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アラサーニートエリちとキャリアウーマン亜里沙

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/17(土) 03:15:24.69 ID:XEcVgPSX0
 内容はタイトルの通りです。

注意・エリちが壮絶にダメ人間です。

亜里沙や両親が絡むとちょっとシリアスになります。

基本ほのぼの・age進行。

姉妹スレ

【ラブライブ!】 1レスSSを書くのでお題ください 【ラブライブ!サンシャイン!!】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1515490691/

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1518804924
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/17(土) 03:22:39.41 ID:XEcVgPSX0
 現在、絢瀬絵里はニートで忙しない生活を送っている。
 今もオンラインゲームのログインボーナスを貰うのに忙しい。
 なんせオンゲーは数が多い、プレイしているゲームは少ないけれど――
 更にはスマホゲームもログインしなければいけない、これは苦行だ。
 毎日の積み重ねが物を言う(例によっては課金してない)ボーナスは無課金プレーヤーには重要だ。
 まあほとんどプレイはしてないんだけど――。

 一つだけ言い訳をさせてもらえば、とあるオンゲーでは神として降臨しているし
 スマホのリズムゲーの指の動きは運動神経抜群の凛に、恐ろしい指戯と褒められてる。
 ニコニコに実況動画でも上げて収入を得ようとしたら、亜里沙に本気で泣きつかれたのでやめた、解せない。

 ニートというのは収入がない。
 学生でもない私はそれでは生活ができない、両親から早々に見切りを付けられたので、誰かに泣きつくしか無い。
 和菓子屋の看板娘の座を妹に取られ、仕方なく就職した居酒屋チェーン店で才能を見出された穂乃果。
 実家の道場の師範となり、弟子にも恵まれて幸せな生活を送っている海未。
 高校卒業後、なんとパリに行ってしまったことりは、現在新進気鋭のデザイナーとして働いている。
 
 某テレビ局で放送されている番組のたいそうのおねえさんを勝ち取った凛は、芸能界にデビュー。着実に人気を集めている。
 大学で司書の資格を取った花陽は、現在就職浪人中。アルバイト生活をしている。
 医者を志望していたはずの真姫は受験生の時に見たアニメにどっぷりハマりコスプレデビュー、その後声優になる。私のプレイするゲームにも出てる。
 
 希は現在巨乳すぎるカリスマ占い師として、芸能界関係者から引っ張りだこ。書籍も何十万部も売れている。
 にこはスクールアイドルのレッスンプロとしてUTXで働いている。今は第二のA-RISEを作ることに執着している。
 
 ――私は結局μ'sのメンバーには頼らなかった。
 希あたりは、就職するまで面倒見てあげるって言ってくれたけど。
 なんていうか、親友にお金の無心をするっていうのはね、気がひけるよね。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/17(土) 03:23:10.06 ID:XEcVgPSX0
 まあ、結局――

「また姉さんってば、パソコンやって! リクルート雑誌でも見たらどうなの!」

 仕事から帰ってきた亜里沙に怒鳴られる。
 私が大学を卒業するまでは、甘えた声でお姉ちゃんお姉ちゃんと言っていた亜里沙はすっかり変わった。
 何かと棘のある口調と台詞を用いて私の心をグサグサと刺して満足する冷徹キャリアウーマンに成長したのだ。
 彼女がどんな仕事をしているのかまでは知らないけど、営業成績と給料は良い。
 食事や家事なんかは私が担当しているけれど、生活費からお金の管理までは亜里沙の仕事だ。
 
「今見てたのよ……」
「嘘よ! それ、毎日やってるゲームじゃない! 一銭にもならないのに!」
「私を求めているプレイヤーが居るのよ!」
「自分を求める企業に関心を寄せたらどうなの!」

 亜里沙が内心、私のことをどう思っているのかまではわからない。
 流石に殺したいほど憎まれているとは思わないけど、就職する気もサラサラ無い態度はかなり苛ついているっぽい。
 
「私なんてどうせ企業も求めちゃいないわよ」
「そんなことない!」
「そんなことないことないわ!」
「だって、姉さんは私の……! っ! もう! いい! ご飯食べてくる!」
 
 バタンとドアを閉めて亜里沙が出ていってしまった。
 しばらく彼女とは食事を取れていない。
 このまま追い出されてしまったら、本当に希を頼るしか……

「ゲームしよ」

 私の戦場はここじゃない―― 
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/17(土) 03:24:06.67 ID:XEcVgPSX0
 今日は真姫と飲む。
 彼女は案外と大衆居酒屋が好きらしい、逆にバーとかは敷居が高いとか。
 飲み放題食べ放題コースが真姫のお気に入りで、大抵いつも同じ店。
 ちなみにその店では穂乃果が働いている。

 いつも思うのだけど、お酒を飲むときに食べる人と食べない人がいるわよね。
 私は食べたほうが健康に良いと思ってるし、お酒が抜けるのが早いと言う実感もある。
 それに、食べ放題コースなのだから食べなければ損だ。
 同調してくれるのは花陽だけなのだけど。
 ――あと、今日の飲み会の代金は亜里沙持ちです。

「ねえ、エリー。仕事紹介しましょうか?」
「なによそれ、コスプレ?」
「違うわよ! 役者としての仕事!」
「やったこと無いわよ、さすがに未経験が通用する世界じゃないでしょ」
「あなたはまた酒を飲んだときだけは賢くなるわね……」

 失礼な。
 まあ、たしかに最近この頭脳を活かしているのが主にオンラインゲームであることは否定しない。
 今日も亜里沙に出掛け、深夜まで帰ってこなかったらパソコンの電源を落とすと言われてる。
 やめて! それは私の生命線!

「いつも疑問に思うのだけど」
「なあに、真姫」
「亜里沙ちゃんって、一体何をしてるの?」
「キャリアウーマン」
「それは仕事の内容じゃないでしょう?」
「教えてくれないんだもの、とりあえず芸能関係の仕事ではないみたいだけど」
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/17(土) 03:24:34.46 ID:XEcVgPSX0
 ちなみに亜里沙は大卒3年目の社会人。
 その年齢にして妙齢のキャリアウーマンの雰囲気を漂わせている、さすがは我が妹。
 真姫は発泡酒ではないビールを飲みながら、次第にトロンとした目をしだした。
 案外彼女は酔うのが早い。恐らくあんまり食事をしないせいだと思う。

「最近の声優業界は……」

 出た。
 真姫のお得意の台詞。
 これが出てクダをまき始めると、そろそろストップを掛けないといけない。

「私もいつか成人向けゲームに出ることになるのかしら……」

 真姫は声優になって数年2年前くらいにブレイクし始めたものの、作品に恵まれない。
 ネットではコスプレ爆死声優なんていう悪口雑言もあったり、まあ、それを書き込んだやつは制裁したけど。
 
「ねえ、成人向けゲームに106本出演した声優さんがいるんだけどさ」
「は? 一年で?」
「その人処女らしいよ」
「なっ!? エリー、その情報の出自は何よ!?」

 某スピリチュアル占い師です。

「真姫ってさぁ……経験ないでしょ」
「う……ま、まあ……エリーも経験ないでしょ?」

 自爆。

「もう私のエッチなところなんて骨董品よ……デッドストックま」
「はいはいお客様ー、店内での下ネタは自重してくださいねー」

 穂乃果がやってきた。
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/17(土) 03:25:15.95 ID:XEcVgPSX0
「穂乃果はもう上がりなの?」
「まさか、不穏な言葉が聞こえてきたからストップかけに来たんだよ」
「どんな地獄耳よ……」

 真姫がぼやくように言う。
 ネット以外ではコミュ障気味(友人とは普通に喋れる)の私が常に尊敬しているのが穂乃果だ。
 私は隠れてリア充エリートと呼んでいる。いや、本当に社会人2年目に店長候補になるとか……
 ――どんなブラック企業なのか。

「ではお客様、店内でも下ネタは自重してくださいね」
「仕方ないわね、私の家に来る? エリー」
「悪いんだけど、深夜以降に帰るとパソコンの電源を落とされるのよ……」
「……仕方ないわね」

 真姫が呆れたように言う。

「でも、真姫が担当したキャラはステータスカンストしてるのよ?」
「どう育てたらそうなるのよ……というか、いくら課金してるのよ……」
「り、リズムゲーのガチャにはお金かけてないもん……」
「もんなんて言う年齢じゃないでしょ……お互い……」

 ついついμ'sのメンバーに会うと高校時代を思い出してしまう。
 四捨五入したら30になる年齢では、たしかにもんなんて使ってたら痛いか……。

「じゃあ、次に会う時は就職してなさいよ?」
「え、真姫、私に会いたくないの?」
「就職しなさいよ……」
「ギルドマスターだもん」
「リアルで就職しなさいよ……」

 アーアーキコエナーイ! 
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/17(土) 03:25:50.18 ID:XEcVgPSX0
(花陽との飲み会編)

 20歳以上になったμ'sのメンバーの中で、一番お酒を嗜むのは花陽。
 度数の強いお酒はさすがに……なんて謙遜している彼女だけど、普段飲んでいるのは日本酒。
 米から作られているからなのか、ポン酒をこよなく愛する彼女が飲み会をする場所は大衆居酒屋じゃない。
 普通のお店だとメニューが少ないから、と酔っぱらいのトロンとした目で語られたのを覚えている。

 ちなみに私は度数が強いお酒のほうが好みだ、すぐに酔いが回る気がするので。
 とは言っても、私も母親や祖母譲りのお酒の強さを持っているみたいで、なかなか酔えないんだけど。
 まあ、家ではお酒は禁止されているんだけどね、亜里沙が一切飲ませてくれないんだけどね。
 お酒と課金のどっちを選ぶか聞かれたら課金を選んじゃうでしょう……常識的に考えて……。

 それはともかく、花陽が遅い。
 比較的時間にルーズなメンバーが多いμ'sだけど(特に20を超えてから顕著)花陽は海未クラスに時間を守る。
 アルバイトが長引いてしまっているのかしら? それなら連絡もなしに遅れてしまうのも仕方がない。
 
「とりあえずガチャでも引こうかしら? あんまり暇がなくて無料ガチャも引けなかったし」

 オンラインゲームでイベントがあって、一日20時間ほど張り付いていたらあっという間に飲みの約束の日を迎えた。
 もともとそれほど睡眠を必要としない私だったけど、25を過ぎたあたりから徹夜がきつくなってきたの。
 30を過ぎても24時間張り付いている廃人の皆様に尊敬の念を抱きながら、キョロキョロと周りを見回す。
 あ、花陽がこちらに手を振りながら急いだ様子で走ってくる。

「え、え、絵里ちゃん! ごめんねぇー!」
「急がなくていいわよ花陽、転んでしまうわ」
「もう! 私も20過ぎたらドジじゃなくなったんだよ? そんなにすぐ転ば……あっ!」
「おっと!」

 こちらに向かって飛び込んできた花陽を抱きとめる。

「まったく、高校時代とまったく変わってないじゃないの」
「うう……」
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/17(土) 03:26:22.73 ID:XEcVgPSX0
 恥ずかしそうにうつむく花陽はとても可愛かった。
 基本的に男性が多いゲームの世界を過ごす中で、微妙におっさん臭くなった気がする私も
 一応女子(という年齢でもない気がする)なのだから、注意は欠かしていなかったと思うのだけど
 こうして女の子全開(以前飲んだ真姫は微妙に擦れてしまった)の花陽を見ると、
 だいじょうぶか自分の女子力は! と思わずにはいられない。
 もう四捨五入すると30になってしまう私達ではあるけど……なんというか、捨ててはいけないものがある気がする。

「ネットで花陽の紹介してもらったお店を調べたけど……その、良いのかしら、私なんかが入って」
「この前は真姫ちゃんと大衆居酒屋に入ったんだっけ、穂乃果ちゃんが働いてる」
「そうなのよ、基本μ'sのメンバーは大衆居酒屋好きが多いから」

 そう言うと、花陽は困ったような表情を浮かべた。
 何かを隠しているような、言うべきが言わざるべきか逡巡しているような態度に首をひねる。

「えと、絵里ちゃん、就職活動はうまく行ってる?」

 今度は私のほうが困った顔をする番だった。
 これでうまく行ってるなんて言おうものなら、花陽は大いに傷ついてしまう。
 もしも私が就職なんぞしてしまったら、花陽が困ると亜里沙にも言ったことがあった。
 すんごいジト目と冷徹オーラを向けられて、すかさずパソコンの前に戻ったけど。

「花陽」
「は、はい!?」
「私はニートなのではなく、あえて働かないのよ……」
「え?」
「いい、亜里沙と私は両依存する形になっているわ、亜里沙はあえて私を頼ってない風を装っているの」

 花陽が困惑の表情を浮かべる。
 私は注文した、ちょっとお高めの日本酒をぐい呑で一気に飲み、彼女に説明した。

 ――花陽の目が同情に変わった。解せない。
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/17(土) 03:26:56.32 ID:XEcVgPSX0
「私は花陽のほうが心配よ、体を壊さないんじゃないかって」

 花陽がなんとも言えない表情を浮かべる。
 嬉しいというよりも、困惑90%といったほうが近いかもしれない。
 彼女はとても優しい子だし、なんやかんやで仕事だってできるはず。
 狭き門に挑戦してしまったというのが、悪手だったのかもしれないけど、それを指摘するのは野暮だ。

「その、絵里ちゃんのことは、μ'sのみんなが心配していると思うよ……?」

 お酒を飲んでいる花陽にしては珍しく、弱気な態度でこちらに提言した。
 アルコールが入るとこちらにぐさりと刺さることを言う彼女だけど(もっとも凛ほどじゃない)
 言おうかどうするか迷った末、あえて言うことにしたと言わんばかりの態度が気になったので――

「そうかしら? うーん、自覚はあまりないけれど」
「この前会った雪穂ちゃんにも心配されてたし」
「私は高坂姉妹間の仲が心配だけど……」
「こころちゃんとかここあちゃんにも心配されてたよ?」
「あの子達も就職したのよね……せめて大学に行ってからのほうが良かったんじゃないかしら?」
「その、絵里ちゃんが優しいのはよくわかったけど……まずは自分の心配をするほうが先だと思う」

 花陽は真剣な目でこちらを見る。
 本当ならパソコンの前に逃げ出したいほどだったけど……。
 でも私はかしこいかわいいエリーチカ。
 そんなことをすれば花陽は二度と私と飲んでくれない。

「わかったわ」
「絵里ちゃん……!」
「花陽が就職したら、私も就職活動する」
「その発言、凛ちゃんの前で言ったらダメだよ? たぶん、本当、殴ってくると思うから」
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/17(土) 11:04:46.60 ID:EEV7HuDwO
立て乙
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/17(土) 11:54:21.67 ID:hwOwkCGHO
真面目な子が堕落してる姿ってそそるよな
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/17(土) 21:27:16.24 ID:V3SWbeYWO
軽く婚活すれば結婚余裕そう
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/17(土) 22:32:08.53 ID:UN1Zvt1Ko
俺が養います
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/17(土) 23:03:32.60 ID:FwUT494D0
「巴マミの平凡な日常」のマミを更にひどくした感じかな
あっちは一応、派遣社員だけど働いているし、家ではジャージ姿だけどオンラインゲームで妹のすねかじっている人よりだいぶマシ

……あれ?泣けて来たわ……( ;∀;)
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/18(日) 00:14:13.89 ID:BanRpsK5O
やっぱエオルゼアなのかな、中の人的に
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/18(日) 01:47:03.65 ID:3q5gIlsj0
(凛との飲み会編)

 今度飲み会を開くので来てくださいと、凛からメールが届いたのは数日前のこと。
 サシで飲むと、ズバズバ心がえぐられてしまうので(あと、深夜に及ぶとパソコンの電源が落とされる)
 あまり長い時間は飲めないと断っておく、そうしたら――

【存分にお腹を空かせてから来てください】

 冷や汗が流れ落ちた。
 凛は最近料理にハマって、花陽を随分と泣かせているらしい。
 それは美味しい手料理を食べさせて感動させたのか、エビチリを超えた何かを作り上げたのか。
 
 凛はすっかり有名人になってしまったので、基本飲み屋では顔を出せない。
 だから必然的に宅飲みになる可能性が高いんだけど、お腹を空かせてくださいというのは初めて。
 後輩が作る美味しい手料理でもてなされ、自分は優雅にお酒を飲む。
 ――アレ? それって、家での日常と変わらなくないですか? もっとも肴を作るのは自分だけど。

 家でのことと言えば、以前オンラインゲームをしていて寝落ちをしたことがあった。
 1週間連続今月10度目の徹夜で体力が保たなかったせい、気がつくと水をなみなみに注いだバケツを持った亜里沙がいて

「今度徹夜して寝落ちしたら、これを掛けて起こします」

 と宣言された、私は肝を冷やした。
 そうなれば自作パソコン(40万円・亜里沙持ち)は完全に破壊され、生きがいを失う。
 このパソコンはμ'sで作った、私達の卒業後唯一の作品。
 みんなの写真が色んな所に貼り付けられた痛パソコンでもある。
 海未の写真を指差し、

「海未も手伝ったのよ! 亜里沙の憧れの!」
「知ってます、私も雪穂も手伝いましたから」
「だったら尚更このパソコンの価値は分かるはず、好事家が見れば100万はくだらないわ!」
「姉さんには重すぎますね?」

 ぐうの音も出なかった。
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/18(日) 02:11:10.72 ID:3q5gIlsj0
 閑話休題。

 凛から指定された住所にたどり着くと、彼女がまだ駆け出しだった頃に住んでた安アパートとはまるで違ってた。
 オートロック付きのタワーマンションで出口には監視カメラもついている。
 私なんかが入り込めば、ニートめ! 通報してやる! と宣言されてしまいそうな場違いにも見える場所。

 ハラショー……さすがに売れっ子タレントはレベルが違う。
 東京の一等地にこれだけの高いマンション、さぞ家賃もお高いんだろう。
 私達姉妹が住んでいる場所は8万円くらいだったから、二倍……三倍……下手したら一〇倍?
 一人悶々とお金の計算をしていると、背中越しに声をかけられた。

「絵里ちゃん!」
「凛!」
「いやあ、絵里ちゃんは高校時代と変わらないにゃあ……苦労してないから」
「え、凛、もう酔ってる?」
「素面だよ!」

 苦労していないとは失礼な、いつもオンラインゲームのギルド長として人間関係で苦労しているわよ。
 凛と一緒に高層階までエレベーターで登り、時折会話をしながら、最近の芸能事情を聞いていた。
 最近はスクールアイドル上がりのタレントが増えて、戦国時代を迎えているとか。
 その時勢を理解していない大物(笑)とかに説教をされる番組なんかも増えたみたいで、なんというか。
 凛も苦労しているんだなあと痛感した。

「でも随分ぶっちゃけるわねえ、そんな会話して平気なの?」
「ここは、芸能人御用達だから平気だよ」
「……私は随分場違いな場所に来てしまったみたいね」
「ニートなんてどこでも場違いにゃ」

 ぐうの音も(ry
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/18(日) 02:32:04.70 ID:+y6v+r6FO
鬼畜凛ちゃん好きw
絵里ちゃんのギルド入りてぇ
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/18(日) 02:39:43.16 ID:3q5gIlsj0
 凛の部屋にたどり着くと、もうすでに先客がお酒を酌み交わしていた。
 その様子から察するに、凛はまだ手料理は作っていないみたい、テーブルに載せられた料理は順調に減ってる。
 しかしどの女の子も可愛い、そして若い、お酒を飲んでいることから察すると二〇以上なのは間違いないけど。
 
「じゃあ、主役は座ってて、凛、料理作ってくるから」
「主役て、周りが芸能人みたいに可愛い子ばかりで、どう過ごせと?」
「だいじょうぶだいじょうぶ、今日来たメンバーはみんなμ'sのファンだから」

 それは違う意味でだいじょうぶではない気がする。

「芸能人が嫌ならアスリートもいるよ、ほら、一番端に座ってるあの子」
「端に?」
「高飛び込みの選手で、オリンピック候補の渡辺曜ちゃん」

 何処かで見た顔だなというのと、名前を言われてはっと気づいた。
 彼女は確か、スクールアイドルAqoursのメンバー。
 凛は仕事でμ'sの再来と呼ばれた彼女たちにインタビューに行ったはずだ。
 その際に私とにこも同行して、練習風景を見たことがある。
 
「へえ……掛け持ちしているって言ってたけど、オリンピックに出るほどの選手なのね」
「その隣りにいるのは鹿角姉妹のお姉さんの方で、散らばっているのはあり……」
 
 あり?

「な、なんでもない、とにかくアイドルとかタレントさん、コミュニケーション能力があるから大丈夫だよ」
「料理をつくるなら私も手伝うわよ」
「残念ながら、ロシアの血が入っていると、凛の家の台所には立てない呪いがかけられてるんだよ」
「呪いなんて、そんな非現実的なものあるわけないじゃない」
「希ちゃんがかけたから、たぶん、本当だよ」

 希はちなみに現代に蘇った安倍晴明とも密かに呼ばれている。
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/18(日) 03:00:01.18 ID:3q5gIlsj0
 凛と別れた私は、できるだけ目立たないように部屋の端っこに腰を下ろす。
 どうやら気づかれた様子はなく、私は安堵しながらスマホを覗き始めた。
 しかし――

「あの、絢瀬絵里さんですよね……?」
「人違いです」
「ひ、人違いでしたか……」

 女の子はおずおずと引き下がる。
 にこみたいなツインテールをしたとても可愛い女の子だ。
 気弱そうで、実際おどおどとした態度をしながら、こちらを伺っている。
 ちょっとかわいそうなことをした、きっと彼女なら絢瀬絵里と告げてもひどい騒ぎにはならない。

「ごめんなさい、嘘です」
「やっぱり、絢瀬絵里さんですよね! お姉ちゃんが大ファンなんです!」
「そ、そうなの……私のファンなんていたのね……」

 そりゃあ高校時代には出待ちだって、モデルのスカウトだってされたこともあるけれど。

「そんな! μ'sのメンバーの中でも絵里さんは人気が高いです!」
「ほ、褒められるのは嬉しいけれど、ほら、もう、落ちぶれてしまっているし……」
「今はただ本気を出していないだけなんですよね……?」
 
 純真そうな瞳でこちらを射抜いてくる、お姉さんがファンだという少女。
 正直やりづらくてしょうがない、以前までの亜里沙を思い出すものだから。

「絵里さんは今でもY字開脚とか、一八〇度開脚とか、できるんですか?」
「で、できるけど」
「すごい! 私の高校時代にやってもらって、すごく憧れたんです。自分はほら、身体が硬かったので……」

 す、すごいかしら……?
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/18(日) 03:15:40.01 ID:3q5gIlsj0
「柔軟はほら、毎日の積み重ねだから」
「ですよね! 毎日ちゃんと努力をなさっているんですよね!」

 その努力は主にオンラインゲームで長時間の同じ姿勢に耐えるためなんだけど。
 白状してしまえば、彼女の尊敬の視線が一気に落胆に変わってしまう。
 そんなこんなで、黒澤ルビィちゃん(芸名・Ruby)は私に特に絡んできた、すると――

「ルビィ、その人に近づいてはダメよ、その人はすっかりダメ人間なんだから」
「り、理亞ちゃん……!」
「はじめまして、鹿角理亞です。どうぞよろしく、ダメ人間さん?」

 おお……真正面からの敵意は久しぶり……。
 これが凛の誘いを迂闊にも受けてしまった報いなんだろうか……。

「μ'sが、スクールアイドルの番組で紹介されない理由を知ってますか?」
「それは、テレビに出るのが嫌いな、ことりや海未がいるから」
「違います、有名デザイナーになった南ことりや、自営業を営む園田海未が理由ではありません」
「随分と詳しいのね?」
「本来なら、テレビ番組のプロデューサーも伝説のスクールアイドルグループμ'sのその後を追いたい……」

 これは噂で聞いた話だけど、μ'sのその後というのはタブーに近い存在だって。
 以前オンラインゲームをしていた時に、その話で盛り上がったことがあるからよく覚えている。

「あなたのせいです、絢瀬絵里」
「私の?」
「あなたがもしもニートでなければ、μ'sは今でも伝説として語り継がれたことでしょう」
「……そう、それは良かったわ」
「負け惜しみですか」
「違うわね、μ'sは何も伝説として称されるほどのグループじゃない、ただ個人が願いを持って生まれただけのグループ
 別に神格化される必要も、伝説となって語り継がれる必要もない、A-RISEとは違うのよ」
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/18(日) 03:20:22.54 ID:Woucq6o90
立派なこと言ってるな
だがニートだ!
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/18(日) 03:26:50.75 ID:3q5gIlsj0
「さすが絵里ちゃん、賢いにゃ」
「遅いわよ凛」
「ちょっとドライカレースープを作ってたものだから」

 何その壮絶にミスマッチそうなスープは。

「理亞ちゃんも主賓に逆らっちゃダメにゃ」
「ご、ごめんなさい」
「それがたとえダメニートのダメ人間だったとしても最低限の誇りはあるにゃ」

 毒凛語炸裂。

「オンライン上でしか存在を必要とされない、妹の脛かじりでも、両親から見放されても」
「ちょっと待って」
「働く気もない、就職意欲もない、飲み会にばっか行ってても、絵里ちゃんはすごいんだよ?」

 待って待って! 凄さをまったく感じさせないから!
 仮にその言葉の後にフォローが入ったとしても彼女たち納得してくれないから!

「ちょっとこのスープ飲んでみて」
「え? 飲めばいいの?」
「うん、凛特製のスープだから」
「……辛い! 燃えるような辛さよ!?」

 喉がやられる。

「すごい……」

 と、ここで理亞ちゃんとルビィちゃんがこちらを見て尊敬の念を抱いたような視線を向ける。

「「凛さんの手料理食べてる……」」

 その後、誰も手を付けようとしない凛の料理を一人で処理することになった。
 アイドルやタレントの子たちから尊敬の視線で見られるようになった。
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/18(日) 03:28:10.48 ID:3q5gIlsj0
では次は矢澤姉妹編

風呂に入って、構想して四時頃スタートして、今日はバイトがあるので途中ぶつ切りになるかもしれません
ご了承ください。
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/18(日) 03:36:36.10 ID:Woucq6o90
続き待ってる!バイト頑張って
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/18(日) 04:08:58.59 ID:3q5gIlsj0
(矢澤姉妹との飲み会編)

 UTXの芸能科では、平日は午後にレッスンがはじまる。
 授業はどうするのかと伺ったところ、勉強面では期待されていないとのこと。
 その中で学力テストでもトップを勝ち取っていた綺羅ツバサ何ていうのは、化物だったのだ。
 土日は一日中レッスンが続き、講師も生徒もヘトヘトになるそうで――

 なので、にこはお酒の付き合いがあまり良くない。
 μ'sで飲むってことになれば参加はするけど、後日に響かないように調整している。
 ただ、私たちはお酒に弱いメンバー(筆頭が真姫)がいるので、その世話をしなければいけない。
 後日に疲れを残すか、酒を残すかで随分と逡巡していたのを覚えている。 

 そんなにこから、お酒でも飲みましょうというメールが届いた。
 なんでも、最初は真姫を誘ったそうだが、急な仕事が入りオジャンになったらしい。
 他のメンバーは随分と忙しいそうだものね、なんて、忙しい筆頭株が言うのだから笑えない。
 こういうときのために私はあえて働かないの、と亜里沙に言ったら凍えるような視線で見られた。

「ええと、にこはたしか引っ越したのよね」

 何をしているのか定かではない亜里沙とは違い、にこのお母さんはバリバリのキャリアウーマン。
 年齢を積み重ねてきたのと、娘達が働くようになったことによって仕事量も減り、家に帰れる日も増えたとか。
 ただねえ……仕事が好きっていうのがあまり理解できないのよねえ……そのせいで、何日も家を開けることもあるらしいし。
 私なんぞが家を開けようものなら、パソコンは内々に処理され、部屋に乱雑においてある書籍類も掃除されるに違いない。

「都内一等地……なんだか先日そんな場所に立っていたような……」

 しかも、凛が住んでいる場所と同じようなタワーマンション。
 つくづくお金持ちは高い所に住みたがるな、と思わずにはいられない。
 ちなみに私の家も高層階である、もちろん家賃はお安いけど。
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/18(日) 04:22:59.54 ID:3q5gIlsj0
 出迎えてきてくれたのは、にこの妹のこころちゃんだった。
 以前に見た時は、まだ中学生くらいだったから五年ぶりになる。
 ただ気になるのは、当時はノーメイクだった彼女だけど、今は微妙に濃くて露出度が高い。
 胸なんて先日知り合いになった鹿角聖良ちゃんと同じくらいはあるだろうか?
 ――にこはきっと、複雑な思いを抱いているわね。

「絵里お姉さま! 今日はようこそいらっしゃいました!」

 こころちゃんは私に距離を近づけて、その豊満な胸を押し付けるようにし腕を取る。
 ずいぶんと好感度が高いみたいだけど、私は何かをやったかしら……?

「ああ、ごめんなさい、いつもの癖で……」
「癖?」
「は、はい、職場での癖で」

 それはもしかしていかがわしい職場なのでは? と思ったけど、口には出さない。
 もしそうだった時が恐ろしすぎる。
 でもまさか、あのいい子一直線だったこころちゃんが、そんな職場では働かないでしょう。
 ここあちゃんだったらわからないけど……反抗期一直線で以前来た時に私をババアと呼んだ彼女なら……

「ご、ご安心ください! お客も従業員も女性です!」
「そ、そうなの……それは安心ね」
「は、はい! お客様は優しい方ばかりで、未成年だった時にお酒を勧められたことはありません!」
「こ、高級そうなお店ね?」
「はい、銀座にあります!」

 どういうコネで就職に至ったのかはわからないけど、とりあえず幸せに過ごしているようでよかった。
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/18(日) 04:36:41.99 ID:3q5gIlsj0
 それはともかく。

「にこはいないのね?」
「お姉さまは今食材とお酒を買いに行っています」
「そうなの……あら、このポスター」

 にこの家にはあらゆる場所にポスターが貼ってある。
 その横には数字が書かれた紙があり、上矢印とか、下矢印とかが書いてある。

「ああ、それはお姉さまが面倒を見ているグループのポスターです」
「へえ……この数字は?」
「UTXの学内ランキングとか、スクールアイドル公式サイトの順位とかですね」

 こう言っては失礼かもしれないが、身体は小さいけど面倒見のよさと器の大きさがあるにこ。
 結構小学校とかの教師に向いているのかなーなんて思ったことがあった。
 それが超有名校のUTXで講師を務めることになろうとは……回り道も人間するものなのね。

「では、絵里お姉さま、お姉さまが来るまで私がお相手しますね」
「お、お手柔らかに……」
「安心してください! 今日はお代金はいただきません、ノルマもありませんし」
「え、ええ、なんでもにこがお酒代も出すとか、お財布は持ってきたけど……」
「さささ、まずは一杯、お注ぎしますね?」

 そう言っている間でも、こころちゃんは私に体を寄せる。
 おかしい、女性だけを相手にしているならここまでのボディータッチは必要なんだろうか?

「ん、いい匂い、本当注ぎ方が上手ね」
「お褒めいただけて光栄です」
「甘い口当たり……これ、飲んだこと無いかも」
「ドンペリです」

 ――え?

「嘘です、これはシャンパンですよ、通販で取り寄せた一級品です」

 お、お姉さん、ちょっと肝が冷えちゃったなあ……
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/18(日) 04:54:05.39 ID:3q5gIlsj0
 美味しいお酒と、適度なおつまみを齧りながら、他愛もない会話をしているとにこが戻ってきた。
 両手にたくさんのビニール袋を持っていたので、慌てて立ち上がり、片付けを手伝う。

「エリー、案外気が利くところもあるのね」
「べ、別にこれくらい大したことじゃないわよ」
「ニートだって聞いていたから、何にもできないやつになったんじゃないかと思って」
「いやねえ、流石に手伝いくらいはできるわよ、料理もしているし」
「料理といえば、凛が料理を教えてくれって言ってきたわね、お互い忙しいから、なかなか都合がつかないけど」

 会話に花が咲き始める。
 お酒が入ればきっと仕事の愚痴とかしか聞くことはないだろうと見込んでいたから。
 
「ところでエリー」
「どうしたの?」
「働くつもりはないの?」
「難しい相談ね」

 私は眉をひそめる。
 働くことになったら、今やっているゲームはどれも中途半端になってしまう。
 当然交流はなくなってしまうだろうし、ギルドマスターもやめることになる。
 朝早い職場になればわからないけど、夜遅くとか働けば亜里沙にお弁当も作ってあげられない。

「いや、働くのはそう難しいことではないわよ」
「それはまあ、そうかもしれないけど」
「賢いエリーなら分かるでしょ、結婚する気もない、彼氏だっていたことがない、しかも働くつもりもない人の末路が」

 彼氏がいたことがないのはにこも同じでしょうに。

「確かに、いま亜里沙に捨てられたら野垂れ死ぬわね」
「私は嫌よ、エリーの別れがそんなのなんて」
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/18(日) 05:06:14.60 ID:3q5gIlsj0
「……じゃあ、にこは私がどんな職業についたら良いと思う?」
「そうね、働くことのブランクも長いけど、体力はありそうだから営業とか?」
「免許も持ってない人間には辛いんじゃない?」
「そうかしら? コミュ力おばけの穂乃果あたりとは違うけど、エリーは賢いから営業向いていると思うけど」

 と、就職についての話に盛り上がっていると、こころちゃんが割り込んできた。

「絵里お姉さまなら、スクールアイドルの講師も向いているのでは?」
「もう何年も踊ってないわよ」
「そうよこころ、それに私みたいなコネがアレばいいけど、未体験で就職できる職業じゃないわ」
「コネならばあるではありませんか」

 と言って、こころちゃんはにこを見る。
 その視線の意味に気づいたのか、にこは頭を抱えた。

「まだペーペーの講師にコネなんて無いわよ……」
「ムネもないけど、痛っ!?」
「ぶん殴るわよ」
「殴ってから言わないの」

 そう言っている間にも料理はどんどん完成されてく、
 思わず涎が出てきそうな料理から、カロリー控えめの健康的な料理まで。
 出来たものをテーブルにまで運び、こころちゃんが全員のコップにお酒を注いだ。

「次はエリーの就職祝いね」
「え、もうにこの料理味わえないの?」
「働きなさいって、いいもんよ、働くっていうのは」
「それにはお姉様と同意です」
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/18(日) 05:18:40.35 ID:3q5gIlsj0
「働くということは、動くことです。人生において停滞した者は必ず不幸になります」
「不幸かあ」
「別に、体を壊すほど働けとは言いません、ニート生活が長くなると、自然と動くことに恐怖を感じるようになります」

 こころちゃんは私を見ながら、お酒を少し飲み。

「恐怖は、人の心を壊します。壊れてからでは遅いのです」
「こころちゃん?」
「あ、ごめんなさい、せっかくの酒席に」
「ねえ、エリー? あなた好きなこととかってないの?」

 にこに唐突に問われる。
 私の好きなこと……そう考えてみると、義務的に過ごしてはいたけど、好きだからやるってことが少ない。
 オンラインゲームだって、スマホゲームだって、それに数少ない趣味の読書だって、
 そうしていないと悪い考えに取り憑かれてしまうから行っているにすぎない。

「ない、わね」
「そう、だったら。まずは好きなことを見つけることから始めましょうか」
「それは賛成です。些細な事でかまわないんですよ、絵里お姉さま」
「そ、そうね……」

 考えがあまりまとまらない。
 私は恐怖を覚えて、お酒をぐいっと飲み、料理に手を伸ばす。

「美味しいものや面白いものは好きかもしれないわね」
「なら、その線で行きましょうか、亜里沙ちゃんには私が連絡をとっておくわ」
「にこって、亜里沙と親しかったっけ?」
「社会人になってからね、色々とあるのよ」
 
 どこか遠いところを眺めながらにこが言う。
 珍しく、亜里沙がどんな場所で働いているのかが気になった。
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/18(日) 05:19:26.89 ID:3q5gIlsj0
では次回は(お題 赤点ばかりを取ってしまった穂乃果が親にどうやって隠すかの話)
を姉妹スレの方で更新できれば。
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/18(日) 06:11:19.28 ID:Woucq6o90
絵里ちゃんがこの先どうなるか気になるわ〜
むこうのスレも応援してるおつおつ
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/18(日) 10:25:37.54 ID:XXWHT6JEO
ダイヤさんいなくて良かった?な
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/18(日) 11:59:16.71 ID:cbG5y72SO
やけに宗教的な水商売ですね
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/19(月) 18:11:29.62 ID:Rl1FIj1M0
(A-RISEとの飲み会編)

 私がマスターをしているギルド、エゴスティックエリーは最初は四人のメンバーしかいなかった。
 必殺の聖騎士絢瀬絵里、暗黒の魔女吉沢美春、漆黒のスナイパー西条真琴、戦場の天使綺羅ツバサ。
 残っているのはツバサと私の二人だけど、美春や真琴とは今も年賀状のやり取りをしている。
 エゴエリは今や二〇人を超える大所帯で、専門誌でも味方に出来ればこれほど頼りになるプレイヤーはいないとされている。
 
TSUBASA:そういえばエリー
エリー:なあに?
TSUBASA:今度、飲みに行かない? 四人で
エリー:四人? 美春と真琴?
TSUBASA:違う違う、英玲奈とあんじゅよ
エリー:高校卒業してから会ってないメンツばかりだけど……
TSUBASA:安心して、私もA-RISEが解散してから会ってないから!

 どういう経緯でA-RISEが再集合し、しかも私なんかと飲むようになったのかはわからない。
 ただ、現在亜里沙はμ'sよりもA-RISEに夢中なようで、食事が一緒になるとA-RISEの話ばかりをする。
 やれ、素晴らしい曲ばかりだの、CDが100万売れただの。
 優木あんじゅの結婚によって解散した彼女たちだけど、未だに再結成が望まれており、よもやそのリーダーが
 オンラインゲーム上で伝説と呼ばれているギルドメンバーだということは、あまり知られていない(亜里沙も知らなかった)

「姉さん? 今月五回目の飲み会だね?」
「……そ、そうね! でも、ほら、たまには外に出ないと!」
「誰と飲みに行くの、まさか男の人じゃないよね?」
「あ、A-RISE……」
「A-RISE? A-RISEさん?」
「ち、違うわよ! 高校時代にラブライブ出場を争った、あのA-RISE!」
「……姉さん、妄想は大概にしてよ」
「妄想じゃないってば!?」

 ツバサと同じオンラインゲームをしていると告げると、亜里沙はハラショーとつぶやいた(5年ぶりに聞いた)
 亜里沙は私に10枚分の式紙を渡してきて、それぞれにサインをして欲しいと頼んできた。
 なお、私の上限課金金額も2000円増え、お小遣いも渡された、よっぽど嬉しかったらしい。
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/19(月) 19:01:50.81 ID:Rl1FIj1M0
 吉祥寺まで足を伸ばす。
 お小遣いも渡されお財布がホクホクだったので、遠出がしたいと駄々をこねたら吉祥寺に集合ということになった。
 ツバサが言うには、美味しい飲み屋街があるらしい、その名もハーモニカ横丁。
 狭い路地に沢山の店が軒を連ねており、英玲奈はこの場所が大のお気に入りとのこと。

 今日は朝まで飲んでも文句の一つも言われない、パソコンの電源も切られない、さすがA-RISE。
 そしてなんと、はしご酒をしても良いとの許可ももらった。
 一つの大衆居酒屋の飲み放題でちびちびと酒を飲むなんてことは、今日はありえない。
 いやまあ、そういうのも嫌いじゃないんだけどね、ちびちび飲んでると大抵就職しないのって聞かれるから……。

「おや、絢瀬絵里じゃないか。早いな」
「英玲奈」
「ここに来るのが楽しみすぎて早く到着したと思ったが……」
「頼みたいことがあったからね」

 そう言いながら、かばんの中から式紙を10枚取り出す。

「まさか無礼講の飲み会でサインを書かせる気か?」
「さすがに妹のヒモのエリーとしては、願いは叶えたくて……」
「ほう、金に困ったからオークションにでも出品するのかと思った」
「……その手があったわね」
「ここで解散するぞ」

 ブツクサと文句は言いつつも、サインをすらスラスラと書いてくれる英玲奈。
 さすがは元大人気アイドルのA-RISE、サインを書くのも手慣れている。
 ありえないけど、サインくださいと言われたらどう書いて良いものかわからないエリーがここにいる。

「一応ネットで調べたけど、いい店がいっぱいあるみたいね」
「もちろんだ。正直な話、絵里が遠出がしたいと言ってくれてよかった、ここに連れてきたかったんだ」
「仲間思いないい子なこって」
「からかうんじゃない」
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/19(月) 19:21:12.67 ID:Rl1FIj1M0
 英玲奈と会話をしていると、のんびりといった様子であんじゅがやって来た。
 
「エリー、早いのね。英玲奈は来てると思ったけど」
「頼みたいことがあるんだとさ」
 
 と言って式紙をぷらぷらと見せる英玲奈。

「2年近く書いてないから、出来は期待しないでよ?」

 なんて言いつつも、サラサラと流れるようにサインを書いていくあんじゅ。

「これでツバサを待つばかりか」
「アイドルだった時は忙しくて、お酒を飲む暇もなかったわねえ……」
「そうだったの? 当時からツバサはネトゲ廃人だったけど」
「趣味と仕事に関しては化物よ、あの子は」

 呆れ半分、尊敬半分といった感じであんじゅが言う。
 私が今やってるゲームにハマり始めたのは、大学在学中。
 卒業と同時に大人気アイドルグループとなったツバサは、高校時代からプレイしていたらしい。
 最初に彼女と会った時、実は偶然だった。
 ゲームにハマりはじめて3日連続不眠で頑張っていた頃、私の周りに敵はいなかった。
 始めた時にたまたま強キャラと強武器に恵まれ、敵を蹂躙していた私に対し、ギルドに誘ってきたのがツバサ。
 当時の彼女のギルドと言えば、そういうのに疎い私でも知ってるほど有名で、人気だった。

 そんなギルドから誘われたのが嬉しくて、更に私は研鑽に励んでいた。
 しかしながら、唐突に当時のNo.2が新しいギルドを作ると宣言し、脱退。
 それに引きづられるようにしてどんどんと仲間が解散していき、最終的に残ったのが4人。
 エゴスティックエリーのメンバーたちである。

 今となって考えてみれば、単なる仲間割れだったのかもしれないけど――
 凹んだツバサがオフ会を開くって言って会ってはじめて知り合いだったことに気づいた。
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/19(月) 19:33:20.46 ID:Rl1FIj1M0
「お、ツバサがやって来たぞ」

 昔のことに思いを馳せていると、駅前の方からスタスタとこちらに向かって歩いてくるツバサが見えた。
 しかし、顔が赤い。

「風邪でも引いているのかしら?」
「違うわ、あれは一杯引っ掛けてきたのよ」
「一杯で済んだかは怪しいがな」

 ちなみに待ち合わせ時間は17時。
 その前からお酒を引っ掛けてくるなんてツバサは大人だなあ(棒読み)

「全員揃っているのね、なんとなく絵里は遅れてくるもんだと思ってたわ」
「そ、そこまでダメ人間じゃないわよ!」
「随分年下の子に就職するように迫られたそうじゃない?」
「そ、それを英玲奈とあんじゅの前で言っちゃダメよ!」

 ちなみにだけど、私が妹の脛かじりをしていることは二人は知っている。
 できるだけ隠していたかったんだけどツバサが全部喋ってしまった。
 なんでも、隠しておくような話題ではないからということで。

「絵里は本当にヒモなのか?」
「恥ずかしながら」
「本当に恥ずかしいと思ってる?」
「恥ずかしながら」
「この場の会話を恥ずかしながらで済ませようと思ってない?」
「恥ずかしながら」

 この会話、ツバサは大ウケした。
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/19(月) 19:44:56.04 ID:Rl1FIj1M0
 まずは一番最初ということで、立ち飲みの店に行くことにした。
 早速えらい勢いで注文をし始める英玲奈に、太るわよと進言するあんじゅ、ツバサはスマホゲー。
 届いたお酒で乾杯をしてから、雑談を始めた。

「いや、そうね。もし仮に妊娠なんてしたら、こうして飲み会なんて行けないじゃない?」

 結婚してアイドルを引退、専業主婦になったあんじゅはビールを飲みながら言った。
 私や真姫あたりとは縁遠い話題だけど、男性人気もあった英玲奈はウンウンと頷きながら

「そうだな、母親になって、子どもも小さいということになれば出かけるのもままならないだろう」
「出かけられないのは良いんだけど、お酒が飲めないのはねえ……だから、今のうちにしたいことはしようと思って」
「子供かあ、縁遠いわね絵里」
「経験のないツバサには縁遠いわね」
「お互い様じゃない」

 互いに自分が経験がないことを暴露していくスタイル。

「お前たち……未だに処女だったのか……?」
「高校時代はみんな処女だったじゃない!」
「μ'sもそうよ」
「あれー? アイドルと言えば男性人気が高くてよりどりみどりなイメージがするわー?」

 真姫はあまりに処女をこじらせて、15歳なのに彼氏いない歴17年と言ってしまったことがあるけど……
 まさか、25になっても恋人の一人すら出来ないとは予想もしていなかったに違いない。
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/19(月) 20:01:45.10 ID:Rl1FIj1M0
 私を含めてだけど、A-RISEの3人はお酒が強かった。
 3軒目に突入するというのに千鳥足になることもない。
 英玲奈おすすめの店の料理はどれも美味しくて、いくらでも食べられる気がする。
 中でもツバサは大食い選手権にでも出られそうな勢いでひたすら食べてた。

「でも、ツバサが会ってくれて良かったわ、正直円満解散ではなかったしね」
「ツバサはやっとネトゲに夢中になれるって喜んでたがな」
「……ツバサ、今働いてるの?」
「あんじゅ、お酒がまずくなるわ」
「まさかとは思うけど、エリーもツバサもヒキニート?」

 ちなみにだけど、ツバサはさり気なく働いている。
 私みたいに完璧なニートとは違って、彼女はゲーム雑誌のライターとしてデビューした。
 ただ、英玲奈もあんじゅもゲームはみんな同じに見えるっていうくらい疎いから、
 ツバサが案外苦労していると言っても、あんまり信じてもらえないかもしれない。

「失礼な、ヒキニートなのは絵里だけよ」
「引きこもってないし」
「飲み会くらいでしか外出てないんでしょ?」
「買い物では外出てるわよ」
「ツバサはUTXの仕事を断ったらしいな、もう、アイドルは嫌なのか?」

 英玲奈はにこと同じ、UTXの講師としての仕事を持っている。
 その仕事も忙しいはずなのに、時折テレビにタレントとしても出ているのだから頭が下がる。
 ツバサはぐいっと酒を一気飲みして、

「嫌になるわけないじゃない、ただね」
「ただ?」
「……ごめんなさい、なんでもないわ」

 ツバサは遠い目をしながら、お酒の注文をした。
 後日、この時何を言おうとしたのか訪ねたところ。

 ――私は、一生三人で歌って踊っていたかったのよ。
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/19(月) 20:14:02.17 ID:Rl1FIj1M0
 飲み会は六軒目に突入しても勢いが増すばかりだった。
 深夜になるに連れてテンションも上がっていく、あんじゅと英玲奈。
 今ははじめて彼氏ができた時ののろけ話で盛り上がっている。

「そ、そんなに経験がないのって恥ずかしいかしら?」
「20超えたらそうかもしれないわね……」
「男性の中では素人童貞という言葉があるそうじゃない、だったら女性でも、素人処女って」
「それは処女なのかしらね……?」 

 ツバサと私は、次第に度数の強い酒を飲みはじめて現実逃避しだした。

「絵里」
「なあに?」
「私はライターだけど、結構面白い職業だと思ってるわ」
「あなた英語できるんだから、翻訳でもなんでもできたんじゃない?」
「ロシア語も案外需要があるものよ?」
「残念ながらロシア文学はそれほど日本受けしないのよ……」

 日本酒をちびちびと飲みながら、お刺身を食べる。
 もっと幼かった頃には、油が多いものを食べていたけど……。
 最近はすっかり、マグロと日本酒だ。
 真姫お気に入りの、穂乃果の店には刺し身はないんだけど。

「ほら、なろうってあるじゃない?」
「小説家になろうだっけ、やたらめったら書籍化しているところよね」
「あそこにμ'sの話とか書いたら受けると思うんだけどなあ……」
「受けるかしらね? チートとか異世界転生とか魔王とか出てこないわよ?」
「A-RISEを魔王にしてしまえばいいじゃない」
「流石に気がひけるわ」
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/19(月) 20:24:06.65 ID:Rl1FIj1M0
 10軒目の会場はカラオケボックスだった。
 ここで朝まで歌う! お酒を飲みながら! と宣言したツバサは作曲一曲目から自分の歌を歌う。

「英玲奈は歌わないの?」
「カラオケのマイクを握ると人格が替わるんだ」
「そうなのよ、本当マイクを離さなくて……困ったものよね」

 そんな会話をしながらも、3人は仲良く歌を歌っている。
 案外私はアウェーだ。
 ただ、この時間をもし亜里沙が過ごしていたら、感涙してハラショーって言ってばかりなんだろうなって思った。

「ほら、絵里も歌いなさい! 襟裳岬よ!」
「せめてμ'sの曲にしてよ……」

 流れ出る森進一の映像にコロッケの歌を思い出しながら、4人で笑う。
 ちなみに誰ひとりとして歌える人はいなかった、なぜ入れたツバサ。

「しかしいつも思うんだけど」
「なあに?」
「歌手には一銭も入らないのよね、カラオケって」
「……ツバサ、世知辛いわ」



 帰りがけ、就職したら会いましょうと念押しされ、若干引きつった顔で応じるしかなかった私は、とあるサイトを開いた。
 
「――物書きか」
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/19(月) 20:24:57.10 ID:Rl1FIj1M0
 次回は(南ことりとの飲み会編)か(園田海未との飲み会編)
 でお会い出来れば。
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/19(月) 21:35:02.49 ID:wW1GhObkO
A-RISE編内容濃くてよかった…
あんじゅの結婚で解散ってのが妙にリアルだ
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/19(月) 21:48:52.18 ID:Ci5FwXeSO
ツバサの分だけサインもらい忘れてそう
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/19(月) 21:56:50.14 ID:TSYvyB2Co
西条ってまさかむこうのスレのマッキーファンクラブ第2号?世間は狭いもんだ
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/20(火) 12:02:40.69 ID:PxQ08lJIO
向こうのスレって何?
他にも書いてるの?
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/21(水) 01:22:07.19 ID:yVxP1eLtO
>>1の姉妹スレってやつ
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/21(水) 17:47:03.17 ID:i+CBUhoMO
海未ちゃんには厳しいこと言われてそう
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/21(水) 20:51:37.54 ID:EbH6t7MA0
(園田海未との飲み会編)

 私も後から知った話ではあるんだけど、"うみえり”と言うのは、
 ”ほのうみ”"ことほの”にこまき"”りんぱな"に並ぶ一大カップリングの一つらしい。
 そもそも女の子同士なのにカップリングとは何なのかと訪ねた所、真姫はどこか遠いところを見ながら
 
「エリー、世の中には、女の子が二人いればレズだと思う人種がいるのよ……」

 なんてことを思い出したのはどうしてかというと、海未に唐突に飲みませんかとの内容のメールが届いたからだ。
 μ'sのメンバーの中では、海未とはちょっとだけ疎遠になっていたから、その誘いに快く応じる。
 もっとも――

「姉さん、今月6回目の飲み会ですが、ご感想は?」
「は、ハラショー……」
「ごまかさないでください! 自宅でお酒を飲みましたよね? 飲んだらダメだと言いましたよね?」
「は、恥ずかしながら……」
 
 ドン! 亜里沙はテーブルに拳を叩きつける。
 以前、A-RISEと飲んだ時にサインを持ち帰ったときには、
 満面の笑みで「おねえちゃん♪」といってくれた亜里沙だったけど(一人で飲んでたらしい)
 今や鬼の形相でこちらを見ながら、お財布に手を突っ込んでいる。

「凛さんに聞きました」
「な、なんでしょう」
「理亞ち……いえ、アイドルの一人に酒席で絡まれたそうですね」
「論破してあげたわ!」

52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/21(水) 20:52:20.86 ID:EbH6t7MA0
 ドン!(二回目
 
「口ばっかり達者になって、お姉ちゃんほんとうに寂しい!」
「ちょっと待って!」
「言い訳無用!」
「はい」

 立場的には亜里沙が姉でもまったく問題がないあたりが泣ける。
 もっとも就活をするつもりは一切ないんだけども。

「ところで、今日は誰と飲むの」
「そ、園田さんです」
 
 ドン!(3回目

「もう! もう! なんで姉さんは私が憧れている人と飲むの! 私なんて一度も飲んだこと無いのに!」
「そ、それは自宅に持ち帰り多分に検討する次第でして」
「いい! 失礼なことしないこと! それと! この式紙に亜里沙ちゃんへって書いてあるサインを貰ってくること!」

 その捨て台詞と1万円札と色紙をお供に、私は海未との飲み会に臨むのだった。



 海未ができれば遠出がしたいとのことだったので、
 お互いの家から近い駅で待ち合わせをしてから出かけることにした。
 先日は一人で電車に乗ったけど、今日は二人。
 二人で何かをするというのは大変久しぶりだ、亜里沙は私とまったく出かけてくれないし。
 飲みには行くけど遊びに行く機会は激減した、いやまあ、みんな忙しいから仕方ないね。

53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/21(水) 20:52:56.68 ID:EbH6t7MA0
 駅前には物寂しそうにした海未がいた。
 声をかけるのに戸惑ってしまいそうなほど、儚く消えそうな彼女の姿に思わず息を呑んだ。
 唐突に飲みたいと言ってきた海未、お説教の一つや二つは覚悟をしていたんだけども。
 どうしたものか迷っていると、彼女の方からこちらに向かって来た。

「絵里」
「ああ、海未」
「どうしたんですか? 何か迷いが見えますよ」
「それは私の台詞よ海未、あなたこそいつもの覇気が感じられないわ」

 敵いませんね、と海未は言う。
 彼女は肩をすくめながら首を振ると、

「お見合いをするんです」
「それで元気がなかったのね」
「ええ、あまり気が進まなくて」

 海未の表情には陰がある。
 いい相手だと良いわねとか、相手の顔を見る前に断ってしまえばいいとか、
 同情するような言葉はいくらでも浮かんでくるんだけど。

「でも、どうして私? 言っておくけど、お見合いする相手に突きつけるような人生経験なんて積んでないわよ」
「もし結婚などということになれば、飲み会に参加することなど許されないことですから」
「あんじゅも言ってたわね……そんなこと」

54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/21(水) 20:53:29.12 ID:EbH6t7MA0
 20代の後半ともなれば、人生に岐路に立つことも度々ある。
 女の子にとっては結婚もその一つだ。
 仕事をやめて家庭に入る人、両立する人、結婚なんてどうでもいいと開き直る人。
 ――そもそも相手がいない人というのはカウントしない。

「だから、一人ひとりに会いたかったんです、絵里、絵里は3番目ですよ」
「穂乃果、ことりと来て私か、責任感じちゃうわね」
「別にそういうことは……とにかく顔が見たかったんです」

 海未から私の好感度がさほど下がっていないことに驚きを感じつつも、明るく振る舞うことに決めた。
 お酒の席でしみったれた顔は似合わないというのもあるけど、海未は結構感情次第で悪酔いする。

「それじゃあ、電車に乗りましょうか」
「はい、案内はおまかせします、絵里」
「ええ、任せておいて、今日は楽しむことにしましょう」

 目的は先にA-RISEと一緒に飲んだ、吉祥寺のハモニカ横丁。



「そういえば、亜里沙に海未のサインを貰ってくるように厳命されたわ」
「私は別にサインを書くような人間ではありませんが……」
「当人がほしいと言うんだから、書いてあげて、というか」
「というか?」
「書いて貰わないと私が家に帰れない」
「……絵里には敵いませんね」 
 
 渾身の説得が効いたのか、海未はμ'sにいたときを彷彿とするスピードでサインを書き上げる。
 
「相手は……どんな男性なの?」
「年齢は私より一つ上、私の家の道場に通う道場生でもあります」
「すごい人なの?」
「手合わせは何度かしましたが、負けたことはありません」
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/21(水) 20:54:03.87 ID:EbH6t7MA0
 微妙……。
 海未が女の子離れした力を持っているとは言え、20代ともなれば性差も強くなる。
 もっとも、現在の彼女が吉田沙保里と同ランクであるなら話は別だけども……。

「実力だけで言うなら、もっとすごい方はたくさんいるでしょう、ですが、母が決めたことですから」
「身を固めてほしかったのかしら?」
「分かりません、ただ、自分でも遊び歩いている自覚はありましたから」

 遊んでばっかのニートに一言。

「仕方は……無いのかもしれませんね」
「……海未」
「どうしました?」
「今日は飲むわよ、飲んだらカラオケに行って、それから一日中遊ぶわ!」
「構いませんが、絵里の予算が心配です」

 ――海未の顔を見られなかった。



 まずは一軒目。
 もつ焼きが有名なお店。
 何軒か回るつもりなので、予算の面を考えても一品料理に秀でているお店に決めた。

「それでは、乾杯!」
「はい、乾杯です。絵里」

 一杯目はビールという規則みたいなものを決めたのは一体誰なのだろう?
 バレンタインと同じようなビール会社の陰謀?
 ともかくまあ、そんなことは気にせずに口につけたビールは美味しかった。
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/21(水) 20:54:39.35 ID:EbH6t7MA0
「すごいペースですね、絵里、これはジョッキですよ」
「ビールくらいなら何杯飲んでも酔わないからね」
「肝臓を壊す前に病院に行きましょう」

 フフ、と笑いながら海未も案外ペースが早い。
 穂乃果、ことり、海未の三人の中では海未が一番お酒が強い。
 だから今までは飲み足りなかったのかもわからなかった。

「ところで絵里」
「なあに?」
「その、やはり就職活動はするべきなのでは?」
「μ'sのメンバーと飲むと必ずその話題になるわね」

 μ'sのメンバーじゃないけど、こころちゃんあたりには本気で心配されているっぽい。
 まあ、姉と同い年の人間が定職にもつかずにフラフラしてたら誰でもそうなるか……。

「それと、そろそろゲームは控えめに」
「そこでやめなさいと言わないところは、海未も大人になったわね」
「亜里沙から聞きましたよ、絵里のやっているゲームは麻薬みたいなものだと」

 なんて話をしているんだ我が妹。

「そろそろゲーム専門外来を作るべきだと思うのです、依存症のものを」
「や、やめようと思えばいつでもやめられるもん……」
「ではやめる?」
「やめない!」
「亜里沙の苦労が偲ばれます……」

 私のビールは早くも三杯目、海未は惜しむようにしながら一杯目の最後の一口を飲み干す。
 
「働く働かないに関しては、私も強くは言えないのですが」
「……? どうして? 家業を継ぐ、立派な就職じゃない」
「私には姉が一人いるのですが、今は作画……アニメの作画をしています」
「んー?」
「私も好きなことを職業にできれば、苦しくても幸せなのかと思いまして」
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/21(水) 20:55:22.67 ID:EbH6t7MA0
 二杯目のゴーヤサワー(なんだそれ)を頼みながら、海未が言った。
 働くことが検討もつかない私だけど、好きなこともろくに見つからない自分ではあるけど、
 何を基準に幸福かそうでないかを決めるのは本当に難しい。
 お金を持っていたって幸福じゃない人はいくらでもいるし、その逆も然り。

「海未は、実家の仕事は嫌?」
「どうなのでしょう? 幼い頃から継ぐことを期待をされて、自分もそうならなければと思っていましたから」
「じゃあ、新しく趣味でも見つける? お姉さんみたいになりたい?」
「ふむ……それは違いますね」

 海未はゴーヤサワーを飲みながら苦そうな顔をした。言わんこっちゃない。

「海未は海未でいいと思うわ、それに」
「それに?」
「たぶんだけど、義務感だけじゃ続けられないわよ、好きじゃなきゃ」
「……そう、ですね」
「サラリーマンとかならともかく、ノルマがあるわけでもないんでしょう? 
言われるだけの仕事をするだけじゃない、海未が考えて仕事を決める必要がある
それはね、本当、やらされているんじゃなくて、やりたいからやるのよ」

58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/21(水) 20:56:01.38 ID:EbH6t7MA0
 エリち、アルコール五杯目、現在ハイボール。

「絵里も」
「ん?」
「絵里もいつかそういう職業を見つけられるといいですね」
「できることは限られてくるけどね……とりあえず資格かしら?」
「まあ、今日は飲むことにしましょう。乾杯です、絵里」

 海未の様子が、先ほどとは違って元気になってきた。
 まったく、世話が焼けるんだから、もう。

 ――そして。

「歩けません……」
「タクシー呼ぶわ、私の家でいいわよね?」
「すみません絵里、まさか自分でもこれほど飲むとは……」
「言い訳は良いからしゃっきりする、お手洗いに行かなくても平気?」
「平気です、ですが、こんな醜態を亜里沙が見たら……」
「醜態は見慣れているから平気よ、さ、行くわよ!」

 海未との夜はまだまだ続く。

(園田海未との飲み会編 後半へ続く)
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/21(水) 21:33:13.56 ID:yVxP1eLtO
思わぬお持ち帰りに亜里沙もニッコリ
しかし理亞と亜里沙が知り合いか…なるほど
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/21(水) 23:00:09.03 ID:L4UzRLb6O
>>51
ことうみ…のぞえり…
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/22(木) 00:41:13.93 ID:OST23ng8O
後半はよはよ
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/22(木) 13:45:52.14 ID:1CxMocNjo
えりうみの関係性ええな
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/24(土) 18:10:13.99 ID:1FpgHgRhO
まだか…
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/25(日) 00:37:12.34 ID:gwxnAmpw0
(園田海未との飲み会編 後半)

 LINEで表示される名前欄を見ると、その人の個性が出る。
 海未なんかはフルネームで園田海未だし、何に影響されたのか穂乃果はほのっちである。
 私も以前まではエリーチカだったのだけど、酔っ払った亜里沙が

「私が仕事でアリーチカと使うので、姉さんはエリーにしてくらさい」

 と、ロクに呂律も回ってない口調で言ったので、それ以来エリーにしている。
 高校時代(と言っても同じ時間高校にいたことはないけど)には
 アリーチカ、エリーチカで仲良し姉妹だね、とか言っていたのにエリーチカお姉ちゃん悲しい。

 
エリー:海未がやばいので連れて帰ります
アリーチカ:部屋の掃除をするので少々お待ちください
エリー:そんな猶予はないので、部屋は汚いままでも良いです
アリーチカ:姉さんが汚した後始末をしているんです!
エリー:海未がこのLINEを見て、亜里沙は変わりましたねと言いました
アリーチカ:えー
エリー:嘘です
アリーチカ:(親指を逆さにしたマーク)
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/25(日) 00:37:54.19 ID:gwxnAmpw0
すみませぬ、遅れました(お題で手一杯でした)
今書き溜めているので、少ししたら投下できると思います! 
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/25(日) 00:52:10.45 ID:gwxnAmpw0
 妹が怖い。
 とは言え、駅前で買った経口補水液の消費は早い。
 お互いに酔っ払っていることも手伝ってか、タクシーの中では無口だ。
 恐らくだけど、無駄に口を開けば海未は全部吐く(色んな意味で)

 亜里沙からのLINEも途切れてしまったので、仕方ないから遅い時間に起きてそうなメンバーに
 暇つぶしの会話を求めることにした。

エリー:起きてる?
コッティー:嫌な予感がして10分前に起きました
エリー:えー、何よ嫌な予感って
コッティー:徹夜で仕上げたデザインが白紙になってる夢
エリー:職業病ね……私にはわからない世界だわ
コッティー:朝起きたらオンラインゲームのサービスが終了した感じ
エリー:よくわかったわ

 ことりも私のことをよく把握している。
 高校卒業後、単身パリへと留学しデザインの勉強をしていたことりは帰ってくるなり、
 某有名デザイナーに弟子入りしたかと思ったら独立、今は新進気鋭のデザイナーとしてあらゆる場所で活躍している。
 μ'sの中では一般の知名度もかなり高く(一番は多分凛)その可愛さも手伝って、世界一可愛いデザイナーの一人とされている。
 また、胸のサイズが一番変化したのも彼女で、私はあっという間に追い抜かれた、パリで何をしていたのか。
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/25(日) 00:57:26.14 ID:3sjrpzVBO
>>65
待ってたよ
更新嬉しい、ありがとう!
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/25(日) 01:02:39.65 ID:gwxnAmpw0
エリー:今は、海未と一緒にタクシーの中なの
コッティー:絵里ちゃんタクシー代あるの?
エリー:亜里沙に借りるからだいじょうぶ
コッティー:それは世間一般にだいじょうぶとは言わないよ
エリー:それでその、海未のお見合いの話は聞いた?

 ことりからの返信がちょっと滞る。

コッティー:聞いたけど、海未ちゃんを元気にはできなかったよ
エリー:そう、私も励ましたけど、あんまり上手には行かなかったわ
コッティー:海未ちゃんお酒もほとんど飲まなかったよ?
エリー:そうなの? 私の前では吐く勢いで飲んで今ピンチだけど
コッティー:それなら多分、海未ちゃん結構元気になったんだと思う、絵里ちゃんには敵わないなあ
エリー:先輩のさだめね
コッティー:先輩らしく就職したらもっと格好いいのに……

 思わぬところからの反撃に思わず唸る。
 μ'sの中で一番社会に擦れてしまったのは穂乃果あたりで、凛もかなりその純真さを失ってしまったけど――
 ことりもかなりダークサイドに落ちてしまったらしい。苦労していると言われればそれまでなのだが。

コッティー:絵里ちゃんにことりも悩みを聞いてもらおうかな?
エリー:私に解決できる悩みだったら聞いてあげてもいいわ
コッティー:そういえば真姫ちゃんに聞いたけど、男の人とか紹介しようか?

 何を聞いたのか。
 そして真姫は何を喋ったのか。
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/25(日) 01:20:16.65 ID:gwxnAmpw0
コッティー:まあ、それは冗談として
エリー:本当に冗談だったの? 迫真の演技だったの?
コッティー:私、お洒落なバーを見つけたんだ、そこで今度飲むことにしましょう
エリー:お高いのではないでしょうか
コッティー:もちろんおごり! 悩みを聞いてもらうから!
エリー:後輩におごってもらうわけには……
コッティー:絵里ちゃん、亜里沙ちゃんはその後輩以下の年齢なんだよ(汗マーク)

 そ、その汗は涙を表しているのではないでしょうか……?
 
エリー:うん、わかったわ、穂乃果たちに言えないような悩みなら、私が聞きます
コッティー:それと、来る時は新しい下着をつけてきてね?
エリー:何をさせるつもりなの!?
コッティー:だいじょうぶ、もし一人じゃ恥ずかしいって言うなら、私もついててあげるから
エリー:深夜テンションでおかしくなってない? だいじょうぶことり?
コッティー:(某深夜アニメのかしこまりデースのスタンプ)

 冷や汗をかきながらことりとの会話を終えると、海未がこちらをじっと見ているところだった。

「ごめんなさい、ちょっと亜里沙に連絡を取りつつ、ことりの暗黒面を見たわ」
「ことりですか」

 キョトンとした表情をする海未。
 ことりと連絡を取っていることがそんなにも意外だったのかしら。
 それともことりは海未とかに、あんなクソニートさっさと[ピーーー]ばいいのにとか言っているのか、あのふわふわボイスで。

「ことりは以前絵里を褒めていましたよ。とても賢い生き方をしていて羨ましいと」

 それは多分褒めてない。 
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/25(日) 01:37:34.41 ID:gwxnAmpw0
 海未からの好感度は高校時代から変わってないことが確認できたけど、ことりは――

「ふう、それにしてもずいぶん楽になってきました」
「その油断が命取りよ海未、私の目の前で吐いた人たちもよくそう言っていたわ」
「それはμ'sのメンバーですか」
「オンラインゲームのメンバーも居るけど、お酒を覚えたての真姫は酷かったわ……」

 あの強がりが得意なお嬢様は、宅飲みでもお店でも毎回のようにトイレとお友達だった。
 その彼女に毎回のように付き合っていた私や花陽は、もうちょっと褒められてもかまわないと思う。
 そういえば、μ'sでお酒が強いメンバーは就職に縁がないな……

「真姫ですか、そういえば一度、私と絵里と真姫で飲んだことがありましたね」
「そんなこともあったかしらね」
「アニメの主演が決まった真姫が全員に集合をかけて、結局私と絵里しか来なくて」
「白箱を見たのよね……」
「ひどい……アニメでしたね……」

 あのアニメは途中で打ち切られるという伝説を残していて、それに出演した声優の殆どは現在見ない。
 主演を果たした真姫だけが女性陣では活動を続けていて、なんというか、華やかな世界の陰を見た気がした。
 
「お客さんスクールアイドルやってたμ'sの方々なんですかい」
「え、ええ、ご存知でした?」
「いえね、娘もそこそこ有名なスクールアイドルをしていたらしくて、当時は仕事が忙しくて娘の晴れ舞台も見れませんで」

 運転手さんの名前を見ると、名字が統堂とあった。
 ごめんなさいお父さん、その娘さんとは以前飲んだばっかりです。
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/25(日) 01:56:20.43 ID:gwxnAmpw0
 家の前までたどり着くと、もうすでに亜里沙が待ち構えていた。
 吉祥寺駅からここまで来るのに1万円以上かかったから、それのお金を立て替えてくれるのだと思う。
 飲み会と経口補水液の確保でお財布はすっからかんになっていたから、とても助かる。

「申しわけありません亜里沙、今度お金は返しますから」
「いえ、海未さんにそんなことをして貰う必要なんてありません! どうせお姉ちゃんが海未さんのペースも考えずに飲み散らかしたんですよね!」

 ――ん?

「どうしたのお姉ちゃん、亜里沙の顔に何かついてる?」

 主に嘘がいっぱい。
 などと言えば、海未が見えないところで脛を蹴飛ばされるのは確実だったので。

「本当、いけないわ……お酒のペースは考えないと」
「まったくもう、本当にそうですよ? みんながみんなお姉ちゃんみたいにお酒が強くはないんですから」
「いえ、そうではないのです亜里沙、絵里には相談に乗ってもらっていまして、むしろ私が付き合わせたと……」
「海未さん大丈夫ですか、顔色があんまりよくないです、お手洗いに行きます?」
「い、いえ、今行くと確実に……」
「海未さんに汚されるならトイレも本望です! ささ! 行きましょう行きましょう!」

 海未の腕を取り引きずっていく妹。
 最初は抵抗していた海未も、亜里沙のペースに根負けしたのか素直に応じている。
 私は一人で、夜空を見上げながら

 ああ、気がつかなかった. こんやはこんなにも. つきが、きれい――――――だ――――――.
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/25(日) 02:10:13.25 ID:gwxnAmpw0
 海未がトイレと友だちになっている折、亜里沙はリビングでお酒を飲んでいた私に向かって

「姉さん? 今日もお酒は許しますが、特別だということを忘れないように」
「え、ええ、それはもちろん、その、亜里沙も飲む?」
「海未さんが戻ってきたらお付き合いします、私も仕事がありますので」
「こんな時間まで仕事……? ことりもそうだし、体を壊さないでよ?」
「別に大したことはしません、仕事で付き合いのある子たちは寝ていますし」

 子?

「それに明日……と言うより今日はオフですから、ゆっくり休みます」
「そんな不規則な生活を送ってると私みたいになっちゃうわよ?」
「それは冗談ですか、とても笑うことが出来ないんですが」

 やばい、このままの調子で、実はことりとの飲み会が決まっているんですとか言えない。
 海未が戻ってくれば、亜里沙も素は出せないから、わぁー、お姉ちゃん、大人ですーとか言って許してくれるかも知れないけど。
 もし、そんなことをすればパソコンを人質に取られることは確実。

「ね、ねえ、海未が戻ってくる前に言っておきたいことが」
「また飲み会ですか」
「わ、わぁー、理解が早くて助かるわぁ……」

 絶対零度の視線を向けてくる妹に苦笑いで応じるしか無い。

「もうそろそろメンバーも限られてくるはずですよね、希さんか、穂乃果さんか、ことりさんか……」
「ことりです」
「2枚サインを貰ってきてください、憧れている子がいるので」

 最近サインを求めてばっかりだな亜里沙。
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/25(日) 02:24:34.77 ID:gwxnAmpw0
 顔色も多少良くなった海未が戻ってくると、亜里沙は満面の笑みを浮かべながら
 
「何か食べます? お酒の後ですから、さっぱりしたものか、麺類が良いですよね?」
「いえ、亜里沙。私はそろそろお暇……」
「海未、今日は泊まって行きなさいな、長い時間タクシーにも乗ったし、疲れてるでしょう?」
「いえ、絵里、これ以上お世話になるわけには」
「海未さん、泊まっていかれないんですか……?」
「…………泊まっていきます」

 亜里沙大喜び。
 久方ぶりに見る子どもっぽい態度に安堵しつつも、この天使は明日には堕天使に替わるかもしれないと思うと恐ろしかった。

「わーい、では亜里沙、お布団ひいてきますね!」
「いえ、私はソファーでもなんでも構いませんから」
「お客様にそんな対応できません! この日のために買っておいた羽毛布団があるんです!」

 初耳。

「しかも! 夫婦仕様です!」
「ご両親でも泊まりに来るのですか?」
「一ヶ月後には」

 爆弾が投下された。
 両親が来るということは、私はここにはいられないということである。
 特に父とは、お前の顔は二度と見ないと言われているし……。
 憂鬱になるのを必死で抑えようと意識するも、どこまで出来ているのか。

「絵里、顔色が良くないですよ?」
「ちょっと酔ったかしらね、水でも飲んでこようかしら」
「お付き合いしましょう、亜里沙は布団を敷いてきてください」
「はーい!」
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/25(日) 02:41:40.48 ID:gwxnAmpw0
「ご両親との関係は相変わらずですか」

 と、海未が切り出してくる。
 私はどこか遠くを見る気分のままで頷いた。
 妹の脛をかじっている私を両親がどう思っているのかは想像に難くない。
 おばあちゃまの体調もあまり良くないと聞いているし、もし何かあれば御見舞いにもいけない。

「そうね、私のことなんてロクデナシくらいに思っているでしょうね」
「……私自身の個人的な感想ではありますが、あなたは立派です」
 
 あまり聞き慣れない言葉に、海未の顔をじっと眺めてしまった。

「就職をするしないが、人間の価値を決めるわけではありません。
 社会で働くことが完全たる善ではないことは私は知っています
 価値というものはそんなもので計るものではなく
 人とどう付き合い、どう過ごしていくかによるものだと考えます
 今の絵里は、亜里沙とよく付き合い、μ'sやA-RISEのメンバーとも
 とても良く付き合っているではありませんか
 ――私の前では、そのように辛い顔はしないでください」
「ありがとう海未、その言葉で――就職しなくても良い気がしてきた」
「できれば就職活動はしてください」

 えー。

「では、そろそろ戻りましょう、亜里沙に怪しまれます」
「ええ、かなり元気になったわ、ありがとう海未」
「もし――もし、ここにいられないという話でしたら、私の家に来ると良いです」
「ん?」
「雑用でもなんでも、仕事はたくさんありますので」
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/25(日) 03:04:11.67 ID:gwxnAmpw0
「海未さん! お姉ちゃん! お酒いっぱい用意しました!」

 リビングにあるテーブルにはお酒が数多く乗せられていて、その端っこの方におつまみもある。
 共同の冷蔵庫には入っていないお酒とおつまみばかりだったから、亜里沙の部屋にある冷蔵庫に入っているものか
 もしくは私達がタクシーで帰っている途中で何処かから取り寄せるなり買ってくるなりしたものだろう。

「いえ、亜里沙、私たち飲んできましたので」
「海未さんは亜里沙が注ぐお酒を飲めませんか……?」
「飲みます」

 押しに弱い海未ちゃん。

「海未さんにお酌ができるなんて、亜里沙は幸せものです」
「そういえば、大人になってから飲んだことはありませんでしたね、今度飲みに……と、亜里沙は忙しかったですね」
「ハラショー! 海未さんのためなら有給を取ります! いつでも構いません!」

 お姉ちゃんがお願いしたところで絶対に有給なんて取ってくれない、私はさめざめと一人、心の中で泣いた。

76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/25(日) 03:04:39.99 ID:gwxnAmpw0
「ただ、なかなか土日は休日が取れなくて……それ以外の日でしたら」
「わかりました、ではそのように調整しましょう」
「土日に忙しいって、まるでにこみたいね」

 学生相手の仕事だと、むしろ世間が休日の日に忙しいらしい。
 しかし、私の何気ない台詞に亜里沙の表情はたいへん引きつっていた。

「も、もう! お姉ちゃんコップが空だよ! お酒飲んで飲んで!」
「ちょ、これはアルコール度数が50度のウイスキー! ストレートで飲んだら死んじゃう! せめてソーダ割りに」
「ロシア人ウイスキー大好き、ロシア人嘘つかない」
「亜里沙、嘘をつかないのはインド人です」
「そうでした!」
「では、私が亜里沙のコップにお酒を注ぎましょう、どれがいいですか?」
「甘いのが好きです!」

 なんというか、ほのぼのしていい感じの空気ね……
 と、私は何の考えもなくコップに入っていたお酒を飲んだ。

「あっつ!」

 しまった、まだ割ってなかった……。
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/25(日) 03:12:18.99 ID:gwxnAmpw0
次回以降のスケジュールが決まりました。

南ことりとの飲み会編

高坂穂乃果との飲み会編

東條希との飲み会編

で、飲み会編は終了。

そこから、両親来襲編がスタートします。

来襲といっても、恐らく両親二人の出番はないと思いますが。
違うキャラの両親の出番はありそうです、まだ園田家になるのか、当初の予定通りになるのかは不明です。

では次回の南ことりとの飲み会編でお会いしましょう。
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/25(日) 03:26:40.61 ID:DcLsUUSsO
更新おつおつ
海未ちゃんには未だに信頼されてるんだなぁ
にしても亜里沙ちゃんの態度の差がw
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/25(日) 08:01:13.70 ID:c6L8tNzSO
アラサー処女のお手伝いさんがいる道場か…別人気出そう
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/25(日) 13:05:17.45 ID:6V00ZK3PO
女性の見学者が増えそうですね
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/25(日) 14:45:33.52 ID:hJqhMUZ3o
ことりの悩みってなんだろうなー
次も楽しみだ
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/25(日) 17:49:26.25 ID:gwxnAmpw0
(南ことりとの飲み会編)

 池袋というとサンシャインシティと乙女ロードくらいしか知らなかったので、
 亜里沙の手助けも借りて事前にリサーチをすることにした。
 今回ことりと行くバーは、Bar Lilyというお店。
 さっそく検索を開始してみると、隣りにいる妹が声を上げる。

「すごいおしゃれな外装のバーね、姉さん、場違いじゃない」
「ことりが目を引きつけてくれるから平気よ……」
「600種類のお酒にお料理まで……うーん、うーん……」
「どうしたの亜里沙、お腹でも痛いの?」
「すごくお酒が好きな知り合いがいるから一緒に行こうかなと思って」

 私もお酒を結構飲む方だと思うけど、亜里沙は自分と同等かそれ以上だ。
 以前、4時間ほど付き合っていた海未が、もしかしたら男の人が見たら百年の恋も冷めるかもしれません
 などと言って、亜里沙を凹ませていたけど、特に酒量は変わることはなかった。
 
「まさか、知り合いって……男の人じゃないでしょうね!」
「男の人だったらどうするの?」
「……え?」
「仕事上男の人と飲むこともあるよ、それを邪魔する気?」

 あ、地雷踏んだ。
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/25(日) 17:50:08.97 ID:gwxnAmpw0
 亜里沙が男の人と女の人のどちらが好きなのか疑問だったけど、ひとまず出かけることにした。
 ちなみに彼女の機嫌は、もうすでに治っている。
 地雷を踏んだ後海未にLINEをして、なんとかして仲を取り持って欲しいと頼み込んだのだ。
 だから飲み会に出かける時に、珍しく亜里沙が見送りに来てくれたのである。

「姉さん、あまり飲みすぎないように、それからタクシーを利用することはないように」
「わ、わかってるわ、それからサインもちゃんと貰ってくるから……」
「おしゃれなバーで粗相をしたなんてこともないように、あと、深夜までには帰ってくるように」
「も、もちろん、パソコンは大事だもの」
「最悪、ことりさんに誘われて宅飲みをする場合は連絡をください」

 ん?
 いつもなら連絡するしない関係なく、絶対に帰ってこないとパソコンを破壊すると言われるのに。

「姉さんが帰ってこない時は、家に海未さんが来ます、いいですか、絶対に帰ってきてくださいね!」

 それはフリですか亜里沙……。
 もうすでにニヘらと表情が緩みまくっている妹を心配に思うも、口に出さない私って大人です。
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/25(日) 17:50:33.19 ID:gwxnAmpw0

 最寄りの駅まで歩いていると、ピコンとスマホが鳴る。
 μ'sのメンバーやA-RISEのみんなとLINEをする時は大抵深夜になるから、この時間帯に来るのは珍しい。
 誰からかと確認してみると、なんとツバサだった。

TSUBASA:最近ちょっとオンゲーの付き合い悪くない? 
エリー:イベントもないし、あと飲み会に誘われてるのよ
TSUBASA:また飲んでるの? さすがに飲み過ぎなんじゃないかと心配になるんだけど
エリー:家では……飲んでないから……
TSUBASA:三点リーダに悲痛な叫びを感じるけど、とにかくマスターがいないとギルドも回らないんだからね?
エリー:重々承知しています、なんか私を追い出そうとする動きもあるみたいだしね
TSUBASA:そいつらならもう潰した

 ぷわぷわーお!
 
エリー:ただ、ちょっと一ヶ月くらいログインできないかもしれないのよね
TSUBASA:彼氏でも出来た?
エリー:恋人との関係が一ヶ月しか保たないみたいな言い方やめて
エリー:両親が来るのよ……
TSUBASA:それは厄介ね、ってことはどこか放浪でもするの?
エリー:とりあえず海未には来てもいいと誘われているけど、悩み中
TSUBASA:ならウチに来なさいよ、パソコン3台あるからオンゲーやり放題よ?
エリー:3台て

 きっとA-RISEのメンバーでオンラインゲームをやりたくて買ったんだろうなあ……
 
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/25(日) 17:50:48.56 ID:gwxnAmpw0
TSUBASA:エリー料理できるんでしょ、いいわ、専属のシェフとして雇ってあげる
エリー:なら後2人くらいに声かけて、一週間ずつ泊まろうかしら
TSUBASA:エリち放浪記ね、そういえば今日は誰と飲むの?
エリー:ことり
TSUBASA:南さんってお酒飲むのね……なんか、甘いジュースとかしか飲まなそうなイメージあるけど。
エリー:カクテルとかは嗜むみたいよ? 今日もなんかお洒落なバーに連れて行かれるし
TSUBASA:エリー通報されないでね
エリー:ニートというのはいるだけで通報されてしまうものなのかしら……
TSUBASA:おおっと、締切りの催促の電話が来た! ごめんエリー、仕事に戻る!
エリー:(今日も一日頑張るぞいのスタンプ)

 ツバサと会話していたら、電車がもうすぐやってくるところだったのでスマホを鞄にしまう。
 この時間帯なら余裕で座れるだろうと思っていたけど、どこかの駅で人身事故があったらしく満杯だった。
 こういうときニート……は関係ないけど、無理やり電車に乗るのに外聞もないから楽だ。
 もしもこれが凛とか、ことりとか、わりと社会に露出している人だとTwitterとかに写真を挙げられてしまうかもしれない。
 飛び膝蹴りをする勢いで身体を電車内に通し、ドアが閉まったのを確認して一息つく。
 ――これで確か、池袋まで30分くらいか、途中でいっぱい降りてくれないかしら。

 と、視線の先にどこかで見たようなツインテールが見えた。
 たしか彼女は――鹿角理亞さんとかいったはずだ。
 私よりも背が低い彼女は乗客に埋もれつつあって、かなり苦しそう。
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/25(日) 17:51:17.86 ID:gwxnAmpw0
 10分くらいすると乗客がちょっとだけ少なくなったので、移動をする。
 理亞さんはフラフラとしながら、乗客の多い方向に向かおうとしたので慌てて止める。

「だ……れかと思えば、ダメ……人間……絢瀬絵里……じゃない」
「あなた初対面の時もそうだったけど、私に何か恨みでもあるの?」
「あ、あります……! あなたのような人がいるから苦しむ人がいるんだ! ただでさえ仕事で忙しいのに!」
「ふうん?」

 仕事が忙しいというと凛あたりかな? 知らず知らずのうちに迷惑をかけている可能性は無きにしもあらずだけど……
 まあ、仮にμ'sのメンバーだったとすれば、私と海未以外は割と忙しいので誰でも当てはまるか。 

「理亞さん、どこまで行くの?」
「誰があなたなんかに……!」
「秋葉原に行った後と思わしき紙袋を両手に抱えてるから……そうね、次は乙女ロードかしら?」
「……わ、私の買い物ではありません! これは姉が!」
「お姉さんとの待ち合わせ? 乙女ロードで? ちょっとイメージ下がっちゃうわね」
「……すみません、全部私の買い物です」

 隠れ腐女子鹿角理亞さん誕生。
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/25(日) 17:51:51.43 ID:gwxnAmpw0
 北海道から上京してハニワプロというアイドル事務所に入った彼女たち姉妹が、一番最初に行ったのは秋葉原だったらしい。
 数あるアイドルグッズに目を輝かせるお姉さんの聖良さんと違って、理亞さんが注目したのは成人向けゲーム。
 まあ、あそこは堂々とエッチなゲームのポスターがビル全体に貼ってあったりするし、目に入るのは仕方ない。

「最初は……何だこれと思っていたんです、不健全だとも思いました」
「確かにね」
「でも、アリスソフトのゲームは違った……! すごく面白くて、やりこみ要素もすごくて……!」
「アリス? ずいぶんまた……」

 濃い方向に行っている。

「戦国ランスも大番長も面白くて……ハマりにハマって、気がついたら姉とデビューの時期がずれて」
「姉妹ユニットとしては致命的ね」
「気がついたら、同期はみんなデビューして……私一人候補生止まりで、さすがに焦って」
「それなら成人向けゲームをやめれば」
「あなたはそう言われて、オンラインゲームをやめられるんですか?」

 それはまあ……確かに、無理。

「燻っていて気がついたら、3年が過ぎていて……でもその時にルビィが入ってきて」
「ああ、あなた達ユニットだったわね、アンリアルとか言ったかしら」

 なんかポルノ雑誌とかでありそうな名前ね、とか言ったら怒られるだろうか。

「その時に出会ったプロデューサーは本当に敏腕で、感謝しか無いんです」
「なるほどねえ……そのプロデューサーのことは知らないけど、3年エロゲに燻ってる人間をデビューさせちゃうんだもの」
「え、エロ……成人向けゲームだけにハマってたわけじゃない……!」
 
 それは――二次元ならばなんでもいいと悟ったオタクの余罪の告白だった。
 彼女の名誉を考えて、その内容は伏しておく。
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/25(日) 17:52:24.63 ID:gwxnAmpw0
 池袋駅に着いた途端、理亞さんは嬉々とした笑みで電車を降りて何処かへと走り去った。
 先ほどまで死にそうなくらい顔が青かったはずなのに、若いというのはなんでもできるのだね……。
 
 私が本日向かうのは池袋駅の東口。
 ちょっと早めの到着になってしまったから、ことりはまだ来ていないはず。
 外国に行った影響もあるのかもしれないけど、彼女は割と時間にルーズになってしまったから。

 都内でも有数の人が多い駅なので、ちゃんと待ち合わせ場所を決めておいた。
 その場所は池袋東口交番。別になにか悪いことをして逮捕されに行くのではなく、
 キャッチセールスやら何やらに引っかかることが少なくなるらしい、とネットに書いてあった。

 ことりにLINEを送ると今起きたとの話だったので、もうしばらく時間がかかるだろう。
 手持ち無沙汰になってしまったけど、どこかに買い物に行くほどのお金もないのでスマホで時間をつぶす。
 
ほのっち:あれ、絵里ちゃん、また暇なの?
エリー:暇なのは否定しないけど
ほのっち:いいじゃんいいじゃん暇なのはいいことだよ。私もちょうど暇してたんだ
エリー:へえ、仕事大好き高坂さんにしては珍しい
ほのっち:ちょっとお店で食中毒起こしちゃってねえ……

 それは笑えない。

エリー:営業停止ってこと?
ほのっち:保健所の許可だったっけ、そういうのが降りるまで営業できないの
ほのっち:たまに別店舗に行くこともあるよ、あー、2日も働いてないと身体に根っこが生えそう

 大学卒業してから働いたことがない私に何か一言。
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/25(日) 17:52:44.13 ID:gwxnAmpw0
エリー:そういえば今日はことりと飲むことにしたの
ほのっち:いいなあ! ことりちゃんも私を誘ってくれればいいのに!
エリー:でも支度に時間がかかってるみたいで、いま池袋にいるわ
ほのっち:あー、明日神奈川に行くことがなければ行ったのに!
エリー:そういえば穂乃果はまともにお酒飲めるようになったの?
ほのっち:カルーアミルクなら……
エリー:もっとサワーとかカクテルに挑戦してみたら? ビールはもう手遅れ感があるけど
ほのっち:お酒の知識なら誰にも負けないのになあ……
エリー:今日行くお店はお酒が600種類あるらしいわ
ほのっち:私も連れて行ってよぉぉぉぉ!!

 穂乃果の醸し出す空気がだんだん悲痛になってきたので、苦笑のスタンプを送っておいた。
 これで勢いがちょっとは弱まると良いんだけど。

エリー:お、ことりが来た。相変わらずスタイル良いわねえ、おしゃれだし
ほのっち:おっさん臭いよ絵里ちゃん
エリー:え、今の文章のどこにおっさん臭さが……
ほのっち:おしゃれで可愛いでいいんだよ! スタイルまで見る必要はないの!
エリー:なん……だと……?

 ちょっとショックを受けたので、穂乃果とのLINEは打ち切り。

 久方ぶりに見ることりはスタ……おしゃれで可愛らしかった。とても私のひとつ下には見えない。
 10代と言っても通用するような若々しさに、おかしい、なぜ徹夜が続いてもあんなに元気なんだろうかと疑問に思う。
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/25(日) 17:53:19.11 ID:gwxnAmpw0
「ごめんね、ここ最近徹夜ばっかりで、寝坊しちゃった」
「仕事も程々にしないと体壊すわよ?」
「オンラインゲームも程々にしないと人生が壊れちゃうよ?」

 それは困る。
 
「そういえば海未ちゃんお見合いお断りするんだって」
「へえ? でもご両親が決めた人なんでしょう?」 
「んー、最終的には海未ちゃんの意思を尊重するって言ってたみたい」
「ご両親は寛大ね……」

 ウチと違って、という言葉は飲み込んだ。
 ことりを先導にして、Bar Lilyに向かう。
 ネットで見た感じだけど本当におしゃれな場所で、私は本当に通報されないのかと不安になった。
 
 ビルの6階にあるそのバーはかなり知る人ぞ知るって感じで、中に入ってもお客さんはまだらだった。
 時間的に早いというのもあるのかもしれない。

「マスター、こちら、絢瀬絵里さん」
「ん……そうか、きれいな人だな」
「どうも、絢瀬絵里です」

 その他特記事項なし。

「イメージが湧いてきた、待っててくれ、いまカクテルをつくる」
「絵里ちゃん苦手なものとか無いよね?」
「……そうね、この場所にあるものではないかも」

 このおしゃれなバーで海苔と梅干しを出されることはないと思う。
 前者はパスタにふりかけてある可能性はあるかもしれないけど……。
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/25(日) 17:54:00.96 ID:gwxnAmpw0
 カウンター席とテーブル席があったけど、ことりが選んだのはカウンターだった。
 こちらのほうが早く給仕されるからとのことで、お財布の中身に心配がある私は多少呻いた。
 
「それじゃあ、乾杯」
「ええ、何ていうか居酒屋と空気が違って緊張するわね……乾杯」

 お洒落なバーにあるおしゃれなグラスで飲むお酒は新鮮だった。
 柑橘系のカクテルのようで、何が入っているのかまでは分からないけど、とりあえず美味しかった。
 飲みきってしまうのが惜しかったので、3分の2ほど残してグラスを置く。
 しかしことりは水を飲んでいるかのような勢いでお酒を飲み干していた。

「あれ、絵里ちゃん調子悪いの?」
「い、いや、飲むのが惜しくて、こういうのめったに飲まないし」
「いいんだよ、絵里ちゃんのペースで、こうーぐいっと!」
「マスターさんのペースもあるだろうし……」

 と、私は心配になったのだけど、ちょっとすると二杯目の飲み物がことりのそばに置かれていた。
 
「絢瀬絵里クン、心配はしなくてもかまわない。ここはお酒を嗜む場所だからな」
「では、遠慮せずに頂きますね、本当は飲み干したいくらい美味しかったので」
「うむ、その勢いだ」

 ぐいっと煽り、一気に飲み干す。
 そのペースは10杯目くらいまで続き、やがて少し顔が赤くなったことりがおずおずと切り出した。
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/25(日) 17:54:24.62 ID:gwxnAmpw0
「絵里ちゃん、私、赤ちゃんが欲しくて……」

 飲んでいたお酒を吹き出すところだった。

「ことり、知ってるとは思うけど、赤ん坊を産むには……その、仕込み作業が」
「う、うん、もちろん知ってるよ……でも、私結婚とか興味ないし、男の人と付き合いもないし……」
「赤ちゃんがとりあえず欲しいの?」
「子どもがね、欲しいの。もう私たちアラサーって呼ばれて久しいじゃない、ヒフミちゃんたちも名字が変わって子どももいて」
「羨ましくなってしまったの?」
「うん……このままずっと仕事をしたままでいいのかなって、楽しいし、生きがいだけど、女の子としてはどうなのかって」
「そう、ね……」

 就職希望もなければ、結婚願望もない(ついでに経験もない)私ではあるけれど、たまに子どもを見たりすると
 私もいつか妊娠をして子育てというものをしてみたいなと思う時がある。
 それは母性本能と呼ばれるものなのか、子どもの可愛さが余っての行動までかはわからないけど。

「でもねことり、先のことばかり考えていても仕方ないわ」
「わかってるつもりではいるんだけど」
「現実的に考えて、今結婚して子どもを作ったら働ける?」
「そう、だね……無理かも」

 仕事と子育てを両天秤にかけたとき、恐らくことりは前者に比重が多くかかってる。
 デザイナーはずっと追いかけてきた夢ではあったろうし、子どもがほしいという気持ちも一時的かもしれない。
 もちろんそんなことを考えずに子どもを作る親はいるかもしれないけど……
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/25(日) 17:55:01.88 ID:gwxnAmpw0
「そ、そういえばことりは、経験はあるの?」
「絵里ちゃんそのトーク好きだね、自爆するだけなのに……」

 トロンとした目のまま、ことりは頷く。
 そうか……これで聞いた限りは未だに経験はないのは私と真姫だけか……
 誰かが嘘をついている可能性もあるけど、酒の席で嘘をつくと後悔が大きい。

「パリにいるとき?」
「掘り下げるね絵里ちゃん、だいぶセクハラだよ」

 と言いつつも、ことりは素早く首を振る。
 酔っ払っていることも手伝ってか、ことりは大変素直だ。

「私の両親も国際結婚だったし、もしかしたら自分もと思うのよ……」
「絵里ちゃん、まずは相手を見つけないと」
「子どもか……たまにすごく子持ちの親を見ると羨ましいって思うのよねえ……」

 ちょっと泣きそうな気分。

「なに、子どもを作って育てるだけが女の人生ではないさ」
「マスターさん」
「ことりのように夢を追いかけるのもまた人生、好きに生きれば良いのさ」

 なんか言外にニートはやばいと言われているような気がしてならない。
 
「だから絢瀬絵里クン、もし君がその気なら、ここで働かないか?」
「え?」
「聞けば英語もロシア語もできるそうじゃないか、その語学力を発揮しつつお酒も飲める、いいとこだぞ、ここは」

 ことりを見る。
 何とも言えない表情をしたまま彼女は目をそらした。
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/25(日) 17:55:21.94 ID:gwxnAmpw0
 ことりが今日悩みを聞いてくれたお礼にということで自宅に招待してくれた。
 穂乃果や海未でさえも滅多に入れないというアトリエでは、たくさんのデザインや洋服が置かれていて
 なんというか、自分に創作意欲なるものがあれば刺激されたことだろう。

「今日は本当に助かったよ、子どもが欲しいなんて、穂乃果ちゃんたちには言えなかったし……」
「そう? 結構親身になって答えてくれるかもよ?」
「ううん、穂乃果ちゃんは完璧に仕事脳だし、海未ちゃんもどちらかと言えば子どもより仕事なタイプだから」
「あんまり、意欲的な回答とはいえなかったと思うけど……」
「言えるだけでいいんだよ、悩みなんて、まあ、申し訳なく思ってるなら、お願い聞いてほしいんだ」
「お願い? まあ、叶えられる範囲でいいなら構わないけど」

 絵里ちゃんの処女をちょうだいとか言われたら全力で逃げるけど。

「スリーサイズ測らせて!」
「そんなのでいいの?」
「あれ、絵里ちゃん恥ずかしくないの?」
「別に高校時代からそんなに変わってないから、面白くないと思うけど……」
「嘘だぁ、とくにここ、変わったよ!」 

 と、胸をグイッと指さされる。
 それはあなたでしょうことり……。

「私の見立てによると、90は超えたね」
「まさか、逆に小さくなっているんじゃない?」
「そんなことない、ブラのサイズが合ってないってきっと胸が泣いてるよ!」
「そ、そこまで鈍感じゃないわよ!」
「じゃあ、測ってみよう! 本当に高校時代と変わらないかどうか!」

 彼女の勢いに押され、私は下着姿にされた。
 そして隅々までサイズを測られた後でことりが

「なんで水の中なのに息ができるの? 多分さっき飲んだ熱いお茶のせいかな?」

 ――壊れる。
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/25(日) 18:01:33.40 ID:gwxnAmpw0
あんまり次回に続く感じがしませんでしたが、次は穂乃果編。

ことりがなぜ壊れたのかは次回で!

……言うほどのことでもないので白状すると、エリーのスタイルが自分の想定以上に良かったからです。
逆に言えばことりは少々ウエス(ry
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/25(日) 18:51:14.00 ID:C/zg4e6uO
ま、まあ胸も一番成長したらしいし多少はね……
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/25(日) 19:15:17.26 ID:tayqRYiwO
エロゲオタ理亞で草
アリスソフトは何周でも遊べるから仕方ない
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/25(日) 21:23:08.38 ID:uvtBYen20
これが二次創作でよくいることキチか
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/25(日) 22:08:20.87 ID:VQ8LI57WO
バスト90超えのえりちか…ゴクリ
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/26(月) 20:02:46.81 ID:AWuCPbhrO
マスターにもニートなの伝わってて草
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/26(月) 22:00:16.05 ID:AjAoiYfSO
どんなやつなんだろうなそのプロデューサーは(目そらし)
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/27(火) 01:10:48.43 ID:XSqQyOqG0
(高坂穂乃果との飲み会編)

 以前少しだけ亜里沙の職業が気になったけど、忙しかったからスルーしてしまっていた。
 そのことを不意に思い出したので、希にLINEを送ってみる。
 私以上に忙しくて暇もないだろうから返信は期待していなかったんだけど――

のぞみん:気になるんやったら直接聞いてみればええやん?

 20秒足らずで既読がついて、更には返事が返ってくる。
 自分で話題を振ってしまった手前、何も言わない訳にはいかない。

エリー:それがね、有名企業だけど芸能関係では絶対ありませんって言うの

 私が睨んでいる限り、亜里沙の職業は有名企業なんかでは絶対にないはず。
 朝早く出かけたと思ったら昼前には帰ってきたり、深夜に出かけることもしばしばある。
 定刻に出社して帰ってくるなら、サラリーマン(亜里沙はマンではないけど)という可能性も無きにしもあらずかな?

のぞみん:そんなに芸能関係ではないと念押しされるん?
エリー:そうよ、絶対絶対絶対違うって言うの
のぞみん:なら今度、亜里沙ちゃんがオフの日に以下の住所に行ってみると良いよ
エリー:あら、東京の一等地じゃない、だいじょうぶ? 通報されない?
のぞみん:エリち何があったんや

 その後差当りのない会話をして、じゃあ今度飲みにも行こうやん? なんてメッセージで幕を閉じる。
 グーグルで検索をしてみると、その一等地にある建物は――

「ハニワプロ……?」
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/27(火) 01:11:15.58 ID:XSqQyOqG0
 眠そうな亜里沙に朝食を作っている途中、テレビで芸能情報をチェックしていた彼女を眺めながら
 
「亜里沙、ハニワプロって知ってる?」

 なんて声をかけてみる。
 しかし、亜里沙は体をビクンと揺らし椅子から崩れ落ちた。

「し、知らない! なにそれ、聞いたこともない!」

 勢いよく全否定するので、これは怪しいと思う。
 ははーん? これは知っている流れだな?
 恐らく亜里沙はその事務所のアイドルのファンなのだ、だって以前ポロッと鹿角理亞ちゃんの名前を出したし。
 しかし、私近辺のスクールアイドル「り」がつく確率高くない?
 鹿角理亞しかり、絢瀬絵里、絢瀬亜里沙、桜内梨子、小原鞠莉、星空凛。南ことり。
 他にもいるかもしれないけど、思い出せないので考えるのをやめた。

「知らないって、テレビで特集されているのがハニワプロだけど……」
「そ、そうだったねー、いやあ、初耳だよー、所属しているアイドルも知らないよ!」
「別にアイドル事務所ってわけでもなさそうだけど」
「お姉ちゃんお金欲しくない? 2万でどう?」

 ごまかすには援助交際っぽくないですか、我が妹よ。
 そういえば、日本に来た当初に亜里沙に対し、男の人に向かって声をかける時は2万でどう? 
 って挨拶をしろと教えやがった女子高生がいたな……。

「くれるなら遠慮なく貰うけど……ちょっと遠出するし」
「そ、そう! 食費交通費なんでも言って! お酒飲みたいならもっと出すよ?」
「亜里沙、お金大事に」
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/27(火) 01:12:20.00 ID:XSqQyOqG0
 いま、続きを書いている最中です。
 2時30分くらいには全部投下できると思いますので少々お待ちください。
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/27(火) 01:38:25.52 ID:uigQqxHio
待ってる待ってる
>>103
亜里沙ちゃんにこんなこと言わせたら洒落じゃスマンことになる…
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/27(火) 02:36:37.27 ID:XSqQyOqG0
 朝食を採ってから、下準備をした後で出かけることにする。
 自分の中では割合いい服装をしていった、間違っても全身980円のジャージではない。
 
「そういえば姉さんどこに行くの?」
「ハニワプロ」
「な、なんで!? ……じゃなかった。そんな不良がたむろする場所に行ったらいけません!」

 一昔前のゲーセンじゃないんだから。
 
「ちょっと会社の手前に行くだけよ、スカウトとかされるかもしれないし」
「武内さ……じゃなかった、怪しい人にスカウトとかされたらどうするの!?」
「だいじょうぶよ、私には芸能関係者の知り合いがいるんだから、怪しい場所ならすぐ分かるわ」
「いい、私は知らないけど、武内とか赤羽根とかそういう苗字の人がいたらすぐに逃げること!」

 うん、もしも会ったら挨拶しておこう。
 亜里沙の知り合いではないにせよ、凛とか希の知り合いの可能性は十分にある。
 それにハニワプロに行ったら、鹿角理亞ちゃんに会えるかもしれない。
 彼女は誰がプロデュースしているのかは分からないけど、ハニワプロ所属だから。

「あ、ちょっと待って姉さん、菓子折りとか持っていかなきゃ」
「長居する気満々じゃない……」
「社会の常識! ま、まあ、姉さんなんて相手にされないとは思うけどね!」
「相手にされないなら、なおさら菓子折りなんて」

 部屋の奥に行った亜里沙がやたらでかい紙袋を2つ持ってきて渡すまで、そう時間はかからなかった。
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/27(火) 02:37:10.45 ID:XSqQyOqG0
 相当大きな事務所であることは想像していたけど、自社ビルを二つも並べているとまでは思わなかった。
 さすがアイドルだけで40人はいる事務所である。
 
「こんなところにニートがいたら本当に通報されやしないかしら……」

 しかも両手には大きな紙袋(思い出してみると、電車内の理亞さんみたいだ)を抱えての登場。
 よもや中にまでは入れやしないだろうから、こうして外から眺めるだけだけど。
 ……入れないわよね?

「ここででっかい声を上げて、りーあーちゃん! あーそーぼ! とか言ったら、中には入れそうだけど」

 もしくは通報されて警察のお世話になるかどっちか。
 先ほどから警備員と思しき男性がチラチラとこちらを見ながら挙動を探ってるし。
 最近はテロ対策とかもあって、この二つの紙袋を置いていったりなんかしたら――

 うん、間違いなく事件になるわね。
 亜里沙には悪いけど、この紙袋はもう少し彼女のところでお留守番することになるだろう。
 せめて事務所内部にまで入れればこの菓子折りを渡す機会もあろうものだけどねえ……
 なんてなことを考えながら踵を返そうとすると

「……」
 
 目の前にガタイが良くてやたら背の高い男性が名刺を差し出していた。
 
「アイドルに興味はありませんか?」
「……え?」
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/27(火) 02:37:39.32 ID:XSqQyOqG0
 男性――もとい、武内Pに案内されたのは、全面鏡張りのレッスンルームだった。
 こんな場所をかつてUTXに行った時に見たことがある。
 そのときには、地区予選でA-RISEにまさか勝つなんて思いもよらなかったけれど。

「……もう少ししたらアイドル候補生たちがやって来ます」
「えーっと、そうしたら私はお邪魔なのではないかなあと」
「安心してください、同期ともなろう子たちですから、そういえばまだお名前をお伺いしていませんでしたね」
「あ、すみません。絢瀬絵里と申します」
「……絢瀬?」

 怪訝そうな表情をする武内P。
 ここは偽名で矢澤とか、星空とか言ったほうが良かったか……?

「もしかしてあり」
「あーーーーーーープロデューサーがまた女性を口説いてる!!」

 ドーンと扉が開いて、元気一本印と言わんばかりの少女が入ってくる。
 そんな少女(恐らく10は歳が離れている)の背後には、なんとオトノキの制服を着た子がいた。しかも二人も。

「せっかくミッキがレッスンしに来たのに、女の人口説いているとかどういうこと!?」
「星野さん、あらかじめ言っておきますが、これは口説いているのではなく、スカウトを」
「そんなのどうでも良い! 金髪キャラがかぶる!」

 確かに目の前の少女は金髪……ハーフかクォーターか。純血日本人ってことはなさそう。
 もし仮に私がデビューするなら、彼女は全力でハードルとなるだろう。そんな気は全く無いけど。

「それにおっぱいが大きい! 85……いや……88……ううん……90……それ以上!?」
「……」

 武内Pが私の隣でため息を付いていた。
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/27(火) 02:38:07.65 ID:XSqQyOqG0
「右から、星野さん、如月さん、三浦さんです」

 綺麗に整列した三人の女の子。
 右の星野さんはこちらを敵意を持った視線で見ている。
 どうやら本当に私がアイドルデビューするものと考えているらしい。そんな気はまったくない。
 真ん中の如月さんも、やはりこちらを敵意を持った視線で見ている。
 ライバルが増えるかもしれないと考えているのか、それともバストサイズに差がありすぎると考えているのか。
 ――多分だけど、にこよりも小さい。
 左の三浦さんは余裕の表情。
 私がニートだから下に見ているのかと思ったけど、単純にのんびり屋さんらしい。
 久方ぶりに見るオトノキの制服は、私がいた時代よりも微妙にデザインが豪華になっていた。  
 
「なんか急に連れてこられて戸惑ってるんですけど、私は、アイドルデビューするつもりは」
「そう言って、プロデューサーを誘惑しようとしているんでしょ! その胸で!」

 星野さんは私の胸しか見ていない。
 そういえばμ'sが9人になってからすぐ、希も胸しか見られてなくて凹んでたわね……。
 あの子ダンス経験もないって言ってたのに、私の振り付けについて来られていたし、謎だ……。

「3人ともダンスで結果を出したらどうですか? この絢瀬さんよりもできるとわかれば、何も問題はないはずです」

 あーだこーだ考えていると、新しい人が入ってきた。
 長身の眼鏡のイケメンだけど、基本的に男の人に縁がない私には特に響くものもなかった。

「どうも、赤羽根と申します」
「絢瀬絵里です」
「……そういえば絢瀬、絢瀬さんと言えば……」

 口元に手を当てて考え込む赤羽根P。
 何のことだかはわからないけど、ひとまず目の前の少女3人がμ'sを凌駕するようなダンスを見せてくれれば解放される!
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/27(火) 02:38:45.28 ID:XSqQyOqG0
 期待は――したんだけど。

「うーん……」

 正直な話、彼女たちよりも踊れるスクールアイドルはたくさんいると思う。
 多分だけど、ファーストライブの穂乃果たち3人よりも踊れていない。
 基礎体力の問題なのか、振付師の問題なのか、ともかく彼女たちの動きはぎこちなかった。

「まあ、スカウトして2ヶ月ならこんなものですよ」

 私が怪訝そうな表情をしていることに気づかれたのか、赤羽根Pがフォローを入れる。
 ――ファーストライブまで一ヶ月なかったはずの穂乃果たちになんか一言。

「ど、どう! 絢瀬さん! 私たちのダンスは!」
「えーっと……そう、ねえ……よく踊れていたんじゃないかしら」
「上から目線!」

 星野さんの敵意の視線が強まった。

「じゃあ、絢瀬さんが踊って見せてよ!」
「えー……もう10年くらい踊ってないんだけど……」
「10年だろうがなんだろうが、私たちのダンスを上から見たってことは踊れるってことでしょう?」

 んー……そういうつもりは、なきにしもあらずかもしれないけど。
 まあ、恐らくだけどブランクがあるとは言え彼女たち以上の動きはできるだろう――

「赤羽根さん、μ'sの曲はありますか?」
「もちろん、伝説のスクールアイドルですからね」
「ではKiRa-KiRa Sensation!で」
「わかりました」

 ここでアキレス腱でも切ったら亜里沙にドヤされるってレベルじゃないな。
 柔軟は念入りにしておこう。
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/27(火) 02:39:46.55 ID:XSqQyOqG0
 全然全部なんていかず、申し訳ない。
 今日もバイトがあるので途中ぶつ切りになるかもしれませんが、限界まで書きます。
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/27(火) 02:54:06.01 ID:uigQqxHio
まさかの某マスPにアイドルまで…まぁ同じグループ会社だしね
続き気になるけど無理しすぎない程度に頑張って!
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/27(火) 03:18:47.85 ID:XSqQyOqG0
 私は一度曲を全部聞いてから踊るスタイルだ。
 ブランクもあったし、それくらいは許してくれるはず。
 曲を聞いていると、高校時代を思い出してちょっとだけ泣きそうになる。
 ああ、絢瀬絵里の全盛期はここにあったのね――
 今はニート……いやいや、ギルドマスターだけど! 元はスクールアイドルなのだ。
 ちょっとスカウトされて、鼻高々になっているだけの子たちには負けない!

 ラブライブ会場でのラストライブを思い出しながら、私は踊った。
 全然覚えてないから、コケたりしたらごめんねなんて言っていたけど、そんな気はサラサラ無い。
 もちろん高校時代の時に比べたら全然踊れてなんかはいられなかったけど。
 まあ、最低限μ'sの名は汚さずには済んだかもわからない。

「さすがは元μ'sですね……」
「そんな彼女が紙袋を持って会社の前に立っているとは思いませんでした」
「まあ、これで3人のお尻にも火がつくでしょう、いい仕事でした武内さん」
「いえ、でも、彼女は本当にスカウトできませんかね」
「妹さんに殺されます」

 はあ、Pたちが小さな声で何か言っているみたいだけど、やっぱりアレね。

「ツバサでも呼び出そうかしら」

 2年前までトップアイドルグループだった彼女なら、この場でカリスマ性を発揮するくらいわけない。
 まあ事務所が違うし、そんなことをすればどやされるのは分かりきっているのでしないけど。
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/27(火) 03:19:17.58 ID:XSqQyOqG0
「あ、あ、あ……な、なんで……?」
「どうだった、星野さん、言っておくけど、昔はもっと踊れたわ」
「ど、どれだけ化物なのよ……」

 私が踊りきると驚愕の表情を貼り付けた星野さんがこちらを見ていた。
 如月さんも、三浦さんもびっくりしているみたい。
 でも正直な話、柔軟が全然できなかった頃の凛にも劣るわね……もうちょっとダンス続ければよかったかしら。

 なんてなことを考えていると、ドアの方からパチパチパチと拍手する音が聞こえてきた。
 あの子は確か、鹿角聖良さん。以前会った理亞さんのお姉さん。

「さすがですね、絢瀬さん。10年ぶりとは思えない」
「10年前の10分の1くらいだけどね……」
「それでも、今のトップスクールアイドルと同程度は踊れています」

 そんなことはない、と思う。
 μ'sやA-RISEがいた頃と比べても、今のスクールアイドルは普通のアイドルと遜色ない(と、亜里沙が言ってた)
 
「誰?」
「鹿角聖良さん」
「んー、ミッキ知らない」
「同じ事務所の先輩くらい覚えましょう」

 アイドル候補生の3人はと言えば、不穏な会話をしている。
 10年ブランクがある、私のダンスを見て多少はショックを受けたみたいだけど。
 まだまだその性根を叩き直すには時間がかかりそうだ。

「やっぱりツバサを呼び出すしか無いわね」
「呼び出せるんですか?」
「LINE送ってみる」

 一時間もしないうちにやって来たツバサは、ハニワプロにKiRa-KiRa Sensation!を巻き起こす。
 はえー、さすがは元トップアイドルは扱いが違いますね。
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/27(火) 03:55:34.63 ID:Qn+FNAd70
これって絵里がニートやってるssだよな?
どうして急に他作品キャラが性根が曲がった状態で出てきとるんや……
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/27(火) 06:19:53.20 ID:vQB4Tvv0o
アイマスのキャラなの?さっぱりわからん
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/27(火) 08:27:55.43 ID:9TeKSKNDO
穂乃果はよ、ことりはよ
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/27(火) 09:24:31.75 ID:HvY1lmfrO
>>114
聖良さん泣いて喜んだやろなぁ
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/27(火) 10:30:34.67 ID:XSqQyOqG0
 元μ'sの絢瀬絵里。
 元A-RISEの綺羅ツバサ。
 元Aqoursの黒澤ルビィ。
 元SaintSnowの鹿角聖良。
 以上4名のダンスを、ハニワプロのアイドルやアイドル候補生は真剣に見入っていた。
 アンリアルとしてバリバリに踊ってるルビィさんや、セイントムーンの聖良さんに比べれば、
 ブランクがあるツバサや私のダンスはアレだったかもしれないけど。

「それにしてもツバサ、締切はだいじょうぶなの?」
「もちろん、私は案外抜け目ないのよ」

 ハニワプロを後にした私とツバサはビルが乱立する場所を抜けて、昔の東京が残る場所にいた。
 無邪気に遊ぶ子どもたちに目を向けて、微笑ましそうに見ていたツバサだったけど。

「あんじゅが子どもを産んだら、私はすっかりおばさんね」
「やーめーてー、まだ、まだ私は20代ですもの、そう呼ばれるまでには時間が――」
「ふふ、でもエリー、今日は楽しかったわ、やっぱりアイドルって良いわね」
「そう、それは良かった」

 正直な話、ツバサはずっとアイドルをやりたかったという話を聞いてずっと気になっていた。
 誘ったら来てくれるんじゃないかと――
 別にアウェーで居心地が悪かったから呼んだわけじゃない。
 でも最近ちょっと思い始めたんだけど、

「私って実はニートではないのではないか」
「何を言っているのエリー」
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/27(火) 10:31:12.46 ID:XSqQyOqG0
 陽も傾いてきたので食事でも採ろうか、なんて二人で言い合っているとLINEが来た。

「あら、穂乃果からね」
「穂乃果さんから? そういえば穂乃果さん、居酒屋で働いているんだって?」
「ええ、未来の店長候補」
「さすがねえ、エリーとは大違い」

 先ほどからディスられてばっかりな気がする。

「そこは、私とは大違いとか言うところじゃない?」
「私は働いているもの、個人事業主だもの」 
 
 何も言い返せない雰囲気を悟ったので、穂乃果とのLINEに集中する。

ほのっち:絵里ちゃん、今日は開いてる?
エリー:いまツバサといるわ
ほのっち:暇で暇でしょうがないんだよぉ! 一緒に飲もう!

 まだ営業停止処分中なのか……心のなかで同情しつつ

「穂乃果が飲みたいって」
「いいわね! 穂乃果さんのいるところに綺羅ツバサありよ!」
「よく分からないけど、テンションがあがってるのはわかったわ」

 
エリー:ツバサの許可も降りたわ、どこに行けばいい?
ほのっち:てんやか日高屋かサイゼがあるところなら大丈夫

「ツバサ、天ぷらがいい? 中華がいい? イタリアンがいい?」
「そこは和食、中華、洋食じゃないの? んー、揚げ物の気分かしら」
「了解把握」
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/27(火) 10:31:49.30 ID:XSqQyOqG0
エリー:てんやにしましょう。
ほのっち:じゃあ、私の最寄りまで来てくれると助かるなー、あそこにはなんでもあるから。
エリー:穂乃果は最寄りまで来てほしいだけなんじゃないの?
ほのっち:リ`・ヮ・)

 何その顔文字は……誰? 

「ええと、穂乃果の地元までは確か30分くらいで行けたわね」
「みんな結構近場に住んでるのねえ」
「なんやかんやで、東京に住んでるものね」

エリー:電車の時間次第だけど、1時間以内には着くわ
ほのっち:オッケー! トイレ行ってからすぐ出る!
エリー:慌てないで良いから、てんやは逃げないから

「相変わらずね、穂乃果は。働いている時は多少擦れたんじゃないかと思ったけど」
「人間、性根はそうそう変わらないわ、余程のことがない限りは」
「……確かにそうねえ」

 変わったように見えた亜里沙でさえ、海未と話している時は昔のままだったし。
 昔のまますぎてエリーチカ大変悲しいけど。

「そういえばエリー」
「なあに?」
「歳を取ると筋肉痛は遅れて出るそうよ」
「いったー、もう筋肉痛! 久方ぶりのダンスで、全身筋肉痛だわー!」
「それは恐らくどこか痛めているから病院に行きましょう」
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/27(火) 11:42:13.45 ID:B2BGxW9SO
>>115
他作品キャラだとしても似てるだけで別人だろ
バストは73かもしれん
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/27(火) 12:14:37.61 ID:XSqQyOqG0
 穂乃果が住んでいる場所の最寄りの駅までたどり着く。
 ツバサとバカ話をしていたらあっという間だった。
 まさか周りの人も、あの元A-RISEでトップアイドルの綺羅ツバサが悪代官というゲームにハマった挙句
 時代劇に出てみたいと駄々をこね、マネージャーから家庭用ゲーム禁止令を出された話とかするとは思うまい。
 
 私は綺羅ツバサ! 趣味はインスタグラム!
 とかのほうがよっぽど彼女のイメージに合ってる。いや、私はインスタグラム知らないけど。
 実際ツバサは写真好きではあるけど、写された瞬間には変顔をするようにしているとか誰も信じてくれないはずだ。
 特に、さっきツバサが来た瞬間に余裕の表情が崩れて一気に泣き顔になってしまった聖良さんとか。
 妹の理亞さんに(彼女はたまたまオフだった)電話でなまらすげー! とか叫んでたけどね、ギャップ萌えってやつかしら。

「さてと、穂乃果は……」
「まだ来てないのかしらね?」
「高校時代のマゲは相変わらずだから、結構目立つと思うんだけど」

 二人してキョロキョロと周りを見ながら歩き回る、
 LINEも私の最後のメッセージに既読が付いたままで、新着はない。
 よもやどこかで事故にでもあってはいないかと心配になり始めた時、
 こちらに向かって走ってくる人影が見えた。

「おーい! おーい!」

 穂乃果だ。
 マゲをぴょこぴょこと揺らしながら走ってきた彼女は、両手に袋を抱えていた。

「何持ってるの、穂乃果」
「ウコンのチカラだよ! 飲むからね!」
「だからって両手にあふれるほど買う必要は……」
「いや、別に全部がウコンじゃないよ、私の買い物もあったんだよ」
「穂乃果さん私服は無印良品で買うのね」

 では飲んだ帰りに行けばよかったのでは? と思ったけど、まあ時間をつぶす意図もあったのかもしれない。
 それにしたって買いすぎだと思うけど。
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/27(火) 12:42:26.22 ID:nfX4yOvSO
ツバサと絵里ちゃんってなんか気が合いそうだよなぁ
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/27(火) 16:41:58.24 ID:nIngOC7BO
>>87
そういやランス10出たばっかだな
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/27(火) 18:19:50.82 ID:XSqQyOqG0
 連れてきた場所を見てツバサが唖然とした。

「ここは……ごはんを食べるところじゃなくて?」

 おずおずと切り出す彼女は小動物みたいで可愛らしい。
 まあ確かに、今日はてんやで飲みますとか言ったらツバサだって反対したかもしれない。
 有無を言わさずに連れてきた私えらい。

「ほら、私居酒屋チェーンの従業員じゃない? だから、大衆居酒屋だと気まずくて……」
「ああ、なるほど。だからエリーは揚げ物だって……揚げ物やじゃなくて天丼屋よ……」
「でもね、ちゃんと酒飲み向けのメニューはあるんだよ、ここは甘いお酒も出してくれるしね」

 最近……かどうかはわからないけど、ラーメンとか天丼とかパスタを一品食べて帰る客より
 多少長居をされてもお酒をいっぱい頼むお客のほうが上客みたいな扱いらしい。
 候補としては日高屋とサイゼだったことを告げると、
 ツバサは新しいことを知ってネタになったと言わんばかりの表情をする。
 ――あれ? ツバサの書いているネタって確かゲームでは?

 店の中に入ると、意外とと言っては変かもしれないけど女性店員が多かった。
 3人だと告げ、テーブル席に案内される。

「はーい、私穂乃果さんの隣! エリーはハブ!」
「お酒飲む前からテンション高いわね……」

 この中で一番お酒が弱い穂乃果がお手洗いが近い通路側に、私たちが奥の席で正対した。
 大衆向け居酒屋みたいにメニューがたくさんあるわけじゃない、お酒の種類なんてせいぜい7種類。
 安いというわけでもないけど、本当に比べるわけでもないんだけど、こっちのほうが美味しい感がする。
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/27(火) 18:20:22.12 ID:XSqQyOqG0
「そうね……じゃあ、この一品料理の天ぷら全部」
「テーブルに乗り切らないわよ、我慢しなさい」
「穂乃果さんはお魚がいい? お野菜がいい?」
「好きなものは先に食べたいから、お魚!」
「よーし、店の穴子全部もってこい!」
「だからテーブルに乗り切らないって」

 私たちが結局頼んだのは、生ビールと天ぷら盛り合わせのセット。
 穂乃果はビールではなく、最近飲めるようになったというレモンサワーだ。
 (注意 なお現実のてんやにはレモンサワーはありません、あしからず)
 乾杯をして一口飲んでからしばらく、揚げたての天ぷらが出された。

「「「いただきまーす!」」」

 えびといかとレンコンとインゲンの盛り合わせなので、とりあえずインゲンから口に運ぶ。
 ロシアでは……というか、幼少時にはインゲンなんて食べたことなかったし、高校時代も特別食べたいとは思わなかったけど
 今ではこの青い感じがお酒に合ってちょうどいい。
 
「エリー渋いわね、インゲンから食べるなんて」
「そうだよ、普通魚介からでしょ」
「そ、そうかしら……」

 青いものとか野菜とかから食べるタイプのエリーチカ撃沈。

「暖かくてサクサクで美味しいわねえ」
「ほんとうだねえ……」

 ツバほのの二人は同じものを食べてて、超仲良しと言った雰囲気を醸し出していた。
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/27(火) 18:21:02.71 ID:XSqQyOqG0
「そういえば、なんで二人は一緒だったの? 仕事じゃないよね?」

 レモンサワーをちびちびとまどろっこしく飲みながら、穂乃果が聞いてくる。
 
「私はエリーに呼び出されたの、ちょっと面貸せって」
「人聞きの悪いこと言わないで、見せてやろうと思ったのよ、昔取った杵柄というやつを」

 生ビール5杯目のツバサと、4杯目の私は多少の気分の昂揚を感じつつ

「ハニワプロって知ってる?」
「有名な芸能事務所だよね、まさかそこに行ったの? アポ無しで?」
「アポ無しで行ったのエリー」

 確かにアポなしで行きました。
 だけどまさか中にまで入れてくれるとはまったく思ってなかったんだもの!
 と言っても二人の視線は微妙に冷たかった。

「いえ、その、プロデューサーさんが外で呆然としている私に声をかけてくれて」
「まさかスカウト!?」
「エリーをスカウトしようとするなんて余程の天才か自惚れ屋ね」

 経緯を説明しているうちに、段々と二人の視線が困った人を見るような目になっていく。
 だって私だって、トントン拍子で中に入って踊れるとは思わなかったんだもの……。

「絵里ちゃん踊れるの?」
「正直踊れるとは思わなかったわ」
「何いってんの、ノリノリだったじゃない、最後には現役のアイドルたちと一緒に踊って歌って」
「絵里ちゃん、明日死ぬんじゃない? ニートの素行じゃないよ……」
「穂乃果もそう思う?」
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/27(火) 18:21:30.16 ID:XSqQyOqG0
 まあ死ぬ死なないは置いておいて、今日の私はどこかおかしかった気もする。
 と言うより何もかもが上手く行き過ぎた気がした。
 なんというか乗せられている感が満載で、自分でも上手に動けたとは思うけど、うーん?

「そういえばはじまりは希なのよ、亜里沙の仕事が知りたいならそこに行けって」
「え? でも亜里沙ちゃんって芸能関係の仕事じゃないんでしょ?」
「自称キャリアウーマンって話だものねえ……芸能関係はキャリアじゃないわねえ……」

 ツバサは6杯目に入る前にハイボールに切り替える。
 私も負けじと日本酒を頼むと店員さんに怪訝そうな表情をされた。
 そんなに似合わないかしら……?

「で、結局亜里沙ちゃんの仕事は分かったの?」
「さっぱり、何の情報も得られなかったわ!」
「じゃあ、エリーが楽しんできただけじゃない!?」

 そう言われてしまうと、ぐうの音も出ない。
 出てきた日本酒をちびりと飲みながら、辛口のお酒にふうとため息を付いた。

「ツバサさんは、なんで絵里ちゃんの誘いに?」
「見てみたかったのよ、私がいなくなった後のアイドルというものを」
「二人って案外似てるよね?」

 私たちはお互いに顔を見合わせ、首を傾げる。
 同じタイミングだった。
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/27(火) 18:22:00.66 ID:XSqQyOqG0
 てんやで一通り飲み散らかした後、まだ飲み足りないというツバサと
 甘いものを食べたいという穂乃果の要求を飲んで、ファミリーレストランに向かった。

「ファミレスでお酒を飲むとか、高校時代は思いつかなかったわねぇ……」

 思いつかれても困る。
 どんな店にも無難においてある中ジョッキを飲みながら、二人して遠い目をする。
 
「あの頃は楽しかったわねえ……」
「ええ、年を取れば取るほど、月日の感覚が無くなっていくわ……」
「……私もそう思うよ」

 おばあちゃん臭いとツッコミを入れられると思いきや、穂乃果の意外な同意にびっくりする。
 ツバサと顔を合わせ、地雷を踏んだのではないかとアイコンタクトで会話をする。

「μ'sを結成して、毎日練習して、穂むらでお手伝いをして、思えば高校時代が一番充実してたな……」

ツバサ:ちょっと、穂乃果さんが微妙にナーバスじゃない!
絵里:あなたの振った会話でしょ! あなたが責任持ちなさい!
ツバサ:そこは同じ学校だったよしみで、エリーが責任取るところでしょ!
絵里:嫌よ! 酒が入って絶対に愚痴コースだもの!

「はぁ……自分が嫌になるなあ……ああすればよかった、こうすればよかったばかりが思いつく……」

 穂乃果が凹んでいるけど、発言を聞いている私たちも微妙に突き刺さることを言われている。
 もしも自分が働いたら――

 などということはまったく考えたことがないので省略するとして。
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/27(火) 18:22:28.06 ID:XSqQyOqG0
「高校時代っていうのは、なんであんなにも楽しかったのかしらね」
「ツバサさんも楽しかったの?」
「もちろん、アイドル業も楽しかったけど……やっぱり、スクールアイドルっていうのは楽しいものなんだと思うわ」

 3人で顔を合わせ、あの時はこうだったとかこの時はなんて考えてたのとか話し合う。

「聞きづらいけど、ツバサさんは私たちに地区予選で負けたときどう思った?」
「2日はオンラインゲーム漬けになったわ」
「そこは燃え尽きて何もできなかったっていうところでしょ、元気じゃないの」

 仮に私が就職活動をして面接とかに落ちても同じ行動をすると思うけど。

「でも、3日目になった時、あんじゅや英玲奈とまた歌って踊りたいって思ったわ」
「なるほど」
「穂乃果さんはμ'sを解散することを決めた後、どうなった?」
「なんで時間は止まらないんだろうって思った、時を巻き戻してみるかいとか思った」
「……そんな歌詞も、あったかしらね」

 でもね、と穂乃果は続ける。

「もう一度μ'sって気にはなれなかった、当初は期待もされたけど……絵里ちゃんたちの卒業で区切りをつけないとって」
「そうね」
「スクールアイドルっていうのは、たぶん、気持ちのいい場所なんだと思うの、だからこれほど流行ってるし、これからも続くんだと思う」
「穂乃果さんの言うとおりだわ」
「でも、スクールだから卒業しないといけないんだよね、うぶ毛の小鳥たちもいつか空に羽ばたく大きな強い翼で……飛ぶ」

 そういえばこの歌詞を書いた時、海未は何を考えていたのだろう?
 ちょっと聞いてみたくなった。

「まあ、未だに羽ばたいてないエリーみたいな例外はいるけどね」
「殴るわよ?」
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/27(火) 18:22:59.70 ID:XSqQyOqG0
 ツバサと穂乃果との飲み会が終わってから2週間ほどが経過した。
 今まで怒涛の勢いでμ'sのメンバーとかA-RISEとかとお酒を飲んできたのが嘘のように誘いもない。
 あの日から亜里沙はテレビで芸能関係のチェックをするのをやめ、食事以外ではスマホをよくいじっている。
 テレビのチャンネルの選択権が戻って来たけど、この時間帯はやっぱりニュースしかやってないわねえ……

「ん? なんかテレビにツバサみたいな人が写ってるわ」
「ああ、もうニュースになってるんだ」
「……これ、ツバサじゃない?」
「だから綺羅ツバサさんだってば、テレビよく見て!」

 亜里沙に注意をされたので、用心深くテレビから流れる放送を見やる。
 記者から質問攻めにされているツバサは、とても400円の中ジョッキをうまいうまいと飲んでいた人物には見えない。
 テレビ越しに見ても彼女のオーラは華やかなものだった。

「もう一度アイドルをやりたくて、恥ずかしながら戻ってきてしまいました」

「一人というのは不安があります、でも、アイドルがとても楽しいってことを皆に伝えたいと思って」

「はい、以前いた事務所という選択肢もありましたが、もうA-RISEであることは忘れて心機一転、ハニワプロでお世話に……」

「だって可能性を感じたんだ そうだススメ――! 私の好きなスクールアイドルグループの曲の一部です」

「そうですね、ライバルは多いですが負けるつもりはありません、でも、雑用でもお茶汲みでも何でもします、お仕事ください(笑)」

「それから、マネージャーも募集中です、もちろん未経験可で」

 ふいに、ツバサと目が合った気がした。
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/27(火) 18:30:07.31 ID:XSqQyOqG0
 高坂穂乃果との飲み会編はこれで終了です。
 次回は東條希との飲み会編ですが、普通に飲んで終わるかもしれません。
 今後の展開が予想できる材料は充分に書いたつもりなので、
 久方ぶりにダメ人間エリち登場となると……いいなあ。

 それから、今後の展開を3パターン考えていて、どれにしたものか迷っているので
 5〜10レスくらい頂いて読者の皆様に決めていただこうかと思います。
 アンケートのタイミングは東條希編のラストになるか、もう一話設けるかは決め損なっているので
 冗長ではありますが、飲み会編はまだまだ続くということをお伝えして。

 それと、バーマスターエリちルートはありません。
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/27(火) 18:36:01.48 ID:UZz35zs40
凛、知ってるよ。そういう時は全部書けばいいって
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/27(火) 18:59:18.57 ID:Hvb8jNpVO
これだけヒントあっても亜里沙の職業に気づけないえりち…
どんな選択肢かわからんがマスタールート以外なら全部読みたいぞ!
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/27(火) 20:30:42.32 ID:5UqmWp11O
このssのおかげで禁酒失敗しそうだw
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/28(水) 11:55:50.20 ID:qsKWgNqSO
やはりPKE
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/28(水) 20:52:58.95 ID:93SiUFr2O
天然姉妹やね
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/28(水) 22:09:26.37 ID:ztkfi3ABO
しばらくニートの割にはしっかり者風が続いてたからな
ダメダメえりちにも期待
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 06:52:57.97 ID:yn41XCJD0
https://fate.5ch.net/test/read.cgi/lovelive/1519826613/

ラ板でSS書いていました。
最近アラサー希とアラサー絵里しか書いていなかったので、高校時代の彼女たちを書いてリフレッシュ。
ただポンコツにステータスを全振りしたので、こう、シリアスな彼女も書きたいですね。
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:41:53.22 ID:YnEi7UPxO
>>140
読んできた
安定のPKEっぷり
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 16:21:49.69 ID:bPk2LpGPo
>>140
ポンコツえりちの自由人っぷりすき

お題スレとはまた別でやってたのね
よくそんなペースで面白い文章書けるなぁと素直に感心
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 19:43:52.61 ID:yn41XCJD0
申し訳ないです! 家族のミスでPCを初期化しなければいけなくて
今作品を書いているところです! 今夜中にはなんとかするので少々お待ちください!
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 19:54:41.86 ID:n46vNldZO
それは災難…楽しみに待ってるよ
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 22:32:51.39 ID:yn41XCJD0
(東條希との飲み会編)

 亜里沙との食事の最中、おずおずと妹が聞いてくる。

「姉さん、私の仕事はわかりましたか?」
「さすがにノーヒントで答えをつかむのは無理よ、無理よ、そんなの無理」
「そ、それならばそれでいいんです! いいですか、人の仕事を興味本位で覗こうなど……恥を知るのです!」

 ビシィ! と指差す私の妹。
 
「い、いや、でも、ほら? ……指を他の人さしてはいけないのよ?」
「もちろん外ではこんなことしません、姉さんがあまりにも情けないから……! 後ろ指ばかりさされているから!」

 見えないからわからないし! 後ろに目なんてついてないから!
 というのと同時に、エリーはとある作戦を思いついた。

「情けない姉でごめんなさいね……」
「ね、ねえさ……お、お姉ちゃん?」
「そうよね、後ろ指さされちゃうわよね、外になんて出たらいけないわよね?」
「い、いや、そこまでは……」
「希には悪いけど今日は断って――」
「姉さん?」
「希は忙しいからなかなか機会もなくて……残念だけど……」
「ああもう! もう! 分かりました! 行ってきて構いません!」
「本当!? じゃあ! お小遣いも!」
「最近ご無沙汰でしたもんね、構いません。ただ」
「ただ?」
「今度はありません、同情を誘うような作戦を今度したら……」

 自害させます。
 ――は、ハラショー、怖いわぁ……
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 22:33:52.15 ID:yn41XCJD0
 希は顔出しをしている有名人でもあるので、基本的に飲み屋はNG。
 だから宅飲みをする予定ではあるんだけど……

「ええと、確か希の指定した住所は……」

 神奈川の箱根。
 つまりは温泉街。
 カッポーンという音が脳内で鳴った。

 うん、たまには大きなお風呂というのもいい。
 高校時代は穂乃果の紹介で銭湯にも入ったことがあるし。
 ただやたら周りのお婆ちゃま方から、何か別の人種の人を見るような目で見られて――
 
 まあ、たしかにロシアンクォーターエリチカとしては外国の人扱いも慣れてはいたけど。
 でもお婆ちゃま方、私は近所のお祭りにも参加していたし、イベントにも出てたんですよ?

「ううん、今日は嫌な思い出を振り切って――!」
「何が嫌な思い出なのよ」

 振り返ると真姫がいた。
 帽子をかぶり、目元にはサングラス、ついでにマスクまで。
 芸能人気取りかしらマッキー……。

「どうして?」
「どうしてって、今日はμ'sのみんなで宴会でしょ? 聞いてないの?」
「聞いてないわ……」
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 22:34:20.54 ID:yn41XCJD0
 何でも今日は旅館を借り切っての宴会が執り行われるらしい。
 らしいというのは、真姫も来たは良いけど詳細は知らされていないみたいで。
 
「エリー、就職は?」
「ぶっぶーですわ!」

 最近LINEを交換するに至ったルビィちゃんから教えてもらった、お姉さんの口癖。
 その人はなんでも実家で絶大な権力を発揮して――ルビィちゃんのスポンサーとして活躍しているらしい。
 それは職権乱用では……?

「え、候補すらないの?」
「ありませんわ」
「何その口調……」
「私のファンだっていうお嬢様が喜ぶと思って……」
「喜ばせてヒモにでもなる気?」

 それは今の生活と全く変わりがないというか、今よりたちが悪くなってませんか?
 
「エリー、良い声しているから歌手とかさ」
「買いかぶるというか、好感度高すぎじゃない?」
「だ、誰がハーレム系小説の3番手ヒロインよ!」

 誰もそんなことは言ってませんわ……。
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 22:34:49.38 ID:yn41XCJD0
「何話してるのー?」
「あ、花陽じゃない!」
「エリーがまた馬鹿な想像をしていたから注意してたのよ」
「真姫ちゃんほどほどにね」
「エリーが!」

 花陽は以前よりも少しスマートになったというか、やつれ気味?

「花陽……その、就活上手に行ってない?」
「本当は今日も説明会って嘘ついちゃった、いけない子だね、私」
「ここに絶望的に駄目な人がいるから良いのよ」

 マッキーさっきから私に恨みでもある?

「ネットで見たよ、絵里ちゃんツバサさんからマネージャーにならないかって誘われてるんでしょ」
「丁重に五回もお断りしたわ」
「同じ地元の元スクールアイドルで、現在は就職する気もない子を誘っているって、やほーニュースでみたもん」
「本当に? 良い就職先じゃない? エリーにはもったいなさ過ぎるけど」

 身の程を知っている私としては、いきなり超トップアイドルのマネージャーとか
 漫画の主人公じゃあるまいし、そんなことができるはずもないのだけど。

 以前もツバサに――
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 22:35:27.09 ID:yn41XCJD0
「エリー! お願い! 私、エリーじゃなきゃ嫌なの!」
「えー……あなたなら敏腕マネージャーなんかいくらでも選び放題じゃない」
「金髪で胸が大きくて元スクールアイドルで外国語堪能でμ'sのメンバーなんてエリーしか当てはまらない!」
「それはマネージャーの必須条件じゃないわよ! というか私を選んでるじゃないの!」
「エリー、案外みんなからの好感度高いのよ? 人を引きつける魅力……とでも言うのだろうか」
「英玲奈のマネじゃない!」
「ま、今のは冗談よ。でも、ほら、ハニワプロの子からは大人気よ? アイドル仲間からも評判いいし」
「なんで私の噂が広まっているのよ……誰が広めたのよ」
「それはあり……」

 あり?

「ありえないスピードで広がっているのよ、バイオハザードね」
「だからなんで私なのよ、あのねえ自分で言うのもなんだけど、私かなりダメ人間よ?」
「別に私も慈善事業であなたを就職させたいというわけではないのよ?」
「芸能界にも興味ないし、何より未経験、マネージャーのことも何も知らない……本当なんでなの?」
「興味があるのよ、社会復帰をしたあなたに」
「べ、別に……大したもんじゃないわよ……」
「ニート時代でも誰からの評価も変わらなかった、それどころか評価はうなぎのぼり、普通なら見捨てられて生き倒れてるわよ?」
「そ、それは」
「絢瀬絵里という人間はするしないでは何も変わらなかった、おそらく、あなたは何も変わらない」
「買いかぶりすぎよ」
「あなたはきっとこの世の中を、運命を、変える人間だわ」

 なお自宅。
 亜里沙は気まずいのか部屋から一歩も出てこなかったけど。
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 22:36:40.64 ID:yn41XCJD0
申し訳ない、全然終わらず。
まだまだ続きます。

ひとまず二時頃に起きて書いてからバイトに行きます
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 22:53:38.79 ID:TZxwSVapO
ニートになってもなんだかんだモテモテじゃないか
朝シフトなのかな?ファイトだよ!
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/02(金) 00:10:26.45 ID:sd+b0SgMO
>>145
ヒントは山ほどあったんだよなぁ…
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/02(金) 00:18:39.40 ID:fGj8R4aao
宴会編楽しみ
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/02(金) 08:35:52.76 ID:5YIa2DkdO
俺も分からんわ
なんかヒント欲しい
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/02(金) 10:21:46.29 ID:8TYjdzTSO
アリサマスター説
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/02(金) 12:36:48.91 ID:Xkwu0NtO0
バイトから戻りました。
一応深夜二時くらいにちゃんと起きて書いてはいたんですが途中で値落ちしまして。
なので今から書いた分だけ投稿して、また書いていきたいと思います。

……1レスSSはもう少し
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/02(金) 12:37:30.23 ID:Xkwu0NtO0
「あ、かよちん! 真姫ちゃん! 絵里ちゃん!」
「凛ちゃん!」
「凛!」
「ちょっと凛! この前私の現場に差し入れ持ってきたでしょ! 処理するのに困ったのよ!」
「人身御供は何にしたにゃ?」
「クソ作品を作った脚本家と監督」

 凛も自分の料理が上手にいってないという自覚があるなら渡さなければいいのに。
 それは何ていうか、無自覚テロと言わんばかりの行動なのではないかと……。

「そういうときはスポンサーに渡すにゃ」
「金づるにお前はクソですなんて言えないでしょ」
「聞いてはだめよ花陽! 就職するのが辛くなるわ……!」
「え、絵里ちゃん……! 耳! 耳は弱いのぉ!」

 旅館の前で騒いでいると従業員と思わしき女の子が出てきて、

「お客様、もしかして……元μ'sの」
「人違いです」
「ちょっと何否定してんのよ絵里!」
「東條希で予約を入れていると思うんですけど」
「あ、はい。その方の名前でご予約を頂いております。そうじゃなくて、私、μ'sの大ファンで」
「な、なんだ、ファンの子かぁ」

 警戒を解く。
 なんというか、私が元μ'sだと知られると意外と面倒なんだ。
 就職を斡旋されたり、仲良くもないのにメッセージを送られてきたり。
 ファンの子はそこら辺の線引がはっきりしている子が多いから安心なんだけど。
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/02(金) 12:38:02.25 ID:Xkwu0NtO0
 高海千歌ちゃんは元Aqoursのリーダーで、現在は実家を出ての一人暮らし。
 長いこと友人にも会っていないとかで、最近は寂しい寂しいとばかり言っていた。

「ちなみに誰派なの?」
「穂乃果ちゃんの……大ファンで……」

 私たち四人の空気がぴしりと固まる。
 高校時代にファンに一番囲まれていた穂乃果は、大学入学時にとあるトラウマを作ったらしく
 その、人との線引をはっきりしていた。

「それ、穂乃果の前で言っちゃ駄目だから」
「あー……」

 千歌ちゃんの表情が一気に固まる。
 ああ、もう手遅れだったか……荒れてないと良いんだけど。

「私、今日はいい日だなって思ったんですけど、やっぱりファンはファンとしての自覚を」
「いいじゃない今日はお酒の席だし、お酒を交わせば、穂乃果とも仲良くなれるわ」
「え、でも私まだ仕事中で」
「私たちしかお客さんはいないんでしょ、平気よ平気、どちらにしろ顔を合わせるなら酔わせて機嫌取っちゃえばいいのよ」
「絵里さん……! 私、絵里さんを2推しにします!」

 一番にはなれない運命か。
 ――私たちが案内された場所は、本当だだっ広い宴会場だった。
 もうすでに穂乃果、ことり、海未、にこの4人が到着していて、お酒を酌み交わしていた。

「ほら、千歌ちゃん」
「はい! 穂乃果さん! お酒お注ぎします!」

 でもみんな、まだ昼の12時よ?
 昼間から飲むお酒は大変美味しいというけれど、ニートの私には気まずいだけだわ!
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/02(金) 12:38:40.17 ID:Xkwu0NtO0
 現在時刻は13時。
 最初は我慢をしていた私も、周りのメンバーが盛り上がっているにつれて、

「千歌ちゃんビールある?」
「もちろんです! 絵里さん!」

 お酒を飲み交わす。
 ああ、やっぱりこの一杯のために生きているって感じだわ。
 右隣には海未、左には花陽。
 今気づいたけど、うみぱなえりって相当珍しい組み合わせじゃないかしら?

「そうですか、20連敗……大変ですね、花陽」
「もっと自分の身代に合った職場を選ぶべきじゃないかなって、最近では思うよ」
「アルバイトをしながら面接を受けて、頭が下がる思いです」
「受かれば格好いいんだけどね、もうそろそろ実家から出ろオーラが出てきてね」

 世知辛い。
 センターにいる私を無視して就職談義に花を咲かす二人。
 私はといえばアドバイスもできないし、かといって話をかき回すこともできないし。
 おかしいな、元は海未と並ぶくらい真面目なメンバーだったと思うんだけど? 
 これが時間の流れというのは残酷だってことかしら。

「実家から出る……私も絵里みたいになれば実家からでなければいけなかったでしょうか」
「このまま追い出されたりしたら、どうしようって思うよ。
 そのときには凛ちゃんが面倒見てあげるって言ってくれているけど」
「難しい選択ですね……凛も忙しいですから」

 この場を離れるべきか、留まるべきか。
 難しい選択だ……。
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/02(金) 12:39:22.91 ID:Xkwu0NtO0
 時刻は14時。
 席順が少しだけ変わっていた。
 右隣には真姫、左隣には穂乃果。
 まきほのえりというこれまた珍しい組み合わせ。

「ええ? 穂乃果の仕事先閉店しちゃったの?」
「そう、結構繁盛してたけどね、最近は食品管理が厳しくて」
「ああ、私もよ穂乃果、今回もDVDの売上が芳しくなくて爆死よ!」

 髪の色と同じように真っ赤になりながら、それでもジョッキを離さない真姫。
 今回のタイトルは有名なろう小説の念願のアニメ化で、元のファンも多いんだけど。
 それでも爆死をしたってことは、もう、何か呪われているとしか……。

 そういえば、希が遅いわね。
 キョロキョロと周りを見回してみると、花瓶と目があった気がした。
 おかしいわね、酔っているのかしら……?
 
「ねえ、真姫、あの花瓶動いてない?」
「何言ってるのよ、私の世界は全て揺れているわ!」
「真姫ちゃんほどほどにね? そろそろ自重してね?」

 うーん……?
 たしかにあの花瓶、なんか不自然に穴のようなものが見えるし
 顔の部分だけくり抜かれているとしか思えないし。

「ねえ、穂乃果、やっぱりあの花瓶、希に見えるんだけど」
「希ちゃんがそんな花瓶の中になんて入るわけ無いでしょ、酔ってるの絵里ちゃん」
「そうよねえ……」
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/02(金) 12:40:13.35 ID:Xkwu0NtO0
 時刻は15時。
 先ほどと同じように席順が変わっていた。
 右隣はにこ、左隣は凛。
 にこりんえりという、割とよく見たような組み合わせ。

「凛は相変わらず忙しそうね」
「にこちゃん少し痩せた?」
「お互い様でしょ」

 この中で唯一忙しくないメンバーの私は、ビールではなく日本酒を飲んでいた。
 先程からチラチラと花瓶に見られている気がして落ち着かない。

「絵里も就職してしまうし、こんなふうに飲むこともできないわね」
「え、何そのガセ情報」
「ツバサさんからは逃げられないにゃ」
「たしかにあの子に追われて逃げられなかったプレイヤーは数多くいるけど……」

 そしてツバサに追われて垢バンされたプレイヤーも数多くて。
 彼女は不正チートなんて利用していないのに、追われたプレイヤーはどうしようもなくて……。

「芸能関係者からも有名だよ、ツバサさんって逃げれば逃げるほど追いかけてくるって」
「去るものは追うタイプね、でもそれくらい強引じゃないと就職しないって」
「凛は仕事を貰わないと食べられないのに、絵里ちゃんには仕事が勝手に入ってくる」
「理不尽ねえ……」

 その仕事は私が全く望んでいないので、厄介事でしかないんですが……
 ああ、お酒が美味しい……。
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/02(金) 13:28:34.79 ID:uE0+tMOkO
大魔王ツバサ…
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/02(金) 15:37:04.10 ID:8alCwGtLO
のんたん何してんねん…
>>154
亜里沙の知り合いにやたらアイドル関係者が……おっと誰か来たみたいだ
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/02(金) 15:48:08.84 ID:Xkwu0NtO0
 宴も後半戦――かもしれない。
 16時になり、ついに宴を催した希がやってきた。
 なぜかところどころ顔が黒い。
 まるで花瓶にでも入ってたみたいね! はは! 
 と言った真姫が今はお腹が痛いともだえ続けている。

「ほんま、スピリチュアルやね」

 それはスピリチュアルではなく、プロクリャーチエと言うものではないかと。
 まあ、彼女の原因不明の腹痛は食べ過ぎとか飲み過ぎによるものでしょう、おそらく。

 席順もめまぐるしく立ち代わり、今はことのぞえりという組み合わせ。
 高校三年間でことりが希と絡んだのを見たのは、おそらく二桁行っていないから
 かなりレアな組み合わせではないかと言わざるをえない。

「そういえば今度、真姫ちゃんあまえちゃんの声をやるそうやんな」
「あまえちゃん 好きー!」
「言われる方よ! あいたたた……」
「ああもうじっとしてなさいよ!」

 そういえば、にこまきというカップリングがあることを教えてくれたのは、真姫自身だったっけ。
 あのときはどういう気分で私に告げたんだろうか……膝枕をされて至福の表情の彼女を見るに想像できない。
 (注・本来のあまえちゃんの声の担当はルビィ役の降幡愛さん)
 あんなに、ひたすら気持ち悪い、とにかく気持ち悪い、何があっても気持ち悪いと評判の漫画の声を担当するなんて
 にこに対して気持ち悪いと言い放った彼女が担当するとは……声優というのはわからない世界だ。
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/02(金) 15:48:47.69 ID:Xkwu0NtO0
「希ちゃん、こんなこと言うのは差し支えがあるんだけど……」
「おお、どうしたんことりちゃん、ダイエットの方法ならエリちに聞いて」

 ――ダイエットという言葉にことりの表情が笑顔になる。怖い。
 
「その、運勢を占ってほしいの」
「なにか悩みが?」
「年をとると不安が増すの、このままで良いのかって」

 ほぼ全員の耳がダンボになる。
 みんなアラサーだから、将来に対する漠然とした不安が強くなる時期だ。
 ニートって宿題が終わらない状態の8月31日を延々と過ごしている感じだから
 こう、たまには占いも頼りたくなる気持ちもわかる。
 わりかし不安定要素の強い"有名人”という括りの凛や真姫。
 自営業で安定しているかと思えば突然のお見合い決定(覆ったけど)が尾を引いている海未。
 お店が潰れて無給状態になってしまった穂乃果、就職先が決まらない花陽。
 唯一安定しているとも言っても良いにこだけが、しょうがないわねぇみたいな顔をしている。

「せやな……じゃあ、ちょっとみんなの運勢を占ってみよか」
「え、みんないいの?」
「もちろん、こうなるかと思ってちゃんと占い道具も持ってきたし」
「ささ! 順番決めよう! 一番は言い出しっぺのことりちゃんとして、二番目以降はお給料の金額で決めよう!」

 それ必然的に私がラストになっちゃうやつじゃん。
 そして穂乃果も微妙にあとの方になるやつじゃない?
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/02(金) 15:49:20.78 ID:Xkwu0NtO0
 希の占い教室は2時間ほど続いた。
 残すは、海未、花陽、私の順番となっている。
 真姫は、心機一転、エッチなゲームにも出よう! と言われて凹んでいるものの
 他のみんなは表情が晴れ晴れとした雰囲気を出している。
 言い出しっぺのことりは技術をお金に変える職業で、不安に思う要素は何一つないと励まされたし
 ノリノリだった穂乃果は、そろそろ転職を考える機会かもねなどと言われてリクルート雑誌を千歌ちゃんに頼んだ。
 安定しているにこは占いなんて、と最初の方は言っていたけど、体を壊さないように注意され表情が引き締まる。
 
 凛は結婚運が非常に高まっているらしく、相手をきちんと選ぶことを注意されてた。
 もうお相手とも出会っているみたいで、高校時代ウェディングドレスを着た凛が……とか言ってた。
 
「さて、次は海未ちゃんやね。そういえばお見合いなんて話もあったんやて?」
「え、ええ。あまり口外はしていませんでしたが、そんな話もありました」
「受けなくて正解よ、海未ちゃんは元から結婚運が絶望的で、恐らくしても不幸になるだけだったから」
「……ぜ、絶望的ですか」

 大学を卒業してからあまり表情を変えない海未が珍しくたじろいでいる。
 私にもツバサのところに行ったら不幸になるからやめろくらいのことは言ってほしい。

「でも、園田の家って女の子しかいないから、せやなあ……養子でも取る?」
「家族の状況は希に言ったことありましたっけ?」
「……スピリチュアルやね」

 何をごまかすつもりなのか。

「まあ、良縁さえあれば背中を押してもええけど、でもね海未ちゃん、親の言うことばかり聞いてもいかんよ」
「そ、そうですね……」
「一人の自立した大人なんやから、そろそろ自分の意見を持っといたほうがええと思うよ」
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/02(金) 15:49:53.59 ID:Xkwu0NtO0
 海未の次は花陽。
 元から何事にも緊張しがちな花陽ではあるけど、今は顔面蒼白で凛に支えられて立ってるのがやっと。

「は、花陽ちゃん? そない緊張するんやったら、後日でもええで? お宅伺うし」
「だ、だいじょうぶ……! 希ちゃん! お家に伺うなんてそんなことまでしてもらったら、花陽倒れます!」
「今も倒れそうなんやけど……じゃあ、さしあたりのないことから行こうか」

 との希の言葉通り、仕事運が低調。恋愛運が厳しい。食あたり注意と言われている。
 最初の方は、うんとか、あーとかしか言えなかったみたいだけど、
 だんだんと元気を取り戻してきて、逆に質問を返すようにもなってきた。

「あ、それから花陽ちゃん」
「はい?」
「脱いだらあかんで?」

 全員の空気が凍る。
 みんなアラサーになってきて、その、お金が厳しい女性が最後の頼みとして就職する職業が想像できてきた。
 花陽は可愛いし胸も大きいからさぞかし人気になる……かもしれないし、そうでないかもしれない。

「希ちゃん、なんで知ってるの?」
「その会社、最初はモデルとかアイドルとか言って女の子をかき集めて、やがてエッチ方面の仕事を斡旋する質悪いところで」
「かよちん! そんなことがあったんならなんで凛に相談しないの!」
「だって、迷惑かなって」
「ばか! かよちんのためなら芸能界を引退したって良いもん! 凛がかよちんを想う気持ちを……甘く見ないで!」

 何処かで聞いたことがあるセリフだと思ったけど、感極まって泣いている花陽を見て自重する。
 
「まあ、注意するのはそれくらいやね、それから家から出たほうが良いよ」
「ええ……でも行くところが」
「凛のところに来なよ! ちゃんと毎日帰るようにするし!」
「何言ってるのよ、花陽が来るのは私の家」
「なんで凛とかよちんの話に西木野さんが割り込んでくるの!」
「に、西木野さんって(´・ω・`)」
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/02(金) 16:33:15.68 ID:fCflTXLdO
まきりんぱなで同棲すればええんやで
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/02(金) 16:35:36.68 ID:Xkwu0NtO0
「さて大トリのエリちやけど」
「あ、私は良いのよ、しばらくニート生活だろうし、未来を不安に思う要素は何も」
「その発言を聞いて言わなあかんって思うたわ、さ、みんな! エリちを逃げられんように拘束!」

 みんなから、体を四方八方抑えられた。
 抑える所がないメンバーは見張り役として近くにやってきて
 自分が占われているときよりも真剣な面持ちをしている、なーぜ! とーどけてせーつなさーにはー!

「ちょ、ちょっとことり、どこ掴んでるの、セクハラよ?」
「同性無罪だよね♪」
「背中に当たってるんだけど……」
「当ててるのよ♪」

 ことりが壊れた(ことり回に引き続き2回め)

「さて、エリちの現状は皆も知っての通り、ヒモでニートで酒ばっか飲んでるね」
「い、家では飲んでないし……」
「妹の亜里沙ちゃんの職業は、まあ安定している方だし将来に対する不安もない。優秀だし」
「そ、それほどでも」

 なんて小ボケをしてみると、ほっぺたの両端が引っ張られた。

「いひゃいいひゃい」
「ふざけないの、希の話をちゃんと聞きなさい」
「さてエリちは今、岐路に立たされとる。運勢的に見ても、今変わらないとどうにもならない」
「運勢的というか、もはや年齢的にやばいじゃない、30にもなろうかっていうときに職歴もないとか」

 そう断言されると、ちょっと私としても危機感煽られちゃうなあ……
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/02(金) 16:36:05.81 ID:Xkwu0NtO0
「エリちには、この先3つの選択肢がある」
「ゲームじゃないのよ希、と言うか3つもあるのね……」
 
 はい、いいえ、どちらでもない。
 とかなら随分楽なんだけど。

「もうすぐご両親が来るらしいやん? その時に亜里沙ちゃんから住む場所の紹介があると思うんや」
「ええ、いま交渉中とか言っていたわね」
「その場所にご厄介になって、ちょっと働き始めるのが第一の選択肢」

 は、働くのか……。
 何ていうか、何かの制服に身を包み働くとかまるで想像できない。

「でも、亜里沙ちゃんの知り合いってアイド……むぐっ!」
「何言ってんのよ凛! 今何も聞いてなかったわよねエリー!」
「え、ええ……なんか、不穏当な言葉が聞こえた気もするんだけど」 

 哀奴とかなんとか……亜里沙ってもしかして、調教師とか何かなんだろうか。
 調教師のキャリアウーマンというのを想像して、SMの女王様しか浮かばなかった私は震えた。

「二番目は、海未ちゃんにお世話になるパターンやね」
「いつでも歓迎しますよ、絵里」
「海未、気が早いわ、と言うか来る前提で物を考えないで」

 以前も言われたことがある、海未の家にお節介になるパターンか。
 でもご両親はなかなか厳しいみたいだし、ニートだと知られればビシバシとしごかれてしまうのでは?
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/02(金) 16:36:35.00 ID:Xkwu0NtO0
「さて、最後やけど。これは鉄板やね。ツバサちゃんのところでマネージャーす」
「わーわー!」
「誰かエリちの口塞いで、うん、頑丈に、ガムテープでいいから
「ごめんなさい、静かにするのでガムテープは勘弁して……」

 第三の選択肢は、以前ことりに紹介して貰ったマスターのもとで修行するものだと……。
 なんかやけに気に入られているし、もうすでにLINEの登録までされて――
 亜里沙が以前よろしくお願いしますと言いに行ってしまったことまであった。

「結果的には亜里沙ちゃんが一番喜ぶんじゃないかなあ」
「そうかしら? だってあの子の仕事芸能関係じゃないんでしょ?」
「……あ、そうだったね、うん、これはウチの勘違いや、ごめんごめん」

 確かにお給金的には一番高そうだし、亜里沙も一人暮らしを始められるかもしれない。
 隠れて姉のお世話なんて飽きた! とか思っているかも……。

「でも一番安定して、一番収入があるって言うのは魅力的やろ?」
「マネージャーなんて何をするかもわからない職業に未経験者がついていいと思う?」
「ええやん、ドラマでありがちやで」

 何その創作脳……。

「ツバサちゃんの好感度が高すぎてそっち方面が心配やけど、エリち彼女に何したん?」
「別に同じギルドに誘われてからずっと一緒ってだけよ」
「あー……ツバサちゃんにとってはA-RISEの解散はダメージが大きかったんやろうなあ……」
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/02(金) 18:19:47.23 ID:UxC1ReXgO
>>133で言ってた3パターンか
亜里沙ちゃんの紹介が誰かが気になるところ
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/02(金) 18:23:59.24 ID:Xkwu0NtO0
 その後、恋愛運も結婚運も進展なし、もはや女の子と結ばれたほうがいいレベル。
 などという、こころちゃんが大喜びしそうな診断内容を打ち付けられた後で夕食がやってくる。
 旅館側も、もうすでにお酒を6時間以上飲んでいるというのを把握しているのか、とても軽いメニューだった。

「エリち」
「あら、希。どうしたの? 食べ足りないのなら」
「温泉入ったらサシで飲もか」
「え? ああ、別に構わないけど、なに? まだ私を凹ませる気?」
「そうかもしれないし、そうでないかもしれんなあ」

 希と一緒に温泉に向かう道中での会話。
 ちなみにお酒が抜けない真姫と、あんたらと入るなんて絶対に嫌と宣言したにこがお留守番。
 もう恥ずかしがる年齢でも……はっ!

「もしかして、にこと真姫は本当に結ばれ……」
「エリち酒が抜けてないんやったら温泉やめる?」
「やめない!」
「まあ、7人もおるんやから誰か一人倒れても平気か」

 大浴場「桃源郷」の女子風呂に入っていると、ことりが近づいてきて。
 
「絵里ちゃんはやっぱり大きいよ、ウエスト細いし、本当にニートなの?」
「スタイルにニートは関係ないんじゃ……」
「これを見て」

 防水加工を施された(個人的にはあんまりお風呂での使用は歓迎できない)スマホを見せることり。
 そこには――

「結婚できない女の特徴?」
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/02(金) 18:24:29.26 ID:Xkwu0NtO0
「へえ、ことりちゃんこういうの見てるんや」
 
 希が近づいてくる。
 その様子を見て、どこかから舌打ちのような音が聞こえてきたけど……
 花陽が苦笑いをしているのが見えただけだった。

「結婚できない女の特徴……なになに、まず……家事手伝い」
「つまりはニートだね、ニートは結婚できない!」

 ビシィ! とことりに指さされる。
 まあ、結婚する気もないけど……そういえば私は結婚式って参加したことないな。
 式会場での司会なんて仕事も凛や真姫は何度か体験したみたいだけど。
 μ'sのメンバーはほとんど縁が無さそうだし、ルビィちゃんや理亞さんと言ったアイドルの子は恋愛禁止だろうし。
 
「勉強ができて賢い……?」
「そう! 偏差値60以上の大学の卒業生は結婚しづらい!」

 その場で回転したことりが先程と同じように指をさす。

「エリちの大学の偏差値って?」
「64くらいだったかしら? あんまり覚えてないけど」
「次の文章を読んで!」

 スマホの画面を指でスライドさせて見る。

「スタイルが良くて、外国語が堪能……?」
「この文章書いたのって……まさか……」

 希がそう言ったので、私も文末を見る。
 文責:T.K.Revolutionと書いてあった。
 T.K……何処かで聞いたような……?
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/02(金) 18:24:56.66 ID:Xkwu0NtO0
 ことりが、つまり私は結婚できるの! しないだけ! ねえ、希ちゃん! 
 なんて突っかかり始めたので、私はいそいそと退散。
 最初は凛たちに挨拶でもしようかと思ったけど、
 その彼女からあっち行けというふうな視線で見られたので
 やっぱり退散をすることにした。

「穂乃果、海未」
「絵里ですか、どうです? そろそろ家の仕事内容を確認しますか?」
「海未ちゃぁん! 穂乃果も転職させてー!」

 穂乃果が海未に抱きついている。
 これはお邪魔をしてしまったかな? いや、別に仕事の話をしたくないからじゃないよ?
 いそいそと後ろを向けて一人で落ち着こうかと思ったら、髪の毛をぐいっと引っ張られた。

「話は終わっていませんよ、絵里」
「その笑顔が怖いわぁ……」
 
 海未の攻撃で首が痛い。
 流石に強く引っ張り過ぎなのではと思ったけど、エリーチカ大人だから言わない。
 だってさっきから穂乃果は左手でアイアンクローをされている状態だから。

「さて、騒がしいのも落ち着きましたし……朝は5時起きです」
「本当に仕事の内容を説明しだした……」
「まずは道場の掃除から始めていただきましょう、なに、2時間で終わります」
「一人でやらせるの!?」
「もちろん、絵里は新人ですから」
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/02(金) 18:25:28.18 ID:Xkwu0NtO0
 海未の話をくどくど聞いているうちに、だんだんと湯あたりの前兆を感じてきた。

「ごめんなさい海未、ちょっと暑くなってきたわ」
「そうですね、名残惜しいですがそろそろ上がりましょうか」
「がぼがぼがぼ……」

 穂乃果は海未が話をしている間中ずっとアイアンクローをされたままだった。
 せめて離してとか、痛いとか言えばいいのに……。

 脱衣場に戻ると、にこと真姫がいた。
 着替えている二人をちょっと観察してみたけど、赤い痕跡などは見られなかった。
 やれやれ一安心。

「何ジロジロ見ているのよ絵里、にこの体なんてジロジロ見ても仕方ないでしょ」
「にこも需要があると思うわ!」
「死に腐れ! 金髪外道!」

 ひどい。
 私の精一杯のフォローは相手に伝わらず。
 でも負けない、エリーチカは女の子だもん!

「絵里、たいてい金髪巨乳と来ると人気投票では3番目以降になりがちだわ」
「何の話よ」
「つまり、絵里ルートアフターは発売されないのよ!」
「ごめんにこ、真姫酔っ払ってない?」
「嫌なことを思い出したからお風呂はいるって聞かなくて……」

 何を思い出したのだろう……?
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/02(金) 18:25:59.34 ID:Xkwu0NtO0
 大宴会場には布団が敷かれている。
 なんだか9人で寝るって言うと、まるで合宿のようだ。
 高校時代に何度ともなく行ったμ'sでの合宿を思い出して、笑う。

「あ、もしかして絵里ちゃんもμ'sのこと思い出しちゃった?」
「ええ、穂乃果も? 懐かしいわね、確か一回目は枕投げとかして」
「海未ちゃんの顔に当てて大変だったね!」
「もう枕投げなんて恥ずかしくてできない年齢でしょう? だから準備をするのはやめなさいふたりとも」

 初心に帰るっていうのは……結構良いことだと思いまして……。

 お風呂から上がってきたみんなが続々と部屋に入ってくる。
 和気藹々と話していると肩をポンポンと叩かれる。

「希、そろそろ時間?」
「んー、本当ならみんなが寝てからって思ったけど、そんな雰囲気ないし」
「そうね」

 唯一寝ているのは、お酒を美味しい美味しいと言いながら飲んでいた真姫だけ。
 ものすごい幸せな表情で花陽の膝の上に頭を載せて、凛に睨みつけられている。
 もし仮にまきりんぱなでルームシェアなど使用者なら、三角関係で一日持たないかもしれない。
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/02(金) 19:21:18.93 ID:8TYjdzTSO
>>157
>「え、絵里ちゃん……! 耳! 耳は弱いのぉ!」

ほう…
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/02(金) 19:59:59.80 ID:gKqA8LhUO
>>176
アイドル魔法少女ちかちか☆えりちもなしですか?!
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/02(金) 22:57:51.34 ID:8LxD/kJmO
この流れだとツバサルートが一番気になる…
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/03(土) 06:21:01.88 ID:6MsEYCRx0
 希とともに部屋から退場し、私たちは地下にある――

「バー……Bar Bar Bar……大当たりってこと?」
「マスターはギャンブル好きで年に数回ラスベガスに行くらしいやん?」

 業務を放り出してまで行くラスベガスとは。
 融通が色々と聞くのだろう。
 貸し切りにしてくれるし、お酒飲み放題だし。
 それまでに様々な準備をしているかと思うと、なんというか、働くのって本当大変やんな。

「何飲む?」
「任せて、常識ではオレンジブロッサムを頼むのよね」
「どこの世界の常識なんや、聞いたこともないけど。チョコレートのカクテルもあるよ」
「へぇ、奥深いのねカクテル」
「なんやよくわからんけど奥深いって言っておけばいいっていう風潮エリちの中でない?」

 そ、そんなことない。
 カクテルは……遊びじゃない!
 と、よくわからない話をしているうちにカウンターにカクテルが置かれる。

「甘いもの系が多いなら、穂乃果が喜びそうね」
「穂乃果ちゃんたちはじつは昨日から来ててな……花瓶のことも知ってて」

 なら私が花瓶の中に誰かがいることに気づいた時に教えてくれれば……真姫は……。

「で、何か悩み事?」
「はー、エリち、時折賢くなるのやめへん? せめて一生涯賢いか、ポンコツでいるかどっちかに」
「私のどの時がポンコツだったのよ」
「生徒会長挨拶の時に一人立ち上がって拍手していたときは、えらいポンコツやなあっと思って見とった」

 後日海未に熱でもあったんですかと言われて凹んだときやん?
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/03(土) 06:21:34.09 ID:6MsEYCRx0
「まあ、悩みってほどでもないけど、ウチ、恋人を作ろうと思うてん」
「作ろうと思えば作れるものなの……?」
「正確に言えばパートナーがほしい、あ、エリちと違うよ? なんかドヤ顔しとるけど」

 のぞえりは人気のカップリングだって、真姫も言ってたから誤解しちゃった。

「自分に釣り合う人がほしいってこと?」
「うん、有り体に言えばそう。マネージャーはおるけど、こっち方面全然詳しくないし」
「なかなか希の知識についていくのは難しいでしょうねえ」

 この世ならざるものが見えるとか、人の将来がなんとなくわかっちゃうとか
 統計学ではない占いができる人なんて、恐らくはごく少数なのではないかと。
 
「目をかけた子はたいてい独立してしまうし、ほら、ウチは意外と寂しがり屋やし」
「まだ治ってなかったの?」
「人間の本質なんてそうそう変わらないよ」

 それはまあ、たしかに。
 私の賢さとか高校時代と何一つ変わっていないものね!
 ……あれ? 希の視線がなんとなく憐憫を含んだものになったけど、どうして?

「将棋の世界じゃないけど、弟子でも取ったら」
「弟子か、なに、スピリチュアル小学生でも探す?」
「別に小学生でもそうじゃなくてもいいけど……あ、このカクテル美味しい」
「意外と酔うから気いつけや、よく言うやん? 鉄は熱いうちに打て。これ世の中の真理やと思うねん」

 本当は飲み干したいほど美味しかったけど自重。
 甘いアルコールって飲みやすいけど度数が高いってパターンが多いけど、
 それは男の人の欲望が生み出したとかそういう理由じゃないわよね?
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/03(土) 06:22:04.40 ID:6MsEYCRx0
「それで、打てそうな鉄は見つかりそうなの?」
「卦は出とるけどなあ、案外μ'sとか、A-RISEのメンバー……だからエリちとは違うて」

 のぞえりは人気の(ry
 
「花陽は?」
「素直で可愛いが飛び抜けとるけど、こっちに来てくれるかなあ?」
「占いには飛びついてたじゃない、別に急ぎで弟子を取ろうとかそういうわけじゃないんでしょ?」
「花陽ちゃんは料理も上手やし、なんでも食べるし、働きものだし、申し分ないんやけど」

 断られたら凹むなあ……と、希がポツリと呟いた。
 
「最初から駄目だったときのことなんて考えてもしょうがないわ」
「うん、それはそうなんやけど」
「お試し期間でもなんでも作ればいいのよ、例えば一ヶ月とか」
「それは海未ちゃんの家にお世話になる期間やろ?」
 
 え、もうすでに海未ルート決定? どれだけフラグ立てたのかしら……。

「希が言いにくいなら、私が言ってもいいのよ?」
「いや、ウチが言ってみるよ、ありがとうなエリち」
「どういたしまして」
「そういえば先日占った時に、亜里沙ちゃんに不幸の卦が出ててん」
「亜里沙に? なにかしら……うちの両親が永住しちゃうとか?」
「ありえそうな話やね」

 それ、私が亜里沙と一緒に暮らせなくなるじゃん……。
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/03(土) 06:22:36.92 ID:6MsEYCRx0
 仕事帰りのタクシーの中で、亜里沙は両親からの電話を受け取っていました。

「え? 私のアパートに住む? どうして? 一時的に来るだけじゃなかったの?」
「いいじゃないか、もう一度家族3人揃って暮らすというのも」

 お父さんは会社を定年退職して、最近は家にこもりがちになっていると言うし
 お母さんも子育てを卒業して趣味に没頭し始めていると聞いている。

「あのね、亜里沙は……」
「亜里沙、もうあの不出来な娘の面倒を見るのはやめなさい」

 思わず体が強張った。
 目つきも厳しくなったのか、隣りにいた仕事先でお世話している子も表情を凍らせる。
 ……ああ、でも、もしかしたら電話の言葉が聞こえてしまったかな?

「プロデ」
「亜里沙さんでいいわ、もう仕事場じゃないんだし」
「……はい、亜里沙さん。お酒ならお付き合いしますよ」

 なんとなくツインテールまでシナシナとしている気がする。
 最近ゲームも自重して仕事も好調な彼女を見ながら亜里沙は会話を続けた。

「亜里沙、なぜお前はあの娘に仕事の一つも紹介しなかった、お前にならできたはずだ」
「私は死体蹴りという言葉や、死者に鞭打つという言葉は嫌いです」
「聞けば、家にこもり友人と酒会ばかり開いているそうじゃないか、金食い虫にはそろそろ栄養過多で」
「それ以上言ったら親子の縁を切ります」
「亜里沙、お前ももう大人だ。私が言っている方が正しいと気づいているだろう?」

 亜里沙は奥歯を噛んで言葉が出てくるのを我慢した。
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/03(土) 06:23:06.33 ID:6MsEYCRx0
「大学4年生の時に、あいつに最後のチャンスを与えたのは覚えているね?」
「はい」
「だがあいつは無能だった、私はチャンスを与えたことを後悔したよ」
「それは……」

 お姉ちゃんが大学四年生の時。
 私がもう今の仕事場でお手伝いして数年っていう時だったからよく覚えている。
 唐突にスーツと手土産を持って現れた父が、今から行く場所にいけと有無を言わせず言い放った。
 その場所はとある有名企業――確か、リニアを作っているとかなんとか。
 
 帰ってきたお姉ちゃんは何も言わなかったけど、亜里沙は今でも覚えている。
 私の胸に泣きついて一時間以上も泣いたことを。
 嫌だ嫌だと何度も声を上げながら、ひたすら――自分が元μ'sであることを後悔し続けていた。

「お父さんは……お父さんはいきなり全く未体験の場所に放り込まれてちゃんと働けるの?」
「私は社会人だよ、あいつとは違う」
「あの時のお姉ちゃんは大学生だったの! そこを勘違いしないで!」

 思わず大きな声が出た。

「ずいぶん姉に入れ込んでいるようだが……あいつに何ができると言うんだ」
「どうして……どうしてお父さんはお姉ちゃんを信じてくれないの?」
「裏切られたことを許せとでも言うつもりか?」
「お姉ちゃんは裏切ったんじゃない! お父さんは知らないの! あの企業が一年後セクハラとパワハラと過労死の問題で警察の調査が入ったことを!」
「いいか亜里沙、セクシャルハラスメントやパワーハラスメントと言った言葉はまやかしだ、そんなものは存在しない」

 通話を切ってしまいそうになった。
 私は霞んだ視線で前を睨みつけたまま、ひたすらに心のなかで叫んだ。
 もう、どうにもならないくらい感情が抑えきれなかったから。
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/03(土) 06:23:35.41 ID:6MsEYCRx0
「あいつの話になると、亜里沙とはどうしても喧嘩になってしまうね、やはりあいつは不幸の子だ」
「通話を切ります、今日はありがとうございました」
「待ちなさい、お母さんに代わろう。同じ女性同士気兼ねなく話しなさい」
「……わかりました」

 心が痛くていたくてしょうがなかった。
 本当はこのまま消えてしまいたいと思うほど、自分が情けなかった。

「もしもし、亜里沙?」
「お母さん……あのね、私ずっと聞きたかったことがあるの」
「なあに唐突に」
「お母さんは、お姉ちゃんのこと好き?」
「好きに決まっているじゃない」

 ならどうして――どうしてお父さんの言いなりになってしまうの?
 
「でもね亜里沙、亜里沙にはちょっとわからないかもしれないけど」
「?」
「私はお父さんのほうが大事よ、愛してしまったんだもの。恋人だったの、亜里沙もきっと愛する人ができればわかるはずだわ」
「それは……その……」
 
 どういうこと? という言葉はすんでのところで出さずに済んで。
 私は心が冷めていくのを感じたまま、機械的に母親との会話を終えた。
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/03(土) 06:24:03.94 ID:6MsEYCRx0
「亜里沙さん……」
「LEAH?」
「は、はい!」
「私、歩いて帰るから、その、一人でも大丈夫?」
「待ってください、今の亜里沙さんを一人にしておくことなどできません。みんなに集合をかけます」
「どうしようもないとこ、見せてしまうかもしれないよ?」
「もしもそれで亜里沙さんを軽蔑するような子がいれば、私が引っ叩きます」
「お姉さんでも?」
「ええ、やってみせます……運転手さんすみません、この住所に行ってもらえますか?」

 霞んだ窓の景色から見上げる月は、今日も煌々と輝いていた。 
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/03(土) 06:34:55.62 ID:6MsEYCRx0
なんというか、久々に書いてて腹が立ちました。
もうこいつら出てこない(予定)ので……

これが終わったら1レスを再開しようと思ったんですが、
ちょっとこれでしばらく放置しておくのもあれなので、ルート分岐前の最後のエピローグを早いうちに書ければ。

それから、分岐するルートを全部書く予定ではありますが何点か注意。

恐らくですけど、2番めのルート(海未・μ’sルート)は完結するとその時点で物語が終了します。
それか、アラサーニートエリちとキャリアウーマン亜里沙でポツポツと単発でネタを投下することになるか。

一番目のルートは当初の予定では(高坂雪穂・穂むら・絢瀬亜里沙ルート)だったのですが、ちょっと路線を変更して
オリキャラ多数の(絢瀬亜里沙ルート)になると思います、でもあの穂乃果回にいた三人組は出ません。

3番目のルートは(綺羅ツバサ・Aqours・SaintSnow・A-RISEルート)です。こちらはオリキャラが単発で出るか出ないかくらいです。

自分で書いておきながら、作者怒りに震えていますのでふて寝してきます。
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/03(土) 10:15:06.61 ID:S81DmCVDO
乙です
全部書いてくれるのか、楽しみだ
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/03(土) 10:30:08.57 ID:iQ7e6aOSO
LEAH…ツインテール…ゲームを自重…姉…うっ(脳死)
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/03(土) 11:26:58.53 ID:6MsEYCRx0
(アラサーニートエリちとキャリアウーマン亜里沙 エピローグ(仮))

「ごめんなさい、家に帰るわ。今の時間ならギリギリ電車も出てるでしょ」
「亜里沙ちゃんが心配?」
「もちろん、今や血を分けたたった一人の家族よ?」

 バー Bar Bar Bar から出ていこうとすると、希が腕を引く。
 どうしたのだろうと思って見てみると

「お金もないのに行ったら捕まってまうで、これ、出世払いでいいから」
「近い未来かしら?」
「初任給で焼肉もつけてやー」

 旅館の大宴会場に戻る。
 すでに大きな電気は消されてしまっていたので、暗い明かりを頼りに荷物をまとめていると。

「帰るのね、エリー」
「起きてたの? 真姫」
「と言うかみんな起きてる」
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/03(土) 11:27:26.16 ID:6MsEYCRx0
 その言葉に布団をババーっと蹴飛ばすメンバー、投げるメンバーがまちまち。
 なんかこう言うのを見ていると

「μ'sを思い出すわね」
「絵里ちゃん! じゃあ、μ'sミュージックスタート! やっちゃう!?」

 穂乃果のテンションが高い、誰かに飲まされたな……?

「希がいないわ」
「ウチならもうおるで?」

 いつの間に帰ってきたのよ、と言うかすぐ来るんなら一緒に帰りましょうよ。
 少しだけ呆れながら、私は笑う。

「じゃあ、穂乃果、音頭はお願いね」
「任された!」

「えー、絵里ちゃんの就職を祝いまして……μ's!」
「「「「「「「「「ミュージックスタート!!」」」」」」」」」

 まだ決まってない――と思ったけど、口には出さなかった。
 もう、腹を決めなければいけない時期だと思ったから。
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/03(土) 11:28:05.54 ID:6MsEYCRx0
 わやわやと話していたらあっという間に終電の時間が終わってしまったので、 
 タクシーで自宅に帰ることにした。
 最初は一人で帰ろうと思ったんだけど、それでは寂しいでしょうということで海未が同行してくれる。

「不幸の卦? 亜里沙が? それは心配ですね」
「ええ、仕事場でなにかがあるのかしら……それとも……」

 私みたいに険悪と言うまではいかないかもしれないけど――
 そろそろ両親から連絡の一つも入っていても良いはず。
 電話がある日には目に見えて不機嫌になる亜里沙だから、家に帰ればだいたい状況はわかるはず。

「そういえば、絵里は亜里沙の仕事は知らないのですよね?」
「ええ、ちょっと見当も付かないわね、やたら芸能関係者と知り合いなのが怪しいけど」
「ふふ、では私が言ってしまうのは芸がありませんね」
「そういえば以前に亜里沙と海未は一緒に飲んでいたのよね……」

 海未が帰った後、実に幸せな表情をしたまま

「海未さんと一晩過ごしてしまいました! 亜里沙は大人になりました!」

 と、言っていたのを思い出す。
 意味を分かっているのか分かっていないのかわからない素っ頓狂な言い回しは、中学時代を彷彿とさせる。

「絵里は、その、ご両親との仲が」
「あまりよろしくないわね」

 よろしくないというかほぼ絶縁状態。
 まあ、元から仲が良かったかというと、少しだけ疑問符が残るけどね……
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/03(土) 11:28:48.56 ID:6MsEYCRx0
「その、寂しいという気持ちはありませんか」
「父に関してはないわね、辛いという気持ちは全部お前の被害妄想だと言われた時に縁を切ったわ」
「では、お母様には?」
「……母は、そうね。子どもよりも父のほうが好きよ。私達がよくおばあちゃまの話をしていたのは知ってる?」
「ええ、今になって思えば、なぜお祖母様のお話ばかりなんだろうと思うべきでしたね」

 優しい優しいおばあちゃま。
 まあ、傍から見れば優しいというよりも厳しいと言ったほうが良いのかもしれない。
 ○○してもいいとか、許可を得られた経験はほとんどないし、何ていうか注意ばっかり受けていた。
 ピロシキの作り方だって見て覚えなさいだったし、というか、あの店の料理のほとんどは私と亜里沙は見て覚えたはず。
 日本で言う職人気質だったのかもしれない、古い人と言われればそれまでなのかもしれない。
 でも確実に、おばあちゃまには両親にはない私たちに対する愛情があった。

「私の両親もお婆上も大変厳しい人です」 
「それは海未を見ていればわかるわ、でも相手が悪いとはいえ、気軽に叩いてはだめよ?」
「反省しています……言い訳をするならば、私も若かったのです、自分が正しいと思えば何をしても良いのだと」

 正しさとはなんだろうと考える時がある。
 なんかそれはまるで、自分の戦いが正しいのか考える正義のヒーローみたいだけど。

「おばあちゃまが言っていたわ、正しい人よりも優しい人でありなさいって」
「本当に……そうかもしれませんね」
「あえて自慢してしまうわ……本当は自慢というのは自分以外にはしてはいけないんだけれど」
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/03(土) 11:29:15.42 ID:6MsEYCRx0
「深夜ですが……妙に静かですね?」
「亜里沙はいないのかしら? LINEを送っても既読にならないし、海未もそう?」
「ええ、あんまり送ると迷惑になるかもしれないので、自重はしていますが」

 私からのLINEは時々既読スルーを決める亜里沙だけど、海未のものとなる別だ。
 一言だろうが、長文だろうが必ず返事を送るし、忙しい時に来た場合は誰かは知らないけど代筆を頼んでいるらしい。
 そういう傾向すらないときなんてことは今までになかったのでさすがに焦る。

「とりあえず部屋の中に入ってみます?」
「これで部屋で寝ているだけなら安心なんだけどね……」
「靴がないですからそれはないでしょう、何かメモ書きでも残っているかもしれませんし」
「ああ、それなら海未が見てきてくれる? 私は部屋に入るの禁止されているから」

 海未は委細を承知しているらしく、特に何も言わなかった。
 
「さて、じゃあ私はツバサに連絡でも取ってみましょうか」

 味方にすると頼りになるし、敵にするとこれ以上厄介になる相手もいない。
 まるでどこぞのラスボスみたいなキャラだなと思いながら、LINEを送った。

エリー:深夜遅くにごめんなさい、ツバサ起きてる?
TSUBASA:あらこんな時間に珍しいわね、最近は規則正しく過ごしていたんじゃないの?
エリー:ええ、ちょっと緊急事態で、妹を探しているんだけど何か知らない?
TSUBASA:エリーは私を探偵か何かだと思ってる? 一応職業アイドルなんだけど
エリー:ごめんなさい、さすがに分からないわよね。ツバサならなんとかしてくれるかもって思ったんだけど、気が動転してたわ
TSUBASA:信頼は嬉しい。でも……と言いたいところだけど、案外知っちゃっているのよね
エリー:あなた本当はアイドルじゃないんじゃないの? 
TSUBASA:この前、アイドルが固まって、たむろしていたから声をかけたらモーセの十戒にみたいになったわ
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/03(土) 11:29:43.00 ID:6MsEYCRx0
TSUBASA:さっきね、とある敏腕プロデューサーから収集をかけられたのよ
エリー:へえ、大変ね。ツバサの担当の人なの?
TSUBASA:本音を言うなら担当してほしいけどね……本当に優秀で心優しく仕事も早い。
エリー:まさか私の知り合いとか? なーんて、そんなわけ無いわよね
TSUBASA:うん、まあ、それはいいけど。そのPと一緒にいたアイドルが事情を説明してくれてさ
エリー:ふうん? その事情私も興味あるわね
TSUBASA:久々に頭にきてさ、というか、その場にいたアイドルの8割怒って大変だったのよ
エリー:でも8割しかいないのね、その場にいた全員じゃなくて
TSUBASA:残りの二割は私を含め家に乗り込もうとして、全力で止められたわ

 何をしているのか。
 アイドルなのに血気にはやるとはこれいかに。
 でも恐らく、そのプロデューサーというのが信頼されている結果なのでしょうね。

TSUBASA:たぶん、妹さんだけどもうすぐ帰ってくると思うわ、予想だけどかなり酔って
エリー:あなたってもしかしてニュータイプか何かだったの? 実はコロニー生まれなの?
TSUBASA:はは、まあ、とにかく前向きに考えておいて、マネージャーさん?

 ま、まだ私はあなたのマネージャーじゃない……というか諦めてなかったのね。
 
 と、冷や汗をかいていると、玄関の方から鍵が差し込まれる音がして――
 パタンと扉が閉められた。
 いつの間にかに隣りにいた海未と顔を合わせ、ダッシュでドアに向かう。

 そこには――
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/03(土) 11:30:10.41 ID:6MsEYCRx0
「鹿角理亞さんに亜里沙?」
「げっ! あなた……いないって聞いていたのに……!」

 げ、とは随分なご挨拶。
 亜里沙に肩を貸している状態だったので、長話は無用。
 とりあえず酩酊してそれどころでは無さそうな彼女を海未が部屋まで運ぶ。

「なんで亜里沙と一緒にいるの……と聞きたいところではあるけど、お礼をいうのが先ね」
「別に構わないわ。ところで」
「なあに?」
「あのエロゲーのヒロインぽい人はだれ? もしかしてあなたの彼女?」

 たしかに黒髪ロングはそういうゲームのヒロインで必ず出演しているって聞くけど……。
 
「昔μ'sで一緒だった子よ、というかあなたも真姫が言ってた」
「すっごい似てるのよ! ほら! これ見て! 上から二番目!」

 スマホを顔面に向けられる、かなり近い。
 
「プリワーは同人で累計2万本を売り上げた超名作で! しかも同人時代のスタッフが集まって商業化!
 PCエロゲー不調と呼ばれる時代の中10万本を売り上げた……!」
「ダイヤモンドプリンセスワークス? 確かに海未にそっくりね、というか……」

 ヒロインがみんなμ'sのメンバーにしか見えないんだけど……。
 というか、成人向けゲームってことはやっぱりこの子達脱いじゃうのよね?
 しかも主人公とエッチなことを……

「わ、私もいるのね」
「ヒロインとサブヒロイン合わせて9名! 全員にエッチシーンあり! 捨てシーン無し!」
「近いわ理亞さん」
「おまけのファンディスクでは3Pとレズシーン追加! お得! さあ! 買うの! 買わないの!」
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/03(土) 11:35:30.19 ID:6MsEYCRx0
昼食休憩に入ります。

このエロゲーネタなのですが、当初亜里沙は同人ゲームで一山当てて
そのキャリアを元にエロゲー会社に入った後しばらくして、社長に任命されている。
という設定でした。

まあ、今の設定にしろ過去の設定にしろキャリアウーマンというのはタイトル詐(ry
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/03(土) 11:51:25.21 ID:/YuBskQ3o
なるほどわかった
そのゲーム言い値で買おう!
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/03(土) 12:05:39.59 ID:ldLghC+K0
父親が思ってた以上の俗物だった
金髪巨乳で真面目で不器用・・・セクハラ上司の格好の的だもんな
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/03(土) 12:45:33.43 ID:CO18KQD50
>>188
全ルート書いてくれるとか嬉しすぎる
むこうも忙しそうだけど頑張って
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/03(土) 13:49:29.62 ID:6MsEYCRx0
 鹿角理亞さんのテレフォンショッピングが始まってからしばらく、海未が戻ってきた。

「何の話をしているのです?」
「ああ見えてエッチな下着をつけているんです!」
「は、ハラショー……」
「本当に何の話をしているんですか……」

 海未が言うには、亜里沙の調子はそれほど悪くないらしく。
 仕事で多少疲れているだけではないかとのことだった。
 
「ただ、目が腫れていますね、泣き腫らした後のようにも見えます」
「あの子は仕事が楽しい楽しいって言っていたわ、高校時代にバイトを始めてから何度ともなく聞いた
 今の仕事がその延長線上にあるのなら、恐らく仕事で泣くってことはないんだと思う」
「ということは、家族絡みですか……」
「その、亜里沙さんの両親ってどんな方なんです?」

 難しい表情をしたままで海未がポツリと呟き、理亞さんがそれに準じた。

「そうね……一言で言うなら……俗物?」
「バッサリですね、絵里」
「家庭よりもメンツが大事で、プライドが高くて、メンタル弱くて、人の言うことを聞かない
 そのくせ文句ばかり言って、対案も改善策も出さなくて……あ、ごめんなさい、ちょっと言い過ぎたわ」
「亜里沙さん……やっぱり苦労しているんだ……」

 私は?

「その、一度職場に亜里沙さんのご両親が来たそうなんです」
「聞いたことが無いから、絶縁された後か……」
「先輩が言っていました。両親が帰られた後、ずっと先輩プロ……いえ、先輩社員に頭を下げてたって」
「ありえるわね、おおかた亜里沙を褒めつつ、自分の有能さをアピールでもしてたんでしょう」
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/03(土) 13:49:58.18 ID:6MsEYCRx0
「仕事はできる人みたいよ? コネもあるし」
「しかしそれは、父親と母親としての価値とは何の関係もない」
「それがわからない人なのよ、悲しいことに」

 3人の間に何とも言えない空気が流れる。
 
「まあ、今日はとりあえず泊まっていく? 布団はあるみたいだし」
「ああ、それならば、理亞さんでしたか一緒の部屋で寝ましょう」
「ええ!? そ、そんな……光栄です! 本当に一緒でいいんですか!?」

 理亞さんの海未への好感度が私と大違いな件。
 海未をモデルにしたと思われる詩衣ちゃんルートは、
 二年前のエロゲーシナリオ部門で金賞を受賞したらしい。
 ちょっと興味が湧いてきた、今度ツバサにも聞いてみよう。

 恥ずかしいからエッチなシーンは飛ばすけどね!

「そっか、じゃあお風呂を沸かして」
「では私は、飲料水でも買ってきましょう、コンビニまで行ってきます」
「一人で平気ですか? 私もお付き合いしますよ?」
「こう見えて腕っ節には自信があります、ご心配なく」

 海未に断られ、ちょっと残念そうにしていた理亞さんだったけど
 すぐに何かを思いついたのか、くすくすと怪しい笑みを浮かべ始めた。

「絢瀬絵里!」

 呼び捨てだ!

「PCはある? 今すぐインストールしてダイヤモンドプリンセスワークスをプレイしましょう!」
「ええ……? ソフトがないでしょ?」
「ダウンロード販売もしている! 買う! あなたに選択権はない……」
「せめてマウスをクリックする権利くらいはちょうだい……」
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/03(土) 13:50:27.77 ID:6MsEYCRx0
 プリワーをプレイし始めてしばらくしてから海未が帰宅。
 最初は拒否感を示していた彼女も、穂乃果やことり(を、モデルにしたヒロイン)が登場し始めたところで

「か、可愛いですね……この子達、こ、攻略? と言うのもできるんですか?」
「ひばりちゃんはできますよ、右側の子です」
「そ、そうですか……香乃ちゃんはできないですね、とても残念です」
「ファンディスクでできますよ」
「う……ですが、そこまで行くともう、戻れないような気がします」

 いやあ、このハマり具合だともう手遅れなんじゃないかしら……?
 
 プレイし始めてから4時間後、詩衣ちゃんルートの個別シナリオに入る。
 同人バージョンではもうこの時点で大抵のヒロインとエッチなことをしてしまっているそうだけど
 大作にすると意識したのかご褒美と呼ばれるシーンはない、一度詩衣ちゃんのお風呂シーンが出て
 海未が自身との胸の大きさの違いにへこんだ。

「来ます……!」

 理亞さんが何を言っているのかと思ったけど、そこからは本当に怒涛の展開だった。
 ぶっちゃけエッチなシーンよりもシナリオに没入し、感情移入し、お互いの顔が見られなくなるほど泣いた。
 
「うう……やっぱり人類の力で地球を救わなくては駄目です!」

 まさかこんなに奥が深いものだとは……エロゲー……侮りがたし……。
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/03(土) 13:50:53.95 ID:6MsEYCRx0
 お風呂がすっかり冷めてしまったので、もう一度沸かし直した後
 どうしても一緒に入りたいんです! と理亞さんが強引に海未を説得。
 先程のお風呂でのエッチシーンを覚えている海未は懸命に抵抗したものの、
 入らないとファンディスクのネタバレをすると言われ終戦。

「まあこれで海未がエロゲにハマることはないでしょうけど、少し考えが柔らかくなれば御の字ね」

 ダイヤモンドプリンセスワークスでは、私、にこ、真姫、ことり、海未が攻略ヒロインだった。
 つまりサブヒロインは、花陽、凛、希、穂乃果の4人。
 しかしながら、ヒロインはどの子も大変魅力的で9人の扱いに差はほとんどなかった。
 よほどμ'sに詳しい人物がプロデュースでもしているのか、ああ、海未ってばこういうこと言う!
 みたいな場面がチラホラとあったし、今度亜里沙にプレイでもさせてみようかしら?

「ね、姉さん……ど、どうして? 昨日は泊まりではなかったんですか?」
「ちょっと、ね。色々あって海未と帰ってきたの」
「……はい? 海未さんはどこに」
「いま理亞さんとお風呂」
「え? 理亞ちゃんがどうして?」
「ちゃんとお礼を言わなきゃだめよ、フラフラのあなたをここまで連れてきてくれたの」

 どうしての後に目が病んで、どうして理亞ちゃんが海未さんとお風呂に入ってるの!?
 とか言い出したら怖かった。
 そんなことがなくて本当に良かった。

「昨日は仕事から帰ってくる途中……そういえばツバ……」
「つば?」
「ええと、同僚の家に行ってお酒を……私、悪酔いを……」
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/03(土) 13:51:21.98 ID:6MsEYCRx0
 亜里沙が前日の記憶を思い出しているのか、ヘナヘナと床に腰を下ろし頭を両手で抑え凹んでいる。
 お酒が強い私たち姉妹が飲まれてしまうくらいだから、相当嫌なことがあったか、飲んだか、その両方か。

「電話しないと……とりあえずメンバーを確認して……」
「朝早いわ、10時以降にしなさい」
「それだと仕事が」
「今日は休みなさい」
「お、お姉ちゃんみたいにホイホイ休めないの!」
「今日は休みなさい、良いわね? 部屋から一歩でも出たら怒るから」
「……普通の社会人は、一日悪酔いしただけでは休めない」
「だったら復活しなさい亜里沙。そのへこたれた顔をよく拭いて、オフロに入って、ちゃんと――
 キャリアウーマンらしくしなさい」

 亜里沙はこちらを見ながら、ぱちぱちとまばたきしたあと。
 こくりと頷く。

「分かりました、姉さん……私は、キャリアウーマンですものね!」
「ええ」
「まったく、姉さんに叱られてしまうなんて、本当。困った妹です」
「普通の姉妹はそうなのよ……姉が妹に叱られるなんて早々……」
「お姉ちゃん、今日は時間を作れますか? お話しなければいけないことがあります」
「だいじょうぶ、安心して。理亞さんが勧めたゲームやってるし」
「ちゃんと寝てください、目のくまがすごいですよ」
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/03(土) 13:52:17.28 ID:6MsEYCRx0
 海未と理亞さんがお風呂に入り終わったあと、亜里沙がお風呂に入る。

「亜里沙さん、思ったより元気でよかったです」
「ええ、本当に。絵里、魔法でも使いましたか?」
「べーつーにー? ちょっとお姉ちゃんしただけよ」

 本当に久しぶりに姉らしくしたから、ちょっと緊張をしてしまったけどね……。
 
「ん……そういえば、ファンディスクに出てきた綾乃の妹って……」
「綾乃……ああ、絵里に似ている」
「いえ、ネタバレになるので詳しくは言えませんが、その、詩衣のことが好きで……」
「は、恥ずかしいですね、私の高校時代にはよく懐かれたものです」
「私、もしかして上司の想い人とお風呂に入ったのを見せつけてしまったのでは?」

 私と海未は必死になって目をそらした。
 まさかこのことで関係が険悪になるとは思えないけど、ポジティブにもなれない自分がいた。

 数十分してから亜里沙がお風呂から戻る。
 理亞さんが多少視線を揺らし気まずそうにしていたけど

「理亞ちゃん、昨日はありがとうございました、感謝の言葉が止まりません」
「いえ! 普段からお世話になっているんですからあの程度のことは当然です!」
「じゃあ、今度は温泉にでも行って背中でも流してもらおうかな?」
「もちろんです! ぜひやらせてください!」

 理亞さんと亜里沙の様子を微笑ましそうに見ていた海未だけど、やがて小さく欠伸をした。

「少し寝る?」
「完徹など本当に久しぶりでしたし、緊張の糸が途切れて一気に眠気が」
「海未さん! 私のベッドで寝てください!」
「ひい!?」

 いま悲鳴を上げたのは海未ではなく理亞さん、どうやら何かを思い出したらしい。
 先に上げた亜里沙をモデルにしたキャラは、ヤンデレとかじゃない……よね……?
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/03(土) 14:04:45.16 ID:6MsEYCRx0
 夜。
 私は自分の部屋で何故か正座をさせられていた。

「あ、亜里沙? 私ちゃんと寝たし、お酒も家で飲んでないし、悪い事してないんだけど……」
「どこで寝ました?」
「さ、さあ、ね、寝ぼけていたから……」

 嘘だ。
 私はとある人物と一緒のベッドに入った挙句、その後食事までともにして、お風呂も……。

「昨日は温泉だから許しましょう、みんなで入るものです。でも、私の家のお風呂はちょっと小さいです」
「そ、そんなことないわよ、二人入る余裕は十分に」
「聞きますが、海未さんと姉さんは同棲しているカップルですか?」

 口をパクパクと動かしたまま、私は何も言えなくなってしまった。
 一緒にお風呂に入りながら、仲良く背中を流しあいっこする   ○
 一緒に食事を取りながら、ついふざけてあーんしてもらう    ○
 一緒にベッドに入ったまま、抱きしめ合うようにして寝てしまう ○

「とあるゲームがあります」
「へ、へえ……な、なにかしら?」
「ダイヤモンドプリンセスワークス もっとH!」
「あ、亜里沙、ふ、不健全じゃない?」
「これに、もしも綾乃と詩衣がカップルだったらというのがあります」
「へ、へえ……でも二次元と現実を一緒にしてはいけないわ、創作は創作よ?」
「私だって! 私だってあーんしてもらいたい! 背中の流しあいっこしたい! ベッドで一緒に寝たい!」
「そ、そう……でも、内容はゲームなんでしょ?」
「姉さん、もしも海未さんに手を出すなら、亜里沙を倒してからにしてください、でないと……ノコギリが」
「は、ハラショー……し、死んでも手を出さない……」
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/03(土) 14:15:32.50 ID:Nvh1NkOfO
亜里沙ちゃんのこの反応…海未ちゃんルートは波乱の予感
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/03(土) 14:24:44.73 ID:6MsEYCRx0
「さて、話を戻しましょう。お姉ちゃん足を崩して」
「ふう、なんだか寿命が縮まっちゃったわ」
「父と母は、1週間後やってきます」

 体に緊張が走る。
 
「希さんからのLINEで、お姉ちゃんが選ぶのは3通りの未来です」
「え、ええ、昨日も聞いたわ」
「ツバサさんのマネージャーになる、海未さんのお世話になる、そして」
「そして、亜里沙が勧める場所に行く、だったかしら?」
「はい、本当は雪穂にお姉ちゃんのお世話をしてくれないかと頼んだんですが」

 いま穂むらでは穂乃果が帰ってきて大変なことになっているらしい。
 もちろん看板娘を争ってとか血なまぐさい話でなく、
 バイトでもいいから働かせてくださいと頭を下げる穂乃果を雇うか雇わないかで大論争をしているとか。

「私の知り合いにシェアハウスをしている子たちがいます」
「シェアハウス……なんだか堕落しちゃいそうね、気が抜けてしまいそう」
「会社で持っているシェアハウスにアイドルが5人共同生活をしているのですが」
「え? もしかして本当にダメダメになっちゃったとか?」
「恥ずかしい話ですがそうです、一人を除いてですが」
「まさか……その彼女たちを矯正しろとでも言うつもり?」
「そんなわけ無いです」

 はあ、と一つ息をつく。
 流石に私にそんな荷の重い仕事なんてやらせるわけ無いわよね。

「管理をして貰いたいんです、イメージとしては女子寮の管理人でしょうか」
「規律を守り、ちゃんとしているかどうか見るってこと?」
「理解が早くて助かります。もちろんお給料は出ますが……強制はしません、気が向いたらで構いませんから」
「私が行かなかった場合は?」
「性根が治らなければ、4人は解雇の可能性が高まります」

 ゴクリとつばを飲んだ。
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/03(土) 14:25:12.56 ID:6MsEYCRx0
「才能はあります、性格に難がある子もいますが、素直な子ばかりです」
「亜里沙……」
「以前、3人組のアイドル候補生の子と会いましたね?」

 ええと……確か、オトノキの制服を着た子が二人と金髪の子だったか。

「彼女たち、姉さんのダンスを見てから人が変わったようにレッスンに取り組むようになりました」
「な、なんでそんなことを知っているの?」
「ツバサさんから聞いたんです」
「顔広いわね……亜里沙……」

 私がそう言うと、亜里沙はなんとも言えない表情を見せる。

「お願いします。まずは一ヶ月だけで構いませんから……」
「頭を上げて、亜里沙」
「嫌です、お姉ちゃんの返事を聞くまで頭は上げません」
「……」

 私の選択は――
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/03(土) 14:31:51.61 ID:6MsEYCRx0
 エピローグが終了しました。

 これからルート分岐に入り、物語が進展していきます。
 本来なら、皆様にこのルートが良い! と言って貰うのが第一だとは思うのですが
 ここはあえて、自分のやりやすいようにやらせていただきます。すみませぬ。

 次は恐らく1レスの方に戻ります。
 長い間待たせてしまったので、気合を入れないと……。
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/03(土) 14:34:54.64 ID:/YuBskQ3o
ここまでお疲れ様
どのルートも楽しみだし>>1のやりやすいように書いてくれ
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/03(土) 16:19:33.66 ID:n0u7WUsYO
どれだけ堕落してもやっぱりお姉ちゃんなんだなぁ…
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/03(土) 18:58:44.21 ID:/Bk9zDZMo
残る一つはエリーチカアイドルルートかと思ってましたえへへ
トラウマ抱えてそうだしとても無理そうね…
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/03(土) 20:01:53.99 ID:pFxCxhmfO
美少女が3人集まって朝までやることがエロゲとは実に健全なssですね
いよいよ個別ルート入るようでますます続きが楽しみ
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/03(土) 21:46:28.07 ID:tc/rtlU60
亜里沙までエロゲ愛好家で草
>>185のリニア会社で何されたのか気になりますね(ゲス顔
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/03(土) 22:22:06.94 ID:iQ7e6aOSO
このSSでアリスソフトが気になった
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/04(日) 11:45:02.63 ID:OZ28M1bCO
数日後には300点越え目指して戦国ランスを周回プレイする>>218の姿が…
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/05(月) 16:37:25.37 ID:sGQQTFFj0
(絢瀬亜里沙ルート プロローグ)

 絢瀬家の朝はここ最近早い。
 亜里沙の仕事が早くなると、朝食を作る私の起きる時間も早くなる。
 でも、今日は特別だもんね。

「おはようございます、姉さん」
「おはよう亜里沙、よく眠れた?」
「もちろんです、睡眠は社会人の基本です、姉さんは……」

 私は午後9時から5時まですっかり眠りこけてました。
 ずっと、このアパートから出る準備ばかりをして、どうにかして片付け終わったのが昨日。
 書籍のたぐいのほとんどは部屋に入り切らないということで全て中古屋に。
 そして思い出のパソコンは一時的にツバサに預かってもらっている。
 正直な話彼女に貸しはあんまり作りたくはないんだけど――ね。

「寝ることくらいしかすることがないというのは辛いわね」
「パソコンを預けただけでそれですか、今日から行くところは共用の古いパソコンしかないんですよ」
「せめて、せめて仕事で使うノートパソコンくらいは」
「お給料で買えます、頑張ってください」

 今日から行くという、アイドルたちが住む場所はハニワプロから30分ほどの場所にある。
 そのハニワプロ所属という事実さえ亜里沙は隠そうとしたけど、まあ理由は聞くまでもない。
 姉が事務所のアイドルと仲良くなって、その結果スカウトなどされようものなら――とか考えているのだ。

「それから姉さん、ずいぶん気合を入れて朝食を作っているようですが」
「朝食だけじゃないわよ、昼食も。日持ちするおかずもね」
「私を太らせて何をしようと」
「ふふ、太ったあなたなら見てみたいわね、お腹つついてあげるわ」
「……ありがとうございます。腐らないうちに食べます」
「ええ」
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/05(月) 16:37:53.25 ID:sGQQTFFj0
 亜里沙と一緒に過ごす時間、これがもしかしたら最後になるかもしれないと思うと
 残念で箸があまり進まなかった。
 でも栄養を入れないと倒れますよとの妹の一言で気分を変える。

「前にも言った通り、姉さんが絢瀬絵里であることはおくびにも出さないでください」
「ねえ、やっぱりμ'sのすっごいファンなら私の顔を見ればわかるんじゃ」
「ドッペルゲンガー、他人の空似、生き別れの双子、まあ、どの設定でも構いませんが――
 10年前のスクールアイドルです。顔を知らない大ファンがいても不思議ではありません」

 それは本当にファンなのか疑問に思うところではあるけれど。
 ――なんでも、この度私が管理人を務めるシェアハウスの子たちは、誰もがμ'sのファン。
 一人だけ熱烈なA-RISE派がいるらしいけど……その子は結構食費に困っているらしい。
 餌付けをすればきっと仲良くなれるというのは亜里沙の弁。
 プライベートな事はあまり詮索しないほうが良いと思うし、そのつもりではあるけど。
 いつも食費に困ってるアイドルが出世頭のシェアハウスってどうなの?

「それに、澤村絵里、いい名前ではないですか」
「前にも言ったことがあるけど、強烈に何処かで聞いたことがあるわ」
「同じ金髪だから覚えやすいかと思って、まあ、アイドルたちも絢瀬絵里が偽名を使って
 自分たちとルームシェアを始めるとは夢にも思ってないでしょうから」

 まあ、仮に私に憧れの人がいるとして、似ている人が私のそばで生活をするとか想像もできないわね。
 
「ああ、では、名前を澤村恵にしますか」
「やめて、なんか不倫の結果生まれた子どもみたいだからぜひやめて」
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/05(月) 16:38:21.58 ID:sGQQTFFj0
 亜里沙と一緒にアパートを出る。
 今生の別れでもないのに、今まで住んでいた建物を見上げ――

「姉さんの脛かじりの現場を逐一眺めていたアパートに見送られる気持ちはどうですか」
「もうちょっと殊勝な気持ちにさせて」

 最寄り駅に近づくに連れて会話が少なくなってきた。
 別にお互いにスマホをいじっているからというオチではなくて、
 なんというか――非常に名残惜しい。

「亜里沙、今までありがとうね」
「お礼を言われるまでもありませんよ」
「なにそれ、ノーブレス・オブリージュってやつ?」
「別に、誰かが困っていたら手を差し伸べるのは当然ではないですか、
 仮に希さんが貧乏で姉さんに頼ってきたら、有無も言わさず面倒見るでしょう?」

 それは確かに。
 にこなら雑草でも何でも食べて生きていきそうな逞しさがあるけど……。

「でも、本当に感謝してる」
「そんなに言うなら、お願い事でも叶えてもらいましょうか」

 海未さんと結婚する許可をくださいとか言われたらどうしようかと思ったけど。
 まあ、それ以前に海未との結婚の許可を私が出すシチュエーションが想像できないけど。

「いいですか、私がオフじゃない日にハニワプロにこないでください」
「それはお願い事なの?」
「命令のほうが良かったですか」
「わかった、君主危うきに近づかずというものね……絶対に行かない」
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/05(月) 16:38:53.86 ID:sGQQTFFj0
 亜里沙と別れて、電車に揺られること1時間ほど。
 東京の中でも有数の緑が多い場所にたどり着いた。
 なんとなく私たちが暮らしていた場所よりも空気が澄んでいる気がして、胸いっぱいに深呼吸をする。

「さてと、確かアイドルの一人と待ち合わせを……」

 駅前の喫茶店クローシェに向かう。
 結構流行っている店らしく、まだ9時くらいだと言うのに7割の客の入りだった。
 当分の生活費は亜里沙に出してもらっているけど、無駄遣いは良くない。
 相手側が奢ってくださいと言わない限り、安く済ませるつもりでいた。

「絢瀬絵里!」
「……あれ、どこかで聞いたことがあるツインテールの声がする」

 以前、アンリアルの評判をネットで調べた時に邪悪なツインテールとか、堕天使ツインテールとか呼ばれてた彼女。
 片割れのルビィちゃんが天使のように可愛いと評判なせいで、ハスキーな声とツンツンした態度はブレイクを妨げていた。
 μ'sには小悪魔ツインテールがいたけど、案外にこはツインテールを解く回数が多い。
 最近めったにツインテールにしなくなったし。年齢を考えれば仕方ないんだけど。

「な、なんで絢瀬絵里がここに……」
「ついに事務所を解雇でもされた? こんな時間からフラフラしているなんて」
「か、解雇なんてされてない……! 私は待ち合わせなの、新しい人が来るって聞いて」

 ん?

「名前は確か、澤村英梨々……だっけ」
「違うわ、澤村絵里よ」
「ああ、そうだった! ……って、なんであなたが……まさかっ!?」
「どうもこんにちは、澤村絵里です」
「あ、どうもこんにちは……って違う! プロデューサーの紹介じゃすごく優秀で賢いって」

 なんてことを吹聴しているんだプロデューサー。
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/05(月) 16:39:29.94 ID:sGQQTFFj0
 私はアイスカフェモカ、理亞さんはバナナオレを注文する。
 
「言っておくけど、馴れ合うつもりはないわ」

 相変わらずのツンツンした態度で、プリワーの同人誌を眺めている。
 口調こそ冷たいが、表情はすっごいデレデレしている――成人向けじゃないよね?

「秘密を知っていても、詩衣ちゃんそっくりな友人がいても、私は揺るがない」
「ああ、食費に困ってるってアイドルは理亞さんだったのね、合点が行ったわ」
「困ってなどいない、食費の分までエロゲーに貢いでいるだけ」

 それは困っているというのよ。
 というか、そんなんだから未だに小さいのではないかな。
 お姉さんの方はすっごいのにね。
 
「そういえば、どうして凛のところにいたの? ルビィちゃんがファンだから?」
「海よりも深い事情がある、迂闊には言えない」
「とある人に聞いたんだけど、当時3日断食してたんだって?」
「ランス10が悪い」

 非はどう考えても理亞さんにありそうだけど……。
 なんでも、飲まず食わずでエロゲーに夢中になっている妹を見て、
 聖良さんが美味しいものが食べられるからと外に連れ出したらしい。
 最初は抵抗したそうだけど、パソコンを壊すと脅迫され渋々出ていったとか。
 ――あれ? なんかその状況に既視感が。
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/05(月) 17:31:49.24 ID:wPsmxzgtO
亜里沙ルート始まってた!
せっかくの偽名だから絵里ちゃんもツインテールに…
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/05(月) 19:42:11.92 ID:sGQQTFFj0
「まあ、理亞さんの想いはどうあれ、もう私には行くあても戻るあてもないから」
「ふん」
「ルームシェアしている子達の情報を教えて欲しいの」
「……教えるのは、条件がある」

 条件? 
 エロゲ脳の理亞さんが出す条件って、ここでしてもいい内容なのかしら?

「ツインテールにして」
「……あのね、私の名字の澤村は亜里沙が1秒で考えた偽名で」
「しないんだったら正体をバラす」
「言っておくけど、可愛くないし、似合わないからね?」

 飲食店で髪の毛をいじるのはあまり歓迎される動きではないけど。
 私はにこの髪型を思い出しながら、下手な動きでふたつくくりを作り出した。

「下手ね」
「やったことないのよ!」
「まあ、それならあなたの正体に気づく人もいないでしょ」

 遣る方無い気持ちを覚えつつ、どうせなら鏡の一つでも持ってくればよかったと思いながら。

「じゃあ、一人目のアイドルから言うわ」
「うん、メモするわね」
「別にしなくても良い、賢いつもりなら覚えて」

 ハードルが上げられた。
 恐らくだけど、理亞さんは試しているのね? 
 私がきちんと働いていけるかどうかを――それはけして意地悪で出た言葉でないのを。
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/05(月) 19:42:42.61 ID:sGQQTFFj0
「一人目は統堂朱音(とうどう あかね)あの統堂英玲奈の妹よ」
「そういえば、年の離れた妹がいるって言ってたわね(姉妹スレ>>96参考)」
「とは言っても全然似ていないわ、クールな姉に対して天然バカの妹って感じね」

 クールで賢い(高校時代)と評判だった私に一言。

「天然だけど、プライドは高いわ。姉と比べられるのが嫌い。アイドルとしての能力は、歌以外は微妙」
「ダンスやトークも駄目なの?」
「姉の足元にも及ばないわ、それに気づいていないあたりバカね」

 UTXの講師の傍らタレント業も平気でこなす英玲奈に対しにこが、
 ああいうのが体力お化けなのねと言っていたのを思い出す。

「二人目はエヴァリーナ、日本語が危ういわ。つまりトークは最低」
「どこの子なの?」
「イタリアだったかしら、3歳の頃に日本に来て10歳で事務所に入った……まあ、いるだけって感じね」
「外タレさんみたいにはなれそう?」
「ダンスはできるけど生活能力はないし、よく喋るけど自分のことしか考えてないから無理」

 ふむふむ。
 でも、外国の血が混じっていると稀に化ける時があるから要注意ね。

「三人目は津島善子」
「……ん? それって、Aqoursの」
「そうよ。高卒で銀行員として働いていた変わり種。デビューして間もないけど才能は一番ね」

 あの子銀行員……バリバリのキャリアウーマンじゃない……なお私の妹は(ry

「スクールアイドル出身だけあって基礎はできてる、センスも良い。でも経験が足りないわ」
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/05(月) 19:43:26.34 ID:sGQQTFFj0
「四人目は栗原朝日」
「ふむふむ」
「アイドルとしての能力はなんにもないけど、コミュ力とカリスマ性があるわね」
「……ハニワプロってさ、経営とか危うくないの?」
「色んな人間がいて……良いと思います……」

 理亞さんが言葉を濁した。
 聞いている限り、一番やばそうなのは朝日ちゃんという子か。
 年齢的に鑑みれば、善子ちゃんあたりもそろそろ一芸に秀でないと危なそう。
 残りの二人はとりあえず会ってみないとわからないけど……。

「もしもこの世界がエロゲーだったら一人くらい男が混じってるわね」
「共同生活しているなら気づきなさいよ」
「案外顔を合わせたりしないからわからないものよ? あんまりお互いを干渉しないし」

 それは基本的に引きこもっちゃってエロゲーやっている理亞さんが(ry
 うーん、まずはお互いの仲を良くすることから始めないといけないかしら?

「色々と考えなければいけないことは多いと思うけれど、そうね、まずは」
「まずは?」
「ゴミ当番、料理当番、掃除当番……共同生活の基本から学ばせないと」
「も、もしかして理亞さん……」
「新作が出てハマってる時以外は私がやっているわ、ま、そこら辺は任せる」

 アイドルとしての能力を確かめる前に人として、あるいは大人としての過ごし方を教えなければならないとか?
 気が、重くなってきたよ亜里沙……。
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/05(月) 20:21:33.35 ID:ZcO1uWKAO
冴えないアイドルの育て方か…
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/05(月) 20:33:53.29 ID:F3UF5GLZO
頑張れえりち
ヒモ生活で鍛えた家事スキルの見せ場だぞ
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/05(月) 22:07:41.86 ID:sGQQTFFj0
 シェアハウスの名前は「エトワール」という。
 地下にレッスン場があるそれなりに大きな建物だけど、見た目は普通の一軒家。
 私を含めて六人もの人間が住むにはちょっと手狭かな?
 ゴミの集積場まではちょっと距離があって、大量のゴミが出た場合運ぶのが大変そう。

「見た目ではわからないと思うけど、中はあまり綺麗じゃないわね」

 そんなことを理亞さんが言う。
 建物が古いという意味かと問いかけると、うんざりとした表情で

「みんな基本ガサツで身の回りの整理ができないだけよ、
 澤村さんの部屋も元々物置にしていて、掃除するのが大変だった」

 そして、建物の中に入るとカレーうどんの匂いがした。

「……あいつ!」
 
 隣りにいた理亞さんが足音も荒く奥の方へと入ってしまったので、私はボケっと二階の方を見上げる。
 そこには銀髪の少女がいた。
 クリクリとした青い瞳に、私よりも少し低い程度の身長、長めの髪。
 ぼんやりとしているせいか、こちらを認識しているのかどうかはわからないけど……
 恐らく彼女がエヴァリーナちゃんと言うのだろう。
 見た目の可愛さだけで言うなら、トップアイドルとして売り出しても良いのかもしれない。

 とりあえず手を振ってみると、同じように手を振り返してくれた。
 どうやらこちらの様子は見えているらしい。
 
「こんにちは!」
「コニチワ」

 挨拶をすると、挨拶を返してくれる。
 発音は日本語を覚えたての外国人丸出しだったけど……本当に日本が長いのよね?
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/05(月) 22:08:09.42 ID:sGQQTFFj0
 トコトコと階段を降りてきたエヴァリーナちゃんは、私をぼんやりと見上げながら

「わたし、外国語できないですが、だいじょうぶですか?」
「ええ、私も滅多に日本語以外を喋らないから」
「日本語オジョーズですね、もう長いんですか?」
「二〇年はいるわ」
「おお……素晴らしい、素晴らしい。日本はとてもいい国、でも私はロシアが好き」
「え、どうして?」
「わたしの憧れているエリーチカ、ロシアの人、純潔ロシア人」

 違います。
 と、否定してボロが出ても何なので、曖昧に笑って流しておく。

「エリーチカって、確か、μ'sの?」

 私がそう言うと、エヴァリーナちゃんは首を傾げてぽかんとした。

「みゅーず……聞いたことない。有名?」
「え、ええ、そこそこ有名なのではないかしら? 第二回LoveLive!優勝者だし」

 スクールアイドルの人気がほぼ全国区だった10年前と違って、
 LoveLive!も一年に一回になり、規模は少しだけ小さくなった。
 それでも人気があることは変わりないし、テレビで放送されているから知名度はあるはず。
 ……そのはずなんだけど。

「エリーチカは、LoveLive!で優勝しましたか?」
「μ'sのメンバーとして優勝したわ」
「さすがエリーチカです! 素晴らしい! 私の中で尊敬度が上がりました」
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/05(月) 22:08:38.94 ID:sGQQTFFj0
「ちなみにエリーチカってどんな人?」

 靴を脱ぎ、これからどれくらいになるだろうか住む家の中に入る。
 でもおかしいな? 亜里沙は確か、この子達はμ'sのファンだって言っていたはずだけど?
 まあ、彼女も又聞きかもしれないし、どこかで情報の誤差があっても仕方ないはず。

「エリーチカは、純潔ロシア人。身長高め、スタイル抜群……歌もダンスも上手」
「映像を見たことがあるんだ」
「もちろん、毎日みてる。とにかくかわいい。素晴らしい」

 本当に彼女が見ているのが私の映像かは分からないけど。
 褒められるのは悪い気分はしない。
 さっきまで私を敵視している理亞さんだったからなあ……。

「そういえば、名前を聞いていません。私は、エヴァリーナ」
「澤村絵里です」
「絵里……」

 怪訝そうな表情をするエヴァリーナちゃん。
 しまった、流石にヒントを与えすぎてしまったか? と不安になるも。

「エリーチカに音の響きが似てる、さすが絵里さん、純潔日本人」

 クォーターです。
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/05(月) 22:09:14.98 ID:sGQQTFFj0
 エヴァリーナちゃんとリビングルームに向かうと、理亞さんが仁王立ちして一人の少女を睨みつけていた。
 
「えーと」
「あの子は、統堂朱音。カレー大好き」
「……ああ、この匂いの正体は」

 しかし、朝からカレーうどんとはなかなかの健啖家。
 その割にはスタイルに影響を与えていないみたいだけど、そこは姉譲りか。
 理亞さんは憤懣やるかたないと言った様子。
 とても海未に――そう! 詩衣はそういうセリフを言うんです! と言って困らせていたと思えない。

「もう片方が、鹿角理亞さん。彼氏大好き」
「彼氏大好き!?」

 いったいいつの間に……彼氏なんか。
 私に一回も作られたことがない、都市伝説なのではないかと思われる彼氏……。

「エヴァ! ふざけたこと言うな!」
「でも、私は知ってる。たまに部屋からエッチな声がする」

 イヤホンくらいしようよ理亞さん……。

「まったく、食事も静かにさせてもらえないのかしら? せっかくのカレーが美味しくなくなるじゃない」
「毎度言っているでしょう! 換気扇くらい回せと!」
「嫌よ、カレーの匂いを楽しめない」

 そげなく言う朱音ちゃん。
 彼女は共同生活には向かないんじゃないか、と考えたものの。
 イヤホン無しでエロゲーをプレイする理亞さんもそれなりにどっこいどっこいなのではないかと。
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/05(月) 22:09:42.08 ID:sGQQTFFj0
 理亞さんがお説教をする間にも朱音ちゃんはカレーうどんを二杯も平らげた。
 まあ、何にせよたくさん食べるのは良いことだ。
 人の話を聞かないのはマイナスポイントだとしても。

「ふうん? 私たちの管理? ご苦労様。無駄だから帰って良いわよ」
「どうして?」
「あのねえ、私は統堂……知ってる? 統堂英玲奈。私はその英玲奈を遥かに超える才能の持ち主よ」

 理亞さんが言うには、歌以外は平均以下という話だったけど。
 真姫以上の自惚れ屋な彼女に対し、少々頭痛を覚えながらさらに会話を続ける。
 ちなみに、エヴァリーナちゃんも理亞さんも「そんなわけねえだろ!」みたいな表情をしていた。

「ちなみに、お姉さんが踊っている映像とかは?」
「10年前のスクールアイドルよ、今の私たちには何の魅力もないわ」

 ふむ。

「μ'sは?」
「あらあなた、μ'sを知ってるのね……英梨々さんって言ったかしら」
「絵里です」
「μ'sはね、レベルが違うの、特にエリーチカ……神々に愛されている少女」

 先程から私が、絢瀬絵里ではなくエリーチカと呼ばれている件について。

「エリーチカだけは今後何十年経っても色あせない、本物のアイドル、神よ!」
「映像とかはもちろん?」
「毎日見ているに決まっているじゃない」

 おかしいな、そのエリーチカっていう人10年経つとオーラのかけらもない?
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/05(月) 22:13:59.81 ID:sGQQTFFj0
おかしいな、話がぜんぜん終わらない……
とりあえず明日の2時頃に起きて、善子と朝日を登場させられれば。

本当なら、善子の話すルビィの話とか入れようかと思ったんですが、水曜日かな……
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/05(月) 22:26:11.72 ID:vTbGfijSO
>>224
>お姉さんの方はすっごいのにね。

クリスマスのときのライブ衣装凄かったしな
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/05(月) 22:36:07.47 ID:ZcO1uWKAO
オリキャラもみんなキャラが濃いな
エリーチカが概念レベルで神格化されててなんともw
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/05(月) 23:01:51.30 ID:QB72J4Vco
ルビィもいるのかなと思ったらまさかのヨーシコー!
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/05(月) 23:27:38.72 ID:ZlrGUGK1O
エヴァリーナちゃん可愛いな
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/06(火) 00:26:27.93 ID:kV59DynzO
>>236
ずっと続けてくれてもええんやで
続き楽しみに待っとる
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/06(火) 02:06:54.73 ID:Bqv4+ZLCO
芸歴的に善子はルビィの後輩か…
芸歴は凛ちゃん>聖良さん>ルビィ≒理亞>善子って感じか
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/06(火) 02:23:31.87 ID:Bqv4+ZLCO
デビュー時期が違うだけで鹿角姉妹同期でルビィが3年後輩か…
凛ちゃん>聖良≧理亞>ルビィ>善子
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/06(火) 02:33:01.44 ID:37bd3RTFo
絵里と善子がどんな化学反応示すかが何気に楽しみなんだよなぁ
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/06(火) 02:49:59.72 ID:pkdf5spu0
 とはいえ、この状況でもしも正体がバレようものなら
 印籠を見た悪代官並の土下座を見てしまうに違いない。
 穂乃果も大学入学当初はLoveLive!優勝者であることを隠していなかったけど、
 アイドル好きの男子に担ぎ上げられた姿を見て女子から総スカンを喰らい、非常に居心地悪い思いをしたとか。
 少なくとも1ヶ月はここで暮らすのだから、無駄に神格化されたり、お姫様のような暮らしをするのは勘弁だ。

「ふむふむ、ということはここにいるみんなはスクールアイドル出身者?」
「うん? なんで私がそんなものに?」
「ちがーよー?」
「澤村さん、ここにいるスクールアイドル出身者は私と善子と朝日です」

 あれ?

「朱音ちゃんにエヴァリーナちゃんは……現役女子高生だよね?」
「もちろん。でもスクールアイドルなんてやってません。レベルが低すぎる」
「エヴァはねー、フレンドがいないよー?」

 エヴァは友だちが少ない。
 朱音ちゃんの方は……困ったように理亞さんに視線を向けると、こっち見んなって睨みつけられた。

「逆に質問しますが、澤村さんはどこの高校の出身ですか?」
「お……」 

 反射的に音ノ木坂学院と言ってしまいそうになり、困って理亞さんを見る。
 彼女は一瞬で何かを思いついたのか、含み笑いをしつつ

「有栖女子」

 それ、あなたの好きなブランドの名前じゃん……うまいこと言ったみたいなドヤ顔しているけど
 その高校絶対かわいい子だろうが人気ありそうな子でも平気で陵辱されてそうだけど。

「そ、そう! 有栖女子! ハニワがトレードマークなの!」
「ふうん? 変わった高校ね」

 亜里沙にすらちょっと天然と言われた朱音さんはそれ以上ツッコむことはなかった。
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/06(火) 02:50:36.34 ID:pkdf5spu0
「おはようございますー」

 声のした方向を見ると、すごい小柄な女の子がいた。
 恐らく140センチにも満たない身長、くりくりっとした大きな瞳に栗色の髪。
 どう見ても小学校高学年にしか見えない彼女は、善子ちゃんには見えないから

「わ、プロデューサーが言ってた管理人の方ですか? うわー、こんな格好ですいません」

 私は栗原朝日です、と頭を下げるのを見てやっと普通の子が来た、と思った。
 いや、アイドルだから普通ではないっていうのは偏見だね、うん。 

「寝起きだから仕方ないわ、そうだ、朝日ちゃん、御飯食べる?」
「いや、冷蔵庫にはカレーの材料しか入ってませんよ? 私たち基本外食ですし」

 朱音ちゃんは何をしてくれているのか。
 これは亜里沙から貰った生活費を使って、まずは調味料なりなんなりを買ってこないと。

「それと理亞さん、部屋のドアが開いてて中が見え放題でしたよ、気をつけて」
「う、ちょっと急いでいたのよ」
「エヴァちゃん廊下に下着が落ちてたよ、気をつけてね」
「ごめんー」
「朱音ちゃん、カレー臭い」
「いい匂いでしょ」

 うん、極めて普通だ。
 常識人と言ってもいい、海未よりも言葉尻は優しいし。
 プロデュースとかするならこういう子がいいんだろうけど、理亞さんいわく、アイドルとしての実力はないとか。
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/06(火) 02:51:05.48 ID:pkdf5spu0
「プロデューサーから聞いてますよ、澤村さんの話」
「なんだろう? あんまりよくない話かしら」
「家事万能で特に料理が上手、勉強も運動もできて踊って歌える、ハニワプロの秘蔵っ子だって」

 その評判盛られてませんか? ていうか、秘蔵っ子って……。

「理亞さんの作る料理は本当に美味しくなかったので期待してます」
「なによ! 食べるものがないって言うから作ってあげてるんでしょ!?」
「エヴァちゃんは包丁を握ったことがないし、朱音ちゃんはカレーしか作れないし、善子さんはもう、あれだし」
「あんたの女子力の低さに比べれば些細な問題でしょ!」
「エロゲーやってる人に言われたくありません」

 自覚しているのか、理亞さんは朝日ちゃんから目をそらしてテレビに現実逃避を始めた。
 でも、正直に言わせてもらえばスクールアイドルの料理できる率は高い。
 μ'sでは凛が致命的に下手だけど、ことりやにこの作るお菓子は絶品だし、海未の中華や希や花陽の和食、穂乃果の和菓子。
 真姫は案外洋食が得意だったけど、気が向いたときにしか作ってくれない。
 A-RISEを見てみればツバサを筆頭に英玲奈もあんじゅも家事は完璧である。

「あ、そうだ。朝日ちゃんもμ'sが好きなの?」
「好きですよ」
「お気に入りは?」
「もちろんエリーチカです」

 も、もちろんなのか……。

「今日も動画を見ながら、素晴らしい素晴らしいと思いました。私もこんなふうになれればいいと」

 そのエリーチカが目の前にいるというのに、朝日ちゃんもみんなも冷静すぎない?
 
「でも私は思うんです、実はエリーチカは男性なのではないかと」

 ん?

「白馬の王子様って、きっと、あんな感じですよね」
「澤村さん、こいつ気に入った人はみんな男性だと思う癖があるから気にしないで」
「失礼な、根拠はあるんですよ」
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/06(火) 02:51:33.80 ID:pkdf5spu0
 根拠って?

「まず、一人だけ抜群にダンスが上手です。これは筋力がなければできません」

 それは私が昔バレエをやっていて、たまたまダンスに技術を導入することができたからで。
 それと、海未の前でみんなとA-RISEが素人にしか見えないと言ってしまった手前、
 できなきゃ馬鹿にされるかもというプレッシャーもあったし。
 そういえばあの発言、ツバサには知られてたな……オンラインゲームでミスすると
 その動きは素人にしか見えないってよくバカにされたし。誰経由で情報を得たのか。

「二つ目、髪型にこだわりがありません。ポニーテールのときもあれば、髪を下ろしている時もあります」

 基本的にμ'sの3年生は髪型なんてどうでもいいというタイプだった。
 というより、曲によってスタイルを変えるのは当然と言うにこのもとにいたから。
 1年生3人組はショートカットで髪型をどうこうする必要はなかったし。
 
「三つ目、これが一番重要なんですが、不自然にスタイルがよくありませんか?」
「ん?」
「私、ちんちくりんだから分かるんです、パッドをどれくらい入れてるかとか」

 夏色えがおで1,2,Jump!のPVを撮影した時、にこが大量のパッドを持ってきたことがある。
 当初は自分で使うつもりだったらしいけど、水着のサイズと合わなくて断念。
 結果、下はサイズが合うのに上のサイズが合わないと凹んでいた海未が使用した経緯があった。

「エリーチカは……ずばりパッドで胸を大きくしています!」

 その目は節穴だって叫びたかった。
 でも、このシェアハウスでわりと良識人の彼女に現実を見させるのはかわいそう。
 私は色々言いたいのを飲み込み、あえて彼女に同調した。
 理亞さんからは冷めた目で見られた。
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/06(火) 02:53:08.91 ID:pkdf5spu0
 このシェアハウスに住んでいて、私が顔を見ていないのは残り一名。
 とは言っても、善子さんはAqoursにいるときに会っているし、ヨハネキャラは卒業したかもしれないけど
 まあ、どのみちそれほど変化はないだろうと思って余裕の態度でお茶を飲んでいると

「おはようございます」

 そこにはショートカットにして瓶底眼鏡をかけた海未がいた。
 いや、正確には海未よりも髪の色が濃いんだけど、なんていうかオーラが凄く真面目。
 もうすぐ午後になろう時間に起きてくるのはご愛嬌だけど、仕事でもあったのかもしれないし。
 そうそう、トレードマークだったシニヨンもない。

「あれ? 確かプロデューサーが言ってた新しい人って」
「つ、津島善子さんですよね?」
「ええ、津島ですけど、どこかでお会いしたこととかありましたっけ?」

 お会いしたことがあります。
 金髪と巨乳は天界の住人の象徴と叫び、その聖なる力を祓うとにんにくを投げつけられたから。
 (なお、その後ダイヤちゃんと果南さんの手で大量のにんにくとともに海に放り込まれた)
 でもAqoursのメンバーには小原鞠莉っていう私によく似た子がいたはずなんだけどなー?

「あ、これを聞かないといけなかった、μ'sでの推しは誰ですか」
「ふふ、愚問ですね」

 あ、ちょっと中二病らしくなった。

「それはもちろん絢瀬絵里さんです、とは言ってももう二度と私と会ってはくれないでしょうけど」

 目の前にいます。

「私は罪を犯しました、いかに憧れている女性の前だからといってハメを外しすぎました
 それは永遠に許されることはないでしょう……ああ! 私は世界一不幸……!」

 うん、人間根本的にはそんなに変わることはないよね。
 と言うか今更だけど、理亞さん以外の子たちは本当に私のファンなの?
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/06(火) 03:02:20.95 ID:pkdf5spu0
とりあえずここまで。
顔合わせも済んだけど、話としてはまだ終わってないのでプロローグはまだまだ続きます。
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/06(火) 11:18:42.41 ID:dblJVZ2mO
夏色海未ちゃんの真相がこんな形で明らかになるとは…
252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/06(火) 11:55:25.52 ID:8aGyQkkE0
>>249
他の住人に知られたら袋叩き確定だな
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/06(火) 14:40:51.31 ID:FAxM/F6tO
有栖女子のエリーチカ……見てみたいけど絶対可哀想な目に遭う
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/06(火) 19:30:50.91 ID:H1sdXghZO
あれ?これ正体バラせばエリチカハーレム完成なんじゃ…
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/06(火) 20:49:23.58 ID:pkdf5spu0
申し訳ない。
今日の正午辺りから体がだるくて起きていられないので
少しだけ休ませていただきます。

多分、深夜辺りには元気になって更新できるかも(という希望的観測)
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/06(火) 20:56:16.63 ID:chzyvF0ZO
寒暖差激しかったからね
お大事に
257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/06(火) 23:02:15.87 ID:7XLUucORO
>>249
にんにく投げつけられた絵里ちゃん涙目になってそうw

まだまだインフル流行ってるみたいだし風邪ならゆっくり休むのだ!
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/07(水) 02:06:00.88 ID:zYtc8nL20
 冷蔵庫には本当にカレーの材料しか入っていなかったので、
 昼食の材料を買いに行く班と、家事などの担当を決める班に分けることにした。
 料理は致命的に下手だけどお菓子作りが趣味の理亞さんを中心にした昼食班。
 材料を買いに行かせればカレーの材料を買ってくる朱音さんを中心にしたシフト班。
 私はシフト班に所属し、成り行きを見守ることに決める。
 
 昼食を買いに行くメンバーは厳正なる審査の結果、理亞さん、エヴァリーナちゃん、朝日ちゃんに決定。
 比較的常識人の二人がいれば、エヴァちゃんが羽目をはずすことはないと思われる。
 シフトは社会人経験があって料理のセンスが致命的にない善子ちゃんを頼った。
 最初こそみんな平等に家のことを担当させようと思ったけど、管理人のつもりなら仕事してと言われたので
 大抵のことは私がやることになった。解せない。
 一人に仕事を押し付けたらシェアハウスの意味が無いのではないでしょうか皆様……。

 昼食では焼きそばを頼んだのにスパゲッティーを買ってくるという致命的なミスがあったものの
 比較的美味しくできたのではないかと思う。
 ――今度はきちんとメモを渡そう。
 キャベツと豚肉ともやしが入ったパスタを食べながら、私は会話を切り出した。

「ところでみんな、レッスンはしているの?」

 全員の一日のスケジュールを把握することはとても重要だ。
 仕事をさせようとして、その時間に空きがないと言われれば困ってしまうし
 なにより現役女子高生に二人には学校がある。
 せめてレッスンの時間だけは確保して理亞さん以外の四人の実力を上げなければ――そう考えてのことだった。

「私はしてる。というか昼にはハニワプロに行くし」

 五人の中では平均的に仕事があって、優等生な理亞さんの無難な回答。

「澤村さん」
「はい?」
「この統堂朱音にレッスンなんていう下賤なものが必要だと思いますか?」

 根拠はないけど自信は満々の劣等生、朱音ちゃんは斜め上の回答。
 ひとまずこの子は練習に参加させることからはじめないと、うん。
259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/07(水) 02:06:29.61 ID:zYtc8nL20
「エヴァはレッスンきらいー」
 
 比較的説得が簡単そうなエヴァちゃんの予想通りの回答。
 やる気にさせるのは難しいかもしれないけど、辛抱強く言えば練習には参加してくれそう。
 善子さん、朝日ちゃんの二人は自主練もレッスンもしているみたいで一安心。
 ただ、朝日ちゃんの場合は実力が伴ってないみたいだから、メニューを考えるのに苦労しそう。

「昼食をとったら少し休憩して、動きやすい服装に着替えてから四人は地下室に集合ね」
「澤村さんにそんな決定権はないかと」
「私もそのつもりだったんだけどね……」

 家事のシフト(と言うより自分の仕事量)を巡ってあーだこーだと思い悩んでいる時にインターホンが鳴らされた。
 その場は善子さんに任せて応対にあたる。
 ドアを開くとスーツできっちり決めた女性が立っていた。

「絵里さんですね」
「はい」
「私はこのシェアハウスに住んでいるアイドルを担当している南條と申します」

 なんか音の響き的に私に関わりがありそうな気がしたけど、恐らく気のせい。

「この度は、エトワールの管理をして頂きありがとうございます。これ、おみやげのマムシドリンクです」
「ありがとうございます」
「その、アイドルたちとは友好な関係は築いていけそうですか?」
「ええ……自分の正体に気づかれたら、貞操が危なそうな気配はありますが」
「それならば良かった。ここからは本題なのですが、絵里さんには理亞さん以外の四人のレッスンメニューを考えて頂きたく」
「レッスンってハニワプロで行うのではないんですか?」

 私がそう言うと、南條さんは難しい表情をする。

「最初はあの四人もハニワプロでのレッスンに参加していたんですが……」
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/07(水) 02:06:57.16 ID:zYtc8nL20
 やる気も実力もあまりなかった朱音ちゃんが問題を起こしたのは早かったらしい。
 英玲奈という姉を間近で見ているせいか審美眼だけは無駄にあって、他のアイドルたちの動きに注文をつけまくった。
 最初こそ正当な忠告にウンウンと頷いていたアイドルたちも、
 指摘を自分でこなせないという致命的な欠点があった朱音ちゃんを疎ましく思うのは早かった。

 当初やる気はあったものの、自分の気に入ったレッスンにしか参加しないエヴァちゃん。
 善子さんはやる気も実力も兼ね揃えていたけど、年齢の関係か元からの性格か
 他のアイドルたちとのコミュニケーションに難があって(というか人気のあるルビィちゃんと仲がいいのを疎まれて)
 いつの間にかレッスンに参加する機会が減少していたみたい。
 朝日ちゃんはやる気はあったけど実力がなかった。
 ただ、上からの評判は良く、磨けば光る原石扱いをされていたのを疎ましく思われていつの間にか……。

「以前の三人組といい、大丈夫なんですかハニワプロ」
「それでも、売れればよかった。特にあり」

 あり?

「チカプロデューサーが担当すると100%売れるというジンクスがあって、誰もが彼女の目にかかりたかった」
「もしかして」
「ええ、チカPから目を掛けられたのは統堂さん、エヴァさん、津島さん、栗原さんの4人でした」
「その人は目が節穴なんじゃないですか」
「上の評価も概ねチカPと同じです、私もそうですが。あの4人は輝けば売れます」

 南條さんの言葉に嘘は無さそう。
 Aqoursで実績がある善子さんはともかく、他の3人を見てそう思うとかどんな観察眼なのか。
 まあ、私にはそういうセンスが無いだろうから、想像するしかできないけど。
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/07(水) 02:07:27.14 ID:zYtc8nL20
「あの4人は恐らく、他のアイドルと同じレッスンをしていてはいけない。そう判断しました」
「でも私素人ですけど、アイドルとしてのレッスンメニューを考えるなんて」
「できます」
「自信たっぷりですね」
「7人で活動していたμ'sを私も見たことがありますから」

 ということは、私と希が加入する前。
 練習と称して色々厳しく当たったときのことを思い出し、私は苦笑いした。

「まさかアレをやれと」
「何をしたかまでは知りませんが、7人の時と9人のときとは明らかに差がありました」
「人数の違いだけでは?」
「いいえ、動きが違いますから今度その映像を渡しましょう、参考になるはずです」

 とりあえず、何故か私が高く買われていることはわかった。
 経緯まではわからないけど、その評価が下がることはできるだけ避けたい。
 それはもちろん自分のためというわけではなく、この仕事を紹介してくれた亜里沙に悪いから。

「そういえば南條さんは、μ'sの中では誰推しとかあります?」

 ここでエリーチカ推しです! とか濁った目で言われても困るので釘を差すつもりで言ったら。

「詩衣……じゃなかった、海未ちゃん推しです」
「よかった、みんなの推しに影響を与えたのは南條さんなんじゃないかと思って」
「まあ、間違いなく朝日さんはプロデューサーの影響だと思いますけどね」

 しかし、芸能界関係者のダイヤモンドプリンセスワークスの愛好者率高くない?
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/07(水) 02:07:56.43 ID:zYtc8nL20
「まあ、あなた達の面倒は南條さんからよろしく言われているの、だからレッスンに限っては言うことを聞いて」
「ふん、見せて貰おうじゃないですか、へっぽこ管理人のレッスンとやらを」

 集合は2時。
 誰も来ないのではないかと心配になったけど、4人はちゃんとジャージで地下のレッスン場に集まってくれた。

「難しいことをしても仕方ないし、今日は軽めのメニューにしましょう」

 まずは準備体操から始める。
 基礎の前にも準備は必要、そう思っての発言だったけど4人はキョトンとして動かない。

「あれ、もしかして自主的に体操とかしてた?」
「いえ、思ったよりも普通で拍子抜けしました」

 朝日ちゃんが発言する。
 何をやらされると想像していたのか疑問にはなったけど、ツッコミを入れても仕方ない。
 
「じゃあ、私の動きに合わせてね」
「ふん、真似したくなるほどの動きだったらね」

 たかが準備体操、しかし準備体操。
 明らかに動きが硬い朱音ちゃんは今後に期待するとして、ほか3人は無難についてきた。
 それから柔軟体操をすると、善子さんと朝日ちゃんが悲鳴を上げる。
 体が固いのはダンスにおいて致命的な欠点になるので、二人には自主練に励んでもらおう。

「次は筋トレ」
「筋トレですか?」
「うん、難しいことはしないから安心して」
「いえ、筋トレなんてするんだなあと思って」
 
 善子さん以外はあまり経験がないのか、ほとんど私に付いてこれてなかった。
 これも基礎中の基礎だからできるようになってもらわないとな……。
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/07(水) 02:08:37.84 ID:zYtc8nL20
「次はバランス感覚を鍛えましょうか」
「ちょっと待って澤村さん」
「どうしたの朱音ちゃん」
「ダンスとか発声とか……なんでしないの? もしかしてできないとか?」
「これからします」
「なら良いけど。こんな地味なことばっかしてていいわけ?」

 ああ、なるほど。
 
「昔の話で恐縮だけど、UTXでは1時間半くらいは基礎トレーニングだったそうよ」
「え、私UTX出身ですけどやったことないんですけど」

 朝日ちゃんの意外な告白。
 
「それは恐らく自主練の範疇だったのかもね」
「確かに、授業が終わってからみんなトレーニングルームでしてました」
「そう言われてみれば、英玲奈も基礎トレーニングばっかりしていたわ」

 その言葉を聞いてちょっとだけピンときた。
 何か足りないと思ってたけど、神田明神で練習していた時はみんなで階段を往復していた。
 身体の温まり加減が足りないなっていう感覚は恐らくそれだ。

「今度トレーニングする時は少し走りましょう」
「時代錯誤じゃない?」
「軽くよ軽く。5キロくらい」
「そ、それは軽くじゃないと思うんですが……」
「そうかしら? 階段40往復とかよりは楽よ?」
「……」

 善子さん以外はちょっと私と距離を取った気がする。 
264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/07(水) 02:10:15.67 ID:zYtc8nL20
とりあえずここまで。
地味な話になりました!
265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/07(水) 02:46:41.47 ID:Xxm9rFmVO
更新おつおつ
基礎と一緒で地味な話も大事よね
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/07(水) 08:50:41.94 ID:clBgi9C4o
朱音ちゃんはデレたら一番甘えてきそうなタイプ
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/07(水) 20:20:15.89 ID:C6QdKdtBO
南條さんは愛好家というよりむしろ出え……ゲフンゲフン
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/08(木) 05:04:11.97 ID:gVGX40b9O
今日はなしかな?
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/08(木) 07:07:31.36 ID:YcmgOClP0
すみませぬ……風邪を……引きました……
低気圧とのダブルパンチで、ひじょうにつらいです……

書き溜めて投稿しようと思っていますので、明日か明後日には。
うまくいかないものです。
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/08(木) 10:30:16.72 ID:IGmESchPO
やっぱり風邪だったのか…
こじらせると大変だから無理しすぎないでね
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/08(木) 13:26:25.50 ID:dQqB2lheO
ゆっくりペースでも良いから完結まで読みたいのでホントお大事に
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/08(木) 22:09:35.63 ID:sBaFqdSY0
気長に待ってるよ
273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/10(土) 02:12:10.16 ID:lGgwWsBhO
心配だけどインフルだったら結構かかるよな
274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/10(土) 21:48:36.48 ID:pT5qb/Gc0
待ってる

待ってる
275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/10(土) 22:30:03.78 ID:D9mMgi6wO
>>1の無事を祈るのだ
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/13(火) 09:57:00.59 ID:LpojOASd0
おまたせしてます!
なんとかこうにか風邪も治りまして、さて執筆と思ったのですが。
ちょっと調子を取り戻すのに時間がかかりそうです。

もうダメだ、書けないと思った時に、レスを見返してます。
いつになるかわかりませんが必ず戻ってきますので、よろしくおねがいします。
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/13(火) 12:07:05.15 ID:gKw14XxxO
元気になったみたいで一安心
時間空いちゃうと続きから書くのって難しいよな
でも待ってるから頼む
278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/13(火) 17:10:46.81 ID:A2vitE6p0
いつまでも待ってる
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/14(水) 20:49:42.79 ID:12JgHEn7O
続き気になりすぎる…
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/14(水) 23:22:53.95 ID:4aizdU9iO
待っておるぞ
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/15(木) 00:35:19.39 ID:zn+kfbfgO
これはエタる(こう言っておけば続くよな?)
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/15(木) 04:42:33.10 ID:7cpoxBve0
「さて、と。これからどうしましょうかねえ……」

 思い悩む。
 スクールアイドルと同じメニューをこなしても良いんだけど
 相手は多少落ちこぼれてしまっているとはいえプロのアイドルだ。
 とはいえ、準備体操と基礎だけでまいってそうな朱音ちゃんあたりに
 あとは任せたからエリチカ上でジュースでも飲んでるとか言えない。

「ノープランなら歌いましょうよ」

 ペットボトルの飲み物を、まるで100メートルダッシュしたあとみたいに飲む朱音ちゃんが提言。
 そういえば理亞ちゃんも、彼女の歌はかなりいいとか言っていたっけ。
 確かに実力を見るなら一人ひとりに歌ってもらうのも悪くないか。

「朱音ちゃん歌えるの? 童謡くらいしか歌えないんじゃない?」
「バカにしないで! 電波系からアニソンまで何でも歌えるわよ!」

 それは範囲が狭すぎるんじゃないかな……?
 なにはともあれ、一人ひとりに歌ってもらうことにする。
 朝日ちゃんやエヴァちゃんも基礎トレーニングよりはマシと割り切っているのか
 特に文句も出ずに終わる。

「じゃ、朱音ちゃん、曲は?」
「にこにーにこちゃんで」

 ……ん?

「それって、確か……」
「はい、UTXの芸能科で3年前に作られたμ's解散後の唯一の曲です」

 朝日ちゃんの補足説明によると。
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/15(木) 04:43:00.50 ID:7cpoxBve0
 事あるたびにネタにされ続け、かつスルーされてきたにこにーにこちゃん。
 第二回ラブライブ予選の時も、にこは歌詞に曲をつけろなんて言っていた。
 卒業後はネタですら言ってなかったのでついに諦めたものだと思っていたんだけど……。
 
 にこにーにこちゃんの始まりは、にこが歌詞が書かれた紙を落としたことだった。
 なんで持ち歩いているんだと今度ツッコミを入れなくちゃいけないけど、それは置いておいて。
 UTXでは真面目な講師扱い(解せない)だったにこが、にこにーにこちゃんという超電波な歌詞を
 書いていたことで人気も高まり、同志で曲も作られ大ブームに。

「……その、何ていうか別の曲にしない?」
「私が一番パフォーマンスを発揮できるのがこの曲なのよ! 実力みたいんでしょ!?」
「ええ、まあ、なんていうか当人を思い出してしまって、集中できなさそうだから……」

 閑話休題。

「72(なに)言ってんのよ そんな大きさなんて 胸じゃ71(ない)!」

 ささやかなんていわないで それは見た目だけの話なのよ
 触ってみればすぐに分かる にこは本当は胸が大きいって
 でもでもいやいや     そう簡単には触らせてあげない
 宇宙ナンバーワンアイドルの 胸に触れるのは王子様だけ

 だいたい巨乳なんて脂肪の塊 動きが遅くなってしょうがない
 お腹につく脂肪が胸についているだけ価値がない
 ああーだめだめだめ〜♪ そんな脂肪に惑わされないで!
 揺れて跳ねるその姿を目に焼き付けたりなんてしないで! 

 にこにーにこちゃん 宇宙ナンバーワンアイドル
 にこにーにこちゃん シンデレラバスト
 にこにーにこちゃん あなたはまな板の凄さを分かってないわー
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/15(木) 04:43:27.27 ID:7cpoxBve0
 内容はともかく、歌声は素晴らしいものだった。
 このまま歌手としてデビューをしても、構わないんじゃないかっていうくらい
 ハリがあって、艷やかで、ノビのある歌声をしている。

「朱音ちゃんボイトレとかは?」
「したことない、カラオケでは歌うけどね」

 訓練もなしにこのレベルなら、本当、カラオケ大会とかで優勝も狙える。
 ただ、アイドルは歌が上手ければ売れるような甘い商売じゃない(らしい)
 このまま長所を伸ばすんなら、やりたいようにさせるのが一番なのかもしれないけど……。

 他のメンバーにも歌を歌ってもらう。
 エヴァちゃんはたどたどしい日本語だけど一生懸命歌っていた好感が持てる。
 ただ、がんばらねーばというところは別に詰まるところではないと思うんだけど……。
 朝日ちゃんは理亞ちゃんにちょっとレベルの低い扱いをされていたけど、歌声は至って普通。
 素人の中にいれば結構うまいレベルなんじゃないの? とか、スクールアイドルでは上の方って感じだった。
 善子ちゃんは元々スクールアイドルだけあって、朱音ちゃんには及ばないもののかなり上手だった
 ただ選曲が「ありふれた悲しみの果て」だったせいか、こう、正体がバレているのではないかと不安になった。

「さすがハニワプロ所属ね、みんな上手だわ」
「何言ってんの、あなたがまだでしょうが」
「……え? いやいやいや、私はアイドルじゃないし、管理人だしね?」
「澤村さんの歌声聞きたい子は手を上げてー!」

 はーい!
 ――味方は誰ひとりいなかった。
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/15(木) 04:43:54.53 ID:7cpoxBve0
 正体が露見しても困るので、Shocking Partyをごく控えめな声量で歌う。
 よもやこの曲を歌ったことで私が絢瀬絵里だと思われることはないだろうけど
 じゃあ、これからは一緒にトレーニングをしてアイドルを目指しましょうなんて言われたら困る。
 ただこの曲は、カラオケに行くとツバサが踊りながら歌うものだから、つい振り付けも覚えてしまっていて
 身体が勝手に動いてしまうのである。明らかに選曲ミスだった。

 ――そのことに気づくのは、いつも遅い。

「や、やるじゃないの、まあ、私たちを指導するならそれくらいできないとね」

 顔を赤くしてそっぽ向いている朱音ちゃんは、なんていうか興奮している様子で。

「おー、ダンスもキレッキレ、素人には見えない!」

 のんびりとした口調で私のトラウマを刺激するエヴァちゃん。 
 
「本当、澤村さんって何者なんですか?」
「さあ? でもま、ついていっても良いんじゃない?」
「ですね」

 朝日ちゃんと善子ちゃんはかなり好意的に見てくれているみたい。
 ただ、私自身は焦りと不安でいっぱいだった。
 尊敬の念が上がったとはいえ、指導も素人なら、アイドルに関しての知識もない。
 私自身にあまりにも頼られてしまえばいつかボロが出る。
 これは、誰かに相談しなきゃな――そんなふうに思いながら今日のトレーニングを終えた。
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/15(木) 04:44:22.54 ID:7cpoxBve0
 夕食もすんで(材料がなかったので店屋物)から
 では順番順番でお風呂に入りましょうということになった。
 新参者の私は最後でも構わないと言ったのだけど、

「ここは年功序列で!」

 と、善子さんが宣言したため一番最初に入ることになった。
 亜里沙と同居していた時は、彼女がオフの日以外自分が一番風呂だったので
 なんとなく得をした気分になる。
 ただ頭をよぎったのが、お風呂掃除をしているのかどうか。
 
 年長者の決定にも余裕で逆らいそうな朱音ちゃんでさえ、どうぞどうぞと言った感じで
 私をお風呂に勧めてきたのでちょっと心配ではあったんだけど。
 でもそれは杞憂だった。
 お湯は飲めそうなくらい綺麗だったし、浴室自体も掃除が行き届いていた。
 この掃除のスキルをなぜ料理に活かせないのかちょっと疑問ではあったけど
 綺麗なものに文句を言っても仕方ない。

 世間一般では浴槽に入ってから体を洗うみたいだけど、
 流石に汗をかいた身体で、今後みんながお風呂に入ると分かっていながら
 湯船に浸かるというのは心が引けた。
 洗面器をよく洗ってから、お湯を入れてボディソープを入れ泡立てる。
 本当はボディタオルを使っていつもは体を洗っていたけど、今日は忘れてしまったから。

「し、失礼します」

 その時、浴槽の扉が開いて冷気とともに入ってきたのは善子さんだった。

「あれ、どうしたの?」
「ご奉仕します」

 言い方がちょっとアレだけど、これは距離を詰めるチャンスではないか。
 μ'sではよく裸の付き合いというものがあったし、
 これを積極的に取り入れればみんなともっと仲良くなれる――かもしれないし。
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/15(木) 04:44:50.01 ID:7cpoxBve0
 善子さんはおずおずと浴室に入ったまま、一時停止。
 怪訝に思いながら彼女の視線を追ってみると、胸元に降り注いでいることに気づいた。

「えーっと……」
「はっ! ごめんなさい! ここ、陰で貧乳荘って呼ばれてるくらいスタイルがアレな子が多くて」

 カツ丼と天丼をそれぞれ一人前食べていたエヴァちゃんや、カツカレーライスの大盛りを食べていた
 朱音ちゃんも沢山食べる割にはスタイルは控えめ、理亞さんも胸は大きい方じゃないし……

「あれ、でも公称スリーサイズは……」
「理亞は5センチサバ読んでます」
 
 それは大きい。
 スタイル的には凛とそんなに変わらない彼女を思い出し、ちょっと笑う。

「では、今日はどのコースにしますか、洗体ですか」
「普通に洗ってくれれば……」
「では天使のご奉仕、ココアの香りを添えてで参ります」

 なにその、どこぞの料理にありそうなコース。 

「それで、善子さん、なにか言いたいことでもあってきたの?」 
「澤村さんはニュータイプですか、あ、乳タイプですか?」
「うん、その言い間違い違いがよくわからない、でもね、何となく分かるのよ、年の功かしらね」

 今日会ったばかり(実際にはそうではないけど)の女の子に背中を流してもらう。
 そういえばこんな展開、ダイヤモンドプリンセスワークスにあったような……。
 あれは確か、真姫とのシーンに花陽と凛が乱入してきてそのまま――。
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/15(木) 04:45:17.76 ID:7cpoxBve0
「澤村さん、元々アイドルかなにかしてました?」
「スクールアイドルを少々」
「やっぱり! 動きを見て只者じゃないと思った!」

 前の方も洗いたいと如実に主張をする善子さんのリクエストは聞かなかった。
 彼女の持ってきたボディタオルで体を洗いながら、更に続きを促す。

「でも、基礎的な動きは子供の時にやってたバレエの影響が」
「あー、筋トレとかもすごくできてましたしね、普段からトレーニングしてるんですか」
「身体を動かすのはわりと好きみたい、こう、昔は動かないでいることが多かったから、何分かに一度柔軟とか」
「私も元々、スクールアイドルで」

 知ってます。
 でも、その事を言うのは憚られた。
 明らかに話題がシリアスな方向に流れつつあったから。

「結構良いところまで行ったんですけど、まあ、学校も廃校が決まって、
 そこからアイドルのこと結構勉強して、μ'sってすごかったんだなーって思いながら 
 卒業をして、就職をしました。同級生のルビィやマルは進学して
 彼女たちを結構羨ましく思ったりして、でも、就職先は結構ホワイトでしたから
 仕事にやりがいを感じながらも、ちょっと寂しい気持ちもありまして
 20歳になって成人式に行ったら、ルビィが大学を中退してアイドルやり始めたのを知りました
 結構実家から怒られて、縁を切られる寸前まで行ったそうですけど……それでもやりたいって
 私はその時、自分が本当にやりたいものってなんだろうって考えました
 仕事もいいけど、夢を追いかけてるルビィが羨ましくなって
 で、迷惑をかけつつ、一緒に練習とかして――でも踏ん切りがつくまで2年かかりました」

 浦の星は廃校になってしまったんだな……
 それにしてものほほんとしているルビィちゃんだけど、そんな過去があったとは。
 
「花丸さんは?」
「マルも一緒に練習してましたけど、アイドルじゃなくて誰かを支える仕事がしたいって
 ……ん? どうしてマルが花丸って名前だって?」
「案外あなた達有名人なのよ、Aqoursのメンバーの名前は諳んじられるわ」

 善子さんは本当に驚いたような顔をした。
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/15(木) 04:45:46.84 ID:7cpoxBve0
「いまマルはハニワプロじゃないんですけど、その系列の会社に入ってマネージャーをしています。
 仕事が取れない仕事が取れないって嘆いてばかりいるのでちょっと心配ですが、まあ、まだまだ新人ですしね」
「善子さんは、ルビィちゃんに憧れてこの世界に入ったの?」
「憧れもあります、羨ましいとも思ってます、でも、私はこの世界で自分の為すべきことを見つけたかった」

 為すべきこと……か。
 ニート生活が長かった(今でもニートみたいなものだけど)私も時折、
 自分が生まれてきた理由みたいなものを想像して眠れなくなることがたまにあった。
 為すべきことを見つけたいから、知らない世界に入るというのはどれだけ勇気のいる行為だったか。

「レッスンも、実はルビィとやってるから大丈夫だと、そう思ってたんです」
「そうなの」
「スクールアイドルでそこそこまで行ったし、ルビィと同じ程度には動けるし
 ここでは理亞に次いで踊りも歌もできるかなって思ってたんですけど
 でも、きょう澤村さんに会って、実力差を痛感しました」
「いや、待って、私はそんな御大層なものじゃ」
「私たちに足りないものを教えてくれそうな、そんな気がするんです。だから前も洗わせてください」

 そういう下心は、ちょっと控えたほうが良いんじゃないかしら……?
 足りないというのは実は胸の話であって、実力とかそういうものじゃないってオチ?
 
 善子さんと一緒に浴槽に入り、しばらく会話してみると
 いろんな事がわかってきました。
 基本ここにいるみんなは吹き溜まりに集まった落ちこぼれ扱いをされているみたいだけど
 本当は誰よりもアイドルをしたくてたまらない子ばかりで。
 でも、今の私にはそんな彼女たちの熱意に応えられるほど優秀な教師じゃない。
 そもそも、人に教えられるような知識は殆ど持っていない。
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/15(木) 04:46:14.72 ID:7cpoxBve0
 お風呂から上がってから、しばらく部屋でのんびりしていると
 ツバサからLINEが来た。

TSUBASA:なんだか面白いことになってるそうじゃないの、私の誘いを断ったくせに
エリー:どれだけ地獄耳なのよ、本当にあなたって地獄の底まで追いかけてきそうね
TSUBASA:エリーにはそれだけの勝ちがあると思うわ、まあ、それはともかく
エリー:ともかく?
TSUBASA:私にできることなら、できる限り協力するわ。へっぽこ先生さん?

 あれ? この部屋の何処かに盗聴器でも仕掛けてるんじゃないよね?
 背筋が凍るような想いを感じながらも、話を続けた。

TSUBASA:なるほど、レッスンか……私もアドバイスはできるけど、専門知識はないわね
エリー:まあ、ツバサのアドバイスなら、雛も親鳥になるわよ。
TSUBASA:あんまり褒められてる気がしないけど、それなら、英玲奈とかにこさんとかを頼ると良いんじゃない?
エリー:ああ、確かに。二人はUTXでスクールアイドルを教えているんだものね

 検討もしていなかっただけに、自分の視野の狭さにちょっとだけ自己嫌悪。

TSUBASA:英玲奈にアポを取るんなら、私が付き合ってあげてもいいわ!
エリー:あなた暇なの? というか体よく英玲奈と付き合ってお酒飲みたいだけなんじゃ
TSUBASA:ふふ、そうとも言うわね。おっと、マネージャーが怖い目をして睨んでる、んじゃ!

 ツバサは相変わらず忙しそう。
 アイドルに復帰してからというもの、ほとんど毎日彼女の姿を見かけている。
 トーク番組ではすっかり毒舌キャラを確立してしまったし、オンラインゲームが趣味というのも暴露して
 もうなんていうか、おっさん系アイドル筆頭株になってしまった。
 それを彼女が望んだのかどうかまでは知らないけど……まあ、ストレスが溜まったら、一緒にお酒でも飲もう。
291 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/15(木) 04:46:42.52 ID:7cpoxBve0
 にこにとりあえず、教えを請いたいというメールを送ってから
 翌日に走ろうと思っているランニングコースをグーグルマップでにらめっこしていると
 ドアがコンコンと叩かれたと同時に開き、赤ら顔の理亞さんが入ってきた。

「池田ァ!」
「違う、私は澤村」
「ふん、どっちでもいいじゃない、偽名なんだから。暇ならちょっと付き合いなさいよ」
「ヒマじゃないんだけど、今メール待ちなんだけど」
「バラすわよ?」

 何をと問いかける必要もない。
 一つため息を付いて、彼女についていく。

 理亞さんの部屋はカオスだった。
 床にはたくさんの積みゲー、壁という壁にはスクールアイドルとかアイドルのポスター。
 もちろんμ'sもいる。

「これ、のいぢ?」
「そうよ。ダイヤモンドプリンセスワークスのキャラを書いたポスター、しかも全キャラクター」

 私たちを書いたのかと思った……それくらい判断に困るというか、はっきりいって見分けがつかない。
 まあ、元のソフトからして自分たちそっくりだから訴えればなんか勝てそう。

「その、少しは片付けたほうが」
「あなたは嫁を片付けられるの?」

 嫁て。
 その嫁を床に置くぞんざいな扱いは……。

「じゃあ、一杯飲みなさい」
「まあ、飲むけど」
「それじゃあ、私のおすすめのエロゲーをプレイしなさい」
「早く寝たいんだけど」
「だめ」

 駄目かあ……。
292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/15(木) 04:47:12.51 ID:7cpoxBve0
「それで、あの子達の実力見たんでしょ、感想は?」
「かなりレベル高いんじゃないの?」
「ポテンシャルはね」

 理亞さんは4杯目のストロングゼロを飲みながら答える。
 ちなみにPCではAqoursをモデルにしたと思われる、ダイワーの続編の体験版が映っている。
 プレイ当初は解説のように冷静にプレイしていた理亞さんも、やがて興奮してきて
 絶対買う! 私たち出なくてもいいから買う! と言っていた。

「今のままでも、恐らく私のプロデューサーが付けば売れるわ、朱音の歌は聞いた?」
「なんであの子微妙に歌のセンスないの?」
「いいのよ、歌いたい歌を歌えるなんて今のうちしかないんだから」

 理亞さんは遠い目をしながら答える。
 
「エヴァちゃんはダンスすごかったし、朝日ちゃんもかなり良かった。善子さんもさすがね」
「ハニワプロの意向では、あの4人を組ませるつもりらしいけど、どうでしょうね」
「一日見た限りだけど、無理そう」
「うん、まあ、わかってる」

 相性が悪いとか、仲が悪いとか、そういう意味ではなく。
 単純に4人の個性が強すぎてグループとして破綻しそう。
 例えるならA-RISEが9人いる感じ。

「あのグループには残念ながらまとめ役がいないのよ、だからね、今はそれに適した人を探してる」
「ふうん? じゃあ、誰か新しい子が来るのね?」
「何言ってんのよ、5人目のメンバー」
「……はい?」
「どうなるかは知ったこっちゃないけど、仲良くなったあとに正体を明かして、結束を高めるシナリオらしいわ」
「ふふ、まるでダイヤモンドプリンセスワークスみたいね」
「あなたの人生みたいなクソゲー扱いしないで」
 
 ひどい。
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/15(木) 04:47:42.39 ID:7cpoxBve0
「いや、流石に無理でしょ。ブランクあるし、何より年齢が」
「しょうがないでしょ、ハニワプロがあなたを気に入ってるんだもの」
「止めてよ」
「あなたは一社員が会社の方針に逆らったらどうなるか知らないの?」

 理亞さんの援護射撃は期待でき無さそう。

「じゃあ、あなたのプロデューサーはどう思ってるの?」
「あなたの意向に任せるそうよ、その時が来たら全力でサポートするって」

 逃げ場ないじゃん……。
 亜里沙め、姉を就職させようと思ったからってまさかアイドルにしようとは!
 というか、アイドルに就職するって一般的な表現かな?

「ふうん、そのプロデューサーも私を買っているのね」
「大好きだそうよ」
「会ったことのない方から大好きと言われてもちょっと怖いな……」

 なにゆえ私を知る人物は、私に対する評価がムダに高いのか。
 これが、なろう流のチート属性というものか? 異世界に転生でもするのか私、

「まあ、そのうち分かるからあえて言わないけど……あなたって本当にμ'sで賢かったの?」
「何故かネットではポンコツ扱いされるケースが多々あったわ、解せない」
「ニートで数年過ごしているんだから、その予想正しかったんじゃない?」
「いやでも、自分でも先輩禁止はいい案だと思うのよ」
「なんて言われたの?」
「序列も理解できないポンコツとか、なれ合い主義者とか……」
「ふうん、ま、μ'sには合っていたんじゃないの? でも、あなたがポンコツ扱いされるのは白塗りの」
「やめて! それは自分でもどうにかしてたと思ってるのよ!」

 にこが主に自分以外をパシャパシャとデジカメに撮っているから、何をしているのかと思ったら
 ブログのネタにするためだったという件がある。残念ながらそのブログ記事は数日後海未の抗議で消されたけど
 ネットにアップしたものがそう簡単に消えるわけもなく……
294 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/15(木) 04:53:58.15 ID:7cpoxBve0
おまたせしました! 本当に申し訳ないです!
これで一日目、もといプロローグ終了です。

次回以降は、こころと再会したり、神田明神に行ったり、にこにーに教えを乞ったり色々。
短めのお話にしてすぐ更新……できると、いいなあ。
295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/15(木) 08:04:17.63 ID:lZ2Mt8+/0
更新乙です
にこにーにこちゃんの歌詞がwwwwww
善子と絵里の裸の付き合いはぜひ映像で見たいですね・・・
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/15(木) 10:41:58.09 ID:AW6J+GuHO
待ってた、舞ってた
来るとしたらラストかと思ってたエリチカアイドルルートがまさかの一番槍とは
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/15(木) 11:17:09.67 ID:M8J3h3VGO
よしえりは良いぞ…
理亞ちゃんもツンデレな感じですっかり懐いてるなぁ
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/15(木) 18:37:08.70 ID:7Mxz9ypLO
復活嬉しい!次回も楽しみ
ポンコツ扱いは9割愛だから頑張れえりち
299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/15(木) 21:42:40.51 ID:Vkvq4abaO
プロローグとは思えない濃密さ
このss元にしたゲーム発売されたらフルプライスでも買うわ
300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/16(金) 19:24:27.72 ID:hxWiTQySO
この歌って踊っている絵里ちゃんを見たら凛ちゃんの想像は正しかったっていえるよな
301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/16(金) 23:04:37.15 ID:n93fwVPM0
凛ちゃんは常に核心をついてくるという風潮
302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/18(日) 21:02:57.15 ID:Z4VTleS20
お久しぶりです。
いま劇場版を見直しているんですが(4回目)こんな天使をアラサーニートにしてよかったのか
そんなことを考えています。3年生達がサングラスしているところのドヤ顔とか可愛すぎる。

おかしい、自分はエリち推しではなかったはずなのに、絵里ばかり見てしまう。
それと、最近凛ちゃんの歌声のエロさと、スカート姿の可愛さに目覚めました。
凛推しでは……なかったはずなのに……。

アラ絵里はなんとか、明日までには完成させられそうです。少々お待ちください。
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/18(日) 21:21:28.98 ID:TKK+GA9lO
むしろ天使だからこそ世間の荒波に……
劇場版のその二人は特に可愛いからなぁ
気持ちは良くわかる
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/18(日) 22:02:19.93 ID:59Y2wj6+O
えりりんも推せばええんやで
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/18(日) 22:49:44.40 ID:nUFdWA9LO
おばあさまぁ…のシーン可愛すぎて映画館で天に召されかけたわ
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/18(日) 22:57:23.33 ID:8xqY0qqq0
姉妹スレの更新もおつおつ
こっちも待ってます
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/18(日) 23:30:07.39 ID:pUHoxmAeO
あどけない天使なわけだ
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/19(月) 20:41:23.51 ID:Tywam5jA0
 誰かと一緒に寝るなんていつぶりのことだろう?
 高校時代はまだ中学生だった亜里沙が怖い夢を見ると、
 ベッドの中に入って抱きついてきたりして。
 あの頃はどちらかと言うと背も小さく、150センチ行くか行かないかくらい。
 友人の雪穂ちゃんよりも主張も身長も控えめ――そんな時代もあった。

 今はもう、私の身長を超えるか超えないかのところで止まり
 見上げられながらお姉ちゃんなんて言われないかと思うと、ちょっと涙が出そう。
 まあ、今の亜里沙にお姉ちゃんと言われようものなら、背筋も凍って、持っている金銭を渡しかねない。

 なぜこんな事を考えているのかというと。
 お酒を飲んだまま寝落ちした理亞さんをベッドに運び、やれやれやっと帰れる――と思って場を離れようとすると。
 彼女が服の端を掴んだまま離さない。
 口では姉さま姉さまと言いながら、恐ろしい握力で私を拘束――現在に至る。

「私も眠ってしまっていたのね」

 最初はこんな状態で眠れないと思ったけど、お酒の効果もあったのか十数分で眠りについてしまったみたい。
 ちょっと抱き合うような形でベッドの中に入っていたけど、よもや誰かに写真でも撮られるわけでもない。
 服の端はすっかりシワになってしまっていたけど、まあ、これは名誉の負傷というものだろう。
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/19(月) 20:42:06.33 ID:Tywam5jA0
 部屋に戻って運動着に着替えてから階下に降りる。
 リビングからは微かにテレビの音が聞こえてきたから、誰かが起きてる。
 おはようと挨拶をしながらドアを開けるとそこには、画面に夢中になる朝日ちゃんがいた。

「おはようございます澤村さん」
「ええ、早いのね」
「ちょっと目が冴えるようなことがあったので、て、どこかに行くんですか?」
「うん、ちょっと走ってこうかなって、みんなのランニングメニューを考えるために」
「あれは本気だったんですか」

 ふとテレビの映像を見ると、アイドルのスキャンダルのニュースが放送されていた。
 なになに、スクールアイドル出身のMのお泊り恋愛――確か、このアイドルが所属するグループは恋愛禁止を謳っていたはず。
 
「この子、私の同級なんですよ」
「UTX出身ってこと?」
「ええ、すっごい優秀で。ラブライブの優勝こそ逃しましたが、すっごい人気のスクールアイドルでした」
「私も聞いたことがあるかしらね」
「ただ、グループ名のセンスはないですけどね、彼女はAutomataがいい! って盛んに言ってましたけど、意味がわかっていたかはどうかは」

 苦笑いをしながら応じる朝日ちゃん。
 UTXの芸能科は一部を除いて、その、おバカ系が多い。
 以前もツバサが

「アイドルなんだから教養がなきゃダメよ、理想になるんだったら、才能が溢れていて、優秀でなくてはダメ」

 普通科と違って偏差値が40前後の芸能科。
 オトノキが55くらいだったから……学力ではこちらのほうが軽く上回っていたけど。
310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/19(月) 20:42:47.94 ID:Tywam5jA0
「UTXでも落ちこぼれだった私が、今もアイドルをしていて……トップだった彼女がアイドルをやめるかもしれない」
「朝日ちゃん」
「恐らく、今になって矢澤先生が言っていたことがわかると思うんですよ、芸能人も一人の社会人、常識を身に着けてから卒業しなさいって」

 ん? 
 どちらかといえばにこは、常識から外れたことをノリノリでやるタイプだと思っていたけど。
 まあ、そのあたりは講師になる時に考えを改めたのかもしれない。

「A-RISE卒業後のUTXは、チート性能のアイドルなんていませんけどね」
「チートて」
「いや、μ'sもA-RISEも今では考えられないレベルのチートですよ」
「美化しすぎじゃない?」
「かもしれません。でも私はたまに思うんです。スクールアイドルはその世代で終わらせるべきだったのではないかって」

 それはいったいどういうこと? って聞こうとしたら炊飯器が鳴った。
 
「ご飯が炊けましたね」
「ああ、ごめんなさい、朝食の準備するわね」
「お手伝いします」

 朝日ちゃんはリモコンでテレビを消し、台所へと向かった。
 その背中はすごく寂しそうで、なんて言葉をかけて良いのか。
 励ませば良いのか、叱咤すれば良いのか。
 ――まあ、こういう時には美味しいものを食べて元気づけるしかないわね。
311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/19(月) 20:43:26.36 ID:Tywam5jA0
 朝食の準備をしていると、エヴァちゃんや朱音ちゃんが起きてくる。
 今日は月曜日だから学校もある、今日のレッスンはひとまず彼女たちが帰ってきてからになるかな。
 
「澤村さん、朝はカレーでしょ」

 と、最初は不満そうにしていた朱音ちゃんも

「お味噌汁? おお、絵里は素晴らしいものを作る〜」

 と、言ってべた褒めだったエヴァちゃんも

「豆腐なんて食べるのは実家以来ですね、味を忘れていないか不安です」

 そんな今までの食事は何をしていたのか不安になる発言をする朝日ちゃんも。
 恐ろしい勢いで朝食を平らげて、炊飯器が空になってしまった。
 今度からは善子さんたちにも残るように御飯の量を調整しないと。

 学校に向かった二人を見送る。
 私もストレッチや準備体操をしてから外に出た。
 今日も少しだけ日差しが眩しい。

「それじゃあ、戸締まりはしっかりしてね」
「ええ、どこかでアキレス腱とか切らないでください」
「不安ね……」
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/19(月) 20:43:54.52 ID:Tywam5jA0
 ダンスも出来ているし、筋トレもしているから、やたらめったら激しい動きをしない限りは大丈夫だと思うけど。
 ただコンクリートの上を走るのは膝に微妙に悪影響を与えるから、少しだけ気に留めるようにしないと。

「では、行ってきます」
「はい、昼食までには帰ってきてくださいね」
「好きなもの食べていいのよ? 毎日私の料理じゃ飽きるでしょ?」
「1週間朝食がカレーじゃなければ文句は言いません、他のみんなも同じです」

 なんていうか、とりあえず三食作らなきゃって決意させる言葉を積極的に吐くように訓練されてない?
 私の庇護欲を刺激されて仕方ないんだけど。



 住宅街を十数分で走り抜け、ビル群を抜ける。
 なんとなくだけど、走っていてあまり面白くない。
 高校時代はほとんど毎日神田明神に顔を出して、階段を駆け登ったりなんだりしていたけど。
 同じことを繰り返してばかりだったはずなのに、あんなに楽しかったのは恐らく仲間がいたからだ。

「ふう、なんか妙にセンチメンタルな気分になるわね」

 昔のことを思い出す時はたいてい気分が盛り下がっている時。
 ここ数年でまた東京の建物も様子が変わってきた、戦前から残っている建物は殆どが取り壊され、駅もほとんど別物になってる場所もある。
 2年ほど前、亜里沙の買い物で穂むらに行った時も、以前と印象が違って迷いに迷ったし。
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/19(月) 20:44:23.04 ID:Tywam5jA0
 久しぶりに神田明神にでも行ってみましょうか。
 流石に運動着じゃ電車に乗れないから、走って向かうだけだけど。
 ええと、最近のスマホは進歩しているから機能がいっぱいあって戸惑うのよね……。
 などと、考えながら歩いていると。
 
 電信柱に誰かがもつれかかっている。
 行き交う人がその様子を見て遠巻きにヒソヒソと言っているけど、
 そういう態度を取る前に声の一つくらいかけなさいよ! って思う。
 確かに、騒動に巻き込まれたくないっていう態度は理解できなくもないけど
 もしも事件になったりしたらどうするのかしら、とちょっとだけ憤る。

「もしもし、だいじょうぶ? 人を呼びましょうか?」

 顔を近づけてみると、途端に感じるのはアルコールの臭気。
 相当に飲んでしまったのか、元よりお酒にそれほど強くなかったのか、
 その女性は――ん?

「あなた、こころちゃん?」
「その声は……絵里お姉さま?」

 派手めのメイクに、ちょっと露出度高めの格好。
 お酒の匂いをプンプンに漂わせている彼女は、にこの妹のこころちゃんだ。
 顔色が青いというか土気色に近いのは心配だけど、受け答えははっきりしている。
 コンビニに向かって何本かのスポーツドリンクとウコン入りのアレを買ってくると、こころちゃんに渡した。
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/19(月) 20:44:50.18 ID:Tywam5jA0
「すみません、このお礼はお店に行ってしますから」
「せめてもっと別のお礼にならない?」
「い、いいところですよ?」

 ちょっと、今はスキャンダルになってしまいそうなニュースは遠慮したい。
 私個人が迷惑を被るのは良いけど、指導している子たちもいるので……。

「ふう、少しだけ楽になってきました」
「そう、家まで送りましょうか?」
「うーん、というかここ、どこなんです?」

 そういえば、こころちゃんの職場は銀座の一等地にあるそうだから
 このあたりは全然テリトリーの範囲外。
 
「先輩の家が職場の近くにあって、そこでみんなで飲んでいました、それからまったく記憶がなくて」
「歩いてきたとしたら、結構あるんじゃないかしら? 2時間くらい?」
「ちょっと悪酔いをしたみたいですね、仕事でもこんなことはないのに」

 ええと、確かここからにこの家は……タクシーで20分くらい。
 ここから歩いて駅まで10分だとすると、電車で最寄りに向かって……。

「タクシーにしましょう」
「絵里お姉さま、お金は」
「出世払いでお願いします」

 平身低頭。

「頭を上げてください、そんな、元は私が悪いんです」
「うう、心遣いが痛いわ。でもここじゃタクシーが停車しづらいからコンビニに向かいましょうか」
「はい、あと、頭を上げてください」

 こころちゃんは私の平身低頭スタイルはお気に召さないらしい。
 亜里沙あたりは腐った家畜の肉を見るような目で見下してくるのに……。

 コンビニの店員さんにタクシーを呼んでもらい、しばらくのんびりしていると(申し訳ないのでちょっと買い物した)運転手さんがやってくる。
 事情を説明し、とりあえず逃げ出したカップルではないことを理解してもらいタクシーに乗り込んだ
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/19(月) 20:45:31.22 ID:Tywam5jA0
 にこの家族が住んでいるアパートは相変わらず大きい。
 元々は、コタくんを大学に行かせるためにみんな就職して資金を出しあう
 そんな計画だったそうだけど。
 予想外にお金が貯まる仕事につきましたね、とはこころちゃんの談。

「そういえば、ここあちゃんは今何をしているの?」
「異世界に転生しました」
「え? 異世界? ここはもしかしてなろうの世界だったの?」
「冗談です。気まぐれで書いたBL小説が大受けして今は乙女小説家として、近くに家を借りてます」

 BLか。
 そういえば、μ'sにはその系統が好きな子はいないわね。
 理亞さんあたりは、男の娘×男の娘ならって言ってたけど、アレはもう手遅れなのでノーカン。

「ふうん、色々あるのね」
「東條×絢瀬といえば、ここあが仕掛けたカップリングで、今は腐女子界の王道になってます」
「ちょっとまって、私男体化するの?」

 TSは一部に人気の根強いジャンルではあるけれど、女性が男体化してBLになるのは聞いたことがない。逆はあるけど。
 
「私挿れられる方なの……?」

 当人経験ないのに……。
316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/19(月) 20:46:08.96 ID:Tywam5jA0
「攻めのほうが良かったですか?」
「ん……どっちも嫌だけど、どちらかって言うなら」
「安心してください、およそ5%は攻めです」
「残りの95%が果てしなく心配なんだけど……」

 ダイヤモンドプリンセスワークスといい、ここあちゃんの小説といい。
 なぜμ'sは同性愛カップリングが蔓延しているのか。
 
「だいじょうぶです、挿れられるのはやおい穴です。お尻じゃないです」
「その違いがよくわからないんだけど」
「挿れることによって、性的快感を得られるがために存在するご都合主義です」
「そろそろ出演料をもらうべきなんじゃないかしら……」

 その後も、エリチカの知らない世界に出演するこころ・デラックスは、淡々と、それでいて熱く腐女子界隈の事情を説明してくれた。
 この会話を聞いているタクシーの運転手さんの精神を慮るにあまりある気もした。世の中に大変じゃない仕事なんて存在しない。

 にこの家のアパートに到着して(タクシーの代金はこころちゃんが払った)から部屋に向かう途中。

「朝帰りなんて、お姉さまに叱られます」
「ああ。にこはそのあたり厳しいかもね」
「それを考えると憂鬱です」
「その時には私も一緒に怒られましょう。一人よりも二人よ」

 ドアを開けるのが怖いというこころちゃんに代わって、私が扉を開くことに。
 まあ、百鬼夜行が待っているわけではないし、なんてこともない。

 ――そのはずだった。
317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/19(月) 20:46:41.88 ID:Tywam5jA0
「こころ……? 朝にお帰りするなんてどういうこと? どうしても遅くなる時は絶対に連絡を寄越しなさいとお約束しましたね?」

 鬼がいた。
 エプロン姿におたまを持ったにこがこちらを焦点が合わない瞳で見ている。
 ハイライト仕事して!

「あら? 随分と派手な金髪になったのねこころ、それがお店でのスタイルって言うことなのかしら? お姉ちゃん悲しいわ」
「に、にこ……もっとよく見て」
「ん……?」

 にこの目のハイライトがだんだんと戻っていく。
 まるで種でも割れてしまったかのような目でこちらを見てきたから、ちょっと、エリチカ背筋が寒くなっちゃったな……。

「あら、絵里じゃない」
「あなたって本当ににこなの?」
「やあねえ、こんなに可愛い子がこの世の中に二人もいるわけないじゃないの、耄碌したの?」 

 うん、こうして話している分にはいつものにこだ。
 私の背中に引っ込んでガクガクと震えていたこころちゃんがおずおずと顔を出した。

「お、お姉さま」
「こころ、せめて悪いことをしたという自覚があるなら、人を楯にするのはやめなさい」
「は、はい!」
「朝食にしましょうか、絵里も食べる?」
「え、ええ、私もちょっと食べてきたけど、いただくわ」
318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/19(月) 20:47:37.91 ID:Tywam5jA0
 本当はお腹なんてあまり空いちゃいなかった。
 走ってきたわけだからお腹もこなれているかなって思ったけど、
 それ以上に矢澤姉妹の闇を見てしまった気がして……。

「そういえば、エリー、働き始めたんですって?」
「まだ一日しか経ってないわ、どこ経由の情報よ」
「マッキーからLINE届いた」

 ということは確実にμ'sのメンバーには情報が行き交っているってことね。
 恐らくツバサあたりから、穂乃果に行って拡散されたんだと思う。もしくは動向を知ってる他の誰かから……?

「絵里お姉さま、ついに就職されたんですね!」
「ええ、ルームシェアの管理人を就職と言っていいものか……」
「お給料をもらえるんだったら仕事よ、それにアイドルの指導もしているんでしょ?」
「ん? そんなことまで拡散されてるの?」
「澤村絵里って、ちょっとは捻りなさいよ」
「仕方ないじゃない! 怖いレベルの私のファンなんだもの!」

 ……ん?

「誰から連絡届いたの?」
「朝日は澤村絵里で信じ切ってるみたいだけど、私はすぐにピンときたわよ」
「バレてない?」
「信じられないことにバレてない」 

 それは良かった。
 朝日ちゃんに正体がバレたらいろいろと苦しい、彼女はわりと正直で常識人だから、恐らく隠し通すことが出来ない。
 善子さんといい、エヴァちゃんといい、朱音ちゃんといいアクが強すぎるメンバーが多すぎやしない……?
319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/19(月) 20:48:07.40 ID:Tywam5jA0
 まあ、それは今に始まったことじゃないし、μ'sも傍から見たらそうなのかもしれないから黙っているけど。

「にこは、スクールアイドルの講師だけど」
「仕事の内容なら教えないわよ」
「私が言いたいことを先読みしないでよ」
「ふふ、ま、でも、元生徒がお世話になってるから、アドバイスくらいならしてあげてもいいわ」

 それは心強い。
 教えることに関しては本当に無知だからな……指導みたいなものならしたことがあるけど、アレは今から思い出せばただのイビリだ。
 
「アイドルっていうのは、お客様商売。相手の望むことをご奉仕するのよ」
「スクールアイドルでは考えられない思想ね」
「お金をもらっているんだもの、レベルが違うわ。ま、ツバサさんあたりに話を聞けばそのあたりのことは教えてもらえるかもしれないけど」

 うむ、なんか私がするお返しが怖くて聞けないけど。
 追い詰められたらその選択肢もありかもわからない。

「ああ、でもそういうのは実際見てやって、理解するしかないのかもね」
「あんたせっかく、本物の芸能プロダクションにいるんだからスタジオに顔を出せばいいじゃない」
「何ていうか近寄りがたい、それに亜里沙がオフの日じゃないといけないし」

 私がそう言うと、にこがなんだかなあって顔をする。
 そりゃ妹の言いなりになってる姉なんて良いもんじゃないけどさ。

「じゃあ、試しにお願いしてみたら? A-RISEのメンバー揃ってご指導頂けないかとか」
「英玲奈忙しいんじゃないの?」
「物は試し、物は試し」
「にこが見たいだけなんじゃないの? まあ、却下されると思うけどね」

 というわけで、一番忙しそうで、このお願いを却下してくれそうな英玲奈にLINEを送ってみる。
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/19(月) 20:48:45.39 ID:Tywam5jA0
統堂英玲奈:ふむ、それはいい案だな
エリー:にこの戯言を聞くつもりなの?
統堂英玲奈:私たちの後継者を作りたいという気持ちは理解できる。場所の確保なら任せてほしい。

「……英玲奈のオッケーが出た」
「やった、さすがは私の同僚ね! ふふ、忙しくなるわね!」
「あんじゅのオーケーが出るとは限らないし」

あんじゅ:あら、それは面白そうね
エリー:あなた達って実はあんまり忙しくないの? 暇なの?
あんじゅ:ふふ、まあ色々とあるのよ。最後のお勤めなら喜んで参加させてもらうわ

「……あんじゅまで」
「うん、場所はUTXで。一番広い所、参加する生徒は……そうね、全校生徒は無理だから」
「何電話してんのにこ!?」

 お偉いさんと交渉モードに入っているにこはひとまず置いておく。
 ツバサの鶴の一声さえあればこれは却下されるはず!
 そう思った。

TSUBASA:私が断るとでも?
エリー:あなたって本当は平凡レベルのアイドルなの?
TSUBASA:まさか、これでも元トップよ? 忙しさもエリーの比じゃないわよ?
エリー:マネージャーさんは?
TSUBASA:ふふ、立場的には私の方が上よ?
 
 ということになった。
 何を言っているのか私もわからないけど、私も何が起こったのかさっぱりわからない……。
321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/19(月) 21:08:36.75 ID:Tywam5jA0
今回はここまでです。
こころの先輩が梨子だってネタを出せなかったな……

最近、soldier gameとShocking Party とヘビーローテで聞いてます。
ソルゲ組を見て思ったのですが、この子達の髪の毛信号機っぽくないですか?
エリちは金髪で海未は黒髪ですけど……。

わりとこの第一ルートネタの構成の余裕があるので
こういうネタが見たいなーっていうのば積極的に拾わさせていただきます。
全部は拾うのは無理ですけど……できれば、自分が書きたいものと言うより
読者様が望むものを書く訓練をしたいので。

ダイヤモンドプリンセスワークスの内容とかはエロゲーだから無理ですけど!
あと、誰得みたいな内容も、両親の馴れ初めの話とかwwww
ただ、Aqours関連は第3ルートで語る予定なので、そっちは拾えないと思います。

では、次は……1レスかアラ絵里第二話で。
322 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/19(月) 21:15:32.64 ID:SBiy0PzpO
これまたディープな回…やおい穴なんて無駄な知識を得てしまった
コタくん呼びに密かに萌えたわ乙
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/19(月) 21:52:43.18 ID:iy3CBjo4o
みんなにお姉ちゃん扱い(呼び)されてほくほくな絵里ちゃんとか見たいかも
324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/19(月) 22:34:56.35 ID:3MkeSdZC0
乙です
こころあの将来も心配になってきた・・・
>>1の構想にすでにあるかもだけど絵里の正体がバレた時の反応はやっぱり楽しみ
特に善子と朱音
325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/20(火) 00:17:53.10 ID:EIzK2bPNO
朱音ちゃんが姉の前でどんな態度になるかも楽しみだな
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/20(火) 01:12:02.55 ID:XuQ+p7R00
>>321
こんな画像あったの思い出した
https://i.imgur.com/R2wLP85.png
327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/20(火) 02:07:43.58 ID:hEb8FJiVO
現役JK二人にお勉強教えてあげるとか
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/20(火) 22:07:46.84 ID:jhqTk5wZo
リトルデーモンエリーチカ見たい
むしろエルダーデーモンかな?
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/21(水) 01:37:48.82 ID:GGBuIu5M0
>>323
>>325
>>327
>>328

書こうと思ったのですが、ちょっと調子悪くて文章が出てこないので
上のレスを拾いますという宣言をして寝ます!
しかし、エルダーデーモンはドラクエのモンスターみたいだ、やったことないけど。

>>324
これは、物語の終盤で……できれば。
一人一人気づかれるというのもありだと思ったのですが、やっぱり同時が良いな。
そうしませう。
330 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/21(水) 02:03:29.58 ID:ltMh/4fN0
書きやすいように書いてくれww
楽しみに待ってます
331 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/21(水) 07:39:19.29 ID:Wz6bc2A00
Aqoursがモデルと噂のダイヤモンドプリンセスワークスの続編はいつ発売しますか?
332 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/21(水) 09:42:52.05 ID:TcQ1CSCSO
まず会社をつくらないと
333 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/21(水) 12:22:00.72 ID:bPJUsyaDO
おかしいな……続編どころか1すら品薄でどこの店にも置いてないぞ
334 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/21(水) 13:15:17.12 ID:bob6zoBO0
走れども走れども
追いかけて来る罪悪感
335 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/21(水) 21:00:07.65 ID:TcQ1CSCSO
>>334
ちーん(笑)
336 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/22(木) 16:53:50.95 ID:kb2AlF+I0
お久しぶりです。
次スレなのにお久しぶりと言わなければならないこの体たらく。
そろそろ理亞ちゃんあたりに、お前はクズって呼ばれる夢を見そう。

とある事情で、そろそろ1レスも潮時かなあと思いつつあります。
なので、アラ絵里を本腰に添えて、今あるお題を書いたら終了しようかなんて。
ちょっとモチベーションが落ちるレスが……うん。

というわけで次回のアラ絵里は本編を一回お休みして
亜里沙ルートの設定を使った本編とまるで関係ない、理亞×真姫のお話をば。
337 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/22(木) 17:37:28.76 ID:tTY8i69dO
モチベ落ちるレスかぁ…あんまり気にしない方が良いと思う
むこうも楽しみにしてたけどこっちの続きが気になりすぎるのでメインにしてくれるなら嬉しいけどね
理亞真姫の外伝?も楽しみに待ってる
338 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/22(木) 22:51:33.50 ID:izKRikEDO
外野が何言おうとssなんて>>1のやりたいようにやってくれれば良いさ
ただしエタらないでくれよ
339 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/24(土) 05:05:48.75 ID:f6gOSBLpO
書き溜め中かな?
待っているんよ
340 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/25(日) 09:57:07.46 ID:Rxe29xLSO
>>336
俺もそんな夢見たい見る
341 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/25(日) 18:56:02.10 ID:R+fZJZ780
 ゴロゴロゴロ……
 ゴロゴロゴロ……

 理亞さんが床をのたうち回るようにしながら転がっている。
 ドアを開いたまま固まっている私に気が付かずに、
 笑顔で、鼻血でも吹き出さんばかりの表情のまま萌え転がっていた。

 パソコンの画面を見ると、メイド服を着た子供っぽい女の子がはにかんだ笑みを浮かべていた。
 何が彼女の琴線に引っかかったのかまではわからないけど、ひとまず幸せそうでよかった。

「……なんて」

 放って置く訳にはいかない。
 別に床をゴロゴロ転がることは日常茶飯事だとしても、今の私には用事がある。
 しかもちょっとだけ緊急性が高い。

「理亞さん、理亞さん、ちょっと!」
「……ん? あら、誰かと思えば、澤村絵里さんじゃない、どうしたんですの?」

 今更お嬢様ヅラしたところで……。
 というか、あなたお嬢様じゃないでしょ……。
 一つ息をついてから、心を整えて。
342 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/25(日) 18:56:52.64 ID:R+fZJZ780
「理亞さんにね、会って欲しい人がいるの」
「ふうん、今はちょっと、忙しいからダメよ、今日中にコンプリートしないと、このゲーム攻略キャラが6人もいるから」
「お願い〜、私は演技指導とか出来ないし、ね? この前ちょい役で映画にも出演した女優の鹿角理亞さんにしか出来ない仕事なのよ!」

 そう。
 最近、アンリアルの二人は映画に出演した。出番にして3秒くらいだったけど、みんなで見に行った。
 でも、スプラッタムービーだからあの二人絶対死んでるわよねって思った。

「女優としての仕事は間に合ってるけど、まあ、頼られて悪い気持ちはしないわ」

 ちなみにキャスト欄では芸名の「LEAH」ではなく「Lia」になっていたので誰も気づかなかった。
 
「で、会って欲しいっていうのは、声優さんなんだけど」
「私、喘がない声優には興味ないの」

 それはまた極端な。
 でも、その反応を見事に予想していたエリチカ
 すかさずに反撃に移るのです。

「その子ね、ちょっとエロゲーに出てみたいと思ってて」
「バカにしないで! エロゲーは腰掛けで出るような遊びじゃない!」
「どうどう、彼女も真剣なのよ」

 理亞さんは胡乱げな視線を寄せてくる。
 とりあえず出て行けと言われないから、話の続きを促しているんだろう。
343 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/25(日) 18:57:23.27 ID:R+fZJZ780
「ほら、大爆死したチャリオッツっていうアニメがあったじゃない」
「ああ、円盤が3桁いかなかったやつね?」
「それに主演した子」
「どこで知り合ったの? あの人まだ、無難に声優業続けてるじゃない、他の声優見ないけど」

 チャリオッツという自転車アニメは、弱虫ペダルの二番煎じを狙ったマンガのさらに何番煎じで。
 前評判はアニメ化したのが奇跡、むしろ原作よりつまらなくなることはないという話だったけど。
 原作を薄味にした挙げ句、さらに止め絵連発のクソ作画のせいで何が起きているのがさっぱりわからないアニメだった。

「μ'sのメンバーなのよ」
「……? μ'sに声優志望なんていたっけ?」
「まあ、私も医者志望だって言うのは知ってたけど、まさか演技の道に進むとはね」
「医者……西木野真姫!?」

 おお、知ってた。
 アライザーのSaint Snowの二人ではあるけど、μ'sもかなり詳しく知っていたりする。
 全体的に不出来だったけど(理亞さんの趣味はお菓子作り)ザッハトルテを私のために作ってくれたし。
 でも、生焼けで1日お腹を壊したのは秘密。

「ふうん、ダイヤモンドプリンセスワークスでいうと……ほうほう、それは……クるもがあるわね」
「で、未来の名女優の理亞さんに」
「演技指導ね! わかったわ。私に任せてもらえれば、どんな凡人でも名伯楽になれるわ!」

 それはすごいけど、声優業とはまったく関係がない。

「でも、ほら、理亞さん、エロゲーの演技って……って、もう聞いてないわね」
344 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/25(日) 18:57:51.33 ID:R+fZJZ780
 部屋に戻り、了承を得られたと真姫にLINE。

MAKI:よかったぁ、こういうってμ'sのメンバーには頼れないじゃない、エッチな演技なんて
エリー:まあ、かなりの数プレイしているっぽいし、そっち方面の知識なら間に合うと思うわ
MAKI:もちろん事務所に言えば、色んな人を紹介してくれると思うけど、やっぱり生の声がね
エリー:わかる、業界慣れしていない声のほうが耳に入るわよね!
MAKI:エリーもすっかりこっち側ね……まあ、それはともかく、今度の日曜、○○ってスタジオ借り切って練習するから!
エリー:わかったわ! 理亞さんにもそう伝えておくから、あとは二人で頑張って!
MAKI:何言ってるの、あなたも参加するのよ
エリー:え? だって、とにかくエロゲーをプレイしていて末期患者みたいな人を紹介してほしいって……
MAKI:エリーもいつか声のお仕事が来るかもしれないじゃない、その時のためよ!

 なんでだかそういう事になってしまった。
 いや、私は協力はすると言ったけど参加するとまでは言っていないんだけどなあ……。



 というわけでとある休日。
 理亞さんとともにお出かけ。
 前から彼女はこの日を楽しみにしていたらしく、そこら中のカレンダーに花丸を付けていた。
 今も隣で気持ち悪いくらいににっこにこした顔をしながら、今日のために書いたという演技指導のファイルを持ってる。
 
 ちなみにだけど、理亞さん担当のプロデューサーに事情を説明すると資料を寄越してくれたらしい。
 あの、アイドルのプロデューサーなんですよね? 隠れてAVとかの仕事してないですよね?
 ちょっと不安になりつつも、まあ、彼女の絶大な信頼を誇るPなのだから、まともな資料なんだろう。見てないけど。
345 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/25(日) 18:58:21.11 ID:R+fZJZ780
「そういえば、真姫の芸歴を調べたの」
「へえ、まあ、これから会うんだものね」
「ラノベ原作でもお色気系はほとんどなし、お硬いマンガの出演が多いわ、恐らくだけど今回の濡れ場ありの作品出演は事務所の指示じゃない」
「ふむ」
「マネージャーが翻意を考えているか、新しい事務所に誘われているかも知れないけど、今までどおりアニメで見るってことはないと思う」
「うん……」
「それくらいしないと生き残れないのよね、厳しい世界よね、芸能界って」

 いつも同じことをしていればいいというわけじゃない。
 人間には飽きるという感情があるし、丁寧な仕事をしていれば認められるわけじゃない。
 限界まで努力をしましたなんてセリフが鼻で笑われるような厳しい世界ではあるから。

「そういえばスタジオってどんなところなんだろ」
「ビルの三階だってばよ、絢瀬絵里」

 なんでいきなりNARUTOだってばよ。

 ええと、確かスタジオの名前はウッドガーデン。
 東京駅から少し距離のある吉祥寺からバスで数分揺られたのちに、ちょっと歩く。

「ええと、あったあった。ここね」
「AVの撮影でもしてそうな場所ね」
「しっ! どこでマジックミラー号が待ち構えているかわからないんだから!」

 ところで、最近ちょっと下ネタが多いのは理亞さんに懇願されてエロゲーをプレイするようになったせい。
 潤滑なコミュニケーションは、相手のことを知る必要があるからってことだけど……。
 
 スタジオの前では真姫が手持ち無沙汰な様子で待っていた。
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/25(日) 18:58:50.16 ID:R+fZJZ780
「おはよう真姫」
「エリー! ん?」
「おはようございます、鹿角理亞です」
「ああ、おはようございます。西木野真姫です、ていうか女の子だったのね……」

 ん、そういえば理亞さんのことは、重度のオタクってことと、業界内にやたら詳しいPがついているってことしか言ってなかったっけ。

「まあ、女の子のプレイヤーは珍しいから、今日は新人の気持ちでご教授お願いします」
「こちらこそ、女優鹿角理亞としてがんばります!」



 スタジオ内は意外と暑かった。
 別に今収録する必要はないのだから、空調を入れても構わないんじゃないかと思うけど。
 まあ、こういうのはイメージが大事だからというのは真姫の談だけど。

「というわけで、これが資料です。この資料を混じえた現場の生の声を説明していきます」
「わかりました」
「こちらが竿役の絢瀬絵里」

 ん?

「真姫さんがセリフを言った後どう感じたか説明してもらう役、重要だから」

 重要だったらもっと前から説明してほしかったなあ。
 まあ、なにはともあれ、真姫も理亞さんも疑問には感じてないから粛々と進めるけど。
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/25(日) 18:59:25.36 ID:R+fZJZ780
「では、資料を見ながら。まず第一に! この3つのセリフをいろんな声で読んでもらいます!」

 どこかから持ってきたホワイトボードに、女性の胸部の名前と、女性器の名前、そして男性器の名前を列挙する理亞さん。これちょっとしたスキャンダルだよね。

「エッチなセリフの基本! おちん@ おまん@ おっ@い!」
「先生質問です! 情感を込めるとどんな感じになるんですか!」
「最後に、ちょっとちっちゃい「お↑」が入る感じで読むと、男性的にグッとくるケースが多いです! ね?」

 ねって、私は男性じゃない。
 でも、反論したところで無駄なので、一応うなずく。

「なるほど、ちょっと読んでみます!」
「はい、真姫さん! 頑張って!」
「おちん@↑」
「もっと三点リーダと状況を意識して!」
「……おちん@ぉ↑」
「エッチなことされているイメージで!」
「……おちん@ぉ! おちん@ぉ!」

 うーん? 確かに、セリフに恥ずかしがっている真姫は見られるけど、声だけ聞いてみるとエッチなのかどうかは微妙だ。
 普段プロが演じている濡れ場シーンを聞いているせいもあるのかもしれない。
348 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/25(日) 19:00:01.58 ID:R+fZJZ780
「絵里!」
「なあに?」
「真姫さんにク@ニ!」
「できるか!」
「エリー、私エリーなら……」
「ノラナイデ!」

 ああ、でも今のやり取りでちょっといい演技の方法を見つけたかもしれない。
 真姫に足りないのは、演技慣れしすぎていて羞恥心や恥じらいといった感情が足りてない。
 というわけで。

「真姫、ちょっと恥ずかしいかもしれないけど、その……」
「どうしたのエリー」
「パンツ見せて!」

 場が凍った。
 理亞さんがスマホを手に取り、ポリスメンに通報しようとしたので全力で止める。

「ちょ、ちょっと離しなさい! エロゲー出演を名目にセクハラを働いた女がいるって!」
「ち、違うの! 勘違い! 私は演技指導! 演技指導をしようとしたの!」
「下着を見られることで声がエロくなるならみんなしてるっての! そんなの資料にも書いてなかったし!」
「わかったわ、エリー、でも、安くないわよ?

 て、天からの助け!

「今日はスカートだから、ちらっと見せるだけよ? ちらっとね」
「ああ、真姫、さっきのセリフを言いながらM字に開脚……って理亞さん!」
「セクハラじゃない、もはや現行犯よ! ええい、離しなさいってば!」

 と、ワチャワチャしている間に二〇分が経った。
 壮絶に無断な時間を過ごしてしまった気がする。
349 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/25(日) 19:00:29.50 ID:R+fZJZ780
「いい、真姫に足りないのは羞恥心、エッチなこころよ」
「ふうん? でも、M字に開脚して何を刺激するの?」
「私が竿役になってマジマジと見るから、恥ずかしいって思いながら台詞を読んでみて!」
「ふうん? まあ、それでよくなるんだったらやってみるけど」

 理亞さんは未だに納得していない様子だけど、ひとまず真姫がやると言っているので止めない。
 というわけで、真姫が足をM時に開くと同時に、私が顕になった下着を顔を近づけて見る。

「ちょっとまって、そんなに近づけるの!」
「真姫のためよ!」

 鼻が下着に触れてしまいそうなくらい、顔を近づけると真姫がすかさず悲鳴をあげる。
 なにか目的と行動が間違っているような気もするけど、これも全て真姫のため。

「では、真姫さんセリフ!」

 理亞さんに促され、真姫がセリフを訥々と述べる。
 先ほどとは打って変わって羞恥心まみれになったセリフは、大変魅力的でこれなら人気がでること間違いない。
 すると。

「でももっと羞恥があったほうが良いと思うわ」
「これ以上どうするの?」
「こうするのよ!」

 四つん這いになって真姫の下着の匂いを嗅いでいる(ように見える)私のお尻を理亞さんが蹴飛ばす。
 するとどうなるかと言うと、もともとパンツに近づけている私の顔がさらに近づき、股間に接着するようになる。
 真姫が先程の二倍ほどの悲鳴をあげたのと同時に、股間を隠すように太ももと太ももで私の顔を押さえつけ、私の顔は太ももと下着の三点セットで閉じられる。

「ぐもももも!?」
「やぁ! ちょっと何喋ってんのよ絵里! んん!!」
「やった! これでこそエロゲー! 素晴らしい! 素晴らしい! 絢瀬絵里! あなたが私の見込んだ通りの主人公よ!」

 なお後日。
 真姫からのLINEで、先のやり取りのおかげで大変エロい台詞が取れたので、また付き合ってほしいと言われた。
 死んでもお断りだった。
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/25(日) 19:16:12.54 ID:R+fZJZ780
 というわけでおまたせしました。
 今回は、時系列とはまったく関係のない話の番外編です。

 これからのSomedayの真姫ソロを聞いている時
 真姫ちゃんは悲鳴をあげると20は年を取るな
 なんてことに気づき、今回の話に。

 次回こそは1レスで。
 でもいいネタを思いついたらまた番外編。
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/25(日) 19:18:57.52 ID:q0rTQRNSO
りあまきかと思ったらえりまきだったでござる
真姫ちゃんもついにエロゲデビューか……どんな作品だろうな
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/25(日) 19:48:59.27 ID:tWa2mUk3O
このssの理亞ちゃん色々ぶっ飛んでてほんと好き
353 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/25(日) 22:58:53.98 ID:2xUheyIQ0
更新待ってた!!
ラッキースケベチカとかまた新たな属性が付与されてしまったのか
しかしこれまた映像で見たいイベント・・・撮影されてなくて良かったような残念なような

理亞ちゃんも良いキャラしてるよなぁ
果たしてA-RISEとのレッスンで素を出さずにいられるのか楽しみ
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/25(日) 23:21:46.12 ID:Kk3kmHaVO
処女三人で集まってなんて破廉恥な…
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/26(月) 17:58:50.38 ID:e6/TM1oC0
まきちゃんの淫語とかたまらん
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/26(月) 22:35:11.21 ID:ofXOFMZSO
下着の色をはよ
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/27(火) 00:05:56.55 ID:Dv6gBIwJO
>>349
台詞のためってのは口実でえりちのク@ニが癖になってたりして…
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/27(火) 18:44:59.01 ID:j5rCB5q10
推しキャラのソロライブ3も無事に届き。
今現在、ヘビーローテーションで聞いている最中なのですが……
これ、他のキャラも欲しくなりますね!
でも流石に三万数千円は……払えないね……なので一ヶ月に一本
コツコツと買っていきたいと思います、次は凛ちゃんかエリちかな……。

次回は本編を進めようと思ったのです(学校のためエヴァと朱音は欠席)
なので、欠席のキャラの埋め合わせの短めの話をちらほらと。
終わらせるなら1レスも書いてからと思っているのでそっちも書かないと……プレッシャーが!

それで、なんでこんな事を書いているのかというと
事後報告とか、そういうのでは無しに、文章の書き方を思い出すために書いています。
エタらないために、仕方なく(という言い訳)

次回のアラ絵里で多分ネタにしますが、ラブライブキャラの登場する夢を見ました。

かよちんぱなの歌うCutie Panther!
というナレーションと同時に凛ちゃんが登場し
Hello,星を数えてを歌い始めるという不思議な夢です。

かよちんぱなってなんだよ!
というわけで執筆に戻ります……なんとか書けそうです……。
359 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/27(火) 18:55:27.04 ID:/oOU9yKfO
かよちんぱなはいいぞ
こっちの本編も埋め合わせの話も1レスの方も期待してるから大いにプレッシャー感じてくれ
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/27(火) 23:04:12.55 ID:Ara6QQ6bO
ソロライブでモチベあげて頑張れ
361 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/28(水) 02:10:41.55 ID:JYV/+s280
番外編 その2 
エヴァちゃんの憂鬱 〜チンパンジーは機械の夢を見るか〜

 すごくどうでもいいことだけど、エトワールの中では流行している言葉がある。

「やっぱりこの動き、素人にしか見えない」
「国語教師の教え方、シロートにしか見えない!」
「理亞さんのお菓子、素人にしか見えないですよ」
「うっさいわね!」

 なんか別の台詞が入ってしまったけど、高校時代の黒歴史をほじくり返されている気分でいたたまれない。
 きっかけは理亞さんが「そういえばA-RISEを素人にしか見えないって言ったバカがいてね」なんて私の顔を見ながら言った時だった。

 μ'sも知らなければA-RISEもロクにわからない、エヴァちゃんあたりはポカンとしていたけど、

「ふうん、それはさぞ素晴らしいスクールアイドルが言った台詞なんでしょうね」

 朱音ちゃんの台詞には明らかに怒気が含まれていた。なんやかんや言ってお姉ちゃん大好きの疑惑がある彼女からすれば、自分が侮辱された気分がして嫌なのかもしれない。

「ねえ、澤村さんは知ってるわよね?」
「まあ、とある人物がネトゲで流行らせたからね……」
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/28(水) 02:11:11.40 ID:JYV/+s280
 とある人物=綺羅ツバサ。
 彼女が知る経緯になったのは、海未から教えた貰った穂乃果が口を滑らせたから。
 
「でも、A-RISEが素人にしか見えないって相当ですね、よほどの大バカか、ものすごい自惚れ屋か」

 朝日ちゃんそれ選択肢としては同じじゃない? どっちもものすごく馬鹿にしてない?

「待ってください。じゃあ、もし私たちが上手くいったら、人を惹き付けられる様になったら、認めてくれますか?」

 ……ん?

「無理よ」

 …………ん?

「どうしてですか」

んん?

「私にとっては、スクールアイドル全部が素人にしか見えないの。一番実力があると言うA-RISEも……素人にしか見えない……!」
「げほっ! げほっ!」

 別に何か食べたわけでも飲んだわけでもないけどむせた。

「おお、エリーそこで死んでしまうとは情けない!」

 といいつつも、熱々のお茶を渡してくれるエヴァちゃんにお礼を言いながら。

「なんで諳んじてるの? そんなに有名なのその台詞」
「有名よ、スクールアイドルが素人にしか見えないなんて、とても……負けた人ジュース奢り!」
「ぐはぁ!?」
363 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/28(水) 02:11:38.93 ID:JYV/+s280
 エリチカ再起不能。

「なにか良くはわかりませんが、理亞さんのラブライブは遊びじゃない発言よりは良いんじゃないですか」
「ぐはぁ!?」

 鹿角理亞再起不能。

 エトワール内がエスポワール内になりつつある雰囲気の中で、善子さんがひたすら笑いを堪えていた。
 わりとネトゲに詳しい彼女は元ネタに行き着いているだろうし、遊びじゃない発言も自分自身で聞いているから面白くて仕方ないんだろう。

 でも、ここで憧れの人ににんにく投げつけて、海に投げ込まれたとか言ったら、新しい死者を増やすだけだから黙っていることにする。



 指導する側なのに、ハニワプロでレッスンがある時には参加させられている現状に疑問を持っている。
 ついでに言えば、ツバサにも「一人でトレーニングしても暇だからあなたも付き合って」と言われていて、他のメンバーよりよっぽどダンスにキレを増してる、解せない。
 なので最近はあまりお酒を飲みに行く機会もない、おかしい、以前は亜里沙に怒られるくらい飲み会に参加していたはずなのに。

 部屋で悶々と、もしかしたらいつの間にかアイドルデビューさせられるのでは? なんてことを考えていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。
 朱音ちゃんとか理亞さんはノックなんてせずに入ってくるから朝日ちゃんあたりか。
 そう思ってドアを開けると、

「エリー……助けてぇ!」

 半泣きのエヴァちゃんがこちらに抱きついてくる。
 ちょっとその姿が天使っぽいと思って、なんとなく感動していると。

「エリー?」
「ああ、ごめんなさい」

 ハグしたまま、部屋に押し込んでしまいそうになって思わず自重する。
 以前の件(ク@ニの件)もあって、最近ラッキースケベ率が上がっているから気をつけないと。
 女同士でもセクハラ認定される時代だもんね、クワバラクワバラ。
364 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/28(水) 02:12:09.23 ID:JYV/+s280
「どうしたの、エヴァちゃん、助けてってどういうこと?」
「このままだと、アイドルやめないといけないの!」
「アイドルを?」

 それはまずい。
 エヴァちゃんが脱退してしまうと、ハニワプロの5人組としてアイドルデビューというのが破綻してしまう(私は未了承)
 芸能プロダクションが自身を持って調和を取れた5人組と表するレベル(繰り返すけど私は未了承)のグループがなくなってしまうと……まあ、私は困らないけど、色々とね。

「わかったわ、私にできることなら協力してあげる、それでエヴァちゃんは何を困っているの?」
「朱音が勉強ができなさすぎてアイドルやめないといけないの!」

 ああ、そっちかぁ……。



 エヴァちゃんの国語以外の成績はかなり優秀らしい。日本語が読めないというわけじゃなくて、単に肌に合わないらしい。亜里沙も国語の成績は著しく悪かったからわからなくもない。
 朱音ちゃんはほぼ全教科赤点の上、追試もサボりまくっているのでこのままでは進級の危機らしい。
 そのことを英玲奈に告げてみると。

英玲奈:心配ない、朱音はやればできる子だからな
エリー:やってこなかったからやばいんだけど
英玲奈:朱音と来たら本当に可愛いやつで(以下10行ほど妹自慢が続く)

「教え方が悪いのよ」

 朱音ちゃんは開口一番そう言った。
 自分自身で勉強が出来ないと思うのはマイナスなので、それは別にいいんだけど……。
365 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/28(水) 02:12:38.31 ID:JYV/+s280
「違うわよ、あんたがバカなのよ」
「理亞! なんでこいつ連れてくんのよ!」
「だって私だと今の女子高生が何勉強しているか分からないし」
「こいつだってババアじゃないの!」

 理亞さんよりもかなり年上の私に対してなにか一言。

「もう、朱音! 今日はふたりとも先生なの!」
「エヴァの教え方が良ければこんなことには……!」
「ハイハイ喧嘩しない、さっき朱音ちゃんのテストの結果を見せてもらったけどね……」

 ヤバイ。
 アルファベットの小文字の「a」と「q」がどっちがどっちだか分かってない。「b」と「d」の違いを判別しているかどうかが怪しい。「base」を「バセ」って読んじゃうレベル。
 よくもまあ、高校に入学できたと感心してしまうくらい(むしろなぜ進級できたのか不思議だ)で、他の教科も国語以外はズタボロだった。

「赤点を回避することに集中しましょう」
「はん! そんな程度の低い目標! この統堂朱音をバカにしているの!?」
「ごめんね。朱音ちゃん、あなたはバカです」

 凛と穂乃果にさえ、面前でバカ呼ばわりしたことがない私が、ついに相手に向かってバカと言ってしまった。
 だって日本史のテストでわからないところは全部聖徳太子って書いちゃうような子だもの! あたってる確率は限りなく低いよ!

「でもね、今からやればせめて猿がゴリラになるレベルにはなると思うの」
「な、な、せめて人間で例えなさいよ!」
「ごめんなさい、クロマティ高校くらいには入学できるわよね……」
「悪化してんじゃないのよ!」
366 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/28(水) 02:13:06.70 ID:JYV/+s280
 まあ、とはいえ。
 一応英単語を書けるレベルにしておかないと、追試をする側が発狂しかねない。
 漢字は無駄に書ける(漢検準1級らしい)ので、地頭は悪くないはず。

「というわけで、勝負をしながら実力を付けていきましょう」
「勝負?」
「最終的にエヴァちゃんに勝つのが目標です」

 理亞さんが何いってんのこいつみたいな目でこっちを見てくる。
 エヴァちゃんもかなり苦笑いしながら私を見るので、よほど無理なことを言っているのだろう。
 私も無理だと思ってる。

「でも、ここでのバカって、朝日か善子でしょ? 流石にアイツラには勝てるわよ」
「ごめんね、本当にゴメンね、今の状況じゃ、足元にも及ばないの、現実を理解してもらえる?」
「お、おう……」

 朱音ちゃんの鋼鉄メンタルがちょっと傷つき始めているかもしれない。
 まあ、人間一度負けを認めれば強くなる可能性は秘めている。

「とりあえず、私はこれからエヴァちゃんとメニューを組むので、理亞さんと一緒に英単語の特訓ね」
「はあ? なんでそんなレベルの低いことを」
「ああ、ごめんなさい。アルファベットをちゃんと書けるようになるまでご飯抜き」
「……理亞ァ!!」
「なんで私に文句言うのよ! 恨むなら馬鹿な自分を恨みなさいよ!」
367 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/28(水) 02:13:54.17 ID:JYV/+s280
 困難が予想されたけど、なんとか一時間ほど練習してアルファベットは書けるようになった。
 でもこれで英語に関して終わりじゃない、まだ覚えることがたくさんある。
 課題は山積みだけど、一つ一つこなしていけば、チンパンジー並みの頭脳にはなるはずだから……。

英玲奈:そういえば、朱音の勉強は順調か?
エリー:ええ、今ようやく鎌倉幕府の成立年を覚えたわ
英玲奈:そうか、いやんばかん鎌倉幕府だったな
エリー:何年なのよそれ
英玲奈:しかし、可愛い上に勉強までできるようになってしまったらますます(以下妹自慢が20行続く)

 そろそろ指導方法も頭打ちなのではないかと思い始めた時に、ふいに頭をよぎったのが、テストで満点をとることが得意な友人だった。
 彼女も暇ではないだろうけど、しきりにエリーの吐息が忘れられなくてというLINEを送ってくるあたり、時間に余裕くらいはあるはずだ。
 
「というわけで、友人の西木野真姫さんです」
「よろしく、あなたが英玲奈さんの妹ね?」
「え、ええ……」

 今までになくちょっと引き気味の朱音ちゃん。ようやく自分の実力も分かってきたらしく、満点を取らせるために連れてくるという私の言葉に少し緊張気味。
 ちなみにだけど、真姫が滞在時は理亞さんのお部屋で過ごさせることに決めている。
 あの部屋を見たら多少は理亞さんの業の深さを知れるでしょう、自分が相手にするのがどういう人か分かれば、気軽にエリーで処女を失いたいとか言わないはず。
368 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/28(水) 02:14:22.02 ID:JYV/+s280
「で、さっき受けたテストの結果を見て思ったんだけど」
「え、ええ……」
「私、頭の悪い子ってわりと好きよ?」

 駆け出しエロゲー声優(デビュー作の発売は2ヶ月後)の真姫に情感たっぷりに言われ、赤くなる一同。
 余談だけど、サンプルボイスが公開された直後に正体がバレたらしく、公式サイトにアクセスが集中して落ちた経緯がある。

「さ、エリーのためにも、テストで満点をとるのを目標にしましょう。だいじょうぶ安心して、最初は誰もが怖いかもしれないけど、次第に慣れるわ、ふふっ」
 
 でもほんとう、女の子に目覚めたとかそういうオチじゃないわよね? ノーマルなのよね? 今度希に相談でもして……でもなあ、むしろソッチのほうが良いと言われたら……。



 真姫の努力の甲斐もあってか、なんとテスト勝負で朝日ちゃんに勝利。そのままの勢いで理亞さんや善子さんをも撃破し、残りはエヴァちゃんだけとなった。
 ついでに言えば、私との勝負はなし。負けたら悔しいとかそういう話ではなく、世代が違いすぎて同じテストで勝負できないから。

「ふん、エヴァみたいなレベルの低い子相手に本気を出すのもしょうがないけど」
「言うね、朱音! でも、追試を無難に乗り越えて、今度のテストで万全の成績を取ればいいって」

 ん?

「ちょっとまって、エヴァちゃん、朱音ちゃん追試クリアしたの?」
「おー、クリアしたよー、ほぼ満点だった」
「じゃあ、もう勝負することないじゃん!」 

 ないじゃん
 ないじゃん
 ないじゃん――!

 私の声がエトワールの中に響いた。
369 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/28(水) 02:23:09.42 ID:JYV/+s280
Shoking Party Cutie Panther Love wing bell
真夏は誰のモノ? DROPOUT!? soldier game
CLASH MIND というローテーションで約30分ずつ集中するという構図で書いておりました。
次回こそは本編……と決めつけてもアレなので、
なんとか目標は毎日書くで。
370 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/28(水) 02:57:12.95 ID:kUwWYreMO
更新おつおつ
素人発言で弄られまくる絵里ちゃん好き
英玲奈さんの姉バカっぷりも良いわぁ
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/28(水) 05:14:03.99 ID:aOXtposKO
>>327アレンジして採用してくれたのかな?だとしたら凄い嬉しい
372 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/28(水) 06:21:20.87 ID:Ymxl6oSe0
朱音の天狗な性格の元凶は英玲奈なんじゃ・・・
でも本当にやれば出来る子
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/28(水) 08:28:23.22 ID:jTShZnYK0
真姫ちゃんが処女こじらせてレズに目覚め・・・いいぞもっとやれ
本編よりサイドストーリー進める癖は直さなくても別に良いなww
毎日読めたら嬉しいけどいくらでも待つよ
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/28(水) 16:57:29.14 ID:WsVGacCvO
>>368
真姫ちゃんのあえぎ声とか公開されたら鯖落ち不可避やろなぁ
375 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/28(水) 19:11:16.64 ID:edeLLjaSO
|キ|
|マ|
|シ|
|タ|
|ワ|
|T|
376 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/29(木) 04:44:00.01 ID:+ffSRr5nO
俺もえりまきとレッツスタディーしたい
377 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/30(金) 01:48:51.64 ID:UvMFPdWp0
素人発言はこの先も一生いじられそうだなww
378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/30(金) 01:51:58.11 ID:b/RUw/dy0
 お疲れ様です。
 たった今、浦島エリちという作品を書いたのですが。
 公開しても良いのか迷っているので、明日バイト明けてから
 もう一度読み直してみて大丈夫そうなら上げます。
 でも多分ボツ。

 μ'sのアンソロジーがサンシャインのコミックスと同時発売だったんですが。
 初っ端からアルミが書いてて、あなたははよ6巻発売せえ!
 って気持ちでいっぱいです。
 でも、サンシャインのコミックスを見て思うんですが、これAqours結成されるんですかね?
 
 スパロボを買ってしまったので、更新できる時に更新しようと思ったけど、
 深夜テンションで書くものではないですね……。

 それから、今自分は男体化ダイヤに夢中です(妄想)
379 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/30(金) 01:53:29.34 ID:b/RUw/dy0
また上げてしまった……!
すみません、そろそろ本編も書きますので!
(にこの家からタクシー乗って帰るシーンで止まってる)
380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/30(金) 01:54:15.55 ID:UvMFPdWp0
>>1もスパロボユーザーだったのか・・・
アリスといい色々趣味が合いそうで好感
アルミ版6巻ははよ読みたいよなぁ

浦島もどんなカオスな内容でも受け入れる自信あるぞ!
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/30(金) 05:14:24.55 ID:vriW6AP/O
ソロライブに夢中でアンソロまだ読めてないな……
男だけど男体化ダイヤさんになら抱かれても良い
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/31(土) 09:21:20.29 ID:MfD0mVvJO
漫画版もこのSSの続きもはよはよ
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/01(日) 11:23:03.36 ID:DZ3pCPaH0
>>358
えりちのカラフルボイスは色々可愛すぎてハラショーなのでぜひ聴いてもらいたい
384 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/01(日) 15:27:59.79 ID:XjrgiGRP0
お久しぶりです。
スパロボXも二週目に突入し、
そろそろ更新をしようかと思っております。
というか、サイバスターと言うか
CV緑川光の機体が優遇されすぎてやしまいか……
と思ったので、それをネタにした理亞と絵里の話を。

浦島もちょっとひどかったので、それと一緒に置けば目線もずれてだいじょうぶだろうと。
これ、最初からサイバスターがいる特典付きのプレイヤーはヌルゲー過ぎて死ぬのではないかと。
全部アイツ一人でいい。

〜お手軽スパロボX 簡単クリア方法〜

サイバスターをフル改造します
マサキの射撃を400、回避を300以上にします。
SP回復、アタッカーなど、攻撃に有利になるスキルが有れば付けます。
気力を最初から140くらいまで(強化パーツ出来ます)上げ、とにかく1ターン目から
サイフラッシュを使えるようにします。
サイバスターを敵陣に突っ込ませ、精神コマンド熱血と共にサイフラッシュを使用します。
敵は死ぬ。

これで後半のシナリオの全部クリアできます。
なので、ほんとう、出撃ユニットは趣味でいいです。
二週目で余裕があるので
コードギアスのアーニャ
ZZのプル&プルツー
クロスアンジュのサリアあたりを使って貧乳4人組を作って快進撃

……ってこの話スパロボわからない人にはほんとうワケわからないですね?

ラブライブ界隈の話をすると、やっぱりソロライブとサンシャイン2期のDVDは全巻購入くらいしか……
あと部隊名を毎度恒例の山百合会に……くらいしか……
というわけで今日の深夜くらいにはなんとか。

1レス……は、ほんとう、プロットは全部できあがってるので書くだけなんです。
でも書いてないので、なにもしてないのと同じ。
したいことがいっぱいありすぎて時間が……申し訳ないです。
385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/01(日) 20:45:40.60 ID:gqXy593yO
グリリバも結構エロゲ出演してるね
>>1はかなりのシミュレーションゲーム好きとみた
サイフラッシュとかセブンスウェルとかメイオウ攻撃とかあのへんはどうあがいてもチート性能
386 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/01(日) 23:34:41.77 ID:XjrgiGRP0
〜スーパーロボット大戦X 購入編〜

 私こと、絢瀬絵里は現在パシリに走らされている。
 今日は、一般ゲームのフラゲ日。
 そう、有名シミュレーションRPGスーパーロボット大戦Xの発売日一日前なのだ!
 私自身はαシリーズとZシリーズしかプレイしてないけど、花陽は2001年以降のスパロボは全部プレイしている本格派で。
 先日からLINEで眠れない眠れないと連呼してばかりいる。

 まあ、今回私をパシらせているのは花陽ではなく、理亞さん。
 どうしても外せない仕事が入ってしまったとかで、フラゲ日発売日共にハニワプロから離れられないとか。
 だからわりと暇な私に白羽の矢を立て、おそらく今は事務所のソファにふんぞり返ってる最中だと思う。
 あれでいて後輩の面倒見は良いそうですよ、とても信じられないんですが。

 ‐閑話休題 それはともかく‐

 私はすっかりスパロボシリーズをプレイしていないので、最近の事情はよくわからないんだけど。
 今回の作品は単作。つまり、1作品で完結するタイプらしい。
 前年に発売になった「V」もそうだったらしいから、純粋に会社の体力が無くなったのかは定かじゃない。
 そうそう、そういえばVから主人公が男女選択式になったとか。
 私はどうでもいいけど、女主人公にしか感情移入できない女性プレイヤーも居るから、いい傾向だと思う。
387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/01(日) 23:35:20.56 ID:XjrgiGRP0
 ちなみにだけど、理亞さんは男性と女性どちらを選ぶかと問われると、必ず女性を選ぶらしい。
 
「なんで? 装備が可愛かったりするから?」
「攻略ヒロインが全面に出ててなにが悪いの?」

 うん、その理論……イエスだね!

 フラゲをしているのは家電量販店とかではなく、個人経営の小さな店だとか。
 もちろんバレれば出荷を止められる可能性があるとかで、販売をするのは常連のみ。
 私が言っても売ってくれないんじゃないかと、理亞さんに弱々しく告げると。

「自分が代理のものだと渾身丁寧に説明して、どうしても当人が来れない、お金が必要なら倍払うと宣言しろ!」

 ちなみに倍払う場合費用は私持ちらしい、解せない。
 まあ、月末の金曜日(エロゲの発売日)が迫っているから仕方がない部分もあるんだろうけど。

 人通りの少ない道を通り、路地を抜けた先にはいかにも古ぼけてなんにも売ってませんよ、というゲームショップがあった。
 とても、スパロボがあるようには見えない。F完結編とか置いてないだろうな……?

 ん?
 と、店に迫ったところで、髪の毛の両端をお下げにした見覚えのある女の子(という年齢でもない)に出会った。

「希……?」
「あ、エリちやん! 助かった!」

 希は表情を輝かせて、私に手を取る。
 それは再会の喜びを示したものではなく、どう考えても厄介事を押し付けようとする笑みだった。
 おかしいな、わりとこの厄介事を押し付ける時に笑ってくる知り合い多い気がするんだけど?

「いやあ、花陽ちゃんに頼まれてきたんやけど、ウチゲームとか分からないから」
「花陽に? そういえば先日の夜からLINEがブッツリと途切れたけど」
「あんまりにも眠れなくて、倒れてしまったんよ」
388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/01(日) 23:35:48.14 ID:XjrgiGRP0
 どれだけ楽しみにしてるんだ。
 まあ、花陽のアイドル好きの部分が如実に出た時の態度を知っているから分からなくもないけど。
 それにしても、雇い手の希をパシリに使うとは、花陽はどれだけスパロボに人生をかけてるんだ。

「でも、エリちなら店主さんにもバッチリ言ってくれるもんね、こういうの慣れてそうやし」
「ただ代理っていうだけでしょ、別に慣れてる慣れてないは問題じゃないでしょうに」
「うん、ウチもそう思ったんやけど、代理は認めないってさっきも断られて」

 希が困ったように店を覗く。
 その中には私よりもちょっと年下くらいの、小柄で目付きの悪い女性が立っていた。
 ちょうど理亞さんの目つきを数倍悪くして、ふんぞり返った態度が朱音ちゃんクラスで、日本語わかって貰えない度をエヴァちゃんみたいにした感じかしら?
 
「でも、私は帰れないのよ……! 買っていってハニワプロに行かないと! 一生罵られ続けるわ!」
「どんだけ怖い子にパシリにされとるん、まあ、ええけど。じゃあ、ウチは外で見ているから、2つ貰って」
「なに言ってんのよ、一緒に行くの!」
「うん、まあ、わかっとったんよ」

 お店の中に入ると、途端に店員さんのオーラが鋭くなった。とても接客業とは思えない。
 後方の希を見ていることから、恐らく諦めきれずに助っ人を連れてきたとでも思われているんだろう。
 まあ、間違いじゃないけどね……。
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/01(日) 23:36:17.40 ID:XjrgiGRP0
「巨乳は[ピーーー]」

 開口一番店員さんはそう言った。
 ただ、唐突に身体的特徴を非難されるのには慣れている。なにせ貧乳シェアハウス。こと胸に関しては風当たりが非常に強い。
 水着や下着の話題など間違えて出そうものなら、自分が作ったはずの食事が没収されてしまう。

「客じゃなければ帰れ、うちで相手をするのは客だけだ。あと金払いが良いやつだけだ」
「二倍払うと言ったら?」
「話せるやつが来たじゃないか、まずは座りな」

 しかしアレだね? 真姫と言い、理亞さんといい赤系統の髪の毛の色はツンツンしている子が多いね?
 
「後ろのやつもまあ座りな、ところで金髪……二倍払うというからには、もちろんそれ以上払う覚悟があるということだな?」
「期待してくれていいわ」
 
 論理はよくわからないけど、とりあえず相手を乗せておく。
 ちなみに理亞さんからは二万円渡されているから、なにもなければ普通にお釣りを返せるはずなんだけど。

「今うちでフラゲをしているのは、スパロボXだけだ。お前たちはそれを買いに来たんだな?」
「もちろん、それを買えなければ帰れないわ」
「いい度胸だ、じゃあ、まずは価格交渉といこうじゃないか」
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/01(日) 23:36:49.08 ID:XjrgiGRP0
 うん、普通の店なら必要のない行為だね? 

「定価は6800円プラス税。ただこっちも危ない橋を渡っているのは理解できるね?」
「ええ、わかるわ。だから間違ってもTwitterで感想は書かせないし、Amazonのレビューなんてもっての外」

 まあ、Amazonは発売日前にレビューを書けなくなっているはずだけど。
 Twitterはエゴサしてないし、あんまり詳しく知らないけど、フラゲしたなんて書いたら徹底的に叩かれそう。
 どうでもいいけど、SNSになると途端に人格変わる人いるよね……?

「うちの店では条件をつけている」
「というと?」
「まず、身元がはっきりしたやつにしか売らない。18歳未満は不可、親の許可があってもダメ」
「ほほう」
「ニートなんてもってのほか、働いているやつに限る。自分で稼いだお金で買うことしか許さない」

 ちょっと汗出てきた。

「言っておくが、代理は認めない……が、そうだな、私がびっくりするようなことをしたら考えないでもないぞ」
「一発芸でもしろということ?」
「面白ければそれもありだが、滑ったら二度と店に入れない」
「オーケー、作戦会議してもいいかしら?」

 希と共に退場。
391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/01(日) 23:37:19.67 ID:XjrgiGRP0
「理亞さんはなぜ、私にこんな厄介な店に……嫌われているのかしら」
「それを言うたら、ウチは花陽ちゃんに嫌われていることになるから、流石にそれは凹むから」
「まあ、とにかく驚かせれば良いんでしょ、情報を仕入れて、相手を喜ばせましょう」

 お店に戻る。
 どうでもいいけど、この店主さんは確実に私たちよりも年下である。
 まるでヤクザが死線をくぐり抜けてきたみたいな威圧感と存在感を誇っているけど……。

「店主さん、好きなものとかあるかしら」
「ほう、媚を売る作戦に来たか、私はそれほど安くない女だが、そうだな……テレビは割と見る」

 やすいと言うか、若干干からびてませんか? でもまあ、ここで宝石類が好きと言われても困る。
 もちろん、ルビィちゃんあたりを連れてきてボケるという選択肢もあるけど、彼女も理亞さんと仕事だ。

「アイドルのツテなら無くはないけど」
「ほう?」
「声優の知り合いもいるわ」
「ふむ、だがどうせたいしたことないんだろう?」

 どうだろう?
 真姫もかなり売れっ子でエロゲーの売上にブーストを巻き起こしたし、ツバサあたりを連れてきたら、驚かれる自信はある。
 
「アイドルと言ってもスクールアイドルはダメだぞ? そんなんそんじょそこらにいるからな」
「まあ、それはそうね、そうそう、私たちもスクールアイドルだったんだけど」

 希がそれを言っちゃうの? みたいな視線で見てくる。
 私にとっては人生がかかっているのだ、少なくとも職場で罵って心を折ってくる人間がいるから!
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/01(日) 23:37:54.90 ID:XjrgiGRP0
「でもアレだな、私もスクールアイドルといえば、μ'sとA-RISEくらいしか知らん」
 
 ん?

「その2つのグループが全盛の時、私は小学生だったが、ほんとうのアイドルみたいだったな」
「推しとかいたんですか?」
「もちろん、綺羅ツバサと絢瀬絵里だな」

 希が吹き出した。
 私は多分引きつった笑みを浮かべていることだろう、このパターンはシェアハウスで体験したばかりだ。
 何故かファンとか、推している人は私の顔を見ても何の反応もない。
 それだけオーラが無くなってしまったのか、高校時代が全盛期だったのかは定かじゃないけど……。

「へ、へえ……μ'sの絢瀬絵里と、A-RISEの綺羅ツバサ……」
「ああ、ツバサはすごいぞ、ここ最近アイドルに復帰してからというもの、バラエティーから歌番組まで何でもこなす、最近は演技の勉強にも磨きをかけているって話だし、何より若々しい、とてもアラサーには見えない」

 うん、私も以前エヴァちゃんに、私のあこがれのエリーと名前がおんなじで羨ましいって言われたばっかりなんだ。
 同一人物だから、名前が同じでも仕方ないんだ……。
 ちなみに、先に若々しいと言われた綺羅ツバサは、そのロリな外見と違って、意外と中身おっさんだぞ。

 あと、なんで彼女が演技の勉強しているかって言うと、以前真姫と演技の鍛錬(という黒歴史)しているとネタにしたら嫉妬されたからなんだぞ。
 仕方ないんだ、私も唐突に真姫とのツーショット写真を見せられて、何をしていたのかと問われて……。
393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/01(日) 23:38:27.96 ID:XjrgiGRP0
「で、でも、絢瀬絵里推しなんて珍しいですね、彼女は今何をしているのかとか、わからないですよね?」
「μ'sはぱったりテレビに出なくなってしまったしな、ああ、でもインチキ占い師は出てるな」

 隣りにいたインチキ占い師(仮)が寂しそうに微笑む。
 それ以上話題を広げないで欲しいと視線で訴えるけど無視する。
 
「東條希って言いましたっけ?」
「ああ、そういえばそんな名前だったな、μ'sの中でもパッとしなかったし、歌も踊りもそれほど上手でもなかったが……胸だけは大きかったのは覚えている」

 パッとしなかった人(仮)が、もうエリち帰ろう? って視線で訴えるけど、やっぱり無視。

「絢瀬……絵里さんは……どうでした?」
「神に愛されてたな」
 
 あかん、朱音ちゃんとかエヴァちゃんみたいな、信者特有の濁った目をし始めた。
 このモードになると、人って本当に話を聞いてくれなくなるのよね……。

「絢瀬絵里は……本当に綺麗だった。背はそれほど高いって言うわけでもなかったが、スタイルが本当に良かった。もし当時にモデルとしてスカウトされていたら、パリコレで活躍していたかもしれん」

 すみません、されてはいたけど断ってたんです。

「特筆するべきは歌唱力と、ダンス。アイドルとしての才能を完全に兼ね揃えていた、もしも彼女がA-RISEにいたら、μ'sはラブライブで優勝できなかったな」
「は、はい、そうですね」
「もしも、私が絢瀬絵里だったら、他のスクールアイドルなんて素人にしか見えないんだろう、それくらいレベルが……どうした?」

 ごめんなさい、そのネタで昨日いじられたばっかりなんです。先に話題に上げてもらったツバサに。
 あのジャジャ馬アイドルは私をまた練習に誘ってきて、できなければできないで、そんなんじゃアイドルになれないわよとか抜かしてくる。
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/01(日) 23:39:08.14 ID:XjrgiGRP0
「と、話がズレた、とにかく、A-RISEとかμ'sのメンバーでも連れてきたら、特装版でも無料で配布してしまうな……まあ、そんなのは無理だろう?」
「……あの、秘密主義の店主さんにこういうのはなんですが」
「うん?」
「これから何があっても、ネットに書き込みしたり、噂にもしたりしないでくださいね?」
「はは、何を言うかと思えば、まるで絢瀬絵里とか綺羅ツバサを連れてくると言わんばかりじゃないか」

 こういう人には、実際に目にもの見せたほうが早い。朱音ちゃんたちと違って身バレしても問題ないし。
 ただ、目的が後輩にパシらされているからその仕事を早く済ませたいっていうのは……その……ね?



 ツバサが到着したのは1時間後だった。
 なんでも、久方ぶりのオフで今日はエリーとデートしたかったの、とか抜かしたので、そんなつもりはないと強調しておく。
 まあ、そう忠告したところで、私が恥ずかしがり屋のツンデレという解釈をするから意味ないんだけど。

「ふうん、事情はわかったけど、私、エリーの印籠じゃないのよ?」
「それはわかってるけど、てか、私ポニーテールじゃないと絢瀬絵里だって分からない風潮ある?」

 というか、なぜ希はツバサが到着するまでの一時間で音ノ木坂(しかも、私たちが来ていた時代)の制服を入手してきたのか。
 流石に高校の制服なんて着れないと言ったんだけど、恨みがましい目で、話を盛り上げてしまったことを責められるだけだった。
 そんなにインチキ呼ばわりされたのが嫌だったのかしら……?
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/01(日) 23:39:36.52 ID:XjrgiGRP0
「あはは、似合ってるわよエリー、とても10数年ぶりに制服を着たとは思えない」
「これで本当に絢瀬絵里に見えるのかしら……?」
「同一人物だからだいじょうぶでしょ、にしても、スパロボの早売りかあ、αシリーズは青春だったなあ……」

 ここで私が、αシリーズにハマってたことを告げたら面倒なことになるので黙っておく。
 まあ、同世代だからすぐにバレるんだろうけど。

 先に店の中に入っていった希が(何をどう店主に告げたのか不安だ)手招きをしている。
 
「ふっふっふ、エリち、ツバサちゃん、存分に驚かせてあげ!」
「別に私はスパロボXが手に入れば良いんだけど」
「あかん! そんなん、もう、ウチのプライドが傷つくだけなんや!」

 代表作がラブライブくらいしか無さそうな声優と似てる声がしてるって意味のわからないDisをされたときと同じ反応をしなくても。

 まあ、びっくりすると言っても、大したことにはならないだろう。
 私たちはそう笑いながら、お店の中に入っていく。

「ぴぎっ!?」

 店主さんはこちらを見た瞬間、ルビィちゃんみたいな声を上げてそのまま昏倒した。
 
 ただ、結局その日はソフトが手に入らなくて、理亞さんから罵られたことを明記しておく。
 なお、プレイ時間は一周クリアするのに20時間ほどだったみたいで、まだ発売されてから4日しか経ってないのに、理亞さんは3週目をプレイ中。
 あと、ソフトが何本も手に入ったので、シェアハウスの子達にも配ってあげたら、みんなハマりにハマってレッスンが滞りがちになって、私が南條さんから叱られた。

 あと、理亞さんがさり気なく主人公の名前をセーラ・カヅノにしていてほっこりした。
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/01(日) 23:47:46.90 ID:XjrgiGRP0
ちょっと一文が長い所があります。
コピペすると改行が反映されないみたいで、読みにくいやも。
次回以降改めます。

でも、ほんとう、1レスに決着を付けないといけないので。
スパロボも一段落ついたので今週は創作週にしたいです。
397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/02(月) 00:41:10.36 ID:DbUkgSdqO
趣味全開なこういうノリ…嫌いじゃないぞ
しかし絵里推しは変人大杉ぃ!!!
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/02(月) 00:52:44.51 ID:iP95wgco0
あれ?ツバサさんいつの間にかえりちにベタ惚れ・・・・・・?
399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/02(月) 01:01:27.33 ID:Tq4yH31bO
わーるかったわね!が実現してた世界とかも面白そうやな
400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/02(月) 08:14:54.70 ID:I3kmedWt0
向こうも待ってる
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/02(月) 15:43:13.86 ID:gGyUkECQO
いくつになっても姉様大好きな理亞ちゃんかわいい
別ルートでもガンガンアプローチしてくるツバサさんのルートも楽しみ
402 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/02(月) 19:18:36.06 ID:iH2GAkHSO
グリーンリバーライト FF11 で検索
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/02(月) 22:14:32.42 ID:Eyty2v7i0
これが喪女か
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/03(火) 20:30:09.76 ID:3ej80XDcO
はよよ
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/04(水) 20:21:37.92 ID:BLm5gVh2O
むこう書き溜め中とみた
406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/04(水) 20:50:20.88 ID:Sa4mBZbJ0
お久しぶりです。
以前まで精神科に通っていて、薬ガチャをたくさんしていたんですが。
ぶっちゃけ薬のまんでもやれるし、むしろそっちのほうが調子が良いことに気づいて
3月になってから眠剤も、安定剤も飲んでないんです。
そしたら平熱が36度後半から36度前半に下がり
睡眠時間は3分の1でも平気。
お酒も断ってしまい、薬を飲んでいたほうが不健康という生活から復活しました。

風邪も引かないし全然平気だなー、しいて言えば花粉症マジ辛いなー
くらいで余裕をかましていたら、月曜日に熱を出し
昨日3000文字ほど書きましたが(真姫ちゃんのエロゲー発売編)
まったく完結しないので投稿も控えてました。
今後の体調次第で、前半のみこちらに上げるか書き溜めるかしたいと思います……。
申し訳ないです。
407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/04(水) 20:58:36.40 ID:BLm5gVh2O
報告おつおつ
風邪ばっかりは仕方ない、体大事にしてね
408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/04(水) 21:50:26.19 ID:55Z6olO50
真姫ちゃんのエロゲー・・・言い値で買おう
待ってるからはやく元気になってね
409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/06(金) 18:50:27.15 ID:BXWrJfvbO
モチベage
410 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/07(土) 19:29:48.16 ID:arU3hkgwO
まだ治らんか…
411 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/08(日) 15:32:08.17 ID:Ffd5jMpW0
 とある月末の金曜日。
 みんなの分の朝食を作ろうと準備していると、
 理亞ちゃんが二階から降りてくる音が聞こえてきた。

 足音にも特徴があって
 微妙にリズミカルなのがエヴァちゃん。
 音を立てないように静かに降りてくるのが朝日ちゃん。
 等々、共同生活も長くなってきたせいか各々の生活スタイルが
 如実に分かるようになってきた。

 しかしながら、それでいても自分の正体に気づかれないのは
 運がいいのか、それともみんなが必要以上に鈍いのか。
 昔は、私を驚かせようとドッキリを仕掛けているのかと疑ったこともあったけど。
 まあ、とにかく今はこの生活が平穏無事に終結するように願っている。

「おはよう理亞さ……ああ、今日は」
「ええ、嫁を迎えに行く日だから」

 エロゲーの発売日。
 理亞さんはめいいっぱいオシャレをして秋葉原に出かける。
 いつもはツインテールの彼女だけど、この日ばかりは
 髪の毛をストレートに矯正して、傍から見ると、にことそんなに変わらない。
412 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/08(日) 15:32:36.09 ID:Ffd5jMpW0
 もちろん最初は、エロゲーを買いに行くなどちょっとしたスキャンダルだから
 正体を隠すという目的もあったそうなんだけど(聖良さんから聞いた)
 今はどちらかと言うと、変身してエロゲーに尽くす自分が素敵
 なんて考えもあるようである、意味がわからない。

「澤村さん、今日は夕食いらないから」
「いや、帰ってくるんだったら食べましょうよ」
「恋人同士の熱い一夜を過ごすのに食事なんて邪道よ」

 目をキラキラと輝かせながら、要領を得ないことを言うけれど
 それはまあ、いつもの通りなので。
 
「そういえば、今日は真姫さんが声を当てたゲームが発売日なるのね」
「……嫌なことを思い出させないで」

 そう。
 以前からたびたびネタにしていたゲームが遂に発売になるのである。
 サンプルボイスの公開ではサイトのサーバーを撃墜させ
 エッチボイスが公開された暁には真姫の個人スレの書き込みが24時間で30スレを越した。
 体験版は評判に評判を呼び、シナリオよりも声優の豪華さに注目が集まり
 理亞さんからの情報だと2万本は売れるのではないかって話だ。

 と言われても、私にとっては知り合いがエロい演技して非常に気まずい
 くらいにしか思って無く、発売日だと言われてもピンとこなかった。
 ……昨日までは。
413 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/08(日) 15:33:02.68 ID:Ffd5jMpW0
 そう。
 私も今日は秋葉原まで行って作品を購入しなければいけないのだ。
 しかも、真姫と一緒にエロゲーショップ巡りをする。
 もしも周囲にバレたら大騒ぎなんてものじゃない。
 理亞さんにつきあわされてヲタ系ショップにはたびたび出かけるようになったものの
 あのオタクたちの熱量は本当に半端ない。

「まあ、凛が来るのが救いね、凛がいれば真姫が暴走することもないでしょう」
 
 真姫からのデートのお誘いをスルーできなかった私は、
 ほうぼうに助けを求めた。
 一番最初に了承してくれたのは海未だったけど、
 ご両親に破廉恥な行為は慎みなさいと言われ泣く泣く断念。
 できれば真姫の演技を聞きたかったというのは海未の談だけど、
 よもや、あのプリンセスワークスのプレイ以降ハマってるなんてことはないよね?

 次に了承してくれたのは、最近ようやく仕事にも慣れてきたらしい花陽。
 花陽だったら、秋葉原にも慣れてるだろうし、 
 なにより、真姫が無茶振りすることもないだろうと見越していたんだけど。
 それを止めたのは凛だった。

 かよちんにエロゲーショップに行かせるくらいなら凛が行く!
 ついでに行きたいラーメン屋があるからそこで奢って!

 花陽に行かせたくないと言うより、
 私と真姫を風よけにしてラーメンをズルズル食べる心づもりなのが……。
414 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/08(日) 15:33:58.44 ID:Ffd5jMpW0
 待ち合わせは秋葉原駅前。
 絶え間なくやってくる、ヤンデレめいた真姫のLINEに恐怖を覚えつつ
 相変わらずの人の多さに安心感を覚える。
 もしも、今この瞬間に真姫と二人きりにされようものなら、
 人気のない路地裏に連れて行かれて、屈強な男たちに(以下略

 しかし最近はメイドさんの客寄せも珍しくなくなったわね。
 それどころか、コスプレをしている客寄せもいる。
 いったい何故なのはとほむらがティッシュ配りしているのか。
 そして、あのダイヤモンドプリンセスワークスのコスプレをしている……ん?
 
「あれは……真姫……」

 自分で自分をモデルにしたキャラのコスプレをしている真姫に
 何を血迷ったのか迫りたいところだけど。
 10数名のオタクに囲まれていて近づきようがない。
 あくまでそっくりさん的な扱いを受けているようだけど、
 正体がバレたら本当、スキャンダル一直線だと思うのですが。

「秋葉原は本当人が多いなあ……」
「あら、凛」
「絵里ちゃんは相変わらず目立つね、ハチ公像みたい」

 まあ、人類のるつぼの秋葉原とはいえ、金髪の女の子はそうそういないし。
 
「真姫ちゃんは?」
「あそこ」
「……うわぁ」
415 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/08(日) 15:34:26.77 ID:Ffd5jMpW0
 凛がげんなりと言った感じの声を出す。
 ちょっと目を離した隙に、囲んでいるオタの人の人数が増えている。
 なんと一人ひとりと握手までしている、
 よもやそんな彼女の目的が自分の出演したエロゲーを買いに行くとは
 誰も想像すらしていないだろうけど。

「ちょっと人だかりが過ぎるのを待ちましょうか」
「そうだね、本当ならこのまま帰りたいところだけど」

 うん、私も。



 真姫がやってきたのは、私が見つけてから20分後だった。
 
「人気者は辛いわね」
「キャラのコスプレしながら言う台詞じゃないにゃ」
「確かにキャラ人気もあるけど、ふふん、私自身の人気もね!」

 何人かには正体を気づかれてしまったらしく、
 いつも応援していますとか、これから買いに行きますとか言われたとか。
 でも、これから買いに行くのって明らかにあなたが出演したエロゲーなんじゃ。

「さて、エリーと凛、今から行くのは」
「凛知ってるよ、月末の金曜日はすごく人が並ぶって」
「ええ、だから少し時間を潰そうと思って、なので、付き合ってほしいの」
416 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/08(日) 15:34:54.58 ID:Ffd5jMpW0
 うん、付き合っての部分で私に怪しく流し目を送る必要は一切ない。
 
「あのね、凛これでも、多少は名の知れた」
「だから、バレないように、ね?」
「絵里ちゃん、凛、すごく嫌な予感がする」

 ……まあ、その予感は多分私も持ってる。

 秋葉原に最近できたらしい、コスプレ体験ショップ。
 アニメのキャラクターからアイドルの衣装まで揃いに揃っている。
 時間によって料金が変わるらしく、延長も電話一本でオーケーだとか。
 
「というわけで、目立たないようにコスプレしましょう?」
「真姫ちゃん、本末転倒って言葉知ってる?」

 女の子ばかりの空間で、微妙に居心地の悪さを感じる。
 先程からチラチラと見られている。
 最初は真姫の正体に気づいたのかと思ったけど、どうやら違うみたい。

「ねえ、みんなに見られてない?」
「エリーも凛も可愛いからね、嫉妬してるんでしょ」

 そういうのとはちょっと毛色の違った感じがするんだけど……。
 
 ただ、この空間からすぐに脱したいという気持ちは凛と一緒に持ち合わせていたので、
 営業スマイルをした店員さんにおすすめの衣装は何かと聞いてみる。
 だって、さっきから真姫が勧めてくる衣装は露出度が高いんだもの……。
 
 結局私は、髪の毛をあんまりいじらなくても構わない
 フェイト・テスタロッサのコスプレ衣装を選んだ。
 凛は散々迷った末に、自分と名前がおんなじという理由で遠坂凛の衣装を。
 真姫は店員さんのおすすめを一蹴して、プリワーの私の衣装を着た。
 
「これで、エリーとずっと一緒ね、ふふっ!」
 
 まあ、真姫が幸せそうなら何より(現実逃避)
417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/08(日) 15:35:21.18 ID:Ffd5jMpW0
 コスプレ衣装を着た三人組が、
 明らかに場違いそうなエロゲーショップに突入し、 
 ああだこうだと話に花を咲かせている。

 凛は基本的にラーメンが早く食べたいと言っているし
 真姫は収録現場の裏話を話している。
 なんでも、収録をしながらも新しいシナリオが出来上がっていく
 わんこそば方式の仕事であったらしく、
 世の中のライターっていうのは本当にダメ人間ばかりね!
 って言っていた。
 
 私は二人の中央に入りながら、
 そういえばラーメンってどんなラーメンなの?
 とか、
 人の悪口ばっかり言っていると仕事が減るわよ
 と忠告している。

 ちなみに開店前から、十数人のオタクの人達の群れが
 今か今かと店の営業を待っている。
 真姫が声を担当したゲームは、某有名ブランドのスタッフが
 ライターを中心にごっそりと抜けて、新しく立ち上がった新規ブランドの作品。
 体験版の公開くらいから、これは名作の予感だとネットを震撼し
 エロゲー業界では珍しくない延期もしなかったことから、流通も大喜び。
 恐らくだけどこの店の倉庫にはたくさんの在庫が所狭しと置いてあるに違いない……。
418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/08(日) 15:35:51.67 ID:Ffd5jMpW0
「うわぁ、裸の女の子ばっかりにゃ」
「じきに慣れるわ」
「慣れたくないなあ……」

 先程から店内BGMはシリアスなシーンの台詞が流れている。
 多分このままだとエッチなシーンまで行くんだろうけど、
 凛には黙っておこう。

 この店は二階までは一般のゲームを売っていて、
 三階以降は成人向けゲームの販売を行っている。
 だからいまここにいるのは全員一八歳以上(イラストを含めて)
 話は変わるけど、真姫が担当するのはツンデレ赤髪お嬢様らしい。
 あれ? どっかでその設定聞いたことあるわね?

「それにしても列が進まないにゃー」
「牛歩かしらね」
「コミケじゃないんだから」

 でも、話題も少し無くなってしまったので、
 ネタバレにならない程度に物語の内容について聞いてみる。

「私はパッケージの右上のヒロイン、まあ、可愛い」

 可愛い。

「演じていて思ったんだけど、なんか既視感があるのよね」
「既視感?」
「そう、なんか私がどこかで言ったような台詞がちらほらと……」

 まあ、真姫もエロゲーのヒロインっぽいものね。
 なんて言えば、
 じゃあ絵里に攻略されちゃおうかしら!
 などと言いかねないので黙っておく。
419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/08(日) 15:36:19.17 ID:Ffd5jMpW0
 ところで、最初は恥ずかしそうにしていた凛も
 やがて開き直ってきたのか
 アレはどういうゲームなの、これはどういうゲームなのと質問している。
 真姫ではなく私に。
 大抵のゲームは理亞さんから聞いていたから、
 あくまで理亞さん視点の評論でしかないけれど。
 凛は至って真面目に聞いているふうだった。

「へえ、絵里ちゃんもこういうゲームやるんだねえ」
「いや、私のは受け売りよ!? 知り合いにすっごい子がいて」
「恥ずかしがらなくてもいいにゃ、中の人がいるならプレイする人もいていいにゃ」

 えらい誤解を受けてしまった気がする。
 まあ、確かに海と理亞さんと一緒にダイヤモンドプリンセスワークスをプレイしたり。
 誤解ではない部分は多々ある気がしてならないけど……。

 列がだんだんと進み始めたので、 
 会話を一時打ち切って進んでいく。
 しかしながら。

 コスプレしながら買いに来る客って私たちだけなんじゃね?
 
「ねえ、真姫。なんで私たち私服じゃないのかしら」
「目立たないようにコスプレするためでしょう」
「思いっきり目立っている気がしてならないのだけど」
「まあ、そういう観点の意見もあると思うわ」
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/08(日) 15:36:46.62 ID:Ffd5jMpW0
 と言ったきり、新しい意見が出ることもなく。
 勢いでコスプレしたものの、思いのほか思いのほかで
 真姫も戸惑っているのだなあ、と自分自身を納得させた。

 行列もだんだんと少なくなっていくのと同時に
 隣にいた凛がワクワクが抑えきれないと言った感じで
 私を見上げてくる。

「いやあ、この先はどんなラーメン屋なのかにゃー」

 凛は現実逃避をしているだけだった!
 というか、今日のお昼はラーメン決定事項なのか。
 
「ラーメン屋と言うより、ザーメ」
「うわぁぁ!?」

 恐ろしいことを口に出そうとした真姫の口を抑え、
 凛の肩もゆらゆらと揺らす。
 これがエロゲーを買いに行く者の醸し出すオーラに
 アテられた者たちの末路なのか……。

 そんなこんなで私たちの出番がやって来る。
 真姫を先頭に(押し出したとも言う)し、自分たちは列から外れ
 彼女が購入するのを待っていると、

「凛たちを支えているのはこういう人たちなのかなあ……」
「え?」
「ほら、ラブライブの時はまわりの子って女の子ばっかりだったじゃない?」
421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/08(日) 15:37:13.10 ID:Ffd5jMpW0
 確かに。
 ちっちゃい女の子がなりたい職業でも
 スクールアイドルは上位に来るし。
 サインが欲しいって声をかけられる時も女の子ばっかりだった。

 でも、ここは。
 一部の例外を除いて男の人ばかり。
 理亞さんみたいなタイプが少ないにせよ、比率で言えば九割以上が男性。
 住む世界の両極化といえば良いのか。

「そういえば、絵里ちゃん」
「んー?」
「最近Trouble Bustersを聞く機会があってね」
「うん」
「男の子なんていらないって言った末路が今の絵里ちゃんと真姫ちゃんなんだね」

 ぐはぁ!?



 ずるずるずる。
 お昼にラーメンを啜りながら3人。
 秋葉原のラーメン屋はどこも満員だったので
422 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/08(日) 15:37:39.45 ID:Ffd5jMpW0
 電車に乗って、山盛り野菜のラーメン代わりとある所へ。
 真姫が二郎だけは勘弁して欲しいと言ったので、
 普通のラーメンも山盛りのラーメンもあるところへ行くことになった。

「真姫ちゃんちょっと、買い過ぎじゃないかにゃー?」
「う、うるさいわね!」

 そう、真姫は自分の担当したヒロインの特典だけではなく
 演技の参考にしたいからと全員分の特典と作品を買ったのだ。
 しかもそういう人は、購入した後に売りに行くのが常だそうだけど……

「まあ、凛、貰ってあげなさいって」
「死んでもお断りにゃ」
「ぬわぁんでよぉ」
「にこちゃんのものまねをしても無駄って、なんでそんなに似てるの?」

 そんなに私の物真似が似てた?
 
「凛が貰ってくれないと、海未や花陽コースに……」
「そこでかよちんの名前を出してくるのは卑怯にゃ」
「ね? これに楽しんでくれたらダイヤモンドプリンセスワークスも貸してあげるから」
「凛もかよちんもサブヒロインのエロゲーに興味ないにゃ」

 凛、なんで知って……。 
 まあ、芸能界の愛好者率概要に高いダイワーなら。
 どこかから情報を仕入れていても仕方ない。

「まあまあ、凛、今度、お友達の演技を一緒にした子も紹介するから」
「どうせ絵里ちゃんの知り合いなんでしょ? 真姫ちゃんが同業者で友達作れると思わないし」
「うっ! で、でも! とっても可愛いのよぉ?」

 うん、まあ、その子は私の知り合いというか。
 今日も秋葉原に行っていて、
 今はホクホク顔でエロゲーをプレイしている可能性が高い。

 ちなみにだけど、凛と理亞さんは面識があるから紹介しても……。

「まあまあ、凛、せっかく買って貰ったんだから」
「なんで絵里ちゃんは、そんなに凛にエロゲープレイさせたいの?」
「あは……まあ、いろいろな世界を体験させないとと思って」 

 あと、もう一本エロゲーを私に押し付けられても困るなあって思いながら……。
423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/08(日) 15:39:33.30 ID:Ffd5jMpW0
本当に……おまたせして申し訳ありませんでした。
先週なんかは、今週は創作の週に……とか言っていたのに。
バイトの勤務数が増えたせいもあって、一週間経つのが早い気がします。

でも風邪も無難に治りましたし。
2話の構想もばっちりですので、出来るだけ早く。
というか、いっぱい更新したいと思います!

……っていうのがフラグにならなければ良いんですが。
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/08(日) 18:01:57.38 ID:kvTltG68O
待ってた!おつおつ
えりちのフェイトは本家にまけず劣らず色んなところが凄そう…
真姫ちゃんもすっかり業界に嵌まってるんだなぁ
ヤンデレっぽいのは役に入り込みすぎてた結果なのか元からなのか…
425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/08(日) 19:38:52.57 ID:0v4vZDZ3O
いっぱい更新楽しみにしてる
寒暖の差が激しいのでお気をつけて
426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/09(月) 01:05:02.89 ID:RjGqOPF00
えりまきりんの絡みは結構新鮮
トラバスの作詞のせいで絵里ちゃんは処女なのね・・・
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/09(月) 05:05:44.45 ID:9Bt7kei0O
エロゲ屋で容赦なく下ネタぶっこむまきゃん…
428 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/09(月) 09:53:40.72 ID:YiNv8DwTO
これは神対応って話題になりますわ
429 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/11(水) 22:40:16.01 ID:Atpgth8TO
まだか…
430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/12(木) 19:05:36.91 ID:wAQCYsE/0
すみませぬ。
最近めっきり文章がさっぱりでした。
でも、DAMカラオケでラブライブ分を吸収したので
明日明後日にはなんとか更新できそうです。

今回はちゃんと本編です!
元からプロットを書いているくせに、面白くないから番外編を進めてしまい。
一体何をやっているんだ!

すごく個人的な話ですが。
DAMでは劇場版ラブライブの映像付きでAngelic Angelと僕たちはひとつの光を
歌うことが出来ます。
自分は僕たちはひとつの光の前奏を聴いた時点でもはや号泣しているので
まともに歌えないだろうと思って避けていたんですが。
Ah‐ほのかなの時点で声が震え、小鳥の翼がついに大きくなってで前後不覚になり
二回目の小鳥の翼のところで、亜里沙が泣くのを必死になってこらえるシーンが写り
そのまま二時間同じ曲を歌い続けました(アホ)

エリち主役の作品を書いているせいで、夢の中で書いた絵でも泣いているあたり。
せめて人並みに歌えるようになりたい……
(ちなみに、エリちの負けた人ジュース奢りのシーンもあるのでPV作った人は絢瀬姉妹推しなのではないかと……)

長くなりました。
この調子でかければ……本当に……
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/12(木) 20:50:58.99 ID:WMtufo6AO
ついに本編くるー!?
番外編も面白かったけど続き気になって仕方なかったんだ

映像付きカラオケかぁ……歌えなくても見に行くだけでも価値ありそう
432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/12(木) 23:11:09.18 ID:VecpM1GJ0
久々の本編更新、楽しみに待ってます
433 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/13(金) 12:55:01.06 ID:GI4W07N2O
待ってる待ってる
本編としては>>320の続きから〜になるのかな
434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/13(金) 21:22:37.82 ID:+teV8CcM0
 大変なことになった。
 私の思い至らぬところで、
 私自身が巻き込まれている。

 この感覚は、穂乃果の高校時代。
 μ'sの活動に自分から参加するようになって、
 どちらかと言えば行動を諌めるような立場になってからの感覚に似ている。

 某ロックバンドに影響されて白塗りをして、
 理事長からこっぴどく叱られて以降から、私の発言力は低下。
 まあ、絵里ちゃんは常識人だけど常識ないもんね。
 そう、ことりに告げられて。
 なんとかして希(あれ以降のまとめ役)に発言力の復活を目論んだところ。

 まあ、エリちは口を開かなければ真面目やからなあ。
 それ以降希のサポートは得られず。
 ニートになってから、ちょくちょく頼られるようになって、
 現在に至るわけだけど、あの。
 私の高校時代ってそんなにポンコツだったかしら?
435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/13(金) 21:23:06.48 ID:+teV8CcM0
 私はにこが頼んでくれた(お金も払ってくれた)
 タクシーに乗りながらシェアハウスに帰っているわけだけど。
 A-RISE復活祭にはできるだけ参加しないぞと心がけながら、
 とりあえず一緒に踊りましょうというツバサのLINEを黙殺し
 タクシーの運転手さんの興味有りげな視線を華麗にスルーし
 窓の外を見つめたまま、いかにしてハニワプロとかUTXに行かないようにするか
 そんなことを考えていた。

 エトワールに帰った時には、
 心配げな朝日ちゃんが玄関先に出ていた。
 ついでに善子さんも。
 私が着てからというもの、なにを意識しているのか
 厨ニが復活しつつある善子さんだけど、
 髪の毛をバッサリ切って以降(当人いわくルビィちゃんに影響されたらしい)
 真面目な会社員モードでいればこれほど話しやすい人もいないので
 できれば、そのままのあなたでいてって思っている。

「ああ、澤村さん、よかった、連絡がないからどこかで腱でも切っているのかと」
「ごめんなさい、ちょっと色々あったのよ」

 こころちゃんを道端で拾ってから本当に色々なことがあった。
 にこの甘言に乗せられたというべきか、A-RISEが一日限りの再結成なんてことになり
 その準備に忙殺されかねない状況になりつつあるけど。
 私の本業はあくまでもシェアハウスの管理人(ついでにアイドルの指導)
 ツバサの友人とかそういうのはあくまで副業、添え物である。
436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/13(金) 21:23:34.31 ID:+teV8CcM0
「このまま昼までに帰ってこなかったら、どうしようかと」
「ん?」
「善子さんが昼食の材料を買ってきてくれたは良いんですが」
「……うん」

 なんか、新しい問題の予感。

 シェアハウスの中に入ると、冷蔵庫に入り切らなかったと思われる。
 そんな野菜やら何やらが台所に置きっぱなしになっていた。
 とりあえずお酒とか飲み物のたぐいは冷蔵庫から取り出し、
 ナマモノを必死になって冷蔵庫にぶち込み、仕上げに消臭剤を撒いておいた。

 善子さんは張り切って(方向性は間違ってるけど)パーティをしようとしてくれたらしい。
 当人いわく、私の歓迎会とのことだったけど、料理も何もかも主催者が準備しなければならない。
 まあ、その気持ちだけは受け取っておくにしても、
 カレーの材料だけは如実に避けているあたり、朱音ちゃんの対策はバッチリである。

 それはともかく。
 にこのところでだいぶ過ごしてしまった(些末な処理に巻き込まれた)ので、
 もう昼食の準備をしなければいけない時間だ。
 理亞さんは徹夜エロゲーでもやっていたのか起きてこないけど、
 なにか食べたいと言った時に料理がないと、文句を言われかねない。

 まあ、細かいことにグチュグチュ言われるのは慣れているので、
 そんなに気にするべき問題でもないけれど。
 
 朝日ちゃんと善子さんに何を食べたいのか訪ねたところ、
 さっぱりしたものがいい! という宣言があったので、
 うどんを茹でる準備をしておいて、野菜やらなにやらを刻んでおく。
 これだけだと食べごたえがないので、スーパーで惣菜でも買ってくるかな?
 冷蔵庫の中身とにらめっこをしながら考えていると、
 階段を降りる音が聞こえてきた。
437 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/13(金) 21:24:20.67 ID:+teV8CcM0
「澤村絵里!」

 目が合って早々名前を怒鳴られる。
 充血した眼で睨みつけられると流石にドン引きするけど、
 どうやら彼女も眠っていた所を起こされたらしい。
 
「プロデューサーから電話あった! あなたとんでもないことをしてくれたわね!」
「そのことについては、なんていうか、私の知り合いが如実に関わっており、当人黙秘を」
「ええい! 黙りなさいな! 朝日! 善子! あなた達も関係のある話よ!」

 台所にぞろぞろと集まったメンバーを見渡して、
 理亞さんは口を開いた。
 
「まだ日取りは決まってないけど、A-RISEが一日限りの復活をするそうよ」
「おー、それはすごいですね!」

 朝日ちゃんが反応をする。
 善子さんはあまりことの重大さに気づいていないのか、
 どちらかと言えば早く昼食を食べたいみたいな顔をしているけど。
 
「そして、その準備のためにハニワプロでレッスンをするそうです」
「もしかして、それって見学できるんですか?」
「見学どころじゃない……! 私たちも一緒にトレーニングできることになったの!」

 うん?

「ええ、どうしてそんなことに!?」
「それは……まあ、大人の事情があるのよ」
「私たち大人だけど」
「黙りなさい善子! とにかくこのチャンスを生かさない訳にはいかないわ!」
438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/13(金) 21:24:52.08 ID:+teV8CcM0
 大興奮の理亞さんに対し、善子さんと私はひたすらテンションが下がる。
 どうせ、どこぞのデコのリーダーがレッスンするならみんなで!
 とか言って、じゃあ、期待株(ハニワプロの中では)の私たちに一緒に踊らせて
 パワーアップをさせようという魂胆なのかもしれないけど。

 まず、ツバサたちと踊ろうものなら私の正体がバレかねない。
 それだけでも面倒くさいのに、やたら好感度の高いA-RISEのリーダーが私とベタベタしようものなら
 理亞さんに後ろからカッターナイフで刺されかねない。
 
 今日は平日で亜里沙も仕事をしているだろうから、
 理由はわからないけどハニワプロに行く訳にはいかない、行ったら刺されちゃう。
 
「澤村絵里! あなたも行くのよ!」
「昼食の準備が忙しいし」
「そんなもの全部食べてやるわよ!」
「善子さんの買ってきた材料も食べないと」
「全部食べてやるわよ!!」
439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/13(金) 21:25:19.71 ID:+teV8CcM0
 理亞さんが強引だ。
 朝日ちゃんは本当に期待たっぷりといった感じで、
 こちらを見てくるけど、
 私は正体を隠さなければいけないという使命感と
 亜里沙にバレたら、何を言われるかわからない。
 そんな恐怖感にひたすら悪寒を覚えていた。

 とはいえ、昼食は採らないといけないし(揚げ玉で我慢した)
 理亞さんはやたらハイテンションで「Shocking Party」を鼻歌で歌い。
 テレビでは日本相撲協会が相変わらず問題を起こしており、
 貴乃花親方の仏頂面を眺めながら、このまま何事もなければいいけど。
 なんて考えていた。
 
 その願いが叶うことは絶対に無いだろうな。
 予感めいた確信を得て、時間は流れていく。

 重い足取りでハニワプロに向かい、
 相変わらず大きなビルだなあ、なんて現実逃避をしながら中に入り、
 以前に入ったレッスンルームの数倍を誇るVIPルームに行った。
 というのも、以前対応してくれたプロデューサーさんに促されるままに
 入ったその場所で待っていたのは――!
440 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/13(金) 21:25:46.91 ID:+teV8CcM0
「来たわね……澤村絵里と愉快な仲間たち!」

 ちっちゃいくせにオーラが半端ない(理亞さんが卒倒しかけた)
 綺羅ツバサと愉快な仲間たちが偉そうな感じで立っていた。
 私は頭痛を感じつつ、できるだけ仲間を全面に押し出し、
 女性としては高めの身長をできるだけ屈ませていた。

「恥ずかしがらなくても良い、私たちは同志だ」
「そうよー、これから一緒にレッスンする仲間だもの、緊張せずに、ね?」

 ちなみに、学校を早退することになって参加している
 エヴァちゃんと朱音ちゃんの表情は意外にも明るい。
 口では姉と一緒に練習なんて! とか言っていたけど
 めちゃくちゃ嬉しそうな笑顔を浮かべていたので何も言えなくなってしまった。
 なお、エヴァちゃんにA-RISEのことを説明するのには二〇分かかった(理解しているかは怪しい)

「今日はよろしくおねがいします」
 
 一応年長者として挨拶。
 事前の打ち合わせでは理亞さんに全部任せようということにしたのだけど、
 生A-RISEに舞い上がって言葉が出なくなってしまった彼女には荷が重く 
 しょうがないから、卒業式時の希と同じような三つ編みにした私が対応する。

「右から、統堂朱音、エヴァリーナ、津島善子、栗原朝日、えーっと、以上」
「ふっ、主役は最後に紹介するということね」
「恥ずかしがらなくても良いんだぞ、澤村絵里」
「そうよ、澤村絵里さん」
441 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/13(金) 21:26:14.91 ID:+teV8CcM0
 自分を紹介しないと、今後共澤村絵里と連呼されかねないので
 渋々、自分がお味噌であることを宣言しつつ名乗った。
 ちなみにだけど、今日は仕事があったのに付き合ってくれている理亞さんは
 さっきから興奮した様子で、Wonder zoneを口ずさんでいる。
 それはA-RISEの曲じゃない。

「それにしても朱音、こんなところで会うとはな」
「ふん、足を引っ張らないでよね! あなた方は時代おくむがむが!」

 暴言を吐こうとした朱音ちゃんの口を、朝日ちゃんと一緒に押さえる。
 よもや口論になろうはずもないけど、問題は少ないほうが良い。
 まあ、ちっちゃいことで怒るA-RISEのメンバーはひとりもいないんだけどね? 
 近くで聞いているちっちゃいツインテールの核弾頭が怖いだけだからね?

「エヴァリーナです、えーっと、Aries?」
「A-RISEだね、Ariesだとおひつじ座ね」
「えーと、私は絢瀬絵里以外のスクールアイドルには、とんと疎く」
442 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/13(金) 21:26:42.63 ID:+teV8CcM0
 A-RISEの三人から半信半疑みたいな視線で見られる。
 一応、正体を隠したほうが良いというのは知っているみたいだけど
 私=絢瀬絵里というのに気づいていないという事実は疑っているようだ。
 いや、私も実際ドッキリなんじゃないかと思ってるんだけどね?

「……みんなは、絢瀬絵里は好き?」
「ふん、当然じゃない!」

 朱音ちゃんの台詞に姉が凹む。
 いや、昔はお姉ちゃんお姉ちゃんと可愛くて……というのは後日談。

「エヴァは、絵里みたいになりたくてアイドルしてます!」
「そう」

 綺羅ツバサさん、そこで私を見ても仕方ないよ?
 なんか、目のハイライトが消えてヤンデレっぽい態度を取られても困るよ?

「朝日さんも、善子さんも?」
「はい、UTX卒業生の私が言うのもアレなのですが」
「見た目からして格好良く、目立つ! 金髪! 抜群のスタイル!」

 善子さんが興奮している様子でも、小原鞠莉さんという上位互換がいた気がするんだけど?
 高校時代の私の身長とそれほど変わらなかったはずだし、スタイルだって……。
443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/13(金) 21:27:19.71 ID:+teV8CcM0
「そう、じゃあ、私が知っている、絢瀬絵里さんのポンコツエピソードを」
 
 綺羅ツバサ先生の課外授業が始まる。
 
「高校一年生の時、アコースティックギターにハマったエリー」
「ちょ、誰から聞いたのよそれ!?」

 μ'sのメンバー(希は除く)でさえ知らない情報に、私は全力で止める。
 
「まあまあ、良いじゃない澤村さん。澤村さんにはなんにも関係ないでしょ?」

 理亞さんに羽交い締めにされたのと、
 誰も止める気配すらなく、耳をダンボにしていたので
 私は諦めて、ツバサの話を促した。

「当時から生徒会に出入りしていた彼女は……」
「……」

 一時期、本気でグループサウンズにハマった私は、
 当時懐メロ好きだった先輩たちに声をかけ、ギターで曲を弾くという活動をしていた。
 今に思えば聞けたもんではないレベルの演奏と、歌声が生徒会室に響き渡り
 職員会議で問題視された。

 何度ともなくやめるように言われたものの、
 どうせならもっと大掛かりにと悪乗りした先輩と一緒に
 体育館でゲリラコンサートを開き、1週間ずっと反省文を書かされ続けたことがある。
 ちなみに、希はその時の出来事をきっかけにSENTIMENTAL StepSを作った、意味がわからない。
444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/13(金) 21:27:33.63 ID:YAntDrbgO
(向こうも待ってる)
445 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/13(金) 21:27:47.54 ID:+teV8CcM0
「さすが絢瀬絵里……! 私には想像できない行動をする……!」

 心底感服したといった感じで朱音ちゃんは言っていたけど
 黒歴史を掘り起こしてきたツバサにはなんとかして逆襲したい。
 
 その後、談笑に花が咲いたものの、
 レッスンの先生が入ってきて、みんなの表情が真剣なものに変わる。
 私は知る由もなかったけど、その先生、業界でも指折りの厳しい人らしく、
 アイドルの間ではハートマン軍曹とあだ名されているとか。

「お前らは屑だ!」

 レッスン開始なり、そう宣言した先生は、ひとりひとりに(理亞さんは逃げようとしたけど捕まった)
 トレーニングメニューを課し、日頃からわりと鍛えている私でさえもキツかった。
 以前準備体操でさえキツそうだった運動不足の朱音ちゃんは早々に悲鳴をあげ、
 レッスン終了後の1時間は誰も口を開くことがなく、
 疲れも取れた頃に
 いったい誰のせいでこんな目に遭っているのか! 澤村絵里のせいだ!
 などというツバサの音頭で、理不尽に責められた。
 
 朝日ちゃんが一番私の悪口を言ってた。
446 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/13(金) 21:28:16.42 ID:+teV8CcM0
 ハートマン先生のトレーニングメニューをこなせるようになるまでには
 およそ1週間の時が必要だった。
 さすがのA-RISEのメンバーはあんじゅを除いて3日くらいで慣れたみたいだけど
 私たちはハニワプロから帰ってから夕食を食べる気力もなく、
 順番にお風呂に入って死んだように眠り、朝になったらハニワプロに向かい
 休憩時間にゾンビのように食事を摂るという日々が続いた。
 おかげでシェアハウス内の仕事はほとんどこなさずに済んだけど、
 日々、膨らんでいく私への呪詛の言葉に、冷や汗をかきながら日常を過ごした。

 8日目にはトレーニングに加えてダンスのレッスンも始まった。
 
 一ヶ月後にA-RISEの一日限りの復活ライブをUTXのコンサート会場で
 開くことが決まって急ピッチで準備が始まったとにこから聞いた。
 なんでも、業者が勢揃いで突貫工事を行っているらしく、
 事故が起こったらハニワプロのせい(真顔)と通話越しに言われる。
 なお、お客はマスコミ関係や競争率が200倍以上の確率でチケットをもぎ取った生徒たち。
 その生徒の選考には、芸能プロダクションにスカウトされそうなレベルの高い生徒だった
 などという噂もあるらしいけど、
 元が、二代目A-RISEを作るために先代が努力するというコンセプトだから致し方ない。
 少しでも、見ている人たちの琴線に刺さるよう……

 という裏の意図は、私とA-RISE以外のメンバーには伝えられることはなかった。 
447 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/13(金) 21:28:46.84 ID:+teV8CcM0
 いつの間にかにグループのリーダー格扱いされている自分に、苦笑いしつつ。
 ついでに言えば、理亞さんが練習に参加したせいで、A-RISEの前座でアンリアルの出演が決まり
 ルビィちゃんが二日目からレッスンに参加し始めた。
 善子さんは大変喜び、なおかつ張り切っていたけど、
 いつの間にか二人の間には会話が無くなっていった、今後が心配である。

 トレーニングも2週間が過ぎ。
 シェアハウスに帰った以降にも会話がポツポツと出るようになってきた
 そんな日のこと。

「……強化合宿?」

 レッスンも順調にこなせるようになってきた我々の次の課題は
 グループ間の交流不足である。
 なんて話を南條さんから聞いて、いや、私たちは別にステージに出ないし
 と思いながらトントン拍子で軽井沢にまで連れてこられた。

 学校を長い間休むことになった朱音ちゃんとエヴァちゃんには気の毒だ!
 と思ったけど、二人はむしろ学校に行かないことを喜んでいたので何も言えなくなった。
448 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/13(金) 21:29:14.74 ID:+teV8CcM0
 途中みんなで乗り込んだバスの中でも、
 朝日ちゃんが心配そうに二人の成績の話題を出したけど、
 いざとなればアイドルとして食べていく! と朱音ちゃんが言って英玲奈が泣いた。
 
 高校に行かないという宣言を嘆いたわけではなく、
 自分のできなかったことをしてくれると信じての行動らしかったけど。
 そもそもA-RISEがアイドル業界から引退したのはあんじゅの結婚が……。

 あと、よく分からないんだけど。
 私たちの合宿に、きぐるみを着たプロデューサーがついてきている。
 一言も声を発さず、交流はスケッチブックに書かれた文字のみ。
 それと、理由もなく私を避けてる。

 私が隣に立つ機会があると、さささと移動をしてしまうし
 きぐるみ越しだからわからないけど、真剣な態度で会議している最中に出くわしたら
 理亞さんにドロップキックを食らった。
 なんでも、彼女が全幅の信頼を寄せるPらしいけど、私にとってはただの胡散臭いきぐるみだった。
 
 あんじゅと一緒に料理当番に指名された私は、
 レッスンを10分間だけ免除され、みんなの食べるメニューを作る。
 食事をするのはアイドルのみで、スタッフは外で食べるらしいけど
 どうせ合宿っぽくするならみんなで調理すればいいのにと思わないでもない。
449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/13(金) 21:29:47.30 ID:+teV8CcM0
 まあ、シェアハウスのメンバーは包丁を握ったら危ないレベルで疲れてるみたいだから
 何ができるわけでもないんだけどね……。

 今日も今日とて、材料だけはふんだんに用意されていたので
 ちょっと凝ったメニューを用意した。
 レッスンで死んだようになってるみんなが、一瞬だけ生気を取り戻した目をしたので
 あんじゅと一緒に密かに喜んだ。
 だけど、食事の際に会話がなくて、お通夜ムードだったのは解せない。
 せめて美味しいの一言くらいあれば良いんだけどねえ……。

 交流が目的のはずなのに、レッスンで疲れて会話どころじゃない。
 そんな生活が1週間続き、そろそろフォーメーションや振り付けの確認に入る
 なんていうことになった。
 やれやれ、これからはA-RISEやアンリアルの二人とは別行動かなー?
 とかなんとか、善子さんと話していると、
 南條さんに声をかけられた。

「では皆さんも」
「ん? え、私たちは別にA-RISEのパフォーマンスとは関係も」
「ハニワプロは無関係の人間をレッスンに参加させるほど暇ではありません」
450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/13(金) 21:30:18.67 ID:+teV8CcM0
 ……?

「ええっ!?」

 全員で顔を見合わせながら、驚きの声を上げる。
 
「もしかしてこれは……」

 もしかして。
 A-RISEの復活ライブを踏み台にした
 私たちのデビューライブなのでは?

 ……いやいや!

「ば、バックダンサーとしての出演ですよね?」
「はい?」
「さ、澤村さん! 裏方ですって! バックダンサーなんて恐れ多い!」

 朝日ちゃんが慌ててる。
 自分たちの実力が飛躍的に上がっているとは言いつつ、
 知名度もない、それどころか存在自体を知られてない。
 よもやそんな連中を舞台にあげようとなんて

「安心してください、地獄はこれから始まります
 地獄のレッスンが……ね?」

 悪魔のような笑みを浮かべた南條さんに言われて、
 意識を失いそうになったけど、こちらを見ていると思わしききぐるみと目が合って
 お姉ちゃん大変なことになりそうだよ、と遠くにいる妹に向けてメッセージを飛ばした。
451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/13(金) 21:46:35.59 ID:7Gv/U094O
>>448
きぐるみ…うちっちーかボン太くんかな?
452 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/13(金) 21:47:52.69 ID:+teV8CcM0
 とんでもないことになった(プロットを見ながら)

 プロットでは
 ハニワプロに行くけど、レッスンからハブられた
 エリちと善子と聖良が傷をなめ合う話だったんですが!

 ちょっと予定を前倒ししてA-RISEがしゃしゃり出ました。
 おかげで聖良さんの出番は削られました!
 彼女の出番は削られてばっかりです、以前出たのはいつだっけ……

 ほんとうなら番外編を書いている時に言おうと思ったのですが、
 番外編は、亜里沙ルートの設定を使ったサザエさん時空の仮定の物語で
 本編とはまったく関係のない話になっております。

 なので、真姫ちゃんはエロゲーデビューしたのかもしれないし、
 そうでないのかもしれない、ただそこらへんのことは、海未ルートで
 拾うかもしれないし、そうでないかもしれないし(あやふや)

 次こそ1レスに決着!
 ……なんていうとフラグになりかねないので
 番外編を構想しつつ(またかよ)ゆっくり進めていきたいと思います。

 番外編は10人のアイドルの中で人気投票を行ったという理亞ちゃん主役の話か
 恐らく没になるだろうけど、娘が喘いでいてショックを受けた西木野パパンの話か。
453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/13(金) 21:59:10.23 ID:LuY8Ok8eO
おつおつ
えりちも偉いことになったと驚愕してるだろう
パパンの話はちょっと気になるなぁ
454 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/14(土) 01:24:16.81 ID:H/r8lXn70
にの子
455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/14(土) 02:36:40.60 ID:TQ+0+8Uq0
これはアイドルエリーチカ復活不可避
456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/14(土) 09:14:11.57 ID:SdIRZPySO
>>443
SSSで草
457 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/14(土) 10:03:13.30 ID:8D0TCkOqO
ギター設定が黒歴史になったのにはそんな理由があったのか……
458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/14(土) 16:17:03.68 ID:FcvRNZfe0
お久しぶりで(というわけでもなかった)
そして、何故自分がにの子先生のファンだと……。
あの方が担当ってだけで、一冊ラノベ買ったけど……ほんとう、もう……orz

一個ネタをボツした記念に書き込んでいますが。
(ハーメルンにおけるクソラブライブSSの見分け方というネタ)
エリちのギター んみちゃーの姉 と
公式でほぼ黒歴史扱いをされてるネタを拾ってくるのが好きです。
ただ、星空三姉妹、南家三姉妹、小泉兄妹はうん。
で、未だにダイヤ男体化にこだわって、設定を詰めていますが
サンシャインにおける黒歴史ネタってなんだろうな?
と考えた時に
ダジャレキャラちかちー 美術部梨子 カロリーメイトヨーソロー
ウインク果南 ルー語 マリー オラずら花丸 ヨハネ呼ばれ 善子
あたりかなーと思ったんです。
男性恐怖症ルビィはコミック版で拾われていたから(そして拾われないダジャレキャラちかちー)
ルー語マリーあたりも拾われるかもしれないけど……そもそも出番が……
しかしコミック版のよしまるびぃの美少女加減ハンパないと思います。
ちかちーが普通怪獣だと理解できてしまうて、違う。

サンシャインにおける黒歴史ネタで、果南ちゃんのイルカキャラなるものがあるらしいですが。
恋アクでもイルカで盛り上がったのはダイヤとマリーだったしな? スクフェスはそもそもリズムゲーパートがクリアできなくてシナリオ読めないしな?

前置きが長くなりましたが
μ'sでもAqoursでも良いので、こんな黒歴史がある! ってネタがあれば
気軽に書き込みしていただければ幸いです。
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/14(土) 16:23:46.60 ID:ayL/MWHvO
BiBi本三冊は持ってるなぁ
黒歴史で真っ先に思い付いたのは絵里ちゃんの弟二人
460 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/14(土) 17:31:00.12 ID:czxwliYHO
パンチラなんて気にしない凛ちゃん
彼氏いない歴17年の真姫ちゃん
エロかしこい発言の絵里ちゃん
ことりちゃんの左膝の手術跡
希ちゃんは元々二年生

この辺りはよくネタにされてるの見かけた印象
461 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/14(土) 21:44:00.16 ID:TQ+0+8Uq0
ドラマCDはだいたい黒歴史
462 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/15(日) 01:58:13.40 ID:XfZOnxow0
 (今作品は まだエリちがニートだった時代 二人で暮らしている時のSSです)

 人間、好きなことをしていても
 ストレスフリーな職場というのはなかなか存在しない。
 などと絢瀬亜里沙は考えている。

 特に、人と関わる仕事というのは
 他者から与えられるストレスによって
 大きく仕事内容が変化してしまう。

 この仕事内容がAIに取って代わられる。
 そんな事はまさかないだろうけれど。
 
 どちらかと言えば。
 機械的な人間のほうが成功しやすい。
 感情や疑念の入る余地のない
 冷徹な判断を下す人間のほうが上にいるケースが多い。

 もしくは
 冷徹な判断を下したほうが人間を御しやすい。
 社会人として尊敬される。
 そのほうが格好良く見える。
 なんて意見もあるかもしれない。

 私が仕事をしている業界は
 感情が豊かな人間のほうがよっぽど問題を起こす。
 彼女たちがほんの少しだけでも冷静な判断ができれば
 私の抱えているストレスの80%は無きものにできるはずだ。
463 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/15(日) 01:58:45.08 ID:XfZOnxow0
 まあ。
 家で感情に従ってニートしている姉がいる。
 というのがストレスになっているのでは?
 なんて意見は拝聴するけど却下しますけど?

 絢瀬亜里沙がこの業界に入ったのは
 高校時代にまで遡る。
 スクールアイドルが隆盛を極めていた、その時代。
 μ'sに憧れていた私は、μ'sを求め続けていた。

 姉も当時は大学生で、なかなか忙しく過ごしていたから
 ワガママを言うわけには行かなかった。
 今にして思えば、
 まだネトゲにもハマっていない(プレイはしていた)
 仕事で嫌な思いをすることもない(バイトはしていた)
 そんな姉は大学などに行かずにそのまま就職をすればよかったのではないか?
 
 もしそうなら自分も大学に行かずに
 そのまま今の職場に就職していただろうし。
 たらればで人生を語っても
 ろくな事にならないことは分かっているけれど。
 あの大学時代の4年間はすっごい余計だったと
 私は後悔している。

 まあ、仮に大学に行かなかったとしたら
 両親との仲はさらに険悪なものになっていたのは違いない。
 なにせ、4年生の大学に行かない社会人はゴミ理論を持っているから。
464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/15(日) 01:59:14.03 ID:XfZOnxow0
 それには、何故なのかと考える余地はない。
 自分がそうだから他人もそうである。
 自分と他人は違う存在である。
 そんなことにすら気づいていない相手には少し同情もするけど。
 ただ、社会人になってから思う。
 
 人間、同じレベルの人間と過ごしていたほうが心地良い。
 気づいてしまえば、からくりは簡単で。
 自分と他人が同じ考えさえ持っていれば、
 交流も活動もしやすいのである。

 ただ、
 私の今の立場で言うなら
 自分の考えと同じ人間としか交流しないなんて愚の骨頂、
 というか無理である。

 例えるなら、自分が経営者ポジションで
 交流相手が会社員みたいなものだから。
 私も比較的ドライな方だとは思っているけれど
 自分はやっぱりお姉ちゃんっ子だから。
 理想がすべてそっちの方に傾いてしまうのは
 仕方のないことなのかもしれない。
465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/15(日) 01:59:41.62 ID:XfZOnxow0
 そのことを友人の雪穂に告げたところ。
 理想がニートなのは社会人として危うい。
 看板娘が言えた義理じゃないけど
 もうちょっと真面目に考えたほうが良いのではないか?

 姉をバカにされるとその相手とプチ絶縁をしてしまうのは
 絢瀬亜里沙の悪癖の一つだと、同僚から言われている……。
 (雪穂とは2日間LINEの交流を取りやめました)

 さて、私の仕事の詳細は置いておいて。
 いま職場にいる私は昼食休憩を取っていた。
 社員の移り変わりが激しい(新人がやめがち)
 そんなベテランばかりの職場では、会話が合わない。 
 休憩時まで仕事の話なんてしたくはないので(大抵愚痴だから)
 基本的に一人で食事を採っています。

 ただ。
 今は、仕事の交流相手と会話をしています。
 彼女たちのメンタル面は、基本的に豆腐のようにもろく
 構ってあげないとすぐにしょげてしまう。
 私の教育係だった上司は、
 綺麗だけどすぐに枯れる花みたいなもん
 なんて言っていたけど。

 その綺麗な花を愛でているのは基本私たちではないのが悲しい。

「そう、人間関係がうまくいかない……」
466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/15(日) 02:00:19.02 ID:XfZOnxow0
 彼女たちの半分……いや、それ以上かもわからないけど。
 たいてい、仕事じゃなくて人間関係で悩んでいる。
 μ'sみたいに、みんな仲良しで、数年経ってもずっと一緒!
 なんて関係が珍しいのだ。

 ちなみに姉は、今日は海未さんと飲みに行くらしいので
 心の底から笑顔を浮かべて、親指を下に向けて見送った。

「はい、私は良かれと思ってアドバイスをしているんですけど、なかなか……」
「確かにグループのリーダーとしては間違ってないね」
「どうしたらみんなは私の意見を聞いてくれるのでしょう?」

 彼女たちのグループは
 私の職場でも顔の評判がいいメンバーを寄せ集めて作った。
 結成当初はチームワークなんて存在するわけがなく。
 リーダーの彼女は胃潰瘍になって、今も病院に通いながらグループに参加。
 苦労人だけど、私のいる業界で苦労していない人などいないので同情はできない。

「あなたは、間違っていることが気になってしまいがちなのね」
「そうかもしれません」
「そして、あの子達は、間違っていることを指摘してくれる人の良さに気づいていない」
467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/15(日) 02:00:47.31 ID:XfZOnxow0
 はっきり言ってしまえば、
 間違っていようが、独善的であろうが、売れれば正義の業界にいて
 間違っている相手に指摘をすることが正しいなんて、
 ちょっと頭が悪いとしか言いようがない。

 この世界では正義のヒーローが語る正義なんて存在しない。
 あんなものは物語だけの空想だ。
 それはとても悲しいことであるし、こんな考えをしていることなど姉に知られようものなら
 1時間くらい部屋に引きこもってしまう恐れがある。

「そうね……言うなれば」
「言うなれば?」
「野暮なことはやめましょう」

 暗に、指摘するのはやめろと言っています。
 この世界は一般的に正しいと言われていることが
 正しいと信じられる業界ではないです。
 口が悪い人の指摘だと、魑魅魍魎が跋扈する恐ろしい場所だから。
 こういう素直な子はさっさと引退して貰って、
 新しい人生を歩みはじめてもらったほうが幸せになれる。

「野暮ですか?」
「はい、昔の文豪も言っていました、この世はとにかく生き辛い」

 智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。
 意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。
 
「あなたのすることは、他人をどうこうすることではありません」
「同じグループなのにですか?」
「はい、自分のことだけを考えてください」

 人のことを考えるのは尊い。
 人のために行う活動は素晴らしい。
 ただそれらの行動は幸せにはなれない。
468 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/15(日) 02:01:29.69 ID:XfZOnxow0
 幸せになるためには自分のことだけを考えないといけない。
 他者と一緒に幸福になろうなんて理想論でしかない。
 もしも彼女にこの業界にいて幸せになれる要素が一つでもあるなら
 できる限り引き留めようとは思うのだけれど。

「私はあえて言います、私と一緒に仕事がしたいなら、私と同じ考えを持ってください」
「そんな……」
「無理なら、これ以上お話することはありません」
「えーっと……」

 恐らくだけど。
 彼女がこの場所に残る唯一のきっかけがあるとすれば
 誰かの都合の良い人形になることだけ。

 でも、それは悪いことじゃない。
 物語じゃ、誰の言うことも聞かない、そんな一匹狼が成功する
 そんなサクセスストーリーがあるみたいだけれど。
 人間は感情を殺して飼い犬か家畜になったほうが
 安定してご飯を食べることができる生き物だから。

 言うことを聞かない。
 人間に牙を向ける家畜などいれば処分される。
 ……まあ、世間で言えば高校生の彼女にそう考えろというのは
 大変難しいことだとは分かっているけれど。
469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/15(日) 02:02:03.59 ID:XfZOnxow0
「ふん、あんたはお呼びでないってことよ、さっさとそこをどきなさい」
「あなたは、ツインテールの人気の無い方……!」
「その台詞はせめて私より売れてから言いなさい」

 基本、信頼できる人間にしか笑顔を向けない彼女は
 いつもツンツンしてばかりいる。
 基本いつも寝不足というのもあるけど……。
 本来は優しい子なんだと思うよ? 

「亜里沙さん」
「LEAH?」
「あいつはダメ、別に亜里沙さんの意見が正しいとか言わないけど、ね?」
「せめてそこはフォローする場面じゃないかな?」
「女王みたいにして良いんですよ、無能に優しさなんて必要ない」

 と言いつつ、悲しげな表情をしながら先の彼女を見送ってる。
 
「だいたい、慰めてもらおうとか子どもじゃないんだから」
「あんまり愚痴を言う同業者と食事したくないんだけど」
「いただきます、姉さまのご飯本当に美味しい」
470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/15(日) 02:02:57.51 ID:XfZOnxow0
 LEAHは私の職場で、私の同僚以外の評判がめっぽう悪い女の子だ。
 その基本的な原因は、使える人間と使えない人間を気持ちいいほど差別するから。
 何でも高校時代に感情に左右されてロクな目に遭わなかったことが原因と言っているけど。
 売れなかった時代に心から信頼していたお姉さまに、極めて冷たくされたのが
 刺々しい態度につながっていると睨んでいる。

「ああ、美味しい、人に夢を与えて食べるご飯は本当に美味しい」
「気持ち悪いこと言わないで」
「間違ってました、人から搾取した金で食う飯は本当にうまい」
「よろしい」

 あんまり感心しない言葉だけど。
 自分たちの立場というのを如実に分かっていての発言だと思う。
 極めてドライとか言うつもりはない。
 私の同僚も人の金で食う焼き肉は非常にうまいって言い続けてるし。
 うん、でも、後輩の私におごられていることに危機感は持って欲しい。
 いや、でも、そんな人でも仕事はできるんですよ?(精一杯のフォロー)



 家に帰る。
 姉がスクールアイドルの特集をしている番組を見ていたので
 どうしました? 先祖返りでもしたくなりました?
 と告げると、実に嫌そうな顔をして言葉の間違いを指摘してくれました。
471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/15(日) 02:03:28.76 ID:XfZOnxow0
 ハラショー。
 先祖返りとはそういう言葉の意味だったのですね、
 亜里沙はまたひとつ賢くなりました。

 姉の作ったメニューを食べながら
 一緒にテレビなどを見ていると

「スクールアイドルも変わったわね……」
「そりゃあ、μ'sやA-RISEのようには居られませんから」
「間違ってもSUNNY DAY SONGなんて歌えない」
「悲しいですか?」
「時代だものね、でも、それがスクールアイドルの成長だとしたら……」

 私たちが夢見た未来と
 彼女たちの送っている今は違う。
 少なくとも高坂穂乃果は
 ううん、高校時代の穂乃果は
 甘ったるくて、理想主義者で
 夢を叶えてしまったけど。

「もう、そんな時代はやって来ないのかも」
「オールドタイプらしい発言です」
「ぐっ!」
「でも、私は、そんな古臭い理想が大好きですよ」

 ただ社会は
 古臭い理想論というものをまったく必要としていなくて
 LEAHちゃん的に言えば

 μ'sを夢見たAqoursは結局廃校という憂き目にあい。
 今が最高なんてとても言えない結末を迎えてしまったことから察するに
 理想や努力で何かを変える時代は終わったのかもしれない。

「今の時代、姉さんみたいなアイドルは売れませんから」
「そこはμ'sじゃなくて?」
「売れないアイドルなんて、プロデューサーが面倒見るしかないんです、あー、面倒です」
「いやいや、アイドルなんてありえないから!」

 私は、姉の作ったご飯を食べながら。

 この姉にしてこの妹あり、みたいなセリフを言われたいなって思った。
472 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/15(日) 02:13:17.80 ID:XfZOnxow0
 深夜テンションで亜里沙のちょっと暗い話でした。
 書き始めが23時50分くらいだったのですが
 プロットではエリちに弟が二人いると告げられた亜里沙が
 自分はいったい何者なのかと追い求める話だったんですが。

 どこにその要素があるのか。

 あと、この作品はスクールアイドルフェスティバル5周年記念
 というつもりもあったのですが
 
 ほんとう、どこにその要素があるのか。

 アニメ版を見た方に言っても、とても信用してもらえないですが
 亜里沙と理亞は似てるな! 
 うん、まあ、一欠片も似ていない(強いて言うなら可愛い妹要素くらい)
 なので、妄言の大概にしろと言われてしまいそうです!

 どうでもいい話ですが、
 ちょっと前に亜里沙のエロ同人を電子書籍で買ったのですが
 彼女のロリっぷりに作者驚きました。

 アラ絵里のエリちの方は、あんまり高校時代から変わってない設定があるので
 アニメを見ても違和感は生じないのですが
 亜里沙のほうが黒いメガネがやたら似合う冷徹キャリアウーマン
 なんてイメージがあるので、自分の書いている亜里沙とは……?
 と先祖返り(誤用)したくなりました。
473 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/15(日) 02:53:08.30 ID:2Q8DOvjOO
亜里沙ちゃんは自分以外が姉をぞんざいに扱うのは許せないヤンツンタイプでもあったか……
亜里沙と理亞は見た目ロリっ子でお姉ちゃん大好きなのが似てるよな、うん
474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/15(日) 07:58:30.96 ID:j6vlf4UAO
> 亜里沙のエロ同人
詳しく聞かせてもらおうか
475 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/15(日) 09:21:32.97 ID:7dxhAiRc0
番外編もおつおつ
弟設定は嫉妬で狂い死ぬ人が続出するのでなかったことにして正解だったかも

純粋ゆえに社会に出て擦れてしまった亜里沙と
純粋すぎてニート化したえりち
相変わらず最低すぎる両親からよくこんな天使な姉妹が産まれたなぁ
476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/15(日) 10:21:08.83 ID:atd+BmLSO
ツインテールの(それほど)人気の無いほうか…
477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/15(日) 19:00:16.18 ID:pfhvxYoC0
何かが足りない気がする
478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/16(月) 21:14:48.31 ID:ZMiJU/wW0
お久しぶりです。

エリちのCOLORFUL VOICEが可愛すぎて
執筆に手が付きません!
どれどれとかハラショーとかわーとか
え、あなた本当に1期の中期に素人にしか見えないって言った人?

これで3人目のソロライブなんですが
μ'sはそれぞれに特徴があっていいですね。
Aqoursで買うとしたら黒澤姉妹とマリーかな?
推しキャラがいないあたり、お前は何のために買っているんだと言われそう。

新連載はじめました。
男体化ダイヤは収拾がつかないのでボツになりまして、
どうせなら、アラ絵里の踏み台にするようなやつにしよう!
というわけで、基本的に、アラ絵里のためだけに書いてます!

場所はハーメルンというサイトです。

URLは作品が軌道に乗ったら貼ります。

ただ、エリち主役の話でツバサと理亞といういつもの組み合わせなので
見れば分かると思います! 
ただ、アラ絵里の叩き台なのであんまり面白くないです!

……本当は今日はアラ絵里の番外編を書くつもりだったのですが
病院で……つかれました……
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/16(月) 21:35:52.59 ID:P6/rhjdE0
>>478
カラボえりちの良さわかってくれたか、同志よ!!!
掛け声がほんと一々可愛くてついついにやけるから外で聴くのが怖いくらい・・・

ハーメルンの作品って読んだことないからこれを機会に覗いてみます
病院お疲れさま!
480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/16(月) 22:36:29.09 ID:0n302CsKO
絵里ソロは要所要所ハラショーにアレンジされてるのがズルい(かわいい)
481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/17(火) 00:55:50.74 ID:kzSk1J35O
多分その新連載ってやつなんだろうなっていうのを見つけてしまった...どっちも楽しみにしてますよ!
482 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/17(火) 10:10:00.94 ID:l/CVItsYO
俺も見つけた
愛されてるけど虐げられてるエリーチカがたまらんわ
483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/17(火) 15:14:40.78 ID:6SRP3C4PO
楽しみが増えたな
484 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/17(火) 20:14:08.28 ID:GEQ8Nz9q0
ハーメルンではわりと、
「綾瀬絵里」の確率が高いですが、
皆様は無事地雷に引っかからず、名作を引き当てたでしょうか?
マッキーのParadise Liveの「ヘーイ」も超絶やる気なくて可愛すぎですが、
エリちのスリーツーワンライブ! も超絶可愛くて、
正直Paradise Liveはタカラモノズの次の曲くらいの認識しかなかったのですが、
なぜエリちは、作者の執筆の時間を削らせてカラオケに向かわせようとするのか……。

そろそろ、エリち推しではないというと、はいはいワロスワロスと言われそうな昨今ですが
今日か、明日の午前三時くらいまでには、アラ絵里の番外編を書く予定です。
アルミ版コミックに登場した、自称エリちのライバル、四巻からは顔つきになって
お前の登場シーンじゃなくてりんぱなの登場シーン増やせよ! と怒られた
あの方がついに登場します。
申し訳ない、四巻を見直していたら本来名前が書いてあるべきところに
「UTX生徒会長」って書いてあって、最高にシュールだったので出したくなりました。
本来は、みんなでカラオケに行こう! 
という真姫誕生日SSと考えていたのですが、そちらはハーメルンの方で。

ハーメルンでは、用語の誤表記が珍しくないですが
個人的に一番ツボだったのが、「A-Rais」でした。
では、深夜に。
485 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/17(火) 20:33:37.61 ID:XgaI5UtAO
公式の絵里推しと言えばダイヤさんとあの人だよね
真姫誕は明後日か、そっちも楽しみ
486 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/17(火) 21:36:00.95 ID:y0/Dt39J0
公式アンソロでもあったっけなぁ「綾瀬絵里」・・・
起きていられるかわからないけど楽しみに待ってる
487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/17(火) 23:15:32.39 ID:GEQ8Nz9q0
「澤村さんにお手紙ですよ」

 そう言って、朝日ちゃんがピンク色の可愛い封筒を渡してくる。
 差出人も、宛先も、切手さえ貼っていない、
 宛名(ちゃんと澤村絵里って書いてあった)だけの封筒を眺めながら
 爆弾が送られるのだとしたら、この中で一番確率が高いのは
 理亞さんだろうなって、ちょっとだけ考えてしまった。

 ちなみに彼女は、再起不能なくらいの地雷エロゲーを引き当ててしまったらしく。
 リビングの端っこで体育座りをして、エヴァちゃんに突っつかれまくっている。
 ほんの数時間前まで、このキャラは私の嫁になるからっ! と元気だった理亞さんが忘れられない。

「……ねえ、善子さん」
「なに、澤村さん」
「普通、名前だけしか書かれてない封筒を持ってきて渡すかな?」
「あの子は割とお嬢様だから」

 確かに、UTXに無難に通えるくらいなのだ。
 芸能科の優先入学枠に入れたなんて話は聞いたことがないから、
 当然学費を払っての入学になったんだろうけど。
 
 にこはお金の都合でUTXに通えなかったと、一度だけちらっと言ったことがあった。
 それが、講師として招かれるなて分からないわね、と続くのだけど。
 もし彼女がUTXに通えていたらどうなっていたのだろう?
 当然μ'sのメンバーは8人になってしまうわけだし
 9人にするために知らない女の子でも誘っていたんだろうか?
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/17(火) 23:16:16.49 ID:GEQ8Nz9q0
 当然候補になるのは、私が一年生の時に右腕として活躍した……えと……メガネの……
 2年生の時にUTXに転校してしまった……えっと、顔は思い出しているんだけど
 あれー? 名前が全然出てこない……。

「開けるのなら、協力するわエルダーデーモンエリー!」
「遠回しにババアって言ってない……?」

 メガネが印象的だった彼女の顔(だけ)を思い出しながら、
 今度希に名前でも聞いてみましょうと結論付ける。
 ちなみに善子さんは、南條さんからの指令で厨ニキャラを復活させつつあった。
 当然、抵抗はしたんだけど、髪型的に朝日ちゃんとキャラが被ると言われ
 渋々了承をしたのであった……いや、渋々だったのは最初だけで、今はやばいくらいノリノリだけど。

「ふふっ、超天使ヨハネが、不幸の手紙を受け取った際の対処法を伝授しましょう」
「いや、まあ、まだ不幸につながる手紙とは限らないんだけど……」

 ただ、なんとなくだけど。
 迷惑な出来事が起こりそうな予感は、
 悪寒となって背中に震えを巻き起こしつつはあった。



 最初は希にLINEをしてみたんだけど、
 忙しいのか一向に反応が帰ってこないので、
 手紙の主と同じ高校出身の綺羅ツバサに連絡をとってみた。
489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/17(火) 23:16:45.74 ID:GEQ8Nz9q0
TSUBASA:生徒会長?
エリー:そう、なんか、永遠のライバルって書いてあるんだけど
TSUBASA:ウチの高校に生徒会長なんていたかしら……?
エリー:そうよね、生徒会の仕事でUTXには何度か行ったはずなんだけど、
    その時に対応してくれたのって教師の人だった気がするのよ
TSUBASA:うーん……生徒会長……あっ!
エリー:どうしたのツバサ!
TSUBASA:いた、いたわよ! あの、髪の長い吊目の! ああ、思い出したわ!
エリー:どんな人?
TSUBASA:お嬢様? 他になにか特徴とかあったかしら……?
エリー:とにかく影が薄い人なのね……
TSUBASA:しょうがないわよ、UTXの普通科出身だとしたら、基本的に関わりないし

 とりあえず、実在の人物であることは確認できた。
 これがもし、高校時代に死んでいるとかだったら、
 手紙を以前も紹介して貰った神社に送って、お焚き上げをしてもらわないといけない。

「……ん? なんだか、聖良さんに酷く恨まれた記憶があるんだけど?」

 一体何だったか忘れてしまったが、
 血で書かれた、けったいな手紙を受け取った記憶があるような、ないような?
 それはそもそも私だったのか……?

 まあ、妹の理亞ちゃんとは仲良く出来ているし、
 今はボタンの掛け違いと言うか、不幸な事故で(メインヒロインが金髪ポニーテールだったらしい)
 お前の顔なんか見たくない! と宣言されてしまっているけど。
 そのあたりは明日になれば、パジャマの裾を引っ張りながら小さい声で謝ってくる
 だいたいそんな展開が待ち受けているだろうから、あんまり気にしていない。

 それにしても、エロゲーのヒロインって
 割と金髪ヒロインの地雷率高くない……?
490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/17(火) 23:17:53.56 ID:GEQ8Nz9q0
「あら、澤村さん、出かけるの?」
「うん、まあ、放っておくのも気分悪いし」
「……? 理亞も行くんだ」
「罪滅ぼしよ! 朱音は黙ってろ!」
「またエロゲーでも買いに行くの? それとも知り合いのエロゲー声優にでも会いに行くの?」
「うっさい! 現役女子高生がエロゲーを連呼すんな! 炎上すっぞ!」

 涙目になりながら、一生懸命謝ってきたのが十数分前。
 最近ようやくちょっとデレてきたのでは? と思いはじめていたんだけど
 他の住人に対しては、あんまり距離を詰めきれていないみたい。
 
 まあ、理亞さんがにっこり笑顔で、エヴァちゃんとかと交流している姿なんて
 ほんとう、まるっきり、全然想像すらできないから良いんだけどね……。

 シェアハウスから抜け出すと、夏の日差しが舞い降りてきた。
 それだけでも、外に出たことを軽く後悔してしまいそうになる。
 まあ彼女は、秋葉原のUTX劇場で待つ! とか書いていたけど、
 今、あの場所は改修中らしく、この厳しい陽射しの中、外で待っている可能性が高い。
 よほどのアホじゃない限り、どこかの建物に籠もっている方が自然だけど、
 手紙から漂う強烈なアホっぷりのせいで、
 数時間も前から待ちながら汗をかいて、熱中症で倒れていそうなイメージがある。

「あなたって、オトノキの生徒会長だったんでしょ?」
「ええ、まあ、恥ずかしながらそうね」
「生徒会長ってアホでもなれるの?」
「まるで私がアホみたいじゃない」
「あなたじゃない、高坂穂乃果の方、あの人アホだったんでしょ?」
491 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/17(火) 23:18:21.69 ID:GEQ8Nz9q0
 どうしよう。
 何一つ否定できない。
 推薦したのは私で、穂乃果はそれを了承してくれたのだから
 本来なら、自分が精一杯フォローをしなければいけないんだけど……

 私や希が卒業する前は、それなりに仕事をこなしていた二年生組だけど
 受験生になって時間が取れなくなると、ヒフミちゃんたちに仕事をどんどん奪われていった
 音ノ木坂学院では、μ'sがラブライブで優勝できたのはヒフミちゃんたちのおかげと
 そんなふうに言われてしまうくらい、穂乃果の仕事ぶりはアレだったらしい。
 
 ただ、穂乃果をフォローするなら、
 もともとヒフミちゃんたちは一年生の頃から生徒会に出入りして仕事は覚えていたし
 何より、ことりはその時には海外留学を考えていて時間がなく、
 穂乃果をフォローするはずの海未は、雪穂ちゃんに頼まれて
 オトノキのスクールアイドルに歌詞を提供して忙しかった(真姫も曲作りしていた)
 穂乃果が不幸だったのは、役員を二人失っただけでなく、
 私がいた時代よりも生徒が二倍に増えたせいで仕事量が半端なかったのだ。

 これは善子さんから聞いたけど。
 Aqoursが音ノ木坂学院に行った時、生徒に
 「μ'sは何も残さなかった」
 「μ'sがラブライブで優勝できたのはヒフミ先輩たちのおかげ」
 というセリフを吐かれたって聞いた時は、
 自己嫌悪で2日間ほど寝込んでしまったけど……。
492 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/17(火) 23:18:56.88 ID:GEQ8Nz9q0
「その、不幸な事故が重なったのよ」
「浦の星の生徒会長もバカだったし……」
「ん?」
「ほんとう、アイツ……松浦果南といい……!」

 ギリっと奥歯を噛みしめる理亞さん。
 ルビィちゃんとは良好な関係を持っている彼女だけど
 もともと、一番最初に出会った際にはAqoursには三年生組はおらず、
 9人揃ったAqoursと再会した折には、ダイヤちゃんからは「妹を泣かしたアマ」果南さんからは
 「意味もなく千歌たちに敵意を向けたアマ」扱いだったとか。
 
 まあ、理亞さんは理亞さんで
 ダイヤちゃんのことを「アゴほくろ」果南さんのことを「怪力水ゴリラ」
 って呼んで、いっこうに仲良くする気配すらないんだけどね……。
 μ'sとA-RISEはすっごい仲が良かったから、そういうのを聞くと
 幸運だったんだなあと、思わずにはいられない。

 ただ唯一。
 今現在の話になるけど、
 ツバサと凛がテレビの収録で共演した際
 「デコッパゲチビ」「ニャーニャーキャラ作り」と発言。
 ガチの喧嘩になって、収録が中止になることがあった。
 そのおかげで、ツバサと凛の愚痴を合計5時間聞かされた私はちょっと泣いても良い?
493 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/17(火) 23:19:40.05 ID:GEQ8Nz9q0
「まあ、うん、譲れないものというのは、あるものよね?」
「な、何よ遠い目をして……それにアイツら、姉さまのこと泣かしたし」
「聖良さんが泣いたの?」
「私はあいつらを許さない……! ダガミチガァァ!!」
「おー、よちよち……」
 
 おそらく最後の台詞は「高海千歌」と言ったみたいだけど。
 何があったのか追求するのも怖いので、とりあえず黙って頭をなでておく。
 なお、今は善子さんと普通に付き合っている理亞さんだけど、
 高校時代は顔を見るたびに「今日もどこかでデビルマン」を善子さんの前で歌う
 そんな嫌がらせをしていたらしい、意味が分からない。
 恐らく、ルビィちゃんをリトルデーモン4号扱いしたのが逆鱗に触れたのではないかということだけど。
 お願いだからもっと仲良くしてほしいものである。

 秋葉原のUTXに向かう道中で、そういえばお土産を買っていなかったと思い
 理亞さんの提案で【Solo Live! collection Memorial BOX III】を購入。
 なんでも、発売当初は数万円は固く、ファンの間でも持ってる持ってないで論争になり
 μ'sのファンでこのアルバムを持っていない人間は村八分だったそうだけど。
494 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/17(火) 23:20:07.75 ID:GEQ8Nz9q0
「……私には一銭も入ってないんだけど?」
「私だってそうよ」

 自分がパッケージになったアルバムを手に取りながら、
 いつ取られた写真かもわからない写真が使われて、
 元の音源がどこにあるのかわからない代物をCD化した
 ラブライブの運営というのは、果たしてどんな存在なのか気になった。
 
 ちなみに理亞さんもSaintAqoursSnowとしての活動時、
 気づいたらラブライブ運営のもとCDが発売されていたとか。
 そういえば真姫も気づいたら作詞した曲がカラオケに入ってるって言ってたな……。

 闇を見た気がして、クラッシュマインドしかねかったので、
 とりあえず、CDショップから脱出。
 
「で、UTXの生徒会長ってどんな人?」
「ツバサが写真を送ってくれたけど、名前すら思い出せない」
「ふうん、ちょっと見せて」
「うん」

 スマホで写真を見せてみる。

「ん? この顔、どこかで見たような……?」
「なんで、年齢がぜんぜん違うでしょ」
「いや、でも、見たことがある気がするのよね?」

 まあ、とりあえず会ってみれば分かる。
 そう自分に言い聞かせて秋葉原はUTX劇場に向かった。
495 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/17(火) 23:20:35.96 ID:GEQ8Nz9q0
 予想通り工事中だったUTXには人影がなかったので、
 理亞さんと事務員さんに声掛けをしてみると、その人ならUTXの卒業生だと嘯いて
 警察を呼ばれる事態に陥ったとか。
 私が、恐らく本当にUTXの卒業生だと思いますよと言ってみても
 信用してもらえなくて、仕方ないから帰りましょうか? 
 なんて理亞さんと言いあっていると

「……何しているのよ絵里」
「にこじゃない」
「ここに来るなら、せめてアポ取ってから来なさい、社会人の常識でしょ」

 絢瀬絵里(元ニート)
 鹿角理亞(高卒アイドル)
 は、顔を見合わせて、そういえば自分たちは社会人だったと思った。

 にこの説明で、ようやく開放された
 呼びつけたと思われる生徒会長さんは
 私の顔を見るなり
496 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/17(火) 23:21:05.27 ID:GEQ8Nz9q0
「絢瀬さん……!」
「えと、ごめんなさい、私あなたのこと全然覚えて無くて」
「なんですって? この栗原陽向を忘れたの!?」
 
 ……ごめんなさい。
 名前を聞いてもいっこうに記憶の端にすら引っかからない。 
 
「じゃあ、じゃあ、一年生の時こっそりA-RISEに会わせてあげたことも忘れたの!?」
「その、本当に、申し訳ないけれど……」
「あなた言ったじゃない! 音ノ木にいるスクールアイドルとはレベルが違うわねって!」

 にこがこっちを睨みつけてくる。
 私が一年生当時、音ノ木にいるスクールアイドルでここにいるのは
 矢澤にこ一人しかいない。

「妹に頼んで手紙を渡してもらったのに……! こんなのってないわ……!」
「うん?」
「あっ! あなた、朝日の姉の!」

 理亞さんが大きな声を出した。
 私もそこで、朝日ちゃんをキツく成長させたらこんな感じになりそう!
 と気がついた。
497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/17(火) 23:21:50.72 ID:GEQ8Nz9q0
「ようやく気づいたわね……って、妹のことは良いのよ! 私を思い出しなさいよ!」
「ごめんなさい」
「謝るの早い! せめて努力して思い出しなさいよ!」

 そう言われた所で……
 なにか思い返すにふさわしいエピソードでもあれば
 記憶をたどることもできるかもしれないけど……。

「くっ!」
「あ、栗原さん!」
「いいえ! 私たちは、お互いをあだ名で呼び合っていたわ!」
「……ええと」
「そこは一発であだ名を思い出す場面でしょう!?」

 会長さんは目に涙を浮かべていたけど、
 やがて諦めたように、

「まあ、そうですわね。もう、だいぶ時も流れますもの」
「本当にごめんな……あっ!」
「ふん、期待はいたしません、どうせ」
「あなた、確か……私がUTXで迷った時に案内をしてくれた……」
「……」

 そう。
 オトノキの生徒会の先輩に連れられてUTXに向かった際
 あまりの人の多さにはぐれてしまい、途方に暮れていた時に出会ったのが……
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/17(火) 23:22:17.56 ID:GEQ8Nz9q0
「でも、あなた、一年生の時は芸能科にいたじゃない」
「ふん、芸能科で成績が悪くて普通科に送り込まれることなんて多々あります」
「それから生徒会長に?」
「居場所のない普通科の生徒が、時間を潰すのはそれくらいしかなかったのです」
「……そう、そういえば一年生の時、あなた135センチくらいしかなかったじゃない」
「必死で身長を伸ばしたのです! あなたみたいになりたくて!」
「音ノ木からやって来てUTXで迷った生徒に、どこに憧れる要素があるのよ」
「まったく、本当に何も覚えていないんですのね。
 出会い以降、連絡を取り合っていた私たちは……
 いいえ、細かい話は省きますが、
 芸能科で最終通告を受けた私のために、あなたは練習に付き合ってくれたのよ」
「スクールアイドルの?」
「ええ、絶対に、芸能科に残らせるのだと、泊りがけで」

 理亞さんとにこの視線が痛い。
 なんでそんなことを忘れるのかと言わんばかりだった。

「あなたは教えるのがとても上手で、私も自信を深めましたわ
 でも、芸能科自体に枠はもう残っていなかったんです
 悔しくて、悔しくて、もう絢瀬さんに会わせる顔がなくて、連絡も取らなくなって」
「……」
「ま、生徒会長になって、あなたと再会する頃には、背も伸びて
 でも、はじめましてって言われた時には、人知れず泣きました」
「ヒナ……」
「久しぶりに、そう呼んで下さいましたね」
499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/17(火) 23:22:46.43 ID:GEQ8Nz9q0
「澤村さんでしたっけ」
「エリーって呼んでくれて良いのよ」
「ふふっ、妹をよろしくおねがいしますわ」
「ヒナは今何をしているの?」
「ゲームを作ってますわ、まあ、エリーには関わり……過ぎてますわね」
「ふうん?」
「では、私はこれで、また、どこかでふらりと会いましょう?」

 かつての親友の背中を見送る。
 
「絢瀬絵里」
「ん? どうしたの理亞さん」
「ヒナプロジェクト、代表取締役……栗原陽向」
「なにか知っているの?」
「どうして、μ'sが全員が主役なのに、ダイヤモンドプリンセスワークスなのかと、ずっと疑問だった」
「……うん?」
「そうか、綾乃の親友って……ふん!」
「いたっ! 叩かないでよ!」
「もう一度プレイするから付き合え! バカッ!」

 理亞さんは、ドスドスと足跡を立てながら帰ってく、
 その背中を追いかけながら、なんかとんでもないことになりそうだと思った。
500 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/17(火) 23:36:49.45 ID:y0/Dt39J0
来てくれてたー!
UTX会長朝日ちゃんの姉でダイプリ開発者とかまさかの超重要キャラ
501 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/17(火) 23:37:29.42 ID:GEQ8Nz9q0
い、いい話が……書きたくて……
あと、ダイヤモンドプリンセスワークスの伏線を拾いたくて……
それといまいち、影の薄い朝日に活躍の機会をと……
作者ですら、フルネームを確認しないと忘れる朝日ちゃんに明日はあるのか。

なんでこんな話になったかと言うと、
サンシャインの絵本シリーズの
ダイヤはおねえちゃんを眺めながら書きました!

ワナ絵里(ハーメルン連載中)などでも
真姫ちゃん以外は、姉妹キャラなんです。
ツバサは公開されてないので、妹がいる! と、勝手に思ってます。

本当はツバサが妙にμ'sを知っている理由も
エリちに関わる理由も、ヒナが元だったみたいな話にしようかと思ったのですが
それは流石に、設定の詰め過ぎなのでやめました。
ただ、START:DASH!!を歌ってる時にオトノキの校舎にいた! って言わせるのを忘れました。

では、次はワナ絵里の3話で。
502 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/17(火) 23:39:50.54 ID:y0/Dt39J0
おつおつです
あの会長ならμ’s元にしたエロゲ作っちゃうのもなんとなく納得
本編での絡みにも期待してます
503 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/18(水) 00:05:50.28 ID:exhBU+edO
二人の生徒会長の馴れ初め…イイハナシダナー…
>>1は姉妹萌えというか妹萌えかな?
504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/18(水) 05:44:52.29 ID:74D3JlIcO
一年生エリーって相当尖ってたから、その頃にお互いあだ名呼びで親密な関係だったのはポイント高いな
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/18(水) 09:14:38.71 ID:pETtkSRIO
>>484
ハピメなんかもそうだけどクール組の可愛さ全開の曲どれも個性が出てて良いよねぇ
聴いててキューン……ってなる
506 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/19(木) 00:33:30.57 ID:qr7pE+Dv0
今日は西木野真姫ちゃんの誕生日です。
自分はずっと、μ'sで一番歌が上手なのは真姫ちゃん!
という意味のない自信(アニメを見る限りそんな描写がある気がしていた)
は、見事にエリちのソロライブの購入で崩れ、
真姫ちゃんのアイデンティティとはいったい……?

最近は方向性が変わって、
にこと花陽とことりあたりがカラオケで「90」点を超えてくる歌唱力
の凄さについて追求をしつつあります。
にことことりの二人はまだ、それぞれ
「アイドル部として活動していた」
という理由があるにしてもかよちんは……真姫ちゃんの指導を受ければ
誰でもプロ歌手になれる可能性も……?
(なお、前回のアラ絵里で、絵里の指導でヒナが劇的に歌唱力が増えた件もそのあたりがモデルです)

というわけで、今回誕生日記念SSを誕生日には間に合わないかもしれませんが
2つ計画中です……片方は先にも書きましたが、真姫ちゃん主役のカラオケ編。
もう片方は、もしも西木野真姫ちゃんに妹がいて、絵里と真姫の指導を受けてトップアイドルなっていたら?
という設定のSSをアラ絵里の理亞ちゃん視点で書く予定です、ルビィも出るよ!
なので、お待ち頂ければ幸いです……。
507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/19(木) 00:53:02.09 ID:AOWfcrs0O
真姫ちゃんおめでとう!!!
どっちのお話も興味深いな…待ってるよ
508 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/19(木) 02:29:47.83 ID:qr7pE+Dv0
 とある映画出演中のアンリアル様控え室。
 ――などというものは存在せず。

 アイドルばかりを閉じ込めた箱部屋で
 スマホをポチポチといじりながら、
 私はルビィと共にマネージャーに呼ばれるのを待っていた。

 私の住んでいたシェアハウスは
 ほんの少しの過去まで、カレー臭さでたんまりしていたのに
 最近では「あ、そういえば最近カレーの匂いしないな?」
 レベルにまで改善しつつある。
 
 あの純粋なルビィから、
 カレーの芳香剤の匂いがするから来たくない
 と宣言されていたエトワールにも
 たびたび彼女の姿を見かけるようになったものの
 私の部屋には「男の人の匂いがする」と言って
 近づいてすらこないあたり、本当に、彼女の男性恐怖症キャラは徹底している。
 なお、そのことを金髪ツインテールに言ってみたら、
 「ええと」と、困った顔をして、トイレの芳香剤を買ってきやがったので
 ふざけんなと背中を蹴っ飛ばしてやった。
509 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/19(木) 02:30:14.99 ID:qr7pE+Dv0
「理亞ちゃん理亞ちゃん」
「うん?」
「この漢字ってなんて読むの?」
「ブレイドダンス」

 ラノベの厨ニ表現を気楽に読むことができるのは、
 恐らくシェアハウス内の住人の「津島善子」の影響が強いか。
 しかしながら「落第騎士の英雄譚」を「リトルデーモンのキャバルリィ」
 と読むというのをしたり顔で教えやがったのは許さない(しかも間違ってた)
 黒澤ルビィ以外のAqoursは残念ながら純粋さが足りない。
 エロゲのメインヒロインを攻略して少しは学んで欲しい。

「じゃあ、この漢字は?」
「うん……? アンダーバーサマー……いや、待って、それは漢字じゃない」

 アンダーバーを漢数字の「1」と勘違いしてしまっているけど。
 あと、ワンサマーというとなにかラノベの主人公っぽいけど。
 それと「feng」と「HOOK」を読めないエロゲーマーがいたら私のところまで来ること。
 朝までダイヤモンドプリンセスワークスプレイさせるから。

「……懐かしいわね」
「うん?」
「あの子もちょうど、よく漢字が読めなくて、私に聞いてきていたわ」
「それ現実のお話?」
510 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/19(木) 02:30:54.59 ID:qr7pE+Dv0
 実写版「魔法少女は友だちが少ない」の撮影中
 暇だったので(私とルビィはモブ魔法少女役・すぐ死ぬ)スマホでエロゲーをプレイしていたら
 声をμ'sの「西木野真姫」が担当していた。
 このゲームのメインヒロインは落第危機にあるダメダメ女子校生で
 今度の漢字テストで満点を取らないと補習するというシチュエーションだった。
 なお、満点を取っても取らなくてもエロシーンに向かう親切設計。
 和姦と陵辱というシチュエーションの違いはあるけど、というかあの人
 いつの間にかにこんな濃いエロシーンまで演じているけど、一体何があったというのか。

「にしても、本当に主演の西園寺さん可愛かったよね!」
「さいおんじ……? ああ、巴マミ役の……」
「ルビィもいつか、映画で主役とか演じてみたいなぁ……無理かなあ?」

 片割れツインテールが、まるで夢見る少女全開の表情でうっとりと目を閉じる。
 今の私たちが「主演女優」とか、見る人が見れば鼻で笑われるような台詞だけど。
 出演している作品だって「ほのぼの」作品の「序盤のシリアスシーン」に出てくる「モブ」だったり
 「魔法少女は友だちが少ない」でさえ「すぐ死ぬ魔法少女」の中の「その他大勢」だったり。

「ま、彼女は努力のトップアイドルだから、ルビィもそれくらい努力すれば良いんじゃない?」
「ジョルノPに今度、演技指導頼もうかな……」
「あ、それなら今度、指導に定評のある二人組に色々頼んでみましょうか」
「二人組?」
「ふふん、あの西園寺雪姫をトップに据えた二人の伝説的な指導よ」
511 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/19(木) 02:31:32.67 ID:qr7pE+Dv0
 私、絢瀬絵里は口をあんぐり開けたまま
 西木野真姫の年の離れた妹の顔を眺めていた。
 
 西園寺雪姫(さいおんじ ゆき 17歳)
 私が以前μ'sとして活動していた時に、
 そういえばにこちゃんの弟のコタくんと同じ年の妹がいる
 などという話を真姫から聞いていて、その存在自体は知っていたけど
 よもや、自分と同業者になってしまうとは思ってもみなかった。

 当時の姉妹間の仲は、お世辞にも良いとは言えず。
 真姫自身も「ちっちゃい子はあんまり好きじゃない」と言っていた
 それが十数年経って「仲良し姉妹」の姿を見せられると 
 亜里沙との関係が年を追うに従って変わってしまった私はと言えば、
 微妙になんともやりきれない気持ちになってしまうんだけど。

「あの、疑問なんだけど、何故私なの?」
「知り合いのブランドのプロデューサーから聞いたんだけど、あなた、
 高校一年生の時、すっごい仲の良かった親友がいたんだって?」
「え、ええ……アルバムから、仏頂面の私の写真がいっぱい出てきたけど……」

 ヒナとの思い出を振り返ってみても、
 歳のせいかいっこうに思い出すことが出来なかったので、
 亜里沙に「栗原陽向」って知ってるいるかと聞いてみたところ
 背中が凍えそうなほど「怪訝な表情」をした彼女に
 出るわ出るわ、100枚以上の高校一年生の時の写真を見せられ、
 その頭は飾りですかと言われたことがあった。
512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/19(木) 02:32:12.67 ID:qr7pE+Dv0
 当時の私は「世の中」と生活の全てだった「高校」に敵意しか向けてなかったみたいで
 笑って写っている写真でも、生理二日目(表現参考・鹿角理亞)にしか見えない。
 ただ、当時流行っていた女子高モノライトノベルのコスプレをヒナとしている写真があって
 機嫌悪そうだけど満足している自分を見て、本当にもにょった。

「希ちゃんが言ってた、聞けたもんじゃない音痴を1ヶ月で矯正したって」
「う、うん、そ、そうだったみたいね?」
「希ちゃんの最高に切ない表情を見せて貰ったけど……まあ、それは良いのよ」

 ヒナとの件の後で希と会う機会を持った際、
 そういえば、みたいな感じで話をしたら「流石にそれはないやんエリち」
 と、ドン引きされたのを覚えている。
 だって仕方ないじゃない、μ'sに入る前の自分なんて例えるなら
 「黒歴史」みたいなものなんだから。
 でも、希が「二人は結婚しそうなくらい仲が良かった」なんて言われると……本当に。

「西園寺雪姫、職業アイドル。握手券を付けても一枚も売れないレベル」
「お、お姉ちゃん!? さすがに一枚くらいは売れたよっ!?」
「お母さんが買ったのよ!」 

 唐突に始まる姉妹喧嘩。
 その痴話喧嘩っぷりに「統堂姉妹」の姉妹喧嘩を思い出した。
 あの、クールで沈着冷静と名高かった英玲奈が「足を舐めるから許して」 
 と、妹に懇願する姿は、本当にもう、恐ろしい衝撃だった。
 さすがはツバサが夢でうなされるレベルである。

「というわけでね、このダメダメアイドルを……トップに据えるのよ!」
「……やれやれ」

 最近、私、やれやれ系主人公っぽいわね?
 しかしなぜか、むしろやれやれと言われる方じゃないですか?
 なんていう亜里沙の顔が頭に出てきた。
513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/19(木) 02:38:41.13 ID:qr7pE+Dv0
 とりあえずここまで。

 もう少し書ければと思ったんですが、眠気で仕事に影響が出そうなので。
 バイトから帰ったら、すぐ書き始めたいと思います。
514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/19(木) 06:06:05.45 ID:2b6c5etkO
一旦乙
絵里ちゃんの記憶喪失っぷりもはや別人になんじゃレベル
英玲奈様が足を「舐めろ」じゃなく「舐める」とな……それはそれでありですね
515 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/19(木) 08:43:06.31 ID:eu0sj6TnO
絢生理……Mなのでツンチカ時代も実は好きです
516 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/19(木) 11:44:25.94 ID:Eiov3f5SO
アゴほくろと聞くとダイヤルビックを思い出して笑う
517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/19(木) 21:06:56.76 ID:pUzccNgU0
真姫ちゃんおめでとう、誕生日プレゼントで妹ができたよやったね!
マミさん役ってことはやっぱりデカいんですかね・・・
518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/20(金) 11:43:24.95 ID:MFofSlJVO
まきおねぃちゃぁ……
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/20(金) 16:10:22.56 ID:f1b8U+9N0
 まずは歌唱力の強化をするということになり、
 ヒナにどういう指導をしたのか記憶になかった私は
 じゃあ頑張って! と応援したら、
 海未を彷彿とさせる眼でガン付けられて、ちょっと寿命が縮んじゃったな……。
 真姫一人ならともかく、ちょっと前まで初対面だった雪姫ちゃんにまで睨みつけられると
 夢でうなされそうなくらい恐怖を感じてしまった。
 
 基本的に真姫は炎属性だから、氷属性の私と相性悪いのよ……
 と、ブツブツ呟きながら、CDが一枚しか売れないアイドルの実力を見る。

 ――見る。

 私と真姫は顔を合わせ、首を静かに振る。
 短期間に花陽と凛の歌唱力を天井知らずにまで跳ね上げた真姫が
 匙を投げる(元医者志望の真姫っぽい表現)レベル。
 私は言葉を失い、音痴とは、歌とはなんなのか、疑問を追求した。

「今日はうまく歌えました」

 ドヤ顔(高校時代の真姫を彷彿とさせた)で、さあ、褒め称えよと言わんばかりの彼女に
 10歳以上年を離れている私たちが気圧されている……!
 なまじ言葉尻が丁寧なだけに、にこ相手みたいに「気持ち悪い」って言うわけにもいかず
 ただひたすらに時間ばかりが過ぎていった。
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/20(金) 16:10:49.54 ID:f1b8U+9N0
「な、何なのよ! 今の気が抜ける歌はっ!」

 ドタバタと床を踏みつける音が聞こえてきて、現れたのは――
 先ほど話題に出した、姉の土下座にもドSな笑みで対応する
 統堂姉妹の妹の方、統堂朱音ちゃんが姿を表した。
 ちなみに、レッスン場がどこも埋まっていて借りられなかった私たちは、
 無料でかつ施設もそれなりに整っているエトワールの地下練習場でトレーニングをしている。

 当然、他の事務所のアイドルを入れることは住人たちの反感も買ったんだけど、
 CDが一枚しか売れないレベルと告げると、可哀想なものを見る目で雪姫ちゃんを見たあとで
 ノーブレス・オブリージュっていう言葉って素晴らしいわね、って言ったあとでみんな黙った。
 私も、アイドルとして活動をはじめてちょっとするけれども、CDが売れないアイドルの
 事務所での立場を鑑みると、同情しか浮かばない。

「ちょっと! あなた、西園寺雪姫って言ったわね!」
「ええ、可愛い名前でしょ?」
「下手糞川音痴に改名しろぉ!!!」

 命名センスはともかく、
 雪姫ちゃんの実力を的確に表した表現に、アラサー処女二人は苦笑しながら
 まあまあ、朱音ちゃんとなだめるしかなかった。
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/20(金) 16:11:17.25 ID:f1b8U+9N0
「わ、私が……くっ! それほど言うんなら、あなたの実力……見せてもらおうじゃない!」
「言っておくけど! 私の歌を聞いておしっこ漏らすんじゃないわよ!」
「漏らすか! もしも私よりもヘタクソだったら、分かってるでしょうね!」
「ありえない想定してんじゃないわよ! もしそんなことあったら、うんこ食ってやるわ!」

 とんでもない言葉の応酬に、こんな場面を担当P(未だに顔がわからない)
 に見られようものなら指導力不足を問われるに違いない。

「行くわよ……私の歌を聞いて戦慄しなさい……!」
「あ、チョット待って、そんなに歌に自信があるんだったら、当然何を歌っても良いんでしょ?」
「もちろんじゃない……! 何でも指定しなさいよ……!」
「ふん……では、南ことりちゃんと小泉花陽ちゃんの……告白日和、です!を所望するわ……!」

 微妙なチョイスに、真姫の顔を見る。
 別に選曲に文句があるわけじゃない、
 ただ、もし仮に告白日和を雪姫ちゃんが歌おうものなら、
 確実に告発日和、DEATH!になってしまう。

「ふん、私にBiBiの曲で挑もうなんて、ニワカにもほどがあるわね!」
「Printempsよ!」
「どっちも間違ってるから……」
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/20(金) 16:11:49.84 ID:f1b8U+9N0
 μ'sの登場から10年ほど、
 時代の進歩とともに3つのグループ分けもあやふやなものになっていくのか……。
 そもそも曲を知っているのか疑問だったけど、朱音ちゃんは自信たっぷりに
 小泉花陽ってアレでしょ? タイ米大好きアイドル! と言ったので、
 この勝負は痛み分けになりそうだなって、思ったんだけど。

「ふう! どうよ!」

 相変わらず上手。
 歌だけはハニワプロの中でも屈指の実力を誇る朱音ちゃん。
 見事な表現力で、真姫の涙を誘った。
 ――いや、泣く要素はあんまりないと思うんだけど!

「あ、あなた……!」
「統堂朱音よ、覚えておきなさい!」
「どっから声出してんの!」
「口からよ!」
「嘘言いなさい! 尻の穴からも声出してんでしょ!」
「うんこか!」

 先程までの感動的な歌を蔑ろにする低レベルの争いに
 頭痛を感じつつも、頬をつねりあって喧嘩する二人に、
 現役女子校生ってこんなに頭悪かったっけ? と思わずにはいられなかった。
 雪姫ちゃんの方は偏差値70に迫ろうかっていう高校の主席って聞いたんだけど……?
 頭の出来だけは私よりも優れていると言った真姫の顔に泥を塗りまくる妹に、
 トップアイドルに据えるという目標を立てた姉は

「次は演技よ!」

 ――まだ諦めてないのか。
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/20(金) 16:12:25.67 ID:f1b8U+9N0
 朱音ちゃんみたいに他はさっぱりでも、演技だけは上手!
 と、思っていた時期が私にもありました。

 エトワールで演技の経験があるのは理亞ちゃんだけだったけど、
 他の事務所のアイドルにすることなんかない! とツンツンした態度で
 協力を拒否されてしまったので、仕方なく私が雪姫ちゃんの相手役を努めた。
 本来なら、言い出しっぺの真姫が台本なり何なりを準備しなければいけないはずなのに
 シスコンだと思われるのが嫌という理由で、さっきからスマホばっかいじってる。

 ただ、先程までの歌と違って
 一応素人に毛が生えたレベル程度には演技をこなしてくれた。
 
「おい、うんこ!」
「なによおしっこ!」
「演技って知ってるの!? 台本をただ読むだけなんて、猿にでもできるわ!」

 できません。

「じゃあ、おしっこはできるの!?」
「当たり前じゃない! 出来なかったら、統堂おしっこに改名するわ! 姉が!」

 いけない。
 英玲奈の名前がおしっこになってしまう。
 あのシスコンお姉さんのことだから、朱音ちゃんが言えば
 妹が言ったことだからと殊勝な態度で改名しかねない。
 
「ふう」
「どうするのよ真姫、これは重症よ?」
524 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/20(金) 16:12:53.10 ID:f1b8U+9N0
「でも、そこをなんとかするのがエリーでしょ?」
「無理言わないでちょうだい……」

 その、期待あふれる眼をしながら、
 無理だと思うけど頑張って! みたいな態度をされると流石に腹に据えかねる。
 そもそも、何故アイドルデビューが出来たのか疑問レベルの雪姫ちゃんに対し、
 あなたは、演技も歌もダメです! と言った所で信用してもらえるかどうか……。

 うんこ! おしっこ! と、とんでもない会話をする二人を見ながら、
 こんなのどうしようもないよ……と、考えた所で
 絢瀬絵里に天啓が振ってきた!

「雪姫ちゃんに必要なのは……ライバルよ!」
「何を言っているのエリー、雪姫のライバルなんて幼稚園児でもなきゃ無理よ」
「朱音ちゃん!」
「な、何よ澤村さん……」
「あなたの演技で、雪姫ちゃんのこころをへし折ってやるのよ!」



 作戦は見事にハマった。

「おしっこ……」
「何ようんこ!」
「私が悪かったです……え、お姉ちゃん、私ってこのレベルなの……?」

 朱音ちゃんの見事な演技と表現力で
 自分の実力を悟った雪姫ちゃんは、真姫に助けを求めるように問いかけるものの、
 静かに首を縦に振られてしまい、がっくりとうなだれるに至った。
525 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/20(金) 16:17:45.48 ID:f1b8U+9N0
 真姫ちゃん誕生日記念。
 まだまだ続きます……。

 完結してから上げようと思ったのですが、
 作者のバイト先のパートさんが一人倒れ、
 就労時間の日数と時間が伸びそうです。
 よもや執筆どころではない状況に、追い込まれることは無さそうですが。
 ひとまず書けた分をあげておきます。
 基本土日休みなので、寝ないで頑張ろうと思った矢先に……。

 もう少しお待ち頂ければ幸いです。
526 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/20(金) 16:48:51.25 ID:R7X+nMKA0
おつおつ、いくらでも待つよ
にしても妹’sがお下品すぎるww
上品さは姉に全て持っていかれたのか・・・
527 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/20(金) 20:42:46.90 ID:N3K1YA0tO
姉は姉でお仕事で……
忙しい中乙!続き待ってます
528 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/21(土) 20:18:14.74 ID:VeHM7E7CO
頑張れー
529 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/21(土) 23:36:59.94 ID:PGHyI1gaO
まだかな
530 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/22(日) 08:31:39.16 ID:NawiDJkSO
医者が黙って首を振るシリーズ
531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/22(日) 13:16:55.94 ID:w+wzLV4V0
 いつだって現実を知ることは、本当に物悲しいことなの。
 なんて寂しく言った真姫に対し、
 何故もっと早く気づかせてあげなかったのかと、
 ツッコミを入れようかと思ったけど
 未だに現実に気づいていないアイドル(もう3年目くらい)が、
 キョトンとした顔で、ねえねえ、私の演技に対する賞賛は? って眺めているので
 口を閉じて笑いを堪えざるを得ないでいた。

 さて、現実を知ったことで謙虚に指導を受ける心意気になった雪姫ちゃんではあるけど
 この場でまともに演技指導できる人間は、演技が専門の職に付いている真姫か
 高校時代に同級生やら後輩から「やっぱり希先輩と付き合っているんですね」
 「穂乃果ちゃんと付き合っているんですね」「海未さんと付き合っているんですね」
 なんて問いかけられ、愛想笑いの演技を身につけた私(真姫にバラされた)か。
 
 なお、雪姫ちゃんは真姫が理亞さんが大好きな成人向けゲームの声優をしていることは知らず、
 以前秋葉原でコスプレをしながら自分の出演したゲームを買いに行った際のことで
 神対応と絶大な人気を誇ることになった件も(人気声優の鑑)と認知しているから、
 「ち」とか「ま」とか「う」を付けて、語尾に「んこ」とか付ける台詞の練習を、あろうことか、
 酒を飲んだ席でしていることは知られてはならない。
 そう、ファンに「エッチな台詞をエッチに読むコツは?」と聞かれ「自身の羞恥心と向き合う」「回数を重ねる」「参考にしたのは絢瀬絵里」
 と、のたまったことなど、どう考えても現役女子高生二人組に知られてはならない。 
 いくら、美味しいお店から出禁を何度も食らっていようと、彼女は人気声優です(愛想笑いをしながら)
532 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/22(日) 13:17:24.49 ID:w+wzLV4V0
「ええと、演技に必要なのはやっぱり経験だと思うの」

 演技のコツは「エリーにク@ニして貰えばいい」とか抜かしやがった真姫の口を必死こいて抑え
 (なお、二人はキョトンして言葉の意味の解説を求めた)ながら、理亞さんというアシスタント
 (人気成人向けゲームの声優のサインと収録の参加を求められた)を手に入れた私は、
 ひとまず場当たり的に差し支えのないことから言うことにした。
 
 雪姫ちゃんにも、朱音ちゃんにも、お前が演技の解説をする必要性はないだろ、
 みたいな眼で見られているのをスルーしながら、自分の知っている知識を披露する。
 だって、仕方ないんだもん、真姫は頑なに「私は歌を!」っていうんだもん。

「質問があります」
「はい、何でしょう?」
「本来なら、演技は姉が指導するべきだと思うんです」
「良い質問ですね!」

 池上彰スマイルで対応すると、横にいたツインテールがスネを蹴り飛ばしてきた。
 悶絶していると、何食わぬ顔で足を出した当人が私の前に進み出て

「お前たちは、プロの俳優の指導を受けられるレベルにねえからっ!」
「私までが!?」
「朱音もだ! バカ!」

 現役女子校生二人組は、解せぬと言わんばかりに理亞さんを睨みつけ、
 言葉の撤回を求めたものの、彼女の意志は鋼鉄並に強固だった。
 わりかし気の強い3人組がこの場に揃い、なんとも言えない険悪な空気が漂い始めたけど
 あろうことか、その空気を切り裂いたのは

「私は……! きっと、何者にもなれないお前たちに告げる……!」
「……っ!?」
「成人向けゲーム! しましょうか!」

 それ、あなたがしたいだけよね?
 と、言いたかったけど、スネがとても痛いので口に出せなかった。
533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/22(日) 13:17:54.75 ID:w+wzLV4V0
 さて、18歳未満にエロゲーをやらせる是非はともかくとして、
 演技に対してあまりに無知だった二人に、まずは興味を持ってもらおう!
 という心意気だけは買ってあげないといけない。

 ただ、理亞さんの部屋に入った途端に趣味を知っている朱音ちゃんですら
 「うわぁ」って顔をしたので、雪姫ちゃんのダメージはいくらばかりか。
 
「これが、普段姉が対応している……人種の……部屋……すごい!」

 姉の尊敬度が上がっただけだった!
 まあ、当人は理亞さんに自分のポスターはないのかと聞いて困らせてたけど。

「えと、理亞さん……何をやらせるつもりなの?」
「ふふん、声優と同じ体験をするというコンセプトで売れに売れた……! 【人気声優の生活を実体験するゲーム】よ!」

 何そのタイトル? と、疑問に思ったのは私だけで、
 他三名は「そんなのもあるのね」くらいの態度である。

「ふうん、3名の声優になりきって、魑魅魍魎あふれる世界を生き抜くか……」

 遠い目をしながら「ああ、あの人とかあの人とか顔が魑魅魍魎」とか言い出した真姫を華麗にスルー。
 デスクトップパソコンを起動し、ゲームを始めた。
 
「さて、西園寺雪姫! 統堂朱音! そして澤村絵里!」
「私!?」
「このゲームは基本的に、3名が演技力を向上させるターンと、イベントパートが交互に出てくるわ
 なので攻略しつつ、自身に必要な技術を身に着けなさい!」
534 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/22(日) 13:18:23.07 ID:w+wzLV4V0
 ということになった。
 なぜ、自分も参加しなければいけないのか、
 疑問は尽きなかったけど答えてくれる人は誰もいなかった。

 ただ、ゲームは真面目に演技の基礎から教えてくれたので、
 真姫が非常に感心していた。
 これさえやれば、いつでも私の同業者になっても平気ね!
 とか言い出したため、雪姫ちゃんと朱音ちゃんのやる気は向上したけど、
 どうせ、エロゲの演技をするためにはエッチしないと! とか抜かすんだろうな!
 分かるよ私は!

「……!?」

 真面目な演技パートから数時間、
 画面のキャラクターと同じセリフを読まないと許さない、
 何ていう恐怖の演技指導の元で
 18歳未満にはおおよそ見せてはいけないシーンが流れ始めた

「お、おね、おね、お姉ちゃん!?」
「鹿角理亞ァァァ!!」
 
 テンパり始めた現役女子高生二人に対し、大人二人組は
 これも修行だからと悟りを開き始めた。
 いや、でも、立場的に微妙なのはどう考えても私、
 需要も演技の予定もないアラサーが、現役女子高生と同じセリフを読まされている件について、
 児童相談所に駆け込んだら何とかならないかな……。無理かな……。

「雪姫」
「お、おね、おね!?」
「これを読めば、あなたは私と同じ場所に立てるわ」
535 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/22(日) 13:18:53.62 ID:w+wzLV4V0
 立たれても困る。
 ただ、ひたすら真剣な表情の真姫を見ると、
 その言葉にツッコミを入れるのは無粋な気がした。

 ただ、現役女子高生の妹にエロゲーの文章を読めば
 自分と同じになれるという姉を、もし親に見られたらどんな気持ちがするか気になった。
 まあ、親なんてろくなやついないけどね(遠い目

「よ、読みます!」
「う、うんこ!」
「ええ、なんでも読んでやりますとも! あと、これを読んだら、うんこ言うのやめろ!」
「わ、わかった! じゃあ、私も読むから、おしっこっていうのやめろ!」

 仲が良いのか悪いのか。
 ふたりとも張り合って、ひたすらエロい台詞を読むというこのシチュエーション。
 善子さんが昔やってたという生放送に投稿したらいかんばかり稼げるんですかね?

「エリーも読むのよ」

 あとは仲の良い二人でごゆっくり! って思った矢先に止められたよ!



 数時間後。
 肉体的、精神的疲労に立ちくらみがし始めた時に、ようやくエンディングにたどり着いた。
 
「よし、ようやくエンディングね!」
「こ、これで解放されるのね!」
「まさか」
536 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/22(日) 13:19:20.17 ID:w+wzLV4V0
 邪笑という言葉が似合う笑みを浮かべた百鬼夜行ツインテール。
 なんでもこのゲームは3人しかヒロインがいないくせに、エンディングが3つあるとか。
 グッドエンディングとバッドエンディングは分かるにしても、トゥルーとはいったい?

「まあ、演技としては及第点を付けましょうか」
「澤村絵里! なかなか上手だったわ!」

 褒められても嬉しくない。
 あと、理亞さんはどこから目線で出来不出来を判断しているのか。

「でも、これからが本番よ!」

 ズドンと置かれる本の山。
 ただひたすら現役女子高生と一緒に喘ぐという苦行をこなしている最中
 真姫が買い物をしてくるとどこかに消えてしまって、何をしているのかと思ったら
 
 現れたのは、演技の上達法、歌の上達法――そんなタイトルの本!
 実地訓練をしたあとは、ただひたすらに書いて覚える!
 そんな、お勉強大好きマッキーの高校時代の側面を見た気がして
 ――何とか逃げられないかとドアまで数センチまで迫った所

「ヒナァァァァァァ!?!?!?」
「私はヒナ・リャザン! 栗原陽向ではない!!」

 西園寺雪姫という部外者を入れることはあんなに渋っていたのに
 何故私の関係者(朝日ちゃんの関係者でもある)はホイホイ部屋に入れてしまうのか。
 今度、防犯について連々と説明をしなければいけないと心に誓った。
537 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/22(日) 13:19:49.65 ID:w+wzLV4V0
 何かと忙しい超有名声優の帰宅から数時間、
 元UTXの生徒会長と元音ノ木坂学院生徒会長二人による、
 現役女子高生(プラス自称・女子校生)に対するお勉強の時間が舞い降りていた。
 以前の真姫の指導でお勉強大好きになった朱音ちゃんと、
 元々勉強ができるタイプだった雪姫ちゃん。
 そして、自分の部屋に招き入れたことを後悔し始めた理亞さんの3名は
 読書をした後に、重要語句を暗記しているのか確認のためのテストをするという、
 受験生も真っ青なスケジューリングで演技力向上という目的の元、
 淡々とただひたすらにペンを動かし続けていた。

「安西先生……ダイプリがしたいです……」
「諦めたら?」

 ヒナと理亞さんの関係は、エロゲー製作者と重度の廃ゲーマーという関係でありながら微妙に冷たい。
  
 先程まで顔を真赤にして、ただひたすらエッチな文章を読むという苦行をしていた
 現役女子高生二人組は、勉強のほうがマシという共通認識のもと、
 うんこ! おしっこ! なんて会話をしていたことを忘れさせる真剣な表情。

「これが終わったら、歌唱指導なんですよね?」
「ヒナにできるの?」
「あなたに教わったことをすべて教授するつもりですわ」

 エロゲーの文章をひたすら読むというシーンを
 あろうことか古い親友に見られるというダメージから立ち直れない私は、
 含み笑いをするヒナに対しても何も言えなかった。

 ――そのことを後悔するハメになろうとは、この時の私は夢にも思わなかったのである。
538 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/22(日) 13:20:18.78 ID:w+wzLV4V0
 お勉強の時間の後、いくばかりかの食事休憩とお風呂タイムをこなした私たちは
 歌の訓練ということで地下のレッスン場に集合していた。
 
「歌というのは、どんなに酷い音痴であろうとも、必ず矯正できます」
「……」

 声量のない電波系ソングの歌い手(と、ヒナに称された)西園寺雪姫ちゃんは
 これから何が起こるのか不安たっぷりといった感じだけど。
 割と歌は上手な理亞さんと朱音ちゃんは、これが終わったらどこの店で打ち上げする?
 なんて会話をしていた、片方は女子高生なんだから自重しなさい。

「私は高校時代に大変な音痴でした、ですが」
「ですが?」
「金髪ポニーテールは片手に鞭を持って、紫おさげは猿ぐつわとロープを握りしめて、わたくしの指導に当たりましたわ」

 理亞さんが「!?」みたいな表情をして、私を見やる。
 まったく記憶に無いけど、当時の私ならやりかねない指導法に
 苦笑して答えるしかなかった。

 あと、希は加害者じゃん! さっきLINEしたらエリちは厳しくてなーとか言ってたのに!

「ですが、わたくしも鬼ではありません」
「ほ……」
「悪鬼です」
539 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/22(日) 13:20:48.86 ID:w+wzLV4V0
 邪悪でドSな笑みを浮かべたかつての親友に、背筋の凍る想いをしながら
 妹にドンキで拷問器具を買えと宣言した人物と同一なんだなと思わずにはいられなかった。

 まず雪姫ちゃんを動けないようにロープでぐるぐる巻きにして
 (当然抵抗されたが、スタンガンでの脅迫に屈した)
 床に転がした後、まずは大きな声を出す訓練とやらを始める。

「あの、ヒナ、これは?」
「ツボ押し器、失敗したら足の裏を押してあげて」
「……ええ?」

 怪訝な声をだす私に対し、顔を見たヒナは

「あなたは、私の足に、針を刺しました」
「ようし! 雪姫ちゃん! 頑張って!」

 過去の自分を振り返らず、現状に満足することに専念した。



 地下レッスン場に高らかな悲鳴が響き渡る中、
 主に悲鳴をあげている雪姫ちゃんの姉、真姫がやって来た。
 何をしているのかと憤慨するかと思われたけど、
 まあ、これくらいしないといけないわねと諦めた目で指導を見た後、

「エリーはやらないの?」
「え?」
「これ、高校時代のエリーの特訓なんでしょ?」
「いや、でも、ほら記憶に……」
「同じ目にあったら思い出すかもよ?」
540 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/22(日) 13:21:17.36 ID:w+wzLV4V0
 はは、ご冗談を。
 と私が言った瞬間、鹿角理亞、統堂朱音の両名が私の右腕、左腕を取り押さえ
 荒縄を持つ冷たい笑みを浮かべたヒナが迫り、

 ――私は自分の敗北を悟った。
 絢瀬絵里はァ! 敗れたのではない……過去の自分に負けたのだァ!
 と、高らかに宣言し、周りにちょっと壁を作った。



 大きな声を出すことによって、歌声がマシになってきた雪姫ちゃんと
 足の裏に穴が開くんじゃないかってくらいツボを刺激されて
 健康的になった絢瀬絵里とのデュエットが流れる中――

 次は何をしてあげましょうかと、妖怪みたいな笑みを浮かべるヒナに対し、
 命まで取らなければ何をしても良いという理亞さんと
 もっと高らかな悲鳴を聞きたいという朱音ちゃん
 そして、私の過去に興味を持ちがちな西木野真姫の3名が次に提案した作戦は

「やっぱり、基本に立ち返って、上手い人の技を盗むべきね」

 と、至極真っ当なものだった。
 
 なので、もうとっくに深夜を回っている時間
 シェアハウス内のリビングに陣取ったメンバーは、
 ならばとっておきの映像があると語ったヒナの甘言を聞き入れた。
 ここでもう少しまともにツッコミを入れておけば、
 後に起こる悲劇を回避できたかと思うと、残念に思わずにはいられない。

「これ、もう撮影しているの?」
541 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/22(日) 13:21:46.31 ID:w+wzLV4V0
 テレビの画面に現れたのは、高校時代の絢瀬絵里。
 画面の端っこの方に制服を着ている園田海未がいることから、
 音ノ木坂学院で撮影されたものだと思われた。
 なぜそれを、UTXの生徒会長が持っているのかは疑問だけども、
 とにかくまあ、始まった映像に文句を言わずに全員で眺め続けていた。

「なんで映像付きで、コーラスの収録をしなければいけないのかわからないけど……」

 苦笑している私を、おんなじような表情で眺める。
 
 撮影をしているのは真姫らしく、時折彼女の指示が聞こえてくる。
 ――園田海未、絢瀬絵里、西木野真姫。
 この組み合わせにピンとこないのは、どうやら朱音ちゃん一人みたい。

「ソルゲ組、μ'sの中でもトップクラスの歌唱力を持った三人組です」

 説明を受けてもなお、ふうんみたいな反応。

「要は掛け声よ、絵里。にこちゃんのカンペ通りに読んでみて」
「ハラショーって言えばいいの?」
「そうそう、上手にね」

 意図がわからない真姫の指示に、ひとまず頷いた絢瀬絵里。

「ハラショー!」

 羞恥7割といった感じで(でも微妙にノリノリ)自分の口癖を披露する。

「これが、どうなるの?」
「まあ、見てなさい雪姫」

 真姫は過去の記憶があるのか、
 この後何が起こるのか楽しみで仕方ないと言った表情。
542 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/22(日) 13:22:20.08 ID:w+wzLV4V0
「そうね、もっと高らかに!」
「ハラッショー!」
「うん、いい感じよ! もっとありふれた悲しみの果て!」
「ハラァショー!」
「そうそう! COLORFUL VOICE!」
「ハラッセォォォ!!!」

 真姫の意味不明な指示に、何も疑問も思わず
 テンションがどんどんと上っていく過去の私。

「凛っぽく!」
「ニャァァァァ!」
「にこちゃん!」
「ニコォォ!!」
「花陽!」
「ピァァァァァァ!!!」

 もうやめて!
 現在の絢瀬絵里のライフはゼロよ!
 でも、他のメンバーから取り押さえられている私には何も出来ない。

 結局、海未のラブアローシュートを披露するにいたり、
 憤慨した彼女の手によって手刀を叩き込まれ昏倒するまで
 羞恥プレイは続いていった。

「えと、これは?」
「あなたは、まだ羞恥心が残っている……!」

 疑問を呈した雪姫ちゃんに対し、
 そんなことも分からないのかと言わんばかりのヒナ
 当事者の私でさえ、
 「これは上手い人の真似をするための映像」ではないのかと疑問しかないんだけど。
543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/22(日) 13:22:53.95 ID:w+wzLV4V0
「でも、あのμ'sのダイヤモンドプリンセス絢瀬絵里でさえこうなの! 
 彼女は歌のためなら羞恥心すら捨てる!
 西園寺雪姫! あなたは……絢瀬絵里になるのよぉぉぉぉ!!!」

 ズガーン! という効果音が出そうなくらいに
 指を指した親友が、こちらを見てニッコリと微笑むのを見ながら
 神を恨んだ。



「なんか途中から、二人の指導だけじゃなくなったわね」
「どうしたの理亞ちゃん」

 西園寺雪姫に対する指導を思い出しながら、
 何故あれでトップアイドルになれたのかと疑問を持たざるを得ないけど。
 マネージャーが運転する車でハニワプロまで帰る道すがら、
 ルビィと一緒に演技力向上のための話し合いを行っていた。

「うん、まあ、経緯はどうあれ、友人に恵まれていれば、なんとかなるものよ」
「したり顔でどうしたの理亞ちゃん……」
「あと、困難は結局自分でどうにかしなきゃいけないのよね」
「なにがあったの、理亞ちゃん」



 さて、その後一ヶ月。
 絢瀬絵里を目指すとかいう微妙なコンセプトのもと、
 西園寺雪姫ちゃんは髪の毛を金髪に染め上げて、鍛錬に望んだ。

 その最中、絢瀬絵里を目指しただけでは将来が心配という
 こちらとしては苦笑いをせざるを得ない、私たちの担当Pのアドバイスの元、
 絢瀬絵里プラス西木野真姫のハイブリッド路線に軌道修正する。
544 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/22(日) 13:23:22.10 ID:w+wzLV4V0
 しかしなぜかそれがハマった。
 
 羞恥心を捨てきった雪姫ちゃんに「エッチな声を上げれば歌も演技も上手になる!」
 と、意味が分からないアドバイスをした真姫の手でみるみる成長をした彼女は、
 わずか三ヶ月という短い期間に、深夜番組のドラマの主演を勝ち取った。
 
 それから半年、彼女は歌から演技まで何でもこなすスーパーアイドルとして
 破竹の勢いで芸能界を席巻している。
 
 そんな西園寺雪姫に憧れるアイドルも増えたそうだけど、

「じゃあ、まずエッチなことしましょうか」

 と、声をかけてドン引きされている件が
 芸能記者にすっぱ抜かれてスキャンダルになりやしないか
 私、絢瀬絵里は不安で仕方がない。

 あと、絢瀬絵里プラス西木野真姫路線にはハマらなかった朱音ちゃんだけど、
 歌もトークも演技も無難に成長を始めたおかげで、アイドルのラジオのパーソナリティに選ばれ
 統堂英玲奈がハガキ職人になって、仕事に支障をきたしたのを付け加えておく。
545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/22(日) 13:32:13.75 ID:w+wzLV4V0
途中、西園寺雪穂という謎の人物が登場し、
作者が冷や汗をかいて修正したことなど知られてはならない(使命感)

とりあえず、
真姫ちゃんの出番がそれほどない、
真姫ちゃんお誕生日記念も無難に終了し、
二作目のカラオケ編をなんとかして仕上げたいな、と思っております。
546 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/22(日) 13:54:38.52 ID:GG76IXdMO
乙まきちゃん
エリーのかわいさとマッキーのかしこさで最強アイドル誕生なわけか
>>545
いつの間にかユッキーを嫁にしてるとは雪姫ちゃん末恐ろしい…
547 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/22(日) 14:40:31.52 ID:9uxDI9sbO
えりちの黒歴史がまた一ページ……可愛いからセーフか
548 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/22(日) 16:11:08.18 ID:w+wzLV4V0
レスありがとうございます。
ほんとうなら、全レスをしたいのですが
こういう場所での全レスはどうなんだ感があるので、
いつも自重しています。
ただ、そういう気持ちは作品の更新度で!
というと、1レスを待っていてくださる方に刺されかねない(まだネタが思いつかない)

黒歴史を披露するのがいつもエリちなのではないか?
パターン化してしまっているのではないか?

という、疑問は自分で解決する方向で行くのですが。

他、Aqoursやμ'sと言ったメンバーも黒歴史を披露する場を持ったほうがいいのやも?
ということを考えて、
ただ、他者の黒歴史を異様に知っているエリちは、ちょっと物語のコンセプトから
外れてしまいかねないので、
今回の番外編のようにちろっと、他キャラクターの視点で語ろうかなと思っております。

決定事項の事前報告で申し訳ありませんが、
とりあえず、少しだけエリちいじりを自重して、ネタ追求されるAqoursやμ'sメンバーを
書いていけたらと思います。

一番最初に黒歴史がありそうとネタにしそうな「理亞」「真姫」
そして、序盤でセリフ無しで登場以降、誰にも触れられない「曜」ちゃんあたり。
曜ちゃんは誕生日もスルーしてしまったので、彼女を何とか。
549 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/22(日) 17:16:25.91 ID:s1DnXnrVO
個人的にイジられ絵里ちゃん大好物なので今の路線のままでも大歓迎
>>540あたりで好感度上げすぎてたら縛られたままロストバージンもあったのかなぁと妄想してみたり
550 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/22(日) 18:59:16.66 ID:f8ozSTMYO
曜ちゃんは飛び込みの選手だっけ
カラオケ編もあっちのスレも期待して待ってます
551 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/22(日) 21:41:13.17 ID:fqEGO06g0
歌も演技もダメダメだった雪姫ちゃんが、一年足らずでスーパーアイドルに・・・エロゲってやっぱ凄い!!
552 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/23(月) 16:20:51.50 ID:T337RFjSO
ダイヤさんがダイプリユーザーなのかとかも気になるな
553 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/23(月) 19:21:20.07 ID:nnPv/LOSO
雪穂も雪姫もどっちもユッキーて呼ばれそう
554 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/24(火) 15:26:07.58 ID:GQ86yLMB0
お久しぶりです。

アラ絵里の更新を日々楽しみになさっている
読者の皆々様。
この度は、作者急病の連絡と
それに伴った更新停止の連絡に参りました。

ただ、
内科的な病気でも
精神的な病気でも
ましてや仕事のし過ぎということではなく

執筆に伴う、
座りすぎ
書きすぎによる、
肩こりと腰痛でちょっとヤバイ状態になっております。

歩くのが辛いレベルの腰痛だったので、仕事帰りに整体に行ったら
壊れる寸前まで追い込まれていたらしく、
整体に週1ペースで通うことになりました。

ただ、体が動くうちは執筆したいので、
短い話をチラホラと書くことはあるかもしれません。

皆様も、お体にはお気をつけて。
壊す前に対策を。
555 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/24(火) 15:46:15.11 ID:Z2ccUZd8O

続きは楽しみだけど無理しないようにね、お大事に
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/24(火) 15:58:43.82 ID:isAD7ohq0
ドクターストップってやつか・・・
ゆっくりペースでも良いから読み続けたいけど無理はさせられないよな
いつか再開してくれること祈ってる
557 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/24(火) 20:34:11.52 ID:joYzvWaMO
始まってからずっと一番楽しみにしてたssだからショックだわ……
558 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/24(火) 22:51:48.19 ID:1D8M7DYRO
エタではないと信じてる
559 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/25(水) 07:48:36.44 ID:4lIA5KeSO
冨樫仕事しろ
560 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/25(水) 20:15:21.22 ID:+Ow2WSvDO
有能物書きは腰にクるのか
561 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/26(木) 20:32:45.12 ID:/97b9HSc0
取り急ぎ報告。
次は、ワナ絵里の真姫ちゃんお誕生日記念だねー
とか、考えてちびちびと書いていましたら、
思ったよりに身体に来てしまって、
これはもうダメだ、アラ絵里かワナ絵里の本編のどっちかを進めよう。
もう番外編とか書いてる場合じゃない。

ということを決めました。
なので、ひとまず
アラサーニートエリちとキャリアウーマン亜里沙 絢瀬亜里沙ルート(長い)
の前半戦完結まで、こちらに専念をします。
と言っても、1話か2話くらいで終了する予定の、短い感じですが。
絢瀬亜里沙ルートと言いつつ、全然目立ってない亜里沙さんですが、
後半では、ツバサを押しのけて準主役に……なると……思うんです……たぶん……。

ひとまず、寝るか、休むかしてから
絢瀬亜里沙ルート第三話をスタートさせます。

投稿スタイルなのですが、
おまたせするのも申し訳ないので、
書き上げた時点でこちらに挙げます。
ぶつ切りになって見難いかと思いますが、
ピクシブの方にも挙げますので、一気に見たい方はそちらで。

ただ、ピクシブの方、どのURLを貼っていいかさっぱりわからないので、
ハーメルンに移住させることも視野に入れています。

内容だけのレスで申し訳ありませんが、
もう少しだけお待ち頂いてくださればと思います。
562 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/26(木) 21:53:34.63 ID:DoseEA/jO
おお?!復活きてくれるのか?
いや、ホント嬉しいけど無理だけはしないでね
563 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/27(金) 15:23:57.95 ID:JsbPP0ZBO
本家みたいに一年とか待たされなさそうで良かった
564 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/29(日) 17:53:45.38 ID:x1Z2S+FbO
ぶつ切りでもなんでも良い
続いてくれて嬉しい
565 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/30(月) 17:31:51.94 ID:nO8DD+ec0
お久しぶりです。
書く書くと言いつつ、
第三話冒頭……やばい! グループ名決まってない!
という、致命的なポイントにぶち当たりまして、
今朝ようやくグループ名と掛け声も決まり、
後はかぶってないことを祈るだけです……。
何とか、明日とか、明後日には第三話を完成させることを目指して邁進中です。
取り急ぎ、報告まで。
566 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/30(月) 20:55:04.14 ID:LZrj41ctO
グループ名ってことはいよいよ本格始動か
567 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/01(火) 23:16:25.77 ID:/YqjqCS+O
待ってるぞ
568 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/03(木) 16:18:11.59 ID:N2agbsWJ0
お久しぶりです。

……申し訳ありません。
腰の調子があまりに悪くて執筆どころではないのと、
なかなか脳内がシリアスモードにならなくて3話の執筆に取り掛かれません。
μ'sやAqours、SaintSnow、他オリキャラが総登場する予定の話で、
かつ、理亞ちゃん担当のプロデューサーの顔出しという重要イベントがあって!
みたいな感じなので、なかなか、今までのとおりには行きません。

アラ絵里裏話みたいな、
お話に関係ない話なら毎日更新が可能なのですが、

「鹿角理亞ちゃんの好きなブランドはアリスソフト」
「好きではないブランドはニトロプラス、クロックアップ、TYPE-MOON」

「海未ルートで、一人ひとりと飲むといっていた海未ちゃん」
「でも、真姫ちゃんと希ちゃんとは飲んでいない」

「にこちゃんと飲んでいた真姫ちゃん、ここあとエロトークで意気投合」
「この処女コンビは家で飲むな! とニコちゃんと注意された話がある」

「真姫ちゃんのエリちへの好感度がやけに高いのは、エリち以外自分とサシで飲んでくれないから」

のような、くだらない話ならしばらく続けられるのですが
SSスレでなくなってしまうので……
ほんとう、しばらくお待ち頂ければ幸いです。
あと、長くなります……。 
569 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/03(木) 16:34:44.43 ID:/6TOU/by0
> 「にこちゃんと飲んでいた真姫ちゃん、ここあとエロトークで意気投合」
> 「この処女コンビは家で飲むな! とニコちゃんと注意された話がある」

> 「真姫ちゃんのエリちへの好感度がやけに高いのは、エリち以外自分とサシで飲んでくれないから」

この辺とてもとても気になる・・・報告乙です
体の問題ばっかりはどうしようもないよね、ご自愛ください
570 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/03(木) 18:51:19.95 ID:B2KkznfkO
くだらない話も読みたいぞ
571 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/05(土) 09:26:21.00 ID:5oRT5R0SO
理亞は純愛厨か?
572 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/07(月) 20:55:39.23 ID:C6VSQjaK0
 レッスンが終わったと同時に、
 床に倒れ伏し、ひとっつも動かなくなった朱音ちゃん(6日連続6回目)
 そんな彼女のほっぺたをエヴァちゃんと二人で突っつきながら
 私はここ最近のハードなメニューを振り返っていた。

 なんと起床は朝の五時。
 それからご飯も食べずに柔軟から基礎練習。
 口々では、地獄なんて! と南條さんを笑っていた
 私たちの鼻っ面を見事にへし折ってくれた。
 なお、ここ数日のレッスンで中国雑技団にも出れそうなレベルで
 私は柔軟ができるようになり、他のメンバーから失笑された。

 ハードなトレーニングで朝食もロクに食べられないメンバーが揃う中
 そのころになってようやく起床してくる他参加者に
 やつれたねと苦笑いされるケースも増えた。
 消耗が激しかった朱音ちゃんのために
 一回カレーが出たことがあったんだけど、
 目の前にあったスプーンを持とうとして落とすことを繰り返し、
 食事場は一瞬でお通夜の空気になった。
 なお、英玲奈はその際、口移しでも食べるかと言ってツバサやあんじゅに止められてた。

573 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/07(月) 20:56:05.72 ID:C6VSQjaK0
 メニューは軽いのに重い朝食が終わると、レッスンが本番になる。
 トレーナーだの、振付師だの、そういう肩書のひとが
 入れ代わり立ち代わり、現れるは現れる。
 いやあ、こんな人に教えてもらえるなんて嬉しいなーって言っていたみんなも一日すると、
 振り付けとかの前に顔を覚えなきゃいけない状況に文句が出た。

 一日中踊ったりなんだり、
 以前流行した、太った人がダイエットする番組を彷彿とさせるレッスン量に
 よもや体重が数キロも落ちてやしないかと思って体重計を探したら
 前日に同じことを考えついたらしいツバサが、曇った笑顔で

「エリー、女の子が痩せる時は胸から痩せるそうよ」

 などと言いつつ、私の脇を通り過ぎていった。
 哀愁が漂う背中だった。

 紆余曲折があったものの、
 アイドルとして活動ができるかもしれないと喜んでいるメンバーを差し置いて、
 私の立場はひたすらに微妙だった。
 
 自分が絢瀬絵里だということはおくびにも知られてはならないし。
 アイドル活動を喜んでいるというわけでもない。
 寮の管理をする仕事だったはずだよな? などと疑問に思えば
 今やっていることがそれの延長線上にあるのかどうか考えたら闇に落ちそう。
 
 私の人生、
 割と巻き込まれるままに時間が流れてしまうことが多いけど、
 今回の件は人生最大級の巻き込まれっぷりである。
 なぜニートだった私がいつまにかにアイドルに混じってレッスンを受けているのかとか
 1日15時間も踊り続けているのかとか、
 センターは澤村さんに決定ね! っていうみんなの笑顔に苦笑しながら
 まあ、そういうのも悪くないかもしれないな、って思い始めた自分とか
 ほんとう、疑問に尽きないことは多いんだけど……。
574 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/07(月) 20:56:33.21 ID:C6VSQjaK0
 あと、μ'sのメンバーにLINEを送ると返信が来なくて怖い。
 これからちょっと忙しくなるからっていう穂乃果とか海未とかのLINEを最後に
 どんなに送っても既読にすらならない。
 もしかして私は浦島エリちになったのかと思ったけど、
 その事を理亞さんに言ったら遠い目をしながら、
 友情って簡単に瓦礫のように崩れるのよね、そうそう姉さまとも連絡が取れなくて
 って言って、姉妹間の仲が心配になった。

 A-RISE復活ライブまで後2週間になった日、
 そういえば自分たちのグループ名とかどうなるんだろ?
 なんてことが頭をよぎったので、たまたまいたキグルミのプロデューサーに
 その事を言ってみると、中に入っている人が強烈に慌て始めたことが分かるほど
 バタバタと動き出してどこかに行ってしまったので、
 ちょっと相談する相手を間違えたな、って思いながらレッスンに取り組んだ。

 その後、レッスン終了後真っ白に燃え尽きたジョーみたいになった朱音ちゃんを
 温泉まで連れていき、身体や髪の毛を洗ってあげている最中、
 南條さんに手招きされたので、行ってみることにする。

「どうしました?」
「レッスンでお疲れのところ申し訳ないんですが、相談したいことがありまして」
「相談? 南條さんが私にですか?」
「え、グループ名のことについて、ぜひ絵里さんの意見を聞きたいと思いまして」

 忘れてた。
 そういえば朝に、そんな事が頭によぎったなと思ったけど。
 そんなことをおくびにも出さず、ようやく気づきましたかって言わんばかりの態度を取る。
 なお、南條さんの視線の温度が2度ほど下がったので、私は平身低頭スタイルを取った。
575 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/07(月) 20:57:09.50 ID:C6VSQjaK0
 お風呂上がりになんとも暑そうなキグルミPを眺めながら、
 彼(もしくは彼女)はいつ脱いでいるんだろうと疑問に思ったけど、
 そういえば、私らが着替えてたり、無防備なだらけモードでも平気でその場にいるから
 仮に男性だったらちょっとしたスキャンダルだなって思った。

「グループ名だけじゃない、掛け声も決めないと」
「そうですね、ツバサさん」
 
 今この場にいるのは、私とツバサと南條さんとキグルミさん。
 他のメンバーは参加させないのかと聞いたところ、
 そんな事はいいから寝かせて欲しいと懇願されたとか、
 割とグループ名って重要だと思うんだけども……まあ、朱音ちゃんを参加させようものなら
 シスコンお姉さんがついてくるので、そのあたりの判断は正しかったかもしれない。

 なお、統堂姉妹の仲の良さを見て、理亞さんは最近ホームシックにかかった。
 
「ええと、プロデューサーからいくつか候補をいただきました
 ただ、グループのコンセプト上、やはり代表の絵里さんに決めてもらうべきかなと」

 なぜ私が代表なのかとツッコミを入れたかったけど
 いつの間にか、全員集合しているのにセンターで踊らされているのを見ても誰もツッコまないので
 まあ、そういうのもありかなって思いつつ。

「エリー、自分のグループなのだから素敵な名前を頼むわね」
「と言われてもねえ……はっきり言うけど、私命名センスとか無いわよ?」

 私がそう言うと、キグルミのプロデューサーが全力で首(だと思う)を振る。
 まるで、私の命名センスが素晴らしいと言わんばかりだけど、
 南條さんが微妙に慌てて、彼女(だと思うことにした)を止めていた。
576 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/07(月) 20:57:37.15 ID:C6VSQjaK0
「うーん、現役女子高生もいれば、アラサーニートもいるわけでしょ?
 だからなんとなく、ごちゃまぜとか、ていうか、このグループのコンセプトって?」
「ええと、はじまりとか、理想とか、希望とか、そういうのね」
「……私たちのどこにそのコンセプトがあるのかはわからないけど?」
「まあ、世の中のグループでコンセプト通りに行くなんてことはありえないから良いのよ」

 うーん、にしたって。
 メンバーに特別共通点があるわけでもなし。
 あるとすれば……なにか挫折しているとか、落ちこぼれ扱いとか、
 そうだなあ……。

「そう、考えてみると、私たちって再出発組だと思うの」
「再出発? そもそもエリーって再出発してるの?」

 ツバサがぐさっと刺さるようなことを言う。
 だけど負けない、エリーチカは女の子だから!

「だからねリスタートとか、そういう言葉を使いたいかもね」

 私の言葉を聞いたキグルミの人が、身体をびくんと揺らし何事かをスケッチブックに書き込んでいる。
 
【Re Stars】

 ――スケッチブックに書き込まれた言葉。

「これって、グループ名?」
「おー、言葉の意味はよくわからないがいい感じかも」
「そうですね、では読み方を一捻りしましょうか」

 みんなであれやこれやを考えた末、
 私たちのグループ名は【Re Stars −リスタ−】と決まった。
577 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/07(月) 20:58:04.38 ID:C6VSQjaK0
 A-RISE復活ライブまで3日。
 みんなの動きも完璧に思えるようになり、
 後は本番の会場で動きを確認するという段階になって問題が起きた。
 いや、問題が起きたと思ったのは私だけみたいで、
 何ていうかみんなが平然としているのが気になったのだけれど。

「広すぎない……?」

 そう、ステージがだだっ広いのである。
 アイドル30人くらいが踊って歌えそうな場所にぽつんと立ちながら
 何百人レベルで入れる観客席を見渡す。
 μ'sでは、割と狭い会場で踊ったりするケースが多かったから
 本当に圧倒されてしまいそうなくらいだ。

 本番では機材を置いたりなんだりするだろうから、
 一応これよりは狭くはなるのかもしれないけど、
 この場所にぽつんと5人立って歌って踊らされるかと思うと、
 私はちょっとだけ恐怖で震えてしまった。

「エリー」
「うん?」
「いついかなる時もね、センターっていうのは、リーダーっていうのは、
 平然としていなければならないのよ」

 ツバサは前を見ながら、さらに言葉を続ける。

「安心して、あなた達のパフォーマンスは保証するわ
 このライブは、絶対に成功する。
 ま、仮に成功しなかったとしたら、悪く言われるのはハニワプロだからいいのよ」
578 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/07(月) 20:58:31.77 ID:C6VSQjaK0
 外様のツバサさんとしたら、その悪評は結構困ったことになりかねない気がするけど。
 そういえば英玲奈は事務所が違うのに、ハニワプロ完全プロデュースを受けてるね?
 まあ、A-RISEは事務所の垣根を超えるほどのトップアイドルだから良いんでしょ(テキトー)

 その後、会場での本番を想定したリハーサルを行い、
 ここで、ちょっとみんなにドッキリしまーす! と南條さんが宣言し
 やれやれって感じで弛緩した空気が流れるかと思いきや、
 私以外のメンバーは真剣な表情で自分の立ち位置を確認していた。
 何も知らされていない私はと言えば、そのみんなというのは
 もしかして私のことではないのかと不安になったけど、
 誰を頼ることも出来ないので、ひたっすらウロチョロしていたら理亞さんにスネを蹴り飛ばされた。
 あまりの痛みに悶絶しているうちに、みんなの動きの確認も終わり、
 私はと言えば頭に特大のはてなマークを浮かべながら、
 ドライバーさんが運転するハニワプロのワゴンに乗り込んで、いずこかへと向かった。



 私の脳内で、以前も聞いた気がするカッポーンという音がした。
 ワゴンに揺られること数時間、
 μ'sのメンバーが集まっての飲み会というイベントが
 もうすでに遠い過去になってしまった感のある絢瀬絵里ではあるけれど。
 この場所は忘れようはずもない。

 東條希が花瓶の中に入りドッキリをしようとし、
 結果的に西木野真姫が呪いをかけられてのたうち回った、
 高海千歌ちゃんが働いている温泉旅館。
579 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/07(月) 20:58:59.85 ID:C6VSQjaK0
 以前も確か希が二日くらい貸し切りにしていたような?
 なんてことを考えつつ、まあ、芸能関係者が気軽に貸し切りにできる
 便利な旅館なのだと言う認識を深めた。

 ようこそアイドル御一行様という
 意味がよくわからない歓迎を受けた私たちは、
 中に入ると衝撃的な光景を見ることになった。

「な、なんで……?」

 スクールアイドルμ'sのフルメンバーが
 スクールアイドルAqoursのフルメンバーが
 スクールアイドルSaintSnowのフル……というか、鹿角聖良さんが
 その他諸々、様々な時代に活躍していたスクールアイドルのメンバーが勢揃いし、
 私たちを待ち受けていた。

 真っ直ぐな瞳を向けるみんなが、
 私たちを見つめていた。

 そして、私たちを押しのけるように前に立ったキグルミのプロデューサーが、
 南條さんに背中のチャックを外してもらい
 その中身を登場させると、
 私の周りから、
 スクールアイドルのみんなから
 とにかく大きな歓声がまき起こった。
580 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/07(月) 20:59:29.59 ID:C6VSQjaK0
「どうも、こんにちは 
 ハニワプロ所属
 このたびの企画のチーフプロデューサーを務めます
 絢瀬亜里沙と申します」

 昏倒するかと思った。
 驚きすぎて悲鳴をあげるところだった。
 でも、私は声もあげられず、
 何もすることも出来ず。

 愕然としているのを、
 力が抜けそうになるのを、
 ツバサと英玲奈に両脇を抱えられながら

 キャリアウーマン絢瀬亜里沙が
 
【A-RISE復活ライブにおける、Re Stars登場の運び、そして】

【アイドルを夢見る女の子たちに
 アイドルの力を見せつけるために
 かつてμ'sが巻き起こした奇跡
 SUNNY DAY SONGをみんなで歌うというイベントの詳細を説明するのを】
 
 貧血でも起こして倒れそうな勢いのまま、私は聞いていた。
581 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/07(月) 21:02:50.62 ID:C6VSQjaK0
すっごいおまたせしました!
本当に申し訳ありません!

ただ、この第三話。
まだまだ続きます。
腰の状態も良くなったので、
1週間以内に第三話を終わらせる勢いで
頑張っていきたいと思います。
582 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/07(月) 21:04:49.31 ID:WNktHEld0

続き楽しみ
583 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/07(月) 21:24:37.20 ID:anUDYzrT0
待ってたよ!!!更新ありがとう
グループ名横文字のかけことばってのがオシャレだし込められた意味も良い・・・
584 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 02:01:59.56 ID:oHS+nZye0
 亜里沙が話しているのを訥々と聞いた後、
 彼女はこちらに目を向けずにどこかへと行ってしまったのを見たツバサが

「行きなさいエリー」
「何を言えば良いのか……わからないわ」
「別に、特別な話なんてしなくても良いと思うわ」
「その、私も状況を受け止められなくて」
「気まずいと思っているのは、彼女も同じよ、だから、安心しなさい」

 その言葉と同時に、右腕と左腕の支えが取られる。
 フラフラと二、三歩前に出て、そのまま旅館の屋上を見上げ
 本当は逃げ出したくて、 
 いつものパソコンの前に戻りたくて、
 ああ、そういえば愛しいパソコンはツバサの家だと思い出し、
 私は何かを振り切るように首を振り、
 すごいすごいと盛り上がってるRe Starsのメンバーに後はよろしくと告げてから駆け出した。



 どこに行ったか検討もつかなかったけど、
 働いていた仲居さんに、やたらめったら偉そうな態度をとったやつが
 どっかに行かなかったかと聞いたところ、3人目の人が亜里沙の場所を知っていた。
585 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 02:02:26.47 ID:oHS+nZye0
 いや、まあ、本当に偉そうに歩いているかどうかは分からないけど
 チーフプロデューサーというからには偉いんだろう、そういうところはわきまえている。
 立場が人を作ると言いますが、ニートという立場はいったい人間をどうするんですかね?
 なんて嘯いた亜里沙だから、人からどう見られて、どういう態度を取ればいいか、ちゃんとわかっているはず。

 離れにある結構大きな部屋の前で
 南條さんが苦笑いしながら私のことを待っていた。
 もうちょっと早く来れなかったんですかとは彼女の談だけど、
 それなら色のついた米でも撒いていてほしかった。 

「まあ、ちょっと昔話をしましょう」
「いや、私は、亜里沙と会話がしたくて」
「心の整理がつかないまま話した所で、良い結果は得られませんよ
 こういう時は年長の人間のすすめに従うものです」

 と言われてしまえば、年下の人間としては頷かざるを得ない。
 お互いに正対して椅子に腰掛け、南條さんが口を開くのを待った。

「亜里沙さんがうちのバイトだったのは知ってますね?」
「えーっと、どこで働いているのかまでは知りませんでしたけど、まあ、バイトをしていたのは知ってます」
「当時、私もプロデューサーなんて立場ではなく、一介の事務員でした」

 絢瀬亜里沙が高校入学した日。
 親友である雪穂ちゃんにアルバイトの面接に行くと告げ、
 電車に乗ってハニワプロに駆け込んだ亜里沙は――
586 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 02:02:54.31 ID:oHS+nZye0
「思えば、なぜウチだったんですかね?」
「もう10年も前ですけど、たぶん、そこしか知らなかったんだと思いますよ」

 アポもない、
 コネもない、
 ついでに言えば時間もない。
 そしてそもそもバイトの募集もしていない。
 そんなハニワプロに現れた亜里沙は、ここで働かせてください!
 と、どこかのジブリ映画の主人公みたいな台詞を吐き、平身低頭スタイルを取った。
 困った警備員のオジサンが、たまたまいた赤羽根プロデューサーに声をかけ、
 最初は芸能人になるつもりで来たのかと思った彼に案内されるまま、
 当時、本当にスカウトされて事務所にやってきていた月島歩夢−つきしま ぽえむ−と
 事務所で待つことになった。

「その時にお茶を出したんですが、いやあ、ほんとう、縁っていうのは怖いですね」
「お恥ずかしい限りです」

 歩夢が亜里沙を見た瞬間、あまりの可愛さに田舎に帰ろうかと思った。
 なんてエピソードがあるらしいけど、それは置いておいて。
 怖いもの知らずだった亜里沙に対し、こんな人が同期になったら自分が霞む!
 と思った歩夢は何とかして帰ってもらおうと、自分が知っている芸能人の怖い情報を亜里沙に告げる。
 そもそもハニワプロをスクールアイドルが集う事務所だと勘違いしていた亜里沙は、
 キョトンとした表情のまま、歩夢のする話を聞き入っていった。
 なお、その時の話の九割は彼女の妄想で、聞いていた南條さんは絶対にコイツは売れないなって思ったらしい。

「私もμ'sのことは知っていて、推しはあなただったんですよ?」
「いや、あの、恐縮です……」
587 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 02:03:31.44 ID:oHS+nZye0
 やがて、赤羽根プロデューサーと現れたのは、当時社長職を引退して、会社にも時折遊びに来ていたという徳丸氏。
 元は超ベテラン俳優だった彼を連れてきたのは何故かって言うと、
 
「赤羽根Pはああ見えて、努力とか根性とか運命とか大好きですからね」
「どの要素も当時の亜里沙が持ち合わせていたとは……」

 いやまあ、可愛い子を見せたら徳丸社長も機嫌も良くなって帰るかと思った
 とは、後日の赤羽根プロデューサーの談だけど。
 とにかく、月島歩夢も、もちろん絢瀬亜里沙も期待なんかされちゃいなかった。
 しかし、

「亜里沙さんは、元社長に説明したんですよね」
「……何をでしょう」
「絢瀬絵里の素晴らしさをです」

 当時、A-RISEというスーパールーキーを他の事務所に取られ、
 アイドルとか女優とかが引き抜かれてしまい、すっかり斜陽事務所になっていたハニワプロは
 一人くらいμ'sのメンバーが入ってくれないかなとか考えていたとか。
 後々、タレントになって大活躍することになる星空凛や、声優になって多くの作品に主演を果たすことになる西木野真姫といったメンバーはまだ高校生だったし、
 高校卒業と同時にアイドルの道に進むことになる矢澤にこは、別の事務所でデビューが決まってた。
 
「それはもう、すごい勢いでした。絢瀬絵里自体は私も知ってましたし、
 それなりに知識もあるかなって思ってたんですが
 いや、ほんとう、愛されるって素晴らしいですね」
「あの、勘違いしないでほしいんですが、亜里沙は海未推しで」

 東條希は神田明神でトイレットペーパー占いとかいう意味のわからない占いにハマり、
 私は普通に大学生になって芸能活動なんて微塵も興味がなかったので、
 よもや亜里沙が芸能事務所で自分の自慢話をひたすら繰り返していることなどつゆも知らず。
 アルバイトの件に関しても、ちょっと移動に時間がかかる場所にあるくらいしか知らなかった。
588 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 02:03:58.39 ID:oHS+nZye0
 絢瀬亜里沙の姉に関する自慢話を約二時間聞いた徳丸社長は、
 その場で彼女の採用を決め、その勢いで月島歩夢も採用してしまった。
 後にその二名がハニワプロの業績をV字回復させることなど、
 当時の徳丸社長が考えていたかどうかは定かではない。
 何でも三年ほど前、その社長は病気で亡くなってしまったそうだから。

「私はと言えば、ようやく後輩もできて、これでお茶くみから解放されると思いました」
「あー」

 事務員として採用された亜里沙は、最初こそ殊勝な態度で仕事をこなしていたものの
 いつの間にか、雑務よりアイドルと交流しているケースが増え
 マネージャーやプロデューサーと言った自分の上司を無視し、
 面白がった元社長の後ろ盾を得て、まずは一番仲が良かった月島歩夢のプロデュースに乗り出した。
 なんでも、当時駆け出しアイドルだったA-RISEの綺羅ツバサが、
 オーディションにやたらハイテンションにやってくる二人組を見て、
 芸能界っていうのは本当に怖いところだと思ったらしい。
 ハラショーハラショー言いながら、オーディションに落ちても落ちてもへこたれない二人に
 二ヶ月後、一つの仕事がやってくる。
 
 出番にして五秒ほど。
 とある映画のワンシーンに出演することになった歩夢は、
 どうせだから、他の出演俳優の台詞も覚えてしまおうとかいう亜里沙のアドバイスの元
 台詞の九割を諳んじることができる状態で仕事に臨んだ。
 
 収録までの待機時間にわりと暇だったらしい亜里沙たちは、
 他の俳優の台詞を諳んじるゲームをして盛り上がったとか、
 頭のおかしなことをやっている二人組がいると箱部屋で噂になり、
 その噂を聞いたとあるベテラン切られ役俳優の人が監督に
 なんか面白い若手のアイドルがいるらしいよ? みたいに告げたことがきっかけで
 なんと月島歩夢は、知名度もない状態で映画の主演に抜擢される。

「異常です、ありえない、スポンサーにも、知られてもいないアイドルなんて使うなと言われました」
「まあ、なんていうか、すみません」
「ただまあ、そんなスポンサーを黙らせる手段がなかったので……」
589 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 02:04:25.61 ID:oHS+nZye0
 絢瀬亜里沙はプロデュースしていた月島歩夢ではなく、
 なんと、私の自慢話をスポンサーに告げる。
 芸能人ですらない元スクールアイドルの話をひたすら聞かされたスポンサーの中で
 クリハラという総合商社が、この二人はオモシロイと思ったとか。
 
「……栗原?」
「ええ、朝日さんの親御さんが社長を務める会社です」
「いや、なんか別の人の顔が頭をよぎったような……?」

 リーダー格の企業が賛同してしまったので、別の会社もなし崩しに歩夢の出演を認め
 もう怖いものはないので、演技に集中となった際、一つ問題が起こった。
 子どもの頃から演劇に親しんでいた歩夢も、あくまでもちょっと上手なアマチュアレベルだった。
 クランクインまで時間があったので、演技の練習をしなければとなった際、
 声をかけてくれたのは、ヒナプロジェクトという同人サークルだった。

「同人て」
「いや、捨てたもんじゃないですよ? なにせ、ダイヤモンドプリンセスワークスを作ったところですからね」
「あー」

 μ'sのメンバーをモデルにしたキャラデザで、後に一世を風靡することになる
 ダイヤモンドプリンセスワークスというゲームを作ったのは、
 なんと、朝日ちゃんのお姉さんらしい。
 絵とシナリオを担当していた陽向さんは、声を当ててくれる人と歌を歌ってくれる人に困っていた。
 当時は18禁ではなかったダイワーは、
 絢瀬絵里と園田海未をモデルにした二人のヒロインしかおらず、
 陽向さん自身も、100本売れれば御の字だと思ってたとか。
590 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 02:04:59.55 ID:oHS+nZye0
 私は知らなかった話だけど、
 なんでもその陽向さんと亜里沙は元からめちゃくちゃ仲が良かったらしく、
 何故仲が良かったのか聞いても、南條さんは苦笑いして教えてくれなかった。

 とにかく、私の声を亜里沙が、海未の声を歩夢が担当。
 歌は亜里沙と歩夢のデュエットで収録し、万全の体制でマスターアップ。
 陽向さんはダメ押しとばかりに、交流があったらしい綺羅ツバサを売り子として呼んだ。
 なんでか知らないけど、この二人もめちゃくちゃ仲が良いらしい。
 栗原陽向という人物がどういう経緯で綺羅ツバサと絢瀬亜里沙の二人と仲がいいのか聞いても
 南條さんは苦笑するばかりでなんにも教えてくれなかった。

 とにかくまあ、そんな経緯もあって演技力の向上に励んだ歩夢が
 努力の人として、出演した作品の監督に気に入られ、
 後に多くのドラマや歌番組に引っ張りだこになるまでそう時間はかからなかったらしい。

「亜里沙さんは、まあ、とにかく、プロデュースしたアイドルと自分も一緒にやるってタイプで」
「そういえば、理亞さんは亜里沙のプロデュースを受けてるんですよね?」
「ええ、ほんとう、苦労しました」
「……? 理亞さん、そんなにエロゲーにハマってダメだったんですか?」
「今、歩夢さんとユニットを組んでいる聖良さんが亜里沙さんに、妹をよろしく見て欲しいってお願いしたまでは良かったんですけど……」

 今でこそ、絶大の信頼関係で結ばれてる(理亞さん談)二人だけど、
 顔合わせの日に理亞さんはなんと徹夜でエロゲーをプレイし大遅刻。
 なんとも言えない空気の中、二人の交流は始まった。

 亜里沙は基本的に、初対面のアイドルにはとにかく絢瀬絵里の自慢話をする。
 (絢瀬亜里沙の悪癖の一つらしい)
 大抵のアイドルは苦笑しながらその話を聞くらしいけど、
591 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 02:05:40.07 ID:oHS+nZye0
 徹夜明けで機嫌が悪かった(ついでに言えば私がニートしていることも知ってた)理亞さんは
 恍惚の表情で姉の自慢話をする自分の担当プロデューサーに向かって、
 でも今はダメ人間なんですよね、と反発、結果大喧嘩になる。
 その後一週間、顔を合わせれば罵り合いの喧嘩をしていた二人は――

「は? 理亞さんが家に?」
「ええ、覚えてません?」
「ぜんぜん」
「まあ、当時の理亞さんはわたモテのもこっちみたいな外見でしたからね」

 とか言われても、まったく記憶の端にも引っかからなかった。
 何でも私の手料理も食したそうだけど、
 亜里沙がお客さんを連れてくるなんてことがあったかどうかもわからない。

 が、そのような交流があっても、亜里沙と理亞さんの仲はまったく改善されず、
 プロデュースもなかったことにして、理亞さんもハニワプロを解雇される寸前まで行ったとか、
 もう、これで最後っていう交流の際に亜里沙が理亞さんに、
 なにか後悔していることはあるかと問い、
 当然のごとく、絢瀬絵里を批判した件が出てくるかと思ったら(それもそれでどうなのか)
 姉と一緒にステージに立てなかったこと、姉と一緒にデビューできなかったこと
 等々、とにかくまあ3時間ぐらい聖良さんのことしか語らず、
 ようやくそこで亜里沙が、自分たちは似た者同士なのかもしれないと気がついたとか。
 なお、亜里沙は理亞さんのことを、自分とは違う極度のシスコンと言った件については
 ハニワプロで「その言葉の意味を追求する会」が開かれたらしい。

「まあ、結果的に、シェアハウスでお姉ちゃんが恋しいって泣いていたルビィさんとユニットを組むことになるのはご愛嬌ですが」
「ハニワプロって妹率高いですね? 朱音ちゃんもそうだし」
「才能のありそうな妹は全員取れっていうのが合言葉ですから」
592 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/08(火) 02:11:44.15 ID:oHS+nZye0
とりあえず一旦寝まして。
バイトに行って
続きを書きたいと思います。
どうでもいい話して、亜里沙登場しなかったな……

高坂穂乃果の飲み会の話で、聖良さんのユニットが
セイントムーンだったことを覚えている人がどれほどいるのか(笑)

なお、真姫ちゃんお誕生日記念でヒナと微妙に仲が悪い理亞さんのシーンがありますが、
亜里沙と理亞が仲が悪かった経緯を知っていたからという裏設定があります。
593 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/08(火) 02:36:40.91 ID:OfK1Rrjd0
色々繋がってておもしろい
バイトも続きも頑張ってね
594 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/08(火) 10:46:59.04 ID:Lmc1CAJZO
高1にして半端ない行動力の亜里沙ちゃん
やはり天然は恐ろしいな
ヒナちゃんまた忘れられてる……と思ったけど番外編はあくまで別次元か
595 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 15:32:56.97 ID:oHS+nZye0
 うん、それは才能があるんなら妹でなくても取るべきだと思う。
 そんなことしてるとまた斜陽事務所になりますよ?

「と、過去話に花が咲き過ぎてしまいましたね」
「主に喋っていたのは南條さんなんですが、それは」
「まあ、何かあればフォローはしますので、殴り合いの喧嘩もオーケーですよ?」
「一方的に馬乗りになられて殴られるだけです」

 実際問題、亜里沙に殴られたことはないけれど。
 精神的なサンドバック扱いでフルボッコされたことなら、無きにしもあらずかもしれないけど。
 基本的に亜里沙にそういう扱いをされる時は、私に非があるので、
 八つ当たりとかそういうのはまるっきりないはず、恐らく、たぶん。

 南條さんに見送られた私は、
 旅館でも有数の良いところなんだろうなあ、みたいな場所を通り抜け、
 襖を開けて中に入る。
 襖なんでノックはしなかったし、声もかけなかったけど、姉妹だから平気だよね?

「姉さん、上司ともなろう人間の部屋に入る時に声をかけないとは、
 いい度胸ですね? 社会人の基礎からやり直しましょうか?」

 平気じゃありませんでした。
 私は苦笑いをしながら数歩下がり、
 このままUターンをして、逃げ帰ってしまおうかと思ったけど。
596 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 15:33:34.69 ID:oHS+nZye0
「お、お姉さまに対して、か、隠し事をするような妹に育てた覚えはありません!」
「育てられてません、隠し事をしていたわけでもありません」
「へ、へら、減らず口を!」
「その三下の演技、必要以上にハマっているのでやめて貰えませんか?」

 妹がドSです。
 今も、冷徹かつ見上げているのに見下したような目をしながら、
 この絢瀬絵里を完全に掌握しようとしている。
 南條さんに殴り合いもなんて言われたけど、
 恐らく、というか確実に、私がフルボッコされるだけで終わりそう。

「はあ、座ってください、正座でいいですよ」
「すみません、せめて足を崩せませんか」
「まあ、許しましょう、お酒は何が良いですか? スピリタスとかありますよ」

 乾いた笑いを浮かべると、本当にスピリタスを持ってきたので、
 せめてビール、あ、発泡酒で
 と告げたところ、社会人のお約束アサヒスーパードライ(瓶)を持ってきた。

「では、乾杯しましょう」
「はい、社長!」
「プロデューサーです」

 コツンと合わされるコップ。

「良い飲みっぷりですね、今度健康診断に行きましょう」
「お酒の席でそういう世知辛いことを言うのはやめましょう」
「まあ、良いではないですか……では、そうですね、なにからお話すればいいか」

 ここではじめて、亜里沙が戸惑ったような、恥ずかしげな表情を見せる。
 最初からそういう表情を見せてくれれば、私だって必要以上に肝を冷やすことも
 あるような無いような、まあ、それはともかく。
597 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 15:34:09.76 ID:oHS+nZye0
「今の私の肩書きは、ハニワプロのプロデューサーで、この企画の責任者でもあります」
「ずいぶん大掛かりな企画を立ち上げたものね」
「前々からにこさんとか、色んな人に声をかけてはいたんですけどね」
「……え、なに? にこは仕掛け人なの?」
「もちろんです、でなければホイホイUTXでライブなど出来ませんから」

 以前こころちゃんを拾って、にこの家に来た時には
 もうすでに絢瀬絵里を巻き込んだ復活祭の企画は通されていて、
 それどころか、私がニートしていた時代から、
 ハニワプロは水面下で動いていたという恐ろしい事実を聞かされた。

 いかにして、ハニワプロで本人の許可無く絢瀬絵里という人間が
 持て囃されてきたのか聞かなければいけない気もしたけど、
 私の大学入学から今までずっと待ってたなんて言われれば
 申し訳無さで切腹しかねないのでやめることにした。

「一番協力を頂いたのは、希さんです」
「あいつ……」
「A-RISEの皆さんや、ヒナちゃん、ちーちゃん、歩夢、まあ、色んな人たちが
 この度の企画に賛同しました。
 絢瀬絵里という人間にそこまでの価値があるのかという古い方もいましたが」
「いや、それ、普通の価値観だと思うけど……」

 あと、ヒナちゃんというのは先の陽向さんだとして、ちーちゃんって誰だ。
 私の知り合いの可能性が高いけど、記憶にも引っかからないぞ?
598 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 15:34:38.20 ID:oHS+nZye0
「姉さん」
「なあに?」
「下世話な話で申し訳ありませんが、絢瀬絵里という人間は、私の経験上、お金になります」
「……まあ、そのお金で私はニートしていたわけだから、あえてツッコまないけど」

 価値とか、よく分からない指針よりよっぽどマシだと思うけ。
 なんていうか、自分という人間を見誤りすぎてやしないかと思わないでもない。

「そういえば、Re Starsのメンバーって、何を基準にして選んだの?」
「シェアハウスの面接で、絢瀬絵里を語ったメンバーです」
「……え、本当に?」
「私が面接するときには必ず、好きなアイドルの話をするように面接をします。
 熱意とか情熱とか、基準は色々あるのですが、
 こうなりたい、ああなりたいという目標を示して頂くんです」

 まあ、理亞ちゃんという例外はいますが、
 と苦笑いをしながら亜里沙が語った時、私は思い当たることがあった。
 そういえば、私自身も忘れがちだったけど、
 シェアハウスの住人は私の顔を知らない私のファンだったな?

「じゃあ、何故私の正体が気づかれなかったのか……」
「薄々は気づいているのではないですか? 私は正直今回の合宿で
 メンバーが減るものだと思ってました。
 誰一人も逃げず、へこたれず、それでも前を向いてここまで来ました
 恐らく彼女たちが頑張ったのは、理想の絢瀬絵里が、近くで自分たちとレッスンしてくれたから
 なのだと思いますよ」

 いやあ、でも、朝日ちゃんあたりはツバサに乗せられて私の悪口めっちゃ言ってたけどなあ……。
 ああでも、仮に正体を感づかれているのに、悪口を言われてるとなるとそれはそれで……。
599 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 15:35:06.75 ID:oHS+nZye0
「じゃあ、ちょっと、真面目な話をするけど」
「姉さんにできるんですか」
「亜里沙は、この企画が終わったら、どうするの?
 私をプロデュースして世界でも取るつもり?」
「アホなこと言わないでください」

 そもそも絢瀬絵里で世界は取れません
 とか、冷静なツッコミが返ってくるかと思いきや

「そもそも私はハニワプロのプロデューサー、ただの社員です
 明日からお前は営業と言われれば従わざるを得ません、
 仮に上が絢瀬絵里で世界を取れといえば、仕方なく従いますが
 そんなことはありえません、夢を見ないでください」

 なんか辛辣な言葉になって返ってきた。
 まあ、確かに、今までニートだった人間がいきなり世界レベルにアイドルになるとか
 本当に夢物語も良いところである。

「まあ、今の所、A-RISEの復活ライブでツバサさんを売り出すことも出来ますし
 アンリアルも今まで以上に売れることになると思います
 もうすでにCDの発売も決まってますし、イベントの予定もありますし、
 Re Starsのメンバーにはもっともっと血反吐を吐いて貰うことになるかと思いますが」
「せめて当人の許可を取ってから企画は通してちょうだい」
「いいんですよ、絢瀬絵里以外の許可は頂いてますから」
「え、私の人権は?」
600 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 15:35:35.83 ID:oHS+nZye0
 A-RISEのライブを踏み台にした自分たちのデビューイベントかと思いきや、
 やっぱり、綺羅ツバサや鹿角理亞や黒澤ルビィを推し出すことを考えている辺り、
 このプロデューサーには本当、敵いそうもない。

「本当にお姉ちゃんが、
 嫌だって言ってやめたいというのなら、
 今からでもやめられますよ?」
「ふざけたこと言わないでちょうだい」
「本当に?」
「別に私を乗せた人物や、この企画に賛同する人が路頭に迷っても
 私自身はどうでもいいけどね?
 でも、私はあなたのお姉ちゃんなんだから、
 姉が妹にすべきことは、妹のお願いをかなえることでしょ?」
「シスコンですね」
「……ごめんなさい、恐らくだけど、ハニワプロのスタッフのほぼ全員が
 私と亜里沙のどちらをシスコンかと問われれば、間違いなくあなたを指名するわ」
「ハラショー……」
601 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/08(火) 15:58:11.63 ID:oHS+nZye0
まだまだ続きます。
まだ、ライブまで行ってないですし、
そもそも、三話のオチにつながる描写も一つも出てきていないので。

ひとまず、キリの良いところまで投稿させて頂きました。

亜里沙ルートの番外編は、実は100%このライブ以降の話です。
亜里沙ルート4話で書くことは決まっているのですが、時間軸を決めていないので
唐突に一年後とかに飛ぶ可能性がありますが

ただ仮に4話で一年後まで飛んでしまうと、エリちは誕生日を迎えると30になってしまって
アラサーというタイトルがタイトル詐欺になるのでは?
と思わないでもありません。

アラ絵里冒頭、亜里沙は社会人三年目なんて話をしていますが、
亜里沙ルート冒頭では、もうすでに亜里沙は社会人四年目を迎えています(プロローグは4月)
彼女は大卒なので誕生日を迎えると26。Aqoursの三年生組と同じ年です。
……最初は、亜里沙とAqoursの三年生組の年齢は違ったのですが、その、設定に齟齬が……。
ね、年齢なんて飾りです、偉い人にはそれがわからんのです……。

そうそう、そういえば、聖良姉さまが誕生日を迎えられたそうで、
でも、このアラ絵里の話だと、理亞は大好きな姉さまの誕生日をレッスンで過ごしてしまって、
彼女の心情たるや……

と、どうでもいい話をしました。
ちょっと休憩して、これから書きます。
602 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/08(火) 17:25:34.24 ID:l+Nx4jqmO
30越えてもアラサーはアラサーだから平気さ
603 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/08(火) 20:02:10.66 ID:2yYCpv08O
妹の手によってすっかり調教済みなえりち好き
604 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/08(火) 22:40:17.27 ID:OfK1Rrjd0
どっちも重度のシスコンなんだよなぁ・・・
605 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/10(木) 20:33:34.80 ID:F03mJIWc0
お久しぶりです。
申し訳ありません、
更新が滞っております……。

もう4話の後半まで書くことが決まり、
本当にもう、書くだけなんですが。
悩んでいることがありまして。

その、
エリちをバニーガールにしたくて。
ここ2日間、ずっと悩んでます!

いや、他にも。
黒澤サファイアネタを入れるか入れないかとか、
亜里沙がとあるキャラにお金を貸すんですが、キチガイめいた金額を貸すというと
どれくらいの金額になるかとか(今の所500万くらいをポンと渡してる)
ヒナを登場させるか否かとか。
色々悩んでいますが、

恐らく、
面白くなればそれでって自分を納得させて、やってしまう可能性が高いので、
もう少々お待ちください。
ついでのように言いますが……腰の状態は大変微妙です……。
606 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/10(木) 21:26:02.10 ID:6pn/1RqpO
バニーえりちには非常に惹かれるがまずは腰を治すんだw
いつまでも楽しみに待ってるから
607 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/10(木) 22:16:37.78 ID:fh2ffNGFO
サファイアネタくるならダイヤさん期待
608 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/11(金) 19:24:52.93 ID:rz3pmwQSO
妹に調教されたアラサー姉
609 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/13(日) 17:43:39.56 ID:QUKOGQZSO
500万をポンって天然なとこ出ちゃってるなぁ
亜里沙が騙されてないか心配だ…
610 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/14(月) 14:40:29.01 ID:LQtzlVw60
完全復活にはまだ遠いか
611 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/18(金) 18:10:29.31 ID:v7sjr+sfO
リスタの活動はまだ始まってすらいないぞ!!!
612 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/19(土) 02:53:33.68 ID:tCBMrfAU0
このスレのおかげで理亞ちゃんが可愛くて仕方ない
613 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/05/22(火) 23:12:55.36 ID:Bf/ih/ZB0
お久しぶりです。
申し訳ありません、作者です。

腰の状態も改善されました。
が、使っている5chブラウザがくっそ調子悪く。
なんかどうにもなりそうもないので。
ひとまず、アラ絵里の絢瀬亜里沙ルートの2話までをハーメルンに挙げ、
3話の完成が先になるか、5chブラウザの調子が戻るかは分かりませんが、
とりあえず、状況とにらめっこしながら、なんとか、どこかしらに投稿をしたいと思います。
ただ、自分がここで書いて行きたいですし、ここで読んでいる読者さんに楽しんでいただかなければ意味がないので。
本当にどうしようもないっていう状況にならない限りは、ハーメルンに3話を投稿することはないです。

ひとまず、3話の完成までお待ちいただくしかないのですが。
いくら検索してもJaneStyleとかで不具合があったとか聞かないので、
URLを張って、ここで書きますと言った形になる可能性のほうが高いかなあ……それは、本当に嫌なんですが。

取り急ぎ、報告まで。
614 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/22(火) 23:47:44.55 ID:mGzmeidvO
生存報告ありがたい
Janeは俺も調子悪いから最近はスマホでしか見てないな
APIエラーがやたら出る
615 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/23(水) 12:12:13.08 ID:WcyDC3wSO
ハーメルンでも渋でも追いかけてくから続きはよ
616 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/24(木) 05:09:08.61 ID:nTJVyVz0O
完治おめ!待ってるからな
617 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/02(土) 18:14:18.42 ID:rKgOG6X7O
まだかなぁ……
618 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/03(日) 23:07:19.81 ID:R0gdCtv6O
5ちゃん復活したぞ
こっちもはよ
619 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/06(水) 22:55:42.99 ID:RrTRCf3L0
待ってる
620 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/22(金) 23:32:34.82 ID:UBtK3NXkO
エタったか……
621 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/06/29(金) 13:51:11.96 ID:t0c5f2YSO
来ませんでしたー
622 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/07/01(日) 09:26:11.33 ID:vybQClgr0
ハメからも消えたか
623 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/12(日) 15:31:38.49 ID:A0mj3J2n0
 感嘆するかのようなため息を付いたのち、
 一瞬だけ凹んだような表情を見せて絢瀬亜里沙ではあったけれど。
 ひとしきりブツブツと何事かを呟き、
 こちらをにらみつけるような視線を向けたあと

「姉さんは私を怒らせました」

 などという、絢瀬絵里の身を凍らせるような言葉を吐き出す。
 ただ、その台詞は見当違いの方向を見ながらの台詞だったので、
 言葉ほどのインパクトを私は受けなかったけれど。
 これがもし、壮絶に病んだ時の桂言葉みたいな顔をしての台詞だったら、
 私は全力で逃げ出してニートに戻ってると思う。

「ひとまず姉妹間の交流は終えられたようですね?」

 なんていう台詞を言いながら南條さんが部屋に入ってくる。
 そう言えば以前ふとした時に、私って南條さんと声が似てない? なんて会話をしたら
 Re Starsのメンバーから耳が腐ったんですかみたいな顔をされてスルーされた。
 手に瓶ビールを複数持った彼女は、私の後方に視線を向けた。
 笑いを堪えるような表情をしたのが気になったので、その視線を追ってみると
 絢瀬絵里衣装と世にも恐ろしい文章が書かれた箱の中に、
 薄い布のような、傍から見ていると絹一枚といった表現が似合いそうな
 衣装(笑)程度の産物があることに気がついた。
624 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/12(日) 15:32:25.20 ID:A0mj3J2n0
 私はその衣服を全力でスルーし、南條さんの瓶ビールに意識を向けたけれど、

「これから姉さんには、Re Starsのリーダーとして
 次のライブの参加者なり、関係者なりに挨拶をして頂きます」

 あの衣装を着て。
 と妹が指さした先には、当然のごとく薄い布一枚が置かれていた。
 アレを着る(というか羽織る? 身につける?)と、どういう経緯で決まったのかわからない
 Re Starsのリーダーとしてのポジションが確保できるのであろうか。
 もしくは絢瀬絵里の芸人としての資質を見出して、体を張ったギャグで笑いを取りに行く
 TOKIOのリーダーみたいなポジションを求められているんだろうか。
 心の中で涙を流しながら、静かに天を仰ぐと
 そこには亜里沙の字で「バカが見る」って書いてあった。
 涙の量が増えた。


 手渡された衣装を眺めながら、
 しばらく呆然としていると、
 南條さんから、私はきついけど絵里さんなら行ける。
 などという微妙に世知辛い励ましを受けた。 
 苦笑をしながら、なぜもう30に片足を突っ込んでいるアラサーが
 バニーガールなどという破廉恥な衣装をしなければいけないのかと
 心の中で絶えず疑問に思っていたけど、当然のごとく誰も答えてはくれなかったので
 仕方なしに解せないという思いを抱えながら衣装を着てみたけれど。

「この格好、二重の意味で寒くない? あ、もちろん身も心もって意味で」

 なんて尋ねてみたけれど、
 二人はお互いの顔を見合わせたまま、なんとも言えない表情を浮かべつつ。
 妹の方は、シリアスな表情(失敗している)をしながらこれからの事次第を説明してくれた。
625 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/12(日) 15:32:54.58 ID:A0mj3J2n0
 この衣装はハニワプロの忘年会で着せようと思っていたんですが、
 などと恐ろしい会話から始まり、
 とりあえず色んな人と挨拶をしなければいけないようだ。
 正体を知られてはいけないので、Re Starsのメンバーとは別行動。
 メンバーに会いに来た人はいないのかと疑問はあったけど、ひとまず放置。
 主役はリーダーである私というコンセプトらしいけど、
 何故そのリーダーが見せしめのような格好をさせられているのか。
 その問いには誰も答えてはくれないので、心に整理をつけて亜里沙の話を聞く。
 私専用の場所が用意されていると言うので、
 なんとなく腑に落ちない思いを抱えつつ、絶えず笑いをこらえている南條さんに見送られた。
 とりあえず、その瓶ビールの量を一人で飲んだら太りますよと忠告した。悔しいので。
 会場へと急ぐ道中、
 旅館のスタッフらしき人から、とても可哀想なものを見るような目で見られて、
 心の中でさめざめと泣きながらも、
 違うんです、これは妹の何らかの企みなんです。
 と主張しながら前を向いて歩き続けた。
 自身に用意されたという個室に向かう途中で
 亜里沙と一緒に歩きながらRe Starsのメンバーがいるという会場に視線を向けると、
 みんながみんな、絵に描いたような作り笑いを浮かべて応対しているのが気になった。
 妹の話では、誰もこのような扱いを受けたことがないからと説明してくれたけれど、
 そもそも各メンバーが何故この場にいて、このような扱いを受けているのかわかってないのではないか?
 なんて思ったけど、自分自身も何故こんな扱いを受けているのかわかってないので、
 それはきっと自分のことを棚に上げてドヤ顔で忠告するようなものだなと思い直した。
626 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/12(日) 15:33:28.90 ID:A0mj3J2n0
 会場ではえらくテンションの高い英玲奈が、妹の近くでハラショー! と叫んでいたので、
 まあ、楽しんでいる人がいるなら目的は果たせただろうと、なんとなく解脱した気分になる。
 脳内を諦観という言葉で支配され始めたあと、
 私は澤村絵里専用個室と書かれた一室に身を通していく。

 
 扉の先には二人の女性が待ち構えていた。
 一人は腰まで届くほどの長い髪に、
 いつも強気で行動していますと言わんばかりに眼光鋭くこちらを見て、
 不敵な笑みを浮かべている。
 その、ツッコミ待ちだとか、再会の抱擁を待つみたいな態度をされると、
 記憶に無いけれど知り合いの可能性があるのかもしれない、
 ただ、恐らく初対面だろうけど、
 初対面なのに相手がバニーガールの格好をしているという事実に頭痛を覚えた。
 もう片方の方は、理知的な印象を持つ眼鏡をかけた短髪の女性。
 記憶の範疇にまるで該当しない人だったので、
 仮に知り合いだったとしても、それほど縁のある人ではないだろう。
 ひとまず無難に丁寧な態度で「はじめまして」と言うと、
 亜里沙は何言ってんのこの人、みたいな顔でこちらを睨みつけ、
 髪がロングの方は愕然とショックを受けたと言わんばかりにガクリと崩れ落ちた。
 一方、メガネの方は苦笑こそ浮かべているものの、落ち着き払った態度で

「まあ、自分の今までの扱い的に、こうなるんじゃないかなあとは思ってましたけどね」

 なんてことを口から発しつつため息をついた。
 私以外の三名だけ、やたら期待を外されたみたいな態度でこちらを見て
 やがて何かを悟りきったかのような表情で天井を仰いだ。
627 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/12(日) 15:34:04.35 ID:A0mj3J2n0
 一人蚊帳の外に置かれた絢瀬絵里は、ちょっとだけ自分の迂闊さを反省しつつ
 今後このようなことはないようにしたく、と心の中で宣言しておいた。
 なんとも言えない空気を打開すべく、妹に対して「なんとかして」と視線を向けると、
 妹は指を3つ立てて、この分は貸しだという態度を示した。
 取り繕うように笑顔を浮かべ口を開いた亜里沙(目が冷たい)が、

「こちらの方は栗原陽向さん。
 サークルヒナプロジェクト代表であり、
 今回の企画立案やライブの内容にも協力していただきました
 なお、ハニワプロの大手出資者を家族にお持ちなので
 くれぐれも迂闊な発言などいたしませんよう」

 もう十二分に失礼な発言はかましているがな、
 という妹の無言の抗議をスルーしつつ、
 絢瀬絵里は今後の問題行動を警戒しながら、とりあえず愛想笑いを浮かべて頷いた。

「こちらの方は清瀬千沙さん。
 大手芸能スポーツ紙の記者です。
 この方の書く記事は業界関係者に評判で
 あまり変なことを書かれないように
 くれぐれも重々失礼のないように対応をお願いします」
628 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/12(日) 15:34:37.32 ID:A0mj3J2n0
 もう十二分に(ry
 プロデューサーである妹にバニーガールにされて連れ回されている、
 絢瀬絵里というアイドルが、出所不明の三流記事にされやしないか不安を覚えたけど、
 もうすでに「アラサーアイドルの老化現象について」という記事にされそうだったので黙った。
 そんなTOKIOのリーダーみたいな扱いはあと10年は勘弁だと思ったので、
 殊勝な態度で愛想笑いを浮かべつつ頷く。

「ええと、先ほど紹介に預かりました栗原陽向なのだ……」
「かいちょ、地、地が出てる!」

 奇妙な語尾を付ける人だなと思ったけど、
 もうすでにμ'sにはニャを付ける人がいたので特に疑問を浮かべなかった。
 取り繕うように、今の発言を聞いていなかったよねみたいな顔を亜里沙に向けられ、
 もう忘れましたと自信満々な顔を作っておく。

「コホン、このたびのA-RISE復活祭に託つけた
 大人の事情でお蔵入りにされていた企画を
 すべてやってしまおう企画ではありますが、
 主役になるのはあなたです、絢瀬絵里」

 クールな態度を示しているけど、
 その当人である絢瀬絵里の脳内では、
 さっきの「なのだ」が延々とリピートされ続けている。
629 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/12(日) 15:35:13.71 ID:A0mj3J2n0
 お蔵入りにされた企画に関してはツッコむべきもないけれど、
 しかして、表立って胸を張っているのが絢瀬絵里なのかと疑問には思う。
 その主役が妹にバニーガールの格好を強要されている件が
 スキャンダルになりやしないか当人は不安ではある。

「細かい事情は伏せますが
 頭打ちになっているスクールアイドルの希望の光、μ's――
 の、復活は無理なので。
 それにあやかるイベントを開こうと以前からツーちゃんとは話してました」

 アイドルの商業主義化。
 売れることが第一になってしまった現状。
 それは憧れる人間たちの夢を奪い、
 いつしか、アイドルという文化が光を失っていった。
 そのアイドルたちの理想と憧れを取り戻すために。
 

 スクールアイドルのきっかけを作ったのがUTXのA-RISE。
 メンバーに選ばれたのが、綺羅ツバサ、統堂英玲奈、優木あんじゅの3人。
 彼女たちが築いてきたスクールアイドルという文化を、
 廃校を阻止するために踏み台にしたのが私たちμ'sである。
630 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/12(日) 15:35:54.95 ID:A0mj3J2n0
 要は、私たちに憧れるようないわれなんて全然全くこれっぽっちもない。
 自分たちが自分たちの思うがままにやって来たことが、
 たまたま廃校阻止という結果として出てきて。
 それはほんとうに胸を張れるようなこともないことなんだと、
 Aqoursのメンバーを見ながら寂しそうに笑った穂乃果の横顔を思い出した。

「μ'sが秋葉原で歌い、
 みんなで一つになって完成させた
 SUNNY DAY SONG
 もう一度私たちは、
 あの時の想いを、そして奇跡を。
 無茶を押し通して生まれてきたμ'sの、女神たちの物語を完成させるために
 絢瀬絵里、あなたに協力をしてもらいたいんです」

 私はかなり引きつった笑みを浮かべていると思う。
 無茶振りをされているとかそういう意味合いではなくて、
 自分たちのしてきたことがやたら美化されている行為に驚いていると言ったほうが正解だ。
 ニート時代もやたらに長かったせいで、
 感情を表に出すという行為に対して鈍感になっているきらいはあるけれど。
 過去の自分の行動や行為を反芻しつつ出た言葉は、

「協力って言ったって
 私なんかが、
 本当にどうしようもない私なんかが……
 できることなんてさっぱりありようもないわ」

 首を絞められた後みたいに、きゅーっと急速に意識が遠くなってくるのを感じながら、
 私はフラフラとする自分の体を亜里沙に支えられていることに気がついた。
631 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/12(日) 15:36:29.03 ID:A0mj3J2n0
「エリー、言っておくけれど。
 これは、高坂穂乃果さんにもお願いをされたことなの」

 高坂という名字を聞いて、私はもう一度自分の足に力を込めた。
 心配気に私を見上げる妹に軽く微笑みつつ、私は栗原さんに続きを促した。

「もし、これから復活するかもしれないμ'sを任せるとしたら
 それは絢瀬絵里しかいないと
 みんなの支えがあって、自分はリーダーなんて言われてきたけれど
 その自分を一番支えてくれたのはあなただと、
 高坂穂乃果さんは教えてくれました」

 瞳の奥に石ころを詰め込まれて、
 こめかみをドリルか何かでグリグリとされているようなそんな状況下で、
 ひたすらに涙が零れ落ちそうになるのを我慢し続けた。
 穂乃果が自分を評価しているという事実も涙がこぼれそうになる要因ではあったけど、
 それ以上に今まで人付き合いなども他人の意志で、
 ひたすらに流されるままに過ごしてきた自分という存在が情けなくて、
 どうしようもなくて頭を抱えたくなってくるのだけれど、

「まあ、企画のことは置いておいてですが
 エリちゃには断る権利なんてないですからね。
 今までスネをかじってきた分だけ労働してくださいな」
632 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/12(日) 15:37:01.50 ID:A0mj3J2n0
 清瀬さんの激烈な辛口コメントで、
 先程まで溢れそうになっていた涙が急速に引っ込んでいく。
 今の言葉が私を元気づけるものであったのか、
 それとも単なる事実の列挙であったのかは知るべくもないけれど、
 亜里沙も栗原さんも、こちらを見ないようにしながら笑いをこらえた表情のまま
 明後日の方向を眺めているので、私は何も言わずに口を閉ざした。

「あとでインタビューをさせて頂きますね
 都合が悪かったら直しますしから、アリーにもチェックして貰いますしね」 

 インタビューされるであろう私が原稿のチェックが出来ないのかと、
 自分のポジションに対して不安を覚えるコメントではあったけれど、
 ひとまず今後されるであろうインタビューが真面目な方面であるようにと願った。
 その後ライブイベントの内容について粛々と説明をしていく栗原さんと、
 淡々かつ、熱くツッコミを入れていく亜里沙。
 そして私の胸元をガン見しながら、
 バストアップの秘訣を教えてくださいとか、
 年齢を感じさせないような美容法を伝授してくださいとか、
 シリアスに過ごそうとする二人をあざ笑うかような清瀬さんはっちゃけぶりに
 これがよもや先に言っていたインタビューではあるまいな?
 なんてことを疑問に感じながら時間は早々と過ぎていく。
 いい笑顔で帰っていく二人を見送りながら、
 何故絢瀬絵里はこの場でバニーガールという格好をしているのかと思った。
633 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/12(日) 15:37:30.03 ID:A0mj3J2n0
 病院の待ち合い室の中で、看護師に呼ばれるのを待っている患者みたいな感じで
 私に話しかけようとしする人々がちらっと見えたのを恐怖に感じながら。
 先程手渡された写真をぽかんと眺め続けていた。
 そこには昔懐かしい、
 やたらめったら何に対しても敵意全開で、この写真でも仏頂面かましている絢瀬絵里。
 それと、記憶の端にも引っかからなかった先の二人。
 つまり、UTXに通っているはずの白ランを着ている栗原陽向と、
 この写真を撮った一ヶ月後にはUTXに転入してしまう清瀬千沙。
 そして、私がここ最近一番長い付き合いだと思っていたけど、
 実際は音ノ木坂学院入学後からの付き合いだった東條希の以上4名。
 そのメンツが仲良く揃って生徒会の仕事をしている写真を眺めながら、
 果たしてこれが本当に絢瀬絵里なのか、アニメオリジナル設定なのではないか
 そんなアホなことを考えていた。
 私は栗原さんのことをヒナと呼び、一番仲が良かったとのこと。
 なんでも、小柄で140センチに満たない身長だった彼女のことを、
 無表情ながらも溺愛しているのがバレバレの態度で構い続けていたらしい。
 ヒナはだいぶ成長をしてしまったので、この思い出と重ねるわけがないじゃないと
 妹に切実に訴えかけたところ、
 私がニートとして順風満帆に過ごしていた二年前に、
 今会話していた4名で私手作りの鍋を囲んで、酒を酌み交わしたという事実を告げられ
 これっぽっちも思い出に含まれてなかったので、黙って高校時代の記憶を思い出し続けていた。
 そんな現実逃避に意識を向けていると、
 おずおずと言った感じで入ってきたのは、希に18禁方面の仕事も良いんじゃない?
 なんて言われて、この私がそんなことできるわけ無いと突っぱねるかと思いきや、
 意外と乗り気で凛に「はじめて」の時の感想を聞き迷惑そうな顔をされていた西木野真姫その人。
634 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/12(日) 15:38:18.24 ID:A0mj3J2n0
 高校時代は身長差があまりなかった私たちだけど、
 大学時代に何度目かの成長を迎えた絢瀬絵里とは差がずいぶんと付いてしまった。
 亜里沙にも身長が追い抜かされてしまったので、この場で一番背が低いのは真姫ということになる。
 そんな事を思っていると、なんだか不出来な妹を眺めている気分になってきた。
 ただ、この場で一番不出来なやつは誰だと考えると、
 まず間違いなく自分が指名されかねないので迂闊に口は開かない。

「エリー、なんて格好をしているのよ」

 呆然としていると言った態度で、出来うる限りこちらに視線を向けないようにしながら、
 それでいて胸元あたりにジッと視線を向けている気がする超人気声優(自称)に対して
 アラサーバニーガールという世も末な格好をしている絢瀬絵里としては苦笑を浮かべつつ、
 この痛々しい状況の首謀者である妹に視線を向けてみた。

「この度はご協力ありがとうございます真姫さん。
 ライブでのトークも期待していますね」

 こちらのことを死んだセミに群がる蟻かなにかを見るような目でちらっと一瞥しスルーする妹。
 営業スマイル全開で赤毛のお嬢様に感謝する姿は、
 やり手のキャリアウーマン(懐かしい言葉)を思わせる。

「まあ、事務所の社長のペコペコ頭を下げ続ける姿を見て
 今までの私の扱いに対する反省を促せたから良いでしょう。
 それにしても、まともにダンスをするなんて久しぶりだったから
 そろそろどこか腱でも痛めてやしないか心配だわ」
635 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/12(日) 15:38:59.15 ID:A0mj3J2n0
 なんていう身につまされるような苦しい台詞を聞き苦笑いする。
 その後を世間話を繰り出しつつ、
 エロゲー出演する時の名義をどうしようかと相談を受けたので、
 私はふと頭に思い浮かんだ、
 なりたい自分や憧れている理想を名前にしてみたら?
 なんていう言葉を送ってみた。
 これは後日談ではあるけれど、
 真姫がデビューした際の名前が「あやせうさぎ」だったので、
 今度胸ぐらの一つでも掴んで頭がくがく震わせないといけない。

「ところで真姫、今回の演出のコンセプトは聞いているの?」

 真姫は私の言葉を聞いて、
 やけにセンチメンタルな表情を浮かべつつ天井を見上げ、

「正直な話をすると、今回の件はお断りしようと思ったわ
 でも、穂乃果ちゃんにやってみようよなんて声をかけられたら、
 断れるわけないじゃない? それに」

 と、真姫はそこで言葉を一旦切って、
 恥ずかしそうな表情を浮かべながら目を細くして、

「私たちはスクールアイドルとして、
 ほんとう、ただ自分ができることだけを一生懸命やって来た。
 そのμ'sでの日々が、
 思いの外たくさんの人達に影響を与えていたことを、
 今まで生きてきて感じてきたの。
 だからそういう、スクールアイドルμ'sっていうのは
 いったんどこかで終わりにしなければいけないと、そう思ったのよ」
 どこか遠くを見ながら、シリアスな表情のままで
 せつなそうに語り続ける真姫の視線が、
 思いの外自分の胸元に注がれているのに気が付き、
 そろそろこのバニーガールという格好もいったんどこかで終わりにしてくれないかな。
 そんな事を思いつつ真姫との会話を終えた。
636 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/12(日) 15:40:07.38 ID:A0mj3J2n0
 亜里沙の次の方どうぞという掛け声とともに一緒に入ってきたのは、
 高校時代から変わらぬ付き合いを続けている小泉花陽と星空凛の二人組。
 身長差こそ10センチほど付けられてしまった二人(花陽の背が急上昇した)だけど、
 仲の良さは端から見ても羨ましく感じるほどだ。
 なぜだか凛の方は、私の体の一部分(毎度のごとくのアレ)を眺めて、
 同業者に語尾に「ワン」とかつける人間が増えてと舌打ちしながら語ってきたのと同じ表情のまま、
 ひたすら不愉快そうな態度を取り続けていて私は震えた。
「あ、そうだ絵里ちゃん、私は希ちゃんのところでお世話になることにしたよ」
 過去に数度も大切な友人同士と語り合っていた二人が、
 アラサーバニーガールの登場によって微妙に空気が濁っている。
 ものすごくこの場にいるのが申し訳ないと言わんばかりの態度のまま、
 小鹿ガール全開の態度で小さく震えている小泉花陽に対し、
 どうすることも出来ない露出した格好している私と言えば、
「その、私は働いたことがないから分からないけど
 仕事場の空気はとても良い雰囲気だったわ
 スタッフの皆さんもとてもいい人ばかりだったし」
 長い間フリーターとして仕事を探し続けていた花陽の意を汲みつつ、
 できるだけ星空凛の方向を見ないようにしながら言葉を告げる。
637 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/12(日) 15:40:42.12 ID:A0mj3J2n0
「う、うん、私も早く仕事場に慣れるように頑張るね」

 この花陽の発言を最後に以後数分間会話が止まる。
 ただ、凛も大人げないと思ったのか、
 それとも、罰ゲームみたいな格好をしているアラサーが高校の先輩だと思いだしたのか、
 刺々しい空気を発しているのは相変わらずだったけど、ため息と一緒に口を開いた。

「絵里ちゃんは、よもやその格好でステージの上に立つんじゃないよね?」

 何その見ている方もやっている方も浮かばれない地獄の所業。
 ただ、明確に否定はできなかったので、
 私の隣で、自分には関係がありませんとばかりに
 天井のシミを数えている敏腕プロデューサーにお伺いを立ててみる。

「安心してください凛さん
 ステージの上では、羞恥心の欠片もなくM字に開脚するビッチのような
 はしたない格好はさせません。
 パッと見センターにふさわしく見える格好をさせますから
 ええ、私の全責任で」

 まるでこの格好を私が好んでしているみたいな言い方ではあったけど、
 この格好をノリノリでさせた当人がそのような発言をすると、
 こちらとしてもなんとも言えない表情を浮かべたくなってはしまうのだけれど。
 ただ、亜里沙の発言で凛の怒りも冷めてきたのか、
 りんぱなの距離がちょっとだけ縮まって安心する。
638 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/12(日) 15:41:16.79 ID:A0mj3J2n0
「あ、そうだ、今回のステージのコンセプトというものは聞いている?」

 状況をごまかす意図はないけど、
 とりあえず尋ねておきたかったことを聞いてみる。
 此処でμ'sの再興である今回のライブについてヒトカケラも賛成できないとか、
 絢瀬絵里に任せるとか死んでもゴメンだとか言われてしまうと、
 私は黙ってバニーガールの衣装を引き裂いてしまうかもしれない。

「うーん、まあ、タレント星空凛としては
 スクールアイドルμ'sの恩恵をバリバリに受けているからね
 今回の件はわりと事務所のほうがノリノリだし、
 凛としては、μ'sを一区切りにするのも良いんじゃないかなって」
「そのステージで中心になるのが絢瀬絵里っていうのには?」

 自分の実力を過小評価するつもりはないけど、
 自惚れてしまうのも良くないと思って、そういう時に容赦なくぶった切ってきそうな
 毒舌の一つや二つ相手にかけることも厭わなそうな凛に声をかけてみる。

「仕事してなくて暇してたのが絵里ちゃんだけだったしねえ……
 色んな意味で都合が良かったのが絵里ちゃんだったから、うん、凛としては特にないよ」
639 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/12(日) 15:41:47.82 ID:A0mj3J2n0
 クールかつ的確に脇腹にドリルを突きつけてくるような毒舌。
 そのキレっぷりに私も天井のシミを数えてやり過ごしたい気分ではある。
 自分の言いたいことをすべて言ったと言ってからしばらく。
 凛はちらりと寂しそうにこちらを一瞥し、部屋から出ていってしまう。

「私はね、μ'sの中でもおミソかなっていっつも思ってたの
 実際、スクールアイドルμ'sだったっていう恩恵なんて、ただの一度も受けたことなかったし
 でも、これからμ'sを語ろうかっていう時にね、
 絵里ちゃんが中心になって前に立ってくれるっていうのは、私は賛成だよ」
「限りなく暇そうだったから?」

 私の言葉に花陽は強く首を振る。

「凛ちゃんもね、同じことを言うとは思うんだけど。
 これからの私たちを支えてくれるのは、
 センターになってくれるのは、絵里ちゃんしかいません」

 それはどういう意味でと訪ねようとする前に、
 花陽は凛を追いかけて部屋から出ていってしまった。
 自分の身の丈に合っていない、
 そんな過剰と呼ぶべき信頼に対して、
 私は言い得ぬ不安を感じたまま震えた。
640 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/12(日) 15:52:43.20 ID:A0mj3J2n0
 お久しぶりです。
 こっそり再開いたします。
 絢瀬亜里沙ルート第三話まだまだ続きます。
 ピクシブとかでこっそり更新を続けていこうと思ったんですが、
 でも一番最初にアップするのは此処だって決めていたので、
 恥ずかしながら戻ってまいりました。

 今回更新分から手書きでの作業になっているため、
 なかなか過去の通りの更新というわけには行きませんが、
 出来うる限り早くやってのけたいと思っているので
 気が向いた時に見ていただければ幸いです。

 自身の話で恐縮ではありますが、
 アラ絵里なんとフルリメイク作業の最中です。
 プロローグから第一章エピローグまでを主に。
 番外編や個別ルートはノータッチで行きます。
 すでにプロローグは改稿作業が終わっております。
 次は西木野真姫の飲み会編。
 相変わらずの手書きなので、ペースは遅いですが。
 こちらの方はハーメルンの方で投稿していきますので、
 見かけたら違いっぷりに少しでも笑っていただければ。
 
 ただ、文章が変わって、設定の追加もありますが。
 基本的な展開は変わりません。

 なお、今後の展開ですが。
 絢瀬亜里沙ルートが全6話。
 園田海未ルートが全3〜4話。
 綺羅ツバサルートが全4〜5話。

 その後さらに、
 西木野真姫ルート。
 鹿角理亞ルートが追加されることが決定。

 そしてそれが終わったら、
 絢瀬絵里覚醒、真アイドルエリーチカグランドルートが追加。

 ……する予定です。
 延期ばかりを繰り返すエロゲー会社みたいなことやってますが。
 気長に、本当に気長にお待ちいただければ幸いです。

 では、次に登場するのは
 のぞにこ→ことうみ→A-RISE→Aqours(ヨハネ除く)→Saint Moon→高坂穂乃果と続きます。
 そこで第4話へ。
 では、また次回。
641 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/12(日) 20:54:26.21 ID:pVa28/aiO
うおおおお!!!更新キテター
もうダメかと思ったぞ!復活してくれてありがとう
642 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/13(月) 02:47:22.47 ID:EYcjywerO
3ヶ月越しのバニーチカ……
お偉いさんに秘密の接待をなんて一瞬想像してしまった自分を殴りたい
とにかく待ってた乙
643 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/13(月) 11:15:26.57 ID:hgju5vLso
乙ーチカ
644 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/14(火) 23:54:29.32 ID:FvAsKcet0
sage進行なのにレスがあって、正直驚いています。

今作品は手書きでの執筆という性質上。
一週間に一度程度の更新に留まります。

月〜金までが手書きでの執筆に当たっていて、
書いている作品が4作品。
ただ、この亜里沙ルートの話と、もう一つのオリジナルの話。
これが最優先での更新となるので、
一週間に一度絶対に更新します。
更新日は手書きの作品のテキスト化する日曜です。

……何もなければという条件は付きますが
病気とかなんだりがあれば
パソコンに繋げてる余裕さえあれば必ず報告します。

フルリメイク化は優先から外れるので、1週間に1度更新できれば(笑)
みたいになります。ご了承くださいませ。

基本的にコミカルな展開になりますが。
Aqoursのメンバーがやってくる話の後にある、黒澤ダイヤと絢瀬絵里の会話と
鹿角聖良と絢瀬絵里の会話は重たくなります。
ただ、手書きで書いてみて、うん、無しにしようって可能性もあるので、
ラストの人以外は意外とコミカルになるやもしれません。
どのみちまだ先の話ではありますが。

レスありがとうございます。
645 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/15(水) 00:04:15.15 ID:BOucNRCsO
完結まで何年かかるのか……
でも最後まで応援させてもらうぞ
646 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/15(水) 07:19:45.04 ID:IyO1BdWb0
待ってた・・・待ってた・・・
647 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/17(金) 15:04:17.27 ID:DaXPP/0jO
週刊連載は地獄と聞くが、頑張れ
648 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/19(日) 18:18:43.61 ID:06NEsZxh0
 妹の次の方どうぞという呼び声。
 その言葉を妙に達観した心持ちで聞いている絢瀬絵里というアラサー(格好がバニーガール)がいる。
 音ノ木坂学院に通っていたころ、商店街の企画で水着美少女コンテストというものが行われた。
 当時貧乏部だった(というか結局最後まで部活に予算が下りなかった)せいで、
 使えるお金に四苦八苦していた私達は、3位の10万分利用できる商品券という言葉に心惹かれて参加を決める。
 よくよく考えてみれば、あの商店街の企画でどこでも使える10万円分の商品券など手に入りようもなく、
 換金して部活の予算に充てれば理事長から大目玉を食らうことは確実であったので、手に入れなくてよかったと本当に思う。
 が、当時の私達は如何に商品券を手に入れるかにのみ観点を絞り、
 誰が参加すれば3位という微妙な結果に至るかを真剣に話し合った。
 園田海未、小泉花陽の両名は元から参加したくないという理由で固辞して考慮にいれられず、
 東條希、絢瀬絵里の両名は風俗の企画みたいになりそう(by矢澤にこ)の言葉で選外になる。
 結局、南ことりが西木野真姫との決戦の末に参加が決まったものの、
 秋葉原の伝説メイドのミナリンスキーが3位という結果に終わるわけもなく、
 ぶっちぎりの優勝で15万円相当の圧力IH炊飯ジャーを入手して、花陽の体重が増えただけに終わった。
 なぜこんな事を考えているのかというと、えてして欲望から出た魂胆は上手くいかない、
 私がバニーガールという格好をしていても、
 まともに見てくださいというお願いは通用しないのだと不意に気がついてしまったからだ。


 それはともかく。
 見世物みたいなバニーガールの格好をしている絢瀬絵里を
 敵意や欲情の視線を向けない相手というと、海未や希あたりが候補になるだろうか? 
 バニーガールでもいいじゃないにんげんだものと言ってくれれば、いっその事一切関わりのない人が来てもいい。
 そんな事を考えながら、開いたドアの先を見ていると。
 ひょこひょこという効果音が似合うコミカルな動きで、いろいろと小さい矢澤にこが入ってきた。
 ああ、また私を罵倒しかねないメンバーが入ってきたと遣る方無い気持ちに陥ったものの、
 なんとにこは私の衣装を見た瞬間に微笑みを浮かべた。
 神様か仏様みたいな、どんな低能な存在でも許してあげますというような笑みに心が浄化された私の機嫌は良くなったけど、
 隣で亜里沙が小刻みに震え始めた、解せない。
649 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/19(日) 18:19:11.79 ID:06NEsZxh0
 これがもし高校時代の矢澤にこであれば、私の格好を見た瞬間に
 「豚がうさぎの格好をしてる!」くらいのことは平気で言ってのける。
 実際に、夏色えがおで1,2,Jump!のPVの撮影の折、水着の衣装に身を包んだメンバーたちと笑いながら、
 唐突に希や私の方を見て「はずがしがっちゃダメにこ! 
 おっぱいが大きければとりあえず注目を集めるんだから、もっとアピールして!」
 とお願いしだした。
 一番目立つセンターがこう言っているんだからと羞恥心は一旦捨てようと決意してからしばらく、
 中央で踊っていたにこの動きが急停止。
 壮絶に病んだ目をしだして「でも、なんで水着を着ているにこ? だって家畜が服を着てたらおかしいでしょ? 
 あれ、でもなんで私は家畜と一緒に踊ってるの?」と、おかしなことを言い出したため撮影が一旦中止された経緯がある。
 後に大量のパッドを持ち込んだにこと、それを身につけることに至る海未の話の前日談。


「うわ!? 何この空気!?」
 その言葉と一緒に部屋に入ってきたのは、バストサイズが一番の自慢の親友。
 にことは犬猿の仲かと思いきや、二人してディズニーランドに出かけたこともあるらしい、
 なぜ私を誘ってくれなかったのか。
「そしてエリちはなんて格好をしとるんや……」
 にこから遅れること数分、高校時代はなにか面倒事があると私を前方に押し出して逃げること多し。
「希ならわかるでしょう? なぜ私がこんな格好をさせられてるのか」
 自分の意志ではないと説明したつもりだったけど、
 希は解せないと言った顔をしながら、
「若年性の認知症ってお薬でどうにかなるんかな?」
 などということを亜里沙に尋ねた。
 その妹は、えらく沈痛な表情を浮かべながら「手遅れです……残念ながら」と語る。
 その二人の近くにいると、絢瀬絵里は本当に認知症にかかっているのではあるまいかという疑問が浮かんでくるので、
 ニコニコという効果音を浮かべながら、本当に仏様みたいな顔をしている矢澤にこに問いかける。
「姉の辛さっていうのは、姉にしかわからないのかしらね?」
 成長した矢澤姉妹が一緒に並ぶといつも三女扱いされるというエピソードを聞いた後日、
 にこから矢澤家の写真(お母様は欠席)を見た時に、
 下手すると四女にも見えると思ったのはここだけの秘密。
650 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/19(日) 18:19:46.84 ID:06NEsZxh0
「そうねえ、やっぱり姉の辛さっていうのはあるわよ。
 でも、絢瀬絵里って知ってる? 彼女って昔から人の感情に鈍感すぎると思ってて……」
 絢瀬絵里に絢瀬絵里のことを尋ねるといった行動を怪訝に思いつつ、
 しかし本当にニコニコ笑ってる、まるで悟りでも開いてしまったかのよう。
「人には多かれ少なかれ、悪いところ良いところどちらも兼ね備えているわ。
 ただ、えてして私の経験上、悪いところを治そうとすると良い部分の輝きも消えてしまうの、
 だから考え方を改めて、悪いところを個性にするくらいの勢いで……」
 べらべらと語り始めるにこ。
「あかん! にこっち! こっちの世界に早く戻ってこーい!」
 悲痛な言葉を叫ぶのと同時に、にこの両頬を往復ビンタをかます紫お下げ。
 にこの顔面が上下左右あらゆる方向にかっ飛び首の座っていない赤ちゃんみたいになってる。
 常軌を逸した行動に思わず止めようとする私だったけど、その行動は妹に羽交い締めされながら止められた。
「ダメだよお姉ちゃん! 今は人の命が助かるかどうかの瀬戸際なの!」
 家事になった家の中に子どもが取り残されている、
 という状況で家の中に飛び込もうとする母親みたいな顔をした亜里沙に全力で止められる私。
 希に全力でぶっ叩かれているにこが
 いまだにニコニコと笑顔を浮かべているのを眺めながら、私は素数を数え始めた。


 そんなこんなで、
 両頬が赤く染まっている矢澤にこと、
 肩で息をしながらゼーハー言っている、東條希との組み合わせである。
 仏様から小悪魔にスケールダウンした相手に今回の企画の件について訊いてみた。
「んー、詳しい経緯はツバサさんに経由で聞いたほうがいいと思うわ。
 私はその、えーっと、あなたをびっくりさせんがために焚き付けただけだし」
 以前からUTXの芸能科で指導して、当人曰く芸能界は上にも下にもパイプがあるというにこの台詞。
 詳しくははぐらかされてしまったけど、こころちゃんをお持ち帰りした日。
 にこは私を呼び出す心持ちだったらしい。
「そうね、私たちのあとで花陽がアイドル研究部の部長を努めていた年、
 その後2年間は雪穂ちゃんが部長をするけど、その1年目の年にオトノキはラブライブを制覇する……」
 なんでもラブライブが二回行われたのは私達の代だけだったらしい。
 確かにAqoursが制覇した年にはラブライブというイベントは一回だけであった気もする。
651 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/19(日) 18:20:18.60 ID:06NEsZxh0
「オトノキの4連覇が掛かった年に結局はAqoursが制覇。
 それからしばらくしてA-RISEの人気が出始めてから、UTXが制覇を重ね始めて……」
 ちょうどにこっちが講師を始めたくらいやんな? 
 という希の楽しそうな声に、別に生徒たちが頑張っただけと告げるにこの冷静な反応。
 てか、アイドル研究部の部長を雪穂ちゃんが務めていたとか初耳なんですが。
「今は群雄割拠、どこの地方が強いって言うことはないみたい。
 Aqoursが優勝したくらいから地方も頑張ろうって言うことになったみたいよ?」
 などと言われて、またにこに話をはぐらかされていると気がついた私は強い視線を投げかける。
「ごめんごめん、今回の企画の当初はμ'sのみんなには伏せようってことだったの、
 まあ、私はUTXの関係者だったし、参加は決定だったんだけど」
 彼女が言うには、今回のイベントはA-RISEの一日限りの復活祭が始まりだったそう。
 ただ、その彼女たちの対となる存在が必要と言われた際に色々なアイドルが候補に挙がったみたいなんだけど。
「ツバサさんは……そうね、Aqoursが制覇してからしばらく、
 μ'sが軽んじられる論調が多くなって、
 インタビューとかでも自分の憧れはμ'sなんだって話をする機会が増えてね」
 遠い過去を覗き見るような表情をして、にこが言葉を続けた。
「芸能界の扱い的には、μ'sは一発屋みたいなもの、
 オトノキが制覇し続けたのはその遺産を使ったから……その論調は一部は正しい。
 確かにオトノキが強かった時期の曲の大半は真姫と海未のタッグで作られたものだし」
 亜里沙や希が複雑そうな表情をして(私もそうだと思う)にこの話を聞く。
「そういう……なんていうかな、分かりきってますっていう連中をどうにかしたいよねって思ったのよ、
 私は暇そうな絵里だけを生贄に捧げて、あとは放っておこうって言ったんだけどさ」
 なぜその話が当人にだけ伝わっていないのか、
 著しく疑問ではあるのだけれど、
 ツッコミを入れるのも無粋だという判断でひとまずスルー。
「些細なきっかけが膨らんで奇跡を起こす……
 ま、ツバサさんがどこまで意図したかは分からないけど、
 あの人顔が広いのね、栗原陽向なんてどっから連れてきたんだか」
 などと言われて希と亜里沙の目が明後日の方を向いた。
 私の認識としては、現在の彼女はたまになのだ口調で喋る変な人だけど、にことしてはそうではないみたい。
「その、私が中心になって踊るっていうのは?」
「いいんじゃない? 元から絵里には生贄になって貰おうと思ってたし、
 今まで亜里沙ちゃんのスネをかじっていた分働きなさい」
 私の言いたいことは終わりと言わんばかりに、にこは髪型をツインテールに変え、
 にこにこにーにこにこにーと歌いながら部屋から抜け出していく。
 精神的ダメージは大きそうという希の言葉はともかく、すみません不出来な姉でと謝るのはどうなの妹よ。
652 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/19(日) 18:20:51.29 ID:06NEsZxh0
 数分の間に妙な沈黙が流れたのち、
「ウチが最初にツバサちゃんから聞いたのは、そうやんなぁ……今から4年前かな?」
 というと、絢瀬絵里のニートとしての生活が2年目くらいの年か。
「スクールアイドルという存在が芸能界のアイドルの下部組織みたいになっている、
 スクールアイドルとして頂点を極めた人間が芸能界にデビューできる……
 甲子園で有名になってドラフト指名される高校球児みたいになってるなって、ウチもちょっとだけ思ってん」
 希は、ときおり天井を見上げながら言葉を選ぶようにしながら優しい口調で話す。
「十年一昔、ウチらとは時代が違うって言うのは仕方ないにしても……エリちは知ってる? 
 いま、スクールアイドルってスクールカーストの中で上位に来るんやって」
 時々、ラノベか何かで使われる単語だというのは知っているけど、ピンとこなかったので首をかしげた。
「要は人気者だけがスクールアイドルに選ばれるということです。
 雪穂はアイドル研究部の部長や副部長をこなしましたが、
 そういう意図が嫌でアイドルとして前面に立つのを拒否しました」
「今ではまかり間違っても、ウチみたいな地味な子がスクールアイドルとして踊るなんてないんやろうなあ……」
 東條希が地味であるか否かは私が考えるべく問題ではないとして、
 今のスクールアイドルに覚えている違和感……は、置いておいて。
 私たちが卒業したあとのオトノキのスクールアイドルの事情を亜里沙が教えてくれた。
 花陽が部長を務めるアイドル研究部には数多くの生徒が押し寄せた。
 二年生だった花陽や凛や真姫は、当初自分たちだけで何とかしようとしたけど
 ギブアップして生徒会を頼る。
 穂乃果や海未は全員でやれば良いんじゃない? みたいに前向きだったけど、
 ヒフミちゃんたちがそれを止めた。
 心苦しいけど、部内で一軍二軍ができるようじゃ部活としては不健全だから部に入る人間を選抜しようと。
 楽しければいいのにねえ、なんて語る穂乃果は難色を示したけど
 ヒフミちゃんたちの意見を踏まえ、海未や真姫といったメンバーが中心になって選抜試験を執り行った。
「私はなんと言いますか、もちろんスクールアイドルもやりたかったんですけど……
 μ'sとは違うって思ったんです。有り体に言えば、選抜を勝ち残ったメンバーと一緒に活動はできないって、
 だってあの子達、私たちが元μ'sの身内だって知らないくらいだったんですよ?」
 苦笑しながら教えてくれる亜里沙。 
 そういえば雪穂ちゃんに頼まれて、一度オトノキのスクールアイドルの様子を見に行ったことがある。
 花陽や凛といったメンバーは練習の様子を見ながら、指導や指示を出し、自分たちは滅多に歌ったり踊ったりしない。
 なんで花陽と凛は踊らないの? って雪穂ちゃんに尋ねたら、
 苦笑されながら「お二人がなにかするとみんな自信を無くしちゃうので」と言われた件がようやく腑に落ちた。
「だから、原点回帰……μ'sが原点かどうかはわからないけど、
 今回のライブでの映像は編集して、希望する高校に渡すんよ」
「え、それって絢瀬絵里の恥が全国に行き渡るってこと?」
「もうすでにニートの絢瀬絵里の情報は全国どころか全世界に知れ渡ってます、諦めてください」
 どこ情報よそれーと言って誤魔化そうとしたけど、妹はそんな態度を許してくれなさそうなので肩を落とした。
653 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/19(日) 18:21:25.53 ID:06NEsZxh0
「スクールアイドルは……もっと、もっとな、勝負とかそういうんやなくて、楽しいもの」
 ぽつりぽつりと希が語りだす。
「高校時代を振り返ってみて、
 あの時は楽しかったねってそう言えるような、ひだまりのような思い出を残すためのもの」
 聖母希を彷彿とさせる慈愛を込めた(さっきのにこみたいな)表情で、
「でも、もしかしたら……そんな、誰でもアイドルになれる、輝きを残せる、そういうんは……
 人の努力に対する冒涜だったのかも……知れへんね……」
 声色自体は明るいけれど、口調とか態度とかはすごく悔やんでいる感がする。
「頑張って、一生懸命励んで、努力をして。そうしたらいい結果が残せる。
 才能とか、外見とか、人の生まれによって左右される事柄では何も変わらないと、
 そういうんは弱者の論理やったのかも」
 希は私のことを見ながら、
「だからね、エリち。
 ううん、絢瀬絵里ちゃん。
 私は望むの。
 μ'sという存在が、
 もしも人の弱さを肯定するならば
 そうじゃないって教えてあげてほしい。
 人は、自分の弱さを見つめ、受け入れ、目をそらさずにいるためには……
 誰かを頼ったり、意思を曲げたりせず、自分の意志で生きていかなければいけないって、
 辛くても、辛くても、"μ'sがこう言っていたから、歌で歌ったから”そうじゃなくて、きみはきみだと言ってあげて欲しい」
 希は悲しそうな目をしながらドアの方向を見て、ひとしきり見つめたのち、
「ねえ、絵里ちゃん。
 心の支えとか、拠り所とかはいつか取り払わないといけない、
 自転車の補助輪を外さないといけないように。
 姉妹仲が良いのは結構だけど……さ」
「そうね、私もいつか……ううん、本当はもう、亜里沙に頼りっきりじゃいられないって。甘えっきりだったものね……」
「……真実はいつだって痛い。弱い部分を見つめるのも痛い。でも、痛いことから逃げてたらいけない。
 ね、亜里沙ちゃん?」
654 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/19(日) 18:22:33.72 ID:06NEsZxh0
 希が立ち去ったあと、
 私は天井を見上げながら考える。
「下手の考え休むに似たりと言います、姉さん」
 妹のカミソリシュートが右バッターボックスに立つエリち直撃。
「ですが、下手は上手のもとなどとも言います」
「それ、どういう意味?」
「雪穂は……絢瀬絵里という存在を称する時、失敗をしない人だと言っていました」
「ええと?」
「ですが私は反論しました、生き方を失敗し、交流を失敗し、人付き合いを失敗し、
 絢瀬絵里の人生の99%は失敗で生きていると」
 妹のスマッシュが前方に立つ絢瀬絵里の頭部を直撃し笑いを誘う。
「そうしたら雪穂が。
 だったら、もしかすると絢瀬絵里という人間は……」
「人間は?」
 すると妹は耳元で囁くようにしながら


「自分の姉よりもよっぽど……わっ!」

 蚊の鳴くような声でエサ(絢瀬絵里)を誘いつつ、耳を傾けた瞬間に大声を上げるとか!
 妹は楽しそうにコロコロ笑い、
「私の口から聞くより雪穂から聞いてください」
「微妙に彼女とは縁遠い気がするのだけど?」
「そのうち聞けます、頑張ってください」
 耳を抑えながら久方ぶりに楽しそうな亜里沙を見て、
 まあ、人との別れなんてそうそう起こりえずもないわね、と思ったのだった。
655 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/19(日) 18:26:56.30 ID:06NEsZxh0
 夏風邪、夏バテ……その他諸々。
 今作品を読んでくださっている方々はお元気でしょうか。
 次回登場するのは、南ことりと園田海未の二人。

 希には本当はヨハネに対するメッセージを語って頂くはずだったんですが、
 後々ダイヤに思う存分語って頂くので、
 絢瀬亜里沙ルート(笑)みたいになっている妹に向けていろいろ。

 では、近い内に。
 来週はもっとテキスト量を増やしてなんとか……。
656 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/19(日) 21:11:35.97 ID:BAJXGRogO
のんたんが絵里ちゃん呼びになるとこ良いな
妹離れの時が近いのか……更新乙!
657 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/20(月) 04:48:17.75 ID:68xAn+3g0
スクドルの未来の世界観、リアルだなぁ
658 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/20(月) 07:57:48.27 ID:xTluLKNxO
おもしろいわ
659 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/20(月) 07:57:17.91 ID:xTluLKNxO
おもしろいわ
660 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/20(月) 07:57:33.96 ID:xTluLKNxO
おもしろいわ
661 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/20(月) 07:59:33.12 ID:xTluLKNxO
なんか重くて三連投になってしまったすまん
662 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/25(土) 19:15:18.19 ID:aDXJNswR0
お久しぶりです!
現在アラ絵里テキスト化実行中。
明日には無事更新が完了できそうですので、気長にお待ち下さい。

夏風邪、夏バテ、家族全員が風邪を引く等トラブルに見舞われ、
おそらく今週は今作品以外は更新できませんが!
もしかしたら、来週から更新頻度が上がるやも知れません!

というのも手書きで書いていたんですが、
おおよそメリットが無いことに気づいて(自己満足感しか得られない)
パソコンで書くという作業を練習中ですので、
文章の質は落ちるやも知れませんがスピードはおそらく3倍近くになるので、
誤字脱字等、黒歴史にしたいほどの……って語ってもしょうがないので。

その前にご報告。
次に登場するとあるキャラがかなり王様っぽい振る舞いをしていますが、
亜里沙ルート4話の伏線ですので!(伏線の予告)
広い心で見ていただければと思います……。
では! また明日です!
663 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/25(土) 19:30:37.90 ID:3SPNR2740
更新予告ありがたいわ
毎週の楽しみが増えたの嬉しすぎる
664 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/25(土) 20:41:26.69 ID:JNV+SFv8O
傍若無人っぷりが似合うのはやはりあのお方かな?
665 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/25(土) 22:33:55.58 ID:aDXJNswR0
 キンキンキン!(剣戟の音ではありません)
 
 なんて鳴り響く耳を抑えながら、
 これからどんどんと衰えていく自分自身を想った。
 20代になったばかりの頃には、
 幼さも手伝ってか未来の自分に憧れる部分もあったけれど。
 夢潰えて、現実的に割となんにもできない自分を意識してから、
 理想と現実とのギャップにひたすら悶える時間もあった。
 高校時代の南ことりに対する印象は、
 あくまで気弱で、強く物を言えない控えめな子だという印象だった。
 人づてに海外に行ったという話を聞いたときにも、
 すぐに帰ってくるのではないかと心配になり、パリに行ったと聞けば
 様子を見に行かなければならないと使命感に駆られた。

 結論から言えば、
 すごくすごくないで言えば南ことりのほうが断然すごい。
 わりと何でもできてきた人生ではあったし、
 これからも自分の思い通りに描いた通りの人生を送るであろうという、
 現実逃避にも似た思い上がりを繰り返してばかりだったけど。
 ことりに対する、
 何事も夢見がちな印象というのが、
 よもや自分に当てはまろうとは、大学生の時の自分に教えてあげたい。
 どんなに願ったところで過去の自分へメッセージなど送ることはできないけれど。
666 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/25(土) 22:34:24.15 ID:aDXJNswR0
 そうそう。
 姉にバニーガールの格好をさせた妹ではあるけれど。
 先ほどから、姉など眼中にないといった態度を取っている。
 それは、露出度のやたら高い私など目に入れたくないといった感じなのか、
 それとも、今更ながらにこんな格好をさせたことを後悔しているのか、
 できれば後者なら、少しは絢瀬絵里も報われるというものだ。
 今後こんなことはされないように、姉の威厳というものを少しは高めておきたい。
 ニートを長い間していた姉が、
 お金をフル使用されていた妹に対して権限を握るなど、
 そんなことが許されて良いものかと思わないでもないけれど。

 妹の次の方どうぞという掛け声とともに、
 ドアが開いて入ってきたのは、南ことり。
 私をひと目見た瞬間、
 義憤に駆られた倒幕藩士みたいな顔をして、
 キッ! という効果音が似合いそうな歌舞伎役者みたいな睨みで亜里沙を見、
「私の衣装は!?」
 と宣言した。
 なだめるのに数分掛かった。
667 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/25(土) 22:34:57.78 ID:aDXJNswR0
 アラサーが二人してバニーガールの格好をするという、
 とんでもない状況下に置かれることは回避した妹だったけれど、
 気まずい事情でもあるのかこちらには全く視線を合わせず、明後日の方向を見ている。
 その姉である私はというと、
 何かしら口を開けば怒られるのではないかと警戒して、
 南ことりの一挙手一投足を見つめていた。
 その彼女は、先程までの鬼神の如き憤怒からは開放され、
 高校時代の通常時のような穏やかな表情を見せている。
 精神世界を語ることは私にはできないけれど、
 表情のように穏やかであることを祈るばかりだ。
 そんな誰ひとり口を開かない三すくみを経験したのち、
 一番最初にため息と一緒に言葉を発したのは、
「どうして絵里ちゃんは、そんな年甲斐も考えない不健全な格好をしているの?」
 高校時代のぴゅあぴゅあ(南ことりや小泉花陽を主に指す)っぷりは微塵にも見せず、
 人の痛いところや弱点を的確に突く毒舌っぷりに、
 私のガラスのハートは如実に傷ついた。
 女装して女学院に潜入するゲームで主人公がよく取るポーズをしたかったけど、
 そんなことをすれば、ことりに椅子ができたと言われて背中に体重を預けられかねない。
 心の中で泣いていることを微塵も見せず、絢瀬絵里は前を向くことに決めた。
「この衣装のデザインをしたのはことりさん……あ、いえ何でも」
 鋼鉄のキャリアウーマンかつ冷徹アイスレディープロデューサーを黙らせることりの眼力に、
 絢瀬姉妹はひたすら震え続けるのだった。
668 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/25(土) 22:35:33.72 ID:aDXJNswR0
「ふう、おいしい」
 この場の統治者にして、
 誰よりも偉いお立場にあられる南ことり嬢をもてなす絢瀬姉妹。
 今だって本来なら目上の人であるはずの妹に、
 のどが渇いたから飲み物が欲しいと告げて持ってこさせたのは、
 地下にあるBARで一番お高いお飲み物。
 グビグビとことりの体内の中に消えていくそれは、
 一杯1500円はくだらない超高級ドリンクである。
 まるでサラミでもツマミにするみたいに食べているそれは、
 一粒500円はくだらない、高級チョコレートであり。
 絢瀬亜里沙の財布がいかばかり軽くなっているかを考えると、
 姉としては苦笑せざるを得ない。
 まあ、以前までは主に自分が軽くしたことを考えれば、
 この場で相手に口出ししようなどという判断はできるはずもなく。
「あ、絵里ちゃん、もうちょっと上」
 肩を揉みながらお客様コッティーますねえという渾身のギャグはスルーされ、
 ひたすらことりに奉仕を続けるのは絢瀬絵里。
 マッサージしている場所は多岐にわたり、ふくらはぎ、腰、太もも……。
 今は首筋のコリを必死になってほぐし続けている。
 こんな事になるなら、通信教育でマッサージの勉強をしておくべきだった。
 後悔するのは、いつも何かが終わった後で
 たいていやり直しが聞かない状況下に置かれている――。
669 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/25(土) 22:36:01.49 ID:aDXJNswR0
 そんな魔窟に足を踏み入れたのは園田海未。
 飲み物やお菓子をなくなってはちょこまかと取りに行く妹や、
 ニッコニコ笑いながら、お客さんコッティーますねぇ!(二回目)
 という渾身のギャグを披露しながら冷たくスルーされている私を見ながら、
 遠い目をしつつ天井を見上げた。 
「ええと、園田海未です」
 トリッキーな場面で出くわしたせいか、
 何故か知り合いに(ちょっと前に会ったばかり)自己紹介をした。
 ことりは恥ずかしそうにうつむいていたけど、
 うつむきつつもさっきのチョコレートは食べているあたり、
 どれほど反省をしているのかはわからない。
 ただ、亜里沙は信頼できる人物がやってきたとばかりに
 表情が輝きまくっているが、
 彼女の財布は今も軽くなり続けていることを考えれば、
 姉としてはそろそろ暴走ブラックバードを止めるか否か決めなければならないかも。


「ことり、いろいろあったのは分かりますが八つ当たりはやめましょう」
 結局、ことりに対して忠告を入れたのは海未だった。
 女神様みたいな優しい表情を浮かべながらの進言だったので、
 この場のなんとも言えない空気を穏やかにするかと思いきや。
670 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/25(土) 22:36:28.94 ID:aDXJNswR0
「絵里に対して愚痴りたいのは、私も同じですが」
 あっという間の爆弾投下。
 光陰矢の如しなどというけど、
 平穏はどこか遠くにふっとばされた。
 ちなみに光陰というのは、ベジータの声がする主人公の友人ではなく。
 月日という意味で――
「絵里、なぜ私の自宅に来ずにアイドルなどを……」
 現実逃避にあれやこれやを考え始めたけど、
 そんな逃避を一切許さず、こちらをきちんと見ろと言わんばかりに
 ニッコニコな笑顔をしながら私の肩を掴む。
 一方先程まで王様のように振る舞っていた南ことりと、
 その召使いであった絢瀬亜里沙は、
 怯える私から距離を取り、明日のDeNAの予告先発エスコバーという話をし始めた。
 いいなあ、私も相手の巨人の予告先発メルセデスって話で盛り上がりたい。
「せっかく両親に孫の姿を見せられるかと」
 素っ頓狂なことを言い始めた恋愛ポエマーに、
 どういう反応を返したものか分かりかねた私は、
「あ、海未結婚するの?」
 孫を見せられるというので、
 てっきり私がいない間に相手でもできたのかと思い、
 一抹の寂しさを感じつつ、明るい調子で問いかけてみると。
671 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/25(土) 22:36:59.14 ID:aDXJNswR0
「ええ、嫁を貰おうかと。
 金髪でカタカナ系、μ'sでの外国語担当
 抜群のスタイルを誇り、生徒会長をこなし賢く、
 外見も特に秀でており、音ノ木坂学院の生徒誰もが憧れるような――」
「それはまるで絢瀬絵里みたいな人がいるのね?
 でも私は賢くないし、英語は得意じゃないから――
 外見が優れていると言っても」
「という冗談は置いておいて」
 一体どこから? 
 という問いかけは私だけが地獄を見そうだったのでやめた。
「ことり、亜里沙、そのような場所に居ずにお話をしましょう?
 ええ、気分的にはうさぎのローストでも食べたい気分なので」
 今の絢瀬絵里の格好を思い出して頂けると、
 私がどんな表情を浮かべて頂けるかおわかりになられるかと思う。
 あと、背中に冷や汗がどれほど流れ落ちているのかも。

 
「ご協力ありがとうございます。
 以前からのお話ではありましたが、
 姉をセンターに添えてのライブが実現する次第になりました」
672 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/25(土) 22:37:27.16 ID:aDXJNswR0
 その姉に対する報告が基本的に逃亡できない状況下に置かれてから――
 ということに対して、いろいろ言葉責めしたい願望はあるけれど。
「ええ、これで私も肩の荷が降りた心持ちです。
 まあ、絵里一人に踊らせるのも心苦しく思ってはいましたけど……
 よもや自分も一緒に踊る羽目になろうとは」
 亜里沙曰く、
 私のニート脱出にあまり乗り気ではなかった海未。
 何故かと言うと彼女だけは私の両親と面識があり、
 あの二人の度を超した融通の利かなさを知っているので、
 それでいいなら働かずとも相手への復讐になるのではないか?
 なんてことも告げていたようである。
 なお、
 私のニート脱出に積極的な行動を見せていたのは、
 にこ、ことり、凛の3人だそうで。
「私の衣装のデザインがお蔵入りにならなくてよかった
 絵里ちゃんに似合うようにとびっきり可愛くしておいたから」
 ただ、にことか凛あたりが私に対して辛辣だったのは、
 元からの性格と意識の高さもあったんだろうけれど……。
 ことりが直接私に働くことを促したりしたことはなくて、
 どちらかといえば疎遠な方向に傾いていたから、
 自分のことを絶えず心配されていたことなど全く心象になくて。
673 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/25(土) 22:37:58.44 ID:aDXJNswR0
「ただあの、
 絵里ちゃんが来なかった時のために
 銀髪の子が着ても良いように調整してくれっていうのは無茶ぶりが」
「二着作るよりは良いかと思いまして」
 Re Starsのメンバーで銀髪と言うと、
 他メンバーに比べて控えめで、
 はっきりと言ってしまえば影が薄いエヴァリーナちゃんのことだろうか?
 確かにダンスが得意で、
 本気さえ出せれば絢瀬絵里程度ならなんとかなりそう感は漂っているけれど。
「そういえば亜里沙、エヴァちゃんってフルネームなんて言うんだっけ?」
「ん? ああ、姉さんは彼女の本名は知らないんでしたっけ?
 あの子の本名はリリー・ルッソ。
 「エヴァリーナ・アヤルセイヴァン」は芸名です」
「……あの、私の勘違いでなければ良いんですが。
 名前に絢瀬絵里と入ってません?」
 海未のその言葉にも、ふぅんみたいな反応しかしなかった私に対し、
 亜里沙は痛い所を突かれたと言わんばかりに表情を曇らせた。
「彼女は、宇宙の起こりは絢瀬絵里だと信じています」
 苦々しい表情を浮かべたまま、妹がトチ狂ったことを言い出した。
 カテジナさんとお友達になりに来たみたいに、素っ頓狂なことを説明し始める。
674 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/25(土) 22:38:40.19 ID:aDXJNswR0
「昔、この宇宙……つまり世界が出来る前。そこには絢瀬絵里がいました」
「すごいのね」
 そんな言葉しか出てこなかった。
 宇宙の起こりが絢瀬絵里だなんて、
 その当人の絢瀬絵里でさえ知らなかった。
 よもや自分がそんな大それた存在だとは……。
「友人のいなかった絢瀬絵里は、
 新たなる可能性を探るため、そして、暇つぶしに宇宙を作りました」
 コメントが出てこない一同。
 ここで茶化して、
 この世界の絢瀬絵里と一緒ね! と叫べればよかったんだけど……。
 残念ながらそんな気力は浮かばなかった。
「宇宙神絢瀬絵里は、やがて自分と出会い
 本当の愛を知ることだろう。
 そして世界は更新され、
 優しくない愛のない世界は生まれ変わるだろう
 ……とは、おそらく今は思ってないはずなんです。
 おそらく、きっと……たぶんですが……」
 いつもは強気な妹のあまりな弱々しい態度に対し、
 特にコメントをすることができない一同は、
 ひたすら時間が過ぎるのを待った、
 あまりにも痛々しい妄想に対して、それくらいしか供養の態度を示せなかったから。
675 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/25(土) 22:39:10.34 ID:aDXJNswR0
「そういえば、次は穂乃果が来るのかしらね?」
 ようやくコメントの一つも出来るようになったので、
 まだ未登場のμ'sのセンター高坂穂乃果の話題を振ってみる。
 よもやこのライブで欠席することなどはないだろうし、
 以前の誰かの会話でちらっと名前を聞いたような気もするから。
 ただ、誰かから逃げてでもいるのか姿は見当たらなかったけど。
「絵里は確実に地雷を踏み抜いていきますね」
「マゾなんです」
「本当だねえ……」
 宇宙神傷つく。
 ただ、先ほどの凹んだときのポーズ→「orz」
 をやってみたかってけど、三人が三人私を椅子にしそうだからやめた。
「私にとって、高坂穂乃果という存在は――」
「宇宙神?」
 茶化すつもりで問いかけてみると、亜里沙とことりにスネを蹴っ飛ばされる。
 悶絶するレベルで痛い。
「こほん、今でこそはっきりと言いますけど。
 高坂穂乃果という存在は普通なんですよ、あくまで私にとってはですが。
 幼なじみであり、親友。
 そこには奇跡とか輝きという要素はなく――
 ただ、人よりもちょっと行動力があっただけの普通の人」
「穂乃果が普通か……そういう印象は持ったことなかったな」
「それは絵里が穂乃果を買いかぶり過ぎなのです」
676 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/25(土) 22:39:45.62 ID:aDXJNswR0
 スネをさすりながら意見を言ってみるとバッサリ否定される。
 絢瀬絵里にとって高坂穂乃果というのは、
 こうして言葉にするのは恥ずかしいけれど……
 奇跡の象徴みたいな存在だった。
 宇宙神という存在はわからないけど、身近にいるすごい神様みたいな、
 そんな印象。
「絢瀬絵里は、わりとすごい人間ですから、
 自分と一緒にいるから相手がすごいんだろうくらいの印象は……
 まあ、おそらく高確率で思うんでしょう?」
「高確率ですごい人間がいるんだから仕方ないじゃない……」
 綺羅ツバサしかり、絢瀬亜里沙しかり。
 身の回りにいる面子は基本的に高レベルな人ばかりで、
 才能を極めて発揮していたり、夢を簡単に叶えたり。
 人気も知名度もニート(笑)の私では遠く及ばない。
「生憎ですが、
 私が今まで生きてきて、
 すごいと思ったのはあなたくらいです」
「買いかぶり過ぎじゃない?」
「いいえ。
 人気絶頂期にあった過去の矢澤にこも、
 アイドルとして頂点を極めた綺羅ツバサも、
 そしてなにより、あなたがすごいと思う高坂穂乃果も
 ……みんながみんな、あなたをすごいと称します」
677 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/25(土) 22:40:13.12 ID:aDXJNswR0
「ええと……」
「こんな事を言って困らせるのは、
 私自身も把握していますが……。
 ニートであった。
 仕事をしていなかった。
 そんなことで自己評価を下げる必要は何一つないのです。
 別にそれは絢瀬絵里に限ったことではないですけれどね」
 潤んだ瞳で海未に告げられて、
 もう一言くらいそんな事ないよと言いたかったのを我慢。
「私は……そうだなあ……
 穂乃果ちゃんっていうのは、すごーく仲の良いお友達?
 親友だとか、幼なじみであるとか。
 もちろん関係を表現する言葉はたくさんあるんだけど……
 お友達っていうのが一番関係性を表しているかなって」
 海未が静かになったので言葉をことりが引き継いだ。
「とある時期からね穂乃果ちゃんは
 私も、海未ちゃんも頼ることはなくなったよ?
 それはね、大人になったとかそういうんじゃなくって……
 友情っていうのは相手に依存したり、相手に負荷をかけるんじゃなくて、
 相手に対等で誰か次第で態度が変わることのない尊いもの。
 あの子たちが出てきてラブライブを優勝したくらいから……」
678 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/25(土) 22:40:50.37 ID:aDXJNswR0
「あの子たち?」
「ことりは彼女たちのグループ名を言うことも不愉快そうですけど」
 私も同じ気持ちですと言いつつも教えてくれたのは、
 「Aqours」という名前だった。

 
 二人が出ていくのを見送りながら、
 私はなんとなく天井を見上げた。
「亜里沙は知っていたの?」
「……Aqoursに対して良い心象をお持ちではない程度なら」
 彼女たちと普通に交流していた私としては
 (なにせ会いに行って熱烈な歓迎さえ受けているから)
 Aqoursに対するネガティブメッセージにたいして、はいそうですかと頷くことはできなかった。
「彼女たちに対して……
 いえ、Aqoursに対してネガティブな印象を持っていないのは、
 にこさん、希さん……そして、姉さんくらいです」
「どうして?」
「にこさんは大人ですから、希さんは博愛主義、姉さんは……まあ、底なしのバカですし」
 バカだという言葉を一つも否定できない。
「今回のライブにAqoursの方々を呼んだのは……
 私の出来る最大限の復讐です」
「物騒な話ね」
679 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/25(土) 22:41:17.49 ID:aDXJNswR0
「希さんはあの子と穂乃果さんを仲直りさせようとしましたけど……
 私は子どもなので
 目には目を、歯には歯を……因果応報、報復は妥当とせり」
「彼女たちが何をしたの?
 千歌ちゃんは穂乃果に憧れてスクールアイドルを始めて、
 メンバーが集って物語が始まった。
 奇跡を願ったけれど、結果は夢敗れた。
 可哀想だとか同情する要素はあるけれど……」
「相手への好意というものが、
 ポジティブな感情を抱かせるばかりと
 本気でお考えですか?
 それは私たちの母を見て、
 旦那さんを深く愛していて素敵ねっていう
 私たちのことを一欠片も理解していない感想と同じです」
 妹の態度や、表情――そして言葉の切なさに。
 過去の亜里沙から問われたとある言葉を思い出した。

「相手のことが好き
 でも、好きな相手が一つも亜里沙を好きじゃなかったら?
 他人だったら良いけど、
 それがもし大切な家族だったら?
 自分のことなどどうでもいいのだと……
 言葉で、態度で示されてしまったら。
 絢瀬亜里沙は一体誰を信じれば良いのですか?」
680 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/25(土) 22:41:56.34 ID:aDXJNswR0
 私はね、
 仮に母親とか父親から、
 一つも愛されていなかったとしても、
 無難にやり過ごせる技術は持ち合わせていたけど。
 妹は違う。
 甘えたがりの盛り、
 母親から投げかけられた
「あなたよりもパパが大事だから」
 という言葉。
 どれだけ傷つけられたことだろう?
 どれだけ悲しかったことだろう?
 ――そして私が、
 その事実を今の今まで忘れていたということが。
 何よりも許せなくて、歯がゆい。

「私と亜里沙は家族だから」
「……なんですか?」
「ううん、家族っていうモノより、強く、深く、繋がり合って……
 私は亜里沙を深く愛しているから」
「姉妹で同性……因果ですね」
「お姉ちゃんを信じなさい」
「絢瀬絵里のどこを信じれば良いのか……
 お金はない、就職口もない、今だってバニーガール……」
 それはあなたがさせたんでしょう?
681 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/25(土) 22:42:32.04 ID:aDXJNswR0
「今から、Aqoursの皆さんが来られます。
 ヨハネちゃん以外ではありますが。
 もし……もしも、
 高海千歌という人が、
 穂乃果さんに憧れ、夢を持ち、理想とし、感動を覚え……
 相手を深く愛し信じることだけを是とする……いえ、
 一方的に相手を慕うことが相手に対する愛情などと、
 理解のないことを言うのならば。
 絢瀬絵里が出来る最大限の言葉で、
 それは違うと言ってあげてください」
「……出来るかしらね?」
「ああ、ちなみにですが。
 高海千歌、渡辺曜さん、桜内梨子さんの3人は
 このあとハニワプロからアイドルグループでデビューしますよ?」
「それ、私がどっちに進んでも死ぬやつじゃない?」
「……グループ名は「ア・リトルライト」」
「よく意味が取れないんだけれど?」
「リーダーが言うには直訳すると"穂乃果”な光だそうですよ?
 光がどこから来ているのかは――
 μ'sが最後に歌った
 本当に一部の人しか知らない
 僕たちはひとつの光を参考にしたとか」
「……そう」

 私は。
 絢瀬絵里はドアの先を睨みつけるようにする。
 自分自身がバニーガールで
 ひとっつも格好がつかないことは自覚しつつスルー。
682 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/25(土) 22:48:23.91 ID:aDXJNswR0
明日更新……などと言いましたが。
ごめんなさい、嘘でした!

いや、一度熱を置いて冷静に見直すとか。
そういう選択もあったんですが、
ちょっと今回の話は心に痛かったので。
文章の質はともかくとしてすぐに挙げてしまおうという判断でした。

このアラ絵里ではできないことをやろうというコンセプトで
「音ノ木坂学院 小説研究部 活動概要」
という作品を書いていますが、
高海千歌ちゃんは穂むらに居候をしていて、
穂乃果ちゃんと家族のような付き合いをしている大の仲良し同士であるという設定がある。
という点から、彼女たちが今後どうなるかを察していただければ幸いです……。
す、ストレス要素があるから先に予告しておきました!
683 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/25(土) 23:10:25.50 ID:3SPNR2740
フライングなら大歓迎だ乙
両親の相変わらずのクズっぷりが・・・
千歌は穂乃果の大学時代のトラウマとやらに絡んでそうだなぁ
次回も楽しみ!
684 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/26(日) 00:30:42.59 ID:q9UHvJfaO
シリアスとギャグの緩急がほんとすき
685 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/26(日) 07:42:10.64 ID:9R+Jvt1J0
 μ'sが一番最後に歌った曲は、
 一般的に知られているのは秋葉原にて
 スクールアイドルが集まって歌ったSUNNY DAY SONGとされる。
 にこにーにこちゃんとか、
 海未と真姫と私(雑用)がA-RISEに提供した曲とか、
 μ'sのメンバーがちょっとだけ関わっている曲はチラホラとあるけれど。
 穂乃果が、自分たちだけが満足するようなライブがしたい!
 と言いつつも、
 見てくれる人が一人もいないのはトラウマを思い出す、
 というギャグ(笑えない)も披露して。
 じゃあ、お世話になった人だけ呼ぼう! ということになった。
 亜里沙や雪穂ちゃん、先だって登場した栗原陽向、清瀬千沙の二人もいたらしい。
 そして――
「私たちが呼ばれるなんて、嫌味か何かだと思った」
 と、後日苦笑しながら教えてくれたのは綺羅ツバサ。
「でも、僕たちはひとつの光を歌い終わって、
 一番最後にμ'sが集まって抱き合いながら泣いているのを見た時、
 そして、穂乃果さんの言葉を聞いたときにね……
 A-RISEがμ'sに負けた理由がわかった」
 あのシスコンっぷりが光る統堂英玲奈でさえ、
 妹に対してμ'sのラストエピソードは語っていなかったそうだから。
 高海千歌ちゃんがどういう経緯であのときのことを知り得たのか。
686 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/26(日) 07:42:37.28 ID:9R+Jvt1J0
 よくよく考えてみれば、
 Aqoursのメンバーが通っていた浦の星女学院が廃校したという事実を、
 あんだけ熱烈な歓迎を受けていい印象を持っていた私が知らなかったこと。
 エトワールに来て、津島善子ちゃんに聞いて初めて、
 Aqoursの活動が目標を達成できずに終わったことを知った。
 なんで私が、その実情を把握できなかったのか?
 単純にオンラインゲームや飲み歩きのニート生活で忙しかったのも、
 ある程度はあるのだろうけど……。
「今、ダイヤだけは雪穂と関わりがあります。
 曜さんやルビィさんあたりも凛さんと関わりがありましたが、
 あくまで同じアイドルという域を出ないと思います」
 本当に一部の人達しか知らない、
 僕たちはひとつの光の件が部外者に情報が回った件について思考する。
 凛を経由してAqoursのメンバーに知られたということは考えにくいから、
 観てくれていた人たちの誰かから漏れた可能性がある。
「でもあのダイヤが、高海さんにその情報を回すとは思えません。
 仮に雪穂から聞いていたとしても」
「ネットにもウィキペディアにも、μ'sの最後の曲はSUNNY DAY SONGって書いてあるしね」 
687 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/26(日) 07:43:04.93 ID:9R+Jvt1J0
 一部の人達しか知らないラストライブでは、
 「MOMENTRING」
 「さようならへさよなら」
 「僕たちはひとつの光」
 と、一般に知れ渡っていない曲が披露された。
 ネット上のどのμ'sのファン(またはアンチ)に尋ねても、
 自分たちが最後に歌ったのはSUNNY DAY SONGということしか聞いたことがなかったし。
「一応、音源としてはあるんです。
 μ'sの方々が泣いていた……あのときの音声とかも」
「……穂乃果の言葉も入っているの?」
「はい。
 ヒフミさんたちが
 もしμ'sがいた事を誰もが忘れてしまったときに必要だからって」
 ライブの一番最後。
 停電でもあったのか、機材のトラブルか。
 歌を披露し終わった後に、会場が真っ暗になる出来事があった。
 みんな落ち着いて! と当時は凛々しかった(笑)絢瀬絵里がメンバーを抑え、
 会場にいる人達のざわめきが収まったときに、かすかな嗚咽が聞こえてきた。
 それはまたたく間もなくμ'sのメンバーに伝染し――
「みんな泣いていたわ」
「観客で泣いてない人なんていませんでした」
「穂乃果が叫んだわね……」

「嫌だ! 明日が来るのが嫌だ!
 ずっと! ずっとみんなで一緒にいたい!
 μ'sとしてスクールアイドルを続けていたい!

 今のままでいい! 時が巻き戻ってくれればもっといい!
 ずっとずっと! μ'sの高坂穂乃果でいたい!
 
 最後なんて嫌だ!
 これで終わりなんて絶対に嫌だ!
 今が、今が最高……
 今のままで、今のままでずっと時間が進まなかったら……
 今が……今が最高なんだよぉぉぉ!!!」

 おそらくあの言葉を聞いて。
 私の神様嫌いは増幅されたんだと思う。
688 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/26(日) 07:47:40.25 ID:9R+Jvt1J0
ちょっと更新。

Aqoursを書く前に間を開けないとなって思って、
取り急ぎこのエピソードだけは更新させていただきました。

ワンクッション置くか、
このままの勢いで書き続けるかは朝ごはん(いつもレトルトカレー)
を食べながら考えたいと思います。

結構ストレスが溜まりそうな感じなので、
次に登場するA-RISEが出てくるまでとか読み飛ばしていただいても大丈夫ですので!
689 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/26(日) 11:48:55.71 ID:hUiMgJvJO
二次創作ではメンタルお化けにされがちな穂乃果がこうなるのは珍しい…
690 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/26(日) 18:33:05.14 ID:UTMZdgHlO
シリアスこわい
でも続きは楽しみ
691 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/26(日) 21:19:45.07 ID:9R+Jvt1J0
 ぞろぞろ。
 Aqoursのメンバーが部屋に入ってくる。
 とある黒髪ロングの方が私の姿を見た瞬間に、
 スマホのカメラを向けてきたけど、
 亜里沙のおさわりは禁止でーすの言葉に
 渋々と言った表情でスマホをどこぞへとしまった。
 先頭に立っているのは、
 以前もちらっと会話した渡辺曜ちゃんや、桜内梨子ちゃんの二人。
 真っ先に挨拶をしてくると思われたリーダーの姿は見えない。
 妹もその事を怪訝に思ったのか、首を傾げているけれど。
「あの、千歌ちゃんは?」
「ええと、本来なら一番最初にご挨拶しなければいけないって、
 そう思ったんですけど……」
 私の問いかけに対応したのは梨子ちゃん。
 なんとも言えない表情のままで困ったように曜ちゃんを見ながら、
「穂乃果さんを探しに行くって言って……もうすぐ戻ってくると思うんです」
「分かりました。ただ時間もありませんので――
 本日は呼びかけに応じて頂きましてありがとうございます。
 ア・リトルライトのお三方にはライブでコメントもする機会もありますので、
 事前打ち合わせを丹念にお願いします」
692 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/26(日) 21:20:12.86 ID:9R+Jvt1J0
「は、はい。
 正直な話、私たちがどこまで出来るかわかりませんが」
「絵里さんお久しぶりです、ルビィちゃんに先を越されちゃいましたけど、
 私覚えてます?」
 わりと久方ぶりに見る気がする妹の鉄仮面ぶりに、梨子ちゃんは戸惑いを隠せない。
 ひたすら恐縮している彼女をかばうようにして、曜ちゃんが私に声をかけた。
「ええ、凛のところにいたわね?」
「その衣装、ことりさんのデザインですか?」
「布面積が少ないけど、こういうデザインって見れば分かるものなの?」
「高校3年のとき、ことりさんが有名になって活躍し始めてから
 すごいなって思って追いかけてましたから」
 私としてはそんなこともあるのね程度にしか思わなかった。
「ただ、挨拶に行こうとしたら南條さんに止められました」
 悲しそうな表情を浮かべながら、曜ちゃんは語る。
 アスリートとしての立場ととある事務所に入ってのタレント活動をしていて、
 この度、円満というわけではないけれどハニワプロへ移籍した。
「千歌ちゃんがいないから言えますけど、
 芸能界に入ってから、Aqoursの良い評判を聞くことがないから……
 だからもしかしたら、ことりさんも私たちにいい印象を抱いていないのかなって」
「ことりさんは他人の評判や評価にはさほど興味はありません。
 良ければ私も同行して挨拶に伺いますが」
 曜ちゃんの言葉に反応しようとした私を亜里沙が手で制し、
 プロデューサーモードでの応対に姉はひたすら緊張が走る。
「他の人の評判や評価に興味がないとは?」
「つまり、仮にAqoursを快く思っていないのが事実ならば、
 それがことりさんの個人の意志だということです」
「そう、ですか……」
693 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/26(日) 21:20:42.38 ID:9R+Jvt1J0
 しょげたような表情を浮かべつつ、肩を落とす曜ちゃん。
 暗に、あなた方をことりが嫌っていますと告げられ、
 意気消沈する気持ちもわからなくもない。
 言葉がなくなった梨子ちゃんと曜ちゃんの二人に対して、
 おずおずと言った感じで前進してきたのは、
 ルビィちゃんと花丸ちゃんの1年生組(善子ちゃんは欠席)
「国木田花丸です。
 あの、プロデューサーにお尋ねしたいことがあります。
 ハニワプロ関連の些末な一マネージャーが差し出がましいとは思うのですが」
「安心してください、
 こんな猛獣みたいな格好をしている絢瀬絵里が
 花丸さんやルビィさんを取って食べたりはしません」
 おかしいな、バニーガールなのに猛獣とはこれいかに。
 ただ、妹の発言で緊張した雰囲気が多少弛緩したので、
 絢瀬絵里としてもなんとなく喜ばしい気もしなくもない。
「Aqoursは……μ'sの皆様にとって余計な存在ですか?」
「太宰ですね?」
「そのとおりです。
 私は物分りが良いほうではありませんが、
 自分が生きていることが、人に迷惑をかける
 その意識はとてもつらいものだと私は認識しています」
「だそうですよ、姉さん」
 太宰治か、なんて現実逃避をし始めたところで話を振られビックリ。
「経験則で申し訳ないけれど……人に迷惑をかけない人間なんていないわ」
「私の言葉を認めるということですね?」
「ただ、それは物事の一側面でしかない」
694 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/26(日) 21:21:25.73 ID:9R+Jvt1J0
 元ニートがこんな事を言って良いものかという戸惑いはあるけれど……。
 今も現状維持で妹の脛をかじっている人間の台詞としては、
 いささか説得力に欠けるきらいは確かにある。
「花丸さんはμ'sが最後に歌った曲って何か知ってる?」
「SUNNY DAY SONGです。
 動画でも見ましたし、スクールアイドルの軌跡が流れるときには、
 必ずこのμ'sの偉業が流れますから」
 花丸ちゃんの言葉に頷いているのが数名。
 嫌そうな顔をして俯いたのが梨子ちゃん、
 そしてもうひとり、ダイヤさんは――
「梨子も知っているのね?」
「はい、ダイヤさん。
 すみません。絵里さん、亜里沙さん……
 千歌ちゃんに僕たちはひとつの光のことを教えたのは……私なんです」
 私がどんな表情をしているかは分からないけれど、
 心情を吐露することを許されるなら、余計なことをしてっていう感じではある。
「同僚に、にこさんの妹のこころさんがいます。
 ある時、μ'sの話でお客様と盛り上がって――
 彼女がすごく怪訝そうな表情をしていたから、問いかけてみて」
 今から一年ほど前。
 こころちゃんが未成年だった時代、とある……えーっと、お酒を飲む店で、
 下働きをしていた時に店で一番指名を取ることが難しい、
 いわばトップだった梨子ちゃんの手伝いをしていたことがあったみたい。
「彼女は、μ'sの最後の曲が一般的にSUNNY DAY SONGと言われていることを知らず、
 どんな時も明るく、最後まで笑っていてμ'sは終わった――
 という話を、本当に、本当に、怪訝そうな表情で聞いていたんです」
695 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/26(日) 21:21:54.21 ID:9R+Jvt1J0
 そういえば、こころちゃんやここあちゃんがスクールアイドルをしたという話は聞いたことがない。
 自分とは違う世代だから認識していなかったのかも知れないし、
 にこの話をまともに聞いていなかった可能性すらある。
「こころさんから、穂乃果さんの最後の言葉は聞きました。
 人づてに、僕たちはひとつの光の歌っている所の音源だけは入手もしました。
 すみません、その曲は……千歌ちゃんに聞かせてしまいました」
「いいのよ、謝らないで」
「その通りです梨子さん。
 花丸さん、不肖の姉が話をずらしましたが……
 μ'sとAqoursの間には多くの行き違いがあります。
 曜さん、今は関係を改善をするのは難しいですが、
 今後、ことりさんとよりよい関係を築きたいなら、協力しますよ」
「……!? 喜んで! ほら! 花丸ちゃんも!」
「え?」
「凛さんに会いに行きたいんでしょ! ほら! ほら!」
「あ、ええと……プロデューサー、お願いできますか?」
「凛さんはちょっと怖いんですけどね……」
 苦笑しながら答える妹。
 そしてなぜ亜里沙が凛を怖がっているのか、
 今の私には知る由もなく――


 Aqoursのみんなと、どことなくいい雰囲気の中で会話を交わす。
 ダイヤさんだけは、後で時間を確保して頂いているという理由で
 積極的に話に参加することはなかったけれど。
 途中、鞠莉ちゃんが
「私は高校時代、劣化絢瀬絵里と呼ばれてましたー!」
 なんて白状をすると、
「鞠莉さんが劣化絢瀬絵里などと……」
696 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/26(日) 21:22:23.29 ID:9R+Jvt1J0
 亜里沙ご立腹。
 そのあまりな迫力に、発言者の鞠莉ちゃんですら。
 Sorry,Sorryと軽い調子で言っていたけれど。
「姉に劣化するほど優れている要素があるとでも――!」
 絢瀬絵里以外のメンバー大爆笑。
 特に黒澤姉妹はお腹を抱えるレベルで笑っていた。
 その姿を複雑な表情(をしているはず)で眺めながら、
 お互いに険悪な雰囲気でいるよりも、仲良く笑っていたほうが良い。
 そのためなら道化にもピエロにもなりましょう……。


 その時ドアが勢いよく開き、
 入って来た相手の姿にみんながみんな緊張が走る。
 私たち姉妹はともかくとして、
 なんでAqoursのみんなまで表情が固くなったのだろう?
「ああ、穂乃果さんいなかった……本当、どこ行っちゃったんだろ?」
 しこたま残念そうな表情を浮かべながら、
 曜ちゃんの隣に座り、その近くにいた私の格好を見やる。
 見てしばらくフリーズ。
「えと……絵里さん、罰ゲームですか?」
 申し訳無さそうに言う千歌ちゃん。
 そんなことないのよ、と優しい口調で言おうとした私が、
 またしても妹に手で制される。
「はじめまして、高海千歌さん。
 この度のライブにAqoursとして参加して頂いて
 感謝の言葉では尽くせません……」
「そんな! ハニワプロの方々には
 私のアイドルとして活動したいっていう途方もない目標を
 じゃあやりますかって声をかけて頂いてこちらこそ感謝しか!」
697 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/26(日) 21:22:51.98 ID:9R+Jvt1J0
 姉としては妹が完全に憤慨レベルで怒りを覚えていることに気づいているから、
 触らぬ神に祟りなし、くわばらくわばらと逃げ出したい衝動に駆られる。
 そこらへんの感情に聡い曜ちゃんや梨子ちゃんはもうすでに私から距離を取り、
 花丸ちゃんルビィちゃんあたりはダイヤさんを盾にしてこちらを見てすらいない。
 3年生メンバーは泰然自若として落ち着いている風だけど、
 果南さんはちゃっかり鞠莉ちゃんを盾にしてる。
「先の繰り返しになりますが、
 ア・リトルライトの方々には挨拶をして頂きます
 自分たちの存在を披露できるチャンスです、全力を尽く……」
「その、本当に勝手な行為だとは思うんですが……
 メッセージを飛ばしてもいいですか?」
 妹の言葉を遮って千歌ちゃんが言葉を発する。
 私の顔をちらりと眺め、何かを思案するように眉をひそめた後、
「打ち合わせで聞いた記憶が無い話ですが」
「はい、あの後に梨子ちゃんに僕たちはひとつの光を教えてもらって
 ――μ'sの最後の曲」
 梨子ちゃんの体が跳ね上がるように震えたのを見逃さなかった。
「聞いたことのない曲ですね?」
 千歌ちゃん以外のAqoursのメンバーと私、
 ありとあらゆる視線が亜里沙に集った。
「確か、私の記憶が正しければ――
 μ'sのラストソングは秋葉原で歌ったSUNNY DAY SONGでは?」
698 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/26(日) 21:23:22.92 ID:9R+Jvt1J0
 亜里沙の言葉に対し、
 ホラー映画とかで安心した瞬間に殺される哀れな被害者みたいな、
 そんな表情を浮かべた高海千歌ちゃん。
 妹の罠(罠よりもよっぽどタチが悪い)だと知らずに、
 地雷原でタップダンスを踊るくらいの度胸に耳を塞ぎたくなった。
「それが、あったんです! μ'sが一番最後に歌った曲が!
 一般的には知られていない! すごい曲が!」
 すごいすごいと連呼するその曲は、
 あなたが憧れる高坂穂乃果が歌った記憶すら消去したいと
 後日気持ちを吐露するに至った曲ですよ?
 なんて言わない。
 言ったところで本当ですかと逆に疑問を抱かれちゃう。
「ほう? 聞いた記憶が無いので、
 どのように素晴らしいか聞かせていただけますか?
 その言葉次第で、メッセージを飛ばすかどうか判断しましょう」
「ええと、私の貧弱な語彙で伝わるかどうか……
 でも、μ'sの中でも飛び抜けてメッセージ性の強い曲です!」
 ふむ。
 その意見は頷けなくもない。
 ただ、作詞をしている園田海未はそこら辺は無意識に入れているらしく。
 START:DASH!!と僕たちはひとつの光との関係性を問われて首を傾げていたくらい。
「メッセージ性が強いというと……SENTIMENTAL StepSとか」
 それは園田海未作詞じゃない。
 東條希が私の黒歴史を参考にし、
 年をとったら、こんな感じで今のことを思い出したいって作ったやつ!
699 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/26(日) 21:23:56.24 ID:9R+Jvt1J0
「SSSは良いですよね! 物寂しさっていうか、切なくて胸が苦しくなるような感じが」
 うん、聞いていると確かに胸が苦しくなる。
 自分のアコースティックギター事件を思い出して。
 身体がむず痒くなってくるというか、なんとも言えない気分になる。
「HEART to HEART! 嵐のなかの恋だから 
 ユニット曲では冬がくれた予感 秋のあなたの空遠く NO EXIT ORION
 あたりは私も好きです」
 園田海未作詞の曲を如実に避けているあたり、
 そして絢瀬絵里が作詞に関わった曲も避けられているあたり、
 自分としてはどう反応をして良いものかわからない。
「梨子さんから聞きましたが、
 ユメノトビラを聞いたことをきっかけにして
 スクールアイドルをしようとお考えになったんですよね?」
 お? って思った。
 海未作詞の曲を避けて、千歌ちゃんの自爆を待っているのかと思いきや。
 海未が散々苦労を重ねて(というかユメノトビラ自体みんなの苦労が重なって)
 作られた曲で、凛を中心にあんな想いはもうしたくないと切実に訴えかけたエピソードあり。
「はい、ユメノトビラは私が特に思い入れのある曲です!
 夢とか、希望とか! 
 夢を見ることの大切さを歌っていると思います!」
 ――元来、園田海未は作詞した曲がどういう扱いを受けようとあまり気にしない。
 例外は僕たちはひとつの光だけ。
 海未に着目した有名レポーターが彼女にインタビューして、
 結果、これでは記事にならないと言って没になった経験があることから分かるように、
 作詞した曲の大半を、恥ずかしいのでネタにしないでほしいと言っているほどで。
 これはこういう意図があるんですかと問われても、
 あ、そうかも知れませんね? 聞いている方々がそう思うならそうかも? とか、
 少なくともユメノトビラが夢を見ることの大切さを歌っているなどという話は、
 彼女と交流が深い(さっき会ったばかり)私も聞いたことがない。
700 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/26(日) 21:24:36.09 ID:9R+Jvt1J0
「では、僕たちはひとつの光は――どういう意図を持った曲だと思いますか?」 
「始まりだと思ってます」
 亜里沙が珍しくキョトンとした表情を見せ、
 戸惑いでもなく、驚愕でもなく、
 かといって、どう反応したら良いのかという戸惑いでもなく。
 ただ純粋に予想外という表情を見せる。
 不意の出来事に対応できなくなってしまった妹を差し置いて、
「どうして始まりなの?」
「新しい人生へのファーストステップだからです」
「……ごめんなさい、よくわからない」
「ええと、深い意味はないんですが。
 終わりは、何かをするための始まりだって思って」
「私の主観で申し訳ないけれど、
 未だにμ'sの幻想を追っているのは……
 μ'sを好きだという人たちだと思う」
 スクールアイドルμ's。
 成し遂げたことや残した功績というものは取るに足りない。
 ラブライブに出場するスクールアイドルのレベルは年々上がり、
 楽曲や振り付けを見れば今のほうが断然優れている。
「ごめんなさい亜里沙、ちょっと着替えてきても構わない?」
「実はちゃっかり衣装を用意してあります」
「普通の服装が良いんだけど」
「諦めてください、センターのさだめです。
 隣の部屋に、ステージで披露する衣装が置いてあります。
 試着ついでに感想をことりさんに送って少しでも点数稼ぎをしたほうが良いですよ?」
 亜里沙に見送られながら、
 私はうつむき加減で部屋を抜け出す。
 それが怒りの表情を浮かべているのか、
 それとも悲しい表情を浮かべているのか、
 鏡がないから私には分かるはずもなく――
701 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/26(日) 21:25:06.04 ID:9R+Jvt1J0
「ダイヤ」
「……私でよろしいんですか?」
「姉のことをよろしくおねがいします、あなたになら、おまかせできます」
 親友の高坂雪穂の評価も高く、
 なによりAqours解散後に一番苦労した人間だから、
 嫌なことがあって逃避してしまった姉を宥めるには適切な人材だと思われる。
「すみません千歌さん。
 自己紹介が遅れました、絢瀬絵里の妹の絢瀬亜里沙と申します」
「え、でも、最初に会った時に言ってたじゃないですか――」
 今この状況で、μ'sを一番深く応援しているのは高海千歌さんですね?
 という発言か、
 μ'sというスクールアイドルのことは詳しくは知らない。
 という方か。
 どちらにせよ、社会人――というより、
 意地悪な陰険ババアが多用する嫌味の一種だったのです。
「μ'sはすごくないって……言ってましたよね?」
 そっちですか。
 口を滑らせたふりをし、相手がどういう反応を示すか見て、
 自分が絢瀬絵里の妹であり、μ'sと関わりがある人間だと教えるのは控えよう。
 そのような判断があったことなど、恐らく彼女は知る由もない。
「μ'sを生の目で間近に見ているなら……すごくないなんて言えないです!」
「千歌ちゃん!」
「曜ちゃんは静かにして!
 何をどう思って、あの人達をすごくないって言えるのか!
 私にはっきりと教えてほしいです!」
702 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/26(日) 21:25:33.85 ID:9R+Jvt1J0
 私は一度目を閉じ、
 いかにどうすれば相手を傷つけずに自分の考えを伝えられるのか考えます。
 正論で訴えれば楽、
 ごまかそうとすればそれもまた楽。
 ただ、恐らくそうすれば穂乃果さんと千歌さんは二度と会うことはなかろうと。
「これは絢瀬亜里沙として、絵里の妹として 
 なによりμ'sの最初のファンとして
 ――そして、μ'sのファンを一番最初に辞めたであろう私が告げます」
 正式には、雪穂が私に対してμ'sのファンである高坂雪穂を辞めると言ったんですが。
 そこまで教える義理はないですし、
 仮に、雪穂のことを誰かなんて問われれば理性を保てる自信がありません。
「μ'sのことを応援しているとか、すごいと言われても、
 高坂穂乃果さんも、姉も……困るだけなんですよ?」
「なんでですか!?」
「だって、もう、μ'sは終わってしまったから、
 続けたくったって、続けることができなかったから」
「でも、応援することは出来る! 
 いつかまた集まって復活するかも知れない!」
「復活したら……また終わらなければいけない。
 あんな悲しい思いを……あの悲しい叫びを……
 穂乃果さんにさせるかも知れないと思えば、私は二度と彼女たちを応援できない」
703 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/26(日) 21:26:00.75 ID:9R+Jvt1J0
 姉は知らない様子でしたが、
 にこさんの妹の双子たちがスクールアイドルをしなかったのは、
 無邪気に応援することが、必ずしもいい結果を産むとは限らないことを知ってしまったから。
 こころさんは言っていました、
「僕たちはひとつの光を歌っている最中、お姉さまがすごく切なそうな表情をされました
 そういう演出なのかなって思ったんですが、後日訊いてみたら記憶に無いと」
 それを聞いてから姉にも尋ねてみると、
「一応、そういう演出を入れようみたいなことはあったと思うのだけれど、
 誰がどのタイミングでっていうのは打ち合わせしてないはずよ?」
 演出をしたことは覚えていても、どんな表情をして歌ったのかは記憶にない様子だったので、
「うん、たぶんやけど。みんな無意識にほぼ同タイミングで切なそうな表情はしてると思う
 ただまあ、にこっちはフライングしてたと思うけど」
 一番μ'sというグループを冷静に見ていると判断した希さんでさえ、
 あんまりあのときのことは感情が昂ぶっていてあまり覚えていないそうですから。
「叫び? 穂乃果さんが?」
「Aqoursの皆さんは知らないかも知れませんが。
 果南さん、ダイヤ、鞠莉さんの3人の東京でのライブを、花陽さんは観ていました」
「え? 本当に?」 
 果南さんの言葉に私は頷く。
704 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/26(日) 21:26:29.36 ID:9R+Jvt1J0
「あの、叫んだ内容のことを……ぉぉぉぉ」
 曜ちゃんと梨子ちゃんの二人に羽交い締めにされて退場する千歌さん。
「静岡で注目されて東京にやってきたグループがいると」
「恥ずかしい場面を観られちゃったねぇ、果南?」
「どういうコメントをされた……あ、いや、コメントできないか、歌ってないし」
 恥ずかしそうに頭をかく果南さんに、
 しょうがないわねぇみたいににこさんを彷彿とさせる表情を浮かべた鞠莉さん。
「誰よりも相手を想い合い、そのためなら自分が傷つくことも厭わない。
 不器用かも知れないけど、素敵なグループがいた
 だから二年後に同じAqoursを冠するグループがいて嬉しかったと」
「もしかして、足を怪我していたことバレてたの?」
「みたいだねぇ……ほら、鞠莉は割と表情に出るし」
「信じられない……だって、どこで観ていたかはわからないけど、
 ステージに立つ人間の表情なんてほとんど……」
 果南さんが鞠莉さんを連れて、
 少し廊下に出ますというコメントと一緒に退場しました。
「6人で歌っていた私たちも観ていたんですか?」
「その通りです花丸さん。
 投票もしていったそうですが、後日観たらAqoursが0票だったと
 ……まあ、ラブライブの運営はそういう事をやりますからね」
 ルビィさんや花丸さんは、致し方ないという表情を見せ、
 残りのメンバーはそれぞれ眉をひそめて怒りを浮かべた。
「神田明神では希さんもAqoursを観ていたそうですよ?」
「あー、SaintSnowの二人に絡まれた時……」
「UFOかなにかだと思って思わず写真を撮影した……
 天高くムーンサルトを行い、ドヤ顔を決めた理亞の動画と写真を見せられて、
 まさか後年、彼女をプロデュースすることになるとは……縁というのは異なものです」
705 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/26(日) 21:26:58.30 ID:9R+Jvt1J0
 千歌さんがお預けされた子犬みたいに、
 期待感溢れる表情でそんな事はいいから穂乃果さんのことを聞きたい
 としているので。
「千歌さん、Aqoursを続けたかったですか?」
「……あ、えと、続けたくなかったです……」
「穂乃果さんは、μ'sを続けたかったんです。
 続けたくて続けたくて、でもやめざるを得なくて……
 高校を卒業されてからしばらく、その気持ちが拭えないまま大学に入りました」
 あの海未さんが、
 なんで穂乃果さんの近くにいなかったのかを深く後悔し、
 パリに留学していたことりさんが、
 夢を諦めてでも穂乃果さんの近くにいると考えるに至ったとある事件。
「はじまりは、ファン……と言いましょうか、
 あのような人をファンと呼称して良いものかわかりませんが」
 

 μ'sの高坂穂乃果が同じキャンパスにいる――

 
 まだ、いろいろな人がμ'sのことを記憶していた時。
 明るい性格で、友達作りも得意なタイプだった穂乃果さんは、
 男女問わず多くの方々と交流を深めていました。
 
 それは長く続かず、穂乃果さんは孤独に大学を卒業されました。

 上手く行っているときだからこそ、
 それを妬み、足を引っ張る人が必ずいる。
 邪魔だって言って、平気で罵る人がいる。
 心が砕かれそうになるまで、
 後悔をさせてしまうような、そんな悪い人がいる。
706 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/26(日) 21:27:27.82 ID:9R+Jvt1J0
 あれだけ好きだったμ'sが、
 心の底から嫌悪の対象になってしまうくらい、
 思い出すことも辛いくらい、
 記憶から無くしたいくらい、
 ただ憎悪を浮かべるだけの対象になってしまうくらい。
 人を傷つけてくる人がたくさんいるんだということを知った。
 あんな人がファンを名乗り、
 あまつさえ、自分たちを自慢するなんて、
 私のしてきたことは一体何だったのか?

 後日、姉の絵里に告げられなかった穂乃果さんが
 私にこっそり教えてくれました。

 ただ、姉自身も後々、
 同じような思いを私に吐露するに至り、
 それくらいから記憶の混濁や感情を上手く表現できないことが続いて、
 未だにそれを乗り越えられていない。
 
「Aqoursが解散した後にみんな幸せになれなかった。
 途方もない現実にもがき苦しみ、みんな傷を抱えている。
 有名になるということは、代償にそんな事を得なければならないのか
 有名になっても浦の星の廃校を防げなかった私たちは――いったいなんなのか?
 ダイヤが、私に教えてくれました」
707 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/26(日) 21:28:01.65 ID:9R+Jvt1J0
「……あの」
「それは有名税だと、人は簡単に言います。
 名が売れて得をしているのだから、その分損は受け入れるべきだと」
「ファンになっては……いけなかったんですか?
 μ'sに憧れてAqoursを結成したのは……間違いだったんですか?」
「私は間違いだとは断定しません。
 ただ、良いと思った行動が相手に良く伝わるとは限らない、
 それどころかマイナスになることもある……
 一つだけ言えるのは、過去は変えられません、大切なのは今」
「今が最高……」
「千歌さんが今できる、最大限の努力で……
 ステージを盛り上げてくださることを願います」
 次の方も待っていますのでと告げると、
 Aqoursの皆さんはそれぞれ明るいのか暗いのか、
 どちらとも言えない複雑そうな表情で退席しました。


「千歌さんへのメッセージは姉に任せていたはずなんですが……
 本当にしょうがないお姉ちゃんですね」
708 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/26(日) 21:30:21.58 ID:9R+Jvt1J0
言いたいことはたくさんあるのですが。
少しだけ。
シリアスはほぼ終わりました! やったー!

ただ、メンタルはえらい傷ついたので聖良姉さまの出番があるかどうかが心配です。
A-RISEの後に書く気力があればなんとか……。
では、また次回。早いうちに。
709 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/26(日) 22:33:17.65 ID:yggE3WicO
一期のμ's連呼してた千歌ちゃん感あるな…
連続更新でいっぱい読めて嬉しい乙
710 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/26(日) 22:45:55.61 ID:vxwQO7ew0
応援が常に相手のためになるとは限らないってことかぁ
穂乃果の学生時代も気になるけどダイえりの絡みも期待
711 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/26(日) 23:40:43.67 ID:aQ5Mc3caO
千歌にも悪気はないんだよな
712 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/27(月) 16:14:04.80 ID:OpjA5CjD0
この作品をこう読んで欲しい、ああ読んで欲しいという意図ではないんですが。
亜里沙の絵里への発言は嘘をついている確率が高いため、
全部が全部真実を語っていると思わないで、テキトーに読んでいただければ幸いです。

特に、前回更新分だと。
かよちんだけはAqoursを推していて、今もかなり好意的に観ています。
(というより、μ's一年生組はAqoursをそれほどネガティブな感情を込めて観てない)

あと番外編もエリち視点ではあるのですが、
時系列的には本編4話以降の話なので、いろいろ矛盾というかあるので、
あまり根を詰めて読むと損をするので、ええ、もう、テキトーでいいので!

こういうの語るのはすごい卑怯な気がしてならないんですが。
矛盾があったら、これはどういうことなのって書いて頂いても構わないです
(ただ、ここでは返信できないし、伏線ということもあります)
でも、あの、本当に作者が勘違いしてて間違えていることもあるので、
そこはもう、指さして笑っていただければ……。

ではまた、次の更新で。
713 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/27(月) 18:40:45.25 ID:GkWrLVhtO
かよちんに冷たくされて怯えるルビィは居ないんだね…良かった
714 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/30(木) 08:37:25.14 ID:qRS5fZ6yO
個人的な感想を言えば穂乃果がこうなるのはなんか変な感じ
泣くことは全部終わってそれぞれの未来へって感じだったから

面白いけど
715 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/02(日) 09:06:54.16 ID:XPSeKn/i0
 どこをどう歩いてきたのか、
 少しばかり記憶がかっ飛んでしまっているけれど。
 かくして、隣の部屋に向かうだけだったというに、
 後ろからついてきた黒澤ダイヤさんに身体を支えられているという事実。

「ええ、もう、高校時代の私ならば
 今の場面を携帯の待受にしていました」

 肩を抱くようにし、支えてくれればいいという私の言を無視(スルー)
 必要以上に距離が近いのは、私が青い顔でもしているのか、
 それとも彼女自身のリビドーがそうさせているのかは定かじゃない。

「大丈夫ですか?」
「ええ、だからもう身体を支えてくれなくても大丈夫だから」
「差し支えなければ、このままお着替えなども」

 それはもう介護じゃん。
 アラサーアイドル(呼称未了承)絢瀬絵里の
 元後輩に介護される疑惑が某メガネのスポーツ記者さんにでっち上げられちゃう。
 ただ、今の状況から察するに傍から見れば事実にしか見えないけれど。

「ええ、お風呂でもなんでも、黒澤ダイヤやる気マンゴスチンです」
 
 なにその、一時期花陽が言ってた幸せオーガスト級の不可思議な発言。
716 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/02(日) 09:07:28.59 ID:XPSeKn/i0
「まあ、名残惜しいのは重々承知ですが、
 飲み物でも持ってきます。
 良いですか、くれぐれも一人で着替えなどされぬよう」

 にこと一緒に上島の竜ちゃんがテレビに出てて、
 二人して熱湯に突き落とされるのを観ながらお酒を飲んだ日々に戻りたい。
 しかしあれだ、今から振り返ってみると、
 当時矢澤にこは19歳かそこいらで、私も似たような年齢だったはず。
(未成年の飲酒は法律で禁止されています。良い子は真似しないように)

 フラフラと立ち上がり、澤村絵里専用ロッカーと書かれた(ムダに達筆)場所に
 ゆっくりゆっくり迫って扉を開く。
 そこには――

「……いやあ、これは、なんというか」

 無駄に描写してごまかしても構わないけれど、
 一言で言えば僕たちはひとつの光の衣装である。
 そうそう、あのピンク色のドレスみたいな、
 東條希が羽生結弦かってくらいジャンプしているときのアレ。

 酩酊している時(あまり経験がない)みたいに、
 意識が遠くになりかけたけれど、
 正直身体に力が入らなくなって、ロッカーに体を委ねた。
 
 アッパーでも喰らってノックダウンしたボクサーみたいに
 意識でも失いたいところではある。

 けれどもそうなれば、
 飲み物を持って戻ってきた内浦の覇者に
 はーいそれではお洋服でも脱ぎましょうねー?
 とか言われるお人形遊びの材料になりかねない。

 ただでさえ、μ'sの一部の面々に男性よりも女性が好き疑惑があるのに、
 服でも脱がされてしまったら大変だ。
 なので、ちょっと阿呆なことでも考えてみる。
717 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/02(日) 09:07:57.84 ID:XPSeKn/i0
 今から数年前。
 大ヒットした魔法少女アニメがあり、
 それを原作とし、本編の十数年後という設定で
 アラサーになったキャラクターの日常を描くという漫画が同人であった。

 それを眺めながら、
 よもやこうはなるまいと思っていたのに、
 気がつけば派遣社員をしている彼女とは違い、
 ニートとして悠々自適の生活を送るとは……。

 そして何より、
 それが掲載されていた雑誌が休刊したのに
 唯一生き残ったのがそのアラサーマミさんという、何という皮肉。

 あ、ちなみに私はアニメ化されるっていうマギレコで、
 美国織莉子とか呉キリカとか千歳ゆまといった面子がCV付きで出ているのに、
 出番がないっていうか存在すら怪しいあの子が好きよ?

 お前が推すのは天乃鈴音の方じゃないかっていうツッコミは無粋。
 成見亜里紗という字面になにか感じ入ることがあっても私はスルー。

「くれぐれも着替えなどされぬよう、
 私は重々忠告したつもりですが?」

 戻ってきたダイヤさんが私の姿を見るなり、
 真剣な表情(できてない)で冷徹な声色(できてない)で、
 路上に捨てられたゴミを見るような目つき(これはできてる)をしながら、
 私に近づいてくる。
718 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/02(日) 09:08:39.44 ID:XPSeKn/i0
 阿呆なことを考えて、多少精神的には持ち直したとはいえ。
 まだまだダメージは大きいので、飲み物を受け取り喉を潤す。
 呆れ果てたと言わんばかりの表情を浮かべながら、
 胸元ばっかりガン見してくるやり手社長(ルビィちゃんがした表現)に、
 よもや殺り手の社長ではあるまいなって、すずねに毒されすぎだわ私。

「ご存知ですか、妊娠初期には酸っぱいものを食べたくなるということを」

 レモンスカッシュを飲みながらとんでもないことを告げられる。
 未経験であることを理亞さんに口止めしている手前、Re Starsのメンバーには
 一番年上なのに行き遅れてるという事情は知られてないようだけど。

「だ、大丈夫よ……ほら、妊娠するようなことしてないし」
「まあ、そのような男がいれば、去勢した挙げ句に海の藻屑にしますが」

 ダイヤさん目が笑ってない。
 攻略対象が主人公と致す前から非処女だったときの理亞さんの慟哭を思い出し、
 世の中そういう人もいるであろうとちょっと思った。
 でも、金髪ポニーテールとはいえエロゲーのヒロインじゃないので……

「立つのは無理にしても、一度着替えましょう?
 ええ、安心なさって? 幼少時に服を汚したあの子の服を着替えさせてましたから」

 全くあの子は体現する不幸そのままとの呟きを聞きながら、
 それは妹のルビィちゃんではなく善子さんではあるまいかと思ったけど、
 指摘されたところで何の意味もなく、
 それでいて貞操の危機すら感じているからひとまず私は天を仰いだ。

 なすがままに着替えさせられている現状。
719 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/02(日) 09:09:06.36 ID:XPSeKn/i0
「千歌は……」
「うん?」
「ラブライブでの優勝を果たしたのち、千歌は行方知らずになりました」

 僕たちはひとつの光の衣装ではなく、
 ダイヤさんに頼んで持ってきてもらった普通の服(センスがいい)の
 着付けを手伝ってもらいながら、彼女は口を開く。

「閉校祭、卒業式……イベントはありましたが
 千歌は姿を見せず。
 ふさぎ込んだ曜や梨子のフォローは果南や鞠莉に任せて、
 私は妹たちやマルちゃんと一緒に、生徒たちを盛り上げました」

 卒業旅行に行く暇すらなかった、
 と、笑っているような悲しんでいるような表情で語る。
 千歌さんは沼津の統合先の高校に名前はあったようだけど、一度も出席せず中退。
 
「後日知ることになりますが、まさか実家のツテで旅館で働いているとは……」

 警察沙汰にして彼女の行方を探そうという話もあったそうだけど、
 ご両親や親戚といった人がさほど困っている風でもなかったので頓挫したそう。
 
「ご承知……か、どうかは分かりませんが、
 Aqoursは私たちの卒業と同時……いや、千歌がいなくなったことで崩壊しました
 梨子は高校卒業後に二度と静岡には戻らないと告げてふらりと。
 曜は芸能活動と高飛び込みと二足のわらじを履き努力を重ねた……」
720 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/02(日) 09:09:36.09 ID:XPSeKn/i0
 まあ、どちらの千歌の行方を探すためという笑い話ですが。
 と、そのときには千歌さんの行方を把握していた(3年生メンバーは知ってた)
 ダイヤさんの強烈な皮肉。

「よもや再び集うことはなかろうと思っていました。
 ただ、少し前に急に千歌が内浦に戻ってAqoursは全員集合! とネットで呼びかけて、
 顔を見たときには平手打ちの一つでもしようかと思いました、
 寝言は寝ながら言えと思う存分罵ってあげようかと思いました
 ――でも、できなかった」

 シリアスな表情で私の胸を、あまりに大きいから支えないと
 とうそぶいて手で掴んでいるのを優しくはねのけながら言葉を聞く。

「ヨハネの……あの子の願いが届いて
 もし、私たちが全員集ったのなら、まずは喜ぼうと思ったのです」
「そういえば、彼女、眼鏡もかけてなければ、髪も長かったわね?」
「詳しい経緯は知らないのですが、妹たちやマルちゃんが
 どこぞの誰かにそそのかされて魔界の住人を呼び出したとか」

 真面目な顔をしながら素っ頓狂なことをいう。
 冗談かと思ったら冗談じゃないという。
 善子さんが統一先の高校に通い、一時期不登校になっていた花丸ちゃんや
 ルビィちゃんの顔の様子を見た帰りにとある人物に出会った。
 自称「スピリチュアル女神」と名乗るバストサイズが自慢の――
721 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/02(日) 09:10:20.70 ID:XPSeKn/i0
 今、LINEを使って確認したけど東條希は、
 Aqoursの状況を見るにつけ、善子さんに一つのアドバイスを送った。
 もしも自分の抱えている願いを叶えたいならこうするといい。
 ただ、希も本当に変なものを呼び出すとは思ってなかったらしく、
 ホテルで寝てたら、空が一時的にねるねるねるねの色をしていてしこたま驚き、
 気配が導くままに花丸さんの実家に向かったらもう手遅れだったそう。

 元からAqoursに上限ないレベルで愛着を抱いていた善子さんは、
 千歌さん不在のトラブルもあるなか前面に立ちイベントをこなし、
 統合先の高校でリーダーシップを発揮して生徒会長も勤め上げた。
 なんでも、千歌さんの代わりになれば彼女もひょっこり戻ってくれるかも知れない――
 
 結局夢砕かれ、再会は数年後に持ち越しになるんだけれども。
 自らの不幸属性と視力、そして何より大事にしていた黒髪を代償に
 いつかの未来を望んだ彼女は
 魔界の住人に召喚した記憶すら奪われて現在に至る。

 ただ、魔界の住人(♀)さんが、
 どう考えても闇堕ちした東條希にしか見えないんだけど?
 しかしこれで、迂闊に魔界に知り合いでもいるの?(pgr)
 とか言おうものなら、本当に親友が闇堕ちしそう。

「……ところで、なぜ雪穂ちゃんと知り合いなの?」

 凛のところでルビィちゃんと出会ってLINEを交換した経緯もあり、
 時折お話なんかもするんだけれども、
 たいていお姉ちゃんがなんかした、理亞ちゃんがなにかした、
 という内容ばかりで、私の中では黒澤ルビィミステリアス説がある。
722 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/02(日) 09:11:23.73 ID:XPSeKn/i0
「雪穂とは……まあ、ラブライブ本戦で会ったのがきっかけで、
 たびたび話をするようになりました。
 東京の大学に進学後はキャンパスから近いこともあって、高頻度で穂むらに……」

 が、雪穂ちゃんが大学に進学せず、
 穂むらの看板娘として姉妹で血なまぐさい(そんなことない)争いをしていたころ、
 とある儲け話が高坂家に舞い込んでくる。
 簡単に言えば、穂乃果のスクールアイドルとしての知名度を片手に事業を拡げ、
 左団扇で生活をしてみませんかみたいな話だった。

 当然、職人気質だった親父さんや、穂乃果のお母さんは難色を示し、
 高坂家全体が乗り気でない中で一つの事件が起きる。
 和菓子作り一本槍だった親父さんが突然病気で倒れたのだ。
 今でこそ元気でバリバリ働いている彼が倒れたショックはまたたく間もなく
 周囲に伝播され、店を休むか畳んでしまうかなんて言う話もあったよう。
 
「当時私は一介の大学生……仮に今のように黒澤家を掌握し、
 すべてを把握していれば、話を持ちかけた人間が
 薄暗い魂胆を抱えていたことなどすぐに見抜けましたのに」

 悔しげに唇を噛むダイヤさんだけど、
 手は先程から意味もなくお尻あたりをなでているのはどうして?
 ――それはともかく。
 一家の大黒柱にして、和菓子作りを担っていた親父さんがいなくなり、
 商品として和菓子を出せるレベルになかった娘二人とお母さん。
 皮肉なことにAqoursのおかげでμ'sの知名度がやたら高かったことも手伝い、
 少しでもお金になればという判断で先の話を受けることに。
723 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/02(日) 09:12:15.87 ID:XPSeKn/i0
 最初の方は医療費や生活費を賄うに充分過ぎるお金が手に入り、
 雪穂ちゃんの分まで穂むらの宣伝や色んな人への挨拶回りをこなしていた穂乃果が、
 ちょっとμ'sのことを振りかえってもいいかなレベルまで精神状態を取り戻す。
 ただ、その当時絢瀬絵里はとある会社で嫌がらせに遭い、
 ストーカー被害にも遭っていたからその当時のことは詳しくわからなかったりする。

「絵里さんも詐欺師にはご注意を、
 あのような輩は近づいてくるたびにメリットしか告げませんから」
「私を騙してなにか得をするのか疑問だけれど……」
「それならば良いのです
 私も、悪人を地獄にたたき落とすことに罪悪感がなくなってきましたから」
 
 理亞さんがちらっと、
 黒澤家のルビィ以外の人間とあんまり近づきたくない。
 恐らく私は地獄に落とされるかも知れないって言ってたけど。
 まさか比喩表現じゃなくて本当に叩き落とすんじゃないよね?

「多少怪訝な話ではありましたが、
 雪穂も昔みたいにμ'sの話が姉妹でできるようになって嬉しく思い、
 口をだすのも無粋だと思ってたころ、鞠莉から連絡があり――
 彼女の言葉を借りるのなら、そいつはやばいからすぐに縁を切ったほうが良いよと」

 果南さんと鞠莉ちゃんは、高校卒業後一緒に海外に向かい、
 ダイヤさんの言葉を借りるなら、子どもでも仕込んで帰ってくるかと思った――
 どういうツテで高坂家の問題を知りえたのかは知らないけれど、
 話を持ちかけてきた人間の悪行を洗いざらいダイヤさんに教え、
 チャオーと言いつつ音信不通になったそう。
724 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/02(日) 09:15:12.81 ID:XPSeKn/i0
 今でこそ小原家のトップになり、日本にも居る確率の高い鞠莉ちゃんだけど。
 骨を埋めるなら日本はありえないなーって思っていたそうで。
 ただ、当人曰く小原家のトップに立つにはちょーっとお勉強しないといけないな、
 とのことで世界中を回り経営学の基礎から学んでたみたい。

 Q.その時果南さんは何をしていたんですか?
 A.日本で言うヒモみたいな感じ? まあ、今もだけどねー?

 という、笑い話(笑えない)もある。

 しかし、Aqoursでお金を持っているメンバーは、
 若くして両親を蹴り落としている確率が高いね……私も見習いたい。

「その出来事がきっかけで、私も黒澤家を掌中におさめましたし。
 いろんな事を学びました。ただ、それからというもの穂乃果さんは家を出ていき、
 もう二度とμ'sと関わることはないと誓ったようです」

 それがどういう経緯で絢瀬絵里を全面に押し出したμ's復刻活動に参加することになったのか。
 ポジティブに考えれば穂乃果も大人になり、過去は過去として前を向けるようになったと判断できる。
 ただ、私の喉元に小骨のように引っかかる違和感は――

「立てますか?」
「ええ、なんとか……でも、胸は支えなくていいし、おしりは触らなくていいのよ?」
「いいえ、後でもしないと絵里さんは倒れます。
 私の経験上、人間はそのようにできています」
 
 などと意味不明なことを言いつつ、
 左手は添えるだけと言わんばかりにお尻から離れないので、
 ため息を吐きながら一歩一歩床を踏みしめながら歩く。

 舞台はA-RISEが待っているという、
 私がさっきまでいた澤村絵里専用個室へ。
725 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/02(日) 09:20:28.23 ID:XPSeKn/i0
というわけで次回登場はA-RISEです。
このまま、ぶっ続けでA-RISE登場の話を書くか、
海未ルートを書くか、ツバサルートを書くか。

とにかく早いうちになんとか更新していきたいと思います。
普段していない挨拶ではありますが、
ここまで読んで頂きましてありがとうございました!
726 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/02(日) 12:33:23.39 ID:d+M8jjPqO
やっぱり黒澤サファイアだったのか…のぞよしも相性良さそうだよね
真面目な話しつつセクハラをやめないダイヤさんはファンの鑑だなー()
727 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/02(日) 14:03:14.41 ID:985PDZ1iO
マミさんとエリチの親和性
アラサー金髪巨乳とか好物すぎる
728 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/02(日) 19:04:08.42 ID:YbpZmx27O
アリスは非処女ヒロインも多かったような……まあ正史では処女に変更されたりしてるから最近はそうでもないのか
729 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/02(日) 23:39:14.70 ID:HPMDxb8O0
今週も乙!まさかのセクハラダイヤww
冷静なようで絵里ちゃんも感じてたりして
しかし高坂家の過去も絢瀬家とは別の意味で重い・・・
730 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/02(日) 23:49:18.70 ID:985PDZ1iO
穂乃果ルートで救済してあげて欲しくなるな
そうなったらスレ主が過労死しそうだが
731 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/15(月) 23:44:51.38 ID:fFU45+JxO
続き待ってる!!!
732 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/10/18(木) 19:14:56.16 ID:6vPWxeOdo
よもやSS速報VIPさまが復旧されるなど夢に思っていなかったので、
驚きつつも更新を再開していきたいと思います。

亜里沙ルート4話からのあらゆる設定変更におきまして。
いままでに更新していた4話と5話の間を想定していた各番外編と
つじつまが合わなくなりました。
全てではありませんができるだけ番外編の設定も踏まえて更新していきますので、
よろしくおねがいします。
733 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:15:27.17 ID:6vPWxeOdo
 ダイヤさんと一緒に部屋まで戻ってくると、
 先程まで置かれていなかったテレビがあり、
 それには昔懐かしき、高校時代の絢瀬絵里の映像が写っていた。
 その映像を観覧するのは、A-RISEや絢瀬亜里沙と言った豪華メンバーで。
 
「と、このように高校時代に全盛期を迎えると、
 のちの人生が悲惨になる確率が非常に高いです」

 何も映像化されているのは絢瀬絵里単体ではなく、
 μ'sのフルメンバーで披露したSTART:DASH!!なんだけれども。
 制服姿の私を眺めていると、たしかに全盛期がその時代だったと
 したり顔で判断されても致し方ない雰囲気は漂っている。

 金髪ポニーテールが登場するたびに映像は一時停止され、
 やれこのポーズをした時はこんな事を考えている、
 いま一瞬だけだけど決まったみたいな顔をしたと、
 当人を抜きにしての絢瀬絵里批評会が開かれ、
 それを目撃した私はと言えばなんとも言えない気分になっている。

 ただ、隣で私の体を支えている(つもり)の黒髪ロングさんが、
 鼻息荒く胸のサイズの違いはどうのこうの言いながら、
 わしわしフルバースト(希の必殺技)をかましているんだけどそろそろ怒るべき?

「姉さん、戻ってきましたか」
「エリー、遅いわよ?」
734 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:16:07.01 ID:6vPWxeOdo
 やっぱり自分の妹のほうが数千倍可愛いと意味もなく惚気けている。
 そしてその三人を眺めながら、
 こんなに可愛いのにμ'sのメンバーって当時処女だったのよねぇ?
 なんて、未だに経験のない私に当てつけるようにいうのが優木あんじゅさん。
 以前のお酒の席で男性と初めて付き合ったのが、
 高校を卒業してからと言っていたのはどこの誰でしたか。

「亜里沙……あの、言いたいことが」
「衣装は変えられませんよ? 穂乃果さんのたっての希望で
 μ'sは皆同じ格好をされます」

 今更私に発言権がないのは分かりきっているけれど、
 微妙に今回ばかりは亜里沙も心苦しそうな態度を見せているので、
 強く希望すれば覆ると心で判断していても、できないのはうべなるかな。

「安心しなさいエリー、私たちもShocking Partyの時の衣装で踊るわ」
「絵里さん、私たちも君のこころは輝いてるかい?の衣装で踊ります」

 SUNNY DAY SONGのときのように統一した衣装で踊るのかと思いきや、
 ハニワプロの判断で各スクールアイドルが一番輝いていた時の衣装を身につけるよう。
 ただ、その判断に関わっているのが綺羅ツバサや絢瀬亜里沙といったメンバーなので、
 ここで胸ぐらの一つでも掴み上げれば(後日内浦の魚の餌にされるけど)
 どのような意図と魂胆で衣装を決められたのか聞くことは出来る。
735 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:16:41.58 ID:6vPWxeOdo
 食事の最中に飛んでくる羽虫を眺めるような目付きをした妹と、
 スリーサイズサバ読み筆頭の元トップアイドルが、
 さして興味もなさそうに私に気がつく。

 そして英玲奈は先程からスマホを見て何をしているのかと思ったら、
 妹の朱音ちゃんの画像と私の映像を見比べて、
「ところでダイちゃん、その胸やっぱり本物なの? シリコン入ってない?」
「いえ、私の触った感想でよければ、限りなく本物に近いかと」
「ダイエットをすると胸が縮む優木あんじゅはどのような感想を抱くか」
「Private Warsの時にパッド入れてたのを妹の前で白状させるわよ英玲奈」

 なんだか最近胸の話ばかりしているような気もするけれど、
 とにかくまあ、絢瀬絵里品評会も辞めさせ全員が全員向き直る。
 聞きたいことはある程度あるけれど、
 ひとまずなぜ私が祭り上げられたか程度は問いかけてみたい。
 にこにはごまかされたし。

「今回の件は、そうね。
 別にμ'sの面々なら誰でも良かったのよ?」

 と語るのは綺羅ツバサ。
 μ's以外の面々では、私にも亜里沙にも近く。
 したり顔で嘘をつく回数多し。
 私が馬鹿正直に相手を信じすぎるというのは、
 考慮しつつもスルーしますよ?
 誰でも良かった=絢瀬絵里なら良いだろうという判断ではないことを、
 私もなんとなく理解している。

「私たちが旧時代の人類みたいに、
 スクールアイドルの起こりの人間みたいに扱われるのは不本意だが、
 まあ、誰かしらに生き残ってもらって私が甘い汁を吸うのは、
 今までの頑張りに報いがあると思ったな?」
736 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:17:35.86 ID:6vPWxeOdo
 なんだかA-RISEって100年くらい前のアイドルグループみたいな扱いされない?
 という、反応にも答えにも困るフリをされ、
 アイドル最前線で持て囃されている(誰かさんのせい)絢瀬絵里としては、
 苦笑にも似た表情で相手の反応を見ることしかできない。
 ツバサあたりが甘い汁を吸うために何とかしろと言えば、
 こちらとしても多少反論する是非もあろうものだけれど、
 英玲奈やあんじゅは、こちらがおもいっきり巻き込んでしまっている身だから、
 お歳暮の一つでも送らねばなるまいと思わなくもないよ?
 でも、妹の教育はしっかりして欲しい、色んな意味で。
 ブーメランなのは重々承知しているけれど。

「私は正直、もう、終わった人ではあるし。
 あとは私当人というより、子どものために何が出来るかって思ったら、
 まあ、お母さん頑張りますって感じかしらね?」

 お母さんになれそうなのが英玲奈くらいしかいない。
 かと思いきや。

「ダイヤちゃんも赤ちゃんとかほしくないの?」
「いえ、私にはまだ早いので」
「といっても今年26になるんでしょう?
 この未だに経験のない手遅れな人間ばっかり追いかけてると、
 女性としての本能を忘れてしまうわよ?」
「言われているわよエリー」
「何言ってるの、ツバサの話でしょう?」
「ふたりとも傷の舐め合いをするのは結構だが、
 くれぐれも酔った勢いとかで同姓での行為にひた走るなよ?」
737 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:18:07.98 ID:6vPWxeOdo
 あと、さり気なく先ほどまでセクハラをかましていたダイヤさんが、
 もうすでに式こそ挙げてないけれど旦那がいるという事実に打ちのめされる。
 家庭では出来る限り貞淑な妻を演じていると言っているけれど、
 もうすでに黒澤家を掌握している態度からして、夫を顎で使っていることは想像に難くない。

「では、Aqours、μ's、A-RISEの代表者が集まったということで、
 今回のイベントの内容、展開、そして展望を説明したいと思います」

 亜里沙に彼氏とかいないの? って聞こうとした瞬間、
 私にその口を開くなって目をして押さえつけてくる。
 私がμ'sの代表者扱いをされているのは……まあ、
 ダイヤさんがAqoursの代表者扱いと同じ感じなのでひとまず口を閉じる。

「表向きは、UTXの学生たちに向けての小さなライブです
 ただ、テレビカメラ、マスコミ……ネット放送はしませんが記者はいます。
 恥も失敗も成功も全部流すように言っていますので、
 くれぐれもやらかしたりしないよう重々に注意を願います」

 A-RISEのあとにRe Starsが出てくるのは
 ハニワプロのやらかしではないかと思ったけれど、
 ソコを突いてもシスコンお姉さんに、妹を無礼るなと言われてしまうので自重。
 ともかく関係者が多いようなので18禁要素はご法度。
 まあ、元から学生を相手にするんだからその要素はできうる限り排除しないと。
738 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:18:33.70 ID:6vPWxeOdo
 ツバサと私は顔を合わせてそれはないなって思った。
「ライブの開始はアンリアルの二人に前座として出て頂きます。
 お二人たっての希望で、ダイヤさんと姉さんにはトークの相手をしてください」

 ルビィちゃんがダイヤさんを希望するのは分かるけれど、
 なぜ、理亞さんが私を希望したのかはわからない。
 ただ、亜里沙が不適切な方面に話を引っ張らないよう、
 みたいに告げたのでもっと適切な相手がいるのではないかと疑問。
 聖良さんの前でなら彼女だって猫をかぶるだろうし。

「聖良が出たらただの姉妹コントになってしまいますから」

 ダイヤさんの言葉に、事情を知る面々は「あー」みたいな顔をしたけど。
 鹿角理亞のローキックや回し蹴りが絢瀬絵里に決まる可能性は、
 考慮に入れてくれないのかと気になった。
 
「一応、アンリアルの二人には会場を盛り上げるよう忠告していますが、
 できなければできないで構いません」
「まあ、あとに出てくるのが私たちだものね。
 多少の不手際くらいならカバーできるわ」

 だから、安心して蹴り飛ばされろみたいな顔をされても。
 いつも妹の不手際をカバーするのは姉の役目と、
 心の中でさめざめと泣き続きを聞く。

「A-RISEの皆様に出ていただいた後は、
 曲を披露するたびにゲストに出て頂きトークイベントです」
「朱音は出ないのか?」
「出ません。ご安心ください、彼女を下に見ているのではなく
 とっておきですから」
「秘密兵器ということか……」
739 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:19:07.33 ID:6vPWxeOdo
 納得したみたいな顔をして英玲奈は満足げだけど、
 朱音ちゃんと一緒に出なければいけない私としては不安要素あるよ?
 だって後に出なければいけないのに、一番最初にトークするんだよ?
 秘密兵器というより、使い捨てに近い私の扱いを疑問に思えど答える人がいない。

「トークの内容は決まっていないの?」
「ある程度フリーです。ただゲストにはもう内容を渡してあるので、
 リハーサルの際に確認していただければ
 ――大丈夫と言えるメンバーを選んでいますから」

 不安げな表情を浮かべる妹に対し、
 今のUTXの学生が知っているゲストと言うと、
 にことか凛とかことりとか希……。
 確かに高校時代の実績からすれば、
 不安に思うのも致し方ない部分も多々ある気がするけれど。

 休憩時間に「ア・リトルライト」の面々が出てきて曲を披露。
 トークもあるみたいだけど内容如何によっては打ち切るつもりらしい。
 その後A-RISEがステージに立ち、観客参加型のイベント。
 舞台に立つのは、もうすでに選考で決めてある生徒らしく、
 それはヤラセなのではないかと思ったけど、大人の都合と言われ反論は我慢。
740 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:19:44.32 ID:6vPWxeOdo
「A-RISE編ラストということで、ゲストに穂乃果さんに出て頂きます」
「あの穂乃果さんが、何から何までヤラセの台本を許容してくれたことを感謝するわ」
「ええ、申し訳ないのですが、フリーな部分は一切無しでお願いします」

 立ち合いで強く当たって後は流れで、
 みたいなことを言いながら、A-RISEの面々と亜里沙だけが理解してる会話が続く。
 なんとなく暇してしまったので、ダイヤさんに近づいてみると。
 
「私が希望したμ's珍プレー集の映像は流されないみたいです」
「……なにその絢瀬絵里で笑おうみたいな企画」
「八割が絢瀬絵里なのは事実ですが、園田海未の投げキッス特集で
 本人からやめて欲しいとクレームが入ったので」

 μ'sのPVでは何かと園田海未が投げキッスを繰り返している。
 当人の趣味ではなく、
 μ'sの面々で一番投げキッスが似合わなそうなメンバーに
 罰ゲーム的な感じでやらせたのが思いの外人気が出てしまった。
 私としては、じゃあ海未よろしくね?
 みたいに簡単に告げてしまったけれど、
 彼女へのダメージはいかんばかりだったか。
 候補としては真姫や花陽もいたんだけど、
 二人の投げキッスは微妙になんかガチっぽくてダメってことになった。
 花陽を止めたのは凛でその時のコメントが、
「なんだかかよちんの投げキッスを見てると発情しそう」
 だったんだけど、それがどこまで本気だったのかは絢瀬絵里は知らない。
741 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:20:27.99 ID:6vPWxeOdo
「穂乃果さんのSUNNY DAY SONGはすごく良かったというコメントの次に、
 ツバサさんにはもうあんなことは出来ないわねと
 そのコメントで会場が暗転しますので」
「この後の、そんなことないっていうのは誰がいうの? エリー?」
「希望者はいたんですけどね……千歌さんとか。
 その節は苦労を掛けましたダイヤ」
「いえ、亜里沙に心が折れるまで罵られなかったことを彼女は感謝すべきです
 それよりも、雪穂にその言葉を言って貰うまでが苦労しました……」

 SUNNY DAY SONGを披露するにあたって、
 一番困ったのがシーンまでを繋げるナレーションだったそう。
 会場のナレーションを主に務めるのは希の事務所で働いているという元声優の楠川姫。
 あだ名は「くっすん」だけど、希だけは彼女を「お姫ちん」って呼ぶらしい。
 なんか、くっすんっていうと自分が呼ばれている感がするとか。
 それはともかく、μ'sとはほとんど関わりのない彼女がそんなことないと
 穂乃果やツバサに告げるのは変ということで、
 誰がセリフを吐くか選考は難航。
 仕方ないから亜里沙が言うみたいなことだったけど、
 その時に、じゃあ雪穂でいいじゃんと穂乃果が言って、選考するメンバー全員が納得した。
 ただ、このイベントでさえ
「私はもうスクールアイドルではないですし、μ'sのイベントにも関わらない」
 と言って不参加の雪穂ちゃんを説得するのは骨が折れたらしく、
 海未やことりや亜里沙といった友人、幼なじみの面々にも耳を貸さず、
 ダイヤや穂乃果やご両親といった高確率でお世話になっている面々の説得にも首を縦に振らなかった。 
742 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:21:23.59 ID:6vPWxeOdo
 ただ、ここで笑い話として良いのか判断に迷うけれど。
 雪穂ちゃんを動かしたのは高海千歌さんだった。
「じゃあ、私が説得します!」
 と、呼ばれてもないのに穂むらにやってきた彼女が数分後、
 両頬を赤く染めて帰ってきて、一言言うくらいなら良いですとの返答をもらったそう。
 親友の亜里沙でさえ
「あの雪穂が暴力を振るうなんて」 
 と、戦慄したそうだけれど、とにかく結果オーライ。

「SUNNY DAY SONGの後は、Re Starsの皆さんに登場して頂きます」
「最高に盛り上がった後に出るの?」
「おそらく大半の反応はなんなんだこいつらではあるでしょうが、
 安心してください姉さん、朱音さんの歌には人を黙らせる効果があります」
「まさにそのとおりだな、安心しろ絢瀬絵里」

 自信満々の英玲奈に対し、
 いや、そういう反応は求めてなかったと言わんばかりの亜里沙。
 あんじゅが胸を張ったところでCカップとぼそっと言っても
 シスコンお姉さんの耳には入っていなかったようなので、
 この場面で英玲奈を静かにさせるのは無理と誰もが判断した。
 あと、微妙にツバサが引きつった顔をしているのは何故。

「期待の新人ってことで、私がいろいろ説明するって話は没になっちゃったのよね」
「あまりに白々しいということで、
 まあ、一部メンバーが新人とは呼べない年齢だったのも手伝って」
 
 私を見ながら亜里沙が言う。
 なお、アンリアルの二人とトークする際にも澤村絵里として出ろと言う無茶振りもあり、
 自分としてはいかにボロを出さないかに集中していた。
 出したところで、りゃーちゃんにぞんざいな扱いを受けるだけだから安心しなさい?
 とはツバサの談だけど、ぞんざい=飛び蹴りだから私としては……。
743 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:22:09.58 ID:6vPWxeOdo
「かよちゃんとお話するの楽しみだったのにねえ?」
「私は彼女からの手紙を全部保存している」
「自分は素人ってことだけれど、元μ'sの触れ込みなら
 トークイベントに呼んでも良かったのに……」

 残念そうにA-RISEの面々が語るのは、
 お蔵入りになったイベントの数々。
 その筆頭が小泉花陽&星空凛両名とA-RISEとのトークシーン。
 「春色バレンタインズ」「幸せオーガストズ」と二人のコンビ名も考えられ、
 駆け出しのアイドルに送られてくる小泉花陽からの手紙(という名のファンレター)
 は、もらった人間が必ず出世すると評判もあり、
 その観察眼とアドバイスの有用性を説明してくれる――と企画された。
 が、花陽当人から、自分はステージの真ん中に立つ人間じゃないので、
 と断られ、凛に説得を頼んでみても花陽は首を縦に振らなかったそう。
 ただその代わりが、星空凛と矢澤にこと綺羅ツバサによる
 「アイドル戦国時代の生き残り方をテーマにしたトーク」
 なんだけど、メンバーがメンバーだけに殺伐としそう。

 他にも、とある人物の頭の上に乗ったリンゴを園田海未が射抜く企画は、
 海未当人は乗り気だったけれど、もし仮に人物を射抜いてしまうと、
 Re Starsのリーダーがいなくなってしまうのでボツ。
 小原鞠莉と黒澤ダイヤによる気に入らない人間の蹴り落とし方講座も
 ハニワプロの上層部が首を縦に振らなかったためにボツ。
 松浦果南による水の中で生き残る方法、渡辺曜による水と仲良くなる方法も
 本人たちだけが乗り気だったけどボツ。
 西木野真姫、桜内梨子両名の作曲スキルの磨き方とか、
 園田海未の作詞スキルの向上講座等、
 なんとかなりそうな企画のみが生き残ったそうだけど……本当にやるの?
744 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:22:43.05 ID:6vPWxeOdo
「エリー」

 英玲奈とあんじゅが出ていった後でツバサに呼びかけられる。

「ごめんなさいね、A-RISEを終わらせるためにあなた達を利用してしまった」
「……まあ、私たちがA-RISEに対してどうのこうの言える立場じゃないし」
「でもま、やるからには全力でやるわ……Re Starsも蹴落とすくらいに」
 
 それは勘弁してくださいという亜里沙。
 蹴落とすも何も、人気になる保証が一切ないのだけれど。
 そういうよりも発芽しないように埋めるといったほうが正しいような。

「μ'sも終わり、A-RISEも終わり……えーっと、まあ、ついでにAqoursも終わる」
「千歌はその気はないですけれどね」
「そうしたら、スクールアイドルはどうなるのかしらね? 
 まあ、どのみち」

 いちばん最後まで生き残って見せて、
 終わった連中を指さして笑ってやるのが私だと
 綺羅ツバサは自信満々な表情で告げた。
 その姿を見送っていたらダイヤさんが

「でもちゃっかり生き残るのが千歌みたいな人ですけどね」

 それは経験則なのか、期待を込めた願望なのか。

「ダイヤ、姉さんのお尻を撫でるのはいいかげんにやめて」
「あらごめんなさい、手が勝手に! ああ!」
「ダイヤ、ついでとばかりに私の胸を揉むのはやめて」
「ああ、ごめんなさい、本能の赴くままに……静まりなさい私の右手!」

 黒澤ダイヤさんに旦那がいるという事実は知っていたけど、
 Aqoursの面々で唯一の非処女だということをのちに教えられ、
 私、絢瀬絵里はなんとも言えない気分になった。
745 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:23:26.30 ID:6vPWxeOdo
 暮れは紅白などという方も、地方の方では多いみたい。
 ハニワプロ所属の岐阜県出身アイドル月島歩夢も、
 デビューから4年目の20の時に紅白歌合戦に出場。
 ――でも、なんだかアレだな?
 μ'sも紅白に出たことがあるような、そうでないような?

 一時期のブームは過ぎ去ったものの、
 ハニワプロ所属のアイドル一番手といえば、やっぱり彼女らしく。
 ただ、歌や演技は努力でどうにかなるそうだけれど、
 トークが致命的にアレという欠点があるせいでバラエティーには呼ばれないとか。

「亜里沙……お願いだからNHKの番組の出演を増やして欲しい」

 私に会いに来たはずの歩夢は、
 なぜか亜里沙に公共放送局の番組の出演交渉に当たっている。
 彼女と一緒にやってきた聖良さんや理亞さんといったメンツは、
 一方的にツインテールが喋り続けているという現状。
 誰一人も絢瀬絵里に触れていないという状況下で、
 黒澤ダイヤさんは座布団の上で正座中。
 でも、彼女正座って慣れているから罰でも何でもないような。

「深夜ならば考えましょう」
「ダメ! お年寄りたちが起きている朝か昼間でないと!」
「ツバサさんと一緒なら良いですよ」
「ツバサさんと一緒なんて、お年寄りが私を認識しません!」
746 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:24:01.68 ID:6vPWxeOdo
 ツバサがまだトップアイドルとして活躍するさなか、
 1週間オフをもらった! 付き合え!
 との号令で二人して旅行に出かけたことがある。
 当初は自分と同じ事務所のアイドルとか、英玲奈やあんじゅを呼んだらしいけど、
 肝臓を壊したくないので断る(英玲奈)
 ツバサと一緒に食べると太っちゃうから(あんじゅ)
 まだ死にたくないのでいいです(アイドルたち)
 と素っ気なく断られたらしい。

 旅行費用がないと私自身も断ろうとしたけれど、
 亜里沙が疲れた顔をしながら、
「ええと、姉さんは……その、お金を渡すのでしばらく放浪してください」
 と告げてきて、
 まあ、そういうこともあるものかなと思い、
 何も考えずにツバサと合流。
 のちに白状されたことだけれど、
 ツバサの穴埋めに使われたのは、ハニワプロのアイドルたちだったらしく。
 他の事務所の都合やら、出演者の共演NGとかを徹夜で調べ上げて、
 結局、関係者の評判はA-RISEすごいということで終わったとか。

 ツバサがどこ行きたい何したいをひたすら聞き。
 私が電車やら何やらの交通機関を調べ上げ、気の向くまま風の吹くまま進む。
 とある場所で。

「アレがやりたい」
「アレ?」
「そう、なんかバンジーみたいなやつ」
747 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:24:34.60 ID:6vPWxeOdo
 と言って指さしたのは、
 天高い場所から滑降するパラグライダー。
 ひと目でテンションが上った私たちは、
 颯爽とパラグライダーが体験できるという場所へ。
 が、当たり前といえば当たり前だけど、
 超トップアイドルが怪我するリスクのあるウインドスポーツなど、
 いくらやりたいと言ったところで事務所の許可がなければ出来るはずもなく。
 かと言って、はいそうですかと諦められるテンションでもなかったので、

「仕方ないわ、空がダメなら地下にしましょう」
「暗いのはちょっと……」
「あら、洞窟とかダメ? じゃあ……そうね……」

 と言って向かったのは砂風呂。
 超トップアイドルと、いかにも目立つ金髪が砂に埋まるのを
 道行く人が眺める眺める。
 それでも誰も話しかけてこないのは、私がロシア語で喋らされてるから。
 いかにもニホンゴワカリマセンな金髪がいると、
 なんだか怪しい逃避行か何かに見えるらしく、
 最近出ずっぱりで休む暇もなかったのだろう可哀想に――
 なんてことで、やっぱりA-RISEの評判ばかりが高まった。

 数々の温泉旅館を網羅し、各鉄道や飛行機、果ては船。
 寝てるか食事しているか移動しているか遊んでるか、
 24時間四六時中いつでもテンション高く、かつ大量に飲んで食べてを繰り返し、
 結局1週間に2人で100万円近く浪費。
 旅行2日くらいで亜里沙から貰ったお金が尽き、
 これ以上は無い袖は振れないと訴えたら、
 だいじょうぶだいじょうぶ、私が出すからと言ってその言葉に甘えてしまったけど。
 そう言えばあの時のお金まるでスルーしてたな……。
748 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:25:18.62 ID:6vPWxeOdo
「仕方がありません、ではNHK教育の方で」
「ニュースとかやってる方!」
「歩夢を生放送に出すくらいなら、私はそこにいる金髪を売り出します」

 そこにいる金髪(絢瀬絵里)に注目が集まる。
 妹のニュアンスとしては、別に私を本当に売り出そうとか考えているのではなく、
 トークに難あり(後日訊いたら朱音ちゃんよりダメらしい)の歩夢を
 視聴者層も反応も厳しい公共放送局に出すのはかなり勇気が必要だから。

「亜里沙……シスコンなのは私も承知しているけれど、
 ここな素人に負ける月島歩夢じゃないよ?」
「ほう? 確かに姉はそこらへんの幼稚園児にも知能で劣りますが、
 多少口は回ります、ええ、少なくとも歩夢よりは」

 言語知能レベルが、幼稚園児>絢瀬絵里だと妹に言われた件について。
 あと、先ほどから悶絶するほど笑っているダイヤさんは本当に私を推してるの?
 その言葉を信じてもいいの?

「聖良さん、何で勝負をさせれば良いでしょう?」
「そうですね……相手を罵り倒して泣かせた方の勝ちということで」

 聖良さんは私になにか恨みでも……
 
「罵詈雑言なら任せて、
 幼少時に悪口ポーちゃんと言われた実力を見せてあげる」

 ダメそう。
 ひとまず、受けて立つという態度だけは見せておいて。
 あとは流れでなんとかできると思う、
 亜里沙にフォローは任せる。

「絢瀬絵里! ……ええと……ロシアン!」

 月島歩夢の先制攻撃!
 ……ロシアンから続く言葉は?
 と、待ってみる。
749 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:26:08.81 ID:6vPWxeOdo
「……」

 じわりと涙を浮かべる月島歩夢。

「やっぱり人の悪口なんて言えない! 亜里沙のバカァ!」
「言えてるじゃん……」
「このポンコツ! かしこくない! ドジっ子!」
「ええ、ええ、わかっていますよ歩夢、だから潔く諦めなさい」
「亜里沙なんて落とし穴に落っこちちゃえば良いんだ! ウワァァァァン!」

 と言って、特に何もせず月島歩夢退場。
 あれがハニワプロのトップアイドルという事実に、
 なんだか世知辛いものを感じる絢瀬絵里ではあるけれど。
 最大限に彼女をフォローするなら、
 素直で物覚えが良く優秀で謙虚という美徳の塊みたいな女の子だからね?
 ただ、プレッシャーとアドリブに弱いという弱点があるせいで、
 ライブとかでは聖良さんが特に苦労させられるみたい。気持ちはわかる。
 中学卒業したばかりの絢瀬亜里沙と波長が合っていたという点において。

「ええと……ひとまず、その、絵里さん」
「聖良さん?」
「見えなかったかも知れませんが、歩夢は絵里さんに深く感謝しているんです」

 どこらへんがというツッコミはあえて入れない。

「その……ただ、今回の件で絵里さんは私たちの後輩になるので、
 心中かなり複雑なようです。
 事務所にスカウトされて、東京に出て、
 一番目標にしていた人間が後輩になるんですから」
「目標にするような人間じゃないんだけど」
「そうですね」
750 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:27:12.71 ID:6vPWxeOdo
 彼女の妹の理亞さんが私に対して、かなりツンツンな態度を接するのは。
 まあ、弱みの握られっぷりと亜里沙の罵りっぷりでわからなくもない。
 ただ、聖良さんとはあんまり関わりがなかったので、
 このような態度をされるいわれがあんまり良くわからないのだけれど。

「姉としても、アイドルとしても……そして何より人間としても。
 今回のライブで目立つのは致し方ないにせよ
 このような悪目立ちをするのは今回ばかりと承知してください」
「え、ええ」
「……ただもしも、本当にツバサさんや亜里沙さんが、
 本当にあなたの実力を認めた時に立ちふさがるのは私です、
 そのために努力と研鑽は欠かしません
 よく、覚えていてくださいね?」

 理亞さんを置いて聖良さんまで退場。
 ただ漠然と敵意や悪意を向けられていると言うより、
 絢瀬絵里が置かれている状況が解せないと言った態度なので、
 口調こそ厳しいけれど、論調としては理解できる。
 今まで乗せられてきて、
 その事実に対して疑問に感じている人があんまりいなかったものだから、
 ようやくまっとうな感覚を持った人がいて感動すら覚える。
751 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:28:48.07 ID:6vPWxeOdo

「絢瀬絵里ィィィ!!!」

 などと感慨に浸っていると、
 シスコン連中(私以外)が集うこの場において、
 かなり高レベルなシスコンのツインテールさんが私を怒鳴りつけた。
 さっきまで聖良さんの横で、えへへみたいな笑いを浮かべていたけど
 そんな事実は見る影もない。

「おま、おま、お前のせいで! お前のせいで!」
「な、なに?」
「私のダイヤモンドプリンセスワークスの続編での出番がなくなったんだ!!」

 なんだか分からない言いがかりに首を傾げていると、
 自身も攻略対象外にされたと寂しそうに笑うダイヤさんが、
 事の次第を説明してくれた。

 なんでも、ダイプリの続編はAqoursのメンバーを掘り下げたゲーム。
 メインヒロインが善子さん(をモデルにしたキャラ)という点は置いておいて。
 当然、Aqoursが出てくるのだからSaintSnowの二人も登場する予定だった。
 一部シナリオとプロデューサーとして制作に参加している陽向さんが、
 どうしても桜内梨子(をモデルにしたキャラ)役で真姫を呼びたかったらしいけど、
 製作途中に真姫がエロゲーに出ることはなかったので話は頓挫。

 なんで梨子ちゃん役だったかというと、
 Aqoursがラブライブで優勝するまでの軌跡を描いた(描く予定だった)
 ラブライブ!サンシャイン!!(1期打ち切り)において、
 梨子ちゃんの声を担当したのが他ならぬ真姫だったから。
 なおこのアニメ、μ'sを描いたラブライブ!とは違い脚本やらなにやらで、
 AqoursやSaintSnowの面々からほぼ協力は得られず、
 事務所の都合で仕方なく理亞さんだけが収録や脚本会議に出たそう。
752 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:29:17.28 ID:6vPWxeOdo
 それは置いておいて、
 制作の最中で真姫のエロゲー出演が決まったものの、
 梨子ちゃんの役はもうすでにキャスティングが決まっていたので、
 動かすことが出来ず、でも真姫には参加してもらいたいのでどうするか?
 では、まだキャストが決まってなかった鹿角理亞(をモデルにしたキャラ)を削って
 ファンディスク以降で登場させて声を担当してもらおう。
 ということになったらしい、私は全く関係ない。

「理亞、ファンディスクが出れば主役にして貰えると言われたではないですか」
「本編で、本編で絡みたかったんだ!」
「理亞、私もファンディスクからの出演ですよ?」
「姉さまは出るのに! 私は! 姉妹レズシーンが!
 こういうシナリオがありましたって言われて原画を見せられて!
 納得なんか、納得なんか出来るかー!」

 理亞さんガチ泣き。
 ステージ冒頭にアンリアルの二人が前座として出ることに
 黄色信号が灯りそうな嘆きっぷりに困った表情をする一同。
 が、ここでやり手プロデューサー(信じられない)の妹がとんでもない提案をする。

「わかりました、ではこうしましょう。
 まず、真姫さんに理亞の声を担当して貰います。
 シナリオはあるのですから、読んでいただきましょう」
「……姉さまは?」
「そこにいる金髪にでもやらせます」
「ええ!?」
753 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:29:46.43 ID:6vPWxeOdo
 それを聞いた理亞さんが目を輝かせ、多少の演技力の無さには目をつぶる!
 と言い、ネコみたいな態度で私の胸に顔を擦り付け、
 では、ライブでは最高のパフォーマンスを見せてくれますね?
 もちろん! この命に代えても!
 みたいな会話をして理亞さんも退場。 
 呆然とルンルン気分の背中を見送りながら、私は思わず天を仰いだ。

「姉さん? わかっているとは思いますが」
「あ、もしかして、理亞さんを乗せるための冗談だった?」
「いろいろな方のモチベーションに関わるので真剣に演じてください」

 ダメを押された。
 なお、ダイヤさんがあの女の匂いがする! 
 と言って、私の胸に顔を埋め始めたので、亜里沙の機嫌がちょっと悪くなった。



 LOVELESS WORLDという曲がある。
 なんかこう真姫ちゃんの曲ってなんかアレ、上手く言えないんだけどさー
 という穂乃果のアバウト過ぎる指摘にお嬢様激おこ。
 すったもんだの末に作り上げたのが前述の曲ではあるんだけど、
 いざ歌詞を作成するとなった際に穂乃果がまたしても、
 海未ちゃんの歌詞っぽくない曲だよね! と言い放ち園田さん激おこ。
 その後通称ソルゲ組でネット放送をしたけど空気がダークブルー。
 怒りを抱えている二人のメンバーに右往左往する金髪が滑稽で、
 μ'sの放送で一番の再生回数を誇るけど、私は二度とあんな思いはしたくない。
754 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:30:12.81 ID:6vPWxeOdo
 ちなみに歌詞は、μ'sのメンバーで誰が相応しいかオーディションをすることになり、
 園田海未監督の元、ああでもないこうでもないと試行錯誤の末決まらず、
 では曲に歌詞をつけてもらいましょうと、オトノキ生に募集をかけて、
 見事歌詞の作成権を勝ち取ったのは私の妹(オトノキ生じゃない)だった。
 ――後にも先にも、μ'sの面々が関わってないμ'sの曲はこれっきりである。


 NO EXIT ORIONの歌詞を作った際の花陽もそうなんだけど、
 キャラにない歌詞を作った時に反応に困るのは常に私。
 なんだかよく分からないうちに私に歌詞が届けられ、
 どうかな絵里ちゃんみたいに言われてしまうと、
 専門家でもない私は、まあ、良いんじゃないとしか言えない。

 あと、NO EXIT ORIONの歌詞を見た後に、
 希にこう、なんだかよく分からない歌詞よね?
 って言ったら、
 エリちは恋も知らんからなあとしたり顔で言われたけど。
 数年後、本当に恋をした東條希は
 「わからない、あなたの気持ちが」
 と小泉花陽に言ったのは私の中でどう反応すればいいの?
755 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:30:41.04 ID:6vPWxeOdo
「千歌ちゃんいない?」

 おっかなびっくりと言った様子で部屋に入って来たのは穂乃果。
 キョロキョロとあたりを見渡しながら、むすーっとした表情を浮かべる。
 前の飲み会の時はそんなに邪険にしてなかったじゃないと問いかけると、
 希ちゃんの手前、あからさまに避けるわけにはいかなかったという返答。

「千歌は……そうですね、穂乃果さんのためなら地獄の果てまで付いてきますから」

 ダイヤさんのコメントに、
 なんとも言えない表情を浮かべる一同。
 少し向こうに行って欲しいというニュアンスでリクルート雑誌を頼んだら、
 3分もしないうちに帰ってきた際に、
 あ、これはダメかも分からないと穂乃果が思ったそうだけれど、
 なんというか、なんというかである。

「ええと……そうですね
 今回の、絢瀬絵里(笑)企画に賛同いただき、
 それどころか多くのμ'sの方々を巻き込んで頂いて、
 本当にどれほど感謝すれば良いか……」

 だんだん企画の説明がぞんざいになっている気がするけど?
 私を見世物にして笑おう企画ならもうちょっと小規模にしてほしいけれど、
 なんか私に好意的な人はやたら権力を持ってるから、
 自分としてはどう反応をして良いのかわからない、あなたの気持ちが。
756 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:31:10.26 ID:6vPWxeOdo
「うん、あの。
 絵里ちゃんにはゴメンだけど
 私がμ'sに関わるのはこれっきり、ほんとう、これっきりだからさ」

 最後になにかしたいなって思って利用しちゃったテヘペロ。
 みたいに言われても、絢瀬絵里としては首を傾げざるを得ない。
 穂乃果と会ったりなんだりする時には、ほぼほぼμ'sの話題が出て、
 高校時代はあんなだったこんなだったというエピソードがたいてい出てくるけど、
 あ、もしかして、今流行りの(でもない)ツンデレってやつかしら?

「普段は気をつけてるんだけど、お酒が入るとどうしてもね」

 確かに、私と穂乃果が一緒にいる時にはだいたいお酒が入ってる。
 どんなに嫌おうとしても彼女の心にあるのはμ'sだということに、
 それが如何程ばかり苦しいのかは想像することしか出来ないけれど。

「あとその、亜里沙ちゃん……お金ありがとうございます」
「お金?」

 現在進行系で亜里沙の財布からお金が逃げている現状を目の当たりにし、
 いつか妹に全額まるっと支払うにはどれほど働けば良いの考えると、
 Re Starsのリーダーとしてセンター張るくらいでは足りないかもわからない。
 ここで未だに胸をワシワシしているお嬢様に取り入ればはした金だという事実に、
 なんとなく心躍る感がしなくもないけれど……。
 あと、亜里沙も穂乃果も、ダイヤさんが何食わぬ顔で私の胸を触ってるけどスルーなんだね?

「いえ、穂乃果さんに対する温情はお金では語れません。
 ……ですが、ツバサさんはアタッシュケースを用意したとか」
「とりあえず形から入ってみるのって言って
 1000万渡された時は、私はどう反応して良いのかわからなかったよ……
 ダイヤちゃん、ほんとうお世話になりました」
「私ができることなら何でもします、それが務めというものです」
757 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:31:38.32 ID:6vPWxeOdo
 どうやら私の知りえない所で、穂乃果にお金が集まっているらしい。
 居酒屋の店員としてカリスマ性を発揮したけれど、
 今度は社長にでもなって天下を取る心持ちなのか――
 先が不安なアイドルより秘書にでもしてくれないかなとちょっと阿呆なことを考える。

「絵里ちゃん」
「ん?」
「私ね、外国に行くよ」

 ――ん?
 私はキョトンとして言葉が出ない。
 
「正確にはアメリカかな、
 たぶん、日本にはもう帰らない」
「帰らない?」
「いや、どのみちお金を返さなきゃいけないから、
 帰らないこともないんだけどさ。
 高坂穂乃果はアメリカでスターになります」

 コウサカホノカハアメリカデスターニナリマス。
 ……ええと、
 高坂穂乃果は
 アメリカで
 スターなります。

「ええ!?」
「ようやく穂乃果さんの言葉の意味を理解したみたいです」
「私の中で高校2年生の4月の初頭に会った絵里ちゃんと、
 今の絵里ちゃんが同一人物ではない説があるけど」

 失礼なと反論しようとしたら、
 誰ひとり私と目を合わせず、不憫そうにうつむくばかり。
 え、わりと私ってクールなタイプだと思うんだけれど違うの?
758 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:32:14.35 ID:6vPWxeOdo
 私に対するぞんざいな扱いが、自己責任の範疇であるのか、
 それとも個人の資質によるものなのかはおいておいて。
 
「外国に行くって言うと……あ、ニューヨークだけに温泉街とか?」
「亜里沙ちゃん、ロシアの血が流れているというより
 ギャグおじさんの血が流れているような気がするんだけれど」
「アルコールの摂取のしすぎです、少し自重させます」

 とにかく頭が回らず。
 ただ不憫そうに三人から見られ、
 慌てる絢瀬絵里の未来はどちらか。

 先ほど来ことりが飲み散らかしていた飲み物を
 チューチューと飲みながら、
 少しばかり落ち着いてきた私。
 女王様にご奉仕とばかりにあらゆる場所をマッサージされているけど、
 どちらかと言えば、苦労してきたお年寄りに対する
 今までご苦労さまといった態度と言ったふうなのが少し気になる。
 あと、ダイヤさんはアレだね、そこはマッサージと言うより愛撫って言ったほうが近いからね?

「絵里ちゃん、
 想定外の状況にパニックになるのは分かるけど、
 私だって別にびっくりさせようとしていってるわけじゃないんだよ」

 もう今や懐かしき、高校時代のアメリカ公演。
 穂乃果が電車に乗り間違えて私たちとはぐれたことがある。
 園田海未が憤慨し、
 南ことりが黒くなり、
 警察に駆け込もうとした小泉花陽が図体のでかい相手にパニックになり、
 誰か助けてと叫ぼうとして射殺されかかった時のエピソード。
 アメリカの警察官はすぐに拳銃を抜くからおそロシア(真顔)
759 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:32:49.08 ID:6vPWxeOdo
「たしかにね、μ'sは私にとって心地のいい場所だった。
 でも、もう、μ'sは終わり。
 今までの私はそのことから逃避し続けようとしてた――

 だから。
 私は。
 アメリカでスターになります」

 大コケする私。
 シリアスな話が始まるかと思いきや、
 その過程を見事にすっ飛ばし、結論を告げる。
 それが高坂穂乃果という人間だと言われれば、
 たしかにそう思わなくもないんだけれど。

「ええとですね姉さん。
 このまま、μ'sの高坂穂乃果で居るよりも、
 より有名な世界スターになってしまえと、つまりはそういうことです」

 頭の上に特大のはてなマーク浮かべながら、首をひねり。
 足りない脳みそでいかんばかりのことか考えてみる。
 確かに、μ'sの高坂穂乃果としての評判は消えるかも知れないけど、
 千歌さんみたいな信者を余計に増やすだけに終わるのでは?
 と思わないでもない。

「穂乃果って英語できたっけ?」
「だいじょうぶ、ボディランゲージがあるから!」

 胸を張る穂乃果。
 やればできる子の彼女ではあるけれど、
 アメリカという未開の地(感想には個人差があります)で、
 パートナー一人付けずにハリウッド(想像)に挑戦するとは……。
 日本って忍者とか侍が歩いてるんでしょ?
 っていう米国で、穂乃果がひとり歩いていたら、
 ハラキリと叫んだアメリカ人にサインの一つでも求められるかも知れない。
760 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:33:23.96 ID:6vPWxeOdo
「……秘書として絢瀬絵里を連れてくるつもりはない?」
「世界的なニートでも目指すの?」
「姉さんならありえますね」
「絵里さん、世界を目指すならば、まずは独立しましょう」

 寄ってたかってフルボッコ。
 あなたになんて連れて行った所で役立たずと言わんばかりの面々に、
 通訳くらいは出来ると叫びたいところではあるけれど。

「私もね、一人で挑戦するつもりじゃないんだよ。
 私を支えてくれるパートナーがいるからさ」

 と言って、その人の写真を見せる穂乃果。
 その写真を見た一同の反応は。

「声が高山みなみさんっぽいわね?」
「ええ、なんとなくコナンっぽい声がしそうな」
「コナンと言うか……ええ、まあ、それで」

 穂乃果が複雑そうな表情をしながら、
 なんで声も聞いていないのにイメージが湧くのかといったけど、
 そう思ってしまったのだから仕方ない。
 とにかく、穂乃果自身も名前も知らない相手と、
 アメリカに行ってスターになるという途方もない目標に対して、
 
「……そうね、やればいいと思うわ」
「止めない?」
「止めないわ、穂乃果ならできそうな気がする」

 もうすでにお金が3000万ほど集まってますからね、
 という、黒澤家の帝王の発言は華麗にスルー。
 別に私が、高坂穂乃果を邪険にするとか、
 遠ざけたいという意図があるとかそういうのではなく。
761 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:33:55.04 ID:6vPWxeOdo
 ただ、なんとなく。
 穂乃果は日本云々というより、
 世界で羽ばたいていきそうな存在であるから。
 でも、
 それは私自身の買いかぶりであるのか、
 無責任さの表れであるのか。

「ワールドシリーズとかで始球式でもしてみて?
 そしたら現地駆けつけて応援するから」
「……その時に絵里ちゃんは飛行機代は誰に借りるのかな?」
「滞在費やその他経費……現実に考えて数十万は飛びますね?」
「Re Starsとして売れれば御の字、売れなければ妹の財布が軽くなります」

 格好良く決めたつもりなのに、
 現実的にそれは無理だろみたいな反応はやめて欲しい。
 あと、大谷くんが先発する時に始球式をするためにはどれほどかかるかとか
 生々しい計算をするのもやめて欲しい。

「いつ出発するの?」
「そうだね、とりあえずライブのあとかな?
 μ'sの誰かが来ると大変なことになるかもだし、
 見送りは良いから」
「寂しくない?」
「寂しくないよ、私はひとりじゃないから」

 まっすぐ私を見つめてくる穂乃果。
762 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:34:24.04 ID:6vPWxeOdo
「絵里ちゃんゴメンね、μ'sのことはお任せします
 どう語るのも、どう料理するのも自由。
 必要とあらば、ARI'sみたいなグループも作っていいし」

 それ、私がわーるかったわねぇ? みたいに言ってるやつ?

「ただ、一つだけお願い
 私にもし何かがあっても泣いたりしないで」
「ダメよ、亜里沙にお金を返してからじゃないと、そんなの許さないわ」
「姉さんはまず自分が私にお金を返すのが先じゃないですか?」

 シリアスが始まらない。

「絵里ちゃん。さよならはとっておくから
 もしもの時まで」
「……ええ、明日が、大事だものね?」
「私たちの、μ'sの一つの光は、
 一瞬の輝きだから
 今が最高だから、今が素敵だから。
 ただただ今を大事に
 今あるべき自分であろうって思うの」

 穂乃果はこちらを見ないようにして、くるりと振り返り。
 一歩足を踏み出そうとした所で、

「穂乃果さん、シリアスやっているところ悪いですが
 グループ名について考えていただきました?」

 大コケ。
763 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:35:01.35 ID:6vPWxeOdo
「すみません、絵里さん、穂乃果さん
 千歌の出したグループ名案があんまりだったので……」
「あー、ダイヤちゃん良いの、私が言い出したことだしね」
「穂乃果が彼女たちのグループ名を決めるの?」

 もう関わりたくないって突っぱねるくらいでちょうどいいのに。

「これは、高坂穂乃果の十字架、呪い、戒め……なんでもいい。
 私ができる最大限の嫌がらせだよ?」
「協力しましょう?」

 姉さんは命名センスが無いとディスられたけど強い子だからスルー。
 あと、なんだかなあって顔をしつつ止めないダイヤさんも相当……。

「穂乃果が提案したとすれば、相手に拒否権がない以上。
 パッと見、悪い意味を込めていますというニュアンスがわかってしまっては
 何も面白くないものね?」
「おお、なんだか、まるで私が性格悪くなったように感じるよ
 そういえば亜里沙ちゃん、あの子たちのグループのコンセプトって?」

 亜里沙停止。
 彼女にしては珍しく、えっとー? みたいな顔をして、
 記憶になかったのか、記憶する気もなかったのか、
 隣りにいるダイヤさんを眺める。
 が、その見られた彼女の方も天井を見上げながら
 エアわしわしをしながら記憶を反芻し、

「……大事なのは今です、今が最高なんです」
「誰も覚える気がないのはわかったよ」
764 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:40:15.51 ID:6vPWxeOdo
 意図とか目的とかはひとまずど返しし、
 千歌さんが好きそうな言葉を聞いてみる。

「ええと、そうですね……高校時代の彼女は
 奇跡とか、輝きとか……相手を明るく肯定する言葉が
 良いのではないでしょうか?」

 と言いつつ、電子辞書を引っ張り出してネガティブな単語ばかり、 
 そしてその単語の類語ばかり引っ張ってこちらに見せるのはどうして?

「チーム類人猿とか」

 ダイヤさん辛辣。
 どのあたりが相手を肯定している表現なのか。
 穂乃果ですら苦笑いしながら、自分はそこまで思ってないよと言ってるし、
 亜里沙は目をそらしながら、進化の途中ということですねというフォローを入れてる。
 特にコメントも出来ない私は、

「……じゃあ、これからとかどう?」
「これから?」
「うん、過去は上手く行かなかったかも知れない、
 じゃあ、上手く行かせるべきは、これからなんじゃないかって」

 穂乃果が私を見上げるようにして、
 亜里沙やダイヤさんと言ったメンツが、しょうがないなあみたいな顔をしている。
 
「……絵里ちゃんは、海未ちゃんの歌詞を知らないんだよね?」
「海未? これからのSomedayは知ってるけど」
「姉さんは数年に一度賢くなるようです」
「よもやその場に居合わせるとは、宝くじでも買いましょうか」

 ひそひそ話を始める私以外の人たち。
 いーれーてー! とか言えない私は時間が過ぎるのを待った。

「じゃあ、そっちは彼女たちのデビューシングルのタイトルとして」
「では穂乃果さん、絵里さんがここまでしてくれたのです。
 なんとかいい名前を」
「……はじまり。」
「はじまり?」
「うん、彼女たちのはじまり。
 自分の意志で、自分で立って、自分たちの物語を紡ぐはじまり。
 ……あ、句点入れてね?」
「そうですね、となればRe Starsともタッグを組めますし……」

 真剣な面持ちで話し合うメンバーの中で、
 一人だけ蚊帳の外にいた私は、数日後に迫ったライブを思った。
 とにかくまあ、全力で。
 高坂穂乃果の最後の舞台を演出し、
 少しでも背中を押すことができれば、
 私、絢瀬絵里も少しはこういうポジションで居ることも報われる――

 かもしれないし、そうでないやもしれない。
765 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 19:41:30.75 ID:6vPWxeOdo
第三話終了。
これから第四話へと移行するのですが。

ちょっとリメイク作業の途中なので、キリのいいところまで完了したら
投稿を開始します。
766 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:04:52.02 ID:6vPWxeOdo
 私、絢瀬絵里の後から知った話ではあるんだけれど。
 今回のライブイベントの名称というのは「太陽の日」というらしい。
 命名者は誰であるのか、親しい友人であるツバサに訊いてみても、
 ハニワプロが絢瀬絵里を晒し上げてイベントを起こそうと企画した当初から
 太陽の日という企画名で動いていたらしい。
 私の曖昧かつ不出来な記憶を辿ったところで、
 どうあがいても発案者は思い至らないので、
 機会があれば妹にでも訪ねてみようと思う。
 

 本番で使用するステージで最終リハーサルを行い、
 迂闊なことに定評がある私ですら、今回の件は成功を収めて
 無事終焉の時を迎えそうであるなどと予感を抱いた。
 私の感覚は妹も同様だったみたいで、何となくいつものクールさそのままに
 誰か失敗してくれたら面白いんですけどね? と、絢瀬絵里を眺めながら言い、
 その意図に気がついた綺羅ツバサが、そこの金髪が失敗したら
 どう恥ずかしい目に合わせようかしらね? 誰か提案がある人!


 なんてのたまい、多くのアイドルたちがどう羞恥を体感させようかを話し合い、
 微妙に気分が盛り下がったのは私だけであると祈りたい。
 ただ、その中でもノリノリだったのが某人気声優の赤髪のお嬢様で、
 なら是非にエロゲーに出演させましょう、私が声をやる! 
 と言ってシュプレヒコールが起こったけれど、
 もうすでにダイヤモンドプリンセスワークスというゲームがあるので、
 不用心なことを言わずにやり過ごすことに集中した。
767 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:05:38.79 ID:6vPWxeOdo
 私がセンターを務めるグループRe Starsや、特別枠として登場するA-RISEには
 個室のような控室が用意された。
 私もスクールアイドルだったみんなと一緒に過ごしたかったけれど、絢瀬絵里のことを
 澤村さんと白々しく呼ぶのは面倒だというもっともらしい理由で交流すら少数だった。
 実家が米農家だという月島歩夢と小泉花陽との交流は
 ほわほわする雰囲気ではあったけれど、話している内容はいかに低コストで利益を得るか
 に終始しており、そばで聞いていた黒澤ルビィちゃんがダイヤちゃんに
 実家を米農家にするにはどうしたらいいかを相談し、米は食べるものだと説教をされたみたい。
 などという微笑ましいエピソードがある中、私は南ことりに今回の衣装は
 過去に着たことがある僕たちはひとつの光のときの衣装と同じね!
 という失言をかまし、どうして絵里ちゃんはそこまでファッションセンスがないの?
 と罵られ、今の私に合わせたアレンジを加えたオリジナルの衣装だということを、
 さんざっぱら説明をされたけど、その内容を実際のところは理解していない。

 
 現在私は、Re Starsのメンバーが集う控室で、
 補聴器みたいと呼称されたイヤホンをつけ、ステージの状況や観客のボルテージ、
 加えて業界の裏話や絢瀬亜里沙の愚痴等、あらゆる言葉が耳に入って来ている。
 ここにいる面々に内容を伝えるのは私の権限に任せられているけれど、
 余計なことを言ってしまえば、グラビア撮影に直行させるという脅しを受け、
 しかも、多くのアイドルがその撮影の様子を見たいと熱望しているらしく、
 そろそろ私に対するネタ扱いというのも控えて欲しいものではある。
 ただ、そのあたりのネタ枠にぶち込んでみんなの精神の安定を目論んでいるのが、
 以前まで文筆業で食べていた綺羅ツバサなので、
 余計なことを言って墓穴を掘るよりかはそのままの流れに任せておきたい。
768 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:06:16.01 ID:6vPWxeOdo
 ここでリーダーらしく、各メンバーの紹介などをしてみたい。
 自分がリーダーたる器だったというよりも、みんな面倒なので
 一番生贄に捧げても心が傷まないやつに押し付けたと言ったほうが正しいかも。
 Re Starsというグループ名が決まり、じゃあグループで集まってなにかをしよう!
 などという空気にはまったくならず、基本的にソロプレイが好きな面々が
 あぶれにあぶれて結果的に5人集まっただけであるから、
 絢瀬絵里が好きという共通点はあるけど、みんながみんな思い思いのことをしながら、
 緊張をごまかし時間を潰そうとしている。
 誰か一人くらいお互いに話しあって、じゃあリーダーの絵里さんお願いします。
 なんて言ってくれたら、緊張をほぐすために南ことりのお肩がコッティーという
 抜群のギャグをかっ飛ばすつもりでいた。

 
 さて、一人目のメンバーから紹介を始めよう。
 容姿が抜群に優れていて、むしろ人間離れしている。
 精巧な人形のごとく整った造形は、あらゆる人から銀髪の天使と呼称されるほど。
 背もスラリと高く、澄み渡るような空を思わせる瞳で真っ直ぐに見つめられると、
 何もしていないのに罪悪感を覚えて謝りたくなる。
 胸のサイズだけはコンプレックスがあるのか、公式プロフィールでは何センチか詐称しており、
 亜里沙にして、胸がもう少し大きければ座ってるだけで億は稼げたと言われるほど。
 ただ、彼女自身あらゆることに関心がなく、いつもたいていボーっとしている。
 勉強だけはやたらできるので、何かしらは考えているのかも知れないけど、
 時折スイッチが入ったかのように流暢な日本語で喋りだすケースがあり
 最初にそれを見たときには悪霊にでも取り憑かれたのではないかと疑った。
 Re Starsのメンバーである統堂朱音ちゃんとは同じ高校のようで、
 しかもクラスメートとのことだけれど、それほど交流はないらしい。
 どちらかといえば、朱音ちゃんのほうが一方的にエヴァちゃんを苦手にしているフシがあり、
 必要な時だけは一緒にいるけれど、仲のいい友達同士かというと微妙。
769 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:07:38.00 ID:6vPWxeOdo
 メンバーの中ではダンスの能力に優れ、歌唱力やトークはかなり苦手な模様。
 ただ得意な踊りだけは自信があるのか、
 天才綺羅ツバサと比べてもなお自分は優れていると思っているみたいで、
 レッスン時に疲労で膝を落としそうになったツバサを挑発して、
 結果周りのメンバーの体重が減った。
 ただ、絢瀬絵里以外の人間には本当に興味が無いらしく、Re Starsの面々は
 かろうじて名前を暗記しているけれど、
 理亞さんの相方であるルビィちゃんの顔を覚えていなかったり、
 英玲奈やあんじゅの顔はうろ覚えであるみたい。
 でも、その絢瀬絵里の話ですら、絢瀬絵里や絢瀬亜里沙が知らない話をしだすので、
 どこか知らない時空に脳内をつなげて交流している疑惑すらある。
 協調性に欠ける部分があり、ダンスの最中や人間関係でも衝突することもあるので、
 私としてはもう少し協調性を身に着けて欲しいと願っている。
 今はイヤホンもせずに、天井の方を見上げながら友人と交流をしている(らしい)ので、
 時折笑みを浮かべながら反応をしている相手が透明人間であり、
 実在するであろうことを思うほかない。
 

 二人目は津島善子ちゃん。
 堕天使ヨハネとして私と面識がある可愛い女の子。
 Aqoursの中でも美少女として名高く、当時から容姿端麗なタイプとして、
 口を開かなければ可愛いとよくネタにされていた。
 年下の美少女はみんな自分の妹だと思っているダイヤちゃんが、
 ひときわ高確率で自身の妹扱いしているのが善子ちゃんで、
 そんな彼女を邪険に扱いつつも、まんざらでもないのか二人の仲はいい。
 そうそう、ダイヤちゃんが黒澤家を掌握したというのは、
 サファイアなる妹がいたという嘘か真かわからないエピソードのため。
 出会った当初に襲いかかられ、その時の印象を元にするならば、
 確かに並外れた美少女で、髪も長くスタイルも良かったけれど、
 Re Starsの面々では圧倒的にエヴァちゃんが美少女枠に入ってしまうので、
 メガネを掛けて髪の毛も切ってしまった彼女の立場は少しだけ微妙。
770 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:08:16.77 ID:6vPWxeOdo
 ただ、裸眼になると視力が悪くて大変なことになってしまうので、
 ステージの上でもメガネはきちんと着用をしている。
 不幸属性持ちで、私の記憶の中でも9人いるのに8人分しか食事を用意されてなかったり、
 外に散歩に行くといった瞬間に大雨に降られたケースが有る。
 ただ、今ではまったくそんなことはないらしく、宝くじは買うたびに当たり
 恐ろしいので今は手を出していないとか。
 Aqoursのメンバーとしてラブライブの優勝も果たし、統合先の高校で生徒会長を勤め上げる、
 銀行員としてかなり優秀だった等、アピールポイントは枚挙にいとまがないけど、
 Re Starsの面々の中ではそんな善子ちゃんよりも
 優れている要素を持っている人間が複数いるために扱い的には少々不遇。
 また、バストサイズは結構サバ読みをしている模様。


 3人目は栗原朝日ちゃん。
 今回の件で交流を深めることとなり、過去の記憶も少々思い出しつつあるせいか、
 急激に仲良くなったヒナと一緒にいる機会が微妙に増えて、多くの面々から
 あいつは誰だ扱いをされている栗原陽向の妹。
 高校時代に急激に成長した姉を見て、自分も結構スラリと大きくなるんじゃないかと
 そんな淡い期待をしたのだそうだけれど、見事に裏切られてしまった小柄な女の子。
 エヴァちゃん、善子ちゃんと容姿が人並み飛び抜けてる面々のせいで、
 当人のいや、もう私は女の子扱いされなくてもいいですとのコメントも手伝い、
 容姿は平均レベルと誰もが思っているフシはあるけど、客観的に見ても可愛いと思う。
 極めて小柄な体躯だけれど、動きは案外ちょこまかしてない、むしろ大きい。
 時折どころか、結構確率高くチョンボをかますのがちょっと弱点。
 ハニワプロのアイドルの中ではダントツで常識人で、いつでも冷静、
 彼女が感情を乱して何かを言うときはなにかがあったと察する。
 アイドルも歌もダンスもトークもそれなりレベルでこなし、テレビとかに出しても
 一番放送事故を起こす確率が低そうな子。通称歩く平均点以上。
 ただ、勉強面においてだけはRe Starsでも下で歴史の知識を披露すると
 たびたび武将が女体化を前提に説明することがある、おそらく姉のせい。
771 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:08:44.25 ID:6vPWxeOdo
 でも、ハニワプロのアイドルが知識を披露する機会があるのはツバサくらいで、
 他の面々はその他大勢の賑やかしレベル、エヴァちゃんだけは匹敵する成績だけど、
 彼女にトークさせるくらいなら賑やかしで充分、座っているだけでも注目されるし。
 あと、別枠で鹿角聖良さんという他に類を見ないレベルの成績の人もいるから、
 ツバサと二人で共演を果たせばいいと思う。
 姉さま大好き理亞さんでさえ、函館聖泉女子高等学院での成績を問われ、
 自分は平均点以下だったけど、それを基準で考えると地下に潜ってるレベル、
 だったそうで、偏差値は40が最高なんですよねって発言を聞いて耳を疑った。
 朝日ちゃんの話の途中で他の子の話題を出してしまったけれど、
 彼女は絢瀬絵里に対しても澤村絵里に対しても辛口傾向があり、
 その発言を聞いた星空凛でさえ、え、本当に絵里ちゃんのファンなの? とためらいがちにコメントした実績を残す。
 先輩の私にさえ遠慮のない凛が、苦労してるんだねみたいな目で見たのはもはや伝説。
 根は素直でとても良い子との評価をどこまで信用すればいいのかわからないけど、
 これを持っているのは内緒だと忠告してきたヒナに見せてもらった、
 朝日ちゃんの中学時代の日記はもはやデスノート。
 あれを見たら津島善子ちゃんの中二病など中二病(笑)レベル。
 今彼女は高校時代の絢瀬絵里を眺めながら、
 必死になってその動きを真似しようとしているけれど、
 アイドルとしての理想、希望、憧れと称する私に対してやたら辛辣なのは、
 好きが昂ぶってのことだと思いたい。

 
 歌以外には取り柄がないなどと、口さがない人に言われてしまっている統堂朱音ちゃん。
 自分自身でも自慢できるのは歌で、後は全てにおいて完璧――
 などという客観性のまるでない自己評価が玉に瑕。
 自信だけはやたら満ち溢れていて、本気を出せば大抵のことはなんとかなると思ってる。
772 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:09:15.10 ID:6vPWxeOdo
 そんな彼女がなぜ絢瀬絵里にハマったのかは知らないけれど。
 歌唱力は神がかっているのに、他の能力がほぼ底辺な彼女は、
 最初の方はレッスンについてくるだけで精一杯だった。
 ついてくるだけで御の字ではあったんだけど、途中で倒れるのだけはプライドが許さなかったらしい。
 英玲奈の朱音ちゃんが倒れた時用に考えられた人工呼吸が披露されなくてよかった。
 日常生活に支障が出るレベルで疲弊していたけど、
 いつからか何食わぬ顔して生活をおくるようになりみんな驚愕。
 100メートル走を完走できない体力の持ち主はいつの間にか立派なスターになった(個人の感想です)
 Re Starsでは体力面精神面でも成長を果たし、
 英玲奈が贔屓目なしで見て、技術面でも大きく発展してみせた。
 ただそれを自覚させてしまえば、鼻をピノキオみたいに伸ばして胸を張った挙げ句
 あらゆるレッスンに手を抜き始めるかも知れないので誰ひとり彼女に真実は告げていない。

 容姿では貧乳揃いと陰口を叩かれるRe Starsの面々では唯一の80越え。
 高校時代の南ことりと同じプロフィールだけどひどく疑わしい。
 どちらかが多く詐称していたか、少なく詐称していたか。
 エヴァちゃんや善子ちゃんといった容姿が異次元クラスに整っている面々の前でも、
 文字通り胸を張って生きてきたそうで。
 ただ、そんな朱音ちゃんのプライドは私というイレギュラーの登場により、
 自分にバストさえあればスターになれるのに! という自己評価に変わったそう、強く生きてほしい。

 
 絢瀬絵里加入前の、あらゆるレッスンを受ける前のRe Starsの面々はといえば、
 プロのパフォーマンスを披露できるレベルではなかった。
 協調性の欠片もなく、5人揃って何かをやると言われても拒否しそうな勢いだった。
 仲間内で集まってバーベキューでもしよう! など言えば素っ気なく嫌だと言われそうだけど、
 打ち上げに参加するかと問われれば、なんとなくメンバーに加わってくれそうな感じはする。
 パフォーマンスのレベルも準備期間がそれほどでもなかったにも関わらず向上した。
 聖良さんや歩夢といった面々と比べても遜色ないほどで、
 なぜいままで本気を出してこなかったのかと亜里沙が嘆くレベル。
773 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:10:00.47 ID:6vPWxeOdo
 ただそれは、あらゆるコーチの手腕ももちろんあるんだろうけど。
 A-RISEという良いお手本が存在したのも大きい。
 やっぱりA-RISEっていうのは素晴らしいアイドルユニットよねと、
 レッスン上がりに周りのアイドルがぶっ倒れている中で、
 やたらテンション高く跳ねていたツバサに言ってみたら、
 自覚がないっていうのは状況によりけりなのね、
 とのコメントと哀れそうな視線を受けるに至った。

 
 今の状態でも無難にいままでの評価を覆すパフォーマンスはできそう。
 ただ、現在のステージの状況は残念ながら伝えることは出来ない。
 Re Starsのリーダーとして何ができるかを考えてみて、
 みんなの緊張をほぐすためにちょっとギャグでも飛ばそう!
 と決意をした絢瀬絵里。
 今まで誰一人笑ってもらったことがない渾身のギャグの「南ことりのお肩がコッティー!」
 を叫ぶように披露。
 みんながスルーしたので、緊張して聞こえなかったのだと判断し、
 更に声を張り上げてお肩がコッティーを連呼したら、
 朝日ちゃんが鬼のような形相で「ちょっと静かにして頂けませんか?」
 と言うに至る。
 暗に黙らないと[ピーーー]ぞと言わんばかりであったので、
 やっぱり誰にも笑われたことがないギャグという点がネックだったとエリチカ反省。
774 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:11:46.68 ID:6vPWxeOdo
 コンコンというノックの音が聞こえてきて、
 ドアがガチャりと開くと、アンリアル(黒澤ルビィ&鹿角理亞)の二人が入ってくる。
 赤い方のツインテールさんはモチベーションはそこそこだけれど、
 キツイ目をしたツインテールさんはモチベーションが激高。
 それもそのはず、絢瀬絵里と西木野真姫との共演作(亜里沙ルート三話参考)
 により、ファンディスクからの出演でいいです! むしろそれでいいです!
 なんてヒナに迫り、かなり困った顔をさせていたから。
 しかしなぜ、あの18禁シナリオを読まされるイベントが、
 そこら中のアイドルたちに晒されて、ああでもないこうでもないと批評をうけねばならないのか。
 そして、18歳未満のRe Starsの一部の面々も聞いていたけれど、彼女たちの前で
「最大のギャグはあの二人に男性経験がないってことよね」
 ってバラしやがった綺羅ツバサ(処女)はとりあえず一発平手打ちしたい。

「お通夜みたいな空気ね……澤村さん、ちょっとリーダーとしてたるんでない?」
 自分もエロゲーに出てみたいと駄々をこね、
 ルビィとレズシーンの練習がしたいと宣言、結果、相方と姉から総スカンを食らう。
 そのようなダメージがあった割には、
 よくもまあ、あのように強気な態度に出られるものである。

「このような雰囲気を弛緩させるには、冗談の一つでも飛ばせば」
「南ことりのお肩がコッティーは誰も笑ってくれなかったわ」
「澤村さんちょっと黙っていただけますか、集中しているので」
775 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:12:19.45 ID:6vPWxeOdo
 理亞さんのほうがよっぽど喋っているのに、冷たい言葉で否定されるリーダー(笑)
 しかし、朝日ちゃんが画面を分割して見ているのは私の高校時代の動画という、
 なんで自分の正体に気づかないのか不思議でしょうがない。
 それは自身の高校時代と今の自分が、差異がありすぎるんです。
 という言葉が聞こえた気がしたけど、気のせいだと思って前を向く。


「理亞さん……はいいや、ルビィちゃん、観客のみんな見てみた?」
「はい、ステージが始まる前だけあって、熱気はあまりないようでした」


 アンリアルの二人が出演するのは、A-RISEが登場する前の前座。
 前座と言っても、ちゃんとプログラムには出演者として書かれているし、
 観客も彼女たちが一番最初に登場するアイドルとして認知している。
 だけども、Re Starsのことは何も書かれていない。
 ステージの締め(SUNNY DAY SONG)として書かれているイベントの
 さらに後として、観客は誰も出番を把握していない状態での登場。
 下手すると、誰も拍手していない状態でデビューシングルを歌わなければならない。


「いま、芸人の方がライブを開いていますが、反応は芳しくありません」
「えてして前座の前座なんてこんなものよ、でも見てなさい
 私たちが空気を変えてみせる
 ステージが終わった後、最後に出てきたの誰だっけ?
 にしてもアンリアル素晴らしかったよな、で終わらせてみせる」
776 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:12:58.24 ID:6vPWxeOdo
 強気に語っているけど声が少し震えているあたり、
 理亞さんも観客の様子をちょっと怪訝に思っている様子。
 私も先ほどから補聴器みたいと表現されたイヤホンで、現場の様子を逐一聞いているけれど、盛り上がり始めるどころか盛り下がっているみたいだ。
 ちなみにレポートをしてくれているのは、現場で司会を務める楠川姫さん。
 μ'sの軌跡を描いたラブライブ!で、東條希役を務め、
 声優を引退した後、希の何人か居るマネージャーの一人として働いている変わり種。
 私とは面識があったようだけれど、彼女と顔を合わせた時に絢瀬絵里は、
 はじめましてと言ってしまい、希に足を踏んづけられて私は悲鳴を上げた。

「だから、あんたたちは、別に何も緊張する必要なんて無いのよ
 先輩たちに任せておきなさい」
 
 鹿角理亞さんが亜里沙曰く、
 後輩の面倒見がよく、頼りがいがあると評しているのを聞いた時に、
 妹の目はもしかしたら腐っているのかも知れないと思ったけれど、
 こうしてみると案外その評論は正しいのかもわからない。
 とても前日に聖良さんに見捨てられかけて「お姉さまァァァ!!」 って
 白井黒子みたいな声を上げていた人間とは思えない。

「うん、みんな、私たちは頑張ってきます。
 だから、応援していてね?
 澤村さんはこれから舞台袖に移動ですが、なにか言っておくことは?」

 ルビィちゃんにリーダーとしてちゃんとしてくださいと言われたみたい。
 理亞さんに罵られるのはいつものこと(悲しい)だから慣れているけれど、
 お姉ちゃんに読書感想文を代筆されてるような人に、
 しっかりしてくれなんて言われると自分のポジションがえらく不安なんだけど。
 ちなみにインタビューの内容の管理もダイヤちゃん任せらしいですよ?
777 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:13:52.55 ID:6vPWxeOdo
「朱音ちゃんの歌は素晴らしい、エヴァちゃんの踊りもすごく良い
 善子ちゃんは周りをよく見ていて本当に素晴らしいと思う。
 朝日ちゃんはご飯を美味しそうに食べるよね」

 ボケたら理亞さんが背中に向かって飛び蹴りしてきたけど、
 朝日ちゃんが笑っていたので、青くなってるであろうレベルで痛い背部は気にしない。
 エリーチカは痛みにも強い子です。



 アンリアルの二人と廊下に移動する最中。

「で、絢瀬絵里、現場の状況は?」

 強い目でこちらを見上げながら問いかけてくる理亞さん。
 まるで先ほどまでおふざけしてましたって態度だけれど、
 明らかにさっきの飛び蹴りは真剣に八つ当たり要素入ってると思う。

「大変よろしくないわね、笑い声一つ聞こえてこない」
「A-RISEの皆さまを待っているということでしょうか?」

 ルビィちゃんが不安そうな声で問いかける。
 そんな彼女の手を握りながら私は、

「姫ちゃんの判断だと、ノリがお通夜。
 観客だけが盛り下がってばかりいて、スタッフとしても状況が読めないって」
「……ルビィ、だいじょうぶ、私たちは出来る
 絢瀬亜里沙プロデュースの秘蔵っ子だもの、こんなハードルは
 軽く乗り越えられるから」
「うん、絵里さん
 安心してください、私たちは出来ます
 盛り上げて見せて、A-RISEの皆様に気持ちよく歌ってもらう。
 そうだよね、理亞ちゃん」
778 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:15:17.42 ID:6vPWxeOdo
 二人には会場の様子がおかしいことを伝えられなかった。
 伝えた所で、緊張を増してしまうだけだと思うし、
 さきほどから、なんだか胸騒ぎがしてならない。
 私の嫌な予感なんて、かなりの高確率で外れてしまうし、
 なにより、理亞のク@ニでイッちゃう! なんて台詞をリクエストで読まされたのだから、
 二人にはぜひ頑張ってもらいたい、ゴミ箱に捨てられた私の羞恥心の分まで。



 私はいまステージ袖にいたりする。
 ここにいるのはA-RISEと黒澤ダイヤという、処女肩身狭い感漂う組み合わせ。
 などと口にすれば、ちょっとエリー黙ってと怒られかねない。
 雰囲気は暗く、表情はだいたい戸惑いと怪訝さで構成されていて、
 おちゃらけた空気など出せようはずもない。
 なにせ黒澤家のシスコンお姉さんが私の姿を見て、
 あ、おっぱいを揉むのを忘れてましたわって言って、ツバサに手を伸ばそうとしたくらいだ。

「見慣れない生徒がいるというのは、にこから聞いた」

 と、舞台をカメラで眺めながら英玲奈が言う。
 全員が全員、UTXの学生であるのは確かな様子だけれど、
 事前告知されていた、芸能科の生徒のみが観覧を許されるというのは、
 どうも勝手が違っていたようである。
 そして何故私が舞台袖に控えているのかと言うと、
 別にA-RISEの応援に来たのではなく、アンリアルのあとに登場して
 トークイベントを行うため。
 ただ、空気によってはA-RISEがそのままステージに上るという指示を受けており、
 どうもそうなりそうな予感がしている。
 
「おかしいわね、このアンリアルのパフォーマンスなら
 曲の後に拍手の一つでも起ころうはずなのに……」
779 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:15:56.60 ID:6vPWxeOdo
 告げようかどうしようか、躊躇い半分の様子であんじゅが言う。
 ダイヤちゃんもそうだけれど、A-RISEの面々は出来不出来をはっきりというタイプだから、
 理亞さんとルビィちゃんの気合の入り方が違うという点と、
 踊りや歌でこの状況を何とかしようと躍起になっているという点において、
 私と彼女たちの受け取り方が同じというのは認識としては正しそう。
 正直、リハーサルではスクールアイドルの延長線上レベルのパフォーマンスしか
 していない様子だったので、本番で本気を出すからという言葉を 
 あんまり信用はしていなかったんだけれど。
 すごい。
 理亞さんがいつしか朝日ちゃんの歌を普通と称したことがあったけれど、
 たしかにこのレベルでパフォーマンスをされてしまえば、
 一般人よりも優れていても、普通レベルに落ち着いてしまうのかも知れない。

「エリー、プロデューサーからの指示は?」
「姫ちゃんを通してだけれど、今のところトークは全てなし
 ――ただ」
「私たちがあの子たちを変えるパフォーマンスをすれば良いという事ね?」

 1を聞けば10を知る女。
 ただ、その頭脳を発揮するのは追い込まれたときだけ。
 私の判断が正しいとすれば、
 ツバサなりに危機意識は持っているのだと思う。
 
「英玲奈、あんじゅ。
 私と一緒に踊って見せてね? ついてこれなきゃ置いていくから」
「普段から踊り慣れている私にとっては造作もない
 それに、生徒の前に無様なところは見せられないからな」
「そうねえ、たまには本気出さないと。
 アイドルとしてのラストステージが黒歴史で終わっては、
 お母さん情けないものね?」
780 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:16:24.38 ID:6vPWxeOdo
 思えば、
 μ'sのときにはA-RISEの本番前の様子なんて見たことがなかった。
 どんな思いでステージに上り、
 どんな思いで私たちに破れたのか。
 勝負事なら勝ち負けがある、
 それは神のみぞ知る、私たちが手を出す道理じゃない。
 全力を尽くす、ただそれだけ。
 ただただ後悔をしないように、
 振り返った時にいい思い出にするために。
 まあ、第二回ラブライブ予選(東京大会)がツバサ当人にいい思い出だったかなんて、
 いくら空気の読めない私でも聞けないけれど。

「エリー……プロデューサーに伝えて。
 何があっても止めるな」
「……私、彼女と交信する手段がないんだけど」

 亜里沙の発言は姫ちゃんを通じて、私に絶えず届いてくるけれど、
 私からのメッセージは電話でもなにかしない限り妹には届かない。
 ただ、手段は一つ。
 絢瀬絵里がパシって彼女が控える準備室に駆け込めばいいだけ。
 誰もがみんな、私を使い捨ての駒みたいな扱いするけど、
 一応、このステージで一番偉い人の身内なんだからね?
 かと言って私の待遇が最底辺なのは分かりきってるので、
 涙を飲んで控室から駆け出した。
781 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:16:51.76 ID:6vPWxeOdo
 旅館とは違い、楠川姫が生でナレーションを行って、
 亜里沙とか南條さんほかスタッフがステージを見ながら首を傾げ、
 盛り上がらなさ加減に疑問を持ちながら、
 あれこれどうしようか話し合っている様子だった。
 熱意を込めて論説を振るっているせいで、
 誰しもが、金髪ツインテールの存在に気づいてくれなかったのは泣ける。

「すみません。ちょっと真剣に話し合っていたもので、
 姉さんを認識するのが遅れました、もっと目立って頂けませんか?」

 金髪ツインテールという、
 エロゲーとかだったら余裕でメインヒロインを張れそうな
 そんな外見の人間を捕まえて目立てとは一体どういう了見か。
 ただ、ニュアンスとしては急ぎの用なら少しは自己主張をして伝えろ
 ということだと思うので、渋々頷いておく。

「ツバサから、何があっても止めないで欲しいと言われました」
「生憎ですが、その権限は彼女たちにはありません」
 
 そっけない様子ではあったけれど、逡巡してからの反応だったので、
 ある程度は考慮に入れてくれるものだと思う。
 おそらくは何らかのトラブルでもない限り、A-RISEのステージは終わらない。
 別の言い方をすれば、
 何かあればすぐにステージが終わってしまうことに、
 一抹の寂しさを感じるところではあるのだけれど。

「私がA-RISEの方々に伝えます。
 姉さんは、出演者の皆さまが控える部屋に向かってください」
「南條さんがほしいんですが」
「南條さんは私の代理としてここに残らなければなりません、
 甘ったれたことを言ってないでさっさと行ってください」
782 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:17:52.78 ID:6vPWxeOdo
 後ろ髪を引かれながら、亜里沙に手を引っ張られスタッフルームを抜け出す。
 みんな、ただならぬ雰囲気を感じつつ、
 どう足掻いても、昨日までの良かった雰囲気に戻れはしないのだと――

「姉さん」
「うん?」
「このステージが成功したら、皆さんで焼き肉にでも行きましょう」
「そうね、たくさん食べるわ」
「安心してください、姉さんは水とサンチュだけ奢りですから」

 それ、なんか扱いが草食動物っぽいけど、
 まさか、まだバニーガールネタを引っ張られてる?
 あ、ちなみにウサギにチョコレートを食べさせると 
 中毒を起こすこともあるらしいので注意してね。

「あ、それと姉さん、ちーちゃんを認識してあげてくださいよ
 あんなに必死になって台本を書いていたんですから」

 なんでも姫ちゃんがナレーションをしていたけど、
 その原稿は清瀬千沙(顔がいまいち思い出せない)が生で書いていた様子。
 そういえばパソコンとにらめっこして一つもこちらに視線をよこさない人がいたような。
 ごめんなさい、亜里沙が支払って用意されたサンチュでも奢ります。



 出演者の8割近くが控えている、大きなパーティールームのような場所に、
 μ'sやAqours、聖良さんや歩夢ちゃんといったメンバーが、
 難しそうな表情をしながら、ステージの映像を眺めていた。
 どう足掻いても盛り上がっていないのが伝わっているらしく、
 多くの面々は不安そうな様子を隠せないでいた。
783 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:18:19.96 ID:6vPWxeOdo
「絵里」

 その中で一人、園田海未、東條希、南ことりの三名がこちらに気がついた。
 ことりには前日、私のとある失言によってさんざっぱら罵られてしまったので、
 ちょっとお近づきになりたくない気配すら漂うんだけれど、そうも言ってられない。

「亜里沙ちゃんのところへ行ってきたんやろ?
 なんて言ってたん?」
「トークイベントはすべて無しに、
 それと、なにかのトラブルがない限りステージは続行」

 ざわつき始める部屋。
 穂乃果はただ一人その輪に入らず、
 何かを言いたげにこちらをじっと見たあと、寂しそうに笑った。
 いますぐにでも声をかけたかったけれど、
 どんなふうに何を言った所で慰めにしかならないので控える。

「絵里ちゃん、この会場って記者の人もいるの?」
「新聞社とかテレビ、ラジオ……ネット、後はわからない。
 結構よりどりみどり、誰彼問わずいる様子だけど、どうかした?」

 ことりが珍しく、悲しそうな感情を隠さずにこちらに迫る。
 絢瀬絵里に弱みを見せるくらいなら犬に食べさせたほうがマシでしょ、
 それくらいのことは言ってのける彼女だから、頼られて嬉しいと言うか、
 でも、このあとで金銭か何かを要求されたりしないよね?

「うん、記者の人が話している内容を聞いちゃったんだけれど……」

 そのままの内容を伝えると口が腐りそうだから、
 という理由で、要点だけ説明してくれる。
 記者として長いけれど、このステージは確実に失敗する。
 プロデュースしているやつがよく分からない人間だし、女だ。
 過去の遺産で盛り上げようだなんて烏滸がましい、
 実際に会場も盛り上がっていないし、ステージに上っている人間のレベルも低い。
 これは真実をすべて自分たちが脚色なく伝えるしか無い。
784 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:21:06.84 ID:6vPWxeOdo
「あの人達、私の顔を知らなかった……希ちゃんも、凛ちゃんも
 自分なら仕方ないって思ったんだけど」
「ウチの知名度はまあ置いておくにしても、凛ちゃんを知らんなんて、
 よほど情報通な芸能記者さんなんやろうなあ?」

 苦笑いする一同。
 ちなみに、希の表情から察するに彼女はかなり怒っていた。
 ただ、それ以上に怒りを隠さずにモニターの画面を睨みつけている凛や、
 覚悟を決めてまっすぐなにかに集中している花陽、目を閉じて思考する真姫。
 μ'sの面々は冷静になろうと、かなり極端な行動をしている。
 
 この中で一番動揺が深いのは、
 A-RISEの後にステージに立たなければならない、はじまり。のメンバーである千歌さん。 
 アンリアルのライブに冷淡な反応をする観客の様子を見ながら、
 解せないと言った感と不安を隠さずに、曜ちゃんと梨子ちゃんの二人に体を支えられている。

「エリち、亜里沙ちゃんがここに寄越したってことは、
 まとめ役として、何かしらしろっていうことだと思うんや」
「ええ、任せて希――」
「あ、絵里ちゃん。私から良いかな?」

 自分自身の言葉を深呼吸して言おうと、息を吸った瞬間に声をかけられてむせる。
 咳き込みながら穂乃果を見上げ、どうぞどうぞと手を振る。

「ええと、皆さん。ご存知かと思いますが、μ'sの高坂穂乃果です」

 ゲホゲホ言っているアラサー(金髪)をスルーし、穂乃果が語る。
 モニターの画面が消され、静寂が辺りを支配した。
 誰一人、視線をそらさずに穂乃果を見て、
 金髪ツインテールのことなんざどうでもいいと言わんばかりだった。
785 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:22:54.63 ID:6vPWxeOdo
「たくさんの方の協力で、この度のライブが開催される運びになりました。
 きっかけは誰かさんのワガママだと思うんですが、
 小さいことから始まり、奇跡を引き起こすのはスクールアイドルのお約束ですから――
 それは、ちょっとだけ勘弁してください。

 皆様もご承知のとおり、私たちはいまアウェーです。
 おそらく、期待して私たちを見上げているのはごく少数の人で
 ほとんどの人たちは自分たちの失敗を望んでいるみたい。

 たぶん、このステージは成功しないでしょう。
 すごく悲しい思いもするかも知れません。
 でも、後日に思い出として今日という日を振り返った時に、
 いい思い出だったと言えるイベントにしましょう。
 全力で、一生懸命、やり遂げましょう。

 よりよいいつかを迎えるために」
 
 小さく拍手が起こる。
 その音はたちまち辺りに伝播し、
 大きな希望になって控室の中を支配した。
 
 私はそれを見届け、
 南條さんからの指示でステージ脇の舞台袖に向かう。

 ステージ脇。
 拍手が起こることもなく、
 誰に見送られることもなく、
 アンリアルの二人は笑顔を浮かべながら戻ってきた。
 今は少しの休憩期間。
 本当はすぐにでも飛び出していきたいであろうA-RISEの面々を思えば、
 冷徹にもなれず、感情を爆発させることもできず、
 二人してなんとも言えない表情を浮かべたまま、
 頑張ってきた後輩(芸能経歴的には先輩)を出迎える。
 ――それにしても、ダイヤちゃんシリアス出来るんだったら最初からやってほしかった。
786 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:26:38.27 ID:6vPWxeOdo
「ん……」

 ルビィちゃんは一目散にダイヤさんに抱きつき、
 声も上げずに泣き始めた。
 本来なら、大声でも上げて叫びたいところではあったんだと思う。
 言いたいことをぐっと抑えて身体を預ける妹と、その頭を撫でる姉。
 展覧会の中の写真のイチ風景のような、絵のなりっぷりに

「姉さまはいないの?」
「聖良さんは出番待ちよ」
「ふん……」

 目が銀行強盗並みに釣り上がり、
 まるで凶悪殺人犯の顔写真を体現しました!
 と言わんばかりの表情を浮かべながら、
 右に移動し、左に移動し、
 
「絢瀬絵里」
「なあに?」
「お前は姉さまの代わりだ
 あくまで代わりなんだからな!
 私が心を許すとか、まったくもって、
 これっぽちも……ありえないんだからぁぁぁぁ!!!」

 アメフトでタックルでもするみたいに強烈な体当たりで、
 ちょっと腰が心配になりそうな感じで、受け止めることが精一杯だった。
 普段は威圧感で180センチ近くの身長にも思える理亞さんが、
 本当にただの小さな子どものように、自分の胸で泣きじゃくる姿に、
 これからどんな困難が起ころうとも、
 まっすぐ前に向いていけそうな、そんな強い憤りを覚えた。
 仮に、すごく辛い思いをしたとしても、
 怒りで冷徹になれそうなくらい、強い感情を覚える。

 あとダイヤさん。 
 聖母みたいな表情を浮かべて頭を撫でながら
 こっちを羨ましそうに見るのはやめて欲しい、あなたみたいな妹はちょっと。
787 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/10/18(木) 20:27:11.93 ID:6vPWxeOdo
 立ち上がれないほどのダメージを負ったアンリアルの二人に対し、
 誰も迎えに来たりしないので、マネージャーでもいなかったかな?
 と、キョロキョロと見回していると、その視線の意図に気づいたらしいダイヤさんが

「安心してください、黒服……あ、いえ、従業員に迎えにこさせます」

 殺伐としたオーラが隠しきれてない。
 でも、よもやアイドルのライブであたかもあちら系の人が来るわけ無いと思ったら、
 
「津島です」

 190センチ近くある身長を屈め、
 筋肉でスーツがピッチピチしているこの方は津島さん。
 家族構成などは不明――あ、不明ってことにしておくってことで。
 あと、サングラスはやめて欲しい、たとえ目つきが理亞さんより凶悪でも。

「追っていますか?」
「森崎、佐藤、音尾の三人で、大泉と安田は外です。
 安田はマスコットに扮していますから正体は割れないでしょう」
「分かりました、ルビィ、理亞、出番まで……いや」
「いいえ、私たちは最後に出ます」
「それが約束……アイドルとしての務めですから」

 SUNNY DAY SONGのイベントのことを指してるんだと思う、
 仮にRe Starsのデビューライブが行われたとしても、
 盛り上がって奇跡が起こる要素など一欠片たりともありえない。
 ただ、悲惨さで言えばA-RISEのあとに出てくる「はじまり。」の面々も負けてない。
 デビュー曲「これから」を引っさげて登場するのは良いけれど、
 あの曲、穂乃果のお願いで卒業ソングっぽく出来上がってるからね……。

 津島さんはアンリアルの二人に傅くように退場し、
 ダイヤさんは邪魔者は消えたと言わんばかりに私の胸に手を伸ばす。
 シリアスさ加減がカップラーメンくらいの時間しか続かないことに、
 多少頭痛を覚えてはいるんだけれど。

「多少、獅子身中の虫がいるようですね」
「こそこそ話なら胸を揉まなくても」
「黒服が目立つとお考えでしょう? 一番タチが悪いのは鞠莉さんの手駒ですからね」
「……あえて聞かないでおくけど、あだ名とかってあるの?」
「マフィ……ええと、それは良いではありませんか、
 もうすでにスタッフに紛れ込んでいるという事実だけ把握していれば」
788 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:29:36.25 ID:6vPWxeOdo
 それはあんまり聞きたくなかった事実だなあ……。
 と、ここで精一杯のトークで盛り上げてきた姫ちゃんと、にこの頑張りを
 あざ笑うかのような会場の冷めっぷりに、
 自然と表情も引き締まっていくばかりだけれど。

 ステージが暗転し、
 ざわつき始める会場内。
 その声に圧倒するようにツバサのボーカルが響き渡った。
 本来のA-RISEのコンサートなら、
 暗転した時点でファンは静かになる。
 これが彼女たちのお約束だから。

 たぶん最初の反応で、
 観客が自分たちのことを知らないということを
 無難に把握したんだと思う。

 以前、ネットで声が大きい人を黙らせるには?
 なんて聞かれた時に、絢瀬絵里は相手にしなければいいと
 無難に答えたけれど、

「そうねえ……そいつよりも大きな声で喋れば良いんじゃない?」
「うるさそうね」
「別に罵詈雑言を大きな声でいうわけじゃないのよ、
 ポジティブなことを、奇跡を、大きな声で、
 悪いものをすべて消し飛ばすくらいに、良いことで世界を覆ってしまえばいい
 そうすれば世界はちょっとは良くなるわよ」

 ただ、こんな事を言っておきながら、
 ネットで悪口を言われているのを見かけたらと聞かれて

「[ピーーー]、殺せるなら[ピーーー]、
 そいつが死ぬことで起こるデメリットより、
 死ぬことで起こるメリットのほうが大きいから」
「記事にできないので、もうちょっと言い方を変えてください」
789 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:31:04.80 ID:6vPWxeOdo
 東京湾に沈める等、表現の試行錯誤は繰り返されたけど、
 ほとんどのインタビューは、記事にできないので記者さんが嘆いてた。
 海未といい、真姫といい、記事にできないインタビューの答え披露する人多くない?
 以前、理亞さんが人生を変えた出来事を聞かれて丸戸ゲーのすばらしさを語って、
 絶大なる冴えカノブームが起こったけど、それは結果オーライだからね?
 あとアリスはどうした。

「はじまった……」
「これが物語なら、私達は勝ちました……いえ、勝たねばならない」

 格闘漫画とかで圧倒される時、身体に電気が走るような、
 そんなビリビリとした感覚と、
 震えが起きるような……
 正直、私ははじめて綺羅ツバサを怖いと思った。
 常人を遥かに超えてる声量に、カリスマ性溢れる仕草、
 ひとつひとつの行動を取ってみると、一つも無駄な動きが見当たらない。
 照明も、曲も、すべてがA-RISEを輝かせるためにある。
 
 
 これがもし、本当に物語なら。
 ハッピーエンドで終わるんだろう。
 今までのことはなかったことにして、
 観客は盛り上がりに盛り上がり、
 手に手を取り合って、全員で踊りだすくらいの――
790 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:32:17.70 ID:6vPWxeOdo

 ほんとうに、μ'sが起こした奇跡を3人でやってのけてしまうような、
 十年前の秋葉原の盛り上がりを体現するような動きに、

「……こんな人達に、μ'sは……勝ったというの?」
「違うわ、ダイヤさん」
「絵里さん……?」
「A-RISEは負けたから今がある。
 μ'sは勝ったから今を迎えてしまった。

 ……μ'sの物語ではハッピーエンドだったけれど、
 私たちの人生ってもしかしたら

 もしかしたら……バッドエンドだったんじゃないかしら?」
「!? いけません、誰か! 誰かいませんか! 
 気を確かに! どなたか! 来てください! お願いします!」

 奇跡の出来事を彷彿する動きに、
 奇跡を体現する事実に、
 すべてが本当に良いことで覆われていくような
 そんな圧倒的なステージに――

 一つも盛り上がっていかない観客を眺め――

 私、絢瀬絵里は暗転していく意識の中。

「亜里沙……ごめんなさい、ダメな、お姉ちゃんだったね……」
791 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:32:46.79 ID:6vPWxeOdo
 絢瀬絵里に代わりまして、
 代打矢澤にこがこの場の実況をお送りします。
 ――などというオフザケはともかく。

 お姫ちんと一緒にトークをし、
 一つも盛り上がらない観客を怪訝に思いながら、
 数年前なら子どもが、ドッカンドッカン笑っていたようなネタを披露してなお
 反応がない相手に強い憤りを覚えながら。
 これでも、過去には人気のアイドルだったんですよ?
 なんて自虐に走ろうかと思いつつ、
 なにか鬼気迫る声が聞こえた気がして、
 思い過ごしかと判断し、意識をステージに向けた瞬間。

「申し訳ありません! プロデューサーは、絢瀬プロデューサーはいらっしゃいますか!」

 マイクが拾うんじゃないかと言うくらいの大きな声が聞こえて、
 慌ててミュートをかける。
 ただ事ではない雰囲気を一発で感じ取ったけれど、
 この場から動けない以上――ん?

 にこさんはこちら側に来てください。
 ブースの向こうからそんなカンペが見える。
 この場を、もうすでに涙目になりそうな雰囲気で仕事している姫ちんに
 任せてしまうのは心苦しいけれど……。
 いくら熱意を込めて訴えても、何も変わらない状況は堪える。
 そこらへんを割り切れるのは、私の積んできた人生経験ゆえか。
792 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:33:50.39 ID:6vPWxeOdo
「ごめんなさい、この場は任せるわね」
「はい、精一杯努力します」

 もうすでに満身創痍なのに、これ以上どう努力するのか。
 なんて疑問は生じてしまったけれど。
 ブースを抜け出して状況を問いかけてみると、
 なんと絵里がぶっ倒れてしまったらしい。

 ニートから復帰して以降、無理を重ねている彼女に対し気は使っていたつもりだった。
 重く受け止めなければいけない問題がある時は、コメディリリーフも演じてみたし。
 それがお前の役目なんじゃないかというツッコミは受けはするけどスルー。

「亜里沙ちゃんは使い物にならなそうね……」
「仕事を与えましたが、やってくれるかどうか」

 絵里は妹の亜里沙ちゃんのことを、
 変わっただとか、冷徹になったとか言うけれど、
 彼女が目指したのは高校時代の絵里(ポンコツじゃない方)だとは、
 いったいいつになったら気づくんだろうか。
 いや、キリリとしている方が、真面目で融通の効かない完璧超人だったとは、
 今から思い出すと、そうでもないような気がしなくもないんだけれどね。

「にこさんには控室の方々に、あんまり動揺は走らないとは思うんですが」
「あっちには穂乃果もいるし、ただ絵里の場合、絵里シンパがいるからなあ……」

 勢いつけて報告したは良いものの、そこで使い物にならなくなってるダイヤちゃんとか。
 私と同じコメディ枠の住人なんだから、少しはメンタルを鍛えましょう。
 
「ほら、ダイヤちゃん行くよ」
「え、ええ……分かりました……あら? あら? 揉む胸が、胸が、胸がない……」
「きっちりボケは決めてくるけど、本当に憔悴してるの?」

 この人が静岡の方で絶大な権力握ってて、
 最近富士山は静岡のものになりつつあるらしいって話だけれど、
 本当のなのか疑問で仕方ない矢澤にこでした。
793 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:36:32.49 ID:6vPWxeOdo
 どこをどう歩いてきたのか、
 いつの間にかアンリアルの二人がたえず横にいるという現状に対し、
 夢の中をふわふわと歩いている心持ちで現実を認識できません。

 南條さんから、使いものにならないのでどっか行けと言う指示と、
 何もしないんならRe Starsの面々に現状を説明せよ、
 という二重のよく分からない(彼女もそれなりに慌ててたのでしょう)言いつけを守り、
 スタッフルームを抜け出してみたは良いものの、
 フラフラしてアンリアルの二人がいる医務室に駆け込んでしまったのは、
 いったいどういう了見なのか、絢瀬亜里沙自身理解が及びません。

「亜里沙さん、しっかり、だいじょうぶです。
 あんな奴ひとりいないところで状況は変わらない」

 などと言いつつ髪型をいつもツインテールではなく、
 ポニーテールへと変貌させてしまうあたり、理亞も狼狽をしているのでしょう。
 素直になった彼女など想像もできないですから、
 そのままの路線で行ってほしいものです。
 おそらく私がいなくなるであろう、ハニワプロに所属するのであれば。

「ひとまず救急車は呼ばないで安静になれる場所へ、
 でもお姉ちゃんも黒服を連れてくるなら、女性も連れてくればよかったのに」
「鞠莉のマフ……白服もそうだけど、他にもっとまともな人いないの?」
「理亞ちゃん、世の中には知らないでいいこともあるんだよ」

 二人の素っ頓狂な(あまり笑えません)会話を聞いていると、
 だんだんと落ち着きを取り戻してきました。

「亜里沙さん、そっちはお手洗い。残念ながらRe Starsはそこにはいません」
「……あら?」

 失礼、いまだ冷静ではないようですが。
 お姉ちゃんには真姫さんのお手伝いさんが付いているようなので、
 特に心配をする必要はないでしょう、ぞんざいな扱いを受けること以外は。
 
794 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:37:02.06 ID:6vPWxeOdo
 Re Starsの面々が揃う控室にたどり着くと、
 場があまり盛り上がっていないことを誰かに聞きつけたのか、
 それとも(空気の読めない)誰かに教えられでもしたのか、

「プロデューサー」

 Re Starsの面々で姉を除けば、唯一大舞台を経験していて、
 かつ年長者でもある善子さんが不安げな表情を隠さずに話しかけてきます。
 一応、現場責任者である私がこの場に来た時点で、
 何かしらの事情は感じ取ったのか、他の面々もエヴァさんを除いてこちらに視線を向ける。
 
「皆さん、センターを務める澤村絵里が倒れました」
「はい?」
「あいにく代理はいません、皆さんは4人でステージに立つことになります」

 冷静になろうと務めたつもりでしたが、声は震えていました。
 4人でステージに立たせることに対して躊躇いを持ったのではなく、
 思ったより、本当に思ったより、姉が彼女たちの中心にいたことに驚きを隠せないのです。
 朱音さんはもう倒れんばかりにうなだれて、善子さんも顔を伏し、エヴァさんはいつもの通りですが、

「無理です」
「朝日……」
「私たちにはあの人が必要なんです、
 あの人がいなければ何も出来ません
 まして、A-RISEの方々が出ても盛り上がらないステージでなんて……」

 朝日さんのダメージが大きい。
 こと、姉に対して一番辛辣な意見を言ってのける彼女ですが、
 それはヒナから、そう接することで絢瀬絵里の精神の安寧に役立つと教えられたから。
 いや、未だに姉の正体に気づかないのは……たいした問題ではないので置いておきましょう。
795 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:37:32.44 ID:6vPWxeOdo
「朱音さんは絵里さんがいないと歌えません。
 エヴァさんは絵里さんがいないと踊れません。
 善子さんは……まあ、なにか出来ないんでしょう」
「私をオチに使うんじゃない」
「私は……私は……絵里さんがいないと、
 もう、ほんとう、どうしようもないんです……」

 理亞さんが珍しく目を伏し、
 ルビィさんがさもありなんと目をとじ、
 私自身でさえも、仕事を放棄してやめましょうと言ってあげたいところだった。
 いつも強気で、痛々しいレベルで自信がある朱音さんも。
 考えていることが読めず、いつも威風堂堂としているエヴァさんも。
 この中で唯一社会人としての経験があり、冷静に物事を判断できる善子さんも。
 皆が皆、口を開かず静寂がその場を支配しました。

「話は聞かせてもらったわ!」
「出番を終えたからと言って調子に乗るのはやめろツバサ」
「やっぱりステージが終わったら飲み物よねえ……」

 そんな空気の中で、ステージに上っていた熱気そのままに、
 A-RISEのみなさんが控室に顔を出しました。
 間違えたということはなさそうですから、
 おそらく何らかの意図でここに顔を出されたのでしょう。
 朝日さんに対して引っ叩いてでもステージに立たせなければいけない私に対して、
 それが出来ずにいたのを励まし……あ、それはなさそうですね?

「ツバサの前に立つのは不慣れなんだが……」
 
 などと言いつつ、
 自分が妹からどう見えるかのみを追求した立ち位置で、
 凛々しく表情を作る英玲奈さん。
796 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:38:40.94 ID:6vPWxeOdo
「澤村絵里がいない以上、センターに立つのは朱音、お前だ」
「それは弩級のシスコンの戯言なの?」
「シスコン? 誰のことだ?」

 ツバサさんとあんじゅさんが、二人してお前以外に誰がいるんだ。
 って顔をしたけれど、英玲奈さんはどこ吹く風。
 
「前にも言ったが、お前の歌は世界を変える。
 私たちが出来ないこともやってのける。
 変わらないやつのことなど知ったことではないが……
 そういうのはダイヤに協力して貰って内浦の海に沈めるから覚悟しておけ」
「止めてください英玲奈さん、ダイヤを都合良く使わないでください」

 ただ、ダイヤのことだから妹だからという理由だけで、
 足に括り付ける鉄球を用意してくれそうではある。
 私と仲良くなった理由でさえ、絢瀬絵里の妹だからですし。

「ダメよ英玲奈、私には出来ない、自信を持って言えるわ!」

 ネガティブ方面に胸を張る朱音さん。
 ただ、Re Starsの面々も無理なんじゃないかなって顔をしているので、
 英玲奈さんばっかりが気合を空回りしているように見える。

「こいつを見てみなさいよ! いつも何考えてるかわからないでしょ!
 このちっちぇーの、わりと平均的にできないわよ!
 単発眼鏡! 元Aqoursっていうの本当なの!?」
「朱音さん、自信が無いのが分かりますが、
 自信を持って他のメンバーを貶すのは止めてください」
 
 それにしても、一番権威のあるはずの私が、
 姉の絢瀬絵里みたいなポジションにいますね?
 あれはあれでなかなか骨が折れるものなんですね……ちょっと尊敬します。

「朱音、安心しろ。お前なら出来る、ここでちょうど絢瀬絵里からのメッセージがある」
「……?」
797 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:39:21.30 ID:6vPWxeOdo
 澤村絵里=絢瀬絵里であることを知っている面々が、
 なぜそんなものを持っているのかという表情をする。
 私も姉からそんな声を収録したという話は聞いていないし、
 そんな事をすればツバサさんは確実に把握してるはず。
 あの方は私よりも絢瀬絵里に詳しい、解せない。

「はじめまして、絢瀬絵里です。
 統堂朱音さん、いつも応援ありがとう!」

 卒倒するかと思った。
 少し聞いた限りでは、たしかに絢瀬絵里に聞こえる声。
 ただ、間違っていても応援ありがとう! なんてツバサさんみたいなことは言わないし、
 この声をほぼ毎日聞いている身としては……

「南條さん?」
「そうですね」
 
 ツバサさんとこそこそ話。
 ただ、姉をそこそこしか知らないメンバーにとっては
 そして何より南條さんをそれほど知らない面々にとっては、
 昨年、ハニワプロの忘年会で開かれたモノマネ大会で南條さんが披露した、
 絢瀬絵里はこんな事言わないシリーズでの音声にそっくりだと知らなければ、
 たしかにまあ、姉の声に聞こえなくもないはず。

「Re Starsの皆さん、この度のステージ
 一番の特等席で見ています
 顔を出せないのは残念ですが、こわーい妹がいるので
 それも仕方のないことだと納得してください」

 特等席も特等席。
 センターポジションで踊ってるのがそいつだと知らなければ、
 なにより、読んでいるのが先輩(プロデューサーとしては後輩)と知らなければ、
 ちょっとしたギャグで我慢はできるんだろうけれど……。
 よもや南條さんに私がおっかないやつと思われてる可能性はないでしょうが、
 陰口の一つも言われてるかも知れないと思うと、ちょっと戦々恐々としてしまいます。
798 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:40:27.58 ID:6vPWxeOdo
「朱音さん、あなたの歌は素敵です。
 エヴァさん、あなたの踊りとても良いです
 善子さん、調和の取れたハーモニーとても素敵です
 朝日さん、いつもご飯を美味しそうに食べますね」

 オチの付け方まで姉に激似。
 
「そして最後のメンバー、澤村絵里……
 彼女のことを信頼してあげてください。
 元はどこかから連れてこられたニートかも知れませんが、
 皆さんのために体を張り、力になってきた人です。
 もしも、彼女がいなくても立派にステージをこなしてください。
 それが、私が出来るお願い事です」

 これを言った後、南條さんは苦笑いをし、
 原稿を書いたちーちゃんとヒナはハラショーハラショーと褒め称えたらしい。

 目に活力を取り戻すRe Starsの面々を眺めながら、
 私自身も、どうやら立派なプロデューサーとしての立場を思い出したみたいだ。
 南條さんに言いたいことが山程増えたのは、
 この際チャラにしておきます。

 ――本当ですよ?
799 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:41:05.16 ID:6vPWxeOdo
 μ'sの終わりから数ヶ月。
 確か、10月頃の話だったと思う。
 私は大学生活を謳歌していた。
 ――大学生活と言うよりも、ネトゲやら友人付き合いやら、
 そちらの方に熱を向けていたような気もするけれど。
 
 開店休業中のサークル活動をスルーし、誰に話しかけられることもなく帰宅し、
 その頃にはもう真姫が家にオタク空間を作り上げていたので、
 変な害虫でも出ないように気を配りつつ整理整頓し(真姫は片付けが下手なのだ)
 亜里沙がバイトから帰ってくるのを見計らって、夕飯を作り始める。
 そういえば、真姫からこれが面白いから読んで欲しいと言われたラノベがあり、
 そろそろ感想の一つでも求められるかなと思い、手を止めて内容を思い出していると
 スマホからアニソンが流れ始めた(お嬢様はよく着信音の設定を変えます)
 マナーモードにしておくのを忘れた自分の迂闊さと、構内で流れなくてよかったという安堵と、
 悲喜入り混じった感情を覚えつつ。
 番号を見ると覚えがなかったので、スルーしようかと思ったけれど、
 虫の知らせか、それとも神がかり的な何かか、
 ふと、応対しようかなんて思って。

「絢瀬ですが、どちら様でしょう?」
「統堂です。見慣れない番号に出てくれたことを感謝します」
「……統堂?」

 A-RISEの面々だと、ツバサとは関わりがあって電話帳にデータが登録されていた。
 ただ、ツバサ以外の英玲奈やあんじゅとは疎遠だったし、
 会話した記憶があんまりなかった(結果、とんでもない勘違いだった)ので、
 統堂と言われて藤堂高虎しか思いつかなかった私は、

「歴史にハマりつつある西木野真姫に用でしたら代わりますが」
「……もしかして、私のことをまるで覚えてないのか?
 統堂英玲奈、おかしいな? 一ヶ月前に顔を合わせたはずなのだが」
800 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:41:49.65 ID:6vPWxeOdo
 ここでようやく統堂=統堂英玲奈に思い至り、
 ネトゲのギルドの面々と顔を合わせた後、ツバサとカラオケのオールをして、
 思いの外金銭面での出費が激しく、困ったツバサが呼びつけた面々の中に英玲奈がいた。
 ただ、当時はあんじゅと英玲奈がどっちがどっちだかあんまり分かっていなかったので、

「ジョークジョーク、小粋なジョークよ、ロシアンジョーク」
「そうか、ならば問いかけよう。私は胸の大きい方か、それとも背の高い方か?」
「胸が大きくて背が高い方……」
「その気持ちは嬉しいが残念ながら不正解だ」

 栗原陽向から教えられた絢瀬絵里とは情報の乖離があるな、
 と、クールに否定をされたけれど。
 何をごまかすことも出来ず、苦笑いしながら謝罪した。

「えと、借金を返せという相談ならツバサに」
「用件だけですまないのだが、一番早い休日はいつだろうか?」

 となると、講義がない日でかつオンラインゲームのイベントがない日。
 基本的に、大学には教授の講義を受けるだけの模範的な大学生(遠い目)の私は、
 自主休講(笑)をすれば、いつでも暇人、いつでもオールフリー。

「明日でも構わないわ、暇だし」
「なるほど、暇同士波長が合うな、最寄りの駅はどこだ? そこまで迎えに行く」
「集合場所を決めてくれればそこまで行くわ、この前のお詫びも込めて、あ、それと今のも」
「助かる。小さい子がいるんだ……あ、私はまだ妊娠はしてないぞ?」

 まさかデキ婚? と口に出す前に先んじて忠告される。
801 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:42:23.91 ID:6vPWxeOdo
 とある駅前を指定された私は、某検索エンジンで行き方を予習し、
 寝坊をしないように早く布団に入った。
 それがまさか、今に繋がるような出会いをするとは、
 絢瀬絵里は全く思わずにいい気なものである。

 翌日。
 英玲奈と出かけると告げたら、
 めいいっぱいおしゃれをしなければダメだと亜里沙に諭されたので、
 前日、これだと思う格好を用意しておいたら。

「お姉ちゃんのセンスは一昔前!」

 と、妹にダメ出しをされる。
 
 μ'sの中ではセンスの良いほうだと自覚はあったのに、
 いつの間に時代は進歩していたのかと嘆きながら、
 テレビに映る月島歩夢というアイドルを眺めていた。

「真姫さんや、ずいぶんと若いアイドルがテレビに出ておりますのぉ」
「エリー、あなた少し前まで高校生だったんだから、
 ファッションセンスを現役高校生に問われることに危機感持ったら?」

 ばっさり。
 ただ、真姫も私の格好には太鼓判を押していたので、
 自分のことを棚に上げた発言であるとは明記しておく。
 十数分後、どこかから亜里沙が持ってきた衣装に袖を通しながら、
 ちょっと大人っぽすぎやしないかと怪訝に思いつつ鏡の前に立つ。

「うん、エリー、少し前まで女子高生だったようには見えないわ」
「これからお姉ちゃんの衣服は私が管理します!」

 何はともあれ。
 センスの向上を意識した私ではあったけど、
 天気も良くていい気分になったら、秋の心地いい風と一緒にその事も忘れた。
802 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:42:56.46 ID:6vPWxeOdo
 しかし後日。
 亜里沙に管理された衣服のおかげで、
 大学で声をかけられる確率が今までと比べ物にならないほど膨れ上がり、
 絢瀬絵里のファッションセンスは北京原人レベルで落ち着く。

 たしかにあの時の衣服の私がイメージの根源にあるのなら、
 澤村絵里=絢瀬絵里と結びつかないのも、分かるような……わからないような。

 最寄りの駅に向かい、交通系ICカードにチャージをしてなかったと思いいたり、
 自動券売機のところに向かうと、天使がいた。
 小学生くらいの女の子を見て、その子を天使と呼称するのは、
 はてはロリコンか、ペドか、それともりゅうおうか。
 ニートを卒業してアイドルになる事実に比べれば、
 幼女に性的指向を持つのは別に悪いことでもないようなそうであるような。

「あー、そこのお方、日本語はわかりますか?」

 自分が日本語を分からなそうな外見しているのを棚に上げ、
 無難に英語で話しかけてみる。
 ここで「タッカラプト ポッポルンガ プピリット パロ」とか言われれば、
 あ、ナメック語分からないんでと言えるんだけれど。

「あまり……」

 と、英語で返ってくる。
 どのような状況で、日本語がそれほどわからない銀髪の幼女が、
 自動券売機で困った顔をしているのか、見当もつかない。
 家出なのか、迷子なのか。
 それともどこかから誘拐されて逃げ出してきたのか。
 ただ、彼女の可愛さならたとえロリコンじゃなくても言い値で買いそう。
 そんな感想を絢瀬絵里は抱くのである。

「どうしたの? 迷子?」
「友達のお見舞いに行きたいんです」
「お見舞い? このあたりじゃなくて?」
「この住所の場所に行きたくて」
803 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:43:28.53 ID:6vPWxeOdo
 と、指さされた場所は私が向かおうとしていた目的地。
 とある駅前からバスが走ってる総合病院。
 彼女の目的は理解したけれど、親御さんの許可を得ているかとか、
 お金を持ち合わせているのかとか、そんな疑念を持ったけれど。
 問題点は後から考えればいい、
 英玲奈は子連れ(語弊のある表現)だと言うし、仲良く出来るかも知れない。
 かたっぽが日本語があまり喋られないというのを迂闊にも忘れた絢瀬絵里の所業は、
 良かったのか悪かったのか。

「リリー、リリー・ルッソ、日本では名を名乗るものだと教えられました」
「どうもご丁寧に、私は絢瀬絵里と申します」
「絢瀬絵里……ええと、エリー?」
「呼びやすいように呼んでくれれば大丈夫よ、リリー」

 金髪が銀髪の天使を連れている。
 仮にこの子が大柄の成人男性とかに連れられていれば、ポリスメンに通報されかねなかった。
 ただ、この時の交流がTwitterに挙げられ、電車内の異文化交流として何万ツイートされたらしい。
 でも、私たちの許可がないから盗撮だと思うんです(良い子は真似してはいけません)

「では、エリーはアイドルをしていたのですか?」
「スクールアイドル……ええと、部活って分かる?」
「学校に上がると、皆がそのようなものに参加すると言ってます。
 仲間同士集まって活動をする?」
「そう、仲間ね、かけがえのない仲間。
 私の全盛期も、私の青春も、おそらくそこに置いてきてしまったのね」

 などとセンチメンタルに語ってしまったけれど、
 銀髪の天使ちゃんは私の顔を見上げながら、
 何言ってんだろうこの人みたいな感じの態度をとった、そりゃそうだ。

 某駅までたどり着くと、英玲奈が小さい子を連れていた。
 彼女の言からすると妹とのことだけど、似てない。
 連れ子とか、どこかから誘拐してきたと言われたほうが納得してしまう。
 
「絵里……その子は誰だ? もしかして、昨日産んだのか」
「恐ろしい成長具合だけど、同じ病院に行くという話だから」
804 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:44:00.49 ID:6vPWxeOdo
 英玲奈が連れている子に、えらく不機嫌そうに見られる。
 金髪が人生の中で珍しいのかと思ったけれど、そうではないみたい。
 
「すまないな、朱音は私以外の人間に懐かないんだ」
「それは構わないけれど、妹さんの友人のお見舞いなのよね?」

 ただ、結論から言ってしまえば。
 統堂朱音ちゃんが人見知りをするタイプというのは本当だけど、
 英玲奈にしか懐かないというのは大嘘。

「絵里は英語が話せたんだな、私はさっぱりだ」
「そうなの? ツバサはバイリンガルっていうか、英語はペラペラだけど……会話してみる?」

 リリーちゃんを押し出してみる。
 英玲奈は困ったように口を開き、
 それでも妹の前にみっともない姿を見せたくなかったのか、

「ぐっもーにんぐ」

 Good morningというよりも、ひらがなでぐっもーにんぐと言ったそれは、
 リリーちゃんに一つも伝わらず、結果朱音ちゃんの姉に対する評価が下がるだけで終わる。
 その後なんとも言えない空気の中、とある大学病院までたどり着き。

「じゃあ、私はリリーちゃんを連れて、目的地まで行くから」
「そうだな、私はひとまず朱音を連れて病室まで行く、後で迎えに行くよ
 ロビーにいればいいか?」
「私も……一緒に行きます」

 キョトンとする一同。
 苦手意識があるのか、英玲奈は珍しく動揺し。
 朱音ちゃんは病室に早く行きたいみたいな顔をしている。
 ただ、二人して英語は分かってないようだから、
 あ、なんかまた面倒くさいこと言ったんだなみたいな意識なんだと思う。
 私が困った顔をしているであろうから。

「おそらく、目的地は一緒です」
「……そうなの?」
「サイオンジユキ、私の目的の人。
 アカネも、一緒」
805 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:50:41.20 ID:6vPWxeOdo
 病院の高層階。
 エレベーターを使って移動する最中、
 なんとも言えない空気の中、
 リリーちゃんと朱音ちゃんが、それぞれ右の腕、左の腕に抱きつき、
 英玲奈がピンでこちらを恨めしそうな目で見ている。
 いつの間にかに幼女二人からの好感度が激高になってしまっている私だけど、
 人生のモテ期というものだろうか、そうだったら嫌だな。

「絵里、もしかして小さい女の子から好かれるオーラでも振りまいているのか?」

 どんなオーラなのかは分からないけれど、
 どうせだったら万人にそれなりにモテるオーラが欲しい。
 そんなものが存在すればの話ではあるが。

 病室までたどり着き、熱心に手を消毒し、
 幼女二人に押し出されるようにして中へと入る。
 私は全く知らなかったけれど、この中にいる女の子は
 数年前に一大ブームを引き起こした天才子役とのことで
 小学校に上がる頃に芸能界を引退、勉学に励んでいたそう。

 リリーちゃんは子役(仕事を受けたことがないらしい)としての同期生かつ友人で、
 朱音ちゃんは小学校での一番の友人。
 
 そして絢瀬絵里はそんな彼女たちのおまけ……かと思いきや、
 西園寺雪姫さんは私に会いたいと熱望したらしい、
 どうやらμ'sとして踊っていた私を見て、すごいって思ったとか。
 ただ英玲奈が、A-RISEは? というか私は?
 みたいな顔をしてこちらを見ているので、後でにしなさいと言っておいた。
806 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:51:39.12 ID:6vPWxeOdo
「うわ……ほ、本当に連れてきてくれたんだ!」

 雪姫ちゃんは私の顔を見やると、
 輝くような笑顔を浮かべながら喜びの意を示した。
 自分のファンって言われても、と思っていたけれど、
 来るだけでここまで喜ばれるのなら、
 いくらでもファンと名乗る人の前に現れて構わない(ただし小学生以下に限る)

「そうよ! 私が連れてきたの!」

 胸を張る朱音ちゃんに、連絡したのは私だと抗議する英玲奈。
 みっともないのでA-RISEで一番背が高い人にはちょっと静かにしてもらい、
 エヴァちゃんともども、雪姫ちゃんの事情を聞いてみる。

「最初はただの風邪だと思ったんですけど、
 知らない間に入院することになって、
 私芸能界にいたから、人の表情とかに敏感で。
 あ、もしかしたら長くないんじゃないかなって思って――」

 重い。
 長い入院生活に飽きて、少しわがままを言った。
 くらいにしか思ってなかった私は、
 自分よりも年下の女の子が、
 もう、死んじゃうかなって覚悟を決めていることに、
 なんとも言えない心情になった。
807 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:52:24.68 ID:6vPWxeOdo
 ただ、その辺の事情は把握していないけれど、
 何ヶ月も入院していて、日々体力が衰えていって、
 症状は良くならないどころか重くなり、
 面会に来てくれる人も減るどころか増えてきたと言うので、

「だから最近は、すごく体調が悪いことにして
 わがままもできるだけ言ってみることにしました。
 でも、ここ最近のわがままで一番叶って嬉しいです!」

 にっこり笑顔を浮かべる相手に、
 私自身上手くいっているかどうか分からないけれど笑みを浮かべる。
 自分ばかりが話していても何なので、
 古くからの友人のエヴァちゃんや、現在進行系の友人の朱音ちゃん、
 そしてそのおまけの英玲奈が会話に加わる。
 元気になったら何がしたいとか、
 そういう会話はできるだけされずに、今したいことを問いかけてみた。

「そうだなあ……ちょっと見てみたいものが……朱音はすっごい歌が上手なんですよ」
「そ、そんなことないわ!」

 否定しつつ、もっと褒めろと言わんばかりに表情をデレさせる朱音ちゃん。
 ただ、英玲奈が褒めようとしたところ聞き慣れているからと素っ気なくスルーされ、
 ちょっと聞いてみたいという私の願望もあり、
 朱音ちゃんに歌を歌ってもらったところ。

 上手。
 μ'sで上手と言われている真姫や、素直な声質の海未、
 そして無難に何でもできる(ドヤ顔)私なんぞよりもよっぽど。
 歌がうまいって言っても声量があるとか、音を取るのが上手だとか、
 クセがなかったり、逆にクセがあって味があったり、
 世間一般に上手であるとされるどのプロの歌手よりも上手。
 歌でバトルしたら、μ's9人……それどころかA-RISEを含めても勝てないかも知れない。
 表現力、歌唱力どれを取っても一級品、
 シスコンの英玲奈でさえ、真面目な話UTXでも朱音に敵うやつはいないと言う、
 私もそれはかなり信憑性が高いと思った。
808 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:53:21.67 ID:6vPWxeOdo
「素晴らしいわ朱音ちゃん、私もスクールアイドルとしてたくさんの子を見てきたけど
 本当に飛び抜けて上手だと思うわ」
「え、英玲奈が言うと信頼度低いけど、あなたがいうならそうなのかもね」
「リリーは、ダンスが上手なんです。だから……もし、
 私が大人になれるのなら、二人のアイドルユニットっていうのを見てみたくて」

 雪姫ちゃんが目を伏せる。
 元気づけたかった。
 きっと病気なんてすぐに治って、
 元通りの生活を送れるようになるって言いたかった。
 
 無邪気気ままに励ましの言葉もかけてくれそうな、
 朱音ちゃんやリリーちゃんでさえ、
 次に会う時には意識がないかも知れないとか、
 こうして会話していたっていつ体調が急変するとか、
 心配になっているというのに、
 大人にわりと近い私や英玲奈が、
 心配ないとか言えるわけがなかった。

 この場にいたのが高坂穂乃果だったら、
 もしかしたら――

「見られるわ」
「絵里さん?」
「私の知り合いなら、そう言うと思う」
「……でも」
「それにね、どこでだって見られるわ、
 遠いところだったとしても
 朱音ちゃんの歌や、リリーちゃんのダンスなら
 届きそうな気がしない?」
「そうよ! 絵里先輩の言うとおりだわ! 
 ねえ、雪姫! あなたがどこに行ったって!
 どこにだって歌を届けてみせる!
 おいそこの銀髪!」
「?」
「二人でユニットを組んで、片っぽ歌って片っぽ踊るじゃ格好悪い!
 アイドルユニットにしよう! センターは絵里先輩で!」
「すごい! 絵里さん! 頑張って!」
「……うん、約束する」

 グループ名やかけ声も考えられ。
 面会時間を過ぎても過ぎても、
 看護師さんたちにしこたま叱られるまで私たちは一緒に、
 夢を、
 未来を、
 ずっとずっと途方もない理想を、
 笑顔を浮かべ話し続けた。
809 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:53:53.72 ID:6vPWxeOdo
 絢瀬絵里という人間の来訪から一週間。
 西園寺雪姫さんは短い生涯を終えた。
 葬儀にはμ'sやA-RISEといった元スクールアイドルが故人たっての希望で集い、
 外国に行っていた南ことりには私が頼み込んで戻ってきてもらった。

 思えばことりに頭が上がらないのは、
 そのあたりの事情もあったのかも知れない。



「行かないと……」
「お目覚めですか?」
「和木さんじゃないですか……どうしたんですこんなところで」
「お嬢様がいるところには、この和木、
 何があろうと参上する次第です、たとえあの子のスカートの中でも」

 真姫のお世話役……というか西木野家のお手伝いさん。
 和木さん(フルネーム不明)が私の顔を見下ろしていた。
 何でも彼女に膝枕をされていたらしく、
 のちのち、どんな金銭が要求されるのかと思うと、
 恐ろしくて仕方がなかった。
 彼女は西木野真姫のこと以外はゴミかなんかだと思ってるフシがあるし。

「すみません和木さん、ステージはどちらですか?」
「ここがステージ脇です、声が聞こえてきませんか?」
「……これは」

 穂乃果の声。
 私が意識を失ってしばらく、
 千歌さんを中心としたはじまり。のライブや、
 SUNNY DAY SONGも披露されて。

 Re Starsの面々がデビュー曲を披露する直前、観客からブーイングが起こった。
 プログラム的にはこの場面で終了であるから、
 たしかに不満足もあればそういう態度を示されるのもわからない。
 多くの観客や、一部のスタッフや、一部の記者――とにかく、
 私たちに敵意を向けていた人全体が一体となって、
 憎悪を撒き散らすように、すべてをなかったコトにさせるように、
 悪意で私たちのことを叩き潰してしまおう、そんな意図を。
810 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:54:34.04 ID:6vPWxeOdo
「聞いてください。
 私たちは今まで皆様のために準備をしてきました
 いたらない所があれば直します。
 やめろと言われれば仕方ありません。
 誰かのためにと言っても、誰かのためにならない時がある
 それは分かっています

 でも、
 でも、
 それが、あなた達のその態度が
 頑張った人間に対する答えだったとしたら!
 私は絶対にそれを許さない!」

 いの一番に飛び出していきそうなツバサや、海未、ことりといったメンバーは、
 その他の面々に取り押さえられてる。
 顔を伏して泣いている花陽とか、ルビィちゃんや、花丸ちゃんと言った子もいるけど、
 ステージの参加者のほとんどは穂乃果と同じように怒りを見せている。

 高まるブーイングに物怖じせず、
 今までの人生で見せたことがない、そんな恐ろしい表情で。
 穂乃果が、みんなが怒ってる。

 ――のが、ステージ脇にいる私に本当は見えるはずがないだけれど、
 なんだろう、なんだか、手に取るように分かってしまう。

「ごめんなさい和木さん、ちょっと支えててもらっていいですか」
「医者の娘としてアドバイスしますが
 本来なら、あなたは今すぐ病院に駆け込まないと死にます」
「……でも、行かないと」
「まあ、私は医者の娘ですが医者ではないので――
 別に絢瀬絵里が死のうと、私は知ったこっちゃありませんからね」

 などといいつつ、私に肩を貸してくれる和木さん。
811 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 20:55:28.43 ID:6vPWxeOdo
 一歩一歩。
 弱々しく、フラフラで、情けない感じ。
 絢瀬絵里がステージに出てくると、みんなが、
 ほんとうに仲間が、私のことを見た。

 穂乃果のところまでなんとかたどり着くと。
 涙を流しながら怒る彼女のマイクを無理やり奪い取り、
 

 私の――

「朱音ちゃん、歌いましょう? 雪姫ちゃんのために」
「――!? え、り……せんぱい……?」
「リリーちゃん、踊りましょう? 雪姫ちゃんのために」
「遅いですエリー、私はいつだってあなたのために、
 あなたの居場所を守るため――雪姫に、届けるために」

 私の右に朱音ちゃん。
 左に、リリーちゃんことエヴァリーナちゃん。

「善子ちゃん、朝日ちゃん……フォローはお願いします」
「言いたいことはあるけど、この津島善子が協力するわ!」
「これが本当のヒーローなんですかね? まあ、力添えしましょう?」

 バックに善子ちゃん、朝日ちゃんを携えて。
 
「Re Starsァァァァァァ!!!」
「「「「「シューティングスター!!!!!!!」」」」」

 私の――
 最初にして最後のライブ。
 なんか格好いいじゃない? 

 なお、このライブの模様は――
 私自身の意識がないため、描写は控えさせて頂きます。
 ご了承ください。
812 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 21:00:25.60 ID:6vPWxeOdo
本日更新はここまで。
亜里沙ルート5話途中まで完成済み。

SS速報VIPさまでの更新を最優先にするため
pixivに挙がっている部分と内容が同じところもありますがご了承ください。

5話途中の矢澤にこによる独白までがpixivにありますが、
それ以降の綺羅ツバサの過去回想は完成済み。
手書きで書いてある文章のテキスト化が完了次第投稿します。

それ以降のRe Starsの面々が登場以降が未更新分になりますので、それまでは
アラ絵里リメイク版 「三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記」
https://syosetu.org/novel/165937/ でお楽しみください。
813 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 23:29:41.50 ID:ajZHHU49O
更新嬉しい!けどこれは重い展開…
一体UTXはどうなってるんだ…
814 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 12:41:49.64 ID:ezUhs/+9o
 珍しく気落ちした様子のツバサさんや、
 海未ちゃんやことりちゃんといった、
 微妙に一緒になることがなかった面々と一緒に、
 千歌ちゃんたちが送るステージの様子を舞台袖から眺めていた。

 ことりちゃんや海未ちゃんは、彼女たちのライブを
 あんまり見たくない態度だったけれど、最後のお願いだからと言うと、
 渋々と言った感じで一緒にいてくれた。
 でも、彼女たちのデビュー曲は海未ちゃん作詞、真姫ちゃん作曲。
 μ'sで使われることのなかった曲の使い回しではなく、
 時間を作って作られたできたてホヤホヤの楽曲。
 海未ちゃんに言えば否定すると思うけど、ツンデレか何かかも知れない。
 私、高坂穂乃果は思ったりする。

「このステージなら、お金が取れるレベルね」
「海未ちゃんが作ってくれたんだもん、この程度はやってくれないと」
「真姫の曲にふさわしい動きではあると思います」

 動きが悪ければ散々罵倒を重ねる。
 なんて息巻いていたみんなだけれど、そうはならずに一安心。
 この前でステージを飾っていたのが一時的に復活したA-RISEだから、
 それはもちろん、比べてしまったら差異は歴然。
 
 ただそれは、ツバサさんやあんじゅさんや英玲奈さんが 
 人外めいているのであって、
 地味な小市民レベル(千歌ちゃん曰く)の元Aqoursの面々が、
 ステージを飾るにあたって、一般的なアイドルと比べて劣っているかなんて、
 そんな事があるわけがない。
815 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 12:42:39.36 ID:ezUhs/+9o
 「これから」に始まり、各曲ともに素晴らしい出来。
 Aqoursのときよりもだんぜん輝いている彼女たちに、
 私自身は心の中でエールを送る。

「戻ってくるみたいだね」
「では、行きましょうか穂乃果」
「一声だけでも」
「ことりや真姫や私があの人達に協力する条件……
 忘れてなどいませんね?」

 高坂穂乃果はAqoursの面々に関わらない。
 もうすでに最後のお願いは聞いて貰っているから、
 無理強いはできない。

 後ろ髪を引かれるように退場し、
 入れ替わりにやってきた見たことも聞いたこともない芸人さんに挨拶し、
 ステージは休憩時間を迎える。

 控室にみんなで集まり、
 最後の作戦会議。

 アンリアルの二人や、A-RISEの面々も加わり、
 亜里沙ちゃんや南條さんと言った責任者も話し合う。
 絵里ちゃんが抜けた(それほど影響がなかった)ことも、
 特に大きな問題ともされず(見栄を張ってます)
 
「会場が盛り上がっているようですね」

 怪訝そうな声を上げる海未ちゃん。
 その動きにつられて画面を見ると、
 先ほどまで静まり返っていたステージが、
 かなり盛り上がっているように見える。

「急な代打の割には、盛り上がってますね」
「盛り上がりすぎてませんか? 亜里沙さん」
「ええ、あの方たちは、プログラムに書いてあった方の代理です
 どこの誰かと思いましたが……少々解せませんね」

 南條さんと亜里沙ちゃんの不穏な会話。
 芸能界に身を置いている凛ちゃんでさえ、
 あんな人たち見たことがないレベルだそうで。
 今まで興味すらなさそうに見ていた観客達が盛り上がるには、
 不自然な状況が多すぎる気もする。
816 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 12:43:46.60 ID:ezUhs/+9o
 首を傾げてる私たちの元へ、
 ステージを終えたばかりの「はじまり。」の面々が来た。
 海未ちゃんとことりちゃんが私の前に立ち、
 まるで気分はファンから身を護るハリウッドスター。

「あの人たち……私たちの悪口ばっかり言ってます」

 精神的なダメージの大きい千歌ちゃんに代わり、
 梨子ちゃんがステージの状況を説明してくれた。
 
 自分たちと入れ替わるように現れた彼らは、
 レベルの低いステージご愁傷様でしたという挨拶から始まり、
 A-RISEや、アンリアルと言った面々をひたすら罵倒し始めたらしい。

 しかし会場は大ウケ。
 
「あの、私にこんな権限はないかも知れませんが……
 と、止められないのですか、プロデューサー」
「あの人達を連れてきたのは、大下さんでしたね?」
「はい、あの一派はアレがコレですから……」
「申し訳ありません梨子さん、私の力不足です。
 このステージを成功させるためにも、彼らには頑張って頂かなくては」

 どうにも、亜里沙ちゃんでも頭が上がらないレベルの大人の都合で、
 そして何かしらの後ろ盾があって彼らのステージは盛り上がっているみたい。
 
「……亜里沙ちゃん」
「穂乃果さん?」
「もし、もし何かあったら、私がなんとかするから。
 何にもならなくても、たとえ、私自身になにかあっても、
 だから。
 絶対に止めないで」
「それは……姉に叱られます、穂乃果さんを一人、
 生贄に捧げるような真似は」

 亜里沙ちゃんが泣きそうな顔をして私を見上げる。
 絵里ちゃんがいないので、かなり素に近い状態。

 奇跡なんて起こらない。
 誰にも期待なんてされてない。
 認められない。
 努力は受け入れられない。

 絶対に上手くいかない。
817 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 12:44:40.94 ID:ezUhs/+9o
「海未ちゃん、ことりちゃん、ツバサさん……ステージに立つ皆さま……
 高坂穂乃果に力を下さい。
 ――そして、奇跡を起こしましょう」

 でも、亜里沙ちゃんは私たちを見送った。
 絶対に何かは言いたかったはず、言いたくても、
 何にもならないことは分かっているから。

 だから。
 
 だから絶対に私は頑張る。

 たくさんのスタッフのため。
 たくさんの裏方の人達のため。
 そして、ステージに立つ私たちのため。

 なにより、頑張りすぎちゃったどこぞの絢瀬絵里ちゃんのために。



「私は絶対にそれを許さない!」

 感情が昂ぶって。
 どうにも自分の気持ちが抑えられなくて。
 ステージの上に立つ人間が、
 絶対にやってはいけないようなことを私はやった。

 叫んだ。
 どうしようもなくて叫んだ。

 こんなことをされるいわれはないって、
 こんな扱いをされることはないって、
 みんなが、そう思っていたから。

 どんどん膨らんでくる悪意が、
 ブーイングという私たちの力不足による答えが、
 心が、
 壊れそうになるのを感じながら――

「ひどい……ひどいよ……」

 ひざまずいてしまいたかった。
 泣き出してしまいたかった。
 子どもみたいに、大きな声で泣き叫んで、
 疲れ果てて寝ちゃって悪い夢だったって言いたかった。

 海未ちゃんが7人がかりくらいで抑えられているのが見えた。
 見たこともないような顔で、泣きながら叫んでいるのが見える。
 聞いたこともないような乱暴な言葉で――
818 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 12:45:17.74 ID:ezUhs/+9o
「あしおと?」

 騒がしい状況のはずなのに、誰かの足音が聞こえる。
 
「……えりちゃん?」

 真姫ちゃんのお手伝いさんが、絵里ちゃんと一緒に歩いてくる。
 身体を支えられてはいるけれど、青白くて、今にもどこかに行ってしまいそうで、
 見るからに病人ですと言わんばかりの態度で。

「穂乃果、マイクを」
「嫌だ……このマイクを渡したら、絵里ちゃんが……絵里ちゃんが……!」
「仕方ない子ね。ま、私が言えた義理じゃないか」

 抱きかかえるように持っていたマイクが、なんだかよく分からない力で
 私自身が全然分からないうちに絵里ちゃんの手に渡る。
 
 お別れ。
 私が絵里ちゃんを見て、
 集まってくるRe Starsの面々を見て、
 真っ先に思った感想はそれだった。

 逝ってしまう。
 絵里ちゃんが、その生涯を終えて、
 どこか遠くへ、逝ってしまう。

 私が行こうとした外国なんかと比べ物にならないくらい遠くへ――

「穂乃果」
「海未ちゃん?」
「踊らなければいけません、これがもし、μ'sとして活動できる
 本当に最後の機会だったとしたら」
「……わかった!」
819 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 12:45:46.29 ID:ezUhs/+9o
「μ's! ミュージックスタート!!!」
「Aqours! サンシャイン!!!!!」
「A-RISE! エターナルライブ!!!!」

 多くのかけ声。
 みんなが、ステージに立つみんなが、
 力を取り戻し――

 歌って。
 踊って。
 すべてを、
 生涯をかけて、

 歌うというより叫んでいたかも知れない、
 踊ると言うより、トレーニングだったかも知れない。

 そして、奇跡は起こった。

「UTX高校所属! ナンバーワンスクールアイドル! 優木せつ菜!
 義によって! 皆様のステージに加わります!」

 一人の学生の声。
 徐々に大きくなっていく応援の声。

 一つも盛り上がらなかったステージが。
 拍手と歓声と大きな盛り上がりと一緒に幕を閉じた。

 
 大きすぎる犠牲と一緒に。
820 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 12:46:39.29 ID:ezUhs/+9o
 ハニワプロによるステージイベントは、
 多少のイザコザはあったとはいえ、なんとか成功をおさめた。
 ただ、もっと大規模かつ手放しに褒められるほど、
 はっきり言ってしまえば後世に語り継がれるレベルでの大成を期待されていたらしく、
 私を快く思っていない人たちから、資金の無駄遣いとか聞こえる範囲で
 いろいろ陰口を叩かれているのを知っている。
 なにも、罵詈雑言を浴びせられているからという理由ではなく、
 UTXに対して不信感を持つに至る経緯もあり、
 熱心に自分を誘ってくれた学長が体調不良で、
 業務を違う人間に任せているといったことも手伝い、
 今一度自分自身をどういう扱いにしたいのか、あるいは、
 今回のライブについてどのような感想を抱いたのか。
 それ如何によっては辞意を告げて、こころの世話にでもなろうと思っていた。


 今回のライブでの多くの観客は、マインドコントロールのようなものをかけられていた。
 ようなものというのは、かけられていた当人たちが記憶が混濁しており、
 副作用や悪影響といったものも感じられないので、精神操作とするより
 魔法とかそういう類のものをかけられたのではないかと希が言っていた。
821 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 12:48:21.43 ID:ezUhs/+9o
 あんじゅさんが彼のことをオトートくんと呼ぶので、それに準じてしまうけれど。
 ライブの際に一番始めに呪縛が解かれ、観客達の盛り上がりに協力後、
 イベントの成功した伝聞の流布のために協力までしてくれた優木せつ菜クン。
 あんじゅさんに対する好感度とその報われなさ加減は置いておくにしても、
 今回のイベントに向かう際にセミナーに呼ばれて、その後記憶があやふやであるとか。
 ただ、覚醒した際に一瞬で状況を理解し、多くの観客を扇動し、
 この度のライブの成功を収めた功労者としての資質は疑いようもなく、
 また、到底嘘を言っているようにも思えないので、盛り上がりに至らなかった経緯には
 何らかの大人の事情がふんだんに盛りこまれていたと判断せざるを得ない。
 一部の生徒からはUTXを汚すようなライブの出来だったという評判もあるようだけれど、
 それに関してはせつ菜クンや他生徒の協力によって下火になっている。
 しかし、何かの都合で一部の講師たちが私とかを排斥するために、
 真実のライブの評判とやらを流しているのを知っていた。
 学長とされる人間がどちら側に立っているのか、ひとまず知っておきたい。


 先にセミナーと言ったけれど。
 今回のライブを楽しみにしていた多くの生徒達は、UTXのバックアップも手伝い、
 イベントを成功に導くために活動をしよう、先輩たちの偉大な形跡をたどり、
 自分たちの糧としようと活動計画を練っていると、
 参加者一同がイベントホールに集められて、それから記憶が不明瞭であるとか。
 UTXの一番のスポンサーを名乗る人物とか、新しい学長が挨拶をしたような、 
 そんな記憶はあるみたいだけれど、確実にそうであるとは言えないみたい。
822 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 12:49:20.17 ID:ezUhs/+9o
 たしかに今回のイベントは、多くの協賛を経て行われたけれど、
 一部の企業が独占する形でスポンサーにはなってはいないし、
 声の大きな企業が口出しをした形跡は特に見受けられない。
 何よりそのような人たちが私たちに挨拶をするならともかく、
 観客の生徒に何かを告げることなど不自然だ。
 なにより希が警戒している通り、
 人智を超えた魔法のような力で生徒たちは動かされていたとするならば、
 ヤブを突っついて蛇を出すこともないし、私が巻き込まれるなら自業自得だけれど、
 生徒たちに何がしかの悪影響を及ぼすようであれば死んでも死にきれない。
 ごく普通に登校する学生を眺めながら、
 できるならこの問題が彼らに何ら影響を及ぼすことなく解決することを願っている。

 多くのマスコミとか、テレビ各社はスルーしているけれど。
 インターネットを活躍の中心とするアングラサイトでは、私たちの映像が流れていた。
 映像というか……例えるなら矢澤にこに限らないけれど、
 参加者に都合の悪い場面や動画が映像として流れて、それを目撃した生徒から
 皆様に謝罪をしたいけれどどうすれば良いのかという相談を受けた。
 多かれ少なかれ、悪意を含まれた編集と悪意を持つように仕組まれた映像を見て、
 その対象に悪意を持つのは自然なことではあるけれど、
 ただ、私たちを悪く言う映像を見てもなお、自分たちが悪いと感じ、
 なおかつ謝りたいと願う生徒を、
 さらには些事な大人の問題に関わらせるわけには行かないのだ。
 だから、泣かせてしまった穂乃果や寝っ転がっている絵里には
 私から謝っておくから、必要なら手紙にでもして欲しいと言っておいた。
823 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 12:50:42.86 ID:ezUhs/+9o
 もうすでに、謝罪の手紙複数――ニコニー、少し安請け合いしたと後悔しつつある。
 ネット上に転がっている悪徳なサイトや、人の不幸を飯の種にしているゴシップ誌とか、
 とにかく人の悪意をアクセスの源にしているような場所では、
 かなりステージの参加者は悪しざまに言われている。
 主催であるハニワプロの上層部や、UTXの関係者とかには
 不自然なほど何も言われてもいないし、
 それどころか、愚かなスタッフの暴走に巻き込まれた云々、
 はっきり言ってしまえば、亜里沙ちゃんのことはかなり悪く言われている。
 その様子を、自覚のないシスコンである絢瀬絵里が目撃したら、
 どれほど怒りに震えるだろうか?
 その点においては、峠は越したらしいけれど未だに意識を取り戻していない彼女に
 都合の良い事実となっていると判断しても良いのかな。


 もう少しで今年の梅雨も終わり、本格的に暑くならんという季節。
 そろそろ目を覚まさないと、絢瀬絵里は今年も処女として過ごしてしまいそう。
 ロクに男性経験もないことが、いい方向に繋がることもあれば
 悪い方向に繋がることもあるけれど。
 あの子が個人で困る問題なら私もスルーするけど、絵里に経験がないことで、
 男性に経験がなくても別にいいや、結婚しなくてもいいやになってしまう面々が
 多少なりとも存在してしまうのは頭痛の種である。
 絢瀬絵里を筆頭に、ツバサさんあたりもそうだけれど、
 スクールアイドル全体の処女性が求められるようになれば、
 各アイドルたちの首を絞めるだけだと思うのは、私だけなんだろうか……。
824 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 12:51:46.06 ID:ezUhs/+9o
 それはともかく。
 UTXの学長がいる個室には、私も数度しか訪れたことはない。
 お互いに暇だった時代に、甘いものでも食べますかみたいな感じで
 ちょくちょく顔を出していたりはしたんだけれど。
 多くの調度品や、芸術品、骨董品の類が置かれていて、
 私なんぞには一つもその価値がわからない物品を見ながら、
 この中にあなたの銅像でも加えますかと言われたので丁重にお断りした。
 見た目からして、お金が好きそうな成金趣味みたいな外見だけれど、
 その実、慈善事業や公共事業にも寄付をしているいい人。
 頭もかなり切れるタイプで、この学長が代替わりする前にUTXにいたツバサさんが
 この人が学長だったら自分たちはラブライブで連覇してたかもしれないと、
 真顔で言ったことがある。
 私もそれくらいはやってのける人間だと思う。
 顔も広ければ、悪く言われることも少ない器用な人だったので、
 今回無理が祟って体調を崩してしまったようだけど。
 まあ、どうせすぐに戻ってきてくれるに違いない、たとえ私がここの講師でなくなったとしても。
 

 綺麗に掃除が行き届いている廊下を歩きながら、
 ここ最近珍しく陽光が射し込んできて、日焼け止めが欠かせない季節になってきた。
 教室内を使えない生徒が、外で元気に活動をしているのを眺めながら、
 過去にはアイドルという存在を嫌いになりかけたことが、
 遠い昔のように感じることがある。
825 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 12:52:30.57 ID:ezUhs/+9o
 小さい頃から自分がアイドルだと思っていたし、
 また、アイドルになるという目標のもとで過ごしていた。
 実際にグループの一員とはいえ夢も叶えることができたし、
 A-RISEよりも前に知名度を上げて、スクールアイドルの中の勝ち組にもなった。
 ことりが幼い頃からの夢を叶えて有名デザイナーになった例外もあるけど、
 基本的にμ'sの面々で将来の夢を叶えたという人間は数少ない。
 ツバサさんみたいに、夢? 
 ああ、なんか、すごい人になるんだろうなくらいのことは思ってた。
 みたいな才能の持ち主なら、夢を叶えても幸福が訪れたのだろうけれど。
 そんな事を考えながら歩いていると、
 学院長室の少し手前、壁のあたりに背中を預けて、
 私を待ち受けている統堂英玲奈の姿があった。


 背が高く、クールな印象をもたせる外見……私なんぞには逆立ちしても真似できない。
 腕を組みながら切れ長の目をさらに細めて、さも私格好いいだろうと言わんばかりだ。
 ただ、弱点は多く、パソコンもインストールとダウンロードの違いがわからない、
 スマホは通話しかできない等、脳みそのレベルはかなり化石。
 妹に自慢がしたいという一心で、
 ここ最近罵詈雑言しか書かれていない私たちの評判を
 ネットサーフィンによって身につけて、ツバサさんに余計なことをするなと怒られた。


 統堂英玲奈という名前のとおり、
 統堂朱音ちゃんはおそらく血の繋がった妹なんだろうけれど、
 その能力の差は明確。
 血の繋がりがあるかも怪しいレベルだけど、そんなことを告げれば、
 妹と結婚ができるなとか真顔で言い出しかねない。
 見た目が超クールで女性人気も男性人気も高く、
 男性とお付き合いしたこともあるらしいけれど、それが真実なのか怪しくなってきた。
 生徒とか、一部の講師とかお姉さまとか女王様にしたい人ナンバーワンだけど、
 そんな彼女の夢は朱音ちゃんの妹になること。
826 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 12:53:16.85 ID:ezUhs/+9o
「来たな、にこ」

 ネット上に転がっているA-RISEへの悪意のコメントで、
 度を越したシスコンという、唯一真実を捉えているものがあり、
 憤ってなんとかこいつを断罪できないものかと相談を受けたけど、
 どうあがいても真実なのでこちらとしても反応に困る。

「英玲奈は別にやめなくても良いのよ」

 私と今のUTXのトップとは反りが合わない。
 お世話になった学長も今はいないし。
 なにより、一部の講師からは私の評判が悪いことも知っている。
 不愉快な思いをして生徒を指導する義理もないし。
 しかしながら英玲奈はUTX出身のスーパースター。
 自分とは扱いも立場も異なっているし、おまけに発言権もある。
 口を開けばアホなことを言う確率は高いけど。

「私は別に人の評判は気にしないからな
 朱音とあんじゅとツバサが例外……いや、朱音かな?」

 真っ先に妹からの評価を気にするあたり、
 度を越したシスコンという評価は揺るぎなさそうというか、
 あれを書いたのが私たちの関係者でないことを祈る。
 おそらく、講師を辞する件も朱音ちゃんの態度が響いているだろうし。
 ただ、英玲奈は勉強ができないとされる芸能科の中でも平均よりも下の学力で。
 芸能関係以外で働いた経験はないと言うし、転職するにはかなり敷居は高そうだと、
 私なんぞは思ってみたりはするんだけれど。

「ふふ、安心しろにこ。
 私はいま小学校低学年に勉強を教えているぞ
 同じ目線に立って教えているので評判もいいんだ」
827 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 12:57:36.86 ID:ezUhs/+9o
 学力に関して救いようのないレベルで底辺這いつくばっていると、
 言われているようなものなのではないか。
 まあ、本人が満足そうなので特に何も言うまい。

「にこは弟くんを大学に行かせたいのだろう?」

 矢澤家が生活に困窮しているのは過去の話。
 妹が、元手もなく一山当てたいがために書いた異世界モノのラノベが
 とても信じられないことにアニメ化をするらしい。
 印税を中心としたお金が毎月のように入ってくるし、
 もうひとりの妹のこころは、桜内梨子ちゃん卒業後のとある店で
 なんとトップ……ええと、トップとしておこうか。
 とにかくまあ指名できない感じの人扱いで、私よりもよっぽど稼いでる。
 女性の扱いで人気が出るように絢瀬絵里を参考にしたというのは、
 こころの談ではあるけれど、あいつのどこにそんな要素があるのか疑問だ。
 もともと母親に楽をさせたいとか、裕福な生活を送りたいとか、
 あんまり歓迎できない考えのもとで行われた貯金は、
 コタの大学入学の資金には充分すぎるほど溜まってしまった。
 私も、双子の妹たちも時間があれば大学生活を送ってみたい、
 そんな願望もあり、今は真姫ちゃん経由で教えてもらった人と勉強をしていたりもする。

「今の学長には義理もないし、
 しばらくは絵里みたいに妹のスネカジリでもしようかしら」
「そろそろ絵里も目を覚まさないといけないな、
 ツバサのサンドバックがなくなって周りが迷惑している」
828 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 12:58:22.87 ID:ezUhs/+9o
 絢瀬絵里の回復を多くの人間が願っている。
 その態度を示さない子もいるけれど、絵里が元の生活に戻るまで、
 心配をかけないように自分たちは元の生活に戻ろうとして、
 変遷はあれど、仕事に集中していたりする。
 まあ、だいたいの面々がもともとしていた仕事をやめたりなんだりせざるを得なくて、
 私もその面々に加わることになりそうなのはご愛嬌というか。

「では、中に入ろうか」

 英玲奈の言葉に頷く。
 ただ先導して貰っておいてなんだけれど、
 せめて相手が返事をするか許可を出してから入ったほうが良い。
 などとアホなことを思っていて、
 相手にも事情があり、その動向を知れば勝利はおぼつかない。
 敵を知り己を知れば百戦殆うからず。
 その言葉を意識して前日相手に関するデータを調べ上げたのを
 まるっきり吹っ飛んでしまいかねないくらい、衝撃を受けた。
 学院長室は大きく様変わりしており、一言で表現するなら――
 ファンシーだとか、メイプルだとか、もしくはお菓子の家?
 とにかく可愛らしい空間ができあがっており、
 その場所にいるのが、濃い顔をして、大量の汗をかき、まるで大熊と言わんばかりの体躯。
 そして体調を崩しそうになるほどの臭い。
 数日間靴下を履き続け、なおかつ洗濯もせず、フルーツポンチに入っている
 甘いシロップに漬ければこんな匂いになるのかもしれない――
 私は顔に不快感を示さずにいるのが精一杯だった。
829 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 13:01:08.30 ID:ezUhs/+9o
「おお、わが校のトップアイドルたちが来てくれたよジョセフィーヌ」

 声もゴツい。
 第一印象は大熊の咆哮。
 ただ、そいつが裏声を使って持っているテディベアに話しかけている。
 テディベアがやたら可愛らしいのも腹が立つ。
 はっきり言って、この世のおぞましいものを煮詰めて体現したかのよう、
 不気味さ、不愉快さ、どれを取ったとしても人生でトップクラスの人間。
 相手に不信感しか抱かせない、そんな人間に作り笑顔を浮かべている英玲奈は
 正直聖人レベルで崇められても構わないかもしれない。
 そんな彼女の先導のもと、

「大森代表、このたびは一講師と接見する機会を設けて頂き
 まことにありがとうございます」

 最近はクールさも滅多に見られなくなり、
 高校時代に私たちと会ったのは生き別れの双子で、
 今こうして顔を合わせているのは、どこかの研究所の試験管ベビーなのではないか。
 そんな事を考えてしまったけれど、
 やろうと思えば真面目クールにできるんだったら、いつもからやっていて欲しい。
 ただ、クールで冷静な生徒会長絢瀬絵里と、
 必殺のピンクボンボンは同一人物ではないか疑惑があるけれど、
 あの二人もどこかで入れ替わっている可能性があるのかもしれない。
830 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 13:02:10.53 ID:ezUhs/+9o
「君たちはUTXの評判を向上させた功労者だからね
 そのためには新参の大森は喜んで身を粉にする次第だよ」

 アイドル時代やその後の生活において、
 多少なりとも胡散臭い相手に会うことはあった。
 脂ギッシュな外見や神経を逆なでするような声色、臭気……
 相手にまるで気を使っていないけれど自分は偉いからなんとかして
 と言わんばかりの態度で下手に出られると、
 嫌悪感というか、ネガティブな感情をこれほどまでに喚起するのか。

「何やら伺いたいことがあるようだね」
「はい、生徒の意見を尊重し熟考を重ねた結果に疑問点が浮かび
 直接伺わなければと思い時間を作って頂きました」

 生徒に訊いたというのは建前で、本音としてはお前の意思で動かない相手もいる
 というのを如実に示したつもり。
 それが伝わっているかどうかまでは私の責任ではないけれど。
 ただ、UTXに現在も登校している相手ではどんな嫌がらせをされるかわからないので、
 もうすでにこの場所に見切りをつけて虹ヶ咲学園に転入してしまった優木せつ菜クンの
 会話を中心に、覚えている限りのことを教えてもらった。
 最初こそ記憶があやふやでと言っていて、実際問題その通りではあったんだろうけど
 尋問相手が英玲奈からあんじゅさんに切り替わった瞬間、
 堰を切ったように言葉が出てきたのは、ツッコむべきポイントではないね?
 暗い話ばかりをしていても何なので、今度結婚式をするという話題をあんじゅさんが出し
 なんとも言えない空気が流れるかと思いきや、せつ菜クンは積極的に
 結婚式で元恋人が花嫁をさらう映画の話をしだしたけど、
 私としてはノーコメントを貫いておきたい、ええ、何があろうとも。

「今回のイベントの直前にセミナーが行われ、
 大森代表もその場に参加されていたとか」

 セミナーの詳細については彼の記憶を頼る他はなく、
 出席者においても、その場にいたのではないかくらいしか覚えていないみたい。
 私も、真実だけを教えてもらったとは思っていないし、
 ある程度の脚色は存在はするんだろう。
831 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 13:05:31.96 ID:ezUhs/+9o
 唐突に自身のネガティブな感情が喚起され、相手をどのように貶めるか、
 一番にダメージを与える方法はなにかばかりを考えさせられた――気がすると。
 実際、アンリアルの二人やはじまり。の三人はダメージをかなり与えられたし、
 穂乃果にもトラウマになりそうなレベルで傷をつけたのは事実だけれど。
 ただ、何か言われたというよりも魔法か何かの力で影響を受けた、
 そんな体感を持っているよう。

「今回のイベントで生徒たちは何らかの圧力を加えられたのではないかと」
「ふむ、それはすなわち。
 ステージの前半に会場が盛り上がりを見せなかったのは、
 自分たちの実力不足ではなく何者かに何かを強制されたと?」

 自分は何も感知していませんと言わんばかりだけど、
 態度としては、早く話を切り上げたい風だった。
 私の調べた限りでは、生徒にも多少なりとも口封じがあったのは事実で、
 うかつにも優木せつ菜クンにも話を持っていったらしい。
 ただ彼は、満足げに相手を持ち上げるような態度を取り、
 大森氏もよもや私たちにその話が行っているとは想定外だったみたいで。

「私も映像を見させてもらったが、全盛期に比べて能力が劣っているのではないかと」

 ごまかすように言われた言葉は、
 μ'sやAqoursの芸能活動を控えていた人間に対するメッセージかと思った。
 もしくはこちらを挑発する意図を持っての発言か。
 ただ、大真面目に彼が言うにはライブイベントの参加者全体をさしての、
 目の前にいる私や英玲奈も含まれる指摘であるよう。
 トップアイドルと呼ばれていて、かつ当時の動きと遜色なく動いていたA-RISEに対して、
 よもや十数年前のスクールアイドルよりも動きが劣っている、
 さらにはそいつらのほうが実力が上だとするなら、とんだアイドルに対する知見だ。
832 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 13:06:27.01 ID:ezUhs/+9o
 仮に過去のスクールアイドルの中でも別次元の動きを示していたツバサさんや、
 μ'sで言うなら絢瀬絵里あたりが、今のスクールアイドルとタメ張れますね?
 でも、ラブライブ本戦の出場は無理かもしれませんね、との指摘ならわかる。
 今はスクールアイドル全体のレベルが飛躍的に向上し、
 パフォーマンスやダンスや歌唱力、様々な実力が過去とはかけ離れている。
 私だってμ'sはすごいと言いたいけれど、
 今仮にμ's程度の実力でラブライブに出るといえば、
 実力を思い知ってくださいと忠告されるのがオチ。

「なるほど、UTXの代表としては
 ライブイベント参加者の実力不足が招いた事態だったと」
「そのように判断せざるを得ない、実際周りでもそのような評価を聞いている」

 怒りを通り越して呆れ果ててしまった。
 よもや自分たちに喧嘩を売ってきた連中のレベルがここまで劣っているとは。
 たしかに今回のイベントはA-RISEがメインだった。
 彼女たちの輝きは果てしなく、実力は芸能界のトップアイドルの中でも抜きん出ていた。
 そんな彼女たちと比べて、SUNNY DAY SONGのために集められた、
 一部参加者の実力が劣っているとするのならばその指摘は正しい。
 今回のイベントのために多くの人間に声をかけられたけど、半数……
 いや、8割程度は同窓会気分で来訪したに過ぎなかった。
 ただ残りの二割にはμ'sやAqours、今回のイベントの参加者もいて、
 もし仮にもう少し本気でイベントをこなせる参加者がいれば、
 フルメンバーでオトノキ、浦の星の各面々が集うことはなかったのだと思う。
 その点ネットでは、絢瀬亜里沙が自身に都合の良い連中を揃えたと揶揄する声もあり、
 たしかにそう見られても仕方のない側面はある。
 ただ、あのどシスコン(自覚なし)が、姉のために開こうとしたライブで
 そんな妥協をするなど天地がひっくり返ってもありえないと私は踏んでいる。
833 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 13:07:18.91 ID:ezUhs/+9o
「とするのであれば、私たちとしても……
 構わないな、にこ?」

 一応確認のために英玲奈が聞いてくるけど、
 私自身としても早くこの場から離れたい、この臭いが髪なり服なりにこびりついたら、
 気合を入れるためにおろした服を処分せねばならない、それは避けたい。
 ただまあ、基本的に閉口していたのは、
 相手の発言如何によっては、どのような罵詈雑言が出てくるかわからなかったから。
 そんな理由もあったりなかったり。

「過去にスクールアイドルであっただけの人間が、
 幼い頃からスクールアイドルを目指し励んできた人間を指導するなど、
 今はもはやその時代ではなく、もっと優れた人間に子どもを預けるべきです」

 そして私たちは、目的の通りに辞意を伝えた。
 英玲奈あたりは生徒からの人気もずば抜けているので翻意を促されるかな?
 なんて考えていたけれど、とんだ杞憂だった。
 早く辞めて欲しいと言わんばかりにトントン拍子で話は進められていき、
 言葉ばかりのねぎらいの言葉を耳にして退室した。


 けして来てはならないと念押しを重ねた生徒たちが私たちの様子を見に来ていた。
 自分が特に目をかけていた子や、英玲奈が熱心に指導していた子、
 問題も良い所もある可愛い子たちが、不安げな表情を浮かべて私たちを見つめた。

「事前の予想通り、私たちはUTXの講師を辞することになりました」

 そのように告げると、
 やっぱり事前の通りに考え直して欲しいと訴えられた。
 中には涙を流しながら止めてくれる生徒もいて、
 英玲奈や私の指導がなければ、どのようにラブライブの予選に臨めば良いのかわからない、
 これからをどう過ごして良いのかと翻意を切望される。
 ――私たちにはその気持ちだけで充分。
834 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 13:08:23.15 ID:ezUhs/+9o
 たとえ上役に悪意や個人の好き嫌いだけで人を評価し判断する人間がいたとしても、
 自身の感情の判断だけで攻撃を加えるような人間がいたとしても、
 本当に夢を叶えたくて、真剣に取り組んでいる子達はきちんとわかってくれている。
 自分たちが、そんな夢見る生徒たちの希望の一助になれたのであれば、
 それに勝る喜びはないし、これからもずっと頑張っていける。
 この子達のためにも頑張らないといけないと決意した。

 ――今はまだ、潜伏のとき。



 自分たちがラブライブ初代優勝者として敵なしだったとき。
 A-RISEにとって敵といえば強いて言うなら自分ら自身であるときに、
 音ノ木坂学院にμ'sというスクールアイドルのグループが出来たとヒナから聞いた。
 UTXの生徒会長として自らの高校よりも音ノ木坂学院のことばかり気にしていた彼女は、
 ついに自らが熱烈な愛情を向ける絢瀬絵里が行動を取り始めたことを喜び、
 高校の文化祭には当時生徒会長職にいた絵里を呼びつけ成長した姿を見せる――
 などと息巻き、会議に会議を重ねて後日文化祭に顔を見せたのは穂乃果さんだった。
 というエピソードがあるけれど、取り立てて大きな話題ではないので割愛。


 9人揃っていないμ'sというのは、
 楽しげな雰囲気は伝わってくるけれど、実力としてはまだまだというか。
 お遊びで楽しんでいますと言わんばかりのグループであったのは、
 ヒナの発言としても、何より3人でのファーストライブをこっそり見た私としても、
 頷かんばかりの評価であったことは疑いようもない。
 当時から音ノ木の警備がザルだったことはツッコむべき問題ではないとして、
 A-RISEの相手にはなることはない、9人揃ってからしばらくしても、
 私の中の認識としてはそれだった。
 不思議と目が離せない魅力は感じたと、
 μ'sに対してどう思うか聞かれて答えたことはあるけれど。
 ほとんどはリップサービスというか、少なくとも本当に自分の下した評価じゃなかった。
835 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 13:11:45.52 ID:ezUhs/+9o
 来春高校生になる中学生を対象にした学校見学会において、
 一人で行くのは不安だからとヒナにせっつかれて一緒に見に行った際、
 警備員の人はスルーしたのに南理事長はバレて何をしているのか問われた折、
 結構良いところまで行くんじゃないですかね? と相手をいい気分にしたのは――
 友人である絵里にすら言っていないエピソードである。
 なお、ヒナのせいで希さんと亜里沙さんには私がいることがバレていた。


 たびたびμ'sのことは気にしてはいたけれど。
 自分たちの驚異になるであろうことはない。
 良いところもあるけれど、悪いところのほうがもっと多い。
 なにか問いかけられれば頑張ってくださいくらいのコメントでオッケー。
 あんじゅと英玲奈の評価はそんな感じだった。
 私も二人の判断は間違っていないと思うし、
 μ'sを下に見て油断をしたという側面があるという指摘は甘んじて受ける。
 後にも先にも相手の実力を把握せず敗北した経験は高校時代の一回しかなかった。

 
 ある時にそうだ、μ'sを見に行こう。
 と、京都に行くみたいに思い立った私は練習を早めに切り上げ、
 音ノ木坂学院に変装をして潜入することに成功した。
 もし、UTXがオトノキ生に同じことを許せば警備員の人のクビが軽く飛ぶけれど、
 そこは私が気にするべき問題ではないし、
 その点のおおらかさは見習うべき点だったと後日に感じている。
 ただ、メガネやウィッグをして行ったけれど、姿が弟の女装した姿にそっくりだったのは、
 姉弟であるのだなあと頷かざるを得ない。
 身長が同じで留まっている可愛い可愛い弟は――などといえば英玲奈にツッコミを入れられてしまうので自重。
 ただ、別に変装をして誤魔化さなくてもヒナに何がしかの書類を偽造でもさせれば
 諸手を挙げて自由に校内を闊歩できたのは――
 今更何を言ったところで意味がないから棚に上げておく。
836 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 13:12:24.41 ID:ezUhs/+9o
 人づてにオトノキの制服も入手し、これならばバレないだろう。
 正門から堂々と潜入し、入るまでには多少緊張はしたけど、
 誰ひとり気に留める様子がないので多少解せない点も感じたのは事実。
 後日談ではあるけれど、当時高校に遊びに来ていた亜里沙さんにはバレていて、
 一部の生徒も見慣れない人がいるというのは気がついていたらしい。
 そりゃあほとんどの生徒が持ち上がって小学校から一緒なのだから、
 見たことがない生徒がいれば警戒するのが当たり前だ。
 当時生徒会長職にいた絵里が何も問題にしなかったことがおかしいのである。
 心優しい生徒からμ'sが屋上で練習をしていることを聞き出し、
 見学をするふりをして風景を覗き込んでいると、当時から敏かった希さんにバレて
 今度編入する生徒で、たまたま近くに来たので見に来てしまった――
 という私の言い訳を、疑わしいと思う子の方が当然多かったけど。
 絢瀬絵里を中心としたμ'sで発言権があった面々が歓迎してしまったためにお咎めはなかった。
 結果的に絵里の評価が下がったのは私の問題じゃない。
 ただ、ヒナから聞いていた孤高の天才絢瀬絵里というのは間違いだったと、
 認識を改めたのは――まあ、追加するエピソードでもないので省く。


 とにかく見学できる立場にはなれたので、
 熱意を向けて練習に励んでいる彼女たちの様子を眺めた。
 ひたむきさと情熱は指折りで生真面目さも感じた。
 中心で指示をしている海未さんの影響ももちろんあるんだろうけれど、
 何事にも真剣にやるというスタンスは、UTXの一部の学生にも見習ってもらいたいな。
 なんて感じたのを記憶している。
837 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 13:20:41.96 ID:ezUhs/+9o
テキスト化が完了している部分をキリのいいところまで……
と、思ったんですが。
ありったけのものを全部投稿してしまいました。

とりあえず手書きで書き終えている部分をテキスト化して、その後のことはそれから考えます。

なお

第四話 >>766>>819

第五話 >>820

となっております。
わかりにくかったら申し訳なく。
ここでの更新を最優先にして、出来上がり次第pixivの方へ移行します。
838 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/20(土) 09:43:07.84 ID:Gz9k9CGgO
まさかマインドコントロールとはな…
辛い展開が続くけどここからのカタルシスに期待してる
839 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/21(日) 08:12:08.95 ID:D28Bt0ie0
 しばらく見学しに来た私を放置して練習に取り組んでいるμ's。
 変装していない私が同じ扱いをされれば、多少は機嫌も損ねようものだけど。
 とにかくメンバーの能力を冷静に判断することはできた。
 個人で実力に優れているというのは……歌唱力で西木野真姫と
 悔しいけれども総合的な判断で絢瀬絵里と矢澤にこの二名。
 アイドルの知識でにこさんが絵里を凌駕しているけど……。
 なににせよ、よほど頑張らない限り自分たちの驚異になることはない、
 9人の調和と個々のバランスは優れていて――ただ、
 スクールアイドルで最初こそ仲がいいです! という面々も、
 時間を追うに従ってバラッバラになる、とても悲しいことに。
 一人が突出した実力なんざ持っていると飛躍的に決別が早くなる。
 仮にA-RISEが統堂英玲奈と優木あんじゅという組み合わせでなかったら、
 自分は一人でいたか、ヒナあたりとゲームでも作っていたかも知れない。
 少し話は飛んでしまったけど、μ'sがいつまでも仲良く過ごしそのままでいるなんて
 ありえないと思ったし、レベルがコレ以上に上がらないであろうとも踏んでいた。
 自分たちのようにコーチもついていなければ、プロのスタッフもついていない、
 みんな自分自身の力でやらなければいけないグループが、
 常にサポートを経て最善の選択肢を選んでいるA-RISEには勝てない。
 そのような想定は後から思えば愚の骨頂ではあるし、
 何より想定通りになど最初から進むべきものでもない。
 翻ってみれば私の思い上がりが、結果的に自身が辛酸を嘗める結果へと導く。
 最終的に勝利をするのは自分であるとは疑っていないけれど、
 こと、女性的なスタイルという点では負けっぱなしで常に完敗。
 人が求めるものは得てして手に入りづらいのであるなあ、人生というのはバランスが取れている。
840 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/21(日) 08:14:19.42 ID:D28Bt0ie0
 へとへとになって倒れ込んでいるのがほとんどの中で、
 いい汗をかきましたと言わんばかりにクールな表情でリラックスしている絢瀬絵里が、
 そういえばいたんだくらいの認識度で、笑顔を作って私に近づいてくる。
 ヒナから聞いた話では多角的に才能を発揮し、こなせないことはほとんど無いという話だった。
 実際に練習でも"それなりの”動きをしていたし、周りもよく見えていると思う。
 自分ほどではないけれど、UTXにそのまま編入してもそれなりの位置は確保できる気がした。
 ただ、先にも語った通りに他のメンバーは私に気を使えるほど余裕はなく、
 絵里一人だけが各々を無視して手を抜きましたと言わんばかりの態度であるので、
 はっきり言ってしまえば、何だこいつみたいな印象を抱いた。
 以前からの評価が高かった反面下がるのも早い。
 今になって考えれば、本気でなにかに取り組むことを知らないとか、
 無意識に他人を思って手を抜く傾向があるとか、
 ポンコツというか、うん、ポンコツだったのだけれど。
 そんなことにはまったく気づかなかった私が、
 このスカしたやつを本気にしないといけないと使命感に駆られた。
 芋虫みたいになって動く気配のない小泉花陽さんを見ていると何となくそんな心意気になる。

「そういえばあなた、名前はなんと言うの?」

 軽い調子で問いかけられ、
 ついつい本名を名乗りそうになるのを慌てて抑え、
 偽名を考えてなかったので、栗原陽向とでも名乗ろうかと思いいたり、
 慌てた結果。

「竜宮雪菜です」
841 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/21(日) 08:15:47.17 ID:D28Bt0ie0
 母親の旧姓と弟の名前を拝借した。
 よほど調べない限り自分には行き当たらないであろうと思ったし、
 元から芸名みたいな本名をしている手前、
 キラキラネームと言われることには慣れているから平気だった。
 じゃあ、雪菜さんと軽く呼び始めた絵里は、

「一年生として二学期から編入してくるのよね?」

 二つも年齢を若く見られたと喜ぶべきか、
 自分よりも年下の子どもに見られたことを憤るべきか。
 思わず顔に出てしまいそうなくらいカチンと来てしまったけど、
 ごまかすように更に笑みを浮かべながら、

「ええ、そうですね絢瀬先輩」

 後にも先にも、絵里のことを絢瀬呼ばわりしたのはこの時限り。
 同時に私は彼女に対して例えられない感情を抱いた。
 ポジティブに見れば、憧れというか、敬意というか。
 ネガティブに見れば、このアマである。
 自分を知っている人間が自分より上に立っていたことというのが、
 あんまりなかったものだから。


 自慢でしかないけれど、人生において常勝街道を突き進んでいた感のある綺羅ツバサとしては、
 運動や勉強、習い事とか語学とか、
 性差において男性に敵わないというパターンは少なからずあったけれど、
 興味を持って始めたということは、こと同性で負けたパターンというのは最初のうちか
 それとも私が敗北したことを記憶していないだけか。
 UTXに入学した当初にトップに立っていた先輩方は軽く超えられると思ったし、
 同学年では英玲奈が器用さや万能さで、あんじゅが根性で自分と同格かなって思ったくらい。
842 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/21(日) 08:18:18.86 ID:D28Bt0ie0
 自分より優れている女性とか存在しないんじゃないかって、
 まあ、そんな思い上がりもしていたからこそ、
 絵里の何も知らない後輩扱いというのに多少は癪に障る部分があったことは、
 ここで白状しておく。
 

「私、アイドルになるために必死になって昔から練習してきたんです」

 無意識に人の感情を逆なですることには慣れていても、
 人に悪意を向けられることに関しては異様に鈍感な彼女は、
 何を言っているんだろうといった面持ちで首を傾げている。
 長い付き合いになっているから今となっては分かるけど、
 敵意を向けられたところで、その敵意に基本的に興味がないから、
 ダメージが少ないというのは絢瀬絵里最大の美点だと思う。

「本当に修練を重ねたアイドルというものがどのような動きをするのか
 そこでよーっく見ていてください」

 過去を振り返ってみればとっても悔しかったのだ。
 自分と同程度か、認めたくはないけどそれ以上の才能を持った人間が、
 上に立ちたくないとか、相手が負けちゃったら可哀想とかいう感情のもと、
 生来の優しさで実力をまったく発揮できないというのが。
 良いというべきか、悪いというべきか。
 おそらく後者ではあるのだろうけれど、
 この日を境に私はレッスンやら色々なものにおいて遠慮することが無くなった。
 トレーニングをするとなればオーバーワークギリギリまで取り組むし、
 知識や教えを請う必要があれば、相手が苦笑いをするまで追い込む。
 全力で取り組むのはともかく、
 周りに合わせることを忘れてしまったという点では、
 A-RISEのリーダーとしては致命的な欠点であったように思う。
 輝かしい実績を残してそのまま卒業するはずであった英玲奈やあんじゅには申し訳無さでいっぱいだ。
843 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/21(日) 08:19:56.43 ID:D28Bt0ie0
 それはともかく。
 疲労で生意気な後輩に対して何だこいつみたいな印象を隠せなかったμ'sの面々には
 本当にまったく申し訳がたたないではあるんだけれども。
 ハニワプロの太陽の日にもスタッフとして紛れ込んでいた、ヒデコさん、フミコさん、ミカさんの手により、
 私専用のステージまで用意された。
 当人たちが大したものではないと言っていたけど、20分足らずで材料から何まで用意していて、
 彼女たちをUTXにスカウトしていれば私たちは負けなかったのではないか疑惑が生じる。
 小銭稼ぎでプロ並みの仕事をしているスタッフじゃないボランティアって一体何なのだろう……?

 私と正対するように絵里がぼけっと座っていて、
 体力的に回復して余裕が出てきた海未さんと、余裕はないけど喧嘩を売られたと
 微妙に憤った感情だけで西木野真姫さんと矢澤にこさんが張り付くようにして見ている。
 穂乃果さんやことりさんや海未さんを小馬鹿にするつもりなど毛頭ないけれど、
 実力差を見せつけるには、同じ動きで差異を披露するのが一番だ。
 μ'sの実力を見に来たのに、いつの間にか自分が実力を披露しようとしている――
 まるで絢瀬絵里みたいな行動をしているな、と私は思わず述懐してしまうけれど。
 μ'sが三人であった時に披露されたSTART:DASH!!の動画を撮影したのは、他ならぬ絵里だったそうだけど、
 それを知らないで、カメラワークやら撮り方を褒めてしまったのは迂闊だった。
 私の話をやたらニヤニヤしながら聞いているを怪訝に思い問いかけたら、
 実はあの時なんて言い始めたので、盗撮と盗撮映像のアップロードは犯罪と負け惜しみを言うしかなかった。


 レッスンの数倍力を入れて踊りきった瞬間やけに気持ちよかったのを覚えている。
 どうだと言わんばかりに絵里を見てみると、彼女ばかりはふぅんみたいな表情で。
 ただ、凛さんや花陽さんは口を開きながら拍手していたし、
 にこさんと真姫さんは屋上の端っこに行って我関せずの態度を示していた。
 一番実力を理解させたかったやつは、ああそうと言わんばかりで私としては不満だった。
844 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/21(日) 08:21:59.63 ID:D28Bt0ie0
「なるほど、ある程度の実力はあrムグムグ!?」

 ドヤ顔で自分たちのほうが実力は上だと言おうとしてしまったのを、
 周りにいた面々が寄ってたかって押さえつける。
 みんながとんでもない人に目をつけられてしまったと振り返っている中で、
 絢瀬絵里ただ一人が、この程度のアイドル相手なら勝てると思っているあたり、
 この人はもしかしたら底抜けの馬鹿なのではないかと認識を改めている中。

「すみません、ほんとう、もう、この人にはよく言って聞かせますので……」

 お客様に向けての不自然過ぎる笑顔を浮かべた真姫さんが私に言った。
 扱いは粗相をしてしまったペットみたいな感じで、
 まるで敬意というものが感じられなかったので、そこまでしなくて大丈夫ですと思わず言っちゃった。
 海未さんやにこさんに引きずられるようにドアに連行された絵里は
 いくら私のほうが実力で優れていると説明を受けたところで、
 「あれくらい誰でもできるんじゃないの?」みたいに言っていて、
 いつの間にか私にヘコヘコ頭を下げているのがまきりんぱなに増えてしまった。
 そこまでいくと憤慨しているのもバカバカしくなってしまい、
 自分の実力に見合わないナルシストだと判断し、その心を積極的に折りに行く。
 ただ、この際の出来事が結果的にA-RISEを敗北へと追い込んでいるので、
 すべてが絢瀬絵里の思惑通りだったという都市伝説は笑顔で否定しておく。

「では、絢瀬先輩にも同じことをして頂ければ良いと思います」

 私の発言を聞いて、凛さんはあーあみたいに実際に言ってしまい、
 他の面々も凛さんと同じような表情を浮かべながら、言わんこっちゃないと首を振る。
 ただ、金髪ポニーテールだけが、

「なるほど、汚名挽回ということね!」
845 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/21(日) 08:23:57.31 ID:D28Bt0ie0
 と宣言、みんながもうダメだみたいな顔をしてうつむく中、
 不安げな表情で見られていることにも気づかず、
 鼻歌なんぞを歌いながら準備をする絵里。 

 ――しかし、そこからは絢瀬絵里のオンステージだった。
 曲が始まってからしばらく、振り付けはそんなに覚えていないから、
 自分の動きで合わせられるところは合わせると言っていたけれど、
 私と同じくらい……いや、私よりも数倍魅力を増した動きでダンスを披露してくれた。
 敗北したことを察した私は、呆然としながら絵里を見上げる他なく。
 μ'sのみんなが私をスルーして彼女を褒め称えるのを肩を落としながら眺めるほかはなかった。

 気落ちして記憶が無いのだけれど、
 なんとかしてUTXに帰った私はヒナに連絡を取り、
 亜里沙さん経由で絵里のメールアドレスを知ることに成功。
 竜宮雪菜としての絢瀬姉妹との交流は高校卒業まで続いたのだけれど、
 雪菜として教えたメールアドレスと、いまの私が絵里に教えたメールアドレスは
 ほぼ一緒だったというのに正体に感づいていない件について、
 彼女が目を覚ましたら事情を聞いてみたいものである。
846 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/22(月) 11:44:02.53 ID:gMtBExrKO
無意識に人を煽っちゃうのは自分のスペックが基準だからか…この天才タイプめ
でも汚名挽回発言はかしこくないw
847 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/22(月) 22:25:04.66 ID:8pjfYN6i0
えりちはポンコツ属性さえなければ異世界転生主人公も真っ青レベルなチートスペックだからなぁ
848 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/28(日) 06:28:38.57 ID:PjL9Uap3O
はよ目覚めて…
849 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/29(月) 16:15:13.69 ID:wESdO2px0
 などと過去回想に浸っていると、
 微睡んでいたのか、気がつけば目的地である西木野家に到着していた。
 私の実家もそれなりに大きいけれど、
 大病院を経営している方が住んでいるだけあって規模が違う。
 なお、園田家が増築されたのも園田海未さんの印税という噂があるけれど、
 私としてはお姉さんである園田碧さんの財産の都合である説を推したい。
 A-RISEの印税がUTXとかスタッフに行くのは仕方がないとしても、
 μ'sの印税が海未さんや真姫さんに行かないというのは何かしらの事情がある、
 スクールアイドルの闇というのは著しく深い。
850 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/29(月) 16:15:50.57 ID:wESdO2px0
 ちなみに私は以前、μ'sの高坂穂乃果さんを主人公にしたラブライブ! のアニメの同人誌で、
 自分が色々とやられ役で登場しているのを見て指さして笑っていたら、
 あ、それ書いたの私ですって言われたことがあるけど、ハニワプロは色々と業が深すぎて、
 綺羅ツバサとしてはなんて反応していいか分からなかったよ……。
 

 私をこの場所につれてきてくれた運転手の和木さん――
 本名は「西木野和姫」というらしいけれど、噂で聞いた女癖以外は聖職者という
 西木野総合病院の院長のスキャンダルではないことを祈る。
 とにかく無表情のまま屋敷を見上げながら、何を言う様子はないけれど、
 貧乏ゆすりと先ほどから聞こえる早く起きないかなと言わんばかりの舌打ちの数は、
 ちょっとばかり心に響くところがあるので、面白半分で狸寝入りをすると
 高らかに大きなクラクションの音が辺りに響き渡った。
 
「失敬、危ないことがありましたので」
851 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/29(月) 16:16:26.68 ID:wESdO2px0
 慌てて体を起こした私に、はよ目覚めんかいと言わんばかりの表情で、
 お嬢様に会いに行かせろという態度を和木さんは示している。
 そして、今の音を聞きつけお屋敷の出入り口のドアが開かれて、
 中から住人が次々と飛び出してくる。
 先頭を切って走ってくるのは、年を追うごとにロリ化していく絢瀬絵里が、
 抜群に可愛いとか美少女とか、天使だと呼称していた不思議ちゃん。
 最近、不慣れな日本語はキャラ作りだと判明したエヴァリーナさん。
 スタートダッシュでは譲ったものの抜群の身体能力を活かして
 悠々と前を走っていた二人を追い抜き、車から降りた私に迫る。

「絵里は! 絵里は目を覚ましましたか!」

 私たちと寝食を長く一緒にしていたにもかかわらず、
 A-RISEの面々を誰が誰だか分かっていない疑惑があったので、
 面白半分で私はA-RISEの誰でショークイズをしたけれど、
 三人までは絞り込めているという答えで時間切れ終了。
 その際に絵里の状態は名前を言わないと教えてあげないと
 言っておいたはずなんだけれど、意図的にごまかしているのか、本当に忘れたのか。
 
「さて問題です、私の名前はなんでしょう?」

 そんなふうに尋ねてみると、
 表情を表すことが珍しい彼女が嫌そうな顔をしながら、

「昨日もいいましたが、三人までは絞り込めているのです
 それはすなわち正解と言っても良いのではないでしょうか」
852 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/29(月) 16:17:04.08 ID:wESdO2px0
 などとすっとぼけたことを言うので、
 では明日は三択にするので、把握しているメンバーの名前を言ってみてと言ったら、
 西木野真姫、園田海未、統堂英玲奈という聞いたこともないグループが誕生してしまった。
 soldier gameを歌っていた面々がファンからクール組と言われたのは知っているけれど、
 絢瀬絵里をトレードして英玲奈を入れたらクール組は完成されるかも知れない。
 まあ、絵里はギャグがクール(寒い)だからある意味ではクール組なのかも知れないけど。
 なんていう面倒な問答をしている間に遅れを取っていた西木野真姫さん、
 統堂朱音さんの二名が追いついた。
 前日にとある18禁ゲームの収録があり欠席だった真姫さんは、
 文字通り寝食を惜しんで絵里の情報を聞きに来ている。
 声優としての仕事をキープしつつ、多数アイドルの楽曲の作曲や
 元Re Starsの面々の歌唱力指導までしている。
 なお、最初はRe Starsの面々の指導は私の予定だったけれど、
 抜群に教えるのが下手と言われてしまい現在に至る。
 おかしい、絢瀬絵里は私の指導について来られていたというのに。


 3人揃ったところで絵里の状態の披露ではあるんだけれど、
 仮に彼女が目を覚ましたら自分が冷静でいられるかわからないし、
 聞きに来た三人も多少疲れてテンションが落ち着いたのか、
 分かっているけれど、とりあえず言ってみたいな空気が流れている。
 私は咳払い一つをして、健やかな顔をして眠っていると告げておいた。
 なお、最初健やかを安らかだと誤訳してしまったエヴァリーナさんが
 お屋敷でトレーニングしていた善子さんや朝日さんに、
 絵里は安らかに眠っているそうです! と言い放ち二人が号泣したのは私の胸に秘めておく。
853 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/29(月) 16:17:57.44 ID:wESdO2px0
 ただ、時折呼吸がそのまま止まりそうになるとか、心臓が止まりそうになるというのは、
 時間が許す限り見舞いに来ている私と亜里沙さんしか知らない。

 お屋敷に戻る際にいつものぼーっとしていて何も考えてなさそうな表情で、

「西木野総合病院というのはヤブ医者の集まりではないでしょうか?」

 未だ目覚めることのない絵里の状態に対して、
 よほど腹に据えかねることがあるのか、エヴァリーナさんは
 隣に院長の娘がいる状況で暴言をかっ飛ばしてきた。
 苦笑しながらその言葉を聞きつつ、言われてしまった真姫さんは
 病院に努めている医師はレベルが高いわといったきり静かになる。
 最近微妙に空気が読めるようになってきた朱音さんは
 和木さんの脇腹をつついてなんとかしろと言わんばかりだし、
 つつかれている人はアンニュイなお嬢様も可愛いと表情を緩ませている、仕事して欲しい。
 なんとも言えない空気の中、
 お屋敷内の地下に作られた特設のトレーニングルームへ移動する。
 もともとは、娘が演技の道にダダハマりしたことを知った院長が、
 ならばトレーニングする場所が必要だろうと私財をはたいて作ったもので。
 設備が完成して屋敷に顔を見せてくることを彼は願ったそうだけれど、
 実際に娘が利用するまでには数年のときが必要になったのは、なんというべきか。
 ともあれ、日の目を見る機会があって本当に良かったと思う。
 なお、工事にはかなりのお金がかかったそうだけれど、この特設の地下室はふだん、
 無償で俳優志望者や歌手志望の苦学生やお金のない人に提供されていて、
 いつもにこやかに笑っている西木野愛奈さんが裏でどれほど罵詈雑言をかっ飛ばしたのか、
 綺羅ツバサは知る由もない――ということにしておいて欲しい。
854 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/10/29(月) 16:21:50.19 ID:wESdO2px0
申し訳ありません。
お久しぶりです。

しばらく一次創作を書こうと躍起になって、
流行のネット小説を研究して自作に活かそうとしたら、
体調を崩しました。

これからは今作品を毎日更新していきたいと思いますので、
よろしくお付き合いの程をお願いします。
855 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/29(月) 22:49:29.16 ID:VsJRTNLCO
ロリ化していくえりち納得
毎日は嬉しいけど体調大丈夫かな、お大事に
856 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/30(火) 16:02:13.95 ID:6btM6bnj0
 ヒナも亜里沙さん経由で教わったと言うので、真実は闇の中ではあるし、
 その時のエピソードをμ'sのメンバーが誰一人明るく教えてくれない件であるから、
 私としても笑い話として披露するには心苦しい話がある。
 高校時代にその時のPVを観たときには、正直な話あまり印象に残らず、
 踊っている彼女たちと言うよりも、楽曲のセンスが秀でていたとある曲があったのだけれど。
 ――小泉花陽という少女がいる。
 人気投票をすれば下位の常連、運動センスもほぼ最下位、
 得意なことはアイドルへの愛とお米への……愛というか、あれはなんと言えば良いのだろう?
 以前顔を合わせたときも、だいたいタイムスケジュールがお米かアイドルで出来ていて、
 熱意を向けられる対象があるのは素晴らしいという印象を持ったものだ。
 絢瀬絵里はそんな彼女のことを、真面目で一生懸命で一途でとべた褒めだけど、
 小泉花陽さんは絢瀬絵里を語るときには、あー、絵里ちゃん、絵里ちゃんね?
 と、なぜだか含みのある反応が返ってくる。
 別に嫌っているとか、ネガティブな印象を持っているという話ではなく、
 無意識に凹まされるエピソードが山ほどあるので、
 明るく語る材料が不足しているのだと思われた。
 今回の件も、そんな絢瀬絵里の空気の読めなさ加減がわかるエピソードではある。


 Printempsが歌ってブームになった(UTXでも一部の学生がハマった)Love marginalという曲がある。
 今でも多感な女子高生がカラオケで歌う王道の曲らしく、
 自分のアイドルの後輩にもやけに上手に歌う人間が居たのは記憶していた。
 その曲をμ'sでPV化して、主役を務めたのが小泉花陽さんだったのだけれど、 
 いかんせん絵が地味ということで、なんとかして華やかにしようという工夫が講じられることとなった。
857 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/30(火) 16:03:33.91 ID:6btM6bnj0
 ちなみに没PVで園田海未主役バージョンがあるけど、恋する乙女というより、
 ヤンデレてる乙女にしか見えないと私の中では評判。
 ちょっとアクセントが欲しいということで大きめのリボンをつけることとなり、
 南ことりちゃんの工夫の元で、画面にインパクトのある恋する乙女が誕生することとなり、
 確かに絵の強さは急激に増した。
 ストーリー染みたPVもそれなりに評判になり、成功かそうでないかを考えれば、
 おそらく成功した部類の作品であったと思う。
 問題はそのストーリーPVの後で、μ'sのメンバーが全員で踊る場面があるんだけれど、
 何故かとある金髪ポニーテールは主役である小泉花陽よりも大きなリボンで登場。
 やたら気合の入ったパフォーマンスで、確かにレベルとしては非常に高かった。
 しかしながら、金髪が画面に入ると他の面々がたいてい苦笑いをこらえるような表情になり、
 切なそうな表情をしているとネットで評判の小泉花陽は、
 たしかに切ない恋の歌のPVだから似合っているといえば似合っているのだけれど、
 あれは演技というより、もう本当に切なくってしょうがなかったんだと思う。


 大きなリボンが組み合わされると会議で決まった時、絢瀬絵里、東條希の二名は生徒会の仕事で欠席。
 なお、当時はすでに高坂穂乃果を中心とした3名が生徒会役員ではあったのだけれど、
 Printempsの二名が抜けてしまうと会議に支障が出るということで、彼女たちは代打で仕事していたらしい。
 希さんはその際のことを、
 ウチがちゃんと忠告していれば、あんな痛々しいPVには! 
 と、恐ろしく後悔しているものの、
 当事者の金髪ポニーテールはもっと大きなリボンにすればよかった、
 とノーダメージなのが痛々しい。
 ストーリーPVを先、後日メンバーの踊るPVが撮影されたのだけれど、
 ぴょこぴょこ揺れるようなリボンがやけにお気に召したらしいとある金髪ポニーテールは、
 ハラショーハラショーと小泉花陽を褒め称え、
 可愛い可愛いと言われて幸せだったんです、あの時までは――
 と思いつめた表情で当時のことを語る花陽さんがえらく印象的。
858 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/30(火) 16:05:12.19 ID:6btM6bnj0
 とにかくまあ、リボンがお気に召したらしいポニーテールは、妹である亜里沙さんに、
 大きなリボンをしてみたいなーという話をして、それを伝えられた栗原陽向の根回しで、
 とある風車みたいなリボンが彼女に届けられることとなる。
 なお、高校2年生になった際に絢瀬亜里沙さんは、武勇伝のように話した姉のエピソードを後悔し、
 小泉花陽さんにとあるお米アイドルのコンサートのチケットを送って死ぬほど謝ったとか。
 ――朝日さんへ小柄で低めの身長をフォローするためにリボンをしてみてはどうか、
 などという津島善子さんのアドバイスを、 
 やめて! 金髪ポニーテールが復帰した時に何するかわからないから! 
 と、悲鳴をあげるような声で止めている西木野真姫さんを観ながら思い出した話だった。


 真姫さんが歌唱トレーニングをする前には、
 私や絵里に指導を受けて自信があると語ったヒナが顔を出し、
 今まで培ったノウハウを根本に教えに熱が入ったのを覚えている。
 歌は歌えば歌うほど上手くなるものである――
 とりあえず大きな声を出せば音程は二の次――
 私も頷ける所はあったし、実際ヒナはそういう指導でカラオケの点数が25点くらい上がってるから、
 効果はあるんだろうと踏んでの指導だった。
 きちんとした声の出し方から指導が始まり、足つぼマッサージや、エロ台詞(喘ぎ声をあげる)指導で
 高らかに声を上げる鍛錬を見に来た統堂英玲奈が私やヒナに回し蹴りを食らわし、
 鬼みたいな顔をした英玲奈が痛みで悶絶する私たちに言い放ったのが、
 お前らに人の指導は向かないだった。
 なお、その際の指導は統堂朱音さんにはガッチリハマったらしく、
 18禁ゲーム声優の西木野真姫さんの指導の元、18歳に満たない彼女が
 とある同人ゲームのサブキャラクター(Hシーンあり)の声に抜擢されることとなったのは、
 姉である統堂英玲奈には伝えられていない。
 ただ、現役女子高生である彼女が学校で
「喘ぐと歌も演技も上手になる!」
 とか言って停学を喰らわないか心配なので、エヴァリーナちゃんには
 本当に気をつけてくれと言ったけれど、どこまで伝わっているかどうか。
859 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/30(火) 16:06:00.35 ID:6btM6bnj0
 意外(失礼)に理論派な西木野真姫さん指導の元、
 元Re Starsの面々は更に成長をしたように思える。
 目標にしていたのが絢瀬絵里で、その絢瀬絵里がトップに立ってトレーニングを指導したのだから、
 またたく間に成長を重ねたのは事実。
 元から成長を見込まれての採用ではあったので、
 無難に実力を発揮し始めたと言われればそれまでなのだけれど。
 ただ、協調性に限っては――
 他の事務所から再デビューを果たすにはセンターポジションで加わる誰かが欲しい。
 このアクの強すぎる面々を統括するには、大きな力を持った誰かが必要なのだ。
 まあ、絵里が復帰するまでは私が入っても良いんだけれど、
 基本的に一番輝かなければいけない若い面々が絢瀬絵里じゃないとやる気出さないから、
 早く彼女には飛び起きてもらわねば困る。
 そうそう、そろそろ海未さん作詞、真姫さん作曲の新作が完成し、
 スタジオで収録して動画投稿サイトにアップロードしようかみたいな話も膨らんでいる。
 覆面でのデビューということになるけれど、
 今、芸能界でトップに出てきているアイドルのレベルを考えれば、
 風向きが変わることは私自身体感している。
 コンサートやイベントで引っ張りだこだった(トークのレベルが低くてテレビに呼ばれないけど)
 月島歩夢は太陽の日以降は実家に帰って、野菜づくりって面白い! とインスタグラムに投稿し、
 ハニワプロの多くのアイドルは私を含めて引退か、それに近い状況になっている。
 上役には亜里沙さんがプロデューサーを退職をしても困らないみたいな考えがあったそうだけれど、
 彼女が身を引いたのち、それに追随するように多くの仕事をこなしてきたアイドルやプロデューサーが離反。
 亜里沙さん自身の力も去ることながら、何食わぬ顔して追従していた南條さんが居なくなったのも大きく、
 新しく全権を握り始めた社長も実力不足は明らか、確か名前は貝塚……とか言ったっけ?
 後輩から絶大な信頼を置かれていた(ただ、その評判はだいたいルビィちゃんの影響)アンリアルも、
 芸能界から身を引いてしまい、あの人達が居ないならやめるとアイドル候補生も9割居なくなった。
 UTXで絶大な人気を誇っていた(解せない)私の弟の優木せつ菜も虹ヶ咲学園へと転入し、
 教鞭を振るっていた統堂英玲奈や矢澤にこの二名も退職して、
 おそらく数年はUTXのスクールアイドルが活躍することはないと思われた。
 私たちに吹いていた逆風はそれほど寒くは感じなくなりつつある。
 だから本当、未だに眠り続けている絢瀬絵里にはそろそろ目を覚ましてもらいたい。
860 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/30(火) 16:06:58.14 ID:6btM6bnj0
 太陽の日以降に高坂穂乃果さんは海を渡り、
 友人であり幼なじみでもある海未さんやことりさんは、滅多に連絡がつかないと嘆いていたけど。
 まだ……いや、もうすぐひと月になるのか。
 彼女たちにもそろそろ幼なじみ立ちをして貰いたい。
 絵里が欠席のせいでμ'sの面々の面倒を見るのが、なぜか私になっているのだけれど。
 さすがに金髪ポニーテールが意味もなく出来ていたことまで私に求められても困る。
 海未さんの無茶振りは激しく、いや、絵里ならできると思ってと私に言われても――
 園田道場で門下生の指導に当たる傍ら、作詞活動も再開し、
 星空凛さんの嘆願のもと凛さんが所属する事務所のトレーニングコーチも務めている。
 内容はえらく厳しいらしいけれど……まあ、アイドルやタレントが逃げ出さないことを願いたい。
 その星空凛さんはハニワプロのアイドルたちの離反の後で、
 歌も演技もトークも無難にこなせるスーパータレントとして仕事が増えている。
 絵里ちゃんのせいで忙しいとは彼女の口癖だけれど、
 以前よりも数倍明るい表情で仕事をこなしているのは良かったと安堵している。
 友人である小泉花陽さんがお手伝いさんとしてメンタル面で凛さんを支えているから、
 よほど何かない限り彼女に関しては問題は起こりえないだろう。
 問題は――はじまり。としてデビューし、ハニワプロ所属のアイドルとして、
 一番テレビに出ているのが高海千歌さん。
861 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/30(火) 16:08:22.71 ID:6btM6bnj0
 桜内梨子さんと渡辺曜さんは太陽の日以降から芸能活動を引退し、
 小さなスナックバーのママさんとして、
 あるいは、南ことりさんプロデュースのアンテナショップの雇われ店長として、
 それぞれ活躍を果たし始めている。
 梨子さんのスナックでは銀座の高翌嶺の花だった矢澤こころさんや、
 妙にオカマさんに人気のあるトークをする矢澤にこさんがえらく人気で、
 ママを相手にして欲しいと梨子さんの愚痴がダイヤちゃん経由で届く。
 南ことりさんと無事和解を果たした渡辺曜さんも、当初はデザイナーとしてタッグを組んだものの、
 当人いわく才能の差を感じて他の仕事をさせて欲しいとお願いをしたそう。
 今は自身の知名度と人当たりの良さを活かして、店の売上を伸ばし続けているというのを、
 ことりさんが嬉しそうに言ったのを覚えている。
 千歌さんは今のハニワプロの上層部に気に入られたらしく、アイドルとしての仕事の傍ら、
 結婚秒読みというアキバレポーターさん(お世話になりました)の二代目としてもデビュー。
 正直寝ているのかっていうくらい仕事をこなしているので、
 私としても少々心配になるのだけれど。
 ――でも、綺羅ツバサとしては高海千歌さんが頑張っているのが、
 他の面々とは違う理由であるのは分かりきっているので、心配はしつつもアドバイスはしない。

「高坂穂乃果さんが何を目指しているのか……あの子も分かってくれるといいのにね……」

 一生懸命にトレーニングする彼女たちに聞こえないように、私は小さく呟いた。
862 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/10/30(火) 16:38:54.76 ID:6btM6bnj0
南ことりちゃんが渡辺曜ちゃんと和解する経緯は、
さらっと語られるだけで終わりましたが、
Aqours3年生組とことりちゃん海未ちゃんとの懇親会(笑)が開かれ、
マリーが二人がAqoursを気に入らない理由を聞き
「身勝手な理由で私たちのことを嫌わないで」
と言い放ち、海未ちゃんはかなり怒ったものの、ことりちゃんは納得。
「好き嫌いというのは個人の感情による身勝手なものです」
と海未ちゃんの意見にマリーもかなり激怒したものの、
ダイヤちゃんと果南ちゃんは海未ちゃんへの好感度が上がる。
殺伐とした懇親会はそのままのムードで終わったものの、
ことりちゃんは曜ちゃんと交流を深めた結果仲良しになり、
海未ちゃん自身も骨のある人はいるものとAqours三年生組へは一定の理解を示した。
海未ちゃんに遠慮していた一年生組もそれ以降、国木田花丸ちゃんや黒澤ルビィちゃんと交流を深めた。

なお、理亞ちゃんはこっそり懇親会の様子を亜里沙と一緒観ており、
以前まで詩衣ちゃんと呼んでいた海未ちゃんを、海未さんと呼称するようになり、
亜里沙の機嫌を微妙に損ねた。

という語られないエピソードが山ほどあるんですが、なんとかフォローできるようがんばります。
では、また明日。
863 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/30(火) 20:28:37.66 ID:MxCeplU2O
でかリボンはエロゲヒロイン感ある
864 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/30(火) 22:06:20.80 ID:uqdneWT40
なんかまとめに入ってる?
エンディング近いのか・・・
865 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/31(水) 02:22:29.88 ID:CXSBbGYTO
アイドル革命だな…
866 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/10/31(水) 16:33:44.65 ID:2dGqKnfN0
 ススメ→トゥモロウという曲がある。
 その曲の出来不出来は専門家の方に任せるとして、
 注目してほしいのはその曲名だ。
 一方、田口トモロヲという俳優さんがいる。
 ナレーターでも活躍する一方で、様々な作品にバイブレイヤー的な活躍を見せる、
 そんな個性派俳優である。
 絢瀬絵里がある時、田口トモロヲとススメ→トゥモロウが似ている、
 なんていうトチ狂ったことを言うので、そうねの一言でスルーしたのだけれど、
 それがえらく気に食わなかったらしいそいつは、居酒屋の店員さんにメモ紙を要求し、
 「タグチトモロヲ」「ススメ→トゥモロウ」と書いた紙を見せてきた。
 何杯目かの蜂蜜レモンハイをジョッキで飲んでいた私は
 その熱意を就職に向けろと思いながらしげしげと眺めてみる。
 やけにテンションが上り始めた金髪ポニーテールは、
 「タグチトモロヲ」と書いた文字を消して「タグチ→トゥモロヲ」なんて記し始めた。
 確かにそこまですれば似ているのだけど、そこまで行くと田口トモロヲ要素はゼロで、
 なぜそこまで田口トモロヲを熱烈にプッシュするのかイマイチ理解が出来ない。
 なお、亜里沙さんに田口トモロヲさんに会いたいとか言って、
 滅茶苦茶怒られたと後日言っていたけど、妹さんの説教は伝わってなかったのか、
 私になんとかして会わせて欲しいとお願いされたけど、
 そこまでしてお会いしたい存在であるのか私は今でも疑問である。
867 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/31(水) 16:34:24.42 ID:2dGqKnfN0
 なぜそんなことを唐突に思い出したのかと言うと、
 とある会合が今夜秋葉原のアイドルカフェで開かれるので、
 その現場へと移動中にナレーション田口トモロヲという文字を見てしまったから。
 ハニワプロ所属の人間もチラホラとキャスティングをされており、
 その大多数が現在事務所から離れていることは、意外なことに知られていない。
 知られていないと言うか……余計な情報は漏らすくせに、
 不祥事だけは鉄壁を誇るのが一般的な芸能事務所だから。
 他の事務所も手慣れたもので、対岸の火事を見守るようにほぼほぼノータッチ。
 私もツイッターでファン(笑)から最近仕事してないんですかと絡まれたので、
 元マネージャーのリアルアカウントを教えてあげておいた、
 あいつはちゃっかり今もハニワプロで甘い汁を啜ってるから、少しは現実を思い知ればいいと思っている。


 待ち合わせの時間までは少々時間があったので、
 真姫さん出演のエロゲーでも冷やかしに行こうかとブラブラとしていると、
 見慣れた女の子……いや、亜里沙さんと同じ年だから女の子って年でもないか。
 あ、綺羅ツバサは後10年は女の子しているつもりなのでそこのところよろしく。

「鹿角聖良さん」

 声をかけてみると、二人の人物が私の顔を見て驚いた顔をした。
 そう、聖良さんは別に一人で秋葉原においてボーッとしていたわけではなく、
 おまわりさんに声をかけられていたのである。
868 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/31(水) 16:35:12.91 ID:2dGqKnfN0
 以前もファンから完璧超人と言われているのを聞いて、
 どこが完璧だと思うんですか? なんて尋ねてみたら、
 私の姿をしげしげと眺めたそいつは、
 スタイルの良さですかねとクッソ舐めた目で言ったので
 セクハラだって言って訴えようとしたら南條さんに死ぬほど止められた。
 なお、その際の出来事は綺羅ツバサご乱心としてネットのまとめブログでまとめられていた。
 アイツまとめブログの管理人だったんだな……。

「あー、この方のお知り合いですか?」
「ええ、事務所の先輩……いや、年齢的には後輩なんですが」
「先ほどから中央線に乗って函館に帰ると言っているので……」

 無茶ぶりが過ぎる。
 鹿角聖良さんは一見するとたしかにクールビューティー系の
 完璧超人にも見えるんだけれど、頭の出来の悪さは一級品。
 記憶したいことしか覚えない都合の良すぎる脳みそで、
 しばしばマネージャーや同業者を困らせていたらしい。
 私やA-RISEに関するデータはなぜか綺羅ツバサが把握していないことまで知っているけど、
 μ'sでは絢瀬絵里くらいしか分からない。
 ただ、絢瀬絵里は把握していると言っても、以前まで会っていた(喧嘩も売った)
 澤村絵里=絢瀬絵里と記憶しているかは怪しく、
 あの超弩級のシスコンである理亞さんでさえ、
 もしかして姉様は頭がお悪いのではないかと言っていたけど、
 もっと早く真実は伝えられるべきだったと思ってる。
 ちなみに鹿角姉妹がハニワプロにいた(過去形)のは、
 芸能事務所から熱烈スカウトを受けていた聖良さんが妹の卒業まで待って欲しい、
 なんて嘆願して了承したのがハニワプロだけだったから。
869 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/31(水) 16:36:30.92 ID:2dGqKnfN0
 ただ、姉妹で秋葉原に行った日に妹さんはエロゲーにダダハマりし
 亜里沙さんにプロデュースされるまでくすぶり続けた(聖良さんは必死にフォローし続けてた)
 から、鹿角姉妹をスカウトした人間はちょっとは反省するべきだと思う。
 ちなみにその人は今はちゃっかり星空凛さんの事務所でスカウトやってる。

「すみません、この人、電車って言ったら中央線しかわからないんです」
「それはつまり電車に乗りたいということですか?」
「聖良さん、新幹線って知ってる?」

 一人で電車に乗れるかどうかも怪しい聖良さんがここまで来たのは、
 おそらく理亞さんが引っ張ってきたからだと思う、待ち合わせ場所には彼女も来る。
 移動は基本的にマネージャーが運転する車かタクシーしか乗れない聖良さんだから
 ――そういえば、どうやって函館から上京してきたのかしら? 
 機会があれば理亞さんに聞いてみよう、すごく興味がある。

「新幹線というのはあれでしょう? 中野梓ですよね?」
「あえてボケにはツッコまないけれど、それは特急電車」

 しかも、長野県の松本に行っちゃう、そもそも秋葉原に特急停車しないし。
 新幹線もそもそも停車しないけど、駅に行けば電車が止まると思ってる、
 おそらくリニアも止まるって信じてる。
 おまわりさんがこの人大丈夫かみたいな目で見ているので、
 ウィンクしながらこの子の偏差値は30ですと言っておいた。
 ――なお、その30という数字もある程度多く見積もってのものだけれど。

「聖良さん、函館ってどこにあるか知ってるよね?」
「上の方ですね」

 北と言って欲しかった。

「ここから少し行った先に秋葉原駅があります」
「そうなんですか」
「ちなみに秋葉原駅からは函館にいけません」
870 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/31(水) 16:37:42.99 ID:2dGqKnfN0
 聖良さんは驚いた表情をする。
 そしてがっくりと膝を落とし、この世の終わりを見たみたいに頭を抱え始めた。
 聖良さんに気取られないよう、こっそり秋葉原近くにいる私の知り合いは居ないかと
 LINEを回してみると、国木田花丸さんが一番近くにいるということだった。
 おそらくこのポンコツさんが花丸さんの顔を覚えているとは思わないけど、
 声をかけられればドヤ顔をしながら花丸さんの意のままに動いてくれるはず。

「函館というのは……もしかして、すごく遠いのでは……?」
「乗り物でしか行けないかな、徒歩だと時間がかかってしまうもの」
「1時間くらいで行けませんか?」
「……女性の一人歩きは危険だから、行けても行っちゃだめよ
 せめてぽーちゃんみたいなしっかりとした子をつけて」
「歩夢は私が何も出来ない子どもだと思っているので嫌です」

 この場にいる誰しもが、何も出来ない子ども未満の知能の持ち主ではないか?
 そんなふうに考えたけれど、言ったところで伝わるわけもないので、
 秋葉原駅に一緒に向かった後、国木田花丸さんにすべてを任せた。

 なおその数分後、涙目の顔文字のメッセージが花丸さんから届き。
 綺羅ツバサは見なかったことにして待ち合わせ場所に向かったのだった。
871 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/31(水) 16:41:53.94 ID:2dGqKnfN0
ひとまず次のエピソードで綺羅ツバサ視点の物語が終了し、
亜里沙視点にいきます。

なお、予告していた園田海未ルート、綺羅ツバサルートの前に、
サンシャインの劇場版公開記念として鹿角理亞ルートを先にしたほうが良いのでは?
という判断もあり、なんとか劇場版公開までに理亞ちゃんの話をなんとか!
と思いつつの今回の話です。

亜里沙ルートの完結までは頑張って毎日更新で行く予定で、
今日も物語が完成すれば、夜にも投稿を考えております。
872 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/31(水) 20:03:06.29 ID:2dGqKnfN0
 伝説のメイドミナリンスキーが居たという喫茶店。
 μ'sのコネで今も食べている人というのがμ'sのメンバーではないというのは、
 絵里以外はみんな知っていることではあるんだけれど。
 音ノ木坂学院の理事長職を譲った後、ラブライブの運営に籍を置いたことりさんのお母さんは、
 オトノキでのイメージと違って優秀だと私の身の回りでは評判だ。
 真実を知っている私は心中複雑で、でも、彼女の活躍で絵里がニートできていた面もあるので、
 大手を振って娘さんみたいにあんな人扱いをしたりはしないけれど。
 ラブライブの運営と芸能事務所は表向き交流がない。
 プロ野球選手がアマチュア選手を指導するには資格が必要になるみたいに、
 芸能事務所が推したいような、表向きは一般人のシンデレラガール(笑)
 と呼ばれるような何万人のうち一人の逸材(笑)とかを昔から把握していると、
 なんか色々とあるらしく。
 UTXとラブライブの運営がズブズブなのは……まあ、誰しも知っていることではあるけれど、
 その蜜月はハニワプロの敏腕プロデューサーにして見初めたアイドルは必ず売れる――
 との評判がある絢瀬亜里沙さんに引き継がれている。
 私の出身校の方は結構色々あってクリーンさをアピールしているけれど、
 その結果ラブライブで優勝が遠ざかり、ここ最近は地区予選で姿を消していて、
 いや、初代優勝者なんですよって酒の席で言うと鼻で笑われるケースが多し。
 話がずれてしまったけれど、ラブライブ運営が把握している実力があるスクールアイドルの情報を
 ことりさんのお母さんが亜里沙さんに売り、その見返りに亜里沙さんは
 ありとあらゆる仕事上のアドバイスを送るという――
 人から指示されたことは自分の実力以上にこなすなどとことりさんは言うけれど。
 あの人が、亜里沙さんのフォロー無しでラブライブの運営で仕事ができるかは、
 まあ、私の知ったことではないので天高く放り投げておく。
873 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/31(水) 20:03:45.33 ID:2dGqKnfN0
 ミナリンスキー引退後のメイド喫茶店は売上がガタ落ちしてしまったらしく、
 都市伝説喫茶、鉄道喫茶と様々な変遷を経て、アイドル喫茶として一定の売上をキープ。
 売れなかった頃の店長はよほどアレだったらしく、その現状を憂いたことりさんが、
 ヒフミトリオの一人のヒデコさんにアドバイスを求め――
 結果喫茶店は生まれ変わることとなったけど、
 そのせいでμ'sがラブライブで優勝したのがヒフミトリオのおかげとの評判が、
 よりいっそう秋葉原で囁かれることとなり、
 トリオの3人が3人、社長とか会長候補とかの奥方として玉の輿を乗っていることを思うに、
 一概にはμ'sだけがすごかったのかと言われるとそうではないと項垂れながら応える他なく。
 今も以前まで別の事務所でアイドルやっていた人間が、
 何食わぬ顔をして接客しているのを見ながら、あの人達だけには喧嘩を売らないことを誓った。


 ツバサさんがブログやツイッターで宣伝してくれたらお客が来るので
 無料でいいですよとごちそうされた(ある意味脅迫された)バラエティーランチを食べながら、
 コレって確か、出来合いのものなんだよな? と首をひねりながら、
 先日食べた西木野家での食事と遜色ないレベルの味付けに恐怖しながら。
 鹿角理亞さんと園田海未さんが揃って来店した。
 ハニワプロのゴタゴタの後、聖良さんと一緒に事務所を退所した彼女は、
 しばらく自分探しの旅に出ると告げて姿を消そうとしたけど、
 亜里沙さんから堕落するから止めてと止められた。
874 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/31(水) 20:08:35.89 ID:2dGqKnfN0
 アンリアルで相方だったルビィさんは花嫁修業をしていると私は聞いているけど、
 ダイヤちゃんがそんなことを許すはずもないので、多分どこかでニートしてる。
 精神的に自身に甘い所があるともっぱらの評判の理亞さんに対して、
 では私のところに来ますか、と声をかけたのが海未さん。
 聖良さんはただならぬ空気を感じて逃げようとしたけど、ラブアローシュートの直撃で
 姉妹揃ってこき使われているとかいないとか。
 ただ、海未さんの目的が理亞さんのエロゲーコレクションだったという都市伝説があるけれど、
 私としてはノーコメントを貫いておく、命が惜しい。

「理亞さん、聖良さんの管理はきちんとしないとダメよ」
「秋葉原で用事があると言っていたので、何かあったんですか?」
「中央線で函館に帰るって言ってたわ」

 理亞さんは苦笑したけど、海未さんはまだ教育が足りないようですねと恐ろしいことを言った。
 私が国木田花丸さんに預けたと言えば、
 分かりました家に返してくださいと返答されると思ったので、
 先回りして花丸さんのLINEにラブアローシュートに気をつけろって打っておいた。
 自分のスマホの画面を見た聖良さんが震え始めたとの文章が
 泣きの顔文字(二回目)と一緒に来たので、今度は涅槃で会おうって答えた。

「ことりが居た時代とはだいぶ趣が変わりましたね、メイド喫茶でしたか?」

 海未さんに問いかけられたので、現在に至るまでの状況を説明しておく。
 ことりはすごかったんですねと感嘆しているけれど、
 今あなたにコーヒーを持ってきてくれた子が語尾にチュンチュン言ってたの気づきました?
875 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/31(水) 20:10:02.14 ID:2dGqKnfN0
「今の人……一時期ラノベユーチューバーやってた人……」

 そして理亞さんが気づいてはいけないことに気づいて、
 それを聞いた私ともども少しばかり閉口しておくしかなかった。

「絵里の様子はどうですか?」

 空気が冷え始めたのを察して海未さんが問いかける。
 私の知っている絵里のポンコツエピソードは鉄板ではあるけれど、
 油断していると、なぜ自分の知らないことを知っているのかと
 恐ろしく病んだ目で問い詰められてしまうので迂闊なことは言えない。
 なのでいつもの通り、健やかな顔をして眠り続けていると答えておいた。

「最近は芸能関係者と名乗る方が来訪されます」
「へえ? 精神を鍛え直すつもりで?」
「それならば良いのですが」

 海未さんが苦笑いしながら。
 なんでも、自分たちのプロデュースする人間に
 曲を作って欲しいと懇願されるケースが増えたとか。
 私の過去の一件でメンツを叩き潰された音楽関係者は、今回のハニワプロの出来事で、
 μ'sの曲や園田海未作詞の曲に注目が集まり始めたことを肌で察し、
 なんでもあいつにだけは負けるなという勢いで努力をし始めたそうだけれど……。
 付け焼き刃の努力でμ'sの作詞担当に勝てるわけもなく、
 万策尽きた感のある芸能関係者が海未さんに仕事を持ってくるのは――。
876 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/31(水) 20:11:24.38 ID:2dGqKnfN0
「風が変わりつつあるようね」
「ええ、私の友人も自分たちに戻ってきて欲しいって」
「理亞に友達なんていたんですか」
「います! 3人くらい!」
「――統計としては微妙な数字ね」

 ネット上では相変わらず私たちや亜里沙さんを中心としたスタッフ。
 特に、今回の一件で離職された面々のたたきが収まらないけれど。
 でも、現場では次々とハニワプロから出ていったアイドルやタレントに戻ってきて欲しい、
 そんな声が上がっているよう。
 ただ、その小さな声はあらゆる事務所の上層部というか……スポンサー。
 つまりは芸能を支援している企業には耳の痛い話みたいで。
 なにか、そういう会社の社長とか会長とかの社会的権力を持っている人間に圧力を利かせている、
 そのような存在がいるように思われた。
 マリーやダイヤちゃんあたりも追っているって話だったけど、しっぽをつかめないらしい。

「希も……嫌な気配がすると、いまは単独で何かを追っているそうです」
「希さんが?」
「迷惑はかけられないからと――心配ですが、彼女ならひょっこり返ってくると思うんです」

 最近姿を見かけないと思ったら。
 と、ここで携帯になにかメッセージが届いたらしかった。
 花丸さんのLINEならスルーしようと思ったら。

「ええと? 亜里沙さんからね」
「亜里沙からですか、なんでしょうね?」
「お姉ちゃんが目を覚ましました! ハラショー! だそうよ」
「へえ、お姉さんが目を覚まし……ん?」

「「「ハラショォォォォォォォォ!!!???」」」
877 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/10/31(水) 20:14:28.35 ID:2dGqKnfN0
キリのいいところまで、多少駆け足ではありましたが、
なんとか、明日から亜里沙視点の話で行けそうです。
では、また明日です!
878 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/01(木) 06:15:18.33 ID:7livKfkO0
ついに目覚めたか!ガタッ
しかしこの世界のポンコツお姉ちゃん率・・・でもみんな好き
879 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/01(木) 21:09:17.17 ID:f8AG1Ktz0
 穂乃果さんがアメリカに旅立ってから、もうすぐ1ヶ月になろうとしています。
 私、絢瀬亜里沙もプロデューサーとしての職を辞しまして、現在は以前のお姉ちゃんと同じく悠々自適のニート生活を送っているんです。
 目をかけていたアイドルの子たちは南條さんに面倒を見てくれるように頼みに行ったら、
 もうすでに彼女は職を辞していて、趣味のお菓子作りに傾倒しているそう。
 理亞が同業者に配って処理に困った洋菓子(笑)とは出来が雲泥の差で、
 なぜ彼女にコツを教えなかったのですかと問いかけたら、
 穴の開けたバケツには水が入らないでしょう? という身も蓋もない答えが返ってきました!
 ハラショー! 理亞が姉が目を覚ました時のためにお菓子作りの特訓を
 海未さんの家でしているそうですが、お菓子を食べた瞬間お姉ちゃんが昏倒しないか、
 そして私も海未さんの家でお世話になりたいところです!
 ですが、私にもまだやらなければならないことがあるので、
 やけにニコニコしながら海未さんの腕に抱きつく理亞を
 後ろ髪引かれる思いで見送ったのはつい先日のお話。
 自分という撒き餌に、もうそろそろ相手が食いついてきても良い頃合いではありますが、
 何事か警戒をしているのか未だ尻尾を見せる気配がありません。
 出てくる有象無象を叩き潰したところで、あのような悪人はうまく隠れ仰せてしまいますし、
 私自身に喧嘩を売った事を地獄に叩き落として後悔させない限り、
 そして、何より私の大切な人たちに手を出したことを悔恨させない限り、
 私は修羅の道から離れる選択肢は選べません。
 たとえどんな罪を被ろうとも、最終的に笑顔になれればいい。
 絢瀬亜里沙は、ここ最近いつもそんなことを考えるのです。
 少し嫌なことを思い出して、眉を顰めてしまったので。
 笑顔だけでも形作ろうと面白いことでも考えようとして――
 昔、姉が無理に人に冷たくしていた際のことを思い出してしまいました。
880 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/01(木) 21:10:04.07 ID:f8AG1Ktz0
 ツバサさんと交代の時間、西木野総合病院に向かう前に、
 定期報告を受けるために南條さんと会った後、ヒナが顔を見せました。
 お姉ちゃんが目覚めるまでは私とツバサさんしか病室には顔を出さないという
 みんなとの約束があって、いつもヒナは病院の敷地内で売店に顔を出し、
 お姉ちゃんの好きなチョコレートを食べながらしばらくぼーっと過ごしているとか。
 マスターアップまで日がないんじゃないのって聞いたら、
 延期するのは名ブランドのお約束だからという答えが返ってきました。
 理亞に聞かれたら殴られかねない返答だったのでそれは胸にしまっておくことにします。

「ずいぶん肩の力が抜けたようなのだ」
「キャラ作りはいいの? だいぶ外見と差があるけれど」
「いいのいいの、どうせ誰も聞いてはいないのだ」

 かなり違和感がある口調ではあるけれど、140センチに満たない身長だった時には
 外見とぴったりではあったので、アレがヒナの地であるのならば私は何も言えません。
 合っていない口調と声と言えば私にも自覚があるので、
 苦笑いをしながらヒナからチョコレートを一粒貰い。

「目指したのものは、見つかったのか?」
「見つかったよ。まあ、目の前にあるのに気づかなかっただけで」
「人生はえてしてそんなものなのだ」

 姉がとある出来事の末、外出すらままならなくなった後。
 ヒナやちーちゃんといった面々とこれからについて話し合った際。
 いままでの自身のキャラクター……いや、あれは演技ではなく限りなく地に近かったんですが。
 それを改める必要があるのではないかと相談した時。
 誰かの幸せのためであるなら自分が不幸になっても構わない――
 そんな事を言ったのです。
881 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/01(木) 21:10:41.60 ID:f8AG1Ktz0
 お姉ちゃんへの好意と言うものを自覚してから、絢瀬絵里の幸せを一番に考えたら、
 私はいったい何ができるのだろう? なんて思い始めてからの回答だったんですが、
 つい先日、その考えは穂乃果さんによって明確に否定されてしまったの。
 とにかくまあ……クールで冷たい妹キャラはめでたく卒業することになりまして。
 奇しくも高校時代に冷徹な印象を持つ生徒会役員であった姉を改めさせた穂乃果さんに
 姉妹揃ってお世話になるという――絢瀬家は高坂家に足を向けて寝られない。
 お姉ちゃんが目を覚ましたらニューヨークで穂乃果さんに直接お礼を言いに行かなくては。
 そんなやりきれない思いに駆られてしまいそうになるのは、私が愚かであったのか、
 そうさせたお姉ちゃんが愚かだったのか。
 

 お姉ちゃんが生徒会のお仕事でUTXに行った際、
 土地に不慣れだったのを利用して見事お姉ちゃんを迷子にさせることに成功。
 ただ、恥をかかせてやろうとする魂胆は成功したものの、
 結果的に彼女たちは全員生徒会から追いやられることとなったので、
 人を呪わば穴二つという言葉を身にしみて感じたのではないでしょうか。
 嫌いな人間に一時の恥をかかせた所で、満足する時間も一時であることに気づかなかったのですから。
 そんな人達が上に立つことはオトノキにとっても不幸なことではあったのでしょう。
 もうお会いすることもないとは思いますが、その時の教訓が生かされていることを願います。
 絢瀬亜里沙としては朝起きると憂鬱そうな顔をしているお姉ちゃんの表情が、
 ヒナとの出会いによって改善したのはとても良いことでしたし、
 末っ子だった私が妹みたいな女の子を相手にするというのもいい経験でした。
 絢瀬姉妹揃っての交流期間は長続きはしませんでしたが、数年後再会もしましたし、
 私自身もヒナがいなければプロデューサーとしてまともに働けなかったでしょうから、
 栗原家にも足を向けて寝られないかも知れません。
 絢瀬家そんな相手ばっかりですね……。
882 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/01(木) 21:11:21.94 ID:f8AG1Ktz0
 ロシア料理が食べてみたいというヒナのリクエストもあり、
 絢瀬家に彼女が来訪した時に料理が振る舞われた夜のこと。
 当時からひときわ料理上手であったお姉ちゃんが気合を入れて作っただけあって、
 完成品も料理店で振る舞われるレベルであったと私なんかは満足していて。
 お姉ちゃんもすごく楽しそうに鼻歌を歌いながら料理して、
 ヒナもこんな事を言うのは無粋だけれどみたいな感じで口を開いたの。

「なぜエリーはそんな怖い顔を普段作ってるのだ?」

 私にとっても、そしてヒナにとっても極めて疑問で。
 こう言ってはなんだけれど、人当たりもよく心優しく性格も明るいお姉ちゃんが、
 学校ではかなりクール……というより、怖い印象の人だと聞いたことがあり。
 亜里沙とはぜんぜん違うねという同級生のコメントに首を傾げていた日々。

「ヒナは知らないのかも知れないけれど、私ってもともとこういう人なの」

 あまり追求されたくない事柄であったのか、
 お姉ちゃんは最初の方はごまかすようにそんな事を言いました。
 ヒナも始めはそういうのならみたいな態度で納得しようとしたけれど、
 意を決したように首を振り、

「大切な友人が辛そうな態度をするのは、友人である私も辛いのだ」
「……お姉ちゃん、亜里沙もおんなじだよ?」

 二人して見上げるようにしながら見つめてみると、
 困ったように眉を顰めたお姉ちゃんは、ひとしきり中空を見上げた後、
 諦めたように首を振り。
883 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/01(木) 21:12:07.37 ID:f8AG1Ktz0
「ヒナはおとぎ話は読む?」
「昔はよく。今はラノベでもマンガでもエ……いや、ゲームもやるのだ」

 ヒナはこう言ったけれど。
 数年後にこっそり、実はエロゲーくらいしかやってなかったと白状して。
 そういえばお姉ちゃんが白薔薇さまのコスプレした時にも、
 流行っていることくらいしか知らないみたいなことを言っていた気がする。

「私は時折、自分が物語の登場人物であるように感じるの」
「私もあるのだ!」
「でもね、自分は主役にはなれない。
 そんな柄ではないし、そういう役どころは少し恐れ多いわ」

 ヒナと顔を合わせながら首を傾げる。
 当時からずっと――というより、幼少期から憧れ続けていたお姉ちゃんが、
 物語のシンデレラでいうのならシンデレラ役、桃太郎なら桃太郎――
 バリバリ主役を張っても問題無さそうな優れた人物だと思っていたから。

「そんな時にね、物語をハッピーエンドにするためにはどうしたら良いのだろうって
 物語には悪役もいて、不幸になる人間もいて、誰もが幸せになるのはありえない
 それぞれの役回りというものがあってね」

 お姉ちゃんがオトノキの廃校問題についてすごく心を痛めていたのは知っていたから。
 世間では穂乃果さんが一番――なんていう人もいるけれど、
 穂乃果さんのずっとずっと前から――それこそ、おばあさまがオトノキ出身で、
 自分もその高校に通うと心に決めていたときからずっと。
 お姉ちゃんが卒業する頃には廃校が決まっているかも知れないって悩んでいて。
884 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/01(木) 21:13:19.06 ID:f8AG1Ktz0
「もし、オトノキが廃校を防げるのなら――亜里沙が同じ高校に通えるのなら
 ちょっとね、頑張ってみようと思ったの
 別に亜里沙が気に病むようなことではないの、私が自分の理想でしているだけなのよ」

 ワガママなのね、と自嘲しながら言う。
 私たちは何も言えなくなってしまい、困ったように天井を見上げることしか出来なくて。
 でも、何も言わないではいられなかったから。

「お姉ちゃんは辛くないの」
「ふふ、もちろん。同じ学校に通う縁があって、同じ教室で過ごして……
 そういう子からね、嫌われてしまうというのは苦しいものがあるわ
 でも、もし誰かがそういう立場でなければいけないのなら、自分がする
 誰かの不幸を傍目で見るくらいなら自分がって、性分なのかしらね……」

 そんなことをする必要はないって言いたかった。
 でも、そういった所で困らせてしまうだけだって気がついてしまって。
 ヒナは泣きそうな顔をしながらも、そういえばと口を開いた。

「エリーに近付こうとする子がいたのだ?」
「ああ、彼女か……物好きなのね、不思議と離れてくれないのよ。
 早く諦めてくれれば良いのだけれど」

 不愉快そうな態度ではないので、言葉ほど困ってはいないみたい。
 ただ、故あってヒナもお姉ちゃんから離れるにいたり、
 距離を詰めきれなかったちーちゃんもUTXに転校することになり、
 私も意見が言えなくなってしまって。
 希さんがいなかったら、本当にどうなっていたことか――。
 とは思うのだけれど、
 お姉ちゃんは一時期クラシックギターにハマって、
 ついうっかり自分に嫌がらせしていた先輩に声をかけライブを開き、
 反省文を書かされるという不祥事を起こしたことがあるから。
 もしかしたら、本当にもしかしたらではあるんだけれど、
 私が考えるほど不幸ではなかったのかも知れない。
885 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/01(木) 21:13:53.43 ID:f8AG1Ktz0
 その夜はそれで終わってしまったんだけど。
 ヒナがお姉ちゃんと似ている人間がいるからその人にもアドバイスを聞きに行きたい。
 なんていうので私もついていくことになりました。
 後々お姉ちゃんと親友のような関係になるツバサさんがその相手で、
 ただ、今みたいに全然大らかな人じゃなくて、目つきが理亞よりも悪いくらい。
 UTXで一番すごい人って言われても私にはピンとこなくて。
 第一印象としては周りに吠えてばかりの野良犬みたいだった。

「ウザい」

 練習中に貧血で倒れて保健室にいたツバサさんにヒナと一緒に声をかけたら――
 顔色も悪くて、全身も痩せ細っていて、でも目つきだけはギラギラとしていて。
 口も態度も悪くて、実際に罵られてしまって。

「暇つぶしくらいにはなるのだ」
「あいにく暇ではないの、体力が回復したらすぐに練習を再開しないと」
「そうしたらまた倒れるのだ。繰り返したら除籍になるのだ」
「……そっちの子は?」

 ヒナに話しかけても無駄と気づいたのか、私に目を向けた。
 先ほどよりも優しい感じにはなったけれど、それでもなお空腹時の大型犬みたいで。

「あ、絢瀬亜里沙です」
「絢瀬? ああ……あんたがよく自慢している絢瀬絵里って人の」
「妹なのだ――可愛いのだ。少しは爪の垢を煎じて飲めばいい」
「言うわね落ちこぼれ風情が、私のことより自分の心配をするのが先じゃない?」
886 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/01(木) 21:14:49.58 ID:f8AG1Ktz0
 たしかにこのときのツバサさんの言葉はその通りで。
 でも――当時のヒナのレベルからすれば、あらゆる努力を重ねた所で
 UTXで活躍することはかなわかったと思うんです。
 ただ、いざ退学になるかもという算段になった時にはお姉ちゃんもツバサさんも、
 ヒナのために全力を尽くしてくれたので――
 その時のことを思うと、私は胸が本当に苦しくなってしまうのです。
 私は友人のようなふりをして、まったくこれっぽっちも役に立てなかったから。

「孤独な野良犬を手懐けるのはどうしたら良いのだ?」
「動物学者にでも聞きなさい」
「野良犬同士何かわからないのことはないのか?」
「――それを言ったら離れてくれる?」

 約束するって、ヒナは言ったけど。
 そのアドバイスを希さんに伝えて――希さんとお姉ちゃんは親友同士となり。
 勢いでツバサさんに二人して報告に行ったら、バカなのあなた達って言われて。
 その後私たちは友人と言っても良い間柄に落ち着いた。
 ただ、ツバサさんとの関係はお姉ちゃんには秘密であったので、
 色々と苦労した面というのは数多くあったのはここで白状しておきます――。 
887 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/01(木) 21:22:45.80 ID:f8AG1Ktz0
エリち復活!
――ではないのは申し訳ありません、予定通りなんです。
彼女の復活までは亜里沙のモノローグの後、
とあるキャラの再登場を経てからの話になります。

なお、栗原陽向の声はどのように再生されても構わないのですが、
作者個人は田村ゆかりさんの声で再生されています。
888 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/01(木) 23:58:10.89 ID:SHXmNIFSO
そんなん言われたらもうゆかりんボイスにしか……確かに違和感ないな
889 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/02(金) 21:04:40.92 ID:eX+5W8zo0
 過去のことを思い出し、少しだけ恥ずかしい気持ちになりました。
 お姉ちゃんは自分の過去のことを、黒歴史とか、暗黒の時代とか言うけれど、
 誰にだって言えないような過去を持ち合わせていることは確定的に明らかなんです。
 自分だけが羞恥にまみれていると思いこむことは、過去よりも成長しているということでもありますが、
 それと同時に卑しく、目に入れたくないと願う逃避のようなものなんです。
 過去を踏まえて、今自分自身ができる最善の選択を取れるよう――

「あ……り……」

 身体をビクリと跳ねさせてお姉ちゃんをみやります。
 このように苦しげな吐息混じりのうわ言を時々吐くことがあります。
 最初のうちは目を覚ましたのではないかと心を踊ることもありましたが、
 期待をしたら期待をした分だけ、裏切られたときの暗い感情も大きい。
 完全に目を覚ますまでは、喜ばぬよう、嘆かぬよう、心を鋼鉄にして。
 とはいえ、私の名前を呟かれれば多少気持ちも晴れることも――

「……アリさんマークの引越社……」

 ガクっと肩を落としてお姉ちゃんの身体に顔を埋めます。
 何をどういう経緯で呟かれた言葉かは私には分かりかねますが、
 姉の中で特に印象に残る単語だったのでしょう――たぶん。
890 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/02(金) 21:05:38.70 ID:eX+5W8zo0
 ハニワプロが行ったステージ――
 太陽の日という題はお姉ちゃんが酔っ払った席でSUNNY DAY SONGが歌われた
 秋葉原でのイベントのことをそう呼称したことが由来となっています。
 でも、お姉ちゃんはきっと覚えていないのだと思います。
 ステージが終幕を迎えて、最高潮に盛り上がった観客の方々の声が悲鳴に変わりました。
 お姉ちゃんは糸が切れた人形のようにドサリとその場で倒れ、
 一番近くに居て真っ先に身体を揺らしてしまった朱音さんが、完全に呼吸が止まっていた――
 慌てて泣き叫んだ彼女の声に呼応するようにμ'sやAqours……ステージの参加者が一同に集まり、
 そしてその面々を押しのけるように救急隊の人たちがお姉ちゃんをストレッチャーに乗せ、
 慌ただしく出て行かれました。
 すぐにでも追いかけたいのは山々ではありましたが、プロデューサーとしての自分は
 残業が山ほど残っていましたので――優しい鬼のような表情をした南條さんや、
 ほかスタッフに行くなよ? 絶対行くなよ? みたいな目をされれば、
 自分のやるべきことというのは自ずと理解できるというものなんです。
 来場者の方々に挨拶をして、スタッフの方々のお礼を言って、
 その他雑務をこなして一息ついた頃には日付がすでに変わっていました。
 軽く伸びをしながらことの重大さに気がつき、震え上がりそうになるのを我慢し、
 一番状況を的確に判断し冷静に教えてくれそうな相手に通話することにしました。
 おそらく、お姉ちゃんも困った時には電話をすると思うんですが、妹である私もそれに準じています。
 
「もしもし、ツバサさんですか?」

 恐ろしい反応速度で電話を取ったと思われるツバサさんは冷静に的確に状況を説明してくれました。
 その言葉をどれほど感情的にならずに聞けたかは私が判断することではありませんが、
 その時に書いたであろうメモ書きは全てロシア語で書かれていたあたり、
 これぽっちも冷静ではなかったことは伺えます。

「絵里は今、生死の淵をさまよっている――らしいわ」
891 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/02(金) 21:06:22.14 ID:eX+5W8zo0
 病院に運ばれた時にはすでに事切れる寸前だった……というより、
 おそらくもう死んでいたんじゃないかみたいな反応でした。
 多少状態が回復して危篤状態とされるのが適切である――
 もうすでに祈るしかないレベルの重篤さであり、最悪のことを想定しなければならない
 そんな事を考えたときでした。

「でも、絵里は必ず目を覚ます、死ぬとか、そんなことはありえない――」
 
 ツバサさんはそこで言葉を切ってから、少しだけ声を詰まらせたあとで、

「まずは……私たちはやるべきことをやらなければいけない。
 ただ生憎私はアイドルであるので、そっちにもう優秀な人間を送っておいたわ」
「来る気配が……ん?」

 事務所のドアが開き、そこから顔を見せたのは。
 たしかにまあ、なんというか私の知る限り優秀だと判断できる面々。
 私が一息ついてからツバサさんに電話をかけることを予測し、
 自分が反応するまでこの場で待機をしていた滑稽さについては考慮しませんが、
 権力者に顔が利くという観点で言えば、これほど頼りになる方々もいませんね。

「じゃあ、あとは任せたから。こっちのことは任せておいて? 穂乃果さんもいるし、和木さんもいるし、
 海未さんが暴れるようなことがあれば、弟になんとかして貰いましょう?
 だいじょうぶだいじょうぶ、万が一海未さんの処女が……あ、これ秘密だった、ごめんなさい」

 最後にとんでもない爆弾を投下してツバサさんからの通話は切れました。
 折り返し電話をかけたい所ではありましたが、鞠莉さんがはよ支度しろと言わんばかりに見ているので、
 ものすごく後ろ髪引かれる思いで移動の準備を始めました。
 芸能事務所は時間に関係なく、顔が利けば挨拶ができるものなんです。
 労働基準法? 芸能人は労働者ではないので関係ないのです、ええ、まったくもって。
892 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/02(金) 21:07:17.21 ID:eX+5W8zo0
 お姉ちゃんの状態がツバサさんの言葉通りに小康状態になり、
 ただ、私は雑務で忙しくて一度たりとも病院に顔をだすことができずに、
 ようやく顔を見に行けると心の底から喜びを示した後で海未さんからLINEが届きました。
 あなたと一生を添い遂げる準備が完了しましたとか書いてあれば困ってしまうな、
 なんてニヤニヤしながらスマホの画面を覗くと、
 穂乃果さんがアメリカに向けて出発するから顔を見に行きませんかという内容でした。
 雪穂も顔を出すと言うので久しぶりの再会に心躍らせながら、
 先ほどまでの妄想をなかったことにするまで少々時間がかかってしまったのは不覚です。
 羽田空港に来るのも久しぶりだな、などと感慨に浸りながら海未さんと合流しました。
 いざとなれば取り押さえてくださいと解せないことを言うので、
 首を捻りながら人だかりができている場所へ足を踏み出したんです。
 そして一瞬で状況を理解しました。

「たしか彼女は仕事が立て続けに入っていたはず……」

 太陽の日以降プロデューサーとしての仕事を次の担当者に引き継ぐため、
 それなりに忙しく働き続けていた時に、曜さんと梨子さんのデビューがなかったことになった。
 そんな話を南條さんから聞いていたんです。
 その中に高海さんの名前がなかったので、彼女はどうしているのかは気になったんですが、
 ふと見入ったテレビにやたらハイテンションで新人レポーターとして画面に映っていたのが、
 高海千歌さんその人であったんです。
 はじまり。としてのデビューがなかったことになったのち、
 高海さんだけはハニワプロの上層部に呼ばれて話を聞いたそうなんですが、
 高く才能を買っているので芸能活動を続けないか?
 みたいな会話があったそうで。
 最初は曜さんや梨子さんも一緒にということではあったんですけど、
 ことりさんの説得で曜さんが手を引くことになり、梨子さんは寸前まで迷ったそうですが、
 好きなことをしたほうが良いと真姫さんの説得で芸能活動を引退することになりました。
893 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/02(金) 21:07:48.92 ID:eX+5W8zo0
 銀座の高翌嶺の花だった梨子さんを手放すことになる店を説得するのは非常に骨が折れたらしく、
 ダイヤや鞠莉さんがその作業を一手に引き受けたことは私も知っていましたが、
 その時の借金が何十年単位で残っていると苦笑しながら教えてくれたのは言うまでもなく梨子さんで、
 千歌さんは何億レベルでお金を払ったことすら知らなかったのは――追求することは避けておきましょう。
 ハニワプロの新しい上層部や社長などが全面プロデュースに立ち、
 マルチタレント高海千歌は誕生することになったのです。
 拘束時間は朝から晩まで、あらゆるスタジオ、ロケ地問わずに働き詰めた彼女は、
 その苦労に見合っているかは知りませんが、多少の知名度は得ているようです。
 同業のタレントからは劣化星空凛、劣化綺羅ツバサと散々な評判ですが、
 一般的な認知度で言えば、新人のデビューとしては上々と言えるでしょう。
 なお、私は一番最初にプロデュースした歩夢は数ヶ月で映画の主演しましたけど(ドヤ顔)


 空港に顔を出すことなど想定してなかった面々は、それでも穂乃果さんの晴れの舞台なので
 一様に仮面のような笑顔を貼り付けながら会話で盛り上がりました。
 穂乃果さんに近付こうとするのを、ダイヤや果南さんと言った面々が
 まあまあと言って抑えているのを傍目で覗きながら、
 雪穂に声をかけてみたんです。

「……ごめんなさい」
「亜里沙が謝ることじゃないよ、安心して? 私はいつまでもあなたの親友だもの」
「ありがとう……でも、それならやっぱり謝らせて? 
 親友には、できるだけ隠し事はしたくないもの」

 自分がお姉ちゃんよりも5歳は年上に見える――という評判をあえて無視をしまして。
 雪穂は最近本当に苦労を重ねているようでした。
894 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/02(金) 21:08:31.27 ID:eX+5W8zo0
 穂乃果さんを目指して多少髪の毛を伸ばし、背も幾分か高くなって。
 経営学の勉強を重ねて、さらには税理士の資格をとるために努力の最中。
 両親には無理をさせられないからと彼女は苦笑いしながら言うけれど、
 一人でそうせざるをえない状況下に置かれていたことを知りながら、
 つい自分の仕事ややりたいことを優先して放っておいたことを心から謝罪をします。
 ――おそらく、これからは時間ができるだろうから。
 親友のために一肌脱ぐこともやぶさかではない、
 ただ、何の役に立つかは極めて疑問、おそらくお姉ちゃんも経営には明るくないですし。

「では、皆……そろそろ、締めに入りましょう。空港で大騒ぎしても仕方ないですし
 ――なにより、ためらえば別れは惜しくなるものです」

 海未さんの言葉で穂乃果さんが一人ひとり、顔を見せてくれた皆さんに握手を重ねる。
 高海さんに手を重ねるのを海未さんが止めるかと思いましたが、
 寂しそうな瞳でその二人の姿を眺め、手が離れた瞬間に黙して目を閉じました。
 その心の内は私には分かりませんが――

「では、高坂穂乃果はアメリカに向かいます。
 ただ、その前にメッセージを残していきたいんです、亜里沙ちゃん、ツバサさん」

 絵里ちゃんのことをよろしくお願いします。
 という内容でした。
 簡潔な言葉でしたが、力強く頷いて。

「穂乃果さん、不出来な姉がお世話になりました。
 そして私自身も――μ'sのことを胸に秘め、これからも邁進していきます」
「穂乃果さん、必ず有名になってくれなければ困るわ、
 敗北知らずの私の人生において初黒星をつけたμ'sのリーダーなんだから
 アメリカと言わず、全世界のアイドルになってくれたら、私も鼻が高いもの」

 穂乃果さんは私たちの言葉に頷いて。
 次は、お姉ちゃん以外の――そして、海未さんことりさんを除いたμ'sの方々に声をかけます。
895 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/02(金) 21:09:17.15 ID:eX+5W8zo0
「今まで高坂穂乃果を支えてくれてありがとう。
 そしてごめんなさい、情けないリーダーでした――
 私にできるのはみんなを応援することしか出来ませんが、海の向こうで活躍を願ってます」

 その言葉に天を仰いだり、頷いたり、反応は様々でしたが。

「アイドル研究部の部長として、穂乃果には世話をかけられっぱなしだったわ
 でもね全然嫌じゃなかった――あんたは恩知らずじゃないから、
 いつか特大のお礼をしてくれるのを期待しているわよ」
「穂乃果ちゃんには本当に世話になってなぁ……ウチみたいな日陰者がアイドルなんてできて
 ほんと、まだ夢の中にいるみたいで
 タロットじゃない、水晶玉でもない――東條希が予言する、穂乃果ちゃんはきっと夢を叶えるってな♪」
「穂乃果ちゃん。アイドル研究部の部長として、いっぱい迷惑をかけちゃってごめんなさい
 地味な私でも何年間もアイドルできて――凛ちゃん以外の、本当にたくさんのお友達も出来て、
 幸せな時間は穂乃果ちゃんが作ってくれました、だから私も願っています。あなたの幸運を」
「穂乃果ちゃん、凛ね、穂乃果ちゃんのこと大好きだったよ――二人で一緒に歌った時、
 この時間がいつまでも続いたら嬉しいのになって。
 今だから言っちゃうけど、凛はタレントの仕事をする時いつも穂乃果ちゃんを追いかけてるんだ。
 ――でも、これからは、星空凛として生きます。それが穂乃果ちゃんにできる私の餞別だから」
「穂乃果……正直、何を言っていいのか私には分からないわ、
 素直になれなくて、気持ちをどう吐露して良いのかも分からなくて、
 でもそんな時に穂乃果にμ'sに誘われて、両親からすれば期待通りの西木野真姫ではなくなったけど、
 辛いこともある、苦しいことだってある――ただ、あなたに教えられた夢や希望を追いかけることの大切さを
 これからも胸に秘めて生きていきます。そして宣伝だけど、今度私が声を当てたゲームが発売になるからやって」

 誰もが、それは18禁ゲームではないのかとツッコミを入れたかったけれど、
 穂乃果さんがアメリカはそういうゲームは規制が厳しいからと言ってスルーしたので、
 何かを言って自分に火の粉が飛んでくるのが怖いからみんな一様に苦笑いを浮かべていました。
 ただ、海未さんだけは乗り気でぜひと言っているので、今度お姉ちゃんとみんなでプレイしましょう――
 絢瀬亜里沙はそんな野望を抱くんです。
896 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/02(金) 21:14:57.71 ID:eX+5W8zo0
今日のエピソードを書く前、亜里沙視点の物語は
明日で終わりそう、次からついにエリち視点! 
なんて思っていたんですが、明日本当に終わるか不安です。
おかしい……手書きのプロットだと10行くらいの内容なのに……。

白状しますが、絢瀬亜里沙と綺羅ツバサの設定は亜里沙ルート後に決められた分の比重が
およそ8割弱。
設定を忘れることと、追加されることはあっても、大まかな変更はない所まで来たので、
キャラクター設定のまとめをハーメルンで投稿して、完成次第ここにURLも貼ります。
物語開始当初から一貫して設定がブレないのは、
統堂英玲奈さん、優木あんじゅさん、高海千歌さんの3名しか残っていないので、
作者自身もどこまで信用していいか分かりませんが、面白くなるよう善処します。
では、また明日です!
897 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/03(土) 09:07:57.90 ID:oleaA+qDO
毎日更新ほんと嬉しいわ
898 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/03(土) 15:51:11.98 ID:4zObBktX0
 一時的にオチを迎えてしまった感のある空気になってしまいましたが、
 穂乃果さんの言葉はまだまだ続くことになります。
 
「それから、今日この場に来てくれたみんなへ」

 μ'sや雪穂、またはことりさん海未さんを除いた面々に向けて。
 該当するのは果南さん、ダイヤ、高海さんの3名。
 見送りに行きたいという方たちはもっと多数いたそうですが、
 厳密なる抽選を経た結果、いま空港に来ている人間に落ち着いていて。
 
「μ'sの高坂穂乃果のことは、未来に向けて忘れてくれると助かります。
 これからはμ'sのリーダーではなく、音ノ木坂学院出身でもなく、
 イチ人間として期待を寄せられる人間であるよう努力していきます

 ご承知の通り、過去の私は今が最高と歌いました。
 その気持ちは今でも変わっていませんが。
 最高ではなく、できうる限り最善を尽くせるよう頑張っていくので、
 みんなも、みんなも思う幸せを得られるように邁進していてください」

 今の自分は尊敬を集められるような人間ではなく、
 今日来てくれた友人のために。
 日が落ちてお別れをする時にまたねっていうみたいに。
 対等で、気軽に声をかけられるみんなのお友達でありたい。
 涙は似合わないから笑いながら手を振ろう――。
 この言葉に一番感極まってしまったのは高海さんで。
 分かりました穂乃果さんのためにこれからもがんばります! 
 と泣きながら言ってダイヤが頭痛を堪えるような表情を見せ、
 果南さんがまあまあと言って高海さんをズルズルと引きずって行くのが見えました。
899 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/03(土) 15:52:29.96 ID:4zObBktX0
「そして雪穂」

 なんだかなあという空気になりかけましたが、
 時は巻き戻すことは出来ません。
 流れ始めた水は堰き止めない限りはどんどんと流れ続けていくんです。

「ダメなお姉ちゃんだったね。
 早々に見限られてしまっても仕方なかった
 たくさん迷惑をかけました

 いまユキちゃんはそんなダメなお姉ちゃんを見て
 立派にしっかりと自分にできることを頑張ってくれています
 妹の成長を見て、もう追い抜かれちゃったかなって思うんだけど
 まあ、それだとちょっと恥ずかしいからさトルネード投法MONOみたいな感じで頑張る!」
「私はお姉ちゃんが大好きだったのは事実だけど――
 尊敬をしたことなんか一度もない。
 姉妹って、血縁ってそういうんじゃないからさ。

 別にお姉ちゃんは立派じゃなくてもいいし、ちょっとゆるい感じのほうが似合ってるし
 無理に頑張りすぎないでもいいとは思うんだけどさ
 もう、私たちに置かれた状況がそれを許さないでいるっていうのは――
 バカな私でも気づいてしまったから

 だから応援する。
 私も頑張るから、お姉ちゃんも頑張って――

 あと、大リーガーはMONOじゃなくて、野茂ね、それだと消しゴムだから」

 今度は穂乃果さんがオチをつけてしまいましたが、
 雪穂がクールに軌道修正をしてくれました。
 この場にお姉ちゃんがいれば、ユキちゃんだけにクールね! と空気を読まずに言って、
 ズルズルと果南さんに何処かへと引きずられていくに違いありません。
900 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/03(土) 15:53:37.87 ID:4zObBktX0
 そういえば、理亞の中ではルビィさん、善子さん、果南さんの順に好感度が高いらしく。
 ルビィさんが飛び抜けて好きだそうですが、水ゴリラと叫んでヘッドロックをされるのが、
 おっぱい柔らかくて気持ちがいい! って言っていて、歪んだ愛情は胸に秘めておいてと、
 忠告を重ねておくべきだったかも知れません、今度会った時に言っておきましょう。

「最後に――あは、まあ、もうちょっと言いたいことはあるんだけど、
 海未ちゃんとことりちゃんへ」

 ことりさんは笑顔を浮かべながら、海未さんはもうすでに少々感極まった状態でした。

「これからは独立して生きていけるように頑張るから
 今まで二人にはさんざん頼ってきちゃって、恥ずかしいくらいだったね
 あと――虹ヶ咲学園というところに、9人組のスクールアイドルが誕生する計画があるらしいの
 海未ちゃんとことりちゃんには、彼女……あ、まあ、共学だから男女混合かもしれないけど
 力になって欲しいって思うんだ」
「理由を問いかけてもよろしいですか?」
「私たちがスクールアイドルだから――じゃ、ダメかな」

 穂乃果さんが大学生活の初頭に著しく精神的苦痛を味わった時期に、
 スクールアイドルであることを卒業しようと決意してしばらく。
 そのトラウマが晴れ始めた頃にAqoursが台頭し、高坂家及び穂乃果さん自身も
 ――ついでに言えばストーカー野郎に粘着されていて困っていたお姉ちゃんも、
 過去にμ'sであったことが嫌になってしまっていた時。
 その過去がキッカケでμ'sとAqoursの交流は上手く行かず。
 上手く行かなかった昔を戒めて、未来へと新しく旅立っていこう――。
 μ'sからは海未さんやことりさん、もうすでに虹ヶ咲学園の一部の面々とお姉ちゃんは
 交流してしまっているのでお姉ちゃんを加えても良いかも知れませんが。
 Aqoursからは花丸さん、ダイヤ、ルビィさんがサポートにつくことになります。
901 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/03(土) 15:54:29.97 ID:4zObBktX0
「穂乃果が言葉足らずであるのは、いまに始まったことではありません。
 ですが、いつまでも過去のことを粘着していても仕方がありませんから
 未来のスクールアイドルたちが幸せになれるよう、
 園田海未も協力していきます」
「私も同じ気持ちだよ? 本業が優先だけど――ふふ
 自分のデザインした服が有名になるように、彼女たちには頑張って貰って
 アメリカに行ったら可愛いお洋服がないかも知れないから穂乃果ちゃんにも郵送して送ってあげるね
 だいじょうぶ、お店の在庫だから」
「えー、それじゃあ、私じゃなくてお洋服が有名になっちゃう。
 あと、どうせなら新作を着させて、ステージで披露して
 アメリカの人たちをことりちゃんのお洋服のトリコにしちゃうから」

 ことりさんのとりこという言葉を聞けば、お姉ちゃんはおそらく。
 なるほど! ことりだからとりこなのね! とドヤ顔をして発言し、
 果南さんにヘッドロックを喰らってしまうかも知れません。
 胸の感触にハマるようであれば、私も練習しておくことにしましょう――。

「それから――幸せになりましょう。
 自分自身が幸福であるよう努力を重ねる。
 不平や不満があれば、自分に至らぬ点がなかったのか振り返ってみて
 喜ばしいことがあれば、誰かに気持ちをおすそ分けができるように

 ネガティブな感情はポジティブに切り替えるように
 ポジティブな感情はさらにさらに膨らませて幸せになれるように
 一番はじめは、自分自身のために生きていきましょう。
 自分本位じゃなくて、世界の中心は自分ではなくて。
 誰かの悪口や、誰かの噂や、誰かの評判に振り回されることなく、
 独立した立派な人間であるように。
902 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/03(土) 15:55:19.11 ID:4zObBktX0
 絵里ちゃんみたいに、誰かのために生きていけたら素晴らしい。
 力があれば世界だって変えていけるかも知れない。
 でも、私たちみたいなフツーの人はそんな生き方をしてたら迷惑をかけちゃう。
 人の迷惑は人の不幸に繋がるから、自分がたとえ幸福だったとしても
 まわりまわって結局自分の不幸にも繋がってしまう事柄だから。

 だから行きます。
 私は私の幸せを掴んで――いつかみんなに幸せのおすそ分けができるように」

 私自身も涙を流したいのはやまやまではありましたが。
 ここは、笑顔で見送るのが一番だと思ったんです。
 だって、明日の遊ぶ約束をする友達には、
 またねって言って笑顔で見送るでしょう?



 自分自身のために、絢瀬亜里沙に戻ることを選択した私は、
 多少恥ずかしいことではありますが、素直に生きることが恥ずかしいこととは
 私は思いもしませんので。

「あ――り――」

 また引越社ですか、と思ってお姉ちゃんの顔を見ます。
 見間違いかと思いましたが、閉じられた目が少しずつ、少しずつ開いてき、
 ああ、また過去の世界にいるのかと、最近はほとんど寝ていないから、
 妄想の中にいるのか、現実をきちんと生きているのか判別できない時があると――
903 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/03(土) 15:56:28.16 ID:4zObBktX0
「――おばあさまのボルシチたべたい」
「……ッ!?」
 
 見開かれた目で私を見て、最初に自分の食べたいものを告げる。
 少しだけ腹が立ってしまったので、目を覚ましたら押すようにと言われていたナースコールを押し、
 有無も言わさずに病院スタッフの方々に連れて行かれるのを見送りながら、
 私は電話をかけようとし――病院内は通話が禁止だったことを思い出し、
 震える両足をしっかりしろと叩いて、荷物を持って病院の外へと向かいました。
 ツバサさんに状況を伝えるために、それと。
 仕事を放棄して病院にいて、暇だから自分の会社のソフトの宣伝をし、
 病院スタッフからエロゲーの人扱いされているヒナに喜びを伝えるために。



「ウチの黒魔術があんまり浸透していないようやんな?
 イオリさんはどない思いますん? この人間の抵抗っぷり」
「あの絢瀬絵里を舐めて貰っては困る、お前の暗示くらい容易く打ち破るさ
 それと、メグミの情報ではついに絵里が目を覚ましたそうだ、
 ようやく僕も動き出すことができる」
「ウチの力は過去に天変地異も引き起こしたんやけどなあ……
 UTXのコぉにかけた暗示が解かれるなんて、
 絢瀬絵里っていうのは人間じゃないんとちごぉ?」
「お前はまだそんなことにも気づいていなかったのか、
 絵里は神だよ、僕の理想、奇跡の体現者。
 だからこそ、この僕の妻となるべき存在なのさ」
「さよか……それで、その妹の亜里沙ちゃんはどうするつもりなん?」
「愚問だな、あいつには然るべき地獄を見せてから僕自身の手で叩き潰す。
 メグミをだいぶ信用しているようだが、実は裏で僕と繋がっていると知れば、
 あのすまし顔が苦痛に歪むのが簡単に想像できるようだ」
904 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/03(土) 15:57:44.41 ID:4zObBktX0
「μ'sの東條希にはウチも借りがあるやんなぁ……まあ、そのついでやん?
 メグミ……あの子、本当に信用できますん?」
「妹が兄に逆らうわけがないだろう? それに実際、よく言うことを聞いてくれている。
 絢瀬亜里沙だけではなく、僕に敵対した奴らの情報もよく仕入れてくれた。
 全てはこの、南條伊織の手のひらの上だと言うわけさ!」
「――南條ってお母さんの旧姓やろ? メグミが仮に名乗ってる、あんたの名字は南條やないって、メグミおったんか」
「はい、あにさまもお久しぶりです。全てはあにさまの手はず通りに」
「絢瀬亜里沙には感づかれてはいないな?」
「もちろんです、彼女はあの日以降、ずっと病院のベッドから動こうとしない――いや
 もうすでに目を覚まさなくなっているかも知れませんね?」
「ククク……無様だな! 僕に逆らわなければもう少し長生きできたものを!
 あとは、絵里を迎えに行く準備だけだ……」

 部屋の一室に高らかに響き渡る声を聞きながら、
 私、南條愛はこう思ったのです。
 ――妹より優れた兄などいないと。 
905 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/03(土) 16:02:33.45 ID:4zObBktX0
亜里沙ルートのラスボスが登場しましたが、
もうすでに敗北フラグが立っていることを過剰に表現してしまった気がします。

これから絢瀬絵里視点の物語に移り、
亜里沙ルートのエンディングまでもうちょっとだけ続きます。
では、また明日。
906 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/03(土) 21:28:30.61 ID:5KnNh7/RO
いかにもすぎてもうねw
ガチ恋拗らせるとこうなるのかぁ…
907 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/04(日) 15:13:49.83 ID:w17GQmTQ0
 自分自身の身体が、まるで誰かに操られているかのような。
 この世における存在ではない、超常的な力で揺り動かされてしまっているような。
 意志であるとか、脳であるとか、神経であるとか、
 あいにく、学のない私にはどのような理論で身体が動かされているのかは、
 まるでまったく見当もつかないのだけれど。
 自分の身体が自分の意志に関わらず動いてしまって、
 なぜか周りに驚嘆されるような結果を生み出してしまって、
 私の行動如何に関わらず、理由もなく持て囃されてしまうことが、
 自分の人生において幾度となく存在したというのをここで白状しておく。

 頼りにならない記憶を思い返してみれば、
 幼少期ロシアでバレエをやっていた時分、
 私がやりたいとか、バレエを一族の誰かがやっていたとか、
 そんな事情は何ひとつもなく。
 ある日突然バレエの教室に連れて行かれて、
 それを妹が見ていたから、ええ格好しい気持ちが働いてしまったのか。
 私は始めてやったダンスで超常的な動きを発揮してしまった。
 人より上手に踊ってやろうとか、自分が才能にあふれていそうだからとか、
 子どもの時にありがちな、世界の中心は自分思考に陥ることもなく。
 なんだかよく分からないけれどできてしまったのである、
 今でもなぜ人よりも上手に踊れたのかは分からないけれど――。
 絢瀬絵里の人生において、人が苦労していることに限って上手に出来てしまって、
 なんだか知らないけれど人から恨みを買ったり、むやみに称賛されていたりするのであった。
 バレエに至っては、最初飛び抜けて優れた才能を発揮したのが大きかったのか、
 練習を重ねれば重ねるほど、ちょっと人よりもできるレベルで落ち着き。
 おばあさまの勧めに従って日本に来てからは一度も踊っていなかったりする。
908 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/04(日) 15:14:30.06 ID:w17GQmTQ0
 自分の人生において一番役に立った自分の才能は、
 おそらく料理とか家事に関するものであると認識している。
 これに関しては最初から上手にできたわけではなくて、
 不出来な料理をおばあさまが褒めてくださったのが大きく影響していた。
 上手くやろうと思えば思うほど、ドツボにはまって才能を劣化させていくというのが、
 絢瀬絵里の強烈な欠点でもあり、人間味溢れる部分なんじゃないかと、
 何処かへと昇っていく身体なのか、それとも魂であるのか。
 自分自身を見下ろすようにして、ここではない、どこかへと向かう最中、
 ふと気づきを持ってしまったのだった。


 掃除機に飲み込まれていくホコリみたいに、
 自分の意志に反していずこかへと引っ張り込まれた私は、
 水の上をぷかぷか浮かぶような感覚を持ちながら、水中を沈んでいた。
 どちらかといえば、朝目が覚める時にもうちょっと眠っていたいと感じて、
 身体を揺り動かしてまどろむ感覚とよく似ている。
 確かに水の中にいるような感覚は持ち合わせているのに、
 一つも苦しくなくて、それどころかまわりの景色に感動すら覚えていて。
 ダイビングをした経験はないのだけれど、
 すごくきれいな海の中を潜水するというのは、
 もしかしたらこんな景色が待っていたのかも知れない。
 なんだか、もう会う機会はないような気がするのだけれど、
 松浦果南さんにいろいろと教えてもらって、夏の内浦の海を泳いだら、
 こんなきもちのいい景色が待っていたかと思うと、なんとなくやりきれない。

 誰かに呼びかけられているような気がして、
 なんとなく温かい気持ちになるんだけれども、眠っているのが心地よくて、
 身体を起こすことがまどろっこしくて仕方がない。
909 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/04(日) 15:15:16.24 ID:w17GQmTQ0
 生徒会室でうたた寝をして夕日が沈んでいる景色を一人で見た時、
 夢の中にもっといたかったと思った記憶が複数回あるけれど。
 目を覚ませば、自分に都合の悪い現実が待っている気がして、
 怖いと言うべきか、不安というべきか。
 とにかくまあ、ネガティブな感情が揺り動かされる。
 ただ、目を覚まさずにいれば鬼のような表情をした妹に、
 まったく本当に使えない姉ですねと言われる方が怖くて。
 目を開けるのも地獄、寝ているのも地獄なら、どちらかといえば起きたほうが良い。
 そう判断して体を起こした。


 自室に取り付けられたと思わしき窓からは、水平線を臨むことが出来た。
 大型船の船の中であるのか、心地の良い振動と、気分良く感じる温度に、
 触り心地の良い掛け布団に敷布団、柔らかな枕。
 久しく感じていない、自分がその場にいることを望まれているような、
 そんな歓迎のされっぷりに夢うつつの中にいるのではないかと思う。
 これがもし豪華客船の中であるのならば、一泊おいくらくらいするのであろう? 
 煌めく太陽に照らされる見たこともないような豪華な調度品の数々をみやり、
 自分の荷物と思わしきトランクの中を覗き込むと、数冊のアルバムと衣服が出てきた。
 衣服と称するべきか、衣装というべきか。
 μ'sで一番私が気に入っている、それは僕たちの奇跡を歌う時の衣装があった。
 流石に最近お気に入りのパジャマ姿では外に出ることが出来ないので、
 こちらのほうが幾分かマシであると判断し、衣装に身を包んだ。
 それからしばらくして、壁にかかっていたスピーカーから声が聞こえてくる。
 聞いたこともない声だったけれど、耳心地が良くて、
 熟練の声優さんであるみたいな、調子の良い言葉で放送が流れる。
 この客船の名前がダイヤモンドプリンセス号というのに、どてっと転びそうになってしまい。
 恥ずかしい恥ずかしいと思いながら続きを聞くと、最後に声の主の名前が耳に入り、
 私は全てを察することになる。

 
 声の主は、もうすでに亡くなられたと聞いていた渡辺曜さんのお父様で。
 ここから見える景色は、海ではなくて三途の川の途中であることに。
910 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/05(月) 04:41:35.04 ID:yB7GvtL/O
かえってこーーーい
911 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/05(月) 15:09:30.51 ID:GQesSRIl0
 自室から外に出た時に、不安が棘のようにチクチクと心を刺してきた。
 暖房が利いているのか、それともいないのか。
 先ほどまでは春の陽射しに包まれていたような心地よさであったのに、
 寒いわけでもなく、暑いわけでもなく、愉快不快の感情を抜きにした、
 温度を感じ取るという行為ができなくなっていることに驚いた。
 それは死者という立場に片足を突っ込んでいるせいであるのか――
 なにせ、自分が鈍感であるのは身に沁みて知ってはいるんだけども、
 よく分からないけれど、明るい感情がじわじわと削ぎ落とされる恐怖感を
 常に感じている状況に私は震えた。
 一歩足を踏み出すのを躊躇してしまうほどに、心の中にもやもやとした感情が、
 湯気のように浮かび上がってきて、温度はわからないのに手にじわっと汗が出てくる。
 息を深く吸い込んで、まっすぐ前の一点を見つめながら、
 震える足を踏み出していくと、耳に誰かの会話が届く。
 老若男女――年齢や性別は分からないけれど、誰かが話しをしている。
 そのことだけは分かる。
 道を歩いている時に、雑踏の中で自分の悪口とか――悪く言われていることが、
 不意に耳に入ってくるのと同じように、とりとめのない会話が耳の中に入ってきて、
 口の中に手をツッコまれて心の中をかき混ぜられているみたいに、
 気分の悪さと心の痛み――涙が出そうな感情が呼び起こされる。
 恐怖に似た感情が次々と呼び起こされ、胸に集ってくる。
 喉に食べ物が詰まったみたいに息苦しく、熱に浮かされているかのように
 平衡感覚というものが次々と無くなってくる。
 フラフラとよろめいてしまい、壁に手を這わせて身体を支えていると、
 心臓の音が耳に入ってきた。
 トクトク……という小さな音から、何百メートルも全速力で走った後みたいに、
 汽笛のように大きな音をしながら、そんなに勢いをつけて動いたらいずれ動かなくなってしまう――
 そんな死の感覚を如実に感じうる心臓の鼓動を感じた。
912 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/05(月) 15:10:14.96 ID:GQesSRIl0
 天国に行くにしろ、地獄に落とされるにしろ、
 今までの生き方が理想的だったにせよ、俗物的だったにせよ、
 さすがに絢瀬絵里を虐め過ぎではあるまいかと嘆きたくなってしまう。
 ただ、この場で力尽きて崩折れてしまえば、本当にどうしようもない状況下に追い込まれてしまう。
 逃げ出したかった、誰かに助けを求めたかった、泣き出して叫びたくなった。
 早鐘のようになる心臓の音を聞かなかったことにして、涙目になって霞む景色を睨みつけるように、
 這いつくばるように前に進み続ける。
 どこかへ――ラウンジにでも繋がっているのだろうか、廊下の先に光が見え始めた。
 先ほどから、誰かの会話は聞こえるのに人一人見当たらない恐怖を覚え、
 これがスプラッタ映画とかだったら、安心した瞬間にミンチになっているだろうな――。
 そう思ってしまったらなんだか笑いに似た感情が浮かび上がってきた。

「本当にあの人はどうしようもない人です」

 亜里沙がいるのかと思った。
 周りを見回してみたけれど、壁とかの無機物がその場にあるばかり。
 豪華客船のラウンジの一部分にいるという状況は分かるけれど、
 なぜ自分がこの場にいるのか、なぜこんな状況下に陥っているのか、
 一つも分からないままに妹の――感情の籠もっていない……いや、
 私をひたすら侮蔑するような、この世に存在することすら不愉快だと忌み嫌うような、
 冷徹どころか、絢瀬絵里という存在を見たり聞いたりするだけで虫酸が走るというような、
 ここまで毛嫌いすることもないのではないかというような、亜里沙の声が聞こえてきた。
 彼女が誰かと会話をしている――聞きたくはないけれど、聞かなくちゃいけない。
 もし、もしも許されるのならば、心の裡を知って相手に理解を求めてみたい。
 それが血の繋がった妹にできることであろうから。
 
「あの人が私の家族というだけ――
 いや、血がつながっていると言うだけで不快で死にたくなります」
913 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/05(月) 15:11:04.86 ID:GQesSRIl0
 耳に届く辛辣な言葉。
 辛辣と言うか、言葉で人を殺せるのならば私は何回か死んでいるレベルの罵詈雑言。
 それが冷徹でキャリアウーマン時の妹であるならば、多少は平気な部分があれど、
 声色は明らかに、お姉ちゃんお姉ちゃんと慕っていてくれていた時期のあどけない妹の声。
 憎悪と呼ぶべき憤懣やるかたない衝動を湧き上がらせた彼女の言葉は、
 それぞれが鋭いナイフであるかのように続々と私の精神を突き刺して、
 吐き倒してしまいそうで、泣き叫んでしまいそうで。
 わがままを言う子どものように両手足をバタバタと震わせながら癇癪を起こしてしまいそう――

「絵里ちゃんってさ、なんていうか――人と関わると人を苦痛を味わわせるよね」

 穂乃果の声。
 実際、穂乃果の冷徹な口調と声色なんて今までの人生において聞いたことはないから、
 それが本当に彼女であるのか極めて疑問ではあるんだけれど。
 敵意むき出しの、ついうっかり剣山に触ってしまったような痛みが一筋の涙に変わった。
 穂乃果がこんなことを思っているわけでも、感じているわけでも、
 ましてや言ったのを聞いたわけでもないのに、明確に自分が悪いとも相手が悪いとも思えない。
 宙ぶらりんな気持ちの辛さだけが心の中にしこりとなって残り――

「絵里を見ていると――両親を目の前で殺され
 その仇が幸福そうに過ごしているのを見たかのような、
 冷たくも熱い感情が浮かび上がってくるようです」

 海未の声。
 いつも心優しく――それはもちろん厳しい部分というのも多分に存在する彼女ではあるのだけれど。
 その厳しさは愛情の裏返しであることを私も――穂乃果も知っていた。
 少しくらいは喧嘩をすることもあるけれど、衝突を重ねたことだってあったけれど。
 燃え盛るような憎悪を瞳に湛え、私を見詰めながら今のセリフを言われてしまったら、
 おそらく心が一発で折れていってしまったであろうな、なんて思う。
 一度湧き上がった悪意の心に火を焼べるように、どんどんと悪い感情が流れていきそうに感じ、
 私は奥歯を噛み締めて前を見つめた。
914 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/05(月) 15:12:24.73 ID:GQesSRIl0
「人間には良い面も悪い面もあるけれど――
 こと、エリチカに限っては悪い面しか見当たらんなぁ……
 本当に人間であるのか怪しいくらい、邪悪な気が漂ってる。
 お互い様という言葉があるけれど、彼女に限っては――
 ほんと、迷惑しかかけられなかったんなあ……」

 親友である東條希の言葉が耳に入る。
 たとえ晴れ渡るような青空を見上げたとしても、冷たい雨が降りしきるのを見るかのような。
 どんなに美しい景色を見てもくだらないと感じてしまうような、心根の卑しさが、
 私自身の感情の中に次々と浮かび上がってくる。
 愛おしいという気持ちが、好意的な気持ちが、次から次へと憎悪に変わっていくのを感じ、 
 目の前が赤く燃え盛っているかのように、怒気が目の前に壁となって現れているみたいに、
 かつて友人だった人たちを、心の底から――

「違う! 私の仲間は! そんな事は言わない!」

 心の中の靄々を断ち切るように、私は高熱で言葉を発するのも苦しいみたいな感じなのに。
 耳に届いた自分の声は恐ろしいほどクリアで、前向きだった。
 私自身の言葉に感化されるように、どんどんと悪い感情が吹き飛ばされていき、
 涙で曇っていた景色が、徐々に鮮明に映っていく。
915 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/05(月) 15:13:55.73 ID:GQesSRIl0
 船の中だと思っていた景色が、聞こえ続けていた声が、次々と吹き飛ばされていき、
 目の前にいるのは小さな女の子。
 暗い――本当に真っ暗な風景の中で膝を抱えた少女に私は見覚えがあった。

「西園寺雪姫ちゃん……?」
「――お久しぶりです、絵里お姉さん。
 こんな私をお見せしたくはなかった……でも、絵里さんが悪いんです」
「仕方ないわ、だって、絢瀬絵里ってそういう人間なんだもの」
「ふふ……これからの道のりは、一般的に地獄と表されるものです。
 ですが、絵里お姉さんなら――もしかしたら」
「乗り越えられる?」
「私が知る限り、乗り越えられた人なんていませんけど――ね?」

 雪姫ちゃんはまっすぐ手を伸ばし。
 私はその手をしっかり掴んで、お互いに笑みを浮かべた。
 もし、これから自分に起こる出来事が閻魔大王だかなんだかよく分からない神の意志だったとしても、
 なんとかなりそうな気がしない?
 ――絢瀬絵里って期待されると裏切るけど、
 期待されないとそれなりの結果は常に生み出していく生き物であるらしいから。
916 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/06(火) 02:37:47.80 ID:E0BCwHuD0
頑張って完結してくれ
917 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/06(火) 15:14:12.12 ID:R1Ag20VK0
申し訳ありません、作者です。
この度絢瀬姉妹の父親のモデルになった人物と殴り合いの喧嘩をしまして、
右手を負傷してしまいました。
左手は動くのですが、右手はバイト中1円玉を持つことさえ四苦八苦する始末で、
病院に行ったら間違いなくドクターストップかかるってことで、右手の状態は分かりませんが。
骨は折れてないとは思うんです、青くなって膨らんでますが、多分だいじょうぶ、作者は元気です。

ボールペンやお箸も持てないので、ちょっと更新滞りますが
再開した暁には楽しんで頂ければ幸いです。
918 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/06(火) 17:26:38.34 ID:EHG2t2HM0
綾瀬姉妹の父親にモデルがいたとは…リアル殴り合い喧嘩は辛い…
とりあえず快復優先で、乙です
919 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/06(火) 22:06:30.02 ID:50C0j0eSO
ぐおお…いいところなのに
モデルの人物許すまじ
920 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/12(月) 12:01:19.55 ID:gzP7JVIPO
待ってる
921 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/13(火) 18:13:08.79 ID:dntCV53P0
お久しぶりです。
右手の強烈な痛みは続きますが、
タイピングには支障は全くありません。

ただ、仕事上肉まんを入れたり、ファミチキ入れたり――
そんなトングを使う行為と手書きでの作業が苦しく。

手書きでプロットを書いている自分には致命的な痛みで、
しばらく亜里沙ルートはお休みさせて頂きます。
そのかわりと言ってはなんですが、
現在リメイク作業に終始しており、1レスSSの方もちゃっかり
何作か完成して、本当タイピングには支障が無いのはあまりに悲しい。

色々試したいこともあり、亜里沙ルート番外編のリメイク作業中ですが
お察しの通り、現在進行している亜里沙ルートとは全く関係のない話です。
設定くらいしか一緒のところがないのであれなんですが、
少しでも時間つぶしになれば幸いです。

https://syosetu.org/novel/165937/

URLは↑になります。

亜里沙ルートはこれから、
高坂穂乃果、東條希から見た絢瀬絵里という
コメディシーンに入り
そこから、絢瀬亜里沙の幼少期の生活、
そして絢瀬家両親との決着と、
かなり暗い話が続くので、できれば毎日更新できる状態で
物語を進めていきたいので、
ワガママになりますが、しばらくお待ち頂ければ幸いです。
922 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/13(火) 22:50:32.89 ID:mFD4RBNA0
いくらでも待つから完結まで頼むぞ!
923 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/16(金) 19:59:37.26 ID:5zByhSRP0
 西園寺雪姫ちゃんと二人で真っ暗な道を歩く。
 地獄の一歩手前みたいな場所は、当然街灯など付いていない。
 LED照明などで照らされているわけでもないので、こうして小学生くらいの彼女に
 手を引かれないと歩いてなどいられない。
 暗い場所はトラウマがあるわけではないけれど、かなり苦手。
 たぶん前を歩く彼女がいなければ、この時点でゲームオーバー。
 雪姫ちゃんも暗闇だけでへこたれている私を見て、どのような感情を抱いているかは、
 ほんとう想像でしかないけれど……迂闊にも喧嘩を売ってしまった手前、
 顔に浮かべる態度だけは余裕をかましているように見えるかも知れないけど、
 ぶっちゃけ逃げたい、あまりに逃げたい、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ……。
 そういえば、最近なろう小説と呼ばれるものを読むとU-1とかスパシンとか思い出すけれど
 読者層が同じなのかしらね? ラノベ読みって40代手前がメイン読者だって言うし。
 小さい女の子と一緒に手を引かれながらアラサーを、神様はどのように見ているのだろう?
 そんな思考をしてみると、なんだか面白くなってネガティブな気分が吹っ飛び始めた。
 雪姫ちゃんがどんな表情をしているのかは、暗くてよく見えなけれど。
 おそらくシリアスな表情をしているんだろうなあって思う、彼女って天才子役だし、空気読めるし。
 私がロリっ子に導かれるままに地獄に向かっていることを想像すると、
 なんかエセりゅうおうのおしごと!みたいだなとか考えているとか、絶対わかってない。
 分かってたら絢瀬絵里はこの場で捨てられてる、
 百年の恋も冷めんばかりの勢いで手を跳ね除けられて、このクズがぁ! とかいわれてもしょうがない。
924 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/16(金) 20:00:28.92 ID:5zByhSRP0
「絵里お姉さん、この先には見たくないものがあると言われています」
「え、スプラッタとか? ゾンビ映画とか?」
「――心証で言うならば的確かもしれませんが、もう少し心に迫る鬱々としたものです
 人の感情に由来する、薄汚いものが」
「それはまた、見たくないものね」

 だんだんと視界が詳らかになってきて、夕焼けの中にいるみたいな、
 赤い光に包まれた幻想的な景色の中で。
 ギャルゲーのイベントCGみたいに、死亡フラグでも立ってそうな雪姫ちゃんが
 悲しみに満ちた切ない表情を浮かべている。
 ダイプリの真姫……いや、真姫じゃないけど真姫でいいや。
 ルートに入る前に不治の病に冒されていることが判明した彼女が、
 頑張ると言ってその時に選択肢が出る。
 励まして元気づける台詞と「頑張るのは医者だろ」みたいな台詞の二択で、
 前者を選ぶとバッドエンド直行して、多くのプレイヤーが煮え湯を飲まされた。
 理亞さんもプレイ当初にバッドエンドに行き、後日ヒナにあの選択肢はおかしい! と言いたかったそうだけど。
 西木野真姫と交流を深めた際、そりゃそうだわと納得したとか。
 でも、あの子も処女だけど、真姫さんも処女なんですよね? と理亞さんに言われたら、
 やっぱりメインヒロインはそうでないと暴動が起きそうだもんね? と答えるのはどうだろう?
 理亞さんはハラショーって言って盛り上がったけど、周りの空気は微妙だった。
925 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/16(金) 20:01:39.32 ID:5zByhSRP0
 さらに雪姫ちゃんとその先を進むと、大きな扉が現れた。
 ケルベロスとか地獄の番犬と呼称されるモンスターとかが、哀れな子羊を待ってそう。
 仮に勇者絢瀬絵里の物語だったら、別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?
 と、大言壮語を言い放ち、3秒でヤムチャになるね、自信がある。
 もしかしたら私が六回殺されてるかもわからない。 
 私はその大きな扉を見上げながら、華美な装飾に包まれたそれを見て、
 その先に待っているであろうものを想像して少し震えた。
 地獄のような、のようなものならば人生において数度体験したことはあるけれど、
 本当に地獄に行くなどとは思ってなかったので、もっと真面目に体験しておけばよかったかも。

「絵里お姉さん……私はサポートすることしかできません
 力添えは出来ませんが、常に味方でいると誓います」
「わかった、こういう時一人じゃないっていうのは大事だから
 もうこんな年齢ですもの、少しくらい努力は重ねておかないとね」

 いかにも余裕と言わんばかりの態度で笑顔を作り、雪姫ちゃんの顔を覗く。
 彼女はそっと目を伏し、辛そうに肩を震わせたけれど。
 私は見なかったふりをすることに決めた、ここ最近は人を泣かせてばっかりな気がするな?
 死にゆく途中でμ'sのみんなの泣き声を聞いた気がしたから、
 ああ、でも、ことりや凛が泣くわけないか、にこあたりも怪しいな……希は……
 穂乃果あたりはお情けで泣いてくれるかも、海未と真姫は結構親しかったから……
 花陽にはコシヒカリを送っておこう、きっと感涙してくれる。
 下手したら自分が死んだときよりも泣いてくれそうだけど、まあ、そういう扱いで良いんじゃない?
 私はまっすぐ前を見て、一つ息を吸い――
 ツバサが私を忘れてるみたいな目を向ける想像をして、
 違うのよ違うのよと言い訳を心の中でしながら歩き出した。
926 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/16(金) 20:02:20.42 ID:5zByhSRP0
 春の日の音ノ木坂学院。
 げに懐かしい学校の姿に、古木の桜の上に私たちはいた。
 例えるなら桜の妖精みたいだけれど、周りからは見えていない様子、
 仮に見えていたとしても困っちゃうけど、あいつ生徒会長だろとか言われたら落ち込むよ?
 かつて見た新しくなって華美になった制服とは違い、自分が通っていた時代の――
 廃校問題でピリピリして、周りにやたらと壁を作り、思い出したようにアコースティックギターにハマり。
 周囲からの扱いはなんだこいつだったろうし、今でも多分なんだこいつではあるんだろうけど。
 見たくないかと問われれば確かに振り返りたくない記憶ではある。
 できればμ's加入以降の私が見たい、ボロは出たけど、過去よりもマシ。

「絵里お姉さんが高校二年生の春みたいですね」
「ということは、新入生でやって来るのは穂乃果たちか」
 
 あまり記憶にはないけど、とりあえず生徒会役員として忙しなくいたのであろう。
 自分がとりわけ色々こなしているのを見るのかと思えば、少々憂鬱だけど。
 あんまり力もないくせに人に頼るのが苦手な私が苦労したのは、
 やっぱり人手がいる作業だった、希はあんがい力仕事はサボりがちだったし。
 そして気がつけば校内へとやってきていた。
 さてさてどんな景色をみるのかと考えていると、
 南ことり、園田海未、高坂穂乃果の姿が体育館の前に集っている場面だった。
 海未と多く付き合っているせいで分からなかったけれど、
 10年前のことりや穂乃果というのは幼い顔つきをしていたんだね……。
 なんかやたらと罵倒される確率の高い南さんの記憶があやふやだ。

「本当にだいじょうぶなのですか穂乃果、校内の地理もまだ把握してはいないのでしょう?」
「お手洗いくらいは行けるよ! だいじょうぶ! 私を信じて!」
「では何故、先ほどお手洗いに行かなくても良いのかと問いかけた時に平気と……」
927 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/16(金) 20:03:16.58 ID:5zByhSRP0
海未は穂乃果に神経を注いでいる。
 ただ、彼女たちも入学式の出席があるのか、
 多少後ろ髪を引かれる思いがあったとは言え、両名は穂乃果を自由にすることを決めたみたい。
 真面目な部分は変わらないようで――あと、ことりは基本的に二人に対してノータッチみたいで。
 おそらく心の底ではすごく心配しているのであろうけど、穂乃果や海未を尊重している様子。
 過去の自分を事なかれ主義の甘ちゃんと称したことりを見たことがあるけれど、
 私の周囲の人間ってそんな人間ばっかりじゃない? 自分がその代表であることは自覚してるけど。
 穂乃果はお手洗いとは逆方向に歩き出し、案の定迷った様子。
 私は慌てて声をかけようとして、雪姫ちゃんに無理ですと止められた、そりゃそうだ。

「これは問題だ……トイレ行きたい度合いも問題だし、ここがどこなのかも分からない」

 穂乃果のつぶやきにリプをかっ飛ばそうとした絢瀬絵里ではあったけど、
 当然届くわけもなく歯噛みする思いがした。
 誰か助けを求められる人材はいないかと彼女と一緒にあたりを見回すと、
 出てきたのは紛れもなく私自身だった。
 以前見た写真みたいに憂鬱そうな不幸面を携えて、
 何か仕事でも抱えているのかアンニュイなため息をつこうとして、穂乃果の姿が目に入ったらしい――
 キリリとした真面目そうな表情を作り、困っていませんが何かみたいな顔をする。
 頭を抱えたくなる衝動が浮かんできたけど、雪姫ちゃんにこれが地獄の一丁目です! と実況され、
 確かに黒歴史を見るっていうのはメンタル面のダメージ大きいと思った、とてもつらい。

「そうだ! あの人に声をかけてみよう!」

 当時怖いもの知らずであった穂乃果は、金髪ポニーテールと言えども、
 そして何より、ヒナにダイヤモンドプリンセスと称された硬度高そうなヤツ相手にも
 なんの遠慮もなくコミュニティの一員にしてしまおうとしてしまう。
928 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/16(金) 20:03:43.88 ID:5zByhSRP0
 私はと言えば、やめろ! それは罠だ! あいつはお前の知っている絢瀬絵里じゃない!
 と必死になって思考しながら雪姫ちゃんにどうしたんだろうって目で見られてる。

「あのーすみません!」
「……」

 スルーする私をぶん殴りたくなって仕方なかった。
 穂乃果は私の目を見て声を掛けたのに、ぷいっと顔をそらし、かつ無視するという所業。
 こりゃオリ主とかに説教されてもしょうがないわ、絢瀬絵里やばいわ。
 でも、アニメの果南ちゃんを見る限り、彼女あたりも説教されても良さそうだけど、
 そうじゃないのはなんで? 人徳の差?

「どうしよう……きっと英語じゃなきゃ通じないんだ……」

 無視されていると思いもしなかったらしい穂乃果は、困ったように眉を寄せる。
 当然、金髪にも聞こえてはいるだろうけど、明らかにニホンゴワカリマセンみたいに
 黙殺してすたすたと歩き出していこうとするので、結果穂乃果は――

「トラブル! トラブル! ミートラブル!」

 とりあえず困っているのを英単語で表現し、結果絢瀬絵里の同情を引くことに成功した。
 ここで本当に無視できないあたりがポンコツたる所以だと思うんだけれど、
 そして何より金髪が何らかの事情で自身も困り果てているあたり、
 こいつらなんとかならないかなって思った、問題があるのはてめえだと言われれば
 涙目でうつむいてお話を聞かざるを得ない、勘弁して欲しい。
929 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/16(金) 20:14:17.68 ID:5zByhSRP0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1515490691/

こちらもさり気なく再開中ですが、お題の募集は未定。
ひとまずこれから毎日更新を目指して、
亜里沙の過去エピソードまでは頑張っていきます。
よろしくお付き合い頂ければ幸いです。
930 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/16(金) 20:42:49.60 ID:9OGmhO0GO
>>924
これは初見バッド不可避だわ
931 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/16(金) 21:34:17.64 ID:9OGmhO0GO
オリ主の説教()とか的外れなのしかないけどな
932 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/17(土) 09:29:36.62 ID:Y95m5YSR0
 お手洗いに行くことに成功した穂乃果を見てから逃げようとする生徒会役員(笑)
 この時点ですでに会長職に就いていた気もするけれど、
 1年生時から繰り上がりで役職自体は変わってないから、立場的にはおそらく役員。
 ただ、すでにもう仕事を一人でこなしているあたり、
 絢瀬絵里さんの人徳が心配、他者からの好感度はおそらくバッドエンドルート直行。
 しかしながら、金髪さんの誤算は穂乃果はそういう人物にこそグイグイ来ることであり、
 近づいてくる彼女を口調では邪険にしつつも、心の底では安堵してる。
 迷惑そうな顔をしながら、さり気なく距離が近いことに当人ばかりが気づいていない。

「これから入学式なのにお仕事なんですね」

 穂乃果のかいしんのいちげきで会長はぐてっとダメージを受ける。
 会長として挨拶をしなければならないのだろうし、きっと徹夜で文章も考え、
 おそらくメイクで色々とごまかしてる。
 目にクマはあると思う、疲労度80%くらい、体力ゲージは赤バー。
 いつもフォローしている希がいないのは、教師と私との折衝で苦労しているんだろう、
 寝坊しているのでこの場にいないという可能性もあるけど、とりあえずそれは無視する。
 そしてこの場にいる雪姫ちゃんの私に対する評価が心配、
 だって、多くの人からポンコツと呼称される私しか知らないのよ?
 流石にギャップありすぎて萌え要素からは逸脱してない? コメントがないのはそのせい?

「こんな荷物運べませんよ、入学式が終わったら私も手伝うので後にしましょう」
「仕事が立て込んでいるのよ、あなたはさっさと体育館に戻って」
933 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/17(土) 09:30:07.10 ID:Y95m5YSR0
 できないと言われれば反発したくなるお年頃、いや、年というより私の習性?
 青い目、ツンデレ科みたいな感じ、おそらく希はそのあたりわきまえてる。
 ただギャルゲーとかならデレるけど、この人しばらくデレないのよね……。
 とにかくついてきた穂乃果を無視するようにして、ちゃっちゃか重たそうな荷物を持とうとして、
 がくりと力が抜ける、パワプロのサクセスで故障率が高いのに実行したみたいな感じ。

「無茶です! ダメです!」
「あなたには関係ないでしょう?」
「先輩には助けて頂きましたから、今度は私が助ける番です!」

 穂乃果の健気さにアラサーの私が泣きそう。
 視線をそらして仕事をしようとしている人間もこみ上げてくるものがあったらしく、
 クールを装って知ったこっちゃないみたいなこと言ってるけど、完璧に鼻声。
 彼女に手を引かれるようにして色々荷物がある部屋を抜け、
 金髪さんは顔ではしょうがない子ねみたいに言ってるけど、
 どう考えてもしょうがないのは手を引かれている方、我ながら恥ずかしい。
 式が始まっている体育館に穂乃果と一緒に登場し、
 ありとあらゆる人物の視線が向くなか、手を引いている彼女を強引に席に座らせ、
 状況を尋ねてきた教師に迷子を連れていたのでと言ってる、
 周囲の心証は迷子はこいつだろで間違いないでしょうけど、当人ばかりが気づいてない。

「絵里お姉さん苦労されてたんですね」
「自業自得だけどね……」

 やれやれと首を振りたい私に、気の毒そうな視線を向ける雪姫ちゃん。
 彼女の見た目は小学生くらいなので、そんな幼女から気の毒な目を向けられるアラサー。
 ちょっとロリ同人としてはフェチ方面に偏ってない?
 ともあれ、会長としての仕事を無難にこなし、
 興味有りげな希を 私何も悪くありませんと言わんばかりにスルーし、
 誰に挨拶するわけでもなく、誰に相手をされるわけでもなく、
 ただひとり孤独に仕事に戻ろうとする、おそらく仕事が友達――
 未来にニートになる人間とは思えない。
934 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/17(土) 09:30:52.57 ID:Y95m5YSR0
「あ、やっぱりここにいた」
 
 心臓が飛び上がらんばかりに驚いているであろう金髪生徒会長に対し、
 ほのぼのとした笑みを浮かべて近づいてくるμ's二年生組。
 自分の記憶を辿れば、おそらく教室で自己紹介なり何なりをしている時間。
 それをすっぽかして哀れな会長を相手にしてくれるのだ、ちょっと泣きそう。
 なお、海未は少々機嫌を損ねているみたい、ことりはニコニコしてて感情が読めない。
 怒りに震えていることはないだろうけど、
 ここ最近の彼女は笑顔でいればいるほど機嫌が悪いので、
 腸が煮えくり返ってることはあって欲しくない、ぴゅあぴゅあであって欲しい。

「あなた達オリエンテーションの途中ではないの?」
「サボっちゃいました」

 簡潔極まりない答えに背後で海未が頭が痛そう。
 経緯はわからないけど、穂乃果がサボって二人が追いかけてきたんだろうか?
想像でしかないけど、海未やことりの中では私は穂乃果を困らせている人間であると思う。
 正解ではあるんだけど完璧じゃない。
 今は違うけど、当時の彼女たちは穂乃果がどういう経緯でその意見に至ったかを
 なかなか想像できないでいたであろうし、する気もなかったと思う。
 気の置けない仲であったからなのだろうし、子どもであったのも理由の一つ。
 結果、穂乃果は大学生活やその他の生活でトラウマ作るんだけど、
 当人よりも海未やことりの方が深い後悔の念にかられているのはその辺の事情もある。

「さ、さっさとお仕事片付けちゃいましょう、お手伝いしますよ」
「好きにすれば?」
935 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/17(土) 09:31:44.83 ID:Y95m5YSR0
 とはいえ、力仕事にあたっては海未の力がなにより重視され、
 ポンコツ絢瀬絵里の数倍の速度でさっさと重い荷物や整理整頓で力を発揮。
 当時にμ's二年生組を生徒会なり、自分の手伝いに引っ張り込んでいれば、
 その後の生活において必要以上に苦労することはなかったのではないか?
 なんて、感慨に至りながら判断するのである。
 取り戻される輝かしい生活を思考しながら――
 やがて私たちは先の扉の前に戻ってきた。

「第一関門は突破できたようです」
「……まだ第一関門なの?」

 疲労度は深刻――
 精神的かつ肉体的にも体力は微妙、とは言え霊体みたいなものだから、
 その感覚は精神的な疲労に委ねられる部分が大きいんだけど。
 第一関門から既に絢瀬絵里で笑おう企画みたいであるけれど、
 神様というのはこういう黒歴史抱えている人間が好きなんだろうか?

「ええと、聞いた話によればこれから進むに従って暗い歴史が」
「疑わしいけれど、とにかく先へ行きましょう」

 第二関門はどんな世界が待ち受けているのか――
 半分くらい気落ちするであろうと思考しながら、諦めにも似た気持ちを抱えつつ。
936 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/17(土) 12:07:59.99 ID:wUnZweWYO
おねロリはいいぞ
937 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/17(土) 20:51:46.28 ID:Y95m5YSR0
 東京の千葉に近い方――俗にいうと都心。
 そこから少し離れた住宅街には東條希が住んでいたアパートがあった。
 売れっ子スピリチュアルカウンセラー(肩書き)になっても、
 高校時代に楽しかった思い出が詰まった場所から出るのは抵抗があったらしく、
 周囲に説得されて渋々、今の豪邸(笑)に転居することになったとか。
 とはいえ、仕事の関係上ホテルに泊まることが多くて
 本当に自室でゆっくり寝たことなど片手で数えるほどしかなくって、
 それを聞いた亜里沙が姉さんとは大違いですねと言って、
 これからがあるからと胸を張ったけど、どうあがいても将来的に希の収入を超えることは無さそう。
 あのイチローがオリックスで貰っていた年俸の二倍くらいとか、
 今のポジションでどう稼いでいいのか分からない、一日に100時間くらいないと。
 しかしながら高校時代の希の視点から見た私など、
 先の黒歴史の披露をふまえて考えれば、さほど大やけどにはなりやしない。
 まだ思い出していない過去があるのかも知れないが、
 希のフィルターを通せば多分だいじょうぶ、神様が嫌がらせでもしない限りは。

「絵里お姉さんが高校一年生時、GW開けくらいでしょうか」
「おかしいわね、まるで記憶がないわ?
 いけないものを見たのかっていうくらい、何が起こるのか見当がつかない」
938 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/17(土) 20:52:25.57 ID:Y95m5YSR0
 首を傾げながら、オトノキ時代の記憶を反芻しようとしても、
 ヒナのこととかμ's加入前の記憶はかなりあやふやであるので。
 中学時代までに遡れば、多少なりとも浮かんでくる部分はあるんだけれど、
 あと、絢瀬姉妹がおばあちゃまに引き取られて以降とかね、うん。
 目の前の風景は目まぐるしく移り変わり、やがて希のアパートに進み出た。
 自分の知っている希がある程度キャラ作りであるのは私も認識していて、
 彼女自身もいつの間にかに作ったキャラが自分自身になってもうてなあ?
 なんて会話をしたことがあるけれど。
 驚いたことに陰気、笑う門には福来たるがモットーの彼女とは思えない。
 性格は内向き全開で、目はくぼんでいて、生気をまるで感じられない。
 陰性丸出しの引きこもり基質を如実に表現していて、
 のちのち行動をともにすることになる同一人物か疑わしかった。
 
「これは真実であるの?」
「はい、過去のエピソードは現実そのままである――と、伺ってます」
「……信じられないけれど、ユッキを疑ってるわけじゃないのよ?」

 友人みたいなあだ名で呼んで欲しいとリクエストされ、
 雪穂ちゃんとかぶらない雪姫を尊重したあだ名と思考して、
 結果的にユッキになった。
 他事務所で活躍している筋金入りのジャイアンツファンのアイドルみたいだけど、
 始球式でアンダースロー披露してファンからの失笑を買った人物とは、
 これっぽっちも関係ない、たぶん。

「しかしあの、希さんとは会話をしましたけど……」
「ええ、少なくとも私がよく知っている彼女とはまるで違う」
939 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/17(土) 20:52:58.65 ID:Y95m5YSR0
 いつかきっとまた会えるという発言をして生前のユッキを励ました希だけど、
 まさか本当に再会を果たしてしまうとは、あの子も思ってないに違いない。
 当時私とは交流が途絶えていたはずなのに、そういえばちゃっかり姿を表してたっけ。
 記憶をたどると海未は3年生組卒業以降毎週のようにリリホワで集まっていたとか。
 うん、考えるのはやめよう。

「どうしたらもっと仲良くなれるかな……」

 最初希が喋ったことに気づかなかった。
 彼女の流暢な標準語は耳に馴染みがなく、かつついぞ聞くことがなかったので、
 自分の生活の大半がキャラ作りと自嘲していたのが真実なのだと認識した。

「声が子どもっぽいとか、胸が大きいとか? 外見が地味とか
 性格が暗いから相手にしてくれないのかな?」

 そういえば声がことりとかルビィちゃんに近い。
 子どもをあやすとか、人形に話しかけでもするとか、
 普段の希とはまるで違う口調や声色に首を傾げ続けて痛くなりそう。
 ともあれ、憂鬱そうな顔色でひとしきり嘆き続けた彼女は、
 やがて自室へと向かい、何をするんだろうなーって思ってた私たちの度肝を抜く。
 ――たしか後々μ'sのメンバー全員でお邪魔した時には、
 希の部屋って不自然に物がないな? とか思ったものなんだけど。
 彼女の自室は絢瀬絵里で溢れていた。
 例えるなら、理亞さんのオタク部屋にある写真とかポスターとか二次元イラストとかが
 徹頭徹尾絢瀬絵里、目を向ければどこでも金髪ポニーテール。
 隣りにいたユッキが怯えたように私に抱きつき、顔色も青い。
 見てはいけない物を見たと感じているのは自分ひとりではないと思ったんだけども、
 やっぱり怖いよ、怖いって、絢瀬絵里を何気なく踏みつけてるのもダメージ大きいよ。

「可愛い……綺麗……私もこんなふうに生まれたかったな……」
940 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/17(土) 20:53:33.70 ID:Y95m5YSR0
 愛おしいものを撫でるように、赤ん坊にひときわ愛情を向けるように、
 絢瀬絵里の盗撮写真を見ながら人形を撫でる希。
 瞳は完全に死んでいて、アンニュイそうな態度で漏れる息は明らかに過呼吸寸前。
 これがもしエロゲーだったら東條希の自分を自分で慰めるシーンが
 ちょっとセンチなBGMで披露されてしまうけれど、そういうことにはならなかった。
 
「何が足りないかな……血とか?」

 聞き間違いかな? って思った時には希は針で自分の指を派手に突き刺してた。
 ユッキの目を慌てて手で覆い、自分を目を閉じたかったけど、流れてくる映像は止まらない。
 嫌がらせか! って叫びたい心持ちで希が人形に向かって血を垂らしているのを
 見ている他なかった、正直自分の黒歴史を見るより心が折れそうだった。

「誰にも渡したくない……自分だけのものにするには……」

 人形に一通り自らの血を分け与えた後、先ほどよりも数倍病んだ目で中空を見上げ、
 声にならない呟き……だと思う、口をパクパク動かして何かと交信してる。
 μ'sの軌跡を放送した(私と2年生組はほぼ無許可かつノータッチ)ラブライブの放送後、
 のぞえりのカップリング同人誌を、自身も妄想の被害(笑)に遭っていたツバサが持ってきて
 すごいすごいと二人して盛り上がっていたら、希は難しい顔をしてそれを眺め、
 愛ってそんな程度のものなの、甘っちょろくない? と言った。
 確かに、愛とはいいつつエッチなことしかしてないわねえと、ツバサと言ってたら、
 
「確かに身体を重ねるのも愛情かも知れないけど、
 それは肉欲と変わらない、本当の愛はきっと、
 引かれてしまうくらい怖いものなんじゃないかなーって……あ、ごめん」

 希が本気でおっかない表情を浮かべながら言うので、
 ツバサと二人抱き合いながら恐怖を感じていたんだけど。
 ――いや、本当に怖かったのよ? 明らかにオーラが龍神宿してたし。
 得体の知れない存在に取り憑かれてるんじゃないかって思ったんだけど。
 それはこんな経緯があってのことだったのか。

「そうだ……誰か参考に、暗くて心に闇を抱えてて
 それでも明るく振る舞ってそうな人を参考にしよう」
941 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/17(土) 20:54:07.81 ID:Y95m5YSR0
 その発言を最後に場面は切り替わり、
 やがて音ノ木坂学院へと周囲の風景が変わった。
 ここではR-15指定みたいな場面は出てこないであろうので、
 ユッキと二人今度は何が起こるのだろう? みたいに顔を突き合わせて、
 さっきみたいに病んだ顔を多少改めている希を眺めていた。
 誰かを呼び出した後なのか、使われていない教室の片隅で窓の外を見ながら
 いくぶん熱のこもった溜め息をついた。
 時間が経ってしばらく、希が呼び出したのはにこだった。
 当時からアイドル研究部の部長としてスクールアイドルとして活動、
 部員との仲違いもあり、冷却期間が長かったと笑いながら言ったことがあるけど。
 
「あれは、矢澤にこさんなんですよね?」
「……自信はないけどおそらくは」

 機嫌が悪いのか、不満でもあるのか。
 いつもの仮面を脱ぎ捨てて敵意を抱えた瞳を希に向け、
 冷徹で暗い印象をもたせるクールな声を出し――

「あんた誰?」
「私はあなたを知ってる、アイドル研究部部長の矢澤にこ
 通称ニコニー――でも、そんな顔を人に向けると
 数少ないファンが逃げちゃうよ?」

 どのような手段を用いてにこを希が呼び出したのかは想像でしかないけれど、
 私がいくら何故仲がいいのか問いかけてみても、出会いの心象はねえ
 みたいなことを言って肝心な部分を教えて貰えなかったのは、こういう事があってのことか。
 刃物の一本でも持ち出せば、殺し合いでも始まってしまいかねない殺伐とした雰囲気に
 ユッキの目を慌てて塞ぎ、自分自身も目を塞ごうとして――諦めた。
 目を閉じても浮かんでくるんだ、いくら拒否しても光景が再生されるから。
942 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/17(土) 20:54:42.41 ID:Y95m5YSR0
「なるほど、喧嘩を売るということはこちらに反発をされることも覚悟してのことね?」
「確信した、普段はやっぱりキャラ作りなんだね」
「何が言いたいの?」
「弟子にして」
「はあ?」

 残念ながらにこと同じ反応をせざるを得ない。
 自らのメリットのために相手を利用する技術に関しては――
 案外使われている確率の高い絢瀬絵里としては、なんだかなあって感じだけども。
 その行為の初披露が矢澤にこというのは初耳だった、あ、初見かな?
 希の名誉のために言っておくけど、メリットがあると言っても
 自分が得するためには相手を利用しても構わないとかそういう精神ではなくて、
 みんなが幸せになるために自分の悪評が広まろうと相手をうまく使うための技術は
 どう考えても私には出来ないことだし――
 自己犠牲精神で物事をどうにかするのは止めなさいと、
 何度か忠告しているつもりではあるだけど、それをエリちが言うん?
 みたいな目をされてスルーされてばかり。

「残念だけど、あなたみたいに陰気な子を弟子にするつもりはないの」
「お友達をスクールアイドルに仕立てて、結果思い通りに行かない――
 そんなことになるくらいなら、私を相手にしたほうがいいよ」
「分かったようなことを言わないで――」
「自分の評判が悪いことは、なかなか気づかないものだものね」

 にこも確信的に希が言っていることが間違いではないと考えているのか、 
 それとも感覚で、ここで遠ざけたところで地獄の底まで追っかけてくることを把握しているのか。
 希が諦めが悪いというのを身にしみて分かっている私が言っても仕方ないけれど。
 興味を持った相手にはなんとかして幸せになって貰わないとという自己犠牲精神は、
 本当に改めて貰わないと、もしも生きて帰ったら懇切丁寧に説明しないと。
943 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/17(土) 20:56:31.90 ID:Y95m5YSR0
「友達を大事にするのもいい、アイドルになりたい気持ちを大事にするのもいい、
 でも、どちらか選ばないと」
「どっちもじゃいけないの?」
「裏切られてからじゃ遅いんだよ、これを見て」

 希がどのような手段を使って手に入れた写真かは分からないけれど、
 過去にアイドル研究部であった――確か、そのうち何人かはUTXとか別の高校に行ったはず。
 オトノキに残った面々もにことは疎遠になり、
 私たちがμ'sとして華々しい活躍をしても近づいてすら来なかった人たち。
 彼女たちがにこをどのように考えているのか、どういう扱いをしているのか、
 指さして笑う姿であるとか、にこの持ち物を漁っているところとか、
 とにかくまあ、見るにも堪えない悪意に籠もった写真の数々。

「……私は部長としてみんなを信じる」
「じゃあ弟子に」
「しつこい。でも、まあ、アドバイスくらいなら送ってあげるわ」
「ありがと、嬉しい」

 その後。
 にこのアドバイスでクラスの中心になっていく希と、
 アイドル研究部が活動を停止し、クラスで孤立していくにこを見て。
 二人の事情もつゆ知らず、ただボケっと友人付き合いをこなし、
 過去を詮索しようとした自分を殴りつけたくなった。
 
「アイドルはみんなを笑顔にするもの、か」

 自分の名前がニコであるから、そんな事を言っているのかな?
 なんて漠然と思っていたけれど。
944 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/17(土) 20:57:56.25 ID:Y95m5YSR0
 相手を笑顔にするためなら、自分はどうなっても構わない、
 決定的な証拠を突きつけられようとも相手を信じようとした彼女の姿に、
 本当に絢瀬絵里っていうのは甘ったれた存在であったのだなあって。
 独りよがりで、頭悪くて、誰に頼ろうともしないのに甘ったれてて。
 誰かがなんとかしてくれるとばかり思っていて――
 私が起こしていた活動はたいてい、マイナスに繋がっていたりして。

「絵里お姉さん」
「ユッキ?」
「先に進みますか? それとも、ここで終わりにしますか?」

 真剣な眼差しを向ける彼女に――私は、
 本当に情けないことに私は先に進むことを決意した。
 そうしなければならないというよりも、
 自分自身が生きて帰るとかそんな目的よりも、
 みんなにしなければいけないことがたくさんある、謝ることもそうであるし、
 感謝の気持ちを伝えることもそう。
 恥ずかしくても苦しくても生きていきたい、そのように決意して。

 そして。
 次に見た光景が、おばあさまに引き取られる前に住んでいた。
 嫌な思い出しかない建物の中であることに気づいて――
 世の中思い通りにいかないものだな、なんてため息をついた。
 
945 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/17(土) 22:16:31.93 ID:b+8T7FYYO
ヒェッ……某板でよく立ってたヤンデレのんたんスレ思い出した
946 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/18(日) 07:00:23.33 ID:j1GEu/ey0
 懐かしいという感慨すら抱かないほど、その建物のことを印象にすら残したくない。
 目の前に映る建物を見て苦笑交じりの表情を浮かべているのを、
 ユッキが首を傾げながら見上げる。
 この場所で何が行われたかというよりも、
 この場所であの人達が何もしてくれなかったことを思い出すほうが簡単だ。
 思い出したくない事実があると語るよりも、
 思い出に残ったエピソードがなさすぎて、逆に感情が昂ぶって笑みすら浮かぶ。

「この場所は」
「私たちが――いえ、家族関係にあった人たちと
 ロシアから来て初めて日本で暮らしを始めた場所よ
 暮らしというか、同居……なんて呼称すれば良いのかしらね?」

 今までの記憶と違ってスラスラと過去のことを語る私に、
 気の毒であるとか、不憫であるとか、同情であるとか?
 気を引くために話をしたわけではないけれど。
 ああ、憐憫の情を相手に向けられているとした方が正しいのかも知れない。
 小さい女の子からそのように思われて私自身がというよりも、
 きっかけとなっているあの人たちに対してユッキと同じ感情を抱いてしまうのは、
 ふつふつと浮かんでくる自分の想いをどう捉えて良いものか。
 少なくとも明るいモノではないよね、とは思うんだけど。
947 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/18(日) 07:00:52.81 ID:j1GEu/ey0
「誰から見た私……いや、私のエピソードではなさそうね」
「はい」
「だって私はこの場所で何をしたわけでもない、あるとすれば亜里沙」
「送られてきたデータによれば……亜里沙さんが初めて泣いた日」
「……なんていえばいいのかしら」

 初めてと言われたところで、あの場所にいた時に妹はたいてい泣いていたから。
 寂しいであるとか、恋しいであるとか、望郷の念があるとか。
 ロシアから来訪して、とにかく妹の生活も、私自身の生活も何一つ上手くは行かなかったのは。
 ああでも、妹の上手く行かなさ具合に比べれば、私のことなんて不出来(笑)みたいなもので。

「妹は来日当初日本語ができない……というか、知らなかったのかしら?」
「絵里お姉さんが小学校三年生なので、5歳くらいですか」
「ええ、たぶん、亜里沙の感覚からすれば――
 産まれて気がついたら言語の通じない国に送られてきたのと同じ感覚かも
 ――まるで異世界転生ね」

 異世界ファンタジー小説では、最初からペラペラ日本語で交流ができているけど。
 亜里沙は私とおばあさま以外の人間と交流できるようになるまで――
 10歳くらいになってからであるから5年ほど?
 その間、ある程度日本語は理解していたであろうし学んでも来たけれど、
 それでもなお他者と交流を避けてきたのは――バカだな私は。
 避けてきたんじゃない、できなかった。
 教えられてないのだからできなくて当然、私はまだ彼女よりも年上であったし、
 結構コミニュティスキルもあったものだから平気だったけれど。
 ああ、でも、平気ってわけでもなかったか、私でさえ日本なんてきらいだって
 思った時期が結構あったものだし、自分よりもインドアな妹がどのような感情を抱いたか、
 今まで想像すらしなかった私に反吐さえ出そう。
948 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/18(日) 07:01:23.28 ID:j1GEu/ey0
「私よりもあなたが心配よ。想像したことのないものが見られると思うわ」
「ハードルを上げますね」
「だいじょうぶよ、たぶん軽く超えられるわ――嫌悪で」

 ロシアから日本に来た理由は、表向きではおばあさまの来日で。
 祖母が日本とロシアの往復が年齢を経るに従って厳しくなったというのと、
 年齢を重ねたので面倒をみなければならないという建前を使ったのだ。
 ほんとうは、ロシアで父が働いていた企業が経営難にあり、
 誰の首を切るのかという段階になって真っ先に彼がその対象になったのである。
 あの人自身が言う、自分が仕事で優秀だったという吹聴をどこまで信じれば良いのか。
 まあ、これっぽっちもあの人のことの言うことを信用したくないからどうでもいいんだけど。
 とにかく、ロシアで作った友人や生活を置いて来日とあいなって。

「時刻は……朝の9時くらいですか」
「ええ、私は音ノ木坂小学校に通っているころね」
「亜里沙さんは……家ですか?」
「そうよ。私はまだ日本語ができたから良い……いえ、
 妹は日本語が不慣れだったから、父が家から出したくなかったのよ」

 意味がわからないと言わんばかりに私を見るユッキ。
 そりゃそうだ。私だって今となっては意味がわからない。
 見栄であるとか、プライドであるとか――
 一つも分からない感情であるけれど、さほど能力も高くないくせに
 自分が他人から下に見られることが嫌いなあの人らしい下劣な感情である。
 ただ、あの人にとって見れば亜里沙や私が悪いのだ。
949 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/18(日) 07:01:58.99 ID:j1GEu/ey0
 能力が高くないから自分の手元において庇護している程度に考え、
 相手のことを理解もせず、想いもせず、世話にもかけず、
 お金さえ払えば、金銭的に裕福であれば、子どもは育つものなんだろうって。
 おそらくあの人は今でさえ、私たちは自分が育てたって思ってると思う。
 μ'sとして表舞台に立っていた時代の私が、あの人の自慢の種だったことを自分は知っている。

「私は不安です……」

 ぽつりと呟かれた言葉が、一体何を指すのか。
 私は空を見上げ、晴れ渡った空に太陽が出ていることさえ腹立たしかったことを思い出し、
 責任転嫁する習性だけは親譲りなのかも知れないと苦笑した。



 亜里沙はその場所でテレビを見ている様子だった。
 ただ、目に入れている程度と認識をすれば良いのか、おそらく内容は理解していない。
 そりゃそうだ、生まれてずっとロシアにいると思っているのに、
 こちらの事情を理解すらせずに訳のわからない国に連れてこられたんだから。
 流れてくる言語は一つも分からないであろうし、
 アニメーション映像くらいは流れているなあくらいの認識程度であったと思う。
 
「絵里お姉さん、亜里沙さん食事は?」
「うん? 私たちの幼少時は――
 私は学校で給食があったけど、亜里沙はおそらく一食ね」
「……どのような経緯と聞いてもよろしいですか?」
「父が帰宅して食べる食事が唯一の食事ということよ」
950 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/18(日) 07:02:38.25 ID:j1GEu/ey0
 語ることすら億劫になりそうな事実。
 児童相談所に通報されれば立派に虐待として認識されてしまいそうな。
 時代が時代であったし、暴力行為が行われていない以上は
 児相は何もできないし、駆け込んできたところで両親は何もしてはくれない。
 自分が悪くはないのだから改善する理由がない。
 困ったことがあれば十中八九相手が悪いと認識するあの人達らしい態度だ。

「――地獄なんかよりも、よっぽど地獄です」
「ふふ、生きている人間のほうが、地獄の住人よりもよーっぽどタチが悪いでしょう?
 しかも、罪悪感の欠片もないし――今になってもね」

 テレビ画面にも飽きてきたのか、亜里沙は横になる。
 そういえばおもちゃの一つもない場所だななんて感想を抱いてしまった。
 私たち姉妹の部屋は共同で使っていたけれど、
 亜里沙の楽しみはおそらく帰宅した私との交流であった気がする。
 ただ、ただ、自分の傷を抉るようなことをするならば――いえ、妹に許しを乞うなら。
 彼女のことよりも友人付き合いを優先していた私のことを許して欲しい。
 涙が出そうになって天井を見上げた。

「亜里沙さんは部屋から出ないんですか?」
「出られないのよ、鍵がかかっているから」
「お手洗いは?」

 私は無言で指差す。
 そこには清潔にしているとは言い難い、おまると呼称すれば良いのか。
 排泄物処理場? 良い例えが思いつかないけれど。
 とにかく、大なり小なりはあそこでするのだ、確か、洗浄は私の仕事だった気がする。
951 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/18(日) 07:03:24.29 ID:j1GEu/ey0
「窓は開かないんですか?」
「開かないわね」
「臭いは……?」
「あれの掃除をしていた私からすれば、とても辛い」

 水洗トイレの素晴らしさが如実に分かるのは、
 おそらく幼少時の出来事が影響しているのだと思う。
 妹がそれほどお手洗いに行かなくても平気な顔をしているのは、
 排泄されたものを処理される行為が卑しいものだと認識しているからだと思う。
 それがたとえ相手が水洗トイレであろうとも。
 
「自分には分かりませんが……その、したばかりのほうが臭うんでしょうか?」
「もう一つ付け加えておくと、あの場所には空調機器がないのよ」
「……真夏もですか?」
「暑い時期には扇風機があったわ」

 排泄すればその臭いに自分自身が困るというのももちろんあるけど、
 掃除を姉にさせてしまうというのも妹を苦しめていたのだと思う。
 よくよく考えてみればあの場所に半年も生活していたというのも、
 感覚的に常軌を逸している、真っ当だったら一週間も保たない。
 そういえば亜里沙が家畜人ヤプーとか、それを元にしたエロゲーであったり、
 拷問であるとか、痛々しくて目を背けてしまうような、精神的、肉体的の被虐行為を見ても
 え? 別に? みたいな顔をしているのはこの辺の事情もあったのか。
 そのゲームをプレイしている理亞さんの精神的ダメージはかなりやばかったけど。
 ならブラックサイクは避けたほうが良いと思うのよ。
 デンカレが主題歌歌っているようなのはなおさら。
952 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/18(日) 07:04:10.54 ID:j1GEu/ey0
「辛くて涙を流したと?」
「想像でしかないけれど、それはないわね」
「え? でも……」
「残念ながら、感情が昂ぶると泣くのは――そうね、
 精神的に真っ当な人間の思い上がりなんだと思うわ」

 残念ながら、人間は追い込まれるとだんだんと感覚が麻痺していく。
 どのような苦痛を刻み込まれようとも、認識をしていなければ大したことはない。
 痛みとか苦しみっていうのは――まあ、慣れていくものであるし。
 感覚を閉ざしていけば、精神的に崩壊しない限りはおそらく平気。
 とあるグループが歌った瞑想に堕ちる闇を聞いて、
 まるで自分のようだと例えた亜里沙と、ぎょっとした顔を浮かべた理亞さんの対比は――
 今思い出してもちょっと面白い。

「誰か来ます」
「……おばあさまかしら? 思い出したけれど、
 この時期くらいかしらね、私たちが引き取られることになったのは」
「いえ、子ども……送られてきたデータは……綺羅ツバサ?」
「……あいつこんなところでもしゃしゃり出て」

 おそらくギャルゲーだったらメインヒロインを食わんばかりの勢い。
 これがもしも亜里沙ルートと呼称されるお話なら、
 亜里沙の独白とかの前にあいつの独白が入っちゃうくらいだ。
 でも、そういう作者に優遇されてるキャラって人気でないよね。
953 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/18(日) 07:04:47.41 ID:j1GEu/ey0
「マンションの壁をよじ登ってますね」
「スパイダーマンみたいなことしてるのね」
「クモ男というのは昭和の時代にいたと聞きます」
「広島市民球場にいたっていう話は知っているわ」

 いくらアラサーとは言っても昭和のことなんて私だって詳しくない。
 ナチュラルに昭和時代の住人なのでは? みたいな目でユッキは見るけど。
 その実誤解全開――年齢はごまかしていません。
 どういう目的かは分からないけれど、
 小学校で授業が行われている時間に彼女は何故スパイダーマン化しているのか?
 疑念は尽きないことではあるけれど――

「窓を叩いているわね」
「内からは開けられないんですよね?」

 私は頷いて動向を見守る。
 ユッキの発言から彼女のことを綺羅ツバサと認識しているけれど、
 とてもその後A-RISEとして華々しい活躍を遂げる人物と同じとは思えない。
 凛が子どもの時の自分を男の子みたいだったと語るけど、
 ツバサに関しては男の子にしか見えない、髪も短いし、スパイダーマンだし。
 超人的な運動能力は当時から変わっていないのか、今度壁でも登らせてみよう。
 あ、ボルダリングっていうんだっけ? 壁登りみたいなやつ。
 あの人の誤算であったのは、建物をよじ登って部屋を覗かれる可能性を考慮しなかったこと。 
 そして何より、ツバサが当時から何カ国語もペラペラで亜里沙と交流できたこと。
 一目見れば常軌を逸した環境にいることが分かるので、目に入れれば助けようとすると思う――
954 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/18(日) 07:05:28.92 ID:j1GEu/ey0
 それがアメリカのヒーローみたいな、スパイダーマン化しているやつでも。
 ハリウッド映画の一場面みたいに、両足を使って窓を蹴破って中に侵入し、
 亜里沙に状態を聞き、怒りを携えた表情でドアを蹴破り、
 そして自宅の電話で警察に電話を掛けた。 
 このあとツバサは亜里沙のもとに直行し、強く強く抱きしめた。
 妹は最初何が何だか分からないと言った様子ではあったけど、
 もう大丈夫だからと言われた瞬間に堰を切ったように泣き出して――
 ずっとずっと、おまわりさんが駆け込んでくるまでずっと。
 
「……この日のこと、覚えてないわ」
「過去だからですか?」
「いいえ、この家でしばらく過ごして――
 気がついたらおばあさまと暮らしていたという記憶しかなくて」

 どういう経緯でおばあさまに引き取られる事になったのか。
 なぜ、両親と別れて生活をおくることになったのか。
 自分が高校に入る頃にはすでに姉妹二人で暮らしていたことを含めて。
 目を背けてしまう記憶がたくさんあって、やるせない。
 このような出来事があってもなお、あの人達と普通に付き合っている妹に
 姉として何にも出来ていなかったと後悔した。
 悔やんでも悔やみきれない気持ちを抱えながら、私たちは温かいぬくもりに包まれた。

 視界は切り替わり――

「光が見える……あれは?」
「おめでとうございます、絵里お姉さん。お見事です」
「……試練をクリアしたという感じはしないんだけれど」
「正直に白状すれば、時間が経てばこうなったんですけどね」
955 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/18(日) 07:06:10.43 ID:j1GEu/ey0
 なにその一定時間が経たないと先に行けないダンジョンみたいな試練。
 ユッキは光の先にあるであろう、生者の世界を見つめ、
 悔やんでいたり、残念そうに思っていたり――
 お別れをするのが惜しいと言わんばかりの表情で私を見上げ。

「こうして手を繋いでいたら、一緒に戻れそうじゃない?」
「最後まで一緒にいられることが、私はとても嬉しいです」
「こんなやつでごめんなさい」
「この手のぬくもりや、過去の辛い記憶も、私は忘れません
 もしかすれば、幼くして亡くなったことさえも幸福だったのかと思うくらいの
 とんでもないものを見せられましたので忘れたくても無理です」

 ええ、本当にごめんなさい、現世に戻ったらあいつら断罪するから。

「あの日」
「え?」
「おばあさまに引き取られて、初めて食べた食事がボルシチだったの」
「亜里沙さんと食べたんですか?」
「ええ、生まれて初めて家族揃って食べた暖かい食事だった――」

 だからなのかな。
 カレーを作るにあたってμ'sのメンバーがごねた時に、
 みんなをまとめるようにして、ついついボルシチを作り上げてしまって、
 希にそれを読んでわざわざ材料を持ってきたの? って真顔で言われたの。
 なんとなく――みんなで幸せに囲む食卓で食べるものって言ったら。
 ボルシチって感じで。

「――おばあさまのボルシチたべたい」

 目覚めた時に真っ先に告げたら、
 なにか勘違いでもされたのか、亜里沙は怒りを携えた表情でナースコールを押して。
 その後しばらく再会できなかった。
 おかげで帰って最初に食べた食事が病院食で――不満はあったけれど、
 お見舞いに来るみんながみんな、口から私の悪口から面会がスタートして、
 心の中でユッキが、こんなに大事に思われて嬉しいですねって言ったけれど――
 バカじゃないのとか罵倒からスタートする想いってなんなんだろうと、絢瀬絵里は考えたりする。
956 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/18(日) 13:14:27.07 ID:jQen9Oq70
幼少期が悲惨すぎる・・・
絵里の暗闇嫌いの理由も深読みしてしまうな
957 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/18(日) 13:34:09.58 ID:RZ+tEZprO
処女だけど開発済みってのもそれはそれでそそる
958 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/18(日) 20:50:26.01 ID:vVUMDl85O
ボルシチたべたいにそんな深い理由があったとは…
959 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/19(月) 19:43:45.72 ID:0yATqnax0
 私が今使用している個室からは晴れ渡る空が見える。
 入院している間に季節は秋となっているけれど、窓を開ければムワッとした空気と
 やりきれない思いに駆られてしまいそうなほどの熱が入ってくるので、
 身体にあまり良くないとは思いつつ、冷房のお世話になっている。 
 病院全体で使っている空調とは別に、私の部屋には
 お見舞いと称して持って来られた空調機器が備わっていて。
 入院患者である私一人ではなく、お医者さん、看護師さん、
 果ては友人の面々も涼みにやって来ていた。
 特に真姫の持ってきた冬には暖房機器にもなるという
 ハネのない……扇風機と呼称すれば良いのかな?
 なんでも、部屋で使う機会がないからという理由で持って来られた
 エアマルチプライアーはみんなのお気に入り。
 すっかり昔なじみの口調に戻った亜里沙の言葉を借りるならば、
 お姉ちゃんにはもったいない! だそうで。
 言葉がひどい人になると、絵里ちゃんよりもよっぽど価値がありそう!
 なんだけど、そんなときだけ昔のちゅんちゅんボイスで言わなくてもいいのよ?
 心に穴が開きそうなくらい凹みそうだから――あれ、誰が言ったかボカした意味がないわね。
 精密検査と称してあらゆる場所を調べられた挙げ句に、
 身体に変調がまったく無いので、あなた人間ですかと問われてしまったけれど。
 確かに2ヶ月近く目を覚まさずにいたわりには、身体も自由に動くし、
 筋力もまったくと言って良いほど衰えていない。
 それでもベッドから動けない生活(監視付き)が2日ほど続き、暇だ暇だと訴えていたら
 わかったわかったリハビリさせてやるからとお墨付きをもらい、
 先生の補助の元でバリバリに動いていたら、お前なんかにリハビリはいらないと
 逆に怒られてしまった、立場がないという真姫には誠心誠意謝罪しておいた。
960 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/19(月) 19:44:17.62 ID:0yATqnax0
 入れ代わり立ち代わり、さまざまな人達がお見舞いに来た。
 あまり関わりのなかった人から、μ'sで一緒に過ごして
 ここ最近までお酒を飲んだりなんだりしていた仲のいい友人まで。
 そろそろお酒が飲みたいとツバサに言ったら、実はちゃっかり持ってきていると
 とある日本酒を差し出され、ハラショーと盛り上がり酌み交わしていたら、
 あっけなく酒盛りをしていることがバレてしまい、
 私ばかりが心が折れそうになるくらい怒鳴りつけられた。
 特に私が目を覚ますまでお酒を飲んでなかった面々の怒りは凄まじく、
 仕事を紹介するという真姫に、今すぐに修行に行かせるという海未、
 海外に売り飛ばしましょうという亜里沙に、小指を落とそうというダイヤちゃん。
 その面々に加わってツバサにも、気をつけなさいよと忠告してきたけど――
 あいつが何のお咎めもなく平然としているのはなんかおかしいんじゃないかとエリチカ疑問。
 ともあれツバサには少々問いかけたい点もあるし、
 二人きりにすると何をするかわからないというお医者様の進言も手伝い、
 歩哨として和木さんに立って貰っているけど、彼女の口は固い……というか、
 多分私の過去になどまったくもって興味が無いので、会話に参加することもない。
 たぶん、この場で殺し合いが始まろうとも平然とお茶でも飲んでる、あの人はそういう人だ。

「なに? 訊きたい話って? 人払いまでして真剣な話?」
「ちょっとね、昔のことを思い出してさ」

 首をかしげるツバサは、当然とは言え過去とはまったく違う。
 成熟した女性というよりはスタイル的に限りなく少年寄りではあるけれど、
 かといって、男性に見間違えようはずもない。
 髪の毛は伸ばさないの? なんて問いかけてみたら、
 弟みたいな美少女になるんだったら考えると、苦笑しながら教えてくれたけど。
 弟みたいな美少女というのがどんな存在であるのか気になって仕方がない。
 それはともかくまずはお礼。
961 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/19(月) 19:44:51.81 ID:0yATqnax0
「ありがとう。あなたがいなければ亜里沙は助からなかったかも知れない」
「ん? いや、まあ、彼女にはお世話になっているし
 サポートするのは当然っていうか、助からなかったって?」
「昔の話よ、昔の、あなたがマンションをよじ登って助けた女の子の話」
「……は? なんであなた私の黒歴史を……」

 あれはやっぱり黒歴史なのか、なんてことを考えながら。
 私たち姉妹の生い立ちであるとか、過去のこととか、
 あっけらかんと言うには重いようなエピソードに至るまで詳らかに。
 最初は訳がわからないという顔をしていたツバサだったけれど、
 やがて記憶の糸が結びついたらしく、頭痛を堪えるようにこめかみを押さえながら口を開いた。

「そう、あの時の女の子が亜里沙さんだったんだ。
 人づてに遠くへ行ったと聞いていたから、すっかり外国に戻ったとばかり」
「私は――なんていうか、上手いこと逃げられたけれど
 亜里沙はそうじゃなかった、この歳になるまでそれに分からないなんて
 姉として最悪ね、いくら詫びても足りないわ」
「……あなたは、なにか闇は抱えていないの?」
「闇って」

 ごまかしたいことがあるのかと思ったけど、ツバサは私の想定以上に真剣な瞳を向けて、
 苦手なものはないかとか、どうしても受け入れられないものはないかと尋ねられた。
 私が問いかけたいことがあったのに、いつの間にか立場が逆転している。

「私は……男性があんまり好みじゃないわ、エリーには言ったことがなかったわね?」
「そういえばそうね、気軽に経験がないとか言い合ってたけど」
「男の人を見ると、昔のガサツで性格の悪かった自分を思い出すのよ、
 横暴で、乱暴で、とにかくまあ……王様みたいな感じ?」
962 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/19(月) 19:45:28.13 ID:0yATqnax0
「どうしてそうなったのか聞いても構わない?」
「ええ、私って結構何でも出来たのよ、子どもってさ、
 できない人を見ると見下したくなるじゃない、私にとっては――
 子どもから大人まであらゆる存在が見下す対象だったのよ、
 だって私以上になにかできる人間とかほんとう、まるっきり見当がつかなかったし」

 頭の悪い子どもだったのね、と苦笑しながら教えてくれた。
 優秀な人間であるとは以前から考えていたけれど、
 なんと何ヶ国語か話せるというのも、他人が喋っているのを耳で聞いて独学で何とかしたらしい。
 この人のほうがおそらく人間じゃない、精密検査を要求したい。
 
 幼少時からひときわ天才だった彼女は、
 小学校にも行かずにフラフラと遊び歩いて、ある時に噂話を聞いたらしい。

「子どもの泣き声が聞こえるって
 普段は一人娘も学校に行っていて、母親は留守がち、父親は仕事
 誰もいないはずなのに、誰かの泣き声が聞こえてくるって話を耳にね」

 当初怪奇現象にはまるっきり興味のなかったツバサではあったけど、
 色々と下調べをしている段階で――絢瀬家の戸籍謄本を入手したらしい。
 どんな手段を用いたとか、何故そんなものをホイホイ手に入れられたのか、
 疑問は尽きることはなかったけれど、相手が恩人であるのだし、
 その蛮行のおかげで妹は助かったのだから何も言うまい。
 
「事件だって思ったわ、私はあいにく金田一みたいに事件は解決したことはなかったから
 やってみたいと思ったの――まあ、本当に事件だったわ……あんな体験したくなかった
 そう、あなたがあいつらの娘さんなのね……」
963 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/19(月) 19:45:59.83 ID:0yATqnax0
 容赦なく相手を罵倒するツバサではあるけれど、
 意味もなく相手をけなすことはしないから、よほど腹に据えかねた体験だったらしい。
 悲しみというか、悔しい思いと言うか、悔恨という表現が適切であるかのような、
 誰を責められる立場ではなく、私を罵ったところで気持ちは晴れない。
 
「……何があったのか、話しても良い?」
「ええ、私は聞かないと……ごめんなさい、嫌なことを思い出させて」
「いいえ、胸に抱えておくのは辛かったから。
 ほら、容量少なそうじゃない私の胸って」

 そこは笑って良い台詞なの? 真面目にそこは関係ないって言えばよかったの?
 疑問は尽きなかったけど、ユッキが止めてくれたので失言は避けられたみたい。

「警察が駆け込んできて、事情を聞かれたあなたの父親は
 まっさきに住居不法侵入を主張したわ、窓を蹴破ったから器物破損もか、
 私が悪いと言わんばかりに、子ども相手に理路整然と罵ってきた、当時あなたと同じ歳よ?
 同じ年頃の娘がいる大人のすることって思っちゃったわ」
「ごめんなさい、あの人は自分が被害を受けると相手を責めることしかできないの
 相手が十中八九悪い、自分に非はない、今でもそう――
 そのくせ、想定通りにコトが進まないとパニックになる……」

 あの人が社会人としてまっとうに働いてきた事実がある以上、
 一定の水準を超えた能力は持ち合わせているのだろうとは思う。
 本当に仕事関連で優秀であったかは、私自身が推して知るべきもないことだけど。
 当時幼かったであろうツバサにはいくら謝罪をしたところで足りないかも知れないけれど……。

「あれは……そっか、冷静ではなかったのね、
 だから、自分が保護した娘を誘拐しようとしたなんて、
 駆けつけたおまわりさんが苦笑いすることを言ってたのか……」
964 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/19(月) 19:46:31.08 ID:0yATqnax0
「おばあさまが言っていた言葉の意味がわかった気がするの
 あの人は人の感情というものがわからない人だって」
「――迷惑をかける人間はノイズ、か
 その人たちは今何をしているのかは絵里は知っているの?」
「そういえば……私が家を出るきっかけになったのって
 あの人達が亜里沙のところに来るって言って……!?」

 ツバサの目が釣り上がったし、おそらく私も同じ表情をしていると思う。
 自分自身の迂闊さもそうであるし、何故今まで放っておくような真似をしていたのか、
 泣きそうだった、叫びそうだった、辛かった、頭を抱えたかった――!
 あの子はまた自分を犠牲にしてまで私を守ろうとした! それを姉である私がまた甘えようとした!
 
「エリー、心配しないで……今はあなたはゆっくりと休むべきよ
 ――少し話題を変えましょうか」
「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……」
「いいの、あなたに甘えられるなんて、ほんとちっちゃい胸でごめんなさいね」

 手で顔を覆って泣き喚きたかったけど、ツバサが強制的に胸に抱きとめてくれた。
 ちっちゃい子どもみたいにわんわん叫びながら、情けなくて、本当に自分が情けなくて、
 これでも亜里沙の姉をしていたとはとても言えなくなるような事実に気がついて。
 いくら謝れば良いのかは分からないけれど、どれほど言葉を尽くしたところで亜里沙は笑いながら、
 昔のことは忘れました絢瀬絵里のようにと言って、なんにも気にしない風を示すのだ。
 どれほど自分が甘ったれていていたらなかったのか思い知った私は、やがてガクッと意識を失った。
 あの――いくらなんでも入院患者にスタンガンはないんじゃないでしょうか、和木さん……。

「和木は見るに堪えません」
「……いつからいたの? というより、なんで人の気配を隠蔽できるの?」
「ツバサさんが私の恩人だったんですね……私はすっかり恩人は男性だと」
965 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/19(月) 19:47:04.02 ID:0yATqnax0
 意識は飛んだはずなのに、やけにクリアに声が聞こえてくる。
 ユッキが苦笑いを浮かべながら口元に手を当てて静かにするように言うので、
 私もついついそれに倣ってしまう、どうやら彼女が何とかしているらしい。

「お姉ちゃんはいつでも、自分を責めます。ほんとう、いらないことまで、
 私にとってはほんとうに過去のことなどどうでも構わないのです、今があるなら
 私のことを想ってくれる姉がいて、友人がいて、幸せに過ごしています
 いまさらこれ以上何を求めようと言うんですか」
「でも、だからといって自分を犠牲にしても誰も喜んだりはしないのよ
 ――絵里があなたを苦しめるのと同じように、あなたも絵里を苦しませている」

 耳に入った言葉は酷く冷静で、
 今まで話していた綺羅ツバサとは別人のように感じられた。
 どちらかといえば亜里沙を侮蔑するような態度を取ってる。
 そんなことはないって叫びたかったけれど、心の中ではツバサのほうが正しいって分かってた。
 ――だって、好きな人が身を粉にしてまで一生懸命いたら、見ているこちらも辛い。
 誰か一人が犠牲になる必要なんてないのだ、人は思いあって寄り添える存在なんだ。
 って、ユッキは耳元で言ってる、私の思考を改ざんしないで欲しい。

「ならば、どうすれば良いのでしょう? アドバイスを頂けますか?」
「ええ、あいつらと決着をつけましょう。過去のしがらみを超え、
 未来に寄り添える姉妹であるために……も?」

 ん?

「あの、亜里沙さん? そんなふうに抱きしめられてしまうと、
 スタイルの差が如実に感じられてツバサさん辛い」
「ようやく見つけました……初恋の人」
966 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/19(月) 19:48:09.05 ID:0yATqnax0
 ダメよ! ダメよそいつは! と、叫んで起き上がりたいのにユッキが止める。
 これ以上スタンガンを押しつけられたら死にます! 今度こそ死にますから!
 って言って、幼い女の子とは思えない力でアラサーを止めている。
 なお、本当に和木さんは私に目を覚ましてほしくないのか、容赦なく高圧電流を押しつけているらしい。
 なんか恨みでも買いました? 真姫のことは私だけの責任じゃないですよ?

「お姉ちゃんもそうですが、初恋の人がいれば何でもできます! 協力してください!」
「絢瀬絵里(笑)みたいな扱いになってない? 添え物になってない?
 そして和姫ちゃん! そろそろ死ぬから! エリー死ぬから! それ猛獣用の――
 荒ぶった牛とか昏倒させるやつだから! 押し付けちゃダメぇぇぇぇぇ!!!」

 病室内で大騒ぎしていたせいで看護師さんが駆け込んできたみたいで、
 遠慮なく意識を放り投げることにする、面倒事は避けたい。
 後のことはよろしくツバサ――
 おそらくアニメだったら私のサムズアップといい笑顔が浮かんでる。
 まるでガウン・ブラウディアのように……いや、そうなると私の声が若本規夫さんになっちゃう――。
967 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/19(月) 19:54:06.42 ID:0yATqnax0
ツバサルートのオチに繋がる展開がようやくできました。
亜里沙ルートで必要な要素というより、ツバサルートのオチだけがしっくり来なくて。

あと、現在書いている亜里沙ルートと同時進行で
スクスタ応援企画! ということで作品を書いてます。
同時並行で毎日更新を続けますので、見かけた時にはよろしくお願いします。
では、また明日です!
968 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/19(月) 21:06:30.66 ID:ZIDsK5FPO
まさかのツバあり
完走しそうだけど次スレいくのかな?
969 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/20(火) 12:32:58.80 ID:vEq2T7+r0
今日も更新する予定なんですが、
本日、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の
TOKIMEKI RunnersがAmazonより届きました! 
ひとり、ニコニーと水橋かおりさんを足して2で割ったような声をしているんですが、
わりとイメージ通りで驚いてます。

あと、キャラクターカードは桜坂しずくちゃんでした!
まだ書いたことない! 優木せつ菜ちゃんが良かった! 天王寺璃奈ちゃんとか!
亜里沙ルートの最終盤で登場する彼女たちですが、イメージがかなりいい感じで固め……

って、そんな雑談ではなく。

ここでの投稿スタイルが合っているので、次スレももちろんありです。
このSS速報VIP様で投稿させて頂きます。
今日の更新が完了次第次スレを建てて、URLを張って、
翌日作品を投稿して、小ネタを書いて1000まで……と思ってます!
では、今日の更新までお別れです!
970 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/20(火) 20:00:55.03 ID:PUrQn9beO
ここが一番気軽に読めるからありがたい
971 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/20(火) 20:12:39.87 ID:vEq2T7+r0
 最近微妙に頭痛の種だった慢性的な肩こりというものが、
 スタンガンの効果によって解消されたので、それをツバサに話してみたら。
 普通の人間は高圧電流を押しつけられたら死ぬからと真顔で言われました。
 長いこといた気もする西木野総合病院から退院する日、
 空は晴れ渡っていて、まるで二人のカップルの輝かしい未来の行方を見守るように、
 気温も心地よく、空気も澄み渡り、まるで気分は秋のあなたの空遠く。
 ええ、別に園田海未が「長年連れ添った妻を寝取られた気分」
 「女心と秋の空とはよく言ったものですね、ハハッ!」とすっかりやさぐれてしまったのは関係ない。
 先ほどカップルと呼称してしまったけど、ほんとうに付き合い始めたわけではなく、
 ただ、高確率でツバサは亜里沙に押し切られるであろうことが如実に想像できるから。
 彼女は手始めに外堀から埋め始め、綺羅家のご両親にツバサさんをプロデュースしてました
 絢瀬亜里沙ですと自己紹介した。
 過去のハニワプロでは亜里沙はツバサをプロデュースする暇なんぞなく、
 彼女のサポートがなくてもツバサはトップアイドルとしても君臨できる実力があったので、
 すぐバレる嘘ではあったのだけど、綺羅パパにはえらく気に入られた。
 目的のためには手段を選ばない部分が高評価につながった様子、勘弁して欲しい。
 そして何故そんなエピソードを知っているかと言うと、
 絢瀬姉妹は揃って綺羅家のお屋敷に登壇することになったから、勘弁して欲しい。
 病み上がりで、持病の癪、悪寒がすると仮病を使って回避しようとしたものの、
 私の分まで亜里沙のことをお願いしますとの海未のテロも決行され、
 結局有無も言わさずに連れてこられた、
 亜里沙はお姉ちゃんのことを世界一尊敬しています、ハラショーですと褒め称えてくれるのだけれど、
 どう考えても扱いは以前と変わってない、私の人権は水に浮かんでないアメンボレベル。

「……どうしよう、次々と外堀が埋まっていく」
「ええ、妹が綺羅亜里沙になってしまったら、私はどうしたら良いのか……」
「あんじゅも、英玲奈も……理亞ちゃんも聖良ちゃんもみんながみんな歓迎するのよ
 良かったじゃないか、安心しました、赤ちゃんの名前はどうするんですか――
 どうするって、赤ちゃんができたらどうするのよ! イミワカンナイ!!!」
972 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/20(火) 20:13:11.21 ID:vEq2T7+r0
 憂鬱そうな表情を浮かべたツバサと、恐らく同じ表情をしている私と、
 顔を突き合わせてお酒を飲んでる――最初からトップスピードでジョッキが空になり、
 次々と運ばれてくるアルコールが、運ばれるのと同時に空けられる。
 水分だってそんなに摂取できないでしょってレベルで酒量はどんどん増加し、
 それでもなお悲しいことに酔うことが出来なかった、飲めば飲むほど気分は憂鬱になっていく。

「……結婚式の会場に、誰を呼ぶかという話になったわ」
「……いいニュースね。いったい誰の結婚式? あんじゅ? ダイヤちゃん?」
「豪勢にしたいって彼女は言うのよ、だから、少しでも彼女の気持ちが折れるよう、
 控えめで、ひっそりと、できればお葬式みたいにやりたいって言ったの」
「ハラショー……今は海に散骨もできるし、いい時代になったわね
 喪服も着なくていいし、海でちょっと豪華にみんなでワイワイ楽しめるわ」
「そうしたら彼女なんて言ったと思う? 恥ずかしがり屋さんなんですからって笑いながら、
 トップアイドルだったんですから、億くらいかけて結婚式をあげましょう
 だいじょうぶです、私が全額出します……
 あなたって、ほんとう発言権がなかったのね、気持ちがよく分かったわ」

 ノリがお通夜であるのに、お酒を飲む速度はハイペース。
 同時に出される料理も次々と空になっていき、酒に付きあえ、3日くらい付きあえ!
 と強引に拉致られてしまい連れてこられたのは、黒澤家の息がかかってる高級居酒屋。
 貸切状態で訪れている私たちは、メニューの端から端までを次々と後先考えず注文し、
 こんなに食べれないのでは? と心配する店員さんを後目に、
 本当に次から次へとお皿を空にしていく、胃袋過重労働中。
 お酒の味も、料理の味もそれほど良くわからない状況下、妹との会話を思い出していた。

「飲みに行く?」

 絢瀬姉妹と綺羅ツバサという妙な組み合わせでマンションにて同居生活を始めてしばらく。
 Re Starsとして再デビューは頓挫したものの「RHYTHMIC STARS」というグループ名で
 小さな斜陽事務所に潜り込むことができた私たちは、着々とその知名度を上げて行った。
973 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/20(火) 20:13:41.88 ID:vEq2T7+r0
エヴァちゃんと朱音ちゃんのモチベーションは高く、
 朝日ちゃんや善子ちゃんの二人も追随するように実力は向上していき、
 今はサポートをしてあげるとツバサの協力もあって、
 テレビ番組とかネットでは総スルーされている私たちだけど、
 知る人ぞ知ると言った感じで評価は次々と向上していった。
 歌って踊るばかりの仕事ではないけれど、私たちは何でもやった。
 チケットもぎりとか、会場受付、アイドルライブの前座、会場設営――
 投げ出すかと思ってた高校生組も、未来の為に頑張ると言って決してへこたれなかった。
 レッスンだけでなく肉体労働、おおよそアイドルの仕事とは思えないモノも次々とこなし、
 お給金が雀の涙とは言っても、それが目的ではないとみんなで笑いあっていた。

 
 問題があると言えば決着を付けると私も息巻き、ツバサもその気であった両親とのイベントが
 ロシアのプーチンに送り届けたという亜里沙の一言で終わってしまったこと。
 本当に大統領へ送られたとは誰一人思ってないけど、ぷっつり話題にも出なくなり、
 過去を吹っ切れたように思えた亜里沙も、そして私自身も、
 藪を突いて蛇を出すこともあるまいし、何より仕事が忙しいから暇はなく。
 ハニワプロやUTXで不穏な動きがあるというニコや希や英玲奈の警告ですら、
 いや、そんな事はいいから仕事しましょう仕事、という南條さんの掛け声もあり、
 すっかり頭から抜け落ちてしまっていたここ最近。
 
「お姉ちゃんとツバサさんが? えー、私は置いてけぼりですか?」
「秘密の会議がしたいの、二人の将来についてのね?」
「もう! もう! そういうことは秘密にしていなければダメです!」
974 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/20(火) 20:14:22.38 ID:vEq2T7+r0
 一見すると亜里沙を見事に操縦できるようになったツバサではあるけれど、
 先の通り、発言権は絢瀬絵里と同レベル。
 GPSで場所は把握していますからね?(はぁと)という亜里沙の警告や、
 なにより、妹が顔を利かせる黒澤家の息がかかってる居酒屋において、
 秘密の会議なんぞできるわけもなく。
 おそらくすべての発言は耳に届いているはず、という投げやりなツバサと、
 もう結婚式でも何でもやればいいじゃん! と同じく投げやりな私とで、
 ウェディングドレスは二人で着るんですかと、正体を露出し始めたスタッフに
 そうよそうよ! と騒ぎ始めるツバサと、メールが来てなんだろー? 
 と思って、中を確認すると、南條さんから相談事があるという話だった。
 タクシーを出してくれるということだったので、名残惜しくはあるんだけども、
 ツバサに許可を貰って店の外に出てしばらく、

「絵里さん」
「ああ、南條……さん?」

 声を掛けられたので振り返ってみると、
 見た目からして一般人では無さそうな凶悪な顔をしている人たちの集団と、
 その先頭に立ってにっこり笑っている南條さんを見て、
 ああ、これはまた私が面倒事に巻き込まれるパターンなんだなって察して天を仰いだ。
975 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/20(火) 20:22:50.70 ID:vEq2T7+r0
というわけで亜里沙ルートの最終イベントに向けて
……本当は両親の決着をつけたかったんですが、
まあいいかってことで、ええ、どうせ大した話じゃないですし、
何より面白くないですから! 
(絢瀬姉妹は心優しいので相手を断罪できませんでした、すみません)

最終イベントは悪人総登場で、見せ場です!
などとハードルを上げても意味がないので、
肩の力を抜いて、無様なやつを見ていて頂ければ幸いです。

では明日更新分の投稿後新スレへ。
新スレでもお付き合い頂ければ、もう望外の喜びです。
976 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/20(火) 22:38:50.81 ID:CWZKh1O8O
両親イベントは胸が痛いので良かったかも…
クライマックス楽しみにしてますぜ
977 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/21(水) 20:38:04.87 ID:dWC6aD2Z0
 南條さんが運転する車の中。
 先ほどまでの哀れな子羊を見るような表情はため息と一緒に捨てられ、
 呆れているような、物事を投げ出したいというような、
 投げやりとは違う、ちょっと憂鬱感漂う笑みでこちらに声を掛けてくれた。

「念の為に言っておきますが、亜里沙さんとツバサさんはこうなることを知っています
 安心して欲しいとは言いませんが、何もドッキリでこんな目に遭っているわけではありません」
「今まで亜里沙にして下さったことを考えれば信用します、何かご苦労をおかけしているんですよね?」
「絵里さんは何も悪くはないのです――申し訳ないです、私の一族が苦労を掛けて。
 ただ、あの人達の隆盛ももうすぐ終焉。そのために協力……せざるを得ないんですよね、
 どうしてもと言われれば考えますが、できればお付き合いください」
「事情を伺っても?」

 今回の太陽の日から始まった暗澹たる日々――とは言っても、大部分で眠りこけていた私は
 自分以外の人間がどれほど苦労を重ねたかを聞いて、顔から火が出そうだった。
 UTXやハニワプロの一部の面々が悪意に染まり、悪行に手を染め、
 かつ甘い汁を吸おうとした今回のイベントは、全て南條さんのお兄さんが事を起こしたらしい。
 
「椎名伊織……ご記憶にありますか?」
「嫌な名前を久しぶりに聞きました」
「申し訳ありません、その人が私の兄なんです――とても恥ずかしいことに」
978 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/21(水) 20:38:34.82 ID:dWC6aD2Z0
 生まれてこの方ずっとニートとして過ごしたと勘違いされがちな私ではあるけれど、
 大学時代はアルバイトに明け暮れていたりもした。
 金銭面に不都合があったのではなく、なんとなく私も自由に使えるお金というものを、
 労働することによって入手したかったのである。
 きっかけは単純ではあったものの、物覚えもよく、当時は愛想もよく、
 憧れていた穂乃果のように手を取り合って協力すればどんな願いも叶えられる。
 新入生で溢れていた音ノ木坂学院を観て大泣きしてしまった哀れ過ぎる私は、
 その甘い考えそのままに社会へと飛び立とうとしていたの。
 結果的に私も、憧れていた穂乃果自身も、信用して貰おうと努力した結果相手に裏切られる――
 などというトラウマを体験し、コミュニケーション能力が高かった穂乃果はトラウマを感じさせないほど
 明るく働き続けていたものの、私の心はボッキボキに折れた。
 結果社会復帰を果たすまでに数年を要し、いや、アイドルっていうのが社会復帰したと
 表現して良いものかは私にはわからないけれど、とにかくまあ、労働してお金を得る
 真っ当な社会人にはなれたのではないかと思う、すぐに倒れたけど。

「あの人、刑務所に入ったんじゃなかったんですか?」
「すぐ出ました。周囲の目もあり入っていた体はしていましたが――
 甘い顔をせず社会に放逐でもしていれば、多少は考えも改めたでしょうけれど」
979 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/21(水) 20:39:05.40 ID:dWC6aD2Z0
 先ほどから私たちの話題の種になっているのは、
 過去に私をストーカーしていたやつ、名前は椎名伊織。
 元同僚であり、働き始めはやる気もなければ、厚かましい、何より偉そう。
 とあるテーマパークのアルバイトだった私は、
 そんな相手にも、根気よく、丁寧に、そして悩みも聞き、手助けをして、フォローを欠かさず。
 どんな相手も分かりあえるという理想を胸に抱き、親切の限りを尽くした。
 あの亜里沙や世間知らずの側面があった真姫でさえ、
 好意を尽くす相手は選ぶべきだと経験上把握していたにもかかわらず、
 できが悪く、哀れそうに見える相手ほど尽くしたくなるアホっぷりで、
 結果自分が損することになった――警察沙汰になったので妹にも、
 友人関係にあったツバサにも多大なる迷惑をかける事になったけれど。
 あの時のことは、絢瀬絵里は悪くないの一点張りでネタにすればフォローしてくれる。
 申し訳ないから忘れた体では過ごしていたんだけど。
 
「あの男は、人としては低能ですが、相手を掌握することと、うまくこき使う才能はありました
 自分では上に立つに相応しいと称していますが、単純に親に権力があるだけです
 その下地を活用し、親の経営権を乗っ取り――今のところあいつに逆らえるとすれば
 世界的にも有名な企業だけでしょうか?
 とはいえ、そんな企業はあいつを相手している暇はないですけどね」

 侮蔑した発言そのままに気分を害した風な南條さん。
 男女に限定せず、親切心が自分への好意であると勘違いする相手はどこにでもいて、
 かつ、お金や権力を有していたあの男は私がどうしても欲しかったらしい。
 能力が高いというのはあいつの勘違いであろうけれど、案外優秀だったのだ――
 いや、自分でも信じられないくらいに、そのまま正社員登用もありえるほど、
 ベテランのスタッフにもあなたよりも優秀な人は見たことがないと称されるほど……
 多分おべっかだけど、褒められていい気分にならない人はいない、哀れなことに。
 料理や裁縫――家庭的と呼ばれる要素も無難に持ち合わせていた私は、
 いい奥方になるようにも見えたのだろう、学力面でも優秀だったから頭もよく見えたのかも知れない。
 仮に頭がよかったら、そもそもあいつに引っかからないんだけどね。
980 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/21(水) 20:39:56.18 ID:dWC6aD2Z0
「繰り返しになりますが、あの男を中心とした哀れな人間を地獄に叩き落すいい機会なんです
 身内の恥ではあるのですが、協力してください――お願いします」
「私にできることでしたらなんなりと、でも――」
「安心してください、絵里さんに手を汚して頂くことはありません
 亜里沙さんもそうですが、あなたも優しすぎる……
 また聞きではありますが、あの両親なんて何度地獄に落としても足りませんよ?」
「臆病なんですよ、怖いんです――暗いところも――そうなんです」
「もうすぐ建物に着きます、今日はホテルで一夜を過ごし――
 明日から薄ら寒いイベントが続きます、せめて今日だけはゆっくり過ごしてください」
「信用します、だってあなたは亜里沙が本当に信用する数少ない方ですから」
「――正直、私はそのような人間である自覚はありませんが」

 でも、自分が大切に思う相手がそのように考えてくれるのならば。
 それはとても幸せなことなのかも知れませんね。
 と、南條さんは呟いて、天を仰いだ。
 泣いている様子にも見えたけれど、指摘するのは野暮なのでだんまりを決めた。
981 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/21(水) 20:48:14.84 ID:dWC6aD2Z0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1542800613/

新スレ建ちました! 
書き込みに失敗したって出て焦ったんですが無事に建ったようです。
明日更新分から2スレめで物語がスタートしますが。
風邪をひいたみたいで、ハーメルンで書いているのを控えて、
アラ絵里を最優先にします、毎日投稿できるようがんばりますので
ラストまでお付き合いくださいませ。

本スレの残りは――何書こう、小ネタでもいいんですが、
Q&Aとかだと、容量たりなさそうだし……
何か書くと思いますが、今の所は頭が働かないので放り投げます。
では、また明日!
982 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/22(木) 02:05:53.53 ID:75DWSiyn0
何を書こうかと考えたのですが、
土日に絢瀬亜里沙、絵里以外のμ's、綺羅ツバサ、鹿角姉妹、高海千歌、黒澤ダイヤの
初期設定及び、現設定への変遷や羅列等の裏話的な何かを書ければなと思っております。
大したものにはなりません、というか、エリちがよく自分の黒歴史を語ってるので、
作者も黒歴史を語ろうと思って。
チラッと書きましたが、今作品は勝手にお休みしていた時期に設定を整えてました。
お話として何を書くのかはちゃんと決めていたんですが、設定がグダグダだったので
最初から練り直して、飲み会編をふまえて考え直しました。
予想以上に時間がかかってご迷惑をおかけしましたが、本当、長編書くのって大変ですね……。

例えば、絢瀬亜里沙がアイドルのプロデューサーをしているのか決定されたのは、
凛ちゃんの飲み会編から とか(だから真姫ちゃんが亜里沙ちゃんの職業を問いかけてる)
旧版では海未ちゃんに見せた、中学時代の絢瀬亜里沙のほうがキャラ作りだったとか。
高坂穂乃果ちゃんのトラウマに関しても、大学時代に作ったくらいしか設定がなくて。
ことうみの二人が再開後Aqoursを毛嫌いしているのもそのせい、、申し訳ありません。
旧版をリメイクした時にしれっと、現設定を踏まえて書き直しますので、時間があれば……

では、このスレッドに関しては日曜日くらいまでお休みです!
983 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/22(木) 15:07:33.30 ID:RGkhkdX1O
おつおつ
こんな大長編を読ませて貰えるとは完全に予想外だった
984 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/01(土) 05:04:04.18 ID:QjJ3f14xO
斜め読みすると面白いけどちゃんと考えて読むと糖質が書いたか夢日記かってくらい酷い
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