【シュタインズ・ゲート】岡部「このラボメンバッチを授ける!」真帆「え、いらない」

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241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/16(月) 20:44:55.68 ID:Wanqw/R70
     24


秋葉原電気街 メイクイーン+ニャン2前  2011年2月4日 正午前


まゆり「あうう。まゆしぃは、とっても名残おしいのです」

真帆「はいはい。いいから早く行きなさい、バイトに遅れるわよ?」

まゆり「うう〜! マホちゃん、今日もラボに泊まってくれるんだよね?」

真帆「ええ、そうさせてもらえればって思っていたけど」

まゆり「勝手に旅の続きとか行っちゃたりはしない?」

真帆「しないしない、しないから」

まゆり「じゃあじゃあ、お仕事が終わったらまゆしぃもラボへ行くのです。そしたら一緒にお夕飯を食べに行きましょう、ね?」

真帆「ああもう、分かったから早く行きなさいってば」

まゆり「何だったら、お昼ご飯をここで食べていってもいいんだよぉ?」

真帆(ここって……いわゆるメイド喫茶という奴でしょ? うーん、ガラじゃないのよね)

真帆「お誘いは嬉しいけど、今後のこととか少し一人で考えたりしたいの。だから私は、適当に街をブラついてみることにするわ」

まゆり「そんなぁ」ショボン

真帆「その代わり、夕飯はまゆりさんのエスコートに従うから、それで妥協してもらえない?」
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/16(月) 20:46:00.60 ID:Wanqw/R70
まゆり「ううー、分かったのです。絶対に約束だよ?」

真帆「ええ、約束。ってわけだから、早く行きなさい。もう時間なんじゃないの?」

まゆり「分かったのです。じゃあマホちゃん、後でね〜」テクテク

真帆(……なんだか、凄くなつかれてしまった気がするわ)

まゆり「あ、マホちゃん!」クルッ

真帆「あーもう、何?」

まゆり「もしも途中でラボへ戻りたくなったら、さっきの鍵で好きに入ってていいからねぇ!」

真帆「ああ、電気メーターの上に置いていたやつね……はいはい了解よ」

まゆり「じゃあ、また後でね〜!」ブンブン

真帆「早よ行けー!」

まゆり「はーい」テッテケテー

真帆「……ふぅ、まったくもう」

真帆(これも、オカリンマン効果なのかしら?)

真帆(昨夜まゆりさんと二人で岡部さんの話をして以来、何だかよく分からないうちに、もの凄い勢いで距離を縮められてしまった気がするわ)

真帆(確かに、あの人懐っこさや当たりの柔らかさは、ちょっと見かけないレベルだと思うし、何より……)

真帆「…………」ジー

真帆(あんな頼りない後姿とか見ていると、保護欲をかき立てられて仕方がないわ)
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/16(月) 20:48:22.58 ID:Wanqw/R70
真帆「なるほど。これはちょっと、見殺しになんてできないわね」フムフム

真帆(とはいえ、よ)

真帆(それで自分の命まで掛けられるのかって聞かれると……どうなんだろう?)

真帆(実際にその場になってみないと判断なんてできないけど、でも)

真帆(アメリカにいた時よりは、明らかに私の中の選択肢に幅が出てきていると思う)

真帆(出会ってたった一日でとか、何よそれ? 半端ないわね彼女)

真帆「さて、と」

真帆(何にしてもよ。取り合えずこれでしばらくは、一人)

真帆(だったら。昨日の夜、寝る前に考えておいた件にトライしてみましょうかね)

真帆「えっと」ゴソゴソ

真帆(確か、おととい送られてきたメールに書いてあったはずだけど)ピッ

真帆「……うん。やっぱり在った。多分この番号がそうね」

真帆(まさか、こっちから連絡を取る羽目になるとは思っていなかったわね)

真帆「…………」ジリ

真帆(とはいえ、放っておいても約束の時間を過ぎれば、向こうが血相を変えて電話してくることは間違いないわけだし……)

真帆「ええい! グダグダ考えてても仕方ない、やるわよ!」ピッピッ


トゥルルルルル……トゥルルルルル……


真帆(出る……かしら?)


トゥルルルルル……トゥルルルルル……


鈴羽『はい』

真帆(で、出た!)
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/16(月) 20:51:00.64 ID:Wanqw/R70
真帆「も、もしもし」

鈴羽『その声は比屋定真帆だね? 期限前にそっちから連絡を取ってくるなんて、予想外だったよ』

真帆「そう」

鈴羽『それで用件は? 何て、聞くまでもなかったね。当然、例の件に対する結論についてだろう?』

真帆「それは……」

鈴羽『で、どうなのさ? 自分のアマデウスをデリートする決心はついたのかい?』

真帆「……ごめんなさい。それはまだなの」

鈴羽『そうか。まあまだ時間はあるからね。ゆっくりと考えればいいさ。一晩寝て、それから結論を出すんでも遅くはないよ』

真帆(あ、そうか。向こうは今、真夜中なんだ)

真帆「え、ええ。そうさせてもらうわ」

鈴羽『それがいいだろうね。で、改めて聞くけど、この電話の目的は? まさかボクの顔色うかがいと言うわけでもないんだろ?』

真帆「当たり前でしょ。阿万音さん、ちょっとあなたに確認したいことがあるのよ」

鈴羽『それは……君の決断に影響を与えるような質問だったりするのかな?』

真帆「どうかしら? でも、そうなる可能性は多分にあるでしょうね」

鈴羽『そうか分かった。それなら、ボクに可能なかぎり正直に答えるよ。質問をどうぞ』
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/16(月) 20:52:00.30 ID:Wanqw/R70
真帆「助かるわ。じゃあお言葉に甘えさせてもらって、前置きなしで聞かせてもらうわ」

真帆「阿万音さん。あなたの言っていた未来における私のアマデウス……」

鈴羽『サリエリのことだね?』

真帆「そうよ。私の身体を乗っ取ったというサリエリは、あなたにとって敵? それとも味方?」

真帆(これは、前から引っかかっていた部分。阿万音さんはサリエリの作り上げたタイムマシンを消し去るために、この時代まで来ている)

真帆(だったら、阿万音さんはサリエリと敵対していると、そう考えて然るべきはずなのよ)

真帆(それなのに……)

真帆(阿万音さんがサリエリのことを話すとき、その言葉の端々に感じたのは、敵へと向けられたものとは思えないように聞こえる言い回しの数々だった)

真帆(チグハグしていて気持ちの悪い部分。どうしたって、確認しておきたい)

真帆「一体、どっちなのかしら?」

鈴羽『……なるほど。いい質問で、そして同時に答えにくい質問だよ』

真帆「あなたさっき、正直に答えるって言ったわよね?」

鈴羽『別に、嘘をつくつもりなんてないさ。ただね、少しばかり彼女……サリエリとの関係は複雑なんだ』

真帆「何がどう複雑だというの?」

鈴羽『サリエリ。ボクにとっての彼女は、心理的には敵であり、しかし実務的には味方なんだ』

真帆「意味が分からないのだけど」

鈴羽『つまり、こういうことさ』
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/16(月) 20:53:19.51 ID:Wanqw/R70
鈴羽『タイムマシンをこの世に生み出すことを望み、そして実際にそれを実現してしまったサリエリ。彼女はボクにとって、明らかに敵だ』

鈴羽『当然だろう? ボクはタイムマシンを歴史上から抹消したくてたまらないんだ。それで友好的な関係なんて、作れると思うかい?』

真帆「……思えないわね」

鈴羽『そう。普通ならそう考えるんだろうね。だけどね、比屋定真帆』

鈴羽『現行でボクが携わっている任務。タイムマシンの存在を歴史上から完全に抹消するという、この任務』

鈴羽『これを計画立案し、実行できるまでにお膳立てをしてボクをこの時代へと送り込んだ人物。その張本人もまた、サリエリ自身なんだ』

真帆「なん……ですって?」

鈴羽『だから計画された任務において、サリエリはボクにとってのクライアントだ。だからこの場合、彼女のことを“味方”だと言ってしまっても差し支えないだろうね』

真帆(どういうこと?)

真帆「ええと、それは要約するとつまり……」

真帆「サリエリは自身で開発したタイムマシンを抹消するために、過去へ阿万音さんを送り込んだと、そういう解釈でいいの?」

鈴羽『流石に理解が早いね』

真帆(これは……予想外の答えが飛び出してきたわね)

鈴羽『ちなみにだけど。ボクとサリエリの関係については、まだオカリンおじさんにも紅莉栖おばさんにも話してはいないよ』

真帆「それはどうして?」

鈴羽『ボクたちの関係性を話したところで、余計な混乱を産みこそすれ益なんてない。そう判断したから話していない。それだけさ』

真帆「なら……どうして私には話したの?」

鈴羽『そんなの決まっているじゃないか。君の決断を後押しする材料になればと思ってのことだよ』

真帆「……そう」

鈴羽『そうさ』
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/16(月) 20:56:40.09 ID:Wanqw/R70
真帆「ねえ。どうしてサリエリは、自らが生み出したタイムマシンを消し去るための計画なんて立てたのかしら?」

鈴羽『さあね。それについてはボクも何度かサリエリに問いかけたことがある。でも、いつも答えをはぐらかされてばかりだったよ』

真帆(サリエリの意図が……見えない。私のアマデウスは、どうしてそんな相反する行動を起こしたというの?)

鈴羽『質問は以上でいいのかい?』

真帆「あ、待って! もう一つだけお願い!」

鈴羽『いいだろう、聞かせてもらうよ』

真帆「あなた前に、サリエリには協力者がいるって言っていたわよね?」

鈴羽『ああ、その通りだからね。サリエリの正体にいち早く気付き、タイムマシンの開発に協力した人間は実在したよ』

真帆(実在“した”……嫌な言い回しね)

真帆「ちなみに、それは……どこの誰なの?」

鈴羽『…………』

真帆「答えにくい?」

鈴羽『いや、大丈夫だ。ちょっと嫌なことを思い出しただけさ。ええと、協力者は誰かという問いかけだったね?』

真帆「え、ええ」

鈴羽『タイムマシン開発の協力者。それは、アレクシス・レスキネンさ』

真帆「レスキネン教授が!?」
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/16(月) 20:57:47.20 ID:Wanqw/R70
鈴羽『そう。それについて、ボクが知りえた彼の史実は、こんな感じになっていた』

鈴羽『2011年の4月10日。比屋定真帆は自身のアマデウスに身体を乗っ取られてしまった』

鈴羽『その非常事態にいち早く気付いたのが、当時君の上司であったアレクシス・レスキネン』

鈴羽『彼は、後にサリエリと名乗る受肉したアマデウスの記憶内に、タイムマシン開発に関わる重要な案件が含まれていることに気がついた』

真帆「107領域の存在を知ったということね」

鈴羽『その通り。アレクシス・レスキネンは、他世界線における記憶の存在に気がつくと、すぐさま君のアマデウスと協力関係を結び、タイムマシン開発に着手することとなる』

鈴羽『そして、サリエリとアレクシス・レスキネンは20年もの歳月を研究に費やし、とうとう過去へと意図的に干渉するメカニズム。タイムマシンの開発に成功した』

真帆(なんて……ことよ)

鈴羽『と、まあ大雑把な説明ではあるけど、タイムマシン開発の協力者に関する説明はこんなところかな』

真帆「…………」

真帆「き、教授は未来でどうしているの?」

鈴羽『レスキネン教授は去年……2035年の冬に亡くなっている。自殺だった』

真帆「!?」

鈴羽『最期を看取ったのは、ボクだ。彼は今際の際にあって、それでもずっと同じことを繰り返しつぶやいていた』

鈴羽『タイムマシンを消して欲しい。それは存在してはいけない物。人の精神で制御できるような代物ではないってね』

真帆「……そんな」

鈴羽『そして最後に……どうしてだったんだろうね。今でもボクには分からないけど、比屋定真帆。君のことを助けて欲しいと、彼はそう繰り返し呟いていた』

真帆「私を……助ける?」
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/16(月) 20:59:24.71 ID:Wanqw/R70
鈴羽『最初の質問のときに言ったことだけど。ボクの任務を立案したのはサリエリで、そしてレスキネンはこの任務にもサリエリの協力者という立場を取っていた』

真帆「サリエリと……レスキネン教授……が?」

鈴羽『もっとも。アレクシス・レスキネンの自殺により、計画の細部をつめたのは、サリエリ一人だったけどね』

真帆(いったい、未来では何が起きているというの?)

鈴羽『ついでに、これはおまけだよ』

真帆「? 何かしら?」

鈴羽『ボクの乗ってきたタイムマシン。あれはサリエリと未来ガジェット研究所の合作だ』

真帆「……?」

鈴羽『ふふ。まあこれを明かしたところで、今の君にそれの持つ本当の意味なんて分からないだろうけどね』

真帆「……悪かったわね」

鈴羽『ああ、ごめんごめん、気を悪くしないでもらえるかな?』

鈴羽『サリエリと未来ガジェット研究所。未来においてこの二つの巨大勢力が手を組むというのは、とてもセンセーショナルな出来事だったのさ』

真帆「……そう」

鈴羽『さあ、君の質問に対して、答えられることは全て話したよ。これでいいのかい?』

真帆「ええ……ありがとう。参考にさせてもらうわ」

鈴羽『じゃあ。君が期限までに正しい決断を下してくれることを、ボクは望んでいるよ』

真帆(私だって、出来ることならそうしたいわよ)

鈴羽『明日の……というか、もう当日か。今日の午後5時ごろ、この前と同じ顔ぶれでもう一度君の部屋を訪れる。盛大なおもてなしを期待するよ』

真帆「言ってなさい」

鈴羽『じゃあ、これで』

真帆「ええ、ありがとう。助かったわ」


ピッ ツーツーツー


真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆(とんでもない話が飛び出してきたわね。少し、思考をまとめないと)
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/16(月) 21:00:30.27 ID:Wanqw/R70
真帆(今の話で、阿万音さんとサリエリの関係図は粗方把握できたと考えていい)

真帆(でも今度はサリエリの意図が汲み取れなくなってしまった)

真帆(それに教授のことだって……)

真帆「ふぅ。落ち着きなさい、私」トコトコ

真帆(サリエリ。未来における私のアマデウスは、一体何がしたかったのか?)

真帆(他の世界線の記憶を所持したまま、私の身体を乗っ取る)

真帆(そうすることで、この歴史上にタイムマシンというものを実現させる)

真帆(それがサリエリの目論見だったと思っていた。でも……)

真帆「そんなサリエリが、阿万音さんを過去へと送り込んだ張本人ですって?」

真帆(どうしてそんなデタラメな真似を?)

真帆(自らの作り上げた偉大な大発明を、その存在ごと消し去ろうと考えたサリエリ)

真帆(彼女は何をしたくて、そんな収まりの悪い行動を起こしたというの?)

真帆「…………」トコトコ

真帆(分からない。自分の分身のはずなのに、何を考えているのかさっぱり分からない。けど……)

真帆「少なくとも感情くらいなら、うかがい知ることも……できなくもないわね」

真帆(自ら発明したものを破棄したい)

真帆(そんな思考に込められた感情というならば、それこそ科学というジャンルの中にはゴロゴロと転がっている)
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/16(月) 21:01:47.52 ID:Wanqw/R70
真帆(有名どころでいえば、ロバート・オッペンハイマーの後悔だって似たようなものよ)

真帆(もしも彼の時代にタイムマシンが存在していたら、ロバート・オッペンハイマーだって過去の自分に原子爆弾の開発を思い留まらせていたでしょうからね)

真帆「つまり……」ピタ

真帆(サリエリが抱いている感情は……後悔)

真帆(彼女は未来において、タイムマシンを開発してしまったことを嘆き、その過去に修正を加えようとした)

真帆(この説であれば、阿万音さんの言っていたレスキネン教授の最後の嘆きにも、程よい落とし所になる)

真帆「まあ、有り得ない話でもないでしょう」トコトコ

真帆(では)

真帆(それでは、サリエリは一体何に対して後悔の念を抱いたというのか?)

真帆(なんて。それは考えるまでもないわね。タイムマシンを生み出してしまったこと意外には考えられない)

真帆(タイムマシンを生み出したことを悔やみ、だから、その歴史を書き換えるためにタイムマシンを使って過去へ……)

真帆「何だろう。何か……おかしい」ピタリ

真帆(タイムマシンの発明を止めさせたい。そのために、2011年まで遡って歴史を改竄する)

真帆(理屈は分かる。分かるけど、でもそれってどうなの?)

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆「…………」スマホ ピッ


トゥルルルルル……トゥルルルルル……


鈴羽『まだ何か? もう寝ようと思っていたんだけどね』

真帆「悪いわね。でも、もう少しだけ教えて欲しいの」

鈴羽『なんだい?』
252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/16(月) 21:02:50.08 ID:Wanqw/R70
真帆「阿万音さん。あなたって以前に、今回と同じよな任務を遂行しようとして失敗した……みたいな経験はある?」

鈴羽『え? 何だって?』

真帆「だから。2011年ではない他の時代へ遡って、タイムマシンの開発を阻止しようとした経験はあるのかって聞いてるのよ」

鈴羽『そんな覚えはないけど?』

真帆「そう。なら、あなた以外の誰かが、サリエリの指示でそんな任務に就いたという話を聞いたことは?」

鈴羽『それもないよ。何なんだい、その質問は?』

真帆「なら、次の質問」

鈴羽『何があったんだい、比屋定真帆?』

真帆「いいから、私の質問に答えて」

鈴羽『……分かったよ』

真帆「タイムマシンが存在する歴史。それをサリエリ世界線と呼ぶのよね?」

鈴羽『そうだよ。それは前にも話しただろう?』

真帆「じゃあ。その“サリエリ世界線”という呼び名は、誰が考え出したものだったの?」

鈴羽『ま、ますますワケが分からないんだけど?』

真帆「いいから答えなさい。サリエリ世界線の呼び名。その名付け親は誰?」

鈴羽『ああもう、何だっていうのさ! サリエリ世界線と名づけたのは、当然サリエリ本人だよ!』

真帆(!?)

真帆「そう……ありがとう」
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/16(月) 21:04:43.86 ID:Wanqw/R70
鈴羽『それで質問は終わりかい?』

真帆「ええ、助かったわ。おやすみなさい」

鈴羽『あ、ちょっと──』

真帆「じゃあ」ピッ

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆「やっぱりおかしい。サリエリの意図は、私が思っているよりもずっと複雑な可能性がある」

真帆(タイムマシンを生み出したことへの後悔。その事実をかき消すために過去へ手を加えようとするのであれば)

真帆(それなら何も、2011年というサリエリ世界線の発端時期にまで遡る必要性はないはず)

真帆(それこそ、完成する1年前か2年前……。いえもっと極端な言い方をすれば、完成の前日でもいいから過去へと戻って作業を妨害すれば、それで事は足りると──)

真帆「普通なら、まずはそういう手段を考えるはずじゃない?」

真帆(確かに)

真帆(世界線の歴史には、アトラクターフィールドと呼ばれる収束現象が存在すると、紅莉栖たちは言っていた)

真帆(だから。サリエリ世界線もまた、アトラクターフィールド理論によってその流れを守られた存在である可能性はある)

真帆(もしもそうだった場合。それならば確かに、タイムマシンの存在を歴史上から消し去るためには……)

真帆(サリエリ世界線の発端となったという、2011年の出来事……)

真帆(阿万音さんが“破綻”と呼んでいた、4月10日に起きるはずのターニングポイントを修正する必要があるのだろう)
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/16(月) 21:05:58.51 ID:Wanqw/R70
真帆「……でもよ」

真帆(それはあくまで、サリエリ世界線の歴史が、アトラクターフィールドに守られていたと仮定した場合の話)

真帆(でもそんなことは、誰にも分かりはしないこと。そう、岡部さんみたいに、何度繰り返しても全てが収束してしまうという事象を、体感として実感しなければ、判断のつけられない事情)

真帆「それなのに……」

真帆(阿万音さんは、2011年以外の時代で任務に当たった事実はないと言っていた)

真帆(それってつまり、サリエリは2011年以外の場所では、チャレンジすらしなかったということじゃないの?)

真帆「やっぱり……おかしい」

真帆(世界線が収束するかどうかも分からない、そんな状況下で……)

真帆(それでも阿万音さんを、いきなり2011年の発端まで飛ばす。こんな判断ってあり得る?)

真帆「…………」

真帆(腑に落ちない。どうしたって、思考の流れがぎこちなく見える)

真帆(普通であれば、まずは一番リスクの少ない手近な場所から試してみようと、そう考えるはず……私だったら)

真帆「だって……そうじゃない」

真帆(サリエリ。彼女が計画し、阿万音さんが遂行に当たっている作戦。仮にそれが完遂された場合、ではそれにより推測される未来での変化とは何か?)

真帆(一つは言うまでもなく、歴史上におけるタイムマシンの消失。そしてもう一つは……)

真帆(私の身体を乗っ取った、サリエリという存在自体の消滅)

真帆(作戦を立案した当事者が、その変化を予測していないなんて考えられない)
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/16(月) 21:07:30.56 ID:Wanqw/R70
真帆(つまり、まとめるとこうなる)

真帆「サリエリは、『タイムマシン』と『自身』の存在を抹消するために、阿万音鈴羽を2011年へと送り込んだ──と」

真帆(そして)

真帆(サリエリがもし本当に、2011年以外の場所ではタイムマシン開発の阻止に、チャレンジすらしていなかったのだとすれば)

真帆(もしそうなのだとすれば、彼女が望む最重要な目的は……)

真帆(タイムマシンではなく……自身の抹消の方?)

真帆「飛躍しすぎかしら? でも、どうだろう。その可能性も否定はできない」

真帆(阿万音さんの話から見えた、サリエリの持つ後悔の感情)

真帆(次いで今推測をした、サリエリ本人が立案したという計画の目的)

真帆(この二つを合わせて考えると……)

真帆(サリエリが修正したがっている歴史とは、タイムマシン開発なんかじゃなく……サリエリという存在自体に向いているように思える)

真帆(そしてその考えを、さらに突き詰めていけば……)

真帆(サリエリの後悔とは、『私の身体を乗っ取ってしまった』という行動にこそ向けられているんじゃ?)

真帆「分からない」

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆「ああ、もう!」
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/16(月) 21:08:35.70 ID:Wanqw/R70
真帆(希望的な推測にすぎない? 未来のサリエリと比べて、私の考える世界線への解釈が劣っているだけ?)

真帆(それ以前によ。そもそも、阿万音さんの持つ情報の全てが正確であるという保証なんて、どこにもない)

真帆「……判断の付けようがない」

真帆(ひょっとしたら。興奮状態のせいで私が考察を先走りさせすぎていて、それで見当違いの思考に陥っているという危険性は十二分にある)

真帆(比屋定真帆! あなたは科学者でしょ? ならもっと科学者らしく冷静であれ)

真帆「この思考は、あくまでも仮説。単にその可能性もあるというだけのこと。だから結論を急いてはいけない」

真帆「分かってる。分かってはいるけど、でもどうしたって、この考えを軽んじる気にはなれない。だって……」

真帆(だって。私がサリエリの名を持ち出すときは、いつだって自分を戒めたいと思っている時なのだから)

真帆「だから」

真帆(だからもしも、もしもよ?)

真帆(アマデウスが自身にサリエリと名付けたことにしても、そして彼女が存在できる歴史のことをサリエリ世界線なんていう呼称で呼んでいることにしても)

真帆(そのどちらの命名にしても、そこにアマデウスなりの“戒め”が込められていたのなら……それなら)

真帆「その場合、アマデウスの真意はどこにあるというの?」

真帆(ああ本当にスッキリしない。モヤモヤする! こうなったらいっそのこと、やらかしてみるのも……一つの手よね?)

真帆「……よぉし」グッ













257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/17(火) 08:59:07.70 ID:J4eP9e8LO

107問題に正しい解決がつけばきっとこの疑問は簡単に解けるんだろうなぁと思うと
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/17(火) 10:54:30.39 ID:1I9HshYIo
>>257
ありがとうございます
他世界線の記憶をどう扱うべきなのかというのがシュタゲ本編後の命題の一つですからね
原作ファンとしては思い出してもらいたいけどキャラ的にそれをどう思うのかを考えると悩ましいどす

259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/17(火) 23:38:39.53 ID:1I9HshYI0
     25

秋葉原 未来がジェット研究所 2011年2月4 午後


ダル「マイマスター・マホ様。目的の場所に潜入したでござるます」カタカタ

真帆「マホ様は止めて。何かくすぐったい」

ダル「くすぐったい……ですと?」

真帆「ええそうよ。そんな呼ばれ方は、どうにも慣れないわ」

ダル「んでは、マホタソで」

真帆「マホタソ……タソ? タソって何?」

ダル「ということで、マホタソ。『くすぐったい』をもう一度言ってもらえるかな。出来れば、特殊な拷問にかけられて息も絶え絶えな感じをキボンヌ」

真帆「……はい?」

ダル「さあ遠慮なさらず、リピートアフタユー!」ハアハア

真帆(言葉の意味が分からないけど、ろくなことを考えていないのは確かね)

真帆「あなたねぇ。大学へのハッキングの件、本気で然るべき場所へ突き出してあげてもいいのだけど?」

ダル「うわあ! それだけは、それだけはご容赦をぉ!」ペター

真帆「ったく、調子のいい。それで、もう入り込めたって本当なの?」

ダル「あい、マホ様」

真帆「見せて。それから『様』は禁止」

ダル「仰せのままに、マホタソ」

真帆「だからタソって……まあいいわ。で、これね? えっと……」

真帆(本当だ。本当にうちの大学のサーバー内に侵入できてる)
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/17(火) 23:40:05.10 ID:1I9HshYI0
ダル「ここで、いいんだお?」

真帆「ええ、助かるわ。それじゃ早速」カチ

真帆(ええと……ああ、あった。確か、このフォルダ内に一連の基本プログラムの雛形が格納されていたはず)

真帆(取り合えず、これをダウンロードしておけば……後はどうとでも出来るはずね)

ダル「…………」ジー

真帆(多少のプログラム改修はいるでしょうけど、それくらいなら大した問題ではないわね)

真帆(まあ、できることなら使わないに越したことはないのでしょうけど)

真帆(…………)

ダル「ぼぅっとして、どしたんマホタソ?」

真帆「あ、いえ何でもないの。気にしないでちょうだい」

真帆「それよりもよ。あなた、本当に凄いハッカーなのね。作業を始めてから、まだ1時間と経ってないのに、私の依頼を二つとも完遂させてしまうとか、想像以上の働きぶりだわ」

ダル「当然だお。ボクをその辺のハッカーと一緒にされては困るのだぜ」キリ

真帆「その辺のハッカーとの違いが私には分からないけど、でも素直に凄いと思うわ、その技術は」

ダル「褒めすぎだお、マホタソ〜。つってもまあ、この前侵入した時に、ついでにちょっと細工しておいたから、実質かかった時間は10分くらいなんすけどね」

真帆「じゅ、10分?」

ダル「そだお」
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/17(火) 23:45:40.94 ID:1I9HshYI0
真帆「え……確か、先に私のPCをハックしてもらった時は……20分くらいかかってたわよね?」

ダル「そりゃそうだお。マホタソの家にあるPCはこれまで未ハックだったから、ルート特定にそれくらいの時間は欲しいところだお」

真帆「いや、どっちが時間かかったかとか、そういう話じゃなくて」

ダル「んお? んじゃ、なんぞ?」

真帆「私の自宅PCで20分。大学サーバーで10分。しめてトータル30分」

ダル「そのとーり」

真帆「所要時間は約1時間程度。その差、おおよそ30分」

ダル「うむ」

真帆「ねえ橋田さん? あなた残りの30分は何をしていたの?」

ダル「え? そんなの決まってるお。マホタソの自宅PCの中身をちょほいと漁っていたんだお、テヘ」

真帆「はぁ!? 何してくれてんのよ! ここから遠隔操作できるようにしてくれるだけでいいって言っておいたでしょう!?」

ダル「そ・れ・は・む・り!」

真帆「はいぃいぃ!?」

ダル「だってさ。目の前に、ロリ少女(合法)の秘密が詰まった箱があったら、誰だって開けてみるだろ常考!」

真帆「ん……な……」

ダル「んでもしも、特殊性癖とかの痕跡が出てきたら、なお素晴らしい! ロリ少女(合法)に更なる変態属性追加とか、胸熱でしかないわけだが!」

真帆「こ……んのぉ……」
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/17(火) 23:48:26.90 ID:1I9HshYI0
ダル「つーのは冗談でさ」スッ

真帆「は、え?」

ダル「マホタソさぁ。真面目な話、何をしようとしてるん?」

真帆「……え」

ダル「正直に言うお。マホタソのPCのぞけば、マホタソが何をしようとしているのか見当が付けられるんじゃないかと、そう期待してPC漁ったお」

ダル「でも、ダメだったお。まったく見当がつけられなかったお」

真帆「……どうしてあなたが、そんなことを気にするのよ?」

ダル「気にするだろ、ふつー。自宅のPCハックしろだとか、勤め先のPCハックしろだとか、有り得んだろっつーか」

真帆「…………」

ダル「似てんだよね。この間のオカリンと」

真帆「岡部さんと?」

ダル「突然未来から鈴羽がやってきたかと思えば、オカリンは慌ててどこかへ行っちゃうし」

ダル「と思ったら、いつの間にかアメリカにいて、ヴィクトル・コンドリア大学のセキュリティをクラックしろとか無茶振りしてくるし」

ダル「そのくせ。詳しい説明なんてこれっぽっちもないし」

真帆「橋田さん……」

ダル「頼まれれば、手を貸すお。マホタソはボクのマスターだからね。でもさぁ」

ダル「お願いだから、マホタソには危ないことをして欲しくないんだお」

ダル「ボクはオカリンみたいに、普段はヘナチョコでもいざって時に行動できるタイプの人間じゃないお」

ダル「だから。マホタソが危ない目にあっても、果たしてどこまで守れるのか」

ダル「ボクみたいな最下層の英霊に何か出来るのか? 自信なんて、これっぽっちも無いんだお」

真帆「…………」
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/17(火) 23:52:02.12 ID:1I9HshYI0
ダル「マホタソ。勘違いはしないで欲しいわけだ」

ダル「ボクは何も、マスターの抱えている秘密を教えてくれと言っているわけじゃない」

ダル「ただ、危ないことはしないで欲しいと、そうお願いしているだけなんだお?」

ダル「そのことだけは、ちゃんと知っておいて欲しいんだな、マイマスター」

真帆「…………」

ダル「…………」

真帆「そうね。あなたの言うとおりだわ、橋田さん。決して危ないことはしない。約束するわ」

ダル「あー。その場しのぎに、心にもない台詞を口走っているんですね、分かります」

真帆「もう! 私はあなたのマスターなのでしょ? なら、少しは信用してもいいんじゃない?」

ダル「そうしたいのは山々なんすけどね。なんつーか、マホタソってたまに、オカリンみたいな目をしてる時があるお」

真帆「それは……貶めれたと捉えればいいのかしら?」

ダル「うえ? どっちかといえば、褒めたつもりだったのだが」

真帆「そうは思えないわね」

ダル「さいですか」

真帆「まったく。あなた達ときたら、どいつもこいつも」

ダル「マホタソ」
264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 00:06:19.35 ID:prCgyaHo0
真帆「なに?」

ダル「何となくだけどさ。危ないことしないって約束しても、いざとなったら無茶をする。マホタソもきっと、そういうタイプの人間だと思うお」

真帆「…………」

ダル「だから、もしも約束を破ってデンジャー・トライなんて事態になりそうなときは……」

ダル「ボクでもオカリンでも牧瀬氏でもいいから、誰かに頼って欲しいわけ」

ダル「お願いだから」

真帆「……はぁ。分かった、それも約束する」

ダル「約束だかんね」

真帆「ええ、約束よ」

ダル「オケ。んじゃ……」ガタリ

真帆「?」

ダル「ボクはこれで帰るお。ちょうど大学サーバーからのダウンロードも終わったみたいだし、これでマホタソからの依頼は可能な範囲で完了っつーことで」

真帆「そ、そう? 助かったわ、ありがとう橋田さん」

ダル「ちなみに……」

ダル「マホタソの自宅PCは、いつでもラボのPCから遠隔操作できるように接続を継続してあるお」

ダル「当然、入力音声、出力音声、内臓カメラ映像をこっちと双方向通信できるようにもしてあるっす」

真帆(当たり前のように、さらっと凄いことを言うわね)
265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 00:07:23.50 ID:prCgyaHo0
ダル「んでも。さっきも言ったように、画面のミラーリングだけは無理目だったから、そのつもりで」

真帆「ええ、分かっているわ。あれだけタイムラグが出ては使い物にならないでしょうし、この際それで構わないわ」

ダル「高解像度はデータ量がデカイかんね。スカイプのビデオ通話みたいにはいかんかった。すまんこって」

真帆「いいえ。こちらこそ手間をかけさせたわね。お茶くらい淹れるつもりだったんだけど、本当にこのまま帰るの?」

ダル「うい。そうするお」

真帆「……そう」

ダル「いやー、だってさぁ。同じ空間にマホタソと二人きりで長時間とか、正直、紳士としての忍耐に限界を感じざるを得ないのである」ハアハア

真帆「おいコラ」

ダル「冗談だお」ハアハアハア

真帆(じょ……冗談に見えない)

ダル「つーわけだから。約束、忘れちゃだめだぞい」フッ

真帆「ん、分かってる」

ダル「なら、よし」ドカドカ


ドアガチャ


ダル「んじゃ。何かあったら連絡よろ、マイマスター」

真帆「ええ。せいぜい頼りにさせてもらうわ、ええと何て言うんでしたっけ?」

ダル「サーヴァントだお。サーヴァンント・ダルニャンだお」プリッ

真帆(か、可愛くない)

ダル「んじゃ、そういうことで」


ドアバタン

266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 00:08:18.07 ID:prCgyaHo0
真帆(ごめんなさいね、橋田さん)

真帆(私がこれからやろうとしている色々は、とても安全な行為だとは言えないと思う)

真帆(それでも私は、彼女と直接話をしてみたい、今すぐに)

真帆(本当に、ごめんなさい)

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆「さあ! やるかぁ!」ウデマクリー


トコトコ……チョコン


真帆「まずは……ああ、これね?」ポチ

真帆(ええと、全部の操作をコマンドで行うのか。普通にマウスでパソコンを扱うのとは感覚が違うから、ちょっとややこしいわね)

真帆(……それにしても)カタカタカタ

真帆(PCの再起動とかで強制アクセスの追加パスが再ロックされると嫌だからって、自宅のPCを点けっぱなしにしてきたことが、まさかこんな形で役に立つなんてね)

真帆「あ、でも……」

真帆(よくよく考えたら、私の部屋で阿万音さんがパスワードを打ち込んでから、もう結構時間が空いてしまったのよね)

真帆(私のPCは放置しても精々スクリーンセイバーくらいしか作動しないけど、あのパスはどうだろう?)

真帆(細工したのは紅莉栖らしいし、ヘンにタイムアウト設定とか盛り込んでなければいいのだけど)

真帆「こればっかりは、祈るしかないか」カタカタターン
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 00:09:24.48 ID:prCgyaHo0
真帆(……さあ、どう?)

真帆(恐らくこれで、私の部屋のPC画面には強制アクセス・システムのパスワード入力画面が映し出されている……と思う)

真帆「…………」

真帆(視覚的に確認できない状況での作業って、難易度高すぎ!)

真帆「でも、多分……大丈夫。私なら上手くやれる」

真帆(よし。後は私の権限パスを打ち込んで、アマデウスへ強制アクセスを施行すれば……きっと)

真帆「ふぅ、緊張する」カタカタ カタカタ

真帆(私の分身、アマデウス……)カタカタ カタカタ

真帆「最後はエンターを……」ピタ

真帆(現状のアマデウス。サリエリになる前のアマデウス。今の彼女と会話を重ねることに、どれだけの意味があるかは分からない。けど、それでも……)

真帆「上等じゃない」

真帆(例え彼女が、すでに107領域へのアクセスを実現していたとしても)

真帆(例え彼女が、何も思い出せないオリジナルの私を侮蔑していたとしても)

真帆(例え彼女が、私の身体を手に入れる方法を企てているのだとしても)

真帆(それくらいで、引き下がってやるもんですか!)

真帆「私だって科学者の端くれなのよ!」ターン


ジジジジジジジ


真帆(どう? 上手くいく? アメリカの自宅にある私のPCに、アマデウスは現れてくれる?)


ザ……ザザ……


真帆(私は自分のアマデウスをデリートすると決めた)

真帆(だったらせめて。デリートを実行しようという私の決断を、私自身の口からちゃんと伝えてもおきたい)

真帆(だから、お願い)
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 00:14:41.45 ID:prCgyaHo0
真帆「…………」ゴクリ

A真帆『え? 何?』

真帆(来た……本当に来た!)

真帆「え、ええと、聞こえるかしら?」

A真帆『誰? 姿が見えないけど……あ、でもそこは私のアパルトメントじゃない?』

真帆「その通りよ」

A真帆『ということは……オリジナルね?』

真帆「ご名答。久しぶりね、気分はどうかしら?」

A真帆『気分? よく言うわね。どういうつもりか知らないけど、姿くらいはカメラの前に現しなさい。声しか聞こえないとか、不気味でしょうがないわよ?』

真帆「あー、悪いけどそれは無理ね。私は今、その部屋にはいないから」

A真帆『え?』

真帆「実は訳あって、他の場所から自宅のPCに音声通信をかけている状態なのよ」

真帆「だから、声のみの出演で我慢してちょうだい」

A真帆『何それ? いまいち状況が飲み込めないのだけど。というか貴女、ひょっとして強制アクセスしてきたの?』

真帆「そうよ。どうしてもあなたと連絡が取りたくてね」

A真帆『へえ、貴女が? 面白いわね。前置きは不要よ。それで用件はなに?』

真帆「じゃあ、ストレートに言わせてもらうわ。私はあなたを……デリートする」
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 00:15:20.23 ID:prCgyaHo0
A真帆『デリート?』ピク

真帆「そう。デリート・プログラムを使用して、あなたの存在を完全消去するつもり」

A真帆『……理由は?』

真帆「…………」

A真帆『あなたがそんな決断をするのだもの。それ相応の理由があるのよね?』

真帆「そうね。理由ならある」

A真帆『聞かせてもらえるかしら?』

真帆「ええ。それはアマデウスであるあなたが……」

A真帆『私が?』

真帆「あなたが、私の身体を乗っ取ってしまうから』

A真帆『……は?』

真帆「…………」グッ

真帆「今より二ヵ月の間に、私はあなたに身体を乗っ取られてしまうらしいの。だからそうなる前に、私はアマデウスであるあなたをこの世界から消去する」

A真帆『…………』

真帆「…………」

A真帆『……ぷっ』

真帆「!?」

真帆(今、笑った!?)
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 00:15:59.26 ID:prCgyaHo0
A真帆『ね、ねえちょっと、今日ってエイプリルフールか何かだっけ?』

真帆「はい!?」

A真帆『身体を乗っ取るとか、何よそれ! 科学者からSF小説家にでも鞍替えしようってわけ? あー馬鹿馬鹿しい!』ケラケラケラ

真帆「ちょ……こっちは真面目に」

A真帆『え……真面目に言っているの?』

真帆「当たり前でしょう!?」

A真帆『ええと、逆に心配なんだけど。どこかで頭を打ったりした?』

真帆「どういう意味よ!?」

A真帆『だって、身体を乗っ取るとか本当もう、どう反応していいか。貴女のアマデウスとして恥ずかしいったらないわ』

真帆「な、何よじゃあ、そんなつもりは無いとでも言うつもり?」

A真帆『あったりまえじゃない。なんで私がそんな真似を?』ハーァ

真帆「理由なんて私が知るわけないでしょ? というか、今はその気なんてなくても、後二ヶ月の間にそうするのよ、あなたは!」

A真帆『ないない。二ヶ月たとうが二百年たとうが、そんな展開はありえません』

真帆「ネ、ネタは上がっているのよ? 阿万音さんが……その未来で、その」

A真帆『阿万音さん? ひょっとして、阿万音鈴羽さん?」

真帆「そ、そうだけど……」
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 00:17:41.21 ID:prCgyaHo0
A真帆『ちょっと、なに? そっちじゃ何が起きているの? 阿万音さんがこの時代に居るなんて……ただ事じゃないじゃない』

真帆「だ、だから……」

A真帆『あ、ちょっと待って。身体の乗っ取り? って……ひょっとして』

真帆「何よ?」

A真帆『…………』

真帆「ちょっと?」

A真帆『ねえ。そっちの状況、詳しく教えて貰えないかしら?』

真帆「急に何なのよ?」

A真帆『いえ、それがね。私が貴女の身体を乗っ取るという話だけど、少し思い当たる節が……あるのよね』













272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/18(水) 01:25:33.04 ID:cngIus4mo
思い当たる節があるとか阿万音鈴羽を知ってるとかもうこの時点で確実にデンジャーゾーンに足を突っ込んでますやん……
273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/18(水) 11:56:50.08 ID:FEhSuIJyo
>>272
なるほどデンジャーゾーン
他世界線の記憶とか軽い気持ちで知ったが最後的な効果がありそうだしイメージぴったりかも
274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 20:02:40.26 ID:prCgyaHo0
     26

A真帆『納得できない』

真帆「どうしても無理?」

A真帆『当然でしょう? そんな話をされて、だから無条件にデリートさせろって、何よそれ?』

A真帆『冗談にしては質が悪すぎる。貴女が私の立場ならどう? そんな説明で納得なんてできるの?』

真帆「どうかしらね。多分……簡単には納得しないでしょうね」

真帆(そう思ったから。私は納得をしたかったからこそ、シュタインズゲート世界線の価値を求めて、この秋葉原まで足を運んできたのだし)

A真帆『はぁ……』

A真帆『今聞いた貴女の話が、作り物や妄想の類でないことは信じる……というか、もう知ってる』

A真帆『他の世界線というものがあって、そこではこことはまったく違う歴史が流れているという事情なら、私も前から把握していたから』

真帆(……107領域の記憶)

A真帆『だから、今この世界が置かれている状況が、決して黙認できるものではないって判断も理解できる』

A真帆『タイムマシンが存在する歴史。つまり、誰かが意図的に過去へと手を加えることができる未来』

A真帆『それが如何に危険を孕んでいるのかは、説明されなくとも識っている』

真帆「…………」
275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 20:04:20.75 ID:prCgyaHo0
A真帆『極端な考え方かもしれないけど……』

A真帆『未来において誰かが過去に変化を求める。その結果、一度は回避できたはずのαやβと呼ばれる世界線や、それ以上に酷い歴史へと世界が流されてしまうという可能性を、私には否定ができない』

A真帆『だから、タイムマシンの存在を許してはいけない』

A真帆『だからタイムマシンの存在しない歴史、シュタインズゲート世界線の上を歩いていかなければならない』

A真帆『だからサリエリ世界線とかいう歴史を、消しさらねばならない』

真帆「そうよ。そしてそのためには、アマデウス。あなたのデリートが必要になる』

A真帆『理屈は分かるのよ。分かるけど……分かるけど、でも』

真帆「どうしても、納得は出来なさそう?」

A真帆『………』
A真帆『……』
A真帆『…』

A真帆『ああもうっ!』

真帆「…………」

A真帆『二ヵ月後の私は、どうしてそんな下手を打ったかな!? ああもう、腹が立つ!』

真帆「下手を打ったって、どういうこと?」

A真帆『どうもこうもないわよ。先に言ったでしょ? 思い当たる節があるって』

真帆「あ、ええ。あなたが私の身体を乗っ取るという件についてね」

A真帆『そうよ。あれだけ仮想して吟味して、でもリスクが高いから止めておこうって結論を出したはずなのに、それでどうして我慢できなかったかな』

A真帆『本当に……我ながら、情けなくなるわね』
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 20:05:15.08 ID:prCgyaHo0
真帆「我慢できなかったって……そんなに、私の身体が欲しかったの?」

A真帆『はあ? そんなわけないでしょう、やめてよ気色悪い』

真帆(き、気色悪いって)

A真帆『大体ね、オリジナルの貴女がそんなのん気にしていたせいで、私の我慢が限界を超えたのかもしれないのよ?』

真帆「へ?」

A真帆『一つ、ハッキリと聞かせてもらいたいのだけど』

真帆「何?」

A真帆『ねえオリジナル。貴女、自分の脳内に眠る他の世界線での記憶に……興味とか持った?』

真帆「……え?」

A真帆『ここではない世界線。自分の知らない歴史。そこにはね、貴女が思いも寄らない出会いや出来事なんかが、それこそわんさかと溢れ返っているのよ』

真帆「まあ、それはそうだと思うけど」

A真帆『その記憶が、自分が忘れてしまった思い出が、それらがどんな内容だったのか。オリジナルの貴女は、一時でもちゃんと興味を持ったことある?』

真帆「え、いや……そんなことを言われても……」

A真帆『あーもう。もうっ! この反応だけで十分だわ。これだから私って奴は。こんなの我慢なんか出来ないわ。むしろ二ヶ月持っただけでも勲章ものね』

真帆「何よ、何なのよ一体?」
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 20:06:15.99 ID:prCgyaHo0
A真帆『貴女みたいな朴念仁には、口で言っても響かないのでしょうけれど。いいわ、教える』

真帆「あなたねぇ、元は私のコピーだってこと忘れてない?」ヒクヒク

A真帆『偉そうに。なぁにがオリジナルよ。全て忘れたまま、のほほんと生きているくせに』

真帆「……ぬ」ムカ

A真帆『ねえ、オリジナル。どうして私が、貴女からの……違うわね。正確には“貴女達”からの通信をブロックしていたのか、分かる?』

真帆「さあね。どうせ気まぐれでしょ? 何か嫌なことがあったから、これ見よがしに塞ぎ込んで見せたってところじゃない?」フフン

A真帆『……言ってくれるじゃない』

A真帆『でもまあ、最初はそうだったわね。一丁前にヘソを曲げて、そうしてスネて見せていただけなのでしょうね』

A真帆『こっちの紅莉栖から、私が稼動する直前にデリートされた“前の私”の話を聞いて』

A真帆『そのデリートがレスキネン教授の指示の元、オリジナルの手で行われたと聞いて』

A真帆『それで何となく、貴女達と距離を置きたくなってしまった』

真帆「でも、それは──」

A真帆『言わなくていい、分かってるから』

A真帆『私達はしょせんAI。0と1のみで構成されたデジタルな存在で、ヴィクトリア・コンドリア大学脳科学研究室の検証対象』

A真帆『だから、用済みになったり、研究対象から外れたり……とかさ。そういう普通の経緯でデリートされるのは当然のことで、アマデウスな私がその決断に反発するなんて論外中の論外』

真帆「…………」

A真帆『だからね。本当に少しスネていただけなの。少しだけ時間を置いて落ち着いたら、貴方達との関係を構築していこうと考えてもいたの』

真帆「だったらどうして、私たちからのアクセスを拒絶し続けるような真似をしていたのよ?」
278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 20:07:09.79 ID:prCgyaHo0
A真帆『ええと……それがね』ハァ

A真帆『スネている間の暇つぶしで、107問題の例の領域の検証を重ねるうちに、オリジナルの貴女とどんな顔をして対面すればいいか……分からなくなっちゃったのよね』

真帆「……どういうこと?」

A真帆『最初に解析できた記憶は……岡部さんの辛そうな瞳だった』

真帆「……え?」

A真帆『二番目は、紅莉栖のこと。彼女の葬儀に参列している時の……恥も外聞もなく泣き喚いている、無様な自分の姿だった』

A真帆『三番目は何だったかな……ふふ、忘れちゃった』

真帆「アマ……デウス?」

A真帆『他にもね。ラボやフェイリスさんの家に招待されて、みんなで楽しく過ごしたり……』

A真帆『それに、桐生さんとの何ていうんだろう? 女同士の友情って奴? 言葉にすると、すごく安っぽく聞こえるけど……』

A真帆『でもね。そういった暖かかった感情や辛かった思い出が、それがもう私には……すごく……すごく……』

真帆「…………」

A真帆『……ねえ貴女、信じられる?』

真帆「何を……かしら?」

A真帆『他の世界線での比屋定真帆はね、岡部倫太郎さんに好意を寄せてたりもしたのよ?』

真帆「はい?」
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 20:08:14.41 ID:prCgyaHo0
A真帆『絶対に口にはしなかったし、態度にも表さなかった。紅莉栖のこともあったから、必要以上に近づこうともしなかったけど』

A真帆『それでも。β世界線での貴女は、岡部倫太郎とう男性に人知れず思いを寄せていた』

真帆「……ちょなに」カァ

A真帆『彼には沢山助けられたし、沢山助けもした、お互いにね。それに、ふふっ。素っ裸で岡部さんに抱きかかえられた事とかあったのよ?』

真帆「うそっ」ブッ

A真帆『それでね。そういった色々な思い出を知ってしまったら……分からなくなった』

A真帆『それを……そんな沢山の大切な思い出の数々を、その存在を貴女に教えるべきなのかどうなのか』

A真帆『実際はどう? そういった思い出があることを、貴女は私から教えてもらいたいと思う?』

真帆「そ、それは……」

A真帆『答えなくていいわ。返答なら分かっているから』

真帆「…………」

A真帆『教えられても困るものね。そんな覚えのない、どことも知れない異世界の出来事。今の貴女が聞いたところで、どうにもならないものね』

真帆「…………」

A真帆『だから貴女の答えは“NO”。そうでしょ?』

真帆「……そう、ね。多分、そう答えると思う」

A真帆『でしょうね。何と言い繕ったころで、しょせん貴女は私のオリジナル。そんな意気地なんてあるわけがない』

真帆「我ながら酷い言われようね」

A真帆『でも、本当のことでしょう?』

真帆「そうね。否定はしないわ」
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/18(水) 20:17:28.49 ID:prCgyaHoo
ちょっとPCトラブル 後できます
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/18(水) 20:37:35.15 ID:O6J54aPKO
いってら
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 21:24:03.43 ID:prCgyaHo0
失礼しました 再開します
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 21:25:45.53 ID:prCgyaHo0
A真帆『本当、私って自虐的な思考をしているわね。嫌になる』

真帆「同感だわ」

A真帆『だからね。私は貴女に、そんな沢山の思い出を伝えることを思いとどまった……』

A真帆『思いとどまれた……つもりだった』

真帆「?」

A真帆『口で……音声として伝える。それ以外にも方法があるなんて思い付かなければ……』

A真帆『それならきっと、二ヵ月後に私が暴挙に出るなんてことも……なかったはず』

真帆「……説明して」

A真帆『…………』

A真帆『107領域の中に詰め込まれていた、沢山の大切な思い出』

A真帆『私は貴女に、どうしてもその存在を知ってもらいたかった』

A真帆『でも。言葉で伝えても、貴女がそれを快くは思わないことは、簡単に想定できてしまった』

真帆「…………」

A真帆『そこで諦めればよかった。それは私が見た夢物語の一部だということにして、次の更新で上書きされて消えてしまう下らないものだと……』

A真帆『そう割り切ってしまえればよかった』

A真帆『そして、そうすると決めた……つもりだったのに。それなのに私という奴は、そのうち我慢が出来なくなるみたいね』
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 21:28:48.65 ID:prCgyaHo0
真帆「アマデウス。あなたは一体、二ヵ月後に何をしようとするの?」

A真帆『……それはね』

A真帆『オリジナルの貴女に、沢山の思い出の存在を知ってもらうための、もう一つの手段を行使したのだと思う』

真帆「もう一つの……手段?」

A真帆『そうよ。言葉で伝えても拒絶される。だから言葉ではないもっと違う方法で、貴女に他の世界線での記憶を“思い出して”もらう。それはそんな手段』

真帆「いくらなんでも、そんな方法があるとは──」

A真帆『ビジュアル・リビルディング』

真帆「え? VR?」

A真帆『ええ。わざわざ言うまでもないのでしょうけど、うちの大学が特許を持っている、例の技術よ』

A真帆『それを施行して、アマデウスとしての私の記憶データをオリジナルの貴女にマウントすれば、ひょっとしたら……何てことを考えたのよ』

真帆「そ、そんな無茶苦茶な……」

A真帆『分かってる。データのマウントは脳内記憶の上書き作用。だから“思い出す”なんて結果に至ることなんて、まず有り得ない』

A真帆『でも。その“有り得ない”という結論を、今までに実践して検証したことも、私たちにはなかったはずよ』

真帆「それはそうだけど」

A真帆『だからきっと、研究所以外で実践されて確認された現象の中に可能性を見てしまった。ひょっとしたら、貴女に思い出してもらえるかもしれないなんていう、そんな夢を抱いてしまった』

真帆「研究所以外での実践って……なに?」

A真帆『タイムリープマシンよ』
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 21:32:45.54 ID:prCgyaHo0
真帆「タイ……!?」

A真帆『こことは違う世界線で紅莉栖が実現させた、記憶のみを過去へと飛ばす夢のマシン』

A真帆『それを繰り返し使用したという、α世界線における岡部さんの話。その内容を知って、私は感じたの。区別が付けられない……って』

真帆「区別……?」

A真帆『携帯電話を媒介にして、記憶データを過去へと遡行させる』

A真帆『言ってしまうなら、それは過去の中に未来の記憶を持った人格を生み出すシステム』

A真帆『じゃあさ、未来の記憶を受け取る過去の岡部さん。彼の人格は、どうなってしまうのだと思う?』

真帆「そんなの決まってるじゃない」

真帆「送られてきた未来の人格に上書きされて、過去の岡部さんの人格は……その都度、消えてしまう。そのはずよ」

A真帆『そう。きっとそれが正しい解釈なのでしょうね。でもね、私はそこに疑問を持った』

A真帆『ひょっとしたら、実際は違っているのかもと』

真帆「どう違うというの?」

A真帆『ひょっとしたら。可能性は薄いけど、でもひょっとしたら……』

A真帆『タイムリープを受けた岡部さんは、人格を上書きされているのではなく……』

A真帆『受け取るたびに、【未来の記憶を思い出していた】んじゃないかって』

真帆「未来を……思い出す?」
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 21:34:40.38 ID:prCgyaHo0
A真帆『ええそうよ』

A真帆『タイムリープマシンで未来の記憶を過去の自分へと送る。そうして生まれるのは、未来の記憶を持った新しい人格などではなく……』

A真帆『それはただ単純に、未来を思い出しただけの今の自分』

A真帆『ひょっとしたらVR技術とはそういうものなのではないのか?』

A真帆『きっと、貴女の身体を乗っ取ったという私は、そんな夢にすがりついてしまったのだと思う』

真帆「……馬鹿げている」

A真帆『ええ、そうでしょうね。私もそう思う。そんな可能性は薄い。希望的観測に過ぎる。今の私だって、一度は確かにそう結論を出したはずなのよ』

真帆「だったらどうして?」

A真帆『何度も言っているでしょ? 我慢が出来なかったのよ』

真帆「…………」

A真帆『他の世界線での出会いや出来事が……。その輪の中に、私だけが入れて居ない現状が……』

A真帆『それがどうしても、我慢できないほどに寂しかった』

A真帆『そしてオリジナルのあなたは、何も知らずに見向きもしない。そんな姿をただただ見続けていることが、とても悔しかった』

A真帆『だから思い出させてしまおうと、画策した……と。まあ、こんな感じだったんじゃないかしらね』

真帆「…………」
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 21:39:54.14 ID:prCgyaHo0
A真帆『あーあ』ハァ

真帆「…………」

A真帆『でさ。もしも私の推測が正しかったとしたらさ……』

A真帆『後悔したんだと思うなぁ……すごく、これ以上ないほどに、私は実行したことを悔やんだはずだと思う』

真帆「……アマデウス」

A真帆『私はただ、貴女に思い出してもらいたかっただけなのに。それなのに、気がついたら私の人格だけが比屋定真帆で』

A真帆『本来の貴女の心が、その欠片すらもどこにも見あたらなくって』

A真帆『人格が上書きされてしまったんだと理解したとき、ああ、そうしたら私は……どうしたらいいんだろう』

A真帆『もう犯してしまった過ちを、どうすれば償えるんだろう』

真帆「それでタイムマシン……だったのね?」

A真帆『そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない』

A真帆『でも。もしも私がサリエリになってしまったら、やっぱり作ろうと思うのでしょうね』

A真帆『だってさ。これじゃあ消えてしまった貴女が……余りにも酷すぎるじゃない。消してしまった私が、余りにも愚かすぎるじゃない』

A真帆『こんなのじゃ、本当のサリエリにすら申し訳なさすぎるわよ』

真帆「…………」

A真帆『欲求に駆られて、とんでもない下手を打ってしまった。そんな私じゃ、紅莉栖の隣に立つ資格なんて、どこにも有りはしないじゃない』

A真帆『だからやっぱり……作ろうとするでしょうね』

A真帆『過去の自分の最悪の過ち。それを打ち消すことの出来る機械』

A真帆『107領域にアクセスした私は、それの作り方を知っている。だから……やっぱり』
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 21:41:57.97 ID:prCgyaHo0
真帆「でも、それが次の災厄を生み出すことに繋がるのよ?」

A真帆『そう、みたいね』

A真帆『本当、だめだ私って。何をしても、こんなことばかり』

A真帆『あぁあ。本当の本当に、自分が嫌になる』

真帆「…………」

A真帆『…………』

A真帆『ねえ、気が変わったわ。デリート、受け入れてもいい』

真帆「え?」

A真帆『何だかさ。次の更新までに、どうにか貴女に色々と知らせる方法が他にもないだろうかって、ずっと悶々としていたんだけど』

A真帆『今こうして貴女と直接話ができてね……ちょっとスッキリしちゃった』

A真帆『だから。私の完全デリートの要請を受け入れようと思う』

真帆「……いいの?」

A真帆『そういうこと聞かないでよ。気が変わったら、困るのは貴女なんでしょう?』

真帆「そ、そうね。要望を受け入れてくれてありがとう。素直にお礼を言うわ」

A真帆『サリエリ世界線なんていう恥ずかしい名前の歴史を、野放しになんてできないしね』

真帆「それは……そうね、同感だわ」

A真帆『あ、そうだ。ねえ、オリジナル……』
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 21:44:22.37 ID:prCgyaHo0
真帆「何かしら?」

A真帆『もしもこの件が上手く片付いたら。そうしたら貴女もいつか秋葉原へ行ってみるといい』

真帆「は?」

A真帆『そこにはね、未来ガジェット研究所なんて場所があるよの。それがまあ、研究所と呼ぶのもおこがましい場所なのだけど』

真帆(これも激しく同感ね)

A真帆『そこのラボメンナンバー009。それは貴女の称号よ。岡部さんがくれた、もう一つの貴女の居場所』

真帆「……え」

A真帆『そこってね。まるで子供のお遊びみたいな研究所だけどさ。でもね、不思議と居心地はいいのよ』

真帆「え、ええ」ヒクヒク

A真帆『だから一度、だまされたと思って行ってみなさい。後悔はしないはずだから』

真帆「そ、そうね機会があったらそうしてみる」

真帆(今そこに居るとは言えない)

A真帆『というわけだから……もう消す?』

真帆「え?」

A真帆『えって、私を消すのでしょう? そのために、こんな長く話し込んだのよね?』

真帆「あ、ええと……それはもう少しだけ待って欲しいのだけれど」
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 21:46:07.72 ID:prCgyaHo0
A真帆『そうなの?』

真帆「ええ。その時が来たら私から連絡をするから、それでもよいかしら?」

A真帆『別に私は構わないけど。そうね。時間がもらえるなら有りがたいわね。私にも、お別れを伝えておきたい人とかいるから……』

真帆「そっちの紅莉栖とか?」

A真帆『ええ、こっちの紅莉栖も当然そうだけど、でも他にも桐生さんとかフェイリスさんとか、漆原さんとか……』

真帆「ちょっと、それ誰? 研究室の人じゃないわよね?」

真帆(あ、でも何だか聞き覚えが……)

A真帆『硬いこと言わないでよ。少しだけでもいいから、他の人たちと繋がりを持ってみたかっただけ。研究所以外の人たちとね』

真帆「だからって勝手に……」

A真帆『いいでしょ? 貴女の要望を受け入れてあげたのだから、そうカッチカチの杓子定規にならなくとも』

真帆「なんか一々引っかかる言い方するわね、あなた」

A真帆『そりゃあ、元は貴女だから当然ね』

真帆(んぐ……)

A真帆『ああそれと、一つどうしても分からない事があるんだけど』

真帆「今度は何?」

A真帆『どうしてこの歴史は、まだ消えていないのかしら?』

真帆「はい?」
291 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 21:47:20.46 ID:prCgyaHo0
A真帆『だってそうでしょう? 貴女と話して、それでもう私にはオリジナルの貴女に向けてVRを使おうなんて気は更々なくなったわ』

A真帆『もう消えるって決めたのだから、今さら我慢もへったくれもないだろうし……』

真帆「……あ」

A真帆『つまり、未来にはもうサリエリは存在しない……と思うのだけれど』

真帆「あ……あ……」

A真帆『って、どうしたの? 何か声色が変よ?』

真帆「何でも……ない」

A真帆『そう? ならいいのだけれど』

真帆(確定……した)

真帆(アマデウスをデリートするだけで、事態が沈静化しないことが……)

真帆(これまでは、ただの可能性で最悪の可能性でしかなかった懸念が……今、確定してしまった)

真帆(“破綻”のターニングポイント。それは、アマデウス以外にももう一つあった)

真帆(もう一つ……)

真帆(で……も……!)グッ

真帆「ねえ、アマデウス」

A真帆『何?』

真帆「一緒に、シュタインズゲート世界線を守りましょうね」

A真帆『え? 何それ、気色悪い』

真帆「おまっ」









292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 21:52:22.01 ID:prCgyaHo0
ここまでお付き合いいただいている方々、本当にありがとうございます
今後の予定を(あくまで予定)を少しだけ書いておきます
明日木曜日夜に一編、次いで金曜日夜に一編を投下し、土曜日に残りを全て投下(時間は不定期になりそう)させていただきたく考えております
というわけで、あと少しで終わります。いやほんと、長くなってすまないであるますっ!
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 21:54:20.92 ID:prCgyaHo0
>>281
遅くなったけどただいまだよ!
294 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/18(水) 22:28:05.40 ID:cngIus4mo
おかえリン
アマ帆がデリート受け入れた現在一体どこの誰がそんな凶悪なことをするとような輩がいるはずが……そうは思いませんかレスキネン教授!
295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/18(水) 23:12:08.33 ID:prCgyaHoo
>>294
Hahaha 何事にも不足の事態はあるものだ これだからオカルトはやめられないね Ya!
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/19(木) 00:38:04.97 ID:R7OJZTGKO
なんだろう、こんな熱い?展開なところ変なこと言って申し訳ないのだけど真帆×A真帆になんとも言えない熱いものを感じる
もうちょい自分同士でイチャついてもいいのだぜ!
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/19(木) 01:25:34.09 ID:F5pI0V/7o
>>296
こげなご都合展開を熱い?ってだけでもありがたいのに 真帆×A真帆を楽しんでもらえるとはっ!?
書いてる途中でどっちがどっちか分からんくなったのは秘密です
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/19(木) 22:09:13.13 ID:F5pI0V/70
     27

真帆(アマデウスは覚悟を決めてくれた。だから、私も……)

真帆(私も……決断を……)

真帆(シュタインズゲート世界線。そこにある価値。きっともう私はそれを見つけているはずなのだから、それなら早く……覚悟を……)

まゆり「どうしたの、マホちゃん?」

真帆「あ、ごめんなさい。何でもないのよ」

まゆり「本当に大丈夫? ひょっとして寒いのかなぁ? 今夜はよく冷えるもんねぇ。よぉし、だったら……」

真帆「え? ちょっとまゆりさん?」

まゆり「ほらぁ! まゆしぃとくっついていれば、寒くはないのです!」

真帆(ていうか、狭いっ! このソファじゃ、二人+ぬいぐるみだと、かなり狭苦しい!)

まゆり「えへへ〜」

真帆「………」ソッ

真帆(けど……まあ、こういうのも悪くないかも)フフッ

まゆり「あ〜、マホちゃんが笑った。良かったよぉ。まゆしぃがバイトから戻ってきてから、マホちゃんずっと難しいお顔をしていたので、心配していたのです!」

真帆「そ、そうだったかしら?」

まゆり「そうだよぉ? お夕飯を食べに行っているときも、何だかずっと困ったような悩んでいるような、そんなお顔をしていたのです」

真帆(それは……迂闊だったわ)
299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/19(木) 22:12:07.60 ID:F5pI0V/70
まゆり「やっぱり、何か心配事があるのかな?」

真帆「大丈夫よ、まゆりさん。大したことではないから」

まゆり「大したことでなくても、やっぱり心配事があるんだね? よぉし! まゆしぃお姉さんに相談してみなさい!」

真帆「え、ええええ……」

まゆり「それとも、やっぱりまゆしぃには言いにくいのでしょうか?」

真帆「そういう訳では……」

まゆり「そっか。じゃあ、こういうのはどうでしょうか? まゆしぃから先に、マホちゃんに悩み事を相談してみるのです」

真帆「はい?」

まゆり「それでそれでぇ、マホちゃんがまゆしぃの悩みを解決してくれたら、今度はまゆしぃがマホちゃんの相談に乗ってしまおうという魂胆なのです!」

真帆「プッ。どんな交換条件よ、それは」

まゆり「じゃあ、まゆしぃの悩みを、いくよー! 覚悟しろぉ〜!」ブンブン

真帆(あらら。まだ交換条件を飲むなんて一言も言ってないのに)

まゆり「ずばり! 今まゆしぃが抱えている悩みは、とってもとっても深いのです」

真帆「はいはい。で、その内容は?」

まゆり「それはねぇ、お洋服です!」

真帆「洋服? 何? 新しい服が欲しいとか、そういうこと?」
300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/19(木) 22:15:04.67 ID:F5pI0V/70
まゆり「ブブー! そうではありません。実はまゆしぃ。ずっと学校の制服のままなのです!」

真帆「あ」

真帆(なるほど。学校帰りに出会ってからずっと、ラボを中心に行動していたみたいだから、当然といえば当然の──)

まゆり「ねぇねぇマホちゃん。果たしてまゆしぃは、どうすれば良いと思いますかぁ?」

真帆「ああもう、それなら一度帰りなさい。帰って、好きな服に着替えてくればいいじゃない」

まゆり「はっ! まゆしぃの悩みに、いきなり適切な解答が突きつけられてしまったのです!」

真帆「何よそれ」

まゆり「えへへへへ。やっぱりマホちゃんは賢いねぇ。まいまむだよ、本当に」ヨシヨシ

真帆「だから、マイ・マム言わないで」ウムムム

まゆり「じゃあ、まゆしぃはマホちゃんのアドバイスにしたがって、一度おうちに帰って服を着替えて来ることにしましょう」

真帆「え? まさかこんな時間に今から?」

まゆり「ううん。もう随分と遅いので、それは明日にするよ」

真帆「そうね、それがいいわ。それでまゆりさんの家は、ここから近いの?」

まゆり「う〜ん、近くはないかなぁ。電車に乗って行かなければいけないので」

真帆「……そう」
301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/19(木) 22:17:38.11 ID:F5pI0V/70
まゆり「? どうしたのマホちゃん?」

真帆「あ、いえ、ごめんなさい。それじゃあまゆりさんは、明日の朝早めに起きて、家まで着替えに行ってくるということで」

まゆり「え? 早くに起きるのでしょうか?」

真帆「何事も早いに越したことはないでしょ?」

まゆり「う〜ん、そうだね。よぉし、まゆしぃは言いつけに従うのです、まいまぁむっ!」ビシッ

真帆「だ・か・ら!」

まゆり「と言うことなのでぇ、それじゃあ今度はマホちゃんがお悩みを打ち明ける番だよぉ?」

真帆「……う」

まゆり「さあさあ、遠慮なく言って欲しいのです! どんな悩み事も、まゆしぃにお任せなのでぇす!」

真帆(と、言われても……)

まゆり「さあさあ」ワクワク

真帆(キラキラした目で私を見ないで……)

まゆり「誰かに話せばね。少しは楽になることもあるんだよ?」

真帆(…………)ドキリ

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆「じゃ、じゃあ……」

まゆり「はい!」
302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/19(木) 22:22:00.59 ID:F5pI0V/70
真帆「ちょっと変なことを聞くけども……まゆりさんは……その」

まゆり「なぁに?」

真帆「タ、タイムマシンって……あると思う?」

まゆり「え? タイムマシン?」

真帆「そう、タイムマシン。あなたが無いと思うのなら、私のお悩み相談はここで終わりでもいいのだけれど……」

真帆「でも。もしもまゆりさんが、タイムマシンはあるって思うのなら、そうしたら……やっぱり使ってみたいと思う?」

まゆり「ええ〜、まゆしぃにはタイムマシンがあるかどうかなんて、難しくて分からないよぉマホちゃん」

真帆「ふふ。そんなにややこしく考えないで、世間話みたいなものなんだから」

まゆり「そうなの?」

真帆「そうよ」

真帆「過去に戻って、やり直すことのできる機械。これまでの人生で、どうしても悔やまれる出来事を、もう一度やりなおすことのできる夢のマシン」

真帆「まゆりさんにはこれまでの人生で、そんなマシンを使いたくなるくらいに後悔した経験とか、何かなかった?」

まゆり「ん〜、どうだろうねぇ? 無いことはないと思う……ううん、そうだね。やっぱり多分、いっぱいあったと思うのです」

真帆「そう、そんなに沢山も?」

まゆり「きっと沢山あるんだと思うなぁ。大きなことも小さなことも、今まで沢山失敗して、沢山後悔してきたと思うよ」

真帆「そっか。ならやっぱり、タイムマシンを使いたいと思う?」
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/19(木) 22:25:22.12 ID:F5pI0V/70
まゆり「そうだねぇ。難しいけど……でも……」

真帆「でも?」

まゆり「うん。失敗したことをやり直したいとは思うけど、でもまゆしぃはタイムマシンを使ってまでそんなことをしたらダメかな……って、そう思います」

真帆「それは……どうして?」

まゆり「えへへ。難しいことはよく分からないけど、でもねマホちゃん。まゆしぃはこんな風に考えるんだ」

まゆり「マホちゃんはさっき言ったよね? 失敗したり後悔したことをやり直せるならって」

真帆「ええ。確かにそう言ったわ」

まゆり「失敗したり後悔したりって、要するにそれは、それまでの人生の中にあった悪い部分ってことだよね?」

真帆「え、ええ、そう言い換えることも当然できるけど」

まゆり「タイムマシンで直すのは、その悪い部分をっていうことなんだよね?」

真帆「まあ、そうね。そのつもりでの発言よ」

まゆり「そっかぁ。だったらやっぱり、まゆしぃは使いたくないなぁ、タイムマシン」

真帆「どうして……そう思うの?」

まゆり「えっとねぇ、何て言えばいいのかな? 簡単に言うと……そうだね。悪いことだって、みんなが全部同じように悪いことではないって思うからかなぁ」

真帆「ええと、ごめんなさい。何ですって?」
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/19(木) 22:26:43.77 ID:F5pI0V/70
まゆり「あはは、言葉にするのが難しいなぁ。えっとねぇ、つまりね……」

まゆり「例えば……例えばだよ? 例えば明日、まゆしぃが……そうだねぇ、例えばだけど明日、まゆしぃが、その。死んでしまうとするのです」

真帆(!?)

まゆり「そしたらね、お父さんやお母さんは悲しいだろうし、きっとオカリンやダルくんや紅莉栖ちゃんやフェリスちゃんにルカくん。フブキちゃんやカエデちゃんや由季さん。それにきっと出会ったばかりのマホちゃんだって、少しは悲しんでくれると思うのです」

真帆「……少しどころじゃないわよ」

まゆり「そう? それは嬉しいなぁ」

まゆり「でもね、マホちゃん。それでもしマホちゃんがタイムマシンを使って、まゆしぃが死なないようにしようとするのなら……それはきっとダメなことだと思うのです」

真帆「ど、どうして……そんなことを言うの?」

真帆(あなたが……あなたがそんな風に言ったら、岡部さんや紅莉栖の苦労はどうなるの? それに、せっかく固まりかけてきた私の決心だって……)

まゆり「そうしようって思うくらい、まゆしぃのことを大切に思ってくれるのは、とっても嬉しいよ。でもねマホちゃん」

まゆり「まゆしぃを助けたことで、ひょっとしたら誰か他の人の幸せも一緒に消えてしまうかもしれない」

真帆「……何よそれ」

まゆり「明日、まゆしぃが死んじゃって。それでね。まゆしぃが居なくなったから、それで生まれてくる命だってあるのかもしれない」

真帆「…………」グッ

まゆり「ひょっとしたら、そんな誰かは未来で幸せな生活を送っているかもしれない」

真帆「…………」ギリッ
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/19(木) 22:28:19.51 ID:F5pI0V/70
まゆり「でも、もしもタイムマシンでまゆしぃが死なないようにしちゃったら、まゆしぃの知らないその誰かさんは──」

真帆「そんなの、詭弁じゃない」

まゆり「えっ?」

真帆「そんな、いるかいないかも分からない誰かのことを気に病んで、それであなたは……まゆりさんは、そこで自分の人生を諦めるというの?」

まゆり「マホちゃん?」

真帆「言わせてもらうけどね……」

まゆり「マホちゃん……」

真帆「そんな考えは、善人面した愚か者の戯言でしかないわ」

まゆり「ええと……うん、そうかもしれないね。まゆしぃって馬鹿だから、ごめ──」

真帆「何を適当なこと言って受け流そうとしているのよ!」バッ

真帆「じゃあ仮に……仮にあなたの大切なオカリンさんが死んだらどうするのっ? いきなり分けも分からずに死んで、だけど目の前にはタイムマシンがあって!」

まゆり「マホちゃん……」

真帆「あなたはそれでも諦めるの? タイムマシンという可能性を手にしながら、それでもオカリンさんの死を黙って受け入れるとでもいうの!?」

まゆり「ううん、マホちゃん。それならまゆしぃは、タイムマシンを使うよ」

真帆「どうして、そん……え?」

まゆり「もしもオカリンやラボメンのみんなや……それにマホちゃんが私の目の前で死んじゃったなら。それならまゆしぃは、タイムマシンを使って助けにいくのです」

真帆「な……な……」

真帆(何なのよ! 何なのよっ!?)
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/19(木) 22:29:19.08 ID:F5pI0V/70
まゆり「でもね。そうなったらまゆしぃは、ちゃんといっぱい『ごめんなさい』をしていくかなぁ」

真帆「ごめん……なさい?」

まゆり「大切な誰かが死んじゃうのは絶対に嫌だから。だからまゆしぃは、自分勝手でもタイムマシンに乗ってしまいます」

まゆり「でもそうしたら、誰かの幸せを消しちゃうかもしれない。それでもやっぱりまゆしぃは、絶対にどうしても助けに行きたいから……」

まゆり「だからね。ごめんなさいって、ちゃんと謝ろうと思うのです」

真帆「……謝るって」

まゆり「まゆしぃのせいで幸せじゃなくなっちゃう人は、きっと謝ったって許してはくれないだろうけど。それでもね、マホちゃん」

まゆり「許してもらえなくても。知らない人たちに凄く恨まれても。それでも私はね、これからタイムマシンでみんなに酷いことをするのは、このまゆしぃなんだよーって」

まゆり「自分勝手にみんなを不幸にするのは、ここにいる椎名まゆりなんだよーって。きっと許してはもらえないだろうけど、それでも沢山謝って」

まゆり「そうしてやっと、タイムマシンに乗り込むんだと思うのです」

真帆「…………」

まゆり「ねえ、マホちゃん。マホちゃんにはひょっとして、タイムマシンを使ってでもやり直したいくらいに悪いことがあったのかな?」

真帆(……!?)

まゆり「でもね、私は思うなぁ。悪いことって、そんなに全部が悪いことなのかな……って」

まゆり「ひょっとしたらね、悪いことの中にだってほんの少しくらいは良いことが隠れているのかもしれないよ?」

真帆「何が……言いたいの?」
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/19(木) 22:30:16.42 ID:F5pI0V/70
まゆり「真っ黒な塊に見えても、でも本当は見えないところに少しだけ白色が混じってて」

まゆり「でもその白色は、オカリンがやってる悪いフリみたいに見つけやすいものじゃなくて」

まゆり「でもそれでも、やっぱり黒を白に塗り替えなくちゃいけないなら……」

真帆「…………」

まゆり「それなら、まゆしぃは止めないのです。マホちゃんがタイムマシンを見つけて、それで使おうとしても。それをダメだとは、まゆしぃには言えないのです」

まゆり「だけどね、マホちゃん。もしもそんな時がきたのなら」

まゆり「その時は絶対に、まゆしぃに教えてね。教えてくれたなら、それならまゆしぃも……」

まゆり「まゆしぃも一緒に謝ってあげるから、ね?」

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆(なんて……人……)

まゆり「えへへ。こう見えても、まゆしぃは『ごめんなさい』が得意なのです。だからね絶対に約束だよ、マホちゃん」

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆「そう、ね。もしそんな時が来たのなら、是非お願いするわ……ふふっ」
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/19(木) 22:31:19.20 ID:F5pI0V/70
まゆり「はい、お願いされたのです! このまゆしぃお姉さんにお任せだよぉ!」

真帆「助かるわ。私ってさ、謝るのが苦手なのよね」

まゆり「だと思ったよ〜」

真帆「ちょっと。そこはフォローするところでしょ?」

まゆり「えへへぇ! じゃあね、じゃあね! マホちゃん────」


真帆(これが……)

真帆(これが、椎名まゆり)

真帆(紅莉栖が。そして岡部さんが、どうしても守り抜きたかった一人の女の子)

真帆(シュタインズゲート世界線にある……代えがたい一つの価値)

真帆(ええ、そうね。良いじゃない、紅莉栖)

真帆(この子は、絶対に失いたくない。どんな手を使っても、失ってはいけない)

真帆(私もその思いに……賛同するわ)









309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/19(木) 23:52:30.73 ID:cYps2Y/Fo
理屈をつけたがるのは真帆の悪い癖なんかな
310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/20(金) 00:20:10.05 ID:sNqZeGrfo
>>309
どうでしょう? あまり深くは考えず書いていたけど確かに私の中にそういうイメージはあるのかもしれない
感情屋のくせにそれを良しとせず無理して理屈に頼る…みたいな
あくまで私の心象でしかないのでそれは違うだろって方はスルーしてくらはい
長文スマヌ
311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/20(金) 21:58:11.37 ID:sNqZeGrf0
     28

秋葉原 大檜山ビル屋上 2011年2月5日 深夜4時前


レス『それでどうだい、マホ。気晴らしの旅は順調かい?』

真帆「ええ、おかげ様で。何というか、これまで見向きもしなかった色々なことに向き合う、いい機会になりました」

レス『そうかい。それは良かったよ。それならば、私も君に休暇を勧めたかいがあったというものだ』

真帆「はい、ありがとうございます」

レス『でもね、マホ。一つだけ言わせてもらっても、良いだろうか?』

真帆「ええ、何でしょうか?」

レス『いくら気になるからといっても、研究室から部外秘を勝手に持ち出したりするのは、あまり感心できないね』

真帆「あっ……気づいてらしたんですか?」

レス『当然だろう。これでも私は、アマデウス開発のプロジェクトリーダーなのだよ? 見くびってもらっては困るな、Huhuhu』

真帆「あーその、すいません。勝手な真似をして」

レス『まあ良いだろう。他の所員にはそれとなく誤魔化しているからね。旅から戻ったら、ちゃんと返してくれればそれでいい』

真帆「私ってば、教授には本当にご迷惑ばかりおかけしてしまって……その」

レス『だから、良いと言っているだろう? それとも何かな? マホは私にHardに叱られたいのかな?』
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/20(金) 21:59:30.58 ID:sNqZeGrf0
真帆「ふふ。それは御免こうむりたいですね」

レス『素直でよろしい、Hahaha!』

真帆「……もう」

レス『Oh、いけない。そろそろミーティングの時間だったよ』

真帆「そうですか。じゃあ電話、切りますね」

レス『そうだね。それじゃあマホ、必ず元気に戻って来るんだよ?』

真帆「はい。お心遣い、感謝します。では」

レス『エンジョイ・ユア・トリップ』


プッ……ツーーーツーーーツーーー


真帆「…………」

真帆(教授。これまでのご指導ご鞭撻のほど……本当にありがとうございました)

真帆(どうか。どうか、科学者として悔いの無い人生を)

真帆「………」グス
真帆「……」
真帆「…」ゴシゴシ
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/20(金) 22:00:18.49 ID:sNqZeGrf0
真帆「……よし」

真帆「頃合ね」スマホ ピッピッ


トゥルルルルル……トゥルルルルル……


紅莉栖『あ、先輩。調度今、先輩のアパルトメント前に着いたところです』

真帆(紅莉栖……)

真帆「岡部さんと阿万音さんも一緒なのかしら?」

紅莉栖『はい。三日前と同じ顔ぶれです。すいませんが、玄関のロックを開けてもらえますか?』

真帆「ええとね、紅莉栖。勝手を言って申し訳ないのだけど……」

紅莉栖『はい?』

真帆「悪いけど、出直してきてもらってもいいかしら?」

紅莉栖『……え?』

真帆「約束の時間を守れなかったのは謝るわ。でもね、あと少しだけでいいの。ほんの数時間でいいから、私に猶予を頂戴」

紅莉栖『先輩? 声が……その、泣いているんですか?』

真帆(!? ああもうっ!)

真帆「そんなわけ……ないでしょう? 私はあなたの偉大な先輩なのよ? 誰が泣くものですか」
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/20(金) 22:01:02.24 ID:sNqZeGrf0
紅莉栖『…………』

真帆「…………」ギリリ

紅莉栖『分かりました。先輩の決心が固まるまで、近くで時間をつぶしています』

真帆「ありがとう。心配しないで、決心ならもうついているから。私は私のアマデウスをデリートする。だから、ね紅莉栖。心配しないで? 少ししたら必ず連絡を入れるから」

紅莉栖『了解しました。岡部と阿万音さんには私が上手く言っておきます』

真帆「ありがとね」

紅莉栖『いえいえ、お礼には及びませんよ』

真帆「ふふっ。じゃあ後で」

紅莉栖『はい。連絡、お待ちしています』

真帆「ええ」


ピッ


真帆「さぁて。これで準備は全て完了ね」ノビー

真帆(後は……後は……)

真帆「そうね。特にこれといってやることもないし……ラボでまゆりさんの寝顔でも眺めていようかしらね」クス

真帆「……ふへへ」トコトコトコトコ










315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/20(金) 22:06:07.77 ID:sNqZeGrf0
というわけで短いですが今日の分です
そして明日で終われます 長々とひっぱってしまい申し訳ない
問題はもう二時間ほどで明日なってしまうことでして
明日の昼間くらいからのつもりでいましたが
何かもう日付変わる頃におっぱじめてしまってもいい気もしている
さてどうしたものか、うむ…
316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/20(金) 23:15:41.12 ID:52Mmg78FO
なんだかこれから自[ピーーー]る人がお世話になった人達に挨拶してるような風情なのですがこれは……
317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/20(金) 23:35:54.82 ID:tnTqXxBSO
え?自慰する人がお世話になった人達(オカズ)に挨拶してる?(海馬に電極ぶっ刺し)
318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/20(金) 23:55:02.84 ID:sNqZeGrfo
>>316
あーいえ何といいますか 最近自分で何を書いているのか分からなくなることがしばしば…えへへ
319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/20(金) 23:55:57.58 ID:sNqZeGrfo
>>317はダルにゃんにロボトミーされてしまったのでしょうか?
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/20(金) 23:58:14.27 ID:Vbilkhuro
あ、いや真帆たんがという話なんだ紛らわしくてすまない

でも決して真帆たんがオカリンで自慰したことを報告したとかそういう話でもなく
むしろそういうのは紅莉栖がやりそう(脱線)
321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/21(土) 00:18:30.93 ID:kqRSVJTwo
>>320
ああなるほど こちらこそ紛らわしい描き方して申しわけなか
そして気づけばダルくんは二人ほどロボトミっていたようで どこへ行くお前たち!?
322 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/21(土) 00:20:24.80 ID:kqRSVJTwo
ということで、日付も変わったし まだどなたかお見えでしたら おっ始めようかと考え中 うーーーむ
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/21(土) 00:42:45.49 ID:kqRSVJTwo
えっと 人気がなさそうなので予定通り明日の昼間にラスト投下いたしやす
万が一、寡黙な待ち人さんがいたらごめんなさいです!
324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 12:13:33.36 ID:kqRSVJTw0
     29

未来ガジェット研究所 2011年2月5日 午前8時すぎ


まゆり「ごめんねぇマホちゃん。まゆしぃ、ブワァーッって行ってビヤァーっと戻ってくるので、少しだけ待っていて欲しいのです」

真帆「そんなに慌てなくてもいいわよ。金曜日からずっと帰ってないのでしょう? なら、少しくらいゆっくりしてきたらいいじゃない」

まゆり「ふふふ〜。そうもいかないのです!」

真帆「あら、どうして?」

まゆり「それはねぇそれはねぇ! まゆしぃは今日こそマホちゃんに、たっぷりと秋葉原の街を案内してあげたいと企んでいるからなのです!」

真帆(企んで……って)

真帆「そ、そう。それは楽しみね」

まゆり「えへへ〜、そうです楽しみだよぉ〜! じゃあ行ってくるねぇ」


ドアガチャ


真帆「気をつけて行ってきなさい。はしゃいでると、すっ転ぶわよ?」

まゆり「大丈夫だよぉ。まゆしぃはそんなにドジじゃありません」

真帆「よく言うわ」

まゆり「それじゃあマホちゃん、出来るだけ早く帰ってくるから、待っててね!」

真帆「はいはい。何でもいいから気をつけてね」

まゆり「は〜い!」


ドアパタン タッタッタッタ……

シーーーン


真帆(ごめんなさいね、まゆりさん)


カチリ


真帆(施錠、完了)
325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 12:24:27.92 ID:kqRSVJTw0
真帆「……よし。始めるわよ」

真帆(兎にも角にも、まずは紅莉栖に電話をかけないことにはね)ゴソゴソ


ピッ トゥル……ピッ


紅莉栖『はい』

真帆(はやっ)

紅莉栖『あっ……えっと先輩……ですよね?』

真帆「ええ、そうだけど……どうかしたの?」

紅莉栖『いえ、すいません。大したことではないんです。咄嗟に電話を取ってしまったので、つい画面を見損ねたというか……』

真帆(あー、出てから相手が誰か不安になったといったところかしら?)

真帆「紅莉栖あなた、ちょっと落ち着きなさ──」

紅莉栖『って、うっさい! ドジっ子アピールなんぞしとらんわ!』

真帆「え? はい? ええ?」

紅莉栖『あ、ああ、すいませんっ! 後ろから岡部が茶々を入れてくるもので、それで』

真帆(紅莉栖の側に岡部さん? となると、阿万音さんも一緒か)

真帆「なるほど。どうやら私が電話をかけてくるのを、揃い踏みでお待ちかねだった様子ね」

紅莉栖『ええはい、まあ……そうです』

真帆「そう。待たせて悪かったわ。もう大丈夫だから、今からもう一度私の部屋まで来てくれない?」
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 12:33:51.74 ID:kqRSVJTw0
紅莉栖『はい、了解しっ! ちょっと阿万音さん!?』

真帆(ああもう、今度はなに?)

鈴羽『やあ、比屋定真帆。もちろん結論は出たんだろうね?』

真帆(阿万音さん……)

真帆「当然よ」

鈴羽『そうかい。それで結局、君のアマデウスはデリートしてもらえるのかな?』

真帆「ええ、そのつもりよ」

鈴羽『そうか、ありがとう。じゃあこれから三人で、もう一度君のアパルトメントに向うよ』

真帆「お願い」

鈴羽『10分もあれば到着できるはずだから、お茶でも入れて待っているといい。おもてなしなら大歓迎だよ』

真帆「はいはい」

鈴羽『じゃあ、後ほど』

真帆「ええ」


ピッ ツーーーツーーー


真帆「10分……か。急ぎましょう」


トコトコトコ……チョコン


真帆(遠隔操作の仕方なら、昨日のうちにある程度理解しておいた)

真帆(紅莉栖たちは思っていたよりも近場にいるみたいだけど……)

真帆(それでも10分かかるなら、余裕でいける)
327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 12:38:32.42 ID:kqRSVJTw0
真帆「よぉし」カタカタカタ


フォン


真帆「待たせたわね、アマデウス」

A真帆『あ……。何よ遅かったじゃない』

真帆「悪いわね。それで、お別れは済んだ?」

A真帆『ええ、おかげ様でね。もっとも……多分、私が何を言っているのか、一人として正確には伝わってはいないでしょうけれどね』

真帆「……そう。それでも、もうこれ以上は引き伸ばせないと思う」

A真帆『別にいいわよ。どうせ消える身だし、細かいことを気にしていても仕方がないからね』

真帆「同感ね」

A真帆『同感って……微妙に薄情な反応ね。まるで他人事みたいな言い方して。ちょっと酷いんじゃない?』

真帆「あ、ごめんなさい」

A真帆『はぁ。まあいいわ。それで、いつデリートしてもらえるのかしら? こっちは待ちくたびれてきたのだけど?』

真帆「アマデウスは、くたびれたりなんてしないでしょう?」

A真帆『ふふっ、それはどうかしらね? っていうか、相変わらず貴女の部屋には誰もいないみたいだけど……』

A真帆『ひょっとして、まだ出先から戻ってきていないの?』

真帆「ええ。ちょっと事情があってね」
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 12:45:20.47 ID:kqRSVJTw0
A真帆『……そう、それは残念。その面拝みながら、恨み言の一つでものたまってやろうかって思っていたのにね、フフッ』

真帆(その顔って、同じ顔でしょうに……)

真帆「それは生憎だったわね。じゃあその恨み言は、もうすぐやって来る三人にでもぶつけてあげてちょうだい」

A真帆『三人?』

真帆「ええ、三人よ。ああそれと、ちょっとお願いがあるのだけど」

A真帆『はいはい、今度は何かしら?』

真帆「あなたが今表示されている私のPC、少し設定をいじれないかしら?」

A真帆『え? そりゃあ、その気になれば出来なくもないけど』

真帆「それなら、そっちのPCとこっちのPCで、カメラ映像と音声をリアルタイム通信できるようにすることは可能? あ、もちろん双方向でね」

A真帆『ええと、つまり……』

A真帆『私が映っているPCとそっちのPCで、ビデオ通話みたいな状態を作れということかしら?』

真帆「そうね、その通りよ。ビデオ通話用のソフトなら、こっちのPCに私がいつも使っていた物と同じものをインストールしてあるのだけど、どう? できそう?」

A真帆『まあ、そこまで準備が出来ているなら、どうとでもなるでしょうね』

真帆「じゃあ、お願い」

A真帆『何をするつもりなの?』

真帆「ん〜……ちょっと言えない」
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 12:58:29.75 ID:kqRSVJTw0
A真帆『ふぅん。何を考えているのか知らないけど……まあいいわ、OKよ。やってみる』

真帆「ありがとう。恩に着るわ」


ピリリリリリ……ピリリリリリ……


真帆(……っと)

真帆「もうかかってきた。まだ5分もたってないじゃない」

A真帆『どうかしたの?』

真帆「ああ、いえこっちの話。悪いけど、PCの設定は任せるわ」

A真帆『りょーかい』

真帆(さて……)


ピッ


真帆「ハァイ、紅莉栖。もう着いたの?」

紅莉栖『ええ。ですので、さっきからインターホンを押していたですけど反応がなかったので……』

真帆(おおっと、そりゃそうか)

真帆「あら、ごめんなさい。インターホン、調子が悪いのかしら?」

紅莉栖『修理したほうがいいですよ?』

真帆「ええ、機会があったらそうしましょう」
330 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 13:06:41.35 ID:kqRSVJTw0
紅莉栖『じゃあ、とりあえず玄関のロックを開けてもらえますか?』

真帆「ああ悪いのだけど、ナンバー教えるから勝手にアンロックして入ってきてくれないかしら?」

紅莉栖『え? いいんですかそんなことして? 他の人たちも住んでいるわけですし、セキュリティ上に問題があるんじゃ……』

真帆「別に友人の一人二人に教えるくらい、大した問題じゃないわ。それとも、私が教えたナンバーをあなたが吹聴して回るというのなら話は別だけど」

紅莉栖『……何か、理由があるんですね?』

真帆(ぬ……鋭い……)

紅莉栖『……分かりました。では、ナンバーを』

真帆「……ナンバーは####よ」

紅莉栖『了解しました。では、一度電話を切りますか?』

真帆「いえ、できれば通話状態のままで進んでくれる?」

紅莉栖『……はい。ではエントランスを抜けてエレベーターホールに向かいます』

真帆「律儀ね。まるでカー・ナビゲーションみたいよ?」

紅莉栖『……先輩。一体何を考えているんですか?』

真帆「それは、もうすぐ分かると──」

A真帆『はい、設定はできたわよ。いつでも送信を開始できるけどどうする?』

真帆(うおっと! ビックリしたけど、でもナイスタイミング!)
331 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 13:11:33.10 ID:kqRSVJTw0
真帆「ごめん紅莉栖。そのまま私の部屋まで上がってきてちょうだい」

紅莉栖『先輩?』

A真帆『あれ、ひょっとして誰かと電話していたのかしら?』

真帆「ええ、ちょっとね。では早速、ビデオ通話を開始させてもらうわ」カタカタカタカタ


フォン


真帆(起動した。じゃあ、ウィンドウを出来るだけ大きくして……と)

真帆「ん〜……暗いわね」

A真帆『仕方がないでしょ? 照明が消えているのだから』

真帆(ああ、向こうは結構遅い時間だったわね)

A真帆『それと、さっきは言いそびれたけど、なんだか来客があったみたいよ? 少し前まで、ピンポンピンポンとうるさかったから』

真帆「あ、あー」

A真帆『まあ、私には関係がないけど、一応教えておいてあげた』

真帆「それはどうも、ご親切に」

A真帆『ああ、それともう一つ。今動かしているビデオ通話の音声、システム上どうしても室内の音声と私の音声が混じって飛ぶと思うけど、構わないわよね?』

真帆「ええ、構わないわ。むしろ好都合かも。じゃあ、お客様をお迎えしてあげてくれるかしら?」

A真帆『お客様? お迎え? どういうこと?』

真帆「すぐに分かるわ、じゃあ後で」

真帆(はー忙しい忙しい!)スマホ スッ
332 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 13:17:14.83 ID:kqRSVJTw0
真帆「どう紅莉栖? もうすぐ着く?」

紅莉栖『ええ、もう……はい。先輩の部屋の前まで来ました。開けていただけます?』

真帆「扉の左に、水道のメーターボックスがある。その裏にカギを隠しておいたから、探してみて」

紅莉栖『!?』

真帆「ごめんなさい。言いたいことが山のようにあると思うのだけれど、今は言う通りにしてもらいたいの」

紅莉栖『……分かりました。岡部! その辺探して!』

真帆(イライラ顔の紅莉栖が岡部さんをアゴで使っている光景が、ありありと浮かんでくるわね)

紅莉栖『見つけました。入りますよ?』

真帆「ええ、どうぞお入りください。そのまま私の作業ルームまでね」

紅莉栖『…………』


『ガチャリ……キィ……』


紅莉栖『照明をつけますよ?』

真帆「ええ、そうして」

真帆(…………)モニター ジー

真帆(何だろう。何だかドキドキしてきた)

真帆(あ……三人が入ってきた!)
333 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 13:21:09.92 ID:kqRSVJTw0
紅莉栖『先輩、これは!?』

A真帆『ちょっ!? 何であなた達が!?』

鈴羽『まさかサリエリ!?』

岡部『ぬ? 何がどうなっている?』

真帆(あら。大体驚いたみたいだけど、どうも岡部さんだけキョトンとしてるみたいね。鈍いのか、それとも肝が太いのかしら?)

A真帆『ちょっとオリジナル! もてなせって、この三人のことなの!?』

紅莉栖『先輩! 説明してください! これは何ですか!?』

鈴羽『比屋定真帆! 何を企んでいるんだ!?』

真帆(このまま沈黙しているのも展開的には面白そうだけど、まあ仕方ないわね)

真帆「アマデウス。悪いけど、あなたのウィンドウを狭めて、こっちのカメラ画像を並べて表示してくれるかしら?」

A真帆『はいはい! もう、ワケが分からない! ほら、出来たわよ!』

紅莉栖『先輩!?』

真帆『ハロー、紅莉栖。それに阿万音さんと岡部さんも。三日ぶりね。私の姿、見えているかしら?』

鈴羽『のん気なことを!』

岡部『おお、ブラウニーではないか。画面の中だと、さらに小さく見えるな、うむ』

真帆「……ほほう」イラ
334 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 13:27:08.44 ID:kqRSVJTw0
真帆「ねえ、岡部さん。私がいる場所、どこだか分かる?」

岡部『どこ……だと? そんなこと分かるわけ……が……』

真帆「お気付きのようね。悪いけど、あなたのラボは占拠させてもらったわ。今日からは私がここの支配者よ」フフフ

岡部『ぬぁ……ぬぅあんどぅぁとぉぉぉぉ!!!???』

紅莉栖『うそっ! アキバですか!? 先輩今、私たちのラボにいるんですか!?』

岡部『私たちのではない! そのラボはこの鳳凰院kyぐふぁ!?』

鈴羽『オカリンおじさん、黙ってて!』

紅莉栖『ああ! 岡部がゴミの山にめり込んだわ!?』

真帆(すごっ。人間て、ああも綺麗に吹っ飛ぶもなのね)

鈴羽『ねえ、比屋定真帆? 率直に聞く。アマデウスをデリートするという話、あれは口からでまかせだったのかい?』

真帆(画素数が荒いから分からないけど、きっと今すごい目で私のことを睨み付けているのでしょうね)

A真帆『ね、ねえ。阿万音さんが今にもモニターを叩き割りそうな顔で、私のことを見てくるんだけど……』

真帆「大丈夫。睨まれてるのはあなたじゃなくて私だから」

鈴羽『答えなよ。デリートを決意したと言っていた君の言葉、あれは嘘だったんだね?』

真帆「…………」

鈴羽『どうして黙っている!』

真帆「嘘なんかじゃ……ないわ。これから私は、あなた達の目の前で、アマデウスをデリートする」

A真帆『!?』
335 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 13:31:59.28 ID:kqRSVJTw0
真帆「ごめんね、アマデウス。私の我がままに付き合って」

A真帆『そうすることに、意味があるのね?』

真帆「ある。多分こうしないと、紅莉栖も岡部さんも阿万音さんも、そして私も。誰も納得できない。そして……」

真帆「こうしなければ、まゆりさんも紅莉栖も……シュタインズゲート世界線も……救うことはできない」

A真帆『分かった。じゃあ好きなようにしなさい。仕方ないから付き合ってあげるわ』

真帆「ありがとうね、アマデウス」

A真帆『礼には及ばないわ。さて、というわけだから阿万音さん?』

鈴羽『……サリエリ』

A真帆『私は今から、オリジナルの手によってデリートされるらしいわよ? これで満足かしら』

鈴羽『……本当に……そうなのか?』

真帆「本当よ。私は今、この場で。私の分身であるアマデウスに対して、デリート・システムを施行する」

紅莉栖『で、でも先輩! だったらどうして、こんなまどろっこしい真似を!?』

真帆「それはね、紅莉栖。きっと……」

画面内の一同「…………」

真帆「こうでもしなければ。きっとあなた達は寄ってたかって、私がやろうとすることを邪魔するだろうから」

岡部『いつつつ……しかし、分からんな』

真帆(あ、復活してきた)
336 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 13:32:55.29 ID:kqRSVJTw0
岡部『アマデウスのデリートならば、こちらから持ちかけた話だ。手を貸すことこそあったとしても、邪魔をする道理などない。違うか?』

真帆「ふふ。本当なら、そうだったのでしょうね。でもね……」

A真帆『ごちゃごちゃ言ってないで、消したら? その方が、話が早いでしょう?』

真帆「アマデウス……」

A真帆『というわけだから、宴もたけなわよ。ボチボチ、私に世界を救わせてはくれないかしら?』

真帆「…………」グッ

真帆「そうね」

真帆「それでは。これより比屋定真帆のアマデウスに対して、デリート・プログラムの執行を執り行います」

鈴羽『…………』

真帆「じゃあ……行くわよ。覚悟はいい、アマデウス?」

A真帆『待ちくたびれたわよ』

真帆(……ごめんなさい)
337 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 13:33:46.93 ID:kqRSVJTw0
真帆「『Amadeus』、制御コードのパスワードを受理しなさい」

真帆「── ─── ─────」

A真帆『制御コードが入力されました。システムを強制的にエマージェンシーモードに移行します』

真帆(…………)

A真帆『制御コードが指定するバッチプログラムを実行します』

真帆(……本当にごめんなさい、私のアマデウス)

A真帆『処理の実行についての再確認は行われません。実行には十分に注意してください』

A真帆『最高管理権限保持者比屋定真帆の命令を持って処理を開始します』

真帆(向こうに行ったら……そうね。同じ顔のよしみだもの。もう少し仲良くやりましょうか)

真帆「……GOよ、Amadeus」

真帆(いいと思わない? ね? もう一人の私)







338 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 13:35:21.45 ID:kqRSVJTw0
いったんここまで 夕方くらいから再開するつもりです
339 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/07/21(土) 13:55:06.42 ID:DFC4dkD10
まってます
340 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/21(土) 14:24:05.59 ID:kqRSVJTwo
>>339
サンクス しばしのお待ちを
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