結衣「え、ヒッキーってパン屋さんでバイトしてるの?」

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18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/16(土) 23:54:05.44 ID:GjG/7KC80
八幡「まあ、そこまでのレベルならともかく、ちょっと規格外の大きさだったり傷ついたり潰れたりしたら廃棄処分だからな」

結衣「えー、もったいなくない?」

八幡「成形して焼いた後のパンを再利用はできねぇよ」

八幡「お前は店の棚にあるジャムパンの苺ジャムが飛び出して出血したような潰れた形のパンを買うか?」

結衣「うぇぇ、……買わない」

八幡「……そういうことだ」
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/16(土) 23:54:44.78 ID:GjG/7KC80
――和菓子課・事務室――

結衣「これコロコロ? 床掃除とかするときの」

八幡「ああ、これで全身をコロコロする。まあ、髪の毛とかが付いたまま製造現場に入らないようにするためだな」

結衣「そっか、じゃ、あたしやったげるね!」

八幡「……え」

結衣「あ、両腕横に上げて、足もちょっと開いて。その方がやりやすいから」

八幡「お、おう……」
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/16(土) 23:55:18.37 ID:GjG/7KC80
コロコロコロコロ

結衣「〜♪」

八幡(おい、ちょっと待て。いつもは誰もやってくれないからセルフコロコロして、背中の方とかやりにくいなーとか思ってるのに)

八幡(何で女子にコロコロされちゃってるのぉ! 俺のあんなところや、こんなところまで! 全身が拭き取られちゃうよぉぉぉおおおっ! つかちょっとくすぐったいんですけどっ!)

結衣「終わったよー。ヒッキー全然汚れとかついてないね」

八幡(くそっ、……何の罰ゲームだよこれ。仕事始まる前から徒労感半端ないんだが……)

結衣「じゃ、次あたし、ヒッキーよろしく」

八幡「え?」

八幡(え、俺がコロコロすんの? 由比ヶ浜の身体を? 服越しだけど? あんなとこからこんなとこまで?)
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/16(土) 23:55:48.28 ID:GjG/7KC80
八幡「い、いや……それちょっとアレだろ。その……間接的だけど……感触が……というか」

結衣「へ? 感触……、……あっ……」

八幡(おい、今さら赤くなるな……。俺なんて事後なんだぞ。余計恥ずかしいじゃねぇか……)

女性社員「クリーナー終わりましたか?」

結衣「あ、すみません。……あたし、まだです」

女性社員「は? もう始業時間なんですけど。てきぱきしてもらわないと困りますね」コロコロ

結衣「あ、はい……すみません。ありがとうございます」

八幡(ま、これが妥当な結果だろう。つか女性社員さん、何で俺にはやってくれないんでしょうかね……)
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/16(土) 23:56:23.95 ID:GjG/7KC80
――和菓子課・製造ライン――

結衣「うわー、何だかちょっと暑いね。空気がもやっとしてる感じ」

八幡「そりゃまあ、もち米炊いたり、蒸しパン焼いたりしてるからな。逆にワッフル作ってるとことかマジ寒いぞ」

結衣「ふぅん。ていうか、蒸しパンって和菓子なの?」

八幡「よくは知らんがここでは和菓子に分類されているらしい。和菓子課は大所帯だ。いろんなもんを作ってる」

結衣「へぇー」


リーダー「おっ、バイトくんじゃないか! 久しぶりだな」

八幡「あ、どもっす」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/16(土) 23:56:55.89 ID:GjG/7KC80
リーダー「えーと、そっちの君は新人さん?」

結衣「あ、はい、そうです。由比ヶ浜っていいます、よろしくお願いします」

リーダー「バイトくん、団子拾いやったことあるよね?」

八幡「あーはい、一度は……結構前に来た時ですけど」

リーダー「じゃ、言わなくても分かるね。ちょうど二人夜勤の子が上がりだから、代わってあげて」

八幡「えっと、二人交代ってことは……俺と」

結衣「あたしが……やるんですか?」

リーダー「バイトくん、その子にやり方教えてあげて! 頼むよ!」

八幡「……了解です」
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/16(土) 23:57:36.51 ID:GjG/7KC80
――団子ライン――

結衣「ヒッキー、あの人に顔覚えられてるんだ」

八幡「まあ、何度かここも来てるからな」

八幡(名前は覚えられてねぇけど。いつも『バイトくん』呼ばわりされるんだよな)

八幡(バイトとか俺以外にもたくさんいるんですけど? いつから固有名詞化したの? それともリアルモブ扱い?)

八幡「それに、何だかんだで俺は仕事ができるほうだ。だから向こうにしちゃ、使いやすい駒として認識してるんだろうな」

結衣「何かそれって微妙な感じ……もっとフレンドリーならいいのに」

八幡「ま、それよりさっさと仕事するぞ」

結衣「えっと、団子拾いだっけ? って、何するの? 栗拾いみたいな?」

八幡「団子は木の実じゃねぇぞ……」

結衣「知ってるし! 言ってみただけ!」
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/16(土) 23:58:10.75 ID:GjG/7KC80
八幡「ほら、そこのラインに串団子が流れてるだろ」

結衣「あ、ほんとだ。三色団子! おいしそうー」

八幡「このラインが下流にいくと、専用の機械によって自動的に団子が3串ごとにパック詰めされ、賞味期限とかが書いてあるシールが貼り付けられる」

結衣「シールも自動なんだ」

八幡「まあ、基本的にはな。団子の製造に関してはほとんど自動化されてるぞ」

結衣「他のとこでは違うの?」

八幡「まあな、例えばホットドッグ用のパンにウインナーをのせたりとかするのは手作業だ」

結衣「え、それ手作業なの? ウインナーのせるくらい機械でできるんじゃない?」

八幡「機械化したらそのぶんコストがかかるからな。そこはバイトを雇う人件費と天秤にかけてるんだろう」

八幡「季節限定ものとか、生産量が少ない種類の製品に適した機械を導入しても、他の製品に転用できなきゃ無駄になるしな」

八幡「そこらへんの兼ね合いとかで手作業になる部分も結構あるんだろ」

結衣「うーん……うん、なるほど」

八幡(こいつ絶対あんまり分かってねぇだろ)
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/16(土) 23:58:39.86 ID:GjG/7KC80
結衣「で、あたしたちが団子拾い?するのはどこなわけ?」

八幡「このラインの一番後ろだ。パック詰め、シール貼りが終わって、一応商品としての形ができた団子を、番重っていうプラスチックの入れ物の中に入れていくんだ」

八幡「団子を入れた番重は専用の台車の上に乗っけて、また同じように団子を番重にいれて上にどんどん重ねていく」

八幡「番重のタワーがある程度の高さになったら、運び担当が持って行ってくれる。製品管理室だっけか? 搬送前の留め置き場があるんだ」

結衣「え、えーとつまり……あたしがやることって」

八幡「入れ物にパックの団子をひらすら詰める作業」

結衣「何それー、超簡単そうじゃん」
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/16(土) 23:59:42.26 ID:GjG/7KC80
――拾い場――

結衣「わっ! わっ! わあっ!? ヒッキー助けて! 何かたくさん流れてくる! わっ、床に落ちちゃう!」

八幡「ラインは待ってくれねぇんだよ。手際良く番重に詰めていかないとすぐあふれるぞ」

サッサッサッサッサッ

八幡「1パックずつ両手で丁寧に入れていたら到底間に合わない。こういう持ち方で一度に4つずつ詰めていけ」

八幡「あと番重に入れるときの方向に注意な。縦横の幅を考えるとこういう入れ方をしたら一番多く入るんだ」

結衣「う、うんうん。こうだね」

八幡「番重を積むときにはちゃんと角と角を合わせて綺麗に積めよ。適当に乗っけてるとバランス崩すからな」

八幡「番重タワーは20段積んで一本出来上がりだ。自分の目線の高さが何段目になるか覚えておけばいちいち下から数えなくてもすむ」

結衣「ふむふむ」

八幡「それと台車を足元に取り寄せておけよ。タワーが完成したらすぐに次のタワー作りに移れるようにな」

八幡「台車は汚いから直接手で触れるな。このタオル越しに扱うんだ」

結衣「ヒッキー……すごい慣れてるね。動き早いし、超テキパキしてて説明うまいし」

八幡「そりゃ、一度やってるからな」

結衣「一度やるだけで、そんなできちゃうんだ」
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/17(日) 00:00:29.83 ID:xP7YGYVO0
八幡「言っただろ。俺は仕事はできるんだよ、それなりにな」

八幡「それに、一度慣れたらそんなに大変なもんじゃない。所詮はバイトにできる仕事だ。目をつぶってもできる」

結衣「目をつぶったらできなくない?」

八幡「いや、それはものの例えだから……」

結衣「で、でも……あたしできるかな」

八幡「できてもらわないと困る。30分後に隣のラインでみたらし団子が流れ始めるから、始まったら俺はそっちに行けって言われててな」

八幡「その後はお前ひとりでここで拾い続けるんだぞ」

結衣「えええっ! 30分で覚えないといけないの!?」

八幡「由比ヶ浜。やれば、できる。できるんだ!」

結衣「そういうのいらないし! ヒッキーしっかり教えてよ〜!」

八幡「分かってるっての。しっかり教えてやるからよ、心配すんな」

結衣「ヒッキー……。あ、ありがと」

結衣「よーし、あたし頑張るから!」

八幡「よしよし、頑張れ頑張れ」
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/17(日) 00:00:58.30 ID:xP7YGYVO0
――1時間後――

ガコン ガコン ガコン

八幡(今日は不良品多いな)

八幡(みたらしはタレがパックの隙間から外に出たらアウツだから、三色団子より面倒なんだよな。ごく少量なら布巾で拭き取れるが……あん団子もしかり)

八幡(うっかりしみ出したタレに触っちまうと、ゴム手袋すぐ替えないといけないしな。そのまま触ったらほかの商品まで汚れちまうし)

八幡(由比ヶ浜は……)
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/17(日) 00:01:32.98 ID:xP7YGYVO0
結衣「うんしょっと……」

結衣「番重って結構高く積まなきゃいけないんだ……あたし背そんなに高くないしちょっときついかも」

社員「ちょっと君!」

結衣「は、はいっ」

社員「君が拾ってくれた番重のなかにシールが一部破れている商品があったんだけど? ほらこれ」

結衣「あ、あ……ほんとだ。すみません……間違って入れちゃったみたいで」

社員「不良品はちゃんと除くようにって話聞いてる?」

結衣「は、はい。……聞いてます」

社員「こういうのがもし出荷されたら本当に困るんだよねぇ。分かってんの君?」

結衣「はい……分かってます。すみませんでした」

社員「ほら、ライン煽られてるよ。早く拾って!」

結衣「は、はいっ!」
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/17(日) 00:02:00.84 ID:xP7YGYVO0
八幡(うわー、自分で教えてもいない癖に偉そうな社員だな。つーか、新人だぞ。ちょっとは大目に見てやってもいいだろ)

八幡(最悪、配送後に店舗の人間が気づいて取り除けば済むわけだし。まあ、メーカー側としてはちゃんとした製品を出荷することが信用にも関わるし、仕方ねぇけど)

八幡(それより、ラインが動いてる時に話しかけるなよ……。せめてラインが止まってる時に声かけろ。空気読め)

八幡(あと、女子が高いところに頑張って手を伸ばして番重のっけてるんだ)

八幡(ちょっと手を貸すとかしてやれよ……そんなんだから日の当たらない工場で底辺社畜なんかしてるんだぞ)

八幡「ったく」

八幡(できれば手伝ってやりたいところだが、こっちも持ち場を離れるほどの余裕はねぇからな)

八幡(すまんな、由比ヶ浜)
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/17(日) 00:02:44.96 ID:xP7YGYVO0
――食堂――


がや・・         がや・・


八幡(今日はちゃんと1時間休憩もらえたな。しかもいい具合に昼時に)

八幡(日によっては同じ課の中でもあっちこっち持ち場がかわる場合もあるが、今日はずっと団子拾いだろうか)

八幡(まあ、正直単調ではあるが……同じ作業をきちんとこなしている限り、誰にも文句は言われないし)

八幡(くだらない想像を働かせて退屈しのぎをしているうちに勝手に時間は過ぎていく。あれ、学校の授業中と大差なくね?)

八幡(共同作業とか接客とか……人間相手に気を使う必要がないだけ気楽なものだ。工場内の機械の一部になりきればいい)

八幡(毎回配属先が変わって社員の顔ぶれもバイトのメンバーも変わるから、変な馴れ合いに接して気分を害することもない)

八幡(ちょっとアレな社員やバイトがいて嫌な気になることもあるが、まあそれは仕事には付き物だ。致し方ない)

八幡(そんなわけで、パン工場のバイトって案外ぼっち向きな職業なのではないだろうか)
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/17(日) 00:03:31.64 ID:xP7YGYVO0
八幡(やばい。このままだとコンビニ人間ならぬ、パン工場人間になってしまう。略してパン人間)

八幡(何それ、頭の形がパンになってそうで怖い。アンパンマンかよ。末は博士かパン大臣ってか)

八幡(正常な世界はとても強引だから、異物は静かに削除される。まっとうでない人間はパン工場で処理されていくのだ……)


結衣「ヒッキー。ヒッキーってば!」

八幡「おおぅ? ……ああ、由比ヶ浜か。休憩に入ったんだな」

結衣「うん。てっきりお昼になったら機械も止まってみんな休むのかと思ってた」

八幡「大手ってこともあるんだろうが、ここは24時間365日、常にどこかのラインが動き続けている」

結衣「そうみたいだね」
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/17(日) 00:04:22.99 ID:xP7YGYVO0
八幡「…………」

結衣「…………」

八幡「で、どうだ。ちょっとは慣れたか?」

結衣「うん、だいぶ出来るようになったし」

結衣「何か、途中でシール貼る機械が調子悪くなって、蓋が開いたままのお団子がいっぱい流れてきたときは、もうほんとどうしようって思ったんだけど」

結衣「その時は別の社員さんが助けてくれたし、さすがにラインも止まったから何とかなった」

八幡「そうか。まあ、よかったな」
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/17(日) 00:04:52.45 ID:xP7YGYVO0
八幡「…………」

結衣「…………」

八幡「嫌なら帰ってもいいんだぞ。別にバックレなくても、体調が悪いとか総務に言ったら帰してくれるだろ。で、次から来なきゃいい」

結衣「ううん、帰らないよ。確かにちょっとヤな感じの人もいるけど、あたしが悪いって部分もあるし」

結衣「それに……。ヒッキーがバイト続けられてるのに、あたしが続けられないなんて何か悔しいし」

八幡「いや、何その対抗意識……そんな張り合うもんじゃねぇだろ」

結衣「ていうか……」

結衣「ヒッキーせっかく教えてくれたし」

結衣「……ヒッキーと、一緒に……なら……」

八幡「え? 俺と……何だって?」

結衣「別に何でもないし! あーお腹すいた! いただきまーすっ!」
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/17(日) 00:05:41.78 ID:xP7YGYVO0
結衣「んっ……あ、このパンおいしいかも」

八幡「つかお前、そこの棚のパン食べるのな」

結衣「いいじゃん、無料だし。食費が浮くし」

八幡「まあ、それはそうだが」

八幡(パンに囲まれまくってずっとパンのにおいを嗅がされてると、何となくパンはもういいって気分になるんだよなあ)

八幡(あと、賞味期限今日までの余り物だし)

八幡(でもまあ……)

八幡「じゃ、俺もパン食うかな」

結衣「ヒッキー、もうご飯済ませたんじゃないの?」

八幡「ラーメン一杯すすっただけだ。小腹は空いている」


八幡「今日は結構品揃えがいいな。団子もあるぞ。食うか?」

結衣「あー、団子は……いいや」

八幡「そうか」
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/17(日) 00:06:33.86 ID:xP7YGYVO0

もぐ・・     もぐ・・


結衣「…………」

八幡「…………」

結衣「ヒッキーさ、ライン移った後も、あたしのほうちらちら見てたよね?」

八幡「は? ……み、見てねぇし。何でお前のほう見る必要あるんだよ」

結衣「ヒッキーも忙しいのに、あたしのこと心配してくれてるんだなって思って……何か嬉しかった」

八幡「……そういうんじゃねぇよ。お前がしっかり出来てないと指導任された俺まで注意されるだろ……だから」

結衣「あはは、ヒッキーっていつもそんな感じだね。ほんとひねくれてる」

八幡「いいだろ別に、ねじりパンとか嫌いじゃねぇし。じゃ、俺そろそろ戻るわ」

結衣「うん。また後でね」


八幡(はぁー……何つーか。バイト来てこんなに喋ってるの初めてじゃね)

八幡(接客のバイトでもこんなに喋ってねーよ。いや、それはちょっとマズいか……)

八幡(でも、まあ……、……まあ、いいか。たまには、な)
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/17(日) 00:07:02.23 ID:xP7YGYVO0
――和菓子課・拾い場――

社員「あのさぁ……ちゃんと話聞いてるわけ?」

準社員「は、はは……」

社員「ヘラヘラしてんじゃねーよ!」

準社員「はい……」

社員「こっちのパンはご当地ものでラベルが違うから入れ替えとけって俺言ったよね?」

準社員「いや、はは……」

社員「ふざけんな! お前は何度言ったら分かんだよ! ふざけんな! いつもいつも! 無駄な仕事増やしやがって!」

社員「お前のせいでみんな気分悪くなるんだろーが! このクズがっ!」

準社員「…………あは、あは」
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/17(日) 00:08:01.72 ID:xP7YGYVO0
八幡(いや、あんたのせいで空気悪くなってるんですが……)

八幡(ま、見たところ、あの準社員は仕事ができないのは確かだろう)

八幡(だが、仕事ができない人間に怒鳴ったところで、急にできるようになることはまずない)

八幡(ならなぜ怒鳴るのか。半分はストレス発散だろう。もう半分は?)

八幡(自分より下とみなしている人間=非正規を叩くことで得られるちっぽけな優越感の獲得……かな)

八幡(くだらねぇ……)

八幡(この様子じゃ、いつもあの二人の間にはこういうやり取りがあるんだろうな。他の社員さん達、お気の毒)


結衣「何か……やな感じだね」

八幡「由比ヶ浜。そっちのラインも小休止か」

結衣「うん。今は機械周りの掃除とかしてる。ヒッキーも?」
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/17(日) 00:08:38.98 ID:xP7YGYVO0
八幡「ああ。今は止まってる。番重を運ぶのを手伝って、たまったゴミを捨てに行って戻ってきたら、これだ」

結衣「そっか。……ヒッキーじゃないけど、何かこういう光景見てると、あたしも将来働きたくないなー……なんて思っちゃう」

八幡「世の中こんな職場ばっかりじゃねぇよ。もっと風通しのいい職場だってきっとあるはずだ。企業のパンフレットとかにそう書いてあるしな」

結衣「……それ、本当なのかな」

八幡「まあ、入ってみりゃわかる」

結衣「入ってみなきゃわからないんじゃん……」

八幡「ま、そういうわけで。俺は働かないけどな。戦略的撤退だ」

結衣「はぁ、まったく」


リーダー「あー、バイトくん達。二人とも来てくれ」
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/17(日) 00:09:12.23 ID:xP7YGYVO0
リーダー「しばらく団子のラインは止まってて、次は肉まんが来るけど」

リーダー「もうじき夕勤の人達が入るからこっちはもう人手は足りてるんだ」

八幡「はあ……」

結衣「え、じゃあ、あたしたちは何をすれば?」

リーダー「向こうの焼き菓子のところに入ってくれ。何、たいしてやることはないから気楽に上がりまで時間潰しといて」


結衣「午前中とか凄い忙しかったのに……この時間になると暇になるんだね」

八幡「まあ、それは日によるとしか言いようがない。逆に追加発注が着て夕方忙しいときもあるし」

結衣「こういうことってよくあるの?」

八幡「まあ、たまにはあるってくらいだな。一度、やることがなくて終業時間まで2時間ぶっ続けで清掃作業をさせられたことがあったな」

結衣「うわ、2時間ずっと? それは嫌かも……」
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/17(日) 00:09:57.29 ID:xP7YGYVO0
――和菓子課・焼き菓子ライン――

結衣「…………」

八幡「…………」


ガコン ガコン ガコン


結衣「何かここは、すごい和菓子課って感じするね。えーと、このお菓子って何て言うんだっけ」

八幡「月餅だな。ゴマとかが入った餡を生地でくるんで焼いたやつ」

結衣「あ、そう、それそれ」

八幡(焼成されて出てきた月餅が流れるラインで待ち構えて、不良品を取り除きつつ綺麗に並べる作業)

八幡(これなら一人でもできるし、二人ならもう余裕なレベル)

八幡(新人バイトに対しては本来こういう仕事から始めさせたらベストなのだが、いかんせん決められた工程は現場の人間には優しくない)

結衣「でも、これとかちょっと端っこが欠けちゃってるだけなのに、捨てるのもったいないなあ」

八幡「まあ、仕方ねぇよ」
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/17(日) 00:10:27.65 ID:xP7YGYVO0
女子準社員「二人ともお疲れさま。そろそろ終わりの時間よね。もう上がってもらって構わないわ」

結衣「あ、はーい!」

八幡(ふぅ……長い一日だったぜ。まあ、いろいろあっていつも以上に疲れたな)

女子準社員「それとこれ、おみやげ」

結衣「え、これ……月餅だ。栗まんじゅうも入ってる!」

女子準社員「少し欠けたものばかりだから商品にはできないけどね。食べる分には問題ないわ。綺麗な袋に入れておいたから」

結衣「わぁ、ありがとうございます」

八幡「でも、こういうのっていけないんじゃないですか? 処分するものはきちんと分けて計量して持って行かないと」

女子準社員「んー、ほんとはいけないんだけどね。でもやっぱり勿体ないし」

女子準社員「それに、せっかくうちの工場にバイトしに来てくれたんだから。工場でできたてのものを味わってほしいなって」

八幡「はぁ……」
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/17(日) 00:10:54.89 ID:xP7YGYVO0
結衣「もー、ヒッキー固いこと言わない。せっかくだし、もらっちゃおうよ」

八幡「……まあ、好きにすりゃいいよ。声かけられたのはお前だしな」

女子準社員「うちもいろんな人が働いていて、みんなもちょっと嫌な気持ちになることもあるかもしれないけど」

女子準社員「それでも、うちが出してるパンや和菓子は……嫌いにならないでほしいなあ。なんて」

八幡「…………」

結衣「…………」

女子準社員「それじゃ、お疲れさま」

結衣「お疲れさまです!」

八幡「お先に失礼します」
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/17(日) 00:11:27.56 ID:xP7YGYVO0
――電車――


ガタン……ゴトン……


結衣「すっかり夜になっちゃってたね」

八幡「そりゃあな。一日中、工場の中に缶詰めだったからな」

結衣「和菓子、結構たくさん入ってるから明日部室に持っていこ! ゆきのんにも食べてほしいし」

八幡「少し欠けてる大袋入りの月餅とか見せられたら、あいつ不審がるんじゃねぇの」

結衣「大丈夫、あたしが作ったって言うから。ちょっと欠けてるのがそれっぽくない?」

八幡「アホか。味は市販レベルだからすぐにバレるだろ。つか見た目もお前のよりはるかにマシだ」

結衣「うぐぐ〜、そっか……」

八幡「まあ、その時は俺が適当に言い繕ってやるよ。せっかくだから、茶請けに持って行けばいい」

結衣「そう? じゃあ……うん、持って行くことにする」

八幡「おう」
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/17(日) 00:11:56.73 ID:xP7YGYVO0
『次は――、――』


結衣「じゃ、あたし次で降りるから」

八幡「…………」

結衣「…………」

八幡「……また家の近くまで送ろうか?」

結衣「ううん、いい。まだそんなに遅い時間じゃないし」

八幡「……そうか」
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/17(日) 00:12:25.86 ID:xP7YGYVO0
『――、――です。お降りのお客様は――』


結衣「それじゃ、バイバイ。ヒッキー、また明日ね」

八幡「ああ、またな」

結衣「…………」

八幡「……?」


『発車します。ご注意ください』
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/17(日) 00:13:12.34 ID:xP7YGYVO0






結衣「今日は楽しかった。ありがと、ヒッキー」

八幡「あ……」






49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/17(日) 00:13:50.51 ID:xP7YGYVO0
ガタン……ゴトン……


八幡(楽しかった。ありがとう)

八幡(あんな社会の縮図を見せつけられて楽しかったも何もないはずであり)

八幡(それゆえに、というかそれ以前に俺が感謝されるいわれなどありもしないのだ)

八幡(それでも彼女は、由比ヶ浜結衣はそう言った。『楽しかった。ありがとう』と)

八幡(嫌なことの多いバイトでも、たった一つでもいい。ひとかけらほどでもいい)

八幡(心地よい経験を得ることができるのであれば――仕事も捨てたものではないのかもしれない)
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/17(日) 00:14:44.06 ID:xP7YGYVO0




八幡「はぁー」

八幡「それでも俺は――」

八幡「働きたくねぇけどな」




                                           (おしまい)
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/17(日) 00:20:57.94 ID:xdiFZX72o
おつ
てっきりベーカリーでキャッキャうふふかと思ったらライン工の現実を見せられてたでござる
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/17(日) 00:53:00.67 ID:Ylp1A62w0
俺がここのバイトの男子高校生だったら無口で仕事押し付けられてばっかのヒッキーを見下すしそんな奴がある日急に可愛い巨乳連れてきてイチャイチャしてたらめっちゃ腹立つ
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/17(日) 00:57:46.12 ID:kehJopTH0
感想まで現実味を帯びなくていいから(良心)
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/12/17(日) 01:04:21.50 ID:9l2aneYko
てかこれ>>1の体験談だろ!
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/17(日) 01:20:02.48 ID:lDlNhRzdO
>>54
1がクラスの陰キャ男子に惚れてる巨乳女子だと聞いてとんできました
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/17(日) 02:43:22.39 ID:ypAYDJiIO
あれ?電池は?
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/17(日) 05:00:19.64 ID:wbsCYT6J0
ヤベェ……怒鳴り散らす上司くっそ分かる、役職者の多くは事務所で書類作ったりや会議で離れるけど班長、主任は現場に居るからな
んで残業が〜とか、なんでこんだけ時間がかかって終わらねぇんだ〜とか自分から一言二言で済む話を2、30分…酷いと一時間超えのお説教しときながらほざき始めるからな


58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/17(日) 12:22:28.22 ID:EwF3FomSO

こういうクッソリアルな感じ好き
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/17(日) 13:30:29.56 ID:2OnNkHOJo
経験者かこれ
おつおつ
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/17(日) 13:31:05.87 ID:uwWYcRid0
乙でございます
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/17(日) 19:09:50.41 ID:AULfJ+zL0
ライン工ってやっぱどこもこんな感じなんだな
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/17(日) 19:11:08.70 ID:7sSA30ghO
ガハマSSなのに荒らされてない
ということは逆説的に今までガハマスレ荒らしてたのが>>1
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/17(日) 19:21:35.56 ID:q8BP+vGeO
例のガハマss荒らしていた奴が実名とか住所バレしそうになってビビって謝罪してやめた
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/17(日) 20:01:04.05 ID:cRjdoW/NO
>>63

詳細
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/17(日) 21:16:02.14 ID:q8BP+vGeO
電池君「俺ガイルssにガハマ出したらどうなるか分かってるよな?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1491287309/

ここ見ればわかる
あまりにも無様過ぎて笑える
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/17(日) 21:48:23.98 ID:ufAvRxFDO
わろた
しかしどういう流れで個人情報なんて知られるんだか…w
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/18(月) 00:15:49.33 ID:PE9iUdlZO
56:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
2017/12/16(土) 00:35:58.95 ID:oI90n6LAo
ひどいことしてるけど実は勇者はいいことしてるいい人だったみたいなのやりたいのかもしれないけど勇者としては考え方が短絡的すぎてタダの自己満正義くんにしかなってなんですが
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