少年「俺のクラスは亜人だらけ」

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209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/29(木) 20:13:41.08 ID:coA8X47v0
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/29(木) 20:48:01.36 ID:6qYzfX3dO
おつ
211 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/03(月) 11:48:13.98 ID:KpvaPj/X0
【幕間】

ある日のことだ。

珍しく予定の無い放課後をバジロウとノヘジと一緒にのんびり享受していた時だ。

ノヘジ「俺は………イルミだろう。もちろんおっぱい的にだ」

バジロウ「俺は………セリカだな。ベタだけど優しい女の子ってのはあこがれるぜ。少年は?」

少年「あー、俺は………」

なんて年ごろらしい会話を途切れさせたのは聞き覚えのある。いや聞きなれた癇癪だった。

バジロウ「あれはお前の姉じゃあないか?」

少年「あれ、本当だ」

中庭を一人の男の手を引きながら爆走する小さな姿は見間違えることはない。立場上俺の姉であるミレイアだった。

少年「なにやってんだか」

手を引かれている男は見たことがある。ミレイアに勉学を教えている第一種の人間だ。ただでさえ少ない人間。しかもそれが教師ならなおさら記憶に残る。

しかしなんていうか、大変だな。あのミレイアの面倒を嫌な顔一つせず見て。

俺にはできない。絶対にできない。

ノヘジ「可愛らしい姉だろう。羨ましいのだろうっ」ダンッ

少年「背の小さいちんちくりんが?」

バジロウ「まぁ、顔立ちは整ってるな。スタイルは置いといて」

少年「はー。そうかねぇ」

いまいち納得できないのはミレイアを近くで見すぎたせいだろうか。

まぁ確かに、整ってなくはないと思うが、どうもフィルターを通してみてしまうから二人と言うように美少女であるとは思えなかった。
212 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/03(月) 11:57:10.28 ID:KpvaPj/X0
バジロウ「行かなくていいのか? 何か困ってるみたいだが」

少年「せっかく何もない放課後なんだからわざわざミレイアに係わりたくない」

どうせつまらない問題だろう。走り去るときにデザートという単語が聞こえたし。

少年「それより話を戻そうぜ。なんだっけ」

ノヘジ「少年のタイプの女学生の話だろう」

少年「あー、はいはい。えーっと俺は」

俺がタイプの女性………そもそも女性というものをそういう対象として認識したのは最近のことだからな。ぱっと出てこない。

メイドはそういう関係ではないし身近にいる女性とは言えば

オルレアン

リューン

リンネ

ヒョウカさん

ミレイア………は違うか。

俺の身近にいる女性で気になるのは

少年「あー。あえて言うならだけど>>213かな」

213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/03(月) 11:58:39.37 ID:pz82p5HqO
リンネ
214 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/03(月) 12:51:55.12 ID:KpvaPj/X0
少年「リンネかな」

バジロウ「あー」

ノヘジ「確かにリンネ嬢も素晴らしいだろう。それでリンネ嬢のどこが好きなんだ?」

少年「あいつああ見えて小動物とか好きなんだよ。この前なぜか謝りながら子猫を撫でてるとこ見てなんかいいなって」

リンネ「!」

バジロウ「あ」

少年「それによく怪我してるだろ。それ見てると守ってやりたいなって。いや、リンネは鬼で俺は人間なんだから守るなんてことは無理だけども」

リンネ「///」

ノヘジ「少年よ」

少年「あといつも自信なさげな顔してるところが………ん、なんだ?」

ノヘジ「後ろをみるといいだろう」

少年「後ろ?」クルッ

リンネ「あ、あの少年さん」

少年「」

リンネ「こんな私を褒めてくれるなんてお世辞とわかっていても嬉しかったです。少年さんは優しいのですね」ニコッ

少年「あ、あぁ」

リンネ「………」プルプル

少年「いやお世辞じゃなくて。………リンネ?」

リンネ「///」ボンッ

リンネ「気を使わせてしまってすいませんーっ」ドドドドドドドドッ

少年「リンネーっ!!?」

リンネの好感度【5】

バジロウ「少年」ギュッ

少年「バジロウ………なんで俺の右手を握り締めるんだ?」

ノヘジ「少年よ」ギュッ

少年「そしてノヘジ。お前は左手か」

バジロウ「おーらい、おーらい」グイグイ

ノヘジ「オーライッ オーライッ」グイグイ

少年「いでででででで」ミシミシ
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/03(月) 13:00:20.99 ID:Tun4GYWio
少年よ……好感度上げは一点集中がおすすめだぞ……(歴代の主人公を見つつ)
216 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/03(月) 14:07:21.86 ID:KpvaPj/X0
酷い目にあった。

普通に力が強いバジロウと血の涙を流すほど鬼気迫ったノヘジに左右へ引っ張られて危うく真っ二つになるところだった。

リンネになにか誤解された気がしたが、たぶん大丈夫だろう。

俺がお世辞で言ったと思ってるようだし。

バジロウ「ったく、これだから色男は」

ノヘジ「なぜだ、なぜ俺はモテないのだ」

人は内面というが、第一印象は外見だ。

外見が見えないうえに口を開けばイヤらしい話をするノヘジがモテないのは至極当然のことだろう。

勉強はできるし、真面目なところがあるんだからあぁいう話しなければ彼女くらい作れそうなもんだが。

バジロウ「ってふざけてたらもうこんな時間か」

ノヘジ「はっ! 図書館で自習をする時間だろう」

バジロウ「おらぁオルレアンに買い出し頼まれてっからもう帰るわ」

なんて調子で日が暮れればあっという間に一人になった。

迎えがくるまでまだ時間はある。

適当に歩いて時間を潰そう。まだ校舎を把握しているわけではないし。

と思っていたら。

少年「あれ、ミレイア、様」

暗い顔をして、瞳を潤ませたミレイアに出会った。
217 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/03(月) 14:35:03.71 ID:KpvaPj/X0
その横にはあの人間の男の姿。どうやらミレイアを慰めているらしい。

結局ミレイアのしたいことは上手くいかなかったみたいだ

ミレイア「………っ」

声をかけるとミレイアはキッとこちらを睨みつけてきたがその瞳にいつものような力はなく、どこかか弱いような印象を受けた。

ミレイア「なによ。ミレイアちゃんを笑いにきたの?」

ミレイアを笑う理由はない。今のミレイアを見て笑う趣味もない。

少年「なにがだ…ですか?」

訳が分からず聞き返すとミレイアは自嘲気味に右の口角を少し上げた。

ミレイア「ミレイアちゃんのデザートが盗まれたこと。どうせお父様に報告するんでしょう?」

聞こえてきたデザートとはそういうことか。どうやら聞こえてきたデザートという単語はミレイアのデザートが盗まれたということらしい。

デザートを盗まれたまぬけが怒り狂うなんてのはコメディ染みて実にお笑い種だ。

男「あぁ、走り回ってましたね」

だけれど笑わない。この騒動の裏にあるミレイアの苦悩を察してしまったからだ。

ミレイアの口から出てきたお父様という言葉。ロード家という名家に捕らわれ眼の下に隈を作ってまで努力をするミレイアが怯えるもの。

優秀な家族から押される出来損ないの烙印。

身内が完璧であるからゆえに恐れる自分自身の瑕。

ミレイア「………いいわよ。言いなさいよ! ミレイアちゃんは自分のものもちゃんと管理できない出来損ないだって!!」

自らが抱える恐怖をミレイアは自暴自棄気味に吐き出した。

他人ならばただの笑い話で済んだこと。

だがミレイアはそんなことですら自らの過失と捕らえて、振り回されている。

そんなミレイアを笑えるだろうか。

酷く不器用で、いじらしさすら覚えるこの姉を。

俺は笑えない。
218 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/03(月) 14:56:43.48 ID:KpvaPj/X0
俺は驚いていた。自分自身のミレイアに対する印象の変化に。

今まで感じていたミレイアに対する思いが吐き出された言葉によって塗り替えられていく。

いや、違う。今まで抱いていたミレイアに対する違和感が拭われていくんだ。

いままでいつも強がってばかりのミレイアの行動はどこか動物の威嚇染みたものを感じた。

俺よりずっと強く、俺よりずっと賢く、俺よりずっと高貴で、俺よりずっと傲慢なミレイアに感じていた違和感。

それはミレイアが自分の弱みを隠すために行っていた強がりだったんだ。

男「ねぇ、君」

少年「あんた、あなたはミレイア様の、先生?」

今までミレイアを慰めの表情で見ていた男が俺に話しかけてきた。その表情は悪く言えばなよなよした、情けないような、男らしくないようなものだった。

男「うん。今から甘いもの食べにいくんだけど一緒にいかないかな?」

ミレイア「私の尻拭いなんてする必要ないわよ」

男の提案をミレイアがぴしゃりと遮る。男は自らの優しさを無下に否定されておきながらも不貞腐れずにまた同じ表情のままでミレイアに提案を繰り返した。

少年「あの、何を言ってるんですかミレイア様」

俺は第二種だ。上手くかける言葉もデリカシーもない。人生経験が圧倒的に不足している野蛮人だ。だからこそミレイアの強がりを剥がす。

ミレイア「私が失態を犯した話よ。お父様に報告するには格好のネタでしょう」

自らに責任がないことすら失態と捕らえるミレイアはさぞ生きづらいことだろう。そんなこと誰も責めやしないというのに。

少年「それどう考えても盗んだ方が悪いでしょう。デザート程度まで気を遣うなんて無理ですよ。盗まれるなんて思いませんし」

俺を拾ったあの男なら高笑いして一笑に付しそうなこと。軽くバカにはするだろうがそれでも責めやしないはずだ。むしろそれを肴にワインでも飲みほしそうなのがあの男だ。愉快な話を齎したことを褒めそうなのがあの男だ。

ミレイアに現実を突きつけ否定する。ミレイアの杞憂を否定する。ミレイアは悪くないし責められることはない。逐一ミレイアの自虐を否定すると、ミレイアの瞳から睨みが薄れ徐々に徐々に潤んでくる。

ミレイア「あんた………私のこと嫌いでしょう? すぐ怒るし、わがままだし」

んなわけない。

ミレイアに対する印象はわがままで傲慢で暴力的。

だけど嫌ってなんかいない。

あの広い屋敷にいるのは俺とミレイア、あとメイドだけ。俺を拾ったあの男と、ミレイアの父親はそうそう家にいることはない。

俺を形式的に大切に扱うが雑談にすら付き合ってくれないメイド達。ミレイアを崇め、俺を敵視しているメイド長ユキムラ。

そんな中、俺を弟と呼び、ありのまま接してくれるミレイアは俺にとっての救いだったっていうのに。

嫌うわけがないだろう。本当にバカな姉だ。
219 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/03(月) 15:03:36.69 ID:KpvaPj/X0
少年「何言ってんだ?………何言ってるんですか。別に嫌ってないですよ」

ミレイア「ほんと……?」

ミレイアの言葉から刺が抜ける。ミレイアの表情がか弱い少女のようになり、瞳がさらに潤む。疑うような、願うような、懇願するようなその問いかけに俺は頷いた。

少年「だって義姉さんですから」

俺を守ってくれている、大切な義姉だから。

男「とりあえず、話は良い方向にいってるみたいだね。それじゃあもっと良い方向に行くために、デザート。食べにいこっか」

男が柏手を打つ。その表情はにこやかだった。なんか俺を見る目が優しくてムカつく。

ミレイア「………あんたにも、迷惑かけたわね」

男「そんなことないよ。あ、君は甘いもの大丈夫?」

嫌いじゃない。むしろ好きだ。

少年「好きっす」

男「それじゃあ決定! ほら、行くよ!!」グイッ

男が右手でミレイアの手を掴み、左手で俺の手を掴む。

ミレイア「きゃっ」

少年「うわっ」

引きずる側から引きずられる側へ。ミレイアは眼を白黒させ、何度も瞬きをした。瞼に押されて涙が一筋頬を伝う。

男「めでたしめでたし!」

そう言って男は、嬉しそうに笑った。
220 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/03(月) 15:50:18.47 ID:KpvaPj/X0
デザートを食べ終わり、礼を言ってミレイアの教師と別れる。

迎えが来る時間はとっくに過ぎている。1時間ほど待たせただろうか。

申し訳ないと思いながらミレイアと車まで向かうと運転手は俺だけを睨んでいた。わかってはいるけども、なぜだ。

ミレイア「はー、疲れた疲れた」

車に乗り込みながら靴をぽいぽいと投げ捨てるミレイア。俺はミレイアの靴を拾いながらそれに続いた。

乗り込んで向かい合わせになるように座席に座ると扉が閉められ、すぐに発車した。

微かに揺れを感じながら外を見ると、窓に映ったミレイアがこっちを見ていた。

少年「なんですか?」

ミレイア「………っ」

ミレイアは何も言わずにじっとこっちを見ていた。口元だけは何かを言いたそうにもごもごと動いている。

ミレイア「…えっと、あんた、私のこと好き、何でしょ」

少年「大切な義姉ですからね」

そう返すとミレイアは居心地が悪くなるらしく視線をきょろきょろと動かした。その様子が面白くて笑う。もちろん表情にはださない。

ミレイア「そ、そんなにこのミレイア様のことが好きなら………せ、精々良いように扱ってやるわ。だから、その」

ミレイア「………ありがとう」

一度剥がれた強がりを張りなおすのには時間がいるらしく、結局のところ今もまだしおらしいミレイアのままらしい。

ミレイア「ねぇ、あんた私の弟でしょ。その敬語とか苦手みたいだし、別に無理して私に敬語使わなくても、いいのよ?」

少年「でも体裁が、あるでしょう。それに敬語は、大事ですから」

ミレイア「………じゃ、二人きりのときは無理しなくていいわよ。これは命令よ、命令。あんたは弟なんだから姉の言うことは、聞きなさいよっ」

強引で不器用な優しさ。ミレイアは白い頬を紅潮させながら、早口でそうまくし立てた。

少年「……わかったよ。義姉さん」

ミレイア「ふ、ふんっ。なんか偉そうねっ。いいこと! あんたは私の弟なんだから! つまり奴隷みたいなもんでっ。う、うーっ!!」

言葉が見つからなかったミレイアが言葉の代わりにぽかぽかと俺を叩く。

いつもよりは痛くないその拳を義弟である俺は甘んじて受け止める。

俺は義弟なんだから、この強がりで意地っ張りで傲慢で不遜な義姉の言うことを奴隷よろしくはいはい聞いて行かなければならないのだろう。

まぁ、いっか。
221 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/03(月) 15:51:19.59 ID:KpvaPj/X0
今日はここまで
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/03(月) 15:59:09.96 ID:4fa89AlhO
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/03(月) 16:00:12.90 ID:YDK69NYVo
おつー
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/03(月) 16:07:01.98 ID:L3mNZjLlO
おちゅ
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/03(月) 16:38:59.16 ID:8hno/4mlo
ミレイアが正ヒロイン
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/03(月) 19:22:35.00 ID:7Dd8pyzCO

しおらしいミレイアもいいものだ
227 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/14(金) 11:14:00.50 ID:y8iP/2u10
【天使は意外と速く飛ぶ】

激変二度目だ。

俺の人生が変化したのはこれで二度目。

一度目は言うまでもなく吸血鬼に拾われたとき。

そして、これが二度目だ。他人に自分の運命を変えられたのは。

今俺の前には扉がある。なんてことのない普通の扉。ドアノブを握って回して引けば開く。そんなどこにでもある普通の扉だ。

なのに俺はその扉の前で固まっていた。

ドアノブすら掴むことはできず、口内に溜まっていく唾液をごくりと飲むことしかできない。

俺はこの普通の扉が地獄の門のように見える。上に掲げられた『生徒会』の文字が俺に、ここをくぐるのならば一切の望みを捨てよとあざ笑っているように思えた。

大げさだろうか。しかし奇人変人の集団であることはこの身をもって知っている。その中に入れば俺は―――

ガチャッ

「わかりましたよ!(ゴンッ) 甘い奴2つ苦い奴2つ酸っぱいの1つですよ、ね………んん?」

少年「う、うぉ、ぉぉ」

俺は扉の前にいた。そして扉はこっちが引けば開く。ということは中にいる人が出ようとしたら押すわけで。

勢いよく開いた扉が鼻っぱしにぶつかり俺は顔を抑えて蹲った。
228 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/14(金) 11:21:55.61 ID:y8iP/2u10
「だ、大丈夫ですか!? 怪我はありませんか!?」

鼻の穴の中を熱いものが通り抜ける。すぐに手に熱くぬるりとしたものが付いた。

少年「ち、血が………」

「!! と、とにかく中へ!!」

ひょいと抱きかかえられそのまま部屋の中へ連れ込まれる。

中ではいくつもの興味を抱いた瞳が俺を見ていた。

悪魔に天使に鳥に魚人になんだかよくわからないもの。10の瞳が俺を見る。

「なにか拭くもの! なにか汚れていいものないですか!?」

「ヤツカ君、いつもハンカチ持ってるでしょ?」

「ブランド物なんですよ!? 使いませんよ!!」

「ハンカチは使うものだろう」

「はい、これ」

「あぁ、ありがとうございますセルリアさん」

俺を置いてけぼりにして話は進んでいく。なんだかよくわからない人が投げて渡したハンカチを俺を抱えて入った人が顔に当てる。

「大丈夫ですか? とりあえず今はこれで鼻を抑えて」

言われた通り鼻を抑える。

少年「っ」

刺激臭。

反射的にハンカチを顔から外したが遅かった。

すっと遠くなる景色。頭の中がぴりりと痺れたかと思えば俺は

世界が揺らいで、まっくらに消えた。
229 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/14(金) 11:44:17.81 ID:y8iP/2u10
目を開ける。喉が渇いている。それに気分も優れない。

誰かメイドに頼んで水を貰おう、と思ったときに気が付いた。

俺が寝ていたのはベッドじゃない。布張りのソファーだった。そもそも自分の部屋ではない。

少年「っ!!」

全てを思い出し慌てて飛び起きると目の前に

「気分はどうかヨー」

ローブの中の暗闇に浮かぶ二つの黄色い光(瞳?)が俺を見ていた。

飛びのけて後ろに下がると

ドンッ

「寝起きでも元気だな。どうも俺は低血圧で朝が辛くてな。羨ましい限りだ」

白いスーツを着た、いかつい顔の男。絶対に何人か殺している。確実に堅気の筋ではない。

おそらくスーツの内側には拳銃やらナイフやらを隠し持っているのだろう。いいやもしかしたらあのスーツの中に折り畳み式のチェーンソーが入っていて俺のことをバラバラにする気に違いない。前門の虎、後門の狼。つまり逃げ場は横だけだが右はソファー、左は

「はーい、大丈夫? “鼻血”が止まったらおねいさんとお“はなし”をしようよ」

………いけそうだ。

俺を覗き込んでいた鳥の女性の横をすり抜け壁に背をつける。見渡すとさっきまでいた生徒会室だった。天井にはネオンライトが輝いて部屋の中を紫色に染めている。その光景に吐きそうになりながら左手でぐにぐにと柔らかい壁の様子を見るとすぐ近くに窓があった。
230 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/14(金) 11:45:41.19 ID:y8iP/2u10
「ちょっと! 落ち着いてくださいよっ」

少年「お、落ち着くもなにも、そっちがなんかやってきたんだろ!?」

左手で鍵を外し、窓を開ける。

外から風が吹き込んできて机の上に置かれていた書類と夏に追われている春の気持ちが床に散らばった。そうだ、もうすぐ夏が来る。

「あー、確かにそうであるがこれにはきっと事情がだな。なぁセルリア」

「間違えたのヨ」

体をずらして窓の前に立つ。全力で後ろに飛べば逃げることはできるだろう。後ろから、からし入りシュークリームを売り歩く声が聞こえる。どうやら今日はセールでお得らしい。なんと薬指一本で7個貰えるらしい。実にお得だ。

見渡してもすぐに俺の体を掴めそうな距離には誰もいない。彼我の距離は休日の時間よりも長い。休日を待ちわびる平日より短い。帯に短したすきに長しとはきっとこのことをいうに違いない。

俺はふわふわと漂っている酸素を空気を素早く吸うと―――

「あぁ!! 飛んじゃいますよ!?」

「ほう、元気が溢れているようだな」

「“飛ん”じゃうなんて“とんで”もないよ!! なんちて、なんて言ってる場合じゃないね。あわわわ」

俺は思いっきり後ろへと体を逸らしながら跳躍した。
231 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/14(金) 11:47:33.17 ID:y8iP/2u10
今日の空は曇りだった。重苦しい色の雲で覆われた灰色の空。誰かが色を付けることに失敗したのか。このような色だと感動できない。後で美術部に苦情を言うべきだろう。太陽だって顔を見せていない。俺は太陽をじっと見つめると思わず感動して瞳が緩み涙がぽろぽろと零れるような感動屋なのだ。そんな俺がいるのに顔を見せないだなんてファンサービスが実に足りない。お天道様に顔向けできないぞそんなことじゃ。相も変わらず空は曇天でそれでも俺の夢は極彩色で、ぴかりぴかりと七色キャンバスのようなのが自慢だ。美術部に代わって空に色をつけてやらんと欲す。

少年「――――――あ」

落ちていく最中に窓で自分の姿を見る。鏡の中には落ちていく俺の姿と楽しそうにタップダンスを踊る帽子とそれに踏みつけられてカツカツと鳴き声を上げる靴の姿があった。思わずスタンディングオベーションで拍手喝采の気分だが地に足のついてない俺にはどうやら起立も着席もできないらしい。では空を飛びながら拍手とはいかなることか。いや

あぁ、そうか。

俺に翼はなかった。では飛んではいない。落ちているだけだ。このままどこまで落ちるのだろうか。夜には家に帰らなければならないというのに重力は俺のことが大好きで引き留めてやまない。嫌いではないが困ったものだ。

どうやら生徒会の部屋はかなり高い位置にあったらしい。まだ地面にはたどり着かない。

ゆっくりゆっくりと降りていく。

「貴方!!」

灰色の景色に白色が現れる。

ばさりと広げられた翼は左六右六の計六対十二枚。飛び散るクーポン券。

灰色の中でもしっかりと見えるその白色は本当に綺麗で、元となった存在にそっくりだった。その姿を拝めばエルマ婦人も己の暴虐を恥じることだろう。きっと寿命も延びるに違いない。ありがたや。

天使と俺の距離が近づく。どんどん、どんどんと近づいていく。6対の翼をしっかりと羽搏かせどんどん、どんどん近づいてくる。大逃げを許さない差しの上手いこと。会場に飛び散る万馬券と怒号。お支払いはこちらまで。

「手を伸ばしなさいっ!!」

手を伸ばす。思ったよりも俺の手は短く星まで届かない。あの星の王子様の涙を拭うにはどうやら俺の手は短すぎたみたいだ。日頃の不摂生が祟ったのか。

俺が伸ばした手を天使はしっかりと掴んで空中でひっぱりあげた。

そしてひときわ大きく翼を羽搏かせると進行方向が下から上へ変わる。

空へ空へ上っていくその力に俺の肩が軋んだ。骨と間接の隙間を爆弾で爆破しているように思えるが今日はそんな作業報告を受け取っていない。ルール違反は重大な事故を招くから今後是正してほしいものだ。

突然の方向転換で頭に上っていた血がさっと足のほうへ流れていく。さよなら三角また来て四角、次に会うときはきっと3児のお母さんになっていることだろう。ご祝儀は財布の中身を吸い取っていく。くわばらくわらば

少年「は、れ?」

頭のなかがぐわりと揺らいで俺は再び意識を失った。
232 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/14(金) 11:49:39.63 ID:y8iP/2u10
目を覚ます。今度はしっかりと覚えていた。

「今度は慌てないで、お話をしましょう」

俺の耳元で聞こえる声。誰かが俺の両肩に手を置いて、耳元で囁いていた。

「ほら、諸悪の根源はあそこにいるから」

右肩にあてられた手がすっと伸びて指をさす。

指された先には先ほどのローブを着た謎の人がロープでぐるぐる巻きにされていた。そしてその横には同じくロープでぐるぐる巻きにされ、猿轡を噛まされ、鉄球のついた足枷を着けられている悪魔もいた。

「さっきは御免なさいね。誤解で悪気はないのよ。もちろんあなたに対する非礼は詫びるわ。だからお話だけでも聞いてくれないかしら?」

少年「………わかりました」

あのローブの人から渡されたハンカチで意識を失ったんだ。その上混乱して飛び降りまで。

いったい何を盛ったんだ?

「この前使った幻覚剤がちょっぴり残ってたのヨー」

………信用できそうにない。

「セルリアのことを信用できないのは私たちも一緒」

「ひどいヨー」

「普段の行動を顧みてください」
233 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/14(金) 11:50:34.44 ID:y8iP/2u10
「だけど困ったことに天才なのよ。私たち生徒会になくてはならない存在なの」

少年「………」

ローブの中の二つの黄色い光がこっちを見ている。そこから読み取れる感情はない。いったいどういう人なのか。なにもわからないその姿に思うことは怪しい、その一点のみだった。

天才に変人が多いことは知っているがそれでも幻覚剤を使用している人は実害がでる時点でもはや論外だ。

「信用しなくていいわ。ただ許してほしいだけ。ね?」

耳元で再度囁かれる声色はとても優しそうに感じる。ただそれが俺を騙しているのかもしれない。ただそれでも俺はヒョウカさんに言われたことを守ってこくりと頷いた。

「ありがとう。ちゃんとセルリアには後でお説教して、べリアは土に埋めておくから」

彼の方は一体何をしたというのか。まぁこないだのことがあるから別にかまわないんだけども。

「そういえば生徒会室の前に立ってたみたいですけど、なにかご用でも?」

「そういえばそうねぇ。クレルちゃん、紅茶をいれてちょうだいな」

「“紅茶を入れるのは任せ”ティー“ なんちて」

少年「………………」

「………………」

「………………」
「………………」

「………………」

「………………」

「なんか言ってぇっ!!」

………………
234 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/14(金) 14:43:24.18 ID:y8iP/2u10
入れてもらった紅茶を目の前にするが口にする気が起きない。あのローブの人が縛られているというのはわかっているがそれでもだ。

さっきみたいに世界が変に見えるようなことになりたくない。

そう躊躇しているとどうやら俺の気持ちを察したらしく天使の人が自分のカップと俺のカップを入れ替え一口飲んで見せた。そして微笑みかけると視線で紅茶が安全であると促した。

一口含む。特におかしなところはない。家のものよりは劣るとはいえ十分に美味しい。入れてくれた鳥の人を見るとこっちを見てにっこりと笑っていた。

「私たち生徒会は日夜生徒の助けとなるべく活動しております。さて、今日はどんなご用件でしょうか」

少年「生徒会に入りたいのですが」

そう言うと。今まで微笑んでいた天使の人の瞳が大きく見開かれた。

他の人も同じように目を丸くしている。

しまった。不自然すぎたか?

天使の人は震える手でカップを掴むと紅茶を零しながら口へと運んだ。形の良い口の端から紅茶がこぼれ喉へ伝い落ちていった。

「マジですか?」

天使の人がピクリと眉尻を動かしながらそう聞いてくる。ここでいいえ、やっぱりやめますということもできず、俺はその質問に対して頷いた。

静寂に支配される部屋。やらかしてしまっただろうかと少し怯えながら顔色を窺うと天使の人は何度もクビを傾げていた。

「やっぱり、ダメでしょうか?」

「いえ、ダメということはないのですが、生徒会に自主的に入る人なんかてんでいなかったので信じられず」

「全員スカウトですものね」

「入部届がいるのでしょうか。というか入部? 生徒会の場合なんて言えばいいんですかね?入会届? 入団届?」

「自殺志願者」

「またあなたは誤解を生むようなことを」

「むぐー! むぐぐー!!」

なぜか騒然としだす部屋内。一体この生徒会は今までどんな活動をしてきたのだろうか。頭の中で思い描いていた生徒会像と全く異なる状況に俺は助けてくれヒョウカさんと風紀委員室のほうを仰ぎ見た。
235 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/14(金) 14:49:56.78 ID:y8iP/2u10
「セルリア、やっぱりあなたなにか盛りましたわね?」

「覚えがないヨー。でも副作用の可能性は否定できないヨー」

「別に入りたいんならいいんじゃないか? なぁ、ヤツカ」

「どうすれば生徒会に入れるかがわからないんですよ!!」

「そういう書類はないのか?」

「うちには報告書と顛末書と反省文以外はほとんどないです!」

なんだと?

少年「皆さんはどうやって生徒会に入られたんですか?」

「全員スカウトですよ。気づいたら生徒会メンバーになってましたけど手続きとかした覚えはないんですよね。あ、もしかして僕たちって自称生徒会になっちゃうんじゃ?」

「学園長が後ろ盾をしてくれているのだから自称ではないと思うが」

「じゃー、もう役員です! って会長が認めればいいんじゃあないかな? かな?」

「むぐぐーっ!!」

「困りましたわね。言わせたくても猿轡を噛ませてしまいましたし」

「外せばいいじゃないですか!?」

「嫌ですわ」

「我がまま言わないでくださいよ! 外しますよ!?」

「外したらちゃんと付け直すんですわよ?」

「むごごー」
236 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/14(金) 14:56:09.24 ID:y8iP/2u10
そんなドタバタ劇が繰り広げられてようやく悪魔の人の猿轡が外された。悪魔の人は大きく息を吸うともぞもぞと動いてなんとか座りじろじろとこっちを見てきた。

「まさか本当に来るとはな。いや我の目に間違いがないことは世の常であるが」

「入れるんですか? 入れないんですか?」

「そう急かすな。まず生徒会とは学園の自治的」

「入れましょうよー、良いじゃないですか人で足りないですし」

「急かすな。えーっと、自治的組織であり」

「はよ」

「………」

何かを語ろうとしていたのだが横やりを入れ続けられたため落ち込んだ表情でうつむく悪魔の人。

「あー、えぇ、はい。ようこそ。生徒会へ」

なんて投げやりなセリフで俺は生徒会に入会したのだった。

ヒョウカさんの命令通り上手く入り込むことはできたがこれから上手くいくのか。

そこがとても心配で大喜びしている人たちに見えないようにこっそりため息をついた。
237 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/14(金) 16:11:12.08 ID:y8iP/2u10
蜘蛛の人から生徒会について簡単に説明される。説明によると生徒会メンバーは

会長である悪魔のべリア・ゴエディア。

副会長である天使のセラフ・ロートシルト。

会計である謎種族のセルリア

書記である蜘蛛の亜人のヤツカ

監査である鯱の亜人のオルキヌス・オルカ

広報である鳳凰のクレル・アークフォード

らしい。

そして俺は雑用などを担う一番下の庶務になるらしい。役職が貰えるとは思ってなかったし役職を貰っても上手くこなせそうにない。おかげで少し助かった。

そして俺が思っていた生徒会と違い学園内で生徒の悩みや問題を解決したり、組織と組織の間で折衝をしたりするのが目的らしい。要するに学園内での権限を保有したなんでも屋みたいなものだとヤツカさんは言っていた。ただ我が強いメンバーのため問題を大きくしたり騒動を起こしたりするのが玉に瑕と苦笑いもしていた。

どうやらこの人は変人ぞろいの生徒会で唯一の常識人らしい。普段からの苦労が目じりに見て取れる。

俺が大変そうですねと同情交じりに言うと、ヤツカさんはもう慣れたよと自虐気味に笑っていた。いずれ俺もこうなるのだろうか。そう思うと背筋がぞっとしなかった。

とりあえずはこの人について行けば大変なことにはならなそうだが

クレル「はいはい! お姉さんが新人くんの教育係に立候補したいです!」

とクレルさんが発言したことによって誰が専属で就くかの話し合いが勃発。1時間経っても2時間経っても終わらない会話し合いで結局は俺自身がだれに付いて行きたいかを決めることになった。セルリアさんだけは面倒くさそうに見ていた(それに俺もついて行こうとは思わない)からセルリアさん以外にすべきだが。

10分ほど悩んで俺はやっと教えてもらいたい人を選んだ。

少年「>>240
238 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2018/12/14(金) 16:11:40.88 ID:y8iP/2u10
今日はここまで
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/14(金) 16:17:54.69 ID:jvyFk7LeO
クレル
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/14(金) 16:18:55.59 ID:xI9pwVExO
それは押すなよ押すなよということかな
セルリア
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/14(金) 16:19:41.46 ID:bL2Rip660
ヤツカ
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/14(金) 16:30:36.72 ID:qIcROwGfO
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/14(金) 20:40:32.87 ID:bp3QIc+o0
244 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2019/01/16(水) 11:55:16.74 ID:jf1djAXB0
口をついてでた言葉。それは俺自身も指名された本人も予想外のものだった。

選ぶべきではないと思ったし、本人も選ばれるはずはないと思っていたはずだ。

選ぶ理由も選ばれる理由も存在しない。なのに係わってしまった。

自分が選ばれなかったことを嘆くもの。

まさかの選択を囃し立てるもの。

眼をぱちくりと瞬かせるもの。

それらに囲まれ俺ら当の本人は思考停止状態で見つめあっていた。

なぜか真っ暗闇のローブの中には黄色の光体が二つ。瞬きするように点いたり消えたりするから多分彼女の目なのだろう。おかげで感情を察することが難しい。

少年「あー、えっと、よろしくお願いします。セルリアさん」

覆水盆に返らず。出てしまった言葉が口の中へ戻る事はない。時間が巻き戻るなんてそれこそ無理だ。たぶん否定や誤魔化しをすればいいのだろうけど、そのタイミングもすでに逃した。それに一応先輩だ。拒絶することは難しい。だからこう言って彼女に向かって手を差し出すしかなかった。

セルリア「アー、ウー、よろしく頼むヨー」

彼女が俺の手を握る。その手は予想以上に熱く、ずっと握っていれば火傷しそうなほどだった。

この距離でもローブの中を見ることはできない。ただ光体が困ったように揺れていた。
245 :亜人好き ◆HQmKQahCZs :2019/01/16(水) 16:38:49.50 ID:jf1djAXB0
生徒会の仕事。それは主に生徒からの依頼の解決と風紀委員会を除く委員会の統括。これだけ大きな学園内の、それがたとえ生徒のみを対象とするものであってもたった数人で楽々終わらせられる仕事ではない。あくび交じりに仕事をしているセルリアさんだったが、その手は忙しなく書類に数字を書き込んでいた。よく見ると各部活が提出してきた予算の計算をしているらしいが二桁三桁の話ではない。いくら四則演算程度だとしてもこうも即座に答えを出せはしない。少なくとも俺では無理だ。

やることがなくセルリアさんの仕事ぶりを見続けるだけ。関心はするものの見ていて時間があっという間に過ぎるようなものではない。俺にできる仕事はないだろうかとあたりを見回すも

セルリア「できる仕事はないヨ」

と釘を刺される。

クレル「まぁまぁ、新人くんにはお茶を入れてもらッティ、いーかな?」

お茶くみ。それが俺にできることであるのならやぶさかではない。部屋に備え付けられている給湯室へ行き急須と茶葉を見つける。

魔石のコンロなんてあるんだな。さすが生徒会だ。と変なところに関心する。

鍋に水を入れコンロにのせる。このまま待っていればすぐに熱が伝わりお湯になることだろう。

給湯室からみんなの様子を伺うと忙しそうに働いている。今だけ見れば真面目集団だな。

お湯が沸いた。お茶を入れ、少し蒸らす。俺にはよくわからないがこれが大事なのだとユキムラが言っていた。

人数分のお茶を入れ持っていく。

あのクレルさんですら忙しなく書類を作っているのだから、この集団はレベルが高いな………と思っていたのだが。

少年「なにやってるんです?」

クレル「あは、バレてしまいましたか。お絵描きをしていました」

見てみると猫だかなんだかよくわからない絵がこっちを見ていた。

男「えーっと………これも仕事なのですか?」

クレル「いやー、暇だから遊んでただけ。だって私暇だもん。今忙しいのはセルリアちゃんとヤツカ君くらいじゃないかな」

ヤツカ「暇だったら手伝って頂いても構わないんですよ?」

クレル「嫌だよっ。えーっとだからおねーさんが教育係に立候補したんだけど、どうやらおねーさんは君のタイプの女性ではなかったみたいだねっ、およよぉ」

吐き出される言葉の無意味や無意味。真正面から相手をしていては時間の無駄になると即座に判断する。

男「えーっと、じゃあ今皆さんはなにやってるんですか?」

べリア「悪だくみ」

セラフ「処刑の方法を考えてますわ」

オルカ「瞑想をしていた」

ろくなもんじゃない。
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/07(木) 23:41:16.90 ID:4Y27IgauO
乙ー
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/09(土) 12:39:50.39 ID:i8HXGIAS0
ただ時間だけが過ぎていく。

仕事らしい仕事がない。ただ思い思いに暇をつぶすだけ。

これが学内屈指の極悪団体なんだからいろいろやっているのかとおもったけれどそうではないらしい。

いや、ベリアに限っては害悪なのか。

セルリア「はー、やっと終わったヨー」

セルリアさんがペンを放り投げて立ち上がる。見ると左にできていた書類の山が右に移っていた。

ヤツカ「でしたら僕の分も手伝ってくれて構わないんですよ」

セルリア「けっ、だヨー」

セルリアさんはぴょんとその場で軽くジャンプをするととてとてと部屋から出ていってしまった。

男「あっ、えっと俺はどうすれば」

ヤツカ「そうですね。今日はもう仕事はありませんし帰っても―――」

ベリア「よーし今日は帰っていいってさ」

クレル「やったー!」

ヤツカ「貴方がたは駄目です」

べりクレ「えー」

男「いえ、俺も時間はありますから」

ヤツカ「そうですか。だったら―――」

ガチャ

扉が開く音がした。

振り向くとそこには

「ここが生徒会と聞いたNOですが」

菱型のキューブがそこに浮いていた。
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/09(土) 12:53:38.91 ID:i8HXGIAS0
【幕間】

ノヘジ「ハイパーエロティシズム革命」

少年「は?」

脈絡もなくノヘジがまた変なことを言い始めた。

ノヘジ「今頭の中に浮かんだのだがなんだか惹かれないか」

ノヘジは眼鏡をキラリと光らせ俺たちにそう語りかけた。

男「そもそもどういう意味なんだよ」

バジロウ「ノヘジが言うことに意味なんてないだろ」

ノヘジ「たぶん、誰かに何かを付け加えてその人の持つエロティシズムを引き出すことだろう」

バジロウ「シチュエーション萌えとかいう奴か」

バジロウが頷いているが俺にはよくわからなかった。

男「まず例をあげてくれよ」

ノヘジ「例か。ならばケンタウロスのイルミ嬢に………ギャグボール」

少年「風紀委員に通報だ」

バジロウ「よしきた」

流石にそれは危なすぎる。種族差別ととられても仕方ないことだ。

ノヘジ「ま、まってくれ! これは分かりやすい例えすぎただろう」

バジロウ「イルミならガーターベルトだろ。普通に考えたら」

え?

バジロウもそっち側なのか?

いまだ気軽にそういう話ができない俺だからそういう話題は少し困る。

別にそういうことに興味がないわけじゃないんだが

ノヘジ「リンネの巫女服に切れ目を入れてちらりとのぞく生足に紋様を入れたいだろう」

バジロウ「あー。紋様はエロいな。あと学長と地下牢とかな。なぁ、少年ならどうする?」

少年「はっ!? え、えっと」

>>249

>>250
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/09(土) 12:55:12.35 ID:eQ/QBNKwo
ヒョウカ
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/09(土) 13:15:12.76 ID:/LOM9KtDO
褐色に日焼けさせたい
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/09(土) 14:15:31.57 ID:i8HXGIAS0
少年「ヒョウカさんが日焼けして褐色肌になったら、いいなぁって思う」

ノヘジ「ほう!」

ご存じのとおりヒョウカさんは真っ白だ。

だから高潔で近寄りがたく思える。

だから日焼けして健康的なイメージが付けばいいなぁと。

バジロウ「褐色萌えか」ウンウン

ノヘジ「褐色は遊んでいるイメージがあるだろう。つまり少年は遊んでる系が好きなのだな」ウンウン

男「え、ちがっ」

バジロウ「そういえば先輩にそういうタイプがいたな。金髪で褐色の」

ノヘジ「そういう女性に筆おろしされたいだろう」

なんかどんどん俺の性癖がゆがめられていっているんだが。

ただ俺はヒョウカさんのことを思って―――

ヒョウカ「風紀的によろしくないお話しをしていますね」

ノヘジ「ひっ!」

少年「ひょ、ヒョウカさん」

背筋が凍るような。というか実際に俺の後ろに立っているヒョウカさんから冷気が漏れ出している。

ヒョウカ「なにやら私に遊んでいるような女になってほしいという欲が聞こえましたが」

少年「違うんですよ!? それはこいつらが言いだしたことで!」

バジロウ「あっ、ひでぇ! 友人を売るなよな!」

売るもなにも誤解だからなぁ!

ヒョウカ「貴方には申し訳ありませんけれど、私は日焼けをする前に溶けてしまいますので」

雪女だしな。しかもこれから暑くなるからヒョウカさんはどんどん縮んでいくのだろう。

ヒョウカ「私も女性ですので異性から純粋に意識されることは好ましく思いますが、不純な欲望をぶつけられることは好ましいとは思いません」

少年「そ、その通りですよね。はい」

ヒョウカ「では貴方が私の事を正しく意識できるように、矯正を始めましょうか」

少年「はイ?」

ヒョウカさんの手が俺の首にかかる。少し冷たさを感じたときには俺の意識はかくりと落ちていた。

ヒョウカ「カルラ。風紀委員室に運んでください」

カルラ「はっ」シュタッ

バジロウ「………元気でな。少年」

ノヘジ「矯正されて嬌声をあげるような少年にはなってほしくないだろう」

バジロウ「俺、お前が一番矯正されるべき奴だと思うわ」

ヒョウカの好感度【5】

252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/09(土) 14:26:03.81 ID:Z+GpRHHi0
褐色ロリはいいゾ〜
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/09(土) 14:29:00.99 ID:eQ/QBNKwo
異論無し!
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/09(土) 22:45:40.09 ID:Xi8LSpobo
乙ー
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/09(土) 23:29:31.74 ID:q3WqAywIO
256 :人外好き ◆HQmKQahCZs :2019/02/16(土) 14:21:03.61 ID:GsJxlFlZ0
第3話【Iあるいは愛絡繰ること】

まがいものでも本物と同じであれば本物である。

まがいものでも本物を超えれば本物になることができる。

そんな言葉をよく見つけることができます。

だったらIのもっているこの気持ちはいったいどうなNOでしょうか。

この感情によく似たものを感情と呼んでもいいNOでしょうか。

そんな悩み、もしくはエラー的思考がIの回路をぐるぐるとめぐり負荷をかけていくNOです。

偶発的に獲得した他の個体とは違う思考回路。

愛だとか哀だとかその類の話を普通読むこと、ましては興味を持つことなどないのが機械。

なのにIは自ら浸るようにして恋愛小説の甘々的世界、もしくは大人びたビターな恋愛を頭の中で転がすようにして楽しむ。

機械的存在の中で起こる事はありえない突然変異的な存在がI。

他からは人の真似をする機械とも呼ばれたりして傷つくような、どこか体の中心がギスギスと音を立てるような感覚に戸惑ったりもするNOですが。

自分に自信をもって前向きに生きようと思うNOです。
257 :人外好き ◆HQmKQahCZs :2019/02/16(土) 14:21:51.28 ID:GsJxlFlZ0


そんなIは機械天使の中でも優等生。もしくは劣等生。

高性能かつ流麗なフォルムを有していながらも規格外れの不良品扱い。だけど誰よりも頑張る気持ちに溢れてる頑張り屋さん。

だけどIの種族の崇高たる基本的原理行動とも言える、他者への奉仕の精神を満たさせてくれる人は見つかりません。

いろんな人に仕えても、なにかどこか違うって気持ちがあって長続きしないNOです。だから掟破りの離職宣言を繰り返してきました。

そうして流れ流れてこの学園へ。

これだけの人がいるのだからIを満たしてくれる人がいるはず!

そう胸に期待を抱いてやってきたNoですが………

いない!

見つからない!!

思ったよりも人と人とのコミュニケーションは難しく。というのもどうやらIは人で言うところの天然キャラというのに属するらしく、話がかみ合わないことも多々。

結論雑用を投げるにはちょうどいいというのがクラスメイトからの評価で。

別にいじめられてもないですし、悲しくもない。というNOは嘘になりますけど。

若干停滞してきた向上心をどうしようかと悩み悩んだ末、Iは冷静沈着才気煥発なクールな思考をもって奉仕部が一番であると分析したのですが

これまた外れ!

機械のように感情がない人と

なんか変で不器用な人しかいない。
258 :人外好き ◆HQmKQahCZs :2019/02/16(土) 14:24:05.11 ID:GsJxlFlZ0
結局日頃風紀委員や生活指導会から投げられる雑務をこなす日々。

あれぇ、なんでこの学園に入ったんだっけと初心を忘れてしまいそうなとき、ふとこんな話を聞いたNOです。

生徒会は願いをかなえてくれる。

優秀なAIはそれを胡散臭いと弾きだしましたけれど一度興味を持ってしまえば止まらないのが乙女心。

思春期のうっぷんは弾けるようにしてこの体を動かし、ついには生徒会室の前まで連れてきてしまったNOです。

ドキドキ。ショートしそうな思考を抑えながらアームを伸ばしてドアノブに手をかけます。

昔の偉い人は運命は扉を開けて訪れると言いました。だったらIからその扉を開けに行ってやります。

ガチャリッ

この音すら今のIには祝福するファンファーレのごとく聞こえます。

いざっ

「ここが生徒会と聞いたNOですが」

扉を開けると中には

人間

悪魔

天使(ちょっと親近感)

ごつい人

鳥っぽい人

蜘蛛っぽい人(餌なNOでしょうか)

なんか変な人がいました。

これだけ個性的であれば大当たりか大外れかのどちらです。根拠はないですけど。
259 :人外好き ◆HQmKQahCZs :2019/02/16(土) 14:39:08.10 ID:GsJxlFlZ0
ヤツカ「こんにちは。どうかされましたか?」

蜘蛛の人からそう尋ねられます。どうかされましたか。

そうです。どうにかなりそうなNOです。

人で言うところの心臓バクバク状態です。スペックと心の強さは別ものです。

R「Iの、悩みを解決してくれると、聞いたNOですが」

蜘蛛の人がなるほどと相槌を打ってくれた瞬間でした

べリア「なるほど! 我等に助力を仰ぎにきたか一般生徒Aよ!!」

クルクルクル シュタッ

そんな擬音がぴったり合うような動きで悪魔の人が跳ねました。いきなりIの前に立たれると少し怖いです。もう少しで悲鳴が

R「」ビーッ

悲鳴は漏れませんでしたが、エラー音は漏れました。たぶんセーフです。

R「えぇ、はい。このIの悩みを解決することは可能なNOでしょうか」

べリア「可能だともちょっと発音がおかしい一般生徒Aよ!」

言わないでください。気にしているNOですから。

ヤツカ「一般生徒だなんて呼ばないでください。えぇっとこの人は生徒会長のべリア。僕はヤツカと申します」

R「IはR−10と呼ばれています」

ヤツカ「R−10さんですね。少し手続きと、お話を聞きたいのでそちらのソファーへおかけになってください。

R「わかりました」

ソファーに座ること。それはこの美しい八面体ボディーではかないません。浮くことは楽なNOですけど座るとなったら一苦労。

ボディーを変形させて人型にならないといけないNOです。

ウィーン ガシャンガシャンッ

スチームを上げて体の機構を変形させます。魔導科学の粋であるこのミラクルボディーが変形すると

べリア「! ほう…」

機械天使。その名前の由来となった天使のごときボディーが現れるNOです。

Iは正八面体ボディーのほうが美しいと思っているNOですが。

セラフ「あらあら、まぁまぁ。なんて美しい姿でしょうか」

べリア「遠まわしにじがじさ――んん゛ッ!?」

え?

天使の人が悪魔の人に向かってどこからか取り出した包丁を投げつけました。

目の前で巻き起こる惨劇。もしかして悪魔の人が天使で天使の人が悪魔だったのでしょうか。

なんて具合に思考回路はぐるぐるぐる。理解できないとフリーズして硬直をしている間に

ヤツカ「あーあ。さっき掃除したんですよ?」

セラフ「でもゴミが沸いてましたわ」

まるでなんでもないことのように悪魔の人はどこかへ持っていかれました。

別の意味でドキドキが止まりません。

間違ってしまったのじゃなかという不安が警告音を立てて

R「」ビービービー

失礼。警告音がでてしまいました。
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/16(土) 15:35:25.69 ID:4O6h3qDEO
奉仕部やめたのか…
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/16(土) 18:59:37.05 ID:ofdH4xCmo
乙乙
正八面体って美しいよね
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/16(土) 20:47:45.67 ID:c+HjV5rX0
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/17(日) 00:14:39.29 ID:X0c40NosO
乙ー
264 :人外好き ◆HQmKQahCZs [sage]:2019/03/29(金) 09:37:07.54 ID:SICZYxYk0
ヤツカ「気にしないでください。いつものことですし1時間もしたら戻ってきますから」

それはいったいどういうことなのでしょうか。Iたちのような機械仕掛けならともかく、生物的種族はそう簡単に回復することがないというのがIの中の知識で、人生経験から推測できる一般的な常識のはずでした。えぇ。

ですがどうやらそれは常識じゃないみたいなNOです。この眼鏡の人が嘘をついていなければ。まぁ、嘘をつく必要もわかりませんし、周りの人の反応がそれが事実であるということを如実に物語っていますけど。でも人を刺しておいていつものことってそれってやっぱり危ないんじゃないNOでしょうか。

思考を巡らせ結論付け、ようやく警告音が鳴りやみました。こういうところがIが嘘をつけないところの原因ですね。落ち着け、落ち着くんですR−10。COOLになるのです。なんて

そうですタイガーホールにINしなければプリティータイガーをGetはCan Notという格言があります。リスクを負って初めて開ける道もあるのです。だからIはこの危険性にかけてやるのです。

ヤツカ「あの………?」

R「Bya!」

考え込んでいたIを眼鏡の人が覗き込んでいました。処理中に話しかけられるのは苦手です。思わずびっくりしてしまいます。

ヤツカ「驚かせてしまってすいません。ご依頼のお話と、あとこちらに学生証の番号とお名前を直筆で、それと注意事項に目を通して同意のサインもお願いします」

眼鏡の人が差し出してきた紙には学生証の番号と名前を書く欄があって、その下には注意事項などの項目が設けられてます。いわゆる誓約書というものでした。

注意事項に目を通すと生徒会は学生のために動くけど、もし生徒会の要請があった時は可能な限り協力するようにとのことでした。

人のために動くことをモットーとしているIにはあまりデメリットのない契約のように思えます。相互扶助的活動はIが望んでいることの一つなのですから。

アームからペンを出しさらさらと達筆に誓約書に書き込みます。

ヤツカさんに誓約書を渡すとヤツカさんはにっこりとほほ笑んで

ヤツカ「それでは相互扶助を始めましょう」

と宣言しました。
265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/29(金) 13:13:35.91 ID:cAv84eltO
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/29(金) 20:18:58.41 ID:TdcwYLYUo
乙乙
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/23(木) 21:25:20.48 ID:ZTmS1IHaO
こっちの方も気長に待ってるよ
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/23(木) 21:50:28.12 ID:ehpMJ2ZFo
同じく
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/23(木) 23:57:40.33 ID:3i4Alez3o
乙ー
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/07(金) 12:56:24.04 ID:IO22fech0
ヤツカ「それではR−10さんの願いを叶えるにあたってこちらで協力できることは、なにかお考えでしょうか」

R「E− Noですね。Iの願いは未だ不確かというかモヤモヤ的なものがありまして」

願いと呼んでいいのかわからない感情。おそらくこれは欲望と呼んだ方がいいNOでしょう。

人の役に立ちたい。そんなロボットの本能よりも優先すべきこの感情。

自分が自分であることの確立。この処理媒体を焼き切ってしまいそうなこの衝動が

本当に感情であるのか。

そんな不安が回路をぐるぐるとまわり負荷をかけて、

Iがエラーのごとく吐き出した答えは

R「恋がしたい」

でした。
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/07(金) 13:02:10.29 ID:IO22fech0
生物を生物足らしめる欲求、衝動。

先人が生物と無機物の境界線として定めた行動。

それは恋であり愛である。とIは認識しています。

だからこそもしIが誰かを愛することができるのであれば

きっとIは自分と言うモノを手にいれることができるのでしょう。

そう理由づけをして理論武装をして、帰ってくる答えがどうであろうと受け止めようと思っているNoですが実は先ほどからドキドキが止まりません。

私が常識不足なのを考慮してもこれはあまりにも常識外れなお願い。

今すぐ帰れと言われてもしょうがないようなお願いなNOですが。

ヤツカ「恋がしたい。それは恋人が欲しい、ということですか」

案の定ヤツカさんは困ったような表情を浮かべ眼鏡を押えました。

ヤツカ「そう、ですか。それなら」

ドキドキ

ドキドキ

R−10の人生史上回路に負担がかかる展開の連続。人生はジェットコースターとはこの時に使えばいいのでしょうか。

ヤツカさんは後ろを振り返り、生徒会のメンバーを眺めると、一人の人間をじっと見つめました。

ヤツカ「少年君。初仕事ですよ」

少年「え!? 俺!?」
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/07(金) 13:19:38.51 ID:IO22fech0
いきなり呼ばれて困ったらしい少年君とやらは背中を押されて前に出てきました。

R「あ、あNO」

ヤツカ「彼ではどうでしょうか。少年君と言いまして真面目で良い子ですよ」

少年「えっと、まさか」

ヤツカ「彼を恋人にしてみては」

まさかそうくるとは。

確かに恋がしたいと言いました。そのための協力をしてくれると思いきや。

まさか恋人をよこしてくるとは。

たしかに少年君とやら。人間の中でも整った顔立ちの方です。ちょっと人相が悪い気もしますがそこはまぁ及第点でしょう。

ってなんでIは前向きに検討してるNOでしょうか。そんな人権を無視したようなことって

ヤツカ「もちろん擬似的なものではありますが、恋がしてみたいということであればこちらはこの提案でどうかなと考えております」

ヤツカ「R−10さんの恋人探しに力を貸すこともやぶさかではないのですが、そちらの方は労力も、トラブルが起きたときも対処が難しく」

少年「ちょっと待ってくださいよ。僕がR−10さんの一時的な恋人になれってことですよね? それって」

ヤツカ「生徒会活動ですので」

少年「うぐぅ」

そう拒絶的な反応を示されるとこちらとしても心苦しいものがあるNOですが………

そうしょぼんとしているとIの顔色(変わりませんけどね)を読み取ったらしい少年君が。

少年「あ、僕はいいんですよ本当に。ただR−10さんがどうなのかなと」

優しいのですね。いきなり恋人になれと命令されて気を使える人は珍しいと思います。

Iの中では少年君の好感度はUPしてるのですが、それでも少年君の思いやりを考えると。

R「I。Iは………」

R「嘘でもいいNOです。貴方はIに恋をさせてもらえますか………?」

その優しさに甘えてみることにしました。
273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/07(金) 13:23:21.77 ID:IO22fech0
Iの悪女のような無茶な答えに少年君はじっと私を見つめて

少年「約束は、できません」

と、言って、やっぱり誠実な―――

少年「だけど、R−10さんが望むこと、すべてこたえられるような男にはなりたいです」

少年「だから、R−10さん。僕と付き合ってもらえませんか?」

―――とても誠実な人でした。

Iは雷に打たれたように回路がギギギと音を立てるのを認識しました。

人型ボディが上手く動かない不具合、視界がゆがむ不具合。

これは一体なんの………

少年君の差し出された手を握り返さないと。返答をしないといけないというのに言うことを聞きません。

あぁ、たぶんこれIは

本当にドキドキしてるんですね。
274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/07(金) 13:28:36.25 ID:IO22fech0
やっとこさ少年君の手を握り返します。

少年「R−10さん」

R「少年さん。こんな無機物のIで、不良品のIでいいNOですか?」

少年「はい。それと無機物とか不良品とかよくわかりませんけど少なくとも」

少年「貴方の事をもっと知って、不良品ではないと否定だけはさしてもらいますよ」

ドカーン

その言葉はIがとっても待っていた言葉。

Iを真正面から肯定してくれる言葉。ずっとそれを待っていました。

その言葉を言ってくれたのが嬉しくて、嬉しくて。

大丈夫この感情は本物だと歓喜に満ちた感情回路が唸りをあげて

ファンファーレが響き、花びらが舞い―――

少年「誰です!? ファンファーレ鳴らしたり花びら撒いてるのは!」

オルカ「ファンファーレは俺で」

クレル「花びらは私です」

あっ。幻覚じゃなかったNOですか。恋愛小説には恋をしたらそういう風になるとあったNOで勘違いをしてしまいました。

でも、もしかするとIはすでに

恋、しちゃったのかも?
275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/07(金) 13:38:37.07 ID:IO22fech0
そう認識するとなんだかうまく少年君の顔を見ることができません。

そんな現象すら嬉しくて。

そういえば恋人になったらどうすればいいんでしょうか。

契約書に記入する?

なんてことはないと思いますけど。

Iが今まで呼んできた恋愛小説ではキスしたり………せ、せいこう

R「Byaaaa///」

少年「えっ、ど、どうしました!?」

セラフ「あらあらまぁまぁ。初々しいですわねぇ」

セラフ「それではセルリアさん。少年さんのサポートをお願いしますわね」

セルリア「それ判断ミスだYO」

再起動完了。

というかIはそういうことできませんけどね。改造すれば可能、ですけど。

でもそれが恋かというとそうではないでしょうし

でも興味はあります。

ふんす。

おっと、IのCOOLなキャラクターが崩れてしましましたか。

落ち着くのです。落ち着くのですR−10

少年「あのR−10さん」ジッ

Byaaaaaa///
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/07(金) 13:39:03.08 ID:IO22fech0
今日はここまで
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/07(金) 13:44:43.40 ID:JY1mUu4to
乙乙10さんチョロい
278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/07(金) 13:45:45.51 ID:eZr8IYAYO
R-10めっちゃかわぃい!
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/07(金) 13:57:18.44 ID:xRWbfi1YO
乙きゃわわ
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/07(金) 14:18:22.48 ID:yqtFx+5Yo
少年君イケメン
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/06/07(金) 17:56:42.76 ID:219zwQM5o
乙ー
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/07(金) 18:07:51.08 ID:GyBRnD3uo
お姉さんはどう思うかな少年君よお?(ニヤニヤ
おつ
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/03(火) 18:07:20.60 ID:sVOD+29oO
こっちも待ってるぞよ
284 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [sage]:2020/01/30(木) 15:17:28.07 ID:NWoGZrx70
なぜかIはいてもたってもいられなくなってその場から逃げ去りました。

回路の熱暴走を確認。

思考のエラーを確認。

動作機構においても一部エラーを確認。

探索回路を走らせると体中がバグだらけでした。

きっと、恋とはエラーの一種なのでしょう。

それもとびっきり強力な。

………明日からどうしましょう。

そうだ、恋人といえば
285 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [sage]:2020/01/30(木) 15:38:28.04 ID:NWoGZrx70
機械天使は創造的ゴーレムの一種なので食事を必要としません。

でも、Iは高性能なNOで食事を楽しむことMOできます。

もったいないので、あまりしませんが。

ですが今日は珍しく厨房に立っているNOでした。

文献によると、恋人同士が初めにやることは手作りお弁当を食べさせることとあります。

だから私は早朝から、か、彼氏へ向けた愛情たっぷりのお弁当を仕込んでいるNOです。

甘い卵焼きとから揚げは必須。彩り良く野菜も入れて、健康も味も両立させます。

こんなこともあろうかと料理のデータをインストールしておいて助かりました。

こういうところは機械天使の長所ですね。インストールするだけで、技能を身に着けることができる。

「良い匂いがします」

R「あなたのものではありません。Z−27」

人間を基本としたさまざまなパーツがくっ付けられた、まるで幼児の芸術的作品的造形をしたのがひょっこり顔を出しました。

彼女はZ−27。私と同じ機械天使ですが、いろいろと向こうのほうが高性能。バスト以外は負けています。

といっても私には『本物』の感情というものがありますが。

………本当に本物なのでしょうか。

Z「ピピッ 焦げかけてるよ」

Zが頬につけられた27の刻印を橙色に光らせながら注意をします。嗅覚回路にはヘテロサイクリックアミンの臭いを検知。

R「おっとあぶない」

慌てて卵を丸めます。最上とまではいきませんが十分な出来のはず。

Z「味見したい」

R「これは少年さんの、と言いたいですがちょっとだけ上げまSYO」

Z「わぁい」

切り分けて二切ほどZ−27に上げました。Z−27はすぐにもぐもぐと食べ終えます。

R「どうでしょうか」

Z「普通」

おかしいですね。インストールしたデータが悪かったのでしょうか。味付けも間違ってないと思うNOですが」

Z「足りないものが一つある」

R「足りないものとは?」

Z「愛情」

話を聞いたRがバカでした。料理に愛情という成分はありません。その理論でいけば料理人はお客を愛していなければいけません。

Z−27のたわごとは聞き流し、弁当箱へ盛り付けていきます。少年さんはどのくらい食べるのでしょうか。

Z「料理は愛情なのに」

………だったらIは少年さんを愛していないということでしょうか。

……わかりません。Iはなんだか無性に胸がもやもやして八つ当たりがてら、余った卵焼きをZ−27に向かって放り投げました。

Z「ぱくり」

お口でナイスキャッチ。

まぁ、どうでMOいいです。少年さんはどんな反応をしてくれるNOでしょうか。

なんだか、お昼が待ち遠しい気分になりました。
286 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [sage]:2020/01/30(木) 16:16:47.11 ID:NWoGZrx70
Iは生徒なので授業を受けます。ですが、知識はすべてインストールで覚えれるNOですから別に………

それより、授業じゃ知りえないことをもっと知りたいとおもう向上心あふれるI。

八角形フォルムをゆらゆらと揺らしながら視界機能を窓の外に向ける。

乱雑に今も増設され続けている校舎はまるで魔宮。この校舎についてもIの興味の対象だったりします。

ここは感情で溢れています。そこでいろいろ吸収していけばきっと

「R−10さん。こちらに来てこの問題を解いてください」

眼鏡の特徴のない講師に言われ前に出ます。思考を中断されたことは少々腹立たしいですが、非があるのはIのほう。

おとなしく目の前の数式を処理しました。数学、それこそIの得意分野。

頭の中の回路を弾き、答えを導きだす。0と1を張り巡らせて4桁、小数点以下3桁の答えを板書する。

とても簡単なこと。なのに講師は私を誉めます。

こんなこと当然とばかりにIは自分の席に戻りました。

実にCOOLです。

再び外の風景に思いを巡らせ―――
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/30(木) 16:52:10.80 ID:dFcw6q7Lo
来たか!
288 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [sage]:2020/01/30(木) 17:23:38.54 ID:NWoGZrx70
気が付けば昼休みになっていました。

Iはお弁当箱を持ち………

どこに行けばいいのでしょうか。

一緒に食べる約束をしていなかったのは盲点でした。

あぁ、愛しのあの方はいずこに………

と思っていると渡り廊下を歩いている少年さんの姿。

今から追っていても間に合わないでしょう。

なので

R「飛びますか」

機械天使の名前の由来となった羽を広げ、私は人型へと変形します。

そして窓を開け放ち、彼の元へとフライアウェー。

「うおっ、なんだっ!?」

急な登場に慌てる有象無象を後目に私は少年さんに微笑みかけました。

R「お昼ご飯、ご一緒しませんか?」

少年「お、おぉ」
289 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [sage]:2020/01/30(木) 17:40:17.59 ID:NWoGZrx70
少年さんの腕をとって人気のない屋上へと向かいます。

「う、裏切り者ー」

「くっ、もう彼女を作るとは裏切りに違いないだろう」

お連れの二人が何か言っていましたが、きっと関係ないことでしょう。

少年「あ、R−10さん。これはいったい」

R「恋人同士がすることを今からします」

そういうと少年さんは顔を真っ赤にしました。一体どうしたのでSYOか。

少年「ってちょっと待ってください。いきなりそんなこと」

R「Iは恋人になったらまずこれをすると聞きました」

少年「その知識は間違って」

なんだかよくわかりませんが昼休憩は長くありません。最大限楽しむために私は歩く速度をあげました。

そういえば自然に手をつないでいます。

ちょっと照れますね///
290 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [sage]:2020/01/30(木) 17:47:13.43 ID:NWoGZrx70
12階ほど登ると屋上があります。頂上からの光景は絶景でした。

でも鳥がいますね。弁当を取られないように注意しまSYO。

人がいませんね。じゃあ扉にカギをかけてしまいましょう。

少年「な、なぜ鍵を閉めるのですか」

R「みられると恥ずかしいですから」

カップルに慣れてないので、そういうところを知り合いに囃し立てられたらRはオーバーヒートしてしまいます。

この前みたいにエラーに負けたりはしません。

R「では、いざ」

少年「ままま、R−10さん、まっ」

バサッ

用意しておいた柔らかいシートを広げます。Iは平気ですが、少年さんの柔肌になにかあるといけません。

R「お昼ご飯にしましょう」

少年「へ?」

なぜか口を開けて呆ける少年さん。

………呆けてても素敵ですね。ポッ
291 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [sage]:2020/01/30(木) 18:06:23.74 ID:NWoGZrx70
R「あーん」

少年「おいしいです」

R「よかったです」

なんと充実したひと時。

Iは入学以来初めて充実している気がします。

やっぱりIを満たすものは少年さんだったNOですね。この巡り合いをきっと運命と呼ぶのでしょう。

ほら、鳥たちも私たちを祝福して―――

クレル「ほほーう」バッサバッサ

セラフ「あらあらまぁまぁ」

生徒会の人が飛んでました。

少年「なにやってるんだ先輩たち!!」

うかつでした。まさか上から侵入してくる人がいるとは。

セラフ「なにかあったらサポートをと思いまして」

クレル「少年君はキッスは好きっす?」

少年「クレル先輩うるせぇ!」

ききき、キス。ダメですバグが増えていきます。

回路が暴走して体に熱が

Byaaaaaa///

R「き、キスして、くれるんですか?」

少年「R−10さんもなにを!?」

セラフ「天使の祝福あれ」

クレル「こりゃめでたいですねー」

視界をシャットして顔を少年さんに向けます。ドキドキが止まりません。

少年「みられてる中でできるわけないでしょ!?」

クレル「セラフさん。どうやら私たちはお邪魔虫だそうですよ」

セラフ「うふふ。少年君は恋長けき人なのですね。でしたらわたくしたちのサポートは不必要なようで」

二人が消えていく感じがします。正真正銘屋上に二人きり。

R「少年、さん」

少年「あ、Rさん。………駄目ですよ」

拒まれました。

拒絶されてしまいました。

Iは駄目だったのでしょうか。

視界を開けるとそこには真面目な顔をした少年さんの姿。

少年「あくまで以来で恋人をしているんですから。そういうことは駄目だと思います」

そう、そうですか。

あくまで少年さんは。

ビキリ

まるでメイン回路が砕け散ったかのような痛み。

そしてエラー、エラー、エラー

エラーの濁流。

それはIの体を端から蹂躙していき。

Iは意識を失いました。
292 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [sage]:2020/01/30(木) 18:18:42.02 ID:NWoGZrx70
R「A、Aaaaaaaaaaaaa、Eaaaaaaaaaaaaa!!」

気が付けば私は水の中にいました。

呼吸も必要ないIにとって最適の逃げ場。

そう、Iは逃げ出したNOです。

少年さんは、決して私が好きではないということ。

所詮依頼をしたから恋人ごっこをしているというだけの関係。

だけどそれを突き付けられたということはどんなウィルスよりも効果がありました。

口を開けても気泡もでない。なぜならIは正確には生命活動を有してないから。

天使の形でしかない。模造品。そんなのが恋をすることが神様の怒りに触れたNOでしょうか。

だったらこのまま朽ちてしまいたい

こんな“人外”には相応しい最後―――

こんな時、人はどういうのだったか。

あァ

R「ワタシ、シンデモイイワ」



















ジャボンッ!!
293 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [sage]:2020/01/30(木) 18:26:32.84 ID:NWoGZrx70
―――気泡?

それも大量の

一体なにが

少年「っ!ががぼぼぼっ!!!」

少年さんが手を伸ばしていました。

でも彼の体は浮翌力で浮こうとする。

生身の肉体だから当然。

だけど必死にもがいて、Iのところまで来ようとする。

なぜ。

一体なぜ。

あなたは私のことを、好きじゃないのではなかったのですか?

飛び方を忘れた鳥のようにもがく彼の元へ飛ぶ。水底を蹴って翼を広げて飛ぶ。

Iも藻掻かなければ沈んでいく。二人を引き離す何かに抗い藻掻く。

なんであなたは藻掻くのですか」?

もし、あなたも私Iと同じ気持ちを持っているというのであれば

R「ワタシ、シンデモイイワ」
294 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/30(木) 19:24:09.90 ID:PCPg5XBAo
更新乙
295 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [sage]:2020/01/30(木) 20:28:54.85 ID:NWoGZrx70
グイッ

Iの手が引っ張られる。

だけどIは重すぎてこのままだと一緒に沈んでしまう。

だから私は羽ばたいた。

少年くんを掴んで、水面に向かって。

R「………羽が、軋む」

頼みの翼はどうやら折れてしまっているようです。

きっと関節部に水が入ったNOでしょう。うまく羽ばたけない。

でも、どうか、彼だけは、彼だけは助ける。

Iにここまで突き合わすのは悪いですYO。

推進力は0に近づいていく。だから私は少年さんを思いっきり―――

ギュっ

R「!?!?!?」

少年さんが思いっきり私を抱きしめた。

いろいろ当たってお得お得、じゃないです。一体なんで。

こんなことするとあなたは死んでしまうのに―――

私は、どうなってもいい。

あなただけは

「んなろどっこいしょぉっ!!」
296 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [sage]:2020/01/30(木) 20:46:18.25 ID:NWoGZrx70
急速に体がひっぱりあげられました。

少年「ががぼぼぼぼ」

少年さんが何を言ったのかはわかりませんが

どうやら私は助かったようです。

ドバッシャンッ

気が付くと空中。しかも天地が逆に。

「うおんっ」

ベクトルが横に。

ぎゅおんと高速で横に引っ張られたIたちは白いスーツの人の胸の中へすとーんと飛び込んできました。

オルカ「青春が過ぎるんじゃないか?」

Eeeeeeeeeeeeeeeeっと

なんでこの人はIを抱えてなんともないNOでしょうか。というかさっきのはこの人がやったNOでしょうか。

なんて馬鹿力。いやはやこの世の中は可能性に満ちている。ではなく

R「あ、ありがとうございます」

セラフ「今回は少年さんのミスですから」

少年さんのミス?

少年「げほっ、ごほっ、その、うげっぷ」

オルカ「フハハハ。我は水の中でもぴんぴんしてるぞ!」

セラフ「落ち着きなさいな」サスサス

少年「げほっ。その、あの、違うんです」

違う。違うとは何が。

少年「俺がR−10さんをダメって言ったんじゃないんです」

少年「本当の恋人でもないのに、俺なんかがR−10さんにそういうことするのがダメって思ったんです」

…ということはR−10の勘違い? Iは拒絶されたのではなかったのですか。

それを聞いたらなんだかどっと力が抜けて、それと同時に安心感が。

R「じゃあしてください」

安心感がその言葉を後押ししました。

少年「えぇっ!?」

オルカ「俺は目をつぶっているぞ!」

セラフ「わたくしもつぶります」

R「さぁ、カモン」

少年「え、えぇっと」

チュッ

感触がしたのは唇ではなく、頬。

それでもそこを中心に幸せの波が

Byaaaa///
297 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [sage]:2020/01/30(木) 20:52:51.11 ID:NWoGZrx70
体がうまく動かないIは担がれて生徒会室にいました。

午後の授業はサボる形になります。初めてのサボりです。

そして少年さんも一緒に。

少年「へくしゅんっ」

R「すみません。Iのせいで」

少年「いいえ。俺の言葉が悪かったからですし」

R「その、Iを助けに来た姿、とってもかっこよかったですYO」

少年「そんな、俺はなにもしてないですし」

R「そんなことないです。本当に、素敵で」

オルカ「引き上げたのは俺なんだが」

セラフ「はいはい。向こうに行きますよ」ズルズル

R「………あの、少年さん」

少年「は、はい」

R「今度、デートに連れて行ってくれませんか。恋人らしいこと、したいんです」

少年「俺でいいんですか?」

R「少年さんがいいんです」

少年「その、なんて言っていいかわからないですけど、今までこういう経験なかったんでうまくできるかわかんないですけど」

少年「俺でよかったら、デートしてください」

R「はい。喜んで」
298 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [sage]:2020/01/30(木) 20:53:18.55 ID:NWoGZrx70
今日はここまで

こっちの進行ができず申し訳ないです
299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/30(木) 21:08:12.92 ID:PBi8fRUbO
少年くんジゴロ道の始まりよな
300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/30(木) 21:22:01.58 ID:PCPg5XBAo
乙乙
301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/30(木) 22:09:16.93 ID:B09x1lEX0
302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/30(木) 22:37:57.42 ID:VhbDDUWZO
303 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [sage]:2020/01/31(金) 18:42:25.18 ID:BsYvCTOE0
デートの日は来週の日曜日。

決行までカレンダーにバツをつけて残りの日々を数える。

それまでは普通に恋人ごっこをします。

昼休みに待ち合わせをして、一緒にご飯を食べる。

そのたびに少年さんのお友達が恨めしそうな目でこっちを見てきます。

一体どうしたNOでしょうか。

IのCOOL八角形ボディーがうらやましいNOでしょうか。

Beeeeeeeeeee?

よくわかりません。感情がまだ成長してないからでしょうか。

でも日々自分の中に目覚めていく感情を自覚しています。

それと同時に戸惑いも。

少年さんのやさしさをもらいながら育っていくIの感情。

でもその感情に名前を付けれないでいるI。

ドキドキしたり、わくわくしたりするのはきっと恋なのだと、思います。

恋がしたいと願った今、もう目的は達成されています。

でもそれを告げると、少年さんとはお別れ。

あくまでこれは恋人“ごっこ”

本当にIのことを好きなわけではない。

そう思うと恋という感情はとたんに棘を立ててIの心に傷をつけていくNOです。
304 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [sage]:2020/01/31(金) 19:09:36.42 ID:BsYvCTOE0
少年「R-10さんどうしたの?」

R「どうした、とは」

いつも通り昼食を共にしている(といってもIは魔翌力液飲んでるだけですが)と少年さんがこちらを見て訊ねてきます。

しかし主語がないのでなにがどうしたのかはわかりません。

聞き返すと少年さんは、いや、あのとかなにか言いよどみながら

少年「なんか最近元気がないなって」

そうでしょうか。体に異常はありません。

ベストコンディションです。何も問題ないはず。

再度検査回路を走らせてみますが、すべて正常。

だからきっと少年さんの気のせいでしょう。

R「私は普段通りですよ」

少年「気のせいか。だったらいいんだけど」

R「それよりも次はクリームコロッケを食べてください」

少年「自分で食べれるから」

あーんは拒否されます。誰もいないから別にいいと思うのですが。

R「食後の膝枕はいかがですか。クッションもありますからフカフカですよ」

少年「いや、それは」

R「お願いします。恋人らしいことをしたいNOです」

少年「うっ、わかりました」

少年さんはどうやら押しに弱い模様。Iが依頼主という強みを利用しているからですが

きれいに食べ終わった弁当箱を片付けるとIは太もも部分にクッションを載せて少年さんを迎えました。

少年「うーん、やっぱりこういうことは慣れない」

R「Iも慣れませんよ。だから慣れたいんです」

少年「そうですか…」

少年さんを観察しようとするとお互い目があいます。少年さんはあおむけだから当然ですね。

R「少年さん、やせすぎではありませんか。健康を害しますよ」

少年「これでも最近は食べる量増やしてるんだけどな」

R「昔はこれより食べなかったんですか?」

少年「うっ」

少年さんがなぜかバツが悪そうに顔をそらします。

一体、なぜでしょうか。
305 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [sage]:2020/01/31(金) 19:45:26.01 ID:BsYvCTOE0
少年さんは本当に細い。

お弁当を食べてくれるし、食べることが嫌いというわけでもないと思うNOですが。

下手したらそこらへんの女子と同じくらいの体形。種族によっては負けていそうでもあります。

一瞬、少年さんは実は女性という考えが頭をよぎります。

ムンズ

少年「ひやぁああっ!?」

R「ありますね」

少年「ななな、なにが!?」

ありました。

少年さん少女説は否定されました。やはり百聞は一見に如かずですね。

R「いえ、ちょっと虫が」

少年「自分でとりますよ」

R「あの、危ない虫だったNOです。素手で触ったらいけないやつです」

もちろん嘘。

ちなみに少年さんの股間は柔らかかったです。少しくらい硬くしてくれてもいいと思うのですが。

なんて、少年さんが若干おびえているのでこういう考えはやめましょう。

少年さんに嫌われたくないですからね。

少年「あー、えっとありがとうございます」

こちらこそありがとうございます。

R「あともう少しですね」

少年「あぁ、デートですか。遊園地に行くんですよね」

R「ほかの機械に目移りしないでくださいね」

少年「女性ならともかく機械に目移りはしませんよ」

茶化しつつその日を待ち遠しにします。

待ち遠しいのに、来てほしくないような。

不思議な感覚に戸惑いながら

私は今日も終わってしまった一日にバツをつけるのです。
306 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2020/01/31(金) 20:24:09.89 ID:BsYvCTOE0
とうとう来てしまいました。

カレンダーにバツとマルが隣り合わせ。

つまりデート当日。

来てしまいました。今日はなんとなく服を着ています。

デートだから気分転換にです。

実は昨日どんな服がいいか、2時間ほど探し回ったのは秘密です。

結局選んだのは本の中で出てきた花柄のワンピース。白銀の私の体には似合ってる?と思います。

それに合わせて買ったリボンをまいた麦藁帽。

本当に本の中の主人公をまねただけのオリジナリティのなさ。

そんな自分が嫌になります。

R「さてと、行きますか」

Z「どこに?」

R「秘密です」

Z「教えてよー」

R「………」

無言でバスケットからコロッケを出し、Z-27に投げつけておきます。

これでしばらくは黙っているでしょう。

その隙に寮を出ます。
307 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2020/01/31(金) 20:51:16.42 ID:BsYvCTOE0
待ち合わせは町の中心にある駅。

早めについて待っている可憐な少女を演じていると目の前に長い長い車が止まりました。

ガチャリ

そこから出てきたのは

「ふぅん。あんたが少年の」

金髪で小さな女の子が日傘をさしつつ出てきました。その人は私をじろじろと見て

「あいつも生意気ね。この私を足にするなんて」

R「あのぉ、もしかして少年さんの」

「姉よ」

姉? ………てっきり妹かと。

というか少年さんのお姉様ということはお母様かお父様は人間みたいですね。

少年「別に義姉様は来てくださらなくても」

「ふん。あんたの恋人をしてくれるもの好きの顔を見たかっただけよ。邪魔、どきなさい」

少年「ふげぇっ」

車から出てこようとした少年さんが投げ飛ばされます。小さくても吸血鬼は吸血鬼。とても力が強い模様。

R「少年さん。大丈夫ですか」

少年「いてて、大丈夫ですよ。慣れっこなんで」

明らかに頭から落ちたのに、少年さんは頭をさするだけですぐに起き上がりました。

慣れてるんですか。それってもしかしなくてもDVにあっているのでは。

R「大丈夫なんですか?」

少年「大丈夫ですって」

「帰ってきたら連絡入れなさい。気が向いたら迎えに行ってやるわ」

少年「ありがとうございます義姉様」

「ふんっ」

少年さんのお姉様は車に乗り込むとぎろりとこちらをにらんでから扉を閉めました。

お、お姉様になにかしてしまったのでしょうか。
308 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2020/01/31(金) 21:48:56.49 ID:BsYvCTOE0
ぞんざいな扱いをされているにもかかわらず気にした様子がない少年さん。

駅員から切符を二枚買っています。

一体どういう家庭環境を送ってきたのでしょうか。

家族がいないIにはわかりません。

少年「それじゃあ、行きましょうか。R-10さん」

R「はい」

差し出された手を握れるI。

なんだか今日の少年さんは女性の扱いに慣れている、ような。
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