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ギャルゲーMasque:Rade 智絵里√
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102 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/06(火) 16:57:55.43 ID:Q7Cuv+biO
まゆ「さぁ、トップを狙いますよぉ!」
李衣菜「うっひょぉぉ!いっけぇぇぇえ!!」
マングローブカヤック開始と同時に、まゆ・李衣菜ペアが面白いくらいの速度で視界から消えて行った。
あいつら遊覧の意味分かってるのか?
智絵里「ふぅ……えへへ……」
美穂「わぁ……楽しいね、智絵里ちゃん!」
智絵里「すっごく、落ち着きますね……」
あぁ、あのペアを見てると癒されるな。
どちらもオールを漕ぐ力が全然ないからか、進行はかなりゆっくりだけど。
そして……
加蓮「あー……あっつい。あつくない?鷺沢」
P「陽が出てないだけマシとは言え……暑いな」
俺たちは、そこそこのスピードでマングローブのトンネルを進んでいた。
加蓮「なんとかしてよ」
P「なんとか出来る様な奴に、そんな風に頼むな」
加蓮「……でも、まぁ悪くないね。この揺れてる感じも、景色も」
P「癒されるよな。これで暑くなかったら完璧だった」
加蓮「クーラーの温度下げて」
P「困った事にクーラーが無いんだよ」
加蓮「じゃあ南極目指そ?」
P「悪い、俺今日パスポート持って来てないんだ」
103 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/06(火) 16:58:26.55 ID:Q7Cuv+biO
ゆっくり、ゆっくりと景色が流れていく。
加蓮と下らない会話をしながら。
そんな時間も、悪くない。
加蓮「のどかだね」
P「なー、心が穏やかになるわ」
加蓮「あー……この時間がずっと続けば良かったのに」
P「分かる」
加蓮「ほんとに分かってる?」
P「ごめん、分かってないかも」
加蓮「なにそれ、鷺沢みたい」
P「いや、俺鷺沢だけど……」
ケラケラと笑いながら、オールを漕ぐ加蓮。
なんだか、楽しそうだ。
P「……ん?」
少し先の方が、やけに白くなっている。
ズァァァァァッと何かが水面に叩き付けられている音が聞こえてきた。
まるでそこから先は雨が降っているかの様に……
P「ってうわ!スコールじゃん!」
ほんの数メートル進んだだけで、一気に豪雨が降ってきた。
こう言う時はどうすればいいんだろう。
P「取り敢えず陸地に上がるか!」
加蓮「鷺沢っ!」
P「なんだっ?!」
加蓮「スコールって強風って意味だから、大雨の意味は無いらしいよ!!」
P「絶対今必要な知識じゃない!!」
104 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/06(火) 16:58:53.13 ID:Q7Cuv+biO
急いでカヌーを傍に寄せて陸地に上がる。
面白いくらいの速度でカヌーの底に水が溜まって行く。
まぁ多分十五分もすればやむだろう。
その間は木の陰で雨宿りをすればいい。
……マングローブじゃ大して雨は凌げなかった。
P「あー……体育着に着替えさせられたのってこれが理由でもあるのかもな」
加蓮「うわ、びちょびちょ……最っ悪」
P「凄い雨だな……」
お互い、雨に打たれて服も髪もびっちょびちょになっていた。
……うちの体育着、白いから割と透けるんだな。
加蓮「なにジロジロ見て……きゃっ、変態っ!」
P「見てないから大丈夫!しばらくの間目を瞑ってるから!」
……デカいな。はい、何でもありません。
兎も角、急いで目を瞑る。
加蓮「……本当に見てない?」
P「見てない、神に誓って」
加蓮「薄紫色に透けてたでしょ?」
P「いや、青だったけど」
加蓮「やっぱり見てたんじゃん!」
P「すまん、俺別に神様信じて無いんだ」
脇腹に軽い突きを連続で受ける。
目を瞑ってるから、割と普通に何処から攻撃が来るか分からなくて怖い。
105 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/06(火) 16:59:25.09 ID:Q7Cuv+biO
加蓮「ま、いっか。寧ろラッキーなくらいかも」
P「ラッキースケベって事?」
加蓮「張っ倒すよ?」
P「申し訳ございません」
ザァァァァッ!
雨が地面や水面に叩きつけられる音が大きくて、周りの状況が全くわからない。
たいぶ後ろの方でのんびりしてた智絵里と美穂は大丈夫だといいな。
まゆと李衣菜は大丈夫だろ。
加蓮「……でも、雨はそんなに好きじゃないかな」
P「身体弱いんだろ?俺のジャージ着るか?焼け石に水だと思うけど」
加蓮「じゃあ焼け石持って来て」
P「無理をおっしゃる……」
加蓮「……嫌いでも無いんだけどね。雨に打たれる事ってあんまり無かったから。でも……」
少しだけ、加蓮の声のトーンが下がった。
加蓮「……あの日の事、思い出しちゃう」
P「あの日の事……?」
目を瞑っているから分からないが。
加蓮の声は、どことなく寂しそうだった。
106 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/06(火) 16:59:51.10 ID:Q7Cuv+biO
加蓮「……私、まだ鷺沢の事許してないから。あの時、迎えに来てくれなかった事」
P「迎えに……?」
迎えに行く、なんて約束をした日があっただろうか。
困った事に心当たりがない。
加蓮「ま、私が勝手に待ってただけなんだけどね。おかげで風邪引くし、嫌なもの見せられるし、最っ悪な結果になったし」
P「おいおい、それっていつの話だ?」
加蓮「……あんたが告白の練習に付き合うって言って、屋上に行っちゃった日」
……まさか、加蓮は。
あの雨の中、俺を待ってたのか?
とっくに帰ったものだと思っていたが、俺と遊びに行く為に……
加蓮「そしたらまぁ案の定あんたは告白されるし、それオッケーしてるし、ほんっと最悪」
P「……加蓮。それってさ……」
107 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/06(火) 17:00:47.68 ID:Q7Cuv+biO
加蓮「……っ!諦められる訳ないじゃん!私、初めてだったんだから……鷺沢みたいな優しいバカに出会えたの」
優しいバカ、か。
バカに関しては何も言い返せない。
そして、優しいに関しては……
優しいんじゃなくて、弱いだけだ。
P「……褒められてると信じたいな」
加蓮「褒めてるつもりはないよ」
心をへし折るのがお早い事で。
加蓮「……だって、私みたいな重ーい女の子を……ねぇ鷺沢。目、開けていいよ」
……本当にいいのか?
開けた瞬間『変態っ!』って言って叩かれたりしないよな?
108 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/06(火) 17:01:13.00 ID:Q7Cuv+biO
加蓮「……ねえ、P」
恐る恐る、目を開けると……
加蓮「私はっ!離れたくない……!ううん、もっと近くに居たいの!だから……っ!」
いつの間にか、加蓮は俺の目の前にいて。
加蓮「……好きだよ。私と付き合って……っ!」
加蓮の唇が、俺の唇に触れた。
その感触は、あっという間に激しい雨に流されて。
それでも、加蓮の頬を濡らす雫は。
それだけは、この雨ですらも隠し切れずにいた。
109 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/06(火) 17:02:10.27 ID:Q7Cuv+biO
P「はぁ……」
めちゃくちゃ疲れた。
ホテルに戻って、シャワーを浴びた後夕食に向かう。
またもやバイキングだった。
沖縄らしいものを食べられるのは最終日の自由時間のみになりそうだ。
加蓮は、さっきの事なんて無かったかの様にいつも通りに振舞っている。
まゆ「……どうかしたんですかぁ?」
P「ん、いや、別に……」
智絵里「あ……めかぶ美味しい……」
結局、あの後加蓮とはきちんと話せていない。
返事すらさせてもらえていない。
カヌーに戻って何かを言おうとすると、適当にはぐらかされた。
加蓮は俺が智絵里と付き合っている事を知っている筈で。
というか、以前俺がきちんと伝えた筈なのに……
加蓮「美穂ぉ……李衣菜ぁ……」
李衣菜「か、加蓮ちゃん……どうしてそんなにしょげてるの?」
加蓮「千川先生に、北条さんはポテトで遊ぶからダメって言われたの!」
美穂「何も間違ってないと思うけど……」
加蓮「私からポテトを取ったらJK要素しか残らないじゃん!」
まゆ「え、加蓮ちゃんってJKだったんですかぁ?」
加蓮「ジョーカーは黙って」
まゆ「クイーンですよぉ」
騒がしくも、いつも通りの楽しい食卓だ。
でも……
110 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/06(火) 17:02:37.95 ID:Q7Cuv+biO
智絵里「……カヌー、とっても楽しかったですね」
美穂「ずっと乗ってたくなっちゃいました!」
李衣菜「こっちは速過ぎて全然景色楽しめなかったけど」
まゆ「スピードこそ正義ですよぉ」
加蓮「ねえ誰か、私の代わりにポテト取ってきてくれない?」
まゆ「加蓮ちゃんはカヌーよりポテトみたいですねぇ」
美穂「共犯者を募らないで下さい……」
加蓮「取ってきてくれたら少し分けてあげるから!」
李衣菜「メリット少な過ぎない?」
まゆ「ハイリスクローリターンですねぇ。あ、加蓮ちゃんが喜ぶからノーリターンでした」
加蓮「分けてあげないよ?」
まゆ「自分で取りに行きますよぉ」
智絵里「……加蓮ちゃん、本当にポテト好きなんですね……」
加蓮「ねえ鷺沢、ポテト取ってきてよ!一生……のうちの三割くらいのお願いだから!」
まゆ「大好きなんですねぇ、ポテト」
P「人生の三割を此処で使うな」
111 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/06(火) 17:03:04.41 ID:Q7Cuv+biO
部屋に戻ってもう一度シャワーを浴びる。
今日で、色々な事に気付いてしまった。
それが、重く心にのしかかる。
P「……はぁ」
野郎のため息なんて誰も求めてないだろうが、吐きたいんだから仕方ない。
適当に服を着て、ベッドに寝っ転がった。
ピロンッ
P「ん……?」
まゆからラインが来た。
『こんばんは、智絵里です』
あぁ、智絵里は千川先生にスマホ没収されたんだったな。
まゆのスマホ借りてるのか。
『どうした?』
『この後、その……少し、お話出来ませんか?』
『おっけー、昨日と同じくロビーでいいか?』
『いえ、私がそっちの部屋に行きますから』
……ん?なんか違和感が……気のせいか。
それにしても、智絵里が部屋に来るのか……
いや、期待してないし、全く持って変な気持ちになったりなんてしてないし。
……ふぅ、落ち着け俺。
脱ぎっぱなしの服をハンガーに掛けて、少し部屋を綺麗にしてみたりする。
112 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/06(火) 17:03:39.55 ID:Q7Cuv+biO
それからしばらくベッドで座禅していると、部屋の扉がノックされた。
P「はーい」
鍵を開けて扉を開くと……
まゆ「はぁい、貴方のまゆですよぉ」
P「あれ?智絵里、名前と見た目と声変えた?」
まゆが立っていた。
まゆ「……あの、先生に見つかると怒られるので、取り敢えずお部屋にあげて頂けませんかぁ?」
P「え?あ、あぁ」
言われるがままにまゆを部屋にあげた。
P「いやいや、女子が男子の部屋に来るのはまずいだろ」
まゆ「智絵里ちゃんだったら喜んで迎え入れたんじゃないですかぁ?」
何も言えない。実際その通りだったから。
P「そういえば、智絵里は?」
まゆ「……智絵里ちゃんは、此処へは来ませんよぉ……だって……」
P「だって……?」
ふふふ、と妖しく笑うまゆ。
まさか……既に智絵里は……
まゆ「……カヌーで疲れて、もう寝ちゃってますから」
思った以上に平和な理由だった。
どうせなら寝顔の写真撮って来てくれると嬉しかったんだけどな。
P「んじゃ、やっぱりあのライン送って来たのまゆだったのか」
まゆ「そうですよぉ。気付いてたんですか?」
P「『わたし』が『私』になってたからな。いつもラインの時『わたし』なんだよ、智絵里は」
まゆ「まゆの詰めが甘かったみたいですねぇ」
113 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/06(火) 17:04:08.15 ID:Q7Cuv+biO
P「んで、話って何だ?わざわざ俺の部屋に来るって事は、他の人に聞かれたくないんだろ?」
まゆ「……そう、ですねぇ」
ゴホン、と咳をついて。
まゆは、口を開いた。
まゆ「今日のカヌー、楽しかったですか?」
P「ん?まぁ、勿論。普段は出来ない事だしな」
まゆ「む……はぐらかすんですね。なら、まどろっこしいのは無しにします」
……もしかしたら、まゆは見当が付いているんだろうか。
まゆ「……加蓮ちゃんと、何かありましたか?」
P「……やっぱり、察してたのか」
まゆ「見ていれば分かりますよぉ。加蓮ちゃんがPさんを諦めてない事も……加蓮ちゃんが、智絵里ちゃんを恨んでいる事も」
今日加蓮から告白された時、疑問に思った事があった。
俺の事を許していない、諦めていないんだとしたら。
智絵里の事はどう思っているんだろう、と。
114 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/06(火) 17:04:38.33 ID:Q7Cuv+biO
まゆ「……智絵里ちゃんをずっと無視していましたからねぇ。知ってましたか?加蓮ちゃん、一度も『緒方智絵里』って名前を呼んだ事が無いんです」
P「……そうだったんだな……」
案の定、だった。
夕食の時も、加蓮はみんなと会話している様で、智絵里の言葉は一切無視していた。
その直後に、まゆがフォローを入れてくれている事にも気付いた。
P「……智絵里、ずっとその事で悩んでたんだな」
あのカラオケの後の事。
なんで智絵里があんなに辛そうにしていたのかも、ようやく気付けた。
まゆ「相談しなかったのはPさん的には悲しい事でしょうけど、智絵里ちゃんを責めないであげて下さい。智絵里ちゃんはきっと、Pさんに甘えず自分で何とかしたかったんだと思いますから」
P「……でも、智絵里はずっと加蓮に話し掛けてるよな」
まゆ「それも、智絵里ちゃんがPさんに迷惑を掛けたくないからだと思います」
P「……それで、まゆが俺に相談してくれたのか」
まゆ「はい、多分智絵里ちゃん一人だと解決出来そうにありませんからねぇ。まゆの言葉は、きっと加蓮ちゃんは聞いてくれないでしょうし」
解決、か。
智絵里にとっての解決は、どういう結末を迎える事なんだろう。
まゆ「……Pさんと加蓮ちゃんが、これからも友達でい続ける事だと思います」
またきちんと、智絵里に聞く事になるだろうが。
もし本当にそうなのだとしたら、智絵里はもう十分に……
P「そっか……そうだな。我儘だろうが、俺も加蓮と友達でいたい」
まゆ「まゆも、Pさんが悲しむ様な事にはなって欲しくないですから」
P「……ありがとう、まゆ」
まゆ「ふふ、お礼は三倍返しを期待してますよぉ」
115 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/06(火) 17:05:04.16 ID:Q7Cuv+biO
P「……それはそれとして、まゆ。男子の部屋に一人で来るなんて少し不用心過ぎるんじゃないか?」
まゆ「…………え?えっ?あ、あの……Pさん?」
P「まったく……何されても文句言えないぞ?」
まゆ「え、ええと……えっ?えええっ?!」
珍しいどころか初めて見るな、こんな慌てふためいてるまゆ。
P「……さて、じゃあ早速……」
まゆ「だ、ダメですPさんっ!Pさんには智絵里ちゃんが……あ、でもそれも悪くないかも……」
P「部屋まで送らせて貰うぞ?」
まゆ「は、はい…………はい?」
P「まゆを傷付ける様な事をする訳無いだろ……ほら、行くぞ」
まゆ「で、ですよねぇ。Pさんには智絵里ちゃんがいますらねぇ、ですよねぇ!はい、分かってましたよぉ!手を出したら幻滅してましたよぉ!!」
……テンション高いな、まゆ。
いや俺も悪かったと思うけど。
まゆ「……明日の朝まで、智絵里ちゃんが無事で済むとは思わない事ですよぉ。八つ当たりで顔に落書きします」
P「ほんと申し訳ございません」
116 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/07(水) 00:18:15.58 ID:Xfv3vbiC0
智絵里「……おはようございます」
P「おはよう、智絵里」
まゆ「うぅ……おはようございます……」
修学旅行三日目の朝。
まゆも智絵里も、とても眠そうだった。
まゆ「智絵里ちゃん、寝たのが早過ぎて五時に起きちゃって……」
智絵里「まゆちゃんと、楽しくお喋りしてました」
まゆ「起こさないで欲しかったですねぇ……まゆは昨日寝たの遅かったんですから」
智絵里「えっと……何かしてたんですか?」
P「夜ふかしは肌の敵だぞ」
まぁ、俺と喋ってたからってのもあるが。
……まゆとの、昨日のやり取りを思い出した。
まぁ、今話す事でもないか。
智絵里「自由時間……とっても楽しみですね、Pくん」
P「だな、暑そうだけど」
まゆ「Pさんは、何か食べたい物は決まってるんですかぁ?」
P「特に決めてないな……智絵里は?」
智絵里「わたしは……Pくんが望むなら、いつでも……」
P「……お、おう」
まゆ「カニバリズムだと信じたいですねぇ」
智絵里「えっと、なら……朝ご飯は少な目にしておきませんか?」
P「そうだな、昼食べられなくなっちゃうと勿体無いし」
117 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/07(水) 00:18:47.29 ID:Xfv3vbiC0
P「……あっつい……」
まゆ「溶けそうですねぇ……」
智絵里「うぅ……蒸し焼きになっちゃいそう……」
修学旅行三日目は、物凄く暑かった。
六月でこの暑さなら、八月なんてもうマントルなんじゃないだろうか。
汗だっくだくになりながら太陽を睨み付け、眩し過ぎて目が眩むまでがワンセット。
色々巡る予定だったが、もうさっさと適当な店に入って涼みたかった。
まゆ「どうしますか?」
P「さっさと店に入って早目のお昼にしようぜ」
まゆ「大賛成です。汗かいたらシャツが透けちゃいますからねぇ」
……もう少しだけ歩いても良い気がしてきた。
智絵里「……Pくん」
P「はい、ごめんなさい」
智絵里「その……そういうのは、二人っきりの時に……」
P「だ、だな!」
その時は好きなだけ汗かけるし。
シャツも脱ぐから透ける心配もないし。
まゆ「早くお店を探しますよぉ!」
118 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/07(水) 00:19:12.23 ID:Xfv3vbiC0
智絵里「朝ご飯、少な目にしておいて良かったですね」
P「んじゃ、近くの適当なソーキそば屋に入るか」
歩いて五分もしないうちに、沖縄料理店が姿を現した。
ドアをくぐると冷房が効いた冷たい空気が流れてくる。
ニライカナイは此処にあった。
P「……涼しい。冷房って凄い」
まゆ「此処がシベリアなんですねぇ」
智絵里「どうしよう……わたし、パスポート持って来てないです……」
まゆ「密入国は犯罪ですよぉ」
智絵里「わたし、Pくんにお仕置きされちゃいます……」
……智絵里に、お仕置き。なんて甘美な響きなんだろう。
まゆ「ご褒美じゃないですかぁ……」
P「って、アホな事言ってないでメニュー決めるぞ」
119 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/07(水) 00:19:43.56 ID:Xfv3vbiC0
P「……帰って来てしまった……」
つい数十分前までさっさと着陸しろと祈りまくっていたのに、今ではもう着いちゃったのかと掌を半回転。
目の前の光景にシーサーもシークァーサーもなく、ただ見慣れた街だけが広がっていた。
帰るまでが遠足ですとは言うが、なら帰宅の直前までは遠足先の光景が広がっているべきだと思う。
智絵里「……帰って来ちゃったんですね」
まゆ「ですねぇ……いつもの街並みです」
P「……終わっちゃったんだな……」
遠くに出掛けて帰って来た時の帰って来ちゃったんだな感は異常。
なんだか、物凄い虚無に包まれた気分だ。
智絵里「……とっても、楽しかったですね」
まゆ「またみんなで旅行に行きたいですねぇ」
P「だな。バイトしてお金貯めるか」
みんなで、か。
その為にも、俺は……
まゆ「それでは、まゆは寮の方ですから。また来週学校でお会いしましょう」
智絵里「じゃあね、まゆちゃん」
P「またな、まゆ」
まゆが帰って行った。
俺と智絵里も、二人並んで道を歩く。
120 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/07(水) 00:20:10.34 ID:Xfv3vbiC0
P「……楽しかったな」
智絵里「はい……でも、今度は……Pくんと二人きりでも行きたいな」
P「あぁ、俺もだ。だから、さ……」
ふぅ、と。一息吐いて、俺は尋ねた。
P「……なぁ智絵里。加蓮について、少し話を聞かせて貰えないか?」
智絵里「…………」
智絵里から、返事は無い。
いきなり過ぎたから、という理由では無いだろう。
P「……話辛いかもしれないし、話したく無いかもしれない」
智絵里「……わたしが、自分で何とかしますから……我儘ですか?」
我儘じゃないと思う。
でも、今回は我儘って事にさせて貰おう。
P「あぁ、我儘だと思う。だから、俺も我儘を言うけどさ……少しでいいから、頼ってくれないか?」
智絵里「わたしは……もう、十分力を貰ってますから」
P「じゃあさ、今度は……智絵里が、俺に力を貸してくれないか?」
智絵里「…………え?」
P「この後時間あるなら、俺の家で話の続きをしたい。大丈夫か?」
智絵里「えっと……はい」
121 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/07(水) 00:22:23.15 ID:Xfv3vbiC0
P「ただいまー姉さん」
文香「お帰りなさい……あら。こんにちは、智絵里さん」
智絵里「えっと……お邪魔します」
文香姉さんにお土産を渡して部屋に上がる。
六月頭の夕方の部屋は、丁度良い涼しさだった。
智絵里「それで……その、力を貸して欲しいって言うのは……」
P「……俺、加蓮に告白されたんだ」
智絵里「えっ……ぁ……」
智絵里の表情が、とても辛そうなものになった。
……あ、言い方に語弊があるな。
P「もちろんオッケーしてないからな?俺は智絵里が大好きだから、以前ちゃんと断って……その筈だったんだけど」
智絵里「……加蓮ちゃん……そっか……」
P「智絵里と付き合ってるから、って。そう伝えようとしても……全然聞いてくれなくてさ」
智絵里「……ごめんなさい……わたしのせいで……」
P「智絵里のせいじゃない。もっとハッキリ断ればいいのに、強く言えない俺が悪いんだ。だから、さ……」
智絵里の力を、貸して欲しい。
智絵里がどういう結末を迎えたいのか、それを教えて欲しい。
その為なら、きっと俺も勇気を出せるから、と。
P「その為にも、智絵里に加蓮との話を聞かせて欲しいんだ」
122 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/07(水) 00:23:00.22 ID:Xfv3vbiC0
智絵里「……わたしは、Pくんが思っている程……強くはありません」
P「俺もきっと、智絵里が思ってる程強くも優しくもないんだ」
智絵里「そんな事ありません……!」
P「……ほら、強いじゃないか。そんなにキッパリと否定出来るんだから」
智絵里「……あ……」
P「言いたい事は沢山ある。思うところも沢山ある。でも……まずは、智絵里の話を聞きたい」
智絵里「……誰かから何か聞いたんですか……?まゆちゃん……?」
P「……いや、昨日の夕飯の時の会話とか、それ以前の事を思い出してさ」
智絵里がずっと耐えていた事を、まゆから聞いたなんて今言うわけにはいかない。
それはきっと、まゆも智絵里も望んでいないだろうから。
若干どころじゃなく、加蓮に対して怒りを抱いているなんて言えない。
智絵里が、俺と加蓮が友達でいて欲しいと思っているのなら。
自分の恋人を傷付けられて、怒らない筈がないだろう。
それでも、加蓮と友達でいたいと思うのも本音だ。
だから……決めるのは、話すのは。
智絵里の話を聞いてからだ。
123 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/07(水) 00:23:32.50 ID:Xfv3vbiC0
智絵里「……もう一度、言わせて下さい。わたしは……Pくんが思っている程、強くも優しくもないんです」
ふぅ、と。泣きそうになりながらも、ため息をついて言葉を続ける智絵里。
ずっと、加蓮に避けられ続けていた事。
それでも、加蓮と友達になりたいと思っていた事。
それを俺に相談しなかったのは、自分で何とかしたかったから。
それは、俺と加蓮が友達でい続ける為に。
俺に迷惑を掛けない様にする為に、という事。
智絵里「嫌われて当たり前ですよね……わたしは、Pくんを取っちゃったんですから」
P「取っちゃった、って言うのは違うと思うが……少なくとも、俺は自分の意思で智絵里を選んだんだぞ」
智絵里「……でも、やっぱり……Pくんと加蓮ちゃんがお友達でいて欲しい一番の理由は……」
ぐっ、と。涙を飲み込んで。
智絵里「……わたしの事を、許して欲しかったからなんです……」
124 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/07(水) 00:24:22.85 ID:Xfv3vbiC0
P「……許して欲しい?」
智絵里「……Pくんが加蓮ちゃんと仲良くし続けてれば……いつかきっと、加蓮ちゃんはわたしの事を許してくれるんじゃないかな、って……」
P「……そっか」
智絵里「わたしが、Pくんに告白したあの日……加蓮ちゃんは、ずっとPくんを待っていたんです」
P「……らしいな。昨日、加蓮からその話は聞いた」
智絵里「その時、わたしがPくんに相合傘をお願いしたのは……Pくんに、加蓮ちゃんに気付かないで欲しかったからなんです……」
……そうだったんだな。
そして、それを見た加蓮は諦めて帰ったんだろう。
智絵里「……そのせいで、加蓮ちゃんは体調崩しちゃって……Pくんも、わたしに取られちゃって……」
智絵里「……それを……わたしは、許して欲しかったから……」
智絵里「わたしは、とっても臆病なんです。誰かに嫌われているのが、冷たい視線を向けられるのが……耐えられなくって……」
智絵里「でも、わたしが話し掛けても……加蓮ちゃんに無視されちゃって、それどころか余計に嫌がられちゃって……」
智絵里「だから、Pくんがこれからも今まで通りに接し続けてあげてくれれば……いつか、きっと……わたしへの恨みも薄れてくんじゃないかな、なんて……」
智絵里「……でも……告白されちゃったんですね……」
P「……あぁ」
智絵里「だったら、もう……今まで通りなんて……」
智絵里「……わたしが、Pくんに相談しなかったのは……それも、やっぱり……わたしが傷付きたく無かったからなんです」
智絵里「こんな話をして、失望されちゃったら……呆れられちゃったら、なんて……」
智絵里「こんな弱いわたしなんて……きっと、Pくんに見放されちゃうかも……そう思ってたんです」
125 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/07(水) 00:25:39.38 ID:Xfv3vbiC0
P「……そんな訳ないだろ」
智絵里「本当に、ですか……?こんなわたしでも……受け止めてくれるんですか?」
P「……なぁ、智絵里」
智絵里「……っ……はい……」
P「智絵里は、どうしたい?何を言われても俺は絶対に、嫌いになんてならないから……そう信じて、どうなって欲しいかを全部言って欲しい」
智絵里「……絶対に、ですか……?」
P「あぁ。約束する」
智絵里「っ!だったら……わたしは……!」
涙を零しながらも、智絵里は……
智絵里「わたしは……!Pくんと、これからも恋人でいたいです……っ!」
P「うん、他には?」
智絵里「Pくんに、加蓮ちゃんの告白を断って欲しいです……それでも、Pくんと加蓮ちゃんはお友達でいて欲しくて……!」
P「……あぁ」
智絵里「それと……わたしも……!加蓮ちゃんと、お友達になりたい……!」
P「それは、許して欲しいからか?」
智絵里「……それも、もちろんですけど……Pくんに迷惑を掛けたくないから……それもだけど……!」
智絵里「そんな理由じゃなくっても……わたしは、ただ……加蓮ちゃんとお友達になりたいんです……!」
P「……あぁ、分かった。それと……」
智絵里「それと……?」
P「やっぱり、弱くなんて無いじゃないか。きちんと、自分の気持ちを……我儘を、言葉に出来たんだから」
智絵里「……我儘、ですよね……」
P「あぁ、我儘だと思う。だからこそ、俺に言ってくれて……すっごく嬉しいよ」
智絵里「……ぅぁ……っ」
P「迷惑だって、そう思ってたんだろ?それなのに言葉に出来たんだ。それって、立派な強さなんじゃないかな」
それに、どんな理由であれ。
智絵里は、ずっと耐え続けてきたんだから。
126 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/07(水) 00:26:09.51 ID:Xfv3vbiC0
P「それじゃ、俺もそうなれる様に頑張るから」
智絵里「……加蓮ちゃんと、お話しするんですか?」
P「もちろん。そうしないと、どうにもならないからな」
智絵里「……わたし、もっと嫌われちゃったら……」
その時はその時だ、と。
そうやって割り切る事なんて難しいだろうから。
P「……俺に、任せてくれ。絶対になんとかするよ」
確証なんてないけど、それでも。
P「だから……俺と、加蓮を信じてくれ」
智絵里「……信じてあげません」
P「え」
マジで?この流れで?!
智絵里「だから……わたしも、一緒に……加蓮ちゃんと、もう一度きちんと向き合います……」
P「……心強いな」
智絵里「わたしから話し掛けて……ずっと、逃げて来たんです。向き合う事だけは避けてきたんです……」
P「……今は、どうだ?」
智絵里「……ほんとは、とっても怖いけど……Pくんが、一緒に居てくれるなら……わたしも、強くなれそうだから」
P「それじゃ、弱い者同士で頑張るか」
智絵里「……はい……!」
なら、するべき事が決まったなら、どうなって欲しいかが決まったなら。
後は、向き合うだけだ。
127 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/07(水) 00:27:35.15 ID:Xfv3vbiC0
『加蓮、今日時間あるか?』
『何?デートのお誘い?』
『違うけど』
『じゃあやだ』
……ダメだった。
李衣菜「何してるの?」
P「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ」
修学旅行明けの日曜日。
部屋で加蓮にラインを送っていたら、李衣菜が居た。
面白いくらい脈絡が無いが、実際に部屋に李衣菜が居るんだから仕方がないだろう。
李衣菜「私はいつも通り朝ご飯たかりに来ただけだけど?」
P「いつも通りに、って時点で色々おかしいと思おうよ」
李衣菜「で、何してたの?」
P「加蓮にライン。今日空いてないか?って」
李衣菜「それで、加蓮ちゃんは何だって?」
P「デートじゃないならいや、だってさ」
李衣菜「デートすればいいじゃん」
P「へい李衣菜。俺、恋人いる、智絵里一筋、おーけー?」
李衣菜「意味がよく分かりません」
P「俺智絵里、おーけー?」
李衣菜「驚異の日本語短縮、そしてさっきより意味が分からないね」
うん、今ので理解出来たら逆に凄いと思う。
128 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/07(水) 00:28:38.43 ID:Xfv3vbiC0
P「まぁ兎に角、デートする訳にはいかないだろってさ」
李衣菜「デートって事にして呼び出しちゃえば良かったじゃん。何か話しあるんじゃないの?」
P「騙す訳にもいかないだろ……ん?」
李衣菜「Pは甘いよね。甘いって言うか……うーん、優しい?弱い?」
俺、加蓮に話があるなんて言ったっけ?
李衣菜「ま、いっか。少しくらい協力してあげよっかな」
P「ん……?協力?」
李衣菜「私としても、みんなと友達のままでいて欲しいからね。それが、美穂ちゃんの望みなんだし」
P「おいおい李衣菜、さっきから何言ってるんだ?」
李衣菜「多分Pが真正面から言わないと届かないからね。はい、お昼に校門前で、っと」
P「李衣菜」
李衣菜「何?」
P「どこまで知ってる?いや……知ってた?」
李衣菜「私だって加蓮ちゃんと友達なんだから気付かない訳ないでしょ……うん、それなのに何も出来なかったんだけどね」
少し、寂しそうな表情をする李衣菜。
珍しいな……李衣菜がそんな顔をするなんて。
129 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/07(水) 00:29:17.75 ID:Xfv3vbiC0
李衣菜「ほんっと、智絵里ちゃんに申し訳無い事しちゃったな……ううん、出来なかったんだ。加蓮ちゃんの気持ちも分かるし」
P「……いや、全部俺が原因だから」
李衣菜「その通りだね」
P「否定してくれよ」
李衣菜「そうでもしないと……修学旅行の夜、加蓮ちゃんから少しだけ話を聞いたんだ」
P「同じ班だったもんな」
李衣菜「で、多分私じゃどうにも出来そうにないし、P頼みかなって」
P「……俺でどうにか出来そうか?」
李衣菜「どうにかしちゃうんでしょ?」
P「分からない。でもする。どうにかしてみせる」
李衣菜「なら頑張ってね。加蓮ちゃんには私が謝ってたって伝えといて」
P「……あぁ、分かった」
李衣菜「……私はほら、元々美穂ちゃんを応援してたから。そんな美穂ちゃんが望んでるんだから、アフターサービスもきっちりとね」
P「……ありがとう、李衣菜」
李衣菜「お礼は期待してないよ。期待してるのは結果だけ」
P「任せろ」
李衣菜「任せた」
さて、李衣菜に嘘を吐かせちゃったんだから。
それも含めて、俺も頑張らないと。
130 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/07(水) 00:29:49.27 ID:Xfv3vbiC0
正午、学校の校門前。
P「よう、加蓮」
加蓮「おはよ鷺沢。じゃあね」
加蓮が帰ろうとした。
P「待って待って待って!騙したのは悪かったって李衣菜が言ってたから!」
加蓮「謝り方がクズ過ぎない?!」
P「ちなみに何て誘われてたんだ?」
加蓮「ポテトのテーマパークに行かない?って」
P「それ騙される方も悪くないか?」
というか李衣菜、なんつー誘い方してるんだよ。
幸運になる壺よりも疑わしいだろ。
……いや、違うな。
131 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/07(水) 00:30:20.51 ID:Xfv3vbiC0
加蓮「はぁ……で?話があるんでしょ?そこにツレが居るって事は」
智絵里「……こんにちは、加蓮ちゃん」
加蓮「……御機嫌よう。まぁ機嫌はメチャクチャ悪いけど」
P「……なぁ、加蓮」
加蓮「何?」
P「…………まずは、謝らせて欲しい。卑怯な誘い方をして悪かった」
加蓮「他には?」
P「あの雨の日、此処で待ちぼうけさせて悪かった。ほんとうに……すまん」
加蓮「……今更過ぎるでしょ」
P「先約だから、つって屋上に行ったのに……加蓮と遊びに行く約束を守れなかった」
加蓮「……それじゃ、今からでも行かない?ポテトのテーマパーク」
P「デートも出来ない。俺は、智絵里と付き合ってるから」
加蓮「っ!……だったら……」
P「別れない。智絵里の事が好きだからな」
加蓮「最っ悪。わざわざそれを言う為に呼び出したの?」
智絵里「……えっと、加蓮ちゃん……」
加蓮「何?まぁ何を言われても、アンタを許すつもりは……」
智絵里「……許さなくて、良いです」
加蓮「え?」
P「え?」
あれ?良いのか?
132 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/07(水) 00:30:56.93 ID:Xfv3vbiC0
智絵里「どう思われてても……それでもわたしは、加蓮ちゃんとお友達になります」
加蓮「お友達になります、って……何言ってんの?」
智絵里「……ねえ、加蓮ちゃん。あの時、わたしが本当の事を言わず保険ばっかりかけて、って……それって、自分の事でもあったんですよね?」
加蓮「っ?!ほんっと何言ってんの?!」
智絵里「引き留めておけば良かった、って言ってたけど……それだって」
加蓮「うっさい!!」
P「なぁ、加蓮」
加蓮「……何?」
P「……本当は、李衣菜からなんてライン来てたんだ?」
加蓮「…………」
李衣菜が、よしんば本当にポテトのテーマパークに誘っていたんだとして。
それは多分、加蓮に嘘だとバレると分かっての事だろうし。
尚且つあいつは、人を騙したままでいられるような奴じゃない。
その後に絶対、本当の事を言った筈だ。
加蓮「……さぁね、何だったと思う?」
P「本当はポテチのテーマパークだったとか?」
加蓮「このタイミングでよくふざけられるよね」
P「すまん……」
133 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/07(水) 00:31:41.82 ID:Xfv3vbiC0
智絵里「……ねえ、加蓮ちゃん」
加蓮「……何?ハッシュドポテトのテーマパークとか言うつもり?」
もちろん、そんなつもりは無いだろう。
大きく息を吸って、智絵里は思いを口にした。
智絵里「……わたしと、お友達になってくれませんか……?」
加蓮「やだ。何度も言ってるでしょ、私はあんたを」
智絵里「分かってます。それでも……それはまた、別の問題です」
加蓮「……」
智絵里「わたしと、お友達になって下さい」
加蓮「やだって言ってるじゃん……!」
智絵里「何度だって言います……!わたしと!」
加蓮「なんでっ?!なんでそんなに……わたしに……」
智絵里「……加蓮ちゃんが……わたしに、似てたからです」
加蓮「は?」
智絵里「相手にも、自分にも言い訳してませんか?」
加蓮「……自分に、言い訳……?」
智絵里「……どうして、Pくんが屋上に行こうとするのを止めなかったんですか?」
加蓮「……っ!それは……」
それは、確かにそうだ。
俺が言えた事じゃないが、今の加蓮を見るに。
あの時、もっと強く引き留めるという選択肢だってあった筈だ。
134 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/07(水) 00:32:49.25 ID:Xfv3vbiC0
智絵里「自分が無理に引き止めたら、困らせちゃうから、って……そう思ったんじゃないですか……?」
加蓮「…………はぁ。まぁ今では後悔してるけどね。それで?だから何?」
智絵里「だからこそ、です……わたしも……加蓮ちゃんも。これ以上後悔して欲しくないから……!」
加蓮「……どういう事?」
智絵里「……加蓮ちゃんも、分かってる筈です。まだ、自分が逃げてるって」
加蓮「……あんたに私の」
智絵里「気持ちは分かりません……それでも、言い訳をしてるって事だけは分かります。答えと向き合おうとして無いって事だけは……痛いほど、分かるから……」
加蓮「…………はぁ、大当たり」
ため息を吐いて、苦笑する加蓮。
緊張の糸が解けたと言うより、観念したと言った様子で。
P「……何がだ?」
加蓮「李衣菜からのライン。そろそろ向き合ってみたら?だってさ。何様のつもりなんだろうね、李衣菜は」
苦笑いしながらも、加蓮は。
とても辛そうに、涙を堪えていた。
135 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/07(水) 00:33:20.95 ID:Xfv3vbiC0
そんな内容が送られてたのに、加蓮が此処に来たって事は……
加蓮「……自分が悪いのは分かってた。あの時もっと真っ正面から向き合ってれば、って……そんな後悔が重過ぎて、耐えられなくて、私は……」
P「……なぁ、加蓮」
加蓮「ちゃんと告白したところで、鷺沢が受け入れてくれたかは分からないのにね。なのに……それでも、だからこそ……諦められなくて……」
智絵里「……わたしも、きっと……立場が逆だったら、そうだったと思います」
加蓮「……似てるアピール?」
智絵里「わたしなんかより……加蓮ちゃんの方が、ずっと強くて……優しいです」
加蓮「似て無いじゃん」
智絵里「似たいんですか?」
加蓮「もちろんやだ」
バカにした様に笑う加蓮。
辛辣なやりとりに見えるが。
こんな会話だって、前までだったら無かったんだろう。
136 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/07(水) 00:34:16.35 ID:Xfv3vbiC0
加蓮「……全部、覚えてるんだ。『おめでと、鷺沢。私の事は気にしなくていいよ。なんだったら、あの時のキスも演技って事にしていいから』……忘れられない。なんで私は……」
本気で、真正面から、言葉に出来なかったんだろ……
そうポツリと呟く加蓮の声は、震えていて。
加蓮「……怖かったんだ……だって、たった一人の友達だったから……!迷惑掛けて、もし嫌われちゃったら……私……っ!」
ようやく、智絵里の言う『似てる』の意味が分かった。
だからこそ、俺は……
P「……今はもう、友達は俺以外にもいるだろ」
加蓮「何?もう私とは……友達でいてくれないの……?」
P「……好きなだけ、迷惑掛けて来いよ。加蓮の言い訳、全部取っ払ってやるから」
加蓮「……私の事、嫌いにならない……?」
P「俺以外に迷惑掛けなければな」
加蓮「……李衣菜に、迷惑掛けちゃったけど……」
P「李衣菜ならセーフ。あと、俺も謝るよ。加蓮と一緒に」
加蓮「まゆは……いいかな」
P「謝りましょう」
加蓮「……今から私が鷺沢に何か言ったとして……これからも、友達でいてくれる?」
P「約束するよ。友好ポイント、まだ残ってるだろ?」
加蓮「とっくに失効してるよ……今度は、私が貯め直すから」
P「俺も協力するから」
加蓮「酷い事言っても良い?」
P「俺の心が折れない限りな」
加蓮「こないだは私から逃げちゃったけど、今もう一回言うから。返事、貰える?」
P「……もちろん」
加蓮「なら……うん。もう言い訳はやめにするから。私、とっても迷惑で……自分片手な事言うから。だから……」
P「……あぁ」
加蓮「ちゃんと真正面から、受け止めてね?」
P「俺を信じろ。真正面から打ち返してやる」
すぅー……っと、大きく息を吸って。
震える身体を抑え付けて。
加蓮は、想いを言葉にした。
137 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/07(水) 00:34:57.64 ID:Xfv3vbiC0
加蓮「私は……!鷺沢と離れたくないから……もっと側に居たいから!もっと側に居て欲しいからっ!だから……!!」
加蓮「鷺沢!私は、鷺沢の事が……その、鷺沢の事が……!」
それを口にするのは、とても勇気が必要で。
結末が分かっているからこそ、苦しくて。
それでも加蓮は、最後まで……
加蓮「私は……大好きだから……っ!だから、P!私と……私と……!付き合って!!」
ようやく俺たちは、正面から向き合えた。
そしてやっと、俺も。
真正面から、答えを返せる。
P「……ごめん加蓮。俺、他に好きな人がいるから、加蓮の気持ちには応えられ無い」
加蓮「っあぁぅ……っ!うぅぅぅぅぁぁっっ!!」
加蓮の声が、想いが、他に誰も居ない校門に広がった。
そんな加蓮の願いを、全てを受け入れる事は出来ないけど。
零れ落ちる涙を、俺が受け止める事は出来ないけど。
P「……それでも、離れずにいるって事は出来るから……!だから、加蓮!これからも、俺と友達でいてくれ!!」
加蓮「……うん……っ!うんっ!うぁぁぁっっ!!」
138 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/07(水) 00:35:37.94 ID:Xfv3vbiC0
ぎゅっ、っと服の袖が引っ張られて。
横に目を向ければ、隣に立っている智絵里もまた、肩を震わせていた。
智絵里「……帰りませんか、Pくん」
P「……あぁ」
これ以上、何かをする意味も無い。
むしろ加蓮の為にも、俺たちはさっさと帰るべきだろう。
P「……また明日な、加蓮」
智絵里「……また、明日」
加蓮「うん……っ」
返事はそれだけだったけど。
それでもう、十分だった。
来た道を、智絵里と手を繋いで歩く。
握り締めた手は震えていたけれど。
それでも、俺は安心した。
P「……智絵里が居てくれて良かった。ありがとう」
俺一人だったら、智絵里が居てくれなかったら。
きっと加蓮と、向き合えなかったから。
きっと加蓮は、向き合えなかったから。
智絵里「……わたしも、大好きなPくんが居てくれたから……とっても、勇気を貰えました」
だとしたら、そんな関係も幸せだと思う。
足りない勇気を分け合って、踏み出して。
139 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/07(水) 00:36:03.21 ID:Xfv3vbiC0
智絵里「……Pくん、わたしのこと……強く抱き締めてくれませんか?」
P「あぁ、任せろ」
要望通りに、智絵里を抱き締めた。
その身体はまだ震えていて、心臓はバクバクしていて。
P「……不安だったよな。怖かったよな」
智絵里「……はい。バレちゃいました……わたしが、弱虫なの……」
P「大丈夫だ、俺だって弱いから」
智絵里「伝わってます……Pくんの鼓動も。ハートは正直者ですから」
P「……まだ不安か?」
智絵里「……今はまだ、怖かったからバクバクしてるけど……すぐに、幸せのせいになりますから」
P「……なら、良かった」
自分を弱いと思って、相手を強いと思って。
そんな俺たちだからこそ。
これからも支え合って、教え合って、伝え合って。
幸せになれると、幸せを届け合えると。
そう、感じていた。
140 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/07(水) 00:36:51.28 ID:Xfv3vbiC0
加蓮「鷺沢!数学教えてよ!!」
P「……」
翌日、教室のドアを開けた俺を出迎えてくれたのは、そんな加蓮の懇願だった。
昨日、ちゃんと向き合ったよな?なんて思ってしまうくらいいつも通りにうるさくて。
それが、そんないつも通りな加蓮が。
とても、嬉しかった。
加蓮「明日の二時間目の数学、テストなんて聞いてないんだけど!」
P「お前が授業中寝てるからなんじゃないのか?」
加蓮「そんなの今は関係無いでしょ!」
自分で言ってその返しは酷いんじゃないだろうか。
加蓮「と言うわけで、放課後は私に数学を教える事。約束でしょ?いい?いいよね?」
P「教える約束したの期末だよな?」
加蓮「前借りだよ」
P「お小遣いじゃないんだから……いや、勉強だから貯金って考え方は間違って無いのか……?」
141 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/07(水) 00:37:41.92 ID:Xfv3vbiC0
智絵里「……放課後は、わたしとデートの約束で……」
加蓮「そ。なら断っても問題ないよね」
P「いや大問題だろ」
加蓮「そんな事より数学の問題でしょ?!」
P「悪いな、俺は智絵里が最優先だから」
智絵里「あぅ……え、えへへ……」
加蓮「……何ニヤけてるの?言っとくけど、私まだ智絵里の事は許してないからね?」
P「……ふっ」
智絵里「……ふふっ」
加蓮「っ!何?!もういい!李衣菜に頼むから!」
朝からテンション高いなぁ。
いや、違うか。照れ隠しもあるんだろう。
さっきの言葉が、加蓮なりの遠回しな答えで。
智絵里「……デート、とっても楽しみです。何処に連れて行ってくれるんですか……?」
P「今日は午前中で終わるから、動物園にでも行こうと思ってたけど」
智絵里「……発情ウサギですか……?」
P「ちが……わないかもしれない」
智絵里「あ、あぅぁ……え、えへへ……」
142 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/07(水) 00:38:29.82 ID:Xfv3vbiC0
加蓮「鷺沢!智絵里!放課後みんなでスイパラ行くけど来る?来るよね?!」
勉強はどうしたんだよ……
智絵里「……ダメ、です。Pくんは、わたしの……トロトロチェリーなスイーツしか食べちゃ……」
智絵里が、俺の手を握り締めてくる。
放課後が楽しみで仕方がない。
まゆ「ゔぁー」
美穂「え、えっと……大胆なお誘いだね」
李衣菜「……何だかよく分からないけど、まぁ仲良さそうだしいっか」
李衣菜にも、まゆにも、美穂にも、加蓮にも。
感謝してもし足りない程、楽しい日常がそこにあって。
そして、隣には。
智絵里「……えへへ」
智絵里が、居てくれる。
こんなに嬉しくて幸せな事はない。
李衣菜「あ、そう言えば今日席替えらしいよ」
遠距離恋愛になりそうだ。
智絵里「ねえ、Pくん」
P「なんだ?」
横を向けば、幸せそうな微笑みを此方に向ける智絵里。
二年生になった初日、智絵里が隣の席に座った時。
こんなに素敵な笑顔を見れる日が来るとは、夢にも思わなかった。
智絵里「これからも、きっと……甘えちゃう事があるかもだけど」
……ほんと、俺は幸せだ。
最初から、こんなに近くに幸せがあったなんて。
智絵里「ずっと……一緒に居て下さいね……!」
智絵里√ 〜Fin〜
143 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/07(水) 00:39:48.31 ID:Xfv3vbiC0
以上です
まゆ√は今週末あたりから投稿開始出来ると思います
お付き合い、ありがとうございました
過去作です、よろしければ是非
モバ
加蓮「夢から覚めた夢」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1470474058/
檀黎斗「北条加蓮ゥ!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1505301632/
モバP「なぁありす…シャンプーって、いいよな」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1497187273/
文香「文学少女は純情だと思っていましたか?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1498125534/
ミリ
春日未来と学ぶ物理学
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1492568411/
北上麗花の見る世界
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1492336275/
徳川まつり「めめんと・もめんと?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1494840959/
144 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/07(水) 00:41:07.74 ID:B+RhWvcp0
乙です
追い付いたと思ったら終了リアタイに遭遇できて嬉しい
145 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/07(水) 01:34:31.34 ID:/q9AHKh2o
乙乙
146 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/07(水) 06:06:48.33 ID:2B/Bhx6h0
乙ハイペースで嬉しいけど無理せずね
147 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/02/07(水) 06:57:52.24 ID:/v+PyWq20
乙でした
無理せず頑張って
148 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/07(水) 16:30:37.22 ID:Om1SbCQXO
乙です
李衣菜は他のヒロインを攻略することで開放されるタイプだったか
149 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/07(水) 22:08:28.26 ID:l9skDBrgO
3人は攻略順自由でまゆが4人目で攻略順固定、李衣菜が裏ルート的なやつか
150 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/08(木) 23:14:45.66 ID:20lZAynIo
おっつ
151 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/02(金) 17:05:47.92 ID:yHFcd0m10
おつ智絵里ルートは他ルートに比べて不穏少なくてこれはこれでいいね
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