マリ「超特急デネブ?」結月「そうです」

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496 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:14:55.57 ID:GYsMFmGgo

マリ「ライバルってなんのこと?」

結月「……まぁ、キマリさんは分かりませんよね。それでは、私もここで」

みこと「えっ、結月さんも?」

結月「この後、打ち合わせが入ってて。明日も早いから東京に泊まることになってるけど……」チラッ

マリ「え、あぁ……そうなんだ。頑張ってね」

結月「また後で連絡します。それじゃ、また」

マリ「うん」

みこと「……」

結月「みことは乗り続けるんだよね」

みこと「……うん」

結月「それじゃ、明日の出発には来るから」

みこと「うん」

結月「それじゃ、さくらさん達が待ってるので私はこれで」

テッテッテ

マリ「うん、またね〜」フリフリ

みこと「……」

マリ「……とうとう、二人になっちゃったね」

みこと「うん……」

マリ「どこ行こっか?」

みこと「どこでも……」

マリ「じゃあ……あそこ、行ってみたいところがあるんだ〜」


……


497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:16:35.24 ID:GYsMFmGgo

―― 井の頭公園


みこと「ボートに乗るの?」

マリ「うん、楽しそうでしょ」

みこと「恋人同士で乗るんじゃないの?」

マリ「え、でも……恋人同士で乗ると別れるから乗らないんじゃないの?」

みこと「……うん」

マリ「ほら、いいからいいから〜、時間無いよ、乗って乗って〜」

みこと「う、うん……時間無いの?」

マリ「よいしょっ、しゅっぱーつ」

グラングラン

マリ「あと1時間くらいで終わりみたい」

みこと「……東京なのに、緑が多い」

マリ「これ桜の木なんだって。春に来たら別世界だろうね」

みこと「うん、見てみたい」

マリ「見たいと思ったら見られるよ」

みこと「……でも、人が多いから……一人じゃ無理……」

マリ「確かに人多いよね。1年365日、24時間お祭りだよ」

みこと「漕ぐの代わる?」

マリ「ううん、大丈夫。これくらい、なんともなーい」

みこと「楽しそう」

マリ「うん、楽しい」

みこと「キマリさん、いつも楽しそうだった」

マリ「そうかな?」

みこと「うん……。だから、私も楽しかった」

マリ「えへへ、なんか照れるね」

みこと「……」

マリ「だぁっ暑い! 夕方なのになにこの暑さ!!」

みこと「代わる?」

マリ「やってみたいの?」

みこと「うん」

マリ「それじゃ、はい。しばらくはこのままでいいよ、戻るときにお願いね」

みこと「……うん」

マリ「よいしょっと」

みこと「寝るの?」

マリ「ううん、仰向けになるだけだよ」

みこと「……」

マリ「ふぃ〜……遠くまで来たね〜」

みこと「ここの方がお家に近いよ」

マリ「そうだけど……そうじゃなくて……」

みこと「……?」
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:18:13.93 ID:GYsMFmGgo

マリ「色んな景色見て、色んな物を食べて、色んな人に出会って……」

みこと「……」

マリ「ね。最初は私たち三人だったのに……今は二人でこうしてる」

みこと「うん……。私も、横になっていい?」

マリ「いいよ〜、茜色の空が綺麗だよ〜」

みこと「……しょ……と。……本当だ……綺麗」

マリ「きっと私たち、周りから変な目で見られてるね」

みこと「うん……だけど……かき捨てだから」

マリ「そうだね」

みこと「……さっきキマリさんが言ったこと、分かったかもしれない」

マリ「うん?」

みこと「遠くまで来たって……実感してきた……」

マリ「だよね……。あ、そういえば」

みこと「……?」

マリ「みこっちゃん、お母さんに連絡した?」

みこと「あ……そうだった……」

マリ「まだなの!? 必ずしないと!」

みこと「う、うん……」

マリ「今、かけたら?」

みこと「……いま?」

マリ「うん、今」

みこと「……うん」ピッピッポ

マリ「リンにメッセージ送っとこう……」ポチポチ


―― 帰るの明日になると思う。お母さんに言っといて。


マリ「うぅっ、絶対に怒られる……っ」


みこと「もしもし……お母さん……?」


マリ「……しょうがない、怒られよう」


みこと「あ、あの……お願いがあって……っ」


マリ「…………」


マリ「空が……寂しい……」


……


499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:19:20.52 ID:GYsMFmGgo

―― 東京駅:コインロッカー


マリ「ぐぬぬ……入らない……っ」


マリ「くぅ……やっぱり送った方がいいかな……?」


ピロリロリ〜♪


マリ「うっ……」


ピロロリロリロリ〜


マリ「……」

プツッ


マリ「……はい」

『マリさ〜ん? 今どこにいるんですか〜?』

マリ「トキョエキデス」

『え、なんて?』

マリ「東京駅に居ます!」

『なんで?』

マリ「え〜っと、それには深いわけがありまして」

『その訳とは?』

マリ「何から話せばいいのか」

『今のこの時間まで連絡もよこさずに悩むようなことがあったと?』

マリ「違うんだよ、お母さん! 帰るよ! 帰ろうと思ってるよ!」

『じゃあなに? なんでまだ東京駅に居るの』

マリ「えっとぉ……えぇっと……」

『……』

マリ「む、無言の圧力……!」

『……』
500 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:19:57.98 ID:GYsMFmGgo

マリ「と、友達が心配で……」

『……』

マリ「あのねっ、列車に乗って友達になったんだけどねっ、まだ中学生でねっ」

『……』

マリ「まだ列車に乗り続けたいって言っててねっ、だから心配でっ」

『自分もまだ乗り続けたい、と』

マリ「……そうじゃないけど」

『そうじゃないの?』

マリ「うん……」

『お父さんも心配してるのよ、リンも』

マリ「うん……」

『明日には帰って来るのね?』

マリ「……うん」

『分かった。それじゃ、また連絡して』

マリ「うん、分かった」

プツッ


マリ「明日帰るよ……多分」


……


501 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:21:21.80 ID:GYsMFmGgo

―― デネブ


みこと「どこ行ってたの?」

マリ「えっ、えーっと……お、お母さんに連絡を……?」

みこと「……」

マリ「それより、みこっちゃんのお母さんはどうだったの?」

みこと「何も言わなかった……」

マリ「う……怒ってるのかな? ……当然かもだけど」

みこと「今までそんなことなかったから……分からない」

マリ「まぁ、そうだよね……自分の娘がまだ帰らないって心配だよね……人のこと言えないけど」

みこと「……うん」

マリ「帰る?」

みこと「ううん、まだ……続けたい……」

マリ「……そっか」

みこと「ご飯、どうしよう?」

マリ「せっかく東京に来たんだから、安いお店探してみようか。なにかあるかも」

みこと「うん」

マリ「じゃ、ネットで調べてみるね〜。激安・晩御飯・東京……っと」

みこと「……」

マリ「出てきた……おっ、凄い安いお店発見! 400円でコスパ最高って書いてあるよ」

みこと「どこ?」

マリ「有楽町だって」

みこと「……どこ?」

マリ「どこだろうね。なんか東京駅から遠い場所にあるっぽい。勘だけど」

みこと「そうなんだ……」

マリ「遠い場所だったら移動にお金使うから意味ないよね」

みこと「……うん」

マリ「えっと、他には……女子会で一人1000円? お酒が出る店じゃないか!」

みこと「……」

マリ「うーん……もっとこう……ワンコインで楽しめる店はないモノか……」

みこと「テレビで見たことある……激安ってお店」

マリ「うんうん、分かる。そういうのが出てくればいいよね〜」

みこと「……」

マリ「あ、いいのあった」

みこと「どこ?」

マリ「アキバ原ってところ。結構安い」

みこと「秋葉原?」

マリ「そうそう。有楽町よりは近いと思う。そこ行ってみようか」

みこと「うん」

マリ「といっても、場所分からないからまずは車掌さんに相談だ」フンス


……


502 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:24:22.73 ID:GYsMFmGgo

―― 東京駅・切符売り場


ガヤガヤ

 ガヤガヤ


マリ「えっと……二つとなりだから……」

みこと「キマリ…さん……」

マリ「どうしたの?」

みこと「ちょっと……気分が……」

マリ「あ、人が多くて疲れちゃった?」

みこと「……うん」

マリ「えっと、それじゃ――」


男「ねぇ、君たち、ひょっとして観光客?」


マリ「え、あ、はい」

男「どこ行くの?」

マリ「アキバ原にご飯を食べに行こうかと……」

男「へぇ、それじゃ俺たちが案内しようか?」

マリ「いやぁ、でも、友達がちょっと気分を悪くしてて」

男「じゃあ、近くの店で少し休んでさぁ」

マリ「うーん、どうしよっか、みこっちゃ――……あれ、居ない?」


「キマリさーん」


マリ「えっ!? あんなとこに!?」

男「もちろんあの子も一緒に、ね?」

マリ「いやぁ、でもぉ」


「キマリ! 早く! 列車が来てる!!」


マリ「し、報瀬ちゃん……!?」


「急いで!」


マリ「う、うん。そ、それじゃ」

テッテッテ


男「へ……?」
503 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:24:56.75 ID:GYsMFmGgo


テッテッテ

マリ「みこっちゃん、今報瀬ちゃんの真似したよね!」

みこと「……うん」

マリ「似てた似てた! 凄い!」

みこと「キマリさん、変な人に付いて行きそうだった……」

マリ「え、そんなことないよ」

みこと「日向さんと報瀬さんに注意されてたから……」

マリ「えー……」

みこと「ごめんなさい……キマリさん……っ」

マリ「デネブちゃんに戻ろっか」

みこと「うん……」


……


504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:27:34.58 ID:GYsMFmGgo

―― みことの個室


コンコン


みこと「……はい」


ガチャ


マリ「みこっちゃん、今大丈夫?」

みこと「うん」

マリ「じゃあさ、車掌さんのところ行かない?」

みこと「うん。何かあるの?」

マリ「ほら、前にヴェガのこと聞きたいって言ったでしょ? 今から聞きにいこう」

みこと「……うん」


……




―― 食堂車


料理長「なんだ、だからさっきここで食べに来たんだね」

マリ「どこも人が多くて……夜になったら減るどころか増えてるみたいだったのですよ」

料理長「そりゃそうだろうね」

マリ「それに、慣れ親しんだ料理って安心するんですよね」

料理長「そんな長い間食べてたかね……そう言ってくれるのは悪い気しないけど」

みこと「料理長さんは……どこからどこまで乗車したんですか……?」

料理長「ん?」

みこと「ヴェガの乗車区間……」

料理長「京都から最後まで行ったな……。余計な奴も一緒に」

マリ「余計な?」

料理長「こっちの話。食堂車でウェイトレスしてたんだよ」

マリ「料理長もウェイトレスしてたんですね……」

みこと「車掌さんとは区間が別だったって……」

料理長「そうだよ。私が乗車した時はもう居なかったなぁ」

マリ「それなのに今は一緒に働いてるって凄いですね! 凄い!」

料理長「確かにね。私も最初聞いた時は驚いたな」

みこと「こういうことって……あるんだ……」

料理長「偶然ってわけでもないさ。私が料理長として乗りたいと思ったように、
     車掌だってそうしたいと思っていたはずだから」

マリ「必然だ!」

料理長「そうかもね」

みこと「必然……」
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:30:51.51 ID:GYsMFmGgo


車掌「こんばんは。なんだか賑わっていますね」


マリ「あ、車掌さん! お疲れ様です!」

みこと「……」ペコリ

料理長「お疲れ。そっちは点検終わった?」

車掌「はい、終わりました。後は最終チェックをしてから個室に戻ろうかと」

料理長「じゃあ私も終わらせてくるよ。また後で」

スタスタ...

マリ「まだ話聞きたかったのに……」

車掌「また後で来るみたいなのでその時に」

マリ「はい。……それでは、車掌さんはどこからどこまで乗車したんですか?」

車掌「私は札幌から茨木の水戸まで乗車しましたよ」

みこと「結構短い……?」

車掌「そうですね……。兄の結婚式に招待されたのが乗車した理由ですから、
   特にこれと言った目的はなかったので」

みこと「目的……」

車掌「お二人には、ご姉妹は?」

マリ「私は妹が一人います」

みこと「私は居ない……」

車掌「義理の姉はいい人で、今も仲良く暮らしているんですが、
   当時の私は兄を取られたような気分になってて、少し落ち込んでいたんですよ」クスクス

マリ「それはなんとなく……分かる……ような?」

みこと「分かるの?」

マリ「リンがお嫁さんに行ったらと思うと……寂しい……かな?」

車掌「仲が良ければその分、そう思ってしまうのかもしれませんね。
   特に、その時の兄は学生でしたから」

マリ「学生結婚!」

車掌「そうです。いきなりだったものですから、親も親戚も大慌てで」

みこと「それだけ、相手のことが好きだった……?」

車掌「みたいですね。それだけに、当時の私はショックだったのかもしれません」

マリ「車掌さんは幾つだったんですか?」

車掌「鶴見さんと同じ歳でしたよ」

みこと「……!」

マリ「そうなんですか……!」

車掌「札幌から水戸まで、日本を縦断するヴェガにとってはそう時間のかかる距離ではありませんでしたが、
    それでもいろいろなことがあって、気が付けば沈んでいた気持ちも忘れてしまっていました」

マリ「……」

車掌「私が伝えられることと言えばこのくらいですね」

みこと「いろいろあった……って……?」

車掌「ふふ、そうですね……。お二人はあの飯山みらいさんがヴェガに乗車していたことは知っていましたか?」

マリ「は、はい」

みこと「……」コクリ

車掌「では、その飯山みらいさんの友人である二人の娘が――」
506 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:33:00.55 ID:GYsMFmGgo


料理長「話の途中でごめんよ、はい、差し入れ」


マリ「ジュースとスイカ!」

みこと「ありがとうございます……」

料理長「私も混ぜてもらおうかな」

車掌「もう、いいところで話を遮るんですから」

料理長「え、そうなの?」

車掌「そうです。今日はお酒、飲まないんですか?」

料理長「飲まないよ。あの日は特別だったからさ。古い友人に再会できてうれしかったから」

車掌「……そうですか」

マリ「シャクシャク、うん、んまい!」

みこと「……料理長さん」

料理長「うん? どうした?」

みこと「……最後まで乗ってたんですよね?」

料理長「ヴェガに? そうだけど」

みこと「どんな気持ちだったのかなって……」

料理長「どんな気持ち……ねぇ」

車掌「そうですね、聞きたいです。最後の都市、福岡から出発してからのヴェガの雰囲気」

マリ「シャクシャク……」

料理長「乗客はほとんど降りてしまってるから、寂しくなったのは覚えてるよ」

みこと「……」

料理長「夢の崎の一つ前、阿蘇駅でも人は降りてしまって。
    いよいよ次が最後の駅ってなると、もう人は乗ってないんじゃないかってくらいに誰もいなかった」

車掌「……」

料理長「寂寥感が広がる車内でも、ヴェガは走り続けていたよ。それが余計に、胸に来てね」

マリ「……」

料理長「普段は会いたくない奴がいてさ、顔を合わせればケンカばかりしてたんだけど……。
    その時は、お互いに憎まれ口なんて出なくて……妙な気持ちになったもんだ」

みこと「……その人も、寂しかったの?」

料理長「そうなんじゃないかな。普段は高飛車で偉そうなことばっかり言ってたのに、
    その時ばかりはさすがの嫌な性格もその空気に捉われてたんだよ」

マリ「あ、さっき言ってた余計な奴って、その人だったんですね」

料理長「そういうこと。今でも繋がりのある友人だよ」

車掌「確かに、特別な日ですね」

料理長「……うん。かけがえのない友人になったよ。ヴェガに乗ったおかげでね」

マリ「…………」

みこと「…………」

料理長「最後まで行くの?」

みこと「え、あ……はい……?」

料理長「ふふっ、まだ分からないって感じだね」


車掌「……」チラッ

マリ「…………」
507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:34:07.87 ID:GYsMFmGgo


みこと「最後まで行けば……料理長さんが言った……寂寥感が包まれた世界を……?」

料理長「うん、味わえると思うよ」

みこと「――……」


マリ「みこっちゃん……」


車掌「今日はどちらでお休みになられますか?」

マリ「えっと……みこっちゃんにお世話になろうかな〜って」

車掌「もし、当てがなれけば車掌室まで来てくださいね」

マリ「あ、ありがとうございます」ペコリ


料理長「高校からの腐れ縁で、いろいろあったからね、ソイツとは」

みこと「因縁?」

料理長「はは、そういうことだね。とにかく仲が悪かった……いや、最悪だったから」

マリ「犬猿の仲……水と油……虎に翼?」

料理長「最後は違う」

車掌「そんな二人に何があったら、寂寥感を共感できるまでになったのでしょう?」

みこと「うん……」

マリ「知りたいです!」

料理長「うーん……あんまり面白い話じゃないんだけどねぇ」

車掌「まだ時間はありますから、いいじゃないですか」

みこと「……」ウンウン

マリ「さ、飲み物をどうぞ」

トクトクトク

料理長「アイツのプライベートに関わるけど……まぁいいか」

マリ「いいんですか!?」

料理長「いいって。ソイツは、お嬢様で――」

みこと「……」

マリ「ふむふむ」


……


508 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:36:44.44 ID:GYsMFmGgo

―― みことの個室


コンコン


みこと「はい……?」


「みこっちゃーん、寝る準備できた〜?」


ガチャ


みこと「うん……」

マリ「あのね、一緒に寝てもいいかな?」

みこと「……うん」

マリ「ごめんね、いきなりで。ゆっくり話したいな〜って思って」

みこと「……」

マリ「あ、邪魔かな?」

みこと「ううん、私も、キマリさんと話したい……から」

マリ「ありがと〜。断れたらどうしよって思ってたんだよ。あ、でも……」

みこと「?」

マリ「迷惑なら言ってね?」

みこと「ううん、思ってないよ。どうぞ、入って?」

マリ「失礼しま〜す」

みこと「二人の話、面白かった」

マリ「いい話だったね〜。横座るね」ストッ

みこと「南極の話、聞きたい」

マリ「そういえば、動画ってどこまで見たの?」

みこと「南極に着いたところまで」

マリ「そっか。じゃあ、一緒に観よう」

みこと「うん、ありがとう」

マリ「コンセントどこ?」

みこと「あっち」

マリ「あとで充電しないとだから。まだ大丈夫だけど……。えっとね〜」

みこと「……」

マリ「実はあんまり見てないんだよね」

みこと「どうして?」

マリ「撮ったの日向ちゃんでしょ? 
   日向ちゃん目線で見ると、私の見た記憶がごっちゃになりそうでさ〜」

みこと「そういうものなんだ?」

マリ「多分ね」

みこと「……」

マリ「これ、かな?」

みこと「それは視たから……次?」

マリ「あ……これ……」

みこと「……?」
509 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:39:23.43 ID:GYsMFmGgo

マリ「百夜って言ってね、陽が傾いたまま夜になるんだよ」

みこと「うん……」

マリ「太陽がね、転がるんだよ。面白いよね」

みこと「――……」

マリ「この時は、その太陽を見ながら歌ってたんだ」

みこと「……」

マリ「あ、私の話より動画だよね」

みこと「ううん、聞きたい」

マリ「……そう?」

みこと「動画はいつでも見ることができるから……」

マリ「……うん」

みこと「自転車乗ってた」

マリ「雪を固めて道を作って、その上を走ったんだよ〜。
   まぁ、固めない方が走りやすかったんだけどね」

みこと「…………楽しそう」

マリ「それがそうでもなかったんだよ。すぐ転んで、報瀬ちゃん怒るし、
   日向ちゃん笑ってるし、それみて結月ちゃん呆れてるし」

みこと「楽しそう」

マリ「……うん、そうだね。……4人いつも一緒だったから楽しかった」

みこと「…………」

マリ「この旅でも一緒だったよね。みこっちゃんも」

みこと「…………うん」

マリ「……みこっちゃん?」

みこと「………………うん?」

マリ「眠たいの?」

みこと「ううん……」

マリ「人がたくさん居て疲れちゃったよね……。色んなことがあったし……」

みこと「……ううん…………はなし……ききた……い」

マリ「……また……今度ね」

みこと「こんど……って……いつ……?」

マリ「……ッ!」

みこと「……ききたい……はなし……」

マリ「うん、分かった。このあとね、雪上バイクに乗せてもらったりしたんだよ」

みこと「…………うん」

マリ「遊んでばっかりに見えるけど、ちゃんと観測隊としてやるべきことやってたんだからね」

みこと「………………うん」
510 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:40:32.38 ID:GYsMFmGgo

マリ「料理手伝ったり、掃除したり、研究や調査の補助したり」

みこと「………………」

マリ「自分のことは自分でやるんだよ〜。それは当たり前のことで……」

みこと「……すぅ……すぅ」

マリ「……難しいことで……でも……慣れたら……」

みこと「すぅ……すぅ……」

マリ「ごめんね、みこっちゃん」ナデナデ

みこと「すぅ……」

マリ「私は最後まで行けないよ」

みこと「……すぅ」

マリ「ごめんね……っ」グスッ

みこと「すぅ……すぅ……」


……





マリ「魔法少女になれたんだね、助手くん」

みこと「……?」

マリ「すやすや」

みこと「あれ……寝ちゃった……?」

マリ「くーすかー」

みこと「……」

マリ「むにゃむにゃ」

みこと「ありがとう……キマリさん」

マリ「かーすかー」

みこと「……ありがとう」

511 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:43:51.87 ID:GYsMFmGgo


―― 8月11日



「あれっ落とした?」


「ウソでしょッ!?」


「どこに落としちゃったんだろぉ……!」


「まずい……まずいわ……そろそろこの魔晄列車が発車するというのに……!」


「堕天使ヨハネを置いて、発車してしまうというのに……!」


「そ、そうよ、一度はこの私の手の中にあったのだから、
 きっと魔力が少しくらい乗車証にも移っているはず」


「感じるのよ、ヨハネ……魔力を! 自分の力を見つけ出すの……!」


「ムムムム……!」



結月「…………」


「あ、結月ちゃんだ」

「あ……!」


結月「キマリさん、みこと!」


マリ「来てたんだね」

みこと「……どうしたの、変な顔してる」

結月「ううん、なんでもない」


「来たわ! あっちね……!」

テッテッテ


マリ「ん? あの子はどうしたのかな?」

結月「なんだか、探し物をしてたみたいで……」

みこと「知り合い?」

結月「そんなわけないでしょ? それはそうと、どこ行ってたんです?」

マリ「えっとね〜」

みこと「都庁と浅草と……」

マリ「アキバ原行ってきたよ。安くて美味しいランチ食べてきた」

結月「なんか、嬉しそうですね」

マリ「昨日行こうと思ったけど断念したからね。念願叶ったみたいで嬉しかったよ、ね?」

みこと「うん」

結月「そうですか。朝から移動してたんですか?」

マリ「うん。人が多くて大変だったけど、回れてよかったよね」

みこと「キマリさんに付いて行っただけ……だけど」
512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:46:41.57 ID:GYsMFmGgo

結月「みこと、人込み苦手って言ってたからね……。疲れたでしょ?」

みこと「うん……だけど、楽しかった」

結月「……!」

マリ「どうしたの?」

結月「いえ、意外で……少し驚いてしまいました」

みこと「……」

結月「そろそろ出発の時間ですね……」

マリ「……うん」

みこと「……」

マリ「あの、ね……みこっちゃん」

みこと「うん……?」

マリ「言わなきゃいけないことが――」


「おーい、おーーい!! ちょっと待ってーー!!」


マリ「え?」

みこと「……あ」

結月「……!」


「乗ります、乗ります〜〜!」


マリ「手伝ってくる!」

テッテッテ


結月「わざわざ……」

みこと「わ、私も……」

テッテッテ


結月「……なにしてるんだか」



「ぬおおお、鞄が揺れる〜〜!」

マリ「貸して!」

「助かるよ、パスッ!」

マリ「ぐぅっ、お、重い……!」ズシッ

「おっしゃー! 全速前進! ヨ―ソロー!」

ダダダダッ

マリ「ぐぬぬっ」

みこと「手伝うッ!」

マリ「ありがとう、みこっちゃん!」

みこと「うぅっ……!?」ズシッ

マリ「本当に、何が入ってるんだか……!」ヨロヨロ

みこと「ふぅっ……」ヨロヨロ


「あはは、よろめいてる」アハハ

結月「発車までまだ余裕があるんですけど」
513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:29:48.79 ID:wQFDgRACo

「それは、君に逢うために急いできたからさ。他に理由がいるかい?」キラン

結月「相変わらずですね……」


マリ「か、栞奈ちゃん……! 何が入ってるのこれ……!」


栞奈「漬物石」


マリ「え……!?」

みこと「……!?」


栞奈「あ、嘘だよウソ。教材が入ってるんだよね」

マリ「なんで!?」

栞奈「いやー、試験でちょっと力不足感じちゃってさ」

結月「デネブの中でも勉強するんですか」

栞奈「まぁ、出来ることはやろうと思ってね。大丈夫、みことちゃん?」

みこと「はぁっ……はぁっっ」

マリ「戻って来たんだね」

栞奈「色々と、取り残したものがあるからね」

結月「栞奈さん、これ」

栞奈「……? なにそれ?」

結月「電話番号です」

栞奈「え!? 結月ちゃんとのホットライン……!?」

結月「違います。あの人の番号です」

栞奈「え――?」

マリ「ん?」

みこと「あの人って……はぁふぅ」

栞奈「……」ピッピップ

結月「あ……! 違います! 今じゃなくて最終駅で――」

trrrrrrrrr

プツッ

『はい』

栞奈「もしもし、白石結月です」

『バカじゃないのか?』

栞奈「そんな、ひどいです大村さん」

『いまって、東京だよな……?』

栞奈「そうですけど」

『なんで電話してんだよ? 最終駅でって伝えたはずだけど??』

栞奈「なによ、今電話したら不服だって言うの?」

『いや……声聞けて……嬉しかったけどさ……』

栞奈「え――ッ!?」ボフッ


マリ「あ、真っ赤」

みこと「うん」

結月「……」
514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:32:06.50 ID:wQFDgRACo


栞奈「ば、バカ! 変なこと言わないでよ!」

『それより、試験はどうしたんだ?』

栞奈「ちゃ……ちゃんと受けてきたよ……」

『そっか……』

栞奈「私、試験も受けて、デネブで最後まで行くことにしたから」


マリ「……」


栞奈「どっちかを選べ、なんて言われてないから……どっちも選ぶんだよ」

『そうか。そうするのが栞奈らしいなって思うよ』

栞奈「そう……かな?」

『あぁ』

栞奈「私が東京に戻って来るって思ってたんだ?」

『賭け、みたいなものだったけどな――……って、ごめん、切るわ』

栞奈「え?」

『大村ァァアアアア!!』

『は、はい!』

『お前、なに女と話なんかしてんだよ! アァ!?」

『す、すいません』

栞奈「もしかして練習中?」

『そうなんだよ。だから、後で……っていうか、最終駅でな』

栞奈「なんかごめんね、忙しいところに……」

『いや、いいよ。じゃあ、頑張ろうな、栞奈』

栞奈「うん、頑張ろうね、一輝」

『感動させるから、甲子園で』

栞奈「――期待してる」

『大村ァ! グランド10周走ってこい!!』

『はい!』

プツッ

栞奈「……いまの声……報瀬に似てるって言う……マネージャーかな」


マリ「……」

みこと「……」

結月「どうでしたか?」

栞奈「えっ、どうって言われても……!?」

みこと「動揺してる」

栞奈「し、してないですぅ」

マリ「ふぅん」

栞奈「ごほん。私はね、月の裏側にワームホールがあると思ってるんだよ」

結月「なにを言い出すんですか」
515 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:34:00.25 ID:wQFDgRACo

マリ「わーむほーる?」

みこと「宇宙のどこかにあって、そこを通るとどれだけ離れても一瞬で移動できる」

マリ「それが月の裏に? そんなのあるわけないよ〜。南極が20度超えるくらいありえない〜」

栞奈「そうだね……。ともかく、結月ちゃん、ありがとね」

結月「いえ……渡せてよかったです」

栞奈「でも、よかったの?」

結月「なにがです?」

栞奈「私に番号渡して……」

結月「なにを言い出すかと思えば……言っておきますけど、私、大村さんはタイプじゃないですから」

栞奈「プフッ、振られちゃった」

結月「栞奈さん、私が言うのもなんですけど、デリカシーがあまりにも」


「ない……! ない……!!」オロオロ


結月「あ……まだ探してる」

栞奈「あの子は何を探してるの?」

みこと「分からない」

マリ「あ……」

結月「どうしたんです?」

マリ「それじゃない? 自販機のとこに落ちてる」

栞奈「財布……結構入ってるっぽいね」

結月「見つかって良かったですね」

マリ「うん、みこっちゃん」

みこと「渡してくる」

テッテッテ


「まずい……アレが無いと私……!」オロオロ


みこと「あの……」


「え?」


みこと「これ落ちてました」


「財布……?」


みこと「どうぞ」


「あ、うん……。うわ、かなり分厚い」


みこと「?」


「ごくり……」

「ゴクリ……じゃないずら」

「ひゃっ、ずら丸!」
516 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:36:21.25 ID:wQFDgRACo

「ジー……」

「な、なによ」

「善子ちゃん、ひょっとして……ネコバ」

善子「するわけないでしょ!」


みこと「……?」


善子「コホン。私のじゃないわよ、これ」

みこと「え?」


マリ「持ち主じゃないみたいだね」

栞奈「おぉー……ブルジョワー」

結月「財布は駅員さんに渡しましょうか……持ち主は困ってるでしょうし」


みこと「じゃあ誰の……?」

善子「さぁ? 知らないわ」

「あ、ちょうど駅員さんが来たずら」


駅員「ここを通ったんですね?」

男性「はい……」


みこと「あの、駅員さん」


駅員「すいません、今取り込んでいまして……他の――」

男性「あ、それ!」


みこと「そこの……自動販売機の下に落ちて……」


男性「私のです!」


駅員「中身を確認してもよろしいですか?」

男性「はい。免許証が入っていますので、お願いします」

駅員「それでは失礼します」


マリ「見つかって良かったね」

結月「ですね」

栞奈「それで、君たちはなにを探していたのかね?」


善子「え? 私たち?」

「?」


栞奈「何か探していたのではないかね?」


善子「あ! そうだった!!」

「なにを落としたの、善子ちゃん」

善子「天界から堕ちたのは私、ヨハネよ」キラン

「落とした本人に余裕があるみたいなので、気にしないでください」ニコニコ


栞奈「そう?」

517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:38:28.51 ID:wQFDgRACo

駅員「それでは、私はこれで」

男性「ありがとうございました」

みこと「……私もこれで」

男性「あ、待って……お礼をしたいんだけど」

みこと「ううん、いいです」

男性「そうはいかないよ。この財布を失っていたら私は大変なことになっていたんだ」

みこと「でも……」


マリ「お礼ってなんだろ?」

結月「そんなこと言ってないで、助けてあげてください」


善子「あなたの胸元にある白鳥のバッチ、それと同じものを探してるのよ」

「善子ちゃん、乗車証を落としちゃったの!?」

善子「だから焦ってるのよ! 一緒に探しなさいよずら丸!」

「わ、わかったずら!」

栞奈「どれ、私も探してしんぜよう」

善子「え?」

栞奈「私もこの列車に乗るんじゃよ。いや、乗ってたんじゃよ?」

善子「どういうこと……というかなんのキャラ?」


男性「君たち、デネブに乗るんだね。じゃあ、6枚でいいかな」

みこと「……?」

マリ「なにかな?」

男性「札幌にあるホテルのレストランお食事券。大通公園を見渡せる場所にあるんだよ」

マリ「おぉー……」

結月「有名なホテルですよ、ここ。値段も結構します……」


栞奈「なるほど、車掌さんに受け取った後、個室に入って、その後持っていないことに気付いたと」

善子「そうなのよ」

栞奈「列車の中は探したんだね?」

善子「そうよ」

栞奈「と、いうことは……ふむ、なるほどね。分かったよ」

善子「分かったの!? 私はどこに落としたの!?」

「なんだか、探偵さんみたいずら〜」

栞奈「迷宮入りだ」

善子「……はい?」

栞奈「お手上げってことだよ、フッ」

善子「役に立たない頭使うくらいなら探しなさいよ! この迷探偵!!」


男性「私はここのオーナーだから。気にしないで欲しい。
   この財布の中にはお金より、カードよりも大事な物が入っていたんだ」

みこと「……」
518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:40:20.84 ID:wQFDgRACo

男性「だからとても助かった。その気持ちだよ、受け取って欲しい」

みこと「……キマリさん」

マリ「せっかくだから、受け取ってもいいんじゃないかな」

みこと「……うん」

男性「良かった。君たちには最高のもてなしをさせてもらうよ」

栞奈「え、私も!? 超ラッキー♪」

善子「あれ、私たちも数に入ってる?」

「そうみたいずら」

結月「あ、私は行かないので、5枚で……」

男性「そう? じゃあ、はい」

マリ「あ、あの……! 私も行かないので……!」

みこと「……」

男性「じゃあ、4枚だね」

善子「あ、もう一人いるので5枚で!」

「善子ちゃん、ルビィちゃんの分って解ってるけど、結構図々しいと思う……!」

男性「5枚でいい?」

栞奈善子「「 はい 」」

みこと「……」

結月「ほぼ関係のない二人が頷きましたね……」

男性「本当にありがとう、それじゃ、娘と共に札幌で待ってるよ」

スタスタ...

栞奈善子「「 ありがとうございます!! 」」

マリ「仲良くなるの早いね」

栞奈「これが高級ホテルのお食事券……!」

善子「わ、私たちが行ってもいいの……!?」

マリ「どう、みこっちゃん」

みこと「……うん」

結月「みこと……?」


「善子ちゃん、マル達は札幌まで行かないずら」

善子「そ、そうだった……!」

栞奈「どこまで行くの?」

「函館で友達が待ってるから、そこまでです」

善子「なんか良さそうなホテルの食事券……行きたい……!」

栞奈「君たち、名前は?」

「国木田花丸、といいます。よろしくお願いしますずら」

善子「堕天使ヨハネ」ビシッ

花丸「こっちは、津島善子ちゃんです」

栞奈「私は、ベルゼブブ。この世に混沌をもたらす者」バーン

善子「ぐっ、なんかランクが上がったような……!」

花丸「善子ちゃんと息が合ってるずら」
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:42:45.07 ID:wQFDgRACo


みこと「キマリさん、行かないの?」

マリ「……うん」

みこと「…………」

マリ「黙っててごめんね。中々言い出せなくて……」


結月「言ってなかったんですか……」

栞奈「……」

善子「天を追放された私だけど、ハエなんかに――」

花丸「善子ちゃん、ちょっと待つずら」

善子「?」


みこと「行かないって、決めてたの……?」

マリ「うん……」

みこと「いつから……?」

マリ「京都から……?」

みこと「……そう……なんだ」

マリ「みこっちゃんが、一人で映画村に行くって言った時、期待してる顔してた」

みこと「……?」

マリ「ワクワクするようなドキドキするような、そんな顔」

みこと「でも、何もなかった」

マリ「本当に? 本当に何もなかった?」

みこと「……うん。なにか印象に残るモノもなかったよ?」

マリ「一人でバスに乗って行ったよね。それは何もなかったってことになる?」

みこと「ううん、初めて乗るバスだから行先があってるのかどうか不安だった」

マリ「きっとね、みこっちゃんが動いたから、その事実が大切なんだよ」

みこと「……」

マリ「期待を超える何かがあっても、無くても、みこっちゃんが行動したことに意味があるんだよ」

みこと「……」

マリ「楽しくても、嫌なことがあっても、それはみこっちゃんだけが経験できたことだから」

みこと「……」

マリ「だからね、この先……私がいなくても、きっとみこっちゃんにとって意味があるんだよ」

みこと「楽しくないって思っても?」

マリ「もちろん!」

みこと「……」

マリ「楽しくないなんてことはないけどね、絶対!」

みこと「……うん」


車掌「……」

「……」
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:45:20.30 ID:wQFDgRACo


マリ「本当は行きたいよ。最後まで行ってみたい」

みこと「……」

マリ「だけどね、みこっちゃんを心配してる気持ちが大きいから、それはなんか違うって思うんだよ」

みこと「違う……?」

マリ「みこっちゃんのように、ワクワクドキドキする気持ちじゃないから」

みこと「……」

マリ「きっと、みこっちゃんの旅に私はもう必要ないんだ」

みこと「そんなことない……!」

マリ「あ……」

みこと「だって、キマリさんが居たからこんな気持ちになれた……!」

マリ「……」

みこと「楽しいだけじゃなくて色々教えてもらったから……もう少し続けたいって思えた……!」

マリ「みこっちゃん……」

みこと「だから……だから……!」

マリ「えへへ、ありがとう」

ぎゅうう

みこと「だから……もう少し一緒に居たい……っ」ボロボロ

マリ「ありがとね、そう思っててくれて」

みこと「おねがい……キマリさん……」ボロボロ

マリ「ううん、私はここで降りるよ」

みこと「……っ」

マリ「旅を続けて」

みこと「……グスッ」

マリ「いい旅を、続けて」



車掌「……」

「……」



マリ「みこっちゃんの旅がここから、ここから始まるんだ」

みこと「……」

マリ「大丈夫だよ、栞奈ちゃんもいるし、新しい旅仲間もいるんだから」

みこと「……?」


栞奈「うん、私たちに任せなさいっ」グスッ

善子「……私たち……?」

花丸「……」
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:46:53.82 ID:wQFDgRACo

マリ「鶴見琴ちゃん、始発駅から一緒にここまで来ました。よろしくお願いします!」

みこと「……っ」


花丸「よろしくお願いします」ペコリ

善子「えっと……」オロオロ

栞奈「君たち可愛いね、歳いくつ?」

花丸「高校2年生です」ニコニコ


結月「……」


マリ「これ、私の乗車証」スッ

善子「え、いいの?」

マリ「うん!」

善子「あ……ありがとう」


マリ「そうだ、記念撮影しよう! 日向ちゃんと報瀬ちゃんに教えたい!」

栞奈「オッケー!」


車掌「撮りましょうか?」

マリ「あ、車掌さん、お願いします!」

善子「あの、この乗車証……」

車掌「ふふ、構いませんよ。大事にしてくださいね」

善子「は、はい……」

花丸「ま、マルたちもいいずら……?」

栞奈「かまへんかまへん」

結月「栞奈さんは一体どういうキャラなんですか……」

みこと「……」

マリ「ほら、みこっちゃん、笑って〜♪」


「あの、車掌さん、私が撮りましょうか?」


みこと「あ……」

結月「あれ……?」


車掌「よろしいのですか?」

「えぇ、構いませんよ。一緒に写った方が記念になると思いますから」

車掌「みなさん、私も一緒で」

マリ「もちろんです! お願いします!」

車掌「それでは、お願いします」

「はい……。えっと、ここを押せばいいのかしら?」

マリ「あ、そっちは録画なので……こっちを」

「わかったわ」
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:50:29.78 ID:wQFDgRACo

善子「フフ、大いなる旅路の始まりに相応しい瞬間を残すわよ」ビシッ

栞奈「じゃあ、私はヨハンナと対になる感じで」ビシッ

善子「ヨハネよ、間違えないで」

花丸「えっと、えっと……」オロオロ

結月「こっちに」

花丸「は、はい……なんか焦ってしまって」アセアセ

結月「いきなり巻き込んですいません……」

車掌「……」

マリ「はい、準備オッケーです」

みこと「…………」


「琴……」


マリ「ハイ、東京!」

みこと「……」


「後悔のないように、ね」


みこと「……――!」


栞奈「ちょっといいかな、キマリ? その東京ってなにさ」

マリ「撮影の合図」

栞奈「もうちょっと、こう……他にないかい?」

マリ「今まで地名でやってきたんだよ?」

栞奈「そうかもしれないけどさぁ」

車掌「あのお楽しみのところ悪いのですが、そろそろ出発になりますので」

結月「掛け声はなんでもいいですから、早く撮ってもらいましょう」

善子「不死鳥フェニックス、ってのはどう?」

栞奈「長い」

善子「そ、そう」

花丸「ミューズはどうずら?」

栞奈「うーん、石鹸かぁ」

花丸「違うずら。9人の女神様ずら〜」

栞奈「よし、採用」

マリ「あれ、なんか私のアイデンティティが……」

結月「待たせてしまってすいません、お願いします!」


「撮りますよ、ハイ、チーズ」


栞奈花丸「「 ミューズ! 」」

車掌「……」

善子「蛇王炎刹黒龍覇!」

マリ「南極!!」

結月「なんて統一感のない人たち……」

みこと「ふふっ」
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:52:17.20 ID:wQFDgRACo


パシャ


栞奈「ちょっと、なんで合わせないの!?」

マリ「それはこっちの台詞だよ、なんで合わせないの!」

結月「南極は無理があります……」

花丸「あぁ……勢いに任せて……なんだか恥ずかしいずら……」ポッ

善子「私は何物にも縛られない。それが堕天使ヨハネよ!」

結月「それより、キマリさん」

マリ「あ、そうだった。ありがとうございます」

「いえ……。こちらこそ」

マリ「……?」


みこと「あの、お母さん」

「……どこまで行くか決めてるの?」


マリ「お母さん?」

結月「みことのお母さんです。鶴見さとみさん」

マリ「ゑえぇぇえええ!?」

栞奈「綺麗な人だな……みことちゃんのお姉さんでも通じるね」

花丸「鶴見……さとみ……? もしかして、千歳さとみさん? あの恋愛小説がドラマ化した……!」

善子「有名なの?」

花丸「とっても……とぉっっても有名ずら!
    読みやすいからって善子ちゃんに勧めた探偵シリーズの作者ずら!」

善子「ふぅん……」

花丸「曜ちゃんに教えないとっ」

栞奈「花丸ちゃん、凄い興奮してるね」

善子「本の虫だからね、この子」


みこと「最後まで……行きたい」

さとみ「……わかった」

みこと「いいの?」

さとみ「駄目って言ったら、行かないの?」

みこと「……ううん」

さとみ「一つだけ、教えて」

みこと「……なに?」

さとみ「どうして、旅を続けようと思ったの?」

みこと「それは……」

さとみ「……」

みこと「この列車に、乗ったから……かな」

さとみ「ふふっ」

みこと「?」

さとみ「やっぱり、親子なのね」ナデナデ

みこと「え……?」
524 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:53:26.65 ID:wQFDgRACo

さとみ「私も昔、同じことを言ったのよ。20年前に走ったヴェガに乗ってね」

みこと「え……!?」


マリ「……!」

結月「そうだったんですか……」


栞奈「うちの母さんもヴェガに乗ってたんだって。飯山みらいと友達ってのは本当みたいだよ」

結月「そうだったんですか……!?」


さとみ「行ってらっしゃい」

みこと「うん……行ってきます……」


マリ「引き返せるうちは旅ではない。
   引き返せなくなった時に初めてそれは旅になるのだ」

みこと「……!」

結月「名言っぽいですね……誰の言葉なんですか?」

マリ「私……!」

結月「本当ですか?」ジー

マリ「も、モチロン」

結月「嘘ですね?」


車掌「それでは皆様、時間となりますので乗り遅れに注意してください」


マリ「車掌さん」


車掌「はい」


マリ「長い間ありがとうございました」


車掌「当特急デネブへのご乗車誠にありがとうございました」


マリ「とても楽しかったです」


車掌「そう言っていただけてなによりです。どうか、お気をつけてお帰りください」


マリ「はい!」


車掌「……」スッ


マリ「……」ペコリ


車掌「……」

スタスタ...


マリ「…………」

525 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:55:27.53 ID:wQFDgRACo

栞奈「さて、乗り込みますか」


結月「栞奈さん、お元気で」


栞奈「うん、またどこかで、必ず会おうね」


結月「はい、その時を待ってますね」


栞奈「みんなに逢えてよかったよ、ありがとう」


結月「こちらこそ、ですよ」


栞奈「あ、そうだ……キマリに言いたいことがあったんだ」


マリ「?」


栞奈「私さ、デネブに乗ってる間はずっと楽しくて……つまらないことばっかり言ってた」


マリ「……」


栞奈「そんな私にも付き合ってくれたみんなが嬉しくてさ、楽しくてしょうがなかったよ」


マリ「うん、私も」


栞奈「広島で、乗車する前……私の重い鞄持ってくれたでしょ。その時から予感はあったんだよね」


マリ「……」


栞奈「絶対に楽しい旅になるって」


マリ「うん」


栞奈「その予感は的中したよ。ラッキーだね!」


マリ「ここからはどう?」


栞奈「うーん、どうだろうね〜」


善子「この魔晄列車の旅は魔道と呼ばれし険しき道よ。
   私と契約を交わしリトルデーモンになるなら、私が守護してあげる!」ビシッ

花丸「友達になって欲しいと言ってるずら〜」

善子「ちょっ、何言ってるのよずら丸!」


栞奈「サチコちゃんも楽しい子だし、退屈はしなさそうだね」

善子「善子よ! ……じゃなくて、ヨハネよ! 堕天使ヨハネ!!」

pipipipi

花丸「わ、ルビィちゃんから電話。……はい、もしもし、マルずら〜」


結月「本当に、退屈はしなさそうですね」

マリ「うん、本当に……」

526 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:56:24.36 ID:wQFDgRACo

「おーい、キマリさーん!」


マリ「あ、綾乃ちゃん! お仕事頑張ってねー!!」ブンブン


「元気でね〜! さよーならー!」


マリ「バイバーイ、またねー!!」


栞奈「小さい子たちの日常の別れみたいだね」


みこと「キマリさん」


マリ「残り、まだまだ遠いけど、気を付けてね」


みこと「……うん」


マリ「日常に戻っても、きっと忘れないよ」


みこと「……うんっ」


マリ「体には気を付けてね!」


みこと「あのっ」


マリ「……?」


みこと「またっ……いっしょに……っ……遠い……どこかに……っ」


マリ「……うん」


みこと「いっしょに……っ……行って……くれますか……っ?」グスッ


マリ「うん、行こう!」


みこと「……っっ」ボロボロ


マリ「遠いどこかじゃない、南極に!」


みこと「……ッ!」ゴシゴシ


マリ「みこっちゃんの知らない世界が、そこにあるんだよ!」


みこと「うん……!」

527 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:57:14.48 ID:wQFDgRACo

prrrrrrrrr



さとみ「行ってらっしゃい」


みこと「行ってきます」グスッ



結月「また、ね」


みこと「うん! ありがとう、結月さん」



マリ「また、5人で旅をしよう、みこっちゃん!」


みこと「うん……必ず……!」


栞奈「それじゃっ!」

善子「乗車証、ありがと……!」

花丸「善子ちゃんがお世話になりました」ペコリ

みこと「バイバイ、キマリさん、結月さん」


結月「また逢う日まで――」

マリ「さようなら、みこっちゃん」


プシュー


ガタン


 ゴトン


ガタン ゴトン

 ガタンゴトン



マリ「……」

結月「……」



ガタン

 ゴトン
528 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:59:14.87 ID:wQFDgRACo

ガタン

 ゴトン


マリ「……行っちゃった」

結月「行っちゃいましたね」


さとみ「娘のこと、ありがとう」


マリ「いえ、こちらこそです」

結月「そうです。私たちも一緒で楽しかったですから」


さとみ「ありがとう。……それじゃ」

スタスタ...


マリ「……」

結月「ふぅ……まさかお母さんが来るとは」

マリ「あ、しまった」

結月「どうしたんですか?」

マリ「サイン貰えばよかった!」

結月「またそれですか」

マリ「えー、だってー……」

結月「それより、これからどうするんです?」

マリ「うん、帰る!」

結月「まぁ、そうですよね」

マリ「結月ちゃんは?」

結月「一度、実家に帰ります。宿題とかいろいろありますから」

マリ「ヘーソウナンダー」

結月「まだ夏休みですから、平気ですよね、キマリさんの宿題」

マリ「うん」

結月「即答なのが気になりますけど……」

マリ「……」

結月「……」

マリ「楽しかったね」

結月「はい」

マリ「デネブちゃんを見送る気持ちって、変な気分だね」

結月「寂しいですか?」

マリ「うん……寂しい。ずっと一緒に居た旅仲間だからね」

結月「ですね」

マリ「じゃあ、帰ろうか」
529 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 01:00:24.48 ID:wQFDgRACo

結月「ここでお別れ、ですね」

マリ「うん。じゃあ、また連絡するね」

結月「あの……キマリさん」

マリ「うん?」

結月「前にも言いましたけど、やっぱり難しいと思うんです」

マリ「なにが?」

結月「南極が、です」

マリ「……」

結月「あれから半年経ちましたけど、私だけあまり進んでいないって言うか」

マリ「私と報瀬ちゃんも、最初そうだったんだよ」

結月「へ?」

マリ「無理だって言われて、影で笑われて。
   それでも、私たちは――……ううん、報瀬ちゃんは諦めなかった」

結月「――そうでしたね」

マリ「だから、大丈夫だよ」

結月「……はい」

マリ「おっと、時間が無いや。荷物取ってこなくちゃ」

結月「それじゃ、またですね、キマリさん」

マリ「うん、またね、結月ちゃん!」

テッテッテ



結月「ふぅ……」


結月「あぁ……終わってしまった……」


結月「もう少し、あのまま時間が止まってくれたらよかったのに」


pipipi


結月「……?」


結月「あ……さっきの……」


結月「……」


――――


キマリ ― みんなで撮った最後の写真だよ!


報瀬 ―― 知らない二人が居る。

日向 ―― というか、栞奈戻ってきてたのかよ! やっぱりな!


――――


結月「……ふふ」
530 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 01:01:14.34 ID:wQFDgRACo

――――


ゆづ ―― 月が見えますね。


日向 ―― ほんとうだ、こっちからでも見えた。

報瀬 ―― なんか綺麗。

キマリ ― みんなどこから見てるの?

ゆづ ―― 東京駅のホームから。

日向 ―― バイト先から。

報瀬 ―― 家の庭から。

キマリ ― コインロッカーから。

日向 ―― 一人だけ浪漫の欠片も無い奴がいる。

キマリ ― 日向ちゃん……。

日向 ―― お前だ!

ゆづ ―― 日向さんもじゃないですか?

報瀬 ―― 日向もでしょ。

日向 ―― いやいや、ゴミ出しをしながら見てるんだよ。キマリよりはある。


――――


結月「大丈夫、ですよね」


……


531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 01:14:04.53 ID:wQFDgRACo


帰りの電車の中。


「……」


タタンタタン

 タタンタタン


「……」



少女は空を見ていた。

沈みゆく太陽が空に光を残すのを見ていた。


夜との境に月が佇む。


「……」


少女は月を眺める。


今までの旅の記憶を思い出しながら。


「……」


次第に薄れゆく意識の中で。

旅を続けている年下の子を想いながら。

疲れを電車の揺れに乗せて眠りに就いた。



「お姉ちゃん」


「……ふへ?」


「着いたよ、起きて! 急いで降りないと!」


「あ、うん! あわわわわ!」



到着した電車のドアから荷物を抱えて飛び降りた少女たち。



「やっぱり寝てた」


「ありがとう、リン。なんか気持ちがふわふわしちゃってて」



夜の風が二人を通り過ぎていく。



「おかえり、お姉ちゃん」


「うん、ただいま!」


532 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 01:15:22.17 ID:wQFDgRACo


少女たちは荷物を引いて並んで歩きだした。



「1週間とちょっと、家を留守にしてたんだね」


「たった数日なのに、ね」



少しだけの懐かしさを感じながら歩いて行く。



「お腹空いたでしょ?」


「うん、もうペコペコ」


「お姉ちゃん、喜ぶよ、きっと」


「やった! タマゴパラダイス!」



いつも見ていた風景の中に見慣れた形が見えてくる。



「はい、お家に到着」


「おぉ、懐かしの我が家〜♪」



玄関の扉を開けて。

大きな声で帰りを伝える。



「ただいま〜!」


「おかえり〜」



母親の声を聞いた。

それは少女の旅が終わりを告げた時だった。



end

533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 22:36:18.75 ID:wQFDgRACo


…………

……



534 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 22:48:04.34 ID:wQFDgRACo


ウミネコが鳴く港で、一つの影が揺らめいている。

船を見上げるその顔は懐かしさを浮かべていた。



「あれから3年も経ったんだよね……あ、違うか……前に乗ったのは4年前だ」



「おーい、キマリ〜!」


マリ「あ、日向ちゃん!」


日向「お〜、ひっさしぶり〜!!」


マリ「本当、すっごい久ぶり……だよね……」


日向「だな……。なのに……」


マリ日向「「 久しぶりって感じがしないね(な)…… 」」


日向「キマリたちが高校卒業して以来だろ? 2年近く会ってないのにな」

マリ「ね。なんでだろ?」

日向「まぁ、携帯電話で繋がってたからな。連絡はしてたし」

マリ「そだね」

日向「キマリ、海外にも派遣されてたんだろ? 見れば分かるけど、大丈夫だったか?」

マリ「うん! 地元の人たちとも交流あって……こう言っちゃなんだけど、嬉しかったよ」

日向「ふぅん……見た目もけっこうしっかりしてきたな」

マリ「そうかな? でも、鍛えてるからね! イエス、アマゾネス!!」

日向「なんだそれ、流行ってるのか?」

マリ「ううん、別に。ただなんとなく言ってみただけ」

日向「みんな結構心配してたんだけど、まぁ、元気そうでなによりだ」

マリ「日向ちゃん、大学の研究室に入ったんだよね」

日向「そうそう。南極を研究してるとこ」

マリ「研究テーマが南極?」

日向「そうだぞ。この船に乗せて貰えるだけ有難いよ。報瀬様様だ」

マリ「ということは、報瀬ちゃんとは会ってたんだ?」

日向「そんな頻繁にって訳でもないけどな。みんな忙しかったし」ニヒヒ

マリ「えへへ、そうだよね」

日向「前に会ったのが交流会した時の、1ヶ月前くらいだな。
    ゆづと他の出演者にも会ったよ」

マリ「えっ、本当に!?」

日向「うん。そのときの報瀬は、見習い副隊長として」

マリ「おぉ〜、報瀬ちゃん凄い!」

日向「あいつは人を引っ張る力があるからなぁ」

マリ「結月ちゃんと他の出演者もいたんだね、行きたかったな〜」

日向「出演者は一人除いてだな。飯山みらいさんのサインもゲットした!」

マリ「ウソ!? いいなぁ〜!」
535 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 22:50:23.34 ID:wQFDgRACo

日向「あとで見せてやるよ」ニヒヒ

マリ「いいよ、自分で貰うから。サイン色紙用意してるんだ。5人分!」

日向「いや、ゆづのまで貰う気かよ」

マリ「当然!」


「えーっ、ハリウッドで撮影なんじゃないのー!?」

「逢坂さん、ここまで来て何を……」


日向「お、噂をすれば」

マリ「えーっと、今回の映画の出演者だよね」

日向「そうだよ。名前は確か……」


「私、ゆかりちゃんや監督にハリウッド行ってきますって言っちゃったよ!?」

「それは、話を全然聞いていなかったあなたの問題で、私に言われても――……あ」


マリ「あ、テレビで見たことある……!」

日向「それはそうだろう」


「ちょっと、マネージャーに話を聞いてくる……!」

「私はあの方たちに挨拶をしてくるので、ご自由に」

スタスタ...


マリ「こ、こっち来る……!」

日向「なに緊張してるんだよ」

マリ「い、いやだって有名人だよ……!?」

日向「それはそうだけど」


「こんにちは、日向さん」


日向「こ、こんにちは」

マリ「日向ちゃんも緊張してるじゃん!」

日向「うるさいな!」


「大きい船ですね……。これに乗って南極まで……」


日向「まぁ、乗ってから分かります。南極へ行くための大きさだと」

マリ「うん、久しぶりに見ても、やっぱり大きい……!」


「えっと、玉木マリさん……でしたよね?」


マリ「は、はい。玉木マリ……です」


「玉木さんは初めましてですね。日向さんとは顔合わせの時にお会いしていました」


マリ「ひ、日向ちゃん、芸能人と知り合いだったなんて……!」

日向「いや、お前もだろ。というか、挨拶されてるんだから返せよな」

マリ「あ、そうだね。は、初めまして。玉木マリといいます。
   えっと……キマリって呼んでください」
536 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/03/05(木) 22:51:59.96 ID:wQFDgRACo


「ふふ、話に聞いていた通りですね」


マリ「話?」


「えぇ、白石結月さんから」


マリ「結月ちゃんとも顔見知りだったんですね」


「そうです。子役時代からの……」


日向「今回の映画で数年ぶりの共演ってことで話題になってますね〜」


「その話題だけで終わらないよう、作品として完成度を高めるため努力は怠らないつもりです。
 よろしくお願いします」


マリ「こ、こちらこそよろしくお願いします」

日向「と言っても、私たちは見てるだけなんですけどね……」


「それで……小淵沢さんは一緒では?」


マリ「報瀬ちゃんならもう乗ってますよ。なんてったって副隊長ですからね」エッヘン

日向「なんでキマリが偉そうなんだよ」


「それなら、挨拶はあとでいいわね……」


「おはようございます。逢坂ここです♪」


マリ「おぉ、いきなりだ」

日向「ど、どうも」


ここ「これから南極までよろしくお願いしまーす♪」


日向「……」

マリ「日向ちゃん役ですよね! 知ってます!!」


ここ「私ってそんなに有名〜? ちょっと照れちゃいますね〜♪ 慣れてますけど♪」


日向「私、こんなか?」

マリ「違うけど……撮影始まったらちゃんと日向ちゃんになるよ」

日向「うーん、自分で言うのもなんだけど、イメージが違う気がするんだよなぁ」


「逢坂さん、話は済んだのですか?」

ここ「うん! まぁ、ハリウッドと南極、あんまり変わらないよね」

「結構違うと思いますけど……まぁいいです。自己紹介が遅れました。
 私、白鷺千聖と申します。改めてよろしくお願いします」


マリ「は、はい。玉木マリといいます。よろしくお願いします」

日向「なんで2回言うんだよ」
537 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 22:54:33.53 ID:wQFDgRACo

マリ「逢坂さんの試合見ました!
   野球あんまり分からないけど女子が活躍できるなんてすごいって思いました!」


ここ「……ありがとうございます」


マリ「あれ……私、変なこと言った?」

日向「わ、分からん……」


ここ「私の活躍が目立ったのは事実ですけど、あの場所へ行ったのは努力の成果であって、
   男女の違いは関係ないと思います」


マリ「……はい」


千聖「ふふ。結果を出すには努力をすることは当たり前。
    だけど、普遍的な努力では到底辿り着けない場所は必ずある。そういうことですね」

ここ「分かってるじゃない千聖ちゃん♪
   私たちが他の高校と違うのは、練習内容と楽しく過ごした時間だけなんだから」

千聖「あの、会ってそう時間は経っていないのだから名前で呼ばれるのは」

ここ「それじゃ、私はスタッフさん達に挨拶してくる。また後でね〜♪」

テッテッテ

千聖「……ハァ。……アヤちゃんとヒナちゃんを足して割ったような人ね」


マリ「なんか、本物って感じ……」


千聖「私も見ましたが、あの場所に立つという結果は並々ならぬ努力の賜物でしょう」


日向「確かに……」


千聖「そういう人と共演できる幸運に感謝しています。この話の流れでお聞きしたいのですが」


マリ「……?」


千聖「小淵沢報瀬さんの役として私にオファーがあったのですが、誰の意図でしょうか?」


マリ「ん?」

日向「私たちはそういうことに疎くて……分からないですね?」


千聖「そうですか……。何はともあれ、
   先ほども言いましたが今作の完成度を高める気持ちは皆さんと一緒です。
   何卒、ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」


マリ「い、いえいえ! 私たちも……4年前の南極探検隊が小説になって実写化されるとは思いもしなかったので」

日向「演技のことは難しいですけど、他に出来ることなら目一杯協力しますので!」


千聖「そう言ってくださると心強いです。それでは、私も他の方に挨拶へ行ってきますので、これで」


マリ「はい、また後で〜」

日向「……確か、アイドルをやってたんだよな。バンドやってたとか」

マリ「演奏、聞きたいな〜」

日向「まぁ、余興とかで歌ってくれるかもな。望みは薄いけど」

マリ「そんなことないよ。宇宙から見たら音楽に国境線なんてないんだから」

日向「色々と混ざった壮大な名言だな」
538 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 22:58:03.94 ID:wQFDgRACo

マリ「は、しまった! サイン貰うの忘れてた!」

日向「またかよ! でも、確かに変な気持ちだな。小説になって実写化されるなんて」

マリ「実写化って変な響きだよね。私たちのことだからかな」

日向「事実を元にしたフィクションってやつだな。小説は読んだけど、どうなるのか楽しみだ」

マリ「あれ? 私の役って誰?」

日向「え?」

マリ「だから、私の役……玉木マリ役は誰なの?」

日向「なんで知らないんだよ?」

マリ「寮の生活は規則が厳しいんだよ〜。だから知らない情報とか多くて」

日向「自分を演じる人のことくらい知っておけよな」

マリ「日向ちゃん役は逢坂ここちゃんでしょ? 結月ちゃん役は結月ちゃんでしょ?」

日向「報瀬役は白鷺千聖さんで、吟隊長役は飯山みらいさん」



「……」

スタスタ...


マリ「報瀬ちゃんって、みこっちゃんじゃないの?」

日向「いや、みことは――って、噂をすれば」

マリ「?」

日向「後ろ、見てみ?」

マリ「……?」クルッ


「キマリさん、日向さん」


マリ「……あ」


「久しぶり」


マリ「あれ、、髪切った?」

「うん、前髪揃えた。あの時のキマリさんみたいに」

マリ「うーん? あんまり似合ってない?」

「え、そう?」


日向「おまえら、3年ぶりの再会にどうでもいい会話するなよな!」


マリ「あはは……。久しぶりだね、みこっちゃん」

日向「久しぶり〜」

みこと「うん……」

マリ「元気してた?」

みこと「うん、してた」

マリ「なんか、体が大きくなったような? 身長伸びた?」

みこと「うん、5センチくらい」

マリ「ほぇ〜!」
539 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 23:00:05.81 ID:wQFDgRACo

日向「なんで顔合わせの時、来なかったんだよ? 制作発表の時も居なかったな?」

みこと「やること一杯あったから。ここに来るために、しなきゃいけないことが」

日向「ふぅん。……まぁ、それで色々と話題になってるよな、今回の映画」

マリ「話題?」

日向「さっきの、野球娘、逢坂ここ。ゆづとの数年ぶりの共演、白鷺千聖。
   若手女優にして作者の娘、鶴見琴。ゆづと、飯山みらい。などなど」

マリ「ほぉ〜」

みこと「でも、出演者だけじゃないよ、スタッフの人たちも凄い人たちばかりで」

日向「そこはよく分からないんだけどな」

マリ「え!? 私の役ってみこっちゃん!?」

みこと「うん」

マリ「なんで!? 報瀬ちゃんじゃないの!?」

みこと「報瀬さん役は白鷺さんだよ?」

マリ「うん、さっき聞いた! なんで私!?」

みこと「他にイメージの合う人いなかったから?」

マリ「そうなんだ……。私、結構美人なんだね」

日向「自分のことよくそう言えるな……」

みこと「一番近くでキマリさんを見てて、一番近くでお母さんの小説が生まれるところを見てたから」

マリ「……」

みこと「ダメだった?」

マリ「ううん、むしろ光栄だよ」

みこと「……よかった」

日向「話を聞いてたら、キャスティングしたの、みことになるんだけど……そうなのか?」

みこと「うん、お母さんと考えたよ」

マリ「へぇ……」

みこと「色んな人にわがままいって迷惑かけたみたい」

日向「そうなのか……よく分からないけど」

みこと「さくらさんも、ちゃんと居たよね?」

マリ「あ、うん。さっき挨拶したよ」

日向「なんか、凄い人脈を持ってるような気がしてきた」

みこと「利用できることは全部利用した……この日の為に」


マリ「…………」


みこと「演劇部の部長さんも、劇団の人たちも。
    お母さんにお願いしてキマリさん達の旅を小説にしてもらった」

日向「うんうん、何度か取材に来て話したな」

マリ「何度も?」

日向「3回くらいかな」

マリ「なんで!? 私、1回だよ!」

日向「いや、キマリ……忙しそうだから……」

マリ「おかしいよ、まだサイン貰ってないのに!」

みこと「私が……キマリさんのこと、話してたから……かな」

マリ「うーん、なんか釈然としないような……」
540 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 23:02:10.14 ID:wQFDgRACo

日向「いいじゃないか。小説の中のキマリもちゃんとキマリしてたぞ。名前違うけど」

みこと「うん」

マリ「演劇部に入ってたの?」

みこと「うん……あの旅が終わってから」

マリ「どうして?」

みこと「どうしたら、また……キマリさん達と旅が出来るか……。
    南極へ一緒に行けるのか……東京を出発してから考え始めた」

日向「……」

みこと「考え出すと止まらなかった。
     お母さんの小説と、結月さんとの出会いを中心に物語が進み始めたから」

マリ「物語……?」

みこと「うん……。妄想……とも言えるけど……」

日向「でも、現実に、みことと一緒に、私たちはここにいる。南極に行ける」

みこと「うん……! 私、たくさん動いたよ。キマリさんに教えてもらったから」


マリ「…………」


みこと「東京で別れてから、デネブの旅が終わっても……私の旅は続いてた」


マリ「…………」


みこと「長かったけど……あっという間だった。だけど……ようやく辿り着いた」


マリ「……うん」


みこと「それが嬉しい」


マリ「分かる、分かるよ。報瀬ちゃんもそうだった」


みこと「……」


マリ「高校生という時間を、南極へ行くために費やしてたんだよ」


みこと「……うん。……取材で知ってる」


マリ「でもね、違うよ、みこっちゃん」


みこと「?」


マリ「ここはゴールじゃない。スタート地点だよ」


みこと「……」


マリ「まだ、旅は終わらないよ!」


日向「……だな」


みこと「――……」

541 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 23:03:57.43 ID:wQFDgRACo

マリ「そこで、みこっちゃんに、一つ課題を提示します!」


みこと「え?」


日向「懐かしいな。始発駅でもそんなこと言ってた」


マリ「この船に乗る人と仲良くなること! 出演者はもちろん、私たちとも!」


みこと「キマリさん達……?」


マリ「そうだよ。今回は私たち自衛隊も乗船するんだから――」


「玉木」


マリ「は、はい! 西住隊長!」ビシッ


西住「そろそろ時間だ。準備はいいか?」

マリ「はい、準備は出来ています!」

西住「ふむ、ならいい。……友人か?」

マリ「そうです! 前回の南極へ行った時の友人と、旅仲間です!」

西住「そうか……。出発まで時間はある。その時まで準備は怠らないようにな」

マリ「はい!」

西住「では」

スタスタ...


マリ「……ふぅ」


日向「おぉ……あの人が今回の……自衛隊の隊長さんか……」

みこと「……」

マリ「うぅ、西住隊長の前だといつも体が強張る……っ」ブルブル

日向「貫禄ある人だな……どういう人?」

マリ「西住隊長、戦車の腕は歴代を超えるんだっていう、凄い人。階級は中尉だよ」

日向「ふぅん。で、キマリの階級は?」

マリ「……少佐」

日向「なんでお前が上なんだよ!? 隊長さんに言うからな!」

マリ「ごめんなさい許して! 自衛隊はそういうの本ッッ当に厳しいんだから!!」


みこと「キマリさん、厳しい。いつも肝心なところで甘やかしてくれない」


マリ「みこっちゃんがどんな世界を切り開くのかって、思ったらね」

みこと「そのおかげで今の私があるよ。だから厳しいけど、とても優しい」

マリ「そっか……」

日向「全員と仲良くか……大変だな」

みこと「前回の課題は達成できてる?」

マリ「うん、とっくに!」
542 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 23:06:12.41 ID:wQFDgRACo

みこと「これ、覚えてる?」

日向「あー、あの記念バッチ……」

マリ「もちろん。私も持ってるよ。ただの記念じゃなくて、私たちの懸け橋になったね」

みこと「うん……鵲……」

日向「ご利益があったんだな〜」

みこと「……あの旅でも、最後まで行こうと思ったから……いまに繋がってる。
    凄いね……キマリさんに出会って、ここまで私の世界が変わるなんて」

マリ「ううん、私だけじゃない。日向ちゃんや報瀬ちゃん、結月ちゃん……。
   あの旅で出会った人、みこっちゃんがここまでに来る途中で出会った人すべてだよ」

みこと「……でも、一番最初に展望車から連れ出してくれたの、キマリさんだから」

日向「……」

マリ「……そこまで言ってくれると、ちょっと照れるね」

日向「キマリとみことを繋げたのって、あの人だよな」

みこと「?」

マリ「あ、うん。お兄さんだ」

みこと「……そうなの?」

マリ日向「「 うん 」」

みこと「あ……そう言ってた……展望車でみんなで寝た時」

マリ「あぁ、あったね! なんだか懐かしい!」

日向「まぁ、後で本人に聞くといい」

みこと「……!」

マリ「居るの?」

日向「あぁ、助監督だって」

マリみこと「「 そうなんだ……!? 」」

日向「いやいや、なんでみことまで知らないんだよ!」

みこと「お母さんそんなこと一言も言ってない……!」

日向「黙ってたんじゃないか?」ニヒヒ

マリ「あ〜、惜しい」

日向「なにが?」

マリ「あと、あの二人が居たらなぁって!」

日向「そう言うと思って、動画を持ってきました」

みこと「?」

日向「その顔だとみことも知らないんだな。甲子園の映像だよ。アイツ、カメラに映ってた」

マリ「見たい!」

日向「応援席で制服着て応援してたよ。お前、大学生だろ! って思わず突っ込んでしまった」

みこと「見たい見たい!」

日向「今はカメラ回ってないからキマリの真似しなくていいんだぞー」
543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 23:06:57.23 ID:wQFDgRACo


マリ「…………ん〜〜!」


みこと「札幌でもね、面白いことがあって――」

日向「待て待て、話は船の上で聞こうじゃないか。旅は長いんだから」

みこと「うん!」


マリ「楽しみ〜〜!!」


日向「どうした?」

みこと「どうしたの?」


マリ「まだ始まっていないのに、すでに楽しいから!
   この旅が楽しいものになるって実感してるんだよ!」


日向「分かる! 分かるぞ、それ!」

みこと「うん!」


ヴォーー!

 ヴォーー!!


マリ「船もそうだって、言ってる!」

日向「試運転か何かだろ! でも分かる!!」

みこと「うん!!」



マリ「行こう! 南極へ!」


マリ「私たちの旅を、また始めよう――!」


「「 おおーーッ! 」」


544 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 23:07:41.38 ID:wQFDgRACo



腕を掲げて高揚感を隠し切れない三人の影が揺らめく。


その姿を船の上から二人の友人が眺めていた。


船はまた、南極へ向けた航海を始める。


列車から船へ。


また、旅へ――。






545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/03/05(木) 23:08:56.15 ID:wQFDgRACo

これで終わりです。
ここまで読んでくれた方、ありがとうございました。
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