多摩「月影に浮かぶ猫」

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41 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:19:24.60 ID:72sQ3/jzO
翌日 
一四〇〇 巡洋艦寮 球磨型部屋

球磨「結局、昨日は灯台に居たみたいだクマ」パチ

北上「あー、灯台かぁ。確かにあそこは気持ちいいけど、見張り担当が居るしあんまり長居できないんじゃないの?」パチ

多摩「昨日は瑞鳳が当番だったのにゃ」パチ

大井「見事に、姉さんを追い出せない相手ですね……。確か今日は加賀さんが担当だから、今日ならおさぼりは出来なかったんでしょうけど……」

木曾「なるほどな、だがまぁその分今日はしっかり仕事するって提督と約束したみたいだし良いんじゃないか」パチ

多摩「したにゃあ」

球磨「……」

球磨「……で」
42 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:20:05.92 ID:72sQ3/jzO
球磨「その約束したはずの妹が何故今球磨達とコタツで麻雀してるんだクマ!!!」

多摩「にゃ?」

球磨「首をかしげてる当事者の話をしているクマ!後木曾それロンだクマ!」

木曾「げっ、またかよ」

多摩「あ、多摩も。リーピンタンヤオ三色赤1ドラドラ裏3だにゃ」

木曾「はぁ!?」

大井「飛んだわね」

北上「飛んだねー」
43 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:20:51.04 ID:72sQ3/jzO
多摩「心配しなくても、お仕事はちゃんと終えてきたもん。後は夕方の出撃までフリーなのにゃ」パチ

北上「それでここに戻ってきたんだねー。まぁあたしらもヒマだったからいいんだけどさ」パチ

大井「私は北上さんと一緒なら、ヒマな時間も素敵な一時ですぅ」パチ

球磨「んー……でも、秘書艦という立場なんだから一応提督のそばにいた方が良くないかクマ?」パチ

木曾「確かに……考えてみれば巡回が秘書艦以外に割り当てられてるのも、秘書がそばにいられるようにだしな」

多摩「ん……今日は、あの子達が帰ってきてるから……。心配しなくても、今提督の隣にはちゃんと電が居るにゃ」パチ

球磨「む……」ピーン

大井「はっ……!」ピキーン

球磨(……大井、それは女の感クマね?)チラ

大井(そういう姉さんは、姉としての感ですね?)コク

木曾「?」
44 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:21:47.03 ID:72sQ3/jzO
大井「……、ああそういえば。こうして皆で卓を囲んでいると、あのときのことを思い出しますよね」

多摩「あのとき?」

大井「ほら、鎮守府でケッコンカッコカリ騒動が起きたときですよ。あの晩も、皆で喋りながら麻雀をしたじゃないですか」

北上「あー、そういえばそうだったねぇ。懐かしいなぁ」

大井「あのときも、恋の話題で盛り上がりましたよね。私が舞い上がり過ぎちゃって球磨姉さんに諫められたこと、今でも良く覚えています」

多摩「にゃはは……そうだったかにゃ?」

木曾「あーそうだったそうだった、姉さんあのとき大分参ってたから覚えてないのかもな」

多摩「にゃは……」
45 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:22:34.97 ID:72sQ3/jzO
大井「そして今も……。いいえ、今はあのとき以上に。参っているように見えますよ?多摩姉さん」ジッ

多摩「……そんなことはないにゃ。多摩はいつもどおりにゃあ」

球磨「……本当クマ?前はいつもなら、この時間は大体提督の部屋で寝ている時間じゃなかったかクマ」

多摩「……今は、ここで遊びたい気分……なのにゃ」

大井「とても、遊びを楽しんでいる表情には見えませんけど……」

多摩「……」

球磨「多摩が今ここにいるのは……、提督に、遠慮しているからなんじゃないかクマ?」

多摩「」ピクッ
46 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:23:17.20 ID:72sQ3/jzO
球磨「……多摩」

球磨「あのとき多摩が心配したこと……提督が、変わってしまうんじゃないかということ。多摩と一緒に居てくれなくなるんじゃないかということ。それが杞憂だったことは……良く、分かっているクマね?」

多摩「……」コク

球磨「けれど……。提督がケッコンしてから『多摩が変わってしまった』ように、球磨には見えるクマ」

多摩「……」

北上「そう?いつも通りの多摩姉にも見えるけれど……」

球磨「いつもどおり気ままに見えて、その実多摩には余裕がないように見えるクマ」

球磨「もっと言えば、提督との距離感がなんだか不安定というか……。意識してか無意識かは分からないけれど、変に遠慮と無遠慮が混在しているところがあるように見えるクマ」

多摩「そんなこと……」
47 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:23:52.17 ID:72sQ3/jzO
球磨「……何の根拠もない暴論を言うクマよ?多摩。もし第六駆逐隊の皆が、電の休みが明日までで、今日帰ってこなかったなら。多摩は今頃、ここには居なかったんじゃないかクマ?」

多摩「そ、そんなこと……!」バッ

球磨「……」ジッ

多摩「うう……」

木曾「……まぁ……多摩姉さんがたじろぐって事は、球磨姉さんの言うとおりなんだろうな」

北上「んー……確かにそう言えばいつの間にか、提督の部屋で寝てる事が明らかに少なくなったもんねぇ」

多摩「木曾、北上まで……」

大井「姉さん……、気付いていないかも知れないけれど、最近の姉さんは、どこか寂しそうにしています」

球磨「多摩。悪いことは言わないクマ、多摩はもっと――」

多摩「……なんにゃ」
48 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:24:35.46 ID:72sQ3/jzO
多摩「みんなして一体、なんなのにゃ!多摩がどこで何をしていようと、多摩の勝手だにゃ!」

球磨「た――」

多摩「今だってっ!多摩は、多摩はただみんなと遊びたくてここに来ただけだもん!それなのに、お説教される筋合いはないにゃ!」

球磨「多摩、話を」

多摩「ふーっ!!」

球磨「多摩っ!!」

多摩「ッ」ビクゥ

多摩「にゃ……!」ダッ

木曾「あ、お、おい!」

北上「ありゃ……凄い勢いで逃げちゃったねぇ」

球磨「……、……」
49 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:25:11.12 ID:72sQ3/jzO
球磨「はあぁ……失敗したクマぁ……」ズーン

北上「球磨姉は怒ると怖いからねぇ」ケラケラ

球磨「怒った訳じゃないクマ……。とはいえ、少し前置きが長すぎたクマ。一番肝心な部分を伝えられなかったクマー……」

木曾「仕方ないさ……。それに、要は多摩姉さんにはもっと提督に対して気楽に考えて欲しい……ってな事を言いたかったんだろ?俺でも今の流れから読み取れたんだし、多摩姉さんなら球磨姉さんの言いたかったことも分かってるだろ」

球磨「……。それじゃダメなんだクマ。あの子の場合は、きっと頭では分かってても心で認めることが出来ない」

球磨「今のあの子は、本来望んだはずの『ほんの少しのワガママ』すら出来なくなっているクマ……」
50 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:25:43.48 ID:72sQ3/jzO
木曾「うーん……つまり、どういうことなんだ?」

大井「木曾、恋する女はね。複雑なのよ」ハァ

木曾「そういうもんなのか……」

北上(大井っちの視線、一直線にこっちを見詰めてるけどアレ一応木曾に言ってるんだよね?)

球磨「……いや。寧ろこの中だと木曾が一番、今の多摩を知っているはずだクマ。木曾、多摩と二人で良く行動していた『あの頃』に、多摩が少し戻っているんだと考えれば良いクマ」

木曾「俺と多摩姉さんが……。……ああ、そうか」

北上「何々、一人で納得してないで教えてよ」

木曾「姉さんはこの鎮守府に来てから、猫っぽくなったんだよ」

北上「うーん?そりゃ、鎮守府に来る前……というか軍艦時代は猫っぽくなりようもないわけだし、そんなの当たり前じゃないの?」

木曾「いや……」
51 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:26:22.91 ID:72sQ3/jzO
球磨「……今でこそ多摩は自由気ままでのんびり屋さんでマイペースで、昼寝が好きな猫みたいな子だクマ。でも、……その内面は責任感が強くて、自分を押し殺す事も厭わない子なんだクマ」

北上「内面が今の多摩姉と中々結びつきにくいんだけど……」

球磨「アレでも結構、戦闘に関しては責任感を持っているんだクマ。提督は通常艦隊でも連合艦隊における第二艦隊でも、第六駆逐隊と多摩と卯月を良く起用するから……純粋な火力や艦隊運用経験なら多摩が一番クマ、事実主力にとどめを刺す機会も多摩が多いクマ」

大井(改めて考えてみればとんでもない編成よね……まぁ、あの子達にはもう練度的に遠慮はいらないんでしょうけど)

球磨「自分の役割とその責任をハッキリ自覚している。立場を分かっている。だから多摩は、レイテの時に……。……」

北上「?」

球磨「ま……その辺詳しい話は五十鈴や瑞鳳にでも聞くと良いクマ。とにかく、多摩が猫っぽくなった原因……は分からないけれど。ここまでのんびり屋さんになれたのは、きっと、艦娘として生まれ変わった生が、この場所が。安心できる、落ち着ける場所だったからなんだと思うクマ」
52 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:27:05.81 ID:72sQ3/jzO
大井「……提督の存在も、大きかったんでしょうね」

球磨「そう……寧ろ、大きすぎたんだクマ。多摩にとって提督は……いや、逆クマね。提督にとって多摩が、他の艦娘達と一線を引いた、特別な存在だからクマ」

北上「提督にとって特別な艦娘、って言ったら電とかじゃ……、と思ったけれど、ああそうか確かにねー。分かる気がするわー……」

大井「提督は平等で不平等、ですからね。皆同様に気に掛け思いやってくれていも……、多摩姉さんは巡洋艦組の古株として、提督には特に信頼を置かれているでしょうし」

木曾「……提督や電に気を遣ってか変に責任感とかが自縛となって、不安定になってるって事か?」

球磨「最早提督は多摩にとって安心できる一番の居場所なんだクマ。その居場所を失ったと『思ってしまった』とき、あの子は不安を抱えたり自分の立ち位置が分からなくなったり、……トラウマが蘇ってしまうことだって考えられるクマ」

全員「……」
53 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:27:48.54 ID:72sQ3/jzO
球磨「……今の多摩の状況は一つ違えば、球磨達にもあり得た話だクマ。多摩に限らず、提督が悪気なく無意識に引いた線の中に入っている艦娘達は……きっと、それぞれ悩み悶々としているところがあるんだと思うクマ」

大井「提督も罪作りな人ですね……」

球磨「まーそもそもケッコンとかいう制度だったりそれが何人も出来たり、法律で艦娘との重婚が制限されてない部分が事をややこしくしてるんだクマ。やれやれだクマ」

大井「それら含めて、そもそも私達が皆女性として転生した事が複雑にしてますけどね」

球磨「全くだクマ。神様の考えることはよー分からんクマ」

球磨「……ま、でも。心を持った立場としては、妹には幸せになって欲しいクマ」

球磨「だからこそ……、例え提督の一番が電でも、第六駆逐隊とだけケッコンカッコカリを済ましていても」

球磨「多摩には、ケッコンだとか電とか第六駆逐隊とか提督とか、何より多摩自身の過去に搏られて欲しくないんだクマ……。あの提督のことだからどんな多摩も受け入れてくれるだろうし、多摩には変に遠慮を持ったり自分の在り方を決めつけたりして欲しくないクマ」

54 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:28:59.60 ID:72sQ3/jzO
球磨「そもそも法律未記載に託けていっそケッコンすっとばして結ばれちまえば良いんだクマ!提督には球磨のことを『球磨御義姉様』って呼ばせてやるクマ!」

木曾「と、唐突に凄いこと言い出したな姉さん……」

北上「もれなく第六駆逐隊も付いてくると考えると、凄いハーレムだねぇ」クスクス

球磨「言っといて何だけどその場合後何人か増えるような気もするクマ……」フゥ

大井「……まぁ法に背いては居ないし皆が納得してればそれ自体は許しますけど……もしその場合、ハーレムに浮かれて姉さんを傷つけるようなことがあれば、もれなく酸素魚雷40門もお見舞いしてあげるんだから……」ボソボソ

木曾(相変わらず本気なのか冗談なのか分からねぇのが怖いよな……)ゾゾッ
55 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:29:43.87 ID:72sQ3/jzO
北上「そんで。あたしらには球磨姉の言いたいことが分かったけど、多摩にはいつ伝えるの?追いかける?」

球磨「……いや。もう多摩の居場所に関しては、居場所自身に何とかして貰うクマ」

木曾「ま、提督ならうまくやってくれるだろうしな」

球磨「何より逃げ出した多摩を追いかけるのは一苦労だし面倒だクマー」ボソッ

大井「あれだけ姉らしいことを言っていたのにその呟きですか……」

球磨「ほらほら、続きやるクマ。木曾、多摩の抜けたところに入るクマ」

木曾(この気ままさは、姉妹だなぁとつくづく思うわ……)
56 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:30:27.08 ID:72sQ3/jzO
一四二〇 鎮守府 廊下

多摩「……」トボトボ

提督が電と関わって居るときに、彼を避けていただなんて。

多摩(そんなこと、多摩が一番良く分かっているのにゃ……)

それでも、提督が一人で居るときは前以上に甘えたくなる自分を

多摩(多摩は多摩自身、充分理解しているにゃ……)

そして。分かっているはずなのにどうして、私は

多摩「……雨」

ふと窓から見上げた空は、いつの間にか泣いていた。昨日はあんなに晴れ渡っていたはずなのに、これでは日なたぼっこも出来ないではないか。

多摩「……」

そこで気付く。ああ、また私は無意識に提督の居る執務室を避けて、一人日なたぼっこをしようとしていたのだと。

多摩(多摩はどうして……今になって……)
57 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:31:04.77 ID:72sQ3/jzO
伊19「多摩?」

多摩「あ、……イク」

伊19「どうしたの、こんなところで。お散歩〜?」

多摩「……そんなとこだにゃ。本当は日なたぼっこをしたかったんだけど、生憎の天気なのにゃ」

伊19「ふーん、でも天気予報だと通り雨みたいなのね。夕方には止むと思うの」

多摩「夕方には任務で出撃にゃ」

伊19「あちゃー、多摩も大変なのね」

多摩「にゃはは……」

伊19「なんだか元気がないように見えたのも、日なたぼっこが出来なかったからなのね」クスクス

多摩「……そうだにゃあ」
58 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:31:45.78 ID:72sQ3/jzO
多摩「イクは、何してるんだにゃ?」

伊19「今日は特にやることがないから、今から提督の所にでもいこうかなーって。ほら、六駆の子達が今朝帰ってきたでしょ?きっと今頃提督、彼女たちとラブラブしてるだろうから割り込んでくつもりなの!」イッヒヒ

多摩「……」

伊19「あ、その顔はなんなの?お邪魔虫とか思ってるでしょー?イクさんはぁ、寧ろ保護者的目線であの子達を提督の魔の手から守るために行くのね!」フフーン

伊19「寧ろ提督には、イクに手を出させてそのままイクが提督とラブラブしてくるの!なーんてね」

多摩「……、……」

伊19「……多摩?」
59 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:32:45.41 ID:72sQ3/jzO
多摩「イクは……凄いにゃあ」

伊19「……多摩、熱でもあるの?」ピトー

多摩「なんでにゃ……」

伊19「いつもなら『野暮にゃ』とか『イクが提督と居たいだけじゃないかにゃ』とかため息混じりのヤジが飛んでくるところなのに……ぼけ殺しなのね」

伊19「あっ!別に提督を好きな気持ちがぼけとかじゃないの!そこは勘違いしないで欲しいのね!」

多摩「野暮にゃ」

伊19「タイミングおかしいの!」プンプン

多摩「にゃはは……」
60 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:33:15.91 ID:72sQ3/jzO
伊19「それで。多摩は行かないの?執務室」

多摩「にゃ?」

伊19「だって、日光浴も叶わなかったら暇なんでしょ?じゃーあ、いつもみたいに提督の部屋で寝ないの〜?」

多摩「多摩は……」

多摩「……、このあと、装備の点検をしなきゃいけないから……」

伊19「……ふーん」

多摩(う……日なたぼっこをするつもりだったって言っておきながら装備の点検とか、多摩も言い訳がへたくそにゃ……)

伊19「提督絡みなんだろうけど……、ま。あえて深くは突っ込まないのね」

伊19「取り敢えず、多摩、いつもと調子が違うのはバレバレなんだから。早く元気になるのね」

多摩「にゃあー……」
61 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:33:54.68 ID:72sQ3/jzO
伊19「何なら執務室で待ってるから。イクと一緒に、提督に元気を補給して貰うの〜」ヘラヘラ

多摩「……。……イクが、羨ましいにゃ」

伊19「そぉ?イクの事、羨ましい?」

多摩「にゃ……」コク

伊19「そっか」

伊19「私からすれば……多摩の方が、何倍も羨ましいのにね」ボソ

多摩「……」

伊19「……じゃあね。またなの、出撃頑張ってなの」ヒラリ

多摩「頑張る……にゃ」
62 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:34:29.68 ID:72sQ3/jzO
多摩「……」

後ろ姿をぼんやり見つめ、曲がり角に消える蒼い髪を見送って

多摩「……」

なんだか騒がしい時間が過ぎさって、窓を見上げてみても

多摩「……」

まだ、雨は止んでいない。

多摩「……」

多摩「……仕方ない。工廠に行って装備を見てくるかにゃ」

多摩「何だかんだ……時間は、潰せるにゃ」
63 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:35:02.86 ID:72sQ3/jzO
一八〇〇 鎮守府海域 南西諸島防衛戦

多摩「みんな、着いてきてるにゃ?」

暁「と、当然よ!」

響「ハラショー」

雷「はーい多摩さん、ちゃんと続いているわ」

電「なのです!」

卯月「心配ないぴょーん!」

司令官【うむ、通信状態は良好……】ザザッ

司令官【さて、月次恒例の水雷戦隊任務だが、皆気は抜かないようにな】

司令官【しっかりと旗艦である多摩の言うことを聞くように】

雷「ええ司令官、大丈夫よ!」
64 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:35:39.32 ID:72sQ3/jzO
卯月「寧ろ気を抜いてるのは司令官の方じゃないぴょん?この任務、軽巡洋艦旗艦指定なのにいつもの癖で電ちゃん旗艦で出撃させようとしていたしぃ〜」

暁「そうそう、暁が気付かなかったら、一回無駄に出撃するとこだったんだから」

司令官【ははは……いや、すまない】

響「結構雨も強いしね。早めに終わらせて、ゆっくりお風呂に浸かりたいところだけど」

多摩「それを鑑みても誤出撃しなくて良かったにゃ」

司令官【本当にすまない……】ズーン

電「し、仕方ないのです!そういうことだってあるのです!」

雷「そうそう!それに私達の練度なら誤出撃してもすぐ済んだでしょうし、何より帰りは司令官の督戦用輸送船に乗れるんだから雨だってそう気にはならないわ。元気出して、司令官!」

司令官【(天使……)】

多摩「呟きが聞こえてるにゃ……」ハァ
65 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:36:17.32 ID:72sQ3/jzO
一八二〇 鎮守府海域 南西諸島防衛戦 敵主力艦隊出現ライン

響「見つけた……正面、敵艦の反応有り。規模からして主力艦隊だね」

多摩「各艦は敵空母ヲ級の航空急襲に注意にゃ!」

卯月「ぴょん!」

多摩(空母ヲ級が二隻、重巡リ級が二隻。後は軽巡と駆逐……確かに今のこの子達の練度なら何も問題はない、けど油断は禁物にゃ)

多摩(もう夜に差し掛かっている……初撃さえ躱せば艦載機の心配はない、寧ろ危険なのは水雷組にゃ)

多摩「陣形は単縦のまま、同航を保つにゃ!暁、電はリ級、響雷卯月でヘ、ハ級を叩くにゃ!」

暁「分かったわ!」

雷「任せて!」

多摩(多摩は撃ち漏らしを、なければヲ級を捌くにゃ!)ザッ

電(やっぱり、多摩ちゃんの旗艦指揮はすごいのです!電も、見習わないと……!)
66 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:36:50.58 ID:72sQ3/jzO
響「着弾、ハ級の沈黙を確認!」

雷「ヘ級は倒したわ!」

卯月「ぴょん!」

リ級「!」ドォン

多摩「リ級より砲撃、警戒を――暁!」

暁「へっちゃらよ、暁には当たらないんだから!」ザッ

ザパァ……ンッ!

卯月「わぷっ!凄い水しぶきだぴょん!」

雷「まぁ、もう今日は雨で元々ずぶ濡れだけどね!……って、あら」

響「気付けば、上がっているね。雨も」
67 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:37:36.92 ID:72sQ3/jzO
暁「おかげで狙いやすくなったわ!決めるわよ、電!」ドォッ

電「はいなのです、暁ちゃん!」ドォン

ヲ級「グッ!」轟沈

リ級「ガァッ……」轟沈

暁「あ、あれ?」

卯月「暁ちゃん、思いっきり外してるぴょん……」

暁「い、良いの!数は減ったんだから、結果オーライよ!」

多摩「残ったリ級は多摩が叩くにゃ!」

多摩(けれど、その前に!)グッ

暁(照明弾ね!暁も探照灯でサポートするわ!)グッ

多摩(これで、リ級の姿がよく見え――)
68 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:38:19.54 ID:72sQ3/jzO
そう。強い光に、リ級は浮き彫りとなる。

多摩(あ……れ……)

未だ、照明弾を照射していないのに。

未だ、探照灯は点されていないのに。

影が、伸びる。

雲の切れ間から世界を照らす光が、大きな大きな黄金色の玉が、顔を覗せて――

多摩「っ!」ドクン

強く脈打つ機関部に手を当て、猛烈に込み上げる吐き気に猫背を更に丸くしながら。

影を見る、影が見える、大きく大きく膨張した私の影が――。
69 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:38:52.40 ID:72sQ3/jzO
卯月「多摩さん!」

多摩「!」

永遠とも思われる走馬燈が脳内をグルグルと激しく駆け巡る、その一瞬の硬直を。敵が見逃すはずもなく。

暁「リ級、こっちだぁ!」ビカァ

リ級「!」

目がくらむ、脳が揺れる。沸騰する胃酸、全身を這う悪寒にも。

多摩(多摩は……この子達を預かる旗艦なのにゃ……!)

歯を食いしばる、血が滲むほどに、壊れるほどに強く握りしめた照明弾を

多摩(引っ込め……出て、来るな……!)

思い切り空へと放り投げ、強い閃光が迸る戦場の直中で

多摩「う……にゃあああああぁぁぁ!!!」

――吠える。
70 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:39:45.44 ID:72sQ3/jzO
一八五五 鎮守府海域洋上 督戦用輸送船『ぷかぷか丸』甲板

雷「――兎に角。多摩さんは、凄かったわ。……凄かったというより」

卯月「……怖かった、ぴょん……」

電「……」

響「あんな多摩さんは……正直、ここ最近の大規模作戦でも見なかったよ」

暁「本当に、鬼気迫る感じで……。リ級もヲ級も、一瞬で沈めてしまったのだけど……」

司令官「戦闘が終わったと同時に、気を失ってしまったと……。……そうか」

電「ぅ……」ジワ

司令官(電……仲間に、多摩に怯えるくらいか……。あいつ……)ナデナデ

司令官「多摩には、僕が後で話を聞いておくよ。今は奧で寝ているし、このままそっとしておこう」

司令官「兎に角作戦自体は誰一人損傷無く、成功だ。皆も帰ったら、ゆっくり休むと良い」

卯月「ぴょん……」

司令官(多摩……)
71 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:40:56.70 ID:72sQ3/jzO
時刻????? 場所?????

多摩(……)

多摩(……硝煙の、臭い……)

ぼんやりとした光に照らされ、浮かび上がる影絵。
飛び交う砲雷撃の中に、知り合いによく似た影が立ち上がる。

五十鈴『多摩!今救援を――えっ?千代田を、先に……?』

五十鈴『……分かったわ。多摩、どうか無事で……!』

多摩(……)

瑞鳳『そんな身体で、私は大丈夫だから何て……!』

瑞鳳『っ……。……そう。それがあなたの役割だというなら、私ももう否定はしません』

瑞鳳『……ごめんなさい、多摩……』

多摩(……どうして、今更)
72 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:42:21.60 ID:72sQ3/jzO
灯籠が回る。二つの影が一つになり、作した形は。

司令官『……』

多摩(提督……!)ダッ

その隣に、更に一つ。

電『司令官さん、お待たせなのです』

多摩(っ!)ピタ

司令官『ああ。行こうか、電』

電『はい、なのです!』ギュ

手を繋いだ、二つの影。
駆け寄りたいのに、止まった足が動かない。

73 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:43:06.57 ID:72sQ3/jzO
多摩「」ハッ

影絵で遊ぶ、気ままな光。ケタケタと笑うように次々に影を形成する、その作り手に振り返ると。

ほら――まぁるい月が、浮かんでる。

多摩(うぅ……)ジリ

本当は寂しかった。けれど、それが私の役割で、運命だったんだよね。
嗚呼何て滑稽なんだろう。

多摩(笑うな……)

本当は駆け寄りたかった。けれど、その居場所には既に誰かが居たから。
嗚呼何て可哀想なんだろう。

多摩(蔑むな……)

月は照り、影は踊る。
過去を嘲り、今を憫み。

多摩(止めろ……止めて……)

月は満ち、影は巡る。
己れの未来を、運命を、決めつけるように。

多摩(思い出させないで……見せつけないで……)

多摩(今になって……)

月が、嗤う。
74 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:43:36.88 ID:72sQ3/jzO
二〇〇〇 鎮守府波止場 ぷかぷか丸船内

多摩「ぅ……う……?」

多摩(あれ……ここ、は)

司令官「……」コク、コク

多摩(提督……?船の、中……多摩は、寝てたのかにゃ……)

多摩(提督、こんなところで座ったまま寝てたら風邪、引くにゃ……。この布団を……)ギッ

司令官「……」

多摩「……」

多摩「…………、」

多摩「……嗚呼。多摩、やっちゃったにゃ……」
75 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:44:50.57 ID:72sQ3/jzO
もう、とっくに忘れたはずなのに、

多摩「また……どうして……何で……」ツゥ

あの子達の旗艦として責任があったのに、最後まで冷静でいなくちゃいけなかったのに

多摩「今更になって……多摩は……こんなにも……」ポロ

月なんていつも見ていたはずなのに、いつだって提督のそばで寝ていたはずなのに

多摩「弱い――」ボロボロ
76 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:45:16.94 ID:72sQ3/jzO
司令官「多摩……?」

多摩「提、督……」

涙に霞む視界の先で、ぼんやりとしか見えないあなたのシルエットが。
今の私には何より、たまらなくて。

多摩「う、うぅ……提督……多摩、多摩は……」

既に零れる涙も、口をへの字に曲げねば耐えきれぬほど次から次へと溢れ出てくるから。

多摩「うー……ぅ、っう〜……」ボロボロ

ただ呻く。何度も何度も、ひたすらに鳴く。

司令官「……多摩」ギュ

多摩「!」

司令官「よしよし……」ナデ

多摩「――」
77 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:45:50.15 ID:72sQ3/jzO
暖かい。

昨晩と同じ、提督の温もりが直に伝わってくる。

多摩「ていとく……」ギュ

彼の大きな身体を抱き締め返して、そっと目を瞑る。それだけで、頬を伝う冷たい雨は温かな滴に変わってゆく。

日なたで眠る心地好さ、それ以上に。残酷な過去も、胸を締め付ける今も溶かしてくれる温もりは、さながら麻薬のようにも思える。

多摩(それでも良い――)

この安心感が得られるのならば。私は、麻薬にも穢されよう。
マタタビに浮かされる猫のように、酔い痴れダメになってしまっても構わない。

だから。

司令官「……落ち着いたか」

多摩「……」フルフル

司令官「……」ナデナデ

本当は充分、ほだされているはずなのに。頷けばこの腕が離れてしまうから。
小さな悪戯、小さな嘘。
78 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:46:37.78 ID:72sQ3/jzO
司令官「多摩」

多摩「ん……」

司令官「落ち着いたらで良い。……最近、君ともゆっくり話せなかったし、僕と話をしよう」

多摩「……」

司令官「多摩の気持ち、多摩の抱えている物……それを全部、聞かせて欲しいんだ」

多摩「……」

司令官「皆は先に鎮守府内に帰したから。今は、二人きりだから。僕はいくらでも、多摩に付き合うからね」ニコ

多摩「――」

彼の笑顔に、彼の言葉に。
彼の、温もりに。
頬が紅潮する。動力炉が早鐘を打つ。



そこで悟ってしまった。最早彼は私にとって、ただ落ち着けるだけの場所ではないんだと。

そこで気付いてしまった。私は彼を特別な存在としていることを。

79 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:47:20.32 ID:72sQ3/jzO
 




球磨『けれど……。提督がケッコンしてから「多摩が変わってしまった」ように、球磨には見えるクマ』





多摩(そっか――)
80 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:47:48.60 ID:72sQ3/jzO
沈み行く、船、船、船。

多摩(大切な居場所。大好きな温もり)

燃え行く、人、人、人。

多摩(愛の味を、知ってしまったから)

大破した自分は、囮としての役目があったから。

多摩(弱い自分が浮き彫りになる)

だから、

多摩(提督で埋められた多摩の心は、提督が居ないと空っぽになってしまう)ギュ

付けられた護衛艦を、未だ戦える子達に託して

多摩(提督が居ないと……)

私は、独り月影の許に沈む――

81 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:48:25.97 ID:72sQ3/jzO
多摩「……」グイッ

司令官「痛っ!た、多摩……?」

多摩「提督……」スッ

多摩「ごめんね、提督……いきなり押し倒して……頭、打っちゃったかにゃ」ナデ

司令官「それ、は……大丈夫だけど……」

多摩「良かったにゃ……」ギュウ

司令官「多摩……」

多摩「……」
82 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:49:22.15 ID:72sQ3/jzO
在りし日の、生々しい記憶は

多摩(提督が、いないと)

私を蝕み、苦しめる

多摩(毎日がとてもとても、辛い)

だから

多摩(離れたくない、離したくない)

開いた記憶を押し込めるように

多摩(見える別れですら、怖い)

あなたの隣で、寝ていられるように

多摩(ずっとそばにいても良い、証が欲しい)

83 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:49:50.92 ID:72sQ3/jzO
多摩「……多摩と一緒に、寝て、欲しいにゃ」

司令官「今夜も、か?構わないよ、じゃあ……」

多摩「……」フルフル

多摩「ただ寝るだけじゃ……いや、にゃ……」スッ

司令官「多、摩……?」

目に見える、証を。
確実にあなたと繋っていることを、実感できる証を。

多摩「提督、お願い……多摩を」

この首に、首輪を嵌めて。
鎖を以って、繋ぎ止めて。

今、ここで

多摩「抱いて、欲しい……にゃ」シュル
84 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:50:24.26 ID:72sQ3/jzO
司令官「多摩、それは――」

多摩「っ」グッ

司令官「う……」

司令官(腕が、上がらな……っ)

多摩「無理にゃ……提督の力じゃ、艤装を付けた多摩達には敵わない……にゃ」ググッ

司令官(多摩、お前本気で……)

多摩「ごめんなさい……提督」プチ、プチ
85 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:51:45.94 ID:72sQ3/jzO
見下ろした軍服のボタンを少しずつ、少しずつ外しながら

多摩「ごめんなさい……」プチ

多少の罪悪感と、それ以上に膨らむあなたへの想いを侍らせて

司令官「……」

早く、早くあなたとの証が欲しいと焦がれる

多摩(……?提督の首からぶら下がってるの、なんにゃ……?)チャリッ

この願いも

多摩「!」

この想いも

多摩(指、輪――)


 
 

 



嗚呼――私が抱くことは、罪なのですか?
86 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:53:19.50 ID:72sQ3/jzO
多摩「うっ……!」

猛烈な吐き気に、思わず口許を抑える。
月の光が届かない船内のはずなのに、再び脳内に様々な影絵が写し出されてゆく。

   身に受ける砲弾の痛み
                  初期艦の電
 溶け落ちる鉄板の熱さ
                提督との出会い
  人が焼け落ちる臭さ
                       ケッコンカッコカリの証
 二つに折れ行く身体
            温かい日なたの温もり
      あざ嗤う月の光
             

     

多摩「ううぅ……にゃあぁ……!」

割れんばかりに痛む頭を抑えながら流れる映像の果てにあったのは。
提督のそばで、心地よく眠る多摩の姿と。

多摩(どうして……)

提督を必死に求める、無様で醜い私――。



多摩「多摩はただ……提督と一緒に居るだけの時間を……」

多摩「ほんの少しのワガママを……望んでいただけなのに……」フラッ
87 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:53:58.50 ID:72sQ3/jzO
司令官「多摩っ」ギュ

多摩「ぁ――」

多摩「うぷ……!ごほっ、うぇ……っ」ズキズキ

司令官「……」ナデ

多摩「て……とく、ぐ、うっ……!う、げぇぇ……」ゴホゴホ

多摩「はぁ、はぁ……ていとく、あったかい……」

多摩「ていとく、怖い……よ……」

司令官「……」ギュウ

多摩「もう、独りの夜は……ヤ、にゃ……」

多摩「あ、す、も……一緒に……寝――」フッ

多摩「――」
88 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:54:38.79 ID:72sQ3/jzO
時刻????? 場所?????

多摩『提督は……』

木曾『ん?』

多摩『提督は、ケッコンしたら……もう、多摩とは遊んでくれないのかニャ……』パチ

多摩『はぁ……』

北上『多摩姉ぇ、だいぶ参ってるねぇ……』パチ

大井『お気持ちは分かります、姉さん……好きな相手がケッコンしたら、遠くへ行ってしまうのではないかと、不安にもなりますよね……』

北上(大井っちはなんでこっちを見ながら言うんだろう……)

木曾『分からないな。提督が誰とケッコンするかなんて、まだ発表されてないだろう?多摩姉さんは悲観しすぎだと思うが』パチ

球磨『あ、それロンだクマ』

木曾『げっ、マジかよ』
89 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:55:20.96 ID:72sQ3/jzO
北上『でもあれだよねー。多摩姉ぇはさ、一応うちら巡洋艦組の中でも古株だし練度だって高いわけで』パチ

木曾『そうそう、可能性は十分あるだろ』パチ

球磨『……』パチ

多摩『……多摩は、ただ提督と一諸にひなたぼっこをして』スッ

多摩『一諸に、お昼寝して』カチッ

多摩『ただのんびりと、ただ一諸に過ごす時間があれば……それで、いいのにゃ……』パチ

大井『……甘い、甘いわよ姉さん!』

大井『恋する女は、もっと積極的に!略奪するくらいの勢いで行かないと!』

球磨『あ、カンだ球磨。おっ』

大井『球磨姉さん……。姉さんからも言ってあげてよ!』

球磨『……、……多摩』
90 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:55:58.27 ID:72sQ3/jzO
球磨『きっと提督は誰とケッコンしても、多摩との時間も大切にしてくれるはずだクマ』

球磨『だから、だから安心していいクマよ』

大井『姉さん!そうじゃなくて……』

球磨『大井』ジッ

大井『っ……?』

球磨『多摩は、もう、分かっているクマ。覚悟も決めている。だからこそ、ほんの少しのワガママを、望んでいるクマ』

球磨『だからもう。球磨達は、何も押しつけてはいけないんだクマ』

大井『えっ……それって……』

球磨『大丈夫、大丈夫。高嶺の花は中々手に入らない物だけれど……そこにあるのは、変わらないクマ』ナデナデ

多摩『……にゃぁ』

多摩(……)
91 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:56:35.98 ID:72sQ3/jzO
時刻????? 場所?????

瑞鳳『あの時のこと……恨んでいる?』

多摩『……』

瑞鳳『あなたは囮で、私は未だ戦っていたから。けれど、そのせいで多摩は、走れない身体で独り洋上を漂うことになった』

多摩『……』

多摩『仕方なかったのにゃ。それが多摩に与えられた役割で、多摩に与えられた責任で』

多摩『多摩の、運命なのにゃ』

瑞鳳『そっか……』
92 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:57:18.30 ID:72sQ3/jzO
瑞鳳『じゃあさ、多摩。あなたの今の役割は何?』

多摩『にゃ……?』

瑞鳳『あなたの、今の運命は。決まっているの?』

多摩『……』

瑞鳳『過去の運命は決まっていても。未来の運命まで、決める必要はないと思うな、私』

多摩『未来の運命……』

瑞鳳『あなたは……どう思っているの?』

多摩『……』

瑞鳳『だって、あなたは――』

多摩『……、……』

93 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:57:53.53 ID:72sQ3/jzO
〇七三四 鎮守府 司令官の部屋

多摩「ぅ……む……」モゾ

多摩「ん、ん……?にゃ……」クシクシ

多摩(何か、夢を見ていたような……。忘れちゃったにゃ……)

多摩「ここ、提督の部屋かにゃ……?」

多摩「何でこんな所に……」

多摩(この寝間着……多摩のじゃないにゃ。袖が凄く余ってるし……提督の、かにゃ……?)

多摩(枕元に、多摩の制服がたたまれてるにゃ……。……洗濯もしてあるみたい)クン

多摩「昨日は……。……」

多摩「……にゃぅ〜……」カアァ
94 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:58:21.86 ID:72sQ3/jzO
〇七五〇 鎮守府 司令官の部屋

多摩(提督の部屋に、洗面台が隣接してて良かったにゃ)

多摩(取り敢えず着替えて顔と歯は磨いたし、後は慎重にささっとここから出るにゃ)

多摩(……昨日、多分提督がここまで運んでくれたんだろうけど……)

多摩(状況から察するに、多摩を着替えさせたり服を洗ってくれたのも多分、提督にゃ……)

多摩(身体も拭かれてるみたいだし、これってつまり……。……)

多摩(……今提督に会うのは、非常に気まずいにゃー……)

多摩(提督の部屋を開けたらすぐ執務室だけど、さすがに窓からは高さがあるし……ばったりだけは避けないと……)

多摩「そろ〜……」キョロ

多摩(ほっ。執務室は誰も居ないみたいにゃ)ギィ

多摩(このまま注意して部屋に戻るにゃ……)
95 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:59:03.07 ID:72sQ3/jzO
〇八〇五 鎮守府 巡洋艦寮 球磨型部屋

多摩「ただいまにゃ〜」ガチャ

シー、ン……

多摩「……」

多摩(ここに来るまで誰ともすれ違わなかった上に、部屋にも誰も居ないなんて……)

多摩「今日って何かあったかにゃ……。でも特に出撃とか無かったはずだし……」

多摩(考えても仕方ない、にゃ……)

多摩「取り敢えず、シャワーを浴びるかにゃ」
96 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 21:59:38.37 ID:72sQ3/jzO
〇九〇〇 同室

多摩「……、……」

多摩「……」

多摩「暇だにゃあ……」

多摩(誰も、帰ってこない。外から演習の音も聞こえない)

多摩(何もすることがない……。外は、お日様が出ていてとても気持ちよさそうな気候だけど)

多摩(なぜだか、日なたぼっこをする気力にもなれない)

多摩「はぁ……」

多摩(さっきからため息ばっかり出るにゃ……何か寂しいにゃあ)

部屋の片隅で体育座りをしながら、誰かと遊ぶ想像を膨らませるけれど。
浮かぶ姿は

多摩「……提督ばかりだにゃ……」

会うのが気まずいと、そう、思うけれど

多摩(やっぱり、会いたい)

無性に

多摩(提督に、会いたいにゃ)

97 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:00:23.03 ID:72sQ3/jzO
〇九一〇 鎮守府 廊下

多摩(執務室には戻って居なかったにゃ……。相変わらず人にも会わないし)

多摩(提督……どこ行ったのかにゃあ……)

多摩「」グゥ~

多摩「そう言えば昨日の夜から何も食べてないにゃ……出しちゃったし……」

多摩「間宮に行ってみるかにゃ」クル

瑞鳳「あれ、多摩じゃない」

多摩「ふにゃあ!!?」

瑞鳳「わぁっ!」ビクッ

98 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:00:56.91 ID:72sQ3/jzO
多摩「ず、瑞鳳?」

瑞鳳「いてて……もう、いきなり大声出されたからビックリしちゃったじゃないの」

多摩「瑞鳳がいきなり現れるからにゃ……はい」スッ

瑞鳳「ん、ありがと……よい、しょっと」グッ

多摩「瑞鳳、丁度よかったにゃ。提督を知らないかにゃ?」

瑞鳳「提督?提督なら、外出してるわよ」

多摩「……やっぱり、今日何かあったかにゃ?朝から誰にも会わないし提督は外に出てるし……」

瑞鳳「もしかして多摩、忘れてる?それとも、一週間前の朝礼に居なかった?」

多摩「寝てたかも知れないにゃあ……」

瑞鳳「あー……そっか」クスクス

多摩「???なんにゃ?」

瑞鳳「えっとね――」
99 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:01:29.69 ID:72sQ3/jzO


多摩「中秋の、名月……」

瑞鳳「うん。最近、月が綺麗だったでしょ?今日は鎮守府総出でお月見をするって、決まってたの」

多摩「お月見かにゃ……」

瑞鳳「特にほら、見事な秋晴れ!天気予報でも今夜は絶好のお月見日よりだって!」

多摩「……」

瑞鳳「今、外にススキを取りに行っている子達だとか、間宮でお団子を作ってる子達だとかみんなそれぞれに動いてるわ。私もね、さっきまでお団子、作ってたの」

瑞鳳「提督は多分、昼過ぎには戻るだろうから。多摩も間宮でお団子作りしてきたらどうかな。今の時間は駆逐艦の子達が頑張ってるわよ」

多摩「……」

瑞鳳「多摩?」

多摩「……多摩は、食べる専門で良いにゃ」ニヘ

瑞鳳「あっ、またすぐそういうこと言うんだから……全く」

多摩「にゃはは……」
100 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:02:15.74 ID:72sQ3/jzO
瑞鳳「それじゃあね、多摩。私一度軽空母寮に行かないとだから」

多摩「うん……また、にゃ」

瑞鳳「またね」

多摩「……。……」

多摩「……」スッ

多摩(……こんなにも、お日様ぽかぽかな快晴を恨んだことはないにゃ……)

多摩(お腹は空いたけど……今、間宮に行けば駆逐艦達……暁型の子達に会う可能性もある)

多摩「……気まずい、にゃ。それ以上に」

多摩(普通に接せられる自身がないにゃ……)

多摩「……お部屋、戻るかにゃ。何かしらあるはずにゃ」トボトボ

101 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:02:56.30 ID:72sQ3/jzO
一八〇〇 鎮守府 巡洋艦寮 球磨型部屋

多摩「……」

空になったカップ麺の容器を、体操座りでボンヤリと眺める。

何時間、こうしているのだろうか。結局今の今まで、誰も帰ってこなかった。

多摩「……」

ちらりと、窓に目をやる。カーテンを敷いたせいで外の様子は見れないが、夕方には姉妹の皆も外で設営に動いていたのが見えた。
今も、賑わう声だけは遠く聞こえてくる。

多摩「……」

こてん、と横になる。床が冷たい。机の下に見える僅かな埃に目配せしながら、物思いに耽る事は。

多摩「提督に……会いたいにゃあ……」

102 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:03:36.24 ID:72sQ3/jzO
朝からその想いは変わらないはずなのに、何故か、探す気力は失せてしまった。
いや寧ろ、提督に会いに行きたくない自分が出てしまってすらいる。

多摩「……」

提督に会いたい、のに会いたくない。
温もりが欲しい、のに動きたくない天の邪鬼。
そういえば、こんなのは、いつの間にやら最近の日常になってしまっていたっけ。

多摩「……」

多摩「……多摩は」

このままで、居たくない。
このままで、良いはずがない。

多摩「……」

ふらふらと立ち上がる。部屋の扉を開けて、廊下の電気が付いていることを確認してから。
執務室へと、駆けた。

103 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:04:21.01 ID:72sQ3/jzO
一八一五 鎮守府 司令官の部屋

多摩「にゃ……」ガチャ

執務室は相変わらず人が居なかった。
司令官の部屋を覗いてみても、人影はない。

多摩「……」

部屋の明かりを付け、いの一番に目に入るのは、朝自分が寝ていた布団。
崩れた掛け布団がそのままになっていることから、提督は今日一日ここへ戻ってこなかったのだろう。

多摩「……」

窓の雨戸を閉め、カーテンで封鎖し、明るい人工灯に照らされる許で、布団に座り込む。

提督がどこにいるのかが分からない。
探し回っても、見付かる保証はない。
何より……外はもう、月が出ている。

多摩(このまま、ここで……)

待つことしか、私には出来なかった。
104 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:05:05.34 ID:72sQ3/jzO
静かな室内で、カチ、カチと小さな目覚まし時計の針が進む音が響く。
しかし時計は視界の内に写らない。今、果たして何時なのかが分からない。

多摩「……」

何秒、何分、何時間経っただろう。
提督は未だ戻ってこない。

月は、どれくらいの高さにあるのだろう。
提督は未だ戻ってこない。

みんなは、どうしているだろう。
提督は未だ戻ってこない。

多摩(布団……)

多摩(提督の、匂いがする……)ギュウゥ

胸一杯に、大好きなお日様の香りを詰めながら。
一筋の涙が、零れた。
105 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:05:46.56 ID:72sQ3/jzO
多摩(提督は、戻ってこない)

分かっていた。
だって、鎮守府挙げてのお月見だ。一週間も前から、決まっていたことなのだ。

きっと今頃、お月見を盛り上げる為に奔走しているに違いない。
きっと今頃、問題を起こす子達を諫めているに違いない。
きっと今頃、


私ではない、誰かのそばに居る。

多摩「うっ……う……」

本当は今夜も、提督と一緒に居たかった。
今夜だけじゃない、ずっと、ずっと提督と一緒に居たかった。

106 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:06:18.94 ID:72sQ3/jzO
多摩「ううぅ〜……」グスグス

月はどうして、私を照らすのだろう。
月はどうして、私を照らしてくれないのだろう。

多摩「ていとく……ていと……く」ポロポロ

布団を抱き締めながら、閉じた窓に目を向ける。
壁に隔てられ、見えない月を睨み付けながら。

多摩「お前……はっ!私の、命だけじゃなく……っ!多摩の、……提督まで……っ」

荒げた声も、すぐに弱くなって

多摩「提督……まで……」

多摩「奪わないで……」

背を曲げ布団に突っ伏して、静かに泣き叫ぶ――。



…………
107 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:07:08.76 ID:72sQ3/jzO

 

多摩「!」ビクッ

不意に、頭に載せられた掌。その感触にびくりと身体を跳ねさせる。

??「多摩」

掛けられた声に、頭を撫でる優しさに。居るはずがないと、来るはずがないと思いながらも。

多摩「あ……あ、ぁ……」

彼ならば。もしかしてと、振り返る。

司令官「……待たせたね、多摩」

多摩「ていとく……」ツゥ

司令官「よし、よし……」ギュ

多摩「――」

ずっと求めていた、温もり。
108 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:07:57.43 ID:72sQ3/jzO
多摩「提督……何で……今日は、お月見で……」

司令官「ああ……そうだな。今日はお月見だ。司令官としてやらなきゃいけないこともあるし、さっきまでも色々と動いてたよ」

多摩「じゃあ、何でここに……」

司令官「……約束したからね」

多摩「約、束?」

司令官「今夜も、一緒に寝るんだろう?」

多摩「ぁ……」

昨晩、苦しみ呻く中に、絞り出した願望。
朦朧とした意識の中で、自分でさえ忘れていた望みを。

多摩(提督は……聞いていてくれたんだにゃ……)ジワ
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/12/13(水) 22:08:37.92 ID:72sQ3/jzO
司令官「やるべき事は片付けてきたし、引き継ぎもしてきた。だから今夜は、このまま多摩と一緒に居るからね」

多摩「提督……。……」

多摩「……ごめん、なさい」

司令官「どうした、いきなり」

多摩「いきなりじゃない……にゃ。こんな、多摩のワガママで提督を、お月見から外しちゃって……」

多摩「ううん、もっと……。昨日も、多摩、提督に……その、襲い、掛かったり……吐いたり……すっごい迷惑ばかりかけて……」

多摩「多摩は……」

司令官「……」ワシャワシャ

多摩「わ、わ。何するにゃあ〜」

司令官「確かに、昨日は色々凄かったな」

多摩「ふにゃ……」

司令官「でも……それだけ、お前が苦しんでたって事だろう?大丈夫。心配こそすれど、迷惑とか思っていないよ」ナデナデ

多摩「にゃあ……」
110 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:09:19.37 ID:72sQ3/jzO
司令官「だからね、多摩。その苦しみを……多摩の想いを。僕にも、共有して欲しい。話せる限りで良いから、話して欲しいんだ」

多摩「……」

多摩「……、提督は……」

司令官「うん」

多摩「今夜はずっと……多摩と、居てくれるのかにゃ……?」

司令官「ああ」

多摩「……、……」

多摩(……)

多摩「じゃあ……。折角の、中秋の名月なんだし……外で、話さないかにゃ……?」

司令官「多摩と二人でお月見か。良いよ、じゃあ、準備しよう」

多摩「にゃあ……」

多摩(提督……)ギュ
111 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:09:53.19 ID:72sQ3/jzO
鎮守府 船着き場 灯台

朝潮「!司令官、多摩さん。いかがされましたか?」

司令官「ああ、朝潮。見張りお疲れ様、異常はない?」

朝潮「はい!敵艦、その他不審な物は今のところありません!」

司令官「そっかそっか。ありがとな」ナデナデ

朝潮「ぁ……、恐縮、です!」

司令官「朝潮、今日は鎮守府挙げてのお月見だ。未だみんな、広場で騒いでいるから君も行っておいで」

朝潮「お月見……しかし、見張り番は」

司令官「それなら大丈夫。しばらく僕と多摩で務めるから」

朝潮「しかし……」

司令官「それと朝潮。できれば、日付が変わるくらいまで……この場にいさせてくれないか」ボソッ

朝潮「!」

朝潮「……かしこまりました。駆逐艦朝潮、暫しお暇をいただきます!」ビシ

司令官「うん。楽しんでおいで」ニコ

朝潮「はいっ!」ニコ
112 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:10:54.86 ID:72sQ3/jzO
司令官「さて……ここは景色が良いが、夜は冷えるからな。暖房器具があるとは言え……」トットット

司令官「ほら、多摩。温かいコーヒーだ」

多摩「ありがとにゃ。……提督、多摩と一緒に毛布に入るにゃ。くっつけばもっと暖かいにゃ」

司令官「ん……何か照れるな」

多摩「一緒の布団で寝た仲なのににゃ?」

司令官「はは……それもそうか。失礼するよ、多摩」

多摩「にゃあ」
113 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:11:35.50 ID:72sQ3/jzO
多摩「ふー、ふー……ん、暖かいにゃあ」

司令官「多摩の舌なら、これくらいが丁度良いか」

多摩「にゃあ」

司令官「しかし……本当に、見事な夜空だな。月の光が強くて、星々も目立たなくなるくらいに」

多摩「そう、だにゃ……」

多摩「……」ギュ

司令官「……」

多摩「でも……多摩は、お月様なんて……大嫌いにゃ……」

司令官「……」

多摩「明るいくせに、冷たい。大きいくせに、暗い」

多摩「お月様は……多摩の身体を、照らしてくれなかった」

司令官「……」
114 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:12:12.50 ID:72sQ3/jzO
多摩「提督……最近、多摩はおかしいのにゃ。月を見ると、在りし日の記憶を思い出して、」

多摩「頭が痛くなる、胸が苦しくなる。涙が……止まらなくなるにゃ……」

司令官「そうか……」

多摩「けれど。今は平気にゃ。提督がそばにいてくれると、平気だって……分かったにゃ」

司令官「……」

だから本当は、ずっと私のそばに

多摩「……」ギュ

司令官「多摩……」

多摩「……」

115 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:12:59.09 ID:72sQ3/jzO
多摩「……提督」

多摩「提督、多摩は、多摩は……弱い、にゃ……」

多摩「昨日も、出撃の時に月を見て……おかしくなっちゃったにゃ……」

多摩「でも、多摩は提督が一軍起用する水雷戦隊の、唯一の軽巡にゃ……」

多摩「月如きで弱さは見せられない……多摩には、その責任があるのに、」ツゥ

多摩「だから……強い自分になりたい、から……いつまでも、提督にしがみついてるわけには……いかない、のに」グスグス

司令官「……」

116 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:13:39.37 ID:72sQ3/jzO
多摩「それだけ、じゃ、ないにゃ……。提督に、は……電が、居るから……多摩は、指輪を、貰っていないから……」

多摩「提督の隣に居る、のは……多摩じゃ、ない、って……思っ……て、多摩の在り方、……っは、傍観者なんだって、む、無意識に決めつけて、て」

多摩「だから多摩は、多摩はただ、提督と一緒に居る時間があれば良いだけだったのに……っ。そんなちょっとの、ワガママのはずだったのに……」

多摩「て、提督が電といる、時は……多摩はそばにいちゃいけないって……でも本当そんなことないって、分かってるのに、心が、言うこと聞かなくて」ボロボロ

多摩「それで勝手に苦しくなって、き、昨日は提督を……無理矢理、提督に、襲い掛かったり……して……うぅ」

多摩「多摩は、どうして今になって……っひ。こ、こんなにも、苦しい……のにゃ……?」

多摩「多摩は……どう、すれば……」グスグス

117 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:14:19.83 ID:72sQ3/jzO
司令官「……。……そっか」

司令官「辛かったな……、苦しかったよな、多摩……」

多摩「うぅ……ぐすっ。うー……」ギュ

司令官「……多摩。こうして僕がそばにいることで、君を月の光から覆えるのならば。多摩が望むときに、こうして君の手を握ってあげる」

多摩「……」グス

司令官「だけどね。僕は、多摩が……月の光を浴びれるようになれれば良いなぁって。そう思うんだよ」

多摩「にゃ……?」グシグシ

司令官「それができれば……僕のとっても、嬉しいしね」

多摩「提督、それは、どういう……」

118 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:14:59.15 ID:72sQ3/jzO
司令官「……多摩は、責任感が人一倍強くて。己れ自身のことより、自己犠牲を払ってでもその役割を全うする、……とても強い艦だ」

多摩「……」

司令官「でもそれは……『長崎で進水し、レイテに逝った軽巡洋艦多摩』の話だろう?今、僕の隣にいる『艦娘としての軽巡洋艦多摩』の話じゃあない」

司令官「多摩、僕はね。今の多摩が、過去の多摩に縛られなくても、良いんじゃないかって思うんだ」

多摩「……」

119 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:15:41.97 ID:72sQ3/jzO
司令官「在りし日の記憶を忘れろ……とは言わない。過去の栄光、誇り、勝利、大切な仲間との思い出……それらを現在の糧とすることも良い」

司令官「魂に染みついてしまっていて、自然と表に出てしまう物事だってあるだろう。それだって、自分が気にしていないのなら矯正するつもりはない」

司令官「ただ……過去にこうだったから、今の自分もこう在らなくてはならない、なんて。そんな決めつけは、しなくても良い」

司令官「意識的にでも無意識下でも、その決めつけで苦しんでいるのなら……なおさらだ」

多摩「……でも多摩は……どうしても……」

司令官「思ってしまう?」

多摩「……」コク

120 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:16:21.11 ID:72sQ3/jzO
司令官「……それなら多摩は、猫になればいい」

多摩「……ふにゃ?」キョト

司令官「責任に縛られ、自分の役割が決まった軽巡洋艦多摩は今日を以って。無責任で、自由気ままな、艦娘の多摩になればいい」

司令官「いや……折角女の子になったんだ。ガチガチの艦だった多摩は……、猫みたいな一人の女の子の、多摩ちゃんになれば良いのさ」

多摩「多摩、ちゃん……」

司令官「ああ」

121 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:16:57.08 ID:72sQ3/jzO
司令官「多摩ちゃんはね。お日様が大好きで、しょっちゅう色んな場所で眠って。お腹が空いたら起きてご飯を食べて、一人で遊んでいたと思ったら急にすり寄ってきて」

多摩「……」

司令官「くだらない事にため息をついて。ちょっとしたことにビックリして。喧嘩したら、拗ねたりもして」

多摩「……」ツゥ

司令官「思い切り笑って。たくさん怒って。いっぱい、泣いて」

司令官「恋を、して――」

多摩「……」ポロ

122 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:17:34.26 ID:72sQ3/jzO
多摩「……かにゃ」ポロ、ポロ

司令官「……」

多摩「多摩、に……なれるかにゃ……」ポロポロ

司令官「ああ……保証するよ」

司令官「だって。僕はずっと、そんな多摩ちゃんを見てきたからね」ニコ

多摩「っ……!」ブワ

多摩「うっ、ふ……うえぇ……うう、ぅー……」ギュウゥ

司令官「……」ナデナデ
123 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:18:33.91 ID:72sQ3/jzO
結局。


司令官「落ち着いたかい?」

多摩「ん……」コク

司令官「良かった」クス


私は、提督に「良いよ」って言って欲しかっただけなのだろう。



多摩「提督の服、多摩の涙でぐちゃぐちゃになっちゃったにゃ……」

司令官「何、これくらい安いもんさ。寧ろ多摩ちゃん汁付きで高く売れるかも……」

多摩「もうっ!デリカシーがないにゃ」

司令官「あはは……ごめんなさい」

多摩「全く、しょうがないにゃあ」クス



たったそれだけのこと。
124 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:19:28.88 ID:72sQ3/jzO
提督「……多摩」

多摩「んにゃー?」


あの子達が羨ましいと思った。
ううん、今でもちょっぴり羨ましいけれど。


司令官「月の光が嫌いだったのは、過去の君だ。言ったよね?僕は、君にもっと月の光を浴びて欲しいって」

多摩「……」コク


目に見える証がなくても、多摩と提督の間には目には見えない絆があるから。
「私」の出番は、きっとおしまいだ。
125 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:20:51.80 ID:72sQ3/jzO
司令官「僕はね。君が僕の影に隠れて月を見るんじゃなく……君と隣同士、一緒に月光浴がしたいんだ」

多摩「うん……」


指輪なんてあってもなくても、居場所はもう。変わらないと分かったから。


司令官「きっと今の君なら、それが出来ると思う。だからね――」


だからね、多摩は……
126 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:21:36.91 ID:72sQ3/jzO
司令官「……受け取って、くれるかな」

多摩「――」

 
 


 

月が綺麗だなって。
今ならそう、言えると思うにゃ。提督――

127 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:22:15.86 ID:72sQ3/jzO
数日後
一三〇〇 鎮守府 巡洋艦寮 球磨型部屋

北上「いやぁ、最近平和だねぇ」パチ

大井「ええ、こうのんびり出来ると、たくさんたくさん北上さんと一緒に居られて嬉しいです」パチ

球磨「全く……大井も少しは北上離れした方が良いと思うクマ」パチ

大井「むっ。北上さんと私は一心同体ですから。離れようにも離れられないんです」

木曾「ま、今更言うだけ無駄だろ。それに、ベッタリと言えばもう一人。姉妹の仲にいるからな、凄いのが」パチ

北上「多摩もここで打つことが少なくなったもんねぇ」パチ

大井「寧ろ、前に戻ったと言って良いのかも知れませんね」パチ

球磨「いやぁ……良くも悪くも、前以上だと思うクマ」パチ
128 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:23:24.20 ID:72sQ3/jzO
木曾「言えてるな……っときたぁ!球磨姉さん、それロンだぜ!」

球磨「クマ?」

木曾「へへっ、やっと一矢報いたなぁ!」

北上「んー……?木曾、それフリテンじゃない?」

木曾「へ?」

大井「そもそも、役がないじゃないの」

木曾「は?」

球磨「チョンボクマね。木曾、さっさと8000点よこすクマ」

木曾「ちっくしょお!!」

129 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:24:06.89 ID:72sQ3/jzO
同時刻 鎮守府 執務室

電「失礼致します、なのです!駆逐艦電、午後の秘書艦に着任なのです!」ビシ

電「って、あれ?司令官さん、今日は座卓なんですね。多摩ちゃんは――」

司令官「」チョイチョイ

電「?」タタタ

司令官「しーっ……」

電「あ……ふふっ」クス

多摩「すー……すー……」

電「多摩ちゃん、司令官さんのお膝で気持ちよさそうに眠っているのです」

司令官「一応、午前の仕事は片付けてくれたけどね。まぁでも……やっぱりこの感じは猫だよ」ナデ
130 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:24:37.77 ID:72sQ3/jzO
多摩「んん……猫じゃない、にゃあ」クアァ

電「起きたのです」

司令官「はは……おはよう、多摩ちゃん」ウリウリ

多摩「うにゃう〜……♪」

多摩「ん〜っ……おはようにゃ。……提督」

司令官「ん?」

多摩「多摩は多摩ちゃんになったけど……やっぱり、提督が多摩をちゃん付けで呼ぶのはやめてほしいにゃ。なんか……違う感じがするのにゃ……」モジ

司令官「そうか?結構気に入ってるんだけどな、多摩ちゃん」

多摩「む、そうにゃ。やめてくれないとここを離れないにゃ」ゴローン

司令官「うーん、それ寧ろやめたくなくなるんだけど……」
131 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:25:25.30 ID:72sQ3/jzO
電「……」ジッ

多摩「……電も、提督の膝で寝ると良いにゃ」

電「はわ!?い、電は、その……」

多摩「遠慮が一番ダメだにゃあ。我慢は精神衛生上良くないにゃ」クシクシ

司令官「いや、遠慮も大事だと思うぞ」

電「……、……」

電「えいっ」ギュー

司令官(おいマジか)

132 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:26:11.71 ID:72sQ3/jzO
多摩「にゃはは。暖かくて気持ちいいにゃ?」

電「な、なのです。ちょっと、恥ずかしいけれど……」

多摩「今日は電も、多摩と提督と一緒にお休みするにゃん」ホワホワ

電「はいなのです〜」ホワワ

司令官(あー……これは、今夜も徹夜かなぁ……)

司令官(ま。幸せそうだし。僕も幸せだし、いっか)ナデナデ

多摩「……にゃあ♪」

133 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:26:59.81 ID:72sQ3/jzO
とある昼下がり、穏やかな執務室。

暖かな日の光の許で行う日なたぼっこは、なんと心地好いのだろう。

多摩(提督――)

晴れ晴れとした空は、今夜も月が良く映える事だろう。

多摩(これからも、多摩を提督でいっぱいいっぱい、満たしてにゃ)

多摩(そしたらきっと……もっともっと、良い夢が見れるから)

煌々とした月明かりに影は伸びる。
自分の存在がまるで、何倍にも大きく膨れあがったかのような錯覚を覚える。


 
 


だけど
134 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:28:06.04 ID:72sQ3/jzO
きっと、大丈夫。

 

多摩「起きたらまた一緒に。月光浴、しようにゃ……」ウト

司令官「……ああ」ニコ







月の光が生む二人の影は。繋っているから――




135 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:29:25.99 ID:72sQ3/jzO
お目汚し、大変失礼いたしました。以上で本編は終了となります。

ほんっとうに蛇足になりますが、少しだけおまけを投稿して終わりとさせていただきます。
よろしければどうぞ。
136 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:30:27.77 ID:72sQ3/jzO
入れたかったけど蛇足だなぁと思いボツになった、おまけ1
【灯台で指輪を渡した後の一コマ】

多摩「それにしても提督……昨日は……」

司令官「うん?」

多摩「……多摩の服、脱がせて拭いたかにゃ……?」

司令官「……。……それ、聞くか……」

多摩「にゃ……もし、電とか、他の誰かに頼んでたら……汚かっただろうから恥ずかしいし、御礼も言わないとって思って……」

司令官「あー……。……安心しろ、と言っていいのか分からんが……誰にも見られないよう、僕一人でやったから……」ポリ

多摩「……、……」

多摩「……えっち」

司令官「し、仕方ないだろう!状況が状況だったし……」

多摩「ごめんにゃ……」シュン

司令官「いや……こちらこそ、な、うん。そう凹むな」

137 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:31:02.86 ID:72sQ3/jzO
多摩「もし昨日、あのまま多摩が提督を襲ってたら、もっと立ち直れなかったにゃ……そう思うとぞっとするにゃ……」

司令官「……ま、それも気にするな。昨日のあの状況であれ以上事が進みそうだったら僕ももっと呼びかけてただろうし……何としてでも止めてたさ」

司令官「あの状態で、多摩が望むままに抱いたとして……多摩が傷付くだけだからね。そんなことは絶対にしないよ」

多摩「提督……」

多摩「……あれ。じゃあもし、今、多摩が望んだとしたら……?」

司令官「……」

多摩「今夜も、一緒に寝てくれるのにゃ?例えばその時とかに、もし多摩が……」

司令官「…………」

多摩「……」

多摩「……提督の、えっち」

司令官「だからっ!未だ何も言ってないだろぉ!」

多摩「……にゃ」クスクス

138 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:31:52.52 ID:72sQ3/jzO
当SSが完成する前に多摩改二が来ちゃったので、おまけ2
【球磨の憂鬱】

司令官「うりうり〜」ナデナデ

多摩「くすぐったいにゃ……でも気持ちいいにゃ」

多摩「お返しに肩に多摩パンチあげるにゃ」パスッ、パス

司令官「お?お〜……これは中々……」

多摩「気持ちいいにゃ?にゃ?」

司令官「ああ、これは良い……」

球磨「……」

司令官「よし。じゃあ肩もほぐれたところで」ネコジャラシスッ

多摩「!」

司令官「ほれほれ〜」サッサ

多摩「に、にゃあ!じゃらすの禁止にゃ!」ピコピコ

球磨「…………」

球磨(提督と多摩がより気兼ねなくより仲睦まじくなったことは良いことだクマ)

球磨(けど……正直妹達全員に改二が来るとか……)

球磨「むちゃくちゃ焦るクマッ!」クワッ

司令官「球磨も遊ぶか〜?」

球磨「クーマー♪」
139 : ◆pxTJMwo04OvB [saga]:2017/12/13(水) 22:33:48.90 ID:72sQ3/jzO
以上で終わりです。
ここまでお付き合いくださった皆様、本当にありがとうございました。

次は瑞鳳か伊19、うーちゃんあたりを書きたいな……と思います。

では、HTML依頼出してきます。機会があればまた。
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/13(水) 22:44:49.54 ID:Zfesonxio
乙、多摩可愛い!
いつかのあの朝潮のほろ苦い初恋のやつも良かったなー
次作も待ってます
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