【クッキー☆】『猫になったBNKRG』

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57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:13:28.92 ID:kLIsZwOI0
また夜が来た。
いつもと違う夜だ。扉が開く音がした。部屋に光が灯る。こんな時間に誰だろうか。瞼の裏が明るくなった。
きっと保健所の人だ、そうに違いない。それにしても何をするんだろう。何かの検査だろうか。

「ええやん、ここの猫らから選んでええの?いや犬は…」
「おっこの子なんかええんちゃう?」
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:13:54.75 ID:kLIsZwOI0
どこだろうか、どこかで聞いたことがあるような声だ。思い出せない。
どうでもいい。思い出せても思い出せなくても。BNKRGは静かに寝たいのだ。
瞼に影が落ちる。

「近所のクソ生意気なガキにそっくりや」
「苦手やけど、克服するってのもありかもしれへん」
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:14:22.86 ID:kLIsZwOI0
いきなり体が宙に浮かんだ。いや持ち上げられた。
驚いて目を開ける。嘘!?眩しい…持ち上げる手が温かい。

「この子にするわ」



目の前にイカババアが、TISがいた。

60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:14:53.56 ID:kLIsZwOI0
猫用のキャリー・カートに詰め込まれた。どうしてだろう、何も考えられずただただ困惑している。
思い当ることは一つ。ゴミ屋敷に連れ込まれて殺されてしまうのかもしれない。キビャックの材料として海獣の腹に詰め込まれるかもしれない。皮を剥がれて三味線にされるかもしれない。
キャリー・カートが開いた途端逃げるが勝ちだ。まともに戦って勝てるわけがない。どんなに相手が非力であっても家というホームグラウンドに連れ込まれるのだ。負ける可能性が高い。
BNKRGは口元を固く閉じ、身を引き締める。瞳孔を操作し、光に慣れるよう努力もした。
体中が浮く感覚がして、酷くカートの中が揺れた。カートごとどこかに下ろされたようだ。恐らく車で運搬し、家に着いた後カートをどこかに下ろしたのだろう。
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:15:20.76 ID:kLIsZwOI0
しばらく経ってもカートは開かず、BNKRGは焦り始めた。どうしたのだろうか、逃げないように外で網を用意しているのだろうか。
機械的な音とチーンという音が聞こえた後、唐突にカートが開いた。
一瞬呆けたがそのまま勢いで出た。
しかし出たすぐのところで足がすくんだ。いや、足が止まったと言って差し支えない。
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:15:56.22 ID:kLIsZwOI0
籠に入れられて連れられた先はTISの家の食卓だった。カートはバカでかい机の端に置かれていたのだ。
煌びやかに広がる料理群には豪華絢爛の文字がふさわしい。
立ち上る湯気と香気に思わずBNKRGは立ちくらみを起こした。
そういえば動物愛護センターでの食事後、何も食べていない。ALISONの家からの脱走した後愛護センターで食事はしたものの、それ以来BNKRGは満腹まで食事した記憶がない。
よだれが自然と出てきた。顔を振ったが目の前の誘惑には勝てなかった。
つい何も考えずむしゃぶりついてしまった。もしこの中に睡眠薬や毒薬が入ってたとしても構わない。その時はその時だ。

「ふふん、うまいやろー、うまいやろ。料理したからな、私が」イカババアが背中を撫でつつ呟いた。
鯖の味噌煮に目が留まる。加工する気がないのか。そんなことはどうでもよかった。鯖の煮付けにBNKRGは歓喜のため息をついた。

63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:16:24.66 ID:kLIsZwOI0
ご飯を食べた後、強引に風呂に入れられた。
愛護センターで体が汚れていたためか、かなりお湯は汚れた。まさに生き返った気分だ。
体中に水滴がついてムズムズしたため、BNKRGは体を震わせた。水しぶきが飛んでTISがむせた。
しまった、と思ったが後の祭りだ。申し訳なく体を縮めているとTISはむせるのをやめ、丁寧に体を拭いてくれた。
そうか、猫が体を震わせて水気を飛ばすのはこういう事か。
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:16:58.52 ID:kLIsZwOI0
風呂を出た後BNKRGはトイレの説明を受けた。
そんなもの分かるに決まってると口を出したかったが、猫語なので通じるはずがない。
冗長な説明が終わった。TISはリビングでテレビを見ている。
TISはどうやら一人暮らしのようだ。初めて知った。
ゴミ屋敷と噂だったが噂されるほどゴミ袋が多いわけではない。少し散らかっている程度だ。
いや、もしかしたら別の部屋にあるのだろうか?においを嗅ぐが元人間のBNKRGには分からなかった
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:17:24.89 ID:kLIsZwOI0
リビングのソファーに座るTISは、BNKRGを隣に置いている。
逃げるなら今だ。そう思うのだが、撫でる手が妙に優しかった。
好意に飢えていた。BNKRGは手の感覚に身を任せ、半分困惑半分安堵で目を細める。
「まだ生きてていいのかな」少しだけ胸に暖かいものを感じたが、「猫殺し」という言葉が脳裏をよぎり、すぐに罪悪感で俯いた。
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:17:55.46 ID:kLIsZwOI0
「名前、つけとらんかったな」
TISは呟いた。BNKRGにとっては元人間だが、TISにとっては名無しの野良猫だ。
「どんなんがええかな」
BNKRGは口を開きかけたが、やめた。独り言が多い女である。
「まぁず」肩を叩かれた。
「はぁ?」ニャァ、と声が聞こえただろう。人間にはそれが困惑の声に聞こえるはずもなく。
「よし、これでええな。アンタはまぁずや。私が裏切ってしもたまぁずや」
「ちょ、ちょっと」
抗議の声をあげたが、それもむなしくBNKRGの名前はまぁずに決まった。
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:18:26.70 ID:kLIsZwOI0
寝る時間になったのかTISは別の部屋へ向かった。
BNKRGはため息をつき、ついていった。
一緒に寝るんか、と呟いた。
その声がどことなく寂しげで、そして嬉しそうで、BNKRGは困惑した。
まぁずとは、誰か大切な人の名前だったのだろうか。
何故かBNKRGはどこかでその名前を聞いた気がした。一体いつ、聞いたのだろう。
BNKRGを抱き上げるとTISは嬉しそうに抱きしめた。固く強く抱きしめられ、息がつまり暴れた。
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:18:54.61 ID:kLIsZwOI0
「痛い! ちょっと」
「あの人も私を捨てたけど、まぁずは私を受け入れてくれるんやね」

腕が緩んだ。半分涙声だ。

「もうくたばりかけやけど、まぁずは最期までいてくれるんやな」
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:19:34.49 ID:kLIsZwOI0
下ろされ、BNKRGは距離をとった。
死ぬ?TISが?
なんのことかわからなかった。
一人ぼっちのTISと、愛護センターで孤独であったBNKRGと姿が重なった。
このまま死ぬまで猫でいるなら、彼女を一人にして出ていくわけにはいかない。孤独死させてしまう。
BNKRGは、もうすぐTISが死んでしまうならもう少しだけここにいるべきか、と思った。
もはや戻れる場所などない。
それに人間の姿に、元の姿に戻る時間はとっくに過ぎているだろう。
ならば目の前の憐れな女性の最後まで寄り添い、支え少しでも罪を償う。
それが与えられた贖罪なのかもしれない。
TISはいつの間にか寝る準備を終え、ベッドに腰かけていた。
もう寝るのだろう、BNKRGがベッドへ乗ると愛おしげに頭を撫で、ベッドスタンドの明かりを消し横になった。
BNKRGもベッドの脇に体を丸め、目を瞑った。
夜の帳が下りてきた。
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:20:13.40 ID:kLIsZwOI0
「あっめあっめふっれふっれかあさんがー」
小学生(?)が歌い、それを遠目に見守る男は煙草をふかしている。通学路は今日も平和でいい天気だ。
その小学生(?)は、今日は一人だった。
見守る男、葛城は立ち上がった。
時は来た。
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:20:41.50 ID:kLIsZwOI0
煙草屋として独立したのも、この少年のためだった。
一目で小学生に恋をした。
あの笑顔を苦痛に歪ませたい。その一心で付近に店を構えたのだ。
あの笑顔を独り占めにしたい。その一心でずっと待っていたのだ。
本業はやめた。多くの人が葛城に理由を聞いてきた。答えなかった。
人は恐らく私を歪んでいると言うだろう。一人の少年のために仕事を辞めるなんて、と。
それでも構わない。少年のためなら拉致という罪も背負おう。
どれだけ犠牲を払っても手に入れたいものがある。
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:21:22.00 ID:kLIsZwOI0
煙草屋を閉め、裏口から回り込む。誰が廃棄したのか、新聞が道を舞っていた。
監視カメラの死角に待機する。煙草に火をつけ咥えた。
道端にあった邪魔なポリバケツを足で遠ざけた。倒れたがどうでもいい。
少年がもう少しで手に入る。
興奮で口のタバコが僅かに震える。武者震いと言い聞かせた。
もうすぐ自由に弄れるのだ。
周囲に他に人影はない。
少年がスキップで近づく。気づいている様子はない。
もうすぐだ。
あと5メートル、あと4メートル、あと3メートル、2……

物陰から飛び出す一瞬前だった。
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:21:47.52 ID:kLIsZwOI0
少年は足を止めた。
隣に車が止まっていた。

「お兄ちゃん楽しそうだねぇ、俺らとも遊ぼうじゃねぇか、おーい」
「あれぇ〜?」

若い3人組が車から降りてきた。
明らかに表の住人じゃない。
『そっち系』の奴らだ。
少年は3人組に誘われ、車に入ろうとしている。
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:22:14.70 ID:kLIsZwOI0
唇を噛み、睨みつけた。
罵声が出ていた。出した葛城も想定外だった。拳を強く握り、飛び出していた。
3人組と少年は振り返った。
3人組のうちの一人、金髪が振りかぶった。
一瞬虚を突かれた。こちらも反射的に拳を固める。
相手の拳は何とか避けた。頬を掠る。煙草が飛んだ。
クロスカウンターで拳を顔にぶつける。金髪は一瞬で気を失った。
ひぃ、という声が耳に届いた。
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:22:53.59 ID:kLIsZwOI0
こいつはこちらの獲物だ!
続いて目の前のもう一人、ジャンパーに狙いを定める。
拳を振った。
スウェーされた。
踏み込む。
ポケットから黒い物が出てきた。
――――ハジキか?
葛城は接近の勢いを殺し、距離を取りつつよろけ気味に足をはね上げる。
当たった。スタンガンだ。だが跳ね飛ばした。これで獲物はない。
もう一人は困惑している。
今しかない。もう一度踏み込んで腹に拳を叩きつけた。
ぐ、と声がした。ジャンパーは降参だ、と声を絞り出す。
急いでもう一人が駆け寄って、二人を車に乗せた。すみませんでした、と情けない声が車から漏れた。
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:23:23.51 ID:kLIsZwOI0
なんとか少年は奪われずに済んだ。
その少年は……?周囲を葛城は見渡したが、それらしい人影はなかった。
車の中にもいない様子を見ると逃げたのだろう。いきなり目の前で男たちが喧嘩を始めたのだ。無理もない。
3人組が車で逃走するのを見つつ、全く困ったもんじゃい、とひとりごちた。
だがこれで少年に借りを作る事が出来た。
別な機会に少年を手に入れればいい。奪われなかっただけでも良かった。
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:23:50.84 ID:kLIsZwOI0
葛城は目の前の敵に気を取られてそれに気が付かなかった。
目を見張った。なんだこの匂いは?記憶を巡らせた。
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:24:26.70 ID:kLIsZwOI0
不法投棄された新聞は宙を舞っていた。

拳で弾け飛んだ煙草はどこへ行った?

煙草は火がついたまま新聞へ飛んでいた。

そして新聞から火の手が上がり、燃え広がって、更に先にはポリバケツがあり


――――ポリバケツの石油に火が付き、道端の家に燃え移っていた。
「えぇ」唖然として、その時は呆けるしか出来なかった。
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:24:57.59 ID:kLIsZwOI0
BNKRGは異臭で目を覚ました。煙?
煙か、煙ね。お母さんが料理を失敗したのね。
瞼を下ろした。
「煙」
ハッとして、目を開けた。
そうだ、今は猫だ。そしてここはTISの家だ。
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:25:27.09 ID:kLIsZwOI0
時計を見る、もう昼だ。疲れがたまっていたのか。こんな時間まで寝るなんて。
跳ね起きる。明らかに異常だ。ベッドにTISはいなかった。
BNKRGはキッチンへ急いだ。ここが火元ではない。煙の流れを見ると、火元は玄関か?
TISはどこへ消えたのだ?思いつくとすれば外か、それとも2階か?
BNKRGは人間の時と勝手が違う階段に難儀しつつ、なるべく息をしないよう2階へ上っていった。
ここでTISを殺すわけにはいかない。
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:25:58.99 ID:kLIsZwOI0
老朽化した家はいとも簡単に炎に包まれていった。部屋に散らかっていたゴミのせいかもしれない。
2階にTISはいない事を確認し、もう一度下に降りる。
猫の身ではなかなか骨だ。BNKRGは自身の身が猫であることを呪った。
TISは避難したのかもしれない。
そうと決まれば自分も逃げよう、とBNKRGは脚を速める。
その時、視界の端にTISが映った。BNKRGは動きを止める。
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:26:28.81 ID:kLIsZwOI0
TISは息も絶え絶えに、何かを抱えていた。
「すぐ行く、もうすぐ行く。MZ」
隣部屋は天井まで火の手が回っていた。
TISの足取りが重い、煙を吸い込んでしまったのか?
持っているのはナイフだ。
まさか、とBNKRGがいうと同時にTISはそれを手首に押し当てた。

「行くで」
「ダメ!」
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:27:12.51 ID:kLIsZwOI0
BNKRGはTISに飛びついた。手からナイフが落ちる。
すかさずナイフを咥え、距離をとった。

なんでや、低く震えた声だった。
TISは呆然としたまま、半ば怒りを込めた目をしていた。
一瞬、時が止まったように思えた。
BNKRGは気が付いた。
天井が、2階の床が落ちてきている。

何も考えていなかった。
罪の意識が残っていたのか、それともただTISを救いたいと思ったのか。
BNKRGはナイフを捨てると、TISに突進していた。
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:27:59.66 ID:kLIsZwOI0





衝撃と共に意識が飛んだ。




85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:28:27.49 ID:kLIsZwOI0
駆けつけた2人の消防隊員が窓を割って入ると、部屋に女性が一人確認できた。
この家の主だろうか。傍に木材の下敷きになった猫がいる。
んん?と消防隊は駆けよった。
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:29:04.16 ID:kLIsZwOI0
「まだ、まだ生きろって言うんか。私はもう長くないのに、天寿を全うしろって言うんか、まぁず」
女性は猫に叫ぶように、縋るように声を絞り出していた。
消防隊員は腕を取った。女性は手をはらった。
「俺は消防隊員だ、お前みたいな被災者を見逃すわけにはいかねぇんだ」
「いや気を悪くしないでくれこの辺に生存者の反応があったのでね」
もう一人の消防隊員が女性をなんとか立たせ、2人で窓へ向かっていった。女性はまだ叫んでいる。

女性を完全に外へ連れ出してから、消防隊員は猫も助けようともう一度木材を見た。
猫はそこにはいなかった。
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:29:32.87 ID:kLIsZwOI0
BNKRGは何とか脱出することができた。
意識もはっきりしていない。
混濁している。
ふらついている。
ガクついている。
煙を吸い過ぎたのかもしれない。
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:30:02.23 ID:kLIsZwOI0
だが満足だった。BNKRGはTISを止め、火災の崩落から、自殺から命を守ったのだ。
自己満足だろう。多くの猫を虐殺してきた罪は許される訳ではない。
でも、少しは贖罪になったのかもしれない。このまま、あの世でTISを待つのも悪くはない。
TIS……そういえば、MZと言ってたか。そして自分の名前は、まぁず。
MZ……あの日、避難した家で聞いた名前、電話番号。すべてが繋がった。
今ならはっきりと思い出せる。だがTISにそれを伝える手段はもうない。
電柱にぶつかり、BNKRGは腰を下ろした。すべてを諦めた。
そのまま目を閉じた。
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:30:39.97 ID:kLIsZwOI0
声が聞こえる。
今となっては誰かすら思い出せない。
耳をすませる。

「さて、猫の気持ちが少しは分かったかな?」
「君をずっと猫にしててもいいのだがね。反省した、と今回は捉えてあげよう。次はないよ」

優し気な声だ。誰だったか。何だったか。2つの気配が目の前にある。瞼を開けずともわかった。
首に何かが刺さった。注射だろうか。
痛いが、もう反撃する力はなかった。
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:31:27.65 ID:kLIsZwOI0
「どこへでも行くがいい。寒いから、服は適当に掛けておこう。優しさだよ」
「さて、帰ろうか。ボクらのお家が待っている」

声は遠ざかっていった。遥か前に聞いた、懐かしい声が聞こえた気がした。
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:31:55.16 ID:kLIsZwOI0
BNKRGは目を覚ますと「まだ死んでいなかったのか」と自分で自分が悲しくなった。
ふと、道路脇のカーブミラーを見るとそこには裸のBNKRGがいた。





BNKRGは、いつの間にか人間に戻っていた。

92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:32:40.80 ID:kLIsZwOI0
起きてすぐ、寒さに打ち震えた。服が布団のように掛けてあったのが幸いだった。
すぐに着た。また人間に戻れたのだ。
嬉しい――――という感情の前に寒さという生理現象がきていた。

TISの家に戻ろうか?だが家は焼け、まともな形を保ってはいないだろう。
それに、TISが受け入れてくれたのは猫のBNKRGだ。受け入れてはくれないだろう。
そして、今の自分は誰かの家を訪ねるには腹が空きすぎている。
そう判断したBNKRGは自分の家に戻ることにした。
猫になっていると気付いたあの時、あの場所とは違う。見慣れた道だ。家の場所は分かる。
急ぎ足で家に向かった。
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:33:12.75 ID:kLIsZwOI0
「あっめあっめふっれふっれかあさんがー」
寒い朝だ。
小学生(?)が歌う。それを見守るいつもの男は今日はいなかった。通学路は今日も平和でいい天気だ。
家につき、BNKRGがドアを開けようとした時、ドアが勝手に開いた。
KNNが家の中から開けたのだ。鉢合わせになった。
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:33:42.80 ID:kLIsZwOI0
「お母さ」
「バカ」

手が出ていた。
ビンタされたのだ。
呆然としているBNKRGにKNNは抱き付く。

「こんなに心配かけて、タダで済むと思ってるわけ?」
「ごめんね」
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:34:14.55 ID:kLIsZwOI0
BNKRGはKNNを抱き返した。KNNは涙声になっていた。
ただいま、という声に気付いたのか、SNNNも玄関に顔を見せた。
笑顔だった。お姉ちゃんもただいま、と声をかけた。
BNKRGは過去の自分の罪を償い、自首する決意をした。
二度と、猫を殺さないことを誓った。
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:34:46.05 ID:kLIsZwOI0
もう一度日常が戻ってきた。
既に銀杏もすっかり葉を落とし、冬の足音が迫っていた。
TISが仮屋として住んでいるアパートは入居者が少ない。
それでも、自分より若い入居者がいるのは知っている。ただ、引っ越しの挨拶をしにいっても出ては来なかった。
時代が変わったんやろなぁ、と一人ごちる。近所付き合いが煩わしいのだろう。
TISは道路を掃いていた。
私以外の誰かが掃けはええんやけどな、と心の中で愚痴を吐いてもいる。
秋風とは既に言えないほど風は冷たく、TISはかじかむ手をカイロで温めつつ腕を動かしていた。
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:35:23.46 ID:kLIsZwOI0
「ん…TISさん」
「あっ」

TISは一瞬たじろいだ。そこには近所でも有名な生意気娘こと、BNKRGがいたのだ。
ついこの間行方不明になったという噂を聞いたが、きちんと戻って来れたのならちょっとした家出だったのだろう。
元気なのはいいことだが、放蕩すぎる――――。
TISはBNKRGについての噂を思い出しつつ、緊張で唇を舐めた。
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:36:11.55 ID:kLIsZwOI0
一瞬目が合ってTISは目を逸らす。直後にBNKRGは一歩前に出た。
こうして相対すると、やはり最近の若い娘は何を考えているか分からず怖い。

「おはようございます、お疲れ様です」

破顔一笑、笑顔が返ってきてTISは驚いた。BNKRGはTISの肩を労いのつもりか軽く叩いた。
だがすぐ、TISはおはようと返せた。
しっかり挨拶のできる子だったんか、と少なからず驚いた。
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:36:42.08 ID:kLIsZwOI0
BNKRGは何度か頭を下げ、道を曲がっていった。
すぐに首を傾げる。この道の先には警察署くらいしかないと記憶していたが、落とし物だろうか。
前よりBNKRGは優しくなったのだろうか。
遠くなる背中を見て、何故かTISはあの日焼死させてしまった猫の事を思い出した。
自分の身を挺し、TISを救った猫は遺体が見つからなかった。
野良猫にでもなったのだろう。
もう済んだことだ、猫もMZも。
また会いたいという気持ちがあっても、人生はそうすべてうまくいくことはないのだ。
すべて忘れて最期まで一人で生きる決意をし、TISはほうきを少しだけ強く握った。
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:37:28.53 ID:kLIsZwOI0





TISが肩に貼られたMZの連絡先に気が付くのは、もう少し先だ。





終わり
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 02:40:35.29 ID:kLIsZwOI0
ぬわあああああんちかれたんもおおおおおwこれにて完結やで!
実は、askしたらSSの話を思いついたのが始まりだゾ〜
本当は話のネタなかったんだよなぁ・・・←
でも発想を無駄にするわけには行かないので一昔前の流行りのネタで挑んでみた所存ですねぇw
以下、BNKRG達のみんなへのメッセジをドゾー

BNKRG「みんな、見てくれてありがとっ
ちょっと腹黒なところも見えちゃったけど・・・気にしないでね!」

PSR「いやーありがとうございました!
私のかわいさは二十分に伝わったでしょうか?」

TIS「見てくれたのは嬉しいけどちょっと恥ずかしいやんな・・・」

GO「見てくれありがとな!
正直、作中で書かれた内容はすべてフィクション、架空の話だぜ!」

SNNN「・・・ありがと」モサ

では、

BNKRG、PSR、TIS、GO、SSNN、俺「読者兄貴たちありがとナス!」



BNKRG、PSR、TIS、GO、SNNNN、俺「って、なんで俺兄貴が!?
改めまして、アリシャス!センセンシャル!」

本当の本当に終わり
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/06(火) 23:18:56.67 ID:cq+fdWeSO
動画化したらミリオン行く
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/07(水) 00:30:31.06 ID:+b6lWF5So
まさかのSS速報で草
創作路線嫌いじゃないし好きだよ
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/07(水) 02:05:27.54 ID:dAsHYRoFo
なんだこれはたまげたなあ
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/11(日) 04:31:48.41 ID:YknqmOquo
超好き
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/05(木) 19:15:19.43 ID:6pj0+7wWo
まだスレ残ってて草
HTML化なんて必要ねえんだよ!
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