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江ノ島「明日に絶望しろ!未来に絶望しろ!」戦刃「…終わりだよ、ドクターK!」カルテ.8
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23 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/09(月) 06:45:17.85 ID:tEY+wDkk0
乙
>>22
絶望的に不利だねぇ・・・かませがさくらちゃんに直接謝罪してくれれば希望を取り戻してくれるかな
24 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/14(土) 08:34:44.89 ID:OgBIMorCo
きてた、おつ!
ハラハラする〜〜!
さくらちゃん絶望してても、絶望堕ちはしないって信じてる……
25 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2018/08/13(月) 00:49:44.40 ID:2lixqv+p0
KAZUYAの到着に気が抜けたのか、霧切はその場に座り込む。
少なくとも今は戦える状況ではないだろう。
「大和田、霧切を!」
「おう!」
大和田が霧切を抱えて廊下に連れ出す。
庇うようにKAZUYAは仁王立ちし、戦刃をキッと睨みつけた。
「戦刃むくろ……! もうお前の、お前達の好きにはさせん!」
「それで形勢逆転のつもりなの? 素人が数人来た程度で私を止められると思ってる?」
ナイフをきらめかせて戦刃は目を細めた。
「ちゃんちゃらおかしいね」
戦刃はKAZUYA達を無視して左を向いた。
「…………」
その先にいるのは大神だ。
「しまっ……!」
「フンッ」
「――えっ?」
26 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2018/08/13(月) 00:59:00.40 ID:2lixqv+p0
プシャァァッ……
「え、えっ……?」
―― 一瞬の早業だった。
戦刃は大神を攻撃すると見せかけて高く跳躍し、KAZUYAの右側にいた桑田に切り掛かったのだ。
桑田は咄嗟に後ろに飛びのいて右手で防いだ。超人的動体視力と反射神経の為せる技だったろう。
だが、鋭いナイフはバターのように桑田の右手を切り裂き白い壁に鮮血が飛び散った。
「……あああああああっ?!」
「桑田ッ!」
追撃を受ける前にKAZUYAは桑田の襟首を掴んで後ろに放り投げる。
戦刃はそのままKAZUYAを追撃することも出来たはずだが、あえて一度距離を取った。
焦って万が一の反撃を受けるリスクを避けたというのもあるが、
そこまでする程の敵ではないという余裕の表れでもある。
「桑田ッ?! クソがぁッ!」
霧切を置いて戻ってきた大和田は保健室に常備していた木刀を手に取り構える。
だが、不良の喧嘩とは訳が違うことは大和田もよくわかっていた。
戦刃が持っているのは木刀より遥かにリーチの短いサバイバルナイフである。
にも関わらず、迂闊に切り込めば唯一の武器であるこの木刀が真っ二つにされるだろう。
故に、間合いを確かめながらゆっくりと戦刃の後ろに回り込む。
27 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2018/08/13(月) 01:09:17.59 ID:2lixqv+p0
「挟み撃ちは基本だよね?」
戦刃は至極冷静だった。たかだか素人に毛が生えた人間二人程度、
彼女にとって何の障害でもない。予想外の行動を取りそうなKAZUYAにだけ
注意を払っておけば、大和田一人くらい容易に捌けるだろう。
「クソォォ……」
桑田は既に自分がカウントさえされていないことを察し右手を押さえ呻いた。
「桑田君、利き手をやられちゃったからもう大好きな野球も出来ないね?
あれ、前は嫌いって言ってたから逆にちょうど良かったのかな?」
「……!」
「テメエッ……!」
明らかな挑発だ。以前の大和田なら今の言葉で飛び込んでいただろう。
だが精神的な成長を積み、冷静な判断力を手に入れた大和田は悔しげに顔を歪めるだけだった。
K(隙がない……それになんというプレッシャーだ)
相手が女、それもまだ高校生だという事実に脅威を覚える。
彼女は誰かが作り上げた生物兵器などではない。ただ才能を持って生まれただけの、
普通の人間だ。今更ながら才能という存在にKAZUYAは自然の畏怖を感じていた。
「来ないなら、こっちから行くよ」
28 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2018/08/13(月) 01:17:29.35 ID:2lixqv+p0
「!」
戦刃がKAZUYAに仕掛ける。今度はフェイントなしの真っ向勝負だ。
下手な小細工を使うよりも、確実に相手側の戦力を削ることを選択したのである。
KAZUYAさえ潰せば問題ない。全滅させることも出来るし、江ノ島の指示を待って動くことも出来る。
「クッ!」
KAZUYAはいざという時のため、アームカバーの下に食堂のナイフなど金属類を仕込んでいた。
それを用いて戦刃のナイフを弾いていなす。狭い保健室に鈍い金属音が響いた。
首、脇腹、手首、大腿……残像が見える程に高速で打ち合っていく。
(少しはやるようになったみたいだね。でも)
「これはどうかな?」
斬撃からの足払いと見せかけた鋭い中段蹴り、KAZUYAは咄嗟に後退するが腹部に掠った。
後ろに跳んだことで威力をある程度殺したはずだが、その攻撃は尚重い。
「グゥッ?!」
「おらあああああ!」
追撃をかけようとしたが、背後から大和田の援護があったため振り向かずに
戦刃は横に跳ぶ。大和田も焦らず再び距離を維持しながら構え直した。
以前だったらここで大和田は仕留められたのに、と嘆息しながらもまだ戦刃は余裕である。
29 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2018/08/13(月) 01:26:37.21 ID:2lixqv+p0
「良かったよ。二人が強くなってくれて。弱いものイジメはしたくなかったからね」
「…………」
「…………」
軽口を叩く戦刃に反し、二人は無言だった。会話をする余裕などない。
「でも私もプロだから、あまり時間はかけられない。――だから、さようなら」
「!!」
息もつかせぬ連続攻撃がKAZUYAを襲う。全身を使いまるで踊るような戦刃の動きは、
KAZUYAと大和田の息の合った連携攻撃すらビクともしない。やられるのは時間の問題だろう。
(こちらからも攻撃しなければ……!)
攻撃は最大の防御とも言う。思えば、KAZUYAはこの期に及んで未だに及び腰だった。
(大和田には殺す気で行かなければ駄目だと大口を叩いたくせにな……
俺自身、まだ覚悟が出来ていなかった。だが)
視界の端には右手を抑えて呻く桑田の姿があった。白い上着が血で染まっていた。
あの時、KAZUYAが覚悟を決めていたら守ってあげられたかもしれない。
――男はとうとう覚悟を決めた。
30 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2018/08/13(月) 01:34:23.85 ID:2lixqv+p0
(あれは……!)
「フッ!」
戦刃は本能で攻撃をやめ腕を引く。その一瞬後の空気を小さい、
それでいて世界のどんなナイフよりも鋭い刃が切り抜けていった。
KAZUYAは手にメスを持っている――掠っただけで相手の命を奪うメスを。
(この悪寒……間違いない。あのメスは【毒】が塗られてる!)
(俺は医師失格かもしれん。だが、生徒の命を守るためにはもはやこうする他ない……!!)
毒を塗ったメスを両手に持ち、KAZUYAは戦刃の手や足を狙う。流石の戦刃も飛び道具がない以上、
むやみやたらと突っ込む訳には行かず、攻撃の手は緩むが掠り傷すらつけてくれない。
結局趨勢をひっくり返すには至らず、若干の膠着状態となっただけであった。
(クソッ! 俺がもう少し強ければなんとかなりそうなのによ!)
大和田は今までの粗い攻撃から、相手の急所を狙った繊細な攻撃へと転換していたが
所詮付け焼き刃であり、戦刃の反撃に気を付けるのが精一杯である。
こんなことならKAZUYAと一緒に大神から特訓でも受けていれば良かったと歯噛みしたが、
後悔したところで時は戻ったりはしない。今出来ることはKAZUYAの援護をして
けして浅慮な行動は取らず足手まといにならないことである。
一方、桑田は立ち尽くして三人の攻防を眺めているしかなかった。
31 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2018/08/13(月) 01:42:28.79 ID:2lixqv+p0
「ち……くしょう」
(痛てぇ……痛てえよ……)
血が止まらない右手を押さえながら、涙を堪える。大事な右手を傷付けられたことも痛みも
桑田にとっては重要だが、既に自分が戦力外となっている事実が何より辛かった。
(クソッ! クソクソクソッ! なんで……これじゃなにしに来たかわからねえじゃねーか!)
桑田の体格では大神を抱えて待避することも出来ない。かといっておめおめ一人だけ
逃げ帰ることは絶対に有り得ない。自分が囮となって飛び込めば戦刃の意識も一瞬くらいは
逸れるかもしれないが、……その場合、確実に生きては戻れないだろう。
傍観者。
それが今の桑田の非情な立ち位置だった。
(神経は……無事だ。メチャクチャいてーけど指の感覚はある。なにか、なにかしねーと……)
痛みを無理やり押さえつけながら周りを見渡した時だった。彼女と目が合ったのは。
「……!」
壊された扉からは廊下が丸見えであり、そこには未だ動けない霧切がいた。
いや、震える足に鞭を打ち今立ち上がろうとしている。
(お、おいおいおい……まさかおめー……)
32 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2018/08/13(月) 01:49:06.32 ID:2lixqv+p0
「…………」
霧切は無言でコクリと頷く。先程自分が却下した案を、霧切はまさに実行しようとしていた。
(ダ、ダメだろ! 死ぬぞ! せんせーだって喜ばねーだろ、そんなの!)
桑田は血相を変えて顔を横に振るが、霧切の意思は固かった。
(ごめんなさい、桑田君。誰かがやらないといけないの)
(いやいやいや! よせって! 他に何かあるはず! 絶対にっ!!)
(……ごめんなさい)
(や、やめろッ!)
不思議と、声を出さずとも二人の心は通じていた。
このコロシアイという極限状態で、長く苦難を共にしていたからかもしれない。
桑田には霧切の決意が痛い程伝わってきていた。止められないということも。
(いいのか、女に特攻させて?! それでも男か?!)
だが建前とは別に、桑田の脳裏には走馬灯のごとく様々な思い出が浮かぶ。
両親、従姉妹、チームのメンバー達……
33 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2018/08/13(月) 01:55:15.50 ID:2lixqv+p0
やっと素直になれた野球。
初めて努力をした音楽。
共に戦う仲間、親友、そして恩師――
何一つ手放したくない。死んだら全てを失うことになる。
(死にたくねえ……正直死にたくねえ……)
桑田は唇を深く深く噛みしめる。
(俺にはまだ夢が、将来がある。こんなところで終われねーんだ!)
霧切が、壁に手をかけながら立ち上がった。戦刃はKAZUYAのメスと大和田に気を取られている。
彼女が一瞬でも隙を作れば、KAZUYAのメスがたちまち戦刃を斬りつけるだろう。
(これは私にしか出来ない。――さようなら、桑田君。みんな)
悲壮な決意を固めた霧切が駆け出した。
「!」
戦刃が背後の異常に気が付く。
そして――
「う、うわあああああああああ!!」
34 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2018/08/13(月) 01:57:21.03 ID:2lixqv+p0
……桑田は霧切の手を左手で掴むと全力で引き戻した。
35 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2018/08/13(月) 02:02:49.22 ID:2lixqv+p0
ここまで。
36 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/08/13(月) 15:15:58.00 ID:2gIY5zMkO
乙
37 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/08/23(木) 09:49:29.46 ID:oArkndIq0
お願い!死なないで桑田!
38 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/09/01(土) 10:30:09.84 ID:Kxg0XJfx0
気になるところで…
39 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/09/01(土) 23:43:38.15 ID:yzRhRmTk0
まだこれが日常編という恐怖
残姉が銃火器持ってたら本当に殲滅戦になってたんやろなぁ
40 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/09/02(日) 09:18:57.80 ID:aZZ82fJl0
殲滅戦っていうか戦いの体にすらならんと思う
装備万端かつ屋内の残姉とかさくらちゃんでもキツいでしょ
41 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/09/03(月) 01:53:37.79 ID:lk1EoBRH0
そういえば、いつのスレか忘れたけど、銃を渡したらただの殺戮になるとか江ノ島も言ってたな
42 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/10/15(月) 09:12:52.51 ID:yC7lOaFI0
復活記念age
43 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2018/10/18(木) 02:41:10.90 ID:fHyjlLB70
生存報告
ツイッターの方にも書きましたが、近日更新します。
とりあえずドラえもんロンパの方は更新しました。
44 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/10/19(金) 18:33:52.30 ID:jJZZSiyBO
乙!
45 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2018/11/09(金) 00:17:07.23 ID:K+hs65Mt0
長らくお待たせしました。
更新再開します!
46 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2018/11/09(金) 00:19:46.48 ID:K+hs65Mt0
「桑、田……くん?!」
何を――?!と言いたいのだろう。霧切が目を見開き驚愕している。
(死にたくねえ! でもそれは霧切だって同じだろッ!!)
「く、た、ば、れええええ!!」
桑田は手の傷が広がることも顧みず、ボールを掴んでフォームを取った。
天を突かんがごとく足を振り上げる絶対のフォーム。幾度も敵のバッターを討ち取ってきた。
「甘いよ!」
だが戦刃の経験は遥かに上だ。手に持っていたナイフをすかさず投擲する。人数的に不利と
感じた戦刃は、即座にターゲットを桑田に変更しそのまま撤退することを選択したのだ。
「!!」
「桑田君ッ!!」
戦刃にとって最優先なのはとにかく生徒を殺害してKAZUYA達に
精神的ダメージを与えることであり、殺害対象自体は誰でもいい。
初期から精力的に動いていた桑田を殺害出来れば戦果としては十分である。
感情のない鋭い瞳が哀れな獲物を捕捉する。
「うっ……!?」
47 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2018/11/09(金) 00:28:44.77 ID:K+hs65Mt0
自分に攻撃が向くことは桑田も予期していた。
たとえ刺し違えても戦刃に打撃を与えられればいいと思っていた。
……だが想いとは裏腹に、思わずナイフを避けて態勢が崩れてしまったのだ。
(あ、倒れる……)
『本能』だった。危険から避けたいという本能。
桑田の決意が弱かった訳ではなく、本当に思わず動いてしまった。
投球という精緻な動きをしていた体は、ほんの少し重心がズレただけであっさり崩れてしまう。
戦刃がこちらに向かってくる姿が瞳に映った。壁に刺さったナイフを回収して
自分にトドメを刺し、場合によっては霧切も殺しながら逃げるのだろう。
――ここで終わりなのか?
(あ、終わった)
桑田は心の中で呟く。
あが、死を目前とした超感覚と言うべきだろうか。
世界が非常にゆっくりとしたスローモーションへと塗り変わっていく。
一コマずつ近づいてくるナイフ。
体勢の崩れた自分の体。
斜めになる視界。
向かってくる戦刃。
獰猛な獣のような目が、今驚きで見開いて――
48 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2018/11/09(金) 00:47:56.02 ID:K+hs65Mt0
俺はな――お前をうちのチームのエースだと思っているんだ。
49 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2018/11/09(金) 00:54:33.92 ID:K+hs65Mt0
「!!!」
いつかKAZUYAに掛けられた言葉が唐突に脳内でリフレインする。
……あれはいつだったか。
初めて学級裁判とオシオキを経験して、酷い悪夢にうなされた夜のことだった。
もう高校生なのに、男なのに、悪夢が怖くて眠れないと情けない弱音を
吐いた桑田に、KAZUYAは優しい言葉を掛けてくれたのだ。
ドクンと、心臓が一際大きく鳴る。
それは一瞬で早打ちドラムのように加速し、目の奥が脈打っているのを感じた。
頭から体中に広がるように、心臓のリズムが全身の細胞に連鎖していく。
全身の毛穴が浮き出すようだ。ビリビリと雷に打たれたように震え……
そして、それは傷ついた右腕にも――
―俺はエース。
―エース。
50 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2018/11/09(金) 00:58:44.04 ID:K+hs65Mt0
超高校級の野球選手
ヴゥンッ……
―――――――――
51 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2018/11/09(金) 01:01:34.97 ID:K+hs65Mt0
超高―――――――
52 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2018/11/09(金) 01:02:12.26 ID:K+hs65Mt0
超高校級の――――
53 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2018/11/09(金) 01:03:17.80 ID:K+hs65Mt0
超 高 校 級 の エ ー ス ! ! !
54 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2018/11/09(金) 01:04:13.71 ID:K+hs65Mt0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
超 高 校 級 の エ ー ス
桑 田 怜 恩
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
55 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2018/11/09(金) 01:14:53.05 ID:K+hs65Mt0
「おらああぁあああぁぁあああぁあああぁぁぁッッッ!!!」
――桑田は投げた!!
地面と斜めになり倒れゆく体から無理やり放った投球は、滅茶苦茶だった。
全身の筋肉を力付くで動かしての投球である。いつもの華麗なフォームは歪み、
当然いつも通りのスピードも精度も出ていない。だが桑田は、元よりほとんど練習せずに
己の恵まれた肉体と才能だけで155キロという剛速球を生み出していた。
その桑田がこの閉鎖生活で改心し、空いた時間の多くを練習に費やしていたのである。
今の桑田は通常時なら【時速168キロ】という脅威の球速を弾き出すことが出来る。
体勢が崩れ大幅にスピードが落ちたとはいえ、時速百数十キロの硬球が戦刃に向かった!
(クッ!!)
しかし桑田が天才であるように、戦刃もまた才能に愛された天才であり怪物だった。
桑田が投球を諦めていないことを察知した瞬間から既に回避行動に入っている。
転ぶことも覚悟してわざと大きく体勢を崩した。
「当たれえええああぁぁあああぁああッ!!」
(避けるッッ!!!)
二人の天才の才能が音を立ててぶつかる――!
56 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2018/11/09(金) 01:16:32.92 ID:K+hs65Mt0
前のめりになりながら戦刃の上半身は床に向かって落ちていくが、
桑田の腕と手の位置から硬球の射線は見切っている。
(……勝った!)
寸での所で戦刃は硬球の射線からズレた。
(ハ、ハハ! 私の勝ちだよ桑田君!!! このくらい避けられなきゃ軍人なんて務まらな……)
「まだ……終わりじゃねえッ!!」
「ッッ?!!」
――有り得ないことが起きた。
完璧に射線から外れた戦刃を追い掛けるように、ボールが曲がったのだ。
(有り得ない有り得ない有り得ないッ!! なんでッ?!!)
戦刃の理解を超えた凶弾は、彼女の右肩に直撃した。
“デッドボール”
――文字通り死のボールである。
57 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2018/11/09(金) 01:24:04.61 ID:K+hs65Mt0
「ぐ、ああああっ!!」
確かに戦刃むくろは恵まれた肉体の持ち主だが、体格的には特別大きくもないし
大神のように筋肉の鎧を着ている訳でもない。尚且つ、関節は人体にとって弱点である。
減速した硬球は骨を砕くまでには至らなかったが、関節は衝撃で外れ骨には幾許か亀裂を作った。
「ど、うして……?!」
「あら、知らなかったの?」
倒れ込んだ桑田を起き上がらせながら霧切が不敵に笑った。
「桑田君は野球選手なのよ?」
「!!」
ハッと戦刃は桑田の右手を見た。血まみれのその指はいまだ特徴的な形で固まっている。
独自の回転をかけてボールを曲げる技術――変化球。桑田といえば剛速球のイメージが強いが、
超高校級の野球選手である桑田はなんと全ての変化球を自在に投げ分けることが出来た。
戦刃に避けられることは桑田も読んでいたのだ。そうなると右に避けるか左に避けるかの二者択一だが、
当然逃げるなら扉の方向だろう。桑田にとって左側、則ちスライダーボールを投げたのだった。
スライダーは通常オフスピードピッチといい、けして早い球種ではない。
だが桑田の投げるスライダーは、速さもキレも通常のものとは比較にならないのだ。
「年貢の納め時のようだな」
「くっ……」
58 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2018/11/09(金) 01:33:54.58 ID:K+hs65Mt0
転んだままの戦刃を見下ろしながら、KAZUYAと大和田が囲む。
不用意に近付いたりはしない。何か隠し持っている可能性があるからだ。
「利き手を潰した時点で桑田を戦力外と判断したようだが、残念だったな」
珍しくKAZUYAが勝ち誇った。生徒の活躍が己のことのように嬉しかったのだ。
「桑田はうちのエースなんだ。俺の生徒に足手まといはいない!」
「へへっ……おめー、スポーツ詳しくなさそうだから教えてやるけどさ」
霧切に止血して貰いながら、青ざめた顔で桑田は笑う。
「エースってのは強いだけじゃねーんだ……みんなが辛い時に引っ張って行ったり、
試合で悪い流れになったらその流れを切り替えるためにいるんだよ……!」
それはあの夜に、KAZUYAが教えてくれたことだった。
「……デビルかっこよかったろ、俺?」
「まだ終わっていない。油断するな」
「もう勝ったつもり? 肩が外れただけなのにさ……」
「動くな、戦刃むくろ。少しでも妙な真似をしたらお前を殺す。俺は生徒達と違って甘くないぞ!」
「…………」
59 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2018/11/09(金) 01:35:54.20 ID:K+hs65Mt0
脅しではなかった。
もし戦刃が立ち上がったり外れた肩を治せば、KAZUYAは即座に毒のメスで切り掛かるだろう。
半端に情けをかければ生徒が危険に晒されることをKAZUYAはわかっている。
(こいつさえいなければ付け入る隙はあるのにっ……!!)
戦刃は歯がみした。このままでは間違いなく捕虜になるだろう。
そうなれば、最愛の妹である江ノ島に迷惑がかかる。
――『自決』。
その二文字が戦刃の頭に浮かぶ。
(ゴメン、盾子ちゃん……)
どうせ死ぬならせめてKAZUYAを殺して一矢報いたい所だが、利き手をやられ
武器もない今それは厳しいだろう。そうなると、誰を道連れにすべきか。
(西城と大和田君は無理。大神さんは距離がある。なら……)
戦刃は息を整え、獲物を見据える。
(霧切さんを狙えば確実に桑田君が庇う。そこを突く!)
60 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2018/11/09(金) 01:42:55.53 ID:K+hs65Mt0
桑田は右手を怪我しボールを手放した今、他に武器も持っていない。
油断するなと言われていても、左手のみの戦刃が自分を殺せるとは思っていないだろう。
所詮気を付けろといくら口で言われていても、実戦を経験していない者にわかるはずなどないのだ。
(両目を指で潰し、その勢いで延髄を破壊する。私なら出来る……)
思えば―― 一度殺すと決めたとは言え、やはり元同級生達を残酷な方法で殺すのは
戦刃にも多少抵抗があった。少しでも楽な方法で終わらせてやろうという一滴の情が介在した。
だからこそ大神と霧切を仕留め損ね、桑田からは反撃すら許してしまったのである。
戦刃はその甘さを認め、反省し、今一度神経を研ぎ澄ましていく。
(……何だ?)
KAZUYAは無意識に髪が逆立ち、肌が粟立っていく感覚を覚えた。
それが戦刃から発される殺気が原因だと気付くのに時間はかからない。
「ウアアアアアアアアアアアッ!!」
「戦刃アアアアアアアッ!!」
バネで弾かれたように飛び上がる戦刃、同じように前へ飛び込むKAZUYA。
どちらが早いか――
……だが、両者とも予想だにしない出来事がその時起こったのだ。
61 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2018/11/09(金) 01:47:27.35 ID:K+hs65Mt0
お待たせしてすみませんでした!
ここまで。
62 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/09(金) 12:25:08.63 ID:U70GAmyjO
乙!
桑田やるじゃん!
63 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/11/11(日) 03:44:19.29 ID:1ZX5aylDO
んんんんんううう!!!
素晴らしいよ!!!手負いの身で戦刃を仕留めるなんて…
流石超高校級の野球選手…いや、今は超高校級のエースというべきかな?
ああ、ボクみたいなゴミクズがこんな希望に満ち溢れた光景に出会えるなんて身に余る幸運だよ!!!
64 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/14(水) 19:17:06.79 ID:0JEPbwqp0
ついに追いついてしまった
アニメ一期しかまともに知らないにわかだけど、[
たぬき
]クロスのほうで興味惹かれてこっちも読んでます
みんなキャラが立っててすごいなーと思います
これからも更新頑張ってください
65 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/15(木) 19:06:38.58 ID:7LLGCkMHO
全部読み返してしまった…やっぱすっごい面白かった。こんな作品書いてくれてありがとう!
66 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/18(日) 23:09:42.96 ID:YY5rxaUU0
桑田の育成が成功するとこんなヒーローになってしまうんか…
絶対オンナにモテる(確信)
67 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/11/22(木) 00:15:03.36 ID:iV8OedZjO
これ覚醒したら他の生徒も肩書き変わるのかな?
68 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/22(木) 03:18:47.03 ID:pOrg4zLIO
レオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃんレオンお兄ちゃん…。
69 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/25(日) 00:11:38.08 ID:pHcU40cU0
でもこの桑田、ガールフレンドよりもK先生や野球を選びそうなんだよなぁ…
70 :
◆takaJZRsBc
[sage]:2018/12/03(月) 02:46:46.61 ID:2NI7p81X0
>>64
>>65
ありがとうございます。体調悪かったりスランプだったりしても
皆さんのコメント読み直して気持ちを奮い立たせて頑張って書いてます
>>67
変わります。一番最初に改心して味方になった桑田がやはり覚醒一番手かなと
もう終盤なので書いちゃうけど、覚醒条件としては親密度一定以上、思い出アイテム、
特殊イベント発生してるかですね。そして、覚醒用のイベントが発生するか
ちなみに霧切さんが覚醒してると撃退は無理でも、無傷で凌いでいたという……
71 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/01/01(火) 01:46:40.09 ID:WC6v0Vwb0
ちょっとどころじゃない間があいちゃったけど、
新年一発目の投下だー!
72 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/01/01(火) 01:47:39.93 ID:WC6v0Vwb0
「クマアアアアアアアー!!」
『??!』
どちらも獲物を捕らえることなく、二人の目線は闖入者へと注がれた。
「えっ?!」
「モノクマだとっ?!!」
扉を壊された保健室の入り口から大量のモノクマが殺到した。
「クマー!」「クマー!」「クマー!」「クマー!」「クマー!」「クマー!」
「クマー!」「クマー!」「クマー!」「クマー!」「クマー!」「クマー!」
一同が唖然としている中、モノクマの波はKAZUYA達を相手にせず戦刃だけを回収して
撤退していく。一瞬の出来事に思わず茫然とするが、KAZUYAはハッとして叫んだ。
「今がチャンスだ!」
生徒達が未だ混乱している中、KAZUYAはあっという間に保健室の監視カメラを破壊する。
「?!」
「先公っ?!」
いつも理性的なKAZUYAの突然の凶行に大和田達は驚いているが、
丁寧に説明する余裕はない。KAZUYAは最低限の指示だけ飛ばした。
73 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/01/01(火) 01:50:27.18 ID:WC6v0Vwb0
「食堂のメンバーをこちらに連れてくる! お前達は篭城の準備をしろ!!」
「えっ?! 篭城??」
「バリケードを作るんだ。ただし俺の机だけは絶対触るんじゃない!! いいな!」
「! わかったわ。行って頂戴!」
霧切の頼もしい返事を背にKAZUYAは駆け出す。
・
・
・
KAZUYAの迅速な決断により、食堂組はスムーズに保健室へと合流することが出来た。
保健室の入り口には霧切の指示の元に大和田が並べた空きベッドや
空になった薬品棚が置かれており、生徒達が中に入ると入り口は封鎖された。
霧切「使うかもしれない薬品だけ急いで抜いたわ。ドクターが綺麗に
管理してくれていたおかげで時間がかからなくて済んだわね」
K「いい判断だ」
一息つく間もなく、部屋についた朝日奈が叫ぶ。
朝日奈「さくらちゃん!!」
大神が目を覚ましたことに気付くと、朝日奈は涙ぐみながら駆け寄った。
74 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/01/01(火) 01:58:51.61 ID:WC6v0Vwb0
朝日奈「目を覚ましたんだね! 良かった……本当に良かったよ……」
大神「…………」
大神はチラリと目線を朝日奈にやるが、すぐに俯いて視線を落とす。
朝日奈「……さくらちゃん?」
K「朝日奈、大神は……」
戦刃と大神のやり取りは見ていないが、大神の様子がどこかおかしいことはKAZUYAも気付いていた。
普段の大神なら仲間を傷つけられて黙っていることなど有り得ないからだ。
霧切「朝日奈さん、大神さんは疲れているのよ。少し前、ここではとてもショックなことがあったの」
霧切は全てを知っているが、余計なことは言わずただ目線で壁の血痕と桑田の傷を示した。
朝日奈「あっ、桑田?! 大丈夫なの?! さくらちゃんも、怖かったんだね……」
霧切「怪我もあるし、今はそっとしてあげた方がいいと思うわ」
朝日奈「……うん。騒いでゴメン」
葉隠「まあ、その……生きてて良かったじゃねえか」
今度は、負傷した桑田に生徒達の注意が集まる。
不二咲「桑田君、怪我したのぉ?!」
石丸「大丈夫かね?!」
舞園「く、桑田君! 手が……!」
75 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/01/01(火) 02:10:18.61 ID:WC6v0Vwb0
桑田「ハハ……神経は無事だから心配すんなって」
苗木「とにかく無事で良かった……」
十神「呑気に会話をしている暇はないぞ。そうだろう、西城?」
K「ああ、事は一刻を争う! お前達の協力が必要だ!」
床に乱雑に置かれた薬品類を避けながら生徒達は奥に進み、KAZUYAを囲むように向き直った。
K「まず、見ての通り保健室から食堂までの監視カメラとモノクマ搬入口は全て俺が破壊した」
大和田「モノクマ搬入口だぁ?」
K「奴の出入り口だ」
KAZUYAは話しながら、机の引き出しを開き学園の見取り図を取り出す。
そこには今までにKAZUYAと霧切が調べあげた情報が事細かに書き込まれていた。
KAZUYAは日頃からカルテや日記など物を書く作業が多かったが、
それはこれらの作業を隠すカモフラージュの意味もあったのである。
セレス「いきなり椅子を投げたり壁を蹴り壊した時は何事かと思いましたわ」
ジェノ「アタシも協力したわよん!」
山田「そ、それにしても大丈夫なんですかこんなことをして……」
葉隠「カメラを壊すのって校則違反だろ? ヤベエんじゃ……」
K「もうそんなことにこだわっている段階ではないぞ! 俺達はコロシアイを終え、
敵は実力行使に出た。もはやこんな校則で俺達を縛ることは出来ん!」
K「既に黒幕と俺達の戦いは始まっている! わかるな?」
「…………」
76 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/01/01(火) 02:26:39.30 ID:WC6v0Vwb0
ゴクリと生徒達が唾を飲み込む。もはや自分達は後戻り出来ない次のステージへと
来てしまったことを嫌でも自覚したのだ。
十神「フン、望む所だ。むしろ遅すぎたくらいだな」
K「だが勘違いするな! あくまで脱出を最優先事項にしろ。万が一の時は
俺が黒幕と決着をつけるが、その場合お前達は先に逃げるんだ」
石丸「そんな! ここまで来て引けませんよ!」
大和田「水くせえぞ、先公!」
K「馬鹿者! お前達だけだったら連れて行ってもいいが、怪我人と非戦闘員は誰が守る?」
大和田「あっ……」
K「とにかく時間がない。俺の言う通りにしてくれ! 頼む……!!」
石丸「ク……了解しました」
苗木「僕達はどうすればいいですか?」
K「まずは敵の動きを封じるために一階に残っている全ての搬入口とカメラを破壊する。
俺が寄宿舎を回るから翔は学園側を頼む。モノクマが来たら破壊して構わん。出来るな?」
ジェノ「お安いご用よん! この殺人鬼にまっかせなさーい!」
K「保健室から食堂までは既に破壊してあるから安全だ。苗木は教室の前の廊下に待機して
異常があったら大声で俺を呼び戻して欲しい。残りは保健室を死守!」
苗木「わかりました!」
舞園「気をつけてください!」
十神「ここは俺が守ってやる。行け!」
ジェノ「ガッテン!」
77 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/01/01(火) 02:29:46.26 ID:WC6v0Vwb0
……そして、さして時間もかからずに三人は戻ってきた。
朝日奈「大丈夫だった?!」
K「……妨害されるかと思ったが、何もなかったな」
セレス「妙ですわね」
葉隠「きっと仲間が大怪我して慌てふためいてんだろうなぁ」
山田「そういうタイプではないと思いますが……」
十神「フン、楽しんでいるのだろう。俺達とのゲームを」
霧切「そうね。今までの行動を見ていたら、わざと泳がせているように見えるわ」
ジェノ「あ、ヤバ。くしゃみ出そう。ふ、ふぇあっくしょん!」
腐川「な、なに今度は?! 保健室? 解決したの?! 包丁は?!」
朝日奈「……ごめん。もう和解したんだ」
十神「寝ぼけている暇はないぞ。既に俺達は次のステージに来ている」
腐川「は、はぁ……?」
K「ちょうどいい。一度情報共有を兼ねて整理しよう。不二咲、アルターエゴは?」
不二咲「準備出来てます」
アルターエゴ『いよいよなんだね……』
食堂から撤退する時にKAZUYAはアルターエゴを保護していた。
全員が揃ったことを確認し、今まで隠していたことも含めKAZUYAは話し始める。
――ただし、失われた二年間についてはやはり言えなかった。
混乱した生徒達が焦って早まったことをしないか心配だったのだ。
78 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/01/01(火) 02:31:05.50 ID:WC6v0Vwb0
苗木「黒幕は……本物の江ノ島盾子?!」
山田「超高校級の絶望姉妹……?!」
朝日奈「許せないよ。こんなことするなんて!」
セレス「やはり、外が異常事態な可能性は高いのですね……」
葉隠「さ、流石に人類が滅亡してるってことはないよな? な?」
十神「ここの映像は恐らく誰かに放送されている。人類が滅亡している可能性は低いはずだ」
霧切「カムクライズル……初代学園長の名前ね」
石丸「その人物が江ノ島盾子に手を貸す可能性は本当にないのですか?」
K「わからん。ないと思いたいが所詮向こう側の人間だ。信用はするな」
舞園「これからは江ノ島さんと戦刃さんを倒すように動く、ということですか?」
K「可能ならな。だが、俺達の勝利条件は敵の打破ではなくあくまでここからの脱出だ。
奴等の手のうちから逃れることが出来たらこちらの勝ちと言っていい」
K「俺が本物の江ノ島と会ったのは短い時間だったが、奴は異常だった……
とても高校生とは思えん何かがある。お前達が対峙せずに済むならそう済ませたい」
腐川「本当に二人だけなの? どうせ、自分が危なくなったら仲間を呼ぶに決まってるわよ……!」
K「俺もその可能性を危惧している。倒すのではなく逃げろと言った理由がそれだ。
仲間が来たら一巻の終わりだからな。俺達に長期戦の選択肢はない」
不二咲「それまでに全部終わらせなきゃいけないんだねぇ……」
「…………」
山田「戦刃むくろの負傷はどの程度なんです?」
K「肩が外れていた。恐らく骨折もしているだろうな」
79 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/01/01(火) 02:32:20.29 ID:WC6v0Vwb0
葉隠「じゃ、じゃあもう襲っては来ないんだな?」
不二咲「そうなんだね。良かったぁ」
だが、直接戦刃と相対し命のやり取りをした桑田にはそうは思えなかった。
野生の獣じみた殺気、使命に対する異常な執着、豹のような身のこなし……
脳裏に浮かべるだけで、額に脂汗がにじんでくる。
桑田「……いや、あいつバケモンだわ。あの程度ならまた来るかもしれねー。いや、絶対来る」
大和田「骨折っつっても、骨が真っ二つになったんじゃなくてせいぜいヒビだろ?
だったら、肩ハメ直して痛み止め打てばなんとか動かせるだろ」
K「そもそも次は銃火器を持ち出してくる可能性もある。その前に終わらせなければ……」
葉隠「ヒィィ、どうすればいいんだべ?!」
朝日奈「それをこれから話すんでしょ!」
山田「しかし、一体なにをすればいいのやら……」
K「監視カメラを破壊されたことによって敵はこちらを見失ったはずだ。向こうが
こちらの様子を知るには直接モノクマを送ってそのカメラで情報を得るしかない」
K「だが、先手を打って食堂と廊下のモノクマ搬入口は破壊した。体育館と
赤い扉は簡易だが入り口を封鎖してある。ヤツがここに来るには、残り二ヶ所だ」
石丸「二ヶ所? 学園の階段だけでは?」
苗木「もしかして、寄宿舎にあった階段かな?」
桑田「そういえば、そんなのあったな」
舞園「あの奥には何があるんでしょうか?」
不二咲「もしかして、あっちに脱出口があるんじゃない?」
80 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/01/01(火) 02:37:51.96 ID:WC6v0Vwb0
K「その可能性は低いだろう。はっきり思い出せてはいないが学園同様上に向かうだけだったはず。
三階くらいなら飛び降りても問題ないが、それ以上だとお前達は厳しい」
山田「先生は平気なんですね……」
セレス「ではどうしますか? 篭城戦は篭城する側が不利と決まっていますわ」
十神「何せ奴等の手の内だからな……時間稼ぎをしても撤退は望めないぞ」
霧切「やるべきことは決まっているわ」
苗木「霧切さん、何か考えが?」
霧切「今こそアルターエゴを使う時よ。二階の男子トイレの隠し部屋。
そこにはネット回線とインターネットケーブルがあったわ」
十神「何?! 何故それを早く言わん! 今すぐそこからクラッキングを……」
K「……それは出来ん」
霧切「どうして! あなたはいつもまだ早いと言ってきたけど、一体いつ使うの?!」
珍しく霧切が声を荒げる。
腐川「ま、待ちなさいよ……先生が反対するからには何か理由があるんでしょ」
石丸「そうだぞ。怒るのは理由を聞いてからでも遅くはない」
K「当然理由がある。俺だって出来ることならそうしたい所だ」
K「だが出来ない……」
KAZUYAは電子教員手帳を出す。名前が違うだけで機能は生徒達の電子生徒手帳と全く同じだ。
81 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/01/01(火) 02:41:16.74 ID:WC6v0Vwb0
K「これを見て欲しい」
苗木「学園の見取り図ですね」
不二咲「何かおかしい所でもあるんですか?」
K「よく見ろ」
十神「ム……?」
葉隠「なにかわかったんか?」
十神「何故隠し部屋が見取り図に載っている」
大和田「ハァ?」
桑田「なに言ってんの、おめー?」
不二咲「あれ? 言われてみれば……」
朝日奈「えっと、私は男子トイレに入ったことないからよくわからないんだけど」
腐川「普通はそうでしょ……」
苗木(霧切さんは入ってるんだよな、それが……)
セレス「この部分のことでは?」
朝日奈「えーっと……あ、本当だ! 気付かなかったけど、なんか不自然な空間がある」
山田「そりゃ部屋があるんだから見取り図にも描いてあるでしょう」
石丸「うむ。この見取り図が正確なことはよくわかったな!」
大和田「で、なにがおかしいんだ?」
苗木「いや、十神君の言う通りだ……!」
舞園「隠し部屋って隠してある部屋のことですよね? 地図に記載してあったら
それは隠し部屋にはならないのではないでしょうか?」
82 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/01/01(火) 02:42:55.21 ID:WC6v0Vwb0
桑田「あー、確かにな」
葉隠「バレバレだべ」
K「で、この地図を用意したのは誰だ?」
「!」
不二咲「この電子生徒手帳はモノクマが用意したもの……!」
セレス「まさか、罠……?!」
K「部屋には本棚があった。埃の跡からして、中に何かしらの資料が入っていたのは
間違いないが、全て持ち去られている。黒幕の手によるとしか考えられん」
K「霧切、お前の推理力なら当然わかっているだろう? あの場に行く危険性が」
霧切「…………」
K「そして理由はもう一つある。隠し部屋の位置だ」
K「狭い男子トイレの更に一番奥……こんな所で敵の襲撃を受けたが最後、俺達は袋の鼠だ」
「…………」
山田「ぜ、全員でまとまって行くのはどうでしょうか?
それで今みたいに篭城すればいいんじゃないですか?」
大和田「そうだ! 戦刃が来る前に、俺と先公で守りながら行けば……」
83 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/01/01(火) 02:44:34.78 ID:WC6v0Vwb0
K「移動中に襲われたらまだ反撃出来る。だが男子トイレにぎゅうぎゅうに
詰まっている状態を襲撃されたらどう迎撃するんだ?」
K「あそこは狭い。小柄なモノクマの方が有利だ」
大和田「言われてみりゃあ、そうか……」
K「何より一番最悪なのは待ち伏せだ。外と中から挟み撃ちになればどうしようもない」
桑田「じゃあ……手をこまねいて見てるしかねーってことか?」
石丸「そんな! ここまで来て……!」
K「怪我人が何人もいる。無理は出来ない」
腐川「あ、あんまりだわ! 寄宿舎は行き止まり、隠し部屋には行けないなんて!」
十神「フン……江ノ島め。こうなることを見透かして手を出さなかったな……!」
セレス「打つ手なしですか……」
大和田「そ、そうだ! なら、いっそのこと打って出るってのはどうだ?」
苗木「どういうこと?」
大和田「戦刃は流石にまだ動けねえだろ。だったら江ノ島一人制圧しちまえば俺達の勝ちだ」
十神「成程。攻撃は最大の防御という。単純だが確実性のある手段だな」
84 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/01/01(火) 02:50:14.48 ID:WC6v0Vwb0
朝日奈「いいね! あれこれ悩んでるよりよっぽどいいよ! みんなで力を合わせてやっつけちゃおう!」
葉隠「おう! 殴り込みだ! 先制攻撃だべ!」
石丸「行こう! ……で、江ノ島盾子はどこにいるのだ?」
「あ……」
セレス「呆れました。敵の居場所もわからずに攻撃に行くと?」
朝日奈「でも、KAZUYA先生は当然知ってるんだよね? 会ったことあるんだし」
K「…………」
KAZUYAは沈黙した。あからさまに怪しい場所はあるが、確証がない。
……つまり、彼等はこの段階になっても未だに敵の居城すらわかっていなかったのだ。
85 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/01/01(火) 02:51:54.30 ID:WC6v0Vwb0
ここまで! 昨年はお世話になりました。
今年もよろしくお願いします!今年中には正規エンディングの一つにはたどり着けるかも?
86 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/01/01(火) 03:04:35.90 ID:WC6v0Vwb0
あ、そうそう。遥か昔に書くと言っていたロンパ×笑う犬の
アヤカ追加verを書いて投下しといたので、こちらもよろしく!
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1546269303/
87 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/01/03(木) 22:21:22.56 ID:q8jEzYcnO
腐川…あの状況から元に戻ったのに意外と冷静だな、まあ集団(自分も含め)で十神を殺人未遂しようなんて事知ったら確実にパニクるなww
88 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/01/28(月) 05:20:03.78 ID:xpmHU79EO
気になったんですけど残姉の負傷度って固定なんですか?
例えば桑田の能力がもっと高かったら右肩完全粉砕で大和田とかでもタイマンで倒せるレベルまで弱体化するとか
逆に桑田の能力が今より低かったらこのイベントで重症者が出るとかっていう事はないんですかね?
89 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/02/06(水) 01:25:09.79 ID:i4ZHJSM30
山田「え? 知らない……? いやいやいや、そんなはずは……」
舞園「本物の江ノ島さんと会ったんですよね?」
K「俺が奴と会ったのは五階の教室だ。奴がどこに潜伏しているかまではわからん」
苗木「そんな……」
桑田「勘弁してくれよ……」
霧切「潜伏場所はわからないけれど、その可能性の高い場所はわかるわ」
大和田「おっ、マジか!」
十神「ちょっと考えればわかるだろう」
石丸「十神君もわかっているのかね?!」
葉隠「もったいつけずに言えって!」
霧切「この建物は五階で、現在入れない場所は二ヶ所」
不二咲「学園長室と情報処理室がまだ開いてないね」
腐川「わ、わかったわ! 学園長室でしょ? モノクマはこの学園の学園長を名乗っているものね!」
十神「惜しいな。お前にしては冴えているがまだ足りない」
腐川「お、惜しい?! 白夜様に褒めてもらえた?!」
十神「確かに学園長室は怪しい。だがその気になれば簡単に破壊出来る貧弱な扉だ。
そんな所に潜伏して、もし俺達が攻めてきたらどうする?」
大和田「敵は一人だ。あっという間に制圧出来ちまうな」
霧切「不自然にガードの固い場所があるでしょう?」
セレス「情報処理室ですね」
90 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/02/06(水) 01:26:40.16 ID:i4ZHJSM30
十神「見た所あの扉の鍵は特別製だ。扉自体も頑丈。黒幕が潜伏するにはお誂え向きだな?」
朝日奈「じゃ、じゃあ情報処理室に?!」
セレス「その可能性は高いでしょうね。今だから言いますが、実はわたくし……
あの部屋の中に入ったことがあります」
「?!」
K「何っ?!」
セレス「はい。モノクマさんと内緒の話をした時、特別に入れてもらいまして」
十神「何故もっと早く言わん!」
山田「そうですぞ! 何で黙ってたんです!」
セレス「黙っていたといいますか、言うタイミングがなかったのですわ。仮に黒幕が
潜伏していたとして、皆さん戦いに行く流れではなかったでしょう?」
石丸「ま、まあそれどころではなかったのは確かだが……!」
苗木「だからって普通はもっと早く言うでしょ!」
K「本当に食えん奴だな、お前は……」
セレス「フフ、褒め言葉として受け取っておきますわ。恐らく、大神さんも入ったことがあるはず」
朝日奈「さくらちゃん……?」
大神「そうだな。何度も入った。……我は内通者であったが故に」
霧切「中には何があったの? 本物の江ノ島さんには会っていないのね?」
セレス「ええ。あくまでモノクマとしての姿でした。……紙とペンはありますか?」
セレスはその時のことを思い出していた。
91 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/02/06(水) 01:48:19.72 ID:i4ZHJSM30
『まま、座って座って。お茶でもどうぞ。君はロイヤルミルクティーしか飲まないから
特別にボクが用意したよ。感謝してよね!』
『…………』ズズッ
出された茶を楽しむ振りをして、セレスは注意深く室内を観察していた。
受け取った紙に、その時の記憶を基にして情報処理室の内容を描いて行く。
セレス「広さはさほどありませんわね。保健室よりも狭いですわ。
壁の一面にモニターがあり、監視カメラの映像が映っていました」
十神「……フム。そこから学園を監視していたのか。黒幕の潜伏場所で間違いないようだな」
霧切「モニターはいくつあったの?」
セレス「正確な数は覚えていません。20、いえ30くらいはあったはずです」
霧切「画面はどうだったか覚えてる? 同じ場所を固定で映してるとか、順番に切り替わっているとか」
セレス「基本的にわたくし達がいる場所とその周辺を映していましたね。手動では大変でしょうし、
カメラにセンサーでも付いていてオートで映しているのではないでしょうか?」
K「中央のこれはなんだ?」
セレス「それはよくわかりません。モノクマのイラストが描かれた壁……いえ、扉ですか?」
霧切「その奥には行っていないのね?」
セレス「ええ。あくまで情報処理室の中のみです」
舞園「大神さんもですか?」
大神「……ウム」
K「モノクマを操作するための装置は何かあったか?」
92 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/02/06(水) 01:52:25.37 ID:i4ZHJSM30
セレス「そのようなものは見当たりませんでした。違う場所で操作しているのでしょうね」
不二咲「怪しいのはモノクマの扉かなぁ?」
十神「そこか、学園長室のどちらかだろうな。正確には寄宿舎の上も見てはいないが、
監視場所が情報処理室である以上その付近でなければおかしい」
苗木「寄宿舎に潜伏してたら、情報処理室に移動する時僕達に見つかるもんね……」
十神「上の階の監視カメラは破壊していない。奴は今頃、情報処理室で
目を皿のようにして俺達の動向を見ているのだろう」
大和田「場所はわかった。後は殴り込むだけだな」
桑田「じゃあ早速行くか? 俺はちょっとムリそーだけど……」
K「……俺は反対だ」
葉隠「またか! さっきから反対しかしてねえじゃねえか!」
苗木「先生……慎重なのもわかるけど……」
K「確かに俺は慎重過ぎるのかもしれん。だが、情報処理室が敵の本丸なら
当然向こうも相応の準備をしていると思うのが普通じゃないか?」
霧切「例えば?」
K「二階の更衣室の扉には機関銃が付いていたな? あんなどうでもいい場所に
設置出来るということは、簡単に調達出来るということだ。もし江ノ島が
情報処理室の中に同じように銃器を用意していたらどうする?」
「……えっ」
KAZUYAの質問は生徒達にとって予想外だったらしく、思わず固まった。
93 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/02/06(水) 01:57:04.24 ID:i4ZHJSM30
朝日奈「倉庫にヘルメットがあったよね? それで防げないかな?」
大和田「俺達ゾクがよくやるのは分厚い雑誌を体に巻き付けて防具代わりにすることだな」
十神「馬鹿を言うな……あれはミニガンだぞ……本来は武装ヘリに取り付けるような代物だ……」
K「通常の拳銃でさえ十分危険なのにそれを上回る殺傷力の機関銃……
もしそんなものが置いてあったら、束で行けばどうにかなるほど甘くない」
山田「どうにか……なりませんかね?」
K「銃弾が避けてくれるのは映画やドラマの中だけだ。残念だが……」
山田「そ、そんなぁ……」
舞園「では、どうすればいいんですか?」
不二咲「やっぱり、アルターエゴで内部から制圧するしかないんじゃないかな……」
石丸「それが最善だと思うが……」
舞園「でも、待ち伏せの可能性もあるんですよね……」
朝日奈「で、でも百パーセントじゃないよね?! 意外と、行ってみたら何もないかもしれないし」
葉隠「よ、よし! ここは一つ俺が占ってみるか!」
腐川「やめなさいよ……良い結果が出ても悪い結果が出ても縁起悪いじゃない!」
葉隠「あんまりだべ!」
霧切「それで……あなたはどうしたいの、ドクター?」
十神「そうだな。反対するばかりで対案がない。何か意見はないのか?」
全員の視線を受けながら、KAZUYAは俯いた。
94 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/02/06(水) 01:58:34.28 ID:i4ZHJSM30
K「実を言えば……ない」
苗木「な、ないってそんな?!」
桑田「ウソだろ……せんせーならいつもビビッとナイスな案出してるじゃんか!」
K「今回に限っては本当にないんだ……どの選択肢もリスクなしには選べん。
だが、ここで篭城していれば事態が好転する訳ではないこともわかっている……」
K「……だから、もしお前達がどうしてもアルターエゴを使うというのなら、
もう俺は止めん。ただしその場合は俺一人で行く」
石丸「な、何故ですか?!」
桑田「ハァァァ?! いまさらそれはねーだろ!」
山田「全員で行けばいいじゃないですか!」
K「さっきも言った通り、男子トイレの中は狭い。お前達がいれば足手まといだ。それに、
もし待ち伏せされていたら中に入った人間は生きて戻れるかわからない。文字通り特攻となる」
大和田「だったら今まで散々迷惑かけた俺に行かせろや! チキンレースは今までだって
やってきたんだ! 今こそ俺が行くべきだろ! 医者がいなくなったら困るだろうが!!」
K「気持ちは有り難い。だが……」
大和田「いつまでもガキ扱いしてんじゃねえ!! この土壇場で俺達は対等じゃねえのかよ!
医者とゾク、どっちが生き残るべきかなんてそんなの小学生でもわかる。ケガ人もいるしよ!」
石丸「兄弟! そんな、人の命に優劣なんて……!」
大和田「黙っててくれ! 先公がいなきゃ誰が治療すんだよ!」
石丸「それは……」
K「……大和田よ」
95 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/02/06(水) 02:01:27.17 ID:i4ZHJSM30
KAZUYAは目を閉じて呟く。
K「普段の俺ならお前の心意気を買った所だ。みんなのために危ない橋を渡って貰ったかもしれん」
大和田「じゃあ、今はなにがダメだってんだ……!」
K「残念だが、お前は俺より弱い」
大和田「!!」
K「だからより成功率の高い俺が行くと言っているのだ。俺だってみすみす死にに行く訳じゃないさ」
大和田「…………」
K「卑怯かもしれないが、これからどうするかはみんなで決めてくれ。俺はお前達の意見に従う」
苗木「そ、そんな……」
舞園「死ぬかもしれない場所に先生を送るかってことですよね……?!」
不二咲「い、嫌だよ……他に何か方法は……」
朝日奈「もし情報処理室の中に銃があったとしても、みんなでなんとか出来ないかな?!」
山田「ね、熱膨張で弾が出なくなったりとか……」
十神「馬鹿か。近付く前に全員蜂の巣にされるだけだぞ……」
桑田「オートはジャムりやすいって漫画で読んだことあるけど……」
腐川「そうなる前にあたし達はミンチでしょうね……」
十神「小型のハンドガン程度ならともかく、ミニガンやマシンガンは砂漠やジャングルで
使うことも想定されて作られている。ちょっとやそっとで壊れるものか」
葉隠「もういっそのこと白旗あげてみんなで降参しちまうか?!
土下座して命ごいしたら命だけは助けてくれるかもしれねえ!」
96 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/02/06(水) 02:04:58.50 ID:i4ZHJSM30
山田「悔しいけど……それもありっちゃありですよね」
霧切「こちらの話を聞いてくれるかしら? 今までに得た情報から鑑みるに、
江ノ島盾子は異常者だわ。交渉が失敗したらその時点で終わりよ」
不二咲「助けるって言って今より酷いことをさせられたらどうしよう……例えば、
この中の何人かを生け贄にすれば助けてくれる、とか……」
腐川「そ、そうよ! あいつがあたし達に強要したことって要はそれでしょ?!
無事に解放なんて有り得ないわ! どうせ条件を変えてまたコロシアイをさせるわよ!」
苗木「それは、確かにありそう……」
舞園「江ノ島さんに直接会ったことはありませんけど、今までのモノクマの
発言を見ていたら十分有り得ると思います……」
山田「リアルバトルロワイアル……最後の一人になるまでコロシアイ……」
桑田「冗談じゃねえ……なんのためにここまで頑張ったんだよ……」
石丸「白旗は最後の手段にしよう! まだ何か手があるはずだ!」
葉隠「そう言われても……何もないから困ってんだって!」
K「だから俺達は選ぶしかない。男子トイレの隠し部屋、情報処理室――そして学園長室だ」
苗木「え? 学園長室?」
予想外の言葉に生徒達はさざめく。
十神「学園長室か……確かに普段なら江ノ島が潜伏していた可能性はある。だが、
俺達が討って出る可能性もあるのにモニターから目を離しているとは思えんな」
霧切「江ノ島盾子は監視カメラでいつ私達が出てくるか今か今かと待っているはずよ。
可能性が高いのは情報処理室だと思うわ」
97 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/02/06(水) 02:10:58.99 ID:i4ZHJSM30
K「そうだ。確かに江ノ島がいる確率は限りなく低い……だからそれ以外の物を探す」
苗木「それ以外って?」
K「俺にもわからん。何もないかもしれん。奴の性格を考えたら
もぬけの殻になっていて苦労した俺達を嘲笑う可能性の方が遥かに高い」
K「ただ、江ノ島は常に卓越した頭脳で俺達の行動を読み、その上を行ってきた。
今回も俺達の行動を読んで隠し部屋に向かうと思っているはずだ」
十神「だからこそあえて裏をかく。無駄に見える選択肢を選ぶ、と?」
K「もしかしたら……そこに油断があるかもしれない。何か、一つでも
小さな手がかりがあれば……今のこの状況をひっくり返せるかもしれん」
K「……という、俺の希望的な観測だ。根拠は何もない」
「…………」
誰かがため息をついた音が聞こえた。
K「結局の所、強行軍になるのは隠し部屋と変わらん。どうするかはお前達で決めてくれ」
霧切「待ち伏せの可能性が低いだけで、移動距離を考えたらリスクは変わらない……」
山田「そもそも二階より上はトラップだらけで足を踏み入れた途端にドカン!はないですよね……」
K「トラップはあるかもしれないが、大規模なものはないだろう。奴は俺達に絶望を
味合わせるのが目的だ。一気に皆殺しにはせず、一人ずつ殺していくつもりのはず」
K「そうでなければ戦刃に銃火器を渡してさっさと殲滅しているはずだからな」
葉隠「本当にえげつねえヤツ等だべ……」
98 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/02/06(水) 02:18:03.99 ID:i4ZHJSM30
桑田「で、どうするんだ?」
舞園「二階は……確かに危ないかもしれませんね。現在最有力な手段ですし。学園のシステムを
掌握されたら向こうも困りますから、絶対に何か手を打っていると思います」
朝日奈「そういう意味だと情報処理室も制圧されたら不味いし、何もないってことはないよね……」
腐川「で、でも学園長室はムダ足になる可能性が高いのよね? 江ノ島の警戒は薄いかもしれないけど」
セレス「無駄足になるというか、現状無駄足そのものですわね」
石丸「難しい決断だ……どれがいいともいえない……」
不二咲「四階は距離もあるしね。エレベーターとかですぐに移動出来たらいいんだけど……」
苗木「生き残れそうなのはどれですか?」
K「学園長室だろうな……さっき大量のモノクマが現れたが、普段と動きが
違っていた。恐らく江ノ島が直接操っていないものは簡易AIなのだろう」
大和田「さっきは驚いて何も出来なかったけどよ、あいつらそんなに強くなさそうだったな。
数が多いと厄介だが、逃げながら戦えばある程度は持ちこたえられそうだぜ」
十神「焦って戦力を消費するよりは情報処理室の制圧法を考える方がよほど現実的だと思うがな。
敵の居場所はわかっているんだ。重火器を突破する方法さえあれば勝機はある」
山田「まあ、その方法が浮かばないから悩んでるんですけどね」
「…………」
議論は再び振り出しにもどってしまった。
99 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/02/06(水) 02:20:15.31 ID:i4ZHJSM30
ここまで。長く続いた会議回ですがそろそろ話動きます。
100 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/06(水) 07:52:39.77 ID:dECBt/J3O
乙
101 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/09(土) 09:11:33.79 ID:F6MdzFJ+o
乙
102 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/06(水) 16:17:24.01 ID:DKiN5vyEO
ミニガンなんて砂糖水かければ意味無くなるぞ
103 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/03/19(火) 00:18:42.91 ID:xkM8MkKk0
不味い不味い……すっかり間が空いてしまった。
月曜だけど投下
104 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/03/19(火) 00:21:37.10 ID:xkM8MkKk0
霧切「とりあえずこちらの手札を整理しましょう。全員で考えれば何か策があるかもしれない」
大和田「武器とかか? 木刀ならたくさんあるぜ」
朝日奈「モノクマって見た目はぬいぐるみだけど中は機械なんだよね? 折れない?」
石丸「叩きつけたらまず折れるだろうな。だから攻撃する時は負荷の少ない突き技を推奨するぞ!」
霧切「恐らく目の部分はカメラ。目を貫けば動きも止まるかもしれない」
桑田「俺の部屋と体育倉庫に金属バットがある。本当はこんな使い方したくねーけど、
今はそんなこと言ってる場合じゃないしな……」
苗木「バットなら女子も扱えそうだし、木刀よりは使いやすいかもしれないね」
十神「もっと攻撃力のある物はないのか? 出来れば刃物がいい」
不二咲「刃物は、包丁と先生のメスしかないんじゃないかなぁ」
舞園「あとは腐川さんのハサミくらいですね」
K「……いや、ある」
KAZUYAは渋い顔をしながら大神のベッドの下に隠してあった大きな段ボールを取り出した。
中身が大きいのか、二つの段ボールをくっつけて境界部分がくり抜かれている。
……そして、その箱は厳重に封が施してあった。
苗木「なんですか、それ?」
桑田「あ! それずっと前から置いてあったよな。地味に気になってた」
朝日奈「ゴミじゃないの? ガムテープでグルグルだし」
K「…………」
105 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/03/19(火) 00:22:42.62 ID:xkM8MkKk0
無言のまま、KAZUYAはガムテープを引っぺがし、封印を解く。
霧切「……これは」
K「武器だ。好きに使え」
ジャーン!
段ボールを開くと、そこには古今東西の武器が納められていた!
十神「な、なに?!」
セレス「まあ……」
山田「あなたテロリストですか?!」
石丸「い、一体どこからこれだけの武器を……?!」
K「……お前達。この学園に来たばかりの頃、俺がどんな扱いだったか覚えているか?」
桑田「えーっと? どんなだっけ?」
朝日奈「頼りになる先生だったよね?」
葉隠「おう! そうだな!」
腐川「なに言ってるのよ。思いっきり不審者扱いしてたじゃない! ……あたしもだけど」
石丸「ム? そうだったか?」
舞園「苗木君と石丸君くらいではないでしょうか。特に距離を取っていなかったのは」
霧切「孤立していたわね」
不二咲「あの時は怖がってごめんなさい……」
山田「そりゃまあ、学校に身元不詳の筋肉モリモリマッチョマンがいたら警戒しますよフツー」
106 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/03/19(火) 00:23:36.94 ID:xkM8MkKk0
朝日奈「女の子だったら仲良くしたかもしれないけど、そもそも学生じゃないしね。あはは」
K「ゴホン。とにかく、そんな状況下で俺がこんなものを持っていたらお前達はどう思う?」
大和田「そりゃ、スパイだと思うな」
葉隠「お、鬼に金棒……生きた心地がしないべ」
苗木「流石に話しかけなかったかも……」
K「それが狙いだろうな。お前達の間でガチャガチャの景品交換が流行っていたから、
俺も会話のキッカケにと思ったのだが……物の見事にこんなものしか出なかった」
K「皮肉にも……隠し場所に困った凶器が今は役に立つ訳だが」
石丸「そういえばそんなことがあった気がする……」
たまたまその現場を目撃していた石丸が首を傾げながら記憶を思い起こす。
セレス「しかし随分たくさんありますわね。ガラクタしか出ないなら
もっと早くやめれば良かったのでは?」
K「それはだな、その……当時は俺も少し焦っていたし多少意地になっていたというか……」
苗木「KAZUYA先生にもそんな所があるんだ……」
舞園「人間ですからね……」
K「塞翁が馬とは言ったものだ。巡り巡ってこんな形で役に立つとは……」
十神「江ノ島もまさか過去の嫌がらせが原因で足を掬われるとは思わないだろうな」
K「更にこれだけではない」
KAZUYAは鍵をかけた机の引き出しから、ダンボールを取り出した。
その中には様々な薬剤が納められており、紙で梱包された物体を取り出す。
107 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/03/19(火) 00:24:39.97 ID:xkM8MkKk0
不二咲「箱?」
苗木「箱だね。何が入ってるんですか?」
K「爆薬だ」
「…………は?」
K「これがダイナマイト、こっちは俗に言うTNT爆弾だ」
「……………………」
「ハァァァッ?!」
「エエエエエエエッ?!」
桑田「ななな、なんで爆弾があるんだよっ?!」
山田「どこから調達したんですか?!」
K「俺は薬品のプロだと言ったはずだ。ダイナマイトの原料であるニトログリセリンは
狭心症の薬としても使われているからな。子供の頃、真っ先に調合を教わる」
ニトログリセリン:ダイナマイトの原料として有名だが、血管拡張効果があるため狭心症の薬として
使える。経口摂取しても効果はなく経皮や舌下投与するのが一般的。
通常、医薬品は爆発しないように添加剤を入れ加工処置をされている。
ダイナマイト:原材料のニトログリセリンは単体では安定性がなく少しの衝撃で爆発するため、
別の物質と混ぜて爆発感度を下げている。初期は珪藻土やおが屑を使っていたが、
最近ではニトロセルロース等を混ぜてゲル状にすることが多い。
108 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/03/19(火) 00:28:10.80 ID:xkM8MkKk0
K「化学室の薬品と、そこのガチャガチャから出た劇薬を使って調合に調合を重ねた。
……まったく、大変だったぞ。監視の目を盗んで調合するのは」
石丸「ばばば、爆弾なんて危険です! 暴発したらどうするんですか?!」
朝日奈「そうだよ! 危ないよ!!」
K「ニトログリセリンにニトロセルロースを混ぜゲル化させて感度を下げて安定させているから問題ない。
特に雷管を作るのに苦労したよ。倉庫に花火があったからそちらの火薬を流用させてもらった」
雷管:爆薬の種類にもよるが、爆発感度を下げた火薬は少しの熱では爆発せずに激しく燃焼する
だけのことが多い。そのため、誘爆用の別の薬品で発火装置を作る。それが雷管である。
爆弾は雷管が爆発する熱エネルギーで誘爆して爆発させるのだ。
K「原材料不足もあるが、一部は植物庭園の小屋のおが屑も材料として使っている。
こちらは威力が低いからお前達でも十分扱えるだろう」
十神「ま、待て……薬品は調合で何とかなるのはわかるが……雷管の作り方を何故知っている?」
K「それも子供の時に親父からな……爆薬なんてそうそう使う機会はないだろうが、
俺の一族は紛争地にもよく行く。いざという時のためだ」
K「C-4が作れたら良かったんだが、何分電気雷管を作れそうになくてな……
流石に実験で爆破したら黒幕にバレるだろうから諦めたんだ」
C-4:プラスチック爆弾の一種。粘土のように自由に変形することが特徴で爆発感度も低く扱いやすい。
ただし、爆発感度が低すぎるため電気雷管という特殊な雷管が必要である。非常に高威力。
(なんなんだろう、この人……)
(もはやテロリストでは……)
(出来ることが多すぎて医者が副業みたいになってる……)
109 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/03/19(火) 00:29:20.21 ID:xkM8MkKk0
霧切「過酸化アセトンは作れないかしら?」
過酸化アセトン:魔王の母とも呼ばれる高威力の爆薬。容易に作れることが特徴でテロ等で用いられる。
ただし、爆発しやすいのでダイナマイトなどに比べると扱いが難しい。
K「少し作って雷管に使ってみた。ただ、威力を出すにはそれなりの量を密封する必要がある。
扱いやすさではダイナマイトの方が上だと思って大量には作らなかった」
葉隠「ここに本物のテロリストがいるべ……!」
石丸「もはや言葉が出ないぞ……」
不二咲「今までもこういうことがあったけど、これが一番の衝撃かも……」
苗木「うん……なんというか、言葉が出ない……」
K「必要があればここから出た後に作り方を教えてやる。ただし、火薬は大変危険だ。
一歩間違えれば簡単に指が吹き飛ぶ。安易に手を出さないことだな」
(やらないよ……)
※本当に危険です。少しの火薬で指吹っ飛びます。作り方とか調べないように!※
朝日奈「ねえ! それで玄関のドア吹き飛ばせないかな?!」
腐川「そ、そうよ! 壁でも窓でもどこでもいいから……!」
K「残念ながらそこまでの火力はないだろう。よく工事でやるように壁に穴を空けて火薬を詰めれば
発破することも可能かもしれないが、何分テストしてないからな……」
K「威力も壁の厚さも未知数だ。失敗した場合貴重な爆薬を無駄にすることになる」
セレス「作業中に襲われる可能性もありますわね。黒幕さえ排除出来れば、
じっくりテストして壁を破壊することも可能ですか?」
110 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/03/19(火) 00:32:38.36 ID:xkM8MkKk0
K「そうだな。元の薬品はまだあるから、調合すればまた作ること自体は可能だ。
ただ、先程も言った通り江ノ島と決着を着けるのはなるべく避けたい」
霧切「彼女に何かあれば武装した部下が様子を見に来る可能性がある……」
K「そうなれば爆薬なんぞ大して役に立たん。ゲームオーバーだ」
十神「壁が一つとは限らんしな。苦労して破壊したらその先にもまた壁……
などということになったらもはや喜劇にもならんぞ」
K「横や上に逃げるなら……まだ地下の方が望みがありそうだな」
不二咲「地下って、裁判場?」
K「いや、下水だ。施設として稼動している以上、必ず外部に流しているはず」
霧切「調理場にダストシュートと地下に行けそうな扉があったわ。ゴミも、
この施設で処理をしていないのなら外に運び出している可能性がある」
舞園「そういえば、今更ですが食料はどこから搬入していたのでしょうか?」
K「早朝から深夜まで隈なく俺が巡回しているが、目撃したことはない」
霧切「夜時間は食堂が封鎖されているから、その間に補充しているのでしょうね」
山田「ではやはり調理場に出口が?!」
石丸「何で今まで黙っていたのかね?! 今すぐみんなで調べに……!」
K「仮に出口があっても通れるかは別だ」
霧切「調理場は監禁された時から重点的に調査して、確かに怪しい部分はあった。
ただし、すぐに見つかったということは対策もしっかりされている可能性が高いわね」
朝日奈「もしかして、玄関みたいに銃とかあったり……」
十神「俺が黒幕なら機関銃と電子ロックは設置しているな。当然監視カメラもだ」
111 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/03/19(火) 00:34:07.11 ID:xkM8MkKk0
桑田「じゃあ、今も情報処理室から見てるかもしれねーのか……」
腐川「下手したらモノクマで先回りして挟み撃ちになるかもしれないわね」
苗木「でも、とりあえず調べるだけ調べてみようよ」
舞園「そうです! 危ない道を進む前に可能性は虱潰しに見ておくべきだと思います」
不二咲「そうだよね……僕達の選択で、先生が死んでしまうかもしれないんだから……」
舞園「ゴミ処理は食品搬送と同じ出入り口かもしれませんし、今の所
先生の提案した下水道の警戒が一番薄いのではないでしょうか」
セレス「ゴミ処理にしろ下水道にしろ、なるべく通りたくはありませんわね……」
山田「そんなこと言ってる場合ではないですよ」
石丸「とりあえず、みんなで改めて調理場を調べようではないか!」
霧切「全員で行く必要はないわ。爆薬があるなら、私一人でも問題ない」
苗木「一人は危ないよ!」
十神「俺が行く」
大和田「ああ? オメエが行くのか? 腕力がいるかもしれないし俺の方がいいだろ」
十神「脱出までもう少しという所で黙っていられるか。頭が必要かもしれないしな」
霧切「そうね……大和田君は保健室を守っていてもらいたいわ」
大和田「わかった。気をつけろよ」
K「チーム分けをしよう。調理場は霧切と十神に任せる。他に気になる所はないか?」
霧切「そういえば……」
K「どうした?」
112 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/03/19(火) 00:38:05.72 ID:xkM8MkKk0
霧切「エレベーターのある赤い扉の部屋よ」
十神「何? あそこはエレベーター以外何もないはずだが?」
葉隠「エレベーターの他には壁しかないべ」
霧切「怪しいのは部屋のの壁。塗り固めたような跡があったわ。もしかしたら、
あそこには元々階段があったのかもしれない」
K「フム、塗り固めた壁か。そこから地下に行けるかもしれんな……」
不二咲「地下って裁判場だよね?」
葉隠「あんなところなにもないだろ?」
霧切「そうとも言えないわ。オシオキの場所は毎回違う。つまり、私達の知らない
かなり広い空間が地下には存在しているはず」
セレス「脱出経路はなかったとしても、何か役立つアイテムがあるかもしれませんわね」
十神「オシオキに使われる処刑道具。その中に重火器もあるかもしれん」
大和田「お、いいじゃねえか。よし、俺が行くぜ」
桑田「俺も行くよ」
舞園「でも桑田君、怪我が……」
桑田「俺さぁ、一時期サウスポーに憧れててこっそり練習してた時期があるんだよ」
苗木「え、まさか」
113 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/03/19(火) 00:39:08.04 ID:xkM8MkKk0
桑田「実は両投げ両打ち。ま、俺くらいの天才なら当然っしょ。利き腕に比べりゃ全然速さも精度も
ないけどさ、ちょっとした変化球くらいなら出来るしカメラ壊す程度ならヨユーだって」
朝日奈「やるじゃん!」
K「桑田がいればカメラを破壊出来る。ならば、調理場と赤い扉を順番に見ていくか……」
霧切「時間があればいいのだけど……この学園の地下はかなり深いわ。往復には時間がかかる」
不二咲「よりによって両方共地下だもんねぇ……」
十神「そんな時間はないだろう」
セレス「あの……一つよろしいでしょうか?」
「!」
K「……何だ?」
セレス「皆さん、ギャンブルはお好きですか?」
そう言うと、セレスは組んだ両手の上に顎を載せ全員の顔を見渡した。
114 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/03/19(火) 00:41:25.19 ID:xkM8MkKk0
ここまで。火薬関係調べていたのと会議内容に矛盾を見つけて修正してたら
すっかり遅くなってしまった……頭脳シーンは疲れる
>>88
わー!ずっと無視してしまっててすみません!忙しくて失念していました
負傷度は固定ではないです。前に戦闘系の生徒の能力を上げた方がいいと言ったのは
全てこの残姉戦のためと言っていいです。ちなみに、桑田と大和田の能力を
マックスまで上げてもまだ戦闘不能には追い込めないと思います。原作でも
別格扱いなので。さくらちゃんを仲間にして更に覚醒させないと厳しいですね
なんだかんだ生徒達はまだ人殺しに抵抗があるし。ちなみに、皮肉にも精神的に
成長していない方がキレた時に理性が効かないので殺傷できる可能性があるという……
桑田の能力が低かったらもっと負傷してましたね。霧切さんは多分負傷してるだろうし
115 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/19(火) 08:49:27.11 ID:F50YlpPU0
>>114
回答ありがとうございます
流石に残姉はさくらちゃんじゃないと無理でしたか
116 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/21(木) 22:22:48.42 ID:PKiFx/T+O
なんせ全員じゃないとはいえ斑井兄弟を瞬殺、ペコに圧勝するわ、モノクマ+ガトリングの嵐の中でも戦っているもん、大神でも勝てるかどうか…。
117 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/22(金) 10:07:32.43 ID:sfJ9EUov0
ふと残姉の肉親が江ノ島という悪魔じゃなかったらどんな人生になるのかと思った
118 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/05/06(月) 22:32:51.54 ID:1yTFw4Ew0
― コロシアイ学園生活六十九日目 情報処理室 PM3:48 ―
情報処理室では、江ノ島は映画を鑑賞するようにポップコーンを頬張りながらモニターを見ていた。
「焦らすわねぇ。ま、悩んでるんだろうけど。そうよね、隠し部屋に行けば袋の鼠、
情報処理室に行けば蜂の巣かもしれない。簡単には選べないわよねぇー」
「でも結局は袋小路。状況は詰みって訳。どんだけ小細工したって最終的には
隠し部屋に行くしかなくなる。そうなるとドカン!ってね。うぷぷぷぷ」
はたして、KAZUYAの予想通り隠し部屋には致命的なトラップが仕掛けられていたのだ。
……爆弾である。といっても全滅させる程の威力はなく、小型のものだ。
恐らく先頭を歩くKAZUYAは確実に爆風を浴びるが、頑丈な体躯故に死にはしないだろう。
しかし、KAZUYAが怪我を負えばもう手術出来る者はおらず、負傷した生徒の何名かは死ぬ。
絶望に落ち逃げる気力すら失った残りの者達を全世界に放映すれば、江ノ島の野望は完遂するのだ。
「あのさ……盾子ちゃん……」
「なんなら二手に別れてもいいわよぉ! アタシが直々に相手してあ・げ・る☆」
「盾子ちゃん、聞いて……!」
「なによ、お姉ちゃん。いつまでもウジウジされてるとうっとーしいんだけど」
「う、うん……本当にごめん。次はちゃんとやるから……」
「次? 次ねぇ……」
江ノ島は無感情な目で戦刃を見つめる。
119 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/05/06(月) 22:44:47.17 ID:1yTFw4Ew0
ドクターKは甘くない。手傷を負った体で追い詰めることは不可能だろう。
戦刃に残された手段は、重火器を渡して彼等を皆殺しにするくらいだ。
「私ね、なんだか……嫌な予感がするんだ」
「ふーん」
「ちゃんと聞いてよ。本当なんだって!」
戦刃は軍人特有の勘の良さで感じ取っていた。保健室で対峙した時の、生徒達の変化を。
二年間一緒に過ごしたからこそわかる。以前の霧切に、そして桑田にあんな動きは
出来ただろうか? 彼等の動きは明らかに才能の限界を超えていた。
才能を育てる希望ヶ峰でもあそこまでの急激な成長は見られなかったはずだ。
この二ヶ月ばかりで、彼等に一体何が起こったのか?
人並み程度の頭脳しかない戦刃は上手く言葉で説明出来なかったが、それは紛れも無い
才能の『進化』だった。もしあの場に江ノ島がいたら流石にその危険性に気付いていただろう。
「もう十分世界に絶望をバラまいたし、いいでしょ? あとはみんなを捕まえて
一人ずつオシオキするか、一気に殲滅して惨殺死体を流して終わりにしようよ!」
「お姉ちゃんねぇ、アタシに何回同じこと言わせたらわかるの?
それじゃアタシの求める真の絶望には足りないのよ!」
「でも……、でもなんかみんな様子が変だったよ!」
「ハァ? どこがどう変だっていうのよ? アタシだってカメラ越しに見てんのよ?」
再三述べているが、万能の超天才江ノ島も人間でありやはり弱点がある。
120 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/05/06(月) 22:49:01.46 ID:1yTFw4Ew0
一つは破滅思想すら含むその気まぐれな性格だ。彼女はわざと自分を不利な状況に
追い込んで楽しむ悪癖があった。しかし、今回ばかりはそれが原因ではない。
二つ目の弱点、それは――疲労である。
彼女はこの二ヶ月間、黒幕としての全ての業務をこなしてきた。流石に食料の搬入などの
力仕事は仲間にやらせたりもするが、監視やモノクマの操作は全て自分で行っている。
部屋に篭りきり、睡眠も削って。
疲労すら江ノ島にとっては心地好い絶望の糧である……であるが、超高校級の保健委員に用意させた
栄養剤で無理矢理体を動かしている状態では、自慢の分析能力もごく僅かな陰りがあった。
そして最後は彼女自身の驕りだ。江ノ島は二年間、その才能をフルに活かしてクラスメイト達の
能力を見てきた。故に、本人以上に彼等の全てを知り尽くしている自負があった。
苗木の幸運や葉隠の占いなどの不確定要素はあるものの、それ以外に不安要素はないのである。
……故に、戦刃の忠告にも耳を貸さなかった。
「なんとなく、としか説明出来ないけど……なんか、いつもより気迫が
違うというかオーラがあったっていうか」
「そりゃ、向こうだっていい加減覚悟完了してるでしょうよ」
「それだけじゃないんだって! なんか、もっとこう、ええっと!」
「うっさいわね! アタシの邪魔をするってんならいくらお姉ちゃんでも容赦しないわよ」
江ノ島は置いてあったペンを手に取ると、先端を戦刃の目に向ける。彼女の行動は常に本気だ。
江ノ島がすると言ったら彼女は本気で戦刃を殺す。普段ならこういった過激な行動もじゃれ合いとして
喜んでいる戦刃も、今この状況で楽しんでいられるほど能天気ではなかった。
「わ、わかったよ。もう言わない……」
121 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/05/06(月) 22:52:57.17 ID:1yTFw4Ew0
妹とコロシアイをするのは戦刃の本意ではない。何より、戦刃は江ノ島に対して頭が上がらないのだ。
引っ掛かるものを胸に抱えながらも、この場は戦刃が引くしかなかった。戦刃にとって最も
悲劇だったのは、この状況を正確に伝えることが出来ない語彙能力の欠如だったのである。
そんな滑稽な姉妹のやり取りをカムクラは冷ややかに見ていた。カムクラは、江ノ島のように疲労もなく
78期生達に対する思い入れもない。故に驕りもなく、常にフラットな視線で物事を見ることが出来た。
カメラ越しだが、彼は生徒達に生じた異変に気付くことが出来たのである。
(あれは……才能の進化と呼ぶべきもの)
カムクラは万能であるが、それは言ってみれば既に完成した才能を肉体という器に
インストールしたものである。故に、未熟な才能がない代わりに成長することもない。
それがわかっているカムクラにとって、才能の進化は興味を惹かれる事象であった。
(希望ヶ峰学園に通っていた頃には見られなかった。では何故この状況で開花したのか?)
過去の希望ヶ峰学園と現在の状況を比べてみる。
今はあるが以前はないもの――
(危機感)
確かに危機感は人を変える。それは良いものであったり悪いものであることもある。
火事場の馬鹿力ということわざがある通り、それは有力な候補に見えた。
(……違う)
だがカムクラはそれを否定する。
122 :
◆takaJZRsBc
[saga]:2019/05/06(月) 22:57:52.10 ID:1yTFw4Ew0
危機感は確かにキッカケとなっただろう。だが、それだけでは説明出来ない。
才能の進化は継続的なものであって、火事場の馬鹿力とは違うのだ。
(わからない。ワカラナイ。一体何故……)
カムクラにはわかるはずがなかった。
それは才能と引き換えにカムクラが手放してしまった、“人間性”に由来していたからだ。
それは誰かの愛情であったり友情であったり優しさや思いやり、責任感……
或いは怒り、悲しみ、嫉妬、焦燥、挫折、苦悩……
そんな負の感情、いわゆる絶望でさえ彼等は成長の糧としていた。
皮肉にも、かつて超高校級の幸運・狛枝凪斗が言っていたことは半分“だけ”当たっていたのだ。
「これからどうするのですか?」
「! あ、また……!」
「カムクラせんぱーい☆ もういつの間に来てたのー?!」
背後を取られた戦刃は悔しそうにし、逆に江ノ島は媚びた声をあげる。
普段の江ノ島だったら、声をかける前に気が付いていたはずだ。やはり本調子ではない。
「あ、もしかしてカムクラ先輩、アタシが不利になったと思ってる?!」
「一階のカメラが全て破壊されましたが」
「もう! そんなのどーってことないない! モノクマ送り込めばいいだけだし、
あいつらが次に打つ手なんて大体予想付くしねー」
「そうですか」
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