エンド・オブ・オオアライのようです

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82 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/12(金) 15:01:53.39 ID:zkSUgY8K0







【学園艦棲姫】の出現と、フィリピン海防衛線における交戦開始───この報告が入った時点で、南は既に横須賀司令府の地下総司令室に近習数人と一部閣僚を伴って移動を完了していた。

別にこれは、自ら艦娘の主力や海上自衛隊を指揮しようという勇ましい意図の表れではない。【学園艦棲姫】が強力かつ膨大な航空戦力を持っている可能性が指摘された段階で、空襲のターゲットとなり得る永田町から退避し現状最も強固な防御力を持ち避難手段も豊富な横須賀司令府が移動先に相応しいという判断からのものだ。

見ようによっては“臆病風に吹かれた”と取れなくもないし、実際南自身自分を勇敢な人間だと思ったことは一度も無い。何より、この事が外に知れれば「国民が危機に晒されているときに安全圏に一人で逃げた首相」と見る人間は少なからず居るだろう。

そして、南は「そうなるならそれでしょうがない」と割り切っている。

彡(゚)(゚)(ワイが空襲やら何やらで死んで、有事のど真ん中でクソ無能が指揮取るハメになるより億倍マシや)
83 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/12(金) 15:07:00.76 ID:zkSUgY8K0
南は自身の能力を過不足無くある程度正確に推し量った上で、今の情勢で日本をとりまとめられる人間は自分しかないと結論づける。

彡(゚)(゚)(強いて言うなら茂名の爺さんやが、あの人は貫禄が不足しとるから野党がうざったくなる。他の有象無象は概ね空中分解待ったなし)

南が深海棲艦の出現前より自衛隊関連法案の整備に取りかかっていたとき、彼の改革に反対する(自称)平和主義者からよくぶつけられた質問がある。

曰く、戦争になったとき、首相は前線に立って戦うのか。

彡(゚)(゚)(これ言い出したの、どこのバカやろなぁ)

どうも彼らは南に効果的な文句だと勘違いしている節があり、遊説中やら講演時やら記者会見やら、あらゆる場所でこの失笑モノの質問をぶつけてきた。政治討論系のテレビ番組で知識派で売っているはずのコメンテーターが口に出してきたときには、堪えきれず腹を抱えてたっぷり一分間は爆笑してしまったのを覚えている。

彼らの脳内では、何故か常に戦争は日本が起こす側であり外国から宣戦布告を受ける事は絶対に有り得ないと決め付けている節がある。すぐ近くにある半島の北側に、核ミサイルを研究し常に「日本列島を破壊し尽くしてやる」と脅しをかけてくる軍事独裁国家が現存するにもかかわらず、だ。
84 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/12(金) 15:32:43.40 ID:zkSUgY8K0
彡(゚)(゚)(戦国時代とか中世ヨーロッパから脳の進化が止まったのかな?)

或いは映画【インディペンデンス・デイ】のトーマス=J=ホイットモア大統領でも意識したか。いずれにせよ、“日本側が宣戦布告する”と決め付け、“日本への宣戦布告は有り得ない”と思い込んでいる人間の的外れな指摘であることは変わらない。

日本が“有事”をふっかけられた際の備えには手を抜かない、一方で“有事”を着地させられる力がある人間は、出しゃばらずに安全な場所で自分の義務を着実に果たす────それが日本と、その国に住まう人々の生活を護るために最も適した形として現状南が辿り着いた考え方だ。

まぁ、打算が皆無かといえばそうではない。横須賀は避難警報が出されている区画の一つであり、これを母港とする学園艦【聖グロリアーナ】の乗員・居住者・生徒も保安隊の誘導で退艦を開始した。

仮に横須賀司令府に行ったことがリークされても、本州での陸戦が始まった場合の最前線となる場所に首相が自ら赴いているとなればマスコミや反政権側としては叩きにくい………そんな算盤も、胸の内では弾かれた。また実務的な面でも、本来秘匿されている“海軍”の投入や他国との連携、迎撃作戦が領海外に拡大した場合など政治的な判断を現場に即座に下ろすことが出来るという大きなメリットが存在する。

メリットとデメリット、理想と現実を正確に推し量り、有事でも果断に行動できる───南が“異生物による世界規模での侵略”という前代未聞の“有事”にあって日本をこれまで守り抜いてこられたのも、飄々とした言動の裏に隠されたこの柔軟な対応力があればこそだろう。
85 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/12(金) 16:56:50.56 ID:86iPh8W7O
………だが今起きている事態は、南の、否、日本全体の対処能力をさえ既に超えつつある。

「大洗女子学園、甲板上に報道局の回転翼機が墜落!火災も発生!」

「何故飛行制限がかかって……っ!過ぎたことは仕方ない、報道各局に大洗港付近全域での飛行禁止令を通達しろ!許されるギリギリのラインまで締め上げて構わない!」

「ヌ級flagshipの動向には特に注意しろ、空母艦娘並びに各鎮守府・警備府の基地航空隊は厳戒態勢を維持!」

「ミャンマー、マレーシア、タイなどASEAN各国の空軍は学園艦棲姫への攻撃準備を完了、しかしながら自衛隊と艦娘の支援がなければ攻撃を掛けることは不可能と通知あり!」

「中部や沖縄から一部でいいから機体は上げられないのか、もたもたしていると棲姫の航空戦力の発艦を許すぞ!」

「各学園艦の状況確認が済まないと無理です、戦力を動かしてから大洗と同じことが起きれば被害は際限なく拡大します!」

「各警備府から艦娘を動員、それと陸自と警視庁にも要請を入れろ!最長一時間、できるならその半分で全艦の安全確認を終わらせるよう伝えるのも忘れずにな!」

「アメリカ国防省より情報共有あり、南鳥島に向かう深海棲艦は凡そ300隻超。艦種詳細不明も、少なくとも装甲空母姫4、戦艦棲姫2は確認されているとのことです」

「南鳥島鎮守府提督より迎撃部隊抜錨の報あり。時刻ヒトヨンニーイチ、全八個艦隊48隻による迎撃です」

「第5防空機動艦隊に艦載機全機発艦を指示。南鳥島の艦娘部隊を支援させろ」

彡;(-)(-)「………」

照明やディスプレイが放つ、人工の光のみに照らされた司令室の中。最上段の席に腰掛けながら、南は周囲の喧噪を耳にしつつ瞑目する。

即断即決を信条とし、国内外問わずその果敢迅速な行動力によって国内外問わず多くの政治屋を翻弄してきた男が、眉間に皺を寄せ心底から苦悶していた。
86 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/01/12(金) 18:03:48.68 ID:86iPh8W7O
「首相……」

呼びかけらた声に反応し、眼を開き顔を上げる。すぐ横に、いつの間にか一人の男が直立不動で佇んでいた。

彡(゚)(゚)「………お前さんの接近に気づけんとはボケすぎやな、ワイも」

(☆...●)「…………どういう意味ですか、それは」

男はそう言って不満げな様子を見せるが、正直なところ南の指摘は的を射ている。

身長209cm、体重135kg。180cmで十分高身長と言われる日本の成人男性において、この体躯は時代が時代なら人外扱いの一つも受けていたであろう。体格は“あの提督”程ではないにしろ筋骨隆々と言って差し支えなく、身長に至っては向こうよりも10センチ以上高い。顔は右眼がざっくりと縦横に走る大きな傷で潰れ、左眼のギョロリと剥かれた眼孔の迫力を助長している。引き結ばれた口元にも無数の傷が走り、顔だけ切り取ってホーン●ッドマンション辺りで飾っておけばいい案配に迫力を増してくれることだろう。

そんな、巨漢の────海上自衛隊三将にして艦娘部隊【元帥】、王嶋清人(おうじま・きよひと)の接近に気づかない鈍感な人間が、この世にどれだけいるかは疑問符が付く。

彡(゚)(゚)「そのまんまの意味や。ジェイソンが白昼堂々街中練り歩いてて気にならん人間なんて滅多におらんやろ」

(;☆...●)「………少しは気を遣っていただいてもバチは当たらないと思いますが」

思ったままの事を言ってやると、王嶋は今度は酷く傷ついた表情で頭を掻く。

全くこの男は、図体はデカいくせに昔から繊細だ。

彡(゚)(゚)「ほんま、ナリはデカいのに神経ほっそいよなぁ」

(☆...●)「首相、貴方の言葉はとりわけ強烈な武器になることをもう少し自覚すべきです」
87 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/12(金) 18:39:08.25 ID:fHC45+5tO
いよいよ声を荒げる王嶋だったが、南の顔つきを見て諦めたように一度ため息をついた。

(☆...●)「………まぁ、首相も連日連夜の外交や党内調整、【艦娘自己自衛権】関連の詰めで出突っ張りだったところにこの事態です。気を抜きたいのは解りますが、せめて“いじり”はもう少しマイルドにしていただけるとありがたい」

彡(゚)(゚)「善処するわ」

口ではそう軽く返しながら、南は視線で自身の意図を汲んでくれた王嶋に感謝の意を示す。

気心の知れた人間との口さがないやりとりは、疲弊した脳を休ませてくれる貴重な存在だ。思考の柔軟性を維持するにあたって、今のような会話も南にとっては仕事の一環に他ならない。

彡(゚)(゚)「さて、聞かせて貰おか。大洗女子学園艦内の状況はどうなっとる?」

(☆...●)「はっ。先ず商業区ですが────」

彡(゚)(゚)「待った。時間も短縮できるし、どうせここは勝手知ったる横鎮や。

“いつも通り”にいこうや、キヨやん」

(☆...●)「………OKだ、ヨシ」

南の提案に頷くと同時に、王嶋の口調と態度から堅さが消える。彼は横の椅子を引いて腰掛けると、手元の紙束をバサリと此方の前に放り出した。

(☆...●)「単刀直入に結論を言うが、状況は40分前と同じ。新しいことは何一つ解っていない。

真新しい報せと言えばお前も今聞いてただろうが、せいぜいスクープを焦ったテレビ局のバカがヘリで学園艦上空に差し掛かった瞬間【Helm】に撃墜されたってことだけだ」

彡(゚)(゚)「……因みに、その馬鹿テレビ局はどこや」

(☆...●)「各局報道番組の内容を見るに日ノ出テレビで間違いない」

彡(゚)(゚)「ほーん」

近々国会に提出する予定の新放送法案で真っ先に潰すべきテレビ局が決まったな………南は胸中で決意を固める。
88 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/12(金) 18:56:05.92 ID:fHC45+5tO
王嶋は長い付き合いの中で南が何を考えているか察したが、特に何も言わず話を続ける。

話の脱線は望ましくなかったし、正直王嶋自身南の考えには諸手を挙げて賛成だったため口を挟む必要が無い。

(☆...●)「学園艦内は艦橋保安室から各駐在所まで悉く沈黙、あらゆる方面から様々な手段で通信を試みたがきこえてくるのは波の音だけ………ロマンチックだね、貝殻を耳に当てていた無邪気な子供時代を思い出すよ」

彡(゚)(゚)「お前に子供時代なんかあったんか………無論、“暴徒”に関する続報も無しって事やな?」

(☆...●)「あったに決まってるだろ俺はいったい何なんだよ……無しだ。学園艦後部の商業区4箇所で大火災が発生している点、最初の【駆逐ナ級】が出現する前から火災に関して陸の住民より通報が入っている点から考えてここら辺が中心地だとは思うが推測の域を出んな。

なお、商業区の火災は現在も延焼中………俺たちの方で確認できたのは以上だ」

王嶋の言葉を受け、南の眉間に再び皺が刻まれる。なるほど、“進捗無し”は比喩皆無の正直な報告か。

彡;(-)(-)「で、ナ級が出たということはかなり高い確率で【寄生体】が暴動に関わっている、と……頭痛いわ」

(☆...●)「………あのビデオ映像の光景が日本で、しかも学園艦の上で起きることになるとはね。夢のようだよ全く。勿論悪夢という意味でな」

元帥の王嶋を初め横須賀鎮守府の首脳部には“海軍”に関する情報は相当深いところまで共有されており、勿論【ムルマンスクの戦い】に関する真相も彼は知っている。

戦闘の記録映像を見せられた時のことを思い出し、王嶋の表情が露骨に歪んだ。
89 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/12(金) 20:02:16.86 ID:fHC45+5tO
(☆...●)「クソッ、アレのせいで俺はしばらく肉も魚もダメになったんだ……。

とにかく情報が足りないが、それでも学園艦奪還作戦を強行するなら突入箇所はほぼ確実に艦橋になる。装備や部隊練度を鑑みて直属保安隊なら艦橋の陥落を防げている可能性が高い」

彡(゚)(゚)「艦橋保安室がぱっと見は“ただの生徒や住人”である存在に発砲を許可する勇気があれば、やがな」

(☆...●)「ああ、最大の問題はまさしくそこになる」

南の指摘に、王嶋が頷く。その口調の平坦さから、彼も自身の“希望的観測”が通るとは微塵も思っていないようだ。

(☆...●)「俺もこの鎮守府の全員も、市ヶ谷だってはっきり言って期待していない。“陥落を免れた可能性”についても、他の駐在所や区画が0%なのに対して艦橋なら5%ぐらいはありそうってだけの話だ。それでも“皆無”じゃないだけマシだし、奪還の優先度としても設備や貯蓄武装、指揮系統回復などの観点から艦橋が最も高くなる……そもそも、“突入できるなら”というのが前提条件だが」

彡(゚)(゚)「やっぱ、アカンか」

(☆...●)「どうやって沸いたのかはともかく、軽空母ヌ級flagshipの出現が痛すぎる。ただでさえナ級の対空火力が未知数の中で、艦載機っつー解りやすい脅威が加わったらおいそれとヘリ単体での空挺には踏み切れねえ。まずは制空権の確保、だがその制空権を確保できる戦闘機すら出せない有様だ」

彡(゚)(゚)「………確か、軽空母とはいえヌ級flagshipの艦載機数は90近くやっけ」

(☆...●)「あぁ、flagshipの名を冠するだけあって機動力も高い。数で圧せばそれでも十二分に航空優勢は取れるだろうが…………学園艦は大洗だけじゃない。

残り197隻で“同じことが起こる”可能性がある限り、どこの航空戦力も動かせんし消耗も許可できない」

彡(-)(-)「………」

王嶋の重苦しい宣告に、南は再び瞑目する。彼の右手は、懐から煙草を取り出そうとする衝動と激しく戦い痙攣していた。
90 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/12(金) 21:58:35.96 ID:wr0KNd1a0
世界屈指の艦娘先進国であると同時に、世界有数の学園艦大国でもある日本。深海棲艦が大洗女子学園に侵入した経路が掴めない以上、原因究明までは日本の学園艦は全て潜在的な深海棲艦の拠点として見なければならない。

ここまででも十二分に厄介だが、フィリピン海に浮上した【学園艦棲姫】の存在それ自体が自衛隊の軍事行動に決定的な楔を打ち込んだ。

即ち、大洗女子学園を初めとする学園艦に“深海棲艦化”の心配は無いのかという懸念。

(☆...●)「下半身がバイクになった雷巡が時速百キロで欧州を駆け回り、生身の人間が深海棲艦に変態し、今また学園艦の中から駆逐艦と軽空母が生えて来やがった。そして極めつけが、“学園艦型の棲姫”だ。

最早何が起きてもおかしくない………まぁこの件について取れる効果的な対策なんざ、はっきり言って存在するなら俺が教えて欲しいぐらいだがな」

学園艦としては小さい方とされる大洗女子学園で7.6km、生徒3000人と最小クラスに位置するベルウォール学園でも4.8km。そんなものが200近くも一気に深海棲艦化した場合、王嶋の言うとおり例え自衛隊と艦娘部隊が文字通りの総力を注ぎ込んだとしても勝ち目はないだろう。

現にたった1隻を相手に、アメリカも含めて3カ国分の空海軍部隊と“海軍”所属の精鋭艦娘を20隻以上ぶつけてあの様だ。

それでも………自衛隊も艦娘も、日本に住まう国民を護るためにある。軽んずることも、特定の場所を取捨選択することも究極的な状況になるまでは許されない。

逆に言うとそれは、大洗女子学園に取り残されているであろう人々にも言える。彼女達の安全を優先するあまり、他の地域での“危機”に目をつむり戦力を摩耗することはできない。

(☆...●)「………横須賀司令府元帥として、提言できる策は二つだ。

先ず一つは、乗員の」

彡(゚)(゚)「却下や」

(;☆...●)「早いな」

彡(゚)(゚)「………無論ワイかて、“それ”を最終的には選択せなアカン可能性もあることは理解しとる。

せやけど、それは“まだ”や。手が残っている限り、ワイらはその選択だけはしたらアカン」
91 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/12(金) 22:35:52.01 ID:G84HfYJhO
(;☆...●)「……まぁ、お前ならそう言うと思った。口に出しておいてなんだが、俺自身お前が犠牲ありきの“第一案”にあっさり乗ってきたらぶん殴っていたかも知れん。

しかし、だ」

王嶋は腕を組み、低く唸る。

(;☆...●)「第二案もまた、別ベクトルでリスキーだぞ。日本の国際的な信用、お前自身が積み上げてきた実績、そして何より、せっかく流れが変わり始めた艦娘の在り方。その全てを賭けのテーブルに乗せる事になる」

彡(゚)(゚)「まだ助けられるかも知れん国民吹っ飛ばすより万倍マシやボケ。

………それに、ワイも何の準備も無しに賭けのテーブルに着くわけやない」

南はそう言って、胸ポケットから取り出した自身のスマートフォンを掲げてみせる。

その口元には、不適な笑みが浮かんでいた。

彡(^)(^)「特に最後の奴はワイ自身も苦労したし何よりそこないがしろにしたらせっかく出来た筋肉モリモリマッチョマンのライン友がブチ切れてまうんでな。

ノーリスクハイリターンでギャンブルを………それが、南慈英のモットーや」






(☆...●)「笑顔キモッ」

彡(゚)(゚)「死ね」

(☆...●)「てめえが死ね」
92 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/12(金) 22:41:06.61 ID:G84HfYJhO
本日の更新ここまで。書きためてまた明日投稿します。
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/12(金) 23:10:38.92 ID:fokMncrCo
乙です
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/12(金) 23:27:06.40 ID:p96O65EJ0
乙っす
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/13(土) 00:10:10.90 ID:mrV0aZ2PO
そろそろ底辺社畜単発あらし君が沸く時間やな
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/13(土) 00:20:17.10 ID:hzpzTMtG0
>>95
自演もここまでひどいと笑えないからやめたら?
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/13(土) 00:26:08.25 ID:KuyNGQyPO
逆に荒し認定されちゃうから触れない方がいいよ
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/13(土) 00:49:05.91 ID:4xlW5HyA0
おつです
ここの首脳陣優秀過ぎるw
それと初手本土決戦はやっぱ無理ゲーだよなあ…
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/13(土) 18:34:43.68 ID:VXDQCWjrO
叩かれるあまり悔しくて自演しちゃったかー
100 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/01/13(土) 23:01:17.91 ID:Q+RJLMSmO





私が小学生の頃、「戦争」が始まった。深海棲艦と名付けられた世にもおぞましい怪物達によって世界中の国々が侵略され、多くの犠牲者が出た………らしい。

何故不確定的な語尾になるのかと言えば、私は実際にその光景を眼にしたわけではないからだ。テレビでは連日深刻な表情をしたアナウンサーが苦境に立たされる人類の有様を報じていたけれど、6年目も後半に差し掛かったとはいえまだ小学生だった私から見れば「テレビ画面の向こう側」は全く関係の無い隔絶された世界。幾ら数字や現状を並べ立てられたところで、実感も興味も持てやしなかった。

ゴジラやガメラ、或いは貞子やペニーワイズと同列の“テレビの中の出来事”───当時の私にとって、【深海棲艦】とはせいぜいその程度の認識。

他に覚えている印象を無理やり付け加えるなら、“お小遣い減額の元凶”だろうか。

深海棲艦の襲撃によりシーレーンが壊滅し、輸入大国である日本の物価は当時軒並み跳ね上がった。多くの一般家庭同様貧しくもないが決して裕福でもなかった私の両親は節制に迫られ、真っ先に削減対象となったのが私の小遣いというわけだ。

毎月の第一日曜日に手渡される一枚の1000円札が一枚の五百円硬貨に変わったときの絶望と悲哀は、今でも夢に見るほど克明に覚えている。
101 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/13(土) 23:05:34.14 ID:Q+RJLMSmO
ともあれ、あれから六年が経ち高校の卒業を間近に控えた今まで、幸運なことにその認識を変える必要はないまま過ごせた。

勿論深海棲艦がどれほど恐ろしい犠牲を出したのかはニュースや資料で知っているし、【学園艦】という洋上の教育施設で過ごす以上不安が皆無だったと言えば嘘になる。ニュースで度々流れる犠牲者数や深刻な影響の意味を読み取れるようになってからは、深海棲艦の恐ろしさというものも十分に理解できる。

だが一方で、日本は出現当初の攻勢を凌ぎきり【艦娘】の実装によってその脅威を近海からは完全に駆逐した。自衛隊は戦訓を積み、太平洋側の離島には強力な防護施設が幾つも建設され、何より二万人を越える艦娘が居る───そうした実情から、深海棲艦の恐ろしさ自体は理解しても私は相変わらずそれをどこか他人事のように捉えていた。

勿論、原隊復帰になった蝶野教官やヨーロッパで義勇軍に参加していた西住ちゃんの友達、或いは陸の大洗町の方で時折見かけるようになった反戦・反艦娘デモなど全く影響が皆無というわけではない。それでも、他の国のように街に爆弾が降ってくるわけでも海岸に駆逐艦の群れが上陸してくるわけでもない。

自分から海外に、それも艦娘の守りが手薄な場所にでも行かない限り、戦争も深海棲艦の侵略も相変わらずテレビの中の出来事。私がよく知るこの学校での日々は、この先もずっと続いていく。

そう、思っていた。









ずっとそうなるように、願っていた。
102 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/13(土) 23:10:36.68 ID:Q+RJLMSmO


だと言うのに、だ。

私がよく知る街並みが、燃えている。

私がよく知る青空を、爆弾を抱えた戦闘機が飛び回っている。

そして私がよく知る人は、たった今目の前で居なくなった。

嗚呼畜生、神様ってのが居たらきっと性根の腐りきったクソ野郎に違いない。いたいけな少女があれだけ必死に祈ったってのに、全く真逆の結果を鼻先に突きつけやがって。

「西住ちゃん!宇津木ちゃん!!」

いつか地獄に落ちた暁には、必ず神様のケツを渾身の力で蹴り飛ばしてやる───そう決意しつつ、私は樹木園から飛び出して我らが隊長の元へと駆け寄る。

秋山ちゃんも澤ちゃんも、樹に縋り付くようにして立つのがやっと。足が生まれたての子鹿のようにがくがく震えて動ける有様じゃない以上、私が行くしかない。

「二人とも大丈夫!?怪我は無い!?」

「私は大丈夫です、宇津木さんも見た限りでは……っ、宇津木さん、ダメッ!!」

「だって……せんせ、今落ちて……私のこと庇って……やだ、やだ……」

抱き留める西住ちゃんの腕の中で、宇津木ちゃんの視線はぽっかりと口を開け黒煙を吹き出す穴に固定されている。直下に浄水パイプでもあったのか、流れる水の音が轟々と聞こえてくる。

身を捩って西住ちゃんの拘束から逃れようとしつつ、宇津木ちゃんの両手は何かを掴もうとするように難度も空を掻いていた。

「っ、宇津木ちゃん落ち着いて!大丈夫、大丈夫だから!」

私自身眼にしているのが辛く、半ば私情混じりで強引にその動きを手首を掴んで終わらせる。何が大丈夫なのかなんて、言っている私にも解りゃしない。

ただ、今が大きなチャンスであることだけは間違いなかった。

吹き出す黒煙が煙幕の役割でもしてくれているのか、深海棲艦機は上空を飛び回りながらもまだ次の攻撃に移る様子は無い。今のうちに樹木園まで辿り着けば、後は指定避難場所まで突っ走るだけだ。
103 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/13(土) 23:15:39.56 ID:Q+RJLMSmO
脳裏を過ぎる「肝心の救助はくるのか」と言う疑問に背筋が冷えるが、頭を振って追い出す。

実際来なかったとしても、自分達だけでこの状況を打破できる代案を出せる程私は英知に優れちゃいない。出来るのは、ただ助けが来ることを祈るだけ。

……尤も、祈る先は神なんかじゃない。私が神に祈ることは金輪際ないだろう。

「宇津木ちゃん、いこっか!」

「でも……せんせ……ブーン先生が……」

「だから大丈夫だよ!!!

西住ちゃん、悪いけど宇津木ちゃん背負って!私が乗せるの手伝う!」

「はい!

そう言えば、他の人達は───」

「生徒会長の五十鈴ちゃんが先導して避難場所に向かった!私達も急ごう!!」

宇津木ちゃんの視線は相変わらず穴の方を見てはいたけれど、幸いもう暴れる気力すら無いのか大人しい。だらりと弛緩した彼女の身体を、西住ちゃんがしっかりと背負えるよう押し上げる。

本当なら上級生の私が背負う役をやるのが様になるのだろうけど、生憎映画館で中学生料金を取られそうになるこのちんちくりんな体格では荷が重い。ここはかっこつけるよりも効率重視、餅は餅屋だ。

「っし、固定も完了!西住ちゃん、走って!」

「了解です────あれ?」

「ん?」

駆け出しながら、西住ちゃんは正面の樹木園ではなく横を見ていた。

つられて、私も其方に視線を向ける。
104 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/13(土) 23:32:26.77 ID:Q+RJLMSmO

<ヽ;`∀´>

「………二田巡査?」

先ず、見覚えのある顔が此方に向かって駆けてくるのが見えた。野球のホームベースを思わせる角張った顔と、ピンセットでつり上げたみたいな両眉が特徴の大洗女子学園に在籍する保安官の一人………二田瓜生(にった・うりゅう)巡査だ。

彼に先導される形で、その直ぐ後ろにも同じく保安官の制服を着た幾つかの人影。そして更にその後ろからは何十………何百人という人の波が続く。多くが船舶科や水産科の制服を着ていたけれど、コック服や白衣、清掃業者の制服に身を包んだ人もおり統一感はあまりない。

普通に考えれば、二田さんたち保安隊が避難民を保護して引き連れてきたと考えるのが自然だ。学園内に続く正門こそ新手の───ブーン先生が【ヌ級】と呼んだ空母型深海棲艦に塞がれているけれど、大洗女子学園の全幅は1.1kmにも及ぶ。他にも学区や学園内に入れる入り口はあるので、其方から逃げてきたと思えばおかしな事ではない。服装・年齢層の多様さについても、居住区の人達も一緒に逃げてきたのだと考えれば辻褄が合う。

だけど私は、何故かその集団に奇妙な違和感を覚えた。
105 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/13(土) 23:57:16.15 ID:Q+RJLMSmO
「前会長、西住殿、ご無事で!」

「お陰様で!」

樹木園に飛び込むと、秋山ちゃんが出迎えてくれた。まだ顔面蒼白ながら、何とか最低限立ち直ってはくれたらしい(澤ちゃんの方は子鹿状態を継続していたけれど)。

「……前会長、二田巡査達は一体どうしたのですか?」

「私達と同じ方角に向かってますよね。深海棲艦から逃げるのなら当然なんだけど……」

流石と言うべきか、西住ちゃんと秋山ちゃんも二田さんたちの様子がおかしいことに気づいたようだ。本来なら私達も一目散に指定避難場所まで走るべきだけど、集団の異様さが一択である筈の選択肢を素直に選べなくしていた。

(………あれ?)

ふと、違和感の正体を理解する。

避難民と思われる集団が、二つの層に分かれていた。二田さんや他の保安官の人達に背中を押され、手を引かれ、転びそうになるところを支えられながら逃げてくる4、50人前後の集団と、その後ろを追う形で走る何百という群衆。前者の層が例えばお年寄りや子供の集団なのかとも思ったけれど、ざっと顔ぶれを見る限りそんな様子はない。

なにより────後方の“群衆”を構成する人々は、何故か手にバットや鉄の棒等を持っている比率が高いような気がした。

「………角谷さん?」

「なんか」

ヤバい気がする。そう口にする直前、保安官の一人が反転する。





「────え?」

乾いた銃声が、私達のところまで届いた。
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/14(日) 00:01:20.12 ID:WO5MW5TL0
そろそろ底辺社畜単発あらし君が沸く時間やな
107 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/14(日) 00:20:53.95 ID:SlbyUNX4O
眼前で起きた信じがたい光景を脳が受け止める前に、その保安官は更に二度引き金を引いた。ニューナンブM60が弾丸を吐き出し、群衆の先頭を駆けていた中年の女の人の割烹着が真っ赤に染まる。

だけど、目の前で一人射殺されたというのに“群衆”は止まらない。前のめりに倒れ込んだ女の人の身体を踏み越えて、船舶科中等部のセーラー服に身を包んだ人影がその前に躍り出る。

「──────っ!!!』

彼女は、何事かを叫びながら思い切り振りかぶった鉄パイプを何の躊躇もなく保安官めがけて振り下ろした。

グシャリ。

反応が遅れた保安官の頭が、真っ赤な液を撒き散らしながら潰れた。膝から力が抜けて倒れ込んだ彼の周囲に、後続してきた人々が群れ集う。

グシャリ、グシャリ、グシャリ。

鉄パイプが、ゴルフクラブが、トンカチが、シャベルが、ポリバケツが。形も種類も雑多な獲物が、だけど同じ“殺意”を込めて振り下ろされていく。

何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。

「ひぁっ………あぁ………」

遠目でもはっきりと解るほど大量の血が、人々の足の隙間から流れ出てアスファルトに赤い放射状の模様を描く。

間の抜けた悲鳴を上げて、澤ちゃんが今度こそ膝から崩れ落ちる。
108 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/14(日) 00:23:28.14 ID:SlbyUNX4O
時間的に寝ないとなので一旦切ります。明日も同時間帯に更新予定です
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/14(日) 00:27:45.46 ID:ZzecuYKuO
そろそろ底辺社畜単発あらし君が沸く時間やな
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/14(日) 08:06:59.03 ID:vZcPE8aA0
おつおつ
いよいよ狂乱化が止まらんが、介入はどうなるやら…
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/14(日) 20:00:33.35 ID:N9uAqfBP0
112 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/14(日) 23:49:06.88 ID:/5QyWZpb0
本日更新厳しいので明日の昼と夜で2更新とします
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/15(月) 07:04:49.31 ID:qhkM5P7G0
しなくていいです
114 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/15(月) 14:40:11.46 ID:lwd7GqTtO
まんま、ゾンビ映画の一場面を切り取ったかのような光景だった。

燃え盛る街、逃げ惑う民間人、それを守る警官隊、おまけにここは【学園艦】という隔絶された空間。立ち向かおうとした警官の一人が数の暴力に呑み込まれるところまで、誰かが脚本でも書いたみたいにお誂え向きだ。二田さんたちを追う“暴徒”は走ってきてきているけど、【ワールドウォーZ】や【新感染】で走るゾンビもわりかし知名度を得つつある昨今ならそんなに大きな問題じゃない。

……ただ、映画のゾンビが多くの場合疫病やらウィルスやら呪いやらで理性を失った死者であるのに対し、

「待てオラァ!!』

『殺せ、殺セ!!」

「逃げないでよ、痛くしないカラさぁあああ!!』

保安官を一人殺し、なおも二田さんたちを追って樹木園に向かってくる“暴徒”は……言葉を発し、武器を構え、明確な意志を持っている。

抱く感情が一様に“殺意”であるという点を除けば、私には彼らが普通の人間にしか見えなかった。
115 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/15(月) 15:42:05.19 ID:lwd7GqTtO
いつの間にか、叫び声が意味を持つ「言葉」として耳に届くような近さまで距離が詰まっている。逃げなければいけないのに、私の足は地面に根でも生えたみたい動かせない。

「会ち、角谷先輩、逃げましょう!ここに居ると危険です!!」

「あっ………」

西住ちゃんが私の腕を引くが、まるで筋肉が全部綿になっちゃったみたいに下半身に力が入らない。引かれるままに私の身体は腰から崩れ落ち、お尻が冷たい地面を踏みしめる。

「逃がすかクソがぁっ!!』

「早く回りこめ!!あいつら女子供も連れてるから逃げ足遅いぞ!!』

「このままだと追いつかれます!!」

「クソッ、機動保安隊は総員反転しろ!!」

互いに指示を出し合いながら、二田さんたちを囲い込もうと広がっていく“暴徒”たち。それに対して、今度は五、六人の保安官がいっせいに振り向いてその進路に立ち塞がる。

他の区画の担当だったのか正門での空襲から生き延びた部隊がいたのか、全員がH&K MP5を構えていた。

「撃ち方ぁ、始め!!」

放たれた弾雨が“暴徒”に殺到する。頭を、胸を、腹を鉄の弾丸が撃ち抜く湿った音が私達の下まで届く。

噎せ返るような血の臭いが、辺りに充満した。
116 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/15(月) 17:21:22.88 ID:lwd7GqTtO
「イギッ……』

『あぁあああああっ!!!?いでぇっ、いでぇええええっ!!!?」

「ぎぃっ、がっ………』

サブマシンガンが奏でる、リズミカルで軽快な音。そしてそれを塗りつぶすようにして、銃弾を受けた“暴徒”達が上げる断末魔の大合唱。

トラウマものの協奏曲に彩りを添えるのは、飛び散った臓物や脳漿、そして全身に鉄の弾丸を埋め込まれて転がる何十という屍体の山。

「ウブッ、おぼっ、うぉええええええええ………」

秋山ちゃんが近くの木に腕をつき、身体を折り曲げて吐瀉物を撒き散らす。私も、生まれて初めて嗅いだ“屍臭”という奴に喉元まで強い酸味を伴った何かがこみ上げてくる。

宇津木ちゃんと澤ちゃんが既に意識を手放していたのは、不幸中の幸いだった。

「先輩、優花里さん、大丈夫ですか!?二人とも気をしっかり持って、今のうちに避難場所まで向かわないと!」

西住ちゃんも顔面蒼白だったけれど、彼女はそれでも気丈に私と秋山ちゃんの安否を気遣ってくれた。私も何とか立ち上がろうとしてみるが、力が全く入らない。

「ごめん、西住ちゃん……私も、腰が……抜けて……」

「っ、優花里さん!澤さんをお願い!会……角谷先輩と宇津木さんはこのまま私が!」

「うえぇ……ふぐっ……り、了解です!」

「先輩、失礼します!!」

制服の肩口を掴み、西住ちゃんは私の身体を樹木園の奥へと運んでいく。

「────っ!───っ!!」

「────、────!!!」

<ヽ;`∀´>「……っ!」

引き摺られながら再び後方を見やれば、しんがりの機動保安隊は牽制射撃によって完全に暴徒の突出を抑え込んでいた。指揮官に何事か言われて頷いた二田さんが歩を早め、“暴徒”との距離を引き離し始める。

(………逃げられそう、かな)

私と宇津木ちゃん、小柄とはいえ女子校生二人を運んでいるため西住ちゃんと言えど歩みは遅い。けれど、しんがりの保安隊が“暴徒”を完全に足止めしてくれているお陰で、距離は開く一方だ。
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/16(火) 23:00:10.21 ID:BO37H/1UO
面白くないね
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 00:37:48.75 ID:5McSEgOe0
ダイジョブ?
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/17(水) 02:55:59.12 ID:6yauoJU/O
日本語が怪しいところそこそこあるけど、中学生?
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 06:47:36.10 ID:Ao4EQnwk0
留学生かもしれないからあんまりなこと言うもんじゃないよ
121 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/17(水) 23:03:25.41 ID:R09KI/sf0
ただでさえ銃の所持が厳しく規制される日本、そこに学園艦という条件も重なれば手に入る武器はたかが知れている。サブマシンガンとはいえ弾幕展開が可能な銃火器を装備した人員がある程度集えば、バールやらバット如きでは数を頼みにしても容易には突破できない。

『う……ぁ………」

「ひぃいいいいっ!?』

それに、“暴徒”の勢いそれ自体も明らかに鈍っている。仲間が目の前でバタバタ薙ぎ倒されりゃ当然の反応だし、武装の使用にかなりの制約が掛けられている日本の警察組織がシカゴ警察も真っ青な弾丸の大盤振る舞いで反撃してきたのは向こうとしてもアテが外れたに違いない。実際、私も保安隊の積極果敢な反撃には少し驚いている。

(……………)

そう、“少し”驚いただけだ。

挨拶すら交わしたこともない顔触れが殆どとはいえ、それでもこの学園艦に───西住ちゃん達と一緒に必死に守った大洗女子学園に住んでいた人達が、目の前でドンドン死んでいる。その異様な光景に相対しているのに、恐怖を多少抱いただけで悲しみも怒りも沸きやしない。

相変わらず腰が抜けた状態でトロイア戦争のヘクトールみたいに地面を引き摺られていきながら、頭の中の妙に冷めた部分が現状を呆れ返るほど冷静に受け止め、分析していた。

(こんな冷たい性根だったんだねぇ、角谷杏って人間は)

自嘲の笑みが、無意識に口元を歪ませる。山ほど人が死んでいく様子を目の前にして笑うとは、他人から見たらきっとサイコパスにしか見えないに違いない。
122 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/17(水) 23:22:18.46 ID:R09KI/sf0
(別に、自分が立派な人間だと思ったこともないけどね)

西住ちゃんを無理やり戦車道に引きずり込んだり、彼女を強引な勧誘から救うため生徒会室まで一緒に乗り込んできた武部ちゃんと五十鈴ちゃんを脅したり、どんな批難をされてもおかしくないことには何度も手を染めてきた。二度目の廃校の危機に際しては、正直法的にグレーゾーンで止まっているのかすら怪しい搦め手も幾つか使った。

どれも褒められた行為じゃないけれど、この学園艦を、そしてその上の人達を守るために必要なことだと信じてやったことだ。その想いは今でも変わってないし、後悔もしていない。

だというのに、そうまでして守ろうとしたものがこれだけ無惨に蹂躙されても、そうまでして守ろうとした人達が目の前で殺し合いをやっていても、私の眼からは涙一滴零れやしない。怒りのあまり歯が砕けるぐらい食いしばられてもいい口は、締まりのない苦笑いを浮かべたままだ。

(…………私自身だって助かったとまだ決まったわけでもないのに、暢気なもんだ)

だいたい私達や先に避難した学園内の人間が全員助かったとしても、それは艦内に居た人間の1/3にもなりはしない。残りの二万を越える人達は取り残されることになる。そしてその人達を見捨てて、私はこの艦から逃げようとしている。

「角谷先輩?」

「ははっ、うん、なんでもないよ西住ちゃん」

それこそ“今やるべき事ではない”と頭では解っていても、一度ハマった「ドツボ」からはなかなか抜け出せない。

気遣ってくれる西住ちゃんに生返事しながら、私は底なし沼に足を踏み入れたかのように物思いに沈んでいく。
123 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/17(水) 23:26:32.10 ID:R09KI/sf0












─────そして。

<ヽ;`∀´>「ニダ!?」

「ヒッ………」

樹木園の向こう側で……指定避難場所がある方向で沸き上がった爆発的な悲鳴によって、私は思考の坩堝から強制的に現実へと引き戻された。
124 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/18(木) 00:15:20.18 ID:pWIW7eUO0
何百という人間が全力で走る、地鳴りのような足音。統一感が皆無に等しいそれは、足音の主達が酷く錯乱している様子を私達に伝えながら猛烈な勢いで近づいてくる。

それに伴って叫び声の内容も当然聞き取れるようになっていくんだけど────その内容は、到底私には理解しかねるものだった。

「いや、いやぁあああああ!!!やだ、噛まないで、噛まないでよぉおお!!」

「いだぃ、いだぃいいいいいいっ!!?」

「足が、俺の足が食われ………いぎいっ!!?」

「逃げて逃げて逃げて!!無理、あんなの無理!!」

「食べないで、食べないで下さい!!助けて、誰か助けてぇ!!!」

耳を覆いたくなるような、甲高い悲鳴の数々。それこそ、まるでゾンビ映画やゾンビアニメ──昨今流行の萌え路線じゃなくて正統派の方──から切り取って大音声で流しているような有様に、じわりと全身から汗が噴き出す。

確かに樹木園の入り口の方でも現代日本とは到底思えない殺し合いの真っ最中だが、機動保安隊と交戦している“暴徒”の群れにカニバリズムのケがあったようには見えない。とはいえ、既に深海棲艦が学園艦で暴れ回っているという“現実”の前では人食い部族の襲撃やゾンビの出現は十分あり得てもおかしくない出来事の範疇だ。

生い茂る木々の向こう側でどんな惨状が起きているのか、ぞっとしない想像に背筋が震える。

そして、それに追い打ちを掛けるようにして。

『─────キャハハハハハハハハハハハハ!!!!!』

今度は、“笑い声”が辺りに響き渡る。
125 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/18(木) 00:42:52.03 ID:pWIW7eUO0
数百人が上げる悲鳴や断末魔の中にあって、それはまるで直接頭の中で響かせたみたいにはっきりとここまで届いた。

生後数カ月の赤ん坊が上げたような………それでいて、酷く嗄れて耳障りな笑い。声自体のおぞましさとそれがこの場で響くという不自然さが、私の身体を芯から冷やす。

「に、西住殿……今のは……」

「……五十鈴さんたちが心配だけど、今は一旦様子を見ます。秋山さんも動かないように。角谷先輩、動けますか?」

「あ、はは………少し力は入るようになったかな」

すっかり怯えきって縮こまった秋山ちゃんに的確な指示を出しながら、西住ちゃんが腰を屈めて私の顔色を覗き込んでくる。

……心底から私や秋山ちゃん、それに宇津木ちゃんや澤ちゃんを心配してくれている表情だ。この期に及んで自然とそういう態度が取れるこの子は天使か何かだろうか。

「とはいえ、まだ立てそうもないけど。西住ちゃん、最悪私は置いて逃げていいからね?」

「そんなことは絶対にしません。力がある程度入るなら、移動速度を上げるため私が肩を貸すので」

「────後ろです西住殿ォ!!!」

「西住ちゃん、危ない!!」

「──────!!!』

彼女の後ろで鉄パイプを振りかぶる人影。

私と秋山ちゃんが、同時に悲鳴に似た叫び声を上げる。




鈍い打撃音が、私の耳朶を打った。
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/18(木) 01:19:39.57 ID:y4jvC6gb0
西住殿ォwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwし、し、し、し、死なないでぇwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/18(木) 08:33:54.03 ID:adeupEY7O
クソワロwwwwwwwwwwww
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/18(木) 10:10:48.76 ID:XbG8xJpA0
おつおつ
何が怖いってこんな惨状が、世界中同時多発的に起きれば人類の詰みっていう…
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/18(木) 16:17:50.53 ID:oqxyPqgN0
いつまで粘着荒らし君は居座るのかな?
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/18(木) 17:09:46.81 ID:XbG8xJpA0
>>129
一番律儀で熱心なんだし、もう気にしなくていいのではw
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/18(木) 17:13:41.81 ID:adeupEY7O
顔真っ赤だけどどうした?
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/18(木) 21:40:36.34 ID:tLdLwgpSO
>>1、よくやったな。
それじゃ、リセットボタンを
押しながら電源を
OFFにしなさい。
わかったね。
ガチャン ツーツーツー
133 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/18(木) 23:04:08.54 ID:pWIW7eUO0
人体は、案外脆い。脳という極めて重要な器官を守るためにとりわけ丈夫に発達したのが頭蓋骨だが、それだってやろうと思えば人間の力でも簡単に破壊できる。ついさっき、保安官の頭が潰されたように。

男が西住ちゃんに向かって鉄パイプを振り下ろしたとき、同じ光景が繰り広げられると思った。だから、私は咄嗟に眼を瞑ってしまった。

(────あれ?)

でも、すぐに違和感に気づく。

打撃音は確かに響いたけれど、それは保安官が殺されたときとは似ても似つかない随分と乾いたもの。それに、西住ちゃんが倒れる音もしなければ私に対する追撃も一向にない。

「に、西住ちゃん……?」

震えそうになった声を辛うじて抑え、恐る恐る眼を開ける。

真っ先に眼に入ったのは、眼前で木の幹にめり込んだ鉄パイプ。相当な力で振りかぶられていたらしく、幹の陥没は軽く1cmに達するだろうか。

「…………Shit!!』

そして、そのパイプを必死に窪みから引き抜こうとする大男。おそらく、学園外どころか国外からの観光客なのだろう。顔つきも身長も横幅も何もかもが日本人離れしている。

「Damn……!』

───最後に、その外国人が巨体を揺すり、金髪を振り乱し、口髭を震わせて引き抜こうとしている鉄パイプは。

「……………」

“大洗の軍神”なんて大層な渾名で呼ばれる細身の高校二年生が、困ったような表情を浮かべながら右足一本で完全に抑え込んでいた。
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/18(木) 23:11:28.66 ID:y4jvC6gb0
お、満喫行ってまで自演か。ご苦労!
135 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/18(木) 23:12:57.26 ID:pWIW7eUO0
「あの、ごめんなさい!!」

「わわっ!?」

「きゅうっ!?」

西住ちゃんが発した謝罪は、彼女が手を離したことで仰向けに倒れた私に対するものだろうか。地面に投げ出された宇津木ちゃんに対するものだろうか。

「────What!?』

或いは、眼前の外人に対するものだったのだろうか。

とにかく、彼女はその言葉と同時に、木の幹に置いた片足を起点に跳躍した。

「ガッ………!?』

空中で身を捩り、足を振り上げ、全体重を乗せて叩き込まれる踵落とし。幾ら華の女子校生の体重とはいえ、跳躍による勢いもある。

当たり所次第では簡単に人を殺せただろう威力だけど、それを肩口に落としたのは西住ちゃんの優しさだろう。

「Fuck!! Kill you!!』

だけど、その好意を目の前の外人は──“暴徒”の一人は理解しなかった。鉄パイプは手放してしまったけれど、今度は巨大な拳を西住ちゃんめがけて突き出す。

「っ」

「ゴァッ………!?』

早業。彼女のソレはまさに、この言葉がぴったりと当てはまる動きだった。

肘打ちで拳の軌道を反らし、ボディに掌底を打ち込んで身体を折らせ、返しの裏拳で顎を打ち脳を揺らす。私は別に格闘技に詳しくないし実技の喧嘩はからっきしだけど、それでも西住ちゃんの動きが格段に洗練されているものであることは解る。

「グゥッ………』

外人は最後の顎打ちで一瞬動きを止めた後、ぐるんと眼球を回転させて動きを止め前のめりに倒れ込んだ。死んでいる感じはしないけど起き上がる様子もない。

西住ちゃんの最後の一撃から予測するに、軽い脳しんとうによって意識を失ったのだろう。
136 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/18(木) 23:38:43.08 ID:pWIW7eUO0
ただ、襲来した新手の“暴徒”は外人だけではなかった。

『ひぃああっ!!!」

「おらぁっ!』

更に二人が、武器を構え向かってくる。ガリッガリの………肉体改造する前の猫田ちゃんみたいな体格の男がプラスチックのバットを、そしてランニングウエアを身につけた筋肉質な女の人が鉄製のスコップをそれぞれ西住ちゃんめがけて振りかぶった。

「ふっ!」

「イッテぇ……!?』

『ギュッフ」

西住ちゃんも、動く。鋭い呼気と共に上段蹴りを繰り出してスコップの方の軌道を反らすと、そのまま男の方に踏み込んで肘打ちを腹に。男は、まるで潰れた蛙のような声を上げて沈黙する。

「てめぇ……わぶっ!?』

「やっ!」

体勢を立て直したところに蹴り上げられる土。視界を奪われたスコップ女の懐に跳び込み、西住ちゃんが可愛らしいかけ声とは裏腹にエッグい勢いで膝を入れる。

「ゴボォエエエエエ……』

スコップ女はビシャビシャと吐瀉物を撒き散らしなが地面に横たわり、しばらく痙攣した後動かなくなる。

………あれ死んでないよね?大丈夫だよね?
137 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/19(金) 00:07:50.39 ID:QNL4JPRg0
「角谷先輩、宇津木さん、どちらか動けますか!?」

「ええと、ちょっと動けるようになってきた、かな?!」

「………あれ?私、なにがどうなってるの……?」

「でもまだ宇津木ちゃんはダメっぽいや!」

「では、申し訳ないですけど宇津木さんを連れてもう少し下がってくださ……いっ!」

「ぶぉっ……』

回し蹴りを顔面に浴びて、カッターナイフを振りかざして突進してきた男が薙ぎ倒される。

「優花里さんも先輩と一緒に退いて私の後ろに!向こうからも暴徒がドンドン来てる!」

「で、でも……」

「早く!!」

「ぎぁっ!?』

「ひぇっ!?わ、解りましたぁ!!」

西住ちゃんを置いて下がることを躊躇した秋山ちゃんも、直ぐ近くまで迫っていた暴徒が西住ちゃんの投げた鉄パイプで気絶する様を見て慌てて私と宇津木ちゃんの方へ駆けてくる。その間にも、まだ疎らながらそれでも着実に数を増やす“暴徒”を西住ちゃんは次々と地に沈めていった。

魔女っ子アニメのヒロインがプリントされたシャツを着た、でっぷりした体躯の男の人を掌底で顎に一撃加え眠らせる。

口元を×印が書かれたマスクで覆い竹刀を構えた、一昔前の不良みたいなファッションの船舶科生徒にボディーブローを打ち込む。

最初の外人より更にガタイがいいタンクトップを着た黒人の意識を、跳び蹴りで刈り取る。

明らかに、高校生の動きじゃない。さっきまでの光景がゾンビ映画なら、今度のこれはさながらジャッキー=チェンのカンフー映画だ。
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/19(金) 00:42:32.04 ID:0F226JGJ0
そろそろ底辺社畜単発あらし君が沸く時間やな
そろそろ底辺社畜単発あらし君が沸く時間やな
そろそろ底辺社畜単発あらし君が沸く時間やな
そろそろ底辺社畜単発あらし君が沸く時間やな
そろそろ底辺社畜単発あらし君が沸く時間やな
そろそろ底辺社畜単発あらし君が沸く時間やな






  そ  ろ  そ  ろ  底  辺 社  畜  単  発  あ  ら  し  君  が  沸  く  時  間  や  な
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/19(金) 01:44:20.95 ID:tFEjihQA0
おつおつ
ヒロインが自分で切り開くのか…w
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/19(金) 13:04:07.16 ID:XTzI0O3n0
これが西住流…
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/19(金) 21:15:57.28 ID:rCTPONzg0
オツ
142 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/19(金) 23:01:19.05 ID:waLrkwuYO
ふと、ブーン先生の授業を思い出した。“戦車道史”の一回目で習った、日本戦車道の礎となった人物の逸話が脳裏に蘇る。

「……女性の身たりと雖も、百発百中の芸殆ど父兄に越ゆるなり。人挙て奇特を謂う。この合戦の日殊に兵略を施す」

口を突いて自然に出てくる、『吾妻鏡』の一節。目の前には、懸命に、鮮やかに、そして雄々しく、私達を守るために技を振るう西住ちゃんの後ろ姿。

実物なんて知りもしないが、そこに思わず800年前の女傑の姿を幻視する。

「童形の如く上髪せしめ腹巻を着し矢倉の上に居て、襲い到るの輩を射る。 中たるの者死なずと云うこと莫し」

撃てば必中守りは固く、進む姿は乱れ無し。

鉄の掟、鋼の心。

「……これが、西住流」

彼女に面と向かってそれを言えば、きっと複雑な気持ちにさせてしまうだろう。困ったような笑みを浮かべるその裏で、彼女がとても傷つくことになってしまうかも知れない。

それでも、私には。

例え戦車に乗っていなくても、例え「勝利」のために振るわれるものでなくても。

今の西住ちゃんの姿はまさしく────“西住流”の体現であるような気がした。
143 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/19(金) 23:17:49.51 ID:waLrkwuYO
既に、西住ちゃんの周囲では優に10を越える“暴徒”が気を失った状態で転がっている。彼女の動きは洗練されていて、更に“暴徒”の殆どは武装しているにも関わらず踏み込みに微塵の躊躇も見せない。

結果、間合いを詰められて得物を思うように使えなくなった“暴徒”達は的確に急所を突く西住ちゃんの打撃であっという間に沈んでいく。

「はぁっ……はぁっ……!」

だからといって、西住ちゃんに消耗がないわけではない。攻撃を受けなければ体力を失わないのは一昔前の格闘ゲームでの話だ。

急所を狙ってくるのは向こうも同じ、それに次の暴徒が此方に辿り着く間隔がドンドン短くなっている。私達の方に一人たりともそいつらを向かわせないために、危険を顧みず懐に“跳び込みざるを得ない”面が西住ちゃんにはある。

「はぁっ、はぁっ……コホッ、コホッ……」

「に、西住殿……」

「隊長……」

14人目の暴徒を倒して素早く次に備えて構えを取ったけど、肩で息をしていて足下も少し揺らいでいる。一人から二人に増えるだけでも彼女の負担を大きく減らせるだろうけれど、気絶している澤ちゃんを含めて私達の中に格闘技経験者はいない。加勢したところで、逆に西住ちゃんの足手まといになっておしまい。

「…………ッ!」

噛みしめた歯からミシリと音が鳴る。太腿に右手の指が食い込み、皮膚を裂いて血を滲ませる。

この学園艦も、私達の“英雄”も、危機に陥っているのに何も出来ることがない。

私は、無力だ。
144 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/19(金) 23:47:15.71 ID:waLrkwuYO
15人目、チェーンバーガーショップの制服に身を包んだ男の人がフライパンを振りかざして突っ込んでくる。足払いを掛け、喉に肘打ちを入れて黙らせる。

16人目、灰色のスーツを着たサラリーマンが大きなコウモリ傘を顔に向かって突き出す。西住ちゃんは手刀で軌道を変えて、みぞおちと首に連続で拳を打ち込み眠らせた。

17人目、工業科のツナギを着た女生徒がスパナを投げつける。さっき倒したサラリーマンのコウモリ傘で西住ちゃんが打ち返すと、「カインッ」と音が鳴って額を抑えた彼女がそのままもんどり打って倒れる。

そして───18人目と19人目が同時に襲いかかってきたところで西住ちゃんに限界が訪れた。

「ヴぁああああああっ!!!!』

「っく……!」

暴徒達が口にする聞くに堪えない雄叫びや罵詈雑言とは一線を画した、正真正銘“咆哮”とでも言うべき大音声を上げながら現れた国技館に居ても違和感がない体格の大男。確実に体重0.1t越えのそいつの全力体当たりを受けて西住ちゃんの足が地面から浮き上がるけれど、それでも彼女はすぐに拘束を振り払って軌道上から飛び退いた。

「どらぁあっ!!』

「うぁっ……!?」

そこに態勢を立て直す間もなく伸びる追撃。建設現場の親方さんか何かだったのだろうか、頭にタオルを鉢巻きのように巻いて作業服を着込んだ男の振るった角材が西住ちゃんの胴を打ち据える。
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/19(金) 23:59:02.28 ID:0F226JGJ0
原作愛のかけらもねぇな
146 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/20(土) 00:13:56.99 ID:zIm45igVO
「うっ………あうっ!?」

「逃げんなクソガキがぁっ!!』

そのまま地面を転がって逃れようとした西住ちゃんのお腹を踏みしめる足。土方風の“暴徒”は、雑巾でも扱うように彼女の身体を引き寄せ角材を振り上げる。

「西住どn「ウボォオオオオオオオオオッ!!!!』

最早耐えられず、澤ちゃんを地面に置いて──というより投げ捨てて──走り出そうとした秋山ちゃん。だけど、待ったを掛ける声を押し潰す咆哮と共に、さっきのデカ物が今度は私達めがけて突進してくる。

「…………グァ?』

だけどその足は、銃声と共に肩口に開いた風穴によって止まった。

<ヽ;`∀´>「────三人とも、伏せるニダ!!」

「秋山ちゃん!宇津木ちゃん!!」

「わわっ!?」

「ひゃっ」

二田さんの叫び声に従い、三人揃って地面に伏せる。彼が構えたニューナンブM60が二度火を噴き、私達の上を弾丸が駆け抜ける。

「ヴォッ』

一発目を眉間に食らい、デカ物が膝から崩れ落ちる。

『カッ」 

「きゃっ!?」

土方風暴徒は側頭部を二発目に貫かれ、殴り飛ばされたような勢いで地面に倒れる。

傷口から吹き出した脳漿と血液が、紅い放物線を空中に描いた。
147 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/20(土) 00:51:08.91 ID:zIm45igVO
「まだ“暴徒”が来るぞ!正面から三名、左手から二名!」

<ヽ;`∀´>「本官が正面をやるニダ、本多先輩は左手の奴等を!宮野巡査は本官の掩護と西住さんの救出、北方巡査はこの四人を保護するニダ!」

「「了解!」」

(*‘ω‘ *;)「任せるっぽ!!」

私達が足止めを受けている間に、後続集団が追いついたらしい。私達の周りに展開した保安官達が各々拳銃を構えて事態の対処に動き出し、10Mばかり後ろでは残りの保安隊に守られた何十人かの人々が疲れと不安をない交ぜにした表情で辺りを見回している。

(;*‘ω‘ *)「それにしても角谷ちゃん、よー生き残っとったっぽ」

その人達の顔ぶれをよく見ようと目を懲らしていると、近くに立つ知り合いの保安官───北方蜜柑(きたかた・みかん)巡査が私に声を掛けてきた。

彼女もまた後ろの避難民達に負けず劣らず疲れ切った顔色だけれど、口元には嬉しそうな笑みがこぼれている。

(*‘ω‘ *;)「正直、あの【空母型】が学園本校舎の方角に現れたとき申し訳ないけど半ば諦めてたっぽ」

「いやいや気にしないでよ。ここだけの話、私だってこの学園艦で生きてるの私達だけかも知れないなんて思ってたし」

それに、西住ちゃんやブーン先生が居なかったらどのみち私だって死んでいた。私と北方さんが生きて再会できたことが奇跡に等しいのは間違いないだろう。

「……あのさ、北方さん達はこの騒動について何か詳しい事知ってる?」
148 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/20(土) 00:54:18.98 ID:LOZkUa2G0
ちょっと中途半端ですが仕事の関係で寝ます。明日(本日)か明後日迄には学園艦棲姫の本格的な出現まで書ければと
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/20(土) 01:02:28.07 ID:GV/WQXVkO
おつおつ
楽しみ過ぎて筋トレ止められない
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/20(土) 01:34:51.45 ID:AsbLqLgA0
おつです
土壇場で仲間のための殿を果たせるって強すぎるw
ただまだまだ前座で大ボスもいるからなあ…
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/20(土) 03:18:38.04 ID:T5MewpKMO
他の学園艦の様子も気になるところだ
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/20(土) 08:49:03.78 ID:Bm5L2tQ90
西住流≪自作自演≫
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/20(土) 21:38:19.97 ID:4oFw+rx40
154 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/20(土) 23:00:50.82 ID:LOZkUa2G0
(*‘ω‘ *)「何一つ知らんっぽ」

即答。

少しだけ和らいでいた北方さんの表情が、再び固くなる。

(*‘ω‘ *)「情報を得ようにも艦外への通信が全く繋がらねえ。防衛省、警視庁、茨城県警、大洗鎮守府、どこに連絡飛ばしても砂嵐。艦内ですら艦橋保安室からの連絡が途絶えて久しいっぽ」

二田さんたちが正面から迫り来る“暴徒”達に対して発砲を開始する。其方に視線を向けながら、北方さんの眼はどこも見ていない。

(* ω  *)「駐在所も半分以上は無反応、辛うじて繋がったところも助けを叫ぶばかりで話が通じない、商業区は至る所で大火災が起きてオマケに学園艦の底からは深海棲艦。生存者を保護したくても、暴動の拡大が治まらずその生存者同士で殺し合いを始めてる………っ!」

語尾が震え、口調が捲し立てるような勢いに変わっていく。満身の力で握りしめられたニューナンブM60の銃床が、微かに軋む。

(#* ω *)「畜生が!!」

やり場のない怒りを、北方さんは近くの木にぶつける。蹴り飛ばされた衝撃でばさばさと枝が揺れ、宇津木ちゃんが怯えて首を竦める。

(#*゚ω゚ *)「何が起きてるかなんて私が知りてえっぽ!!つい2時間前までいつも通り平和だった学園艦が、何が何だか解らねえ間にこの有様だ!!

あの深海棲艦はどっから出てきたんだよ!なんで本土は誰も助けに来ねえんだよ!なんであちこちでこんな暴動が起きてんだよ!!」

「北方さん!やめて下さい!保安官としての矜持を……きゃっ!?」

(#*゚ω゚*)「うるせぇ!!」

西住ちゃんを抱えて連れてきてくれた、宮野巡査と呼ばれた女性の保安官が制止する。だけど、北方さんはそれを乱暴に撥ねのける。

(#*゚ω゚ *)「そうだっぽ、保安官だっぽ私は!ここの生徒や居住者を守るためにここに来てんだっぽ!!

なのになんで、なんでその居住者や生徒を撃ち殺すハメになってるのか教えろよ!!誰か教えろぉ!!」
155 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/01/20(土) 23:13:17.04 ID:LOZkUa2G0
それは、私がよく知る北方蜜柑巡査の姿とはかけ離れたものだった。

少しぽっちゃりした体躯を揺すって学園艦内を一所懸命走り回り、生徒や居住者がトラブルに巻き込まれればどれだけ忙しくてもすぐに飛んでいく優しく頼もしい保安官。

まだ未婚で、歳も若いに「肝っ玉かーちゃん」なんて渾名を着けられて、それでもその名を呼ばれると楽しそうに笑う────そんな人が今眼を血走らせて、喚き、錯乱している。

彼女の姿こそが、大洗女子学園の“現状”の表れだ。

誰もが憔悴し、誰もが状況を理解できず、何をすればいいのか、どうすればいいのか解らずに惑い悶えている。

この学園艦に居る誰も彼もが、平凡な日常が突然粉々に砕け散ってしまったという現実を受け入れられずにいる。










そして、そんな私達の憔悴など知ったこっちゃないとせせら笑うようにして。

「前方、人影アリ!」

状況は、なおも刻々と悪い方へ変わり続ける。

「指定避難区域の方角から此方に向けて民間人多数が接近!後方に“暴徒”と思われる集団も確認!

避難民の大半は大洗女子学園の生徒・教員と思われます!」
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/21(日) 21:57:07.10 ID:lQCst9200
157 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/01/21(日) 23:12:04.56 ID:VyopJgoK0
それ自体は、容易く予想できた「展開」だった。

指定避難場所の方角で悲鳴が上がり、指定避難場所の方角から新手の“暴徒”は押し寄せてくる……そんな状況で“避難場所が襲撃を受けている”という事象が思い浮かばないほど、私の想像力は貧困では無い。

だから、その方向から必死の形相で逃げてくる人の群れを目にした時も、私はまだ動揺していない。寧ろ先生達や風紀委員メンバーと共に懸命に避難誘導に励む桃や柚子、五十鈴ちゃん達の姿を見つけて、他の戦車道履修者の皆もまだ無事だったことに一瞬安堵の息を漏らしたほどだ。

「────ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!』

『ヴォオオオッ、グァアアアアアッ!!!」

<ヽ;`∀゚>「………なん、だ、アレ」

…問題は、その後ろから追ってくるもう一つの集団。“それら”を目にした二田さんが振り絞るような声で呻くけれど、その反応は無理もない。

さっき別の保安官の人は、アレを“暴徒”と表現した。だけどあんなものが“暴徒”なんていう生易しいものであるはずがない。

“人間”の枠組みに、入れていい存在であるはずがない。

「「ァアアアアアアッ!!』』

五十鈴ちゃん達を追い立てる【群れ】を構成する“それら”は、確かに一見すると人の形をしていた。四肢があるし、声を発しているし、二本足で立っているし。

だけど“それら”の、

ある個体は顎の下半分がなく、
ある個体はあらぬ方向に曲がった左足を引き摺りながら前進を続け、
ある個体は右腕が神経一本で繋がりぶら下がった状態で、
ある個体は頭の右半分が潰れて、
ある個体は腹のど真ん中に鉄骨のようなものが突き刺さり、
ある個体は頭の鼻から上がなくなっている。

“それら”がどうしてそんな有様になったのか、どうして殆どが致命的に損壊しているのにまだ動けるのか、何故“暴徒”たち同様五十鈴ちゃん達を追ってきたのか、幾つもの疑問に答える術を私は持たない。

『『オ゛オ゛、ウ゛ア゛ア゛!!」」

ただ、“それら”が既に人間ではないことだけは確実だ。
158 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/21(日) 23:20:43.82 ID:VyopJgoK0
【群れ】の速度は、“暴徒”と比較すると明らかに劣る。とはいえこれは、【群れ】の中に身体のパーツが欠損している個体が多い事が原因であり奴等が愚鈍というわけじゃない。

“劣る”というだけで、決して遅くない。五十鈴ちゃん達が少しでも気を抜けば瞬く間にその背を奴等の手が掴むことになる。

「やだ、来ないで!来ないでぇえええ!!」

「誰か助けて………きゃあっ!!」

「っ、大丈夫?!」

追い立てられ、互いに押し合い、恐慌状態になっている大人数が逃げ惑うには木々が生い茂る樹木園の足下はあまりにも悪い。生徒の一人が根にでも躓いたかすっ転び、それを見た磯部ちゃんが急停止から反転して彼女の下へ向かおうとした。

『『『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ」」」

「やっ────」

だけど伸ばされた手を磯部ちゃんが掴む前に、追いついた何体もの“それら”が転んだ女生徒に覆い被さる。

「助け、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!?」

「いっ……!? や、やめろぉ!!」

「キャプテンダメ!!」

生の肉が食いちぎられ、血が飛び散る湿った音がここまで届く。食われている生徒の助けを呼ぶ声は一瞬で断末魔に代わり、それもすぐに聞こえなった。

磯部ちゃんはそんな状況になってもなおその子に手を差し伸べようとしたけど、河西ちゃんが肩を掴んで無理やり押しとどめる。

「もうあの子は手遅れです!早く逃げないとキャプテンまで追いつかれます!」

「………っ、ごめん!」

「磯部さん、早く下がるモモぉーーー!!」

ももがーちゃんが、足下に落ちていた大きめの木片を………というよりは、朽ちて倒れたらしき細木の幹を持ち上げ放り投げる。

「ヴアッ!?』

磯部ちゃん達の直ぐ後ろまで迫っていた“奴等”の内の一体が、直撃を受けて後ろに吹っ飛んでいく。
159 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/21(日) 23:55:45.21 ID:VyopJgoK0
普通の人間なら、例え細いとはいえ木を丸まる一本あの勢いで投げつけられたら受けるダメージは尋常じゃない。死んだっておかしくないし、少なくともしばらくは動けなくて当然だ。

「………ヴォオオオオオッ!!!』

「……うっそー」

だけど、ももがーちゃんに吹っ飛ばされた個体はすぐに起き上がりこっちに向かってくる。

(;*‘ω‘ *)「瓜生、あたしらであの化け物共に射撃するっぽ!!」

<ヽ;`∀´>「バカな、生徒に当たるニダ!!」

(;*‘ω‘ *)「当てねえように撃つんだっぽ!このままだとあの子ら後ろの方はどんどん追いつかれて片っ端から餌にされるぞ!!」

<ヽ;`∀´>「……畜生!

各位撃ち方始め!!避難民を巻き添えにしないよう射撃は正確性を重視しろ!」

「んな無茶な……!」

(;*‘ω‘ *)「無茶でもやるんだよ!撃て、撃てェ!!」

「皆さん、保安官の方達から支援射撃が来ます!身を低くして、射線に入らないように!!」

北方さんたちがニューナンブを構えた瞬間、五十鈴ちゃんが日頃のお淑やかな言動からは考えられないような大音声で叫ぶ。全員ではないけれど、それでもその声に相当数の生徒が反応して腰を折り身を屈める。

「グァアッ!?』

『ギッ、ガッ……」

開いた射線を的確に縫って、二田さんたちの放った弾丸が飛ぶ。“暴徒”と違ってはっきり化け物と確定しているためか照準に容赦はなく、狙われた個体は悉く頭を弾丸で射抜かれた。

────だけど。

「ア゛ア゛ア゛……』

『オ゛オ゛ッ、オ゛オ゛オ゛!!!」

(;*‘ω‘ *)「マジかっぽ」

それでも、“奴等”は倒れない。
160 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/22(月) 00:21:33.84 ID:0WyQqsPm0
「た、た、対象の動きに変化ありません!なおも向かってきます!」

(;*‘ω‘ *)「んなもん目の前で同じ光景見てんだから言われねえでも解るっぽ!!」

「ガッ───グゥアアアッ!!』

「うわぁっ!!?」

宮野巡査が震える声で報告し、北方さんが彼女を怒鳴りつけながら更に一発別の個体の心臓付近に撃ち込む。食らった個体はもんどり打って倒れたが、すぐに起き上がって逃げようとしていた教師の一人に飛びかかる。

「やめろ離せ……いぎぃいいいいいいっ!!?」

腹に齧りつき、まるでスペアリブでも食べるみたいに柔らかい肉を歯で裂く。激痛のあまり海老反りになったところに更に何体かが押し寄せ、彼の身体はすぐにバラバラにされた。

『ヴァアアアッ!!!」

「ひっ……」

「……Shit!!」

見知った人が“食われる”という異様な光景を見てしまったことで、中等部の制服を着た子が悲鳴を上げて固まる。突進してきた何体かの“奴等”がその身体を掴む前に、アリサちゃんが横っ飛びで彼女のことをかっさらう。

「腹空かせた化け物にその身を捧げる博愛精神は評価するけどね!それアタシの前でやらないで頂戴!」

「す、すみません……」

「謝罪はノーサンキュー、後でバーベキュー奢りなさい!!」

『ヴァッ……」

別の方向から走ってきた個体は足払いを食らって転倒する。その間にアリサちゃんは、中等部の子をお姫様抱っこの要領で抱えて距離を取る。







『────オギィアアアアアアアアッ!!!!』

その後ろで、転倒した個体の頭部が唐突に“破裂”した。
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/22(月) 00:42:49.95 ID:rQqPPYkso
そろそろ話進んだかなと思ったら全然状況動いてないのね
160レス使ってこれだと終わるまでスレ跨ぎそう
162 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/22(月) 01:05:48.37 ID:0WyQqsPm0
二田さんや、北方さんの射撃によって破壊されたわけではない。元々上半分が空気が抜けたボールのようにヘコんでいたその個体の頭は、ぐしゃりと鈍く湿った音を立てて内側から砕け散る。

そして、“それ”は姿を現した。

『オギァアアアアアアアアッ!!!』

金切り声を上げるソレを“化け物”以外の何と呼べばいいのか、私の知識と語彙では解らない。ただ、ウミヘビとミミズを掛け合わせたような形状の、白くぶよぶよとした細長い胴に黒く固い光沢を放つ頭部を持ったそいつの姿は、一目見ただけで私達人間を害する存在だと本能的に理解できた。

『『『ギィアアアアアアアアッ!!!!』』』

その出現が皮切りとなったかのように、【群れ】が一斉に動きを止めて咆哮する。生々しい破裂音が幾つも幾つも重なり、胴から、頭部から、様々な箇所を食い破って同じ様な形状をした“化け物”達が這い出てくる。

(;*‘ω‘ *)「ほんっっとに冗談じゃねえっぽ…!」

群れを成し、胴をくねらせ、鎌首をもたげる怪物達の姿を前に、レボルバーに新たな弾薬を装填しながら北方さんが呻いた。

(;*‘ω‘ *)「ゾンビに怪獣、今度はエイリアン!大盤振る舞いにも程があるっぽ!」
163 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/22(月) 01:52:59.65 ID:0WyQqsPm0
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!』

「来るぞ!撃t」

怪物の内一体が、予備動作も無しに首を伸ばしてくる。バグンッと音が鳴り、拳銃を構えようとした保安官の首が掻き消える。

この瞬間、狩りは機械的な殺戮に変わった。

「うわっ、うわっ、うぉあああああっ!!!?」

「ひっ……!?」

まるで、鳥が足下の虫を啄むみたいに。

化け物達は首を伸ばし、獲物を───つまり樹木園の中を逃げ惑う私達を、追い立て、絡め取り、食らって行く。二田さんたちが必死に射撃を加えようとするけど、凄まじい速度で自由自在に動き回る怪物に翻弄されて照準をろくに合わせることすらできない。

「く、くそ、当たらない────ぁあああああああっ!!!?」

化け物を捕捉しようとしていた保安官が、後ろから噛みつかれて高々と持ち上げられる。咀嚼音が頭上で聞こえると同時に断末魔はなくなり、ぼとりと彼の下半身が地面に落下してきた。

“暴徒”を殲滅したか撃退したらしい機動保安隊も追いついてきたけど、彼らも二田さんたち同様まともな迎撃はできていない。早々に一人が、牽制射撃を加えようとして襲撃してきた化け物に攫われた。

「正門だ、正門の方に向かえ!樹木園の中だとまともに逃げられない!」

「自殺行為です!正門にも深海棲艦がいるんですよ!」

「逃げ道がない……救助は……」

「どうしたらいいのよ……どうしたら……」

悲鳴と怒号が飛び交い、誰も彼もが逃げることも戦うことも許されずに理不尽に殺されていく。

私自身も、最早どうすればいいか解らない。目の前の惨状を、ただ呆然と眺めている。

(ああ、そっか)

ぐるぐると纏まらない思考の中で、混乱する脳の奥で、妙に冷静な部分がぽつりと呟く。

皆、ここで死ぬんだ。






「アリサさん!発煙筒を使って!!」
164 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/22(月) 02:19:40.53 ID:0WyQqsPm0
「Roger!!」

その声にすぐ反応できたのは、或いはアリサちゃんも生きることをまだ諦めていなかったのかも知れない。引き続き中等部の子を抱えながら“化け物”と追いかけっこをしていた彼女は、腰元から指示されたそれを───恐らくスパイ活動用の道具として用意していた発煙筒を抜き放ち点火する。

「私の方にも何本か寄越して下さい!とにかくありったけの本数に火をつけて!」

「OK!! ニシズミ、そっちに投げるわよ!!」

まるで手品のように、そこかしこから次々と取り出される発煙筒。どこにどうやってそれだけしまっていたのやら、西住ちゃんに投げ渡された分も含めて優に30本を越えるそれらが、点火されて色取り取りの煙を吐き出し樹木園をたちまち覆い尽くす。

『……ギ?』

『ア゛ア゛……』

そして………視界を奪われ獲物を見失った化け物達の動きが、止まった。

「はっ、諜報活動用に煙幕としても使える特注品よ!!ざまぁないわねファッキンモンスター!」

「煙幕は長く持ちません!保安官の人達も含めて、皆全速力で東へ向かってください!煙を吸い込まないよう姿勢は低くすることを忘れずに!」

煙る樹木園で、中指を突きたてた姿勢を取っていることが目に浮かぶようなアリサちゃんの台詞が響き渡る。そして、その後すぐに西住ちゃんの─────常に私達を導いてきた、“軍神”の声が続く。
165 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/22(月) 02:20:13.56 ID:0WyQqsPm0


「【真・モクモク作戦】を開始します!

目標は────戦車格納庫です!!」

.
166 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/22(月) 02:42:19.30 ID:mWaQtlnBO




秋山好子は、その光景を未だに現実のものとして受け入れることが出来ずにいた。

突如としてテレビで流れた、深海棲艦の襲来を報ずる緊急ニュースと街中に響き渡ったJ-ALERT。そして居住区の“下”から、甲板を突き破って現れた巨大な怪物───本物の深海棲艦。

既に、“信じがたい光景”については夫共々一生涯分見尽くした。ついさっきだって、“これ以上信じられないことは起きないだろう”と思った矢先にゾンビとエイリアンを掛け合わせたような怪物の群れに襲われたのだ。

今度こそもうこの先、何が起きても驚かない───そもそも“この先”とやらが存在しない可能性も大いにあったことはさておき、好子が抱いた確信は、たった五分でひっくり返された。







「………これが例の“寄生体”かしら。

確かに、司令官の言うとおりこいつらだけならものすごく弱いわね」

100体は優に超える化け物の群れをただ一人で殲滅した、目の前に立つ銀髪の美少女によって。
167 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/22(月) 03:26:42.28 ID:0WyQqsPm0
「とりあえず、このエリアは概ね殲滅した……とはいえ、問題はヌ級をどうするかよね。流石に艤装無しで軽空母と正面切って戦うのはキツいし……あ、ねぇちょっと」

「ふぁいっ!?」

「ひゃいっ!?」

大洗女子学園の方を睨みブツブツと一人呟いていた少女が、突然好子達の方を向き声を掛ける。夫婦揃ってびくりと身体を震わせ全く同時に奇声を発してしまったが、向こうはまるで気に掛ける素振りを見せない。

「貴方たち、さっきも言ったけどとっとと避難所に戻りなさい。第5指定避難所ならたまたま“寄り道”したからしばらくは安全よ。

子供が心配なら尚更、ね」

「はい……」

「本当にすみません……」

少しきつめの語尾で釘を刺され、今度は二人揃って悄気返る。

一人娘が危ない───その事を理解した瞬間、淳五郎も好子も他の事柄について冷静に考えることが出来なくなっていた。着の身着のまま店を飛び出し、避難民の流れに逆流して学園に向かい、そしてその途上さっきの化け物の群れに襲われた。

目の前の少女に諭されるまで、二人の頭からは様々なことが抜け落ちていた。自分たちだけで学園に向かったところで、それで何が出来るのか。自分たちが死んだら、それこそ娘はどうなるのか。どころか、自分たちのような素人が保安隊の避難誘導や遅滞戦を邪魔したせいで、娘の避難に影響が出たらどうするのか………

顔から火が出るどころではない。その指摘を化け物の殲滅を終えた直後の少女から受けたとき、二人の背筋は氷を直接突っ込まれたかのように冷たくなっていた。
168 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/22(月) 03:40:04.25 ID:0WyQqsPm0
「じゃあ私はこのまま学園に向かうから、ここでお別れね。

念を入れてもう一回言うけど、ちゃんと避難場所に向かうのよ」

「はい。このたびは本当にご迷惑を────」

「あの!」

「………なぁに?正直、ちょっと急いでるんだけど?」

深々と頭を下げる淳五郎の横で、好子は踵を返した少女の背に声を掛ける。冷たい眼で睨まれて少し怯んだが、それでも好子の矜持としてこれだけは聞かずにはいられない。

「貴女の名前を、教えてくれませんか?

言葉だけじゃなくて、いつかしっかりとした形のお礼をしたいんです」

「………お気持ちは嬉しいけれど、ごめんなさい。私、名乗れるような大層な者じゃないのよ」

少女は束の間眼を丸くした後、手元に拳を当ててクスクスと笑みを漏らした。






「ただの“追っかけ”だもの、大洗女子学園戦車道チームの、ね」
169 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/22(月) 03:44:36.57 ID:0WyQqsPm0
今更新ここまで。大変だ2時間しか寝られない。
>>160の点は私としても課題・反省点だと思っておりました。ご指摘いただきありがとうございます。

また23:00頃に再更新できればと思います。
170 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/22(月) 03:45:37.29 ID:0WyQqsPm0
返信先修正
>>160×→>>161
失礼致しました。
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/22(月) 06:01:04.78 ID:uBHoYMTF0
つまんね
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/22(月) 08:31:11.47 ID:vPFTGTXA0
おつです
叢雲は叢雲で対処しながらだったのか
…というか目の前の惨状に怯まないヒロインの方がやべえw

>169 これだけの密度と更新頻度で書いてくれる人の方が稀なので気にしなくても…そもそも書き手に注文付ける方がアレなんだし
てか数えたら40レス近く話の中身と関係無い無駄話が続いてるだけだから、そこまで気にしなくていいかと
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/22(月) 11:22:15.37 ID:AxRoM7fWo
お疲れ様です
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/22(月) 11:22:44.38 ID:AxRoM7fWo
お疲れ様です
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/22(月) 12:09:16.64 ID:J8WQk23q0

アリサの活躍が嬉しい
そして西住流が半端ない
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/22(月) 18:00:16.39 ID:bXVZMii5o
おつ
177 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/23(火) 23:23:04.56 ID:Ks7nPssD0


《番組の予定を変更して、引き続きニュースをお送りします。大洗女子学園甲板上に深海棲艦が出現してから1時間が経過しましたが事態収拾の目処は未だに立っておらず、生徒・教員・居住者の安否が気遣われます》

《大洗町は引き続き県警、自衛隊、艦娘による全住民の避難誘導が行われています!沖合いには激しく炎を噴き上げる大洗女子学園の艦影があり、町の人達が避難しながら心配そうに振り返る様子が見られます!》

《警視庁、並びに各県警はパニックの拡大を防ぐため主要地域に機動隊を配備。また、各学園艦における生徒・居住者の退艦誘導と学園艦保安隊による艦内の安全確認も急ピッチで進められていますが、進捗は芳しくありません》

《政府は先程、南鳥島方面から本土に接近する敵艦隊と自衛隊・艦娘部隊が 交戦状態に入ったと正式に発表しました。詳細な戦闘経過は開示されませんでしたが、戦況は優勢であるとのことです》

《在日米軍のポージー=ハメルス司令官は、全戦力を上げて自衛隊・艦娘部隊に協力する用意があると表明。既に三沢基地からは、南鳥島方面の深海棲艦攻撃に向けて第35航空団全機が離陸した事を明らかにしています》

《中華人民共和国の外交部は、“友好な隣国である日本の危機は、我々の危機も同然である”と声明を発表。

また、“軍事的な支援は惜しまない”と迎撃作戦への参加の意思があることを示唆しました》

《専門家、並びに各人権団体からは、深海棲艦に“意志”がある以上対話による解決を試みるべきではないのかという声が上がっています》

《マレーシア、インドネシア、タイ、台湾など東南アジア各国は既に日本・アメリカと全面的に連携する旨を発表》

《“新型”深海棲艦攻撃作戦に投入される戦力は、【第二次マレー沖海戦】に匹敵する史上最大規模のものになると予想されます》





《24x7より、衝撃のニュースをインド国民の皆様にお伝え致します。

政府は先程、アラビア海において深海棲艦の大規模な浮上を確認したという情報を開示。欧州派遣のため近隣海域に停泊していたインド・アメリカ・日本3ヵ国連合艦隊が襲撃を受け、現在交戦状態にある模様です》
178 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/24(水) 00:11:25.61 ID:tuxLkFI50





「────で、結局あれから状況はどうなってんだよクソ眼鏡」

「誰がクソ眼鏡だ。

……何一つとして変わっておらん。状況は常に、“最悪”を更新し続けているのである」

「大洗女子学園は全域で完全に通信が途絶、他の学園艦や沿岸部の避難は人員の不足から遅々として進まず混乱に対する備えから戦力抽出も滞っている。

防空機動艦隊も再編や洋上退避、“支援の用意”と表して領海沿いに武装漁船を並べ始めた中国に対する備えなどで対応に回せるのは【いせ】と【もがみ】だけだ。

第2防空機動艦隊の【かが】じゃあパイロットの一人が暴力沙汰を起こして営倉行きになった」

「第2っていったら、空自の最精鋭集めた花形ではありませんでしたか?」

「流石の取材力であるなパパラッチ重巡。何でも、大洗女子学園に深海棲艦が現れたと聞いた途端半狂乱で無断出撃しようとして取り押さえられたらしい」

「最精鋭がそれとは大分末期だな、名は変われど日本の軍人だというのに肝が据わっていないのはいただけん」

「ええ、【かが】の乗組員はダメダメね、【 か が 】の乗組員は……いだだだだだだっ!!?」

「頭にきました」

「いやマジで頭にキテるから!ちょっ、ツインテールの片方に全体重かけるのやめろ!!」

「たまご」

「いやどっから出したその卵焼き」

「如何なる時でも貴様ら変わらんな本当に」
179 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/24(水) 01:04:54.13 ID:tuxLkFI50
「まぁまぁイボ痔マン、いい加減慣れなよ。そして禿げろ」

「我が輩の遺伝子に賭けてぜってえ禿げねえ。あと後ろ手に隠し持ってる練り辛子しまえクソガキ。

……深海棲艦側の攻勢は、恐らく開戦最初期のものすら凌ぐ過去最大規模のものだ。今確認されているのは南鳥島、フィリピン海、そして今さっき情報が入ってきたアラビア海の3ヶ所だが、今後攻勢地点は加速度的に増えていくことになる」

「間違いなく、此方は手数が足りませんね」

「察しがいいな。他国や他地域の“海軍”からの増援は期待できん。否、来ないことが確定しているといって差し支えはないのである。

……特に、オーストラリアとニュージーランドは致命的な損害を受けておりそもそも増援を出せるような余力がない」

「……天下のアメリカ軍に“海軍”の艦娘部隊まで参加して、しかも指揮はてめえが取ったのに足止めすら出来なかった相手、か」

「いやぁ楽しみですね!!今からわくわくが止まりませんよ!!!」

「えっ、なんで満面の笑みなの怖い」
180 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/24(水) 01:53:27.08 ID:tuxLkFI50
「………頼もしい反応であるが、今回は少し本気で忠告させて欲しい。

奴は────【学園艦棲姫】は、今までの深海棲艦とは比べものにならん重大な脅威だ。“格”や“ケタ”ではなく、“次元”が違う。

それに大洗女子学園の件も、未だかつて前例がない事象だ。どのような事態が発生するのか、我が輩にも全く予想が付かない」

「……ロマさんでも、ですか」

「正直、貴様らを投入するかどうかも最後まで迷った。だが、3ヶ国分の戦力を叩き潰した化け物を倒せる可能性がある艦隊も、これほどの災禍を乗り切れる猛者も、我が輩には貴様らしか知らん」

「“最も強い駒を、最も厄介な場所に”ってか」

「下策中の下策だ。そして………我が輩には、その“下策”以上の策がどうしても思いつかなかった」

「あぁ確かにな。脳筋の俺でも解るクソ策だ」

「っ、すまn」

「───だが、俺は乗る」

「………」

「てめえはクソ眼鏡だし、ロリコンだし、キングダムの49巻俺より先に読んだ挙げ句その事をわざわざ電話で自慢してきたし、冷血非道のロマさんだが」

「お前それホントやめろ」

「テメェは少なくとも、思考停止して無謀な策に飛びつくようなオツムの人間じゃない。

杉浦六真がそれしかないと踏んだなら、策は本当に“それしかない”んだろうよ」

「……………」

「さぁ、准将殿。いつも通り、俺たちに命じろ。

とっとと俺たちを、解き放て」

「……………………全く、貴様と話していると頭痛が治まらんな」






( ФωФ)「“海軍”准将杉浦六真より、【地獄の血みどろマッスル鎮守府】全艦に命ずる。

いつもの如く、敵を殺し尽くせ」

( T)「承った、『准将』殿」
181 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/24(水) 01:55:18.06 ID:tuxLkFI50
盛大な修正入れざるを得ずKONOZAMA.
明日(今日)からようやく学園艦棲姫と殴り合います
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