少年「俺のクラスは亜人だらけ」

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155 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/19(月) 13:18:32.98 ID:NCWYoFgi0
少年「それって、おかしいですよ」

ヒョウカ「何が、でしょうか」

何がおかしいのか。それが整理できない。

ヒョウカさんの言うことはもっともだ。校則で決められていることに違反したから罰せられる。当然のことで、否定はできない。

でも………実際そういうのは一面だけで捉えるもんじゃないだろ。

その過程が重要で。そいつの人となりが重要で。

なんというか、その

ヒョウカ「少年さんは、私が間違っていると?」

少年「いや、間違っているわけじゃなくて、その、処罰するほどのことでは」

ヒョウカ「危うく火事になるところでした」

少年「それはあの男のせいで」

ヒョウカ「そうですか。では少年さんは私に逆らうと?」

ヒョウカさんの口から冷気が漏れる。その瞳は涼やかにこちらを睨みつけている。

口に出さないが俺を責めている。逆らう俺を責めている。

でも

少年「………はい」

ヒョウカ「………」

人を切り殺せそうなほどの目線。おそらくさっきの刀よりもよっぽど切れ味はいいのだろう。年上だけど女性で、見た目は俺よりもか弱く見えて。

だけど凍り付いて動けない。その水色の瞳にねめつけられて動けない。

すっとヒョウカさんの手が上がり、そのまま俺の頬へあてられる。

産毛が凍り付く感覚。氷を当てられたよりもずっと冷たい。

暖かさなんてない。人のぬくもりとか優しさなんてものはない。

ただの悪意すらなくすべてを凍り付かせるような理に近い感覚。

ふぅ、とヒョウカさんの口から強く息が漏れた。

ヒョウカ「少年さん」

少年「………」

返事ができない。奥歯ががたがたなって口が思うように開かないし、呂律が回る気しないし。

ヒョウカ「………合格です」

そう言ってヒョウカさんは微かにほほ笑んだ。
156 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/19(月) 13:28:08.69 ID:NCWYoFgi0
少年「………ぇ」

なでり、なでり

ヒョウカ「合格、と言いました」

ヒョウカさんが俺の頭を撫でていた。

さっきとは違い、柔らかさをしっかりと感じる。暖かさは感じないけどやさしさは感じた。

クロ「おー、ちゃんと合格できたんですね?」

ヒョウカ「はい。合格です」

ひょっこりとクロさんが出てきてキラキラ光る笑顔をこちらへ向けてきた。

で結局男なのか、女なのか。

少年「合格、って、なんですか?」

クロ「おめでとうございます。今日から君は風紀委員です」キランッ

ちょっと待て

少年「ちょっと待ってください。俺は風紀委員に入ろうとした覚えはないですよ!?」

クロ「ヘッドハンティングです」

少年「拒否権は!?」

ヒョウカ「嫌、なのですか?」ビュォウ

寒い! 冷気がすごい!! さっきより酷い!!!

あっ、なんだか眠くなって………

少年「わ、わわわかかかりましたたたた」

ヒョウカ「ありがとうございます」

クロ「やったぁ」

そうか、ここもあそこと一緒で

強い奴が幅を利かす場所なんだなぁ。
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/19(月) 13:29:08.28 ID:fsea917dO
選択肢2にしてたら不合格やったんか
158 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/19(月) 14:26:10.96 ID:NCWYoFgi0
色々と不満もあるが、ヒョウカさんには色々とお世話になったし、お手伝いできることがあるなら喜んでしたい。

この変人だらけの学園でヒョウカさんといればなんとか過ごしていけるだろうし。

少年「それで、これが風紀委員の試験だったんですね」

ヒョウカ「はい」

クロ「脅しにも屈せず自分が思う正義を貫いたその姿勢をヒョウカさんは評価したんだよ。あ、今のは駄洒落ではないよ?」キラッ

少年「あ、あはは」

しかしなぜ俺が選ばれたのだろうか。勉学は他の人よりはできると自負しているが、風紀委員に勉強が重要であるとは思えない。

じゃあ俺が第二種だから?

そんなわけはない。俺が第二種だってバレてないはずだし

と、訝しんでいるとヒョウカさんは俺の考えを読み取ったらしく人差し指を立てこう言った。

ヒョウカ「優れた者も重要ですが自分をしっかり持って、自分を貫く人が欲しかったのです」

ヒョウカ「才あれど勇なきものは愚かであり、才あれど信なければすなわち逆賊。あなたは私の期待に応えようとして、勇気を奮い立たせ不良へと向かっていった」

ヒョウカ「手がかりを探しに番長連のところまでいってくれました」

ヒョウカ「やはりあなたは私が求めていた理想の人材でした」

ここまで手放しでほめられるとなんだか背筋がむず痒い。俺はミレイアほど傲岸不遜ではないし、そこまで勇はない。ただの弱者でしかないというのに。

ヒョウカ「それではもう一度訪ねます。風紀委員として働いてくれますね?」

男「………はいっ」

クロ「なんて感動的なんだろうね。ほら、握手握手」

クロさんがヒョウカさんの手を差し出させる。俺はその手をしっかりと握り返し

ヒョウカ「ようこそ、風紀委員へ」

男「よろしくお願いします」
159 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/19(月) 14:34:36.46 ID:NCWYoFgi0
ヒョウカ「それで、風紀委員になった男さんの初仕事ですが」

ヒョウカ「イヅナの処罰です」

男「………はい?」

男「え、でもこれって仕込みだったんですよね?」

クロ「違いますよ。見守ってはいましたけどイヅナを捕まえたいのは本当です」

男「だってさっき自分の信を通してって。だから俺はイヅナを捕まえなくてもいいって思って」

ヒョウカ「あなたは、私に逆らうのですか」ヒュォォゥ

男「だって、そんなに悪そうにないと思いましたし」

ヒョウカ「ですが規則は規則。処罰は必要です」

クロ「それを君にやってほしいんですよ」キラリンッ

男「えぇ!?」

ヒョウカ「それでイヅナの処罰ですが―――」

男「いやいやいや話がちが―――」

ヒョウカ「わちゃわちゃ、孤児院の子供たちと遊んで刑。です」
160 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/19(月) 14:41:15.92 ID:NCWYoFgi0
ヒョウカさんは眉尻一つ動かさず、そう言った。

まさか冗談? とも思ったがヒョウカさんの表情はいつもと変わらずぴくりとも動かない。

クロさんはいつも通りニコニコとしてるし、こちらも嘘とは思えない。

男「それが、処罰ですか?」

ヒョウカ「はい。彼は早弁、廊下を走る、授業をサボタージュなどの常習犯」

ヒョウカ「軽微なものであれ常習的なら話は別です。ですが素行調査により重い処罰を下すほどでないと考えました」

ヒョウカ「なので慈善活動がちょうどよいくらいと結論を下します」

男「で、その結果、えっと」

ヒョウカ「わちゃわちゃ、孤児院の子供たちと遊んで刑。です」

男「その孤児院の子供と遊ばせるのが」

ヒョウカ「わちゃわちゃ、孤児院の子供たちと遊んで刑。です」

男「………わちゃわちゃ、孤児院の子供たちと遊んで刑を行うと」

ヒョウカ「はい」

男「………」

本当に冗談じゃないんだよな!?
161 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/19(月) 15:05:04.07 ID:NCWYoFgi0
少年「ってことがあって風紀委員になりました」

ミレイア「ふ〜ん。まぁロード家の名を汚さないように心掛けているようね。確かに上級貴族にとって優雅であり気品溢れる所作は重要。風紀が乱れることはあってはならないことね」

風呂場に向かう途中で服を脱いでるやつが何を言ってるんだ?

ユキムラ「さすがお嬢様!貴族としての心意気、このユキムラ感服いたしました」

ミレイア「お〜っほっほ! 当たり前よ。この『紅目』のミレイア。生まれながらにしての貴族だもの」

ユキムラ「さすがですお嬢様!」ヤンヤヤンヤ

少年「…ごちそうさまです」

ミレイアを祭り上げるユキムラと口に手の甲を当てて高笑いするミレイア。

なんというか馬鹿らしい。

ミレイア「あら、もう部屋に戻るの?」

少年「勉強をしたいので」

ミレイア「私には及ばないまでも貴族としての心がけが見についてるみたいでちょっとは感心してあげるわ。感謝なさい」

ユキムラ「なんとお嬢様、お心の広い! ほら、感謝しなさい」

男「……ありがとうございます」

衣食住を提供してもらい、学校まで通わせてもらってる身分だけれども

やっぱりこの扱いは好きになれないな。

家族というより、なにか珍しいペットとして扱われているようで。
162 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/19(月) 15:12:42.90 ID:NCWYoFgi0
自室に戻って教科書を広げる。部屋の明かりはミレイアの要望からろうそくであり、勉強をするには少々暗い。

だがそれも慣れたものだ。そもそも俺にとって夜に本が読めるだけでもありがたい。

つらつらと教科書の文字を目で追っていくが脳裏に浮かぶのは今日の出来事で、教科書の内容なんてものは頭の中に入ってこない。

男「なんで俺、なんだろうな」

俺の中の蟠りだけれどやはり第二種ということは気が引ける。

生まれながらの差別環境にいて、運がよく生きながらえてる程度の命であるのに。

もちろん第二種も第一種も生物上なにも変わらないのだと知っていても優しさを向けられるだけで。期待されるだけで困惑してしまう。

みんな、俺に親しくしてくれるのは第一種だと思われているからだろう。

もし、俺が第二種だと知られてしまえばその時は………

少年「もう寝よう」

このまま考えても仕方がない。

時が、時だけがなんとかしてくれる。時だけが俺の背中を押してくれる。

今までなるようになってきた。だからこれからも。

きっと。

そう。
163 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/19(月) 15:30:14.29 ID:NCWYoFgi0
バジロウ「風紀委員になったぁ!?」

次の日、風紀委員になったためバジロウ達と遊ぶことはできないと言うとバジロウは驚き、ノヘジは興味深そうにメガネのブリッジに手を当てた。

ノヘジ「それはつまりあのヒョウカ先輩の蒼穹をハレーションしていると同等ということだろう」

少年「風紀を乱すと処罰するぞ」

ノヘジ「友達の頼みだ。見逃してくれ」

バジロウ「ってことは今日の放課後は忙しいのか」

少年「ヒョウカさんに呼ばれてるからな」

つい先ほど他の風紀委員からヒョウカさんが俺を呼んでいると教えられた。もちろん顔をだすつもりだったが、呼ばれるということは何かあったのだろう。

おそらく、例の処罰が。

少年「ってことで。俺はもう行かなきゃ」

バジロウ「おう、頑張れよ!」

ノヘジ「なんとか風紀委員に手心を加えてくれと頼んでくれると助かるだろう。俺はただ知的好奇心を満たしたいだけだろう」

バジロウ「それじゃあ今日の放課後は」

オル「オルレアンちゃんの手伝いにけって〜い☆」

バジロウ「げっ」

ノヘジ「………神よ」

オル「おい、そのリアクションなんだ★」
164 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/19(月) 15:41:55.91 ID:NCWYoFgi0
イヅナ「………んだよ」

風紀委員会室に入るとイヅナが捕まっていた。

さすがの逃げ足も簀巻きになってぐるぐるに縛り上げられていては発揮できないらしいな。

クロ「捕まえたよ♪」キラリン

捕まえようと思えばすぐに捕まえれたのか。

その程度だから俺に任せたと。

いやしかし、帯刀している相手は荷が重いぞ。

イヅナ「俺がなにしたってんだよ!」

クロ「んーまぁ。一番重いので放火かな」

イヅナ「身に覚えがねぇぞ!?」

クロ「まぁまぁ。認可されていない火気の使用はあったからね」

イヅナ「………けっ。俺は権力には屈しねぇぞ!!」

簀巻きになったままジタバタ暴れるイヅナ。

そんなイヅナの耳元でクロさんが何かをささやくとイヅナはぴたりと大人しくなった。

少年「何を言ったんですか?」

クロ「んー、秘密の交渉術♪ 大丈夫Win-Winだからさ」キラーン

イヅナ「処罰を受けることに不満はねぇよ。だけどなにをされても俺は俺を曲げねぇぞ!」

クロ「んっふふ〜。君に与えられる罰はこれさ! 題して!」

イヅナ「………」

クロ「ほら、少年君。題して!」

少年「え、えっと、わちゃわちゃ、孤児院の子供たちと遊んで刑。です」

イヅナ「………頭大丈夫か?」

不良に言われた!!

不良に言われた!!!
165 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/19(月) 16:21:56.52 ID:NCWYoFgi0
確かにわけがわかんないかもしれないが、これはあのヒョウカさんが選んだれっきとした処罰だ。いや、俺もネーミングはどうかと思うけどさ。

クロ「ということで君たち二人には今週末にこの孤児院へ行ってもらうよ」

少年「えぇっと」

手渡された地図はしっかりと書かれており、非常にわかりやすい。場所も遠くないし街中に出ることができれば歩いて行ける距離だ。

地図をイヅナに見せると、イヅナは小さく舌打ちをして頷いた。

クロ「いいかな?」

少年「わかりました」

イヅナ「やりゃいいんだろ、やりゃ」

クロ「約束だよ?」キラリンッ

しかし孤児院に俺とこの不良の二人でか。

かえって迷惑になりそうな………

クロ「あ、少年君は家が遠かったね。当日迎えを寄越すから」

少年「いいんですか?」

クロ「かまわないさ」キラランッ

クロさんの輝く笑顔を見ながら心の中でため息をつく。

なんだか不安だ。
166 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/19(月) 16:30:10.15 ID:NCWYoFgi0
そして当日。私服を持っていないので学生服で外にでるとユキムラに相変わらずの対応をされる。仕事を手伝わないとぼやかれても風紀委員の仕事があるのだから仕方ない。

まぁ、これでも撃たれない分マシな対応だ。孤児院に行く前に流血沙汰は避けたい。

誠心誠意誤ってこの場を潜り抜ける。口八丁で適当並べたので何を言ったのか忘れたがユキムラはじと目で小さくため息をつきながら許してくれた。小声で何か言ってたように思えたが何を言ったのかは聞き取れなかった。

外にでると天気は晴れ。遊びまわるにはちょうどいい天気。

気温もそれほど暑くなく過ごしやすいと言える絶好の日和だ。

しかし迎えとは誰なんだろうか。家を知っていると言えばカルラさんだが………

「うわっ、家大きい! さてはお前金持ちだな☆」

聞きなれた声がした。

見上げるとやはりオルレアン。この位置からだとスパッツがしっかりと見えるが言わないほうがいいのだろう。オルレアンの蹴りは普通に痛い。

というか飛ぶのだからズボンを穿けばいいのに。

オル「おっすおっす☆」

少年「なんでオルレアンが?」

オル「だって今日私の家に来るんでしょ? 迎えに来てやったぞ☆」

少年「へ? いや、そんな予定は」

オル「来るんでしょ、孤児院。私の家なんだ☆」

………へ?

オル「秘密だよ?」
167 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/19(月) 16:30:44.99 ID:NCWYoFgi0
今日はここまで
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/19(月) 16:37:43.06 ID:fsea917dO
乙乙
少年君の過労生活の始まりやの
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/19(月) 16:46:36.12 ID:ExH0KJTvO

アータル先生も来るんかね
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/19(月) 18:32:45.81 ID:t4giIHZXO
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/19(月) 20:17:52.57 ID:pOQhPXuWO
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/19(月) 22:09:38.63 ID:UPIwlQCx0
173 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/20(火) 11:49:16.15 ID:jQit6FKQ0
オルレアンが俺の肩をがっしり掴んで飛ぶ。そのままぶら下げられているために肩がかなり痛い。

しかし考えてみればこの運び方は当たり前だ。カルラさんと違ってオルレアンは両手が翼になっているのだから。

オル「見るなよっ。絶対に上を見るなよっ★」

少年「みないって」

さきほどから幾度となく注意されるこの言葉。もしオルレアンの機嫌を損ねて落とされでもしたら命に係わる。

いくらなんでもスパッツを覗き込んで死亡なんてことにはなりたくはない。

オル「それはそれで不満があるぞ★」

どっちなんだよ。見られたいのか見られたくないのか。

いや、見られたいと言われたら困るけど。

オル「さっすがロード家。良い暮らししてんだろ〜★」

少年「してないよ」

オル「本当かな〜」

そりゃあ管理区にいたころと比べたら天と地のような差だけれど、俺自身の生活は底辺から一般的なレベルまで上がったに過ぎない。

そりゃあ気まぐれで養子になっただけで、扱いはペットに近いんだからミレイアのような暮らしができるわけはない。

別にそのことが不満というわけではないけれど。

でも、オルレアンに比べたらいい生活をしているのかもしれない。

まさかオルレアンが孤児だったとはな。
174 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/20(火) 11:58:20.65 ID:jQit6FKQ0
しっかりつかまれているためじんわりと手の間隔が薄れてきたころにやっと孤児院が見えてきた。

オル「あれだよ〜」

赤屋根のレンガ造りの建物。孤児院にしてはあまり大きいとは呼べない規模だった。

オルレアンはゆっくりと降下し、地面に近づくとぱっと足を放して俺を放り投げた。

少年「いてっ」

オル「めんご☆」

少年「芝生だったから平気だ」

オル「んで、じゃじゃーん。ここが本邦初公開、オルレアンちゃんの家なのだ☆ バジロウとノヘジくらいしか知らないんだから、特別だぞ」

オル「君だけに特別♪」

少年「ありがとうと言えばいいのかな?」

オル「よきに計らえ☆」

オル「でも本当に秘密だよ。君にしか教えてあげない☆」

少年「なんで俺だけ?」

オル「君も養子だし。あ、気分悪くしたらごめんね」

少年「いやかまわないさ。もう知られてることだし、姉から胸を張れと言われてるしな。それにオルレアンが気を許してくれるのならうれしい」

オル「ふっへっ、い、いきなり恥ずかしいこと言うなしっ★ はっずっ★」

ばしんばしんと背中を叩くオルレアン、ふぁさっとするが痛い痛い。
175 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/20(火) 14:28:16.99 ID:jQit6FKQ0
「あらあら、もしかしてあなたが?」

オル「マザー! つれてきたよ♪」

声の主を見ると大きな杖を突いた年配の女性だった。目には丸いメガネをかけ、口元には柔和な笑みを浮かべている。確かにマザー然とした女性だ。たしかにマザー然とした女性だが

少年「あー、えっと、風紀委員で人間の少年です。今日は子供たちと」

マザー「まぁまぁ、子供たちも楽しみにしてたわ。ささ、こっちへ来てちょうだい」

少年「は、はい」

…………………………………………………………でけぇ!!

加齢からか腰が曲がってきてはいるがそれでも身長が俺よりも高い。見上げて話すほどには高い。

オル「びっくりした? ねぇねぇ、びっくりした?」

少年「あ、あぁ。でも優しそうな人だな。なんというかいい人を絵で描いたらあんな感じになるんだろうなって人だ。たぶん街中で100人中98人はいい人っていうと思う」

オル「あとの二人は?」

少年「………あんな大きいおばあさんがいるかって言うと思う」

オル「確かに!」ケラケラ

オル「マザー馬鹿にすんなやっ!」バシンッ

痛い。ならなんで笑ったんだよ。情緒不安定か。

オル「もうっ。マザーは私のお母さんなんだから、ぷんすこっ★」

少年「悪かったよ。許してくれないか」

オル「ぷんすこ〜っ★」バッ パパッ バーン

なんの構えだ。

ふざけているところを見る限り別に本当に怒っているわけではないようだ。

しかしオーガとかオークとかの長身の種族は老人になってもそのまま大きいみたいだ。やはりなんというか威圧感はある。あの杖なんか俺の身長と同じくらいあったし。

オル「マザーは入道だからね。日によって身長変わるけど、今日は割と小さいほうだよ☆」

少年「………本当に?」

オル「マジ☆」

うーむ、亜人ってすごいな。常識が通じない。
176 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/20(火) 14:50:04.08 ID:jQit6FKQ0
オル「入って入って〜」ガチャッ

扉もでけぇな。硬そうな材木でできていて、ぶつかってもびくともしなさそう。

しかもいくつもドアノブがあって、身長が高い奴にも低い奴にも対応している。亜人って色々体格差とか性質差があるから住居も千差万別なんだよな。ミレイアとかは俺と変わらないサイズだから気にしてなかったけど。そういえば学園にもいろいろな工夫がしてあったな。あぁ、なるほど。そうか、だから引き戸なのか。

オル「おはいりよ!」

少年「お邪魔します。あ、そういえばイヅナ、先に来たやつはいなかったか?」

オル「先に中入ってるよ☆」

少年「そっか」

オルレアンに案内され中に入る。

中は学園の寮みたいな感じで廊下にいくつもの部屋があった。

オル「食堂にいるよ☆」

窓から見る景色は緑色が多く、自然に囲まれている。子供を育てるには理想的な環境と言えるのかもしれない。花壇もあって名前は知らないが紫色の花が風に揺られていた。

少年「でもここって学園からは結構距離あるけど、毎日通ってるのか?」

オル「んーん。平日は寮で暮らしてるぞ☆ あっ、オルレアンちゃんに会いたいからって女子寮に男が入ってきたらダメなんだからな★」

少年「入る気ないよ」

変質者になりたくない。それに一応風紀委員になった身だ。問題を起こすわけにはいかない。

オル「どうしてもオルレアンちゃんに会いたかったらオルレアンちゃんの窓ガラスに小石をぶつけて合図してね☆ オルレアンちゃんの部屋は東側3階の右から5つ目の部屋だから☆」

少年「でもガラスだから一度しか合図できないな」

オル「やさしさを持って投げろーっ★」

無茶言うな。
177 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/20(火) 14:55:53.79 ID:jQit6FKQ0
オル「なんて話してたら食堂だぜぃ☆」

男「? なんかいい匂いがするな」

オル「あれ? ほんとだ」

ガチャッ

イヅナ「座って待ってろガキども!」

「はよ、はよ」

「おなかすいたん」

「むぇ〜」

不良がなんか作ってた。

マザー「皆さん、お兄さんの言うことを聞くのですよ」

イヅナ「もう少しでできるから待ってろ」

ジュォォォォォ

何か鍋を振るっている。

ソースが焦げる音と香り。空中を舞う米。 ごぉごぉと燃え上がる火。

不良がチャーハン作ってた。

オル「これは負けてられない戦いだよ☆」

少年「えぇ………なんでチャーハン作ってるんだ?」

イヅナ「焼き飯だ、ごらぁ!!」
178 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/20(火) 16:03:57.77 ID:jQit6FKQ0
怒られた。

違いってあるのか?

よくわからないがマザーに促され俺も席に着く。

同じく席についている(座ってはいないが)子供たちを見渡すと性別も種族もバラバラ。小さい子では1メートルないし、大きい子では幼い顔だが身長がすでに俺より高い。

角が生えている子もいれば、翼が生えている子もいるし、体が水のように透き通っている子だっている。

異種族がともに過ごすことはあるが、共に暮らすのは難しい。マザーもずいぶん苦労をしていることだろう。

イヅナ「おい、おいっ」

少年「え? 俺?」

イヅナ「お前も食うよな」

少年「あー。うん。食べる」

イヅナ「ちっ、待ってろ」

オル「私もー!」

イヅナ「てめぇも待ってろ!」

なんでいちいち怒鳴るんだ。不良だからか。不良だから怒鳴るのか。

そうか。

クイクイ

誰かが右袖を引っ張った。なんだと思いそっちを見ると

「あむあむ」

子供が俺の袖に食いついていた。

袖を引っ張ったのではない。食いついていたのだ。

咀嚼に合わせて額から生えている白色の触角が左右に揺れ、半透明の液が滴り落ちる。

少年「な、なにかな?」

「あむむ」

咀嚼をやめない。

次第にべとべとしてくる。感触でわかるが体が粘膜に覆われており、その下の皮膚は弾力がありぶよぶよとしている。

しかもその粘液はねっちょりとしており非常に不快だ。

少年「あ、あのぉ。お、オルレアンさぁん?」

オル「気に入られちゃったんだね〜☆」

気に入ったものを食べるのか? 咀嚼範囲は徐々に広がり俺の右手すら飲み込まんとしている。何とか腕を引っこ抜こうとするが吸引力がすごく、引き抜けない。咀嚼される感覚がひどくこそばゆいがどうやら歯はないみたいだ。ならかじられないからあんし―――

ゾリリッ

少年「いってぇ!?」

皮膚をやすり掛けされたような感覚。なにか細かい鱗のようなもので皮膚を削られてる。

「あむ〜」

少年「お願いだから、お願いだからたべるのやめて」

オル「食べるのはいいけど舐めちゃだめだよ〜」

少年「食べるのもやめさせて!」

「あんむ」

こくりと頷き俺の右手を食む。ぞわぞわと背筋に寒気が走る。

誰か助けてくれ。
179 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/20(火) 16:24:19.49 ID:jQit6FKQ0
子供は焼き飯が持ってこられたのを確認してやっと俺の右手から離れた。

少年「うへぇ…」

右手が粘液まみれのべとべとである。

オル「はい、これで拭きな☆」

オルレアンから布巾を手渡され、右手を拭く。できれば手を洗いに行きたいんだが。

「いただきまーす!」

オル「うっひょー、いただきまーす☆」

イヅナ「冷める前に食えやおらぁ!」

少年「……いただきます」

諦めてスプーンを手に取りチャーハン、もとい焼き飯を口に運ぶ。

うん、美味い。

当てにならない俺の感想だけど、周りを見ると子供が焼き飯をがっついていることから俺の感想は間違ってないのだろう。

オル「まぁ、私ほどじゃないけど。褒めてやってもいいぞ☆」

イヅナ「んだおらぁ!」

オル「ほんとのはなし☆」

イヅナを挑発するオルレアン。イヅナは肩をふるふると震わせているが大丈夫だろうか。

いざとなったら俺が………俺が止めれるのか?

イヅナ「ちっ………あのオルレアンじゃしかたねぇか」

オル「あれ、君、私のこと知ってるの?」

イヅナ「あんた、有名だろ。屋台やってて」

オル「むふふ〜。ちょっとは名を知られたものだからねっ☆」

イヅナ「ちっ」

どうやら暴力沙汰の事態にはならなかったようだ。

警戒を解いて焼き飯を口へ運ぶ。

「ちょーだい」

右を見るとさっきの子供。真正面から見てもだらりと下がった髪? 皮膚?で目元が見えない。その代わり大きな赤い口の中をのぞかせている。

「なくなったからちょーだい」

確かに皿の中にはもう米粒一つない。

別に腹が減っているわけじゃないから別にいいんだが。

「あーん」

こいつの口の中にスプーン突っ込みたくねぇな。

少年「全部あげるよ」

「いーのー?」

少年「いいよ。あげる」

「わぁーいー」

皿ごと子供に渡すと子供はそのままスプーンも使わず焼き飯を口の中へ流し込んだ。

オル「こらっ! 行儀が悪いでしょっ」

「んむむ、あむあむ」

オルレアンの説教なんてどこ吹く風で、口いっぱいにほおばったチャーハンを咀嚼している。乳白色のほっぺたが大きく膨らんだりしぼんだり。まるで風船のように動いていた。

オル「こらっ! レディーの食事姿をまじまじと見るんじゃありませんっ! 行儀悪いでしょっ!」

なんか俺も怒られた。

というかこれ、女だったのか

「あむ〜」
180 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/20(火) 16:39:04.96 ID:jQit6FKQ0
マザー「ご馳走様。ありがとうねぇ、イズナさん」

イズナ「これくらい、大したことねーっすよ」

マザー「それじゃあ私は洗い物をしてくるから子供たちを見ててくださるかしら?」

イヅナ「了解っす」

意外にもマザーの前では案外大人しいイヅナ。まぁ、二つの意味で逆らおうとは思わないもんな。

マザーが全員分の食器を持っていくとイヅナがこちらをぎらりとにらんだ。

少年「えぇっと、なにかな?」

イヅナ「言っとくが俺はこんなこと好きでやってるわけじゃねぇからな。てめぇんところの副委員長が脅してくっからやってるだけで。俺は反省も後悔もしてねぇぞおらぁ!!」

と吠える。

その頭をオルレアンがぽんと叩いた。

オル「言葉遣いが悪いっ。みんながまねしたらどーすんのさ★」

イヅナ「ちっ、うっす」

「てめっこらー」キャッキャッ

「すっぞこらー」キャッキャッ

手遅れみたいだぞ。

少年「あー。こんな感じで今日は夕方まで子供たちと遊んでくれればいいらしいから」

イヅナ「わかってるよ、んなこと」

イヅナがぎろりとこっちを睨む。

好かれようとは思ってないが、ここまで敵意を向けられるとどうもな。

でも様子を見てる限り、やはりそれほど悪い奴ではなさそうだ。

言葉遣いは悪いけども、まぁ不良らしいと言えば不良らしいし。

悪くはない、それほど悪くない不良がこのイヅナの立ち位置か。

あのドラゴンが言ってた意味も分かる。

なんだ。今日は特になんの問題もなく

べっちょり

男「うぐっ」

背中がねっとりする。首筋から粘液が服の中に入ってくる。

「もっちゃり」

オル「あはは、好かれてるね〜☆」

イヅナ「かかっ。ざまぁねぇな」

少年「ぬめぬめする」

「そとぉ、いこー」

少年「わ、わかったからどいてくれないかな?」

「れっごー」

少年「………」
181 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/20(火) 16:53:49.31 ID:jQit6FKQ0
言われた通り外に出る。

食堂にある大きな窓を開けるとそのまま外にできることができた。

子供たちも続いてぞくぞく外へ出る。わーっと広がっていく子供たちをオルレアンが慌てて追いかけていた。

外では風が心地よい。気温も暑くもなく寒くもなく、理想的ないい天気だった。

がその程度では背中の気色悪さは取り除けなかった。

いまだにあの子供は背中から降りないし、支えてないのに背中にぴったり張り付いている。

動けばずり落ちていくだろうと思ったが軽くジャンプしてもよろこぶだけだった。

少年「あー、なにがしたいんだ?」

「むっちょり」

意思疎通すらできない。

さっきまではできてたはずなのになにを聞いても背中で鳴くだけ。

諦めようかと思ったが、案外異物感が強い。それに割と重い。

少年「オルレアン。なんとかしてくれないか?」

オル「女の子にモテていーじゃない☆」

オルレアンに頼んでもそうやって一笑に付すだけで話にならない。

最後の希望とばかりにイヅナを見てみたがイヅナは俺より悲惨なことに子供たちに押しつぶされ団子みたいになっていた。
182 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/20(火) 16:54:17.61 ID:jQit6FKQ0
今日はここまで
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/20(火) 17:02:20.78 ID:Nt5OFK3Eo
乙乙
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/20(火) 17:08:53.30 ID:/9+bJDmjO
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/20(火) 18:58:35.33 ID:OZqi8ezDO

ナメクジの亜人かなにかかな
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/20(火) 19:05:53.58 ID:Q29Ntf6fo
もっちゃり
187 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/22(木) 14:50:33.64 ID:/zNP7FFb0
なぜ大人のほうが筋肉があるはずなのに子供の体力には勝てないのだろうか。

なんてことをイヅナをもみくちゃにしている子供たちを見ながら思う。

子供といってもイヅナと似たような身長の子もいるからなおさらたちが悪い。

どうやら子供たちはイヅナの逆立ったオールバックが珍しいらしく、自慢であろう髪型は子供たちの手によって乱され、欠片もない。

今にも怒りだしそうな顔をしながら、大人しくしているあたり、子供には優しいみたいだ。

イヅナ「おい、おい人間」

少年「なに」

イヅナ「助けろ」

少年「僕だって助けてほしい」

イヅナ「………ちっ」

結局子供たちが疲れ果てるまで抵抗しないのが一番らしく、その後もイヅナは子供のおもちゃとなることを甘んじていた。
188 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/22(木) 15:31:12.52 ID:/zNP7FFb0
子供たちが疲れ果てやっと眠りについたあと、僕たちは食堂でぐったりとしていた。

オル「おっつおっつ☆」

少年「本当に……疲れた」

イヅナ「けっ…だらしねぇ、奴だ」
と嘯くものの俺と同様に表情には元気がない。

オル「まぁまぁ、これでも飲みな☆」

少年「ありがとう」

オルレアンから手渡されたマグカップの中には淡黄色のとろりとした液体。

口に含むと暖かくて甘かった。飲んだことない味だ。

イヅナ「これ、うめぇな」

少年「なに、これ」

オル「オルレアンちゃんが産んだ卵で作ったミルクセーキ☆」

イヅナ「ぶふっ、ぐへっ、ぐへっ」

イヅナが勢いよく噴出した。つまり対面にいる俺に吹き付けたということで、熱くはなかったがぽたぽたと頬を伝って落ちるミルクセーキ。

べたべたする。

オル「きたねーっ」

イヅナ「なんてもん飲ませやがるんだ!!」

少年「なぁ、なんか拭くもの」

オル「は? 美少女が産んだ卵だぞ★」

イヅナ「腹を下したらどうする!」

オル「くださねーよ★ 美少女は健康で清潔なんだよ★」
189 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/22(木) 16:03:15.68 ID:/zNP7FFb0
少年「なんか拭くもん」

べたべたする顔と机をなんとかしたいのだが、オルレアンに俺の言葉は届かないらしい。

オルレアンの産んだ卵が清潔か清潔じゃないかの論争を繰り広げており、俺の言葉が入る隙間はないようで、自分で行かざるを得ないようだ。

ここは食堂だからキッチンまで行けば顔を洗えるし、布巾ももらえるだろう。

なんか今日はやけにぬめったりべたついたりする日だな。

食堂を抜け出しすぐ隣のキッチンに入るとマザーがオーブンの前にいた。

少年「すいません。水を借りてもいいですか?」

マザー「どうしたの。そんなに濡れちゃって」

少年「色々ありまして」

マザーから許可をもらい、水道の蛇口をひねる。

頭ごと流水に突っ込むと冷えた水が心地よかった。

マザー「タオルをどうぞ」

少年「ありがとうございます」

マザーからタオルを受け取り頭を拭く。やっと人心地つけたがいまだに食堂からは言い争う声が聞こえてきた。

というか無精卵だから清潔ってどういう理屈だ。

興味ないからどうでもいいか。

マザー「もうすぐクッキーが焼けるからみんなを起こしてきてくれるかしら」

男「わかりました。あの、申し訳ないんですけどあの二人のことよろしくお願いします」

マザー「あらあら、二人とも元気ねぇ」

俺じゃ止められそうにない。その点マザーであればなんにせよ止めれそうな気がする。

ということで二人のことはマザーに任せ、俺は子供たちを起こしに向かった。
190 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/22(木) 16:18:46.92 ID:/zNP7FFb0
子供たちは雑魚寝でおおいおもいの寝方をしていた。無秩序なという言葉が似あう微笑ましい光景だったがマザーから言われたのだから仕方ない。俺は寝ている子供たちをゆすって起こしていった。

中にはいきなり起こされてぐずる子供もいたが、割と問題なくことは進み、すぐに目を覚ましてくれた。これもおやつができたという言葉あってのものだろう。

少年「それじゃあみんな、おやつを食べに食堂へ」

と言っていると一人の子供が俺の服の裾を掴み、引っ張ってきた。

少年「どうかした?」

「ボンボリちゃんがいない」

少年「ボンボリちゃん?」

「あの、ぬめってなってる子だよ」

少年「え?」

そういえば起こした覚えがない。見渡してみるものが姿は見えなかった。

少年「みんなは食堂に行ってって。探すから」

「ん」

子供たちを食堂へ行くように促す。子供たちは少し不安そうな顔をしていたが素直に食堂へと向かってくれた。

少年「さて」

問題のあの子だが一体どこに消えたのだろうか。

上を向いても下を向いてもいない。それにこの部屋には隠れられそうな場所はなかった。

少年「ということは他の部屋か」

この孤児院はそこそこ広い。隠れる場所なら色々あるだろう。

長い闘いになりそうだと俺は長い溜息をついた。
191 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/22(木) 16:32:38.59 ID:/zNP7FFb0
少年「おーい、ボンボリちゃーん。でておいでー」

廊下で大声を出してみるものの返事はない。

仕方ないので一つ一つ部屋を探してみるが、姿は見えず。それに空き部屋もあり、かなり非効率だ。

オル「話は聞いたよ☆ ボンちゃんを探索隊に加わるぜい☆」

そうやって探していると子供たちから話を聞いたらしいオルレアンも一緒に探してくれることとなった。

オル「おーい、ボンちゃ〜ん、でっておいでー☆」

オルレアンが声をかけても返事はない。

そうしてあらかた部屋を探し回り、俺がとある部屋のドアノブに手をかけたとき、オルレアンが慌てた様子でドアノブにかけた手を掴んで止めた。

オル「そこは開かずの間ではいっちゃいけないんだよ」

少年「でもいるかもしれないだろ」

オル「私が探すから、そこで待ってて!」

そういうとオルレアンがドアを開けてさっと入っていった。ちらりと見えた部屋の中には本棚があると同時にきわどい女性の絵が飾られてあった。オルレアンの部屋? 違うように思えるが。

オル「はぁ、はぁ、ここにもいなかったよ」

少年「もう結構探したのにな、いったいどこへ?」

オル「ぶるるっ、ちょっと私行くところあるから」

少年「どこにいくんだ?」

オル「聞くなばかっ!」

なぜか普通に怒られた。

オルレアンは赤い顔をしてぱたぱたとどこかへ走り去っていく。

………あ、トイレか。それはデリカシーのないことをしてしまった。

そうだ、ついでに俺もトイレに―――

オル「キャーッ!!」

オルレアンの悲鳴が聞こえた。

オル「だ、だれか! 誰か来て! 助けて!!」

普段のしゃべり方ではない、本気で慌てたような叫びが聞こえる。

俺はとっさにオルレアンの声が聞こえたほうに向かって走った。
192 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/22(木) 16:33:10.77 ID:/zNP7FFb0
今日はここまで
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/22(木) 16:41:44.27 ID:RgcN/OUNO
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/22(木) 17:21:21.94 ID:NpOVzqsgO

キャラ作ってる子が素に戻る瞬間好き
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/22(木) 18:26:25.12 ID:0p5Mxia1O
乙乙
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/22(木) 19:41:56.11 ID:j4/hhpNdO
おつつ
197 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/28(水) 12:40:15.06 ID:lAJD/6By0
少年「大丈夫か!? どうしたオルレアン!!」

オル「しょ、少年………」

オルレアンはトイレにいた。一般家庭のそれと違い、数名が同時に使用できる学園と同じ規模のもの。オルレアンはよく掃除された青いタイル敷きの床の上でへたり込んでいた。

オル「ぼ、ぼ、ボンちゃんが」

オルレアンが震えた手で個室の中を指す。俺はトイレの中に入り、その指が指すものを見た。

少年「!!」

ボンボリが倒れていた。乳白色の肌は今は薄青色となり、ぐったりしている。

呼吸はある。ただし浅い。

外傷は見当たらないからどうやら襲われたとかいうわけではないようだ。

なら、病気かなにかだ。なら急ぐ必要がある。

少年「オルレアン、ボンボリを見ててくれ」

オル「う、うん」

マザーならわかるかもしれない。もしボンボリがなにか持病を持っているのなら把握しているはずだ。とにかくなぜ倒れたかがわからないと対処ができない。

そう判断して俺は食堂に向かって走った。

木張りの廊下を全力で蹴ると、ぎぃぎぃと古びた音がする。端から見れば実に慌ただしいことだろう。だったらその音で気づいてくれ。誰か早く。

少年「マザーさん!!」

食堂の扉を開け放つ。扉が壁にぶつかって派手な音をたてたが構わない。その音に驚いたみんながこっちを見た。
198 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/28(水) 12:41:52.36 ID:lAJD/6By0
俺は乱れた呼吸を押さえながら今起きていることを話すと、子供たちがざわめく。

慌ただしくなる子供たちを押さえながらマザーが立ち上がった。

少年「ボンボリちゃんにはなにか持病が?」

マザー「あります。最近は安定していたので安心していたのだけれど」

マザー「生まれつき突発性の発作があって、体内を循環する魔力の流れが乱れ、暴れることで内臓、血管、神経を圧迫するんです。でも、発作は本当に小さいころのことで」

イヅナ「おいババア! それより病院に連れてくべきなのか!? それとも寝かせとけばいいのか!?」

イヅナが勢いよく立ち上がり机を叩く。その音と倒れた椅子の音に動揺していたマザーがはっとした。

マザー「発作は治まるのを待つしかありませんが、その後の治療は病院で」

イヅナ「じゃあ病院につれてけばいいんだな?」

少年「今すぐ連絡をして」

イヅナ「それじゃあおせえだろうが! ガキはどこだ。俺が運ぶ!」

少年「病院まで!? マザーここから一番近い病院は?」

マザー「馬車で30分ほどのところに」

イヅナ「じゃあ俺が走った方が速ぇ」

イヅナ「案内しろ、風紀委員!!」

少年「! こっちだ!!」

トイレにいることを教えるとイヅナは本当に目にもとまらぬスピードで走って行った。

遅れて風が廊下に吹く。俺もそれに遅れてボンボリの元へと向かった。
199 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/28(水) 12:43:11.32 ID:lAJD/6By0
少年「ボンボリは大丈夫!?」

オル「う、うんっ、あのイタチの人が抱えて」

行動が速い。ただ病院の場所を知っているのだろうか。いや、流石にわかっているから行動したのだろう。おそらく。

少年「ごめん、オルレアン。飛べるか?」

オルレアンの顔色は青く、唇も紫色。ボンボリの状態を見て強くショックを受けたみたいだ。
でもオルレアンにいってもらわないと困る。

自分の無力な人間の体が恨めしい。俺では地を駆けることも空を往くことも難しい。

オル「うん、大丈夫」

少年「心配だからオルレアンもイヅナと一緒に」

オル「わ、わかったよ。えっと、少年くん」

少年「どうした?」

オル「一人じゃ、怖いよ。ついてきて、ほしいな」

少年「………わかった」

オル「ありがとう、少年」

少年「元気出せよオルレアン。絶対無事に決まってるだろ」

オル「そう、かな。大丈夫かな?」

少年「馬車よりずっと、風よりもずっと速いやつが病院までつれてってるんだから」

オル「………ありがと、少年くん」

オル「急ぐよ。めちゃくちゃ、急ぐよ!!」

そういってオルレアンは気丈にも立ち上がり、数度翼を羽ばたかせた。

オル「あのイタチやろうになんか負けないんだからねっ☆」

いつも通りのオルレアンの笑顔にほっとする。胸をなで下ろしたのもつかの間、オルレアンは大きく翼を羽ばたかせながら飛び、その強靱なかぎ爪で俺の肩をがっちりと掴み

オル「いくよっ☆」

俺を引きずりながらトイレの窓から飛び立った。
200 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/28(水) 12:47:30.22 ID:lAJD/6By0
離陸の際ににいろいろなところにぶつけた体が痛い。だがそんな弱音を言ってる暇もない。

オル「どこにいるかな?」

少年「えっと、あれか」

あたりを見渡すとすぐにイヅナの姿を見つけることができた。少しの間だというのにもう彼方にいる。

砂埃と揺れる木々がイヅナの場所と進行方向を教えてくれる。見失うことはなさそうだがあの速度。追いつけるだろうか。

少年「大丈夫か?」

オル「うんっ、頑張るからしっかり意識を保っててね! あと一生懸命だから私は下を見ないよ! それじゃ、アテンションっ☆☆☆」

加速。

加速。

加速。

一度羽ばたけば風がうねり

二度羽ばたけば空気が歪み

三度羽ばたけば身に風を纏う。

流石にカルラほどの速度はない。空気を裂き、風を貫くカラス天狗とは飛行の仕方が違うからだ。

だがしかしオルレアンの飛び方には自由があった。森という平坦でもまっすぐでもない道を行くには進行方向を何度も変えないといけない。オルレアンはそのイヅナの動きに柔軟に対応していた。

風がオルレアンを引き寄せ、導く。速度では決して勝てないその差をオルレアンは埋めてみせた。

少年「あともうちょっとだオルレアンっ!」

オル「へっへーん☆ 牛乳配達のアルバイトで鍛えたオルレアンちゃんの飛行テク、舐めんじゃねーぞ☆」

追いつけはしないがイヅナの背を捕らえる。大声をあげれば言葉が届く距離。これならば。

少年「イヅナっ!!」

イヅナ「! んだよっ!!」」

少年「病院の場所は知ってるのか!?」

イヅナ「………! どこだ!!」

少年「まじか…。俺が指示するから!!」

イヅナ「とちるんじゃねーぞ!!」

少年「そっちもな!!!」

イヅナ「はっ!! ざけんなっ!!」

イヅナの表情は見えない。だけれど今確かにイヅナは笑っていた。

確信が持てる。イヅナを信じれる。

必ずイヅナはボンボリを無事病院までつれていけると。

イヅナはボンボリを救えると。

根拠も理由もないのに、俺はそう思えた。
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/28(水) 17:29:09.97 ID:lJf8CxhoO
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/28(水) 18:16:37.35 ID:g8ecI/Azo
乙乙
203 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/29(木) 16:00:10.88 ID:mAogxCt70
イヅナは本当に馬車よりも早く病院までたどり着いた。俺を抱えて飛ぶオルレアンの速度に合わせていたので、場所さえ知っておけばもっと早くたどり着けただろう。

病院の先生にボンボリを引き渡すとただ待つことしかできなくなった俺たちは後をオルレアンに任せ喫茶店で待つことにした。

少年「助かったよ。イヅナ」

イヅナ「あん? なんでお前が礼を言うんだよ」

少年「オルレアンに代わってかな。にしてもイヅナは本当は悪い奴じゃないんだろ?」

俺がそう指摘するとイヅナはオールバックを逆立たせて否定をしてきた。

だが人を救うために何十キロも走り続ける悪人はない。普通の人でもそうはいない。なら迷わず走ったイヅナは実は善人ということになる。

イヅナ「俺はいい奴なんかじゃねぇよ! 目の前で人が死んだら飯が喉を通らなくなるだろうが」

あくまで自分勝手な理由であり、人助けではないと否定するイヅナ。

でも結局人から感謝されてるのならそれは人助けになるんじゃないだろうか。

少年「なぁ、イズナ」

イズナ「んだよ」

少年「焼きそばの屋台、やりたいのか?」

イヅナ「そりゃあ金が欲しいからな」

なら普通に仕事をすればいいのに。工事現場のアルバイトとか。と思ったが口に出さないでおこう。

少年「ヒョウカさんに頼んで火気使用の許可をもらってくるよ。確約はできないが」

イヅナ「……何が目的だ?」

少年「目的なんてないって。イヅナに人助けをする理由がないのと同じだ」

イヅナ「てめ、喧嘩売ってんのか?」

少年「喧嘩は売ってない。俺じゃあ相手にもならないだろうしな」

少年「それでどうするんだ?」

イヅナ「………………ちっ」

イヅナ「じゃあ……頼むわ」

そうぶっきらぼうに言い放つイヅナの口角はいつもより上がって見えたような気がした。

すぐにそっぽを向かれたので確認はできないが、もしかすると若干距離は縮んだんじゃないだろうか。

荒れたふうな演技をして、その実なり切れないいい奴。

そう、俺はイヅナを評価した。
204 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/29(木) 16:15:57.12 ID:mAogxCt70
少年「なんでイヅナを警戒しておく必要はないと思います」

次の日、俺はヒョウカさんに昨日あったことを報告していた。

あったことを大まかに話し、詳細を書いた復命書を渡すとヒョウカさんは銀縁のメガネをかけて復命書に眼を通した。

ヒョウカ「………この火気使用の許可とは?」

少年「彼の行動は我が学園の模範といえる行動です。学生の品位を貶めるものに罰を下すのなら、称えるべき行動を起こしたものにはなにかしらの恩賞が必要だと思いますが」

ヒョウカ「なるほど、この火気使用願いがイヅナに対する表彰となると」

ヒョウカさんはフレームのブリッジを中指で抑えると少し思案した後にこくりと頷いた。

ヒョウカ「ではその通りにしましょう。イヅナに対し火気使用許可を出すので書類を作成しておいてください」

少年「はい」

すんなりと話しは通った。以前のボヤ騒ぎの原因がイヅナにあるものではないということは理解してくれているようだ。

ヒョウカ「それと」

復命書を伏せて机の上に置くとヒョウカさんは眼鏡を外しながらこっちをじっと見つめた。

ヒョウカ「我が風紀委員には中心を担う私たち1課、荒事を担うクロ率いる2課、学園外での行動を担う3課、生徒からの要望や相談に答えるナタリー率いる4課があります」

ヒョウカ「あなたの所属ですが」

ヒョウカさんの水色の瞳に自分の顔が写る。所属に希望はない。だが身体能力に自信のない俺としてはできれば4課配属であればとも思う。

どの課でも依存はない。

ヒョウカ「生徒会に所属し、同行を見張る第5課となってもらいます」

ヒョウカ「特例の一人一課となりますが、もちろんサポートはしますので安心してください」

少年「」

前言撤回で。

5課以外でお願いします。

ヒョウカ「ダメです」

そう、ヒョウカさんは冷たく俺の望みを否定した。
205 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/11/29(木) 16:17:36.26 ID:mAogxCt70
今日はここまで

イヅナ編はこれにて終了となります。
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/29(木) 16:24:43.08 ID:VL/0hfK6O
乙乙
そんな理由で生徒会入ってたんやな
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/29(木) 16:26:18.04 ID:pcjMOiF8o
おつー
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/29(木) 17:25:59.25 ID:rCFNRe2PO

今まで生徒会入りしたのはべリアのせいかなって思ってたけど風紀委員の差し金だったのか(困惑)
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/29(木) 20:13:41.08 ID:coA8X47v0
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/29(木) 20:48:01.36 ID:6qYzfX3dO
おつ
211 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/03(月) 11:48:13.98 ID:KpvaPj/X0
【幕間】

ある日のことだ。

珍しく予定の無い放課後をバジロウとノヘジと一緒にのんびり享受していた時だ。

ノヘジ「俺は………イルミだろう。もちろんおっぱい的にだ」

バジロウ「俺は………セリカだな。ベタだけど優しい女の子ってのはあこがれるぜ。少年は?」

少年「あー、俺は………」

なんて年ごろらしい会話を途切れさせたのは聞き覚えのある。いや聞きなれた癇癪だった。

バジロウ「あれはお前の姉じゃあないか?」

少年「あれ、本当だ」

中庭を一人の男の手を引きながら爆走する小さな姿は見間違えることはない。立場上俺の姉であるミレイアだった。

少年「なにやってんだか」

手を引かれている男は見たことがある。ミレイアに勉学を教えている第一種の人間だ。ただでさえ少ない人間。しかもそれが教師ならなおさら記憶に残る。

しかしなんていうか、大変だな。あのミレイアの面倒を嫌な顔一つせず見て。

俺にはできない。絶対にできない。

ノヘジ「可愛らしい姉だろう。羨ましいのだろうっ」ダンッ

少年「背の小さいちんちくりんが?」

バジロウ「まぁ、顔立ちは整ってるな。スタイルは置いといて」

少年「はー。そうかねぇ」

いまいち納得できないのはミレイアを近くで見すぎたせいだろうか。

まぁ確かに、整ってなくはないと思うが、どうもフィルターを通してみてしまうから二人と言うように美少女であるとは思えなかった。
212 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/03(月) 11:57:10.28 ID:KpvaPj/X0
バジロウ「行かなくていいのか? 何か困ってるみたいだが」

少年「せっかく何もない放課後なんだからわざわざミレイアに係わりたくない」

どうせつまらない問題だろう。走り去るときにデザートという単語が聞こえたし。

少年「それより話を戻そうぜ。なんだっけ」

ノヘジ「少年のタイプの女学生の話だろう」

少年「あー、はいはい。えーっと俺は」

俺がタイプの女性………そもそも女性というものをそういう対象として認識したのは最近のことだからな。ぱっと出てこない。

メイドはそういう関係ではないし身近にいる女性とは言えば

オルレアン

リューン

リンネ

ヒョウカさん

ミレイア………は違うか。

俺の身近にいる女性で気になるのは

少年「あー。あえて言うならだけど>>213かな」

213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/03(月) 11:58:39.37 ID:pz82p5HqO
リンネ
214 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/03(月) 12:51:55.12 ID:KpvaPj/X0
少年「リンネかな」

バジロウ「あー」

ノヘジ「確かにリンネ嬢も素晴らしいだろう。それでリンネ嬢のどこが好きなんだ?」

少年「あいつああ見えて小動物とか好きなんだよ。この前なぜか謝りながら子猫を撫でてるとこ見てなんかいいなって」

リンネ「!」

バジロウ「あ」

少年「それによく怪我してるだろ。それ見てると守ってやりたいなって。いや、リンネは鬼で俺は人間なんだから守るなんてことは無理だけども」

リンネ「///」

ノヘジ「少年よ」

少年「あといつも自信なさげな顔してるところが………ん、なんだ?」

ノヘジ「後ろをみるといいだろう」

少年「後ろ?」クルッ

リンネ「あ、あの少年さん」

少年「」

リンネ「こんな私を褒めてくれるなんてお世辞とわかっていても嬉しかったです。少年さんは優しいのですね」ニコッ

少年「あ、あぁ」

リンネ「………」プルプル

少年「いやお世辞じゃなくて。………リンネ?」

リンネ「///」ボンッ

リンネ「気を使わせてしまってすいませんーっ」ドドドドドドドドッ

少年「リンネーっ!!?」

リンネの好感度【5】

バジロウ「少年」ギュッ

少年「バジロウ………なんで俺の右手を握り締めるんだ?」

ノヘジ「少年よ」ギュッ

少年「そしてノヘジ。お前は左手か」

バジロウ「おーらい、おーらい」グイグイ

ノヘジ「オーライッ オーライッ」グイグイ

少年「いでででででで」ミシミシ
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/03(月) 13:00:20.99 ID:Tun4GYWio
少年よ……好感度上げは一点集中がおすすめだぞ……(歴代の主人公を見つつ)
216 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/03(月) 14:07:21.86 ID:KpvaPj/X0
酷い目にあった。

普通に力が強いバジロウと血の涙を流すほど鬼気迫ったノヘジに左右へ引っ張られて危うく真っ二つになるところだった。

リンネになにか誤解された気がしたが、たぶん大丈夫だろう。

俺がお世辞で言ったと思ってるようだし。

バジロウ「ったく、これだから色男は」

ノヘジ「なぜだ、なぜ俺はモテないのだ」

人は内面というが、第一印象は外見だ。

外見が見えないうえに口を開けばイヤらしい話をするノヘジがモテないのは至極当然のことだろう。

勉強はできるし、真面目なところがあるんだからあぁいう話しなければ彼女くらい作れそうなもんだが。

バジロウ「ってふざけてたらもうこんな時間か」

ノヘジ「はっ! 図書館で自習をする時間だろう」

バジロウ「おらぁオルレアンに買い出し頼まれてっからもう帰るわ」

なんて調子で日が暮れればあっという間に一人になった。

迎えがくるまでまだ時間はある。

適当に歩いて時間を潰そう。まだ校舎を把握しているわけではないし。

と思っていたら。

少年「あれ、ミレイア、様」

暗い顔をして、瞳を潤ませたミレイアに出会った。
217 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/03(月) 14:35:03.71 ID:KpvaPj/X0
その横にはあの人間の男の姿。どうやらミレイアを慰めているらしい。

結局ミレイアのしたいことは上手くいかなかったみたいだ

ミレイア「………っ」

声をかけるとミレイアはキッとこちらを睨みつけてきたがその瞳にいつものような力はなく、どこかか弱いような印象を受けた。

ミレイア「なによ。ミレイアちゃんを笑いにきたの?」

ミレイアを笑う理由はない。今のミレイアを見て笑う趣味もない。

少年「なにがだ…ですか?」

訳が分からず聞き返すとミレイアは自嘲気味に右の口角を少し上げた。

ミレイア「ミレイアちゃんのデザートが盗まれたこと。どうせお父様に報告するんでしょう?」

聞こえてきたデザートとはそういうことか。どうやら聞こえてきたデザートという単語はミレイアのデザートが盗まれたということらしい。

デザートを盗まれたまぬけが怒り狂うなんてのはコメディ染みて実にお笑い種だ。

男「あぁ、走り回ってましたね」

だけれど笑わない。この騒動の裏にあるミレイアの苦悩を察してしまったからだ。

ミレイアの口から出てきたお父様という言葉。ロード家という名家に捕らわれ眼の下に隈を作ってまで努力をするミレイアが怯えるもの。

優秀な家族から押される出来損ないの烙印。

身内が完璧であるからゆえに恐れる自分自身の瑕。

ミレイア「………いいわよ。言いなさいよ! ミレイアちゃんは自分のものもちゃんと管理できない出来損ないだって!!」

自らが抱える恐怖をミレイアは自暴自棄気味に吐き出した。

他人ならばただの笑い話で済んだこと。

だがミレイアはそんなことですら自らの過失と捕らえて、振り回されている。

そんなミレイアを笑えるだろうか。

酷く不器用で、いじらしさすら覚えるこの姉を。

俺は笑えない。
218 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/03(月) 14:56:43.48 ID:KpvaPj/X0
俺は驚いていた。自分自身のミレイアに対する印象の変化に。

今まで感じていたミレイアに対する思いが吐き出された言葉によって塗り替えられていく。

いや、違う。今まで抱いていたミレイアに対する違和感が拭われていくんだ。

いままでいつも強がってばかりのミレイアの行動はどこか動物の威嚇染みたものを感じた。

俺よりずっと強く、俺よりずっと賢く、俺よりずっと高貴で、俺よりずっと傲慢なミレイアに感じていた違和感。

それはミレイアが自分の弱みを隠すために行っていた強がりだったんだ。

男「ねぇ、君」

少年「あんた、あなたはミレイア様の、先生?」

今までミレイアを慰めの表情で見ていた男が俺に話しかけてきた。その表情は悪く言えばなよなよした、情けないような、男らしくないようなものだった。

男「うん。今から甘いもの食べにいくんだけど一緒にいかないかな?」

ミレイア「私の尻拭いなんてする必要ないわよ」

男の提案をミレイアがぴしゃりと遮る。男は自らの優しさを無下に否定されておきながらも不貞腐れずにまた同じ表情のままでミレイアに提案を繰り返した。

少年「あの、何を言ってるんですかミレイア様」

俺は第二種だ。上手くかける言葉もデリカシーもない。人生経験が圧倒的に不足している野蛮人だ。だからこそミレイアの強がりを剥がす。

ミレイア「私が失態を犯した話よ。お父様に報告するには格好のネタでしょう」

自らに責任がないことすら失態と捕らえるミレイアはさぞ生きづらいことだろう。そんなこと誰も責めやしないというのに。

少年「それどう考えても盗んだ方が悪いでしょう。デザート程度まで気を遣うなんて無理ですよ。盗まれるなんて思いませんし」

俺を拾ったあの男なら高笑いして一笑に付しそうなこと。軽くバカにはするだろうがそれでも責めやしないはずだ。むしろそれを肴にワインでも飲みほしそうなのがあの男だ。愉快な話を齎したことを褒めそうなのがあの男だ。

ミレイアに現実を突きつけ否定する。ミレイアの杞憂を否定する。ミレイアは悪くないし責められることはない。逐一ミレイアの自虐を否定すると、ミレイアの瞳から睨みが薄れ徐々に徐々に潤んでくる。

ミレイア「あんた………私のこと嫌いでしょう? すぐ怒るし、わがままだし」

んなわけない。

ミレイアに対する印象はわがままで傲慢で暴力的。

だけど嫌ってなんかいない。

あの広い屋敷にいるのは俺とミレイア、あとメイドだけ。俺を拾ったあの男と、ミレイアの父親はそうそう家にいることはない。

俺を形式的に大切に扱うが雑談にすら付き合ってくれないメイド達。ミレイアを崇め、俺を敵視しているメイド長ユキムラ。

そんな中、俺を弟と呼び、ありのまま接してくれるミレイアは俺にとっての救いだったっていうのに。

嫌うわけがないだろう。本当にバカな姉だ。
219 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/03(月) 15:03:36.69 ID:KpvaPj/X0
少年「何言ってんだ?………何言ってるんですか。別に嫌ってないですよ」

ミレイア「ほんと……?」

ミレイアの言葉から刺が抜ける。ミレイアの表情がか弱い少女のようになり、瞳がさらに潤む。疑うような、願うような、懇願するようなその問いかけに俺は頷いた。

少年「だって義姉さんですから」

俺を守ってくれている、大切な義姉だから。

男「とりあえず、話は良い方向にいってるみたいだね。それじゃあもっと良い方向に行くために、デザート。食べにいこっか」

男が柏手を打つ。その表情はにこやかだった。なんか俺を見る目が優しくてムカつく。

ミレイア「………あんたにも、迷惑かけたわね」

男「そんなことないよ。あ、君は甘いもの大丈夫?」

嫌いじゃない。むしろ好きだ。

少年「好きっす」

男「それじゃあ決定! ほら、行くよ!!」グイッ

男が右手でミレイアの手を掴み、左手で俺の手を掴む。

ミレイア「きゃっ」

少年「うわっ」

引きずる側から引きずられる側へ。ミレイアは眼を白黒させ、何度も瞬きをした。瞼に押されて涙が一筋頬を伝う。

男「めでたしめでたし!」

そう言って男は、嬉しそうに笑った。
220 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/03(月) 15:50:18.47 ID:KpvaPj/X0
デザートを食べ終わり、礼を言ってミレイアの教師と別れる。

迎えが来る時間はとっくに過ぎている。1時間ほど待たせただろうか。

申し訳ないと思いながらミレイアと車まで向かうと運転手は俺だけを睨んでいた。わかってはいるけども、なぜだ。

ミレイア「はー、疲れた疲れた」

車に乗り込みながら靴をぽいぽいと投げ捨てるミレイア。俺はミレイアの靴を拾いながらそれに続いた。

乗り込んで向かい合わせになるように座席に座ると扉が閉められ、すぐに発車した。

微かに揺れを感じながら外を見ると、窓に映ったミレイアがこっちを見ていた。

少年「なんですか?」

ミレイア「………っ」

ミレイアは何も言わずにじっとこっちを見ていた。口元だけは何かを言いたそうにもごもごと動いている。

ミレイア「…えっと、あんた、私のこと好き、何でしょ」

少年「大切な義姉ですからね」

そう返すとミレイアは居心地が悪くなるらしく視線をきょろきょろと動かした。その様子が面白くて笑う。もちろん表情にはださない。

ミレイア「そ、そんなにこのミレイア様のことが好きなら………せ、精々良いように扱ってやるわ。だから、その」

ミレイア「………ありがとう」

一度剥がれた強がりを張りなおすのには時間がいるらしく、結局のところ今もまだしおらしいミレイアのままらしい。

ミレイア「ねぇ、あんた私の弟でしょ。その敬語とか苦手みたいだし、別に無理して私に敬語使わなくても、いいのよ?」

少年「でも体裁が、あるでしょう。それに敬語は、大事ですから」

ミレイア「………じゃ、二人きりのときは無理しなくていいわよ。これは命令よ、命令。あんたは弟なんだから姉の言うことは、聞きなさいよっ」

強引で不器用な優しさ。ミレイアは白い頬を紅潮させながら、早口でそうまくし立てた。

少年「……わかったよ。義姉さん」

ミレイア「ふ、ふんっ。なんか偉そうねっ。いいこと! あんたは私の弟なんだから! つまり奴隷みたいなもんでっ。う、うーっ!!」

言葉が見つからなかったミレイアが言葉の代わりにぽかぽかと俺を叩く。

いつもよりは痛くないその拳を義弟である俺は甘んじて受け止める。

俺は義弟なんだから、この強がりで意地っ張りで傲慢で不遜な義姉の言うことを奴隷よろしくはいはい聞いて行かなければならないのだろう。

まぁ、いっか。
221 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/03(月) 15:51:19.59 ID:KpvaPj/X0
今日はここまで
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/03(月) 15:59:09.96 ID:4fa89AlhO
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/03(月) 16:00:12.90 ID:YDK69NYVo
おつー
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/03(月) 16:07:01.98 ID:L3mNZjLlO
おちゅ
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/03(月) 16:38:59.16 ID:8hno/4mlo
ミレイアが正ヒロイン
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/03(月) 19:22:35.00 ID:7Dd8pyzCO

しおらしいミレイアもいいものだ
227 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/14(金) 11:14:00.50 ID:y8iP/2u10
【天使は意外と速く飛ぶ】

激変二度目だ。

俺の人生が変化したのはこれで二度目。

一度目は言うまでもなく吸血鬼に拾われたとき。

そして、これが二度目だ。他人に自分の運命を変えられたのは。

今俺の前には扉がある。なんてことのない普通の扉。ドアノブを握って回して引けば開く。そんなどこにでもある普通の扉だ。

なのに俺はその扉の前で固まっていた。

ドアノブすら掴むことはできず、口内に溜まっていく唾液をごくりと飲むことしかできない。

俺はこの普通の扉が地獄の門のように見える。上に掲げられた『生徒会』の文字が俺に、ここをくぐるのならば一切の望みを捨てよとあざ笑っているように思えた。

大げさだろうか。しかし奇人変人の集団であることはこの身をもって知っている。その中に入れば俺は―――

ガチャッ

「わかりましたよ!(ゴンッ) 甘い奴2つ苦い奴2つ酸っぱいの1つですよ、ね………んん?」

少年「う、うぉ、ぉぉ」

俺は扉の前にいた。そして扉はこっちが引けば開く。ということは中にいる人が出ようとしたら押すわけで。

勢いよく開いた扉が鼻っぱしにぶつかり俺は顔を抑えて蹲った。
228 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/14(金) 11:21:55.61 ID:y8iP/2u10
「だ、大丈夫ですか!? 怪我はありませんか!?」

鼻の穴の中を熱いものが通り抜ける。すぐに手に熱くぬるりとしたものが付いた。

少年「ち、血が………」

「!! と、とにかく中へ!!」

ひょいと抱きかかえられそのまま部屋の中へ連れ込まれる。

中ではいくつもの興味を抱いた瞳が俺を見ていた。

悪魔に天使に鳥に魚人になんだかよくわからないもの。10の瞳が俺を見る。

「なにか拭くもの! なにか汚れていいものないですか!?」

「ヤツカ君、いつもハンカチ持ってるでしょ?」

「ブランド物なんですよ!? 使いませんよ!!」

「ハンカチは使うものだろう」

「はい、これ」

「あぁ、ありがとうございますセルリアさん」

俺を置いてけぼりにして話は進んでいく。なんだかよくわからない人が投げて渡したハンカチを俺を抱えて入った人が顔に当てる。

「大丈夫ですか? とりあえず今はこれで鼻を抑えて」

言われた通り鼻を抑える。

少年「っ」

刺激臭。

反射的にハンカチを顔から外したが遅かった。

すっと遠くなる景色。頭の中がぴりりと痺れたかと思えば俺は

世界が揺らいで、まっくらに消えた。
229 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/14(金) 11:44:17.81 ID:y8iP/2u10
目を開ける。喉が渇いている。それに気分も優れない。

誰かメイドに頼んで水を貰おう、と思ったときに気が付いた。

俺が寝ていたのはベッドじゃない。布張りのソファーだった。そもそも自分の部屋ではない。

少年「っ!!」

全てを思い出し慌てて飛び起きると目の前に

「気分はどうかヨー」

ローブの中の暗闇に浮かぶ二つの黄色い光(瞳?)が俺を見ていた。

飛びのけて後ろに下がると

ドンッ

「寝起きでも元気だな。どうも俺は低血圧で朝が辛くてな。羨ましい限りだ」

白いスーツを着た、いかつい顔の男。絶対に何人か殺している。確実に堅気の筋ではない。

おそらくスーツの内側には拳銃やらナイフやらを隠し持っているのだろう。いいやもしかしたらあのスーツの中に折り畳み式のチェーンソーが入っていて俺のことをバラバラにする気に違いない。前門の虎、後門の狼。つまり逃げ場は横だけだが右はソファー、左は

「はーい、大丈夫? “鼻血”が止まったらおねいさんとお“はなし”をしようよ」

………いけそうだ。

俺を覗き込んでいた鳥の女性の横をすり抜け壁に背をつける。見渡すとさっきまでいた生徒会室だった。天井にはネオンライトが輝いて部屋の中を紫色に染めている。その光景に吐きそうになりながら左手でぐにぐにと柔らかい壁の様子を見るとすぐ近くに窓があった。
230 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/14(金) 11:45:41.19 ID:y8iP/2u10
「ちょっと! 落ち着いてくださいよっ」

少年「お、落ち着くもなにも、そっちがなんかやってきたんだろ!?」

左手で鍵を外し、窓を開ける。

外から風が吹き込んできて机の上に置かれていた書類と夏に追われている春の気持ちが床に散らばった。そうだ、もうすぐ夏が来る。

「あー、確かにそうであるがこれにはきっと事情がだな。なぁセルリア」

「間違えたのヨ」

体をずらして窓の前に立つ。全力で後ろに飛べば逃げることはできるだろう。後ろから、からし入りシュークリームを売り歩く声が聞こえる。どうやら今日はセールでお得らしい。なんと薬指一本で7個貰えるらしい。実にお得だ。

見渡してもすぐに俺の体を掴めそうな距離には誰もいない。彼我の距離は休日の時間よりも長い。休日を待ちわびる平日より短い。帯に短したすきに長しとはきっとこのことをいうに違いない。

俺はふわふわと漂っている酸素を空気を素早く吸うと―――

「あぁ!! 飛んじゃいますよ!?」

「ほう、元気が溢れているようだな」

「“飛ん”じゃうなんて“とんで”もないよ!! なんちて、なんて言ってる場合じゃないね。あわわわ」

俺は思いっきり後ろへと体を逸らしながら跳躍した。
231 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/14(金) 11:47:33.17 ID:y8iP/2u10
今日の空は曇りだった。重苦しい色の雲で覆われた灰色の空。誰かが色を付けることに失敗したのか。このような色だと感動できない。後で美術部に苦情を言うべきだろう。太陽だって顔を見せていない。俺は太陽をじっと見つめると思わず感動して瞳が緩み涙がぽろぽろと零れるような感動屋なのだ。そんな俺がいるのに顔を見せないだなんてファンサービスが実に足りない。お天道様に顔向けできないぞそんなことじゃ。相も変わらず空は曇天でそれでも俺の夢は極彩色で、ぴかりぴかりと七色キャンバスのようなのが自慢だ。美術部に代わって空に色をつけてやらんと欲す。

少年「――――――あ」

落ちていく最中に窓で自分の姿を見る。鏡の中には落ちていく俺の姿と楽しそうにタップダンスを踊る帽子とそれに踏みつけられてカツカツと鳴き声を上げる靴の姿があった。思わずスタンディングオベーションで拍手喝采の気分だが地に足のついてない俺にはどうやら起立も着席もできないらしい。では空を飛びながら拍手とはいかなることか。いや

あぁ、そうか。

俺に翼はなかった。では飛んではいない。落ちているだけだ。このままどこまで落ちるのだろうか。夜には家に帰らなければならないというのに重力は俺のことが大好きで引き留めてやまない。嫌いではないが困ったものだ。

どうやら生徒会の部屋はかなり高い位置にあったらしい。まだ地面にはたどり着かない。

ゆっくりゆっくりと降りていく。

「貴方!!」

灰色の景色に白色が現れる。

ばさりと広げられた翼は左六右六の計六対十二枚。飛び散るクーポン券。

灰色の中でもしっかりと見えるその白色は本当に綺麗で、元となった存在にそっくりだった。その姿を拝めばエルマ婦人も己の暴虐を恥じることだろう。きっと寿命も延びるに違いない。ありがたや。

天使と俺の距離が近づく。どんどん、どんどんと近づいていく。6対の翼をしっかりと羽搏かせどんどん、どんどん近づいてくる。大逃げを許さない差しの上手いこと。会場に飛び散る万馬券と怒号。お支払いはこちらまで。

「手を伸ばしなさいっ!!」

手を伸ばす。思ったよりも俺の手は短く星まで届かない。あの星の王子様の涙を拭うにはどうやら俺の手は短すぎたみたいだ。日頃の不摂生が祟ったのか。

俺が伸ばした手を天使はしっかりと掴んで空中でひっぱりあげた。

そしてひときわ大きく翼を羽搏かせると進行方向が下から上へ変わる。

空へ空へ上っていくその力に俺の肩が軋んだ。骨と間接の隙間を爆弾で爆破しているように思えるが今日はそんな作業報告を受け取っていない。ルール違反は重大な事故を招くから今後是正してほしいものだ。

突然の方向転換で頭に上っていた血がさっと足のほうへ流れていく。さよなら三角また来て四角、次に会うときはきっと3児のお母さんになっていることだろう。ご祝儀は財布の中身を吸い取っていく。くわばらくわらば

少年「は、れ?」

頭のなかがぐわりと揺らいで俺は再び意識を失った。
232 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/14(金) 11:49:39.63 ID:y8iP/2u10
目を覚ます。今度はしっかりと覚えていた。

「今度は慌てないで、お話をしましょう」

俺の耳元で聞こえる声。誰かが俺の両肩に手を置いて、耳元で囁いていた。

「ほら、諸悪の根源はあそこにいるから」

右肩にあてられた手がすっと伸びて指をさす。

指された先には先ほどのローブを着た謎の人がロープでぐるぐる巻きにされていた。そしてその横には同じくロープでぐるぐる巻きにされ、猿轡を噛まされ、鉄球のついた足枷を着けられている悪魔もいた。

「さっきは御免なさいね。誤解で悪気はないのよ。もちろんあなたに対する非礼は詫びるわ。だからお話だけでも聞いてくれないかしら?」

少年「………わかりました」

あのローブの人から渡されたハンカチで意識を失ったんだ。その上混乱して飛び降りまで。

いったい何を盛ったんだ?

「この前使った幻覚剤がちょっぴり残ってたのヨー」

………信用できそうにない。

「セルリアのことを信用できないのは私たちも一緒」

「ひどいヨー」

「普段の行動を顧みてください」
233 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/14(金) 11:50:34.44 ID:y8iP/2u10
「だけど困ったことに天才なのよ。私たち生徒会になくてはならない存在なの」

少年「………」

ローブの中の二つの黄色い光がこっちを見ている。そこから読み取れる感情はない。いったいどういう人なのか。なにもわからないその姿に思うことは怪しい、その一点のみだった。

天才に変人が多いことは知っているがそれでも幻覚剤を使用している人は実害がでる時点でもはや論外だ。

「信用しなくていいわ。ただ許してほしいだけ。ね?」

耳元で再度囁かれる声色はとても優しそうに感じる。ただそれが俺を騙しているのかもしれない。ただそれでも俺はヒョウカさんに言われたことを守ってこくりと頷いた。

「ありがとう。ちゃんとセルリアには後でお説教して、べリアは土に埋めておくから」

彼の方は一体何をしたというのか。まぁこないだのことがあるから別にかまわないんだけども。

「そういえば生徒会室の前に立ってたみたいですけど、なにかご用でも?」

「そういえばそうねぇ。クレルちゃん、紅茶をいれてちょうだいな」

「“紅茶を入れるのは任せ”ティー“ なんちて」

少年「………………」

「………………」

「………………」
「………………」

「………………」

「………………」

「なんか言ってぇっ!!」

………………
234 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/14(金) 14:43:24.18 ID:y8iP/2u10
入れてもらった紅茶を目の前にするが口にする気が起きない。あのローブの人が縛られているというのはわかっているがそれでもだ。

さっきみたいに世界が変に見えるようなことになりたくない。

そう躊躇しているとどうやら俺の気持ちを察したらしく天使の人が自分のカップと俺のカップを入れ替え一口飲んで見せた。そして微笑みかけると視線で紅茶が安全であると促した。

一口含む。特におかしなところはない。家のものよりは劣るとはいえ十分に美味しい。入れてくれた鳥の人を見るとこっちを見てにっこりと笑っていた。

「私たち生徒会は日夜生徒の助けとなるべく活動しております。さて、今日はどんなご用件でしょうか」

少年「生徒会に入りたいのですが」

そう言うと。今まで微笑んでいた天使の人の瞳が大きく見開かれた。

他の人も同じように目を丸くしている。

しまった。不自然すぎたか?

天使の人は震える手でカップを掴むと紅茶を零しながら口へと運んだ。形の良い口の端から紅茶がこぼれ喉へ伝い落ちていった。

「マジですか?」

天使の人がピクリと眉尻を動かしながらそう聞いてくる。ここでいいえ、やっぱりやめますということもできず、俺はその質問に対して頷いた。

静寂に支配される部屋。やらかしてしまっただろうかと少し怯えながら顔色を窺うと天使の人は何度もクビを傾げていた。

「やっぱり、ダメでしょうか?」

「いえ、ダメということはないのですが、生徒会に自主的に入る人なんかてんでいなかったので信じられず」

「全員スカウトですものね」

「入部届がいるのでしょうか。というか入部? 生徒会の場合なんて言えばいいんですかね?入会届? 入団届?」

「自殺志願者」

「またあなたは誤解を生むようなことを」

「むぐー! むぐぐー!!」

なぜか騒然としだす部屋内。一体この生徒会は今までどんな活動をしてきたのだろうか。頭の中で思い描いていた生徒会像と全く異なる状況に俺は助けてくれヒョウカさんと風紀委員室のほうを仰ぎ見た。
235 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/14(金) 14:49:56.78 ID:y8iP/2u10
「セルリア、やっぱりあなたなにか盛りましたわね?」

「覚えがないヨー。でも副作用の可能性は否定できないヨー」

「別に入りたいんならいいんじゃないか? なぁ、ヤツカ」

「どうすれば生徒会に入れるかがわからないんですよ!!」

「そういう書類はないのか?」

「うちには報告書と顛末書と反省文以外はほとんどないです!」

なんだと?

少年「皆さんはどうやって生徒会に入られたんですか?」

「全員スカウトですよ。気づいたら生徒会メンバーになってましたけど手続きとかした覚えはないんですよね。あ、もしかして僕たちって自称生徒会になっちゃうんじゃ?」

「学園長が後ろ盾をしてくれているのだから自称ではないと思うが」

「じゃー、もう役員です! って会長が認めればいいんじゃあないかな? かな?」

「むぐぐーっ!!」

「困りましたわね。言わせたくても猿轡を噛ませてしまいましたし」

「外せばいいじゃないですか!?」

「嫌ですわ」

「我がまま言わないでくださいよ! 外しますよ!?」

「外したらちゃんと付け直すんですわよ?」

「むごごー」
236 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/14(金) 14:56:09.24 ID:y8iP/2u10
そんなドタバタ劇が繰り広げられてようやく悪魔の人の猿轡が外された。悪魔の人は大きく息を吸うともぞもぞと動いてなんとか座りじろじろとこっちを見てきた。

「まさか本当に来るとはな。いや我の目に間違いがないことは世の常であるが」

「入れるんですか? 入れないんですか?」

「そう急かすな。まず生徒会とは学園の自治的」

「入れましょうよー、良いじゃないですか人で足りないですし」

「急かすな。えーっと、自治的組織であり」

「はよ」

「………」

何かを語ろうとしていたのだが横やりを入れ続けられたため落ち込んだ表情でうつむく悪魔の人。

「あー、えぇ、はい。ようこそ。生徒会へ」

なんて投げやりなセリフで俺は生徒会に入会したのだった。

ヒョウカさんの命令通り上手く入り込むことはできたがこれから上手くいくのか。

そこがとても心配で大喜びしている人たちに見えないようにこっそりため息をついた。
237 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/14(金) 16:11:12.08 ID:y8iP/2u10
蜘蛛の人から生徒会について簡単に説明される。説明によると生徒会メンバーは

会長である悪魔のべリア・ゴエディア。

副会長である天使のセラフ・ロートシルト。

会計である謎種族のセルリア

書記である蜘蛛の亜人のヤツカ

監査である鯱の亜人のオルキヌス・オルカ

広報である鳳凰のクレル・アークフォード

らしい。

そして俺は雑用などを担う一番下の庶務になるらしい。役職が貰えるとは思ってなかったし役職を貰っても上手くこなせそうにない。おかげで少し助かった。

そして俺が思っていた生徒会と違い学園内で生徒の悩みや問題を解決したり、組織と組織の間で折衝をしたりするのが目的らしい。要するに学園内での権限を保有したなんでも屋みたいなものだとヤツカさんは言っていた。ただ我が強いメンバーのため問題を大きくしたり騒動を起こしたりするのが玉に瑕と苦笑いもしていた。

どうやらこの人は変人ぞろいの生徒会で唯一の常識人らしい。普段からの苦労が目じりに見て取れる。

俺が大変そうですねと同情交じりに言うと、ヤツカさんはもう慣れたよと自虐気味に笑っていた。いずれ俺もこうなるのだろうか。そう思うと背筋がぞっとしなかった。

とりあえずはこの人について行けば大変なことにはならなそうだが

クレル「はいはい! お姉さんが新人くんの教育係に立候補したいです!」

とクレルさんが発言したことによって誰が専属で就くかの話し合いが勃発。1時間経っても2時間経っても終わらない会話し合いで結局は俺自身がだれに付いて行きたいかを決めることになった。セルリアさんだけは面倒くさそうに見ていた(それに俺もついて行こうとは思わない)からセルリアさん以外にすべきだが。

10分ほど悩んで俺はやっと教えてもらいたい人を選んだ。

少年「>>240
238 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/14(金) 16:11:40.88 ID:y8iP/2u10
今日はここまで
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/14(金) 16:17:54.69 ID:jvyFk7LeO
クレル
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/14(金) 16:18:55.59 ID:xI9pwVExO
それは押すなよ押すなよということかな
セルリア
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/14(金) 16:19:41.46 ID:bL2Rip660
ヤツカ
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/14(金) 16:30:36.72 ID:qIcROwGfO
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/14(金) 20:40:32.87 ID:bp3QIc+o0
244 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2019/01/16(水) 11:55:16.74 ID:jf1djAXB0
口をついてでた言葉。それは俺自身も指名された本人も予想外のものだった。

選ぶべきではないと思ったし、本人も選ばれるはずはないと思っていたはずだ。

選ぶ理由も選ばれる理由も存在しない。なのに係わってしまった。

自分が選ばれなかったことを嘆くもの。

まさかの選択を囃し立てるもの。

眼をぱちくりと瞬かせるもの。

それらに囲まれ俺ら当の本人は思考停止状態で見つめあっていた。

なぜか真っ暗闇のローブの中には黄色の光体が二つ。瞬きするように点いたり消えたりするから多分彼女の目なのだろう。おかげで感情を察することが難しい。

少年「あー、えっと、よろしくお願いします。セルリアさん」

覆水盆に返らず。出てしまった言葉が口の中へ戻る事はない。時間が巻き戻るなんてそれこそ無理だ。たぶん否定や誤魔化しをすればいいのだろうけど、そのタイミングもすでに逃した。それに一応先輩だ。拒絶することは難しい。だからこう言って彼女に向かって手を差し出すしかなかった。

セルリア「アー、ウー、よろしく頼むヨー」

彼女が俺の手を握る。その手は予想以上に熱く、ずっと握っていれば火傷しそうなほどだった。

この距離でもローブの中を見ることはできない。ただ光体が困ったように揺れていた。
245 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2019/01/16(水) 16:38:49.50 ID:jf1djAXB0
生徒会の仕事。それは主に生徒からの依頼の解決と風紀委員会を除く委員会の統括。これだけ大きな学園内の、それがたとえ生徒のみを対象とするものであってもたった数人で楽々終わらせられる仕事ではない。あくび交じりに仕事をしているセルリアさんだったが、その手は忙しなく書類に数字を書き込んでいた。よく見ると各部活が提出してきた予算の計算をしているらしいが二桁三桁の話ではない。いくら四則演算程度だとしてもこうも即座に答えを出せはしない。少なくとも俺では無理だ。

やることがなくセルリアさんの仕事ぶりを見続けるだけ。関心はするものの見ていて時間があっという間に過ぎるようなものではない。俺にできる仕事はないだろうかとあたりを見回すも

セルリア「できる仕事はないヨ」

と釘を刺される。

クレル「まぁまぁ、新人くんにはお茶を入れてもらッティ、いーかな?」

お茶くみ。それが俺にできることであるのならやぶさかではない。部屋に備え付けられている給湯室へ行き急須と茶葉を見つける。

魔石のコンロなんてあるんだな。さすが生徒会だ。と変なところに関心する。

鍋に水を入れコンロにのせる。このまま待っていればすぐに熱が伝わりお湯になることだろう。

給湯室からみんなの様子を伺うと忙しそうに働いている。今だけ見れば真面目集団だな。

お湯が沸いた。お茶を入れ、少し蒸らす。俺にはよくわからないがこれが大事なのだとユキムラが言っていた。

人数分のお茶を入れ持っていく。

あのクレルさんですら忙しなく書類を作っているのだから、この集団はレベルが高いな………と思っていたのだが。

少年「なにやってるんです?」

クレル「あは、バレてしまいましたか。お絵描きをしていました」

見てみると猫だかなんだかよくわからない絵がこっちを見ていた。

男「えーっと………これも仕事なのですか?」

クレル「いやー、暇だから遊んでただけ。だって私暇だもん。今忙しいのはセルリアちゃんとヤツカ君くらいじゃないかな」

ヤツカ「暇だったら手伝って頂いても構わないんですよ?」

クレル「嫌だよっ。えーっとだからおねーさんが教育係に立候補したんだけど、どうやらおねーさんは君のタイプの女性ではなかったみたいだねっ、およよぉ」

吐き出される言葉の無意味や無意味。真正面から相手をしていては時間の無駄になると即座に判断する。

男「えーっと、じゃあ今皆さんはなにやってるんですか?」

べリア「悪だくみ」

セラフ「処刑の方法を考えてますわ」

オルカ「瞑想をしていた」

ろくなもんじゃない。
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/07(木) 23:41:16.90 ID:4Y27IgauO
乙ー
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/09(土) 12:39:50.39 ID:i8HXGIAS0
ただ時間だけが過ぎていく。

仕事らしい仕事がない。ただ思い思いに暇をつぶすだけ。

これが学内屈指の極悪団体なんだからいろいろやっているのかとおもったけれどそうではないらしい。

いや、ベリアに限っては害悪なのか。

セルリア「はー、やっと終わったヨー」

セルリアさんがペンを放り投げて立ち上がる。見ると左にできていた書類の山が右に移っていた。

ヤツカ「でしたら僕の分も手伝ってくれて構わないんですよ」

セルリア「けっ、だヨー」

セルリアさんはぴょんとその場で軽くジャンプをするととてとてと部屋から出ていってしまった。

男「あっ、えっと俺はどうすれば」

ヤツカ「そうですね。今日はもう仕事はありませんし帰っても―――」

ベリア「よーし今日は帰っていいってさ」

クレル「やったー!」

ヤツカ「貴方がたは駄目です」

べりクレ「えー」

男「いえ、俺も時間はありますから」

ヤツカ「そうですか。だったら―――」

ガチャ

扉が開く音がした。

振り向くとそこには

「ここが生徒会と聞いたNOですが」

菱型のキューブがそこに浮いていた。
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/09(土) 12:53:38.91 ID:i8HXGIAS0
【幕間】

ノヘジ「ハイパーエロティシズム革命」

少年「は?」

脈絡もなくノヘジがまた変なことを言い始めた。

ノヘジ「今頭の中に浮かんだのだがなんだか惹かれないか」

ノヘジは眼鏡をキラリと光らせ俺たちにそう語りかけた。

男「そもそもどういう意味なんだよ」

バジロウ「ノヘジが言うことに意味なんてないだろ」

ノヘジ「たぶん、誰かに何かを付け加えてその人の持つエロティシズムを引き出すことだろう」

バジロウ「シチュエーション萌えとかいう奴か」

バジロウが頷いているが俺にはよくわからなかった。

男「まず例をあげてくれよ」

ノヘジ「例か。ならばケンタウロスのイルミ嬢に………ギャグボール」

少年「風紀委員に通報だ」

バジロウ「よしきた」

流石にそれは危なすぎる。種族差別ととられても仕方ないことだ。

ノヘジ「ま、まってくれ! これは分かりやすい例えすぎただろう」

バジロウ「イルミならガーターベルトだろ。普通に考えたら」

え?

バジロウもそっち側なのか?

いまだ気軽にそういう話ができない俺だからそういう話題は少し困る。

別にそういうことに興味がないわけじゃないんだが

ノヘジ「リンネの巫女服に切れ目を入れてちらりとのぞく生足に紋様を入れたいだろう」

バジロウ「あー。紋様はエロいな。あと学長と地下牢とかな。なぁ、少年ならどうする?」

少年「はっ!? え、えっと」

>>249

>>250
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/09(土) 12:55:12.35 ID:eQ/QBNKwo
ヒョウカ
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/09(土) 13:15:12.76 ID:/LOM9KtDO
褐色に日焼けさせたい
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/09(土) 14:15:31.57 ID:i8HXGIAS0
少年「ヒョウカさんが日焼けして褐色肌になったら、いいなぁって思う」

ノヘジ「ほう!」

ご存じのとおりヒョウカさんは真っ白だ。

だから高潔で近寄りがたく思える。

だから日焼けして健康的なイメージが付けばいいなぁと。

バジロウ「褐色萌えか」ウンウン

ノヘジ「褐色は遊んでいるイメージがあるだろう。つまり少年は遊んでる系が好きなのだな」ウンウン

男「え、ちがっ」

バジロウ「そういえば先輩にそういうタイプがいたな。金髪で褐色の」

ノヘジ「そういう女性に筆おろしされたいだろう」

なんかどんどん俺の性癖がゆがめられていっているんだが。

ただ俺はヒョウカさんのことを思って―――

ヒョウカ「風紀的によろしくないお話しをしていますね」

ノヘジ「ひっ!」

少年「ひょ、ヒョウカさん」

背筋が凍るような。というか実際に俺の後ろに立っているヒョウカさんから冷気が漏れ出している。

ヒョウカ「なにやら私に遊んでいるような女になってほしいという欲が聞こえましたが」

少年「違うんですよ!? それはこいつらが言いだしたことで!」

バジロウ「あっ、ひでぇ! 友人を売るなよな!」

売るもなにも誤解だからなぁ!

ヒョウカ「貴方には申し訳ありませんけれど、私は日焼けをする前に溶けてしまいますので」

雪女だしな。しかもこれから暑くなるからヒョウカさんはどんどん縮んでいくのだろう。

ヒョウカ「私も女性ですので異性から純粋に意識されることは好ましく思いますが、不純な欲望をぶつけられることは好ましいとは思いません」

少年「そ、その通りですよね。はい」

ヒョウカ「では貴方が私の事を正しく意識できるように、矯正を始めましょうか」

少年「はイ?」

ヒョウカさんの手が俺の首にかかる。少し冷たさを感じたときには俺の意識はかくりと落ちていた。

ヒョウカ「カルラ。風紀委員室に運んでください」

カルラ「はっ」シュタッ

バジロウ「………元気でな。少年」

ノヘジ「矯正されて嬌声をあげるような少年にはなってほしくないだろう」

バジロウ「俺、お前が一番矯正されるべき奴だと思うわ」

ヒョウカの好感度【5】

252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/09(土) 14:26:03.81 ID:Z+GpRHHi0
褐色ロリはいいゾ〜
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/09(土) 14:29:00.99 ID:eQ/QBNKwo
異論無し!
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/09(土) 22:45:40.09 ID:Xi8LSpobo
乙ー
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