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【ガルパン】エリカ「私は、あなたに救われたから」

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545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/10/24(水) 23:41:08.92 ID:uVEE8Dv1O
喜べ作者がTwitterで今週から投稿再開宣言したぞ
546 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2018/10/25(木) 00:44:57.99 ID:nwjTKlCto
>>545
歓喜
547 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/26(金) 10:24:26.88 ID:C7m8SLElO
作者Twitterのアドレスを教えて欲しいであります!
548 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/26(金) 17:06:03.94 ID:liTh12KHO
作者の酉で検索かければ出てくるよ
549 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/10/27(土) 20:04:14.90 ID:apQ6Z5XO0


沈みゆく夕日が廊下を、私たちを照らす。


しほ「みほ」

みほ「お、お母さんなんで……」


私たちの母、西住しほ。

実家が家元を務めている流派、西住流の師範にして、高校戦車道連盟の理事長でもある、日本の戦車道における重鎮の一人だ。

その役職ゆえに多忙を極め、加えて私たちが一年のほとんどを学園艦で暮らしている事もあり、家族である私たちと顔を合わせることは数えるほどしかない。

しかし、そんなお母さんが今、私たちの前に立っている。

動揺を隠せない私を横にお姉ちゃんが声を出す。


まほ「お母様、隊長室で待ってるんじゃ……」

しほ「あなた達がいつまでたっても来ないと思ったら、随分と楽し気な声が聞こえたので」


どうやらお姉ちゃんはお母さんが黒森峰に来ていたことを知っていたようだ。

というより、お姉ちゃんが私を呼んだ理由がこれというわけか。


みほ「お母さん、何で学園艦に……」

しほ「少し時間が空いたので、あなた達の様子を見るついでに母校に寄っただけですよ」

みほ「そ、そうなんだ」

しほ「それよりも。……みほ、さっきの試合見させてもらいました。まだまだ未熟ですね」


鉄のような視線が更に鋭く私を貫く。

喉が引きつったように動かなくなる。

550 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/10/27(土) 20:11:22.24 ID:apQ6Z5XO0



しほ「初動が遅い。隊員の統率が出来ていないから動き出しが遅くなるのです。……みほ、西住流とは何ですか」

みほ「……撃てば必中 守りは固く 進む姿は乱れ無し 鉄の掟 鋼の心。それが……西住流」


西住流の理念。幼い頃から耳にし、復唱してきたそれは私の戦車道にも深く刻まれている。

……良くも悪くも。


しほ「その通りです。それが分かっていながら先ほどの醜態はどういうわけですか」


お母さんはそう問いかけるも私の返事を待たずさらに続ける。


しほ「相手の逸見さんという方は確かに実力のある子でした。しかし、あなたはそれ以上の才を持ち、研鑽を積み重ねてきたはずです」

みほ「で、でも……」

しほ「油断は戦いにおいて最初に排除すべきもの。黒森峰はまほとあなたが率いていかねばならないのに情けない姿を隊員たちに見せつけてはいけません」


油断。お母さんはそう断じた。私にとってそれはつまり、あの戦いでのエリカさんの勝利を、それに至るまでの努力を否定したに等しい。

私は本気で戦った。エリカさんの本気を本気で受け止めた。油断なんて欠片もなかった。そして今日、エリカさんの本気が私の本気を上回った。

それがどれだけ尊い事なのか。どれだけ眩い事なのか。

何も知らないくせに。私が、エリカさんがどんな思いで今日まで戦ってきたのか、知ろうともしなかったくせに。

心の奥底でふつふつと黒い何かが沸き立つ。

拳が無意識のうちに強く握られる。

周囲の音が遠くなっていく。

自分が何をしようとしてるのか自分でもわからない。だけど、そんな事どうでもいい。

ただ、ただ、私とエリカさんの戦いを侮辱されたことが許せない。

私は感情のまま一歩踏み出そうとして―――――


551 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/10/27(土) 20:17:42.68 ID:apQ6Z5XO0


まほ「申しわけありませんお母様」


その歩みは、前に出てきたお姉ちゃんによって遮られた。


まほ「今回の事は私の責任です。自分の事にかまけてみほへの指導を怠っていました」


頭を下げるお姉ちゃんは一瞬私の方を見る。

その瞳は『何もするな』と語っていた。

お母さんはそんなお姉ちゃんの姿を見てため息を一つ吐く。


しほ「……まほ、あなたが多忙な事は重々承知しています。国際強化選手に選ばれたことも含めてあなたの活躍は私にとっても誇らしいものです」


お母さんにしては珍しい、ストレートな称賛。

母から子へのそれは、おそらく普通の親子であれば微笑ましく温かなものなのだろうが、

お母さんの表情はピクリともせず、冷たい視線に熱がこもることもなく、その内心を読み取ることはできない。


しほ「ですがあなたとみほは姉妹です。みほの評価があなたの評価に繋がる事もあるのです。それが、良い物であっても悪い物であっても」


視線がお姉ちゃんから私に向けられる。

エリカさんとの試合がお姉ちゃんにとって悪い評価に繋がる。

それがお母さんの言いたい事なのだろう。

お姉ちゃんが前にいなければ私は大声で叫んでいただろう。

ふざけないで。馬鹿にしないで。エリカさんを、侮辱しないで!、と。

しかし、今ここで激情を発露すればお姉ちゃんにまで迷惑がかかってしまう。

それを無視できるほど私はワガママにはなれなかった。

552 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/10/27(土) 20:21:55.53 ID:apQ6Z5XO0


しほ「私の目が届かない分、あなたがみほを指導するのです。……忘れてはなりません、あなた達姉妹は黒森峰を、西住流の未来を背負っているのだと」

まほ「……はい」

しほ「来年度の全国大会はあなた達の力を見せつけなさい……以上です」

まほ「ご指導、ありがとうございます」


お姉ちゃんは再度お母さんに頭を下げる。

お母さんはその姿を見下ろし、腕時計に視線をやると少し考えるように口を閉ざす。

そして、相変わらず温度のない声を私たちにかける。


しほ「できれば食事でもと思いましたが、残念ながら時間です。次に会うときは家族での時間が取れるようにしておきます。それではみほ、まほ、また」


そう言い残すと、もう用は無いと言わんばかりに振り向きもせず去っていった。

残された私たちはしばらく何も言わずうつ向いていたが、

やがてお姉ちゃんが顔を上げる。


まほ「……エリカは、強いよ」

みほ「……うん」


そんなの、私が一番よく知ってるよ。


まほ「それでも……みほ、副隊長はお前だ」


私の目を見ず、消えるような声でそう言うと、お姉ちゃんは去っていった。

残された私は動くことができず、どうしようもない感情を拳を握ることで抑え込んでいた。

553 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/10/27(土) 20:23:51.15 ID:apQ6Z5XO0
今日はここまでで。
SS速報が復旧してくれて良かったです。
投稿はこれまで通り毎週土曜を予定しているのでよろしくおねがいします。
それではまた来週。
554 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2018/10/27(土) 20:59:43.67 ID:mMSYvk5po
乙。待ってたよ〜。
また土曜日が楽しみな生活キタコレ
555 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/27(土) 21:22:20.82 ID:btD2TBrXO
乙ー
久しぶりの更新に心が震えた
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/27(土) 23:03:46.12 ID:fncCNhl8o
意地の土曜更新乙
復活オメ
557 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/28(日) 02:12:25.02 ID:nYCKg0wK0
乙々 待ちに待ってたよ
しかししぽりん表情筋硬そうやな
558 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/28(日) 15:35:58.55 ID:tDhgcFv6O
ssではアホになり同人誌では寝取られてばかりの家元さんチィース
559 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/29(月) 00:10:04.46 ID:poP0vLP5o
(寝取られてるのは旦那の方では…?)
560 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/03(土) 18:40:54.42 ID:WAWLSor50




どれだけ佇んでいたのだろう、ようやく気持ちを持ち直せた私が外に出ると、夕日は沈み切り、月が出ていた。

その光があの人を思い出させてくれて、少しだけ安らぎが戻る。

しかしそんな灯は肌を刺すような寒風にあっさりと攫われてしまい、ただただ体を動かすことにだけ集中しようとする。

そうしないと、どんどん黒い感情が湧き上がってくるから。

久しく忘れていたその感情は、私が黒森峰に来た時より抱えていたもので、

きっといつか、私を飲み込んでいたものだ。

そうなっていたら私はきっとここにはいなかっただろう。

逃げ出すのか、壊すのか。どうするのかはわからないが、少なくとも楽しい学園生活なんて霧散していたのは間違いない。



『忘れてはなりません、あなた達姉妹は黒森峰を、西住流の未来を背負っているのだと』



『……みほ、副隊長はお前だ』



誰かへの期待のために、誰かの努力を、情熱を踏みにじるのが戦車道なら、

それが西住流だというのなら、

私はそんなもの―――――


561 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/03(土) 18:45:34.69 ID:WAWLSor50






エリカ「ずいぶん遅かったわね」






562 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/03(土) 18:47:12.43 ID:WAWLSor50


黒く染まりかけた思考が、聞き知った声によって掬い上げられる。

いつの間にか私は校門を出ていて、声の主はそこに寄りかかるように私を見つめていた。



みほ「エリカさん……?なんで……」

エリカ「赤星さんに待っててやれって頼まれたのよ」



声の主―――エリカさんは気だるげに髪を掻きあげると、私に向かって不満そうな視線を向ける。

そんな姿ですら、私からすればちょっとした芸術作品のように見えて、この人と自分が同じ人間なのか疑問に思ってしまう。



みほ「でも……こんな時間まで」



いくら頼まれたからってこんな寒い中待っててくれるだなんて……

私の疑問と驚きにエリカさんは声を荒げて返してくる。


563 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/03(土) 18:49:50.77 ID:WAWLSor50


エリカ「そうよそう!全く何時間待たせたのよあなた!?この寒空の下、あと5秒遅かったら帰ってたわ!!」



怒鳴りながら近づいてきたエリカさんはしかし私の顔を見るや途端に落ち着きを取り戻し、じっと私を見つめると呆れたようにため息を吐く。



エリカ「……はぁ。何があったか知らないけど、その泣きそうな顔やめてくれる?ただでさえ寒さでイラついてるのに余計にイライラするんだけど」



相変わらず嫌味ったらしい、けれどもどこか私を気遣うようなエリカさんの言葉に、私は安心感と申し訳無さがないまぜになって涙がこらえきれなくなってしまう。



みほ「エリカさん私、私……」

エリカ「ちょ、ホントに泣くやつがある?……どうしたのよ」



ぽろぽろと涙が零れだした私を見てエリカさんは慌てたように駆け寄って、そっと肩に手を置く。

彼女の優しい声色に私は、呟くように、謝るように答える。

564 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/03(土) 18:51:44.88 ID:WAWLSor50


みほ「私、副隊長に任命された」

エリカ「……そう」

みほ「エリカさん、ごめんなさい……」



私が嗚咽をこらえながら謝罪の言葉を口にすると、エリカさんは目端を吊り上げ不快感を欠片も隠さない表情をする。



エリカ「はぁ?あなた、随分な嫌味を言えるようになったのね?」

みほ「私、エリカさんが副隊長に相応しいってお姉ちゃんに言ったけど、ダメだった……」

エリカ「……みほ、あなた」



エリカさんの声に怒りがこもる。

当然だ。私は、エリカさんの努力を、エリカさんの想いを守れなかったのだから。

あの時、お姉ちゃんの制止を振り切ってお母さんに叫べばよかった。

エリカさんを馬鹿にしないでと。エリカさんは強いのだと。

それが出来なかった私に、謝られたところで何の意味があるのか。

それでも、私にできる事はひたすら謝罪をすることしかない。

せめて、私に怒りをぶつけることで彼女の気が晴れるのなら。

565 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/03(土) 18:54:24.20 ID:WAWLSor50


みほ「ごめんなさいっ……ごめんなさいっ……エリカさんは副隊長の座を賭けた試合に勝ったのにっ……」

エリカ「……………………ん?」



ただただ、謝罪を繰り返す。

自分が情けなくて、それ以上に悔しくて涙が出る。

私はなんて無力なのだろうか。

大切な人の、大切なものすら守れないのに、副隊長の座は私に与えられる。

こんな理不尽があるのだろうか。



みほ「エリカさんがどれだけあの試合に懸けてたのか私も、お姉ちゃんも知ってるのに、なのにあなたの努力を、結果を不意にした。ごめんなさいっ、エリカさんごめんなさいっ……」

エリカ「ちょ、ちょっとまって?」

みほ「だから――――どうしたの?」

566 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/03(土) 18:59:18.04 ID:WAWLSor50


エリカさんの制止に私が言葉を止めると、エリカさんは先ほどとは違う何というか、凄く微妙な表情になっていた。



エリカ「えっと…………………………え?あれそういう試合だったの?」

みほ「…………………………え?」

エリカ「いや、私はただあなたと戦えば私の勉強になると思ってたから、期末試験みたいなつもりで挑んでたんだけど」



一瞬、エリカさんが私に嫌味を言っているのかと思った。

言われても仕方のない事を私はしたのだから。

だけどエリカさんの表情はこう語っている『何を言ってるんだこいつは』と。



みほ「え、だ、だって勝った奴が副隊長だって……」

エリカ「それは最初の2回だけでしょ?それ以後の試合は副隊長の席の代わりに罰ゲームにしたつもりだったんだけど……」

みほ「え?え?だってエリカさん副隊長っていうか、お姉ちゃんの副官になりたいんじゃ……」

エリカ「そりゃあ、なりたいけど。あなたを押しのけてなったところで意味ないわよ」

567 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/03(土) 19:16:30.58 ID:WAWLSor50


お互い頭上に無数の『?』を浮かべながら要領のつかめない会話をする。

だってエリカさんはお姉ちゃんに憧れてて、私よりも強くなって副隊長になりたいって……

そして何よりも、



みほ「でも私に勝ったんだよ?」



今日の試合でエリカさんは証明したはずなのに。

逸見エリカは西住みほを超えたのだと。

不屈の闘志とたゆまぬ努力がついに実を結んだのだと。

だというのに目の前のエリカさんは簡単な算数すらできない子供に向けるような呆れた目で私を見つめる。



エリカ「あのねぇ、一回勝った程度で何よ。それ以外全敗よ?そんな成績であなたより上だなんて言えるわけないでしょ恥ずかしい」

みほ「そ、それは……」

エリカ「まったく……高等部の副隊長はあなた。中等部の3年間、あなたがどれだけ貢献してきたか。わからないやつなんていないわ」



エリカさんは白い吐息を吐きながら真っ直ぐに言い放つ。

その言葉には過大評価も過小評価もなく、ただただエリカさんにとっての事実を伝えていると感じた。

568 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/03(土) 19:19:21.96 ID:WAWLSor50


みほ「……私が、副隊長で良いの?」

エリカ「良いも悪いもない。あなたは、その席に着く義務があるの」



恐る恐る尋ねた私の言葉を甘えも、泣き言も許さないという風にバッサリと言い切る。

僅かな沈黙が私たちの間に訪れると、エリカさんは二度三度、左右に視線を揺らし、そして思い出したかのように声を出す。



エリカ「……あ、だからって油断しない事ね。私はいつだってあなたの席を狙ってるんだから。せいぜい寝首を掻かれないよう気を付けなさい!!」



その言葉が私への気遣いなのだとすぐに気づく。

エリカさんはいつだってそうだから。優しいのに、思慮深いのに、それを表に出すのを恥ずかしがる。

だから、私は思わず笑ってしまう。



みほ「……っふ、あははっエリカさんはエリカさんだね」

エリカ「ケンカなら買うわよ?」

みほ「もー違うってば」

569 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/03(土) 19:22:51.64 ID:WAWLSor50


その言葉は、私がエリカさんに伝えられる最大級の賛辞だ。

強いのに優しくて、誇り高いのに嫌味っぽい。

ちぐはぐなようで誰よりも真っ直ぐなエリカさんは、今の私にとって無くてはならない人生の道標で、

そんなエリカさんと一緒にいると私の不安なんて小さなものだと思えてしまう。

私は火照った体を冷ますように、夜の冷気を胸いっぱいに吸い込む。

そして少しだけ冷めた頭で、冷え切った唇で、私の覚悟を伝える。



みほ「エリカさん、私はこれからも貴女の挑戦を待ってます。全力で挑んできてください。全力で、迎え撃つから」



私の覚悟にエリカさんは嬉しそうに微笑む。



エリカ「……言うようになったわね。見てなさい?私は、いつか必ずあなたを下して黒森峰のトップに立って見せるから」

570 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/03(土) 19:26:02.41 ID:WAWLSor50


きっとこれからもエリカさんは私に向かってきてくれるのだろう。

納得するまで、何度も、何度も。

だから私も全力で走って行こう。

例えいつか追い抜かされる日が来るとしても、今度は追いかけられるように。

私は、誰よりも貴女の近くにいたいから。



みほ「エリカさん」

エリカ「何よ」

みほ「一緒に帰ろう?」

エリカ「……散々待たせておいて一人で帰ったらぶっ飛ばすわよ」



そう言ってエリカさんはつかつかと歩いていく。

私は、その背中を小走りで追いかけて―――――その手をぎゅっと握った。

571 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/03(土) 19:26:42.58 ID:WAWLSor50
ここまで。
次回はエリカさんお誕生日スペシャルを予定しております。

また来週。
572 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/03(土) 21:26:38.72 ID:GEvKI423O
乙ー
誕生日スペシャル…上がれば上がるだけこれからの展開が辛いな
573 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/04(日) 23:18:18.36 ID:ShVhrT/Uo
おつー
574 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/10(土) 21:55:22.07 ID:84Q0qfUC0







中等部三年 〜3月6日〜




時間はおそらく18時くらいだろうか。

カーテンが閉め切られ暗い部屋では時計で時間を確認することができず、だからといって携帯を開いては雰囲気が台無しだ。



小梅「それじゃあそろそろはじめましょうか」

エリカ「ねぇ、ホントにいいんだけど……」



私に向かって促す赤星さんにエリカさんが何とも言えない声色で遠慮を示す。

今私たちがいるのはエリカさんの部屋。

とても花の10代のものとは思えない殺風景な部屋は逆にエリカさんらしく、ついつい見回してしまうも、

「行儀悪いわよ」と嗜められて私は再び正面に向き直る。

いつぞやのように、部屋の中央に置かれた四角い座卓でエリカさんを上座に、向かいに私。その間に赤星さんが座っている。

そして私たちの目の前にはろうそくが立てられたケーキがある。

プレートには可愛らしく『お誕生日おめでとう エリカさん』と書かれていて、

ケーキ屋さんに取りに行った時、店員さんに「お友達の誕生日パーティーですか?楽しんでください」と笑顔で言われたのを思い出して私も笑顔になってしまう。

そんな私を見て赤星さんは微笑みながら促してくる。

小梅「それじゃあみほさん」

みほ「うん!」


私たちは二人そろって息を吸い、そして。

575 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/10(土) 21:57:23.17 ID:84Q0qfUC0







『Happy Birhday to You. Happy Birhday to You.』







手拍子を鳴らしながら練習したわけでもない誕生日の歌を綺麗に合わせて私たちは歌う。

頬を染めているエリカさんは照れているのかそれともろうそくに照らされているからなのか。



576 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/10(土) 21:58:25.81 ID:84Q0qfUC0






『Happy birthday, dear エリカさん』






今宵は彼女の誕生日。

貴女が私を祝ってくれた以上に私は貴女の誕生日を祝いたい。

そんな思いを歌に込めて、今日という日が少しでも貴女にとって幸せな日であって欲しくて。


577 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/10(土) 22:03:10.28 ID:84Q0qfUC0







Happy Birhday to You.







578 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/10(土) 22:04:50.40 ID:84Q0qfUC0


それほど大きくない部屋に静寂が戻ってくる。

私たちがエリカさんを見つめると、エリカさん同じように見つめ返す、

そして、諦めたようにため息を吐くと、再び息を吸って、ふっ……と、ロウソクを吹き消した。



小梅「誕生日おめでとうございます、エリカさん」

みほ「おめでとう!」



赤星さんが電灯のスイッチをいれ、部屋に明りが戻る。

私は手が痛くなるくらい全力で拍手をすると、エリカさんは照れ臭そうに笑う。



エリカ「もう、恥ずかしいわね……小学生じゃないんだから」

小梅「ふふっ、小学生だろうと中学生だろうと大人だろうと。祝い事は全力で祝うのが一番なんですよ?」

エリカ「そう……なら、仕方ないわね」



エリカさんは肩をすくめると、そっと微笑んだ。

その様子に少なくとも彼女が悪感情を抱いていない事が分かって安心する。

……そんな人じゃ無いってわかっているのに不安になってしまうのは、私が弱いせいなのかもしれない。



579 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/10(土) 22:06:27.99 ID:84Q0qfUC0



小梅「ほら、早くご飯食べちゃいましょう?せっかくエリカさんの好きなハンバーグ作ったんですから」



私の内心をよそに、赤星さんはてきぱきと準備を進める。

ケーキは冷蔵庫に避難させられ、今度は卓上を様々な料理が埋めていく。

私の時はエリカさんと赤星さんが作ってくれたが、今度は私と赤星さんが手分けをして作った。

……まぁ、ほとんど赤星さん任せで私は大した事出来なかったけど。



エリカ「随分豪勢ね……」

小梅「言ったでしょう?お祝い事は全力でって」

エリカ「……そうね」

小梅「それじゃあ、いただきましょう」

エリカ「ええ、いただきます」

みほ「いただきます」



和やかに始まった食事の時間。

だけど私と赤星さんは料理に手を付けず、じっとエリカさんを見つめる。

その視線に一瞬煩わしいといった表情をするも、すぐに視線を戻してメイン料理の一つ、ハンバーグに箸を入れる。

赤星さん曰く『それなりに準備と練習を重ねた自信作』なハンバーグは箸でもすっと切り分けることができ、エリカさんはその欠片をそっと口に含む。

目を閉じ咀嚼をする姿がなんだか妙に艶めかしく思えてしまい頬が熱くなる。

私がそわそわしていると、エリカさんの細い喉がごくりと動く。

恐る恐る声を掛ける。



580 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/10(土) 22:09:17.77 ID:84Q0qfUC0



みほ「……どう?」

エリカ「……美味しいわ」

みほ「やった!」

小梅「良かったですねっ」



どこか悔しそうに呟いたその言葉は私たちにとっての勝利宣言であり、私たちは揚揚とハイタッチを交わした。



エリカ「もー……人が食べてるところをじっと見るんじゃないわよ。緊張するじゃない」



恥ずかしそうに愚痴るエリカさん。

その姿に微笑ましさをおぼえながら、私たちも料理に手を付け始める。

……うん、よくできました。



小梅「はい、チーズ」



舌鼓を打っていた私とエリカさんの横顔にシャッター音が浴びせられる。



エリカ「あなたまた……」

小梅「お誕生日に記念写真はつきものですよ」



ファインダー越しに得意げに返す赤星さん。

その様子に最初は不満げだったエリカさんも抗議する気が失せたようで、ため息交じりに赤星さんの隣に行くと、デジカメの表示画面をのぞき込む。


581 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/10(土) 22:11:53.36 ID:84Q0qfUC0



エリカ「どうせ撮るならもっとちゃんとした所を残して欲しいわね。ほら、これなんか口あいてるじゃない」



表示画面には先ほど取られたばかりの写真――――ハンバーグを口に運ぼうとしているエリカさんと、それをじっと見つめてる私が写っていた。



エリカ「もう、もの食べてる時の写真ってちょっと行儀悪くない?」

小梅「いいじゃないですか、生活感というか日常の一コマって感じで」

みほ「私もそう思うな」

エリカ「あんまり撮りすぎてもありがたみが薄くなるでしょ」



そう言うエリカさんの顔に微笑みが浮かんでいるのに私たちは何も言わない。

もはやエリカさんが素直じゃないだなんて公然の事実なのだから今さらあれこれ指摘するだけ野暮なのだ。



小梅「思い出せるものはたくさんあるに越したことがありません」



自信満々なその言葉にエリカさんは観念したように肩をすくめる。



エリカ「そ。なら、せめて綺麗に撮ってね?」

小梅「任せてください。カメラ歴一年の腕が火を噴きます」

エリカ「あんま信頼できないわね……」

みほ「大丈夫だよ、エリカさんならどんな写真だって綺麗に写ってるから」



だって私の瞳(ファインダー)に映る貴女はいつだって輝いているから。

……流石に臭すぎるので、言葉にはできないけど。



582 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/10(土) 22:15:43.18 ID:84Q0qfUC0








料理もケーキも楽しんで、ある意味今回のメインイベント、プレゼント贈呈の時間が来た。

エリカさんもそれは察していたようで、いつのまにか正座してどこかソワソワしている。

エリカさんにもそんな情緒があったんだなと失礼極まりない事を思ってしまうも、

そんなにも心待ちにしてくれることが嬉しくてたまらない。

だから、私が最初にプレゼントを渡すことにした。



みほ「エリカさん。はい、誕生日おめでとう」

差し出したプレゼントを、エリカさんは恐る恐る受け取る。

チラチラと私の顔を見てる姿はなんだか小動物的だ。



エリカ「……ありがとう」

みほ「開けて?」

エリカ「なんでそっちから催促するのよ……まぁ、開けるけど」



しぶしぶといった様子で包み紙を綺麗に開き、そっと箱を開けると、

中に入っていたのは一枚のハンドタオル。

ワインレッドで彩られたそれは、私が苦心の末に選び抜いたものだ。
583 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/10(土) 22:19:34.50 ID:84Q0qfUC0


みほ「普段から使える物が良いなぁって思って」

エリカ「ハンドタオルね……あなたにしては良いセンスしてるじゃない?」

みほ「それ褒めてるの?」

エリカ「褒めてるわよ。手触りも良いし……」

小梅「色もパンツァージャケットに合わせられますね」

みほ「というか、パンツァージャケット着てる時に使ってもらいたいからね」



戦車の中というのは想像以上に蒸し暑いものだ。

夏はもちろん冬だって人の熱気となによりもエンジンの熱がこもって酷い暑さになる。

そんな時に汗を拭えるハンカチがあればと。



エリカ「プレゼントに気を使いすぎじゃない?」

みほ「プレゼントだから気を使うんでしょ」

エリカ「それは……そうね」

小梅「ほらほら、みほさんだけずるいですよ。次は私の番です」



割って入るように赤星さんが身を乗り出して、両手に持った小箱をエリカさんに差し出す。



小梅「私からはこれです」



小さな箱をまるで結婚指輪を差し出すように開く。

その中に鎮座しているのはシルバーのレディース腕時計。

小さく可愛らしい見た目と、気品を感じる色合いが安物ではない事を私たちに語り掛けてくる。



エリカ「……ちょっと、これ高くなかった?」

小梅「まぁ、少しだけ……」

エリカ「だめよ、こんなの受け取れないわ。ほら、あなたの方が似合って……」

小梅「エリカさん」


ピシャリと、エリカさんの言葉を遮る。


584 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/10(土) 22:23:04.27 ID:84Q0qfUC0


小梅「その時計は、私がエリカさんに付けて欲しくて、エリカさんに相応しいものを選んだつもりです。気に入らないのであれば仕方がないですが、

   遠慮して受け取らないだなんてやめてください。……私の気持ちは邪魔でしたか?」

エリカ「……ずるいわよそんな言い方」

小梅「知ってます。まぁ、エリカさんに言われる筋合いはありませんが」



まるで意趣返しのように悪戯っぽく笑う小梅さん。

エリカさんはそれに応えるようにふふん、と鼻を鳴らす。



エリカ「そうね。わかった。プレゼント、ありがたくいただくわ」

小梅「ええ。そのために贈ったんですから。それに高いと言ってもあくまでプレゼントとしてはってだけで、時計としては相応のものですよ」

エリカ「わかったから。……ほら、どう?」


エリカさんは私たちに見えるように、手首に巻いた腕時計を掲げる。

小さな腕時計が電灯の明りを反射してシルバーの輝きと共にその存在を主張する。


小梅「よく似合ってますよ」

みほ「うん、エリカさんにピッタリ」

エリカ「……もう」

エリカさんははにかむ様に笑うと、視線を時計に落として何度も何度も、その輝きを楽しんでいた。


585 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/10(土) 22:25:18.28 ID:84Q0qfUC0



みほ「それとこれも」


私たちのプレゼントは充分堪能してもらったので、ここでもう一つ。

未だ時計の輝きに目を奪われているエリカさんに、そっと小箱を差し出す。


エリカ「え?二つも?」

みほ「ううん、ハンドタオルは私からで、これはお姉ちゃんから」

エリカ「……まほさんが」



『これ、エリカに渡しておいてくれ』



相変わらずの無表情で言葉少なめに渡されたエリカさんへのプレゼント。

いきなり私の部屋に来たと思えばなんてことは無い、お姉ちゃんもエリカさんの誕生日を祝いたかったらしい。

だから、一緒に行こうと誘ったのにお姉ちゃんはなぜか固辞してさっさと帰ってしまった。



小梅「先輩も来ればよかったのに……」

みほ「新年度が近いからお姉ちゃんも色々忙しいのかも」



お姉ちゃんは新隊長なのだから、私たちを迎えるにあたって色々頭を悩ませているのかもしれない。

……新副隊長である私が呑気にしていていいのかと罪悪感が芽生えるが、今日だけは許してほしい。

明日、何か手伝えることが無いかお姉ちゃんに聞きに行こう。



エリカ「これ、開けて良いのかしら……」

みほ「いいに決まってるでしょ。ほら、早く早く」

エリカ「急かさないでよ」



お姉ちゃんからのプレゼントを手に逡巡しまくってるエリカさんを急かして箱を開けさせると、

中から出てきたのは一本のペンだった。



みほ「……これって、万年筆?」

エリカ「……」

小梅「なかなか渋いプレゼントですね」

みほ「でも、お姉ちゃんの事だからちゃんとしたのだろうし、良い物だと思うよ」



よく見ればその万年筆はお姉ちゃんがいつも使っているのと同じやつのようだ。

なるほど、自分が使ってて使い心地が良かったものをプレゼントしたというわけか。

お姉ちゃんらしい相手の事をよく考えたプレゼントだなと思う。

それにしても、

586 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/10(土) 22:27:32.73 ID:84Q0qfUC0


みほ「ハンカチに」

小梅「腕時計に」

エリカ「万年筆……あなたたちのプレゼント、普段使いできるのばっか選んできたわね」



エリカさんは3つのプレゼントを眺めながらそう指摘する。

対する私たちはその言葉にガッツリと思うところがある。



みほ「あー……それはたぶん」

小梅「エリカさんに長く使ってもらいたいからでしょうね」



その言葉にエリカさんはじっと私たちを黙って見つめる。

その視線に私たちは白状するように語りだす。



みほ「色々考えたんだけどさ、初めて贈る誕生日プレゼントだから」

小梅「できるだけ長く、そばに置いてくれるようなものを。そう思いまして」



だから一生懸命選んだ。

品質はもちろん色合いまでしっかりと考えて。

エリカさんにとって日常の一部になってくれるように、そう思って。

……まさか3人とも同じコンセプトでプレゼントを選ぶとは思わなかったけど。



エリカ「……もう、次のあなたたちの誕生日プレゼント、適当にできないじゃない」



呆れと照れ笑いが入り混じった言葉、元より適当にするつもりなんてないだろうに。

でも、期待を煽ったのならそれに応えるのも礼儀だ。



みほ「期待してるよエリカさん?」

小梅「なんなら希望出しておきましょうか?」

エリカ「はしたない事言うんじゃないの。……ちゃんと考えておくわよ。……二人とも」


587 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/10(土) 22:32:07.59 ID:84Q0qfUC0


突然姿勢を正したエリカさんが、私たちに呼びかける。

その頬は少し紅潮していて、エリカさんが緊張しているのだとすぐにわかった。


エリカ「……私、家族以外に誕生日を祝われるだなんて初めてで、その……なんて言えばいいかわからないんだけど」



口ごもるように小さくなっていく声、それすら止んで静寂が広がる。

けれども私は、赤星さんは、何も言わずじっと次の言葉を待つ。

そして、



エリカ「料理、美味しかった。ケーキも。小学生みたいだなんて言ったけど、歌、嬉しかった」



ようやく紡がれた言葉は、いつものはっきりした物言いとは真逆なたどたどしく、子供っぽい喋り。

だけど、本当に大切に、慈しむように。



エリカ「プレゼント、本当にありがとう。大事にするわ。ずっとずっと、大切にする」



プレゼントを箱ごと抱きしめる。



エリカ「みほ、赤星さん」



隠せない喜色が声ににじみ出る。



エリカ「私、今日の事を忘れないわ。恩だとかそんなんじゃなくて、ただ……楽しかったから」



彼女の瞳が潤む。

アクアマリンのような瞳が、文字通り海の様に。

どこか、湿度の上がった吐息が、唇を震わす。



エリカ「……うん、楽しかった、みんなではしゃげて、祝ってもらえて。だから」


588 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/10(土) 22:32:38.03 ID:84Q0qfUC0








エリカ「本当にありがとう」







589 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/10(土) 22:33:38.56 ID:84Q0qfUC0
今日はここまで。
エリカさん誕生日スペシャルはもうちょっと続きます。
また来週
590 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/10(土) 22:42:26.37 ID:j00qTr/po
おつおつ
591 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/10(土) 22:50:13.29 ID:1K+lgYof0

みんなエリカさん好き過ぎだろ
俺も好きだけど
592 : ◆eltIyP8eDQ [sage saga]:2018/11/10(土) 23:18:13.80 ID:84Q0qfUC0
>>591
このSSにおいてみほまほ小梅は原作の20倍くらいエリカの事が好きですね
593 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/11(日) 01:52:58.85 ID:lLbK0HFXO
おつー
ここのエリカさんは愛されてますな
594 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/11(日) 02:10:04.00 ID:kZ7Gbwgc0

全くこの幸せ空間から半年でアレとは、>>1はとんだ最低野郎(誉め言葉)だぜ
595 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/12(月) 09:27:22.70 ID:9l8e8g9QO
かわいい(かわいい)
596 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/14(水) 12:42:50.50 ID:ydlWS5+r0

まほのチョイスが(自分の経験を踏まえたことも含めて)渋すぎる
597 : ◆eltIyP8eDQ [sage saga]:2018/11/17(土) 23:13:37.30 ID:+ZhhncjE0






いつものように自室で予習をしていると、机の上の携帯が軽快なメロディを奏でだした。

通知画面には良く知った名前。

私は迷わず通話ボタンを押すと、携帯を耳に当てる。



『……もしもし?』



電話から聞こえてくる声はどこか不安げだ。



まほ「エリカ」

エリカ『あ、良かった……ちゃんと繋がった』

まほ「私が教えたんだからそりゃあ繋がるさ」



何かあった時連絡してくれ。

そう言って渡した連絡先が今回ようやく使われた事に喜ぶべきか、あるいは今日まで全然使われなかったことを寂しがるべきか。



エリカ『そうなんですけどね。……まほさん、プレゼントありがとうございます』

まほ「……喜んでくれたなら良かった。出来るだけ普段使いが出来る物がいいと思ったんだ」



これでも時間がないなりに調べたのだから。

喜んでもらえたのならその苦労が報われるというものだ。



エリカ『ふふっ……みほと赤星さんも同じことを言ってましたよ』

まほ「……考えることは同じか」

598 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/17(土) 23:16:16.90 ID:+ZhhncjE0


あの子達のことだからそんな事だろうとは思っていたが。

妹はともかく後輩とも同じ考えを持ってしまうだなんてちょっと単純すぎだろうか。

私が内心唸っていると、電話越しのエリカが苦笑する。



エリカ『ほんと、お節介ばっかりですよ』

まほ「お前が言うのか」



他でもないそのお節介のせいで未だ黒森峰内外に轟く異名を持ってるお前が。



エリカ『あら、私はいらぬお節介はした事ありませんよ』

まほ「……ああ、そうだな」


お前のお節介に救われた奴が少なくともここにいるしな。

きっと、みほも。



エリカ『……今日は楽しかったです。でも……まほさんが来れなくて残念です』

まほ「同級生3人集まって友人の誕生日パーティーをするんだ。邪魔者になるつもりはないさ」

エリカ『そんな事ありませんよ。邪魔者だなんて……』



違うんだよ。お前たちが邪険に扱うだなんて思ってない。

私が、私自身が。自分を邪魔者だと思ってしまうんだ。

少なくとも、あの3人の間に割って入るには私はまだ、距離があるから。

でも、



まほ「だから……次は私も祝わせてもらおうか」


もうすぐ新学期が来る。

待ち望んだ日々が、ようやく始まる。

その時、今度こそ私は近づいて行こうと思う。

遠慮するつもりは、無い。

599 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/17(土) 23:21:48.91 ID:+ZhhncjE0


エリカ『…ええ、是非。でも、私ばっかじゃ悪いですよ。まほさんの誕生日っていつでしたっけ?』

まほ「7月1日だ」

エリカ『あ……』



流石というべきか、エリカはすぐに察したようだ。

私の誕生日はちょうど全国大会の時期にある。

場合によっては試合日と重なることもあるし、そうでなくとも大事な時期に呑気に誕生日を祝うつもりはない。

ましてや次は大事な大会なのだから。



まほ「もちろん、大会の真っ最中に祝ってもらうつもりはないさ」

エリカ『……すみません、私無神経な事を……』



10連覇がかかった大会の真っ只中、いくら盤石の体制を築いてきたと思っていようとも、不安をなくすことはできない。

私がそうなのだから後輩たちなんてなおさらだ。

そんな中祝ってもらおうだなんて思えるほど私は鈍感でもなければ無神経でもない。



まほ「気にするな。それに……祝ってもらうなら気兼ねなくしてもらいたいしな」

エリカ『……なら、大会後ですね。あの子たちだけじゃなくて隊員全員を巻き込んじゃいましょうか?』


とんでもないことを言うなコイツは……


まほ「やめてくれ……祝い事ってのは数を揃えれば良いってものじゃないだろ?」

エリカ『きっとみんな喜んで参加してくれると思いますよ?』


本気か冗談かわからない言葉に、私はため息交じりに答える。


まほ「そうじゃなくて……私は、貴女たちに祝われたいのよ」


600 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/17(土) 23:26:24.77 ID:+ZhhncjE0



別に他の人に祝われたくないという訳ではない。

ただ、みほがそうであったように、私もそうしてほしいと思うのだ。



エリカ『……ふふっ、わかりました。あの子たちと考えておきます。……楽しみにしててください』

まほ「待ちくたびれるわね」

エリカ『そこは我慢してください。年長さん』



からかう様な声色に、私は拗ねたように唸った。


601 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/17(土) 23:28:12.63 ID:+ZhhncjE0




エリカとの電話の後、私はベランダに寄りかかって夜空を眺めていた。

月明かりの美しさが夜風の寒さをほんの少し和らげる。



まほ「もうすぐ、ね」



もうすぐあの子たちが進学してくる。

そして、あの子たちはきっと黒森峰にとって欠かせない戦力となるだろう。

みほもエリカも赤星も、この3年で実力を着けてきた。

まだまだ足りない部分はあるが、あの三人の絆はきっと、何よりも強い武器になるだろう。

そこに割り入ろうとしている私は、もしかしたらお邪魔虫なのかもしれない。

でも、私だって少女なのだ。

友達と和気あいあいと過ごしたいと思うのは悪い事ではないはずだ。

それが後輩だろうとなんだろうと、たかが一歳の差なのだからどうこう言われる筋合いはない。

……言い訳じみてる自覚はある。

ずっと戦車道ばかりだった私は、たぶん人との付き合い方がわからないのかもしれない。

命令するなら、されるなら、何の苦労もないのに。

そこに、戦車道以外の何かを求めようとすると途端に私は不器用になってしまう。

もっと幼いころはそんな事無かったはずなのに。

でも、今は違う。

私は未だ不器用だけれども、それでも求めたいものの為に踏み出せる。

602 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/17(土) 23:29:25.28 ID:+ZhhncjE0






『だから感謝しています。あなたに出会えた事を。

 尊敬しています。あなたを……西住まほさんを』






603 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/17(土) 23:30:47.86 ID:+ZhhncjE0


ああ、私も感謝しているよ。

尊敬しているよ。

だからもっと理解しあいたいんだ。

不器用な私が、それでも踏み出したいと思えたんだ。

私の事をもっと理解して欲しい、貴女をもっと理解したい。

だから、



まほ「楽しみ」


604 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/17(土) 23:31:50.29 ID:+ZhhncjE0




ふふんと鼻をならしたのは、たぶん無意識だった。



605 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/17(土) 23:33:46.85 ID:+ZhhncjE0




寒空の下の帰り道、一人ならきっと早く帰りたくて縮こまりながら小走りしていたんだろうけど、、

隣に赤星さんがいるからか、歩みはゆったりとしている。



みほ「エリカさん、喜んでくれて良かったね」

小梅「はい、本当に。でも、ちょっと驚いちゃいました。エリカさんがあんな素直にお礼を言ってくれるだなんて」

みほ「あはは、そうだね。エリカさんの事だから『別に頼んだわけじゃんないけど、とりあえずお礼ぐらいは言っておくわ』みたいに言いそうだったのに」



エリカさんがたまに見せる素直さは、正直ズルいと思う。

普段は意地悪なくせにあんな風に素直に、真っ直ぐにお礼を言われたらなんだって許せてしまう。

それにしたって今日のあの笑顔は私も初めて見る笑顔だった。

いつもの悪戯っぽい笑みとも、クールな微笑みとも違う、本当に心からの笑顔。



小梅「エリカさんも変わってきてるのかもしれませんね」

みほ「エリカさんが?」

小梅「出会った頃からエリカさんはやさしいけど、それ以上に頑なでしたから。みほさんへの態度もそうですが、私にも見せていない部分があると思います」

みほ「エリカさんが見せていない部分……」

小梅「それはたぶん、今日みたいに素直にお礼を言った事だけじゃなくて、もっと深い……エリカさんだけが抱えてる何かがあるんじゃないかなって」



瞬間、脳裏によぎる、いつかの海辺でのエリカさん。

あの、今にも泣きそうな苦悶に満ちた表情を、私は未だに見間違いだと思っている。

エリカさんは私と違って強い人なのだから。

でも、もしかしたら。

私はまだ、エリカさんの全てを知らないのかもしれない。



みほ「……どうしてそう思うの?」

小梅「……なんとなくですかね」



そう答えた赤星さんは一拍押し黙ると、吐き出すように言葉を続ける。


606 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/17(土) 23:36:16.98 ID:+ZhhncjE0


小梅「……まぁ、しいていうなら私はエリカさんを遠くから見ていますから」

みほ「え……?」

小梅「みほさんみたいにいつも隣にいるわけじゃないけれど、だからこそなんとなく見えるものがあるんですよ」



赤星さんが私の前に出て、夜風を纏うようにくるりと振り返る。



小梅「私は貴女たちが大好きです。一緒にいて楽しいです。でも、私は貴女たちを少し離れたとこからも見たいんですよ」



そう言って両手の指で四角を作り、私を捉える。そして、慈しむように微笑む。

時折、赤星さんが私たちから距離をとっているのには気づいていた。

率先して写真係をして、まずは自分以外をフレームに収めようとするのも。

それを心苦しく思う事はあった。

けれども、カメラを向けてる赤星さんはいつだって本当に嬉しそうで、

その笑顔を見ればそんな私の心苦しさなんて余計なお世話でしかないのだと理解できる。

私は、友達とは一緒にいたい。隣で他愛もない事で笑ったり、拗ねたりしたい。

でもそれだけが友達の在り方ではないのだろう。

赤星さんのように一歩引いて初めて見える景色があるのだろう。

その上で一言いうのなら、



みほ「赤星さん、結構めんどくさいね」

小梅「あれ?知らなかったんですか?」



私の言葉に赤星さんはおどけて返す。

それはまるで、既にした事のあるやり取りのように滑らかだった。

なので私もそれに応えておどけて見せる。



みほ「ふふっ、私たちまた理解し合えたね」

小梅「まだまだですよ、私が実は他の学校のスパイだとか、異星人だとかそういう秘密を抱えてるかもしれませんよ?」



なんてことだ、そんな秘密を抱えているのに全く気付かせないだなんて。

赤星さんは隠し事の才能があるなぁ。なんてね。



小梅「だから……まぁ、ゆっくり行きましょう。あと3年もあるんです。エリカさんの事も、みほさんの事も、私の事も。ゆっくり伝え合っていきましょう?」

みほ「……うん、そうだね」



そして再び私たちは家路を歩み始める。

散々語り合ったせいか、なんとなく無言の時が流れ数十秒ほどたった時、



みほ「あ」


ふと、思い出したことが。


607 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/17(土) 23:38:31.31 ID:+ZhhncjE0



小梅「どうしたんですか?」



いけないいけない。早くお礼を言わなければいけなかったのにすっかり忘れていた。



みほ「そうだ赤星さん。この間はありがとう」

小梅「え?何のことですか?」

みほ「ほら、私とエリカさんが決闘した日、エリカさんに待っててって頼んでくれたんでしょ?」



たぶん、あのまま一人でいたら、私の心は黒い何かに置き換わっていただろうから。

エリカさんの言葉に救われたのと同じく、赤星さんの気づかいにも私は救われたのだ。

本当に嬉しくて、ありがたい。

私はもう一度ぺこりと頭を下げてお礼を言う。



小梅「……何のことですか?」

みほ「……え?」



赤星さんはまるであの時のエリカさんのように『何を言ってるんだこいつは』と言わんばかりの表情で首を傾げる。



小梅「私、あの日は普通にエリカさんと一緒に帰ったんですけど……で、分かれ道でまた明日って」

みほ「つまり……」



私たちは顔を見合わせてため息を吐く。

ああもう、エリカさんは……



小梅「……ほんと、素直じゃない人ですね」

みほ「……全くだね。素直じゃなくて、お節介焼き」

608 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/17(土) 23:40:47.32 ID:+ZhhncjE0


きっとこの事を言ったって「なんの事かしら?」とか言って知らんぷりをするのだろう。

なのでこの話はこれでおしまい。

明日からはまた、卒業式と進学、そして副隊長への就任に気を揉むのだ。

素直じゃないお節介焼きさんにいつまでも構ってはいられないのだ。

……まぁ、私から構ってもらいにいくのだろうけど。

とりあえず、私たちはまた一つ、エリカさんへの理解を深めた。



みほ「赤星さん」



それを踏まえてもう一つ、共有しておきたい事がある。



みほ「私ね、忘れないよ。エリカさんのあの笑顔を」



609 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/17(土) 23:42:00.97 ID:+ZhhncjE0










『本当にありがとう』









610 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/17(土) 23:43:01.57 ID:+ZhhncjE0


いつもの神秘的なまでの微笑みとは違う、年相応の、あるいはそれよりも子供っぽい。

だけど心からの笑顔を。

私は忘れない。



小梅「……そうですね。私も忘れませんよ」



多くを語らずとも赤星さんは私の言葉の意味を理解してくれる。

私たちの共通認識がここに成り立っていることを心から嬉しく思う。



みほ「……月が綺麗だね」

小梅「ええ、本当に」



見上げた空に、雲一つかかっていない月。

その月明かりのような優しさを、夕日のような暖かさを。

悪戯っぽい笑顔を、心を奪う様な美麗な微笑みを、子供のように笑った笑顔を。





そうだ



忘れない



私は、あの笑顔を




611 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/17(土) 23:45:11.73 ID:+ZhhncjE0





忘れることが出来ない




612 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/17(土) 23:47:05.70 ID:+ZhhncjE0

ああ

ああ

ああ



あそこで終わっていれば良かったのに

美しい思い出のまま、完結できていれば良かったのに

愚かな私が、それ故に大切なものを失う日が来なければ良かったのに

悔やんだところで時を巻き戻すことはできない

それが出来るのであれば私なんて存在していないのだから

消し去りたい過去も、引き裂きたい今も、捨て去りたい未来も、私の意志を汲み取ることなくあり続けるのだ

涙は枯れ、痛みすら曖昧になるほどの絶望

私の罪が、その程度の罰で許されていいわけがない

613 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/17(土) 23:48:59.65 ID:+ZhhncjE0






『なにニヤニヤしてるのよ』

『ん?……神様っているのかなーって』





614 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/17(土) 23:49:37.13 ID:+ZhhncjE0




天罰なんてありはしなかった

あの人がいないのに、私が存在していることが、神様がいないという証明なのだから



615 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/17(土) 23:51:27.88 ID:+ZhhncjE0


ただただあの時の私たちは笑っていた

大切なものの価値に気づいていながら、享受するばかりで何も与えていなかった

もしも私が強ければ、賢ければ、未来は違ったのかもしれない

けれども私は、愚かにもそれが当たり前の日々なのだと、変わらずに明日は、未来はあるのだと信じ続けてた

繋いだ手の温もりが永遠のものだと疑わなかった

そして当然の様に


616 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/17(土) 23:52:03.78 ID:+ZhhncjE0











終わりは、すぐそこまで来ていた










617 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/17(土) 23:53:13.96 ID:+ZhhncjE0
えー、あー、はい。やっとこさ中3編が終了です。
来週からいよいよ高1編なんでよろしくおねがいします。
また来週
618 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/18(日) 00:34:02.58 ID:e3SqNp/Oo
おつー
遂にきたかー
619 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/18(日) 02:55:33.98 ID:n1KDoeQWO
乙です
ここから黒森峰黄金期ルートに入る分岐はないのか…
620 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/18(日) 03:03:05.45 ID:6+HbvDK50

死別もだが、正直そこから西住殿が壊れて成り代わろうとする過程がより怖い
621 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/18(日) 07:38:17.69 ID:0qvpjjCc0
ワンピースの回想かよ
622 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/19(月) 03:35:33.42 ID:HlavTYr/0
これが終わったら、黄金期ルートも書いて欲しいなあ
623 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/19(月) 06:27:34.43 ID:gpLWM6vOO
乙 ハッピーエンドの可能性もあるから‼︎‼︎
624 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/24(土) 21:10:48.70 ID:1i+sRLwV0







高等部1年 〜5月〜



ざわめきに満ちている食堂。

中等部から高等部に移ってもそういうところは変わらないのだなと少し安心感を覚える。

新年度が始まって一月近くが経ち、ようやく学食に行くのに案内されずともよくなった。

「鶏のほうがもうちょっと物覚えが良いわね」なんて言われる日々とはおさらばなのだ。

私は日替わり定食ののったトレイを揺らさないよう気を付けながらテーブルへと向かう。



みほ「赤星さん、エリカさんおまたせー」

小梅「大丈夫ですよ」

エリカ「別に待ってないわよ」



高校生になるとどうなるのかなんて思っていたが、結果として大して変わっていないというのが本音だ。

制服はそのままだし、校舎こそ高等部のに移ったものの、別に目新しいものがあるわけでもない。

流石に戦車道の練習は中等部よりも厳しくなっているが、それにしたって進学前にはもう高等部の練習に加わっていたので新鮮味も薄れている。

でも、それが嫌なわけじゃない。

こうしてエリカさん、赤星さんと一緒にお昼を食べる時間はどれだけ数を重ねようとも私にとって大切な時間なのだから。

だから、今日も同じテーブルで、好きなものを食べながら、他愛もない話でお昼休みを楽しむのだ。




『文科省は以前より計画していた学園艦の統廃合対象校の選定を行うことを決定』




学食にあるテレビからそんなニュースが流れてくる。

聞くには国の財政状況が云々でお金のかかる学園艦を維持するのが大変だから、いくつか廃校にするといった事のようだ。



みほ「学園艦が統廃合って……うちは大丈夫なのかなぁ……」



独り言のように呟いた不安をエリカさんは耳ざとく拾う。



エリカ「統廃合の対象は公立、それも艦の老朽化や生徒数が減っているようなところが対象よ。うちには関係ないわ」

小梅「そもそも戦車道の優勝常連校の黒森峰を潰す理由なんてありませんよ」

みほ「それもそっか。……でも、選ばれた学校の人たちはなんだか可哀そうだね」


625 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/24(土) 21:16:28.62 ID:1i+sRLwV0



学園艦は基本中高一貫だ。小学校を卒業して6年間を親元を離れて過ごしてきた場所なのだ。

これが陸での話ならまた違うのかもしれない。廃校になったとしてもすごした土地や、景色は残っているのかもしれないのだから。

でも学園艦は違う。廃校になれば解体され、そこにあった思い出や景色は跡形も残らず無くなってしまうのだろう。

……それは、きっと辛い事だ。

顔も知らない人たちの気持ちを勝手に想像して、勝手に落ち込んでしまう。

そんな私に赤星さんもつられたようで、箸の進みが遅くなる。



小梅「……そうですね。何年も暮らしてた場所が母校と一緒に無くなってしまうんですから」

エリカ「学園艦の維持費を考えれば仕方のないことよ、公立校は税金で運用しているのだから。」



感傷的な私たちの言葉に対してエリカさんはどこまでも理性的だ。



小梅「エリカさんはクールだなぁ……」

エリカ「……それに浮いた予算でより良い事が出来るのなら廃校になった所の生徒たちも少しは浮かばれるでしょ」

みほ「だといいけど……」

エリカ「よその事考えている暇があるなら今年の大会の事を考えなさい」



この話はこれで終わり!といった風に話題が変わる。

とはいえ、その話題はもう幾度となくされたものなのだが。



小梅「エリカさん最近そればっかですね」

エリカ「当たり前でしょ。今年優勝すれば黒森峰の10連覇、前人未到の大記録に私たちが名を連ねられるかもしれないんだから」

みほ「頑張らないとね」

エリカ「何人ごとみたいなこと言ってるのよ。あなたが一番頑張らないといけないのよふ・く・た・い・ちょ・う」

みほ「うぇぇ……」


呑気な私に唇を尖らせたエリカさんが、対面から額をぐりぐりと押してくる。

たまらずうめき声をあげる私を見て、エリカさんは満足げに微笑むとまた自分のランチに戻る。

今日のエリカさんのメニューは焼きサバ定食だ。

そして昨日はハンバーグだ。



小梅「相変わらず仲いいんですねぇ……」


私たちのやりとりを見て呆れたように笑う小梅さん。

私は「そうだよ」と微笑み返し、エリカさんは「節穴」と簡潔に突っぱねる。

そんな感じにいつも通りの時間を過ごしていると、横合いから声を掛けられる。

626 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/24(土) 21:22:03.97 ID:1i+sRLwV0



「あれ?榴弾三姉妹揃い踏みじゃん」

みほ「先輩?どうしたんですか?」



声を掛けてきたのは活発そうなショートヘアーの2年生だった。

その隣にはお淑やかそうな長い黒髪の先輩が微笑んで立っている。

この二人は私とエリカさんの決闘をいつも最前席で見ている人たちだ。

この間のなんてわざわざ中等部まで見に来ていたのだから、よほど私たちに期待してくれているのか、はたまたヒマなのか。



「ごめんね?ご飯食べてる時に」



黒髪の先輩が手刀で謝意を示して、私がそれに返そうとするも、その声は別の声にさえぎられる。



小梅「待って、ちょっと待ってください。…今なんと?」

「ごめんね?ご飯食べてる時に」

小梅「そっちじゃなくて」

「榴弾三姉妹揃い踏みじゃん」

小梅「……なんで私が含まれてるんですか?」



いつもの穏やかな雰囲気が消し飛んだかのような真顔。



「いや、お前らいっつも一緒じゃん?仲間外れは可哀そうだなって私が広めておいたんだ『榴弾姉妹は新たな妹を取り込んで三姉妹となった』って」

小梅「余計なお世話甚だしい……」



赤星さんの苦々しさをふんだんに込めた表情に私は苦笑するしかない。

私、その片割れなんだけどな……


627 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/24(土) 21:23:43.09 ID:1i+sRLwV0



「ごめんなさいね……この子、考えなしだから」

小梅「一応それ悪名なんですから私を巻き込まないでくださいよ……」

エリカ「そうですよ、榴弾姉妹はメンバー増員はしません」



赤星さんの不満をよそに黙々と食事を続けていたエリカさんが突然口を挟む。



みほ「エリカさん……」



悪名だと思っていたけれど、エリカさんがこんなにも私とのコンビ名に愛着を持っていてくれただなんて……

からかわれた日々は、めちゃくちゃ怒られた結末は私たちの絆を育むための過程に過ぎなかったのだと、思わず涙しそうになる。



エリカ「私の代わりに赤星さんが入って、今後はみほとの新体制で行ってくれるんですから」

「そうだったのか……代替わり早いな」

小梅「体よく押し付けないでください」



榴弾姉妹なんてやっぱり悪名だ。

さっさと風化してくれないだろうか。



「相変わらず仲いいなーお前ら」

「ちょっと、あんまり邪魔しちゃ悪いわよ。それよりも」

「おっと、そうだそうだ。なぁ隊長知らねー?」

エリカ「隊長ですか?なんでまた」

「一度隊長とお昼一緒に食べようって思ってたんだけどなかなか捕まらなくて……」

「あいつ付き合い悪いからなー。昔っから何考えてるかわかんない顔してるし」

みほ「あはは……」



628 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/24(土) 21:25:05.87 ID:1i+sRLwV0


それはまぁ、妹である私も良く知っている。

でも、お姉ちゃんは決して何も考えていないわけではない。

むしろ沢山考えて、悩んでいるから表情を出せないのかもしれない。

私はそれこそ生まれたころから一緒だからお姉ちゃんが何を考えているのかわかるけれど、そうじゃない人には難しいのだと思う。



みほ「たぶん、昔のお姉ちゃんならともかく最近のお姉ちゃんなら先輩を邪険にしてるとかじゃなくて、本当にただ忙しいんだと思いますよ」

「そうかー?その割には新年度に入ってからやたらお前たちと仲が良いし、これはあれか。私たちが嫌われてるのか」

「私を含めないでよ」

みほ「そ、そんな事は無いと思いますよ?ほら、最近のお姉ちゃん結構人と交流しようと努力してるみたいですし」



姉の評判が下がるのは妹である私としても嬉しくないのでフォローを入れる。

とっつきにくいのは事実であるが、最近のお姉ちゃんが変わってきたのもまた事実なのだ。



「……そうだなー、それこそ去年ぐらいから急に雰囲気丸くなったっていうか、

 何考えてるかわかんないのはそのまんまだけど張り詰めたような空気は感じなくなったな」

「何かあったのかな?」






『お姉ちゃん、エリカさんと何かあったの?』

『……内緒だ』




629 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/24(土) 21:28:29.45 ID:1i+sRLwV0


脳裏をよぎるあの時の会話。

私はエリカさんをじっと見つめる。

私の視線に気づいたエリカさんは不審げな目つきを返してくる。


エリカ「……何よ?」

みほ「……別に?」


お姉ちゃんとエリカさんの間に何があったかは知らないが、エリカさんが何も言わず、お姉ちゃんが語りたくないというのであれば余計な詮索はしないでおこうと思う。

少なくとも、お姉ちゃんにとっては大切な思い出なのだという事はわかるから。



「副隊長、あなたもなにか困った事とかあったらちゃんと相談してね?指揮系統はあなたの方が上だけど、それでも私たちは先輩なんだから」

みほ「……はい。その時は是非」

「うーん、やっぱ妹の方が愛嬌あるよな。あいつも見習ってほしいわ」

みほ「あはは……」



お姉ちゃんとエリカさんの間に何があったかは知らないが、それはそれとしてもうちょっと人当りを良くするべきだなと思う。

……なぜ妹の私がそこまで姉の社会性を気にかけねばならないのだろうか。

でも、このままだと将来お姉ちゃんが西住流の家元として多くの門下生を引っ張っていくんだし、それ以外にも偉い人と関わるんだろうからやっぱり人との接し方は大事なんじゃ……

いやまて、そもそもお母さんがお世辞にも人当りが良いとは言えない気が。

正直前回の一件もあって偏見が多分に含まれているのは否めないが、それにしたって鉄面皮という言葉が相応しい程度にはアレだし……

とはいえ私が知らないだけで仕事中は営業スマイルが出来る人なのかもしれない。

とにかく、私は私で大変なんだからお姉ちゃんはお姉ちゃんで頑張って。

私が姉の将来への悩みを全力でぶん投げると、活発そうな先輩がふと、思い出したように口を開く。



「そういえばあいつ最近職員室に良く行ってるけどなんか知ってるか?」

みほ「職員室で?なんだろう……もうすぐ大会だし、それの関係かな?」



隊長という役職は思った以上に教師とのかかわりも深い。

当然の事だがいくら隊長であっても生徒だし、その生徒が多くの生徒を纏めるという都合上先生の協力は不可欠なのだから。

私が中等部で隊長を務めていた時も何度か職員室に出向いて今後の練習計画について説明したりした。

たまに赤星さんを連れて行って代わりに説明してもらった。

エリカさんにバレて叱られた。

630 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/24(土) 21:29:42.36 ID:1i+sRLwV0


エリカ「隊長勉強も頑張ってるし普通に授業内容の質問とかじゃない?」

「あー、真面目だなー。もうちょっと力抜けばいいのに」

「私たちと違って隊長なんだからしょうがないでしょ」

「そうだけどさ……まぁいいや。邪魔して悪かったな。隊長に会ったら『友達が一緒に飯食いたがってた』って伝えといてくれ」

みほ「あ、はい。わかりました」

「それじゃあまた練習でね?」

「10連覇はすぐそこだ!頑張ろうな!」

エリカ「はい!」



元気よく手を振る先輩と、小さくお淑やかに手を振る先輩。

二者二様の挨拶で去って行き、人波に消えていった。



エリカ「……言われなくても頑張るわよ」

小梅「もう、エリカさんってば……」



何を分かり切ったことをと、鼻を鳴らして囁くエリカさんを赤星さんが嗜める。

だけど私は、無表情でじっと黙り込んでいた。



エリカ「また難しい顔してる」

みほ「え、あっ……」



その言葉にハッとすると、心配そうに私をのぞき込む赤星さんと、呆れたように私を見つめるエリカさんに気づく。



エリカ「対面で辛気臭い顔されるとごはんがまずくなるんだけど」

みほ「ごめんなさい……うん、大丈夫だよ!」

エリカ「……」

みほ「あはは……」



無理やり作った笑顔はすでに一度見破られている。

緩まぬ視線に、私は誤魔化せない事を悟る。


631 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/24(土) 21:31:37.16 ID:1i+sRLwV0

みほ「……やっぱりちょっと大丈夫じゃないかな」

小梅「みほさん……?」

エリカ「……どうしたの?」


エリカさんの問いかけは心配とかそんな感情ではなく、ただただ『質問』として聞いてきたように感じた。

私は赤星さんと、エリカさんを交互に見つめて、そっとため息のように言葉を紡ぐ。



みほ「不安、なんだ。1年生で副隊長を任されて、その上10連覇までかかってて。不安で、怖くてしょうがないんだ」



何度も何度も何度も、不安や恐怖を感じてきた。それこそ、ここに入学してからは当たり前のように。

今更過ぎる感情は、けれども吐露するにはまだ私は経験不足だった。



みほ「ごめんなさい、私また……隠そうとしちゃった」



不安を隠す必要はない。エリカさんはそれを何度も教えてくれたのに、まだ私は臆病だった。



エリカ「……みほ、私はね、自分の考えを誰かに察してもらいたいって人が嫌いよ。特に、悩みや不満をね。

    何も言わないくせに『私はこんなに苦しんでることを知ってください』なんて思ってるようなやつが昔から大嫌いよ」

小梅「エリカさん」



エリカさんは小梅さんの咎めるような語気に一旦口を閉じる。

しかし、すぐにまた先ほどの私のようにため息交じりの言葉を吐き出す。



エリカ「……だから昔のあなたが大嫌いだったわ」

みほ「……」



うん、私も大っ嫌いだったよ。

そして、そんな私を嫌いだと言ってくれる貴女が、私は――――




エリカ「でも、年月は人を変えるものね……だいぶマシになったじゃない」



632 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/24(土) 21:35:03.51 ID:1i+sRLwV0


エリカさんの言葉にまるで日差しのような優しさが灯る。

こわばった表情が緩み、いつも私をからかうときのような笑顔を私に向けてくる。



エリカ「みほ、あなたの言葉、確かに伝わったわ。だから、私もあなたに、あなた達に言いたいことがある」

小梅「私にもですか?」

エリカ「ええ。……みほ、赤星さん」




エリカ「私も不安よ」




みほ「え……?」

小梅「……」



穏やかに、なんてことないように語られたその言葉は、だけどもエリカさんが言うにはあまりにも異質なように感じた。



みほ「不安……?エリカさんが?」



驚きと動揺のままに投げかけた疑問に、エリカさんは唇を尖らせる。



エリカ「10連覇。それがかかった大会。不安にならないわけないでしょ」

小梅「……ですよねぇ。私も不安でしょうがないですよ。ご飯も喉を通らなくなっちゃいます」

エリカ「その綺麗な皿見てもう一度言ってみなさい……」

みほ「で、でもエリカさんは……」



強い人なのに。私なんかよりもずっとずっと。

動揺を抑えきれない私は、しかし口に出そうとした思いをぐっと飲み込む。

エリカさんが私の瞳を貫きそうなほど鋭く見つめていたから。



エリカ「不安じゃない人なんていないわ。私も、赤星さんも……まほさんも。きっと先輩たちも。みんなそうなのよ、自分だけが特別だなんて思わないで」


633 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/24(土) 21:36:49.97 ID:1i+sRLwV0


自分が特別だなんて思ったことが無い。そんな事、言えなかった。

生まれも育ちも、学校での立場も何一つ普通じゃないって思ってたから。

エリカさんたちと一緒にいる事で『自分だけが』なんて気持ち、なくなってたと思っていたのに。

たった今、年月による成長を褒められたばかりだというのに、傲慢だと改めて指摘されて、私はまた、自分が成長していないのだという事を自覚してしまう。

思い上がりを恥じていると、しかしエリカさんもまた私と同じように苦々しい顔をしていることに気づく。



エリカ「……ああ、もう。私はまたこんな……なんでもっと……」

みほ「エリカさん?」



心配になって声を掛けると、エリカさんはバツが悪そうに私を見る。



エリカ「えっと……つまり、だから……うん、もっとまわりを頼りなさい。頼りないあなたを支えてくれる人がいるんだから。誰かの不安を、あなたが解きほぐす事だってあるはずよ」

みほ「……そう、かな」

エリカ「そうよ」

小梅「ええ、そうですよ」


二人の言葉に私はようやく安堵する。

他でもない二人が、私の不安を解きほぐしてくれた。

だから、まずは感謝する。


634 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/24(土) 21:38:06.39 ID:1i+sRLwV0


みほ「エリカさん、赤星さん。ありがとう」

エリカ「感謝してるなら行動で示しなさい」

みほ「うん。……エリカさん」

エリカ「何よ」

みほ「大丈夫だよ。私たちがいるから」

エリカ「?………………っ!?」



言葉の意味に気づいた途端、エリカさんが真っ赤になる。

エリカさんや赤星さんがそうしてくれたように私もエリカさんの不安を解きほぐしたい。

沢山の感謝とほんのちょっとの意趣返しを込めた言葉をエリカさんはちゃんと受け取ってくれたようだ。

エリカさんはあたふたしながら必死に口を動かそうとする。



エリカ「わ、わかってるわよっ!じゃなくて、余計なお世話!!」

小梅「わかってるですって。良かったですねみほさん」

みほ「うん!」

エリカ「そうじゃなくて!!」



不安を吐露してもらえること。それが、こんなにも嬉しいものだなんて思わなかった。

信頼してもらえていると実感できる。こんなにも簡単な事で、私たちは分かりあえるんだ。

必死で誤解(誤解じゃない)を解こうと手と口をせわしなく動かすエリカさんを見つめながら、私は胸に灯った暖かさを心地よく感じていた。

635 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/24(土) 21:41:07.70 ID:1i+sRLwV0






みほ「あ、一つだけ聞いても良い?」

エリカ「……何よ?」



散々からかった結果、拗ねに拗ねたエリカさんをなんとか宥め倒し、

ようやく落ち着いたところで、私は何度目かの問いかけをする。



みほ「もう、機嫌直してよ。……私の事、まだ嫌い?」

エリカ「嫌い」

小梅「即答ですか……」



呆れたような赤星さんの言葉にエリカさんは「仕方ないじゃない」と小さく返す。

どうやらからかわれた事を根に持っているという訳ではないようだ。



エリカ「だってあなた未だに頼りないし」

みほ「頼りないから頼りなさいって今言ったばかりじゃ……」

エリカ「あのねぇ……頼りないやつが一人で抱え込んだって何も良い事無いけれど、だからってそのままで良いわけないでしょ」

みほ「うぅ……」



ぐうの音も出ない。



エリカ「あと同じこと何度も言わせるのがダメね。似たような事去年も言ったでしょ」

みほ「ぐぅ……」



出た。

まぁ、初めて喧嘩した時と誕生日の時の二回も言ったのにこのザマなんだからそのぐらい言いたくなるだろう、


636 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/24(土) 21:43:38.68 ID:1i+sRLwV0


みほ「で、でも友達としてならどう……?いい加減私の事友達だと思ってくれない?」

小梅「凄い。めげない」

エリカ「変な根性つけたわね……ダメよ。友達だなんて無理ね。……あなたにはもう、赤星さんって友達がいるでしょ?」

みほ「エリカさんだって大切な友達だよ」

エリカ「……下らない事言って―――――」

みほ「下らなくなんかない。大切な事だよ」


言葉に、わずかな怒りが乗る。

その言葉はたとえエリカさんであっても許せない言葉だった。

私の大切な人の事を、下らないだなんて言わせない。

私の様子にエリカさんは驚いたように目を見開く。

そしてバツが悪そうに目線を下げると、



エリカ「……そう。悪かったわね、ちょっと考えなしだったわ」



呟くように謝った。

その様子に今度は私たちが驚かされる。

赤星さんなんて「嘘、エリカさんが謝った……」とまるで未知との遭遇をしたかのようだ。

両手を頬に当ててのリアクションはこの間テレビでやってた洋画の影響かもしれない。



エリカ「私を何だと思ってるのよ……みほ」



赤星さんの様子に若干眉をひくつかせるも、エリカさんは私に向き直ると目を閉じゆっくりと開く。



エリカ「……それでも、今は目の前の事に集中しなさい。あなたにとって大切な事なのかもしれないけれど、それは今すぐ成すべき事ではないでしょ?」

みほ「それは……」

エリカ「大会に懸ける思いは私と同じだって、そう思ってるわ。……違う?」



諭すような言葉に私は反論の糸口を見失い、ゆっくりと首を振る。



637 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/24(土) 21:45:27.04 ID:1i+sRLwV0


みほ「……ううん、違わないよ」

エリカ「なら、今はそっちを第一に考えなさい。……私は、逃げたりしないわ」



ダメ押しのようにそう付け加える。

本当に……本当にこの人は……

そんな言い方をされてこれ以上食い下がれるわけがない。

計算でやってるのだとしたら極悪だし、素でやってるのならもはや邪悪だ。

私はエリカさんと、エリカさんの思い通りに引き下がってしまう自分の両方に苛立ちつつ、

それを厚めのオブラートに包んでエリカさんに伝える。



みほ「エリカさんはズルいよ」

エリカ「……ええ、よく知ってるわ」


私の精一杯の嫌味にエリカさんは聖母のような微笑みで返す。

それでもう、勝敗は決まった。

私はもう何も言わずただただエリカさんを見つめ返す事しかできなかった。

そうして数秒見つめ合っているのを見かねた赤星さんがパンパンと手を叩き、終了の合図を告げる。



小梅「……はいはい、真面目な会話はそこまでにしましょう?エリカさん、今何時ですか?」

エリカ「え?……あ」



エリカさんが銀色に輝く腕時計に目を落とすと、どうやら時計の針は思っていた以上に進んでいたようだ。

エリカさんが呟いた現在時刻はそう遠くないうちに授業の開始のチャイムがなる時間だった。



小梅「もうすぐ休み時間も終わりです。さっさと食べちゃいましょう」

みほ「わわ、急がないと……」

エリカ「ちょっと袖にお醤油つきそうよ、気を付けなさい」

みほ「うわ、ありがとうエリカさん」

エリカ「もう……出会った頃と変わらないわねあなたは」

みほ「エリカさんもね」

エリカ「……ええ、私は私だから」

小梅「遊んでないでさっさと食べてください!!」


638 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/24(土) 21:48:43.11 ID:1i+sRLwV0






大会までの事は語ることが無い。

これまでと同じようにエリカさんたちと一緒にいて、お姉ちゃんもいて、先輩たちもいて、

困ったことがあったらみんなを頼って、

お姉ちゃんがそうであるように、そうであったように、私も副隊長として出来る事を模索しながらも精一杯やってきた。……やってこれたと思う。

もちろんみんなも全力で努力していた。

日々の練習は時間さえ忘れるほど大変で、それが毎日のように続いた結果、気が付くと全国大会が始まってて。

余裕なんて無かった。お姉ちゃんと違って私はそんなに要領がよくないから。

それでも、長くない人生で積み重ねてきたものを出し切ろうと全力を尽くした。

みんなも、それに全力で応えてくれたと思う。

元より黒森峰は優勝常連の強豪校。そこに集まった生徒たちからさらに選りすぐって選ばれた出場選手たちに油断なんてなかった。

当たり前のように努力してきた人たちなのだから。

その身に宿った全てが、勝利の為に積み重ねられたものなのだから。

故に私たちは、まわりの期待通りに勝ち進んで行った。





639 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/24(土) 21:50:26.11 ID:TABS1xZz0
ついに来るのか……
640 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/24(土) 21:50:50.33 ID:1i+sRLwV0
ここまで。
流石に黒森峰の名無しが枯渇したのでちょこちょこ出してたオリキャラっぽいモブ先輩を出しましたが、別に深く関わるわけじゃないので忘れてくださって構いません。

また来週。
641 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/24(土) 21:53:44.47 ID:TABS1xZz0

今日はここまでか
しかしエリカさんのママ力(ちから)はとどまるところを知らないな
642 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/24(土) 22:25:25.47 ID:aC3WZrRzo

逸見鯖食ってるけど大丈夫?
体調悪い?
643 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/24(土) 23:28:49.29 ID:ZG0lRI6UO

ついに来てしまうのか、運命のあの日が・・・
644 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/25(日) 02:13:31.44 ID:Gtt8nAI+0

鉄虎娘は10連覇の夢を見るか?
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