エンド・オブ・オオアライのようです

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463 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/18(月) 23:36:49.10 ID:m3VtkzhB0
三式弾。あまり艦娘の艤装事情に詳しくない私でも、その名は覚えている。

敵艦載機の圧倒的な物量を逆手にとり、深海棲艦が大量の航空戦力を一度に運用すればするほど効果が大きくなるという画期的な対空弾頭。第二次マレー沖やキュラソー沖海戦、ア号作戦・改、【イツクシマ作戦】等多くの戦場で戦果を上げたとは聞いていた。

正直半信半疑だったけれど……なるほど、今回がかなり出来過ぎたケースであろうことを差し引いても、聞きしに勝る威力ね。

「シーサイドステーションより羽黒、三式弾の残弾数を報告されたし!」

《羽黒よりシーサイドステーション、残弾8発!なお、現在再編集結中の戦力で運用可能なのは私と最上さんだけです!また、最上さんは所持数2発と確認済み!》

此方の聞いたこと以上の答えが、そしてその上で求めていた答えがさらりと返ってくる。先ほどの大戦果といい、垣間見える彼女の優秀さに舌を巻く。

合計10発。今のようにここぞの場面以外でおいそれと使えるほど潤沢とはお世辞にも言えないけれど、少なくとも要所要所で敵航空隊に対する戦果拡大と抑止力として使うには十分な量でもある。

現に、三式弾への警戒からか私達の上空からは敵航空隊の姿がほぼ完全に消え去り、大洗町全体でも爆撃が明らかに鈍化した。一先ず、空の脅威はしばらく払拭されたと見ていいだろう。

《大洗鎮守府より各隊に通達!!》

────まぁ、払拭された脅威はあくまで“片方”だけなわけだけど。

《大洗めんたいパーク方面に新たな敵艦隊戦力の上陸を確認!電探反応のため艦種は不明、数は二個艦隊十二隻前後と推察される!

反応は磯浜町方面へ進軍中、付近部隊は警戒されたし!》

《此方大洗文化センター前、既に今報告に上がったと思わしき敵から艦砲射撃を受けている!

当方に装甲戦力なく、迎撃が困難!増援を送ってくれ!》
464 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/19(火) 00:02:29.01 ID:GIou/mEJ0
「………シーサイドステーションより若見羽黒、陽炎、および随伴部隊各位に伝達。作戦を一部変更。速やかにめんたいパークからの敵艦隊迎撃に向かって」

《陽炎よりシーサイドステーション、正気!?敵航空隊は下がったとはいえそっちは装甲戦力も対空火力も損失したんでしょ!?仮に軽巡・駆逐主力だとしても五個艦隊超の深海棲艦相手に持ち堪えられる戦力じゃないわよ!》

「持ち堪えてみせるわ!心配してくれるなら速やかに敵艦隊を撃滅して!サンビーチ通りを寸断されればどのみち鎮守府や大洗海岸通りが保たなくなるわ!」

私達の正面の敵艦隊撃退、そしてシーサイドステーションや大洗港湾部の安全確保は作戦の第一段階に過ぎない。大目的はあくまでも、戦力の集中運用による海岸通り及び大洗鎮守府の奪還だ。

めんたいパーク方面で敵艦隊が橋頭堡を築けば、この“大目的”を果たすに当たって沿岸部の戦線が南北に分断されることになり作戦が根本から瓦解する。私達の方面を疎かにしていいわけではないが、現段階での優先順位は明らかに“新手”への対応の方が高い。

それに、各増援部隊の進軍速度的に十分な戦力が集結しきるまでには尚もかなりの時間がかかるだろう。羽黒と陽炎が到着したところで短時間での殲滅は不可能に近く、その間に南下してきた敵艦隊に側面攻撃を受ければどのみち壊滅は免れなくなる。

《………羽黒、了解!陽炎ちゃん、行きましょう!!》

《っ、陽炎了解!!蝶野一尉、絶対持ち堪えてよね!!》

無論この事情を口に出して事細かに説明するような時間はないが、幸いにして羽黒と陽炎は此方の意図を汲んでくれたらしい。

叫び声に近い無線の直後、左手で砲声が上がる。恐らく羽黒が進軍してくる新手の敵艦隊に向かって牽制射撃を行ったようね。








『『『『──────ォオオオォオオオオオオオアアアアアアアアアアアッ!!!!!』』』』

そして………さながらその砲声が合図であったかのように、私達の正面で奴らが一斉に咆哮した。
465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/19(火) 09:50:28.62 ID:AaeO3fGV0
おつ!
増援が来てもこの焼け石に水感ではワクワクが止まりませんな
466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/19(火) 17:53:23.11 ID:98f/DyG60
467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/22(金) 20:24:11.30 ID:fW4j9ZGIO
468 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/06/27(水) 23:21:07.83 ID:7h7NQTE30
排水量数千トンの軍艦と同等のスペックを持つ化け物30体超の、肺活量を最大限に用いた大音声による大合唱。正面で響き渡るそれの凄まじさたるや、“音で殴りつけられたかのような”とでも表現すればいいだろうか。

『『『『『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!』』』』』

「つぅっ……!」

ノハ;メ )「が、ぁ、ぎっ」

いや、私達の正面だけじゃない。大洗町の至る所で、さながら梅雨時の蛙や真夏の蝉が鳴き出した時のように、戦場が奴らの声で満ちている。まさに津波の如く“音波”が押し寄せて、衝撃に視界が霞み脳幹を直接掴んで揺さぶられたみたいに身体がぐわんぐわんと揺れた。

「……何が、そんなに、嬉しいのよ……アンタらは……!」

咆哮の音量、奴らとの距離、私自身の声のか細さ、そもそもの言語の壁……どれをとっても、私の問いかけが届く要素はない。それでも、ヒトマルの残骸の縁を掴み、89式を杖代わりにし、意地でも卒倒するのを耐えて正面にひしめく敵艦隊を睨み付けながら、私はその問いを口にせずにはいられない。

「そんなに、私らを殺せるのが……嬉しいってのかしら…!?」

私は別に生物学の権威でもなければ、深海棲艦研究の第一人者でもない。モンスターパニックに有りがちな、怪物と心を通わせる少女的な能力も開花していない。……認めたくないけれど、そもそも“少女”と呼んでもらえる年齢でもない。

けれどそれらの声を聞いたとき、私は直感的に理解した。

奴らは、喜んでいる。

自分たちが抱く憎悪の対象を、殺意の矛先にある存在を。

『『『『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!』』』』

《敵艦隊、一斉に艤装を再起動!!》

いよいよ私達人類を本格的に殺せることを、歓喜している。

《艦砲一斉射、来まs》
469 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/06/27(水) 23:21:57.80 ID:7h7NQTE30
無線からの報告は、最後まで言い切られることなく途切れる。単に奴らの砲声にかき消されたのか、或いは砲撃によって通信元自体が吹き飛ばされたのか、今となっては解らない。

沖合、港湾部、沿岸、そして学園艦の甲板上。奴らが蠢いている場所で次々と光が瞬き、艤装から放たれた鉄と火薬と殺意の塊が空を切り裂いてこの町に降り注ぐ。地に突き刺さった砲弾が至るところで炸裂し、巨大な火柱が轟音と共に立ち上り天を焦がす。

《────見屋交wW-w──敵弾多s──〜ww……ヒトm───》

《此方名t×××wWww………は困難、至急──w──》

《──WwwWw───は応答を願───》

今までの奴らの攻撃がもしただの準備運動に過ぎなかったのだと言われれば、私はきっとそれを信じるだろう。

既に半壊状態にある大洗の町を完全に地図から消そうとしているかのように凄まじいペースで砲撃が飛来し、逆巻く炎に熱風が吹き荒ぶ。着弾点から吹き出した幾百筋の黒煙が、さながら地面から雲が湧いているかのように空を暗く覆っていく。恐らく拠点・部隊ごとの窮状を伝えているであろう無線は、間断なく──比喩表現ではなく文字通りの意味で──響き続ける爆発音と奴らの咆哮に飲み込まれ、殆どまともに聞こえるものはない。

「シーサイドステーション、崩落箇所更に拡大!屋内の狙撃班並びに医療班との通信が途絶えました!大洗駅他複数箇所からの支援砲火も沈黙!!」

「敵艦砲射撃苛烈!堡塁・陣地の完全沈黙が半数を突破!最早我々の残存火力では太刀打ちできません!」

「若見屋交差点に伝令を飛ばして!羽黒と陽炎はまだ生きてるはずよ、途中で他の隊に合うようならそいつらにもとにかくシーサイドステーションに直行するよう伝えて!

それと残存火砲並びに残存弾薬をここに全て集めなさい!集中運用でなんとしても奴らの動きを遅滞させて───」

ノハ;メ゚听)「一尉、北を……北を!!」

深海棲艦の咆哮や砲声に負けまいと声を枯らして周囲への指示を出す中、大隈二曹の絶望に濡れた叫びが耳に届く。

チラと彼女が指さす方角に視線をやる。

「………」

そこに、“火の海”が広がっていた。
470 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/06/27(水) 23:27:06.89 ID:7h7NQTE30
「……確か大貫郵便局前に110mmを所持した部隊が居るはずよ。そっちにも伝令を派遣してもしまだ動けるようなら連れてきて、最悪装備だけでも確保を!

歩兵隊各班は私と共に敵への牽制・妨害射撃を行う人員と防火、負傷者救助に向かう人員に分かれて!特にシーサイドステーションは屋内部隊が全滅したとは考えがたいわ、一人でも多く救出しなさい!」

「「「了解!!」」」

東南アジアのスコールにも負けないような勢いで砲弾が飛んできている中で其方ばかり見ているわけにもいかず、視線を剥がして指示に戻る。周囲の隊員達も返答しつつすぐに散っていくが、空元気で無理矢理絞り出されたその声には明らかな焦燥と恐怖が滲み出ていた。

かくいう私も、脳裏には今し方目にした光景がしっかりと焼き付いている。

火の海。

我ながら、陳腐で使い古された表現だと思う。でも、アレを他にどう呼ぶべきか、私の語彙力では適切な表現を探すことは難しい。

大洗海岸通り、そして何より大洗鎮守府。この防衛線の命運を握る二つの重要拠点に、奴らの攻撃がとりわけ集中するのは考えてみれば自然なことだ。だけど、町そのものを完全に焼き払いかねない攻撃の中で更に念入りにリソースが割かれたその一帯は、見渡す限りの範囲が紅蓮の炎に飲み込まれまるでそこだけ昼間であるかのように照らし出されている。

無数の砲声に混じり、風に乗ってその方面からは奴らの悲鳴や呻き声も聞こえてきているため、両方かどちらか片方かは解らないがこの方面が完全に陥落したわけではないのだろう。
だけど、あの光景を見る限りそれは明らかに時間の問題だ。

そして私達にも、最早其方に気をかけられるほどの余裕は残されていない。

《こんのっ………照準ヨシ!撃て!!》

『グァッ……!? ォオオオオォオッ!!!』

まだ生き残っていたヒトマル2号車が、最後の一発となった主砲弾を放つ。軽巡ホ級の内一体が側面部分に直撃を受けて一瞬呻くが、急所を外したため効果は薄い。すぐに態勢を立て直したホ級は、背中の多段連装砲を2号車に向けながら今度は怒りの叫び声を上げた。
471 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/06/27(水) 23:30:49.61 ID:7h7NQTE30
《退避急げぇ!!》

『ゴォアッ!!』

車内から転がり出た2号車の三人が殆ど飛び跳ねるようにして散開し終えたのは、ホ級の主砲が火を噴くコンマ一秒前。旧式とはいえ軽巡洋艦の艦砲射撃数発が一斉に直撃して無事で済むほど、ヒトマルの装甲は分厚くない。轟音と共に車体が爆発し、砕け散った残骸がアスファルトの上でカラカラと乾いた音を立てる。

『『『ォオオオオォオアアアアアッ!!!』』』

最後の装甲戦力の沈黙によって、完全に私達の側の脅威は排除されたと判断したのだろうか。再度雄叫びを上げた正面艦隊が、一斉に前進を開始した。

巨人が全体重をかけて地面を踏みしめるズンッ、ズンッという音が、ゆっくりと此方に近づいてくる。総重量数トンの化け物が足並みを揃えて歩を進めるせいで、視界が小刻みに揺れ89式小銃の照準がぶれ、弾丸が狙っているハ級の身体のあちこちで火花を散らす。

全く、人生とは解らないものね。軍靴の足音どころか、“軍艦の足音”なるワケの解らないものを体験することになるなんて、自衛隊に入って間もない頃思っても見なかったわ。

「一等陸尉、敵艦隊が前進を開始!恐らく我々の方面でも本格的な内陸浸透に移るつもりと思われます!!」

ノハメ;゚听)「LAVもヒトマルも96式もダスターも全部やられた!迫撃砲や無反動砲も六割方を喪失、残った仲間も現在進行形でどんどん砲撃に吹き飛ばされていってる!

一尉、もう無理っスよ!!」

「増援に向かってきているはずの友軍部隊との通信もまともに繋がりません!これ以上ここでの継戦は不可能ですし、意味もありません!」
472 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/27(水) 23:31:42.27 ID:7h7NQTE30
周囲の士官が、必死の形相で口々に撤退を具申してくる。さっきまでは寧ろ深海棲艦の攻勢に怯む私達を叱咤する側だった大隈二曹さえ、小銃を撃つ手を止めないながら疲労と諦観を宿した目でこちらを顧みる。

実際、この現状を鑑みればその具申は無理からぬことだ。元々限界ギリギリの中で消耗戦を強いられていた各拠点は、頼みの綱だった相互の連携を敵の戦場全域に対する圧倒的な火力投射で寸断され孤立し、敵の物量浸透にまともに抵抗する術を失った。この拠点単体で見ても、戦力の摩耗具合は疾うの昔に戦線維持の臨界点を超えている。

優れた指揮官ならば、きっと大隈二曹達の進言に従うべきなのだろう。少なくとも、この有様で尚“戦力の集結と敵艦隊の撃滅”という目的に固執し更に損害を重ねるようなら、それは典型的な“愚かな指揮官”であるに違いない。








「………撤退は許可できないわ」

そして私は────“愚かな指揮官”で有り続けることを選択した。
473 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/27(水) 23:36:07.54 ID:7h7NQTE30
「なっ……」

ノハメ;゚听)「一尉、正気ッスか!?」

戦闘の真っ最中───それも、全滅間際の悪あがきに近い悪戦苦闘の中で、銃撃の手を止めるような愚は流石に誰も犯さない。それでも、私の言葉を聞いた隊員達は口々に驚愕と怒りが入り交じった声を上げる。

「蝶野一尉、状況を解っておられますか!?このシーサイドステーションどころか、既に町全体でどれほど甚大な損害が……」

「私達がこの防衛線を放棄すれば、犠牲になる人命はこんなものの比ではなくなるわ!!!」

一人が更に反駁の言葉を重ねようとしたのを遮り、砲声に負けぬよう、一人でも多くの隊員に伝わるよう、腹の底から叫ぶ。脱出後此方に合流しにきた2号車クルーの三人を始め、戦闘中の何人かの隊員の肩がぴくりと揺れたのを私は確かに見た。

「私達の背後には、ほんの十数キロ先には、市街地の住人が今なお避難中なのよ!?この町が落ちれば、その人達が空襲だけじゃなくて本格的な艦砲射撃の危機にさらされることになる!どころか、その更に先の町や市にだって空襲が行われるかも知れない!私達自衛隊は国民の盾よ、その役目を捨てる行為だけは絶対に許可できない!」

「し、しかし……現にこの戦況の打開は……!」

「まだ作戦は潰えていないわ、逆転への目は残されている」

決して、口から出任せの完全な嘘ではない。

実際北でも南でも、時折、深海棲艦側に向かって放たれる反撃の砲火が見ることができた。陸地に殺到する何百、何千という火線とは比べるべくもない量であることは違いないけれど、それは少なくとも未だ幾らかの友軍部隊・拠点が戦闘を継続しているという証拠でもある。

それらの戦力を糾合し、陸では鈍重な深海棲艦を逆に各個撃破する───即ち、当初私が描いた作戦は、まだ実行に移せるだけの余地を残している。
474 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/06/27(水) 23:37:10.17 ID:7h7NQTE30
………だから、“完全な”嘘ではない。単に、そのような状況をここから私達で作り出すことが、砂漠で一発のBB弾を探し当てるのと同じぐらい困難になっているというだけの話で。

それでも、私達は……私達自衛隊は、その奇跡のような可能性に賭けなければいけないのだ。

銃後の国民を、守るために。

「各員に伝達。現状、確かに苦境ではあるけれどまだ勝算はあるわ。それに、私達が自衛隊である限り、例え勝算がなかろうとも最後の一兵までこの拠点を死守する以外の選択肢は、もとより残されていない!!

“増援部隊”の到着後、反攻に打って出る。それまでなんとしても耐えきりなさい!」
  _,
ノハメ;゚−゚)「……無茶をおっしゃる上官だ!!」

大隈二曹が、眉間にしわを寄せ悪態をつく。……だけどその一方で、彼女の口元にはどこか小気味よさげな微笑みも浮かんでいた。

ノハメ#゚听)「日本陸上自衛隊・大隈瞳二等陸曹、蝶野亜美一等陸尉の命令を受諾!戦闘を継続する!!」

「……同、田島浩三二等陸尉、命令を受諾!職業選択を間違えたな畜生!」

「赤座智宏一等陸曹、指示に従います!各拠点への呼びかけを継続、なんとか戦力を集めてみます!」

「我妻美紀三等陸尉、了解!

ぶっ壊された私の愛しいヒトマルの敵よ、1隻でも多く吹っ飛ばしてやるわ!!」

「………」

大隈二曹を皮切りに、その場にいた全員が力強く吠え、拳や武器を突き上げ、そして戦闘に戻っていく。その光景を見て不覚にも胸の奥から何かがこみ上げてきて、滲む視界を迷彩服の袖で慌てて拭う。

「────ありがとう」

万感の意を込めたその一言は、すぐに私自身の構える89式小銃の銃声に掻き消された。
475 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/27(水) 23:45:52.23 ID:7h7NQTE30




一つ、“正直な話”をしなければならない。

実のところ、この作戦────即ち、大洗町に上陸した深海棲艦部隊の各個撃破という私の立案した作戦について、実行したとして“こうなる”ことは半ば私には予想がついていた。

「軽巡ホ級、ヘ級、駆逐イ級、相次いで発砲!軽機関銃堡塁、また一つやられました!!」

「シーサイドステーション崩落箇所より救護班並びに中内二曹ら負傷者複数名の救出を完了したとのこと!全員まだ息がある模様です!」

「急いで少しでも後方に下がらせろ!路上放置車両でも何でも使え!!」

無論、死ぬと決まっていながら作戦を強要したわけではない。実際あの時点では他に有効な策が思いつかなかったし、この町が陥落すれば例え一時であっても関東地方の広い範囲が奴らの攻撃範囲に含まれていたであろうことも紛れもない事実。大洗女子学園を見捨てたくないという私情を差し引いても、この戦線は日本にとって死守しなければならない場所だった。

だからあの時点で私達には、どれほどか細くとも目の前に垂れている“反撃の糸口”に縋り付く以外の選択肢自体が残っていなかったと言える。
476 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/28(木) 00:15:04.67 ID:E0wWjTsW0
「大貫郵便局前より残存部隊が合流しました!パンツァーファウスト3は六門が残存!」

「速やかに射撃を開始!奴らは密集しているわ、撃てば当たる!!」

「蝶野一尉、加波山神社方面で陸地側からの砲煙を複数確認!恐らくキューマル数両のものと思われます!」

「伝令を走らせて至急こっちにこさせて!!」

だが、私も西住流に学び、あくまで“戦車道”の上でとはいえあの西住しほから戦術の手ほどきを受けた人間だ。例え“それしかなかった”にしろ、無謀な作戦であるという自覚は十二分に持っていた。

ただでさえ、人類の兵器と深海棲艦の間には陸戦において圧倒的な火力差が横たわる。加えて私達は対応が後手に回り数的にも劣勢で、対抗し得る火力を持つ艦娘部隊の主力たる大洗鎮守府とも分断されている状況下。おまけに制空権を握られ、私達の動きは筒抜けだった。

敵の指揮艦がよほどの間抜けでない限り、此方が何らかの動きを見せればその目的を類推し、対策を立ててくるのは必然的な動きだ。そして大洗女子学園に出現した“無敵砲台”の火力を活かせば、戦力集結の動きを寸断し逆に自衛隊側の防衛線を各個撃破の状況に持ち込むなど容易い。私の作戦をもし本気で成功させるなら、敵がよほど私達の動きを深読みするか或いは目を開けたまま寝てくれていることがその前提条件だったと言っても正直過言ではない。

「迫撃砲、60mmがまた一門やられました!!」

「敵艦隊、進軍速度遅滞も止まりません!なおも接近中!!」

「距離200を切りました……増援は、増援はまだか!!」

ノハメ;゚听)「クソッ…………!」








────現有戦力“のみ”でこの作戦を遂行しようとすれば、の話だが。
477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/28(木) 06:31:32.40 ID:IiUbyqaAO
478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/28(木) 11:33:04.25 ID:L7WQmd0K0
投下乙!
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/28(木) 16:42:07.70 ID:w+RGE5rA0
おつおつ
周辺でこれなら艦内はどんだけ…
480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/28(木) 21:32:29.84 ID:W/j38pzo0
おつー
481 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/28(木) 23:07:12.12 ID:E0wWjTsW0
ブチュリ。その音をもし擬音で表現するなら、きっとこんな文字列になるんじゃないかしら。

砲声とも、爆発音とも質感の異なる、この場においてはあまりにも浮いた響き。無線すらまともに通らないほどの轟音が飛び交う中にあっても、それははっきりと私たちの耳に届いた。

「………何が」

『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!?!』

士官の一人が口にしようとした疑問への答えは、すぐに甲高い絶叫によって示される。

『ア゛ア゛ア゛、イ゛ア゛、グァアアアアッ!!!!?』

軽巡ホ級の内一隻が、周囲の味方艦に身体をぶつけて暴れ始める。そのホ級は右手の肘から先が吹き飛ばされ、辺りに奴ら特有の青く生臭い体液をまき散らしながら激しく悶え苦しんでいた。

普段人間に対する殺意と憎悪で突き動かされている深海棲艦も、痛覚はあり苦痛も感じる。人間に置き換えれば、自分の四肢の一つが引きちぎられたと考えればどれほどの激痛かは想像に難くない。

『アアア…ギィッ!?』

『ア゛ア゛ッ!?』

『グゴァッ!?』

眼前の友軍艦を突然襲った異常事態に動きを止めたイ級の横っ面で、炎がはじけ装甲の一部が砕け散る。間髪を入れず、今度は最前列にいたト級の右頭側頭部で爆発が起きる。爆風に煽られて横倒しになったト級に押し潰され、ハ級が一声苦しげな鳴き声を上げた。

「一体何事ですか!?どこからこれほどの威力の攻撃が……」

「敵艦隊、損傷艦多数発生し進軍停止!友軍による支援攻撃と思われます!」

ノハメ;゚听)「んなもんは解るッスよ!問題はそれがどっからって話で……うぉっ!?」

『『『ギィイイイイイイイイイッ!!!?』』』

今度は、敵艦隊の中程で立て続けに爆炎が起きる。十隻を優に超える個体が身体に何らかの損傷を受けて苦痛にのたうつ中、“何か”の影が凄まじい速度で私たちの真上を通過していく。

深海棲艦が奏でる“ジェリコのラッパ”とも、空母艦娘の子達が操る零戦や烈風の物とも質を異にする、私たちが聞き慣れた音────ジェットエンジンの駆動音を伴って。
482 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/06/28(木) 23:11:18.57 ID:E0wWjTsW0
「こ、航空支援!近接航空支援です!」

「他の戦闘地域でも同様の爆発を多数視認!深海棲艦の上陸艦隊に対してかなりの規模での空襲が行われている模様!」

「何だと!?い、いや待て!主力部隊が下がったとはいえまだ町全体で見れば敵の航空戦力がかなり居たはずだ!そんなところに低空飛行で通常の戦闘機が突入など自殺行為だぞ!」

「しかし現に……い゛っ!?」

拠点内が混乱の極みに達する中、上空から落下してきた火の玉がその会話を寸断する。地上にたたきつけられたそれは乾いた音を立てて破裂するように砕け散り、黒色の破片をそこら中に飛び散らせた。

『『『『─────!?!?』』』』

〈〈〈〈─────!!!!〉〉〉〉

頭上から、今度は猛獣のうなり声を思わせるレシプロエンジンの回転音が幾つも重なって降ってくる。空に視線を向ければ目に入るのは、今まで我が物顔で飛び回っていた【カブトガニ】や【オニビ】を、次々と銃火で撃ち抜きながら追い散らしていく獰猛な地獄の番犬ならぬ“地獄の番猫”の姿。

ノハメ;゚听)「………へ、【ヘルキャット】?」

「サラトガから再度発艦したのか…?いや、しかし威力偵察に投入されたF6Fは確か壊滅したはずじゃあ」

「…………まったく」

次々と起きる予期せぬ事態に、周囲の誰もが困惑した表情を──それでも深海棲艦への射撃の手を止めないのは流石だが──隠そうともしない。恐らく、町に展開するほぼ全ての隊員が同じような心境を抱いていることだろう。

かく言う、私はといえば、

「やっと、動いてくれたのね」

ようやく訪れた“待ち望んでいた展開”に、口元が綻ぶのを止められずにいた。
483 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/28(木) 23:16:58.96 ID:E0wWjTsW0
西住流を学んだ者の端くれとして、十中八九こうなることは予想がついていた。故に私は、ああ言いながらそもそも“現有戦力だけ”でこの策を成功に導こうとは最初から殆ど思っていない。“この増援”が来ることを、最初から勘定に入れた上での迎撃だ。

尤も、それは私の直感に基づく予想であり、理論的な動機を説明することはできない。だから私は、友軍に指示を出すに当たっては努めて“増援”の存在には触れず、また万一私の直感が外れたときに備えてあくまで現有戦力のみでの戦闘を前提においた指揮を続けてきた。

そして、その心配はたった今杞憂に終わってくれた。

ええ、そうよ。貴方たちの増援が、たかが空母艦娘一人だけで終わるはずがない。この地の苦境が極まれば、絶対に何らかの動きがある、そう信じていたわ。

「本当に貴方たちは、野蛮で、傲慢で、粗雑だけど────頼りになる“トモダチ”よ」

一人呟く私の視線の先で、先ほど飛び去ったジェット音の主が────対地攻撃機A-10【サンダーボルト】の編隊が、白い機体を翻し再び深海棲艦に突撃していく。

『『『『グガァアアアアアアッ!!!?』』』』

《────りwW〜地各■■に通×、CPより市街地各拠点に通達!!》

投下された十数発のJDAMが正面艦隊のど真ん中で炸裂し、爆炎に焼かれた何体かが断末魔と共になぎ倒される。そんな中、機能を回復した無線機からは、それらの轟音にも負けない前線指揮所のオペレーターの叫び声が吐き出される。

まだ年若いと思われるその女性士官の声は、さながらクリスマスに思い人から好意を告げられたかのように歓喜と興奮に打ち震えていた。
484 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/28(木) 23:22:18.84 ID:E0wWjTsW0





《横須賀司令府より入電!現戦況の打破を目的とし、在日米空軍並びにアメリカ海兵隊、横須賀司令府直属艦隊、並びに国連“海軍”特殊部隊が当戦線に投入されたとのこと!!

我々大洗町防衛線はこれより残存兵力を全て投入、増援部隊と連携し攻勢に移ります!

各拠点は速やかに戦力を再編、反攻を開始してください!!》




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485 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/06/29(金) 00:19:24.30 ID:XlCsDid20






攻勢、反攻、総攻撃。軍人という職に就く人間の中で、これらの単語を耳にして高揚を覚えない存在というのはなかなか希少な側であるに違いない。

単純に自分たちが主導権を握った状態での戦闘を指すという点でもそうだし、端的に言葉の響きや文字列自体の勇ましさもそこに拍車をかけている節がある。そして、それらを実行できる状態になるまでの経緯が苦境であればあるほど、生じるカタルシスはなおさら大きくなる。

今横須賀司令府の地下司令室で発生している現象は、その尤もたるものといえるだろう。

「A-10【サンダーボルト】編隊第一波による対地爆撃、効果絶大!各地点における深海棲艦多数の撃沈、並びに進行の遅滞を確認!!

また、横田飛行場より出撃した“海軍”基地飛行隊も深海棲艦の制空部隊と交戦を開始しました!」

「第二波攻撃隊、大洗町上空に後10秒で突入!!また、“海軍”部隊並びに護衛航空隊も後続突入の用意を完了したとのこと!」

「空母【ロナルド・レーガン】より入電、予備戦力であるF-18二個編隊の整備が終了!此方の要請に従いあらゆる方面へ出撃させる用意がある、と!」

(☆...●)「ハメルス司令に謝意と現状は待機させるよう伝えろ、各方面の戦況に応じて臨機応変に投入する。

それとマスコミ対応の用意も急げ、良かれ悪しかれ在日米軍が動いたとなればネットで様々に憶測をばらまく筈だ。特に日の出新聞とNBS、合同通信のウェブサイトは徹底的に動向を監視しろ」

「「「了解!!」」」

所狭しと並べられた電子機器の間で立ち働く人員は、王嶋の指示に対し部屋の空気が震えるほどの声で返答する。彼らの表情は、弛緩とまでは言わないものの一様に明るい。先ほどまで全員恋人の葬式にでも参列しているかのような陰鬱とした有様だったのに、今はワールドカップ時にサッカーの生中継サービスをやっているスポーツバーの如き空気が室内に充満している。
486 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/29(金) 00:38:40.88 ID:XlCsDid20
(☆...●)(………まぁ、気持ちは解るがな)

少々の呆れを覚えつつ、少なくとも仕事に支障を来すような状態の人間は見受けられないので喝を飛ばそうとした口は閉じておく。

実際、一方的に蹂躙されるだけの大洗町の状況を指をくわえて見ているしかできないことに対する歯がゆさは王嶋も強く感じていた。例え自身が直接寄与できなくとも、百キロ離れた地で戦い続ける友軍の苦境が幾らか打開されたことを喜ぶのは人として自然な感情だ。

よほど羽目を外すようなことがない限り、水を差すのも野暮というものだろう。

(☆...●)「………」

彡(゚)(゚)「………」

だが、王嶋自身が───そして、その傍らで椅子に深く腰掛ける南が相好を崩すことはない。

艦娘部隊最高指揮官並びに日本国首相としての威厳を保つ必要性がある、という理由もある。だがそれ以上に、そもそも現状は彼らの立場から見るとまだ笑えるような段階からはほど遠い。

彡(゚)(゚)「キヨ、“日本海側”の動きはどうや」

(☆...●)「相変わらず不穏だよ。アメリカから衛星情報の共有があったが、対馬、尖閣、竹島、どの方面でも“不審な動き”のオンパレードだ」

ともすれば飛び交う電子音の中に?まれてしまいそうな、互いにしか聞こえない小声でのやりとり。その声色は、どちらも暗く重い。

(☆...●)「流石に“南側”は在韓米軍の手前もあってまだおとなしいが……万一の有事に対する備えと称して【文武大王】が臨戦態勢に入ったらしい」

彡(゚)(゚)「………ある意味あそこの国が一番読めんから厄介やな。元々対中、対北連携でもどっちつかずやし」

(☆...●)「米軍経由でフィリピン海方面への増援派遣を打診しているが、そっちも色よい返事は今のところ帰ってきてない。監視は続ける。

とはいえ、韓国は現状“危急の対処”が必要な存在ではない。注視すべきなのはやはり────」

彡(゚)(゚)「“太っちょのお隣さん”やな」
487 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/29(金) 00:54:23.37 ID:XlCsDid20
南の口から、深いため息が漏れる。今日一日でどれぐらい幸せが逃げただろうかと、顔に似合わぬメルヘンチックな考えが一瞬脳裏をよぎった。

彡(゚)(゚)「何でこの期に及んで同じ人間の国家への対応考えなあかんねん……ハリウッド映画みたいに演説一発で団結できたら楽やのに……」

(☆...●)「これが“現実”だよ、ヨシ。この世界にゃ残念ながらホイットモア大統領はいねえんだ」

宇宙船地球号なんて思想が一時話題になったが、その“地球号”には最低でも200に迫る自己主張の激しい船長が居る。船頭多くして船、山に上るの諺は、この地球号にこそ最もよく当てはまる。

彡(゚)(゚)「とりあえず、外務省に話通して近隣諸国への根回しは更に念入りにやっとくで。特にモンゴル、インド、ロシアとの連携は強化しとかな」

(☆...●)「中国政府自体への牽制もしっかりやっとけよ。劉志那の野郎は前任とは比べものにならない妖怪ってツラだぜありゃ。不細工って意味でも切れ者って意味でもな」

彡(゚)(゚)「言われんでも解っとるわ……ところでお前なんで不細工のところでワイの顔チラ見しやがったか説明せーや」

(☆...●)「黙秘権を行使します」

彡(゚)(゚)「死ね」

(☆...●)「お前が死ね」
488 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/29(金) 01:11:13.82 ID:XlCsDid20
軽口の応酬の後、南はぶつくさ言いながらもスマートフォンを取り出しどこかへ電話を始める。……軽く聞き流している限り、外務大臣経由ではなく直接外務省の職員に電話で指示を出しているらしい。

ともすれば越権行為として大スキャンダルになりかねない手段を必要とあれば臆することなく取れる身軽さは、南慈英という政治家の最大の武器だ。だが同時に、そうした破天荒な行為をされても「南なら仕方ない」と閣僚達に納得させてしまう人徳・カリスマもまたそうした彼の行動力を支える隠れた才であると王嶋は踏んでいる。

(☆...●)(……大方、在日米軍の大規模増援も杉浦辺り使ってこいつが“わたり”をつけたんだろうな)

これについてもやはり、横須賀司令府の元帥である王嶋や外務省、或いは防衛省を通じて段階的な手続きを本来は必要とするもののはずだ。だがそれを南は一足飛びに自分の“仕込み刀”で片付けてしまい、昔なじみという点を差し引いても頭ごなしの仕事をされたにも関わらず王嶋には不思議と不快の念がない。

つくづく、“政治家”としてのあらゆる能力が化け物じみている。……顔も別の意味で化け物だが。

(☆...●)(………化け物といえば、大洗町防衛線の崩壊を防いだのは何者なんだ?)

はっきりと言ってしまえば、威力偵察の失敗と【あきつしま】の轟沈、そして直後に行われた大規模空襲という深海棲艦の一連の攻勢を受けて、横須賀司令府では疾うの昔に大洗町並びに大洗女子学園、さらにはひたちなか市を始めとするその周辺地域の失陥まで視野に入れた防衛線の再設定を開始していた。無論完全に状況の打開を諦めたワケではなかったが、少なくとも今から“最悪”を想定しなければ間に合わないと思わせる程度にはあのとき大洗町の戦況は最悪だった。
489 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/29(金) 01:28:07.28 ID:XlCsDid20
ところが現状はどうだ。大洗町は確かに壊滅的損害を受けながら見事に増援派遣まで命脈を繋ぎ、今まさに反転攻勢に移ろうとしている。

通信が一時的な途絶状態に陥る直前、防衛線のコマンド・ポストは何でも拠点指揮官の一人である一等陸尉に一部の艦娘部隊を含む戦線の指揮権を委任していたと聞く。そしてそこから、分断されていた各部隊は深海棲艦の攻勢に対し組織的な反撃を再開した。

(☆...●)(まるで、“ベルリンの奇跡”みてぇだな)

今や世界中の軍事関係者が伝説として語り継ぐ、ドイツ陸軍による“軽巡棲姫の陸戦における撃沈”。あれは実のところ、ドイツ軍の少尉───自衛隊における三尉相当の階級の人間が、その巧みな采配と自らの突撃をもって殆ど一人で成し遂げたのだという。

無論、膨大な尾鰭やかなりの誇張表現はあるだろう。だが、その後もドイツ軍がドレスデン以南への深海棲艦の侵攻を防ぎあまつさえ一部の地域で都市や地区の奪還に成功している点から見て、相当優秀な指揮官が何人か居るのは間違いない。

そして、もしも大洗町の絶望的な戦況を耐え抜けるだけの指揮を執れる人間がいるとすれば、その人物は件のドイツ軍人や青ヶ島を守る八頭進に匹敵する人材である可能性が高い。
490 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/06/29(金) 01:41:45.23 ID:XlCsDid20
(☆...●)「………後で、杉浦に伝えておくか」

「は?」

(☆...●)「いや、こっちの話だ」

近くを通り過ぎようとした職員の一人が怪訝な顔で足を止めたので、王嶋はすまなさそうに眉をひそめて肩を竦める。

(☆...●)(この話は一旦後に回すか)

在日米軍ヘの交渉・指示をしていたとすればまだ杉浦の司令府到着には時間がかかるだろうし、そもそもあの強面のいけ好かない一等海尉は様々な面で自分より遙かに有能でめざとい。下手をすれば、現時点ではその陸尉の名すら知らない自分よりその人物について詳しい可能性すらある。

それよりも、今は自分も“元帥”としての仕事に徹すべきだ。

(☆...●)「誰か、通信を呉司令府に至急繋いでくれ。今のうちに指示を出しておきたい」

「了解しました。して、指示の内容は?」












(☆...●)「【大和】の警備を最大限強化するように手配を。学園艦すら深海棲艦化している中で、もう動かんとはいえ戦艦を放置しておいていいはずがないからな」
491 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/06/29(金) 01:48:49.57 ID:XlCsDid20
【黙示録】大洗実況スレ part6【人類終了】

273: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:32.23 ID:dk0utd44?
【悲報】てれ東、ゆーがたでいず!の放送を中止し深海棲艦に関する緊急特番を開始

274: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:32.29 ID:bonsky01
スレの流れはやすぎぃ!!

275: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:33.48 ID:pp5astsw
>>173
こマ?

276: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:33.50 ID:cdd582in
>>173
ヒェッ

277: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:34.58 ID:hi06ngbs
>>173
非常事態対策の一環として、
ご家庭内の目につく場所に貼ってご活用ください。
*レベル6が、最高ランクです。

レベル1:NHCが特番を開始。(注意報発令)
レベル2:日チャン、NBS、富士、テレひのが特番を開始。(警報発令)
レベル3:てれ東がテロップを入れる(避難勧告発令)
レベル4:てれ東が通常放送を打ち切る (避難命令発令)
レベル5:総理大臣、国民に向けて会見(非常事態宣言)
レベル6:てれ東、アニメを放送途中に打ち切り緊急特番を開始する(地球滅亡。少なくとも日本の終わり)

278: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:35.66 ID:tnk6kd29
>>173マジやん

279: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:36.00 ID:mnayemna
>>177これを見に来た

280: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:36.16 ID:yakoni89
>>177
仕事早すぎて草

281: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:36.59 ID:pplm82t
>>173
マシソンじゃねえかwwwww

282: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:38.60 ID:f0m0cb24
お前ら落ち着け、減速しろ。

283: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:39.01 ID:jminnanj
>>177
これとウニのコピペほんすこ

284: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:39.27 ID:jamwikip
>>177
まだアニメじゃなくて通常番組だから(震え声)

285: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:39.40 ID:nt94knkk
16時15分からまた茂名官房長官の記者会見来るってよ

286: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:40.03 ID:bam0tki3
>>177
レベル4やんけ!まだいけるやん!!

287: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:41.92 ID:mti55hdk
>>177
絶対投下する瞬間待ち構えてたわこいつ

288: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:43.08 ID:ynks1ma8
>>184
今更何を話すねん
492 :>>491修正 ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/29(金) 01:52:48.36 ID:XlCsDid20
【黙示録】大洗実況スレ part6【人類終了】?

273: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:32.23 ID:dk0utd44??
【悲報】てれ東、ゆーがたでいず!の放送を中止し深海棲艦に関する緊急特番を開始?

274: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:32.29 ID:bonsky01?
スレの流れはやすぎぃ!!?

275: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:33.48 ID:pp5astsw?
>>273?
こマ??

276: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:33.50 ID:cdd582in?
>>273?
ヒェッ?

277: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:34.58 ID:hi06ngbs?
>>273?
非常事態対策の一環として、?
ご家庭内の目につく場所に貼ってご活用ください。?
*レベル6が、最高ランクです。?

レベル1:NHCが特番を開始。(注意報発令)?
レベル2:日チャン、NBS、富士、テレひのが特番を開始。(警報発令)?
レベル3:てれ東がテロップを入れる(避難勧告発令)?
レベル4:てれ東が通常放送を打ち切る (避難命令発令)?
レベル5:総理大臣、国民に向けて会見(非常事態宣言)?
レベル6:てれ東、アニメを放送途中に打ち切り緊急特番を開始する(地球滅亡。少なくとも日本の終わり)?

278: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:35.66 ID:tnk6kd29?
>>273マジやん?

279: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:36.00 ID:mnayemna?
>>277これを見に来た?

280: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:36.16 ID:yakoni89?
>>277?
仕事早すぎて草?

281: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:36.59 ID:pplm82t?
>>273?
マシソンじゃねえかwwwww?

282: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:38.60 ID:f0m0cb24?
お前ら落ち着け、減速しろ。?

283: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:39.01 ID:jminnanj?
>>277?
これとウニのコピペほんすこ?

284: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:39.27 ID:jamwikip?
>>277?
まだアニメじゃなくて通常番組だから(震え声)?

285: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:39.40 ID:nt94knkk?
16時15分からまた茂名官房長官の記者会見来るってよ?

286: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:40.03 ID:bam0tki3?
>>277?
レベル4やんけ!まだいけるやん!!?

287: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:41.92 ID:mti55hdk?
>>277?
絶対投下する瞬間待ち構えてたわこいつ?

288: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:43.08 ID:ynks1ma8?
>>285
今更何を話すねん
493 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/29(金) 01:55:14.84 ID:XlCsDid20
289: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:45.61 ID:pp5astsw
>>287
>>273の書き込みから2秒強で>>277が貼られてて草生える

290: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:46.17 ID:sk1to1sm
どこの報道も似たり寄ったりで全然最新情報入らへんな

291: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:46.20 ID:kyztih00
>>285
どーせ殆ど真新しい情報出ないやろ、パニック起こすなーって定型文しゃべって終わりや

292: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:46.93 ID:9ks31y
避難勧告対象地域この短時間で拡大しまくってて草

293: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:04:47.25 ID:anotssg1
ワイ末っ子、酸で教師勤務のアッニと保安官勤務のアッネが心配で震える

294: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:51.22 ID:bkrm83sl
>>293
酸になんかあったら在日米軍黙ってないやろ。それよりまだ茨城県沖から逃げてる最中のプラ学がヤバい
つながり深い露は四方から深海棲艦迫ってるから独自に救援なんて回せる余裕ないだろうし

295: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:51.30 ID:0i4mfseik
>>292
太平洋側だけじゃなくてオホーツク方面から来てる深海棲艦おるからな。国後に住んでる従兄弟からさっき鎮守府からの避難勧告きたってLINE入ったわ

296: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:51.63 ID:k1nk2njc
亜細亜板覗いたらお祭り騒ぎの韓国のニュースコメントのレスわざわざ翻訳貼りして発狂しまくってて草

297: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:57.09 ID:tnk6kd29
>>294
一番ヤバいのは日本海側定期。ビゲン、ポンプルとかなんかあったらどうすんやろ

298: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:58.98 ID:mik1istl
>>296
や亜糞
まぁお祭り騒ぎしてる側にも流石に問題あるとは思うが

299: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:25:01.85 ID:emd00rai
>>297
さては竹島、尖閣、佐渡、対馬の4鎮守府の戦力知らんな?チビるで?

300: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:25:04.19 ID:iyki4810
>>293
サンダースは長崎やろ?第七艦隊は横須賀の方に出払ってる分差し引いても佐世保の司令府とかあるしなんか起きてもなんとかなるやろ

301: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:25:07.37 ID:1bsy5kri
>>297
「万一に備えて」の名目で対馬、尖閣、竹島、佐渡に実質対中・韓・北として配備された艦娘と海自の部隊いるで。呉も日本海側やしなんなら在韓米軍もおる。

302: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:25:08.19 ID:stgrw9i0
>>297 スナフキンのところ忘れるとか頭宝木かよ

303: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:25:10.10 ID:jb54zy91
群馬県民を海岸線に並べときゃ深海棲艦なんか余裕よ(鼻ホジー
494 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/29(金) 01:55:58.40 ID:XlCsDid20
304: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:25:14.63 ID:dDkK64Dkg

マジレスすると、大正義戦力で防衛されてるとはいえ人口密集地の東京やバリバリ沿岸都市の横須賀に動きがない限りはまだ慌てる時間じゃない。あんなおざなりの避難勧告が出ただけで自主避難任せにして放置されてるのはなんだかんだ言ってまだ政府とか自衛隊上層部は状況を打開できると踏んでるからやろ。あの辺り完全に止めたら日本経済死ぬし。

逆に、横須賀とか東京でそういった部分度外視した住民の強制ガチ避難が始まったらいよいよヤバい
495 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/29(金) 01:57:52.32 ID:XlCsDid20
今回分更新完了。ようやくまともなページ数更新できた…のに>>491の安価番号ミス誠に申し訳ない限りです

日本代表グループリーグ突破おめでとうございます。寝ます
496 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/29(金) 09:34:00.73 ID:t0c5f2YSO
板コピペのせいで>>1が狂ったと思った
497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/29(金) 14:07:25.95 ID:p1UAN6GA0
おつです!
海軍きたあああ…となるけど、この期におよんで畜生共はw
…だいぶかかったけど、ようやくここまできたか
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/29(金) 14:19:10.55 ID:ziVffcrs0
乙!
大洗増援間に合った、のか?(疑心暗鬼
499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/29(金) 21:47:27.91 ID:f1ScJWeG0
500 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/30(土) 00:10:23.43 ID:3IFCTjmT0






僕が小学生の頃は、ちょうど例の光の巨人が怪獣達と戦うヒーローシリーズが平成の世になってから復活した時期でね。特撮オタクだった父親の影響を色濃く受けていた僕は、シリーズが放映される毎週末の夕方を心の底から楽しみにしていたよ。

特に、最終回が秀逸でね。超古代の眠りから蘇った闇の大怪獣に、一時光の巨人は倒されて石像化してしまう。だけど、希望を信じる世界中の人々の善なる心に反応し、その巨人は最強の姿にパワーアップしてついに闇の大怪獣を討ち果たすんだ。

僕は心の底から感動した。人間はなんて素晴らしいんだろうって。その頃にはもう世界中で大小様々な紛争が転がっていたけれど、いざ“本当の危機”が訪れたときは、きっと人類は手を取り合うことができるんだって思ったよ。

……そして僕は愚かにも、この若気の至りに等しい思想をつい最近まで捨てることができぬまま過ごしてきた。
501 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/30(土) 00:11:57.94 ID:3IFCTjmT0
提督に志願したのだって、最初は艦娘の皆と共に世界中の人々が融和の手を取り合う架け橋になれればと思ってのことだ。深海棲艦という共通の脅威に苦しむ人々が、自ら垣根を捨てて本質の“光”に気づき、大いなる“闇”を打ち払うきっかけになりたかった……我ながら、赤面するほど甘い考えだと今では思うよ。

現実はどうだ。滅亡寸前になった今も尚、人間は足の引っ張り合いを続けている。艦娘という、全てを人類の守護に捧げてくれる存在がありながら、彼らはその“献身”をさえ、意地汚く奪い合う。

人類は、生まれたての“雛”のような存在だ。隔てているのは壁ではなく“卵の殻”で、自らその殻を破る力もなくただ本能が赴くままに動くことしかできない幼稚で醜悪な“雛鳥”なんだ。そんな奴らに、この子のような艦娘やそれを率いる僕ら提督がどれほど献身したところで成長なんかするわけがない。自ら殻を破り手を取り合うなんて夢のまた夢だ。

だから我々は、彼女に“親鳥”になって貰うべきなんだ。彼女の献身に感謝し、その身を委ね、彼女の導きに従って殻を破り、真の融和を果たす。彼女の食べr

「ダメだ気色悪すぎて最後まで聞けねーわ。

とりあえず長ーよ死ね」
502 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/06/30(土) 00:14:27.16 ID:3IFCTjmT0
「いやほんっっっっっと長ーよ。お前絶対通信簿とかで先生になんかいろいろ書かれてたタイプだろ。もうなんつーか死ね。直球で死ね。

李牧に理不尽ワープ奇襲食らった麻鉱将軍みたいに死ね」

「要はアレだろ?てめえが勝手に中二病全開で地球人類を勝手に過大評価して勝手に失望しましたって言いたいんだろ?

お前漫画とか読んだことある?ジャンプどころかコロコロコミックで出てくるわその手の三下臭が凄い敵キャラ」

「しかも他人のエゴを散々批判しておきながら、一番エゴの塊なのもテメェ自身だしな。

いい年した大人が、自分たちでいろいろ解決すんの面倒だから艦娘たちを祭り上げて全部そいつらに任せて、自分たちは楽しますってニート宣言してるだけじゃねえか。

要はあの長ったらしいご高説は全部、“自分は艦娘のことを都合のいいお人形としか考えてません”って内容のクソみたいな自己紹介だ」

「………艦娘は、【艦娘】なんだよ。それ以上だのそれ以下だのはない。

こいつらにはこいつらそれぞれの感情があり、表情があり、思いがある。俺たち人間と何一つ変わらない。

ただ敵を殺すだけの兵器でもなければ、てめえの言う“献身”しかできないロボットでもない。ましてや、てめえの宗教ごっこに使われても何も感じないお人形じゃない。てめえが思うところの“人間の愚かさ”とやらを散々詰っておきながら、こいつらの……こいつのことを自分のエゴを実現する存在としか見られてねえてめえが一番醜悪だ」
503 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/30(土) 00:15:57.95 ID:3IFCTjmT0









( T)「お前に、こいつの提督である資格はない。

お精子からやり直せクソガキ」
504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/30(土) 07:35:33.22 ID:rArN8Qv6o
お疲れ様です
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/30(土) 21:26:00.62 ID:y7MIPLFx0
おtu
506 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/01(日) 22:02:44.62 ID:2z8TBUqM0








随分と、古い夢。

起き抜けで中途半端にかき混ぜた溶き卵のようにはっきりしない状態の脳裏に、最初にぽつりと浮かんだのはそんな身も蓋もない感想だった。

この艦隊に加わる前、私が所属していた鎮守府の夢。そこで“あの人”に、今の私の提督に初めて会ったときの夢。これらがもう三年以上も前のことだと気づいて、一人密かに驚愕した。

それにしても、夢を見ること自体下手したら年単位で、本当に久しぶり。その久しぶりの夢の内容が、何故“アレ”だったのだろうか。

(正直、寝覚めはあんまりよくないなぁ……)

目玉焼きを作るためフライパンの上に割った卵の黄身が、着地と同時に崩れてしまったのを見たときのような、とでも言えばいいのかな。怒りと言うほどのもではないけれど、胸の内がもやもやしてすっきしない感じ。

心理学なんかでよく言われる、“現状の不満と過去への回帰願望”みたいな線は絶対にないと断言できる。今の提督との出会い自体は好ましいものではあるけど、その好ましい記憶は前の鎮守府での“忌まわしい記憶”とセットだ。ケーキを作る場に必ず用意される生卵と同じぐらい、切っても切れない関係。例えあの鎮守府にそのまま所属していれば「火の鳥の卵を料理する機会に恵まれる」と言われても、戻りたいとは思わない。
507 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/01(日) 22:04:13.22 ID:2z8TBUqM0
となると、他にあの頃を夢に見た理由はなんだろう。

私自身は乗り越えたつもりだけど、実は自分もあずかり知らぬ深層心理に未だ眠るトラウマの表出か。

予知夢の代わりに特に不快な内容の夢を見せることで、この後に起きるであろう深刻な不幸に対する警告か。

ただの悪夢の類いで、特に理由はないのか。

或いは────




《War-Hog-01より統合管制機【Hedwig】、指定ポイントへの空襲の効果は絶大。多数の轟沈艦・損傷艦を確認した》

《Gladiator-01より【Hedwig】、当編隊は反転攻撃に移る。01より編隊各機、一機でも多く沈めつつなるべく敵の火線を引きつけろ、Over》

《Bison-01, Engage. 01より全機、対地爆撃を開始》

《輸送部隊各位、戦闘空域到達まで30秒。突入フォーメーションを取れ》

或いはアレが走馬燈の一種だと言われたら、私は其方の方が信じられる。

何せ私たちは、「何時ものように」死地へと踏み込んでいる真っ最中なのだから。
508 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/01(日) 22:07:48.88 ID:2z8TBUqM0
ここは、“海軍”兵士のみんなが「オスプレイ」或いはV-22と呼んでいる兵員輸送用の回転翼機の中。私たちを含め30人ちょっとが詰め込まれて、お世辞にも空間に余裕があるとは言いがたい。

《統合管制機【Hedwig】より全輸送機へ。兵員の一部を自衛隊のF.O.Bへ合流させろ。展開地点はHyakuri-Airportだ、敵の空襲襲来に備え相応の対空火力もあることが望ましい》

《Cargo-02に利根改二が搭乗している、適任だ。Cargo-01よりCargo-10、F.O.Bへ向かえ》

《此方Cargo-10、命令を受諾した。指定地点に急行する》

《此方Gallop-01、当編隊は弾薬を使い果たした。補給のため一時戦域を離脱する、Over》

手狭な機内を、英語音声の無線通信がひっきりなしに飛び交っている。かなりの早口に加えて籠もっていたりぶつ切りだったりであまり聞き心地は良くないけれど、意味は難なく理解できた。

………提督から“マッスル英会話”とかいうバカげた英語学習を押しつけられたときは99式艦爆でぶっ飛ばしてやろうかと思ったのに、現実としてこのように結果はばっちり出てしまっている。正直、ありがたみよりも悔しさというか腹立たしい気持ちが先行する。買い置きしていた卵のパックの内一つをうっかり放置して、一個も使わずに賞味期限が切れてしまったときよりも悔しい。

《目標地点に到達》

《【Hedwig】より全部隊に通達、突入開始。

Good luck》

《Roger. Cargo-01 for All unit, follow me!!》

《Stork Team, Roger. Go go go!!》

《Taxi-01 for All team, Enemy Anti-Aircraft-Fire in coming!! Break, Break!!》

《Keep formation!!》

そんなことを暢気に考えていると、どうやら目的地である大洗町の上空に辿り着いたらしく無線でのやりとりが更に慌ただしいものに変わる。ドンッ、ドンッ、と大きな太鼓を渾身の力で叩いているみたいな低い音が機外で立て続けに響いて、床から身体に這い上るようにして震動が伝わってくる。

「……」

無言で傍らの丸窓から外を見る。ちょうど夕焼け空にあでやかな炎の花が咲き、直撃弾を受けた輸送機が電子レンジで温めた卵よろしく爆散した。
509 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/01(日) 22:35:17.87 ID:2z8TBUqM0
《Stork-11 lost!!》

《Mules-09 One hit!! Mayday, Mayday!!》

《【Hedwig】より各位、学園艦上から新たな艦載機の発艦を確認した》

《護衛航空隊が迎撃開始!抜けてくる敵機に注意しろ!》

《Stork-01、回避運動に移る!》

(,,#゚Д゚)「揺れるぞ!掴まれ!」

「うわっとっと!!」

「ぽいぃっ!?」

外から聞こえてくる対空砲火の炸裂音の間隔が短く、より連続的なものに変わる。操縦士からの報告直後に斜め前の席に座っていたギコさんが叫び、次の瞬間機内がぐらりと大きく傾ぐ。集中砲火を受けているらしい私たちの機体の回避運動に、右隣で驚いたような声が二つ同時に上がった。

「全く、いい加減“海軍”司令部は僕の扱いを考え直した方がいいと思うね!僕ほどの美少女なら空調の効いたリムジンにテレビとフルコース料理付きで送迎すべきさ!」

(,,゚Д゚)「なるほど貴重な意見だ!」

声の主の内の片方───時雨が、なおもぐらぐらと不規則な軌道を取り続ける中で不愉快そうに悪態をつく。それに応じるギコさんの声も、負けず劣らず不機嫌そうだ。

(,,#゚Д゚)「俺からも上層部に掛け合ってやるよ!そしたら邪神も真っ青の性格してるクソガキのお守りなんて二度と任されなくて済むからな!

序でにそのリムジンがル級の砲撃で吹っ飛ばされることも真剣に祈ってやるよ!」

「艦隊一の美少女を捕まえて邪神とはずいぶんな言いぐさじゃないか、お守りされる側のくせに!」

(,,#゚Д゚)「俺が知る限り人様のドタマくないでぶち抜きそうになることをお守りとは言わねえな!艦隊一の美少女名乗る前に艦隊一容量が少ないその頭をなんとかしやがれ!」

「僕が知る限り“ちょっとした運動”でくたくたになっちゃうようなクソ雑魚ナメクジ人間を助けてあげることは十分にお守りに分類されるはずだけどね!死ね!」

(,,#゚Д゚)「てめえが死ね!」
510 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/01(日) 23:08:29.20 ID:2z8TBUqM0
二人とも、機内外双方での騒音に負けぬよう全力で声を張り上げながら罵り合いを続けている。今にも生卵の投げつけ合いを始めそうな声の調子を聞く限り、割と本気で互いに嫌っていそうだ。

戦場を目前にしてそんなことに労力を使う二人はきっと、卵を入れろとレシピに書かれてたら割らずにぶち込むタイプなんだろうなと思う。

「というか、とうとう僕を金剛以下扱いしやがったな!絶対今度こそ臑蹴り割るからね!」

(,,#゚Д゚)「なんでてめえはそんなに俺の臑に対して頑ななんだ!それこそ金剛の一つ覚えじゃねえか!」

多分この二人は金剛から訴えられたら勝ち目がないと思う。

「………っぷい」

「………大丈夫ですか?」

(*;゚ー゚)「確かエチケット袋がその辺りに……」

見かねた江風が反対側の席から少し身を乗り出し、事態の収拾を図る。因みに右側のもう一人……夕立は、某魔法少女詐欺師のエイリアンみたいな声を上げて縮こまっている。

……顔色が青く頬の辺りがリスのように膨らんでいることから、どうも三半規管が深刻なダメージを負っているようだ。このまま行けば、彼女が朝に食べていた炒り卵が機内の床にぶちまけられる時もそう遠くはないだろう。幸い彼女の真向かいにいる不知火としぃさんが異変に気づいていろいろと対処しているようなので、それでなんとかなるよう祈るほかない。

────そして。

( T)「…………」

機内の最奥では、私たちの提督が座っている。
511 :申し訳ない>>510訂正 ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/01(日) 23:09:56.71 ID:2z8TBUqM0
二人とも、機内外双方での騒音に負けぬよう全力で声を張り上げながら罵り合いを続けている。今にも生卵の投げつけ合いを始めそうな声の調子を聞く限り、割と本気で互いに嫌っていそうだ。

戦場を目前にしてそんなことに労力を使う二人はきっと、卵を入れろとレシピに書かれてたら割らずにぶち込むタイプなんだろうなと思う。

「というか、とうとう僕を金剛以下扱いしやがったな!絶対今度こそ臑蹴り割るからね!」

(,,#゚Д゚)「なんでてめえはそんなに俺の臑に対して頑ななんだ!それこそ金剛の一つ覚えじゃねえか!」

多分この二人は金剛から訴えられたら勝ち目がないと思う。

「………っぷい」

「………大丈夫ですか?」

(*;゚ー゚)「確かエチケット袋がその辺りに……」

因みに右側のもう一人……夕立は、某魔法少女詐欺師のエイリアンみたいな声を上げて縮こまっている。

……顔色が青く頬の辺りがリスのように膨らんでいることから、どうも三半規管が深刻なダメージを負っているようだ。このまま行けば、彼女が朝に食べていた炒り卵が機内の床にぶちまけられる時もそう遠くはないだろう。幸い彼女の真向かいにいる不知火としぃさんが異変に気づいていろいろと対処しているようなので、それでなんとかなるよう祈るほかない。

────そして。

( T)「…………」

機内の最奥では、私たちの提督が座っている。
512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/02(月) 11:15:40.01 ID:1SIxM3Mg0
更新乙です
マッスル鎮守府が百里基地経由で大洗へ向かう展開?
あと、地の文は誰のモノローグだろう
513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/03(火) 13:47:05.08 ID:d0La2nsA0
おつおつ
…ってか瑞鳳って思考は良識的なん!?w
514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/03(火) 21:21:31.84 ID:w4IM5ExD0
515 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/04(水) 06:58:15.02 ID:U0d4PKLjO
516 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/07(土) 23:00:53.92 ID:IzoT3soA0
身長、196cm。体重、118kg。彼が敬愛して止まない某ハリウッド俳優と(凄く気持ち悪いことに)ピッタリ一致した、日本人としては規格外の数値。彼はその大きな身体を少し窮屈そうに背もたれに預け、腕と足を組んで椅子に腰掛ける。

ただ大きなだけではなく、彼の身体は徹底的に鍛え抜かれたものだ。0.1tを越える体重の大半は筋肉とそれを維持する骨格で構成されており、数値以上の存在感が彼の巨?に付与された結果“日本人離れ”は“人間離れ”にランクアップした。

ギコさんをはじめ、艦娘が生まれる前から深海棲艦と生身で戦い、そして沈めてきた猛者が集う“海軍”。その世界最強の部隊が20人以上も寄り集まった機内にあっても、彼の巨?は一際異彩を放つ。ましてやそんな人物が無言で俯き座ったままぴくりとも動かないとなれば、彼のことをよく知っている私でも言い知れぬ威圧感を感じてしまう。

( T)「……………」

そう、無言。

提督は、横須賀でこの輸送機に乗り込んでから──正確にはその直前数分頃から──、一言も発していない。

別に彼はトラブルメーカーでもないし、奇っ怪な出来事に事欠かない我が鎮守府においてもなんだかんだ言って彼自身がその「奇っ怪な出来事」を起こしたことは殆どない。とはいえいざ異常事態が起きれば怪異を虐殺しつつ艦娘共々お祭り騒ぎに興ずる程度には、彼もまた喧しい性格をしている。

そんな、私のよく知る提督ならば、少なくとも時雨とギコさんの(醜い)罵り合いに嬉々として参戦するかどちらもプロレス技で沈めるぐらいのことはしているはずだ。また、たかが敵の対空砲火のまっただ中を突っ切る程度で「いつものノリ」を失うような柔な神経でもない。

スーパーで買った12個入りの卵のパックに何故かイースターエッグが一つだけ混じっているのような、得体の知れない違和感。その気持ち悪さに、ワケもなく身じろぎする。

「………」

「………」

いつもと様子の違う彼の姿に、私は斜向かいに座る古鷹に視線を向ける。彼女の方もちらりと提督を見やった後、少し不安そうに小首をかしげた。
517 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/07(土) 23:29:02.24 ID:IzoT3soA0
この中では一番の新顔であり提督と過ごした時間がまだ鎮守府の中では短い方の私に対し、古鷹は彼の指揮下としては古参の一人だ。その──本来提督の奇行には特に耐性がある方である筈の──彼女が困惑しているという事実が、彼の今の姿の異様さを表している。

「うわっ……本当によく揺れるね。ウチの妹が完全にダウンする前に早いとこ着陸して欲しいな」

(,,゚Д゚)「……空襲での敵艦隊排除が案外難航してるくせぇな、対空砲火がおさまらねぇ。こちとら早いところこのクソガキから離れてえってのに」

「は?」

(,,゚Д゚)「あ?」

……まぁ、“提督”になる前から彼と付き合いがあるギコさんやこと彼のことになるといろいろと敏感な時雨が特に意に介していないため、実際には大したことじゃないと見ることもできそうだけど。古鷹も提督に声をかけたそうな仕草を見せているが、自然体な二人の様子にそれほど心配すべき事なのかイマイチ判断しかねているらしい。

それでも心優しい彼女は、意を決し顔を上げ再び提督の方に視線を向ける。

「………あのっ、t!」

《Stork-01より全搭乗員に通達、後20秒で着陸する!総員戦闘用意!繰り返す、総員戦闘用意!》

「あう………」

──が、直後に操縦士からのアナウンスが機内に響き、かけるべき声を失った彼女はがっくりと頭を垂れる。元々私に“かける言葉”なんてない(ご飯に卵をかけるのは好き)けれど、それにしてもこの計ったような間の悪さは同情を禁じ得ない。

(,,#゚Д゚)「よし、戦闘用意だ!!敵は手強いぞ、心してかかれ!!」

「「「Sir, yes Sir!!」」」

「────んぇ」

因みに、端っこの席ではギコさんの大音声での檄を聞いて雲龍がようやく夢の世界から帰還した。……この騒音の中でというのもそうだし、流石にいつ撃墜されるか解らない状況下で安眠できるほど図太い艦娘は“海軍”全体でも両手の指におさまるぐらいの人数しかいないだろう。個性のサラダボールと化している我が鎮守府においても、彼女のメンタルの強靱さは群を抜いている。
518 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/07(土) 23:32:19.16 ID:IzoT3soA0
( T)「……」

自分の艤装を装着し異常がないか確認しながらちらりと提督の方を見ると、彼は既に戦闘用意を終えていた。相変わらずらしくない“無言”のままだけど、別に腑抜けた逆に気負っていたり調子が悪かったりという様子もない。少なくとも、見る限りは指揮や作戦行動に支障を来す状態ではなさそうだ。

(なら、今は提督を心配する必要はないかな)

様子がおかしいのは間違いないけど、それを戦場に持ち込むような人ではないことは知っているし、戦場で問題がないのなら私達も今は余計な雑念を持ち込むべきではない。

この任務がすむまでは、疑問は一先ず置いておこう。








「…………っ!?」

────そう決心した矢先に、私達の乗っている輸送機がぐらりと一際大きく揺れた。
519 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/07(土) 23:57:01.18 ID:IzoT3soA0
私は軽空母であり、本来は戦闘機を飛ばす側であって戦闘機や飛行機に乗る側ではない。加えて任務の巡り合わせから、空輸される経験自体実は指折り数えられるほど少なかったりする。

それでも、直感で解った。今の揺れは“ダメな揺れ方”だと。

《Shit, Stork-01 One hit!! One hit!!》

《Stork-01より管制機、敵高角砲弾頭が至近で起爆!右翼に甚大な損害、ローターが
脱落した!》

《姿勢制御……クソッ》

(,,;゚Д゚)そ「ぬぉっ…!?」

「あぐっ────」

赤いランプがけたたましいサイレンの音と共に明滅し、傾ぐどころか機体が一瞬逆さまになる。明らかに真っ直ぐ飛行できていないと察せる不規則なGが頻繁に方向を変えながら私達の身体を押し潰し、艦娘の艤装込み重量も支えられる特殊ベルトに締め付けられて古鷹が喉の奥からくぐもった悲鳴を上げる。

ふと、風圧で窓に顔を押しつけられた際に外の光景が視界に映る。磯風が、卵焼きを作ろうとしたときに発生するものと酷似した色合いの煙が吹き出していた。

私達が乗る輸送機の、翼から。

《Mayday, Mayday, Mayday!! This is Stork-01!! I'm going down!!》

《立て直せない………市街地に不時着する!!》

(,,;゚Д゚)「衝撃に備えろ!!!」

「もう!」

ギコさんの叫びと時雨の悪態に合わせて、世界がぐるぐると回り続ける中私は周りと同様椅子の上で胎児のように丸くなる。正直他に何のしようもない。艦娘としての耐久力とこの鎮守府での鍛錬の積み重ねが墜落のダメージに耐えうるものであることを祈るだけだ。

映画とかと違って、案外墜落までの時間は長く感じるんだな……そんな、場違いな感想がふと頭を過ぎり、

「っっ……!!」

直後に、今までに感じたことのない衝撃が轟音と共に私を襲う。
520 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/08(日) 00:46:03.24 ID:2S9GHnYJ0




怪奇現象に事欠かない私達の鎮守府においても、今のところ所謂“神”ないしそれに準ずる存在との邂逅はない。

一応イフリートは鎮守府の七輪に宿っている。ただ、関西弁である辺りパチモン臭が凄くどちらかというと他のしょーもない妖怪・怪異と同類と思われる。後は提督が“マッスルの神様”なるものに会ったと寝言をほざいt……信じがたいことを言っていたけど、仮に真実だとして剥きたてのゆで卵の如くはげ散らした頭が光っていたらしいので此方も多分妖怪の類いと見て間違いなさそうだ。

とりあえず、これだけ日々怪奇現象に見舞われながら一度も会ったことがないという点と、その他諸般の事情から私は神様の存在には懐疑的な立場をとっている。

「Shit………」

「ぼ、ぼぃいい………」

(*;メ゚ー゚)「いたた……ゆ、夕立ちゃん、大丈夫!?女の子が出しちゃダメな声で女の子がしちゃダメな顔色になってるけど!?」

「椎名少尉こそ大丈夫ですか?お怪我は」

「Jesus……!」

だから私は、あれほどの衝撃の中で私達艦娘のみならずギコさん達“海軍”部隊も殆どが無事であるという事実についても、神の奇跡だ等とは思わない。

唯々、墜落する直前まで職務に忠実であり続け、ほぼ完璧な機体姿勢での不時着を成し遂げた操縦士に敬意と感心を表するだけだ。

(#T)「ギコ、操縦士はどうした!?」

(,,メ;゚Д゚)「今確認して……クソッ、ダメだ!

脈を診るまでもねぇ、頭が潰れてやがる!もう一人も鉄骨にぶち抜かれてる!」

あと、哀悼も忘れずに。
521 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/08(日) 01:29:05.12 ID:2S9GHnYJ0
(#T)「椎名、部隊の死傷者は!」

(*;メ゚ー゚)「レリック二曹が上腕を骨折、戦闘行動は困難!それと阿南一曹も足をやられてます!私、猫山少尉、他は軽傷多数も戦闘に支障なし!」

(#T)「その二人は応急処置の後運び出せ!ギコ、救護要請は!?」

(,,#メ゚Д゚)「もう出したがいつ送られるかは解らん!それより俺たちの墜落地点がやばいぞ、内陸浸透中の敵艦隊の進路上だ!」

(#T)「統合管制機に最寄りの艦隊の規模と構成を確認しろ!

“地獄の血みどろマッスル鎮守府”、艦隊各位!点呼、並びに状況報告!!」

さっきまでの沈黙が嘘みたいに、また日頃の不熱心な仕事ぶりが冗談のように、提督は矢継ぎ早に指示を出していく。空を飛び交う弾丸や艦載機の風切り音、そしてそこかしこで炸裂する砲弾の轟音を凌駕する大音声での点呼に、私の背筋も針金を入れたみたいにピンッと伸びる。

「時雨、異状なし。そこのクソ雑魚じゃあるまいしあの程度じゃケガしないよ」

(,,メ゚Д゚)「は?」

「あ?」

「…………夕立、大丈夫っぽい」

いや、相変わらず顔色ピータンみたいな色なんだけど。大丈夫っぽくないんだけど。

「雲龍、無事よ」

「不知火、作戦行動に支障ありません」

「古鷹、艤装・身体共に異常なし!作戦継続可能です!」

次々と応じる時雨達に対し、私は“答える言葉”を持たない。

だから、あの日以来唯一発することが出来るその単語を、返答の代わりにする。












「たまご」
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/08(日) 09:13:54.18 ID:/Ylumcfno
モノローグめっちゃ流暢やんけ……
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/08(日) 10:36:50.71 ID:nfQJ4ON30
直前の回想も瑞鳳のか……マッ鎮作者の方でどんなぶっ飛んだ物を見せてくれるかと楽しみにしていたんだが
524 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/08(日) 12:31:22.78 ID:Hi5RZQmA0
おつおつ…饒舌なんだなw
それにしても精鋭部隊でも蹴散らされるなあ…
525 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/08(日) 23:04:55.77 ID:2S9GHnYJ0
(,,メ゚Д゚)「レリックは一先ずこれで大丈夫だ!しぃ、阿南の方は!?」

(メ*;゚ー゚)「うん、固定したから運ぶだけなら………ひゃあっ!?」

私が返答(?)した直後、すぐ近くで砲弾の炸裂音が立て続けに二つ、三つと鳴り響く。……音の大きさから推察するに、落下した位置は20Mと離れていない。

明らかに私達を標的とした連続的な至近弾に、アスファルトで塗装された道路に半ばめり込んでいる機体がぐらぐらと小刻みに揺れる。手早く手際よく負傷兵を治療していたしぃさんが可愛い悲鳴を漏らし首を竦めた。

「Admiral、進軍中の敵艦隊より我々の墜落地点へ本格的な砲撃が開始されたと管制機から報告あり!」

(#T)「機外に離脱しろ、急げ!誘爆したら流石に看過できねえダメージになるぞ!」

無線機を操作していた“海軍”兵士の一人が叫び、それを受けた提督の指示に全員が拉げて口をだらしなく開けた後部ハッチへと向かう。その間にも砲撃の炸裂音は響き続け、徐々に激しさを増していく。

『『─────!!!!』』

「【Helm】 in coming!! Over 30!!」

(,,#゚Д゚)「夕……時雨!古鷹!!」

「了解です!」

「ったく、面倒くさいったらないね!!」

鶏の総排泄肛からひり出される卵のように機外に転がり出た直後、砲弾に代わって空から降ってきたのはあの耳障りな風切り音。上空500m程の位置から私達めがけて急降下してくる黒い点の群れに、ギコさんから指示を受けた時雨と古鷹が同時に機銃を構える。

因みに最初名前が挙がりかけた夕立は………うん。

彼女も私の大切な友人であり仲間だ。今夕立がどうなっているかについては、かつて【ソロモンの悪夢】と呼ばれた駆逐艦娘の名誉と威厳のために私の胸にしまってアイアンボトム・サウンドまで持って行こう。
526 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/08(日) 23:52:52.70 ID:2S9GHnYJ0
「僕が周りをやる!古鷹は中核の航空隊を!」

「解りました!────敵航空隊捕捉!射撃開始、射撃開始!」

空に向けられた二門の機銃が、火を噴く。古鷹の20mm連装機銃から吐き出された太い火線と、それにまとわりつくようにして放たれる時雨の7.7mm機銃の火線が敵航空隊を真っ向から迎え撃つ。

『!?!?』

『『『──────』』』

先鋒を行く一機が、反応が遅れて直撃弾により爆散する。だが、残りの機体は素早く統率の取れた動きで火線から逃れた。

敵ながら惚れ惚れしてしまうような、まるでフライパンの上に広がる目玉焼きのように美しい散開運動。対空砲火で迎撃しようにも的が絞りにくく、それでいて各機の射線はしっかりと開かれていて全方位からの弾幕射撃を問題なく敢行できる。

(,,#メ゚Д゚)「────“Circle”!!」

「「「Yes sir!!」」」

『『『!?!?!!?』』』

だが、その見事な編隊運動も読まれていれば意味を成さない。

「Enemy down!! Enemy down!!」

(*メ゚ー゚)「Keep fire!!」

「Reload, cover me!!」

古鷹たちの周囲で素早く円形に展開したギコさん達が、一斉に自動小銃────アメリカ軍で使われている、【M16カービン】とかいう銃の引き金を引く。四方八方に伸びた火線は、その尽くが正確無比な狙いを持って散開した敵機を貫いていく。

『!!?!?』

『『───……』』

深海棲艦側は、射撃を躱そうにも先ほどの急激な軌道変更が祟ってまだ思うように速度を出せない状態にある。一方的な“七面鳥撃ち”に晒されながらようやく一部が態勢を立て直したときには、無事な機体は1/3以下まで減っていた。

『『───ッ!!』』

「敵機、離脱を開始!」

(,,#メ゚Д゚)「弾薬再装填、陣形は崩すな!AT-4並びに白兵装備、準備急げ!!」

流石に彼我の実力差を理解したか、残りの機体は踵を返し空へと帰って行く。だけどその姿をいちいち見送るようなことはない。

『『『─────ォオオオオオオオオオオッ!!!!!』』』

「Contact!!」

何せ、私達の戦闘はまだ始まったばかりだ。
527 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/09(月) 14:16:19.48 ID:xg02lXG00
更新乙です
いきなり撃墜からの参戦では目的地への到着も遅くなりそうですな
528 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/10(火) 01:21:20.38 ID:Zj4Z5XiE0
529 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/10(火) 23:11:36.85 ID:rOfJumKu0
何百回も、散々、うんざりするほど奴らの声は耳にしてきた。だけど今でも、それを聞く度に私の卵肌は一瞬にして鳥肌に様変わりする。

『『『ォオアアアアアアアアアッ!!!』』』

奴らの、深海棲艦の咆哮を聞き飽きることがあっても、聞き慣れることは少なくとも私には永遠に来ないに違いない。

『『『ガァアアアアアアアアッ!!!』』』

(*メ#゚ー゚)「九時方向、二個艦隊を視認!内軽巡ホ級flagship1隻を認む!」

(,,#メ゚Д゚)「AT-4 Fire!!」

「「Roger!!」」

思ったより至近、右手400mほどの位置で瓦礫の山を蹴散らしながら敵艦隊が姿を現す。即座にギコさんが号令を下し、“海軍”兵士達が構える4門の携行砲がそれに応じて火を噴いた。

『ア゛ァ゛ッ!?』

出会い頭の砲撃に、回避や防御といった対応をする暇はない。4発の砲弾はそのまま、艦隊の中程を進んでいたホ級flagshipに突き刺さる。

火の玉が四つ、20mを誇る巨体の表面で膨らむ。1発はホ級の側頭部に直撃し、爆圧でお鍋を被ってるみたいな形状の奴の頭部が激しく右にぶれた。

『オォ………ガァアアッ!!!』

敵は、非ヒト型とはいえflagship。幾ら“海軍”でも、歩兵の携行火器数門の一斉射では倒せない。

ホ級は一瞬仰け反り蹌踉めいたが、すぐに態勢を立て直すと私達の方を向いて一声吠えた。背中の三段重ねの連装砲が、錆び付いた音を立てて私達の方に向けられる。

「────五月蠅いよ」

『グギェッ……』

『ア゛ア゛ッ!?』

だが、その時には既に、私達の下から放たれていた“五発目の弾丸”が距離を詰めている。
530 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/07/10(火) 23:43:12.37 ID:rOfJumKu0
砲が火を噴く直前に鳴り響く、乾いた破砕音。序で上がった呻き声に、ホ級flagshipはびくりと身体を震わせてその声が上がった方に顔を向けた。

恐らく旗艦であるホ級の周囲を固めていた、数隻の駆逐二級後期型。その内一隻の前面装甲に、蜘蛛の巣の如く無数の細かいヒビが入る。エッグスタンドに入ったゆで卵のように縦長のシルエットがグラグラと左右に揺れた後力尽きたように崩れ落ちる。

倒れた個体のヒビの中心に突き刺さるのは、砲弾ではない。奴らの装甲表皮と全く同じ色合いの、一本の“くない”だ。

「っふ!!」

『ゴォアッ………ギィッ!?』

二級の屍を踏み台に、奴らに肉薄した“弾丸”が───時雨が、空中に身を躍らせる。身体をねじって勢いをつけながら新たに投擲された二本の“くない”は頭部を狙って投げ下ろされたが、ホ級はこれを咄嗟に腕で受けた。

『ガッ……グゥッ……!!』

「ちぇっ」

腕の肉を深々とえぐり、骨にまで達したであろう一撃。青い体液が傷口からぼたりぼたりとしたたり落ち、ホ級flagshipは苦痛の呻きを漏らしつつも反撃に転じる。旗艦の轟沈を逃した時雨は、着地点に振り下ろされたホ級の左拳を不愉快そうな舌打ちと共にバックステップで回避する。

『ガァアアッ───ギッ』

「だから五月蠅いって」

すぐに、背後から瓦礫の山を突き破ってイ級が猟犬の如く飛びかかる。が、時雨が振り向きもせずに後ろ蹴りを繰り出すと、まるで厚さ何十メートルもある特殊カーボンの壁に全速力で衝突したみたいにイ級の身体が半ばまで拉げて潰れた。

『『オ───ォオオオオッ!!!』』

「おっと」

別個体のイ級と、軽巡ヘ級が時雨を2方向から同時に砲撃する。だけど砲弾が炸裂したときには、既に彼女の影は駆けだしていてその場にない。

『ガギッ……』

『………ア゛ア゛ア゛ッ!!!!』

「遅いね」

ホ級のすぐ傍で、二級がまた一隻倒れた。水色の眼球をくないに貫かれ、そこを基点に真っ二つにへし折られた友軍艦の姿に激高したホ級が機銃掃射を行うが、時雨はその屍を勢いよく蹴って掃射地点から飛び下がった。

『オアッ!?』

「────覇ッ!」

『ギグッ………』

着地した場所は、さっき時雨を撃とうとしたイ級の頭頂部。すぐさま打ち下ろされた拳が装甲を粉砕し、右腕が肘の辺りまで埋まる。

「うぇっ……気色悪っ」

いかにもイヤそうに舌を出しつつ、時雨がイ級の頭から腕を抜き出す。事切れたイ級の頭部穴からはさながら間歇泉の如く青い体液が噴出し、周囲の瓦礫を染め上げた。
531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/11(水) 00:34:35.99 ID:tmN4keD20
投下乙!
532 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/11(水) 21:38:20.68 ID:M10v23D80
おつ
533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/12(木) 01:40:10.99 ID:BdadLwv1O
何ヶ月ガルパンキャラ出してないんだ?
534 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/07/13(金) 23:10:49.36 ID:s0ujgYNM0
奴らと接敵してからイ級の頭部が瓦割りされるまで、恐らく一分程度しか経っていないだろう。だけどその60秒前後で、敵艦隊は私達マッスル鎮守府の“番犬”の実力を正確に理解したらしい。

『ォオオオ……ギィッ!!』

『アァアアアア……』

「ははっ」

イ級の屍から飛び降りた時雨を半円形の陣を組んで取り巻きつつ、ホ級flagship達は口々に警戒の唸りを漏らして身構える。明らかに気圧されているその動きを見て、時雨は嘲笑と共に敵に向かって中指を突き立てた。

「揃いも揃ってクトゥルフ神話の怪物みたいにおどろおどろしい外見してるくせに、ちょっとやられたぐらいでこんな美少女相手にビビっちゃうんだ。ホントクソ雑魚だよね、やめたら?深海棲艦」

(………うわぁ)

流石は、邪神の申し子(命名:某海軍少尉)。或いは、口先から生まれたケルベロス(命名:Y.N海上自衛隊一等海曹)。深海棲艦相手でも煽りを忘れない絶口調ぶりには感心せざるを得ない。

『『『………ッ!!!』』』

非ヒト型の深海棲艦でも人語を解するかどうかについては、“海軍”所属の研究者達の間でも意見が分かれていると聞く。だがもし時雨の言葉を理解できなかったとしても、表情や動作を見れば自分たちが彼女に侮辱されていることは容易に推察できるだろう。

『『『グガァアアアアアアアッ!!!!』』』

いつも無機質な奴らの鳴き声が、卵焼きを作るために油をひいたフライパンのように熱を帯びた。恐れや怯みが消え、変わって怒り────人類や艦娘全体に対するものではなく、目の前の駆逐艦・時雨という存在それ自体に向けられた怒りが露わになる。

『ア゛ア゛ア゛ッ!!!』

『『『ォアアアアアッ!!!!』』』

ホ級flagshipの咆哮と突貫を合図として、残りの随伴艦達も闘争心に満ちた絶叫と共にたった一隻の駆逐艦に殺到する。元の知能が低い故に、彼我の実力差の事など挑発一つで脳裏から消えてしまったようだ。

『────ギ、ァッ……!?』

「……えっ?」

そして、時雨以外の“敵”がこの場に存在するということも。
535 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/13(金) 23:14:52.85 ID:s0ujgYNM0
20mの巨躯が揺らぎ、後ろ向きに傾ぐ。時雨に振り下ろされているはずだった大きな握り拳から力が抜け、倒れ行く身体を支えようとでもしたか両の手が何度か宙を掴む。

『ゴ………ギッ……』

ズンッ、という低い音と共に地面が微かに揺れ、仰向けで倒れ込んだホ級flagshipの周囲で土煙が舞い上がる。束の間、自分の身に何が起きたのか確かめようとしているかのように眼孔のない頭部が力なく揺れていたが、やがてその動きもすぐに止まった。

『ア、アッ!?』

『オォオオオオッ……!?』

「むぅ……」

随伴艦達は、戸惑ったような鳴き声を上げながらホ級flagshipの屍を顧みる。時雨もまた、一度構えを解いてホ級を────正確には、屍の咽頭に深々と突き刺さった五本の真っ黒な矢を一瞥する。

「……あのさ瑞鳳、よりによって一番上等な獲物を横取りするのは節操がなさ過ぎじゃない?」

「たまご」

剥きたてのゆで卵よろしく頬を膨らませての抗議に、私は肩を竦めてみせる。彼女の抗議も尤もだが、それが“上官命令”だったのだからどうしようもない。

それにしても、いいのだろうか。

(#T)「ギコ、行くぞ!!」

(,,#メ゚Д゚)「了解だ“先輩”!!」

こっちに構ってなんかいると、それこそ“獲物”は全て取られることになるわけだけど。

「…えっ!?あっ、ちょっ、ふざけんな!?」

立ち尽くしていた時雨の両脇を、白兵装備を構えたギコさんと提督が風を巻いて駆け抜ける。慌てて制止する(間抜けな)白露型2番艦には目もくれず、二人は混乱の極致にある敵艦隊の直中に斬り込んだ。
536 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/13(金) 23:21:55.57 ID:s0ujgYNM0
『……アァッ!?』

最初に反応を見せたのは、軽巡へ級。向かってくるギコさんと提督に気づくと、ヘ級は面食らったような声を一つ上げて右手の艤装を二人に向けようとする。

だけどその動きは、肉薄する二人と比較して鈍重にも程があった。

(,,#メ゚Д゚)「ゴッルァアッ!!!」

『ギィッ!!?』

稼働したヘ級の単装砲が砲弾を吐き出す前に、ギコさんがその懐に弾丸のような速度で踏み込む。黒い刃が翻り、キンッという甲高い金属音が響く。ヘ級の陸上活動用多脚ユニットから、切断された脚が一本火花を散らして脱落する。

『オ、ォ、アアアアアアッ!!!』

(,,メ#゚Д゚)「ッらぁっ!!」

苦悶と怒りが入り交じった絶叫と共にヘ級は右腕を振り下ろすが、軌道上からその姿は既に消えている。前転でヘ級の一撃を回避した彼は、起き上がると同時に再度白兵用のブレイドを一閃した。

『〜〜〜〜〜ッッッッ!!!?』

澄んだ金属音が今度は三つ重なって響き、ヘ級が声にならない悲鳴を上げる。更に三本のユニットを根元から同時に断ち斬られ、脚の半分を失いバランスを失った身体ががくりと前のめりに崩れる。

(,,メ#゚Д゚)「行ったぞ先輩!!」

(#T)「見りゃわかるわバーーーーーーーーーーーーーーーカ!!!!!!!!!」

『……ギッ!?』

ちょうど良い高さまで降りてきたヘ級の頭に提督が彼の得物を───5メートルを越える、巨大な漆黒の“矛”を渾身の力で振り下ろす。

(#T)「Wasshoi!!」

『ガッ』

巨大な破砕音が私達の耳朶を震わす。短い断末魔を残して、ヘ級の上半身がまるでプロレスラーに殴りつけられた生卵の如く惨めにぐしゃりと潰れた。

「Enemy down!!」

(*#メ゚ー゚)「Don't move!! Keep the position!!」

「…………Oh my god」

しぃさんをはじめ、この場にいるだいたいの“海軍”兵にとっては至って普通の光景のため反応は薄い。だが一人だけ、ルーキーなのか提督とギコさんの暴れぶりに呆然となっている隊員がいた。

うん、まぁ“生身の人間(?)が深海棲艦を瞬殺する光景”を初めて見た反応としては寧ろ驚きを抑えられてる方かな。尤も、アレの内面を知る側から言わせて貰えば、同じ神でも絶対に邪神の類いだけど。

身内が言うんだから間違いないよ、うん。
537 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/13(金) 23:25:26.90 ID:s0ujgYNM0
初見という面が大きいにしろ、味方にとってさえ信じがたいものとして映るギコさんと提督による────生身の人間による軽巡ヘ級の“白兵戦での”轟沈。

深海棲艦側から見れば、それこそ青天の霹靂という表現ですら足りないかも知れない。少なくとも、アクアファーム秩父が生み出した絶品卵【輝】で作った卵焼きを初めて口にしたときの私と同程度の驚きにはなったはずだ。

『『ギィ、ギィッ!』』

『『アァアア、ガァッ!!』』

(,,;メ゚Д゚)「うおっ!?」

( T)「ぉおう」

恐怖に駆られた鳴き声を上げて、残余全艦が一斉に艤装を展開。咄嗟にヘ級の屍の影に隠れた提督とギコさんに、幾条もの火線が束になって殺到する。

(,,メ゚Д゚)「……必死だねおい」

( T)「危なかった。流石にアレが全部当たってたら俺でも足首を挫きかねん」

(,,メ;゚Д゚)「いやアンタでも普通に死ぬ……えっ、死ぬよな?」

人間二人を(……少なくともギコさんの方は確実に)殺すには、過剰どころではない量の火力投射。明らかに、奴らは二人を時雨以上の脅威と見なして全力で消しに来ていた。

だが、只でさえ非ヒト型の劣った頭。それが更に恐怖に染まれば、最早まともには働かない。

(,,メ゚Д゚)「にしても、こうもハマってくれるといっそ清々しいな」

( T)「全くだ────瑞鳳!」

「たまご」

既に自分たちが詰んでいることに、気づかない。

或いは、気づいているが故の悪あがきだったのかも知れないけれど。
538 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/14(土) 06:08:31.26 ID:+iKLe4vGo
お疲れ様です
539 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/15(日) 00:30:57.71 ID:I9YzniyA0
おつおつ
暴れっぷりも凄いけど、実況がうますぎるなw
540 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/07/15(日) 23:09:09.90 ID:ulqy3qc40
“海軍”所属の艦娘達の多くが通常の艤装以外に専用の白兵ユニットを配布されているように、私や祥鳳、赤城、加賀といった所謂“弓射展開型”の空母には、艦載機射出用の他に“射撃用”の矢が配布されている。材質はギコさんが愛用するブレイドや提督の巨矛と同様に深海棲艦の装甲殻を特殊加工したもので、貫通力と丈夫さは折り紙付きだ。

無論、私達空母・軽空母の“本業”は艦載機を用いたアウトレンジ攻撃と敵艦載機隊の排除による航空優勢の確保。此方の矢はあくまで護身用のサブウェポンであり、他の艦種の艦娘達や“海軍”歩兵が使う白兵戦闘用装備と違いこれをメインに戦闘を行うことは本来想定されていない。

問題は、ここが“海軍”であるという点だ。強さと引き替えに理性や理屈がすっぽり抜け落ちた連中が集った軍集団である以上、“常識的に考えて”なんて概念は存在しない。丈夫さや取り回しの良さを気に入り、特に練度が高い艦娘の中で此方の“矢”を寧ろ好んで使う者も一定数存在した。

例えば、私とか。

『─────ガッ……?!』

一度に五本の矢を番え、放つ。唸りを上げてほぼ一直線に飛翔した漆黒の五矢が、束のまま駆逐ハ級の眼孔に突き刺さる。眼球が粉砕され、装甲殻を撃ち抜き、一気に矢羽の付け根付近までその身を埋める。

『ゴッ、ガッ、ギッ、ゲッ』

ウズラの卵よりも小さいであろう脳味噌でも、破壊されれば致命傷にはなるらしい。ハ級は不気味な呻き声を上げながらガクガクと痙攣を繰り返した後、やがてバタンと横倒しになり絶命した。 

「たまご!」

はしたないと自覚しつつも、フンスと鼻から吐息が漏れる。

一射、五矢。提督のお気に入り漫画【キングダム】で、異民族“犬戎”と交戦した楊端和指揮下の騎馬隊が見せた弓の射法。

いかに貫通力は十分とはいえ、非ヒト型の大きな図体を一本ずつの射撃で仕留めようとすれば骨が折れる。ならば、数を増やせばいいだけの話だ。

とはいえ、訓練での練習は無し、さっき軽巡ホ級に対して行ったものを含めてこれが二度目。ぶっつけ本番でやってみたが、案外いけるものね。流石私。

因みにヤングジャンプで連載中の大人気バトル漫画【キングダム】の既刊コミックは全国書店で販売中。別に女房を質に入れる必要はないが、普通に面白いので買っておいて損はないと思う。

それよりも私が今欲しいのは、浅田農園が販売している【鳳凰の卵】だ。一個432円と破格の値段だがその絶品ぶりはテレビでも紹介され、一個あたりに通常の卵24個分の栄養が含まれているという点でも話題になっている。

【輝】とどちらが美味しいか比較するためにも、提督のB級映画コレクションを質に入れてでも手に入れる所存だ。
541 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/15(日) 23:18:24.40 ID:ulqy3qc40
私が“いつかダチョウの卵をまるまる一つ使って目玉焼きを作る”に次ぐ重要度の野望に燃えている間にも、状況は刻々と変化する。

『ゴァアッ!?』

『ギィッ、ギィッ!!』

(,,メ゚Д゚)「しぃ!!」

(*メ#゚ー゚)「了解!

All squad, weapon free!!」

ハ級の轟沈によって、弾幕にぽっかりと空いた穴。慌ててその穴を埋めようとして、敵の火線全体が揺らいで統率を失った。すかさず今度はギコさんが号令を下し、深海棲艦の包囲を終えたしぃさんたち“海軍”歩兵隊が一斉に瓦礫の山の陰から立ち上がる。

(*#メ゚ー゚)「Fire, Fire, Fire!!」

『ギィイッ!ガァッ!』

『キィイイイッ……!』

10を越えるアサルトライフルが同時に火を噴き、深海棲艦達に着弾する……が、幾ら“海軍”所属の兵士といえど何の変哲もない小銃射撃で深海棲艦に打撃を与えられるほど人間を辞めてる人は居ない。駆逐ロ級が一隻、鬱陶しげな鳴き声を上げて口を開き、弾丸が飛来する方向に単装砲を向けた。

「────AT-4, Fire!!」

『ゴァッ!?』

瞬間、別の方向で火を噴く4門の携行砲。寸分違わぬ狙いで放たれた砲弾が、開かれたロ級の口内に吸い込まれるようにして全弾飛び込む。

『カッ』

『ァアアッ!!?』

思わず閉じられた顎の中で立て続けに響く、くぐもった砲弾の炸裂音。直後にそれとは比べものにならない轟音が空気を震わせ、体内から吹き出した炎にロ級の身体が焼き尽くされる。真横にいたもう一隻のロ級が、爆風に煽られて姿勢を崩した。

(*#メ゚ー゚)「One more!!」

「Roger!!

────Fire!!」

機は逃さない。更に三発の砲弾が、蹌踉めいたロ級めがけて放たれる。

『ギッ………ア゛ッ』

あえてタイミングをずらして発射された最初の一発を食らい呻き声を上げた瞬間、残る二発がロ級の中へ。断末魔を上げる間すらなく、二つ目の火柱が天を焦がした。
542 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/15(日) 23:35:56.43 ID:ulqy3qc40
『『アァ……アァ……!?』』

『『ギィイ……ォアア……』』

連続で発生した軍艦二隻分の爆発に伴って、凄まじい量の砂塵が巻き上がり黒煙が濃く立ちこめる。残余戦力が四隻まで減ってもなお深海棲艦側は戦う姿勢を崩さないが、奪われた視界が反撃を妨げる。

私達が奴らの図体故に煙越しでも容易く動きを把握できるのに対し、深海棲艦側はこの煙と砂塵の量で自分より遙かに小さな物体を視認する必要がある。自然、敵艦隊は警戒から動きがますます鈍重になりざるを得ない。

『────ア゛ア゛ッ!!!』

らちが明かないとみたか、三隻目のロ級が咆哮と共に一歩踏み出す。どうやら此方に益々動きを把握されやすくなるリスクを踏んででも、煙の中から脱出して視界を確保するつもりらしい。

非ヒト型の小さなおつむにしては上出来な──ヒト型個体からの指示である可能性もあるが──、思い切った行動。英断と言って差し支えない大胆な戦術だ。 

だが、遅きに失している。

「たまご」

『ピギッ………ギァアッ、アアアアッ!!?!?』

煙に紛れて肉薄を終えていた私は、真横から至近距離でロ級の目元に矢を撃つ。激痛のあまり仰け反ったイ級の、むき出しになった下腹部に今度は五本の矢をまとめて叩き込む。

『ゲアッ……アァッ……』

五つの鏃が皮膚を突き破り、肉を抉る。ぽっかりと空いた風穴から、まるでふわトロの卵焼きを箸で割った時みたいにロ級の体液が滴り落ちる。ロ級はよたりよたりと二、三歩揺れた後、私が身体の下から転げ出た直後膝から地面に崩れ落ちる。顎がハンマーのように地面にたたきつけられ、ズンッと音を立てて小さな揺れを起こした。

『ウォオオッ───ギッ!?』

「沈めッ…………!!!!」

僚艦の異変に、ロ級と最も近い位置にいた最後のイ級が私の方を振り向く。……が、その側面に不知火が飛びつき、逆手持ちのナイフを勢いよく突き立てる。
543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/17(火) 10:24:38.32 ID:r6wLN4KK0
投下おつです
544 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/17(火) 15:44:19.03 ID:KNLarycA0
おつおつ
まさかの凸砂型なのかw
それにしても卵ライフを満喫してるw

あとキングダム最新刊も今週だったかな…
545 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/07/21(土) 23:03:06.59 ID:Ju5Lf/AP0
人間で言うなら恐らく側頭部に当たるだろう位置に深々と突き刺さった刃。だが不知火が扱うナイフの刃渡りはせいぜい20cm前後で、ギリギリ銃刀法違反に引っかかる程度の長さでしかない。

五メートルを超えるイ級の体躯と比してあまりにも浅く小さいその傷口は、本来なら致命傷となるものではないだろう。

あくまでも、彼女の刺突がその一撃“のみ”だった場合の話だけど。

「………つまらない」

『ィギッ─────』

吐き捨てるような呟きと共に不知火がナイフを抜き取る。同時に、イ級が弱々しい鳴き声を一つあげた後彼女とは反対側へ倒れた。

体表に口を開けるナイフの刺し傷から、青い体液が溢れ出る。……どう少なく見積もっても優に20は越えているだろう傷口からの出血量は尋常ではなく、たちまち不知火の足下には生臭い水たまりができあがる。

(相変わらず、速いなぁ……)

提督の指導の下修練を積んだ不知火のナイフ捌きは、かの青葉をして「目で追うことが難しい」と言わしめる程だ。まさに“神速”と呼ぶに足る手数は、彼女が扱う得物それ自体のリーチの短さと一撃辺りの威力の低さを補って余りある。
546 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/21(土) 23:05:57.24 ID:Ju5Lf/AP0
「………不知火に何か落ち度でも?」

「たまご……」

畏怖と敬意の念を持って見つめていると、それに気づいた不知火が低い声で訪ねてきた。10秒も浴びれば台湾の珍味【鉄卵】も独りでに割れること請け合いなその鋭い視線に、私もホールドアップを余儀なくされる。

眼だけで人を殺せるタイプだこの子。

「た、たまご」

「…………あの、別に怒っているわけではないのですが」

戦場のど真ん中で戦意喪失アピールを始めてしまった私に、不知火が困惑したような声色(と、益々鋭くなった目付き)で某睦月型のような台詞を口にする。うん、私もよく解ってるんだけどね、これは仕方ない。

例え調教した猛獣使いがすぐ近くに居たとしても、檻がない状態でライオンと至近距離で顔を付き合わせて怯えずにすむ人なんていないでしょ?同じ事よ。

「悪気がないのは解りますが、瑞鳳さんにそのような反応をされると少し傷つきますね……っと」

私と不知火の奇妙な──そして二人の練度を鑑みても流石に無防備な──膠着状態に終わりを告げたのは、少し離れた場所で立て続けに響いた地響き二つ。

直後、在日米軍の飛ばす対地攻撃機の編隊が爆弾を投下しながらすぐ近くの空を駆け抜けていく。
547 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/21(土) 23:08:18.01 ID:Ju5Lf/AP0
A-10攻撃機の通過に伴い巻き起こった突風で砂塵と黒煙が吹き散らされ、急速にクリアになる周囲の景色。

真っ先に視界に飛び込んできたのは、激しく損壊し物言わぬ骸と成った哀れな2隻の深海棲艦だった。

「ふぅ……準備運動にはちょうど良かったッぽい!」

十時方向には、まるでブツ切りにされた鶏肉のように黒い“何か”の山が堆く積もり、天辺には二本の黒い大振りな山刀が十字架を思わせる形で突き刺さっている。そしてその山の前では、ようやくヒコーキ酔いから蘇生したらしい夕立が満面の笑みを浮かべて額の汗を気持ちよさそうに拭っていた。

山の中に垣間見える装甲殻の破片や図太い腕の残骸、そして特徴的な(ただし、坂道で自転車から落としてしまった卵の如くぐちゃぐちゃに潰れた)三つの首の存在がなければ、私達でも“それ”を軽巡ト級の成れの果てだとは気づけなかったに違いない。

「………提督!」

一方、唐竹割りの要領で真っ二つにされ何かの記念碑の如く瓦礫の中に屹立している駆逐ハ級の前で佇む時雨は、ご機嫌な妹とは対照的にあからさまな膨れっ面で声を荒げる。まぁ、独り占めを目論んでいた獲物の大半を持って行かれた上に旗艦・副艦さえ自分のスコアにならなかったとなれば、人一倍どころか百倍は負けず嫌いな彼女の怒りは予想できたことだけど。

「僕一人でも十分どころか僕一人だったらもっと早く終わってたのに、何でわざわざスコアを減らしにかかるのさ!しかも副艦のヘ級はよりによってそいつと共同で沈めるし………痛っ!?」

(,,#゚Д゚)「作戦中に喧しいんじゃウォーモンガー!少し黙ってろ!」

早々に食ってかかったところに凄い勢いでギコさんのげんこつが落下し、“口先から生まれたケルベロス”も物理攻撃の前にあえなく大破轟沈で地面にしゃがみ込む。しかしロマさんといい提督といいギコさんといい、時雨と会話をすると著しく知能指数が下落するのはなんなのだろう。そういう特殊能力の持ち主なのだろうか彼女は。
548 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/21(土) 23:12:29.75 ID:Ju5Lf/AP0
「容赦なく艦隊一の美少女の頭ひっぱたくなよ野蛮人!」

(,,#゚Д゚)「美少女自称する前にその“海軍”一最悪なできの脳味噌直してこいやゴルァッ!」

(#T)「しぃ、古鷹、雲龍、総員前進!拠点構築急げ!確実に後続がくるぞ!」

(*;゚ー゚)「了か────11時方向、学園艦甲板上に発砲炎!!」

「うわっ!?」

背後で繰り広げられる低IQな会話には目もくれず、提督が後方で待機していた部隊に前進を合図する。古鷹達が立ち上がって私達の方に向かってこようとした瞬間、砲声が鳴り響き大洗女子学園の上でオレンジ色の光が瞬いた。

まだ駆逐しきっていなかった敵機による弾着観測射撃か、はたまた只の偶然か。風切り音と共に飛翔した二発の砲弾は私達の3メートル前で炸裂し、時雨が最初に仕留めた二級の屍を消し飛ばす。

初撃からの至近弾。弾着観測射撃だったとすれば、次の弾丸はほぼ確実に提督達を捉える筈だ。

( T)「………」

(*;゚ー゚)「同地点で更に発砲炎を視認!総員衝撃に備えて!」

(,,;゚Д゚)「クソッ!先輩、あんたも退避を……おいっ!?」

そしてそれを彼も理解しているはずなのに、この提督ときたら何を考えているのやら砲弾が飛来した方角を見上げたきり微動だにする気配がない。

( T)「ギコ……さっきのは流石に時雨に言いすぎやろ」

(,,;゚Д゚)そ「なんの話だ!?」

いや、ホント何考えてるの?脳味噌の大きさうずらの卵なの?
549 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/21(土) 23:14:50.72 ID:Ju5Lf/AP0
「提督、前を失礼いたします」

(,,;゚Д゚)「バカ言ってないで逃げろアホ───うおっ!?」

「っ、提督伏せ───っ!?」

回避するそぶりを全く見せない提督に、流石にけんかを中断したギコさんと時雨が焦りの色を浮かべて彼の袖を引こうとした。だがそれよりも先に人影が一つ────古鷹が、高速艦とはいえ陸上でのフル装備とは思えぬ身軽さで砲弾と提督の間にするりと身を滑り込ませる。

「っつ……!」

天に向かって掲げられる、だし巻き卵を20人前は一気に焼けそうな大きな盾。息つく間もなく表面で火花が散り、轟音が地を揺るがし爆炎が辺りを照らし出す。盾越しにかかる爆圧に一瞬古鷹の身体が揺れたけれど、“海軍”式の黒い盾は全ての炎と衝撃を防ぎきった。

『ォオアアアアアアッ!!!!』

「発砲炎、別位置にて確───ops!?」

「あっ、すみません大丈夫ですか!?」

沖合の方からも弾丸が襲来するが、今度のそれは起爆すらせず“盾”によって受け流される。自分の方に飛んできた──といっても20mは頭上だが──砲弾に報告の声を上げた“海軍”兵が尻餅を突き、はじき飛ばした張本人である古鷹はすまなそうにまなじりを下げ謝罪した。

だけど、その少し慌てたような声色とは裏腹に、彼女の身体は既に反撃の動作に移っている。

「左舷砲雷撃戦用意……撃てぇーっ!!」
550 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/21(土) 23:19:39.82 ID:Ju5Lf/AP0
右手で尚も盾を掲げつつ、左手に装着した主砲をその下から突き出し、構える。二号型20.3cm連装砲が轟と勇ましく唸り、砲弾が煤けた夕暮れの空に弧を描く。

『ゴァ゛ア゛ア゛ア゛ッ!!?』

少し間を挟んで、海の方から一際大きな爆発音が断末魔を伴って聞こえてきた。

《統合管制機【Hedwig】より【Fighter】古鷹、海上航行中の軽巡へ級flagshipに直撃弾。轟沈と随伴艦隊の後退を確認した。

一撃とは流石の腕前だな、Good kill》

「ふふっ、これが、重巡洋艦なんですよ♪」

統合管制機からの手放しの賞賛に、古鷹ははにかんだように笑う。よく磨かれた卵の殻のように白く美しい彼女の歯が、夕日を反射して輝いた。

( T)「統合管制機【Hedwig】、意見具申だ。速やかに当艦隊のコールサインを【Mus」

《【Hedwig】よりコールサイン“フ ァ イ タ ー”、意見具申を棄却する。尚、貴隊のコールサインはリクマ=スギウラ准将以下上層部での決定事項だ》

( T)「死ね」

まだ諦めてなかったのね、提督……。

( T)「はぁ、萎えるわ……もぅマジムリ……ロマ殺そ……」

(*メ;゚ー゚)そ「突然の反乱宣言!?」

( T)「慌てんな落ち着けマッスルジョークだ。……ギコ、ここは大洗町のどの辺りだ!?」

(,,メ゚Д゚)「東光台近郊だ、艦砲射撃で景色が大分変わっちまってるが解る!」

ギコさんとしぃさんは、表向きの顔である警備府付の護衛部隊として四年をこの町で過ごしている。地理は完全に頭に入っているようで、提督の問いにも打てば響くが如く答えが返ってきた。

(,,メ゚Д゚)「前方150mの半壊してるビルが大洗オーシャンビューだ、間違いない!……クソッ、予想以上に滅茶苦茶にされてんなオイ!」
551 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/21(土) 23:21:28.27 ID:Ju5Lf/AP0
ギコさんの言葉に、私も脳内で町の地図を広げる。

空母艦娘として、戦場となる町の地形は頭に叩き込んでいる。景観が事前情報から様変わりしていても、地名さえ解れば現在地の把握なんて片手で卵を割るより簡単だ。

(東光台というと………ちょうど鎮守府と私達の目的地の中間点ぐらいの位置か)

私達の本来の目的地であった、大洗シーサイドステーションからは北東に約2kmの位置。そして更に北に向かえば、2.5km程で鎮守府がある。

改めてみると、東光台は拠点としてかなり重い価値を持つ。大洗海岸通りとここを立て続けに失えば、鎮守府と港湾施設の連携が寸断されて私達は各個撃破の様相を呈する事になりかねない。そして海岸から6、700m離れているここまで深海棲艦が入り込んでいたことを考慮すると、海岸通りの防衛線は話に聞いていた以上の惨状と考えて良さそうだ。

(あぁ、そっか)

ここでようやく、私は合点がいった。何故彼が、ホ級flagship等を駆逐しきった時点ですぐに動こうとしなかったのかを。

(,,メ゚Д゚)「で、どうするよ提督閣下。かなり離れてるがひとっ走り行ってシーサイドステーションになんとか合流を───」

( T)「────いや」

何故、シーサイドステーションから離れた位置に墜落したと知りながら、提督がしぃさん達に“陣地構築”なんて命じたのかを。





( T)「ここで、“大炎”を起こすぞ」

彼の“本能”が、そうさせたのだ。
552 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/21(土) 23:35:04.84 ID:Ju5Lf/AP0
提督の呟きにまるで応じるように、戦場の彼方此方で次々と奴らの砲が吠える。海上から、学園艦から、港湾部から、実に10発以上の砲弾が唸りを上げて飛来する。

(;メ*゚ー゚)「敵艦砲撃!!少なくとも10!!」

「たまご」

(,,;メ゚Д゚)「総員衝撃に備えろ!!!!」

「提督……!?くぅっ!!」

彼の言う“大炎”の代わりに、炸裂した砲弾によって周囲で次々と小規模な火災が発生する。内直撃軌道だった一発は、古鷹がかろうじて盾ではじき飛ばした。

( T)「すまん鷹さん、そのまま防御と反撃を頼む!なるべく派手に、奴らの注意をこっちに貼り付けろ!!」

「了解しました!!」

言うが早いか、盾を足下に落として両手の20.3cm砲を同時に放つ。左右別々の方向で海上に炎をまとった水柱が上がり、2匹分の断末魔が重なって町に響き渡る。

「はっ!」

直後、また新たな方角より飛来した弾頭二発。右足で蹴り上げてキャッチした盾を振りかぶり、羽子板の板のように、或いは卵焼きをひっくり返すときのフライパンのように振るう。下方から殴りつけられた砲弾がくるくると回転しながら空に舞い上がり、季節外れの打ち上げ花火よろしく大洗の空に大輪の花を咲かせた。

「たーまやー……って、ね……」

ノリノリで口にした台詞は、半ばで古鷹が我に返ったため最後の方は殆ど聞こえなかった。

顔真っ赤にして照れるなら最初から言わなければいいのに。そもそも“たまご”しかしゃべれない私が言うのも何だけどさ。

( T)「【Muscle】より【Hedwig】、敵艦隊の、特に大洗シーサイドステーションと大洗鎮守府方面に殺到している奴らの動きを教えろ!」

《………。【Hedwig】より【Fighter】、大洗鎮守府方面からイ級2、ハ級1が其方に向かった以外は目立った動きは見られない》

(#T)「Muscleだっつってんだろうがオルァアッ!!!!」

(,,メ#゚Д゚)「言ってる場合かボケェエエエエエッ!!!!」

あと、提督はいい加減諦めなよ。
553 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/22(日) 00:20:48.68 ID:sSjhzCeV0
《【Hedwig】より【Fighter】、再度繰り返すが貴隊のコールサインは上層部による決定だ。各部隊の混乱を避けるためにも変更は認められない》

(#T)「これだから信用できねえんだよなぁ、あの糞眼鏡はよぉ!」

まともな方のコールサインを選択しただけで信用を左右されるロマさんもたまったもんじゃないと思う。

(#T)「わあったよムカつく糞雑魚ナメクジなコールサインについては後回しだ!

お次は航空戦だ!雲龍、派手にぶちかませ!」

「────了解」

それまで周りの騒ぎなどまるで意に介すことなくマイペースにぼんやりと立っていた雲龍の眼に、その命令を聞くや否や産地直送され鮮度抜群な卵の黄身の光沢を思わせる輝きが宿る。

バサリと足下に広がる、マットレスを模した飛行甲板。無数の白い型紙がさながら意思を持っているかのように渦巻く中、その中心に彼女が両足を揃えて立ち尽くす。

「雲龍型航空母艦、雲龍、参ります」

右手に持たれた錯杖が、トンッと甲板の中心を叩く。一際強い風が吹いて、型紙が益々激しく荒れ狂いながら淡い光を放つ。

「第一次攻撃隊、発艦はじめ」

型紙から変化した99式艦爆が、彼女の号令一過一斉に飛び立つ。発動機【金星】を獰猛に唸らせながら、30を越える機影が空へと駆け上がった。

『『『────………!!!?!?』』』

「たまご!!!」

突然現れた新手の航空隊を迎撃すべく、なんとかグラマンの猛攻を生き延びていた【カブトガニ】の残党が最後の力を振り絞って押し寄せた。……だがそれらの機影の背後に撃ち上げた私の矢が、零戦に姿を変えて敵編隊を捉え足止めする。

多少は数で劣ろうが、私の妖精さんは既に疲弊損耗した航空隊に不意まで打って遅れをとるような子達ではない。

軽空母だって、頑張れば活躍できるのよ?
554 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/22(日) 00:57:39.30 ID:sSjhzCeV0
零戦部隊の敵制空隊足止めが功を奏し、損害を出すことなくその防空網を突破した雲龍の艦爆部隊。高度2000程度の位置まで一息に駆け上がった爆撃隊は、そのまま完璧に統率の取られた軌道で一斉に四方へ散開する。

程なくして聞こえてくるのは、急降下爆撃時に99艦爆が奏でる“ジェリコのラッパ”とはまた違った音質の風切り音と爆発音、深海棲艦のくぐもった悲鳴。

《【Hedwig】より各隊、【Fighter】雲龍による空爆の効果は絶大》

そして無線通信を賑わせるのは、統合管制機のオペレーター達が上げる戦果報告の声だ。

《大洗シーサイドステーション正面港湾部、急降下爆撃によりホ級flagship2隻が大破轟沈。また随伴艦多数に損傷、一部艦隊が後退。同拠点に後方より艦娘部隊の合流を確認した》

《大貫町方面に浸透中の敵艦隊、計4隻の轟沈により進軍停止。【Hedwig】より【War-Hog】、追撃し戦果拡大を狙え》

《大洗鎮守府施設に上陸していた二級eliteが沈黙、軽巡ト級も大破撤退。現在同施設にて艦娘部隊が再編・反撃に転じている》

《Taxi-07を鎮守府内に降下させろ!阿賀野、由良を中核火力として上陸済みの敵艦隊を速やかに駆逐しろ!》

《大洗海岸通り方面の敵艦隊も一時後退!Cargo-22、予定を変更し海岸通りに降下!搭乗部隊は展開完了次第敵艦隊に艦砲射撃を!》

《ひたちなか市方面に航行中の敵艦隊、急降下爆撃により旗艦イ級flagshipが轟沈し混乱している模様。Stork-19、正面に回り込んで【Hound-Dog】を海上降下させろ!》

《自衛隊F.O.Bより入電。Cargo-10がHyakuri-Airportに到着、合流を完了》

《他の後方に割り振った増強部隊も順次合流中。また、自衛隊側も在日米軍並びに“海軍”の反攻に合わせて更なる後方戦力の投入を開始する模様!》

普段は卵の白身だけ取り出して作った唐揚げの衣のように淡泊で味気ない声でやり取りする“海軍”のオペレーター達も、声に僅かだが熱を帯びている。30機前後の旧式爆撃機で上げる戦果としてはかなり規格外なものなので、目が肥えている彼らも驚きと興奮を隠しきれないらしい。
555 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/22(日) 09:33:43.63 ID:YRfzRo0g0
乙〜〜〜〜
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/23(月) 00:51:28.70 ID:kuXWHJgA0
おつおつ
無双っぷりもさることながら、提督もしつこいな(笑)
557 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/29(日) 23:04:17.01 ID:RkgsELyS0
無論、“規格外の戦果”とはいっても敵艦隊を壊滅できたわけじゃない。大洗町とその正面海域、並びに大洗女子学園周辺や甲板上には未だ何百という深海棲艦が健在で、撃沈できたのはあくまで一部に過ぎない。

本来急降下爆撃は“点”に対する打撃力と正確性を追求した攻撃法であり、言うなれば空戦における“狙撃手”のような存在。妖精さんの練度によっては必殺に近い威力を発揮する反面対多数の制圧力には欠ける。

幾ら地獄と謳われる鎮守府の艦娘でも、点の攻撃で面を制圧しろというのは不可能に近い。たかだか30機程度の爆撃機でこの物量の敵艦隊をを殲滅しようとするのは、生卵を投げつけて津波を食い止めろと言われているのと同義になる。

尤も、そもそも戦況をひっくり返すに当たって、“殲滅”する必要自体皆無なわけだが。

《Cargo-01 for All unit, One more!!》

《Go go go!!》

《Enemy AAR incoming!!》

《Break!! Break!!》

管制機からの指示を受け、増援部隊を満載した輸送機群が動き出す。当然海上や地上からは凄まじい量の対空砲火が撃ち上げられるが、各機は先ほどまで一方的に追い散らされるだけだったそれらを巧みにすり抜け、躱していく。

雲龍は、爆撃の殆どをflagshipやeliteに集中しその大半を確実に撃沈した。辛うじて生き延びた個体も、恐らくは大破でまともに艤装も動かせない状態であり無力化されている。

単純な戦闘能力も通常種に比べて高い上に、ヒト型や姫級・鬼級からの指示を仲介して下位個体に伝える役割もしていると見られる非ヒト型の上位種。それが展開戦力の内半分以上も失われたとなれば、当然指揮系統は混乱するし単純な艦隊火力の大幅な低下も避け得ない。

勿論敵艦隊の母数が母数なので、“大幅に火力が下がった”としても弾幕量自体は相変わらず膨大だ。それでも、片翼を失って尚、機内に重体者一人すら出さず瓦礫だらけの市街地に軟着陸するような腕前のパイロット達が揃っている部隊にとっては、突破する隙としては十分すぎた。
558 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/07/29(日) 23:10:37.09 ID:RkgsELyS0
弾幕を突破した輸送機の編隊が、統率の取れた動きで高度を下げながら大洗町上空全域に散開する。敵の航空戦力は既に“海軍”基地航空隊のグラマンと私の零戦部隊が掃討を完了し、制空権は確保された。

対空砲火さえ切り抜ければ、後は増援部隊を脅かす存在はない。下ろされたロープを伝って、或いは直接着陸した機体のハッチから飛び出して、完全武装の“海軍”兵と艦娘部隊が次々と戦場に展開していく。

《Taxi-07, 大洗鎮守府敷地内に降下完了!【Bravo】、総員展開しろ!Good luck!!》

《Stork-16、大貫町の敵艦隊正面に降下!自衛隊が交戦中、部隊は援護に回れ!》

《此方【Echo】、【Fighter】に代わりシーサイドステーション前に着陸を完了!大淀、砲撃開始だ!目標は正面敵艦隊!》

( T)「だからマッスr」

(,,#メ゚Д゚)「ちょっと黙ってろ脳味噌筋肉!」

無線機に次々と飛び込んでくる、展開を終えた部隊からの通信報告。その内の一つに提督が抗議の声を上げようとしたけど、ギコさんがすかさず一喝して無理矢理終わらせる。

本当に、提督のこの頑固さは一体どこからくるのだろうか。キングダムとムカデ人間と筋肉に関わる事柄では、この人の頭は長時間鍋の底に放置され冷め切った茹で卵の黄身より固くなるのだ。

(,,#メ゚Д゚)「しぃ、友軍部隊の展開状況は?!」

(*メ;゚ー゚)「【Echo】、【Bravo】、【Spencer】、【Lycaon】、【White Socks】、【Diamond】……私達【Fighter】も含めて、艦娘が加わっている部隊でめぼしいところは概ね降下展開を完了しているみたい」

尤も、私達は“降下”というより“墜落”だけど、としぃさんは苦笑いしながら付け足す。

ただし笑っているのは口元だけ。冗談めかした言い方ながら、彼女の目付きは引き続き真剣そのものだ。

(*メ;゚ー゚)「自衛隊並びに鎮守府・警備府艦娘の残存戦力と合流完了した部隊も多数。だけど、深海棲艦の攻勢は未だ止んでない。

寧ろ海上に新手の艦影が更に浮上、一度後退した艦艇も戦列を再編・反転してきたって」

「うぇえ……」

報告を聞いた時雨が、本っっっ当に心の底から嫌気がさした表情になる。

ロマさんの姿を直接眼にしたときより不愉快そうな彼女の表情を見たのは、おそらくこれが初めてだわ。

因みにゴキブリとロマさんだとロマさんに対する視線の方が4割増しぐらいでキツい。
559 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/07/29(日) 23:14:13.91 ID:RkgsELyS0
まぁ、表情については多分私も似たり寄ったりだろうからあんまり時雨のことを言えない。私だって、フライパンの底に焦げ付いた卵のような深海棲艦のしつこさには辟易しているのだから。

《【Hedwig】より【Fighter】、先ほど報告したイ級2、ハ級1からなr( T)「古鷹」

「了解です」

提督が無造作に指差した方に、古鷹が20.3cm砲を向けて三回打ち鳴らす。三つの爆発音の後に一キロほど先から断末魔が重なり、統合管制機のオペレーターが呆れたような声色で《All Enemy down》の一言を告げた。

( T)「雲龍、偵察機の準備は?」

「二式艦上偵察機、全六機が既に高高度にて旋回中。弾着観測はいつでも可能」

( T)「上出来だ。

古鷹、時雨、不知火、夕立!“二式”と視界共有、弾着観測射撃!!」

(#T)「存分に、ぶち殺せ!!」

「古鷹、了解しました!指名各艦は個別に照準、自由射撃開始!弾種撤甲、撃ちぃ方ぁ始めぇっ!!」

「はいはい……全く、か弱い美少女が長くいていい場所じゃないねここは!」

「弾種撤甲、了解。駆逐艦不知火、砲撃開始します」

「夕立、撃つっぽい!ぽいぽーいっ!!」

限界ギリギリまで引き絞った矢を解き放つが如き、提督の号令。指名を受けた四人は、全ての艤装を展開し文字通り全方位に最大火力を投射する。

《大洗第五警備府正面、軽巡ト級が【Fighter】古鷹の砲撃により完全に沈黙》

《Hit, Hit!! 浮上した軽巡ヘ級、頭部を失い轟沈!隣にいた駆逐イ級eliteも中破損害!》

《【Fighter】不知火の砲撃、大貫町方面にてト級に弾着。夕立の砲撃、一発はロ級、一発はホ級eliteに弾着。何れも目標の沈黙を確認》

時間の拘束は緩い代わりに提督が直々に矛を振るうこともある濃密な訓練と、日々の合間に各艦娘が行う訓練内容の“個人的な”反復。そしてどこよりも豊富な実戦経験が練り上げた、威力と速度を兼ね揃える艦砲射撃。

そこに偵察機の視界共有による“精度”が加われば、ごらんの通り。

《【Fighter】時雨、イ級flagshipを撃沈。Nice kill, Nice kill》

「時雨より管制機、偵察機から見えてるよ。解りきっていることをいちいち報告するだけを“仕事”と言い張るならいない方がいいんじゃない?」

《褒めがいのない駆逐艦だな………古鷹、撃沈10隻目だ。Good job》

彼女たちの放つ砲弾は今、一発一発が必中必殺の“銀の弾丸”だ。
560 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/07/29(日) 23:19:46.85 ID:RkgsELyS0
《【Hedwig】より【Fighter】、既に当方の艦娘戦力も80%が市街地への展開を完了した。彼女らが貴隊偵察機へリンクすることは可能か?》

( T)「m(,,#メ゚Д゚)「此方Wild-Cat、【Fighter】提督は脳味噌の不調につき俺が一時返答を代理する!雲龍、視界共有は未だいけるか!?」

「問題ない、妖精さん達もまだまだ余裕があるし、足りなければもう三機ほど上げることも可能」

(,,メ゚Д゚)「Wild-CatよりHedwig、リンク可能!各艦の視界共有は大丈夫だ!」

《了解。統合管制機より現在展開中の全艦娘に通達、【Fighter】が二式艦偵を発艦させている。各艦は妖精と視界共有、弾着観測射撃にて敵艦隊を撃滅せよ》

一般論として、母艦の艦娘以外との視界共有は映像の質が落ちる上に妖精さん達への負担も激増するため緊急時以外には多用されるべきではないとされる。況してや艦隊外の艦娘と、それも一機辺りが十数人と一度に精神・視界リンクを行うなど普通に考えれば正気の沙汰じゃない。

だが、艦娘のみならず妖精さんも“筋肉印”はひと味違う。私と鳳翔さんが二人がかりで調理した卵焼きのように。

《【Bravo】霧島、視界共有並びにマイクチェック完了!これより湾外より接近する敵艦隊へ艦砲射撃を行う!》

《【Echo】響、鎮守府より距離800の海上に更なる敵艦の浮上を確認したよ。イ級3、ロ級2の艦影あり。これより該当艦隊に砲撃開始するよ》

《This is【Diamond】, Flagship-KONGOU!!

Enemy ship spotted!! Open fire!!》

(*メ゚ー゚)「各艦、弾着観測射撃にて遠距離並びに湾内海上の敵艦隊への攻撃を開始!戦果順調に拡大中!」 

(,,メ゚Д゚)「雲龍、二式艦偵の妖精に異常は!?」

「問題は見られない、何れの妖精さんも健常。二式艦偵の増強の必要なし、各艦引き続き観測射撃を継続されたし」

私も雲龍の偵察機に視界をリンクさせているが、彼女の言うとおり妖精さんは平然としており疲労した様子は微塵も見られない。陸地側から伸びる砲火が深海棲艦を至るところで薙ぎ倒していく様が、最新の4Kテレビのような鮮やかさで私の脳裏に映し出される。

『『アァッ、ア゛ア゛ア゛ッ!?』』

『『ギ、ィ…………』』

ただでさえ、“海軍”には私達以外にもイカれた練度の艦娘・艦隊が揃っている。それらが数十人雁首を揃え、尽く抜群の性能で空から見下ろす“眼”を通して砲撃してくるとなれば、それは最早多少の「数的有利」如きでひっくり返せる差ではない。
561 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/29(日) 23:28:19.62 ID:RkgsELyS0
防衛線の戦況は完全に逆転した。一方的に、縁日の射的の景品よりも容易く撃ち抜かれ、深海棲艦の屍や残骸が凄まじい勢いで堆く折り重なっていく。

そして───これほどになって尚、戦闘というより只の射撃演習と表現した方が余程近い苦境になって尚、奴らはまだ攻勢の姿勢を崩そうとしない。

『『『ォオオオオオオオアアアアアアッ!!!!!!』』』

《【Hedwig】より【Fighter】、湾内複数地点にて合計20隻程度の敵艦隊の浮上を確認。全て非ヒト型だが内約半数がelite、或いはflagshipクラスだ。

尚、この艦隊は全て進路を大洗海岸通り方面に取っている。恐らく、上陸後は東光台方面に浸透するものと思われる》

《此方大洗鎮守府、【Bravo】霧島より【Fighter】!!当地点正面に展開中だった敵艦隊から10隻を越える艦が離脱、海上を南下中!予想上陸地点は敵艦隊の進路から大洗海岸通り付近と見られます!》

《【Echo】大淀より【Fighter】、海上の敵艦隊からホ級elite2、ハ級flagship3が進路を当地点より変更!貴隊展開方面へ最大速にて進軍中!

また、共闘中の自衛隊より陸路を通じて東光台に進軍する敵艦隊を確認したとの報告も複数あり!注意を!》

敵の旗艦は、分散しての“平押し”では最早戦況を再び打開することは不可能と踏んだらしい。まるで特売用にかき集められて半額シールを貼られて棚に並べられる卵パックのように、あらゆる方角から敵艦隊が私達の方へ集結しようとしている。

考え方としては、決して間違っていないと思う。さっき脳内の地図でも確認したとおり、私達が今いる“東光台”という地は大洗鎮守府と港湾部とを結ぶ中間点の一つ。ここに浸透攻勢をかけて大洗町全体を寸断し南北双方への側面攻撃をかけられれば、学園艦から未だ投射され続けている支援砲撃の火力と併せて再び全方面で押し込むこともできなくはない筈だ。
562 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/08/01(水) 12:15:50.85 ID:nkx3sFGUO
お誂え向きな事に、その重要拠点に最短距離の上陸地点である大洗海岸通りはがら空きだ。この地点を守っているはずの艦娘と自衛隊は、殲滅されたか退却したか姿がない。flagshipとeliteだけで併せて30に迫る戦力を水際で迎撃されることなく送り込める“隙”を、敵の旗艦が見逃す理由はない。

そして何より、この戦況の逆転は私達の本格的な交戦開始を境に発生した。勿論私達が全てお膳立てしたというほど自惚れはしないけれど、贔屓目抜きにして少なくとも親子丼に入れる溶き卵程度の貢献にはなるだろう。

勝負事の“流れ”という、非科学的で人間くさい存在を奴らが信じているかどうかは解らない。ただ、戦闘の潮目を変えた私達を要衝から駆逐し、再び奴らの“流れ”へ持ち込もうとしているのだとしたら───それも十分な理由として上げられるかもしれない。

そう。戦況を鑑みれば、深海棲艦達が総力を挙げてこの地の奪還を目指すことは至極自然。この町の地理さえ頭にあれば、せいぜい戦略ゲームを多少やったことがある程度の知識量でも奴らが東光台の制圧を狙う理由はいくらでも見つけることが出来る。

『『『ォアアアアアアアッ!!!!』』』

《HedwigよりFighter、敵の別動艦隊は大洗海岸通り正面に上陸中。数は現時点で貴隊艦隊戦力の4倍から5倍、更に後続部隊も接近中》

( T)「マッ……わかったよギコホントに我慢するから睨むな。

俺たちの方でも確認した、クソ雑魚ナメクジが群れなしてやがる」

無論、統合管制機のオペレーター達もその事を知っていた。だからこそ彼らは、あえて私達の下に(単に必要なかったというのもあるけれど)増援を送らなかった。

私達もまた、こうなることを知っていた。だからこそ私達は───私達の提督は。








《HedwigよりFighter、陽動を感謝する》

ここで、“大炎”を起こしたのだ。

《Ticket-01、Ticket-02、海域に突入。【Blizzard】、【Cubs】を敵艦隊後方に投下しろ》

《01, Roger》

《02, Roger》
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