緒方智絵里「らびっとぱにっく」

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48 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 17:58:51.27 ID:oMgPCNNI0

 もふもふもふもふもふもふもふもふもふ!!

 廊下を大河のように流れるうさぎさんの洪水。
 トイレは食堂から徒歩10秒もない距離ですが、今はそれがとても遠く感じられます。

「いきますよ〜!」

 先頭を菜帆ちゃん、真ん中は蘭子ちゃん、しんがりを私。

「あたし達はここで待ってるからー!」
「食堂はきっちり守りますえ〜」

 周子ちゃんと紗枝ちゃんの応援を最後に、食堂のドアが閉まりました。
 あとは熊本トリオが頑張るのみ……!
 私だって、お尻の守りは固いんですから!
49 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 18:00:16.42 ID:oMgPCNNI0

 殺到するうさぎさんを菜帆ちゃんのぷにぷにボディで弾き(強い……!)、
 追ってくるうさぎさんは私のたぬ尻尾でぺしぺし弾いて、
 なんとかトイレに辿り着くことができました。

「美穂ちゃん、ドアを〜!」
「任せてっ!」

 うさぎさんの侵入を阻止し、廊下へ繋がるドアを閉じます。
 ……中は静かでした。
 女子寮の共用トイレには、天井まである仕切りで区切られた個室が四つ。
 造りが新しいのと、響子ちゃんが毎日丹念にお掃除してくれているのもあってピカピカです。

「大丈夫そうだよ蘭子ちゃん。私達はここで待ってるから」
「慌てないで、ゆっくり済ませていいですよ〜」

 四つ並んだ個室を前に、蘭子ちゃんは立ち尽くしていました。

 …………?

 どうしたんだろう。
 声をかけようとした時、蘭子ちゃんは「ぎ、ぎ、ぎ」と音がしそうな動きで振り返り、
 震える指で床のある一点を差していました。
50 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 18:01:12.85 ID:oMgPCNNI0


「――は、排水溝からぁ……」


 !?

 もぞもぞもぞっと、トイレの排水溝からHey Hello……!!
 蓋をかぽんっと外し、白くて長い耳、つぶらなお目め、ふかふかの体が順に出てきて……!

「ら! 蘭子ちゃん、こっちに――――!!」

 溢れ出たうさぎさんの先頭の一匹が、蘭子ちゃんの足にしがみつきました。
51 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 18:02:31.87 ID:oMgPCNNI0

「あうう〜〜っ!」
「ら、蘭子ちゃん! 今助けてあげるからねっ!」
「引っ張りますよ〜! よいしょっ! よいしょ〜っ!」

 蘭子ちゃんの下半身がたちまちうさぎさんに覆い尽くされてしまいました。
 すがるように伸ばされた手を掴み、私と菜帆ちゃんでなんとか引っ張り出そうと頑張ります。

 言うなれば、狸と兎の綱引き合戦……!

「力を入れて! 大丈夫だよ蘭子ちゃん!」
「一緒にみんなのもとに帰りましょう〜!」
「ぅあっ、あああの、ちっ力がっ力を入れるとっ」

 私達は、うんせ、こらせと引っ張って。
 うさぎさんは、うごうごもふもふと蘭子ちゃんにまとわりついて。
 渦中の蘭子ちゃんはなすすべもなく。


「だ、だ、だ、だ、だ、だめ、だめです、だめですから」
「そんなことない! ふんばって、蘭子ちゃん!」
「絶対に見捨てたりなんてしませんよ〜っ!」

「そそそそうじゃなくて、わたっわたし、まだおしっ」
52 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 18:04:01.11 ID:oMgPCNNI0




「あ」



 ぷつんっ、と。
 蘭子ちゃんの中で、何かが切れて。

「あっ、あぁっ、あぁあっ……あぁあぁぁぁ〜っ…………♡」

 その時の彼女の顔を、私はきっと忘れないでしょう。
 解放感と罪悪感。羞恥と快感。あたたかさと背筋の寒気。理性と幼さ。愛しさと切なさと心強さ。

 そうした全部がない交ぜになった、泣き笑いみたいな表情……。

 繋いだままの手が、ぴくっ、ぴくんと小さく痙攣し、やがてくてっと脱力しました。
 真っ赤な頬に涙を流す蘭子ちゃんを見て、私達が何が起こったか遅まきながら理解するのでした。
53 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 18:04:57.72 ID:oMgPCNNI0

「だ」

 菜帆ちゃんが口火を切ります。

「大丈夫です〜! それはお茶です! 蘭子ちゃんはお茶をこぼしただけなんです〜!!」
「そ、そうだよ! お茶だからあったかいんだよ! あったかいから大丈夫だよ!!(?)」

 フォローが一周回ってわけわからないことになってるのは百も承知。
 だけど今、とにかく今この場を切り抜けないと、なんにもなりませんから……!

「諦めちゃ駄目! がんばって、蘭子ちゃ――」
「ひとのうんめいとはざんこくなものです」
「蘭子ちゃん!!?」

 賢者みたいな顔になってる!!?
54 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 18:05:59.06 ID:oMgPCNNI0

「じんせいにはあらがいがたきしれんがあります」

「そしてときには、ひざをおることもあるでしょう」

「ら、ら、蘭子ちゃん!? 何言っちゃってるのどうしちゃったの!?」
「し、しっかりしてください〜!」

「わたしはもうだめです」

「駄目じゃない! 駄目なんかじゃないよぉ!!」

「ありがとう、やさしきともよ……」


「あなたたちだけでも、いきて……」

 蘭子ちゃんは菩薩のような顔でそう告げて。
 私達の手を、振りほどくのでした。
55 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 18:06:43.91 ID:oMgPCNNI0

「「蘭子ちゃーーーーーー〜〜〜〜〜〜〜〜んっ!!!!」」

 白い雲にうごうご呑み込まれていく蘭子ちゃん。
 蘭子ちゃんを徹底的にもふり倒したうさぎさんは、間もなく私達にも来るでしょう。

 逃げなきゃいけないのに……。
 私達はその場に立ち尽くしたまま、身動きも取れませんでした。

 その時、にわかに廊下が騒がしくなって――

「――いた! 美穂ちゃん、菜帆ちゃ……蘭子ちゃんは!?」

 飛び込んできた周子ちゃんは、トイレの惨状を見て全てを察しました。

「あかんかったか……!」
「周子ちゃん!? 食堂にいたんじゃ……!?」
「食堂も陥落してもうた! 残ったみんなで二階行くよ!」
56 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 18:07:14.72 ID:oMgPCNNI0

「そんな〜……! でも、ちゃんとドアを閉めてたんじゃ〜……!?」
「冷蔵庫ん中にみつしり詰まってた!!」
「こわい!!?」

 廊下に飛び出ると、みくちゃんと紗枝ちゃんと響子ちゃんもこっちに来ていました。
 ああ、蘭子ちゃん! 骨を拾うこともできないないんて……!

 迫りくるは天井まで埋め尽くさんばかりのうさぎさん。

 私達は合流して、廊下の果ての階段を目指すしかありませんでした。
57 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 18:50:12.42 ID:oMgPCNNI0

  ―― うさぎだらけの街中


「魔法のノート?」


 由愛ちゃんはうつむきがちに頷いた。
 なんでも、彼女が今持っているスケッチブックは「魔法のノート」。

「どこでそれを手に入れたんですの?」
「わ……わかりません。いつものお店で買ったから……」

 最初の一ページに、「これは魔法のノートです」という旨の説明文が書かれていたらしい。
 絵に描いたものが現実世界になる――と。

 ちょっとにわかには信じがたいトンデモアイテムだ。
 ……いや、信じるしかないか。
58 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 18:51:19.07 ID:oMgPCNNI0

「ちょっと見せてくれるかしら」

 ノートは買ったばかりといった感じで、最初のページ以外はまっさらなままだった。
 由愛ちゃんが指さすのは、白いページの隅っこ。

 そこには何も描かれておらず……いや。

「鉛筆の跡がある……」
「……私、魔法のノートだなんて信じてなくて。ちょっとした、試し描きのつもりで……」

 なぞってみると、なるほど確かに小さなうさぎの絵図のようだ。
 デフォルメ調のが二匹。けどそれは跡を残すばかりで、影も形もない。

 出て行った後、というわけだ。

「一匹だけだとかわいそうだから、お嫁さんも……」
「なるほど。こいつらがアダムとイヴってわけか……」

 その結果がこれだとすれば、彼女の優しさが仇になっちまった。
59 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 18:52:16.80 ID:oMgPCNNI0

「今さらだけど荒唐無稽ね。絵に描いたものが現実になるなんて……」
「ありえない話じゃない。世の中には、未来の日付の日記にテキトーなこと書いたら実現しちゃうなんて事例もあるとかないとかだしな」
「まあ、そのようなことがあったんですの?」
「ああ。えんぴつの天ぷら食ったりとか、空から豚が降ってくるとか……」

 智絵里はスケッチブックと由愛ちゃんを見比べながら、

「それじゃあ……由愛ちゃんが、みんなの親なんですね」
「は、はい……たぶん、そうなります……」

 由愛ちゃんは泣きそうだった。
 当然だ。軽い気持ちでやったことが、こんな大事件になると誰が思うだろう。

「わ、私……どうしたら……。ママぁ……」


 彼女には罪もない代わりに、事態を収束する力も手段も無い。
 さてどうしたものか……。

「由愛ちゃん」

 と、奏が由愛ちゃんと目線の高さを合わせる。

「魔法のノート、少しだけ貸してくれる?」
60 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 18:53:32.73 ID:oMgPCNNI0

「奏?」
「魔法のノートは、一度発動したらもう二度と使えないものなの?」

 すん、と鼻をすすって、由愛ちゃんは首を小さく横に振った。

「二度と……じゃなくて、その。……一人に一回、って書いてました。だから、私はもう……」
「それじゃあ、私が何か描いたらそれも現実になるのよね?」
「おい奏、一体何を……」

 奏はこちらにウインクして、由愛ちゃんからスケッチブックと色鉛筆を借り受けた。
 そうして、サインでもするかのようにさらさらっと筆を走らせる。

「ひとまず繁殖はしないように、一匹ということでいいわね」
「何をお描きになっていますの?」

「繁殖が止まらない種に対して、必要なのは天敵。そうでしょう?」
61 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 18:54:03.29 ID:oMgPCNNI0

 その時、ノートがにわかに光りはじめた。

「あ……っ!」

 目を丸くする由愛ちゃん。
 兎が出てきた時と同じだ、と表情が物語っている。

「……おい、まさか」

「考えてる通りだと思うわ。兎の天敵は――――」
62 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 18:54:36.00 ID:oMgPCNNI0

 ノートが翻り、「何か」が飛び出た。

 それは、本来陸(ここ)にいる筈のないモノ。

 ギザギザの肌、小舟に勝る巨体、鋭いヒレ、ノコギリ状の見るもおぞましい歯――


「サメよ」


 空に向かい、巨大なサメが兎に牙を剥いた。

63 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 18:55:17.51 ID:oMgPCNNI0

 サメだ!
 サメ!?
 サメが来た!!
 サメに皮を剥がれるぞ!!

 兎の恐慌はたちまち群れに伝播する。
 最初に遭遇した一群がまさに脱兎の勢いで逃げ、白い海にパニックの波紋が広がっていった。

「きゅう」
「智絵里ーっ!?」

 見るなり智絵里も気絶した。

 サメはといえばやる気十分、親の仇のように兎を追い回して噛むわ潰すわ引きずり回すわ。
 ぽんぽんぽんっと消えまくる兎の只中で無双ゲーのような大立ち回りを演じている。

 そんな様子を見守りながら、奏は満足げに頷いた。

「兎の天敵はサメ。古事記にもそう書いてあるわ」
「またそんな…………ほんとだ!!」

 ちなみに諸説ある。ワニ説とか、はたまたワニザメ説、いやいやシュモクザメ説とか。
 まあでもここはサメで正解だろう。
 古くからの因縁に根差す本能的な敵愾心と恐怖が、たとえ絵図であろうとちっぽけなウサギ達にはてきめんに効いたのだ。
64 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 18:56:33.10 ID:oMgPCNNI0

「………………ところでサメって飛ぶっけ?」
「? 飛ぶでしょ?」

 飛ぶか。そっか。
 まあうん飛ぶんだろう。
 俺よりサメに詳しいっぽい奏が言うんだから間違いない。


「ふぁぁぁあ……」

 由愛ちゃんが呆然とする通り、兎が消えていくペースは目を瞠るものがあった。
 実際にサメが手を下すよりも、その存在によるパニックの効力が爆弾のように強力なのだ。
 増えるペースよりずっと早い。天敵パワー恐るべし……。
65 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 18:57:08.87 ID:oMgPCNNI0


「とにかく、これで兎は一掃できるってことでいいのかな」
「そう思うわ。流石よね、サメ」
「あとは頃合いを見て、あのサメの方をどう処理するかだが……」
「ええ…………」

 奏はぺろりと舌を出した。


「……それが問題なのよね」
「まさかのノープラン!!!」
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/16(金) 19:03:07.43 ID:CqIdjzCoO
チェーンソー用意しなきゃ…(シャークネード並感
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/16(金) 19:19:26.96 ID:a4SGEkBg0
奏はサメ映画が大好きだからだね!
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/16(金) 19:59:42.15 ID:TZyJsia5o
B級映画マニアの血が騒ぐ
69 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 20:19:45.37 ID:oMgPCNNI0

  ―― アイドル女子寮 廊下

 モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ
 モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ
 モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ


「GOGOGOにゃ! 足を止めたらおしまいにゃあーっ!!」

 迫るうさぎさんの壁から必死に逃げる私達。
 目指すは二階です。

 ……でも、二階に逃げて、その後は?
 相手はテレビや排水溝や冷蔵庫からさえ現れる不思議なうさぎさん。
 たとえどこに立てこもろうとも、かならずどこかから突破されちゃうんじゃ……。

 そして、ついにはお向かいさんのアパートみたいになっちゃうんじゃあ……?

「美穂チャン、諦めちゃダメにゃ」

 私の心を読んだように、みくちゃんが励ましてくれます。

「たとえ何が起ころうとも、できる限りの抵抗をするのにゃ。
 だってみく達は、こんなとこでうさチャンに埋もれるわけにはいかないもん……!」
「みくちゃん……」
「最後の瞬間まで、自分を曲げないのにゃ!!」
70 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 20:20:33.26 ID:oMgPCNNI0

「お!? ねえ、あれって……!」

 周子ちゃんが、階段を上った踊り場の窓を指差します。
 まだうさぎさんに埋もれていないそこに、大きな影が差していました。


「みなさぁん!! 遅くなってごめんなさい〜っ!!」

 窓が開いて、見慣れた顔と聞き慣れた声が。

「イヴちゃん!? それにブリッツェンちゃん!」
「ブモッ!」
「はやくのってー……のれー……」
「こずえちゃんも!」

 遠くでロケをしていた残り二人が、ブリッツェンちゃんのソリで助けに来てくれたのです!


「テレビを見てたら大変なことになってて〜! とにかく話は後です、乗ってください〜!」
「いよっしゃイヴちゃんナイス! あたし今年一年いい子にするわ!」
71 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 20:21:36.71 ID:oMgPCNNI0

 階段を一気に駆け上がって、窓からソリに飛び乗ります。
 最初に周子ちゃん、続いて菜帆ちゃん、それから紗枝ちゃん、次に私。

「あ……っ!?」

 その時、私の足がうさぎさんに絡め取られました。
 あと一歩というところで姿勢を崩し、そのまま倒れそうに――


「ふしゃっ!」
「えいっ!」

 みくちゃんが猫ぱんちで、響子ちゃんがホウキで、うさぎさんをホームランします。
 跳ね飛ばされたうさぎさんはポンッと消えて、私は解放されました。

「みくちゃん、響子ちゃん!」
「早く乗るにゃあ!」
「まだ次が来ますよっ!」

 うさぎさんの侵攻は止まりません。私はお礼もそこそこにソリに飛び乗って、二人に手を差し伸べようとしました。


 ところが二人は、その場に留まって動こうとしません。
72 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 20:23:31.97 ID:oMgPCNNI0

「二人とも、早く! もう間に合わないよぉ!」

 混乱する私を振り返って、みくちゃんは不敵に笑いました。

「みく達は、ここでうさチャンを食い止めるにゃ」
「!?」

 うぞうぞもふもふわらわらふかふか押し寄せるうさぎさんの群れ。
 周子ちゃんが身を乗り出して叫びます。

「なに言ってんのさ、勝てっこないやん!」
「大丈夫です。それに誰かが寮に残って、呑まれちゃった子の介抱をしなきゃ……」

 響子ちゃんも、いつもの朗らかな笑顔で返しました。

「みんなはプロデューサーさんにこのことを伝えてください。
 私は、私達の大事なお家にいたずらしたうさぎさんにお仕置きしちゃいますからっ」
「そっちは脱出が最優先にゃ。みくも、寮長としての最後の務めを果たすのにゃ!」


「時間がありません〜……! 上昇します〜!」

 やむなく窓を離れるソリ。
 ブリッツェンちゃんは二人に向かい、敬礼を捧げていました。
73 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 20:24:23.34 ID:oMgPCNNI0


「ま、待ってイヴちゃん! もうちょっとだけ待って! まだ二人が……っ!!」

 差し伸べた手は空を切ります。
 響子ちゃんはホウキを構えたまま、どこまでもいつも通りの、私達を送り出す時の笑顔で叫びました。


「いってらっしゃい! おいしいごはんを作って、待ってますねっ!」

「ふしゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」


 みくちゃんの気合十分の威嚇を最後に、二人の声は聞こえなくなり。
 真っ白になった女子寮から離れ、ソリはぐんぐん上昇していくのでした。
74 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 21:00:12.70 ID:oMgPCNNI0

  ―― うさぎとサメが乱舞する街


 さしずめ『ウサギレギオンvsフライングシャーク 〜激突! 現代に蘇りし神話の因縁〜』
 といったところか。

 ……って言ってる場合じゃなくて。

「まずいな。今は兎にかかりきりだが、人間を襲わないなんて保証はどこにもないぞ。サメだし」
「プロデューサーさん、ぱぱっとマーティン・ブロディを描くわけにはいかない?」
「できるかそんな芸当!」

 ぽんぽん消えていく兎と、片っ端から兎を追い立てるサメ。
 ある種を減らすためにその天敵を導入する作戦は失敗例も少なくない。
 ハブに対するマングース然り、アフリカマイマイに対するヤマヒタチオビ然り……。

 結局のところ、その天敵種への確固たる対策が無いと、驚異の対象が入れ替わるだけになってしまうのだ。

 狡兎死して走狗烹らる……とは言うが、
 兎が消えた後にサメ(しかも飛ぶ)を煮て食えるような奴が、果たしてどこにいるのかという話で……。


「あら……あら? 智絵里さん? どこに行ってしまいましたの?」
75 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 21:06:40.27 ID:oMgPCNNI0

 戸惑う桃華の声に我に返る。
 
 見れば、そこに寝かされていた智絵里の姿が無い。
 奏も由愛ちゃんも知らないと言う。まさかパニックになってどっかに逃げちまったのか……!?


「さ、サメさんっ!」


 意を決したような叫びは、智絵里のものだった。
 なんと、荒ぶるサメの真ん前に立っているではないか。
76 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 21:07:24.03 ID:oMgPCNNI0

 当たり前だがフラフラだった。
 足も生まれたての小鹿のように震えていた。

「智絵里! 戻ってこい! お前も攻撃対象なんだぞ!!」
「だ……大丈夫、です。やってみます」


「先祖代々伝わる、あの技を……!!」


 サメが劇的な反応を見せた。智絵里が最も格上の兎だと認識したのだろう。
 タンカーの船底のような鼻先をそちらに向け、ぐわっと突撃を仕掛けた!

「智絵っ……!!」


「えいっ!」


 智絵里が、ぴょんと軽やかに跳んで。
 サメの背中に、しゅとっと乗っかった。
77 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 21:07:53.47 ID:oMgPCNNI0

「なぁ……!?」

 顎が外れるようだった。
 智絵里はサメの背中にぴったり取り付き、ヒレを掴んで右へ左へ。

 するとサメはその動きにつられて、まるで智絵里の意のままに進路を変える。
 操縦は見事の一語に尽きた。
 的確に人のいない方へと誘導し、兎を追い立て、ぽぽぽんっと消していく……。

 まるで、風という波を乗りこなすサーファーのように……!

「やるわね、智絵里ちゃん……」


「う、うさぎにとって、サメさんは天敵だけど……でも、サメさんに乗るのも得意なんですっ!」
78 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 21:09:22.36 ID:oMgPCNNI0

  ―― 上空


「――みくちゃん、響子ちゃん、どうか無事でいて……!」
「まずはプロデューサーはんに合流しまひょ。あちらがどないなっとるかも気になります」

 空中を走るブリッツェンちゃんのソリ。
 地表は真っ白でしたが……なんだかそこに変化が見られます。

「うさぎさんの数が、減ってるような〜……?」
「…………さめー」

 こずえちゃんが遠くを見てぼそりと呟きました。
 確かに、ある地点を中心として、うさぎさんが次々と消えているように思えます。 
 遠すぎて向こうに何があるのかはわからないんですが……。

「――よしっ、やっと繋がった! プロデューサーさん!?」

 混線している電波を抜けて、ようやくプロデューサーさんと周子ちゃんの通話が繋がったみたい。
 周子ちゃんは手早くこっちの状況を伝えて、あちらの現状も聞き取っています。
 私達はうさぎさんが消えていく理由が知りたくて、目を凝らして向こうを見すえます。

「なんや、きりがあらへんなぁ。美穂ちゃん、ちぃと頼みますえ〜」

 ポンッ!

 と、紗枝ちゃんが双眼鏡に化けました。
 私がそれを受け取って、うさぎさんがほとんどいなくなっている遠くの景色をのぞき込みました。

 おっきな公園?

 何かが暴れてるような……。
79 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 21:10:19.55 ID:oMgPCNNI0


「うん……うん。え? 今、公園? 原因が見つかったの!? で、今は……!?」
「………………智絵里ちゃんがサメさんでサーフィンしてる」

「………………ゴメンもっかい言って?」


「智絵里ちゃんがサメさんでサーフィンしてるの!!」
『智絵里がサメでサーフィンしてるんだって!!』

80 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 21:10:55.05 ID:oMgPCNNI0



 智絵里ちゃん on サメが上空に踊り上がりました。

 なんだか……うまくは言えないし、さっぱりわけがわからないのですが。


 とっても、華麗でした。


81 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 21:22:38.38 ID:oMgPCNNI0

 その後、空飛ぶサメは街中を駆け巡りました。
 うさぎさんの恐怖の象徴として、一匹残らず消し去ってしまうために。

 街中を席捲したうさうさ祭りは、起こった時と同じ唐突さで収束し……。

 辺りからうさぎさんが一匹もいなくなるまで、そう時間はかかりませんでした。


 そして突然現れた空飛ぶサメは、最後に残ったうさぎである智絵里ちゃんに牙を剥き。
 だけど華麗に乗りこなされているため攻撃もできず、暴れに暴れて最終的に――


「あら♪」


 路上に出たその人を前に、ぴたっと動きを止めます。

「かわいいサメさんですね〜。智絵里ちゃんのお友達ですか?」
「茄子さんっ」

 茄子さんを前にサメは身動きも取りませんでした。
 ついさっきまでの凶暴性はどこへやら、まるで飼い主を前にした忠犬のように……。

 茄子さんはサメのざらざらした肌を優しく一撫でし、プロデューサーさんに電話をかけます。

「あ、プロデューサーですか? この子、私が飼ってあげてもいいでしょうか〜」
『ええもう是非よろしくお願いします可愛がってやってくださいマジで』
82 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 21:23:37.18 ID:oMgPCNNI0

 かくして、うさぎさん達はどこか遠くへ、サメは茄子さんのお家へと去っていき。
 都内で勃発したうさぎさんパニックは、終結するのでした。



芳乃「ほー…………」

芳乃「つわものどもが、夢のあとー…………」


輝子「フヒ……フヒフ……い、生きてる……トモダチも……」

小梅「ふぇへへぇ……映画化、してほしいなぁ……」


蘭子「……すーすーするぅ……」


みく「か……勝った? みくたちは、勝ったのにゃ……?」

響子「……ごはん、そうだ、今夜のごはんを作らなくちゃ……っ」
83 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 21:56:25.94 ID:oMgPCNNI0

  ―― 事務所


由愛「ほ……本当に、ごめんなさい……っ」

P「いや、君が謝るようなことなんか無いよ。俺達だけじゃなく、誰にでも」

由愛「でも……でも私、色んな人に迷惑を……」

P「悪いとしたらあのよくわからんノートだ。……ところで桃華、本当にいいのか?」

桃華「ええ。件のノートは、うちが責任をもって預からせて頂きますわ」

桃華「由愛さんの手にあれが渡ったのはただの偶然だと思いますが……」

奏「一応、出処を追跡させてみた方がよさそうね」

P「…………ちなみにその追跡ってどこがやんの?」

桃華「財団ですわよ?」

P「何の!?」
84 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 21:58:15.62 ID:oMgPCNNI0

由愛「…………」ショボン

P「……やっぱり、どうしても申し訳ない気持ちがある?」

由愛「…………」コクン

P(それもそうか。責任感が強い、優しい子みたいだ)

P(誰が許しても許さなくても、自分で気が済まないんだろう……)

P「じゃあこうしよう。楽しいことをたくさんするんだ」

由愛「え……」

P「私がやりましたすみません、とも言えないだろ? きっとみんな信じないし、証明もできない」

P「だからその代わりに行動で返そう。大変な思いをさせてしまった分だけ、みんなを楽しくするんだ」

P「たとえば、君は絵が好きなんだろ?」

由愛「はい。ママが……いろんな習い事をさせてくれて。続いたのは、これだけで……」

由愛「で、でも私、誰かに絵を見せるなんて……」

P「まあそれは追々でいいよ。かわいい絵や素敵な絵をたくさん描いたり、誰かに親切にしたりしてさ」

P「そうやって人を楽しくしたり、幸せにしたりして、それで少しずつ返していくんだ」

由愛「少しずつ……幸せに……」

P「そう。だから、まずは本人が幸せな気持ちにならなきゃな」
85 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 22:00:32.56 ID:oMgPCNNI0

P「念を押すけど、この件で君が負うべき責は何も無い」

P「とにかく、人を幸せにする手段はたくさんある。あんまり気負わないで、のんびりやってこうな」

P「あ、気が向いたらいつか俺にも絵見せてね」

由愛「はい……あ、あの」

由愛「ありがとう、ございました……っ」


    パタン


奏「行ったわね。……てっきりスカウトするかと思ったけど」

P「それだと弱味に付け込んだみたいになっちゃうだろ。大事なのは本人の納得だ」

奏「あら、つれないのね。私も口説き落としたくせに」

P「だからお前な」

P「……まあとにかく、そっちもお疲れさん。色々助かったよ。一時はどうなることかと思ったけど」

奏「街がうさぎに包まれてたらお仕事もできないもの。それに私もそこそこ楽しかったわ」

P「だろうな。――智絵里も、」


智絵里「さめこわいさめこわいさめこわいさめこわいさめこわいさめこわいさめこわいさめこわい」


P「めっちゃ震えとる!?」

桃華「恐怖のぶり返しですの!?」
86 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 22:01:02.06 ID:oMgPCNNI0

P「どうどう智絵里! よしよし! サメももういないから! お前のおかげだ!」

智絵里「さめこわいさめこわ……あっ、プロデューサーさん……」

P「智絵里がいないとどうにもならなかったよ。本当にありがとうな」ナデナデ

智絵里「あぅ……♡」モフモフ

P「そうだ、そろそろ他のみんなも事務所に着くころ……」

  ガチャ

蘭子「うさぎこわいうさぎこわいうさぎこわいうさぎこわいうさぎこわいうさぎこわい」

美穂「蘭子ちゃんっ! し、しっかりしてぇ!」

P「トラウマになっとるーッ!?」
87 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 22:02:32.84 ID:oMgPCNNI0

  ―― 後日 事務所


みく「にゅあぁ〜……もううさチャンはこりごりにゃあ……」グデーン

P「智絵里が気にするから、それあの子の前では言ってくれるなよ」

みく「智絵里チャンはいいの。けど、それ以外のうさチャンは正直しばらく見たくないにゃ……」

P「聞いたぞ。ナワバリバトル凄かったそうじゃないか」

みく「そーうーにゃーのー聞いてよPチャン! あの時の大変さったら……って何見てるの?」

P「次のオーディションに来る子の履歴書」

みく「うちに来てくれる子いるかな?」

P「まあ結果次第だな。どの部署に配属されるかも未知数だし………………お?」


 『成宮 由愛』


P「……ははっ」

みく「Pチャン? どうしたの不気味な笑い声出して」

P「不気味は余計だろ不気味は! 尻尾の付け根トントンしてやろうかテメー!?」

みく「お!? やるにゃ!? 第四十八回キャットファイト!」

P「ちょえーッ!」

みく「ふしゃーっ!!」



〜オワリ〜
88 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/02/16(金) 22:06:26.21 ID:oMgPCNNI0
 以上となります。お付き合いありがとうございました。
 依頼出しておきます。

 元ネタはセラニポージの楽曲『ラビットパニック』です。↓
https://www.youtube.com/watch?v=sI1WSL1akYs
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/16(金) 22:07:47.02 ID:VpOgcy5Lo
晴れ時々豚懐かしいな
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/16(金) 22:13:30.42 ID:a4SGEkBg0
おつおつ、サメをあっさり手懐ける茄子さん凄え
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/16(金) 23:06:43.39 ID:g/zsrzcDO
>空飛ぶサメ

つ【RZ-033ハンマーヘッド】

とりあえず、由愛に智絵里と好きなキャラが増えて嬉しいです……千枝にありすは来ないかな
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/16(金) 23:46:10.74 ID:Wy9DK73Wo
サメに乗ったウサギは最後に服を剥がれるべきでは?
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/17(土) 00:00:33.04 ID:ViU0tW4DO
関係ないが、由愛の身長は150cm

だから、身長順は



こずえ<小梅=輝子<桃華(<ドーナツ)<紗枝(<りす)<由愛<芳乃<みく<智絵里(=マカロン)<響子=ちひろ<

美穂(=藍子)

<蘭子<茄子(<アップルパイ)<奏=菜帆<周子<イヴ<志乃(<うし)<楓

になるんだよね
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/17(土) 00:06:37.91 ID:gHugIT7u0
ゾイドのハンマーヘッドは懐かしいは・・・アニメだと大暴れしてたな
智絵里と茄子は例の神話の末裔か
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/17(土) 01:32:52.69 ID:FkNy2lBqo
乙乙
いおりんがカバーしてたっけ

財団?確保して収容して保護しなきゃ…
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/17(土) 10:33:02.90 ID:cSLtJFwc0

蘭子は何時ものゴスロリなのか芋ジャージなどの他の服なのか、どちらにしろノーパンか…
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/18(日) 03:35:17.78 ID:1AYlWXUqo
おつ
サメ……サメかぁ……
サメはコラボ先が多くてなんでも特攻持てそう
そして財団はSCPの方かな……
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