【モバマス】白菊ほたる「あまざらしなPさん」

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69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:23:24.09 ID:2X1um2xF0
――CGプロ エレベーター――

ほたる「プロデューサーさんは1階ですよね? 私はレッスンルームだから2階――」

ほたる(――のボタンを押そうとした私の手をプロデューサーさんは制しました)

P「…………」フルフル

ほたる「え?」

P「上手くいかねぇや、っていつもの事だろ。不出来な人間なのは痛いほど分かってる」

P「さっき飲み込んだあの言葉は日の目を見る事もきっとないんだろうな」

ほたる「…………」

ほたる(プロデューサーさんはそう言い、1階のボタンだけを押しました)

P「そうやって積もった部屋の埃みたいな感傷が、僕らを息苦しくさせてるんなら」

P「自分を守りたくて閉め切ったドアも窓も、無理してでも開けなきゃ、窒息しちゃうよ」

ほたる(小さな声で言葉を紡ぐ間に、エレベーターは、私が降りるはずだった2階を通り過ぎました)

ほたる(ボタンを押そうとすればすぐに押せたのに、私の腕は動いてくれませんでした)

P「悩みはどうせ消えない」

ほたる(エレベーターが1階に到着すると、プロデューサーさんは私の手を取り、歩きだしました)

ほたる(レッスンルームに行かなきゃ、もうすぐ本番なんだからしっかり練習しなきゃ、みなさんに迷惑をかけないように頑張らなきゃ)

ほたる(そういう気持ちが浮かんで、でもプロデューサーさんの手がとても温かく、私はそれに抗う事が出来ません)
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:23:50.60 ID:2X1um2xF0
P「そうだ、僕も君ももう一度新しく生まれ変われるよ。傷ついて笑うのは金輪際もうやめにしよう」

ほたる(……というより、最初から抗う気持ちがなかったのかもしれません)

ほたる(プロデューサーさんに手を引かれ、CGプロダクションから私たちは抜け出しました)

ほたる(自動ドアが開いて、吹き抜けた風からは何となく懐かしい匂いがした気がします)

ほたる(それだけで、私の頭がスッと冴えたような気がしました。どこか重苦しかった胸の内が少し軽くなったような気がしました)

ほたる(気付けば、私はプロデューサーさんの隣に並び、歩調を合わせて歩いていました)

――――――――――――
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:24:17.21 ID:2X1um2xF0
ほたる(都心から電車を乗り継いで2時間弱)

ほたる(私とプロデューサーさんは東京の最西端の駅にいます)

ほたる(電車の中では、プロデューサーさんはいつも通りにほとんど無言でした)

ほたる(でもその静かな空気が妙に居心地よく、車窓から流れる景色にどんどん緑色が多くなるのを、少しワクワクしながら見ている自分がいました)

ほたる(途中に小ぢんまりとしたターミナル駅で乗り換えた電車からは押しボタンでのドア開閉で、駅の雰囲気や人の少なさも相まって、なんだか鳥取にいるような安心感も感じました)

ほたる(レッスンもなにも投げ出して、プロデューサーさんと2人で逃避行)

ほたる(言葉にすると大変ダメな字面になりますが、それをとても楽しいと思ってしまいます)


――――――――――――
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:24:44.49 ID:2X1um2xF0
ほたる「ここは……キャンプ場……ですか?」

P「…………」コクン

ほたる(駅から歩いて15分ほどでしょうか)

ほたる(木で組まれたロッジ、ロープで纏められた薪、簡単な水道施設……)

ほたる(テレビなんかでは見た事がありましたが、こうして実際に見るのは初めてでした)

P「…………」

ほたる(プロデューサーさんは私にここで待っているように、という仕草をすると、受付らしい小屋に入っていきました)

ほたる(一人になり手持無沙汰になった私は、キャンプ場を見回してみます)

ほたる(今はもう中秋の名月も通り過ぎた晩秋、それに平日の午後です)

ほたる(やや西日になり、赤みを帯びてきた太陽に照らされた広場には私たち以外の利用客はいないようでした)

ほたる(風に揺れる木立がサワサワと葉をこすり合わせる音と、近くに流れる川のせせらぎ、時折思い出したように鳴く鳥の声が、閑散としたキャンプ場に響きます)

ほたる(それらは物悲しい響き……と、一般的には評されるのかもしれませんが、今の私には心地いい音色に聞こえました)

ほたる(……もしかしたら、ちょっと疲れていたのかもしれません)
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:25:10.53 ID:2X1um2xF0
P「…………」

ほたる「あ、プロデューサーさん……」

ほたる(しばらくぼんやりしていたら、事務所から背負っているギターケースとバッグに加え、小さな薪や着火するための道具なんかも抱えたプロデューサーさんが戻ってきました)

ほたる「私も少し持ちますね」

P「……And I will say、ありがとう」

ほたる「……ふふ、やっぱりプロデューサーさんってプロデューサーさんですね」

ほたる(変なお礼の言い方に思わず笑ってしまいました)

ほたる(プロデューサーさんはそんな私を見て、少し安心したような顔をしていました)


……………………
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:25:36.90 ID:2X1um2xF0
ほたる(プロデューサーさんとキャンプ場の一角に陣取ると、そこでプロデューサーさんは傘が開いたような形に薪を組みました)

ほたる(私にも何か手伝える事はないかと思ったのですが、ものすごく手際よく薪を組む手つきを見ていると、邪魔になってしまうだけに思えました)

ほたる(こういう経験があるんですか、と尋ねてみたら、一度やってみたかったから手順を調べた、といったようなニュアンスの言葉を返されました)

ほたる(言葉少なく話をしているうちに、プロデューサーさんは組んだ薪の中央部に丸めた新聞紙を詰め、火をつけました)

ほたる(その火は次第に薪にも移り始め、しばらくすると、テレビや漫画などでよく見る焚き火のような形で炎が立ち上がりました)

ほたる(パチパチと薪の爆ぜる小さな音、ゆらゆらと揺れる炎)

ほたる(しばらく無言で、プロデューサーさんと私は並んで座りながら、それを眺めていました)

ほたる「…………」

P「…………」
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:26:06.85 ID:2X1um2xF0
ほたる「……プロデューサーさん」

P「……?」

ほたる「……ありがとうございます」

P「…………」

ほたる「私……自分で気付かないうちに……いっぱい不安を抱え込んでました」

P「…………」

ほたる「カプリスエスパーオトメのみなさんも、茄子さんも、とても優しいんです」

P「…………」

ほたる「私の不幸体質でライブが台無しにならないか……そんな弱音を漏らしたら、じゃあみんなで対策を考えようってフレデリカさんが言ってくれて……」

P「…………」

ほたる「レッスンでも裕子さんや奈緒さんがいつも励ましてくれて、悩みがあると茄子さんがすぐに気づいてくれて……」

P「…………」

ほたる「みなさん、とても……とっても優しんです。だから私は……絶対にライブを成功させたい、私なんかを気遣ってくれるみなさんに幸せになって欲しいって……ちょっと気負いすぎてたのかもしれないです」

P「…………」

ほたる「だから、どんなに小さな不備でも見逃したくない、どんな不幸が来ても全部に対策を考えてなんとかしたいって……考えすぎていたのかもしれないです」

P「…………」

ほたる「悩みだしたらキリがない……って、プロデューサーさんは言ってくれてました。それも忘れるくらい、自分で自分を追い込んでいたのかもしれません」

P「…………」

ほたる「……不幸体質だから、なんて、もしかしたら私の逃げ口上だったのかもしれませんね。なんとなく、ですけど……今、そう思いました」

P「…………」

ほたる「…………」
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:26:42.47 ID:2X1um2xF0
P「……どっかで陰が落ちれば、どっかに光は射すもの。どこに立っているかくらいで不幸せとは決まらねえ」

ほたる「…………」

P「昨日から雨は止まない、でも傘なんて持ってない」

P「悲痛、現実……僕らはいつも雨曝しで」

ほたる「…………」

P「……って言う、諦めの果てで『それでも』って僕ら言わなくちゃ」

P「遠くで戦っている、友よ挫けるな」

ほたる「…………」

P「…………」ガチャ

ほたる「プロデューサーさん?」

P「…………」ガサゴソ...

ほたる(プロデューサーさんはギターケースからギターを取り出して傍らに置きました。それからバッグからも、何枚かの便箋を取り出しました)

P「…………」

ほたる(そして手に持った便箋を、少し迷ってからクシャクシャに丸めると、それを焚き火の炎の中に投げ入れました)
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:27:11.42 ID:2X1um2xF0
ほたる「……何を燃やしたんですか?」

P「……出せなかった手紙」

ほたる(プロデューサーさんはそれだけを呟くと、次もバッグから、今度は小脇に抱えられるくらいの量の書類を取り出しました)

P「ポケット地図、就業証明証、電気水道ガス請求書……」

ほたる(そしてそれらをためらう事なく炎の中に投げ入れていきました)

P「昨日出来たはずの世紀の名曲は、掃いて捨てる程ある駄作にも埋もれる駄作だ」

ほたる(次は何かの楽譜を取り出して、それも炎の中に投げ入れます)

ほたる(投げ入れられたそれらはあっという間に黒ずみ、燃えて灰になっていきました)

P「…………」ジャカジャカ

ほたる(それを見届けてから、プロデューサーさんは私の隣に座り、ギターを奏で始めました)
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:27:42.91 ID:2X1um2xF0
P「……燃えろ 燃えろ 全部燃えろ これまで積み上げたガラクタも」

P「そいつを大事にしてた僕も 奇跡にすがる浅ましさも」

P「雨にも負けて 風にも負けて 雪にも夏の暑さにも負けて」

P「それでも人生って奴には 負けるわけにはいかない」

P「一人 立ち尽くす そこはまるで焼け野原」

ほたる「…………」

ほたる(それは私に言い聞かせているのか、プロデューサーさん自身に向けて歌っているのか)

ほたる(分かりませんが、私はただその弾き語りに耳を傾けます)

P「どうせ未来は終点の袋小路 新しい自分を見つけたいと願うなら」

P「過去の事は燃やしてしまおうぜ 灰になるまで」

P「燃えろ 燃えろ 全部燃えろ 古い物は全部投げ入れろ」

P「高くそびえ立つこの炎 この先照らすかがり火としよう」

P「雨にも負けて 風にも負けて 雪にも夏の暑さにも負けて」

P「それでも人生って奴には 負けるわけにはいかない」

P「燃えろ 燃えろ 全部燃えろ 新しい自分に出会うため」

P「溜息で吹き消すな炎 涙で失わせるな炎」

P「雨にも負けて 風にも負けて 雪にも夏の暑さにも負けて」

P「それでもこの自分って奴には 負けるわけにはいかない」

P「一人 立ち尽くす そこはまるで焼け野原」
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:28:21.85 ID:2X1um2xF0
ほたる(プロデューサーさんが歌い終わり、最後に大きくギターをかき鳴らした音が消えると、薪がパチパチと爆ぜる音だけが耳に響きます)

ほたる(多分、ですが……これが口下手なプロデューサーさんの精一杯の応援……なんだと思います)

ほたる(……プロデューサーさんの事ですから、もしかしたら本当はこういう事をやってみたかっただけ、という可能性もありますけど)

ほたる「ふふ……ふふふ……」

ほたる(そう思うと、何だかおかしくって、私は笑いだしてしまいました)

ほたる(涙が出るくらい笑ってしまいました)

P「あんたらしい人生ってのは あんたらしい失敗の積み重ね」

ほたる(それに気付いているのかいないのか、プロデューサーさんはまたギターを奏でます)

P「一つ一つ積み上げては 僕ら積み木で遊ぶ子供みたい」

P「あんたらしく転べばいい あんたらしく立ち上がればいい」

P「他に何もいらねぇよ 他に何もいらねぇよ」

P「はやく 涙拭けよ 笑い飛ばそう 僕らの過去」

P「そうだろう 今辛いのは 戦ってるから 逃げないから」

P「そんなあんたを 責める事ができる奴なんて どこにもいないんだぜ」

ほたる「はい、ありがとうございます……プロデューサーさん……」


……………………
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:28:53.05 ID:2X1um2xF0
ほたる(それからしばらく、プロデューサーさんは気の向くままにギターを奏でていました)

ほたる(私はそれを聞きながら、たまにプロデューサーさんにそれはどんな曲なんですか、なんて質問をしていたりしました)

ほたる(そうしているうちに日が沈みかけ、焚き火の炎も燻り消えそうなほど小さくなりました)

ほたる「……そう言えば、プロデューサーさん」

P「?」

ほたる「私たち……黙って出てきちゃってますけど……大丈夫なんですか……?」

P「……!?」

ほたる(プロデューサーさんはハッとした顔をして、バッグからスマートフォンを取り出しました)

P「…………」サァー...

ほたる(そして画面を確認すると、みるみる血の気が引いていっているのが見て取れました)

ほたる(プロデューサーさんからスマートフォンを見せてもらうと、不在着信が79件、未読のメールが61通ありました)

ほたる(差し出し人はちひろさんが9割、残りはトレーナーさんみたいです)

P「…………」

ほたる(この世の終わりみたいな顔をしているプロデューサーさんを初めて見ました)

P「……ごめんなさい、ちゃんと言えるかな……」

ほたる「だ、大丈夫です、プロデューサーさん! 私も一緒に謝りますから!」

P「御免なさい、ちゃんと言わなくちゃ……」ガックリ

ほたる(出発の時とは真逆に、肩を落とすプロデューサーさんを私がどうにか励まし、私たちは帰路につくのでした)


―――――――――――――
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:29:22.55 ID:2X1um2xF0
ほたる(キャンプ場から帰ってくると、プロデューサーさんは烈火のごとく怒っていたちひろさんに『連絡の一つぐらいは寄越せ、社会人なんだから』とカミナリを落とされました)

ほたる(私も一緒に怒られました。『無事だったから良かったものの不安で死にそうだった』と言われて泣きながら謝りました)

ほたる(そのあと、トレーナーさんにも謝りに行って怒られました)

ほたる(私は『今度からはちゃんと連絡してくれよ?』くらいで済みましたが、プロデューサーさんはトレーナーさんのスペシャルレッスンフルコースが確定したようで、今までにないくらい落ち込んでいました)

ほたる(ユニットのみなさんからは、謝ろうとしたら『プロデューサーとのお忍びデートですか!?』とものすごい勢いでからかわれました)

ほたる(……こんな事を言っては不謹慎かもしれませんが、私の為に怒ってくれる人がいるのが嬉しくて、プロデューサーさんと一緒に頭を下げるのがなんだか楽しくて、失態を笑い話にしてくれる仲間のみなさんが温かくて……)

ほたる(昨日まで胸の内につっかえていたものがなくなって、晴れ晴れとスッキリした気持ちになりました)


――――――――――
―――――――
――――
……
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:29:56.82 ID:2X1um2xF0
――1週間後、ライブ会場――

フレデリカ「ふれー、ふれー、フレデリカ―……ってなわけでついに本番だね〜」

裕子「かつてないさいきっくぱわーの高まりを感じます……今日は成功しそうです、スプーン曲げ!」

奈緒「…………」

ほたる(ライブ当日、楽屋に集まったみなさんを見て、フレデリカさんと裕子さんがいつも通りな言葉を出します)

ほたる(いつもならそれにツッコミを入れるだろう奈緒さんは無言のままです)

茄子「……奈緒ちゃん、緊張してますか?」

奈緒「へっ!? べ、べべ別に、あたしはもうライブなんて、な、慣れてるし!?」

ほたる「どう見ても緊張してます……震えてますし……」

奈緒「そ、そそんなことないからな……この震えは武者ぶり、武者震いだから……!」

ほたる(……フレデリカさんが『すごい緊張している人が近くにいると逆に冷静になる』って言ってましたけど、確かにその通りでした)

ほたる(それに奈緒さんを見ていると、ライブを何回かやった人でもこんなに緊張するんだって思えて、私も少し気持ちが楽になったような気がします)

ほたる「ありがとうございます、奈緒さん」

奈緒「お、おお、バッチリ任せろってぇ……」

フレデリカ「うん、ナオちゃんもいつも通りのライブ前だね〜」

裕子「緊張しやすい奈緒さんにはエスパーがおすすめですよ! 就職にも有利ですからね、エスパー!」

奈緒「だ、だから緊張なんてしてないって平気平気バッチリだよ」

フレデリカ「そだね〜、ナオちゃんのおかげでカコさんもほたるちゃんもあんま緊張してないみたいだしね〜」
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:30:23.20 ID:2X1um2xF0
茄子「いえ……年長者だからしっかりしなきゃって思ってるだけで、実は内心は結構緊張してるんです……」

裕子「なんですって!? それはいけませんね……ここは私のさいきっくぱわーで……」

茄子「いえ、ユッコちゃんのお手を煩わせる訳にはいきません……だからほたるちゃんをハグできれば緊張も収まる気がします♪」

ほたる「え……私をですか……?」

フレデリカ「科学の発展にギセイはつきものデース……ほたるちゃん、君の事は忘れないよ……」

茄子「リーダーからの許可も出ましたので……えい♪」

ほたる「わっ……」

茄子「ああ……このちょうどすっぽり腕の中に収まる感じが落ち着きます……」

ほたる「か、茄子さんがそれで落ち着けるなら……私も幸せです」

茄子「ああもう可愛いですねぇほたるちゃんはー♪」

ほたる(茄子さんに抱きしめられながら頭を撫でくり回されています。普段からよくされているので、最近は私もなんだかそうしていると落ち着くようになってしまいました)

ダイヨンP「おーい、そろそろ本ば――」

ほたる(そして楽屋に入ってきたダイヨンのプロデューサーさんはそんな私と茄子さんを見て少し固まり、)

フレデリカ「やーん、プロデューサーってばえっちぃなー、乙女の花園にノックもなしで入ってくるなんて〜」

ダイヨンP「――失礼しました」

ほたる(フレデリカさんの言葉で恐らく何かを勘違いして出てきました)
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:30:51.52 ID:2X1um2xF0
ほたる「ち、違いますよ、ダイヨンのプロデューサーさん……!」

フレデリカ「あー、へーきへーき、ほたるちゃん。プロデューサーには私から上手く言っておくからね」

ほたる(そう言ってウィンクをされましたが、それが更に勘違いを加速させるような気がしてなりません)

フレデリカ「さってと、そろそろ始まるね。みんな、行こっか〜」

裕子「はい! エスパー担当として、さいきっくぱわーで会場をどっかんどっかん言わせますよ!」

奈緒「…………」

ほたる「な、奈緒さん、もうすぐ本番ですから、行きましょう」

茄子「反応がないですね」

フレデリカ「んー? そしたらみんなで奈緒ちゃん抱えてこっかー」

ほたる(フレデリカさんはそう言うと、裕子さんと一緒に両脇から奈緒さんを抱えて歩きだしました)

ほたる(……ライブ前はいつもこうなんでしょう、すごい扱いになれてるみたいです)


――――――――――――
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:31:23.60 ID:2X1um2xF0
ほたる(カプリスエスパーオトメは現在売り出し中のユニット、という事で、小さなイベントを除いて単独ライブを行うのは今回が2度目という事でした)

ほたる(『ライブ会場もまだ中規模を下回るくらいのとこしかいっぱいに出来ないんだよね〜』とフレデリカさんは言っていましたが、リハーサルで立ったステージからの景色はものすごく広く、これでも小さな会場なんだと思うと気の遠くなるような気持ちでした)

ほたる(その舞台で、フレデリカさん、裕子さん、奈緒さんが躍動しています)

ほたる(ステージライトを浴びて、お客さんの振るたくさんのサイリウムを眼前に、堂々と)

ほたる(今日はバックダンサーとしての舞台ですが、私もいつか、あの舞台に主役で立てるように……精いっぱい、みなさんのサポートをしよう)

ほたる(3人の姿を見ていると、そういう思いが私の中でどんどん大きくなっていきました)
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:31:49.93 ID:2X1um2xF0
フレデリカ「みんなー、盛り上がってる〜?」

「うおおおおお!」

奈緒「いい声だな! あたしがもっともっと盛り上げてやるからなー!!」

裕子「でも奈緒さん、さっきまで緊張しすぎてガッチガチでしたよね!」

フレデリカ「そだねー、今日もフレちゃんとユッコちゃんに抱えられて楽屋を出てたね〜」

奈緒「そ、それは今言わなくてもいーだろ!?」

「あははは!」

フレデリカ「まったく〜、今日は同じプロダクションの新人さんがお手伝いに来てくれてるっていうのにねぇ」

裕子「その2人より緊張してましたね!」

奈緒「だからあれは緊張じゃなくてだな、こう、精神を研ぎ澄ませて集中力を――」

フレデリカ「はーい、じゃあここからはもう2人、お手伝いを加えた5人で、盛り上げていくよー!」

「イエェェ!!」

奈緒「最後まで言わせろよ!?」

裕子「それじゃあ、次の曲いってみましょう!」

ほたる(舞台のフレデリカさんからウィンクされました。私と茄子さんが加わる合図です)

茄子「ほたるちゃん、行きましょうか♪」

ほたる「はいっ、茄子さんっ」


――――――――――――
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:32:17.46 ID:2X1um2xF0
ほたる(舞台から見た観客席は、サイリウムという星が煌めく夜空みたい)

ほたる(そんな感想を他人事のように思った気がします)

ほたる(曲が流れ始めると、自然と、レッスン通りに体が動きました)

ほたる(ただ、レッスンではなかったお客さんの声援)

ほたる(それが体をカッと熱くさせます。時折フレデリカさんと茄子さんと目が合い、微笑みあう、それが楽しくて嬉しくて……)

ほたる(気付いた時には、もう2曲のダンスが終わっていました)
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:32:43.58 ID:2X1um2xF0
フレデリカ「ふぅー! やっぱり5人だとステージが狭いねぇ!」

裕子「何度か奈緒さんの髪の毛に絡めとられて転びそうでした!」

奈緒「人の髪をヤバいもの扱いすんじゃねー!!」

「あははは!」

奈緒「お前らも笑うなー!!」

フレデリカ「うーん、でもナオちゃんてそういうキャラだしな〜」

奈緒「曲の途中にユニットメンバーを髪に絡めとるってどんなキャラだよ!?」

裕子「まぁまぁ! ここはエスパーユッコのスプーン曲げでも見て気持ちを落ち着けてください!」

奈緒「いやこの話の発端ユッコだからな!? そしてやっぱ今日も持ってきてんのかよスプーン!!」

裕子「当たり前じゃないですか!! 今日はなんたって5人いますからね、かつてないほどのさいきっくぱわーですよ!!」

奈緒「えぇ……」

裕子「さぁ! 会場の皆さんもさいきっくぱわーをスプーンに!!」

「いいですともー!!」

裕子「むむむむむー……来ました! さいきっくぅー、スプーン曲げ!!」
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:33:43.06 ID:2X1um2xF0
――バツン

ほたる(裕子さんの掛け声と同時に、会場の照明が全て消えました。演出ではありません)

ほたる(にわかに会場が騒がしくなります)

フレデリカ「んーんー、あーあー、まいくてすとまいくてすと〜」

フレデリカ「うわーお、ユッコちゃんすごいすごい、まさか会場のライトまで消しちゃうなんて!」

ほたる(どうやらインカムは大丈夫なようで、フレデリカさんが咄嗟にアドリブでMCを入れました)

ほたる(私はそれにハッとして、近くにいた茄子さんと手を繋いで、転ばないように気を付けながらステージの中央に向かいました)

裕子「……ですが、残念なお知らせがあります」

フレデリカ「ん? なになに、どったの?」

裕子「スプーンは……曲がりませんでした……!」

「これだけやってか!」「あはは!」「次は頑張れーユッコちゃーん!」

ほたる(フレデリカさんが何事もなかったようにMCを入れたおかげで、お客さんたちもこれが演出だと思ったのでしょう)

ほたる(私たちがステージ中央にたどり着くと、フレデリカさん、裕子さん、奈緒さんも同じように手を繋いで喋っているようでした)

フレデリカ「うーん、でもこんなに真っ暗になっちゃうとちょっと困っちゃうかな〜」

裕子「すみません、みなさん……私のエスパーが強力すぎたために……」

奈緒「いやこれだけ強力ならスプーン曲げ成功させろよ!」

ほたる(ちらりと舞台袖から小さなLED掲示板が見えます)

ほたる(『照明ケーブルの断線 7、8分所要』)
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:34:22.08 ID:2X1um2xF0
フレデリカ「でも実はフレちゃん、こんな事もあろうかとね、考えて来てたんだ」

奈緒「……すごく嫌な予感がするんだけど、何を?」

フレデリカ「真っ暗な中のお客さんが持ってるサイリウム……綺麗だよね〜」

フレデリカ「まるで満天の星が煌めく夜空みたいだよね〜」

フレデリカ「あー、こんな中、星に関係ある歌をアカペラで歌ったら、きっと気持ちいいんだろうな〜……って」

フレデリカ「ねっ、ナオちゃん♪」

奈緒「だと思ったよちくしょう!!」

「いいぞー!」「奈緒ちゃん歌ってー!」

裕子「いいですね、奈緒さん、この前カラオケで歌ってたやつなんてどうですか?」

奈緒「カラオケ……ああ、あれか……」

フレデリカ「はーい! じゃあナオちゃんが一曲歌ってくれるから、みんな手拍子してね〜! サイリウムも振ってあげてね〜!」

「おおー!」「注文が難しいなー!」「何歌うのー!」

フレデリカ「じゃ、ナオちゃん、お願いね♪」

奈緒「分かったよ、歌えばいいんだろ歌えば! あーその、アカペラだしアレだから、あんま期待すんなよ」

「うおおおー!」「奈緒ちゃん頑張れー!」

奈緒「じゃあ……歌うからな。……君の知らない物語」
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:35:01.44 ID:2X1um2xF0
フレデリカ『よっし、これで時間稼ぎはバッチリだね』

ほたる(インカムを外したフレデリカさんがみんなに話しかけます。それに倣って、私もインカムを外しました)

ほたる『私たちはどうすれば……』

フレデリカ『ほたるちゃんとカコさんは歌ってるナオちゃんの傍にいてあげてね』

フレデリカ『次はフレちゃんのソロ曲だから、照明付けたのと同時に開始できないかプロデューサーに聞いてくるよん』

裕子『その次はユッコのソロですから、私もそっちで準備した方がいいかもですね!』

フレデリカ『そだね、ユッコちゃんも一緒に来てもらおっか』

茄子『では、私とほたるちゃんは奈緒ちゃんの護衛をしてますね』

フレデリカ『お願いね〜。あとは何かあったらあの掲示板で教えるね』

ほたる『分かりました』

ほたる(フレデリカさんと裕子さんは、そう言って舞台袖に引き上げていきました)

茄子『それじゃあ……奈緒ちゃん、ちょっと手、失礼しますね』

ほたる『私も……』

ほたる(奈緒さんの右手を茄子さん、左手を私が手に取りました)

ほたる(真っ暗な会場で、サイリウムの海へ向けて歌う奈緒さんの手は少し震えていました)

ほたる(緊急事態にアドリブで対応して、予定にない歌をアカペラで歌う……私がその場面を託されたら、緊張と不安で倒れてしまうかもしれません)

ほたる(それをこなせる奈緒さんはとても強い人なんだと思いました)

ほたる(せめて奈緒さんがちょっとでも安心できるように……私は握る手に力を込めました)
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:35:37.21 ID:2X1um2xF0
茄子『大丈夫ですよ、奈緒ちゃん。私とほたるちゃんがついてますから』

ほたる『奈緒さん、頑張って下さい……!』

ほたる(私たちの声を聞いて、少し奈緒さんの手の震えが収まったような気がしました)

ほたる(……そして、曲も終盤に差し掛かるころ、フレデリカさんが舞台に戻ってきました)

フレデリカ『お待たせ〜! せっかくだからお色直しまでしてきちゃったー』

フレデリカ『照明はもう大丈夫だって。だから次からはセトリ通り……だね』

ほたる『分かりました』

フレデリカ『ナオちゃんが歌い終わったら3人とも1回舞台袖に下がっちゃってね』

茄子『了解です♪』

奈緒「遠い思い出の君が 指をさす」

奈緒「無邪気な声で」

奈緒「……終わり。手拍子、ありがとな」

「いいぞー!」「奈緒ちゃん素敵ー!」「もっとデレてー!」
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:36:09.79 ID:2X1um2xF0
フレデリカ『ありがと、ナオちゃん。助かったよ』

奈緒『……そうやって殊勝にお礼言われるとすごくむず痒いからやめてくれよ』

フレデリカ「いやー、やっぱりナオちゃんってやれば出来る子って感じがするよね〜」

ほたる(インカムを外して一言だけ言葉を交わしあうと、フレデリカさんはすぐにお客さんへ向けて喋りだしました)

フレデリカ「これはリーダーのフレちゃんとしても負けてられないねー、珍しく頑張っちゃうよっ!」

奈緒『2人とも、ありがとな。手を握ってくれて心強かったよ……』

茄子『これくらいお安い御用ですよ♪』

ほたる『むしろこれくらいしか出来ないで……ごめんなさい』

奈緒『これ以上の事はないって。さ、早く舞台袖に引き上げよう』

フレデリカ「さてさて、それじゃあみんなー、だるーんと盛り上がってね」

フレデリカ「き・ま・ぐ・れ☆Cafe au lait!」

ほたる(フレデリカさんの曲名コールとともに、ステージライトが一斉に点灯し、イントロが流れ出しました)

ほたる(真っ暗な中でのアカペラ、そして衣装を着替えてのソロ曲は一連の演出だと思われたのでしょう)

ほたる(観客席の盛り上がりは今日1番のものになっていました)


――――――――――――
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:36:39.46 ID:2X1um2xF0
フレデリカ「それじゃ、アンコールも含めてこれで今日はおしまいっ!」

裕子「またエスパーユッコのサイキック武勇伝に新たな1ページが生まれてしまいましたね!」

奈緒「そうだな、超能力で明かり消すとか前代未聞だよ」

フレデリカ「まぁまぁ。それじゃあみんなー、今日は来てくれてありがとねーっ!」

裕子「ありがとうございましたー!!」

奈緒「ありがとなー!!」

フレデリカ「ばいばーい、またね〜!」

ほたる(3人のお礼を受けて、お客さんたちは大きな声援を返しています)

ほたる(あくまでサポートメンバーの私と茄子さんはそれを舞台袖から見つめていました)
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:37:06.04 ID:2X1um2xF0
フレデリカ「ふぅー……ぃやったー! 大成功だったね、ライブ!」

裕子「はい! 前回よりもすっごく楽しかったです!」

フレデリカ「いぇーい!」

裕子「いぇーい!」

奈緒「あはは、二人とも喜びすぎだろ! あははは!」

フレデリカ「もーナオちゃんもすっごい嬉し恥ずかし〜って感じじゃーん?」

奈緒「楽しくないとは言ってないもんなー!」

裕子「奈緒さんもー、いぇーい!」

奈緒「いぇーい!」

ほたる(舞台袖に帰ってきた3人はハイタッチをして喜んでいます)

ほたる(無事に大成功で終わる事が出来て……本当に良かったです)
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:38:08.48 ID:2X1um2xF0
フレデリカ「ほたるちゃん! カコさん! 2人も〜いぇーい!」

ほたる「い、いぇーい」

茄子「いぇーい♪」

奈緒「本っ当に2人には助けられたなー! あの時傍にいてくれなかったらちょっと危なかったかもしれないな!」

裕子「えー? でも奈緒さん、なんだかんだノリノリで歌ってたじゃないですかー!」

奈緒「いやそりゃあな? 本当に満天の星空みたいだったし、途中からどんどんノッていったけどな? いやー気持ちよかったなー!」

フレデリカ「さっすがナオちゃん! 次はもっとすんごい無茶ぶり考えとくねー!」

奈緒「お手柔らかにしてくれよ? あははは!」

茄子「ふふ、無事にお手伝い出来て良かったです」

ほたる「はい……途中のアクシデントは……もしかしたら私のせいかもしれないですけど……」

フレデリカ「んーそうなの? じゃあほたるちゃんにお礼言わないとね!」

ほたる「え?」
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:38:35.79 ID:2X1um2xF0
フレデリカ「アクシデントはアクシデントだけど、あれのおかげで盛り上がったしね」

フレデリカ「それにほたるちゃんがライブ前のレッスンで、何かあったらどうしようって言ってくれたから今日のアドリブが出来たんだよ〜」

フレデリカ「流石にノー準備ぃーであんな事になってたらフレちゃんもパニクっちゃうもん」

奈緒「そうそう! まさか本当にアカペラで歌うとは思ってなかったけどさ、やってみたら意外と楽しかったしな!」

奈緒「あたしの歌だけに合わせて揺れるサイリウムと手拍子……クセになりそうだったよ!」

裕子「つまり私のエスパーが発動したのもほたるちゃんのおかげなんですね! やはりこれはほたるちゃんと茄子さん、そしてエスパーユッコでのサイキックトリオの結成も視野に入れなくてはいけません!」

裕子「これはプロデューサーにダイハチとダイキュウからの引き抜きを提案しないと……!」

茄子「みなさんを幸せにしてすごいですね、ほたるちゃん」

ほたる「い、いえ、そんな……私は何もしてませんし……それにみなさんが幸せなら、きっとそれは茄子さんの幸運のおかげだと思います……」

茄子「じゃあ、私は幸運が起こって幸せになりました。それで、ほたるちゃんは不幸を起こしてみんなを幸せにしました……という事ですね♪」
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:39:02.63 ID:2X1um2xF0
ほたる「え、えっと……それは不幸なのかな……」

茄子「不幸ですよ〜♪ みんなの不幸せを願う人にとっての不幸、それをほたるちゃんが引き起こしたんですよ〜♪」

ほたる「そう……そうだと、嬉しいです」

フレデリカ「や〜、本当に2人がいてくれて良かったよ〜!」

フレデリカ「今度はバックダンサーとかじゃなくて、フレちゃん率いるカプリスエスパーオトメと、アイドルとしてのほたるちゃん、カコさんでライブがやりたいなー!」

裕子「いいですね! 協力して一緒に戦うエスパーもいいですが、ライバル関係として切磋琢磨するエスパー……これもまた素晴らしいです!」

奈緒「そうだな! いつか一緒に合同でライブしような! 絶対、約束だからな!」

茄子「みなさん……ありがとうございます。まだまだみなさんは遠い目標ですが、すぐに追いついてみせますね♪」

ほたる「はいっ、こんな私で良ければ……いつか絶対に……!」

フレデリカ「待ってるよー、ほたるちゃん、カコさん!」

ほたる(……こうして、私の初めてのステージは、全員が笑顔で終わる事が出来ました)

ほたる(フレデリカさん、裕子さん、奈緒さんに追いつけるように……)

ほたる(そして茄子さんにも負けないように……)

ほたる(相手はとっても素敵な方ばかりで大きなライバルですが、私ももっともっと頑張ります……!)


――――――――――
―――――――
――――
……
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:39:33.98 ID:2X1um2xF0
ほたる(バックダンサーながら、初めてのステージを経験してから1ヵ月が経ちました)

ほたる(ライブステージの雰囲気を体験した事や、切磋琢磨して競い合うライバルが出来た事は、私にとって大きくプラスになったと思います)

ほたる(明確な目標が生まれた事で、今まで以上にレッスンにも身が入るようになりました)

ほたる(私の初仕事以降ずっと付き合いのある出版社のカメラマンさんからも、『最近は前にも増して色んな表情に魅力が出て来たね』と褒められました)

ほたる(プロダクションでもフレデリカさんや裕子さん、奈緒さん、そして茄子さんと顔を合わせれば世間話をしたり、プライベートでも遊んだりするようになりました)

ほたる(……ただ、ダイヨンのプロデューサーさんは私と茄子さんが一緒にいるのを見ると微妙な表情をするようになりました。フレデリカさんがなんて言ったのか分かりません。確かめるのが怖いです)

ほたる(ダイハチ……私のプロデューサーさんとは、前以上に意思の疎通がはかれるようになりました。というより、大体の仕草で何を言いたいのか、どんな気分なのかが分かるようになりました)

ほたる(それをちひろさんに報告したら『良かったですね。……でもそれはあまり自慢する事じゃないと思いますけどね。あのコミュ障、担当アイドルにまで気を遣わせて……』と、ちょっと呆れ気味に言っていました)

ほたる(その時、ちひろさんから大事な話があると言われました。その内容を話すのが本日……という事で、私は少しドキドキしながらダイハチの事務所までやってきました)
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:40:00.97 ID:2X1um2xF0
――CGプロ 第8アイドル事業部――

ほたる「え、えぇ!? ほ、本当ですか!?」

ちひろ「こんな嘘を吐くほど私は悪趣味じゃないですよ、ほたるちゃん」

P「…………」

ちひろ「プロデューサーさん? 何か言いたげですね?」

P「その儚さに脅され続ける日々の果てに、行きつくどん詰まりは生き死にの闇」

ちひろ「……段々悪口かどうか微妙なラインを突くのが上手くなってきてませんかね?」

ほたる「え、えっと……」

ちひろ「ああごめんなさい、ほたるちゃん」

ちひろ「さっき言った事は本当も本当、アイドル事業部として正式に決まった事ですよ」

ちひろ「おめでとうございます! CDデビューとお披露目ミニライブが決定しました!」


……………………
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:40:38.45 ID:2X1um2xF0
ほたる(ちひろさんからの大事なお話。それはアイドルとしての本格的なデビューの話でした)

ほたる(CGプロダクションが正式に認可して、第8アイドル事業部として白菊ほたるを売り出す、という事です)

ほたる(ずっと遠くにあった目標のアイドルデビュー、それが気が付いたら手を伸ばせばすぐ届くところにまで近づいていました)

ほたる(……約半年前、あまざらしの公園で全てを諦めかけていた私からは考えられない奇跡だと思えました)

ほたる(デビューが決まってからというもの、第8アイドル事業部は今までにない忙しさに追われました)

ほたる(プロデューサーさんは小さなライブハウスを押さえ、私のプロモーションを行うために色々な所へ顔を出しにいっていました)

ほたる(私のデビュー曲はプロダクションが用意してくれていたのですが、プロデューサーさんは仕事の合間に作曲をして、それをどうにかねじ込めないかと画策していました。でもちひろさんに怒られて断念したみたいです)

ほたる(ちひろさんも処理しなければいけない書類や事務手続きが倍くらいに増えたようで、それを片付けるのに悪戦苦闘していました)

ほたる(そして私は、ミニライブに向けたレッスンと、プロデューサーさんと一緒にプロモーション営業を行ったりしました)

ほたる(また、それと同時に、カプリスエスパーオトメのライブの時のようなアクシデントが起こる事も想定した準備も行いました)

ほたる(まず緊急事態に備えた道具として、照明が落ちた時の為のスポットライト、スピーカーが故障した時の為のアンプとマイク、それの動力となるカーバッテリーとインバーターなどを用意しました。……張り切りすぎたプロデューサーさんがかなりの数を用意して、ちひろさんに『やり過ぎです。経費で落とせませんよその量は』と言われ落ち込んでいました)
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:41:05.21 ID:2X1um2xF0
ほたる(また、フレデリカさんのように咄嗟のアドリブが出来るように、どういう状況になったらどういう事をすればいいのかを3人で考えました)

ほたる(フレデリカさんといえば、私のデビューを知ったカプリスエスパーオトメのみなさんと茄子さんが、小さなお祝いパーティーを開いてくれました)

ほたる(みなさんの祝福が温かくて、幸せで、ちょっと泣いてしまいました)

ほたる(その席で、茄子さんも私の後にデビューが決まったと教えてくれました)

ほたる(『負けませんよ、ほたるちゃん♪』と言う茄子さんに、『私も負けませんっ』と返しました。ほぼ同時期のデビューという事もありますし、茄子さんとはこれからは、一緒に頑張るライバルです)

ほたる(……そうして、色々なやる事に追われ、目も回るような忙しさで瞬く間に1ヵ月が過ぎました)

ほたる(多分……ですけど、人生で一番充実していた1ヵ月だったと思います)

ほたる(素晴らしい友達が祝福してくれて、カッコいいトレーナーさんが厳しくも頼もしく指導してくれて、優しいプロデューサーさんとちひろさんが私を支えてくれました)

ほたる(その人たちの為にも、もう私は自分自身を『私なんか』と卑下するのは辞めにしようと決めました)

ほたる(『謙虚もつつましさもむやみに過剰なら卑屈だ』とプロデューサーさんも言っていましたし、何より私を認めてくれた人たちに失礼になると思います)

ほたる(だからこのミニライブを成功させて、私はもっと自分に自信を持ったアイドルになろうと決心しました)


……………………
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:41:33.43 ID:2X1um2xF0
――ライブハウス 舞台袖――

ほたる(いよいよミニライブ当日になりました)

ほたる(リハーサルも無事に終わり、もうすぐ開演です)

ほたる(プロデューサーさんはもちろん、今日はちひろさんも応援に来てくれています)

ちひろ「いよいよ本番ですね……準備は大丈夫ですか、ほたるちゃん」

ほたる「はい。バッチリ……です」

ちひろ「そうですか……それなら良かったです」

ほたる「……本当の事を言うと、ちょっとだけ……不安と緊張はあるんですけどね」

P「……不安は多いが進むべきだ、情熱一つで何でも出来るはずさ」

ちひろ「いや、明らかにほたるちゃんよりあなたの方が不安を抱えてません? 体の震えが大変な事になってますよ?」

ほたる「確かに……プロデューサーさんもやっぱり不安なんですね」

P「……そうだよ、大丈夫、大丈夫、みんな同じだよ」

ほたる「ふふ、そうですね。……私にはプロデューサーさんとちひろさんがいてくれますもんね」

ちひろ「ええ、その通りですよほたるちゃん! 何か問題が起こっても私たちがなんとかするので安心してて下さいね!」

ほたる「ありがとうございます、ちひろさん」

P「死ぬ気で頑張れ、死なない為に」

ほたる「はい、頑張ってきますっ」


……………………
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:42:11.08 ID:2X1um2xF0
――ライブステージ――

ほたる(遂に開演時刻となり、私はマイクを手に、プロデューサーさんとちひろさんに見送られ、舞台に立ちました)

ほたる(今日が始まりの無名の新人のお披露目のミニライブ、という事で、ライブハウスは100人が入れるかどうかという小さなハコでした)

ほたる(お客さんも沢山来てくれていますが、超満員とはいえない状況で、当然フレデリカさんたちとは比べ物にならないくらいの小規模です)

ほたる(……それでも、この舞台は私の為にあるものです)

ほたる(今ここにいる人たちは私の為に集まってくれた人たちなんだ、と思うとそれだけで胸がいっぱいです)

ほたる「はっ、初めまして……! 白菊ほたるといいます……!」

ほたる(声が震えないように、少し力を入れすぎたのかもしれません。マイクのハウリングがキーンと響きます)

ほたる「あ、ご、ごめんなさい、ちょっと力が入り過ぎちゃったみたいです」

「あはは」「頑張れーほたるちゃん」

ほたる(私がそう言うと、お客さんから声援を送られました)

ほたる「あ、ありがとうございますっ」

ほたる(今までよりずっと近い位置で応援の言葉をかけられる……それがものすごく嬉しくて、力を貰えたような気がしました)

ほたる「えと、今日は、私の為に集まって頂いて、本当にありがとうございます」

ほたる「お披露目のミニライブ……なので、すごく短い時間になってしまうとは思います……けど」

ほたる「ここに来てよかった、アイドル白菊ほたるのライブを見れて幸せだった」

ほたる「そう、みなさんに思ってもらえるように、精いっぱい頑張りますっ」

「いいぞー!」「ほたるちゃーん!」「頑張ってー!」

ほたる「あ、ありがとうございますっ」

ほたる「それじゃあ早速……ですが、曲……? ……れ……?」

ほたる(と、そこでスピーカーからの声が途切れ途切れになってしまいました)


……………………
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:42:49.25 ID:2X1um2xF0
――舞台袖――

P「……?」

ちひろ「あ、あれ、もしかしてマイクの……というか音響の不調ですか!?」

P「……!」シュババババ

ちひろ「プロデューサーさん、どうしま――って早っ!?」

ちひろ(私が聞くより早く、予めカーバッテリーから電源を取っていたマイクとアンプを持って、プロデューサーさんは舞台に飛び出していきました)

音響スタッフ「す、すいません、CGプロの方! 突然スピーカーがウンともスンとも言わなくなって……!」

音響スタッフ「原因を探ってるんですけどちょっと時間がかかりそうなんですが、いったんアイドルの方には下がってもらいますか!?」

ちひろ「あ、あー……いえ、多分大丈夫……だと思います、はい」

音響スタッフ「え……?」

ちひろ「ウチのプロデューサーさんがなんとかしてくれると思いますので」

音響スタッフ「ほ、本当ですか!?」

ちひろ「はい。……ただ、この件に関しては、後日プロダクションからクレームを入れさせて頂きますね♪」


……………………
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:43:41.76 ID:2X1um2xF0
――ライブステージ――

ほたる(スピーカーの不調か何か、でしょうか)

ほたる(やっぱり私にはこういうアクシデントがいつも付きまとうんだと思いました)

ほたる(こんな疫病神みたいな人間がアイドルをやろうなんておこがましい、大人しく暗闇の中で生きていろ、とでも誰かは言うんでしょうか)

ほたる(なら私はその人に謝らないといけません)

ほたる(暗闇と生涯暮らすには、私はもう沢山知りすぎました)

P「…………」

ほたる「ありがとうございます……プロデューサーさん」

ほたる(舞台袖から駆けつけてくれたプロデューサーさんから、替えのマイクを受け取ります)

ほたる(フレデリカさんたちが教えてくれました。問題が起こるなら対策をすればいいって)

P「……今すぐ何かを伝えなくちゃ、それなら僕は歌を歌うよ」

ほたる「はい、私も歌います。ギター……弾いてください」

ほたる(茄子さんも言ってくれました。私の不幸は誰かを幸せにするものだって)

P「…………」コクン

ちひろ「…………」ニコ

ほたる(プロデューサーさんは頷いて舞台袖に戻っていきます。その先には笑顔のちひろさんが、パイプ椅子とアコースティックギターとアンプに繋いだマイクをセットして待っていました)

ほたる(プロデューサーさんはちひろさんからギターを受け取ると、椅子に腰かけ、マイクをギターのサウンドホールの前に固定しました)
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:44:23.95 ID:2X1um2xF0
ほたる「……みなさん、驚かせてすみませんでした」

ほたる「私……急に物が壊れたりとか、昔から結構こういう事が多くて……不幸な方でした」

ほたる「そんな私でも誰かを幸せにしたいって、そう思って、アイドルを目指しました」

ほたる「そして、色んな人に支えられて、アイドルデビューという奇跡に……幸運に出会えました」

ほたる「もしかしたら、ライブでまたこうやってみなさんに迷惑をかける事があるかもしれません」

ほたる「こんな私でも……応援……してくれますか……?」

「応援するよー!」「頑張れー!」

ほたる「……ありがとうございますっ」

ほたる「ご覧のように、今日はライブハウスのスピーカーが駄目になっちゃったみたいです」

ほたる「……音源も使えなくなっちゃったので……今度発売するデビューシングルの歌は歌えません」

ほたる「なので……今日、ここでしか歌わない歌を歌います」

ほたる「聞いてください。『未来づくり』」

ほたる(舞台袖へ視線を送ると、プロデューサーさんは一つ頷いてからギターを奏で始めました)

ほたる(出会った時からずっと聞いてきた安心する音色です。それに合わせて、私は歌います)
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:44:57.52 ID:2X1um2xF0

「思えば僕はずっと僕の事 嫌いだったんだ そんな事 忘れてたよ」

「何でだろう 多分 あなたに出会ったからです」

「思えば僕はずっと人の事 疑ってばかりいたよな」

「相変わらず笑うのは下手 だけど笑う数は増えました」

「時が過ぎる事は怖くない 明日はきっと素晴らしい これはそんな歌」

「And I will say ありがとう ただいま じゃあね」

「永遠はこんな風に 当たり前に出来ていくのかな」


「今までの事なんて帳消しにしたいんだけれど」

「今日までの失敗なんて破り捨ててしまいたいけれど」

「こんな僕だからこそ あなたが好きになってくれたって言うなら」

「もういいよ もういいよ それだけでもういいよ」

「胸張って僕は僕だって言ったっていいんでしょ」

「いつだってここに帰ってきたっていいって言ってよ」

「僕は精一杯 僕を肯定するよ」

「ただ僕を信じてくれたあなたを肯定する為に」


「And I will say ありがとう ただいま じゃあね」

「未来はこんな風に 当たり前に出来ていくのかな」


――――――――――――――
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:45:28.00 ID:2X1um2xF0

ほたる(ライブは無事に終わりました)

ほたる(プロデューサーさんのギターに合わせて、3曲を歌い終わると、お客さんからは大きな拍手が上がりました)

ほたる(それにお礼を言うと、『ずっと応援するよ』『今日のライブは忘れない』というような言葉を貰いました)

ほたる(それが嬉しくて嬉しくて)

ほたる(舞台袖に引き上げた時、笑顔で迎え入れてくれたプロデューサーさんとちひろさんを見ると、堰を切ったように嬉し涙が零れました)


――――――――――
―――――――
――――
……
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:45:54.12 ID:2X1um2xF0

ほたる(私の初めてのミニライブが終わり、デビューシングルが発売してから数か月が経ちました)

ほたる(白菊ほたるのアイドルとしての人気は、ちょっとずつではありますが右肩上がりで推移していっています)

ほたる(私より少し遅れてデビューした茄子さんは、持ち前の幸運に加えお茶目な性格が人気を博し、私よりも2段3段上の人気を誇っています)

ほたる(フレデリカさんたちも順調に人気を伸ばしていっています)

ほたる(アイドルとして私は水をあけられていますが、焦りはありません)

ほたる(私を応援してくれている人がいる。それだけでもすごく幸せな事です)

ほたる(私は私のペースで、しっかりコツコツ頑張っていこうと決めています)


――――――――――――
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2018/01/17(水) 01:47:25.88 ID:2X1um2xF0
――CGプロ 第8アイドル事業部――

ほたる「おはようございます」

ちひろ「あ、おはようございます、ほたるちゃん」

P「……自分以外皆死ね」ドヨーン

ほたる(火曜日の昼下がり、事務所にやってくると、プロデューサーさんがいつにも増して落ち込んでいました)

ほたる「……どうしたんですか、プロデューサーさん……?」

ちひろ「ああ……ほら、昨日あの人、宮城に出張に行ってたじゃないですか」

ほたる「はい……確かダイニのプロデューサーさんが担当アイドルの手によって仙台まで拉致されたとかなんとかっていう……」

ちひろ「ええ、その件で。それで、ほたるちゃんも軌道に乗ってきたんですから、ついでにそろそろ2人目でもスカウトして来てくださいって言ったんですよ」

ほたる「それが失敗したから……じゃないですよね、あの落ち込みようは」

ちひろ「いえね、普通にやってもダメなんだから、ほたるちゃんの時みたく公園でギターでも弾いてみればいいんじゃないですかってアドバイスしまして」

ちひろ「そうしたらあっさりスカウトに成功したみたいで……」

ほたる「ああ……今までの自分を否定された気持ちになって落ち込んでるんですね……」
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:48:10.43 ID:2X1um2xF0
ちひろ「ええ、その通りです。ほたるちゃんもすっかりあの人の思考パターンが分かるようになっちゃいましたね……」

ほたる「そうですか? そうだと……えへへ、ちょっと嬉しいです」

ちひろ「嬉しがっちゃだめですよー。あの人を甘やかすとすーぐ事務所にギターが増えるんだから……」

P「傷付いたなんて言わないぜ けど痛くないわけじゃないよ」ジャカジャカ

P「優しい人なんていないぜ 武装解除しただけ 空洞空洞」

ちひろ「はいはい、とっととプロデューサーさんもそのギターを武装解除してください。うるさいので」

P「…………」ショボン

ほたる(ちひろさんにうるさいと切って捨てられて、プロデューサーさんは肩を落としながらギターを片付けました。……よく見ると、事務所に置いてあるギターが昨日より1本増えています)

ほたる(多分ちひろさんが許可したんでしょう。なんだかんだ言ってプロデューサーさんに優しいちひろさん……やっぱり……)

ちひろ「……ほたるちゃん?」

ほたる「い、いえ、何でもないです。優しいちひろさん、私は好きだなって思っただけです……」

ちひろ「あら、泣かせる事を言ってくれますね、ほたるちゃんは……」
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:48:40.21 ID:2X1um2xF0
ちひろ「あ、そうだ。それで、さっきのプロデューサーさんがスカウトした子なんですけど、今日事務所に来る事になってるんです」

ちひろ「本日は簡単な顔合わせだけですけど、先輩として、しっかり面倒見てあげてくださいね」

ほたる「は、はいっ。……それで、何時くらいにいらっしゃるんですか、その方は?」

ちひろ「多分もうそろそろだと思いますけど……あら、外線かしら」

ほたる(固定電話のベルが鳴り、ちひろさんはそれを手に取って応対を始めました)

ほたる(プロデューサーさんは自分のデスクで事務仕事に手を付け始めました)

ほたる(私は……)

ほたる「先輩……私が先輩……ですか」

ほたる(ちひろさんに言われた事を呟くと、今までにない気持ちが自分の中に芽生えました)

ほたる(このプロダクションに来てから私は支えられてばかりです)

ほたる(だから、今度は私が誰かを支えて助けるんだ)

ほたる(新人の子にとって頼りがいのある優しい先輩になろうと決心しました)
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:49:07.79 ID:2X1um2xF0
――コンコン

ほたる(と、事務所の扉をノックする音が聞こえました)

ほたる(きっと新しいアイドルの子……だと思います)

ほたる(ちひろさんはまだ外線対応中、プロデューサーさんは難しい顔でパソコンと睨めっこしています。ここは私が応対するべきでしょう……先輩として)

ほたる(『先輩』という言葉の響きに心地いいむず痒さを感じながら、私は扉の方へ向かいました)

ほたる(擦りガラスの向こうには背の小さな影が見えます。きっとあの時の私のように、その影の主は大きな不安を胸中に抱えているでしょう)

ほたる(だからこそ、私は私に出来る最大限の笑顔で対応しますっ)

ほたる(そう思って、事務所の扉を開きました)

「……あ、あのっ! ウチ、昨日ここの変な奴にスカウトされたんだけどっ!」

ほたる「はいっ、お待ちしておりましたっ」

ほたる(私より小さな背丈の女の子)

ほたる(その子に対して、私はきっと、とても幸せな笑顔を浮かべる事が出来たと思います)


おわり
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 01:50:21.84 ID:2X1um2xF0

長々とすいませんでした。

雨男とワンルーム叙事詩のくだりがやりたかっただけの思いつきがこうなるとは思いませんでした。

ほたるちゃん茄子さんフレちゃんユッコ奈緒担当の方、そしてなによりamazarashiファンの方、なんかホントすいませんでした。

HTML化依頼出してきます
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 07:11:18.88 ID:pm4iUvPzo
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 09:57:39.79 ID:CoZwUhsDO
元ネタはわからんが、乙


最後のは美玲かな?
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 15:25:59.51 ID:z3WaD4Pn0


これ白菊(旧姓)ほたるになる未来しか見えないんだけど?
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