【ゆるキャン△】リン「なでしことなら、」

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17 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/12(木) 21:38:16.50 ID:puevJmklo
>>13
冒頭の記号は削除
18 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/12(木) 21:39:10.67 ID:puevJmklo
続きは明日
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/13(金) 05:22:24.66 ID:gmyf6s5ao
ええぞ
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/13(金) 12:53:04.21 ID:xMYckrnj0
ソロキャン以外やってみたい
21 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/13(金) 21:33:35.04 ID:rQ27smY8o
3.―――――――――――――――――――

湖畔のキャンプサイトに戻ってきたけれど、まだ暖かいから焚き火は必要なさそうだ。さすが春。

拾ってきた薪をナタで割ったり、分割したりする。
なでしこが興味あり気に見つめているけれど、刃物を持たせるのは危なっかしい。

「これは寒くなるまでおあずけ」

「楽しみだね〜」

二人で椅子に腰をおろしてしばらくの間くつろぐ。
私は持ってきた本を読み、なでしこはスマホを取り出している。

スマホを手にゆっくりと立ち上がりながら、なでしこがしわがれた声で話しかけてきた。

「リンちゃんや、ちょいと写真を撮りに行ってもええかのう?」

出たな、田舎のお婆ちゃん。

「お婆ちゃん、野クルの子たちに見せるのかい?」

私もお婆ちゃんになり返事をした。

「せやで〜」

いつの間にかお婆ちゃんから犬山さんになったなでしこは元気よく駆け出していった。
22 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/13(金) 21:39:56.89 ID:rQ27smY8o
私もスマホをテーブルから取り、自然な動きで操作を行った。
画面に写し出されたのはキャンプの写真。
指を滑らせ次々と移りゆく景色を眺めた。
思わず指が止まるのは、なでしこが写っている写真。

――ついつい見ちゃうんだよな。

写真の中の彼女はいつも楽しそうで、一緒に写っている私も自然と笑顔になる。
『いつまで眺めてるんだ?』と自分に注意し、音楽のアプリを立ち上げた。
23 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/13(金) 21:42:46.74 ID:rQ27smY8o
定額で音楽を聴き放題のサービス。
あらかじめ家でダウンロードしておいたプレイリストを選択する。
キャンプに合いそうなジャズミュージック。
小洒落た喫茶店でかかっていそうな曲だ。

管楽器、ピアノ、弦楽器がリズムを合わせて、居心地のいい空間を演出する。

――ココアじゃなくてコーヒーが飲みたくなるな。

なでしこはコーヒーとかどうなんだろう?
コーヒーミルク?

鳥羽先生は、考えるまでもないな。
お酒は二十歳になってから。

遠くの景色になでしこが現れる。どうやら写真を撮り終えたようだ。
私は手を振り、彼女も大きく手を振り返す。
犬のような駆け足でこちらに帰ってきた。
24 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/13(金) 21:43:47.44 ID:rQ27smY8o
続きは明日
25 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/14(土) 21:06:16.99 ID:U2ZZFKn3o
4.―――――――――――――――――――

少しずつ空が赤みがかり、それに応えるように景色も染まり出す。
湖の水面も違った表情を見せている。
富士山もピンク色になってきた。

ご飯を食べるのも、焚き火をするのも微妙な時間だ。
スマホを手に取り、音楽のプレイリストをカントリーミュージックに切り替える。

懐かしさを感じるギターの音色が夕焼けに馴染んでいる。

――故郷に帰りたくなるな。

どこだよ、と独り言。

なでしこはガスランタンを持ち、得意気に顔のそばに持ってきて笑顔を見せる。

「んっふっふっふっ。そろそろつけちゃいますか、ガスランタン」

「おっ、つけるのか?」
26 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/14(土) 21:09:40.84 ID:U2ZZFKn3o
なでしこは手慣れた様子でマッチを擦り、火を入れる。細長いガラスのグローブに火が立ち登った。

「おお……」

思わず声が漏れてしまった。
真っ直ぐ伸びる火、それは何かを燃やすわけでも、加熱するわけでもない、ただただ周りを照らすための火。

ゆらゆら揺れる火は意志を持っている様にも見えて、私達と無言で語り合っている。
27 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/14(土) 21:14:15.02 ID:U2ZZFKn3o
「いいよね〜、小さな焚き火みたいで」

「室内でも出来る焚き火だな」

「買ったとき家でつけてみたよ。みんな気に入ってた」

「いいなぁ……」

ん? 今の『いいなぁ』は誰の声だ?
ふと、なでしこを見ると目を細めた笑顔を向けてきた。

私だ。

思っていたことがつい口に出てしまった。
私はLEDのランタンを持ってるけど――
欲しいかも……
よし、次は喋らなかったぞ。

二人でランタンの火を見つめながら、しばしの沈黙を楽しんだ。
28 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/14(土) 21:14:57.56 ID:U2ZZFKn3o
続きは明日
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/15(日) 00:48:12.05 ID:U4ZMY++c0
ええな
30 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/15(日) 20:34:52.89 ID:GJ4ujZ7do
5.―――――――――――――――――――

「さて、そろそろ焚き火しようか。冷えてきたし」

春でも日が沈むと少し肌寒さを感じる。
本栖湖の標高は900m、寒いわけだ。

「待って、リンちゃん!」

「ん?」

「私が火つけるよ。ソロキャンだもん!」

いや、ソロじゃないし。
それより……

「なでしこに焚き火を任せて大丈夫だろうか? 私がやったほうがいいんじゃないか?」

「リンちゃん……心の声が出てるよ……」
31 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/15(日) 20:37:15.20 ID:GJ4ujZ7do
なでしこが手際よく松ぼっくりを並べていく、ちょっと量が多い気が……
その中から一個を拾い、マッチで火がつけられる。

『あつい!』

という声は聞こえなかった。

真ん中の松ぼっくりを中心に火が広がっていく、今のところ大丈夫だ。
なでしこはそこに細い枝を投げ入れ火を大きくする。焚き火らしくなってきた。

よかった、何も起きそうにない。ありがとうキャンプの神様。

「あとは薪をくべて……よし!」

「上手くいったな」
32 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/15(日) 20:40:33.37 ID:GJ4ujZ7do
焚き火で暖まりながら、私はなでしこへ質問をする。

「なでしこ、キャンプ道具積んで自転車で来るの大変じゃなかった?」

私もこれまでは同じように自転車で来ていたけれど、なでしこの住所からでは距離が遠い。

「ちょっと疲れたけど、大丈夫だよ。本栖湖なら来たことあるし」

「なでしこ強い子元気な子、だな」

「えへへ。それにいざとなったらお姉ちゃんが迎えに来てくれるよ。たぶん」

「なんだかんだで、なでしこには優しいもんな」

「もしかしたら、お姉ちゃんがそのへんの茂みに待機してるかも……」

「それはないだろ……」
33 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/15(日) 20:43:49.07 ID:GJ4ujZ7do
待機? しているというなでしこのお姉さん。
厳しそうに見えるけど何気に優しくて、素敵な人だと思う。あと眼鏡美人だ。

「リンちゃんのおじいちゃんも待機してたりして」

「なにそれこわい」

「今までのリンちゃんのソロキャンはおじいちゃんに守られていたのですぞ?」

「知らなかったそんなの……」

「リンちゃんもいるし、私のソロキャンは万事安全です!」

「それもうソロキャンじゃないだろ……」

たわいもないことを話しながら、暖かい火を囲んで座った。
34 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/15(日) 20:46:29.16 ID:GJ4ujZ7do
次の音楽のプレイリストはケルト音楽だ。
バグパイプ、ハープ、弦楽器。ミドルテンポでしっとりとした旋律。
その音色は湖畔に染み入っていき、景色と一体になる。
雑貨店でかかっていそうな曲だ。

――これは長居したくなるな。
35 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/15(日) 20:47:03.82 ID:GJ4ujZ7do
続きは明日
36 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/16(月) 21:05:51.03 ID:Ps4zyyN+o
6.―――――――――――――――――――

日が暮れて時間も経ち、小腹も減ってきた。
そろそろ夕食にしよう。

「私は今日は……」

「待ってリンちゃん。せーの、で出そうよ」

「ん? いいけど」

「それじゃあ、せーの」

\カレーメン/

\カレーメンBIG/

「って、なでしこBIGじゃねーか」

「えへへ。おそろいだね」

二人で笑い合い、「偶然もあるもんだな」とつぶやいた。
私はカレーメン、なでしこもカレーメン(ただしBIG)。
初めて二人で食べた夕飯がこれだった。

「あの時みたいだな」

「うん! あのときはありがとう、リンちゃん!」

「どういたしまして。じゃあお湯沸かすよ」
37 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/16(月) 21:10:37.47 ID:Ps4zyyN+o
コッヘルに水を注ぎ、バーナーの上に置き、火をつける。
気化したガスに火が走り、一瞬コッヘルの周りを包みこむ。
火は適度な大きさになり、お湯を沸かす仕事に取り掛かり始めた。

「いつもこの時間が待ち遠しいねえ」

「沸いたあとさらに三分待つんだけどな」

「oh……」

「まあ待て待て」

二人でバーナーの火を見つめながら『早くしろ早くしろ』と圧をかける。

――

「沸いたみたいだよっ!」

「よしよし」

カップの蓋を剥がし、沸騰したお湯を注いでいく。
内側の線まで注ぎ終わり蓋を元に戻す。
スマホの音楽を一旦止め、アラームを三分にセットし、しばし待つ。
期待を高めていく。

「ねえリンちゃん、今日はどうしてカレーメンにしたの?」

「さあ、なんでだろうな……」

「わたしも、なんとなくなんだよねぇ」
38 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/16(月) 21:17:07.35 ID:Ps4zyyN+o
アラームが鳴り、待ち時間の終わりが告げられた。
早速蓋をめくり、割り箸を割る。
美味しそうなカレーの香りが鼻孔を刺激する。

箸でかき混ぜスープと麺を馴染ませる。
ひと通り混ぜ、箸で麺をつまむ、まだ熱い、火傷をしないように慎重に、慎重に。

――うん、美味い。

しばらく集中して味を堪能する。
カレーとラーメン、誰がこの二つを組み合わせようと思ったんだろう。
いや、カレーうどんもあるし、カレーパスタなんてのも。
カレー鍋、などなど。

視界の端に映るなでしこを見ると、思った通りのアクションでカレーメンを堪能していた。

私もそれを見ながら食を進めていく。
麺をあらかた食べ尽し、スープも飲み干していく。

ふう、美味しかった。
39 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/16(月) 21:18:55.51 ID:Ps4zyyN+o
「あのさ、なでしこ」

「ん?」

「まだ食べれそう?」

なでしこは私と同じようなタイミングで食べ終わり(BIGなのに)、少し物足りなさそうな表情を浮かべている。

「そんななでしこさんにプレゼントがあります」

「?」
40 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/16(月) 21:19:42.85 ID:Ps4zyyN+o
続きは明日
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/17(火) 06:24:37.41 ID:ztFdrYYzo
42 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/17(火) 20:54:41.59 ID:YQPnEkcio
7.―――――――――――――――――――

\カレーメン二つ目/

「え!? くれるの!?」

既視感を覚え、初めて会った時の台詞を繰り返し言ってみる。

「千五百円」

「せんごひゃくえん……」

なでしこはキョトンとした顔を浮かべたがすぐに私の意図を理解したようで、
あの時と変わらない返事をしてくれた。

「じゅ、じゅうごかいばらいでおねがいしますぅ……」

「ウソだよ」

よしよし、同じやりとりだ。
再びコッヘルに水を注ぎ、バーナーに火をつける。
そしてなでしこが焚き火を指差す。

「あっちで沸かさないの?」

「焚き火で沸かすと鍋が煤で真っ黒になるから」

「へぇーそうなんだー、プロみたいだねー!」

記憶より若干棒読みくさい台詞で、なでしこは演技を続ける。
まるであの時と同じように。
43 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/17(火) 20:59:25.70 ID:YQPnEkcio
そうしている間にお湯が沸いたので、なでしこのカレーメンに注いでやった。

――

――二杯目なのに美味そうに食いやがる。

私はついさっき出会った他人のように、あの日の問いを繰り返す。

「ねぇ、あなたどこから来たの?」

「わたし? ずーっと下のほう、南部町ってとこ」

うん、知ってる。

「南部町……、よくチャリでここまで来たね」

「『本栖湖の富士山は千円札の絵にもなってる!』
ってお姉ちゃんに聞いてながーい坂登ってきたのに、曇ってて全然見えないんだもん!」

あの日見た富士山を思い出し、眼前の富士山と重ね合わせる。
季節は違えども、この美しさは一年中変わらないだろう。

「聞いてよ奥さ……、ふふっ」

彼女は急にクスクスと笑い出し、釣られて私にも笑みがこぼれた。

「なんだよ、なんで笑うんだよ」

「だって、おかしくって! ふふっ、いつまで続けるの? これっ!」

「そうだな、もういいかな」

なでしこは満足げな笑顔を浮かべ、私も彼女と同じ笑顔になる。

きっと、今日一番の笑顔だ。
44 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/17(火) 21:00:26.42 ID:YQPnEkcio
>>42
冒頭の記号は削除
45 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/17(火) 21:00:52.70 ID:YQPnEkcio
続きは明日
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/18(水) 02:49:44.90 ID:7yp5MGIRO
いい雰囲気だ
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/18(水) 07:37:22.72 ID:xz6QjipDo
お疲れ
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/18(水) 12:23:47.98 ID:ZLLVvW+p0
こんなすてきなキャンプしたい
49 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/18(水) 21:07:44.84 ID:LPH6pU+so
8.―――――――――――――――――――

夜も更け、静寂が辺りを支配している。
春という季節はどこか優しく、私達を全て受け入れてくれるような雰囲気を持っている。

その雰囲気に誘われたのか、私はなでしこに向かって話を始めた。

「――あのさ、なでしこ。前にも話したかもしれないけど」

夕飯を終え、若干の眠気に襲われながらも私は言葉をつぶやいた。
心にも防波堤のようなものがあり、私のそれは人より高いつもりだ。

でもそれはたやすく上下し、今は間が悪い。
下がった心の防波堤を感情の波が越えていく。

何か、もう戻れないような、そんな予感がしていた。
50 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/18(水) 21:09:10.31 ID:LPH6pU+so
>>49
「」の前の記号は削除
51 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/18(水) 21:13:10.72 ID:LPH6pU+so
「クリスマスにみんなとキャンプして、すごく、楽しかったんだ」
「――もしかしたら、一人のキャンプより好きなんじゃないかって」
「でも、その後一人でキャンプして」

クリスマスのキャンプのあと、年末は一人で磐田方面へ行き、年越しはテントの中で過ごした。

「海の写真いっぱいだったね〜」

「年が明けてから浜松の砂浜で座ってたら、『やっぱり、一人のキャンプも好きだ』って思ったんだ」

一人のキャンプ『が』ではなく、一人のキャンプ『も』だ。
一人でいることのほうが好きだった、けれど――

言葉に詰まりながら、いつもより細い声で話を続ける。

「だから、みんなとのキャンプも好きで……、一人のキャンプも、好きで……」

両方好きなことに違いはない、優劣なんて付けられない。

でも、私が今感じているのは、
そのどちらかより、もっと別の……

「でも、でも……なでしこ」

絞り出すように告げた言葉は、行き場を無くしたように宙にただよった。
52 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/18(水) 21:15:55.53 ID:LPH6pU+so
一人のキャンプ、みんなとのキャンプ。
その二つとは違う種類の時間が、今ここに……
なでしこと二人で過ごす瞬間が、今とても……

そう、言ってしまえたら。
でも、言葉にしてしまったら。

――私は、もう……

「リンちゃん? 泣いてるの?」
53 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/18(水) 21:19:10.38 ID:LPH6pU+so
言われてやっと気がついた、雫が頬を伝っているのに。
視界が歪んでなでしこの顔がよく見えない。
目元は熱を持ち、温かい涙があふれている。
何も見えないけれど、なでしこが涙をぬぐってくれたのは分かった。

「……わかるよ、リンちゃん。選べないんだよね?」

母親が幼い子供に話しかけるように、私にささやきかける。

「わたしも子供のころ、欲しいおもちゃが二つあって、選ばなきゃいけなかったんだけど……。選べなくて泣き出しちゃった」
「結局、お母さんが二つとも買ってくれたんだけどね」

「えへへ」と笑うなでしこを見ながら『違うんだ』と心の中でつぶやいた。

私が今思っているのは……、その二つじゃなくて。

なでしこと――
54 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/18(水) 21:20:18.10 ID:LPH6pU+so
――そうだ、なでしこがくれたんじゃないか。

一人のキャンプも好きな私。
みんなとのキャンプも好きな私。
そして、なでしことの……

ここが始まりだったんだ。
本栖湖のキャンプ場が。
55 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/18(水) 21:27:38.41 ID:LPH6pU+so
浜松から南部町に引っ越して来た彼女は、自転車で富士山を見に来ていた。
カレーメンを食べながら語り合ったときは同じ学校だとは思わなかった。
それから富士宮の麓のキャンプ場に来て鍋を作ってくれた、坦々餃子鍋を。
ラジオを聴きながらなでしこと過ごした夜は、なぜか心にずっと残っている。
高ボッチ高原でソロキャンをしたときは、なでしこが夜景の写真を送ってくれた。
それに応えるように写真を送り返して、まるで二人で同じ夜景を見ているみたいだった。
それから四尾連湖。なでしことキャンプの買い出しをしているときからすでに楽しかった。
その次は『私から誘うよ』と約束したものの、なでしこが風邪をひいたのは残念だった。
でも陣馬形山のキャンプ場に向かうとき、なでしこや千明が色々メッセージを送ってくれて助かった。
そしてクリスマスのキャンプ。
お祖父ちゃんが教えてくれた朝霧高原で、なでしこ、斉藤、千明、犬山さん、鳥羽先生、ちくわ、みんなでキャンプをした。
それから、それから――
56 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/18(水) 21:33:46.10 ID:LPH6pU+so
語り尽くせない思い出たち、それらは夜の星々のようにきらめき、私の胸中へ仕舞われている。
星々は星座となり心の夜空に広がって、私を満たしている。

それは、私にしか見えない星空。
それが、私からなでしこへの言葉を紡がせた。

「……ありがとう、なでしこ」

私をくれて。

「え、なになに?」

知らなくていいよ、なでしこは。
知っているのは、私だけでいい。

広がる星空、私達を見下ろす富士山。
息を潜めた世界の中、月明かりを写す本栖湖。
その静かな水面だけが、かすかに揺れ動いていた。
57 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/18(水) 21:39:15.09 ID:LPH6pU+so
特に理由があるわけじゃない。
世界がこんなにも綺麗なのは。

でも、目の前の彼女がその理由にもなりえるんだ。

ここだけじゃない、まだ歩いたことのない、知らない世界だって綺麗に決まっている。

――なでしことなら、

「リンちゃん見て見て! 星空も、お月様も、本栖湖も、富士山も、みんなみんなきれいだよっ!」

「うん、綺麗だね」

世界を、もっと好きになれそうだ。



おしまい

58 : ◆eUYYCXmg66AS [saga]:2018/04/18(水) 21:42:24.72 ID:LPH6pU+so
これで終わりです。
読んでくれた人はありがとうございます。
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/18(水) 21:52:01.48 ID:G7Uh2lErO
おつおつ 
よかった…
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/18(水) 22:09:02.45 ID:x8nqedb+O
なでリン尊い…
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/18(水) 22:49:25.04 ID:e5qJ/dP5O
お疲れ様でした
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/18(水) 23:24:56.10 ID:YOWJzkMi0
素晴らしい
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/19(木) 00:37:52.80 ID:W2bhg6y7O
乙乙
もっとなでリンを見たい
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/19(木) 06:26:39.89 ID:SUKpJZwLO
雰囲気出ててすげぇ良い
ゆるキャン△SS流行れ!
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/19(木) 12:12:43.14 ID:UsI/aqfw0
GWはキャンプ行くことにした乙
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/20(金) 18:58:30.13 ID:BpgFAXeKo
おつ
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