勇者「ニートになりたい」

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85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/11(木) 21:25:19.19 ID:xk5IcwdA0
マッスルマッスル!
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/11(木) 22:37:10.49 ID:9xdRcDnuO
めっちゃ面白いから続きはよ
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/11(木) 23:44:14.21 ID:zKiaxupQ0
乙乙
続き楽しみ
88 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/12(金) 11:34:28.00 ID:9na26kBgO
【山頭頂部 付近】

手下「おやび〜〜ん! 間違いありやせん! あの煙は旅人のもんでさぁ!」

ガンダタ「ぐっふっふ。遠征から帰ってきたとたんにカモがのこのこやってくるとはツイてるぜぇ〜」

手下「苦労して手に入れた稲妻のツルギを持ち逃げされやしたからねぇ」

ガンダタ「ばっ、それを言うなよ」

手下「俺たちの中から裏切り者がでるとは。1ヶ月の遠征の後、やっと見つけた塔で、しかも多数の負傷者を出して赤字……お給料もまともに払えないなんて」

ガンダタ「ぬっ、ぬぐぐ……!」

手下「動けるのは俺と、親分のみ……はぁ」

ガンダタ「ガタガタうるせえっ! 働いて補填したらいいんだろうが! 赤字分は!」ガンッ

手下「……働くしかないの間違いではないすか?」

ガンダタ「いいんだよ! 働くって分に変わりねぇんだから! 仕切り直し!」

手下「へい」シュン

ガンダタ「支度するぞ! 俺の斧持ってこい!」

手下「へいへい」

ガンダタ「へいは一回!」

手下「金目の物持ってるといいですねぇ」ゴソゴソ

ガンダタ「……ぐっふっふっ、飛んで火にいる夏の虫とはやつらのことよ。なぁ〜に、金がなくても身体がある」

手下「奴隷として売り飛ばすんですかい? 老人じゃなきゃいいでやんすね」

ガンダタ「対面すりゃわかるこった。やつらが寝静まった時間を狙って……うっひっひっ」ニタァ
89 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/12(金) 12:25:51.41 ID:D1/b/IpBO
【魔法使い 夢の中】

魔法使い(母)「メラゾーマ!」ゴォッ

レッサーデビル「ウギャーッ!!」ドサリ

魔法使い「ママッ!」

魔法使い(母)「くっ、油断した」ドロ

魔法使い「血っ⁉︎ 腕から血が……っ!」

魔法使い(母)「よく聞きなさい。走って村の人達を呼んできて」

魔法使い「や、やだよ! こわいもん! ママ、いや! 離れたくない!」

魔法使い(母)「黙って聞くのッ!!」

魔法使い「……っ!」ビクゥ

魔法使い(母)「いつものお使いよ」ニコ

魔法使い「うっ、うぅっ、ぐすっ」ポロポロ

魔法使い(母)「私の心配なら平気。ね、大丈夫だから」

魔法使い「ほ、本当……?」

魔法使い(母)「ええ、もちろん! 来週、ピクニックに行くんでしょ?」

魔法使い「う、うん……」

魔法使い(母)「指、貸して」

キラーナイト「……」ウィーン

魔法使い「……はい」

魔法使い(母)「ゆぅ〜びきり、げんまん♪」

魔法使い「ゆ、ゆびきりっ、げんまんっ!」

キラーナイト「タイショウヲ、マッサツ」ピピ

魔法使い(母)「さ、走れるわね?」

魔法使い「う、うん!」ゴシゴシ

魔法使い(母)「行きなさいッ! 振り向いちゃだめよ! 一生懸命走って!!」

魔法使い「わ、わかった! ママ、頑張って!」ダダダッ

魔法使い(母)「ふぅ……さぁ、かかってきなさい。ここから先へは一歩も通さないわよ……っ!」
90 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/12(金) 12:43:34.50 ID:D1/b/IpBO
【深夜 山 中腹部】

魔法使い「――……ママッ!!」ガバッ

戦士「……」チラ

魔法使い「あ、えっ? ここ……」

戦士「平気か? 随分とうなされていたみたいだが」

魔法使い「あぁ……」

戦士「まだ夜は深い。ゆっくり身体を休めておけ」

魔法使い「貴女は、寝なくて平気なの?」

戦士「あと二時間すれば勇者を起こす。代わり番で見張りだからな」

勇者「んがーっ、んがーっ」スヤスヤ

魔法使い「そういや、そうだったっけ」

戦士「昔の夢でも見てたのか」

魔法使い「はぁ……そんなところ。母様の夢」

戦士「……なにやら、仇と言ってたな」

魔法使い「私が小さい頃にね、魔物に殺されちゃったの。遺体は見つかってないけど」

戦士「そうか……」

魔法使い「火、小さくなってるね」カラン

戦士「あたしは慰めが苦手だ。月並み言葉だが、ご冥福をお祈りさせてもらおう」

魔法使い「いいんじゃない、ストレートで。変に飾るよりは好感が持てるわ」

戦士「これしかできないだけだよ」

魔法使い「……変わった勇者よね」チラ

勇者「むにゃむにゃ、もう食べられないのにぃ〜」スピー

戦士「どうだかな……正直なところ、掴みきれてない」

魔法使い「どういう意味?」

戦士「曖昧なように感じる。まだ日が浅いが、メリハリというか、なんというか……言葉ではうまく説明できん」

魔法使い「なんで、モンスターなんかに肩入れするのかな……」

戦士「さてな。魔王を倒す旅はしているんだ、肩入れしようとやることさえやっときゃ問題ない」
91 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/12(金) 12:57:02.37 ID:D1/b/IpBO
【中腹部 茂みの中】

手下「おぉ〜! 親分! 暗がりでよく見えやせんが、ありゃ間違いなく上玉の女冒険者でっせ! ひぃ、ふぅ、みぃ、男のコブつきみたいですが、当たりですね!!」

ガンダタ「ほぉ〜れ見ろ! こうやってな、女神様はきちーんと考えてくださるんだよ!」

手下「へ? か、考える?」

ガンダタ「女神様の声が聞こえるねぇ〜。“あなた達は頑張ったのです。ご褒美をあげましょう”ってな〜!!」

手下「いや、でも、それじゃ、そもそも稲妻のツルギを持ち逃げされないんじゃ」

ガンダタ「下げて上げるっつーのはまさにこのことよ! 落ち込んでる時に棚からぼた餅なくりゃ、いつも以上に有り難みがますってもんだろぉ〜!」

手下「な、なるほど! さすが親分!」

ガンダタ「どれ、では早速」ガサガサ

手下「待ってください! 今は二人起きてるんでもうすこし様子を見ましょう!」

ガンダタ「あぁ? 女におくれをとるガンダタ様じゃねぇぞ!」

手下「俺だって疲れてるんすから! ろくに休みもらえなかったし!」

ガンダタ「うっ、そ、そうなんか?」

手下「ね? 無駄な労力を使わず、まだ時間はあるでやんす。もうちょっと様子見ましょうって」

ガンダタ「しょうがねぇなぁ」
92 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/12(金) 13:19:36.41 ID:D1/b/IpBO
【再び テント設営地】

勇者「……んー」ムク

魔法使い「……? 起きたの?」

戦士「交代には、まだ」

勇者「ネズミがいるな」

魔法使い「ネズミ……? こんなとこに? どこよ」キョロキョロ

勇者「ふぁ〜ぁ」コキパキ

戦士「ネズミだったら非常食にとっておきたいんだが」キョロキョロ

勇者「目が覚めた。戦士、交代すっか」

戦士「いや、あたしは」

勇者「俺は目が覚めたって言ったろ? どうせ起きてる。なら眠いやつが寝ておけばいい」

魔法使い「私も目が覚めたし、戦士は休んで大丈夫」

戦士「む、そうか? ならお言葉に甘えて」

勇者「お前もだよ、魔法使い」

魔法使い「え? 私は、べつに」

勇者「夢を見る睡眠ってのは案外浅いもんだ。明日に疲れを蓄積させるな」

戦士「……起きてたのか?」

勇者「いや、あの」

魔法使い「狸寝入りしてたの? キメきれないやつねぇ」

戦士「ふっ、まったくだ。言わなければわからないものを」

勇者「……入っちゃまずい雰囲気かなーと思って」

魔法使い「余計な気は使わない方がいいわよ。自然体でいること」

戦士「起きてるならあたしは休むぞ。マヌケな勇者様ひとりじゃないみたいだからな」ゴソゴソ

勇者「う、うぅ。二枚目キャラになりたい」

魔法使い「だったら空気を読み違えないように」

勇者「へい」

魔法使い「ふざけてばっかりなんだから」

勇者「オホホ、お花をつみに行ってまいりますわ」

魔法使い「くっ、この、ヘンテコ勇者」

勇者「寝たくなったら寝てていいからさ。母さん、生きてるといいな」ポンッ

魔法使い「何言ってるのよ。母様は死んだの」

勇者「遺体は見つかってないんだろ?」

魔法使い「はぁ……あのねぇ、いくら探し回ったか知らないでしょ。生きてるなら帰ってくる」

勇者「……」

魔法使い「ありもしない希望にすがるのは、やめたのよ」

勇者「それなら俺がお前のかわりに祈っておいてやるよ」

魔法使い「いい加減に」

勇者「勝手だろ、誰かひとりぐらいいたっていいじゃないか。そう願う者が」

魔法使い「……好きにしたら」

勇者「あぁ、てなわけで、ラリホー」ポワァ

魔法使い「えっ、な、なに、を……」

勇者「朝までゆっくりしてろ」スッ
93 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/12(金) 14:57:20.31 ID:cIisLjGgO
【茂みの中】

手下「絶好の機会でやんす! コブの男どっかいきやしたぜ!」

ガンダタ「他も寝静まったみてぇだな」

手下「ラクな仕事すぎて小躍りしそうっすよ!」

手下?「親分! お待たせしました!」ガサゴソ

ガンダタ「おっ? お、おめぇ?」

手下「(青い布つけてるやついたっけ?)」

手下?「ひどいですよぉ〜置いてくなんて! それで、なにをするんですか?」

ガンダタ「……まぁ、いいか。あそこで寝てるやつらを縛るんだ」

手下?「盗みですかい?」

ガンダタ「あったりめーよ! 身ぐるみ剥いで女は上玉みてぇだからな、高く売れそうだ」

手下?「なぁ〜るほど! 良い値で売れるといいですね!」

手下「大丈夫でやんす! マッスルタウンに富豪がいるっすから! ……ん? 知らないんでやんすか?」

手下?「知ってますよ! あの富豪さんでしょ!」

手下「でげすでげす! 成金趣味の嫌ぁ〜な感じのやつっすけど、上客には違いねぇっす! 親分、男はどうしやす?」

ガンダタ「あいつは奴隷商に売りとばそう」

手下?「奴隷商人っていうと、あのお方ですかい?」

ガンダタ「ああ、隣国でなにやら建設してるらしくてな。力仕事をするやつを探してる」

手下「女がひとり、十万ゴールドとして……いや、もっといけるかもしんねぇでやんすな!」

手下?「ところで親分! 他の手下はどちらへ?」

ガンダタ「あ? お前が今来た頂上の洞穴だろーが。山賊が、勉強できねぇのは仕方ねぇけどよ、それぐらい覚えろよ」

手下?「でっへっへ。すみません」

手下「準備はいいすか?」ガサガサ

ガンダタ「ああ、いつでも……」ガサガサ

手下「とつげきぃぃ………うふん」コテ

ガンダタ「気色わりぃな。……おい。……あ? おい?」クルッ

手下?「ラリホー」ポワァ

ガンダタ「あふん」コテ

手下?「……残るは山頂の洞穴だっけ」

ガンダタ「ぬ……っ! 睡眠、魔法……っ!」

手下?「親分、まだ意識あるんですか?」ヌギヌギ

ガンダタ「おのれ……! 稲妻のツルギを奪られた時と同じパターンか」ガク

手下?「稲妻のツルギ……あぁ、ニセモノ勇者の親玉だったのか」ヌギッ

勇者「……うぇっぷ、口の中に髪の毛はいっちった。ペッペッ」
94 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/12(金) 15:23:47.48 ID:cIisLjGgO
【頂上 洞穴】

勇者「タウンワークはここにおいて……これでよし、と」パンパン

手下達「」スヤァ

勇者「お前らもお前らなりに理由があって仕事してんだろうけど、見過ごしたら被害者出続けるだろうからな。別の仕事見つけてくれ」

手下達「」スヤァ

勇者「……聞こえてないか。あー、肩凝った。ロープで縛るのもラクじゃないなぁ」ドサッ

ガンダタ「う……」ピク

勇者「もうお目覚め?」

ガンダタ「う、うぅっ……はっ! こ、ここは」

勇者「アジトでーす!」

ガンダタ「お、おめぇ! どういうことだ……そうだ、おりゃあ眠らされて」

勇者「耐性が少しはあるみたいだな。さすが親分ってとこか」

ガンダタ「むぉっ⁉︎ いつのまに縛りつけやがった!」

勇者「疲れたわー、親分マッチョだから、ここまで担いで運ぶの」

ガンダタ「おめぇら! 目を覚ましやがれ!」

手下達「」スヤァ

勇者「ねぇねぇ、なんで山賊なんかやってんの?」

ガンダタ「……くっ、不覚。ちくしょう」ガクッ

勇者「おやぶーん!」

ガンダタ「お前手下じゃねぇだろ!」

勇者「シカトすんなや!」

ガンダタ「ちっ、やってる理由なんて社会に適合できねぇからに決まってんだろ。ルールってやつが嫌いなのよ、俺たちゃ」

勇者「わかる! すっごぉーくわかる!」

ガンダタ「な、なんだ?」

勇者「ルールなんてかったくるしいもん俺も大嫌いでさぁ!」ポンポン

ガンダタ「なら、この縄を」

勇者「それは断る」

ガンダタ「……」

勇者「一緒にニートにならない?」

ガンダタ「ニートだと?」

勇者「イエスニート! 無職、遊び人、くぅ〜、いい響きだわー! 何者にも縛られずフリーって!」

ガンダタ「どうやって食ってくんだよ、アホか」

勇者「違うの? 要するに、誰かに押し付けられるのが嫌なんだろ? ルールとか型とかにハメられてさ」

ガンダタ「まぁ……」

勇者「アゴでこき使われるのが嫌なだけで、やりたくないわけじゃないもんな? 山賊だってこうして働いてるわけだし?」

ガンダタ「いや、そりゃそうだが」

勇者「残念だわ。せっかくニート仲間が増えるかと思ったのに。なんだよ、真面目かよ」

ガンダタ「山賊に真面目って、お前、頭おかしいんじゃねぇのか」



95 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/12(金) 15:40:40.39 ID:cIisLjGgO
勇者「ここから西にいけば、アデルの城がある。知ってるだろ?」

ガンダタ「ああ」

勇者「そこに行ってこれを見せたらいいよ」スッ

ガンダタ「……銀細工か?」

勇者「大工の仕事ならあると思うから」

ガンダタ「おい、ガキ。俺を舐めてんのか?」ギロ

勇者「ベロベロバーー!」

ガンダタ「……」

勇者「そんな姿で凄んでもだめだっての。ああ、別に売っちまってもいいから」

ガンダタ「なにがしてぇんだよ、お前」

勇者「俺は俺の好きなようにやってるだけ。親分と一緒」

ガンダタ「性善説とか信じてるクチか?」

勇者「そうでもない。理由を求めてんの? 俺を型にハメようとしてらっしゃる?」

ガンダタ「……」

勇者「おやぶーん、それじゃ筋が通りませんよー」

ガンダタ「からかってるだけか」

勇者「だから、そういうのだよ。自分の中だけで完結すんな」

ガンダタ「……」

勇者「あんたらは負け犬なんかじゃねぇ、社会不適合でもねぇ。……俺がやってるのも人助けでもなく、ただの自己満だ」

ガンダタ「クッ、そうか」

勇者「説教じゃねぇからな? ただ、理解してないようだったから説明した」

ガンダタ「ふん」

勇者「決めるのはあんた達だ。いつまでもその日暮らしのこんな生活できるもんじゃねぇぞ」

ガンダタ「……」

勇者「今が楽しいならいいんだけどさ」スタスタ

ガンダタ「おい、どこに行く! 縄を解いていけ!」

勇者「やーなこった。自分でなんとかしろ」

ガンダタ「小僧! ちょ、待て! 待ってぇー!」
96 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/12(金) 15:58:56.98 ID:cIisLjGgO
【山 中腹部 テント設営地】

子供『あ、勇者くんだぁー! あそぼー!』

勇者(少年)『う、うんっ! へへっ!』

親『だめよ、勇者くんにもし怪我でもあったら』

勇者(少年)『えっ』

子供『……あ、うん。わかった』

勇者(少年)『ぼ、僕なら大丈夫だよ! ほら、こんなに丈夫なんだ!』バンバン

大人達『さすが勇者! すごいねぇー!』

勇者(少年)『ち、違うよ、僕、すごくなんか、ないよ。普通だよ』

大人達『勇者っ! 勇者っ! 勇者っ! 勇者っ!』パチパチ

兵士『頑張れよ、勇者』

勇者(少年)『僕、勇者ってだけじゃないよ、普通の、普通の……』

王様『勇者よ』

勇者『勇者っていうのやめてよっ! ……僕を……見てよ……』



勇者「――……嫌なこと、思い出したな」
97 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/12(金) 16:12:35.90 ID:cIisLjGgO
【翌朝 テント設営地】

僧侶「う、うぅ〜ん、よく眠れましたぁ〜」ノビー

勇者「おはよ」

僧侶「おはよーございますぅ〜」

勇者「戦士と魔法使いもそろそろ起こしてやれ」

僧侶「はい〜。戦士さん、戦士さん」ユサユサ

戦士「ん、んぅ」

僧侶「魔法使いさん、魔法使いさん」ユサユサ

魔法使い「ん……」

僧侶「ずっと起きていらっしゃったんですかぁ? 交代いたしましたのに〜」

勇者「今日はたまたまだ。次は言われなくても起こすよ」

僧侶「……? なにか、あったんですかぁ? 膝のところやぶれてますが〜」

勇者「あら? おしっこする時にひっかけちゃったのかな?」

戦士「ふぁ〜ぁ、なんだ、もう朝かぁ」

僧侶「あ、おはようございますぅ」

戦士「やけにぐっすり眠れた気がするな。深い眠りは久しぶりだ」

魔法使い「……んにゅ」

勇者「ヨダレぐらいふけよ」

魔法使い「ふぁ? ……っ⁉︎」ゴシゴシ

勇者「みんな、よく眠れたようでなによりだ。朝メシを食ったら出発する」

魔法使い「あれ、昨日、いつのまに寝たんだったっけ……」
98 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/12(金) 17:14:37.75 ID:cIisLjGgO
【コロシアムの街 マッスルタウン】

傭兵「シェイシェイハ!! シェイハッ!! シェシェイ!! ハァーッシェイ!!」ブンブン

勇者「……でるゲーム間違えてね?」

魔法使い「あいかわらずむさくるしい街ねぇ〜」

戦士「いいじゃないか! この熱気! 溢れ出る闘志!」ウズウズ

魔法使い「脳筋って仲間意識あんのね」

僧侶「出店もたくさんありますよぉ〜」

勇者「なぁ、戦士」

戦士「どうした?」

勇者「コロシアムって毎日やってんの?」

戦士「ああ。なにしろここの財源だからな。元締めは癒着があると黒い噂があるが」

勇者「ふーん」

魔法使い「財源なんて、ただのギャンブルでしょ」

戦士「それは否定できない。誰が勝つかを予想して観客は一喜一憂するわけだからな。金がかかるから見てる方も熱くなる」

僧侶「勇者さまぁ、フランクフルト売ってますよぉ」

勇者「食べたら?」

僧侶「私に食べろって言うんですかぁ? フランクフルトを〜」

魔法使い「公衆の面前で痴女ってんじゃないわよ!」スパーン

僧侶「はうぅ」

勇者「……あそこの上にあるのは?」

戦士「あれか? あれは優勝者に贈られる品物だ」

勇者「なになに……イーリスの杖、か」

魔法使い「えっ⁉︎ うそっ⁉︎」

戦士「魔法職の杖が賞品なんてめずらしいな」

魔法使い「……」ジィー

戦士「レアなのか? あれ」

魔法使い「かなり! 魔力を消費せずにピオリムが放てるのよ!」キラキラ

戦士「ピオリム……素早さを上げる魔法か」
 
僧侶「イーリス。ギリシア神話の虹の女神、あるいはギリシア語で虹……キレイな形状してますねぇ」

魔法使い「……」チラ

戦士「自分の杖見つめて……比べてるのか」

魔法使い「い、いいでしょ別に!」

戦士「余計ひもじい思いするだけだぞ」
99 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/12(金) 17:32:15.32 ID:cIisLjGgO
【マッスルタウン 宿屋】

勇者「なんか一気に物価あがった気がするんだが? 一泊30ゴールドって」

戦士「しかたないよ。そういうもんだ」

僧侶「幸い団体部屋も同じ料金でしたしぃ〜。よしとしましょう〜」

魔法使い「次はいつ出発すんの?」

勇者「明日の朝かな」

戦士「なっ⁉︎ おいおい、この街に立ち寄って観戦してかないのか?」

勇者「なにが悲しくて男同士の殴り合いを見なきゃいかんのよ」

戦士「女もでるぞ」

勇者「あ、そうなの?」

戦士「当たり前だ。重要なのは強さであって性別ではない。証拠に今のチャンピオンも女だそうだ」

勇者「へー、そりゃすんごい」

僧侶「文字通り、男顔負けって感じですねぇ〜」

戦士「是非! 一度手合わせしてみたい!」キラキラ

魔法使い「戦士がでたら?」

戦士「……そうしたいのはやまやまなんだがなぁ。事前申請が必要で、エントリーまでに一週間もかかるんだよ」

魔法使い「そ、そんなに……」ガックシ

勇者「お前今、杖手に入るかもって期待したろ」

僧侶「やっぱり職業は戦士さんなんですかぁ?」

戦士「いいや……武闘家みたいだ」

100 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/12(金) 17:43:31.40 ID:cIisLjGgO
【マッスルタウン 路地裏】

武闘家「あちょお〜〜〜っ!! あたっ!!」バキッ

暴漢「ぐぇっ」ドサ

町娘「あ、ありがとうございました。危ないところを……」

武闘家「……ほら。次は気をつけなよ」スッ

町娘「ありがとうございます、ありがとうございます」ペコペコ

武闘家「それじゃ、アタイはこれで」

町娘「あ、あのっ! 質問が、あるんですけど……」

武闘家「ん?」

町娘「現チャンピオンの武闘家さんですよね⁉︎」

武闘家「そうだけど、っ、わぁっ⁉︎」

町娘「ファンなんです! まさかこんなところで会えるなんて、しかも助けてもらって……あぁ、感激ッ!!」

武闘家「あ、あはは〜……そ、そう」タジ

町娘「握手してもらっていいですか⁉︎」

武闘家「いいけど……」スッ

町娘「一生洗えない、この手」ギュゥ

武闘家「いや、手は洗いなよ」

町娘「あぁ……」ウットリ

武闘家「うっ……ね、ねぇ、ちょっと、もういいだろ? 手を離してくれない?」

町娘「こ、興奮しすぎちゃって……はぁ、はぁ……」

武闘家「な、なんで息が荒くなるのかなぁ〜」

町娘「ぶ、武闘家さん、私、もう……っ!!」

武闘家「ストップ!! それ以上迫ってきたら正拳突きをお見舞いするよ!」

町娘「す、すみません」シュン

武闘家「はぁ……」

老人「これ! こんなところでなにをほっつき歩いてるアル!」

武闘家「し、師匠。助かったぁ」ホッ

老人「道草くってないでいくアルヨ」

武闘家「はい! ただいま!」タタタッ

町娘「武闘家さん、女性なのにさわやかで、ポニーテールが素敵……」
101 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/12(金) 18:10:49.43 ID:cIisLjGgO
【宿屋 食堂】

勇者「なぁ、いじけるのはよせって。ピオリムなんて使わないだろ?」

魔法使い「付加価値のある杖ってだけでハクがつくんだから!」

勇者「そんな、使わない機能があっても」

魔法使い「全部あんたが悪いのよ! 貧乏なくせに! 貧乏なくせに!」ゲシゲシ

勇者「や、やめてたもれ〜」

僧侶「私のゴスペルリングの効果はパーティに適用されますので、このまま進めなくはできなくはないですけどぉ」

戦士「ろくに戦闘をしていない。レベルアップどころの話ではないぞ」

勇者「うっ」

戦士「ダーマに着く頃にはかなり強いモンスター達が闊歩する場所になる。はたしてこのままでいいのやら」

魔法使い「私はイヤよ! なにもできずに死ぬなんて!」

戦士「……勇者はどうなんだ? 戦っているところを見たことがない」

勇者「俺? それなり」

戦士「それなりとは、かなりのは幅がある」

勇者「すまん、正直本気がどこまでかは俺もわからんねーんだ」

魔法使い「……どういう意味?」

勇者「本気だしたことないから、俺」

戦士「それは、なにもしなくてもまわりが倒してくれたとか」

勇者「ああ、いやいや、勝負で苦労したことないの」

戦士「……」ギラッ

勇者「……なぁ、なんか逆鱗踏んだ?」

僧侶「というよりぃ、好奇心にぃ」

戦士「ふ、ふふっ、それは面白いなぁ。これまで城の猛者供と手合わせしていたそうじゃないか? 噂には聞いてるぞ」

勇者「い、いやぁ〜。噂って尾ひれがつくもんじゃない?」

戦士「アデル城の戦士長といえば、我が師の同僚だったお方。そのお方とも手合わせをしているはずだよなぁ〜」スラッ

勇者「なぜに剣を抜かれる?」

戦士「苦労したことが、ない? ほほう。それはそれは……」ガタッ

勇者「なぁ、僧侶、出店見に行かない?」

僧侶「今はちょっとぉ〜」

戦士「おい、勇者ッ……表、でろっ!!」バンッ




102 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/12(金) 18:30:16.12 ID:cIisLjGgO
【マッスルタウン 宿屋 表通り】

僧侶「二人ともがんばってぇ〜!」

魔法使い「(勇者……伝説の。本当に強いのかしら)」

勇者「なぁ〜んでこんなことになっとるのかねぇ〜」

戦士「剣を抜けッ!!」チャキ

勇者「そろそろ頭冷やせって。俺が本気だしたことないってのはそういう意味じゃない、怠けてただけだっての」

戦士「それなりにと言ったではないか!」

勇者「あー、うん、まぁ、でもそれは俺の中での話だから。全然たいしたことないんだって」

戦士「伝説の存在……ずっと興味があった! いつか手合わせしてみたいと願っていた!!」

勇者「……チッ、またかよ」イラァ

戦士「さぁ、剣を抜け」

勇者「また、“勇者”かよ」

戦士「それとも、私では剣を抜くにすら値しないとでも言うつもりか!」キッ

勇者「……ふぅ」ニコ

戦士「どうした?」

勇者「俺の負けだ。頼む、剣を収めてくれ」

戦士「きさ、ま……っ! それでも男か! 神聖なる決闘を前にして、侮辱する気か!」

村人達「なんだなんだ? 決闘か? いいぞーやれやれぇー!」ガヤガヤ

勇者「なぁ、そんな熱くならなくても」

戦士「私は……っ! 私はこの剣に人生を賭けた! 雨の日も風の日も、オンナを捨て、指のマメが潰れても振り続けたッ!!」

勇者「……」

戦士「その、誇りを……誇りを貴様は侮辱するというのか……?」

武闘家「なんだ……?」

老人「喧嘩アルか? ……む、あやつは」

武闘家「……師匠、知り合いですか?」

老人「面白い見世物にナルヨ。ワシらも見物していくアル」

勇者「はぁ……わかったよ」スラッ

戦士「……恩にきる。一方的な勝負だとは理解してる」
103 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/12(金) 18:48:30.05 ID:cIisLjGgO
勇者「勘違いしないでほしいんだけど。勇者ってのは、ある一点に優れてるわけじゃないんだ」

戦士「……?」

勇者「なんでもオールマイティーにこなす。戦士みたいな魔法を使えないかわりに、腕力に一点振りしてるではなく」

戦士「それがどうした」

勇者「魔法剣士に特性は近いと思うよ。両立させるという意味では。ピオリム」ポワァ

戦士「むっ……!」

勇者「意味がわかったろ? 自分で自分をサポートできるんだ。スクルト」ポワァ

戦士「くっ、ま、まずい」ダダダッ ブンッ

勇者「全部の呪文をカバーしてるわけじゃ、ないんだけどねっと」ヒョイ

戦士「そっちか!」ブンッ

勇者「あらよっと」ブンッ

――ガキィンッ――

戦士「……くっ」ギリギリ

勇者「ね? タネがわかればしょーもないだろ?」トンッ

戦士「なるほど、たしかに。勇者とやらは便利だな」

勇者「前衛、後衛、どっちでもできるからなぁ。ただ、特化はできないけど」

老人「弟子よ」

武闘家「はい、師匠」

老人「どっちが勝つと予想するアル」

武闘家「五分五分じゃないでしょうか。自魔法サポートは良いですが、自力の勝負で男の方が負けてる気がします」

老人「アイヤー。本気で言うとるアルか」

武闘家「ち、違うんですか?」

老人「お主の目は節穴ネ。あれはただ教えとるダケよ」

武闘家「……」

老人「ワシとオマエみたいな関係ネ。まだ全然ホンキじゃないヨ」
104 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/12(金) 19:07:42.75 ID:cIisLjGgO
【数分後】

戦士「はぁっ、はぁっ」チャキ

勇者「(そろそろ頃合いか。手を抜いたと悟らせないにも神経使うんだよなぁ。小石につまずいてっと)」ズルっ

戦士「……っ! 勝機っ! くらえっ! ハヤブサ斬り!!」ザシュ ザシュ

勇者「うっ、し、しまっ」カキーーン

老人「わざと剣を手放しおったな」ボソ

武闘家「……」ジィー

戦士「はぁっ、はぁっ、どうだっ!」チャキ

勇者「……まいった。すげーよ」

村人達「おお〜! なかなかレベル高い決闘だったぞぉ」パチパチ

僧侶「お二人ともかっこよかったですよぉ〜!」パチパチ

魔法使い「(たしかに便利だけど。自力は戦士の方が上ってことか。器用貧乏ね)」

老人「あの負け方はダメアルねー。後々、恨まれるアル」

武闘家「師匠、やはり、私には違いが」

老人「オマエよりも強いヨ。アレ」

武闘家「え、えぇっ⁉︎」

老人「ワシの見立てでは女戦士よりちょっぴり強いぐらいアル。オマエ」

武闘家「そんなことありません! あんなやつすぐに倒せます!」

老人「それがちょっぴり言うテルネ。どんぐりの背比べ。ワシから見たらどっちも弱いシ」

武闘家「……で、では、師匠が強い認める強さとは」

老人「ワシより強くねー? て思うぐらい」

武闘家「……!」ギロッ

老人「ふぉっふぉっふぉっ、一気に闘志が燃えあがたネ。嫉妬したカ」

武闘家「し、失礼しました。でも、あの男、何者……」
105 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/12(金) 19:28:32.92 ID:cIisLjGgO
戦士「立てるか?」スッ

勇者「お、おう、さんきゅ」

戦士「自魔法サポート。非力な後衛職、力だけの前衛職ではできない戦い方に脱帽した」

勇者「よせやい」

戦士「勇者というだけのことはある。危なかったぞ」

勇者「うんうん、いい汗かいたな」

戦士「あぁ。こんなにもやっていて充実していたのは師匠とやって以来だ。なにやら指導を受けていたようにすら感じる」

勇者「あ、そ、そう」

戦士「……いや、それほどあたしたちの力が拮抗していたのだろう。改めて感謝する」

勇者「もうやめようぜ、さ、メシメシ」

老人「ちと待つアル。ワカモノよ」

戦士「失礼だが、どちらだ?」

老人「ネーちゃんじゃないアル。用があるのはニーちゃんネ」

勇者「じーちゃん、なんだ?」

老人「ちこうよるアル」チョイチョイ

勇者「……?」

老人「もっとアルもっとアル。耳貸すアルよ」

勇者「なんだ? おひねりでもくれんのか?」

老人「お主、手を抜いたロ?」コショ

勇者「……おっとぉ〜」

老人「バラされたくなければ、ついてくるヨロシ」

戦士「勇者、どうしたんだ?」

老人「呼ばれている名についても、色々と聞きたいことがあるネ」
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/12(金) 19:34:41.28 ID:3ClboyYq0
全員キャラ立ちしててすごくいい
107 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/12(金) 20:02:35.43 ID:cIisLjGgO
【武闘家 家】

老人「話というのは他でもないアル」

武闘家「師匠、お茶をお持ちしました」コト

老人「ワシの弟子と結婚しない?」

武闘家「し、師匠っ⁉︎」バシャアッ

勇者「あっちゃぁっ!!」アタフタ

武闘家「な、なにを言いだすのですか⁉︎」カランカラン

老人「客人におもっくそぶちまけとるけど」

勇者「あつっ!あっつぅっ!」

武闘家「私はまだ修行中です! 先日正拳突きを覚えたばかりではないですか!」バシャア

勇者「おかわりっ⁉︎ ぎゃあっ!」

老人「おい、大丈夫カヨ」

勇者「〜〜ッ!」ゴロゴロ

武闘家「男なぞ興味ありません!!」

老人「転がってるが」

武闘家「聞いてますか!! 師匠!!」バンッ

老人「落ち着くヨロシ」

武闘家「なぜ、そのような提案を」

老人「子供が強くなりそうネ」

武闘家「それにしても浅はかです! 撤回してください!」

老人「わかた、わかたネ。ドウドウ」

武闘家「……」ブスゥ

老人「して、勇者とやら。オイ」

勇者「〜〜ッ!」ゴロゴロ、

老人「すまんネ、ワシ、お茶は目一杯暑くするヨ」
108 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/12(金) 20:27:35.42 ID:cIisLjGgO
【数分後】

老人「落ち着いたカヨ」

勇者「た、たいしたもんだ」

老人「あれに対応するのは難儀ダロヨ。ワシでも無理」

武闘家「……」プイ

老人「話を戻すネ。勇者か?」

勇者「うん、そだよ」

武闘家「……っ!」ジィー

老人「これ。パンダじゃないんだから好奇の視線で見るヨクナイ」

武闘家「あ、すみません、つい」

老人「やりとりだけならば冗談思うヨ。でも、オマエは実力もありそうネ」

勇者「じいちゃんも極めてんな」

老人「マスターと呼ぶイイヨ。若い頃はぶいぶい言わせたもんアル」

勇者「……聞きたいってのはそんだけ?」

老人「明日、コロシアムが開催されるアル。毎日開催してるケド」

勇者「みたいだね」

老人「お前も出場するアル。枠はチャンピオンから口きいてヤル」

勇者「……なんで?」

老人「マク・ドナルドがいいカ? リングネームは」

勇者「なぁ、おい。このじいちゃんボケてんのか?」

武闘家「凄くマイペースなだけ……師匠はこうなったら周りの意見なんか聞かないから」

老人「……どこにやったカ」ゴソゴソ

勇者「うぇ、なんで股間に手を突っ込んでるんだよ」

老人「あったあった」ズポッ ヒラリ
109 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/12(金) 20:29:32.10 ID:cIisLjGgO
武闘家「そ、それは……!」

老人「光栄に思うヨロシ。ワシが若い頃つけてたマスクよ」

勇者「ずっと入れっぱなしだったのかよ!」

老人「これをかぶって、思う存分ヤッてこい。ほんで決勝で我が弟子をコテンパンにしてほしい」

武闘家「……っ!」

老人「コイツ、最近天狗になってるヨ。こんな街でコロシアムに参加させたのは失敗だた。鼻っ柱を折ってやってほしいネ」

勇者「……えぇ、それかぶんのぉ?」

老人「受けとれ」スッ

勇者「い、イヤすぎるんだけど」

武闘家「私がこいつに負けるとお思いですか!」バンッ

老人「またデタよ。さっきも言うたネ。オマエよりもこっちのニーちゃんの方が全然強い。レベルそのものが違う」

武闘家「……っ!」ギロッ

勇者「なぜに睨まれるんです?」

老人「未熟者の嫉妬ヨ。堪忍するネ」

勇者「いや、それはいいけど。えぇ、俺が出るのぉ?」

老人「さっきの女戦士。真実を知ったら激昂すること間違いナシよ。オマエも問題アル」

勇者「うっ」

老人「ああいうのはコテンパンにやっちまうネ。ありのままの強さを見せることが礼節」

勇者「いや、しかし、立ち直れない可能性も」

老人「今後の人間関係に影響するカ?」

勇者「……」

老人「そうなったらそれまでの関係ヨ。取り繕ったオマエはヒキョウモノに違いナイ」

勇者「ぐぬぬ」

老人「勇者とか全部置いて、一旦忘れるヨ。オマエは明日だけはマスクマンネ」
110 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/12(金) 20:53:21.30 ID:cIisLjGgO
【宿屋 部屋】

魔法使い「ねぇ、勇者って結局どんくらい強かったの?」

戦士「質問の意図がわかりかねる。見ていただろう?」

魔法使い「うーんと、要するに、魔王と渡り合えると思った?」

戦士「いや、それはどうだろうな」

魔法使い「無理そう?」

戦士「無理とは言ってないが。個人でとなると厳しいだろう」

僧侶「くすくす」

魔法使い「なにがおかしいのよ」

僧侶「強さ議論をしているのがおかしくてぇ〜」

魔法使い「どーゆー意味?」

僧侶「彼はそういう次元にいるんじゃないんですよぉ」

戦士「……?」

僧侶「女神様が人間と力比べをなさるはずがありません〜」

魔法使い「はぁ、教会特有の信仰心ってやつ」

僧侶「いいえ〜真実ですよぉ〜」

魔法使い「女神の祝福ねぇ、どういう形で現れるんだろ」

僧侶「勇者さまはありがたぁ〜いお方なのですぅ〜」シミジミ

戦士「……ふむ」

勇者「ただいま」ギィ

僧侶「おかえりなさいませ〜」

戦士「おう、あの老人は何の用だったんだ?」

勇者「明日さ、出発しないことにした」

魔法使い「えっ?」

僧侶「どうして突然〜?」

勇者「うん、まぁ、なんていうか、家の修理を頼まれちゃって」

戦士「修理? いきなり他人にそんなものを頼むのか?」

勇者「いや、ほら。俺って手持ちの金が一番少ないだろ? 賃金はずむっていうから引き受けたんだ」

魔法使い「……ふぅ〜ん、まぁそれはそうだけど」

勇者「明日は、みんな自由行動でいいよ」

僧侶「ついていってもよろしいですかぁ?」

勇者「いやぁ〜それはやめといたがいい。気難しい爺さんだったから。なんでも、オンナが嫌いらしい」

戦士「変わった老人だな」

勇者「そういうわけだから。観光でもしてきてくれよ。な?」
111 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/12(金) 21:05:59.52 ID:cIisLjGgO
【武闘家 家】

老人「まだ納得してないアルカ。明日になればわかることヨ」

武闘家「あたっ!! ほあっ!!」ビュッ ビュッ

老人「今日はそれぐらいにしとくネ」

武闘家「はぁっ、はぁっ」

老人「……」

武闘家「師匠。ひとつだけ聞かせてください。伝説の存在の勇者、師匠はワシより強い? と疑問系で言ってました」

老人「たしかに」

武闘家「改めて対峙してみて、いかがでしたか。師匠ほどのお人であれば、力量がわかるはず」

老人「引退したとて、格闘家のはしくれ。負けるとは口がサケてもいえないヨ」

武闘家「……では」

老人「今の言葉の中のどこに勝てると言ったカ? 察するネ」

武闘家「……っ! では、師匠の全盛期ならばどうですかっ!」

老人「……イメージがわかない。こんなのハジメてのことヨ」

武闘家「イメージ……?」

老人「ワシが見下ろしてるイメージヨ。倒れているものを」

武闘家「……」ゴクリ

老人「これまで、ゴッドハンドと呼ばれる者と対峙した時でさえ、そのイメージは持てたネ」

武闘家「……伝説に、偽りなしですか」

老人「女神の加護、ありゃバケモン。ヒトでは勝てるもんではない。遠慮なく全力で当たって砕けるヨロシ」
112 : ◆7Ub330dMyM [sage]:2018/01/12(金) 21:14:35.00 ID:cIisLjGgO
今日はここまで。
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/12(金) 21:29:12.21 ID:GbY/nk330
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/13(土) 01:22:05.15 ID:hkhH6EVRo
おつー
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/13(土) 03:55:41.27 ID:VGBbBp1P0
これって長編予定だったりすんの?面白いからいいけど
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/13(土) 10:38:23.56 ID:pqICkg4bO
やばいこれ昔の良SSを彷彿とさせる
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/13(土) 15:12:08.18 ID:OTML+W87O
118 : ◆7Ub330dMyM [sage]:2018/01/13(土) 15:19:50.53 ID:OTML+W87O
すません。レスしようと思ったらアイポン電源が切れました。
俺たちの戦いはこれからだ!でいつでも終わらせられるとだけ。
掘り下げてキレイにまとめて書ききろうと思ったらたぶん800あたりまで行きそうかも。
119 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/13(土) 15:45:36.97 ID:OTML+W87O
【翌日 マッスルタウン メインストリート】

――ヒュルルルルゥ〜〜 ドンドンッ パラララッ――


僧侶「わぁ、花火ですよぉ。昼なのに豪華ですねぇ」

魔法使い「うるさいなぁ。イオ系でも放てばいいのに」

戦士「活気を演出しているんだろう。客寄せだな」パクッ

魔法使い「どこで買ってきたの? しかも、その量」

戦士「んっ? んむっ、んまいぞ。食うか?」

魔法使い「たこ焼きにフランクフルトにイカ焼きに……よく持ちながら食べられるわね」

戦士「食べて減らしているからな!」キラン

受付「エントリーがお済みの方はこちらが入場口になってまーす、番号札を持って順番にお入りくださーい!」

魔法使い「今からはじまるみたいね、コロシアム」

僧侶「実際に見たことはないんですけどぉ、どういうシステムなんですかぁ?」

戦士「予選を突破した者同士の勝ち抜きトーナメント制だ。武器の使用は認められている」

魔法使い「え、それって怪我するんじゃ」

戦士「ありだ。ただし、殺しは即刻牢屋行きになる」

魔法使い「事故とか、ないの?」

戦士「これまでそんな話は聞いたことないよ、あむっ」モグモグ

??「おっと、すま……」ドンッ

戦士「あっ」ポト

??「あ、あれ? お前ら」

戦士「あ〜〜〜っ!! あたしのたこ焼きがぁっ!!」コロ

受付「まもなく番号札の配布を締め切りまーす! まだの方はお急ぎくださぁーい!」

??「す、すまん。先を急ぐので」

僧侶「見慣れない中華服とマスクでしたねぇ。どこかで聞いた声をしていたような……?」

魔法使い「気のせいでしょ。あんなヘンチクリなの知り合いにいないし」

戦士「あ……あ……」ガクン

魔法使い「ちょ、膝ついてやめてよ。みっともない」

戦士「うぅ〜。タコちゃん」グスン

僧侶「たこ焼きなら私が買ってあげますからぁ」

戦士「まことか!」パァ

僧侶「ちなみにぃ、コロシアムの観戦料金っておいくらなんでしょぉ〜?」
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/13(土) 15:50:33.07 ID:ZDHf/1aA0
800スレって過去に無いなww
121 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/13(土) 16:09:12.38 ID:OTML+W87O
【コロシアム 控え室】

受付「マク・ドナルドさん、いらっしゃいますか?」

マク「あ、はい」

受付「チャンピオンからの推薦というお話なのですが、一応予選は受けていただきますので。こちらが日程になります」パサ

マク「ふむふむ、午前が予選で午後が本戦か」ペラ

受付「そうです。予選は無観客試合となりまして、この先にある広場でグループに分かれて行われます」

マク「天下一武闘会モロパクr」

受付「はい?」

マク「いや、ごほん、なんでもない。割とオーソドックスな形式だからな。うん」

受付「……? 登録される武器はいかがなさいますか?」

マク「武器? 使っていいの?」

受付「当たり前ですよ。職によって得意とする得物がありますし、無手が専門というのならそれでかまいませんが」

マク「怪我大丈夫?」

受付「素人同士ではありませんので。万が一、やりすぎた場合でも、五十人を超える医療スタッフが控えております」

マク「へー。そうなんだ」

受付「どうされます? 武器。なにも持ってきてないんですか?」

マク「うん、てっきり、俺、素手でやるもんだと」

受付「レンタルされますか? 強度に問題はありますが、使えなくはありませんよ」

マク「うーん、レンタルねぇ」チラ

受付「あの、まだ他の方にも聞いてまわらなきゃいけないので」

マク「おねーさんが使ってるそれでいいや」

受付「へ? 私ですか? ……ペンしかもってませんけど」

マク「ペーパーナイフ。貸りるよ」

受付「あ、あのー。やる気、あります?」

マク「ない」キッパリ

受付「……推薦なので、目を瞑りますが、早々に敗退なんてことになったチャンピオンにもペナルティありますので、一応」

マク「なんでよ」

受付「参加希望者は殺到しているからですよ。その貴重な定員枠をひとつ潰すのですから」

マク「めんどくせぇ!」

受付「本当にペーパーナイフでいいんですか?」

マク「はぁ、いいよ。お姉さんの幸運がありそうだし」

受付「……きっしょ」ボソ

マク「聞こえるようにボソって言うのやめていただけるかな⁉︎」

受付「わかりました。それでは、マク・ドナルドさんはペーパーナイフということで」カキカキ
122 : ◆7Ub330dMyM [sage]:2018/01/13(土) 16:11:45.63 ID:OTML+W87O
レスですよレスw
123 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/13(土) 16:26:07.52 ID:OTML+W87O
【予選広場 グループD】

マク「おー、いるいる」

司会「みなさーん! ご静粛に! ご静粛にー! こちらに注目してくださーい!」バンバン

マク「なんだ?」

司会「これよりぃ、グループ毎に別れて乱戦を行なっていただきまーす! 勝敗はシンプルに最後の一人が本戦出場です! 人数多いのでお願いしまーす!」

参加者達「もうはじめちまっていいのかぁ?」

司会「レフェリーは本戦までいませーん! どうせみなさんのほとんどが雑魚ですしー!」

参加者達「なんだとコラ!」

司会「かませ犬はぱっぱっとやられちゃってくださーい!」

参加者達「……」

烈海王「私は一向にかまわんッ!」

マク「えっ? おっ、おい」

烈海王「私は一向にかまわんっ!!」

マク「司会! 司会の人! どう見てもここにいちゃいけない人がいるよ! 勝てる気しない人が混ざってるよ!」

司会「さぁ、どうぞー! はじめちゃってくださーい!」カーンッ

マク「……」ゴクリ

烈海王「……こぉ〜」

マク「あ、あのぅ〜。あなた、海王ですよね? でちゃいけませんよね?」

烈海王「邪ッー!! 言葉は要らぬッ!!」ズザッ

マク「うおっ!」ヒョイ

烈海王「女々しくも喋るかァッッ!!」クワッ

マク「ひ、ひぃっ! こいつとやれよ! チャンピオン! ていうか、ふざけるじゃ……!」

烈海王「む……」ピタッ

マク「……?」

烈海王「しまった、闘技場を間違えていたか」

マク「あんたが行くのは地下だよ! ここじゃねぇよ!」

烈海王「失礼する」スタスタ

マク「……か、勘弁してくれよ」タラ〜
124 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/13(土) 17:05:42.15 ID:OTML+W87O
【コロシアム 観客席】

僧侶「すごい人だかりですねぇ。何人ぐらいいるんでしょう」

戦士「見た所、あむっ、三千人ぐらいじゃないか」

僧侶「大きな建物だったんですねぇ」

魔法使い「外から見る分にはガワだけだしね。収容人数はそんなに入るんだ」

老人「おろ、お主は」

戦士「……? お、昨日のご老人ではないか」

魔法使い「勇者が家の修理にっていってた人?」

僧侶「主人がいつもお世話になっておりますぅ〜」

魔法使い「いつ結婚したんだ、あんたらは!」

老人「そうカ。そういう話になってるカ。つったっとら邪魔ヨ。座るヨロシ」

魔法使い「いいんですか?」

老人「む?」

僧侶「女性が苦手なのではぁ〜?」

老人「なに寝ぼけたこといってるカ。若い頃は日替わりでとっかえひっかえネ」

戦士「それはどうかと思うが……勇者は」

老人「細かいことはいいネ。デモンストレーションはじまるヨ」

司会「皆さまぁ! お待たせいたしましたぁ! 現っ! チャンピオン! 女武闘家さんの入場でぇぇーーすっ!!」

武闘家「……」スッ

観客「おおーっ! 出てきたぞぉーー!」

観客「きゃーーっ! チャンピオーーン!」

司会「初壇上から負け知らず! 並み居る猛者をばったばったと倒して気がつけばチャンピオン! そう! 私こそがチャンピオン! 好きなものはぬいぐるみと乙女チックだー!!」

武闘家「ちょっ」アタフタ

司会「ただいま予選を行なっておりまして、この後、本戦へと進みますがまだ少々お時間がございます。その間、チャンピオンに一戦してもらおうぜー!!」

観客達「オォーーッ」ガヤガヤ

僧侶「耳がキーンってしますねぇ」

戦士「チャンピオンは目玉だからな」

老人「まったく、勘違いしすぎヨ」

魔法使い「勘違い?」

老人「観客達に言うてナイネ。言うてるのはあのバカ弟子ヨ」クィ

武闘家「……」ペコリ

老人「声援なんぞに応えおってからに。なにしにきたのか本分を忘れてるアル」

戦士「弟子とは……? ご老人、あなたの弟子なのか?」

老人「そうヨ。不甲斐ない弟子を持って穴に引きこもりたい気持ちネ」

僧侶「わぁ、じゃあ、お爺さんも強いんですかぁ?」

老人「当たり前ヨ。強さなんてのは――」

観客「キャーーッ! キラーパンサーよーー!」

魔法使い「キラーパンサー⁉︎ 大人の⁉︎」ガタッ
125 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/13(土) 17:27:07.25 ID:OTML+W87O
キラーパンサー「グルルッ」ズザッ

武闘家「すぅ〜……はぁ〜……」キッ

戦士「なるほど、デモンストレーションとはこのことか」

老人「バカバカしいヨ」

魔法使い「戦士だったら勝てそう?」

戦士「勝てないことはないだろうが、簡単にとはいかない――」

武闘家「哈っ(はっ)!!」パァンッ

キラーパンサー「ギャウッ⁉︎?」ドンッ ドサッ

僧侶「壁に叩きつけていっぱつ……ワンパンってやつですねぇ」

観客「うおおおおおおっ!! 強えっ!! お前こそがチャンピオンだ!」

戦士「……」

魔法使い「戦士より、あのチャンピオンって強いみたいね……」

老人「昨日の戦いぶりを見させてもらたアル」

戦士「ん? あたしか?」

老人「潜在能力ならうちの弟子とどっこいね。武闘家志望なら弟子にとってたが、生憎と剣士のようだシ」

戦士「あたしは、ちゃんと尊敬する師がいるよ」

老人「研鑽を忘れないように。光るモノはオマエももってるゲド、使わなければサビついてしまう」

戦士「ご忠告、覚えておこう」

老人「弟子といいライバルになりそうでなによりネ」

魔法使い「勇者じゃライバルってわけにはいかないもんねぇ」

戦士「あいつとも実力は近いよ。そうだ、今度定期的にやるか誘ってみるか」

老人「……やめとくアル」

戦士「……?」

魔法使い「おじいさん、やめるってなんで?」

老人「あいつとやったって稽古にならないヨ」

僧侶「あっ、帰っていくみたいですよぉ〜」

武闘家「……」フリフリ ペコリ

観客達「チャンピオン! チャンピオン! チャンピオン!」
126 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/13(土) 19:45:07.81 ID:/iL+wtxeO
【予選広場 グループD】

マク「――チキンナゲット5ピース拳っ!」ドンッ

ならず者「ぐえっ」ドサッ

司会「おっ! グループDは今ので最後ですねー! ……えぇ〜とぉ、マク・ドナルドさん本戦進出けってーい!」カーンッ

マク「ふぅ、やれやれ。異文化コミュニケーションした時はどうなることかと思ったが」

武闘家「……」スッ

マク「おっ、よぉ」

武闘家「素手でやってるの?」

マク「ん? うん、まぁ」

武闘家「師匠はああ言ってるけど、アタイ、信じられない」

マク「いいんじゃないか、それで。言われてもわかるもんじゃないだろ」

武闘家「それは、体験させるって言いたいの?」

マク「なんでそう物事を……斜に構えてとらえるんですかねぇ」

武闘家「本気じゃないから」

マク「む?」

武闘家「苦労した人にはね、ムカつくのよ。あなたみたいな人」

マク「……」

武闘家「アタイだって、昔から才能があると言われつづけてきた。でも、師匠に出会い、天賦の才に奢っていたのは自分だと気がついた。……そして努力するようになった」

マク「……」

武闘家「――あんた、努力したことないだろ」

マク「んー」ポリポリ

武闘家「師匠は今のアタイが気にいらないんだ。鼻を折るつもりだろうけど」

マク「そう言ってたなぁ」

武闘家「これはチャンス! 師匠にアタイの努力を見てもらうための! ……積み重ねてるものを……!」

マク「なぁるほど」

武闘家「勇者だかなんだか知らないけど、踏み台になってもらう。……じゃ」クルッ スタスタ

マク「……勇者と思わない、か。嫌いじゃないねぇ。ああいうの」
127 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/13(土) 20:03:28.03 ID:/iL+wtxeO
【コロシアム 観客席】

司会「れでぃぃぃすあんどじぇんとるめーーん! いよいよ本戦の開幕デーーーースっ!!!」

観客達「おおおおおぉぉぉーーっ!!!」

司会「十連続防衛中のチャンピオンの牙城を崩すやつはどいつだ! はたまた今回も防衛して破竹の新記録をたっせいするのかぁーーーっ! 無謀な挑戦者たちはぁ、こいつらだぁーーーっ!!」

僧侶「いよいよ本戦みたいですねぇー」

戦士「やはりこの空気はビリビリとくるものがある」

老人「口上で誤魔化してるダケヨ」

魔法使い「あっ、出てきた」

老人「さて、どこにおるアルカ」キョロキョロ

僧侶「チャンピオンの他にも知り合いがいらっしゃるんですかぁ?」

老人「今回の本命ヨ」

戦士「本命とは? 普通、弟子だろう?」

老人「ワシの弟子は負けるネ。ネタバラシて悪いけど確定ヨ」

魔法使い「えっ」

マク「……」スタスタ

老人「うんうん、ちゃんと勝ち進んでいるアルな」

僧侶「あのお方は〜……」

魔法使い「コロシアムの外で戦士とぶつかったやつじゃなかった」

戦士「あたしはたこ焼きしか見てなかった」

僧侶「くすくす。花より団子ですねぇ」

老人「女戦士よ」

戦士「なんだ?」

老人「アレをよく見ておくよろし。一挙一動、目を離さずに」

戦士「……?」ジィー

老人「勉強にはならないダロけど、気がつくものがあるカモしれないネ」

僧侶「と、いうことはぁ……あの選手が本命さんですかぁ?」

老人「台風の目といっても過言ではないヨ」

魔法使い「べ、べた褒めね」

老人「当たり前ヨ。強者たるもの、自分より強い者を褒めんと、なにを褒めるノヨ」

戦士「なに……?」

老人「独り言ヨ。聞き流すよろし」
128 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/13(土) 20:36:18.79 ID:/iL+wtxeO
【一回戦 マクvsナルシストな優男】

マク「んーとぉ、決勝までは三回勝たなきゃいけないわけか。チャンピオンってその間待つだけなの?」

優男「ふっ。貴様も運がないやつだ!」ビシィ

マク「運はないと思う、たしかに」

優男「一回戦からこのオレに当たってしまうとは……だが、情けはしないよ。なぜなら、女たちが悲しんでしまうから……」

マク「……」

優男「かっこよすぎるオレの罪……あぁっ! マーベラスッ!!」

レフェリー「間もなく試合が開始される。準備はいいか?」

マク「ああ」

優男「いつでも」

レフェリー「よし。まず、殺しはご法度だ。このルールだけは守れよ。じゃないと牢屋行きだからな」

優男「心得ているよ。そうなったら女たちが」

レフェリー「話を続ける。尚、この説明は一回戦のみとする、あとは割愛するからそのつもりで」

優男「彼には必要なかったろう」

マク「了解だ」

レフェリー「双方、立ち位置につけ」

優男「5秒で屠ってあげよう。せめてもの情けだ」ザッザッ

マク「……」ザッザッ

レフェリー「よし、位置についたな。……オーケーだ! ゴングを!」フリフリ

司会「一回戦の準備が整ったようです! キザな優男さんは前回の準々決勝で惜しくも敗れました! 今回は前回よりも高みを目指せるか! 注目の選手です!!」
129 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/13(土) 20:37:13.76 ID:/iL+wtxeO
観客「優男さーーーんっ!!」

優男「ふっ」キラン

司会「対するは、マク・ドナルド選手! チャイニーズの装いでマスクをかぶるというなんともあべこべな出で立ちですか実力やいかに!!」

マク「(……だりぃ)」

司会「それでは、レディィイッ! ゴォォオーッ!」カーン

優男「……さぁ、このレイピアの餌食となるか?」ジリ

マク「5秒じゃなかったのかよ。さっさとこいよ」ダラー

優男「むっ、武器は無手か? クローもないのか?」

マク「ああ、これ」スッ

優男「なんだね、それは」

マク「ペーパーナイフ」

優男「ほ、ほう……」ヒクヒク

マク「ほれ」スッ

優男「なにをしているんだね……?」

マク「構えた」プラプラ

優男「ふ、ふっふっふっ、なぜ貴様のようなやつが本戦に」

マク「はよこい」

優男「よかろうッ! 医務室で後悔するがいい!!」ダンッ ダダダッ

マク「バリューセット」スッ

優男「……っ⁉︎」

マク「てりやき三段突きっ!!」ドンドンドンッ

優男「なっ、はやっ……ッ⁉︎ がはっ!!」ドサァ

マク「おっちゃん。医務室に連れてってやれ」クルッ

レフェリー「おっ、お、えっ?」

司会「おーーっとぉ!! どうしたことだこれはぁ!! 優男選手が向うもあえなく返り討ちぃーー!! 倒れてしまったーー!」

優男「」

レフェリー「泡ふいてる。だめだな、こりゃ」フリフリ

司会「あーーっとぉ! レフェリーが腕を交差したぁ! けっちゃーーくっ! なんともあっけない幕切れ!! マク・ドナルド選手の圧勝だぁーーっ!!!」
130 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/13(土) 20:46:57.11 ID:/iL+wtxeO
【観客席】

戦士「……」ジィー

老人「どうネ。理解できたカ?」

魔法使い「あの相手が弱かっただけじゃないの?」

老人「弱いヨ」

魔法使い「な、なんじゃそりゃ」ズル

老人「というか、この大会自体出てるやつみんな弱いネ。ワシから言わせれば。その中で順位競ってるカラ、滑稽なのヨ」

戦士「たしかに、はやかったが」

老人「情報量が少なすぎタカ」

僧侶「あの、でもぉ、準々決勝ならそれなりだったんじゃぁ」

老人「他と比べて普通ぐらいカヨ。次いってミヨ」

魔法使い「それにしても、だるそーにしてたわね。あのマク・ドナルドって人」

老人「かっかっかっ! そらそうよ! 遊び相手にもならんモノ」

僧侶「……でもぉ、どこかで見たことがあるようなぁ〜」
131 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/13(土) 21:03:20.84 ID:/iL+wtxeO
【準々決勝 マクvsおかっぱの女】

マク「女かよ」

おかっぱ「……オトコ、男、むおおおおおっ!」ムキムキ

マク「訂正、女じゃなかったわ」

司会「おかっぱの女選手は前回の決勝進出選手なので、シード扱いとなります。よってぇ! 準々決勝はぁ、このカードだぁー!」

マク「シードなんてあったのか。んー、あ、表をよく見ると武闘家は反対側から勝ち進んでるのね」

おかっぱ「おとこおおお、おとこおおおおっ!!」

マク「別の意味で身の危険を感じる」

司会「マク・ドナルド選手は初出場ながらも、初戦は見事な勝利をおさめました! その実力はホンモノなのか! レディィイッ! ゴォォオーッ!」カーン

おかっぱ「むふーっ、むふーっ」ズシン ズシン

マク「おわかりいただけるだろうか」

おかっぱ「むふーっ、むふーっ」ズシン ズシン

マク「身長2メートル、体重100キロを超そうな体躯をした女が向かってくる恐怖を」

おかっぱ「ぎぁあああおっ」

マク「恐竜のような雄叫びをあげている様を」

おかっぱ「どっせえぇいっ!!」ブンッ

マク「おっ」ドンッ

司会「おかっぱ選手の張り手がマク選手にクリーンヒットォ!! 直撃だぁーーっ!!!」

マク「……シャオリーです」タンッ

司会「しかーし! なにごともなかったかのようにしているぅー!」

マク「また海王でてきたらこわいからここまでにしとくか。ほら、こいよ」クイクイ

おかっぱ「おとこおおおおおおっ!!」ズンズンッ
132 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/13(土) 21:16:21.97 ID:/iL+wtxeO
【観客席】

魔法使い「なんか飽きてきた」

老人「オマエ魔法職。なら、見ていて楽しいモンではないヨ」

魔法使い「賭ければよかったかな。戦士、誰かに賭けてる?」

戦士「……」ジィー

魔法使い「って、聞いちゃいないか」

僧侶「私は賭けましたよぉ〜」

魔法使い「いつ? ていうか、ほんと抜け目ないわよねぇ」

僧侶「魔法使いさんがヌケサクなんですよぉ〜」

魔法使い「そ、そう……! ケンカ売ってるわけね?」

僧侶「誰に賭けたか気になりませんかぁ?」

魔法使い「聞いてほしいなら素直に……誰よ」

僧侶「マク・ドナルド選手ですぅ〜」

魔法使い「へー、おじいさんの話がホントなら優勝するんでしょ? よかったじゃない」

僧侶「はい〜。初出場ということもあってぇ、オッズは150倍でしたぁ」

魔法使い「大穴ね。いくらかけたの?」

僧侶「全財産です〜」

魔法使い「ぜっ……や、やるわね。でも、もし負けたら返ってこないわよ?」

僧侶「第六感を信じようと思いましてぇ」

魔法使い「まぁ、あんたのお金だからいいけど」

僧侶「魔法使いさんのお財布もですよぉ〜」

魔法使い「……えっ」

僧侶「さっき、席を外した時に麻袋から持っていきましたぁ」

魔法使い「ちょ、ちょっと〜、タチの悪い冗談やめてよー……」ゴソゴソ

僧侶「……」ニコニコ

魔法使い「な、ないっ! ない! うそ⁉︎」ブンブン

僧侶「ですからぁ〜」

魔法使い「僧侶っ! あんた⁉︎」

僧侶「みんなでマクさんを応援しましょ〜」ニコニコ

老人「やるアルネ。オマエ」
133 : ◆7Ub330dMyM [sage]:2018/01/13(土) 21:56:02.95 ID:/iL+wtxeO
今日はここまで。意外に進まない
134 : ◆7Ub330dMyM [sage]:2018/01/13(土) 23:18:28.96 ID:XHxRr4XKO
キリのいいところまで書いてしまいます
135 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/13(土) 23:35:55.73 ID:XHxRr4XKO
【決勝 マクvs女武闘家】

司会「青コーナー! 連戦無敗のチャンピオン! 女武闘家ぁー!」

観客「チャンピオン! 頑張れよー!」

武闘家「谢谢(シエシエ)」ペコ

司会「迎えるは準々決勝、準決勝と危なげなく勝ち進んできた謎のチャレンジジャー! マク・ドナルドだぁー!」

観客「なんかようわからんが頑張れー!」

マク「適当な応援ありがとよ!」

魔法使い「勝て! 死にものぐるいで勝ちなさい!」

マク「あ? なんか聞き覚えのある声がまじってたような」

武闘家「……疲れてないか?」

マク「疲れてたら手加減してくれんの?」

武闘家「冗談。そんなふざけた雰囲気はここでおしまい」

マク「えぇー、やだなー。もっとふざけたいのにー」

武闘家「うざっ」

マク「すみません」

武闘家「……すぅ〜……はぁ〜……」

マク「それってなんか統一法だったりすんの? 発勁とか?」

武闘家「気が散る」

マク「はい」

司会「泣いても笑ってもこの一戦で今日はフィナーレです! ではぁ、試合、開始ィッ!!」カーン

武闘家「……ひとつ、聞きたい」

マク「なんだね?」

武闘家「強いって、どんな気持ち?」

マク「……」

武闘家「アタイに見えない景色が見えてるんだろ?」

マク「つまんないよ。なにもかも」

武闘家「どうして? 強ければ嬉しくないの?」

マク「ノーテンキに構えてりゃそうかもしんないけどな。俺ってこう見えて繊細なの」

武闘家「……見えないけど」

マク「こう見えてって言ったろ」

武闘家「師匠の言う通り、最初から全力でいこうと思う」

マク「どーぞ」

武闘家「……」ゴゴゴッ

マク「(力溜めてんのか)」
136 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/13(土) 23:49:08.84 ID:XHxRr4XKO
【観客席】

魔法使い「やれ! 殺っちゃえー!」

僧侶「くすくす。熱中してなによりですー」

戦士「女武闘家の雰囲気が変わった。最初からフルでやるつもりか」

老人「いい心構えネ。小細工は不要よ」

戦士「あのマク選手。たしかに強い。これまでの危なげなく勝利した戦いを見ても、そう思う」

老人「……」

戦士「ご老人。しかしだな、あたしはたぶん女武闘家が」

老人「それは合わせてただけよ」

戦士「……なに? 合わせる?」

老人「マクは相手の強さに合わせる。手を抜くのに慣れすぎてるネ。かわいそうな男ヨ……これまでそうしてきたんだロウ」

戦士「手を、抜く?」

老人「つまり、相手が子供だたら自分も子供レベルまで弱くするヨ。優しいんだろネ」

僧侶「……」

老人「だがしかし、それは武に生きる者にとっては、これ以上ない愚弄ヨ」

魔法使い「いけーっ! 今が隙だらけなんだから攻撃するのよー!」

戦士「では、武闘家の強さにも合わせるということか?」

老人「そうであれば、救えないネ。でも、ちゃんと事前にコテンパンするよう言ってあるから大丈夫ダロ」

僧侶「おじいさん、あの人って、やっぱり……」

老人「そろそろ体内の気を練り終わる」
137 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/14(日) 00:09:18.46 ID:kHGtQHyDO
【広場】

武闘家「……ッ」キッ

マク「かもん」クイクイ

武闘家「あちょぉ〜〜〜〜ッ!! 二段蹴りッ!!」ダンッ

マク「甘い……!」スッ

武闘家「まだまだっ!! 回転脚ッ!!」ガンッ

マク「おっ、おっ」スッ スッ

武闘家「はぁぁ〜〜〜ッ!! 正拳突きっ!!」バァンッ

マク「うっ」ズザザ

司会「流れるような女武闘家選手の攻撃がマクを選手を襲うー! そしてとどめの正拳突きがクリーンヒットォーー!」

武闘家「……」スッ

マク「いてて。直線的な動きとはいえ、食らうといてぇな」

武闘家「まじめにやれ」

マク「やってるよ」

武闘家「ふざけるなっ!!」ダンッ

マク「いやー、本気でやろうとしてるんだけど、どうやるのか忘れちゃっててね」

武闘家「……そうか、なら思い出せるのからはじめないといけないのか」

マク「うーん、でもまぁ、ちょこっとならいいよ」

武闘家「……」ピク

マク「出し惜しみしてるわけじゃないんだけどな。爺さんがうるさそうだし、本気、見せてやるよ」

武闘家「面白い……! 伝説の存在の力! 見せてみろ!」

マク「んじゃ手始めに」ブンッ バンッ

司会「な、なんだー⁉︎ どうしたマク選手! いきなり地面を殴ったーー!!」

武闘家「……?」

司会「これは降参ですという合図なのかーー⁉︎」

ゴゴゴッ ゴゴゴゴゴゴッ メキメキ

武闘家「な……そんな、まさか……」

マク「地割れって、知ってる?」

司会「な、なななっ! マク選手が殴ったところから大地が割れたーー! きゃあっ⁉︎」ガラガラッ

ゴゴゴッ ゴゴゴォッ

マク「さらに、もう一発」ブン バンッ

ゴォォオーッ

武闘家「ま、まずいっ!」ダンッ
138 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/14(日) 00:16:17.89 ID:kHGtQHyDO
【観客席】

老人「アイヤー、本気でやれ言うたけど誰が見せろ言うたネ。この建物壊す気かあのボケ」

戦士「な、なんだこれは。どうなってる!」

魔法使い「じ、じじじ地震?」

僧侶「あらあらぁ」

老人「イヨイヨなったらワシが止めにはいるヨ。オマエら逃げる準備しとけ」

魔法使い「だ、だだただ大丈夫なの? これ」

老人「無問題」

魔法使い「な、何者よ! あのマクとかいうやつ!」

老人「それは後で本人に聞いてみるがよいよ」

戦士「……っ! こ、こんな力、人間か⁉︎ 」
139 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/14(日) 00:36:14.74 ID:kHGtQHyDO
武闘家「……くっ」

マク「なんでもさ、魔王ってのはいくつも障壁もってるらしいんだよね」

武闘家「だ、大地を割るなんて……」

マク「だからなのかもしれんけど、俺ってばその何層かの膜を打ち破るパワァーがあるみたいなのよ」

武闘家「……っ」ゴクリ

マク「地割れなんてさ、ほんの見せかけだけ。派手だけどな。どうする? もうやめる?」

武闘家「……や、やめられるものか……」

マク「そうだよな。ひっこみつかないよな」

武闘家「い、いくぞっ! 正拳突きっ!!」ダンッ ブンッ

マク「っと」パシッ

武闘家「つ、掴んだっ⁉︎」

マク「正拳突きって直線的すぎるから、当たった時はダメージでかいけど命中率はそんな高くないよ。予測しやすいし」

武闘家「くっ、離せ」ブンッ

マク「はい」パシッ

武闘家「あっ、りょ、両手を。ならば、蹴りで」

マク「……」ギュゥッ

武闘家「いっ⁉︎」ガクンッ

マク「動作を殺すのは、痛覚が一番なんだよ。拳を握られた痛みで、足がでなくなったろ」ギリギリ

武闘家「うっ、く、くぅっ」

マク「でも俺の足はあいてるんだな、これが。女の腹蹴るのは気がひけるから、胸にしとく。いいか、今から胸のあたりを蹴るからな」スッ ブンッ

武闘家「……っ! きゃあっ!!」ドゴーーン

司会「女武闘家選手、壁まで一直線に吹っ飛んだーーっ!! 凄まじい蹴りです!! 単なる蹴りなのでしょーか!」

マク「レフェリーのおっちゃん、隠れてないで出てきて」

レフェリー「ひっ」

マク「毎回悪いんだけど、医務室に連れてかないと」

レフェリー「あっ! だ、大丈夫か⁉︎」

武闘家「」パラパラ

レフェリー「おい、 医務班! 医務班!」

観客達「マジかよ」ザワザワ

司会「えっ? お、終わり?」
140 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/14(日) 00:54:08.11 ID:kHGtQHyDO
【観客席】

老人「一時はどうなることかおもたけど、おわたカヨ。コテンパンにするどころか、ってないネ」

戦士「ご老人!! あれはどういう知り合いだ!!」

老人「まぁ、弱いのは自覚できたろうから良しとスルか」

魔法使い「あ、あんなの、マクがいれば、魔王城付近のモンスターとも渡りあえるんじゃないの……?」

老人「あれでもちょっこっとしか見せてないと思うヨ」

戦士「な、なに? ちょこっと?」

老人「そうヨ。普段を0.1としたら0.5ぐらい?」

魔法使い「それって、1が上限?」

老人「100が上限に決まってるダロ。1だったらたいしたことなくなる」

魔法使い「い、今ので? 補助魔法かけてない状態よ? ……アレフガルド、滅ぼされちゃうんじゃないの……」

老人「大袈裟な。こっち側の人間なんだからいいヨ」

僧侶「これで、賭け金ゲットですねぇ〜」ニコニコ
141 : ◆7Ub330dMyM [sage]:2018/01/14(日) 00:55:42.05 ID:kHGtQHyDO
ちと駆け足ですがここまで。
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/14(日) 01:38:38.84 ID:2/+ZkVAo0
クソ面白いな

続き期待
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/14(日) 01:54:11.76 ID:BdLSUZbA0

王道SSはやはりいいものだ
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/14(日) 08:25:23.67 ID:nzy4Aab+O
一昔前のなろう小説のような気持ち悪さ
145 : ◆7Ub330dMyM [sage]:2018/01/14(日) 12:36:44.93 ID:o71JjVk4O
勇者SSとしては結構王道路線なんですけどねw
勇者TUEEE演出するにあたりワンパターンでひっぱりすぎたのが悪かったかなと少し思います
いきなり路線変更しても話がぶっこわれてしまうんでこのままもう少し続きます
146 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/14(日) 13:01:39.37 ID:o71JjVk4O
【医務室】

武闘家「うっ……」ムク

勇者「目が覚めたか」

武闘家「……そうか、蹴り一発で気を失ってしまったのか……」ポフン

勇者「ちゃんと鍛えてたお陰だろ。気絶で済んだのは」

武闘家「勝者が敗者に……!」ググッ

勇者「悪かった。それじゃ、俺は行くよ」

老人「待つアル」スッ

勇者「じーちゃん」

老人「たかだか一回の敗戦で、なにをイキってるネ」

武闘家「し、師匠」

老人「悔しいカ?」

武闘家「まだ、実感が……」

老人「そうダロよ。何度か寝て起きたらじんわりと負けという事実がのしかかってくるアル」

武闘家「……」

老人「あの時こうしておけばよかた、もっとできたはず……そして、その先にアルものは、自信の喪失ヨ」

武闘家「アタイは……」

老人「オマエが積み重ねてきた拳は、なんのタメにあるのヨ」

武闘家「なんの、ため」

老人「楽しくないとつらい修行はやってられないヨ。オマエ、ドMか?」

武闘家「そ、そんなわけっ、ないじゃないですか……」

老人「成長、変化が楽しく。たまにうまくいった時が気持ちイイからダロヨ」

武闘家「は、はい……」

老人「見世物小屋に長居しすぎたヨ。ワシも悪かったアル」

武闘家「いえ、そんな、アタイが未熟なせいで」

老人「謙虚さがあるならまだ取り戻せる。学ぶ姿勢はイツだって、傲慢とはかけ離れてイル」

武闘家「はい」シュン

老人「勇者よ。マスクかぶってちとついてくるアル」

勇者「お、おう。だけど、ついておかなくていいのか」

老人「ヒナはヒナなりに考える時間が必要ネ。ほっとくよろし」クルッ スタスタ
147 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/14(日) 13:24:51.85 ID:o71JjVk4O
【通路】

マク「なぁ、じーちゃん、本当にほっといてよかったのか」

老人「オマエ、過保護すぎよ。優しさを履き違えるの、よくないアル」

マク「いや、そうだけど」

老人「負け癖がつくのがよくないだけで、負けは変わるきっかけに他ならないノヨ。弟子をありがとうアル」ペコ

マク「やめてくれよ。俺は、自分のしたかったことをしただけで」

老人「本当にソウか?」

マク「ただの自己満だよ」

老人「ならば、なぜこんなところにイル。女戦士にどう思われようといいダロ? 惚れてるカ?」

マク「そういうんじゃ、ねえけど」

老人「マゴマゴしてないでやりたいように生きればいいアル。オマエは“勇者”に縛られてるんダロ」

マク「……」

老人「人々の勇者に対する期待、羨望のまなざし。いつだってそれに晒されて生きてきた。ガラスの家に住んでいた気分だったロヨ」

マク「そんなたいしたもんでは」

老人「いつしか、心は壊れてしまうネ。勇者という肩書きと、本来の己との乖離のハザマで」

僧侶「あっ、おじいさ〜ん!」フリフリ

マク「いっ⁉︎」ギョ

魔法使い「マクってやつもいる!」

老人「ここに集まるアル」

マク「ちょ」サッ

僧侶「初めましてぇ〜。マク選手すっごくかっこよかったですよぉ〜」

魔法使い「ねえねえ、私たちのパーティに入らない? マクさんがいれば百人力って感じだし! ね! 戦士もそう思うわよね?」

戦士「あ、ああ」

僧侶「無口なんですねぇ〜?」

老人「やれやれ。こいつはまだ修行中の身。喋ることを禁じられてるアル」

戦士「そうなのか? そういえば、聞いたことがある、モンクというんだったか?」

老人「この男の肉体的強さは、先ほど見たとおり折り紙つきヨ。しかしアル。心と精神はまだまだネ」

魔法使い「別にいーんじゃない? あんだけ強ければ」

老人「諸刃の剣ヨ。アンバランスな均衡は、時に自分を追い詰めてしまうモノ」

僧侶「……」

老人「マクの代わりに提案があるアル」

戦士「提案? なんだ?」

老人「我が弟子を連れてくヨロシ」

魔法使い「えっ、弟子って、チャンピオン⁉︎」

老人「そんな肩書きはもう失ったヨ。こいつに負けてナ。しがないひとりの武闘家ネ」

僧侶「勇者さまに聞いてみないとぉ〜」

老人「……その必要はないよ。マク、どう思うネ?」

マク「……っ!」

老人「ワシも策士ダロ? クビを縦にふるか横にふるかで答えるヨ。そうしなかった場合は――」

マク「〜〜ッ!」コクコクコク

老人「決まりアル。勇者とやらにはワシの家の修理が終わったら、伝えておいてヤル」

魔法使い「なんで……マクに聞いたら……」

戦士「おっけーなんだ?」
148 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/14(日) 13:41:17.74 ID:o71JjVk4O
【夜 宿屋 食堂】

魔法使い「それでさぁ、マクが地面殴ったとおもったらメキメキメキィッて亀裂がはしったのよ! 信じられる⁉︎ 大地を割ったの!」

勇者「はいはい」

魔法使い「やがて亀裂が壁にまで到達してさ! 地震かと思っちゃった!」

僧侶「くすくす。魔法使いさん、すっかりマク選手のファンですねぇ」

戦士「いや、しかし、たいしたものだ。どうすればあそこまで極められるのか」

魔法使い「戦いたいとか言い出す?」

戦士「……やめとくよ。差がありすぎてな。なにもできずに終わってしまう」

魔法使い「あっちが勇者だったら信憑性あるのになぁ〜。もうほんと凄かったんだから!」

勇者「……そうですか。今日の給料。100ゴールド」ジャラ

魔法使い「あ、そうそう。お爺さんに会ったわよ。全然女嫌いじゃなかった」

勇者「あ、そ、そう?」

魔法使い「勇者って見る目ないわね」

僧侶「それはどちらがでしょうねぇ」ニコニコ

魔法使い「サインもらっておけばよかったかなぁ〜」

戦士「握手、してもらえばよかったかな」ボソ

魔法使い「意外ね。戦士もそういうこと思うんだ」

戦士「ひ、独り言だ」

僧侶「灯台下暗し、ですよぉ〜」

勇者「……」ハラハラ

僧侶「本当にお二人は、ヌケサクさんですねぇ」ニコニコ

149 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/14(日) 13:57:55.24 ID:o71JjVk4O
【その頃 武闘家の家】

老人「勇者についてって、見聞を広げるアル」

武闘家「ですが……! アタイはまだ師匠の元で」

老人「子供に旅をさせるのは良いことヨ。ワシも老いたネ。一緒にいくには」

武闘家「……っ!」ギュウ

老人「世界を見てまわり、己の目と耳で見聞を広げヨ。殻の世界に閉じこもるのはここまでにするアル」

武闘家「し、師匠」

老人「いつまでヒナのつもりでイルネ。オマエも自分で判断できる歳ダロヨ」

武闘家「……うっ、ぐすっ、アタイを、見捨てられるのですか……っ」ポロポロ

老人「オマエは優秀な弟子ヨ。この世でただひとり、ワシが才能に惚れこんだのは」

武闘家「……」シュン

老人「ワシが教えられることにも限界がアルヨ。成長する姿を見せることに自信がないノカ?」

武闘家「……」

老人「子の成長はいつだって嬉しいもの。血の繋がりはナイが、それまでは長生きしておいやるアル」

武闘家「師匠……!」ゴシゴシ

老人「行ってくるアル。……結婚したら生まれてくる子供は、ぜひ、ワシの弟子に」

武闘家「別れの場面でふざけないでください!」

老人「いや、本気」

武闘家「なおさら問題です!! 怒りますよ!」

老人「しかし、オマエ、この世界はわりと婚姻ハヤいから、行き遅れなんてあっというま……」

武闘家「あちょお〜〜〜っ」スッ

老人「ま、待つアル! わかたわかた! ドウドウ」アタフタ

武闘家「……はぁ、男には、興味ありません」

老人「人の縁(えにし)とは、わからないモノよ」
150 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/14(日) 14:23:09.25 ID:o71JjVk4O
【翌日 マッスルタウン 出口】

魔法使い「あ〜、今日もマクさん試合するのかなぁ」

戦士「ディフェンディングチャンピオンだからな。当然だろう」

勇者「……」

僧侶「くすくす」

魔法使い「見に行きたいなぁ」チラ

勇者「だめだ。昨日は予定外に道草くっちまったんだから」

魔法使い「ケチ。男の嫉妬ってみっともないわよ」

戦士「勇者も鍛錬すればまだまだ伸びると思うぞ」

魔法使い「そういうんじゃなくて! 圧倒的なのに惹かれるんじゃな〜い! 完成形の魅力ってやつ?」

僧侶「育てるのも女の嗜みだと思いますけどぉ」

魔法使い「可愛げがあればいいけどねぇ、こいつじゃ」チラ

勇者「なんだよ」

魔法使い「……」ジトォー

勇者「そんなに目を細くして。ゴミでもはいったのか? 近眼?」

魔法使い「……はぁ」ガックシ

老人「おい、お主たち」

馬「ブルルッ」パッカパッカ

戦士「ご老体、その馬車は」

老人「これまで賞金を溜め込んでたカラナ。旅の選別ヨ。仲間が増えれば馬車はつきものダロ? まだ増えるかもわからんシ」

魔法使い「くれるの⁉︎」

老人「それと、ほれ」ポイッ

魔法使い「わっ⁉︎」ワタワタ

老人「アイヤー。そんなものも受け取れない反射神経カヨ」

魔法使い「魔法職なんだからいいでしょ! ……あれ、これって」

老人「イーリスの杖ヨ。昨日、マクから渡しておいてもらうように頼まれたネ」

魔法使い「えっ⁉︎」

戦士「ほう、なかなかに粋な計らいを」

魔法使い「で、でもっ、私、ちょっと会っただけなのに」

老人「受け取るヨロシ。それがあいつも望んでおるコトネ」チラ

勇者「ご、ごほんっ!」
151 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/14(日) 14:25:29.65 ID:o71JjVk4O
魔法使い「そ、そんな……私、お礼を言ってこなくちゃ」ギュウ

老人「マクならもういなくナタヨ」

魔法使い「えっ、そ、そうなの?」

戦士「チャンピオンなのにか?」

老人「すぐに返上したらしいヨ。運営は嘆いていたが、今日にも新しいチャンピオンは決まるアルネ」

戦士「いったい、どこに……」

老人「弟子よ!! いつまで荷台に引きこもってるアルか! 出てきて挨拶するアル!!」クワッ

勇者「……おい、じいちゃん」

老人「黙るアル。最後の指導に口を挟むの良くない」

武闘家「……」スッ タンッ

魔法使い「あ、元チャンピオン」

武闘家「お初にお目にかかります。よろしく」プイ

戦士「な、なんとも……」

僧侶「愛想がないですねぇ〜」

老人「なにはともあれ、気楽にやるヨロシ」
152 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/14(日) 14:43:00.49 ID:o71JjVk4O

〜〜第1章『マッスルタウンのチャンピオン』〜〜


153 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/14(日) 14:59:29.07 ID:o71JjVk4O
くぅー疲。
というわけでここまでを昨日に書ききってしまいたかってんですが睡魔には勝てず。。
これにて一章と位置づけした武闘家が仲間にくわわるまでが終了となります。

わりとオーソドックスな勇者SSを書こうとはじめ、新鮮味はなかったでしょうが、どこかで読んだような安定感はあったはずと自負します。
昔ながらのSS好きな人の琴線に触れることはできたんではないでしょうか?

どんなもんだったでしょ?
批判も含み感想をお待ちしております。
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/14(日) 15:09:44.41 ID:9bWVdO6Oo
いいね
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/14(日) 15:10:37.04 ID:LJkX3We40
乙!
もう……好き。(語彙力)
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/14(日) 15:11:54.54 ID:suw+/xnxo
おつー
王道が好きな俺にはどストライクだったよ
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/14(日) 15:16:55.90 ID:wCS29IgP0
批判なんて気にしなくていいよ。
そもそも金とって読ませてるもんでないし
不満ならそれ以上のもの書いて読ませてくれってなもんで。
面白いから続けておくれ。
待ってる。
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/14(日) 15:40:14.05 ID:fqsB5PN3O
乙!
一気に読んでしまった
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/14(日) 15:52:40.03 ID:yn36M8pF0
なろう系というよりは自分はワンパンマンみたいなチートの中に爽快感を感じた
サイタマと似てる気がする
全員に個性持たせてるのが本当にいい
160 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/14(日) 18:15:44.12 ID:wnnh1YX3O
あらかた感想はいただいた感じでしょうかね
書いていただいたみなさんありがとうございます

批判はなければないでいいのですが、別の見方もできますから
やりすぎてる感があるときはたしかにと自分でも思ったりします

では第二章をスタートします
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/14(日) 18:36:02.93 ID:LJkX3We40
Foooooooooooo!!!!!
162 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/14(日) 18:37:05.29 ID:wnnh1YX3O
【馬車 荷台】

魔法使い「ふんふーん♪ うふふ♪」ニッコニッコ

僧侶「よかったですねぇ、魔法使いさん」

魔法使い「はぁ、マク様……。ありがとう」スリスリ

戦士「チョロイやつだ。物で釣られるとは」

魔法使い「つ、釣られてなんかっ! ……あんまり、プレゼントもらったことなぃんだもん……」

僧侶「それが欲しいものなら尚更嬉しいですよねぇ〜、偶然を加味するとロマンチックですぅ」

戦士「ふん、男なら腕っ節だろ」

僧侶「それもわかりますぅ。強い男性に惹かれるのは、種の生存本能に訴えかけてきますしぃ〜」

魔法使い「わからないのは顔だけよね。どんな顔してるのかしら? イケメンだったらどうしよう」

戦士「顔なぞ……」

僧侶「良いにこしたことはないと思いますよぉ? 男性だって、容姿端麗な女性に惹かれるじゃないですかぁ〜」

戦士「男の目線はみんな下心だ。女は違うだろ」

魔法使い「戦士はどう思うの?」

戦士「あたしは……さっきも言ったが男は腕っ節だと思う。ほかのは付加価値だな」

僧侶「占める割合が大きいんですねぇ。やっぱりぃ、自分より強い人が好きとか?」

戦士「それもある。嫌だろ、あたしよりなよっちぃ男なんて」

魔法使い「た、大抵の男は戦士より弱いんじゃないの?」

戦士「だから、男は――」

僧侶「マクさんはどうですかぁ?」

魔法使い「……それもそうね、戦士が敵わないっていう条件ならクリアしてるし」

戦士「顔もわからないやつを好きになれるかよ……」

僧侶「んー、顔は重要じゃないってぇ〜」

戦士「ちっがぁーうっ! 内面を知らないやつを好きになれるかっての!」

魔法使い「そもそも、オンナ捨ててたわよね」

戦士「うっ、いや、それは」
163 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/14(日) 18:51:13.59 ID:wnnh1YX3O
僧侶「……武闘家さんはどう思いますかぁ?」

武闘家「……」

魔法使い「ねえ、元チャンピオン。パーティにはいったんならもうちょっと愛想良くしたらどう?」

戦士「無理にとは言わないが、まだまだ旅は続くわけだしな。コミュニケーションをしてくれると助かる」

武闘家「……アホくさ」

魔法使い「なっ⁉︎」

武闘家「男だとかなんだとか、そんなのでキャアキャア言ってるなんて」

魔法使い「ちょ、ちょっとあんた! まともに喋ったかと思えばそれ⁉︎」

僧侶「まぁまぁ。おさえておさえてぇ」

戦士「すまない、あたしたちも初対面で馴れ馴れしくしすぎたかもしれん」

僧侶「でもぉ、なんでパーティに入ろうと思ったんですかぁ?」

武闘家「関係ないでしょ」プイ

魔法使い「大方、あのおじいさんに言われたんでしょ? だから拗ねてるんだ?」

武闘家「うるさいなぁ」

魔法使い「あたし達は仲間になってんのよ? 命を預けられる? そんな態度で」

武闘家「別に。自分の命くらい自分で守れば?」

魔法使い「ぐぬっ! じゃあなんでここにいんのよ! 一人旅でもすれば⁉︎」

僧侶「おー、よしよしぃ」ナデナデ

魔法使い「犬扱いすんな!」

戦士「……決勝は残念だったが、その他の戦いは見事だった」

武闘家「あっそ」

戦士「どうだ? 今度手合わせしないか? なんだったら、勇者も一緒に。あいつは私と同じくらいの強さで」

武闘家「戦士……って言ったっけ?」

戦士「そうだぞ。よろしく」

武闘家「それ本気で言ってる?」

戦士「ダメか? 良い鍛錬に――」

武闘家「そこじゃなくて。誰と誰が同じくらい?」

戦士「む……今の話の中でか? あたしと勇者だが」

武闘家「ぷっ、くっくっくっ」

魔法使い「……?」

戦士「なんだ? なにがおかしい」

武闘家「ザコ。勝負なんて願い下げよ」
164 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/14(日) 19:18:51.94 ID:wnnh1YX3O
【馬車 手綱】

勇者「のどかやなぁ〜。お前もそう思わんか?」

馬「ブルルッ」パッカパッカ

勇者「ほんにのどかやでぇ〜。このまま時間が止まれば――」

――ドゴォンッ!!――

馬「ヒヒーンッ」ビクゥ

勇者「おっ⁉︎ ちょ、ちょっ! どーどー! 静まれ!」

馬「ブフォ」タンタン

勇者「な、なんだ? 荷台が揺れた……?」

戦士「自分で吐いたその言葉! 簡単には飲むなよ……!」バキィッ

武闘家「ほんとのこといってなにが悪いってのさ」バキィッ

勇者「あんれまー。新品の馬車の荷台をぶっ壊して出てきたように見えたけど。疲れてるのかな」

魔法使い「勇者!」

勇者「やめて。現実逃避してるのにやぶれた穴から話しかけないで」

魔法使い「二人を止めないと!」

勇者「ゆ、夢じゃなかったの? ウソ、ウソだといってよバーニィ」

戦士「コミュニケーションしようと思ったのが間違いだったようだ」チャキッ

武闘家「……ふん。ザコのくせに」スッ

勇者「お、おまえらぁぁぁぁああっ!!」クワッ

戦士「口を出すな、勇者」

勇者「出すに決まっとるわい!! どうすんだよ! いきなり穴あけちまいやがって!! まだ出発して半日もたってねぇぞ!」

武闘家「それは、こいつが……」

勇者「お前もしっかり穴あけとるやないかい! 2つ! わかる? ふーたーつぅー!」

武闘家「うっ」

戦士「穴ぐらいなんだ。男のくせに細かいやつだな」

勇者「ホワッツ⁉︎ アナタ、イマナントイッタカ⁉︎」

戦士「うっ、いや、男のくせに」

勇者「アーユークレイジーッ⁉︎」

魔法使い「僧侶。勇者が言ってるあれ。どこの言葉?」

僧侶「さぁ〜。でもぉ、いいんじゃないですかぁ? 勇者様の勢いにタジりだしてますしぃ」

武闘家「あ、アタイは……」

勇者「シャラップッ!!」

戦士「お、おい、勇者、さっきから何語を……」

勇者「シッダウン! シッダウン!!」

戦士&武闘家「……?」

勇者「……はぁ、あのなぁ、知り合ったばかりだし、喧嘩するのもしゃーないけど。物は壊さないようにやれよ」

武闘家「やっぱり、アタイはこのパーティから」

勇者「じいさんと約束してんだろ? 会って日にちが長いわけじゃないけどさぁ。俺に連れてけって言ったんだ。お前はここにいろ」

武闘家「……戦士とは別にしてほしい」

勇者「お安い御用です! 個室を用意します! ……できるわけねーだろ。馬車に仕切りなんか作れるか」

武闘家「……」ブスゥ

戦士「やはり、力で決着を」

勇者「もう太陽が傾きはじめてる。やるなら止めないから、次の村についてからやれ」
165 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/14(日) 19:37:35.39 ID:wnnh1YX3O
【ミンゴナージュの村】

勇者「はぁ、どうすんだよ。この穴」ジー

僧侶「アップリケでもつけますかぁ?」

勇者「トホホ。なんで半日でズボンの穴あき処置みたいなことを……」

魔法使い「あ、蝶々」

勇者「わぁー、ほんとだぁー! ってなるかい!」

魔法使い「暇なんだもん。ここアルデンテの村みたいな田舎だし。それに――」

武闘家「あちょお〜〜〜〜っ!! ハイィッ」ダダダッ

戦士「むっ、このっ……! くっ!」キンキン

魔法使い「あっちは脳筋だしさ」

勇者「……」

僧侶「勇者様ぁ、テントの生地がありますよぉ」ビリビリ

勇者「そ、僧侶さん? 普通、ありますって言う時はその後の対応を聞くものでは? なぜに破ってらっしゃる?」

僧侶「使わないんですかぁ?」ビリビリ

勇者「どーすんだよ! これから野宿するとき!」

魔法使い「いいんじゃない?」

勇者「なんでだよ!」

魔法使い「勇者は知らないんだっけ? 私達、今、ちょっとした小金持ちなの」

勇者「へ? こ、小金持ち?」

僧侶「はい〜。マク選手に賭けていたお金がありますのでぇ」

勇者「あ、そなの?」

魔法使い「細かく数えてないけど、30万ゴールドは持ってるわよ」ドサッ

勇者「さ、ささささっさんじゅう⁉︎」

僧侶「大穴の150倍だったんですよぉ〜」

勇者「そ、そうなんか……」
166 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/14(日) 19:57:41.49 ID:wnnh1YX3O
【宿屋】

店主「祟りじゃ!」クワッ

勇者「え、えぇ……」

店主「祟りじゃ、祟りじゃ、この村は呪われておるぅ〜!」

勇者「落ち着けよ。ばあちゃん」

僧侶「あのぉ、部屋をとりたいんですけどぉ」

店主「部屋などと呑気なことを言うとる場合ではない。早々に立ち去るんじゃ」

魔法使い「そんな、困る」

店主「えぇい! 今は満室じゃ!」

魔法使い「なんなのよ、もう」

僧侶「ご無理を言っても申し訳ないですぅしぃ、道具屋でテントを買いますかぁ?」

勇者「しかたない、そうするか」

店主「店じまいしてるよ」

魔法使い「へ?」

店主「みぃ〜んな祟りのせいじゃ。道具屋の店主も倒れてしまったわい」

魔法使い「え? え? じゃ、じゃあ買い出しは?」

店主「マッスルタウンに戻るとええ」

勇者「なあ、ばあちゃん、日は沈みはじめてるし、今からってのは」

店主「今宵、儀式がある」ボソ

僧侶「儀式……? なんのですかぁ?」

店主「よそ者は帰れ。あたしゃこれ以上は話す舌を持たん」

勇者「祟り、ねぇ」ポリポリ
167 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/14(日) 20:23:23.13 ID:wnnh1YX3O
【ミンゴナージュの村 入り口】

戦士「くっ、不覚……! 剣がっ!」カキーーン

武闘家「はぁっ、はぁっ」ピタ

戦士「さ、さすが、チャンピオンといったところか。言うだけはある」

武闘家「ふぅ……」

戦士「それほどの力を持ちながら、なぜ、先ほどはあのような態度を」

武闘家「力と性格になんの因果関係があるっての。アタイはあんたが気に入らないのはたしかだけど」

戦士「むっ、あたしのどこがだい」

武闘家「弱いくせに。アタイより弱っちいくせに誰と同列で語ってんさ」

戦士「……?」

武闘家「はぁ、まだわからないの? いい? 勇者はね――」

僧侶「戦士さぁ〜ん! 武闘家さぁ〜ん!」トテトテ

戦士「僧侶? どうしたんだ?」

僧侶「今日の宿が決まらないんですよぉ〜」

戦士「なに? ……おい、武闘家。さっきはなにを言いかけて」

武闘家「……」プィ

僧侶「喧嘩もいいですけどぉ、問題解決に向けてみんなで協力しましょ〜?」

勇者「決着ついたか?」スタスタ

魔法使い「脳筋ってほんと単純だから。どうせ仲良くなってんじゃないの?」

戦士「いや……」

魔法使い「あ、あれ? 違った?」

武闘家「勇者。道具屋でテントを買えば?」

勇者「それがそういうわけにもいかねぇんだわ。武器屋、防具屋、道具屋、全部店を閉めてる」

戦士「……なにがあったんだ?」

僧侶「なんでもぉ、祟りのせいみたいですよぉ〜?」

武闘家「タタリ? タタリって、呪いとかそういう類の?」

僧侶「そうみたいですねぇ」

魔法使い「今夜、儀式があるって言ってたけど、なんの儀式かしら」

勇者「……」ジー

僧侶「……? 勇者さまぁ、なにを見てるんですかぁ?」

勇者「気がつかなかったけど儀式ってこの石像が関係してんじゃね?」

戦士&魔法使い&僧侶&武闘家「……?」

勇者「“淫夢王、サキュバス。ここに祀る”……なんだこれ?」
168 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/14(日) 22:50:27.96 ID:rRmjoYTBO
【淫夢城 玉座】

サキュバス「ミンゴナージュ村の様子はどう?」

リリム「精を搾り尽くしている最中でございます。若い淫魔はじめ、かっこうの餌場かと……」

サキュバス「田舎村で人口が少ないのが難点だけど、目立ちにくさという利点もある。このまま枯れ果てるまで絶頂を味あわせておやり」

リリム「もちろんです、お姉様。夢の中という、無防備な空間。どうやって抵抗できましょう」

サキュバス「私達は、“相手の望む姿になれる”」

リリム「それに加えて抜群の性技も……うふふ」

サキュバス「人間にはもったいなさすぎるけどね」

リリム「所詮はエサ……行為自体に愛情のかけらもございません」

サキュバス「我らを軽々しく言った魔族はどうした?」

リリム「ご指示通り。性交を通して魂を抜き取ってやりました」

サキュバス「くふっ、くっはっはっはっ! あわれな。所詮はオトコ。オンナであっても我らの前では……」

リリム「生物はみな種を残すため、そのために性欲をもっている。その性欲を意のままに操る我らこそが魔王軍における最強の眷属でございます」

サキュバス「良い子ね……リリム」スッ

リリム「あっ……お姉様」ウットリ

サキュバス「勇者の捜索は……?」

リリム「ハッ⁉︎ す、すみません、あまりの美しさに……アデルの城が勇者発祥の地であるようです」

サキュバス「アデル……というと、サルマニア国との兄弟国ね」

リリム「伝承を参考にすると、“ロト”がやはり鍵を握っているかと」

サキュバス「どの部分?」

リリム「“東のサルマニア、北のハーケマル、南のクイーンズベル、西のアデル。光は西から登り、東へと進む”」

サキュバス「……勇者、忌々しいオトコ」

リリム「引き続き、調査します」

サキュバス「くれぐれも、ミンゴナージュも手を抜かないように」

リリム「私におまかせください。お姉様のご期待以上の結果をご覧にいれますわ」

サキュバス「魔王様も期待なさっておいででおられる。頼んだわよ」
169 : ◆7Ub330dMyM [sage]:2018/01/14(日) 22:54:58.19 ID:rRmjoYTBO
今日はここまで。
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/15(月) 00:17:59.11 ID:gQENGYKD0

なろう流行りだしてからなろう系テンプレにアレルギーだす子供増えたけど
なろう系主人公のテンプレの元がなにかっていったらSS界隈だからねぇ
カップリング、ハーレム、俺TUEEE系はSSでもめちゃくちゃ流行ってた
171 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/15(月) 11:14:56.32 ID:mVndM0qxO
【ミンゴナージュの村 入り口】

魔法使い「ねぇ、いつまで村の入り口にたむろしてるの? 戻るならはやく戻らないと」

勇者「いや、今日はここで一泊する」

僧侶「宿がないのにですかぁ?」

戦士「そうだぞ、テントを予備に複数個買えばいいじゃないか」

勇者「それは、そうなんだが……」

武闘家「……? なにか、気になることでも……」

村娘「もし、旅のお方」

魔法使い「……うわっ、露出度高い服」

村娘「うふふ。なにやらお困りのご様子。よければお話を聞かせていただけませんか」

戦士「いや、今日の宿がなくてだな」

村娘「まぁ。テントはお持ちではないのですか?」

僧侶「それがぁ、切らしておりましてぇ」

村娘「大変。日が沈みはじめるというのに。寝る場所がないと辛いことでしょう」

魔法使い「だからぁ、マッスルタウンに戻ろうよぉ〜」

村娘「よければ……私の家でよければ面倒を見ますが」

戦士「いや、しかし、いきなりは困るだろう」

村娘「ご遠慮なさらずに。先日、母に先立たれ、さみしい思いをしていたところでございます」

僧侶「それはそれはぁ、お悔やみ申し上げます〜。私でよければ祈りを捧げますがぁ」

村娘「神職様でございましたか、ありがとうございます。そのお礼ということで、いかがでしょうか?」

魔法使い「ねぇねぇ、お世話になろうよ、勇者」

勇者「うーん」

魔法使い「最悪、場所の荷台で寝るんじゃないの? このままなら。寝っ転がれないなんて私は絶対にイヤ!」

勇者「……見ての通り、えぇと、いち、に、さん……俺たちは4人いる。寝床はある?」

村娘「粗末な我が家ですが、布団ならご用意できます」

戦士「すまない、素性もわからない旅人に親切にしていただいて」ペコ

村娘「困った時はお互い様というじゃありませんか。お気になさらず。ささ、どうぞ」スタスタ

勇者「……」

魔法使い「あぁんもうっ、はっきりしないやつ! 勇者は荷台で寝れば⁉︎ 私はついてくからね!」タタタッ

僧侶「勇者さまぁ〜。行かれないのですかぁ?」

戦士「好意を無碍にするのは失礼だ」

勇者「……わかった。俺は少しぶらついてから行くよ。みんなは先に行っててくれ」

武闘家「アタイも、残ろうか?」

勇者「いや、いい。腹減ったろ? きっと料理もだしてくれると思うから、お前も行ってろ。僧侶」

僧侶「はい〜」

勇者「お返しを忘れるなよ。しっかり包んでやれ。金」

僧侶「かしこまりましたぁ〜」ペコ

武闘家「……」スッ スタスタ

戦士「(勇者の言うことを素直に聞くのは、なんでだ……?)」
172 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/15(月) 11:33:44.23 ID:mVndM0qxO
【村娘 家】

村娘「どうぞ」ギィー

魔法使い「わっ、結構ひろーい!」タタタッ

僧侶「失礼ですよ、魔法使いさん」

村娘「かまいません。見ての通り、一人で住むには広すぎるので」

戦士「手荷物はどちらに置いたらよろしいか?」

村娘「あちらにお願い致します」

戦士「わかった」スッ ボサッ

村娘「お連れの男性の方は……?」

武闘家「ぶらついてから来るそうよ」

村娘「なにもない村ですのに。……今夜はあまり外出なさらない方が」

僧侶「なぜでしょう〜?」

村娘「儀式、がございますので」

魔法使い「宿屋のお婆さんも同じこと言ってたわね……なんの儀式?」

村娘「この村は今、不幸続きなのでございます」

戦士「……と、いうと?」

村娘「ある日ぱったりと村の男衆が、倒れてしまったのです。その後は、ベッドから起き上がることも叶わず」

武闘家「呪い?」

村娘「原因不明な病なのです。話を聞こうにも、幸せそうな顔をして眠るばかり。ですが、日に日に体は痩せ細り、弱ってゆく……」

戦士「不可思議な話だ。眠ったままとは」

魔法使い「病気だとしても男だけってのは変ね」

村娘「村の女衆にも異変が――」

僧侶「異変……?」

村娘「口が過ぎました。なので、くれぐれも今夜は外出なさらぬよう。沈める儀式がございます」

戦士「まて、その肝心の儀式とやらの内容がわからん」

村娘「……祈祷師に依頼したところ、おそらく淫夢の仕業だろうということを言われまして」

魔法使い「淫夢? まさか、サキュバス?」

戦士「魔法使い、知ってるのか?」

魔法使い「伝説のモンスターの一角。実際にいるのか怪しい。その祈祷師、大丈夫? 詐欺師じゃない? 困ってるからそれっぽいこと言ってお金だけふんだくろうって」

村娘「しかし……ほかには頼るところも……」

戦士「サキュバス、か……」
173 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/15(月) 12:18:33.36 ID:SH/yhARoO
【ミンゴナージュの村 広場】

祈祷師「キエエエェエエイッッ!!」バサッ バサッ

勇者「なんじゃあれ。キャンプファイヤー?」

村人達「お怒りをお沈めください。サキュバス様」ドゲザ

祈祷師「南無 三曼多伐折羅赧 悍(ノウマク サンマンダ バザラダンカン)! 悪霊ッ! 退散ッ!」バッ バッ

勇者「ははーん……あれが儀式ってやつか。もうはじめてんのね」

店主「……っ! まだこの村におったのか!」

勇者「宿屋のばあちゃんも参加すんのか?」

村娘達「オトコ、オトコよ」ヒソヒソ

店主「いかん! こっちにこんかい!」グイッ

勇者「おっ、とと。いきなりナンパ? いくつになっても乙女だね」スタスタ

店主「お主! さっき早々に立ち去れと言うたじゃろうが!」

勇者「都合もあってね。引き返すのはやめとこかなと」

店主「この村は呪われておるんだぞ!」

勇者「さっき、村の入り口で石像を見つけたよ。サキュバスって書いてあった。あれに関係してんじゃないの?」

店主「うっ、そ、それは……」

勇者「そんで、悪霊退散って叫んでるところを見るとお祓いしてるってとこ?」クィ

祈祷師「滅っ!! めえぇつっ!! めえええぇえつっ!!」バサッ バサッ

店主「左様じゃ。この村は今、サキュバスの脅威に晒されとる」

勇者「店じまいしてるのもそれが原因か」

店主「正確には男連中に、じゃ。精気を抜き取られておる」

勇者「へぇ……そりゃ、男にとっては幸せだ」

店主「適度ならば、の。精気とは生命力と深い関わりをもっておるでな。抜き取られすぎると、命にかかわる」

勇者「サキュバスってあれだろ? エロいことしてるんだよな? だったら、腹上死か」

店主「夢の中だけじゃよ。ワシも絵本でしか知らぬが、姿を消したサキュバスが枕元に立ち、意識だけ夢の中にはいってくるらしい」

勇者「擬似的なもんか」

店主「なんでも、“理想の姿に変化させる”ようじゃ」

勇者「自分を? それって、例えばペチャパイが好きだったら……」

店主「そういう意味じゃ。男なら誰しもが一度は妄想するであろう。あの子としてみたい、と。そこにサキュバスはつけこむ」

勇者「でも、まぁ、男からしてれば夢が叶うわけだ」

店主「あくまで幻じゃよ。そこに実体はないからの」

勇者「ばあちゃん、よく知ってんね」

店主「古い古い伝説の話じゃ。魔王軍の一角に、サキュバスあり……」

勇者「……」

店主「さぁ、もうわかったろう。さっさと立ち去るがよい」

勇者「もひとつ。男にしか影響ないの?」

店主「いらぬ首をつっこむでないわ!」クワッ

勇者「いや、今日泊まるからさ。ここに」

店主「な、なんじゃと……⁉︎」
174 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/15(月) 12:33:38.88 ID:SH/yhARoO
勇者「心配してくれるのはありがたいけども」

店主「……いかん、いかんぞ」プルプル

勇者「どした? 俺のことなら別に」

店主「女にも……影響は、ある」

勇者「……? どんな? あ、サキュバスって男もいるの?」

店主「サキュバスは女じゃよ。女に悪影響をもたらすのは、瘴気」

勇者「瘴気……?」

店主「悪い気のようなものじゃ。淫魔の魔力にあてられ、発情しだす。村娘達を見て気がつかなんだか」

勇者「ん?」チラ

村娘「きゃっ、こっち見たぁ」モジモジ

村娘「あたしよ、あたしを見てたのよぉ」フリフリ

店主「わしは歳のお陰で影響は低い。しかし、若い活発な女たちには、これ以上ない毒となって思考を鈍らせておる」

勇者「つまり……ビッチ化してんな」

店主「勘違いするでない。本来は慎ましかで初心(ウブ)なオナゴたちよ。男と目も合わせられんような」

勇者「なるほど」

店主「異性を求めはじめておる。しかし、男はこの村にいる限り、サキュバスの餌食。女たちのぶつけようのない欲求不満はたまる一方じゃて」

勇者「なんかよくわからん被害だな」ポリポリ

店主「この恐ろしさがわからぬのか。一国でさえ狂わせられてまうぞい」

勇者「ふぅーん。まぁ、とりあえず経緯は把握したよ」
175 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/15(月) 12:58:06.28 ID:SH/yhARoO
【村娘 家】

村娘「勇者……?」ピクッ

戦士「おい、魔法使い」

魔法使い「あっ、言っちゃだめなんだっけ? つい」

戦士「勇者がなぜ我々にまで最初黙っていたか聞いたろう? 立ち寄った村々に被害が及ぶのを防ぐために」

魔法使い「ぶっちゃけ、怪しいけどね」ボソ

村娘「あの、勇者とはいうのは本当に……?」

魔法使い「僧侶、パス。私、しーらない」プイ

僧侶「困った人ですねぇ〜叱られるかもしれませんよぉ」

魔法使い「うっ。べ! べつに! あんなへっぽこに叱られたって」

戦士「……はぁ。ああ、本当だ」

村娘「まぁ、なんということでしょう。あの、失礼ですが、勇者と証明できるものは――」

僧侶「戦士さんも〜。だめですよ〜」

戦士「他言はしないよう言えば大丈夫だろう。あたしたちは一泊の恩がある。勇者も納得してくれるさ」

村娘「そ、それで?」

戦士「“聖痕”があるんだ」

村娘「それは、まさか……女神ルビスが勇者にしか刻まないといわれている伝説の?」

戦士「そのまさかだよ。あいつにはそれがある」

村娘「……そう、ですか。こんなところに……」

魔法使い「驚くのも無理ないけど。秘密ね?」

村娘「ええ、ええ。もちろんですとも。あの、ちなみにですが、聖痕はどこに……?」

戦士「ん? あぁ、あたしたちが嘘をついてると?」

村娘「す、すみません。あくまで可能性の話で」

戦士「いや、当然だ。ニセモノも実際にいたしな。聖痕の場所は、ケツだよ」

村娘「お尻……ですか。なるほど……普段は見えない場所。てっきり、わかりやすくデコか手にあるものかと」

魔法使い「へんてこりんな場所よね」

村娘「そうでしたか。見える場所ばかりを探していても見つからぬハズ……」

戦士「……? 探していた?」

村娘「あっ、いえ。勇者様にあこがれてまして。うふふ」

魔法使い「すぐに幻滅することになるわよ。残念ながら」

村娘「……ここ二、イタのネ……」ニタァ

武闘家「……アタイ、ちょっと出てくる」

村娘「ハッ! な、なりません! もう儀式がはじまりだしています!」

武闘家「大丈夫。サキュバスかなんだか知らないけど、クンフーがあるから」

村娘「お、お腹すきましたでしょう⁉︎ すぐにご用意いたしますよ!」バタバタ

戦士「おい、武闘家。用もないのにほっつきあるくな」

武闘家「どきなよ。どうしようとアタイの勝手だろ」

戦士「恩人に対してそれはどうなんだ。言うことを聞け」

武闘家「……」

戦士「それとも、勇者が言わないとだめなのか?」

魔法使い「……? なんで、そこで勇者が出てくるの? あっ、もしかして、武闘家って勇者がタイプなの?」

武闘家「あんたら……」イラァ

僧侶「すとっぷですよぉ〜〜。まずは矛をおさめておさめてぇ〜〜。腹が減ってはなんとらやらと言いますしぃ〜」
176 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/15(月) 13:20:45.54 ID:SH/yhARoO
【道具屋 寝室】

勇者「よっと」カタン

店主「Zzz……」スヤァ

勇者「不用心だなぁ、窓が空いてたら泥棒に入られちまうぜ。道具屋のおっちゃん」

店主「むにゃむにゃ」スヤァ

勇者「昨夜は、お楽しみでしたね」

店主「……!」ピクッ

勇者「昨夜は、お楽しみでしたね」

店主「ぐふっ、ぐふふふっ……むにゃむにゃ」

勇者「幸せそーな顔しちゃって。こりゃ淫夢を見せられてるって話がウソってわけでもなさそーだな」

店主「……っ、う、うぅ、っ、く、苦しい……もうやめてくれ、もう出ない」ビクンビクン

勇者「どーやって淫夢を見せてるんだ? 呪文か?」

店主「Zzz」

勇者「伝説だと枕元に立つんだっけ? ……なにもいない」スカッ

店主「うっうぅ……」

勇者「なにか、タネがありそうだな。精子だけに」

店主「た、たすけて、たすけて、くれぇぇ……うーん、うーん」

勇者「待ってろよ。男だって、無理やりされたら嫌だもんな」タンッ
177 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/15(月) 14:08:49.85 ID:SH/yhARoO
【村娘 家】

魔法使い「おっそい! なにやってんのよ! あいつ!」

戦士「ご飯、ご飯」

魔法使い「見てみなさいよ! 戦士なんて幼児退行しちゃってんじゃない!」

僧侶「私たちだけ先に食べてしまうのも〜」

村娘「温めなおせばまだございますよ。今夜はとろぉ〜り、濃厚な……シチューでございます」

戦士「白い、ドロドロの」

魔法使い「美味しそう」

村娘「そうでございましょう? 腕によりをかけてご用意いたしましたので。あつあつなままどうぞ」

戦士「な、なぁ、僧侶。ほっておくと、逆に申し訳ないっていうか」

魔法使い「そ、そうね。べ、別に。お腹すいてるからじゃないんだからね」

僧侶「はぁ〜。ホントにおふたりはしょうがないですねぇ」

戦士「食べていいのか……?」

武闘家「……」スッ カチャ

戦士「あっ! ず、ずるいぞ! いけないんだぞ! いただきますをしないでスプーンを手にとっちゃ!」

武闘家「……これ、いつ作った?」

村娘「今しがたです。固形ルーがあまっていましたので……得意料理なのですが、お嫌いでしたか?」

武闘家「いや……そうじゃないけど」

戦士「食に対する冒涜は許さん! 好き嫌いせずに食べるんだ!」

武闘家「アタイは、いいや」

村娘「そ、そんな。やはり、お嫌いでしたか」

戦士「武闘家……っ! きさまぁっ! 恩人を悲しませた挙句! 振舞われた料理に口をつけずに……!」

武闘家「ぎゃーぎゃーうるさい」

戦士「……斬る」チャキ

武闘家「まだやる気? さっきやられたくせに」

戦士「届かぬ背中ではなかった。あと数戦もすればいい勝負をしていたと確信する」

武闘家「……調子に乗ってるでしょ」ポキパキ

戦士「そっくりそのまま返そう。何様のつもりだよ」

僧侶「あぁ〜〜んもう! やめなさぁ〜〜い! ……戦士さんも、武闘家さんも。食べましょ〜」

魔法使い「はぁ、犬猿の仲ってやつね。あむっ……ん〜……んっ! 美味しい!」

戦士「いただきますしてないのに!」

魔法使い「戦士も武闘家も食べてみなさいよ! すっごく美味しいわよ! これ!」

戦士「食べる食べる! ……いただきます!」ガツガツ

武闘家「……」ジー

僧侶「武闘家さんも。座って食べましょぅ?」

武闘家「ちっ、しかたないなぁ」

僧侶「くすくす」

武闘家「なにがおかしいのさ」

僧侶「いえ〜根は優しいと思いましてぇ〜」

武闘家「……なによ」プイッ
178 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/15(月) 16:10:41.92 ID:SH/yhARoO
【数十分後 同部屋】

魔法使い「ねぇ、なんだか暑くない?」パタパタ

僧侶「そういえば少し〜。なんだか身体がぽっぽっとしてきたようなぁ〜」

戦士「すまない。窓を開けてもいいか?」

村娘「申し訳ございません。戸締りの調子が悪く」

魔法使い「えぇ〜〜? 開かないのぉ?」パタパタ

村娘「すみません……。ただいま、氷をお持ちしますので」

戦士「氷、氷といえば、魔法使いの冷気魔法で」

魔法使い「あ、あのねぇ。生活魔法じゃなく攻撃魔法なのよ? 放ったら制御できない」

戦士「そ、そうか」シュン

村娘「しばし、お待ちを。気休めかと思いますが、お香をたかせていただきます」

僧侶「お香……?」

村娘「はい。心身ともに緊張をときほぐす効果がございますので」

魔法使い「暑いだけなんだけど」

村娘「我慢というのはストレスがたまるものでございましょう。ですから、気休めなのです」

戦士「すまない、なにからなにまで」

村娘「いえ、母がいなくなってから……こんなに楽しい夕食は……」

魔法使い「ちょっと、戦士」ドンッ

戦士「あっ、うっ、あたしは、そんなつもりで。決して思い出せるような」

武闘家「食は済んだし、外の風に……っ⁉︎」ガタッ クラッ

魔法使い「どうしたの? 立ちくらみ?」

武闘家「なっ……なんだ、こ、れは……」ガクッ

戦士「体調でも悪い……⁉︎」クラッ

僧侶「まってくださいねぇ〜、今回復魔法を〜……あ、あらぁ」フラァ

魔法使い「ちょ、ちょっと、どう……した……はれ?」クラッ

村娘「こちらがお香になります」カチッ

武闘家「お、おのれ……っ! 一服、もった、な……っ!」キッ

魔法使い「そ、んな……」ズリ

戦士「くっ、なんと」

僧侶「はふぅ〜」

村娘「うふっ、うふふふふふっ。……なんともはや。間抜けな女達よ。こうもあっさりひっかかってくれるとは」

戦士「な、なぜっ……!」ググッ

村娘「なぜ? 簡単なこと。最初からこうするのが目的だったから」バサっ

武闘家「そ、そのっ、はね、はぁっ」

村娘「キレイでしょう? 淫夢族は、人間どもが思い浮かぶ悪魔と酷似している。そう、漆黒の翼を持って」スゥー

魔法使い「サキュ、バス……っ⁉︎」

リリス「――お前たちの旅はここで終着点だ。……言え。勇者はどこにいる?」
179 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/15(月) 16:34:30.89 ID:SH/yhARoO
武闘家「モンスターめ……! 勇者、が狙いか……!」

リリス「聞かぬでもわからないでか。我が魔族の宿敵。ルビスの加護をその身に宿した者……お前らに価値なぞない」

戦士「ぬぅ、ぬぅうううっ!」ググッ

リリス「シチューには、痺れ薬と幻覚薬を混ぜてある。そう簡単には戻らんぞえ」

魔法使い「か、身体が……意識も……」

リリス「まさかこのような場所に勇者がいるとは。とんだ偶然……いや、僥倖だったわ。貴女達がペラペラと喋ってくれたお陰で。淫夢王様にご報告できる」

僧侶「ん、んんぅ〜、き、キアリク」ポワァ

リリス「ふんっ!」ドゴォ

僧侶「あうっ⁉︎」ズザザッ

戦士「そ、僧侶っ!! 大丈夫か⁉︎」

リリス「解毒魔法は使わせないよ。面倒だから、あんたは気絶してな」

僧侶「」

魔法使い「そ、そんなっ! 僧侶! 目を覚まして!」

リリス「ああ、我が愛しいサキュバスお姉様ぁん。……他にまだ聞けるやつはいることだし。さぁ、言え。勇者はどこだ」

武闘家「……すぅー……はぁー……」スゥ

リリス「……? なにもできや――」

武闘家「あちょお〜〜〜っ!!」バッ

リリス「な、なにっ⁉︎」バサッ バサッ

武闘家「ちっ、出遅れた。……飛べるんだ。飾りじゃなかったんだね、その羽」

リリス「な、なんだ⁉︎ なぜ、動ける⁉︎」

武闘家「……くっ」ズキン

リリス「……? ま、まさか……⁉︎ くっ、あっはっはっはっ! お前! 自分の指を折ったねっ⁉︎」

武闘家「だったら、なんだってのさ」ズキンズキン

戦士「そ、そうか、その手が! よし!」ザクッ

魔法使い「う、うわぁ、剣で足を刺した」

戦士「あたしは指を折っては剣を握れない。……くっ」ズキン

リリス「迷いもなくやるとは、なかなかに見上げた根性だ」バサッバサッ

戦士「たしかに痛い。だが、そのお陰でクラついてた頭はすっきりしてる」

武闘家「麻痺は、まだ残ってるけど、ちょうどいいハンデよ」

魔法使い「わ、私も刺さなきゃいけない流れ……?」

戦士「好きにしろ」カチャ

リリス「人間風情がッ! 淫夢族の恐ろしさ!! 舐めるでないよッ!!」バサッバサッ
180 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/15(月) 17:02:04.28 ID:SH/yhARoO
【武器屋】

勇者「むっ……! こ、この気配は……!」キュピーン

ピロリロリーン
勇者は週間少年ジャ○プを手に入れた!

勇者「お、おお〜! 家にいる時は読んでたんだよなぁ! どれどれ、今週のワ○ピは……と」ペラ

店主「う、うぅ〜ん」

勇者「……あれ? なんだか読んだことある。おっかしいな〜。たしか昨日が発売日のはず……ん〜……が、合併号⁉︎ あら〜、てことは来週まで続きはお預けか」

店主「うっ、わ、ワシは」ムクッ

勇者「おっ、目が覚めたのか?」

店主「ここは……ワシの家だよな。お前、誰? なんで人ん家のタンス漁ってるんだ……?」

勇者「あ、いやー、あの〜。手がかり探しといいますか、勇者の本分といいますかぁ」

店主「さ、さては泥棒……うっ」クラッ

勇者「ああ、無理すんなって。淫夢からの生還おめでとう」

店主「うっ、うぅ」ポフン

勇者「なぁなぁ、夢の中はどうだった?」

店主「夢……そうか、あれは夢だったのか」

勇者「夢を見てるって自覚はないんだ?」

店主「とても……とても、じゃないが。あれは現実だった」

勇者「リアルに感じるなら気持ちいいってこと? せ、セックスってどんな感じ?」

店主「お前、童貞か」

勇者「ど、どどどどっ童貞ちゃうわ!!」

店主「……最初はよかった。若い子を相手にしていた」

勇者「ほ、ほうほう」

店主「だが、気持ちいいのは最初の何発かまで。それ以降は、ただ、搾り取られている。そう感じた」

勇者「牛の乳みたいな?」

店主「それでも、笑うんだ。やめてくれ、もう勘弁してくれと言っても、笑い続ける……ひ、ひぃっ」ガタガタ

勇者「……」

店主「魂を……吸われてた。笑いながら、口から魂を吸ってたんだ……」

勇者「寝る前になにか兆候はなかったのか?」

店主「なにも……あの日、ワシはお香を焚いて寝ただけだよ」

勇者「お香……? 匂いなんかしないが」

店主「するだろう。イチゴのような甘い香り……たしか、枕元に……むっ、どこだ?」ゴソゴソ

勇者「なくなってると……。これはなにやら、きな臭い匂いがプンプンしてくるねぇ」
181 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/15(月) 17:35:12.53 ID:SH/yhARoO
【再び 村娘 家】

魔法使い「ひ、ひぃ〜ん。戦士が短刀をおいてくれたはいいけど決心がつかないぃ〜」

武闘家「はあぁぁぁっ!! ハイィッ!!」ビュッ

リリス「……っ!」バサッバサッ

武闘家「くっ、テーブルを足場にしてもだめか……逃げ回るしか能がないの? それも狭苦しい室内で飛んじゃってさ。天井低くない?」

戦士「大層なクチをたたいていたが、薬に頼る時点でわかりきっている。戦闘能力はそうでもないな?」

リリス「くっ」バサッバサッ

武闘家「鳥族に変更したら? ただ飛び回るだけなら」

リリス「き、きさまらあぁぁあっ!! 淫夢族をバカにしたなっ⁉︎」

戦士「怒った怒った。本当のこと言われて怒ってやんの」

武闘家「悔しかったら降りて戦ってみなさいよ」スッ

リリス「……ふふっ、ふぅ、安い挑発ね。貴女達はもはや我が手中のナカ」

戦士「……?」

リリス「若い淫夢のサポートアイテム。それをご覧なさい」

武闘家「なに……?」

リリス「私がただ飛び回っていたと思うのか。羽で部屋に充満する空気をかき乱していたまでのこと」

戦士「この、お香か……?」

リリス「お前タチ。さぞかし身体を動かしていたわねぇ。運動をすれば、多くの酸素を人体は必要とする……たぁっぷり、染み込んだでしょう?」

武闘家「……っ!」クラッ

魔法使い「ぶ、武闘家!」

戦士「なんだ、これは。身体の芯が、暑い」ガクッ

魔法使い「戦士! ……あ、あれ、なんだか、私も」モゾモゾ

リリス「人が……否、生物は種の生存本能からは逆らえない! 子を残すために我らは生まれおちるッ!!」

武闘家「くっ、淫夢って、まさか、女にも」ドサッ

リリス「うふふ。淫らな術中にハマり、悶えて……快楽に身をゆだねなさい」スタッ

戦士「よ、ようやく地に足をついたな……くっ」ドサッ

リリス「もちろん。だって、貴女達は正真正銘、なにもできないから」スタスタ

魔法使い「うぅ、うぅっ」モゾモゾ

リリス「自分で弄ってもいいのよ? それとも、貴女達、みんな処女?」スッ

戦士「不埒なまねを……! 魔法使いに触れるな!」

魔法使い「うっ」ビクッ

リリス「まずはお前から。淫夢に堕ちろ」スッ

魔法使い「あ……あぁっ……」ガクガク

武闘家「せ、戦士ッ! このままじゃやばい!!」ググッ

戦士「わかってる!! わ、わかってるが、か、身体が……」ググッ

リリス「待っていろ。この者が堕ちたら、次はお前達の番だ」スッ

魔法使い「ゆ、勇者……」ガクガク
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/15(月) 17:49:23.21 ID:P5A2lMS00
ガタッ
183 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/15(月) 17:50:47.13 ID:SH/yhARoO
――ガシャーーーンッ――

勇者「――……呼んだ?」

武闘家&戦士「ゆ、勇者っ!!」

勇者「内鍵閉めてるから窓から入るしかなかったじゃないの。ごめんな、窓ガラス割っちゃって」

リリス「……お前が……勇者?」

勇者「なぁ〜んで知ってるんですかねぇ」

戦士「す、すまない……私たちが……っ!」ググッ

勇者「おお、なんか随分と緊迫した雰囲気だな。寝転がってなにしてんの? 床になんかいる?」ジー

魔法使い「」ドサッ

僧侶「」

勇者「……二人気絶の、二人戦闘不能か。あ、そういや四人じゃなかったわ。俺含めて五人だ。布団の数足りる?」

リリス「なんともふてぶてしい男だ。余裕を装っているつもりでいるのか」

勇者「ありのままの現実を受け入れてます」

戦士「き、気をつけろッ! そいつは淫夢族だ! 男には特に!」

勇者「なにができんの? オラわくわくすっぞ」

戦士「手だ! 魔法使いに触れてた手がなにやら怪しい光を放っていた! そいつに触れてはだめだ!」

リリス「チッ」

勇者「やっぱり触れる必要はあるんだ? そこのテーブルにあるのがお香だろ。それはなんのために」

戦士「おそらく、導入剤のようなものだろう、それを嗅がされて、あたしたちも、その」モゾモゾ

勇者「待て、待て待て! え? お前ら、もしかして発情ナウ?」

武闘家「……っ!」キッ

勇者「冗談だって。頼むから襲わないでくれよ。俺を」

戦士「お、襲うかっ!」

勇者「それで、何匹いるんだ? この村には」

リリス「なに……?」ピクッ
184 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/15(月) 18:10:59.68 ID:SH/yhARoO
勇者「村の男人口に対して、お前ひとりじゃ数が足りないだろ? それとも何人も相手にできるの?」

リリス「……バカじゃないみたいだね」

勇者「どーにもわからねぇんだよなぁ。カラクリが。たぶんどんどん近づいていってるんだろうけど」

リリス「……」バサッバサッ

勇者「飛べるんだ、それ」

武闘家「アタイも同じこと言った」

勇者「伝説によるとさぁ、枕元にたってるんだろう? んで、お香が導入剤。ここまではわかる。納得できる」

戦士「……?」

勇者「触れるのが必要なら、わざわざひとりずつ触っていってたのか? 一度触れてしまえば、後は放置プレイ? 勝手に夢の中で?」

リリス「我が一族の秘密……。きさま、それを探っているのかっ⁉︎」バサッバサッ

勇者「武器屋のおっちゃんが言うには、魂を吸われていたって。てことはだよ? 夢の中にもなんらかの実体があるはずだよなぁ? 吸えねーだろ? じゃないと」

リリス「こ、こいつ……!」

勇者「そこで、今の質問に戻るわけだ。何匹ここにいる」

リリス「答えると思うか……うふふ、女よりも男は容易い」

勇者「ん?」

リリス「男なぞ、所詮タネを飛ばすだけの生物。ヤリたい気持ちが先行するだけの愚鈍な生き物」スッ

勇者「……」ジィー

リリス「……はぁっ!!」バサァッ

勇者「翼目一杯広げて、どうし……あら?」クラッ

リリス「オンナの秘密はね、知りたいのなら命をかけなくちゃ。男ならわかるわよね?」スタッ

勇者「あ、あいにくと、付き合ったことがないもんで」フラフラ

戦士「勇者っ! おい、どうした!」

武闘家「余裕ぶってるから……!」

リリス「あら? 勇者なのに童貞なの? 股間のソードは未使用のまま?」

勇者「とっておいてあるんだ。ここぞって時のために」ガクッ

リリス「経験を積んだ方がいいわよ? 私が相手になりましょうか?」

勇者「結構です」キッパリ

リリス「……人間が。淫夢に溺れれば、そのような減らず口をたたけなくなる」
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