江ノ島「明日に絶望しろ!未来に絶望しろ!」戦刃「…終わりだよ、ドクターK!」カルテ.8

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237 : ◆takaJZRsBc [saga]:2020/09/06(日) 22:53:45.48 ID:p54HlrUJ0

苗木「大丈夫? なんだか、顔色が悪いけど……」

朝日奈「ありがとう。自分でもなんだかわからないけど、寒気がしちゃって……」

腐川「作家の勘てやつ? なにも起こらないといいけど……」

葉隠「全部終わる。これで全部終わる……はず……」


この学園生活で直感力が磨かれたものは、薄々これから起こる事態を感じ取っているようだった。


             ・

             ・

             ・


モノクマ「さて、オマエラ。自分の席についたね?」



             裁判席

             モノクマ

        朝日奈  K  葉隠 

    大和田            不二咲               

   霧切                 十神

 大神                      セレス

   江ノ島                桑田

     石丸            腐川

        舞園 苗木 山田


238 : ◆takaJZRsBc [saga]:2020/09/06(日) 22:57:24.68 ID:p54HlrUJ0


          !   学   級   裁   判   開   廷   !


モノクマ「じゃあ、いつものお約束から始めようか。学級裁判のルール説明ね」


「学級裁判の結果はオマエラの投票により決定されます」

「正しいクロを指摘出来れば、クロだけがオシオキ。だけど……」

「もし間違った人物をクロとした場合は……クロ以外の全員がオシオキされ、
 みんなを欺いたクロだけが晴れて卒業となりまーす!」


モノクマ「えー、説明もこの辺にして。それでは、戦刃むくろさん殺しの
      クロを当てる学級裁判を始めます! じゃんじゃん議論しましょう!」

「…………………………」


シーーーーーーーーン。


モノクマ「ありゃ?」

十神「白々しい……」

セレス「あなたが犯人でしょう?」

霧切「犯人はあなたしかありえない。今更仲間割れを狙っても無駄よ」

モノクマ「んー、そうかなぁ? オマエラが思い込みで話してるだけじゃないの?」

大和田「ああん? 思い込みだぁ?!」

桑田「おめー以外ありえねーっつーんだよ!」

石丸「ただちに投票を要求する!」

239 : ◆takaJZRsBc [saga]:2020/09/07(月) 00:21:47.39 ID:f10LM6ye0

モノクマ「まずは状況を整理しようよ。思わぬところに犯人が潜んでいるかもしれないよ?
      投票に失敗したら全員オシオキなんだからさ。もっと慎重になったら?」


モノクマは頬杖をつきながら優雅にワインを飲んでいる。


山田「ぶ、不気味ですね。なんであんなに余裕なんですか……?」

大神「落ち着け。我らを迷わせるいつもの手だ」

舞園「状況を整理して、反論できないようにしてやりましょう」

不二咲「まずは、現場の状況から?」

苗木「僕達が植物庭園から戻る途中、一階と二階の間の踊り場で死んでいる戦刃むくろを発見したんだ」

霧切「死因はナイフによる刺殺。心臓を一突きだったわ」

十神「手負いとはいえ、超高校級の軍人を正面から殺せる人間など限られている。
    例えば、身内なら油断しているだろうな」

山田「ほらみろ! やっぱり犯人はお前だけだ!」

葉隠「完璧な議論だべ!」

朝日奈「早く負けを認めちゃいなよ!」

モノクマ「……オマエラ、本当にそれでいいんだね?」

腐川「な、なによ……なんで含みがあるのよ……それが正解でしょ……?」

モノクマ「別に、ボクはどっちでもいいんだよ? ただ、議論が足りてないんじゃないかなぁって」

苗木「なにが言いたいんだ?」

240 : ◆takaJZRsBc [saga]:2020/09/07(月) 00:23:03.74 ID:f10LM6ye0





「――アリバイだろう?」




241 : ◆takaJZRsBc [saga]:2020/09/07(月) 00:39:38.87 ID:f10LM6ye0

全員が声の方向を見た。


K「アリバイを確認していない」


目を閉じ、腕を組んだままKAZUYAは静かに言った。
その時、全員が初めてその違和感に気づいた。


苗木(あれ……?)

苗木(……そういえば、裁判が始まってからKAZUYA先生は一言も話してなかった)

桑田(おかしいよな。いつも率先してリードしてくれるのに……)

舞園(どうして……今まで黙って聞いていただけだったんですか、先生……?)

霧切「あ、あ……あぁ……!!」


霧切がガクガクと震え始めた。呼吸が荒い。


大神「き、霧切……大丈夫か?」

大和田「おい、顔色があ真っ青だぞ……?」

霧切「……どうして、どうしてこんな簡単なことに私は気が付かなかったの……?!」

苗木「霧切さん……?」

十神「まさか……?!」


今度は十神が青ざめ始めた。

242 : ◆takaJZRsBc [saga]:2020/09/07(月) 00:42:11.00 ID:f10LM6ye0

セレス「どうしたんです? 全員一緒に行動していたのですから、アリバイは……ああっ?!」

葉隠「お、おい……やめろって。その、なんかヤバいことに気がついたみたいな顔すんの……」

不二咲「西城先生が……先生だけがあそこにいなかった……!!」


すでに涙を浮かべた不二咲がなかば悲鳴混じりで叫ぶ。


桑田「お、おいおい……せんせーがいなかったからってなんだよ……」

石丸「まさか?! 君達は西城先生が戦刃むくろを殺したとでも! そう言うのかね?!」

大神「馬鹿な……?!」

朝日奈「う、ウソでしょ?!」

舞園「ウソです! 私は信じません!」

苗木「落ち着いて考えてみようよ! 凶器とか、死因とかさ!」

K「無駄な議論はしなくていい」

苗木「先生?!」

K「俺は確かにやっていない」

K「……だが、それを証明する証拠がないんだ」


「……………………」


静まり返った。

243 : ◆takaJZRsBc [saga]:2020/09/07(月) 00:58:39.16 ID:f10LM6ye0

ここまで。

次は一気に裁判後編まで行きたいところ。
それでは皆様、夏バテにご注意ください〜!

244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/09(水) 13:51:31.35 ID:F2QY0WUS0
乙!あと受賞おめでとうございます!
さて、メタ的に考えてもメタ抜きで考えてもKのクロは無いが・・・
いや、寧ろこれはKに犯行が不可能と言うことを証明して間接的に黒幕がクロという事を証明する裁判になるのかな?
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/11(水) 11:31:13.42 ID:upJU8rf00
捕手
246 : ◆takaJZRsBc [saga]:2020/11/30(月) 23:50:46.79 ID:nBI8lKjw0

腐川「い、いや……認められない! 信じたくない!」

山田「西城先生は今まで何度だって奇跡の逆転をしてきたはず! 今回だって……

!」

K「すまない」

大和田「なんで、謝るんだよ……おい……」

朝日奈「イヤだよ……そんなの、イヤだってば……」


朝日奈がKAZUYAのマントを掴む。桑田が駆け寄った。


桑田「わかってたのか……? わかってたから、さっきあんなこと……!!」


他のメンバーも続々と駆け寄る。


石丸「う、ウソだ! ウソだウソだウソだッ!!!」

舞園「先生ッ!!!」

セレス「ウソと言ってください!」

葉隠「こんな結末、誰も得しねえって……あんまりだ!」

K「みんな、聞いてくれ!」

K「安心しろと言っていいのかはわからんが……この中でもし誰か一人が
  死なないとならんなら、それが俺でなければならん正当な理由があるんだ」

桑田「理由ってなんだよっ!! そんなもんあるわきゃねーだろ!!」

K「――俺はな、癌なんだ」

247 : ◆takaJZRsBc [saga]:2020/11/30(月) 23:51:38.07 ID:nBI8lKjw0


「?!!」


大和田「おいおい、冗談だろ……?」

K「冗談ではない。ただ事実を言っている」

K「俺は医者だぞ。自分の体については俺が一番よくわかっているさ。
  だから、間違いない。今まで黙っていたが、前に血を吐いたこともあるんだ」

苗木「せ、先生……」

苗木(そんな素振り……少しも見せなかったのに……!)

K「前に癌で手術をしたと言っただろう? 完治したと思っていたが、
  この学園での過酷な生活でどうも再発したようだ。だから、この裁判で
  生き残ったところでどうせ長くは生きられないんだ」

石丸「そんなもの、手術をすれば……!」

K「前に言っただろう! 外がどうなっているかわからないんだ。
  おそらく、そんな余裕はない……」

不二咲「そ、そんなぁ……」

大神「我らを安心させるためのウソではないのか……?」

K「ありがたいことに嘘ではない。仮に嘘でも、お前たちに証明できるのか?
  超国家級の医師と呼ばれた、この俺の命がけの嘘を」

大神「…………」


KAZUYAはまず、十神の方を向いた。


K「十神」

十神「……なんだ?」

248 : ◆takaJZRsBc [saga]:2020/11/30(月) 23:53:12.90 ID:nBI8lKjw0

K「お前に後を任せていいか? この中では、お前が一番冷静だと思う」

十神「……イヤだと言っても、断らせる気など更々ないくせに……卑怯者め……」


珍しく十神は顔をそむけ、必死に涙をこらえるように鼻の付け根を掴んでいた。


十神「だが、仕方ない……引き受けてやるさ。この借りは大きいぞ。覚悟しろよ」

K「ありがとう。そう言ってくれると思った」


次に、霧切の方に顔をやった。霧切は背中を向ける。


K「霧切、すまん……」

霧切「最低だわ……! こうなることも最初からわかっていたんでしょう?!
    あなたって人は、本当に最低よ……」


霧切の凛とした目から、初めて涙が流れた。
裁判場のあちらこちらから嗚咽が漏れはじめていた。


K「何度もだましてすまなかった。だが、これで最後だ」

霧切「お願いだから、最後だなんて言わないで……」


その願いには答えず、KAZUYAは石丸に声をかけた。すでに涙と鼻水で顔面がひどい

ことになっている。


K「石丸」

石丸「…………」

249 : ◆takaJZRsBc [saga]:2020/11/30(月) 23:55:39.46 ID:nBI8lKjw0

K「しばらくは立ち直れないかもしれない。出会った頃に比べたら見違えるように
  成長したが、人間というのはそう簡単には変われないものだ」

K「だからみんなに支えてもらえ。風紀委員だからといってムリをすることはない



石丸「せ、先生……先生っ……!!」


なにか言おうとする石丸の視線をKAZUYAは振り払った。


K「桑田」

桑田「こんなの認めねー……マジでありえねーだろ……」

K「お前にも世話になったな。あんなに手がかかるヤツだったのに。
  すっかり頼りになってくれて、俺はいつも助かっていた」

桑田「な、なにすんなり諦めちまってんだよ! まだなにかあんだろ?!
    いつもみたいになんかすげー案出してなんとかしてくれよ?!
    先生のアホ! アホアホアホアホアホアホアホ!!」

K「苗木」

苗木「……はい」

K「お前は本当に頼りになるやつだった。超高校級の才能なんてなくても
  ひたむきさや誠実さがあれば少しも劣らないということをお前は証明した」

苗木「ありがとうございます……」

K「みんなを支えてやってくれ。お前ならできるはずだ」

苗木「わ、わかりました……グスッ。約束します……」


涙をぬぐっている苗木の隣に目をやると、青ざめた舞園が立っている。

250 : ◆takaJZRsBc [saga]:2020/12/01(火) 00:01:09.65 ID:uXYgdOZG0

K「舞園」

舞園「イヤ……イヤです……先生……!」

K「君も溜め込むところがあるから心配だな。真面目なのはいいが
  適度に息を抜いたほうがいい。自分を追い詰めるな」

舞園「先生がいなくなったら、私……」


崩れ落ちそうになった舞園を、苗木が慌てて支えた。
KAZUYAは苗木にアイコンタクトを送ってうなずき、次の生徒を見る。


K「不二咲」

不二咲「本当に……これでお別れなんだ……うぅ……」

K「残念だがな。しかし、お前は本当に強くなった。もう誰かに憧れなくても、
  自分の強さで他人を助けられるはずだ。わかるな?」

不二咲「約束します……! 先生が心配しなくていいように、
     僕がみんなを助けるって約束します……!」

K「ありがとう。頼りにしてるよ」


不二咲の言葉にKAZUYAが安心すると、大和田が割って入った。


大和田「……待てよ! なにしみったれたこと言ってやがるんだ!」

K「大和田」

大和田「ぶっとばそう! 俺の命なんていらねえ!
     あんたはみんなに必要とされてるだろうが!」

K「そううまく行かないのが人生だ。お前も本当はわかってるだろう?」

大和田「うぅ……クソッ、クソッ! クソがッ……! チクショウ……」

251 : ◆takaJZRsBc [saga]:2020/12/01(火) 00:02:20.19 ID:uXYgdOZG0

K「お前だって大勢の人間に必要とされている。自分の命の価値を見誤るな」

大和田「グゥゥゥ……!!」

腐川「こんなのって、こんなのってあんまりじゃない!」

K「腐川、約束を守れなくてすまなかったな」

腐川「本当よ! 生まれて初めて、ちゃんとしたデートできると思ったのに……!
    あたしを嫌がらない人と遊びに行けると思ったのに……!!」

K「大丈夫だ。次はみんなと行けばいい。君はもう一人じゃないだろう?」

腐川「ひどいわ……世界はどれだけあたしに厳しいの……
    みんな、みんな死んじゃうんだから……わああああん!!」

朝日奈「うわあああああああん!!」


腐川の嘆きに合わせるように、朝日奈もまた涙を流していた。


K「朝日奈……」

朝日奈「ひぐっ……ひぐっ……一緒にドーナツ屋さん行きたかった……
     プールも、海も、遊園地に、それから、それから……!」

K「…………」

朝日奈「みんなで……いろいろなことがしたかった……
     そのみんなには、KAZUYA先生も含まれてるんだよ?」

K「朝日奈、俺は君を泣かせてばかりだったな。許してくれ」

朝日奈「許さない……なんて、言えるわけないよ……」

252 : ◆takaJZRsBc [saga]:2020/12/01(火) 00:03:30.81 ID:uXYgdOZG0


そこに容赦のない言葉を入れたのはセレスである。


セレス「私は許しませんわ」

K「安広……いや、ルーデンベルク」

セレス「最後くらい名前で呼んでほしいものですわね。多恵子、と」

K「まったく、君という女性は……」

セレス「まあ、冗談ですが。あなたという御方は、本当に最初から最後まで
     罪作りな人でしたわね。今までも外で相当な数の女性を泣かせてきた
     のではないですか?」

K「否定はしない」

セレス「せっかく、わたくし新たな夢を見つけましたのに……
     二つも生きがいだった夢を失ってこれからどう生きればいいのです?」

K「弱音なんて君らしくないな。君は強い女だったじゃないか」

セレス「……そう、ですわね。最後くらい笑ってお別れをいたしましょうか。
     また来世でお会いしましょう。その時はわたくしを……」


喉元まで言いかけた言葉をセレスは飲み込んだ。


セレス「いえ……なんでもありませんわ」

K「…………」


KAZUYAが大神の方を向くと、車椅子に座った大神は神妙に頭を下げた。


大神「西城殿……今まで長らく世話になった」

253 : ◆takaJZRsBc [saga]:2020/12/01(火) 00:05:00.88 ID:uXYgdOZG0

K「君にもずいぶん世話になったよ。君もれっきとした女性なのに、
  強さに甘えてあまり面倒をみられなかった。本当にすまない」

大神「こちらこそ、内通者の件では不用意に騒がせ申し訳なかった。
    西城殿を信頼して、もっと早く打ち明けるべきであった」

大神「あなたに会えて本当に良かったと思っている。
    皆のことは任せてほしい。西城殿の毅然とした態度を見て
    思い出したのだ。我は絶望している場合ではないとな」

K「もう大丈夫なようだな。俺も安心して逝けるよ」


そろそろ自分の番だろうと察した山田はKAZUYAを見た。


山田「西城KAZUYA先生……今までお世話になりました。
    僕がいまこうやって生きているのも、先生のおかげです」

K「ちゃんとリハビリするんだぞ。ダイエットもな。
  お前はやればできるヤツなんだ。もっと自分に自信を持て」

山田「見てもらってた原稿……完成させられませんでしたね。
    完成したら真っ先に見せるつもりだったんだけどな……」

K「あの世でちゃんと見てるさ。みんなと力を合わせてこれから頑張れ」

山田「はい。……ウッ、涙が止まらない。うぅぅ……」

K「……さて、最後だな」


葉隠は珍しくピシリと背筋を伸ばしてKAZUYAの言葉を待った。


K「葉隠、お前とは色々あったな」

葉隠「……なんか、今でも実感ないべ。先生みたいなゴッツイのが、
    癌だとかオシオキだとか……本当に、本当に死んじまうんか……?」

254 : ◆takaJZRsBc [saga]:2020/12/01(火) 00:09:16.33 ID:uXYgdOZG0

K「お前も最年長の割にはなかなか手がかかったな。掴みどころがないように
  思えて金に汚かったりトラブルを持ってきたり……例を挙げればキリがない」

葉隠「そ、そりゃないべ。最後だってのに……」

K「だが、なんだかんだみんなが困っていたら率先して面倒をみてくれたな。
  授業にも真面目に参加していた。俺はちゃんと見ていたぞ」

葉隠「…………」

K「占いもいいが、時には自分の直感を頼ってもいいんじゃないか?
  自分のいいところと悪いところ、俺に言われなくともわかっているだろう?」

葉隠「そういういい方、反則だって……うぅ……」

K「信じてるぞ。これからも縁の下の力持ちとして頑張ってくれ」

葉隠「わかった。わかったべ! 俺はいざって時にはちゃんとやる男だ!
    俺たちのこと、天国から見ててくれよな。オカルトは嫌いだったけど
    K先生なら幽霊になって現れてもいいぞ!」


最後に全員の顔を見回し、KAZUYAは振り向いた。


K「お前にしては珍しく待ったな」

モノクマ「ボクは飽きっぽい性格だけど欲しい物のためなら綿密に計画して
      準備するタイプだよ? オマエラのこの顔が見たかったんだ」

モノクマ「今この瞬間のためだけに頑張って来たといってもいい」

モノクマ「うぷぷ。うぷぷ。うぷぷぷぷ!」

K「……お前をこの手で葬れなかったことだけが俺の唯一の心残りだ」

255 : ◆takaJZRsBc [saga]:2020/12/01(火) 00:13:13.03 ID:uXYgdOZG0


モノクマ「西城先生もそんな物騒なことを言うんだねぇ

モノクマ「さてさて、では犯人も決まったようですし
      お楽しみの投票タイムに行きましょうか」


「うう……」
「ああああ!」
「イヤ! イヤァ!」


苗木「KAZUYA先生……」

K「ちゃんと俺に入れろ。大丈夫だ。俺を信じろ」

モノクマ「……はいっ! では三度目の投票、心してどうぞ!」

モノクマ「投票の結果、クロとなるのは誰か?!
      その答えは、正解なのか不正解なのか――?!」



裁判場の壁にかかっている大型パネルと席のパネル、両方に
もはやおなじみとなったスロットマシーンの映像が映し出された。
スロットの絵柄はKAZUYAや生徒達の顔写真であり、徐々に絵柄が揃う。




                   VOTE

         【西城カズヤ】【西城カズヤ】【西城カズヤ】

                   GUILTY





        !   学   級   裁   判   閉   廷   !



256 : ◆takaJZRsBc [saga]:2020/12/01(火) 00:15:10.05 ID:uXYgdOZG0


モノクマ「大正解ッ! 今回、戦刃むくろさんを殺したクロは
      ――ドクターKこと西城カズヤ先生でした!」


「……………………」


モノクマ「最愛の生徒たちを守るため、医者の矜持を捨ててまでオシオキ覚悟で
      超高校級の軍人を始末したんですねぇ。いやぁ、泣けるなー」

霧切「……待ちなさい」

モノクマ「もう待たないよ? さっき十分お別れをしてたでしょ?」

霧切「これは黒幕側の明白なルール違反だわ……!」

モノクマ「はにゃ? ルール違反?」

霧切「あなたは学園長として学園の秩序を守るために生徒を罰することができる。
    逆を言えば、それ以外は生徒に手出しできないはずよ。
    なのに、あなたは自ら手をくだし戦刃むくろを殺害した」

霧切「これをルール違反と言わずなんていうの?」

十神「その通り。俺たちの学園生活は外部の人間にエンターテイメント
    として供給しているはず。そのお前がルール違反を犯せば、もはや
    ゲームとして成立せず外の奴らにとって興ざめなんじゃないのか?」

十神「違うか?」

大和田「そうだ! この卑怯者!」

桑田「せんせーがやったっていうなら証拠を見せろよ!」

257 : ◆takaJZRsBc [saga]:2020/12/01(火) 00:16:03.38 ID:uXYgdOZG0

石丸「学園長ならルールを守りたまえ!」

朝日奈「こんな裁判卑怯だよ!!」


生徒達が騒ぎ出すが、モノクマは不気味に笑っているだけである。
KAZUYAもまたなにも言わない。


苗木(なんでモノクマは平気な顔をしているんだ……開き直ったのか?)

セレス「早く証拠を出せっつってんだよ! ビチグソ野郎!!」

モノクマ「証拠? 証拠なんてあるわけないよ」

大神「な、なんだとぉっ?!」

腐川「こいつ……証拠がないってあっさり認めたわ……!」

葉隠「やっぱり不正裁判じゃねえかぁ!」

モノクマ「だからぁ、証明するなんて不可能なんだよ。だって――」

舞園「だって……なに?」

モノクマ「先生が証拠を隠滅するために一階の監視カメラを
      全部破壊しちゃったんだから。できるわけないんだよ」

「?!!!」


水を打ったように、全員が黙り込む。


不二咲「見て……なかった? 外の人も……?」

山田「なにそれ? 潔白を証明できないってこと……?」

258 : ◆takaJZRsBc [saga]:2020/12/01(火) 00:20:33.81 ID:uXYgdOZG0

モノクマ「アリバイがない、自分の犯行を隠すためにカメラを破壊した。
      状況証拠としては十分すぎるくらいだよね?」

モノクマ「ついでに言うとルール違反を犯してるのはそっち!
      学園長室の扉を破壊して勝手に中に入ったでしょ!」

霧切・石丸・大和田「!」

モノクマ「本来なら処刑すべきだけど、校則に一度に殺せるのは
      二人までって書いちゃったし、大事な先生がオシオキされる
      ことに免じて今回は特別に見逃してあげてるんじゃない?」

モノクマ「寛大なボクに感謝しなよ?」

石丸「あ……! あぁ……!!」

大和田(先公のやつ! こうなることがわかってて俺たちをかばったのか!)

K「……気にするな。俺は医者だ。誰のためであれ、命がかかっていれば
  俺は守るために体を張った。だからお前たちのせいじゃない」

K「今回たまたまお前たちだっただけだ。自分を責めるな」

石丸「だからってぇ……!!」

霧切「…………」


爪が手袋を突き破りそうなくらい、霧切は悔しげに拳を握った。
誰もが同じ顔でうつむいていた。


K「最後に全員と握手させてくれ。それくらいいいだろう?」

モノクマ「時間が押してるんで、巻きでお願いしますよ」


KAZUYAは一人ひとりに声をかけて握手をしていった。

259 : ◆takaJZRsBc [saga]:2020/12/01(火) 00:21:29.22 ID:uXYgdOZG0

K「元気でな」ギュッ

苗木「!」

苗木(これは……)

霧切「……絶対に黒幕を倒して、仇を取ってみせるわ」


霧切は手袋を外して、KAZUYAと握手をかわした。


K「お前たちならできる。頼むから、俺を悲しませないでくれよ」

K「さあ、オシオキの時間だ。来るなら来い」

モノクマ「クロもオシオキを待っていることですし、ではでは!
      皆さんお待ちかねのオシオキタイムと参りましょーか!!」

モノクマ「学級裁判の結果、オマエラは見事クロを突き止めましたので
      クロである西城カズヤ先生のオシオキを行いまーす!!」

モノクマ「うぷぷ! うぷぷぷぷ! アーハッハッハッハッ!!!」

モノクマ「ハーッハッハッハッハッハッ!!!」

桑田「心底うれしそうに笑ってやがる……」

石丸「こんなに誰かを憎いと思ったのは生まれてはじめてだ……!」

苗木「許さない。絶対に……!」

K「せいぜい楽しんでおけ。お前の楽しみはこれで終わりだ」

260 : ◆takaJZRsBc [saga]:2020/12/01(火) 00:23:27.00 ID:uXYgdOZG0



「今回は――!」


「超国家級の医師である西城カズヤ先生のために!」


「スペシャルな!」


「オシオキを!」


「用意させて頂きました!!」




「張り切っていきましょうッ!! オシオキターイムッ!!!」


261 : ◆takaJZRsBc [saga]:2020/12/01(火) 00:31:42.84 ID:uXYgdOZG0

ここまで。次回オシオキから。

遅れてしまいましたが、ダンガンロンパ10周年おめでとうございます。
年内にエンド1つ目の予定でしたが……終わるかな?

次回で決着、エピローグ、個別エンドが確か二つ、オマケとあるので
あと四回くらい必要になりそうな……

もうすぐ大事な賞の締切があるので、そのあと集中して書けばなんとか……
……がんばります。

262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/12/01(火) 12:46:17.76 ID:aqhHLEqF0
乙!とりあえずBADかなこれは
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/12/02(水) 22:18:29.32 ID:nwVtJ+K7o
久しぶりに開いてやっと追いついた
264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/12/24(木) 04:10:59.99 ID:5i6S2+hSO
絶望姉妹ハピバ!
265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/03/14(日) 03:56:05.33 ID:6mSJUqhOO
久々に捕手
266 :1@携帯 [sage]:2021/04/04(日) 22:19:54.95 ID:fdmAquuto
遅れてゴメンヌ……

創作自体スランプだったのと体調もあんまり良くなくてしばらく離れてました。
だいぶ復活してきたのでそろそろまた書きます。
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/13(火) 12:31:52.55 ID:SAcw1/ED0
舞ってる
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/13(火) 21:28:17.41 ID:dWlQd0uMo
期待して待ってます
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/05/14(金) 08:13:40.39 ID:PIsnP63KO
続き楽しみにしてます
270 : ◆takaJZRsBc [saga]:2021/05/22(土) 17:11:08.50 ID:VGuDKbI20


準備万端で持っていたハンマーで、モノクマはオシオキスイッチを押した。

スイッチの下の部分についていた液晶画面と、裁判席のパネルに一昔前のゲームのような
ドット絵が映り、モノクマを模したドットキャラがKAZUYAのキャラを引きずっていく。








              GAMEOVER

      サイジョウカズヤせんせいんがクロにきまりました。
            おしおきをかいしします。




271 : ◆takaJZRsBc [saga]:2021/05/22(土) 17:18:32.02 ID:VGuDKbI20


             ― Medical Error(医療ミス) ―


KAZUYAが連れてこられたのは馴染み深い手術室。
赤十字を模した巨大な赤い十字架に上半身裸のKAZUYAが磔にされていた。

その前には白衣を着て医者のコスプレをしたモノクマ。
胸には聴診器、頭には額帯鏡(耳鼻科が頭に付けているアレ)をつけている。

そして、手には巨大なメスを持っていた。

手術に似つかわしくない陽気な音楽が流れ始め、モノクマはメスを両手に特攻。
まずKAZUYAの胸を大きく縦に切り開く。麻酔なんてしていないのでKAZUYAは
一瞬顔を歪め呻いたが、その後は精神の力でいつもどおりの顔を保った。
しかし、冷や汗だけはごまかせず病人のように全身から絶えず汗が流れ落ちた。

医療知識なんてないモノクマ。見様見真似で適当に皮膚を切開して、
まず心臓を切り取り、次に肝臓、胃、肺、腎臓、腸をメスでえぐり取る。

白い床が真っ赤な血に染まった。
内臓をすべて失ったKAZUYAはぐったりとうなだれる。

医師免許もないのに手術なんてできるわけないね。
やっぱり患者は死んでしまいました。残念!


272 : ◆takaJZRsBc [saga]:2021/05/22(土) 17:20:03.07 ID:VGuDKbI20


               ◇     ◇     ◇


「うわあああぁぁああああぁぁぁあああぁあああッ!!!」

「いやああぁぁあああぁあああぁぁぁああああああッ!!!」


オシオキが終わった瞬間、生徒はバリケードを破壊してオシオキ場に飛び込んだ。


「先生っ! 先生っ!!!」

「先生ぇえ!!!」


まだ体温が残る恩師の体に生徒たちはしがみついた。


「ぬ、ぬ、縫わないと……」


石丸がいつも以上に狂気的な瞳でつぶやいた。


「先生の体をバラバラにしたままになんてできない……!」

「石丸君……」


KAZUYAから預かったマントには医療道具が入っている。
苗木は周りを見渡し、全員がうなずいた。

273 : ◆takaJZRsBc [saga]:2021/05/22(土) 17:22:12.66 ID:VGuDKbI20


――まさしく、狂気の光景だった。

たったいま死んだばかりの男の内臓を、教え子たちが泣きながらかき集め
空っぽになった腹に詰め直しているのだから。さながら黒魔術のようだった。

いつもは冷静な霧切や十神さえ他の生徒に混じって黙々と作業を行った。
血液恐怖症を克服したとはいえ、まだ苦しい腐川も吐き気をこらえて耐えた。

愛するKAZUYAの内臓を気持ち悪いなどと思うはずがなかった。
嗚咽と呻き声だけが辺りを支配した。

全員、医療知識があったのが幸いして綺麗に内臓を収めることができた。
石丸と苗木が協力して傷口を縫っていく。苗木が口を開いた。


「残りは全員でやろう。縫合術、覚えてるよね?」


最後、順番に一針ずつ縫った。舞園が自身の制服のリボンで表面の血を
拭き取ると、死んでいるとは思えないくらいに綺麗になった。

……凄惨な処刑に反し、KAZUYAの死に顔は信じられないほど穏やかだった。


「先生……先生、うっ……」


不二咲は口を手で抑えたまま涙をこぼす。とうとう耐えられなくなった
腐川は気絶した。すぐさまジェノサイダー翔に交代する。


「…………あ」


一瞬で状況を察したジェノサイダーはいつもの騒がしい自己紹介をせずに、
黙ってKAZUYAの遺体を見つめた。

274 : ◆takaJZRsBc [saga]:2021/05/22(土) 17:26:47.89 ID:VGuDKbI20

「とうとう死んじまったのか。いい人だったなぁ……殺人鬼のアタシが
 泣くなんてさ、世界中探したってそんな人間ほとんどいやしないってのに……
 馬鹿だよ、あんた。大馬鹿だ……」


そう言って、ジェノサイダーは顔をそむけた。
KAZUYAの手を握りしめたまま泣きじゃくる朝日奈の肩に、霧切は手を置いた。


「気持ちはわかるけど、このまま常温で置いておいては腐ってしまうわ」

「そうですわね……西城先生の体を腐らせるわけにはいきませんわ」


セレスは沈痛な表情で同意する。


「……生物室に遺体保管庫があったな」


十神が提案したが、桑田と大和田が難色を示した。


「あんなところにせんせーを入れちまうのかよ……」

「俺たちが見ていない間に、モノクマのヤツが捨てたりしねえだろうな……」


他のメンバーも、モノクマならやりかねないと口々につぶやいた。


「僕、倉庫にドライアイスがあるのを知っています。
 ギリギリまで保健室に安置するのがいいんじゃないですか?」

「山田っち、ナイスだ。そうするべ」

275 : ◆takaJZRsBc [saga]:2021/05/22(土) 17:30:07.64 ID:VGuDKbI20


舞園がKAZUYAの手を握りながらつぶやいた。


「お葬式くらい、私たちの手でしてあげたいですよね……」

「その通りだ。我らで弔おう」


話し合った末、しばらくは保健室に遺体を保管することに決めた。
ベッドに横たえ、両手を組み合わせてドライアイスを置いた。

眠っているようにしか見えないKAZUYAに、朝日奈はすがって泣いている。
アルターエゴを起動して事の端末を報告した。


『そう……そうだったんだね。僕にもっと力があれば……』

「みんな。実はみんなに見せたいものがあるんだ」


苗木はKAZUYAから託されたものを出した。握手の時、メモリーカードを
渡されていたのだ。学園長の隠し部屋で見つけたものだった。


「きっと、寄宿舎の二階で先生が見つけたものだと思うんだ。
 最後に渡したということは、きっと僕たちの切り札になるもののはず」


全員がうなずいたのを確認して、苗木はノートパソコンにメモリーカードを挿した。



             ・

             ・

             ・


「なに……これ……」

276 : ◆takaJZRsBc [saga]:2021/05/22(土) 17:31:25.99 ID:VGuDKbI20


全員画面を見ながら青ざめていた。


舞園「こんなこと……私、覚えてない……!」

朝日奈「私もだよ!」

大和田「いったいどういうことだ?!」

桑田「またモノクマの罠かよ?!」

十神「いや、それはおかしい……もしそうなら西城が隠すはずがない」

霧切「これを託したということは、これは私達にとって切り札となるもののはず」

石丸「こんなおかしな映像がかね?」

苗木「……この映像、もしかしたら本物なんじゃないかな?」

桑田「本物って、おいおい……」

不二咲「僕達は学園長に会ったこともないのに……」

セレス「おかしいですわね。まさか揃いも揃って記憶喪失ではないでしょうし」

葉隠「そうだべ。そんなんオカルトじゃねえか」


その時、山田は一人離れてうつむいていた。


大神「どうしたのだ、山田よ」

山田「……これは、時が来たのかもしれない」

277 : ◆takaJZRsBc [saga]:2021/05/22(土) 17:38:24.81 ID:VGuDKbI20

ここまで。あんまり間を開けすぎるのも良くないので、
最悪にキリが悪いけど一旦投下

本当はラストまで突っ走りたかったのですが、
今すごく仕事が忙しいのと重要なシーンのデータが飛んだので
もうちょいお待ちください。KAZUYAの復活は来年になりそうですね……

278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/22(土) 22:44:38.39 ID:0FsmTtZx0
おお生きとったんか!待っていた甲斐があったが
そうか、完結までは年をまたぐか…
279 : ◆takaJZRsBc [sage]:2021/05/23(日) 00:41:28.71 ID:KM9DqGOn0
>>278
お待たせして申し訳ないです(汗)

悪いことは重なるもので、仕事が忙しい上にPCの調子が悪くて
いつご臨終となるかわからないのですよね……
もうデータはとってあるから大丈夫なのですが、早くPCを新調したいものです。
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/25(火) 10:24:33.83 ID:WISQEd/wo

やっぱオシオキはきっついな。だからこそのダンガンロンパだけど
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/26(水) 22:25:29.13 ID:Ra2FKk9XO
K2とどっちが先に完結するのかな…
ていうかK2もう連載400と2回突破したんだね
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/27(木) 16:14:43.82 ID:ADCCFVxM0
それよりこんなオシオキ受けてどうやってKAZUYAは復活できるんだ?
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/08/17(火) 15:54:01.25 ID:iltUNAEA0
待つてる待つてる
284 :1@スマホ [sage]:2021/10/10(日) 01:35:25.42 ID:Def5RfHRo
できた!明日投下しますよ〜

前回データ消えたのがショックで、あれより出来が悪いなと思ってしまい
スランプに入ってしまったのですが無事に克服できました。この調子でなんとか年内に……!
285 : ◆takaJZRsBc [saga]:2021/10/10(日) 17:26:06.24 ID:Def5RfHR0


山田は中央に進み出ると、深呼吸した。


苗木「どうしたの、山田君?」

山田「みんなに話したいことが……」


おもむろに山田は話しだした。希望ヶ峰学園での思い出を。


山田「はっきり思いだしたわけじゃないんです。僕って妄想癖があるし、
    自分でも半分夢なんじゃないかって自信がなくて……」

山田「でも、やっぱり夢じゃなかった。僕達は、ずっと前から出会っていたんだ」

大和田「ウソだろ……」

桑田「じゃあ、アレか? 俺たち、ずーっと仲間内で争ってたってことか?」

不二咲「そ、そんな……」

十神「馬鹿な……こんなことが……」

ジェノ「あれあれあれ? 白夜様忘れちゃったの? あの熱い青春も
     アタシとのアバンチュールも人類史上最大最悪の絶望的事件も」

朝日奈「知ってるの?!」

霧切「ジェノサイダー翔は腐川さんと記憶の共有はしていない。
    つまり、あなたの記憶は消えてないんじゃないかしら?」

石丸「いったい何があったんだ! 全部話したまえ!!」

ジェノ「しゃあねえなぁ。つっても、アタシだってそんなに詳しくはねえぞ」

286 : ◆takaJZRsBc [saga]:2021/10/10(日) 17:27:48.88 ID:Def5RfHR0


ジェノサイダーは、人類史上最大最悪の絶望的事件によって希望ヶ峰学園が
閉校したこと、旧校舎をシェルターにしたこと、ドクターKがだまされて
一緒に閉じ込められたことを話した。


ジェノ「シェルターが完成して『さあ、避難しましょ』って時にちーたんが
     絶望の奴らに撃たれて、カズちんが手当てしたのよ。そのまま
     学園長が玄関の扉を閉めちゃったわけ」

ジェノ「カズちんは元々シェルターには残らないつもりだったけど、
     まんまと一杯くわされたってところねん」

不二咲「ぼ、僕のせい……?」

ジェノ「まあ、それはたまたまであってあの学園長のことだから、
     なんらかの方法で絶対逃さなかったと思うわな。貴重な医者だし」

霧切「私もそう思うわ。父は、そういう人間だったから」

十神「父親だと?」

山田「学園長の名前は霧切仁。霧切響子殿の父上です」

セレス「まあ。もしやそのために希望ヶ峰学園へ?」

霧切「父のことはいずれ話す。とにかく、不二咲君は気にしないで」

不二咲「う、うん。わかった……ありがとう」

葉隠「それで、俺たちはこれからどうすりゃいいんだ?
    揃って記憶喪失ってことがわかっただけじゃねえか」

霧切「決まっているわ。最後の決戦に挑むのよ」

大神「それしかないのだな……」

朝日奈「やろうよ。先生にこんなことして……絶対に許さない……」

287 : ◆takaJZRsBc [saga]:2021/10/10(日) 17:35:31.88 ID:Def5RfHR0

舞園「私も同じです。モノクマは、してはいけないことをしてしまいました」

苗木「みんなで一緒に戦おう!」


KAZUYAの遺体のすぐ横で生徒たちは決意を固めた。
もう、以前のように止めたり励ましてくれるKAZUYAはいない……。



               ◇     ◇     ◇


全員、揃って二階に集結しモノクマを呼び出した。


霧切「モノクマ、出てきなさい!」

モノクマ「おやおやぁ、みんなどうしたの?
      西城先生のお葬式の最中だと思ったけど」

苗木「僕たちはもう逃げない!」

霧切「私達は学級裁判のやり直しを要請するわ。先程の裁判は明らかに不正だった」

モノクマ「そう言われてもね。犯人は西城先生だよ。
      学級裁判でもひっくり返す証拠なんて出なかったじゃない?」

舞園「それはあなたがそう誘導したから……!」

十神「終わってしまったことは仕方ない。卑怯な貴様のことだ。
    どうせ冤罪の証拠は隠滅済みなんだろう?」

十神「――だがそれでいいのか?」

モノクマ「どういう意味かな?」

288 : ◆takaJZRsBc [saga]:2021/10/10(日) 17:38:27.59 ID:Def5RfHR0

十神「お前の犯行は、ここの映像を見ている人間たちには筒抜けのはずだ。
    今まで散々ルールにこだわっていた貴様がズルをして終わり。そんな
    拍子抜けな終わり方でオーディエンスは納得してくれるのかと聞いている」

モノクマ「そんなこと言われてもね。オシオキだって終わっちゃったわけだし
     今更何を裁判するって言うのさ?」

霧切「だから別の裁判を行うのよ。学級裁判の内容はこの学園の
    秘密についてでどうかしら? 私たちが何故閉じ込められているのか?
    何故殺し合わなければならなかったのかを裁判で明らかにする」

霧切「逃げ回るのもこれで終わり。私たちはあなたへ最後の宣戦布告をしにきたのよ。
    賭けるのは私たち全員の命。どう? 悪くないんじゃない?」

セレス「こちらが勝てばあなたがオシオキ。もしあなたが勝てば
     わたくしたち全員がオシオキを受けますわ」

大和田「泣いても笑ってもこれが最後の勝負ってことだ!」

桑田「おめーだっていい加減この退屈な状況は終わらせたいだろ?」

舞園「あなたはゲームにこだわっていました。ですからゲームで終わらせましょう」

朝日奈「受けないなんて言わせないよ! 私たちがKAZUYA先生の仇を討つんだから!」

石丸「いざ尋常に勝負だぁ!!」

モノクマ「うぷぷ……うぷぷぷぷ! ボク一人を倒すために本当に全員の命を賭けるんだね?
     負けたら死んじゃうのに。西城先生が知ったらどんな顔をするかなぁ?」


生徒の決死の覚悟をKAZUYAは喜ばないだろう。
むしろ、生きていたら絶対に反対するに違いない。
生徒たちもそれを知ってはいたが止まらなかった。否、止められなかった。

289 : ◆takaJZRsBc [saga]:2021/10/10(日) 17:40:57.61 ID:Def5RfHR0

不二咲「怖いけど覚悟はできてる。君は、僕たちの大事なものを踏みにじったんだ」

葉隠「さ、流石にここまで来たら逃げられないべ。やってやる」

大神「我らの心は一つ!」

腐川「で、受けるの? 受けないの? はっきりしなさいよ!」

山田「戦じゃあああああ!!」

モノクマ「いいよ! これで最終決戦にしようじゃないか!
      今まで開放されていなかった学園の全区域を解放するよ!」


――その瞬間、生徒たちがニヤリと笑ったのをモノクマは気づかなかった。

散々罠を仕掛けてきた側のモノクマが罠にかかったのだ。


苗木「上手くいったね」


モノクマが去った後、苗木が霧切にボソリとつぶやいた。


霧切「ええ。でも、油断は禁物よ。まだ私たちが調べていない場所がある。
    そこを徹底的に調べましょう」

石丸「先生の無実は証明できないだろうか……」

不二咲「そうだね。モノクマに勝つだけじゃなくて、先生の名誉回復もしたいよねぇ」

十神「調べるしかあるまい。もしかしたら手がかりがあるかもしれんぞ」

セレス「西城先生は正しい人でした。きっと、どこかに手がかりがあるはずですわ」

舞園「探しましょう!」

290 : ◆takaJZRsBc [saga]:2021/10/10(日) 18:29:52.05 ID:Def5RfHR0


生徒たちは四班に別れた。


  ― 寄宿舎 二階 ―


メンバー:苗木、霧切、桑田、舞園、セレス

二階に上がると、廊下にはKAZUYAが破壊したモノクマの残骸が大量に転がっていた。


桑田「うわ! なんだこりゃ!」

霧切「ここで戦闘をしていたようね」

セレス「大方、時間稼ぎではないでしょうか? すぐに戻ってきたら困りますもの」

舞園「こちらにロッカールームがあります。キーがないと開けられませんが」

苗木「多分僕たちが以前使っていたロッカーだよね? 開かないかな?」

セレス「あ、もしかしたら……」


セレスが電子手帳を近づけたら、電子音と共にロッカーが開いた。


霧切「セレスさん、それはどうしたの? あなたの電子生徒手帳じゃないわよね?」


セレスは手帳を開いて不敵に笑った。そこには西城カズヤの名が液晶に浮かんでいる。


セレス「西城先生の電子教員手帳ですわ。形見に頂戴しようと思いまして」

苗木「セ、セレスさん……」

桑田「ちゃっかりしてるぜ……」

291 : ◆takaJZRsBc [saga]:2021/10/10(日) 18:44:31.08 ID:Def5RfHR0

セレス「ついでに先生は霧切さんの手帳を持っていました。
     恐らく、ここから持ってきたのでしょうね」

霧切「…………」

舞園「……これ以上盗られないように私が見張ります」


唖然としながら霧切は手帳を調べた。そこには絶望についての記載があった。
KAZUYAの部屋はセレスと舞園に任せ、学園長の部屋は苗木、霧切、桑田が調べる。

パソコンのパスワードを苗木が見抜き、三人は隠し部屋に入った。


桑田「なんだこれ? プレゼントか? 開封した跡があるな」

霧切「やめておきなさい。モノクマが用意したのだからどうせ悪いものよ」

苗木「見て、霧切さん。写真立ての裏に何か貼ってあった形跡がある。
    大きさ的に、恐らくメモリーカードだ」

霧切「そう……ドクターはここに来て私たちに手がかりを残したのね。
    モノクマを倒す致命的な証拠を」

桑田「親父さんもだろ。そもそも霧切の親父がここに隠したから俺たちに渡ったんだし」


写真立てを手にとって見つめている霧切に桑田が声をかけた。


桑田「その、さ。何があったか知らねーけど、親父さんは親父さんで
    いろいろ事情とかあったんじゃねーの? パスワードとかこの写真とか、
    娘のことは想ってたみたいだしさ」

苗木「僕もそう思うな。いつか心の整理がついたら、お父さんのこと話してよ」

霧切「ええ、そうね……」

292 : ◆takaJZRsBc [saga]:2021/10/10(日) 18:46:42.65 ID:Def5RfHR0


  ―  情報処理室 ―


メンバー:十神、腐川、葉隠、朝日奈、アルターエゴ

一方、情報処理室では十神が指揮を取って調べていた。


葉隠「なんでテレビに俺たちの姿が映ってるんだ?」

十神「全国中継されているというわけか……」

腐川「ひいい、あたしもう生きていけない……!」

朝日奈「ねえ、見てみて! ここでモノクマが動かせるみたいだよ!」


モノクマの顔が描かれているドアの向こうで、朝日奈がモノクマの制御装置を見つけた。


十神「コントロールルームか。ここで黒幕がモノクマを操作していたのは
    間違いないようだな。アルターエゴを持ってきて良かった。戦刃が
    死んだ辺りのログを調べるぞ。何か出てくるかもしれん」

アルターエゴ『任せて! カメラの映像は破棄されているみたいだけど、
     モノクマのログは残っているはずだよ』

葉隠「床の四角はなんだ?」

腐川「調理室の四角は地下に繋がってたわよね? じゃ、じゃあここももしかして……」

十神「あいにく爆薬が切れているのが残念だな。
    ……む、縁に血痕のようなものがついて途切れているな」

朝日奈「誰か怪我でもしてるっけ?」

葉隠「いや、誰も。誰の血だ?」

293 : ◆takaJZRsBc [saga]:2021/10/10(日) 19:28:21.43 ID:Def5RfHR0


全員かがんで床に注目していると、今度は腐川が何かを見つけた。


腐川「ここに付け爪みたいなのが落ちてるわよ。江ノ島のやつ、うっかりしてるわね」

十神「フフフ、そうか。読めてきたぞ。ここに来た収穫は大きかったようだ」



  ― 生物室 ―


メンバー:石丸、大和田、不二咲

石丸たちは生物室で、死んだ戦刃の遺体を再度調べていた。


大和田「何かわかるか、兄弟?」

石丸「先生は僕たちを守るために初めから自分が犠牲になるつもりだった。
    つまり、まともに検死していないはずだ。もしくは、気づいていても
    あえて黙っていたことがあるはず。それを調べるぞ!」

不二咲「調査のために仕方ないんだけど、女の人の体を触るなんてなんだか申し訳ないね……」

大和田「じ、自業自得だろ……そもそもこいつはワルモンなんだ。しょうがねえよ……」


そうは言いつつ、かなり抵抗があった三人。何故女子を連れてこなかったか後悔した。
石丸は服に手をかけたまま固まってしまった。


石丸「う、うう……許してくれ許してくれ」

大和田「時間がねえ……俺がやる! 南無三!」


覚悟を決めて大和田が服をひっぺがした。
傷口が見えると、解剖モードに入ったのか三人は傷口をまじまじと見た。

294 : ◆takaJZRsBc [saga]:2021/10/10(日) 19:30:39.05 ID:Def5RfHR0

不二咲「綺麗な傷だね。まっすぐ心臓を貫いてる」

大和田「こんなのおかしいだろ。戦刃は超高校級の軍人だぞ。
     不意打ちならともかく正面から刺せるかよ」

石丸「傷口は第三肋骨と第四肋骨の間を刃を横にして通っている。
    胸骨スレスレで一歩間違えば刺さらなかったはずだ」

石丸「医者である西城先生がわざわざこんな場所を狙うはずがない。
    そもそも、ナイフだと刃の幅が太すぎる。メスで突けばいい。
    先生は常に愛用のメスを持ち歩いているのだから」

不二咲「しかも、先生は戦闘用のメスに毒を塗っていたよね。
     刺さなくても、かすったら殺せるはずだよ」

大和田「他には何かねえか? 寒ぃし、あんまりホトケと向き合っていたくねえからな」

不二咲「狼の入れ墨、彼女がフェンリルの人間である証拠だね。
     ……ん? あれ、付け爪が取れてる……」



  ― 待機組 ―


メンバー:大神、山田

怪我人の大神を動き回らせるわけにはいかず、山田が付き添って保健室で待機していた。


大神「山田よ。何を見ているのだ?」

山田「ああ、漫画の原稿です。作りかけなんですけどね。
    一回ゴミ箱に入れたのを、先生が拾っていてくれたんだなぁ」


山田はKAZUYAの荷物整理をしていて、過去に自分が描いた原稿を眺めていた。
ここの生徒たちをモデルにした、他愛のない内容のファンタジー漫画だ。

それを見つめながら、山田はしみじみとため息をついた。

295 : ◆takaJZRsBc [saga]:2021/10/10(日) 19:49:19.60 ID:Def5RfHR0

山田「……結局、完成できなかったな」

大神「ここから出たら完成させれば良いではないか」

山田「ムリですよ。外は世紀末なんです。漫画を描いている余裕なんてないですよ。
    それに、今更完成させても一番見せたかった人はもうこの世にいないんです」

山田「永遠に見せることはできないんだ」


ぽたりぽたりと山田の涙が原稿に落ちた。


山田「僕って何をやっても中途半端だったなぁ。オリジナルの漫画も、
    ダイエットも、結局先生が生きているうちに終わらせられなかった。
    ……悔しい。本当に悔しいです。ううう」

大神「山田……」


作りかけの原稿を抱きしめ涙を流す山田に大神はそれ以上声をかけられなかった。


大神「……生き残ろう。我らには、もはやそれしかできぬ」

大神「我も西城殿にはたくさん迷惑をかけた。生き残り、贖罪をする。
   もはやそれしか残っておらぬ。外に希望がなくても、我らは生きるしかないのだ」

山田「そうですね……僕たちみんな、先生を助けられなかったという点では同じなんだ。
   きっと、一生忘れられない……」


その時、捜査時間終了を告げるチャイムが鳴った。


             ・

             ・

             ・


296 : ◆takaJZRsBc [saga]:2021/10/10(日) 20:16:00.47 ID:Def5RfHR0


結論から言うと、学級裁判は生徒たちの圧勝に終わった。
KAZUYAの冤罪も無事に証明でき、名誉挽回を果たすことができた。


苗木「お前はモノクマの自動操縦モードで先生の足止めを図った。そしてその間に
    戦刃むくろを現場におびき寄せたんだ! 戦刃は油断していたから正面から
    刺された。でも、驚いた戦刃がお前の体を掴んだ時に付け爪が剥がれたんだ」

モノクマ「ザナドゥ……!」グラッ

苗木「お前は証拠を隠滅するために急いで情報処理室の隠し部屋に向かった。
    その時、服についていた付け爪が床に落ちた。急いで降りたから、服についた
    返り血が扉の縁にわずかに付着したのも気が付かなかった」

苗木「そもそも、片腕が使えないとはいえ超高校級の軍人相手に正面から刺す
    必要なんてないんだ。先生は毒を塗ったメスをいざという時のために
    隠し持っていた。正面から刺されたのに傷跡は綺麗で避けたり暴れた形跡もない」

苗木「戦刃が油断しきっていたのは身内であるお前が犯人だからだ!
    モノクマ、いや江ノ島盾子! お前こそ戦刃むくろを殺した真犯人だ!」

モノクマ「ファザナドゥッ……!!」グラッグラッ

霧切「動揺している暇なんてないわよ。学園の秘密はすべて明らかになっているのだから」


捜査時間中、モノクマは生徒に自分以外全員が映った写真を配っていた。
自分以外の生徒とモノクマが結託しているように見せ仲間割れを図ったのだが、
生徒は既に学園の真相を知っていたため、不発。

黒幕・江ノ島盾子は姿を現し得意の言葉責めを行うがそれも失敗した。

外の危険さを訴え江ノ島を処刑して卒業するか留年してここに残るか選ばせるが、
元より死を覚悟していた生徒たちは誰一人迷わなかった。

297 : ◆takaJZRsBc [saga]:2021/10/10(日) 20:27:35.31 ID:Def5RfHR0

十神「そろそろ投票の時間だが、最期に何か言うことはないか?」

江ノ島「まさか、私様がここまで完膚なき敗北を喫するなんてね……残念です」

セレス「あなたの敗因はわたくしたちを完全に怒らせたことですわ」

石丸「西城先生が僕らを導いてくださったのだ!」


生徒たちは裁判場に置かれたKAZUYAの遺影を見る。
ちなみに、江ノ島は席がないので中央に立っていた。全員の視線が江ノ島に刺さる。


江ノ島「……うぷぷ。うぷぷぷぷ。なるほどなるほど。そーいうこと」

桑田「なに笑ってるんだよ、気持ちわりいな……」

江ノ島「気づいちゃったのよ。この裁判のからくりに」

江ノ島「あんたたち『ズル』してたわけね。最初から学園の秘密や
     外の真相を全部知ってて裁判を挑んだってわけだ」

霧切「いけない? あなたが今までに散々やってきたことよ」

腐川「そ、そうよ……! そうやって西城先生を処刑したくせにぃ!!」

葉隠「ズルだなんてどの口が言うんだべ!」

山田「そうだそうだ、この卑怯者!」

江ノ島「アタシがズルして何が問題なのよ? アタシはこのコロシアイ生活の
    ゲームマスターよ? むしろ、今までルール通りにしてたのがお情けだって話」

江ノ島「悪役が非道の限りを尽くすのは物語としては当然のことだ。
     だが、君たちは死ぬつもりもないのに命を懸けるだなんて嘘をついた。
     正義側として一線を超えたということだよ?」

朝日奈「し、仕方ないよ……! そうでもしないと勝てなかったんだから」

298 : ◆takaJZRsBc [saga]:2021/10/10(日) 20:41:29.71 ID:Def5RfHR0

舞園「すべては西城先生の仇を取るためです。悪いことだと思っていません」

江ノ島「キャハハハ。ボクが言いたいのはねー。君たちは希望であることを諦めたって
     ことなんだよ。そういう手段を選ばない行動はボクたち絶望と同じだよね―」

江ノ島「つまり……皆さんは既に絶望しているということです……
     今までのあなたたちなら命のやりとりなど望まなかったはずですから……」

江ノ島「目的のためなら俺を殺していいって考えた時点で
     オマエラは希望じゃなくなったんだよ!」

江ノ島「希望ヶ峰学園が残した人類最強の希望が全員絶望して終わるなんて
     最高に皮肉な終わり方クマ! 面白いクマ!」

大神「そうかもしれぬな……だが、それとこれは別だ。貴様だけは許してはおけん!」

石丸「希望とか絶望とかもうどうでもいい! 僕たちは先生の仇であるお前を討つ!」

大和田「無駄話はここまでだ。さっさと投票タイムにしろ」

江ノ島「本当に後悔しないんだね? うぷぷぷぷ……」


生徒たちはまったく躊躇せずに卒業を選んだ。
もちろん、卒業には江ノ島の処刑という意味も含まれている。

――それでも生徒は迷わない。

いつものスロット画面には、江ノ島の顔が三つ並んだ。





「うぷ、うぷぷ、あはははははははははは!!」


299 : ◆takaJZRsBc [saga]:2021/10/10(日) 20:50:51.42 ID:Def5RfHR0

江ノ島「はい、アタシの負けー! アタシはオシオキされるってわけね」

桑田「いいからさっさと死ねよ」

セレス「てめえのうざったい声をもう聞かなくて済むのは清々しますわ」

十神「地獄に落ちろ。先に行った戦刃によろしく伝えておくんだな」

舞園「さようなら、江ノ島さん。お元気で」

霧切「遺言があるなら一応聞いてあげるわよ」


生徒たちは冷たい。針のような二十八の目が江ノ島を見ている。
その目には怒りや憎しみが込められていた。

江ノ島は満足そうに笑った。


不二咲「江ノ島さん……僕たち友達だったんだよね? どうして……?」

山田「僕の記憶の中の江ノ島盾子殿は作り物だったのですか?」

江ノ島「さあね。アタシがこの世に生まれた時から運命は決まってたんじゃないの」

苗木「江ノ島盾子……僕たちはお前を許すわけには行かない……
    僕たちには、いや世界中の大勢の人たちもお前を裁く権利がある」

江ノ島「わかってるわよ。命乞いなんて最高にダサい真似するわけないじゃない。
     超高校級の絶望であるこのアタシがさ」

江ノ島「最期にあんたたちのそんな顔が見られて幸せだわ。
     しかも、これから死の絶望が待ってるっていうんだから……」

江ノ島「本当に最っ高じゃない♪」

300 : ◆takaJZRsBc [saga]:2021/10/10(日) 20:56:39.53 ID:Def5RfHR0


満面の笑顔を浮かべながら江ノ島はオシオキスイッチに手を伸ばし、押した。


――江ノ島は死んだ。





実に69日にも及ぶ長かったコロシアイ学園生活は幕を閉じた。


301 : ◆takaJZRsBc [saga]:2021/10/10(日) 20:59:02.99 ID:Def5RfHR0








Chapter.5  疾走する青春の絶望アナフィラキシー (非)日常編  ― 完 ―







302 : ◆takaJZRsBc [saga]:2021/10/10(日) 21:00:01.05 ID:Def5RfHR0


            【08人】

               ↓ カタッ

            【06人】


            to Epilogue...

303 : ◆takaJZRsBc [saga]:2021/10/10(日) 21:06:41.77 ID:Def5RfHR0

5章終わりです。あとエピローグ書いてしゅうりょー!
とりあえず年内に一周目完!はできそうです。良かった良かった。

コロシアイ学園生活クリアしたのでネタバラシしますと、カウンターの数字は
五体満足の生徒です。体に大きな傷や後遺症を負うと減っていくので、
仮に生存してもカウンター減りすぎると先生としてどうよ……?って感じになります。
Kの心のダメージですね。

ちなみに最終メンバーは苗木、霧切、朝日奈、大和田、葉隠、十神となりました。
ほぼ原作と変わらないですねw
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/10(日) 21:30:29.20 ID:4uG4zkTm0
おお久しぶりに見たら丁度来てたわ更新乙
次回も楽しみだ
305 : ◆takaJZRsBc [sage]:2021/10/10(日) 22:07:27.14 ID:Def5RfHR0
裏話

本当は捜査タイムも裁判も全カットの予定だったのですが、
あまりに味気なくて手抜きっぽかったので結局追加してしまった。
でもそのおかげでKAZUYAの冤罪はきっちり晴らせました。

>>304
お待たせしてすみません。年内にもう一度更新予定です。
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/10(日) 23:09:47.09 ID:wlKWek830
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/12(火) 10:02:03.91 ID:j8DVcHWo0
生きてたか乙
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/12(火) 11:32:02.59 ID:Q52qRVud0
やっとエンディング1つ回収か、長かったなあ…
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/10/22(金) 15:33:00.79 ID:QsMZORBD0
こうなった以上は苗木達は未来機関の宗方達の強硬派に属するのかな?
310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/07(火) 22:08:35.49 ID:FGkOlo8g0
久しぶりに見に来て正解だった
311 : ◆takaJZRsBc [saga]:2022/01/01(土) 17:48:21.36 ID:jlq+kPM40
年内に終わらなかった……(白目)

とりあえず、場つなぎに番外編を投下しておきます。
主人公は意外なあの子
312 : ◆takaJZRsBc [saga]:2022/01/01(土) 17:59:11.83 ID:jlq+kPM40


<番外編>


私の名前は吉田道代! 福形大学医学部の三年生。華の女子大生でーす。

実家が温泉旅館をやっているんだけど、そこによく来る馴染みのお客さんが
私の憧れの人でK先生って言うの。お医者さんなんだよ。それもすごい名医って話。
最初は不審者だと思ったけど、誤解も解けて今ではメロメロなんだ。

色々あったけど、憧れのK先生に近づくため私は医学部に進んだ。
このままじゃ七瀬先生に負けちゃうから、私もK先生にふさわしい
かっこいい人になりたかった。

かっこいいお医者さんになって、かっこいいK先生と並ぶの!
そう思って、苦手な勉強もずっと頑張ってきた。ダサいひなびた田舎でも我慢してきた。
でも、いつからだろ……。世界がなんだかおかしくなってきた。

短期間でどんどん治安が悪くなって、なんだか日本じゃないみたい。
私が住んでた地域はド田舎で人も少なかったからそこまで影響がなかったけど、
テレビや新聞を見ながらだんだん不安になってきた。


313 : ◆takaJZRsBc [saga]:2022/01/01(土) 18:04:37.95 ID:jlq+kPM40


          ◇     ◇     ◇


とうとう都内ではテロが頻発するようになった。
脳天気な私も、流石にまずい状況なんだなとわかってきた。

憧れの希望ヶ峰学園が閉鎖されたという話はショックだった。
渋谷も原宿も青山も……今はもうない。
私が行きたかった東京はなくなっちゃった……

いったい世界はどうなっちゃうんだろう……?
K先生は今もどこかで救護活動をしてるのかな?
毎日そんなことを考えていた。

それでも、私はまだどこか現実感がなかったんだと思う。
だって、私の目に映る範囲はとても平和で、テレビの向こうは
どこか遠い外国とか違う世界にしか見えなかった。

ある時、異世界みたいだったテレビの画面と私の現実が繋がった。
だってそこには、大好きなK先生が映ってたんだもん!

大学の授業の最中だった。絶望とかいうカルト組織がテレビで重要なものを流すって
予告してたから、こっそりチューナー付きのスマホで見てた生徒がいたんだ。

すぐに大騒ぎになって、教授も授業をやめちゃった。そのまま大教室のテレビで
食い入るように放送を見た。意味がわからなかった。

314 : ◆takaJZRsBc [saga]:2022/01/01(土) 18:10:08.78 ID:jlq+kPM40


希望ヶ峰学園は去年閉鎖されているから新入生なんているわけない。
なんで新入生がいるんだろう? そもそも、人類の希望を守るとかなんとかで
学園ごとシェルター化したんじゃなかったっけ?

都会は大変なんだなぁとか、希望ヶ峰の生徒だけ
ずるいんじゃないかなあとか他人事に思った記憶がある。

画面を見ていると何人か見たことがある生徒がいた。


あ、あれアイドルの舞園さやかちゃんじゃん!

なんで周りの同級生と初対面みたいな雰囲気なんだろう。
もしかしてこれって、希望ヶ峰学園が作ったドラマなのかな??
なんで突然こんなものを流すんだろう。

そんな風に混乱していたらどんどん話が進んで、
モノクマとかいう変なダサいマスコットが現れたり
コロシアイをしろとか言い出して……


「なんということだ……どんな手を使ったかわからないが、生徒たちは
 きっと記憶を消されているんだ……絶望の奴らは希望ヶ峰学園の生徒たちに
 身内同士でコロシアイをさせるつもりだ!」


教授の絶妙な解説でニブい私もやっと状況がわかった。
記憶を消して友達同士でコロシアイをさせる……?


315 : ◆takaJZRsBc [saga]:2022/01/01(土) 18:16:21.36 ID:jlq+kPM40


そんなひどい話があっていいの?!
私は緊張しながら、食い入るように画面を見ていた。
その時だ。テレビから懐かしい声がしたの!


えっ?! K先生?! K先生だ!!

あの顔、話し方、服装、間違いない!
なんであそこにいるのかよくわかんないけど、
K先生がいるならきっと大丈夫だ!

私は嬉しくなって思わず立ち上がって叫んじゃった。


「あれ、K先生! あの人、私の知り合いなの!
 先生がいるなら問題ない! 絶対になんとかしてくれる!」


みんなの驚いた視線が気持ちいい。この中で私だけがK先生を知っている。
先生なら絶対になんとかできる。

先生は相変わらずの濃ゆい顔と渋い声でモノクマを一喝した。やったね!
この調子でみんなを助けて……でも、あれあれ? なんだか雲行きが怪しい……

先生、不審者扱いされてる……

そ、そりゃそうだよね。私も初めて見た時、痴漢だと思ったし……
あの服装とかマントとか、チョー怪しいし……
他にも色々怪しすぎるし、まさかお医者さんなんて思わないよね……うん。


316 : ◆takaJZRsBc [saga]:2022/01/01(土) 18:22:48.85 ID:jlq+kPM40


私はテレビに釘付けになった。

昔からテレビっ子だったけど、ここまで夢中になって見たことなんてない。
K先生……本名は西城カズヤっていうんだ。初めて知った。

それから私は朝も昼も夜も、毎日テレビを見続けた。
授業中も後ろの席に座ってケータイでこっそり見ていた。
だってこんな事態なのに、勉強なんてしてる場合じゃないでしょ!
留年するかもしれないけど、K先生の活躍を見るほうが大事!!

流石は私のK先生、最初は距離を置かれていたけど
少しずつ生徒たちと親しくなってきた。いいぞ、この調子!

だけどある日、モノクマがおかしなDVDを生徒たちに見せていた。酷い……
コロシアイなんて起きないよね? 先生が絶対防いでくれるよね?

心配だったけど、私は寝るしかなかった。
いくら心配だからって、テレビにかじりつきすぎだってお母さんに怒られたし。
毎日朝と夜にその日のダイジェスト放送があるから、
それを見れば起こったことは大体わかるようになっている。

次の日の朝、テレビを見て愕然とした。

……え、さやかちゃんが怪我してる? 誰が犯人なの?!

ダイジェストを見て私はショックだった。
そんな、さやかちゃんが殺人を計画していたなんて……ウソでしょ?

でも、私はその後の光景に目を奪われた。
K先生が鮮やかな手付きでさやかちゃんの手術を行っていた。
桑田にお説教をするK先生の姿にも感動した。私も泣いた。


317 : ◆takaJZRsBc [saga]:2022/01/01(土) 18:28:08.33 ID:jlq+kPM40


先生は少しも変わっていない。
相手が悪くても、過度に責めたりしないで黙って怪我を治してくれる。
あの時と同じだ。K先生は最高の人。私のスーパーヒーロー!

私は大学に行って先生の自慢話をした。
質問攻めにあった。本当にいい気持ちだった。私だけがK先生を知っている。

それから色々な事件があってハラハラもさせられたけど、
先生が全部解決してくれた。今度こそダメなんじゃないかって思っても、
必ず最後は先生がなんとかした。

生徒たちが怪我をする姿は痛々しくて見ててつらかったけど、
先生が治してくれるから問題ないと思っていた。

生徒が死んで、蘇生した時は私も本気で泣いた。
いつの間にか、希望ヶ峰の生徒にもすっかり愛着が湧いてしまった。

K先生の味方の生徒をチームKって名付けて、友達と一緒に応援した。
逆に敵対する生徒を野次ったりした。


学級裁判もオシオキも怖かったけど、私たちは楽観的だった。
きっと先生がみんなの記憶を取り戻して黒幕をやっつけるに違いない。
それで、世界の絶望たちも諦めてまた世界が平和になるに違いないんだ。

また東京に行ってウィンドウショッピングができる日が来るんだ。
そう信じてた。K先生を信じていたから。

K先生がいればなんとかなるって思っていたから。


だから――


318 : ◆takaJZRsBc [saga]:2022/01/01(土) 18:31:31.48 ID:jlq+kPM40


「え……?」


ウソだよね? ウソだよね? ウソだよね?

信じられない。信じられない。信じられない。


なんで、K先生がクロなの……?

一階の監視カメラは全部壊されて何も映ってなかったじゃない!
ウソだ。こんなの……K先生が人を殺したりするはずない。

もし、もしどうしようもなく正当防衛で殺しちゃったんなら正直に言うはず。
モノクマにハメられたんだ。絶対そうだ。そうに決まってる。

オシオキなんてウソだよね? ウソって言ってよ。
今までのも全部ヤラセなんでしょ? これ、本当はドラマかなにかなんでしょ?

後からネタバラシするんでしょ……?


「そうだって言ってよ!!」


私はテレビにしがみついて絶叫した。


319 : ◆takaJZRsBc [saga]:2022/01/01(土) 18:35:42.32 ID:jlq+kPM40


「イヤッ! イヤッ! 見たくない!! 先生! 先生ぇーーー!!!」


お父さんが慌ててチャンネルを変えた。
でも、どのチャンネルにしてもオシオキ場面が映ってる。

K先生の血と内蔵が……


「イヤアアアアアアア!!!」



――テレビが消えた。


でも、起こった出来事は消えない。これが現実。

その日から、私はしばらく大学を休んだ。友達は気を遣って何も言ってこなかった。

あのすぐ後、黒幕・江ノ島盾子は倒され生徒たちは脱出したらしい。
希望ヶ峰のOBで構成された未来機関に保護され、大々的にニュースになった。

……私は見ていないけど。

トップがいなくなって、絶望の残党は総崩れなんだって。
生徒の大半が生還したことから、未来機関は一気に勢いづいた。

希望の勢力が増して、各地の絶望を制圧しはじめた。
世界が平和に戻るのもそう遠くはない。


(……でも、もう私の生活は戻らないんだ)


320 : ◆takaJZRsBc [saga]:2022/01/01(土) 18:40:55.67 ID:jlq+kPM40


私の憧れていた未来はもうやってこない。
かっこいいお医者さんになって、オシャレな東京で働いて、K先生と結婚して……

もう、全部叶わない。

……これが絶望っていうのかな?


思えば、私は黒幕の正体がわかるまで江ノ島盾子の大ファンだった。
オシャレでイケてる女の子の代表だったのに、まさかあんな人だったなんて……

憧れの人が憧れだった人に殺された。両方とも、もう戻って来ない。
昔は大人になるのが楽しみだったのに、今は何も希望なんて感じられない。

世間ではK先生が英雄視されて、銅像を作ろうなんて話が出ている。
でも、銅像を作ってもみんなが褒めたたえていても肝心のK先生はいない。

私は泣いた。泣いて暮らした。
一時は、尼さんになってこれから一生K先生を弔おうとすら思いつめた。

……でも、時間がすべてを解決してくれるって言葉はウソじゃないんだね。

ある出会いが私を救った。


321 : ◆takaJZRsBc [saga]:2022/01/01(土) 18:44:35.22 ID:jlq+kPM40

ここまで。本編終了とエピローグの間の時間軸です。
道代ちゃんの話はエピローグに少し絡んできます。

旧年中は多大なご愛顧をどうもありがとうございました。
本年中もゆるゆるとですが進めていきますので、どうか宜しくお願いします!

322 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/03/03(木) 10:43:44.13 ID:H48T95BJ0
久々に見たら更新来てた…超送れましたがことよろです
323 :1@携帯 [sage]:2022/05/09(月) 19:36:28.43 ID:E6DByoTSo
忙しい!!!!!
GWこそ更新しないとと思ったけどマジで深夜も仕事してたりするので勘弁してください……
この仕事が終わったら必ずや
324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/16(月) 08:46:46.52 ID:bdImtjKgO
了解
待ってます
325 : ◆takaJZRsBc [saga]:2022/07/17(日) 02:12:52.06 ID:y7qjeFYO0


  ― エピローグ ―


――半年後。帝都大学、応接室にて。

帝都大学は学問の要として未来機関と相互協力をしていた。
未来機関トップである天願和夫の莫大な人的コネクションにより、
容易に協力体制を築けたという。そのため防衛が厚く破壊を免れていた。


柳川「よく来てくれた。希望ヶ峰の生徒たち」


応接室には柳川、西城頼介、磨毛、大垣、高品、七瀬がいた。
朝倉も希望していたのだが、クエイド財団での復興事業が忙しく
予定が合わなかった。

希望ヶ峰学園側は苗木、霧切、舞園、石丸、桑田が代表でやってきた。
本当は全員で来たかったが、未来機関での仕事が忙しく全員は来れなかった。

まずお互いに自己紹介を行った。


柳川「はじめまして。私が帝都大学の医学部長・柳川慎一郎だ。
    KAZUYA君の父・一堡(かずおき)の友人で、KAZUYA君のことは
    学生の頃からずっと見ていた。師弟の間柄と言っていい」

石丸「存じております。日本医学会の最高峰で恩師だったと」

西城「私は西城頼介(らいすけ)。西城家十二代目当主で、
    今は西城病院で院長をしている。KAZUYAの母・杏子の兄で、
    KAZUYAとは伯父と甥の関係になる」

苗木「KAZUYA先生の伯父さん……」
326 : ◆takaJZRsBc [saga]:2022/07/17(日) 02:14:39.42 ID:y7qjeFYO0

大垣「……年齢でいうと次は俺だな。大垣蓮次だ。大垣診療所っていう
    しがない診療所をやってる。KAZUYAとは大学の先輩後輩だった」

桑田「……知ってるっす。『軍曹』って渾名の先輩っすよね?」

大垣「そうだ。よく知ってるな」

桑田「…………」

磨毛「あー、次は僕かな。磨毛保則(まもうやすのり)。帝都大学で講師をしてる。
    KAZUYA君とは同期だった。知らないかもしれないけど」

舞園「磨毛先生ですね。ちゃんと聞いてますよ。帝都に同期の先生がいるって」

磨毛「まあ、僕くらいの年齢の講師はだいたい彼と面識があるけどね。
    彼は大学でも有名人だったから」

高品「僕は高品龍一。腹腔外科が専門で高品診療所を開いてる。
    帝都出身じゃないし他の大物の先生とは比べ物にならないけど、
    Kとは付き合いが長くて仲良くしていたよ」

霧切「あなたがドクターの癌を手術されたあの高品先生……」

苗木「親友だって聞いてます」

高品「そう……そういう風に言ってくれてたのか」

七瀬「……私は七瀬恵美。斎楓会総合病院で外科部長をしています。
    高品君と同じで、Kとはそれなりに長く付き合っていて、
    彼とは、その……えっと……」

「……………………」
327 : ◆takaJZRsBc [saga]:2022/07/17(日) 02:16:12.25 ID:y7qjeFYO0

生徒たちは全員黙って七瀬のことを見た。
詳しくは聞いていないが、わからないほど鈍くはない。


石丸「……ご挨拶に来るのが遅くなって、大変申し訳ありませんでした」

西城「いや、ご苦労。今まで大変だったろう?」


石丸が代表で挨拶をして、苗木たちもお辞儀をした。


大垣「まあ、そう堅くなるなよ。君たちの活躍は新聞やテレビでよく知ってる」

高品「そうだよ。本来ならまだ学生だっていうのに十分頑張ってる。
    未来機関で支部長を任されて全国に散ってるんだって? すごいな」

舞園「いえ……」

桑田「……まあ、そこそこ」

七瀬「…………」

霧切「…………」


大人たちはムリヤリ笑顔を作っているが、全員沈鬱な気持ちだった。
七瀬だけは青ざめて俯いたまま、黙り込んでいる。


苗木「先生方のことは、KAZUYA先生から生前によく伺っていました。
    脱出したら頼りにするようにと推薦状ももらいましたし」

328 : ◆takaJZRsBc [saga]:2022/07/17(日) 02:17:58.28 ID:y7qjeFYO0

磨毛「勿論、みんな手助けするに決まってるとも。医学の道は諦めてないんだろう?」

石丸「はい。大学には通えていませんが、みんな独学で勉強しております」

柳川「君たちはあのコロシアイを生き抜いた世界の希望であり、
    KAZUYA君の遺した大事な弟子だ。帝都大学をあげて支援させてもらう」

西城「我が帝邦大学や西城病院も協力を惜しまない。困った時はいつでも来なさい」

苗木「ありがとうございます」

霧切「桑田君、そろそろ……」


霧切がアイコンタクトを送り、桑田が頷いた。


桑田「これ……せんせーです……」

七瀬「……!」


バッグから、白いツボを出して机の上に置いた。


苗木「本来なら、親戚の西城家にすぐ持っていくべきだったんですけど、
    未来機関での取り調べや仕事が想像以上に長引いてしまって……」

舞園「安全の確認もできず、なかなか外に出してもらえなくて
    コンタクトが取れなかったんです……ごめんなさい」

西城「いや、気にすることはない。こんな時勢じゃ葬式もあげられんだろうしな……」

大垣「最後の裁判が終わった後、カメラからの中継が途切れちまってな。
    あの後、学園ではいったい何が起こっていたんだ?」

329 : ◆takaJZRsBc [saga]:2022/07/17(日) 02:21:10.65 ID:y7qjeFYO0

高品「すぐに外に出たわけじゃないんだろう?」

桑田「あの後……最後の学級裁判の後……
    俺たちは、せんせーとの最後のお別れをしたんです」

高品「! ま、まさか、君たちは自分の手で……!」

石丸「――僕たち自身で“お葬式”をしました」


大人たちは口に手を当て、絶句した。


霧切「私たちは学園を出る前にまず相談をしました。
    それはドクターの遺体をどうするかです」

霧切「外がどうなっているかはわからない。
    いえ、世界が滅亡しているなら最悪の想定をするべき」

苗木「外に江ノ島盾子の仲間が残っているのは明らかでした。
    そんな状況下で先生の遺体を放置したらどうなるか……」

舞園「きっと絶望の残党は先生のことを憎んで恨んでる。
    酷いことをされるのは明らかでした。だから、だから……」

桑田「……俺たちの手で……」

330 : ◆takaJZRsBc [saga]:2022/07/17(日) 02:23:13.74 ID:y7qjeFYO0

全員の目に涙が浮かんだ。唯一毅然としていた霧切が残りを簡潔に説明した。
学園には焼却炉があった。綺麗に掃除をして、その中にKAZUYAの遺体を入れた。
体が大きすぎたので、なんとか詰め込んで荼毘に付した。

その後、遺骨を全員で拾って袋に詰めて一緒に脱出をした。
予想通り、脱出後に絶望の残党が希望ヶ峰学園を荒らしたが
大切なものは全て持ち出していたので無事だった。

……これが全容だ。


大垣「君たち……本当に頑張った。よく頑張ったな……」

七瀬「ツラかったわね……」

高品「Kも……天国で君たちを誇りに思っているに違いないよ……」

「……………………」

西城「……開けても、いいか?」

桑田「どうぞ……」


西城が蓋を開けて中を確認した。その瞬間、七瀬が崩れ落ちた。

331 : ◆takaJZRsBc [saga]:2022/07/17(日) 02:32:30.47 ID:y7qjeFYO0

高品「七瀬さん!」

大垣「七瀬くん!」

柳川「七瀬君、大丈夫か? 気をしっかり持つんだ」

七瀬「ごめんなさい。子供たちの前で……覚悟はしていたのに……うう」

西城「……まあ、状況が状況だ。こんな終わり方ではな……」

舞園「七瀬先生、大丈夫ですか?」


舞園が涙を流す七瀬の背をさすった。


磨毛「少し、外で休んだほうがいいんじゃないかね?」

舞園「私、一緒に行きます」

霧切「後は任せるわね」

磨毛「あっちに休憩所がある。僕が案内しよう」


女性陣と磨毛が付き添い、七瀬を外に連れて行った。


苗木「あの、七瀬先生ってもしかしてKAZUYA先生と……」

332 : ◆takaJZRsBc [saga]:2022/07/17(日) 02:34:56.96 ID:y7qjeFYO0

大垣「……まあ、なんだ。付き合ってたわけじゃないんだが、
    その、俺たちから見ても結構いい線まで行ってた感じだな」

高品「ええ、まあ……」

桑田「大人の関係ってやつか……。道理で、頻繁に名前が出る割りに
    具体的なことは全然言わないわけだよ」

石丸「七瀬先生、お気の毒に……」

苗木「……あの、先生から全員に宛てた遺書があるんです」

柳川「遺書? 我々にか?」

苗木「先生、かなり早い段階から死を覚悟されていたみたいで、
    ずっと前から用意していたみたいなんです」


苗木がKAZUYAの遺書を渡した。高品は受け取った手紙を見つめた。


高品「K……」

大垣「……俺は帰ってから読むことにする。この場で泣くわけにはいかないからな」

高品「僕もそうします。読まなくても、大体内容の想像はつくし……」

柳川「では、私は読もう」


柳川と西城は手紙を開封して中を読んだ。

333 : ◆takaJZRsBc [saga]:2022/07/17(日) 02:37:34.83 ID:y7qjeFYO0

石丸「何と書いてありますか?」

柳川「うむ……今までの感謝と君たちのことを託すと。西城君は?」

西城「私はそれに加えて、財産の処分や今後について書かれている。
    KAZUYAの家には祖先から受け継いだ膨大なカルテがあるからな。
    まだ治療中の患者も多い。それらを頼むと」

苗木「僕たち、医者になります。それで、先生が遺した患者さんを
    全員治療してみせます!」

柳川「心強いな。その気持ちは本当にありがたい。
    だが、今は未来機関としての仕事に注力しなさい」

大垣「君たちは復興のシンボルとして人々に求められているんだ。
    顔を出すだけで勇気づけられる人も多い」

高品「残された患者は僕たちが手分けして治療するから、
    君たちは今できることをやるんだ」

桑田「俺たちにしかできねーこと……」

石丸「そうですね。何年かかっても絶対にやり遂げる……!」

苗木「今日はお会いできて本当に良かったです。
    みんなで先生の意志を継ぎます!」

334 : ◆takaJZRsBc [saga]:2022/07/17(日) 02:39:10.59 ID:y7qjeFYO0


               ◇     ◇     ◇


磨毛「落ち着いたかね?」

七瀬「ごめんなさい……本当に、ごめんなさい……」


磨毛は七瀬をベンチに座らせ、温かい紅茶を渡した。


磨毛「いや、わかるよ。記憶がフラッシュバックしたんだろう?
    君は軽度のPTSDを引き起こしている。きちんと治療しないと、
    外科医として致命的なことになるぞ」

七瀬「私よりも、この子たちのほうがよほどショックだったでしょう?
    あんな環境に二ヶ月以上閉じ込められて、直接あの光景を見て……」

舞園「…………」

霧切「私は大丈夫です。霧切一族は代々探偵の家系なので訓練を受けています。
    他の生徒たちもカウンセリングを受けていますので」

磨毛「そうか。未来機関には超高校級のセラピストもいるっていうしね。
    でも、事情を知っている人間のほうがより深く悩みを話せることもある。
    何かあれば、いつでも僕たちに相談に来るといい」

舞園「ありがとうございます。磨毛先生て優しいんですね。
    その、ちょっと失礼かもしれないんですけど西城先生が
    前に変わった人だって言っていて……」

磨毛「なに、変人だって? ハハハ! そりゃ間違ってない。何せ帝都に
    磨毛ありとはこの僕のことだからね。失礼でもなんでもないよ」

335 : ◆takaJZRsBc [saga]:2022/07/17(日) 02:40:38.92 ID:y7qjeFYO0


磨毛が大声で笑って、少しだけ場が明るくなった。


舞園「まだ、みんな心の準備ができていないですけど……
    もう少し余裕ができたら、西城先生のことを話しに来てくれませんか?
    きっと聞きたいと思うんです。先生がどんなことをしていたのかって」

磨毛「お安い御用さ。酒でも飲みながら昔話をするよ」

七瀬「ねえ……一つ聞いてもいいかしら?」

霧切「何でしょうか?」

七瀬「Kは……私について何か言ってた?」


霧切と舞園が目を合わせた。


七瀬「何も……言ってなかったのかしら? そうよね。
    私と彼はただの友人だもの。それ以上のことは……」

舞園「そんなことないです!」

七瀬「!」

舞園「確かに、女性だから他の先生たちよりはあまりお話されなかったです。
    でも、何回か言っていました。とても大事な友人だって」

336 : ◆takaJZRsBc [saga]:2022/07/17(日) 02:42:17.01 ID:y7qjeFYO0

舞園「他の人についても大事な友人とは言っていたんですけど、
    でも、七瀬先生の時だけはちょっと言い方とか表情が違いました。
    ね! 霧切さんもそう思いますよね!」

霧切「……ええ。“大事な”、にかなりアクセントがあった気がするわ」

七瀬「そう……」

磨毛「…………」


この中で同期の磨毛だけが知っている。
KAZUYAには学生時代、カスミという名の恋人がいたということを。
そして、恋人が病に倒れ死別したことを。
まだ未熟だった当時のKAZUYAは、カスミを救うことができなかった。

大切な人たちとの度重なる死別がKAZUYAを臆病にしたのだろう。
更に、必ず子供を残さなければいけない一族の掟に、現代人のKAZUYAは反発していた。
子供の頃から全てを犠牲にスパルタ教育を受けていたから、父親への反発心は相当だった。

それらの事情が相まって、七瀬と一線を引いていたことは想像に難くない。


磨毛(KAZUYA君……君って奴ァ、本当に罪作りな男だよ)

霧切「七瀬先生に渡すものがあります」


霧切は鞄から飾り気のない一枚の封筒を出した。

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