ムーディ勝山に受け流されたものたちが暮らしている街

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45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/10(日) 17:38:26.40 ID:3JQikEq20
「僕の口から言えないね」

「いけず。
 知っているのならば教えてくれても良いだろうに」

「僕も少し複雑なところでね……
 申し訳ないが、なにも言えない」

 さてどうやって村長の口を割らせようか、
 どこかにのこぎりやペンチ、ガスバーナー等は
 受け流されていないだろうか、と考えていたところ、
 村長が言葉を続ける。

「ああ、ただ、これだけは言っておこう」

「なんです?」

「ムーディ勝山は、ただの一人の男だ。
 神様でも仏様でも何でもない、
 右から来たものを左に受け流すだけの、普通の男さ。
 彼の正体そのものは、おそらく、そんなに重要ではない」

「では何が重要だと?」

「それは君自身が考えるんだよ。
 僕のヒントはここまでさ」

「やはり多少の危害を加えるのも
 やむを得ないか……」

「物騒な考えはやめなさい。
 こら、とりあえずその固く握りしめた
 拳を解きなさい」
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/10(日) 18:56:30.66 ID:3JQikEq20
 ***

 この街には川が流れている。
 街を二つに分けるように、街の中央を、緩やかに。

 私は川縁を歩いている。
 どこかの橋の下に、ムーディ勝山その人が
 隠れていないだろうかなどと考えながら。

 途中、一人の路上シンガーを見かける。
 彼は細やかにギターをつま弾き、
 柔らかな声で優しい歌を歌う。
 私はしばしの間足を止める。

 やがて曲が終わる。
 私は拍手をする。
 彼はどこか気恥ずかし気に、
 ありがとうと頭を下げる。
 
 
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/10(日) 19:29:41.10 ID:3JQikEq20
「お上手ですね」

「いいえ、まだまだですよ」

「良い曲でした。
 まるで、人を優しく包み込むような」

「そう感じていただけたなら幸いです」

「ギターは、長くやっておられるのですか?」

「まあそれなりに。
 ……訳あって、離れていた時期も少しありましたが」

「訳、ですか」

「私は、人を傷つける歌ばかりを歌ってきたんですよ」

 彼は目を伏せた。
 続く言葉を探すようにギターピックを握った右手を空中に泳がせ、
 それからギターを一度かき鳴らした。
 少しチューニングのずれた和音が響いた。
 
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/12/10(日) 19:32:23.53 ID:PS2eDG5R0
ムーディ勝山なんて今の餓鬼は知らねえんだろうなあ
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/10(日) 19:36:55.78 ID:3JQikEq20
「ウケを取るためだけに、
 私は他人を斬って、斬って、斬り続けた。
 その後に残されたのは、血まみれの両手と、
 私もいつか他人に斬られるだろうという恐怖だけだった」

「重たい話を聞いておいて悪いのですが、
 なんで急に武士的な話になったのです?」

「その恐怖に耐えられなくなった私は、自ら刀を置きました」

「ギターの話ですよね?」

「他人を斬るためには、自分が斬られる覚悟も必要だ。
 私はその、ギター侍たる条件を満たせなくなったのです」

「ギター侍なんて珍妙な生き物は存在しないと思いますよ」
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/10(日) 19:46:12.05 ID:3JQikEq20
「ふさぎこむ日々が続きました。
 外を歩けば、人殺しと罵られるような気がしました。
 公園でなく子どもの声ですら、私を糾弾しました。
 ぼきゅのお父さんを返して、
 あんたがギターで斬り捨てたお父さんを返してよ、よ」

「だからギターは刃物ではない」

「しかし、私は気付いたのです。
 ギターで失う命もあるならば、
 ギターで救える命もあるはずだ、と。
 そう、私はギこれからは、人を救うための歌を歌うのです」

「経緯はちんぷんかんぷんですが、
 その心意気を立派です」

 彼は"We are the world"を歌い始める。
 一緒に歌ってほしそうにこちらをチラチラ見てくるので、
 しかたなく私も一緒に歌う。
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/10(日) 19:53:55.59 ID:5S7JhsG70
なんなんだこの珍妙ながらも穏やかな世界は、もうw
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/10(日) 20:02:02.78 ID:IPpRWQiTo
上から落ちてきた物はどこに行ってしまったんだろう
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/10(日) 20:23:42.51 ID:BAfX5lAV0
このスレタイは卑怯
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/10(日) 23:02:02.92 ID:VXPbLXVNo
良い話だな
お笑い黄金期だった
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/10(日) 23:12:38.36 ID:r63j1JWJO
ギター侍はクレしんの映画でビル斬り捨てる程の実力者だし……
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/11(月) 12:42:10.00 ID:FHpzvAisO
青木さやかが寂しそうに此方を見ています仲間にしますか?

はい
いいえ
→ liveでディスる
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/11(月) 21:32:52.88 ID:0EiW2Qh10
 ***

 ふと見かけた居酒屋に立ち寄ってみる。
 名前は「居酒屋 ワイルド」。
 これに関してはもはや何も言うまい。

 席について、とりあえずのビールと、
 肴を何品か注文する。
 ほどなくして一品目の豚の角煮が運ばれてくる。

「下茹でして余分な灰汁と油を取り除いた
 豚バラ肉ブロックを一口サイズにカットして、
 軽く焼き目を付けた後に酒、醤油、みりんでたれを作り、、
 みじん切りにしたショウガで香りをつけ、
 付け合わせとして玉ねぎを加えたあと、
 トロトロになるまで何時間も煮込み続けてやったぜ〜」

「細やかですね」
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/11(月) 21:45:28.15 ID:0EiW2Qh10

 ちびちび酒を楽しんでいると、
 テーブルについた別の集団から声がかかる。

「おいそこのアンちゃん!
 一人で飲んでると寂しいだろ、こっちこいよ!」

 振り向くと、男性一人に女性二人のグループがいる。
 私に声をかけたのは、緑色の奇抜な紙をした女性のようだ。
 怖い。

 おっかなびっくりそのテーブルに着き、
 となりの男性に声をかける。

「すみません、お邪魔ではありませんか」

「ラスタピーヤ」

「それでは遠慮なくご一緒させていただきます」
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/11(月) 22:20:27.26 ID:0EiW2Qh10
 話してみると、いかつい外見の女性も、
 その隣に座っている年配の女性も、
 隣の海パン野郎も、なかなか気さくで話が弾む。

 私は途中で切り出してみる。

「右から左へ受け流す、っていったい何なんですかね」

「知らねえよ、そんなもん」とはいかつい女性。
「アタイは何も受け流すことなんかなかったからな。
 全部真っ向勝負でやってきたんだ」

「それは、一つの祈りのようなものなのかもしれません」と年配の女性。
「具体的に何が右から左へ来るのか、それは私のあずかり知るところではありません。
 しかし、私は思うのです。
 右からくるものを左に受け流すことを待っている人。
 彼は受け流すというう行為に専念しています。
 それは一見ただ待ち続けるだけの受動的な姿勢に見えますが、
 しかし受け流すという行為の性質上、
 彼はいつでも右からくるものに対して備えていなければならない。
 いつくるやとも知れぬ、右からくるもの。、
 それが訪れるタイミングを、彼は思い続けている。
 この真摯なる思いが、祈りでなくてなんでありましょうか」

「姉さん、キャラ付け忘れてるよ」

「あっ、えー、ホップステップタイミングゥ〜」

「貴重なご意見です」と私は礼を述べる。

「ところであなたはどう思います?」

「ラスタピーヤ」

「ありがとうございます」
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/11(月) 22:28:32.89 ID:0EiW2Qh10

 二次会に行こうぜ、といかつい女性が言うので、
 言われるがままに私も彼女についていく。

 「ここだ」と案内された先は、
 怪しげなネオンが光るスナック。

 嫌な予感がしながらも、とりあえず
 扉を開けて中を覗いてみる。

 カウンターの中で、ボンデージ姿の女性が
 鞭を引っ張り「ア”−−−ッ」と叫んでいる。

「急用を思い出したのでここで失礼します」

「そうはいかないよ」と襟首をつかまれて
 店の中へと引きずり込まれる。

 それからのことはよく覚えていない。
 あくる朝、自室で目を覚ました私は、
 体に走るみみずばれと、何か大切なものを失くしたような
 喪失感だけを昨夜の名残として携えていた。
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/11(月) 22:50:54.18 ID:0EiW2Qh10
 ***

 その日私は、劇場を見つける。
 ふらりと入ってみる。
 使われた形跡のないその劇場は、
 カビと埃の匂いが空気中に充満している。

 小さな、古い劇場だ。
 観客席を全て埋めたとしても、
 その数は100をようやく超える程度のものだろう。

 それでも、舞台の上に立って、
 人でいっぱいになった席を前にすれば、
 さぞや気持ちが満たされることであろうな、
 と私は思う。
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/11(月) 23:00:39.81 ID:0EiW2Qh10

 私は中央あたりの席に座って、
 舞台を眺めてみる。
 当然だが、何も始まらない。
 それでも私は、しばしの間、座り続けている。

 使われなくなった劇場は、まるで戦場跡のようだ。
 舞台と、観客席と。
 かつてここで繰り広げられたであろう、
 死に物狂いのパフォーマンス。
 それらは微かな痕跡を残すのみで、
 今ではただ静寂だけがこの場を支配している。

 私は少しうとうとしてしまい、
 誰かの声で目を覚ます。

 私の視界に、舞台の上に立つ、
 おぼろげな二人の姿が見える。

 私は目をこすり、改めて舞台に目を凝らす。
 そこには誰もいない。
 わずか数瞬の間に、舞台の上にいたものたちの姿は
 幻のように掻き消えてしまっている。

 それでも、微睡の中で、私は確かに聞いた。
 名乗りをあげる、彼らの声を。


「どうも〜、○○○で〜す」

63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/11(月) 23:22:05.30 ID:0EiW2Qh10

 ***

 ここは穏やかな街だ。

 なにかを学ぶ必要もない。
 あくせく働く必要もない。
 ここでは緩やかに時間が流れ、
 この街に住むものたちは、
 だけど次第に、押し流されていく。

 左へ。左へ、と。

 この街にあるのは、記憶の残滓だ。
 私はそう確信する。

 かつては誰もが知っていたものたち。
 それらが忘れさられそうになって、
 「忘れられたくない」と挙げた悲鳴が、
 あやふやな面影となって、この街に辿り着く。

 ムーディ勝山に受け流されたものたちが暮らしている街。
 この街は記憶の墓場で、
 この街に住む住民たちは、記憶の亡霊だ。
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/11(月) 23:32:29.89 ID:0EiW2Qh10
 この街はきっと、記憶の流れが行きついた先にある。

 世間にいる、いわゆる一般人。
 彼らが毎日毎日水みたいに
 吸収しては忘れていく、その記憶の流れの先に、
 まるで漂着物が流れつく浜辺のように、
 この街が存在している。

 だからこの街の住民たちは
 みんなある種の共通認識を有している。
 私たちは受け流されたものたちなのだと。
 私たちは忘れられたものたちなのだと。

 しかし、私は。

 そうだ。
 私は望んで、この街に来たのだった。
 
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/11(月) 23:37:32.48 ID:0EiW2Qh10
 ***

「この街には慣れましたか?」

 喫茶店のマスターの問いかけに対して、
 それなりに、と私は答える。

「でも、もう行かなきゃ」

 私はカウンターを立つ。

「優しい街だった。穏やかな街だった。
 居心地の良い街だった。
 だけど、ここに留まることは、
 そのまま時間の流れに飲み込まれることを意味する。
 それでは駄目なんだ。
 私はそれを許せないんだ」

 私は絞り出すような声で言う。
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/11(月) 23:46:25.27 ID:0EiW2Qh10
「今から私のすることは、
 きっとこの街を破壊することに等しいのだと思う。
 許してもらえるとは思わない。
 だが、自分の意思を変えるつもりはない。
 初めから、私はそのつもりでこの街に来たのだから」

「あなたの信じる道を行きなさい」とマスターは言う。
「それがきっと、一番、間違いない」

「どーでもいいですよ」と常連の女性が言う。

「いきなりでてきてごめーん、まことにすいまめーん」と細身の男性が言う。
 全くだ。お前誰だ。いつからそこにいた。

 
 私は喫茶店を出る。
 もう二度と、戻ることはない。

67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/11(月) 23:52:05.73 ID:0EiW2Qh10

 ***

「さて、村長。
 初日の宿題を果たしにきましたよ」

 街の中心部にある、小さな公園。
 そこにあるベンチに彼と私は腰掛けている。

「思い出したら名前を教える。
 それがあなたとの約束だった」

「待ちくたびれたよ」と村長が言う。
「周りの登場人物を見てみなよ。
 こんなにヒント旺盛なのにさ」

「そこに少々ひっかかってしまってまして」
 私は照れ隠しに頭を掻く。

「始めは、私自身がムーディ勝山なのだと
 思ったんですよ」
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/12(火) 00:09:24.32 ID:03tJKpl60
 続けて、と村長が言う。

「ムーディ勝山自身が、ムーディ勝山を受け流して、
 この街に送り込んだのだと。
 そのムーディ勝山の抜け殻が私なのだと。
 最初はそう考えてしまいました。
 しかし、それにはどうしても違和感があった。
 単なる直観に過ぎないのですけれど。
 この街が、自分の正しい居場所なのではない、という直観があったのです」

 続けて、と村長が言う。

「何故ここが私の居場所ではないのか、
 それは、私が受け流されてここに来たからなのではなく、
 私自身が望んでここにきたからでした。
 私は自分の意思で、ここに来た」

「それでは教えてくれ」と村長が言う。


 私は答える。


「私は梶剛。
 勝山梶の梶剛であり、ムーディ勝山の相方だ」


 そして私は村長に告げる。

「ムーディ勝山。
 私はあなたを、この街から連れ出しに来たんだ」
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/12(火) 07:39:37.32 ID:/5+drQqUO
マジかよ!すいまめーんより知らねーぞ!!
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/12(火) 08:26:20.39 ID:f43DZz1uO
な…なんだってー!?
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/12(火) 09:16:17.84 ID:j4kYOHzZo
やっぱり相方だったか
影薄いよね。というか名前知らなかったし
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/12(火) 17:58:33.39 ID:Z48EkBv+o
そういやコンビだったね……
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/13(水) 21:33:53.26 ID:heOFNSiD0
 あやふやだった村長の容姿が次第に確かな形を取っていく。
 白いスーツ、蝶ネクタイ、口ひげ、そして右手には、マイク。
 
「やっと思い出してくれたか」と、村長改めムーディ勝山は言う。
「冷たいじゃないか、昔の相方をこんなに長い間忘れたまんまにしておくなんて」

「すまないな」と私は謝る。
「だが、許して欲しい。
 結果的には、ちゃんと君に辿り着くことができたのだから」

 さあ、帰るぞ。
 私はそう言って、右手を差し出す。

 ムーディ勝山は私の右手をじっと見つめる。

「お断りだ。
 もし、僕がそう言ったら?
 この街で平穏に包まれたまま、皆に忘れ去られて、眠るように朽ちていく。
 そうすることが望みなんだと、僕がそう本心で願っていたとしたら?」

「ぶん殴ってでも連れていくさ」

 私は答える。

「その言葉は嘘なんだと、私は知っている。
 忘れ去られていくことを望む芸人なぞいるものか。
 ウケなくても、目立たなくても、芽が出なくても、
 かつての観衆を沸かすことができなくなってしまっても、
 それでも、一瞬の笑いを求めて、あがき続ける。
 私たちはそんな生き方をしてきたんじゃないか」

 私は一呼吸おいて、叫ぶ。
 この街中に聞こえるように願って。
 この街の外にも届くように祈って。

「私たちは、芸人だ!
 忘れ去られてなど、やるものか!」
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/13(水) 21:42:27.66 ID:heOFNSiD0

 ムーディ勝山は、私の右手を取る。

「僕は、まだやれるかな」

「まだまだやれるさ」

「僕のことを、まだ覚えていてくれているのかな」

「もう一度思い出させてやればいい」

「僕は、もう誰にも忘れられたくないんだ」

「大丈夫。私がいる。
 お前のかつての相方の、私がお前を覚えている。
 私が大声で叫んでやる。
 ここにムーディ勝山がいるんだ、
 ここに私たちがいるんだ、って」

 ムーディ勝山の頬を一筋の涙が伝う。

「君が初めてこの街に来たとき、
 村長だった僕は、やたらと笑っていただろう?
 嬉しかったんだ。僕は。
 君が迎えに来てくれたことが、本当に」

 行こう、と私たちは頷き合う。

 そして走り始める。

 右へ。
 右へ。
 受け流されるものに逆らって、
 ただひたすら、右へ、右へ、
 私たちは走り続ける。
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/13(水) 21:51:00.18 ID:heOFNSiD0

 これは悪あがきだ。

 容赦なく過ぎ去る時間に対する、
 ささやかな抵抗だ。

 儚く移ろいゆく時代に向けた、
 ちっぽけな反逆だ。

 忘れっぽい一般人たちへの、
 なけなしの反撃だ。

 無様で、滑稽で、みっともなくて、
 それでも私たちは必死で走り続ける。

 時代に置いていかれないために。
 受け流されたもののままで終わらないために。

 私たちはここにいる。
 
 聞こえるか?

 私たちはここにいる。
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/13(水) 21:55:36.87 ID:heOFNSiD0

 ***

 その男は舞台袖で、緊張した面持ちで
 出番を待っている。

 私はその背中を、ポンと軽く叩く。

 大丈夫だ、行ってこい。

 彼は頷き、背筋を伸ばして、
 真っすぐに舞台中央を目指して歩き始める。

 スポットライトが男を照らす。

 広い舞台の上でただ一人立つ彼の、
 右手にあるマイクは小さく震えている。

 少し息を吸い、深く吐く。

 震えが収まる。

 まばらな観客席を見つめる。

 それから彼は、凛とした声でこう言い放つ。
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/13(水) 21:56:15.71 ID:heOFNSiD0


「ミュージック、スタート!!」

78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/13(水) 21:58:00.31 ID:heOFNSiD0
 この物語はフィクションです。
 実在の人物、団体とは一切関係ございません。
 上記ご了承の上、右から左へ受け流してください。
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/13(水) 21:59:27.55 ID:WLtS36jH0
よーし、受け流そ受け流そ
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/13(水) 22:13:28.88 ID:WLQezN4D0
マスター以外は分かったがマスターがわからん
誰なんだあんた一体
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/13(水) 22:18:34.90 ID:2zIZ15xdo
>>80
>>66
>「それがきっと、一番、間違いない」
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/13(水) 22:20:27.25 ID:9vzk6BJz0
長井か
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/13(水) 22:32:08.13 ID:qik7MfuQo
相方はいまや地方局のレギュラー多数でMC番組も多いんだっけか
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/13(水) 22:39:43.27 ID:vHpRT3yAo
長居はいま創価に喧嘩売って狙われてフィリピンに雲隠れしてるじゃん
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/13(水) 23:49:30.77 ID:3djfTmCfo
ここにまた一つ名作が生まれた…

懐かしいメンバーばかりで切ない気持ちになったわ
あとまちゃまちゃの名前が出なくてもう昔になったんだなーと思った
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/14(木) 00:22:59.18 ID:iLx9sMcr0
いい雰囲気だった 乙
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/14(木) 03:10:32.40 ID:r2YjeXzD0
乙…当時エンタとか見てた記憶が蘇ってきたわ…童心に帰ったとは違うけど不思議な気分
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/14(木) 03:35:10.17 ID:L7J4Hz0jo

昔を思いだすいいssだわ
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/14(木) 04:17:45.88 ID:uCQ0/mXjo

懐かしい雰囲気がよかったよ
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/14(木) 04:44:46.19 ID:zhtzsQsTo
乙 名作だった
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/14(木) 08:33:56.74 ID:apMKP4v3O
懐かしいなぁ
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/14(木) 08:58:47.45 ID:eTtG5uXDO

次場らしい作品でした
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/14(木) 10:20:02.35 ID:XkJYAxdgO
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/31(日) 10:47:00.96 ID:zq1eyf0Jo
おつかーれ
何となく村上春樹を思い出したな。味のある話だった
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