千歌「勇気は君の胸に」

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1 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/01(日) 00:19:52.49 ID:2Rh4w0SG0
ここは、とある城の大広間。

各国家の国王が会談を行う厳格な場所である。

今日もこの場には近隣にある三ヵ国の女王とその護衛が集っていた。



―――浦の星王国

―――音ノ木坂王国

―――虹ヶ咲王国



この場所は、ほんの一握りの人間しか知らない。

部外者には知られてはならない場所だった。



……そんな場所が、床や壁はボロボロに破壊され、辺り一面は血の海と無残な死体で埋め尽くされていた。


立っているのは二人。

一人は浦の星王国の女王。

もう一人は―――の―――である。


抵抗した他の女王とその護衛達のほとんどは一瞬で倒されてしまった。


唯一生き残った女王だが身体の右側がごっそりと消失しており、生きているのが不思議な状態であった。



『―――はぁ……はぁ、はぁ……』ボタッ、ボタッ、ボタッ


『意外としぶといのね。体の半分を消し飛ばしたというのに……』




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1530371992
2 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/01(日) 00:24:21.89 ID:2Rh4w0SG0
『…へ、へへ………そう簡単には…くたばらない、わよ?』


『哀れな女王よ……早く楽にしてあげましょう』


『楽に、か……。ふ、うふふふふ……』



血塗れの顔で不敵に微笑む女王。

誰がどう見ても逆転は不可能な状況であるにも関わらず、何故笑えるのか理解できなかった。



『……何が可笑しい? 貴様は負けた、敗北したんだ。敗者は敗者らしく絶望しなさい』


『……は、敗者ねぇ………。確かにその通り、よ……でもね…』



―――ボッ…!



左手の中指にはめたリングに炎が灯る。

弱々しく、今にも消えてしまいそうな橙色の炎。

女王はそんな炎を見せつけるように拳を固めて突き立てた。



『―――精々、今は……今だけは勝ち誇っていな、さい………でもね、私が賭けたのは………』





『――――――……!!!』






『……くだらない戯言を。消えろ―――』スッ…




グチャッ―――


3 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/01(日) 00:26:11.20 ID:2Rh4w0SG0
――――――――――――
――――――――――
――――――――
――――――
――――
――



千歌「………」


えーっと、あれ、何があったんだっけ?

思い出せ……頑張って思い出すんだ高海千歌……


あ……たしか久しぶりに練習がお休みだったから、曜ちゃんと沼津に買い物に行ったんだよ。

帰りのバスまでの記憶はある。

バスの座席に座ったら眠くなって……目が覚めたら知らない場所にいた。



千歌「は? ここはどこ? 海……砂浜??」



「おお、やっと起きたね! こんなところでお昼寝してたら小麦色に日焼けちゃうよ?」

千歌「…曜ちゃん?」

「あれー? 何で私の名前を知ってるの?」

千歌「はい?」

曜「おっかしいな……どこかで会った事あったかな?」

千歌「ええっと……ここはどこ?」

曜「ここ? ここは浦の星王国にある海だね」

千歌「浦の星王国? 何を言ってるの……日本は王国じゃないでしょ?」

曜「ニホン? 君はニホンって街から来たの? 聞いた事の無い街だなぁ……」

千歌「……何の冗談?」

曜「ねえねえ、君の名前は? 私、全然覚えて無くて―――」


千歌「いい加減からかうのは止めてよ! いくら曜ちゃんでも怒るよ!」

曜「ッ!! ご、ごめん……そうだよね、君は私の名前を憶えているのに……最低だよね」シュン

千歌「え、いや、その……本当に私の事知らないの?」

曜「……うん」
4 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/01(日) 00:27:13.44 ID:2Rh4w0SG0



おかしい……見た目は完全に曜ちゃん。名前も曜ちゃん。

なのに私を知らない。

そもそもここが王国だって言ってたぞ……ならここは一旦―――



千歌「あー、ごめん。私さ、頭を強く打っちゃったみたいで……」

曜「頭を? なるほど、だからこんな場所で気絶していたんだね」

千歌「そ、そうそう! あなたが私の知ってる曜ちゃんにそっくりだったから間違えちゃった……怒鳴ったりしてごめんね」

曜「大丈夫だよ、私に非は無かったんだね」ホッ

曜「でもここ砂浜だよ?? どうやって記憶が飛ぶほど強く頭を―――」


ヤバイ!!?

話を逸らさなきゃ……!


千歌「ああああのさ!! 何も思い出せないからここの事を色々教えて欲しいんだ!」

曜「うん? 分かった! 曜ちゃんに任せてよ!」


これって夢……夢なの?

でも夢にしては海の匂いとか風の感覚とかリアル過ぎるよね……

ほっぺをつねっても普通に痛い。

つまりこれは夢じゃない……もしかして異世界に飛ばされちゃったの!?

漫画みたいに!?


千歌「ま、まさか〜…ないないあり得ないよ」



曜「その前に、君の名前を教えて欲しいな!」

千歌「えっ、あ、そうだね。私の名前は高海 千歌だよ。よろしくね」

曜「千歌ちゃんだね。うん、覚えた♪ それで、まずは何から聞きたい?」
5 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/01(日) 00:30:42.46 ID:2Rh4w0SG0
千歌「そうだね……曜ちゃんはどうしてここに来たの?」

曜「それはね、私は立派な炎使いになる為の旅をしているからだよ!」エッヘン

千歌「ほ、炎……使い!?」


千歌「ちょっと待って、炎使いって何!?」

曜「炎の事も忘れちゃったんだ。よーし…見ててね」ボッ


曜ちゃんの付けてる指輪に青い炎が灯った!?

それに手のひらに魔法陣みたいなものが……


曜「―――それっ!!」バシュッ!!!


千歌「す、凄い!! 手から水が出た!!」

曜「うおっ!!?」ビクッ

千歌「へ? 何で曜ちゃんも驚いているの?」

曜「い、いや……だってこんな威力だとは思わなかったからさ。普段だったら水鉄砲くらいいの勢いだし」

千歌「でも今の威力はその何十倍も凄かったよ?」

曜「ほぅ……つまり、旅の成果が出てるって事か! うふふ、曜ちゃんもやるねぇ〜」エヘヘ

千歌「自分で褒めちゃうんだ……それで、今のは何なの?」

曜「今のは雨属性の炎だよ」

千歌「雨属性? って言うか……炎じゃなくて水じゃん、水使いじゃん」

曜「違うんだなぁこれが。水に酷似した炎を操ってるのだ」

千歌「あれが炎? どう見たって水じゃん」

曜「それが雨の性質なの」

千歌「ふーん……他にはどんな炎が使えるの?」

曜「使える属性はこれ一つだね。中には複数の属性を使える人もいるらしいけど」

千歌「例えば木属性とか風属性とか?」

曜「そんな属性は聞いた事無いかな。炎の属性は全部で七属性ある。……らしい」

千歌「“らしい”?」

曜「自分の使える属性以外ちゃんと覚えて無いんだよねこれが」

千歌「……それでよく立派な炎使いになる旅をしているね」

曜「あ、あははは……。でも、自分の属性については詳しく知ってるよ! 各属性には特性があってね、雨は『鎮静』なんだ。特性は…ええっと確か……動きとか痛みを鈍くする、だった気がする」

千歌「あやふやだなぁ」

曜「この七属性以外にもいくつかあるらしくて、この国の王様が扱えるって話を聞いた事があるよ」

千歌「へぇ……」
6 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/01(日) 00:31:57.21 ID:2Rh4w0SG0


曜「私はこれから王都に向かうつもりなんだ。千歌ちゃんも一緒に来る?」

千歌「王都には何があるの?」

曜「さぁ?」

千歌「……さぁ?」

曜「私も実際に行くのは初めてだからよく分からないんだよ。ただ、技を極めるには王都に行くのが一番だってパパが言ってた」

千歌「なるほどね」

曜「ある程度の実力が無いと門前払いを受けるって話だから、一人で修行の旅をしていたけれど、今の技が出せるなら大丈夫な気がする!」


曜「どうする? 一緒に行く?」

千歌「……うん、行こうかな」

曜「やった! 決まりだね」


王都っていうくらいだから、何か元の世界に戻るヒントがありそうだよね。

今は曜ちゃんについて行こう。


曜「じゃあ、王都に向かってーーー―――」


曜「―――出発進行!!!」
千歌「―――ヨーソロー!!!」


千歌「ほぇ?」

曜「へ? よーそろー??」キョトン

千歌「あ、うん、何でもないよ」


この曜ちゃんは『ヨーソロー!』って言わないのかぁ……


7 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/01(日) 00:33:19.73 ID:2Rh4w0SG0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



曜「王都までは少し距離があるからバスで行こうか。ええっと、近くのバス停はどこかなー」ポチポチ


曜ちゃんに色々と質問して分かった事がある。

一つはこの国は島国ってこと。

形は静岡県に少し似ていて、海の向こう側にも島や大陸があるみたいだけれど

今は鎖国中らしい。


もう一つは文明の相違がほとんど無いこと。

普通の子が魔法みたいな力を使えるからもっとファンタジー感があると思ったけど……

普通に車が走っているし、家の作りとかも違いが全く無い。

曜ちゃんも他の人達もスマホに似た機械を持っている。

私の質問もほとんどスマホで調べて答えていたし。

ただ、肝心の炎について具体的に書いてあるサイトが一つも見つからなかった。
曜ちゃん曰く、誰にでも使える技術じゃないから存在は認知されているけど、技術等の詳細は公表されて無いらしい。

ちなみに私のスマホは電源すら入らない始末だった。



千歌「本当に別の世界に飛ばされちゃったんだね……私」ハァ



曜「―――ねえねえ」


千歌「どうしたの?」

曜「バス停は見つけたんだけどさ、千歌ちゃんお金持ってる? こんな感じのやつ」ジャラ

千歌「……持ってない」

曜「なら暫くは私が払うね」

千歌「え?」

曜「だって千歌ちゃんお金もアテもないんでしょ? 宿とか食べ物とかこれからどうするのさ」

千歌「うっ…そ、それは……」

曜「だから一緒に行動する間は私が全部払うから。曜ちゃんにドーンと任せてね!」エッヘン

千歌「で、でもいいの? 初めて会った人にそこまでして……それにお金だっていつ返せるかも分からないのに」

曜「いいのいいの。お金なら沢山あるし、一人で旅するのも心細かったからね。それにさ、その……何というか千歌ちゃんのこと放って置けないんだよね。自分でもよく分からないんだけどさ。変だよね? あはははは」

千歌「曜ちゃん……ありがとう」ニコッ

曜「どういたしまして♪ それよりも記憶の方はどう?」
8 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/01(日) 00:35:33.62 ID:2Rh4w0SG0

千歌「え、あ、うーん…まだ厳しい……かな」

曜「そっか……でも何かのきっかけで思い出せるかもしれないよね!」

千歌「そ、そうだね……」


うぅ、罪悪感が……


曜「………」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


〜千歌達が移動して数十分後 砂浜〜



「―――本当にこの場所なの?」

女兵士「ええ、間違いなくこの砂浜周辺です」

女兵士「近隣の住民からも、この砂浜近くで眩い閃光が発生したと報告が上がっております」

「王都にある探知機のメーターが振り切れて壊れる程の炎が発生したんでしょ? にしては環境の変化が全くないって……絶対に変でしょ?」

女兵士「そう申されても……」

「はぁ……せっかく面白そうな敵が現れたのかもって思ったから、わざわざ私が来たっていうのに。無駄足だったわね」



女兵士「隊長、報告があります」

「何かしら?」

女兵士「この周辺で見覚えのない二人組の少女を目撃したとの情報が入りました」

「ただの旅行者じゃないの?」

女兵士「それは何とも……むつさんが近辺の住民に身分証を提示させて不審者をあぶりだそうとしています」

「むっちゃんが? そんな方法で見つかるなら苦労しないわよ……」

女兵士「合流しますか?」

「いやいや、面倒だから帰るわ」

女兵士「で、ですよね」


9 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/01(日) 00:36:26.02 ID:2Rh4w0SG0
「内戦中だっていうのに王都に守護者が誰もいない状況はよろしくないからね。まあ、あの女王様が本気出せば一瞬で終結するんだけど」

女兵士「女王の様子はどうなのですか? 私達のような下等兵ではお目にかかる事すら出来ないので……」

「……別に、相変わらず態度も言動も噂通りの“氷の女王様”よ。この前も命令をちょっと背いた部下を氷漬けにしていたわ」

女兵士「ッッ!!?」ゾワッ

「私も何度氷漬けにされかかった事か……」ハァ



―――プルルルル



「ん? 電話……あ、やっと連絡寄越したな」ピッ


「もしもし! 貴女一体どこに居るの!?」

『ごめんごめん、今は王都行きのバスの中よ〜』

「全く……守護者としての自覚をもう少し持ちなさいよね!」

『はいは〜い。色々と報告する事があるから、城に戻ったらすぐに会いに来て』

「報告?」

『私だってただフラフラしてただけじゃないのよ。ちゃーんと務めは果たして来たわ』


10 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/01(日) 00:37:54.61 ID:2Rh4w0SG0


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


〜バス車内〜



千歌「あれ!? よく調べたらこの国って今内戦中なの!?」

曜「内戦? あぁ、そう言えばそうだったね」

千歌「こんな重要な事件なのにニューストップになって無いってどういう事なのさ……」

曜「そりゃ、“大した事じゃない”からだよ。この内戦だって結構長いし」

千歌「はい?」

曜「今の王様……あ、女の人だから女王になるのか。その人が恐ろしく冷酷な人なんだよ」

千歌「独裁者って事……?」

曜「うん。前の女王様は凄く優しい王様だったんだけど、少し前に亡くなって……その代役として王の地位に即いたの」

曜「前の女王様がどうして亡くなったのか。今の女王様がどうしてこの地位に即けたのか。この辺の事情は全くの謎でね……」

千歌「闇が深いね……」

曜「そもそもこの国は―――」



―――キキィィィ!!!!



曜「うおぉ!? 急に止まった?」

千歌「事故かな?」


女兵士「………」

女兵士「………」

女兵士「………」


曜「何かぞろぞろと入って来たぞ?」



「あー、ご乗車のお客様、突然失礼します。私、王立軍の むつ と申します」


むつ…え、むっちゃん!?

顔も雰囲気もそっくりだけど、やけに大人っぽいような……
11 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/01(日) 00:40:21.48 ID:2Rh4w0SG0
むつ「ただ今、王都では反乱者のグループとの戦闘が勃発しました。国民の安全を確保する為、一時的に王都内への立ち入りを制限します。よって、このバスはここで終点となります」


曜「あちゃー…運が悪いなぁ」

千歌「立ち入り制限ってどのくらいの間入れないの?」

曜「早くても一週間くらいはかかるかな」

千歌「い、一週間も!?」

曜「うん。何かあるの?」

千歌「い、いや……何も、無い…」


すぐに戻れるとは思ってなかったけど、少なくとも一週間以上は帰れない……

もしかしたらラブライブの予選にも間に合わないかも知れないの!?


曜「んん?」キョトン

むつ「それともう一つ、この近辺で不法入国者と疑わしき人物が目撃されました」

千歌「!?」

むつ「これより我々が身分証の確認を取らせて頂きますので、国が発行したものを用意してその場でお待ち下さい」

曜「ほぇー、こんな事ってあるんだね」

千歌「ね、ねぇ…もし身分証が無いとどうなるの?」

曜「そりゃ、このまま軍に拘束されるよ。その後に本当に不法入国者だって分かればそのまま処刑されるだろうね。海の向こう側から来た人にはやたらと厳しいからさ」

千歌「ウソ……嘘で、しょ…?」サアァァ

曜「どうしたの? 顔が真っ青だよ?」


―――ヤバい

ヤバいヤバいヤバいヤバい!?

身分証なんてあるわけ無いじゃん!

学生証でいける?
駄目だ、絶対にバレる。


曜「千歌ちゃん……もしかしてだけど…」
12 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/01(日) 00:42:07.82 ID:2Rh4w0SG0


むつ「―――……君達、身分証を見せて」


千歌「ぁっ!」ビクッ

曜「どうぞ」

むつ「……はい、確認しました。隣の君も見せて?」

千歌「え、あ、はい……ええっと、その…」

むつ「……どうかした? 早く見せて」ジッ

曜「千歌ちゃん?」

千歌「あの……だからその…う……」

むつ「………」

千歌「あぅ……う、うぅぅ……」ジワッ





「―――お嬢さん、もしかして身分証を落としたんじゃないかのぉ?」





千歌「……えっ」

むつ「落とした?」

曜「お婆さん、何か知っているんですか?」

お婆さん「ほれ、私の座席の下にこれが落ちてたんじゃよ」


私の顔と名前が入った身分証!?

でも何でこんなものが…


お婆さん「お嬢さんのじゃろ? 大切な物なんだからしっかり管理しなさいな」

千歌「えっ、あ、はい。ありがとう、ございます……」

曜「なんだ、ちゃんと持ってるじゃん。良かった」



むつ「確認しました。二人とも行って大丈夫です」

曜「はーい。じゃあ行こっか、千歌ちゃん」

千歌「う、うん……」

お婆さん「うふふふ」ニコニコ








むつ「それでは、最後はお婆さんの番です。身分証の提示をお願いします」

お婆さん「……」


むつ「…お婆さん?」
13 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/01(日) 00:43:30.12 ID:2Rh4w0SG0

お婆さん「まだ分からないのかい?」

むつ「は?」

お婆さん「はぁ……むっちゃん最近、訓練をサボってたわね?」

むつ「何を言って―――」



―――プシュウウゥゥゥ



お婆さんの体が藍色の霧に包まれた。

シワやシミだらけだった肌はみるみる若さを取り戻す。

ヨボヨボだったお婆さんは高校生くらいの美少女に変化したのだ。

若返ると言うより、元に戻ったと言うのが正しい。
そして、むつはこの人物を知っている。

この人物は むつ の直属の上司にあたる人物だったのだ。



むつ「―――……つ、津島隊長!!!?」



善子「私は悲しいわ……ちょっと留守にしている間に、むっちゃんに顔を忘れられるなんて」オヨヨ

むつ「あ、いや、そんな事は…って、そもそも津島さんの幻術を見破るなんて出来るわけないじゃないですか!」

善子「いやいや、むっちゃんや、確かに私は“超”一流の術師よ。でも、しっかり訓練していれば見破れない幻術じゃないはずよ?」

むつ「訓練は怠っていないつもりでしたが……甘かったようです。申し訳ございません」

善子「まあ、何も言わずに王都を離れた私が叱れる立場じゃ無いんだけどねー」アハハ

むつ「そ、そうですよ! 桜内さん、かなーり怒ってますよ?」

善子「やっぱり?」

むつ「はい、『守護者としての自覚が足りな過ぎる。今度会ったら消し炭にしてやる』って仰ってました」

善子「いやだー…かんかんじゃないの」ゲンナリ

むつ「自業自得です」


善子「帰るのやめよっかな」

むつ「駄目です。一緒に城へ帰りますよ」

善子「ふぁーい……あ、梨子に電話しておこっと」ピピピ

むつ「そうして下さい」

善子「じゃ、バスの運転は任せたわよ〜」



―――プルルルル…


14 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/01(日) 00:45:23.11 ID:2Rh4w0SG0
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―――お婆ちゃんが拾ってくれたこの身分証……バスに乗る前に持ち物を確認した時は無かったよね?

本当に私の物なの?

このまま持っていてもいいのかな……?


曜「はぁ……王都に行けないのはガッカリだなぁ」シュン

千歌「これからどうするの?」

曜「途中で降ろされたこの街で時間を潰すしかないよね」

千歌「一週間も?」

曜「……流石に飽きちゃうよね。何日かしたら別の場所に行ってみようか?」

千歌「私はそれでも構わないよ。どこに何があるか全く分からないし……」

曜「じゃあ決まりね! 今日の宿を探しつつ、この街を散策しよう!」

千歌「お、おーう」

千歌(思い切り沼津駅周辺の街並みなんだよなぁ……)



千歌「あ、そう言えばさ」

曜「ん?」

千歌「曜ちゃんに貸してもらったスマホで色々調べたんだけれど、女王様の顔とか名前が一切検索にヒットしなかったんだ。どうしてなの?」

曜「あー……今の女王様が即位したと同時に歴代女王の情報の全てが消去されたんだよ。それだけじゃなくて、公の場に女王に関する事柄を載せたり、口に出したりしたら処罰の対象になっちゃうんだ」

千歌「どういう事? それかなり厳し過ぎない?」

曜「まあね。私は歴代の女王様の顔とか名前は全く覚えていないんだけど!」

千歌「それはそれで国民としてどうなのさ……」

曜「あ、あははは……おっしゃる通りです。もうちょっと勉強するべきでありました……」

千歌「凄く気になるけれど、話すと捕まっちゃうんじゃねぇ……」

曜「でもでも、バレなきゃ犯罪にはならないんだぜ?」ニヤッ

千歌「だとしても曜ちゃん何も知らないんでしょ?」

曜「はい」キッパリ


千歌「……」

曜「……」


千歌・曜「「あはははははは」」ケラケラ


曜「あはははは! 我ながらバカ過ぎて情けないなぁ」

千歌「ふふふふ、どんな世界でも曜ちゃんは変わらないな……凄く安心する」

曜「……変わらない? 安心?」キョトン

千歌「こっちの話〜」

曜「んん?」
15 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/01(日) 00:46:58.96 ID:2Rh4w0SG0


――――――
――――
――



〜夜 城内 大広間〜



「本日戦闘を仕掛けて来た反逆者についてですが、調査から戻った桜内さんと津島さんの迅速な対応により制圧が完了致しました」

むつ「こちら側の被害は?」

「建物の損傷と多少の負傷者はいますが、死者はいません」

善子「レジスタンス側に何人か強そうな奴がいたから、いつも通り幻術に嵌めて研究室にぶち込んでやったわ」

梨子「また? これ以上戦力が必要とは思えないけど」

善子「これが私に与えられた命令なんだから仕方ないでしょ。そもそも、梨子は倒し過ぎなのよ! 本当だったらもう何人か捕らえる予定だったのに…」

梨子「『抵抗する者を皆殺しにしろ』これが私に下された命令よ」

善子「はぁ……ほんっと厄介だわ。守護者に与える命令は統一して貰いたいものね」

むつ「ちょっ、ちょっと! 女王様の目の前でそんな―――」




女王「ほう、随分と生意気じゃありませんか。霧の守護者さん?」




むつ「うっ!?」ビクッ

善子「……ああ? 事実でしょ?」

女王「梨子がトドメを刺す前に貴女が何とかすれば良いのです。“生きてさえいれば”身体がどうなっていようが関係ないのですから」

善子「その通りね。でも―――」



――パキパキッ!!!



女王により善子の体が一瞬で氷漬けにされた。

隣席していた他の兵士は突然の出来事に激しく動揺する。
16 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/01(日) 00:47:46.49 ID:2Rh4w0SG0
女王「守護者の分際で王に意見するな」

梨子「やれやれ、善子も学ばない人ね……」

むつ「た、隊長……津島隊長!!!?」




善子「むっちゃん騒がない。大人しく席に座って」

むつ「へ? あれ、後ろ、えっ!?」



そこには氷漬けにされたはずの善子の姿があった。

氷の中には善子の体は無く、代わりに誰も座っていなかった椅子が入っていた。


予め部屋内の人間全員に幻覚を見せており、善子本人は会議が始まってからずっと むつ の後ろに立っていたのだ。

女王はさらに激情する。



女王「私に幻術を使ったな? 王であるこの私に……貴様は抵抗したな?」

善子「文句ある? 身の危険を感じたんだから使うのは当たり前じゃない」


女王「……覚悟は、出来ているんでしょうねぇ?」パキパキパキッ!!!

善子「ったく、面倒な女王様ね」ボッ!!

むつ(や、ヤバい! このままじゃ巻き込まれる!!!)



梨子「二人とも落ち着いて下さい。こんな場所で戦闘したら取り返しのつかない事態になります」

梨子「善子ちゃん、貴女の言動は女王に対して無礼極まりないわ。いい加減にしなさい」

善子「……むぅ」ムスッ

梨子「女王、ここで霧の守護者を殺してしまっては国の戦力に大きな穴が開いてしまいます。今一度、冷静な判断をお願い致します。それでも、ここで殺すべきだとお考えのならば、私が始末します」



女王「………津島 善子」

善子「…何ですか?」ギロッ

梨子「こ、この子って人は……!」

女王「貴女が無断で王都を離れていた一ヶ月間、一体どこで何をしていたのか報告しなさい。報告内容によってはこれまでの事は不問とします」

善子「女王様にしては良心的じゃない」

むつ「津島さん!!!」

善子「わ、分かったわよ……ごほん、報告は二つあります」
17 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/01(日) 00:48:54.19 ID:2Rh4w0SG0


善子「まず一つ、旧虹ヶ咲領土にて失踪した松浦 果南とルビィ様の生存が確認されました」

女王「……」

梨子「へぇ…あの裏切り者、まだ生きていたんだ」

善子「どうやら我々同様、散らばったAqoursリングを探しているようです。仲間もそれなりの数が集まっているようです」

善子「その仲間の一人に雲のAqoursリングを使用出来る人物がいる事も確認済みです」

梨子「雲か……」

女王「まさか反逆者側にAqoursリングを使用出来る人物がいるとは」

善子「二回の戦闘を行い、ある程度の戦力を削りましたが、致命傷を与える事は出来ませんでした。どうやら、果南はヘルリングによる『呪いの力』を宿したようです」

むつ「呪いの力?」

善子「果南はその力であらゆる炎を使用した技、匣兵器を触れただけで無力化してきます。恐らく、女王の“奥の手”に対抗する為に身につけたのかと」

女王「下らない…」


善子「奴らがAqoursリングを集めている理由は考えるまでもありません。よってリング探しは奴らに任せた方が都合がいいと判断し、私は王都への帰還を選択しました」

むつ「どう言う事です?」

善子「リングを集めているのは女王を倒す為。ならこっちが人員を割いて探さなくとも、向こうから揃えて持って来てくれる。持ち去った匣兵器も一緒にね」

女王「貴女にしては良い判断ではありませんか」

善子「そりゃどうも」

梨子「もう一つの報告は何?」

善子「……」

女王「どうしたのです?」

善子「いえ、報告は以上です。もう一つの報告は不確定な情報が多いのでまだ伝えるべき内容ではありませんでした」

女王「ほぅ…なら、今ここで殺してしまってはその報告は一生聞けないという訳ですか」

善子「まぁ、そうなるわね。どうする、私を殺す?」

女王「……いいでしょう。貴女の処分は不問としましょう」

善子「……どうも」

むつ「……ふぅ」ホッ

梨子「冷や冷やさせないでよね……」
18 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/01(日) 00:50:39.55 ID:2Rh4w0SG0



女王「梨子さんの方は何か分かりましたか?」

梨子「強力な炎が発生した地点の調査を行いましたが、これと言って何も…」

善子「計測器の数値がオーバーフローしたんでしょ? 何も無いわけがないじゃない」

梨子「本当に何も無かったんだから仕方ないでしょ!」


女王「……先程計測器を確認しましたが、あのパターンは間違い無く鞠莉のものです」

善子「は?」

梨子「鞠莉様……ですか!? ですが鞠莉様はすでに亡くなっているのですよ!」

善子「実は生きてたってオチじゃ……」

女王「それはあり得ません。彼女は確実に死んでいますわ」

梨子「でも死後に発動する技なんて聞いたことがありませんよ?」

女王「あの人は特別ですから。私達に出来ない事でも彼女なら出来ても不思議じゃない」

善子「仮にあれが鞠莉様の炎だったとして…一体どんな技を発動させたの?」

むつ「技術スタッフが解析を進めていますが、数値が数値なだけに数日は掛かるそうです」

女王「鞠莉…貴女は今更何をしようとしているのですか……?」


梨子「なら大人しく待つしかないのか……。なら今夜は街にでも出ようかしらね」

善子「私も行くー」

むつ「ダメです。津島さんは勝手に居なくなった分の仕事が残っているのでそれを片付けて下さい」

善子「はい……? い、今から?」

むつ「ええ」

善子「」マッサオ

梨子「自業自得ね」
19 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/01(日) 00:52:17.25 ID:2Rh4w0SG0


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


〜宿〜


千歌「おかしい……どんなに検索しても三年前までの歴史しか調べられない。情報規制がされてるって曜ちゃんは言ってたけど、これは異常過ぎるよ」

千歌「ネットで調べられる情報はあまり無いから、曜ちゃんや他の人から聞き出すしかないか……教えてくれるかなぁ」ウ-ン


曜「千歌ちゃーん、お風呂空いたよー」

千歌「あ、うん。分かった」

曜「何か思い出した?」

千歌「うーん、ちょっと気になることが……」



―――ピーンポーン



曜「来客? わざわざホテルの部屋に?」

千歌「私が出るよ。曜ちゃんは着替えていてよ」




千歌「どちら様ですか?」ガチャ

「夜分に申し訳ございません。王立軍の『いつき』と申します」


いつき……この人も私の知ってる いつきちゃん にそっくりだ。



いつきと名乗った彼女は千歌と同じクラスの『いつき』と瓜二つだった。

ただ、むつと同様高校生らしい雰囲気は無く、すっかり大人な女性になっている。

勿論、千歌を知っている様子は見られない。



いつき「ただ今、とある人物を探しています。この写真の中に見覚えのある顔はありますか?」



五枚の写真を見せられた千歌。

年齢も性別もバラバラで、関連性は全く無かった。

軽く目を通して誰も知らないと答えようとしたが、一人の女性の写真が目に留まる。


右眼に包帯を巻き、手脚には生々しい傷跡が残っているこの女性。
すっかり変わり果てた姿だったが、間違いなく千歌の知っている人物だった。
20 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/01(日) 00:53:12.41 ID:2Rh4w0SG0


千歌「―――果南、ちゃん……?」

いつき「…何? 果南“ちゃん”だと?」



千歌の発言を聞き、いつきの表情が一変した。



いつき「詳しい話が聞きたい。これから一緒について来てもらう」

千歌「え?」



そう告げると、いつきは千歌の腕を掴んだ。



千歌「な、何!? 放してよ!」



千歌の声を聞いて曜が駆けつける。



曜「なになに、どうしたの?」

いつき「もう一人居たのか」


曜「え、これって……どういう状況?」

千歌「わ、分かんないよ! この人がいきなり!!」

いつき「君、この子の関係は?」

曜「えっと、千歌ちゃんとは今日知り合ってですね……」



言い終わる前に質問を続ける。



いつき「なら、松浦 果南に心当たりは?」

曜「はい? マツウラ??」キョトン


いつき「……どうやら君は関係ないようだな」

千歌「だから何なのさ!? どうして果南ちゃんを知ってるといけないの!?」

いつき「当然だろ。何せコイツは女王の命を狙う凶悪な反逆者なんだから」

千歌「はあ!? 何を言ってるの? 果南ちゃんがそんな事をするわけが―――……あっ」



自分の知っている果南はそんな事はしない、出来るわけがない。


だが“この世界”の果南はどうだろうか?

曜でさえ、炎という規格外の力を扱うことが出来る。

果南も使えても不思議ではないし、その力を何に使っているか全く分からない。



―――そもそも、私はこの世界の果南ちゃんにまだ会ってない……

いつきちゃんの言っている事は事実なのかもしれない。


いつき「松浦 果南の情報は公表されていない。普通の国民なら、顔も名前も知らないんだよ」
21 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/01(日) 00:54:05.37 ID:2Rh4w0SG0
曜「でも千歌ちゃんはそれを知っていた……しかも『ちゃん』付けする程の仲がいい」

千歌「ちがっ、いや違わないけど……私の知ってる果南ちゃんとは別人だよ!!」

曜「……」



曜が冷酷な眼差しで千歌を見つめる。

そんな気がした。

だが、状況が状況だ。

今日初めて出会った記憶喪失の人間が誰も知らないはずの凶悪犯の名前を知っていたのだ。
当然の反応である。

それでも千歌の心を折るには充分すぎる反応であった。



千歌「な、なんで……そんな目で見るの…?」

曜「………っ」

いつき「さあ来い。知っている事を全て吐かせてやる」グイッ

千歌「い、嫌だ……嫌だよ!! 私は何も知らない!!」

いつき「いいから来い!!」

千歌「曜ちゃ、ようちゃん!! たす、助け……」ジワッ

いつき「無関係なその子を巻き込むの? 最低だな」

千歌「ぅ!!?」

曜「……」

いつき「騒がしくして済まなかったね。すぐにコイツを連れて―――」
22 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/01(日) 00:56:24.30 ID:2Rh4w0SG0















曜「…………なせよ」




いつき「ん?」



―――ボッ!



曜のリングが青く燃える。

技の発動に必要なリングの炎。
これにより、曜はいつでも技を発動する準備が整えた事を意味する。



曜「放せよ……今すぐ千歌ちゃんを放せ!!!」

千歌「…えっ」

いつき「……貴様、自分が何をしているか分かっているの? 私に逆らうという事は、女王に、国に逆らう事を意味する。反逆者と同様の扱いを受けるんだぞ?」ギロッ

曜「……ッ!!」

いつき「体の反応は素直だな。恐怖で震えているじゃないか」

曜「……う、うる、さい……!」ガタガタガタ


いつき「理解出来ない……まるで理解出来ない!」

いつき「貴様は今日出会ったばかりの人間にこの先の人生を捨てるの? このまま見捨てれば済む場面で何故そんな愚かな真似をする!?」


その通りだよ……

どうして曜ちゃんはこんな私を助けようとするのさ……?


曜「分からない……私だって何でだか全然分かんないよ!!! 今だって凄く怖い、怖くて怖くて堪らないさ!!! 見捨てようとも思った!!! でも……」




曜「―――でもここで千歌ちゃんを見捨てたら、後で死ぬ程後悔する。私の中の“何か”が、勇気を出して立ち向かえって叫んでるんだ!!!」

いつき「……」

曜「放っておけない……助ける理由なんてそれだけで充分でしょ!!」

千歌「よ、お……ちゃん」



曜「……待ってて千歌ちゃん。今助けるから」ギリッ

いつき「バカな子……死んであの世で後悔しなさい!!!」ボッ!


23 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/01(日) 00:58:13.62 ID:2Rh4w0SG0
今回はここまで。
不定期更新ですがエタらないように頑張るのでよろしくお願い致します。

また、一部設定には元ネタがありますのでご了承ください。
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/01(日) 02:27:19.07 ID:WlMNTj/zo
リボーンでそんな感じのあったな
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/01(日) 18:41:05.62 ID:VarbjEcFO
期待
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/01(日) 22:57:52.70 ID:IPfnx/VoO
リングに炎ときたらボックスも出てきそうな…
楽しみだ
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/02(月) 02:13:33.73 ID:jmfKYdvn0
期待
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/03(火) 19:21:14.96 ID:3EZYvOJ90
いいゾ〜
29 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/08(日) 01:18:43.84 ID:sR0Enwqz0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



よう『パパ〜みてみて! ようの“まほー”!!』ボッ!!

曜パパ『おお! もうここまで使えるようになったのか! 凄いな曜』ナデナデ

よう『えへへ///』

曜パパ『ただなぁ、これは魔法ではないんだよ?』

よう『???』

曜パパ『ま、まあいいか』アハハ…


曜パパ『よし、曜ちゃんにはパパが使っていたそのリングをプレゼントしちゃうぞ』

よう『いいの!?』パアァァ!

曜パパ『勿論だよ。大切に使うんだぞ〜』

よう『うん!』


30 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/08(日) 01:19:32.11 ID:sR0Enwqz0


曜パパ『―――なあ、曜』

よう『なーに?』

曜パパ『曜は何の為にその力を使いたい?』

よう『なんのため?』キョトン

曜パパ『その力は誰にでも使えるものじゃない。使い方によっては人を傷つける事も救う事も出来る」

よう『ん……んん??』

曜パパ『……ゴメンゴメン、まだ曜ちゃんには早かったね』

曜パパ『曜ちゃんならしっかりと訓練すれば今よりもっと凄い力を手に入れる事が出来るよ』

よう『ほ、ほんとに……!』キラキラ

曜パパ『ああ本当さ。曜ちゃんならきっとね』
31 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/08(日) 01:20:08.78 ID:sR0Enwqz0


曜パパ『いいかい? リングの炎に必要なのは想いの強さだよ』

よう『おもい?』

曜パパ『例えばそうだな……自分が心から守りたい、救いたいと思ったその時、そのリングは曜に力を貸してくれる。どんな強敵にも立ち向かえる勇気を与えてくれるんだ』

よう『うーん……よくわかんないや』

曜パパ『あはは。曜ちゃんにも理解出来る日がきっと来るよ』

32 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/08(日) 01:23:46.75 ID:sR0Enwqz0

――――――――――――
――――――――――
――――――――
――――――
――――
――



――……あーあ、言っちゃった。
これでもう後戻り出来なくなっちゃったなぁ……

相手は私より確実に格上。

戦えば怪我だけじゃ済まない。

間違い無く殺される。

運良く勝てたとしても一生追われる身となるのは確定しちゃったわけだ。


黙っていればやり過ごせた場面だったじゃないか…

今日会ったばかりの女の子でしょ?

見捨てたって誰も責めない。


でも……あの子が…千歌ちゃんが泣いてた。

泣きながら私に「助けて」って言ったんだ。



理由はたったそれだけ。

理屈なんて無い。

私のすべき事はその瞬間に決定した。


――大丈夫……私なら…出来る……!!


33 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/08(日) 01:27:49.89 ID:sR0Enwqz0




この世界において『技』を発動させるには二つの方法がある。

一つは詠唱によるもの。

特定の文章をリングの炎を灯しながら唱えることで発動させる事が出来る。

一定のリズム、一定の声量、一定の炎圧が必要となるこの方法は
もっとも短い詠唱でも読み終えて実際に技が繰り出されるまでに三十秒以上掛かる。

詠唱破棄や高速詠唱といった裏ワザは存在しない。



そこで編み出されたのが魔方陣による発動だ。

詠唱工程を魔法陣に置き換えて脳内にイメージ記憶として蓄積。

使用時に記憶した魔方陣をリングの炎で具現化されることで詠唱と同様の技を繰り出せる。

この方法の開発により発動までの平均時間が二秒未満にまで短縮された。

また、予め魔方陣を別の媒体に写しておけば「脳内から現実世界への具現化」という工程を省略する事も可能。



いつきも当然、魔法陣による発動を予測している。



―――奴との距離はおよそ三メートル。

リングには炎が灯っているから技の発動準備は整っている。

両手には魔方陣が記された媒体の存在は確認出来ない。

超一流の使い手でも、脳内から魔法陣の具現化には一秒かかる。
奴がそこまでの実力があるとは考えられない。

対して私は予め魔方陣を描いた用紙を既に準備している。
奴がどんな技を発動しようとしても、私の方が先手を取れるのは明白だ……!


いつきはズボンのポケットに手を入れた。
34 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/08(日) 01:28:45.41 ID:sR0Enwqz0



対する曜は奇妙な行動を取った。

リングを付けた手をすぐ隣にある壁へ叩きつけたのだ。



―――ブシャアァァ!!!!



その瞬間、いつきの足元から勢いよく水が吹き上げ、彼女を水流に閉じ込めた。



いつき「ゴボゴボゴボッ!!!?」


千歌「えっ、何?」

いつき「ば、馬鹿な!? タイムラグ無しで魔法を発動させただと!!?」

曜「千歌ちゃん早く! 鞄だけ持ってここから逃げるよ!!!」

千歌「逃げるってどこから!? ここ六階だよ!?」

曜「大丈夫! しっかり掴まって!!」ガシッ



ピキッ―――!



曜「ッ!? 急に力が沸き上がって来た……?」


千歌「ちょっ、待って待って待っ―――……きゃあああああああああああ!!!!!?」



千歌を抱きかかえた曜は部屋の窓から外へ飛び出し、隣の建物の屋根へと移る。


夜の街中を駆け抜ける。


35 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/08(日) 01:30:11.25 ID:sR0Enwqz0



曜「はぁはぁはぁ……や、やっぱりそうだ…!」

千歌「何が?」

曜「さっき技を使って確信したよ。千歌ちゃんと出会ってから私の力が急激に強化された!」

千歌「?」

曜「技っていうのは才能や使ってるリングの差はあるけれど、基本的に長い年月をかけて徐々に威力とか規模が強化されるものなの」

曜「私が使ったあの技、『水の壁(ムーロ・ディ・アクア)』は昨日まで人間の動きを封じる程の威力も規模も無かった。昼間に見せたのと同じように自分の想定よりも遥かに強かったんだよ!」

曜「それだけじゃない! 人一人抱えたまま隣の屋根に飛び移れたんだよ? 身体能力も上がってる! 千歌ちゃんは私にどんな技を使ったの!?」

千歌「いや……私は何も…。それよりも、あの時物凄い速さで発動していたよね。浜辺で見せてくれた時よりも速かった」

曜「パパから教えてもらったちょっとした裏技だよ」

千歌「裏技?」

曜「炎使いのほとんどが持っているこのリングには自分の好きな魔法陣を一つだけ記録しておくことが出来るんだ。記憶した魔法陣は発動に必要な炎をリングに灯した状態で地面か壁に手を叩きつければ瞬時に使用できるの」

千歌「他の人には知られていないの?」
36 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/08(日) 01:30:36.84 ID:sR0Enwqz0



曜「はぁはぁはぁ……や、やっぱりそうだ…!」

千歌「何が?」

曜「さっき技を使って確信したよ。千歌ちゃんと出会ってから私の力が急激に強化された!」

千歌「?」

曜「技っていうのは才能や使ってるリングの差はあるけれど、基本的に長い年月をかけて徐々に威力とか規模が強化されるものなの」

曜「私が使ったあの技、『水の壁(ムーロ・ディ・アクア)』は昨日まで人間の動きを封じる程の威力も規模も無かった。昼間に見せたのと同じように自分の想定よりも遥かに強かったんだよ!」

曜「それだけじゃない! 人一人抱えたまま隣の屋根に飛び移れたんだよ? 身体能力も上がってる! 千歌ちゃんは私にどんな技を使ったの!?」

千歌「いや……私は何も…。それよりも、あの時物凄い速さで発動していたよね。浜辺で見せてくれた時よりも速かった」

曜「パパから教えてもらったちょっとした裏技だよ」

千歌「裏技?」

曜「炎使いのほとんどが持っているこのリングには自分の好きな魔法陣を一つだけ記録しておくことが出来るんだ。記憶した魔法陣は発動に必要な炎をリングに灯した状態で地面か壁に手を叩きつければ瞬時に使用できるの」

千歌「他の人には知られていないの?」
37 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/08(日) 01:31:57.05 ID:sR0Enwqz0
曜「多分ね。まあ、今は技なんかよりも簡単で且つ強力な道具が流行ってるから―――」



―――バシュ! バシュ!



いつき「逃がすと思うな!!」

千歌「何か飛んできたよ!? ブーメラン……? それに曜ちゃんと違って赤い炎を纏ってるよ!」

曜「赤い炎は確かええっと……あっ、嵐、『嵐』属性だ!」

千歌「『嵐』? 『雨』との違いは!?」

曜「お、覚えて無い! ただ特性は『分解』って名前で、全属性の中で攻撃力が高い方だった気がする!」

千歌「『分解』……攻撃を受けたらひとたまりもない感じがする……!」ゾワッ



街には一般人もいるが、ブーメランは的確に二人に襲い掛かる。

速いが、見切れない攻撃では無い。



いつき「このっ……! ブーメラン一本じゃ足りないか。ならッ!!!」

千歌「何か取り出した……? あれはサイコロ? 箱??」



いつきが取り出したのは手のひら大サイズのサイコロ状の箱。

それを見た曜は戦慄した。



曜「ヤバイ!? もう一つ同じ“匣(ボックス)兵器”があるのか!?」
38 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/08(日) 01:34:28.86 ID:sR0Enwqz0
いつき「……開口!!」パシュッ



炎を灯したリングを匣の窪みに差し込むと、中から同じ型のブーメランが飛び出してきた。

あの匣のサイズからは考えられない物が出現したのだ。



いつき「―――……嵐ブーメラン(ブーメラン・テンペスタ)』」



千歌「何……あれ…?」

曜「あれは匣(ボックス)兵器。リングの炎を注入することで動く最新の兵器だよ! リングさえ使えれば誰でも技に劣らない強力な武器を使えるから、匣の方が主流になりつつあるんだ!」


曜「二本同時攻撃を避けるのは無理! ここで戦うしかない……!」

曜「千歌ちゃん降ろすよ。そのまま私の後ろに逃げて!」




いつきから放たれる二本のブーメラン。

先ほどよりも数段速い。




千歌「うわ!? 飛んで来た!!!」

曜「くっ! 『水の壁(ムーロ・ディ・アクア)!!!』」バシャッ!!


―――あれ……さっきより壁が薄いぞ!?


いつき「無駄だ! その程度の技で防げる攻撃じゃない!!!」



ジュッ―――!!!



薄くなった水の壁を易々突き破る。

曜の肩を掠った。



曜「ぐうわあああああぁぁぁ!!!」

いつき「チッ、軌道だけは外らせたか……!」ギリッ

千歌「曜ちゃん!」

曜「ぐぅ……か、隠れるよ! 来て!」




39 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/08(日) 01:35:02.81 ID:sR0Enwqz0


曜「はぁ、はぁ、はぁ……」

千歌「よおちゃん……うで、腕が…」

曜「だ、大丈夫。ちょっと掠っただけだよ」ドロッ…


掠っただけであんなに血が出てる……。

私のせいで曜ちゃんが…


千歌「……っ」ギュッ

曜「千歌ちゃん? いきなり手なんか握ってどうしたの……?」


千歌「私に……私に出来ることは無いの!?」

曜「えっ」

千歌「曜ちゃんの役に立てるなら何だってやるよ! 足手まといにはなりたくない……!」

曜「……」

千歌「やっぱり私には何も……」

曜「……何でもか。じゃあ、お願いしようかな」

千歌「!」
40 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/08(日) 01:36:29.93 ID:sR0Enwqz0
曜「あのね、実は千歌ちゃんを抱えたあの時、物凄い力が流れ込んでくる感覚がしたんだ」

千歌「だから私は本当に何もしてないよ?」

曜「でも間違いない。さっきの技も千歌ちゃんと離れて発動させたら部屋で使った時よりも威力が落ちてた」

曜「理由は分からないけど、多分私と千歌ちゃんには見えないパスが繋がっているんだと思う。そのパスは一定の距離離れると途切れてしまう」

千歌「ええっと……つまり?」

曜「現状この繋がりを保てる距離が分からない。だから私から出来るだけ離れないで欲しいの」

千歌「……」

曜「本当だったら格好良く「ここは私に任せて遠くに逃げて!」って言いたいんだけどね。私一人じゃ足止めすら厳しそう……」

曜「千歌ちゃんを無傷で守り切れる保障は無い……凄く怖い思いをさせちゃうと思うけど―――」

千歌「曜ちゃんの近くに居ればいいんだね。分かったよ」

曜「っ! 本当に分かっているの!? もしかしたらケガだけじゃ済まないかもしれないんだよ!!?」

千歌「そりゃ怖いよ……でも、曜ちゃんの力になれるなら平気!!」

曜「千歌ちゃん……」

千歌「曜ちゃんは後ろにいる私の事は気にしないで戦って! 流れ弾とかは頑張って躱すから!」

曜「……分かった。この戦い、二人で切り抜けよう!」ニッ

千歌「うん!」



コツンと拳ぶつけ合う二人。

物陰から姿を現し、いつきと再び対面する。

曜はポケットから匣を取り出した。



千歌「それって……」

曜「私だって匣は持ってるのだ」ニシシ
41 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/08(日) 01:37:18.18 ID:sR0Enwqz0
曜「―――開口!」カチャッ!!



パシュ―――!!




匣から出てきたのは金属製のトンファー。

いつきのブーメランと同様、リングの炎を纏わせる事で破壊力の増強と特性の付与を可能とする特別な武器だ。



いつき「トンファーねぇ……接近戦が得意なわけか」


曜「行くぞ!!!」ダッ!!



曜が踏み込んだのと同時にブーメランを一直線に投げつける。

ブーメランは本来大きな円軌道を描くように投擲し
当たらなければ自分の手元に帰って来る武器だ。

いつきの投げ方では攻撃が外れても自分の元へ帰って来ない。

ブーメランの特性を完全に殺した投擲方法だった。



見切れない速度じゃない……。

トンファーで弾く?

それとも躱す?



これは殺し合い。

一つの選択ミスが命取りとなる。

対人戦の修行はある程度こなしてきた曜だが、実戦は今回が初めてなのだ。

ブーメランがもう一本増えていることが完全に頭から抜けていた。

42 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/08(日) 01:38:49.76 ID:sR0Enwqz0


千歌「曜ちゃん後ろ!!!」

曜「ッ!!!?」


背後から襲って来たブーメラン。

間一髪で二つとも弾き飛ばす。



曜「ぐぅ……腕が痺れる。何て重いんだ……!」ビリビリ

千歌「弾いたブーメランが手元に戻っていく…何で!?」


いつき「ほらほら! ドンドン行くぞおお!!!」



次々と投擲されるブーメラン。

一投一投が必殺の威力。


日本は絶妙なタイミングで襲ってくる故回避は不可。


トンファーで弾き飛ばす。

だがこのままではジリ貧だ。



曜「―――だったら!」ボッ!!

43 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/08(日) 01:39:25.65 ID:sR0Enwqz0
いつき「魔法陣!!? 別の技か!?」



いつきの両手首を曜の技、『水の鎖(カテーナ・ディ・アクア)』が巻き付く。

裏技を使用しないで最速で発動できるこの技も以前よりも格段に強化されていた。

いつきの動きを封じる。



いつき「小癪なああ!」ブチブチ!!



嵐の炎で鎖を分解し、強引に拘束を解く。

拘束出来た時間はわずかに二秒。



曜「昨日までの私なら拘束すら出来なかっただろうね。でも二秒も止められれば充分だ!!!」
44 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/08(日) 01:40:43.98 ID:sR0Enwqz0


瞬時に距離を詰める。

既に目と鼻の先まで迫っていた。



いつき「近い!? ここまで詰められたのか!!?」



曜はみぞおちへ攻撃を繰り出す。


だがこの余りにも一直線な攻撃は容易に躱される。

当然、一度当たらなかった程度で攻撃は止めない。

両手に握ったトンファーを駆使して、いつきの急所を狙い撃つ。


しかし、曜といつきの実力差は圧倒的だった。

今回が初陣の曜に対し、いつきは何度も修羅場を潜り抜けてきた。

ブーメランを主体とした中遠距離タイプで近距離戦が苦手でも
曜の技量では届かない。

攻守はいつの間にか逆転し、徐々にいつきの攻撃を捌けなくなっていた。



ドスッ―――!

ドゴッ―――!!



曜「ぐっ……ぐふぅ、がぁっ!?」
45 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/08(日) 01:41:20.45 ID:sR0Enwqz0
いつき「なーんだ、蓋を開ければただの雑魚じゃない。わざわざ匣を使う必要も無かったな!」グシャ!!

曜「うぐああぁぁぁぁ!!!!」



振り下ろされたブーメランが左肩にめり込む。

激痛に耐えられなかった曜は、膝から崩れ落ちた。

そんな曜の顔面を容赦なく蹴り飛ばす。



バキッ―――!!!



ノーバウンドで数メートル後方の壁まで吹き飛んだ。

曜は両手で顔を覆い、地面の上で堪らず悶絶する。



曜「〜〜〜〜〜ッッッ!!!!!」ジタバタッ

いつき「顔を潰すつもりで蹴ったんだけど……意外と頑丈な顔だね」



少し離れた場所で見守っていた千歌がすぐに駆け寄る。



千歌「大丈夫!? 鼻の骨とか折れてない!?」

曜「た、多分大丈夫……滅茶苦茶痛いけど折れてはいない、と思う」
46 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/08(日) 01:42:44.18 ID:sR0Enwqz0

いつき「技の発動速度には驚かされたが、それだけだったな。他は全て平均以下、運動神経はマシだけどまるで使いこなせていない」

いつき「残念だがここまでだ。大人しく従っていればこんな所で死なずに済んだのに……」

曜「何言ってるの? 勝負はまだ終わってない」

いつき「終わったさ。実力差は身に染みて分かっただろう? ここからどうやって逆転出来る?」

曜「……へへ」ニヤッ

いつき「何を笑って……っ!?」グラッ



いつきの視界が急に薄暗くなる。

足元もおぼつかない

気を抜けばそのまま意識を失いそうな感覚。



曜「よかった、ちゃんと効果はあったみたいだね。気が付かれないように炎を飛ばすのに結構神経使ったんだよ」

いつき「なるほど……『鎮静』の影響か。ちょっと油断した」


曜「これで勝負は分からなくなったでしょ?」

いつき「……いいや、この程度で埋まる実力差じゃない!」



曜は今の隙に肩と顔の痛みは『鎮静』で抑えた。

動きに支障は無くなったが勝てる可能性はほぼゼロ。



曜「―――…だとしても、私は絶対に勝つ!!!」

いつき「考え方が甘いんだよ!!! そんな奇跡が起きるわけが―――」













「―――そうかしら? 案外そうでもないかもよ」






47 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/08(日) 01:43:20.57 ID:sR0Enwqz0
曜・千歌「「えっ?」」

いつき「は?」



いつきのすぐ隣に一人の女性が立っていた。

千歌、曜、いつき、この場に居た三人全員が彼女の出現に全く気が付かなかったのだ。


彼女はゆっくりと右手をいつきの胸の高さまで上げた。



―――ゴオッ!!!!



刹那、目が焼け焦げるような閃光と灼熱の炎がいつきの全てを焼却した。

隣にあったコンクリートの建物をも一瞬で風化させる。

いつきは自身が死んだ事すら自覚出来ないまま
骨すら残らずこの世から消滅してしまったのだ。



「折角気分転換に城からちょっと遠出したっていうのに……後始末が面倒ね」


頭を掻きながら愚痴をこぼす。


予想外過ぎるこの展開に、曜は言葉を失った。



だが、千歌は突如現れた彼女を知っている。

思わず彼女の名前を口に出してしまった。




千歌「―――…り、こ……ちゃん………?」

48 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/08(日) 01:44:38.48 ID:sR0Enwqz0
千歌「―――…り、こ……ちゃん………?」


梨子「……」


千歌「どうして……ウソ…人、いつきちゃ……え、こ、殺した……の…?」


梨子「……ええ、殺したわ。綺麗さっぱり跡形も無くね」


千歌「ッ!!?」ゾワッ


曜「あのリング……まさか、そんな…どうして守護者がこんな場所に!?」ゾワッ

千歌「守護、者?」

曜「この国には王に仕える六人の幹部がいるんだ。全員、私や他の人が持っているリングとは比べものにならないくらい精製度の高い特別なリングを王より授けられているの。リングの炎の色から見て、アイツは間違いなく嵐の守護者だ」

千歌「嵐の守護者……梨子ちゃんが…?」


曜「あんなに鮮やかで透明度の高い炎なんて見た事無い……! これが守護者の実力なの!?」

曜「あんなの……反則だよ………」



千歌「……あれ? じゃあ、なんで同じ仲間を……」
49 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/08(日) 01:46:57.63 ID:sR0Enwqz0

梨子「ああ、あれは王立軍の人間じゃない。前々から身分を偽ってコソコソと嗅ぎまわっていた反逆者よ。いい加減目障りだったから殺した」

曜「そうなの!? 偽物だったんだ……」

梨子「あなた達は運がいい。見た所この反逆者と争っていたんでしょ? 仮にコイツが本物の王立軍の人間だったら、逆にあなた達を消していたわ」


梨子「―――いや、本物だと思って抵抗したのだから危険因子である事に間違いはないのか。なら今すぐ始末するべきよね……」ジッ

千歌「ひぃ!!?」ビクッ



梨子「……なんてね。冗談よ」

曜「………うぅ」ホッ



梨子「でも気を付けなさい。私達に歯向かえば命は無いから。」

曜「……はい」


梨子「あとそこのあなた」

千歌「わ、私……?」

梨子「気安く私を梨子“ちゃん”なんて呼ぶな。虫唾が走るのよ」ギロッ

千歌「ッ!!」

梨子「分かったなら今すぐここから消えなさい。私の気が変わらない内にね」

千歌「ちょ、ちょっと待っ―――」

曜「千歌ちゃん! ……行こう。大人しく従うべきだよ」

千歌「……梨子、ちゃん………どうして……」
50 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/08(日) 01:49:37.95 ID:sR0Enwqz0
一旦ここまで
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/08(日) 08:37:27.74 ID:EW2fNol20
面白い
期待
52 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/13(金) 00:49:19.13 ID:AKpErgSY0


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


〜宿〜


曜「予想外の展開だったけど何とかなったね」

千歌「……」

曜「あの人の言う通り、いつきって人が反逆者側で良かったよ。お陰で壊した窓とか水浸しになった部屋とかの弁償がチャラになったからさ。国から追われることも無いしね」

千歌「……」


曜「あ、あの……どうしたの? もしかしてどこか具合でも悪い?」


千歌「……リングや匣を持っている人はみんなあんな感じなの?」

曜「あんな感?」


千歌「いつきちゃんは私達を殺す気で襲って来た……。梨子ちゃんに至っては平気で人を焼き殺したんだよ! 涼しい顔して…罪悪感のかけらも無かった!!」

千歌「……曜ちゃんもそうなの? いつきちゃんを殺す気だったの?」


曜「……当然だよ。炎や匣兵器は戦うための手段だもん。本気でやらなきゃ自分がやられる」

千歌「……」

曜「何かを守り抜くには力が要る。力が無ければ何も守れないし、誰も救えない……私はそんな惨めな思いはしたくない」
53 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/13(金) 00:50:40.69 ID:AKpErgSY0


千歌「……私を助けたのはなんで?」

曜「何でだろうね? 自分でもよく分からない。でもあの時、千歌ちゃんは私が絶対に守らないといけないって強く思ったし今も変わらない」

曜「変な話だよね……私達は今日初めて会ったはずなのに、何故か“もっと前”から関わっていたような感覚があるんだよ。どうしてだろうね?」アハハ

千歌「曜ちゃん……」

曜「前世で仲が良かった……とか? 実は本当に知り合いだったとか?」ウ-ン


―――ああ、そうか。

例え世界が違っても、曜ちゃんは……。


そんな自覚も無かったのに、曜ちゃんは命懸けで私を守ってくれたんだ。

……ならこれ以上嘘をついているわけにはいかないよね。
54 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/13(金) 00:51:32.76 ID:AKpErgSY0


千歌「―――あのね、曜ちゃんに謝らないといけない事があるんだ」

曜「謝る? 何かあったっけ?」キョトン

千歌「私、嘘ついたの。あの砂浜で頭は打ち付けてない。記憶も失ってない」

曜「えっ、記憶があるの? あれ、じゃあ何で……」

千歌「信じてもらえるか分からない。でも、これから話すことは全部本当のことなの」

曜「う、うん……」

千歌「ええっと……結論から話すとね………」



千歌「私、別の世界から来たんだ」

曜「……はい?」
55 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/13(金) 00:52:52.07 ID:AKpErgSY0

――――――――
――――――
――――
――


曜「なるほどね。だから千歌ちゃんは私やあの人の名前を知っていたんだね」

千歌「信じてくれるの?」

曜「勿論。まさか別の世界では私達が幼馴染だったなんてね。あの桜内さんとも友達とか衝撃的すぎるよ」

千歌「うん……みんな私の大切な友達だった人だから…凄くショックだった……」


曜「それにしてもスクールアイドルかぁ……楽しそうだけど残念ながらこの世界には無いものだね」

千歌「そっか……」

曜「平行世界の人間を召喚……先代の女王がそんな技を使えるって噂は聞いていたけど……」


曜「でもまぁ、千歌ちゃんの話を聞いて何で私が立ち向かえたのか理解出来たよ」

千歌「?」

曜「わたくし渡辺曜、実は平行世界については詳しく勉強していたのであります!」

千歌「炎の属性は勉強しなかったのに?」

曜「それは言わないで」
56 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/13(金) 00:57:36.71 ID:AKpErgSY0

曜「ええっとね、平行世界では同じ人物でも姿や性格はちょっとずつ違ったりするんだけど、出逢ったり友達になったりする人間はどの世界線でも大体一緒なの。実際、千歌ちゃんは今日一日だけでも元の世界の友達と会えたでしょ?」

千歌「ほとんどが最悪の出会い方だったけど……」

曜「ただね、どの世界線でもその人物の根底にある部分は変わらない。一番大切にしているものは同じなんだよ」



曜「―――……きっと、そっちの“私”は千歌ちゃんの事がよっぽど大好きなんだね。自分の命をかけて守りたいほどにさ」

千歌「へ……?///」

曜「そうじゃ無かったら初対面の子を助けようなんて思い立たないよ。多分、この世界の“私”とそっちの“私”はほとんど一緒なんだね。だから根底にあるものが強く表れたんだと思う」

千歌「いや、その……えっ?///」

曜「いやー…愛は世界線をも超えるのかぁ。一途といいますか、重すぎるといいますか……ヤバイな、そっちの“私”」

千歌「なんかめっちゃ恥ずかしいんだけどぉ……///」

曜「あははは! 今度本人に確認してみなよ。元の世界に帰るまで、私が代わりに千歌ちゃんを守るから」ニッ 


この世界の曜ちゃんは何でこんなに余裕なのさ!?

ちょっと気に入らない……かも。



曜「―――……それじゃあ、これからは真面目な話をするよ」



曜の顔から笑顔が消えた。



曜「この世界で平行世界から人間を呼び寄せることが可能な人物の一人がこの国の女王。正確には“大空のAqoursリング”の正統後継者だよ」
57 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/13(金) 00:59:11.29 ID:AKpErgSY0
千歌「Aqoursリング……」

曜「千歌ちゃんが入っているスクールアイドルグループと同じ名前だね。」

千歌「なら、私をこの世界に連れて来たのは今の女王様なの?」

曜「多分違う……幹部である守護者が千歌ちゃんと会ったのに連れて行かなかった。第一、今の女王様が呼び寄せたのならどうして自分の近くに召喚しなかったのか説明出来ない」

千歌「召喚場所を自分で決められなかったからとか?」

曜「その可能性は無いかな。女王様にしか使えないこの技がそんな欠陥を抱えているとは到底思えない」


曜「誰が呼び寄せたのかは一旦置いておいて、何で呼び寄せられたのか考えよう」

千歌「小説とかだと、世界の危機を救う為とかだよね」

曜「………」

千歌「……え、まさか」

曜「わざわざ別の世界から呼び寄せたんだもん。目的が無いハズが無い」
58 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/13(金) 01:02:54.94 ID:AKpErgSY0



曜「あのね、この島には浦の星以外にも『音ノ木坂王国』、『虹ヶ咲王国』の二つの王国が存在していたんだ」

千歌「他にも国があったんだ」

曜「過去に何度か大きな戦争は起こったみたいだけれど、ここ最近は比較的良好な関係を築いていたの。でも、浦の星の現女王が即位した三年前に一変した」

千歌「浦の星が他の二つの国を……滅ぼした」

曜「その通り。宣戦布告も無しに戦争を仕掛けて、瞬く間に王都を占領したんだ。日数にして約一週間。気が付いたら侵略は終わっていた」

千歌「じゃあ、反逆者グループに加わっている人は侵略された国の人々なの?」

曜「戦争で辛うじて生き残った残党で構成されているんだと思う。後は女王のやり方に不満を持った一部の浦の星国民も参加してるって噂」


曜「でも一番謎なのは、この侵略戦争がたったの一週間で終わったこと。しかも終始浦の星優勢のままだったんだよ。他の二か国だって強力なリングや匣兵器も持っていたにも関わらず…変だよね」

千歌「確かに変だね。一体何が……」
59 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/13(金) 01:04:48.66 ID:AKpErgSY0


曜「女王様は侵略した両国に税金とか労働力とかを厳しく取り立てているから、相当恨まれているだろうね。領土だった場所に近づけば浦の星国民ってだけで殺されかねない」

千歌「……」


曜「そして、噂によれば虹ヶ咲の女王も平行世界に干渉出来る能力を持っている。これが浦の星の女王と同じ他の世界線から人物を召喚出来る能力だとして、それによって呼び出されたのだとしたら―――」



千歌「―――……私の役目は、浦の星王国の女王を倒す事……になるんだ」



曜「……」

千歌「……」


曜「……あくまでも仮定だよ。実際に千歌ちゃんを呼び寄せた人に会ってみないと分からない」

千歌「でもどうやって探すの?」

曜「取り敢えず、明日もう一度あの場所に戻ってみよう」

千歌「曜ちゃんと出会ったあの砂浜に?」

曜「何か痕跡とかが残ってるかもしれないからね。しっかり調べてみよう」

千歌「……うん」
60 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/13(金) 01:08:32.67 ID:AKpErgSY0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


〜翌日〜



―――結論から言って砂浜には何もなかった。


どこを探してもあるのは砂、砂、砂


手がかりになる様な物が落ちているわけでも、気になる痕跡があるわけでもない。


近所の人の話によれば、私達がこの場を移動してから直ぐに王立軍の人達が来たらしい。

仮に何かがあったのなら既に持ち去られた後だろう。


そこで私達は……



曜「―――ストッーープ!! 次はこのくらいの距離で試してみよう」

千歌「分かったーー! いつでもいいよ!」


曜「よーし……えいっ!!」ボッ!!



―――チョロチョロチョロ……



曜「……ショッボ。これこそ普段の私の技だね」

千歌「うーん……お世辞にも凄いとは言えないかな」アハハ…
61 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/13(金) 01:09:17.83 ID:AKpErgSY0


曜「千歌ちゃんの恩恵を受けられるのは九メートルくらいってことか。これ以上離れると繋がりは完全に無くなっちゃうみたい」

千歌「私が曜ちゃんの体に触れている時が一番凄かったよね」

曜「それ以外は同じ威力だったから、ここ一番の場面で千歌ちゃんに触れてもらえれば……って、それじゃ千歌ちゃんが危ないか」

千歌「でも曜ちゃんの役に立てるなら……」

曜「気持ちは嬉しいけど、千歌ちゃんが自分で身を守れる手段が無い以上、危ないから出来るだけ範囲内ギリギリまで離れていて欲しいかな」

千歌「……むぅ、やっぱり足手まといだよね」

曜「千歌ちゃんの力無しじゃ満足に技も出せない私が何言ってるんだって話だけどさ……まあ、分かってよ」


千歌「身を守る術かぁ……炎を使った技は無理でも、匣があれば―――」

曜「リングは割と簡単に手に入るけれど匣は難しいかな。あれは匣“兵器”っていうくらいだから持っている人は中々いない。私が持っている匣だってパパの形見だし」

千歌「……えっ、形見…?」


この世界の曜ちゃんパパは亡くなっているんだ……


曜「うん。私が使ってる技もトンファーの使い方も全部パパから教わったの。このリングもパパから譲ってもらった宝物なんだ!」

千歌「……そっか。パパも喜んでいるだろうね」ニコッ
62 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/13(金) 01:11:30.49 ID:AKpErgSY0


曜「えへへへ♪ あっ、身を守る術の話に戻すね。匣の入手は難しいから、リングの力で何とかするのが現実的かな」



曜は自分が付けていたリングを外し、千歌の右手の中指にはめ込んだ。



曜「はい」

千歌「……はい?」

曜「試しにやってみてよ。もしかしたら出来るかもしれないし」

千歌「いやいや……そもそもどうやってリングに炎を灯せるか知らないし……」

曜「一般的には『覚悟を炎に変えるイメージ』らしいけど、パパからは『想いの強さ』だって教わったよ。私はパパのアドバイスで灯った」


覚悟を炎に変える?

想いの強さ??


千歌「覚悟を炎にって言われても……イメージ出来ないよ」

曜「ならパパのアドバイスでやってみよう。今一番強く想っている事を素直に思い浮かべてみて……―――」


強く想っている事……

そんなの決まってる。

一日でも、一時間でも一分一秒でも早く元の世界に帰ることだよ!


強く、強く、強く心に思い浮かべるけど―――


千歌「―――駄目だ、全然炎が出ない」

曜「まぁ……簡単にはいかないよね」
63 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/13(金) 01:15:59.07 ID:AKpErgSY0


千歌「私の想いはそんなにも弱いってことなの…? そんな……」シュン

曜「そ、そんなに気を落とす必要は無いよ。確かに炎が出ない理由に気持ちの強さはあるけれど、千歌ちゃんに雨属性の波動が流れてない可能性だってある」

千歌「七種類あるって話していた属性のこと?」

曜「うん。属性が七種類あるようにリングも七種類ある。自分に流れている波動と同じ種類のリングで無ければどんなに頑張っても炎は灯らない」

千歌「つまり私の属性は雨じゃ無いんだ」

曜「断定は出来ないけどね。大抵の人は波動の強い属性を一つだけもっていて、他は微弱過ぎて表に出てこないの」

千歌「簡単に分かる方法とかは無いの?」

曜「相手の属性を見分ける装置とか技は存在するけど……今すぐにそれを用意するのは無理かな」

千歌「むぅ……無理なのかぁ」

曜「私だって最初から出来たわけじゃ無いし、焦る必要は無いよ。もしかしたら別の世界から来た人には使えない力かも知れないし」

千歌「あ、その可能性もあるかもなのかぁ…」ガッカリ
64 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/13(金) 01:19:37.50 ID:AKpErgSY0



曜「リングについては追々解決するとして、一旦近くの街に戻ろっか。お腹空いちゃった」グウゥゥ

千歌「そうだね。そろそろお昼の時間だし」

曜「じゃあ、街に……」

曜「………っ」ジッ

千歌「曜ちゃん?」


曜ちゃんが見つめる方向を向くと、少し離れた場所に人影が見えた。

特別な事をしているわけでは無い。

ただただ目の前の海を眺めているだけのようだった。


でも、その姿には見覚えがあった。


青い髪。

ポニーテール。

遠くてはっきりとは顔までは分からないけどあの人は……


千歌「―――…果南、ちゃん……? いや、まさかね」
65 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/13(金) 01:22:03.07 ID:AKpErgSY0


曜「あれって昨日襲って来た人が持ってた写真に写っている人だよね?」

千歌「……まあ、似てるかって言われたら似てるかもしれないけど」

曜「だよね」

千歌「いや、でも待ってよ。仮に本人だったとしてだよ? どうするつもりなの?」

曜「どうするってそりゃ、直接話を……」

千歌「何を話すのさ? 昨日の話が本当なら相手は凶悪な反逆者なんだよ。私が知ってる果南ちゃんとは別人。危険過ぎるよ」

曜「だからこそだよ」

千歌「はい?」

曜「元の世界で仲の良かった人が、この世界では守護者だったり反逆者だったり、何かしら重要な役割を担っている。きっとまだ出会ってないAqoursのメンバーも同じのはず」

千歌「いやいや、二人しか分かってないのに断定するのはちょっと……」

曜「だとしても、手掛かりを探しに動くにはこの縁を頼るしか無い。これもきっと偶然じゃないよ!」

千歌「で、でも……」



迷っている間に彼女が移動を始めた。

このままでは見失ってしまう。



う、ぐううぅぅ……どうする、どうしよう……。



曜「動かなきゃ変わらない。今ならまだ間に合う!」


千歌「っ!! ……追いかけよう」

曜「!」

千歌「曜ちゃんの言う通り動かなきゃだよね。それにまだ果南ちゃんが必ずしも敵とは限らないし」

曜「なら急ごう! 街に入ったら完全に見失っちゃうからさ!」
66 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/13(金) 01:23:00.09 ID:AKpErgSY0
短いけど今回はここまで
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/13(金) 12:20:17.78 ID:spQxkhEZO
おつ
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/13(金) 19:23:17.99 ID:1wIcf18Z0
あがってんじゃーん
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/14(土) 06:39:14.36 ID:8gVWSRd00
μ’sリングとAqoursリングと虹ヶ咲のおしゃぶりで7^3か?
70 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/19(木) 00:43:10.70 ID:NB9lY4tt0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



曜「あの人歩くの速過ぎ……あっという間に街まで来ちゃったよ…」

千歌「あ、あれ? どこに行っちゃった??」キョロキョロ


曜「今日に限って人が多い。探すにはちょっと厳しい条件だね」

千歌「だよね……いくら何でも見つけるのは無理か」シュン…

曜「諦めるにはまだ早いよ。この街に居るのは分かっているんだから、しらみつぶしに探せば可能性はある」

千歌「分かった! なら二手に分かれて探そう」

曜「なら私はあっち、千歌ちゃんは向こうを探して!」

千歌「うん!」




千歌「……ん? 分かれたのはいいけど、どうやって合流するんだ??」



この作戦の致命的な欠陥に気が付いてしまった。

曜は自前のスマートフォンを持っているが千歌にはそれが無い。

連絡を取り合う手段を持ち合わせていないのだ。


急いで振り返り曜を呼び止めようとするも

既に曜の姿は見えなかった。
71 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/19(木) 00:44:06.07 ID:NB9lY4tt0


千歌「ど、どうしよう……」


方向は分かっているから追いかける?

それとも果南ちゃん探しを優先?

どちらにしても曜ちゃんと合流出来なきゃ意味が無い……。


千歌「仕方ない……大人しくこの場所に居た方がいいよね。もしかしたら気が付いて戻って来てくれるかもしれないし」



邪魔にならないよう、一先ず近くのお店の屋根の下に移動する。

街を行き交う人々をボーっと眺める千歌。


千歌「……独りかぁ」
72 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/19(木) 00:47:50.19 ID:NB9lY4tt0


……よく考えれば、この世界に来てから初めて独りぼっちになった。

飛ばされてすぐに曜ちゃんに出会えたから別に何とも思わなかったけれど
ここに私を知っている人間は誰一人いない。

誰一人……いない。


―――…そうだ、元の世界ではどうなっているのだろう?

もしかしたらこの世界の私と入れ替わっているのかな?

そうじゃなかったら私は行方不明になっているんだよね。

連絡なんてする暇なんて無かったからきっとみんな心配してるだろうな……。


まだ一日だけだけれど、いつ帰れるか見当もつかない。


明日なのか

一週間後なのか

一年後なのか

それとも―――


千歌「……っ、うっ、うぅ…!」


我慢できなかった。

一生帰れないかもしれない。
考えないようにしていたこの可能性が頭をよぎってしまった。

一度考えてしまったらもう止まらない。
悪い思考がぐるぐると巡って抜けられない。


どうして私なの。

ただの女子高生の私に一体何が出来るのさ。

今すぐにでも帰りたい。



千歌「………帰りたい……お願いだから帰してよぉ…」






「―――大丈夫…ですか?」






千歌「……えっ?」
73 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/19(木) 00:48:59.42 ID:NB9lY4tt0
「こんな所でうずくまって……あ、もしかして具合が悪いんですか!?」アセアセ

千歌「………」




曜『ええっとね、平行世界では同じ人物でも姿や性格はちょっとずつ違ったりするんだけど、出逢ったり友達になったりする人間はどの世界線でも大体一緒なの』




「ど、どうしよう……よしみさんは今は居ないし、お薬も持ってない……あ、近くの病院を探した方が―――」アワアワ

千歌「……大丈夫。どこも悪くないよ」

「え、あ、そ、そうなんですか……? でも、泣いていました……よね?」

千歌「うん……ちょっと色々あって」

「色々ですか……」
74 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/19(木) 00:49:49.12 ID:NB9lY4tt0


「あ、あの! もし良かったなんですけど……るび、わ、私とお話しませんか?」

千歌「お話?」

「し、初対面なのに何言ってるんだって思われるのは分かっています。でも……そのぉ―――」

千歌「…千歌です」

「へ?」

千歌「私の名前。私は高海千歌。折角だから少しだけ一緒に居て欲しいな」

「そ、そうですか!!」パアァァ

千歌「あなたの名前も聞いていい?」

「あ、そうですよね。私の名前は―――」


――赤い髪、ツーサイドアップ、青緑色の瞳

そしてこの声、間違いない。
名前を聞くまでも無くこの子は……




降幡(?)「―――…降幡です。降幡 愛です」

千歌「……へ?」

75 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/19(木) 00:51:08.54 ID:NB9lY4tt0


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



曜「どこだ? 一体どこに行っちゃったんだ??」


こんなに走り回って見つからない事ってある?

絶対に近くに居るはずなのに。



曜「うーん……写真を見る限り結構特徴的な人なんだけどな。髪形も色もこれと同じだったし」


青い髪なんてすぐ見つかりそうなのに。


……あ、でもよく見たらこの街の人達は赤とかピンクとか結構奇抜な色の髪色が多いや。

これじゃ見つけるの無理っぽくない?


曜「……あっ」



果南(?)「………」



曜「……なんだ、やっぱりすぐ近くに居たじゃん」ニヤッ


諦めかけたその時、彼女は近くの店から出てきた。


曜「髪の色も同じ……何よりも右眼に包帯が巻かれている。これは間違いない」
76 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/19(木) 00:53:04.59 ID:NB9lY4tt0

早速千歌ちゃんを呼ばなくちゃ―――ってあれ?


曜「……やっば、連絡手段がないじゃん!?」


すっかり忘れてたよ…初歩的なミスだ。

どうする……このままじゃまた見失っちゃうよ!


曜「……仕方ない、このまま追いかけて引き留めよう」



人混みをかき分けて距離を詰める。


一方、曜の追跡に気が付いていないのか

彼女は全く歩く速度を上げる気配が無い。


―――よし、これなら追いつく!


追うスピードが徐々に上がる。



―――…しかし



曜「あれ……裏路地に入ったぞ?」


追いかけているのがバレた?

でも一度もこっちを見ていなかった……

しかもこれだけの人混み
見つかる訳がない。

目的地がそこにあるって事なのかもしれない。

いやいや、そもそも捕まえる為に追っているわけじゃないから別にいいじゃん。



曜はそのまま彼女の後を追った。

二、三回路地を曲がるとそこは―――

77 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/19(木) 00:54:22.01 ID:NB9lY4tt0



曜「っ!? 嘘、行き止まり!!?」



曲がる方向を間違えた?

そんなはずはない……だってここまで一本道だったんだよ!?

急いで駆け寄って壁に手を当ててみるけど
隠し扉がある訳では無く、何の変哲もない壁だった。



曜「そんなバカな……どうやって消えたのさ?」ペタペタ




「―――…私に何か用?」




曜「ッッ!!!?」ビクッ!!



振り向くとそこには深々とフードを被り
ペストマスクで顔を隠した不気味な人が立っていた。



曜「ええっと……その…」



「まあ、理由なんて一つしかないよね―――!!!」ダッ!!!


曜「んな!!!!?」



こっちの話を聞くそぶりも見せず、急接近して来る。

曜は反射的にポケットから匣を取り出し、炎を注入しようとする。



「させないよ!!」ビュン!!!!



袖に潜ませていた二本のナイフを投擲。

曜の左眼と喉元を寸分の狂い無く狙う。


ギョッとした曜はこのナイフを紙一重でなんとか避けきる。
78 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/19(木) 00:55:34.29 ID:NB9lY4tt0

彼女の攻撃は止まらない。

この隙に曜の懐まで接近、左手に握られていた匣を弾き飛ばす。

そのまま今度はフィンガージャブで直接目潰しを狙った。



曜「んにゃろおおおお!!!!」



曜は体勢を後ろに大きく反らして回避。

だがこの躱し方では体勢が崩れ過ぎてしまっている。

これでは次の攻撃は避けられない。


曜の“右手”が地面に着く。



―――バシュッ!!! バシュッ!!! バシュッ!!! バシュッ!!!



「ッ!!?」



彼女の四方を囲むように水の壁が生成された。

しかし、千歌と離れ離れになっているので厚さは非常に薄い
曜が本来扱える規模のものとなっていた。
79 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/19(木) 00:58:41.13 ID:NB9lY4tt0



―――…でも、それで問題無い!

相手はこの技が一体どんな効果があるか知らない。
だから対処する為にどうしたってワンテンポ遅れる。

この隙に逃げる!

話も聞かずに襲ってくるような人だ。
この場は一旦逃げた方が絶対にいい!!

急いで立ちあ―――



―――キュイィィィン!!!



甲高い音と共に曜が発動させた『水の壁(ムーロ・ディ・アクア)』が一瞬でかき消された。

突き出された右手が曜の首を捕らえ、壁へ体を押し当てる。



「―――…捕まえた」グググッ

曜「かっ、ごッ……こほっ!!?」ジタバタッ



必死に右手で壁を叩くが、技が発動しない。

それ以前にリングに炎が灯らなかった。



―――…な、何で灯らないの!?
そもそもどうやって私の技をかき消したの!!?

いくら威力が弱いっていっても、素手で消滅されるようなものじゃない!!


や、やばい……意識が………と……ぶ………



白目を剥き、気絶しかかったところで

ふっと首から手を放される。



曜「かはっ……ごほっ、ごほっごほっごほっ!!!!」


「立ちな。場所を変えるよ」
80 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/19(木) 00:59:49.01 ID:NB9lY4tt0
曜「ごほっごほっ……か、変える?」

「あなたが一体何者か聞く必要があるからね。ここじゃ安心して尋問が出来ない」

曜「っ!!」


「ああ、下手に抵抗しないでね。私が触れている限りリングの炎や技は使えないけれど、格闘なら可能だからさ」

曜「……」

「―――…もっとも、格闘術で私を上回れる自信があるなら挑戦してみてもいいけど?」フフフ

曜「分かった……何もしません」

「うん、賢明な判断だね」





「―――…高槻!!」





彼女の呼びかけで、出口の方向から同じくペストマスクを被った仲間が現れた。



高槻(?)「終わったの? 諏訪さん」


曜「!」


諏訪(?)「まあね。一旦場所を変える」


―――…諏訪だって?
この人の名前は“松浦”じゃなくて“諏訪”なの……?

まさか私の勘違い!?



曜「嘘……じゃああなたは松浦じゃ……無いんだ」

高槻(?)「え!?」

諏訪(?)「……へぇ、どこでその名前を知ったのかなん?」

曜「………」 


諏訪(?)「いいや。その辺も含めて詳しく聞かせてもらおうかな」
81 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/19(木) 01:00:52.15 ID:NB9lY4tt0
ここまで。
もう少しペース上げたいですね……
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/19(木) 02:56:51.91 ID:V23xik1v0
諏訪さん、いったい何浦果南なんだ?
乙です
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/19(木) 19:49:27.68 ID:8wbJBb9+0
偽名で草
のんびりでも良いから続けてくだち
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/29(日) 15:47:48.26 ID:LLKGT0Tqo
まだ?
85 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/31(火) 01:29:59.93 ID:oz8e5HJr0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




千歌「―――…私の話は以上です」


降幡(?)「………」

千歌「………」


色々と会話をしてこのルビィちゃんそっくり(?)の降幡さんは私より年上だと分かった。
やっぱり別人なのかな?

初対面の人に別世界から来ました!
……って言っても信じるわけ無いし。

色々とぼかして話したんだけど……伝わった、かな?


降幡(?)「……」

千歌「あ、あの……」


降幡(?)「色々と話せない事もありますよね……」

千歌「えっ」

降幡(?)「あ、いや、当然ですよね! そりゃ初対面なんですし、ぼかすのは当たり前です」

千歌「す、すみません……せっかく話を聞いてもらっているのに」


あれ、バレてる?

まさかそんなわけないか……


千歌「降幡さん……」

降幡(?)「何ですか?」
86 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/31(火) 01:31:15.51 ID:oz8e5HJr0
千歌「………」


この人は自分を“降幡 愛”と名乗った。

年齢は違うけれど見た目は完全に“黒澤 ルビィ”ちゃんなのに……


この世界ではこれが本名なのかな?

でも、曜ちゃんと梨子ちゃんは同じ名前だった。

ルビィちゃんだけ違うなんて事があるの?

試してみよう―――


千歌「黒澤ルビィ……」


降幡(?)「っ!?」ピクッ

千歌「私の友達にルビィちゃんって子がいるんです。降幡さんがその子にそっくりなのでびっくりしちゃったんですよね」


……どうだ?


降幡(?)「……」

千歌「……」ゴクッ

降幡(?)「………」


う、うぅん?

この表情は……どっちだ?

全然分からない……


降幡(?)「―――……ルビィを知っている…?」

千歌「!」
87 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/31(火) 01:32:48.40 ID:oz8e5HJr0
降幡(?)「その友達の“ルビィ”とは一体どこで出会ったの?」

千歌「……内浦にある学校です」

降幡(?)「内浦?」


ウソはついてない。

この世界にも内浦は存在している。

ちゃんと調べた。


千歌「はい、ダイヤさんという姉がいて―――」




降幡(?)「ッッ!!!!!!?」ガタンッ!!


千歌「ひっ!?」ビクッ


降幡(?)「どうして!!? どうしてその名前知ってるの!? 一体どこで……っ!!!」

千歌「へ、ど、どうしてそんなに取り乱して……」

降幡(?)「本名は一般に公開されていない! 私もお姉ちゃんもあなたと会った事は一度もないのに何で!!」


千歌「―――…お姉ちゃん?」


降幡(?)「……あっ」


千歌「やっぱりあなたは―――」



―――プルルルル、プルルルル……



千歌「……電話、鳴ってますよ?」
88 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/31(火) 01:34:14.91 ID:oz8e5HJr0
降幡(?)「……ちょっと外します」


ダイヤさんの名前を出した時のあの反応……
この人は間違いなくルビィちゃんだ。

でもどうして偽名なんかを……?

何とか聞き出してみる?

電話から帰って来る前に考えなきゃ―――


降幡(?)「お待たせしました」

千歌「えっ!? は、早かったですね……」


ヤバッ、まだ全然考えてないよ!?


降幡(?)「悪いんですけれど、これから私と一緒について来てもらえますか?」

千歌「へ?」



降幡(?)「―――渡辺曜ちゃん」

千歌「っ!?」

降幡(?)「千歌ちゃんのお友達の身柄をるび……私の仲間が預かってます」

千歌「どうして曜ちゃんを? 無事なんだよね!?」

降幡(?)「さぁ? 何とも言えません。大人しくこちら側の言う事を聞いていれば大丈夫だと思いますよ」

千歌「……っ」

降幡(?)「千歌ちゃんにも聞きたい事が色々あるから絶対について来てもらいます」

千歌「……分かってる。断れるわけないじゃん」

降幡(?)「じゃあ行きましょう。こっちです」

89 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/31(火) 01:36:12.68 ID:oz8e5HJr0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


〜???〜



「―――…お、来た来た」

「遅いよ愛ちゃん」


降幡(?)「……またそのマスク被ってるの?」

「まあね。この怪しい子が尾行してきたからさ」

曜「………」

千歌「曜ちゃん!!」


連れてこられた雑居ビルの一室には両目を隠され、椅子に縛り付けられた曜ちゃん
それとペストマスクを被った二人が居た。

良かった……見た限り痛いことはされてないみたい。


曜「ぁ! この声は……千歌ちゃん!?」

千歌「そうだよ! 大丈夫!?」

曜「う、うん……私は大丈夫。ごめんね、話の流れで千歌ちゃんの名前出しちゃった……」

千歌「ううん、そのおかげでこうしてまた合流出来たからいいよ」

曜「ぅ……結果オーライ……」



諏訪(?)「さてと……軽く自己紹介しようか。私は諏訪。そっちの子は高槻ね」

高槻(?)「どーも」
90 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/31(火) 01:39:50.48 ID:oz8e5HJr0
千歌「諏訪……高槻………?」


フルフェイスのマスクを付けていて顔は分からないけど
この声は間違いなく果南ちゃんと花丸ちゃんだ。

でもルビィちゃんと同じように偽名を使ってる。


諏訪(?)「没収したリングと匣を確認したけれど、どっちも軍が支給している物じゃなかった。念のため身元を調べている最中」

高槻(?)「でも、愛ちゃんが来ればもう解決だよね」

千歌・曜「「?」」



諏訪(?)「―――…さて、これからさっきと同じ質問をするよ。ただし、返答に関しては慎重にすることをおススメするよ」

曜「……?」

諏訪(?)「どれだけ言葉巧みにウソを織り交ぜてもこっちにはそれを見破る術がある」

曜「……マジか」



諏訪(?)「じゃあ最初の質問。君達は軍の人間なの?」



曜「いいえ」

千歌「違う」


諏訪(?)「……愛」

降幡(?)「……っ」コクッ


諏訪(?)「―――よし、次の質問だよ。どうして私を追いかけて来たの?」


曜「さっきも話したけど、あなたが松浦果南だと思ったからだよ」

諏訪(?)「松浦果南を追いかけている理由は?」

曜「そ、それは……」

千歌「それは私が果南ちゃんを探していたからだよ」

諏訪(?)「……君が?」

千歌「うん、果南ちゃんは私の幼馴染だからね」

諏訪(?)「はぁ?」
91 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/31(火) 01:41:35.87 ID:oz8e5HJr0
降幡(?)「………」

高槻(?)「どうなの、愛ちゃん?」

降幡(?)「ウソは憑いてない……本当の事を言ってる」

諏訪(?)「……君の知っている松浦果南はどんな人物?」



私は自分の知っている果南ちゃんの事

性格、家族構成、私との関係、今までの思い出。

事細かに全部話した。

マスクをしている二人の表情は全く分からなかったけれど

ルビィちゃん……降幡さんは動揺を隠せていなかった。


暫くの沈黙後

降幡さんが会話を切り出す。



降幡(?)「―――全部本当。何一つウソは無い……よ」

諏訪(?)「……」

高槻(?)「ど、どう言う事? だってこの子の話は全部デタラメじゃ―――」

諏訪(?)「そっか……」



諏訪(?)「―――君は……別の世界から来たんだね」



千歌「!」

高槻(?)「べ、別世界? そんな小説みたいな事がある訳が―――」

千歌「ウソじゃない! 私は本当に別の世界から来たの!!」ガッ!!

高槻(?)「うっ……圧が凄い、ずら」タジッ

諏訪(?)「なるほど……だからルビィや花丸の名前も知っているわけ、か」

千歌「な、なら私の話を―――」

諏訪(?)「だったら一度考え直した方がいい」
92 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/31(火) 01:44:43.01 ID:oz8e5HJr0
千歌「えっ」

諏訪(?)「この世界の松浦果南は君の知っている人物とは立場がかなり違う。……悪い方にね」

千歌「悪い、方……」

諏訪(?)「彼女と関わるつもりならそれ相応の覚悟が必要だよ。言うなれば、この世界の大多数を敵に回すくらいの覚悟がね」

千歌「………っ」

諏訪(?)「君の知り合いは彼女だけじゃ無いでしょ? わざわざ敵の多い方を頼らなくてもいい」

千歌「他の知り合いって言われても……」



諏訪(?)「よし……君達が敵じゃないならこれ以上拘束する必要は無いか。愛、解いてあげて」

降幡(?)「はい」シュルシュル

高槻(?)「リングと匣も返すね」

曜「……どうもッ!」ギロッ

高槻(?)「おお怖い怖い。そんなに睨まないで欲しいずら」

諏訪(?)「あんまり敵意剥き出しだとこっちも“対処”しないといけなくなるよ?」

曜「……ッ!」ビクッ


諏訪(?)「千歌……だったっけ?」

千歌「うん」

諏訪(?)「考えた結果、それでも松浦果南に会いたいって思うなら……旧虹ヶ咲領の南にある街においで。そこに彼女は居る」

千歌「南の街……?」

高槻(?)「具体的な場所は内緒ずら。理由は……察してね」

曜「旧虹ヶ咲領って……そんな危険な場所に行けっていうの!?」

諏訪(?)「だから言ってるじゃん。“覚悟”が必要だってさ」

降幡(?)「千歌ちゃんは匣どころかリングも持ってないから、一人で行くには相当危険だと思う」

高槻(?)「千歌ちゃん一人で来るのか、曜ちゃんも一緒か、それとも行かないか。よーーーく話し合うのをおススメするずら」

93 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/31(火) 01:47:02.92 ID:oz8e5HJr0
色々と忙しくて遅れ気味になってます……
エタらせないので気長に待って頂けると幸いです
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/31(火) 06:51:44.54 ID:SbXP/BiSo
乙待ってる
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/31(火) 16:56:56.74 ID:Jm0lD+K80
乙ゆっくり待機してます
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/01(水) 20:02:14.63 ID:YGM57hgd0
いいのよ
97 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/09(木) 00:37:22.51 ID:XZZbtofl0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


〜同刻 王都内〜



梨子「―――うーん…どうしよう……」


むつ「……」

梨子「『壁クイ Vol.100 数量限定版』と絶版になったはずのカーボン先生の同人誌……どっちも今買わなければもう二度と手に入らないのは明白……」

善子「……っ」イライラ

梨子「うーん…うーーーーん……」チラッ

むつ「……?」キョトン

梨子「欲しい……死ぬほど欲しいぃぃ!!! ……欲しいなぁ」チラッ

むつ「え、わ、私ですか?」アセアセ

梨子「上司命令よ! 私の為にあの二冊を―――」

善子「人の部下に何を命令してるの!? 自分で買いなさいよ!!!」

梨子「自分で買えるならそうしてるわよ!! でも…これを買っちゃうと今月の生活費が……っ」

善子「はぁ!? だってまだ中旬よ! これっぽちの金額も払えない程切羽詰まってるとかあり得ないでしょ!?」

梨子「分かって無いわね、趣味にはお金が掛かるのよ」
98 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/09(木) 00:40:12.75 ID:XZZbtofl0
むつ「とは言ってもそれなりに収入はありますよ……ね?」

梨子「……ピュゥ〜〜〜♪」

むつ「あ、なるほど……あればあるだけ使うタイプですか」

善子「はぁ、だらしない先輩よね」

梨子「な、何よ! 善子ちゃんだってどっちかっていうと“コッチ側”の人間じゃない!! なのにどうして出費が少ないのよ!!」

むつ「占いグッズとか堕天使グッズとかいっぱい持ってますよね。この前お店で値段を見ましたが結構しますよね、アレ」

梨子「でしょ! あれだけの物をいくつもポンポン買えば預金の底だって尽くはずよ!!」

善子「堕天使グッズねぇ……例えばこんなローブとか、禍々しい杖とかの事を言ってるのかしら?」ニヤ



―――シュウゥゥ……



梨子「あ゛あ゛!!?」

善子「どやぁ」ニタァ
99 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/09(木) 00:41:46.08 ID:XZZbtofl0
むつ「あー、その手がありましたね」

善子「クククク……私を誰だと思っている? 天才術師の津島善子様よ。欲しいモノは自らの力で作れるわ♪」

梨子「ズルい! 霧の炎で作るのは反則よ!! ちゃんと実物を買いなさいよ!!」

善子「へへーんだ! 悔しかったら梨子も幻術を使えるようになればいいのよー」

梨子「出来るわけないじゃない! 生意気な奴は消し炭にしてやる……!」

善子「お、お? やるか? 問題起こしてさらに減給かしらん?」ニヤニヤ

むつ「桜内さんダメですからね!? 津島さんもそんなに煽らないで下さい……」


梨子「……」ジッ

善子「……」ジッ


むつ「な、何ですか? 二人して私を見て……もしかして顔に何か付いてます?」

梨子「“桜内さん”ですって?」

むつ「……あっ」

善子「オフの日は上下関係は無しだって言ってるじゃない。もっと気楽にしてよねー」ムスッ

むつ「も、申し訳……ごめん梨子ちゃん、善子ちゃん」

梨子「ええ」ニコッ

善子「うんうんそれでいいのよ」

梨子「よし、さん付けした罰として むっちゃんには限定版の壁クイ本を―――」

善子「いやそれは無い」

むつ「ええ、買いませんよ」

梨子「」
100 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/09(木) 00:45:33.28 ID:XZZbtofl0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




善子「―――明日からだっけ、むっちゃん?」

むつ「何がです?」

善子「例の殲滅作戦の準備よ」

梨子「殲滅作戦……あー、音ノ木坂の元守護者の生き残りがリーダーをやってるあの組織のか」

むつ「確かに明日からだけど……なんで善子ちゃんが把握してないの?」

梨子「そうよ、何で上司のあなたが分かってないわけ?」

善子「寧ろお二人は私がちゃんと把握してるとお思いで?」

むつ「まぁ……そっか、うん、そうだった」

梨子「それで納得してしまうのが悔しいわね」


善子「敵はこっちが未回収のモーメントリングを所持してるのよね?」

むつ「ええ。でも属性は晴で専用の匣兵器も失っているから問題無いかと」

善子「そもそもさ、なんでこっちが既に回収したモーメントリングを支給しないんだろうね?」

むつ「正直、Aqoursリングと同等の力を持っているから使えれば相当楽なんだよね……」

善子「強力な武器があるってのに……女王の考えは理解できないわ」
101 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/09(木) 00:50:29.19 ID:XZZbtofl0
梨子「二人とも知らないの? 音ノ木坂の七つのリングは限られた一族にしか使えない代物なのよ」

善子「えっ?」

むつ「そ、そうなの?」

梨子「具体的には『高坂』『絢瀬』『南』『園田』『星空』『西木野』『東條』『小泉』『矢澤』の九つの一族ね。だから国王とその守護者もこの中から選ばれるの」

むつ「つまりこれら一族の血を引いていなければならないのかぁ」

梨子「その通り」

善子「へー、知らなかったわ……詳しいのね?」

梨子「……まあね」


善子「使えないなら仕方ないか……やっぱりAqoursリングの捜索は続けるべきだったのかしら。現状、霧と嵐しか無いし」

梨子「今更言っても遅いわよ。女王の決定はそう簡単に変わらない」

むつ「そもそもAqoursリングが無くても私は強いよ?」

梨子「そうだよ。それに、むっちゃんの実力は善子ちゃんが一番知ってるじゃん。過剰な心配は寧ろ失礼よ」

善子「そうだけどさぁ……うん、そうだね。むっちゃん、サクッと終わらせて帰って来なさい」

むつ「任せてください! あ、私が居ないからって仕事はサボらないで下さいね。津島さん♪」

善子「ったく……うるさい部下ねっ!」プイッ
102 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/09(木) 00:54:04.56 ID:XZZbtofl0


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




〜同日 夜〜



曜「んん! このハンバーグ美味しいね!」

千歌「……」モグモグ

曜「本ッ当に美味しくてジューシーだよねー。値段の割にサイズも大きくてさ!」

千歌「……ん」モグモグ

曜「どこ産の鶏肉なんだろうねー? どう思う千歌ちゃん?」

千歌「……」モグモグ

曜「……」モグモグ


少ししてから小声で『ハンバーグに鶏肉は無いだろー……』っと言っているのが聞こえた。

ゴメン曜ちゃん、重い空気を和ませようとしてくれたのは分かってるけどさ

正直それどころじゃないし、そもそもボケがよく分からなかったよ。


曜「―――行くんだよね?」

千歌「えっ」
103 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/09(木) 00:56:48.33 ID:XZZbtofl0
曜「あれ、違うの?」

千歌「い、いや……それは…」

曜「覚悟がどうとか怖いこと言っていたけれど、千歌ちゃんからしてみれば行く以外選択肢が無いもんね」

千歌「そうかな…まだ会ってないメンバーも居るし、そのメンバーと会ってからでも遅くないんじゃないかな?」

曜「偽名を使っていた三人を除くと、あと会ってないのは『ダイヤさん』、『マリさん』、『ヨシコちゃん』だったっけ?」

千歌「うん」

曜「確かにこの三人に会うまで考えるのもありだとは思う。でも、いつ会えるの?」

千歌「いつって……そんなの分かる訳ないじゃん」

曜「だよね。千歌ちゃんはいつ会えるか分からない人をずーっと待ち続けるつもり? 間違いなく果南ちゃんはいつまでも同じ場所には居ない。数日もしたらどこかに行ってしまう」

千歌「……」

曜「行くなら出来るだけ早い方がいい。何なら明日の朝一で行く方が―――」



千歌「……何さ、曜ちゃんはそんなに早く私から別れたいんだ」
104 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/09(木) 00:59:02.93 ID:XZZbtofl0
曜「はい?」

千歌「まぁそりゃそうだよね。曜ちゃんは王都に行くのが目的だもん。このまま大人しく過ごしていれば普通に入れる」

曜「あ、あの……」

千歌「わざわざ“世界を敵に回すかもしれない”なんてとんでもない危険を冒す必要も無い……」

曜「ちょっとあの……」

千歌「だからさ、果南ちゃんには私一人で会いに行くよ」

曜「……!」

千歌「これ以上曜ちゃんを巻き込むわけにはいかない。私は元の世界に帰れば終わりだけれど、曜ちゃんにはその後がある。仮に果南ちゃんに会った事で曜ちゃんの立場が悪くなっちゃったら嫌だもん……だから―――」



曜「―――いやいや、私も一緒に行くけど?」



千歌「……は?」

曜「って言うか、さっきの一言は心外だなぁ。私が早く千歌ちゃんと別れたい、だなんて思う? ……って、思われたから言われたのか」ガックシ

千歌「そ、そうじゃないけど……私の話本当に聞いてた!?」

曜「私の立場が悪くなるってやつ? 大丈夫大丈夫、 千歌ちゃんが気にする事じゃないよー。王都に行くのだって今は別にって感じだしさ」ニヘラッ

千歌「……笑い事じゃないよ!!!」ガタンッ!!

曜「うぉッ!!?」ビクッ!!

千歌「何で……何でそんなに能天気なの!? もっとよく考えてよ……!!!」

曜「……考えたよ」
105 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/09(木) 01:00:16.21 ID:XZZbtofl0
曜「考えて考えて考えて、出した答えがこれ」

千歌「どう、して……だって…」

曜「逆に聞くけどさ、千歌ちゃんはどうして私の心配をしてくれるの?」

千歌「どういう意味?」

曜「私は千歌ちゃんの知ってる『渡辺 曜』じゃないからどうでもいいじゃん。別人なんだから帰った後の心配までする必要無いでしょ?」

千歌「違う…違うよ!! 確かに曜ちゃんは私の知ってる曜ちゃんとは違うかもしれない……でも幼馴染みじゃなくても、友達じゃなくても、私にとってはどの曜ちゃんも大切だもん!!」

曜「……」

千歌「だから、その、ええっと……ああもう上手く言えない! とにかく私はどうでもいいだなんて一ミリも思ってないんだから!!!」

千歌「…はぁ、はぁ、はぁ」

曜「……ふふ」ニコニコ

千歌「な、何さ……」

曜「いやー、千歌ちゃんは優しいなって思って」

千歌「優しいって……私は当たり前の事を言ってるだけだよ…」

曜「ううん、千歌ちゃんは優しいよ。私にはこんなに自分の事を想ってくれる友達は居ないから」

曜「……そっちの私がちょっと羨ましいな」ボソッ

千歌「曜ちゃん……」



曜「昨日も言った通り、私はどんなことがあっても元の世界に帰るまで千歌ちゃんを守るよ」

千歌「……本当にいいの?」

曜「勿論! たとえ火の中水の中、私はどこへでもついて行くであります♪」ニッ

106 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/09(木) 01:01:48.71 ID:XZZbtofl0
ここまで
コメントありがとうございます!
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/09(木) 14:49:26.99 ID:sRwPMWvh0
おっ、続き来てた

無理しないでまたよろしく
108 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/20(月) 00:40:15.46 ID:z49Th79Z0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





〜旧虹ヶ咲領 南部〜



この島は元の世界の静岡県とほぼ同じ形をしている。

曜ちゃんの説明によれば、私が最初に目を覚ました場所の浦の星王国は元の世界で言う所の『伊豆』

音ノ木坂王国は『遠江』

そしてこれから向かう虹ヶ咲王国は『駿河』にあたる場所に領土を持っていたらしい。

ただ写真で見た限り地名や街並みまで一致している場所はほとんど無かった。

今は島全体が浦の星王国となっているから名前の最初に“旧”と付いている。


私達はバスをいくつも乗り継ぎ、半日かけてこの終点まで訪れた。

バスでの移動はここまでで後は徒歩での移動になる。



千歌「ねえ、曜ちゃん」

曜「ん?」

千歌「果南ちゃんの居場所が旧虹ヶ咲領だって知った時にさ……」




曜『旧虹ヶ咲領って……そんな危険な場所に行けっていうの!?』




千歌「―――って言っていたじゃん? だから、その、何と言いますか、風景ももっとこう…世紀末感が漂っているイメージをしていたんだよね」

曜「世紀末って……一応浦の星の管理下に置かれているわけだから整備はされているよ」

千歌「でも浦の星と比べると文化的な建物が少ない気がする」

曜「確かに昔ながらの作りの建物ばかりだね。森や畑、田んぼばっかり」

千歌「前からこんな感じの場所だったの?」

曜「小さい頃パパと一緒に来た時はもっと栄えていたよ。多分先の戦争で全部壊れちゃったんだと思うよ」

千歌「戦争……そうだったね」
109 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/20(月) 00:46:42.36 ID:z49Th79Z0
曜「でも危険なのは違いないと思う」

千歌「何があるのさ?」

曜「ここには浦の星に敵対する勢力が多く潜伏しているって噂があるの」

千歌「数多く? 敵対組織は一つだけじゃ無いの?」

曜「らしいよ」

千歌「本気で倒すつもりなら力を合わせた方が……」

曜「どの勢力も最終目標は女王を倒してその座を奪う事のはずだから、同盟を組むと後々面倒なんじゃない?」

千歌「そういうものなの?」

曜「さあ? 流石に私も詳しくは分からないよ」

千歌「果南ちゃんのグループには一体誰がいるんだろう……?」

曜「とにかく南に向かおう。街があったら手あたり次第探す作戦で!」

千歌「それは作戦になってるのかなぁ」ウーン



私達は取り敢えず南へ向かって歩き出した。

歩いても歩いても見渡す限り田んぼと畑しかない。


それに空気もやたら重く感じる。

畑仕事をしている人、稀にすれ違う人、家の庭で座り込んでいる人

どの人も酷く疲れ切っていて全く活気が無かった。


浦の星を少し離れただけでこれ程までに変わってしまうものなの?

扱いの差が明らかに激しい。

いくら昔争っていたとは言っても、今は同じ国民なのに……



千歌「―――女王様はどうしてこの現状を放っておいているのかな…?」

曜「……」

千歌「……ごめん、曜ちゃんに聞いても仕方ない事だよね」

曜「へ? 何か言った??」

千歌「あー…聞いてなかったのね」

曜「ごめんごめん、ちょっとあそこに居る二人が気になってさ」

千歌「あの正面の木の下に居る小さい女の子達の事?」



少女A「大丈夫!?」

少女B「……うぅ、い、いたい、痛いよぉ」ポロポロ

少女A「だから危ないって言ったじゃん!」

少女B「う、うええぇぇぇん」



千歌「―――様子を見に行った方がよさそうだね」

曜「だね。おーい、君達どうしたのー」
110 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/20(月) 00:56:09.25 ID:z49Th79Z0
少女B「……ひっく、ううぅぅ?」

少女A「だ、誰ですか!?」ビクビク

曜「怖がらなくていいよ、私達は怪しい者じゃ無いからさ」ニコニコ

少女A「怪しい人はみんなそう言って近づいて来ます!」

少女B「ホシゾラさんから教わったもん!」

千歌「“ホシゾラ”?」


ホシゾラって、あの星空……? まさかね。


曜「あはは……ちょっとその足見せてね」スッ

少女B「ッ!! 痛ッ!!」ズキンッ!!!

曜「うーん、この腫れ方だと折れてるかもしれない」

千歌「この木で遊んでて落っこちちゃったの?」

少女B「…うん」

曜「結構な高さから落ちたんだね。頭からじゃ無くて良かったよ」ホッ

千歌「何とか出来そう?」

曜「簡単な応急処置と痛みを和らげるくらいなら出来るかな。ねえ、近くに病院はある?」

少女A「ううん。でもホシゾラさんの所に行けばきっと治してくれます!」

曜「そっか。よーし、ちょっと我慢してね」カチッ!!



―――バシュッ!!



少女B「箱から何か出てきたよ!?」

少女A「綺麗な青い炎……!」パアァ

千歌「匣兵器を使うの?」

曜「うん。雨コテ(サルダトーレ・デル・ピオッジャ)っていう医療用の匣兵器だよ」

千歌「医療用もあるんだ」

曜「これは雨の鎮静で痛みを抑えるだけだけどね。何もしないよりはマシでしょ」



曜は先端に青い炎が灯ったコテを変色した患部へ押し当てる。

一瞬、ジュッっと肉が焼けるような音がしたが少女は熱がる素振りは見せなかった。



少女B「凄い……もう全然痛くないよ!」ブンブン!

曜「こらこら、治った訳じゃ無いんだから! しっかり固定するまで動かさないで」
111 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/20(月) 00:59:15.57 ID:z49Th79Z0
少女A「お姉さんはホシゾラさんと違って青い炎なんですね!」

千歌「ホシゾラさんは何色なの?」

少女A「黄色です。ホシゾラさんはどんな怪我でもすぐに治してくれるんですよ!」

曜「黄色、黄色かぁ……黄色は確か『晴』だった気がするな」

千歌「『晴』ねぇ。話を聞く限り、治療に関する特性があるみたいだね」



曜「―――これでよし! 手当は終わったよ」

少女B「ありがとう、お姉ちゃん!」ニッ!

曜「どういたしまして♪」ニコッ

千歌「ホシゾラさんの所まで私がおぶって行くね」

少女A「そんな! そこまでしてくれなくても……」

千歌「いいのいいの。もうこの子も乗ってるし」

少女B「えへへ」

少女A「いつの間に……」

曜「ホシゾラさんはどこに居るの?」

少女A「あの森を抜けた先にある町です」

千歌「ほぇ〜、結構距離ありそうだね」

曜「私達が行こうとしていた方角と同じだし丁度いいね。そのまま今夜はその町で休もう」

千歌「うん、そうしよっか」

112 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/20(月) 01:02:48.03 ID:z49Th79Z0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




千歌「―――なら、二人は姉妹なんだね」

姉「はい。妹がお転婆でいつも大変なんですよ……今日だって大怪我するし」ハァ

曜「言われてるぞ〜」ニヤニヤ

妹「う、うるさいなぁ」プイッ

千歌「仲良くしなよ? 姉妹なんだからさ」

姉「私達は仲良しですよ」

妹「仲良し仲良し♪」

千歌「ならよろしい」フフ


姉「そう言えば千歌ちゃんと曜ちゃんはどこから来たんですか?」

曜「そうだねぇ……空、かな?」

姉「そ、空??」

妹「ならお姉ちゃん達は天使様なの?」

曜「そうだよ〜、私達は天使なのだ!」

妹「まっさかー、流石にウソだよ〜」

曜「んん〜どうだろうねぇ」ニヤニヤ

千歌「……」

曜「ホシゾラさんはどんな人なの?」

妹「優しい人!」

曜「ざっくりだね!」

妹「でも本当の事だもん」

姉「一か月くらい前から町に住み始めた人なので私達もそこまで詳しくは知らないんです」

千歌「最初から住んでいた人じゃ無いんだ」

姉「噂によれば隣の国から来た人みたいですよ?」
113 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/20(月) 01:04:34.78 ID:z49Th79Z0
曜「隣の国って言うと浦の星王国?」

妹「それは無いよー」

曜「なんでさ?」

妹「もし浦の星の人だったらあの町からすぐに追い出されるもん。みーんな嫌いだからね」

千歌「ッ!」

曜「へぇ…そうなんだ」

姉「ええ。ですから噂通りならホシゾラさんは音ノ木坂王国の方だと思いますよ」



曜ちゃんが自分達の出身を誤魔化したのは正解だった。

私もうっかり口を滑らせないようにしないと……。


この姉妹の話す“ホシゾラさん”

珍しい苗字

音ノ木坂王国


もしかしたら本当に私の知ってるμ'sの星空凛さんなのかも……?



姉「―――あっ! 町が見えてきました!!」

曜「おお、あの町か!」

千歌「中々大きな町だね」

姉「ホシゾラさんのいる宿はすぐそこです」

千歌「もうちょっとだから待っててね」

妹「うん!」


114 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/20(月) 01:12:03.72 ID:z49Th79Z0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



私はホシゾラさんが泊っている部屋のベルを鳴らす。

「はーい」と言う声が室内から聞こえ、すぐにドアが開いた。



姉「ホシゾラさん!!」

「あれ、いつもの姉妹ちゃんだ……ちょっ、その足どうしたの!?」

妹「木から落っこちちゃったの……」

姉「そしたらこのお姉さん達が助けてくれたんです」

「ええっと……そのお姉ちゃん達はどちら様?」

千歌「ホシゾラ……星空、凛さん……?」

「にゃ!?」


星空凛という名に反応した。

でも目の前のその人は私の知る星空凛では無かった。

ぱっと見で年齢は二十代後半という感じ。

いつきちゃんやルビィちゃんも年齢は違っていたけれど

間違いなく元の世界の二人と同一人物だった。


髪形、髪色、目元などなど

若干似ている部分はあるはあるけど、年を重ねての変化では無い。

可愛い顔なのは同じだけど、明らかに骨格が違う。


「君達は一体……」

曜「私は渡辺曜です。この子は高海千歌ちゃん。この子達が困っている所を偶然通りかかって―――」

「曜……千歌…ああ、なるほどそう言う事か」フム

曜「ん?」

「そっか、思っていたより早く来たから驚いちゃった」

千歌「驚いた? 何の話ですか?」




「―――諏訪ちゃんから話は聞いてるよ」




115 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/20(月) 01:13:52.58 ID:z49Th79Z0
曜・千歌「「!!?」」

「取り敢えず今はこの子の治療からだね。曜ちゃんと千歌ちゃんは部屋に入って待っててよ」

千歌「……分かりました」

妹「ええー! 私も入りたーい!!」

「今日はダーメ。怪我がちゃんと治ってからね」

妹「ぶぅ…」ムスッ

姉「我がまま言わないの」

妹「分かったよぉ……」

「いい子だね♪ 今度遊びに来るまでに美味しいお菓子を用意しておくね」

妹「いやったあ!! 約束だよ?」

「うん、約束にゃ」ニコッ


姉「曜ちゃん、千歌ちゃん、妹の為にここまでありがとうございました」ペコリ

曜「ふふ、すぐに良くなるといいね」

妹「また会おうね〜」

千歌「うん、今度は一緒に遊ぼうね!」ニコッ

「じゃあ早速治療を始めるよ―――」



―――ボッ!!


116 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/20(月) 01:17:29.56 ID:z49Th79Z0
ここまで。
そろそろ平和な時間には飽きた頃合いですよね……
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/20(月) 18:35:11.49 ID:eC9NZ2PM0
おっつおっつ、いいゾ〜これ

ところで、形は静岡と同じだとして、面積も同程度と考えていいの?
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/21(火) 02:31:46.61 ID:2rvFMqZPO
遂に匣を交えた戦いが始まってしまうのか…滾る
乙です
119 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/29(水) 23:57:20.02 ID:jTdyOm030
島の面積に関しては物語の進行にそれ程影響しないので細かくは設定していませんが、脳内では約二倍のイメージで書いていました。

次回の更新は二日以内にする予定です。
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/30(木) 01:22:03.31 ID:vD7mFNlu0
戦闘楽しみにしてるよー
121 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/01(土) 17:27:18.53 ID:XsrhOzqf0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「―――お待たせ。意外と時間掛かっちゃった」

千歌「あの子の足はもう大丈夫なんですか?」

「うん、晴属性の『活性』で自然治癒力を高めてある程度は治したよ」

千歌「晴の特性は『活性』なんだ」

曜「完治させなかったんですか?」

「細胞組織の強制超活性は寿命を縮めちゃうからね。若いからそれ程影響は無いとは思うけど、万が一って事もあるし」

千歌「へ、へぇ〜……それは大変ですもんね??」

曜「あの、ホシゾラさんが付けているそのリング、見覚えがあるんですがもしかして……」

「……それも踏まえて私の自己紹介をしようかな」



星空「―――私の名前は『星空 リン』。以前、音ノ木坂王国で晴の守護者として王に仕えていたよ」



曜「星空リンって……あの凛さんと同じ名前ですね」

星空「お婆ちゃんの事知ってるんだ」

千歌「お婆ちゃん?」

曜「音ノ木坂の初代女王とその守護者は有名ですから」

星空「確かに初代晴の守護者の『星空 凛』と同じ名前だよ。私はカタカナだけどね」


―――どうやら私の知っている星空凛さんはこの世界では大昔の人物らしい。

この感じだと他のμ'sのメンバーも凛さんと同じ時代に生きていたのだと思う。

元の世界で関わりが無かったものの、もしかしたら力になって貰えるかもと期待していた分

会う事すら出来ないから少しだけ残念だな。


星空「このリングはモーメントリング。君達の国のAqoursリングと同等の力を持っているリングだよ」
122 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/01(土) 17:31:22.59 ID:XsrhOzqf0
曜「やっぱりそれはモーメントリングだったんだ」

千歌「Aqoursリングと何か違いはあるのですか?」

星空「性能の違いは全く無いよ。差があるとしたら、モーメントリングは使える人間がかなり限られるくらいかな」

星空「初代女王、守護者だった九つの一族の血を引いていないと使えない」

千歌「九つの一族……」

曜「そんな制約があるんですね」

星空「それに比べてAqoursリングにはその縛りは無いの。ただ、全員が使えるわけじゃ無いみたいだけど」


千歌「他の守護者の方がどこに居るか知っているのですか?」

星空「……」

千歌「?」

星空「――モーメントリングを所持している守護者は私以外はもう居ないよ」

千歌「ッ!?」

曜「みんな……死んでしまったのですか?」

星空「ほとんどが殺されたり行方不明になっている。生きている守護者も居るけれど、怪我が酷くてもう戦える体じゃない」

星空「今現在、浦の星王国に抵抗している組織で最も力を持っているのは諏訪ちゃんのところくらいだと思う」

曜「人数が多いって事ですか?」

星空「人数なら私の所の方が多い。対して向こうは五人しか居ないよ」

千歌「人数が少ないのに強いんだ」

星空「そうだよ。なんてったって二種のAqoursリングと守護者専用の匣兵器を持っているから」

曜「えっ!? どうして反逆者が守護者の装備を持っているの!?」

星空「さぁ? 方法は分からないけれど奪い取ったんでしょ。持っているのは『雲』と『雷』。私と違って攻撃向きの属性で羨ましいよ」

123 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/01(土) 17:33:51.25 ID:XsrhOzqf0

千歌「かな……諏訪さんとはどんな関係なんですか?」

星空「うーん……一応、協力関係って事になってるけど未だに顔が分からないのがイマイチ信用に欠けるんだよねぇ」

曜「あぁ、あのペストマスクのせいですね」

星空「そうそう。いつも被っているから不気味なんだにゃ」

千歌「諏訪さんから話を聞いているって事は私達の目的も知っているのですよね? 」


千歌「――果南ちゃんは今どこにいますか?」


星空「……カナンちゃん? 君達は諏訪ちゃんに会いに来たんでしょ?」

曜「はい?」

星空「そもそもカナンちゃんって誰の事? 聞き覚えのある名前だけど、流石にこの街には……ねぇ」

千歌「あの……諏訪さんから連絡を受けたんですよね?」

星空「そうだよ。私は諏訪ちゃんから近い内に君達がこの街に訪れると思うから見かけたら声を掛けて欲しいって言われただけ」

千歌「……」


果南ちゃんを知らない?

私はてっきり『諏訪=果南』は星空さんも知っているものだと……

いや、会う時は必ずあのマスクを被っていたのなら知らなくても不思議じゃない。


それに果南ちゃんの名前を出した時、ほんの少し怖い顔になった気がする。

気のせい……かな?


星空「暫くしたら諏訪ちゃんもこの街に来ると思うから、その時にカナンちゃんの所に案内されるんじゃないかな。それまではここで過ごすといいにゃ」

千歌「そうですか……」
124 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/02(日) 00:04:08.06 ID:jTiiZbdq0
投稿中にパソコンの調子が悪くなってしまい、続きが消えてしまいました。
もう一度書き直しているので、続きは今日中に投稿します。
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/02(日) 21:30:14.38 ID:MXXEsJLco
まってる
126 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 00:28:10.65 ID:bPNo+YOG0



曜「あの、これまでの話とは全然関係ないんですが……いいですか?」

星空「ん? 何?」

曜「さっきから気になっていたんですが、星空さんの『にゃ』って語尾は――」

星空「………にゃ!?///」

曜「あ、また」

星空「い、いや、その……いい大人が恥ずかしいよね/// 何と言うかこれは星空一族の特性を言いますか呪いと言いますか……気を抜くと猫語になっちゃうんだよねー///」

曜「……ふっ、の、呪いですかぁ?」プルプル

星空「わ、笑うな! 私だってちょっと気にしてるんだにゃ!! ……あっ」


我慢の限界を迎えた曜ちゃんはお腹を抱えながら笑い始めた。

顔を真っ赤にしてうつむく星空さん。
あ、ちょっと涙目だ。


いやいや、曜ちゃん流石に笑い過ぎでしょ?!

怒らせたらどうなるか分からないんだよ!!?


そんな私の杞憂はお構いなし。

そのまま気が済むまで笑い終えた曜ちゃん。

星空はご立腹だった。


曜「ごめんなさい。気を悪くしないで下さい」

星空「……」ムスッ

曜「反逆者はみんな怖いイメージがあったんです。でも、実際は星空さんみたいな可愛い人も居るんですね」

星空「可愛いなんて言葉に惑わされないんだからね!」プンプン

曜「あははは! ほっぺた膨らませて怒るなんて年上の女性には全然思えないや」

星空「……シャアァァ!!!!!」ガッ!!!

曜「うおっ!? 襲い方も猫みたいですね!?」

千歌「あ、あははは……」ハァ



127 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 00:38:47.33 ID:bPNo+YOG0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


〜翌朝〜



曜「――……ふわあぁぁ、おはよう千歌ちゃん」ゴシゴシ

千歌「曜ちゃんおはよう……くんくん、この匂いはまさか……?」

曜「うん、間違いなくアレだよね」



星空「――あ、二人共おはよう。朝ご飯出来たよ〜」ゴトッ

曜「こ、これは……っ」

千歌「朝、ご飯……?」

曜「ラーメンだね。しかも豚骨」

千歌「昨日の夜は醬油ラーメンで、今日の朝は豚骨ラーメン」

星空「にゃ? もしかしてラーメン嫌いだった?」

曜「いえいえ、ラーメンは好きですよ? 昨日のラーメンも凄く美味しかったです。ただ、朝からこってり系はちょっと……」

星空「ふむ、だったら塩ラーメンにしておくべきだったかぁ」

曜「いやいや……」

千歌「曜ちゃん曜ちゃん、豚骨だけど意外といけるよ」ズルズル

曜「え゛え゛!!?」

星空「だよねだよね♪ 私は毎朝作って食べているから」

曜「これを、毎朝!?」

千歌「んん〜〜ん、美味しい♪」ウットリ

星空「ドンドン食べてね〜」
128 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 00:40:38.37 ID:bPNo+YOG0



千歌「――ふ〜う、お腹いっぱいだよぉ」

曜「ご馳走様でした」

星空「いい食べっぷりだったね」ニコッ


星空「それで、今日はどうする予定なの?」

千歌「うーん……どうしよっか」

曜「諏訪さんが来るまでは何も出来ないし、取り敢えずこの町の散策でいいんじゃないかな?」

星空「それがいいと思うよ。私も一緒に案内するよ」

千歌「じゃあ、お言葉に甘えて―――」



―――ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!



千歌「ん? 何の音だろう?」

曜「外から聞こえるね」

星空「工事でも始まったのかな?」



三人は外の様子を見る為にベランダに出た。

そこで目にしたのは、町の中心部の上空に浮遊している大きな円盤状の機械のような物体だった。
音の原因はこの飛行物体だ。



千歌「ほぇー、あんな大きな物が浮かんでいるよ。凄いなぁ」

曜「あれって乗り物なの? 見た事無いな……星空さんは知ってます?」

星空「……そ、そんな、まさか」ゾッ
129 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 00:45:47.29 ID:bPNo+YOG0
曜「星空さん?」

星空「二人とも伏せ―――」



星空が言い終わるより先に飛行物体に変化があった。

カッと眩い光を放ち、真下に向けてレーザー光線を照射したのだ。

直後に発生した衝撃波で三人はベランダから屋内に吹き飛ばされた。



曜「……ぁ……か、はぁっ……っ」

千歌「う……ぁあ……ぁ」

星空「ぐっ……ふ、二人共無事!?」

千歌「な、なん、とか……」

曜「今のは一体……?」

星空「さっきのあれは『超炎リング転送システム』。リングの炎を使って大量の人や物を瞬間移動させる装置だよ!!」

曜「瞬間移動? ビーム砲に見えましたけど!?」

星空「あのビームそのものに破壊効果は全く無いよ。ただ、転送には膨大な炎圧が必要だから、その余波で私達は吹き飛ばされた!」



「――ぎゃあああああああああぁぁぁぁ!!!!!」

「やめろ!! やめてえええ!!!!!!」



千歌「今度は悲鳴!?」



急いで立ち上がり、再びベランダに出る。

外では逃げ惑う人々とそれを追う奇妙な人型の何かで溢れていた。


頭部は真っ黒なフルフェイスのヘルメットで覆われ

胸部には大きくて綺麗な石が埋め込まれている。

また、個体によっては手足が機械仕掛けになっていて

そこから出る炎や刃物で人々を無差別に攻撃していた。




曜「何!? あれは何なのさ!!?」
130 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 00:48:18.82 ID:bPNo+YOG0
星空「――人形兵(マリオネット)だよ……っ!」

曜「人形兵(マリオネット)?」

星空「浦の星王国が開発したサイボーグ兵器の一種だよ。あのヘルメットから下される命令プログラムに忠実に従って行動するんだ」

千歌「ちょっと待って……じゃあ、今この町の人を襲っているのって――」

星空「浦の星王国の軍だよ……私と私の組織を殲滅しに来たんだと思う」

曜「も、もしかして……私達のせい……?」

星空「違うと思う。ただ君達がこの町に来た日、浦の星で動きがあったのは把握していたんだ。私の見立てでは準備が整うのにあと数日は掛かると予想したんだけど……まさか一晩で済ませるとはね……っ!」


星空「私は仲間と合流して町の人を助ける。君達は裏口から出て、今すぐこの町から脱出して!」ダッ!


そう言い残し星空はベランダから飛び降りた。


曜「……行こう、千歌ちゃん!」

千歌「わ、分かった!」

131 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 00:51:14.13 ID:bPNo+YOG0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



裏口が建物を出て、昨日町に入ったルートから脱出を試みた。

しかし、その道は既に人形兵によって封鎖されていた。

強行突破するにも数が多すぎる。



千歌「ど、どうする……?」

曜「別の出口を探すしかない。こっち!!」



「――おや? 見覚えのある顔ですね」



逃げようとした先に、黒いスーツを着た女性が立っていた。

他の人形兵とは違って生身の人間。


千歌達もこの女性に見覚えがあった。

それは、千歌がこの世界に来た初日

あのバスで出会った人物――



千歌「――むっちゃん……だ」

曜「むつ……? どこかで……」

むつ「ああ、そうだ思い出した。あの時バスで会ったんだ」

曜「あっ」

むつ「そもそも、どうして浦の星の国民がこんな場所に居るの? 危ないからこっちに来なさいな」

曜「え、いいんですか?」

むつ「いいも何もうちの国民なんだから当然じゃない」ニコッ

千歌「……っ」ゾワッ

むつ「さあ早くおいで」

曜「……」



むつ呼びかけに対し、二人は逆にじりじりと後ろへ下がった。



むつ「……どうして離れるのかな?」
132 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 00:56:28.07 ID:bPNo+YOG0
曜「いやー……だって、ねぇ」

千歌「うん、近づいたらダメな気がするんだよね……」



ニヤリと怪し気に微笑む むつ。

その邪悪な笑みに千歌と曜はたじろぐ。



むつ「――ふむ、意外と察しはいいんだね。私の嫌いなタイプだよ」

曜「私達、何かしました?」

むつ「そうだね……星空リンと接触してしまったのがダメだった。それだけで拘束するには十分なんだよ」

千歌「どうして私達が星空さんと会っていると知っているの?」

むつ「ふふふ……浦の星の監視網を甘く見ない方がいいって事」


むつ「さて、これから君達を拘束させてもらう。怪我をしたく無ければ抵抗はしないでね」

むつ「――行け!」



むつの命令で人形兵二体が襲い掛かる。

今から背を向けて走り出しても数秒で追いつかれてしまうだろう。



千歌「うわああ!!?」

曜「ッ!! 千歌ちゃん!!!」ボッ!!



やるしかないと悟った曜は千歌を自分の背後に押しのける。
リングに炎を灯し、技の準備を整えた。



―――ゴキャアアァァッ!!!!



曜・むつ「「!!?」」



空から落ちてきた人物の拳により、二体の人形兵は頭部から地面にめり込む。



星空「――……むつ!!!!」
133 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 01:05:48.84 ID:bPNo+YOG0
むつ「ターゲットの方から出向いてくれるとは……手間が省けたよ」

曜「星空さん!」

星空「交戦中の仲間から連絡を受けて急いで戻ってきたんだ。間に合って良かったよ」


星空「曜、千歌、ここは私に任せて」

千歌「ひ、一人でこの数を相手するんですか!?」

曜「人形兵も合せて十は居ますよ!? 私も一緒に戦います!!」

星空「私を誰だと思っているの? 悪いけど、君達が居たらかえって足手まといだよ」

曜「ぐっ……」

星空「守護者の私が任せろって言ったんだ。黙って任せればいいんだよ」ニッ

千歌「……行こう、曜ちゃん」

曜「うん……お願いします!」




むつ「流石、音ノ木坂王国の元守護者様ですね。人形兵を一撃で潰すとは……しかも素手で」

星空「あなたに褒められても嬉しくないな。そもそも、どうしてあなたなの?」

むつ「守護者では無い私が相手じゃ不満ですか?」

星空「当たり前だよ。舐めてるの?」

むつ「とんでもない。でも、わざわざ津島さんや桜内さんが出る幕じゃないのも確かですが」

星空「……ッ」イラッ



むつは匣兵器を開口する。

緑色の炎を注入して出てきた武器は日本刀だった。


……星空はその匣兵器を知っていた。

匣兵器の固有名詞は『雷電(らいでん)』

園田家が開発した日本刀型の匣兵器の一振りである。


星空と同期の雷の守護者は園田家であり、これはその彼女が使用していた匣兵器であった。



星空「その匣兵器を持っているって事は……っ!!」ギリッ
134 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 01:09:23.35 ID:bPNo+YOG0
むつ「ええ、その通りです。私が園田を倒しました。雷のAqoursリングさえあれば私も守護者になってますよ」



「まあ、仮にリングがあってもなりませんが」とぼやきながら刀身に炎を纏わせる。


雷属性の特性は『硬化』

雷に酷似したその炎は属性中最高の硬度を誇り、『雷電』はその特性を最大限に引き出せる。

よって、炎を纏わせた『雷電』の斬撃は例え鋼であっても紙と同様の強度となる。

仮に炎を纏わせたとしても並の炎圧では防御は不可である。


むつの匣を目の当たりにし、星空も対抗する為の武器を取り出す。

勿論、使うのは匣(ボックス)兵器だ。

出てきた武器は『指だしのグローブ』である。


むつ「……グローブ、ですか」

星空「何? そんなに意外でもないでしょ?」

むつ「ええ、ただ、匣兵器は持っていないと報告を受けていたので」

星空「最近手に入れたんだ。前の匣よりも性能は劣っているけど、そこは実力でカバーするさ」

むつ「……」


念のために様子を見た方がいいかな……?

もう三、四体の人形兵をぶつけてみよう。


むつ「――人形兵(マリオネット)!!!」



襲い掛かる四体の人形兵。

星空は「ふぅ……」と軽く息を吐くと、力強く拳を固める。


高純度の晴の炎を右手のグローブに纏わせ、目にも止まらぬ速さで拳を振るう。

上、正面、左右から襲い掛かってきた人形兵の頭部が同時にはじけ飛んだ。



むつ「……」ジッ
135 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 01:29:08.48 ID:bPNo+YOG0
星空「――性能を観察しようとしているなら無駄だよ。このグローブは炎を灯しても消滅しない以外に何も無いから」

むつ「みたいだね。一撃必殺の拳を四方向に同時に繰り出せるのか……恐ろしい」

星空「怖気づいたかにゃ?」

むつ「……ふっ」

星空「……」



むつと星空、二人のリングの炎が更に大きくなる。

その余波で近くの壁や地面の表面が削れ、黒く焦げる。



むつ「ぜーんぜん。残念ながらあなたじゃ私に勝てないよ」ニコッ

星空「……変わった遺言だね―――!!!」
136 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 01:30:15.94 ID:bPNo+YOG0
今回はここまで。
土曜前後までには更新したいです……
137 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:27:49.17 ID:CPlG3n340

138 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:30:56.30 ID:CPlG3n340

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「???あああああぁぁぁぁぁっ!!? があぁ…!!??」ブシュゥッ!!


「このっ!? 数が多……ぎゃぁ!!?」グシャ


「早く逃げろ!!! 長くは持たない!!」


「助けて!! お願い助け???こ゛お゛お゛ッッ!!?」



町中から聞こえる怒号や断末魔。

人形兵を撃退すべく奮闘する者も多く居るが、次々と倒される。


それを横目に、曜は千歌の手を引いて走る。

倒れている人、殺されそうになっている人

全て無視して走り続ける。



139 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:32:18.60 ID:CPlG3n340
曜は葛藤していた。


千歌による補強があれば人形兵とも十分戦える。

今、目の前で殺されそうな人々を救う力を持っているのだ。

しかし、それは曜一人で戦う場合の話。

千歌との力のリンクを維持するには、お互いに目視可能かつ一定の範囲に居る必要がある。

故に、戦闘能力が皆無の千歌を危険な戦場に置き去りにしなければならない。

前回のいつき戦とは異なり、どこから敵が襲って来るか分からない今回の状況で
自分の実力では千歌を守りながら戦うのは困難だと自覚している。







千歌「……うちゃん」
140 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:34:06.02 ID:CPlG3n340
曜「……はぁ、はぁ、はぁ」タッタッタッ

千歌「ねえ、曜ちゃん!!」

曜「何ッ!!?」



精神的に余裕の無かった曜は強い口調であたる。

その反応と鬼気迫る表情と声に一瞬気圧されるが
構わず言葉を続けた。



千歌「あそこ! あそこで倒れている子!!」

曜「誰が倒れているって???……ぅ!!!?」ゾワッ



千歌が指さす場所には小さな二人の少女が倒れていた。

昨日、この町に来る前に出会った姉妹だった。



千歌「しっかりして!! ねえ!!」
141 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:35:36.20 ID:CPlG3n340
妹「ぁ……っ、ち、か……ちゃん……?」

千歌「そう、そうだよ!!」

妹「ど、こ……、真っ暗で……何も、見えない……よ?」

千歌「ッ!? ここだよ! 私はここに居るよ!!」ギュッ



少女の体は無数の鋭利な刃物で切り刻まれたかのように全身ズタズタに引き裂かれており
地面には既に大きな血の池が出来ていた。

千歌は血塗れになった少女の手を握る。



妹「……ぁ、温かい……なぁ」

千歌「どうしよう……このままじゃ死んじゃう」

妹「ね、ぇ……お姉、ちゃん……は?」

千歌「お姉ちゃんなら曜ちゃんが???」チラッ

曜「……」

千歌「……曜ちゃん?」
142 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:37:19.05 ID:CPlG3n340


目線を下げ、曜が抱えている姉の体を見る。

姉のお腹の中心部に地面がハッキリと見えるほど大きな穴が開いていた。

微かに意識はあるものの、絶対に助からない事は素人目でも分かってしまった。



妹「いた、い……いたいよぉ……」



かすれ声で痛みを訴える。

少女にはもう泣き叫ぶ体力すら残っていのだ。


千歌はただただ泣く事しか出来なかった。



千歌「……ぅ、うぅぅ」ポロポロ

曜「千歌ちゃん……ちょっと代わって」
143 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:38:39.82 ID:CPlG3n340
千歌「……何をするの?」


妹「…っ……はぁ……はぁっ……っ」

曜「もう少しだけ頑張ってね? 今、星空さんが治療を始めるから」

千歌「!?」

妹「……はぁ……はぁ……本、当……?」

曜「うん、本当だよ。ほら、だんだん痛く無くなってるでしょ?」



そう言いながら、曜はリングの炎を少女の全身に浴びせる。



妹「……ぁぁ、本当だぁ……もう、痛くない……や」

曜「そうでしょう?」

妹「……ん、ん……なんだか、眠く…なって……きちゃった」


曜「……」
144 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:40:12.34 ID:CPlG3n340
妹「明日……に、なったら……治って……る……かな?」


曜「……うん」


妹「じゃあ……治ったら、一緒に……遊んで、く……る………?」


曜「勿論だよ。約束する」ニコッ



妹「……え、えへへ、楽し……み……だ……な……ぁ」


妹「……??????」

曜「……っ」
145 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:41:34.34 ID:CPlG3n340
???『星空リンが助けに来た』

目が見えない事を利用した曜の嘘。

曜を信じ、明日が来ることを信じて眠りについた少女。

だがもう二度と目覚める事は無い。


助からないのならば、せめて痛みを取り除いて楽にしてあげよう。

雨属性の炎を持つ曜が少女にしてあげられる最善の策だと判断したのだ。

既に姉の方も同様の処置を施していた。



千歌「??……曜ちゃん」

曜「……ごめんなさい」

千歌「……」


曜「ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」ポロポロ
146 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:42:48.34 ID:CPlG3n340
千歌「……ぁ」




……かける言葉が見つからなかった。

痛みから解放してあげた曜ちゃんの判断は間違っていないと思う。

それでも、結果的には二人の命を奪ってしまった。


私には想像も出来ない人の命の重み。


無力な私は泣き崩れる曜ちゃんを抱きしめる事しか出来なかった。




……ごめん。


曜ちゃんに十字架を背負わせてしまった??。




暫くすると曜ちゃんはグイっと私を押しのけた。

さっきまでの沈痛な表情とは一変
激昂した面持ちで辺りを見渡していた。



曜「??……囲まれている」

千歌「えっ、に、人形兵がこんなに沢山……!?」
147 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:43:46.08 ID:CPlG3n340
目の前に現れた人形兵は五体。
全員、服やヘルメットは真っ赤な血で染まっていた。

私達の元へゆっくりと近寄って来る。



千歌「逃げなきゃ……急ごう曜ちゃ???」



???トンッ



千歌「へ?」



後ろに突き飛ばされる千歌。

同時に千歌と曜の間を遮るように水の壁が出現した。



千歌「これって……どういうつもり!?」

曜「ごめん千歌ちゃん……悪いけど、ここでお別れだよ」

千歌「はあ!!?」
148 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:44:45.03 ID:CPlG3n340
曜「このまま真っ直ぐ走れば町を抜けられる。私がそれまでの時間を稼ぐから千歌ちゃんは先に行って」

千歌「曜ちゃんが戦うなら私だって???」

曜「黙って言う事を聞いて」

千歌「た、確かに私は曜ちゃんみたいに戦えないよ…でもあの時みたいに力になれる!!」

曜「……」

千歌「ねぇ、何か言ってよ!」

曜「……いいから行けって言ってるんだよ!!」

千歌「な、なん、でよ……」

曜「この数が相手じゃ千歌ちゃんを守りきれない。もうこれ以上目の前で誰も死なせてくないんだよ……」


??声が震えている。
水の壁で見えないけれど、曜ちゃんはきっと……


曜「それに、私はあの子達を……この町の人々を襲ったコイツらを許せない。全員倒さなきゃ気が済まないんだよ」

千歌「……"お別れ"って言った。曜ちゃんはここで死ぬ気なんでしょ!?」
149 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:46:34.62 ID:CPlG3n340
曜「死ぬ気なんて全然ないよ。"お別れ"っていうのは"一旦"って意味。終わったらちゃんと追いかける」

千歌「ホント? 信じていいの……?」

曜「千歌ちゃんは私の事信じられないの?」

千歌「……」


千歌「??分かった。約束だよ! 絶対に追いかけて来てね!!」

曜「うん……また後でね」
150 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:48:28.31 ID:CPlG3n340
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



曜「??”終わったらちゃんと追いかける”か」


よくもまあ平然と嘘をつけるもんだよ。
自分の実力は自分がよく分かっているじゃないか。

人形兵(マリオネット)は国が造った兵器
まだ一度も戦った事は無いけれど簡単に勝てる相手では無い。

それを一度に五体も相手にしなければならないんだ。
怪我だけじゃ済まないんだろうな……



??ギチッ、ギチギチッ!!



曜「全く動けないでしょ? 出力最大の『水の鎖(カテーナ・ディ・アクア)』は結構凄いんだ」
151 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:49:46.10 ID:CPlG3n340
曜「そのおかげで攻撃に割く力が残ってないのが欠点だけど……こればっかりは仕方ないね」

人形兵「??ッ!!! ???ッッ!!!」ギチギチ

曜「ん? 何を言ってるか全然分からないけど、慌てなくても大丈夫だよ。もう時期この鎖は解けるからさ」


五体同時に縛る事が可能なのは千歌ちゃんとのリンクが有効な時だけ。

千歌ちゃんとのリンクを維持できる範囲から出た瞬間
鎖の拘束力は極端に下がって、一秒も封じる事は出来ない。

開戦の合図は拘束が解けた瞬間だ

……やっば、ちょっとお腹痛くなって来たかも。
152 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:50:53.40 ID:CPlG3n340
曜「ふぅ……もう後には引けない、やるしかないんだ」


??バキンッ!!


曜「来るッ!! 覚悟を決めろ、渡辺曜!!!」ボッ!!
153 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:53:45.12 ID:CPlG3n340
三カ月振りの投稿と遅くなりました…
本日よりまた再開しますので、どうかよろしくお願いします。
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 05:36:22.92 ID:2WsJIHo90
楽しみにしてる、
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/30(金) 07:12:39.05 ID:krubLPNd0
おー、良かった
マイペースに続けてくれ
156 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 00:50:49.73 ID:OGx6MZSd0
鎖を引きちぎり一斉に襲いかかって来る人形兵

曜はトンファーに炎を灯し、迎撃態勢を取る。



曜「弱点とかはよく知らないけど、きっと胸元にある大きな石そうでしょ!! 如何にもって感じだし!!」


近づいて来た人形兵の胸元へカウンター気味にトンファーを叩き込む。



―――ガキンッ!!!!



金属同士がぶつかり合う甲高い音が鳴り響く。

ビリビリと反動がダイレクトに腕に響き、思わずトンファーを手放しそうになるが
何とか堪える。

しかし、石には傷一つ付かない。


曜「かっっったいな!!? これ弱点じゃ無いの!?」
157 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 00:53:36.97 ID:OGx6MZSd0
曜の予想は間違っていない。

胸元に埋まっている石はリングと同じ素材であり、人形兵の動力源となっている。
破壊すれば当然、機能停止となるが弱点をむき出しのまま放置するほど間抜けでは無い。

石の表面は耐炎性、耐衝撃が極めて高い"ナノコンポジットアーマー"という物質で覆われている。

曜の炎圧でどうこう出来るレベルを遥かに超えているのだ。


攻撃を受けた人形兵は仰け反りながらも機械仕掛けの右手を曜の顔へ向ける。

高密度に圧縮された嵐の炎がレーザーのように照射された。



曜「熱ッッ!!!?」ジュッ!!



咄嗟に首を大きく傾ける

耳の一部を焼き切られたが紙一重で直撃は免れた。
158 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 01:01:06.81 ID:OGx6MZSd0
曜「この威力……私の技じゃ防げ無いよねッ!」ギリッ


――私の匣や技だとあの石を破壊するのは無理かな。

五体もいるから一体くらいは一撃で倒せれば楽だったんだけど。

奥にいる人形兵は大鎌を持っていたり腕がチェーンソーになってたりしてる。

灯っている炎色を見る限り、嵐が三体、雨が一体
後は緑色が一体だ。

緑色は確か……雷属性だったけ?
炎の見た目も電気っぽいし多分そうかな。

炎の大きさも純度も私の炎とは比べ物にならないくらいに高い。

これだけの差だと"鎮静"でも相殺しきれない。

一撃でも喰らえばお終い。

だったら敵の攻撃は回避一択だね。

こっちの攻撃は比較的脆そうな部位に集中させる……



曜「――先ずは手足を潰そう。攻撃を封じられればそれでいい」
159 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 01:03:54.27 ID:OGx6MZSd0
二体の人形兵が嵐の炎を纏わせた大鎌で斬りかかってくる。

首筋、左胸、内腿

人体の急所を目掛けての連続攻撃。

曜は冷静に軌道を見極め、全て回避する


曜「――くらえ!!!!」


大鎌を振り切り、体勢を崩した人形兵の右肩にトンファーを叩き込む。



――グシャッ!!!



曜「んな!?」ゾッ



肉と骨がひしゃげる嫌な音と感触。

想定外の手応えに一瞬怯むが、攻撃のチャンスを逃す訳にはいかない。


腰、膝、その他関節部と比較的脆そうな部位へ連続攻撃する。

可動部を破壊された二体の人形兵は地面に倒れ込み動かなくなった。
160 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 01:16:09.07 ID:OGx6MZSd0
曜「残り三体!!!」


曜の耳を焼き切った人形兵が同様の攻撃を仕掛けようとしていた。

発射まで数秒前―――



曜「二度も当たるもんか!!!」ボッ!!



水の鎖が人形兵の右手に絡みつき、引っ張り上げる
発射口を無理矢理隣に居る人形兵に向けさせた。

発射寸前のタイミングだ
緊急停止は間に合わない。



――ゴッ!!!!!!



放たれたビームは人形兵の胸元を貫いた。

すぐさま接近し、この人形兵も無力化する。



曜「――残り一体だ!!」
161 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 01:20:08.59 ID:OGx6MZSd0
視線を残りの人形兵の方向へ向ける。


……ここまでの流れは曜が脳内でシミュレーションした物と全く同じだった。

想定では残った人形兵との距離は数メートル。

水の鎖で足下を崩し、その隙に接近してトンファーで手足の関節を砕く算段だ。


だが、物事というのは想定通りに進む事の方が極めて少ない。
ここまで上手く進んだのは奇跡に近い。

実際は想定とは異なり人形兵は既に目の前に迫っていた

チェーンソーに改造された右腕を高々と振り上げている。



曜「やっば……これ避けられ――!?」グラッ



振り下ろされるチェーンソー。

雷の炎により切れ味が数段向上したこれは人の頭蓋骨程度なら一瞬で削り取るだろう。

一か八か、後方に倒れ込むように回避する。
162 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 01:24:25.07 ID:OGx6MZSd0



―――ブシャッ!!!!



チェーンソーの刃は曜の右肩を少し抉った。
多少血は出たが支障は無い。

しかし、咄嗟の事とはいえ避け方が致命的だった。

仰向けに倒れ込んでしまった故、次の攻撃を避ける事が出来ない。


――トドメの一撃が曜の顔面に襲い掛かる。



曜「うぅッ!!!!?」ゾワッ



無意味なのは分かっているが両手のトンファーで防御する。

死を覚悟した曜は思わず両目をギュッと瞑った。
だが……


曜「………あ、あれ……?」


お、おかしい……攻撃が来ない…?
チェーンソーの音も止まったぞ??


恐る恐る目を見開くと……



人形兵「……ガ、オゴ……ガガ……」

曜「な、なん……攻撃を止めた……?」
163 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 01:27:30.49 ID:OGx6MZSd0
人形兵「……ガ、オゴ……ガガ……」

曜「な、なん……攻撃を止めた……?」

人形兵「 ガ……ゴ、 ゴ……ジ………」

曜「何……何か言っているの?」

人形兵「 ォ……ド……ゥザ ……ン ………」

曜「……?」

人形兵「………………」

曜「……動かなく、なった」



曜「……はは、あははははは!!!」

曜「やった!! やった勝った! 私は勝ったんだ!!!」

曜「あはははは、ははは……は、は」

曜「そうだ……私は勝ったんだ。なのに――」


なのに何だろう……すごく嫌な感じがする。

この感覚……"何か取り返しのつかない事"をしてしまった気が……
164 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 01:34:41.42 ID:OGx6MZSd0


――そもそもどうして私の実力で人形兵を倒せたの?

星空さんの仲間が倒せなかった敵だよ?

それを一度に五体も相手にしたにも関わらず
大きな怪我を負う事なく私は倒せてしまった。

――この人形兵がたまたま弱かった?

……そんなはずは無い。

仮にも国が作った兵器だよ。

大きな個体差があるとは考えられない。

――なら、実は私の実力は星空さんの仲間よりもあったって事?

……一番有り得ない。



曜「……考えるのは後でいいや。今は一刻も早く千歌ちゃんに追いつかなきゃだよね」





「――凄いな、この数の人形兵を倒せるとは思わなかった」





バッと声のする方向へ振り向く。

そこには日本刀を握り、白ワイシャツを返り血で真っ赤に染めた むつ の姿があった。
165 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 01:35:28.70 ID:OGx6MZSd0
今回はここまで
166 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 02:06:40.18 ID:OGx6MZSd0
前回の文章はダッシュ記号が文字化けしちゃって「??」になってましたね……確認不足でした
167 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/13(木) 01:25:52.19 ID:EDQYlBtw0


曜「っ!? どうしてあなたが……っ!? 星空さんと戦っているはずじゃ―――」

むつ「どうしてだって? それは愚問だよ」



そう言うと彼女は曜に切断された人間の右手を見せつけてきた。

その右手の中指には晴のモーメントリングがはめてあった。



曜「星、空……さん……ッ」

むつ「本当は人形兵にするつもりだったんだけどね……あの人、自殺しちゃったからさ」

曜「――人形兵にするつもりだった?」

むつ「はい?」

曜「ちょっと待ってよ……人形兵(マリオネット)はロボットなんじゃ無いの!?」

むつ「ロボットだって? いやいや、人形兵はサイボーグだよ」

曜「だからロボットじゃ……」



むつ「――あ、まさか君……なるほどねぇ」ニタァ



曜「な、何だよ!!」
168 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/13(木) 01:28:12.32 ID:EDQYlBtw0

むつ「そうかそうか、こいつは傑作だ! そりゃ敵の正体を知らなきゃ普通にブッ壊せるわな!! いやー無知って本当に怖いなぁ!!」ケラケラ

曜「無知って……何を言ってるのさ!?」


むつ「ふふふ、いい? サイボーグっていうのは身体器官の一部を人工物に置き換えた"改造人間"の事なんだよ。君の言っているのは完全に機械化された"人造人間"だ」

曜「だったら何だって……」

むつ「まだ分からないの? つまりお前が今壊したそれは"元"人間って事だよ! もっと言えば"元"星空リンの仲間だった人間だ」



曜「―――――………は?」ゾッ



むつ「ふふっ、その顔、星空リンも全く同じ様に青ざめていたよ」

むつ「そりゃ当然だよねぇ? 知らなかったとはいえ自分の仲間の頭をぶっ潰しちゃったんだもんなぁ」

曜「じゃ、じゃあ……星空さんの仲間が一方的にやられていたのは……」

むつ「変わり果てた姿だったとしても、仲間は殺せなかった。最も、私達もそれを見越してこの人形兵達を連れてきたんだけど」

むつ「まだ調整段階だったから十分な性能を引き出せていないけど、この町の反逆者供を抹殺するには丁度良かった」


曜「わ、私は……知らないうちに……ひ、人を……」ガタガタ

むつ「今更気にしてどうするの? そもそも"あれ"はもう人じゃ無い。壊しても人殺しにはならないよ」

曜「そ、そんなの詭弁だ!!」

むつ「何さ……気を使ったのに」
169 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/13(木) 01:29:53.42 ID:EDQYlBtw0


曜「うるさい!! そもそもなんで……なんでこの町の人を襲った!!」

むつ「国の治安を脅かす勢力を排除するのが私達の役目。敵の態勢が整う前に叩くのは当然でしょう」

曜「この町の人々が全員そうだと言うの?」

むつ「いいや、排除したのはこちらが把握していた反逆者と人形兵に抵抗した者のみだよ。無関係の人間の命は奪っていない」


曜「何を言っているの……?」


むつ「ん?」

曜「無関係の人間は殺していない? 何人も殺したじゃないか!!」

むつ「何をデタラメを……人形兵にその様な命令は出していない」

曜「実際に殺されているんだよ!! あの姉妹だってまだ子どもだったのに……っ!!」

むつ「こ、子ども……だって……?」ゾワッ

むつ「そんなバカな……調整段階とはいえ人形兵への命令プログラムは完璧だったはず……」



曜の聞いて、むつ はほんの一瞬だけ動揺した様な気がした。

しかしすぐに澄ました顔に戻り、信じられないセリフを言い放った。






むつ「……そう、ならその子達は運が無かったのね。だから死んだ」





曜「―――……は?」
170 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/13(木) 01:34:13.14 ID:EDQYlBtw0


むつ「人形兵が直接手を下さなくとも、流れ弾や二次被害で致命傷を負う可能性は十分あるもの」

曜「運が悪かった……? 本気でそう言っている、の?」

むつ「ええ。そもそも人間がいつ死ぬかなんて誰にも分からないじゃない。交通事故で死ぬかもしれないし、階段でうっかり足を滑らせて死ぬかもしれない」

むつ「この町に住んでいなければ、この町に星空リンが来なければ、このタイミングにこの町に居なければ、どれか一つでも避けられていれば死なずに済んだのにね」

むつ「――…断言出来るのは、その姉妹は今日死ぬ運命だった。ただそれだけよ」



曜「―――。」



――人間はいつ死ぬか分からない?

それは理解できる。


でも、あの子達が死んだのは運命だって?

それを あなた が言い切ってしまうの?



曜「――……ざけるな」


むつ「何だって?」



曜「ふざけるな……ふざけんな!!!!! 人の命を何だと思ってるんだよ!!!!!!」

むつ「……」


曜「私は今まで自分の国がどんな事をしてた何て知らなかったし、知ろうともして無かった……」


曜「――だけど、今ハッキリ分かった。あなたは……"あなた達"は間違っている!!!」


むつ「間違っている、か……その宣言が何を意味するか分かっていて言ってるの?」

曜「当然だよ。人形兵と戦った時から覚悟は出来ている」

むつ「そう……」



むつ「――おめでとう、たった今から君も反逆者の一員だよ」カチャッ



むつは日本刀型の匣兵器『雷電』を構える。

雷の炎によりバチバチと帯電したその刀身は鮮やかなエメラルドグリーンに変色していた。
171 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/13(木) 01:35:23.95 ID:EDQYlBtw0


曜「……ッ」


……一目見ただけで分かる
この人の強さは私とは次元が違う。

「やってみなくちゃ分からない」とか「可能性はゼロじゃ無い」とか
そんな淡い希望すら打ち砕かれた。

確信してしまった、私じゃ絶対に勝てない……。

――でも……


曜「――勝てないと分かっていても……逃げるわけにはいかないんだよ」ボウッ!!

むつ「青い炎か……それにしても随分と弱々しい炎だね」クスッ
172 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/13(木) 01:42:22.98 ID:EDQYlBtw0

曜「うん、知ってるよ――!!」ダッ!!



走り出す曜。

同時に むつ の周囲に複数の水の鎖を生成し、彼女の体を縛った。


これには むつ も驚きを隠せなかった。

炎を使った技は以前に比べて発動までのスピードは格段に向上したとはいえ
一流の使い手でも発動まで一秒は要する。

戦闘中の一秒は気の遠くなるような長さだ。

故に多くの者が匣兵器を使用する。


対する曜の発動スピードはコンマ数秒。

発動スピードの一点に限れば守護者と同等のレベルだった。



むつ「だからこそ炎の弱さが非常に惜しい」バチバチッ!!!



リングの炎で体を縛る全ての鎖を断ち切る。


ほんの一瞬しか動きを封じられなかったが接近するまでの時間が稼げればそれでよかった。


曜は右手のトンファーに炎を集中させた。

弱い炎でも一点に集中すれば鋼鉄をも溶かす一撃となる。


曜の炎圧ではそこまでの威力にはならないがダメージを与えられる可能性は高まる。



曜「おおッ!!!!」ブンッ!
173 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/13(木) 01:45:06.43 ID:EDQYlBtw0

むつ「………」ジッ



むつ はトンファーの攻撃を『雷電』の刃で受け止めた。

金属同士がぶつかり合う甲高い音は鳴らず
刃はトンファーに深々と刺さった。



曜「んな!!?」ゾッ

むつ「その程度の炎と武器で、私の『雷電』を防げると思ったか!!!!」



更に力を入れてトンファーごと曜の体を斬り落とそうとする。

曜は踵で地面を強く蹴り飛ばして距離を取った。



曜「な、何なんだよその切れ味!?」

むつ「この『雷電』は雷の特性を最大限引き出せるよう設計されているの。並大抵の武器じゃ紙の強度と大差ない」

曜「紙と同じって……滅茶苦茶だよッ!!」ギリッ

むつ「あなたの炎じゃ防ぎきれないのは今ので痛感したはずだよ。大人しくしていれば痛みを感じる事無く三枚おろしにしてあげるよ」カチャッ

曜「……それは勘弁して欲しいかな」


むつ「それはそうとさ、いいのそこで?」

曜「?」




むつ「――その距離、『雷電』の間合いだよ」




刀身に纏わせていた雷の炎が細長く伸びる。

疑似的な刀身は曜の体まで十分届く長さとなった。


それを腰の高さで真横に薙ぎ払う。



―――バチバチバチッ!!!!



曜「ウ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛!!!!!!?」ブシュゥッ!!



直撃した雷の炎が曜の全身をズタズタに引き裂く。

幸運にも致命傷は避けられたが余りの激痛に片膝をついた。




曜「ぐッ……がぁ、があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

むつ「やっぱり炎で伸ばした刀身じゃ切断は出来ないか」
174 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/13(木) 01:50:13.37 ID:EDQYlBtw0


曜「はぁ、はぁ、はぁ……」ボタッボタッ


むつ「痛い? 大丈夫、そのまま動かなければすぐに解放されるから」


曜「はぁ、はぁ ……嫌だ、ね!」ボッ!!


むつ「……この期に及んでまだ抵抗するの?」

曜「当たり前じゃん。私は千歌ちゃんを追いかけなきゃいけないんだ。だから簡単に諦めて死ぬわけにはいかない」

むつ「心配しなくともすぐに向こうで会わせてあげるよ」


曜「だったら尚更諦められない! 千歌ちゃんは―――」







曜「―――……千歌ちゃんは私が守るんだから!!!!」







―――ゴオオッ!!!!




曜「えっ?」


むつ「何ッ!? ほ、炎の量が急上した!!?」

曜「な、なんでいきなり……?」



曜「……ま、まさか」グルッ











千歌「――…はぁ、はぁ、はぁ、っはぁ」ゼェ、ゼェ







175 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/13(木) 01:51:02.43 ID:EDQYlBtw0
また後日更新します
176 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 15:57:50.05 ID:Yipmq1y50



曜「なんで……なんで戻って来たのさ!!!?」

千歌「はぁ、はぁっ……、ご、ごめん!!」

曜「謝って欲しいんじゃない!」

千歌「そうじゃないよ! いや、確かに戻って来た事も悪いと思っていけど……そうじゃないの!」

曜「だったら何さ!?」


千歌「私は曜ちゃんを信じて先に行ったんだ。曜ちゃんが約束を破る訳が無い、曜ちゃんなら大丈夫だって自分に言い聞かせながら走ってた」


千歌「それなのに私……土壇場で曜ちゃんの言葉を信じられなくなっちゃった! 幼馴染なのに……本当にごめん!!」


千歌「曜ちゃんが戦うなら私も一緒に戦う。逃げるなら一緒に逃げる。私達はどんな時だって一緒じゃなきゃダメなんだよ!!」

曜「……」

千歌「曜ちゃん一人が傷つくなんて……私には耐えられない!!」

曜「……千歌ちゃんはそれでいいの?」

177 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:02:04.29 ID:Yipmq1y50
千歌「覚悟が出来てるから戻って来た……ッ!!」ブルブル




……覚悟は出来てるだって?


……そんなに震えているのに?



今まで殴り合いのケンカだってした事無いって話してたじゃん。

こんな大量な血も、死体も、人の死に際も

見たのはきっと今回が初めてだろうな。



普通の女の子ならとっくに逃げ出している。

心に深い傷を負ってトラウマになってしまうだろう。


それなのに千歌ちゃんは戻って来た。

恐怖で震える体を必死で押し殺して。

私の為に戻って来てくれたんだ。



……ああ、なんて強い子なんだろう。

誰にだって出来る事じゃない。

この子と友達になった向こうの世界の“私”が本当に羨ましいなぁ。








曜「千歌ちゃん!!!」

千歌「!」









曜「一緒に戦おう。千歌ちゃんと二人なら私、負けないから!!!」



178 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:03:16.30 ID:Yipmq1y50




むつ「…随分と強気だね。本当に勝てると思っているの?」


曜「当たり前だ!!!」ダッ!!




むつへ向かい迫る曜。

普通なら全身をズタズタに引き裂かれた痛みで動けないのだが
雨の“鎮静”で痛みを強引に打ち消した。

『雷電』の刃にトンファーが触れる。



―――ガキンッ!!!!



むつ「何ッ!?」



今度はトンファーが斬り裂かれることは無かった。

曜の“鎮静”が むつ の“硬化”を上回ったのだ。




キーンッ―――!!



キーンッ―――!!



ガキンッ―――!!



幾度となく打ち合う両者。

むつの剣戟に怯むことなく食らいついて行く曜。


むつは焦る。

剣の名門である園田家を打倒した自身の剣戟。

誰にも負けない確固たる自信があった。

それを無名の少女に見極められているのだ。



曜「うおおおおお!!!!」


むつ「し、しまっ…」
179 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:03:58.97 ID:Yipmq1y50



この動揺の隙を突く。

左のトンファーで『雷電』の斬撃を弾き飛ばし、右のトンファーをむつの胴体に叩きこむ。


むつ の体は後方に大きく吹き飛び、建物の壁へ激突した。



曜「っ……はぁ、はぁ……はぁっ……よしッ!!」

千歌「やった!」

曜「今のは手ごたえアリだよ! このまま押し切ってやる!」



180 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:12:53.60 ID:Yipmq1y50




むつ「………」



……いったいなぁ、もう。

ギリギリで炎の防御が間に合ったけど、雨の炎が雷の炎を貫くなんて。

『雷電』の刃も防御された。

炎の強さに圧倒的な差があれば有り得る。


でも、さっきまでのあの子にそれ程の炎圧は無かった。

オレンジ髪のアホ毛の子が来てから急激に炎圧が上がったんだ。

会話から察するにかなり親密な関係なのは明らか。



……守るべき人が来た事により覚悟の質が変わった?



炎圧(炎の大きさ)や純度に変化が出るのは覚悟の差だ。

人によって覚悟に該当する感情は異なり、合致した時に最大限の力を発揮する。

戦闘中に偶然合致するのはよくある話だ。



……だとしても、この子の変化は異常すぎる。



覚悟の変化だとかそんな次元の話じゃない。

まるで外部から力を供給されているような……

供給、そうか供給か。


むつ「……可能性は無くはないね。試してみよう」ムクッ

181 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:14:46.58 ID:Yipmq1y50


千歌「お、起き上がった!?」

曜「……ッ」ギリッ



むつ はチェーンで腰にぶら下げていた匣を手にする。

雷の炎を注入すると匣からは二匹の動物が飛び出した。



千歌「あれって……狐?」

曜「あ、アニマルタイプの匣兵器か!?」



むつ「―――開口、おいで……電狐(エレットロ・ヴォールピ)」



曜「そりゃ国の兵士だもんね……その匣兵器を持っていて当然か」

むつ「使うつもりは無かったんだけどさ、こっちも本気でやらなきゃダメかなと」


千歌「よ、曜ちゃん…」

曜「大丈夫、三対二になっちゃったけど問題無い」

むつ「問題無いですか……。本当にそうかな?」



むつ「行け!! 『電狐』!!!」



むつ の命令で雷の炎を纏った二匹の狐は高速回転しながら襲い掛かる。
182 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:19:00.25 ID:Yipmq1y50


曜「撃ち落としてやる! ……えっ?」



迎撃態勢を取った曜。

だが、二匹の『電狐』は曜の左右を大きく逸れていった。



……狙いが逸れた?



曜「……ち、違う!! この軌道はッ―――!!?」




―――ブシャッアアア!!!!!




……曜は激しく後悔した。

どうして直ぐに分からなかったんだ。

容易に予想できた攻撃だったはずだ。


でも、もう遅い。


千歌の全身から血飛沫が舞い、真っ赤な花が咲いた―――。
183 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:21:40.26 ID:Yipmq1y50




千歌「あっ……?」




目の前が綺麗な緑色でいっぱいになった。

かと思えば、一変して赤一色となった。

自分の体から何か噴き出している。

生暖かいお風呂に入っているような不思議な感覚。



自分の身に何が起きたのか。

自覚するまでに時間は掛からなかった。





千歌「い゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああ!!」





雷の炎が私の体を斬り裂く。

顔を。腕を。腹部を。腰を。脚を。

皮膚を貫き肉を引き裂き血管を破壊する。




千歌「―――あ゛あ゛あ゛あ゛!!!! あ゛ッ、あ゛あ゛あ゛ッ!!!!」




攻撃は一旦止む。

二匹の『電狐』は千歌の体から少し離れた。

自立するのに必要な筋肉を断ち切られた千歌はその場に倒れる。

地面には千歌の体から漏れ出た鮮血で円形の池を形成され、徐々に大きくなっている。

184 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:25:18.27 ID:Yipmq1y50


千歌「あがが……あ、ああ……」




……痛い。

……痛イ。

……イタい。

痛い。痛イ。いたい。イたい。イタい。いタい。

こんなの聞いてないどうしてこんな思いをしなきゃいけないの?

たえられないたえられない。無理むりムリむリムり。こえすらでない。

これぜんぶわたしの血だ。チ。ち。血血血チチチチちちちちち。

いたいしんジャう、いたいのイヤだ。

これじょうはムリイタイのいやだ。

たすけてようちゃんおねがいタスけて。

タスけてようちゃんタスけてようちゃんタスけてようちゃんたすけてたすけてたすけてたすけて―――


185 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:26:38.72 ID:Yipmq1y50



曜「……あぁ、ああ……」

むつ「やっぱりね。目に見えて炎圧が下がった」


曜「貴様ァァァアアアア!!!!!」

むつ「怒るなよ。サポート役を先に潰すのはセオリーでしょう?」


曜「千歌ちゃん!! 今そっちに行―――」

むつ「行かせると思う?」



―――ガキンッ!!



曜「くそッ!! 邪魔するなよ!!!」ギギギッ!

むつ「まだ防げるだけの炎圧は出てるのね」

曜「この……ッ!!」

むつ「でもさ、あの子の元に行ってどうするつもり?」

曜「あ゛あ゛!?」ギロッ

186 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:28:57.44 ID:Yipmq1y50


むつ「雨の炎じゃ痛みを取り除くくらいしか出来ない」

曜「……うるさい」

むつ「傷を癒せる晴の炎が無ければあの子は助からない。行くだけ無駄だよ」

曜「うるさい!!」

むつ「君の取るべき行動はただ一つ。炎圧が下がり切る前に私を倒す事でしょ。ほら、こうしている今もみるみる弱っているよ」

曜「うるさいって言ってんだよ!!!」




……言われなくたって分かってる。

千歌ちゃんを救う為には一刻も早くこいつを倒さなきゃいけないことくらい。

でも……ああッ!!

後悔と怒りで頭がどうにかなりそうだよ!!!


……どうする。

……どうする。

……どうする。

187 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:35:31.84 ID:Yipmq1y50


千歌「……よ゛、う゛……ちゃん」

曜「ッ!!?」

むつ「へぇ……まだ意識あるんだ」



残された僅かな力を振り絞り体勢を上げる。

大量出血により体温は著しく低下し唇は真っ青となっていた。



千歌「はぁ……はぁ、はぁ……ッ」

曜「千歌ちゃん! ゴメン! わ、私……ッ!!」



……ソウダヨ。ヨウチャンノセイダ。



千歌「大、丈夫……だから」



……全然大丈夫ジャナイ。



千歌「私なら……大丈夫、だから……ッ」



……コノママジャ死ンジャウヨ。



千歌「だ……から……か、って………」



―――ベチャッ



千歌「……」


曜「……ッ、ぁ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」


曜「殺す! お前は絶対に殺す!!」

むつ「……言うだけなら簡単だよ。直ぐ行動に移さなきゃ」
188 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:37:22.37 ID:Yipmq1y50


千歌「………」



指一本動かせない。

痛みは感じなくなっていた。

心臓の鼓動も徐々に弱まってる。




……全部ヨウチャンノセイダ。

……違う。

……ヨウチャンガ守ッテクレナカッタセイダ。

……違う。


曜ちゃんは悪くない。

攻撃を躱せなかった私が悪いんだ。

そもそも、こうなる事も覚悟の上で戻って来たじゃないか。


……でも、このまま死んじゃうの?

私が死んだら元の世界はどうなっちゃうんだろう。


曜ちゃん。梨子ちゃん。花丸ちゃん。ルビィちゃん。善子ちゃん。果南ちゃん。ダイヤちゃん。鞠莉ちゃん。


もう二度とみんなと会えない。

廃校の阻止も出来てない。

ラブライブ本戦にだって出場出来てない。

まだまだまだまだ、やり残した事が沢山ある。


まだ……死にたくないよぉ……。




―――グチャッ




千歌「………ぁ」
189 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:38:17.89 ID:Yipmq1y50


曜「……」



千歌のすぐ隣に曜が仰向けに倒れ込んできた。

既に意識は無い。

手に持っているトンファーは短く切断され

右肩から左腰にかけて大きな切創が出来ていた。

傷の深さは不明だが、出血量から見て致命傷に近い。


曜は敗北したのだ。




千歌「………よ………ぅ………ち、ゃ………」



最後の力を振り絞り、曜の右手を掴む。

刹那、千歌の意識は暗い暗い闇の中に落ちて行った―――。


190 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:42:22.15 ID:Yipmq1y50

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




むつ「……終わったね」



ふぅ、と一息つく。

『電狐』を匣に戻した。



むつ「他者の炎を増幅させる技か。初めて遭遇したけれど中々興味深いね」

むつ「まだ死んでないし、連れて帰って人形兵にするのも……」

むつ「……いや、この傷じゃ城に戻るまで持たないか」



むつ は『雷電』に炎を纏わせる。



むつ「ただの小娘が私に一撃を入れたご褒美だよ。『雷電』渾身の一撃で葬ってあげるよ」バチバチッ!!!









???「―――……うーん、それはちょっと困るかな」









むつ「……今度は誰?」



声のする方向を向く。

そこには黒いローブにペストマスクを被った小柄な人間が立っていた。

声を聞く限り少女であるのは間違いない。
191 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:45:19.47 ID:Yipmq1y50


???「ここで彼女達に死なれたら困る。まだやって貰わなきゃいけない事があるからね」

むつ「私が知った事じゃないね」

???「君の任務はもう終わったでしょう? ならここで今すぐ撤退してくれると助かるんだけど」

むつ「……いいや、たった今新たに追加されたよ。お前を排除するって任務がね」

???「止めて置いた方がいい。まだ死にたくないでしょ?」

むつ「言ってくれるじゃない。……このクソガキがッ!!」



―――バチバチバチッ!!!



リングから凄まじい炎が放出される。

曜との戦闘時以上の出力だ。



???「はぁ……仕方ないなぁ。まだ本調子じゃないけど、戦うしかないね」

192 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:47:55.78 ID:Yipmq1y50


???「……後悔するなよ?」




―――ゴオオオッ!!!!




むつ「……ッ!!? な、なんだ……何なんだその炎はッ!!?」



“黒い炎”だと!?

大空の七属性のどの色でも無い。

そもそもこの炎圧は何だ。

さっきの子と同等かそれ以上だ。

人間一人が生み出せる炎圧を遥かに超えている。

それに右肩から生えている黒い翼は一体……。



むつ「お前は一体……何者な―――」




―――グチャ……




むつ「………は?」

???「はい、お終い」

むつ「何を……され、た………」ドサッ








???「―――おやすみなさん♪」






193 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:50:01.62 ID:Yipmq1y50


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





千歌「…………っぅ」




……痛い。

また痛み始めた。

痛みを感じるって事は私はまだ死んでない?

でもこの傷じゃもう助からないよね。

血もこんなに沢山出ちゃったし。

どうせ死ぬのにどうして意識が戻っちゃったんだろう。

痛みが無いまま逝きたかったのにさ。

神様も残酷な事するよね……。





「―――……んちゃん!」





……何だろう。

声が聞こえる。

誰か近くに居るのかな。





「―――……果南ちゃん、みんなも早く! ここに居たよ!!」
194 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:52:21.49 ID:Yipmq1y50

「こ、これは……酷い」

「これ……もう死んじゃってるんじゃ……」

「大丈夫。二人共微かだけど脈はまだあったずら」

「よしみ、どう?」

「そうですね……二人共酷い傷ですが今ならまだ間に合います」

「ほう」

「本当!? なら早く―――」



「―――ただ、確実に救えるのは片方だけです」



「え……ひ、一人だけ……?」

「出血量が余りにも多すぎる……残された体力を考慮すると二人同時に救える可能性はかなり低いかと」

「……なるほどね」
195 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:54:22.52 ID:Yipmq1y50


「どうするずら?」

「か、果南ちゃん……」

「選んで下さい。どちらの子を助けますか?」

「全く、嫌な選択を押し付けるね……」



千歌「……ぁ、……ぅぉ」



「っ! ね、ねえ、千歌ちゃんが!」

「このタイミングで意識を取り戻したずら!?」

「しっ! 何か言ってます」



千歌「……ぅを、……すけて」



「……えっ」



千歌「―――よう、ちゃん……を、助けて……くだ…さい」



「う、嘘……」

「どうして……果南ちゃんとよしみちゃんの会話は聞こえていたはずなのに」


千歌「お願い……します……曜ちゃんをたす、けて……」


「驚いた……この状況で自分じゃなくて他人の命を優先するなんて」

「自分を助けてって言っても誰も批判しないのに……凄い」


「……よしみ、私の指示はもう分かっているよね?」

「ええ、勿論分かってます」







「―――絶対に“二人共”救ってみせますよ!!」ボッ!!




196 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:55:52.13 ID:Yipmq1y50
今回はここまで。今回更新で物語の三分の一くらいです。
197 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/09(水) 23:13:32.71 ID:3Lp6gUoI0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



〜浦の星王国 城内 病室〜



善子「よいしょっと」ギシッ

むつ「……ぁ、津島……さ、ん?」

善子「あ、起こしちゃった?」

むつ「いえ……目を閉じていただけですから」

善子「……」

むつ「……」

善子「…何無様にやられてるの?」

むつ「はは……返す言葉もないです」アハハ…

善子「ヘラヘラしてるんじゃないわよ」

むつ「す、すみません」
198 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/09(水) 23:20:32.45 ID:3Lp6gUoI0


善子「……随分とコンパクトな体になったじゃない」

むつ「ええ、腰から下と内臓の六割を失いましたから……」

むつ「今は三人の術師が交代で施してくれる幻術で内臓の機能をなんとか補って辛うじて生きています」

善子「知ってる。皮肉で言ったの。真面目に返答しないで」

むつ「で、ですよね……」


善子「……なんでよ」

むつ「え?」

善子「なんで私の幻術は拒絶したの?」

むつ「……」

善子「私の力なら人間の内臓機能くらい私一人でカバー出来る! 何なら無くなった足だってね!! 以前と変わらない体に戻してみせるわ!!」

むつ「……そうですか」

善子「もしかして私の負担になると思っているの? だとしたら見くびらないで。こんなの私にとってペン回しと同じくらい簡単な事よ」

むつ「え、津島さんペン回し出来なかったはずじゃ……」

善子「あ、揚げ足とるな! ブッ飛ばすわよ!?」

むつ「そ、それは勘弁して欲しいです…」
199 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/09(水) 23:23:40.75 ID:3Lp6gUoI0


むつ「確かに、あの音ノ木の初代霧の守護者『東條希』と同じ『魔術師(マーゴ)』の異名を持つ津島さんならきっと出来るでしょうね」

善子「なら―――」


むつ「でもいいんです」

善子「ッ!? だから何でよ! 分かっているの!? このままじゃあなた、人形兵(マリオネット)にされるのよ!?」

むつ「ええ、分かってます」

善子「ならどうして!?」

むつ「……これは“罰”なんですよ」

善子「罰?」

むつ「私は奪ってはいけない命を奪ってしまった……その罰なんですよ」

善子「何よ……それ……」

むつ「だからいいんです。私はこのまま―――」


善子「いい訳無いでしょ!!!」


むつ「つ、津島……さん?」
200 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/09(水) 23:27:55.57 ID:3Lp6gUoI0

善子「どうしてそんなにあっさり受け入れるの!? このままじゃ死ぬのよ!?」

善子「私なら何とか出来るって言ってるじゃん! だから頼れよ!!」

善子「私は……! 私は…むっちゃんに生きて欲しいんだよ!!」ポロポロ

むつ「……っ」ギリッ

善子「生きたいって言えよぉ……ねぇ、お願いだから…」

むつ「津島さ……善子ちゃん、泣かないで?」

善子「……泣いてないし」グシグシ


むつ「……少し、昔の話をするね」

善子「何よ、いきなり」

むつ「善子ちゃんが私の上司に就任した時の話だよ」
201 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/09(水) 23:30:50.88 ID:3Lp6gUoI0


むつ「あの時は年下の子どもが自分の上司に就くって聞かされてホント気に入らなかったね」

善子「や、やっぱり…?」オロオロ

むつ「当時のメンバー全員が納得して無かったよ。『守護者は中学生のガキに務まる役目』じゃないってね」

むつ「どんな生意気なクソガキが来るのか全員で色々と予想していたんだよ?」


むつ「……でも全員の予想は大外れ。超が付くくらい謙虚で逆に引いたよね」

善子「だ、だって一番年下だったし……。それで引くのはおかしくない?」

むつ「それくらい衝撃だったんだよ。子どもで天才ってのは生意気と相場が決まってるから」

むつ「それと同じくらい善子ちゃんの才能には衝撃を受けた。この人には一生敵わないって」
202 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/09(水) 23:39:15.85 ID:3Lp6gUoI0


むつ「すっごく悔しかったけどさ、誇らしくもあったんだよ。私はこれからこんなに凄い人の部下になれるんだってね」

善子「……」

むつ「昔は謙虚だったのに今じゃ太々しくなったよねー」ジトッ

善子「う゛っ」ドキッ

むつ「日々の雑務は全部私達に押し付けられて正直うざかったし、訓練メニューは嫌がらせかってくらい辛かった」

善子「い、いや……雑務の件は確かに私が悪いけど……訓練の方はみんなの事を想って―――」

むつ「大丈夫、みんな分かってますよ」

むつ「善子ちゃんがみんなを鍛えてくれたお陰で私は今生きているんですから。以前のあの三人じゃ人の臓器を幻術で作るなんて出来なかったから」
203 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/09(水) 23:43:15.13 ID:3Lp6gUoI0


むつ「私は善子ちゃんの……霧の守護者 津島善子の部下になれた事を誇りに思ってます。そして、この命尽きるまで私の力を捧げる覚悟がある」

むつ「だからこそ今の私は人形兵になる必要があるんです」

善子「?」

むつ「善子ちゃんの幻術なら私の内臓と足は完璧に再現出来るでしょう。でも、何かの拍子に幻術が解けてしまったら? その瞬間、私は間違いなく即死する」

善子「……私はそんな間抜けな事はしない」

むつ「善子ちゃんがいかに凄い術師だとしても、私の体の一部を幻術で維持し続けるには相当なキャパシティを必要とする」

善子「だからそれはっ!!」

むつ「もしもの時に善子ちゃんの足を引っ張るのも役に立たないのも嫌なんですよ」

善子「……私の命令でも?」

むつ「ええ、ここだけは譲れない」

善子「……石頭め」



―――ガチャッ



梨子「やっぱりここに居たのね」
204 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/09(水) 23:46:02.44 ID:3Lp6gUoI0


善子「……何の用事?」

梨子「たった今、人形兵が記録した映像の復元が完了したって報告があった」

善子「あれだけグチャグチャにされていたのによく直せたわね…」

梨子「これからその映像を元に敵の正体を突き止める。一緒に来て」

善子「……」

むつ「……善子ちゃん?」

善子「分かってる……言われなくても行くわよ」

むつ「ならいいんです」

善子「……もうここに来る事は無いわ」

むつ「うん……その方がいいよ」

善子「……今までありがとう」

むつ「……」ニコッ

205 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/09(水) 23:51:03.38 ID:3Lp6gUoI0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



千歌『……すぅ』


曜『――ねえ』


千歌『……すぅ……すぅ』


曜『――お〜い、起きてよー』ユサユサ


千歌『んん……ふわあぁ〜〜あ』ゴシゴシ


曜『やっと起きた。もうすぐバス停に着くよ』


千歌『……ふぇ? どこに??』


曜『これから行くフリーマーケット会場の近くのバス停だよ』


千歌『ふりーまーけっと???』


曜『もしかしてまだ寝ぼけてる?』


千歌『……あ、ああ!! そうだそうだ、完全に寝ぼけてたよ……あはは』
206 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/10(木) 00:09:34.35 ID:AWGkPAXa0




――私と曜ちゃんだ……これは一体?


『……これはあなたの記憶よ』


――私の記憶?


『ええ、千歌っちがこっち世界に来る直前の記憶だよ』


――あなたは誰? 姿が全く見えないんだけど……。


『……分からない』


――どうして?


『私自身も誰なのか分からないんです。色々あって……人格がまだ安定しないんだ』


――人格……?


『あ……ほら見て、場面が切り替わるわよ』


207 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/10(木) 00:12:38.13 ID:AWGkPAXa0




千歌『ほぇ〜、洋服とかアクセサリーとか色々な物が売ってるね』


曜『これぞフリマって感じだね! こんなに可愛い制服もこのお値段とは……』ウットリ


千歌『9000円って……フリマでこの値段は流石に高いでしょ』


曜『分かってないなぁ。これを普通に買おうとすると数万円はくだらないんだよ!!」


千歌『うげぇ!? そう言われると確かにお得だね……』ムムム


曜『まあ、完全に予算オーバーだから買わないけどね』


千歌『ですよねー』


千歌『……ん?』


曜『どうかしたの?』


千歌『いや……別に何でも――』


曜『千歌ちゃん、そのリングが気になるの?』
208 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/10(木) 00:14:57.88 ID:AWGkPAXa0


千歌『気になるっていうか……ちょっと派手だったから目に留まっただけだよ』


曜『細かい彫刻にオレンジ色の綺麗な石……何だか善子ちゃんが好きそうなデザインだね』


千歌『もう似たような物を持ってるかもよ?』クスッ


曜『かもね。次の衣装のアクセサリーにメンバーカラーのリングってのも良いかも!』



――あっ。


『思い出したかしら?』


――そうだ、そうだよ。私の最後の記憶はバスの中じゃない、ここであのリングを見つけた時だよ。


『その通りよ』


――私がリングを手に取った直後、いきなり目の前が真っ暗になるんだ。


『そして、あの砂浜で目を覚ます』


――だとしたら……ここで手に取ったリングはどこにいったの?


『……』
209 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/10(木) 00:16:54.03 ID:AWGkPAXa0


――ポケットの中にも目を覚ました砂浜にもリングは無かった。単純に見落としただけ?


『大丈夫、あなたはあのリングをちゃんと持っているから』


――えっ、私が持っている……?


『詳しく説明したい所だけど、そろそろ現実世界のあなたが目を覚ます頃なのよね』


――ちょ、ちょっと待ってよ! あなたは一体誰なの!?


『ごめんね……でも最後に一言だけ伝えるわ』


――ぐっ……眩し―――



『例え世界が違っても、千歌っちが紡いできた仲間との絆は変わらない。この先に何があっても、それだけは信じて―――!!』







210 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/21(月) 00:27:50.24 ID:6pUuQ+RI0

――――――――――――
――――――――――
――――――――
――――――
――――
――



千歌「―――……ぁ…う、うぅ……」パチッ



千歌はベットの上で目を覚ました。


……ここは一体何処なのだろう。

病院というわけでも無い。

民家の一室を病室に改装したような感じだ。

私はどのくらい眠っていたのかな。

長い長い夢を見ていた気がするし、見てない気もする。

記憶がとても曖昧だ。




千歌「……痛っ!?」ズキンッ



起き上がろうとした千歌。

だが、身体中が石のように硬い。

筋肉の柔軟性がほとんど失われていた。

と、そこに……。



―――ガチャッ



「失礼しま……ピギャアア!!?」
211 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/21(月) 00:29:58.46 ID:6pUuQ+RI0

千歌「ぁ……ルビィちゃ、降幡さん……?」

「ちょちょちょちょちょっと待ってて!!」

「よ、曜ちゃん!! 果南ちゃーん!!」バタバタッ

千歌「あっ! ……行っちゃった」



現れたのは前に自身を“降幡 愛”と名乗った彼女。

目を覚ました千歌を見ると大慌てでその場を去った。



千歌「うーん……あの人絶対にルビィちゃんだよなぁ」

千歌「隠すつもりならもうちょっと頑張ろうよ……ルビィちゃんらしいっちゃらしいけどさ」フフッ



もう一度体勢を起こそうと試みる。



―――ジャラッ



千歌「あれ? 首元に何かぶら下がってる?」

千歌「ネックレス……じゃないね。オレンジ色の石が埋め込まれたリングだ」

千歌「このリングどこかで見覚えがあるような……」ウーン



ドタドタドタ―――!!



曜「―――千歌ちゃん!!!!」バタンッ!!!
212 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/21(月) 00:33:54.40 ID:6pUuQ+RI0

千歌「うぉ!?」ビクッ

曜「あ、ああ……本当に……うぅ……」

千歌「ど、どうしたの? 顔が傷だらけだし、服もボロボロになってるじゃ―――」



曜「う、うわあああああああああん」ダキッ

千歌「よ、よよよ曜ちゃん!!?///」

曜「ぐすっ……ごめ、んね……本当にごめんね」

千歌「え?」

曜「私が弱いせいで千歌ちゃんを死なせかけた……」

千歌「……ん」ナデナデ

曜「もう二度と目を覚まさないかと思った」

千歌「でも目を覚ましたよ」

曜「このまま千歌ちゃんが死んじゃうかと思ったら……凄く怖かった……」

千歌「ちゃーんと生きてるよ。ほら、心臓の音も聴こえるでしょう?」

曜「……うん、聴こえる。でも、何だかちょっと早いね」

千歌「き、気のせいじゃないかな?」

曜「……私、もっと強くなるから」

千歌「……うん」

曜「絶対に千歌ちゃんを守り切れるくらい強くなるから!」

千歌「曜ちゃん……」
213 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/21(月) 00:35:26.19 ID:6pUuQ+RI0



「あー……ゴホンッ、そろそろいいかな?」



曜「あ、ご、ごめんなさい。つい……///」

「ふふ、まあ気持ちは分かるけどね♪」



曜の後ろから聞き覚えのある声の女性が現れた。

右眼を真新しい包帯で覆ったその女性は前に写真で見せられたそれと同じだった。



「あの時は偽名で使ってる諏訪の方で名乗ったよね」

千歌「……やっぱり」

「一応追われている身だったからさ」

千歌「じゃあ、あなたは……」


果南「うん、私の名前は『松浦 果南』だよ。多分あなたの知ってる『果南』と同一人物だと思うよ」

千歌「なら、高槻さんや降幡さんも」


花丸「はーい、『高槻』改め『国木田 花丸』ずら」ペコッ

ルビィ「く、黒澤 ルビィです……さっきはいきなり飛び出してごめんなさい」


果南「二人共来てくれたんだ」

花丸「そりゃ、一か月近くも意識不明だった千歌ちゃんが目を覚ましたって聞かされたらすっ飛んでくるよ」

千歌「い、一か月!?」

果南「ビックリでしょ?」
214 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/21(月) 00:37:18.44 ID:6pUuQ+RI0


千歌「そんなに長く眠っていたら心配になるのも当然だよね……」

曜「私は一週間くらいで目が覚めたんだ」

ルビィ「曜ちゃん、最初は千歌ちゃんの傍につきっきりだったんだけど……」

果南「途中から私が外に連れ出したんだ」

千歌「そうなの?」

曜「うん……悔しいけど千歌ちゃんの傍に居ても私に出来る事何もなかったし、だから私に出来る事をしようと思ったんだ」

花丸「今日までずーーっと私達と一緒に修行してたんだよ」

千歌「だからボロボロなんだね」


果南「―――さてと、起きたばかりなのは分かっているけど色々と話してもらうよ」

千歌「うん、私も聞きたい事いっぱいあるし」

果南「まあ、曜から大体の事情は聞いてるんだけどね」

花丸「そうだよ。今更何を聞くの?」

果南「そうだね……一番気になっているのは首にぶら下がってるソレだね」

千歌「あ、これ?」ジャラッ

ルビィ「私も気になってた……どうしてソレを千歌ちゃんが持ってるか」

曜「そもそも千歌ちゃんの首に無かったよね。いつの間に付けていたの?」

千歌「それが私にもさっぱり分からないんだよ」
215 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/21(月) 00:48:10.03 ID:6pUuQ+RI0

花丸「記憶が正しければ二日前には無かったずら」

千歌「なら、この中の誰かがつけてくれたんじゃないの?」

果南「それはあり得ない」

千歌「どうして?」

果南「だってそのリングは私達が探していたリングだからだよ」

千歌「探していた……これを?」


果南「ねえ、曜」

曜「ん?」

果南「そのリングを触ってみてよ」

曜「触る? 別にいいけど……」ピトッ



―――バチイッ!!!!



曜「痛っっっっったあああああい!!!!」

千歌「えっ!? ちょっ、ええ!!?」アタフタ

曜「指! 指取れてない!? ちゃんとある!!?」

ルビィ「だ、大丈夫! ちゃんとあるから!!」
216 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/21(月) 00:50:56.09 ID:6pUuQ+RI0

果南「ふむ、曜でも触れないのね」

千歌「何なのこれ!? 凄く危険なやつなの!?」

花丸「多分そんな事は無いずら」

千歌「何でさ?」

花丸「だって曜ちゃんが抱き着いた時は何とも無かったでしょ」

千歌「あっ」

花丸「どういう原理か分からないけど、そのリングを取ろうとすると何らかの力が働く仕組みになってるんだと思う」

果南「なるほどね」スッ

曜「え!? 何で普通に触れるの!?」

果南「見て、この左手はリング自体には触れられてない。透明な球体に覆われているみたいだよ」

花丸「その球体部分に触れると反応するんだね」

果南「千歌も触ってみなよ」

千歌「え、でも曜ちゃんみたいになるんじゃ……」

花丸「それは無いずら。……多分」

千歌「多分って……うぅ、怖いなぁ」ソーット



―――ピトッ



千歌「あ! 触れたよ!」ホッ
217 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/21(月) 00:53:11.54 ID:6pUuQ+RI0

曜「千歌ちゃんだけはリング本体に触れるんだ」

花丸「どうするの、果南さん」

果南「私の右手で解除するのも考えたけど、千歌以外が触れないなら今のままの方が安全かな」

ルビィ「誰も使えないリングだしその方がいいと思う」

千歌「ねぇ、このリングは一体何なの?」

果南「ああ、それは『大空のAqoursリング』だよ」

曜「なんだ Aqoursリング か。……って、ええ!?」

千歌「Aqoursリングって曜ちゃんが前に話していた守護者が持ってるっていうアレだよね」

花丸「少し違うよ。守護者に与えられるのは『晴』『雷』『嵐』『雨』『霧』『雲』の六属性ずら」

ルビィ「『大空のAqoursリング』は浦の星王国の女王にのみ所有が許されるリングなの」

千歌「女王のみって……何でそんな大層なリングがこんな所にあるのさ?」

果南「さあね」

花丸「それに今の女王はそのリングを必要としない人だから」

曜「大空属性じゃないの?」

ルビィ「それは……」

果南「それは追々説明するよ。今は千歌の話をしよう」


果南「千歌は別の世界から来たって話だったね」

千歌「うん。曜ちゃんが言うには平行世界から来たみたい」

果南「その“へいこう”世界にも二種類あるんだよ」

千歌「二種類?」
218 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/21(月) 00:57:51.47 ID:6pUuQ+RI0

果南「この世界は合わせ鏡みたいに無数に展開しているんだ」

果南「もしもの数だけ、言うなれば人の意志の数だけ存在すると言ってもいい」

千歌「『あの時ちゃんと勉強してたら』とか『あっちの色の服にしておけば』とかで増えるの?」

果南「極端に言えばその通りだね」

花丸「多少の違いはあったとしても、辿り着く未来は同じになる世界群を“並び立つ世界”と書いて『並行世界』と呼ぶずら」

千歌「辿り着く未来が同じ? 私が居た世界とここは違いが大きすぎる気がするんだけど」

果南「もしもの規模が大きいと世界は別の未来へと進んでしまう」

花丸「“もしも滅んだはずの文明が今なお繁栄していたら” “もしも人類に特殊能力が発現したら” みたいに文明に影響を与える変化が生じた場合は全く違う世界が形成されて分岐する」

果南「この分岐した世界をどこまで延長しても交わらない意味の方を使った『平行世界』と呼ぶ」

ルビィ「どちらの世界も同じ人物が存在しているけれど、平行世界の場合は性別や役割が違ったりするんだ」


千歌「だから私の知ってるみんなとは色々違うんだね」

曜「私が調べたやつとなんか違うな……どっちも同じ読み方の漢字を使って判別しにくいのも不親切だし」

花丸「別世界の存在は情報統制の対象になってるから。真実と虚偽の情報がごちゃごちゃなんだと思うな」

果南「千歌がそのリングを持ってるから、それを触媒にして世界を移動して来たのは明らかなんだけど……」

花丸「それだと妙ずら」

千歌「何か引っかかる事があるの?」

果南「確かに前女王だった鞠莉はどっちの世界にも干渉する力を持っていたしその世界の人物を召喚も可能だって言ってた」

果南「でも、本当に別世界の人物を肉体ごと呼び寄せるなんて無茶な真似は絶対にしない」

ルビィ「下手をすれば世界ごと消滅しかねないから。普段は別世界の自分に憑依して覗き見する程度に抑えてたし」

曜「消滅って…」
219 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/21(月) 01:02:32.51 ID:6pUuQ+RI0

千歌「……ん? 鞠莉ちゃん!? 女王様は鞠莉ちゃんなの!?」

ルビィ「もしかして鞠莉ちゃんとも知り合いなの?」

千歌「知り合いも何も、みんなと一緒でAqoursのメンバーだよ!」

ルビィ「千歌ちゃんの言うAqoursって曜ちゃんが話してたアイドルグループの事だよね」

曜「女王様や守護者とも一緒なのか…全然想像出来ないや」

千歌「前女王って事は今の女王様は誰なの? 鞠莉ちゃんは今どこにいるの?」

花丸「……それは」チラッ

ルビィ「……」

果南「……」

曜「なんか……マズイ事聞いちゃったんじゃない?」

千歌「い、今の質問は無かったことに……」

果南「――死んだよ」

千歌「へ?」


果南「鞠莉は死んだんだ。今から三年前にね」


千歌「三年前に……死んだ…?」ゾッ

曜「三年前って今の女王が即位した時期じゃん!」

ルビィ「……」

果南「今の浦の星王国と後の二国を支配しているのは、ここにいるルビィの実の姉である『黒澤 ダイヤ』だよ」
220 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/21(月) 01:05:22.34 ID:6pUuQ+RI0
果南「別名“氷の女王”。歴代最悪の女王として恐れられている」


千歌「そんな…あのダイヤさんが……」

花丸「スクールアイドルAqours……この世界だと絶対に有り得ないメンバーずらね」

曜「果南ちゃん達の目的はダイヤさんを女王の座から退かせる事なの?」

果南「うーん……それもちょっと違うかな」

ルビィ「私も違うよ」

花丸「果南さんとルビィちゃんは似た目的だと思うけど、マルは二人と全然違う目的ずら」

千歌「じゃあ、みんなは一体どんな……」



―――バタンッ!!!



よしみ「千歌ちゃんが目を覚ましたって本当!?」ゼエ、ゼェ

果南「おお、おかえりなさい」

よしみ「ルビィ、様から……連絡があって…大急ぎで帰って、来たよ……」ゼェ、ゼェ

よしみ「うう……き゛も゛ち゛わ゛る゛い゛…」

花丸「そんなに急ぐ必要は無かったと思うけどな……」


千歌「……あ、まだ果南ちゃん達に言ってない大切な事があったよ」

花丸「ずら?」

果南「言ってない事?」

ルビィ「何かあったっけ?」
221 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/21(月) 01:07:45.59 ID:6pUuQ+RI0


千歌「私達を助けてくれて本当にありがとうございました」ペコッ

曜「私からも、改めてありがとうございました」


ルビィ「……私はお礼を言われることは何もしてないよ」

花丸「同じくマルも。千歌ちゃん達を救ったのは よしみさん ずら」

果南「だってさ、よしみ」フフ

よしみ「わ、私は別に……果南さんの指示に従っただけですから」アセアセ


よしみ「ゴホンッ、千歌ちゃん早速だけど色々と検査させてもらうよ。ルビィ様も手伝って下さい」

ルビィ「うん」

千歌「分かりました」

果南「曜は修行の続きだよ」

花丸「この後もた〜〜っぷり、しごいてあげるずら♪」

曜「うげぇ……勘弁して欲しいであります…」

千歌「あはは……頑張ってね曜ちゃん」

222 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/21(月) 01:10:34.22 ID:6pUuQ+RI0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



よしみ「―――うん、どこも異常は無いね」

ルビィ「でも傷跡は所々残っちゃったね……アイドルやってるのにこれは……」

千歌「生きているだけで十分ですよ! このくらいの痕なら気にしないです」

よしみ「寝たきりの期間がちょっと長かったから二、三日はリハビリ頑張ろうね」

千歌「はい。歩くのがこんなにしんどいと感じたのは初めてだよ……」

ルビィ「困った事があったら私達に気軽に言ってね?」

千歌「ありがとうルビィちゃ……ルビィさん」

ルビィ「さっきみたいにルビィちゃんでいいよ。千歌ちゃんの世界では私は後輩なんでしょ?」

千歌「でも今は年上だし……」



検査中に二人と話していて新たに分かった事がある。

みんなの年齢だ。

曜ちゃんと花丸ちゃんは元の世界と同じ年齢だった。

一方ルビィちゃんは二十歳。

果南ちゃんも二十三歳とどっちも成人済。

あの町で会った時に大人っぽく感じたのは勘違いじゃ無かったんだね。

ちなみに よしみさん は教えてくれなかった。
……あの感じだと、果南ちゃんより年上なんだと思うな。

223 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/21(月) 01:14:31.18 ID:6pUuQ+RI0


ルビィ「ならルビィちゃんって呼ばなきゃ返事しません!」プイッ

千歌「ええ……」

よしみ「大人気ないですよ、ルビィ様」

ルビィ「そんなの知りませーん」

千歌「わ、分かったよ……ルビィちゃん」

ルビィ「……えへへ♪」


千歌「ここに居るみんなの事をもっと知りたいんですけど、聞いてもいいですか?」

ルビィ「えっと……それは」チラッ

よしみ「駄目ですよ、ルビィ様」

ルビィ「……うん」

よしみ「申し訳ないけど、今は言えない」

千歌「え?」

よしみ「うん、だって私達と千歌ちゃんはまだ仲間じゃないからね」
224 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/29(火) 00:18:24.60 ID:ERfEfUhx0

千歌「どういう意味……?」

よしみ「言葉の通りだよ」

ルビィ「よしみさん」ムッ

よしみ「お、怒らないでよ。私だってこんな事言いたくないし……」



プルルルルル―――!



ルビィ「あ!」

よしみ「もしもし。はい、ええ……そうですか」

よしみ「分かりました、今連れて行きますね。それでは」ピッ

よしみ「……まさか今日やるとはね」

ルビィ「大丈夫なのかなぁ……」

千歌「え、何?」

よしみ「千歌ちゃん外に出るよ。何をするかは行けばすぐに分かるから」

225 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/29(火) 00:24:56.66 ID:ERfEfUhx0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



花丸「――あ、来たずら!」



外に出ると切り株に腰掛けている花丸と果南の姿があった。
花丸の手には少し厚めの本があり、ほんのりと紫色の炎が纏っていた。

曜は少し離れた場所に大の字で倒れている。
その辺り一面には大量の刀が墓標のように突き刺さっていた。



よしみ「随分と派手にやってるなぁ」ヤレヤレ

千歌「何これ……地面に刀が沢山刺さってるよ……?」

ルビィ「花丸ちゃんの匣兵器だよ」

花丸「凄いでしょー!」



パタンと本を閉じると足元に刺さっていた一本だけ匣に戻り、残りは全て消滅した。



花丸「匣兵器の名前は『村雲(むらくも)』。園田家が作った雲属性の特性を最大限に引き出せる日本刀ずら」

千歌「紫色の炎は雲属性なんだね」

ルビィ「雲属性の特性は『増殖』だから、花丸ちゃんの『村雲』は無限に数を増やせるんだよ」

花丸「ただマルは剣術なんて全く使えないから『村雲』を飛び道具みたいに発射するだけなんだけどね」


千歌「ええっと……それで私は何の為に呼び出されたの?」

果南「ちょっと待ってて」
226 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/29(火) 00:37:59.12 ID:ERfEfUhx0


果南「――曜! 休憩はどのくらい必要?」

曜「……ふぅ、もう大丈夫だよ!」ムクッ



立ち上がった曜は千歌の側に行く。



曜「ごめんね、病み上がりなのに来てもらってさ」

千歌「それは別にいいんだけど、何をするの?」

曜「ええっとね、簡単に言えば入団テスト……みたいな?」

果南「そうだよ! 曜が私達の役に立つだけの力があるか、これからテストするんだよ」

千歌「テスト……?」

果南「このテストで私が納得出来る結果を残せなかったら、即刻ここから出て行ってもらうよ」

千歌「え!?」

果南「そうだな……治療費代わりにそのAqoursリングを貰うから」

ルビィ「ほ、本気なんですか果南ちゃん!?」

果南「本気だよ。私達は国と戦うんだ、戦力にならない人は要らない」

ルビィ「でも今ここから追い出しちゃったら……」

花丸「間違いなく二人共捕まっちゃうだろうね。最悪そのまま処刑されちゃうかも」

千歌「そ、そんな……」
227 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/29(火) 00:44:36.08 ID:ERfEfUhx0


曜「大丈夫だよ、そんな事にはさせないから―――!」ボッ!!

花丸「ずら!?」

よしみ「凄い炎圧だ!? 修行の時とは比べものにならないくらい大きい!」

果南「おお……千歌と『同調』するとここまで大きくなるんだ…」シュルシュル



果南は右腕に巻いた包帯を外す。

露出された腕は指の先から肘の先まで真っ黒に変色していた。
所々皮膚がめくれあがっていて酷く荒れ果てている。

強い衝撃を与えたら瞬く間に崩れ落ちてしまいそうな感じだ。




果南「いつでもかかってきなよ」ニヤッ

曜「言われなくともッ!!」



パチンと体の正面で手の平を合わせる。

曜の両側に魔法陣が現れた。



曜「―――『激流葬(トッレンテ・ディ・アクア)!!』」
228 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/29(火) 00:49:49.45 ID:ERfEfUhx0


魔法陣から放たれた雨の炎は螺旋状の激流となり、果南を襲う。



果南「へぇ、いつもより規模もスピードも段違いじゃん」

曜「回避はもう間に合わない! 炎を使った技で防御するしかないよ!」



曜は普段の修行相手は花丸。
果南とはトンファーを使用した格闘術の時のみ相手をしてもらっていた。

その際、果南は一回も技もリングの炎も使用していない。

花丸の技はある程度は知っているが果南のは全く知らなかった。

故に、この初撃は果南の技を知る為に重要だった。


―――しかし、果南は“何もしなかった”。

直撃すれば人間の筋繊維に深刻なダメージを与える威力。
向かってくるこの攻撃に対し、果南はただ右手を突き出しただけ。
炎も纏わせていない、完全無防備の右手をだ。

果南の右手が『激流葬』の先端に触れると―――。



―――キュイィィィン!!



一瞬で『激流葬』は雲散霧消した。

不敵な笑みを浮かべる果南の顔が目に入る。
229 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/29(火) 00:54:39.46 ID:ERfEfUhx0

――曜はこの現象を覚えている。

あの日の路地裏での一戦。

『水の壁(ムーロ・ディ・アクア)』をかき消したのも右手が触れた瞬間だった。



曜「……その右手に何かカラクリがあるのか」

果南「それはどうかなん?」

曜「すぐに分かるさ!!」



もう一度『激流葬』を発動させようとする。

だが果南も易々とそれを許すはずがなかった。
服の内側に忍ばせていたナイフを曜に向かってスローイングして牽制した。

発動を阻まれた曜。
接近してくる果南をトンファーで応戦する。



曜「………」


――妙だな。
飛んできたナイフにも殴りかかってくる拳にも炎を纏わせていない。
右手にリングは付けている。

なのに果南さんはどうしてリングの炎を使わないの?

手加減されている?
私程度はそれで充分だって事?

……いや、それは違う。

修行の時とは動きのキレも一撃一撃の重みも全然違う。
目も本気で私を倒しに来ている目だ。


果南「――隙だらけだよ!!!」ゴッ!!

曜「ぐふっ!?」


ルビィ「みぞおちに入った!」

花丸「あれは辛いずら……」
230 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/29(火) 00:59:22.43 ID:ERfEfUhx0

曜「が、っが……はっ………」



お腹を押さえ、その場にしゃがみ込む。

果南はお構いなしで曜の顔面へ蹴り込み、曜は大きく後ろへ吹き飛んだ。



曜「……ぅぐ」

果南「む、ぎりぎりトンファーで防いだみたいだね」

曜「な、ん……で……」

果南「?」

曜「あんなに思いっきり蹴り飛ばしたのに何で涼しい顔で立てるのさ!?」

果南「ん? 何か変??」

曜「金属製のトンファーだよ!? 痛くないの!?」

果南「ん……別に?」キョトン

曜「ま、マジか……」

果南「そんな事はどうでもいいじゃん。言っとくけどこのままだと不合格だよ」

曜「……いいや、もう勝負はついたよ―――!!」



曜は右手で地面を叩いた。



果南「この動作……『水の壁(ムーロ・ディ・アクア)』か!?」



身構える果南。

だが、予想していた技は発動しなかった。

果南の周辺に複数の鎖が出現。

腕の黒く染まった部分を避け、体中に巻き付いた。



曜「――捕らえた!!」
231 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/29(火) 01:03:49.40 ID:ERfEfUhx0

果南「うお!?」

花丸「上手い!」

よしみ「あれじゃ果南さんも動けない」


果南「むっ……」ギチギチッ

曜「無駄だよ、今の鎖は人の力で引き千切れる強度じゃない」

曜「それにこれは雨の炎で作った鎖だ。『鎮静』の効果ですぐに力が入らなくなる!」

果南「うーん……困ったなぁ」


果南「――ふんッ!!」



―――ゴキッ!!



曜「……は?」



―――ゴキゴキッ!!



千歌「な、何の音?」



生々しい音が聞こえた次の瞬間、果南の右腕が有り得ない方向へだらりと落ちた。
その拍子で体を縛り付けていた鎖数本に触れ、鎖が消え去る。

力尽くで関節を外したのだ。
常人には耐えらない激痛が走っているはず。

にもかかわらず果南は涼しい顔で鎖を外し続ける。



曜「んな!? 強引に関節を外して解いた!?」
232 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/29(火) 01:07:10.34 ID:ERfEfUhx0

千歌「曜ちゃん! 油断しないで!!」

果南「もう遅い!!」



拘束を解除した果南は右腕の関節をはめ直し、曜の目の前まで接近。

曜を地面に投げ倒して今度は逆に関節技で拘束した。



果南「――勝負あったね」

曜「ぐっ、ま、まだだ……!」

果南「止めておきなよ。無理に動けば骨が折れるよ」

曜「……リングの炎が使えない。これも右手の力なの?」

果南「そうだよ。この手で触れている限り、その対象は炎は全く使えなくなるの」

曜「反則でしょ……それ」


よしみ「はーい、そこまで」

千歌「よしみさん?」

よしみ「もう十分でしょ。放してあげてください」

果南「そうだね」パッ

曜「いてて……」

千歌「大丈夫!?」

曜「ゴメン千歌ちゃん……負けちゃった」シュン…

千歌「それはいいの。曜ちゃんが無事ならそれでいい」

曜「でも……」


よしみ「大丈夫だよ、このテストの合否に勝敗は関係無いからさ」

千歌「へ?」
233 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/29(火) 01:11:05.10 ID:ERfEfUhx0

よしみ「条件は“納得できる結果が残せるかどうか”でしょ。果南さんをあそこまで追い詰められたなら十分」

花丸「本当だったら鎖で拘束した時点で合格だったのに……」

果南「いやー、負けるのはちょっと悔しいじゃん」

ルビィ「負けず嫌い……」

よしみ「それ以前に果南さん人が悪いですよ。仲間になりたかったら戦えだなんて」

花丸「そうずら。大人げなさすぎ」ジトッ

果南「な、何さ二人して」アセアセ

よしみ「仮に仲間に入れる気が無いなら、どうして曜ちゃんに修行なんてさせたの?」

ルビィ「た、確かに」

花丸「果南ちゃんは最初から入れる気満々だったずら」


曜「……つまり今の戦いは何の為にやったの?」

果南「まあ、一種の歓迎会……みたいな?」

曜「な〜んだ……てっきりもうダメかと思ったよ」グデーン
234 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/29(火) 01:21:03.13 ID:ERfEfUhx0
果南「でも現状の曜の実力が知りたかったのは本当だよ。千歌の『同調』込みなら十分戦力になるのは確認出来た」

千歌「その『同調』って何?」


果南「『同調』は対象と見えないパスを繋ぐ事で炎圧の最大値の底上げをする技だよ」

果南「曜は千歌から炎の供給を受けているお陰で本来扱える数倍の炎圧を出せてるってわけ」

花丸「近ければ近い程その効果は大きくなって、触れあっていればフルパワーで供給出来るずら」

曜「じゃあ、供給元の千歌ちゃんが炎を使えるようになったら……」

果南「この中に居る誰よりも強大な炎を出せるだろうね」

曜「ほえぇ、凄いね千歌ちゃん!」

千歌「……でも出せればの話でしょ? 私、炎出せなかったじゃん」

曜「ああ、そっか……」


千歌「でも、いつの間にそんな技を使えるようになっていたんだろう……?」

曜「そもそも出会った時から発動していたよね」

果南「その技は鞠莉が使っていた技なんだよ」

千歌「鞠莉ちゃんが?」

果南「うん、そして鞠莉以外は使用できない技でもあった」

曜「え? でも実際千歌ちゃんも使えているよね?」


果南「……鞠莉が持っていたはずの大空のリングを持っていて、鞠莉にしか使えないはずの技を使える」ジッ

千歌「?」キョトン

曜「果南ちゃん?」

果南「まさかとは思うけど――」



果南「――“そこ”に居るの、鞠莉……?」

235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/11(月) 19:25:18.76 ID:7LihbQ7hO
待ってる
236 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/13(水) 00:06:00.80 ID:fxV8g96D0
コメントありがとうございます。
お待たせしてしまって申し訳ございません。
237 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/13(水) 00:09:06.17 ID:fxV8g96D0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


善子「……」ゴロンッ


「――どうしたの?」


善子「お母さん……」

善子母「最近ずっと元気が無いじゃない」

善子「別に……いつも通りよ」

善子母「もう、相変わらずウソが下手なんだから」


善子母「……むっちゃん、人形兵になってからも活躍中みたいね」

善子「……」

善子母「人形兵の中でも最高傑作だって話じゃない。善子としては――」

善子「やめて、聞きたくないし話したくない」

善子母「……ごめんなさい」


善子「……自分でも分かってるわ。いつまでも引きずっている訳にはいかないって事くらい」

善子「むつはあくまでも部下の一人、そこに特別な感情を持ってはいけない。私の部下は むつ だけじゃないから」

善子母「……そうね」

善子「こんな心が乱れたままだと、いつか戦闘中に致命的な隙を生みかねない」

善子「だ、から……早く……忘れ、ないと」

善子母「……」

善子「……ぅ、うぅ」
238 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/13(水) 00:11:48.91 ID:fxV8g96D0


善子母「――忘れる必要なんてないんじゃない?」

善子「……え」

善子母「守護者がどういう心構えであるべきなのかは知らない。多分、善子が今考えている通り忘れてしまうが正しいのかもしれない」

善子母「善子は優しい子だから……この先も忘れる事はきっと出来ない」

善子母「でもね、それでいいのよ」

善子母「善子のその優しさがあるからこそ、部下はあなたを心から慕い、あなたの為に命を懸けて戦うの」

善子「……買い被りすぎよ。みんな女王の為、国の為に戦っている」

善子母「本当に“あの”女王の為に戦っていると思うの?」

善子「それは……」

善子母「あなたの為に戦った部下の事を忘れようとしちゃダメ。今は辛くてもその想いはいつか大きな力となるわ」

善子「……うん」



―――ピンポーン



善子「――開いてるわ、入っていいわよ」

梨子「不用心ね」ガチャ

善子「何か用?」

梨子「『何か用?』じゃないわよ! ほら」

善子「あ、これどこにあったの?」

梨子「私の部屋に置きっぱなしだったんだからね」

善子「あー……道理で見つからないわけね」

梨子「自分のスマホくらいしっかり管理しなさい」

善子「はいはい。で、要件は?」

梨子「女王様直々の招集命令よ。鞠莉様が発動させた技の解析がやっと終わったらしいわ」

善子「あれやっと終わったのね。数日で終わるって言ってたのが一か月以上も掛かったとは……」
239 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/13(水) 00:13:08.67 ID:fxV8g96D0


梨子「――それはそうと、善子ちゃん」

善子「ん?」

梨子「この部屋って他に誰か居るの?」

善子「は? 見た通り誰も居ないけど?」

梨子「あれ? 話し声が聞こえたからてっきり誰か居るのかと思ったのに……まさか独り言?」

善子「……空耳よ。私はさっきまで寝てたんだし」

梨子「ふーん、そう」

善子「……」



240 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/13(水) 00:33:17.15 ID:fxV8g96D0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




曜「ふぅー、疲れたー!」ドサッ

千歌「一日お疲れ様」

曜「あの後もみっちり修行とかスパルタ過ぎでしょ……体中が痛い」

千歌「でも、何だか嬉しそうな顔してる」

曜「まあね、今までちゃんと戦い方を教えてくれる人はパパしかなかったからさ」

曜「前の自分より成長しているのが実感出来て凄く楽しい!」

千歌「そっか」ニッ


曜「千歌ちゃんも今日から家事全般のお手伝いしてるんだよね。まだ病み上がりなのに大丈夫?」

千歌「リハビリも兼ねてるから大丈夫」

千歌「それに曜ちゃんが頑張ってるのに私だけ何もしないのはダメだと思うし」

曜「向こうの世界では家が旅館やってるんだよね。今日の晩御飯美味しかったよ!」

千歌「あー……うん、今日出した御飯は私が作ったんじゃないんだ」

曜「……あれ? だってルビィちゃんと一緒にキッチンで料理してたよね?」

千歌「確かに料理してたよ、うん、これでも旅館の娘だし?」

千歌「でもさ、だからってその娘が必ずしも料理が得意なわけじゃないよね……」トオイメ

曜「あ、あはは…」
241 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/13(水) 00:37:59.41 ID:fxV8g96D0

千歌「一応作ったけど、人様に食べてもらえる味じゃ無かったね……グスン」

曜「じゃあ、あれはルビィちゃんが作ったやつだったのね」

千歌「その通りです」

曜「千歌ちゃんが作った料理は捨てちゃったんだ」

千歌「ううん、果南ちゃんが全部食べてくれた」

曜「果南ちゃんが?」


千歌「ここに私が作った料理が少しあります」

曜「見た目は普通だね」

曜「いただきま〜す」パクッ

曜「モグモグ……んんッ!?」

千歌「ね? 酷い味でしょ」

曜「うん……お世辞にも美味しいとは言えない、かな」

曜「これを果南ちゃんは全部一人で食べたの?」

千歌「うん」

曜「ウソでしょ…これを全部食べるってどんな味覚してるんだ……」

千歌「……」ジワッ

曜「っ!?」



―――コンコンッ



果南「入るよ〜」ガチャ

曜「あ、か、果南ちゃん」

果南「ん、どうしたの千歌?」

曜「そ、それはその……」

千歌「……グスッ、何でもないよ」

果南「んん? まあいいや」
242 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/13(水) 00:44:52.66 ID:fxV8g96D0

千歌「それで、どうかしたの?」

果南「部屋の様子はどうかなと思って。ほら、二人で一部屋だからさ」

曜「別に大丈夫だよ。今までもずっと二人で寝てたし」

千歌「寧ろ一緒の部屋にしてもらえて嬉しかったよ。一人はちょっと寂しいからさ」

果南「そう、なら良かった」ニコッ


果南「そっち座ってもいい?」

曜「うん、いいよ」

果南「ありがと」ギシッ

千歌「……」ジーッ

果南「ん? ジロジロ見て、何か付いてる?」

千歌「痛々そうだなって思って……」

果南「あぁ……見苦しかったね、ごめん」

千歌「い、いや、私は気にして無いよ」

果南「太ももの火傷痕とか酷いもんでしょ? 嫁入り前の身体だってのにさ」アハハ

曜「強くなるにはそれなりの代償が必要って事だよ」

千歌「女の子には厳しい代償だね……」

果南「そんな事無いよ。なりたいものになる為の必要経費みたいなものだよ」

曜「なりたいもの?」

果南「私はね、守護者になりたかったんだ」

千歌「そっか……守護者になる夢を叶える為に戦ってるんだね」

果南「いや、守護者にはなってるよ」

千歌「……はい?」

曜「なってるって?」

果南「こう見えて私は浦の星王国の晴の守護者なんだ」

曜「いやいやいや……流石に冗談でしょ」

果南「心外だな〜、だったらルビィや花丸にも聞いてみなよ」

曜「マジか、本当なんだ……」
243 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/13(水) 01:03:03.41 ID:fxV8g96D0

千歌「だからあんなに強いんだね」

果南「そりゃ、この国で最も強い六人の一人ですから!」エッヘン

曜「つまり今の私にはまだ炎を使うまでも無いって事か……悔しいなぁ」

果南「……まあ、これから精進したまえ!」パシンッ

曜「痛ったッ!!?」


千歌「……ん? だったら変じゃない?」

曜「何が?」

千歌「果南ちゃんは浦の星王国の守護者なんだよね」

千歌「守護者って国や女王様を守るのが使命なんでしょ?」

曜「……あっ」

千歌「じゃあ、なんで果南ちゃんはその国と戦っているのさ?」


果南「……当然の疑問だよね」

千歌「答えてくれるの?」

果南「うん、でも今は話さない」

曜「親密度が足りないから?」

果南「そんなギャルゲーみたいな理由じゃないよ」

果南「話すと長くなるからね、機会を作ってちゃんと話したい」

千歌「そっか……うん、待ってるね」


果南「―――んで、話は変わるんだけどさ」

果南「千歌にお願いがあるんだよね」

千歌「私に?」

果南「千歌って元の世界ではアイドルやってるんだよね?」

千歌「うん、スクールアイドルをやってるよ」

果南「アイドルって事は歌やダンスは勿論出来るんだよね?」

千歌「とーぜんだよ! 今はダンスは無理だけど……」

果南「ならさ、もし良かったら何曲か歌ってくれないかな?」

曜「あ! 私も千歌ちゃんの歌聴きたい!」

千歌「別にいいけど……随分唐突だね」

果南「実はアイドルにちょっと興味があって……」
244 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/13(水) 01:18:09.65 ID:fxV8g96D0

千歌「興味あるのっ!? なら果南ちゃんもスクールアイドル始めない!?」キラキラ

果南「く、食いつき方凄いな!?」タジッ

曜「千歌ちゃん、年齢を考えようよ。果南ちゃんはもうアイドルって年じゃない」ポンッ

千歌「あ、そっか。この世界の果南ちゃんは高校生じゃ無いんだった」

果南「……年増で悪かったね」プクウッ

千歌「うーん、どの曲を歌おうかな…?」

果南「曲数は結構あるの?」

千歌「選曲に悩むくらいは多いよ」

千歌「何かリクエストとかあると選びやすいかな」

果南「リクエストかぁ……曜、何かある?」

曜「そうだねぇ……じゃあ、一番最近に作った曲を歌ってよ!」

千歌「新しい曲って事は……今練習中のあの曲かぁ」ムムム

曜「折角だし、他のみんなも呼ばない?」

果南「もう呼んでるよ♪」



―――ガチャッ



よしみ「ライブ会場はここですかー?」

ルビィ「お、お邪魔します!」

曜「いつの間に連絡したんだ……」
245 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/13(水) 01:19:03.59 ID:fxV8g96D0

花丸「サイリウムも人数分持ってきたずら!」シャキーン

よしみ「はい、二人の分」

果南「サンキュー♪」

曜「準備早いなぁ」ポキッ


千歌「あ〜、ああ〜〜♪」

千歌「……よし、準備オーケーだよ!」

花丸「始まるずらか!」ブンブンッ!

よしみ「待ってました!」

千歌「ダンス無しでアカペラだけど、精一杯歌います!」

千歌「それでは聴いて下さい、最初の曲は―――」



246 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 00:28:21.28 ID:/qW9MsG40

――――――――
――――――
――――
――



千歌「―――ありがとうございましたっ!」ペコッ


曜「……すっごい!」パチパチ

よしみ「本当に凄かった! 凄かったよ! その、えっと、ああもう語彙力が足りない!」

千歌「えへへ」

果南「……」

花丸「……」

ルビィ「……」

千歌「あ、あれ……? 三人共どうしたの?」

果南「いや……凄すぎて余韻に浸ってた…」

花丸「……う、うぅ……」ポロポロ

千歌「花丸ちゃん!?」

花丸「ア゛ン゛コ゛ール゛は゛無゛い゛ずら゛か!?」グスッ

ルビィ「アンコール! アンコール!」

千歌「え、あ、私はいいけど……」

果南「いやいや、二人共そこは我慢しなよ」

ルビィ「え!?」

花丸「何でさ!?」
247 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 00:30:38.61 ID:/qW9MsG40

果南「二人の事だからこの後も際限なくアンコールするでしょ」

よしみ「確かに」ウンウン

花丸「ぐっ……図星ずら」

曜「てっきり一曲だけ歌うんだと思ってたけど、結構歌ったね」

ルビィ「十曲くらいは歌ってた!」

千歌「折角サイリウムまで用意してくれたから沢山歌っちゃいました♪」


千歌「ねえねえ、みんなはどの曲が気に入った?」

果南「難しい質問だねぇ……」ウーン

花丸「マルは一曲目の『未来の僕らは知ってるよ』が好きずら!」

ルビィ「それも良かったよね! 私は『ダイスキだったらダイジョウブ!』かなぁ」

よしみ「敢えて選ぶなら、『Step! ZERO to ONE』だね」

果南「私は一曲だけ選ぶなんて無理だよ……」

よしみ「えー? 本当は歌に夢中で曲名忘れてるだけなんじゃないの?」

果南「そ、そそそんな事ないよおぉ〜?」アセアセ

花丸「図星ずら」ジトッ

果南「待って、あと少し、もうここまで出かかってるんだよ」

果南「うーんとね……あ、サビが『どんな未来かは 誰もまだ知らない』って歌詞のやつ!」

千歌「ああ、『未熟DREAMER』だね」

果南「そう、それっ!」
248 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 00:34:27.73 ID:/qW9MsG40


千歌「曜ちゃんはどう?」

曜「私は最後の曲が好きだな〜」

ルビィ「最後曲って言うと……」

花丸「『勇気はどこに? 君の胸に!』ずらね」

曜「うん! 『夢は消えない 夢は消えない』って繰り返す所が本当に好き!」

よしみ「それな!」

花丸「『やり残したことなどない』の部分も心にグッとくるモノがあったずら……」

よしみ「それっ!」

果南「よしみ、圧倒的な語彙力不足……」


曜「そうだ! 良かったらこの曲の歌詞を教えてよ!」

曜「歌詞を覚えて私も歌えるようになりたい!」

千歌「もちろんいいよ」ニコッ

千歌「なんなら、みんなに今日歌った曲全部教えちゃうよ!」

花丸「ほ、本当に!」キラキラ

千歌「だってこれは全部Aqoursの曲だもん」

千歌「この世界でもいつかみんなと、Aqours九人で歌ってみたいな……なんて」

ルビィ「みんなで……か」

果南「千歌……」

千歌「……冗談。ここにいる果南ちゃん達と歌えるだけで満足だよ」

千歌「よし、じゃあ明日から歌のレッスンをやるからね!」

曜「了解であります!」

ルビィ「楽しみだなぁ」
249 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 00:35:42.69 ID:/qW9MsG40


果南「あ、そうそう明日と言えば」

千歌「ん、何かあるの?」

果南「千歌、明日は私と街に行こう」

果南「服とか下着とか、生活に必要な物を買わなきゃね」

千歌「いいの? ありがとう!!」

曜「え、いいな〜! 私も行きたい!」

果南「っと曜は申しているけど、連れて行っていい?」

花丸「いいよ。その分、明後日のメニューに上乗せするだけずら」

曜「え゛っ」

花丸「――冗談ずら♪ 千歌ちゃんと楽しんで来るといいずら」ニコニコ

曜「あ、あはは……本当に冗談、冗談なんだよね……?」ダラダラ

果南「曜、ドンマイ」ポンッ

曜「……ええいっ! こうなったら自棄だ! 千歌ちゃん、明日は楽しもうね!」

千歌「う、うん……」アハハ…


250 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 00:38:21.30 ID:/qW9MsG40

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



〜翌日 旧虹ヶ咲領 北部〜



果南ちゃん達のアジトは森の中にある。

花丸ちゃん曰く、ここは星空さんと出会った場所から更に北側で
旧虹ヶ咲領と旧音ノ木坂領の国境線付近に位置しているらしい。

果南ちゃんの車で森を抜けて小一時間。
そこそこ大きな街に到着した。

私達は追われている身のはずなのに変装とか全くしていない。
大丈夫なのか凄く心配だったけど、ここには浦の星の人間はまず来ないから大丈夫みたい。



千歌「ねえねえ、この服いいと思わない?」

曜「どれどれ……おお! いいじゃん♪」

千歌「だよね!」

千歌「あっ、ただ……これ見て」ピラッ

曜「たっか!? この服こんなにするの!?」

千歌「なんか全体的に値段高いんだよね」

千歌「一番安い服でも浦の星の二倍はしてる」

千歌「定価はそんなに変わらないのに……」

曜「税率が異常に高いんだよ。これは支配している国が自由に変えられるからさ」

千歌「むぅ……じゃあこれは無理だね」
251 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 00:40:26.05 ID:/qW9MsG40


果南「おーい、千歌!」

千歌「なーにっ?」

果南「いい感じの服見つけたよ」

千歌「おお! ……おぉ?」

曜「果南ちゃん……?」

果南「えっ、何、ダメだった?」アセアセ

曜「流石に千歌ちゃんにこの色は似合わないと思うなぁ」

千歌「折角選んできてくれたのに……ごめんね?」

果南「あれっ? 千歌に黒色ってそんなに似合わないかなぁ……」

千歌「え、“黒色”?」

曜「何を言っているのさ、ド派手な“紫色”じゃん」

果南「……紫?」

曜「なんかこう、叔母様が好んで着てそうな色だよね」

千歌「デザインはちょっと好きなんだけど」


果南「……そんな、まさか……」ブツブツ


千歌「果南ちゃん? どうしたの?」

果南「……へ?」
252 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 00:42:21.88 ID:/qW9MsG40

曜「なんか変な汗かいてるけど、大丈夫?」

果南「あっ、だ、大丈夫大丈夫っ!」

果南「自分のセンスが年寄り臭くなってた事に動揺しただけだよー」アハハ

千歌「そう?」

果南「私のセンスは絶望的だから千歌と曜が持ってる服を買おうか」

曜「でも凄く高いよ?」

果南「子どもが気にする事じゃないよ」

果南「そもそも高いのは最初から知ってるし」

千歌「じゃあ……お言葉に甘えちゃおうかな」エヘヘ

曜「なら私の服もついでに――」

果南「曜はお金持ってるでしょうが」

曜「……」

果南「欲しければ自分で買いなさい」

曜「……はい」シュン

千歌「ごめんね、私ばっかり買って貰って……」

果南「いいのいいの! どさくさに紛れた曜が悪い」

曜「ごもっともであります……」
253 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 00:44:24.62 ID:/qW9MsG40


果南「よし、お会計済ませて来るね。曜はこのお店で買うの?」

曜「ここではいいかな」

曜「私は一旦お花を摘みに行こうかと」

果南「千歌は?」

千歌「邪魔になっちゃいそうだしお店の外で待ってるよ」

果南「そっか、じゃあ少しだけ待っててね」

千歌「はーい」




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




千歌「ん〜〜っ、今日もいい天気だねぇ」グググ


……あまり自覚は無いけど、この世界に来てからもう一か月も経ったんだよね。

つまりラブライブの予選も既に終わってる……。

結果はどうだったのかな? 突破出来たのかな……?
……私が居なくたってみんななら大丈夫だよね!

きっとみんななら……。

……。


千歌「――どうして、こんな事になっちゃったんだろうね」

千歌「ごめんね……みんなごめん……」グスッ




少女「……」ジッ




千歌「?」
254 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 00:47:24.62 ID:/qW9MsG40


何だろうあの子。ずっと私の事を見てるぞ。
私の顔に何か変なものでも付いてるのかな? だとしたら恥ずかしいな。

でもあの子……どこかで見たような―――。




『凄い……もう全然痛くないよ!』ブンブン!


『仲良し仲良し♪』


『いやったあ!! 約束だよ?』



『ど、こ……、真っ暗で……何も、見えない……よ?』


『……ぁ、温かい……なぁ』


『じゃあ……治ったら、一緒に……遊んで、く……る………?』


『……え、えへへ、楽し……み……だ……な……ぁ』




千歌「――あ! まさか、でもそんな……!?」


見間違う訳が無い。あの顔はあの時の妹ちゃんだ。
間違う訳が無い……でもここに居るが無い。

だって妹ちゃんはあの時亡くなったんだ。あの怪我で生きているはずが無い。

なら今私を見ているあの子は? ただ似ているだけの別人?

髪形も背丈も服装だって全く同じ。
そんな偶然があり得るの……?


少女「……っ」ニヤッ
255 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 00:49:13.86 ID:/qW9MsG40

千歌「――あっ、待って!!」


目が合った瞬間に走り出した。このままじゃ見失っちゃう!

後先考えずに私は少女の後を追った。





果南「……あれ?」キョロキョロ

曜「お待たせ〜」

果南「曜、千歌は?」

曜「へ? 外で待ってるんじゃないの?」

果南「それが居ないんだよ」

曜「あれ〜、どこに行っちゃったんだ??」

果南「……」




256 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 00:51:57.32 ID:/qW9MsG40

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


〜郊外 森林地帯〜



千歌「――待って、お願いだから待ってってば!!」

少女「……」ピタッ

千歌「はぁ、はぁ、はぁ……」

少女「……」


千歌「……君は誰なの?」


――少女は答えない。


千歌「あの時会った子なの?」


――少女は何も答えない。


千歌「生きていたんだね……良かった、死んじゃったかと―――」



少女「――ふふ、うふふふふっ」



千歌「な、何……?」

少女「人形兵(マリオネット)の映像から姿を複製したけれど正解だったわね」

千歌「複、製……?」

少女「そもそも本当に生きていると思った? あの傷で生きているわけが無いじゃない」

千歌「なら君は一体誰なの!?」
257 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 00:57:12.22 ID:/qW9MsG40

少女「そうね……この姿だったら分かるかしら?」


そう言うと彼女の体から紫色の濃霧が発生し、瞬く間に体全体を覆い隠した。

その霧も徐々に薄くなり隠れていた姿が露になると――。


千歌「――よ、しこ……ちゃん」

善子「へぇ、もう私を知っているのね」

千歌「そのリング……守護者なんだ」

善子「リングの事も守護者の事も知ってるんだ! 流石に一か月も“この世界”に居ればそのくらい知ってるか」

千歌「えっ」

善子「高海 千歌、あなたが平行世界から来た事は知っている」

千歌「どうやって!?」

善子「詳しく知りたいのなら私と一緒に王都まで来てもらおうかしら?」

千歌「んな!?」

善子「これは女王の命令、あなたに拒否権は無い」

千歌「ダイヤさんが私に何の用だってのさ!」

善子「っ!? ……驚いた、女王の名前まで知ってるとは」

善子「今まで誰と行動していたのかも気になるわね……」

善子「まあいいわ、それも含めて全部話してもらうから」ジリッ


善子はリングに炎を灯したまま近寄ってくる。


千歌「ち、近寄らないで!!」
258 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 01:01:37.64 ID:/qW9MsG40

善子「抵抗はしないでね。出来れば無傷で連れて行きたいからさ」

千歌「う、うぅ……」

善子「あなたもバカよね。こんな場所までのこのことついて来るなんて」

善子「見つけるまでちょっと時間掛かったけど、これで任務完了――」



突如リングの炎が不自然に揺らいだ。
視界の端でそれを認知した善子は踵で地面を強く蹴り飛ばして千歌から距離を取った。



ドスドスドスッ―――!!



善子が居た場所に複数のナイフが突き刺さる。



果南「――勝手に居なくなっちゃダメだよ、千歌」

千歌「果南ちゃん!」

果南「まさかこんな所まで来てるとは予想外だったけど見つかって良かった」


善子「二か月ぶりね……松浦、果南――!!」

果南「善子……完全に不意打ちだったのによく躱せたね」

善子「炎を使えばこの程度不意打ちでも何でもないわ」

果南「ああ、リングの炎をレーダー代わりにしたのか」

善子「あんたと一緒なら守護者の事も女王の名前も知っているのも納得」
259 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 01:03:14.14 ID:/qW9MsG40

果南「それで、千歌に何の用事?」

善子「説明したら渡してくれるの?」

果南「どうなの千歌」チラッ

千歌「嫌だ……行きたくない」

果南「じゃあダメだね」

善子「そう……」

善子「あーあ、楽に終わると思ったんだけどなぁ……」ポリポリ

果南「……下がってて」

千歌「う、うん……」

善子「また逃げるの?」

果南「そうだよ。本気で戦えば善子を殺してしまうから」

善子「……ふふ、面白い冗談ね」

善子「今回はあの雲のAqoursリング使いが居ない。アイツさえ居なければ私から逃げ切るのは不可能よ」

果南「それでも逃げ切ってみせるさ」シュルシュル

千歌「大丈夫……なの?」

果南「任せて。善子にとって私は“相性最悪”だからね――!」



260 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 01:05:30.68 ID:/qW9MsG40

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



〜千歌が目覚める数日前 浦の星王国 城内〜



梨子「―――お待たせしました、女王」

善子「……」ムスッ

女王「随分とわたくしを待たせてくれましたわね」

善子「……それは悪かったと思っているわ」

梨子「善子っ!」

女王「構いませんので二人共席に座りなさい。早速本題に入ります」

善子「やっと例の解析が終わったのよね?」

女王「ええ、ここまで解析に時間が掛かったのは未知の技且つ複数人の炎が複合された技だったのが原因だそうです」

梨子「初期の段階で鞠莉様の技だと分かってたのでは?」

女王「それは――」

善子「そんなのはどーだっていいじゃない」

善子「重要なのはどんな技だったのか、でしょ」

女王「……説明は省いてもよろしくて?」

梨子「分かりました」
261 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 01:08:18.86 ID:/qW9MsG40


女王「結論から言えばあの技により別世界の人間がこの世界に召喚されました」

女王「精神のみの召喚では無く、本体ごと呼び寄せていますわ」

梨子「べ、別の世界からの召喚したんですか!?」

善子「それって何かマズい事なの?」

梨子「マズいなんてレベルじゃない! 下手をすればこの世界が崩壊しかねない危険な行為よ!!」

善子「っ!?」ゾワッ

女王「成功したのは奇跡に近いですわね」

善子「で、でも、前女王だってそのリスクは知っていたんでしょ?」

女王「当然ですわ」

善子「ならそのリスクを承知の上で召喚を試みた……」

梨子「鞠莉様は無意味な事をする人では無い。この召喚にもきっと重要な理由があるはず」

女王「召喚された人物の特定は完了しています」

女王「データを送りますわ」ピピピ

梨子「これは……女の子?」

梨子「……この顔、どこかで……?」ボソボソ

善子「……」
262 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 01:12:03.24 ID:/qW9MsG40

女王「名前は『高海 千歌』。推定年齢は17歳の高校生ですわ」

梨子「名前まで割れているんですね」

女王「同じ世界線に同一人物は存在できない」

女王「存在しないはずの人間が同時に共存すると世界が拒絶反応を起こして瞬く間に崩壊してしまうのです」

梨子「……この世界の『高海 千歌』は既に死亡している」

女王「それが召喚に成功した要因の一つでしょう」

梨子「この写真を使って過去の死亡者リストから検索したって事ですか」

女王「浦の星王国内に居るのなら監視カメラからすぐに見つかるのですがね」

梨子「今は虹ヶ咲か音ノ木坂に居るんですか……厄介ですね」

善子「……」

梨子「善子? さっきから黙り込んでいるけど、どうし―――」


善子「――あっ!! 思い出した!!!」


梨子「び、びっくりした……」

女王「何を思い出したのです?」
263 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 01:17:07.47 ID:/qW9MsG40

善子「この子! 私この子に霧の炎で作った身分証を渡したわ!」

女王「……何ですって?」

梨子「間違いないの?」

善子「私、直感的に怪しいなと思った人物には炎で作った物をこっそり忍ばせるようにしてるの」

女王「いくら何でも都合が良すぎる気がしますが、まあいいでしょう」

梨子「それなら善子の炎の反応を調べればすぐに場所が分かる!」

善子「ただその……問題が一つだけ」

女王「マップに反応を表示させましたわ」

梨子「って何これ……反応多すぎじゃない!?」

善子「いやー、手当たり次第に忍ばせているから、ざっと五十人くらいは表示されてると思う」

梨子「手掛かりがあるだけマシと考えるべき……かな」

女王「しらみつぶしに当たるしか方法は無いですわね」


女王「――では速やかに『高海 千歌』を発見し可能な限り無傷で連れて来なさい」

女王「その際、抵抗してきた人物や組織が居た場合は各自の判断で始末して構いません」

善子・梨子「「――了解」」


264 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 01:21:33.83 ID:/qW9MsG40

――――――――
――――――
――――
――



果南ちゃんがどのくらい強いのか正確には知らない。

でも昨日のテストを見る限り炎や技、匣兵器無しの素手で曜ちゃんを倒していた。
更に果南ちゃんは自分は守護者だって言っていた。

善子ちゃんも同じ守護者だけれど、力の差はそこまで無いはず。

それに相性がいいって言っていた。


千歌「――果南ちゃんならきっと大丈夫……だよね」


――両者は睨み合ったままその場で動かない。

炎を灯している善子は技の発動準備は完了している。

一方、果南は右腕の包帯を解いただけ。
リングの炎どころか武器すら手にしていない。


先に仕掛けたのは善子。

パチンッと指を鳴らすと、果南の足元から火柱が出現。
果南の体全体を飲み込んだ。

思わず果南の名前を叫ぼうとした千歌だったが、火柱から無傷の果南が勢いよく走りだした。



善子「……チッ! やっぱり幻術は効かないか……!?」

果南「だから言ったじゃん! 相性最悪だってさ!!」
265 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 01:26:10.44 ID:/qW9MsG40

――幻術。
相手の脳に直接作用して幻覚を見せ、実際には起きていない現象をあたかも起きていると錯覚させる技。
この技を使用できる者を『術者』と呼ぶ。

霧の炎の持ち主がこの幻術を使える場合が多い。

あくまでも錯覚なので幻術によって作られた刃物や生き物による攻撃で肉体が傷つく事は無い。
だが、術者の能力が高ければそれも例外となる。

脳に作用する力が強ければ錯覚によって肉体にダメージを負うし、暗示で体の自由も失う。
思い込みだけで死ぬ事だってある。

善子の幻術はまさにその例外である。

千歌が見た火柱は幻術であり、実際には発生していない。
にもかかわらず千歌は火柱が発する熱や音をハッキリと感じ取っている。

仮にこの火柱が千歌に向けて発動されていたら脳の錯覚だけで全身の皮膚は大火傷状態となり、最悪ショック死しただろう。

そんな強力な技である幻術なのだが、果南には効果が無い。
とある理由で果南は幻術の作用を受けないのだ。


接近に成功した果南。
果南の右ストレートを善子は転がるようにして回避。



善子「なら、これはどうよ!!」


地面から生えた植物のつるが果南の足に巻き付く。


果南「くっ、今度は有幻覚かッ!!」
266 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 01:28:55.55 ID:/qW9MsG40



――有幻覚。
幻覚を霧の炎で強化し、実体を持つ幻覚を生み出す。
善子が脳内でイメージした武器や植物等々を霧の炎で具現化する。

神経をすり減らす大技だが、幻術が効かない相手にも有効となる技である。


果南が巻き付いたつるを右手で触ると、一瞬で消滅した。



果南「炎を使う技は無駄だって事は知ってるでしょ?」

善子「ええ、勿論」

果南「術者は肉体的苦痛に弱い。一発ぶん殴れば力を使う事は出来なくなる」

善子「それが出来れば、ね」

果南「今の私には幻術も有幻覚も効かない! 一気に距離を詰めて一撃を――」



ガクンッ―――!



果南「……は?」

善子「どうしたの? いきなり片膝なんかついて」クスクス

果南「な、に……が?」

千歌「果南ちゃん! あ、あし……脚が……!!!」

果南「脚……?」



自分の右脚へと目線を落とす。
太もも辺りに太い杭が深々と突き刺さっていた。



果南「いつの間に……」
267 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 01:32:53.18 ID:/qW9MsG40
善子「右手で有幻覚のつたを打ち消した時よ」

善子「と言うか痛みに鈍感過ぎじゃない? 麻酔でも打ってるの?」

千歌「早く晴の炎で治療して! 技とか匣とかあるでしょ!?」

果南「……っ」ギリッ

千歌「何やってるのさ!?」

善子「ああ……それは知らないんだ」

千歌「何が!?」

善子「果南は技や炎を“使わない”んじゃない、“使えない”んだよ」

千歌「使え、ない……?」

善子「右手にはめている『ヘルリング』による呪いでね!!」



善子の周囲に果南の脚に刺さっていたのと同じ杭が複数出現した。
先端は全て果南の方向を向いている。



善子「これらは全て有幻覚で作った杭。だから果南の右手が触れれば一瞬で消滅するわ」

善子「でもね――!」



スウゥゥ……



果南「ッ!!?」

千歌「き、消えた!?」
268 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 01:42:12.24 ID:/qW9MsG40

善子「この杭は私のイメージで作り上げた物よ。透明化させる事なんてわけないわ!」

善子「もっとも、見えないだけでその場には存在している」

善子「だからリングの炎をレーダー代わりに使えば探知出来るし匣兵器で相殺も出来る」

善子「この程度“普通の人”なら簡単に対処出来るのよ」フフフ

果南「……ッ」


善子「私と果南は相性最悪だって言っていたわね?」



ドスッ――!!



果南「ッッッ!!!」ボトボトッ

善子「確かに間違っていない」



ドスドスドスッ―――!!



千歌「あ、あぁ……」ガタガタ

善子「果南にとって私は“相性最悪”だったわね――!」

果南「は、はは……一本……取られ、た……な」



―――ドサッ



果南「……ゴフッ」
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