多摩「月影に浮かぶ猫」

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1 : ◆pxTJMwo04OvB [sage saga]:2017/12/13(水) 20:46:27.42 ID:72sQ3/jzO

・基本台本書き、書き溜めです
・独自解釈があります
・設定に矛盾がありましたら目を瞑っていただけると幸いです
・多摩改二告知前から書き始めていた為、環境や時期が現在と少し異なります

多摩「以上、注意するにゃ」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1513165587
2 : ◆pxTJMwo04OvB [sage saga]:2017/12/13(水) 20:47:04.59 ID:72sQ3/jzO
暗いお空に煌々と浮かぶお月様。光を反射させながらてらてら揺れる水面は、確かに幻想的だけれど。
ねぇ。この下にどれだけ深い闇が待ってるか、知っているの?

強い光が暗い影を生み出すからか。それとも、静かで広大な世界にぽつり。一人だけだからか。自分の存在がまるで、何倍にも大きく膨れあがったかのような錯覚を覚える。
嗚呼、これだけ大きいのだ。きっと自慢の三本煙突だって良く目立つに違いない。

でも。私をこんなに大きくして置いて、あなたはただ見ているだけなんだね。
もう歩くことしかできない私は、あなたのせいで、水中を駆ける鬼に捕まってしまう。

それなのに。

空に浮かぶ月は、水面に浮かぶ私の身体を唯々見てるだけ。
世界を照らす光も、二つに折れた身体が沈む深淵にまで微笑んではくれない。
無責任で、自由気ままなお月様はまるで……そう。例えるならば――
3 : ◆pxTJMwo04OvB [sage saga]:2017/12/13(水) 20:47:37.95 ID:72sQ3/jzO
多摩「猫じゃないにゃ!!」バンッ

司令官「うおっ!ね、寝てたかと思えばいきなり叫ぶな机を叩くな!」

【司令官さん?】

司令官「あ、ああすまない。多摩も起きたしそろそろ切るな、今日は楽しんでおいで」

【はい、なのです!では】

司令官「ふぅ……あらら、机の上の書類の束が崩れてる……」

多摩「多摩は悪くないもん。多摩のことを猫って言う提督が全て悪いにゃ」

司令官「いやぁ、だってさ。唐突に執務を放り出して日なたぼっこを始めたかと思えば、猫じゃらしにつられて遊び始めるし……かと思えば急に僕の膝を枕にして眠り出すし……」

多摩「提督が猫じゃらしを取り出したのがそもそもいけないのにゃ。執務中になにをやっているやら……」

司令官「その言葉、そっくりそのまま返すぞ……。ったく、今週の秘書艦なのに無責任で自由気ままで……ほんと、まるで猫みたいだよ」

多摩「また言った!もうっ、今度ばかりは許さないにゃあ!」フシャー

司令官「わ、わ!タンマタンマ!」
4 : ◆pxTJMwo04OvB [sage saga]:2017/12/13(水) 20:48:13.75 ID:72sQ3/jzO
一〇〇〇 鎮守府巡洋艦寮 球磨型の部屋

球磨「それで、ふてくされて帰ってきたと。全く、多摩も困った妹だクマ」

多摩「つーん」クシクシ

北上「いやぁ、多摩姉ぇらしいと言えばらしいじゃん?」

球磨「だとしても、仕事中は良くないクマ。きっと提督、今頃一人でヒーヒー言ってるクマ」

多摩「どうせ夕方辺りに戻った電が執務室を訪れて、そのまま手伝うだろうから何も問題ないにゃ」

球磨「いや、寧ろ問題しかないクマ……それに今日は、」

多摩「そんなことより、こんな良い天気にお日様に当たらないのは損なのにゃ。ちょっと日なたぼっこに行ってくるにゃ」シュタッ

球磨「あっ、こら!せめて窓じゃなく扉から出て行くクマー!」

北上(見事なまでの猫っぷりだなぁ)
5 : ◆pxTJMwo04OvB [sage saga]:2017/12/13(水) 20:48:56.79 ID:72sQ3/jzO
一〇二〇 鎮守府 船着き場 灯台

多摩(ここは風も心地良いし、十月半ばとは言え今日みたいな暖かい日は最高のお昼寝スポットにゃ)

多摩(ただ、今日の灯台見張り番は――ああ、彼女なら)ソッ

多摩「失礼するにゃあ」キィ

瑞鳳「あれ、多摩?」

卯月「あー、多摩さんだ」

多摩「何で卯月がいるのにゃ……今日の見張りは瑞鳳なのに」

卯月「それを言うなら、多摩さんもどうしてここに来たぴょん?」

多摩「日なたぼっこにゃ」シレッ

卯月「多摩さん、今日秘書艦じゃなかった?おさぼりは良くないぴょん」

多摩「む。卯月こそ今日は非番じゃないはずにゃ」

卯月「うーちゃんはぁ、巡回業務中なんだよ。だから、ここにも見回りで来てるんだぴょん」

瑞鳳「卯月、ここに来てもう1時間以上立つんだけど……」

卯月「……」

多摩「……」

卯月「……今日は絶好の日光浴日和ぴょん」ゴロン

多摩「そうだにゃあ」ゴロン

瑞鳳「二人とも……仕事、しようよぉ……」
6 : ◆pxTJMwo04OvB [sage saga]:2017/12/13(水) 20:49:39.17 ID:72sQ3/jzO
多摩「ふにゃ……あぁ〜」ノビー

卯月「おっきなあくび〜」ケラケラ

瑞鳳「もう、勤務中に良いのかしら……」

卯月「最早それは今更ぴょん」

瑞鳳「その発言もどうかと思うんだけど」ジト

卯月「でも、だってうーちゃん達普段はそんなに出撃も遠征もないし……鎮守府にいる時間が長いけれど、その時間が一番平和だし」

卯月「書類整理や執務は秘書艦の役目だから、秘書艦でもない限り時間は有り余っているぴょん」

瑞鳳「その秘書艦もこうして一緒にお休みしているわけだけど」ハァ

多摩「にゃ?」
7 : ◆pxTJMwo04OvB [sage saga]:2017/12/13(水) 20:51:16.51 ID:72sQ3/jzO
瑞鳳「まぁ、でも確かにそうよね。私達がかり出されるのって、それこそ各深部海域とか、定期的に大本営から発表される大戦時くらいだものね」

卯月「その大戦だって大抵は最難関海域まで出番がないぴょん。決戦兵器、って響きは好きだけど……」

瑞鳳「そう言えば、この間の大規模作戦はさすがに堪えたわよね。何度姫級達に追い遣られたことか」

卯月「あー、あの時は久々に『もうダメかも知れないー!』って思ったぴょん」

瑞鳳「疲れ切っていたものね。私達も……提督も」

卯月「司令官、あの時ばかりは備蓄資材も枯渇して大分参っていたぴょん」

瑞鳳「結局は、意地と信念だったなぁ。今となっては良い思い出よね」

卯月「ぴょん」
8 : ◆pxTJMwo04OvB [sage saga]:2017/12/13(水) 20:52:14.63 ID:72sQ3/jzO
瑞鳳「……考えてみたらさ」

卯月「んー?」

瑞鳳「どうして、私達なんだろうね」

卯月「……」

瑞鳳「練度が上がれば正規空母並みの活躍をお見せします。初めて提督に出会った時ね、そう言ったのよ、私」

瑞鳳「確かに、練度が上がるにつれて艦載機運用の精度も上がったわ。けど……」

瑞鳳「結局は、同じく練度が上がった正規空母達には追い付けないのよね。どう頑張っても」

卯月「……そんなの、うーちゃんだってそうだぴょん」

卯月「うーちゃん……張り切って、頑張って。自分を鼓舞して戦っているけれど」

卯月「それでもやっぱり、他の駆逐艦の子達を見ていると、自分の力不足を感じずにはいられないぴょん」

卯月「この間も……司令官が別の鎮守府の提督に、『なんで決戦艦隊に卯月なんか入ってるんだ』って言われてて……卯月は……」

瑞鳳「……」
9 : ◆pxTJMwo04OvB [sage saga]:2017/12/13(水) 20:53:13.91 ID:72sQ3/jzO
多摩「……くだらないにゃ」

瑞鳳「多摩?」

卯月「話に参加してこなかったから寝てたと思ったぴょん」

多摩「こんな話聞いてたら、寝たくても眠れないにゃ」

卯月「ちょっと辛気くさい話をしちゃったぴょん……」

多摩「全くもって本当にゃ。決戦艦隊に卯月が入ってて、何が可笑しいことがあるのやら……にゃ」

卯月「でも……」

多摩「……多摩だって。多摩だって、妹達は雷巡になって……球磨には、性能で勝つことは出来ない」

多摩「軽巡洋艦の中では何の取り柄もない。それが、多摩なのにゃ」
10 : ◆pxTJMwo04OvB [sage saga]:2017/12/13(水) 20:53:52.11 ID:72sQ3/jzO
多摩「けれど……。いつだって、提督は多摩を信頼してくれる。ここぞと言うときに起用してくれる」

多摩「最深部海域での軽巡枠……。いつだってそこに身を置かして貰えることは、多摩だけの特権で、誇りで、自慢。他の軽巡にはない、多摩の取り柄だにゃ」

瑞鳳「……そうね。どうして提督が私達を起用するのか、なんて。そんなことに、悩む必要はないのかも知れないわね」

瑞鳳「提督が信頼してくれている。それで充分なのかも」

多摩「そうそう。それに、瑞鳳も卯月も多摩も……性能差で勝てないなら、練度と実戦経験の差で勝てばいいのにゃ。多摩達ほど過酷な戦いを押し付けられてきた艦娘は他には居ないはずにゃあ」フンス

瑞鳳「確かに。提督も、いっつも難しい海域ばかりに出撃させるんだから。困っちゃうわね」クスクス

多摩「提督の信頼を受ける立場も楽じゃあないにゃ」ニヘラ

卯月「……そっか。卯月は、決戦艦隊に入っていることを誇りにして良いんだ。司令官が、信頼してくれてるから……」ポソ
11 : ◆pxTJMwo04OvB [sage saga]:2017/12/13(水) 20:54:34.58 ID:72sQ3/jzO
卯月「……、……」ウヅウヅ

卯月「あー、日光浴気持ちよかったぴょん!じゃあそろそろうーちゃんはおいとまするぴょん!」

瑞鳳「そうね、巡回業務もあるわけだし。それが良いと思うわ」

卯月「ぴょん!多摩さんも瑞鳳さんも、またねー!」タタタッ

瑞鳳「……で、あなたは秘書艦業務に戻らないの?」

多摩「今執務室に戻るのは野暮ってもんにゃ。瑞鳳だって、分かっていたから何も突っ込まなかったわけにゃ?」

瑞鳳「あ、ばれてた?まぁ、卯月ちゃんも分かりやすいもんね」クスッ

多摩「明らかにわざとらしかったにゃ」

瑞鳳「まぁ、あんな話したら、ね。卯月ちゃん、提督が大好きだし」

多摩「あーあ、提督もますます今日の仕事が捗らなくなるにゃあ」

瑞鳳「その一端……というかほとんどの原因が自分にあるって自覚してるわよね?」

多摩「にゃー?」ゴロン

瑞鳳「もぅ……」ハァ
12 : ◆pxTJMwo04OvB [sage saga]:2017/12/13(水) 20:55:38.25 ID:72sQ3/jzO
瑞鳳「……だけど、私も見張り業務じゃなかったら執務室へ行ってたかも」

多摩「……」

瑞鳳「提督のこと大好きなのは……何も、卯月ちゃんだけじゃないものね。私だって……多摩も……」チラ

多摩「……」

瑞鳳「……」

瑞鳳「……あの、さ。業務中に雑談とか、本当は良くないって事、分かってるんだけど。折角の機会だし……ちょっと、愚痴っちゃっても良いかな……?」

多摩「……。……さっきまでも、雑談していたようなものだし。今更にゃ」

瑞鳳「……ふふ。そうね、今更よね。じゃあ、お言葉に甘えるね」

多摩「にゃー」
13 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 20:57:50.27 ID:72sQ3/jzO
瑞鳳「私ね。提督のこと、許せないんだ」

多摩「いきなりビックリ発言にゃ」

瑞鳳「あ、別に怒ってるとかひどいことをされたとかじゃないのよ?うん……」

多摩「格納庫をまさぐられ過ぎて怒ってるとかじゃないのにゃ?」

瑞鳳「何で知っ……、確かに提督はことある毎に私の格納庫まさぐろうとしてくるけれど……。ううん、私だけじゃないわ!提督ってばほんと、色んな艦娘にセクハラ紛いのことしてくるんだから!」カスンプ

多摩「にゃはは……確かに多摩も良くじゃらされるにゃ」

瑞鳳「本当、みんなにちょっかい出して……。……そう、なのよね……提督はみんなに、ちょっかいを出して、みんなに……優しくて」

瑞鳳「いつだって、みんなの事を考えてくれる。だから、きっとこの鎮守府の艦娘達はみんな、なんだかんだ良いながら提督を慕っているんだと思う」

瑞鳳「でも、平等じゃない」

多摩「……」
14 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 20:58:27.92 ID:72sQ3/jzO
瑞鳳「って、言い切っちゃったら語弊があるかな。提督は、私達艦娘を平等に愛してくれているもの」

瑞鳳「だけど、そんな提督にも……、誰よりも大切な存在がいる」

多摩「あの子のことが、羨ましい?」

瑞鳳「……羨ましくないって言えば嘘になる、かな。でもそれは良いのよ、さっきも言ったように、提督はみんなを平等に愛してくれているから。多摩もそうじゃない?」

多摩「……ケッコンカッコカリの話を聞いたとき、『もしかしたらもう提督は多摩と遊んでくれないんじゃないか』と不安になったにゃ。でもその不安も、杞憂で終わったにゃ」

多摩「ケッコンする前もしてからも、提督の多摩に対する態度は変わらなかったから」ニコ

瑞鳳「うん……。そんな提督だからこそ、私達、提督のことが好きなんだろうね」

多摩「……にゃー」ポリポリ

瑞鳳「だから、ね。許せないの。みんなを愛してくれる提督が、誰よりも大切な子を持つ提督が。特別にしている子が一人だけじゃないってことが」

多摩「……」
15 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 20:59:17.15 ID:72sQ3/jzO
瑞鳳「『あの子』は初期艦としてずぅっと提督と一諸だから。彼女が提督にとっての一番なのはもう、分かってるし、理解しているわ」

瑞鳳「だから……あの子だけが指輪を貰っていたなら、私も、こんな思いはしなくて済んだのに……」

多摩「……あの子『達』のことが、羨ましいんだにゃ」

瑞鳳「……うん」

瑞鳳「私ね。初めて提督からケッコンカッコカリの発表があった日の夜にね。まぁ、やけ酒というか、軽空母寮で飲んでいたんだけど」

瑞鳳「その時ね。隼鷹に言われたんだ――」



隼鷹『……あたしから言わせて貰えばさ。あんたは、幸せだよ』

隼鷹『きっとあんたは、あたし達と違って提督から指輪をもらえる艦娘だ。……一番最初じゃなくてもな』



瑞鳳「この鎮守府の古参一員として、決戦艦隊には必ず入れて貰える身として」

瑞鳳「私は、うぬぼれていた……ううん。今も、うぬぼれているんだと思う」

瑞鳳「いずれ私もケッコンして貰える。この、左手の薬指に、提督から貰った指輪を嵌めることができるんだ――って」
16 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:00:03.85 ID:72sQ3/jzO
瑞鳳「あはは……可笑しいわよね、私。あの子達は練度99になってすぐケッコンして貰ったのに……私は、練度99になってもう大分経つのに……ね」

多摩「……提督は相手を選べるけれど、多摩達は選べないからにゃあ」

瑞鳳「本当、それよね。男の人が提督しかいなくて……普段一つ屋根の下で暮らしていて関わる時間も長いし」

瑞鳳「いつも私達を大切にしてくれて、全力で艦隊指揮を執ってくれて……こんなの……」

瑞鳳(好きになるなって方が……酷な話よね……)

瑞鳳「……」

多摩「……」

瑞鳳「……」
17 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:00:46.33 ID:72sQ3/jzO
多摩「……まぁ、懐くなって、言われる方が無理な話にゃ」

瑞鳳「……えっ?なつっ?」

多摩「にゃ?」

瑞鳳「……ふふっ」クス

多摩「?」

瑞鳳「んーん。多摩らしいなって」

多摩「どういうことにゃ……」ムム

瑞鳳「多摩で良かったなって。こんな話、仲良くないとできないし。多摩とは小沢艦隊としても、この鎮守府の初期の頃からも一緒だしね」

多摩「聞くだけで良いならいつでも聞くにゃ」

多摩「あ、いつでもって言ったけど寝てるときは止めて欲しいにゃ……引っ掻いちゃうかもしれないし」

瑞鳳「そうね、気をつけるわ」クスクス

多摩「さーて、じゃあ改めて多摩はお昼寝タイムに……」ゴロン

瑞鳳「もう、しょうがないんだから……」
18 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:01:27.11 ID:72sQ3/jzO
多摩「……」ファ~

瑞鳳「……。……」

瑞鳳「……多摩。もう一つだけ、いいかな」

多摩「んー……」

瑞鳳「あなたは……どう思っているの?」

多摩「……」

瑞鳳「だって、あなたは――」

多摩「……、……」
19 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:02:11.09 ID:72sQ3/jzO
二二〇〇 鎮守府 執務室

多摩「」ヒョコッ

司令官「Zzz」

多摩「……机で寝てたら風邪引くにゃ」パサッ

司令官「ん……」Zz

多摩「……?あれ……」

多摩(お仕事、全然片付いてない……)

多摩「……」チラ

多摩(……ああ、そっか。あの子達は四人とも今日、外泊で帰らなかったのにゃ……)

多摩(提督、一人でずっと……。悪いことしちゃったにゃ……)

多摩「……」カサッ

多摩(今の時間、会議室なら誰も居ないはずにゃ)ゴソゴソ

多摩(触ったら起きちゃいそうだし、せめて電気を……)パチン
20 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:03:02.04 ID:72sQ3/jzO
多摩「ぁ――」

電灯の消えた部屋は、暗闇に侵されるはずなのに

多摩「……」トテトテ

何故だか妙に明るいのは

多摩「――お月様」

窓から差し込む、光の道のせい。

多摩(……これだけ明るかったら、窓に向いて座れば月の光でも文字は見えるかにゃ)

多摩(……)

多摩「ふぅ……」ギッ‥

多摩(またここまで持ってくるのも面倒だし、このままここで片付けちゃうにゃ)スッ
21 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:03:48.01 ID:72sQ3/jzO
〇一三〇 鎮守府 執務室

多摩「……」カリカリ‥

多摩(ん……さすがに眠くなってきたにゃ……)

多摩(でも、もうあと少しだし……)チラ

司令官「Zzz」

多摩(提督、あの様子だと明日の朝疲れが抜けきらないだろうし……それを口実に午前は提督を休ませて多摩も一諸に休むにゃ)

多摩(そうと決まればもう一頑張りにゃ……)カリ

多摩(起きたとき、業務が片付いていたら)

多摩(提督、ビックリするかにゃ。褒めてくれるかにゃ、撫でてくれるかにゃ)クス

多摩(でもサボったのは多摩だし、調子の良い願望だにゃ……)ニャハハ‥

多摩(それでも、きっと。提督は褒めてくれる、撫でてくれる。ううん……)
22 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:04:50.28 ID:72sQ3/jzO
褒めて欲しい、撫でて欲しい

瑞鳳『あなたは……どう思っているの?』

今までみたいに、今まで以上に

瑞鳳『だって、あなたは――』

――きっと、次に指輪を貰うことの出来た艦娘だったから――

結局。

多摩「……あの子達のことが、羨ましいんだにゃ」

この鎮守府に初めて着任した巡洋艦として。着任順の三番目として。今も尚、水雷戦隊の「エース」を任されている身として。

多摩「……」

あまりにも長く、長く彼と関わり続けてしまったのだ。
23 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:05:34.56 ID:72sQ3/jzO


多摩(静かだにゃ……)

そっと瞳を閉じてみる。

脳裏に浮かぶ、艦として与えられた生は、確かに栄光もあったけれど。

多摩(身に受ける砲弾が)

痛くて

多摩(溶け落ちる鉄板が)

熱くて

多摩(人の焼けるにおいが)

臭くて

多摩(いくつもの別れが)

悲しくて――
24 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:06:19.01 ID:72sQ3/jzO
多摩「提督――」パチ

提督「ん……」

多摩「……」

多摩(それでも)
25 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:06:47.71 ID:72sQ3/jzO
在りし日の、生々しい記憶は。

多摩(提督が、いたから)

今ではすっかり影を潜めてしまった。

多摩(毎日がすごくすごく、楽しい)

だから

多摩(離れたくない、離したくない)

閉じた記憶を開かぬように

多摩(見えない別れが、怖い)

温かい日なたで寝ていられるように

多摩(ずっとそばにいても良い、証が欲しい)

この願いも

多摩(あの子達だけでなく……私も――)

この想いも
26 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:07:22.22 ID:72sQ3/jzO
 



ああ、何と我が侭で。臆病なのか




 
27 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:08:06.50 ID:72sQ3/jzO
時計<ボーンボーン

多摩「!」

多摩(〇二〇〇……さすがにぼーっとしすぎたにゃ)

多摩(さっさと終わらせよう)セッセコ

多摩(しかし、まぁ……夜の執務室は静かで、部屋も暗いし、なんだか不気味にゃ……)カリカリ

多摩「まだ真っ暗じゃないだけマシだけど……」カリカリ

多摩「……」カリカリ

多摩(月明かり、か)ピタ
28 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:08:51.37 ID:72sQ3/jzO
それは何の因果か。もしくは、日の光(しあわせ)に罪を忘れた私への罰か。

ふと。本当に何となく、振りむいてみた。

多摩「にゃ……」

目の前には、影が長く、長く伸びていて。

多摩(あれ……)

まるで、自分の身体が何倍にも大きくなったかのように。

多摩(この光景、どこかで……)

痛かった、熱かった、臭かった、悲しかった。
その、先にあった最期は。



己れをあざ笑う光と。ただただ冷たい、暗闇――

多摩「……!」ゾッ
29 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:09:41.20 ID:72sQ3/jzO
バチバチと、思考が火花を散らしながら過去の映像を映し出す。
忘れかけていた見たくもない記憶に、身の毛もよだつ悪寒に、たまらず正面に向き直った、その先で。窓越しに視界に飛び込むのは、影を生み出すお月様。
眩しい。ああ、こんなにも眩しかっただろうか?

鬱陶しい程の明るさを向ける月を窓越しに睨み付けてみても、何も変わらない。それどころか、あの時と変わらず空に煌々と浮かぶ月が、不気味な笑みを浮かべているようにすら見えてきた。

多摩「っ、っ!」

動悸がする。
届くはずもない威嚇は、自分を奮い立たせるための暗示だ。
忌々しくも恐ろしい、渦巻く記憶に負けてしまわぬよう。全身の毛を逆立てた猫のように、滑稽な姿をさらけ出しながら何とか、カーテンを閉める。

多摩「は……」

広がる闇が

多摩(怖い――ッ)
30 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:10:54.68 ID:72sQ3/jzO
まだ慣れない眼で必死に辺りを探りながら、

多摩(怖い、怖い!)

月の光なんかじゃない、人工の光を求めて壁を這うように移動して。

多摩(嫌……いや、にゃ……)ブルブル

右も左も分からぬ暗闇に、とうとう身が縮こまり。
終にはその場に座り込む。

多摩「提督……てい、とく……」

子猫のように震える身体を押さえつけ、ぎゅっと目蓋を瞑りながら。
ひたすらにあなたを呼ぶ、私は


多摩(嗚呼、なんてちっぽけなんだろう――)
31 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:11:53.62 ID:72sQ3/jzO
パチン

多摩「!」

司令官「多摩……?」

多摩「ぁ……」

司令官「なんだかバタバタと音が聞こえると思ったら……どうしたんだ、そんなところで」

多摩「て……とく……」ジワ

多摩「ぅ……ひっ、ぅ、う〜……」ポロポロ

司令官「本当にどうした……多摩。何か……あったのか?」スッ

多摩「っ……」ギュウ

司令官「よしよし……。何だ、誰かとケンカでもしたか?」ナデナデ

多摩「うぅ……」フルフル

司令官「どっか、痛いのか?体調は?」

多摩「にゃ……」フルフル

司令官「……怖い夢でも、見たか」

多摩「……」ギュ

司令官「……、そっか……。お前がそんなになるなんて、よっぽどだよな」ナデ

多摩「……」

司令官「よし、よし」ナデナデ
32 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:12:32.93 ID:72sQ3/jzO
多摩(――嗚呼)

多摩(落ち着くにゃあ――)

暖かい。心地良い。この人はなんて、大きいのだろうか。

一寸前まで感じていた不安も、恐怖も。最早過去のものになってしまった。

彼の存在が、私の中で膨らむから。他のものは、小さくなってしまうのだ。

生まれ変わって、ここに着任して。出会ってから今日まで、ずっと、ずっとそうだった。

改めて再確認する。それなのに

多摩(どうして……今更……)
33 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:13:10.88 ID:72sQ3/jzO
司令官「……」ナデナデ

嗚呼、今浮かびかけた疑問さえ、彼の愛撫にほだされて。もう、どうでも良くなってしまった。

我ながらこの切り換えの良さ……いや、自由気ままさには笑みがこぼれる。

司令官「落ち着いた?」

多摩「ん……」

本音を言えば、このまま彼に撫でられ続けていたい。この多幸感は、ひなたぼっこにも勝る中毒性がある。

多摩(でも……この時間にゃ。提督も疲れているはずなのに、眠たいはずなのに)

多摩(多摩が甘え続ける限り……提督は、お休みできないにゃ……)

多摩(……そうにゃ)
34 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:13:52.34 ID:72sQ3/jzO
多摩「提督」

司令官「うん」

多摩「今夜は……多摩と一緒に、お休みするにゃ」

司令官「……うん?」

多摩「多摩と一緒に、寝て欲しい……にゃ」

司令官「……」

多摩「……」

多摩「あっ」

多摩「変な意味じゃないにゃ!……提督のえっち」

司令官「いやまだ何も言ってないだろう!全く……」
35 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:14:48.16 ID:72sQ3/jzO
司令官「それは構わないけれど……球磨型部屋の皆は心配しないか?」

多摩「ん、もうこの時間だし……それに多摩はたまに夜中ウロウロしてるから大丈夫にゃあ」

司令官「それは大丈夫というのか。……まぁでも」

多摩「じーっ……」

司令官「……良いよ、一緒に寝ようか、多摩」

多摩「……提督から言われると変な意味に聞こえるにゃ」

司令官「理不尽だ……」

多摩「にゃはは」クスクス
36 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:15:29.30 ID:72sQ3/jzO
〇二三五 司令官の部屋

多摩「着替えてきたにゃー」

司令官(パジャマ姿の多摩……新鮮だな)

司令官(……薄いピンク地にアヒルと魚、か……何故だ……)

司令官「煎餅布団敷いておいたから、二人で寝ても狭くないと思うよ」

多摩「……わざわざ煎餅布団にゃ?」

司令官「布団が二つ無いんだ。手を出すつもりはないから安心しろ」

多摩「眠れる多摩に手を出したら、引っ掻くにゃ」フンス

司令官「その怖さは昼間に、重々承知しているよ」
37 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:16:34.79 ID:72sQ3/jzO
多摩「よいしょ」ゴソゴソ

司令官「狭くないか?」

多摩「大丈夫……提督も、反対側はみ出してたりしないかにゃ?」

司令官「むしろ余裕があるくらいだ、大丈夫だよ」

多摩「安心にゃ」

司令官「しかしまぁ。お前とこうして一つの布団で寝る日が来るとはなぁ。なんかこう、緊張するな」フアァ

多摩「それ、欠伸しながら言うのかにゃ」

司令官「仕方ない、時間も時間だからね」

多摩「……」

多摩「ワガママ言って……ごめんなさい……にゃ」

司令官「何、これくらいは」

多摩「うぅん……」フルフル
38 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:17:23.84 ID:72sQ3/jzO
多摩「昼も、勝手にどこかへ行っちゃって……。だから提督、夜中まで仕事をすることになって……」

多摩「さっき、残ってる分を終わらせようと思ったけれど結局終わらなくて……それどころか、あんな、姿見せちゃって……」

多摩「多摩は、ワガママ放題の迷惑かけ放題……にゃ」

司令官「……。ま、確かに多摩は自由気ままだな。昼間は隙があれば寝てばかりだし」

多摩「にゃー……」

司令官「でもそれも個性だからね。勿論、ちゃんと自分の仕事はしてもらわないといけないけれど、ちゃんとやることやりながら掛けられる迷惑やワガママは受け止めてやるさ」

多摩「……」

司令官「それになにより……元気になったなら、良かった。何があったかは分からないけれど……ああいうワガママなら、何時だって遠慮するなよ?」
39 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:17:55.98 ID:72sQ3/jzO
多摩「……じゃあ」ゴソゴソ

司令官「ん」

多摩「にゃはは……提督を抱き枕にするにゃ。なんだか良い夢が見られそうにゃあ」ギュー

司令官「今日の多摩はとことん甘えん坊だな。まるで……」

多摩「猫呼ばわりは許さないにゃ」

司令官「……あはは」

多摩「もう」

多摩「……」
40 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:18:53.12 ID:72sQ3/jzO
多摩(お布団の中……提督のにおいでいっぱいにゃ……)クンクン

多摩(提督……離れないで欲しいにゃ……もっと、多摩を提督で満たしてにゃ……)ギュウ

司令官「……」ナデナデ

多摩「明日は、ちゃんと……お仕事するにゃ……提督……おやすみにゃあ……」

司令官「ん……。分かったよ、多摩。お休みなさい」ナデ

多摩(そしたら……もう、あの記憶(悪夢)も……)スゥ
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