【艦これ】あなたの手が借りたい

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14 : ◆6x79oqdrbDOF [saga]:2018/07/05(木) 01:18:10.83 ID:a363b6qL0

初風「...おいで」

手招きをすると、それに応えるようにこちらへ這い出してくる。

猫は私の近くまで来て足元へ体を摺りよせた後、構ってと言わんばかりに体をこちらへ放り投げた。

猫「にゃーん」

初風「ふふっ、くすぐったいわね」

猫「にゃあ」

...これは提督が夢中になるのも分かる気がする。

無邪気な猫の姿を見て、私は自然と微笑んでいた。
15 : ◆6x79oqdrbDOF [saga]:2018/07/05(木) 01:18:50.62 ID:a363b6qL0

初風「私もあなたみたいに甘えられたらな」

仰向けになった猫のおなかを撫でながら、一人ごちる。

今までの私を全部忘れて彼に甘えられたら。

例えそれが無理だと分かっていても願ってしまうのだ。

「甘えればいいじゃないか」

初風「誰!?」

唐突に話しかけられて私は驚く。

おかしい、ここには私と野良猫しか居ないはず...。

「甘えれば、いいじゃないか」
16 : ◆6x79oqdrbDOF [saga]:2018/07/05(木) 01:19:26.23 ID:a363b6qL0

その声の主はいつの間にか、野良猫の隣に立っていた。

初風「あ、貴方は!」

艦娘の間でまことしやかに噂される存在が居る。

言い伝えではその姿を見た時、世界の時が止まり、終末が訪れると。

公式には何処にも記録されていない、所属不明の妖精さん。

初風「エラー娘!!」

通称、妖怪猫釣るしであった。
17 : ◆6x79oqdrbDOF [saga]:2018/07/05(木) 01:19:59.09 ID:a363b6qL0

エラー娘「おっと、そんなに怖がらなくてもいいじゃないか。別に君を取って食う訳じゃないんだ」

彼女はセーラー帽子を触りながら、無駄に渋い声で私に語りかける。

その小ささからは考えられないほどの貫禄を醸し出していた。

エラー娘「話を本題に戻そうか。...君は提督に甘えたい、そうだね?」

初風「...ええ、そうよ」

私は彼女の貫禄に気圧されたのか、正直に答えてしまう。
18 : ◆6x79oqdrbDOF [saga]:2018/07/05(木) 01:21:16.30 ID:a363b6qL0

エラー娘「どうして甘えられないのかい?」

初風「それは...私が提督に甘えるのはおかしいのかなって。」

エラー娘「ふむ。おかしい、か。どうしてそう思うのかい?」

初風「今までの私がそんな柄じゃなかった...から」

初風「...違うわね。私は提督に失望されたくないだけなのかも」

初風「彼の隣に立つ艦娘として未熟な姿を見せたくないわ」

エラー娘「初風、皆何かしらの支えがあるから、弱さを抱えていても前へ進める」

エラー娘「そしてその支えは決して自己完結できるものじゃあない。」

エラー娘「誰かに頼るって言うのは悪い事じゃないんだ。」

エラー娘「それとも彼は君の本当の姿を知って、失望するような男なのか?」
19 : ◆6x79oqdrbDOF [saga]:2018/07/05(木) 01:22:05.32 ID:a363b6qL0

...ちがう。私の知っている彼は何時だって私の傍に居てくれた。

私が彼の目を見て話せなかった時も、ちゃんと話を聞いてくれた。

体調が悪い時だって、何も言わずに介抱してくれた。

提督はそんな心の小さな男じゃない。

ただ、私の勇気が足りないだけだ。

エラー娘「答えは出たみたいだね」

そう告げると彼女は猫に跨り、茂みへ戻ろうとする。
20 : ◆6x79oqdrbDOF [saga]:2018/07/05(木) 01:22:37.20 ID:a363b6qL0

初風「あ、あの!」

エラー娘「?」

初風「あ、ありがとう...ございます」

エラー娘「...人は弱みを開示されると、自分に好意を寄せていると勘違いするらしい。」

エラー娘「つまり、欠点は時として魅力的に見える訳だ。...健闘を祈るよ」

エラー娘「じゃあ行こうか、レディ」

猫「俺はオスだぞ」

エラー娘「えっ」

そうして彼らは、私に助言を残して茂みへと帰っていった。

...ここからは私の戦いだ。私自身との。
21 : ◆6x79oqdrbDOF [saga]:2018/07/05(木) 01:23:09.15 ID:a363b6qL0

初風「あーもう!分かんなーいー!」

エラー娘からの助言を受けた私は、自室に戻ってすぐに計画を練りだしたのだが、早くも頓挫しかけていた。

初風「どうやって甘えればいいんだろう」

甘え方を知らなかったのだ。今まで甘えようという意識すらしてなかったから、当たり前なのかもしれないけど。

こういう時は何かロールモデルを考えたほうが良いかも知れない。

私は雪風姉さんを思い浮かべる。どんな時も素直で、笑顔な雪風姉さん。

執務室で彼女が提督に弄繰り回されるのは、最早おなじみの風景と化している。

提督に撫でて貰うのを受け入れる...これが第一目標でもいいんじゃないかしら。

一つ目の目標ができた私は早速、実践へと移す事にした。
22 : ◆6x79oqdrbDOF [saga]:2018/07/05(木) 01:23:52.28 ID:a363b6qL0

初風(いつでも準備はできてるわ)

初風「...」

執務机で筆を執る提督へ向かって、私は念(と言う名の視線)を飛ばす。

手を伸ばして、撫でられそうになったら我慢する。

目を閉じていれば、恥ずかしさなんて感じる間もなく終わるだろう。

撫でられる事に慣れたら、次はもっと甘えられるはず。

...なんて考えていたのだが、提督は一向に私の事を撫でてくれない。

初風(...どうしてこういう時に限って撫でてくれないの?)

我侭極まりないが、じれったいのも事実。

私は何時もより力をいれて視線を提督へ送る。
23 : ◆6x79oqdrbDOF [saga]:2018/07/05(木) 01:24:19.34 ID:a363b6qL0

初風(撫でて撫でて撫でて撫でて)

提督「...初風?」

私の視線に気づいたのか、ようやく提督はこちらを向く。

すると彼は何か納得したような顔をした後、微笑みながらうんうんと頷いた。

やったわ!これで次の段階へいけるはず!

後は提督に撫でて貰うだけ...

提督「ああ、わかってる。...お手洗いだな?」

違 う わ よ !
24 : ◆6x79oqdrbDOF [saga]:2018/07/05(木) 01:24:48.83 ID:a363b6qL0

何も言わずに私は彼をにらみ続ける。

流石におかしいと思ったのか、提督は怪訝な表情を顔に浮かべた。

提督「...あ、あれか?デリカシーが無かったとか。えーと、お花、摘んできてもいいぞ?」

お 手 洗 い か ら 離 れ な さ い よ!

なんなの?提督はそんなに私をお手洗いへ行かせたいの?

一向に思いが伝わる気配がなく、私は焦り始めた。
25 : ◆6x79oqdrbDOF [saga]:2018/07/05(木) 01:25:28.96 ID:a363b6qL0

摩耶「提督ー、邪魔するぜ...どうしたんだ初風、そんなガン飛ばして。」

執務室へ入ってきた摩耶さんがこちらを見ると、ぎょっとした顔で話しかけてきた。

提督「摩耶...さっきから初風がずっとこの調子なんだよ。たぶん何か伝えたいんだろうけど...」

摩耶「はぁ...分かってねーな提督、こういう時は大抵アレだぜ。アタシに任せとけ」

そう言いながら、摩耶さんが私へ近づいてきて小さな声で耳打ちをする。

摩耶「初風...お前、トイレ行きたいんだろ?俺が提督に伝えといてやっから、な?」

...午後からがんばろう。

私は諦めてお手洗いへと向かった。
26 : ◆6x79oqdrbDOF [saga]:2018/07/05(木) 01:26:00.40 ID:a363b6qL0

提督「ウッ..フグッ...」

敷波「元気出しなよ、提督」

初風「ちょっと...何があったのこれ」

敷波「それが...」

昼休みから帰ってくると、執務室の隅っこで泣きながら丸くなっている提督と、それを励ます敷波の姿があった。

敷波から話を聞くと、可愛がっていた猫が他所様の猫と発覚したそうだ。

まあ私もそんな気はしてたけど。
27 : ◆6x79oqdrbDOF [saga]:2018/07/05(木) 01:26:41.42 ID:a363b6qL0

初風「ほら、大の大人が何時まで泣いてんのよ」

地べたで丸まる提督に私は慰めの声をかける。

提督「うグッ...こんなに苦しいのなら悲しいのなら...愛などいらぬ!!」

どんだけ悲しんでるのよ...。

提督は妙に涙腺が弱い節がある。この前、帰ってきたドラえもん見てた時も馬鹿みたいに泣いてたし。

提督「これから俺は何を愛でればいいんだ...?なあ、教えてくれよ初風」

初風「わ、」

提督「わ?」
28 : ◆6x79oqdrbDOF [saga]:2018/07/05(木) 01:27:10.11 ID:a363b6qL0

初風「...分かんないわよこの、へっぽこ!」

提督「お"お"お"ん"」

敷波「ああ、もう...」

結局、提督はその日一日中鼻水をすすりながら仕事をしていた。

...私を愛でなさいよ。
29 : ◆6x79oqdrbDOF [saga]:2018/07/05(木) 01:27:44.41 ID:a363b6qL0

夜、布団の中で私は一人悩む。

どうしたら撫でてもらえるんだろう。

早い話、撫でてと言えば提督は快く私を撫でてくれるだろう。

ただ、それは今の私にとってあまりに高いハードルなのだ。

ふと脳裏に提督に撫でられる猫の姿が浮かぶ。

...私が猫だったら、何も言わずに撫でて貰えるのに。

私が猫だったら...私が猫?
30 : ◆6x79oqdrbDOF [saga]:2018/07/05(木) 01:28:17.70 ID:a363b6qL0

私=猫。

猫=撫でられる。

私=撫でられる。

Q.E.D.

とんでもない穴だらけの三段論法を私は頭の中で組み立てる。主に大前提の部分。

でも、これなら恥ずかしくかも。

猫が撫でられるのは普通の事なのだから。

新しい作戦を思いついた私は、すぐさま布団の中でイメージトレーニングをし始めた。
31 : ◆6x79oqdrbDOF [saga]:2018/07/05(木) 01:28:59.24 ID:a363b6qL0

初風「摩耶さん、今日の秘書艦なんだけど私と代わってもらえませんか?」

作戦当日、私は摩耶さんに秘書艦の交代をお願いしていた。

昼休み前に、ある場所へ行かなければならないからだ。

すべては提督に撫でてもらうため。

摩耶「ん、珍しいな。もしかしてアレか?」

初風「別におなかは痛くないです」

摩耶「お、おう...まあ摩耶様に任せとけ。提督には伝えておくから」

初風「よろしくお願いします」

...よし、一段階目は達成ね。

ここ数日、提督が未だに猫の姿を追って、鎮守府裏の茂みに足を運んでいる事は調査済みだ。

私は足早に茂みへと向かった。
32 : ◆6x79oqdrbDOF [saga]:2018/07/05(木) 01:29:26.02 ID:a363b6qL0

暫く茂みの中で待つと、提督が現れた。

やはり彼は猫を探しているらしい。

....落ち着いて私。私は猫、私は猫...。

今日まで幾度となく頭の中でイメージトレーニングを積んだのだ。

私ならやれるはず。

提督「いないか」

提督が立ち上がる所を見計らって、私は茂みの中から飛び出した。
33 : ◆6x79oqdrbDOF [saga]:2018/07/05(木) 01:29:55.28 ID:a363b6qL0

初風「...に、にゃあ」

私を見た提督が固まる。

でもそんなのは知ったことじゃない。今の私は猫なんだから!

イメージトレーニング通り、招き猫の状態をキープする。

提督「あっ、えっと、きみは何処の、何ていう猫ちゃんかにゃ〜?」

...こういう時はどうやって返事すればいいんだろう。

想定外の問いかけに私は少し考え込む。

ここは素直に答えるべきなのかも。
34 : ◆6x79oqdrbDOF [saga]:2018/07/05(木) 01:30:24.71 ID:a363b6qL0

初風「えと、ここの鎮守府所属の、陽炎型駆逐艦、初風です...にゃ」

なかなか良い線をついたんじゃないかしら。ちゃんと語尾も猫っぽいし。

提督「そっかー、初風ちゃんかー...」

初風「そうよ...にゃ」

よし、掴みは上々みたいね。後は流れで撫でて貰えるに違いないわ。

初風「よいしょっ..と」

提督「おおう...」

茂みから這い出て、私は提督の前に立つ。
35 : ◆6x79oqdrbDOF [saga]:2018/07/05(木) 01:31:08.67 ID:a363b6qL0

しかし、何時までたっても彼は私を撫でてくれない。

それどころか彼は手を額に押し当てたまま立ち尽くしていた。

余りにもじれったくなって私は彼に問いかけた。

初風「で、撫でないの?」

提督「撫でていいのか」

初風「撫でていいのかって、前まであんなに撫でてたじゃない」

猫は撫でる生き物じゃないの?...おかしな事を言うのね、提督は。
36 : ◆6x79oqdrbDOF [saga]:2018/07/05(木) 01:31:38.74 ID:a363b6qL0

提督はおそるおそるこちらへ手を伸ばす。

き、きた!ついにきたわ!

私は思い切り目を瞑り、その時を今か今かと待ちわびた。

彼の手が私の頭の上に触れる。それは撫でる、と言うよりもどちらかと言うと、置くと言った方が正しいかも知れない。

暫くすると、ゆっくりと一方通行に手が動き出す。

彼の手の重さが伝わるようになり、それからは波のように私は彼の手に揺られた。
37 : ◆6x79oqdrbDOF [saga]:2018/07/05(木) 01:32:18.44 ID:a363b6qL0

...気持ちいいな。ずっとこうしていたい。

もっと、もっとと思っているうちに体が疼きだす。...私は大分、欲深い性格みたいだ。

私のブレザーの右ポッケには、提督がゴミに出したはずの猫の首輪がある。

先日彼が私に捨てておいてくれ、といって渡してきたのだ。

本当はそのまま捨てるべきだったのだけれど、何故か捨てられなかった。

首輪についている鈴を転がしながら、私は心の中で唱える。

私は猫、私は猫...。もっと上手に甘えられるはず。
38 : ◆6x79oqdrbDOF [saga]:2018/07/05(木) 01:33:45.84 ID:a363b6qL0

初風「...頭だけでいいの?」

提督「えっ」

他の所も撫でて。

意図を汲み取ったのか、彼は私の首に手を伸ばす。

...首?

初風「シッ!!!」

提督「いって!」

近づいてきた提督の手を叩き落とす。

首はやめて、首は。まだ古傷が痛むのよ。

他に撫でるべきところがあるでしょ?おなかとか、...あと、お尻とか。
39 : ◆6x79oqdrbDOF [saga]:2018/07/05(木) 01:34:12.01 ID:a363b6qL0

提督「じゃあおなかで」

初風「...ん」

私は提督に言われるがままに、服をめくる。

私のおなかに沿うように当てられた手から、提督の熱が伝わってきた。

...さっきから私の鼓動が煩い。

まるでソナーから発せられた電波のように、提督の手と私のおなかを行き来して際限なく鳴り響く。

ふと瞑っていた目を開けると、そこには提督の顔があった。

彼は私に微笑みかけながら、規則性のある動きで私のおなかを撫で続けている。
40 : ◆6x79oqdrbDOF [saga]:2018/07/05(木) 01:34:40.74 ID:a363b6qL0

は、はずかしい...。

提督の顔を見て急に羞恥心がぶり返し、堪らなくなった私は逃げようとする。

しかし

初風「あ、あれ?」

体の筋肉が弛緩しているのか、私の言うことを受け付けないのだ。

その間にも提督の手は絶え間なく動き続け、私の体へ潜熱を貯める。

そのうち私は耐えられなくなって、体の制御権の全てを提督に委ねてしまう。

幸せと恥辱が入り混じった感情を胸に抱えながら、私はされるがままの時間を彼と過ごした。
41 : ◆6x79oqdrbDOF [saga]:2018/07/05(木) 01:35:27.26 ID:a363b6qL0

時津風「んでねー、そのとき天津風がぁ」

秋津風「ちょっと!それは秘密って言ったじゃない!」

夕飯時、私は姉妹艦の皆と食卓を囲み団欒していた。

表面上はいつも通りの私だが、頭の中は昼休みの出来事でいっぱいだった。

あの後、私は日が暮れるまで提督に撫でられ続けて、色々と恥ずかしい思いをしたのだ。

...もう少しで漏れちゃう所だったし。

思い出すだけで頭がどうにかなってしまいそうだ。

無意識に提督のほうへ視線を向けると、彼と視線が合ってしまった。
42 : ◆6x79oqdrbDOF [saga]:2018/07/05(木) 01:36:33.95 ID:a363b6qL0

初風「っ!」

今まで考えていた事が、より鮮明に私へと反芻される。

時津風「初風、調子でも悪いの?なんか落ち着かないけど」

初風「なんでもないわよ...間宮さん、ご馳走様!」

限界に達した私は、時津風へまともな受け答えも出来ずに食堂から飛び出した。

初風「はぁ...はぁ...」

飛び出した私は、そのままの勢いで大広間へ来ていた。

誰も居ないことを確認してから、長椅子の端に身を寄せて深呼吸をする。
43 : ◆6x79oqdrbDOF [saga]:2018/07/05(木) 01:36:59.92 ID:a363b6qL0

思ったより重症なのかもしれない。

うっかり口を開けば彼への欲望を、一切合財、吐き出してしまいそうな程に。

甘える事に慣れていないから仕方ないのかもしれないが、これを続けると思うと正直な所、持ちそうにない。

まだまだ先は長いかなぁ...。

息を整え終え、椅子から立ち上がると足音が聞こえてきた。

その足音は聞き慣れた革靴である事に私は気づく。
44 : ◆6x79oqdrbDOF [saga]:2018/07/05(木) 01:37:27.59 ID:a363b6qL0

提督「初風」

初風「...」

静かになったはずの私の鼓動が忙しなく動き出し、私の体に熱を帯びさせる。

手には自分が驚くほどの汗。

提督「あの、今日の事なんだけどさ」

初風「き、今日の事って何かしら?私にはさっぱり分からないわ」

恥ずかしいから追求しないで、とポーズを送る。

しかし彼の顔は私の嘆願とは裏腹に、とても悪い顔をし始めていた。

なにかすっごい、いやな予感がする。
45 : ◆6x79oqdrbDOF [sage saga]:2018/07/05(木) 01:38:10.20 ID:a363b6qL0

提督「...にゃーん」

初風「!!」

彼は猫の鳴き真似をしたのだ。非常に大人げのない男である。

顔から火が出そうになりながらも、私は黙って応戦した。

提督「陽炎型駆逐艦、初風です...にゃ」

初風「あああああああああああああもう!何なのよ一体!」

提督「初風は提督大好き好き好き発情猫です...にゃ」

初風「そんなことは一言も言ってないでしょ!?」

捏造してんじゃないわよ!
46 : ◆6x79oqdrbDOF [sage saga]:2018/07/05(木) 01:38:52.32 ID:a363b6qL0

提督「ん?そんなことは?」

初風「...あっ」

我慢の限界に達した私は思わず反論を返したが、思わぬ所でカウンターを食らってしまった。

対する彼は、してやったりの顔。

...もう諦めよう。

私は観念して、彼に白状した。

初風「ええ、そうよ。私は馬鹿みたいに猫の真似をしていたわ。...それで、何がお望みなのかしら」

提督「いや別に。弱みを握って何かしようとは思ってないからな」

初風「そうなの...」

提督「何か残念そうじゃない?」

初風「そ、そんな訳無いじゃない!」
47 : ◆6x79oqdrbDOF [sage saga]:2018/07/05(木) 01:39:17.46 ID:a363b6qL0

提督「まあ初風がいいって言うならお願いしようかな」

初風「...」

提督「また撫でても良いか?」

初風「...別に好きにすれば良いじゃない」

提督「ではさっそく」

そう言いながら彼は私へ手を伸ばす。

近づいてくる彼の手が、私の視界を埋め尽くす。このまま触られたら、私はどうなっちゃうんだろう。

全てを放り投げて、彼に溺れてしまうのだろうか。

それで彼に望まれたら、何もかも受け入れてしまって...。
48 : ◆6x79oqdrbDOF [sage saga]:2018/07/05(木) 01:40:18.18 ID:a363b6qL0

初風「や、やっぱナシ!ナシで!」

そんなの無理!やっぱり恥ずかしい!

妄想を膨らましすぎて、恥ずかしさの余り頭がショートを起こしたみたいだ。

私は抑えきれなくなった気持ちを、手を振り回しながら発散させる。

提督「ちょ、それはないだろ!俺もう撫でる気満々なんだけど!」

初風「知らないわよそんな事!あとそのワシャワシャする手付きをやめなさい!触ったら妙高姉さん呼ぶからね!?」

提督「そんなぁ...」

大体、一度撫でたからって調子こきすぎなのよ!そんなに簡単に撫でさせる訳ないでしょ!

不満げな彼を尻目に、私は自室へ逃げ去った。
49 : ◆6x79oqdrbDOF [sage saga]:2018/07/05(木) 01:40:43.52 ID:a363b6qL0

それからと言うもの、私はいつもと変わらぬ日常に戻っていた。

あの日以来、私は提督を意識しすぎて戸惑っている。

普段はすぐに終わらせてしまう仕事も、今ではまったく手がつかない。

一旦筆を休め、私は目を瞑る。

私はどうしたらいいんだろう。

今までより一つ上の段階へいけた事は確かだが、前よりももっと大きな壁に当たってしまった気がする。
50 : ◆6x79oqdrbDOF [sage saga]:2018/07/05(木) 01:41:18.32 ID:a363b6qL0

一度彼に甘えた経験が、私を更なる欲望へ駆り立てるのだ。

もっと近づきたい。体を触ってもらいたい、甘えたい。

精神と釣り合わない欲求が、行き場を失って私を不安定にさせる。

...まぶたがとても重い。最近の寝不足気味もあって、私は仕事中にも拘らず意識を手放してしまった。
51 : ◆6x79oqdrbDOF [sage saga]:2018/07/05(木) 01:41:52.23 ID:a363b6qL0

初風「...あれ、私」

提督「すまん、起こしちゃったか」

気づくと私は長椅子で横になっていた。たぶん、提督が私をここまで運んでくれたのだろう。

...だめだなぁ、私。

悩みすぎて、何もかもが中途半端だ。こんなんじゃ提督の横に立つ資格なんてない。

思い詰めた気持ちはあっという間に私の心の許容範囲を超えて、目から涙としてあふれ出てきた。

泣いている顔は見られまいと瞬きをしてごまかそうとしたが、それも出来ているかは私には分からなかった。
52 : ◆6x79oqdrbDOF [sage saga]:2018/07/05(木) 01:42:18.63 ID:a363b6qL0

どうすればいいの。わからないわ、提督...。

横にしゃがみ込んでいる提督を見る。

どこか困った顔をしながらも、彼は優しい顔で私を見つめていた。

初風「...にゃあ」

私の口から、自然と猫の鳴き声が漏れる。

提督「初風?」

初風「いいわよ、撫でても」

初風「...じゃないわね。撫でて欲しい...にゃ」

助けてほしい。私を許して欲しい。

どうしようもなく未熟で、不完全な私を。
53 : ◆6x79oqdrbDOF [sage saga]:2018/07/05(木) 01:42:47.40 ID:a363b6qL0

提督は無言で私の体に手を沿わせる。

頭、髪、顔、腰...。

提督が触った所から、私は再構成されていく。この場所に私が居る事を、彼が証明してくれるのだ。

それが堪らなく嬉しくて、私は彼に抱きついた。

もっと抱きしめて。私を認めて。

止めとなくあふれ出す欲求が、私の体を支配する。

でも、それも今では怖くない。彼が受けとめてくれるのだから。
54 : ◆6x79oqdrbDOF [sage saga]:2018/07/05(木) 01:43:16.19 ID:a363b6qL0

一通り提督に触って貰って、残すところは首だけとなった。

初風「ねぇ...首、触って欲しいな」

提督「...いいのか」

初風「提督に触って欲しいの」

怖くないと言えば嘘になるけど、提督と一緒だったら乗り越えられるはず。

ゆっくりと近づけられた指が、私の首に触れる。

初風「意外と、気持ちいいものね...誰かに触れられるのって。」

そうして私は不器用で捻くれた、今までの仮初の私と、少しだけお別れをした。
55 : ◆6x79oqdrbDOF [sage saga]:2018/07/05(木) 01:44:28.28 ID:a363b6qL0

初風「はい、これ」

提督「これって...」

初風「もったいないから、貰っちゃった」

彼と一緒に一頻り泣いた後、私は例の首輪を渡した。

初風「私、他の子みたいに素直じゃないし、甘えるのだって下手だと思う」

初風「だから、その...いつでも甘えられるように、誰かさんに管理して欲しいな」
56 : ◆6x79oqdrbDOF [sage saga]:2018/07/05(木) 01:45:04.17 ID:a363b6qL0

提督「知ってるよ。初風の事、一番俺が見てきたから」

そう言いながら彼は、私が差し出した首へと首輪をつけた。

初風「今まで甘えられなかった分、甘えてやるんだから。...覚悟しなさいよ」

提督「お手柔らかに頼むよ」
57 : ◆6x79oqdrbDOF [sage saga]:2018/07/05(木) 01:45:34.67 ID:a363b6qL0

あの日を皮切りに、私と提督の距離は一気に縮まった。

以前では考えられなかった位に。

初風「...おはよ、提督」

提督「ああ、おはよう初風」

私は提督の元に勢い良く走り寄ると、勢いをつけて膝へ飛び乗る。

提督「おっと...今日も甘えんぼさんだな」

「そうよ、知らなかった?私、誰よりも甘えたがりなの」

提督「...知ってるよ」

提督に頭を撫でられながら、私は首元の鈴を鳴らした。
58 : ◆6x79oqdrbDOF [sage saga]:2018/07/05(木) 01:46:40.64 ID:a363b6qL0
終了!

html依頼出してきます
59 : ◆6x79oqdrbDOF [sage ]:2018/07/05(木) 02:12:22.05 ID:a363b6qL0
>>57 訂正

あの日を皮切りに、私と提督の距離は一気に縮まった。

以前では考えられなかった位に。

初風「...おはよ、提督」

提督「ああ、おはよう初風」

私は提督の元に勢い良く走り寄ると、勢いをつけて膝へ飛び乗る。

提督「おっと...今日も甘えんぼさんだな」

初風「そうよ、知らなかった?私、誰よりも甘えたがりなの」

提督「...知ってるよ」

提督に頭を撫でられながら、私は首元の鈴を鳴らした。
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/05(木) 09:57:37.99 ID:TrbI/j3lo
最高やんけ
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/05(木) 12:48:31.80 ID:yFOMxTh2O
おつ!
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/05(木) 14:17:55.93 ID:VK7XyelDo
ブラックコーヒー下さい、濃いめで
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/12(木) 23:39:35.96 ID:fdD1yFHro
秋津風がおる
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