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アナスタシア&一ノ瀬志希「はるのうた」
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1 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/03/23(金) 00:45:03.12 ID:afcOeBV+0
モバマスよりアナスタシアと一ノ瀬志希がメインのSSです。
独自解釈、ファンタジー要素、一部アイドルの人外設定などありますためご注意ください。
前作です↓
輿水幸子「事務所に帰ると狸が死んだふりをしています」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1519982670/
最初のです↓
小日向美穂「こひなたぬき」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1508431385/
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1521733502
2 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/03/23(金) 00:48:33.69 ID:afcOeBV+0
あるところに、女の子がいました。
女の子は、冬が嫌いでした。
冬は雪の季節です。雪を降らす雲は空を覆って、月も星もすっかり隠してしまいます。
満天に輝く無限の星々が、永遠のように遠くなってしまいそうで、切ないのです。
とりわけ、その雪を降らせるのは自分自身だということが、とてもとても悲しいのです。
女の子の名前は、アナスタシア・スネグーラチカ・マロースといいました。
3 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/03/23(金) 00:49:43.52 ID:afcOeBV+0
【一ノ瀬志希かく語りき・そのいち】
冬が好きって言うと意外そうな顔をされる。
――え、シキちゃん匂いフェチなんでしょ? だったら花とかあった方が良くない? 冬ってそんなの何もないじゃん?
とゆー。
その解釈も間違いじゃない。
花の風が吹く春、雨が匂い立つ夏、草葉の枯れゆく秋にはそれぞれのニオイがあってそれなりにお気に入りだった。
けど逆に、冬にはそれが「無い」のがイイ。
冷えて澄んだ無臭の空気は、あたしのテンションをフラットにする。
特に雪が積もってたりするとよりベターかも。死んだ植物や眠るケモノを優しく覆って隠しているようで。
命が終わった後の世界を、一人てろてろ歩くのが好きだった。
4 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/03/23(金) 00:50:39.91 ID:afcOeBV+0
それに、雪の色にはそれなりに親しみがある。
ちゃんと覚えてるんだ。
3歳と202日目の冬の日に、あたしは雪だるまを作ったことがある。
優しくて退屈な、なんもない故郷の冬。
白一色の世界には、あたし以外の色と匂いが二つあった。
げんこつサイズの小さな雪だるまは、そういえば、この手で作った最初のものだった気がする。
だけどもう、どこにも無い。
5 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/03/23(金) 00:51:36.41 ID:afcOeBV+0
もちろん気温が上がれば雪は融ける。
わざわざ融点の計算式を引っ張り出すまでもない自明のこと。
春になって形を失い、水となって地面に飲まれ、そのカタチは跡形も残らない。
それが自然科学とゆーものなのです。
だけど……融けた雪だるまの行き先を、あたしは今でも時々考える。
6 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/03/23(金) 00:53:10.71 ID:afcOeBV+0
―― 3月某日 事務所
一言で言えば異常気象だった。
窓の外でびょうびょうと吹き荒ぶ雪風を、俺は頬杖を突きながら眺めている。
「もう桜の季節だってのに……」
テレビではお天気お姉さんがテンパっており、都心を襲う季節外れの大雪に関して、
学者やらなんかの専門家やら役者や芸人が激論を戦わせている。
「ホントだね〜。これじゃお花見できなさげ?」
「花見を楽しむってキャラでもないだろ、お前は」
「にゃはは、そんなことないよぉ。花とかお料理とか、気化したアルコールとか吐瀉物とかいろんなニオイが楽しめるし?」
「ゲロの臭いをありがたがるんじゃないよ」
ていうか、そうじゃない。
このまま異常気象が続くと、事務所としては結構ガチで困る事態なのだ。
熱いコーヒーを一口すすり、俺は手元の資料に目を落とした。
『プロダクション合同 スプリングフェスティバル』
7 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/03/23(金) 00:56:54.14 ID:afcOeBV+0
近日開催されるこのフェスは、かなりでかいハコを押さえたプロダクションの一大イベントだ。
もちろんうちの部署からも何組か出演する。
みんなこの日の為に仕上げてきており、そのクオリティに今さら疑問を差し挟む余地も無いものの……。
まずいことに、会場が野外なのである。
桜の咲き誇る季節に、広大な会場で……というコンセプトは良いものの、やはり天候の問題はあるもので。
ちょっとした雨天くらいならまだしも、異常気象そのものの寒気と大雪が続けばどうなるか。
一過性のものならいいのだが、そもそも到来が唐突なせいでいつ過ぎ去るかの見通しも全く立たない。
運営側としては「どうせそのうち治まるだろう」と楽観視するわけにもいかず、さりとて自然現象には太刀打ちしようもない……
とまあ、なかなか厄介な状況になっているのだった。
8 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/03/23(金) 00:58:20.40 ID:afcOeBV+0
「さむいー」
「乗んな」
「くんかくんか」
「嗅ぐなっ」
志希はといえばいつも通りそのものだった。
こいつも出演するのになぁ。
まあ、有事に際していつも通りのノリなのはある意味頼もしくはある。
そもそも付き合いが長くなってくると一ノ瀬志希という少女がどういう時どんな態度を取るのか分析しようという気自体なくなる。
……のだが、それでも多少の指標というものはあり。
なにかしらエキセントリックなことが起こると、彼女は彼女なりに興奮する。
遊びたいのやら解決したいのやら、とにかく何かの形で嬉しそうに首を突っ込んでくるのだ。
少なくとも、俺が知る志希のパターンはそういう感じであって。
要は、この異常気象に際して「いつも通り」ということ自体がある意味おかしいとも言えるのだ。
9 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/03/23(金) 00:59:08.80 ID:afcOeBV+0
「なあ志希」
なのでひとつカマをかけてみることにした。
「お前、何か隠してないか」
沈黙、五秒ほど。
べったりしなだれかかる志希は、そのまま耳元に唇を寄せ、ぽそりとこう囁いた。
「…………バレた?」
当たりか。
10 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/03/23(金) 01:00:09.85 ID:afcOeBV+0
志希は一人暮らしをしている。
しかも一軒家である。
しかもしかも持ち家である。
18の少女が都内一等地に土地付き一戸建てをポンと買っている。
聞けば「昔取ったアレとかコレとかの特許料がなんか余ってるし」とのことで俺はそれ以上追及するのをやめた。
何度か行ったことがあるのだが、それはもう立派な門あり庭付きの新築デザイナーズハウス。
格差とは……大人とは……。
といったことを考えつつ、これほどの家にもたまに帰らない志希の奔放さに呆れるなり慄くなりした。
11 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/03/23(金) 01:01:07.19 ID:afcOeBV+0
天気が天気だからここに来るまでにも一苦労だった。
寒さに身を縮めながら、一度は仕舞った筈の一番分厚いコートを動員してまでやっと辿り着く。
「そいえばキミんちってどんなだったっけ」
「普通に賃貸アパートだよ悪かったな」
「それならウチ来る〜? 部屋なら余ってるしー、キミだったら大歓迎だよー♡」
まさに悪魔の囁きだが、いくら快適だろうと一ノ瀬博士の巣で無防備に寝泊まりできるほどの胆力は無い。
……ということを伝えると、家主は「やだにゃ〜なんにもしないよ〜」と朗らかに笑った。明後日の方向を見ながら。
「……で、ここに秘密が?」
「うん」
観音開きの電動門扉をリモコンで開き、志希はいたずらっぽい笑みを見せた。
「びっくりしないでね。してもいいけど」
12 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/03/23(金) 01:03:24.58 ID:afcOeBV+0
凍り付いたような石畳の道を行き、門と同じくリモコンキーの玄関扉を開けた時、奥から声がした。
「ふふふ……とうとうここまで辿り着いたようだね……」
「この声は……?」
ばっ、と物凄く見覚えのある奴が飛び出してきた。
「よくぞここまで来たものだ! アタシは秘密のアンドレ!!」
「フレデリカじゃねーか!」
「そ……そんな! フレちゃんがアンドレだったなんて!」
「お前も驚くのかよ!」
「まあそれはともかく、二人ともお帰り〜♪ あ、シキちゃんお邪魔してまーす」
「いえいえ大してお構いもできずー」
出迎えるフレデリカは何故かフリフリのエプロンを着ていた。料理でもしていたのだろうか?
志希の家には度々アイドル仲間が遊びに行ったりしているが、特にフレデリカはそれが頻繁で、
もはや勝手知ったる他人の家といった感じになっているらしい。
寝たまま起きてこない、または実験に没頭したまま出てこない家主を迎えに訪うようなことも一度や二度ではなく、
俺も何度かそうしてくれるよう頼んだことがある。
13 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/03/23(金) 01:04:47.33 ID:afcOeBV+0
「今お台所に立ってたんだ〜。二人ともランチまだでしょ?」
「んー、そいえば昨日からなんにも食べてない気がする」
「それはもうちょっと気にしろよ。俺もまだだけど」
家の中は意外なほど整頓されているというか、物が極端に少なくて生活感に乏しい。
志希は普段半地下の研究室に引きこもりがちで、こういう生活スペースにいること自体が少ないのだ。
なので響子や美嘉、今いるフレデリカなどが定期的に掃除や食糧の補給などをしてくれており、
それだからキッチンには志希よりむしろ彼女達の気配が色濃く残っている。
「そう思って用意しといたよ。はいフレちゃん特製パスタ!」
「おう、これはありがた……ラーメンじゃねーか!!」
ネギにチャーシュー、メンマに味玉というスタンダードな醤油ラーメンが出てきた。
イチから手作りらしい。なんて器用なことを……。
「……あ、すげーうまい。これ何からダシ取ってんの?」
「猫」
「猫!?」
というのは冗談で、普通に鶏ガラをベースとして、輝子のトモダチから取ったダシをブレンドしたスープらしい。
珍しい味に感じたのはキノコのおかげか。本当に猫ラーメン食わされたのかと思った。焦ったものの、味は無類だ。
14 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/03/23(金) 01:05:58.32 ID:afcOeBV+0
午前11時30分、外は暗い。分厚い雪雲が空を完全に覆い隠してしまっている。
冷えに冷えた体に、あつあつのラーメンは実際ありがたいものがあった。
スープまで一滴残らず飲み干したところで、話はいよいよ本題に移る。
「じゃ行こっか」
「行く? どこに?」
家の中だというのに何故か一層厚着をして、志希は飄々と舌を出す。
「今、日本でいっちばん寒い場所」
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