サーバル「こわい夢」

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82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 01:53:25.02 ID:PoruoH2d0
真上から突き刺さる視線に、ぼくはただ耐えることしかできなかった。もうぼくの知っているサーバルちゃんじゃなくなったとさえ思った。




サーバルちゃんの爪は硬くて、鋭い。
ぐぐ……と手に込められる力がさらに強まって、痛みも苦しみもじわじわと増していく。
顔を涙が伝う。悲しかった。一度ストッパーが外れてしまうと、次から次へと止まらない。自分の視界が霞んで、ぼんやりとしたシルエットを残していく。






「やめて……痛いよ……」




「目を覚まして……ぼくだよ、サーバルちゃん……」






「思い出して…………」






掠れた声で、ぼくは言った。








「――――――?」






「かばん…………ちゃん?」




ゆっくりと目を開けると、サーバルちゃんの目に、いつもの生気が戻ろうとしていた。
両肩の食い込むような痛みも、少しずつ和らいでいく。




「あれ……私、ここで寝てたよね……? なんでこんなに散らかってるの……?」






「何があったの……?」
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 01:53:53.59 ID:PoruoH2d0
疲れたサーバルちゃんを、ぼくは再びベッドに寝かせた。もはや何が何なのか、理解の追いついていないサーバルちゃんの顔は、この数日間で数年が経ったかのようにやつれて、見るに堪えない表情を顔に写していた。
博士さんと助手さんは気を利かせて部屋から出て行き、物が散乱した部屋に二人だけが残された。






「…………」




「……あのさ」




「ひっ……!」






サーバルちゃんは怯える。ぼくを見て、ぼくに声をかけられるだけで。






「どうして、そんな顔してこっちを見るの……?」




「だって……またかばんちゃんに襲いかかったら……」






サーバルちゃんが怯えているのはぼくじゃなかった。それは自身で制御することすらできなくなった、自分に対してのものだった。
ぼくの顔を見て、また襲いかかったら、傷つけてしまったら――――
そう考えるだけで、絶望にも近い感情が自身を襲っているのだ。
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 01:54:27.28 ID:PoruoH2d0
「大丈夫だよ、サーバルちゃ……」




「来ないでっ!!」




「!」






本人の口から降りかかる、拒絶の言葉。ショックのあまり、ぼくはその場から後ずさった。






「…………逃げて」




「え……」




「私を置いて。私から逃げて」




「何言ってるの……?」




「かばんちゃんは、ヒトを探しに行きたいんでしょ? 私のことは放っておいて。かばんちゃんは自分のために行動して……」




「そんな……サーバルちゃんを見捨てるなんてできないよ!」




「かばんちゃんは私といちゃだめなの!!」




「っ……!」






必死に説得するぼくの言葉も、サーバルちゃんの切羽詰まった声の前では無に等しかった。






「…………」




「私……これ以上かばんちゃんに迷惑かけたくないの……」
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 01:54:55.15 ID:PoruoH2d0
「迷惑だなんて……」




「迷惑だよ。パーティーの準備で忙しいのに、かばんちゃんを毎日苦しませて……」




「それは……!」




「セルリアンに囲まれた時だって、私は何もできなかった。パニックになって、かばんちゃんの言ってることを聞いてすらいなかったんだよ」




「ビーバーさんと話してた時も、かばんちゃんふらふらだったよね? 私のために、今も無理してるんでしょ?」




「そんなこと…………っ!」






反論しようとした瞬間、ぐらっと視界が歪んで、ぼくはその場で足をついた。




頭がぐらぐらする。さっきまで大量の本を頭に詰め込んでいたからか、いつの間にか脳が疲弊していたのだ。






「ぼくは…………平気…………っ」




「もうやめて!! 私はどうなっても構わないけど、かばんちゃんに何かあったら耐えられない!!」






ぼくは何も言えなくなった。






「本当は、夢のことだって言わないつもりだったの……」




「言ったら、かばんちゃんは心配するから。かばんちゃんは優しいって知ってたから。ヒトを探しに、他の島へ行く時に、余計な心配を残してほしくなかった……」
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 01:55:46.19 ID:PoruoH2d0
「……けものはね、いつか必ず死ぬんだって。私はたまたま、それが早かったんだよ。もっとも、私は頭がおかしくなるだけかもしれないけど、それも死ぬのと同じようなものだよね」




「そんな……!」






「でも、私は平気だよ」




「……私ね、かばんちゃんと出会えて嬉しかった」




「さばんなちほーを飛び出して、一緒にいろんなちほーを冒険するの、とっても楽しかったよ」




「私がどうなっても、かばんちゃんとの大切な思い出は変わらないから」




「だから、大丈夫……」






嘘だ。




嘘だ、嘘だ。




平気なはずがない。




後悔してないはずがない。




だって、本当に平気なら、






どうしてそんなに悲しい顔をしているの?






「やだ……いやだよ、そんなの……」




「泣かないで……」




不安に駆られるぼくは、すがるようにサーバルちゃんの手を握る。
あんなに温かかったはずの右腕は、まるで屍のように冷たかった。
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 01:56:13.61 ID:PoruoH2d0
「…………」そわそわ




とことこ




「…………」そわそわ




がちゃ




「!」




「かばん、どうでしたか、サーバルは……」




どさっ




「か、かばん!」






部屋から出た途端、これまでずっと見せないよう蓋をしてきた感情が溢れ出して……ぼくはその場で膝から崩れた。






「大丈夫ですか?」




「すみません……体に力が入らなくて……」




「……ひどい顔なのです」






博士さんはぼくの顔を見てぎょっとした表情を浮かべた。
無理もない。今のぼくがひどい顔なのは想像に難くなかった。
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 01:56:42.55 ID:PoruoH2d0
「…………何をしているのですか?」




「助手。ちょうどかばんが出てきたところなのです」




「立てますか、かばん。手を貸すのです」




「……ありがとう……ございます」






博士さんと助手さんに支えられて、ぼくはようやく立つことができた。






「それで、サーバルはどうだったのですか?」




「サーバルちゃんは…………」




「……私のことは置いていって欲しいと言われました」




「は……つまり見殺しにするのですか!?」




「もちろんぼくは嫌だって言いました。けど、サーバルちゃんはぼくを傷つけたくないって言ってて……」




「でも、でも…………! もっと本を調べれば、対処法もきっと見つかるはずなのです……!」




「…………本当に、そうでしょうか」




「何を弱気になっているのですか、かばん!」




「だって……」






「……助手?」
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 01:57:09.06 ID:PoruoH2d0
今まで二人の会話を黙って聞いていた助手さんは、突然ぼくの前へ歩み寄った。






「なんですか……?」




「…………」




ぱんっ




「いっ……!」




「助手!?」




「この…………ばか!!」






何を思ったのか、助手さんは急にぼくの顔に平手打ちをし、体をぽかぽかと殴り始めた。
助手さんがこんなにも感情的になっているのは、ぼくが知る限りだと初めてだった。






「このばかっ! ばかかばん! ばかばんなのです!!」ぽかぽか




「うわわっ! どうしたんですか助手さん!?」




「サーバルが…………あのサーバルが本気でそう考えていると思うのですか!? かばんがいなくなっても悲しくならないなんて思うのですか!?」




「思ってませんよ! けど……!」




「だったら!! それが分かっているのならなぜ諦めるのです!? おまえが助けなかったら、誰がサーバルを助けるのですか!!」




「……!!」
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 01:57:39.44 ID:PoruoH2d0
「やめなさい!!」






島の長としての貫禄が効いた大声に、ぼくも助手さんもぴたりと動きを止めた。






「あ…………」




「…………助手。私が何に対して怒っているか、分かりますね?」




「っ…………」






「…………頭を、冷やしてくるのです」






助手はしょんぼりと落ち込み、もの悲しげに飛び立ってとしょかんの屋根の上へと消えていった。






「大丈夫ですか、かばん」




「は、はい……」
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 01:58:08.74 ID:PoruoH2d0
「まったく、助手も何をやっているんだか……」




「……驚きました。助手さんがあんなに大声を出すところは初めて見ました」




「私もですよ。普段からおとなしくて、感情を表に出さないタイプですからね」






博士さんはとしょかんの壁に開いた穴を見ながら言う。外はとっくに夜になっていて、丸い月が空に昇り始めていた。






「…………助手を悪く思わないでやってください。あいつにもいろいろ思うところがあるのです」




「悪く思ってなんかいませんよ。助手さんがぼくたちのことを真剣に考えてくれているのが伝わってきましたし」




「……かばんは優しいのですね」




「え、いや、そんなことは……」






珍しく博士に素直に褒められて、ぼくがたじたじになっていると、博士はふふっと笑った。






「あのはしごを登れば、屋根の上に行けるのです。おそらく助手はそこにいるはずです」




「私よりおまえの方が、話しやすいこともあるでしょう」






博士はぼくの方を向いて言った。
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 01:58:34.03 ID:PoruoH2d0
「助手さん!」






助手さんは博士の言った通り、としょかんの丸みを帯びた屋根の上で腰掛け、夜の冷たい風に吹かれていた。
ぼくが来たことに気づいても、後ろを振り返ろうとはしない。






「……私のことが嫌いになりましたか?」






助手さんはぽつりと、独り言を放つように言った。






「なるわけないじゃないですか」




「博士さんも助手さんも、ぼくにとって大切なフレンズですから」




「…………」






助手さんはしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと立ち、ぼくへ向かってぺこりと頭を下げた。






「ごめんなさい」




「いいんです……助手さんの気持ちは伝わってきましたから。驚きましたけど……」




「…………私自身も驚いたのです。なぜかばんの態度を見て、怒りがふつふつと込み上がってきたのか……」




「でも、今ならその理由が分かる気がするのです」






助手さんは月を見る。その顔は、博士さんの時と同じ表情をしていた。
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 01:59:07.06 ID:PoruoH2d0
「私はきっと、おまえたちを自分と博士にあてはめていたのです」




「ぼくとサーバルちゃんを……ですか?」




「ええ。もしも博士がサーバルで、私がかばんの立場だったら…………そう考えたのです」






ひゅうと音が鳴り、強い風がぼくたちの横を通り過ぎていく。






「おそらく私だったら、とても耐えられないでしょうね。日に日に弱って、皮肉すら言えなくなる博士を見るくらいなら、毒をあおって死んだ方がマシだと思うはずです。私はフレンズの間だと堅物でクールだとか言われているらしいですが、実際はそんな鋼の心など持ち合わせていないのです」




「でも、おまえは違った。何が何でもサーバルを救おうと、パーク中を駆け巡り、そしてここまでやってきた」




「そんなおまえが、弱音を吐いて投げ出そうとするものですから……ついカッとなったのです」




「……そういうことだったんですね」






助手さんは、座っていた場所から、さらにぼくの方へと近づいていく。






「かばん、おまえはサーバルをどう思っているのですか?」
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 01:59:33.80 ID:PoruoH2d0
サーバルちゃんがさっき触れた右手を、助手さんが優しく包む。






「どうって……?」




ぎゅっ




「こんな風に、サーバルに手を握られたいですか?」




「もちろん、握られたら嬉しいですけど……」




「では、その先も? 博士はキスがどうこうだとか喋っていたみたいですが」




「だ、だからそれは……!」




「したいのですか? したくないのですか?」




「うっ……///」




「それ以上――――キスより先のことも?」




「…………キスの先なんて、知らないです……」




「仮にあったとしたら、ですよ」




「………………」








「…………したい、です」




「……やっと正直になれたのです」






助手さんはぼくの手をぱっと離した。
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:00:07.03 ID:PoruoH2d0
「早く行くのです」




「え……」




「初めから答えは決まっていたじゃないですか。なら、もう迷う必要はないのです」






助手さんは肩をぽんと押す。






「伝えてくるのですよ、かばん。おまえの正直な気持ちを、サーバルに」
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:00:47.97 ID:PoruoH2d0
がちゃ




ドアを開け、真っ暗な部屋の中を進んでいく。床に散乱するものを避けながら、ゆっくりと。




彼女は青白い月明かりに照らされ、その美しさに思わず息を飲む。




彼女は寝言の一つも言わず、静かに寝息をたてている。




おとぎ話で見る、眠りながら王子を待つお姫さまみたいだ。






「…………」






サーバルちゃんがぼくにとって特別な理由。それはいくらでもある。




支えてくれたから、一緒にこのちほーを冒険したから……もちろんそれもそうだけど。






「サーバルちゃん。ぼくの声が聞こえる?」






ぼくに「かばんちゃん」という名前を与えてくれた。




生まれた原因はサンドスターでも、ぼくに命を与えてくれたのは、サーバルちゃんだ。






サーバルちゃんの右手を両手で包む。




肌に感じる温度は冷たい。温めてあげたい。






「ぼくはここにいるよ」






彼女の耳元で、ぼくは小さく囁いた。
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:01:34.22 ID:PoruoH2d0
――――




――――




――――




――――





「ほら、キタキツネ! げぇむで遊んでないの! さっさと寝るわよ!」




「やーーーだーーー! もっと遊ぶーーーー!」




「そんなこと言ってるとまた夜更かしして……」






ピピピピ……ピピピピ……






「あれ? ボスが何か言ってるよ」




「え、何かしら……?」
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:02:03.39 ID:PoruoH2d0
――――




「二人とも起きてください!」




「なんだよ……この辺のセルリアンならさっき駆除しただろ……」




「違います、ボスから全ちほーへの通信です!」




「通信? 一体誰が?」




「かばんさんですよ! 今はとしょかんにいるみたいです!」




「なんだって!?」
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:02:46.84 ID:PoruoH2d0
――――




「ほらほら見てジャガー! ボスが目を赤くしてぴぴぴぴーってなってるよ!」




「それは見れば分かるが……それ以上のことは全然分からん……」




「あっ、なんか出てきたよ!」




――――




「眠いでござる……」




「こんな夜遅くに集会だなんて、どうしたんですの?」




「まあ聞け。たった今ボスから通信が入った。どうやらあのかばんかららしい」




「かばんって……確か、ヒトのフレンズの?」




「ああ。どうやらメッセージがあるみたいなんだ。以前新しい遊びを教えてくれた恩もある。聞いてやろうじゃないか」
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:03:13.34 ID:PoruoH2d0
――――




「なんなのだ……? こんな時間にうるさいのだ……」




「どうやらボスから通信が来たみたいだねー」




「……あっ、かばんさんなのだ! お久しぶりなのだー!」




「アライさーん、たぶん前もって録ってあるやつだから、かばんさんには届いてないよー」




――――




「ボスから通信が来たみたいっス! 送り主はかばんさんらしいっスよ」




「むむっ、タイミングが悪いのであります……これから私とビーバー殿のアイサツ(意味深)が始まろうという時なのに……」




「まあまあ落ち着くっス。何か大切なことがあるんだと思うっス」
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:03:41.32 ID:PoruoH2d0
――――




「ん〜…………この音は……ボス?」




「もうカフェは閉店だよぉ……と」




ピピピピ……ピピピピ……




「……どうやら何かあったみたいだにぇ」




――――




ピピピピ……ピピピピ……




ざばーっ




「寝ようと思ってましたけど……この音、もしかしてボスですの?」
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:04:08.83 ID:PoruoH2d0
『夜遅くにすみません。かばんです』




『ぼくから、フレンズのみなさんにメッセージがあります』




『夜行性のフレンズさんも、昼行性のフレンズさんも、どうか聞いてください』






『今、ぼくのフレンズのサーバルちゃんが苦しんでいます』




『サーバルちゃんはこわい夢を見ているんです』




『夢の中では、この前倒したはずの巨大セルリアンが出てきて、サーバルちゃんを苦しめています』




『みなさんに、お願いがあります』






『もう一度、セルリアンを倒すのに協力してください!』
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:05:46.95 ID:PoruoH2d0
――――




――――




――――




――――






地響きのような音。






辺り一面の真っ暗闇。






何も見えないのに、「何かがいる」と野生の本能が感じ取る。






その「何か」は巨体の向きをぐるりと変えて、






一つ目が、ギョロリと私を見つめている。








大きな、大きなセルリアン。






そのあまりの巨体に、思わず頭が真っ白になる。






逃げなきゃ――!






そう思った私は、すぐさま体を動かそうとする。
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:06:30.80 ID:PoruoH2d0
……あれ?







動かない?






いくら動こうとしても、体が言うことを聞こうとしない。






逃げられない。






このままじゃ、私――――






どすん






「うみゃあっ!」






ぐらりと体の中心が傾き、その場で尻もちをついてしまう






「いっ…………たた…………」






痛い。






ずきずきと痛みを感じて、体に力が入らない。






手でなんとか後ろに後ずさるが、それだけで逃げられるはずもなかった。
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:06:57.29 ID:PoruoH2d0
それを見下ろすセルリアンは、大きな目を下に向けて、私をじっと凝視する。






あまりの大きさに圧倒されて、体から力が抜けてしまう。






ぐらっ






セルリアンは大きく傾いた。








ああ。






私、死ぬんだ。




これまでも、そしてこれからも。




私はこの夢を繰り返す。




終わることのない奈落を落ち続ける。




セルリアンの体に飲み込まれる直前、私の頭に浮かんだのは――――






空気を裂くような、滑空音?
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:07:28.54 ID:PoruoH2d0
ずばっ!




「……え」




「ふう……危なかったわね」






ふわりと宙に浮き、体が何かに引っ張られ、セルリアンの攻撃をギリギリで回避した。




その正体――――私を救ったフレンズは、なんとトキだったのだ。






「トキ!? どうしてここに……!?」




「さあ、なぜかしら。それよりも、早く移動した方がいいわ。またすぐに攻撃してくるわよ」






トキはそう言うと、近くの地面に向かってゆっくりと降下し、私を降ろした。
何が起きているのか分からず、混乱したままだったが、トキに「あっちに行きなさい」と告げられ、言われるがままに進んでいく。






まっすぐ向かうと、平原から森に入る辺りで、ビーバーとプレーリーが私を待っていた。






「ビーバー! それにプレーリー! ど、どうして……?」




「それを説明するのは後っス! 今はとにかく、セルリアンを倒すことに集中するっス!」




「そのためにも……これを使うのであります!」
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:08:00.22 ID:PoruoH2d0
「かみ……ひこーき?」






プレーリーが取り出したのは他でもない、かばんちゃんが作ったかみひこーきだった。プレーリーはそれを「えいっ!」と、セルリアンとは反対の方向へ飛ばした。






「あれを追いかけるのであります! きっとサーバル殿を導いてくれるのであります!」




「わ……分かった! 追いかけてみる!」






一か八か、私は二人の言うことを信じて追いかけることにした。
何度も何度も繰り返したこの夢に、確かな変化が生まれ始めている。この変化を利用すれば、もしかすれば……今までになかった、新しい何かにたどり着くかもしれない。
不安と希望が入り混じった状況の中、私はとにかく、木々の間を不規則に飛ぶかみひこーきを追いかけ続けた。






ぐらっ




どすん!




「みゃっ!」






突如、どすんと音が鳴り、大きな巨木が道を塞いだ。




得意のサーバルジャンプも、さっきの足の怪我のせいで、思うように飛べそうにない。






「どうしよう、このままじゃ……」
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:08:27.72 ID:PoruoH2d0
「怪我はないですか? サーバルさん」




「その声は……キンシコウ、リカオン!」




「ほら、何ぼさっとしてんだ。早くそこをどきな」




「ヒグマまで……!」




「下がってろ。今からこれを持ち上げる」






トキ、ビーバー達に引き続き、今度はセルリアンハンターのフレンズがずらりと出てきた。




ヒグマは木の下に手を入れ、ぐぐぐ……と力を入れ始める。






「だ、大丈夫……? バスより重いと思うけど……」




「なあに、今は夢の中なんだろ? その気になれば空だって飛べるんじゃないか?」






そして、ヒグマは本当にやすやすと巨木を持ち上げてみせたのだ。






「す、すごい……」




「ほら、見てないで早く行け! かみひこーきとやらを見失ったらどうする!」




「あっ、そうだった! ありがとう、ヒグマ!」




ヒグマのパワーに見とれるのもつかの間、私は再びかみひこーきを追いかけ走り出した。
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:10:24.01 ID:PoruoH2d0
かみひこーきはどんどんスピードを上げていく。






「はっ……はっ……」






かばんちゃんが投げたかみひこーきはセルリアンの弱点を、私が投げたかみひこーきは、セルリアンの行く先を示した。それなら今度のかみひこーきは、一体何を私に示すというのか。




足がずきずきと痛んで、狩りごっこの時のように全速力で走れないけれど、ただ、かみひこーきを追いかければ何かが変わるという漠然とした期待から、私は走ることをやめようとはしなかった。






「遅いのです」




「遅いのですよ」




「……!」






長らく飛び続けていたかみひこーきが、ようやく地についた場所、そこに立っていたのはコノハ博士とミミちゃん助手だった。






「さあ、ぐずぐずしてる暇はないのです」




「さっさと始めますよ」




「始めるって……何を?」






博士と助手は答える代わりに、私の後ろに立ち、着ている服を掴んで羽を広げる。
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:10:50.53 ID:PoruoH2d0
「おとなしくするのです」




「暴れないのですよ」




「え、なになに……?」




ふわっ




「え!?」




ばさっ!




「みゃああああああぁぁぁ!!!」






ふわりふわりと足が地面から離れ、博士たちの目が光ると、数秒後、博士たちは私を掴んだまま一気に飛び上がった。






「だから暴れるなと言ったじゃないですか! おかげでセルリアンに気づかれたのです!」




「博士。お言葉ですが、この計画を立案したのはあなたでしょう? いきなり空を飛んだらサーバルが驚くことぐらい、考慮しておくべきかと」




「ぐっ……」




「……ま、バレてもバレなくても、さほど問題ではないと思いますけどね」






そうこう言っているうちに、博士と助手はさらにスピードを速め、セルリアンのすぐ近くまで飛んでいく。
会話しているはずなのに、息がぴったりな二人に私は驚いていた。
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:11:16.32 ID:PoruoH2d0
「あいつらは上手くやっているみたいですね」




「ですね」




「あいつら……?」






「たあああああぁっ!!」ぱりーん




「アライグマ!?」




「アライさん、がんばってるねえ……私も負けてられないな」ばっ




「フェネック!」






「待たせたな、セルリアン!」




「かばんを救うためなら、我々はいくらでも戦うぞ!」




「ライオン、ヘラジカ……!」






「サーバル、聞こえてますの? 困っているなら早く言うこと! 一人で抱え込むのはだめですのよ!」




「私たちも助けに来たぞ、サーバル!」




「応援しにきたー」




「ったく、勘違いするなよ! 仕方なくだからな!」




「よし、その調子だ! みんなでサーバルを助けるぞ!!」






それだけじゃない。以前の巨大セルリアンとの戦い……いや、もっとたくさんのフレンズが集まって、セルリアンに一斉に攻撃をしかけていた。
空に浮かぶ私たちを攻撃しようにも、地上のフレンズの攻撃で体は削られ、バランスを維持するのに精一杯のようだった。
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:11:46.14 ID:PoruoH2d0
「サーバルのために、ちほーに住まうフレンズが集まってきてくれたのです。後で感謝するのですよ」




「攻撃を加え続けたおかげで、石もむき出しになりましたね、博士」




「そうですね。全て計画通りなのです」






セルリアンの様子を確認すると、博士と助手は一気に加速し、セルリアンの真上に到達した。
視界から消えた私たちを、セルリアンは必死に探している。






「あれが見えますか、サーバル」




「セルリアンの中に、かばんが閉じ込められているのが見えるでしょう」




「……!!」






博士たちが目指する方向……巨大セルリアンの石の近くに、かばんちゃんの体がぷかぷかと浮かんでいる。






「どんなに足元を攻撃したところで、セルリアンにとっては焼け石に水。あの石を攻撃しない限り、とどめは刺せないのです」




「行きなさい、サーバル。悪夢の元凶を……そしてこの夢を、自分自身の手で終わらせるのです」
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:12:15.39 ID:PoruoH2d0
どく、どく、どく




心臓が高鳴る。全身の血が沸騰するような、熱い感情が奥底からこみ上げてきた。




二人の顔を見る。博士も、助手も、優しい顔をしている。
ちょっと不器用だけれど、島のフレンズを大切に思っているって気持ちが、熱となって伝わってくる。




地上では、今もフレンズのみんながセルリアンを取り囲んでいる。私とかばんちゃんを救うために、危険を顧みずに戦っている。




みんな……みんなありがとう。




心の中の感情が燃え上がった。






「……行く。私、かばんちゃんのところに行く!」




「そうと決まれば、さっさとやりますよ! さん、にー、いちで手を離すのです!」




「分かった!」




「いきますよ!」






待ってて、かばんちゃん!




今行くから!!
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:12:55.58 ID:PoruoH2d0
「さん!」






「にー!」






「いち!」






「「いっっっけーーーーーーー!!」」ばっ






「みゃーーみゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃ!!!」








「うみゃーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」








ぱっかーーーーーーーーーーん…………
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:13:21.95 ID:PoruoH2d0
――――




――――




――――




――――




――――




―――




―――



――





























「…………」




「…………ん……ぅ……」もぞもぞ
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:13:47.79 ID:PoruoH2d0
「…………眩しい」ごしごし




「……朝?」






「すー……すー……」




「か……かばんちゃん!?」






朝。




窓から差し込む太陽の光に目がくらんで、少しずつ慣れてきた時。




真っ先に目に入ったのは、私の右手を包んだまま寝ている、かばんちゃんの姿だった。






「ん…………ぁ、サーバルちゃん、おはよ…………」




「な、なんでかばんちゃんが……」




「ふふ……いい夢見れた?」




「!!」






かばんちゃんは私の手袋を外し、自らの左手と、私の右手を絡めていく。
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:14:13.91 ID:PoruoH2d0
「どうして……それを……///」




「……よかった。やっと夢から覚めたんだね」




「も、もしかして、かばんちゃんがあの夢を……!?」




「まさか……そんな夢みたいなことがあると思う?」






かばんちゃんはゆっくりとベッドの上に乗ってきて、私の体を覆い、向かい合う。疎い私には、それが何を意味しているのか、まだ分からない。
でも、心臓の鼓動は、確かに速くなっていた。






「顔、赤いよ」




「あ、あれ、おかしいな。早起きしたからかな……?///」




「…………」びとっ




「ひゃっ……」




どく、どく、どく




「サーバルちゃんのここ、すごくどきどきしてる」




「や、聞かないで……」




「どうして?」




「よく分かんないけど…………恥ずかしい…………///」




「恥ずかしくないよ。ぼくも今、すごくどきどきしてる」
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:14:40.44 ID:PoruoH2d0
「かばんちゃんも……? どうして……?」




「分からない?」






かばんちゃんはふわりとした笑みを浮かべる。
どうしよう。どきどきが止まらない。






「ぼくは、いつ、どんな時でもサーバルちゃんと一緒にといたい。サーバルちゃんを笑顔にしたい。幸せにしたい。もっともっと好きになりたい」




「そう思うだけで、心臓がどきどきするんだ」






かばんちゃんは私の視界を独占して、私はその中に捕えられて。
とろんとして、少し熱っぽいかばんちゃんの目を見ているだけで、切なさや愛しさが溢れてくる。






「サーバルちゃんは、ぼくのことをどう思ってるの?」




「私は…………!」






「大好き」という言葉を期待しているんじゃないと、私には分かった。私がこれまで言ってきた「大好き」と、かばんちゃんの感情は、似ているようで、全く違うから。




それなら、私の答えは。
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:15:12.61 ID:PoruoH2d0
「私も、かばんちゃんと同じ気持ちだよ……」






名前は知らない。
でも、言葉で表現できなくても伝わる。見つめ合うだけで理解ができる。
悲しくないはずなのに、涙がゆっくりとつたっていく。






「泣かないで」






私の顔を流れる涙を、かばんちゃんは丁寧に拭いとる。






「……えへへ」




「やっぱり、サーバルちゃんは笑顔が似合うね」






ありがとう、かばんちゃん。




私に笑顔を取り戻してくれたのも、夢から覚ましてくれたのも、全部かばんちゃんのおかげなんだね。




ああ、愛しい。かばんちゃんの全てが愛しい。やっぱり、私はかばんちゃんが好き。大好き。




世界で一番、誰よりも。
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:15:44.31 ID:PoruoH2d0
「サーバルちゃん」








「愛してる」








二人は重なる。






二つの心臓は共鳴した。
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:16:19.60 ID:PoruoH2d0
というわけで終わりです

以下おまけ
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:16:46.95 ID:PoruoH2d0
エピローグ






「あれから1ヶ月、無事セルリアンを倒せた&かばん何の動物か分かっておめでとうの会をするわよ!」






計画していたパーティーは無事開催され、島中から大勢のフレンズが集まった。
仕事をしているフレンズも、今日だけはお休み。
みんなで歌って、踊って、遊んで。疲れたら、ぼくがヒグマさんに直伝した特製カレーが待っている。






「それでは、みんなでいただきましょう!」




「「「いただきまーす!」」」






みんなで食べるカレーは、二人で食べるジャパリまんよりずっとおいしい。
「サーバルも治ったのだし、早くカレーを食べさせるのです」とヘソを曲げていた博士さんも、ようやくありつけて満足してくれたみたいだ。






「まったく……ヒトは話が長いのです……もぐもぐ」




「博士、カレーが口についてますよ」ふきふき




「ありがとうなのです、助手」
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:17:15.36 ID:PoruoH2d0
「ところで、ジャパリまんとりょうりを組み合わせるとさらにおいしくなる、とライオンたちが言ってましたよ、博士」




「そ、それを早く言うのです!! さっそくジャパリまんを取ってくるのです!!」だっ




「あ、博士! まだ口に汚れが……!」




「……まったく、仕方ないのです」






「かばんちゃん、口開けて!」




「あー」




「はいっ」




「んっ」もぐっ




「どう? おいしい?」




「うん……おいひい」もぐもぐ






博士さんたちのやりとりを横目に、ぼくはサーバルちゃんと一緒にカレーを食べる。
あれからサーバルちゃんはすっかり元通りになった。
……それどころか、さらに元気になったような気がする。
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:17:43.03 ID:PoruoH2d0
「私にも食べさせてー!」




「いいよ」




「みゃーーむっ」ぱくっ




「もぐもぐ…………おいしー!」




「あはは……///」






食べさせあいっこって、されるのは構わないけど、するのは何だか恥ずかしい。
あの出来事があってから、サーバルちゃんとはすっかりラブラブだ。告白したのはぼくの方なのに、今では積極的なサーバルちゃんに翻弄されっぱなしである。






「かばん殿ーー!」






二人で食事していると、ビーバーさんとプレーリーさんがぼくたちのもとへやって来た。






「やっと見つけたのであります!」




「ここはフレンズが多くて探すのも疲れるっスね〜……」




「かばんさんはお元気でありますか?」




「おかげさまで、ぼくは元気だよ」




「よかったっスねえ。サーバルも元通りに戻ったし、これで一件落着……」
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:18:11.50 ID:PoruoH2d0
「あっ、その声はビーバー!! そんな呑気な顔して、ジャパリまんはどうなったのですか!?」




「うええっ、は、博士!?」




「散々待たされたのです……もちろんそれ相応のジャパリまんを用意してあるのですよね?」




「か、かばんさん、伝えてくれるって言ったはずじゃ……」




「あ…………忘れてた…………」




「お、お先に失礼するっスーーーー!!!」




「こらーーー!! 待つのです!!」






「ビーバーも大変だねー」




「後で謝らないと……」




「…………」




「プレーリーさん、どうかしました?」




「いや、気のせいかもですが……」




「かばん殿とサーバル殿、前より仲良くなったように見えるであります」




「ほんと!?」




「えっ、そう見えますか……?///」
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:18:47.02 ID:PoruoH2d0
確かに仲は一層深まったけど、目に見えていちゃいちゃしてたと思うと……それはそれで恥ずかしくなる。
ぼくがもじもじしていると、プレーリーさんはくるっとサーバルちゃんの方に目を向けた。






「サーバル殿ー! 突然ですがプレーリー式のあいさつをしようであります!」




「え?」




「えっ!?」






何を言い出すかと思えば、既にプレーリーさんはサーバルの頬に両手を添えている。







「プレーリー式のあいさつってなんだっけ?」




「忘れたのでありますか? ならもう一度教えてあげるのであります!」






「ま、待って!」






考えるより先に言葉が出る。






「ご…………ごめん、ぼくたち用事があるから。サーバルちゃん、行こう!」




「え、かばんちゃん? 用事って何?」






状況を飲み込めていないサーバルちゃんを、ぼくは半ば無理やり連れていった。






「……へえ。やっぱり一歩進んでるのでありますね」




「お幸せに、であります」
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:19:27.59 ID:PoruoH2d0
サーバルちゃんの腕を掴み、ぼくは人気のない場所までひたすら走り続けた。






「はっ……はっ……」




「ね、ねえ! かばんちゃん! どこ行くの? 用事って何? 私そんなの聞いてないよ?」




「っ…………」






ぐっ




「!」






今度は言葉より行動が先に出る。




サーバルちゃんの目が見開いてから数秒、体を引き寄せる力をゆっくりと抜き、重なっていた唇を離す。






「……こういうこと、他のフレンズとしないで」




「……!」




「っ……///」








「もしかして、プレーリーにキスされるのが嫌だったの?」




「は、はっきり言わないでよぉ……///」
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:20:03.36 ID:PoruoH2d0
「……くすっ、あははっ」




「え……?」




「かばんちゃん、なんだかかわいいなって」




「か、かわいいだなんて!///」




「かわいいもん。かばんちゃんって、ちょっとしたことでも気になっちゃうんだね」




「うぅ……///」






「…………心配しなくていいんだよ?」ぎゅっ




「!」






サーバルちゃんはそっとぼくの手を取る。






「私、いつもかばんちゃんしか見てないんだよ。それに、もうどこにも行ったりしない。離れたりなんてしないよ」




「だから、安心して…………ね?」






ぼくと向き合って、彼女は少しはにかみながら微笑んだ。




……やっぱり、サーバルちゃんには敵わない。
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:20:52.53 ID:PoruoH2d0
「……サーバルちゃん」






ぼくは彼女と両手を取り合う。




お互いの存在を確かめるように。




お互いの鼓動を合わせるように。




二人は笑い合う。




誰にも負けないと自信を持って言える、強い絆と、




何にも変えがたい、たくさんの思い出を胸にしまって。




もう大丈夫だよ。もう離さないよ。




二人は相手に、自分自身に、そう伝え合う。






「かばんちゃん」




「サーバルちゃん」








「「これからも、ずっと一緒だよ!」」




〜fin〜
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/20(火) 02:22:36.79 ID:PoruoH2d0
これにて本当に終わりです
もとはpixivに投稿していたSSなので、いろいろ読みづらい部分もあったかと思います。その辺はすみません
ありがとうございました
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/21(水) 10:08:07.06 ID:hDW7c72To

サバかばとても良い
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