マリ「超特急デネブ?」結月「そうです」

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202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/02/14(木) 23:58:13.34 ID:d0w3nVrno

―― 京都駅周辺・レンタカーショップ


報瀬「この手があった……!」

日向「車かー!」

みこと「大きい……」

マリ「さっそく一番〜」

ヒョイ

結月「あ、ずるいですよキマリさん!」

栞奈「二番〜♪」



―― 車内


秋槻「えっと……ギアはこれで……」

一輝「どうして戻ってきたんですか?」

秋槻「忘れ物を取りに……。えっと、サイドブレーキがこれかぁ……慣れない配置だ……」

一輝「……」

秋槻「よし……。じゃ、ナビよろしくね」

一輝「いいですけど、カーナビがあるじゃないですか?」

秋槻「まぁ……うん。そうなんだけどさ……」

一輝「……もしかして、信用してない、とか」

秋槻「まぁね……。ある程度は信じてるんだけど、細かい場所は不安でね……」

一輝「いいですよ。俺も父さんの助手席でナビしてますから」

秋槻「助かるよ。……というか、心強い」

一輝「……」


栞奈「いやぁ、いいねぇ! 安全に移動出来て時間を無駄にしない方法!」

マリ「最高の一手だね!」

日向「大人がいるっていいな〜! 車だぞ車!!」

報瀬「うるさい、しずかにして」

結月「みこと、車酔いは大丈夫?」

みこと「うん、薬飲んだから」


一輝「後ろ煩いですけど、大丈夫ですか?」

秋槻「うん……うん……」カチッ

ドルルルン


栞奈「あ、エンジン入った! もぉ、ワクワクしちゃって楽しい〜!」

マリ「うんうん! なんかテンションあがる〜!!」

日向「さぁ、秋槻さん! レッツラゴーー!」

報瀬「三バカ……」

結月「レッツラゴー!」

みこと「結月さんまで……」
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/02/14(木) 23:59:51.06 ID:d0w3nVrno

一輝「お前らな……」


栞奈「どうした、一輝? テンション低いぞ〜! こんな経験滅多にないんだぞ〜!?」

日向「そうだぞ〜! 楽しまなきゃソンソン!」

マリ「踊らにゃ損々♪」

栞奈日向「「 私らは阿呆か!! 」」

報瀬「その通りでしょ」

日向「こりゃ一本取られたな!」


栞奈日向マリ「「「 あははは!! 」」」


結月「酷いテンションですね」

みこと「……」


秋槻「……」ゴクリ


報瀬「あれ……?」

結月「……秋槻さんの雰囲気がおかしい」

みこと「うん……」


一輝「秋槻さん、凄い緊張してるんだよ」


栞奈日向マリ「「「 ……え? 」」」


秋槻「じゃあ、出発……!」


ドルルルン

 プスン


マリ「え?」

日向「止まったぞ……?」

栞奈「……これは?」


一輝「エンストした」

秋槻「ご、ごめん……」


報瀬「……」

結月「……」

みこと「……」
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/02/15(金) 00:01:04.61 ID:Lq37L7IXo

ドルルルン

秋槻「……出発!」


ブォーン


秋槻「よし……」

一輝「……」

秋槻「あれ、出口は……?」

一輝「あっちです」


日向「……大丈夫か、これ」

栞奈「……アタリマエデショ」

マリ「ウン」

報瀬「……」

結月「……」

みこと「……」


シーーン


……


205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/04/08(月) 09:09:44.20 ID:MQ6xVShUo

―― 比叡山ドライブウェイ


ブォォォ


マリ「なんか、運転慣れたっぽい?」

日向「ふぅ……一時はどうなることかと」

結月「えっと、綾乃さん……でしたね」

綾乃「うん、そうだよ」

報瀬「おかげで助かった……ありがとう」

綾乃「ううん……私は別に……なにもしてないよね?」

栞奈「助言のおかげで、秋槻さんも落ち着けたからね」

みこと「同乗者が緊張したら運転手も緊張するって……」

綾乃「私もよく分からないけど、そう言うもんだってオト―が言ってたから」

日向「オト―? お父さんのこと?」

綾乃「うん。でも、こっちこそありがとね、誘ってくれて」

マリ「駅前で見つけてラッキーだったね」


一輝「運転歴、無いわけじゃないですよね?」

秋槻「免許取りたてのころは遠出したもんだけどね、
    仕事が忙しくなったらそれもできなくなって」

一輝「通りで。ペーパードライバーってわけでもなさそうですから」

秋槻「こんなに乗せての運転は初めてだけど」

一輝「そうですか……。あ……」

秋槻「ここから京都が一望できるんだね」


栞奈「みんな、見て!」

マリ「おぉー! 京都だ!」

結月「いい景色ですね……」

綾乃「わ……こんなの初めて見た」

報瀬「そうなの?」

綾乃「うちの地元じゃ、山から見下ろしたらすぐ海だから……こんな開けたとこ無いよ」

マリ「……」

みこと「キマリさん……?」

マリ「みんな、それぞれの世界があるんだね」

みこと「…………」

日向「電車移動だったら見られなかったな」


……


206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/04/08(月) 09:11:27.25 ID:MQ6xVShUo

―― 延暦寺


ミーンミンミン

 ミーンミンミン


栞奈「せみ時雨 あっという間に 雷へ」

日向「……解説のキマリさん、今の句はどう解釈すればいいのでしょう」

マリ「セミの鳴き声が雨のように降り注いでいたら、あっという間に雷が鳴ったと。
   夏の天候の変わりやすさを表現しているわけですね」

日向「はぁ、なるほどぉ……。
   浅いようでいて、実はそうでもないわけでもなかったわけですね」

結月「つまり、浅いままだと」

栞奈「空の青 吸い込まれそうな エメラルド」

日向「解説を」

マリ「これは彼女独特の世界がありまして……私ごときでは、解読できそうにありません」

結月「つまり、わけが分からないと」

日向「報瀬と綾乃はどこ行った?」

結月「東塔を見てくるって言ってました。国宝ですからね」

日向「国宝か……それは見ておかないとな!」

マリ「行こう! みこっちゃん達はどうするー?」


みこと「……」フリフリ

秋槻「それじゃ、俺もここで待ってるか」

一輝「……俺も」


マリ「分かったー。あとでねー」

栞奈「国宝を いただきます 怪盗より」

日向「もう俳句でも何でもないよな」

結月「大村さん、邪魔ですね……」

マリ「え?」

結月「いえいえ、なんでも」

栞奈「腹減った あとで食べよう 名物を」

日向「誰かこいつを止めてくれー」


ミーンミンミン

 ミーンミンミン

207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/04/08(月) 09:13:39.25 ID:MQ6xVShUo

一輝「行ってしまったけど、良かったのか?」

みこと「……うん」

秋槻「なにか買ってこようか、冷たいモノでも」

みこと「あるから、大丈夫」

秋槻「あ……そう。……気を遣ったつもりなんだけど」

みこと「?」

秋槻「いや、なんでもない。……ここ、座って」

みこと「……うん」

一輝「日陰とはいえ、暑いですね……」

みこと「結月さんと綾乃さん、表情が全然違ったよ」

秋槻「……そう?」

みこと「綾乃さん、涼しい顔してた」

一輝「……確かに」

秋槻「北海道出身と沖縄出身だから、慣れの違いがあるんだろうね」

みこと「……うん」

一輝「北海道まで行くのか宮城……凄いな……」

秋槻「食堂車でバイトして、そのまま北海道へ行って……そして沖縄へ帰る。
   俺があの子と同じころ、そんなこと少しも考えなかったけどなぁ……」

みこと「その頃ってなにしてたんですか?」

秋槻「友達と遊んでばっかりだったよ。部活も遊び感覚で、気合入ってなかったし……」

一輝「……」

秋槻「なんとなく過ごしてたな……。だから、彼女たちの動画見てさ、なんていうんだろ……」

みこと「感動した?」

秋槻「感動か……それもちょっと違うかな?」

一輝「衝撃を受けた?」

秋槻「それも違う。……というか、それって君たちの感想だったり?」

みこと「……」

一輝「……」

秋槻「図星?」

みこと「……」コクリ

一輝「ノーコメントで」

秋槻「あはは。……まぁ、嫉妬したわけだよ」

みこと「え……?」

一輝「嫉妬……?」

秋槻「動画の最初と最後で、彼女たちの表情が違うんだ」

みこと「――……」
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/04/08(月) 09:15:13.02 ID:MQ6xVShUo

秋槻「だから、この経験はきっと宝物になるんだろうって思って観てた」

一輝「……」

秋槻「今の彼女たちを見ていてもそれはやっぱりそうなんだろうって、確信めいたものがあるよ」

みこと「……日向さんも」

秋槻「え?」

みこと「ううん、なんでもない。……口止めされてるから」

秋槻「はは、そっか」

みこと「……」ジー

一輝「秋槻さんは同じ年の頃を考えると、後悔するんですか?」

秋槻「いや……。それなりに楽しい高校生活だったよ。
   今もその時代の友達と会ったりしてバカだったなぁって笑ってるからね」

一輝「じゃあ、なんで嫉妬?」

秋槻「さっきも言ったけど、その宝物は一生ものなんだよな……。
   俺も持ってるとは思うけど……彼女たちと比べたら霞んでしまう」

みこと「もしかしたら、憧れてる……?」

秋槻「そうだね、俺も彼女たちのようにナニカをしたかったんだと思う」

一輝「……」

秋槻「比べるのは、そういう気持ちがあるからだと思う」

みこと「……」

秋槻「というか、なんで俺の話ばっかり?」

一輝「コイツが聞き出したんですよ」

みこと「コイツって言わないで。みことって呼んで」

一輝「それ、本名じゃないだろ」

みこと「……」

秋槻「そういえば、どうしてみこと?」

みこと「キマリさんが最初に呼んでくれたから」

一輝「こだわりでもあるのか?」

みこと「……違う……自分だから」

秋槻「そっか……」

一輝「聞こえなかったんだけど……?」

秋槻「まぁ、それなりの理由があるんだよ」

みこと「……」

一輝「……」

秋槻「……うーん」


ピピピ

みこと「あ……」


秋槻「俺ら、離れてようか」

一輝「はい……」


みこと「ううん、私が……」

テッテッテ
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/04/08(月) 09:16:34.61 ID:MQ6xVShUo

プツッ


みこと「はい」


『もしもし?』


みこと「私だよ、お母さん」


『こと? 声がいつもと違うような気がするけど』


みこと「ちょっと……あの……」


『ひょっとして、体調崩してるの?』


みこと「……うん、でも大丈夫。みんな、良くしてくれるから」


『……そう』


みこと「今ね、比叡山に居るんだよ。延暦寺で休んでる」


『……その、キマリさんと?』


みこと「うん、他にも知り合った人たちとも一緒に」


『……』


みこと「お母さん?」


『そこね、私とお父さんの思い出の場所なのよ』


みこと「…………」


『なんだか懐かしくなってきちゃったわ』


みこと「お母さんにとっても、それは宝物?」


『えぇ、もちろん』


みこと「……」


『どうしたの? 宝物、だなんて』


みこと「みんな、特別な経験したらそれが宝物になるって聞いたから」


『……』


みこと「私も――……。お母さん?」


『いい旅をしてるのね』
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/04/08(月) 09:18:27.75 ID:MQ6xVShUo

みこと「……そうかな?」


『だって、列車に乗る前のあなたはそんなこと言わなかったわ』


みこと「……」


『最後まで、後悔の無いように、ね』


みこと「お母さんも後悔しそうになったの?」


『どうして?』


みこと「……なんとなく」


『ふふ、そうね……。もう少しで、とてつもないくらいの大きな後悔をするところだったわ』


みこと「…………」


『キマリさんに代わってくれる? 挨拶しておきたいから』


みこと「……今、近くに居ないよ」


『え? じゃあ……今一人なの?』


みこと「ううん、三人で休んでるから」


『……』


みこと「あとでかけ直すね」


『その近くに居る人に代わってくれる?』


みこと「どうして?」


『母親の勘よ』


みこと「???」


秋槻「みんな戻ってこないね」

一輝「なんだかんだで楽しんでるんでしょう」


みこと「秋槻さん」スッ

秋槻「ん? 電話?」

みこと「お母さんが代わってくれって」

秋槻「え゛ッ!?」

一輝「うわ……」

秋槻「いやっ、大村君が出てっ」

一輝「なんで!? 秋槻さん指名ですよっ」
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/04/08(月) 09:19:58.75 ID:MQ6xVShUo

秋槻「いやいや、無理があるってっ」

一輝「こっちも無理ですってっ」


みこと「……出たくないって」


『ふふ、是非とも代わってくれないかしら?』


みこと「是非とも代わって欲しいって」


秋槻「う――!?」

一輝「マジか――!?」


みこと「……」


秋槻「分かった……」ゴクリ

一輝「おまえ、鬼だな」

みこと「……」


秋槻「も、もしもし、秋槻といいます……」


一輝「可哀想に……」

みこと「……」


秋槻「いえっ、とんでもないっ……私の方こそ色々とっ」ペコペコ


一輝「上司に怒られてるみたいだ……」

みこと「なんの話してるんだろう……」


秋槻「え……はい。……それは大丈夫かと。旅仲間に恵まれてますよ」


一輝「……」

みこと「……?」


日向「会社からの電話か?」

報瀬「青い顔してる。青ざめた顔してる」

結月「気の毒なくらい分かりやすいですね」

マリ「みこっちゃん達も行こうよ、歴史の重みを感じるから」

栞奈「それっ、私の言葉でしょ! 安易に使われると言葉の重みが……!」


秋槻「あ、戻ってきたので代わります」


マリ「?」

みこと「あの、電話に出て欲しいってお母さんから」

結月「えっ!? お母さんだったの!?」

報瀬「秋槻さんが出ると色々と不味いのでは……?」

日向「面白いな」

一輝「一人足りないんじゃないか?」

栞奈「綾乃ちゃんはもう少し見て回るって。寺が珍しいみたいで」
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/04/08(月) 09:21:57.29 ID:MQ6xVShUo

秋槻「はい、はい……。それでは……」


マリ「凄い緊張してるね」


秋槻「ふぅ……はい」スッ

マリ「え?」


みこと「お母さんが挨拶したいって……」

マリ「え……私と!?」

秋槻「はい、どうぞ」

マリ「…………ごくり」


日向「何の話してたの?」

秋槻「旅の間、娘をよろしくって……。ふぅ、変な汗かいた」


マリ「はい……はいっ、いえっ、こちらこそお世話になってっ」ペコペコ


一輝「秋槻さんと同じ姿勢だ……」

秋槻「なぜかああなってしまう……。人の親と会話なんて無いからなぁ……」


マリ「みこっちゃ――」


日向「おいっ」


マリ「……こ……琴ちゃんはいつも冷静に私たちを見てくれててっ」


『みこと、って呼んでるのね?』


マリ「は、はい……」


『鶴見 琴で、みこと……なるほどね』


マリ「わ、私も玉木マリで、キマリって呼ばれてます」


『ふふ、そう』


マリ「あの、ごめんなさい……」


『あなたはその愛称で呼ばれるの嫌?』


マリ「い、いいえ」


『それならいいのよ、あの子も嫌がってないのでしょう?』


マリ「……それは…」


みこと「……」
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/04/08(月) 09:23:11.54 ID:MQ6xVShUo

マリ「……」


『それより、あの子のことをよろしくお願いします』


マリ「は、はい、それはもちろん。一緒に楽しくやっていきます」


『ありがとう』


マリ「い、いえ……礼を言われるほどじゃ……」


『どうも親離れできない所があって、
 デネブにも本人は乗り気じゃないのに乗せてしまって』


マリ「……」


『でも、楽しそうなら良かった』


マリ「私たちも、みこ……琴ちゃんと一緒で楽しいです」


『うん……ありがとう』


マリ「楽しい旅を続けられています」


『あなた達はあなた達の旅を、あの子にはあの子の旅を、ね』


マリ「――はい」


『それじゃ、長話もなんだから、これで』


マリ「あ、ちょっと待ってください……今本人に……」


『いいのよ、帰ってきてから話はいくらでもできるから』


マリ「……はい。それでは、失礼します」


『いい旅を』


プツッ
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/04/08(月) 09:25:04.53 ID:MQ6xVShUo

マリ「……」


みこと「お母さん、なんて言ってたの?」

マリ「みこっちゃんをよろしくって」

みこと「……」

マリ「落ち着いてて綺麗な声だったな……」


秋槻「うーん……どこかで聞いたことあるような……」

みこと「え?」

秋槻「なんだろう、このモヤモヤ」

結月「会ったことあるとか?」

秋槻「そうなのかな……? だとしても全然思い出せない……」

栞奈「すれ違いざまに体中にショックが走ったとか」

秋槻「そういうのじゃないなぁ」

日向「じゃあ、仕事関係で会った?」

秋槻「あ……!」

みこと「?」

秋槻「あー、あぁー! やっとモヤモヤが晴れた!」

マリ「んー?」

秋槻「君に会ってから、不思議な感覚があったんだよ。どこかで会ったかのような」

みこと「よく言ってたよ」

秋槻「会ったんじゃなくて、似ているからそんな気になったんだ……!」

報瀬「どういうことですか?」

秋槻「うん、君のお母さん、鶴見さとみさん、だろ?」

みこと「う、うん……」

マリ「みこっちゃんのお母さんに会ったことあるってこと?」

秋槻「うん、一度だけ。仕事でね」

日向「秋槻さんの仕事って演出家だったよな……」

秋槻「演出家志望のライター……ね」

結月「お母さん、何をしてる人?」

みこと「小説書いてる」

結月「さとみ……? あ、千歳さとみさん!」

秋槻「そう、その人。ベストセラー作家の」

結月「あー……分かります分かります。みことが……その人の娘さんなんだ……」

報瀬「結月は会ったことがあるの?」

結月「あ、いえ……会ったというほどでは……。
   飯山みらいさんと共演したドラマの原作者なので」

マリ「へぇ〜」

日向「世間は狭いようで広いな〜」

報瀬「逆だから、この場合」

栞奈「あ、それいいね。今度使おう」メモメモ

一輝「話聞けよ」
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/04/08(月) 09:27:11.69 ID:MQ6xVShUo

結月「そういえば、みらいさんと仲が良さそうでしたね……」

みこと「そうなの?」

結月「うん、ただの知り合いってだけの関係じゃないみたいだったよ」

みこと「……そうなんだ」

秋槻「最初のファンってそういうことか……」

栞奈「んっふっふ。つまり、こうだ……。
   みことちゃんのお母さんと、秋槻さんは一度面識があり、その娘さんとこの旅で出会った、
   そういうわけですね!」

秋槻「うん、そういうこと」

栞奈「フッ、私の推理に間違いはないのだよ」

一輝「おまえ、話をまとめただけだよな?」

みこと「結月さん、どうしてこの仕事を受けたの?」

結月「え?」

みこと「日向さんと報瀬さんが、こういう仕事を受けるのは珍しいって言ってて」

結月「そういうこと言ってたんですか?」

日向「うん、気になっててな」

報瀬「キマリから旅の話を聞いたからって聞いた」

マリ「うん、聞いたって言った」

結月「そうですよ。でも、それだけじゃなくて」

秋槻「……」

栞奈「……」

一輝「……」

みこと「……」

結月「え、そんな聞き入ることでは……」

日向「話の流れで注目するよな」

マリ「どうして?」

結月「……みらいさん、私がデネブに乗るかもって話を聞いたらしくて、
   ヴェガの話とか、楽しそうに話してくれたんですよ」

栞奈「ベガ?」

一輝「20年前を走った列車のことだ。デネブと同じようにな」

栞奈「ふぅん……ん?」

結月「話終わってから、寂しそうな顔したんですよね」

日向「寂しそう?」

報瀬「何かあったのかな?」

結月「ほんの少しの間でしたけど……」

マリ「聞いたの?」

結月「そんな、なにかあったのか、なんて聞けるわけないじゃないですか」

秋槻「それは本人だけの秘密だろうね」

みこと「秘密?」

秋槻「まぁ、大人の勘ってやつ」

結月「それで、私はその寂しそうな顔をした理由が知りたいと思ったんですよ」

日向「……なるほどなー」
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/04/08(月) 09:29:34.45 ID:MQ6xVShUo

栞奈「飯山みらい……。確か、母さんが友達だとか言ってたな……」

報瀬「本当に?」

栞奈「でも、ホラ吹きだから、うちの母さん……信用できないね」

一輝「母親譲りか」

栞奈「ちょっと! 母さんはともかく、私のことを侮辱するのは許さないよ!?」

一輝「普通逆だろ! さっそく使ったな!?」

日向「うるさいな、この二人……」

みこと「うん」

栞奈「私に付いてこれるのは一輝だけだよ」ギュッ

一輝「……この握手はなんだよ?」

秋槻「さて、話は落ち着いたところで、これからどうしようか」

日向「秋槻さん、車はいつまでレンタルしてるんですか?」

秋槻「今日の夜までだけど、なんなら明日の出発まででもいいよ」

結月「それまで付き合ってくれるってことですか?」

秋槻「うん。要望があればね」

報瀬「せっかくですけど、お気持ちだけいただきます」

栞奈「どうして? 厚意で言ってくれてるのに」

マリ「私たちは私たちの、年相応の旅をした方がいいと思って」

秋槻「うん、分かった」

みこと「……」

日向「だけど、今日はご厚意に甘えたいと思います。よろしくお願いしまっす!」

秋槻「うん、任せて」

結月「あ、でも……。いろいろとお金を出してもらってますけど……」

秋槻「前も言ったんだけど、社会人だからそれは気にしないで。
   こっちも目的の為に乗車してて、助かってることもあるから」

一輝「目的……?」

マリ「人間観察ですよね」

秋槻「そうなんだけど……そう言われるとなにか違う気もする……」

栞奈「青春を取り戻そうとしてるんですよね」

秋槻「それは違う。全然違う」

日向「たくさんの人生を見て学び、よりよい作品を生み出すことが目標なんだそうだ」

秋槻「まぁ、そういうこと」

栞奈「惜しいな」

一輝「掠ってもいないって。完全否定されてただろ」

秋槻「お婆さんの話が聞けたように、君たちのおかげで乗客の人たちと話しやすくなってるから。
    なんというか……そのお礼……ってことで」

みこと「……」

マリ「私たちのおかげ?」

日向「なにも特別なことしてないけどな」
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/04/08(月) 09:31:40.23 ID:MQ6xVShUo

報瀬「でも、分かる気がします。良くも悪くも目立ってますからね……キマリとか」

マリ「私? なんで?」

結月「発車ギリギリで乗車したりとか」

マリ「ふぅん……そうなんだ」

日向「それ、悪い方で目立ってるから、気を付けろよ?」

マリ「それ言ったら、日向ちゃんだって毎回ギリギリだよね」

日向「原因は誰だよ!」

栞奈「はいはい、お喋りはここまで」パンパン

報瀬「引率の先生みたい」

一輝「そうだな、次の観光地決めないと」

栞奈「それより、さっきの話で気になったことがあるんだよね」

みこと「?」

日向「話進めるんじゃないのか……」

栞奈「バニラ味は王道だけど、チョコミント味も定番だよね。変化球としてカニアイスも」

日向「この時間だとあと一箇所かなぁ」

結月「金閣寺なんてどうでしょう」

報瀬「私は銀閣寺に行ってみたい」

マリ「映画村は?」

日向「みことはどこ行きたい?」

みこと「お任せする」

栞奈「……」

一輝「誰もその話してなかっただろ?」

栞奈「私、飽きられてる?」

一輝「時と場合を考えてみれば? それで無視されたらそういうことだろ」

栞奈「一輝、言いたいことズバッと言うよね」

一輝「遠慮しててもしょうがないからな……嫌だったか?」

栞奈「私はいいと思うけどね。でも、よく誤解されるんじゃない?」
   
一輝「それで人が離れてくのはしょうがないだろ……」

栞奈「悲しい青春時代を送ってるんだね〜」

一輝「うるせえよ」

秋槻「……ふむ」

マリ「綾ちゃん戻ってきた」

綾乃「ごめん、ゆっくりしすぎた〜」

報瀬「じっくり見て回ってたね」

綾乃「こんな大きなお寺は珍しいよ。文化の違いってやつで面白かったさ」

日向「ふぅん……」

綾乃「みんなこれから観光だよね」

結月「そうですよ」

マリ「みんなの行きたいところ聞いてるんだけど、綾ちゃんは?」

綾乃「私は戻るよ。夜から明日の仕込み手伝いがあって」

マリ「えーっ!?」
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/04/08(月) 09:33:44.34 ID:MQ6xVShUo

報瀬「休みじゃなかったんだ?」

綾乃「うん、ちょっと時間が空いただけだから。誘ってくれてありがとね」

秋槻「電車で戻るの?」

綾乃「うん……。そういえば、京都駅のスタンプラリー、みんな知らないの?」

日向「知ってるけど、別にいいかなって」

綾乃「そうなんだ。……それじゃ、また列車で、バイバーイ」

スタスタスタ...

栞奈「バイバイ〜」

みこと「……」

結月「スタンプラリー……」

マリ「えー……」

報瀬「いつまでショック受けてるの」

マリ「だってー……。なわとび大会のため、団結力を高めていかないといけないのに」

日向「あー……それなんだけど、キマリ」

マリ「?」

日向「もう一人、探さないといけないんだ」

マリ「どういうこと?」

秋槻「……ごめん」

マリ「?」

秋槻「参加、遠慮させてもらうよ」

マリ「えーっ!?」

一輝「秋槻さんが出ないなら……俺も……」

栞奈「あらら……」

結月「なら、2人探さなくてはいけませんね」

みこと「……決まってるもう一人って誰?」

日向「さぁ? キマリ教えてくれないんだよ」

報瀬「他に、誘える人いないよね」

結月「売店の店員さんと、食堂車にもう一人店員さん居ますが……」

マリ「時間、空いてないって……」

栞奈「それなら、新しく乗車してくる人に期待しよう」

日向「今考えてもしょうがないよな……」

マリ「あぁ、困ったなぁ」チラッ

結月「困りましたねぇ」チラッ

報瀬「……」チラッ

日向「本当だよ……」チラッ

みこと「……」ジー

秋槻「いや……うん。……心から悪いと思っております」

一輝「……」


……


219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 03:58:32.43 ID:NvaB0sZQo

―― 車内


ブォォォオオオ


日向「料理長に頼んでみるとか」

報瀬「本当に頼めるの? 本当に?」

日向「いえ、僅かな可能性を示しただけなので……」

結月「10人じゃないと参加できないんですか?」

マリ「どうなの、日向ちゃん?」

日向「うん……ルールで決まってるみたいだな……」ポチポチ

みこと「次が名古屋、その次が金沢……」

栞奈「さぁ、緊迫してまいりました。
   果たして我々は無事になわとび大会に参加できるのでしょうか」

報瀬「……?」

栞奈「ご期待ください」

報瀬「ハッ!? もしかして撮ってる!?」

マリ「あ、バレちゃった」

結月「栞奈さんが説明口調になるからです」

報瀬「こういう隠し撮りは止めてって言ってるでしょ!?」

日向「報瀬以外は知ってるから隠し撮りとは言わないんだよー!」

報瀬「なにその犯罪者の理論」

日向「酷いこと言うな」


一輝「後ろ、結構揉めてますよね」

秋槻「歳の近い子って、他に……居ないよね……」

一輝「いないですね……」

秋槻「……」


みこと「夕陽が綺麗だよ」


秋槻「え……あ……うん」

一輝「雨の影響かな……」

秋槻「雨?」

一輝「少し降ったみたいですね」

秋槻「そういえば、夜景が見える場所があるけど」

一輝「後ろに聞いてみます」


報瀬「やっていいことと悪いことがあるってこと言ってるの!」

日向「これはやっていいことだろ!
   プライベートな部分はカットするっていってるのに、この分からず屋!」

報瀬「何屋さんなの!? 何売ってるの!? 何で利益出してるの!?」

日向「商売してる店ちゃうわ!」

マリ「京都ラーメンというものがあるんだって」

結月「キマリさん、ラーメンばかり食べてるんですよね。飽きませんか?」

みこと「夕陽が……」

栞奈「山道だからね、すぐ隠れちゃうね」
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 03:59:37.80 ID:NvaB0sZQo

一輝「おーい」


栞奈「助手席から声がかかりました。一輝さーん、どうしましたー?」


一輝「あ? まだ撮ってんのか?」


栞奈「分からないけど、一応、状況説明しとこうかと」


一輝「まぁ、別にいいか。……えっと、夜景の見える場所があるんだけど、どうする?」


栞奈「夜景ですか、それはいいですね。みことちゃんはどう思いますか?」

みこと「うん」

栞奈「……判断付かないリアクションですが、いいでしょう。残りの4人にも聞いてみましょう」

結月「液晶の光が強く感じますね……。あまり見てると目を悪くしますよ」

マリ「うん、もうちょっと〜」ポチポチ

報瀬「あれ? どこにカメラあるの?」ガサゴソ

日向「さぁ、どこでしょうな」

栞奈「オッケー!」


一輝「本当にオッケーなのか? ……いいや、行きましょう」

秋槻「どこでも自由だね、君たちは……」


ブォォォオオオオ


……


221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 04:03:05.61 ID:NvaB0sZQo

―― 夢見ヶ丘


ザァァアアアアア


秋槻「暑くない?」

一輝「適温ですよ。それよりエンジン付けっぱなしで大丈夫ですか?」

秋槻「まだまだ大丈夫だね」

一輝「それならいいですけど」


マリ「お腹空いた……なにか買っておけばよかったね」

報瀬「……」

結月「報瀬さん、今は撮ってませんから……」

栞奈「どう? 見える?」

みこと「……ぼんやりと」

日向「……」


ザァァァアアアアア


みこと「急に降って来たよね」

栞奈「夏はこういうことあるからしょうがないね。らしくて好きだけど」

日向「で、この雨、いつ止むんだ?」

マリ「もうちょっと」

日向「そのもうちょっとって、一時間前から言ってるけど一向に止む気配がないんだが」

報瀬「日向、イライラしてる?」

日向「車の中で一時間以上ジッとしてるんだぞ、我慢の限界だ」

報瀬「そう、ふふふ」

日向「なんで笑う」

報瀬「天罰って、本当にあるんだなって」

日向「報瀬ぇぇ! 表出ろぉぉお!!」

マリ「もぉ、落ち着いてよぉ」

みこと「雨に濡れたら気分良くなるかも」

結月「確かに、気分は晴れそうですね」

栞奈「でも、着替え持ってきてないでしょ」


一輝「他にも車止まってましたけど、諦めて行ってしまいましたね」

秋槻「あ、本当だ……。よし、絶好の位置に止めよう」

ブォォー

一輝「あの辺りがいいんじゃないですか?」

秋槻「そうだね、良さそうだ」
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 04:04:57.25 ID:NvaB0sZQo

みこと「私、タオル持ってきてるよ」

日向「お、ナイス!」

報瀬「待って!? 本当に外に出る気!?」

日向「ちょっとぐらいなら平気平気〜」

ガチャ


結月「何してるんですか日向さん!?」

マリ「みんな、日向ちゃんを抑えて!」

ガシッ

日向「嫌だ、離せ! 退屈な日常なんてうんざりなんだー!」ジタバタ

栞奈「あとちょっとだけ待って!」

日向「あとちょっとって、どのくらい?」

栞奈「30秒」

日向「いーち、にーい、さーん」


ザァァアアアアア


みこと「止む気配がないよ」

報瀬「秋槻さん! 今のうちに発進してください!」

マリ「今すぐ! ライトナウ!!」


秋槻「どうしようか……」

一輝「一時間も待ったんですから、今帰ると……負けな気がしますね」

秋槻「じゃあ、もうちょっと待とうか」

一輝「ですね」


栞奈「クックック、一輝〜、やるじゃん」


一輝「……なにが?」


栞奈「別に〜」


報瀬「秋槻さん!?」


秋槻「君たちはいつでも自由でしょ?」


報瀬「え?」

マリ「……」
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 04:07:46.96 ID:NvaB0sZQo

日向「にーじゅご、にーじゅろく」

結月「わぁぁああ! 本当に出る気ですよ!」ギュッ

みこと「……」

日向「にーじゅはち、にーじゅきゅう!!」

ガチャ


マリ「結月ちゃん、離しても大丈夫だよ」

結月「え?」


ザァァアアアアア


日向「さんじゅう!!」


ガラッ



日向「たぁっ!」


ピョン


結月「あ……!」

報瀬「本当に……出てしまった……」

マリ「私も!」

ピョン


結月報瀬みこと「「「 あ…… 」」」


ザァァアアアアア


日向「ひゃー、気持ちいい〜!!」

マリ「本当だ〜!!」


栞奈「あーあ、びしょ濡れじゃん」

みこと「……」


日向「雨はすべてを洗い流してくれるようだ」

マリ「天然のシャワーだよね」


栞奈「あんな風に両手広げて空を見上げてる風景、映画にあるんだよね〜」

みこと「……うん」

224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 04:09:28.60 ID:NvaB0sZQo

ザァァアア


報瀬「なんか、ずるい」

ピョン

結月「本当ですよ」

ピョン


ザァァアア


日向「なんだよ、報瀬とゆづも来たのかー?」

報瀬「二人が楽しそうにしてるからでしょ」

結月「後先なんて考えずに……ずるいです」

マリ「あはは、でも、気持ちいいよね〜!」


栞奈「……」

みこと「……っ」


秋槻「行かないの?」

一輝「……冗談」

秋槻「でも、俺はこれからコンビニへ行ってタオルを買いに行くわけだけど」

一輝「……」

秋槻「彼女たちを置いてはいけないよね」

一輝「あぁ、もう……なんて迷惑なっ」


栞奈「負けておけば良かったのにね」


一輝「うるさい。お前は降りないのかよ?」


栞奈「女性用の下着やらを秋槻さんに買わせるのかい?」


一輝「くっ……あっそ」

ガチャ


日向「なんだ、大村まで来たよか〜?」

一輝「仕方なくだ」

報瀬「あ、何やってるんだろう、私たち」

結月「素に戻らないでください! まだ早いです!!」

マリ「みこっちゃん!」


ザァァアア


みこと「……!」
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 04:10:54.36 ID:NvaB0sZQo

マリ「おいでよ!」スッ


みこと「う、うん……っ」スッ

ギュッ


マリ「ようこそ、レインパラダイス!」グイッ

みこと「……っ」

日向「あはは、なんだそれ!」

報瀬「雨の楽園!」

結月「そうです、雨の楽園! そのまんまです!」


ザァァ......


マリ「あれ……?」

みこと「え?」

報瀬「あ……」

結月「止みましたね」

日向「止んだな」

一輝「……嘘だろ」

みこと「向こうの空、晴れてる」

マリ「ほんとだ……! もう雨は降らない?」

日向「そういうことだな」

報瀬「……ふふ」

結月「なんですかね、これ」

一輝「あとちょっと待てばよかったんじゃないか!」


栞奈「アハハ! もう後の祭り!!」


秋槻「それじゃ、買いに行ってくるから」


……


226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 04:15:07.95 ID:NvaB0sZQo

―― 温泉


マリ「はぁぁ……」

報瀬「貸し切り風呂があるなんて、運がいいよね」

日向「あとでちゃんと礼を言わないとな」

結月「そうですね。栞奈さんにも言わないといけません」

みこと「……ふぅ」

マリ「大丈夫? 疲れてない?」

みこと「ううん、全然……。特に何もしてないから」

マリ「そっか……ふぃぃ。体冷えちゃってたから気持ちいい〜」

報瀬「栞奈って、日頃あんな調子だから、たまに驚いてしまうよね」

日向「そうだよな。いっつも変なこと言ってるけど、先のこと考えてたりするな」

結月「たまに真面目になったりしますね。たまーにですけど」



―― コインランドリー


栞奈「くしゅっ、くしゅっ……へっくしゅん!」


ゴォン ゴォン


栞奈「グスッ……。誰か私の噂してるな……?」


一輝「よう」

栞奈「グスッ」

一輝「……どうした?」

栞奈「くしゃみしたから鼻水が出ただけ。どうしたの?」

一輝「別に、暇だったから」

栞奈「ちょっとぉ、キマリたちの下着があるんだから――」

一輝「おい、やめろ」

栞奈「あり、冗談だったんだけど」

一輝「洒落にならないとこ、見てるだろ?」

栞奈「確かに」

一輝「本当、やめろよ……」

栞奈「……そんなに嫌がるとは思ってなかったなぁ」

一輝「嫌に決まってるだろ」

栞奈「ふぅん……。気に入ってるんだ?」

一輝「なにが?」

栞奈「この旅が」
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 04:16:22.60 ID:NvaB0sZQo

一輝「……なんでそうなる」

栞奈「関係が壊れちゃ、この旅は終わっちゃうもんね」

一輝「なんだそれ。よく分からんな」

栞奈「本当は分かってるくせに」

一輝「……」

栞奈「あ、ごめん。なんか知った風なこと言っちゃった」

一輝「……別に」

栞奈「えっと……秋槻さんは?」

一輝「仕事の話かな……。電話してる」

栞奈「……そっか」


ピー

栞奈「あ、終わった。……乾燥機に入れるから、一輝はアッチ向いてて」

一輝「いや、外出てるわ」

栞奈「えー、話し相手になってよー」

一輝「……分かったよ」

栞奈「いいって言うまで向かないでよ」

一輝「はいはい」

栞奈「よーいしょっと」

一輝「栞奈さ、なわとび大会に出るんだろ」

栞奈「もちろん。……これでよし、っと」

ピッ

 ゴォン


栞奈「一輝、本当に出ないの?」

一輝「……」

栞奈「秋槻さんが出ないから?」

一輝「……うん」

栞奈「まぁ、それも選択の内よね〜。今乾燥中だけど」

一輝「滑ってるぞ」

栞奈「なんでデネブに乗ったの?」

一輝「……それを聞いてどうする?」

栞奈「ただの興味本位」
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 04:17:16.09 ID:NvaB0sZQo

一輝「親が、20年前に日本縦断した列車、ヴェガに乗ってたんだよ」

栞奈「ふぅん……」

一輝「それは後から知ったんだけど……。
   父さんに『乗ってみるか?』って聞かれて、それで」

栞奈「乗ってみようと思ったわけだ?」

一輝「興味沸くだろ。こんな豪華列車……。調べれば調べるほどな」

栞奈「あぁ、分かる分かる」

一輝「乗車して、最初は『こんなものか』って気分だったけど」

栞奈「今は違うんだ?」

一輝「……さぁな」

栞奈「はぁ、素直じゃないね」ヤレヤレ

一輝「ちっ……。じゃあ、車戻ってるからな」

栞奈「あ、そういや、一輝は平気なの? 温泉入らなくて」

一輝「あまり濡れてなかったからな。乾いたよ」

栞奈「男って便利ね」

一輝「すぐ止んだからだよ。そういう機能があるみたいに言うな」


……


229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 04:18:16.31 ID:NvaB0sZQo

―― 駐車場


マリ「ありがとう、栞奈ちゃん」

栞奈「いえいえ」

報瀬「洗濯してくれて助かったよ、ありがとう」

栞奈「いえいえ」

結月「私たちだけお風呂入っているなか、そんなことさせて申し訳ないです」

栞奈「いえいえ」

日向「栞奈が居てくれて良かった!」

栞奈「いえいえ。とりあえず、高級名物をそれぞれ持ってきてくれればそれでいいからさ♪」

マリ報瀬結月日向「「「「 えー 」」」」

栞奈「あら、大ヒンシュク」

一輝「殊勝すぎて怪しいと思ったよ」

みこと「……」

秋槻「何か食べてから戻ろうか」

みこと「うん」


結月「……おかしい」

マリ「なにが?」

結月「あ、いえ……なんでもありません」

マリ「?」


……


230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 04:20:45.05 ID:NvaB0sZQo

―― 京都駅


日向「……にしんそば食べたかったなぁ」

マリ「京都ラーメン美味しかったよね?」

日向「そうだけど……そうなんだけど……」

報瀬「じゃんけんに負けたんだから、グチグチ言わない」

日向「そうなんだけど……! もっとこう、ならではなものが食べたいのだよ!」

みこと「あ、戻ってきた」

結月「……」


秋槻「お待たせ、それじゃ戻ろうか」

一輝「今日はありがとうございました」

栞奈「ありがとうございましたー!」

結月「ありがとうございました」

秋槻「うん、どういたしまして……!」ビクッ

マリ「?」

秋槻「……ま、まずい」サササッ

報瀬「???」


「……」


結月「そんなところで、何をしてるんです?」


「何も聞かないでくれ……!」


日向「何を隠れてるんだ……?」

栞奈「どうしたんだろね」


さくら「あら、結月ちゃん」

結月「あ、さくらさん、今まで観光だったんですか?」

さくら「そうなのよぉ。どこかでバッタリ王子様と逢えるんじゃないかって」

マリ報瀬日向「「「 王子様? 」」」

一輝「?」

栞奈「出会いを求めてるんですか?」

さくら「そうじゃないのよぉ。私はもう見つけているの、王子様☆」

みこと「それは誰?」

さくら「あらん、野暮なことは聞かないの☆」


「……」ゴクリ
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 04:24:29.64 ID:NvaB0sZQo

みこと「……」

さくら「あら、みことちゃん……顔色が少し悪いわねぇ」

マリ「え……!?」

日向「無理させてしまったか……!?」

みこと「あ、ううん、大丈夫」

さくら「夏バテかしら? 栄養はちゃんと摂らなきゃ美貌は保てないのよ」

結月「疲れがたまってたみたいで……」

さくら「あら大変。それじゃ今日は早く寝ることね」

みこと「……うん」

さくら「私も、早く寝なくちゃ。この歳になるとお肌にすぐ表れちゃうからぁ」

一輝「違いがよく分からないけどな……」

さくら「あら、私のこと口説いてるのね。おませさん」

一輝「ッ!?」

さくら「でも私、若い子に興味は無いの。ごめんね……」

一輝「」

栞奈「桜が散り、春が終わった男が一人。
    その気持ちを詩に込めて、今日も男は謡います」

日向「演歌みたいだな」

栞奈「さぁ、唄っていただきましょう……大村一輝、『失恋櫻』」

一輝「」

報瀬「おばあちゃんがよく見てた、そのテレビ番組」

さくら「うーん? でも、気配は感じるのよね……」

マリ「気配……?」


「……」


さくら「気のせいね。それじゃ、みんなおやすみ♪」

スタスタスタ...

みこと「おやすみなさい」

結月「おやすみなさい……」

マリ「気配って……?」

結月「さくらさん、前は格闘やってたらしいんです。その名残かもしれません」

栞奈「通りでごついわけだ」

みこと「闘うスタイリストさん、って呼ばれてるって」

一輝「通り名もごついな……」


秋槻「……ふぅ」


マリ「どうしたの、お兄さん」

秋槻「いや、なんでもない」
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 04:27:07.88 ID:NvaB0sZQo

みこと「顔色が悪いよ」

秋槻「ちょっと疲れちゃったかな……はは」

日向「今日はもう、みんな寝ようか」

栞奈「宴会は?」

報瀬「無し」

栞奈「これから毎日やるって言ってたのに……」

結月「誰も言ってません」


……



―― デネブ


車掌「お帰りなさいませ」

秋槻「ただいま戻りました」

車掌「お疲れのようですね」

秋槻「久しぶりの運転で緊張してしまって……」

車掌「あらあら」


みこと「……」

結月「……」

日向「ふぁぁ……私先に戻ってるな……。おやすみぃ〜」

報瀬「私も、もう寝る……また明日……」

栞奈「それじゃーねー」

一輝「お前元気だな……。それじゃ、俺も」

マリ「私は売店行ってくるね」

結月「は、はい……」


秋槻「雨が降ったおかげで、空気が澄んでて、夜景が綺麗でした」

車掌「晴れて良かったですね」


みこと「……」ジー

結月「みことって、秋槻さんのこと……」

みこと「?」
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 04:28:28.12 ID:NvaB0sZQo

結月「あ、えっと……秋槻さんの印象どうなのかなって」

みこと「お父さんみたい?」

結月「そう……なんだ」

みこと「……うん」

結月「うーん……?」


秋槻「スタンプラリーの参加者はどのくらいいますか?」

車掌「まだ景品をもって訪れた方はいませんので、何とも言えません」


みこと「……なんだろう、ざわざわする」

結月「どういうこと?」

みこと「よく分からない」

結月「……それって」


さくら「結月ちゃん、ちょっといいかしら」


結月「え、あれ?」

さくら「ごめんなさいね、用件をすっかり忘れちゃって……。これなんだけど」

結月「……明日の段取りですね」

さくら「そうなの。ディレクターさんに渡すよう言われてたのに、ごめんね」

結月「はい、分かりました。謝ることないですよ」

さくら「でも、私ったら、ついはしゃいじゃって……」ションボリ

結月「あ、ちょっと待ってくださいね」

さくら「?」

みこと「……」ジー


秋槻「明日の夕方出発ですから、昼頃から食堂車は混むかもしれないってわけですか」

車掌「乗車されているお客様は、発車してからご利用いただければ良いかと」

秋槻「あぁ、そうですね。それなら景品を有効活用できる」


結月「みこと、耳貸して」

みこと「?」

結月「ひそひそ」

みこと「……?」

結月「その、ざわざわの正体、わかるかも」

みこと「……」
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 04:29:41.00 ID:NvaB0sZQo

さくら「うーん、また気配を感じちゃうわぁ……。はぁ、逢えないと辛い……」

みこと「あっちに居るよ」

さくら「え?」

みこと「ほら、車掌さんと話して――」


シュンッ


みこと「――いるでしょ? ……あれ?」

結月「消えた……!」


車掌「あら?」

秋槻「どうかしま――っ!?」ゾクッ

さくら「捕まえた」

秋槻「――あ――ぅ」

さくら「やっと、捕まえた……私の王子様☆」

車掌「王子……?」

秋槻「な、なんでもありませんよ。……っと、時間だ。私はこれで」

さくら「あなたと私、二人の時間がこれから――」

秋槻「これから仕事がありますので……! 失礼します!!」

スタコラサッサ

さくら「あぁん、……逃げられちゃった」

車掌「あの……?」

さくら「逃げられると、追いかけたくなっちゃうのよね」ゴゴゴゴ

車掌「は、はぁ……?」

さくら「あら、ごめんなさい、車掌さん」

車掌「いえ……」


結月「どう?」

みこと「ざわざわしたの、なくなった……?」

結月「……やっぱり」

みこと「?」

結月「とりあえず、今日はもう寝ようよ」

みこと「……うん。……明日はどうするの?」

結月「明日の朝は、散歩するだけみたいだから」

みこと「うん、分かった」


……


235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 04:31:33.07 ID:NvaB0sZQo

―― マリの個室


マリ「私たちは私たちの旅を……かぁ……」


マリ「うーん……」


マリ「どういう意味だろ……?」


コンコン

「キマリさん、勉強してるとこ悪いんですけど、少しいいですか?」


マリ「……」

ガチャ

結月「すいません、勉強の邪魔をしてしまって」

マリ「してなかったから平気だよ……。どうぞ入って入って」

結月「そうですか。あのですね、話というのは……」

マリ「『やっぱりな』って空気を感じる……!」

結月「明日の観光のことなんですけど、金閣寺とか名所を回るんですよね」

マリ「うん、そうだけど?」

結月「私の撮影が清水寺であるんですよ」

マリ「そうなんだ?」

結月「さっきの雨の影響で、予定が変更になりまして」

マリ「じゃあ、一緒に行くよ。ちょうど良かった」

結月「あ、いえ……。えっと……行きたいところ行って欲しいんです」

マリ「行きたかったところだよ?」

結月「そ、それだと計画が……」

マリ「?」

結月「みなさん、一緒ってことですよね。みことも……」

マリ「……」

結月「……キマリさん?」

マリ「結月ちゃん、私たちには私たちの旅があるんだよね」

結月「どういう意味です?」

マリ「みこっちゃんのお母さんに言われたんだけど、よく分からなくて……」

結月「話の流れからすると……みことはみことの旅があるってことですよね?」

マリ「……うん」

結月「それなら、明日別行動してみませんか?」

マリ「それぞれ違う観光地に行くってことだよね」

結月「はい、そうです。それで、キマリさんが分からないところも見えてくるのではないかと」

マリ「……」

結月「無理して別行動する必要はありませんけどね」
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 04:32:18.49 ID:NvaB0sZQo

マリ「ちょっと心配だけど、そうしてみようかな……?」

結月「みこともただの子供ではありませんから問題はないはずです。やってみましょう」

マリ「うん、明日の朝、話してみよう。それで、結月ちゃんの話って?」

結月「いえ、私の計画とも合っていますからそれはいいです」

マリ「計画って?」

結月「いえいえ、なんでも……。そ、それじゃ遅いですから失礼しますね」

マリ「計画ってなに?」

結月「なんでもないって言ってるじゃないですか……。
   私は寝ますから、勉強頑張ってください」

マリ「鬼だ……!」

結月「リンに頑張ってたって伝えておきますね。……それでは」

ガチャ

 バタン

マリ「鬼だ……」シクシク


……


237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:00:36.03 ID:redis/s9o


―― 8月6日


綾乃「いらっしゃいませ」


マリ「おはよう、綾ちゃん」

日向「おはよー」

綾乃「おはよう。みんな早くに出て行ったけど、どこ行ったの?」

結月「どうして知っているんですか?」

報瀬「まだ太陽昇ってなかったのに」

綾乃「見たから。朝早いからね、うちの食堂」

マリ「少し周りを歩いてたんだよ。お寺行って、公園でラジオ体操して」

綾乃「ずいぶんと健康的だね。お喋りはこれくらいにして、それではご注文を承ります」

結月「みなさん、和でいいんですよね」

マリ「うん」

日向「もち」

報瀬「今日は私、洋で」

結月「和三つに洋を二つお願いします」

綾乃「二つ?」

結月「すぐにみことも来ますので」

綾乃「はい、かしこまりました。少々お待ちくださいませ」

スタスタスタ...

日向「確かに健康的だな。早寝早起き、散歩してラジオ体操」

報瀬「長生きできるね」

マリ「あの席に座ろう」

日向「はぁ、腹減った〜」ストッ

結月「あ、待ってください。5人じゃ座れませんから、分かれましょう」

日向「そうだな。じゃ、報瀬あっちで、あとはこっち〜」

報瀬「そういうの良くないと思う」

結月「私があっちに座りますね」

マリ「じゃ、私も〜」

報瀬「……私も」


日向「私一人かよ。こういうの、良くないと思うんだ」
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:02:25.14 ID:redis/s9o

マリ「洋にしとけばよかったかな」

結月「明日食べればいいじゃないですか」

マリ「気分によって変わるから、明日は明日の風が吹くってね」

報瀬「それ、使い方間違ってるから」

マリ「そうなの?」


日向「……」


みこと「……?」


日向「おー、みことー、こっちこっち」

みこと「どうして、日向さん一人なの?」

日向「分からないんだよ。私が何をしたんだかな……。まぁ、座りなさい」

みこと「……うん」


報瀬「因果応報でしょ」

マリ「日向ちゃん、何をしたの?」

報瀬「私を除け者にしようとした」

結月「今日の夕方でしたよね、出発」

報瀬「そうだよ、忘れないで、キマリ」

結月「夕方ですよ、ゆ う が た。分かりましたか、キマリさん」

マリ「……」


日向「30分前には乗車しとけよ〜」

みこと「……」


マリ「なぜか私だけがいつも乗車ギリギリみたいな言い方されるけど、いいです。
   今日でその汚名を返上させていただきます」

報瀬「嫌に自信あり気ね」

結月「なにか策でもあるんですか?」


みこと「今日はもう観光行かない?」

日向「なるほど、それなら乗り遅れないな」


マリ「行きます。観光には絶対に行きます」

報瀬「じゃあ、どうするの?」

マリ「大したことじゃないけど……。
   まぁ、日向ちゃんが言ったように30分前には乗っていますから、
   なんならみんなにおかえりって言うくらいの余裕がありますね」

結月「この自信……」


日向「なんで不安になるんだろう……」

みこと「……」
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:04:11.54 ID:redis/s9o

マリ「今日の出発を楽しみにしていてください」フフン

報瀬結月「「 これは…… 」」


日向「駄目かもな……」

みこと「……」


マリ「なんで!?」


一輝「朝から元気だな……本当に」

栞奈「おいっすー。ここ座っていい?」

日向「どうぞー」

みこと「……」

綾乃「先にご注文を伺います」

栞奈「私は洋食で、一輝は中華でお願いします」

綾乃「申し訳ありません、モーニングは洋食か和食のみになります」

栞奈「だってさ」

一輝「俺がいつ、それを頼もうとした? 望んですらいねえよ」

栞奈「和食だそうです」

綾乃「かしこま――」

一輝「洋食でお願いします。お前、他人に迷惑かけるな」

栞奈「はーい」

綾乃「洋食二つですね、かしこまりました〜」

スタスタスタ...

みこと「綾乃さん、笑ってた」

日向「笑ってたな」

栞奈「笑わせるなんて、やるじゃん」

一輝「お前だろ? それに、笑われてたんだからな間違えるなよ」


報瀬「朝から漫才やってる」

結月「あの、いいですか、話」

報瀬「え、うん」

マリ「話?」

結月「えっと、駅の看板にもありますけど、スタンプラリー知っていますよね」

マリ「うん」

報瀬「それがどうかしたの?」

結月「その景品なんですけど、知っていますか?」

マリ「京都の高級料理店とか、お土産とかだったよね」

結月「他には?」

マリ「他? あったっけ?」

報瀬「興味無かったから……知らない」

結月「ですよね」
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:06:03.77 ID:redis/s9o


栞奈「スタンプラリー、参加するの?」


結月「はい、その提案をしようとしています」

マリ「分からないけど、他になにが景品なの?」

結月「デネブでのお食事券です」


栞奈「汚職事件……! ボス、私と一輝で捜査行ってきます」ガタッ

みこと「うん」

日向「いや、うんじゃないだろ」ビシッ

一輝「刑事ごっこはいいから、大人しくしてろ」


報瀬「食事券?」

結月「そうです、二名様ご招待とありました」

マリ「参加したら誰でも招待されるの?」

結月「いえ、ネットで抽選ですけどね。あとは参加賞の記念ボールペン」


栞奈「あ、もしかして昨日のお礼に私をご招待してくれるの? やったね、嬉しー!」


結月「いえ、違います」


栞奈「……」

日向「げ、元気出せ」

みこと「はい、水」

栞奈「……うん」

一輝「ぬか喜びか……残念なヤツ」


報瀬「結月……」

マリ「結月ちゃん……」

結月「あ、いえ……! あとでお土産を買ってきますから……!」


栞奈「ううん、いいんだよ……そんな気を遣わなくても」

日向「珍しくテンション低いな……」

みこと「このお冷、京都の名水だって言ってたよ」

一輝「それは励ましになるのか?」


報瀬「結月……!」

マリ「結月ちゃん……!」

結月「え、えぇ……!? えっと……こ、高級なお土産ですよ!」


栞奈「地元の人たちに愛されて150年……
   変わらぬ味を守ってきた誇りと歴史を持つ老舗和菓子屋の……?」


結月「妙に具体的ですね……」

報瀬「商品指定されてそう」
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:07:55.96 ID:redis/s9o

マリ「あ……、おはようお兄さん」


秋槻「うん、おはよう」


みこと「……おはよう」

日向「あー、座るならそっちだな」


秋槻「交代してくれない?」


日向「私はさ、ハブられてるから……」

栞奈「沖縄だけに……」

一輝「調子取り戻したからお土産とか気にしなくていいよ」


結月「……分かりました」


栞奈「くぉら!」ドスッ

一輝「痛ってッ! 殴るな!」

栞奈「余計なこと言うからでしょ」

一輝「何が沖縄だけにだよ、宮城のセリフだろ」

綾乃「いやー、それは言わないよ。座らないんですか? 他は空いてませんけど」


秋槻「悪いけどいいかな? コーヒーだけ」

マリ「いいですけど、食べないんですか?」

秋槻「すぐ出ようと思ってたから。コーヒーを」

綾乃「かしこまりました〜」

秋槻「あ、ちょっと待って」

綾乃「?」

秋槻「料理長、昨日出掛けてたでしょ?」

綾乃「はい……そうですけど?」

秋槻「どこへ行ったのか聞いてる?」

綾乃「確か、京都鉄道博物館……って言ってたような?」

秋槻「そっか、うん、ありがとう」

綾乃「いえいえ」

スタスタスタ...

マリ「鉄道?」

秋槻「車掌さんと出掛けたらしくて、どこか分からなくて」

結月「なんで行先を知りたがるんですか……」

報瀬「……」ジー

秋槻「鉄道と言ったらアレかな、二人が共通してるモノ」アセアセ

結月「どうして焦っているんですか……」

秋槻「またあらぬ疑いをかけられるかと思って」

マリ「二人が共通?」

秋槻「そう……ヴェガのこと。二人とも乗ってたらしい」
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:11:54.24 ID:redis/s9o

マリ「あの料理長さんが……」

報瀬「車掌さんも乗ってたって……、車掌さん、若いよね」

結月「はい、いくらなんでも当時も車掌をやってたとは思えませんけど」

マリ「じゃあ、乗客だった……ってことだよね?」


日向「あ、それを聞きたかったんだよ、車掌さんに」

栞奈「どうして?」

日向「含蓄のある言葉を聞いててさ……それに私は色々と感銘を受けたからな」ウンウン

栞奈「なるほど、含蓄のある言葉を聞いて、日向は色々と感銘を受けたわけだ?」

一輝「お前はなんで繰り返し言うんだよ」

栞奈「オウムだからだよ」

一輝「そうか……意外だわ」

みこと「……」


結月「話が外れましたけど、いいですか、スタンプラリー」

報瀬「観光地を周るだけでしょ?」

結月「そうです」

マリ「うん、それならついでに押せばいいよね」

秋槻「えっと、周る場所は……金閣寺と清水寺、映画村に新京極だったね」

結月「そうです。あと、比叡山もですけど、昨日貰ってますから行く必要はありません」

報瀬「いつの間に……」

マリ「スマホでコードを読み取るだけでいいんだよね」

秋槻「みたいだね。共有は出来るけど、
   不正出来ないシステムみたいだから、ズルはできないよ」

報瀬「共有はできる……?」

結月「スタンプとして使用できるのは一回ってことです」

マリ「じゃあ、誰かのスマホにスタンプを集めよう」

報瀬「よく分からないけど、それでいいと思う」

結月「夕方まで時間はありませんから手分けしません?」

マリ「どうするの?」

結月「そうですね……。私が清水寺――」
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:12:47.23 ID:redis/s9o


日向「あはは、全然そうは思えないけどー?」

一輝「心配するくらい大人しいからな……」

栞奈「なによ、人を二重人格者みたいに」

日向「いや、今までの栞奈とイメージと違うから」

栞奈「私、一輝の前では自分を出せなくて……」モジモジ

一輝「ハハッ」

栞奈「凄い乾いた笑い方したね」

みこと「……聞いてるから、大丈夫」


結月「……うん。後で伝えておいてね」

報瀬「私たちはどうする?」

マリ「うーん、そうだなぁ」

秋槻「夕方までに4箇所周って4つだね」


綾乃「お待たせしました、モーニングセットです〜」


……


244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:14:33.94 ID:redis/s9o

―― 京都駅


日向「なーんで私が清水寺なんだよー!」

報瀬「さっき、『それでいい?』って聞いたら頷いたでしょ?」

日向「そうだけど……ちゃんと聞いてるか確認しないとダメなんじゃないのか!」

報瀬「とにかく、そう決まったから結月と行ってきて」

日向「イヤだイヤだ! 納得できないー!」

報瀬「はぁ……分かったから」

日向「よし、駄々っ子成功!」

報瀬「ほら、飴玉あげる」

日向「……」


マリ「えっ!? 博物館にヴェガがあるの!?」

結月「みたいですよ。キマリさん、話聞いてなかったんですか?」

マリ「だって……! プリンアラモードに夢中だったから……!」

結月「見に行くって秋槻さん、行きましたけどね」

みこと「……」


報瀬「それじゃ、私も行ってくるから」

日向「私も金閣寺銀閣寺ルートがいい!」

報瀬「私 一人 行く。日向 結月 一緒 行く」

日向「なんだその片言! バカにしてんのかー!?」

結月「日向さん、清水寺行ったらスタンプ押して移動すればいいじゃないですか」

日向「嫌だよそんな……木を見て森を見ないなんて」

マリ「……うーん、どうしよ」

みこと「ヴェガを見たいの?」

マリ「うん!」

みこと「私一人で映画村行ってくるから、いいよ」

マリ「でも……」

みこと「大丈夫だから。いつもキマリさんに付いて行ってただけだから……」

マリ「……」

みこと「今日は一人で行ってみる」

日向「……」

結月「……」
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:15:23.58 ID:redis/s9o

マリ「うん、分かった。じゃ、これ」スッ

みこと「え? 私が持ってていいの?」

マリ「というか、スマホでデータ取らないといけないんだよ?」

みこと「あ……うん。借りるね」

結月「触ったことある?」

みこと「……うん、ちょっとだけ」

結月「それなら教えてあげる」

日向「考えてみたら、みことと別行動って初めてだな……大丈夫か?」

マリ「うん……。そうだよ、みこっちゃんにはみこっちゃんの旅があるんだから」

日向「……ふぅむ」

マリ「じゃあ、栞奈ちゃん達も行ったみたいだし、私たちも行動開始!」

日向「そうだな。……報瀬はいつの間にかいないし!」


……


246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:17:15.81 ID:redis/s9o

―― 京都鉄道博物館


マリ「朝に続いてまたここに来ることになろうとは……」ゴクリ


マリ「えっと……ヴェガ……ヴェガ……」


マリ「プロムナードってところにあるんだよね……」


マリ「……よし」


……




「これがヴェガ……」

「か、かっこいい……!」フンスッ

「良さが私には分かりませんけど……」

「よし、手形つけよう」

「うふふ、私も〜」


マリ「……これが?」

秋槻「みたいだね」

マリ「おぉわっ!?」

秋槻「驚かせてごめん。見慣れた人が居たからつい」

マリ「いえいえ……あー、びっくりした」

秋槻「これが20年前に日本を縦断してたんだよねぇ……」



「ば、バカ! 本当に手形つける奴があるか!」

「そうだよ、私にも声かけてくれないと」

「なんでですか……。というか、いつまで居るんですかここ……」

「中に入ろうぜ〜!」

「入れるの……?」


マリ「なんか、自由な5人組だなぁ……」

秋槻「あはは、君たちみたいだね」

マリ「お兄さんと同じくらいかな……?」

秋槻「どうかな? 成人だろうけど」


……


247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:19:31.44 ID:redis/s9o

―― 公園


ジリジリ

 ジリジリ


マリ「そうだ……電話しないと」

秋槻「今日も暑いなぁ……」

マリ「みこっちゃんに渡したんだった」ウッカリ

秋槻「電話渡したの?」

マリ「そうなんです……。ってことは……誰にも連絡取れない……!」

秋槻「とりあえず、デネブに戻ってみたら――」


pipipi


秋槻「おっと……ちょっとごめん」

マリ「いえいえ」


プツッ

秋槻「はい、秋槻です……」


マリ「うーん、どうしよー。電話を携帯出来ないことがこんなに困るとは……」


「やっぱり外は暑いな……」

「ね、みんなで演奏しようよ、久しぶりに集まったんだから」

「いいですね、是非やりましょう!」

「えー、私、最近叩いてないんだよなー」

「私もたまーに弾いてたくらいなの」


マリ「演奏……? バンドやってるのかな?」


秋槻「え……!? 私が……ですか?」


マリ「……」


秋槻「はい……はい。……分かりました」


マリ「考えていてもしょうがないから、とりあえず集合場所に行ってみよう……かな?」


秋槻「……」

プツッ
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:21:20.92 ID:redis/s9o


マリ「お兄さん、私、新京極に行ってきます」

秋槻「あ、うん……そっか」

マリ「あれ、元気ない?」

秋槻「いや……驚いてて……」

マリ「なにかあったんですか?」

秋槻「大きな仕事を……任されて……」

マリ「おぉ、凄い!」

秋槻「……いや、任されてくれそう……って所で」

マリ「それって、チャンス?」

秋槻「そうだね。俺にとってこれ以上ないチャンスだ……」

マリ「……」

秋槻「これから準備するとなると……工程を……」

マリ「お兄さん、なわとび大会、一緒に出ましょう!」

秋槻「急いで縄跳びを用意していけば……え、なわとび?」

マリ「うん、金沢の!」

秋槻「……悪いけど、他を探してくれる? 新しい乗客が乗って来るかも――」

マリ「お兄さんがいいです。他の誰でもない、始発から一緒に旅してきたお兄さんが!」

秋槻「――……」

マリ「8人で、跳びたいです!」


……


249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:24:31.91 ID:redis/s9o

―― 清水寺


日向「こんな高いところ、大丈夫かゆづ……」


ピロロロン

日向「ん? ……おぉ、みことからだ」



≪ キマリ ― こんにちは ≫



日向「ふふ、なんで挨拶」

ポチポチ



≪ 日向 ―― 調子はどう? ≫



日向「……」


日向「返事遅いな……。慣れてないからか……?」


日向「ふぅ……日陰とはいえ、盆地は暑いなぁ……」


「今は京都の清水寺に来ています! たくさんの観光客で賑わっていますよ!」


日向「……頑張るな、ゆづ」


日向「やけにテンション高いし……東京まで大丈夫かぁ……?」


ピロロロン


日向「……」


≪ キマリ ―― 道に迷った。困ってる。でも大丈夫。 ≫


日向「うーん、不安だ……。今からでも追いかけようかな……」


ピロロロン


≪ 報瀬 ―― 迷ってるって、大丈夫なの? ≫


日向「……」ポチポチ


≪ 日向 ―― 今どこにいるんだ? ≫


日向「そういえば……キマリが言ってたな……」


『みこっちゃんにはみこっちゃんの旅があるんだから』


日向「……うぅむ」
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:26:05.43 ID:redis/s9o

さくら「あら、こんなとこにいたのね」

日向「あ、さくらちゃん」

さくら「飲む? 水だけど」

日向「いただきます!」

さくら「はい、どうぞ」

日向「ちょうど喉乾いたって思ってて〜。ラッキー」

さくら「撮影は、このまま順調に進めば10分くらいで終われるわね」

日向「ごくごく……くぅー、ちょうどいいくらいに冷えててうまーい……!」

さくら「あまり冷たすぎるのも体に良くないからね」

日向「水がこんなに美味しいとは……。夏になると毎年実感する……!」

さくら「んふふ」

日向「ありがとうございます」ペコリ

さくら「いいのよ、これくらい」

日向「喉も潤ったし……さーてと、どうしようかな……」

さくら「急いでるの?」

日向「あ、いや……。ゆづを待つかどうか迷ってるわけじゃなくて……」

さくら「?」

日向「みことを追いかけようかどうかで迷っています。今一人で行動してるので」

さくら「それは心配ねぇ」

日向「うん……返事も全然返さないし……」

さくら「あの子、しっかりしてるから大丈夫よぉ」

日向「そうですけど……、しっかりしてそうに見えて実はぼんやりしてるところがあるから、それが心配で」

さくら「行きたいけど行けない……のは、結月ちゃんを置いていけないってことね」

日向「ゆづは、そんなの気にしないでしょうから……。みこと自身のことで迷うんですよねぇ」

さくら「ふぅん……」

ピロロロン
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:26:55.91 ID:redis/s9o


≪ キマリ ―― 着いたよ。写真も撮った。衣装着た人いっぱいいる。江戸時代みたいで面白いよ ≫


日向「あぁー、行けばよかった! というか、行ってきます!」

さくら「乗り遅れないように気を付けてね〜」


タッタッタ...

「はーい。待ってろみことー!」


さくら「ジッとしてられないタイプね」

結月「ふぅ……お疲れ様です」

さくら「あら、お疲れ様。日向ちゃんは映画村に行くって走って行ったわ」

結月「そうですか。まぁ、ジッとしていないだろうとは思いましたけど」

さくら「結月ちゃんも後を追う?」

結月「いえ、私は集合場所に行きます」

さくら「あら、そう」

結月「ということで、キマリさんに連絡して……って……!」ハッ

さくら「どうしたの?」

結月「キマリさんに連絡が取れません……!」


……


252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:28:59.34 ID:redis/s9o

―― 新京極


マリ「暑い……暑いよぉ……。そして誰もいないよぉ……」

ジワジワ

マリ「うー……。どこかで涼んで来よう……。あ、そうだ……!」



……




―― お昼過ぎ:新京極


結月「居ませんねぇ……」

報瀬「……うん。連絡が取れないことがこんなに不便なんて……」

結月「昔の人たちの待ち合わせってどうしてたんでしょうね」

報瀬「それは……場所を指定して待ってたんでしょ」

結月「私たちも場所を指定してるじゃないですか?」

報瀬「それはそうなんだけど……」

結月「もっと細かく――……あ、日向さんですよ」

報瀬「……うん」


日向「おいーす」

みこと「……」

報瀬「あれ、その帽子……また借りたんだ?」

みこと「……うん。使わないからって貸してくれた」

日向「みこと、映画村でジロジロ見られてたよ」

報瀬「どうして?」

みこと「分からない」

結月「浮いてますよね。いい意味で」

日向「芸能人だと思われたってことか? やるな、みこと!」

みこと「キマリさんは?」

報瀬「まだ見つからない。来てるのかどうかも分からなくて困ってるところ」

結月「ナチュラルに話を逸らしましたね」

日向「まぁいいや。暑いからどこか入ろう〜」

みこと「あのお店から見ていれば、ここ通ったとき気付くよ」

報瀬「うん、そうしよう。私もお腹空いた」

結月「そうですね」


……



253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:31:13.74 ID:redis/s9o

―― 喫茶店


報瀬「スィーツじゃなくて、ご飯……」

みこと「パンがあるよ」

日向「オサレなサンドウィッチがあるぞ」

報瀬「最近米を食べてないから、ご飯がいい」

結月「我が儘ですね……朝、洋食にするからじゃないですか」

報瀬「お昼に和食を食べようと思ってたから」

結月「それなら……えっと、おにぎりとかありますかね……」

報瀬「じゃあ、それでいいよ」

結月「待ってください、いまメニュー見てますから……」ペラペラ

日向「はい、残念ながらありませんでしたー。
   コンビニでおにぎりでも買ってくださーい」

報瀬「コンビニ……」

みこと「お粥があるよ。極上粥って……たくあんも付いてる」

報瀬「うーん……お粥……」

結月「渋ってますね……」

日向「もう好きにしなさい。私たちは私たちで食べてるから」

報瀬「お米……」ペラペラ

みこと「あ……」

日向「ん? キマリ居たか?」

みこと「ううん、料理長……かな?」

結月「本当だ……。料理長ですね……あのくらいの身長の高い女性は中々いませんから」

日向「というか、隣の女性……誰だ?」

みこと「分からない……」

結月「友人なんじゃないですか?」

日向「そっか、そうかもな……乗客にいないもんな」

みこと「上品な雰囲気……」

報瀬「みこと、隠しメニューがないか聞いてみて?」

みこと「え、うん……」

日向「自分で聞けよ!」

結月「あ……」

日向「キマリ居たか?」

みこと「あれは……栞奈さん……?」

結月「……大村さんも一緒ですね」

日向「二人で観光か……」

結月「というか、料理長の後を尾けてません?」

みこと「うん……そうみたい」

日向「暇なのかあの二人……?」

報瀬「……お粥食べるくらいならパンでいいかな」


……



254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/09/30(月) 14:45:51.43 ID:lslAk4Kwo

―― デネブ


報瀬「居た?」

みこと「ううん、個室には居なかったよ」

報瀬「やっぱり、まだ戻ってないんだ……キマリ」

みこと「……日向さんが車掌さんに聞いてくるって」

報瀬「まだ出発まで30分はあるけど……」

みこと「日向さん戻ってきたよ……結月さんも」


日向「車掌さんもまだ見てないって」

結月「車内には居ませんでした」


報瀬「そう……」

みこと「駅前に出てみない?」

日向「そうだな。駅の土産屋も回ってみるか……」


pipipi

みこと「……?」

日向「? キマリの?」

みこと「うん……電話が鳴ってる」

結月「ううん、違う。これは……アラームが設定されてたみたい」

報瀬「ひょっとして……朝のキマリの自信って、これ?」

日向「アラームをセットしただけで、あんな勝ち誇った顔してたのか……?」

結月「多分、そうですね……」

報瀬「……嫌な予感」

日向「私も」

結月「私もです……」

みこと「……」


……


255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/09/30(月) 14:47:26.93 ID:lslAk4Kwo

―― 京都駅周辺


日向「土産屋には居なかったけど……そっちは?」

報瀬「こっちも居なかった……」

みこと「うん……」

日向「やっぱり、まだ戻ってきてないのか、ゆづ?」

結月「はい、まだです」

報瀬「セットしたアラームに全てを委ねてるはずだよね」

日向「多分な……」

みこと「委ねてるの?」

結月「設定したから大丈夫って、心底安心しきってるはず」

報瀬「気付いて、こっちに向かってるとは思うけど」

日向「間に合う距離なのかどうか……」

みこと「……」


栞奈「やぁやぁ、どうしたの難しい顔して」

一輝「……」


日向「あのさ、キマリ……見た?」

栞奈「見てないよ。観光地でも会わなかったなぁ」

一輝「まさか……また?」

みこと「……」コクリ

結月「もう20分もないですよっ!」

報瀬「本格的に焦ってきた……!」

栞奈「みんなが此処に居るってことは、車内にも、駅内にも居ないってことね」

日向「そ、そうなんだよ」

栞奈「一度戻ってみたら? 他の改札から入ったかもしれないし」

みこと「うん、そうかも」

日向「じゃあ、ゆづは戻って確認してくれ。居たら連絡よろしくな」

結月「はい、分かりました」

テッテッテ

報瀬「私たちはどうする?」

日向「探し回っても意味ない気がするな……」

一輝「動かない方が良いってことか」

日向「うん」

みこと「時計は持ってないの?」

報瀬「持ってない」

みこと「そうなんだ……」
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/09/30(月) 14:48:42.63 ID:lslAk4Kwo

栞奈「とりあえず、固まってないで動いたら? こうしてる間にも時間は過ぎてくよ」

一輝「どっちだ、探し回るのか? 動かず待つのか?」

日向「いや、栞奈の言うとおりだ。
   キマリが既に乗ってたなら私たちもデネブに向かえばいいだけだし」

栞奈「じゃ、すぐ行動! 散ッ!」

一輝「サンッ! じゃねえよ、忍者じゃないんだからな」

みこと「映画村行ったの?」

栞奈「うん、なんで分かったの?」

日向「私たちも行ったからな。報瀬、みこと、通話状態にしといて」

みこと「どうやるの?」

報瀬「貸して」

ピッピッ

栞奈「ここ、中央口だからね」

一輝「時間決めてここに集合か?」

栞奈「集合はデネブでいいよね。のりばはみんな把握してるよね」

みこと「うん、11番」

日向「もちろんだ。報瀬、弁当屋寄ってる暇ないからな!」

報瀬「あ、当たり前でしょ!」

栞奈「じゃ、もう一回! 散ッ!」

テッテッテ

一輝「あ、あいつ……やみくもに走って行ったぞ……」

日向「協力してくれてるのかよく分からんな……。
   まぁいいや、みことは京都タワー方面に行ってくれ」

みこと「うんっ」

テッテッテ

日向「私は地下の方に行ってくる」

テッテッテ

報瀬「私は……上から見てくる」

テッテッテ

一輝「……俺は適当に歩いてるか」

スタスタスタ...


……


257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/09/30(月) 14:50:11.46 ID:lslAk4Kwo

―― デネブ


結月「こちら、デネブの結月です。キマリさんの姿はありません」


『こっちも上から構内を見てるけど、キマリの姿は無し』

『地下にもいないな〜』

『これ、複数の人と同時に会話できるの?』

『出来るよ』

『すごい……!』

『凄いだろ〜! 文明は日々進歩しているのである!』


結月「まるで自分が開発したかのような声ですね」


『あ、みことの姿が見える』

『え?』

『ふふ、キョロキョロしてる』


結月「遊んでいる場合じゃないですよ」


『みこと、私の言うとおりに動いて』

『う、うん』

『なんだ、見つけたのか?』

『そこ、右へ行って』

『うん……』

『もう少し右へ方向転換……そうそう、そのまま真っすぐ階段上って歩いて』

『あれ……弁当屋があるけど……キマリさん、中に入って行ったの?』

『多分』

『おいこらー! 誘導して弁当買わそうとするなー!』


結月「遊んでいる場合じゃないですってば!」


『貸して、日向』

『え、うん……栞奈に代わるぞ』


結月「嫌な予感しかしませんね」


『ボス、ホシはまだ姿を現しません』

『返せ!!』


結月「もう駄目かもしれませんね……キマリさん……」


『ちょっ……姉ちゃん……待って……』

『なんだ、今の?』

『変な声聞こえた』


結月「?」
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/09/30(月) 14:51:53.83 ID:lslAk4Kwo


『なんか後ろの人がぶつぶつ言ってて怖い。デネブに戻るね』

『報瀬に声かけてるんじゃないのか……?』

『なんで私に?』

『いや、ナンパだろ……?』

『観光客かもしれないよ?』

『ひゅー、やるじゃん、報瀬〜! ひゅーひゅー』

『いやっ、困る! あっち行って!』

『んだよっ……冷てえな……っ……ちょ……』

『まだ変な声聞こえる』

『大丈夫か、報瀬ー?』

『うん、もう撒いたから』

『早いな!』

『隅に置けないね、このこのっ』

『おまえさっきからノリが一昔前なんだよ! 頼むから今は喋らないでくれー!』

『昭和なんだ?』

『誰がよ、日向!』

『栞奈だよ! 報瀬に言ってないからな! あーもう、面倒だなこれ……!』


結月「キマリさん……っ」


『……――いかな、連れが――……』

『……え?』

『どうするの? もう時間無いよ、本当に』

『おまえがかき回してるんだからさ、無駄に焦らさないでくれ』

『私はもう改札通ったよ』


結月「……?」


『いま――……務室に……』

『キマリさんが?』

『……そうそう……キマ――が――』


結月「この会話は誰と……?」


『駅内アナウンスしてもらうとか、どうよ?』

『いや、駅内にいるならもうデネブに向かってるだろ……多分』

『私はそろそろ通話切るから』


結月「ま、待ってください」


『どした、ゆづ?』

『どうしたの?』


結月「みこと、誰と話をしてるんですか……!?」
259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/09/30(月) 14:53:28.40 ID:lslAk4Kwo


『え?』

『誰って?』

『静かに』


『ほら――……こっち……から』

『ちょっと待って、みんなに連絡する』

『……通話中……と……』

『キマリさん、医務室に居るって――』


プツッ


『は?』

『医務室?』

『……』


結月「誰なんですか、今の男の人の声……!」




―― 日向


『誰なんですか、今の男の人の声……!』


日向「誰だよ……?」

栞奈「一輝じゃないし、秋槻さんでもない……」

日向「医務室ってなに……?」

栞奈「みことちゃん、返事して……!」


『みこと……?』

『ダメです、切れてますよ……!』


日向「なに、なにが起こってるんだ?」

栞奈「私たちの知らない誰かが……キマリを餌にみことを釣ろうとしてる」

日向「は……!?」


『え!?』

『だ、誰かみことを捕まえてください……!』


日向「報瀬! さっきの弁当屋どこだ!」


『階段を上がった先だけど、みことは1階に居たから! 私もそこに行く!』


栞奈「1階か……行こう、日向」

日向「うん……!」

タッタッタ
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/09/30(月) 14:54:56.79 ID:lslAk4Kwo

―― 報瀬


報瀬「ダメ、居ない……」


『報瀬、今どこ?』


報瀬「2階の弁当屋前……。こっちから日向と栞奈が見える」


『え……? あぁ、そこか。……そこから見える?』


報瀬「待って……。……ダメ、人がいっぱいで見えない」


『そうか……』

『どうしてキマリさんのことを……?』

『それは後で考えよう、結月ちゃん』

『そ、そうですね』


報瀬「結月、デネブには来てないよね」


『はい……。いま、デネブの外に居ますけど、見当たりません』


報瀬「……」


『外に出てたらもう間に合わないぞ……』


報瀬「……うん」


―― 京都駅・外


みこと「医務室って外にあるの?」

男「うん、そうなんだよね。まぁ、付いてこれば分かるよ」

みこと「……」

男「キマリちゃんが倒れちゃってさ、君を呼んでくれって言われて〜」


「はい……はい、車内で書き上げますので……」ペコペコ


みこと「あ……」

男「ん、どうしたの?」


秋槻「ん……? んん??」


みこと「秋槻さん……私、名古屋まで追いかけるから」


秋槻「…………」


男「なんすか?」

秋槻「君も、デネブの乗客?」

男「……そうですけど」

秋槻「……」

みこと「時間無いから、私はキマリさんと一緒に行くね」

秋槻「……うん、わかった。……あ、はい、すいません、話の途中で……」
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/09/30(月) 18:58:00.82 ID:lslAk4Kwo

男「さ、行こう。電話で忙しいみたいだから」

みこと「……うん。キマリさんの様子は?」

男「それがちょっと辛そうでさ……。でも君の顔を見たら元気出ると思うよ」

みこと「うん……」

男「ほら、あの建物の中に――」

チョンチョン

みこと「……?」

秋槻「走るよ」

ギュッ

みこと「え、でも――」

秋槻「いいから」

グイッ

みこと「わ――!」


タッタッタ

 タッタッタ


男「でも、君みたいな純朴そうな子は騙されないか心配だなぁ……俺みたいなさ……って、あれ?」





―― 京都駅構内


栞奈「どうするの!? もう5分切ったけど!!」

日向「分かってるよ!」


報瀬「日向! 日向ー!」


日向「ど、どうしたー!」


報瀬「いた、居たーー!!!」


日向「マジか!!」

栞奈「どこー!?」



報瀬「いま構内に入ってきたー!!」



一輝「というかお前ら、騒ぎすぎ……」


ざわざわ

 ざわざわ


「なに、あの子たち……」

「どうかしたのか?」
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/09/30(月) 19:00:10.92 ID:lslAk4Kwo


秋槻「彼女なら、もう乗車してるから……!」

みこと「え……っ?」

ダダダダッ


日向「あぁ! 居たー!!」

栞奈「おー、速い速い」

一輝「俺たちも走るぞ!」


男「ちょ、待てよー!」


秋槻「追ってきた……!?」

みこと「はぁっ……はぁっ」


男「俺の妹に手を出すんじゃねええええ!!」


秋槻「え!?」

みこと「な、なに……?」


ざわざわ

 ざわざわ

「なにあの人……」

「歳の離れた子を連れまわしてるの〜?」

「最低だな……」


秋槻「ぐっ……!」


日向「秋槻さんそのまま走れー!!」


秋槻「よ、よし……!」

グイッ

みこと「……っ」


男「その手を離せぇぇええ!!」


秋槻「念のため聞くけど、あの人知り合いじゃないよね!?」

みこと「うんっ、知らないっ」

秋槻「じゃあっ……そのままデネブまで全力で……!」

みこと「うん!」

ダダダダッ
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/09/30(月) 19:01:28.38 ID:lslAk4Kwo

秋槻「――ッ!」

みこと「〜〜ッ!」

ダダダダッ

ポロッ


みこと「……?」


コロンコロン


みこと「なにかっ……落ちっ」

秋槻「あ、あぁっ、しまった……!」


報瀬「いいからそのまま走って!」


秋槻「いやっ、それは出来ないッ!」


報瀬「私に――、日向に任せて!」


秋槻「――分かった! いくよ!」

みこと「う、うん!」


報瀬「日向!!」


みこと「……っ?」チラッ


日向「――!?」


報瀬「……ッ」クルッ

ダダダダッ


みこと「えっ!?」

秋槻「?」


報瀬「いいから前見て走って!」


みこと「それだけ……っ!?」

秋槻「どうしたの……!?」


報瀬「大丈夫だから! 私と日向を信じて!」


秋槻「あ…あぁ……ッ!」

グイッ

みこと「ッ!」

ダダダダッ
264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/09/30(月) 19:02:17.29 ID:lslAk4Kwo

駅員「なんだ? ……え、ちょっと……!」


...タッタッタ


秋槻「デネブの乗客ですっ!」

みこと「乗車証ですっ!」


駅員「は、はい……」


タッタッタ...


駅員「……???」


...タッタッタ


報瀬「乗車証です!」


駅員「は、はい」


タッタッタ...


駅員「乗り遅れそうだから急いでいるのか……?」


...タッタッタ


駅員「また来た……」


日向「乗車証!」

栞奈「同じく!」

一輝「後ろのヤツ、不審人物なので注意してください!」


タッタッタ...


駅員「……不審……?」


男「くそッ……はぁっ、はぁ……こんなことになるなんてッ……!」


駅員「君、ちょっといいかな」


……


265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/09/30(月) 19:04:01.20 ID:lslAk4Kwo

―― デネブ


結月「あ、あぁ……みこと……!」


秋槻「はぁっ……はぁ…っ」

みこと「はぁッ……ハァッ……ッッ」


結月「良かった……」ホッ


報瀬「ふぅ……ふぅ……」

みこと「報瀬っ……さんっ……電話……ッ」

報瀬「大丈夫、日向は気付くから」

秋槻「ほ、本当に……? ふぅ……はぁ……」

報瀬「多分」

秋槻「いやいや、多分じゃ困るんだってっ! 拾えてなかったら……!」

みこと「はぁ……ふぅ……ふぅ」

秋槻「いや……落とした俺が悪いんだけどさ……」

結月「どうしたんですか?」

みこと「秋……つ…き……さんが……携帯を……っ」

報瀬「みことは呼吸整えてて」

秋槻「俺が走ってる途中で携帯を落としてしまって……」


...タッタッタ


栞奈「よっしゃ、いちばーん!!」

一輝「……ふぅ、なんとか間に合ったな」

日向「ふぅ〜……で、この携帯」

秋槻「あ……!」

日向「……はい、どうぞ」

秋槻「ありが……ん?」

結月「……ヒビが入ってますね」

日向「踏んだとか蹴ったとかじゃないですよ?」

秋槻「これくらいなら大丈夫。通話できればいいから……はぁ、助かった……ありがとね」

日向「いえいえ〜」

栞奈「いきなり報瀬が叫んだときはびっくりしたね」

一輝「……あぁ」

日向「なにかあるなって思っててさ、そこに携帯が落ちてたわけだ。
   どこかで見たことあるな、と思ってピンと来たわけよ、拾うべきだとね」

みこと「……すごい」
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/09/30(月) 19:05:06.99 ID:lslAk4Kwo

prrrrrr


報瀬「あ……! キマリ……!!」

結月「あー……どうしましょう?」

栞奈「もう出発だけど……」

日向「しょがない、私が残って――」


「みんなおかえり〜……ふぁぁ」


結月「え」

日向「え?」

報瀬「えぇ?!」


マリ「乗らないの?」


栞奈「乗ってたの?」

一輝「……あの騒ぎはなんだったんだ」


秋槻「あれ……? あれ……!?」

みこと「どうしたの?」

秋槻「こっ、壊れてるっ!」


マリ「ほら、早く乗ってよ。出発できないよ〜」


日向「……」

報瀬「……」

結月「……」

スタスタスタ...


マリ「なんで無言乗車してるの?」


みこと「出発だよ?」グイッ

秋槻「嘘だろ……!?」

スタスタスタ...

一輝「ふぅ……こういうオチか」

栞奈「あははっ」


プシュー


……



267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:12:31.62 ID:dVGs9va+o

―― 展望車


マリ「電話を鳴らせばよかったんじゃないの?」

結月「……」

報瀬「……」

日向「それで、どうなったスタンプラリー」

結月「はい、スタンプを回収したので、後は抽選ボタンを押すだけです」

報瀬「誰が押す? 運がいい人がいいよね」

マリ「ねぇ、電話を鳴らせばみこっちゃんに連絡取れたんじゃないの?」

日向「この中で運を持ってる人って誰だ?」

結月「私たちは運を持ってるとは言えないのでは……?」

報瀬「……どちらかというと、キマリかな」

マリ「ねぇねぇ、電話を――」

日向「うるさい」ムニー

マリ「でんふぁふぉなふぁふぇはほはっへ」


栞奈「おー、伸びる伸びる」


結月「あ、栞奈さん」

栞奈「ん?」

結月「秋槻さん知りませんか?」

栞奈「さぁ……分からないね」

結月「……そうですか」

報瀬「何か用事?」

結月「まぁ、今までのお礼みたいなものです。当選すればですけど」

日向「景品をあげるってことか」

結月「そうです」

マリ「……あ」

栞奈「どうかした?」

マリ「栞奈ちゃんに昨日のお礼を買うのすっかり忘れてた」アハハ

栞奈「……いいっていいって、お礼をもらうためにしたわけじゃないからさ」フッ

日向「そっか……じゃあ、どうしようか」

結月「そうですね……せっかくですから、みんなでいただきましょうか」

報瀬「うん」

マリ「用意したの?」

日向「新京極でな」

栞奈「え、なに?」

結月「有名な老舗土産屋で買ったんですけど」

栞奈「いやぁ、なんか悪いねぇ、催促したみたいで」スッ

報瀬「その手は?」

栞奈「頂戴いたします」

結月「はい、どうぞ。昨日はありがとうございました」

栞奈「こっちこそありがと〜!」
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:14:07.60 ID:dVGs9va+o

マリ「生八つ橋だね」

日向「本当、裏表無いよな栞奈って」

結月「そうですよね……自分に正直って言うか」

報瀬「学校の人気者って感じ」

栞奈「そうでもないけどね〜。そうだ、これ、みんなで食べようよ」

日向「もう開けるのか? 栞奈のだから別にいいんだけど」

結月「家族の方にお土産として持って帰ってはどうですか?」

栞奈「……やっぱりみんなで食べようよ。うん、それがいい」

バリバリバリ

マリ「濃いお茶があるといいよね」

日向「じゃーんけーん!!」

報瀬「え!?」

日向「ポォン!!」パー

マリ「ポン!」チョキ

結月「いきなりですかっ!」チョキ

報瀬「っっ!」グー

日向「……ふむ」


一輝「またここで集まってるのか……撮影中じゃないよな」


栞奈「一輝〜、グーとチョキとパー、どっち?」

一輝「……なにが?」

栞奈「いいから〜」

一輝「チョキ……?」

栞奈「いまね、お茶を誰が用意するかのじゃんけんをしてたんだよね」

一輝「……それで?」

栞奈「残念だけど……一輝の負けとなりました」

一輝「……マジかよ」

スタスタスタ...


結月「騙されて行ってしまいましたけど……」

マリ「いいの?」

栞奈「一緒に食べれば大丈夫だから、問題なし」

日向「報瀬、遅れて出したのになんで引き分けになるんだ?」

報瀬「今日も一日が終わろうとしている……夕陽が寂しく感じる」

日向「遠い目するな。反射神経は悪くないはずなのにな」

結月「話を戻しますけど、抽選ボタン誰が押します?」

マリ「結月ちゃん押していいよ」

結月「……いえ、私が押したら外れそうです」

マリ「いいよ、そんなの気にしないで」

結月「…………」
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:15:38.57 ID:dVGs9va+o

報瀬「どうしても当てたいの?」

結月「お礼というのもありますけど、応援したいんですよね」

日向「応援?」

マリ「大きい仕事をもらえそうって言ってたね。そのこと?」

結月「それは知りませんけど……そうなんですか?」

マリ「うん。だから、これから缶詰になるって」

報瀬「なにそれ?」

栞奈「個室に籠って集中して書くってことでしょ……もぐもぐ」

日向「……帰らないのかな?」

結月「そうですよね、仕事ですから……」

マリ「私が金沢でなわとび大会に出たいって言ったから」

結月「……」

日向「それって結構無茶だよな……」

報瀬「……うん」

栞奈「私が押していい?」

結月「運は強い方なんですか?」

栞奈「まぁね〜。母さんも強運だったらしいけど、私が産まれて普通になったって言ってた。
   だから、母譲りの運の持ち主なのだよ」

マリ「なぜか説得力がある……!」

結月「では、どうぞ」

栞奈「そいやっ」ポチッ

日向「ためらいもなく……」

結月「あ……」

報瀬「どうだった?」

結月「当たりました」

日向「なんだ、期待させといてこれかよ〜」

栞奈「あはは、ごめんごめん」

マリ「そうそううまくいかないよね」

報瀬「結果とリアクションが違う気がする。結月、もう一回教えて?」

結月「はい、当たりました」

日向「え?」

マリ「なんだって?」

結月「ですから、当たったんです」

日向「これは私のだ!」

マリ「私のだよ!」

栞奈「押したの私だからね!」

結月「なんて醜い争い……」

報瀬「キマリと栞奈、スタンプラリーに参加してないよね」

マリ栞奈「「 冗談だよ、冗談〜 」」

日向「それ、二名様だろ? 秋槻さんと誰がご招待されるんだ?」

結月「この中の誰が行っても後々揉めそうなので、みことでいいのではないでしょうか」」

報瀬「確かに、揉めそう……」
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:17:02.49 ID:dVGs9va+o


一輝「ほら、持ってきたぞ……って、もう食べてるのかよ」


栞奈「ありがと〜。ほら、一緒に食べよ」

一輝「いいのか?」

栞奈「いいでしょ?」

結月「栞奈さんに渡したものですから」

報瀬「うん、栞奈が決めること」

栞奈「ってことで、いいよ」

一輝「じゃあ、いただきます……」

マリ「もぐもぐ……ずずーっ……おいしいね〜」

日向「みことはまだ戻ってこないか……聞きたいことあるんだけど」

栞奈「どこ行ってるの?」モグモグ

日向「日記書くって個室に行ったまま」

栞奈「へぇ、日記書いてるんだ〜。私なんて一回書いたらそれっきりだけどなぁ」

一輝「せめて三日は書けよ」

マリ「聞きたいことって? もぐもぐ」

結月「……キマリさん、遠慮なしに食べてませんか?」

マリ「お腹空いちゃって」

日向「キマリさ、ずっと部屋に居たんだろ?」

マリ「うん、居たよ」モグモグ

報瀬「みことが確認しに行ったはずなんだけど……?」

マリ「寝てたからかな。本読んでたら眠くなっちゃって……朝早かったし」

日向「あぁ、なるほど、そういうことか……謎が解けたな」

一輝「呼びかければ起きるんじゃないのか? ……どういうこと?」

結月「それは――」

報瀬「寝ることに関して、キマリは人智を超えているから」

マリ「ひ、ひどい! ……よね? ひどいこと言われたよね?」

日向「多分ひどくない」

マリ「そっか」

一輝「納得するのか……」

栞奈「そう簡単に起きないってこと?」

日向報瀬「「 うん 」」

結月「ですね」

マリ「そんなことないよ」

結月「寝相悪いし寝言は言うし寝起き悪いし」

日向「歯ぎしりするしイビキ掻くし」

マリ「ウソッ!?」

日向「うっそだよん♪」

マリ「もぉー!!」

日向「あはは」
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:18:22.22 ID:dVGs9va+o

報瀬「待ち合わせには来なかったの?」

マリ「ううん、行ったよ。だけど、暑かったから本屋さんで立ち読みしてたんだ〜」

一輝「それでその本を買った、と」

マリ「おぉ、よく分かったね?」

結月「本を読んでたって言ったじゃないですか」

日向「何の本を買ったんだ?」

マリ「みこっちゃんのお母さんが書いた本! 探偵のヤツ!」

栞奈「教師が犯人のやつかぁ」

マリ「え……」

ポトッ

報瀬「生八つ橋が落ちたでしょ!」

マリ「い、いいもん! 私、ネタバレされても楽しめるからね!」

結月「そんな人出てきませんから安心してください」

マリ「ちょっ、もぉー!! なんで嘘吐くの!?」

栞奈「からかいたくなっちゃってね、えへへ」

一輝「えへへじゃないだろ、ショック受けてたぞ」

日向「ネタバレされても楽しめる人っているよな」

結月「答え合わせ感覚らしいですよ。そういう楽しみ方なんでしょうね」

栞奈「はい、キマリが落とした罪」

一輝「なんで俺が罰を受けるわけ?」

結月「って、また話が逸れてます!」

マリ「なんだっけ?」

報瀬「ご招待される二人は、秋槻さんとみことでいいよねって話」

日向「いいよ、それで」

マリ「うん……」

結月「反対ですか?」

マリ「……そういえば、なんで手をつないでたの?」

日向「変な男に絡まれてたんだよ」

結月「助けてくれたみたいです。本当に良かったですよ」

報瀬「乗り遅れてたら、どうなっていたことか」

栞奈「手を引かれて走って行くみことちゃんは、
   まるで教会から連れ去られる花嫁みたいだった……」

一輝「なんだよそれ」モグモグ

栞奈「あれ、知らない? そんな映画があるんだけど」

一輝「知らん」

栞奈「え、みんなは?」

マリ「私も知らない」

日向「……知らないな」

結月「聞いたことはあります」

報瀬「……」

栞奈「君たち、もっといい映画を観たまえ。映画はロマンだよ」

一輝「おいしいなこれ」
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:19:18.95 ID:dVGs9va+o

結月「では、秋槻さんとみことにこの事伝えに行ってきますね」

日向「うん、じゃあ後でなー」

結月「はい、また後で」

スタスタスタ...

報瀬「結局、キマリは観光出来なかったの?」

マリ「うん……公園に行って、本屋に寄っただけだから、そういうことになるね」

一輝「家の近所の行動範囲とあまり変わらない気がするな」

日向「非日常の中にも日常はあるのだ。人はそれを無意識に行い安心を求めるのである」

栞奈「誰の言葉?」

日向「ナタケ・ヒヤミ」

マリ「南国に住んでる人っぽい名前だね」

栞奈「意外と身近にいそうな名前だと思うけどね」

マリ「うん?」

一輝「……」

報瀬「……あぁ、アナグラム」

日向「すぐ解っちゃったか〜」

マリ「?」


……



273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:20:25.17 ID:dVGs9va+o

―― 秋槻の個室


コンコン

結月「……」


ガチャ

秋槻「はい……って、どうしたの?」

結月「忙しいところすいません、少しよろしいでしょうか」

秋槻「うん、なにかな」

結月「用件を手短に伝えます。スタンプラリーでの景品なんですけど」

秋槻「あぁ、あれね。どうだった?」

結月「運良く当選しました」

秋槻「おぉ、凄い」

結月「それで、今までのお礼として秋槻さんに受け取って欲しいんです」

秋槻「……いいよ、そこまで気を遣わなくて。
   それに、これから用事があって時間があまりなくてね」

結月「一時間程度でも、空けられませんか?」

秋槻「一時間か……」

結月「いままでお世話になってますから、これくらいさせて欲しいんです」

秋槻「……」

結月「私たちの感謝の気持ちです」

秋槻「…………分かった。それじゃ、お言葉に甘えようかな」

結月「あ…ありがとうございます。それでは、えっと……正装でお願いしますね」

秋槻「?」

結月「スーツ、持ってきていませんか?」

秋槻「一応、仕事まわりがあったから、用意はしてあるけど」

結月「じゃあそれでお願いします。それでは、また後で時間は伝えますから」

秋槻「うん……じゃあ」

バタン

結月「……よし、それじゃ、あとは……」


……


274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:21:24.31 ID:dVGs9va+o

―― みことの個室


コンコン

結月「……」


ガチャ

みこと「はい……結月さん?」

結月「用事はもう済んだ?」

みこと「……うん」

結月「じゃあ、ちょっと時間いい?」

みこと「うん」

結月「日の入りするくらいの時間に食堂車に行って欲しいんだけど」

みこと「……?」

結月「ほら、スタンプラリーの景品」

みこと「私が?」

結月「うん、遠慮しなくてもいいよ。みんなの了解を得てるから」

みこと「どうして?」

結月「それは……」

みこと「?」

結月「ケンカになるから。というか、なったから」

みこと「そうなんだ……」

結月「いい?」

みこと「うん……ありがとう」

結月「お礼はキマ…リさんはなにもしてないから、日向さんたちに」

みこと「……もう一人は?」

結月「私も行くから安心して」

みこと「……うん」

結月「じゃあ、準備しようか」

みこと「準備?」

結月「せっかくの豪華料理なんだから、おめかししないとね」


……


275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:23:05.77 ID:dVGs9va+o

―― 食堂車・厨房


料理長「なんだって?」

マリ「バイトをさせてください!」

料理長「……どうして」

マリ「そのぅ……持ち合わせが厳しくなってきましてぇ」

料理長「ふぅ……。あのね、君たちを特別扱いは出来ないんだよ?」

マリ「うぅ……」

綾乃「いいじゃないですか、少しくらい手伝ってもらえば」

料理長「その少しが特別扱いだって言ってるんだよ。やるなら最後までやらないと」

マリ「最後……終点までですか?」

料理長「その通り」

マリ「そ、それは……」

綾乃「これからコースメニューを作るわけですから、人手はあった方が困りませんよ」

料理長「まったく……。接客の経験は?」

マリ「コンビニ店員をしていました!」

料理長「料理は?」

マリ「家事手伝いを毎日!」

料理長「ふぅん……」

綾乃「すごーい」

マリ「炊事、洗濯、掃除、買い物、映画鑑賞、町内会の清掃、やってます!」

料理長「映画鑑賞は趣味だな……。一つ聞いていいか?」

マリ「はい……?」

料理長「どうしてそこまで頑張るんだ?」

マリ「目指している場所があるからです。
   今度は大人の力を借りず、自分たちの力でその場所へ行けるようになるため、です!」
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:23:59.53 ID:dVGs9va+o

綾乃「もしかして、あの場所?」

マリ「そう、あの場所!」

料理長「知ってるのか?」

綾乃「はい……。そんなにいいところだとは思えないけど……」

マリ「私たちにとっては最高の場所」

綾乃「――……」

料理長「……分かった。それじゃ手伝ってもらおう」

マリ「やった! ありがとうございます! 頑張ります!」

料理長「ただし」

マリ「?」

料理長「給料は出せないからな」

マリ「え?」

綾乃「じゃあ、報酬は?」

料理長「これから朝食は無料にする。それでどうだ?」

マリ「――! ありがとうございます!」

料理長「それじゃさっそくだが、野菜を切ってくれ、明菜に聞けば教えてくれる」

マリ「アキナ?」

綾乃「もう一人の店員だよ。今接客してるから、代わって来る」

マリ「う、うん……。あのお姉さんかぁ……」

料理長「ほら、ディナーを楽しみにしてるお客さんが来るよ、しっかりしな」

マリ「はい!」


……


277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:24:51.69 ID:dVGs9va+o

―― 2号車


日向「なんだって?」

報瀬「だから、食堂車でバイトしてるって」

日向「……どうして」

報瀬「暇なんじゃないの?」

日向「ふぅん……よくやるなぁ」

報瀬「……」

日向「まぁ、暇って言えば暇だな」

報瀬「うん」

日向「……」

報瀬「……」


ガタンゴトン

 ガタンゴトン


日向「ゆづは?」

報瀬「さくらさんと一緒にみことの準備してる」

日向「大村と栞奈は?」

報瀬「1号車で漫才やってる」

日向「秋槻さんは缶詰か……」

報瀬「……うん」

日向「暇だな」

報瀬「うん」


……


278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:25:36.68 ID:dVGs9va+o

―― 売店車


店員「いらっしゃいませ」

報瀬「何買うの?」

日向「キマリに観光ガイド買っとけって言われてたからさ。
   ということで、くださいな〜」

店員「はい、どうぞ」

日向「ありがとうございまーす」

報瀬「次は名古屋ね」

日向「そだな〜。そして、その次は金沢――」

報瀬「あっという間に」

日向「あ〜〜!!」

店員「!?」ビクッ

報瀬「なに、どうしたの!?」

日向「れ、練習してない!」

報瀬「なにが!?」

日向「なわとびの練習!」

報瀬「あ、そう……」

日向「もう登録は済ませちゃってるから……ん?」

報瀬「……」ジー

店員「……」ジー

日向「急に大声出してすいませんでした」ペコリ


……



279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:27:03.52 ID:dVGs9va+o

―― 寝台車


報瀬「登録したって、10人を?」

日向「うん、したよ。当日受付でも良かったみたいだけどな」

報瀬「あと一人って誰?」

日向「さぁ? 食堂車でウェイトレスしてる人かな?」

報瀬「綾乃ちゃんともう一人の方?」

日向「うん」

報瀬「歳、同じくらいかな」

日向「多分、二つくらい上だと思う。ここだっけ、みことの個室?」

報瀬「うん」

日向「おーい」

コンコン

「はーい」

報瀬「……」

ガチャ

結月「どうしたんですか?」

日向「暇だから様子を見に来たのだよ」

結月「そうですか。もうすぐ終わりますよ」

日向「どれどれ〜?」

報瀬「ちょっと、親しき中にも礼儀ありよ?」

結月「はい、そういうことなので下がってください」

日向「なんだ、その素っ気ない態度は、何を隠しているんだ!? 話してみなさい!」

結月「お父さんには関係ないでしょ、放っておいてよ!」

バタンッ

日向「……」

報瀬「……」

日向「悪いことしたな」

報瀬「うん」

ガチャッ

結月「なんで引くんですか……ノッたのに……!」

日向「いや、まさかの展開に戸惑っちゃって……」

報瀬「ごめん……」

結月「もういいです。それでは、また後で」

バタン

日向「ごめんな、今度はうまくやるから」

報瀬「もう次は無いと思うけどね」

日向「うん、私もそう思う……」


……


280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:28:25.80 ID:dVGs9va+o

―― 食堂車


日向「なんか、最近のゆづ……らしくないよな?」

報瀬「……そうね、確かに」


綾乃「いらっしゃいませ」


日向「あれ、キマリは?」

綾乃「中に居ますよ」

報瀬「様子はどう?」

綾乃「料理長の扱きに頑張って付いて行ってますよ」

日向「あはは、そうなんだ」

綾乃「お食事ですか?」

報瀬「うん」

綾乃「では、こちらへどうぞ」

報瀬「コンビニでのキマリはどうなの?」

日向「まぁ、うまくやってるよ。先輩の教えがいいからなぁ〜、えっへん」

報瀬「はいはい」

綾乃「ご注文はお決まりですか?」

日向「どうしよっかな〜」

報瀬「あ、今日はイタリアンなんだ?」

綾乃「そうです、今日のおススメです。
   料理長なんでも作れちゃうから私も驚いてますね」

報瀬「どんな人?」

綾乃「厳しいですよ。厨房に居る時は時間を無駄にするなーって言って、目が怖い」

日向「よし、決めた」

報瀬「大丈夫かな、キマリ……」

綾乃「大丈夫ですよ。厳しいのは料理を本当に大切に想ってるからで……」

報瀬「あぁ、そういうの、なんとなく分かる」

日向「ラザニアお願いしまっす」

綾乃「はい、ラザニアですね」

日向「報瀬は?」

報瀬「え? えっと……」

綾乃「こちら、おススメですよ」

報瀬「じゃあ、それで」

綾乃「カルボナーラですね、かしこまりました。少々お待ちくださいませ」

スタスタ......

日向「いいのか?」

報瀬「なにが?」

日向「いや、別に」

報瀬「?」
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:30:23.51 ID:dVGs9va+o

日向「もう旅も終盤だな〜」

報瀬「デネブはまだまだ中盤でしょ」

日向「それはそうだけどさ。なんていうの、終わりが見えてくると感じるこの寂しさ」

報瀬「まぁ、それは分かるけど」

日向「キマリはどうするって?」

報瀬「さぁ、分からない。最後まで行くかもしれないし、行かないかもしれないし」

日向「なんだよ、それ」フフッ

報瀬「ふふ、さぁ?」


……




報瀬「夕陽が綺麗……」

日向「ん〜……、流れていく景色の中、その夕陽を見ながらディナーを楽しめるなんて」

報瀬「もう経験できないかもね」

日向「そうだなぁ〜。やろうと思わない限りはできないな」

ガタンゴトン

 ガタンゴトン

報瀬「この経験をまた味わいたいって思える日が来ると思う?」

日向「分からないけど……多分、思うだろうな〜」

報瀬「……」

日向「……ところでさ、報瀬」

報瀬「うん?」

日向「駅の売店で弁当買おうとしたのは、ご飯が食べたかったからだろ? お米的なご飯を」

報瀬「そうだけど?」


綾乃「お待たせしました、ラザニアとカルボナーラになります」


報瀬「あ゛ッ!?」


綾乃「え!?」


日向「変な声出してすいません〜。この人、たまーに声芸してしまうんですぅ〜」

綾乃「そ、そうですか……びっくりした。……声芸って……なんだろ?」

報瀬「なんで止めなかったの日向!」

日向「いや、聞いただろ? いいのかって」

報瀬「ちゃんと教えてくれないと気付かないでしょ!」

綾乃「どうしました?」

日向「ライスを食べたかったらしいです」

綾乃「……」
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:32:08.65 ID:dVGs9va+o

報瀬「どうして私はカルボナーラ?」

日向「そんなこと私に聞かれてもな……。
   というか、そういうタイトルの曲ありそう」

綾乃「あぁ、分かる分かる。えっと、それでしたら、少々お待ちください」

日向「あ、いいですよ、それで。な、報瀬?」

報瀬「う、うんうん。カルボナーラの気分だったから」

綾乃「そうですか? それでは、どうぞごゆっくり」

日向「さすがに作り直しさせる程じゃないよな」

報瀬「うん……。でも、食べられないと思うと余計に食べたくなる」

日向「耐えた後の幸福はそれ以上の幸福である」

報瀬「どういう意味?」

日向「え? ……例えば……喉が渇いているときに水を飲むととってもうまいってなる」

報瀬「……」

日向「でも、二口目は一口目よりの満足感は無い。と、そういうことだな」ウンウン

報瀬「ふぅん……。自分で言って理解してるでしょ」


綾乃「失礼します。こちらをどうぞ」


報瀬「え?」

日向「ん?」

綾乃「あちらの方からサービスです」



マリ「ふふふ」グッ



報瀬「あぁ、うん……ありがとう」


綾乃「それではごゆっくりどうぞ」

スタスタスタ...


日向「キマリのサービスか」

報瀬「カルボナーラに白ご飯……」

日向「交換する? ラザニアの方が合いそうだけど」

報瀬「……ありがと。でも、せっかくだから、これで」

日向「そうか……」


……


283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:33:53.90 ID:dVGs9va+o

日向「ごちそうさま〜。ふぅ〜、おいしかった」

報瀬「もぐもぐ……」

日向「ご飯残ってるぞ」

報瀬「うん……もぐもぐ」

日向「ふりかけでもあればもらうか?」

報瀬「うん……もぐもぐ」

日向「すいませーん……って、いないな」

報瀬「……なんだか、お客さんが少ない気がする」

日向「確かに……。もう時間過ぎたかな」


綾乃「すいません、呼びましたか?」


日向「あぁ、うんうん、呼んだの私。悪いんだけど、ご飯に合うモノってなにかないかなって」


綾乃「……カルボナーラとは合いませんでしたね。少々お待ちください」


日向「ごめんね〜?」


「いえいえ〜」


報瀬「ありがと、代わりに言ってくれて」

日向「別にいいけどさ。見てても喉通らなさそうで大変みたいだから……ん?」

報瀬「どうしたの?」

日向「キマリが来た」


マリ「どうでしたか、今日の料理は」


報瀬「まるで自分が作ったみたいに……」

日向「大変美味しくいただけました。シェフはどちらで料理の勉強を?」

マリ「フランスやイタリーア、トルコにて修行を積んできました」

報瀬「そのエプロンで言っても説得力無いよ?」

マリ「本当です。本人に聞きましたので」フフン

日向「料理長の実力は本物ってことか。キマリがしたり顔なのがよく分からな……ん?」

マリ「なにか?」

日向「向こうで綾乃ちゃんが慌ててるみたいだけど、なにかあったのかな?」

マリ「え?」

報瀬「キマリが遊んでいるからでしょ」

日向「というか、なんでキマリが来た?」

マリ「私の提供した料理に不満があるのではと、責任の重さを感じましたので」

報瀬「気持ちは嬉しいんだけどね……」

日向「提供した料理って……ご飯よそっただけだろ?」

マリ「その通りでございます」

報瀬「本当に遊んでるよね、キマリ」

日向「あ……」

マリ「どうかしましたか?」
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:35:41.35 ID:dVGs9va+o

「……」


報瀬「……後ろ」


マリ「?」


「玉木さん、ここで何をしているんですか?」ニコニコ


マリ「う……! 明菜さん……!」

明菜「どうして持ち場を離れているんですか? 
   どうしてその格好でお客様の前に立っているんですか?」ニコニコ

マリ「こ、これは……そのぉ」

明菜「チーフは許可したんですか?」ニコニコ

マリ「い、いいえ……」

明菜「それでは戻りましょう。仕事の途中ですから」ニコニコ

マリ「はい」

明菜「失礼をしてしまいました。申し訳ございません」ペコリ


日向報瀬「「 いえ、とんでもない 」」


マリ「……」

スタスタスタ...


報瀬「……」

日向「いい先輩じゃないか……」


結月「肩を落として歩いてましたけど、どうしたんですか、キマリさん」


報瀬「バイト中に遊んでいたから怒られてたところ」

結月「どうしてバイトを?」

日向「暇なんだろ。そんなことより、みことは――」

結月「はい、ここにいます」


みこと「……っ」


日向「おぉ……」

報瀬「綺麗……。ん……? 綺麗? 可愛い……?」

結月「みこと、見た目は大人びていますからね」

みこと「客車歩くとき、恥ずかしかった……」

日向「ドレスアップした娘が歩いてるから注目されるだろうな」

結月「それじゃ、私も着替えてくるから」

みこと「うん……」

結月「それでは」

スタスタスタ...

報瀬「着替える……?」

日向「仕事じゃないか? まだ撮影があるんだろ」

みこと「……?」
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:37:03.08 ID:dVGs9va+o

報瀬「それより、みこと、似合って――」

日向「おっと、報瀬……それを言うのは私たちじゃないよね」

報瀬「え? ……あ、あぁそうね」

みこと「???」

日向「レリィを待たせるなんて――って、言ってるそばから来た」

報瀬「あっちも正装なんだ……」

みこと「え――……え?」


秋槻「お待たせ……? したのかな、詳しく話は聞いてないんだけど」


みこと「どうして……秋槻さん……?」


日向「ゆづから話は?」

秋槻みこと「「 ううん、聞いてない 」」

報瀬「……要は、二人にディナーを楽しんでもらおうという話」

日向「そういうことなので、じゃあな〜」ガタ

報瀬「じゃあね」

スタスタスタ...


みこと「えっ……! ま、まって……!」

秋槻「あぁそっか。二名様招待って書かれてたからそうだよな」

みこと「……っっ」

秋槻「あー……せっかくだから、一緒に食事を楽しめたら助かるな」

みこと「…………」

秋槻「嫌じゃなければ」

みこと「……嫌じゃ、ないよ」

秋槻「良かった。……それじゃ」

スタスタ...

みこと「?」

秋槻「どうぞ」スッ

みこと「……うん、ありがとう」ストッ

秋槻「レディーファーストの基本だからね。って、言うことじゃないんだけど」

みこと「……」

秋槻「さて……何も聞いていないんだけど……どうなるんだろう、これは」

みこと「……分からない」


綾乃「いらっしゃいませ」


秋槻「説明を聞いてもいいかな」

綾乃「今日はフランス料理のフルコースとなっております」

秋槻「……そうなんだ」

綾乃「?」

秋槻「いや、なんでもない」
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:38:24.10 ID:dVGs9va+o

綾乃「食前酒はどうされますか?」

秋槻「オレンジジュースでお願いします。それでいい?」

みこと「う、うん」

綾乃「かしこまりました」

スタスタスタ...


秋槻「特にこれといった説明は無かったから、純粋に料理を楽しもうか」

みこと「……うん」



―― 厨房


料理長「どうだった?」

綾乃「女の子、琴ちゃんが緊張してました」

料理長「そうか……。出番だ、玉木」

マリ「はい……?」

明菜「いいんですか?」

料理長「ここは格式高い三ツ星レストランじゃないからな。教えてやってくれ」

明菜「分かりました。玉木さん、これがテーブルセッティングの内容で――」

マリ「はい……?」


……




マリ「失礼します」

みこと「キマリさん、その服……」

マリ「貸してくれた。ちょっと待って、話しかけないで……忘れちゃうっ」

みこと「う、うん……」

秋槻「……」

マリ「えっと……フォークが左で……スプーンが……」

秋槻「……ナイフの次…」

マリ「あ、あぁそうだったっ」アセアセ

みこと「……」

マリ「……あれ、余っちゃったけど……これなんだっけ」

秋槻「デザート用だから、上の方に」

マリ「そうだったそうだった。こっちに置くんだよね」

秋槻「そうそう……」

みこと「詳しいの?」

秋槻「一通り勉強したよ。恥かかないようにね。……活かされたことは無いけど」

みこと「……」
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:39:27.46 ID:dVGs9va+o

マリ「これでいいのかな?」

秋槻「うん、オッケーだね」

マリ「それでは料理をお楽しみください〜」

スタスタスタ...

みこと「……キマリさん、楽しそうだった」

秋槻「……そうだね。……どんな料理が出るか説明なかったけど……まぁ、それも楽しみにしていようか」

みこと「うん」


―― 厨房


明菜「ちゃんとできた?」

マリ「完璧です」

綾乃「……」

明菜「それじゃ、料理が出来上がるからチーフから受け取って配膳してね」

マリ「はい!」

明菜「……チーフの考えは正しかったみたいね」ニコニコ

綾乃「ですね……」


マリ「料理長、受取に来ました!」

料理長「もうちょっとまってて、すぐ仕上げるから」

マリ「はい、待ってます!」


明菜「玉木さん、本当に完璧だった?」

綾乃「えー……と、……はい」

明菜「それは良かった。私たちもチーフのフォローに入りましょう」ニコニコ

綾乃「はい。……キマリさんなりに完璧だったということにしよう」ウンウン

料理長「これでよし、と。はい、持って行って」

マリ「料理長、このソースはオリジナルですか?」

料理長「そうだよ」

マリ「行ってきまーす!」

テッテッテ

綾乃「走らなくていいから!」
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:40:32.08 ID:dVGs9va+o

―― テーブル


マリ「こちら、京野菜をふんだんに使った夏野菜サラダにございます」

みこと「ナス?」

マリ「そうです。からしのピリッとした食感をお楽しみください」

秋槻「おぉ……これは嬉しい。京都ではあまり観光出来なかったから」

マリ「ソースは料理長のオリジナルになります。絶対美味しいです」

みこと「食べたの?」

マリ「うん、途中だったけど、試食させてくれたよ」

みこと「そうなんだ」

秋槻「期待してしまうな」

マリ「それでは料理をお楽しみくださ……って、さっき言ったっけ?」

みこと「うん」

マリ「そういうことで、それでは失礼します」ペコリ

スタスタスタ...

みこと「……」

秋槻「それじゃ……いただこうか……」

みこと「……うん」

秋槻「……あれ」

みこと「……この感覚…」


みこと秋槻「「 デジャヴ? 」」


みこと「え?」

秋槻「え? なに?」

みこと「なんだか、経験したことあるような気がして……」

秋槻「あぁ、そうなんだ。実は俺も……」

みこと「……」

秋槻「せっかくの料理の前だ、変な顔してないでいただくとしようか」

みこと「うん」


……


289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:42:08.56 ID:dVGs9va+o

マリ「こちらオードブルになります」

秋槻「魚?」

マリ「そうです。……ハモだそうです」

みこと「これも美味しい?」

マリ「こっちは試食させてくれなかったよぉ。でも、絶対美味しいね間違いなく」

秋槻「……」

マリ「お兄さん……? どうしました?」

秋槻「うん、美味しいだろうなって思ってた」

マリ「えへへ、それはもう絶品ですからね。それでは料理をお楽しみください〜」

スタスタスタ...

みこと「……キマリさん、何回言うんだろう…」

秋槻「それにしても、君も慣れてる感じがするね」

みこと「そうかな?」

秋槻「雰囲気に馴染んでるというか、落ち着いてるというか」

みこと「うん……お母さんたちと一緒に行ったことあるから」

秋槻「……ふぅん、そうなんだ」

みこと「……もぐもぐ」

秋槻「ふむ……おぉ、やっぱり美味しい」


……




マリ「洋梨のベルエレーヌになります」

秋槻「ありがとう」

マリ「どうぞ」

みこと「……ありがとう」

マリ「料理は以上になります。それでは心行くまでお楽しみください」スッ

スタスタスタ...


みこと「最後まで言った……」

秋槻「楽しんで欲しいんだろうね。でも、そのおかげで楽しめたよ」

みこと「うん」

秋槻「そういえば、京都の観光はどうだった?」

みこと「楽しかった。映画村に一人で行ったよ」

秋槻「あぁ、聞いてるよ。スタンプラリーの為に別行動したって」

みこと「後で日向さんが来てくれて、ホッとした」

秋槻「見知らぬ場所で知ってる人がいると安心するよね」

みこと「うんうん。不安でドキドキしてたけど、それも新鮮で良かったと思う」

秋槻「……へぇ…」

みこと「いつも誰かと一緒だったから、それが当たり前で……」

秋槻「――……」
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:43:34.72 ID:dVGs9va+o

みこと「秋槻さん……?」

秋槻「え?」

みこと「どうかしたの?」

秋槻「あ、いや……急に懐かしいこと思い出してね……」

みこと「……なにかあったの?」

秋槻「別に、大したことじゃないんだけど」

みこと「……聞きたい」

秋槻「う、うん……。母親から聞いたことで、俺自身はあまり覚えてないんだけどさ」

みこと「うん」

秋槻「小さい頃、近所で迷子になって……。発見されたの隣町だったんだよ」

みこと「……」

秋槻「見つけた時の俺、平然としてたって」

みこと「……?」

秋槻「『お母さんから離れるとすぐ泣くくせに、心細くて泣いているだろうって、必死に探したのに、
   お前はなんにもなかった、むしろいいことがあったみたいにニコニコしてた』って言われてね」

みこと「どうして?」

秋槻「さっき、君が言ったように……小さい俺も、不安や怖さより好奇心の方が強かったのかもね」

みこと「……」

秋槻「親の気持ちも知らずに、見知らぬ場所でドキドキして楽しんでたのかな」

みこと「きっと、旅に出たかったんだよ」

秋槻「物心つかない子供が?」

みこと「うん」

秋槻「ははっ、それだと結構な大物だったよね、小さい頃の俺って」

みこと「うん……!」

秋槻「……やけに自信あり気に言うね」

みこと「私がそうだったから」

秋槻「……」

みこと「ずっと……してみたかったから。
    本の世界と同じように、現実の世界でも知らないことを知りたかった」

秋槻「そっか……なるほど」

みこと「うん……もぐもぐ。……おいしい」

秋槻「やっぱり正解だったかもな……」

みこと「……?」モグモグ

秋槻「なんでもない」


……


291 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:44:33.18 ID:dVGs9va+o

―― 物陰


「どう?」

「割といい雰囲気……」


マリ「なにしてるの?」



「「 うわぁ! 」」


マリ「?」


日向「べ、別に二人が気になったわけじゃないんだよ。な、なぁ、報瀬?」

報瀬「そ、そうそう。別にね、二人がどういう空気になってるのかなとか、ね」


結月「気持ちはわかりますけど、見つかったらあの二人がギクシャクしてしまいますから、
   注意してくださいね」

マリ「結月ちゃん……その格好ってことはお仕事?」

結月「そうです。これから食堂車をレポートしようと思って」


さくら「あら、あの二人……」


日向「あ、さくらちゃんも居たんだ……」

報瀬「しゅっ、修羅場……!?」ゴクリ

マリ「なんで修羅場?」


さくら「ふふっ、やっぱりいいライバルになれそうね……」キラン


結月「キマリさん、ウェイトレスの格好、似合ってますね」

マリ「そう!? ありがとう! 誰も何も言ってくれないからショックだったんだよ!」


ディレクター「それじゃ、白石さん始めましょう」

結月「はいっ!」

292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:46:15.68 ID:dVGs9va+o

―― テーブル席


みこと「……なにしてるのかな?」

秋槻「なんだか賑やかだね……って、カメラが来たけど」

みこと「結月さんの……レポート……?」


カメラ「……」ジー

結月「それでは、今回は食堂車を紹介したいと思います!」


日向「ゆづ……あの二人をネタにしようと……?」

報瀬「そこまで計算していたなんて……」

マリ「なるほど、そういう意図が……!」


結月「ありません」


ディレクター「……」


結月「あ……すいません。もう一度お願いします」


ディレクター「どう思います、家石さん」

さくら「そうですねぇ……そのまま続けてもいいかと☆」

ディレクター「……ですね。そのまま続けて」


結月「えっ、あ、はい!」


日向「私ら、邪魔になってるな」

報瀬「うん……。展望車にでも行こう」

マリ「そうだね」

日向「おまえは、あっちだろ」


明菜「玉木さ〜ん、食材たちを放置するんですか〜?」ニコニコ


マリ「よぉーし、頑張るぞぉー! 頑張りまーす! 頑張らせてくださーい!」

明菜「お静かに」ニコニコ

マリ「はい」

スタスタスタ...


綾乃「クスクス」


日向「うーん……ちょっと楽しそう……?」

報瀬「……かもね」

スタスタ...


さくら「あ、ちょっと待って二人とも」


日向報瀬「「 ? 」」


さくら「邪魔にはなっていないから、そこで観ていてくれない?」


日向「え……」

報瀬「あ……はい」
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:48:18.26 ID:dVGs9va+o

結月「お客さんがいますね、それではインタビューしてみましょう!」


秋槻「う……やっぱり来た……」

みこと「……」

結月「こんにちは。お二人はディナーの後のようですが、いかがでしたか、食堂車の料理は?」

秋槻「とても満足出来ました。三ツ星以上の評価ですね」

結月「高評価ですね。私もここで食事をしていますが、とても美味しくてその評価も納得できます」

みこと「……」

結月「それでは、二人はどういう関係ですか?」

みこと「え……!?」


日向「お、ズバッと聞いたぞ」

報瀬「どういうって……どう答えるんだろう?」

日向「楽しみだな」ワクワク


秋槻「旅仲間ですよ。始発から一緒に旅をしてきました」

みこと「……」コクリ

結月「お二人は元々知り合いだったのですか?」

秋槻「いえいえ、お互い知らない者同士で」

みこと「……」コクリ

結月「列車の旅を通して、二人でディナーを楽しむ仲にまで進展したんですね!」

秋槻「いや……それはどうだろう……ね?」

みこと「……」

結月「次は名古屋、この旅の中間地点ですが、
   お二人は通ってきた都市で印象に残った場所はありますか?」

秋槻「うーん……そうですね……」

みこと「広島……」

結月「なにか思い出があるのですか?」

みこと「駅について……コンビニで……カップラーメンを食べて……」


日向「あー、それを言うのか」

報瀬「え、なんで? なんでコンビニでカップ麺?」

日向「いや……美味しいかなと思って。……他にあるだろ、みことっ」


ディレクター「うーん、男の人はともかく、女の子がちょっと萎縮しちゃってるなー」

さくら「それはそれで味があっていいのでは?」

ディレクター「せっかくだから編集無しで使いたいんですよね」


日向「お蔵入りさせるのはもったいないな……よし、報瀬」

報瀬「嫌だ絶対に無理。なにがなんでもやらない。あり得ない」

日向「まだなにも言ってないのにそこまで拒絶するなよ!」

報瀬「じゃあなに?」
294 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:52:00.91 ID:dVGs9va+o

日向「……緊張が解れるようなことをアドバイスするか……報瀬が代わりに――」

報瀬「こういうときのキマリじゃない?」

日向「……だな。後者は聞くまでもなく拒否されたか」


結月「えっと……他には思い出に残った場所はありますか?」

みこと「……っ」

結月「それでは、これから停車する都市で行きたい場所は……?」

みこと「それは……金沢……の」

秋槻「君のお母さんの作品に――」

みこと結月「「 ? 」」

秋槻「旅先で出会ったばかりの人たちが食事を通して打ち解ける場面があったよね」

みこと「うん」

結月「……?」

秋槻「俺はあの場面が気に入ってて。実体験したらもっと気に入ってしまったよ」

結月「実体験ですか?」

秋槻「俺が印象に残った場所は福岡の中州で、この列車の旅仲間と共にその体験をしました。
   もちろん、彼女もその中の一人です」

みこと「――……」

結月「そうだったんですか。それでは、あなたも広島でそんな体験をしたんですね」

みこと「そう……です。とても不思議な……本の中に居るような体験」

結月「本の中……?」

みこと「きっと、この列車に乗らなかったら……私は一生、経験できなかったと思います」

秋槻「……!」

結月「……!」


さくら「あら……」

ディレクター「急に雰囲気が変わったね……」


みこと「思い返してみたら、広島だけじゃなくて……ここまでの全ての時間がそうです」

秋槻「……」

みこと「結月さんにインタビューされている今も、後で思い返すと不思議な――本の中にいるような、
    そんな不思議で素敵なかけがえのない時間になっていると思います」

結月「みこと……」


マリ「ちゃんと答えられてるよ?」

報瀬「う、うん……」

日向「だな」

マリ「じゃ、仕事に戻るね。あぁ、忙しい忙しい」

スタスタ

報瀬「インタビューに慣れたってこと?」

日向「いや、知らないけど……そうなんじゃないか?」


さくら「そういうのとは、ちょっと違うわねぇ」


……


295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/17(金) 15:44:53.67 ID:KOzKQsUKo

―― 草津


プシュー


日向「うわ……蒸し蒸ししてるな……」

報瀬「本当だ……暑い……」

日向「車内と外の温度差で体調が崩れそうだな……」

報瀬「気を付けないとね……。ほんと、暑い……」

日向「次で名古屋だから……。その次は金沢で……、高崎……」

報瀬「そこで降りるから……明々後日には地元に着く……」

日向「……ふむ」

報瀬「まだまだ先だと思ってたのに……」

日向「あっという間だったなぁ……」


栞奈「うわ、暑……!」

一輝「こんなに気温上がってたのか」


日向「私たちくらいだな、降りてくるの……」

報瀬「特に意味もなく降りたの私たちだけ……」

栞奈「他にやることないからねー」

一輝「暇人だな……。人のこと言えんけど」

報瀬「展望車にでも行ってくる」

日向「私もそうするかな」

栞奈「あ、じゃあ私も〜。一輝は外で一人、耐久試合してるんでしょ? 頑張ってね」

一輝「誰がするか。……そろそろ時間だから俺も行く」

栞奈「何の時間よ?」

一輝「テレビ見たいんだよ」


……


296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/17(金) 15:47:14.94 ID:KOzKQsUKo

―― 展望車


栞奈「え、食堂車でキマリが働いてて……」

一輝「あの二人がディナーねぇ……」

日向「うむ。美味しそうだったぞ」

栞奈「なんで、そんな面白いこと呼んでくれなかったのー!?」

日向「茶々入れるからだよ」

報瀬「おかげでいいシーンが撮れたってディレクターさんが言ってた」

栞奈「『おかげで』って酷い言い方するじゃないか」

一輝「それで、その二人は?」

日向「秋槻さんは仕事に戻って、みことは着替えに」

一輝「……そうか」

栞奈「あー? ひょっとしてみことちゃんのおめかし姿見たかったんじゃないのー?」

一輝「別に」

栞奈「まーた、クールぶっちゃって〜」

一輝「うるさいな、お前は」

日向「なー、報瀬」

報瀬「なに?」

日向「そろそろ、やっとくか?」

報瀬「……なにを?」

日向「勉強会」

報瀬「あー……、うん。やるなら、明日の朝、ここで、かな?」

日向「そだな」

栞奈「え、勉強するの? 旅の途中で?」

日向「そりゃ……私ら受験生だし」

報瀬「私は、どうするか分からないけど……一応」

一輝「進学しないってことですか?」

報瀬「他にやりたいことがあって……。でも、おばあちゃんは大学行けって」

栞奈「そんなの止めてさ、どうせするなら次の観光地の勉強しましょうぜ」

日向「変な誘惑するな。キマリの為でもあるんだからな」

栞奈「ほら〜、名古屋城にひつまぶし、シャチホコの遊覧船が私たちを待ってるんだよ〜」

日向「しゃ、シャチホコの遊覧船……!?」

報瀬「日向、喰いつかないで」

一輝「進学……か」

栞奈「ちょっと、なに真面目ムード出してるの! 楽しい旅の途中でさ!」

日向「そういうお前も真面目に勉強するべきじゃないのか!」

栞奈「私はいいの、やるべきことやってるから」

日向「…………」

栞奈「あ、疑ってるね」
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/17(金) 15:50:07.69 ID:KOzKQsUKo

報瀬「栞奈は進路どうするの?」

栞奈「だーからー! 現実なんてどうでもいいじゃないのー!
   もっとこう、ワクワクするような話しようじゃないか、諸君!」

一輝「それでいいのか?」

栞奈「いいよ、それで」

一輝「……栞奈がそれでいいなら、いいけどさ」

栞奈「いいって、言ってるでしょ」


一輝「……」

栞奈「……」


日向「……ん? なんだこの空気?」

報瀬「……さぁ?」

一輝「テレビ点けるけど、うるさかったら言ってくれ」

ピッ

日向「何を見るんだ?」

一輝「甲子園」

日向「ふーん……。野球ね……」

報瀬「好きなの?」

一輝「一応、野球部員なんです」

日向報瀬「「 えっ!? 」」

栞奈「私と同じリアクションだ」

一輝「ほとんど部に出てないから、補欠にもなれないんですけど」


『今年も夏がやってきた。世界で一番あつい夏が――。』


日向「それでも、わざわざこうやって見るくらいには好きなんだな」

一輝「まぁ、うん……」

報瀬「意外……」

栞奈「妹の面倒を見なきゃいけないから、早く帰らなきゃいけないんだよね」

日向「へぇ……」

報瀬「妹想いなんだ……」

一輝「チッ……いちいち言うなよ」

栞奈「舌打ちすることないでしょ。一輝の好感度を上げようとしただけなんだから」

一輝「余計なお世話だっての」


『この場所で、一度きりの夏を――。』


報瀬「そういえば、いつも思ってたんだけど」

一輝「?」
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/17(金) 15:51:39.03 ID:KOzKQsUKo

報瀬「女子って甲子園に出られないの?」

栞奈「だって……それは、ねぇ?」

日向「……なぁ?」

一輝「フフッ」

日向「あ、鼻で笑った」

報瀬「……」

一輝「あ、いや……ちがうんです……! 
   先輩と同じこと言ったからつい……!」

栞奈「なに怯えてるの?」

一輝「べ、別に……怯えてはいない……だろ」

日向「気になってたんだけどさ、どうして報瀬には丁寧語なんだよ?」

一輝「ぅ……」

栞奈「さ、白状したまえ」

一輝「部に……小淵沢さんと……似た人が居て……」

報瀬「私と?」

日向「女っぽい男?」

一輝「なんでだよ。マネージャーだ。厳しくて、口うるさくて、……怖いんだよ」

栞奈「ほぉ、一輝が恐れるほどに……」

一輝「というか、部員全員にな。先生とかもあまり強く言えないみたいでさ」

報瀬「……それで?」

一輝「いや……それで、と言われても。だから、です……としか」

日向「トラウマが蘇るんだって」

報瀬「ふぅん……」

一輝「……」

栞奈「ほら、圧力かけない」

報瀬「かけてない」

日向「報瀬の前では借りてきた猫みたいだにゃ〜」

栞奈「だにゃ〜」

一輝「……調子に乗りやがって」チッ


……


299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/17(金) 15:55:56.90 ID:KOzKQsUKo


『明日から熱戦が始まります』


『球児たちの様々なドラマが生まれるでしょう』


一輝「……」

栞奈「ドラマ……ねぇ」

一輝「ん? あれ? あの二人は?」

栞奈「日向はキマリのとこ。報瀬は親に連絡するって、個室に戻ったよ」

一輝「そうか」

栞奈「今、美人アナウンサーが言ってたドラマってさ、なんだろうね」

一輝「……マウンドに立つ選手たちが、抱えてるのも……じゃないか。悩みとか壁とか」

栞奈「それを乗り越えて優勝したら栄光を浴びる。そういうのがドラマ?」

一輝「なにが言いたい?」

栞奈「その栄光を赤の他人が見て、感動できるの?」

一輝「よくやったな、おめでとう。とは思うだろ」

栞奈「それは努力が実った瞬間に立ち会って、賞賛してるんだよね」

一輝「……」

栞奈「創作物のドラマと違ってさ、
   実在する私の知らない人がどんな感動的な行動をしても、私の心が動くことはないんだよね」

一輝「……」

栞奈「私はその人の生い立ちを知らないから」

一輝「……穿った見方してるな」

栞奈「そうかな……。……やっぱり、変?」

一輝「いや、それは分かるよ。俺たちにもそういう人がいるから」

栞奈「ほう……聞かせてくれたまえ」

一輝「なんで偉そうなんだよ……。知識とか情熱……とか、誰よりも持ってるのに、
   体格が恵まれなくて万年補欠の先輩がいてさ」

栞奈「ふむふむ」

一輝「それでも、好きな野球からは離れなくて……。そんな人が最後の試合に出場したんだよ」

栞奈「へぇ……」

一輝「監督も他の選手もその人の努力を知ってたから、記念に……ってな」

栞奈「……」

一輝「正直、俺はイラついた。だけど、俺には何も言う資格はないから黙ってるしかなかった」

栞奈「どこにイラついたの?」

一輝「だって、記念だぜ? 勝負の世界に、記念に参加するってなんだよってさ」

栞奈「あぁ……うん、なるほど」

一輝「マネージャーも不満顔だったから、何か言うんだと思ってたけど、黙ってた」

栞奈「……どうして」

一輝「理由が気に入らないだけで、その人が居れば勝てる、と思ったんだろう」

栞奈「結果は?」

一輝「負けた」

栞奈「……」
300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/17(金) 16:00:09.36 ID:KOzKQsUKo

一輝「でも、俺が見てきた野球の中で一番熱い試合だったよ」

栞奈「……!」

一輝「球場の誰もが試合の結末を知ってたんだ。二人を除いてさ」

栞奈「その人と……誰?」

一輝「……俺。……って言いたいけど、違う。マネージャーだった」

栞奈「一輝も負けるって思ってた?」

一輝「相手は甲子園に何度も出場してて、去年全国準優勝して、
   その時のメンバーほとんど残ってるからさ……」

栞奈「少年漫画にありがちな展開……!」

一輝「本当だよ。試合の中盤まで7点差で負けて、あとは淡々と時間が流れるのを待つだけ」

栞奈「それで……そのあとは?」

一輝「相手のピッチャーが交代して、流れが変わった」

栞奈「ふむ」

一輝「その時、その人が呟いたそうなんだ。『チャンスだ』って」

栞奈「一輝はどこに居たの?」

一輝「応援席だよ。ベンチに居なかったから、後で聞いた」

栞奈「そう呟いたってことは諦めてなかったんだね……!」

一輝「マネージャーもな。そこから相手を崩して九回まで5点も取った。
   守備も固めて1点も取らせなかった」

栞奈「それで、最後は?」

一輝「ツーアウト満塁、打席にはキャプテンが立つ」

栞奈「打った?」

一輝「……ショートゴロ。勢いが嘘だったみたいにあっけなく終わったよ」

栞奈「……」

一輝「片づけを手伝ったけど、誰も喋らなかった。黙々と作業してて……」

栞奈「……」

一輝「球場から出て、
   バスに乗り込む前にキャプテンがみんなの前で『ごめん』って笑いながら言った」

栞奈「……」

一輝「それを聞いたみんなは、茶化すようにしてたんだけど……マネージャーが泣いたんだよな」

栞奈「……」

一輝「『なんでお前が先に泣くんだよ』ってツッコミが入ったんだけど……
    『もっと何かできたはずなのに』って」

栞奈「……」

一輝「みんな我慢してた。だけど、
    万年補欠の先輩がグローブ見つめながら『ありがとう、楽しかった』って言ったら……」

栞奈「……」

一輝「それを聞いたら、みんな堪えきれず泣いた」

栞奈「一輝も?」

一輝「……泣きそうになった。その人は家業継ぐから、もう野球は出来ないらしくて」

栞奈「……」
301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/17(金) 16:02:35.25 ID:KOzKQsUKo

一輝「仲間だけじゃなく、野球そのものにも礼を言ったんだ」

栞奈「部員はみんな知ってたんだ……?」

一輝「うん。だからこそ、諦めることを止めた。なんとしてでも勝ちたかった……勝って欲しかった」

栞奈「……」

一輝「その感動は、赤の他人には共有できないだろうな」

栞奈「そういう話だったね。……私思うんだけど」

一輝「なに?」

栞奈「その人と、マネージャーって、相思相愛?」

一輝「かもな。二人目指すところが同じだったから」

栞奈「……なんだっけ、他に言い方があった気がするんだけど」


みこと「比翼連理?」


栞奈「そうそう、それそれ」


結月「……」


一輝「……どこから聞いてた?」


結月「創作ドラマがどうとか……」


一輝「ほぼ最初じゃねえか……」

みこと「何の話?」

栞奈「一輝がキャプテンの意思を受け継いだ話」

一輝「おまえ話聞いてなかったのかよ!」

栞奈「あはは!」

一輝「あははじゃねえよ……。他人が現実に起こった物語に感動できるかって話」

結月「そうですね……、ドラマは所詮フィクションですから」

みこと「……」

栞奈「結月ちゃんはそのドラマのプロだから、意見を聞きたいな」

一輝「こいつが不思議に思ってたことだからさ」

結月「実話を基にしたドラマもありますけど……結局はそれも人の手で作られていますからね」

栞奈「結構ストイックな考えみたいだね」

結月「私はドラマで感動するのではなく、感動させる側ですので」

栞奈「おぉっ、プロだ!」

みこと「不可能じゃないと思うけど」

一輝「可能か不可能かじゃなくて、こいつが感情移入できるかどうかだな」

栞奈「まぁ、そーなんだよね。
   結局、私個人が物語に沿って登場人物たちと気持ちを同じにできるかどうかだよね」

結月「……言い方悪いですけど、栞奈さんってどこか冷めてますよね」

一輝「いつも飄々としてるくせにな」

栞奈「うーん、そうなのかな?」

みこと「……」
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