藤居朋「占い師探偵!」

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33 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 21:51:46.53 ID:oEyNdsQp0
17

朋のアパート・自室

朋「びっくりしたわよ!」

杉坂海「あんなに腰抜かすことないのにさ」

井村雪菜「ドッキリ大成功ですねぇ」

杉坂海
朋の友人。一生懸命何かに打ち込んでいる人をお世話するのが好きらしい。エプロン姿が似合う。

井村雪菜
朋の友人。気の置けない友人と会うためか、今日はナチュラルメイク。

海「朋、手は洗った?」

朋「洗ったし、部屋着にも着替えたわ」

海「それじゃあ、いただきます」

雪菜「いただきまぁす」

朋「いただきます!海ちゃんが全部作ったの?」

海「ご飯とお味噌汁と煮魚はそうだよ」

朋「美味しいわ!さすが、海ちゃんね」

海「ありがと、朋」

雪菜「朋ちゃんのお母さんが煮物とかを持たせてくれたんですよぉ」

朋「ふんふん、確かに実家の味がするわ」

雪菜「どうですかぁ?」

朋「いつもの味で安心するわ。ところで」

海「なに?」

朋「どうして、二人がここにいるわけ?」

海「朋のお母さんから連絡があったんだ」

朋「それじゃあ、何があったか聞いてるの?」

海「うん。大変だったね」

雪菜「朋ちゃんのお母さんから、様子を見るように頼まれたんですぅ」

海「カギは借りて来たんだ」

雪菜「入り方も教えてもらいましたぁ」

朋「近くもないのに、お母さんはとんでもないお願いするわね……」

海「まーた、うちの娘がやらかしたって言ってたよ」

朋「あたしは何にもしてないわよ!?」

海「わかってるさ」

雪菜「信じてますよぉ」

朋「海ちゃんと雪菜ちゃんはわかってくれて、あたしは嬉しいわ」

雪菜「何かあったんですかぁ?」

朋「なんか刑事に疑われてるのよね。凄いしつこいのよ」
34 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 21:52:49.18 ID:oEyNdsQp0
海「朋を?」

雪菜「朋ちゃんをですかぁ、ふふ」

朋「笑う所かしら?」

海「朋が犯人だったら、すぐにわかるよ」

雪菜「そうですねぇ」

朋「自分でもそう思うわ。占い師としてはもう少し抑えたいのだけれど」

海「朋が占い師だから、疑ってるのかもしれないね」

雪菜「ニコニコ顔は無表情よりも隠し事がしやすいと思いますぅ」

朋「そういうことなのかしら」

海「わからないけどね」

雪菜「今日の朋ちゃんは、いつもよりも表情が硬いですよぉ」

朋「そう?」

海「うん。食欲はありそうだけど、疲れてる?」

朋「そうね、色々あったし。原因の3割は事件だけど、5割はあの刑事達のせいね」

海「そっか」

朋「なんだか、疲れたわ」

海「仕方ないよ。朋は良いことをしたんだから、落ち込まないの」

雪菜「うんうん」

朋「そうかしら」

雪菜「偶にはそういうこともありますよぉ」

海「全部上手く行くわけなんてないんだ」

雪菜「成功じゃなくても良いことをしたなら、きっと報われるんですよぉ。誰かがきっと見てくれてます」

海「すくなくとも、ウチらはそう思ってるからさ」

朋「……うん」

雪菜「明日はお休みなんですよねぇ?」

朋「休みを取らされたわ。二人は?」

海「明日の朝には帰るよ」

朋「そっか」
35 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 21:53:40.24 ID:oEyNdsQp0
雪菜「だから、泊っていってもいいですかぁ?」

朋「もちろん!久しぶりに話したかったから、嬉しいわ」

海「朋、全然帰ってこないんだから」

雪菜「お父さんとお母さんが寂しがってましたよぉ」

朋「まぁ、それはねぇ。占い師になるなんて、賛成する親なんていないわよね」

海「仕事はどう?」

朋「まあ、ぼちぼちってとこ。自分で言うことじゃないけど、評判は悪くないわ」

雪菜「朋ちゃんの占いは当たりますからねぇ」

海「スカウトが来たのにはびっくりしたけど」

朋「まだまだ勉強中だけどね。そうだ、海ちゃん、お願い事があるんだけど」

海「お願い事?」

朋「占いの衣装、オリジナルが欲しいの」

雪菜「へぇ、素敵ですねぇ」

朋「海ちゃん、作ってくれないかしら」

海「朋……」

朋「あれ、ダメだった?」

海「朋が服装に気をかけるようになるなんて……ウチは嬉しい」

朋「あたしは一人暮らししてる男子学生じゃないわよ?」

海「冗談だよ。考えてみるね」

朋「やった。急ぎじゃないから、ゆっくりでいいわ」

雪菜「リクエストとかあるんですかぁ?」

朋「そうね、やっぱり紫がいいわ」

海「占い師っぽいし、朋らしいね。わかった」

朋「ありがと、海ちゃん」

海「お味噌汁、おかわりいる?」

朋「ちょうだい」

海「いっぱい食べて、ゆっくり休みなよ」

雪菜「そうですよぉ」

朋「ありがと。でもね、一番の薬があるの」

海「なにかあった?」

朋「二人と話すこと。なんだか、元気が出てきたわ!」
36 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 21:55:18.58 ID:oEyNdsQp0
18

深夜

朋のアパート・自室

朋「ベッド使っていいのに」

海「家主を差し置いて使うわけにはいかないよ」

雪菜「朋ちゃんこそ気を使わなくていいですよぉ」

朋「あたしはいいの。せっかくだから、美人と添い寝する権利を貰うわ」

海「なに言ってんだか」

朋「川の字も悪くないわ」

雪菜「ふふ。ねぇ、朋ちゃん」

朋「何かしら」

雪菜「朋ちゃんの中の私達は元気ですかぁ?」

朋「聞かれてた?」

雪菜「はい」

朋「元気よ。でも、なんか違う気がしてたから会えてよかったわ」

雪菜「そうなんですかぁ?」

朋「海ちゃんはやたらに甘々だし、雪菜ちゃんはメイクとかに執着しすぎになっちゃった」

海「甘やかされたいの?」

朋「海ちゃんに甘やかされたくない人間なんていないわ」

海「甘やかしてはあげないよ。自分でがんばらないといけない時も絶対あるからさ」

朋「ありがと。やっぱり、どんなに想像するよりも目の前にいる人の方が魅力的だわ」

海「その癖、やっぱり残ってたんだね」

朋「むしろ、こっちに来てから増えたの。占いの練習にもなるし」

海「ウチらが近くにいたからさ、することもなかったんじゃないのか」

朋「そうかもしれないわね……そう考えると、なんだか寂しがりみたいじゃない」

雪菜「そうじゃないんですかぁ?私は朋ちゃんが一人暮らしを始めてから寂しいですよぉ」

朋「寂しがり屋じゃなくても、寂しいわ」

海「うん、誰だってそうさ」

朋「でも、大丈夫よ。頼れる先輩もいるし、こうやって押しかけてきてくれる友達もいるわ」

雪菜「うん」

朋「占い師として皆のためになることをしていきたいわ。一つでも多くね」

海「そうだね」

朋「だから、決めたわ」

雪菜「決めた?」

朋「三船さんのために、事件を解決してみせるわ。だって、大切なお客様だもの。名付けて」

海「名付けて?」

朋「占い師探偵藤居朋!」
37 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 21:56:16.91 ID:oEyNdsQp0
雪菜「うーん……」

朋「微妙だった?」

雪菜「心がけはいいと思いますよぉ。ネーミングはまぁまぁ?」

朋「まぁまぁ、ならいいかしら。いいことにするわ」

海「朋、無理はしちゃだめだよ?」

朋「わかってるわ」

雪菜「ふあぁ……」

朋「寝ましょうか。狭いけど、ホントに大丈夫?」

海「問題ないって。朋、おやすみ」

雪菜「朋ちゃん、おやすみなさい……」

朋「おやすみー」
38 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 21:57:49.14 ID:oEyNdsQp0
19

翌朝

朋のアパート・自室

雪菜「お休みなのに早く起こして、ごめんなさい」

朋「大丈夫よ。いつもより良く眠れたわ」

海「冷凍庫に常備菜を入れといたから、食べて。健康と火事には気をつけるんだよ」

朋「海ちゃん、発言がオカン過ぎるかな」

海「ウチのことはいいから。いいね?」

朋「はーい」

雪菜「朋ちゃん、ばいばーい」

海「またね、朋」

朋「ばいばーい。次に帰省する時は連絡するから」

朋「……」

朋「よしっ、占い師探偵をはじめましょうか」
39 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:01:17.43 ID:oEyNdsQp0
20

喫茶店・アイリス

海『昨日の喫茶店だね』

朋「そうよ、あたしの海ちゃん」

海『三船さんに繋がる人を見つけるため』

朋「会社の人とか昨日の友達とか見つけられるといいわね」

海『でも、どうして喫茶店?』

朋「昨日の店員さん、いるでしょ?」

海『今も働いてるね』

朋「昨日の刑事も来てるし、話が通じやすいはずよ」

海『ふむふむ』

朋「朝のコーヒーでも飲みながら、聞いてみるわ」

瞳子「いらっしゃいませ。こちらのお席へどうぞ」

朋「お邪魔するわ。ホットコーヒーをちょうだい」

瞳子「かしこまりました」

朋「それと」

瞳子「なんなりと」

朋「話を聞いていいかしら」

瞳子「話、ですか……?」

朋「三船さんのことを聞きたいの」
40 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:02:44.47 ID:oEyNdsQp0
21

オフィス街・某ビル1階エントランス

貼紙『見習い占い師修行中!相談3分!無料!勧誘なし!あたしのために占わせてください!』

朋「名刺だけ渡しておくわ。今度はお店に来てね!ばいばーい」

雪菜『結構、立ち寄ってくれますねぇ』

朋「狙い通りね」

雪菜『占い館にも迷惑かけませんし』

朋「ビルの管理者にも許可は貰ってるし、バッチリよ」

雪菜『修行中なら断れませんよねぇ』

朋「あっ、こんにちは!占いはいかがですか?」

雪菜『見つかりましたねぇ。社員証は三船さんが勤めてる会社のものですよぉ』

衛藤美紗希「こんにちはぁ」

衛藤美紗希
美優が勤めていた会社の社員。見るからに高い女子力を誇る。

雪菜『カワイイ!カワイイですねぇ』

朋「お昼帰りですか?」

美紗希「そうですぅ」

雪菜『メイクも派手じゃないけど華やかですぅ。それにコートもオシャレ』

朋「お時間あったら、占わせてくれませんか?」

美紗希「修行中なんですかぁ?」

朋「ええ。普段は占い館で働いてるけど、武者修行中なの」

美紗希「うーん、ちょっと時間があるからいいですよぉ♪」

雪菜『時計も似合ってますぅ』

朋「ありがと!それじゃあ、そこに座ってくれる?」

美紗希「はぁい。どんな占いなんですかぁ?」

朋「手相とタロットカードのどちらかね。タロットカードはホンモノじゃないけど」

美紗希「ニセモノ?」

朋「一応出来るけど、信頼度はないわね。雑貨屋で買って来た安物だし」

美紗希「へぇ、占い師さん用のタロットカードがあるんですかぁ?」

朋「カードに罪はないけれど、パワーが足らないわね。占い館に来てもらえば、本当にタロットで占えるわ」

美紗希「こだわりがあるんですね」

朋「そうそう。名刺渡しておくわね」

美紗希「ありがとうございますぅ。藤居朋さん?」

朋「よろしくね。手相占いにしましょうか。経験ある?」

美紗希「ないですぅ。お願いしますぅ♪」
41 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:04:04.85 ID:oEyNdsQp0
朋「はーい。それじゃあ、手を出してください」

美紗希「どうぞ」

雪菜『爪がキレイですねぇ。お仕事じゃない時はネイルを楽しんでるはずですぅ』

朋「お姉さん、利き手は出してくれた方?あと、名前を教えてもらっていいかしら?」

美紗希「左利きですよぉ。名前は衛藤美紗希です」

雪菜『やっぱり左利きでしたねぇ。お仕事は事務でしょうかぁ?』

朋「衛藤さんね、お仕事はなにしてるの?」

美紗希「事務とかいろいろですよぉ。開発もやってますぅ」

雪菜『三船さんと同じようなこと言ってますねぇ。世間話として出してみましょう』

朋「実は同じ会社の人を占ったことがあるのよ。お姉さんに特徴的なのは」

美紗希「偶然ですねぇ」

朋「努力線ね。生命線とか聞いたことあるかしら?」

美紗希「ここですよねぇ、親指のまわり?」

雪菜『指もキレイですねぇ。憧れちゃいますぅ』

朋「そうよ。ここから上に線が伸びてるでしょう?」

美紗希「はい、何本か見えますぅ」

朋「努力家、正しい努力が出来る人ね。線も多いし、何でも成功するわね。仕事とか勉強とかファッションとか」

美紗希「本当ですかぁ?」

朋「お姉さんががんばれば、本当になってあたしは当たる占い師。ウィンウィンよ」

美紗希「ふふっ。立派な占い師さんになってもらうために、がんばりまぁす」

朋「頼むわ。そういえば、前に見た三船さんも努力線があったわ」

雪菜『努力線があるかないかなら、ほとんどの人がありますからねぇ。同じ仕事をしてるなら尚更ですぅ』

美紗希「前に占った人は三船さんだったんですかぁ」

朋「そうよ。まぁ、その時はタロットカード中心だったけれどね。ねえねえ、三船さんってどんな人なの?今日は働いてる?」

美紗希「えっと……今日はお休みですぅ。大人しいですけど、真面目で良い人ですよぉ」

雪菜『知っていて黙ってくれていますねぇ。優しく気配りが出来てステキなのでぇ、つけこみましょう』

朋「やっぱりね。職場は一緒だったの?」

美紗希「そうですよぉ」

朋「評判はきっといいのよね」

美紗希「美優さんは大人気でしたよぉ。昔は腰掛けだと思われてたなんて信じられないですぅ」

朋「昔はそうだったけど今は変わったか変えようとしてる、ってこと?」

美紗希「そうですよぉ。効率よく働けるように配慮してくれたり、色んな人を取り持ってくれたり」

雪菜『評判通り、印象通りですねぇ』
42 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:05:20.48 ID:oEyNdsQp0
朋「やっぱりそうなんだ。三船さんも悩み事があるみたいだから、サポートしてあげるとあなたにとっても良いことがあるはずよ」

美紗希「お手本に出来る人でしたぁ。でも、悩んでるようには見えませんでしたよ?」

雪菜『大きな悩み事やトラブルはやっぱりないみたいですねぇ』

朋「大きいことじゃなくて小さなことじゃないかしら。職場を良くしたい、とか?」

美紗希「難しいですもんねぇ。昔から働いてる人も一杯いるから」

朋「流行りのセクハラ、パワハラ、モラハラとかないわよね?」

美紗希「ウチの会社でありえませんよぉ」

朋「良いことね。そうだ、会社の人で話を聞いて欲しい人とかいる?」

美紗希「会社の人?」

朋「上司とか先輩とか。ホントはいけないけど、話の内容をあなたに伝えてもいいわ」

美紗希「それは行けないと思いますけどぉ……そうだ、ケータイ、ケータイ」

朋「誰かいるのかしら」

美紗希「美優さんの上司なんですけどぉ、この人ですぅ」

雪菜『美優さんの上司をどうして紹介するんでしょう?』

朋「艶があって綺麗な人ね。この人ワケアリなの?」

美紗希「そういうわけじゃないですよぉ。美優さんと話したことがあるなら、お話を聞いてみてください」

雪菜『あたし達の目的に気づいてますかねぇ』

朋「わかったわ。ここで待ってれば、来る?」

美紗希「3時くらいに休憩で降りてくると思いますぅ」

朋「ありがとう。ちょっと話過ぎちゃったわね」

美紗希「いえいえ、がんばりますねぇ。ありがとうございましたぁ」

朋「こちらこそ、お仕事がんばって!今度は占い館に来てね!」
43 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:05:58.79 ID:oEyNdsQp0
22

午後3時

オフィス街・某ビル1階エントランス

朋「あたしの海ちゃん、あの人かな」

海『衛藤さんが言ってた人だね。コーヒーとチョコレートを持ってる』

朋「こっちに来たわ。あの、お姉様!」

柊志乃「あら……職場の子が話してた占い師さん、ってあなた?」

柊志乃
美優の上司。手に持っているチョコレートにはアルコールが含まれてることに朋は気づいていない。

朋「あたしのために占わせてください!今なら無料よ!」

志乃「休憩中だけど……」

朋「時間はあまり取らないわ」

志乃「偶にはいいかしら……」

朋「ありがとう!ささ、座ってちょうだい」

志乃「失礼するわ……」

朋「手相とタロットカードを準備してるわ。どっちがいいかしら」

志乃「その二択なら……手相を」

朋「お目が高いわね。あたしのオススメも手相よ」

志乃「手相占いが得意なのね……若いのに」

朋「本職はタロットカードよ。ここでは万全に占えないから」

志乃「そう……手はどちらで占うのかしら」

朋「どちらでも。お姉様、お名前を教えてくれる?」

志乃「柊志乃よ……木の柊一文字とこころざしの志と森久保乃々ちゃんと同じ乃」

朋「柊志乃さんね、利き手はこっち?」

志乃「違うわ、利き手は左手……」

海『手も細いね、ちゃんと食べてるのかな』

朋「柊さん、占って欲しいことある?」

志乃「そうね……あるわ」

朋「なに?」

志乃「昨日部下が亡くなったわ……死というのは急ね」

海『三船さんのことだよね、たぶん』

朋「それは……ご冥福をお祈りいたします」

志乃「期待の部下がいなくなって……困るわ」

朋「そうね、人との出会いは価値があるものだわ」

志乃「仕事運を占ってもらえるかしら……まずは」

朋「仕事運ね、まずはここ」

志乃「ここ……目立った線は見えないけれど」

朋「うん、見えないわね。つまるところ、柊さんにそこまで仕事の熱意はないみたい」

志乃「すっぱりというのね……」
44 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:07:35.16 ID:oEyNdsQp0
朋「でも、財運、金運は良さげだし、運命線はしっかりしてるわ。熱意はないけれど、やるべきことをやれるから柊さんはそのままでもいいかも」

志乃「……そう」

朋「柊さん以外の状況も大切そうね。部下の人、どんな人だったの?」

志乃「私とは逆ね……熱意を秘めていたと思っているわ」

朋「ふむ、それだと惜しい人を無くしてしまったのね」

志乃「昔は私と似ていると思っていたけど……変わったみたいね」

朋「柊さんも、変わりたいの?」

志乃「占い師さんは……どっちだと思うかしら」

朋「うーん、大きな変化を予兆する手相もないし、そういうタイプじゃない、かな」

志乃「その通りね……運よく昇進もしたし、このままかしら」

朋「その部下さんが亡くなって、どう思いますか?」

志乃「運が悪い時はあるわね……仕方がないわ」

朋「いて欲しいと望まれた人なんですね」

志乃「ええ……だから、残念よ」

朋「起こってしまったことは変えられないわ。これからどうするか」

志乃「それじゃあ……今後も人に恵まれるかしら」

朋「うーん、明確に手相には出てないわね。自分で探すとか育てるとかの方が柊さんにはいいんじゃない」

志乃「熱意も……かしら」

朋「柊さんはクールに、周りを熱くでもいいと思うわ。いずれにせよ、あなたが恵まれるなら周囲も恵まれるはずよ」

志乃「そう……」

朋「他になにかある?」

志乃「健康運を……お酒は飲み続けたいわ」

朋「占い師じゃなくて医者にも相談が必要ね。それはともかく健康だけど、生命線は長く伸びてるし、大丈夫だと思うわ」

志乃「そう……それがなにより」

海『仕事の話じゃ良いことでも笑わないのに、お酒の話だと笑うんだね、この人』

朋「自分でわかってるならほどほどにね。他にもあるかしら?」

志乃「いいえ……満足したわ」

海『聞くなら今だよ』

朋「野次馬みたいで申し訳ないんだけど、その部下さんってどうして亡くなったの?」
45 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:08:38.67 ID:oEyNdsQp0
志乃「わからないわ……病気か事故かあるいは」

朋「殺人……?」

志乃「わかってないわ……だから、もやもやとしたものがあるわね」

朋「自分ではどうしようもできないとはいえ、歯がゆいわよね」

志乃「体調は崩した様子はないし……自殺するとは思えないの」

朋「ふむ……」

志乃「通り魔だったら……捕まって欲しいわ」

朋「通り魔は怖いわね……」

志乃「川島さんも……一昨日までは元気だって言ってたのに……」

海『川島さんって誰だろうね。ストレートに聞いて』

朋「川島さんって誰なの?」

志乃「部下の友人なのだけど……知らないかしら?」

海『朋が知ってる可能性がある人なら、有名人とか?』

朋「有名な人なんですか?」

志乃「ローカル局のアナウンサーだけど……知らないかしら」

朋「どこかで見たような、どこだっけ?」

海『占い館のどこかで、名前がわかるところさ』

朋「わかった!職場に取材が来て、サインが飾ってあるわ」

志乃「彼女も何も知らないと言ってるわ……お手上げね」

朋「気を落とし過ぎないで。あたしの占いを信じるかどうかは自由だけど、現状を維持できれば良いことがあるはずよ」

志乃「参考にさせてもらうわ……」

朋「そうだ、名刺を渡さないと。タロットカードは占い館まで来てもらったら、やるわ」

志乃「そろそろ戻らないと……占いが必要な時は連絡するわ」

朋「お待ちしてます、ありがとうございました!」
46 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:13:08.22 ID:oEyNdsQp0
23

オフィス街・路上

プルルル……

朋「もしもし、留美さん?」

留美『藤居さん、どうしたの?』

朋「ねぇ、川島アナって知ってる?」

留美『知ってるけれど。雑談なら切るわ』

朋「連絡先わかる?取材に来てたでしょ?」

留美『取材に来ただけよ。知るはずないわ』

朋「番組スタッフの名刺とかあるはずよ。それでいいわ」

留美『確かにあるけれど。何に使うつもりなのかしら』

朋「売りこみ、とか」

留美『とかってなによ』

朋「とかはとかよ。留美さん、お願い。理由は後で話すわ」

留美『占い館に不利益があることじゃないわよね?』

朋「そんなことしないわ。名刺の写真を送ってくれたら、後であたし特選のノラネコアルバムを贈呈するから」

留美『それは要らないけど、貰えるのなら貰っておくわ。写真はすぐに送るわ』

朋「留美さん、ありがと!」
47 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:14:17.10 ID:oEyNdsQp0
24

喫茶店・アイリス

瞳子「2日で3回目のご来店ありがとうございます」

朋「どういたしまして。また待ち合わせに使わせてもらうわ」

瞳子「ご注文はどういたしますか」

朋「んー、何がいいかしら?」

瞳子「コーヒー、クリームソーダと来たら、ジュースでしょうか。こちらの野菜ジュースとか。砂糖控えめなのに甘いんです」

朋「瞳子さんが言うなら間違いないわね。それにするわ」

瞳子「かしこまりました。野菜ジュースひとつー」

朋「瞳子さんは、川島アナは知ってる?」

瞳子「はい。時々こちらにもいらっしゃいますから」

朋「だから、ここを待ち合わせ場所にしたんだけどね」

瞳子「もしかして、川島アナと待ち合わせなんですか?」

朋「そうよ。三船さんと一昨日会ってたらしいから」

瞳子「そうなのですか?」

朋「ええ。わからないことばかりだから、知り合いをあたることにしたわ」

瞳子「なるほど、でも」

朋「でも?」

瞳子「川島さんとは仲が良かったですよ。まさか事件に発展するようなことは」

朋「それでもいいのよ。仲が良いのなら、別の手掛かりが得られるかも」

瞳子「占い師さんは何かわかりましたか」

朋「なーんにも。早く事件の真相を知りたいのに困ったものだわ」

瞳子「焦っても良い考えはでないもの。ジュースをどうぞ」

朋「ありがとう。その通りね、ジュースでも飲みながら冷静に考えるわ」

瞳子「ごゆっくり」
48 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:15:26.00 ID:oEyNdsQp0
25

喫茶店・アイリス

川島瑞樹「あなたが占い師の藤居朋さん?」

川島瑞樹
美優の友人。ローカルテレビ局のアナウンサー。今期は朝の情報番組を任されている。

朋「そうよ。あなたが川島さん?」

瑞樹「ええ。はじめまして」

朋「はじめまして。さ、座って」

瑞樹「失礼します。その早速なんだけれど」

朋「ちょっとだけ落ち着いて。一杯ごちそうするから、頼むといいわ」

瑞樹「……そうね。店員さん、レモネードを」

瞳子「かしこまりました」

朋「お仕事は大丈夫なの?」

瑞樹「ええ。朝が早いから終わるのも早いのよ。夜の9時には布団に入るわ」

朋「そうなの?アナウンサーって大変なのね」

瑞樹「そうでもないわ。楽しいわよ」

朋「仕事が楽しいと思えるのはいいことだわ」

瑞樹「占い師さんは、どうなの?」

朋「なりたかったものになれて、もちろん楽しいわ」

瑞樹「うん、それが何よりね。そうだ、私も占ってもらおうかしら」

朋「お店に来てちょうだい。名刺を渡しておくわ」

瑞樹「そっか、お仕事だものね」

朋「わかってもらえるとありがたいわ」

瞳子「レモネードをお持ちしました」

瑞樹「ありがとう。本当はね、ここのコーヒーが飲みたいのだけれど」

朋「カフェインはだめ?」

瑞樹「その通り。寝る時間から考えると、もう控えた方がいいわね」

朋「考えたこともなかったわ」

瑞樹「占い師さんはまだ若いからいいけど、気をつけるなら早いうちがいいわ」

朋「考えておくわ」

瑞樹「それで、美優ちゃんを占ったのは藤居さんなの?」

朋「そうよ。ついでに第一発見者でもあるわ」

瑞樹「そうなの?それは知らなかったわ」

朋「刑事さんとか来ましたか?」

瑞樹「ええ。亡くなる前に会ったのは私だもの」

朋「女の刑事さんだったのかしら?」

瑞樹「そうよ。カッコイイ刑事さんと真面目そうな部下さんだったわ」

朋「失礼なこと言われなかった?」

瑞樹「そんなことなかったわよ。二人とも礼儀正しかったわ」

朋「あの刑事、人によって態度が違うのね……ヤな奴」

瑞樹「ヤな奴?」
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/09(火) 22:16:03.83 ID:mUbrwuVk0
50 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:16:18.06 ID:oEyNdsQp0
朋「ごめん、なんでもないの。占いの話は三船さんから聞いてたの?」

瑞樹「聞いてたわ。詳しくは聞いてないけれど、結果は良かったのね、嬉しそうだったわ」

朋「ふむ」

瑞樹「あの子、我慢強いし気配りできるから本心を話したがらないの。占い師さんには、何か言ってなかった?」

朋「うーん、深くは聞いてないのよね。約束の時間を気にしてたし」

瑞樹「美優ちゃんが事件に巻き込まれるようなこと、ないわよね?」

朋「でも、事件は起こってるわ」

瑞樹「変だと思うわ」

朋「変?」

瑞樹「原因がないじゃない。何にも思いつかないわ」

朋「川島さんが言うなら、そうなのかもしれないわ」

瑞樹「警察は何も言ってくれないし、不安になるだけだわ」

朋「そう言えば……警察は何も明確にしてないわね」

瑞樹「占い師さん、美優ちゃんはその」

朋「自殺とかではないと思うわ。生きたいと思っていた、違うわね、死ぬなんて微塵も考えてなかったはずよ」

瑞樹「そう……また悩んでいることに気づいてあげられなかったのかな、って」

朋「前にもあったの?」

瑞樹「そんな深刻な話じゃないわよ。昔の思い出話」

朋「川島さんが悩むことじゃないわ」

瑞樹「そうね……でも、真相は知りたいわ」

朋「あたしもよ」

瑞樹「ちょっとね、不安だったの」

朋「何が不安だったのかしら?」

瑞樹「私が気づいていたら、助けられたんじゃないかって」

朋「……」
51 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:17:21.00 ID:oEyNdsQp0
瑞樹「そんなことじゃないのは、わかってるわ」

朋「その思いは伝わるはずよ。いえ、伝わってたかな」

瑞樹「ありがとう、そう言ってもらえると気持ちが楽になるわ」

朋「やっぱり、事件の解決になるような糸口が見つけられないわ」

瑞樹「占い師さんはどうして、美優ちゃんのことを調べてくれるの?」

朋「刑事に疑われてるの。川島さんもわかるでしょ、イメージって大切なの」

瑞樹「わかるわ。私生活もきちんとしようと思うわね」

朋「三船さんのことは調べてみるわ。ちょうどいいから、聞いていいかしら」

瑞樹「何かしら?」

朋「川島アナの話し方、イメージ、美の秘訣を教えて欲しいわ!」
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/09(火) 22:17:30.08 ID:mUbrwuVk0
藤居朋「占い師探偵!」

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53 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:18:14.74 ID:oEyNdsQp0
26



朋のアパート・自室

朋「話のプロという前に、おしゃべり好きだったのね……川島アナは」

雪菜『たくさん、参考になることを一杯教えてくれましたぁ』

朋「そうね、あたしの雪菜ちゃん」

雪菜『本とか教科書も教えてくれましたから、今度探しに行きましょう』

朋「そうするわ。やっぱり活躍してる人の話はためになるわね」

雪菜『素敵な人でしたねぇ。画面の外でも』

朋「生き様までは真似できそうもないけど」

雪菜『だから、人気が出るんですよぉ』

朋「そうね。見た目も良いし」

雪菜『美容にも気を使ってそうですねぇ』

朋「川島さんのことはともかく、問題は事件の方ね」

雪菜『うーん……解決に近づいたと思いますか?』

朋「思わないわ」

雪菜『それはどうしてですか』

朋「三船さんが事件に巻き込まれるようなものを否定するばかりだから」

雪菜『朋ちゃんは疑われたままですか』

朋「あの刑事を黙らせるのは厳しいわね」

雪菜『朋ちゃんは何をしたいんですか』

朋「事件の真相がわかるか、犯人を見つけてしまいたいわ」

雪菜『そのためにはどうしたらいいですか』

朋「手掛かりが必要ね」

雪菜『どうしたら手に入りますか』

朋「気乗りはしないけれど、方法はあるわ」

雪菜『それは』

朋「あの刑事達から引き出す」

雪菜『大変ですねぇ』

朋「まったくよ」

雪菜『覚悟はしないとですよぉ』

朋「わかってるわ。ある程度は身を切らないとね、あの二人と渡り合うには」

雪菜『体力と精神力も必要ですぅ。今日はお休みしましょう?』

朋「仕事もあるし、雪菜ちゃんからもらった入浴剤でも使ってゆっくり寝るわ」

雪菜『明日の仕事が終わったら、ゆっくり考えましょうねぇ』

朋「そうするわ。おやすみ、あたしの雪菜ちゃん」
54 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:18:56.64 ID:oEyNdsQp0
27

翌日

占い館・ゴールデンドーン・従業員玄関前

肇「おはようございます」

朋「……どうして、ここにいるわけ?」

肇「藤居さんをお待ちしていました」

朋「待ってたのは、見ればわかるわ。どうして、待ってたの?」

肇「お話を聞きたいと思いまして」

朋「これから仕事なんだけど」

肇「相談料は払っています」

朋「つまり、仕事だから話さないといけないわけね」

肇「いいえ。占いを依頼します」

朋「はぁー、建前くらいわかってるから」

肇「そうですか」

朋「もう一人はいないの?」

肇「すでに中にいます」

朋「部下は外に残して?なんか思わないの?」

肇「何も思いませんが」

朋「あんたがそうならいいけど。着替えてくるから、あんたも中にいていいわ」

肇「わかりました。お待ちしています」

朋「心の準備は超特急で必要だけど、手間は省けたわ。やってやろうじゃない」
55 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:19:57.02 ID:oEyNdsQp0
28

占い館・ゴールデンドーン・更衣室

朋「着替え終わり、っと」

留美「藤居さん、何かしたのかしら?」

朋「留美さんまで……してないわよ」

留美「あの二人、警察の人でしょう?」

朋「そうだけど。一応仕事扱い?」

留美「そういうことにしておくわ。料金も払ってくれたし」

朋「行ってきます」
56 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:20:44.10 ID:oEyNdsQp0
29

占い館・ゴールデンドーン・礼の個室

朋「おはよう。ご丁寧に勝手に座ってるわね」

肇「お待ちしておりました」

あい「おはよう。昨日はよく休めたか?」

朋「おかげさまで」

あい「衣装を着ると占い師に見えるものだな」

朋「衣装は関係ない、とも言いきれないわね。褒め言葉として受け取っておくわ」

肇「……」

朋「それで、何しに来たの?」

あい「肇くん、説明を」

肇「三船美優さんの件について、お話を聞きに来ました」

朋「そうでしょうね」

肇「解決してくれるそうですが、いかがですか」

朋「あたしが犯人じゃないのは十分に示せると思うけど、あんたらが納得するとは思えないのよね」

あい「私は自分を神と崇める狂信者ではない。話を聞かせてくれ」

肇「それから判断します」

朋「わかったわよ」
57 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:21:35.58 ID:oEyNdsQp0
30

占い館・ゴールデンドーン・礼の個室

朋「で、どこから話せばいいのかしら?」

肇「ご自由にどうぞ」

朋「……事件当日の様子からでいいわね」

肇「どうぞ」

朋「三船さんは、あたしや前日に会っていた友人の川島さんに言っていた通りどこかに出かけたわけじゃないわ」

あい「ほう」

朋「ちゃんと調べてるわよ、びっくりしたかしら?」

あい「見直したよ。続けたまえ」

朋「でも、午前10時ごろに外出してるわ」

肇「どちらにですか」

朋「近くのコンビニよ。お昼は簡単に済ませようとしたのね」

肇「誰から聞きましたか」

朋「喫茶店の店員さん」

肇「お名前は」

朋「服部瞳子さん。あんた達も会ってるでしょう」

あい「ああ」

朋「袋とかゴミとかあったかしら?」

肇「お話を伺ってから回答します。続きをどうぞ」

朋「そんなわけで、三船さんはその時間以外は家にいたの」

肇「そのようですね」

朋「それで、あたしのアリバイなのだけれど」

肇「はい」

朋「従業員からここにいることは証明出来るわ。調べるのはあんたらの仕事でしょう」

あい「そうだな」

朋「つまり、あたしが三船さんを殺したということにはならないわ」

あい「さて、それは本当かな」

肇「殺害は直接手を下さなくても出来るはずです」

朋「ここまで納得しなそうなことはわかってたわ」

あい「ああ」

朋「だから、事件性を否定するわ」
58 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:23:05.38 ID:oEyNdsQp0
31

占い館・ゴールデンドーン・礼の個室

肇「事件性の否定ですか」

朋「ええ。あたし、あたしの共犯、それとも別の誰かが犯行をしてないと思えればいいんでしょう」

あい「なるほど」

肇「続けてください」

朋「同僚、上司、友人と大家さんから話を聞いたわ」

あい「ふむ」

朋「仕事やプライベートでトラブルは抱えてないわ」

肇「そのようですね」

朋「恋人関係とかの要因も見つからないわ」

肇「つまり」

朋「殺害される動機を持った人間が見つからないわ」

あい「話を聞いたのは」

朋「同じ会社の衛藤美紗希さんと柊志乃さんね」

肇「ご友人とは」

朋「さっきも言った通りよ、川島瑞樹さん」

肇「大家さんとは」

朋「三船さんが住んでいたアパートの大家さんね。やっぱり対人関係のトラブルはないと言ってたわ」

あい「ふむ。それで」

朋「あたしは殺人ではないと思うわ」

肇「何故ですか」

朋「事件を起こせる人もいなくて、事件を起こす理由がある人もいないなら、そう考えるのが妥当だわ」

あい「その通りだな」

朋「自殺するとは思えないわ。そう考えると」

肇「あなたの結論は」

朋「不幸なことだけれど、事故か病死よ」

あい「そうか」

朋「誰かが関係していたとは思えない」

肇「それはあなたもですか?」

朋「ずっと言ってるじゃない、あたしは何も関係ないわよ」

肇「わかりました」

朋「占い師はそれを調べられないから、あんたらがやって。それで解決なはずよ」

あい「君の言いたいことは終わりかな?」
59 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:24:03.49 ID:oEyNdsQp0
朋「ええ。率直に言うけれど、あんたらとは話さないといけないと思ってたわ」

肇「私達とですか」

朋「理由は情報を手に入れるためよ。あんたらの調査は進展があったの?」

あい「事件についての進展はない」

朋「刑事も思ってよりはとろいのね」

あい「罵詈雑言は聞きなれている」

朋「あたしの話はこれで終わりよ」

肇「ありがとうございます」

朋「仕事時間だから、終わりでいいかしら。あたしはあたしのあんたらはあんたらの仕事をする時間よ」

あい「君の話は聞き終えた」

肇「私達の話をさせてもらいます」

朋「何かあるわけ?」

あい「君は質問に答えていない」

朋「何の?」

肇「どうして、第一発見者となれたのですか?」

朋「理由なんてないわよ、偶然よ」

あい「もう一つ質問を加えようか」

肇「はい。どうして、犯人を捜してるのですか?」

あい「警察に任せればいい」

朋「言ったでしょ、イメージの問題よ」

あい「イメージが悪くなるようなことがあるのか?」

朋「は?」

肇「私達は警察ですから。秘密は守りますよ」

あい「だが、君はそれすら恐れている」

朋「何が言いたいのか、わからないわ」

あい「刑事にとって面倒な仕事は2種類だ」

肇「難解な事件と事務仕事を増やすだけの事件です」

あい「今回は後者だ。刑事達は使命感を得られない事件には関わりたくないものだ」

肇「そういうわけで、この事件を押し付けられました」

あい「まったく。男性社会というのは変わらないな」
60 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:25:18.92 ID:oEyNdsQp0
朋「最初から事故だと決めつけてたように聞こえるのだけれど」

あい「肇くん、質問をしよう」

肇「はい。藤居朋さん、お聞きします」

朋「なによ」

肇「どうして、三船さんに連絡したのですか?」

朋「だから、何度も言ってるじゃない」

あい「肇くん、どうやら答えてくれないようだ」

肇「そのようです」

あい「では、こちらから答えを提示していくとしよう」
61 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:26:41.73 ID:oEyNdsQp0
32

占い館・ゴールデンドーン・礼の個室

朋「答え?」

あい「君は遺体の第一発見者だ」

肇「はい。お客に電話をかけてもつながらないことから、自宅に行きました」

あい「連絡先と住所は会社から教えてもらっている」

肇「そして、遺体の第一発見者となりました」

あい「ここまでは間違いないな?」

朋「間違いないわ」

肇「そして、事件の調査を始めました」

あい「しかし、だ」

肇「行動のモチベーションがわかりません」

朋「……」

あい「そこで、一つの可能性を立てた」

肇「三船美優さんとの占いに何か原因があると」

あい「確認だが、占いの内容自体に問題はなかったな」

朋「言った通りよ。奇天烈な内容ではなかったわ」

肇「内容でないならば」

あい「問題となるのは、経緯だ」

朋「経緯?」

あい「それを明らかにするために、君のことを調べさせてもらった」

朋「なんで、あたしのことを調べるわけ?」

肇「真実に近づくためです」

朋「はぁ」

あい「イヤだったか?」

朋「イヤに決まってるでしょう」

あい「別に君がどう思おうが関係ないが、正しい方向ではあるようだ」

肇「あなたはここにスカウトされる前から、占いの腕は評判でした」

朋「そうね。だから、ここで働いてるのだけど」

あい「君の友人にも聞いてみたが、その理由まではわからなかった」

朋「海ちゃん達から聞いたわけ?」

あい「ああ。こちらに来ていたようだからな」

朋「信じられないわ……」

あい「まぁ、彼女達から特に情報が得られたわけではないが。仲の良い友人がいるのは、素晴らしことだな」

肇「話は変わりますが、手相占いも評判でしたね」

あい「短い時間でよくそれなりの占いを出来るものだ」

朋「そっちも見てたの?」

肇「いけませんか」

朋「いけないことはないけど、ねぇ」
62 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:28:23.63 ID:oEyNdsQp0
あい「だが、タロットカードによる占いの用意はしていたが」

肇「受けた人はゼロでした。あなたが選ばないようにしていました」

朋「その様子だと知ってると思うけど、手順と場所は重要だからよ」

あい「そうだな」

肇「なので、疑問が残ります」

朋「疑問ってなによ」

あい「三船美優の占いは、手順と場所を完全に整えた状態で行われた」

肇「それにも関わらず、あなたには何か懸念事項があったのですか」

朋「……」

あい「これは君の同級生から聞いた話だが、得意なことがあったそうじゃないか」

朋「得意なことね、占い以外の特技はないと思うわ」

あい「トランプに強いらしいじゃないか」

朋「……え?」

あい「先ほども聞いたが、手順と場所の重要性を君は説く」

肇「それは占い師としての力を高めるため、とあなたは言っています」

あい「昔の評価とは違うようだな」

朋「あんたら、昨日のうちにあたしの地元に行ってたわけ?」

あい「そうだ」

朋「優先することは他にもあるでしょうに」

あい「それを決めるのは私だ、心配はいらない」

肇「あなたはそこまで手順と場所に拘ってはいませんでした」

あい「君は自分の占い師としての能力は高くないと思っているようだ」

朋「そうね、半人前よ」

あい「君の占いは当たるよ。それにも関わらず、だ」

肇「そして、今よりも昔の方が顕著です」

あい「故に、一つの可能性が思い浮かぶ」

肇「連絡した理由、私達に探られることを嫌う理由、占いが評判だった理由、タロットカード占いを断る理由」

あい「そして、君の過去と特技」

朋「……」

あい「そう表情を引きつらせないでくれ」

肇「はい」

あい「私達は真実が知りたいだけだ」

朋「真実を知りたいから、あたしのことを調べてもいいわけ?」

肇「答えてくれませんでしたから」

あい「だから、こちらから聞くのさ」

肇「はい、か、いいえ、でお答えください」

あい「君は三船美優を占っていない。そうだな?」
63 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:29:36.22 ID:oEyNdsQp0
33

占い館・ゴールデンドーン・礼の個室

朋「……」

あい「君のこれまでの占いは、類まれな観察眼と話術によって支えられている」

肇「自分の中に作った人格と会話しているそうですが、他人と話しているような場合でも実はしているのですね」

あい「そして、カードを操作できるんだ」

肇「あなたの占いは当たります」

あい「自らが相手から得た情報を提示しているだけだからだ」

肇「あなたは当たりだと思いこませるような結果を提示できます」

あい「だが、手順を踏まなかったことにより不安が生じた」

肇「いかがでしょうか」

朋「あんたら、こんなことしてるとバチが当たるわよ」

あい「もとより覚悟の上だ」

肇「私も同じです」

朋「世間の警察はあんたらみたいのばっかりなの?」

あい「それは否定しておこう。安心したまえ」

朋「はぁ……わかったわよ、答えるわ。その前に、確認していいかしら」

肇「どうぞ」

朋「あたしは犯人じゃないわ。これはいいかしら」

あい「ああ。君を犯人に仕立て上げるのは無理筋だ」

朋「あたしの商売はイメージが大事よ。秘密にしてくれるかしら」

肇「もちろんです」

あい「ただでさえ、署内ではあまり良い目では見られていない」

肇「匿名の通報で、私達の評価を下げないでいただけると助かります」

朋「約束できるわね」

あい「もちろんだ」

朋「この話はこの部屋の中での秘密よ。いいわね?」

肇「はい」

朋「言っておくけど、あたしはちゃんとした占い師になるつもりよ」

あい「わかってるさ」

朋「……ふぅ。1年も経たないうちにお客さんでもない人から指摘されるとは思わなかったわ」

あい「答えを聞こう」

朋「あんたらの言う通りよ。あたしがやったのは占いじゃないわ」

64 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:31:19.72 ID:oEyNdsQp0
34

占い館・ゴールデンドーン・礼の個室

朋「はぁ、あんたら本当に趣味が悪いわね」

あい「これを変えてしまうと刑事としての価値も薄れてしまう気がしてな。許してくれ」

朋「あたしが三船美優さんを訪ねた理由は、占っていなかったからよ」

肇「参考に聞いてよろしいでしょうか、どうやったのですか」

朋「刑事の取り調べに役立つかもしれないわね。別に難しいことはやってないわよ」

あい「聞かせてくれ」

朋「話し方と態度から、現状に悩みがあるかどうかを見分けるのが一つ目。意外と顔に出るタイプ、特にネガティブなものは出やすい三船さんは簡単ね」

肇「大きな悩みはないと」

朋「あとは仕事、友達、恋人について雑談みたいに聞いてみたわ。こっちも特に問題はなさそうだった。特に友人への評価が高かった」

あい「君には簡単なことなんだろうな」

朋「あんたらも調べてるかもしれないけど、三船さんは仕事の態度を変えようとしていたわ。自分であたしに言ってくれるくらいね」

肇「ふむ」

朋「あの性格だし、結果がすぐ出るとか出てたとしても自信を持つのは難しいと思ったわ。だから、背中を押してあげることにしたの」

あい「君が言う通り、頓珍漢ではなく真っ当すぎる占いになるわけだ」

朋「その通りよ。あとはそれを指し示すカードを出してあげればいい」

肇「カードを操作したのですか」

朋「月は逆位置、剣の8は正位置、金貨のクイーンは正位置をあたしの意思で出したわ」

あい「なるほどな」

朋「結果には満足してくれたみたいね」

あい「本人が出して貰いたい結果と君の結果が一致したから、だろうな」

朋「その通り。我が意を得たり、そんな表情だったわ」

肇「それが当たるということなのですか」

朋「未来はわからないから、今が当てられる占いは当たったと思われやすいのよ」

肇「なるほど」

朋「占いというよりは人生相談よね。カードは信じさせるための小道具に過ぎないわ」

あい「普段ならばそれで終わりにしているはずだと思うが、違うのか」

朋「気になったことがあったのよ」

肇「気になったことですか」

朋「ええ。三船さんは占いを必要としてなかったわ」
65 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:31:47.76 ID:oEyNdsQp0
あい「……」

朋「だけど、占いが気になっていたからあたしの前に現れたのよね」

肇「それに、意味があると?」

朋「わからないわ。だから、会いに行ったのだけれど」

あい「彼女は亡くなっていた」

朋「そうなってしまったわ」

あい「これで理由はわかったな」

肇「はい」

朋「あたしの領分に入ってこられると困るから、答えられなかっただけよ」

あい「真実はわかった」

朋「はぁ……くれぐれも頼むわよ」

肇「秘密にすることに問題はありません」

朋「疲れたわ、こんなんでこれから仕事できるのかしら……」

あい「お願いするとしよう」

朋「これ以上何をお願いするのよ」
66 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:32:33.46 ID:oEyNdsQp0
あい「占いだ」

朋「はい?」

肇「あなたは事件の第一発見者として、もう役割はありません」

あい「占い師の君に期待しているのは占いだ」

朋「本当に占いに来たわけ?」

肇「そう言っていますが」

朋「確かに言ってたわね……」

あい「君に占いをお願いする。そうでなければ、代金を払う理屈がない」

朋「そういうことね……いいわよ、何を占ってほしいわけ?」

あい「三船美優について、占ってみたまえ」

朋「三船さんのこと?」

あい「占えないのか?」

朋「出来ないことはないわ」

あい「彼女についてはもう占いしか出来ない。君の実力を私に見せてくれ」

朋「……」

あい「出来ないのは、躊躇う理由があるからか」

朋「そうね、あるわ」

肇「ですが」

あい「君に選択権はない。やりたまえ」

朋「わかったわよ。あたしも占うかどうか悩んでいたから、やるわよ」

あい「それでいい」

朋「手順と場所を整えるわ。あんたらもお清めをしてもらうから」
67 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:33:34.19 ID:oEyNdsQp0
35

占い館・ゴールデンドーン・礼の個室

あい「お清めの儀式はこれでいいのか」

朋「ええ。カードのチューニングも出来たわ」

肇「今回の占いは」

朋「星の力を借りるわ」

あい「星とはね」

朋「ホロスコープスプレッドと呼ばれる占いを使うわ。12の星座と宙を意味する13のカードから三船さんを占うわ」

肇「ふむ。最初からこれで占わなかった理由は」

朋「あたしが話を作るのが大変だから。占いに詳しくなさそうだったし」

あい「自分の都合か」

朋「カードは全種類をシャッフルするわ。あたしの操作が影響しないように、あんたが最初にシャッフルしてちょうだい」

肇「私ですか」

朋「そうよ。出来るかしら」

肇「わかりました」

朋「ついでにカードの裏に細工がないかを確認してちょうだい」

あい「ないようだな。どうやって、操作してるんだ?」

朋「78枚のカードがどう動いたかくらい覚えてられるわ」

あい「刑事の勘も捨てたものじゃないな。君を見くびらなくて良かった」

朋「シャッフルは右回りよ、いいわね?」

肇「わかりました。こうでしょうか」

朋「オーケーよ。あたしは後ろを向いて目をつぶるから、三船さんを思い浮かべながら丁寧にシャッフルして」

肇「わかりました」

朋「……」

あい「普段は自分でシャッフルするのか?」

朋「相手にシャッフルさせても操作できるから、疑い深い人にはシャッフルさせるわ」

あい「その場合は、どうやって任意のカードを出すんだ?」

朋「別の所に隠しておくだけよ。占い師の衣装は隠しどころが多いもの」

あい「なるほどな」

朋「今は78枚全てそこにあるから心配なら数えてみて」

あい「信用するとしよう。その方が物事は早く進む」

朋「最初から信用してくれれば、何も起こらなかったのによく言うわ」

肇「この程度でよいでしょうか」

朋「刑事さんのことだから、執拗にシャッフルしてそうだから問題ないわ。最後にあたしがカードを整えるわ」

肇「どうぞ」

朋「あんたらが見た方が正方向よ。カードはこれで良し、と」

あい「進めたまえ」

朋「これから上から順に13枚のカードを引き、12枚を円形に順番通り置いていくわ。最後に宙、総評を意味するカードを中心に置くわ」

肇「はい」

朋「置く場所にも意味があるけれど、大切なのは全体像ね。だから、置き終わってから占いの結果がわかるわ」

あい「それまで待っているとしよう」

朋「ふー……はじめるわよ」
68 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:34:56.21 ID:oEyNdsQp0
36

占い館・ゴールデンドーン・礼の個室

朋「1枚目、オープン」

肇「これは……」

朋「牡羊座の位置、大アルカナは月で逆位置」

あい「同じか。君の操作した結果と」

朋「偶然か必然か、決めるには早いわ。2枚目、オープン。牡牛座の位置は、杖の3で逆位置」

あい「肇くん、昨日本を読んでいたがどんなカードだ?」

肇「未来とか先導を意味したかと」

朋「その逆だから、支える側ということね。3枚目、オープン。双子座の位置は、剣の4で正位置」

あい「寝ている絵だな」

朋「4枚目、オープン。蟹座の位置は、聖杯の1で正位置……良いカードなのに」

肇「1はエースなので、良い意味だと書かれていました」

朋「5枚目、オープン。獅子座の位置は、金貨の7で正位置」

あい「悩んでいるように見えるが」

朋「農夫が金貨を実らせても困るでしょ?そういう絵よ」

あい「なるほど」

朋「6枚目、オープン。乙女座の位置は……大アルカナ、塔で正位置か」

肇「大アルカナが重要だと読みました」

朋「その通りよ。7枚目、オープン。天秤座の位置は、剣の2で正位置」

あい「……」

朋「8枚目、オープン……えっ……」
69 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:36:00.70 ID:oEyNdsQp0
あい「ドクロ姿ということは死神か」

朋「そういうことね……蠍座の位置は、大アルカナ、死神で正位置……」

肇「……」

朋「9枚目、オープン。射手座の位置は、剣の8で正位置」

あい「ほとんど正位置だな」

朋「正逆が多い占いは不安定を指し示すわ。逆位置が多すぎると結果そのものが逆転すると言われるわね」

あい「つまり、この結果は信頼できるということか」

朋「10枚目、オープン。山羊座の位置は、金貨の2で正位置」

肇「残り3枚です」

朋「11枚目、オープン。水瓶座の位置は、聖杯の2で正位置。本当に人に恵まれる人なのね」

あい「どういうことだ?」

朋「愛と友情の象徴が蟹座と水瓶座の位置に現れるということは、そういうことね。次、行くわ」

肇「はい」

朋「星の最後よ。12枚目、オープン。魚座の位置は、聖杯の7で正位置」

あい「これも聖杯か。同じような意味か?」

朋「夢や妄想というマイナスになりうるカードね。ロマンチックな恋に憧れていたのかもしれないわ」

あい「ふむ」

朋「最後よ。全体を繋ぐカード、オープン」

肇「……」

朋「……やっぱり、そうなるか」

あい「このカードはなんだ?」

朋「宙の位置は、剣の10で正位置。このカードは何を示してると思うかしら?」

肇「人が剣で串刺しになっています」

あい「終わりという意味か」

朋「終わり、もしくは終わらせることで明るい世界となることを意味するわ」

あい「このカードがここにでるということは」

朋「……」

肇「藤居さん、どうしましたか」

朋「こういう結果が出て欲しくなかったのに……13枚のカードから読み取れることを説明するわ」
70 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:37:21.23 ID:oEyNdsQp0
あい「聞かせてくれ」

朋「大アルカナが大切なことを指し示すわ。牡羊座の位置に月で逆位置。不安を抱えながら進む強さを秘めていたのね、あたしにもわかるくらいだけど」

肇「これは新しいことを示していないですね」

朋「ええ。その不安を、あたしは読み間違えたのね。残りの大アルカナは2枚」

あい「塔と死神だったか」

朋「乙女座の位置に塔で正位置、蠍座の位置に死神で正位置。塔は破壊やアクシデントを、死神は終焉と直接的に死を意味してるの」

肇「……」

朋「乙女座の位置は、仕事や健康を象徴するもの。会社が突然破産するとも三船さんが立ち行かなくなるとも思えないから、塔が示すは健康のアクシデントという可能性が高いわ」

あい「死神は」

朋「蠍座の位置は肉体を象徴するもの」

あい「死ということか」

朋「恋人との肉体関係が終わるとか、病気が見つかるとか、病気が終わるとかいう意味もあるわ。でも……肉体的な終わりを意味してると思うわ」

肇「そうなると……」

朋「それらを結ぶのは終焉を指し示す、剣の10」

あい「……」

朋「あたしは、その……」

あい「言ってみたまえ」

朋「自分の能力を過信して、大切なことを見逃しちゃったのね……」

肇「……」

朋「どこかで不安を抱えていたけれど、三船さんはそれがわからなかった、わかるわけないわよね、突然の死を予感していたなんてわかるはずがないわ」

あい「……」

朋「それなのに、あたしの前に現れたわ。占い師の前に」

肇「……」

朋「全部偶然だったのかもしれないわ。けど!」

あい「……」

朋「あたしなら聞くことができた。今、こんな結果だしても意味がないのよ。あの時に出していれば、カードは、死という終わりじゃなくて新しい始まりを意味できたのに!」

あい「……」
71 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:39:24.09 ID:oEyNdsQp0
朋「……占いの結論を言うわ」

あい「ああ」

朋「三船さんはおそらく病死よ。頭の傷は、倒れた際にぶつけたか物が落ちて来ただけだと思うわ。この事件に犯人なんていないの、最初からいなかったの」

あい「そうだな」

朋「あんたらは理由をしつこく聞いてきたけど、理由を聞かないといけないのはあたしだった」

肇「……」

朋「そうしたら……事件すら起こらなくてすんだのに」

あい「……」

朋「あたしは、占い師に変わらないといけないとわかってたのに。バカね」

肇「……」

朋「占いはこれで終わりよ。他になにかあるかしら」
72 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:41:05.03 ID:oEyNdsQp0
あい「一つだけ言っておこうか」

朋「なにかしら」

あい「占い師ごときが人の生き死にを変えられたりはしない」

朋「……はっきりと言うわね」

あい「全ては偶然だ」

朋「……そうかもしれないわね」

あい「しかし、君の占いも信用しよう」

肇「検死は今日の午後です」

朋「ということは、あんたらヒマだからあたしのこと調べてたの?」

肇「その通りです」

あい「検視はスケジュールが合わずに今日までずれ込んだだけだ」

朋「はぁ……あんたらのこと好きになれないわ」

あい「それで結構だ」

肇「そろそろ時間です」

あい「君は誠実に仕事をすべきだな。私達のようになりたくないのなら」

朋「これからはそうするわ。占い師にならないといけないの」

あい「失礼しよう。肇くん、行くとしようか」

肇「はい。お邪魔しました」

朋「ばいばい」

朋「……」

朋「あいつら、最後は励ましてくれたのかしら……」

朋「……」

朋「ごめんなさい、三船さん……」
73 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:45:19.54 ID:oEyNdsQp0
37

後日

占い館・ゴールデンドーン・礼の自室

礼「そう……そんなことがあったの」

朋「三船さんの死因は、詳しくは違うけど心臓発作だったみたいなの」

礼「頭の傷は」

朋「棚から落ちてきた貯金箱。傷自体は致命傷じゃないけど、意識がなくなったから助けを呼べなかった」

礼「不幸な事件だったのね」

朋「……そうね」

礼「刑事さんの言う通り、あなたが防げたとは思えないわ」

朋「わかってるわよ……反省してるだけ」

礼「例えば、私が何かに勘付いて残っていたら防げたかもしてない、と思うのはおかしいと思わないかしら」

朋「……」

礼「それにあなたに早く戻ってくるように言ったのは私よ。私の責任でもあるかしら」

朋「違うわ、うん、違うわ」

礼「気にし過ぎでもいけないわ。悼むことしか今は出来ないのだから」

朋「わかったわ」

礼「よろしい」

朋「言ったから聞くけど、あたしがカードを操作できるの礼さんは知ってた?」

礼「そうじゃないかとは思ってたわ」

朋「やっぱり、礼さんにはわかってたのね」

礼「あなたの実力はわかってるわ。実力以上の評判だから、何かあるかもしれないと」

朋「これは辞めようと思うのだけど、どうかしら」

礼「あなたはどうしたいのかしら」

朋「辞めるわ。あたしは占い師になるの」

礼「そうね。でも、占いを求めてない人もいるわ」

朋「そういう人達にはいらない?」

礼「見分けられるかしら」

朋「難しいわね……」

礼「占い師は人の選択を後押しするだけよ。決めるのは本人なの」

朋「わかってるわ」

礼「その本人に示すのは何がいいか、ずっと悩み続けないといけないわ」

朋「礼さんもそうなの?」

礼「ええ。キャリア的に言えば私も駆け出しの部類だもの」
74 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:47:30.57 ID:oEyNdsQp0
朋「礼さんがそんなこと言ったらあたしはどうなるのよ」

礼「赤ちゃんね」

朋「そんなこと言うと、ばぶばぶ甘えるわよ」

礼「何度も間違えて、失敗して成長していくの。占い師でもそれは一緒よ」

朋「……うん」

礼「悩んだら相談しなさい。それくらいは出来るから」

朋「わーい、礼さん大好きー」

礼「あらあら、よしよし」

留美「藤居さん……何してるのよ」

朋「この通り、甘えてるわ」
75 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:48:43.80 ID:oEyNdsQp0
留美「別になんでもいいけれど。お話をいいかしら」

朋「大丈夫よ。仕事の話?」

留美「いえ、この前の話だけど」

朋「この前の話って何かしら?」

礼「私に言われても困るけれど」

朋「思い出せないわ。なんだっけ?」

留美「結婚の話……」

朋「言ってたわね。礼さん、これは占いの話じゃないわよね」

礼「そうね」

朋「留美さん、礼さんとあたしの答えは同じよ」

礼「ええ」

留美「そうなの?」

朋「占いじゃないわ。占い師としては占うべきかもしれないけれど」

礼「この件については、そういう問題じゃないわね」

朋「留美さん、よく聞いてね」

留美「え、ええ、わかったわ」

朋「留美さんが好きな人と留美さんは両想いよ」

留美「へ?」

朋「あっちが勇気を出して打ち明けてくれたら、素直に受け入れてあげて」

礼「留美さんががっとやって、チュっとしたらイチコロよ」

朋「この過激派の意見はともかく、留美さんから積極的に行くのもいいわね」

留美「……」

朋「未来を占うのはそれから」

留美「な、なに言ってるのよ。礼さん、そろそろ時間だから準備を」

礼「もう出来てるわ」

留美「藤居さんはお疲れ様、また明日!」

礼「別に思春期の生娘じゃないのに、あんなに顔を真っ赤にして……」
76 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:54:06.30 ID:oEyNdsQp0
朋「留美さん、好きな人の前ではうまく振る舞えないタイプね」

礼「そうみたいね。占いよりも事実の方が大切な時もあるの、わかったかしら?」

朋「充分にわかったわ。礼さん、仕事前なのに話を聞いてくれてありがと!」

礼「どういたしまして」

朋「礼さん、あたしがんばるわ」

礼「ええ」

朋「皆が幸せになるお手伝いが出来るような、占い師になるから!」

EDテーマ
フォーチュン★スター
歌 藤居朋
77 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 22:56:28.14 ID:oEyNdsQp0
エピローグ

占い館・ゴールデンドーン・従業員玄関

朋「あたしの海ちゃん、ちょっと来て」

海『今日も仕事お疲れ様!』

朋「時間があるから、今日は何をしようかしら?」

海『そうだね、パワースポット巡りとか。朋、最近勉強するとか言ってたからさ』

朋「その意見採用するわ、パワースポット巡りにしましょう」

あい「本当に一人で会話してるんだな」

朋「うわっ!ビックリしたわ!」

肇「お久しぶりです」

あい「今日は時間があるそうだな」

朋「聞かれてるし……パワースポット巡りに行くつもりで忙しいのよ」

肇「ご協力をお願いしたくて、お訪ねしました」

朋「聞いてないし……って協力?」

あい「私は君の能力を評価している」

肇「殺人事件の調査にご協力いただこうかと」

あい「善人の未来を救い、悪人の未来に罰を与えてみないか?悪人に誠実な占いをする必要などないからな」

朋「へぇ……」

あい「ご協力いただけるかな、占い師探偵?」

おしまい
78 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/01/09(火) 23:01:34.75 ID:oEyNdsQp0
あとがき

※作中の占いは現実のものを参考に、作品用にアレンジしていますのでご注意ください。

占い師探偵なんて字面でシンデレラのSSを書く奴はそうはおるまいということで書いてみた。
ふじともは大人な面もちゃんとあるからこれくらいの役は出来るよね、と思いながら。
なかなか強キャラに。この3人に出くわした犯人は酷い目にあうに違いない。

高峯のあの事件簿の方に戻るので、そちらもよろしくです。
それでは。
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/10(水) 02:07:42.56 ID:I8Cav3Fe0
お疲れ様でした!

面白かったゾ!
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/10(水) 02:44:03.97 ID:4aL8lCOZO
ふじともの占いは応用力の高さあるとおもいますわ
寺生まれシリーズとかあるし
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/10(水) 07:10:08.35 ID:A9MZP79uo

今回も面白かったです
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/10(水) 19:05:54.05 ID:rve1E/j80
今回も楽しかったであります。次も楽しみにしてるでごぜーます。
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