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【艦これ】あなたの手が借りたい
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1 :
◆6x79oqdrbDOF
[sage saga]:2018/07/05(木) 01:07:29.14 ID:a363b6qL0
※地の分多めです。
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1530116543/
こっちが前作となります。よろしくお願いします。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1530720448
2 :
◆6x79oqdrbDOF
[sage saga]:2018/07/05(木) 01:08:28.92 ID:a363b6qL0
じー。
隣で筆を揮う提督を見つめる。
来客が無い限り、基本的に静かな執務室では彼が筆を書類に走らせる音だけが響く。
私はこのカリカリカリ、と断続的に鳴り続ける音が好きだ。
そして綺麗な姿勢を保って文章を書き連ねる彼の姿も大好きだ。
私はこの姿を見たいが為に、仕事を早めに終わらせる。
彼との付き合いは今年になって四年目に入る。
彼にとっては今までの3年間は只の人生の一部なのかもしれないが、艦娘である私にとってはとても大切な時間だった。
3 :
◆6x79oqdrbDOF
[saga]:2018/07/05(木) 01:09:17.17 ID:a363b6qL0
提督は今迄、私を主力艦隊へ据え続け数多の海域を攻略してきた。
初めは彼の事を、只の物好きの変な男と考えていのだけれど、長い間共に戦っていると嫌でもその人となりが分かるものだ。
彼は一見きちっとしているが、意外に抜けている所がある。
例えばよく髭剃り負けを起こしている、とか。
靴紐を結ぶのが下手くそ、とか。
偶に靴下の種類を左右間違えて履いてくる、とか。
彼を隣で見続けた時間は伊達じゃない。
たぶん、この鎮守府の中で私が提督の事を一番知っているはず。
4 :
◆6x79oqdrbDOF
[saga]:2018/07/05(木) 01:10:04.09 ID:a363b6qL0
それにも拘わらず、彼と私の距離はお世辞にも近いとは言えなかった。
なぜなら
提督「...初風、何か用か」
初風「...見てないわよ」
提督「...そうか」
この通りだからである。
彼と出会った時に態度を硬くした所為で、今になっても素直に彼と話すことが出来ないでいた。
もっと気軽に提督と話したい。
けれども長年続けてきた私の彼への態度が、私の邪魔をするのだ。
5 :
◆6x79oqdrbDOF
[saga]:2018/07/05(木) 01:10:43.76 ID:a363b6qL0
提督がこちらを見てきて私と目が合う。
初風(何か用かしら、提督)
初風「ちょっと、こっち見ないでくれる?」
提督「...悪い」
理想と現実の違いに私は頭を抱える。
このままじゃ何時まで経っても彼に近づけないじゃない。
顔に出さないようにしながらも、私は一人もんもんと悩み続ける。
どうにかしてこの状況を打破しなくては...。
視界の端に何かの影が映る。驚いてそちらへ振り返ると提督がこちらに手を伸ばしていた。
私は反射的に椅子をずらし、彼との距離をとる。
初風「ちょっ、なに触ろうとしてんのよ!」
私が怒鳴っても彼は何も言わず、こちらを見て笑うばかりだ。
6 :
◆6x79oqdrbDOF
[saga]:2018/07/05(木) 01:11:33.63 ID:a363b6qL0
初風「きいてるの!?ねえ、提督ったら!妙高姉さんに言いつけるわよ!?」
提督「ふふっ...悪かったよ初風」
仲良くなりたいとは思っているけど、触られるのは恥ずかしい。
...でももう少し親しい間柄になれれば、別に体を触る位なら許してあげなくもないわ。
私だって、その...提督の事、触りたいし。
雪風「しれえ!雪風、報告書をお持ちしました」
暫くすると雪風姉さんが執務室へやって来た。
雪風「初風、秘書艦のお勤め、ご苦労様です!」
初風「ええ、姉さんもお疲れ様」
7 :
◆6x79oqdrbDOF
[saga]:2018/07/05(木) 01:12:31.49 ID:a363b6qL0
雪風姉さんは私と違ってとても素直だし、可愛げだってある。
彼女の明朗快活な性格は誰彼構わず人を呼び寄せ、彼女自身も他人の懐へ上手くもぐりこむ。
その姿はまるで祖父母に溺愛される孫娘のそれだ。
私も少しは見習いたい物である。
雪風「しれえ、くすぐったいですよ〜」
提督「すまんな、もう少しだけ我慢してくれ」
雪風「もう、しょうがないですね...えへへ」
初風「...」
雪風と戯れる提督を見ながら、私は心の中で大きなため息をついた。
8 :
◆6x79oqdrbDOF
[saga]:2018/07/05(木) 01:13:22.52 ID:a363b6qL0
最近、提督の様子がおかしい。
普段なら彼は昼休みは執務室で愛読書を読んでいたり、私に一言告げて間宮さんの店へ足を伸ばすのだが、最近はこの時間になると
何処へ行くとも告げずに外へ出かけるようになった。
一応休憩終わりには帰ってくるし、そこまで遠くへは出かけていないと思うのだけれど。
提督「じゃあ行ってくる」
初風「ん」
今日も彼はそう言って外へ繰り出す。
別に何処へ行くか伝えて教えて欲しい訳じゃないけど、やっぱり気になる物は気になるのだ。
それにもしもの緊急時に提督の所在が不明というのも問題だろう。
初風「...」
いけないと思いながらも、私は提督の後をつけることにした。
...私が知らない提督が居ると思うと、何故か無性に腹が立つし。
9 :
◆6x79oqdrbDOF
[saga]:2018/07/05(木) 01:14:37.99 ID:a363b6qL0
提督をつけ始めて早5分、彼が露骨に誰かに後をつけられていないか注意している事が分かった。
先程から無意味に同じ道を行ったり来たりしているからだ。
初風(...それって逆効果じゃない?)
物陰に隠れながら、私は彼の間抜けな姿を観察する。
それでもあんなに警戒するなんてよっぽど秘密の用事なのだろうか。
もしかして、誰かと逢瀬をしていたり。
...冗談じゃない。
贔屓目抜きに見ても割りと提督は整った顔立ちだし、他の艦娘に好かれている事もあって笑えない話である事に私
は気づく。
もしも本当に彼女と会ってたらどうしよう。
急に不安になってきた。
勝手に後をつけて勝手に不安になってと勝手尽くしの私だが、彼だけは譲れない。
私は決意を新たにして、彼の尾行を続けた。
10 :
◆6x79oqdrbDOF
[saga]:2018/07/05(木) 01:15:43.43 ID:a363b6qL0
彼は鎮守府の裏まで来ると、草の茂みの前でそわそわし始めた。
その姿はまるで恋人を待ちかねているかの様。
初風(...私、帰ろうかな。)
本当に彼女と会う提督の姿なんて見たら、私の心はポッキリ折れてしまうだろう。
それなら今日の事は忘れて、明日から今まで通りの平穏な日常を過ごした方が良いに決まっている。
提督「おー、よしよし。元気だったか?」
回れ右をした私の耳に提督の声が聞こえた。
やはり提督は誰かと会っていたのだ。
そのまま動けないで居ると、提督が可愛いな、よしよしと甘い声で褒めるのが聞こえてくる。
11 :
◆6x79oqdrbDOF
[saga]:2018/07/05(木) 01:16:27.34 ID:a363b6qL0
回れ右をした私の耳に提督の声が聞こえた。
やはり提督は誰かと会っていたのだ。
そのまま動けないで居ると、提督が可愛いな、よしよしと甘い声で褒めるのが聞こえてくる。
初風(...あんな提督の声、私聞いたことない。)
今まで私が提督の事を一番知っていると思っていたからか、無性に腹が立ち始めた。
せめてその面を拝ませてもらわなければ気がすまない。
初風(一体どの艦娘なんだろう)
建物の角からこっそりと覗く様に、私は声がする方を見る。
12 :
◆6x79oqdrbDOF
[saga]:2018/07/05(木) 01:16:56.08 ID:a363b6qL0
提督「よーしよしよし。あーーー!かわええなおまえなああああああ」
猫「ニャー」
猫だった。
提督はしゃがみ込みながら、両手で猫をこれでもかとモフっていた。
初風(紛らわしいのよ!)
ある程度覚悟はしていたけど、まさか相手が猫だったなんて。
...私は猫に嫉妬をしていたのか。
目下の不安が消え去った私は急に馬鹿らしくなって執務室へ戻った。
13 :
◆6x79oqdrbDOF
[saga]:2018/07/05(木) 01:17:39.29 ID:a363b6qL0
その日の夕方、私は提督からの頼まれ事で鎮守府の離れにある工廠へ来ていた。
初風「じゃあ、伝えましたからね」
明石「はいはーい。ありがとね」
提督からの用件を明石さんに言伝すると、私はその足で執務室へ帰ろうとした。
しかしその帰り道の途中、何の気まぐれかは分からないが、私は例の猫がいた茂みへと足を運んでいたのだ。
初風「確かこの辺に居たはずなんだけど...」
しゃがみ込んで茂みの奥を見通す。
猫は奥の方にある空洞に佇んでいた。黄緑色に光る眼が私を捉える。
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