!」

 その日の私は、けたたましいノックの音と、
 大家のやたら甲高い声で目を覚ます。

 寝ぼけ眼をこすりながら玄関を開けると、
 おっさんなのかおばさんなのかよくわからない顔の
 大家が目の前にいて、一気に目が覚める。
 大家は振り向いて、後ろに置いてある何かを指さす。

「アパートの前になんか受け流されてると思ったら」

 大家の指の先にあるのは、昔懐かしの、

「キックボードでした」

「はあ」

「あんた、車も自転車もなにも持ってないでしょ。
 あげます」

「キックボードをガチの移動手段として使えと?」
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/06(水) 21:46:37.11 ID:vZh3ZYego
ザ・タッチも受け流されたのかと
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/06(水) 22:00:47.00 ID:8FNSZ91h0

 とはいえ、せっかく頂戴したものを使わぬのもなんなので、
 キックボードに乗って少し遠出することにする。

 坂を下る方向へとずっと行けば、
 いずれ海へと辿り着くらしい。
 歩くには少々面倒な距離らしいが、
 そこはキックボード、
 何もしなくてもすいすい進んでいく。
 なかなか優れた乗り物である。

「何今どきキックボードになんか乗ってやがんだコノヤローめ!」
「コノヤロー、童心を忘れない私、逆に素敵でしょみたいなアピールか馬鹿野郎め!」

 途中、二人組の暴走族にやたらと煽られたが。

 やはり、人目に付くのは問題である。
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/06(水) 22:11:04.15 ID:8FNSZ91h0
 
 どんなこんなで十数分ほどキックボードに乗り続け、
 私は海へと到着する。
 防波堤の上によじ登り、海を眺める。
 だだっ広い水平線の先には、陸地も、島も、
 影も形もない。

 振り返ると、緩やかな坂の上に
 形成されている街と、その向こうに山が見える。

 ざっと見渡したところ、
 この街はほぼ円状に広がっている。
 太陽の方角から察するに、南半分が海に、
 北半分が山に囲まれたような地形だ。

 この海の先には果たして他の陸地があるのだろうか?
 あの山を抜けた先にはなにかが待っているのだろうか?
 
 この街は、外界から断絶している。
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/06(水) 22:22:27.75 ID:FhAF0fQzo
いつここだ懐かしい
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/06(水) 22:26:02.01 ID:Ozoec4Gwo
ブゥンブゥンブゥンブゥン〜
どけどけ〜邪魔だ邪魔だどけどけ〜
轢き殺されてぇのか、ばかやろこんにゃろめ!
葬式してぇのか、ばかやろこんにゃろめ!
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/06(水) 22:31:09.98 ID:8FNSZ91h0

 しばらく海を眺めていたが、
 変化がなさ過ぎてすぐに飽きてしまう。

 防波堤に沿ってふらふら歩いていると、
 ジョギングをしている男性が反対方向からやってくる。

 私は軽く会釈をする。
 彼はスピードを緩やかに落とし、
 私の近くで立ち止まる。

「見ない顔だね」

「ええ、つい最近ここにきました」

「この街は退屈だろう。
 どうだい、一緒にジョギングでもしないか?」

「遠慮しておきますよ。
 私はインドア派なもので」

 筋トレぐらいしかやることもないだろうに、
 という彼の身体は確かに筋肉質だ。
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/06(水) 22:52:07.08 ID:8FNSZ91h0
「あなたはこの街に来てから、どれくらい経つのですか?」

「さあね、よく覚えていない。
 それにあまり考えたいこと重要ではないしね」

「それはどういう意味です?」

「ここは穏やかな街だ。
 今日も昨日と変わらぬ日を過ごす。
 そして明日も、今日と変わらぬ日となるだろう。
 そんな、変化のない日々が続いていくことが、
 僕らのような"受け流されたもの"にとっての幸せなのだろうに。
 だからこの街において時間とは、意識されるものであってはならない。
 それは忘却されるべきものなのだ。
 と、僕は思うのだけどね」

 そうなんですかね、と私は言う。 
 正直なところ、私は彼のいうことがよくわからない。

 "変がのない"ということは、
 それは腐敗していくと同じ意味なのではないのだろうか?

 流れのない水が淀むように。
 無人の家が朽ちていくように。
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/06(水) 23:00:36.30 ID:8FNSZ91h0
「"受け流されたもの"、と先ほどあなたは言いましたね」

「ああ、言ったね。
 それが何か?」

「あなたは"受け流す"といったことが何を意味しているのか
 ご存じなのではないですか?
 そして、ムーディ勝山とやらが何者なのかも」

「いや、残念ながら僕は知らないよ。
 君の方がよく知っているんじゃないかな?」

「私が?」

「ああ、そうだ。
 胸に手を当てて考えてごらん。
 きみにとって、"受け流す"とはなにかな?」

 私にとって、"受け流す"とは?
 口に手を当てて考え込む。
 私は本当は知っているのか?
 "受け流す"ことの意味を。
 この街の正体を。
 ムーディ勝山という人物のことを。

 助けを求めるように、
 私は男性の目を見る。

 彼は優しく微笑みながら、
 こう教えてくれた。


「そうだね、プロテインだね」


 急に胸を勢いよくたたき始めた彼を
 私は狂人だと判断し、
 踵を返して脱兎のごとく逃げ去った。
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/06(水) 23:11:11.12 ID:hPMY6le10
色々ぶっこんで来たw
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/07(木) 00:10:48.32 ID:347i8+G4o
ひでぇや
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/07(木) 09:21:53.64 ID:rvZ0mJgLO
まさかこの流された人って白いスーツきて髭はえてマイクもってたり…
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/07(木) 10:22:54.30 ID:8nWWUyKRO
これは面白い
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/07(木) 14:31:41.63 ID:BJONUHsLo
土曜夜10時の感じがする
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/07(木) 17:03:53.69 ID:+w74b8GYo
昭和の文学の匂いがする文章だ
面白すぎる
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/12/07(木) 17:22:54.27 ID:kKC1bX+c0
飲み会のため、本日の更新は無いでムーディ
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/07(木) 20:12:45.55 ID:wepfi8cdO
スレタイからして反則
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/10(日) 17:27:06.48 ID:3JQikEq20
 ***

「村長、右から左に受け流す、というのは、
 いったい何を指していると思います?」

「聞き込み調査に切り替えたのかい?
 いや、というよりは手がかりを失くして
 手当たり次第にあたっている
 という感じかな?」

 図星です、と私は頭を掻く。
 毎日の徘徊の結果、私は未だに
 ムーディ勝山の尻尾さえ掴めずにいる。

 そして今日、偶然にすれ違った村長に
 こんな質問を投げかけてみている。
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