追われてます!'

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292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:32:25.25 ID:3FrzmiYZ0

「いやいや、まだこれからです」

「あの子は? なんだっけ、萩花ちゃん?」

「仲良くしてます」

「うわあ……」

 呆れたような顔をしている。

「あ、そういえば先生は?」

「ヒサシちゃんは職員室ですかね。……何か用事でも?」

「うん。まあなんというか、挨拶?」

「ああ」と部長さんは頷いた。

 ひかげさんの後ろで束ねられた髪が揺れる。
 どことなく、優しそうでもあって怖そうでもある。

「夏休みは結局帰ったの?」

「いえ」

「あの子、心配してるんじゃない」

「どうですかね」

 部長さんの表情が曇る。
 ひかげさんはまた何か言葉を続けようとする。

293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:32:52.08 ID:3FrzmiYZ0

「あの、そういう話はちょっと……」

 と部長さんは戸惑ったように私に視線を向けてくる。

「じゃあ何か食べ物とか買ってきますね」

「ん、ありがとう」

「ここに戻ってくればいいですか?」

「うん。……んー、上で待ってて」

「わかりました」

 去り際に、ひかげさんに「ごめんね」と軽く謝られる。
 いえ、とすぐに答えて歩き出す。私がいるべき場所ではないのかもしれないから。

 部長さんは、自分のことをあまり話してくれない。
 もっと仲良くなったら、時間をかけたら、日々の悩みとか、昔のこととかを話してくれるのだろうか。

 一段一段ゆっくりと階段を昇りながら、そんなことを考えた。

294 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:33:45.93 ID:3FrzmiYZ0

【文化祭 2ー5】

「すごく暇だ」

「たしかに」

 机に乗っている残部はあと少し。
 お昼前でこれなら終了時刻からそれなりの余裕を持って売り切ることができるだろう。

「暇だ」

「同じく」

 お客さんが来なければこういう会話にしかならない。
 漫画を読んでいる姿とかも見せられないし。

「俺呼び込み行ってくるわ」とソラはパイプ椅子から立ち上がる。

 彼のことだから、そう言いつつも普通にサボってどこかへ消えるのかと思ったのだが、

「こんにちは。見てもいいですか?」

 と、五分とも経たぬ間に女の子を連れてきた。
 曰く、美術部の近くにいる人なら誘えば来そうじゃないか、と。

295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:34:24.85 ID:3FrzmiYZ0

「どうぞ」

「……」

 女の子は熱心に目を通し始めた。

 背格好からして、おそらく中学生だろうか。
 いや、背は東雲さんや萩花先輩より少し小さいくらいだから、高校生の線もあるな。

 ざっと目を通すと、やはり胡依先輩の絵が気になったのだろう。
「これを描いた人は今はいないんですか?」と訊ねられる。

「今はいないですけど、待ってたら戻ってくると思いますよ」

「どこらへんにいるかってわかったりします?」

「それはわかんないです。でも、いるとしたら職員室とか高校棟の売店だと思いますよ」

296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:35:04.64 ID:3FrzmiYZ0

「職員室……えっと、その人とは別の話なんですけど、森実さんっていますか?」

「森実……」

「ヒサシってそうじゃなかったか?」

 とソラが横から助け船を出してくれる。
 たしかにそんな気もする。普段ヒサシヒサシ言ってるから覚えてないんだよな。

「多分職員室にいますよ」

 学校には来ているはずだから、ヒサシのことなら「面倒くせえ……」とか言って職員室から出ないに決まってる。

「知り合いなんですか?」

 なんとなく、そう訊ねると、

「知り合いっていうか……古い知人みたいなものです」

 と女の子は言い、部誌の代金を置きぺこりとお辞儀をして部室を後にした。

「ああいう子、胡依先輩の好みど真ん中だろ」

 とソラは言ったけれど、容姿ではなく、雰囲気だったり立ち居振る舞いのイメージが、
 東雲さんではなく別の誰かに似ていると感じて、俺は何となく据わりの悪さを抱いた。

297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:36:33.57 ID:3FrzmiYZ0

【文化祭 2ー6】

「あの、すみません。職員室ってどこにあるかわかりますか?」

 連絡もないし、鉢合わせても気まずいしで、校舎内をふらっと歩いていると、前から歩いてきた女の子にそう声を掛けられる。

 手にはイラスト部の部誌が握られていて、ちょっとだけ嬉しくなる。
 わざわざ「買ってくれてありがとうございます」なんて言うのは図々しいと思うからしないけど。

「えっと、中学のですか? それとも高校の?」

「わからないです。でも多分高校の方だと思います」

「そうですか……。落とし物を拾ったとかだったら、私が届けてきますよ」

「いえ、大丈夫です」

 にこっと微笑まれる。

 渡り廊下を歩いて、階段を降りて、高校棟の職員室へ向かう。
 室内に先生は全然いなくて、でも、女の子は目当ての先生をすぐ見つけたみたいだ。

298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:37:04.42 ID:3FrzmiYZ0

 その先生──ヒサシ先生は、女の子の姿を視認するとかなり驚いたように目を丸くする。

「東雲、ちょっとコーヒー取ってきてくれないか」

「え、あ……二つでいいですか?」

 ここでお役御免だと思っていたから不意を突かれた。
 応接間に向かったはいいが、棚上から紙コップがなかなか取れずにいると、ヒサシ先生が取ってくれた。

 ていうか、先生も来るなら私がやらなくてもよかったんじゃないかな。
 と思ったら、先生は表からは見えないようにスマートフォンを操作していた。

 そして、ポケットにそれをしまってから、私に話を振ってくる。

「あいつ、何か言ってたか?」

「あいつ、って?」

「東雲が連れてきたやつのことだ」

「いえ、なにも言ってなかったですよ」

299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:37:59.00 ID:3FrzmiYZ0

 ここに来る途中だって、何一つとして話をしなかった。
 私が口下手だってこともあるかもしれないけれど、それはそれとして、だと思う。

「そうか。東雲は胡依と一緒じゃなかったのか?」

「一人でした。さっきまでは二人でいたんですけど、えっと、ひかげさんと会って……」

「あいつも来てるのか……」

 そう言って、頭痛を抑えるようにこめかみに手をやる。

 なんていうか、本当に迷惑そうな感じで。
 ひかげさんにしても、あの女の子にしても、そういう印象は全く受けなかったのにな。

 コーヒーを紙コップに注ぎ、トレーの上に置く。
 慣れていると言えば慣れていることだ。ミルクはないから、スティックシュガーを何本か付けておく。

「胡依は今ひかげと一緒にいるんだよな」

「はい。……いや、でもひかげさんは職員室に行くって言ってたので、部長さんとはあとで合流するとは言ってました」

300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:38:27.83 ID:3FrzmiYZ0

「わかった。なら、あいつと会ったら携帯を見るように言っといてくれないか」

「は、はあ……わかりました」

「なるべくすぐに頼む」

 手間賃だ、と五百円玉を手渡される。
 女の子からお礼を言われて、それから部屋の外に出ると、廊下の窓から吹き付ける冷たい風が頬を撫でた。

 きっとあそこだろうと思って、私はもう一度階段を昇った。
 もらったお金は持っていても使いづらくなるだけだろうから、飲み物を買って崩すことにした。

 私はいちごミルク。
 部長さんにはお茶を。

 最上階まで昇るとき、別に混雑をさけたわけでもないのに、誰一人とも会わなかった。
 わからなくなりそうだった。点は点のままでは線になることはない。

 鉄扉はぎい、と重い音を立てて開いた。

301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:39:05.00 ID:3FrzmiYZ0

「あ、シノちゃん」

 やっぱり、彼女はそこにいた。

「はい」

「部室に寄ってから来たの?」

「いえ、ちょっと用事があって、……待たせましたか?」

「ううん、私も今さっき来たとこだからさ」

 座りなよ、と促される。
 建物で日陰になっているそこは、身体を縮こまらせても寒く感じる。

「ひかげさんは?」と私は訊ねた。

「まだちょっといろいろ周るって言ってたから、お別れしてきた」

「そうですか」

「……さっきは、ごめんね?」

「いや、大丈夫です」

 私の言葉に、部長さんはほっと胸をなで下ろした。

 そんなことじゃ怒らないのに。
 そういうことでは、ないんだろうけど。

302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:40:05.85 ID:3FrzmiYZ0

「食べ物と飲み物、買ってきましたよ」

「ありがとう」

「ここで食べますか?」

「ん、そうしよっか」

 買ってきたものに手を付けながら、私はゆっくりと足を伸ばす。
 陽が少しずつ雲に隠されていく。

「そういえば、ヒサシ先生が携帯見てって言ってましたよ」

「ヒサシちゃんが?」

「はい」

「珍しいな、なんだろ」

 と上着の内ポケットから、部長さんはスマートフォンを取り出す。

 電源ボタンを長く押していたから、電源自体付けていなかったんだろう。
 私も何通か連絡したのに返信がなかったからわかってたけど。いつも見ていないのもよく知ってる。

 黙っているうちに太陽が完全に雲に覆われた。
 すぐ隣にいる部長さんの、息遣いが少し荒くなる。

303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:40:37.56 ID:3FrzmiYZ0

 一瞬にして、彼女の顔から色が失われた。
 そして、画面から目を外して、私のことを──私の目をまっすぐ見て、顔を俯かせた。

 その一連の仕草は、どうにか平静を保とうと努めているように見えた。
 手を伸ばすと、強く撥ね除けられる。すぐに、しまった、という驚いた顔で私を見る。

 どうすればいいのかがわからなくて、もう一度彼女に向けて手を伸ばした。

 今度は抵抗されなかった。
 おそるおそる髪に触れると、こちらにもたれかかるように身体を倒してくる。

「ごめん」

「どうして謝るんですか」

「……ごめん」

 そう言って部長さんは、上半身をすべらせ、私の胸に頭を寄せてくる。
 私の顔を見たくなかったのかもしれない。それか、自分の顔を見られたくなかったのかもしれない。

 少しのあいだ、私はあやすように彼女の髪を撫で続けた。
 空を眺めていても、雲はなかなか流れていってくれない。

304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:41:09.76 ID:3FrzmiYZ0

「……もういいよ」

 と、部長さんは私の手を止めさせる。

「大丈夫なんですか」

「……うん」

「……本当に、ですか?」

「……このままだと、けっこうよくないこと、考えそう」

「べつに、私は……」

「……じゃあ、お願い」

 それからもう少しだけ、部長さんの身体を抱いていた。

 身体を離すとき、ありがとう、と微笑まれる。
 でも、その微笑みはいつものものとはまるで違っていて、調子を取り戻したようには見えない。

 落ちつかなさと遅れてやってきた気恥ずかしさで、私は何も言えなかった。
 吹き付けていた風が止んで、だからだろうか、自分の鼓動が彼女にも聞こえてしまってるのではないかと錯覚する。

305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:41:56.83 ID:3FrzmiYZ0

 やがて、部長さんは塔屋にもたれて、空に向かって小さく息を吐いた。

「……はあ、駄目だよね。こんなんじゃ」

「……」

「シノちゃんにだけは、こういう私、見せたくなかったな」

 嘲るようなため息は空に消えていく。
 それから、今度は深呼吸のように大きくふうと息を吐く。

「私ね、いまは調子がいいときだと思うの。……いまって言うのは、ここ最近、ってことね。
 特にこの一ヶ月は、すごく楽しかった。いままで生きてきて一番じゃないかって思えるくらいに」

「……」

「でも、そういうのって長くは続かないんだよね。私だって、絵の最後を描き上げる時はいつだって怖いよ。
 それで、いまはこの文化祭が終わってしまうのが怖い。きっと前の私なら、そんなこと思いもしなかったのにね」

「……はい」

 部長さんの言っていることは、なんとなく、わかる気がした。

306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:43:01.78 ID:3FrzmiYZ0

「シノちゃんは、優しいよね。……優しいから、私もシノちゃんに甘えたくなる。
 だから、いまだって泣きそうになってる。拒まれなかったことを嬉しく思ってる」

「……はい」

「……ね、もうちょっとだけ、甘えてもいい?」

 そう言って、彼女は地面からスマートフォンを拾い上げ、画面を操作する。
 覗いたわけではないが、目に入る。メールの画面だった。

「ここに、"会いたくない"って、打ってくれない?」

「……いいですよ」

 受け取ったスマートフォンの画面には、差出人も宛先も表示されていなかった。
 私が操作している間、部長さんは泣き出しそうな顔を我慢するように、向こうの方を向いていた。

307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:43:35.69 ID:3FrzmiYZ0

「出来ましたよ」

 と声を掛けると、手だけをこっちに向けてくる。
 さっきのように、今度は後ろから腕を回す。ふわりとした香りが漂う。

 自分のこれがただの優しさなのか、私にはわからない。
 でも、ちがうと思う。漠然と。

 "これは優しさではない"。

 でも──それでも、私はそれでかまわないと思った。

 私にとって、部長さんはそれくらい大切な人なんだと思う。
 嫌われたくない。力になりたい。そう思うのは自然なことだと思う。

 これがべつの何かなのかは、いつの日かわかるときが来ると思う。

 だから、それまでは、知らないでいたい。

 ……きっと、後悔すると思うから。

308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:44:22.61 ID:3FrzmiYZ0

【文化祭 2ー7】

 クレープを三つ持った零華が教室から出てきた。

「これ、おいしいです。まじおいしいです」

 とかなんとか言いながら。実に幸せそうだ。

「そうか。一つくれ」

「はあ?」

「それ全部自分で食うのか?」

「はい。やけ食いってやつですよ」

「太るぞ」

「うるさいですね……わたし、このとおり痩せ型なんですけど」

「そういうことじゃないだろ」

「どうせ先輩のお金なんですし、いいじゃないですか」

 俺のお金だから一つくらいよこせと言っているのだろうに。
 ため息をつきかけると、食べかけを渡される。

309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:44:54.05 ID:3FrzmiYZ0

「そっちよこせよ」

「いいじゃないですか」

「じゃあいいや」

「そう言うと思いました」

 手からクレープをひったくられる。
 そしてまたはむはむとクレープを頬張り始める。

「てか、奈雨ちゃんが連れて行かれたのって絶対アレですよね」

「アレって?」

「賞ですよ。実行委員の人だったんで、絶対そうですよ」

「ああ、そうか」

「先輩はデートを邪魔されてご不満でしょうけどー」

 零華はわざとらしくため息をつく。

310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:45:32.69 ID:3FrzmiYZ0

「さっきの奈雨ちゃんの様子、聞きたいですか?」

「かわいかったの?」

「はい、それはもう。やばいです。やばいんですよね、顔とか」

「顔とか」

「ああいう顔もするんですね。昨日の感じもそそりましたけど、今日のもなかなか」

「どういう顔だ」

「恋する乙女系の。ほら、わたしみたいな」

「……」

 黙っていると、肩をばしばし叩かれる。
 反応に困るだろ、そういうの。

「……で、さっきのってどういう意味だったんですか?」

 と、気を取り直すみたいに訊ねられたから、これまでの経緯をぼかしつつも話した。

311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:46:26.79 ID:3FrzmiYZ0

 零華の反応は、思ったよりも薄く、

「先輩って酔ってても絶対そういうことしないと思いますし……」

 と鼻で笑われる始末だった。

 まあ、とはいえ、本当のことは奈雨しか知らない。
 伯母さんが目撃する前に、俺からしていたかもしれない。そうじゃないかもしれない。

 今となってはどうでもいいことなのだ。
 さっきは驚いたけど、どこかのタイミングで本人に訊こうとは思うけど。

「でもわたし、もっとすごいこと知ってますよ?」

 零華は悪戯っぽく笑う。

「はあ」

「知りたくないですか? 知りたくないですか?」

「べつに」

「ふふふ、そう言われても勝手に話しちゃうんですけどね!」

 どんだけ話したいんだよ。

312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:47:11.75 ID:3FrzmiYZ0

「実を言うと、最初からわかってたんですよ」

「何を?」

「奈雨ちゃんが、先輩のことが好きってことですよ」

「あ、そうなの」

「はい」と零華は楽しげに笑う。

「先輩に会いに行くとき、うきうきした表情で休み時間に歯を磨きに行ったりだとか、
 わたしがいくら話しかけてもうわの空で頬を緩ませながらリップを塗ってる奈雨ちゃん、すごくかわいかったので」

「……はあ、そうなのね」

 返答に困る。
 てか、いくらなんでも本気すぎはしないだろうか。

「あのう、先輩。ほっぺたゆるゆるですよ?」

「そうでもない」

「あはは、かわいー。わたしが特別につねってあげましょう」

「やめろ」

「よいではないかー、ふふっ」

313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:47:54.96 ID:3FrzmiYZ0

 さして抵抗もせずにつねられていたが、「あ」と何かを思い出したように手を離された。

「これから部活でもよろしくです!」

 敬礼のポーズ。
 本気で入るつもりなのか。

「てかてかそういえば、めちゃくちゃ美人さんいましたよね」

「……東雲さんのこと?」

「多分そうです。めっちゃ仲良くなりたいですねー」

「……」

「あ、いやちがいますよちがいますよ。わたしの本命はいつまでも奈雨ちゃんですからね」

「聞いてねえし……」

 でも、なんとなく東雲さんと零華は仲良くなれるだろうと思った。
 胡依先輩と零華も同じく。イラスト部はもっと賑やかになるだろう。

 そのうち戻ってきた奈雨は、やけに嬉しそうな様子でこちらに駆け寄ってきた。

 わけを訊くと、やはり「一番良い賞もらえるらしいから」と。
 零華と二人で喜ぶ。奈雨は照れくさそうに身じろぎした。

 なんでも、票数が圧倒的すぎて早々に決まったらしい。
 エリ役の子と登壇するからね、とも奈雨は言っていた。

 わかった、ちゃんと見てるから、と俺が言うと、
 任せといて、と奈雨は胸に握りこぶしを当てて、得意げに笑った。

314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:48:50.23 ID:3FrzmiYZ0

【文化祭 2ー8】

 完売したという連絡を受けた後、部室に向かう。

 部室にいたのは東雲さんと胡依先輩の二人で、俺が戻ってくるのを待ってくれていたようだった。

「もう後片付けしちゃう?」

 もう何も置かれていない机を満足そうに眺めて、胡依先輩は問いかけてくる。

「終わったらでいいんじゃないですか」

「白石くんも、終わったら残る?」

「どこかご飯とか行くなら」

「じゃあプチ打ち上げにでも行こっか。奈雨ちゃんと、れーかちゃん? も誘ってさ!」

 どこにしよっかなー、とぱんぱん手を打ちながら、先輩は隣にいる東雲さんに目を向ける。

315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:49:28.73 ID:3FrzmiYZ0

「シノちゃん、食べたいものは?」

「あんまりないです」

「あんまり、というと?」

「甘いものが食べたい気分です」

「飴あげるよ」

「ありがとうございます」

 東雲さんは飴玉を受け取ると、それを口に含んで机に突っ伏す。
 そしたら、胡依先輩も同じようにだらんと上半身だけ机に寝そべった。

「つかれた」

「つかれました」

「うぐぐ、でもこれからヒサシちゃんに書類を出しに行かねばならんのだ……」

 ぐおー、と怨念味のこもった唸り声を上げる。
 どうしてもここから動きたくないらしい。

316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:50:08.81 ID:3FrzmiYZ0

「俺、行ってきましょうか?」

 と提案すると、

「……私、先生に用事あるんだった」

 と東雲さんが姿勢を起こした。
 先輩は少し呆気に取られたような表情で彼女を窺う。

「入部届、ちゃんと出してきます」

「あー、でもいま?」

「はい、気が変わらないうちに。ついでに書類も出してきますよ」

「そっか」

 東雲さんが出ていってしまったから、当然のように部室に二人になる。
 身体をあげて、椅子の背もたれに身をあずけた先輩は、どこかへ向けて首を左右に揺する。

 そして、その様子を見ていた俺に向けて、ごまかすような笑みをつくる。
 内緒だよ、と言われてもいない言葉が耳に入ってくるような感覚だった。

317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:50:57.14 ID:3FrzmiYZ0

「そういえば、よかったですね」

「うん?」

「東雲さん、ちゃんと描けるようになって」

「……あー、うんうん、そうね」

 先輩は微笑み混じりに頷いた。
 けれど、

「でもね」と次の瞬間には暗い表情を見せた。

「これからだよ、シノちゃんも……私も」

「……」

「ねえ、白石くん。約束はこのまま継続でお願いできないかな」

「約束?」

「……覚えてない?」

 いえ、と首を横に振る。
 それはちゃんと覚えている。

「……どうしてですか?」

 訊ねると、先輩はなんとなくつらそうな顔をした。

318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:51:54.67 ID:3FrzmiYZ0

「描けないままでいた方が最終的に幸せだったかもしれない、って、ありえなくはないと思う。
 それに、時間が経って、元来た道を振り返っても、後ずさりしても、踏み出した一歩は絶対になくならない」

「そんなこと、ないと思いますよ」

「あるよ」

 珍しく、強い口調で裏返される。
 もう、どこか泣き出してしまいそうな雰囲気だった。

「なにかを想う気持ちは、たぶん幻みたいなものなんだよ」

「……幻、ですか」

 うん、と先輩は手のひらを天井に向かってかざす。
 ここが外なら、陽の光を避けようとしているような動作だ。

 でも、ここは室内で、電気もついていない。

 きっと、この言葉だって俺だけに向けられているわけではない。

319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:52:29.34 ID:3FrzmiYZ0

「それで、好きっていう気持ちは、なかでも特別なものだと思う。
 ……だって、そうでしょ? 自分の見た──錯覚した幻を、さらに美化してるんだから」

「……」

「こんな話して、ごめんね。……私、シノちゃんの様子見てくるよ」

 そう言って部室から出ていこうとする胡依先輩を、俺は呼び止める。

「……東雲さんのこと、好きなんですよね?」

 訊いてはいけないことだと思いつつも、訊かずにはいられない。
 ふっと、つまらなさげなため息が耳をかすめる。

「好きだよ」

 でも──、と彼女が続けた言葉は小さすぎて、うまく聞き取れなかった。
 その代わりにドアの閉まる音だけが、やけに鮮明に聞こえる。

 寂しさを孕んだ、けれど、ひどく冷たい響きだった。

320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:53:27.32 ID:3FrzmiYZ0

【文化祭 2ー9】

「失礼します」

 職員室に入ると、さっきまで疎らだった先生の数がさらに疎らになっていた。
 そんななか、ヒサシ先生は机に突っ伏している。紙コップの中身は空になっていた。

 私が声を掛けると、先生は慌てて顔を上げる。

「なんだ、東雲か」

「はい。これ、部長さんからです」

 中の書類に目を通すと、少しだけ驚いたような目で見られる。

「完売したのか?」

「はい」

「すごいじゃないか」

「ありがとうございます」

321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:54:16.40 ID:3FrzmiYZ0

 忘れないうちに、さっき部長さんから受け取った入部届を先生に出した。
 あと一人か、と言われたから、もう二人入る予定です、と言っておいた。

 ヒサシ先生は、「へ?」とまたしても目を丸くして、それから笑った。

「東雲は、部活、どうだ?」

「……楽しいですよ」

「あいつら真面目にやってるか?」

「はい」

「そうか。まあ、そうだろうな。白石も胡依も、真面目なときは真面目なやつだろうしな、伊原は知らんけど」

「ソラくんは、おもしろいです」

「あいついつになったら課題出してくれるんだろうなあ」

 あからさまなため息に思わず笑みがこぼれる。

 それから少し会話をしているうちに、未来くんと、ソラくんの部活での様子を訊かれた。
 一応担任だから、と。授業でも思っていたけど、先生も適当なようでマメな人だ。

「胡依は──」と言いかけて、先生は言葉を選ぶように、言いとどまる。

322 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:55:20.80 ID:3FrzmiYZ0

「ちゃんと部長やれてるか?」

「はい。今回の部誌作成も、かなり引っ張ってくれました」

「そうか」

「……本当ですよ?」

「……いや、あいつのこと、それなりに信頼してはいるからな」

「そうですか」

 じゃあどうして、さっきまでのように嬉しそうにしていないんだろう。

 と、そう思っていると、ヒサシ先生は「ただ……」と視線を書類に向けながら口を開いた。

「ただ、あいつのこと、あんまり頼りすぎるなよ?」

「……え?」

「あいつは、周りが思うほど強い人間じゃない」

「……」

323 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:55:51.22 ID:3FrzmiYZ0

 そんな言葉が飛んでくるとは思っていなかったから、思わず声を失う。
 先生は私の顔を見て、何かを思ったようだった。

 書類と入部届を手に、先生は席を立つ。

 不意に、ドアの開く音が聞こえた。
 振り向くと、部長さんが立っていた。

「なに話してたの?」

「いや、なにも」

「ふうん」

「胡依が昔はかわいかったって話をしてたんだよ」

 戻ってきた先生が、部長さんをからかうように言った。

「……ちょ、ヒサシちゃん! 余計なこと言わないで!」

「今じゃこんなに生意気になって、昔のかわいかった頃が懐かしいよ」

「ヒサシちゃんのばか!」

 ははは、と先生は笑う。
 昔って、どれほど昔なのだろうか。中学生? それとももっと前?

324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:56:23.22 ID:3FrzmiYZ0

「ていうか結婚なあなあにしてるヒサシちゃんにそんなこと言われる筋合いないし」

「おい、胡依……」

 先生は急に狼狽えた。

「早く結婚すれば良いんだ、ばーか!」

「……今日言われたばっかなんだが」

「ばーかばーか」

「うっせ」

 何が何だかわからない。
 先生と、その彼女さん? の話だろうか。

 お互い言い合い(というよりヒサシ先生のことを部長さんがいじっていた)が続いて、しばらく見ていると、どちらも疲れたらしく自然と会話が止んだ。
 お先します、と言って外に出ようとすると、どちらからも「今のことは黙ってて」と言われる。

 仲良いんだな、と思う。

 これも、私の知らない部長さんの姿だ。

325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:57:13.36 ID:3FrzmiYZ0

【文化祭 2ー10】

 閉会式は特に盛り上がりもないまま、つつがなくとり行われた。

 周りを見渡しても、ほぼ全員が疲れ切ったような表情をしている。
 やりきった感よりも、それが先に出てしまっている気すらする。俺もそうかもしれない。

 実行委員の話も、誰だよ、と野次を飛ばされる教頭の話もしんとした空気ではあったが、賞の発表になると一変した。

 まずは、部門別の発表。
 4ーEはアトラクション部門の二位で名前が呼ばれた。
 部門二位には副賞がなかったから、ちょっとだけクラスメイトは残念そうにしていた。

 ステージ部門では、奈雨のクラスが一位だった。
 奈雨とエリ役の子が登壇すると、列の一部が沸いた。零華のきゃーきゃーした声も聞こえた。

 そして、奨励賞、特別賞、審査委員賞、優秀賞、と進み、奈雨のクラスは最優秀賞でまた名前が呼ばれた。

 エリ役の子は泣いていた。奈雨はちょっと恥ずかしそうに笑っていた。

326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:57:50.75 ID:3FrzmiYZ0

 挨拶やら総評を終え、閉祭宣言が出された後、部室に戻ってぐだぐだと片付けを始めた。

 ソラは水泳部の助っ人としてプールで泳いでいたようだった。
 俺の夏はまだ終わってねえ、と言っていたが、普通に寒そうにしていた。

 打ち上げには、部員四人と、奈雨と零華が参加して、ヒサシに車を出してもらい焼肉を食べに行った。
 人の金で食べる焼肉は美味い、と胡依先輩が言っていた。

 帰り道は、零華と奈雨、東雲さんと胡依先輩、俺とソラの三つにわかれて帰った。
 ぐだぐだ話をしながら家に帰って、眠くならないうちに、奈雨と明日どこに行くかを決めることにした。

「どこに行きたい?」

 と俺が送ると、

「うち、来てよ」

 と返信が来る。
 そして、返信を考える間に、続けて、

「お母さんとお父さんが、連れてこいってうるさい」

 俺は少しどころじゃなく緊張した。

327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:58:25.80 ID:3FrzmiYZ0

【春にはまだ早すぎる】

「コンペしよう! コンペ!」

 部員が二人増え、だらだらと数週間過ごしていると、胡依先輩はいきなりそう宣言した。

「私はもっとみんなの描いた絵が見たいわけですよ」

「そういう胡依先輩が一番だらけてると思うんですけど……」

「うぐ」と先輩は唸る。

「まあ、でもいいですよ。何か締切りがあった方がやりやすいと思いますし」

「みんなは?」

「問題ないっす」とソラが、
「いいですよ」と東雲さんが言った。

「じゃあ、わたしも」「わたしも」と零華と奈雨がそれに続く。

 二人とも(特に零華は)、短期間で東雲さんになついていた。
 お姉さんオーラがいいらしい。あと、単純にかわいいらしい(零華談)。

328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:58:55.66 ID:3FrzmiYZ0

「今回は初めてだし、テーマを決めてやろっか」

「そうしますか」

「何かこれやりたいーって案とかある?」

 その言葉に、みんなで顔を見合わせて、首を左右に振る。

「じゃあ、私が決めるね。えっと、ええっと……」

 先輩は視線を、東雲さんの方へ向ける。

「そうだ。テーマは"春"にしよっか」

「春ですか?」と東雲さんは小首をかしげる。

「ん、いい季節だよね」

「まあ、嫌いではないです」

「私も、嫌いではないよ」

 俺はそこで"春に三日の晴れなし"という諺を思い出した。
 たしか晴天も、雨も、長くは続かないというたとえだったはずだ。

 "一葉落ちて天下の秋を知る"。

 春にはまだ早すぎる。

329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 03:59:46.82 ID:3FrzmiYZ0

【雨の後は上天気】

 部活を終えて、二人で校舎の中を歩いて学校の外に出た。

「今日、いいよね?」

「うん」

 今日は金曜日で、だから、奈雨は俺の家に泊まっていくらしい。
 明日ちょっと遠くに遊びにいくついでというのもあるけど、奈雨は何かと家に泊まりたがるようになっていた。

 理由を訊くと、俺の部屋で寝るのが好きだから、と返された。
 本当に、うちに来るとすぐに寝ている。猫みたいに無意識に身体をくっつけられるから、少しだけ困る。

「ただいま」

 と俺が言うと、奈雨も同じ言葉を言いかけて、何かに気付いたように素早く靴を脱ぐ。
 そして、玄関に上がって、こちらを振り向いた。

330 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 04:00:19.67 ID:3FrzmiYZ0

「おかえり」

「……」

「……の、ちゅーでもしようよ」

「なんで?」

「え、だめ?」

「だめじゃないけど」

 ちゃんと付き合うようになってからというもの、かなり唇を貪られている気がする。
 さすがに自制くらいはしようと回数を指定すると、"ちゅー"は"キス"ではないからノーカンという謎理屈で通された。

 それに、親公認だよ、実質許嫁だよ、と事あるごとに言ってくる。
 だったら全て許されるというわけではなかろうに。俺が困っている様子すらも楽しまれているのかもしれない。

 などと考えていると、奈雨がそろりと顔を近付けてきた。

 口の前に手を出してガード。えへへばれたか、というような表情をされる。
 ……まあ仕方ないか、と結局本心に従って目を瞑ろうとする。

 と、その瞬間、ガチャリという音が前から聞こえてくる。

331 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 04:00:46.63 ID:3FrzmiYZ0

「おかえりー、って、なにやってんの?」

「……あ、佑希」

「おお、またいちゃついてたの……」

「いちゃついてはない」

「はいはい。夕飯の買い物行ってくるから、色惚け二人はそこどいて」

 しっしっ、と手で払われる。
 俺はすぐにどいたが、奈雨は頑としてどかない。

「なに? 一緒に買い物行きたいの?」

「うん、行こ」

「お、おー……」

「お兄ちゃんにおかえりって言ってもらいたくなった」

「……ばかだ。おにい、ばかだよこの子」

「佑希には言われたくないなあ」

「だから、お姉ちゃんって呼んでよ」

「佑希は佑希でしょ。ほら行こ、お兄ちゃんバッグお願い」

 この二人もなんだかんだで仲良くなってきたのだろうか。
 今の様子を見ても、たまに話ぐらいはするようになったらしい。

 それを、俺はかなり嬉しく思っていた。

332 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 04:01:41.95 ID:3FrzmiYZ0

【追われてます!】

 風呂を済ませた後、何か甘いものでも食べようと二人で近くのコンビニに向かった。

 買ったものをコンビニの外のベンチで食べてから、ちょっとの間あたりを散歩することにした。
 住宅街を抜けて、河川敷を歩いて、ビル街に出たところで折り返す。

 その帰り道、家が近付いてくると、

「あ、そういえば」

 と奈雨は急に足を止める。

 振り返ると、彼女は夜空を見上げていた。

「どうした?」

333 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 04:02:29.09 ID:3FrzmiYZ0

 言いたいことがあるの、と言われたので、頷きを返す。
 奈雨は深い呼吸を何度もして、息を整えてから言い始めた。

「わたしね、やっと追いつけたかな、って思うんだ」

「……」

「もっと強くなって、いつかお兄ちゃんの隣に立てるような女の子になるんだって、ずっと考えてた」

「……うん」

「また差を付けられても、すぐに追いつくから。……隣で、手を握って、つかまえてるから」

 先ほどできた一歩分の距離を詰め、奈雨は俺の手を掴む。

334 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 04:03:08.31 ID:3FrzmiYZ0

「だから、今はスタートラインなのかな」

「うん」

「こうして並んで歩けてることが、すごくうれしいの。ずっと、ずっと前から夢見てたことだったから」

 だからね、と。

「……お兄ちゃん、もう一歩近付いてもいい?」

 数秒の沈黙のあと、返事の代わりに抱き寄せる。
 すると彼女は、俺の腕の中で、幸せそうに笑う。

 その笑みは、ほかのなによりも綺麗で、愛おしいものだった。

335 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 04:03:42.88 ID:3FrzmiYZ0
おわり
336 : ◆9Vso2A/y6Q [saga]:2018/08/19(日) 04:12:37.17 ID:3FrzmiYZ0
女の子達周りについてはまたいつか書きたいと思います。今度はもっと落ち着いたのを書きます。
次回作についてはTwitter(@2_ra_ra3)やらブログ(http://blog.livedoor.jp/vso2a/)で言うと思うので、よろしくお願いします。質問とかもあれば投げてくれてかまいません。
ここまで読んでくださった方々、ありがとうございました。
337 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/19(日) 07:13:38.07 ID:DdCUiINM0
おつです
338 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/08/20(月) 02:38:28.34 ID:K9RGiGhl0
おつかれさまでした…!
部長も奈雨ちゃんも東雲さんも零華ちゃんもかわいかったです。
次回作も期待してます。
339 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/20(月) 10:42:50.53 ID:6LTrI4PxO
おつ
1年間ずっと楽しみにしてました
みんな可愛かったしすごく良かったと思う
340 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/09/03(月) 09:23:53.63 ID:/LF3CAAKO
七罰さんのまとめから追っかけて来て楽しく読ませて頂きました
部長関連に期待します!
341 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/16(火) 17:21:38.88 ID:tmV6hHZsO
おぉ、速報生き返ったのな
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