【ミリマスSS】周防桃子「ひとつ咲き続ける花」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

1 : ◆uYNNmHkuwIgM [sage saga]:2018/06/26(火) 00:17:23.56 ID:M3r0bmxb0

-----桃子の目の前には二つの大きな顔。

-----いつだか、どこだか、わからないけど、

-----でも、それは確かな桃子の記憶。

-----ふっと風が吹く、驚いて目を瞑る。

-----その一瞬で、全部消える。

-----やっぱり、また、ひとりぼっち。

 

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1529939843
2 : ◆uYNNmHkuwIgM [sage saga]:2018/06/26(火) 00:20:04.40 ID:M3r0bmxb0

キューって胸がしめつけられて、その痛さで目がさめた。ほっぺに冷たさを感じて、それを温めるように手のひらでゴシゴシと強めにこする。

窓の外はごきげんな青空。うん、いい天気だね。バーカ!!!そんな悪口も言っちゃいたくなるくらいサイアクな朝。せっかくの日曜なのに。



ドタドタと足音を立てて洗面所に行く。バシャバシャとワザと水の音を立てて大げさに顔を洗う。シーンと静かな家の中を少しでも音で満たす。

ささっと準備をして、リビングには目もくれずに玄関に向かう。はやく家を出て、桃子の『イエ』に行かなくっちゃ。

桃子「うぁ...まぶし...」

暗い家から出ると、日差しの眩しさに少しくらっとした。

 
3 : ◆uYNNmHkuwIgM [sage saga]:2018/06/26(火) 00:22:10.82 ID:M3r0bmxb0

############
765プロシアター
エントランス
############

桃子「おはよーございまーす」

シアターについて扉を開けて挨拶。親しき仲にも礼儀ありだからね、挨拶はきちんとしなきゃ。

海美「ももちーん!おはよー!」

エントランスの掃除をしてた海美さんが100倍の元気で挨拶を返してくれて、おまけにダッシュで桃子の方に向かってきた。

桃子「ちょ、なに、どしたの海美さん?」

海美さんは桃子の正面で止まって、両方の脇を手でガシッって掴む。桃子の身体がふわっと浮く。

いきなりなんなの!?ジタバタ動いても海美さんの力に勝てるわけなくって、全然動けない。

桃子「もぅ!どしたの海美さぁぁぁぁぁぁぁぁんんんんん」

海美さんは桃子をつかんだまま、グルグルと全速力で回り始めた。

海美「あはははははははははたのしーねー!!!ももちん!!!!」

世界がグルグルって回る。遊園地のアトラクションみたい。

イヤな目覚めのモヤモヤってした気持ちが、そのグルグルで飛んじゃっていくみたい。

 
4 : ◆uYNNmHkuwIgM [sage saga]:2018/06/26(火) 00:24:11.14 ID:M3r0bmxb0

でもちょっと速く回りすぎかな。もう終わりにしてって合図に、トントンと海美さんの身体を叩く。

海美さんは気がついたみたいで、回る速さがだんだん遅くなってきたとこにまた元気な挨拶が響く。

のり子「おはよー!桃子!海美!」

挨拶はのり子さんの声だって気がついた瞬間、身体が海美さんとのり子さんにぎゅーってはさまれた。

海美「わー、のりさんナイスタックル!」

のり子「へへへ、のり子アイサツタックルスペシャルだよ」

桃子を優しくはさんで、うれしそうに話す二人。

桃子「もぅ、海美さんものり子さんも朝から元気すぎじゃない?」

先輩として注意しようとしたけど、なんだか声が弾んじゃう。朝のモヤモヤは完全に二人の元気にやっつけられたみたい。

のり子「へへー、ごめんごめん」

海美「朝からももちんに会えたからはしゃいじゃったよ」

桃子「ほとんど毎日会ってるのに、ホント二人ともどうしようもないんだから」

桃子がそう言うと、やっぱり二人はニコニコと笑顔を返してくれた。

うん、やっぱりここは桃子のイエだって思う。

  
5 : ◆uYNNmHkuwIgM [sage saga]:2018/06/26(火) 00:25:54.65 ID:M3r0bmxb0

############
765プロシアター
事務室
############

さて、今日のお仕事はミーティング。今度出す新曲の楽譜と仮歌が貰えるみたい。一緒にユニットを組む二人も呼ばれてる。

風花「うぅ、新しい曲どんなのかな?えっちなのじゃないよね...桃子ちゃんもいるし...」

ワタワタしてる風花さん。仕方ないから先輩の桃子がアドバイスをあげる。

桃子「風花さん。そうやって嫌がっちゃうから、お兄ちゃんが調子に乗るんだよ。堂々とした方がいいよ」

風花さんは桃子のアドバイスになるほどって顔で返す。

風花「確かに桃子ちゃんの言うとおりかも。よしっ、どんなえっちな仕事でもどんと来いです!」

桃子「...」

風花「...うわーん、これはこれでなんか違う ><」

コロコロ変わる風花さんの表情は見ててなんだか面白い。ごめんなさいだけど、ちょっとお兄ちゃんの気持ちもわかるかもなんて思っちゃった。

 
6 : ◆uYNNmHkuwIgM [sage saga]:2018/06/26(火) 00:28:00.33 ID:M3r0bmxb0

このみ「あら、えっちって言葉はアレだけど、私は歓迎よセクシーなお仕事」

ユニットのもう一人のメンバーのこのみさんは、風花さんの話を聞いてなんだか嬉しそう。

そんなこのみさんのドヤって顔をながめてると、グリグリって桃子の頭がなでられる。

このみ「まぁ、確かに桃子ちゃんがいるから今回はセクシーなお仕事はおあずけね。うりうり」

このみさんはよく桃子の頭をなでる。いつも年下から頭なでられるから、身長の低い桃子は『かっこうのえじき』なんだって。

子供扱いされるのはイヤだけど、このみさんには仕方ないなっておとなしくなでられてあげる。いつか桃子がおっきくなったら、今までの分なで返してあげるんだ。

 
7 : ◆uYNNmHkuwIgM [sage saga]:2018/06/26(火) 00:29:40.01 ID:M3r0bmxb0

そんな感じでワイワイしてると、お兄ちゃんがやってきた。新曲の楽譜を見ながらみんなで仮歌を聞く。

ミリP「永遠の花。離れていながらも、お互いを思い合う歌だ」

これってラブソングだよね?しかも本気の大人の曲。桃子にこんな曲が来るなんて思わなかったからおどろいた。

このみ「とても素敵な曲ね。大事に歌わなきゃ」

風花「切なくて、なんだか泣けちゃう曲ですね。素敵な曲をいただいて嬉しいです」

大人の二人はさすが桃子よりも余裕があるみたい。そうだね、確かに二人にはぴったりな曲。



桃子は考える。このユニットでの桃子の役割。

きっと、11歳らしい歌とか表現をしたんじゃダメだって思う。だってそのくらい大人な曲だし、このみさんも風花さんも本気の大人の歌声だもん。

ちょっと背伸びした子供の役割が桃子に求められてるなら、もうちょっと大人度を下げた曲になってるか、メンバーの2/3が大人組ってユニットにしないはず。

でも用意されたのはこの曲で、このメンバーで歌うって決められた。きっと、桃子がこのみさんと風花さんみたいにきちんと歌い上げることを求められてるんだ。

それはなんだか嬉しいって思う。だって、それだけ桃子が大人な表現ができるって期待されてるってことだもん。

でも、うん。こういう曲は...。

 
8 : ◆uYNNmHkuwIgM [sage saga]:2018/06/26(火) 00:31:57.66 ID:M3r0bmxb0

############
学校
教室
############

休み時間の教室。1番さわがしい男子のグループを、ジトーっとながめる。

学校の男子はみんな子供だ。ワイワイと意味なくさわいで、ヘラヘラって笑ってる。

クラスじゃあの子があの子を好きとかあるみたいだけど、信じらんない。あんな子供のどこがいいんだろ?

はーっとため息が出る。ずっとモヤモヤってしてることがある。もちろんお仕事のこと。

永遠の花。大人のラブソング。この曲を歌い上げるために大事なことを桃子は知らない。

桃子は愛って何かよくわからない。

愛って誰かのことが好きで好きでしかたないってことでしょ?桃子は誰かにそんな気持ちになったことなんてない。



こんなんじゃきっといい歌は歌えないよ。あーあ、王子様みたいな人が桃子の目の前に来てくれたらいいのに。

桃子が1番だって言ってくれて、桃子の隣にずっといてくれて、桃子の言ったこと全部叶えてくれるの。そんなステキな王子様。

そんなことを考えてると、一つぼんやりと思い浮かぶ顔があった。ねグセをつけて、ネクタイ曲がってて、かなりダメダメな顔。

うん、確かに桃子の知ってる中で1番王子様に近いのはお兄ちゃんだね。桃子のために頑張ってくれて、言ったこともいくつか叶えてくれてる。

でも、「お兄ちゃんを愛してる?」って聞かれると、うん、そんなことないって思う。お兄ちゃんはお仕事のパートナー、そういうのとは違う。

頭の中のお兄ちゃんの顔にバッテンをつけて、他の王子様候補を探したけど、他には思い浮かぶ人すらいなかった。

 
9 : ◆uYNNmHkuwIgM [sage saga]:2018/06/26(火) 00:33:53.63 ID:M3r0bmxb0

うーん、愛...愛...。

グルグル頭の中で『あい』って文字を回してたら、頭のてっぺんをペシッと叩かれた。桃子が考え事してるのに、こんなことするのは奈緒さんだね!

桃子「何するの!?桃子今考えち...」

いつもの調子で注意しようとしたら、目の前には担任の先生の顔があった。あ、そっか、ここ学校だった。みんな起立してて、授業前の挨拶をしようとしてるとこだ。

桃子「...ごめんなさい」

めずらしいって目でみんなが桃子を見る。学校ではいっつもムスーってしてばっかだったから。うぅ、そんなに見ないでよ!

10 : ◆uYNNmHkuwIgM [sage saga]:2018/06/26(火) 00:36:02.78 ID:M3r0bmxb0

############
765プロシアター
事務室
############

わかんないことは誰かに聞くのが大切。桃子はここでそれを教えてもらった。だから、桃子はお願いをした。

風花「えっと、私なんかが先生役でいいのかな?」

桃子「うん、風花さんだからいいんだよ。大丈夫、このみさんにも聞くし。せかんどおぴにおん?ってやつ」

そう言うと、風花さんは少し困り眉になって答えた。

風花「うーん、セカンドオピニオンはちょっと違うような...。まぁ、それはいいよね。それで、うん、えーっと、愛...についてだっけ?」

ちょっと顔が赤くなって、もぞもぞしだす風花さん。『愛』って言うのがはずかしいみたい。それで今回の曲大丈夫なの?って思っちゃう。

でも、風花さんの歌はとっても大人だ。なんだか聞いててほわぁってする。だから、風花さんの気持ちを聞いてみたいって思ったんだ。

桃子「うん。よろしくお願いします」

ぺこりって頭を下げる。風花さんがコホンと一息おいて話を始める。

風花「私は、愛って『与えること』だって思うの。大切な人のために、何かしてあげたいって気持ち」

与えること。うん、桃子はそんなこと思いもしなかった。

やっぱり風花さんに聞いてみて正解だって思った。

愛は与えること、その言葉を頭の中で繰り返す。よくわかんないけど、繰り返すうちに何だかそれはちょっと寂しい気がした。

 
11 : ◆uYNNmHkuwIgM [sage saga]:2018/06/26(火) 00:38:21.23 ID:M3r0bmxb0

桃子「あのね、変なこと聞くかもしれないんだけど、たくさんあげて、それでも相手に届かなくても、愛は続くのかな?」

そう聞くと、風花さんはとっても優しい顔になった。それは桃子が見たことない風花さんの顔。

風花「私もあまり経験豊富ってわけじゃないから、きちんと答えられないかもなんだけどね、続くっていうその前に、相手にきちんと届くって思ってる」

桃子「気持ちは絶対に相手に届くってこと?そんなこと、ゲンジツテキじゃないって思うんだけど」

桃子がそう返すと、風花さんはやっぱり優しい顔のままで答える。

風花「そうだね、私がそう信じたいだけなのかも。でもね、『届く』って、きちんと受け取ってくれるってこととは違うかなって思うの」

風花「私があげたもので、その人の何か一つでも良いことに変われば嬉しいなって。そう思える人がいることは、とっても幸せなんだって思うの」

風花「そういうあったかい気持ちが愛なんだって、私は思ってる」

そう言うと、風花さんの表情は恥ずかしさをごまかすようなちょっと困り眉の笑顔に変わった。

うん、なんか桃子もちょっとムズムズしてきた気がする。こういう誰かの心の中を教えてもらうってこと、経験したことがなかったから。

風花「私からはこれでおしまいかな、今度の曲絶対いい歌にしようね」

そう言って風花さんが桃子の両手をにぎる。はげますように、優しくつつみこむように。

桃子「うん」

風花さんの気持ちに答えるように、桃子はぎゅっと両手を握り返した。

 
12 : ◆uYNNmHkuwIgM [sage saga]:2018/06/26(火) 00:39:20.41 ID:M3r0bmxb0

############
765プロシアター
屋上
############

次はこのみさんの番。風花さんにしたのと同じ質問を、このみさんにも聞いてみる。

このみさんはちょっとだけうーんって考えた後、桃子に質問した。

このみ「ちなみに、風花ちゃんはなんて言ってた?」

風花さんに悪い気もしたけど、聞かれたので正直に答える。

桃子「愛って『与えること』だって言ってた」

その言葉を聞いて、このみさんはふっと笑顔になる。

このみ「風花ちゃんらしい答えね。ほんと、あの子お嫁さんにしたいわー。桃子ちゃんもそう思うでしょ?」

いきなり聞かれたのでびっくりしちゃう。だって、女の子と女の子って結婚できないよね?

桃子「もぅ、そんなのわかんないよ」

 
13 : ◆uYNNmHkuwIgM [sage saga]:2018/06/26(火) 00:41:03.95 ID:M3r0bmxb0

なんて言っている間に、このみさんが桃子の質問に答えてくれた。

このみ「私はね、愛は自分を強くしてくれるものだって思う」

その答えは風花さんとは全くちがう答えだった。おんなじ質問なのに、こんなにもちがうんだ。

このみ「誰かを愛するとね、その人に隣にいるのが私でよかったって思ってもらえるよう、いろんな面で強くならなきゃって思うの」

このみ「自分を見つめなおして、磨いて、ステキになれるの」

そう言ったこのみさんの顔は、いつもの優しい顔とは違ってカッコよかった。悔しいけど、やっぱり桃子よりもずっとずっと大人だなって思っちゃう。

このみ「まぁ、だからと言ってアレコレ好きな人を見つけろって意味じゃないけどね。心から女を磨かなきゃって思えるようなイイ男に出会えることが先決ね」

フフンとドヤ顔を決めるこのみさん。それを見てると、なんだかちょっぴりイジワルなことを聞いてみたくなった。

 
14 : ◆uYNNmHkuwIgM [sage saga]:2018/06/26(火) 00:42:22.61 ID:M3r0bmxb0

桃子「で、今はイイ男と出会えてるの?」

このみさんはそんな桃子の質問に、しっかりとした口調で答えた。

このみ「そうね、たくさんいるわ。私を応援してくれるファンのみんな。男女関係なく、みんな私にもっと輝きたいって気持ちをくれる」

このみ「私はみんなのために、いい女であり続けなきゃいけないの」

なんかズルイって思っちゃうくらいカッコいいけど、あれ?なんかちがくない?

桃子「このみさんの言うとおりだと思うんだけど、なんかごまかされてるような気がする...」

ジトーッとした目でつっこむと、このみさんはとりつくろうようにくしゃくしゃと桃子の頭をなでる。

このみ「いいから、アイドルのうちは難しいかもだけど、いつかちゃんとイイ男を捕まえなさいよ、桃子ちゃん」

なんか最後はいつものドタバタに戻っちゃたけど、桃子もいつかこんなにカッコよくなりたいって思うくらい、このみさんはステキだって思った。

 
15 : ◆uYNNmHkuwIgM [sage saga]:2018/06/26(火) 00:43:46.69 ID:M3r0bmxb0

############
765プロシアター
控え室
############

風花さんとこのみさんに『愛』って何か教えてもらった。2人の答えはちがったけど、きっと2人ともいろんな経験をして、自分なりに答えを出したんだと思う。

桃子にはまだない経験、やっぱり2人はきちんと大人だ。

その2人の答えをヒントにしながら、桃子は何度も新曲の歌詞を読む。主人公の気持ちを想像する。

うーん、前よりは主人公に近づけた気がするけど、やっぱりまだまだ桃子の中にスッと主人公が入ってきてくれない。

机につっぷして頭を抱えていると、ドアが開いて甘い匂いがした。

 
32.83 KB Speed:0   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)