【たぬき】佐久間まゆ「さくまあそばせ」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

81 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/06/22(金) 03:10:11.08 ID:eyDuHFgv0


「まゆちゃん……帰ろ?」
「何があったかとかさ、ちゃんと話し合おう? じゃなきゃアタシらなんもわかんないし――」

「……ふふ」


 美穂と美嘉を前にして、まゆは薄く笑った。
 糸の一本一本が生き物のように蠢く。
 支えもなく直立する二つのご神体が、笑うようにかたかた微動している。


「……好きなんですよぉ。本当に……みんな……でも…………」
「まゆちゃん……?」

「もう、決めたから……」



「あなたたち……邪魔」



82 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/06/22(金) 03:11:09.84 ID:eyDuHFgv0
 一旦切ります。
 次で終わると思います。
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/22(金) 03:47:16.82 ID:F+xy/wyDO



まさかの幸子
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/22(金) 04:06:20.24 ID:J9CqtFm6o
たぬききつねとちひろ同列か
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/22(金) 05:10:41.63 ID:/Rx1yYP50
このシリーズの楓さんってどういう存在なんだっけ?
神様?妖怪?それとも人間?
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/22(金) 06:17:23.42 ID:nIY5AtVm0
天狗。
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/22(金) 07:48:44.89 ID:YNaZssU90
まゆのまゆからこう来るとは
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/22(金) 12:05:53.15 ID:agCt30CSO
千川ちひろは人外だった…?
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/22(金) 13:15:31.35 ID:7KIaDxe7O
いいね初期まゆの決め台詞
最後にバッチリ決まってるじゃないか
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/22(金) 21:46:09.19 ID:tTQoWNxzO
まさか「まゆのまゆ」を活かしてくるとは……
91 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/06/23(土) 00:22:53.34 ID:m1XId8Ww0


 えらいことになっている。
 廃祠の森に、光る白線が乱れ舞う。

 それはまるで竜巻のようで、しかし風の流れを完全無視した純白の渦流となって標的二人を追い詰めた。
 糸の本数で言うなら何百どころか何千の域だろう。たまったもんじゃないのは晒される方だ。
 片やぽんぽこぽんっと地上を転げて逃げ回り、片や翼を翻して避ける避ける避ける、糸が恐ろしい速さで追う追う追う。

「まゆの……っ、邪魔は……っ! させない……っ!!」

 ……わー、知ってるよああいう作画。板〇サーカスっていうんでしょ?

92 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/06/23(土) 00:23:31.02 ID:m1XId8Ww0


「このシリーズってバトルものじゃなかった筈なんだが……」
「むぅ〜……これはもうハサミか何かでちょん切るしかなさそうですねぇ」
「あるのか!? でかした幸子! 急いでくれ!」

 真後ろで懐をゴソゴソする幸子だったが……。

「……はっ! ボクがいつも常備してる、ハンケチやティッシュや絆創膏や手ピカジェルやハンドクリームやソーイングセットの入った、
 人呼んでカワイイポーチが無いっ! 呑み込まれる時に落としてしまったんでしょうか……!?」
「お前のそういう合間合間に育ちの良さ滲ませるとこ好きよ」
「そうでしょうそうでしょう!」
「ハハハこやつめ!」
「フフフーン!」

 束の間の交流で心和むのであった。動けねぇ。

93 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/06/23(土) 00:25:31.79 ID:m1XId8Ww0


「まっ、まゆちゃんっ! こんなことやめ……ぽこっ!?」

 ずざざーっと滑り込む美穂の足先を糸が絡め取り、

「ヤバっ、振り切れない……!?」

 空中の美嘉に糸の包囲網が追いつき、ついに翼ごと絡め取った。


 ……えっ、ていうか強っ!!
 それもそのはず。辺り一面を大樹の根のように這い回る糸は全てまゆの意のままであり、
 言ってみれば間合い全てが彼女の掌の上なのだから。

「幸子、もうヤバい! こうなったらお前だけでも逃げろ!」
「えーとこの結び目がこれこれこうなって……って何言ってるんですか!? そんなのボクの美学に反します!」

94 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/06/23(土) 00:26:40.15 ID:m1XId8Ww0


「……何してるんですかぁ?」

 そうこうしてるうちに、あっという間に糸が伸びて。

「あーーーーーーっ! ですよねーーーーーーっ!!」
「幸子ぉぉーーーーーーっ!!」

 かくして三人の簀巻きアイドルと一人の緊縛おっさんが出来上がったわけである。

「ふふ、うふふっ……これで邪魔者はいませんねぇ……」

 強い。マジで強い。出るもの間違ってるんじゃないかってくらい強い。
 これがまゆの本当のポテンシャルだというのか? 俺達はされるがままなのか……。

 と、あるものが視界に入る。

95 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/06/23(土) 00:27:58.93 ID:m1XId8Ww0


 まゆの足元で、あのご神体が微動しているのだ。
 見た瞬間に全て合点がいった。

 ご神体がある限り、ここは小規模の神域になっているとまゆは言った。
 その影響力ったら芳乃の知覚すら断ち切るほどのものだ。
 つまり、今のまゆの力の源こそが、あの桑の木のご神体。

 神域にいる限りここはまゆのステージ。バフのかかりまくった有利エリアなのだ。

 …………ということに気付いたはいいものの、動きようがないのではどうしようもない。

 いよいよ万策尽きたか……。

96 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/06/23(土) 00:29:16.62 ID:m1XId8Ww0


「――ぷ、プロデューサーさん……っ」

 !?
 この声は……?

「智絵里……!?」
「しー、ですっ」

 いつの間にか智絵里が俺のすぐ傍に!
 そ……そうか! うさ智絵里の体毛は純白! エリアを埋め尽くすシルクとはまさに保護色の関係にある!
 うさぎモードでこっそり回り込めば、まゆに気付かれることもない……!

「わ、私が糸をなんとかします。だからプロデューサーさんだけでも、逃げて……っ」
「よしわかったぜ」

 本当はわかってないぜ。
 考えがある。
 というか智絵里はこれをほどけるんだろうか、と思ったところでポンッとうさぎになり、

(カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ…………)

 めっちゃ糸を齧り始めた。かわいい。

97 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/06/23(土) 00:30:31.72 ID:m1XId8Ww0


 ――ぷちんっ!

(フンス!)

 糸が切れた!
 まゆはまだ気付いていない。大急ぎで糸を振りほどき、椅子から脱する。
 そのまま逃げると見せかけて…………


 全速力でまゆにダッシュする!!


(プフー!?)

 後ろでうさぎがめっちゃびっくりしてる。かわいい。

98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/23(土) 00:30:58.89 ID:xq+0c5ADO
可愛い、うさぎさんだけお持ち帰りお願いします
99 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/06/23(土) 00:33:20.70 ID:m1XId8Ww0


「取ったどー!!」

「あ……っ!?」
「プロデューサーさんっ!?」
「ちょっ、逃がす作戦だったのに……!!」
「もごもごーっ!」

 それぞれのびっくりする顔。幸子は顔まで塞がってるっぽいが。
 ヘッドスライディングの要領で、俺は確かに二つのご神体を掴み取っていた。

 まゆの顔色が明らかに変わった。

「プロデューサーさぁん? それに手を出したら……」
「祟られるとか、呪われるとか?」
「……よくわかってますねぇ。小さくてもそれはご神体です。よからぬ働きをしようものなら……」

100 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/06/23(土) 00:36:38.71 ID:m1XId8Ww0


「ぷっプロデューサーさん! 私達は大丈夫ですからっ!」
「そうだよ! てかなんで逃げないワケ!? アンタいっつも危ない橋渡って……!」
「フスフス……(ポンッ!)だ……だめですっ! 神様に由来するものを壊したら、何があるか……っ!」
「もごごーっ!」

 好き勝手言いなさる。


「……まだ間に合います。それを降ろしてください。呪いが怖くないんですかぁ?
 そのまま大人しくしていれば、邪魔者はいなくなるんですよぉ……!」


「担当アイドル同士がドンパチしてる方が万倍呪わしいわ。そぉい!!!」

 踏んだら簡単にポッキリいった。


「「「「あーーーーーーっ!!!!」」」」


 罰当たり千万である。寺生まれのTさんが出るような事態にならないことを願う。

101 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/06/23(土) 00:38:48.07 ID:m1XId8Ww0


「っあ……くぅ……っ!」


 すぐさま、まゆに影響が出た。
 まるで自分が顔面を殴られたようによろけ、集中の乱れがそのまま糸の乱れになる。
 三人を拘束する糸もゆるみ、まゆはそれでも諦めない。

「ま、まだ……まゆは、プロデューサーさんの為に……っ」


 くわっと美穂の両目が光った。
 地に降り立ち、素晴らしい跳躍。そのままくるくるっと回転し、狸の姿に戻って――

 ポンッ!


「ぽこぽんっ、ぽこーーーーーーーーっ!!!!」
(訳:ほっぺた直撃!! 肉球たぬきキィーーーーーーーッック!!!!)


  ぷ に っ っ ・ ・ ・


「あ…………ぷにすべ…………っっ」


※肉球たぬきキックとは……
 文字通り肉球を直接ぶつけ、その圧倒的ぷにぷにすべすべ感で相手の戦意を喪失させる破壊力ゼロのたぬきキック。
 不殺・平和的解決をモットーとする小日向流タヌキカラテの最終奥義である。

(346書房刊:『奥深きアニマルアーツの世界』より)

102 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/06/23(土) 00:40:24.85 ID:m1XId8Ww0


 誰もが呆気に取られて見守る中。

 たぬきがしゅたっと着地して。

 ふらぁ……と、力を失ったまゆが倒れ込み。


「まさか、かように思い詰めておられたとはー……」

 彼女の体を、いつの間にかそこにいた芳乃が受け止めた。


 神域は消え去っている。全ての糸はほどけ、繭ごと夢のように霧散していた。
 残るのはアイドル達と、廃祠と砕けたご神体、近頃旺盛に萌える草木達。



 静寂が戻る中、夏のはじめの蝉が今更じりりと鳴いた。


103 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/06/23(土) 00:58:57.15 ID:m1XId8Ww0


   〇


 昔々あるところに、一人の少女と一匹の馬がいた。
 農家の一人娘であるその少女は、家の飼い馬をたいそう可愛がったそうだ。
 やがて、一人と一匹の間に特別な感情が生まれた。

 愛情である。

 言葉など介さずとも通じ合うものがあったのだろう。
 やがて彼女らは誰にも知らせず、誰にも祝福されることのない婚姻関係を結んだ。

 当然、馬と人の婚姻など許されるわけはなかった。

 激怒した少女の父は、その日のうちに馬を叩き殺し、庭先の桑の木に吊るしたそうだ。
 少女はそれはもう悲しんだ。愛した馬の死骸に取りすがり、報われぬ愛の行方に涙を絞り尽くした。
 父はそれをも疎んじ、夢見がちな娘の妄想を断ち切らんとしてか、馬の首を切り離したそうである。

 少女はそれでも、愛した夫の生首から離れることはなかった。

 やがて馬の首は天へと昇り始める。呆気にとられる父の目の前で、娘と共に馬の首は空へと消えていったそうだ。

 そして一人と一匹は、桑の木を依り代とする夫婦神となった。
 

 後から調べてわかったことだが、おしらさまとは、そのような異類間の悲恋を起源に持つようだ。


104 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/06/23(土) 01:08:38.53 ID:m1XId8Ww0


  ◆◆◆◆
 

  ―― しばらくして 事務所


ちひろ「――ふぅぅ〜〜〜……っ。とにかく、みんな無事で良かったです」

まゆ「……ごめんなさい、みなさん。まゆ、ひどいことを……」

芳乃「悩みて迷い、或いは盲動に走ることも時にはありましょう。お怪我が無くて何よりでしてー」

幸子「まあたまにはああなることもあるでしょう。犬も歩けばボクはカワイイとも言いますしねっ!」フフーン

紗枝「言葉の意味はようわからへんけど、とにかくえらい自信どすなぁ」

周子「器が違うわ」


美穂「私も気にしてないよっ。それよりまゆちゃん、その……」

美嘉「プロデューサーとの話は……?」

まゆ「ええ……そうですねぇ。改めて、ちゃんとお話をして……」


まゆ「まゆ、振られちゃいました」


105 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/06/23(土) 01:22:10.79 ID:m1XId8Ww0

【 ♡まゆ日記♡ 】


 全部をみんなに語り聞かせるわけにはいきません。
 だから、ここにだけは包み隠さず書いておきます。
 

 まゆがみんなにご迷惑をかけたその後の、二人だけのお話。

 誰も知るべきではない、私と彼が共犯関係になるに至った顛末です。

106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/23(土) 01:35:26.03 ID:x5YFektIO
愛梨「さあ行こう、空の果 てへ!」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1519427437/
久美子「永遠のレイ」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1520033314/
伊織「誰が魔王サーの姫 よ!」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1520637298/
エミリー「修正…悪しき文 化ですね」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1521241832/
奈緒「何で関西弁=恐竜やねん!」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1521850482/
常務「新制限を全て撤回。 白紙に戻す」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1522451692/
千夏「このTGはテックジーナスじゃないの?」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1523058431/
礼子「大人の魅力で破滅さ せてあげる」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1523661962/
フレデリカ「恋人は校庭のパラディオンだよー」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1524265978/
海美「竜騎士の結束を見せちゃうよ!」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1524871125/
志保「茶運びといえばカラクリだよね!」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1525475657/
茜「みんなで勝鬨を上げちゃおう!」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1526133608/
桃子「この金の城いい踏み台だね!」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1526686132/
美紗希「化学反応式も女子力よ!」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1527292985/
小鳥「アリガトウワタシノデッキ」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1527896333/
柚「狩らせてもらうよ。キサマのぴにゃンバーズ!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1528498815/
加奈「ダストンの掃除法をメモしておきますね!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1529105813/
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/23(土) 01:41:18.43 ID:0uDSOG7SO
>>91
美穂かわいい
108 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/06/23(土) 01:44:13.07 ID:m1XId8Ww0


 こうなった以上、選択権はこっちにはありません。
 切り捨てられるも蔑まれるも覚悟の上で、どんな重い罰だって覚悟していました。

 だけど一つだけ、やらなくちゃならないことがありました。


 ちゃんと好きですって言ってませんから。


 色々あったけど、この気持ちにだけは偽りがない。
 まゆが感じた運命は、嘘じゃないって思いたい。

 だからこそ、一目惚れが一目惚れであるうちに、引くべき幕もあるでしょう。

109 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/06/23(土) 01:45:25.13 ID:m1XId8Ww0


 結果はもちろんノーでした。

 当然ですよね。一介のプロデューサーがアイドルの恋心に応えるわけにはいきませんもの。
 ここまでは織り込み済み。伝えて、それで全部終わりにして。
 まゆは、彼らの前から永遠に消えるつもりでいました。


 なのに、彼はそれじゃダメだって言うんです。


 わかってるんでしょうか。
 まゆはあなたの傍にいてはいけないんです。

 これ以上近くにいたら、今よりもっと好きになってしまうに決まってます。

 だって今でさえ大好きなんですよ?

 あなたのことを知れば知るほど。
 その横顔を見れば見るほど、際限なく。
 いっぱいの器はいつかまた砕けて、赤い毒を撒き散らしてしまうから。

110 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/06/23(土) 01:51:46.65 ID:m1XId8Ww0


「仮に出ていくことになったら、後でまゆはきっと一人で泣くよな」

 それは必要な罰です。
 私一人で受け入れるべき当然の痛みですもの。

「何が正しいかはわからないけど、それだけは絶対にあってはならないと思う」

 どうしてですか?
 お騒がせな小娘が一人べそをかいても、他の誰も痛くありませんよ。


「アイドル、楽しいって言っただろ」

111 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/06/23(土) 01:52:20.38 ID:m1XId8Ww0


「それが嘘だったとは思わないし、無駄だったと思っても欲しくない。だってあんなに輝いてたじゃないか」

 訴える口調は、切実でした。
 あらゆるものを天秤にかけて、それでもまゆに残って欲しいと言っていました。

「まゆはまだまだアイドルを好きになれる。そう信じてる。
 だから理由がどうであれ、何かを捨てて悲しむような真似だけはしないで欲しいんだ」

 今になって、楓さんの言ったことがわかりました。

 不器用な人。

 そうなんでしょう。
 だから、まゆは言うのです。


 ……お気付きですか? それって、罪深いことを言ってますよ。

112 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/06/23(土) 01:53:09.62 ID:m1XId8Ww0


 ここで切り捨てないのが甘いんです。

 アイドルの楽しさに目覚めれば、恋心なんて忘れると思っていますか?

 だけどね。
 どれほどアイドルを続けても、どんなに大切な仲間ができても、まゆはきっと最後にはあなたを求めます。
 だって運命なんです。あなたがアイドルを信じるように、私は私の運命を信じていますもの。

 ……でも、いいでしょう。

 アイドルが楽しいのは本当だから。みんなとやり直してみたいっていうのも、本心だから。
 ここは甘えてしまいましょう。

 だけど……あなたにこんな気持ちを抱く女の子を、手元に置くこと。半端な覚悟じゃ許されませんよ?

113 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/06/23(土) 01:55:15.39 ID:m1XId8Ww0


 いつか選ぶ時は来ます。

「わかってる。残酷なことを言ってるかもしれないが――」

 違います。あなたの話です。
 いつか『あなたが』選ぶ時が来るんですよ。

 わからないなんて、言わせませんよ?

 とん、と突き出した指を、彼の左胸に押し当てます。
 その先端から、まだ赤い糸が伸びていることを信じながら。


 それがどんな答えでも、私には一番に聞かせてくださいね。
 まゆ、その為にもずっとあなたのそばにいますから。


 突き付けた指で、ゆっくりいびつなハートマークを描いてみたりして。


 これは約束。――ううん、まゆなりの呪いです。
 答えが出るまで、解かれませんよ。

114 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/06/23(土) 02:03:28.26 ID:m1XId8Ww0


「手厳しいな」

 ご神体が壊されちゃったんですもの。呪いのひとつくらい返したっていいんじゃないですか?

「多分、長い話になると思う」

 そんなのなんだっていうんでしょう。
 あなたを知らないまま16年も生きてきたんです。この先どれだけ待ったって短くありませんよ。

「……うん。覚悟するよ」


 まゆは前に進みますね。あなたや、みんなと一緒に。
 あなたの答えを待ち続ける為に。
 それで色んなことを経て、いつかその答えを見届けられたら、まゆの運命はそれで決着。

 だけどそれでも、どうしてもどうしても答えが見つからない時は…………。


 私が、あなたと一緒に死んであげます。


 これはその密約。お互いに本音と答えを秘め続ける、二人だけの共犯関係なんです。

115 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/06/23(土) 02:11:08.75 ID:m1XId8Ww0


 全てを呑み込んで彼は静かに笑いました。
 そうして何か忘れていたことがあるように、ごそごそと懐を弄り始めます。

 どうしたのかな?

 と思う目の前で、なんだか不思議とかしこまった様子で一枚の紙を差し出すのです。


「アイドル、続けてみませんか」


 なんだかんだで貰っていなかった、プロデューサーさんの名刺でした。

 ――ほら。

 呟くと、彼は不思議そうな顔をして。
 抱きしめた名刺は暖かくてやわらかくて、素敵な匂いがしました。
 

「今、もっと好きになっちゃいました」



 〜おしまい〜

116 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/06/23(土) 02:15:27.57 ID:m1XId8Ww0


☆オマケ


  ―― ライブ会場 舞台袖


  ワァァァァ……


美穂「――まゆちゃんっ! 凄いステージだったよ!」

まゆ「うふふっ、ありがとうございます♪」

美嘉「ホントにヤバかった! プロデューサーも感動して……あれ? プロデューサーは?」

周子「ああ、そこでスケキヨみたいになってる人のこと?」

  ババァーーーーンッ

美穂「プロデューサーさーーーーーーんっ!!?」


117 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/06/23(土) 02:23:39.49 ID:m1XId8Ww0


  ズボッ!


P「ぷはっ!! はぁ、はぁ……気にするな、ちょっとした話し合いの結果だ」

美穂「何のですか!?」

まゆ「……ひょっとして、まゆのモデル時代のマネージャーさん達とですかぁ?」

周子「あ、大丈夫だよあたしと向こうのモデルさん立ち合いのもとで話はついたから」

周子「もうお互い恨みっこなし。こんなんなったのもプロデューサーさんのケジメの付け方だからさ」

まゆ「そうですか……。あの人は、考えすぎるところがありますから……」

P(あ、やっぱあの人あのノリがデフォだったのね……)

まゆ「……今、類は友を呼ぶって思いませんでしたかぁ?」

P「思った(思ってないよ)」

118 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/06/23(土) 02:32:31.24 ID:m1XId8Ww0


美嘉「もうっ! ほんとにいきなりムチャするんだから!!」

まゆ「うふ、ふふふ」

美嘉「ダンボールだから良かったものの、湖だったらほんとにスケキヨでしたよ!?」

まゆ「ふふふふふふ……っ」

周子「……まゆちゃん?」


まゆ「まゆの為にそこまでしてくれて……プロデューサーさん、だーいすきっ♡♡」ガバァッ

119 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/06/23(土) 02:36:11.40 ID:m1XId8Ww0


美穂「!!」

美嘉「!?」

まゆ「うふふふっ、やっぱり運命の人なんですねぇ♡ まゆの為にここまでしてくれるなんて、これは愛の力ですっ♡」

まゆ「好き好きっ大好きっ♡ 愛してますよぉっ♡♡」ムギューーーッ

美嘉「ちょちょちょっ、まゆちゃん!!?」

美穂「それ以上はそのなんていうか、やりすぎじゃないかな!?」

P「」キュッ

周子(犬神家の次は首縊りの家やな)

120 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/06/23(土) 02:40:37.07 ID:m1XId8Ww0


紗枝「はてぇ、これは異なことどすなぁ」ニュッ

周子「おっ出たな狐」

まゆ「あら、紗枝ちゃん♪」

紗枝「こんこ〜ん♪ ともあれ、まゆはんはプロデューサーはんに袖にされてもうたんちゃいます?」

紗枝「せやのにこのあぷろーち、前よりも熱烈になってへんやろか〜?」コンコン

まゆ「まあ! そんなドライなこと言わないでくださいよぉ」

まゆ「そもそも、たった一回お断りされたからって、諦めなきゃいけないってことにはなりませんよねぇ?」

まゆ「なんでも世の中には、なんと101回ものプロポーズで意中の人を射止めた殿方もいるとか……」

周子「あ、知ってるそれ。僕は死にましぇーんって奴でしょ」

まゆ「うふふっ。プロデューサーさんの為なら、まゆはダンプカーだって止めてみせますよぉ♡」

美穂「ほんとにできそう……」

121 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/06/23(土) 02:48:55.69 ID:m1XId8Ww0



まゆ「ということで、まゆは引き続きアプローチを続けますよぉ」ムギュー

P「」キュー

周子「……もしもーし。生きてるー?」

P「シニソウ」

周子「ああ元気そうやね。まあせいぜい頑張りやー、あたしもサポートはするからさー」

P「ウス」


美嘉「……ていうか流石にくっつきすぎでしょ! それってやりすぎだからね!?」

美穂「そ、そうだよっ! それ以上のすきんしっぷはアウトなんだよっ!?(今考えた)」

まゆ「あらぁ、それじゃ二人もプロデューサーさんにくっつけばいいんじゃないですかぁ?」


美嘉「ぇあ……っ///」

美穂「そ、それは……っ///」


まゆ「うふふっ。プロデューサーさぁん? いつでも振り向いてくれていいんですからねぇ♡」ムギュギューッ

122 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/06/23(土) 02:51:22.60 ID:m1XId8Ww0


美穂(まゆちゃんは、正面からプロデューサーさんにぶつかって……それで自分の答えを見つけた)

美穂(それじゃあ、私は?)


美穂(私は、どうすればいいのかな……)


 〜おわり〜

123 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/06/23(土) 02:53:42.18 ID:m1XId8Ww0
 おしまいです。長々とお付き合いありがとうございました。
 依頼出しておきます。
 まゆすき。
124 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/06/23(土) 03:01:37.04 ID:m1XId8Ww0
>美嘉「ダンボールだから良かったものの、湖だったらほんとにスケキヨでしたよ!?」

 ごめんなさいこれ美穂です
 許してくださいなんでもしまむら
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/23(土) 03:27:50.25 ID:pZI6eC5Wo
そろそろこずえの正体をだな
ともあれ乙!
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/23(土) 03:33:21.40 ID:cw6cjK3Ao
乙でした
糸をかじるウサ智絵里を想像したら可愛かった
ハサミを持った響子が来るかと想像したら怖かったなw
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/23(土) 06:12:02.10 ID:xq+0c5ADO



幸子の活躍に心踊ります


で、次回はどちら様が?まさか幸子が南方から貰ったお面から精霊がでてきて(ry
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/23(土) 07:15:59.30 ID:0uDSOG7SO
えっ幸子が石仮面研究するって?
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/23(土) 08:22:36.92 ID:dw5wFduz0
おつおつ、俺もたぬきキック喰らいたい
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/24(日) 03:19:46.17 ID:SyOx/lLq0
良かったな幸子
不死身になれば今よりもっと体張った芸ができるぞ

SSは最高でした
ままゆに飼われたい
78.31 KB Speed:0   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 新着レスを表示
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)