【バンドリ】氷川日菜「あまざらしなおねーちゃん」

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57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:14:23.44 ID:ueeqel/10

2月28日

 今日は羽沢さんと向き合うことが出来た。

 正直に言えば怖かった。帽子も被らず、彼女の顔を見るのがまだ怖かった。

 帽子を被るべきか未練がましく悩んでいると、扉越しに日菜が大きな声を出しているのが聞こえた。

 その能天気な声を聞いていると、無駄に難しく考えていた自分がバカみたいに思えた。

 
 ……よく考えれば、隣には絶対に日菜がいてくれるのだ。

 あの子には絶対に言わないが、そう思うだけで私は今までよりずっと強くなれた気がした。

 だから、羽沢さんともしっかり向き合うことが出来た。そして、今までの非礼を詫びて、お礼を言うことが出来た。

 しかし、なんだろうか。羽沢さんと話をしていると前にもこんなことがあったような気がしてくる。

 これが忘れた記憶のせいなのか、彼女の持つ雰囲気が私にそう思わせるのかは分からない。

 ただ、悪い気はしなかった。……今はそれだけでいいと思う。

 また、日菜と羽沢さんにもロゼリアの前で演奏する、ということを話した。

 それを聞いた日菜は意気揚々とライブハウスを押さえてロゼリアのメンバーを誘うと言ってくれた。その言葉に素直に甘えてしまった。

 まったく、私はあの子に頼ってばかりだ。記憶が戻ったらもっとしっかりしないといけない。いつまでも日菜に世話をかけさせていては駄目だ。

 ライブの――いや、ライブというべきものなのか分からないが、とりあえずは便宜上、ライブの開催は来週の水曜日に決まった。

 演奏するのは1曲だけだから、別に期間が短いとは思わない。その曲も、最初は難しいかと思ったが羽沢さんの協力を得られて、なんとか出来そうだ。

 しかし……それにしても羽沢さんには頭が上がらない。

 私を見つけてくれただけでも感謝のしようがないくらいのことなのに、今日から1週間、また私のわがままに付き合わせることになってしまった。

 それでも彼女は笑顔で「紗夜さんの力になれるならなによりです」と言うものだから参ってしまう。

 どうすれば羽沢さんに報いることが出来るだろうか。これも記憶が戻ったら最優先で考えなければいけない。

 ……ともあれ、先のことは先のことだ。

 今は目先にある明確な目標をクリアするのが優先事項だ。

 ただ、これで本当に記憶が戻るのかは分からない。

 不安は多い。だが進むべきだ。

 今はまだ、将来も未来も視界不良の道半ばなんだ。

 目の前にあるのは記憶をなくした氷川紗夜の分岐点。行くか戻るかの分岐点だ。先は暗く見えないが、進まなければいけない。

 もし上手くいかなかったら。考えるだけで気分が重くなる。吐きそうだ。

 それでも、日菜と笑い合えたこの日々も、失くした日の痛みも、私は肯定する。

 どこかに忘れ物をしたから、それを探しに行くんだ。

 先がどうなるかは分からないが、私の旅は決して孤独なんかじゃなかった。

 もしかしたら私を待ち受けるのは、美しき思い出ではなく悲しき思い出なのかもしれない。

 でも大丈夫だ。どうなったって、きっと隣には日菜がいてくれる。

 だから私なりに頑張ってみよう。


 
 結果がどうなろうと、この日記を書くのは今日で最後にしよう。

 ここが私の終わりで始まりだ。


――――――――――
―――――――
――――
……
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:14:49.67 ID:ueeqel/10

紗夜(……日菜と羽沢さんに、ロゼリアのメンバーの前でギターを弾くと決意表明してから1週間が経った)

紗夜(私はライブで弾く曲を楽譜に起こして、それの練習をずっとしていた)

紗夜(日菜はそんな私の元へいつものようにやって来ては、応援しているつもりなのか邪魔をしているつもりなのか判断に迷うくらい、私にまとわりついてきた)

紗夜(羽沢さんは短い時間しか居れない日もあるが、ほぼ毎日私の部屋に来て、キーボードの練習を重ねた)

紗夜(そんな日々を振り返ると、自分の中に穏やかな感情が沸き起こるのを感じる)

紗夜(……そもそも自分は何故ギターを始めたのか)

紗夜(その理由は、なんでも上手に出来る妹と比較されるのが嫌で、ただ日菜に勝ちたいがためだとか、そんな風なものだった)

紗夜(だから私は今までギターの練習をしていても穏やかな気持ちになることなんてなかった)

紗夜(それに、そういう気持ちは高みを目指すためには不要なものだと思っていた)

紗夜(それが今や、日菜の前でも素直にギターが弾ける)

紗夜(羽沢さんが演奏ミスをしても、それに対して優しくアドバイスをして歩調を合わせられた)

紗夜(前までの自分だったらどうだっただろうか)

紗夜(きっと日菜にギターを弾いている姿は絶対に見せないし、何度もフレーズを間違えるメンバーは「邪魔だ」と切って捨てていただろう)

紗夜(心境の変化、というものを前にも考えた)

紗夜(少し前までの自分と今の自分の心境。考えてみると、あまりにもかけ離れすぎではないだろうか)

紗夜(……でも、それも悪い気はしなかった)


……………………
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:15:57.07 ID:ueeqel/10

――CiRCLE ライブステージ舞台袖――

紗夜「ふぅ……」

紗夜(ライブ当日の時間は瞬く間に過ぎていた)

紗夜(私は日菜に導かれてやってきたライブハウス――CiRCLEのステージに繋がる舞台袖にいる)

紗夜(リハーサルも滞りなく終わり、あとはここで羽沢さんと開演時間を待つだけだった)

紗夜「…………」

紗夜(自分が立つステージを脳内に思い浮かべる)

紗夜(今日は観客が5人だけ。日菜と、名前は知っているが顔は知らない、ロゼリアというバンドの4人)

紗夜(彼女たちの前でギターを弾く。その結果がどうなるのか。ロゼリアの人たちは自分をどういう目で見るのか)

紗夜(正直に言ってしまえば恐怖心は大きい。手と足が震えているのを自覚できる)

紗夜(ステージで自分を守ってくれるのは、もう愛着さえ湧いてきたつば広帽子とギターだけだ)

つぐみ「紗夜さん、緊張してますか?」

紗夜(……いや、違うか)

紗夜「……いいえ、大丈夫です」

紗夜(私は首を振って、隣にいる緊張した面持ちの羽沢さんに答える)

つぐみ「不安は……ないですか?」

紗夜「そちらは、少しだけ」

つぐみ「えっと、じゃあ、力になれるか分かりませんけど」

紗夜(そう前置きをして、羽沢さんは遠慮がちに私の手を握る)

つぐみ「少しでも、紗夜さんの不安がなくなりますように……」

紗夜「……ありがとうございます、羽沢さん」
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:16:25.88 ID:ueeqel/10

紗夜(羽沢さんの手も少し震えていた。恐らくそれは緊張からだろう)

紗夜(ロゼリアは頂点を目指すためのバンドだと聞いた。そのメンバーの前で、普段は共に演奏をしない相手と楽器を奏でるんだ)

紗夜(羽沢さんの緊張だって小さなものではないだろう)

紗夜(……それなのに私のために祈ってくれるんですね、羽沢さんは)

紗夜(彼女は強い。私なんて足元にも及ばないくらいだ)

紗夜(そんな強い人が隣にいてくれるんだ。共にステージに立ってくれるんだ)

紗夜(これほど勇気を貰えることはない)

紗夜「私は大丈夫です。わがままに付き合ってくれたあなたのためにも、日菜のためにも、私は絶対にやり遂げて見せます」

つぐみ「……はい。一緒に頑張りましょうね」

紗夜「ええ」

紗夜(羽沢さんと頷きあう)

紗夜(大丈夫、大丈夫だ。きっと私はしっかり頑張れる)

紗夜(その場で大きく息を吸って吐いた。気付けば開演の時間だった)

紗夜「……よし」

紗夜(私は気合を入れなおして、ステージへ足を踏み出した)

紗夜(極力、まだ観客席を見ないようにして、ゆっくりとステージの中央まで歩く)

紗夜(そこにはギタースタンドに自分のアコースティックギター、その近くに椅子とマイクスタンドが2つ)

紗夜(その一歩後方の右隣には羽沢さんのキーボードと、同じくマイクスタンド1つがあった)

紗夜(私は一度だけ帽子を深く被り直し、ギターを手に取り、椅子に腰かける)

紗夜(マイクをサウンドホールと顔の前に微調整した。それから少しだけ間を置いて、顔を上げる)

紗夜(観客席からは逆光になるようにステージライトをセットしてもらった。あちらからでは帽子の影で私の顔は見えていないだろう)

紗夜(広々としたオールスタンディングの観客席が眼前に広がる。この辺りでは有数の規模だ)

紗夜(このライブハウスを押さえるのにどれだけ日菜は苦労したのだろうか。頭にはそんな考えが浮かぶ)

紗夜(今日は観客も入れられない、自分のためだけのステージだ。きっと相当な労力が必要だったはずだ)

紗夜(でも……日菜はそんな素振りを全く見せなかった)

紗夜(私からの感謝の言葉を受け取ると、それだけで十分だと言わんばかりの輝く笑顔を見せた)

紗夜(……ありがとう、日菜)

紗夜(心の中でもう一度、日菜に感謝する)
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:17:07.08 ID:ueeqel/10

紗夜(がらんどうの観客席に目をやる。ステージとそことを分ける最前列の柵の前に5人が立っていた)

紗夜(私は左からその人物を確認する)

紗夜(一番左にいるのは、確か同じクラスの白金燐子だ。喋っているところをまったく見たことがなかった)

紗夜(彼女の隣にはかなり背丈の小さな女の子がいた。中学生だろうか、自分とは少し歳が離れているように見えた)

紗夜(並びの真ん中にいる人物は腕を組み、まるで自分を試すかのような視線を送ってきていた。力強い目だ)

紗夜(その隣には今風な身なりをした女性が心配そうな面持ちでいた。ギャル、というのだろうか、そんな格好と心配そうな表情に少しギャップがあった)

紗夜(そして右端には日菜がいた。日菜は自分と目が合ったのが分かったのか、明るい表情で1つ頷いて見せた)

紗夜(「おねーちゃんなら大丈夫だよ!」と背中を押された気がした)

紗夜(5人に視線を巡らせたあと、会場の全体を見回す)

紗夜(このライブハウスで演奏したことはなかった。初めて立つはずのステージだ)

紗夜(しかし、見覚えがあるような気がして、何か頭の片隅に引っかかるものがあった)

紗夜(それのせいか、不満と焦燥、驚愕、決意、そして安穏など、まぜこぜになったいくつもの感情が胸中に渦巻いている)

紗夜(……怖い)

紗夜(得体のしれないそれらに恐怖心を煽られる。小さく手が震える)

紗夜(でも……日菜が背を押してくれた)

紗夜(右隣へ視線を巡らせる。一歩下がったその位置にいる羽沢さんと目が合う)

紗夜(彼女も日菜と同じように力強く頷いてくれた)

紗夜(それにも背を押された)

紗夜「……歌います」

紗夜(口から漏れた小さな呟きをマイクが拾って会場全体に響かせる)

紗夜(もっと言うことがあった。いろいろな言葉を考えて、いろいろな感情を吐き出すつもりだった)

紗夜(しかし、それだけしか出せなかった)

紗夜(コードを押さえる。手の震えはもう止まっていた)

紗夜(ピックを握った手で、大きく最初の音をかき鳴らした。羽沢さんのキーボードも途中からそれに交わってくる)

紗夜(……大丈夫、ちゃんと弾ける。歌える)

紗夜(私はそう思い、目を瞑って歌詞を紡ぎだす)
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:17:36.90 ID:ueeqel/10

 辛くて苦しくて まったく涙が出てくるぜ

 遮断機の点滅が警報みたいだ、人生の

 くさって白けて投げ出した いつかの努力も情熱も

 必要な時には簡単に戻ってくれはしないもんだ


紗夜(歌う。ギターを弾く。脳裏には様々な言葉が巡る)

紗夜(現実。幻想。苛立ち。許容。受け入れなけばいけない。恐怖。自分。立ち向かわなければいけない)
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:18:04.39 ID:ueeqel/10

 回り道、遠回り でも前に進めりゃまだよくて

 振り出しに何度戻って 歩き出すのも億劫になって

 商店街の街灯も 消える頃の帰り道

 影が消えたら何故かホッとして 今日も真夜中に行方不明


紗夜(氷川紗夜。ギター。ロゼリア。氷川日菜。羽沢つぐみ。姉妹。比較。劣等。認めなければいけない)
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:18:46.91 ID:ueeqel/10

 死ぬ気で頑張れ 死なない為に

 言い過ぎだって言うな 最早現実は過酷だ

 なりそこなった自分と 理想の成れの果てで

 実現したこの自分を捨てる事なかれ


紗夜(認めたくない。焦燥。雑音。決意)
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:19:19.22 ID:ueeqel/10

 君自身が勝ち取ったその幸福や喜びを

 誰かにとやかく言われる筋合いなんてまるでなくて

 この先を 「救うのは」

 傷を負った 「君だからこその」

 フィロソフィー フィロソフィー フィロソフィー


紗夜(言葉が浮かぶ)

紗夜(その関連性が分からない。意味があるのか分からない。それらはどんどん胸の内に積み重なっていく)

紗夜(暗闇。挫折。約束。七夕。審査。否定。結託。共感)
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:19:47.23 ID:ueeqel/10

 都市の距離感解せなくて 電車は隅の方で立ってた

 核心に踏み込まれたくないからいつも敬語で話した

 心覗かれたくないから主義主張も鳴りを潜めた

 中身無いのを恥じて ほどこした浅学、理論武装


紗夜(音。正確な音。負け。負けたくない。勝てない)
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:20:15.85 ID:ueeqel/10

 自分を守って 軟弱なその盾が

 戦うのに十分な強さに変わる日まで

 謙虚も慎ましさ 無暗に過剰なら卑屈だ

 いつか屈辱を晴らすなら 今日、侮辱された弱さで


紗夜(盾。ギター。弱い。否定。願い。雨。小鳥。肯定。雨。中身。音。承認)
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:20:50.34 ID:ueeqel/10

 うまくいかない人生の為にしつらえた陽光は

 消えてしまいたい己が影の輪郭を明瞭に

 悲しいかな 「生きてたんだ」

 そんな風な 「僕だからこその」

 フィロソフィー フィロソフィー フィロソフィー


紗夜(とめどなく言葉が積み重なる)

紗夜(それに意味があるのかまだ分からない。何も分からない)

紗夜(薄ぼけた抽象画のように心がその言葉たちに塗りつぶされる。暗闇に落ちていく)

紗夜(何も思い出せない。焦りが募る。どうしたらいい)

紗夜(私は、何を信じたらいい?)
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:21:25.22 ID:ueeqel/10


 正しいも正しくないも考え出すとキリがないから

 せめて望んだ方に歩けるだけには強がって

70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:21:51.61 ID:ueeqel/10

「紗夜」

 声が聞こえた、ような気がした。俯かせていた顔を起こす。ロゼリアの顔ぶれが自分を見つめていた。

「紗夜さん」「氷川さん」「紗夜」

 名前を呼ばれた気がした。凛々しい声で、無邪気な声で、小さな声で、明るい声で、共に頂点を目指そうと手を引かれた気がした。
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:22:21.30 ID:ueeqel/10


 願って破れて 問と解、肯定と否定

 塞ぎがちなこの人生 承認してよ弁証法

72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:22:47.34 ID:ueeqel/10

「紗夜さんの全てのことに真摯に向き合うところ、すごく素晴らしいと思います」

 誰かに自分を肯定されたような記憶があった。私は私でいいのだと教えられたような気がした。
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:23:13.74 ID:ueeqel/10


 悲しみを知っている 痛みはもっと知っている

74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:23:44.19 ID:ueeqel/10

「必ずあなたのもとへ向かうから、もう少し待っていて」

「うんっ……うんっ……! 約束だよ、おねーちゃん!」

 雨の音が聞こえた。約束をした。打ちのめされた。手を差し伸べられた。決意をした。自分の音を探すと。誇りを持つと。もう1度約束をした。いつかあなたの隣でそれを奏でると。
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:24:10.63 ID:ueeqel/10


 それらにしか導けない 解が君という存在で

76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:24:47.53 ID:ueeqel/10

 私は何を信じればいいのか。

 分かった気がした。

 ―――にバンドを組まないかと声をかけられたこと、―――――のオーディションをしたこと、今までに体験したことがない一体感を味わったこと、なし崩しに―――んがバンドに入ったこと、日菜に劣等感を抱いていたこと、キーボード担当を探して――さんのオーディションをしたこと、このステージでロゼリアの初ライブをやったこと、――川さんに怒鳴ってしまったこと、バンドがばらばらになりかけたこと、―井さんがそれを食い止めるために奔走していたこと、コンテストに不合格だったことロゼリア全員でやけ食いをしたこと湊さんが父の曲を歌う資格があるのか悩んだことそれに共感したこと今井さんがいなければロゼリアがまともに練習すら出来ないと知ったこと日菜と星に願う短冊を探し回ったこと秋時雨に傘をさしたことつぐみさんに力の抜き加減が大事だと教えられたこと宇田川さんと白金さんのやっているというゲームを手伝う羽目になったこと。

 それを積み重ねた自分自身を信じればいいんだ。

 それだけで、よかったんだ。
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:25:14.32 ID:ueeqel/10

 そもそも僕らが生きてく動機なんて存在しなくて

 立ち上がるのに十分な 明日への期待、それ以外は

 僕は僕の  「問いを解いて」

 君は君の、 「君だからこその」

 フィロソフィー フィロソフィー フィロソフィー
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:25:54.46 ID:ueeqel/10

紗夜(最後の1ストローク。震える弦を掌でミュートした。音が消える)

紗夜(熱に浮かされたような気分だった。寝起きのおぼろげな意識のように頭がぼーっとする)

紗夜(そのまま俯いて目を瞑った。そして脳裏に思い浮かべる)

紗夜(きっと、日菜は輝いた表情をしているでしょう)

紗夜(つぐみさんは練習でよく間違えていた歌いながら演奏するフレーズをちゃんと弾けて安心しているかもしれない)

紗夜(白金さんは落ち着かずにソワソワしていそうだ)

紗夜(宇田川さんはもしかしたらこんな自分のギターにまた「かっこいい」なんて思ってくれているかもしれない)

紗夜(湊さんはどうだろうか、きっとまだ試すような顔をしていそうだ)

紗夜(今井さんは心配のし過ぎで泣きそうな顔をしているかもしれない)

紗夜(……ああ、そうか。これで)

紗夜(……私は、やっと私は……氷川紗夜を信じることが出来たんだ)

紗夜(私は震える右手を、被ったつば広帽子に伸ばす)

紗夜(今までありがとう。弱い私を守ってくれてありがとう。もう、私は大丈夫)

紗夜(帽子をゆっくりと脱ぐ。そして顔を上げる。きっと眼前の風景は、私が思い描いた通りのものだろう)

紗夜(そう思って、私は瞼を開いた)


79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:26:35.30 ID:ueeqel/10


 ※ ※ ※

 ……どうやら無事に私の記憶は戻ったようだ。それはとても喜ばしいことだと思う。しかし、思うところがあるので、もう書かないと決めた日記をあと1ページだけ。

 …………。感情が処理できない。

 まず最初に、私は今、日記になんていうことを書いていたんだと枕に顔を埋めたい気分である。

 読み返してみると、本当にひどい。ひどすぎる。

 悩みすぎだ。馬鹿なのではないかとその時の自分に言いたい。

 それに日菜に抱きしめられて涙を流すなんて……。1度ならまだいい。だが秋にも私は同じようなことをしているではないか。なんとも恥ずかしい。

 その上、つぐみさんにも多大なる迷惑をかけてしまっている。彼女に対する償いの方法が思いつかない。とりあえずこれから週に3日は必ず羽沢珈琲店に通おう。それで少しはつぐみさんにも報いることが出来ると思う。それ以上の良案は今は出てこなかった。

 それと、記憶に関してだが、学園の昇降口で日菜を待っていたことは覚えている。そこから次の記憶が病院のベッドだ。日菜にひどいことを言った。そのあとの記憶は全て残っている。

 理不尽ではないだろうか。

 記憶をなくしていた期間のことは、なくした記憶が戻ったら交換条件で消えるべきではないだろうか。記憶喪失の私と今の私は分けて考えられるものではないだろうか。それくらいは大目にみてくれないのだろうか。おかげで忘れたいことがたくさん増えた。穴があったら入りたい、とはまさに今の心境だろう。もういっそ開き直ってしまったほうがいいのかもしれない。

 …………

 そうだ、プラス思考だ。

 これもいい機会だ。もしまた同じような目に――いや、人生で2度も記憶などなくさないとは思うが――あった時に、この日記の存在を思い出して恥を重ねないように自分を戒めよう。

 自分の正直な気持ちを書こう。

 日菜は私に――(斜線で消されている)――私にとってまさに陽――(斜線で消されている)

 つぐみさんとまたセッションをするのもいいかもしれない。

 日菜は――(黒く塗りつぶされている)

 日菜は大切な妹だと思った。

 ……いざ書こうと思ってもなかなか上手くいかないものだ。結局こんなことしか書けなかった。好きなことを好きって言うのはこんなに難しかったかしら。

 まぁいい。

 恐らく、またこんな目に遭ってもどうせ日菜のことだから、私に付きっきりで看病をするでしょう。それに甘えてしまうのは非常に癪ではあるけれど、その存在が私にとって大きな助けになっていることは確かだ。

『絶対に味方でいてくれる人が氷川紗夜の隣にいつもいます』

 この1文だけでいい。色々と切羽詰まった状態の私でもきっと察してくれるだろう、きっと。

 ともあれ、これで本当の本当に日記は終わりだ。

 これは戒めだから、私が日常的に目に触れるような場所へ隠しておこう。

 どこがいいだろうか。私のことだから……何かがあったらきっとすぐにギターに触れるでしょう。しばらく持ち運ぶ予定のないアコースティックギターのケースにでもしまっておこう。

 これにて私の――氷川紗夜の日記は終わりだ。また私が氷川紗夜でなくなる時があれば、この日記を見つけて、大切な妹への感謝を思い出せますように。


 了


――――――――――――
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:27:50.20 ID:ueeqel/10

――芸能事務所――

日菜「っていうおねーちゃんの日記を見つけたんだ〜っ!」

千聖「……はぁー……」

丸山彩「…………」

大和麻弥「…………」

若宮イヴ「…………」

千聖(約1か月ぶりに事務所に顔を出した日菜ちゃんの言葉を聞いて、私は大きなため息を吐き出した)

千聖(他のみんなはなんて言ったらいいのか分からない、というような表情で固まっていた)

彩「……えーと、じゃあお姉さんの紗夜ちゃんが記憶喪失になってて……?」

日菜「うん、ずっと看病してたんだー。いやー、みんなごめんね。おねーちゃんももう記憶戻ったから、今日から復帰だよっ」

彩「あ……うん……」

千聖(あっけらかんとした物言いに彩ちゃんは困ったように頷くのみだった)

千聖(それも無理がないと思う)

千聖(……日菜ちゃんのお休みしていた理由の説明は非常に簡素だった)

日菜『おねーちゃんが転んでここ1年の記憶なくしちゃってたんだ。もう大丈夫になったからお休みおわりって感じ! あ、ねぇねぇ、それよりこれ見てよ!』

千聖(以上、である)
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:28:21.39 ID:ueeqel/10

千聖(それだけ言って、嬉しそうにお姉さんの日記とやらをスマートフォンに納めた写真をみんなに見せている)

千聖(これは他人が見ていいものなのだろうか。そもそも嬉々として見せるものなのか)

千聖(そんな思いが日菜ちゃん以外のみんなにあったと思う)

千聖(よく言えば常識にとらわれない、悪く言うと空気が読めない行動だと思うけれど……)

千聖「……まぁ、日菜ちゃんらしいわね」

麻弥「そ、そうですね。いつも通りの日菜さんって感じ……ですかね」

千聖(……そう、言ってしまえばいつも通りの日菜ちゃんだ)

千聖(でも、ひと月前の電話越しの日菜ちゃんは、すごく弱っていたように思える)

千聖(簡単な一言だけだったけど、無人島にまで写真を持っていくほど溺愛しているお姉さんの記憶がなくなった)

千聖(きっとそれは日菜ちゃんにとって大きなショックがあったからだろう)

千聖(でも……それをおくびにも見せずに、まったくいつも通りの姿で日菜ちゃんは事務所にやってきた)

千聖(強い……というのか、なんというか……)

千聖(普通の人であればもっと引きずりそうなんだけど……あの子の中ではもう『過ぎたこと』で済まされているのかしら)

千聖(……それは強さといっていいのかどうなのか……)
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:28:56.43 ID:ueeqel/10

日菜「ここなんてほら、見て見て!『日菜ならば、私の気持ちを分かってくれるだろうという信頼があった』だって! えへへ、おねーちゃんにこんな風に思われてて『るんっ♪』てしちゃうな〜!」

イヴ「ヒナさんはサヨさんととっても仲良しなんですね!」

日菜「うん! 今回のことでもーっと仲良くなったよ!」

彩「……いいのかな、これ……。あとで日菜ちゃん、絶対に怒られるよね……」

千聖(日菜ちゃんはなおも嬉しそうに日記の文面を晒して、その上音読までして見せていた)

千聖「麻弥ちゃんは見ないでいいの?」

麻弥「やっぱり、ああいう日記とかって本人がいない前で勝手に読んじゃいけないと思いますから……ジブンは遠慮しておきます」

千聖「……そうね。その通りね」

千聖(日菜ちゃんみたいな女の子を妹に持つのって、どういう心境なのかしらね)

千聖(…………)

千聖(……苦労しそうだ、ということ以外なにも思いつかないわ)

千聖(あまり話をしたことはないけど……あの真面目そうなお姉さんも、きっと奔放で唯一無二の日菜ちゃんにいつも振り回されてるのかしらね)

千聖「はいはい日菜ちゃん、そこまでよ」

千聖(それに同情に近い念を抱いたから、という訳ではない。だけどそろそろ止めないとずっと話が脱線したままだろう)

千聖「日菜ちゃんがお休みしてる間にパスパレで決まったお仕事もあるの。そのお話をしましょう」
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:29:25.89 ID:ueeqel/10

日菜「うん、分かったよ。どんなことが決まったの?」

千聖「まず、新曲を録ることになっているわ。……日菜ちゃんのことだからこっちはあんまり心配してないけど、ギターの方は……」

日菜「大丈夫だよ! おねーちゃんのギター見て、あたしももっと『るんっ♪』てする音が出せそう!」

千聖「そう。それならいいんだけど。それと、その新曲の発売に合わせてリリースイベントをやることになっているわ」

日菜「リリースイベント? ってなに?」

彩「CDとかブロマイドを渡して、お客さん1人ひとりにちょこっとお話しするイベントだよ」

日菜「へぇーそうなんだ。つまり……色んな人と話をしたりするって感じなのかな?」

千聖「大体はそんなイメージかしらね」

日菜「なるほどね! じゃあ、みんな同じで違うってことがもっとよく分かるかもしれないなぁ〜」

イヴ「みんな同じで違う……ですか?」

日菜「そうだよ、イヴちゃん! なんかね、そういうこと考えると楽しいなって思うようになったんだ」

イヴ「……どういうことでしょうか?」

麻弥「イヴさん、こんな時には便利な言葉があるんですよ」

イヴ「便利な言葉、ですか?」

麻弥「はい。こういう時は『つまり……そういうことさ』。これで全部解決ですよ!」

千聖「麻弥ちゃん……薫から悪い影響を受けているみたいね……」

日菜「これでもっともっとおねーちゃんのことが分かるようになるかな〜」

彩「日菜ちゃん、最終的には全部そこに落ち着きそうだね……」

千聖「……それも日菜ちゃんらしいんじゃないかしら」

彩「うーん……確かにそうかも……」

千聖(でも、どこか少し雰囲気が変わったような気がする。それも悪い方ではなくて良い方に)

千聖(色んな意味で目が離せない子だけど……少し頼もしくなったというか、周りが見えるようになったというか)

千聖(私は日菜ちゃんにそんな印象を抱くのだった)


……………………
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:29:55.10 ID:ueeqel/10

――CiRCLE スタジオ――

――ジャーン......

リサ(力強い歌声が、ベースの重低音に、ドラムのリズムに、キーボードのメロディに、ギターのリフに彩られる)

リサ(1つの音が変わるだけでこんなにも印象が変わるんだ、とベースを弾きながらアタシは思う)

リサ(きっとみんなも同じことを感じてるだろうな)

リサ(紗夜が記憶喪失になっている間、ロゼリアの練習では打ち込みのギター音を使用していた)

リサ(楽譜通りに正確な音を出し続けるそれは紗夜の音にちょっとだけ似ていたが、まったく別のものだった)

リサ(みんなが滞りなく曲を演奏しても、どこか違和感があった)

リサ(言葉にするのは難しいけど、一体感がなかった)

リサ(どうにも『ただフレーズを合わせているだけ』という印象が拭えなかった)

リサ(でも、紗夜が復帰してから初めての練習でのこの感じはなんだろう)

リサ(目の前でアコースティックギターを弾いていた姿を見たから、きっと記憶をなくしている間もギターに触れていたんだと思う)

リサ(今日も紗夜のギターは、まるで機械のように正確でいて、打ち込みとはまるで違う音を奏でていた)

リサ(その音がどこかちぐはぐだったロゼリアの演奏を1つに繋ぎとめた。そんな印象だ)

リサ(……この感じは前にも覚えがあったな)

リサ(確か……あれは初めてロゼリアとしてライブをやった時だ)

リサ(みんなの音にどんどん引っ張られて、練習以上の音を奏で、一体感を感じられる。それにすごく似てる)

リサ(そう考えているうちに、曲の最後のフレーズを弾く。伸ばした音たちが切られる。それから1拍ほど間があった)
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:30:21.79 ID:ueeqel/10

宇田川あこ「……やっぱり紗夜さんがいると全然違いますね!」

白金燐子「はい……氷川さんがいてくれると……なんだか安心して演奏できます……」

リサ「そうだね。打ち込みのあの、ちぐはぐ感? そういうのが綺麗さっぱりなくなった感じだね」

湊友希那「ええ、そうね。でも、紗夜……」

紗夜「分かっています。……最後の間奏からサビに入る箇所ですね。少しもたつきました」

友希那「……いえ、それもあるといえばあるんだけど」

紗夜「大丈夫です。このひと月の空白はすぐに取り戻して見せます」

友希那「…………」

リサ「あー、えーっと、紗夜。気持ちはすごく分かるんだけど、友希那が言いたいのはそういうことじゃないんじゃないかな」

リサ(『違う、そうじゃない』と言いたげな思案顔になる友希那に代わってアタシが声を出す)

紗夜「はい? ……ああ、なるほど」

リサ(あ、分かってくれたかな?)

紗夜「私は他にもなにかミスをしていましたか。すいません、それすらも気付かないほど鈍ってしまっているようです」

リサ「あー違う違う! 友希那が言いたいのは、病み上がりなんだから無理はしないでねってことだよ!」

リサ(ホントに真面目っていうか自分に厳しすぎるっていうか……)

リサ(でもそれが紗夜らしくて……なんか安心する)
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:30:51.15 ID:ueeqel/10

リサ(……最初にヒナから『記憶喪失』という言葉を聞いた時は、何かの冗談かと思った)

リサ(でも電話越しのヒナからは今まで聞いたことがない悲痛な響きの呟きが漏れて、それが本当のことなんだって悟った)

リサ(それをロゼリアのメンバーに伝えた時、みんなの驚きは大きかった)

リサ(あこはお見舞いに行くべきだと言い、燐子も心配だから様子を見に行った方がいいと主張していた)

リサ(アタシ自身もヒナからは止められていたけど、それでも紗夜に会えば何か変わるかもしれないという気持ちがあった)

リサ(でも友希那だけは違った)

友希那『もし紗夜が本当に記憶をなくしているのなら、それは紗夜と日菜の問題よ。私たちが勝手な気持ちで関わるべきではないわ』

リサ(……その言葉はもしかしたら冷たいものに思われたかもしれない)

リサ(普段は友希那を尊敬してるあこも、その時はかなり食い下がっていた)

リサ(でも、最終的には黙るしかなかった)

友希那『秋に紗夜が迷いを抱いていた時と同じよ。歯痒いけれど、私たちに出来ることは、日菜から助けを求められる時まではない』

友希那『……それに、紗夜の記憶が戻ってから『紗夜のために奔走してロゼリアの練習が疎かになっていました』なんてことになったら……あの子は気に病むわ』

リサ(紗夜とヒナと自分たちのことを考えた最善が『見守ること』。その友希那の言葉は正しかった、と思う)

リサ(ヒナから紗夜の記憶を取り戻すためのライブを見に来てくれないか、と言われ、CiRCLEのライブステージ……初めてロゼリアがライブをしたステージに立った紗夜を見た時は、すごく驚いた)

リサ(普段から非常に礼儀正しく、委員として学園の風紀の取り締まりにも口うるさいっていう紗夜が、目深に被った帽子で自分の顔を隠し、アタシたちに目をくれることもほとんどなくステージに現れたからだ)

リサ(『人が怖いみたい』ってヒナに言われた言葉を、もしかしたらアタシは軽く受け取り過ぎていたのかもしれなかった)

リサ(もし友希那が制止してくれずに紗夜のお見舞いになんて行っていたら、取り返しのつかないことになっていたかもしれない)

リサ(そう考えると冷や汗が滲む思いだった)
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:31:26.49 ID:ueeqel/10

リサ(ステージで演奏する紗夜の顔は帽子の影で見えなかった)

リサ(でも、何かに苦しんでいるような表情をしているような気がした)

リサ(それが正しかったのか、ギターを弾く紗夜はどんどん俯いていってるように見えた)

リサ(それを見かねた。何とかできないかと思って、声をかけようとした)

リサ(でもそれはもしかしたら逆効果かもしれない)

リサ(そうやって悩んでいる時に、友希那が小さな声で紗夜の名前を呼んだ)

リサ(隣にいるアタシですらギリギリ聞き取れるか、というくらいの小さな響きだった)

リサ(でも、紗夜はハッとしたみたいに顔を上げた。それを見てアタシももう我慢できなかった)

リサ(「紗夜」と名前を呼んだ。ステージの上で、きっと何かと戦っている紗夜に声援を送った)

リサ(大丈夫、アタシたちもここにいるから)

リサ(そう伝わるように)

リサ(あこと燐子もそうしていただろう)

リサ(その自分たちの声のおかげだ、なんて思わない)

リサ(でも、曲を演奏し終わったあと、紗夜は帽子をとってアタシたちを見つめてくれた)

リサ(そして何か一言呟いたような気がする)

リサ(その言葉がなんなのかは分からなかった)
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:31:57.40 ID:ueeqel/10

紗夜「病み上がりもなにも……体には特に異常はなかったのだから、その心配は無用よ」

紗夜「……でも、ありがとうございます」

リサ(不愛想にも聞こえるような言葉の後に、小さくお礼を言う姿を見て、少し紗夜は変わったなと思う)

リサ(前より少しだけ丁寧語で喋ることが減って、素直な気持ちを言葉にするようになった……ような気がした)

友希那「リサの言う通りよ。本人の気付かないところで疲労は溜まっていたりするんだから。少しだけ休憩にしましょうか」

紗夜「……そうですね」

あこ「そういえば紗夜さん、アコースティックギターはロゼリアで弾かないんですか?」

紗夜「あれは……ロゼリアでは弾かないわよ」

あこ「えーそうなんですか? この前の弾き語り、すっごくカッコよかったのになぁ……」

紗夜「あくまで弾き語りは私個人のものだから。それに、私が歌っていたら湊さんのやることがなくなってしまうわ」

友希那「あら、それならツインボーカルにしてみればいいんじゃない? 他のバンドはそういう曲もやっているわよ」

紗夜「いえ、そうだとしても、アコースティックの弾き語りになるとドラムとベースもやることがなくなってしまいます」

紗夜「ロゼリアは湊さんの歌声で、それぞれがそれぞれの楽器を奏でるからこそロゼリアなんだから」

リサ(……そっか。きっと前よりも、友希那を、アタシたちを、ロゼリアを大事にしてくれてるんだ)

リサ(そう思うと……なんだか嬉しいなぁ)
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:32:23.83 ID:ueeqel/10

あこ「そっかぁ〜。残念だなぁ」

燐子「でも……きっとロゼリアでの演奏じゃなければ……弾いてくれるってことだよ、あこちゃん……」

紗夜「いえ、白金さん、そういう意味で言った訳では……」

リサ「んー、じゃあアフターグロウに声かけてみよっか。つぐみに言えば手伝ってくれるんじゃない?」

紗夜「…………」

紗夜「まぁ……つぐみさんとであれば」

あこ「ほんとですか!? わー、それじゃあまた見れるかもしれないんですね、紗夜さんの弾き語りっ」

燐子「でも……そんなに簡単に……手伝ってくれるんでしょうか……」

友希那「代わりに燐子があちらで演奏する、というなら大丈夫じゃないかしら」

燐子「えっ……!?」

友希那「燐子の演奏も素晴らしいものだわ。きっと技術的には問題ないでしょう」

燐子「え、あの……でも……」

友希那「そろそろあなたも人見知りを克服する時ではないかしら?」

燐子「……絶対……無理、です……」

リサ「あはは、ゲームの中だとあんなに饒舌なのにね」

燐子「あ、あれは……わたしが喋っているわけでは……ないので……」

紗夜「……『あらゆる思想は、損なわれた感情から生まれる』だったかしらね」

リサ(ふと、穏やかな顔をしている紗夜が何かを呟いたような気がした)

リサ「何か言った? 紗夜?」

紗夜「いいえ、何も」

リサ(尋ねられても、紗夜はそう言って少し呆れたような笑顔を浮かべるだけだった)


……………………
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:32:56.47 ID:ueeqel/10

――羽沢珈琲店――

紗夜「日課、ね……」

紗夜(久しぶりのロゼリアの練習が終わったあと、夕焼けに照らされる道を歩いて、私は羽沢珈琲店に来ていた)

紗夜(店内に入って2人掛けのテーブルに案内され、そこに腰を下ろすと独りごちる)

紗夜(あの日記の最後に書いていたように、今は週3日でこの喫茶店に足を運んでいた。もうつぐみさん以外のスタッフにも顔を覚えられているような気さえしている)

紗夜「……あまり気にしていなかったけど、病院の近くなのね、ここ」

紗夜(改めて考えてみると、ここから歩いて15分ほどのところに自分が入院していた病院があった)

紗夜(ある交差点を曲がれば氷川家の方へ、曲がらずにまっすぐ歩けば病院にたどり着けるたはずだ)

つぐみ「あ、こんにちは、紗夜さん。また来てくれたんですね」

紗夜「ええ、こんにちは」

紗夜(頭の中の地図を辿っていると、エプロンを付けたつぐみさんがメニューを持ってきてくれた)

紗夜(地図を頭の中から追い出して私は挨拶を返す)
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:33:29.42 ID:ueeqel/10

つぐみ「最近よく来てくれますね」

紗夜「ここの珈琲、美味しいですから」

つぐみ「ありがとうございます。えへへ……そう言ってもらえると嬉しいですね」

つぐみ「注文はどうされますか?」

紗夜「珈琲とケーキのセットを」

つぐみ「はい、いつも通りですね。少々お待ちください」

紗夜(軽くお辞儀をしてから、つぐみさんはパタパタと厨房へ入っていった)

紗夜(……お菓子教室の件も、ついこの間の忘れたい記憶喪失の件も、つぐみさんには大いに助けられてばかりだ)

紗夜(どうすればあの天使のように優しい人に報いることが出来るだろうか)

紗夜(金銭や物で報いる、というのは抵抗がある)

紗夜(それはかえってつぐみさんを恐縮させてしまうだけだろうし、自分としてもそんなもので恩を返すというのは俗物的で意にそぐわない)

紗夜(しかしこうして足しげく羽沢珈琲店に通うのも、オブラートに包んでいるだけで根底は同じではないのかという気持ちがない訳じゃない)

紗夜(何か案があればいいのだけど……)
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:33:56.84 ID:ueeqel/10

紗夜(もちろん、つぐみさんが私のように何かの壁にぶつかって落ち込むようなことがあれば、それを全身全霊で助けよう)

紗夜(だけど、そんな辛い思いをつぐみさんにしてほしくない。出来ればあの子は祝福された幸せで明るい人生を今後も歩んでいってほしい)

紗夜(となると……私のこの報いたいという気持ちは報われない方がいいのかもしれないわね)

紗夜(その方がつぐみさんは幸せな人生を歩めるということだもの)

紗夜(でも、案外現金な部分が私の中にはあるというのも今回の件で自覚した)

紗夜(つぐみさんが幸せならそれでいいけど、それでも何かをしないと気が済まない)

紗夜(自分勝手な気持ちだろうとは理解しているが、これだけはどうにも消せそうにない)

紗夜「負い目、なのかしら」

紗夜(店内の喧騒に消えた小さな呟きを、少し考えてから首を振って否定した)

紗夜(負い目ならば、助けられたから助けなければいけない、という義務のような感情になるはずだ)

紗夜(しかし自分が考えているのは、助けられたから助けてあげたい、という積極的な気持ちだ)

紗夜(だからきっとこれはそういう後ろ暗いものではなく、明るく前向きな感情であるはずだった)

紗夜「…………」

紗夜(きっとこのつじつま合わせは理論武装とか屁理屈とか表現されるものね)

紗夜(でも、誰かにそう思われても当のつぐみさんが嫌な思いをしないなら、それでいいか)

紗夜(……以前に比べて簡単に開き直れるようになった気がするわね)

紗夜(これも日菜の影響なのかしら)
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:34:25.91 ID:ueeqel/10

日菜「あーっ、やっぱりおねーちゃんここにいた!」

紗夜(入り口の扉に付けられたベルが鳴り止むより早く、日菜の声が耳に届く)

紗夜(そちらへ視線を巡らせると、日菜がこちらへ向かって歩み寄って来ていた)

紗夜「日菜、店内ではあまり大きな声を出さないで」

日菜「おねーちゃんてば最近ホントによく来てるね、ここっ」

紗夜(諫言を聞いているのかいないのか、日菜はサッと私の対面の席に腰を下ろす)

紗夜「人の話を聞きなさい」

日菜「おねーちゃん今日は何頼んだの? またケーキセット?」

紗夜「だから話を聞きなさい」

紗夜(まったく、と内心思うが、これが日菜らしさなんだろう)

紗夜(その強引さというか、唯我独尊的な部分に支えられて助けられたのも事実ね)

紗夜(だから毒づきながらも、自分の顔に困ったような、呆れたような笑みが浮かんでいるんだろう)

日菜「……えへへ」

紗夜「……? なにかおかしいことでもあったの?」

日菜「んーん。やっぱり、おねーちゃんはおねーちゃんで、だから大好きなんだなーって」

紗夜「そう」
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:34:51.39 ID:ueeqel/10

つぐみ「お待たせしました――あ、日菜先輩。こんにちは」

日菜「こんにちはーつぐちゃん!」

つぐみ「メニュー持ってきますね。紗夜さんは、はい、こちらケーキセットです」

紗夜「ありがとう、つぐみさん」

日菜「メニューは大丈夫だよ! あたしもおねーちゃんと同じのちょうだい!」

つぐみ「あ、はい。かしこまりました」

紗夜(つぐみさんは私の前に珈琲とイチゴのショートケーキを置き、それから日菜の注文を聞いて厨房へ再び向かっていった)

紗夜(ふわりと漂う珈琲の香りがやけに優しく感じられて、私は目を細める)

日菜「あ、そーだおねーちゃん、聞いて聞いて!」

紗夜「はいはい。他の人に迷惑になるから声は抑えなさい」

日菜「うん分かった!」

紗夜(心なしか声が小さくなったような気がするが、まだ大きくはないだろうか)

紗夜(少し心配だったが、それに突っ込んでも暖簾に腕押しだろう)

紗夜(私は諦めて珈琲を口にする)
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:35:42.92 ID:ueeqel/10

日菜「あのね、今度パスパレで『お渡し会』っていうのやることになったんだ!」

日菜「おねーちゃん、お渡し会って知ってる? ファンの人たちに直接CD渡したりお話するんだって〜!」

紗夜「アイドルらしいこともやるのね」

日菜「アイドルバンドだもん、それくらいはやるよ〜」

紗夜「……アイドルって無人島でサバイバルをして、最後に山頂でCDの告知をするような人たちを指す言葉だったかしら」

日菜「あれは彩ちゃんの持ち味だから!」

紗夜「……そう」

紗夜(丸山さん……不憫ね……)

日菜「それで、お渡し会! おねーちゃんも遠慮なく来ていいからね! なんなら事務所に言って券を用意してもらうから!」

紗夜「行かないわよ」

日菜「ええ、なんで!?」

紗夜「家にいれば会えるのになんでわざわざそんなところまで行く必要がないでしょう」

日菜「でも、みんなにおねーちゃんとあたしの仲良しアピール出来るよ?」

紗夜「それはあなたのファンに悪いから絶対にやめなさい」

日菜「そうかなぁ……。彩ちゃんがあたしの名前でネット検索すると『お姉さんと仲良しで微笑ましい』ってよく書かれてるって言ってたよ?」

紗夜「そうだとしても、わざわざ日菜のために来てくれた人が、目の前で私の相手しかしないあなたを見たら悲しむでしょう」

日菜「んー、そっかぁ……」

紗夜(しゅん、と日菜は落ち込む。その姿を見たから、という訳ではないが、私は1つため息を吐いてから言葉を投げる)

紗夜「またあなたが出てるテレビやライブなら一緒に見てあげるから」

日菜「ほんとっ!? 絶対だよ! 約束だよ、おねーちゃん!」

紗夜「はいはい……」
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:36:13.44 ID:ueeqel/10

つぐみ「お待たせしました。ケーキセットもう1つ、お持ちしました」

紗夜(日菜に呆れたような声で相づちを返していると、つぐみさんがケーキセットを持ってきた)

つぐみ「なにか楽しそうにお話してましたね」

紗夜「日菜が1人で騒いでいただけよ」

日菜「えー!? そんなことないよ〜!」

つぐみ「……ふふ」

紗夜「……どうしかたの、つぐみさん? もしかして変なところに珈琲でもついていたかしら」

つぐみ「あ、ごめんなさい、そういうことじゃなくて……、その……やっぱり紗夜さんと日菜先輩って、双子なんだなぁって」

日菜「……? おねーちゃんとあたしはずっと双子だよ?」

つぐみ「えーっと、なんていうんですかね。お2人とも……性格が正反対に見えて似てるところが多いなって思いました」

紗夜「つぐみさん、それは誉め言葉なのかしら。日菜と似ている、と外見以外で言われると少し中傷されているように聞こえるわ」

日菜「えー!? それどーいう意味!?」

紗夜「そのままの意味よ」

日菜「もー! おねーちゃんひどいっ!」

つぐみ「ふふ……」
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:37:14.88 ID:ueeqel/10

紗夜(日菜と私の内面が似ている……か)

紗夜(今まで、そう言われたことも考えたこともなかった。きっと私が無意識に日菜と比べられるすべての要素に耳を塞いでいたからだろう)

紗夜(だけど、改めて考えてみると……確かに似ているところがあるのかもしれない)

紗夜(それもそうだ。日菜と私は血を分けた双子なんだから)

紗夜(昔であれば、このことをムキになって否定していたかもしれない)

紗夜(でも今は……それはそれでいいと思えるようになった)

紗夜(氷川日菜は氷川日菜で、氷川紗夜は氷川紗夜)

紗夜(言ってしまえばそれだけの簡単な話だ。簡単なことを難しく考えるのはもうやめた)
 
紗夜(今この場に、楽しそうな日菜がいて、つぐみさんがいて、自分がいる)

紗夜(……それだけだ)

紗夜(羽沢珈琲店の窓から沈みかけた西日の赤い陽光が差し込んできていた)

紗夜(あの光の前ではみんな同じだろう。等しく誰もかれもが赤く照らされる)

紗夜(つぐみさんの穏やかな笑顔も、怒ったような、楽しそうな日菜の横顔も、きっとすました表情でいるだろう私の顔も)

紗夜(だからそれでいい)

紗夜(1つが2つあって、笑い合えたら1つで)

紗夜(それだけでいいと思った)


 ……後日、日菜経由で例の日記がロゼリアに知れ渡って一悶着あったり、紗夜がつぐみとまたセッションがしたくなって燐子がアフターグロウに更迭されたりするが、それはまた別のお話。


おわり
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:38:24.74 ID:ueeqel/10

 長々と申し訳ありませんでした。

 特に氷川姉妹が好きな方とamazarashiファンの方、すいませんでした。

 地の分こみこみで書いたものが読み辛かったので、それは別の場所に投稿してこちらは台本形式に直したものです。読みやすくなったかというとそんなことはない気がします。

 紗夜さんの弾き語りはフィロソフィーのMVを参考にしました。

 アプリにamazarashiのカバー曲が追加されてほしいです。

 言いたいことはこれで全部です。

 HTML化依頼出してきます。
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 09:40:06.97 ID:FsV44GyG0
素晴らしかった、乙
原曲知らないけど追加されるといいね
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 10:51:14.31 ID:4XvUEIwCo

大事件だけど静かな感じで物語が流れていって雰囲気よかった
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage ]:2018/03/01(木) 12:12:25.73 ID:ylR7XQsM0
乙 
初期紗夜が今の紗夜をみたらどう思うかってのが良かったです
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 12:57:44.58 ID:NFAhw6drO
素晴らしいとしか出てこない…
乙です
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 14:02:49.99 ID:kmYqRK4y0

ロゼリアで季節は次々死んでいくならワンチャンあるかな
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 15:21:54.76 ID:/oz/qmxAo
バンドリ名作SS誕生の瞬間を見た
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 15:41:36.09 ID:CEbzduKDO

面白かった
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/02(金) 15:42:54.97 ID:ifC2DXHYO
原作では起こってない事でも、原作と繋げてもまるで違和感なく補完の役割を果たしているという良作
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