【ガルパン】杏「あー、大学サボっちった」

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36 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/03/31(土) 22:36:51.79 ID:ico8IyEyO


ただ私はうっすら思っていた。

私はここにいてはいけないんじゃないかと。

ここにいるのは、苦労しながら自分の夢に向かって頑張っている人たち。

私みたいな落ちこぼれがいるべきではない。

だって………。


「角谷さんは、戦車道を続けているのか?」


ほら、聞かれた。

西住まほちゃんの一言で、みんな私の顔を見た。


高校の頃の友達が集まって話すことといえば、今何をしてるかに決まってるじゃん。

だからさっきまでチョビ子は調理師になりたいとか、

ダージリンはイギリスでいじられキャラだとか話してたじゃん。

でも、

落ちこぼれの私は、今この場で話せることなんか何もない。

私のことはいいから、皆で楽しんでくれ。

37 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/03/31(土) 22:38:40.05 ID:ico8IyEyO


「戦車道は、やっていない…。」

私はこの言葉を絞り出した。

「そうか…。」と西住まほちゃんは言った。

「えぇ?あんたの砲手としての腕はノンナが褒めるくらいなのに、やめちゃったの?」

「アッサムも評価してたわよ、杏さんのこと。」

カチューシャとダージリンが残念そうな顔をしてた。

そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、今は素直に喜べない。

「どの道を進むかはその人が決める、それも戦車道だ。」

「何言ってんだ西住。」

ちょいドヤ顔の西住まほちゃんに対し、チョビ子が突っ込んだ。

早く私から話題がそれてくれ。

そう思った矢先。


「アンジーは東大行ったんだよ!」

しまった。

受験中にケイとメールでやり取りしてたから、私がどこへ進学したか知ってる。

今一番言われたくないことを、何の悪気もないケイに言われてしまった。


「東大?すごいじゃない。」

みんなが私を褒め始めた。

やめてくれ、私は落ちこぼれなんだ。

38 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/03/31(土) 22:40:08.95 ID:ico8IyEyO


「何か夢はあるのか?」

西住まほちゃんが聞いてきた。

夢…。

将来の夢か。

そうだ…。

私は夢を叶えるために今の大学に行ったんだ。

今となっては忘れかけていたけど…。

私が将来何をしたかったか、それを話してこの場をしのごう。

39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/03(火) 14:33:58.81 ID:4AXOmezD0
ええやん
40 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/03(火) 23:29:21.54 ID:7TcBC/3r0


私の将来の夢…というか、

私は将来、文部科学省学園艦教育局長になりたい。

そう…私の母校、大洗女子学園を廃校に追い込んだ、あのメガネ役人の役職だ。

何であんなやつみたいになりたいんだって思うかもしれないけど、

私はあの役人になりたいんじゃなくて、

学園艦教育局長になって、

日本の頑張る学生たちを、私が支えたいって思ったんだ。

41 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/03(火) 23:30:54.00 ID:7TcBC/3r0


あの役人は、最初から大洗女子が憎くて廃校にしようと思ったわけではないと思う。

いろいろ悩んで考えて、大洗女子が廃校に最適だと思ったはずだ。

しかしそこにいたのはチビで生意気な生徒会長。

だからあんな感情的になって、どんな手を使ってでも大洗女子を潰そうとしたはず。

まぁ私も必死だったからね。


大洗女子廃校がチャラになって、あの役人は猫の手も借りたいくらいに忙しくなったはずだ。

まだ学生の私は社会人の辛さなんて知らないが、

決まっていたものがチャラになるのは大変なことだとはわかる。

しかもそれは国レベルの話だからね。

42 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/03(火) 23:33:05.35 ID:7TcBC/3r0


だが私だったらそんなヘマはしない。

廃校?

そんなことしないよ。

私ならどこも廃校にせずとも問題を解決してみせる。

だから私が学園艦教育局長になりたいんだ。


私の夢は日本の頑張る学生を全力で応援すること。

学校を楽しむ学生を支えること。

学校が好きな学生を守ること。

私はその夢を叶えるために…。

43 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/03(火) 23:33:54.25 ID:7TcBC/3r0


ぱちぱちと、他のお客さんに迷惑にならない程度の拍手が送られた。

みんなが立派だと言ってくれた。

私ならできると言ってくれた。

………。

目頭が急激に熱くなった。

眉間にシワがよる。

口がだらしなくへの字に開こうとする。

歯をくいしばるが、目から溢れてくるものは止められない。

ぽちゃんと、大粒の涙が自分のアイスティーに落ちた。

44 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/03(火) 23:34:59.97 ID:7TcBC/3r0


「アンジー…?」

「角谷?どうしたんた?」

「杏さん…?」

下を向き、肩を震わせてすすり泣く私を見て、みんなが困惑した。

隣にいた西住まほちゃんが背中をさすってくれた。


どんなに苦しくても辛くても、

どんなに嬉しいことがあって感動しても、

人前で泣かなかった私が、

自分の情けなさに泣いた。

45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/04(水) 04:05:47.82 ID:hk4eR7LEo
ええやん がんばれ
46 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/05(木) 00:14:24.42 ID:ZhytbYAG0


今まで溜めていたものが全て、

涙と、嗚咽となって出てくる。

ダージリンが可愛いハンカチで溢れてくる涙を拭いてくれた。

側から見たら女子大生のお姉さんたちに慰められている小学生。

惨めの一言に尽きる。

47 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/05(木) 00:17:19.02 ID:ZhytbYAG0


それから私は、

高校時代が楽しかったこと、

それ故に大学がつまらないこと、

友達がいないこと、

勉強もしてないこと、

今日はもともとサボる気でいたこと、

電車に飛び込もうと、少しでも考えてしまったこと、

顔をぐちゃぐちゃにしながら、全てを話した。

48 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/05(木) 00:22:26.59 ID:ZhytbYAG0


そんな話をみんなは真剣に聞いてくれた。

ケイは気付けなくてごめんと謝ってくれた。

ケイは何も悪くないじゃん、何謝らせてんの私。

チョビ子は私にできることなら何でも、と言ってくれた。

チョビ子は自分を犠牲にしてでも気遣ってくれるから、迷惑をかけられない。

西住まほちゃんも力になりたいと言ってくれた。

大変な留学の最中日本に来たのに、私なんかの為に…。

その間も涙は止まらず、ダージリンのハンカチをぐっしょり濡らしてしまった。

気にしないで、と予備のハンカチで優しく私の目元を拭いてくれる。

結局みんなに迷惑かけてしまった。

だから私はここに来るべきじゃなかったんだ。

高校時代の親友が、日本各地や海外から集まって、

楽しくお話ししようって場所なのに、

私がぶち壊してしまった。

49 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/05(木) 00:28:03.80 ID:ZhytbYAG0


もうここにはいられない。

涙目のままカバンから財布を取りだし、

お金を置いて逃げるように帰ろうとしたとき、


「ねぇ。」

カチューシャが割と大きな声で、

「私、高いところが好きなの。」

…えーと、

知ってる。

ダージリンが空気読みなさいよ、とカチューシャに耳打ちする。

御構い無しにカチューシャが、

「だからスカイツリー行きましょ。」

私は俯いていたが、

他のみんなはポカンとしていただろう。


すこし間を置いてから、

ケイが手をぱんと叩いて、

「そうね!みんなで今からスカイツリーに行きましょ!」

「いいわね。」

「行こうか!」

ダージリンとチョビ子が続けて賛成した。

「楽しみだな、私も行ってみたかったんだ。」

西住まほちゃんが私の方を見る。

「行こう、角谷さん。」

いや、私は帰るから…。

みんなの迷惑になりたくないから…。

みんなだけで楽しんできてよ…。
50 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/05(木) 00:30:10.04 ID:ZhytbYAG0


「スカイツリーってどこにあんだ?」

「東京じゃないの?東京スカイツリーって言うんだし。」

「押上よ、品川から電車一本で行けるわ。こっちよ。」

駅で右往左往するチョビ子とケイを、ダージリンが案内する。

西住まほちゃんは後ろから私の両肩に手を置いて、電車ごっこのように歩いてる。

私が帰らないようにしてる為なのか、

クールなイメージとは違った可愛らしい行動をとっていて、ちょっと驚いた。

そしてカチューシャは、子供ねと鼻で笑う。

流されるな私、私は邪魔者なんだ。

どこかで抜け出さないと。

51 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/05(木) 00:31:11.44 ID:ZhytbYAG0


「ダージリンって東京の電車に詳しいのね。」

「だってこの路線は横浜にも通じているんだもの。」

「そーいや聖グロって横浜だっけか。」

品川から乗った赤い電車は、地下鉄へと入って行った。

西住まほちゃんにがっちり掴まれ、

カチューシャの鋭い視線が常に送られてた私は、

この場から抜け出せないでいた。

52 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/05(木) 00:31:52.65 ID:ZhytbYAG0


結局来ちゃった。

スカイツリー。

「もちろん登るなら特別展望台よね!」

巨大な電波塔を目の前にテンションが上がるカチューシャ。

天望回廊に登るには3090円か…。

私は「高いね」とついボヤいてしまった。

「金欠なのか?私が出そう。」

いやいやいや!いいから!お金はあるから!

高いって、スカイツリーがね!値段じゃなくて!

西住まほちゃんに奢られそうになって慌てる私。

逃げられないならもう余計なことは喋らないようにしよう。

空気だ。

私は空気。

53 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/05(木) 00:32:29.47 ID:ZhytbYAG0


地上450メートルの世界。

ケイやチョビ子、ダージリンはエレベーターを出た瞬間、走ってガラスに張り付いた。

…私も高いところが好きだから、眼下に広がる大都会に心を奪われた。

いや、私は空気。

西住まほちゃんみたいに大人しくしてよう…。

「なぁ安斎!あの水平線あたりにある巨大な艦はどこの学園艦かな!」

「んー、双眼鏡が欲しいな。」

西住まほちゃんもテンションMAXだった。

54 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/05(木) 00:38:06.83 ID:ZhytbYAG0


「あっちが横浜よ!」

「おい!富士山見えるぞ!」

「飛行機からの景色とはまた違ってイイわね〜。」

「飛行機がこの高さで東京飛んだらダメだからな。」

各々が好きな方角を楽しんでいた。

55 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/05(木) 00:40:43.57 ID:ZhytbYAG0


私は1人、大洗の方向を見ていた。

…。

「やっぱり高いところはイイわねぇ。」

カチューシャが私の隣に来た。

「ノンナの肩もイイけど、たまにはこーゆーのもアリよね。」

私はノンナの肩の良さを知らないんだけど…。

「アンタと私って似てるわよね。」

ん?背の小ささ?

「それもそーだけど。」

「小さいくせに生意気なとことか、」

「憎まれ役とか。」

自覚してるんだね。

「自分がどう思われてるか、わからない奴にはなりたくないわ。」

それはわかる。

「だから私は、結構生徒会長さんに共感できるところがあるのよ。」

…。

「だからなんだって話なんだけどね。」

56 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/05(木) 00:43:34.60 ID:ZhytbYAG0


カチューシャが街を見下ろす。

「…豆粒よりも小さい人間が、私たちの下に何万人もいるのよね。」

「でも、その一人一人に人生があって、」

「いろんな悲しみや悩みを抱えてて、」

「でもそれは他人から見えないのよね。」

…。

そうだね。

「だから、助け合わないと人間は生きていけない。」

「ねぇ。」

「私もアンタを助けたい。」

「私にできることはあるかしら?」

「アンズ。」


私はカチューシャを抱きしめた。

ありがとう。

ありがとう。

「やめなさいよ、人いっぱいいるんだから…。」

私、また泣いてるし。

57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 02:18:33.44 ID:2Qyqur77O

コレは良作や
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/05(木) 07:51:38.51 ID:gvRs5R5YO
いいですね
59 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/05(木) 12:40:53.00 ID:ZhytbYAG0


他のみんなに気付かれないように早めに泣き止もう。

袖で涙を拭き取る。

カチューシャに泣いてばっかりで子供ねと言われた。


カチューシャは、カフェで私が暗くしてしまった雰囲気を変えるために、

スカイツリーに行きたいなんて言ったんだろな。

自分のキャラを理解してるから、わざと子供っぽいこと言ってさ。


カチューシャは私と似てるって言ってたけど、

カチューシャの方が全然大人で、優しいんだよね。

60 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/05(木) 12:42:47.70 ID:ZhytbYAG0


せっかくみんなでスカイツリーに来たんだ。

楽しもう。

私が楽しむことが、

今この場で出来るみんなへの恩返しだと思う。


で、明日から勉強頑張って、

自分に力をつけてから、また恩返ししよう。


その後、スカイツリーの商業施設で美味しいものを食べ、

水族館に行った。


たくさん笑った。

数ヶ月ぶりに心の底から楽しんだ。

こんな時間がいつまでも続けばいいのに、と思っちゃいけない。

また笑うために、私は頑張らなきゃいけないんだ。

61 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/05(木) 12:43:29.29 ID:ZhytbYAG0


そして、解散のとき。

このメンバーで集まるのは、何ヶ月後になるんだろう。

いや、何年後かもわからない。

ただ、また集まった時に、

私は立派な人間になってなきゃいけない。

62 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/05(木) 12:44:41.55 ID:ZhytbYAG0


ケイ、今日は誘ってくれてありがとう。

ここが私の人生の分岐点になったよ。

「私は親友を遊びに誘っただけよ〜。」

チョビ子が私の顔を覗き込んで、

「大丈夫か?家まで送ろうか?」

いやいいって、心配症だなチョビ子はー。

…ありがとね。

63 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/05(木) 12:45:23.80 ID:ZhytbYAG0


「角谷さん、一度家に帰ってみるといい。」

西住まほちゃんが提案してきた。

「私も…実はドイツで上手くいかないことがたくさんあってだな。」

「あんなお母様だけど、いつでも帰ってきなさいと言ってくれてるんだ。」

「身体の疲れは取れても、気持ちの疲れってのはなかなか取れない。」

「家に帰って、家族といるのもまた良いだろう。」

あ。

そう言えばお母さんがしょっちゅう、実家に顔出せって言ってたっけ。

いつも「そのうちね〜」ってはぐらかして、

結局大学行ってから一度も帰ってなかった。

64 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/05(木) 12:49:01.61 ID:ZhytbYAG0


「私も疲れちゃって疲れちゃって…。」

「だからこうやってカチューシャに会いに来たのよ〜。」

ダージリンがワシャワシャとカチューシャの頭を撫でる。

「だからソレやめなさいよ!!」

あはは、仲良いなぁ。

「アンズ、アンタは私と似てるんだから、」

「諦めるなんて文字は一番似合わないのよ!」

カチューシャは私にビシッと指をさした。

ダージリンも深く頷いた。



65 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/05(木) 12:49:41.04 ID:ZhytbYAG0


私はみんなに深々と頭を下げた。

ありがとう。

今日は本当にありがとう。


みんなは日本各地の帰るべき場所へと帰って行った。

…家族、か。

66 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/05(木) 12:50:24.33 ID:ZhytbYAG0


私は次の日、大学に行った。

講義は今まで話を聞かないでボーッとしてたから、

勿論全然わからなかった。

でも気持ちは違った。

私はやれば出来る。

追いついて、追い越してやる。

私の心にポッカリ空いた穴は、自信とやる気に満たされていた。

やるぞ。

67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/05(木) 23:35:11.40 ID:I1mfvC2Vo
期待
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/06(金) 06:24:33.00 ID:Z5H5OyVNO
69 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/06(金) 12:05:38.78 ID:/OWW33jz0


土曜日。

私は水戸の実家に帰っていた。

両親には、大学で落ちぶれていたこと、

そして仲間に元気付けられたことを話した。


お父さんには、

やりたい事をやりなさい。

何もやらないのはダメだ。

と言われ、

頭を撫でられた。


その夜は、お母さんのあんこう鍋をお腹いっぱい食べた。

両親は、私の心の疲れを癒してくれた。

70 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/06(金) 12:06:38.16 ID:/OWW33jz0


実家で一泊。

翌日は水戸駅から、あの赤い列車に乗った。

上野から水戸まで乗った新型の特急列車より、

車内にガラガラガラとエンジン音が響き渡る、

この列車の乗り心地の方が好きだった。


田んぼの中の単線高架を、2両編成の列車がゆっくり進んで行く。

車窓から大洗の町が遠くに見える。

しかし町の奥に灰色の巨大な壁が。

あ。

帰港してるんだ。

大洗女子の学園艦。


しかし私は誰にも会う気は無かった。

今日大洗に来たのは、

自分が立派な人間になるので、神様見守っててくださいと、

神社にお参りするため。

71 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/06(金) 12:07:16.52 ID:/OWW33jz0


好きな町並み、好きな景色。

心地よい潮の香り。


磯前神社にお参りを済ませた後、

私はホテル前の海辺を歩いていた。


なんて気分の良い。

東京の満員電車を地獄に例えるなら、

ここはまさしく天国だ。

72 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/06(金) 12:08:35.93 ID:/OWW33jz0


うわっと。

すっこけてしまった。

たはは、どんくさ。

「…角谷さん?」

え?

そこにいたのは冷泉ちゃんだった。

73 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/06(金) 12:09:25.97 ID:/OWW33jz0


私と冷泉ちゃんは、海の方に向かって腰掛けた。

「おばあと喧嘩してな。」

どうやら冷泉ちゃんは、

帰港しておばあちゃんに会いに行って、進路のことで喧嘩したらしい。

冷泉ちゃんは高校卒業したらどうするの?

「私は働く。」

えっ。

「ウチは親の遺産で暮らしてる、収入がない。」

「私が働かないと。」

…おばあちゃんはなんて?

「おばあは…お金の心配しなくて良いから、大学行けと…。」

それで喧嘩しちゃったんだ。

74 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/06(金) 12:10:08.50 ID:/OWW33jz0


冷泉ちゃんは、大学行きたくないの?

「…本当のこと言うと、私みたいなグータラを雇ってくれるとこなんかない。」

「ちゃんと勉強して、生活習慣改めて…。」

「良い企業に就職しないと…。」

「今すぐ働いたって、どうせ身体がついていかなくて、」

「寝坊ばっかして即クビになるだろう。」

…大学、行きたいんだ。

「…あぁ。」


大学に行きたくても行けない人がいるのに、

私は今まで大学で燻ってたなんて。

なんて罰当たりだ。


私にできることは。

75 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/06(金) 12:10:50.56 ID:/OWW33jz0


「冷泉ちゃんなら奨学金が出る。確実に。」

冷泉ちゃんはキョトンとした。

「これでお家のお金に負担がかからなくなる。」

私は冷泉ちゃんに大学に行って欲しかった。


「でも…寝坊ばっかしてる私にお金をくれるとは…。」

私に任せてよ。

なんたって大洗女子元生徒会長の角谷杏様だよ?

「…ふふっ。」

「今度はどんな手を使って、大人を揺さぶるんだ?」

冷泉ちゃん、笑ってくれた。

そして、大学に行くと約束してくれた。

冷泉ちゃんなら大丈夫。

76 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/06(金) 12:11:21.70 ID:/OWW33jz0


その後、今の大洗女子の話を聞いた。

楽しくやってるみたい。

みんなみんな元気だって。

そりゃ良かった。

気分はすっかりOGだ。

77 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/06(金) 12:12:34.21 ID:/OWW33jz0


「さて、そろそろ帰るよ。」

「学園艦、寄ってかないのか?」

「今日中に東京帰らないと、明日も大学だし。」

冷泉ちゃんは寂しそうな顔をする。

「河嶋さんや小山さん、そど子やほかの卒業生もみんな顔出しに来てるぞ。」

「来てないのは角谷さんだけだ。」

「みんな会いたがってる。」

嬉しいねぇ。

でも。

「ごめんねぇ、また来るよ。」

「そうか…。」


冷泉ちゃんが奨学金を絶対もらえるように約束した後、私たちは別れた。

…今度、学園長と連絡とって話の場を設けないと。

78 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/06(金) 12:16:32.02 ID:/OWW33jz0


再び赤い列車に乗って大洗を離れてるとき、

画面の割れた携帯に、西住ちゃんからの着信と、「今どこにいますか」というメールが表示されていた。

冷泉ちゃんが、私が大洗にいることを教えたのかな。

もう東京に帰るよ。

とだけメールを返して、携帯をカバンに入れた。

79 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/06(金) 12:17:16.05 ID:/OWW33jz0


その後水戸の実家に一度戻り、水戸駅から東京方面の特急列車に乗り込んだ。


外が暗くなり、車窓に自分の顔が映った。

私は私を見て誓う。


次にみんなと会うのは、

大洗女子の生徒会長角谷杏の上を行く、

もっともっとしつこくずぶとく、

絶対に諦めない、

そして優しい人間になったときだ。


私はたくさんの仲間からたくさんの恩を受けた。

私はその恩を何倍にもして返す義務がある。

その義務は決して苦痛なんかじゃない。

仲間が喜べば、

私も喜ぶからだ。

80 : ◆jPr03Kti1lbd [saga]:2018/04/06(金) 12:18:17.04 ID:/OWW33jz0


大きな決心をした私は、

両親から渡された、紙袋いっぱいに入った干し芋を一袋取り出し、

開けて食べた。


数ヶ月ぶりに食べた干し芋は、

さいこーに美味かった。



おわり



81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/06(金) 12:39:53.95 ID:LUIjLt9A0
感涙
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/06(金) 13:45:05.84 ID:Nva+8OyiO
乙です!
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/06(金) 16:08:36.94 ID:vsIKurgMo
良い作品、おつ
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/06(金) 21:08:17.58 ID:Z5H5OyVNO
いいですね
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/06(金) 21:08:34.02 ID:UogaPOg7O
乙乙、皆良いキャラしてるわ
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