エンド・オブ・オオアライのようです

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463 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/18(月) 23:36:49.10 ID:m3VtkzhB0
三式弾。あまり艦娘の艤装事情に詳しくない私でも、その名は覚えている。

敵艦載機の圧倒的な物量を逆手にとり、深海棲艦が大量の航空戦力を一度に運用すればするほど効果が大きくなるという画期的な対空弾頭。第二次マレー沖やキュラソー沖海戦、ア号作戦・改、【イツクシマ作戦】等多くの戦場で戦果を上げたとは聞いていた。

正直半信半疑だったけれど……なるほど、今回がかなり出来過ぎたケースであろうことを差し引いても、聞きしに勝る威力ね。

「シーサイドステーションより羽黒、三式弾の残弾数を報告されたし!」

《羽黒よりシーサイドステーション、残弾8発!なお、現在再編集結中の戦力で運用可能なのは私と最上さんだけです!また、最上さんは所持数2発と確認済み!》

此方の聞いたこと以上の答えが、そしてその上で求めていた答えがさらりと返ってくる。先ほどの大戦果といい、垣間見える彼女の優秀さに舌を巻く。

合計10発。今のようにここぞの場面以外でおいそれと使えるほど潤沢とはお世辞にも言えないけれど、少なくとも要所要所で敵航空隊に対する戦果拡大と抑止力として使うには十分な量でもある。

現に、三式弾への警戒からか私達の上空からは敵航空隊の姿がほぼ完全に消え去り、大洗町全体でも爆撃が明らかに鈍化した。一先ず、空の脅威はしばらく払拭されたと見ていいだろう。

《大洗鎮守府より各隊に通達!!》

────まぁ、払拭された脅威はあくまで“片方”だけなわけだけど。

《大洗めんたいパーク方面に新たな敵艦隊戦力の上陸を確認!電探反応のため艦種は不明、数は二個艦隊十二隻前後と推察される!

反応は磯浜町方面へ進軍中、付近部隊は警戒されたし!》

《此方大洗文化センター前、既に今報告に上がったと思わしき敵から艦砲射撃を受けている!

当方に装甲戦力なく、迎撃が困難!増援を送ってくれ!》
464 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/19(火) 00:02:29.01 ID:GIou/mEJ0
「………シーサイドステーションより若見羽黒、陽炎、および随伴部隊各位に伝達。作戦を一部変更。速やかにめんたいパークからの敵艦隊迎撃に向かって」

《陽炎よりシーサイドステーション、正気!?敵航空隊は下がったとはいえそっちは装甲戦力も対空火力も損失したんでしょ!?仮に軽巡・駆逐主力だとしても五個艦隊超の深海棲艦相手に持ち堪えられる戦力じゃないわよ!》

「持ち堪えてみせるわ!心配してくれるなら速やかに敵艦隊を撃滅して!サンビーチ通りを寸断されればどのみち鎮守府や大洗海岸通りが保たなくなるわ!」

私達の正面の敵艦隊撃退、そしてシーサイドステーションや大洗港湾部の安全確保は作戦の第一段階に過ぎない。大目的はあくまでも、戦力の集中運用による海岸通り及び大洗鎮守府の奪還だ。

めんたいパーク方面で敵艦隊が橋頭堡を築けば、この“大目的”を果たすに当たって沿岸部の戦線が南北に分断されることになり作戦が根本から瓦解する。私達の方面を疎かにしていいわけではないが、現段階での優先順位は明らかに“新手”への対応の方が高い。

それに、各増援部隊の進軍速度的に十分な戦力が集結しきるまでには尚もかなりの時間がかかるだろう。羽黒と陽炎が到着したところで短時間での殲滅は不可能に近く、その間に南下してきた敵艦隊に側面攻撃を受ければどのみち壊滅は免れなくなる。

《………羽黒、了解!陽炎ちゃん、行きましょう!!》

《っ、陽炎了解!!蝶野一尉、絶対持ち堪えてよね!!》

無論この事情を口に出して事細かに説明するような時間はないが、幸いにして羽黒と陽炎は此方の意図を汲んでくれたらしい。

叫び声に近い無線の直後、左手で砲声が上がる。恐らく羽黒が進軍してくる新手の敵艦隊に向かって牽制射撃を行ったようね。








『『『『──────ォオオオォオオオオオオオアアアアアアアアアアアッ!!!!!』』』』

そして………さながらその砲声が合図であったかのように、私達の正面で奴らが一斉に咆哮した。
465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/19(火) 09:50:28.62 ID:AaeO3fGV0
おつ!
増援が来てもこの焼け石に水感ではワクワクが止まりませんな
466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/19(火) 17:53:23.11 ID:98f/DyG60
467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/22(金) 20:24:11.30 ID:fW4j9ZGIO
468 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/06/27(水) 23:21:07.83 ID:7h7NQTE30
排水量数千トンの軍艦と同等のスペックを持つ化け物30体超の、肺活量を最大限に用いた大音声による大合唱。正面で響き渡るそれの凄まじさたるや、“音で殴りつけられたかのような”とでも表現すればいいだろうか。

『『『『『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!』』』』』

「つぅっ……!」

ノハ;メ )「が、ぁ、ぎっ」

いや、私達の正面だけじゃない。大洗町の至る所で、さながら梅雨時の蛙や真夏の蝉が鳴き出した時のように、戦場が奴らの声で満ちている。まさに津波の如く“音波”が押し寄せて、衝撃に視界が霞み脳幹を直接掴んで揺さぶられたみたいに身体がぐわんぐわんと揺れた。

「……何が、そんなに、嬉しいのよ……アンタらは……!」

咆哮の音量、奴らとの距離、私自身の声のか細さ、そもそもの言語の壁……どれをとっても、私の問いかけが届く要素はない。それでも、ヒトマルの残骸の縁を掴み、89式を杖代わりにし、意地でも卒倒するのを耐えて正面にひしめく敵艦隊を睨み付けながら、私はその問いを口にせずにはいられない。

「そんなに、私らを殺せるのが……嬉しいってのかしら…!?」

私は別に生物学の権威でもなければ、深海棲艦研究の第一人者でもない。モンスターパニックに有りがちな、怪物と心を通わせる少女的な能力も開花していない。……認めたくないけれど、そもそも“少女”と呼んでもらえる年齢でもない。

けれどそれらの声を聞いたとき、私は直感的に理解した。

奴らは、喜んでいる。

自分たちが抱く憎悪の対象を、殺意の矛先にある存在を。

『『『『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!』』』』

《敵艦隊、一斉に艤装を再起動!!》

いよいよ私達人類を本格的に殺せることを、歓喜している。

《艦砲一斉射、来まs》
469 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/06/27(水) 23:21:57.80 ID:7h7NQTE30
無線からの報告は、最後まで言い切られることなく途切れる。単に奴らの砲声にかき消されたのか、或いは砲撃によって通信元自体が吹き飛ばされたのか、今となっては解らない。

沖合、港湾部、沿岸、そして学園艦の甲板上。奴らが蠢いている場所で次々と光が瞬き、艤装から放たれた鉄と火薬と殺意の塊が空を切り裂いてこの町に降り注ぐ。地に突き刺さった砲弾が至るところで炸裂し、巨大な火柱が轟音と共に立ち上り天を焦がす。

《────見屋交wW-w──敵弾多s──〜ww……ヒトm───》

《此方名t×××wWww………は困難、至急──w──》

《──WwwWw───は応答を願───》

今までの奴らの攻撃がもしただの準備運動に過ぎなかったのだと言われれば、私はきっとそれを信じるだろう。

既に半壊状態にある大洗の町を完全に地図から消そうとしているかのように凄まじいペースで砲撃が飛来し、逆巻く炎に熱風が吹き荒ぶ。着弾点から吹き出した幾百筋の黒煙が、さながら地面から雲が湧いているかのように空を暗く覆っていく。恐らく拠点・部隊ごとの窮状を伝えているであろう無線は、間断なく──比喩表現ではなく文字通りの意味で──響き続ける爆発音と奴らの咆哮に飲み込まれ、殆どまともに聞こえるものはない。

「シーサイドステーション、崩落箇所更に拡大!屋内の狙撃班並びに医療班との通信が途絶えました!大洗駅他複数箇所からの支援砲火も沈黙!!」

「敵艦砲射撃苛烈!堡塁・陣地の完全沈黙が半数を突破!最早我々の残存火力では太刀打ちできません!」

「若見屋交差点に伝令を飛ばして!羽黒と陽炎はまだ生きてるはずよ、途中で他の隊に合うようならそいつらにもとにかくシーサイドステーションに直行するよう伝えて!

それと残存火砲並びに残存弾薬をここに全て集めなさい!集中運用でなんとしても奴らの動きを遅滞させて───」

ノハ;メ゚听)「一尉、北を……北を!!」

深海棲艦の咆哮や砲声に負けまいと声を枯らして周囲への指示を出す中、大隈二曹の絶望に濡れた叫びが耳に届く。

チラと彼女が指さす方角に視線をやる。

「………」

そこに、“火の海”が広がっていた。
470 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/06/27(水) 23:27:06.89 ID:7h7NQTE30
「……確か大貫郵便局前に110mmを所持した部隊が居るはずよ。そっちにも伝令を派遣してもしまだ動けるようなら連れてきて、最悪装備だけでも確保を!

歩兵隊各班は私と共に敵への牽制・妨害射撃を行う人員と防火、負傷者救助に向かう人員に分かれて!特にシーサイドステーションは屋内部隊が全滅したとは考えがたいわ、一人でも多く救出しなさい!」

「「「了解!!」」」

東南アジアのスコールにも負けないような勢いで砲弾が飛んできている中で其方ばかり見ているわけにもいかず、視線を剥がして指示に戻る。周囲の隊員達も返答しつつすぐに散っていくが、空元気で無理矢理絞り出されたその声には明らかな焦燥と恐怖が滲み出ていた。

かくいう私も、脳裏には今し方目にした光景がしっかりと焼き付いている。

火の海。

我ながら、陳腐で使い古された表現だと思う。でも、アレを他にどう呼ぶべきか、私の語彙力では適切な表現を探すことは難しい。

大洗海岸通り、そして何より大洗鎮守府。この防衛線の命運を握る二つの重要拠点に、奴らの攻撃がとりわけ集中するのは考えてみれば自然なことだ。だけど、町そのものを完全に焼き払いかねない攻撃の中で更に念入りにリソースが割かれたその一帯は、見渡す限りの範囲が紅蓮の炎に飲み込まれまるでそこだけ昼間であるかのように照らし出されている。

無数の砲声に混じり、風に乗ってその方面からは奴らの悲鳴や呻き声も聞こえてきているため、両方かどちらか片方かは解らないがこの方面が完全に陥落したわけではないのだろう。
だけど、あの光景を見る限りそれは明らかに時間の問題だ。

そして私達にも、最早其方に気をかけられるほどの余裕は残されていない。

《こんのっ………照準ヨシ!撃て!!》

『グァッ……!? ォオオオオォオッ!!!』

まだ生き残っていたヒトマル2号車が、最後の一発となった主砲弾を放つ。軽巡ホ級の内一体が側面部分に直撃を受けて一瞬呻くが、急所を外したため効果は薄い。すぐに態勢を立て直したホ級は、背中の多段連装砲を2号車に向けながら今度は怒りの叫び声を上げた。
471 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/06/27(水) 23:30:49.61 ID:7h7NQTE30
《退避急げぇ!!》

『ゴォアッ!!』

車内から転がり出た2号車の三人が殆ど飛び跳ねるようにして散開し終えたのは、ホ級の主砲が火を噴くコンマ一秒前。旧式とはいえ軽巡洋艦の艦砲射撃数発が一斉に直撃して無事で済むほど、ヒトマルの装甲は分厚くない。轟音と共に車体が爆発し、砕け散った残骸がアスファルトの上でカラカラと乾いた音を立てる。

『『『ォオオオオォオアアアアアッ!!!』』』

最後の装甲戦力の沈黙によって、完全に私達の側の脅威は排除されたと判断したのだろうか。再度雄叫びを上げた正面艦隊が、一斉に前進を開始した。

巨人が全体重をかけて地面を踏みしめるズンッ、ズンッという音が、ゆっくりと此方に近づいてくる。総重量数トンの化け物が足並みを揃えて歩を進めるせいで、視界が小刻みに揺れ89式小銃の照準がぶれ、弾丸が狙っているハ級の身体のあちこちで火花を散らす。

全く、人生とは解らないものね。軍靴の足音どころか、“軍艦の足音”なるワケの解らないものを体験することになるなんて、自衛隊に入って間もない頃思っても見なかったわ。

「一等陸尉、敵艦隊が前進を開始!恐らく我々の方面でも本格的な内陸浸透に移るつもりと思われます!!」

ノハメ;゚听)「LAVもヒトマルも96式もダスターも全部やられた!迫撃砲や無反動砲も六割方を喪失、残った仲間も現在進行形でどんどん砲撃に吹き飛ばされていってる!

一尉、もう無理っスよ!!」

「増援に向かってきているはずの友軍部隊との通信もまともに繋がりません!これ以上ここでの継戦は不可能ですし、意味もありません!」
472 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/27(水) 23:31:42.27 ID:7h7NQTE30
周囲の士官が、必死の形相で口々に撤退を具申してくる。さっきまでは寧ろ深海棲艦の攻勢に怯む私達を叱咤する側だった大隈二曹さえ、小銃を撃つ手を止めないながら疲労と諦観を宿した目でこちらを顧みる。

実際、この現状を鑑みればその具申は無理からぬことだ。元々限界ギリギリの中で消耗戦を強いられていた各拠点は、頼みの綱だった相互の連携を敵の戦場全域に対する圧倒的な火力投射で寸断され孤立し、敵の物量浸透にまともに抵抗する術を失った。この拠点単体で見ても、戦力の摩耗具合は疾うの昔に戦線維持の臨界点を超えている。

優れた指揮官ならば、きっと大隈二曹達の進言に従うべきなのだろう。少なくとも、この有様で尚“戦力の集結と敵艦隊の撃滅”という目的に固執し更に損害を重ねるようなら、それは典型的な“愚かな指揮官”であるに違いない。








「………撤退は許可できないわ」

そして私は────“愚かな指揮官”で有り続けることを選択した。
473 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/27(水) 23:36:07.54 ID:7h7NQTE30
「なっ……」

ノハメ;゚听)「一尉、正気ッスか!?」

戦闘の真っ最中───それも、全滅間際の悪あがきに近い悪戦苦闘の中で、銃撃の手を止めるような愚は流石に誰も犯さない。それでも、私の言葉を聞いた隊員達は口々に驚愕と怒りが入り交じった声を上げる。

「蝶野一尉、状況を解っておられますか!?このシーサイドステーションどころか、既に町全体でどれほど甚大な損害が……」

「私達がこの防衛線を放棄すれば、犠牲になる人命はこんなものの比ではなくなるわ!!!」

一人が更に反駁の言葉を重ねようとしたのを遮り、砲声に負けぬよう、一人でも多くの隊員に伝わるよう、腹の底から叫ぶ。脱出後此方に合流しにきた2号車クルーの三人を始め、戦闘中の何人かの隊員の肩がぴくりと揺れたのを私は確かに見た。

「私達の背後には、ほんの十数キロ先には、市街地の住人が今なお避難中なのよ!?この町が落ちれば、その人達が空襲だけじゃなくて本格的な艦砲射撃の危機にさらされることになる!どころか、その更に先の町や市にだって空襲が行われるかも知れない!私達自衛隊は国民の盾よ、その役目を捨てる行為だけは絶対に許可できない!」

「し、しかし……現にこの戦況の打開は……!」

「まだ作戦は潰えていないわ、逆転への目は残されている」

決して、口から出任せの完全な嘘ではない。

実際北でも南でも、時折、深海棲艦側に向かって放たれる反撃の砲火が見ることができた。陸地に殺到する何百、何千という火線とは比べるべくもない量であることは違いないけれど、それは少なくとも未だ幾らかの友軍部隊・拠点が戦闘を継続しているという証拠でもある。

それらの戦力を糾合し、陸では鈍重な深海棲艦を逆に各個撃破する───即ち、当初私が描いた作戦は、まだ実行に移せるだけの余地を残している。
474 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/06/27(水) 23:37:10.17 ID:7h7NQTE30
………だから、“完全な”嘘ではない。単に、そのような状況をここから私達で作り出すことが、砂漠で一発のBB弾を探し当てるのと同じぐらい困難になっているというだけの話で。

それでも、私達は……私達自衛隊は、その奇跡のような可能性に賭けなければいけないのだ。

銃後の国民を、守るために。

「各員に伝達。現状、確かに苦境ではあるけれどまだ勝算はあるわ。それに、私達が自衛隊である限り、例え勝算がなかろうとも最後の一兵までこの拠点を死守する以外の選択肢は、もとより残されていない!!

“増援部隊”の到着後、反攻に打って出る。それまでなんとしても耐えきりなさい!」
  _,
ノハメ;゚−゚)「……無茶をおっしゃる上官だ!!」

大隈二曹が、眉間にしわを寄せ悪態をつく。……だけどその一方で、彼女の口元にはどこか小気味よさげな微笑みも浮かんでいた。

ノハメ#゚听)「日本陸上自衛隊・大隈瞳二等陸曹、蝶野亜美一等陸尉の命令を受諾!戦闘を継続する!!」

「……同、田島浩三二等陸尉、命令を受諾!職業選択を間違えたな畜生!」

「赤座智宏一等陸曹、指示に従います!各拠点への呼びかけを継続、なんとか戦力を集めてみます!」

「我妻美紀三等陸尉、了解!

ぶっ壊された私の愛しいヒトマルの敵よ、1隻でも多く吹っ飛ばしてやるわ!!」

「………」

大隈二曹を皮切りに、その場にいた全員が力強く吠え、拳や武器を突き上げ、そして戦闘に戻っていく。その光景を見て不覚にも胸の奥から何かがこみ上げてきて、滲む視界を迷彩服の袖で慌てて拭う。

「────ありがとう」

万感の意を込めたその一言は、すぐに私自身の構える89式小銃の銃声に掻き消された。
475 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/27(水) 23:45:52.23 ID:7h7NQTE30




一つ、“正直な話”をしなければならない。

実のところ、この作戦────即ち、大洗町に上陸した深海棲艦部隊の各個撃破という私の立案した作戦について、実行したとして“こうなる”ことは半ば私には予想がついていた。

「軽巡ホ級、ヘ級、駆逐イ級、相次いで発砲!軽機関銃堡塁、また一つやられました!!」

「シーサイドステーション崩落箇所より救護班並びに中内二曹ら負傷者複数名の救出を完了したとのこと!全員まだ息がある模様です!」

「急いで少しでも後方に下がらせろ!路上放置車両でも何でも使え!!」

無論、死ぬと決まっていながら作戦を強要したわけではない。実際あの時点では他に有効な策が思いつかなかったし、この町が陥落すれば例え一時であっても関東地方の広い範囲が奴らの攻撃範囲に含まれていたであろうことも紛れもない事実。大洗女子学園を見捨てたくないという私情を差し引いても、この戦線は日本にとって死守しなければならない場所だった。

だからあの時点で私達には、どれほどか細くとも目の前に垂れている“反撃の糸口”に縋り付く以外の選択肢自体が残っていなかったと言える。
476 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/28(木) 00:15:04.67 ID:E0wWjTsW0
「大貫郵便局前より残存部隊が合流しました!パンツァーファウスト3は六門が残存!」

「速やかに射撃を開始!奴らは密集しているわ、撃てば当たる!!」

「蝶野一尉、加波山神社方面で陸地側からの砲煙を複数確認!恐らくキューマル数両のものと思われます!」

「伝令を走らせて至急こっちにこさせて!!」

だが、私も西住流に学び、あくまで“戦車道”の上でとはいえあの西住しほから戦術の手ほどきを受けた人間だ。例え“それしかなかった”にしろ、無謀な作戦であるという自覚は十二分に持っていた。

ただでさえ、人類の兵器と深海棲艦の間には陸戦において圧倒的な火力差が横たわる。加えて私達は対応が後手に回り数的にも劣勢で、対抗し得る火力を持つ艦娘部隊の主力たる大洗鎮守府とも分断されている状況下。おまけに制空権を握られ、私達の動きは筒抜けだった。

敵の指揮艦がよほどの間抜けでない限り、此方が何らかの動きを見せればその目的を類推し、対策を立ててくるのは必然的な動きだ。そして大洗女子学園に出現した“無敵砲台”の火力を活かせば、戦力集結の動きを寸断し逆に自衛隊側の防衛線を各個撃破の状況に持ち込むなど容易い。私の作戦をもし本気で成功させるなら、敵がよほど私達の動きを深読みするか或いは目を開けたまま寝てくれていることがその前提条件だったと言っても正直過言ではない。

「迫撃砲、60mmがまた一門やられました!!」

「敵艦隊、進軍速度遅滞も止まりません!なおも接近中!!」

「距離200を切りました……増援は、増援はまだか!!」

ノハメ;゚听)「クソッ…………!」








────現有戦力“のみ”でこの作戦を遂行しようとすれば、の話だが。
477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/28(木) 06:31:32.40 ID:IiUbyqaAO
478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/28(木) 11:33:04.25 ID:L7WQmd0K0
投下乙!
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/28(木) 16:42:07.70 ID:w+RGE5rA0
おつおつ
周辺でこれなら艦内はどんだけ…
480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/28(木) 21:32:29.84 ID:W/j38pzo0
おつー
481 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/28(木) 23:07:12.12 ID:E0wWjTsW0
ブチュリ。その音をもし擬音で表現するなら、きっとこんな文字列になるんじゃないかしら。

砲声とも、爆発音とも質感の異なる、この場においてはあまりにも浮いた響き。無線すらまともに通らないほどの轟音が飛び交う中にあっても、それははっきりと私たちの耳に届いた。

「………何が」

『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!?!』

士官の一人が口にしようとした疑問への答えは、すぐに甲高い絶叫によって示される。

『ア゛ア゛ア゛、イ゛ア゛、グァアアアアッ!!!!?』

軽巡ホ級の内一隻が、周囲の味方艦に身体をぶつけて暴れ始める。そのホ級は右手の肘から先が吹き飛ばされ、辺りに奴ら特有の青く生臭い体液をまき散らしながら激しく悶え苦しんでいた。

普段人間に対する殺意と憎悪で突き動かされている深海棲艦も、痛覚はあり苦痛も感じる。人間に置き換えれば、自分の四肢の一つが引きちぎられたと考えればどれほどの激痛かは想像に難くない。

『アアア…ギィッ!?』

『ア゛ア゛ッ!?』

『グゴァッ!?』

眼前の友軍艦を突然襲った異常事態に動きを止めたイ級の横っ面で、炎がはじけ装甲の一部が砕け散る。間髪を入れず、今度は最前列にいたト級の右頭側頭部で爆発が起きる。爆風に煽られて横倒しになったト級に押し潰され、ハ級が一声苦しげな鳴き声を上げた。

「一体何事ですか!?どこからこれほどの威力の攻撃が……」

「敵艦隊、損傷艦多数発生し進軍停止!友軍による支援攻撃と思われます!」

ノハメ;゚听)「んなもんは解るッスよ!問題はそれがどっからって話で……うぉっ!?」

『『『ギィイイイイイイイイイッ!!!?』』』

今度は、敵艦隊の中程で立て続けに爆炎が起きる。十隻を優に超える個体が身体に何らかの損傷を受けて苦痛にのたうつ中、“何か”の影が凄まじい速度で私たちの真上を通過していく。

深海棲艦が奏でる“ジェリコのラッパ”とも、空母艦娘の子達が操る零戦や烈風の物とも質を異にする、私たちが聞き慣れた音────ジェットエンジンの駆動音を伴って。
482 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/06/28(木) 23:11:18.57 ID:E0wWjTsW0
「こ、航空支援!近接航空支援です!」

「他の戦闘地域でも同様の爆発を多数視認!深海棲艦の上陸艦隊に対してかなりの規模での空襲が行われている模様!」

「何だと!?い、いや待て!主力部隊が下がったとはいえまだ町全体で見れば敵の航空戦力がかなり居たはずだ!そんなところに低空飛行で通常の戦闘機が突入など自殺行為だぞ!」

「しかし現に……い゛っ!?」

拠点内が混乱の極みに達する中、上空から落下してきた火の玉がその会話を寸断する。地上にたたきつけられたそれは乾いた音を立てて破裂するように砕け散り、黒色の破片をそこら中に飛び散らせた。

『『『『─────!?!?』』』』

〈〈〈〈─────!!!!〉〉〉〉

頭上から、今度は猛獣のうなり声を思わせるレシプロエンジンの回転音が幾つも重なって降ってくる。空に視線を向ければ目に入るのは、今まで我が物顔で飛び回っていた【カブトガニ】や【オニビ】を、次々と銃火で撃ち抜きながら追い散らしていく獰猛な地獄の番犬ならぬ“地獄の番猫”の姿。

ノハメ;゚听)「………へ、【ヘルキャット】?」

「サラトガから再度発艦したのか…?いや、しかし威力偵察に投入されたF6Fは確か壊滅したはずじゃあ」

「…………まったく」

次々と起きる予期せぬ事態に、周囲の誰もが困惑した表情を──それでも深海棲艦への射撃の手を止めないのは流石だが──隠そうともしない。恐らく、町に展開するほぼ全ての隊員が同じような心境を抱いていることだろう。

かく言う、私はといえば、

「やっと、動いてくれたのね」

ようやく訪れた“待ち望んでいた展開”に、口元が綻ぶのを止められずにいた。
483 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/28(木) 23:16:58.96 ID:E0wWjTsW0
西住流を学んだ者の端くれとして、十中八九こうなることは予想がついていた。故に私は、ああ言いながらそもそも“現有戦力だけ”でこの策を成功に導こうとは最初から殆ど思っていない。“この増援”が来ることを、最初から勘定に入れた上での迎撃だ。

尤も、それは私の直感に基づく予想であり、理論的な動機を説明することはできない。だから私は、友軍に指示を出すに当たっては努めて“増援”の存在には触れず、また万一私の直感が外れたときに備えてあくまで現有戦力のみでの戦闘を前提においた指揮を続けてきた。

そして、その心配はたった今杞憂に終わってくれた。

ええ、そうよ。貴方たちの増援が、たかが空母艦娘一人だけで終わるはずがない。この地の苦境が極まれば、絶対に何らかの動きがある、そう信じていたわ。

「本当に貴方たちは、野蛮で、傲慢で、粗雑だけど────頼りになる“トモダチ”よ」

一人呟く私の視線の先で、先ほど飛び去ったジェット音の主が────対地攻撃機A-10【サンダーボルト】の編隊が、白い機体を翻し再び深海棲艦に突撃していく。

『『『『グガァアアアアアアッ!!!?』』』』

《────りwW〜地各■■に通×、CPより市街地各拠点に通達!!》

投下された十数発のJDAMが正面艦隊のど真ん中で炸裂し、爆炎に焼かれた何体かが断末魔と共になぎ倒される。そんな中、機能を回復した無線機からは、それらの轟音にも負けない前線指揮所のオペレーターの叫び声が吐き出される。

まだ年若いと思われるその女性士官の声は、さながらクリスマスに思い人から好意を告げられたかのように歓喜と興奮に打ち震えていた。
484 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/28(木) 23:22:18.84 ID:E0wWjTsW0





《横須賀司令府より入電!現戦況の打破を目的とし、在日米空軍並びにアメリカ海兵隊、横須賀司令府直属艦隊、並びに国連“海軍”特殊部隊が当戦線に投入されたとのこと!!

我々大洗町防衛線はこれより残存兵力を全て投入、増援部隊と連携し攻勢に移ります!

各拠点は速やかに戦力を再編、反攻を開始してください!!》




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485 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/06/29(金) 00:19:24.30 ID:XlCsDid20






攻勢、反攻、総攻撃。軍人という職に就く人間の中で、これらの単語を耳にして高揚を覚えない存在というのはなかなか希少な側であるに違いない。

単純に自分たちが主導権を握った状態での戦闘を指すという点でもそうだし、端的に言葉の響きや文字列自体の勇ましさもそこに拍車をかけている節がある。そして、それらを実行できる状態になるまでの経緯が苦境であればあるほど、生じるカタルシスはなおさら大きくなる。

今横須賀司令府の地下司令室で発生している現象は、その尤もたるものといえるだろう。

「A-10【サンダーボルト】編隊第一波による対地爆撃、効果絶大!各地点における深海棲艦多数の撃沈、並びに進行の遅滞を確認!!

また、横田飛行場より出撃した“海軍”基地飛行隊も深海棲艦の制空部隊と交戦を開始しました!」

「第二波攻撃隊、大洗町上空に後10秒で突入!!また、“海軍”部隊並びに護衛航空隊も後続突入の用意を完了したとのこと!」

「空母【ロナルド・レーガン】より入電、予備戦力であるF-18二個編隊の整備が終了!此方の要請に従いあらゆる方面へ出撃させる用意がある、と!」

(☆...●)「ハメルス司令に謝意と現状は待機させるよう伝えろ、各方面の戦況に応じて臨機応変に投入する。

それとマスコミ対応の用意も急げ、良かれ悪しかれ在日米軍が動いたとなればネットで様々に憶測をばらまく筈だ。特に日の出新聞とNBS、合同通信のウェブサイトは徹底的に動向を監視しろ」

「「「了解!!」」」

所狭しと並べられた電子機器の間で立ち働く人員は、王嶋の指示に対し部屋の空気が震えるほどの声で返答する。彼らの表情は、弛緩とまでは言わないものの一様に明るい。先ほどまで全員恋人の葬式にでも参列しているかのような陰鬱とした有様だったのに、今はワールドカップ時にサッカーの生中継サービスをやっているスポーツバーの如き空気が室内に充満している。
486 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/29(金) 00:38:40.88 ID:XlCsDid20
(☆...●)(………まぁ、気持ちは解るがな)

少々の呆れを覚えつつ、少なくとも仕事に支障を来すような状態の人間は見受けられないので喝を飛ばそうとした口は閉じておく。

実際、一方的に蹂躙されるだけの大洗町の状況を指をくわえて見ているしかできないことに対する歯がゆさは王嶋も強く感じていた。例え自身が直接寄与できなくとも、百キロ離れた地で戦い続ける友軍の苦境が幾らか打開されたことを喜ぶのは人として自然な感情だ。

よほど羽目を外すようなことがない限り、水を差すのも野暮というものだろう。

(☆...●)「………」

彡(゚)(゚)「………」

だが、王嶋自身が───そして、その傍らで椅子に深く腰掛ける南が相好を崩すことはない。

艦娘部隊最高指揮官並びに日本国首相としての威厳を保つ必要性がある、という理由もある。だがそれ以上に、そもそも現状は彼らの立場から見るとまだ笑えるような段階からはほど遠い。

彡(゚)(゚)「キヨ、“日本海側”の動きはどうや」

(☆...●)「相変わらず不穏だよ。アメリカから衛星情報の共有があったが、対馬、尖閣、竹島、どの方面でも“不審な動き”のオンパレードだ」

ともすれば飛び交う電子音の中に?まれてしまいそうな、互いにしか聞こえない小声でのやりとり。その声色は、どちらも暗く重い。

(☆...●)「流石に“南側”は在韓米軍の手前もあってまだおとなしいが……万一の有事に対する備えと称して【文武大王】が臨戦態勢に入ったらしい」

彡(゚)(゚)「………ある意味あそこの国が一番読めんから厄介やな。元々対中、対北連携でもどっちつかずやし」

(☆...●)「米軍経由でフィリピン海方面への増援派遣を打診しているが、そっちも色よい返事は今のところ帰ってきてない。監視は続ける。

とはいえ、韓国は現状“危急の対処”が必要な存在ではない。注視すべきなのはやはり────」

彡(゚)(゚)「“太っちょのお隣さん”やな」
487 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/29(金) 00:54:23.37 ID:XlCsDid20
南の口から、深いため息が漏れる。今日一日でどれぐらい幸せが逃げただろうかと、顔に似合わぬメルヘンチックな考えが一瞬脳裏をよぎった。

彡(゚)(゚)「何でこの期に及んで同じ人間の国家への対応考えなあかんねん……ハリウッド映画みたいに演説一発で団結できたら楽やのに……」

(☆...●)「これが“現実”だよ、ヨシ。この世界にゃ残念ながらホイットモア大統領はいねえんだ」

宇宙船地球号なんて思想が一時話題になったが、その“地球号”には最低でも200に迫る自己主張の激しい船長が居る。船頭多くして船、山に上るの諺は、この地球号にこそ最もよく当てはまる。

彡(゚)(゚)「とりあえず、外務省に話通して近隣諸国への根回しは更に念入りにやっとくで。特にモンゴル、インド、ロシアとの連携は強化しとかな」

(☆...●)「中国政府自体への牽制もしっかりやっとけよ。劉志那の野郎は前任とは比べものにならない妖怪ってツラだぜありゃ。不細工って意味でも切れ者って意味でもな」

彡(゚)(゚)「言われんでも解っとるわ……ところでお前なんで不細工のところでワイの顔チラ見しやがったか説明せーや」

(☆...●)「黙秘権を行使します」

彡(゚)(゚)「死ね」

(☆...●)「お前が死ね」
488 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/29(金) 01:11:13.82 ID:XlCsDid20
軽口の応酬の後、南はぶつくさ言いながらもスマートフォンを取り出しどこかへ電話を始める。……軽く聞き流している限り、外務大臣経由ではなく直接外務省の職員に電話で指示を出しているらしい。

ともすれば越権行為として大スキャンダルになりかねない手段を必要とあれば臆することなく取れる身軽さは、南慈英という政治家の最大の武器だ。だが同時に、そうした破天荒な行為をされても「南なら仕方ない」と閣僚達に納得させてしまう人徳・カリスマもまたそうした彼の行動力を支える隠れた才であると王嶋は踏んでいる。

(☆...●)(……大方、在日米軍の大規模増援も杉浦辺り使ってこいつが“わたり”をつけたんだろうな)

これについてもやはり、横須賀司令府の元帥である王嶋や外務省、或いは防衛省を通じて段階的な手続きを本来は必要とするもののはずだ。だがそれを南は一足飛びに自分の“仕込み刀”で片付けてしまい、昔なじみという点を差し引いても頭ごなしの仕事をされたにも関わらず王嶋には不思議と不快の念がない。

つくづく、“政治家”としてのあらゆる能力が化け物じみている。……顔も別の意味で化け物だが。

(☆...●)(………化け物といえば、大洗町防衛線の崩壊を防いだのは何者なんだ?)

はっきりと言ってしまえば、威力偵察の失敗と【あきつしま】の轟沈、そして直後に行われた大規模空襲という深海棲艦の一連の攻勢を受けて、横須賀司令府では疾うの昔に大洗町並びに大洗女子学園、さらにはひたちなか市を始めとするその周辺地域の失陥まで視野に入れた防衛線の再設定を開始していた。無論完全に状況の打開を諦めたワケではなかったが、少なくとも今から“最悪”を想定しなければ間に合わないと思わせる程度にはあのとき大洗町の戦況は最悪だった。
489 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/29(金) 01:28:07.28 ID:XlCsDid20
ところが現状はどうだ。大洗町は確かに壊滅的損害を受けながら見事に増援派遣まで命脈を繋ぎ、今まさに反転攻勢に移ろうとしている。

通信が一時的な途絶状態に陥る直前、防衛線のコマンド・ポストは何でも拠点指揮官の一人である一等陸尉に一部の艦娘部隊を含む戦線の指揮権を委任していたと聞く。そしてそこから、分断されていた各部隊は深海棲艦の攻勢に対し組織的な反撃を再開した。

(☆...●)(まるで、“ベルリンの奇跡”みてぇだな)

今や世界中の軍事関係者が伝説として語り継ぐ、ドイツ陸軍による“軽巡棲姫の陸戦における撃沈”。あれは実のところ、ドイツ軍の少尉───自衛隊における三尉相当の階級の人間が、その巧みな采配と自らの突撃をもって殆ど一人で成し遂げたのだという。

無論、膨大な尾鰭やかなりの誇張表現はあるだろう。だが、その後もドイツ軍がドレスデン以南への深海棲艦の侵攻を防ぎあまつさえ一部の地域で都市や地区の奪還に成功している点から見て、相当優秀な指揮官が何人か居るのは間違いない。

そして、もしも大洗町の絶望的な戦況を耐え抜けるだけの指揮を執れる人間がいるとすれば、その人物は件のドイツ軍人や青ヶ島を守る八頭進に匹敵する人材である可能性が高い。
490 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/06/29(金) 01:41:45.23 ID:XlCsDid20
(☆...●)「………後で、杉浦に伝えておくか」

「は?」

(☆...●)「いや、こっちの話だ」

近くを通り過ぎようとした職員の一人が怪訝な顔で足を止めたので、王嶋はすまなさそうに眉をひそめて肩を竦める。

(☆...●)(この話は一旦後に回すか)

在日米軍ヘの交渉・指示をしていたとすればまだ杉浦の司令府到着には時間がかかるだろうし、そもそもあの強面のいけ好かない一等海尉は様々な面で自分より遙かに有能でめざとい。下手をすれば、現時点ではその陸尉の名すら知らない自分よりその人物について詳しい可能性すらある。

それよりも、今は自分も“元帥”としての仕事に徹すべきだ。

(☆...●)「誰か、通信を呉司令府に至急繋いでくれ。今のうちに指示を出しておきたい」

「了解しました。して、指示の内容は?」












(☆...●)「【大和】の警備を最大限強化するように手配を。学園艦すら深海棲艦化している中で、もう動かんとはいえ戦艦を放置しておいていいはずがないからな」
491 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/06/29(金) 01:48:49.57 ID:XlCsDid20
【黙示録】大洗実況スレ part6【人類終了】

273: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:32.23 ID:dk0utd44?
【悲報】てれ東、ゆーがたでいず!の放送を中止し深海棲艦に関する緊急特番を開始

274: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:32.29 ID:bonsky01
スレの流れはやすぎぃ!!

275: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:33.48 ID:pp5astsw
>>173
こマ?

276: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:33.50 ID:cdd582in
>>173
ヒェッ

277: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:34.58 ID:hi06ngbs
>>173
非常事態対策の一環として、
ご家庭内の目につく場所に貼ってご活用ください。
*レベル6が、最高ランクです。

レベル1:NHCが特番を開始。(注意報発令)
レベル2:日チャン、NBS、富士、テレひのが特番を開始。(警報発令)
レベル3:てれ東がテロップを入れる(避難勧告発令)
レベル4:てれ東が通常放送を打ち切る (避難命令発令)
レベル5:総理大臣、国民に向けて会見(非常事態宣言)
レベル6:てれ東、アニメを放送途中に打ち切り緊急特番を開始する(地球滅亡。少なくとも日本の終わり)

278: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:35.66 ID:tnk6kd29
>>173マジやん

279: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:36.00 ID:mnayemna
>>177これを見に来た

280: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:36.16 ID:yakoni89
>>177
仕事早すぎて草

281: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:36.59 ID:pplm82t
>>173
マシソンじゃねえかwwwww

282: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:38.60 ID:f0m0cb24
お前ら落ち着け、減速しろ。

283: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:39.01 ID:jminnanj
>>177
これとウニのコピペほんすこ

284: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:39.27 ID:jamwikip
>>177
まだアニメじゃなくて通常番組だから(震え声)

285: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:39.40 ID:nt94knkk
16時15分からまた茂名官房長官の記者会見来るってよ

286: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:40.03 ID:bam0tki3
>>177
レベル4やんけ!まだいけるやん!!

287: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:41.92 ID:mti55hdk
>>177
絶対投下する瞬間待ち構えてたわこいつ

288: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:43.08 ID:ynks1ma8
>>184
今更何を話すねん
492 :>>491修正 ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/29(金) 01:52:48.36 ID:XlCsDid20
【黙示録】大洗実況スレ part6【人類終了】?

273: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:32.23 ID:dk0utd44??
【悲報】てれ東、ゆーがたでいず!の放送を中止し深海棲艦に関する緊急特番を開始?

274: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:32.29 ID:bonsky01?
スレの流れはやすぎぃ!!?

275: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:33.48 ID:pp5astsw?
>>273?
こマ??

276: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:33.50 ID:cdd582in?
>>273?
ヒェッ?

277: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:34.58 ID:hi06ngbs?
>>273?
非常事態対策の一環として、?
ご家庭内の目につく場所に貼ってご活用ください。?
*レベル6が、最高ランクです。?

レベル1:NHCが特番を開始。(注意報発令)?
レベル2:日チャン、NBS、富士、テレひのが特番を開始。(警報発令)?
レベル3:てれ東がテロップを入れる(避難勧告発令)?
レベル4:てれ東が通常放送を打ち切る (避難命令発令)?
レベル5:総理大臣、国民に向けて会見(非常事態宣言)?
レベル6:てれ東、アニメを放送途中に打ち切り緊急特番を開始する(地球滅亡。少なくとも日本の終わり)?

278: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:35.66 ID:tnk6kd29?
>>273マジやん?

279: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:36.00 ID:mnayemna?
>>277これを見に来た?

280: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:36.16 ID:yakoni89?
>>277?
仕事早すぎて草?

281: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:36.59 ID:pplm82t?
>>273?
マシソンじゃねえかwwwww?

282: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:38.60 ID:f0m0cb24?
お前ら落ち着け、減速しろ。?

283: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:39.01 ID:jminnanj?
>>277?
これとウニのコピペほんすこ?

284: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:39.27 ID:jamwikip?
>>277?
まだアニメじゃなくて通常番組だから(震え声)?

285: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:39.40 ID:nt94knkk?
16時15分からまた茂名官房長官の記者会見来るってよ?

286: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:40.03 ID:bam0tki3?
>>277?
レベル4やんけ!まだいけるやん!!?

287: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:41.92 ID:mti55hdk?
>>277?
絶対投下する瞬間待ち構えてたわこいつ?

288: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:43.08 ID:ynks1ma8?
>>285
今更何を話すねん
493 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/29(金) 01:55:14.84 ID:XlCsDid20
289: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:45.61 ID:pp5astsw
>>287
>>273の書き込みから2秒強で>>277が貼られてて草生える

290: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:46.17 ID:sk1to1sm
どこの報道も似たり寄ったりで全然最新情報入らへんな

291: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:46.20 ID:kyztih00
>>285
どーせ殆ど真新しい情報出ないやろ、パニック起こすなーって定型文しゃべって終わりや

292: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:46.93 ID:9ks31y
避難勧告対象地域この短時間で拡大しまくってて草

293: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:04:47.25 ID:anotssg1
ワイ末っ子、酸で教師勤務のアッニと保安官勤務のアッネが心配で震える

294: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:51.22 ID:bkrm83sl
>>293
酸になんかあったら在日米軍黙ってないやろ。それよりまだ茨城県沖から逃げてる最中のプラ学がヤバい
つながり深い露は四方から深海棲艦迫ってるから独自に救援なんて回せる余裕ないだろうし

295: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:51.30 ID:0i4mfseik
>>292
太平洋側だけじゃなくてオホーツク方面から来てる深海棲艦おるからな。国後に住んでる従兄弟からさっき鎮守府からの避難勧告きたってLINE入ったわ

296: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:51.63 ID:k1nk2njc
亜細亜板覗いたらお祭り騒ぎの韓国のニュースコメントのレスわざわざ翻訳貼りして発狂しまくってて草

297: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:57.09 ID:tnk6kd29
>>294
一番ヤバいのは日本海側定期。ビゲン、ポンプルとかなんかあったらどうすんやろ

298: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:58.98 ID:mik1istl
>>296
や亜糞
まぁお祭り騒ぎしてる側にも流石に問題あるとは思うが

299: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:25:01.85 ID:emd00rai
>>297
さては竹島、尖閣、佐渡、対馬の4鎮守府の戦力知らんな?チビるで?

300: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:25:04.19 ID:iyki4810
>>293
サンダースは長崎やろ?第七艦隊は横須賀の方に出払ってる分差し引いても佐世保の司令府とかあるしなんか起きてもなんとかなるやろ

301: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:25:07.37 ID:1bsy5kri
>>297
「万一に備えて」の名目で対馬、尖閣、竹島、佐渡に実質対中・韓・北として配備された艦娘と海自の部隊いるで。呉も日本海側やしなんなら在韓米軍もおる。

302: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:25:08.19 ID:stgrw9i0
>>297 スナフキンのところ忘れるとか頭宝木かよ

303: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:25:10.10 ID:jb54zy91
群馬県民を海岸線に並べときゃ深海棲艦なんか余裕よ(鼻ホジー
494 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/29(金) 01:55:58.40 ID:XlCsDid20
304: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:25:14.63 ID:dDkK64Dkg

マジレスすると、大正義戦力で防衛されてるとはいえ人口密集地の東京やバリバリ沿岸都市の横須賀に動きがない限りはまだ慌てる時間じゃない。あんなおざなりの避難勧告が出ただけで自主避難任せにして放置されてるのはなんだかんだ言ってまだ政府とか自衛隊上層部は状況を打開できると踏んでるからやろ。あの辺り完全に止めたら日本経済死ぬし。

逆に、横須賀とか東京でそういった部分度外視した住民の強制ガチ避難が始まったらいよいよヤバい
495 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/29(金) 01:57:52.32 ID:XlCsDid20
今回分更新完了。ようやくまともなページ数更新できた…のに>>491の安価番号ミス誠に申し訳ない限りです

日本代表グループリーグ突破おめでとうございます。寝ます
496 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/29(金) 09:34:00.73 ID:t0c5f2YSO
板コピペのせいで>>1が狂ったと思った
497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/29(金) 14:07:25.95 ID:p1UAN6GA0
おつです!
海軍きたあああ…となるけど、この期におよんで畜生共はw
…だいぶかかったけど、ようやくここまできたか
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/29(金) 14:19:10.55 ID:ziVffcrs0
乙!
大洗増援間に合った、のか?(疑心暗鬼
499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/29(金) 21:47:27.91 ID:f1ScJWeG0
500 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/30(土) 00:10:23.43 ID:3IFCTjmT0






僕が小学生の頃は、ちょうど例の光の巨人が怪獣達と戦うヒーローシリーズが平成の世になってから復活した時期でね。特撮オタクだった父親の影響を色濃く受けていた僕は、シリーズが放映される毎週末の夕方を心の底から楽しみにしていたよ。

特に、最終回が秀逸でね。超古代の眠りから蘇った闇の大怪獣に、一時光の巨人は倒されて石像化してしまう。だけど、希望を信じる世界中の人々の善なる心に反応し、その巨人は最強の姿にパワーアップしてついに闇の大怪獣を討ち果たすんだ。

僕は心の底から感動した。人間はなんて素晴らしいんだろうって。その頃にはもう世界中で大小様々な紛争が転がっていたけれど、いざ“本当の危機”が訪れたときは、きっと人類は手を取り合うことができるんだって思ったよ。

……そして僕は愚かにも、この若気の至りに等しい思想をつい最近まで捨てることができぬまま過ごしてきた。
501 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/30(土) 00:11:57.94 ID:3IFCTjmT0
提督に志願したのだって、最初は艦娘の皆と共に世界中の人々が融和の手を取り合う架け橋になれればと思ってのことだ。深海棲艦という共通の脅威に苦しむ人々が、自ら垣根を捨てて本質の“光”に気づき、大いなる“闇”を打ち払うきっかけになりたかった……我ながら、赤面するほど甘い考えだと今では思うよ。

現実はどうだ。滅亡寸前になった今も尚、人間は足の引っ張り合いを続けている。艦娘という、全てを人類の守護に捧げてくれる存在がありながら、彼らはその“献身”をさえ、意地汚く奪い合う。

人類は、生まれたての“雛”のような存在だ。隔てているのは壁ではなく“卵の殻”で、自らその殻を破る力もなくただ本能が赴くままに動くことしかできない幼稚で醜悪な“雛鳥”なんだ。そんな奴らに、この子のような艦娘やそれを率いる僕ら提督がどれほど献身したところで成長なんかするわけがない。自ら殻を破り手を取り合うなんて夢のまた夢だ。

だから我々は、彼女に“親鳥”になって貰うべきなんだ。彼女の献身に感謝し、その身を委ね、彼女の導きに従って殻を破り、真の融和を果たす。彼女の食べr

「ダメだ気色悪すぎて最後まで聞けねーわ。

とりあえず長ーよ死ね」
502 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/06/30(土) 00:14:27.16 ID:3IFCTjmT0
「いやほんっっっっっと長ーよ。お前絶対通信簿とかで先生になんかいろいろ書かれてたタイプだろ。もうなんつーか死ね。直球で死ね。

李牧に理不尽ワープ奇襲食らった麻鉱将軍みたいに死ね」

「要はアレだろ?てめえが勝手に中二病全開で地球人類を勝手に過大評価して勝手に失望しましたって言いたいんだろ?

お前漫画とか読んだことある?ジャンプどころかコロコロコミックで出てくるわその手の三下臭が凄い敵キャラ」

「しかも他人のエゴを散々批判しておきながら、一番エゴの塊なのもテメェ自身だしな。

いい年した大人が、自分たちでいろいろ解決すんの面倒だから艦娘たちを祭り上げて全部そいつらに任せて、自分たちは楽しますってニート宣言してるだけじゃねえか。

要はあの長ったらしいご高説は全部、“自分は艦娘のことを都合のいいお人形としか考えてません”って内容のクソみたいな自己紹介だ」

「………艦娘は、【艦娘】なんだよ。それ以上だのそれ以下だのはない。

こいつらにはこいつらそれぞれの感情があり、表情があり、思いがある。俺たち人間と何一つ変わらない。

ただ敵を殺すだけの兵器でもなければ、てめえの言う“献身”しかできないロボットでもない。ましてや、てめえの宗教ごっこに使われても何も感じないお人形じゃない。てめえが思うところの“人間の愚かさ”とやらを散々詰っておきながら、こいつらの……こいつのことを自分のエゴを実現する存在としか見られてねえてめえが一番醜悪だ」
503 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/30(土) 00:15:57.95 ID:3IFCTjmT0









( T)「お前に、こいつの提督である資格はない。

お精子からやり直せクソガキ」
504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/30(土) 07:35:33.22 ID:rArN8Qv6o
お疲れ様です
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/30(土) 21:26:00.62 ID:y7MIPLFx0
おtu
506 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/01(日) 22:02:44.62 ID:2z8TBUqM0








随分と、古い夢。

起き抜けで中途半端にかき混ぜた溶き卵のようにはっきりしない状態の脳裏に、最初にぽつりと浮かんだのはそんな身も蓋もない感想だった。

この艦隊に加わる前、私が所属していた鎮守府の夢。そこで“あの人”に、今の私の提督に初めて会ったときの夢。これらがもう三年以上も前のことだと気づいて、一人密かに驚愕した。

それにしても、夢を見ること自体下手したら年単位で、本当に久しぶり。その久しぶりの夢の内容が、何故“アレ”だったのだろうか。

(正直、寝覚めはあんまりよくないなぁ……)

目玉焼きを作るためフライパンの上に割った卵の黄身が、着地と同時に崩れてしまったのを見たときのような、とでも言えばいいのかな。怒りと言うほどのもではないけれど、胸の内がもやもやしてすっきしない感じ。

心理学なんかでよく言われる、“現状の不満と過去への回帰願望”みたいな線は絶対にないと断言できる。今の提督との出会い自体は好ましいものではあるけど、その好ましい記憶は前の鎮守府での“忌まわしい記憶”とセットだ。ケーキを作る場に必ず用意される生卵と同じぐらい、切っても切れない関係。例えあの鎮守府にそのまま所属していれば「火の鳥の卵を料理する機会に恵まれる」と言われても、戻りたいとは思わない。
507 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/01(日) 22:04:13.22 ID:2z8TBUqM0
となると、他にあの頃を夢に見た理由はなんだろう。

私自身は乗り越えたつもりだけど、実は自分もあずかり知らぬ深層心理に未だ眠るトラウマの表出か。

予知夢の代わりに特に不快な内容の夢を見せることで、この後に起きるであろう深刻な不幸に対する警告か。

ただの悪夢の類いで、特に理由はないのか。

或いは────




《War-Hog-01より統合管制機【Hedwig】、指定ポイントへの空襲の効果は絶大。多数の轟沈艦・損傷艦を確認した》

《Gladiator-01より【Hedwig】、当編隊は反転攻撃に移る。01より編隊各機、一機でも多く沈めつつなるべく敵の火線を引きつけろ、Over》

《Bison-01, Engage. 01より全機、対地爆撃を開始》

《輸送部隊各位、戦闘空域到達まで30秒。突入フォーメーションを取れ》

或いはアレが走馬燈の一種だと言われたら、私は其方の方が信じられる。

何せ私たちは、「何時ものように」死地へと踏み込んでいる真っ最中なのだから。
508 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/01(日) 22:07:48.88 ID:2z8TBUqM0
ここは、“海軍”兵士のみんなが「オスプレイ」或いはV-22と呼んでいる兵員輸送用の回転翼機の中。私たちを含め30人ちょっとが詰め込まれて、お世辞にも空間に余裕があるとは言いがたい。

《統合管制機【Hedwig】より全輸送機へ。兵員の一部を自衛隊のF.O.Bへ合流させろ。展開地点はHyakuri-Airportだ、敵の空襲襲来に備え相応の対空火力もあることが望ましい》

《Cargo-02に利根改二が搭乗している、適任だ。Cargo-01よりCargo-10、F.O.Bへ向かえ》

《此方Cargo-10、命令を受諾した。指定地点に急行する》

《此方Gallop-01、当編隊は弾薬を使い果たした。補給のため一時戦域を離脱する、Over》

手狭な機内を、英語音声の無線通信がひっきりなしに飛び交っている。かなりの早口に加えて籠もっていたりぶつ切りだったりであまり聞き心地は良くないけれど、意味は難なく理解できた。

………提督から“マッスル英会話”とかいうバカげた英語学習を押しつけられたときは99式艦爆でぶっ飛ばしてやろうかと思ったのに、現実としてこのように結果はばっちり出てしまっている。正直、ありがたみよりも悔しさというか腹立たしい気持ちが先行する。買い置きしていた卵のパックの内一つをうっかり放置して、一個も使わずに賞味期限が切れてしまったときよりも悔しい。

《目標地点に到達》

《【Hedwig】より全部隊に通達、突入開始。

Good luck》

《Roger. Cargo-01 for All unit, follow me!!》

《Stork Team, Roger. Go go go!!》

《Taxi-01 for All team, Enemy Anti-Aircraft-Fire in coming!! Break, Break!!》

《Keep formation!!》

そんなことを暢気に考えていると、どうやら目的地である大洗町の上空に辿り着いたらしく無線でのやりとりが更に慌ただしいものに変わる。ドンッ、ドンッ、と大きな太鼓を渾身の力で叩いているみたいな低い音が機外で立て続けに響いて、床から身体に這い上るようにして震動が伝わってくる。

「……」

無言で傍らの丸窓から外を見る。ちょうど夕焼け空にあでやかな炎の花が咲き、直撃弾を受けた輸送機が電子レンジで温めた卵よろしく爆散した。
509 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/01(日) 22:35:17.87 ID:2z8TBUqM0
《Stork-11 lost!!》

《Mules-09 One hit!! Mayday, Mayday!!》

《【Hedwig】より各位、学園艦上から新たな艦載機の発艦を確認した》

《護衛航空隊が迎撃開始!抜けてくる敵機に注意しろ!》

《Stork-01、回避運動に移る!》

(,,#゚Д゚)「揺れるぞ!掴まれ!」

「うわっとっと!!」

「ぽいぃっ!?」

外から聞こえてくる対空砲火の炸裂音の間隔が短く、より連続的なものに変わる。操縦士からの報告直後に斜め前の席に座っていたギコさんが叫び、次の瞬間機内がぐらりと大きく傾ぐ。集中砲火を受けているらしい私たちの機体の回避運動に、右隣で驚いたような声が二つ同時に上がった。

「全く、いい加減“海軍”司令部は僕の扱いを考え直した方がいいと思うね!僕ほどの美少女なら空調の効いたリムジンにテレビとフルコース料理付きで送迎すべきさ!」

(,,゚Д゚)「なるほど貴重な意見だ!」

声の主の内の片方───時雨が、なおもぐらぐらと不規則な軌道を取り続ける中で不愉快そうに悪態をつく。それに応じるギコさんの声も、負けず劣らず不機嫌そうだ。

(,,#゚Д゚)「俺からも上層部に掛け合ってやるよ!そしたら邪神も真っ青の性格してるクソガキのお守りなんて二度と任されなくて済むからな!

序でにそのリムジンがル級の砲撃で吹っ飛ばされることも真剣に祈ってやるよ!」

「艦隊一の美少女を捕まえて邪神とはずいぶんな言いぐさじゃないか、お守りされる側のくせに!」

(,,#゚Д゚)「俺が知る限り人様のドタマくないでぶち抜きそうになることをお守りとは言わねえな!艦隊一の美少女名乗る前に艦隊一容量が少ないその頭をなんとかしやがれ!」

「僕が知る限り“ちょっとした運動”でくたくたになっちゃうようなクソ雑魚ナメクジ人間を助けてあげることは十分にお守りに分類されるはずだけどね!死ね!」

(,,#゚Д゚)「てめえが死ね!」
510 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/01(日) 23:08:29.20 ID:2z8TBUqM0
二人とも、機内外双方での騒音に負けぬよう全力で声を張り上げながら罵り合いを続けている。今にも生卵の投げつけ合いを始めそうな声の調子を聞く限り、割と本気で互いに嫌っていそうだ。

戦場を目前にしてそんなことに労力を使う二人はきっと、卵を入れろとレシピに書かれてたら割らずにぶち込むタイプなんだろうなと思う。

「というか、とうとう僕を金剛以下扱いしやがったな!絶対今度こそ臑蹴り割るからね!」

(,,#゚Д゚)「なんでてめえはそんなに俺の臑に対して頑ななんだ!それこそ金剛の一つ覚えじゃねえか!」

多分この二人は金剛から訴えられたら勝ち目がないと思う。

「………っぷい」

「………大丈夫ですか?」

(*;゚ー゚)「確かエチケット袋がその辺りに……」

見かねた江風が反対側の席から少し身を乗り出し、事態の収拾を図る。因みに右側のもう一人……夕立は、某魔法少女詐欺師のエイリアンみたいな声を上げて縮こまっている。

……顔色が青く頬の辺りがリスのように膨らんでいることから、どうも三半規管が深刻なダメージを負っているようだ。このまま行けば、彼女が朝に食べていた炒り卵が機内の床にぶちまけられる時もそう遠くはないだろう。幸い彼女の真向かいにいる不知火としぃさんが異変に気づいていろいろと対処しているようなので、それでなんとかなるよう祈るほかない。

────そして。

( T)「…………」

機内の最奥では、私たちの提督が座っている。
511 :申し訳ない>>510訂正 ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/01(日) 23:09:56.71 ID:2z8TBUqM0
二人とも、機内外双方での騒音に負けぬよう全力で声を張り上げながら罵り合いを続けている。今にも生卵の投げつけ合いを始めそうな声の調子を聞く限り、割と本気で互いに嫌っていそうだ。

戦場を目前にしてそんなことに労力を使う二人はきっと、卵を入れろとレシピに書かれてたら割らずにぶち込むタイプなんだろうなと思う。

「というか、とうとう僕を金剛以下扱いしやがったな!絶対今度こそ臑蹴り割るからね!」

(,,#゚Д゚)「なんでてめえはそんなに俺の臑に対して頑ななんだ!それこそ金剛の一つ覚えじゃねえか!」

多分この二人は金剛から訴えられたら勝ち目がないと思う。

「………っぷい」

「………大丈夫ですか?」

(*;゚ー゚)「確かエチケット袋がその辺りに……」

因みに右側のもう一人……夕立は、某魔法少女詐欺師のエイリアンみたいな声を上げて縮こまっている。

……顔色が青く頬の辺りがリスのように膨らんでいることから、どうも三半規管が深刻なダメージを負っているようだ。このまま行けば、彼女が朝に食べていた炒り卵が機内の床にぶちまけられる時もそう遠くはないだろう。幸い彼女の真向かいにいる不知火としぃさんが異変に気づいていろいろと対処しているようなので、それでなんとかなるよう祈るほかない。

────そして。

( T)「…………」

機内の最奥では、私たちの提督が座っている。
512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/02(月) 11:15:40.01 ID:1SIxM3Mg0
更新乙です
マッスル鎮守府が百里基地経由で大洗へ向かう展開?
あと、地の文は誰のモノローグだろう
513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/03(火) 13:47:05.08 ID:d0La2nsA0
おつおつ
…ってか瑞鳳って思考は良識的なん!?w
514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/03(火) 21:21:31.84 ID:w4IM5ExD0
515 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/04(水) 06:58:15.02 ID:U0d4PKLjO
516 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/07(土) 23:00:53.92 ID:IzoT3soA0
身長、196cm。体重、118kg。彼が敬愛して止まない某ハリウッド俳優と(凄く気持ち悪いことに)ピッタリ一致した、日本人としては規格外の数値。彼はその大きな身体を少し窮屈そうに背もたれに預け、腕と足を組んで椅子に腰掛ける。

ただ大きなだけではなく、彼の身体は徹底的に鍛え抜かれたものだ。0.1tを越える体重の大半は筋肉とそれを維持する骨格で構成されており、数値以上の存在感が彼の巨?に付与された結果“日本人離れ”は“人間離れ”にランクアップした。

ギコさんをはじめ、艦娘が生まれる前から深海棲艦と生身で戦い、そして沈めてきた猛者が集う“海軍”。その世界最強の部隊が20人以上も寄り集まった機内にあっても、彼の巨?は一際異彩を放つ。ましてやそんな人物が無言で俯き座ったままぴくりとも動かないとなれば、彼のことをよく知っている私でも言い知れぬ威圧感を感じてしまう。

( T)「……………」

そう、無言。

提督は、横須賀でこの輸送機に乗り込んでから──正確にはその直前数分頃から──、一言も発していない。

別に彼はトラブルメーカーでもないし、奇っ怪な出来事に事欠かない我が鎮守府においてもなんだかんだ言って彼自身がその「奇っ怪な出来事」を起こしたことは殆どない。とはいえいざ異常事態が起きれば怪異を虐殺しつつ艦娘共々お祭り騒ぎに興ずる程度には、彼もまた喧しい性格をしている。

そんな、私のよく知る提督ならば、少なくとも時雨とギコさんの(醜い)罵り合いに嬉々として参戦するかどちらもプロレス技で沈めるぐらいのことはしているはずだ。また、たかが敵の対空砲火のまっただ中を突っ切る程度で「いつものノリ」を失うような柔な神経でもない。

スーパーで買った12個入りの卵のパックに何故かイースターエッグが一つだけ混じっているのような、得体の知れない違和感。その気持ち悪さに、ワケもなく身じろぎする。

「………」

「………」

いつもと様子の違う彼の姿に、私は斜向かいに座る古鷹に視線を向ける。彼女の方もちらりと提督を見やった後、少し不安そうに小首をかしげた。
517 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/07(土) 23:29:02.24 ID:IzoT3soA0
この中では一番の新顔であり提督と過ごした時間がまだ鎮守府の中では短い方の私に対し、古鷹は彼の指揮下としては古参の一人だ。その──本来提督の奇行には特に耐性がある方である筈の──彼女が困惑しているという事実が、彼の今の姿の異様さを表している。

「うわっ……本当によく揺れるね。ウチの妹が完全にダウンする前に早いとこ着陸して欲しいな」

(,,゚Д゚)「……空襲での敵艦隊排除が案外難航してるくせぇな、対空砲火がおさまらねぇ。こちとら早いところこのクソガキから離れてえってのに」

「は?」

(,,゚Д゚)「あ?」

……まぁ、“提督”になる前から彼と付き合いがあるギコさんやこと彼のことになるといろいろと敏感な時雨が特に意に介していないため、実際には大したことじゃないと見ることもできそうだけど。古鷹も提督に声をかけたそうな仕草を見せているが、自然体な二人の様子にそれほど心配すべき事なのかイマイチ判断しかねているらしい。

それでも心優しい彼女は、意を決し顔を上げ再び提督の方に視線を向ける。

「………あのっ、t!」

《Stork-01より全搭乗員に通達、後20秒で着陸する!総員戦闘用意!繰り返す、総員戦闘用意!》

「あう………」

──が、直後に操縦士からのアナウンスが機内に響き、かけるべき声を失った彼女はがっくりと頭を垂れる。元々私に“かける言葉”なんてない(ご飯に卵をかけるのは好き)けれど、それにしてもこの計ったような間の悪さは同情を禁じ得ない。

(,,#゚Д゚)「よし、戦闘用意だ!!敵は手強いぞ、心してかかれ!!」

「「「Sir, yes Sir!!」」」

「────んぇ」

因みに、端っこの席ではギコさんの大音声での檄を聞いて雲龍がようやく夢の世界から帰還した。……この騒音の中でというのもそうだし、流石にいつ撃墜されるか解らない状況下で安眠できるほど図太い艦娘は“海軍”全体でも両手の指におさまるぐらいの人数しかいないだろう。個性のサラダボールと化している我が鎮守府においても、彼女のメンタルの強靱さは群を抜いている。
518 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/07(土) 23:32:19.16 ID:IzoT3soA0
( T)「……」

自分の艤装を装着し異常がないか確認しながらちらりと提督の方を見ると、彼は既に戦闘用意を終えていた。相変わらずらしくない“無言”のままだけど、別に腑抜けた逆に気負っていたり調子が悪かったりという様子もない。少なくとも、見る限りは指揮や作戦行動に支障を来す状態ではなさそうだ。

(なら、今は提督を心配する必要はないかな)

様子がおかしいのは間違いないけど、それを戦場に持ち込むような人ではないことは知っているし、戦場で問題がないのなら私達も今は余計な雑念を持ち込むべきではない。

この任務がすむまでは、疑問は一先ず置いておこう。








「…………っ!?」

────そう決心した矢先に、私達の乗っている輸送機がぐらりと一際大きく揺れた。
519 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/07(土) 23:57:01.18 ID:IzoT3soA0
私は軽空母であり、本来は戦闘機を飛ばす側であって戦闘機や飛行機に乗る側ではない。加えて任務の巡り合わせから、空輸される経験自体実は指折り数えられるほど少なかったりする。

それでも、直感で解った。今の揺れは“ダメな揺れ方”だと。

《Shit, Stork-01 One hit!! One hit!!》

《Stork-01より管制機、敵高角砲弾頭が至近で起爆!右翼に甚大な損害、ローターが
脱落した!》

《姿勢制御……クソッ》

(,,;゚Д゚)そ「ぬぉっ…!?」

「あぐっ────」

赤いランプがけたたましいサイレンの音と共に明滅し、傾ぐどころか機体が一瞬逆さまになる。明らかに真っ直ぐ飛行できていないと察せる不規則なGが頻繁に方向を変えながら私達の身体を押し潰し、艦娘の艤装込み重量も支えられる特殊ベルトに締め付けられて古鷹が喉の奥からくぐもった悲鳴を上げる。

ふと、風圧で窓に顔を押しつけられた際に外の光景が視界に映る。磯風が、卵焼きを作ろうとしたときに発生するものと酷似した色合いの煙が吹き出していた。

私達が乗る輸送機の、翼から。

《Mayday, Mayday, Mayday!! This is Stork-01!! I'm going down!!》

《立て直せない………市街地に不時着する!!》

(,,;゚Д゚)「衝撃に備えろ!!!」

「もう!」

ギコさんの叫びと時雨の悪態に合わせて、世界がぐるぐると回り続ける中私は周りと同様椅子の上で胎児のように丸くなる。正直他に何のしようもない。艦娘としての耐久力とこの鎮守府での鍛錬の積み重ねが墜落のダメージに耐えうるものであることを祈るだけだ。

映画とかと違って、案外墜落までの時間は長く感じるんだな……そんな、場違いな感想がふと頭を過ぎり、

「っっ……!!」

直後に、今までに感じたことのない衝撃が轟音と共に私を襲う。
520 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/08(日) 00:46:03.24 ID:2S9GHnYJ0




怪奇現象に事欠かない私達の鎮守府においても、今のところ所謂“神”ないしそれに準ずる存在との邂逅はない。

一応イフリートは鎮守府の七輪に宿っている。ただ、関西弁である辺りパチモン臭が凄くどちらかというと他のしょーもない妖怪・怪異と同類と思われる。後は提督が“マッスルの神様”なるものに会ったと寝言をほざいt……信じがたいことを言っていたけど、仮に真実だとして剥きたてのゆで卵の如くはげ散らした頭が光っていたらしいので此方も多分妖怪の類いと見て間違いなさそうだ。

とりあえず、これだけ日々怪奇現象に見舞われながら一度も会ったことがないという点と、その他諸般の事情から私は神様の存在には懐疑的な立場をとっている。

「Shit………」

「ぼ、ぼぃいい………」

(*;メ゚ー゚)「いたた……ゆ、夕立ちゃん、大丈夫!?女の子が出しちゃダメな声で女の子がしちゃダメな顔色になってるけど!?」

「椎名少尉こそ大丈夫ですか?お怪我は」

「Jesus……!」

だから私は、あれほどの衝撃の中で私達艦娘のみならずギコさん達“海軍”部隊も殆どが無事であるという事実についても、神の奇跡だ等とは思わない。

唯々、墜落する直前まで職務に忠実であり続け、ほぼ完璧な機体姿勢での不時着を成し遂げた操縦士に敬意と感心を表するだけだ。

(#T)「ギコ、操縦士はどうした!?」

(,,メ;゚Д゚)「今確認して……クソッ、ダメだ!

脈を診るまでもねぇ、頭が潰れてやがる!もう一人も鉄骨にぶち抜かれてる!」

あと、哀悼も忘れずに。
521 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/08(日) 01:29:05.12 ID:2S9GHnYJ0
(#T)「椎名、部隊の死傷者は!」

(*;メ゚ー゚)「レリック二曹が上腕を骨折、戦闘行動は困難!それと阿南一曹も足をやられてます!私、猫山少尉、他は軽傷多数も戦闘に支障なし!」

(#T)「その二人は応急処置の後運び出せ!ギコ、救護要請は!?」

(,,#メ゚Д゚)「もう出したがいつ送られるかは解らん!それより俺たちの墜落地点がやばいぞ、内陸浸透中の敵艦隊の進路上だ!」

(#T)「統合管制機に最寄りの艦隊の規模と構成を確認しろ!

“地獄の血みどろマッスル鎮守府”、艦隊各位!点呼、並びに状況報告!!」

さっきまでの沈黙が嘘みたいに、また日頃の不熱心な仕事ぶりが冗談のように、提督は矢継ぎ早に指示を出していく。空を飛び交う弾丸や艦載機の風切り音、そしてそこかしこで炸裂する砲弾の轟音を凌駕する大音声での点呼に、私の背筋も針金を入れたみたいにピンッと伸びる。

「時雨、異状なし。そこのクソ雑魚じゃあるまいしあの程度じゃケガしないよ」

(,,メ゚Д゚)「は?」

「あ?」

「…………夕立、大丈夫っぽい」

いや、相変わらず顔色ピータンみたいな色なんだけど。大丈夫っぽくないんだけど。

「雲龍、無事よ」

「不知火、作戦行動に支障ありません」

「古鷹、艤装・身体共に異常なし!作戦継続可能です!」

次々と応じる時雨達に対し、私は“答える言葉”を持たない。

だから、あの日以来唯一発することが出来るその単語を、返答の代わりにする。












「たまご」
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/08(日) 09:13:54.18 ID:/Ylumcfno
モノローグめっちゃ流暢やんけ……
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/08(日) 10:36:50.71 ID:nfQJ4ON30
直前の回想も瑞鳳のか……マッ鎮作者の方でどんなぶっ飛んだ物を見せてくれるかと楽しみにしていたんだが
524 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/08(日) 12:31:22.78 ID:Hi5RZQmA0
おつおつ…饒舌なんだなw
それにしても精鋭部隊でも蹴散らされるなあ…
525 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/08(日) 23:04:55.77 ID:2S9GHnYJ0
(,,メ゚Д゚)「レリックは一先ずこれで大丈夫だ!しぃ、阿南の方は!?」

(メ*;゚ー゚)「うん、固定したから運ぶだけなら………ひゃあっ!?」

私が返答(?)した直後、すぐ近くで砲弾の炸裂音が立て続けに二つ、三つと鳴り響く。……音の大きさから推察するに、落下した位置は20Mと離れていない。

明らかに私達を標的とした連続的な至近弾に、アスファルトで塗装された道路に半ばめり込んでいる機体がぐらぐらと小刻みに揺れる。手早く手際よく負傷兵を治療していたしぃさんが可愛い悲鳴を漏らし首を竦めた。

「Admiral、進軍中の敵艦隊より我々の墜落地点へ本格的な砲撃が開始されたと管制機から報告あり!」

(#T)「機外に離脱しろ、急げ!誘爆したら流石に看過できねえダメージになるぞ!」

無線機を操作していた“海軍”兵士の一人が叫び、それを受けた提督の指示に全員が拉げて口をだらしなく開けた後部ハッチへと向かう。その間にも砲撃の炸裂音は響き続け、徐々に激しさを増していく。

『『─────!!!!』』

「【Helm】 in coming!! Over 30!!」

(,,#゚Д゚)「夕……時雨!古鷹!!」

「了解です!」

「ったく、面倒くさいったらないね!!」

鶏の総排泄肛からひり出される卵のように機外に転がり出た直後、砲弾に代わって空から降ってきたのはあの耳障りな風切り音。上空500m程の位置から私達めがけて急降下してくる黒い点の群れに、ギコさんから指示を受けた時雨と古鷹が同時に機銃を構える。

因みに最初名前が挙がりかけた夕立は………うん。

彼女も私の大切な友人であり仲間だ。今夕立がどうなっているかについては、かつて【ソロモンの悪夢】と呼ばれた駆逐艦娘の名誉と威厳のために私の胸にしまってアイアンボトム・サウンドまで持って行こう。
526 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/08(日) 23:52:52.70 ID:2S9GHnYJ0
「僕が周りをやる!古鷹は中核の航空隊を!」

「解りました!────敵航空隊捕捉!射撃開始、射撃開始!」

空に向けられた二門の機銃が、火を噴く。古鷹の20mm連装機銃から吐き出された太い火線と、それにまとわりつくようにして放たれる時雨の7.7mm機銃の火線が敵航空隊を真っ向から迎え撃つ。

『!?!?』

『『『──────』』』

先鋒を行く一機が、反応が遅れて直撃弾により爆散する。だが、残りの機体は素早く統率の取れた動きで火線から逃れた。

敵ながら惚れ惚れしてしまうような、まるでフライパンの上に広がる目玉焼きのように美しい散開運動。対空砲火で迎撃しようにも的が絞りにくく、それでいて各機の射線はしっかりと開かれていて全方位からの弾幕射撃を問題なく敢行できる。

(,,#メ゚Д゚)「────“Circle”!!」

「「「Yes sir!!」」」

『『『!?!?!!?』』』

だが、その見事な編隊運動も読まれていれば意味を成さない。

「Enemy down!! Enemy down!!」

(*メ゚ー゚)「Keep fire!!」

「Reload, cover me!!」

古鷹たちの周囲で素早く円形に展開したギコさん達が、一斉に自動小銃────アメリカ軍で使われている、【M16カービン】とかいう銃の引き金を引く。四方八方に伸びた火線は、その尽くが正確無比な狙いを持って散開した敵機を貫いていく。

『!!?!?』

『『───……』』

深海棲艦側は、射撃を躱そうにも先ほどの急激な軌道変更が祟ってまだ思うように速度を出せない状態にある。一方的な“七面鳥撃ち”に晒されながらようやく一部が態勢を立て直したときには、無事な機体は1/3以下まで減っていた。

『『───ッ!!』』

「敵機、離脱を開始!」

(,,#メ゚Д゚)「弾薬再装填、陣形は崩すな!AT-4並びに白兵装備、準備急げ!!」

流石に彼我の実力差を理解したか、残りの機体は踵を返し空へと帰って行く。だけどその姿をいちいち見送るようなことはない。

『『『─────ォオオオオオオオオオオッ!!!!!』』』

「Contact!!」

何せ、私達の戦闘はまだ始まったばかりだ。
527 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/09(月) 14:16:19.48 ID:xg02lXG00
更新乙です
いきなり撃墜からの参戦では目的地への到着も遅くなりそうですな
528 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/10(火) 01:21:20.38 ID:Zj4Z5XiE0
529 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/10(火) 23:11:36.85 ID:rOfJumKu0
何百回も、散々、うんざりするほど奴らの声は耳にしてきた。だけど今でも、それを聞く度に私の卵肌は一瞬にして鳥肌に様変わりする。

『『『ォオアアアアアアアアアッ!!!』』』

奴らの、深海棲艦の咆哮を聞き飽きることがあっても、聞き慣れることは少なくとも私には永遠に来ないに違いない。

『『『ガァアアアアアアアアッ!!!』』』

(*メ#゚ー゚)「九時方向、二個艦隊を視認!内軽巡ホ級flagship1隻を認む!」

(,,#メ゚Д゚)「AT-4 Fire!!」

「「Roger!!」」

思ったより至近、右手400mほどの位置で瓦礫の山を蹴散らしながら敵艦隊が姿を現す。即座にギコさんが号令を下し、“海軍”兵士達が構える4門の携行砲がそれに応じて火を噴いた。

『ア゛ァ゛ッ!?』

出会い頭の砲撃に、回避や防御といった対応をする暇はない。4発の砲弾はそのまま、艦隊の中程を進んでいたホ級flagshipに突き刺さる。

火の玉が四つ、20mを誇る巨体の表面で膨らむ。1発はホ級の側頭部に直撃し、爆圧でお鍋を被ってるみたいな形状の奴の頭部が激しく右にぶれた。

『オォ………ガァアアッ!!!』

敵は、非ヒト型とはいえflagship。幾ら“海軍”でも、歩兵の携行火器数門の一斉射では倒せない。

ホ級は一瞬仰け反り蹌踉めいたが、すぐに態勢を立て直すと私達の方を向いて一声吠えた。背中の三段重ねの連装砲が、錆び付いた音を立てて私達の方に向けられる。

「────五月蠅いよ」

『グギェッ……』

『ア゛ア゛ッ!?』

だが、その時には既に、私達の下から放たれていた“五発目の弾丸”が距離を詰めている。
530 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/07/10(火) 23:43:12.37 ID:rOfJumKu0
砲が火を噴く直前に鳴り響く、乾いた破砕音。序で上がった呻き声に、ホ級flagshipはびくりと身体を震わせてその声が上がった方に顔を向けた。

恐らく旗艦であるホ級の周囲を固めていた、数隻の駆逐二級後期型。その内一隻の前面装甲に、蜘蛛の巣の如く無数の細かいヒビが入る。エッグスタンドに入ったゆで卵のように縦長のシルエットがグラグラと左右に揺れた後力尽きたように崩れ落ちる。

倒れた個体のヒビの中心に突き刺さるのは、砲弾ではない。奴らの装甲表皮と全く同じ色合いの、一本の“くない”だ。

「っふ!!」

『ゴォアッ………ギィッ!?』

二級の屍を踏み台に、奴らに肉薄した“弾丸”が───時雨が、空中に身を躍らせる。身体をねじって勢いをつけながら新たに投擲された二本の“くない”は頭部を狙って投げ下ろされたが、ホ級はこれを咄嗟に腕で受けた。

『ガッ……グゥッ……!!』

「ちぇっ」

腕の肉を深々とえぐり、骨にまで達したであろう一撃。青い体液が傷口からぼたりぼたりとしたたり落ち、ホ級flagshipは苦痛の呻きを漏らしつつも反撃に転じる。旗艦の轟沈を逃した時雨は、着地点に振り下ろされたホ級の左拳を不愉快そうな舌打ちと共にバックステップで回避する。

『ガァアアッ───ギッ』

「だから五月蠅いって」

すぐに、背後から瓦礫の山を突き破ってイ級が猟犬の如く飛びかかる。が、時雨が振り向きもせずに後ろ蹴りを繰り出すと、まるで厚さ何十メートルもある特殊カーボンの壁に全速力で衝突したみたいにイ級の身体が半ばまで拉げて潰れた。

『『オ───ォオオオオッ!!!』』

「おっと」

別個体のイ級と、軽巡ヘ級が時雨を2方向から同時に砲撃する。だけど砲弾が炸裂したときには、既に彼女の影は駆けだしていてその場にない。

『ガギッ……』

『………ア゛ア゛ア゛ッ!!!!』

「遅いね」

ホ級のすぐ傍で、二級がまた一隻倒れた。水色の眼球をくないに貫かれ、そこを基点に真っ二つにへし折られた友軍艦の姿に激高したホ級が機銃掃射を行うが、時雨はその屍を勢いよく蹴って掃射地点から飛び下がった。

『オアッ!?』

「────覇ッ!」

『ギグッ………』

着地した場所は、さっき時雨を撃とうとしたイ級の頭頂部。すぐさま打ち下ろされた拳が装甲を粉砕し、右腕が肘の辺りまで埋まる。

「うぇっ……気色悪っ」

いかにもイヤそうに舌を出しつつ、時雨がイ級の頭から腕を抜き出す。事切れたイ級の頭部穴からはさながら間歇泉の如く青い体液が噴出し、周囲の瓦礫を染め上げた。
531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/11(水) 00:34:35.99 ID:tmN4keD20
投下乙!
532 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/11(水) 21:38:20.68 ID:M10v23D80
おつ
533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/12(木) 01:40:10.99 ID:BdadLwv1O
何ヶ月ガルパンキャラ出してないんだ?
534 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/07/13(金) 23:10:49.36 ID:s0ujgYNM0
奴らと接敵してからイ級の頭部が瓦割りされるまで、恐らく一分程度しか経っていないだろう。だけどその60秒前後で、敵艦隊は私達マッスル鎮守府の“番犬”の実力を正確に理解したらしい。

『ォオオオ……ギィッ!!』

『アァアアアア……』

「ははっ」

イ級の屍から飛び降りた時雨を半円形の陣を組んで取り巻きつつ、ホ級flagship達は口々に警戒の唸りを漏らして身構える。明らかに気圧されているその動きを見て、時雨は嘲笑と共に敵に向かって中指を突き立てた。

「揃いも揃ってクトゥルフ神話の怪物みたいにおどろおどろしい外見してるくせに、ちょっとやられたぐらいでこんな美少女相手にビビっちゃうんだ。ホントクソ雑魚だよね、やめたら?深海棲艦」

(………うわぁ)

流石は、邪神の申し子(命名:某海軍少尉)。或いは、口先から生まれたケルベロス(命名:Y.N海上自衛隊一等海曹)。深海棲艦相手でも煽りを忘れない絶口調ぶりには感心せざるを得ない。

『『『………ッ!!!』』』

非ヒト型の深海棲艦でも人語を解するかどうかについては、“海軍”所属の研究者達の間でも意見が分かれていると聞く。だがもし時雨の言葉を理解できなかったとしても、表情や動作を見れば自分たちが彼女に侮辱されていることは容易に推察できるだろう。

『『『グガァアアアアアアアッ!!!!』』』

いつも無機質な奴らの鳴き声が、卵焼きを作るために油をひいたフライパンのように熱を帯びた。恐れや怯みが消え、変わって怒り────人類や艦娘全体に対するものではなく、目の前の駆逐艦・時雨という存在それ自体に向けられた怒りが露わになる。

『ア゛ア゛ア゛ッ!!!』

『『『ォアアアアアッ!!!!』』』

ホ級flagshipの咆哮と突貫を合図として、残りの随伴艦達も闘争心に満ちた絶叫と共にたった一隻の駆逐艦に殺到する。元の知能が低い故に、彼我の実力差の事など挑発一つで脳裏から消えてしまったようだ。

『────ギ、ァッ……!?』

「……えっ?」

そして、時雨以外の“敵”がこの場に存在するということも。
535 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/13(金) 23:14:52.85 ID:s0ujgYNM0
20mの巨躯が揺らぎ、後ろ向きに傾ぐ。時雨に振り下ろされているはずだった大きな握り拳から力が抜け、倒れ行く身体を支えようとでもしたか両の手が何度か宙を掴む。

『ゴ………ギッ……』

ズンッ、という低い音と共に地面が微かに揺れ、仰向けで倒れ込んだホ級flagshipの周囲で土煙が舞い上がる。束の間、自分の身に何が起きたのか確かめようとしているかのように眼孔のない頭部が力なく揺れていたが、やがてその動きもすぐに止まった。

『ア、アッ!?』

『オォオオオオッ……!?』

「むぅ……」

随伴艦達は、戸惑ったような鳴き声を上げながらホ級flagshipの屍を顧みる。時雨もまた、一度構えを解いてホ級を────正確には、屍の咽頭に深々と突き刺さった五本の真っ黒な矢を一瞥する。

「……あのさ瑞鳳、よりによって一番上等な獲物を横取りするのは節操がなさ過ぎじゃない?」

「たまご」

剥きたてのゆで卵よろしく頬を膨らませての抗議に、私は肩を竦めてみせる。彼女の抗議も尤もだが、それが“上官命令”だったのだからどうしようもない。

それにしても、いいのだろうか。

(#T)「ギコ、行くぞ!!」

(,,#メ゚Д゚)「了解だ“先輩”!!」

こっちに構ってなんかいると、それこそ“獲物”は全て取られることになるわけだけど。

「…えっ!?あっ、ちょっ、ふざけんな!?」

立ち尽くしていた時雨の両脇を、白兵装備を構えたギコさんと提督が風を巻いて駆け抜ける。慌てて制止する(間抜けな)白露型2番艦には目もくれず、二人は混乱の極致にある敵艦隊の直中に斬り込んだ。
536 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/13(金) 23:21:55.57 ID:s0ujgYNM0
『……アァッ!?』

最初に反応を見せたのは、軽巡へ級。向かってくるギコさんと提督に気づくと、ヘ級は面食らったような声を一つ上げて右手の艤装を二人に向けようとする。

だけどその動きは、肉薄する二人と比較して鈍重にも程があった。

(,,#メ゚Д゚)「ゴッルァアッ!!!」

『ギィッ!!?』

稼働したヘ級の単装砲が砲弾を吐き出す前に、ギコさんがその懐に弾丸のような速度で踏み込む。黒い刃が翻り、キンッという甲高い金属音が響く。ヘ級の陸上活動用多脚ユニットから、切断された脚が一本火花を散らして脱落する。

『オ、ォ、アアアアアアッ!!!』

(,,メ#゚Д゚)「ッらぁっ!!」

苦悶と怒りが入り交じった絶叫と共にヘ級は右腕を振り下ろすが、軌道上からその姿は既に消えている。前転でヘ級の一撃を回避した彼は、起き上がると同時に再度白兵用のブレイドを一閃した。

『〜〜〜〜〜ッッッッ!!!?』

澄んだ金属音が今度は三つ重なって響き、ヘ級が声にならない悲鳴を上げる。更に三本のユニットを根元から同時に断ち斬られ、脚の半分を失いバランスを失った身体ががくりと前のめりに崩れる。

(,,メ#゚Д゚)「行ったぞ先輩!!」

(#T)「見りゃわかるわバーーーーーーーーーーーーーーーカ!!!!!!!!!」

『……ギッ!?』

ちょうど良い高さまで降りてきたヘ級の頭に提督が彼の得物を───5メートルを越える、巨大な漆黒の“矛”を渾身の力で振り下ろす。

(#T)「Wasshoi!!」

『ガッ』

巨大な破砕音が私達の耳朶を震わす。短い断末魔を残して、ヘ級の上半身がまるでプロレスラーに殴りつけられた生卵の如く惨めにぐしゃりと潰れた。

「Enemy down!!」

(*#メ゚ー゚)「Don't move!! Keep the position!!」

「…………Oh my god」

しぃさんをはじめ、この場にいるだいたいの“海軍”兵にとっては至って普通の光景のため反応は薄い。だが一人だけ、ルーキーなのか提督とギコさんの暴れぶりに呆然となっている隊員がいた。

うん、まぁ“生身の人間(?)が深海棲艦を瞬殺する光景”を初めて見た反応としては寧ろ驚きを抑えられてる方かな。尤も、アレの内面を知る側から言わせて貰えば、同じ神でも絶対に邪神の類いだけど。

身内が言うんだから間違いないよ、うん。
537 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/13(金) 23:25:26.90 ID:s0ujgYNM0
初見という面が大きいにしろ、味方にとってさえ信じがたいものとして映るギコさんと提督による────生身の人間による軽巡ヘ級の“白兵戦での”轟沈。

深海棲艦側から見れば、それこそ青天の霹靂という表現ですら足りないかも知れない。少なくとも、アクアファーム秩父が生み出した絶品卵【輝】で作った卵焼きを初めて口にしたときの私と同程度の驚きにはなったはずだ。

『『ギィ、ギィッ!』』

『『アァアア、ガァッ!!』』

(,,;メ゚Д゚)「うおっ!?」

( T)「ぉおう」

恐怖に駆られた鳴き声を上げて、残余全艦が一斉に艤装を展開。咄嗟にヘ級の屍の影に隠れた提督とギコさんに、幾条もの火線が束になって殺到する。

(,,メ゚Д゚)「……必死だねおい」

( T)「危なかった。流石にアレが全部当たってたら俺でも足首を挫きかねん」

(,,メ;゚Д゚)「いやアンタでも普通に死ぬ……えっ、死ぬよな?」

人間二人を(……少なくともギコさんの方は確実に)殺すには、過剰どころではない量の火力投射。明らかに、奴らは二人を時雨以上の脅威と見なして全力で消しに来ていた。

だが、只でさえ非ヒト型の劣った頭。それが更に恐怖に染まれば、最早まともには働かない。

(,,メ゚Д゚)「にしても、こうもハマってくれるといっそ清々しいな」

( T)「全くだ────瑞鳳!」

「たまご」

既に自分たちが詰んでいることに、気づかない。

或いは、気づいているが故の悪あがきだったのかも知れないけれど。
538 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/14(土) 06:08:31.26 ID:+iKLe4vGo
お疲れ様です
539 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/15(日) 00:30:57.71 ID:I9YzniyA0
おつおつ
暴れっぷりも凄いけど、実況がうますぎるなw
540 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/07/15(日) 23:09:09.90 ID:ulqy3qc40
“海軍”所属の艦娘達の多くが通常の艤装以外に専用の白兵ユニットを配布されているように、私や祥鳳、赤城、加賀といった所謂“弓射展開型”の空母には、艦載機射出用の他に“射撃用”の矢が配布されている。材質はギコさんが愛用するブレイドや提督の巨矛と同様に深海棲艦の装甲殻を特殊加工したもので、貫通力と丈夫さは折り紙付きだ。

無論、私達空母・軽空母の“本業”は艦載機を用いたアウトレンジ攻撃と敵艦載機隊の排除による航空優勢の確保。此方の矢はあくまで護身用のサブウェポンであり、他の艦種の艦娘達や“海軍”歩兵が使う白兵戦闘用装備と違いこれをメインに戦闘を行うことは本来想定されていない。

問題は、ここが“海軍”であるという点だ。強さと引き替えに理性や理屈がすっぽり抜け落ちた連中が集った軍集団である以上、“常識的に考えて”なんて概念は存在しない。丈夫さや取り回しの良さを気に入り、特に練度が高い艦娘の中で此方の“矢”を寧ろ好んで使う者も一定数存在した。

例えば、私とか。

『─────ガッ……?!』

一度に五本の矢を番え、放つ。唸りを上げてほぼ一直線に飛翔した漆黒の五矢が、束のまま駆逐ハ級の眼孔に突き刺さる。眼球が粉砕され、装甲殻を撃ち抜き、一気に矢羽の付け根付近までその身を埋める。

『ゴッ、ガッ、ギッ、ゲッ』

ウズラの卵よりも小さいであろう脳味噌でも、破壊されれば致命傷にはなるらしい。ハ級は不気味な呻き声を上げながらガクガクと痙攣を繰り返した後、やがてバタンと横倒しになり絶命した。 

「たまご!」

はしたないと自覚しつつも、フンスと鼻から吐息が漏れる。

一射、五矢。提督のお気に入り漫画【キングダム】で、異民族“犬戎”と交戦した楊端和指揮下の騎馬隊が見せた弓の射法。

いかに貫通力は十分とはいえ、非ヒト型の大きな図体を一本ずつの射撃で仕留めようとすれば骨が折れる。ならば、数を増やせばいいだけの話だ。

とはいえ、訓練での練習は無し、さっき軽巡ホ級に対して行ったものを含めてこれが二度目。ぶっつけ本番でやってみたが、案外いけるものね。流石私。

因みにヤングジャンプで連載中の大人気バトル漫画【キングダム】の既刊コミックは全国書店で販売中。別に女房を質に入れる必要はないが、普通に面白いので買っておいて損はないと思う。

それよりも私が今欲しいのは、浅田農園が販売している【鳳凰の卵】だ。一個432円と破格の値段だがその絶品ぶりはテレビでも紹介され、一個あたりに通常の卵24個分の栄養が含まれているという点でも話題になっている。

【輝】とどちらが美味しいか比較するためにも、提督のB級映画コレクションを質に入れてでも手に入れる所存だ。
541 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/15(日) 23:18:24.40 ID:ulqy3qc40
私が“いつかダチョウの卵をまるまる一つ使って目玉焼きを作る”に次ぐ重要度の野望に燃えている間にも、状況は刻々と変化する。

『ゴァアッ!?』

『ギィッ、ギィッ!!』

(,,メ゚Д゚)「しぃ!!」

(*メ#゚ー゚)「了解!

All squad, weapon free!!」

ハ級の轟沈によって、弾幕にぽっかりと空いた穴。慌ててその穴を埋めようとして、敵の火線全体が揺らいで統率を失った。すかさず今度はギコさんが号令を下し、深海棲艦の包囲を終えたしぃさんたち“海軍”歩兵隊が一斉に瓦礫の山の陰から立ち上がる。

(*#メ゚ー゚)「Fire, Fire, Fire!!」

『ギィイッ!ガァッ!』

『キィイイイッ……!』

10を越えるアサルトライフルが同時に火を噴き、深海棲艦達に着弾する……が、幾ら“海軍”所属の兵士といえど何の変哲もない小銃射撃で深海棲艦に打撃を与えられるほど人間を辞めてる人は居ない。駆逐ロ級が一隻、鬱陶しげな鳴き声を上げて口を開き、弾丸が飛来する方向に単装砲を向けた。

「────AT-4, Fire!!」

『ゴァッ!?』

瞬間、別の方向で火を噴く4門の携行砲。寸分違わぬ狙いで放たれた砲弾が、開かれたロ級の口内に吸い込まれるようにして全弾飛び込む。

『カッ』

『ァアアッ!!?』

思わず閉じられた顎の中で立て続けに響く、くぐもった砲弾の炸裂音。直後にそれとは比べものにならない轟音が空気を震わせ、体内から吹き出した炎にロ級の身体が焼き尽くされる。真横にいたもう一隻のロ級が、爆風に煽られて姿勢を崩した。

(*#メ゚ー゚)「One more!!」

「Roger!!

────Fire!!」

機は逃さない。更に三発の砲弾が、蹌踉めいたロ級めがけて放たれる。

『ギッ………ア゛ッ』

あえてタイミングをずらして発射された最初の一発を食らい呻き声を上げた瞬間、残る二発がロ級の中へ。断末魔を上げる間すらなく、二つ目の火柱が天を焦がした。
542 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/15(日) 23:35:56.43 ID:ulqy3qc40
『『アァ……アァ……!?』』

『『ギィイ……ォアア……』』

連続で発生した軍艦二隻分の爆発に伴って、凄まじい量の砂塵が巻き上がり黒煙が濃く立ちこめる。残余戦力が四隻まで減ってもなお深海棲艦側は戦う姿勢を崩さないが、奪われた視界が反撃を妨げる。

私達が奴らの図体故に煙越しでも容易く動きを把握できるのに対し、深海棲艦側はこの煙と砂塵の量で自分より遙かに小さな物体を視認する必要がある。自然、敵艦隊は警戒から動きがますます鈍重になりざるを得ない。

『────ア゛ア゛ッ!!!』

らちが明かないとみたか、三隻目のロ級が咆哮と共に一歩踏み出す。どうやら此方に益々動きを把握されやすくなるリスクを踏んででも、煙の中から脱出して視界を確保するつもりらしい。

非ヒト型の小さなおつむにしては上出来な──ヒト型個体からの指示である可能性もあるが──、思い切った行動。英断と言って差し支えない大胆な戦術だ。 

だが、遅きに失している。

「たまご」

『ピギッ………ギァアッ、アアアアッ!!?!?』

煙に紛れて肉薄を終えていた私は、真横から至近距離でロ級の目元に矢を撃つ。激痛のあまり仰け反ったイ級の、むき出しになった下腹部に今度は五本の矢をまとめて叩き込む。

『ゲアッ……アァッ……』

五つの鏃が皮膚を突き破り、肉を抉る。ぽっかりと空いた風穴から、まるでふわトロの卵焼きを箸で割った時みたいにロ級の体液が滴り落ちる。ロ級はよたりよたりと二、三歩揺れた後、私が身体の下から転げ出た直後膝から地面に崩れ落ちる。顎がハンマーのように地面にたたきつけられ、ズンッと音を立てて小さな揺れを起こした。

『ウォオオッ───ギッ!?』

「沈めッ…………!!!!」

僚艦の異変に、ロ級と最も近い位置にいた最後のイ級が私の方を振り向く。……が、その側面に不知火が飛びつき、逆手持ちのナイフを勢いよく突き立てる。
543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/17(火) 10:24:38.32 ID:r6wLN4KK0
投下おつです
544 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/17(火) 15:44:19.03 ID:KNLarycA0
おつおつ
まさかの凸砂型なのかw
それにしても卵ライフを満喫してるw

あとキングダム最新刊も今週だったかな…
545 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/07/21(土) 23:03:06.59 ID:Ju5Lf/AP0
人間で言うなら恐らく側頭部に当たるだろう位置に深々と突き刺さった刃。だが不知火が扱うナイフの刃渡りはせいぜい20cm前後で、ギリギリ銃刀法違反に引っかかる程度の長さでしかない。

五メートルを超えるイ級の体躯と比してあまりにも浅く小さいその傷口は、本来なら致命傷となるものではないだろう。

あくまでも、彼女の刺突がその一撃“のみ”だった場合の話だけど。

「………つまらない」

『ィギッ─────』

吐き捨てるような呟きと共に不知火がナイフを抜き取る。同時に、イ級が弱々しい鳴き声を一つあげた後彼女とは反対側へ倒れた。

体表に口を開けるナイフの刺し傷から、青い体液が溢れ出る。……どう少なく見積もっても優に20は越えているだろう傷口からの出血量は尋常ではなく、たちまち不知火の足下には生臭い水たまりができあがる。

(相変わらず、速いなぁ……)

提督の指導の下修練を積んだ不知火のナイフ捌きは、かの青葉をして「目で追うことが難しい」と言わしめる程だ。まさに“神速”と呼ぶに足る手数は、彼女が扱う得物それ自体のリーチの短さと一撃辺りの威力の低さを補って余りある。
546 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/21(土) 23:05:57.24 ID:Ju5Lf/AP0
「………不知火に何か落ち度でも?」

「たまご……」

畏怖と敬意の念を持って見つめていると、それに気づいた不知火が低い声で訪ねてきた。10秒も浴びれば台湾の珍味【鉄卵】も独りでに割れること請け合いなその鋭い視線に、私もホールドアップを余儀なくされる。

眼だけで人を殺せるタイプだこの子。

「た、たまご」

「…………あの、別に怒っているわけではないのですが」

戦場のど真ん中で戦意喪失アピールを始めてしまった私に、不知火が困惑したような声色(と、益々鋭くなった目付き)で某睦月型のような台詞を口にする。うん、私もよく解ってるんだけどね、これは仕方ない。

例え調教した猛獣使いがすぐ近くに居たとしても、檻がない状態でライオンと至近距離で顔を付き合わせて怯えずにすむ人なんていないでしょ?同じ事よ。

「悪気がないのは解りますが、瑞鳳さんにそのような反応をされると少し傷つきますね……っと」

私と不知火の奇妙な──そして二人の練度を鑑みても流石に無防備な──膠着状態に終わりを告げたのは、少し離れた場所で立て続けに響いた地響き二つ。

直後、在日米軍の飛ばす対地攻撃機の編隊が爆弾を投下しながらすぐ近くの空を駆け抜けていく。
547 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/21(土) 23:08:18.01 ID:Ju5Lf/AP0
A-10攻撃機の通過に伴い巻き起こった突風で砂塵と黒煙が吹き散らされ、急速にクリアになる周囲の景色。

真っ先に視界に飛び込んできたのは、激しく損壊し物言わぬ骸と成った哀れな2隻の深海棲艦だった。

「ふぅ……準備運動にはちょうど良かったッぽい!」

十時方向には、まるでブツ切りにされた鶏肉のように黒い“何か”の山が堆く積もり、天辺には二本の黒い大振りな山刀が十字架を思わせる形で突き刺さっている。そしてその山の前では、ようやくヒコーキ酔いから蘇生したらしい夕立が満面の笑みを浮かべて額の汗を気持ちよさそうに拭っていた。

山の中に垣間見える装甲殻の破片や図太い腕の残骸、そして特徴的な(ただし、坂道で自転車から落としてしまった卵の如くぐちゃぐちゃに潰れた)三つの首の存在がなければ、私達でも“それ”を軽巡ト級の成れの果てだとは気づけなかったに違いない。

「………提督!」

一方、唐竹割りの要領で真っ二つにされ何かの記念碑の如く瓦礫の中に屹立している駆逐ハ級の前で佇む時雨は、ご機嫌な妹とは対照的にあからさまな膨れっ面で声を荒げる。まぁ、独り占めを目論んでいた獲物の大半を持って行かれた上に旗艦・副艦さえ自分のスコアにならなかったとなれば、人一倍どころか百倍は負けず嫌いな彼女の怒りは予想できたことだけど。

「僕一人でも十分どころか僕一人だったらもっと早く終わってたのに、何でわざわざスコアを減らしにかかるのさ!しかも副艦のヘ級はよりによってそいつと共同で沈めるし………痛っ!?」

(,,#゚Д゚)「作戦中に喧しいんじゃウォーモンガー!少し黙ってろ!」

早々に食ってかかったところに凄い勢いでギコさんのげんこつが落下し、“口先から生まれたケルベロス”も物理攻撃の前にあえなく大破轟沈で地面にしゃがみ込む。しかしロマさんといい提督といいギコさんといい、時雨と会話をすると著しく知能指数が下落するのはなんなのだろう。そういう特殊能力の持ち主なのだろうか彼女は。
548 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/21(土) 23:12:29.75 ID:Ju5Lf/AP0
「容赦なく艦隊一の美少女の頭ひっぱたくなよ野蛮人!」

(,,#゚Д゚)「美少女自称する前にその“海軍”一最悪なできの脳味噌直してこいやゴルァッ!」

(#T)「しぃ、古鷹、雲龍、総員前進!拠点構築急げ!確実に後続がくるぞ!」

(*;゚ー゚)「了か────11時方向、学園艦甲板上に発砲炎!!」

「うわっ!?」

背後で繰り広げられる低IQな会話には目もくれず、提督が後方で待機していた部隊に前進を合図する。古鷹達が立ち上がって私達の方に向かってこようとした瞬間、砲声が鳴り響き大洗女子学園の上でオレンジ色の光が瞬いた。

まだ駆逐しきっていなかった敵機による弾着観測射撃か、はたまた只の偶然か。風切り音と共に飛翔した二発の砲弾は私達の3メートル前で炸裂し、時雨が最初に仕留めた二級の屍を消し飛ばす。

初撃からの至近弾。弾着観測射撃だったとすれば、次の弾丸はほぼ確実に提督達を捉える筈だ。

( T)「………」

(*;゚ー゚)「同地点で更に発砲炎を視認!総員衝撃に備えて!」

(,,;゚Д゚)「クソッ!先輩、あんたも退避を……おいっ!?」

そしてそれを彼も理解しているはずなのに、この提督ときたら何を考えているのやら砲弾が飛来した方角を見上げたきり微動だにする気配がない。

( T)「ギコ……さっきのは流石に時雨に言いすぎやろ」

(,,;゚Д゚)そ「なんの話だ!?」

いや、ホント何考えてるの?脳味噌の大きさうずらの卵なの?
549 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/21(土) 23:14:50.72 ID:Ju5Lf/AP0
「提督、前を失礼いたします」

(,,;゚Д゚)「バカ言ってないで逃げろアホ───うおっ!?」

「っ、提督伏せ───っ!?」

回避するそぶりを全く見せない提督に、流石にけんかを中断したギコさんと時雨が焦りの色を浮かべて彼の袖を引こうとした。だがそれよりも先に人影が一つ────古鷹が、高速艦とはいえ陸上でのフル装備とは思えぬ身軽さで砲弾と提督の間にするりと身を滑り込ませる。

「っつ……!」

天に向かって掲げられる、だし巻き卵を20人前は一気に焼けそうな大きな盾。息つく間もなく表面で火花が散り、轟音が地を揺るがし爆炎が辺りを照らし出す。盾越しにかかる爆圧に一瞬古鷹の身体が揺れたけれど、“海軍”式の黒い盾は全ての炎と衝撃を防ぎきった。

『ォオアアアアアアッ!!!!』

「発砲炎、別位置にて確───ops!?」

「あっ、すみません大丈夫ですか!?」

沖合の方からも弾丸が襲来するが、今度のそれは起爆すらせず“盾”によって受け流される。自分の方に飛んできた──といっても20mは頭上だが──砲弾に報告の声を上げた“海軍”兵が尻餅を突き、はじき飛ばした張本人である古鷹はすまなそうにまなじりを下げ謝罪した。

だけど、その少し慌てたような声色とは裏腹に、彼女の身体は既に反撃の動作に移っている。

「左舷砲雷撃戦用意……撃てぇーっ!!」
550 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/21(土) 23:19:39.82 ID:Ju5Lf/AP0
右手で尚も盾を掲げつつ、左手に装着した主砲をその下から突き出し、構える。二号型20.3cm連装砲が轟と勇ましく唸り、砲弾が煤けた夕暮れの空に弧を描く。

『ゴァ゛ア゛ア゛ア゛ッ!!?』

少し間を挟んで、海の方から一際大きな爆発音が断末魔を伴って聞こえてきた。

《統合管制機【Hedwig】より【Fighter】古鷹、海上航行中の軽巡へ級flagshipに直撃弾。轟沈と随伴艦隊の後退を確認した。

一撃とは流石の腕前だな、Good kill》

「ふふっ、これが、重巡洋艦なんですよ♪」

統合管制機からの手放しの賞賛に、古鷹ははにかんだように笑う。よく磨かれた卵の殻のように白く美しい彼女の歯が、夕日を反射して輝いた。

( T)「統合管制機【Hedwig】、意見具申だ。速やかに当艦隊のコールサインを【Mus」

《【Hedwig】よりコールサイン“フ ァ イ タ ー”、意見具申を棄却する。尚、貴隊のコールサインはリクマ=スギウラ准将以下上層部での決定事項だ》

( T)「死ね」

まだ諦めてなかったのね、提督……。

( T)「はぁ、萎えるわ……もぅマジムリ……ロマ殺そ……」

(*メ;゚ー゚)そ「突然の反乱宣言!?」

( T)「慌てんな落ち着けマッスルジョークだ。……ギコ、ここは大洗町のどの辺りだ!?」

(,,メ゚Д゚)「東光台近郊だ、艦砲射撃で景色が大分変わっちまってるが解る!」

ギコさんとしぃさんは、表向きの顔である警備府付の護衛部隊として四年をこの町で過ごしている。地理は完全に頭に入っているようで、提督の問いにも打てば響くが如く答えが返ってきた。

(,,メ゚Д゚)「前方150mの半壊してるビルが大洗オーシャンビューだ、間違いない!……クソッ、予想以上に滅茶苦茶にされてんなオイ!」
551 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/21(土) 23:21:28.27 ID:Ju5Lf/AP0
ギコさんの言葉に、私も脳内で町の地図を広げる。

空母艦娘として、戦場となる町の地形は頭に叩き込んでいる。景観が事前情報から様変わりしていても、地名さえ解れば現在地の把握なんて片手で卵を割るより簡単だ。

(東光台というと………ちょうど鎮守府と私達の目的地の中間点ぐらいの位置か)

私達の本来の目的地であった、大洗シーサイドステーションからは北東に約2kmの位置。そして更に北に向かえば、2.5km程で鎮守府がある。

改めてみると、東光台は拠点としてかなり重い価値を持つ。大洗海岸通りとここを立て続けに失えば、鎮守府と港湾施設の連携が寸断されて私達は各個撃破の様相を呈する事になりかねない。そして海岸から6、700m離れているここまで深海棲艦が入り込んでいたことを考慮すると、海岸通りの防衛線は話に聞いていた以上の惨状と考えて良さそうだ。

(あぁ、そっか)

ここでようやく、私は合点がいった。何故彼が、ホ級flagship等を駆逐しきった時点ですぐに動こうとしなかったのかを。

(,,メ゚Д゚)「で、どうするよ提督閣下。かなり離れてるがひとっ走り行ってシーサイドステーションになんとか合流を───」

( T)「────いや」

何故、シーサイドステーションから離れた位置に墜落したと知りながら、提督がしぃさん達に“陣地構築”なんて命じたのかを。





( T)「ここで、“大炎”を起こすぞ」

彼の“本能”が、そうさせたのだ。
552 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/21(土) 23:35:04.84 ID:Ju5Lf/AP0
提督の呟きにまるで応じるように、戦場の彼方此方で次々と奴らの砲が吠える。海上から、学園艦から、港湾部から、実に10発以上の砲弾が唸りを上げて飛来する。

(;メ*゚ー゚)「敵艦砲撃!!少なくとも10!!」

「たまご」

(,,;メ゚Д゚)「総員衝撃に備えろ!!!!」

「提督……!?くぅっ!!」

彼の言う“大炎”の代わりに、炸裂した砲弾によって周囲で次々と小規模な火災が発生する。内直撃軌道だった一発は、古鷹がかろうじて盾ではじき飛ばした。

( T)「すまん鷹さん、そのまま防御と反撃を頼む!なるべく派手に、奴らの注意をこっちに貼り付けろ!!」

「了解しました!!」

言うが早いか、盾を足下に落として両手の20.3cm砲を同時に放つ。左右別々の方向で海上に炎をまとった水柱が上がり、2匹分の断末魔が重なって町に響き渡る。

「はっ!」

直後、また新たな方角より飛来した弾頭二発。右足で蹴り上げてキャッチした盾を振りかぶり、羽子板の板のように、或いは卵焼きをひっくり返すときのフライパンのように振るう。下方から殴りつけられた砲弾がくるくると回転しながら空に舞い上がり、季節外れの打ち上げ花火よろしく大洗の空に大輪の花を咲かせた。

「たーまやー……って、ね……」

ノリノリで口にした台詞は、半ばで古鷹が我に返ったため最後の方は殆ど聞こえなかった。

顔真っ赤にして照れるなら最初から言わなければいいのに。そもそも“たまご”しかしゃべれない私が言うのも何だけどさ。

( T)「【Muscle】より【Hedwig】、敵艦隊の、特に大洗シーサイドステーションと大洗鎮守府方面に殺到している奴らの動きを教えろ!」

《………。【Hedwig】より【Fighter】、大洗鎮守府方面からイ級2、ハ級1が其方に向かった以外は目立った動きは見られない》

(#T)「Muscleだっつってんだろうがオルァアッ!!!!」

(,,メ#゚Д゚)「言ってる場合かボケェエエエエエッ!!!!」

あと、提督はいい加減諦めなよ。
553 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/22(日) 00:20:48.68 ID:sSjhzCeV0
《【Hedwig】より【Fighter】、再度繰り返すが貴隊のコールサインは上層部による決定だ。各部隊の混乱を避けるためにも変更は認められない》

(#T)「これだから信用できねえんだよなぁ、あの糞眼鏡はよぉ!」

まともな方のコールサインを選択しただけで信用を左右されるロマさんもたまったもんじゃないと思う。

(#T)「わあったよムカつく糞雑魚ナメクジなコールサインについては後回しだ!

お次は航空戦だ!雲龍、派手にぶちかませ!」

「────了解」

それまで周りの騒ぎなどまるで意に介すことなくマイペースにぼんやりと立っていた雲龍の眼に、その命令を聞くや否や産地直送され鮮度抜群な卵の黄身の光沢を思わせる輝きが宿る。

バサリと足下に広がる、マットレスを模した飛行甲板。無数の白い型紙がさながら意思を持っているかのように渦巻く中、その中心に彼女が両足を揃えて立ち尽くす。

「雲龍型航空母艦、雲龍、参ります」

右手に持たれた錯杖が、トンッと甲板の中心を叩く。一際強い風が吹いて、型紙が益々激しく荒れ狂いながら淡い光を放つ。

「第一次攻撃隊、発艦はじめ」

型紙から変化した99式艦爆が、彼女の号令一過一斉に飛び立つ。発動機【金星】を獰猛に唸らせながら、30を越える機影が空へと駆け上がった。

『『『────………!!!?!?』』』

「たまご!!!」

突然現れた新手の航空隊を迎撃すべく、なんとかグラマンの猛攻を生き延びていた【カブトガニ】の残党が最後の力を振り絞って押し寄せた。……だがそれらの機影の背後に撃ち上げた私の矢が、零戦に姿を変えて敵編隊を捉え足止めする。

多少は数で劣ろうが、私の妖精さんは既に疲弊損耗した航空隊に不意まで打って遅れをとるような子達ではない。

軽空母だって、頑張れば活躍できるのよ?
554 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/22(日) 00:57:39.30 ID:sSjhzCeV0
零戦部隊の敵制空隊足止めが功を奏し、損害を出すことなくその防空網を突破した雲龍の艦爆部隊。高度2000程度の位置まで一息に駆け上がった爆撃隊は、そのまま完璧に統率の取られた軌道で一斉に四方へ散開する。

程なくして聞こえてくるのは、急降下爆撃時に99艦爆が奏でる“ジェリコのラッパ”とはまた違った音質の風切り音と爆発音、深海棲艦のくぐもった悲鳴。

《【Hedwig】より各隊、【Fighter】雲龍による空爆の効果は絶大》

そして無線通信を賑わせるのは、統合管制機のオペレーター達が上げる戦果報告の声だ。

《大洗シーサイドステーション正面港湾部、急降下爆撃によりホ級flagship2隻が大破轟沈。また随伴艦多数に損傷、一部艦隊が後退。同拠点に後方より艦娘部隊の合流を確認した》

《大貫町方面に浸透中の敵艦隊、計4隻の轟沈により進軍停止。【Hedwig】より【War-Hog】、追撃し戦果拡大を狙え》

《大洗鎮守府施設に上陸していた二級eliteが沈黙、軽巡ト級も大破撤退。現在同施設にて艦娘部隊が再編・反撃に転じている》

《Taxi-07を鎮守府内に降下させろ!阿賀野、由良を中核火力として上陸済みの敵艦隊を速やかに駆逐しろ!》

《大洗海岸通り方面の敵艦隊も一時後退!Cargo-22、予定を変更し海岸通りに降下!搭乗部隊は展開完了次第敵艦隊に艦砲射撃を!》

《ひたちなか市方面に航行中の敵艦隊、急降下爆撃により旗艦イ級flagshipが轟沈し混乱している模様。Stork-19、正面に回り込んで【Hound-Dog】を海上降下させろ!》

《自衛隊F.O.Bより入電。Cargo-10がHyakuri-Airportに到着、合流を完了》

《他の後方に割り振った増強部隊も順次合流中。また、自衛隊側も在日米軍並びに“海軍”の反攻に合わせて更なる後方戦力の投入を開始する模様!》

普段は卵の白身だけ取り出して作った唐揚げの衣のように淡泊で味気ない声でやり取りする“海軍”のオペレーター達も、声に僅かだが熱を帯びている。30機前後の旧式爆撃機で上げる戦果としてはかなり規格外なものなので、目が肥えている彼らも驚きと興奮を隠しきれないらしい。
555 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/22(日) 09:33:43.63 ID:YRfzRo0g0
乙〜〜〜〜
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/23(月) 00:51:28.70 ID:kuXWHJgA0
おつおつ
無双っぷりもさることながら、提督もしつこいな(笑)
557 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/29(日) 23:04:17.01 ID:RkgsELyS0
無論、“規格外の戦果”とはいっても敵艦隊を壊滅できたわけじゃない。大洗町とその正面海域、並びに大洗女子学園周辺や甲板上には未だ何百という深海棲艦が健在で、撃沈できたのはあくまで一部に過ぎない。

本来急降下爆撃は“点”に対する打撃力と正確性を追求した攻撃法であり、言うなれば空戦における“狙撃手”のような存在。妖精さんの練度によっては必殺に近い威力を発揮する反面対多数の制圧力には欠ける。

幾ら地獄と謳われる鎮守府の艦娘でも、点の攻撃で面を制圧しろというのは不可能に近い。たかだか30機程度の爆撃機でこの物量の敵艦隊をを殲滅しようとするのは、生卵を投げつけて津波を食い止めろと言われているのと同義になる。

尤も、そもそも戦況をひっくり返すに当たって、“殲滅”する必要自体皆無なわけだが。

《Cargo-01 for All unit, One more!!》

《Go go go!!》

《Enemy AAR incoming!!》

《Break!! Break!!》

管制機からの指示を受け、増援部隊を満載した輸送機群が動き出す。当然海上や地上からは凄まじい量の対空砲火が撃ち上げられるが、各機は先ほどまで一方的に追い散らされるだけだったそれらを巧みにすり抜け、躱していく。

雲龍は、爆撃の殆どをflagshipやeliteに集中しその大半を確実に撃沈した。辛うじて生き延びた個体も、恐らくは大破でまともに艤装も動かせない状態であり無力化されている。

単純な戦闘能力も通常種に比べて高い上に、ヒト型や姫級・鬼級からの指示を仲介して下位個体に伝える役割もしていると見られる非ヒト型の上位種。それが展開戦力の内半分以上も失われたとなれば、当然指揮系統は混乱するし単純な艦隊火力の大幅な低下も避け得ない。

勿論敵艦隊の母数が母数なので、“大幅に火力が下がった”としても弾幕量自体は相変わらず膨大だ。それでも、片翼を失って尚、機内に重体者一人すら出さず瓦礫だらけの市街地に軟着陸するような腕前のパイロット達が揃っている部隊にとっては、突破する隙としては十分すぎた。
558 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/07/29(日) 23:10:37.09 ID:RkgsELyS0
弾幕を突破した輸送機の編隊が、統率の取れた動きで高度を下げながら大洗町上空全域に散開する。敵の航空戦力は既に“海軍”基地航空隊のグラマンと私の零戦部隊が掃討を完了し、制空権は確保された。

対空砲火さえ切り抜ければ、後は増援部隊を脅かす存在はない。下ろされたロープを伝って、或いは直接着陸した機体のハッチから飛び出して、完全武装の“海軍”兵と艦娘部隊が次々と戦場に展開していく。

《Taxi-07, 大洗鎮守府敷地内に降下完了!【Bravo】、総員展開しろ!Good luck!!》

《Stork-16、大貫町の敵艦隊正面に降下!自衛隊が交戦中、部隊は援護に回れ!》

《此方【Echo】、【Fighter】に代わりシーサイドステーション前に着陸を完了!大淀、砲撃開始だ!目標は正面敵艦隊!》

( T)「だからマッスr」

(,,#メ゚Д゚)「ちょっと黙ってろ脳味噌筋肉!」

無線機に次々と飛び込んでくる、展開を終えた部隊からの通信報告。その内の一つに提督が抗議の声を上げようとしたけど、ギコさんがすかさず一喝して無理矢理終わらせる。

本当に、提督のこの頑固さは一体どこからくるのだろうか。キングダムとムカデ人間と筋肉に関わる事柄では、この人の頭は長時間鍋の底に放置され冷め切った茹で卵の黄身より固くなるのだ。

(,,#メ゚Д゚)「しぃ、友軍部隊の展開状況は?!」

(*メ;゚ー゚)「【Echo】、【Bravo】、【Spencer】、【Lycaon】、【White Socks】、【Diamond】……私達【Fighter】も含めて、艦娘が加わっている部隊でめぼしいところは概ね降下展開を完了しているみたい」

尤も、私達は“降下”というより“墜落”だけど、としぃさんは苦笑いしながら付け足す。

ただし笑っているのは口元だけ。冗談めかした言い方ながら、彼女の目付きは引き続き真剣そのものだ。

(*メ;゚ー゚)「自衛隊並びに鎮守府・警備府艦娘の残存戦力と合流完了した部隊も多数。だけど、深海棲艦の攻勢は未だ止んでない。

寧ろ海上に新手の艦影が更に浮上、一度後退した艦艇も戦列を再編・反転してきたって」

「うぇえ……」

報告を聞いた時雨が、本っっっ当に心の底から嫌気がさした表情になる。

ロマさんの姿を直接眼にしたときより不愉快そうな彼女の表情を見たのは、おそらくこれが初めてだわ。

因みにゴキブリとロマさんだとロマさんに対する視線の方が4割増しぐらいでキツい。
559 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/07/29(日) 23:14:13.91 ID:RkgsELyS0
まぁ、表情については多分私も似たり寄ったりだろうからあんまり時雨のことを言えない。私だって、フライパンの底に焦げ付いた卵のような深海棲艦のしつこさには辟易しているのだから。

《【Hedwig】より【Fighter】、先ほど報告したイ級2、ハ級1からなr( T)「古鷹」

「了解です」

提督が無造作に指差した方に、古鷹が20.3cm砲を向けて三回打ち鳴らす。三つの爆発音の後に一キロほど先から断末魔が重なり、統合管制機のオペレーターが呆れたような声色で《All Enemy down》の一言を告げた。

( T)「雲龍、偵察機の準備は?」

「二式艦上偵察機、全六機が既に高高度にて旋回中。弾着観測はいつでも可能」

( T)「上出来だ。

古鷹、時雨、不知火、夕立!“二式”と視界共有、弾着観測射撃!!」

(#T)「存分に、ぶち殺せ!!」

「古鷹、了解しました!指名各艦は個別に照準、自由射撃開始!弾種撤甲、撃ちぃ方ぁ始めぇっ!!」

「はいはい……全く、か弱い美少女が長くいていい場所じゃないねここは!」

「弾種撤甲、了解。駆逐艦不知火、砲撃開始します」

「夕立、撃つっぽい!ぽいぽーいっ!!」

限界ギリギリまで引き絞った矢を解き放つが如き、提督の号令。指名を受けた四人は、全ての艤装を展開し文字通り全方位に最大火力を投射する。

《大洗第五警備府正面、軽巡ト級が【Fighter】古鷹の砲撃により完全に沈黙》

《Hit, Hit!! 浮上した軽巡ヘ級、頭部を失い轟沈!隣にいた駆逐イ級eliteも中破損害!》

《【Fighter】不知火の砲撃、大貫町方面にてト級に弾着。夕立の砲撃、一発はロ級、一発はホ級eliteに弾着。何れも目標の沈黙を確認》

時間の拘束は緩い代わりに提督が直々に矛を振るうこともある濃密な訓練と、日々の合間に各艦娘が行う訓練内容の“個人的な”反復。そしてどこよりも豊富な実戦経験が練り上げた、威力と速度を兼ね揃える艦砲射撃。

そこに偵察機の視界共有による“精度”が加われば、ごらんの通り。

《【Fighter】時雨、イ級flagshipを撃沈。Nice kill, Nice kill》

「時雨より管制機、偵察機から見えてるよ。解りきっていることをいちいち報告するだけを“仕事”と言い張るならいない方がいいんじゃない?」

《褒めがいのない駆逐艦だな………古鷹、撃沈10隻目だ。Good job》

彼女たちの放つ砲弾は今、一発一発が必中必殺の“銀の弾丸”だ。
560 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/07/29(日) 23:19:46.85 ID:RkgsELyS0
《【Hedwig】より【Fighter】、既に当方の艦娘戦力も80%が市街地への展開を完了した。彼女らが貴隊偵察機へリンクすることは可能か?》

( T)「m(,,#メ゚Д゚)「此方Wild-Cat、【Fighter】提督は脳味噌の不調につき俺が一時返答を代理する!雲龍、視界共有は未だいけるか!?」

「問題ない、妖精さん達もまだまだ余裕があるし、足りなければもう三機ほど上げることも可能」

(,,メ゚Д゚)「Wild-CatよりHedwig、リンク可能!各艦の視界共有は大丈夫だ!」

《了解。統合管制機より現在展開中の全艦娘に通達、【Fighter】が二式艦偵を発艦させている。各艦は妖精と視界共有、弾着観測射撃にて敵艦隊を撃滅せよ》

一般論として、母艦の艦娘以外との視界共有は映像の質が落ちる上に妖精さん達への負担も激増するため緊急時以外には多用されるべきではないとされる。況してや艦隊外の艦娘と、それも一機辺りが十数人と一度に精神・視界リンクを行うなど普通に考えれば正気の沙汰じゃない。

だが、艦娘のみならず妖精さんも“筋肉印”はひと味違う。私と鳳翔さんが二人がかりで調理した卵焼きのように。

《【Bravo】霧島、視界共有並びにマイクチェック完了!これより湾外より接近する敵艦隊へ艦砲射撃を行う!》

《【Echo】響、鎮守府より距離800の海上に更なる敵艦の浮上を確認したよ。イ級3、ロ級2の艦影あり。これより該当艦隊に砲撃開始するよ》

《This is【Diamond】, Flagship-KONGOU!!

Enemy ship spotted!! Open fire!!》

(*メ゚ー゚)「各艦、弾着観測射撃にて遠距離並びに湾内海上の敵艦隊への攻撃を開始!戦果順調に拡大中!」 

(,,メ゚Д゚)「雲龍、二式艦偵の妖精に異常は!?」

「問題は見られない、何れの妖精さんも健常。二式艦偵の増強の必要なし、各艦引き続き観測射撃を継続されたし」

私も雲龍の偵察機に視界をリンクさせているが、彼女の言うとおり妖精さんは平然としており疲労した様子は微塵も見られない。陸地側から伸びる砲火が深海棲艦を至るところで薙ぎ倒していく様が、最新の4Kテレビのような鮮やかさで私の脳裏に映し出される。

『『アァッ、ア゛ア゛ア゛ッ!?』』

『『ギ、ィ…………』』

ただでさえ、“海軍”には私達以外にもイカれた練度の艦娘・艦隊が揃っている。それらが数十人雁首を揃え、尽く抜群の性能で空から見下ろす“眼”を通して砲撃してくるとなれば、それは最早多少の「数的有利」如きでひっくり返せる差ではない。
561 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/29(日) 23:28:19.62 ID:RkgsELyS0
防衛線の戦況は完全に逆転した。一方的に、縁日の射的の景品よりも容易く撃ち抜かれ、深海棲艦の屍や残骸が凄まじい勢いで堆く折り重なっていく。

そして───これほどになって尚、戦闘というより只の射撃演習と表現した方が余程近い苦境になって尚、奴らはまだ攻勢の姿勢を崩そうとしない。

『『『ォオオオオオオオアアアアアアッ!!!!!!』』』

《【Hedwig】より【Fighter】、湾内複数地点にて合計20隻程度の敵艦隊の浮上を確認。全て非ヒト型だが内約半数がelite、或いはflagshipクラスだ。

尚、この艦隊は全て進路を大洗海岸通り方面に取っている。恐らく、上陸後は東光台方面に浸透するものと思われる》

《此方大洗鎮守府、【Bravo】霧島より【Fighter】!!当地点正面に展開中だった敵艦隊から10隻を越える艦が離脱、海上を南下中!予想上陸地点は敵艦隊の進路から大洗海岸通り付近と見られます!》

《【Echo】大淀より【Fighter】、海上の敵艦隊からホ級elite2、ハ級flagship3が進路を当地点より変更!貴隊展開方面へ最大速にて進軍中!

また、共闘中の自衛隊より陸路を通じて東光台に進軍する敵艦隊を確認したとの報告も複数あり!注意を!》

敵の旗艦は、分散しての“平押し”では最早戦況を再び打開することは不可能と踏んだらしい。まるで特売用にかき集められて半額シールを貼られて棚に並べられる卵パックのように、あらゆる方角から敵艦隊が私達の方へ集結しようとしている。

考え方としては、決して間違っていないと思う。さっき脳内の地図でも確認したとおり、私達が今いる“東光台”という地は大洗鎮守府と港湾部とを結ぶ中間点の一つ。ここに浸透攻勢をかけて大洗町全体を寸断し南北双方への側面攻撃をかけられれば、学園艦から未だ投射され続けている支援砲撃の火力と併せて再び全方面で押し込むこともできなくはない筈だ。
562 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/08/01(水) 12:15:50.85 ID:nkx3sFGUO
お誂え向きな事に、その重要拠点に最短距離の上陸地点である大洗海岸通りはがら空きだ。この地点を守っているはずの艦娘と自衛隊は、殲滅されたか退却したか姿がない。flagshipとeliteだけで併せて30に迫る戦力を水際で迎撃されることなく送り込める“隙”を、敵の旗艦が見逃す理由はない。

そして何より、この戦況の逆転は私達の本格的な交戦開始を境に発生した。勿論私達が全てお膳立てしたというほど自惚れはしないけれど、贔屓目抜きにして少なくとも親子丼に入れる溶き卵程度の貢献にはなるだろう。

勝負事の“流れ”という、非科学的で人間くさい存在を奴らが信じているかどうかは解らない。ただ、戦闘の潮目を変えた私達を要衝から駆逐し、再び奴らの“流れ”へ持ち込もうとしているのだとしたら───それも十分な理由として上げられるかもしれない。

そう。戦況を鑑みれば、深海棲艦達が総力を挙げてこの地の奪還を目指すことは至極自然。この町の地理さえ頭にあれば、せいぜい戦略ゲームを多少やったことがある程度の知識量でも奴らが東光台の制圧を狙う理由はいくらでも見つけることが出来る。

『『『ォアアアアアアアッ!!!!』』』

《HedwigよりFighter、敵の別動艦隊は大洗海岸通り正面に上陸中。数は現時点で貴隊艦隊戦力の4倍から5倍、更に後続部隊も接近中》

( T)「マッ……わかったよギコホントに我慢するから睨むな。

俺たちの方でも確認した、クソ雑魚ナメクジが群れなしてやがる」

無論、統合管制機のオペレーター達もその事を知っていた。だからこそ彼らは、あえて私達の下に(単に必要なかったというのもあるけれど)増援を送らなかった。

私達もまた、こうなることを知っていた。だからこそ私達は───私達の提督は。








《HedwigよりFighter、陽動を感謝する》

ここで、“大炎”を起こしたのだ。

《Ticket-01、Ticket-02、海域に突入。【Blizzard】、【Cubs】を敵艦隊後方に投下しろ》

《01, Roger》

《02, Roger》
563 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/01(水) 12:20:12.58 ID:nkx3sFGUO
管制機からの号令直後に、南の方から現れた二つの機影。30Mもないような海面スレスレの高度を、私達が乗ってきたのと同じ種類の機体───V-22B【オスプレイ】が駆け抜けていく。

それまで雲龍や私の航空隊を追い回していた敵の対空砲火が慌てて其方に指向するが、防空網は戦線の再編や発生した損害に伴い増援部隊主力の大挙着陸を許したとき以上に穴だらけだ。加えて急激な対象変更となれば当たるわけもなく、二機のオスプレイは悠々と空域に滑り込む。

《01、ポイントに到着!

All Ladies, Go go go!!》

《02ポイントに到達、ホバリングに移る。

敵砲火は疎らとはいえ長居は出来ない、速やかに降下しろ!敵は手強いぞ、しっかりぶちのめせ!!》

《了解です!》

《Yes sir!!》

鳥が卵を産むように、開かれた後部ハッチから“艦影”が眼下の海へと飛び降りる。限界ギリギリまで高度を下げたとはいえ、完全装備の艦娘を投下となればその重量と落下時の衝撃は凄まじい。彼女たちが着水する度に、砲撃の着弾と見紛うばかりの水しぶきが次々と上がった。

《【Blizzard】、全艦展開を完了しました!これより戦闘を開始します!》

《Fleet-Cubs, Arrival on point!! All unit, Weapon-Free!! Open Fire!!》

『『『ガァアアアアアアアアアッ!!!!????』』』

誘蛾灯に引き寄せられる虫けらの如く、深海棲艦達は提督の起こした“大炎”に眼を奪われ、前のめりに戦力を投入した。結果がら空きになった背後に降下した虎の子の“連合艦隊”からの砲撃が、容赦なく敵艦隊の背から降り注ぎ、撃ち抜き、薙ぎ払う。

《【Cubs】Flagship、Iowaより【Hedwig】!敵艦隊は混乱しているわ、一気に畳掛ける!

ヘイ、ブッキー!ぶちかますわよ!!》

《ブッキーってまさか私のことですか!?っていうかもう突撃開始してる!?

ぶ、【Blizzard】旗艦、吹雪!【Cubs】の援護に回りつつ突撃!!陸地側と敵艦隊を挟撃します!!》

水上打撃艦隊による、主砲一斉射からの肉薄突撃。陸地側から正確無比な砲火が間断なく飛来する中で死角から敢行されたそれに、対処する術を敵艦隊は持ち得ない。また吹雪、Iowaらが着水から瞬く間に完全な乱戦まで持ち込んだことで、学園艦上からの援護射撃も友軍相撃の危険性から目に見えて勢いを失っていた。

一方的な蹂躙が、虐殺が、始まる。
564 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/01(水) 12:27:17.35 ID:nkx3sFGUO
《【Hedwig】より【Blizzard】、戦闘開始直後に自衛隊が湾内で発見した潜水艦棲姫の存在がその後確認できていない、捜索し発見した場合最優先で撃沈しろ。

海上保安庁の巡視船【AKITSUSHIMA】を沈めた奴だ、警戒は怠るな》

《了解!五十鈴さん、対潜警戒を厳に!特に水探の反応に注意を!》

《解ったわ!対潜なら五十鈴にお任せよ!》

《【Cubs】、君たちは対潜能力に劣る、潜水艦棲姫がジャックポット狙いで其方へ奇襲をかける可能性g》

無線通信の音声が、分厚い布を暴風の中ではためかせているような音に遮られる。足下に影が射し、頭上をヘリが数機で編隊を組みながら通過する。

海軍のものでもないし、輸送ヘリでもない。アレは確か、陸軍……じゃなくて陸上自衛隊が使う戦闘用の回転翼機。私の記憶が正しければAH-64D【アパッチ】とかいう名前だったと思う。

戦場に現れた四、五個の【アパッチ】編隊は、一気に沿岸部まで押し出すと水際や湾内の敵艦隊に向かってロケット弾や機銃の雨を降らせる。四分五裂状態でまともな迎撃能力がない状況下での空襲は効果的を通り越して完全なオーバーキルであり、屍が増える速度が更に跳ね上がった。

『ォオオッ、オオオオオッ………』

大きさからflagshipクラスと思われるホ級が一体、大洗海岸通りの辺りに上陸しながら忌々しげに空を見上げる。が、たちまちその周囲にアパッチが群がり、四方からのミサイル掃射で瞬く間に沈黙させた。

《自衛隊F.O.Bより当機に入電。“海軍”並びに在日米軍部隊の合流に併せて、後方部隊が再編の上順次前線へと投入されている。

“海軍”各隊は自衛隊戦力並びに現地艦娘部隊と連携し敵艦隊を引き続き掃討、沿岸部の当面の安全、湾内の海上・航空優勢を確固たるものにせよとのことだ》

「………何さ」

管制機からの通信に対し、時雨が艤装を下ろしながらまた卵の如く頬を膨らませる。さっきのは只の茹で卵だったが、今度は大きさ的にダチョウの卵ぐらいにはなりそうだ。

そしてそれは、そのまま彼女の不満の大きさを表すものでもある。
565 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/01(水) 12:43:01.20 ID:nkx3sFGUO
「ズッタボロにされてたくせに今更しゃしゃり出てきて人の獲物を取るなんて、マナーが為ってないね」

(,,メ゚Д゚)「……」

ギコさんが、自分の前に出されたゲロをスクランブルエッグだと言い張られているかのような目付きで時雨を見た。「お前その口の悪さでよくも他人のマナーが云々言えたな」的な言葉がのど元まで出かかっていたんだろうけど、辛うじて飲み込んだようだ。

賢明な判断ね、もし我慢できず口にしていたら彼の膝小僧には致命的な一撃が叩き込まれていたに違いない。

「だいたい、あいつ等がウチの提督やあのクソ眼鏡の忠告を無視した結果がこの有様だってのにさ!」

声が少し大きくなったのは、単純に苛立ちからか、或いは迫ってくるヘリ部隊第二波のローター音に遮られるのをよしとしなかったからか。一直線に飛んでいったアパッチの群れは、私達の正面から接近しつつあった敵艦隊に雨のようにミサイルを浴びせ始める。

とりあえず、この調子ならあの東光台奪還部隊もすぐスクラップになりそうだ。私も、偵察機との視界共有を切り一応手に持っていた矢も腰元の筒にしまう。

……実際、時雨のこの怒り様は“またもや自分の獲物を横取りされた”事からくるものであり、言ってしまうなら完全な八つ当たりに過ぎない。無論提督の件があるので自衛隊やお上をよく思ってはいないだろう──尤もそれは私達の大半に当てはまる──けど、少なくともこの件については自衛隊や指揮下艦娘に対して本気で言葉通りにキレているわけじゃない……と思う。いや解んないなこの子夕立とは別ベクトルでおバカだし。

だけど、時雨の言葉に正直頷きざるを得ない部分はある。

強固な海上防衛線を擦り抜けるようにして現れた、深海棲艦による要所の強襲・占領。その手法自体は、開戦当初の東南アジア諸国に始まりキュラソー、リスボン、青ヶ島、ベルリン、北欧、そしてムルマンスクと幾度となく実行されてきたものではある。

だけどロマさんと私達の提督は、珍しく意見を一致させていた。

大洗女子学園が通信途絶に至るまでの経緯や敵の展開の仕方から、この件は“ムルマンスク”に近い、と。
566 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/01(水) 15:40:52.84 ID:YcxJ8UTD0
更新おつです
蝶野一尉たち戦車隊は助かったのか?
567 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/03(金) 14:49:36.09 ID:vJGxUYYA0
おつおつ
局面を一蹴するのは流石だけど、震源地はいかほどか…
568 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/06(月) 19:19:18.62 ID:QruJgrB/0
続きがいま一番気になるわ。待ってる
569 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/08/07(火) 22:59:27.34 ID:5Rjb8J6V0
ロシア連邦への内陸浸透こそ防いだものの、ロマさん自らが陣頭指揮に立つなど“海軍”が全力で支援して尚勝利には町一つ丸ごとを犠牲にしなければならなかったムルマンスク。

寄生体、幼体から変異した新型の駆逐艦種、鎮守府所属のロシア軍まで巻き込んだ町を挙げてのクーデター、そしてイスラーム勢力の介入………過去には無かった種類の事象が数多く絡んだことや、ある程度経緯を知っていたであろう同鎮守府の提督が戦死していたこともあって、大本営の方でも未だにその解析は進んでいない。

今回この町がもしムルマンスクと同様の事態に陥りつつあるとするなら、“海軍”の経験さえ役に立たない可能性が高くなる。故に二人は、早い段階から様々なルートを通じて自衛隊には「深海棲艦を刺激するべきではない、増援の到着まで動かない方がいい」という“意見具申”を繰り返していた。

恐らく日本艦娘艦隊の“元帥”や、この間鎮守府に来ていたデメキンを生卵でコーティングして光沢をつけたような顔面の総理大臣からも似たようなニュアンスで指示は出ていたと思う。にもかかわらず威力偵察という形で前線部隊は学園艦に接触し、深海棲艦の大規模な攻勢を招いた。

(まぁ、向こうにもいろいろあったとは思うけどね)

世界は、私達の提督のように脊髄と気分で動く単純なものではない。況してや自衛隊は、今や世界屈指の軍事組織である一方そもそも正式には軍隊ですらないという、筋金入りにややこしい存在だ。今回の“威力偵察”についても、向こうにのっぴきならない事情があったことやその内実は概ね予想がつく。

だが内実がどうあれ、その行動の“結果”が重く厳しいものであることには変わりが無い。

威力偵察による敵艦隊挑発の“結果”、その初動で大洗町防衛線は早くも甚大な打撃を受けた。

(どれぐらい、やられちゃったのかな)

町の惨状を、改めて眺める。ここに自衛隊や自衛隊付の艦娘が具体的にどれ程の兵力で展開していたのかは知らないが、広がる光景からどれ程の損害が出たのかについては想像に難くない。

そしてそれは恐らく、世界規模の侵攻によって国内外何れの地域からもこれ以上の増援・戦力補充は今しばらく見込めない現状にあっては、致命的という表現すら過言ではない事態のはずだ。
570 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/08/07(火) 23:01:15.79 ID:5Rjb8J6V0
当然深海棲艦側も無傷じゃない。私達が到着した段階で沿岸部や湾内に展開していた敵艦隊は、そのほぼ全てが今や海の底に沈むか、地上で穴だらけの骸を晒している。戦闘がほぼ終結し暇を持て余した時雨が提督へのカンチョーを企て、無事見つかり頭を鷲掴みにされていた。

「イダダダダダダダダ、美少女にしていい仕打ちじゃないよこれ!」

( T)「カンチョウは美少女に許されるアクションとでも言うつもりかよまた渋谷がパニックになるぞ」

(,,メ;゚Д゚)「あれアンタらが原因だったのかよ……雰囲気ヤバすぎてS.A.Tと陸自の出動が本気で議論されたんだぞ。つーか何がどうしたらあーなるんだ」

白露型駆逐艦の次女が宙づりにされながら卵の殻を破ったばかりの雛のように藻掻く横で、手空きなのを良いことに私もまた思考する。

(百数十隻規模の、それもeliteやflagshipが1/3以上も攻勢に含まれた艦隊の壊滅。リスボン沖で投入された戦力と同規模が全滅したと言い換えれば、普通なら再起不能の大打撃。

だけどその中には、“ヒト型”が1隻も含まれていない)

事前情報では湾内に居るはずの潜水艦棲姫は、【Blizzard】が捜索しているものの現時点で痕跡すら見つかっていない。沖合から盛んに砲弾を飛ばしてきていた大洗女子学園の敵主力艦隊も、重巡リ級の1隻さえついぞ寄越すことは無かった。更にいえば、【Blizzard】と【Cubs】が投入されてからも攻撃を中断して撤退する機会は幾らでもあったにもかかわらず、奴らは最後まで様々に手を変えて攻め寄せてきている。

推測だけど、形勢が定まった段階で敵の旗艦は攻勢艦隊を“威力偵察”として使い捨てることにしたのだと思う。内陸浸透自体は本気で考えているにしろ、少なくともさっきまでの攻勢に“全力”は注ぎ込まれていない……私としては、そういう結論に行き着きざるを得ない。

(逆に言えば、非ヒト型とはいえ20個強の艦隊をただの捨て駒扱いにしても困らない程度には、向こうはまだこの町に投入できる戦力を温存してるって事よね。

………かなり高い確率で、大洗女子学園甲板上の主力艦隊以外の戦力を)

“どうやって”の部分については、考えるだけ無駄なので省く。だが例えば、既に湾外かつ防衛線の内側の海域のどこかで敵の海中拠点のようなものが建設されていたとすれば………その物量差は、私たちが当初想像していたものの何倍にも、何十倍にもなり得る。いかに“海軍”艦隊といえど、練度で跳ね返せる物量差、戦力差は無限じゃない。

保有戦力が未知数で、その主力艦隊は温存され、湾外のどこかに根拠地を持つ可能性があり、しかも外洋からは新型の棲姫と膨大な後続戦力が押し寄せつつある敵艦隊。対する私達はほぼ現有戦力のみに限られ、その“限られた戦力”は初動段階で大損害を受け摩耗した状態だ。

判断材料を並べれば並べるほど、浮き彫りになる私達の不利、覆しようのない戦況。私は、思わず顔を覆ってしまう。

全く、ロマさんは私達になんて戦場を割り振ってしまったのだろう。

「………たまご」

   、、、、、
なんて楽しい場所を、割り振ってくれたのだろう。
571 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/08/07(火) 23:04:06.77 ID:5Rjb8J6V0
口角が、思わず吊り上がる。鳳翔さんの作った絶品卵焼きを初めて食したときと同じ様な、歓喜と至福の笑みを浮かべてしまうのを止められない。

そしてそれは、私だけではなかった。

「………」

国語辞典の「マイペース」の項目に、関連単語としてその名前が載っていてもおかしくない雲龍も。

「まだまだ、新しい“遊び”、できるっぽい?」

「……えぇ、できるわ。まだまだ、沢山」

映画【ミスト】で絶叫し、【エイリアン】で号泣し、【プレデター】で不眠症になり、【キャビン】で卒倒し、【パラノーマルアクティビティ】はパッケージを眼にした瞬間粉砕を試み、【ムカデ人間】で深刻なトラウマを抱えた夕立も。

日頃は、提督からZ級映画講義を受けているときくらいしかまともに表情筋を動かさない──正直本当にあの趣味は理解できない──不知火も。

「っつー……駆逐艦の可愛いおふざけにアイアンクローなんてするかい普通?」

ついさっきまで、提督のお仕置きを受けていた時雨も。

( T)「一般的な“可愛い駆逐艦”とやらがマッチョの締まりのいいキツキツのケツ穴に指突っ込みたがるわけねえだろ」

「言い方!」

そして恐らくは、マスクの下の提督の顔も。

誰もが、私と同質の………或いは、私以上の、殺意と歓喜が浮かぶ笑顔で眼前の海を眺めている。古鷹だけは少し困ったようにまなじりを下げていたが、私達を咎めるようなことはない。

艦娘が正義の味方と信じる人々も、艦娘を前大戦の亡霊だと忌み嫌う奴らも、私達の様子を見ればきっと口を揃えてこう言うだろう。

何故、そんな表情(かお)が出来るの?と。

もしも本当にその質問をされる機会があったなら、私達は迷わずこう答える。

楽しいから、と。
572 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/07(火) 23:31:38.05 ID:5Rjb8J6V0
(,,メ゚Д゚)「……こういう時、相変わらずゾッとするような笑み浮かべるなお前等は」

「たまご」

どこか複雑な感情を抱えたギコさんの言葉に、返答代わりに肩を竦めてみせる。

自覚はある。深海棲艦から国を守り、人々を守るために造られた“平和の象徴”たる艦娘が、闘争と流血と硝煙を渇望して笑うのだ。どれ程歪かなんて、人に言われずとも理解している。

だが同時に、こうも思う。丁度良いじゃないかって。

全員ではないが、私達の多くは艦娘として一度死んだ……殺された身だ。裏切られ、陥れられ、利用され、捨てられ──まぁ、ごく一部は自業自得の罪だけど──、存在意義を否定されて、あの廃墟のような鎮守府へと流れ着いた。

ならば、“死人”がいつまでも生者の規則、生者の倫理観に則ってやる義理はない。私達は私達のやりたいようにやらせて貰う。

「……それで?この先のことについて、何か改めていうことはあるかい?提督」

( T)「んなもんはその時になったら言うわ脊髄で指示出してる人間に長期的戦略とか求めんな」

(,,メ゚Д゚)「仮にも佐官級の艦隊提督がお前……」

( T)「ただまぁ、そうだな。一応、今回の大まかな方針については改めて伝えとく。逆に言えば、これと轟沈しないって点さえ守るなら後は指示がない限り好きに暴れろ」

人類の希望だの、海の女神だの、正義の味方だの、平和の使者だの、そんな首筋に生卵でも垂らされたみたいにサブイボが立つ役割は、使命感に燃える普通の艦娘に任せればいい。








( T)「クソ雑魚共を皆殺しにしろ」

「「「「了解(っぽい)!」」」」

「たまご!!」

地獄に落ちた私達には、戦場で血みどろになりながら嗤う悪鬼の役の方が、よっぽどお似合いだ。
573 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/08(水) 14:42:09.94 ID:N68ha71G0
更新乙です
多勢に無勢で笑う娘たちでも、局地的な勝利はあっても大勢は引っくり返せないのでは…
574 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/08(水) 16:23:57.67 ID:T9TuXiqqo
居酒屋たくちゃんの回をずほ視点で書いてほしいくらい饒舌なモノローグやな……
575 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/09(木) 23:02:59.02 ID:54EtZSJI0
………ところで、少し話題を変えようと思う。

実は、【Blizzard】と【Cubs】の投入によって深海棲艦側にに致命的な混乱が生じ、現時点での戦況がほぼ確定した辺りから、私たち全員が意図的に視線を外していた“一角”がある。

「ウフ、ウフ、ウフフフフフフ」

( T)「猫山“海軍”少尉」

(,,゚Д゚)「何ですか提督閣下」

( T)「ウチの艦隊の笑顔がどうのこうの言う前にアレをなんとかしろや」

(,,゚Д゚)「すんません無理っす」

( T)「お前……即答ってお前……」

ギコさんの肩を掴み小声で囁きながら、提督がその“一角”を親指でさす。私もつられて、ちらりと其方を伺う。

::(* ¬ )::「イヒッ、ウフッ、フヒッ、ヒヒヒヒヒッ、ヒヒヒヒヒヒッ」

「たまご……っ!」

視界の端に“それ”が僅かに映った瞬間、すぐに自らの軽率さと好奇心を呪いつつ再び目をそらした。以前秋雲から都市伝説の“くねくね”について聞いたことがあるけど、実在するならきっとあんな動きなんだと思う。……というか、アレは人間の関節で為せる動きなのだろうか。

椎名美子。

日常においては朗らかで優しいお姉さんである一方、戦場においては聡明かつ勇敢な“海軍”少尉。ロマさんが陣頭指揮に立つときにはだいたい周辺警護を任されるなど、上層部からの信任も厚い。私たちとの共同作戦にも度々参加し、あの時雨でさえ懐く程度にはウチの鎮守府でも一目置かれている存在。
……序でに言うと、ナイスバディには程遠いがスレンダーな体型で背も高く、一般的に見て結構な美人でもある。

そんな彼女……しぃさんの、提督やギコさんから錬金術とまで称された壊滅的な料理の腕前と肩を並べる重大な欠点。それがこの、“逆境フリーク”ぶり。

単にウォーモンガーというだけなら私たちの方が余程重症だけど、しぃさんの場合「自分たちが追い詰められている・苦戦している戦場」という“ツボ”が存在する。
大洗町防衛線が置かれた状況は、言うまでもなく彼女にとってはビールの横に置かれたできたてほやほやの卵焼きに勝るとも劣らないベストマッチ。ど真ん中160kmストレート級のドストライクだろう。
576 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/09(木) 23:17:27.57 ID:54EtZSJI0
では、その“ドストライク”な戦場に立ち会ったとき、彼女に何が起こるのか。

:::(* ¬ ):::「ウブヘヘヘヘヘヘヘ」

答えはこれ。菜箸でかき混ぜた溶き卵よりも原形を留めないキャラ崩壊だ。

(*゚¬ )「ヒッ、ヒッ……タノシミダナァ……クヒヒ…ッ!」

「うわ……うわっ」

ホラー映画でだって滅多に耳にしないレベルの不気味な笑い声を上げながら、益々激しく身体をくねらせる──気配でわかるって相当だよ──しぃさん。宇宙の彼方からなんかの邪神を召喚するための儀式と間違われそうなその姿に、この状態は初めて見た雲龍が心の底から恐怖した様子で声を漏らしている。

不知火や弥生とはまた異なるベクトルであまり表情筋を動かさない雲龍が今どんな顔つきをしてあの声を出したのかは興味があるが、其方を振り返ると自動的に(元)しぃさんを視界に収めることになってしまうのでぐっと我慢。視界の端を掠めただけであのダメージだ、まともに眼にすれば1d10/1d100のSANチェックは免れないだろう。

雲龍以外の私を含む面々は初見じゃないけど、何度見ても慣れるものじゃないし今回の“崩壊”は何時もの数倍酷い。夕立などは完全に怯えきり、あと一回でも振り向いたら即座に死ぬ病にでも罹っているかの如く全身を強張らせて直立不動を維持し動こうとしない。古鷹の笑みもあからさまに強張り、不知火の顔色は【ソドムの市】とかいう映画の24時間耐久レースをやってたときよりも青ざめている。

唯一時雨はあまり反応していないように見えたが、よく目を懲らすと彼女の指先はまるではぐれまいとする幼子のように提督の服の裾をしっかりと摘まんでいた。……日頃の言動はニャルラトホテプも肩を竦めて宇宙へ帰るレベルのアレがあそこまで怯えるってしぃさん凄いな。

そういえば夕立ほど極端じゃないにしろ時雨もあんまりホラーは得意じゃないって叢雲が言ってたっけ。
577 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/09(木) 23:40:03.41 ID:54EtZSJI0
( T)「………えっ、なにきっしょ」

「五月蠅いな!ちょっと指が寒いんだよ!」

( T)「ピンポイントに右手の人差し指と中指と親指だけ寒くなるってどんな特殊症例だよ。しぃにビビりまくってるの丸わかrンゴフッ!!!」

時雨が伸ばした左手が提督の右乳房の先端を的確に捉え、思い切り捻り上げる。マスク越しに、くぐもった悲鳴を彼が漏らした。

あっ、また頭鷲掴みにされてる。

「ああああああああギブギブギブ頭割れる頭割れる!!」

( T)「おいギコ、いい加減マジメに止めろ。こいつですらここまでビビるって相当だぞ」

「だからビビってnイダダダダダダッ!!!」

(,,゚Д゚)「了解。……オラしぃ、いい加減戻ってこい」

(*;XーX)「痛っ!」

ギコさんがおもむろに近づくと、平手でしぃさんの頭に一撃。途端、しぃさんのくねくねが停止する。振り向けば、さっきまで半熟目玉焼きの黄身のように崩壊していたであろう顔面もすっかりいつもの優しげな風貌に元通りだ。

壊れたテレビに対する昭和の対処法みたいな治し方だけど、この辺りの機微は流石昔馴染みといったところか。

(*;゚ー゚)「あ、アレ?ギコ君?」

(,,゚Д゚)「いつまでトんでんだアホ。自衛隊の後続部隊が間もなく到着する、“海軍”の恥になる前に早いとこ正気に戻っとけ」

(*;゚ー゚)「あっ、はーい……ごめんなさい……」

( T)「あん?なんで今更自衛隊が来るんだよ」

(,,゚Д゚)「なぁ提督閣下、指揮官たるもの戦況把握のために無線にもう少し気を遣ってもバチは当たらんと思わねえか」

( T)「めんどい」

(,,゚Д゚)「死ね」

( T)「てめえが死ね」

(*;゚ー゚)「あの、二人とも……さっきまで錯乱してた私が言うのも何だけどここほぼ納まってるとはいえまだ戦闘中のエリアだから……」

ギコさんと提督がメンチを斬り合う中、私は無線を心持ち深く指で押し込み音声に耳を懲らす。

なるほど、内容をざっと聞いた限り、少なくとも現時点で湾内に存在した敵艦隊の掃討をほぼ終えたことによって自衛隊による防衛線の再構築が本格的に始まっているらしい。統合管制機に入った百里基地のF.O.Bからの報告によれば、この東光台にも陸自・海自・艦娘の連合部隊が急行中とのことだ。
578 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/10(金) 11:09:47.96 ID:Q9oV8/7A0
これはひどいww
普段優しい相手だけに対処のしようがねえww
579 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/11(土) 23:03:55.67 ID:uxo1vhXg0
《……なお、東光台に派遣された第一波はSBUとC.R.Rを主力とし、これに艦娘戦力として航空巡洋艦の鈴谷、駆逐艦の暁、電、それから航空戦艦の日向が加わっているとのことだ。この第一波は後1分ほどで其方に────》

(結構強力な戦力出してくるのねぇ)

【Hedwig】から送られてくる増援部隊の情報に、少しの驚きを覚える。

SBUにC.R.Rといえば、それぞれ海自と陸自の精鋭部隊だ。特に後者は東南アジア解放戦において私たち艦娘とも肩を並べて戦い、豊富な実戦経験を積んでいる。恐らく、国内の“人間”を主力とした部隊では最強の存在に違いない。

そこに更に艦娘が四人、内日向は“航空戦艦”だから改装済み。それもこの内容はあくまで“第一波”であって、今後続々と後続部隊が投入されるという。

まぁ重要拠点なので、戦力を投入して防衛線を補強すること自体は別段不思議ではない。ただ、既に空母を含む一個艦娘艦隊に+αの人員まで揃っている場所に送り込む戦力としては、些か過分と言わざるを得ない。

どうも百里基地F.O.Bからの“海軍”に対する信頼は、錦糸卵に使う卵焼きよりもぺらぺらなようだ。

(まぁ、仕方ないっちゃ仕方ないか)

ギコさん達の様に“兼任”している隊員を除けば、元帥を始めこの組織の存在を知っている自衛隊の人間は上層部の一握りに過ぎない。アメリカ国防省が多分に歪曲を加えて存在を公表していたが、リアルに「こんなこともあろうかと」をされてもそんな得体の知れない組織を信じろというのはなかなかに無理難題よね。
580 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/11(土) 23:05:44.67 ID:uxo1vhXg0
そんなことをつらつらと考えていると、ふと、背後から聞こえる車のエンジン音に気付いた。コンクリート片をタイヤが踏み砕く「パキパキ」という乾いた音を伴ったそれは、猛烈な勢いで近づいてくる。

再び振り向くと、丁度迷彩柄の大型トラックが四台、瓦礫の山を蹴散らしながら私たちの方に向かってきていた。

「現地到着、現地到着!総員降車、総員降車!」

「車外展開後は陣地構築だ!迅速に行動しろ、1分後には深海棲艦の攻勢が再開されるかも解らん!」

「既に国連“海軍”部隊が展開を完了しているぞ!合流を急げ!」

四台は、乗せられているのが産地から運ばれる卵なら間違いなく全滅していたであろう荒々しい運転の下、雲龍の真後ろの辺りで次々と停車する。

【Hedwig】が言っていた増援の第一波なのだろう。後部の荷台には兵員が満載されているらしく、口々にがなり立てるような声と共に幌が揺れた。

「……ホント、随分な重役出勤じゃないか」

(,,゚Д゚)「現役としては耳が痛いな。

よし、Wild-Cat各位は自衛隊と合流、共同で陣地構築を行う!Fighterはここで待機を─────」












(;´_ゝ`)「クソッ、見事に町中壊滅しちまってるじゃないか!もっと早く俺たちも投入できなかったのか!?」

(´<_` )「上層部にもいろいろ事情があるんだろうさ。ぐちぐち言うな兄者、その姿じゃとても流石とは言えないぞ」

先陣を切って車内から飛び出したのは、どちらかが鏡に映した像なのではないかと疑うほどそっくりな顔をした二人の海自隊員。

(,,゚Д゚)「」

ギコさんの動きが、瞬間冷凍でもされたみたいにピタリと止まる。
581 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/11(土) 23:15:21.98 ID:uxo1vhXg0
本当に、鮮やかな移り変わりようだった。

(,,゚Д゚)(*゚ー゚)

(,,;゚Д゚)(*;゚ー゚)

(,,B゚Д゚)(*B゚ー゚)

肌色から、イースターエッグの配色として使われても違和感がないほど真っ青に、ついで剥きたてほやほやの茹で卵の表面の如く真っ白に。さながらアニメイション映画の登場人物のように二人の顔色が変化していく様はどこかコミカルで、二人には大変悪いと思いながら正直笑いをこらえるのに苦労した。

「少尉?えぇと、指示はどのように」

( T)「……おいギコ、どうした?」

(,,;゚Д゚)「いや、その……だな……」

(´<_` )「鈴谷、日向さん起こしてくれ!」

「チィーッス……ってうわっ!想像してた以上に滅茶苦茶じゃん……」

ギコさん達が硬直している間にも、自衛隊の増援は着々と戦力の展開を始める。双子と思われるその兵士達のすぐ後に鈴谷──勿論私たちの鎮守府とは別の子だ──が顔を出し、市街地の光景に眼を見開いた。

「七警があった方も煙上がってる……加賀さん、大丈夫かな……」

(´<_` )「大洗鎮守府からウチの加賀は無事保護されたと報告があった。小破状態であっちの明石から修繕を施されてる最中だそうだ、安心しろ」

( ´_ゝ`)「電ちゃんと暁ちゃんは対空警戒を厳に!敵機来襲時は俺たちや提督の指示を待たず速やかに射撃を開始するように!弟者、あちらさんの指揮官を叔父者のところに案内しといてくれ!」

「なのです!」

「了解……って、れでぃなんだからちゃん付けなんてしないでよ!」

(´<_` )「はいはい、れでぃれでぃ。

で、アレが噂の国連海軍………と……」

(゜<_゜ )

弟者と呼ばれた士官が此方を向き、指揮をしている人物を探そうとしたか私たちの列を見回す。その目線がギコさんとしぃさんのところに達したと同時に、糸のように細かった彼の両目が見開かれる。

手から89式小銃が滑り落ち、足下に落下してガチャンと音を立てた。
582 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/11(土) 23:19:39.19 ID:uxo1vhXg0
( ´_ゝ`)「狙撃班はどこか高さを取れる場所を探せ!それと携行砲の管理はしっかりしろよ、暴発でお釈迦になりましたなんて笑えないぞ!

──おい弟者、指揮官捜しにいつまでかかっ………て………」

「ねぇ、二人とも、司令部から通信入ってるけど。アレ?ギコさんじゃん、チィーッス!……はっ!?えっ!?ギコさん!!?なんでここにいんの!!?」

ついで私たちの方に駆け寄ってきた、“兄者”と呼ばれていた方も“弟者”と全く同じ感じで固まる。その背後からトランシーバーを掲げながらひょっこりと顔を出した鈴谷は、ギコさんの姿を見て一度自然な感じで手を上げかけた後素っ頓狂な叫び声を辺りに響かせた。

そういえば、彼としぃさんが自衛隊の方で活動しているときに、ムルマンスクへ派遣される前はこの町に勤務していたことを思い出す。

なるほど理解した、事情を知らない表の顔に対する「同僚」と鉢合わせをしてしまったというわけか。向こうも完全に予想外の出会いだったようで、立ち尽くしたまま微動だにしない。

「えっ!?えっ!?しぃさんもいるし!?ってか二人のその軍服何!?海自のじゃないよね?!なんで!?なんでそんな服着てんの!?てか、その人達国連の“海軍”だよね!?なんでギコさん達一緒に居るの!?」

逆に此方も顔見知りらしい鈴谷は、二人とは対照的に益々大騒ぎしている。タイムセールの卵のパックを奪い合うスーパーの主婦の群れだってここまで五月蠅くはできない。

まだこの子しか見ていないが、それでも概ね察する。どうやらギコさんとしぃさんの“表向きの職場”は、私たちの鎮守府に負けず劣らず愉快なところだったらしい。

(;´_ゝ`)「猫山に……椎名で、間違いないんだよな?」

(´<_`;)「お前等北方戦線に異動したはずじゃ……百歩譲って戻ってくるだけならともかく、なんで国連軍に……?」

(*;゚ー゚)「えっ、ええっとね……ぎ、ギコ君、どう説明したらいいかな……?」

(,,゚Д゚)「………」
583 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/08/11(土) 23:49:05.53 ID:uxo1vhXg0
ギコさんの口元が、突然尖る。彼はそのまま手元の白兵用ブレイドをまるで杖のように地面に突き立てると、その大きな眼を限界まで細めて老人のように腰を曲げて見せた。

(,,;=3=)「い、否。ここには猫山義古等という名の人物はおらん!せ、拙者、猫山ではなく、ライスボーラーパン蔵と申す!!」

( ´_ゝ`)「は?」

(´<_` )「えぇ……」

「無い」

(*゚ー゚)「ギコ君……」

( T)・'.。゜「ブブホゥwwwwwwwwwwww」

「グブフフヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒwwwwwwwwww」

どこから出したのかと首を捻りたくなるような高音声で放たれた台詞に、双子と鈴谷としぃさんが一瞬で真顔に戻る。提督がマスクを貫通して大量のつばをまき散らしながら崩れ落ち、時雨も明らかに自称美少女が出すものとしてはふさわしくない笑い声と共に腹を抱えて地面を転げ回る。

「……ッ、……ッッ!!」

「ポ、ポヒッ、ポヒヒッ……」

「ふっ……くっ……ふふっ……」

あと雲龍も無言で顔を押さえて膝をついているし、古鷹と夕立も精一杯の優しさでこらえながらもギコさんの方に視線を向けられていない。“海軍”兵士も大半は決壊寸前だ。

正直私もヤバかった。

(,,B Д )「…………殺してくれ誰か」

「たまご」

自己嫌悪で地面に崩れ落ちるギコさんの肩に、初めて一単語しか喋れない体質に感謝しながら慰めの意を込めて手をそっと置く。

きっとこれは、彼の人生全体を通して恐らく最大級の失策だったに違いない。

何せ、我が鎮守府が誇る邪神二人に、向こう5年は使える【鳳凰の卵】よりも美味しい極上のからかいネタを与えてしまったのだから。

( ´_ゝ`)「どうした、しっかりしろライスボーラーパン蔵」

(´<_` )「いろいろ説明を頼むライスボーラーパン蔵」

( T)「そう落ち込むなよライスボーラーパン蔵」

「元気出しなよライスボーラーパン蔵wwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

(,,#;Д;)「お前等全員死ねゴルァアアアアアアアア!!!!」

とりあえずギコさんの当鎮守府における認識が、

「男梅に轢かれて気絶した上に公衆の面前で上官に犯されそうになった面白ヤンキー」

から

「“海軍”所属がバレそうになってテンパった挙げ句漫才コンビ流れ星のちゅ○えいに無駄に近いクオリティでライスボーラーパン蔵と名乗った面白ヤンキー」

に更新された瞬間だった。






.
584 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/12(日) 23:04:44.17 ID:GFXsSW1a0






在日米軍が到着した時点では、私は多少の安堵こそすれどまだ状況を楽観してはいない。

いかに世界最強の軍事組織でも、相手は深海棲艦。圧倒的な重武装と物量を誇る、“生きた戦艦”の大軍勢だ。例え米軍でも彼我の火力差は歴然で、真っ向からぶつかって上回ることは難しい。

それらを埋めうる艦娘戦力についても、サラトガとアイオワの2艦種だけでは“同一艦娘の複数編成不可”の原則も手伝って到底間に合わない。
もし米本土で先日新たに実装された3艦種が配備されていれば話も変わっただろうけど、彼女たちは欧州情勢の悪化に伴い西欧戦線への優先配備が決定。日本列島戦線への派遣は先送りにされている。

これらの事情から鑑みて、一気に戦況を覆せるとは端っから考えていない。勝てる可能性が一分にも満たなかったさっきまでの状況からは大いに盛り返しはするだろうが、せいぜい五分五分。敵側からの追加戦力次第では、それでも六分四分で此方が若干不利というのが私の弾いたソロバンだった。

勿論、“国連海軍”という本来嬉しい計算外の存在は認識していた。だけど、賭けてもいいけど私を含め誰一人として、ひょっとしたら行動を共にしていた米軍部隊さえ、そんなものは当てにしていなかったに違いない。

当たり前の話よ。
設立からさしたる時間も経たずに“前身”同様大国・先進国の都合で動く傀儡と成り果て、疾うの昔にその機能も威厳も存在意義さえ失っていた虚構の組織。そこから突然派遣された得体の知れないぽっと出の軍事組織に、一体何を期待しろと言うつもり?

艦娘戦力が含まれるという情報についても、せいぜいお飾りの駆逐艦が2、3隻含まれていればいい方。正直なところ、足手纏いにならなければ御の字────私にとっては、その程度の認識。

その程度の認識………“だった”。
585 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/12(日) 23:11:46.76 ID:GFXsSW1a0
深海棲艦の対空砲火を擦り抜けて私達のすぐ近くに降下した、二機のオスプレイ。そこから見たことの無い軍服を身につけた武装兵と共に現れた、10名ほどの艦娘。

彼女らが戦闘を開始した瞬間、私は思い知らされる。

自らの認識の甘さを。

“よくて五分五分”という懸念が、いかに無駄なものだったかを。

「…………て、敵艦隊、防衛線全域にて一時撤退を確認。な、なお、撃沈艦の数は膨大であり、現在戦果は確認中。

ただ、深海棲艦側の撤退は単なる離脱ではなく、“壊滅的損害”による敗走とみられます」

ノハ;メ゚听)「すっげ…………」

一瞬、とまでは言わない。だけど、感覚としてはそれに限りなく近いものがある。

あれほど重厚な陣容を以て押し寄せてきていた正面敵艦隊は、今やその大半が穴だらけの身体を陸地に横たわらせ、或いは海面にぷかぷかと浮かべ、無残な屍を晒している。討ち漏らしたほんの一握りも、私が目の届く範囲で見た限り中破以下の損傷で済んでいた艦は1隻として存在しない。

対して自称“国連海軍”側の艦娘達には、そもそも敵の攻撃が一発たりともまともに命中しなかった。

「Clear, Clear!!」

「【Lycaon】並びに【Echo】、戦闘態勢を解除し装備の点検に移れ!海上哨戒と敵艦隊の追跡は【Blizzard】と【Cubs】に任せるぞ!」

ノハ;メ゚听)「……蝶野一等陸尉、あの艦娘達、一部の奴ら白兵戦で深海棲艦殺してませんでした?」

「……乱戦でよく見えなかったけれど、そんな気はしたわね。正直、ベリーあり得なさすぎるから信じがたいけれど」

ノハメ;゚听)「いやどんな言葉遣いですかそれ。完全にルー大柴と化してるじゃないですか」
586 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/13(月) 00:47:58.62 ID:QVghaKhA0
おつおつ
色々とあれだけど、ギコさんが悲惨過ぎるw
587 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/08/13(月) 19:06:24.80 ID:yI1csy5UO
後少し早ければ、しぃのクネクネを流石兄弟は目撃していたのか(戦慄
588 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/14(火) 23:03:01.33 ID:7P9UOiPr0
大隈二曹からの問いかけにはふざけて答えたが、実際その光景は私もしっかりと眼にしている。

刀や槍、薙刀やハルバード、諸刃剣、変わり種のところではモーニングスター……時代錯誤も甚だしい形状の漆黒の武器が振るわれる度に、深海棲艦の装甲が砕け、肉が裂け、断末魔の合唱と共に屍体が増えていく様子を。

(………なんていうか、滅茶苦茶な光景だったわね)

白兵装備の存在自体には驚かない。天龍や龍田、改装前の叢雲等デフォルトで近接戦闘用の武器を持っている艦娘がいることは私も知っているし、海自の方でもその点に着目し護身用のナイフ程度は全艦娘に配備するべきではないかという意見が出ていると聞く。
実際に戦場で使用され撃沈に至った事例も、指折り数えられるほど少数かつ不明瞭な内容だが無くはない。材質についても、戦車道の特殊カーボンやAPFSDSに使われる合金など候補は2、3思い浮かぶ。

(そう、存在自体は別に不思議でも何でも無い。

問題は、彼女たちがそれを“主兵装”として扱っていた点)

実戦経験は今日が初めてでも、かつて名門戦車道家元の教えを受け入隊後は軍事組織の一員として何年も訓練を重ねてきた身だ。彼女たちの動きがいかに洗練されているかも理解出来ないなら私は自衛隊から去るべき人間だろう。

太刀筋の力強さ、踏み込みの速度、斬撃や刺突の軌道の正確さ。どれを取っても、一朝一夕では身につかない。何百回も何千回も繰り返し、修練し、身体に染みついた類いのもの。

本来艦娘たちもまた、深海棲艦と対を成す形で“生ける軍艦”としての力を持つ存在。その本分は、艦砲射撃や航空爆撃によるアウトレンジからの遠距離攻撃だ。巡洋艦や駆逐艦による雷撃戦にしても、肉薄する距離などたかが知れている。

だが目の前の彼女たちは、その本分とは逆行する近接戦闘を軽々と熟して見せた。
589 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/14(火) 23:11:14.54 ID:7P9UOiPr0
尤も、流石に全員が白兵戦に興じていたわけではない。
空母艦や戦艦、夕張、大淀といった軽巡でありながら重装備を可能とする艦などは後衛に下がり、若見屋交差点から合流した羽黒等海自の艦娘達と共に“本分”たる遠距離攻撃で此方も十二分な戦果を上げている。攻撃目標も徹底的に海上の敵後続戦力に集中し、前衛の増強を防ぐことで“白兵艦隊”の戦いやすさをより高めるという理想的なものだ。

自然な連携。だが故に、尚更確信せざるを得ない。

彼女達にとって、この戦術は“手慣れたこと”であると。その練度の高さは単に訓練だけではなく、幾十幾百の“実戦経験”に裏打ちされたものであると。

「アメリカと、我らが祖国も一枚噛んでそうね」

ノハメ゚听)「? 何の話ッスか?」

「……気にしないで、ただの独り言よ」

お飾り?足手纏いじゃなければ御の字?自分の認識の甘さに吐き気がする。国連なんて組織がいかに頼りにならないかは、何よりも日本政府が“艦娘三原則”の一件で散々に思い知っている。

少し考えれば解ることだったのだ。中でも特にその事をイヤというほど味わったあのブサメン首相と自衛隊首脳部が、端っからそんなものを引っ張り出してきて寄越すはずがないと。

この部隊は、正真正銘の“切り札”なのだろう。それも、本来盤に存在してはいけない三枚目のジョーカー。

「………大隈二曹。彼女達にはあまり気を許さないようになさい。手練れ揃いだけど、それだけに寝首を?かれるか解らないわ」

ノハメ;゚听)「えっ?いや、彼女達味方でしょ?」

「味方だからこそ、よ」

強力な戦力として、戦況打開の切り札として「信用」には値する。

だが、幾ら自分たちを救ってくれたとはいえ手放しで彼女達を「信頼」する気になれるほど、私は純真無垢な小娘ではない。
590 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/14(火) 23:51:08.04 ID:7P9UOiPr0
「────了解。現地部隊と共に戦力の再編、防御拠点の応急修復・強化に入る」

恩知らずとしか言い様がない私の思考など露知らず、一人の女性がどこかとの通信を終えて私達の方を振り向いた。カツン、カツンと、規則正しくアスファルトを踏みしめる靴音が真っ直ぐ此方へ近づいてくる。

ノハメ;゚听)「おおぅ……」

私たちの目の前で立ち止まった彼女の姿に、大隈二曹が少し気圧された様子で声を漏らした。

まぁ無理もない。170を少し越えているであろう長身に、少し筋肉質で広い肩幅、切れ長でよく研磨された刀の切っ先のように鋭い眼光、そんな女性がピンッと背筋を伸ばして直立不動になれば、威圧感を感じるなという方が難しい。
きっちりとサイドテールに纏められた長く美しい黒髪と、まるでおろし立ての新品のように皺一つ無い紫を基調とした艤装服も尚更その雰囲気を助長する。

私だって、同性からこれ程のプレッシャーを感じたのは10年以上前────初めて、西住しほに相対したとき以来だ。

ただ、彼女が背負う自身の身長ほどもある大太刀と、先ほどまで彼女が立っていた位置に転がる両断されたハ級の残骸が奇妙な違和感を生じさせていたけれど。

「貴官が、ここの拠点の指揮官か?」

「えぇ、現状はそうです」

外観同様の、凜とした響きの声。何の勝負かと問われても困るけど、なんとなく負けたくなくて私も心持ち声を張る。

「陸上自衛隊所属、蝶野亜美一等陸尉。搭乗車両は破壊されましたが、一○式戦車1号車車長。

………また、現在は原隊に復帰しておりますが大洗女子学園戦車道教官でもありました」
591 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/15(水) 00:23:43.61 ID:EJBxc0AV0
ノハメ;゚听)「あ、自分は陸上自衛隊二等陸曹、大隈瞳です!蝶野一等陸尉の車両にて砲手も担当しました!

………一尉、最後の部分付け加える意味ありました?」

私のすぐ後に自己紹介を続けた大隈二曹がヒソヒソ声で尋ねてきたが、小さく肩だけ竦めて返事に変える。

意味なんて無い。最後の紹介は、単に私の意地というか、拘りみたいなものの現れだ。

「大洗女子学園…………そうか、学園艦の、か」

目の前の女性は、私の言葉に振り返り、沖合で相変わらず黒煙を吹き上げる巨大な艦影を一瞥する。

何故か一瞬彼女が複雑そうな表情を浮かべたように思えたが、それが何故かは解らない。そして再び此方に向き直ったときには、元の凜とした顔つきに戻っていた。

「私たちの提督も間もなく合流する。敵の再侵攻まで恐らく時間も無いだろうし、速やかな戦力編成と作戦の摺り合わせを具申したい」

「えぇ、それは私達としても希望するところです。指揮系統の整理も必要ですし、何より時間が少ないという点は同感ですから」

「話が早くて助かります。我々も、統治の防衛戦力として粉骨砕身させていただく……あぁ、そういえば私自身の紹介が未だでした」

彼女はそう言って、勢いよく両足を揃え敬礼する。

完璧と言っても過言じゃない程美しい、【海軍式】の敬礼だった。













「妙高型重巡洋艦2番艦・那智。国連特別“海軍”所属。

コールサイン【Lycaon】の旗艦です。

よろしくお願いする、蝶野一等陸尉」


592 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/15(水) 00:33:02.91 ID:EJBxc0AV0








194■.4.■■

開戦から■年が経った。我々の海軍は、現在も■■■■■の海上防衛網を突破しきれずにいる。

昨年の■■■■■■■において■■■を取り逃がした事もあり、奴らの精■■空■■は健在である。軍部も■■R■への様々な対策を講じているようだが、圧倒的な練度と性能の差を即座に埋め、戦況を優勢に転じる妙案は生まれていない。
陸戦においても、兵站線の不安も重なり我々は常に苦境と膨大な出血を強いられている。特に■■■■■■島は地獄の有様だ。

認めよう。我々はかの国を甘く見ていた。■■■・■■■のあの悪魔を血祭りに上げるための、生け贄に過ぎないと思っていた。だが現実には、我々は■■■■■戦線に匹敵、否、それ以上の犠牲を払って尚■の一つも取り返せていない。

これ以上、手をこまねいているわけにはいかない。早急に■■■■■■■■計画を進めなければ。

我々が自由を謳歌し、永遠の繁栄を手に入れるためには、悪魔にさえ魂を売り渡す覚悟と決意が必要だ。

私は、神への信仰をも捨てよう。

それが祖国の、■■■■■■■の為になるのなら。

       記・ J.V.N■■■■■■
593 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/15(水) 06:31:02.36 ID:fQk/8Ij0o
お疲れ様です
594 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/17(金) 15:57:54.49 ID:35BNV+0/0
更新おつです
蝶野一尉無事でよかったが学園艦とブーン先生はどうなった
595 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/18(土) 05:27:39.22 ID:Z6erRM/90
乙です!
596 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/20(月) 23:01:29.07 ID:Uxp/rQ8L0






「─────あぁ、今私も送られてきたURLを見ているざます」

右肩で通話状態のスマートフォンを挟み耳に当てながら、手元のタブレット端末を操作する。11inchの画面に大写しになった一枚の写真は、日本最大級のインターネット掲示板“ちゃんねるツー”にアップロードされたものだ。

撮影者が使っている機種の性能や手ぶれのせいで決して見やすいものとはいえないが、それでも被写体として中央に映された“機影”ははっきりと確認できる。
全長はざっと目算した限り、凡そ50M程だろうか。レンドリースを受けた戦車の整備や例の“大鍋”の調整にあたって何度かサンダース大附属を訪れているアスパラガスは、その無骨な外見に見覚えがあった。

「C-17【Globemaster III】ざますね」

《ご名答です》

電話口の向こうで、相手───元BC自由学園戦車道チーム副隊長・ムールが頷くのを気配で感じた。

《横須賀の在日米軍基地から多数のV-22やCH-47と共に離陸した機影を住民が撮影したものがインターネット上で複数のコミュニティにアップロードされました。投稿主によれば、撮影した時それらの編隊は北へと向かっていたそうです》

「この横須賀から北………ざますか」

一応北海道や北方四島、千島列島、樺太特別自治区等幾つか候補はあるが、現状入ってくる限りの情報でこれらの戦線が危機的だとは思えない。だとすれば、この写真に写された機体群の行き先は自然と絞られる。

「大洗町に在日米軍が本格的に介入を開始した、か」

《ほぼ間違いないかと》

そういえば、幾らか前にジェットエンジンの音やヘリのローター音が大量に市街地の上を通過していった時間帯があったと思い出す。丁度文科省各局の“パイプ”に様々な働きかけを行っていた頃と重なったため、アスパラガスとやはり各方面に電話をかけていたダージリンにとってそれらは迷惑千万な騒音に他ならなかったが。
597 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/20(月) 23:08:40.03 ID:Uxp/rQ8L0
《因みに“ちゃんツー”軍事板やその他ミリタリー系のネットコミュニティによれば、国内複数の米軍基地からA-10【Thunderbolt II】の離陸が確認されています。

此方は映像が上がっていませんが、目撃情報から察するにやはり大洗町方面へ投入されたものと思われます》

「……空対空戦闘機ではなく、対地攻撃特化のA-10ざますか?」

その情報を聞いてイヤな推測が脳裏を過ぎり、アスパラガスの目付きが険しくなる。

在日米軍の介入自体は不思議ではないし、大規模な戦力投入もアスパラガス達の予想の範囲内だ。最大の艦娘生産・保有国である日本の失陥は米国云々どころかそのまま人類滅亡に直結しかねない以上、どのような状況になろうともかの国が日本を見捨てるという選択肢は“政治的”にあり得ない。

寧ろアスパラガスとダージリンが懸念しているのは、中華人民共和国という仮想敵国の存在を危惧した米国が大洗町戦線の“早期幕引き”を計るかも知れないという点だ。

(アメリカ合衆国が列島失陥の次に恐れている事態……それは恐らく、人民解放軍による“国防上の判断”を理由とした日本国内への武力介入ざます)

自国の防衛を理由に、日本本土へ中国軍が進駐してくることを心配する……一見荒唐無稽な、突拍子もない懸念かも知れない。普通に考えれば、世界中から武力制裁されてもおかしくない大暴挙なのだから。

だが、日米の同盟国にして国連常任理事国たるロシア連邦が既に“ルール地方への一方的な核兵器投射”というより強烈な前例を作ってしまった今、それは決して非現実的な空想ではなくなった。

そして日本の失陥と艦娘戦力の壊滅は、万に一つでも起きてしまえば中国のみならず世界の危機となる。それを防ぐという建前は、日本本土へ“増援”の名目で人民解放軍を送り込むにあたってこれ以上ない大義名分となるだろう。

また世界的な侵攻で各国が自国の防衛に手一杯になっている今、仮に咎めるとしても出せるのはせいぜい何の意味も無い批判声明ぐらいのもの。一度日本進駐さえ成功すれば、後は中国人旅行者の安全確保なり日本の防衛協力なり何かと理由を付けて進駐した地域を拠点化してしまえばいい。
598 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/20(月) 23:10:44.08 ID:Uxp/rQ8L0
お誂え向きな事に、大洗は正規鎮守府があり多数の艦娘戦力が駐屯する地だ。艦娘利権に長らく絡むことが出来なかった中国にとって、仮に拠点化までは上手くいかなくても艦娘技術の“盗用”の機会を作れるというだけで強引に派兵する理由になり得る。

無論所詮は一介の女子学生の考察であり、全く見当違いの見方になってしまう可能性は否めない。だが一方で、既に中共外交部が「軍事的な支援を惜しまない」という声明を発表した事実がある。

散々外交上で日本との対立を繰り返し先日は【艦娘自己自衛権法案】の件でもあれだけ噛みついた国が、こうまで掌を返してくる。それを何の裏もない善意と受け取れる人間は、余程の脳内花畑か日本の滅亡を願うスパイかの二択だろう。

仮にこの考察が的外れなものではないとすれば、アメリカ政府も中国介入の危険性には当然気づき、策を練っているはずだ。そしていよいよとなればアメリカ側も、人民解放軍の日本侵入を前に事態の“早期解決”────即ち、大洗女子学園そのものの撃沈によって深海棲艦の掃討を計る可能性は大いにある。

(アメリカにとって幸いな、そして私たちと西住みほにとって最悪なことに、日本国内でも既に早期解決を求めて“大洗女子学園の破壊”を叫ぶ声はインターネットを中心に少数ながら出ている。状況の改善が遅れれば、その声が多数派に取って代わる時もそう遠くはないざます)

加えて、アメリカ側にも“フィリピン海から北上する新型深海棲艦”という絶好の建前が存在する。本土への浸透拠点を確保されるのを防ぐためという名目で攻撃が行われれば、日本側としてもあまり強い意見は言えない。生存者がいたのではないかという批判があったとしても、“汚れ役を買ってでも人類の存亡を優先した”と主張されればそれまでだ。

故にアスパラガスは、A-10投入の報告に一瞬あの血気盛んな超大国が早くも“早期解決”に動き出したのかと身構えた。だが、そうなると一つの疑問が沸く。
599 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/20(月) 23:23:55.06 ID:Uxp/rQ8L0
「………火力が、少なすぎるざます」

《仰るとおりです》

ムールの側も、アスパラガス達と同様の考察に辿り着いていたらしい。ならば当然、その疑問点も共通のものになる。

《学園艦撃沈による“早期解決”を目論むなら、A-10はあまりにも不適格です。仮に輸送機隊に満載されていたのがフル装備の艦娘部隊だったと仮定しても、やはり大洗女子学園を沈める戦力としては少々非効率が過ぎます》

全長7.6km、全幅1.7km。町一つが浮いているも同然の、超巨大船【学園艦】。当然自重を支えたり艦内インフラを保全するために船体装甲は分厚く、かつ丈夫な合金が使用されている。
A-10が搭載できる対地ミサイルなど、数十発束になってもどこか外壁に亀裂が入ってくれれば御の字というレベルで力不足だ。艦娘にしても、流石に学園艦を撃沈するとなると相当な数を集中し膨大な火力を割く必要がある。

日本列島が置かれた状況を考えれば、自衛隊にも在日米軍にも短時間で学園艦を深海棲艦諸共海の藻屑に出来るほどの大艦隊を投入する余裕はない。それに流石にまだ国内外の世論も民間人ごと沈めることを“やむなし”とするほどには至っていないし、何よりそれだけの戦力を揃えるぐらいならグアム島からB-2爆撃機でも飛ばしてバンカーバスターを2、3発叩き込む方が余程理にかなったやり方だ。

では、学園甲板上の敵艦隊を掃射撃沈するための投入か?尚更あり得ない。空母艦娘の艦載機を使えば、A-10なんかより確実かつ正確に、生存者に対する誤射の確率を遙かに低くした上で処理することができるだろう。
600 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/21(火) 12:53:13.36 ID:DSthDakJ0
更新乙です
601 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/22(水) 23:12:30.30 ID:OtTN9X5Y0
目的が学園艦の撃沈でもなければ、甲板上の敵艦隊の処理でもない。にもかかわらず、A-10の投入が必要となるシチュエーション。

少し考えれば、その選択肢は自ずと一つに絞られる。

「単純に大洗町自体の戦況が劣悪。少なくとも、大規模強襲上陸程度は受けていてもおかしくなさそうざますね」

《えぇ。実際に、涸沼以西の避難未完了地域上空に敵の爆撃隊が差し掛かったという情報も一部SNSで流れています。その範囲がかなり広域であることから推測するに、大洗町の防衛線が一時危機的な状況にあったことは間違いないと思われます。

現在我々の方でも防衛省の“パイプ”を通してこれらの情報の真偽を確認していますが、流石に向こうの口が堅く芳しくありません》

そりゃそうだとアスパラガスは内心で呟く。

学園艦が深海棲艦に占拠されているという現状だけでも、“危機慣れ”していない日本国民の動揺は非常に大きい。正式な鎮守府に百里基地の支援まである本土の戦線が苦戦を強いられているなんて話が民間に漏れれば、それこそベルリン陥落時の欧州にも匹敵する大規模な民衆恐慌や暴動に繋がりかねない。

「……ムール、A-10の離陸や深海棲艦機の飛来に対する民間の反応は?」

《前者については、我々ほど穿った見方をしている意見はほぼ見られません。……が、深海棲艦機の飛来に関してはやはり各種SNSで深刻視されています》

そして、“タイムリミット”が訪れるのはそう先の話ではなさそうだ。

「ムール、引き続きネット上での世論の動きを注視。……言動の過激化・先鋭化が進行しきる前に、さっき指示した“工作”を実行できるよう前倒しで準備して欲しいざます」

《畏まりました。他校情報部との連携強化を急がせます》

「また、並行して文科省、防衛省両方からの情報収集と各部署への根回しも怠らないように。其方はボルドーに一任してあるが、必要に応じて人員の増強も惜しむな」

《D'accord》
602 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/22(水) 23:22:26.59 ID:OtTN9X5Y0
「…………あぁ、ありがとうございます」

一通りの指示を出し終えたところで、一度通話を切り椅子に深く座り直す。そのタイミングを見計らっていたかのように女店主が無言で差し出した紅茶に、礼を言いつつノータイムで口を付けた。

「────っふぅ」

極上の味と最適な温度を兼ね揃えたアッサムティーが渇いた喉に染み渡り、生き返ったような心地に自然と吐息が漏れる。
同時に、アスパラガスは何故ダージリンがこの店を待ち合わせ場所に選んだかを概ね察した。地理的な問題や目立たずに済む等思い当たる節は幾つかあったが、最大の理由はここの紅茶が絶品だからに違いない。

(大洗関連であれだけ取り乱してた癖に、妙なところはブレないざますね)

そんなことを考えながら、横目で隣に座るダージリンを見やる。丁度彼女も通話を終えたところで、ティーカップに手を伸ばしながら此方の視線に気付いて首を傾げた。

「………私の顔に何かついているかしら?」

「舌が三枚ついているのが見えるざますね」

「まぁ非道い」

此方の飛ばした皮肉に、ダージリンはクスクスと笑う。
何が非道いものか。彼女達が標榜する本家英国など、歴史を紐解けば百枚舌でも足りないというのに。

「それで、貴女の方の首尾はどうかしら?」

「とりあえず、今急ピッチで情報収集体制を構築している真っ最中ざます。防衛省は流石に口が堅いが、文科省経由で学園艦に対する国の大まかな動向や方針が拾える目処は立った。

ボルドーには大洗女子学園関連の情報を最優先で収集し聖グロリアーナ側にも共有するように言ってあるざます。……まぁ、あいつなら確実に仕事をしてくれる筈だ。ムールの補佐もあることざますし」

「随分打ち解けたようねぇ」

ダージリンの目が軽く見開かれる。自由側とBC側に分かれて骨肉の内紛に明け暮れていた時期を知る故に、わりかし本気で驚いているようだ。
603 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/22(水) 23:24:10.79 ID:OtTN9X5Y0
「私としてはこう言った方がいいのかしら?“ご結婚おめでとうございます”って」

「……あの小っ恥ずかしい作戦名について掘り返すのはやめるざます」

我ながら、脳が沸いていたとしか思えない。……いや、実際にあの時は例の侍ガールに感化され、敗北を経て我々は真のBC自由学園を作るんだ的なおかしなテンションになっていた面はある。

それにしても、だ。確かにBC自由学園の変革を進めるきっかけとなったのは喜ばしいことだったが、言うに事欠いて“Strategie Mariage”とは!!

「私は素敵な作戦名だったと思うわよ、お世辞抜きにね」

「例え本気でそう思ってくれているにしろ、本当にその件は勘弁して……まさかエクレールにまであれほど笑われるとは思わなかったざます」

しかも訂正しようとしたときには時既に遅く、面白がったボルドーがチーム全体にちゃっかり浸透させていたためその後しばらくアスパラガスは身が焦げるような恥辱を味わうハメになったのだ。

ムールでさえクスクス笑いを堪えていた姿を見た時の孤独感と言ったら、もう。

「ええい私たちの話は今はいいざます!聖グロリアーナ側の進捗はどうなってるざますか!?」

「……現状、連絡がついた学園艦や聖グロリアーナの系列校に片っ端から協力を要請、相互連携を強化中よ。それと併せて、各艦の住民退避進捗や自衛隊による艦内臨検の様子なんかもわかる範囲で調べてもらえるよう要請したわ。

それで、現在進行形で退艦作業中のケバブハイスクールから早速一つ気になる情報が入ったの」

「……ボスボラスからざますか?」

「ええ。何でも、臨検に立ち入っている自衛隊の中に防護服に身を固めた一団が混じっているとか。

あと、艦内住民の一部が退艦時に健康診断のようなものを受けさせられているらしいわ」
604 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/22(水) 23:40:32.99 ID:OtTN9X5Y0
「防護服に、健康診断……」

確かに、奇妙。深海棲艦との戦争が始まって以来、奴らに攻撃を受けた地域で疫病が流行ったなんて話は聞いたことがない。また“軍艦”を模した存在であるため、例えば毒ガスのようなものを散布する能力を有しているとも考えづらい。

そもそも、別にケバブハイスクールには──あくまで“現段階では”の話だが──深海棲艦が実際に出現したわけではないのだ。

「……奇妙なのは確かだが、判断材料が少なすぎるざますね。今はなんとも言えない」

「とりあえず、ビゲン高校には“六課”から人員を向かわせた。下手したら現場の自衛官さえ事の真相を知らされていない可能性すらあるけど、動かなければ始まらないもの」

「六課……情報処理学部第六課・G.I.6ざますか」

戦術研究や敵車両の性能分析など、戦車道における“戦前諜報”は非常に重要な意味合いを持つ。故に各学園艦は生徒間で構成した一種のスパイ組織紛いの集団を一つは持っているし、大洗女子学園ですら秋山優香里が自主的にサンダースやアンツィオに諜報活動のため乗り込んでいたと聞く。

それらの中でも、明確に学部として独立しあらゆる情報取得法を体系的に学んでいる聖グロリアーナの情報処理学部は規模・練度共に所謂“超高校級”の存在。分けても第六課は、前身の課を卒業した人物がロシア革命を起こして日露戦争の帰趨を決しただの公安や内閣調査室に多数の人材を輩出しているだのと逸話に事欠かない。

「GI6も早くもフル稼働か。切り札としてもう少し温存しておくと思ったざますが」

「お慕いするみほさんを救うためだもの。出し惜しみはしないわ。寧ろ、本当は私が直接彼女の白馬の王子になりたいぐらいのところを我慢しているぐらいよ。

“イギリス人は戦争と恋愛には手段を選ばない”の」

「耳にたこができるぐらい聞いたざますねその格言」

全く、お慕いするやら白馬の王子やら、聞いているこっちが赤面しそうだ。

【Strategie Mariage】に対する反応も、この様子だと案外素で褒めてくれていたのかも知れない。そうだとしたらセンスが一致してしまっているということなので寧ろ落ち込むが。
605 :>>604訂正、申し訳ない ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/22(水) 23:48:44.72 ID:OtTN9X5Y0
「防護服に、健康診断……」

確かに、奇妙。深海棲艦との戦争が始まって以来、奴らに攻撃を受けた地域で疫病が流行ったなんて話は聞いたことがない。また“軍艦”を模した存在であるため、例えば毒ガスのようなものを散布する能力を有しているとも考えづらい。

そもそも、別にケバブハイスクールには──あくまで“現段階では”の話だが──深海棲艦が実際に出現したわけではないのだ。

「……奇妙なのは確かだが、判断材料が少なすぎるざますね。今はなんとも言えない」

「とりあえず、ボスポラスのところには“六課”から人員を向かわせた。下手したら現場の自衛官さえ事の真相を知らされていない可能性すらあるけど、動かなければ始まらないもの」

「六課……情報処理学部第六課・G.I.6ざますか」

戦術研究や敵車両の性能分析など、戦車道における“戦前諜報”は非常に重要な意味合いを持つ。故に各学園艦は生徒間で構成した一種のスパイ組織紛いの集団を一つは持っているし、大洗女子学園ですら秋山優香里が自主的にサンダースやアンツィオに諜報活動のため乗り込んでいたと聞く。

それらの中でも、明確に学部として独立しあらゆる情報取得法を体系的に学んでいる聖グロリアーナの情報処理学部は規模・練度共に所謂“超高校級”の存在。分けても第六課は、前身の課を卒業した人物がロシア革命を起こして日露戦争の帰趨を決しただの公安や内閣調査室に多数の人材を輩出しているだのと逸話に事欠かない。

「GI6も早くもフル稼働か。切り札としてもう少し温存しておくと思ったざますが」

「お慕いするみほさんを救うためだもの。出し惜しみはしないわ。寧ろ、本当は私が直接彼女の白馬の王子になりたいぐらいのところを我慢しているぐらいよ。

“イギリス人は戦争と恋愛には手段を選ばない”の」

「耳にたこができるぐらい聞いたざますねその格言」

全く、お慕いするやら白馬の王子やら、聞いているこっちが赤面しそうだ。

【Strategie Mariage】に対する反応も、この様子だと案外素で褒めてくれていたのかも知れない。そうだとしたらセンスが一致してしまっているということなので寧ろ落ち込むが。
606 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/23(木) 11:43:21.83 ID:O/xAvQTR0
投下おつです
このssガルパン世界も連結してたのをすっかり忘れてましたww
607 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/23(木) 12:32:15.92 ID:CjWC/L3A0
おつおつ
一般人組は為す術もないはずなのに、この逞しさは尊敬するw
608 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/08/23(木) 18:40:24.01 ID:iP+05Oe40
おつ
609 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/27(月) 23:04:19.71 ID:IP2U38kI0
とはいえ、その決意の強さは痛いほどに伝わってくる。それに出し惜しみする気がないのはアスパラガスも同様だ。

「ダージリン、この件は間違いなく長期戦になるざます。ペース配分と人員の休息スケジュールも考えた方がいい」

「同感ね、ローテーションはアッサムに作らせるわ。あの子はデータの管理が上手いもの。

それと、総務省と消防庁の方にも少し探りを入れた方が良さそうね。避難計画や緊急車両の稼働状況から解ることもあるかも知れない」

「総務省については我々の方でもう幾つかBC学園関連の“パイプ”があるざます。データを送っておくからGI6の方で自由に使えるよう手配を」

「ありがとう。礼は必ずするわ」

「その礼は是非我が校の偉大な卒業生達に送ってほしいざますね」

BC学園と自由学園の統合に関連するゴタゴタには、確かに当時アスパラガスも立ち会った。だが自由学園中等部の首席として末端に名前のみ連ねただけであって、実際に政府側との交渉を行ったのは両校の高等部生徒会や戦車道チームの隊長達だ。
防衛省、文科省を中心に各省庁に繋がる数多の“パイプ”も、その時彼女達が残してくれた遺産に過ぎず地力で勝ち取ったものではない。

戦車道チームも学園自体も最後までまとめ上げることが出来ず、ボルドーやムールを筆頭に優秀な人材を腐らせ続けてきた。そんな自分がその貴重な遺産を、しかも他校を助けるために食い潰すことに対する抵抗や自責の念が無いと言えば嘘になる。

「それと、BC学園の“鎮守府化”に伴う国連職員立ち会いの関係で外務省の方にも多少コネがある。まぁ、外務省ならそっちの方が関係は太そうざますが……」

「いや、OG関連のコネクションだとどうしても下ろしてもらえる情報には限界があるわ。内部への直接的な繋がりがあるならそっちの方が間違いなく多角的に集められる」

「なら主要な現役局員の連絡先を送るざます。すぐオレンジペコ達に連絡させるよう手配を」

だがアスパラガスは、そうした自身の感情をかなぐり捨て惜しげも無く極秘コネクションを開放していく。
610 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/27(月) 23:09:27.91 ID:IP2U38kI0
多少普通よりは特別な力や人脈を持っていたとしても、あくまで自分たちは年端もいかぬ女子学生、政治も戦争もアマチュアに過ぎない。そんな集団が、場合によっては一国に盾突くことすら半ば視野に入れた上で本物の戦争に本気で横入りしようとしているのだ。

当然軽率に動くことは出来ない。そもそも例え小指の先ほどでも介入できるような隙間が残されているのかという部分も含めて、徹底的に、今あるもの以上に、多量の情報を集め精査する必要がある。

ならば、使えるものは全て使う。自分のくだらないプライド、感傷など二の次だ。

「……戦国の名軍師も言っているざますね。“使わぬ金なら瓦や石ころにも劣る”と」

「黒田如水ね。私あの人好きよ、目的のために手段を選ばないところとか」

「あぁ、あの人の晩年の生き様とか英国臭が凄いざますね……」

特に【関ヶ原の戦い】前後の九州における動向のきな臭さは、後世から見ても天下への野心がいっそ清々しいほどにダダ漏れだった。徳川家への申し開きの内容も含めて“リトル英国”といっても過言ではない。

アスパラガス個人の見解としては、偉人として尊敬はするが同時代に生きていたらあまりお近づきになりたくないタイプに分類される。

(………それにしても、これだけパイプを増やし情報の収集範囲を広げているのに、未だに“本命”の……大洗女子学園艦内に関する新情報は皆無ざますか)

手元のタブレット端末に再度視線を落とす。画面上にはムール達が指揮する諜報チームや聖グロリアーナ側から送信されてきた情報が電子の奔流となって溢れかえっているが、アスパラガスとダージリンが最も欲している内容のものはどれだけ眼を懲らしても見つからない。

「民間運営のネット掲示板各所でも目新しい話題はないみたいね。それこそ、“ちゃんツー”の住人なんか真偽そっちのけで色々言い立ててると思ったのに。

まぁ、私はいつも戦車道板と飲み物板ぐらいしか巡らないけど」

「貴女が“ちゃんツー”見てるって意外ざますね……ブッ、ゴホンッ、ゴホンッ」
611 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/27(月) 23:15:43.32 ID:IP2U38kI0
頭の中に突然ボンッと音を立てて浮かぶ、ジャージにぐるぐる眼鏡の出で立ちで嬉々としてパソコンを起動し戦車道板に格言スレを立てるダージリンの姿。こみ上げてくる笑いをごまかすため、わざとらしく咳払いをして顔を背ける。

「んっ、んん!………ふむ」

なんとか大決壊を堪えたところで、ふとひっきりなしに届くメールの内の一つが目に止まる。ついさっき行われた茂名官房長官の記者会見に関するもので、開くと会見動画と内容を簡潔に書き起こして纏めたPDFファイルが添付されていた。

指先でPDFをタッチし、画面上に現れた文書に目を通す。世界規模で行われている深海棲艦の侵攻に対して各国と連携し迅速に対処していること、大洗町に出現した深海棲艦による内陸浸透目的の攻勢が行われたが現地自衛隊と艦娘が完全に封じ込めていること、避難勧告は今後段階的に拡大される可能性が高いことなどを一通り説明した上で、最後の締めに国民に冷静な対応を求めて終わりという一見毒にも薬にもならない内容が羅列されている。

だがやはり、大洗町女子学園自体の現状に関しては一言も触れられていない。一応記者団から質問はあったようだが、

( ´∀`)《現在鋭意調査中であり、乗船職員、居住者や生徒、在艦旅行者の安全を一刻も早く確保できるよう努める》

の一言が返されたきりだ。

「………幾ら何でも、ここで触れないのはちょっと異常ね」

「そうざますね」

同じ内容のデータを開いたらしいダージリンの呟きに、頷く。

元々、搦め手からのアプローチでも殆どまともな情報が入ってこない超極秘事項だ。表立っての会見で何か有益な事柄が発表されるとは、アスパラガスもダージリンも毛頭考えていない。
612 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/27(月) 23:17:47.34 ID:IP2U38kI0
だが、例えば同じ大洗でも“大洗町”で行われた戦闘については、それが発生したことを明確に公表した。また真偽の程はどうあれ──少なくとも先ほどムールと共有した情報から察するに“完全な封じ込め”は真っ赤な嘘だろう──、現時点での戦況や国側が考えている対策についても言及があった。
対して大洗女子学園は、会見の中身から推察するにマスコミの質問がなければそういった“形式的なコメント”すら残されずに終わった可能性が極めて高い。

(学園艦も“大洗町の戦況”に内包した扱いのため個別に言及する予定はなかった……いや、あり得ないざますね)

中・高等部の生徒と教員、職員、その家族や関係者含めて定住者のみで3万余名。ここ最近の“軍神効果”で旅行者や商業国展開する企業が爆増していたことを考慮すると、総乗艦者数は少なくともその2倍から3倍に達すると推定される。

あくまでも“目新しい話題・情報が無い”だけで、現に艦内の人々の安否を気遣う声は決して小さくも少なくもない。事態発生から四時間程度が経過し、Twitterなどの各種SNSでは徐々に情報開示を求める不満や抗議の言葉も混じり始めた。

政治的に考えて、放置しておくには危険な状態。そしてアスパラガスとダージリンが知る限り、本来南慈英という(日本の歴史上で見れば殆ど突然変異に近い存在の)政治家はその辺りの見極めを誤るタイプではない。

個別の報告どころか言及それ自体に消極的だった理由は、恐らく他にある。
613 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/27(月) 23:26:44.62 ID:IP2U38kI0
「当然、大洗女子学園についてあまり詮索を受けたくないからよね。でも、このタイミングで国民の不信感を増大させてまで隠したい事って何かしら?」

中指の先でコツコツと意味も無くタブレットの画面を叩きながら、ダージリンが珍しく不快感をあらわにして疑問点を提示する。どれだけ情報を集めても謎が解明されるどころか寧ろ未解決の問題の方が増えていく現状に、そろそろ本格的な苛立ちを覚え始めているようだ。

「艦の下層から深海棲艦の駆逐艦種が複数生えてくるなんて異常事態が現時点で起きてる真っ最中なのよ?

甲板上でどれだけ悲惨なことが起きてるかなんて民衆も大半は見当がついてる、発表内容に関するハードルはかなり低いわ。それでもあそこまで言及したがらなかったのは何故?」

「ダージリン、少し落ち着くざます」

早口で捲したてるダージリンを右手で制する。大分いつもの調子に戻ってきたとはいえ、やはり西住みほの件になるとダージリンは言動に冷静さを欠く傾向が強い。

「考えられる可能性は三通りざます。

一つ、政府側でも全く現状が掴めておらず、純粋に公開できる情報が無い

二つ、状況は把握している・予想できているが、あまりにも内容が悪すぎて人民解放軍等諸外国の介入の口実になりかねないため秘匿している」

この内前者については、あり得なくはないが“できる限り言及それ自体を避ける”理由・動機としては薄い。可能性2は、大洗町それ自体の戦況が政府によって「封じ込めに成功している」と発表されている以上学園艦の状況をどう発表しようとも大勢に影響はない筈。

ならば、考えられるのは三つ目。
614 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/27(月) 23:28:43.14 ID:IP2U38kI0
「三つ、状況は把握している・予想できているが、公表すれば即国全体がパニックに陥るほど危険な内容のため“匂わせる”事すら避けるべく徹底的な……隠蔽……」

それを口にしている途中で、ふとアスパラガスの脳裏にボスポラスから届いたケバブハイスクールの現状報告がフラッシュバックする。

防護服、健康診断、漏れれば国民がパニックになるような内容。特にジョージ=A=ロメロ作品をこよなく愛する人種なら、これらを聞けばすかさず目を輝かせて「パンデミック」か「アウトブレイク」という単語を付け加えるに違いない。

「───まさか、バイオハザードざますか?」

「? ごめんなさい、何か言ったかしら?」

「………いや、ただの独り言ざます。何でも無い」

漏れた呟きが小声であったことに感謝しつつ、アスパラガスは頭を軽く横に振り脳内を埋め尽くした【T-ウィルス】や【ZQN】や【Walker】といった単語を追い出しにかかる。

深海から突如として現れた正体不明の化け物によって滅亡の縁に立たされている世界で、今更リアリティもクソもないとは思う。が、かといって「学園艦の中でゾンビパニック映画と同じ状況が発生している」というのは幾ら何でも飛躍が過ぎた。
第一、政府がこの荒唐無稽な“妄想”を公開したとして失笑と怒りを買うだけで、却ってパニックなど起こりようもない。誰も信じやしないだろう。

無論、そんな事が“本当に起きた・起きている”とすれば話は別になるが。
615 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/27(月) 23:29:45.60 ID:IP2U38kI0
(こんなワケのわからない発想をしてしまうとは、私も焼きが回ったざますね……とりあえずなんとか新しい情報を手に入れないことにh《─────Allons enfants de la Patrie, Le jour de gloire est arrive?!》……っと、着信ざますか」

「きゃっ!?」

前触れ無く店内に響き渡るテノールボイスの【ラ・マルセイエーズ】に思考を中断され、胸ポケットに閉まっていたスマートフォンを取り出す。予期せぬ不意打ちに悲鳴を上げるダージリンの姿を横目で見て、急な呼び出しや度々のからかいに対する溜飲がようやく晴らされ微かに口元が綻んだ。

……が、画面に表示された着信相手の名前を見てたちまちその表情は訝しげなものに変わる。

「────私ざます」

《お忙しいところ申し訳ありません、アスパラガス隊長》

「もう私はBC自由学園戦車道には直接は関わっていない。その敬称は不要ざます、押田」

諜報活動の指揮の一端を担っていたはずの後輩からの入電。それも、上官にあたるムールを介さない直接の架電という事態に自然と眉が真ん中に寄る。
この手の形で来た“緊急の要件”は、創作の世界でも現実においてもたいてい碌な内容ではない。

「それで、要件は?貴女がそこまで慌てているとなると、バッドニュースであることは概ね予想できているざますが」

《……ご名答です》

ただし今回の場合、その中でも特に最悪のケースとして分類されるべきものだった。

《D.A.G.E(対学園外治安総局)に、先ほど他学園艦から───静岡県川奈港に緊急停泊している、楯無高校から情報提供の依頼がありました。なおこの依頼は、現時点で連絡がついている学園艦の情報機関全てに出されている模様です》
616 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/27(月) 23:30:59.11 ID:IP2U38kI0
その校名を聞いた瞬間、アスパラガスの全身からさざ波のような音を立てて血の気が引いていく。

迂闊。あまりにも、迂闊。自らの間抜けさ加減に最早殺意すら湧いてくる。

そうだ、一度頭に思い浮かべておきながら、その時何故気付かなかったのか。“軍神”に感化され、戦車道に更なる“風”を吹き込むべく現れたあのサムライ・ガールが。“軍神”に憧れ、いつか彼女と戦うことに全てを賭け、ダージリンさえ凌ぎかねないあの西住みほフリークが。

“政治的な判断”に対する理解力も十分に持ち合わせ、正しい判断とは何かを知りながらなお自分の感情に合わせてその反対側へと飛び込むことを厭わない───そんな、最も厄介な人種であるあの女が。

この状況で、“おとなしくしている”等という選択肢を選ぶはずがなかったのだ。












《同校生徒の鶴姫しずか、松風鈴、遠藤はるか、以上三名が“テケ車”を持ち出した上で無断退艦し行方不明となっています。

目撃情報等はありませんが………あのサムライ女の性格から推察するに、大洗町に向かっている可能性が極めて高いかと》
617 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/08/27(月) 23:45:08.63 ID:IP2U38kI0






《防空指揮艦【いずも】CDCより赤城、損害状況を報告しろ!中破以上の損傷を受けた艦娘は何人居る!?》

《っ、もう敵の第四波が来るぞ!各艦娘は夜間戦闘態勢急げ!》

《インド海軍の【ラーナ】、【ランジート】は轟沈、【マイソール】も右舷側への雷撃によって激しく傾斜しています!》

《CDCより第四艦隊旗艦利根へ、空母【ヴィラート】の護衛に回れ!第五艦隊、対潜警戒!》

《CDCよりカタパルト、爆装にてLancer-05からLancer-08は発艦!Lancer-01以下第一編隊は第二編隊の離陸完了後着艦し補給を受けろ!》

《【あきかぜ】より旗艦【いずも】、外周警戒中の第九艦隊伊-58より入電!南西280海里地点にて深海棲艦の新たな艦隊を捕捉!

空母ヲ級3、内1がflagship型の機動艦隊と確認、現在艦載機多数が発艦中!》

《夜間航空戦だとクソッタレめ!!【いずも】より【まや】以下全護衛艦に伝達!対空警戒、繰り返す、対空警戒!!》

《此方【きづがわ】、艦載の96式艦戦と飛燕を全機投入し迎撃に移る!【ベンフォールド】にも連携要請出せ、少しでも手前で食い止めろ!!》

《本土に、横須賀と市ヶ谷に連絡。“第1防空機動艦隊、インド洋にて印・米海軍と共に深海棲艦の波状攻撃を受けつつあり。戦力損耗中、至急の支援を求む”と。……出せる余裕があるとは思えんがダメ元だ。

サビ残確定か、公務員のツラいところだな!》
618 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/08/27(月) 23:46:27.80 ID:IP2U38kI0
《ベララベラ島鎮守府より“海軍”極東司令部、深海棲艦の侵攻艦隊を海上で迎撃中も物量に圧されている!増援艦隊迄は求めない、せめて航空支援だけでも飛ばせないか!?》

《アッツ島鎮守府より北米司令部、西部海域から侵攻を開始した深海棲艦に対し機動迎撃を敢行し我々は侵攻を遅滞させている。だが長くは保たない、速やかな増援の派遣を。

……我々の存在は公表されたのだろう、日本からの増援は見込めないのか?20000人もの艦娘を保有してるんだろ?一個艦隊でいいんだ、どうしてあの娘達を助けてやることができないんだ!!?》

《南アフリカ派遣艦隊臨時司令部より全艦娘、全ユニットに伝達。ケープタウンは現在通信が完全に途絶した状態だが、状況的に深海棲艦は“泊地”の建設に移りつつある可能性が高いとホワイトハウスは見ている。

なんとしても食い止めるぞ、奴らにこれ以上の跳梁を許すな》

《リーザよりドレスデン、リーザよりドレスデン!深海棲艦による大規模攻勢が再開された、我々は攻撃を受けている!

地平線が真っ黒だ、一体何隻で来やがった!!》

《此方コーヘン、イッシ=ストーシュル。Prinz Eugen-32の水偵がハノーファー方面から南下する敵艦隊を確認した。……少なくとも九個艦隊超の戦力と思われる。

空爆による足止めを具申する、オーバー》

《エタンプ、ドゥルダン、シャルトルで新たに深海棲艦による攻勢を確認、現地軍が迎撃戦を開始しましたが火力面で劣勢です!またリジウーでの戦闘においてCommandant Teste-17が大破した模様!》

《例の国連“海軍”はまだ到着しないのか!?

【Richelieu】はまだ二隻しか配備できていないんだぞ、我々の現有戦力では食い止めきれん!》

《洋上の敵艦隊を視認、凡そ六個艦隊前後!報告通りリスボンに向かってやがる!》

《行かせるな、絶対にここで止めろ!

All unit, Weapon-Free!!》



.
619 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/27(月) 23:47:29.64 ID:IP2U38kI0
.












《Lancer-07より【いずも】、Lancer-07より【いずも】、南西の方角から高速飛翔体複数が出現、攻撃を受けた!05が、隊長機がロスト!!》

《【いずも】CDCよりLancer-07、落ち着け!此方のレーダーでも新たな機影は確認している、状況を報告せよ!》

《ふざけやがって、捕捉できない、速すぎる畜生!!黒鳥だ、【Bla────》

.
620 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/28(火) 03:32:46.84 ID:Wi1rtA7jO
もうこれ地球滅亡以外に落とし所ないやん
621 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/28(火) 13:13:22.08 ID:K8qph3+A0
投下されてた
おつです
622 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/17(水) 19:26:11.49 ID:njCCK9vA0
おつおつ、ひさびさに見れた…
…それにしても絶望的過ぎるww
623 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/15(木) 23:58:59.48 ID:K7BbWWrA0
624 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/10(月) 11:16:36.80 ID:IbyqLq8x0
8月以降12月まで更新がないのは寂しいな
落としどころが見つからないから放棄かな
このSSだけじゃなくたくさん書いてる人なだけに復活きてしてます
625 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/12/15(土) 07:13:20.44 ID:xPOBxPXi0
https://engawa.open2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1536501657/

やだ………報告完全に失念してた…………

此方で先日板が落ちた際に当スレに関してはおーぷんに移設しており、現在こちらをメインに更新しております。
こっちでも相変わらず糞みたいな亀更新ですが一応継続しているので、今作については以後こちらの加筆修正版を御覧いただけると幸いです。

また、ss速報での稼働も短編等から徐々に再開していく予定なので今後ともよろしくお願いいたします
626 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/17(月) 18:46:08.01 ID:KHnLDAYqO
>>625
このスレからの続きのレス番くらい指定しとけよカス
627 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/12/17(月) 19:04:59.26 ID:M23x3Mqb0
>>626
大変失礼しました。確かにおっしゃる通りですね

リンク先のスレ、>>360までが加筆修正版、>>362以降が続きとなっています

628 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/22(土) 01:26:27.16 ID:GOioj88A0
待ってました!早速行ってみます
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