マリ「超特急デネブ?」結月「そうです」

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218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/04/08(月) 09:33:44.34 ID:MQ6xVShUo

報瀬「休みじゃなかったんだ?」

綾乃「うん、ちょっと時間が空いただけだから。誘ってくれてありがとね」

秋槻「電車で戻るの?」

綾乃「うん……。そういえば、京都駅のスタンプラリー、みんな知らないの?」

日向「知ってるけど、別にいいかなって」

綾乃「そうなんだ。……それじゃ、また列車で、バイバーイ」

スタスタスタ...

栞奈「バイバイ〜」

みこと「……」

結月「スタンプラリー……」

マリ「えー……」

報瀬「いつまでショック受けてるの」

マリ「だってー……。なわとび大会のため、団結力を高めていかないといけないのに」

日向「あー……それなんだけど、キマリ」

マリ「?」

日向「もう一人、探さないといけないんだ」

マリ「どういうこと?」

秋槻「……ごめん」

マリ「?」

秋槻「参加、遠慮させてもらうよ」

マリ「えーっ!?」

一輝「秋槻さんが出ないなら……俺も……」

栞奈「あらら……」

結月「なら、2人探さなくてはいけませんね」

みこと「……決まってるもう一人って誰?」

日向「さぁ? キマリ教えてくれないんだよ」

報瀬「他に、誘える人いないよね」

結月「売店の店員さんと、食堂車にもう一人店員さん居ますが……」

マリ「時間、空いてないって……」

栞奈「それなら、新しく乗車してくる人に期待しよう」

日向「今考えてもしょうがないよな……」

マリ「あぁ、困ったなぁ」チラッ

結月「困りましたねぇ」チラッ

報瀬「……」チラッ

日向「本当だよ……」チラッ

みこと「……」ジー

秋槻「いや……うん。……心から悪いと思っております」

一輝「……」


……


219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 03:58:32.43 ID:NvaB0sZQo

―― 車内


ブォォォオオオ


日向「料理長に頼んでみるとか」

報瀬「本当に頼めるの? 本当に?」

日向「いえ、僅かな可能性を示しただけなので……」

結月「10人じゃないと参加できないんですか?」

マリ「どうなの、日向ちゃん?」

日向「うん……ルールで決まってるみたいだな……」ポチポチ

みこと「次が名古屋、その次が金沢……」

栞奈「さぁ、緊迫してまいりました。
   果たして我々は無事になわとび大会に参加できるのでしょうか」

報瀬「……?」

栞奈「ご期待ください」

報瀬「ハッ!? もしかして撮ってる!?」

マリ「あ、バレちゃった」

結月「栞奈さんが説明口調になるからです」

報瀬「こういう隠し撮りは止めてって言ってるでしょ!?」

日向「報瀬以外は知ってるから隠し撮りとは言わないんだよー!」

報瀬「なにその犯罪者の理論」

日向「酷いこと言うな」


一輝「後ろ、結構揉めてますよね」

秋槻「歳の近い子って、他に……居ないよね……」

一輝「いないですね……」

秋槻「……」


みこと「夕陽が綺麗だよ」


秋槻「え……あ……うん」

一輝「雨の影響かな……」

秋槻「雨?」

一輝「少し降ったみたいですね」

秋槻「そういえば、夜景が見える場所があるけど」

一輝「後ろに聞いてみます」


報瀬「やっていいことと悪いことがあるってこと言ってるの!」

日向「これはやっていいことだろ!
   プライベートな部分はカットするっていってるのに、この分からず屋!」

報瀬「何屋さんなの!? 何売ってるの!? 何で利益出してるの!?」

日向「商売してる店ちゃうわ!」

マリ「京都ラーメンというものがあるんだって」

結月「キマリさん、ラーメンばかり食べてるんですよね。飽きませんか?」

みこと「夕陽が……」

栞奈「山道だからね、すぐ隠れちゃうね」
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 03:59:37.80 ID:NvaB0sZQo

一輝「おーい」


栞奈「助手席から声がかかりました。一輝さーん、どうしましたー?」


一輝「あ? まだ撮ってんのか?」


栞奈「分からないけど、一応、状況説明しとこうかと」


一輝「まぁ、別にいいか。……えっと、夜景の見える場所があるんだけど、どうする?」


栞奈「夜景ですか、それはいいですね。みことちゃんはどう思いますか?」

みこと「うん」

栞奈「……判断付かないリアクションですが、いいでしょう。残りの4人にも聞いてみましょう」

結月「液晶の光が強く感じますね……。あまり見てると目を悪くしますよ」

マリ「うん、もうちょっと〜」ポチポチ

報瀬「あれ? どこにカメラあるの?」ガサゴソ

日向「さぁ、どこでしょうな」

栞奈「オッケー!」


一輝「本当にオッケーなのか? ……いいや、行きましょう」

秋槻「どこでも自由だね、君たちは……」


ブォォォオオオオ


……


221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 04:03:05.61 ID:NvaB0sZQo

―― 夢見ヶ丘


ザァァアアアアア


秋槻「暑くない?」

一輝「適温ですよ。それよりエンジン付けっぱなしで大丈夫ですか?」

秋槻「まだまだ大丈夫だね」

一輝「それならいいですけど」


マリ「お腹空いた……なにか買っておけばよかったね」

報瀬「……」

結月「報瀬さん、今は撮ってませんから……」

栞奈「どう? 見える?」

みこと「……ぼんやりと」

日向「……」


ザァァァアアアアア


みこと「急に降って来たよね」

栞奈「夏はこういうことあるからしょうがないね。らしくて好きだけど」

日向「で、この雨、いつ止むんだ?」

マリ「もうちょっと」

日向「そのもうちょっとって、一時間前から言ってるけど一向に止む気配がないんだが」

報瀬「日向、イライラしてる?」

日向「車の中で一時間以上ジッとしてるんだぞ、我慢の限界だ」

報瀬「そう、ふふふ」

日向「なんで笑う」

報瀬「天罰って、本当にあるんだなって」

日向「報瀬ぇぇ! 表出ろぉぉお!!」

マリ「もぉ、落ち着いてよぉ」

みこと「雨に濡れたら気分良くなるかも」

結月「確かに、気分は晴れそうですね」

栞奈「でも、着替え持ってきてないでしょ」


一輝「他にも車止まってましたけど、諦めて行ってしまいましたね」

秋槻「あ、本当だ……。よし、絶好の位置に止めよう」

ブォォー

一輝「あの辺りがいいんじゃないですか?」

秋槻「そうだね、良さそうだ」
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 04:04:57.25 ID:NvaB0sZQo

みこと「私、タオル持ってきてるよ」

日向「お、ナイス!」

報瀬「待って!? 本当に外に出る気!?」

日向「ちょっとぐらいなら平気平気〜」

ガチャ


結月「何してるんですか日向さん!?」

マリ「みんな、日向ちゃんを抑えて!」

ガシッ

日向「嫌だ、離せ! 退屈な日常なんてうんざりなんだー!」ジタバタ

栞奈「あとちょっとだけ待って!」

日向「あとちょっとって、どのくらい?」

栞奈「30秒」

日向「いーち、にーい、さーん」


ザァァアアアアア


みこと「止む気配がないよ」

報瀬「秋槻さん! 今のうちに発進してください!」

マリ「今すぐ! ライトナウ!!」


秋槻「どうしようか……」

一輝「一時間も待ったんですから、今帰ると……負けな気がしますね」

秋槻「じゃあ、もうちょっと待とうか」

一輝「ですね」


栞奈「クックック、一輝〜、やるじゃん」


一輝「……なにが?」


栞奈「別に〜」


報瀬「秋槻さん!?」


秋槻「君たちはいつでも自由でしょ?」


報瀬「え?」

マリ「……」
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 04:07:46.96 ID:NvaB0sZQo

日向「にーじゅご、にーじゅろく」

結月「わぁぁああ! 本当に出る気ですよ!」ギュッ

みこと「……」

日向「にーじゅはち、にーじゅきゅう!!」

ガチャ


マリ「結月ちゃん、離しても大丈夫だよ」

結月「え?」


ザァァアアアアア


日向「さんじゅう!!」


ガラッ



日向「たぁっ!」


ピョン


結月「あ……!」

報瀬「本当に……出てしまった……」

マリ「私も!」

ピョン


結月報瀬みこと「「「 あ…… 」」」


ザァァアアアアア


日向「ひゃー、気持ちいい〜!!」

マリ「本当だ〜!!」


栞奈「あーあ、びしょ濡れじゃん」

みこと「……」


日向「雨はすべてを洗い流してくれるようだ」

マリ「天然のシャワーだよね」


栞奈「あんな風に両手広げて空を見上げてる風景、映画にあるんだよね〜」

みこと「……うん」

224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 04:09:28.60 ID:NvaB0sZQo

ザァァアア


報瀬「なんか、ずるい」

ピョン

結月「本当ですよ」

ピョン


ザァァアア


日向「なんだよ、報瀬とゆづも来たのかー?」

報瀬「二人が楽しそうにしてるからでしょ」

結月「後先なんて考えずに……ずるいです」

マリ「あはは、でも、気持ちいいよね〜!」


栞奈「……」

みこと「……っ」


秋槻「行かないの?」

一輝「……冗談」

秋槻「でも、俺はこれからコンビニへ行ってタオルを買いに行くわけだけど」

一輝「……」

秋槻「彼女たちを置いてはいけないよね」

一輝「あぁ、もう……なんて迷惑なっ」


栞奈「負けておけば良かったのにね」


一輝「うるさい。お前は降りないのかよ?」


栞奈「女性用の下着やらを秋槻さんに買わせるのかい?」


一輝「くっ……あっそ」

ガチャ


日向「なんだ、大村まで来たよか〜?」

一輝「仕方なくだ」

報瀬「あ、何やってるんだろう、私たち」

結月「素に戻らないでください! まだ早いです!!」

マリ「みこっちゃん!」


ザァァアア


みこと「……!」
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 04:10:54.36 ID:NvaB0sZQo

マリ「おいでよ!」スッ


みこと「う、うん……っ」スッ

ギュッ


マリ「ようこそ、レインパラダイス!」グイッ

みこと「……っ」

日向「あはは、なんだそれ!」

報瀬「雨の楽園!」

結月「そうです、雨の楽園! そのまんまです!」


ザァァ......


マリ「あれ……?」

みこと「え?」

報瀬「あ……」

結月「止みましたね」

日向「止んだな」

一輝「……嘘だろ」

みこと「向こうの空、晴れてる」

マリ「ほんとだ……! もう雨は降らない?」

日向「そういうことだな」

報瀬「……ふふ」

結月「なんですかね、これ」

一輝「あとちょっと待てばよかったんじゃないか!」


栞奈「アハハ! もう後の祭り!!」


秋槻「それじゃ、買いに行ってくるから」


……


226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 04:15:07.95 ID:NvaB0sZQo

―― 温泉


マリ「はぁぁ……」

報瀬「貸し切り風呂があるなんて、運がいいよね」

日向「あとでちゃんと礼を言わないとな」

結月「そうですね。栞奈さんにも言わないといけません」

みこと「……ふぅ」

マリ「大丈夫? 疲れてない?」

みこと「ううん、全然……。特に何もしてないから」

マリ「そっか……ふぃぃ。体冷えちゃってたから気持ちいい〜」

報瀬「栞奈って、日頃あんな調子だから、たまに驚いてしまうよね」

日向「そうだよな。いっつも変なこと言ってるけど、先のこと考えてたりするな」

結月「たまに真面目になったりしますね。たまーにですけど」



―― コインランドリー


栞奈「くしゅっ、くしゅっ……へっくしゅん!」


ゴォン ゴォン


栞奈「グスッ……。誰か私の噂してるな……?」


一輝「よう」

栞奈「グスッ」

一輝「……どうした?」

栞奈「くしゃみしたから鼻水が出ただけ。どうしたの?」

一輝「別に、暇だったから」

栞奈「ちょっとぉ、キマリたちの下着があるんだから――」

一輝「おい、やめろ」

栞奈「あり、冗談だったんだけど」

一輝「洒落にならないとこ、見てるだろ?」

栞奈「確かに」

一輝「本当、やめろよ……」

栞奈「……そんなに嫌がるとは思ってなかったなぁ」

一輝「嫌に決まってるだろ」

栞奈「ふぅん……。気に入ってるんだ?」

一輝「なにが?」

栞奈「この旅が」
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 04:16:22.60 ID:NvaB0sZQo

一輝「……なんでそうなる」

栞奈「関係が壊れちゃ、この旅は終わっちゃうもんね」

一輝「なんだそれ。よく分からんな」

栞奈「本当は分かってるくせに」

一輝「……」

栞奈「あ、ごめん。なんか知った風なこと言っちゃった」

一輝「……別に」

栞奈「えっと……秋槻さんは?」

一輝「仕事の話かな……。電話してる」

栞奈「……そっか」


ピー

栞奈「あ、終わった。……乾燥機に入れるから、一輝はアッチ向いてて」

一輝「いや、外出てるわ」

栞奈「えー、話し相手になってよー」

一輝「……分かったよ」

栞奈「いいって言うまで向かないでよ」

一輝「はいはい」

栞奈「よーいしょっと」

一輝「栞奈さ、なわとび大会に出るんだろ」

栞奈「もちろん。……これでよし、っと」

ピッ

 ゴォン


栞奈「一輝、本当に出ないの?」

一輝「……」

栞奈「秋槻さんが出ないから?」

一輝「……うん」

栞奈「まぁ、それも選択の内よね〜。今乾燥中だけど」

一輝「滑ってるぞ」

栞奈「なんでデネブに乗ったの?」

一輝「……それを聞いてどうする?」

栞奈「ただの興味本位」
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 04:17:16.09 ID:NvaB0sZQo

一輝「親が、20年前に日本縦断した列車、ヴェガに乗ってたんだよ」

栞奈「ふぅん……」

一輝「それは後から知ったんだけど……。
   父さんに『乗ってみるか?』って聞かれて、それで」

栞奈「乗ってみようと思ったわけだ?」

一輝「興味沸くだろ。こんな豪華列車……。調べれば調べるほどな」

栞奈「あぁ、分かる分かる」

一輝「乗車して、最初は『こんなものか』って気分だったけど」

栞奈「今は違うんだ?」

一輝「……さぁな」

栞奈「はぁ、素直じゃないね」ヤレヤレ

一輝「ちっ……。じゃあ、車戻ってるからな」

栞奈「あ、そういや、一輝は平気なの? 温泉入らなくて」

一輝「あまり濡れてなかったからな。乾いたよ」

栞奈「男って便利ね」

一輝「すぐ止んだからだよ。そういう機能があるみたいに言うな」


……


229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 04:18:16.31 ID:NvaB0sZQo

―― 駐車場


マリ「ありがとう、栞奈ちゃん」

栞奈「いえいえ」

報瀬「洗濯してくれて助かったよ、ありがとう」

栞奈「いえいえ」

結月「私たちだけお風呂入っているなか、そんなことさせて申し訳ないです」

栞奈「いえいえ」

日向「栞奈が居てくれて良かった!」

栞奈「いえいえ。とりあえず、高級名物をそれぞれ持ってきてくれればそれでいいからさ♪」

マリ報瀬結月日向「「「「 えー 」」」」

栞奈「あら、大ヒンシュク」

一輝「殊勝すぎて怪しいと思ったよ」

みこと「……」

秋槻「何か食べてから戻ろうか」

みこと「うん」


結月「……おかしい」

マリ「なにが?」

結月「あ、いえ……なんでもありません」

マリ「?」


……


230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 04:20:45.05 ID:NvaB0sZQo

―― 京都駅


日向「……にしんそば食べたかったなぁ」

マリ「京都ラーメン美味しかったよね?」

日向「そうだけど……そうなんだけど……」

報瀬「じゃんけんに負けたんだから、グチグチ言わない」

日向「そうなんだけど……! もっとこう、ならではなものが食べたいのだよ!」

みこと「あ、戻ってきた」

結月「……」


秋槻「お待たせ、それじゃ戻ろうか」

一輝「今日はありがとうございました」

栞奈「ありがとうございましたー!」

結月「ありがとうございました」

秋槻「うん、どういたしまして……!」ビクッ

マリ「?」

秋槻「……ま、まずい」サササッ

報瀬「???」


「……」


結月「そんなところで、何をしてるんです?」


「何も聞かないでくれ……!」


日向「何を隠れてるんだ……?」

栞奈「どうしたんだろね」


さくら「あら、結月ちゃん」

結月「あ、さくらさん、今まで観光だったんですか?」

さくら「そうなのよぉ。どこかでバッタリ王子様と逢えるんじゃないかって」

マリ報瀬日向「「「 王子様? 」」」

一輝「?」

栞奈「出会いを求めてるんですか?」

さくら「そうじゃないのよぉ。私はもう見つけているの、王子様☆」

みこと「それは誰?」

さくら「あらん、野暮なことは聞かないの☆」


「……」ゴクリ
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 04:24:29.64 ID:NvaB0sZQo

みこと「……」

さくら「あら、みことちゃん……顔色が少し悪いわねぇ」

マリ「え……!?」

日向「無理させてしまったか……!?」

みこと「あ、ううん、大丈夫」

さくら「夏バテかしら? 栄養はちゃんと摂らなきゃ美貌は保てないのよ」

結月「疲れがたまってたみたいで……」

さくら「あら大変。それじゃ今日は早く寝ることね」

みこと「……うん」

さくら「私も、早く寝なくちゃ。この歳になるとお肌にすぐ表れちゃうからぁ」

一輝「違いがよく分からないけどな……」

さくら「あら、私のこと口説いてるのね。おませさん」

一輝「ッ!?」

さくら「でも私、若い子に興味は無いの。ごめんね……」

一輝「」

栞奈「桜が散り、春が終わった男が一人。
    その気持ちを詩に込めて、今日も男は謡います」

日向「演歌みたいだな」

栞奈「さぁ、唄っていただきましょう……大村一輝、『失恋櫻』」

一輝「」

報瀬「おばあちゃんがよく見てた、そのテレビ番組」

さくら「うーん? でも、気配は感じるのよね……」

マリ「気配……?」


「……」


さくら「気のせいね。それじゃ、みんなおやすみ♪」

スタスタスタ...

みこと「おやすみなさい」

結月「おやすみなさい……」

マリ「気配って……?」

結月「さくらさん、前は格闘やってたらしいんです。その名残かもしれません」

栞奈「通りでごついわけだ」

みこと「闘うスタイリストさん、って呼ばれてるって」

一輝「通り名もごついな……」


秋槻「……ふぅ」


マリ「どうしたの、お兄さん」

秋槻「いや、なんでもない」
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 04:27:07.88 ID:NvaB0sZQo

みこと「顔色が悪いよ」

秋槻「ちょっと疲れちゃったかな……はは」

日向「今日はもう、みんな寝ようか」

栞奈「宴会は?」

報瀬「無し」

栞奈「これから毎日やるって言ってたのに……」

結月「誰も言ってません」


……



―― デネブ


車掌「お帰りなさいませ」

秋槻「ただいま戻りました」

車掌「お疲れのようですね」

秋槻「久しぶりの運転で緊張してしまって……」

車掌「あらあら」


みこと「……」

結月「……」

日向「ふぁぁ……私先に戻ってるな……。おやすみぃ〜」

報瀬「私も、もう寝る……また明日……」

栞奈「それじゃーねー」

一輝「お前元気だな……。それじゃ、俺も」

マリ「私は売店行ってくるね」

結月「は、はい……」


秋槻「雨が降ったおかげで、空気が澄んでて、夜景が綺麗でした」

車掌「晴れて良かったですね」


みこと「……」ジー

結月「みことって、秋槻さんのこと……」

みこと「?」
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 04:28:28.12 ID:NvaB0sZQo

結月「あ、えっと……秋槻さんの印象どうなのかなって」

みこと「お父さんみたい?」

結月「そう……なんだ」

みこと「……うん」

結月「うーん……?」


秋槻「スタンプラリーの参加者はどのくらいいますか?」

車掌「まだ景品をもって訪れた方はいませんので、何とも言えません」


みこと「……なんだろう、ざわざわする」

結月「どういうこと?」

みこと「よく分からない」

結月「……それって」


さくら「結月ちゃん、ちょっといいかしら」


結月「え、あれ?」

さくら「ごめんなさいね、用件をすっかり忘れちゃって……。これなんだけど」

結月「……明日の段取りですね」

さくら「そうなの。ディレクターさんに渡すよう言われてたのに、ごめんね」

結月「はい、分かりました。謝ることないですよ」

さくら「でも、私ったら、ついはしゃいじゃって……」ションボリ

結月「あ、ちょっと待ってくださいね」

さくら「?」

みこと「……」ジー


秋槻「明日の夕方出発ですから、昼頃から食堂車は混むかもしれないってわけですか」

車掌「乗車されているお客様は、発車してからご利用いただければ良いかと」

秋槻「あぁ、そうですね。それなら景品を有効活用できる」


結月「みこと、耳貸して」

みこと「?」

結月「ひそひそ」

みこと「……?」

結月「その、ざわざわの正体、わかるかも」

みこと「……」
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 04:29:41.00 ID:NvaB0sZQo

さくら「うーん、また気配を感じちゃうわぁ……。はぁ、逢えないと辛い……」

みこと「あっちに居るよ」

さくら「え?」

みこと「ほら、車掌さんと話して――」


シュンッ


みこと「――いるでしょ? ……あれ?」

結月「消えた……!」


車掌「あら?」

秋槻「どうかしま――っ!?」ゾクッ

さくら「捕まえた」

秋槻「――あ――ぅ」

さくら「やっと、捕まえた……私の王子様☆」

車掌「王子……?」

秋槻「な、なんでもありませんよ。……っと、時間だ。私はこれで」

さくら「あなたと私、二人の時間がこれから――」

秋槻「これから仕事がありますので……! 失礼します!!」

スタコラサッサ

さくら「あぁん、……逃げられちゃった」

車掌「あの……?」

さくら「逃げられると、追いかけたくなっちゃうのよね」ゴゴゴゴ

車掌「は、はぁ……?」

さくら「あら、ごめんなさい、車掌さん」

車掌「いえ……」


結月「どう?」

みこと「ざわざわしたの、なくなった……?」

結月「……やっぱり」

みこと「?」

結月「とりあえず、今日はもう寝ようよ」

みこと「……うん。……明日はどうするの?」

結月「明日の朝は、散歩するだけみたいだから」

みこと「うん、分かった」


……


235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 04:31:33.07 ID:NvaB0sZQo

―― マリの個室


マリ「私たちは私たちの旅を……かぁ……」


マリ「うーん……」


マリ「どういう意味だろ……?」


コンコン

「キマリさん、勉強してるとこ悪いんですけど、少しいいですか?」


マリ「……」

ガチャ

結月「すいません、勉強の邪魔をしてしまって」

マリ「してなかったから平気だよ……。どうぞ入って入って」

結月「そうですか。あのですね、話というのは……」

マリ「『やっぱりな』って空気を感じる……!」

結月「明日の観光のことなんですけど、金閣寺とか名所を回るんですよね」

マリ「うん、そうだけど?」

結月「私の撮影が清水寺であるんですよ」

マリ「そうなんだ?」

結月「さっきの雨の影響で、予定が変更になりまして」

マリ「じゃあ、一緒に行くよ。ちょうど良かった」

結月「あ、いえ……。えっと……行きたいところ行って欲しいんです」

マリ「行きたかったところだよ?」

結月「そ、それだと計画が……」

マリ「?」

結月「みなさん、一緒ってことですよね。みことも……」

マリ「……」

結月「……キマリさん?」

マリ「結月ちゃん、私たちには私たちの旅があるんだよね」

結月「どういう意味です?」

マリ「みこっちゃんのお母さんに言われたんだけど、よく分からなくて……」

結月「話の流れからすると……みことはみことの旅があるってことですよね?」

マリ「……うん」

結月「それなら、明日別行動してみませんか?」

マリ「それぞれ違う観光地に行くってことだよね」

結月「はい、そうです。それで、キマリさんが分からないところも見えてくるのではないかと」

マリ「……」

結月「無理して別行動する必要はありませんけどね」
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/06/03(月) 04:32:18.49 ID:NvaB0sZQo

マリ「ちょっと心配だけど、そうしてみようかな……?」

結月「みこともただの子供ではありませんから問題はないはずです。やってみましょう」

マリ「うん、明日の朝、話してみよう。それで、結月ちゃんの話って?」

結月「いえ、私の計画とも合っていますからそれはいいです」

マリ「計画って?」

結月「いえいえ、なんでも……。そ、それじゃ遅いですから失礼しますね」

マリ「計画ってなに?」

結月「なんでもないって言ってるじゃないですか……。
   私は寝ますから、勉強頑張ってください」

マリ「鬼だ……!」

結月「リンに頑張ってたって伝えておきますね。……それでは」

ガチャ

 バタン

マリ「鬼だ……」シクシク


……


237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:00:36.03 ID:redis/s9o


―― 8月6日


綾乃「いらっしゃいませ」


マリ「おはよう、綾ちゃん」

日向「おはよー」

綾乃「おはよう。みんな早くに出て行ったけど、どこ行ったの?」

結月「どうして知っているんですか?」

報瀬「まだ太陽昇ってなかったのに」

綾乃「見たから。朝早いからね、うちの食堂」

マリ「少し周りを歩いてたんだよ。お寺行って、公園でラジオ体操して」

綾乃「ずいぶんと健康的だね。お喋りはこれくらいにして、それではご注文を承ります」

結月「みなさん、和でいいんですよね」

マリ「うん」

日向「もち」

報瀬「今日は私、洋で」

結月「和三つに洋を二つお願いします」

綾乃「二つ?」

結月「すぐにみことも来ますので」

綾乃「はい、かしこまりました。少々お待ちくださいませ」

スタスタスタ...

日向「確かに健康的だな。早寝早起き、散歩してラジオ体操」

報瀬「長生きできるね」

マリ「あの席に座ろう」

日向「はぁ、腹減った〜」ストッ

結月「あ、待ってください。5人じゃ座れませんから、分かれましょう」

日向「そうだな。じゃ、報瀬あっちで、あとはこっち〜」

報瀬「そういうの良くないと思う」

結月「私があっちに座りますね」

マリ「じゃ、私も〜」

報瀬「……私も」


日向「私一人かよ。こういうの、良くないと思うんだ」
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:02:25.14 ID:redis/s9o

マリ「洋にしとけばよかったかな」

結月「明日食べればいいじゃないですか」

マリ「気分によって変わるから、明日は明日の風が吹くってね」

報瀬「それ、使い方間違ってるから」

マリ「そうなの?」


日向「……」


みこと「……?」


日向「おー、みことー、こっちこっち」

みこと「どうして、日向さん一人なの?」

日向「分からないんだよ。私が何をしたんだかな……。まぁ、座りなさい」

みこと「……うん」


報瀬「因果応報でしょ」

マリ「日向ちゃん、何をしたの?」

報瀬「私を除け者にしようとした」

結月「今日の夕方でしたよね、出発」

報瀬「そうだよ、忘れないで、キマリ」

結月「夕方ですよ、ゆ う が た。分かりましたか、キマリさん」

マリ「……」


日向「30分前には乗車しとけよ〜」

みこと「……」


マリ「なぜか私だけがいつも乗車ギリギリみたいな言い方されるけど、いいです。
   今日でその汚名を返上させていただきます」

報瀬「嫌に自信あり気ね」

結月「なにか策でもあるんですか?」


みこと「今日はもう観光行かない?」

日向「なるほど、それなら乗り遅れないな」


マリ「行きます。観光には絶対に行きます」

報瀬「じゃあ、どうするの?」

マリ「大したことじゃないけど……。
   まぁ、日向ちゃんが言ったように30分前には乗っていますから、
   なんならみんなにおかえりって言うくらいの余裕がありますね」

結月「この自信……」


日向「なんで不安になるんだろう……」

みこと「……」
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:04:11.54 ID:redis/s9o

マリ「今日の出発を楽しみにしていてください」フフン

報瀬結月「「 これは…… 」」


日向「駄目かもな……」

みこと「……」


マリ「なんで!?」


一輝「朝から元気だな……本当に」

栞奈「おいっすー。ここ座っていい?」

日向「どうぞー」

みこと「……」

綾乃「先にご注文を伺います」

栞奈「私は洋食で、一輝は中華でお願いします」

綾乃「申し訳ありません、モーニングは洋食か和食のみになります」

栞奈「だってさ」

一輝「俺がいつ、それを頼もうとした? 望んですらいねえよ」

栞奈「和食だそうです」

綾乃「かしこま――」

一輝「洋食でお願いします。お前、他人に迷惑かけるな」

栞奈「はーい」

綾乃「洋食二つですね、かしこまりました〜」

スタスタスタ...

みこと「綾乃さん、笑ってた」

日向「笑ってたな」

栞奈「笑わせるなんて、やるじゃん」

一輝「お前だろ? それに、笑われてたんだからな間違えるなよ」


報瀬「朝から漫才やってる」

結月「あの、いいですか、話」

報瀬「え、うん」

マリ「話?」

結月「えっと、駅の看板にもありますけど、スタンプラリー知っていますよね」

マリ「うん」

報瀬「それがどうかしたの?」

結月「その景品なんですけど、知っていますか?」

マリ「京都の高級料理店とか、お土産とかだったよね」

結月「他には?」

マリ「他? あったっけ?」

報瀬「興味無かったから……知らない」

結月「ですよね」
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:06:03.77 ID:redis/s9o


栞奈「スタンプラリー、参加するの?」


結月「はい、その提案をしようとしています」

マリ「分からないけど、他になにが景品なの?」

結月「デネブでのお食事券です」


栞奈「汚職事件……! ボス、私と一輝で捜査行ってきます」ガタッ

みこと「うん」

日向「いや、うんじゃないだろ」ビシッ

一輝「刑事ごっこはいいから、大人しくしてろ」


報瀬「食事券?」

結月「そうです、二名様ご招待とありました」

マリ「参加したら誰でも招待されるの?」

結月「いえ、ネットで抽選ですけどね。あとは参加賞の記念ボールペン」


栞奈「あ、もしかして昨日のお礼に私をご招待してくれるの? やったね、嬉しー!」


結月「いえ、違います」


栞奈「……」

日向「げ、元気出せ」

みこと「はい、水」

栞奈「……うん」

一輝「ぬか喜びか……残念なヤツ」


報瀬「結月……」

マリ「結月ちゃん……」

結月「あ、いえ……! あとでお土産を買ってきますから……!」


栞奈「ううん、いいんだよ……そんな気を遣わなくても」

日向「珍しくテンション低いな……」

みこと「このお冷、京都の名水だって言ってたよ」

一輝「それは励ましになるのか?」


報瀬「結月……!」

マリ「結月ちゃん……!」

結月「え、えぇ……!? えっと……こ、高級なお土産ですよ!」


栞奈「地元の人たちに愛されて150年……
   変わらぬ味を守ってきた誇りと歴史を持つ老舗和菓子屋の……?」


結月「妙に具体的ですね……」

報瀬「商品指定されてそう」
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:07:55.96 ID:redis/s9o

マリ「あ……、おはようお兄さん」


秋槻「うん、おはよう」


みこと「……おはよう」

日向「あー、座るならそっちだな」


秋槻「交代してくれない?」


日向「私はさ、ハブられてるから……」

栞奈「沖縄だけに……」

一輝「調子取り戻したからお土産とか気にしなくていいよ」


結月「……分かりました」


栞奈「くぉら!」ドスッ

一輝「痛ってッ! 殴るな!」

栞奈「余計なこと言うからでしょ」

一輝「何が沖縄だけにだよ、宮城のセリフだろ」

綾乃「いやー、それは言わないよ。座らないんですか? 他は空いてませんけど」


秋槻「悪いけどいいかな? コーヒーだけ」

マリ「いいですけど、食べないんですか?」

秋槻「すぐ出ようと思ってたから。コーヒーを」

綾乃「かしこまりました〜」

秋槻「あ、ちょっと待って」

綾乃「?」

秋槻「料理長、昨日出掛けてたでしょ?」

綾乃「はい……そうですけど?」

秋槻「どこへ行ったのか聞いてる?」

綾乃「確か、京都鉄道博物館……って言ってたような?」

秋槻「そっか、うん、ありがとう」

綾乃「いえいえ」

スタスタスタ...

マリ「鉄道?」

秋槻「車掌さんと出掛けたらしくて、どこか分からなくて」

結月「なんで行先を知りたがるんですか……」

報瀬「……」ジー

秋槻「鉄道と言ったらアレかな、二人が共通してるモノ」アセアセ

結月「どうして焦っているんですか……」

秋槻「またあらぬ疑いをかけられるかと思って」

マリ「二人が共通?」

秋槻「そう……ヴェガのこと。二人とも乗ってたらしい」
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:11:54.24 ID:redis/s9o

マリ「あの料理長さんが……」

報瀬「車掌さんも乗ってたって……、車掌さん、若いよね」

結月「はい、いくらなんでも当時も車掌をやってたとは思えませんけど」

マリ「じゃあ、乗客だった……ってことだよね?」


日向「あ、それを聞きたかったんだよ、車掌さんに」

栞奈「どうして?」

日向「含蓄のある言葉を聞いててさ……それに私は色々と感銘を受けたからな」ウンウン

栞奈「なるほど、含蓄のある言葉を聞いて、日向は色々と感銘を受けたわけだ?」

一輝「お前はなんで繰り返し言うんだよ」

栞奈「オウムだからだよ」

一輝「そうか……意外だわ」

みこと「……」


結月「話が外れましたけど、いいですか、スタンプラリー」

報瀬「観光地を周るだけでしょ?」

結月「そうです」

マリ「うん、それならついでに押せばいいよね」

秋槻「えっと、周る場所は……金閣寺と清水寺、映画村に新京極だったね」

結月「そうです。あと、比叡山もですけど、昨日貰ってますから行く必要はありません」

報瀬「いつの間に……」

マリ「スマホでコードを読み取るだけでいいんだよね」

秋槻「みたいだね。共有は出来るけど、
   不正出来ないシステムみたいだから、ズルはできないよ」

報瀬「共有はできる……?」

結月「スタンプとして使用できるのは一回ってことです」

マリ「じゃあ、誰かのスマホにスタンプを集めよう」

報瀬「よく分からないけど、それでいいと思う」

結月「夕方まで時間はありませんから手分けしません?」

マリ「どうするの?」

結月「そうですね……。私が清水寺――」
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:12:47.23 ID:redis/s9o


日向「あはは、全然そうは思えないけどー?」

一輝「心配するくらい大人しいからな……」

栞奈「なによ、人を二重人格者みたいに」

日向「いや、今までの栞奈とイメージと違うから」

栞奈「私、一輝の前では自分を出せなくて……」モジモジ

一輝「ハハッ」

栞奈「凄い乾いた笑い方したね」

みこと「……聞いてるから、大丈夫」


結月「……うん。後で伝えておいてね」

報瀬「私たちはどうする?」

マリ「うーん、そうだなぁ」

秋槻「夕方までに4箇所周って4つだね」


綾乃「お待たせしました、モーニングセットです〜」


……


244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:14:33.94 ID:redis/s9o

―― 京都駅


日向「なーんで私が清水寺なんだよー!」

報瀬「さっき、『それでいい?』って聞いたら頷いたでしょ?」

日向「そうだけど……ちゃんと聞いてるか確認しないとダメなんじゃないのか!」

報瀬「とにかく、そう決まったから結月と行ってきて」

日向「イヤだイヤだ! 納得できないー!」

報瀬「はぁ……分かったから」

日向「よし、駄々っ子成功!」

報瀬「ほら、飴玉あげる」

日向「……」


マリ「えっ!? 博物館にヴェガがあるの!?」

結月「みたいですよ。キマリさん、話聞いてなかったんですか?」

マリ「だって……! プリンアラモードに夢中だったから……!」

結月「見に行くって秋槻さん、行きましたけどね」

みこと「……」


報瀬「それじゃ、私も行ってくるから」

日向「私も金閣寺銀閣寺ルートがいい!」

報瀬「私 一人 行く。日向 結月 一緒 行く」

日向「なんだその片言! バカにしてんのかー!?」

結月「日向さん、清水寺行ったらスタンプ押して移動すればいいじゃないですか」

日向「嫌だよそんな……木を見て森を見ないなんて」

マリ「……うーん、どうしよ」

みこと「ヴェガを見たいの?」

マリ「うん!」

みこと「私一人で映画村行ってくるから、いいよ」

マリ「でも……」

みこと「大丈夫だから。いつもキマリさんに付いて行ってただけだから……」

マリ「……」

みこと「今日は一人で行ってみる」

日向「……」

結月「……」
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:15:23.58 ID:redis/s9o

マリ「うん、分かった。じゃ、これ」スッ

みこと「え? 私が持ってていいの?」

マリ「というか、スマホでデータ取らないといけないんだよ?」

みこと「あ……うん。借りるね」

結月「触ったことある?」

みこと「……うん、ちょっとだけ」

結月「それなら教えてあげる」

日向「考えてみたら、みことと別行動って初めてだな……大丈夫か?」

マリ「うん……。そうだよ、みこっちゃんにはみこっちゃんの旅があるんだから」

日向「……ふぅむ」

マリ「じゃあ、栞奈ちゃん達も行ったみたいだし、私たちも行動開始!」

日向「そうだな。……報瀬はいつの間にかいないし!」


……


246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:17:15.81 ID:redis/s9o

―― 京都鉄道博物館


マリ「朝に続いてまたここに来ることになろうとは……」ゴクリ


マリ「えっと……ヴェガ……ヴェガ……」


マリ「プロムナードってところにあるんだよね……」


マリ「……よし」


……




「これがヴェガ……」

「か、かっこいい……!」フンスッ

「良さが私には分かりませんけど……」

「よし、手形つけよう」

「うふふ、私も〜」


マリ「……これが?」

秋槻「みたいだね」

マリ「おぉわっ!?」

秋槻「驚かせてごめん。見慣れた人が居たからつい」

マリ「いえいえ……あー、びっくりした」

秋槻「これが20年前に日本を縦断してたんだよねぇ……」



「ば、バカ! 本当に手形つける奴があるか!」

「そうだよ、私にも声かけてくれないと」

「なんでですか……。というか、いつまで居るんですかここ……」

「中に入ろうぜ〜!」

「入れるの……?」


マリ「なんか、自由な5人組だなぁ……」

秋槻「あはは、君たちみたいだね」

マリ「お兄さんと同じくらいかな……?」

秋槻「どうかな? 成人だろうけど」


……


247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:19:31.44 ID:redis/s9o

―― 公園


ジリジリ

 ジリジリ


マリ「そうだ……電話しないと」

秋槻「今日も暑いなぁ……」

マリ「みこっちゃんに渡したんだった」ウッカリ

秋槻「電話渡したの?」

マリ「そうなんです……。ってことは……誰にも連絡取れない……!」

秋槻「とりあえず、デネブに戻ってみたら――」


pipipi


秋槻「おっと……ちょっとごめん」

マリ「いえいえ」


プツッ

秋槻「はい、秋槻です……」


マリ「うーん、どうしよー。電話を携帯出来ないことがこんなに困るとは……」


「やっぱり外は暑いな……」

「ね、みんなで演奏しようよ、久しぶりに集まったんだから」

「いいですね、是非やりましょう!」

「えー、私、最近叩いてないんだよなー」

「私もたまーに弾いてたくらいなの」


マリ「演奏……? バンドやってるのかな?」


秋槻「え……!? 私が……ですか?」


マリ「……」


秋槻「はい……はい。……分かりました」


マリ「考えていてもしょうがないから、とりあえず集合場所に行ってみよう……かな?」


秋槻「……」

プツッ
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:21:20.92 ID:redis/s9o


マリ「お兄さん、私、新京極に行ってきます」

秋槻「あ、うん……そっか」

マリ「あれ、元気ない?」

秋槻「いや……驚いてて……」

マリ「なにかあったんですか?」

秋槻「大きな仕事を……任されて……」

マリ「おぉ、凄い!」

秋槻「……いや、任されてくれそう……って所で」

マリ「それって、チャンス?」

秋槻「そうだね。俺にとってこれ以上ないチャンスだ……」

マリ「……」

秋槻「これから準備するとなると……工程を……」

マリ「お兄さん、なわとび大会、一緒に出ましょう!」

秋槻「急いで縄跳びを用意していけば……え、なわとび?」

マリ「うん、金沢の!」

秋槻「……悪いけど、他を探してくれる? 新しい乗客が乗って来るかも――」

マリ「お兄さんがいいです。他の誰でもない、始発から一緒に旅してきたお兄さんが!」

秋槻「――……」

マリ「8人で、跳びたいです!」


……


249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:24:31.91 ID:redis/s9o

―― 清水寺


日向「こんな高いところ、大丈夫かゆづ……」


ピロロロン

日向「ん? ……おぉ、みことからだ」



≪ キマリ ― こんにちは ≫



日向「ふふ、なんで挨拶」

ポチポチ



≪ 日向 ―― 調子はどう? ≫



日向「……」


日向「返事遅いな……。慣れてないからか……?」


日向「ふぅ……日陰とはいえ、盆地は暑いなぁ……」


「今は京都の清水寺に来ています! たくさんの観光客で賑わっていますよ!」


日向「……頑張るな、ゆづ」


日向「やけにテンション高いし……東京まで大丈夫かぁ……?」


ピロロロン


日向「……」


≪ キマリ ―― 道に迷った。困ってる。でも大丈夫。 ≫


日向「うーん、不安だ……。今からでも追いかけようかな……」


ピロロロン


≪ 報瀬 ―― 迷ってるって、大丈夫なの? ≫


日向「……」ポチポチ


≪ 日向 ―― 今どこにいるんだ? ≫


日向「そういえば……キマリが言ってたな……」


『みこっちゃんにはみこっちゃんの旅があるんだから』


日向「……うぅむ」
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:26:05.43 ID:redis/s9o

さくら「あら、こんなとこにいたのね」

日向「あ、さくらちゃん」

さくら「飲む? 水だけど」

日向「いただきます!」

さくら「はい、どうぞ」

日向「ちょうど喉乾いたって思ってて〜。ラッキー」

さくら「撮影は、このまま順調に進めば10分くらいで終われるわね」

日向「ごくごく……くぅー、ちょうどいいくらいに冷えててうまーい……!」

さくら「あまり冷たすぎるのも体に良くないからね」

日向「水がこんなに美味しいとは……。夏になると毎年実感する……!」

さくら「んふふ」

日向「ありがとうございます」ペコリ

さくら「いいのよ、これくらい」

日向「喉も潤ったし……さーてと、どうしようかな……」

さくら「急いでるの?」

日向「あ、いや……。ゆづを待つかどうか迷ってるわけじゃなくて……」

さくら「?」

日向「みことを追いかけようかどうかで迷っています。今一人で行動してるので」

さくら「それは心配ねぇ」

日向「うん……返事も全然返さないし……」

さくら「あの子、しっかりしてるから大丈夫よぉ」

日向「そうですけど……、しっかりしてそうに見えて実はぼんやりしてるところがあるから、それが心配で」

さくら「行きたいけど行けない……のは、結月ちゃんを置いていけないってことね」

日向「ゆづは、そんなの気にしないでしょうから……。みこと自身のことで迷うんですよねぇ」

さくら「ふぅん……」

ピロロロン
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:26:55.91 ID:redis/s9o


≪ キマリ ―― 着いたよ。写真も撮った。衣装着た人いっぱいいる。江戸時代みたいで面白いよ ≫


日向「あぁー、行けばよかった! というか、行ってきます!」

さくら「乗り遅れないように気を付けてね〜」


タッタッタ...

「はーい。待ってろみことー!」


さくら「ジッとしてられないタイプね」

結月「ふぅ……お疲れ様です」

さくら「あら、お疲れ様。日向ちゃんは映画村に行くって走って行ったわ」

結月「そうですか。まぁ、ジッとしていないだろうとは思いましたけど」

さくら「結月ちゃんも後を追う?」

結月「いえ、私は集合場所に行きます」

さくら「あら、そう」

結月「ということで、キマリさんに連絡して……って……!」ハッ

さくら「どうしたの?」

結月「キマリさんに連絡が取れません……!」


……


252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:28:59.34 ID:redis/s9o

―― 新京極


マリ「暑い……暑いよぉ……。そして誰もいないよぉ……」

ジワジワ

マリ「うー……。どこかで涼んで来よう……。あ、そうだ……!」



……




―― お昼過ぎ:新京極


結月「居ませんねぇ……」

報瀬「……うん。連絡が取れないことがこんなに不便なんて……」

結月「昔の人たちの待ち合わせってどうしてたんでしょうね」

報瀬「それは……場所を指定して待ってたんでしょ」

結月「私たちも場所を指定してるじゃないですか?」

報瀬「それはそうなんだけど……」

結月「もっと細かく――……あ、日向さんですよ」

報瀬「……うん」


日向「おいーす」

みこと「……」

報瀬「あれ、その帽子……また借りたんだ?」

みこと「……うん。使わないからって貸してくれた」

日向「みこと、映画村でジロジロ見られてたよ」

報瀬「どうして?」

みこと「分からない」

結月「浮いてますよね。いい意味で」

日向「芸能人だと思われたってことか? やるな、みこと!」

みこと「キマリさんは?」

報瀬「まだ見つからない。来てるのかどうかも分からなくて困ってるところ」

結月「ナチュラルに話を逸らしましたね」

日向「まぁいいや。暑いからどこか入ろう〜」

みこと「あのお店から見ていれば、ここ通ったとき気付くよ」

報瀬「うん、そうしよう。私もお腹空いた」

結月「そうですね」


……



253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/08/01(木) 12:31:13.74 ID:redis/s9o

―― 喫茶店


報瀬「スィーツじゃなくて、ご飯……」

みこと「パンがあるよ」

日向「オサレなサンドウィッチがあるぞ」

報瀬「最近米を食べてないから、ご飯がいい」

結月「我が儘ですね……朝、洋食にするからじゃないですか」

報瀬「お昼に和食を食べようと思ってたから」

結月「それなら……えっと、おにぎりとかありますかね……」

報瀬「じゃあ、それでいいよ」

結月「待ってください、いまメニュー見てますから……」ペラペラ

日向「はい、残念ながらありませんでしたー。
   コンビニでおにぎりでも買ってくださーい」

報瀬「コンビニ……」

みこと「お粥があるよ。極上粥って……たくあんも付いてる」

報瀬「うーん……お粥……」

結月「渋ってますね……」

日向「もう好きにしなさい。私たちは私たちで食べてるから」

報瀬「お米……」ペラペラ

みこと「あ……」

日向「ん? キマリ居たか?」

みこと「ううん、料理長……かな?」

結月「本当だ……。料理長ですね……あのくらいの身長の高い女性は中々いませんから」

日向「というか、隣の女性……誰だ?」

みこと「分からない……」

結月「友人なんじゃないですか?」

日向「そっか、そうかもな……乗客にいないもんな」

みこと「上品な雰囲気……」

報瀬「みこと、隠しメニューがないか聞いてみて?」

みこと「え、うん……」

日向「自分で聞けよ!」

結月「あ……」

日向「キマリ居たか?」

みこと「あれは……栞奈さん……?」

結月「……大村さんも一緒ですね」

日向「二人で観光か……」

結月「というか、料理長の後を尾けてません?」

みこと「うん……そうみたい」

日向「暇なのかあの二人……?」

報瀬「……お粥食べるくらいならパンでいいかな」


……



254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/09/30(月) 14:45:51.43 ID:lslAk4Kwo

―― デネブ


報瀬「居た?」

みこと「ううん、個室には居なかったよ」

報瀬「やっぱり、まだ戻ってないんだ……キマリ」

みこと「……日向さんが車掌さんに聞いてくるって」

報瀬「まだ出発まで30分はあるけど……」

みこと「日向さん戻ってきたよ……結月さんも」


日向「車掌さんもまだ見てないって」

結月「車内には居ませんでした」


報瀬「そう……」

みこと「駅前に出てみない?」

日向「そうだな。駅の土産屋も回ってみるか……」


pipipi

みこと「……?」

日向「? キマリの?」

みこと「うん……電話が鳴ってる」

結月「ううん、違う。これは……アラームが設定されてたみたい」

報瀬「ひょっとして……朝のキマリの自信って、これ?」

日向「アラームをセットしただけで、あんな勝ち誇った顔してたのか……?」

結月「多分、そうですね……」

報瀬「……嫌な予感」

日向「私も」

結月「私もです……」

みこと「……」


……


255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/09/30(月) 14:47:26.93 ID:lslAk4Kwo

―― 京都駅周辺


日向「土産屋には居なかったけど……そっちは?」

報瀬「こっちも居なかった……」

みこと「うん……」

日向「やっぱり、まだ戻ってきてないのか、ゆづ?」

結月「はい、まだです」

報瀬「セットしたアラームに全てを委ねてるはずだよね」

日向「多分な……」

みこと「委ねてるの?」

結月「設定したから大丈夫って、心底安心しきってるはず」

報瀬「気付いて、こっちに向かってるとは思うけど」

日向「間に合う距離なのかどうか……」

みこと「……」


栞奈「やぁやぁ、どうしたの難しい顔して」

一輝「……」


日向「あのさ、キマリ……見た?」

栞奈「見てないよ。観光地でも会わなかったなぁ」

一輝「まさか……また?」

みこと「……」コクリ

結月「もう20分もないですよっ!」

報瀬「本格的に焦ってきた……!」

栞奈「みんなが此処に居るってことは、車内にも、駅内にも居ないってことね」

日向「そ、そうなんだよ」

栞奈「一度戻ってみたら? 他の改札から入ったかもしれないし」

みこと「うん、そうかも」

日向「じゃあ、ゆづは戻って確認してくれ。居たら連絡よろしくな」

結月「はい、分かりました」

テッテッテ

報瀬「私たちはどうする?」

日向「探し回っても意味ない気がするな……」

一輝「動かない方が良いってことか」

日向「うん」

みこと「時計は持ってないの?」

報瀬「持ってない」

みこと「そうなんだ……」
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/09/30(月) 14:48:42.63 ID:lslAk4Kwo

栞奈「とりあえず、固まってないで動いたら? こうしてる間にも時間は過ぎてくよ」

一輝「どっちだ、探し回るのか? 動かず待つのか?」

日向「いや、栞奈の言うとおりだ。
   キマリが既に乗ってたなら私たちもデネブに向かえばいいだけだし」

栞奈「じゃ、すぐ行動! 散ッ!」

一輝「サンッ! じゃねえよ、忍者じゃないんだからな」

みこと「映画村行ったの?」

栞奈「うん、なんで分かったの?」

日向「私たちも行ったからな。報瀬、みこと、通話状態にしといて」

みこと「どうやるの?」

報瀬「貸して」

ピッピッ

栞奈「ここ、中央口だからね」

一輝「時間決めてここに集合か?」

栞奈「集合はデネブでいいよね。のりばはみんな把握してるよね」

みこと「うん、11番」

日向「もちろんだ。報瀬、弁当屋寄ってる暇ないからな!」

報瀬「あ、当たり前でしょ!」

栞奈「じゃ、もう一回! 散ッ!」

テッテッテ

一輝「あ、あいつ……やみくもに走って行ったぞ……」

日向「協力してくれてるのかよく分からんな……。
   まぁいいや、みことは京都タワー方面に行ってくれ」

みこと「うんっ」

テッテッテ

日向「私は地下の方に行ってくる」

テッテッテ

報瀬「私は……上から見てくる」

テッテッテ

一輝「……俺は適当に歩いてるか」

スタスタスタ...


……


257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/09/30(月) 14:50:11.46 ID:lslAk4Kwo

―― デネブ


結月「こちら、デネブの結月です。キマリさんの姿はありません」


『こっちも上から構内を見てるけど、キマリの姿は無し』

『地下にもいないな〜』

『これ、複数の人と同時に会話できるの?』

『出来るよ』

『すごい……!』

『凄いだろ〜! 文明は日々進歩しているのである!』


結月「まるで自分が開発したかのような声ですね」


『あ、みことの姿が見える』

『え?』

『ふふ、キョロキョロしてる』


結月「遊んでいる場合じゃないですよ」


『みこと、私の言うとおりに動いて』

『う、うん』

『なんだ、見つけたのか?』

『そこ、右へ行って』

『うん……』

『もう少し右へ方向転換……そうそう、そのまま真っすぐ階段上って歩いて』

『あれ……弁当屋があるけど……キマリさん、中に入って行ったの?』

『多分』

『おいこらー! 誘導して弁当買わそうとするなー!』


結月「遊んでいる場合じゃないですってば!」


『貸して、日向』

『え、うん……栞奈に代わるぞ』


結月「嫌な予感しかしませんね」


『ボス、ホシはまだ姿を現しません』

『返せ!!』


結月「もう駄目かもしれませんね……キマリさん……」


『ちょっ……姉ちゃん……待って……』

『なんだ、今の?』

『変な声聞こえた』


結月「?」
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/09/30(月) 14:51:53.83 ID:lslAk4Kwo


『なんか後ろの人がぶつぶつ言ってて怖い。デネブに戻るね』

『報瀬に声かけてるんじゃないのか……?』

『なんで私に?』

『いや、ナンパだろ……?』

『観光客かもしれないよ?』

『ひゅー、やるじゃん、報瀬〜! ひゅーひゅー』

『いやっ、困る! あっち行って!』

『んだよっ……冷てえな……っ……ちょ……』

『まだ変な声聞こえる』

『大丈夫か、報瀬ー?』

『うん、もう撒いたから』

『早いな!』

『隅に置けないね、このこのっ』

『おまえさっきからノリが一昔前なんだよ! 頼むから今は喋らないでくれー!』

『昭和なんだ?』

『誰がよ、日向!』

『栞奈だよ! 報瀬に言ってないからな! あーもう、面倒だなこれ……!』


結月「キマリさん……っ」


『……――いかな、連れが――……』

『……え?』

『どうするの? もう時間無いよ、本当に』

『おまえがかき回してるんだからさ、無駄に焦らさないでくれ』

『私はもう改札通ったよ』


結月「……?」


『いま――……務室に……』

『キマリさんが?』

『……そうそう……キマ――が――』


結月「この会話は誰と……?」


『駅内アナウンスしてもらうとか、どうよ?』

『いや、駅内にいるならもうデネブに向かってるだろ……多分』

『私はそろそろ通話切るから』


結月「ま、待ってください」


『どした、ゆづ?』

『どうしたの?』


結月「みこと、誰と話をしてるんですか……!?」
259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/09/30(月) 14:53:28.40 ID:lslAk4Kwo


『え?』

『誰って?』

『静かに』


『ほら――……こっち……から』

『ちょっと待って、みんなに連絡する』

『……通話中……と……』

『キマリさん、医務室に居るって――』


プツッ


『は?』

『医務室?』

『……』


結月「誰なんですか、今の男の人の声……!」




―― 日向


『誰なんですか、今の男の人の声……!』


日向「誰だよ……?」

栞奈「一輝じゃないし、秋槻さんでもない……」

日向「医務室ってなに……?」

栞奈「みことちゃん、返事して……!」


『みこと……?』

『ダメです、切れてますよ……!』


日向「なに、なにが起こってるんだ?」

栞奈「私たちの知らない誰かが……キマリを餌にみことを釣ろうとしてる」

日向「は……!?」


『え!?』

『だ、誰かみことを捕まえてください……!』


日向「報瀬! さっきの弁当屋どこだ!」


『階段を上がった先だけど、みことは1階に居たから! 私もそこに行く!』


栞奈「1階か……行こう、日向」

日向「うん……!」

タッタッタ
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/09/30(月) 14:54:56.79 ID:lslAk4Kwo

―― 報瀬


報瀬「ダメ、居ない……」


『報瀬、今どこ?』


報瀬「2階の弁当屋前……。こっちから日向と栞奈が見える」


『え……? あぁ、そこか。……そこから見える?』


報瀬「待って……。……ダメ、人がいっぱいで見えない」


『そうか……』

『どうしてキマリさんのことを……?』

『それは後で考えよう、結月ちゃん』

『そ、そうですね』


報瀬「結月、デネブには来てないよね」


『はい……。いま、デネブの外に居ますけど、見当たりません』


報瀬「……」


『外に出てたらもう間に合わないぞ……』


報瀬「……うん」


―― 京都駅・外


みこと「医務室って外にあるの?」

男「うん、そうなんだよね。まぁ、付いてこれば分かるよ」

みこと「……」

男「キマリちゃんが倒れちゃってさ、君を呼んでくれって言われて〜」


「はい……はい、車内で書き上げますので……」ペコペコ


みこと「あ……」

男「ん、どうしたの?」


秋槻「ん……? んん??」


みこと「秋槻さん……私、名古屋まで追いかけるから」


秋槻「…………」


男「なんすか?」

秋槻「君も、デネブの乗客?」

男「……そうですけど」

秋槻「……」

みこと「時間無いから、私はキマリさんと一緒に行くね」

秋槻「……うん、わかった。……あ、はい、すいません、話の途中で……」
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/09/30(月) 18:58:00.82 ID:lslAk4Kwo

男「さ、行こう。電話で忙しいみたいだから」

みこと「……うん。キマリさんの様子は?」

男「それがちょっと辛そうでさ……。でも君の顔を見たら元気出ると思うよ」

みこと「うん……」

男「ほら、あの建物の中に――」

チョンチョン

みこと「……?」

秋槻「走るよ」

ギュッ

みこと「え、でも――」

秋槻「いいから」

グイッ

みこと「わ――!」


タッタッタ

 タッタッタ


男「でも、君みたいな純朴そうな子は騙されないか心配だなぁ……俺みたいなさ……って、あれ?」





―― 京都駅構内


栞奈「どうするの!? もう5分切ったけど!!」

日向「分かってるよ!」


報瀬「日向! 日向ー!」


日向「ど、どうしたー!」


報瀬「いた、居たーー!!!」


日向「マジか!!」

栞奈「どこー!?」



報瀬「いま構内に入ってきたー!!」



一輝「というかお前ら、騒ぎすぎ……」


ざわざわ

 ざわざわ


「なに、あの子たち……」

「どうかしたのか?」
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/09/30(月) 19:00:10.92 ID:lslAk4Kwo


秋槻「彼女なら、もう乗車してるから……!」

みこと「え……っ?」

ダダダダッ


日向「あぁ! 居たー!!」

栞奈「おー、速い速い」

一輝「俺たちも走るぞ!」


男「ちょ、待てよー!」


秋槻「追ってきた……!?」

みこと「はぁっ……はぁっ」


男「俺の妹に手を出すんじゃねええええ!!」


秋槻「え!?」

みこと「な、なに……?」


ざわざわ

 ざわざわ

「なにあの人……」

「歳の離れた子を連れまわしてるの〜?」

「最低だな……」


秋槻「ぐっ……!」


日向「秋槻さんそのまま走れー!!」


秋槻「よ、よし……!」

グイッ

みこと「……っ」


男「その手を離せぇぇええ!!」


秋槻「念のため聞くけど、あの人知り合いじゃないよね!?」

みこと「うんっ、知らないっ」

秋槻「じゃあっ……そのままデネブまで全力で……!」

みこと「うん!」

ダダダダッ
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/09/30(月) 19:01:28.38 ID:lslAk4Kwo

秋槻「――ッ!」

みこと「〜〜ッ!」

ダダダダッ

ポロッ


みこと「……?」


コロンコロン


みこと「なにかっ……落ちっ」

秋槻「あ、あぁっ、しまった……!」


報瀬「いいからそのまま走って!」


秋槻「いやっ、それは出来ないッ!」


報瀬「私に――、日向に任せて!」


秋槻「――分かった! いくよ!」

みこと「う、うん!」


報瀬「日向!!」


みこと「……っ?」チラッ


日向「――!?」


報瀬「……ッ」クルッ

ダダダダッ


みこと「えっ!?」

秋槻「?」


報瀬「いいから前見て走って!」


みこと「それだけ……っ!?」

秋槻「どうしたの……!?」


報瀬「大丈夫だから! 私と日向を信じて!」


秋槻「あ…あぁ……ッ!」

グイッ

みこと「ッ!」

ダダダダッ
264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/09/30(月) 19:02:17.29 ID:lslAk4Kwo

駅員「なんだ? ……え、ちょっと……!」


...タッタッタ


秋槻「デネブの乗客ですっ!」

みこと「乗車証ですっ!」


駅員「は、はい……」


タッタッタ...


駅員「……???」


...タッタッタ


報瀬「乗車証です!」


駅員「は、はい」


タッタッタ...


駅員「乗り遅れそうだから急いでいるのか……?」


...タッタッタ


駅員「また来た……」


日向「乗車証!」

栞奈「同じく!」

一輝「後ろのヤツ、不審人物なので注意してください!」


タッタッタ...


駅員「……不審……?」


男「くそッ……はぁっ、はぁ……こんなことになるなんてッ……!」


駅員「君、ちょっといいかな」


……


265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/09/30(月) 19:04:01.20 ID:lslAk4Kwo

―― デネブ


結月「あ、あぁ……みこと……!」


秋槻「はぁっ……はぁ…っ」

みこと「はぁッ……ハァッ……ッッ」


結月「良かった……」ホッ


報瀬「ふぅ……ふぅ……」

みこと「報瀬っ……さんっ……電話……ッ」

報瀬「大丈夫、日向は気付くから」

秋槻「ほ、本当に……? ふぅ……はぁ……」

報瀬「多分」

秋槻「いやいや、多分じゃ困るんだってっ! 拾えてなかったら……!」

みこと「はぁ……ふぅ……ふぅ」

秋槻「いや……落とした俺が悪いんだけどさ……」

結月「どうしたんですか?」

みこと「秋……つ…き……さんが……携帯を……っ」

報瀬「みことは呼吸整えてて」

秋槻「俺が走ってる途中で携帯を落としてしまって……」


...タッタッタ


栞奈「よっしゃ、いちばーん!!」

一輝「……ふぅ、なんとか間に合ったな」

日向「ふぅ〜……で、この携帯」

秋槻「あ……!」

日向「……はい、どうぞ」

秋槻「ありが……ん?」

結月「……ヒビが入ってますね」

日向「踏んだとか蹴ったとかじゃないですよ?」

秋槻「これくらいなら大丈夫。通話できればいいから……はぁ、助かった……ありがとね」

日向「いえいえ〜」

栞奈「いきなり報瀬が叫んだときはびっくりしたね」

一輝「……あぁ」

日向「なにかあるなって思っててさ、そこに携帯が落ちてたわけだ。
   どこかで見たことあるな、と思ってピンと来たわけよ、拾うべきだとね」

みこと「……すごい」
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/09/30(月) 19:05:06.99 ID:lslAk4Kwo

prrrrrr


報瀬「あ……! キマリ……!!」

結月「あー……どうしましょう?」

栞奈「もう出発だけど……」

日向「しょがない、私が残って――」


「みんなおかえり〜……ふぁぁ」


結月「え」

日向「え?」

報瀬「えぇ?!」


マリ「乗らないの?」


栞奈「乗ってたの?」

一輝「……あの騒ぎはなんだったんだ」


秋槻「あれ……? あれ……!?」

みこと「どうしたの?」

秋槻「こっ、壊れてるっ!」


マリ「ほら、早く乗ってよ。出発できないよ〜」


日向「……」

報瀬「……」

結月「……」

スタスタスタ...


マリ「なんで無言乗車してるの?」


みこと「出発だよ?」グイッ

秋槻「嘘だろ……!?」

スタスタスタ...

一輝「ふぅ……こういうオチか」

栞奈「あははっ」


プシュー


……



267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:12:31.62 ID:dVGs9va+o

―― 展望車


マリ「電話を鳴らせばよかったんじゃないの?」

結月「……」

報瀬「……」

日向「それで、どうなったスタンプラリー」

結月「はい、スタンプを回収したので、後は抽選ボタンを押すだけです」

報瀬「誰が押す? 運がいい人がいいよね」

マリ「ねぇ、電話を鳴らせばみこっちゃんに連絡取れたんじゃないの?」

日向「この中で運を持ってる人って誰だ?」

結月「私たちは運を持ってるとは言えないのでは……?」

報瀬「……どちらかというと、キマリかな」

マリ「ねぇねぇ、電話を――」

日向「うるさい」ムニー

マリ「でんふぁふぉなふぁふぇはほはっへ」


栞奈「おー、伸びる伸びる」


結月「あ、栞奈さん」

栞奈「ん?」

結月「秋槻さん知りませんか?」

栞奈「さぁ……分からないね」

結月「……そうですか」

報瀬「何か用事?」

結月「まぁ、今までのお礼みたいなものです。当選すればですけど」

日向「景品をあげるってことか」

結月「そうです」

マリ「……あ」

栞奈「どうかした?」

マリ「栞奈ちゃんに昨日のお礼を買うのすっかり忘れてた」アハハ

栞奈「……いいっていいって、お礼をもらうためにしたわけじゃないからさ」フッ

日向「そっか……じゃあ、どうしようか」

結月「そうですね……せっかくですから、みんなでいただきましょうか」

報瀬「うん」

マリ「用意したの?」

日向「新京極でな」

栞奈「え、なに?」

結月「有名な老舗土産屋で買ったんですけど」

栞奈「いやぁ、なんか悪いねぇ、催促したみたいで」スッ

報瀬「その手は?」

栞奈「頂戴いたします」

結月「はい、どうぞ。昨日はありがとうございました」

栞奈「こっちこそありがと〜!」
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:14:07.60 ID:dVGs9va+o

マリ「生八つ橋だね」

日向「本当、裏表無いよな栞奈って」

結月「そうですよね……自分に正直って言うか」

報瀬「学校の人気者って感じ」

栞奈「そうでもないけどね〜。そうだ、これ、みんなで食べようよ」

日向「もう開けるのか? 栞奈のだから別にいいんだけど」

結月「家族の方にお土産として持って帰ってはどうですか?」

栞奈「……やっぱりみんなで食べようよ。うん、それがいい」

バリバリバリ

マリ「濃いお茶があるといいよね」

日向「じゃーんけーん!!」

報瀬「え!?」

日向「ポォン!!」パー

マリ「ポン!」チョキ

結月「いきなりですかっ!」チョキ

報瀬「っっ!」グー

日向「……ふむ」


一輝「またここで集まってるのか……撮影中じゃないよな」


栞奈「一輝〜、グーとチョキとパー、どっち?」

一輝「……なにが?」

栞奈「いいから〜」

一輝「チョキ……?」

栞奈「いまね、お茶を誰が用意するかのじゃんけんをしてたんだよね」

一輝「……それで?」

栞奈「残念だけど……一輝の負けとなりました」

一輝「……マジかよ」

スタスタスタ...


結月「騙されて行ってしまいましたけど……」

マリ「いいの?」

栞奈「一緒に食べれば大丈夫だから、問題なし」

日向「報瀬、遅れて出したのになんで引き分けになるんだ?」

報瀬「今日も一日が終わろうとしている……夕陽が寂しく感じる」

日向「遠い目するな。反射神経は悪くないはずなのにな」

結月「話を戻しますけど、抽選ボタン誰が押します?」

マリ「結月ちゃん押していいよ」

結月「……いえ、私が押したら外れそうです」

マリ「いいよ、そんなの気にしないで」

結月「…………」
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:15:38.57 ID:dVGs9va+o

報瀬「どうしても当てたいの?」

結月「お礼というのもありますけど、応援したいんですよね」

日向「応援?」

マリ「大きい仕事をもらえそうって言ってたね。そのこと?」

結月「それは知りませんけど……そうなんですか?」

マリ「うん。だから、これから缶詰になるって」

報瀬「なにそれ?」

栞奈「個室に籠って集中して書くってことでしょ……もぐもぐ」

日向「……帰らないのかな?」

結月「そうですよね、仕事ですから……」

マリ「私が金沢でなわとび大会に出たいって言ったから」

結月「……」

日向「それって結構無茶だよな……」

報瀬「……うん」

栞奈「私が押していい?」

結月「運は強い方なんですか?」

栞奈「まぁね〜。母さんも強運だったらしいけど、私が産まれて普通になったって言ってた。
   だから、母譲りの運の持ち主なのだよ」

マリ「なぜか説得力がある……!」

結月「では、どうぞ」

栞奈「そいやっ」ポチッ

日向「ためらいもなく……」

結月「あ……」

報瀬「どうだった?」

結月「当たりました」

日向「なんだ、期待させといてこれかよ〜」

栞奈「あはは、ごめんごめん」

マリ「そうそううまくいかないよね」

報瀬「結果とリアクションが違う気がする。結月、もう一回教えて?」

結月「はい、当たりました」

日向「え?」

マリ「なんだって?」

結月「ですから、当たったんです」

日向「これは私のだ!」

マリ「私のだよ!」

栞奈「押したの私だからね!」

結月「なんて醜い争い……」

報瀬「キマリと栞奈、スタンプラリーに参加してないよね」

マリ栞奈「「 冗談だよ、冗談〜 」」

日向「それ、二名様だろ? 秋槻さんと誰がご招待されるんだ?」

結月「この中の誰が行っても後々揉めそうなので、みことでいいのではないでしょうか」」

報瀬「確かに、揉めそう……」
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:17:02.49 ID:dVGs9va+o


一輝「ほら、持ってきたぞ……って、もう食べてるのかよ」


栞奈「ありがと〜。ほら、一緒に食べよ」

一輝「いいのか?」

栞奈「いいでしょ?」

結月「栞奈さんに渡したものですから」

報瀬「うん、栞奈が決めること」

栞奈「ってことで、いいよ」

一輝「じゃあ、いただきます……」

マリ「もぐもぐ……ずずーっ……おいしいね〜」

日向「みことはまだ戻ってこないか……聞きたいことあるんだけど」

栞奈「どこ行ってるの?」モグモグ

日向「日記書くって個室に行ったまま」

栞奈「へぇ、日記書いてるんだ〜。私なんて一回書いたらそれっきりだけどなぁ」

一輝「せめて三日は書けよ」

マリ「聞きたいことって? もぐもぐ」

結月「……キマリさん、遠慮なしに食べてませんか?」

マリ「お腹空いちゃって」

日向「キマリさ、ずっと部屋に居たんだろ?」

マリ「うん、居たよ」モグモグ

報瀬「みことが確認しに行ったはずなんだけど……?」

マリ「寝てたからかな。本読んでたら眠くなっちゃって……朝早かったし」

日向「あぁ、なるほど、そういうことか……謎が解けたな」

一輝「呼びかければ起きるんじゃないのか? ……どういうこと?」

結月「それは――」

報瀬「寝ることに関して、キマリは人智を超えているから」

マリ「ひ、ひどい! ……よね? ひどいこと言われたよね?」

日向「多分ひどくない」

マリ「そっか」

一輝「納得するのか……」

栞奈「そう簡単に起きないってこと?」

日向報瀬「「 うん 」」

結月「ですね」

マリ「そんなことないよ」

結月「寝相悪いし寝言は言うし寝起き悪いし」

日向「歯ぎしりするしイビキ掻くし」

マリ「ウソッ!?」

日向「うっそだよん♪」

マリ「もぉー!!」

日向「あはは」
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:18:22.22 ID:dVGs9va+o

報瀬「待ち合わせには来なかったの?」

マリ「ううん、行ったよ。だけど、暑かったから本屋さんで立ち読みしてたんだ〜」

一輝「それでその本を買った、と」

マリ「おぉ、よく分かったね?」

結月「本を読んでたって言ったじゃないですか」

日向「何の本を買ったんだ?」

マリ「みこっちゃんのお母さんが書いた本! 探偵のヤツ!」

栞奈「教師が犯人のやつかぁ」

マリ「え……」

ポトッ

報瀬「生八つ橋が落ちたでしょ!」

マリ「い、いいもん! 私、ネタバレされても楽しめるからね!」

結月「そんな人出てきませんから安心してください」

マリ「ちょっ、もぉー!! なんで嘘吐くの!?」

栞奈「からかいたくなっちゃってね、えへへ」

一輝「えへへじゃないだろ、ショック受けてたぞ」

日向「ネタバレされても楽しめる人っているよな」

結月「答え合わせ感覚らしいですよ。そういう楽しみ方なんでしょうね」

栞奈「はい、キマリが落とした罪」

一輝「なんで俺が罰を受けるわけ?」

結月「って、また話が逸れてます!」

マリ「なんだっけ?」

報瀬「ご招待される二人は、秋槻さんとみことでいいよねって話」

日向「いいよ、それで」

マリ「うん……」

結月「反対ですか?」

マリ「……そういえば、なんで手をつないでたの?」

日向「変な男に絡まれてたんだよ」

結月「助けてくれたみたいです。本当に良かったですよ」

報瀬「乗り遅れてたら、どうなっていたことか」

栞奈「手を引かれて走って行くみことちゃんは、
   まるで教会から連れ去られる花嫁みたいだった……」

一輝「なんだよそれ」モグモグ

栞奈「あれ、知らない? そんな映画があるんだけど」

一輝「知らん」

栞奈「え、みんなは?」

マリ「私も知らない」

日向「……知らないな」

結月「聞いたことはあります」

報瀬「……」

栞奈「君たち、もっといい映画を観たまえ。映画はロマンだよ」

一輝「おいしいなこれ」
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:19:18.95 ID:dVGs9va+o

結月「では、秋槻さんとみことにこの事伝えに行ってきますね」

日向「うん、じゃあ後でなー」

結月「はい、また後で」

スタスタスタ...

報瀬「結局、キマリは観光出来なかったの?」

マリ「うん……公園に行って、本屋に寄っただけだから、そういうことになるね」

一輝「家の近所の行動範囲とあまり変わらない気がするな」

日向「非日常の中にも日常はあるのだ。人はそれを無意識に行い安心を求めるのである」

栞奈「誰の言葉?」

日向「ナタケ・ヒヤミ」

マリ「南国に住んでる人っぽい名前だね」

栞奈「意外と身近にいそうな名前だと思うけどね」

マリ「うん?」

一輝「……」

報瀬「……あぁ、アナグラム」

日向「すぐ解っちゃったか〜」

マリ「?」


……



273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:20:25.17 ID:dVGs9va+o

―― 秋槻の個室


コンコン

結月「……」


ガチャ

秋槻「はい……って、どうしたの?」

結月「忙しいところすいません、少しよろしいでしょうか」

秋槻「うん、なにかな」

結月「用件を手短に伝えます。スタンプラリーでの景品なんですけど」

秋槻「あぁ、あれね。どうだった?」

結月「運良く当選しました」

秋槻「おぉ、凄い」

結月「それで、今までのお礼として秋槻さんに受け取って欲しいんです」

秋槻「……いいよ、そこまで気を遣わなくて。
   それに、これから用事があって時間があまりなくてね」

結月「一時間程度でも、空けられませんか?」

秋槻「一時間か……」

結月「いままでお世話になってますから、これくらいさせて欲しいんです」

秋槻「……」

結月「私たちの感謝の気持ちです」

秋槻「…………分かった。それじゃ、お言葉に甘えようかな」

結月「あ…ありがとうございます。それでは、えっと……正装でお願いしますね」

秋槻「?」

結月「スーツ、持ってきていませんか?」

秋槻「一応、仕事まわりがあったから、用意はしてあるけど」

結月「じゃあそれでお願いします。それでは、また後で時間は伝えますから」

秋槻「うん……じゃあ」

バタン

結月「……よし、それじゃ、あとは……」


……


274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:21:24.31 ID:dVGs9va+o

―― みことの個室


コンコン

結月「……」


ガチャ

みこと「はい……結月さん?」

結月「用事はもう済んだ?」

みこと「……うん」

結月「じゃあ、ちょっと時間いい?」

みこと「うん」

結月「日の入りするくらいの時間に食堂車に行って欲しいんだけど」

みこと「……?」

結月「ほら、スタンプラリーの景品」

みこと「私が?」

結月「うん、遠慮しなくてもいいよ。みんなの了解を得てるから」

みこと「どうして?」

結月「それは……」

みこと「?」

結月「ケンカになるから。というか、なったから」

みこと「そうなんだ……」

結月「いい?」

みこと「うん……ありがとう」

結月「お礼はキマ…リさんはなにもしてないから、日向さんたちに」

みこと「……もう一人は?」

結月「私も行くから安心して」

みこと「……うん」

結月「じゃあ、準備しようか」

みこと「準備?」

結月「せっかくの豪華料理なんだから、おめかししないとね」


……


275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:23:05.77 ID:dVGs9va+o

―― 食堂車・厨房


料理長「なんだって?」

マリ「バイトをさせてください!」

料理長「……どうして」

マリ「そのぅ……持ち合わせが厳しくなってきましてぇ」

料理長「ふぅ……。あのね、君たちを特別扱いは出来ないんだよ?」

マリ「うぅ……」

綾乃「いいじゃないですか、少しくらい手伝ってもらえば」

料理長「その少しが特別扱いだって言ってるんだよ。やるなら最後までやらないと」

マリ「最後……終点までですか?」

料理長「その通り」

マリ「そ、それは……」

綾乃「これからコースメニューを作るわけですから、人手はあった方が困りませんよ」

料理長「まったく……。接客の経験は?」

マリ「コンビニ店員をしていました!」

料理長「料理は?」

マリ「家事手伝いを毎日!」

料理長「ふぅん……」

綾乃「すごーい」

マリ「炊事、洗濯、掃除、買い物、映画鑑賞、町内会の清掃、やってます!」

料理長「映画鑑賞は趣味だな……。一つ聞いていいか?」

マリ「はい……?」

料理長「どうしてそこまで頑張るんだ?」

マリ「目指している場所があるからです。
   今度は大人の力を借りず、自分たちの力でその場所へ行けるようになるため、です!」
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:23:59.53 ID:dVGs9va+o

綾乃「もしかして、あの場所?」

マリ「そう、あの場所!」

料理長「知ってるのか?」

綾乃「はい……。そんなにいいところだとは思えないけど……」

マリ「私たちにとっては最高の場所」

綾乃「――……」

料理長「……分かった。それじゃ手伝ってもらおう」

マリ「やった! ありがとうございます! 頑張ります!」

料理長「ただし」

マリ「?」

料理長「給料は出せないからな」

マリ「え?」

綾乃「じゃあ、報酬は?」

料理長「これから朝食は無料にする。それでどうだ?」

マリ「――! ありがとうございます!」

料理長「それじゃさっそくだが、野菜を切ってくれ、明菜に聞けば教えてくれる」

マリ「アキナ?」

綾乃「もう一人の店員だよ。今接客してるから、代わって来る」

マリ「う、うん……。あのお姉さんかぁ……」

料理長「ほら、ディナーを楽しみにしてるお客さんが来るよ、しっかりしな」

マリ「はい!」


……


277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:24:51.69 ID:dVGs9va+o

―― 2号車


日向「なんだって?」

報瀬「だから、食堂車でバイトしてるって」

日向「……どうして」

報瀬「暇なんじゃないの?」

日向「ふぅん……よくやるなぁ」

報瀬「……」

日向「まぁ、暇って言えば暇だな」

報瀬「うん」

日向「……」

報瀬「……」


ガタンゴトン

 ガタンゴトン


日向「ゆづは?」

報瀬「さくらさんと一緒にみことの準備してる」

日向「大村と栞奈は?」

報瀬「1号車で漫才やってる」

日向「秋槻さんは缶詰か……」

報瀬「……うん」

日向「暇だな」

報瀬「うん」


……


278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:25:36.68 ID:dVGs9va+o

―― 売店車


店員「いらっしゃいませ」

報瀬「何買うの?」

日向「キマリに観光ガイド買っとけって言われてたからさ。
   ということで、くださいな〜」

店員「はい、どうぞ」

日向「ありがとうございまーす」

報瀬「次は名古屋ね」

日向「そだな〜。そして、その次は金沢――」

報瀬「あっという間に」

日向「あ〜〜!!」

店員「!?」ビクッ

報瀬「なに、どうしたの!?」

日向「れ、練習してない!」

報瀬「なにが!?」

日向「なわとびの練習!」

報瀬「あ、そう……」

日向「もう登録は済ませちゃってるから……ん?」

報瀬「……」ジー

店員「……」ジー

日向「急に大声出してすいませんでした」ペコリ


……



279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:27:03.52 ID:dVGs9va+o

―― 寝台車


報瀬「登録したって、10人を?」

日向「うん、したよ。当日受付でも良かったみたいだけどな」

報瀬「あと一人って誰?」

日向「さぁ? 食堂車でウェイトレスしてる人かな?」

報瀬「綾乃ちゃんともう一人の方?」

日向「うん」

報瀬「歳、同じくらいかな」

日向「多分、二つくらい上だと思う。ここだっけ、みことの個室?」

報瀬「うん」

日向「おーい」

コンコン

「はーい」

報瀬「……」

ガチャ

結月「どうしたんですか?」

日向「暇だから様子を見に来たのだよ」

結月「そうですか。もうすぐ終わりますよ」

日向「どれどれ〜?」

報瀬「ちょっと、親しき中にも礼儀ありよ?」

結月「はい、そういうことなので下がってください」

日向「なんだ、その素っ気ない態度は、何を隠しているんだ!? 話してみなさい!」

結月「お父さんには関係ないでしょ、放っておいてよ!」

バタンッ

日向「……」

報瀬「……」

日向「悪いことしたな」

報瀬「うん」

ガチャッ

結月「なんで引くんですか……ノッたのに……!」

日向「いや、まさかの展開に戸惑っちゃって……」

報瀬「ごめん……」

結月「もういいです。それでは、また後で」

バタン

日向「ごめんな、今度はうまくやるから」

報瀬「もう次は無いと思うけどね」

日向「うん、私もそう思う……」


……


280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:28:25.80 ID:dVGs9va+o

―― 食堂車


日向「なんか、最近のゆづ……らしくないよな?」

報瀬「……そうね、確かに」


綾乃「いらっしゃいませ」


日向「あれ、キマリは?」

綾乃「中に居ますよ」

報瀬「様子はどう?」

綾乃「料理長の扱きに頑張って付いて行ってますよ」

日向「あはは、そうなんだ」

綾乃「お食事ですか?」

報瀬「うん」

綾乃「では、こちらへどうぞ」

報瀬「コンビニでのキマリはどうなの?」

日向「まぁ、うまくやってるよ。先輩の教えがいいからなぁ〜、えっへん」

報瀬「はいはい」

綾乃「ご注文はお決まりですか?」

日向「どうしよっかな〜」

報瀬「あ、今日はイタリアンなんだ?」

綾乃「そうです、今日のおススメです。
   料理長なんでも作れちゃうから私も驚いてますね」

報瀬「どんな人?」

綾乃「厳しいですよ。厨房に居る時は時間を無駄にするなーって言って、目が怖い」

日向「よし、決めた」

報瀬「大丈夫かな、キマリ……」

綾乃「大丈夫ですよ。厳しいのは料理を本当に大切に想ってるからで……」

報瀬「あぁ、そういうの、なんとなく分かる」

日向「ラザニアお願いしまっす」

綾乃「はい、ラザニアですね」

日向「報瀬は?」

報瀬「え? えっと……」

綾乃「こちら、おススメですよ」

報瀬「じゃあ、それで」

綾乃「カルボナーラですね、かしこまりました。少々お待ちくださいませ」

スタスタ......

日向「いいのか?」

報瀬「なにが?」

日向「いや、別に」

報瀬「?」
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:30:23.51 ID:dVGs9va+o

日向「もう旅も終盤だな〜」

報瀬「デネブはまだまだ中盤でしょ」

日向「それはそうだけどさ。なんていうの、終わりが見えてくると感じるこの寂しさ」

報瀬「まぁ、それは分かるけど」

日向「キマリはどうするって?」

報瀬「さぁ、分からない。最後まで行くかもしれないし、行かないかもしれないし」

日向「なんだよ、それ」フフッ

報瀬「ふふ、さぁ?」


……




報瀬「夕陽が綺麗……」

日向「ん〜……、流れていく景色の中、その夕陽を見ながらディナーを楽しめるなんて」

報瀬「もう経験できないかもね」

日向「そうだなぁ〜。やろうと思わない限りはできないな」

ガタンゴトン

 ガタンゴトン

報瀬「この経験をまた味わいたいって思える日が来ると思う?」

日向「分からないけど……多分、思うだろうな〜」

報瀬「……」

日向「……ところでさ、報瀬」

報瀬「うん?」

日向「駅の売店で弁当買おうとしたのは、ご飯が食べたかったからだろ? お米的なご飯を」

報瀬「そうだけど?」


綾乃「お待たせしました、ラザニアとカルボナーラになります」


報瀬「あ゛ッ!?」


綾乃「え!?」


日向「変な声出してすいません〜。この人、たまーに声芸してしまうんですぅ〜」

綾乃「そ、そうですか……びっくりした。……声芸って……なんだろ?」

報瀬「なんで止めなかったの日向!」

日向「いや、聞いただろ? いいのかって」

報瀬「ちゃんと教えてくれないと気付かないでしょ!」

綾乃「どうしました?」

日向「ライスを食べたかったらしいです」

綾乃「……」
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:32:08.65 ID:dVGs9va+o

報瀬「どうして私はカルボナーラ?」

日向「そんなこと私に聞かれてもな……。
   というか、そういうタイトルの曲ありそう」

綾乃「あぁ、分かる分かる。えっと、それでしたら、少々お待ちください」

日向「あ、いいですよ、それで。な、報瀬?」

報瀬「う、うんうん。カルボナーラの気分だったから」

綾乃「そうですか? それでは、どうぞごゆっくり」

日向「さすがに作り直しさせる程じゃないよな」

報瀬「うん……。でも、食べられないと思うと余計に食べたくなる」

日向「耐えた後の幸福はそれ以上の幸福である」

報瀬「どういう意味?」

日向「え? ……例えば……喉が渇いているときに水を飲むととってもうまいってなる」

報瀬「……」

日向「でも、二口目は一口目よりの満足感は無い。と、そういうことだな」ウンウン

報瀬「ふぅん……。自分で言って理解してるでしょ」


綾乃「失礼します。こちらをどうぞ」


報瀬「え?」

日向「ん?」

綾乃「あちらの方からサービスです」



マリ「ふふふ」グッ



報瀬「あぁ、うん……ありがとう」


綾乃「それではごゆっくりどうぞ」

スタスタスタ...


日向「キマリのサービスか」

報瀬「カルボナーラに白ご飯……」

日向「交換する? ラザニアの方が合いそうだけど」

報瀬「……ありがと。でも、せっかくだから、これで」

日向「そうか……」


……


283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:33:53.90 ID:dVGs9va+o

日向「ごちそうさま〜。ふぅ〜、おいしかった」

報瀬「もぐもぐ……」

日向「ご飯残ってるぞ」

報瀬「うん……もぐもぐ」

日向「ふりかけでもあればもらうか?」

報瀬「うん……もぐもぐ」

日向「すいませーん……って、いないな」

報瀬「……なんだか、お客さんが少ない気がする」

日向「確かに……。もう時間過ぎたかな」


綾乃「すいません、呼びましたか?」


日向「あぁ、うんうん、呼んだの私。悪いんだけど、ご飯に合うモノってなにかないかなって」


綾乃「……カルボナーラとは合いませんでしたね。少々お待ちください」


日向「ごめんね〜?」


「いえいえ〜」


報瀬「ありがと、代わりに言ってくれて」

日向「別にいいけどさ。見てても喉通らなさそうで大変みたいだから……ん?」

報瀬「どうしたの?」

日向「キマリが来た」


マリ「どうでしたか、今日の料理は」


報瀬「まるで自分が作ったみたいに……」

日向「大変美味しくいただけました。シェフはどちらで料理の勉強を?」

マリ「フランスやイタリーア、トルコにて修行を積んできました」

報瀬「そのエプロンで言っても説得力無いよ?」

マリ「本当です。本人に聞きましたので」フフン

日向「料理長の実力は本物ってことか。キマリがしたり顔なのがよく分からな……ん?」

マリ「なにか?」

日向「向こうで綾乃ちゃんが慌ててるみたいだけど、なにかあったのかな?」

マリ「え?」

報瀬「キマリが遊んでいるからでしょ」

日向「というか、なんでキマリが来た?」

マリ「私の提供した料理に不満があるのではと、責任の重さを感じましたので」

報瀬「気持ちは嬉しいんだけどね……」

日向「提供した料理って……ご飯よそっただけだろ?」

マリ「その通りでございます」

報瀬「本当に遊んでるよね、キマリ」

日向「あ……」

マリ「どうかしましたか?」
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:35:41.35 ID:dVGs9va+o

「……」


報瀬「……後ろ」


マリ「?」


「玉木さん、ここで何をしているんですか?」ニコニコ


マリ「う……! 明菜さん……!」

明菜「どうして持ち場を離れているんですか? 
   どうしてその格好でお客様の前に立っているんですか?」ニコニコ

マリ「こ、これは……そのぉ」

明菜「チーフは許可したんですか?」ニコニコ

マリ「い、いいえ……」

明菜「それでは戻りましょう。仕事の途中ですから」ニコニコ

マリ「はい」

明菜「失礼をしてしまいました。申し訳ございません」ペコリ


日向報瀬「「 いえ、とんでもない 」」


マリ「……」

スタスタスタ...


報瀬「……」

日向「いい先輩じゃないか……」


結月「肩を落として歩いてましたけど、どうしたんですか、キマリさん」


報瀬「バイト中に遊んでいたから怒られてたところ」

結月「どうしてバイトを?」

日向「暇なんだろ。そんなことより、みことは――」

結月「はい、ここにいます」


みこと「……っ」


日向「おぉ……」

報瀬「綺麗……。ん……? 綺麗? 可愛い……?」

結月「みこと、見た目は大人びていますからね」

みこと「客車歩くとき、恥ずかしかった……」

日向「ドレスアップした娘が歩いてるから注目されるだろうな」

結月「それじゃ、私も着替えてくるから」

みこと「うん……」

結月「それでは」

スタスタスタ...

報瀬「着替える……?」

日向「仕事じゃないか? まだ撮影があるんだろ」

みこと「……?」
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:37:03.08 ID:dVGs9va+o

報瀬「それより、みこと、似合って――」

日向「おっと、報瀬……それを言うのは私たちじゃないよね」

報瀬「え? ……あ、あぁそうね」

みこと「???」

日向「レリィを待たせるなんて――って、言ってるそばから来た」

報瀬「あっちも正装なんだ……」

みこと「え――……え?」


秋槻「お待たせ……? したのかな、詳しく話は聞いてないんだけど」


みこと「どうして……秋槻さん……?」


日向「ゆづから話は?」

秋槻みこと「「 ううん、聞いてない 」」

報瀬「……要は、二人にディナーを楽しんでもらおうという話」

日向「そういうことなので、じゃあな〜」ガタ

報瀬「じゃあね」

スタスタスタ...


みこと「えっ……! ま、まって……!」

秋槻「あぁそっか。二名様招待って書かれてたからそうだよな」

みこと「……っっ」

秋槻「あー……せっかくだから、一緒に食事を楽しめたら助かるな」

みこと「…………」

秋槻「嫌じゃなければ」

みこと「……嫌じゃ、ないよ」

秋槻「良かった。……それじゃ」

スタスタ...

みこと「?」

秋槻「どうぞ」スッ

みこと「……うん、ありがとう」ストッ

秋槻「レディーファーストの基本だからね。って、言うことじゃないんだけど」

みこと「……」

秋槻「さて……何も聞いていないんだけど……どうなるんだろう、これは」

みこと「……分からない」


綾乃「いらっしゃいませ」


秋槻「説明を聞いてもいいかな」

綾乃「今日はフランス料理のフルコースとなっております」

秋槻「……そうなんだ」

綾乃「?」

秋槻「いや、なんでもない」
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:38:24.10 ID:dVGs9va+o

綾乃「食前酒はどうされますか?」

秋槻「オレンジジュースでお願いします。それでいい?」

みこと「う、うん」

綾乃「かしこまりました」

スタスタスタ...


秋槻「特にこれといった説明は無かったから、純粋に料理を楽しもうか」

みこと「……うん」



―― 厨房


料理長「どうだった?」

綾乃「女の子、琴ちゃんが緊張してました」

料理長「そうか……。出番だ、玉木」

マリ「はい……?」

明菜「いいんですか?」

料理長「ここは格式高い三ツ星レストランじゃないからな。教えてやってくれ」

明菜「分かりました。玉木さん、これがテーブルセッティングの内容で――」

マリ「はい……?」


……




マリ「失礼します」

みこと「キマリさん、その服……」

マリ「貸してくれた。ちょっと待って、話しかけないで……忘れちゃうっ」

みこと「う、うん……」

秋槻「……」

マリ「えっと……フォークが左で……スプーンが……」

秋槻「……ナイフの次…」

マリ「あ、あぁそうだったっ」アセアセ

みこと「……」

マリ「……あれ、余っちゃったけど……これなんだっけ」

秋槻「デザート用だから、上の方に」

マリ「そうだったそうだった。こっちに置くんだよね」

秋槻「そうそう……」

みこと「詳しいの?」

秋槻「一通り勉強したよ。恥かかないようにね。……活かされたことは無いけど」

みこと「……」
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:39:27.46 ID:dVGs9va+o

マリ「これでいいのかな?」

秋槻「うん、オッケーだね」

マリ「それでは料理をお楽しみください〜」

スタスタスタ...

みこと「……キマリさん、楽しそうだった」

秋槻「……そうだね。……どんな料理が出るか説明なかったけど……まぁ、それも楽しみにしていようか」

みこと「うん」


―― 厨房


明菜「ちゃんとできた?」

マリ「完璧です」

綾乃「……」

明菜「それじゃ、料理が出来上がるからチーフから受け取って配膳してね」

マリ「はい!」

明菜「……チーフの考えは正しかったみたいね」ニコニコ

綾乃「ですね……」


マリ「料理長、受取に来ました!」

料理長「もうちょっとまってて、すぐ仕上げるから」

マリ「はい、待ってます!」


明菜「玉木さん、本当に完璧だった?」

綾乃「えー……と、……はい」

明菜「それは良かった。私たちもチーフのフォローに入りましょう」ニコニコ

綾乃「はい。……キマリさんなりに完璧だったということにしよう」ウンウン

料理長「これでよし、と。はい、持って行って」

マリ「料理長、このソースはオリジナルですか?」

料理長「そうだよ」

マリ「行ってきまーす!」

テッテッテ

綾乃「走らなくていいから!」
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:40:32.08 ID:dVGs9va+o

―― テーブル


マリ「こちら、京野菜をふんだんに使った夏野菜サラダにございます」

みこと「ナス?」

マリ「そうです。からしのピリッとした食感をお楽しみください」

秋槻「おぉ……これは嬉しい。京都ではあまり観光出来なかったから」

マリ「ソースは料理長のオリジナルになります。絶対美味しいです」

みこと「食べたの?」

マリ「うん、途中だったけど、試食させてくれたよ」

みこと「そうなんだ」

秋槻「期待してしまうな」

マリ「それでは料理をお楽しみくださ……って、さっき言ったっけ?」

みこと「うん」

マリ「そういうことで、それでは失礼します」ペコリ

スタスタスタ...

みこと「……」

秋槻「それじゃ……いただこうか……」

みこと「……うん」

秋槻「……あれ」

みこと「……この感覚…」


みこと秋槻「「 デジャヴ? 」」


みこと「え?」

秋槻「え? なに?」

みこと「なんだか、経験したことあるような気がして……」

秋槻「あぁ、そうなんだ。実は俺も……」

みこと「……」

秋槻「せっかくの料理の前だ、変な顔してないでいただくとしようか」

みこと「うん」


……


289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:42:08.56 ID:dVGs9va+o

マリ「こちらオードブルになります」

秋槻「魚?」

マリ「そうです。……ハモだそうです」

みこと「これも美味しい?」

マリ「こっちは試食させてくれなかったよぉ。でも、絶対美味しいね間違いなく」

秋槻「……」

マリ「お兄さん……? どうしました?」

秋槻「うん、美味しいだろうなって思ってた」

マリ「えへへ、それはもう絶品ですからね。それでは料理をお楽しみください〜」

スタスタスタ...

みこと「……キマリさん、何回言うんだろう…」

秋槻「それにしても、君も慣れてる感じがするね」

みこと「そうかな?」

秋槻「雰囲気に馴染んでるというか、落ち着いてるというか」

みこと「うん……お母さんたちと一緒に行ったことあるから」

秋槻「……ふぅん、そうなんだ」

みこと「……もぐもぐ」

秋槻「ふむ……おぉ、やっぱり美味しい」


……




マリ「洋梨のベルエレーヌになります」

秋槻「ありがとう」

マリ「どうぞ」

みこと「……ありがとう」

マリ「料理は以上になります。それでは心行くまでお楽しみください」スッ

スタスタスタ...


みこと「最後まで言った……」

秋槻「楽しんで欲しいんだろうね。でも、そのおかげで楽しめたよ」

みこと「うん」

秋槻「そういえば、京都の観光はどうだった?」

みこと「楽しかった。映画村に一人で行ったよ」

秋槻「あぁ、聞いてるよ。スタンプラリーの為に別行動したって」

みこと「後で日向さんが来てくれて、ホッとした」

秋槻「見知らぬ場所で知ってる人がいると安心するよね」

みこと「うんうん。不安でドキドキしてたけど、それも新鮮で良かったと思う」

秋槻「……へぇ…」

みこと「いつも誰かと一緒だったから、それが当たり前で……」

秋槻「――……」
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:43:34.72 ID:dVGs9va+o

みこと「秋槻さん……?」

秋槻「え?」

みこと「どうかしたの?」

秋槻「あ、いや……急に懐かしいこと思い出してね……」

みこと「……なにかあったの?」

秋槻「別に、大したことじゃないんだけど」

みこと「……聞きたい」

秋槻「う、うん……。母親から聞いたことで、俺自身はあまり覚えてないんだけどさ」

みこと「うん」

秋槻「小さい頃、近所で迷子になって……。発見されたの隣町だったんだよ」

みこと「……」

秋槻「見つけた時の俺、平然としてたって」

みこと「……?」

秋槻「『お母さんから離れるとすぐ泣くくせに、心細くて泣いているだろうって、必死に探したのに、
   お前はなんにもなかった、むしろいいことがあったみたいにニコニコしてた』って言われてね」

みこと「どうして?」

秋槻「さっき、君が言ったように……小さい俺も、不安や怖さより好奇心の方が強かったのかもね」

みこと「……」

秋槻「親の気持ちも知らずに、見知らぬ場所でドキドキして楽しんでたのかな」

みこと「きっと、旅に出たかったんだよ」

秋槻「物心つかない子供が?」

みこと「うん」

秋槻「ははっ、それだと結構な大物だったよね、小さい頃の俺って」

みこと「うん……!」

秋槻「……やけに自信あり気に言うね」

みこと「私がそうだったから」

秋槻「……」

みこと「ずっと……してみたかったから。
    本の世界と同じように、現実の世界でも知らないことを知りたかった」

秋槻「そっか……なるほど」

みこと「うん……もぐもぐ。……おいしい」

秋槻「やっぱり正解だったかもな……」

みこと「……?」モグモグ

秋槻「なんでもない」


……


291 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:44:33.18 ID:dVGs9va+o

―― 物陰


「どう?」

「割といい雰囲気……」


マリ「なにしてるの?」



「「 うわぁ! 」」


マリ「?」


日向「べ、別に二人が気になったわけじゃないんだよ。な、なぁ、報瀬?」

報瀬「そ、そうそう。別にね、二人がどういう空気になってるのかなとか、ね」


結月「気持ちはわかりますけど、見つかったらあの二人がギクシャクしてしまいますから、
   注意してくださいね」

マリ「結月ちゃん……その格好ってことはお仕事?」

結月「そうです。これから食堂車をレポートしようと思って」


さくら「あら、あの二人……」


日向「あ、さくらちゃんも居たんだ……」

報瀬「しゅっ、修羅場……!?」ゴクリ

マリ「なんで修羅場?」


さくら「ふふっ、やっぱりいいライバルになれそうね……」キラン


結月「キマリさん、ウェイトレスの格好、似合ってますね」

マリ「そう!? ありがとう! 誰も何も言ってくれないからショックだったんだよ!」


ディレクター「それじゃ、白石さん始めましょう」

結月「はいっ!」

292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:46:15.68 ID:dVGs9va+o

―― テーブル席


みこと「……なにしてるのかな?」

秋槻「なんだか賑やかだね……って、カメラが来たけど」

みこと「結月さんの……レポート……?」


カメラ「……」ジー

結月「それでは、今回は食堂車を紹介したいと思います!」


日向「ゆづ……あの二人をネタにしようと……?」

報瀬「そこまで計算していたなんて……」

マリ「なるほど、そういう意図が……!」


結月「ありません」


ディレクター「……」


結月「あ……すいません。もう一度お願いします」


ディレクター「どう思います、家石さん」

さくら「そうですねぇ……そのまま続けてもいいかと☆」

ディレクター「……ですね。そのまま続けて」


結月「えっ、あ、はい!」


日向「私ら、邪魔になってるな」

報瀬「うん……。展望車にでも行こう」

マリ「そうだね」

日向「おまえは、あっちだろ」


明菜「玉木さ〜ん、食材たちを放置するんですか〜?」ニコニコ


マリ「よぉーし、頑張るぞぉー! 頑張りまーす! 頑張らせてくださーい!」

明菜「お静かに」ニコニコ

マリ「はい」

スタスタスタ...


綾乃「クスクス」


日向「うーん……ちょっと楽しそう……?」

報瀬「……かもね」

スタスタ...


さくら「あ、ちょっと待って二人とも」


日向報瀬「「 ? 」」


さくら「邪魔にはなっていないから、そこで観ていてくれない?」


日向「え……」

報瀬「あ……はい」
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:48:18.26 ID:dVGs9va+o

結月「お客さんがいますね、それではインタビューしてみましょう!」


秋槻「う……やっぱり来た……」

みこと「……」

結月「こんにちは。お二人はディナーの後のようですが、いかがでしたか、食堂車の料理は?」

秋槻「とても満足出来ました。三ツ星以上の評価ですね」

結月「高評価ですね。私もここで食事をしていますが、とても美味しくてその評価も納得できます」

みこと「……」

結月「それでは、二人はどういう関係ですか?」

みこと「え……!?」


日向「お、ズバッと聞いたぞ」

報瀬「どういうって……どう答えるんだろう?」

日向「楽しみだな」ワクワク


秋槻「旅仲間ですよ。始発から一緒に旅をしてきました」

みこと「……」コクリ

結月「お二人は元々知り合いだったのですか?」

秋槻「いえいえ、お互い知らない者同士で」

みこと「……」コクリ

結月「列車の旅を通して、二人でディナーを楽しむ仲にまで進展したんですね!」

秋槻「いや……それはどうだろう……ね?」

みこと「……」

結月「次は名古屋、この旅の中間地点ですが、
   お二人は通ってきた都市で印象に残った場所はありますか?」

秋槻「うーん……そうですね……」

みこと「広島……」

結月「なにか思い出があるのですか?」

みこと「駅について……コンビニで……カップラーメンを食べて……」


日向「あー、それを言うのか」

報瀬「え、なんで? なんでコンビニでカップ麺?」

日向「いや……美味しいかなと思って。……他にあるだろ、みことっ」


ディレクター「うーん、男の人はともかく、女の子がちょっと萎縮しちゃってるなー」

さくら「それはそれで味があっていいのでは?」

ディレクター「せっかくだから編集無しで使いたいんですよね」


日向「お蔵入りさせるのはもったいないな……よし、報瀬」

報瀬「嫌だ絶対に無理。なにがなんでもやらない。あり得ない」

日向「まだなにも言ってないのにそこまで拒絶するなよ!」

報瀬「じゃあなに?」
294 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/11/22(金) 17:52:00.91 ID:dVGs9va+o

日向「……緊張が解れるようなことをアドバイスするか……報瀬が代わりに――」

報瀬「こういうときのキマリじゃない?」

日向「……だな。後者は聞くまでもなく拒否されたか」


結月「えっと……他には思い出に残った場所はありますか?」

みこと「……っ」

結月「それでは、これから停車する都市で行きたい場所は……?」

みこと「それは……金沢……の」

秋槻「君のお母さんの作品に――」

みこと結月「「 ? 」」

秋槻「旅先で出会ったばかりの人たちが食事を通して打ち解ける場面があったよね」

みこと「うん」

結月「……?」

秋槻「俺はあの場面が気に入ってて。実体験したらもっと気に入ってしまったよ」

結月「実体験ですか?」

秋槻「俺が印象に残った場所は福岡の中州で、この列車の旅仲間と共にその体験をしました。
   もちろん、彼女もその中の一人です」

みこと「――……」

結月「そうだったんですか。それでは、あなたも広島でそんな体験をしたんですね」

みこと「そう……です。とても不思議な……本の中に居るような体験」

結月「本の中……?」

みこと「きっと、この列車に乗らなかったら……私は一生、経験できなかったと思います」

秋槻「……!」

結月「……!」


さくら「あら……」

ディレクター「急に雰囲気が変わったね……」


みこと「思い返してみたら、広島だけじゃなくて……ここまでの全ての時間がそうです」

秋槻「……」

みこと「結月さんにインタビューされている今も、後で思い返すと不思議な――本の中にいるような、
    そんな不思議で素敵なかけがえのない時間になっていると思います」

結月「みこと……」


マリ「ちゃんと答えられてるよ?」

報瀬「う、うん……」

日向「だな」

マリ「じゃ、仕事に戻るね。あぁ、忙しい忙しい」

スタスタ

報瀬「インタビューに慣れたってこと?」

日向「いや、知らないけど……そうなんじゃないか?」


さくら「そういうのとは、ちょっと違うわねぇ」


……


295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/17(金) 15:44:53.67 ID:KOzKQsUKo

―― 草津


プシュー


日向「うわ……蒸し蒸ししてるな……」

報瀬「本当だ……暑い……」

日向「車内と外の温度差で体調が崩れそうだな……」

報瀬「気を付けないとね……。ほんと、暑い……」

日向「次で名古屋だから……。その次は金沢で……、高崎……」

報瀬「そこで降りるから……明々後日には地元に着く……」

日向「……ふむ」

報瀬「まだまだ先だと思ってたのに……」

日向「あっという間だったなぁ……」


栞奈「うわ、暑……!」

一輝「こんなに気温上がってたのか」


日向「私たちくらいだな、降りてくるの……」

報瀬「特に意味もなく降りたの私たちだけ……」

栞奈「他にやることないからねー」

一輝「暇人だな……。人のこと言えんけど」

報瀬「展望車にでも行ってくる」

日向「私もそうするかな」

栞奈「あ、じゃあ私も〜。一輝は外で一人、耐久試合してるんでしょ? 頑張ってね」

一輝「誰がするか。……そろそろ時間だから俺も行く」

栞奈「何の時間よ?」

一輝「テレビ見たいんだよ」


……


296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/17(金) 15:47:14.94 ID:KOzKQsUKo

―― 展望車


栞奈「え、食堂車でキマリが働いてて……」

一輝「あの二人がディナーねぇ……」

日向「うむ。美味しそうだったぞ」

栞奈「なんで、そんな面白いこと呼んでくれなかったのー!?」

日向「茶々入れるからだよ」

報瀬「おかげでいいシーンが撮れたってディレクターさんが言ってた」

栞奈「『おかげで』って酷い言い方するじゃないか」

一輝「それで、その二人は?」

日向「秋槻さんは仕事に戻って、みことは着替えに」

一輝「……そうか」

栞奈「あー? ひょっとしてみことちゃんのおめかし姿見たかったんじゃないのー?」

一輝「別に」

栞奈「まーた、クールぶっちゃって〜」

一輝「うるさいな、お前は」

日向「なー、報瀬」

報瀬「なに?」

日向「そろそろ、やっとくか?」

報瀬「……なにを?」

日向「勉強会」

報瀬「あー……、うん。やるなら、明日の朝、ここで、かな?」

日向「そだな」

栞奈「え、勉強するの? 旅の途中で?」

日向「そりゃ……私ら受験生だし」

報瀬「私は、どうするか分からないけど……一応」

一輝「進学しないってことですか?」

報瀬「他にやりたいことがあって……。でも、おばあちゃんは大学行けって」

栞奈「そんなの止めてさ、どうせするなら次の観光地の勉強しましょうぜ」

日向「変な誘惑するな。キマリの為でもあるんだからな」

栞奈「ほら〜、名古屋城にひつまぶし、シャチホコの遊覧船が私たちを待ってるんだよ〜」

日向「しゃ、シャチホコの遊覧船……!?」

報瀬「日向、喰いつかないで」

一輝「進学……か」

栞奈「ちょっと、なに真面目ムード出してるの! 楽しい旅の途中でさ!」

日向「そういうお前も真面目に勉強するべきじゃないのか!」

栞奈「私はいいの、やるべきことやってるから」

日向「…………」

栞奈「あ、疑ってるね」
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/17(金) 15:50:07.69 ID:KOzKQsUKo

報瀬「栞奈は進路どうするの?」

栞奈「だーからー! 現実なんてどうでもいいじゃないのー!
   もっとこう、ワクワクするような話しようじゃないか、諸君!」

一輝「それでいいのか?」

栞奈「いいよ、それで」

一輝「……栞奈がそれでいいなら、いいけどさ」

栞奈「いいって、言ってるでしょ」


一輝「……」

栞奈「……」


日向「……ん? なんだこの空気?」

報瀬「……さぁ?」

一輝「テレビ点けるけど、うるさかったら言ってくれ」

ピッ

日向「何を見るんだ?」

一輝「甲子園」

日向「ふーん……。野球ね……」

報瀬「好きなの?」

一輝「一応、野球部員なんです」

日向報瀬「「 えっ!? 」」

栞奈「私と同じリアクションだ」

一輝「ほとんど部に出てないから、補欠にもなれないんですけど」


『今年も夏がやってきた。世界で一番あつい夏が――。』


日向「それでも、わざわざこうやって見るくらいには好きなんだな」

一輝「まぁ、うん……」

報瀬「意外……」

栞奈「妹の面倒を見なきゃいけないから、早く帰らなきゃいけないんだよね」

日向「へぇ……」

報瀬「妹想いなんだ……」

一輝「チッ……いちいち言うなよ」

栞奈「舌打ちすることないでしょ。一輝の好感度を上げようとしただけなんだから」

一輝「余計なお世話だっての」


『この場所で、一度きりの夏を――。』


報瀬「そういえば、いつも思ってたんだけど」

一輝「?」
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/17(金) 15:51:39.03 ID:KOzKQsUKo

報瀬「女子って甲子園に出られないの?」

栞奈「だって……それは、ねぇ?」

日向「……なぁ?」

一輝「フフッ」

日向「あ、鼻で笑った」

報瀬「……」

一輝「あ、いや……ちがうんです……! 
   先輩と同じこと言ったからつい……!」

栞奈「なに怯えてるの?」

一輝「べ、別に……怯えてはいない……だろ」

日向「気になってたんだけどさ、どうして報瀬には丁寧語なんだよ?」

一輝「ぅ……」

栞奈「さ、白状したまえ」

一輝「部に……小淵沢さんと……似た人が居て……」

報瀬「私と?」

日向「女っぽい男?」

一輝「なんでだよ。マネージャーだ。厳しくて、口うるさくて、……怖いんだよ」

栞奈「ほぉ、一輝が恐れるほどに……」

一輝「というか、部員全員にな。先生とかもあまり強く言えないみたいでさ」

報瀬「……それで?」

一輝「いや……それで、と言われても。だから、です……としか」

日向「トラウマが蘇るんだって」

報瀬「ふぅん……」

一輝「……」

栞奈「ほら、圧力かけない」

報瀬「かけてない」

日向「報瀬の前では借りてきた猫みたいだにゃ〜」

栞奈「だにゃ〜」

一輝「……調子に乗りやがって」チッ


……


299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/17(金) 15:55:56.90 ID:KOzKQsUKo


『明日から熱戦が始まります』


『球児たちの様々なドラマが生まれるでしょう』


一輝「……」

栞奈「ドラマ……ねぇ」

一輝「ん? あれ? あの二人は?」

栞奈「日向はキマリのとこ。報瀬は親に連絡するって、個室に戻ったよ」

一輝「そうか」

栞奈「今、美人アナウンサーが言ってたドラマってさ、なんだろうね」

一輝「……マウンドに立つ選手たちが、抱えてるのも……じゃないか。悩みとか壁とか」

栞奈「それを乗り越えて優勝したら栄光を浴びる。そういうのがドラマ?」

一輝「なにが言いたい?」

栞奈「その栄光を赤の他人が見て、感動できるの?」

一輝「よくやったな、おめでとう。とは思うだろ」

栞奈「それは努力が実った瞬間に立ち会って、賞賛してるんだよね」

一輝「……」

栞奈「創作物のドラマと違ってさ、
   実在する私の知らない人がどんな感動的な行動をしても、私の心が動くことはないんだよね」

一輝「……」

栞奈「私はその人の生い立ちを知らないから」

一輝「……穿った見方してるな」

栞奈「そうかな……。……やっぱり、変?」

一輝「いや、それは分かるよ。俺たちにもそういう人がいるから」

栞奈「ほう……聞かせてくれたまえ」

一輝「なんで偉そうなんだよ……。知識とか情熱……とか、誰よりも持ってるのに、
   体格が恵まれなくて万年補欠の先輩がいてさ」

栞奈「ふむふむ」

一輝「それでも、好きな野球からは離れなくて……。そんな人が最後の試合に出場したんだよ」

栞奈「へぇ……」

一輝「監督も他の選手もその人の努力を知ってたから、記念に……ってな」

栞奈「……」

一輝「正直、俺はイラついた。だけど、俺には何も言う資格はないから黙ってるしかなかった」

栞奈「どこにイラついたの?」

一輝「だって、記念だぜ? 勝負の世界に、記念に参加するってなんだよってさ」

栞奈「あぁ……うん、なるほど」

一輝「マネージャーも不満顔だったから、何か言うんだと思ってたけど、黙ってた」

栞奈「……どうして」

一輝「理由が気に入らないだけで、その人が居れば勝てる、と思ったんだろう」

栞奈「結果は?」

一輝「負けた」

栞奈「……」
300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/17(金) 16:00:09.36 ID:KOzKQsUKo

一輝「でも、俺が見てきた野球の中で一番熱い試合だったよ」

栞奈「……!」

一輝「球場の誰もが試合の結末を知ってたんだ。二人を除いてさ」

栞奈「その人と……誰?」

一輝「……俺。……って言いたいけど、違う。マネージャーだった」

栞奈「一輝も負けるって思ってた?」

一輝「相手は甲子園に何度も出場してて、去年全国準優勝して、
   その時のメンバーほとんど残ってるからさ……」

栞奈「少年漫画にありがちな展開……!」

一輝「本当だよ。試合の中盤まで7点差で負けて、あとは淡々と時間が流れるのを待つだけ」

栞奈「それで……そのあとは?」

一輝「相手のピッチャーが交代して、流れが変わった」

栞奈「ふむ」

一輝「その時、その人が呟いたそうなんだ。『チャンスだ』って」

栞奈「一輝はどこに居たの?」

一輝「応援席だよ。ベンチに居なかったから、後で聞いた」

栞奈「そう呟いたってことは諦めてなかったんだね……!」

一輝「マネージャーもな。そこから相手を崩して九回まで5点も取った。
   守備も固めて1点も取らせなかった」

栞奈「それで、最後は?」

一輝「ツーアウト満塁、打席にはキャプテンが立つ」

栞奈「打った?」

一輝「……ショートゴロ。勢いが嘘だったみたいにあっけなく終わったよ」

栞奈「……」

一輝「片づけを手伝ったけど、誰も喋らなかった。黙々と作業してて……」

栞奈「……」

一輝「球場から出て、
   バスに乗り込む前にキャプテンがみんなの前で『ごめん』って笑いながら言った」

栞奈「……」

一輝「それを聞いたみんなは、茶化すようにしてたんだけど……マネージャーが泣いたんだよな」

栞奈「……」

一輝「『なんでお前が先に泣くんだよ』ってツッコミが入ったんだけど……
    『もっと何かできたはずなのに』って」

栞奈「……」

一輝「みんな我慢してた。だけど、
    万年補欠の先輩がグローブ見つめながら『ありがとう、楽しかった』って言ったら……」

栞奈「……」

一輝「それを聞いたら、みんな堪えきれず泣いた」

栞奈「一輝も?」

一輝「……泣きそうになった。その人は家業継ぐから、もう野球は出来ないらしくて」

栞奈「……」
301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/17(金) 16:02:35.25 ID:KOzKQsUKo

一輝「仲間だけじゃなく、野球そのものにも礼を言ったんだ」

栞奈「部員はみんな知ってたんだ……?」

一輝「うん。だからこそ、諦めることを止めた。なんとしてでも勝ちたかった……勝って欲しかった」

栞奈「……」

一輝「その感動は、赤の他人には共有できないだろうな」

栞奈「そういう話だったね。……私思うんだけど」

一輝「なに?」

栞奈「その人と、マネージャーって、相思相愛?」

一輝「かもな。二人目指すところが同じだったから」

栞奈「……なんだっけ、他に言い方があった気がするんだけど」


みこと「比翼連理?」


栞奈「そうそう、それそれ」


結月「……」


一輝「……どこから聞いてた?」


結月「創作ドラマがどうとか……」


一輝「ほぼ最初じゃねえか……」

みこと「何の話?」

栞奈「一輝がキャプテンの意思を受け継いだ話」

一輝「おまえ話聞いてなかったのかよ!」

栞奈「あはは!」

一輝「あははじゃねえよ……。他人が現実に起こった物語に感動できるかって話」

結月「そうですね……、ドラマは所詮フィクションですから」

みこと「……」

栞奈「結月ちゃんはそのドラマのプロだから、意見を聞きたいな」

一輝「こいつが不思議に思ってたことだからさ」

結月「実話を基にしたドラマもありますけど……結局はそれも人の手で作られていますからね」

栞奈「結構ストイックな考えみたいだね」

結月「私はドラマで感動するのではなく、感動させる側ですので」

栞奈「おぉっ、プロだ!」

みこと「不可能じゃないと思うけど」

一輝「可能か不可能かじゃなくて、こいつが感情移入できるかどうかだな」

栞奈「まぁ、そーなんだよね。
   結局、私個人が物語に沿って登場人物たちと気持ちを同じにできるかどうかだよね」

結月「……言い方悪いですけど、栞奈さんってどこか冷めてますよね」

一輝「いつも飄々としてるくせにな」

栞奈「うーん、そうなのかな?」

みこと「……」
302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/17(金) 16:03:51.75 ID:KOzKQsUKo

結月「人それぞれなんじゃないですか?」

一輝「そうだな。別にそれが悪いってわけでもないし」

栞奈「そうだね。うん、まぁいいや」

みこと「……」

結月「そうだ、みことに教えて欲しいことがあって」

みこと「?」

結月「さっき食堂車で言ってた本って――」

栞奈「……」

一輝「もう日が暮れたな……。時間の流れが早くてビックリだ」

栞奈「ね、一輝」

一輝「ん?」

栞奈「二人っていい子だよね」

一輝「なんだよ、いきなり?」


結月「そうなんだ、その本はまだ読んでなかったから……」メモメモ

みこと「その本の続きが、ネットで公開されてるよ」

結月「続き……? 別の本じゃなくて?」

みこと「うん。それぞれ進んだ道の続きになってる。
    お母さんが匿名で公開してるけど、誰も気づいていないみたい」


栞奈「いつも真剣に話を聞いてくれて、考えてくれるでしょ」

一輝「真剣だったかどうかは疑問だけどな……」
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/17(金) 16:04:40.01 ID:KOzKQsUKo

栞奈「ね、ね。どっちが好み?」

一輝「……は?」

栞奈「同い年で美人。未来の大女優、白石結月ちゃん」

一輝「……」

栞奈「妹属性で放っておけないタイプ、みことちゃん」

一輝「……ハァ」

栞奈「ね、どっち?」

一輝「別に……」

栞奈「もぉ、こんな時にまでクールぶるのやめたらいいのに」

一輝「うるさいな……」

栞奈「私が応援しちゃうよ。さ、さ言っちゃいなよ、もうそんなに時間も無いんだし」

一輝「…………」

栞奈「ほら、チャンスを棒に振るのかい?」

一輝「うるせえッ!!」


結月「っ!?」ビクッ

みこと「ッ!?」ビクッ


栞奈「な、なによ……そんな大声出さなくてもいいでしょ」

一輝「……チッ」

スタスタスタ

 プシュー


栞奈「なによ、アイツ……」

結月「何かあったんですか?」

みこと「なにがあったの?」

栞奈「さぁ、知らない。いきなり怒ったんだもん」


……


304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/17(金) 16:06:17.33 ID:KOzKQsUKo

―― 3号車


日向「うーん……明日からでも練習始めないとな〜。でもな〜」

「あら、こんばんは」

日向「あ、おばあちゃん。こんばんは〜」

「今は一人なの?」

日向「各自自由時間! なので!」

「まぁ、そうなの」

報瀬「ねぇ、日向」

日向「おぅ、報瀬〜。おばあちゃんに連絡は済んだのか〜?」

報瀬「うん。あ、こんばんはおばあちゃん」

「はい、こんばんは」

日向「なにか言いかけてた、報瀬?」

報瀬「別に用は無いんだけど、誰と話してるのかなって」

「座ってるから気付かなかったのね」

日向「おじいちゃんは一緒じゃないの?」

「個室で片づけをしているわ。私たち次で降りるから」

報瀬「あ……そうだ。もう、名古屋……」

「今は流れる風景をぼんやりと見ていたの」

日向「なにか見える?」

報瀬「もう見えないんじゃない……?」

「まだ残照で見えるのよ。ほら、向こうにお山が」

日向「あー……うん」

報瀬「……」

「名も知らない山が通り過ぎていく……それがちょっと寂しくてね」

日向「……」

報瀬「……」


一輝「通してくれ」


日向「え、あぁうん……」スッ


一輝「……」

スタスタ

 
報瀬「……?」

日向「様子が変だな……なにかあったのか……?」
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/17(金) 16:07:08.61 ID:KOzKQsUKo


「この道を選んでよかった」


報瀬「え?」

日向「道……?」


「道の途中で見た、小さな風景が浮かんで来てね」


報瀬「……選んだってことは…」

日向「他にも道があったってこと……?」


「うふふ、そういうこと。ごめんなさいね、突然こんなこと言って」


報瀬「……」

日向「よかったら、聞きたいな」


「こんな年寄りの話なんてつまらないと思うけど……?」


報瀬「私も、聞きたい」


「それじゃ、付き合ってもらおうかしら。旅の終わりの、残り少ない時間に」


日向「それなら、飲み物買ってくる。おばあちゃんはお茶でいい?」


「あら、若い人に買ってこさせるのも気が引けるわ。私が行くから座ってて」


日向「いいからいいから〜」


「それなら、一緒に行きましょう」


日向「うん! 報瀬、席取っといて〜」

報瀬「うん、分かった」


ガタンゴトン

 ガタンゴトン


……


306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/17(金) 16:09:35.07 ID:KOzKQsUKo

―― 名古屋駅


プシュー


マリ「よっ」ピョン


シュタッ


マリ「名古屋、とうちゃーく!」


日向「キマリ〜、食堂車の仕事は終わったのか〜?」


マリ「まだ!」ドン


報瀬「胸を張って言うことじゃないでしょ」

マリ「見送りに行きたいって言ったら、行っていいって〜」

日向「いい職場だなー」

報瀬「あ、結月とみことが……娯楽車の扉から出てきた」

マリ「栞奈ちゃんも一緒だね……。ん?」

日向「栞奈の様子が変じゃないか?」

報瀬「そう?」

マリ「うん、思った」


結月「キマリさん達、これからどこか行く予定ですか?」

マリ「私は食堂車の仕事があるから行けないんだよ」

みこと「まだ仕事があるの?」

マリ「今日は最後までやろうと思ってて」

栞奈「私も手伝ってあげようかな〜? 給料は時期によって価格が変わるけど〜」

日向「寿司屋か!」

報瀬「いつもと同じに見えるけど」

マリ「う〜ん?」

栞奈「なんでもできる栞奈ちゃんにお任せ。
    掃除、洗濯、お昼寝なんでもやるよ。料理はちょっとダメだけど」

日向「肝心なとこがダメならいらないだろー」

マリ「ボケにキレがないね。日向ちゃんのツッコミにもノリが足りてないし」

報瀬「そういうものなの?」

みこと「うん」

結月「みこと、分からないけど、一応頷いておこうっていうのはよくないから……」


「よいしょ……っ。ほら、手」

「はい……ありがとう、あなた」


日向「あ、降りてきた」


「うん? なんだ、こんなところで集まってからに……」

「?」
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/17(金) 16:12:07.57 ID:KOzKQsUKo

報瀬「お二人がここで降りるということで、お見送りに」


「……」

「まぁ、ありがとう」


マリ「駅の外まで行くのなら荷物持ちます!」


「ふん、余計なお世話だ」

「もう、あなたったら……親切で言ってくれてるのに」


マリ「あはは……」


「まったく、おまえさんときたら……。なんで最後、乗っておったのか……」


マリ「?」


「この人ったら、マリちゃんが発車ギリギリで乗れるかどうかの賭けをしてたのよ」


マリ「え?」

報瀬「ということは、負け?」


「発車ギリギリというのが勝負所なんだから、乗っていたのなら勝負にならんだろ」


マリ「ええぇぇぇ……」

日向「賭けの対象にされてたか……ま、気にするな」ポンポン


「父さん、母さん」


みこと「?」

結月「家族の方……?」

栞奈「……みたいだね」


「……来ていたか」

「わざわざ迎えに来てくれたのね」

「長旅だったから疲れただろうと思ってさ……けど、元気そうで良かったよ」


報瀬「……」


「この子たちは?」

「列車で出会ったのよ。とてもよくしてくれたいい子たちなの」

「そうか……。両親の相手をしてくれてありがとう」


報瀬「い、いえいえ……そんな、礼を言われることじゃ……」

日向「こっちも話を聞かせてくれたりと、とても楽しかったので」


「うふふ、ありがとう」

「ほれ、さっさと帰るぞ」

「……はいはい。それじゃ、俺たちはこれで」
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/17(金) 16:13:14.28 ID:KOzKQsUKo

マリ「あ、はい。それでは〜」

報瀬「お元気で」

日向「さようなら〜」

結月「……」ペコリ

みこと「……」

栞奈「……」


「老い先短い私たちの相手をしてくれて、本当にありがとう」


報瀬「……まだまだ、ですよ」


「そうだよ、そんな老け込むようなこと言わないでよ。そのために列車に乗せたのに……
 孫の結婚式まで元気でいてもらわないと」

「そうだったわね。……列車の中で色々と考えてしまって」


報瀬「また、――どこかで会いましょう」


「……えぇ。その時を楽しみにしているわ」

「あまり、危ないことはするなよ。焦って怪我をしたら元も子もないんだからな」


マリ「え、私? は、はい!」

日向「おじいちゃんはどっちに賭けてたの? 乗れる方? 乗れない方?」


「乗れない方だ。危うく大損するところだったけどな。あっはっは!」

スタスタスタスタ...


マリ「ええぇぇぇ……」

結月「……ぷふっ」


「お母さんをお大事にね」


報瀬「――――はい」


「それじゃ、またどこかで――」


……


309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/17(金) 16:15:45.43 ID:KOzKQsUKo

―― 食堂車


報瀬「いい親子だったね」

日向「うん……」


結月「二人ともどうしたんですか? なんだか様子が変ですけど」

報瀬「いろいろと話を聞いてたから……」

日向「人生とは、複雑で、繊細で、逞しいものだと感じたんだ」フッ

みこと「……」

結月「……そうですか」


綾乃「おまたせしました、親子丼でございます」


結月「いただきます。……なんだか、すいません、私だけ食べてしまって」

報瀬「……気にしないで。私たち先に食べ終わってるし……
   なにか食べる気にもならないから」

みこと「うん」

日向「お母さんのこと、言ってなかったのか……?」

報瀬「うん。……大事に想ってることには変わりないから」

日向「そうか」

みこと「……?」

結月「ほふっ……あ、熱い」ホフホフ

日向「時に、栞奈よ」


栞奈「……うん?」


日向「どうして一人離れてポツンと座っているのかね」


栞奈「んー……、ちょっと考え事をね……」


報瀬「様子、変じゃない?」

日向「うん、変だよな」

みこと「……」

結月「もぐもぐ」ホフホフ

日向「なにかあったのかー?」


栞奈「ううん……うん、別にー?」


報瀬「どっちなの……?」

日向「そういえば、大村も変だったよな……」

みこと「喧嘩……したみたい」


栞奈「ちょっと……みことちゃん……!」

310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/17(金) 16:23:29.61 ID:KOzKQsUKo

日向「大村とケンカしたのか……。時間が経てば解決するんじゃ……ないか?」

報瀬「どういう状況だったの?」

みこと「突然大声出したから……分からない」


栞奈「……私だって分からないんだから」


結月「お節介かもしれないですけど、良かったら聞かせてくれませんか?」


栞奈「ごめん……先に寝るね」スッ

スタスタスタ...


結月「余計なこと……言ってしまいましたよね……私」

報瀬「言ってないと思う。ただ、今はそっとしておいたほうがいい……と思う」

日向「そうだな……。本人たちの問題かもしれないし」

みこと「本人たちの?」

日向「ケンカってそういうもんだ。周りがどうにかしようとしても、上手くいかないだろ。
    それに、表面上解決しても意味が無いからな」

みこと「……」

報瀬「それはそうと、食べないと冷めるよ?」

結月「は、はい……もぐもぐ」

日向「なにか軽く食べようかな……?」

みこと「……キマリさんが来たよ」


マリ「いかがでしたか、今日の料理は」


報瀬「また言ってる」

日向「シェフはなんでも作れると聞きましたが、本当ですか?」

マリ「もちろんです」

結月「もぐもぐ」

日向「では……、トロピカルレインボーミックスジュースをお願いします」

マリ「……」

みこと「?」

日向「やっぱりメニューに無いものは作れな――」

マリ「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」

スタスタ...

結月「ごくん。……あんな無茶ぶりして大丈夫なんですか?」

日向「知らん。その無茶ぶりを料理長に投げるのはキマリだからな」

報瀬「なにか考えがあるのかもね」

みこと「……考えが…?」


「料理長! トロピカルレインボースペシャルミックスジュース入ります!」


「なんだそれは!?」


……


311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/17(金) 16:25:49.78 ID:KOzKQsUKo

―― 深夜:食堂車


車掌「こっちの点検は終わりました」

料理長「あぁ、こっちも終わったよ」

車掌「施錠チェック完了です」

料理長「本日もお仕事ご苦労様」

車掌「はい、お疲れさまでした」

料理長「……ん?」

車掌「どうしました?」

料理長「外に誰かいる」

車掌「え?」


秋槻「こんばんは」


車掌「あら? どうかされましたか?」

秋槻「用事ってほどじゃないんですけど、外から明かりが点いてたのを見たもので……」

料理長「こんな時間にウロウロされては困りますよ」

秋槻「仕事の途中だったので、気分転換にホームに降りてみたんです。
   そしたら、異世界に居るみたいでワクワクしてしまって」

車掌「ふふ、そうでしたか」

料理長「常に誰かがいる空間だからそう思わせるのかもしれませんね」

秋槻「こんな空気、滅多に味わえませんから……。っと、仕事の邪魔をしてすいません」

車掌「今日はもう終わりです。あとは、寝るだけですね」

料理長「水でも飲みますか?」

秋槻「助かります。喉潤したいと思ってたので」

車掌「では、私もお願いします」

料理長「はいよー。まぁ、そこに人を酔わせる成分が入っていてもしょうがないしょうがない」

車掌「私は無理ですからね」

料理長「ふふ、分かってるよ」

スタスタスタ...

秋槻「付き合いは長いんですか?」

車掌「料理長とですか?」

秋槻「はい……なんだか気心知れた仲に見えて」

車掌「付き合いは、この列車が発車すると決まった頃からになります」

秋槻「ということは……?」

車掌「そんなに深い付き合い、というわけでもないんですよ」

秋槻「そうなんですか……。けど、そうは見えないですね」

車掌「確かに、それ以上の縁がありますから」

秋槻「ヴェガですか?」

車掌「よくご存じですね。そうです、私と料理長……菜々子さんはヴェガに乗車していましたから」


「その話、詳しく聞きたい!」


車掌秋槻「「 っ!? 」」ビクッ
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/17(金) 16:28:22.84 ID:KOzKQsUKo

マリ「聞かせてください! 20年前に走った列車に乗車してたって話!」

みこと「……私も」


秋槻「ど、どうしたの二人とも……」


マリ「なんだか寝付けなくて、外の空気を吸いに出ました」

みこと「私も同じ……」


車掌「そうでしたか……」


料理長「なんだか賑やかだと思ったら、二人も来たんだね」

マリ「あれ、料理長……なんだか雰囲気が違う?」

料理長「別に、私は普通だけど?」

マリ「うーん?」

秋槻「なんとなくですけど、俺もそれ感じました。女性の柔らかさというか優しさというか」

マリ「そう、それ!」

料理長「そうかな? だとしたら――」

車掌「ヴェガの料理長をイメージしているとか?」

料理長「……かもね」

みこと「イメージ?」

車掌「当時の私たち、お客にも厳しいこと言ってたんですよ。
    でも、料理を美味しそうに食べていたら心から嬉しそうにしてて」

料理長「懐かしいね……。無意識だったけど、そうなのかもしれないな……」

マリ「……」

料理長「冷蔵庫にさっきのジュースがまだ入ってるよ、持ってきな」

マリ「え、いいんですか!? って、でもそれ料理長の分では……」

料理長「いいよ、一人分だから足りなかったら別の出してもいい。私の奢りだ」

マリ「やった♪ みこっちゃん、半分こしようね」

テッテッテ

みこと「……さっきのジュース?」

料理長「そう、3人で作ってたジュース」

秋槻「作ってた……とは?」

料理長「メニューに無いジュースを注文されて、それを受け入れてさ、呆れてたんだけど……、
     じゃあ作ってみようって話になって」

車掌「まぁ……」クスクス

みこと「ウェイトレスの3人?」

料理長「そうだよ。それを余ったフルーツでね。
     味見してないから私はどんな味かは知らないけど……」

みこと「日向さんが変な顔してたよ」

料理長「あはは、そうか」

車掌「菜々子さん、まさか……」

料理長「そんなものにお代は貰えないって」

車掌「それならいいんですけど」

秋槻「……」


マリ「持ってきたよ〜。はい、みこっちゃん」
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/01/17(金) 16:28:41.34 ID:ypkHwsN70
はい
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/17(金) 16:30:13.47 ID:KOzKQsUKo

車掌「それでは、ささやかながら乾杯しましょうか」

マリ「あ、ちょっとまってくださいっ」

料理長「慌てると零すから、気を付けて」

マリ「は、はい……よし」

みこと「少しでいいよ?」

マリ「まぁまぁ。はい、それでは……この旅の終わりがいいものでありますように、乾杯!」

料理長「い、いきなりだなっ」

車掌「乾杯♪」

秋槻「乾杯」

みこと「……乾杯」

チン

マリ「ごくごく……」

みこと「ごく……ごく……」

秋槻「ふぅ……日本酒ですね」

料理長「京都でいいもの貰ってね。どうせなら今飲んでしまおうと」

車掌「……」フゥ

マリ「うーん……うんん?」

みこと「甘い……酸っぱい?」

マリ「苦みもあるような……?」

みこと「……変な味?」

マリ「そだね、これ、変な味……おいしくないね」

料理長「あるもの全部使うからだよ。組み合わせを考えないと」

マリ「だって……使わないともったいないって思ったから……」

料理長「別に捨てるわけじゃないんだから、残してもよかったんだよ」

マリ「でも、あるものは使わないとって思って」

料理長「それがこの結果だ。あるものだけで美味しくするには知識と腕が必要、分かった?」

マリ「はい、すいません」

秋槻「一体どんな味なんだろうか……」

みこと「飲んでみる?」

秋槻「うん、ありがとう」

みこと「全部飲んでもいいよ」

秋槻「ごくごく……」

みこと「どう?」

秋槻「……変な味だね」

みこと「使ってるの果物だけだから、体にはいいって」

秋槻「そうだね……。風邪ひいた時とか栄養が欲しい時に飲むと良さそうだ」

マリ「誉められてないような気が……」ゴクゴク


車掌「……」

料理長「……」
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/17(金) 16:33:17.35 ID:KOzKQsUKo

みこと「あの……秋槻さん……今日もお願いが」

秋槻「あぁ、はい、どうぞ」

みこと「あ…ありがとう」

マリ「ん?」

料理長「電話……?」

秋槻「見たい動画があるそうです」

みこと「キマリさん達の……南極の話」

マリ「あ、まだ見ててくれてるんだ?」

みこと「うん。まだ全部見てないから」

車掌「会社のスマホは壊れてしまったと聞きましたが……?」

秋槻「まぁ、夜だからプライベートの方にはかかってこないでしょう。
   でも、もしかかってきたら持ってきてね」

みこと「うん」

マリ「今どこまで見終わったの?」

みこと「船の中。もうそろそろ南極に着くって」

マリ「そっかぁ……1年も経ってないのに、随分前に感じるなぁ。変な感じ」

秋槻「……去年の今頃ってどうしてたの?」

マリ「えっと、準備してたから……バイトして、合宿して、またバイトしてました」

料理長「さっき言ってた……目指している場所って、そこ?」

マリ「そうです。もう一度、みんなで」

秋槻「――……」

みこと「キマリさん、報瀬さんのことで聞きたいことが……」

マリ「うん?」

みこと「報瀬さん、どうして髪を切ったの?」

秋槻「…………」

マリ「それは……。うーん……うーーん……」

みこと「聞いてはいけないことだった?」

マリ「そうじゃないけど……。うん、本人に直接聞こう」

みこと「聞いてもいいこと?」

マリ「きっと答えてくれるよ。だけど、私が言っていいことじゃない……と思うから」

秋槻「……」

料理長「……」

車掌「飲んでしまったら、今日はもう寝ましょう」

マリ「え、でもまだヴェガの話が……」

車掌「夜更かしはいけません。
   早寝早起きして、観光を楽しんだ方がいいと思いますよ」

マリ「でもでも……。あ、そうだ……。明日は朝から練習があるんだった」

料理長「なんの練習?」

マリ「なわとび大会の練習です。乗客のみんなで出ます」

秋槻「……やっぱり、変な味」

みこと「……」
316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/17(金) 16:35:45.78 ID:KOzKQsUKo

車掌「玉木マリさんは、どちらまで行かれるか決まりましたか?」

マリ「……それが、悩んでて」

車掌「最終日の前夜、その時にでもヴェガのお話ししましょう」

マリ「本当ですか?」

車掌「はい。ただの昔話ですが」

マリ「分かりました、今日はもう寝ます!」ムンッ

料理長「気合が入って余計眠れなさそうだけど、大丈夫か……?」

マリ「みこっちゃん、どうする?」

みこと「うん、私も……眠たいから」

マリ「後片付けするからもうちょっと待ってて」

料理長「いいよいいよ、私がやるから」

マリ「あ、ありがとうございます。それじゃ、お言葉に甘えて……。行こ、みこっちゃん」

みこと「うん」

車掌「車両からは戻れませんので、一度外へ出てから寝台車へお戻りください」

マリ「はーい。おやすみなさい〜」

みこと「おやすみなさい」ペコリ

料理長「お休み」

秋槻「また明日ね」

車掌「おやすみなさい」

スタスタ...

「明日も頑張ろう。その為にも頑張って寝よう、みこっちゃん!」

「うん」


料理長「……若いな」

車掌「若いですね……」

秋槻「あはは……」

料理長「でも、よく電話を貸したよね。信用してるのは分かるけど、理由が知りたいね」

車掌「そうですね。プライベートに触れる可能性が高いのに」

秋槻「憧れですかね」

料理長「……憧れ?」

秋槻「俺があの子たちと同じくらいの時、同じことを思っても実行できませんでしたから」

車掌「……」

秋槻「南極ですよ、南極……。世界が違う。違いすぎる……。
   海の向こうの他所の国ではない、世界の果ての場所」

料理長「ゴク……、ふぅぅ……いい酒だな、これ」

秋槻「俺があの子たちに憧れるように、あの子もまた、あの子たちに憧れているんです」

車掌「……そうですね。身近にそんな人が居たら追いかけたくなりますね」

秋槻「だから、少しでも応援したいって思うんです。俺が出来なかったことを、あの子にも」

料理長「憧れ、ね」
317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/17(金) 16:38:37.16 ID:KOzKQsUKo

秋槻「多分、あの子は今、沢山のことを吸収してるんだと思います。
   それはきっと、次に繋がること。自分が成りたい自分になるために」

車掌「優しいんですね」

秋槻「そんなこと……。俺は、後悔してばっかりだから……
    何もしなかったことの後悔が多かったから……」

料理長「ゴク……ゴク」

車掌「飲みすぎじゃないですか?」

料理長「これで終わりだよ。もう飲まないって」

秋槻「いい酒ですよね。買っていこうかな……。上司へのお詫びにでも」

車掌「お詫び?」

秋槻「仕事があるのに、俺はこの列車に乗り続けているので……あはは」

料理長「ふぅん……。どうして乗り続けたんですか?」

秋槻「……それは」

車掌「……」

秋槻「先が見えたんですよ」

料理長「先? なんです、それは」

秋槻「自分の未来……ですかね。
   このまま降りて、帰っても……何も変わらない先が、未来が見えたんです」

車掌「……」

秋槻「だけど、『一緒に跳びたい』って言ってくれて、
    降りずに乗り続けたらどうなるんだろうって」

料理長「ふふ、どうなるんでしょうね。仕事を放って旅を続けて」

車掌「菜々子さん、酔ってますよ」

料理長「これくらいの酒で酔わないよ」

秋槻「そうですね、どうなるかさっぱり……。でも、先が見えないからこそ、
   面白いって思えて……不思議と楽しみだったりします」

車掌「是非、楽しんでいってください、この旅を」

秋槻「はい、もちろんです」

車掌「そういえば、京都駅の駅長から連絡がありまして。例の男性のことですが」

秋槻「あの軟派の男ですか」

車掌「なんとしても恥を掻かせたかったと供述しているそうです」

秋槻「はた迷惑な……」

料理長「何の話?」

車掌「鶴見さんに悪い虫が付こうとしたのを秋槻さんが助けてくれた話です」

料理長「ふぅん……なるほどね」

秋槻「思い返すと恥ずかしいですね……ははは」

車掌「夕方のローカル番組で取り上げられたそうですよ」

秋槻「え……!?」

車掌「京都駅で逃避行が? なんて伝えられていたそうです。
    ですが、お二人の名前は出ていないようなので、ご安心を」

秋槻「はぁ……ビックリした」

料理長「一つ、言っておきたいんだけど」

秋槻「はい?」

料理長「あの子の憧れがもう一人居ること、忘れないように」

秋槻「……」
318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/17(金) 16:40:07.04 ID:KOzKQsUKo

車掌「そうですね。歳も離れているから……、なにかと障害が多いと思いますが」

秋槻「いやぁ、それは……あの子たち――南極への憧れとは異なりますよ。
   たまたま歳の離れた異性に出逢って、興味をひかれているだけ」

車掌「恋に恋をしている……と?」

秋槻「そうです。だから、時間が経てば忘れるでしょう。『そういうこともあった』って」

料理長「誤魔化さずにちゃんと向き合ってください」

秋槻「…………」

料理長「一人の人間として」

秋槻「……はい」

料理長「それじゃ、私も片付けして、寝るわ〜」

スタスタ...

車掌「おやすみなさい、菜々子さん」


「おやすみ〜」


秋槻「……」

車掌「さて、私たちも個室に戻りましょうか」

秋槻「あまり、距離を近づき過ぎないほうがいいでしょうか?」

車掌「それは、秋槻さんが逃げているだけではないでしょうか」

秋槻「逃げ……?」

車掌「応援したいという気持ちを捨てることは、あの子の為にならないと思います」

秋槻「……」

車掌「菜々子さんにああいわれた手前、大人の対応を求められるのが難しいと思いますが、
   応援したいという、その気持ちは持って、あの子たちに接してあげてください」

秋槻「……――はい」


……


319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/17(金) 16:41:46.66 ID:KOzKQsUKo

―― みことの個室


『見てください! あれが南極です!』

『ししし白いですね! まま真っ白ですね!』

『はい、報瀬さんの言う通り、白い世界が私たちを待っています!』

『しし白です! まま真っ白です!』

『何回言うんだよ!』

『日向ちゃんっ、声が入ってるっ』


みこと「……」

prrrr


みこと「?」


【 ありさ 】


みこと「あっ、電話っ」


prrrr

みこと「えっと……秋槻さんの所に……」

プツッ

みこと「急がないと……」

ガチャ

『もしもし、悟くん?』

みこと「あれ……?」

『もしもーし』

みこと「あ、あの……すいません、ちょっと待ってください」

『え? 誰?』

みこと「わ、私は……秋槻さんの……」

『え、え? 若い声だけど……あなた、悟くんとどういう関係?』

みこと「関係……? 関係は……」

『悟くんに代わってくれる?』

みこと「今……近くにいなくて……」

『……』

みこと「一緒に旅をしている仲間です……」

『一緒に旅をする仲……!?』

みこと「はい……」

『ふぅぅん……!』

みこと「……もうちょっと待ってください」

『何考えてるのよ、悟くん……!』
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/17(金) 16:43:07.41 ID:KOzKQsUKo

みこと「えっと……ここ……」

コンコン

「……はい」

みこと「わ、私です……みこと」

ガチャ

秋槻「どうしたの?」

みこと「電話……」

秋槻「あぁ、ありがとう。もしもし?」

『さ と る く ん。あなた、何を考えているの?』

秋槻「? ……ありさ、だな。どうしたの?」

『どうしたのじゃないでしょ! 若い子に手を出してあなた何を――』

秋槻「は? 手を……って!」

みこと「?」

秋槻「えっと……ごめん、また明日でいいかな」

みこと「……うん」

秋槻「ごめんね。それじゃ」

『信じられない! 警察に行く前にちゃんと説明しておいて!』

秋槻「はぁ……なんでそうなるんだよ……」

バタン


みこと「…………」


……








―― マリの個室



マリ「むにゃむにゃ……」


マリ「魔女の匂いがする。目つぶしの呪文を覚えてるみたい」


マリ「すー……くかー……」


……


321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/31(金) 04:28:28.14 ID:oFn1AU3Bo

―― 8月7日


駅員「見回り行ってきます」

「はーい」


 チュンチュン

チュンチュン


駅員「……」

スタスタ...


駅員「今日も一日が始まる……」

スタスタ...


駅員「この静けさ……。
   数分後には大勢の人が行き交う場所……ターニングポイントに変わるんだ」


駅員「いい……」


駅員「この時間がたまらなくいい……」


駅員「俺はこの時間の為に毎日頑張れる――」


シュタタタタッ


駅員「……ん?」


シュタタタタッ


駅員「何の音だ……?」


「おー、速い速い! 報瀬ちゃんの独走!」


駅員「……」


「次、日向ちゃんと結月ちゃん!」

「おっしゃ!」

「なんの勝負ですか、これ……」


駅員「……?」


「じゃ、行くぞ、ゆづ」

「は、はい。まずはゆっくりでお願いします」


駅員「ここ……俺が愛して止まない……駅のホームで間違いないよな」


「せーっの!」

「ゆっくりですからね!?」


駅員「……なわとびしてる……だと?」
322 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/31(金) 04:30:16.52 ID:oFn1AU3Bo

「おりゃー!」

パシッ

「あいたっ!」


駅員「なわとびしてるだと!?」


……




車掌「……」


マリ報瀬「「 すいませんでした 」」

日向結月みこと「「「 すいませんでした 」」」


車掌「どうして、ホームでなわとびをしていたのですか?」


マリ「え、えっとぉ……そのぉ」

報瀬「キマリがここでやろうって……」

マリ「えっ!? 私!?」

報瀬「言ったでしょ」

マリ「で、でもそれは……日向ちゃんが駅の外は人がいっぱいいるからって」

日向「言ったけど、ここでやろうとは言ってない」

マリ「そんな!?」

結月「だから言ったのに……」

マリ「私一人が悪いみたいになってるっ!?」

みこと「……」

車掌「他に言うことは?」

マリ「なわとび買ってきたの日向ちゃんです」

日向「おぉい!! どんな責任転嫁だよ!」


車掌「5人で遊んでいたのなら、みんなに責任があります」


マリ報瀬日向結月みこと「「「「「  すいません 」」」」」


……


323 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/31(金) 04:32:13.87 ID:oFn1AU3Bo

―― 展望車


マリ「うぅ……私たちは何回、車掌さんに怒られたのか……」

日向「由々しき問題だな」

報瀬「喋ってないで手を動かして」

みこと「それが高校生の宿題?」

結月「うん…」カリカリ

みこと「難しい?」

結月「私も学校に行けてないから苦労するんだよね……」

みこと「……」

マリ「分かるよ」

日向「……」

報瀬「……」

マリ「二人とも、ツッコミをくれないと!」

日向「いや、報瀬がすると思って」

報瀬「日向が……」


ウィーン


栞奈「おはよ〜。って、うわ〜、本当に勉強やってるぅ……」


マリ「まぁ、私は毎日学校に行ってますけどね!」

みこと「うん」

栞奈「なに当たり前のこと言ってるの?」

日向「セルフツッコミだから気にしないでくれ」

栞奈「ふぅん……」

報瀬「……?」

栞奈「ん? どうしたの?」

報瀬「ううん……。いつもならこの流れに乗るから……」

栞奈「そうかな?」

報瀬「そう思っただけだから気にしないで」

栞奈「……うん」

マリ「あれ、ここ習ったかな」

結月「えっと……、ダメだ思い出せない」

みこと「公式?」

結月「うん……。数学は公式を覚えないと……うーん」

日向「栞奈、暇ならゆづの勉強見てあげてくれない?」

栞奈「……しょうがないな、結月ちゃんの好感度アップのために頑張りましょう」

マリ「私にも私にも教えて!」

日向「キマリはまず自分で解くことからだ!」

マリ「えー、なんでー!?」

報瀬「すぐ近道しようとするでしょ」

マリ「うぐ……」
324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/31(金) 04:34:24.98 ID:oFn1AU3Bo

みこと「うん、千里の道も一歩から」

マリ「……そだね」

結月「とりあえず、私も自分でやってみます」

栞奈「そう? 分からないことがあったら聞いてね」

結月「はい……」カリカリ

栞奈「じー」

結月「あ、今のところ間違ってますか?」

栞奈「ううん、可愛いな〜と思って……ふへへ」

結月「あの、邪魔しないでもらえますか?」

栞奈「……はい、すいません」

報瀬「いつも通りじゃない?」

日向「……だな」

マリ「みこっちゃん、現代文とか強そうだよね。文系って感じ」

みこと「うん、体育が苦手……マラソン大会とか嫌い」

マリ「あぁ、分かる分かる。そんな感じだよね〜、でも私たちのジョギングは付いてきてたよね」

日向「集中せんか」

マリ「はい」

結月「これで……よし。次は……」

栞奈「ちょい待ち。ここの数値が違うんだな」

結月「え? ……えっと」

栞奈「これとこれ、二つ入れ替わっちゃってるでしょ?」

結月「…………あ、そうですね」

栞奈「見直しで気付くレベルだから、大丈夫大丈夫」

日向「……」

みこと「外、ホームに人が……」

報瀬「もう出勤時間だから」

マリ「今日の出発って夜だよね?」

報瀬「うん」

マリ「朝ごはんはさっき食べたでしょ、昼と夜、どうする〜?」

報瀬「せっかくだから名古屋の名物食べたい。みそかつ、手羽先、天むす、ひまつぶし」

日向「……!」ピクッ

結月「……!」

マリ「いいね! でも、うなぎのひまつぶしって高くない?」

報瀬「うん、高い」

みこと「あの……」

栞奈「みことちゃん、勉強分からないとこある〜?」

みこと「う、うん」
325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/31(金) 04:36:37.64 ID:oFn1AU3Bo

マリ「台湾ラーメンも食べたいな」

結月「またラーメンですか?」

マリ「名古屋で台湾だよ?」

結月「……そうですね。日本の中心で外国の味が食べられるのは面白いですよね」カリカリ

マリ「そうだよね!」

日向「適当にあしらわれてるぞキマリ。きしめんもあるな。うどんみたいなヤツ」

マリ「それはいいかな。どうせならラーメンがいい」

報瀬「なにそのこだわり」

栞奈「みことちゃんは多項式やってるのね」

みこと「うん……。苦手だから」

栞奈「復習ってことかぁ……。うんうん、数学は基礎が大事だからね」

みこと「お母さんがそう言ってるから」

栞奈「応用もこなしてこそ基礎が活きるんだよ」

みこと「……?」

栞奈「発想の転換で、問題が新たな展開を見せ解決につながると、偉い人は言ってるよ」

日向「つまり?」

栞奈「教科書通りにやって解くより、自分で解いた方が楽しいってことさ」

報瀬「自分で解く為には知識――基礎が必要でしょ?」

栞奈「まぁそうだけど、みことちゃんはその基礎から進んでもいいのではないか、ってことだよ」

みこと「……」

栞奈「ほれほれ、この問題やってみよう。一緒に解くから気楽にね」

みこと「……うん」

日向「……栞奈さぁ」

栞奈「ん?」

日向「進路どうするんだ?」

栞奈「……」

マリ「ね、結月ちゃん、さっき栞奈ちゃんが言ってたことって推理小説の話?」

結月「違います」カリカリ

マリ「発想の転換で事件解決って言ってたよね?」

結月「言ってません」カリカリ

報瀬「集中力が凄い……」

栞奈「進学するよ」

日向「どこの大学?」

栞奈「……まぁ、そこそこ」

日向「決まってないってことか?」

栞奈「いいでしょ、そんなこと〜。それより、みことちゃんどうよ?」

みこと「……うん。出来た」

栞奈「お、いいじゃん。……うんうん、正解〜。応用問題繰り返して行こう」

日向「……」
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/31(金) 04:37:52.34 ID:oFn1AU3Bo

マリ「うーん、うーーん」

報瀬「どうしたの?」

マリ「全然頭に入ってこない……。どえりゃ〜、えびふりゃ〜ってさっき聞いて頭から離れなくて」

報瀬「日向、キマリの集中力が続かないみたい」

日向「駄目だなこれは……。駅のホーム内で勉強って言うのが無理があったか」

マリ「ごめんね……私の為に開いてくれた勉強会なのに」

報瀬「別にキマリのためだけじゃないけど」

日向「しょうがない。早めに観光行って気分転換しようか」

マリ「賛成!」

結月「……」カリカリ

みこと「……」カリカリ

栞奈「この二人は集中出来ているようですが」

日向「邪魔しちゃ悪いしそのままにしておこう」

結月「なんでですか!?」

みこと「え……!」

日向「いや、冗談だよ……? そんなに驚かれると逆に驚いてしまったよ」


……

327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/31(金) 04:39:39.46 ID:oFn1AU3Bo

―― 名古屋港



日向「お、おぉぉ……! これが……!」

マリ「初代しらせ……!」

報瀬「違う。南極観測船ふじ、だから」

結月「これも……砕氷船なんですよね……」

みこと「さいひょ……?」

結月「砕氷船。南極の氷を砕いて進む船」

日向「あの振動は最初座礁したのかと思ったよなー」

報瀬「思わないから……。早く中に入りましょ」

マリ「うん! 楽しみ〜……って、栞奈ちゃんはどこ?」

日向「あり? さっきまで一緒だったよな? 水族館の方に行ったか?」

報瀬「あり得る……。ここは他にも観光するところあるから」

みこと「探してくる」

日向「待った待った。私とキマリで行ってくるから、三人で待ってなさい」

結月「お願いします」

マリ「しょうがないなぁ」


……




―― 名古屋港水族館



栞奈「…………」


「あ、居た!!」


栞奈「!」


「栞奈〜! おーい!」


栞奈「キマリ〜! 日向〜!!」


マリ「ごめんね〜、私たち向こうの方に行ってて〜」

日向「ここに居て良かったよ」

栞奈「振り返ったら誰もいなかった恐怖、キミ達にはお分かりか!?」

マリ「ごめんごめん〜」

日向「というか、電車の中であれだけ観測船見に行くって言ったのに聞いてなかったんだな」

栞奈「うん、聞いてなかった」


……


328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/31(金) 04:41:03.25 ID:oFn1AU3Bo

―― 名古屋港


栞奈「まさか船に興味があるなんて思わなくてさ〜」

日向「私らが生まれる前に引退した船なんだよ。
    東京にも博物館があるけど、こっちも見ておきたくてな」

栞奈「へぇ〜」

マリ「あれ、結月ちゃんが握手求められてるね」

栞奈「有名人だからね〜」

日向「……待て、報瀬も握手求められてないか?」

マリ「本当だ……。なぜ……?」

栞奈「あの見た目だから、芸能人と間違えられたかな」

日向「そんなわけないだろ。報瀬は残念美人ではあるけど、芸があるわけないからな!」


「あ、あの二人は……!」


栞奈「こっち見てない……?」

日向「そうだな。なんだろ?」

マリ「スタッフさんが走って来るよ……?」


スタッフ「あ、あの……! 玉木マリさんと三宅日向さんですね……!?」


マリ日向「「 は、はい。そうです…… 」」

スタッフ「ぼ、ボク……あなた達のファンでして……!!」


マリ日向「「 えっ!? 」」


……


329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/31(金) 04:43:59.81 ID:oFn1AU3Bo

―― 船内


日向「おぉっ、見ろみこと! あれが雪上車だ!」

みこと「雪の上を走る……車?」

日向「そうだ。名前のまま機能を現している!」

報瀬「日向、うるさい」

マリ「ファンがいてくれて嬉しいんだよ」

結月「私たちのあの動画を見てくれてる人がいるとは思いませんでしたね」

栞奈「この界隈では有名人なんだね……君たち」

マリ「実感はないんだけど……。サインの練習した方がいいかな」

結月「いいと思いますよ。人形がリアルで面白いですね」

報瀬「娯楽を楽しんでる姿もあっていいね」

マリ「あれ、さらっと流された……?」

栞奈「本当によかった? あの人形が不気味に感じて結構怖かったんだけど……?」

結月「……」

報瀬「……」

栞奈「ノーコメントなのね、分かった」

みこと「中は寒くないの?」

日向「私らが使ったのは暖房があったけど……。まぁ、無いと生きていけないからな」

報瀬「車内が暖められる工夫は絶対にある。当時と現代が同じなのかは分からないけど」

マリ「でも、あの形でよく観測できたよね」

日向「そうだな。研究が進んでより効率的になってるんだろう。これからも進化していくんじゃないかな」

栞奈「…………」

みこと「……どれくらいの時間、中に居るの?」

報瀬「目的地に着くまで。そして、基地に帰るまで」

日向「楽しかったなぁ……」

マリ「うん!」

栞奈「……」

結月「5日間身動きできなかった時はどうなることかと思いましたね」

日向「立ち往生してなぁ……」シミジミ

みこと「5日間も? どうして?」

マリ「ブリザードでね、先が全く見えないんだよ。白い暗闇だね」

報瀬「ホワイトアウトね。なにその、青いレッドカードみたいな」

日向「お前たち例え下手か!」

栞奈「あ……」

結月「どうしました?」

栞奈「楽しそうに話すなって…………。……一輝みたいに」
330 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/31(金) 04:46:38.96 ID:oFn1AU3Bo

みこと「身動き出来なかったってこと? 5日間も?」

マリ「そうだよ」

みこと「日向さんも?」

日向「そうだぞ。なにを不思議がっているのか?」

栞奈「雨の中1時間もジッとしていられない日向が?」

報瀬「そう、その日向が」

日向「私を何だと思っているのか!」

マリ「5日間も身動きが出来ない状況なんて、
   普通の高校生だと経験できないことだよね」


……



―― 名古屋港水族館


報瀬「海の虎……」

日向「水族館って気分じゃないんだ、報瀬」

報瀬「海の王様……」

マリ「私も……」

報瀬「海のギャング……」

結月「それを聞くと見たくなくなります」

みこと「冥界からの魔物」

報瀬「なにそれ?」

栞奈「キマリの影響で変なこと言いだしたよ」

マリ「なんで!?」

みこと「シャチの学名の意味」

報瀬「そうなんだ……。じゃあ、みことは行くってことでいいよね」

みこと「え……」

日向「じゃあってなんだ、絶句してるだろ」

報瀬「誰も入らないの?」

結月「私はこの後、さくらさんと約束がありますから」

栞奈「私もパス」

マリ「あの観覧車が気になって……行ってみようかなと」

日向「どうせならもっと大きな……ん?」

みこと「どうしたの?」

日向「待てよ……。確か、遊園地があったよな……?」

栞奈「あぁ、あるね。ナガシマスパーランド」

マリ「ジェットコースター好きだよ、私」

日向「今乗りたいかって話だ」

マリ「乗りたい!」
331 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/31(金) 04:47:39.08 ID:oFn1AU3Bo

日向「だよな、行くか!」

マリ「うん! 行こう!」

報瀬「水族館は!?」

日向「悪いが報瀬、私たちは遊園地に行くことになった。
   時間も限られてるから即行動だ」

マリ「みこっちゃんはどうする!? 行こう!」

みこと「え、えっと」

結月「この勢いだと絶叫マシンに乗るから、苦手だったら遠慮した方がいいよ?」

みこと「うん……。結月さんと一緒に居るから」

マリ「分かった。栞奈ちゃんは?」

栞奈「私も、のんびりしてるよ」

マリ「じゃあ、ここで別行動だね」

日向「行くぞ、キマリ!」

マリ「よっしゃ!」

タッタッタ


「また後で〜!」


報瀬「水族館は……?」


……


332 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/31(金) 04:49:04.79 ID:oFn1AU3Bo

―― 名古屋市市内


結月「あれ、また栞奈さんが居ない……?」

みこと「少し後ろ歩いてたけど……」

結月「一人で戻ったのかも」

みこと「うん」


「あ……! 結月ちゃん……!」


結月「え?」

「あ、あの、僕……キミのファンなんだ!」

結月「ありがとうございます。応援してくれて」

ファン「あの……! 握手してください……!」

結月「は、はい」

ギュッ

ファン「ふぁぁ、嬉しい……!」フルフル

みこと「……」

結月「これからも応援よろしくお願いし――」

男1「ちょっとちょっと、君さぁ」

ファン「え?」

男2「結月ちゃん困ってるっしょー?」

結月「……?」

ファン「あ、ご、ごめんなさい……つい嬉しくて」

結月「いえ、そんな……」

男1「はいはい、オタク君は帰った帰った」

男2「ファンなら節度持った行動でよろしくなー?」

ファン「は、はい……すいません。……そ、それじゃ」

男1「ほら、シッシッ」

結月「……」

ファン「応援してます、頑張ってくだ――」

男2「さっさと行けや!」

ファン「うぅっ」

テッテッテ

結月「……」

みこと「……」

男1「まったく、困るよね〜。デリカシーのない男ってさ」

男2「結月ちゃんと一緒に居るってことは、君も芸能人? 可愛いね〜」

結月「すいません、私たち、用があるので失礼します」

男1「ちょ、待ってよ。俺らもファンだよ? さっきのヤツみたいに優しくしてよ」

男2「そうそう。そんな冷たい態度だと傷ついちゃうな〜」

結月「……」

みこと「……」
333 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/31(金) 04:50:48.41 ID:oFn1AU3Bo

男1「ちょうど人数的に合ってるからさ、これから一緒にどこか行かない?」

結月「用事がありますので、失礼します」

みこと「……っ」

男2「男慣れしてない感じが可愛いね〜。君のファンになっちゃうよ、俺」

結月「あの! この子には触らないで……!」

男1「じゃあさ、連絡先教えてくれない? 俺ら観光に来てて、地元は東京だからさそこで会おうよ」

男2「ねえねえ、教えてよ〜」グイッ

みこと「……っ」ビクッ

結月「ちょっと手を離して――」

「なにやってんだよ、お前ら」

男1「ん?」

結月「あ――」

一輝「困ってんだろ、止めとけ」

男2「なんだお前、カッコつけたいなら他を当たれよ」

一輝「あぁ?」

男1「こいつ、君らの知り合い?」

みこと「ううん、知らない」

結月「ぇ!?」

男1「だってよ。白馬の王子様モドキは消えろ!」

ドンッ

一輝「……ッ」

ドサッ

男2「ははっ、こんな所でしりもち付いてやんの。ダッセ」

結月「あ、一輝さ――」

みこと「行こ」グイッ

結月「あ、ちょっと待って!」

一輝「……ハァ、自分が嫌になる…」スクッ

男1「おっと、逃げないでよ〜」グイッ

みこと「――!」

結月「ちょっと!」

一輝「その手、離せよ」

男2「あ? なんだてめえ」

男1「関係ない奴は黙ってろ。邪魔だオマエ」

一輝「関係なくはないだろ。人を突き飛ばしたんだからよ」

男1「……」

男2「……」

一輝「ケンカ売るってことだろ?」

男1「コイツ……」

一輝「ちょうど良かったよ。イライラしてたんだ、相手してくれ」

男2「潰すか」
334 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/31(金) 04:52:04.30 ID:oFn1AU3Bo

一輝「ほら、来いよ――」


「バカーーッ!!」

ドンッ


一輝「ぐはっ」

ズサーッ


一輝「なにすんだ、てめ……!?」

栞奈「なにすんだじゃないでしょ! バカズキ!!」

一輝「栞奈……!」

栞奈「なんで簡単に人を傷つけようとするのよ! なんで怪我をしようとするのよ!!
   人を治すことがどれだけ難しいのがなんで分からないの!!!」

一輝「…………」

男1「なんだこれ」

男2「おい、ふざけんなお前ら!!」


「うふん」

サワサワ


男1「――!?」

男2「――!?」

さくら「あら、柔らかいお尻……。ちゃんと鍛えなくちゃダメじゃない♪」

男1「」

男2「」

さくら「私が鍛えてあげましょうか? 色んな意味で♪」

男1「うわー!」

男2「わあー!」

ダダダダダッ

さくら「あら、残念」


栞奈「バカ!!」

バシィィン


一輝「……ッ」

栞奈「……っ」

タッタッタ


さくら「あら、行っちゃった……」

一輝「……なんでビンタされなきゃいけないんだよ……」

さくら「心当たり無いの?」

一輝「ないことは……ないですけど」

さくら「ふぅん……まぁ、詳しくは聞かないでおいてあげるわ。
    それより、結月ちゃん知らない? ここで待ち合わせしてたんだけど」

一輝「……さっきの奴らに絡まれてて……どこか行ったようです」

さくら「なるほど、ありがとねん……まだ近くに居るはずよね」ポチポチ

一輝「……」
335 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/31(金) 04:54:50.12 ID:oFn1AU3Bo

ピコン


さくら「名古屋駅ね。了解っと。……それじゃね、坊や」

一輝「……はい」

さくら「あ、それと」

一輝「……?」

さくら「力は振るう為にあるんじゃないの、守るためにあるのよ?」

一輝「……っ」

さくら「結構堪えてるみたいね、よく分からないけど。それじゃね〜♪」


……




―― 名古屋駅・イベントスペース


Wonderland Girl〜♪

不思議 素敵〜♪

 Wonderland Girl〜♪

 キミと私〜♪


結月「ライブ、今日だったんだ……」

みこと「あの人……アイドルだったの……?」

結月「最近バンドを始めたみたい」

みこと「……」

結月「というか、なんでこんなところで……逢ってしまうの……」

みこと「知り合い?」

結月「小さい頃からの腐れ縁というか、なんというか……」


ファン「うぉぉぉおおお!!!」

ファン2「うぉぉおおおおお!!!」


結月「あれ、あの人……?」


……




スタッフ「それでは、10分後に握手会を始めまーす! 整理券を持って列にお並びくださーい」


みこと「さくらさんとの待ち合わせは?」

結月「ちょっと待ってて、さっきの人に謝らないと……」


ファン「ど、どっちに並ぼう……! ででも、5人と握手したいんだ……!」フンッ


結月「あ、あの」


ファン「ふぁい?」
336 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/31(金) 04:56:31.39 ID:oFn1AU3Bo

結月「さっきの方……ですよね?」

ファン「ふぇ!?」

結月「先ほどはご迷惑をおかけして、すいませんでした」ペコリ

ファン「いいいいえいえいえいえいえ! 悪いのはあいつらですし……!」

結月「気を悪くしていたら申し訳ないと思って……」

ファン「ととととんでもない! ゆゆゆ結月ちゃんにしし心配されるなんて至極恐悦の極みで……!」

結月「そういっていただけると……。それでは、これで」


「ふふ、まさか本当に逢えるなんて思わなかったわ」


結月「う……!」ギクッ


アイドル「私の――いえ、私たちのファンになにか御用かしら、白石結月さん?」

結月「……ッ」


ファン「あばばばば! どひゅーん!」バタッ


スタッフ「ファンが倒れたぞー! 担架ーー!!」


結月「いえ、特には……。ただ、謝りたかっただけですから……。それでは」スッ

アイドル「少し話をしませんか? せっかく久しぶりに逢えたんですから」ウフフ

結月「すいません、待たせている人がいますので……」

アイドル「まぁ、連れないのね」


みこと「報瀬さん、こっち」

報瀬「どうして私を置いて行くの?」

みこと「報瀬さん、いつも一人でどこかいくからって、日向さんが言ってたよ」

報瀬「いつもじゃないから」


ざわざわ

 ざわざわ

「あ、白石結月ちゃんだ……」

「あの二人、子役時代に共演してたよね」

「周りにいる二人も可愛いな……芸能関係者かな……?」


結月「……」

アイドル「注目されてしまったみたいね」

結月「誰のせいですか……」

アイドル「ここじゃなんだから、控室に行きましょう」


……


337 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/31(金) 04:58:40.39 ID:oFn1AU3Bo

―― 控室


アイドル2「まん丸お山に彩を! で、お馴染みの丸山彩です!」キュピンッ

報瀬「っ!?」

アイドル「アヤちゃん、まずは握手会で噛まないようにちゃんと練習しておいてね」

アイドル2「うっ……はい、分かりました……」

アイドル「お馴染みと言えるほど浸透していないのだけれど……」

結月「……」
     
アイドル「白石さんと、前に会ったのは何時になるのかしら?」

結月「覚えていません。結構前だったと思います」

アイドル「ふふ、2年前のオーディション以来になるわね」

結月「……」


報瀬「あの人って……」

みこと「役者さんだけど、今はアイドルでバンドもやってるって」

報瀬「ふぅん……。なんだか、結月……苦手みたい?」

みこと「……そうなのかな」


アイドル2「えっと、今日は来てくだしゃってありがとうございます……うぅん緊張……ッ」

アイドル3「ねーねー、アヤちゃん、あの人たちって誰?」

アイドル2「なんか、チサトちゃんのお友達みたいだよ」

アイドル4「仕事前に他の人を招きいえるなんて珍しいですね」


アイドル「一日車掌をやってるって聞いて、
     タイミングが合えばここで逢えるんじゃないかと思っていたのだけれど、本当に逢えるなんてね」

結月「……そうですか」

アイドル「それにしても、さくらさんを独占するなんてずるいわ。私の現場にはいつもいないんですから」

結月「たまたまです。さくらさんもデネブに乗る理由があったみたいで」

アイドル「そう……。なんだか、『持ってる』わね、白石さん」

結月「……え?」

アイドル「実力だけでは生きていけない世界なのは、あなたも知っているでしょ?」

結月「それなら、チサトさんは持っているってことですか」

アイドル「えぇ、おかげさまで。努力が大前提だけれど、
     それも仲間がいるからより励むことが出来ているの」

結月「……」


報瀬「あの、サインください!」

アイドル「え、えぇ……。かまいませんよ」ニコッ

報瀬「善い人……。あ、報瀬さんへってお願いします。強調するように」

アイドル「変な注文しますね……」サラサラ

結月「報瀬さん……?」
338 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/31(金) 05:00:36.86 ID:oFn1AU3Bo

アイドル「はい、どうぞ。これでいいでしょうか?」

報瀬「はい、希望通りで嬉しいです。ありがとうございます」

結月「どうしたんですか、いきなり?」

報瀬「キマリと日向に自慢できる」

結月「それだけの理由ですか!」

アイドル「……!」


さくら「ごめんなさいね二人とも、待たせちゃって」

みこと「ううん、待ってないよ」

さくら「あらぁ、本当にいい子ねぇ」

アイドル5「さくらさん! 来ていたんですね!」

さくら「イヴちゃん……仕事中にごめんね、お邪魔しちゃって」

アイドル5「いいえ構いません! 今度、またお稽古をお願いします!」

さくら「私でよければいつでも」

アイドル5「かたじけないです! 嬉しいです!」


アイドル2「チサトちゃん、そろそろ時間だって」

アイドル「分かったわ。それじゃ、私たちはこれで」

結月「はい、お仕事頑張ってください」

アイドル「ふふ、なんだか目の敵にされてるみたいだけど。
     私はまたあなたと共演出来たらって思っているのよ」

結月「そうですか。私もです」

アイドル「本心でそう思ってくれてるのなら、近いうちに実現できそうね」

結月「……」

アイドル「それでは、失礼するわね」

スタスタ...


みこと「あの人、やっぱり……」

さくら「知ってるの?」

みこと「お母さんの――」


アイドル「そういえば」クルッ

結月「?」

アイドル「あなた、お名前は?」

みこと「……?」

報瀬「みことのこと?」

アイドル「みこと……?」

結月「彼女の名前は鶴見 琴です」

みこと「……」コクリ

アイドル「鶴見……。ひょっとして……間違っていたら申し訳ないのだけれど……」

さくら「チサトちゃんが子役時代に出演した作品の、原作者の娘さんよ」

アイドル「え……!」
339 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/31(金) 05:03:23.75 ID:oFn1AU3Bo

みこと「やっぱり……みたことあると思って……」

アイドル「世間は広いようで狭いのね……面影があるから気になっていたの。
     それで、聞きたいことがあるのだけれど、いいかしら」

みこと「……?」

アイドル「お母様はいくつか作品を執筆されているけれど、
     ドラマ化されたのは私が出演させていただいた一作品だけ」

みこと「うん」

アイドル「その理由を聞かせてくれる?」

みこと「……」

結月「そういうことって、家族の人には話さないんじゃないですか?」

アイドル「そうかもしれないけど、知っているかもしれないと思って。
     私が言うのもなんだけど、あのドラマは好評だったから、他の作品もドラマ化が期待されているのよ」

さくら「そうねぇ、その話なら私も聞いたことあるわ」

みこと「理由は分からないけど……」

アイドル「けど?」

みこと「出演した人と、小説の人物とはかけ離れていたから」

アイドル「――!」

結月「それって、お母さんからそう聞いたんじゃなくて――」

報瀬「みことがそう思ったってこと?」

みこと「……うん」

さくら「……」

アイドル「……そう。……それじゃ、また」

スタスタ...

アイドル3「何の話してたの?」

アイドル「いえ、なんでも」

アイドル4「うぅ、自分なんかが握手会なんて恐縮すぎます……」

アイドル5「マヤさん、私たちの心意気を見せましょう!」

アイドル2「チサトちゃん、顔色悪くない? 大丈夫?」

アイドル「大丈夫よ。……それじゃ、行きましょう」

さくら「チサトちゃん」

アイドル「?」

さくら「あの子ね、ひょっとしたら化けるわよ」

アイドル「え?」

さくら「母親の世界に誰よりも理解して共感して納得してるの」

アイドル「……」

さくら「結月ちゃんもそれに気づいてるわ」

アイドル「ふふ」

さくら「……まぁ、本人にその気持ちは無いでしょうけど」

アイドル「どれだけ才能があったとしても努力が出来なければそこまでです」

さくら「そうね」
340 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/31(金) 05:06:57.96 ID:oFn1AU3Bo

アイドル「それと、あの人は?」


報瀬「あの4人のサインも欲しいかも」

結月「虚栄心の為にサイン貰うの止めてもらえますか」


さくら「親友だそうよ」

アイドル「そうですか。私と話すときはどこか冷めているのに」

さくら「私が見た限りではかなり深い部分の繋がりがあるわね〜」

アイドル「結月ちゃんの意外な一面が見られて驚きました」

さくら「それはあなたと同じよ、チサトちゃん♪」

アイドル「やっぱり『持ってる』わね、結月さん」フフフ

アイドル2「なんだか知らないけど、もう大丈夫みたいだね?」

アイドル「えぇ、ごめんなさい、少しショックを受けてしまったみたいで……」

アイドル2「ショック……?」

アイドル「でも、もう大丈夫。行きましょう、みんな」


……




―― 名古屋駅


結月「子役時代からライバルライバルって囃し立てられてて」イライラ

報瀬「苦労してたみたいで……」

さくら「あ、見てあのお店、よさそう♪」

みこと「……そうなの?」

さくら「えぇ。さ、行きましょ、行きましょ」

結月「報瀬さん、今日は冒険して可愛い服着てみましょう」

報瀬「え?」

さくら「うーん、腕が鳴るわぁぁ!!」

みこと「うん、良さそう」

報瀬「え゛!?」


……


341 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/31(金) 05:09:21.35 ID:oFn1AU3Bo

―― ナガシマスパーランド


マリ「うーん、白鯨は……ちょっと」

日向「スリル満点だぞ! ここまで来てなにしり込みしてるんだよキマリ!!」

マリ「嫌な記憶が……あるようなないような」

日向「何言ってるんだ、いいから行くぞ!」

pipipi

マリ「ん? ちょっと待って日向ちゃん」

日向「どうした?」

マリ「メッセージが……。結月ちゃんから……ブフッ!」

日向「どうした!?」

マリ「見てこれッ! 報瀬ちゃんが! ブフフッ」

日向「報瀬がどうし――ブフッ!」


マリ日向「「 あはははは!! 」」


……




―― 夕方:レストラン


日向「トテモ カワイイト オモイマシタ」

マリ「ワタシモ ソウ オモイマシタ」

報瀬「嘘吐かないで! 顔に感情がないから!」

日向「フリフリのワンピ……プフッ」

マリ「向日葵模様のワンピ……ププッ」

報瀬「……」

日向「トテモ カワイイト オモイマシタ」

マリ「ワタシモ ソウ オモイマシタ」

報瀬「嘘吐かないで! 顔に感情がないから!」

みこと「同じこと繰り返してる……」

結月「はやく注文しないと、出発まで1時間とちょっとしかないですよ」

マリ「私はもう決まってるよ」

報瀬「……私も」

日向「じゃあ……私は味噌カツで。それで名古屋は〆だ」

結月「みことは?」

みこと「きしめん」

結月「それじゃ、決まったので呼びますね」

ピンポーン

報瀬「なんでもあるね、ここ」

日向「観光客向けのレストランなんだろうな」

マリ「駅内のレストランだから、よほどのことが無い限り乗り遅れることは無いよね」

結月「そうですね。余ほどのことがなければ」

みこと「余ほどのこと……」
342 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/31(金) 05:12:45.07 ID:oFn1AU3Bo

店員「ご注文承ります〜」

結月「えっと、天むすと、きしめんと味噌カツ……あと、報瀬さんとキマリさんです」

マリ「ひまつぶしお願いします」

報瀬「私も、ひまつぶしで」

店員「……」

キマリ報瀬「「 ? 」」

店員「はい、ご注文の確認をさせていただきます。
   天むす一つ、きしめん一つ、味噌カツ一つ、ひつまぶし二つですね」

日向「そうです。間違いありません」

店員「かしこまりました、少々お待ちくださいませ〜」

スタスタ...

マリ「今の店員さん間違ってなかった?」

結月「間違ってないですよ」

みこと「……ひつ……? ひま……?」ペラペラ

日向「そうだな、みこと。メニューをちゃんと見てみようじゃないか」

報瀬「ひまつぶ……。……ん!?」

みこと「キマリさん、これ……」

マリ「ウナギのひまつぶし……」

日向「ちゃんと読め」

報瀬「ひつまぶし……!」

結月「そうです。ひまつぶしではなく、ひつまぶしです」

報瀬「ぁ……」

マリ「そんな!?」

みこと「文字を流し読みして、思い込んでしまったんだよ」

マリ「しゃ、しゃじぇんぇん!?」

日向「そっちかよ。……というか、高いなぁ」

結月「ウナギですからね」

報瀬「……ま、いいか」

マリ「たっか! プリンシェイクいくつ買えると思ってるのみこっちゃん!」

みこと「え……? えっと、30本」

日向「意味もなく当たるんじゃない、そして律儀に答えなくていい」

報瀬「あ、そうだ」ガサゴソ

結月「どうしたんですか、報瀬さん?」

みこと「変更する?」

マリ「うーん……。ううん、やっぱりひまつぶしがいい」

みこと「いいの?」

マリ「食べたかったからね、ひまつぶし。食堂車でバイトしててよかったぁ」

結月「キマリさん、このメニューに書かれてる文字をちゃんと読んでください」

マリ「ウナギのひまつぶし」

日向「どうあっても、ひまつぶしで押し通す気だな……」
343 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/31(金) 05:14:20.17 ID:oFn1AU3Bo

報瀬「日向、キマリ。これ、見て」

マリ「ひまつぶし」

報瀬「それはもういいから」

日向「なに、それ? サイン色紙?」

報瀬「ふふん」ニヤニヤ

みこと「駅のイベントスペースで、ミニライブやってたよ」

マリ「うーん? 誰のサイン?」

報瀬「え、知らないの? 私もよく知らないけど……」

日向「知らんのかい! っていうか、貸して」

報瀬「うん……」

結月「よく知らないのに貰ったんですか……自慢するだけの為に……」

日向「ゆづ、サインペン持ってる?」

結月「なんでですか? 持ってないですけど」

日向「日向さんへ、って書き直そうかと思って」

報瀬「汚さないで!!」バッ

日向「冗談だよ、ジョーダン」

みこと「日向さん、知ってるの?」

日向「子役時代から知ってる。ゆづのライバルとか言われてるよね」

マリ「あー、うん知ってる知ってる」

結月「むぅ……」

報瀬「あ……。この話はこれでお終い」

日向「共演したことあったっけ?」

結月「一度だけですけど」ムー

報瀬「はやく料理こないカナー」

マリ「バンドの曲も聞いたことあるよ。ちゃんと自分たちで演奏してるんだって」

結月「むぅぅ……」

報瀬「楽しみダナー、まだカナー、お腹すいたナー」アセアセ

みこと「……」

日向「今度さ、私らの分も貰って来て――」

結月「むぅぅぅ……!!」

マリ「あれ? どうしたの、結月ちゃん?」

結月「どうせ……どうせ……! 私なんてライバルにもならないんです!」

日向マリ「「 !? 」」

みこと「怒っちゃった……報瀬さん」

報瀬「二人がしつこいから」

日向「責任転嫁された気がするけど、何の話?」

マリ「ど、どうしたの結月ちゃん?」

結月「大抵のオーディションにはあの人が居たんですよ!
   歳も背格好もだいたい同じ、なら演技力で評価されますよね!?」

マリ「そ、そうなのかな? 難しいことは分かんない……」
344 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/31(金) 05:16:14.65 ID:oFn1AU3Bo

結月「あの人と競い合った役で勝ち取れたことなんてないんです!
   役になりきる努力もしてるし、台本の理解力もあるし、場の流れを読む判断力も長けてる!」

日向「へ、へぇ……それは凄いですネ」

結月「敗け続けているのに、それなのに、ライバルライバルって言われ続けて……むぅぅ!」

報瀬「でも、結月のほうがいい演技するよ」

みこと「……」

結月「私の演技、見たことあるんですか?」

報瀬「……どうなの、キマリ?」

マリ「え!? えっと……あ、あるよー? ……そう! 南極居る時に決まったって話!」

結月「それ、私と出会った後の話ですよね」ズイッ

マリ「そ、そうだけど……チカイヨ、ユヅキチャン」

日向「おっと、お冷がなくなっちゃった……店員さん呼ぼうかな」

みこと「ピッチャーならそこにあるよ」

日向「あ、うん」

結月「報瀬さんのお家のお邪魔した時、3人とも私のこと知らなかったみたいでしたけど」

報瀬「……」ギクッ

日向「そ、そんなことないさ! 知ってたさ!」

マリ「うんうん」

結月「本当ですか?」

報瀬「私はバイトばっかりだったから、テレビ見る時間無くて〜」

マリ「あ、なんかズルい報瀬ちゃん!」

日向「おまえがサインなんか貰ってくるからこうなってるんだぞ、逃げるな!」

報瀬「逃げるなって何!? そのサインに顔色変えたの誰!?」

日向「私ですけどー!?」

マリ「私はサイン欲しいなんて思ってないよ、結月ちゃん!」

結月「来週、オーディションがあるんですけど、その時逢うかもしれません。もらえたらどうします?」

マリ「……」

報瀬「迷ってるから! 欲しいけどどうしようって、キマリ迷ってるから!!」

日向「子役時代の話だろ!? 今はもうゆづの方が上だって!」

マリ「そうだよ! きっと!」

ギャー

 ギャー


店員「こちらで最後になります」

みこと「はい。すいません、席を二つ取ってしまって」

店員「次のお客さんが来る前に移動してください」

みこと「はい。ありがとうございます」


結月「あの人、仲間が出来て順風満帆って感じだったんですよね、今日」

報瀬「確かに……自信に満ち溢れてた」

結月「次、勝ち得ることが出来るんですかね」

報瀬「難しいかも?」

日向「おい! 敵なのか味方なのかどっちだ報瀬!?」
345 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/31(金) 05:17:20.53 ID:oFn1AU3Bo

マリ「結月ちゃんも『持ってる』よ」

結月「え?」

マリ「仲間が。……えへへ」

日向「自分で言って照れるなよ」

報瀬「……」コクリ

結月「ですね。私も、次は勝ち取ろうと思ってますから」

みこと「さくらさんも、結月さんはちゃんと持ってるって言ってた」

結月「……うん」

みこと「あっちに料理並べてあるから移動しよう?」

日向「いつの間に!?」

報瀬「私たち、騒いでたから違う席に持って行ってたんだ……?」

みこと「うん。店員さんが『白石結月さん』のファンだって」

結月「……」

日向「キマリのうなぎのひまつぶし、半分食べていいからさ」

マリ「え!?」

結月「ふふ、そうですか。それなら頑張れますね、私」

報瀬「うんうん」

マリ「報瀬ちゃん……、もう半分別けてくれない?」

報瀬「やだ」

マリ「そんなぁ」シクシク

結月「冗談ですよ。半分は」

マリ「……半分の半分だから、4分の1?」

日向「おぉ〜。味噌カツ美味しそう〜♪」

報瀬「はぁ……久しぶりのご飯が食べられる」

結月「それでは、いただきましょうか」

マリ日向「「 いただきま〜す 」」

報瀬「いただきます」


みこと「……」


……


346 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/01/31(金) 05:19:03.30 ID:oFn1AU3Bo

―― 出発1分前:デネブ


ダダダダダッ

「だから! だから!! なんでお土産屋で悩むんだよー!!?」

「レジが混んでたんだからしょうがないんだよ〜〜!!」

「〜〜っ!」



結月「急いでください! 1分切りましたよ!!」

みこと「早く……!」


日向「くぅぅ〜〜〜〜!!」

マリ「ひぃっぃぃお腹が揺れるぅぅ」

報瀬「うぅっ、気分悪くなってきたかも……!」

ダダダダダッ


栞奈「車内に居ないと思ったらまーた駆け込み乗車なのかぁ」

結月「先に乗っててよかった」

みこと「……」


日向「よし! セーフセーフ!!」

マリ「ふぅっ、はぁっ、ふぅぅぅ」

報瀬「うぅっ……ぅぅぅ」

結月「報瀬さん? 顔色が悪いですよ?」

みこと「とりあえず、乗ろう?」

栞奈「名古屋しゅっぱーつ!」

prrrrrrrr


……


347 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/02/14(金) 15:39:58.78 ID:l1m2r1O+o

―― 1号車

ガタン

 ゴトン

日向「次はいよいよ金沢なわけだがー」

報瀬「うぅ、気分悪い……ちょっと横になって来る」

栞奈「部屋に戻るの? 送ってくよ〜」

報瀬「うん、ありがと……うぅぅ」

スタスタ...

マリ「お大事にー」

みこと「大丈夫かな……」

マリ「後で様子見に行こう」

みこと「どうして具合が悪くなったの?」

マリ「多分、天むすも追加注文してたから食べすぎたんだよ」

日向「その後に全力疾走だからな……。それほどまでに米が食べたかったんだよ」

マリ「楽しかったねー、名古屋」

日向「いろいろ回ったからな〜。名古屋城に行けなかったのは残念だけど」

みこと「報瀬さんと行ってきたよ」

マリ「そうなの? じゃあ後で写真見せてもらおう〜、ばり楽しみやけん」

日向「それ名古屋弁じゃないだろ。それより、残り二つの駅になったんだよ」

マリ「なにが?」

日向「停車駅が。金沢と、松本」

みこと「……」

マリ「あっという間だったね。ということは、あと3日で東京なんだね」

日向「そんな先の話より明日だ明日!」

マリ「?」

みこと「なわとび大会?」

日向「そう、それ! どうするんだよ、
   一回も全員で練習してない上に大村と栞奈があんな状態だろ?」

マリ「二人がどうしたの?」

日向「なんか、雰囲気がおかしいんだよなー。まだケンカしてるっぽい」

マリ「そっかぁ、うーん……。どうしよ?」

日向「原因も分からないからな……。みこと、なんか聞いてる?」

みこと「ううん、知らない」

マリ「そっかぁ……。大会の時間って何時だっけ?」

日向「夕方までやってるみたいだけど、13時には会場に居たい」

マリ「でも私ね、兼六園に行きたいんだよ」

日向「午前中に行って来い」

みこと「能登半島は?」

マリ「あ、いいね!」

日向「あのな、昼には片町に居なきゃいけないんだぞ?」

マリ「無理かな?」

日向「詳しく調べてないから分からないけど、多分無理」
348 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/02/14(金) 15:41:23.63 ID:l1m2r1O+o

マリ「じゃあ、大会終わってから?」

日向「デネブは丸一日金沢に停まってるから、不可能じゃないけど……けどさ」

みこと「けど?」

日向「大村、降りるだろ?」

マリ「うん……そうだね」

日向「最後にさ、どこかで打ち上げしたいなって」

マリ「うん! いいね!」

みこと「……最後…」

日向「場所とか全然考えてないけどな!」

マリ「それなら能登半島でバーべキィューは!?」

日向「いいなそれ! 夏と言ったらバーベキューだもんな! ってか、キィューってなんだよ!」

みこと「できるの?」

日向「現実的には無理。時間と金銭的問題が大きいしな。
   私ももう持ち合わせが苦しくなってる」

マリ「うぅ、現実って辛いことばっかりだよね……。楽しいこともあるけど」

日向「そうだな……いつだって非情で無常だけど愛情で感情が最上でもある」

マリ「……どういう意味?」

日向「聞くな」

マリ「でも、楽しみだね。最後の夜だから思いっきり楽しみたい!」

日向「旅も大詰めだ、全力で楽しむぞー!」

マリ日向「「 おぉーー!! 」」

みこと「そのためにも、あの二人が仲直りしないといけない?」

マリ日向「「 そうだった…… 」」

みこと「……」

日向「キマリさん、なにか案はありませんか?」

マリ「ありません」

日向「お手上げですな」

みこと「……相談してくる」スッ

マリ「ん?」

日向「相談?」


スタスタ...


マリ「誰に?」

日向「車掌さんかな?」


……


349 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/02/14(金) 15:42:37.81 ID:l1m2r1O+o

―― 秋槻の個室


コンコン


みこと「……」


ガチャ

秋槻「おはよう」

みこと「え? 夜だよ?」

秋槻「あぁ、ごめん。時間間隔が狂い始めてて……。どうしたの?」

みこと「相談に乗って欲しいことがあって……」

秋槻「うん、分かった。空いてる席で待ってて。顔洗って行くから」

みこと「……うん」


……




―― 車掌室


車掌「どうかなさいましたか?」

みこと「大村一輝という人を探していて……」

車掌「大村さんでしたら――」


……




―― 娯楽車


バババーン

 チュドドドドーン

バコーン

一輝「ハァ……すぐ落とされるな……」

みこと「あ、居た」

一輝「?」

みこと「ちょっと来て」

一輝「あ?」


……


350 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/02/14(金) 15:45:02.29 ID:l1m2r1O+o

―― 1号車


マリ「見て、これに乗ったんだよ」

結月「ジェットコースターですか」

日向「でら世界最高峰だった。あれはでらよかった」

結月「無理やり名古屋弁使ってますね」


秋槻「ふぁぁ……」


マリ「あ、お兄さん」

日向「なんか久しぶりに見た気がする」


秋槻「一日中籠ってたからね……。ここじゃないのか」


日向「髭……」

マリ「身だしなみチェック」


秋槻「あ、しまった……つい……」


結月「誰か探してるんですか?」


秋槻「うん、ちょっとね……。それじゃ」

スタスタ...


結月「どうしたんですかね?」

マリ「みこっちゃんかな?」

日向「かもな」


……




―― 4号車


一輝「なんだよ、こんなところで」

みこと「……」

一輝「無視かよ……」


秋槻「ここにいたんだ」


一輝「?」

みこと「座ってください」

秋槻「うん、失礼するよ」ストッ

一輝「???」

みこと「私じゃなくてこの人から」

秋槻「うん……?」

一輝「なんだよこれ?」

みこと「栞奈さんとケンカしてるから、仲直りしてほしいって」

秋槻「え、そうなの?」

一輝「おまっ……!」
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/02/14(金) 15:46:17.85 ID:l1m2r1O+o

みこと「キマリさん達が明日、なわとび大会に出て、その後打ち上げしたいって」

一輝「だからなんだよ……」

みこと「最後だから」

一輝「……!」

秋槻「…………」


みこと「……」


一輝「……っ」


秋槻「話しにくいみたいだから、俺の話からしよう」

みこと「?」

一輝「……?」

秋槻「学生の頃、君たちと同じくらい歳の頃の話なんだけどさ」

みこと「……」

秋槻「一人の女子と仲良くなってね。席が俺の前で、なにかと接点が多くなったのが理由でね。
   日直とか掃除とか、いろいろ行動を共にすることが多くて」

一輝「……」

秋槻「そんな俺たちをみたクラスメイトが、ある日、俺に聞いたんだよ。
   『お前たち付き合ってるの』って」

みこと「……」

秋槻「俺は照れくさくて、声を大きめに『付き合ってねーよ』って言ってさぁ」

一輝「……」

秋槻「それをその女子に聞かれて……。それから気まずくて、今まで通りに過ごせなくて。
   会話も当たり障りのないことばっかりで、何か失った気持ちになったな」

みこと「……」

秋槻「あの時、なにか行動を起こせていたらって思うよ。そしたら、今ここにいないかもだけどね」

一輝「後悔してますか?」

秋槻「うん、してる」

一輝「…………」

秋槻「その子のこと好きだったんだなって、後になって気付いたから」

みこと「……」

秋槻「俺の話は終わり。ごめんね、割とどうでもよかったかな。あはは」

みこと「…………」

秋槻「それじゃ、話を聞かせて?」

一輝「正直、よく分からなくて」

秋槻「分からない?」

一輝「なんであんなに嫌な気持ちになったのか――」


……


352 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/02/14(金) 15:47:59.63 ID:l1m2r1O+o

―― 報瀬の個室


報瀬「ふぅ……落ち着いた……」

栞奈「もう大丈夫みたいだね」

報瀬「やっぱり食べすぎだったみたい。薬、ありがとう」

栞奈「いいよ、これくらい。たまたま持ってただけだし」


ガタン

 ゴトン


報瀬「……」

栞奈「一人でゆっくりしたいよね、それじゃ私はこれで――」


報瀬「栞奈、無理してない?」

栞奈「え、え……? 無理?」


報瀬「うーん……水、もうちょっと……ちょうだい」

栞奈「あと……これくらいしかないけど……どうぞ?」

報瀬「うん、ありがとう……」

栞奈「……」

報瀬「ごく……ごく……」

栞奈「……」

報瀬「……ふぅ。……それで、無理してない?」

栞奈「どうして……いきなり?」

報瀬「誰かに似てるなって思ったら、日向だった」

栞奈「?」

報瀬「なにかあるのになんでもないって顔して、
   無理して誤魔化して何も無かったってことにしようとしてた」

栞奈「……」

報瀬「私が向き合おうとしたのに、ね」

栞奈「私と日向は違うよ」

報瀬「うん」

栞奈「無理か……、してるのかな」

報瀬「分からないの?」

栞奈「まぁね。……私さ、人に深入りしたことも、されたこともないんだよね」

報瀬「……」

栞奈「この列車に乗ってさ……あぁ、私ってこんなヤツだったのかぁって思ったりして」

報瀬「……」

栞奈「いつもと違う自分だってのは分かってはいるんだけど……無理してるのかは分からない」

報瀬「いつもの栞奈ってどんな風なの」

栞奈「どんなだと思う?」

報瀬「今の栞奈しか見てないから分からない」

栞奈「教室の隅でさ、カリカリと勉強ばっかしてる。がり勉タイプってヤツ?」

報瀬「……」
353 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/02/14(金) 15:50:18.20 ID:l1m2r1O+o

栞奈「父さん見てるから、体力もつけなきゃって思って……スポーツも程々に出来ると思う」

報瀬「うん、細くはない」

栞奈「勉強もスポーツも出来る。優等生タイプ……だけど、致命的な欠点が一つあってさ」

報瀬「……」

栞奈「つまらない奴なんだ私って」

報瀬「どうして?」

栞奈「いや、分かるでしょ。今までの言動見てたら」

報瀬「ううん、さっぱり」

栞奈「……はは。……まぁ、そう、周りに思われててさ。
   居場所ないんだよね。学校ででもどこでも、家以外には」

報瀬「そう聞いたの? つまらないって」

栞奈「うん、言われた。飽きられた感じで」

報瀬「……」

栞奈「そういわれるの嫌だから、もっと面白いことをしようと思って……そしたらもうピエロさ」


報瀬「周りがつまらない人だらけなんじゃないの?」

栞奈「……っ」


報瀬「栞奈はつまらない人じゃない――」

栞奈「やめて……ッ」


報瀬「え……?」

栞奈「アイツと同じこと……言わないでよぉっ」


……




―― 4号車


一輝「アイツ、目標持って頑張ってるんです。つまらない人間なわけがない」

秋槻「……」

みこと「………」

一輝「俺は、アイツ……栞奈のこと人として尊敬してる部分もあって……。
   勉強できるけど、バカなところも面白いな思ったりして」

秋槻「……」

一輝「だから、俺自身が認めてる人に……おちょくられて……? コケにされるのが嫌で」

みこと「?」

一輝「その……白石結月のこと……ごにょごにょ……でしょ……とか言われて」

みこと「聞こえないよ、結月さんが何?」

一輝「くっ……」

秋槻「なるほど……」

みこと「どうして結月さんが出てきたの?」

一輝「だから……! さっき……冷やかされて? 嫌な気分になって……」

みこと「結月さんが冷やかされて……?」
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/02/14(金) 15:51:55.81 ID:l1m2r1O+o

一輝「だから……俺が……あっちのことを……なんじゃないかって」

みこと「あ……え?」

一輝「……なんだよ」

みこと「それって……栞奈さんのこと――」


秋槻「あー! そうだッ!!」


一輝みこと「「 ! 」」ビクッ


秋槻「あ、急に大声出してごめん。今、いい構成が浮かんでね」

みこと「……うん」

一輝「そうですか……」

秋槻「悪いけど、仕事に戻るね」スッ

みこと「……」

一輝「……はい」

秋槻「一つ、アドバイス」

一輝「?」

秋槻「どうして嫌になったのか、考えてみて。一人で、答えを見つけるんだ」

一輝「……」

みこと「……」

秋槻「それじゃ」

スタスタ...


「あ、お兄さん」

「無精髭が通りますよ〜」

「え!?」

「あはは」


みこと「……なんか、変」

一輝「だな……」


マリ「お兄さんどうしたの?」

みこと「徹夜したんだと思う」

マリ「ずっと起きてるんだ……道理でテンション高いわけだ」

みこと「キマリさん、どこに行くの?」

マリ「食堂車行って、料理長に相談をするんだよ」

みこと「相談?」

マリ「そうそう。明日の送別か――はうぁ!?」

一輝「……は?」

マリ「えっと、明日の株価はどうなってるかな」

スタスタ...

みこと「……変」

一輝「いつもだろ」

みこと「キマリさんは変じゃない。それじゃ、一人で考えて」スッ

一輝「なんかお前、俺には冷たいな」
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/02/14(金) 15:53:05.21 ID:l1m2r1O+o

みこと「好きじゃないから」

一輝「ふっ、そうかよ」

みこと「……」

スタスタ...

一輝「……」


一輝「……ハァ」


一輝「降りる準備するか……」


……




―― 報瀬の個室


栞奈「アイツと同じこと言わないで……っ」グスッ

報瀬「……」

栞奈「うぅ〜っ……。泣きそうっ……」

報瀬「泣いてるじゃない」

栞奈「泣いてないことにして」グスッ

報瀬「……」

栞奈「でも、なんかスッキリした」

報瀬「そう……」

栞奈「ありがと、報瀬」

報瀬「なにもしてないけど」

栞奈「さっきの話なんだけど」

報瀬「?」

栞奈「日向と向き合ったって話。どうやって向き合ったのかなって」

報瀬「私は向き合おうとした。
   ちゃんと自分のこと話して、その上で日向と正面から話をしようとした」

栞奈「うんうん」

報瀬「だけど、日向はそれをしようとしなかった。だから腹が立った」

栞奈「……」

報瀬「腹が立ったから、意地を貫き通した」

栞奈「意地……」

報瀬「お互い、変な意地を張ってたと思う。
   だけど……だからこそ、今の私たちがあるんだと思う」

栞奈「――……」


コンコン


報瀬「は、はい」


「報瀬さん、私だけど……」


報瀬「みこと……?」


ガチャ
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/02/14(金) 15:54:37.97 ID:l1m2r1O+o

みこと「休んでるところごめんなさい。これ、キマリさんが持って行ってって」

報瀬「いいけど……。キマリが?」

みこと「スタミナドリンクって」

報瀬「何してるの、キマリは?」

みこと「食堂車で手伝いしてる。日向さんも車掌さんとお話ししてて……」

報瀬「結月は?」

みこと「撮影してるから……」

栞奈「暇なんだね、みことちゃん」

みこと「あ、栞奈さん」

報瀬「くんくん……うっ、変なにおい……っ」

栞奈「まだ体調が戻ったわけじゃないから、大人しくしてなよ」

報瀬「……うん」

みこと「お話ししてたの?」

栞奈「うん。報瀬たちの話を聞いてた」

みこと「……」

報瀬「どうしたの?」

みこと「私も聞きたい」

報瀬「……じゃあ、入る?」

みこと「……うん」

栞奈「意地を張りあった結果が今に至るってとこまで話したけどさ」

報瀬「匂い嗅いだせいでまた気分が悪くなってきた……。……けど?」

栞奈「報瀬と日向の意地の張り合いで……報瀬が意地を貫き通したと」

報瀬「うん」

みこと「……」

栞奈「報瀬が正しかったってことだよね……?」

報瀬「どうだろ。結果は結果だから、そこは問題じゃないと思う」

栞奈「過程が大事?」

報瀬「結果とか過程じゃなくて……向き合うことじゃないかな」

みこと「……」

報瀬「自分と向き合って、相手と向き合って、どうしたいか」

栞奈「…………」

報瀬「どうなりたいか、なんて……あの時は考えてなかったし」

みこと「……」

報瀬「考えられるほど、私たちは長く生きてないから」

栞奈「……そっか」

みこと「生きてない……?」

栞奈「経験、だよね」

報瀬「うん。経験があるから過程を考えて理想の結果に近づける……」

みこと「……」
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/02/14(金) 15:57:40.44 ID:l1m2r1O+o

報瀬「それに私たち、人との付き合いの中で打算とか駆け引きとか出来るほど器用じゃない」

みこと「生き方が下手……」

報瀬「……うん」

栞奈「言うねぇ」

みこと「あ、そうじゃなくて……! お母さんの小説にそういう一節があって……!」

報瀬「ふふ、いいよ、気にしてない。その言葉、合ってるから」

栞奈「器用に生きられた方が楽だよね」

報瀬「楽だと思う。けど、そんな生き方してたら私が今持ってるものより、何かが足りていないと思う」

栞奈「面倒くさい自分を受け入れるか、切り捨てるか……?」

報瀬「どちらかを選択なんて、できないんじゃない?」

栞奈「どういうこと?」

報瀬「思い立ってできることなのかな、自分を捨てるとか受け入れるとか」

栞奈「できるよ……。諦めればいいだけだから。少しずつ、周りの色に染まるみたいに合わせて行けば」

報瀬「そうかも……ね。……やっぱり二人は似てる」

みこと「?」

栞奈「私と日向?」

報瀬「うん。頭の回転が速いからいろいろ考えることが出来るでしょ。
   自分のこと相手のこと、周りのこと」

栞奈「そうかな……?」

みこと「うん、私もそう思う。日向さんと栞奈さん、似てる」

栞奈「……そっか」

報瀬「それで、考えすぎて、先の先まで考えてしまう。
   そして、余計なことまで考えて動けなくなってしまうところとか」

栞奈「……」

報瀬「話を戻すと……私みたいな人は、面倒くさい側の人間。
   人は誰でも楽をしたいはずだから、それが普通だから……それが悪いことだとも思ってない」

栞奈「……」

みこと「あ、あの……報瀬さん!」

報瀬「な、なに?」

みこと「聞きたいことが……あって」

報瀬「?」

みこと「髪を切ったのは……どうして……ですか……!?」

栞奈「……」

報瀬「これは……」

みこと「……っ」

報瀬「お母さんと……じゃないか。……私自身と決別したから、かな」

みこと「決別……?」

報瀬「私のお母さん、南極で行方不明になって、帰らぬ人になって……」

みこと「え――」

栞奈「……」

報瀬「栞奈は知ってたんだ?」

栞奈「うん、まぁ……。報瀬たちに関連した記事を読んでたんだけど。
   その中に古い記事をたまたま見て……もしかして……とは思ってた」

みこと「――」
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/02/14(金) 15:59:04.04 ID:l1m2r1O+o

報瀬「その時からずっと、帰ってくるのを待ってるだけの自分が居たから――……って、みこと!?」


みこと「……え?」ポロポロ


報瀬「な、なんで泣いて――」


みこと「あ――……」ポロポロ


栞奈「みことちゃん……」


みこと「ぅ……うぅぅっ」ボロボロ


報瀬「……」


みこと「〜〜〜っ」ボロボロ


報瀬「お母さんが行方不明になったって報告を受けても……私、泣けなかった」


栞奈「……」


報瀬「あの時の私の代わりに泣いてくれて、ありがとう、みこと」


ぎゅううう


みこと「ち……ちがっ……わたしっ……わたしのおかあさんがっておもって……っ」


報瀬「うん……自分のお母さんがそうなったらって思ったんだよね」


みこと「かなしいって……つらいって……いたいって……っ」


報瀬「うん……」


みこと「なんで……っ……なくの……とまらない……っっ」ボロボロ


報瀬「うん……ありがとね」


ぎゅうう


みこと「ぅぅ〜〜〜ッ」ボロボロ



……


359 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/02/14(金) 16:00:16.40 ID:l1m2r1O+o

―― 寝台車


バタン


栞奈「……ッ」グスッ


日向「お、栞奈〜……報瀬の様子は……」


栞奈「あ、日向じゃん。夜更かしはお肌の大敵だぞ〜」


日向「泣いてたのか……?」


栞奈「あー……うん。ちょっとね、もらい泣きを……。あはは」


日向「……」


栞奈「報瀬、キマリ、結月ちゃん、日向……4人はいいね、
   なんか本気でぶつかってるって感じで」

日向「――……」

栞奈「……?」

日向「う、うん。そうか……はは」

栞奈「どうしたの? なに、今の間は?」

日向「まさか自分がそう言われるとは思わなかったから……」

栞奈「?」

日向「いや、こっちの話」


……




―― 秋槻の個室


秋槻「……」

カタカタカタ

秋槻「……ふむ」

ガタン

 ゴトン

秋槻「夜行列車か……乗ってみたかったなぁ……」


秋槻「海外行けば乗れるけど……ん……ん〜〜」ノビノビ


秋槻「そうだな……。売店閉まる前に何か買っておくか……」


秋槻「ふぅ〜……」


秋槻「……」


秋槻「メモ用紙が散らばってるな……戻ってから片付けよう……」


……


360 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/02/14(金) 16:01:32.38 ID:l1m2r1O+o

―― 食堂車


報瀬「キマリ、これ」

マリ「味はどうだった?」

報瀬「飲んでないから分からない」

マリ「でも空っぽだよ?」

報瀬「私は飲まずに捨てるつもりだったんだけど、
   みことが明日の為にって飲み干しちゃったから」

マリ「ひどい!? 報瀬ちゃんの為に作ったのに!」

報瀬「……」カァァ

マリ「顔赤いよ? 体の調子悪い?」

報瀬「ううん。だた……なんであんなことしたかなって……思って」

マリ「あんなこと?」

報瀬「みこと、ね……私のお母さんの話聞いて……泣いちゃって」

マリ「……」

報瀬「気が付いたら抱きしめてた……」

マリ「みこっちゃん、純粋だから全部を受け入れてしまうんだよね」

報瀬「みたいね……」

マリ「そのみこっちゃんは?」

報瀬「あのスタミナドリンク飲んで、体調悪くしてみたいだから個室に戻したよ」

マリ「……え」

報瀬「ちゃんと後で様子見に行ってよね」

マリ「大丈夫かな……?」

報瀬「大丈夫でしょ。変なの入れたわけじゃないよね?」

マリ「もちろん」

報瀬「ところで、どうして手伝いしてるの?」

マリ「明日、綾乃ちゃん大会に参加できるか確認しに来て……なんとなく手伝おうと思って〜」

報瀬「そう……。それじゃ」

マリ「もう寝ちゃう?」

報瀬「到着するの深夜だし、何もすることないから」

マリ「そっか、それじゃおやすみ〜」

報瀬「おやすみ」


……


361 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/02/14(金) 16:02:55.79 ID:l1m2r1O+o

―― 岐阜駅


プシュー


日向「ふぃ〜……」


日向「やっぱりこの時間だとホームには誰も居ないな〜」


日向「朝は清々しいのに、夜は不安になる感じ……」

テクテク


日向「ふんふんふ〜ん♪ それがいい〜♪」

テクテク


日向「あ、キマリだ。おーいキマリ〜」フリフリ


日向「というか、なんでウェイトレスの服着てるんだ?」


...テッテッテ

マリ「どうしたの、日向ちゃん?」

日向「外から見えたから、手を振っただけ〜」

マリ「そうなんだ。あぁ、岐阜に着いたんだね」

日向「そうそう。だ〜れも降りてこないからちょっと寂しい日向ちゃんでした」

マリ「私は仕事に戻るけど、乗り遅れないでよ?」

日向「お前が言うか。それよりなんで仕事してるんだ?」

マリ「一日の終わりで忙しそうだったから。お客さん少ないけどやること多いんだって」

日向「ふ〜ん」

マリ「それじゃ、また後で」

日向「他のみんなは?」

マリ「知らないけど……、報瀬ちゃんとみこっちゃんはもう寝ちゃうみたい」

日向「私もそうするかなぁ、今日も歩きっぱなしだったし。
   ゆづのとこ行ってから個室に戻ることにするよ」

マリ「そっか。それじゃ、また明日ね〜」

テッテッテ

日向「お〜」


日向「動力車まで歩いてみるか」

テクテク


日向「こうやってデネブに沿って歩くの初めてだな」

テクテク


日向「お、ゆづ発見。今は客車で撮影してるのか〜」

テクテク


日向「売店のお姉さんだ。やっほー」フリフリ

テクテク
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/02/14(金) 16:04:26.79 ID:l1m2r1O+o

―― 報瀬の個室


報瀬「すぅ……すぅ……ん……」


報瀬「ん? ……あれ……?」


報瀬「いつの間にか……停まってる……?」


報瀬「到着…したんだ……」


報瀬「……」


報瀬「……すぅ……すぅ」



―― 岐阜駅・ホーム



日向「ふぁぁっ……眠……」

テクテク


日向「外から見るのも中々楽しいもんだ」

テクテク


「……」スッ


日向「おわっっ」

「ひゃあっ!?」

日向「って、栞奈かよ、びっくりした」

栞奈「日向……?」

日向「急に降りてきたから、驚いたんだよ」

栞奈「そうなんだ……ごめんごめん」

日向「謝ることじゃないけどさ……こんなとこ歩いてる私も悪いし」

栞奈「なにしてんの、暇なの?」

日向「暇と言ったら暇なんだけど……何かしたい! って気分でもないよ」

栞奈「それもそっか、こんな時間だもんね」

日向「で、どうなんだよ」

栞奈「なにが?」

日向「話するってさっき言ってただろ〜?」

栞奈「言ったけど……心の準備がまだ……」

日向「……」

栞奈「分かってるって……! 時間が無いってことくらい……でも……!」

日向「私は何も言ってないだろ?」

栞奈「目が言ってる、目が! はやくなんとかせんかいワレーって」

日向「もどかしいなとは思うけど、急かすようなことは思ってないって!」
363 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/02/14(金) 16:06:14.79 ID:l1m2r1O+o

栞奈「ぅぅ……どうしよ、焦れば焦るほど焦ってしまう」

日向「本当に焦ってるんだな……。大村の姿は見たの?」

栞奈「ううん。……多分、個室で降りる準備してるんだと思う」

日向「私が思うにだ、栞奈」

栞奈「う、うん」

日向「あれだけお互いに言い合ってた二人なんだから、
   話をして悪い方には行かないと思う」

栞奈「……うん」

日向「私だけじゃなくて、みんな思ってることだよ。
   大村を信じて、私らも信じろって」

栞奈「…………うん」

日向「このままお別れするのは嫌だろ?」

栞奈「うん」

日向「その気持ちがあれば前に進めるよ、きっと」

栞奈「…………でもね……日向」

日向「うん?」

栞奈「私は……私自身が信じられないんだよ……」

日向「……」

栞奈「これだけ……日向が言ってくれてるのに……信じて前に進む勇気がないんだよ……」

日向「……」

栞奈「今まで楽しかった旅が……嫌な思い出で終わるのが怖い――」

日向「栞奈……それは」


「日向さん?」


日向「……!」ビクッ

結月「なにしてるんですか、こんなところで……栞奈さんも一緒だったんですね」

日向「び、びっくりした……ゆづか」

栞奈「……」

結月「日向さん、さっき外歩いてました? さくらさんが『ナニカ居る』って怯えてたんですけど」

日向「うん、たぶん私だな……」

栞奈「あはは、さくらさんが怯えるなんてね〜。お化けとか苦手なのかな?」

結月「みたいですね。腕力ではどうにもならないから嫌だって言ってます」

栞奈「物理ダメージが通る相手なら怖くないんだ! やっぱり強いな、さくらさん!」

結月「……」

栞奈「でも、その『ナニカ』を確認しに来た結月ちゃんも強いね〜憧れちゃうね!
   そんな結月ちゃんと一緒に月でも見に行きたいな〜」

結月「栞奈さん……何かありました?」

栞奈「ないよ、なにも。それより、月と星を観に行こうじゃない。
   素敵な時間を共有しようよ、お姫様」

結月「……」

日向「栞奈」

栞奈「もちろん姫の騎士である日向も――」

日向「私さ、学校行ってないんだ」

栞奈「一緒…に…………」
364 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/02/14(金) 16:07:55.04 ID:l1m2r1O+o

日向「人間関係で嫌なことがあってさ、無理だと思って行くの止めたんだよね」

栞奈「……」

日向「止めたって言ったら、自分の意志で決めたみたいに聞こえるけど……。
   まぁ、逃げたんだな。私は、そういう煩わしいことから」

栞奈「……」

日向「だけど、逃げた先にキマリと報瀬が居てさ。
   二人が目的を持ってたからそれに乗っかった形になるんだけど……」

栞奈「…………」

日向「キマリと報瀬だって、その煩わしいモノを持ってるんだと思う。
   それって、誰かと生きていく以上避けられないことだと思うんだよ」

結月「……」

日向「だけど、嫌じゃなかった」

栞奈「……嫌じゃ……ない?」

日向「うん。嫌じゃない。たまに腹が立つし、呆れるし、不快に感じることもある。
   けど、嫌じゃないんだ。きっと、私自身が報瀬とキマリ、ゆづにもそう感じさせてるからだと思う」

栞奈「……」

日向「えっと、何が言いたいかって言うとだ。
   私から見たら、栞奈と大村はそんな風に見えたってこと」

結月「そうですね、私もそう思います」

栞奈「……っ」

日向「だから、どうなりたいかなんて先のことを考えるより、
   栞奈がどうしたいか考えた方がいいと思うよ?」

栞奈「……報瀬と……同じこと言うんだ」

日向「報瀬……?」

栞奈「なんでもない」

結月「日向さん、逃げたって言いますけど……私はそう思わないんです」

日向「?」

結月「だって、逃げてる人が勉強できるわけないです。
   同じ年頃の人たちが出入りする場所で、コンビニでバイトなんて出来るわけないです」

日向「ゆづ〜」ダキッ

結月「きゃぁ!?」

日向「そんなこと思ってくれてたのかぁ〜」スリスリ

結月「ひ、日向さん……!?」


「結月ちゃん!?」ババッ


栞奈「あ……」


さくら「大丈夫!? 結月ちゃ……ん?」


日向「なるほど〜」スリスリ

結月「……なにがですか」

日向「キマリが言う通り、柔らかくて温かくていい匂いだなって」

結月「セクハラは同性でも適用されるんですよ」

日向「あはは、悪い悪い」

結月「……もぅ」
365 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/02/14(金) 16:08:43.75 ID:l1m2r1O+o

さくら「今の悲鳴は? 日向ちゃんが原因なの?」

日向「そうです。つい抱きしめてしまって」

さくら「あら、そう」

栞奈「いくら払えば私もそれが許されるんですか?」

日向「これくらいだ」バッ

栞奈「ぐぬぬ……いやしかし、この機を逃せば結月ちゃんを抱きしめることなんてもう叶わない。
   これから先の生活を切り詰めればなんとか」

結月「最低ですね」

日向栞奈「「 冗談だよ冗談〜 」」

prrrrrrrr

日向「あ、もう出発か」

栞奈「……」

さくら「結月ちゃん、もう少しで今日の仕事は終わりだから頑張りましょ」

結月「はい!」

さくら「あら、元気充分ね♪」」

日向「しかし、本当に最低だぞ今の」

栞奈「いやいや、金額を提示したのは日向でしょ」

結月「二人ともです!」



……


366 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/02/29(土) 11:51:57.05 ID:VPz5jp53o

―― 食堂車


ガタン

 ゴトン


日向「……」ウトウト

栞奈「……すぅ……ふぅ」


マリ「日向ちゃん、寝ちゃった?」


日向「ん、起きてるよ?」

マリ「……寝たいなら個室に戻ったらいいのに」

日向「大丈夫だよ、眠くないって」

マリ「さっき眠いって言ってたよ」

日向「ん〜……」

栞奈「私に付き合ってくれてるから……」

マリ「……?」

栞奈「日向、私は大丈夫だから個室戻って」

日向「ん〜……?」

栞奈「ほら、立って〜、行くよ〜?」

日向「大丈夫、だいじょーぶ。一人で行けるから」

栞奈「本当に?」

日向「うん。ということで、私は寝る!」フラフラ

テクテク

マリ「おやすみ〜」


「やすみ〜」


栞奈「本当に大丈夫かね?」

マリ「あんなに眠そうなのは初めて見たけど、大丈夫だよ」

栞奈「ならいいけど」

マリ「それより、なにか注文する?」

栞奈「あ、ごめんね、何も頼まなくて……。特に注文は無いんだよね……」

マリ「そうなの?」

栞奈「うん……。今、車内に誰も居なくてさ……みんな寝る準備してるんだと思うけど……」

マリ「そうだね……金沢到着が深夜だから、明日の準備くらいしかすることないよね」

栞奈「そういうことだから、一人でいるより、キマリがいるからここにいるってだけなのだよ」

マリ「わかった。水でも持ってくる?」

栞奈「本当に気を遣わなくていいから。ただでさえ邪魔してるみたいで申し訳なくて……。
    私のことは地縛霊か何かだと思って無視して?」

マリ「畏まりました〜」

スタスタ...

栞奈「ふぅ……。あぁ、もう……決意が固まらない……っ」
367 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/02/29(土) 11:53:21.32 ID:VPz5jp53o

マリ「料理長〜、地縛霊入りました」

料理長「はぁっ!?」

明菜「きゃああ!?」


栞奈「……混乱を招いてしまったようだ」


結月「なんだか騒がしいですね」

栞奈「うーん、私のせいかな……」

結月「また、何したんですか?」

栞奈「何もしてないよ〜。やったのはキマリだから」

結月「そうですか。一緒してもいいですか?」

栞奈「いいよ〜。って、何か食べるの?」

結月「ちょっと小腹が空きまして。夕ご飯は軽めに食べたものですから」

栞奈「何食べたの?」

結月「天むすを……。キマリさーん」


「はーい。ただいま〜」


栞奈「そういえば、私は名物食べてないな……」

結月「注文します?」

栞奈「……食欲無いんだよね」

結月「そうですか……」


マリ「はい、ご注文をお伺いします」


結月「フルーツセットお願いします」


マリ「畏まりました〜」

スタスタ...


結月「キマリさんがウェイトレスしているの違和感あったんですけど、
   なんか慣れてしまいましたね」

栞奈「……そうだね」


マリ「フルーツセット入りました〜」

明菜「鳥羽さんと白石さん……?」

綾乃「地縛霊なんていないね」

料理長「今日も余った食材で作ってみる?」

マリ「え!? いいんですか!?」キラキラ


結月「お金払いますからちゃんとしたものをお願いします!!!」


マリ「え〜……?」
368 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/02/29(土) 11:55:36.20 ID:VPz5jp53o

栞奈「どういうこと?」

結月「みことに聞いたんですけど、とんでもないものを作ったとか……」

栞奈「……なるほど」

結月「その、みことの姿が見えませんね……?」

栞奈「もう寝ちゃったんだって。キマリの特製スタミナドリンクを飲んだせいで」

結月「うわ……」


マリ「結月ちゃーん、すっぽんのエキスがまだ残ってて――」


結月「フルーツセットを! ちゃんとしたもので!! アレンジ無しでお願いします!!!」


……




マリ「おまたせしました……フルーツセットです……」

結月「なんで不満そうに持ってくるんですか」

マリ「だって、結月ちゃんの疲れを癒してもらおうと思ったのにぃ」

結月「料理長が手を加えるならいいんですけど」

マリ「……」

結月「なんで黙るんですか?」

マリ「みんなひどい……」シクシク

スタスタ...


栞奈「……」ジー

結月「栞奈さんも良かったら食べます……?」

栞奈「……」ジー

結月「なんですか?」

栞奈「結月ちゃん、あの3人と話してるとき、ややツンツンしてるよね」

結月「ややツンツンとは?」

栞奈「私にはちょいツンツンしてる感じ」

結月「すいません、意味が分かりません。よかったらどうぞ」

栞奈「ありがと……」

結月「料理長のスウィーツも食べたかったんですけど、この時間ですからね」

栞奈「さすがだね、体系管理も気を遣ってるわけだ」

結月「それくらいはしますよ。年頃の女子は特に」

栞奈「まぁ、そうね」


マリ「結月ちゃん、フルーツソースをどうぞ」


結月「あの、カロリーを気にしてフルーツセットだけにしているんですけど……」

マリ「大丈夫だよ、手作りだから」

結月「いえ、あの……お気持ちだけで充分です」

マリ「美味しいと思うんだけどな……」
369 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/02/29(土) 11:58:17.81 ID:VPz5jp53o

結月「キマリさんが作ったんですか?」

マリ「ううん、料理長が作ったんだよ。カロリー気にするだろうからって、低カロリーらしいけど……
   気にしてるんならしょうがないよね」

結月「ありがとうございます、それではいただきますね」

マリ「あれ? あれれ?」

栞奈「女の子はね、美味しいものに弱いんだよ」

結月「はむっ……うぅ〜ん、甘さ控えめだけど、香りがふんわりとしてますぅ〜」

マリ「実は私が作ったんだよね」

結月「嘘ですね。はぁ〜、苺の酸味が柔らかくなって、でも甘さはそのままで美味しいです〜♪」ウットリ

栞奈「疲れ癒せてるみたいよ。やったね、キマリ」

マリ「もっと……もっとだよ」

栞奈「なにが?」

マリ「もっと私が癒して見せる……!」

テッテッテ


明菜「玉木さん、走ってはいけませんよ」ニコニコ

マリ「ご、ごめんなさい……。料理長! ムースありましたよね!?」

料理長「あるけど?」

マリ「使って良いムース全部私にください!」

料理長「駄目に決まってるだろ!」


結月「何かするつもりですよね……」

栞奈「そうだね……」

結月「もし何か持ってきたら栞奈さん、対応をお願いしますね」

栞奈「結月ちゃんのために持ってきても?」

結月「カロリーの条件を忘れてるみたいですから。一口くらいはいただきますけど」

栞奈「ふぅん……そう……」ニヤニヤ

結月「なんですか?」

栞奈「ツンツンしてるけど、嬉しそうだな〜って」

結月「このソースが美味しいですからね……。うーん、りんごも美味しいです♪」

栞奈「からかい甲斐の無いこと……。幸せそうな結月ちゃんみて私も幸せだけど」

結月「栞奈さん、大村さんと話したんですか?」

栞奈「へっ……!?」

結月「まだなんですね」

栞奈「そ、そうね……まだ……」

結月「夜の車内って静かですよね……」

栞奈「……うん」

結月「食べないんですか?」

栞奈「胃が痛くて食欲がなくなったよ……」

結月「……」
370 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/02/29(土) 12:01:15.10 ID:VPz5jp53o

マリ「煎茶でございます」


結月「ありがとうございます。これはキマリさんが?」

マリ「……明菜さんが淹れました」

結月「渋めのものが欲しかったので嬉しいですと、お伝えください」

マリ「次は私が淹れますから、乞うご期待」

結月「……期待しています」

マリ「期待してないね。いいもんいいもん」

スタスタ...

結月「いい人たちですよね、ウェイトレスの二人も料理長も」

栞奈「この列車に乗ってる人はみんな、ね」

結月「そうですね」

栞奈「……ふぅ」

結月「もぐもぐ……んんっ、酸っぱいです」

栞奈「パインアップル?」

結月「そうですっ……んん〜っ」

栞奈「ふぇ〜、酸っぱさに我慢してるところかわいい〜」

結月「それで、間もなく到着ですけど、どうするんですか?」

栞奈「うぅっっ……それは……」


マリ「お茶のお代わりはいかがですか?」


結月「まだ入っているんですけど……ちょっと待ってください」

栞奈「くぅぅっ」

マリ「栞奈ちゃん、どうしたの?」

栞奈「結月ちゃんの不意打ちボディブローが効いてて……」

マリ「?」

結月「お願いします」

マリ「はい、どうぞ〜」

ジョボジョボ

結月「これは、キマリさんが?」

マリ「ううん、明菜さんが」ニコニコ

結月「……そうですか。……ずずっ」

マリ「どう? どう!?」

結月「さっきより薄い……」

マリ「……」
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/02/29(土) 12:02:09.23 ID:VPz5jp53o

結月「美味しいです」

マリ「よかった。ちょっとコツを掴んだから〜」

結月「明菜さんが淹れてくれたんですよね?」

マリ「……ウン」

結月「それなら美味しいですね」

マリ「ウン……ソウダネ」

スタスタ...

結月「あ、キマリさん、美味しかったですよ……!」


マリ「うん!」


栞奈「……」

結月「栞奈さん、私、これ食べ終わったら個室に戻ろうかと思うんですけど……」

栞奈「うん……」

結月「……もぐもぐ」

栞奈「最初のお茶と今のお茶、どっちが美味しいの?」

結月「どっちも美味しいですよ?」

栞奈「そう……そうだよね」

結月「?」

ガタン

 ゴトン



―― 報瀬の個室


ガタン

 ゴトン


報瀬「……ん?」


報瀬「あれ……走ってる……?」


報瀬「? ……???」


報瀬「まぁ……いいか」


報瀬「……」


報瀬「すぅ……すぅ……」
372 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/02/29(土) 12:20:53.81 ID:VPz5jp53o

―― 食堂車


結月「キマリさん、ご馳走様でした」


マリ「はーい」


綾乃「今日はもうお休みですか?」

結月「はい、明日の準備……というか、台本を読み直して寝るだけです」

綾乃「そうですか、おやすみなさい」

結月「おやすみなさい」

マリ「今日はもう寝るんだよね、おやすみ。また明日ね」

結月「はい……また、明日」

スタスタ...


マリ「あとは栞奈ちゃんだけだね」

綾乃「なにか難しい顔してる……」

明菜「いまはそっとしておきましょう」

綾乃「……はい」

明菜「玉木さんのおかげで今日は早めに片付けられそうだから、
    到着次第閉めて、明日に備えましょう、とチーフが仰っていました」

マリ「はい!」

綾乃「それじゃ、食器をしまってきます」

マリ「私は……テーブルと椅子を整理整頓して、掃除してきます」

明菜「はい、お願いします」ニコニコ



……




―― 日向の個室


ゴソゴソ


日向「明日は……何時起きだっけ……?」

ピッ

日向「五時……早いか。六時……くらいかな」

ピッ


日向「よし……!」


ゴソゴソ


日向「…………」


日向「……」


日向「すやすや」


……


373 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 01:47:08.98 ID:GYsMFmGgo

―― みことの個室


みこと「すぅ……すぅ……」


ガタン

 ゴトン



……




―― 食堂車


明菜「チーフ、今日の作業一通り終えました。他にやることありますか?」

料理長「もう終わってしまったのか……。そうだなぁ……明日の準備もやったし……」

綾乃「キマリさんが手伝ってくれたから早く終わってしまいましたね」

マリ「栞奈ちゃん……」


栞奈「……すぅ……はぁ」


綾乃「あ、外がだんだん街並みの景色になってきた」

明菜「到着までもう少しね」

料理長「綾乃は明日の昼から夕方まで休みだったよな」

綾乃「はい、お願いします」

明菜「観光に行くの?」

綾乃「キマリさん達となわとび大会に出るんです」

料理長「ふぅん……」

明菜「応援に行けないけど、頑張ってね」ニコニコ

マリ「はい!」

綾乃「頑張るものなのかな……?」

料理長「それじゃ閉めるよ」

綾乃明菜「「 はい 」」

マリ「料理長!」

料理長「うん?」

マリ「さっき作ったプリン、食べてもいいですか!」

料理長「明日にしなさい」

マリ「待ちきれないです!」

綾乃「プリンおばけ……」

明菜「クスクス」

料理長「それじゃ、7日目、お疲れさま」

綾乃「お疲れさまでした」

明菜「お疲れさまでした」

マリ「お疲れさまでした!」


ガタン

 ゴトン
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 01:48:39.20 ID:GYsMFmGgo

マリ「あれ、プリンのこと流された……?」

料理長「あとは最後のチェックするだけだから、個室に戻っていいよ」

綾乃明菜「「 はーい 」」

マリ「やっぱり流されてる!」ガーン

明菜「それじゃ、また明日ね」ニコニコ

綾乃「はい、また明日」

マリ「また明日〜」


栞奈「……」


マリ「栞奈ちゃん、もうそろそろ到着するよ」

栞奈「あ、うん……」


ガタン

 ゴトン


マリ「減速したね」

栞奈「……うん」

マリ「……ね、栞奈ちゃん」

栞奈「うん?」

マリ「明日、楽しもうね」

栞奈「……」

マリ「みんなで世界記録とか目指して、いっぱい跳んで、最後まで」

栞奈「……」

マリ「絶対楽しいよ」

栞奈「うん、それは間違いなく楽しいね」

マリ「だよね!」

栞奈「……よし……!」ガタッ

マリ「おぉっ!」

栞奈「……」ストッ

マリ「なんで座りなおしたの!?」

栞奈「あはは、一応やっておこうかと」

マリ「もう〜、ちょっとカッコいいって思ったのに〜」

栞奈「ごめんごめん。それじゃ、行こうか」

マリ「うん」


……


375 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 01:51:43.44 ID:GYsMFmGgo

―― 2号車


マリ「本当に誰も居ないね……」

栞奈「キマリ、ありがとね」

マリ「え……?」

栞奈「報瀬と日向に話聞いてもらって、結月ちゃんにも気にしてもらって、
    キマリに甘えて、ようやく決心がついた」

マリ「……」

栞奈「私もちゃんと相手と、自分にも向き合おうって。だって、後悔したくないから」

マリ「うん……!」

栞奈「器用に生きてきたはずなのに、なんにも手に入らなくてさ。
   不器用なのに、大切な物を持ってるキマリたち見てたら、
   もっと自然に、気楽にしてた方が楽しいんじゃないかって気が付いた」

マリ「そっか……うんうん」

栞奈「もうちょっと肩の力抜いて、……そう、今のような気持ちで」

マリ「……」

栞奈「これからもこんな気持ちでやっていけたらいいなぁ」

マリ「できるよ、栞奈ちゃんなら」

栞奈「うん、ありがと。やっぱり、あれだね。
    見聞を広げないと自分の居た場所がどういうものなのか分からないものだね」

マリ「……ウン、ソウダネ」

栞奈「うーん、生返事だ。……とにかく、一輝とちゃんと話してみる」

マリ「うん」

栞奈「正直、どうして怒らせちゃったのか分からないんだけど……」

マリ「思い当たる節は?」

栞奈「あるにはあるんだよ。やっぱり冷やかしすぎたかなぁ……?」


ガタン


 ゴトン


マリ「あ、到着した」

栞奈「ついに来たか、金沢」

マリ「そうだ、私も確認しておかないと」


……


376 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 01:53:40.52 ID:GYsMFmGgo

―― 寝台車


マリ「……よし、と」ポチポチ

栞奈「誰に連絡してるの?」

マリ「明日になったら分かるよ」

栞奈「ふぅん……って、寝台車に来ちゃったか」

マリ「それじゃ、また明日〜」

スタスタ...

栞奈「うん、明日〜……って、キマリ、個室戻らないの?」


「車掌さんとこ行ってくる〜」


栞奈「どうしたんだろ? まぁいっか。私は、自分のこと考えなきゃ」


栞奈「えっと……一輝の個室は……」


栞奈「……」ゴクリ


栞奈「……」


コンコン


栞奈「一輝……話があるんだけど――」


……


377 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 01:55:33.42 ID:GYsMFmGgo

―― 動力車


コンコン


マリ「……」


ガチャ

車掌「あら? どうかなさいましたか?」

マリ「忙しいところすいません……。あの、乗車証のことで聞きたいことがあって……」

車掌「はい、なんでしょうか?」

マリ「乗車証の有効期限って、東京までですよね?」

車掌「はい、玉木さんの有効期限はそうなります」

マリ「延長……というのは出来るのでしょうか?」

車掌「はい、可能ですよ。東京以降となりますと、仙台、青森、札幌……終点の稚内までになりますね」

マリ「……そうですね」

車掌「お悩みですか?」

マリ「そうなんです。どうしようかと――」


ドタドタドタ


「車掌さん!!」


車掌「あら……?」

マリ「栞奈ちゃん……?」


栞奈「車掌さん……ッ!」


車掌「鳥羽さん、夜はお静かに」

栞奈「はいっ……すいませんッ! 一輝は……!!」

マリ「?」

栞奈「一輝は……!?」

車掌「――……」

マリ「大村君がどうしたの?」

栞奈「個室に居なくて……! ドア開いてたから……中見たら空っぽで……!!」

マリ「え……?」

車掌「大村一輝さんは、降りられましたよ」

栞奈「え――?」

マリ「降りた……!?」

車掌「はい、着いてすぐに」

栞奈「う…そ……」

車掌「乗車証を返されまして、そのまま降りられました」

マリ「……栞奈ちゃん……」


栞奈「嘘……謝らせてもくれないの……?」


マリ「栞奈ちゃん、着いてすぐ降りたなら追いかければ間に合うよ!」


栞奈「…………」
378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 01:57:01.17 ID:GYsMFmGgo

―― 金沢駅・前


ブオォォォオオ


...タッタッタ


マリ「ハァッ……ハァ……ッ」

栞奈「ッッ!」


マリ「ハァ……はぁ…………はぁ……」

栞奈「い……ッ……居ない……か……」


マリ「……栞奈ちゃん…」

栞奈「みんなにさ……ッ……支えてもらって……ッ」


マリ「……」

栞奈「背中押してもらって! やっと……決心がついたと思ったらこれだ!」


マリ「栞奈ちゃん……」

栞奈「なんで私いつもこうなんだろ……! あぁもう自分が嫌になる!!」


マリ「栞奈ちゃん……!」

栞奈「こんなことになるならデネブになんか乗らなければ――!!」


マリ「栞奈ちゃん!!」

栞奈「ッ!」ビクッ


マリ「まだ、終わってない」

栞奈「……」

マリ「この旅はまだ終わってない」

栞奈「……」

マリ「終わってないよ」

栞奈「……」


マリ「今日はもう寝よう。そして、明日だよ」

栞奈「なんで終わってないって言えるの? もう私の旅は終わったようなものじゃない?」

マリ「どうして終わったって言えるの?」

栞奈「結局何も変わらなかったからだよ。
   楽しい思い出を守るために行動したのに……しようとしたのに、意味が無かった」

マリ「意味が無いことなんてないよ」

栞奈「……」

マリ「車掌さん、何も聞いてないって言ってた」

栞奈「……乗車証返されたって言ってたじゃん」

マリ「それだけだよ」

栞奈「……?」
379 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 01:58:09.40 ID:GYsMFmGgo

マリ「乗車証返されただけ。それから慌てて降りて行ったってだけ」

栞奈「何が言いたいのかよく分からない」

マリ「お礼を言われたって、車掌さん言ってない」

栞奈「だから、何が言いたいのか――」

マリ「大村君の旅もまだ終わってないんだよ」

栞奈「――……」

マリ「栞奈ちゃん、大村君は挨拶も無しに、お礼も言わずにお別れする人?」


栞奈「……」


マリ「……」


栞奈「ううん」


マリ「……」


栞奈「ぶっきらぼうで、常にイライラしてるような態度してて、口も悪いけど……」


栞奈「礼儀はちゃんとしてるから」


栞奈「この旅は悪くないって言ってたから」


栞奈「こんな終わり方はしない……と、思う」


マリ「うん」


栞奈「……」


マリ「今日はもう寝よう」


栞奈「……うん」



……


380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 01:59:33.63 ID:GYsMFmGgo

―― マリの個室


マリ「すぅ……すぅ……」


pipipipi


マリ「う……ん……」


マリ「すぅ……」


マリ「この秘密、暴いて見せようか」


マリ「すぅ……すぅ……すぃ……」


≪   ―― 昼には着くと思う。 ≫


マリ「しぃ……すぃ……すぅ……」


……


381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 02:02:11.74 ID:GYsMFmGgo

8月8日



―― 金沢駅



マリ「アレは、鳥居?」

報瀬「違うでしょ」

日向「あれはな、鼓門と言うんだよ。世界で最も美しい駅に選ばれたんだってさ」

マリ「最も美しいの!?」

報瀬「へぇ……」

日向「あ、いや……14つくらいに入るよ〜ってことで……」

マリ「報瀬ちゃん写真撮って!」

報瀬「はいはい……。それじゃいくよー」

マリ「この距離だと門が入らないよ?」

報瀬「……はいはい。ちょっと待ってて」

スタスタ...

日向「歩かせるのかよ」

マリ「あ、ごめんね、報瀬ちゃーん」


「いいから、ほら、撮るよー」


マリ「日向ちゃんも一緒に! はい〜、チーズ!」

日向「お前が言うのか! チーズ!」

パシャ


日向「それはそうと、ゆづ達おっそいな〜」

マリ「そろそろ来るよ。ありがと〜、報瀬ちゃん」

報瀬「どういたしまして。それで、どうするの?」

マリ「私は兼六園に行きたいんだ〜」

日向「報瀬は?」

報瀬「私は武家屋敷かな」

日向「渋いな。私は先に片町へ行ってみようかな?」

マリ「何かあるの?」

日向「漆塗りとか焼き物とかあるってさ」

報瀬「漆器と陶器ね……。どっちが渋いんだか」

マリ「器とか興味あったんだ?」

日向「まぁ、なくはないってところだ。時間はたっぷりあるし、後でどっか行くかもな」

報瀬「今はまだ7時……。時間はたっぷりある……けど」

マリ「私も兼六園行った後に輪島に行ってこようかな」

報瀬「兼六園の隣に金沢城があるから。キマリはそこで満足して、ね?」

日向「な?」

マリ「……なんか、この旅で私が時間にルーズというレッテルが貼られた気がする」
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 02:03:17.26 ID:GYsMFmGgo


結月「どこへ行くかって話してたんですか?」


結月「おぉ、ゆづ。そうだよ、午前中はどこ行くかって話」

マリ「おはよう〜」

報瀬「おはよう、3人とも」


みこと「おはよう……」

栞奈「……」


日向「うわ、栞奈の顔ひっどいな」

報瀬「本当だ……太陽の光が恨めしいって顔してる」

栞奈「…………うん」

みこと「眠れなかったみたい」

マリ「みこっちゃん、持ってるそれはなに?」

結月「アイマスクです。栞奈さんに、移動中寝てもらうとかなんとか」

日向「……話は聞いてるけど、かなり堪えてるみたいだな」

報瀬「うん……」

栞奈「……」

マリ「お兄さんは?」

みこと「さっき声かけてきたよ。現地集合するって」

マリ「そっか……。じゃあ、午後まで各自自由だね」

日向「そうだな! 午後は片町の会場に集合ってことでいいな、みんな!」

マリ「おー!」

報瀬「うん、分かった」

結月「はい、分かりました」

みこと「……」コクリ

栞奈「……」


……


383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 02:06:27.50 ID:GYsMFmGgo

―― 昼前:金沢城・公園


ミーンミンミン

 ジーワジーワ


「……暑い」

「はい……暑いですね……」

「会場、ここで合ってる?」

「……はい。片町の公園が会場ですから……」

「まぁ、スタッフや他の参加者もいるし……なにより弾幕もあるからな」

「ですよね……」

「肝心のキマリたちの姿が無いんだが……」

「ですよねぇ……」


秋槻「あれ……居ない……何で居ないんだ……?」キョロキョロ


「向こうの屋台に居るかもしれないから、見てみよう」

「そうですね。……お金持ってるのかな、お姉ちゃん…」

スタスタ...


秋槻「うーん……。高いところから見てみるか……」

スタスタ...


……


384 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 02:12:27.45 ID:GYsMFmGgo

―― 夕方:金沢城・公園



...ダダダダッ


マリ「ひいっ、ひぃッ!」

結月「つ、着きました……!」

日向「受付ッ、受付はどこだッ!」

報瀬「結構開けた所なんだ……。あ、あっちじゃない!?」

みこと「くっ……ふっ……!」

栞奈「み、みことちゃん、呼吸整えて……」

みこと「ふぅ……ふぅぅ……はぁ」

マリ「えっと、どうしよう! 人足りてないよ!」

日向「とりあえず、順番聞いておけばいいから! 人数は後だ!」

マリ「わ、分かった」

タッタッタ

報瀬「はぁ……はぁ……もう!」

結月「だから言ったのに!」

日向「そうだぞ、栞奈!」

栞奈「違うでしょ! 日向も試食してたでしょ!?」

みこと「ぐっ……ごほっ」

「ほらよ、水。……口付けてないから」

みこと「う、うん……ゴクゴク」

「相変わらず騒がしいな、お前ら……」

報瀬「おかげで武家屋敷行けなかったじゃない!」

結月「……」

日向「私は漆塗り見れたからいいんですけどね!」

栞奈「なに満足してるの!? 私も食べ歩きしたかったのに!」

みこと「栞奈さん、煎餅と輪島サイダー飲んでた」

栞奈「美味しかったけど! 日向たちが海鮮ものを試食してたのズルい!」

結月「あの、栞奈さん」

報瀬「マグロ、解体、見た、凄い、私、感動」

栞奈「原始人みたいなしゃべり方するほど!? 見たかったなー!」

日向「いや、だから……カニとか買って料理長に渡したじゃんか」

栞奈「え、……ということは、私も食べられるの?」

日向「具材さえ買ったら料理するって言ってくれただろ」

栞奈「あれ、そういうことだったの?」

みこと「うん、料理長も一緒に居たよ」

栞奈「なんだ、そういうことは早く言ってよ」

報瀬「武家屋敷……」

「……」
385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 02:15:18.62 ID:GYsMFmGgo

結月「あの、栞奈さん……」

栞奈「うん? どうしたの、結月ちゃん」

結月「後ろ……」

栞奈「?」クルッ

「どこ行ってたんだよ?」

栞奈「え――……、一輝……?」

一輝「なんだよ?」

栞奈「…………」

結月「輪島の朝市に行っていたんです」

一輝「輪島? 結構遠いんじゃないのか」

日向「いやぁ、朝に行動開始したんだけど……会場と目的地が一緒だからさ」

報瀬「他に行きたいところ先に行こうってなって。キマリの案に乗ったら……このありさま」

みこと「現地に居たの、30分も無かった」

一輝「それはご苦労なことだ……。あれ、どこ行った?」キョロキョロ

日向「というか、いきなり降りるなよな〜」

一輝「なにが?」

日向「誰にも言わずに降りただろ、びっくりしたんだからな」

一輝「秋槻さんにメモ渡したんだけど。急いでるから降りるって。明日の大会には行くからって」

日向「聞いてないけど?」

一輝「あ、なんであんなに離れてんだよアイツ」

報瀬「?」

一輝「おい、こっちこいって」


「……」


結月「誰ですか、あの男の子」

日向「お、可愛いな〜。女の子みたい」

みこと「うん」

栞奈「ひょっとして、妹?」

一輝「うん、俺の妹」

妹「……」

日向報瀬「「 えッ!? 」」

結月「だって、男の子の服着てますよ?」

一輝「可愛い服とか嫌がるんだよ」

妹「兄ちゃん……この人たちが旅仲間なの?」

一輝「バッ……ち、違……!」

栞奈「へぇ……」ニヤニヤ

日向「ふぅん……そう言ってたのか」ニヤニヤ

一輝「チッ……」

妹「……」
386 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 02:17:47.93 ID:GYsMFmGgo

みこと「あ……」


秋槻「あぁ、やっと来た……。来ないからどうしようかと思ったよ」

綾乃「本当に……」


結月「秋槻さんと綾乃さん、もう来ていたんですね……」

日向「二人とも待たせてごめんな〜」

秋槻「どこ行ってたの? もう大会も終わるよ?」

みこと「終わり?」

綾乃「今の人たちが最後ってさ」

日向「えーーッ!?」

報瀬「はぁ……なにそれ」


「きゅうじゅうきゅー!」

「ひゃーっく!!」


「やったー!!」

「よっしゃー!」


ワァァアアア!!!


司会「おめでとうございます! 100回達成しました!」


結月「盛り上がっていますね」

一輝「100回達成したの今のチームだけだからな」

妹「兄ちゃん、お腹空いたぁ」

一輝「お前、さっき何もいらないって言ってただろ」

妹「そうだけどぉ」

一輝「しょうがねぇな……」

報瀬「妹には優しいんだ」

一輝「別に……優しいとかじゃないですけど……」

日向「キマリは何してるんだ?」

みこと「まだ戻ってきてない」

秋槻「あっちの店のケバブが美味しかったよ」

妹「食べたい!」

一輝「分かったから。じゃ、ちょっと俺たち行って――」


マリ「みんな、みんなー!」

「……」

「……」

387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 02:20:29.66 ID:GYsMFmGgo

結月「戻ってきましたね」

報瀬「慌てて、どうしたんだろう?」

日向「……あれ、後ろに居るのって」

結月「リンと……?」

報瀬「――……」

みこと「……?」

栞奈「誰かな?」


マリ「良かった! 大村君とお兄さんもちゃんといる!!」


一輝「……」

秋槻「せっかく集まったけど、もう時間が無いんじゃないかな」

綾乃「うん、一人足りないし」

マリ「大丈夫! すぐに向こうに行って跳ぶよ!」


一同「「「 えっ!? 」」」


マリ「みんな、移動移動〜! 急いで〜!!」


……




司会「さぁ、大遅刻の『チーム・デネブ』のみなさん、準備はよろしいでしょうか」


マリ「はい、バッチリです」

日向「待て待て待て待て! ちょっと待てキマリ!」

マリ「?」

結月「すいません、あと少しだけ待っていただけますか?


司会「はい、分かりました」



マリ「どうしたの?」

日向「どうしたの、じゃない。
    いきなり集めて、さぁ跳ぶよじゃ上手くいくものも上手くいかないだろ」

報瀬「……」

みこと「キマリさん、紹介して……?」

「……」


マリ「あぁ、そうだね。えっと、向こうに居るのが、私の妹のリンだよ。
   それで、こっちが私の幼馴染で『親友』の――」

「高橋めぐみ、です」ペコリ

マリ「めぐっちゃん!」


報瀬「…………」


栞奈「……あの、さ」

一輝「なんだよ?」
388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 02:21:54.51 ID:GYsMFmGgo

栞奈「報瀬、変じゃない?」

一輝「変……?」

栞奈「なんかね、表情が険しいって言うかね」

みこと「……うん」

栞奈「みことちゃんもそう思う?」

みこと「なんだか、怖い」

一輝「……確かに」


報瀬「…………」


マリ「で、めぐっちゃん。旅の途中で出会った、秋槻さんに、大村君、栞奈ちゃん、みこっちゃん!」

めぐみ「どうも。キマリがお世話になっています」ペコリ

秋槻「いえいえ」ペコリ

一輝「……ども」

栞奈「本当に、お世話しています」ペコリ

みこと「……」ペコリ

マリ「食堂車でバイトしている、綾乃ちゃん」

綾乃「よろしくお願いします」ペコリ

めぐみ「うん、よろしく」


マリ「よし、それじゃ――」

日向「次は作戦だ。私が順番を決めるぞ」

マリ「順番?」

日向「並びだな。適当に配置してもよくないだろ」

結月「意味あるんですかね」

日向「もちろんある。先頭は――キマリ!」

マリ「うん!」

日向「次は――ゆづ!」

結月「はい」

日向「その次が私で――順に、

   綾乃、

   栞奈、

   大村、

   秋槻さん、

   みこと、

   めぐみちゃん

   報瀬、で行くぞ!」   

マリ「オッケー! じゃ並んで並んで」

栞奈「一輝、変なとこ触らないでよ」

一輝「うるせえ」
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 02:23:36.13 ID:GYsMFmGgo

秋槻「……マズい」

みこと「どうしたの?」

秋槻「いや、なんでもない」

みこと「……?」

めぐみ「……」

報瀬「……」


マリ「そういう作戦なんだ……。ありがとう日向ちゃん」

結月「報瀬さんを最後尾にしたのには、なにか意味があるんですか?」

日向「私もあの二人の話は聞いてるから」

結月「あの二人になにかあったんですね……」

マリ「まぁ、うん。めぐっちゃん、謝ったんだけどね……」

日向「そこは二人の問題だな。よし、それじゃ報瀬!」


報瀬「……?」


日向「始まる前に、一言頼んだ!」


報瀬「えっ!? 私が!?」


綾乃「?」

栞奈「なぜ?」

一輝「……?」

秋槻「……目が……乾いてきた」

みこと「報瀬さん……?」

めぐみ「……」


報瀬「わ、私たち出会って一週間しか経ってないけど!
   過ごしてきた時間はそれ以上だから! それ以上ないほど跳べる!!」


綾乃「どういう意味〜?」

栞奈「クックック、良いこと言うじゃん報瀬〜」

一輝「マジか……」

栞奈「足引っ張らないでよ、一輝」

一輝「お前もな」

秋槻「……ふぅ」

みこと「……っ」

秋槻「大丈夫、楽しめばいいんだよ」

みこと「う、うん」

秋槻「回数指定してないし――」


マリ「めぐっちゃん、目標は!?」


めぐみ「――に、にひゃく!!」


綾乃「……!?」
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 02:25:26.41 ID:GYsMFmGgo

栞奈「プッ、アハハハ! さすが幼馴染!」

一輝「マジか!」


日向「よく言った、めぐみちゃん!」


秋槻「……やってやろうじゃないか」

みこと「……ふふ」

秋槻「?」

みこと「――楽しい」


司会「準備はよろしいでしょうか!」


マリ「はい!」


司会「今話題の超特急列車に乗車している、チーム・デネブのみなさんです!」


結月「なんだかドキドキしますね」

マリ「うん! みんなとどこまで行けるんだろうってワクワクする!」

結月「ですね!」


日向「みんなー! 行くぞーー!!」


マリ結月「「 おぉーー!! 」」

綾乃栞奈「「 オー―!! 」」

一輝「よし、来い……!」

秋槻「……ふぅぅ」

みこと「オー……!」


めぐみ「……私は乗客じゃないんだけど」

報瀬「200回越えたら、許す」

めぐみ「分かった」

報瀬「……」フンス!


司会「最後なので制限は付けません、存分に跳んでください!!」


「がんばれー!!」

「目指せ新記録!」


結月「応援してくれてますね」

マリ「ニヒヒ」


司会「それでは回してください!!」


係員「行きます!」


マリ結月日向「「「 せーーっっの!! 」」
391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 02:27:18.82 ID:GYsMFmGgo

綾乃栞奈一輝「「「 せーーっっの!! 」」

秋槻「……!」フラッ

みことめぐみ報瀬「「「 せーーっっの!! 」」」


ぶんっ


マリ結月日向「「「 イーーチ!! 」」


パシッ


秋槻「――!?」

みこと「いーち……?」


綾乃栞奈一輝「「「 にーぃ……? 」」」

めぐみ「……ん?」

報瀬「え……」


司会「おや? 止まってしまいました……」


マリ「え?」

結月「?」

日向「ストーップ!! みんな動くなよー!!」


綾乃「えっと……?」

栞奈「どうしたの?」

一輝「……誰だ、跳べなかったのは?」

秋槻「……」サッ

みこと「――!」

めぐみ「……」


日向「縄を越えていないのは誰だー!?」


報瀬「違う!!」


日向「報瀬!! おまえかー!!」


報瀬「違うってば!!」


マリ「えぇ……」

結月「報瀬さんが……?」

綾乃「ウソぉ……」

栞奈「あれだけ士気を上げてたのに……」

一輝「マジか……」
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 02:29:27.91 ID:GYsMFmGgo

秋槻「…………」

みこと「……」クイッ

秋槻「……はい」

みこと「……」


日向「お前だけ縄越えてないじゃないか!」

報瀬「だ、だからそれは! ジャンプした後に戻ってきて!」

日向「そんな都合よく行くか〜?」

報瀬「本当なんだって!」


秋槻「はい……」スッ


マリ「ん?」

結月「日向さん!」


日向「信頼に傷をつけるようなこと――……どした、ゆづ?」

報瀬「私じゃない!」


結月「秋槻さんが手を挙げてます」


日向「?」


秋槻「はい……跳べなかったのは私です」


日向「はい?」


一輝「でも、縄を越えてますけど……?」


秋槻「移動して縄を越えたように見せました。つまり、隠蔽しました」


日向「マジか、みこと」


みこと「うん……っ」

めぐみ「縄が戻ってきたのは本当」


報瀬「……」


日向「あ、秋槻悟さん〜〜!! あなたって人は〜〜!」アセアセ


報瀬「日向……」ゴゴゴ


日向「すいませんでしたー!」ペコリ


報瀬「信頼がどうとか言ってたよね」ゴゴゴ

日向「いや、あはは〜、誰だって間違えることってあるよな〜」アハハ

報瀬「それで言い逃れできると思ってるの?」ゴゴゴ

日向「ハイ、ゴメンナサイ」
393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 02:31:37.76 ID:GYsMFmGgo

秋槻「はは……面目ない……」


みこと「ぷふっ……」


結月「みこと……?」


みこと「ふふふっ、大人ってズルい」


秋槻「つい、罪から逃れようとしてしまいました……」


みこと「ふふっ、ふふふ」


めぐみ「キマリ、1回も跳べなかったという結果なんだが」

マリ「そう……だね」

結月「フフッ、私たち、1回も跳べませんでしたね」

綾乃「ね〜。10回は跳べると思ってたのに」

栞奈「アハハハ、私たち1回も跳べてないよ一輝!」

バシバシ

一輝「痛いから叩くな! でも、笑うしかないなこれ」


報瀬「私は跳んだけどね」フフン

日向「ソウデスネ」


秋槻「……ハハ」

みこと「ふふ、あはは」

めぐみ「ふふ、群馬から来て結果がこれなんて」

マリ「私も予想外だったよ、あははは」


「ワハハハ!」

 「ハハハハ!」



男「……」

パシャ



司会「もう一度挑戦できますよ?」


マリ「いえ、私たちの結果は0回で!」


……




秋槻「……」フラフラ

みこと「あっちにベンチがあるよ」

秋槻「うん……」フラフラ

みこと「……」
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 02:33:58.84 ID:GYsMFmGgo


秋槻「ふぅ〜……」ストッ

みこと「眠たいの?」

秋槻「んー……さすがに二徹はね……」

みこと「……徹夜二回?」

秋槻「……仮眠……くらい……ね」

みこと「……」ストッ

秋槻「……すぅ」

みこと「……?」

秋槻「すぅ……すぅ……くぅ……」

みこと「……寝ちゃった」


男「こんなとこに居たのか……」


みこと「?」


男「あーぁ、だらしない顔しちゃって……」スッ


みこと「あなたは?」


男「そこでアホ面で寝てる男の友人」


秋槻「すぅ……す…ぅ」

みこと「……」


男「君は写らないようにするから安心して」


みこと「……」

秋槻「くぅ……かぁ……」


男「……当の本人が安心しきってるのがなんともまぁ…」


日向「なんだなんだ?」

マリ「写真かな?」

報瀬「記念撮影?」

結月「寝てる人をですか?」


男「あぁ、君たちは同じ列車に乗ってるんだったね」


栞奈「そーなんですよ」

一輝「あなたは誰なんです?」


男「悟の友人」


綾乃「悟?」

めぐみ「?」

リン「誰、お姉ちゃん?」

マリ「秋槻さんのことだよ、リン」
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 02:36:45.47 ID:GYsMFmGgo

リン「だから、誰なの?」

めぐみ「名前を言われても分からないな?」

妹「?」

報瀬「そこで寝てる人」


秋槻「すぅ……くぅ……」

みこと「……」


日向「よし、みんな入れ入れ」

結月「邪魔じゃないですか?」


男「クカカ、いいよ、入って入って」


報瀬「変な笑い方してるけど大丈夫なのこの人?」ヒソヒソ

栞奈「大丈夫じゃない? みことちゃんも警戒してないし」

一輝「どんな基準だよ」

妹「……」

マリ「めぐっちゃんもリンも入って入って〜」

めぐみ「いいのか?」

リン「私たち乗客じゃないよ?」

マリ「いいって、ほら早く〜。みこっちゃん、隣座るね〜」

みこと「うん」

秋槻「すぅぁ……んん……」

日向「みんな、ベンチを囲め囲め」

報瀬「はいはい」

結月「いいんですかね、一人だけ爆睡してるのに」


男「じゃ、撮るよ。ハイ――」


マリ「金沢城!」


パシャ


男「写真は後でソイツに渡しておくから。それじゃ」

スタスタ...


みこと「……」

秋槻「くぅ……すぅ……」

マリ「行ってしまったね」

報瀬「それで、これからどうするの?」

日向「閉園まで出店やってるみたいだから見てみよう」

栞奈「賛成〜、私お腹すいちゃって」

一輝「輪島で食べなかったのか?」

栞奈「まぁ、うん」
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 02:38:24.61 ID:GYsMFmGgo

妹「兄ちゃん〜」

一輝「分かってるよ、ケバブだろ?」

妹「うん!」

栞奈「一輝、食べたことあるの?」

一輝「いや、無いけど……」

栞奈「フッ、時代に取り残されてるね、あんた」

一輝「ファーストフード食べたことなかったお前に言われたくないけどな!」

妹「……」

栞奈「あります〜、ハンバーガーくらいあります〜」

一輝「おとといの話だろうが」

スタスタ...


「おいしかったね、京都のハンバーガー」

「観光地で全国チェーンの店入るとか信じられねーよ」


妹「……兄ちゃん!」

日向「あー、妹ちゃん、私たちと行こう」

妹「……」

マリ「綿あめ買ってあげるよ! たこ焼きもあるよ! 焼きそばも可!」

リン「お姉ちゃん……渡したお小遣い全部使っちゃいそう……」

めぐみ「ありえるな……」

結月「あれ、報瀬さんは?」

綾乃「武家屋敷行くってさ。私もデネブに戻るから、また後でね」

結月「また単独行動ですか……。はい、また後で」


みこと「……」

秋槻「くぅ……くぅ……すぅ」


マリ「みこっちゃん、どうする?」


みこと「此処に居る」


マリ「うん、分かった。お兄さんが起きたらおいでね〜」

妹「もう、兄ちゃんってば……!」

日向「まぁまぁ、あの二人は大事な話があるから、二人だけにしておこう」

スタスタ...


みこと「……」

秋槻「すぅ……ん…ん……――りさ―」

みこと「……?」

秋槻「……ん……ん?」

みこと「起きた?」

秋槻「あ……うん、……寝てたのか、俺……」

みこと「10分くらい……?」

秋槻「そっか……、ふぁぁ……!」ノビノビ
397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 02:40:26.07 ID:GYsMFmGgo

みこと「どんな夢を見てたの?」

秋槻「ん……懐かしい……夢……だったな……?」

みこと「ありさ、さん?」

秋槻「……どうしてその名前を……って、電話に出たんだっけ……?」

みこと「うん……。それに、寝言……言ってた」

秋槻「……マジか。……懐かしい夢見てたせいだな……格好悪い……ふぁぁああ」

みこと「……高校の時の人?」

秋槻「ん……まぁ……」

みこと「好きだった人って……」

秋槻「まぁね。それより、みんなどこ行ったの?」

みこと「屋台見て回るって……」

秋槻「それじゃ、俺たちも行こうか」スッ

みこと「……今でも……その人のこと……好きなの?」

秋槻「いや、そんなことないよ。なんであんな夢を見たのか分からないけど」

みこと「……」

秋槻「それに彼女――……ありさは結婚するから」

みこと「え――」

秋槻「先日の連絡はその報告だったんだよ。披露宴に出席するのかって」

みこと「……」

秋槻「ほら、行こう。お腹減ってしまったよ」

みこと「……うん」


……


398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 02:57:58.13 ID:GYsMFmGgo

―― 夜・デネブ・展望車


日向「えー、乾杯の前に、みんな、スポンサーにお礼を言うようにー」


一同「「「 ありがとうございました! 」」」


秋槻「はは……いいよ、これくらいでお詫びが出来るなら安いもんだから」

結月「食べ物や飲み物以外にも……料理代金まで払ってもらって……申し訳ないです」

秋槻「いや……本当にね、気にしないで欲しいんだ。
    俺のせいで遠路はるばる来てもらったのに」

めぐみ「というより、私たちも此処に居ていいのか……?」

リン「うん……いいの? おねえちゃん……?」

マリ「大丈夫。車掌さんに話したら『今回だけですよ、ウィンク』ってオッケーもらったから」

報瀬「ウィンクを口にしたらダメでしょ」

栞奈「屋台で食べきらないで良かった……! 良かったよぉ!」

みこと「……」

一輝「俺たちも後でお礼言わないとな」

妹「うん……」

日向「どこかお店を借りてって案もあったんだけど、
    せっかく料理長が調理してくれたんだからさ、ここで食べたいだろ?」

マリ「うん!」

秋槻「本当に、これくらいなら安いもんだから」

結月「……ですね」


日向「それでーはー、改めまして。なわとび大会は惜しくも入賞には至りませんでしたが、
   私たちらしい、いい結果になったと思います」


一輝「本当にそう思ってるのか」

栞奈「艱難辛苦を乗り越え辿り着いた奇跡としか言えない数字、それはゼロ。
    無限を現す数字、それはゼロ。故に、満願成就に至る訳よ」

一輝「適当言うな」


日向「大村もここまで栞奈役お疲れ〜」


一輝「お、おう……」

妹「カンナ役?」

報瀬「あのお姉ちゃんの相手してくれたんだよ」

妹「兄ちゃんが? どうして?」

報瀬「ウマが合うってこと」


日向「この旅も終わりが近づいているので、今日は存分に楽しもう! 
    ってことで、カンパーイ!」


「「「 カンパーイ! 」」」
399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 02:59:52.01 ID:GYsMFmGgo

みこと「……」

マリ「カンパ……! あれ、みこっちゃんどうしたの?」

みこと「え? あ……!」

結月「乗り遅れてしまいましたね。日向さん」


日向「はいよ。じゃ、もう一回、カンパーイ!」


「「「 カンパーイ!! 」」」

みこと「か、乾杯……!」

マリ「イェーイ!」

栞奈「一輝は始発から乗ってたんだっけ?」

一輝「いや、福岡から。ほら、美味しいから食べてみろって」

妹「貝……嫌い……」

一輝「じゃあ俺が食べるな。もぐもぐ……うん、美味しい」

妹「……」

マリ「調理した人が一流だからね!」エッヘン

リン「お姉ちゃん……」

めぐみ「なんでキマリがしたり顔なんだ?」

日向「良く知る人だからな。金沢までなんの用だったんだ?」

一輝「まぁ、ただの旅行だ。特に理由は無かったんだよな」

秋槻「もぐもぐ……。当てのない旅ね」

みこと「……」

一輝「旅って言えるほどじゃないですけどね。ほら、もう無くなっちゃうぞ」

妹「……食べる」

栞奈「うへへ、お嬢ちゃんカワイイね、歳いくつ?」

一輝「危ない人に見えるから止めろ!」

妹「10歳……」モグモグ

栞奈「そっかぁ、4年生かぁ……うちの弟と同じくらいだねぇ。これも美味しいからお食べ〜」

一輝「弟、中学生って言ってなかったか?」

栞奈「同じくらい、って言ったでしょ」

一輝「くらいの範囲が広すぎるんだよ」

栞奈「この魚ね、出世したら鰤になるんだよ」

妹「もぐもぐ……」ジー

一輝「? なんだよ?」

妹「別に……」

日向報瀬「「 兄妹だ! 間違いなく兄妹だ! 」」

一輝「そんなハモらなくても……」


結月「なんだか柔らかくなりましたね、大村さん。妹さんが居るからでしょうか」

マリ「旅の終わりだからじゃないかな?」

結月「あぁ、そうかもしれませんね。なんとなく分かります」

みこと「……」
400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:00:58.35 ID:GYsMFmGgo

マリ「みこっちゃん、さっきから元気ないね? 美味しいからちゃんと食べないと」

みこと「うん……」

報瀬「どうしたの?」

みこと「……ううん、なんでもない」

結月「ほら、言って?」

みこと「…………」

結月「思ってること、言ってみる。それが、色んな事に繋がるから」

みこと「――……」

秋槻「……」モグモグ


みこと「結月さん、東京まで……?」


結月「うん、撮影もそこで終わりだから。次の仕事もあるし」


みこと「報瀬さん、日向さんは……明後日……?」


日向「そうだな……。高崎で終わり」

報瀬「松本の次になる」


みこと「キマリさんは?」


マリ「私は――……ちょっと悩み中……あはは」


一輝「お前どうすんだよ」

栞奈「私も……最後まで行こうかなって」

一輝「……」


みこと「ずっと……続けばいいのにって……思って」


結月「……」

報瀬「……」

日向「……」


マリ「すごいよね、旅って」


みこと「え?」


マリ「めぐっちゃん、リンも……二人が此処に居ることがすごい」


めぐみ「……?」

リン「どういうこと?」


マリ「だって、数日前……、ううん、数時間前までは、ここで、こんな人たちが居るって知らなかったでしょ?」


めぐみ「まぁ、うん」

リン「……」コクリ
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:03:12.72 ID:GYsMFmGgo

マリ「私も、デネブちゃんに乗る前は知らなかった。
   みこっちゃんが居ること、秋槻さんが居ること、大村君が居ること、栞奈ちゃんが居ること」


みこと「……」

秋槻「……」

一輝「……」

栞奈「もぐもぐ」


マリ「たった数日だけど、友達が出来た」


みこと「友達?」


マリ「ひぐっ」グスッ


日向「だから、泣くな」


みこと「旅仲間……じゃないの?」


報瀬「たった数日でも、友達になれる」

結月「同じものを見て、同じものを食べて、同じ時間を過ごして、同じ気持ちになれば」


マリ「きっと、良いところを見せる必要ないから。
   ありのままの自分を見せても、問題ないから」


栞奈「……」


マリ「そんな人たちと出会えるから。旅って――……すごいんだ……!」


みこと「……うん!」


一輝「始まりがあれば終わりはある。出会えば必ず、別れは来る」

妹「お母さん言ってたよね」

一輝「……うん」


みこと「……」


一輝「忘れなきゃいいんだよ。こんな濃い毎日なんてそうそうないからな」

妹「兄ちゃん、忘れない?」

一輝「忘れたくても忘れられないだろ。こんな連中のこと」

栞奈「かぁー、素直じゃないねぇ」

一輝「誰だよお前は」


マリ「だから、怖くない。むしろ、嬉しいことだよ」

みこと「うん……!」

秋槻「人は生まれながらにして旅人」

報瀬「え?」

秋槻「あ、いや……昔の曲で、そういうフレーズがあってね」
402 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:05:49.82 ID:GYsMFmGgo

日向「人は生まれながらにして旅人である! ――三宅日向!!」


結月「自分が言ったことにするんですか!」

日向「あはは、ダメですかね?」

秋槻「オッケーだよ」

日向「よっしゃ!」

報瀬「著作権に触れてない?」

日向「真面目か!」

みこと「ふふっ、ふふふ」

日向「あははっ」

一輝「ふっ、ははっ」

栞奈「くっくっく、あははっ」

報瀬「フフッ、あはは」

結月「ふふふっ、バカなやりとりなのに、笑ってしまいますねっ」

めぐみ「これは、一体……?」

リン「みなさんにしか分からない雰囲気ですね」


マリ「思ったんだけど、またキャンプしたいよね!?」

結月「あ、いいですね! キマリさんだけ別のテントであれば!」

日向「いいな! 焚火囲んでマシュマロ! キマリは別テントで!」

報瀬「いいかも。キマリは別で」

マリ「 ひどい!! 」

みこと「? どうしてキマリさんだけ?」

めぐみ「寝相悪いからな……」

リン「うん……部屋、別になったのそれが理由だから」

マリ「え!? そうだったの!? 意外な真実!?」

一輝「意外か?」

マリ「意外だよ! 知らなかったよ!!」

栞奈「妹ちゃんはお兄ちゃんと一緒の部屋?」

妹「うん」

栞奈「マジ?」

報瀬「兄妹仲良くてイイネ」

一輝「そのリアクションで決めました。帰ったら別な」

妹「えー!? なんで兄ちゃん〜!!」

一輝「前々から考えてたことだ、諦めろ」

妹「嫌だ」

一輝「分かったよ、テレビとかはやるから。好きなもん持ってけばいい」

妹「んー……!」

マリ「このやり取り、なにかことわざであったよね」

めぐみ「獅子は我が子を千尋の谷に落とす」

マリ「それそれ」
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:07:30.86 ID:GYsMFmGgo

結月「なんだかあっさり決めましたね」

報瀬「なんで急に?」

一輝「きっかけが欲しかったんですよ。
   うちの両親が忙しくて面倒見切れるのが俺しかいなかったから」

報瀬「ふぅん……。そういえば、みことにも世話焼いてるというか、
   気にしてた感じだったから、放っておけないってことだったんだね」

一輝「……まぁ……そう……なんですかね」

マリ「そういえば、なんで報瀬ちゃんだけ敬語?」

結月「敬語というか、怯えてる風ですけど」

妹「じー……」

報瀬「……?」

妹「この人、マネさんに似てる」

一輝「バッ、指さすな!」

日向「ビビりすぎだろ〜」

マリ結月「「 似てるだけで? 」」

栞奈「ねぇ、妹ちゃん、この美人なお姉ちゃんとマネージャーさん、どう似てるの?」

妹「目と髪の毛」

報瀬「……」

一輝「……」

栞奈「それだけ?」

妹「うん」

秋槻「その共通点だけで思い出してしまうなんて、相当厳しいんだろうね……。
   というか、何部なの?」

一輝「野球部です」

秋槻「おぉ、野球かぁ」

栞奈「一輝、レギュラーじゃないのに厳しくされてるの?」

一輝「そうだよ、レギュラーじゃないのに厳しいんだよ。
   だから、レギュラーはもっと厳しいんだ」

マリ「どういう人なんだろ? 会ってみたいね」

日向「確かに。報瀬に似てるおっかない人か……」

報瀬「……」

秋槻「女子野球で話題になった高校があったよね」

一輝「あ、知ってるんですか? 部を作って1年で春大会優勝したっていう」

秋槻「そう、そこ。選手もレベルが高いって話で」

一輝「マネージャーがその学校行きたかったって毎日ボヤいてるんですよね。
   ショートとサードが滅茶苦茶上手いらしくて」


日向「野球談議始まっちゃったな」

みこと「男の人って好きだよね……」

結月「なんか、みことが大人な感じが……!」

みこと「お父さんがテレビで観てて」

結月「そうよね……」

みこと「?」

結月「なんでもない」
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:09:17.46 ID:GYsMFmGgo


さくら「その高校にね、子役時代に会ったことある子がいるのよ〜」

秋槻「子役時代……? といったら……5、6年くらいですかね」

さくら「そのくらいになるわね〜。おでこなんて出しちゃって可愛くなってたわ〜」

一輝「なんか目立ちたがり屋がいるって聞いたことあります。
   口だけじゃなくて打率も凄いって言ってて……」

さくら「あら、あんな細腕で凄いじゃない〜♪」

栞奈「……」


日向「いつの間にかさくらちゃんも交じってるな」

マリ「それより、そろそろ来るんじゃない? カニ!」

めぐみ「カニなんてあるのか?」

マリ「うん、輪島で買ってきた食材を〜、料理長にお願いしたんだよ〜」

リン「他に何買ったの?」

マリ「日向ちゃんが魚買ってたよね」

日向「アジだよ、鯵」

マリ「アジ? ……えっと、アジのアジってどんなアジだっけ」

報瀬「アジはアジでしょ」

マリ「サンマ系?」

報瀬「だから、アジ」

マリ「それが分かんないんだよ!」

結月「何の話してるんですか?」

日向「さぁな。お、来たみたいだ」


綾乃「お待たせしました〜」


マリ「来た! カニ!!」


妹「……?」

一輝「カニだってさ。気になるなら行ってこい」

妹「いい」

一輝「いいなら、別にいいけど」

妹「……」

栞奈「まったく、優しくないね〜。ほら、行こうか、妹ちゃん」

妹「……うん」


日向「で、どうやって食べるんだこれ」

報瀬「知らない」

めぐみ「中身を取り出す……のでは?」

マリ「茹でガニはあまり縁が無いから食べ方分からないね。料理長に聞いてこようか」

栞奈「まったく、しょうがないな〜。私が御指南して差し上げましょう」

結月「分かるんですか?」

栞奈「モチのツモよ」

妹「つも……?」
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:11:04.60 ID:GYsMFmGgo

報瀬「自力で上がること」

みこと「あがる……?」

報瀬「モチのロンを捩ったんだけど、ロンっていうのが、他家の牌で上がることで」

妹みこと「「 ??? 」」

栞奈「説明されると恥ずかしいわけですけど」

マリ「カニの食べ方なんてわかるの?」

栞奈「身の取り出し方なんて簡単簡単〜。まずは脚からね〜、ここを折って〜」

日向「手慣れてるな。どこで覚えたんだ?」

栞奈「小さい頃から食べてるからね。カニのカンナと呼ばれてるくらいだよ」

マリ「カニ缶だね」

リン「ぷふっ」

みこと「……ふふ」

栞奈「フッフッフ」

結月「してやったりって 顔ですね」

栞奈「はい、出来た。どうぞ」

妹「いいの?」

マリ「どうぞどうぞ」

妹「ぱくっ」

日向「お、出来た。テレビで見るような形になったぞ、栞奈!」

栞奈「やるじゃん、日向」

妹「もぐもぐ……?」

めぐみ「あまり味が分からないみたいだな……」

マリ「うっま! うまいよこれ! カニだよ!!」

報瀬「見ればわかるから」

みこと「子供のころから食べてたの?」

栞奈「うん。地元が稚内だからカニは意外と身近にあるんだよね〜」

日向マリ報瀬「「「 えっ! そうなの!? 」」」

結月「北海道生まれだったんですか!?」

栞奈「そうだよん」

リン「どうしてそんなに驚いてるの?」

マリ「だって! だって……! あれ、なんで?」

日向「広島から乗ってきて、松本で降りるって言うからさ……」

マリ「そうそう。意外過ぎてびっくりだよ」

栞奈「カニ鍋もサイコーなんだけどなぁ。みんなで食べたいね。炬燵で囲んでさぁ」

結月「あ、いいですね♪」

報瀬「疑問なんだけど、広島から乗って松本で降りる理由って?」

日向「そうだよ、最終駅の……稚内まで行けばいいだろ? お金もその方が安上がりだし」

栞奈「その通りなんだよ。うん、やっぱり最後まで行っちゃおうかな〜」
406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:13:01.21 ID:GYsMFmGgo


一輝「……」

秋槻「本当だ、美味しいですねこのカニ……。部活は何されてたんですか?」

さくら「小中は空手部なの〜。高校入ってレスリング部に入って……というか、入らされて」

秋槻「随分と険しい道を歩いてきてるんですね」

さくら「でも、この道の中であなたという運命に出会えたのよね」ポッ

pipipipi

秋槻「あ、電話……ちょっと席を外します」スッ

さくら「はいは〜い」

一輝「……さくらさんはどこまで乗車するんですか?」

さくら「私? 私は結月ちゃんと一緒に降りるわよ。東京までね」

一輝「…………そうですか。仕事だから当然と言えば当然ですよね」

さくら「なによ〜、もの言いたげね〜」

一輝「将来と今って、どっちが大切ですか?」

さくら「ふぅむ……難しい質問ね」

一輝「将来の為に努力してた人が、この旅の中でターニングポイントになって……
   将来がぼやけてしまいそうになってる」

さくら「誰の話?」

一輝「……アイツです。他人の為にカニをむいてるけど、自分は食べてないヤツのことです」

さくら「栞奈ちゃんが悩んでるのね」

一輝「悩みというか……どうするんだろって思って」

さくら「さっきの質問の返しは、両方よね」

一輝「……」

さくら「今、努力していない人が将来を語ってもしょうがないし」

一輝「……ですね」

さくら「でも、努力するのは将来のためだし。ということで両方ね」

一輝「……」

さくら「でもね、私は思うんだけど、結局人それぞれなのよね」

一輝「どういうことですか……?」

さくら「私は小さい頃から親父……パパに言われて空手をやらされてたんだけど」

一輝「……」

さくら「そうやって精神や体を鍛えていても、私はこうやって芸能関係で働いてる訳でしょ?」

一輝「えっと……失礼な言い方ですけど……無駄だったってことですか?」

さくら「ううん、そうじゃないわ。
    例え、私がピアノを習ってたとしても、結局はこの仕事をやってるんだと思うのよ」

一輝「……」

さくら「私がやりたかったことは決まってたからね」

一輝「――……」


みこと「あれ?」

マリ「どうしたの?」

みこと「秋槻さんが居ない」

マリ「あ、本当だ」

結月「さっき外へ出て行きましたよ。電話じゃないですかね」
407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:14:19.42 ID:GYsMFmGgo

報瀬「あれ?」

日向「どした?」

報瀬「カニが居ない」

栞奈「さっきみんなの口へ吸い込まれていったよ。完食ですね〜」

報瀬「は?」

妹「……っ!」ビクッ

報瀬「まだ食べてないんだけど!? 日向!」

日向「ん! んんん!!」パクッ

報瀬「それ2本目でしょ!?」

日向「ん、んーん」フルフル

報瀬「嘘つかないで!」

日向「もぐもぐ……ごくん。……3本目だ!」

報瀬「く……!」

日向「はぁ〜、美味しかった〜」

報瀬「し、信じられない……」ワナワナ

妹「ど、どうぞ」

栞奈「食べかけじゃないの。そこまで気を遣わなくてもいいよ〜?」

妹「で、でも……」

栞奈「大丈夫大丈夫。あのお姉ちゃんは我慢できる人だから」

報瀬「フー」

結月「狩る者の目ですね……。報瀬さん、私のどうぞ」

報瀬「いいの?」

結月「私もカニは身近にある方なので」

報瀬「ありがとう! ありがとう!!」

結月「いえいえ」

マリ「マヨネーズつけると美味しいらしいよ」

報瀬「外道ね」

マリ「ひぃぃっ!」

報瀬「あ、そうじゃなくて。高級食材を無駄にする食べ方が良くないって意味で、
   そんな食べ方をする人が信じられないってことだから」

マリ「ごめんなさいぃぃぃ」シクシク

日向「そうなんじゃないか」

栞奈「あはは」

みこと「……戻ってきた」

結月「?」


秋槻「なんか空気がギスギスしてるような?」

みこと「どこ行ってたの……?」

秋槻「友達に呼び出されてね。これなんだけど」

ペラッ

日向「んー? あ、これ!」
408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:17:05.59 ID:GYsMFmGgo

秋槻「いつ撮ったの?」

みこと「秋槻さんが寝てる間に……」

秋槻「うん、まぁそうだよね……」

マリ「あはは、お兄さん変な顔〜」

結月「プリントまでしてくれたんですね」

栞奈「おぉー、集合写真だ! いいねいいね」

みこと「撮った人、秋槻さんの友達?」

秋槻「うん、わざわざ東京から出てきて、こんな写真撮ってるんだよ」


報瀬「もぐもぐ、もぐもぐ」

日向「おい、食い意地張ってないで輪に入れよ〜」


めぐみ「……ふぅ」

リン「なんだか、空気に入れませんね」

めぐみ「そうだな……」

リン「お姉ちゃんたち、楽しそう」

めぐみ「……うん」


さくら「お二人さん、こっちへいらっしゃい〜♪」


めぐみ「え?」


さくら「おいでおいで〜♪」


リン「……」


さくら「私は結月ちゃんがこの列車に乗車した企画のスタイリストを任されてるの」

めぐみ「……そうですか」

リン「初めまして……」

一輝「……」


秋槻「それから、これ」

日向「なに?」

マリ「こ、この形の箱……もしかして!」

秋槻「ケーキだって。友達から差し入れ」

妹「ケーキ? それも?」

秋槻「うん、人数が分からないから二つ用意したって」

マリ「開け……! 開けてもよろしいですか!?」

秋槻「どうぞ。みんなで食べて」

報瀬「私、苺が乗ってるやつで」

日向「まだ開けてないだろ! どこまで食い意地張ってるんだよ!」

マリ「ジャーン! おぉー! イチゴショートケーキ、定番であり王道!!」

結月「ホールケーキ……。高そうですね」
409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:18:41.77 ID:GYsMFmGgo

マリ「こっちは!? おぉー!」

日向「リアクションが同じになるくらいの感動だな!」

妹「チョコだ……」

栞奈「妹ちゃん、チョコが好きなんだ?」

妹「う、うん」

日向「あ……」ピコーン

報瀬「どうしたの?」

日向「いいこと思いついた。キマリ、食堂車行って切ってこよう」

マリ「うん! ケーキだ!」

日向「落ち着け! 落とすなよ!?」

結月「私も行きますよ」

日向「いいからいいから、私たちに任せとけって〜」

結月「? お願いしますね」

マリ「あれ、何人分切ればいいの?」

日向「人数は私に任せろ。キマリは安全に運ぶことだけ考えるんだ」

マリ「なんかひどい!?」

スタスタ...

結月「日向さん、なにか企んでません?」

報瀬「……そうかも。でも、大したことじゃないでしょ」

結月「ですね。日向さんですから」

栞奈「……なにする気なの」ヒソヒソ

報瀬「分からないけど、多分、結月に関すること」ヒソヒソ

栞奈「ふぅん……それは楽しみだ」


みこと「どうしてケーキを?」

秋槻「俺が列車の旅行してるの知って、様子を見に来たらしい」

みこと「……?」

秋槻「まぁ、理解できないよね。前に電話に出たでしょ?」

みこと「えっと……ありさ、さん?」

秋槻「そうそう」

さくら「女の影……!?」

一輝「写真撮ったの男の人ですよね? どういう繋がりなんですか?」

秋槻「二人が今度結婚するんだよ。古い付き合いだからね」

一輝「へぇ……」

さくら「あらぁ、めでたいじゃない〜♪」

めぐみ「テンションが上がった……?」

みこと「……」

秋槻「君が電話に出たから、不審に思われてさ……はは」

リン「……」
410 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:21:17.87 ID:GYsMFmGgo

秋槻「はは……本当に、何もないんだけどね……はは……」

リン「……」

結月「リン、大丈夫だから……秋槻さんは大丈夫だから」

報瀬「警戒しなくてもいいから、ね」

リン「……はい」

栞奈「ぷっ……くくっ」

秋槻「……は……はは」


みこと「秋槻さん、平気?」


秋槻「……うん」


結月「?」

報瀬「?」

栞奈「なに、が……?」

みこと「……」

秋槻「あぁもう……恥の上塗りになるけども……旅の恥はかき捨てだから言うよ」


めぐみ「?」

リン「?」

さくら「一世一代の告白みたい……!」


秋槻「その、ありさって人は……高校時代に、好きになった人なんだ」


一輝「!」

栞奈「おぉ、それはそれは」

結月「複雑な感じですね……。だからみことが聞いたわけですか」

報瀬「……」


秋槻「前にも言ったけど、もうそんな気持ちは無いから、平気だよ」

みこと「……うん」


めぐみ「様子を見に来るくらいに、深い付き合い……ということですね」

秋槻「どうかな……? 疎遠になりがちだったけど……
    結婚の話で連絡が来るようになっただけだから」

一輝「…………後悔してるって」

秋槻「行動を起こせなかったことに、ね。彼女と今も一緒に居たいっていう後悔じゃないよ」

一輝「……」

栞奈「甘酸っぱいですねぇ。ケーキに乗った苺のように」

報瀬「……?」

結月「……」

みこと「……」

めぐみ「……」

リン「……」

栞奈「あれ、君たちリアクションが薄いね」

さくら「あら? みんな、もしかして、恋はまだ……?」
411 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:22:48.27 ID:GYsMFmGgo

パチッ


結月「あ、あれ? 明かりが消えましたけど……」

秋槻「停電……じゃないね。なんだろ?」

リン「向こうが明るいですよ」

報瀬「あ……それがやりたかったのね、日向」

栞奈「ワクワク」

一輝「なんだ、居ないと思ったら一緒に行ってたのか」


ウィーン


マリ「ハッピバースデートゥーユー」

日向「ハッピバースデェトゥーュゥ」


めぐみ「蝋燭まで点けてる……」

結月「誰の誕生日なんですかね?」

みこと「だれ?」

秋槻「さぁ?」

リン「……?」


マリ日向「「 ハッピィバァスデェディァ 」」


マリ「結月ちゃん〜♪」

日向「ゆ〜づ〜♪」


結月「はい?」


一輝「ふぅん、そうなんだ?」

栞奈「ううん、結月ちゃんの誕生日は12月10日生まれの射手座。
   身長152cm。血液型はA型。好きなものはケーキと暖かい場所だから……違う」

一輝「なんか怖いわお前」


マリ「はい、火を吹き消して!」

日向「しかもふたぁつ!!」


結月「なんですかこれ?」


マリ「日向ちゃんがバースデーケーキにしようっていうもんだから」

日向「サプライズなのだよ」

結月「誕生日近いの日向さんですよね?」

日向「私はさ……もう……過ぎ去った日々のことは忘れたいんだよ」

結月「そんな重い話してないと思うんですけど!
   それだったら、私より早い報瀬さんじゃないんですか?」

報瀬「私は……まだ……この歳で……居たいから……あと少しだけでも」

結月「変にドラマ仕立てにしないでくれませんか!」


妹「ロウソク買ってきたの私なんだよ?」

一輝「そうか、偉いな」ナデナデ

妹「えへへー」
412 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:29:09.46 ID:GYsMFmGgo


結月「って、なんでカメラ回してるんですか!」

日向「えーい、ごちゃごちゃとウルサイ!
   早く食べたいんだからさっさと消せー!」

結月「……分かりましたよ」

マリ「えっへへー」

結月「なんですか?」

マリ「結月ちゃん凄いね。去年は南極で……今年はデネブちゃんで誕生日!」

報瀬「確かに……。滅多に出来ない経験ね」

栞奈「はい、じゃあみなさん、もう一度!」


「「「 ハッピバースデートゥーユー♪ 」」」

「「「 ハッピバースデートゥーユ〜〜♪ 」」」


「「「「 ハッピバースデーディア 」」」


「結月ちゃん〜」

「ゆづ〜」

「結月〜」

「白石結月〜」

「結月お姉ちゃん〜」

「鳥羽結月〜」


結月「名字を変えないでください栞奈さん」


栞奈「おぉ、聖徳太子」


「「「 ハッピバースデ〜〜トゥ〜〜〜ユ〜〜♪ 」」」


結月「ふ、ふぅ〜〜」


マリ「わー!」パチパチ


パチパチ
 パチパチ


結月「あ、えっと……みなさん、ありがとうございます……?」

日向「なんで疑問形?」

結月「誕生日じゃないからです。誕生月ですらないですから!」

報瀬「まぁそうなるよね」

マリ「よーし、食べよう食べよう〜」

栞奈「まだ切られてないけど、包丁持ってきたの?」

マリ「ううん、もう一度食堂車もっていかないといけないの」

栞奈「あ、そうだね……包丁持って歩けないからね」

日向「二度手間だけどしょうがないな。それじゃ、切ってくるよ」

さくら「あ、ちょっと待って」

マリ日向「「 ? 」」
413 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:31:02.81 ID:GYsMFmGgo

さくら「結月ちゃん、写真撮りましょう」

結月「え、でも……」

さくら「仕事じゃなくて、プライベートの写真よ」

結月「は、はい……みなさん、いいですか?」

栞奈「もっちろぉん!!」

一輝「うわ、キモイ声……」

栞奈「結月ちゃんが可愛すぎてテンション上がりすぎた結果なんだよ」

一輝「そうか、ごめんなキモイとか言って……そのままでいいと思うぞ」

栞奈「こっちこそごめん……。自分を抑えることにするよ……」

妹「……」


さくら「それじゃ撮るわよ〜、ハイ!」


マリ「チーズケーキ!」

報瀬「ショートケーキでしょ?」

妹「チョコケーキだよ」

日向「真面目かお前らー! チーズケーキ!!」


パシャッ


さくら「はい、オッケー♪」


マリ「じゃ、切って来るね〜」

スタスタ...


結月「……」

報瀬「嬉しい企みだったね」

結月「……ですね」

栞奈「また火を点けて入ってきたら面白いよね」

結月報瀬「「 ………… 」」

一輝「おまえ、つまらないこと言って余韻を壊すなよ、こっち来い」

栞奈「えー、でも本当に面白くない?」

一輝「早くケーキ食べさせろって空気が出るから、紙一重で面白くない」

栞奈「フッ、時代が栞奈ちゃんのセンスについてこれないんだね」

一輝「お前は常に先にいるからな」

栞奈「お、分かってるじゃん!」

一輝「その先端から落ちてる」

栞奈「なんだとこの!」ドスッ

一輝「殴るなって」

妹「……」


……


414 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:37:20.87 ID:GYsMFmGgo

リン「さっきも言ったけど、明日の朝に帰るよ」

マリ「ふーん、そうなんだぁ。どこに泊まるの?」

リン「めぐみさんと、近くのビジネスホテルに。二人の方が安いからって」

マリ「同じ方向に向かうのに別々で移動するって変な感じだね」

リン「しょうがないよ。私はもっと早い時間に出発するんだけど」

マリ「そっかぁ……」

めぐみ「北か南か……どっちにしよう……?」

妹「ふぁぁ……」

日向「もういい時間だな。そろそろお開きにしますかね」

報瀬「そうね。片付け始めましょ」

結月「日向さん、締めをお願いします」

日向「はーい、みなさーん、よろしいですかー?」


秋槻「書いてるのは宇宙が舞台なんだよ」

みこと「言っていいの?」

秋槻「これくらいなら平気。それに、まだ商品にもならないレベルだから」

栞奈「宇宙と言ったら冒険と旅がメインになりますね?」

秋槻「そうそう。そんな感じのものを書いてるよ」

あくら「あら、素敵☆」

一輝「宇宙人とか出てくるんですか?」

秋槻「いや、出てこないよ。ヒューマンドラマにするから」

栞奈「最近見た映画で最高傑作を観たんですよ」

秋槻「へぇ、どんな?」

栞奈「衰退する地球から離れて、別の惑星へ移住しなきゃいけないんだけど、
   人類に適した惑星を発見しても、技術が足りなくて移住できないって話」

秋槻「子どもの好奇心と大人の知識でメッセージを解いて物語が始まるんだよね」

栞奈「あ、やっぱり知ってました!?」


日向「盛り上がってるところ悪いんだけどぉ、いいかな?」


栞奈「え、あぁ、ごめんごめん」

一輝「知ってるか?」

みこと「ううん、知らない」

さくら「どうしたの、日向ちゃん?」


日向「お開きにしたいと思いまして。片付いたら残るのも自由ってことで」


……


415 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:41:11.30 ID:GYsMFmGgo

―― 金沢駅・ホーム


妹「んん……」ウトウト

栞奈「ほら、お兄ちゃんにしっかり掴まって」

妹「うん〜……」ウトウト

一輝「悪いな、後片付け手伝わなくて」

マリ「いいよいいよ、みんなでやればあっという間だよ」

一輝「ありがと」

マリ「うん、みんなに伝えておくよ」

一輝「明日、見送りに行くからさ」

栞奈「一旦帰るの?」

一輝「いや、近くにあるホテルで。親が用意してくれてさ」

マリ「優しいご両親だね〜」

一輝「……まぁ、そんなとこ」

妹「すぅ……」

一輝「おい、立ったまま寝るな。……それじゃ」

栞奈「またね〜」

マリ「ばいばーい」


「もうちょっとだけ頑張って起きるんだ」

「うん〜……ん〜……」

スタスタ...


マリ「それじゃ、ちゃっちゃと片付けちゃおうか」

栞奈「……」

マリ「どしたの?」

栞奈「ずっとああやって妹ちゃんの面倒を見てたんだろうね」

マリ「……うん」

栞奈「両親が忙しいって言ってたから、家で独りにさせたくないんだと思う」

マリ「……」

栞奈「私のとこも似たようなもんだから分かるんだよね……」

マリ「そっか……だからあんなに懐いてたんだね」

栞奈「うん」


「おーい、キマリ〜!」


マリ「あ、日向ちゃんが呼んでる」

栞奈「そうだ、二人に言っておきたいことがあった」

マリ「ん?」


「なにやってるんだよー? 栞奈も片付け手伝え〜!」


栞奈「日向、ちょっと来てー!」
416 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:42:56.93 ID:GYsMFmGgo

...タッタッタ


日向「どうした? なにかあったの?」


栞奈「話したよ、一輝と」


マリ「……」

日向「……」


栞奈「ごめん、って謝ったらさ。『こっちこそ、怒鳴って悪かった。ごめん。ふふん』って」

日向「それ、大村のマネか?」

マリ「あはは」

栞奈「ちゃんと仲直り出来た。あんな気持ちで旅が終わらなくて本当に良かった」

日向「そっか……良かったな」

マリ「よかったね」

栞奈「いろいろと行き違いはあったけど、解消できてよかった。二人のおかげ、ありがとう」

日向「なにもしてないけどな」

マリ「そうそう、なにもしてない」

栞奈「それでも、助かったし……救われた。みんなに背中押してもらわなかったら、
   きっと、私から謝ることなんて出来なかったから」

日向「……」

マリ「……」

栞奈「以上です。さ、片付け片付け」

日向「……え?」

マリ「もうちょっとみんなで話してたいよね〜」

栞奈「したいよね〜、ってか、しよう!」

日向「ちょっと待って、終わり?」

マリ「?」

栞奈「終わり……って?」

日向「いや、二人が仲直り出来た。それはよかった……で、次は?」

マリ「次?」

栞奈「???」

日向「あれ、……いや……もっとこう……なにかあると思ったんだけど」

マリ「なにが?}

栞奈「何言ってるの?」

日向「いや……うん、ごめん。なんでもない」

マリ「なにか心残りでもある?」

栞奈「お土産買い忘れたとか?」

マリ「明日の朝にでも買いに行こうよ」

日向「それはダメだ! 絶対にデネブから離れるなよキマリ!!」

栞奈「うむ、そうだぞ!」

マリ「えぇ〜……」


……


417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:44:54.11 ID:GYsMFmGgo

―― デネブ・展望車


マリ「食器の片づけ終わったよ〜」

日向「こっちはどうだ〜?」


報瀬「こっちももう終わり」

結月「秋槻さんがゴミを捨てに行ってくれてます」

みこと「キマリさん、それは?」

マリ「トロピカルレインボースペシャルミックススーパーデラックスドリンク
   みんなの分あるよ!」

報瀬結月「「 え 」」

日向「安心しろ、私が監修した」

報瀬結月「「 ホッ 」」

マリ「なんで!?」

リン「どうして安心してるのかな?」

めぐみ「キマリが独特な味を創ったんだろう……」

リン「あ……」

マリ「あって、なに!?」

めぐみ「それじゃ、私たちは行くな、キマリ」

マリ「行くって?」

めぐみ「ホテルに戻るんだよ」

リン「お姉ちゃん、朝ごはんはこっちでいいの? ホテルで朝食抜きにしたんだけど」

マリ「うん、食堂車で一緒に食べよ。美味しいから」

めぐみ「分かった。出発前だな」

マリ「うん!」

リン「それではみなさん、おやすみなさい」ペコリ

めぐみ「それじゃ」

日向「お〜、それじゃ〜な〜」フリフリ

結月「はい、それでは」

報瀬「……おやすみ」

マリ「また、明日ね〜……って!
   トロピカルレインボースペシャルミックススーパーデラックスベントウ無視!?」

日向「弁当って言っちゃったよ」

みこと「……」

マリ「なんか、変な気持ち」

報瀬「変って?」

マリ「いままでずっと一緒にいためぐっちゃんとリンと、
   見知らぬ土地でまた明日ってお別れしてることが」

みこと「ずっと?」

マリ「めぐっちゃんは小さい頃から一緒。リンは家でも一緒だから余計に変な感じ」

みこと「……」

報瀬「あれ、栞奈は?」

日向「車掌さんと話してるよ」

418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 17:16:19.74 ID:GYsMFmGgo

秋槻「もう片付いたんだ。お疲れ様」


マリ「いえいえ、ってソレは!?」

秋槻「さっき自販機で見つけてね……つい」

マリ「おぉ〜、お兄さんはもうプリンシェイクの虜……!」

秋槻「飲んだことないんだけどね」

マリ「え? 前に渡したのは?」

秋槻「あー……えっと……車掌さんに飲んでもらって」

マリ「……そうなんだ」

結月「わざわざプリンを飲み物にしなくてもいいのに、って思いますけどね」

マリ「プリンは飲み物だよ?」

日向「そう思ってるのはお前とプリン好きな人たちだけだ。
   少なくとも此処に居る連中はそう思ってない」

マリ「またまた〜そんなこといって〜」

日向「照れ隠しで言ったわけじゃないからな!」


報瀬「日向、そっちの飲み物取って」

日向「いいけど……って、みことが寝てるのか?」

みこと「……すぅ……すぅ」

報瀬「うん、起きそうにないから動けなくて」

結月「こっちでいいですか?」

報瀬「うん」

マリ「作ってきたドリンクは? なんで飲んでくれないの?」

日向「前科があるからだよ」

秋槻「思ったより薄いねこれ……もっと甘いものかと思ってたんだけど」

マリ「振りすぎたからだよ、お兄さん。普通は2回シェイクだからね」

秋槻「5回振るって書いてあるから振ったけど……それでも飲みにくかったよ?」

マリ「それがいいんだよ〜」

日向「特製スペシャルドリンク、意外と美味しいからみんな飲んでみろって〜」

結月「では……試しに」

みこと「……すぅ」

報瀬「朝、早かったからね……」

秋槻「それじゃ、俺も個室に戻るよ」

結月「人工的な味がしないのがいいですね……。お仕事が残っているんですか?」

秋槻「いや、ひと段落ついたから、今日はもう寝るよ。あとは明日からだね」

マリ「はい、どうぞスペシャルナントカドリンクです」

秋槻「ありがと。コップは食堂車に返せばいいのかな?」

マリ「ういうい」

秋槻「それじゃ、また明日」

スタスタ...

日向「それじゃ私らはどうする?」

結月「特にすることもないですよね」

報瀬「うん……」
419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 17:21:42.83 ID:GYsMFmGgo

マリ「でも、なんか……まだ終わって欲しくないね」

みこと「……すぅ……すぅ」

日向「だな。今日がまだ終わって欲しくないな」

報瀬「まぁね」

結月「ですね」


栞奈「おい〜っす〜。おや、人が減っちゃったね〜」


マリ「もう少しだけ話してようか」

日向「そうするかぁ」

報瀬「うん」

結月「そうですね。まだ日付が変わるまで時間ありますから」

栞奈「あれ、ケーキ片付けちゃったかい?」

マリ「余ったのは綾乃ちゃんたちに食べてもらったよ」

日向「喜んでたな」

報瀬「まだ食べたかったの?」

栞奈「まだっていうか、私はひとっつも食べてないですけどね!」

結月「あ、そうだったんですか……」

栞奈「いいけどね〜。代わりといてはなんだけど、南極の話を聞かせてくれないかい?」

日向「なにが聞きたいんだ?」

栞奈「なんでもいいよ」

報瀬「じゃあ、ペンギンの話でも」

栞奈「ペンギンなんて水族館にいるからなぁ……できればシャチの話でもしてくれない?」

結月「それも水族館にいるじゃないですか」

栞奈「ペンギンなんてよちよち歩いてるだけじゃん」

マリ「あんなこと言ってますぜ、親びん」

報瀬「はぁ……本物のペンギンを見たことないなんて……可哀想」

日向「まったくだ、好奇心旺盛なあの生き物を知らないってことか」

栞奈「好奇心は子猫をも……って言うじゃない? 天敵が多いらしいじゃないか?」

報瀬「残酷な話やめて」

みこと「……ッ!?」ビクッ

結月「ど、どうしたの、みこと……?」
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 17:28:35.53 ID:GYsMFmGgo

みこと「あ……あれ……?」

日向「怖い夢でもみたか〜?」

みこと「うん……」ブルブル

マリ「もう大丈夫だよ〜。怖くない、怖くない〜」

スリスリ

 ナデナデ

みこと「……ふ…ぁ…」

栞奈「どんな夢みたの? 話したら意外と大したことなくて恐怖が消えていくかもよ〜」

みこと「……うん。ペンギンが……シャチに食べられて――」

報瀬「わー! わー!! わぁー!! 聞こえない聞こえない!!」

日向「本格的に怖い話だったな」

結月「あんな話するからですよ」

栞奈「くくっ、あはははっ」


……





―― 深夜:マリの個室


マリ「すぅ……すぃ……すぴぃ」


pipipipi


『南に行ってみる』


マリ「涙の数だけ雨が降るんだよ」


マリ「くぅ……すふぅ……」

421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 17:30:39.45 ID:GYsMFmGgo


―― 8月9日



女の子「れっしゃ、れっしゃだ〜♪」

テッテッテ


ドテッ

女の子「ふぎゅっ」


報瀬「あっ!」

みこと「どうしたの?」

報瀬「女の子が転んだ……!」

テッテッテ


女の子「ふぇ……っ」


報瀬「大丈夫? 大丈夫!?」


女の子「ふぇぇっ」


報瀬「痛くない? 痛くない!?」


女の子「ふぇぇぇ!!」


報瀬「あぁぁっ、大丈夫だから!」

日向「あやし方下手だな報瀬……」


栞奈「ちょっとごめんね、おじょうちゃん〜」


女の子「びぇぇえええ!!」


栞奈「……うん、怪我はないね。びっくりしたよね」


女の子「うええぇぇえん!! おがぁぁさぁああん」


栞奈「よーし、お姉ちゃんが魔法をかけてあげよう〜」


女の子「ひぐっ……まほう……?」


栞奈「そう。痛みが無くなる魔法。いくよ〜?」


女の子「ぐすっ……うぅぅ」


栞奈「痛いの痛いの〜〜、あのお兄ちゃんに飛んでいけ〜〜!!」


一輝「えっ!?」


女の子「グスッ……?」


一輝「くっ……ぐぁぁあっ……痛いッ」
422 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 17:32:15.53 ID:GYsMFmGgo

女の子「……ぐすっ……お兄ちゃん……だいじょうぶ?」


一輝「あ、あぁ、大丈夫……優しい子だな、君は」


母「ユミ? どうしたの?」

女の子「お母さん!!」


栞奈「この子、転んじゃって。
   怪我はないみたいですけど、一応気にかけてあげてください」

母「あらら……。迷惑をかけてしまったみたいで、すいません」

栞奈「いえいえ、特に何もしてませんから〜。ね、一輝」

一輝「……まぁ、はい」

女の子「……」

母「ほら、ちゃんとお礼言って」

女の子「ありが……とう。お姉ちゃん、お兄ちゃん」

栞奈「こんなとこ走ったら危ないから、気を付けるんだよ〜?」

一輝「気をつけてな」

女の子「うん……」

母「電車来ちゃったから行きましょ。それでは」ペコリ

栞奈「バイバーイ」フリフリ

一輝「……」


「ばいば〜い」


栞奈「かわいいね〜。って、妹ちゃんは?」

一輝「あっちで親に電話してる」

栞奈「離れちゃ危ないでしょ。近くに居なきゃ」

一輝「おまえが無茶ぶりしたせいだろ。ってか、やらせんなよ」

栞奈「まぁまぁ。あの子も泣き止んで良かったじゃん?」

一輝「まぁ、いいけど」


日向「くっ……ぐぁぁあっ……痛いッ」

結月「……」

報瀬「ふふっ」


一輝「やっぱり良くないわ」

栞奈「あははは! お腹痛い! 傑作だったよあの演技! あっはっは!!」


マリ「えぇぇぇえええ!?」


一輝「なんだ、どうしたんだ?」

栞奈「くふっ……さぁ?」


マリ「いつも逆の方向に行くんだからー! もぉー!」

栞奈「どうしたの?」

日向「幼馴染が『富士山見てくる』って伝言残して出発したんだってさ」

栞奈「ふぅん……」
423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 17:34:07.78 ID:GYsMFmGgo

リン「お姉ちゃんにメッセージ送ったって言ってたよ?」

マリ「気付いてたけど、南に行ってくるって意味が分からなかったんだよ……。
   それを聞こうと思ってたのに……」

リン「あ、私もう時間だから行くね」

マリ「見送るよ」

リン「いいよ、ここで。それでは、みなさん。とても短い間でしたが楽しかったです」

報瀬「こちらこそ。気を付けて帰ってね」

結月「また連絡するからね」

リン「はい。いつもありがとうございます。姉をよろしくお願いします」ペコリ

日向「おー、またね〜」

栞奈「まーたね〜」

マリ「見送って来るね」

リン「だから、いいって言ってるのに。どうせ明日の夜にはお家で会うんだから」

マリ「いいからいいから」

リン「地元に帰るだけなのに……」

スタスタ...

みこと「……」

結月「私も見送ってきますね」

日向「寄り道しないでまっすぐデネブに戻ってくるようにな」

結月「大丈夫ですよ、時間もありますから」

日向「よく思い出せ、ゆづ。そう言って結局走ることになった今までを……」

結月「……ですね。分かりました」

テッテッテ...

報瀬「明日か……」


妹「じー……」


報瀬「……?」


妹「似てる……やっぱりマネさんに似てる」


報瀬「……」


一輝「だから、失礼なことするなってっ」

報瀬「されてないけど?」

一輝「……はい」


栞奈「ぷっ、くふふっ」

日向「どんな人なんだろうな……」


秋槻「おはよう」


一輝「おはようございます」


秋槻「長いとまでは言えないけど、短くもない時間だったね」

一輝「そうですね、福岡からだから……まぁ、それくらいには」
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 17:35:58.66 ID:GYsMFmGgo

秋槻「楽しかったよ、ありがとう」

一輝「俺も、楽しかったです。秋槻さんが居なかったらどうなってたか」

秋槻「それは俺も同じかなぁ。同性として助かった部分はたくさんあったよ」

一輝「仕事、応援してますから」

秋槻「うん、ありがとう。どこかで名前を見られるように頑張るよ」

一輝「なんなら自慢できるくらいには」

秋槻「あはは、そうだね。知り合いなんだって言われるくらいになりたいね」

一輝「お元気で」

秋槻「うん、君も、元気でね」

一輝「はい」


日向「……終わりかっ!」


秋槻「男同士はこんなものだよ」

一輝「うん」

秋槻「ちょっとコンビニ行ってくるよ」

みこと「遅れないで……?」

秋槻「分かってる。すぐ戻るよ」

スタスタ...


報瀬「元気でね」

一輝「はい」


報瀬「……」

一輝「……」


日向「男同士より短いな!?」


栞奈「うぅ、ぐすっ……一輝ぃ、寂しいよぉ〜」シクシク

一輝「ウソ泣き止めろ」

栞奈「ちょっと、感動の別れを壊さないでよ!」

一輝「壊してるのお前だろ! 過剰演出してないで普通にしてくれ」

栞奈「じゃあ思い出話でも……。一輝が女装して駅前で踊ったのは笑ったな〜」

一輝「そっちは明日降りるんだっけ? 群馬だったか」

日向「そうだけどさ……」

妹「兄ちゃん……」

一輝「距離で考えたら結構あるんだけど、時間で考えたらあっという間なんだよな」

日向「妹にはリアクションしてやれっての……。時間と距離か……そんなものなのか?」

一輝「まぁ、移動中に色んな事あったから、短く感じただけなのかもな」

みこと「相対性理論?」

一輝「難しいことは知らんけど」

日向「大村はなんか変わったな。最初は仏頂面してたのに」

一輝「コンビニで3人でカップ麺食べてるの見て、変な奴らって思ったからな」

日向「あはは、あったな〜」
425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 17:38:18.75 ID:GYsMFmGgo

栞奈「料理長とリンゴの皮むき勝負は意外な結末だったよ〜」

一輝「まぁ、元気で。楽しかったよ」

日向「お、おう。大村がそんなこというなんて、驚いた」

一輝「最後だからな」

妹「どうなったの、兄ちゃん?」

一輝「そんな勝負は無かったんだよ。この人間が言うことは6割がた嘘だからな?」

栞奈「私の打率はそんなものだからね」

一輝「化け物かお前は」

栞奈「それじゃあさ、一輝」

一輝「?」

栞奈「野球、始めなよ」

一輝「――!」

栞奈「いつもイライラして、仏頂面してるのは我慢してるからじゃない?」

一輝「……」

栞奈「我慢を止めて、走り出したらどうなるか私は知りたい」

一輝「……」

栞奈「一輝が球場で活躍してたら、私は間違いなく感動するよ」

一輝「……ハァ、お前は赤の他人じゃないだろうが」

栞奈「あー……それもそうだね」


報瀬「?」

日向「何の話だ?」

みこと「赤の他人が実際にあった話に感動できるのかどうかって話……」

報瀬「当事者以外は感動できないってこと?」

みこと「うん……栞奈さんが言ってた」


一輝「ふぅぅ……はぁ……そうだな」

妹「……兄ちゃん?」

一輝「あのな、藍……俺……部活で遅くなると思うんだけど、いいか?」

妹「……」

一輝「これから本気で始めるから、毎日だな」

妹「……」

一輝「今までの時間を取り戻すにはそうでもしないと絶対に足りないから――」

妹「うん」

一輝「……いいのか?」

妹「うん、いいよ」

一輝「一人でいる時間が多くなるし――……いや、うん、ありがとう、藍」

妹「毎日応援しに行くから寂しくないよ!」

一輝「家から高校までそんなに近くないだろ……。でも、ありがとな」ワシワシ

妹「えへへー」
426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 17:39:28.62 ID:GYsMFmGgo


栞奈「ぐすっ……甲子園優勝するなんて……すごい約束しちゃったね……」

一輝「してない」

栞奈「してないね」

一輝「……けど、それくらいの気持ちでやらないとな」

栞奈「あ……うん」

一輝「ありがと、栞奈」

栞奈「う、うん……」

一輝「……なんだよ、どうした?」

栞奈「な、なんか……照れちゃって……いきなり礼なんて言わないでよね、バカ」

一輝「……なんなんだよ、お前は…」


日向「にひ……」ニヤニヤ

報瀬「どうしたの、日向? 気持ち悪い笑い方して?」

日向「気持ち悪い言うな!」

みこと「……」


マリ「ただいま〜……あれ?」

結月「どうしたんですか、二人とも?」


一輝栞奈「「 別に…… 」」


一輝「真似すんなよ」

栞奈「あははっ、言うと思ったんだよね!」


妹「じー……」


秋槻「よかった、まだ間に合った」

みこと「?」

秋槻「これを、渡したかったんだ」


一輝「俺に……?」

栞奈「なんですか?」


秋槻「ネットの記事。昨日のなわとび大会のことが書かれてるよ。君たちのことがね」


日向「え、どれどれ!?」

報瀬「見せて!」

一輝「ち、近いですから!」

栞奈「ちょっと、動かさないで一輝!」

秋槻「はい、もう一つ」

マリ「ふむふむ、コラム?」
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 17:44:07.61 ID:GYsMFmGgo

結月「なんて書かれているんですか?」

みこと「『満足の0回』」

マリ「『夏の夕暮れ。少しずつ寂しさを感じさせる焼けた空に笑い声が響いて行く――』」

『 先日、金沢城公園にてなわとび大会が開催された。
  数年前に旅行者が子供たちと仲良くなわとびをしていたことからこの大会が開催されるようになった。
  今年も近所の児童会を中心とした大会の参加者達が思い思いに縄を飛び越えて行った 』

『 今年の最後の挑戦者チームは、玉木マリさん率いる超特急デネブの乗客たち10名。 』 


日向報瀬結月「「「 ん? 」」」

栞奈「引っかかるのは分かるけど、先を読もうよ?」


『 ギネス記録を目指すと全員が気合を入れて、掛け声とともに縄が回り始める。
  しかし、次に縄が回ることは無かった。
  脚に引っかかり失敗してしまったのだ。記録は0。
  司会者がもう一度挑戦することを促す。会場に居た誰もがそうすると思っただろう。
  玉木マリさんは言う。 』

マリ「『きっと、世界記録を出しても、誰か偉い人に賞状を渡されても、
    こんな気持ちにはなれないんです。
    だからこれでいいんです。みんなで一つになった今のままでいいんです。
    私たちの記録は0回です!』」

『 と、笑顔を残したまま会場を後にした。
  夕暮れに秋の気配を感じたが、今年の夏はまだまだ終わらなさそうだ。 』
    

栞奈「ほぉ……」

一輝「こんなこと言ったのか……」


マリ「……?」


日向「『言ったっけ?』って顔してるけど、どうなんだ?」


マリ「言った……ね、うん。言ったよね……?」

報瀬「いや、私はそのとき近くに居なかったから」

結月「あ、でも……誰かと話をしてたのは覚えてます」

マリ「じゃあ言ったんだよ」

日向「じゃあってなんだよ。自信無いんか」

みこと「……みんな、笑ってる」

妹「兄ちゃんも笑ってるね」

一輝「うん……」

秋槻「俺は苦笑いだけどね……。それだけじゃないよ、後ろにいる人たちも笑ってるでしょ」

結月「あ、本当ですね」

日向「応援してくれた人たちも」

報瀬「みんな笑顔……」

みこと「キマリさんの言葉、この写真を見たら納得できるよ」

マリ「……うん!」

428 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 17:46:08.84 ID:GYsMFmGgo

一輝「……そろそろ、時間だな」

妹「……」


報瀬「……」

結月「……」

日向「じゃあ乗るか」

栞奈「じゃあね、一輝。走って追いかけたりしないでよ、危ないから」


一輝「誰がするか」


報瀬「元気で。楽しかった」


一輝「……はい。それでは」


みこと「楽しかった……です。ありがとう……ございました」ペコリ


一輝「これから先、気をつけてな」


マリ「それじゃ、元気でね。また、どこかで逢えたらいいね」


一輝「……うん。……みんなのおかげで楽しかった。元気でいてくれ」


日向「じゃ、な」スッ


一輝「……」スッ


ギュッ


日向「おぉ、意外と大きい手だな」


一輝「一応、野球やってるから」


日向「ははっ、そうだったな。じゃあな〜♪」


一輝「じゃあ、な」


結月「えっと、色々とありがとうございました」


一輝「なにもしてないけど。……――あのさ」


結月「……はい?」



日向「ひぃ、痛たた……アイツ、ちょっと力込めやがって〜」

マリ「男の子だからね」

報瀬「キマリがちゃんと乗り込んでると感動するかも」

みこと「うん」

マリ「うんって、みこっちゃん!」

栞奈「……ん?」

日向「どうした?」

栞奈「なにか、渡してる?」

みこと「結月さんに……?」
429 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 17:47:41.09 ID:GYsMFmGgo


結月「……ふぅ」

マリ「結月ちゃん、顔真っ赤だけど、どうしたの?」

結月「え、いえ……なんでも?」

栞奈「……」

報瀬「なにか渡されたの?」

結月「い、いえ……なんでもないですって」

日向「ふぅん……?」

栞奈「…………」



秋槻「――……それは賭け?」

一輝「賭けというか、そうなるだろうなっていう、確信みたいなものですね」

秋槻「今渡さないのはどうして?」

一輝「アイツの足を引っ張りたくないので……」

秋槻「そっか、そっかぁ。
    うん、見届けられないのは残念だけど、二人の未来を俺も信じるよ」

一輝「そ、そんなじゃないですけど」

妹「兄ちゃん、顔真っ赤〜」

一輝「うるさい。それじゃ、秋槻さん、さっきも言いましたけど、お元気で」スッ

秋槻「うん、お互いこれからも頑張ろう」スッ


ギュッ

一輝「さようなら、ですね」

秋槻「うん、さようなら」


prrrrrrrrrr



妹「またね、じゃないの?」

一輝「秋槻さんとは、もう逢えない気がする」

妹「なんで?」

一輝「大人だから、かな。進む方向が別々だから、な」

妹「みんなは?」

一輝「逢えそうな気がする」

妹「なんで? 子どもだから?」

一輝「分からん。どこかで逢えるといいなって思ってるからかな」



プシュー


ガタン

 ゴトン
430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 17:50:44.05 ID:GYsMFmGgo

―― デネブ


ガタン

 ゴトン


秋槻「どうしてかな……さようならって言葉がしっくりきたんだよ」

みこと「どうして?」

秋槻「もう逢えないって、思ったのかも……」

みこと「……」

秋槻「お互い、そう感じたのかもね」

マリ「何があるか分からないから人生。だから面白い」

日向「だそうですよ」

秋槻「あはは、そうだね。さて、俺も準備するかな。じゃあね」

スタスタ...

報瀬「……最後、か」

結月「――……」

栞奈「……」

日向「さぁって、私らはどうする?」

マリ「次、どこだっけ? 松本だ!!」

日向「疑問から回答まで一瞬だったな! そうだ松本だ!」

報瀬「……松本城」

日向「なんで城がまっさきに来るんだよ!」

マリ「城マニアだったんだ」

みこと「今まで一番だった城は?」

報瀬「首里城?」

マリ「沖縄行ったことあるの?」

日向「え、いつだよ? 飛行機乗ったのアレが初めてだったんだろ?」

報瀬「テレビで……観たけど?」

日向「直で見たかのように言うから……」

報瀬「首里城? って疑問形で言ったでしょ」

日向「そういえばそうだったな。……なぁ、このやり取り意味あるのか?」

みこと「無いと思う」

マリ「私もテレビで観たけど、首里城って城って感じじゃないよね」

日向「もう城の話はいいから行くぞ〜」
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 17:53:12.14 ID:GYsMFmGgo


栞奈「……」


みこと「あの、栞奈さん……」

報瀬「行こう、みこと」

みこと「う、うん……」

日向「相棒が降りたんだ、色々と思うところもあるだろう」


結月「…………」


マリ「そうだね。……結月ちゃんも行くよ〜?」

結月「は、はい」



……




―― 展望車


マリ「あ、そろそろ富山駅だよ」

報瀬「なにかあるの?」

マリ「リンが乗った列車を追い越すんだよね。見つけられるかな?」

日向「無理だな」

結月「次、糸魚川でしたっけ?」

報瀬「うん。30分停止」

みこと「松本は、キマリさん達の地元?」

報瀬日向「「 違う 」」

みこと「?」

マリ「みこっちゃん、大きく括ったでしょ?」

みこと「うん……? 群馬がどこにあるのかも分からない?」

報瀬「待って、実際に地図見た方が早い」ポチポチ

マリ「松本は長野だから」

報瀬「ここ、ここが群馬だから」

みこと「……うん」

日向「ちゃんと覚えるように。テストに出るからな」

結月「なにをそこまで熱くさせるんでしょうか」

マリ「北海道はいいよね、絶対に間違えられることないもんね」

結月「なんか……すいません……」

日向「謝ることじゃない。別に怒ってる訳じゃないからな。
    ただ、影が薄いからと覚えてもらえないのは憤りを覚えますな」

報瀬「それはあるかも」

マリ「うむうむ、覚えますね」

結月「怒ってるじゃないですか」
432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 17:56:25.65 ID:GYsMFmGgo

みこと「鳥取と島根と同じくらい難しい」

日向「しまね、か……」

報瀬「とっとり……ね」

マリ「……えっと?」

結月「3人とも鳥取と島根の人に怒られてください」

日向「なんだよ、ゆづは知ってるのか!? 地図を指してみろ!」

結月「ここですよ、鳥取! その隣が島根です!」

マリ「本当かなぁ? それでは、県名表示オープン!」

報瀬「はい」ポチ

みこと「……当たってる」

日向「ところで、さっきアイツからなにを受け取ったんだ?」

結月「誤魔化さないでくれませんか」ズイ

日向「ハイ、スイマセン」

結月「……なんていうか、どう判断したらいいのか分からないんですよね」

報瀬「うん?」

マリ「どういうこと?」

結月「明日の――」


ウィーン


栞奈「やぁやぁ、みんな。朝日を浴びて走る列車のなんと美しいことか」

日向「適当なこと言ってるな……。ゆづ、それで?」

結月「いえ、そういうことです」

報瀬「え?」

マリ「???」

みこと「……?」

栞奈「おや、話し中だったかい?」

結月「ちょうど終わったところですよ」

日向「……」

栞奈「あり、お邪魔だった?」

結月「いえいえ、気にしないでください。観光地を考えてただけなので」

マリ「え、でも――」

日向「みんなに言っておきたいことがあるんだ」

報瀬「どうしたの、いきなり?」

日向「私、もう金欠で動きが制限されてしまうんだよぉ!」

マリ「それは大変だ!」

報瀬「まぁ、それは私もだけど」


タタン 
 タタン


みこと「…………」
433 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 17:58:16.24 ID:GYsMFmGgo

結月「リーズナブルなお店でも探しましょうか」

マリ「ご飯もいいけど、観光地も考えないとね。みんなどこ行きたい?」

報瀬「松本城の近くに旧開智学校校舎がある」

日向「昔の学校か、いいねぇ」

栞奈「歴史的好奇心旺盛でいいんじゃないかな」

日向「なんだその言葉」


みこと「キマリさん」


マリ「うん? どうしたのみこっちゃん、行きたい場所ある?」

みこと「……富山駅過ぎたよ?」

マリ「ええぇぇええええ!?」

栞奈「富山駅になにがあったの?」

マリ「リンが居たんだよ……! みこっちゃん、早く言ってくれないと!」

みこと「ごめんなさい……?」


「結月ちゃ〜ん」


結月「さくらさんが呼んでるから行きますね、それでは」スッ

スタスタ...


栞奈「結月ちゃんの車掌服姿、明日までだもんね。私も付いて行こう〜♪」

テッテッテ


報瀬「栞奈って、次で降りるんだよね?」

日向「うん、確かにそう言ってたよな……」

マリ「結月ちゃん、なにを言おうとしてたんだろう?」

日向「栞奈のことだろ。どういうことなのか、大体察しは付いたけど」

みこと「うん」

報瀬マリ「「 ? 」」


……


434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 18:00:16.74 ID:GYsMFmGgo

―― 売店車


店員「いらっしゃいませ〜」


マリ「松本の観光ガイドください!」

店員「はい、どうぞ〜」

マリ「ありがとうございます!」

みこと「……」

マリ「どこ行こうか? 温泉もあるんだって」

みこと「次で、最後なんだよね」

マリ「うん、そうだね〜。だから、思い出深い場所にしたいよね」

みこと「キマリさん、どうして東京まで行くの?」

マリ「結月ちゃんの付き添い、かな? 結月ちゃんの最初から最後まで一緒に居たいからね」

みこと「……それなら、その次、は?」

マリ「次?」

みこと「仙台……まで」

マリ「うーん……。仙台……行ってみたいけど……。みこっちゃんも東京まででしょ?」

みこと「うん……」

マリ「もしかして、旅を続けたくなった?」

みこと「うん……終わりたくないなって」

マリ「そっかぁ……」

みこと「キマリさんが行くなら……私も……」

マリ「うーん……そうだなぁ……」


日向「どうした、難しい顔して?」


みこと「部屋の片付け、終わったの?」

日向「終わった終わった〜。というより、あまり散らかってないからな、キマリと違って」

マリ「そんなことないよ!」

日向「それじゃ、個室を拝見してもよろしいですか?」

マリ「え〜っと、一時間待ってくれる?」

日向「そんなことあるんだよな」

みこと「ふふ」

マリ「あ、笑った。みこっちゃんひどい〜!」

報瀬「何やってるの、こんなところで?」

日向「いや、別に」

報瀬「観光ガイド買ったんだ? 見せて」

マリ「はいよ」

日向「食べ物だけじゃなくて、いい景色が見たいな〜」

報瀬「此処に居ると邪魔になるから移動しましょ」


……


435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 18:01:46.26 ID:GYsMFmGgo

―― 4号車


マリ「こっちで撮影してたんだね、結月ちゃん達」

報瀬「栞奈、変な顔してる」

みこと「ボーっとしてるのかな」

日向「しょうがないな……。おーい、栞奈〜」


栞奈「……?」


日向「ちょっと話あるからこっち来てくれ〜」


栞奈「なになに、どうしたの?」

報瀬「なにかあったの、ボーっとしてたけど?」

栞奈「ううん、なにも〜?」

マリ「栞奈ちゃん、次で降りるんだよね?」

栞奈「そのつもりだったけど、最後まで行こうと思ってね〜♪」

みこと「稚内まで?」

栞奈「その通り〜」

日向「気になってたんだけど、地元が稚内なのになんで松本で降りる予定だったんだ?」

栞奈「試験があってさ〜、それに受けるつもりだったんだよね〜」

報瀬「……ということは、受けないってこと?」

栞奈「ま、そういうこと。後で挽回すればいいから問題無いさ」

マリ「うん、そうだよね。後で頑張ればいいもんね!」

日向「普段から勉強してる人が言える台詞だからな、キマリ」

マリ「うっ……」

みこと「……最後まで…」

マリ「……」

栞奈「よかったらみんなも行こうよ〜」

日向「私は出来ないんだよ。予定入ってるし、バイトもあるからな」

報瀬「私も、おばあちゃんが心配するし」

栞奈「え〜、一生に一度の経験だよ、冒険だよ?」

日向「それはそうなんだけどさ」

マリ「あっ、見て外」

みこと「どうしたの?」

報瀬「海……。日本海だ……」

日向「おー……いいねぇ」

みこと「太平洋と違って、なんだか寒いイメージがある」

マリ「あ、分かる分かる」


栞奈「……みんなと一緒なら……絶対に楽しいんだけどな」


報瀬「栞奈……」

日向「……」

マリ「…………」

みこと「……うん」
436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 18:03:32.15 ID:GYsMFmGgo

栞奈「あっ、今の無し! なんだからしくないとこ言っちゃったよ! あははっ」


報瀬「……」

日向「……」

マリ「……」

みこと「……」

栞奈「ごめーん、変な空気にしちゃって」

報瀬「きっと、他の人が乗って来るよ」

日向「うん、そうだな。まだ見ぬ誰かと楽しめればいいじゃん?」

マリ「……」

みこと「……代わりは居ないよ」

マリ「みこっちゃん……」

栞奈「そうなのだ。君たちの代わりは存在しない! なーんて。
   前に観た映画の台詞を言ってみたりして」

報瀬「……」

日向「……」

栞奈「うーん……なんか変だね、私。……ちょっと向こうに行ってくるよ」

スタスタ...


報瀬「無理してるみたい」

日向「頭の中がごちゃごちゃしてるんじゃないかな。
   なにか抱えてるみたいだけど、私たちには何も言ってないからな」

マリ「私たちには?」

日向「相棒には話してたんじゃないか? 想像だけどさ」

マリ「あぁ……うん、そうだね、きっと」

みこと「話、聞く?」

報瀬「ううん、私たちからは聞かないでおこう」

日向「そうだな。今まで話さなかったのは自分の問題だって思ってるからだろう」

マリ「待っていよう」

みこと「……うん」

ガタン

 ゴトン


日向「お、減速したみたい。そろそろ着くかな?」

マリ「リンは半日かけて地元に帰るって言ってたけど……デネブちゃんならあっという間だね」

報瀬「半日もかかるの?」

マリ「みたいだよ〜?」

みこと「糸魚川って海が近くにあるんだよね……?」

報瀬「そうみたいだけど?」

マリ「もしかして、行ってみたいの?」

みこと「……」コクリ

日向「いやいや、無理だって……停車時間30分しかないんだから」


……


437 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 18:04:35.48 ID:GYsMFmGgo

―― 糸魚川駅


プシュー


マリ「ハッ!」

シュタッ


マリ「糸魚川、降臨!」

結月「遊んでる場合じゃないですよ、キマリさん!」


日向「スタァァアアアット!!!」


栞奈「よっしゃああ!!!」ダッ

みこと「……ッ!」ダッ

報瀬「……フッ!」ダッ

タッタッタ


マリ「あぁっ、待って!」


栞奈「報瀬っ、出口はどこ!?」

報瀬「日本海口があるからっ、そこっ!」

結月「あっ、ありました! あっちですよ!」

みこと「……っっ」

タッタッタ


日向「キマリー! ちゃんと付いてきてるか〜!?」


マリ「うん〜! 大丈夫〜!!」


駅員「……?」


報瀬「はいっ、乗車証です!」


駅員「はい、どうぞ」


栞奈「どうも〜!」


結月「失礼します!」


駅員「ん? 車掌服……?」


日向「通りまーす!」


みこと「ふぅっ、ふぅ」


マリ「よし、私で最後だね! レッツゴー!!」


駅員「……デネブの乗客……だよな?」
438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 18:06:24.71 ID:GYsMFmGgo

―― ヒスイロード


タッタッタ


報瀬「こっちであってるんだよね!?」

栞奈「うん! 標識にも日本海ってあったから大丈夫!!」

結月「はぁっ、はぁっ」

栞奈「結月ちゃん、そんな格好で走るなんてダイタ〜ン♪」

結月「いいじゃないですか、着替えてる暇なかったんですから!」

栞奈「悪いなんて言ってないよ、むしろ――」

報瀬「いいからっ、喋ってないで走って!」

タッタッタ


日向「みこと〜、大丈夫か〜!?」


みこと「はふっ、はうっ」

マリ「大丈夫だよみこっちゃんっ、歩いて5分の距離だからね!」


日向「キマリは自分のペース守っててくれ、みことは私が見てるから!」


マリ「イエスマム!」


みこと「ふぅっ、はぁっ」


日向「よしよし、みことも走ることに集中するんだ」


タッタッタ


マリ「日向ちゃん、カメラ持つよ!」

日向「そうだな、任せた!」

マリ「よーし、前を走る3人を追いかけ――……って、速いっ!?」

タッタッタ


―― 日本海


報瀬「ふぅ……意外と……近かった」

栞奈「はぁふぅ……全力で走ったからね」

結月「はぁはぁ……ふぅ……」

報瀬「日本海……」

栞奈「この海に……あの美味しい魚たちが泳いでいるんだ……」

結月「ロマンの欠片もないですね」


マリ「防波堤に立つ3人……絵になるなぁ」ジー

439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 18:07:40.84 ID:GYsMFmGgo

結月「よいしょっ」ピョン

シュタッ


栞奈「あれ、もう見ないの?」


結月「人の目がありますから」


栞奈「旅の恥はかき捨てだよ」


結月「私はそうもいかないんです。どうぞ、捨て続けてください」


報瀬「……」


マリ「よいしょっ……おぉ、これが日本海!」


栞奈「後の二人は?」

マリ「もうすぐ来るよ」

報瀬「ゆっくりもしてられないんだけど……」


結月「あ、来ましたね」


日向「車来ないな、今がチャンスだ、渡るぞみこと!」

みこと「う、うんっ」

タッタッタ


日向「よいしょ、っと」

報瀬「みこと、手」

みこと「う、うん」

報瀬「……」グイッ


日向「日本海、到着!」

マリ「これが海です」ジー

栞奈「いいねぇ、みんなと並んで海を見る。青春だね!」

みこと「日本海……」

報瀬「どう?」

みこと「列車の中から見るのとは違う……」

結月「匂いと風……五感で海を感じているみたい」

栞奈「恥を捨てに来たのかい?」

結月「私だけ下に居るのは嫌でしたから」

栞奈「素直でかわいい〜」

結月「…………時間ですよ?」

マリ「もう!?」

報瀬「それじゃ、行こう。出発に遅れたら洒落にならない」

日向「日本海、出発!」
440 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 18:09:22.86 ID:GYsMFmGgo

―― ヒスイロード


みこと「みんなっ……さきに……行ってていいのに……っ」

報瀬「大丈夫、時間に余裕はあるから」

日向「歩いても間に合うけど、一応走ってるわけだから平気〜」

結月「うん……心配しないでいいから」

タッタッタ


マリ「友情です」


報瀬「なんで撮ってるの?」


マリ「これを撮らずになにを撮るのか、と日向ちゃんが」


栞奈「なんか、あの曲が流れそうな雰囲気だね」

日向「どの曲だよ。キマリ、カメラ交代するから、貸して」

マリ「はいよ」

タッタッタ


結月「時間はまだ余裕ですね」

報瀬「なにがあるか分からないから出来るだけ急ごう」

栞奈「そうだね……。あ、駅が見えてきた」

みこと「はぁっ……はぁっ」

マリ「日本海、見られて良かったね〜」

みこと「うんっ……良かったっ」

日向「感想は後だ。呼吸乱すと走りにくくなるぞ」

タッタッタ

栞奈「大丈夫だって、もうすぐそこなんだから」

マリ「そうだよ、日向ちゃん〜」

タッタッタ

報瀬「……キマリに付いて行って大丈夫なの?」

結月「私も今、ふと疑問に思ったんですよ」

日向「なぁ、キマリ……」

マリ「うん?」

タッタッタ

日向「なんか、違うとこ走ってないか?」

マリ「なんで?」

みこと「はあっ、はぁっ」

日向「行きと帰りの時間感覚がおかしい気がするんだけど?」

マリ「そうかな?」

栞奈「あれ、駅の横回り込んでない?」

マリ「……?」

報瀬「うわっ、駐車場じゃないここ!」

日向「戻れ戻れ!!」
441 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 18:11:11.22 ID:GYsMFmGgo

結月「な、な……!?」

みこと「えっ?」

栞奈「私たち入り口から逆に向かって走ってたんだよ!」

みこと「う、うそ……!」

マリ「…………」

タッタッタ

報瀬「なんで誰も気づかないで左に曲がったんだろう……!」

タッタッタ

結月「キ、キマリさんが自然に先を行くので安心してました……!」

タッタッタ

日向「どれだけロスしたんだ……!?」

タッタッタ

栞奈「うーん……2.3分だけど……」

タッタッタ

報瀬「それなら平気でしょ」

タッタッタ

日向「呑気に言ってくれるな……!」

みこと「はっ、ふっ、はっ」

日向「とにかくペースを崩さず走り続けるんだぞ、みこと……!」

みこと「う、うんっ」

マリ「……」

タッタッタ


―― 糸魚川駅


報瀬「着いた!」

栞奈「階段だ、昇れ昇れ〜!」

結月「うぇ……!」

マリ「……」

報瀬「さっきからキマリが静かなんだけど……」

日向「みことっ、辛いときほど前を向け!」

みこと「は、はいっ」

報瀬「なんか、部活やってるみたい」

栞奈「最後の奴はグラウンド10周追加!!」

マリ「……!」

ダダダダッ

結月「あ、本気出しましたよ……!」

報瀬「キマリにだけは負けないッ!」

ダダダダッ

栞奈「階段踏み外さないように気を付けてよー!?」

日向「ほんと、怪我だけはするなよ〜?」

みこと「ふっ、はっ」

タッタッタ
442 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 18:13:23.44 ID:GYsMFmGgo

―― デネブ


キマリ「ぜぇぜぇ……っ」

報瀬「ふぅ……間に合った……」

結月「はぁ……大変でしたね……」

栞奈「でも楽しかった。誘ってくれてサンキュッ」

キマリ「ぜぇはぁぜぇはぁ」

報瀬「みんなで行った方が楽しいからね、って言ってる」

結月「本当にそう言ってるんですか?」

キマリ「ぜぃぜぇはぁはぁ」コクコク

栞奈「お、みことちゃんと日向も到着だ」


日向「おーし、着いたぞみこと! よく頑張ったな!」

みこと「ぜぇはぁぜぇはぁ」

栞奈「え? ジャンボパフェが食べたいって?」

みこと「ぜぃぜぇはぁはぁ」フルフル

栞奈「じゃあ、行こうか」

結月「首振ってましたよ」


prrrrrrrrrr


報瀬「……結構ギリギリだったのね」

日向「キマリが間違えなければ余裕だったんだけどな……って、本人どこ行った?」

みこと「中に……はぁ……入って行ったよ……ふぅ」

報瀬「逃げ足は速いんだから……」

結月「汗拭かないと風邪ひきますね」

栞奈「冷房効いてるから気を付けてね、みんな」


……


443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 18:14:21.44 ID:GYsMFmGgo


―― 娯楽車


ガタン

 ゴトン


キマリ「ぐぬぬぬ……よしっ!」

バババババーン


キマリ「ボス倒したー! やったー!」


みこと「キマリさん」


キマリ「みこっちゃん? どうしたの?」

みこと「秋槻さん……見なかった?」

キマリ「さっき食堂車で料理長と話してたよ。なんで?」

みこと「見かけないなと思って……用事は無いんだけど」

キマリ「ふぅん……。よぉし、残機はまだ余裕、このステージもクリアしちゃうもんね」

みこと「……」


……



―― 2号車


みこと「報瀬さん」


報瀬「あ、みこと」

みこと「秋槻さん、見た?」

報瀬「さっきまで1号車で栞奈と話してたよ。『どこまで行くのか』って。
   邪魔したら悪いと思って声かけなかったけど」

みこと「……そうなんだ」

報瀬「話でもあった?」

みこと「ううん、そういうわけじゃないよ」

報瀬「ふぅん……」


……


444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 18:17:09.28 ID:GYsMFmGgo

―― 展望車


みこと「……」


結月「みこと……? どうしたの?」


みこと「仕事中?」

結月「ううん、終わったところ。今日はあと、観光地で撮るだけ」

みこと「……そうなんだ」

結月「なにか用事あった?」

みこと「秋槻さん見たかなって」

結月「さっきまでさくらさんと話してたけど……いつの間にか居なくなってた」

みこと「……」

結月「さくらさん、驚いてたような気がするけど……何の話だったんだろうね」

みこと「そうなんだ……」

結月「糸魚川出発してから、山と山の間をゆっくり走ってていいよね」

みこと「こういうところがいいの?」

結月「というか、珍しいのかも。さっき放送で車掌さんが湖の話してたの聞いた?」

みこと「うん。キマリさんと窓から見たよ」

結月「水上スキーって言うの? 楽しんでいる人がいたよね」

みこと「キマリさんがやってみたいって言ってた」

結月「……みことは?」

みこと「……私?」

結月「みことはやってみたいって思わない?」

みこと「うん……」

結月「水上をボートに引っ張られていくの、楽しそうじゃない?」

みこと「結月さんはやってみたいの?」

結月「私は……そうでもないけど……みんなで一緒にやってみたいって思う」

みこと「みんなとなら、私も……」


結月「……」

みこと「……?」


結月「みことは、あの時――
    食堂車でインタビューを受けた時、どんな気持ちで答えていたの?」

みこと「……え?」

結月「秋槻さんとディナーを楽しんでいるとき、私たちが邪魔したでしょ?」

みこと「……」

結月「言ってみて? どんな気持ちだったのか」

みこと「どうして?」

結月「みことは、人と自分の気持ちを重ねることが出来る、いい子だって思う」

みこと「……」

結月「でも、自分の気持ちを出せたら、もっと――……何て言うんだろう……」

みこと「……」
445 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 18:18:52.19 ID:GYsMFmGgo

結月「もっと――世界が広がるんじゃないかって思ったから」

みこと「世界……」

結月「だから、聞かせて?」

みこと「あの時――……あの時は……」


みこと「秋槻さんが、お母さんの本の話をしてくれて……その本の主人公の気持ちを言ったんだと思う」


結月「……」


みこと「私も、その主人公と気持ちが重なったから」


結月「そっか……そうなんだ……」

みこと「うん」

結月「教えてくれてありがとう。それじゃ、私は着替えてくるから」

みこと「……うん」


……




―― 動力車


日向「よぉ、みこと〜」


みこと「……」


日向「どした?」

みこと「車掌さん……」

日向「車掌さんなら中にいるよ。用があるなら後にした方がいいな。
   仕事で忙しいみたいだから」

みこと「……うん」

日向「相談か?」

みこと「ううん。聞きたいことがあっただけ……」

日向「そうか〜。なら私に聞いてみ? 解決できるかは分からんけどな!」

みこと「世界が広がるってどういうこと?」

日向「ん、んん? 意外と哲学的だな?」
446 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 18:20:02.17 ID:GYsMFmGgo

みこと「さっき、結月さんと話してて……自分の気持ちを出せたら世界が広がるよって」

日向「そうか、ゆづが……」

みこと「キマリさんがよく言ってる世界?」

日向「うん、その世界だな。地球規模の話じゃなくて、
   自分の価値観とか視野とか、そういうをひっくるめての、世界」

みこと「……」

日向「あ、でも……地球規模にもなるかな?」

みこと「どうして?」

日向「自分の視野を広げるにはどうすればいいと思う?」

みこと「……沢山の世界を知る?」

日向「具体的には?」

みこと「色んな所へ行ったり、見たり聞いたりして……行動すること」

日向「そうだな、この列車の旅でしてきたことだ」

みこと「うん」

日向「あれ? みことはこの列車の旅でそれを実体験してるから、それは知ってるよな。
   ということは、ゆづの言ってる世界とは違うのか……?」

みこと「……違うの?」

日向「ごめん、分からなくなった……」

みこと「……」

日向「ごめんごめん。どうしてゆづがみことにそんなこと言ったのかよく分かんなくて」

みこと「……うん」

日向「分かることは、ゆづがみことに教えたいことがあるってことだ。うん!」

ポンポン

日向「だから、悩め若人よ!」

みこと「う、うん……」

日向「なーんて。お、建物が増えてきた。松本までもうすぐだな」

みこと「……」


……


447 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 18:22:04.36 ID:GYsMFmGgo

―― 松本駅


プシュー

マリ「よっ」ピョン

シュタッ

マリ「松本、見参!」


日向「見参て、お前……」

報瀬「あ、意外と涼しい……」

結月「昨日からずっと雨降ってたみたいですよ」

みこと「……晴れて良かった」



―― 動力車付近


車掌「確認ヨシ」


「こんにちは、この列車の車掌さんですか?」


車掌「はい、そうです。乗客の方ですか?」


「いえいえ、違うんです。娘がお世話になったのでそのお礼を――って!」


車掌「あ――……! もしかして……!!」


「つばさちゃん!?」


車掌「星奈さん!?」

星奈「うっわー! 久しぶりっていうか、綺麗になって! うっわー!!」

車掌「星奈さんこそ綺麗になって――!」


綾乃「……」


車掌「こ、こほん。どうしました、宮城さん?」

綾乃「りょ、料理長が……今日の献立を……」

車掌「はい、承りました」

綾乃「し、失礼します」

テッテッテ


星奈「ごめんね? なんか威厳を失ったみたいで」

車掌「もう……。星奈さんは相変わらずですね。娘さんにそっくりです」

星奈「あはは、そう? よくできた娘でね〜」

車掌「初めに会った時、びっくりしましたよ。
    あの頃の星奈さんがそのままいるんですから」

星奈「え〜、そんなに似てるかな?」

車掌「似てますよ。とっても」


秋槻「あ、あの、すいません」


車掌「は、はい。何かありましたか?」
448 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 18:26:29.74 ID:GYsMFmGgo

秋槻「挨拶に来ました。短い間でしたが、ありがとうございました」

車掌「はい……。当特急ヴェガへのご乗車誠にありがとうございました」

秋槻「とても楽しく旅が出来て良かったです。
   時間が流れていることを思い出せました」

車掌「そう言っていただけると嬉しい限りです」


さくら「さよならは言わないわよ」グスン


秋槻「あはは……。さくらさんも、お元気で」


星奈「…………」


……




―― 1号車付近


栞奈「どこが涼しいのさ?」

報瀬「糸魚川よりは涼しいでしょ」

栞奈「比べたらそれは、ねぇ……じめじめしてない?」

結月「不快感はないですけどね」

日向「こんなところで文句言ってても時間が過ぎるだけだぞキマリ〜?」

マリ「ちょっと待って、お兄さんがどこ行くか聞かないと」

みこと「うん」

日向「そうだな、夕ご飯をたかろう」

結月「よくないですよ、それ」

栞奈「時計の針を遅くする方法があるんだな〜」

日向「なんだそれ、有意義に過ごすって方法ってこと?」

マリ「教えて!」

栞奈「電池の力を使い切ればいい」

報瀬「哲学的なこと言うのかと思ったけど当たり前のことだった」

みこと「時計が遅れてるだけだよ?」

マリ「時間は遅くなってないよね?」

栞奈「そうだね」

日向「いつの間にか話が噛み合ってるな……」

結月「何の話ですか?」

日向「キマリとみことは最初話が全然噛み合わなかったんだよ」


秋槻「まだ観光に行ってなかったんだ、良かった」


みこと「……?」

キマリ「その荷物は……?」


秋槻「ここで降りるんだ」


マリ「ええぇえぇええ!?」

結月「キマリさん、声が大きいです」
449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 21:57:50.94 ID:GYsMFmGgo

報瀬「……どうしていきなり?」

秋槻「本当はもっと早く降りなきゃいけなかったんだけど、
   やりたいことやり終えたから、やるべきことやらないとね」

栞奈「やるべきこと……」

みこと「…………」

秋槻「これから急いで東京へ向かわないといけないんだ。
    時間が無いから慌ただしくて悪いけど、これでね」

キマリ「そうですか……残念だけど、しょうがないですね」スッ

秋槻「君たちのおかげで貴重な体験が出来たよ。ありがとう」スッ

ギュッ

結月「いろいろとご迷惑をお掛けしました」スッ

秋槻「迷惑じゃないよ。君たちと同じ歳の自分と比べることができて面白かったから」スッ

ギュッ

報瀬「こっちも秋槻さんのおかげで色々と楽しく旅ができました。ありがとうございました」

秋槻「……そう言ってくれると嬉しいよ」

日向「最初からずっとお世話になりっぱなしで、すいませんというか、ありがとうございました」

秋槻「繰り返すようだけど、君たちのおかげだから。ありがとう」

栞奈「いい作品は創れそうですか?」

秋槻「多分、今までの中で一番の出来になるかな。手ごたえはあるよ」

栞奈「ずっと個室に籠ってましたからね〜」

秋槻「豪華列車に乗って、観光地でも閉じこもっていた甲斐があったよ」

マリ「それじゃ期待しています!」

日向「作品になったら必ず感想を送ります!」

秋槻「そうだね……クレジットで名前が残るように頑張るよ!」

結月「あまり気を負いすぎないでください。期待値が大きすぎる気が……」

秋槻「まぁそれも今は励みになるから」


みこと「…………」


秋槻「そうだ、君には、これを譲るよ」スッ


みこと「え――……いいの……?」


秋槻「君たちがまた、逢えるようにね」


みこと「――……!」

マリ「あ――……鵲……」


栞奈「天の川の橋となった鳥だよね」

日向「おー、あの記念バッヂ」


みこと「――……」

450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 21:59:16.18 ID:GYsMFmGgo

秋槻「それじゃ行くよ。東京行きの列車がすぐ出発するから」

報瀬「はい、それでは、お元気で」

秋槻「うん、みんなも元気でね。それじゃ、さようなら――」


みこと「秋槻さん」


秋槻「……?」


みこと「好きです」


秋槻「え……?」


マリ「――!」

日向「――!?」

報瀬「え――!!」

結月「…………」

栞奈「おぅ……」


みこと「秋槻悟さん、あなたのことが、好きです」


秋槻「――……」


みこと「ぁ……ぅ……す…すき……です」


秋槻「――ありがとう」


みこと「……っっ」


秋槻「そう言ってくれて嬉しいよ」


みこと「ぁ……ぃぇ……ッッ」


秋槻「でも、ごめん――」


みこと「……ッ!」


秋槻「君は、可愛い姪っ子にしか見えないんだ」


みこと「……ぁぅ……は……ぃ」


秋槻「ありがとう。それじゃ、みんな、いい旅を――」


スタスタ...


みこと「……ぅ……ぅ……」


結月「……みこと…」


マリ「ど、どうしよう……」

日向「わ、分かんないって」

報瀬「わ、私たちが動揺してどうするのっ」

栞奈「すごいな……みことちゃん……」
451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:00:06.56 ID:GYsMFmGgo


結月「今のは、小説の内容と気持ちが重なったから出た言葉?」


みこと「……ううん。『さようなら』って言われたら終わると思ったから」


結月「紛れもない、自分の気持ちなんだよね」


みこと「うん」


結月「偉いね、みこと」スッ


みこと「ゆ…ゆづきさん……?」


ぎゅううう


結月「とても素敵だよ、みこと」


みこと「……うん……出会えてよかったよ…」


ぎゅううう



マリ「うぅぅ……」ボロボロ

日向「なんでキマリが泣くんだよぉ」グスッ

マリ「だって、だってぇ」ボロボロ

報瀬「ひぐっ、おぐっ」ボロボロ

栞奈「…………どうして、告白できたの?」


みこと「このまま別れたら……この気持ちも一緒に消えちゃうと思ったから……」


栞奈「うわぁぁあああん、みことぉぉぉ」ガバッ


みこと「ひゃぁっ!」


マリ「みこっちゃぁぁあんん」ガバッ

日向「みことぉぉぉおおお!」ガバッ

報瀬「みごどぉぉぉおぉお!」ガバッ


みこと「むぎゅうう」

結月「うっ、く、苦しい……なんで私まで……!」


栞奈「みことちゃんっ! 幸せになるんだよぉぉおお!?」

みこと「う、うん……?」



星奈「…………いい旅を、してるんだね」


452 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:01:29.02 ID:GYsMFmGgo

結月「か、観光に行きましょう……!」

マリ「そうだね! 上高地!」

日向「この時間から行けるか! 遠いわ!!」

報瀬「松本城!」

栞奈「言うと思ったけどね」

みこと「うん、みんなで、行こう……!」


星奈「ちょっといい?」


栞奈「え――……?」

マリ「ん?」

日向「誰?」

結月「誰ですか?」

報瀬「さぁ……?」

みこと「……似ている?」

栞奈「か、母さん!?」


マリ「えっ!?」

日向「か、栞奈のお母さん!?」

報瀬「に、似てる!」

結月「あぁ、本当ですね……似ています」


栞奈「どうしてここに居るの!?」

星奈「選択を聞きに来たのだよ」

栞奈「選択って――……!?」

星奈「大事な娘の将来に関わることだからね」

栞奈「――ッ!!」


日向「将来……?」


星奈「どうするの?」

栞奈「な、なにが……?」

星奈「デネブに乗り続けるのか、試験を受けるために帰るのか」

栞奈「……ッ」

星奈「帰るのなら、早く支度してちょうだい。飛行機の時間が迫っているから」

栞奈「乗り続けるよ」

星奈「それでいいんだね?」

栞奈「……うん」

星奈「後悔しないね?」

栞奈「……しない」

星奈「……」

栞奈「だから、一人で帰ってよ」
453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:03:04.68 ID:GYsMFmGgo

星奈「自分で決めたことなら、お母さん、何も言わない」

栞奈「……決めたよ、私が」

星奈「だけど、一つだけ言わせて」

栞奈「……」

星奈「お父さんの後を追うのを止めなさい」

栞奈「は……!?」

星奈「お父さんが今、どうして広島に居るのか、分かっているでしょ?」

栞奈「わ、分かってるよ……!」

星奈「家族と離れて一人でも頑張れるのは覚悟があるからよ」

栞奈「わ、私に覚悟が無いって言いたいの……!?」


結月「か、栞奈さん……」

報瀬「あんなに余裕のない栞奈見るの初めて……」

日向「うん……」

マリ「…………」

みこと「……」


星奈「無いでしょ」

栞奈「はぁ……!? なんで言い切れるわけ!?」

星奈「デネブは逃げるための道具じゃないのよ」

栞奈「――ッ!!」


みこと「そ、そんな言い方あんまりです……!」

マリ「み、みこっちゃん、ダメ……!」


星奈「悪いけど、家族のことに口出ししないでね」

栞奈「友達にそんな言い方しないでよ!」

星奈「言わせてるのはあなたでしょ」

栞奈「なんでそんな嫌な言い方するわけ!?」

星奈「お父さんもね、あなたと同じ歳に悩んでたの」

栞奈「……っっ」

星奈「『親が敷いたレールの上を歩くのは嫌だ』って」


星奈「それでも自分で決めたの。だから、今ままでも、今でも頑張れているの」


星奈「あなたに、その覚悟は無い」

栞奈「だからッ! なんで言い切れるわけ!?」

星奈「流されているだけだからよ」

栞奈「――ッ」

星奈「このまま乗り続けて、お父さんと同じ道を進んで、挫けそうになった時」


星奈「栞奈、あなたはこの旅を言い訳にしないでそれでも進んでいける?」


星奈「あの時、こうしていたら、ああしていれば、なんて言わずに――」

栞奈「もう、いい……分かったから」

星奈「……」
454 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:04:35.75 ID:GYsMFmGgo

栞奈「父さん、可哀想だった……っ」グスッ

星奈「……うん」

栞奈「あんなに、たくさんの人を救ったのに……それなのに……っ」

星奈「うん」

栞奈「父さんのせいにされてっ……辛い思いさせられてっ」グスッ

星奈「お父さん、どうだった?」

栞奈「頑張ってた……ッ」

星奈「凄いでしょ? 私が好きになった人なんだから」

栞奈「いいよ、そういうの恥ずかしい……。
    ちょっと待ってて荷物取って来る」ゴシゴシ

タッタッタ


星奈「……ふぅ」


車掌「いい子、ですね……栞奈さんは」

星奈「当然よ〜。なんてったって、私たちの子供だからね〜」

車掌「デネブに乗せたのは、迷っていたからでしょうか」

星奈「ううん。ただ、純粋に今の時間を楽しんで欲しいってだけ。
    あの子、思春期の真っただ中なのに、年相応の振舞いしてこなかったから」

車掌「……少なくとも、この旅の中では年相応の子でしたよ」

星奈「楽しかったんだろうね。だから、このまま楽しい気持ちでいたいって思ったはず」

車掌「……」

星奈「だけど、それで大事な場面を何度も流されて選んで来てたから」

車掌「そうですか……」


星奈「あなた達もごめんね、変なところ見せちゃって」


日向「い、いえ……」

報瀬「……」

マリ「……」

結月「……」

みこと「……」


栞奈「……」


星奈「……時間が無いから急いで」


栞奈「分かってるってば……!」


マリ「……」

栞奈「私、ここで降りるから……」

報瀬「……うん」
455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:05:44.57 ID:GYsMFmGgo

栞奈「みんなは、楽しく旅を続けて……って、もう次で最後だっけ」

日向「まぁ……うん」

栞奈「ありがとね、色々と。こんな最後になっちゃったけど……」

みこと「……栞奈……さん」

マリ「……」

栞奈「それじゃ――……バイバイ!」


マリ「栞奈ちゃん!」


栞奈「……?」


マリ「まだ、旅は終わらないよ!」


栞奈「……!」


マリ「バイバイ、だね」

日向「じゃぁな、栞奈!」

報瀬「元気でね! 今までありがとう!」

結月「あ……ぅ……!」

みこと「ば、バイバイ……!」


栞奈「うん、ありがとう、みんな!」

タッタッタ


星奈「……」ペコリ


マリ「……」

日向「……」

報瀬「……」

結月「…………」

みこと「……」
456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:06:23.13 ID:GYsMFmGgo


マリ「行ってしまったね……」

日向「栞奈も降りてしまったか……」

報瀬「栞奈は、とても悩んでいたと思う。
    降りる準備はしていたけど、それでも乗り続けていたいって」

結月「……」

みこと「うん……」

マリ「観光、行こうか」

日向「だな。最後の観光だから思いっきり楽しみたいけど……金が無いからな!」

報瀬「お金のかからない場所ってどこ?」

みこと「松本城……だけ?」

日向「だけなのかよ」

結月「あぁ……あ……」

マリ「どうしたの、結月ちゃん」

結月「い、いえ……後で話します」

マリ「……?」



……


457 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:08:52.51 ID:GYsMFmGgo

―― 夜・展望車


日向「本当に夕飯、これでいいのか?」

みこと「うん」

結月「か、カップ麺……」

報瀬「売店の店員さんに変な顔されたんだけど」

マリ「食堂車でお湯入れてもらって、そのまま来たからね」

日向「シュールだな、豪華列車でカップ麺もって歩く女子高生とか」

みこと「あ……」

結月「どうしたの?」

みこと「お箸がない……」

報瀬「私が持ってるから大丈夫」

マリ「あ……」

日向「今度はどうした?」

マリ「おにぎり買えばよかったね……!?」

報瀬「今からでも買ってくる?」

みこと「お湯入れちゃったから、戻ってきたときはもうのびてる」

マリ「ああぁぁあ! おにぎりぃぃい!!」

結月「そんなに悲観しないでください!」

日向「はい、それじゃー、いただきまーす」

報瀬結月みこと「「「 いただきます 」」」

マリ「いただき……おにぎり……ます」

日向「ずるずるっ、ん、んまい!」

報瀬「ずるずる」

結月「ちゅるちゅる」

みこと「ずる……ずる……」

マリ「ずずーっ! うんまい!」


綾乃「あ、もう食べてる」


日向「もぐもぐ?」


綾乃「おにぎりの差し入れ〜」


マリ「神だ!」

日向「本当だ! 神様がいる!!」


綾乃「え」


報瀬「大丈夫。おにぎり持ってきてくれて嬉しくてしょうがないだけだから」

綾乃「そ、そうですか」

みこと「いいの?」

綾乃「料理長が持っていけって」

結月「さすがに、カップ麺は同情されますよね……」
458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:10:56.97 ID:GYsMFmGgo

マリ「ありがとう、綾乃ちゃん!」

綾乃「いえいえ。あ、でもちょっとした余興がありまして〜」

報瀬「余興?」

綾乃「そのうちの一個のおにぎりには爆弾が仕掛けてあります」

マリ「……なんだって!?」

日向「ま、マジかー……」

報瀬「爆弾って?」

綾乃「それは食べてからのお楽しみってことで。お皿は持ってきてくださいね」

スタスタ...

結月「…………」

みこと「どうするの?」

日向「いや、食べるよ。報瀬、先に取ってくれ」

報瀬「ど、どうして」

日向「引きそうだからだよ。その後に私ら取るから」

報瀬「何言ってるのよ、そんなわけないでしょ」スッ


マリ結月みこと「「「 引きそう…… 」」」


日向「あ、まだ食べるなよ? みんなで一緒にな。私はこれー」

マリ「じゃ、これー」

結月「これ」

みこと「……」

報瀬「みんな持ったよね、それじゃ」


「「「「「 いただきます 」」」」」


日向「ん、昆布だ!」

結月「私はツナマヨですね。美味しいですぅ」

みこと「……梅干しだった」

マリ「うん〜、なんだろ?」


報瀬「んーーーー!?」ガタッ


日向「やっぱり引いたか?」

マリ「あ、ダメだよ報瀬ちゃん!
   料理長が食べ物で遊ぶはずないから、ちゃんと食べられるよ!」

報瀬「んー! んー……」モグモグ

結月「何をしようとしてたんですか」

報瀬「もぐもぐ……ごくん。口から出して、問題なければもう一度食べようと思って」

結月「な……!?」

日向「おい、美少女……」


みこと「キマリさんは?」

マリ「プリンかな?」
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:12:02.98 ID:GYsMFmGgo


日向「おまえ、私たち以外でそういうことするなよ、絶対に」

報瀬「なんで?」

日向「残念過ぎるからだよ!」

報瀬「するわけないでしょ」


結月「プリンって……食べ物で遊ばないんじゃなかったんですか?」

マリ「遊んでないよ?」

結月「いえ、おにぎりにプリンってどう考えても……」

みこと「食べてみていい?」

マリ「うん、いいよ」

みこと「もぐもぐ……ウニじゃない?」

マリ「そうなの? プリンに醤油掛けたらウニになるってことじゃないの?」

みこと「?」

マリ「?」

日向「やっぱり噛み合ってないわ、この二人」

結月「報瀬さんのは結局なんだったんですか?」

報瀬「生臭いような気がした。あと、歯ごたえがあった、だからびっくりした」

日向「それだけじゃわからないんだけど。もう全部食ったのか?」

マリ「みたいだね。具はもうないよ」

みこと「一口で食べきれるもの?」

結月「なんだろ……?」

報瀬「分からない……」

日向「キマリが大当たりってことか」


……


460 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:14:30.86 ID:GYsMFmGgo

―― 展望車



マリ「片付け終わったよー」


日向「おー、ありがとー」


マリ「みんな歯磨き終わったの?」

報瀬「うん」

結月「明日の打ち合わせも終わりました」

日向「後は寝るだけだな」


マリ「じゃ、磨いて来よう、みこっちゃん」

みこと「うん」


マリ「また後でねー」

スタスタ...


報瀬「後で、ね……」

日向「またここに来る気だな」

結月「他にすることありませんからね……」

報瀬「……うん」

日向「ふぁ〜……」バタリ

報瀬「座席で横になったら行儀悪いでしょ」

日向「他に来る人いないだろ、この時間なら」

報瀬「そうだけど……」

結月「……明日で、終わりですね」

日向「そうだな……」


報瀬「ありがとう、結月」


結月「え?」

報瀬「この列車の旅に誘ってくれたから」

結月「あ――……」

日向「ありがとな、ゆづ〜」

結月「いえ……私こそ、ありがとうございます」

報瀬「……?」

結月「みなさんと、こうやって遊ぶことってもうないかもって思っているんです」

日向「遊ぶならいつでもできるだろ〜?」

結月「これから、大学に進学とかするじゃないですか。
   だから、時間を作るのって難しいと思ったんですよね」

報瀬「まぁ、確かに……」

日向「……だから、この列車に乗ろうって思った?」

結月「はい。みなさんと一緒に乗りたいって」
461 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:15:32.07 ID:GYsMFmGgo

報瀬「そういえば、列車に乗る動機って、飯山みらいさんじゃなかった?」

結月「そうですよ」

日向「寂しい顔してたんだっけ? その理由が知りたいって」

結月「はい……」

報瀬「分かった?」

結月「今はまだ。多分、時間を置いたら分かるようになる気がします」

日向「そっか……」

報瀬「……」

結月「キマリさんと、あの時約束しましたけど……」

日向「約束?」

結月「みんなでまた来ようて約束したじゃないですか」

報瀬「南極ね」

結月「そうです。私は、難しいかなって思ったりするんですよね」

日向「……そんなことないだろ」

結月「そう思います? 難しくないですか?」

報瀬「どうしてそう思うの?」

結月「私だけ、みなさんと違うから……」

日向「女優だからか」

結月「……そうです。特殊というかなんというか」

報瀬「……」


「そんなことないよ!」


結月「うわぁ!」

報瀬「びっくりした……!」

日向「なんだよキマリ!」


マリ「約束したんだから、行けるよ、絶対!」


結月「聞いてたんですか……」


みこと「……女優…」


日向「どうした、みこと?」


みこと「ううん」


報瀬「というか、もう歯磨き終わったの?」

マリ「まだ。それより、車掌さんと話して、いいこと思いついたんだ。ね、みこっちゃん?」

みこと「うん」

日向「いいこと〜?」

結月「なんです?」

みこと「みんなでここで寝ようって」


……


462 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:16:42.16 ID:GYsMFmGgo

マリ「なんで私だけ下なの〜?」


結月「どうせ落ちるじゃないですか」


マリ「え〜〜?」


日向「まさか座席で寝るなんてな」

報瀬「カーテン降ろすけど、いい?」

みこと「うん」

日向「施錠はちゃんとしたな?」

結月「はい、車掌さんがしっかりと」


マリ「トイレはそこから行けるよ」


日向「報瀬、全部の窓のカーテン降ろしてくれ」

報瀬「他人にやらせてないで自分もやって」

日向「はい」

みこと「こっち、降ろすよ?」


マリ「うん、お願い」


結月「キマリさんも手伝ってください」


マリ「遠い……!」


結月「そこで寝転がってると、踏まれますよ」


マリ「分かったよぉ……」モゾモゾ


日向「よし、全部降ろしたな」

みこと「うん」


マリ「終わっちゃったよ……」モゾモゾ


報瀬「ふぅ……」

日向「……電気は誰が消すんだ?」

結月「車掌さんですかね」


マリ「入口の所にスイッチがあるよ」


報瀬「キマリ」

日向「キマリ」

結月「キマリさん」

みこと「……」


マリ「んもぉーーー!!」ガバッ

463 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:18:21.60 ID:GYsMFmGgo

報瀬「いつでも消していいよ」

日向「いいぞー」

結月「……」

みこと「……」


マリ「はい、消灯」


パチッ


日向「……明日どうする?」

報瀬「今日はほとんど松本城に居たから……それ以外?」

日向「ゆづの撮影があったからなぁ……」

結月「行きたいところに行っていいって、言ったじゃないですか」

報瀬「といっても、そんな気分じゃなかったから」

日向「そうだな……」

結月「……そうですね」

みこと「……」


マリ「……」


結月「昨日のこの時間、この場所は……たくさん人が居たんですよね」


マリ「何人いたっけ?」


日向「11……12人か」

報瀬「そんなに居たんだ……」

みこと「…………なんだか」

結月「……?」

みこと「なんだか……ウソみたい」


マリ「どうして?」


みこと「今が、静かすぎて……。色々ありすぎて、気持ちが追い付かなくて」


マリ「……」


みこと「そのまま、気持ちも置いてきてしまったみたいで……」


みこと「昨日のあの時間は……ウソだったみたいに感じる……」


マリ「嘘なんかじゃない。本当にあったんだよ」


みこと「……うん」


日向「しょがない、アレを見せるか」

報瀬「アレって?」

結月「撮影してましたね」

日向「そういうこと〜」

みこと「……」
464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:22:47.44 ID:GYsMFmGgo

マリ「見たい見たい」


日向「だったら、こっち来て」


マリ「はいよ」


日向「みことも、こっち」

みこと「……うん」

日向「じゃあ、まずは〜」

報瀬「スマホ?」

日向「デネブの出発前に撮った写真があるんだよ。ほら、見てみ」

結月「あ……キマリさん、ですね」

マリ「いつの間に撮ったの?」

日向「だから、出発前だよ。夢の崎だぞ、ここ」

みこと「…………」

マリ「この時はまだ、みこっちゃんが乗ってるなんて知らなかったんだよね」

日向「そうそう。後で教えてもらったんだよな」

みこと「誰に……?」

マリ「あ、写ってる!」

日向「ん?」

マリ「ほら、写真撮ってる人いるでしょ、この人だよ!」

みこと「あ……」

結月「……何をしてるんですか?」

マリ「デネブちゃんを撮ってたんだって」

報瀬「ふーん……」

日向「報瀬の興味が薄いから次行くぞー」

みこと「……」

マリ「次は、福岡だよね」

日向「そうそう、観光地でもプリンシェイク飲むキマリ」

報瀬「わざわざこんなところにまで来て……」

マリ「日向ちゃんとおんなじこと言ってる……!」

結月「大体の人はそう言うと思います」

みこと「…………」

日向「な、みこと、ちゃんとあっただろ?」

報瀬「うん、嘘じゃない」

結月「誰かが描いた本の中の物語なんかじゃない、みことが居た世界だから」

みこと「……うん」

マリ「次は次は?」

日向「慌てるな、まだまだ時間はあるからな」

報瀬「朝まで見る気?」

結月「ここに辿り着くまで見ましょう」

報瀬「まぁ、いいけど」
465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:23:53.31 ID:GYsMFmGgo

マリ「私も写真撮ったりしたんだよ。ちょっと取って来る」

日向「それは出来ないだろ。施錠してるんだから」

マリ「あ、そっか」

みこと「……」

マリ「眠たい?」

みこと「ううん、まだ眠くない」

日向「じゃ、眠くなるまで見てよう」

みこと「……うん」

報瀬「これは……ラーメン?」

マリ「ちゃんぽんだよ」

結月「屋台みたいですね……」

みこと「美味しかった……」

日向「な、美味しかったよな〜」

報瀬「止めて、こんな時間に美味しそうな画像見せないでっ」

結月「そうですよ、次です次……!」

マリ「おぉ〜、ジャンボパフェ!」

報瀬「日向ぁ……!」

日向「なんでだよ! わざとじゃないだろ!?」

みこと「ふふっ」



……





結月「これは、遊園地ですか?」

マリ「そうそう名古屋の遊園地」

報瀬「あぁ、水族館行かないでこっちに行ったんだっけ」

日向「スリルがあって楽しかったな」

マリ「ね〜」

みこと「この時、名古屋駅でアイドルがミニライブやってたよね」

結月「……」

報瀬「はい、次次〜」

日向「なんで焦ってるんだよ、報瀬?」


……



466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:24:42.39 ID:GYsMFmGgo

マリ「おぉ、みんなで撮った写真」

日向「さくらちゃんに貰ったんだよ」

報瀬「あとで、ちょうだい」

マリ「私も、ね」

日向「分かったよ……って」

みこと「すぅ……すぅ……」

結月「寝ちゃいましたね」

日向「私らも寝るか……」

報瀬「……うん」

マリ「ウソじゃないからね。ちゃんと、今も……みんないるからね」

みこと「……すぅ……すぅ」

報瀬「おやすみ」

結月「おやすみなさい」

日向「おやすみ〜……」

マリ「……」


マリ「…………」



……


467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:25:41.16 ID:GYsMFmGgo

―― 8月10日



「キマリ〜」


マリ「ん……ん……?」


「起きろ〜、キマリ〜」


マリ「うぇ……?」


日向「はい、おはよう」


マリ「おは…………ん?」


報瀬「目、覚めた?」

みこと「……ぅ…ん」

報瀬「結月は着替えに行ったからみことも、急いで」

みこと「どこ……行くの?」

報瀬「ジョギングしよう、最後に」

みこと「うん……」


マリ「あれ、なんで私だけ離れて寝てるの?」

日向「寝相が悪いからだ。何度も言ってるだろ」



……


468 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:26:29.43 ID:GYsMFmGgo

―― 浅間温泉


日向「ふぃ〜……」

報瀬「温泉に変更したのはいい判断だったね」

マリ「うん、ナイスだよ日向ちゃん!」

日向「看板が目に入って良かったよ。温泉なんて無意識に除外してたからな」

みこと「ふぅ……」

結月「結局、ジョギングは無しになりましたけどいいんですか?」

マリ「駅まで走る?」

日向「どれだけ距離があると思ってるんだよ……」

報瀬「温泉出て走りたくない」

マリ「確かに」

みこと「……繩手通ってところ行ってみたい」

日向「どういうとこ?」

みこと「タイムスリップした気分になれるって」

結月「場所は?」

みこと「バスで行ける……?」

報瀬「調べてみて行けそうだったら行こう」

日向「そうだな。他に、行くところも無いし」

マリ「上高地は?」

結月「絶対に無理です」


……


469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:27:33.42 ID:GYsMFmGgo

―― 繩手通り


マリ「おぉ〜、おぉぉ〜〜」

日向「なるほど、タイムスリップした気分ってこういことか」

報瀬「レトロな雰囲気……」

結月「なんだか、たい焼きを推してるみたいですけど、名物なんですかね」

マリ「よし、じゃあ買おう」

みこと「たこ焼きもあるよ。あと、カエルも」

日向報瀬結月「「「 カエル!? 」」」

みこと「うん、ほら」

日向「なんだよ! 置きものじゃないか!」

みこと「うん……?」

報瀬「びっくりした……食べ物の話してたんだから」

マリ「でも、食用ガエルってあるよね」

結月「今はその情報いりませんから……!」

日向「もんじゃ焼きもあるな! よし食べよう!」

みこと「パワーストーンもある」

マリ「それは食べられないね」

報瀬「日向、昼ごはんはここで済ませるの?」

日向「そうしようと思って」

報瀬「ふーん……私もそうしようかな……?」

結月「いいですけど、時間を忘れないでくださいね」

マリ「せんべいがあるよ。あ、カエルがここにもある!」

みこと「カエル推しなんだ……ここ……」

報瀬「カエルはもういいから……」


……


470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:28:36.98 ID:GYsMFmGgo

―― デネブ



ダダダダッ


「なんで最後まで走ってるんだよ〜!!」

「ふぇぇ〜〜!」

「うぅっ、食べた後の全力は……厳しいっ……」

「待ってください! みことが付いてきていないです!」


「「 えぇ〜〜!? 」」


車掌「あら……?」


「「 みことー! 頑張れ〜〜! 」」

「みこっちゃ〜ん!!」

「あ……!」


車掌「……」


「よし、あとちょっとだ……!」

「ファイト、みこと……!」

「う、うん……!」

「慌てずゆっくり急いで!」

「無茶言わないでください!」

ダダダダッ


車掌「……」


日向「よぉし、ここまで来ればセーフだな」

報瀬「タクシーが捕まらなかったのは不運――」


prrrrrrrr


マリ結月みこと「「「 あ……! 」」」

日向「急げ――」

報瀬「待って、車掌さん居るから、落ち着いて!」

マリ「う、うん」

結月「冷静に、ですね」

みこと「……」


車掌「はい、それでは出発します」


日向「お願いしま〜す」

報瀬「……はぁ、最後まで全力で走らなきゃいけないなんて」


……


471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:29:18.41 ID:GYsMFmGgo

―― 寝台車


ガタン

 ゴトン


マリ「個室に戻るの?」

日向「あぁ、荷物をまとめないとな」

報瀬「といっても、忘れ物が無いか確認するだけだけど」

マリ「そっか……」

みこと「……」

日向「それで、結局キマリはどうするんだ?」

マリ「うん……」

報瀬「……どうするか、決まってそうね」

マリ「……うん」

みこと「どうするの?」

マリ「それはぁ、えっとぉ」

報瀬「……それじゃ、後でね」

ガチャ

日向「後でな〜」

バタン

みこと「……」

マリ「あはは……展望車にでも行こうか」

みこと「……うん」


……


472 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:30:14.94 ID:GYsMFmGgo

―― 動力車


車掌「あら、どうされました?」

日向「挨拶に来ました。次の高崎で降りるので」

車掌「そうですか……」

日向「楽しく旅が出来ました。
   それも車掌さんのおかげです、ありがとうございました!」

車掌「いえ、私はなにも……」

日向「いつも見守ってくれたので、私たちも安心してここまで来ることができました」

車掌「……!」

日向「なので、ありがとうございました」

車掌「当特急デネブへのご乗車誠にありがとうございました」


……




―― 食堂車


綾乃「いらっしゃいませ〜。あ、報瀬さん」

報瀬「こんにちは」

綾乃「お食事ですか?」

報瀬「ううん、最後のあいさつに」

綾乃「……え?」

報瀬「私、次で降りるから」

綾乃「あ……そうなんだ……」

報瀬「いつも、美味しい料理をありがとうございました」

料理長「うん、長旅お疲れさま」

明菜「ご利用ありがとうございました」

報瀬「はい。それでは、みなさん、お元気で」

綾乃「ありがとうございました」

報瀬「それじゃあ、ね」

綾乃「うん、バイバイ」


……


473 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:31:27.75 ID:GYsMFmGgo

―― 売店車


店員「東京のガイドブックはいかがですか?」

日向「私は、必要ないんですよ〜。次で降りるので」

店員「そうなんですか……」

日向「そういえば、20周年記念バッチって幾つ用意してあったんですか?」

店員「20個ですよ。発車してすぐに売り切れてしまいました」

日向「そんなに早く……買っておいてよかったぁ」

店員「記念になればと思います」

日向「もちろん、記念になりましたけど……ご利益あればいいなって」

店員「再会したい人が居るんですか?」

日向「私じゃないですけど、再会させたいと思う人がいるんですよね」

店員「そうですか。それなら、懸け橋になってくれたら嬉しいです」

日向「ですね〜」


……




―― 4号車


さくら「あら、報瀬ちゃんじゃない」

報瀬「さくらさん……いま、撮影ですか?」

さくら「今は段取りを確認しているところよ。どうかしたの?」

報瀬「お別れのあいさつに」

さくら「あら……そうなの。降りちゃうのね」

報瀬「結月のこと、よろしくお願いします」ペコリ

さくら「もちろんよ。任せてちょうだい」

報瀬「東京まで、じゃなくて……これから先もです」

さくら「あらまぁ、安請け合いしちゃったかしら」

報瀬「ふふ、さくらさんが居てくれたら私たちも安心できますから」

さくら「えぇ、任せて。悪い虫なんて追い払っちゃうんだから」

報瀬「お願いします」


……


474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:33:11.37 ID:GYsMFmGgo

―― 2号車



日向「そっちは挨拶終わった?」

報瀬「うん。それじゃ、私は向こうね」

日向「一緒に挨拶行けばよかったな。別々だとちょいと迷惑かも」

報瀬「それは思った」

日向「はは……それじゃ、後で」

報瀬「また後で。キマリたちは娯楽車で遊んでるよ」

日向「こんな時でも遊んでるのかよ……」


……




―― 娯楽車


店員「遊んで行かれますか?」

日向「いえ、挨拶に来ました。今までお世話になりました。キマリ共々」

店員「よく来ていただいて、楽しそうに遊んでもらいました」


マリ「よっ……ぬぬぬ……!」

 ドドドーン

ちゅどーん


みこと「……」



日向「……おーい、キマリ〜」


マリ「ふんのっ……あぶなっ……よし!」

みこと「少しでクリア……するって」


日向「もう着くんだけど。まぁいいや、着いたら降りてるからな〜」

スタスタ...


みこと「…………もう……着いちゃう……」
475 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:33:59.10 ID:GYsMFmGgo


マリ「ぬおぉぉお!! 行け行け!!」

ちゅどーん

 ちゅどーん どどーん


マリ「やった! 記録更新だ!!」

   
店員「おめでとうございます。クリアできましたね」


マリ「ありがとうございます! ね、見てたみこっちゃん? あれ?」


店員「展望車の方へ」


マリ「…………」


ガタン


 ゴトン



マリ「あ……着いちゃった……」



……



476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:35:07.25 ID:GYsMFmGgo

―― 高崎駅


プシュー


日向「よっ」ピョン

シュタッ

日向「着いたー!!」

報瀬「見慣れた場所に着いた……」

日向「んーー! 達成感あるなー!」ノビノビ

報瀬「日向は真っ直ぐ帰るんでしょ?」

日向「うん、そのつもりだけど……なにかあるのか?」

報瀬「聞いただけ」

日向「なんだよそれー……って、誰も降りてこないな」

報瀬「……うん」

日向「見送りくらい来いよな……まったくもー」

報瀬「あっちに居るの、結月じゃない?」

日向「ん?」


結月「……」


報瀬「行ってみよう」

日向「うん」

タッタッタ


結月「報瀬さん……日向さん……」

報瀬「どうしたの?」

日向「どした?」

結月「みことが……」


報瀬日向「「 ? 」」

477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:37:37.46 ID:GYsMFmGgo

―― 展望車


マリ「みこっちゃん……」

みこと「……っ」


報瀬「何があったの?」

マリ「あ、報瀬ちゃん……それが……」

日向「……?」


みこと「…………っ」


報瀬「みこと……?」

みこと「さびしくなって……っ」

日向「……」

みこと「別れることがこんなに寂しいって知らなかったから……いやだ」


マリ「……」

結月「……」


みこと「みんなと別れるの……いや……っ」

報瀬「……うん」

みこと「一緒に最後まで行きたい……」

報瀬「……」

みこと「そうすれば、受け入れられるから……っ」

報瀬「ううん、それは出来ない」

みこと「……っ」

報瀬「私たち、ここにいる5人はそれぞれの道があるから」

みこと「……そうだけど…」

報瀬「今、偶然的に一緒に居るだけで、いつかは別々の道に進むことは決まっていた」

みこと「そうだけど……っ」

報瀬「みこと――」

みこと「……」

報瀬「ここに居たら、時間は私たちを置いてどんどん進んで行くよ」

みこと「……」

報瀬「立ち止まっていても、誰も追いかけて来ない」

みこと「……」

報瀬「私たちも進むしかない。
    その先にまた同じ道を歩く人と出会えるかもしれないから、それを信じて」

みこと「……」

報瀬「寂しく思えるのはいいことだから。それを持って進んで行こう」

みこと「……っ」
478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:39:08.88 ID:GYsMFmGgo

報瀬「私、思うんだけど」

みこと「……?」

報瀬「別れの挨拶が出来るって、とてもいいことだと思う」

みこと「あ――……」

報瀬「うん、私は……出来なかったから」

みこと「……っ」グスッ

日向「ありがとな、みこと」

みこと「……?」グスッ

日向「寂しく思うってことは、いい出会いだった証拠だから」

みこと「……ッ」グスッ

日向「私も寂しいよ」

みこと「〜〜ッ!」ボロボロ


マリ「記念撮影しよう」

結月「な……なんですかいきなり……っ」


マリ「この時の、この気持ちを切り取ろう」

日向「なんだその名言を言おうとした台詞」

報瀬「ふふっ」

結月「いいですね、撮りましょう。……ね、みこと」


みこと「……っ」コクリ
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:41:35.43 ID:GYsMFmGgo

―― 高崎駅


マリ「ハイ、群馬」

パシャ


結月「なんですか、今の」

日向「どうだ?」

報瀬「いいんじゃない?」

みこと「……」

マリ「はい、日向ちゃん」

日向「うん……うん?」

報瀬「プリントしてきて」

日向「なんで私が」

結月「足、速いじゃないですか」


日向「なんでまた走るんだよぉぉおお!!」

ダダダダッ


マリ「急いでよー!」


「分かっとるわ!」


報瀬「あ……」

マリ「どうしたの?」

報瀬「キマリが東京でプリントすればよかったんじゃない?」

マリ「あ……そうだね」

結月「……」シラー

みこと「結月さん……気付いてたんじゃないの……?」

結月「……」ギクッ


……




日向「プリントしてきたぞー! って、居ないな……?」

車掌「駅前の案内板で待ってるそうですよ」

日向「あ、案内板!?」

車掌「自分の土地を教えるとか」

日向「なんだよ、まったく! じゃ、行ってきます」

車掌「はい、行ってらっしゃいませ」スッ

日向「行ってきまーす! それじゃ、またどこかでー!」

タッタッタ


車掌「ふふ、また」


……


480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:43:01.37 ID:GYsMFmGgo

―― 高崎駅前


マリ「ここが私の家でしょ。こっちが私たちが通ってる学校」

みこと「……」ウンウン

結月「真剣に聞いてる……意味が無いと思うんだけど……」

報瀬「……」


日向「おい、こら」


報瀬「ちゃんとプリントしてきた?」

日向「してきたよ。移動するなら連絡くらいしろよなー?」

結月「車掌さんが伝えてくれると言ってくれましたので……」

日向「まぁいいけどさ。なにしてるんだ?」

報瀬「キマリが暮らしてる場所を説明してる」

マリ「こっちが小学校のころに修学旅行で行った場所で〜」

みこと「……」

日向「こんな大雑把な地図で分かるのかよ。それより、ほら、みこと」

みこと「?」

日向「プリントしてきたよ。日向ちゃんが必死に走った写真なんだから大事にしろよ?」

みこと「うん……! ありがとう日向さん……!」

日向「……いや、そこまで感謝されるほどじゃないけども」

マリ「2枚?」

結月「さっき撮ったのと、……私の誕生祝のですか。全員揃ってますからね」

報瀬「一昨日の夜なのに、随分前のような気がする」

みこと「……うん」

日向「この写真が証明してる。本当にあった時間だってさ」

みこと「…………」

日向「だから、進めるよな」

報瀬「また、こんな時間に逢うために」

みこと「うん」


マリ「……」

結月「……」


日向「そろそろ時間だぞ」

みこと「……うん」

報瀬「また全力で走ることになるよ」

みこと「うん……っ」

日向「……」

報瀬「……」
481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:44:16.96 ID:GYsMFmGgo

みこと「あの、握手……」

日向「うん……じゃあな!」

ギュッ

みこと「……っ」

日向「そんな顔するなよ〜……」

みこと「うん……っ」

日向「これから先の幸運を祈ってるよ」

みこと「また――」

日向「ん?」

みこと「また……逢えますか?」

日向「もっちろん!」


報瀬「じゃあ、私も」

みこと「うん……!」

ギュッ

報瀬「本当にあっという間だったけど、全部が楽しかった」

みこと「うん……っ」

報瀬「みことが居てくれたからだよ、ありがとう」

みこと「……っっ」グスッ

報瀬「泣かないで、みこと」

みこと「うん……ッ」グスッ

報瀬「終わりは始まることだから」

みこと「はい……!」


マリ「じゃ、行こうか」

結月「行こう」


みこと「うん……」


ギュッ


報瀬「……」

日向「……」


みこと「……」


報瀬「みこと、放してくれないと」

みこと「……うん」

日向「旅の醍醐味は時間を共有する心地よさである」

みこと「……?」

日向「みことにこの言葉を贈ろう」

みこと「誰の言葉?」

日向「私!」

みこと「ふふ」
482 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:44:53.03 ID:GYsMFmGgo

報瀬「はい、行ってらっしゃい」

日向「グッドラック!」

みこと「うん!」


マリ「それじゃね、報瀬ちゃん、日向ちゃん!」

結月「また、です!」


報瀬「みんな、くれぐれも、気を付けて!」

日向「できれば笑って、な!」


みこと「またね、報瀬さん! 日向さん……!」



……



483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:47:19.29 ID:GYsMFmGgo

―― デネブ


ダダダダッ


マリ「ぬぉぉぉおおお!!」

結月「な、なんで走ってるんですか!?」

みこと「……ッ」


マリ「ゴォーール!」

結月「だ、だからなんで走ってたんですか私たち……!」

みこと「はぁっ、はあっ」

マリ「どうせだから、最後も走ろうかと思って」

結月「そんな思い付きですか……はぁ……」

みこと「ふぅ……ふぅっ」


prrrrrrrr


マリ「最後の区間だね、レッツゴー!」

結月「なんでそんなにハイテンションなんですか……」

みこと「……はぁ……ふぅっ……あ――…」

マリ「どうしたの?」

みこと「見て、空に月が」

結月「……青い空に白い月」

マリ「…………」

みこと「私、忘れない」

結月「え?」

みこと「この空にある月を、私はきっと忘れない」


マリ「……うん!」



……


484 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:48:50.42 ID:GYsMFmGgo

―― 1号車


ガタン

 ゴトン


みこと「さくらさん」

さくら「あら、みことちゃん? どうしたの?」

みこと「さくらさん、東京まで?」

さくら「そうよん。結月ちゃんの撮影も終わるからね」

みこと「あの……」

さくら「うん?」

みこと「ありがとうございました」

さくら「どうしたの、突然……ってわけでもないか」

みこと「さくらさんが、私を変えてくれたから、ここまで来ることができました」

さくら「……それは違うわ」

みこと「……?」

さくら「確かに、女の子は外見が変わると中身も変わる素敵な存在だけどね」

みこと「……」

さくら「あなたは、きっと外見が変わらなくても、変わってたわ」

みこと「そうかな……?」

さくら「えぇ、きっとね。だから、礼には及ばないわ」

みこと「でも、さくらさんが居てくれたから……良かった」

さくら「あぁん! 寂しくなってきちゃうじゃない」クネクネ

みこと「ふふ」

さくら「笑うようになったわね。私の実力もまだまだ足りないって感じるわ」

みこと「?」

さくら「こっちの話よ。結月ちゃんの撮影も大詰めだから、見てく?」

みこと「うん……!」


……


485 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:50:44.06 ID:GYsMFmGgo

―― 食堂車


マリ「もぐもぐ」


みこと「あ……」

結月「ここに居たんですか」


マリ「もぐ?」

みこと「車内を歩いてると思って……」

結月「車掌さんに聞いたらここにいるって」

マリ「もぐもぐ」

みこと「お昼ご飯?」

マリ「もぐ」コクリ

結月「東京まで間もないですけど?」

マリ「もぐ……ごくり。今まで歩き回ってたから、此処に居ようと思って。
   結月ちゃん、撮影は終わったの?」

結月「あとは東京駅で撮って終わりですね」

みこと「そういえば、あの撮影ってどうなったの?」

マリ「ん?」

みこと「みんなで撮った……」

結月「あれはもう終わったよ。最後までグダグダだったけどね……」

マリ「あとはネットで配信されるのを待つだけだね〜……」パクッ

みこと「……」

結月「今までの乗車の人たちが入ってたりしますけど、大丈夫なんですかね」

マリ「大丈夫じゃないかな、日向ちゃんが確認取ってたし」

結月「そうなんですか……それなら、問題ない……かな……?」

みこと「あの、ね」

マリ「?」

結月「?」

みこと「聞いて欲しいことがあるんだけど……いい?」

マリ「もちろん」

結月「どうしたの?」

みこと「本を読むと……幸福感で満たされてた……」


みこと「特に……お母さんが描く物語が好き。幸せで終わるから」


マリ「うん、分かるよ。あの探偵ものもそうだったね」

結月「え、最後まで読んだんですか?}

マリ「そうだけど……なんで驚いてるの?」


みこと「あの嫌味な探偵ライバルも最後は主人公を助けて犯人を追い詰める。
    厳しくて辛いこともあるけど、お母さんが描く世界は優しく終わりを迎える」

結月「…………」


みこと「この旅も同じに思った。最初は、辛いことしかないと思ってたけど……」

486 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:52:33.40 ID:GYsMFmGgo

みこと「お母さんの世界みたいに、厳しくて辛いこともあったけど、優しかった」


マリ「……」


みこと「だから、よかった。この列車に乗って」


結月「……うん」

マリ「……そっか」

みこと「……?」

結月「ごめんね、みこと……。ちょっと気になったことがあって」

みこと「なに?」


結月「私、その探偵シリーズは注目してるから大体は把握してるんだけど、それ、知らない……」

みこと「それ……?」

マリ「……あの嫌味なライバル……最後は協力するんだ?」

みこと「……あ」

マリ「あって、なに!?」

みこと「……」サァー

結月「もしかしなくても、未発表なんじゃ……?」

みこと「ううん、なんでもない」

マリ「あぁっ、すごいネタバレされたよ!?」

結月「というか、最後ってことは……次で終わり?」

みこと「えっと……この話はこれでお終い」

マリ「報瀬ちゃんのマネしてるよね?」

みこと「ううん」フルフル

結月「キマリさん、今聞いた話は他言無用ですからね?」

マリ「なんで?」

結月「ファンからしたら衝撃的な内容だからです。ネタバレされたら嫌ですよね?」

マリ「そうだね……うん。……分かった」

みこと「あ、あの……ごめんなさい」

結月「いいから。もう忘れるから」

マリ「うん、忘れた」

みこと「……」

結月「でも、本当に好きなんだね、本を読むことが」

みこと「うん」

マリ「じゃあ、今と今までって本の中に居るみたいなんだ?」

みこと「え――?」

結月「まえに、ここで同じこと言ってたよね。
    本の中に登場する人物と同じ気持ちになったって」

みこと「……うん……あ――……」

マリ「どうしたの?」

みこと「今……なにかが……見えたような……」

結月「……」
487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:54:27.77 ID:GYsMFmGgo


綾乃「失礼しま〜す。デネブ特製、スペシャルプリンになりま〜す」


マリ「えっ!? プリン!?」

綾乃「料理長から特別サービスです」

マリ「やった♪」

結月「あの……?」

みこと「私たちの分も……?」

綾乃「よかったらどうぞ」

みこと結月「「 ありがとうございます 」」

綾乃「それでは、最後までごゆっくり〜」

スタスタ...


マリ「ではさっそく〜、うまい! はむっ」

みこと「キマリさん……口に入れる前にうまいって…」

マリ「味は確約されてるからね。うん、うまい!」

結月「どこぞのグルメ番組みたいですね……確かに美味しいですけど」

マリ「こんな美味しいプリンが食べられるなんて、幸せ〜♪」

みこと「キマリさんが綾乃さん達と仲良くなったおかげ……」

結月「綾乃さんって、旅行のためにこの列車に乗ったんですかね?」ハムハム

マリ「なんかね、地元出身のアーチストが引退するんだって。
   そのラストツアーに参戦するって。最初が札幌で、ファイナルが地元だって」

みこと「地元……沖縄の?」

マリ「うん、沖縄の人。綾乃ちゃんのお母さんが大ファンで、綾乃ちゃんもファンになったって。
   最初と最後のライブに行くから楽しみなんだって」

結月「その人なら知ってます。長年活躍されていましたから結構騒がれてますよね」

マリ「そうみたいだね。最後はお母さんと一緒に行くって言ってたよ。楽しそうだよね」

みこと「ファン……」

結月「思い入れがあると引退は寂しく感じるでしょうね」

マリ「あとね、明菜さんは彼氏さんに会いに行くって」

みこと「北海道に住んでるの?」

マリ「ん〜……? どこだったかな?」

結月「というか、明菜さんはどこ出身なんですか?」

マリ「四国のどこか?」

結月「曖昧ですね」

みこと「遠距離恋愛?」

マリ「いいよね、遠く離れていても思いは通じているんだよ」キラキラ

結月「……確かに、ちょっと憧れますね」

マリ「えっ!? 結月ちゃんにもそういう人が……!?」

結月「いませんけど」

みこと「……」
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:55:29.52 ID:GYsMFmGgo

マリ「じゃあ、みこっちゃんにもそういう人――」

結月「ちょっ! キマリさん!!」

マリ「え、あ……ごめん――」

みこと「うん、いる」

マリ「あぁ、なんか眩しい」

結月「ですね……なんか、差が付いたような気分です」

みこと「…………」

マリ「また、逢えるよきっと」

みこと「……そうかな…?」

結月「私もそう思うよ、みこと」

みこと「どうして……?」

結月「それは自分で探して。答えはきっと、この旅の中にあるから」

マリ「あ、なんかカッコイイ!」

結月「茶化さないでください」

マリ「えへへ、ごめんごめん」

みこと「自分で?」

結月「きっと、みことの未来……将来に関わることだから自分でみつけないと、ね」

みこと「……」

マリ「ん〜? 将来〜?」

結月「まぁ、可能性の話ですから」

みこと「あの人が言ってた」

マリ結月「「 ? 」」

みこと「人との出会いは運が大きく絡むんだって」

マリ「運? 運命のこと?」

みこと「少し違うと思う……。悪い人に出会えば悪い運勢になる、善い人に出会えば……」

結月「善い運勢になる……?」

みこと「そう言ってた」
489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:56:10.37 ID:GYsMFmGgo

マリ「そっかぁ……うん、分かる。結月ちゃんに出会わなければ、今ここに私は居ないもんね」

結月「……ですね。キマリさん達に出会わなければ私もここにいませんから」

みこと「それじゃあ、私も……善い運勢になった?」

マリ「それは、みこっちゃん次第だよ」

みこと「私の?」

マリ「決めるのは自分だからね」

結月「ですね」

みこと「……うん」コクリ

マリ「あー……もう、東京に着いちゃうぅぅ」

結月「キマリさん、片付けは済んだのですか?」

マリ「…………あはは」

結月「着きますよ?」

マリ「分かってるよぉ」

みこと「……着いちゃう」


ガタン

 ゴトン


……



490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:57:55.74 ID:GYsMFmGgo

―― マリの個室


マリ「あれ、鞄に入らない……」

ギュウギュウ

マリ「あれれ」


コンコン


マリ「はーい」

ガチャ


車掌「お忙しいところ申し訳ありません。少しよろしいでしょうか?」

マリ「車掌さん……は、はい。えっと、すいません……まだ……そのぉ」

車掌「決めかねている……のですね」

マリ「……はい」

車掌「鶴見さんはなんと?」

マリ「この先を行きたいと言っていまして……私も……うーん……」

車掌「一緒に行きたい気持ちはあるのですね?」

マリ「それはもちろんです!」

車掌「その気持ちを止めるものはなんでしょう?」

マリ「みこっちゃんはみこっちゃんの旅があって……私はただ、心配ってだけで……」

車掌「鶴見さんの旅に支障が出てしまうのではないか、と」

マリ「はい……。私が降りるって言ったら、みこっちゃんも降りるって言ってて……」

車掌「……」

マリ「でも、この列車に乗り続けて欲しい気持ちもあって……」

車掌「玉木さんの思うままにしてくださって構いませんので」

マリ「……はい」

車掌「よく考えて答えを出すより、気持ちに従って行動するのもまた必要です。それでは」

マリ「ありがとうございます」

車掌「いえ」ペコリ

スタスタ...


マリ「…………」

ガタン

 ゴトン


マリ「あ……東京駅……」


ゴトン


マリ「着いちゃった」


プシュー


……


491 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:02:22.09 ID:GYsMFmGgo

―― 東京駅


結月「広島から東京までの列車の旅はここでお終いになります!
   みなさん楽しめていただけたでしょうか!」


結月「また、この旅の裏側では南極観測隊のメンバーがいつも通りグダグダではありますが。
   楽しく旅をしている様子を収めた動画もありますので
   それも視聴してみたら、より列車の旅を味わえるのではないかと思います!」


結月「それでは、超特急デネブはまだ最終駅まで走りますが、私の一日車掌はここで終点です!」


結月「みなさん、ありがとうございました! それではまた、どこかでお会いしましょう〜!」


ディレクター「はい、オッケー!」


結月「お疲れさまでした」ペコリ

ディレクター「それじゃ、10分後に生放送入るから、準備よろしく!」

結月「はい!」

さくら「結月ちゃん、チェック入るわねぇ〜」

結月「はい、お願いします」


マリ「プロだ……」

みこと「うん……」

マリ「こんなに人が居るのに……やっぱり結月ちゃん、凄い人だったんだ……!」

みこと「……キマリさん」

マリ「うん?」

みこと「どうするの?」

マリ「あ……えっと……続ける……かな?」

みこと「本当?」

マリ「う…ん……」

みこと「私も続ける……」

マリ「みこっちゃんはどうして旅を続けたいの?」

みこと「……楽しいから?」

マリ「他には……理由……ないの?」

みこと「……?」

マリ「例えば……そう、自分探しの旅とか!」

みこと「自分探し……」

マリ「いや、あのね、そんな真剣に考えて欲しいわけじゃなくってね……」

みこと「続ける理由が無いと……ダメ?」

マリ「駄目ってわけじゃないよ? むしろ無くていいくらいだから」

みこと「……」

マリ「でも、続けたい理由がなんなのか知りたいなぁって思って」

みこと「……うん」
492 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:06:01.52 ID:GYsMFmGgo

マリ「あ、そのこと車掌さんに伝えてこないと」

みこと「キマリさんは?」

マリ「私は結月ちゃんと居るから先に行ってて」

みこと「うん、分かった」

テッテッテ

マリ「……ふぅ」


マリ「……ん〜」


マリ「ど〜しよ〜」


ディレクター「玉木さん、お願いがあるんですがいいでしょうか?」

マリ「はいはい、なんですか?」

ディレクター「これから生放送で白石さんの友人として出演してくれませんか?」

マリ「はい、いいですよ〜」


結月「え!?」


ディレクター「ありがとうございます。ただ一緒に映るだけですので」

マリ「それくらいなら全然〜。並んで立っていればいいんですよね?」

ディレクター「はい、お願いします。家石さん」

さくら「はいは〜い。キマリちゃん、ちょっとメイクしちゃうわね〜」

マリ「化粧するんですか?」

さくら「カメラ映りが良くなるのよ♪」

マリ「なんか面白い」

結月「き、キマリさん本当にいいんですか?」

マリ「並んで立ってるだけだから大丈夫だよ」

結月「お昼の報道番組、『こんにちは笑って日本列島』ですよ?」

マリ「ん?」

さくら「ちょっと動かないでね〜?」

マリ「あ、ごめんなさい。えっと、結月ちゃん、今なんて言ったの?」

結月「こんにちは笑って日本列島。あのサングラスの人が司会している番組です」

マリ「えぇぇええーーーーー!?」

さくら「あん、ダメよぉ。時間が無いんだから、動かないで♪」

マリ「じぇ、じぇんきょく放送……!」


みこと「キマリさん、車掌さん居なかった……なにしてるの?」


マリ「みみみみ、みこっちゃん! タッチ! チェンジ! 交代!」

みこと「?」

さくら「そうしますぅ?」

ディレクター「うーん、もう時間無いから両方出てもらうというのは?」

マリ「それならオッケーです!」

さくら「じゃ、みことちゃんもちょっと待っててねぇ。すぐ済ませちゃうから」

みこと「……うん?」
493 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:08:11.52 ID:GYsMFmGgo

マリ「な、なんでこんなことに……!」

結月「安請け合いするからです」ポチポチ

みこと「電話?」

結月「うん、あの二人にメッセージをね。テレビに出るよって」

みこと「テレビ? 出るの?」

結月「ね、みこと」

みこと「?」

結月「また、あの時みたいに本の中の住人になったつもりで答えてみて」

みこと「どうして?」

結月「緊張しないで済むでしょ?」

みこと「……」

さくら「次はみことちゃんね、ジッとしててね♪」

マリ「結月ちゃん、化粧した私、どうかな?」

結月「はい、手鏡です」

マリ「こ、これが私……! あんまり変わってない!!」

結月「テレビ画面で見ると違いがはっきりしていますけどね」

マリ「ふぅん……」

さくら「はい、オッケー」

みこと「……」

さくら「ディレクターちゃん、こっちは準備オッケーよ♪」

ディレクター「それじゃ、打ち合わせ通りに。あとはアドリブでお願いしますね」

結月「はい、分かりました!」

マリ「あ、アドリブ……!?」

結月「大丈夫ですよ、私に任せてください」

マリ「た、頼もしい……!」

みこと「……」


アシスタントディレクター「中継入りまーす!」


結月「では、お願いします。キマリさん、みこと」

マリ「え、もう!?」

みこと「……」


ディレクター「あの子、表情が変わらないけど、大丈夫かな……」

さくら「ふふ、作ってるのかもしれないわねぇ。役を」


『今日は話題の超特急デネブが到着した東京駅からの中継です。一日車掌の白石結月さーん』


結月「はい、白石結月です。
   紹介にありました超特急デネブが今、ここ東京駅のホームへ到着しました〜」


『どうでしたか、豪華特急列車の旅は?』


結月「8月3日から今日までの一週間、列車の旅を一日車掌として努めてまいりましたが、
   とっても充実した時間で、本当にあっという間でした〜」
494 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:11:35.81 ID:GYsMFmGgo


『その表情が列車の旅の内容を物語っていますね〜。どうですか、ハモリさん』

『結月ちゃん、最近髪切った?』


マリ「おぉ……!」

結月「切っていません〜。次の役の為に伸ばしているんです〜」


『あれ、そっかい? おっかしいなぁ』

『あはは、二人のやり取りもお約束な感じですね〜』


マリ「は、ハモさんだ……みこっちゃん、ハモさんだよっ」

みこと「うんうん、ハモさんだ……!」

マリ「あれ? みこっちゃん……?」


ディレクター「……なんだか、様子が変わったな?」

さくら「何の役を演じているのかしら……? それとも誰かを演じて……?」


『ところで、結月ちゃんの隣にいるのは?』


結月「ここまで一緒に旅を同行してくれた仲間です。
   一人は南極へ一緒に観測隊の同行者として行動した玉木マリさんです」

マリ「こ、こんにちは……。私は……乗車した区間? 始発からここまで乗りました。
   それから……えっと……結月ちゃんとの関係ですね……友達です!」

結月「思い出に残ってる観光地はどこですか?」

マリ「えっと……みんなで行った場所? それは……色々あって」

結月「キマリさん、カンペは補助なのでパッ思いついた場所でいいですよ」

マリ「は、はい」

結月「私たちは去年南極へ行きましたよね。それを踏まえて答えてください」

マリ「ふ、踏まえて? 動物園行って、ペンギンを見ました! 名古屋の水族館でした!」

結月「違います。大阪の海遊館ですね」

マリ「……そうです。名古屋は初代しらせを見ました!」

結月「違います。南極観測船ふじ、ですね」

マリ「……はい」

結月「どうやら緊張しているみたいですね。いつも自由な発想でみんなを引っ張ってくれる存在なんです」

マリ「結月ちゃん、アドリブでいいって言っ」

結月「ハイ! それでは隣のあなた!」

みこと「雨上がりの京都の夜景が綺麗でした。雨に濡れて楽しかったのが印象的です」

マリ「あれ、みこっちゃんが出てきたとき雨止んで」

結月「それは青春を感じていいですね! まだ何も聞いてなかったですけど」

みこと「その後に温泉に入って気持ちよかったです。
    今日も朝に松本で温泉に入りました。最後の楽園って感じです」

マリ「ラストパラダイスです」

結月「そうですか、なんで英語で言い直したのか分かりませんけど。
    二人は美味しかった名産品などありましたか?」

マリみこと「「 昨日の夜食べたカップラー 」」

結月「現地の特産品でお願いします!!」
495 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:13:52.77 ID:GYsMFmGgo

マリ「名古屋のひまつぶしが一番です! 値段的にも!!」

結月「うなぎのひつまぶしですね」

みこと「広島の海軍カレーが美味しかったです。値段的にも」

結月「リーズナブルな価格って言いたいんですね」

マリ「結月ちゃんはどこが良かった?」

結月「私はジンベイザメですね。ぬいぐるみも買いましたし」

みこと「え、ジンベイザメを……?」

マリ「食べたの……?」

結月「食べてません。どこで話が曲げられたのか分かりませんが、長旅お疲れさまでした〜!
   それではスタジオにお返ししま〜す」


『いやぁ、面白いねぇ。アドリブなんでしょ今の』

『そうみたいですね。ハモさんも列車の旅が好きだとか』

『若い頃は乗ってたんだよ。地方の局に行った時――』


結月「ふぅ……」


ディレクター「お疲れ様ー」

さくら「おつかれさま〜♪」


結月「なんか、結局グダグダになってしまいました……すいません」

ディレクター「ゆるい番組だから平気だよ。スタジオの雰囲気も悪くないから」

結月「そう言っていただけると……」フゥ

マリ「いつも通りだったね」

みこと「……うん」

結月「というか、なんでキマリさんを演じたの? よりによって」

マリ「え、私の真似だったの!?」

みこと「うん。いつも近くに居たから……」

結月「他に誰が居るんですか」

マリ「えー……てっきり、日向ちゃんかと」

さくら「ふふ、幼虫がサナギに変態したってところね」

マリ「へ、ヘンタイ!?」

結月「姿を変えることをそう言うんです。勘違いしないでください」

ディレクター「それじゃ、長旅お疲れ様。気を付けて帰ってね」

マリ「あ、はい。お疲れさまでした」

みこと「……お疲れさまでした」

さくら「ここでお別れなんて寂しいわ」

みこと「……うん」

マリ「デネブちゃんの護衛、お疲れさまでした!」ビシッ

さくら「そういうつもりじゃなかったんだけど……役に立てたなら嬉しいわ♪」

みこと「ありがとう、さくらさん」

さくら「うふふ、貴女はいいライバルだったわ。それじゃね♪」

みこと「……うん、それじゃ」
496 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:14:55.57 ID:GYsMFmGgo

マリ「ライバルってなんのこと?」

結月「……まぁ、キマリさんは分かりませんよね。それでは、私もここで」

みこと「えっ、結月さんも?」

結月「この後、打ち合わせが入ってて。明日も早いから東京に泊まることになってるけど……」チラッ

マリ「え、あぁ……そうなんだ。頑張ってね」

結月「また後で連絡します。それじゃ、また」

マリ「うん」

みこと「……」

結月「みことは乗り続けるんだよね」

みこと「……うん」

結月「それじゃ、明日の出発には来るから」

みこと「うん」

結月「それじゃ、さくらさん達が待ってるので私はこれで」

テッテッテ

マリ「うん、またね〜」フリフリ

みこと「……」

マリ「……とうとう、二人になっちゃったね」

みこと「うん……」

マリ「どこ行こっか?」

みこと「どこでも……」

マリ「じゃあ……あそこ、行ってみたいところがあるんだ〜」


……


497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:16:35.24 ID:GYsMFmGgo

―― 井の頭公園


みこと「ボートに乗るの?」

マリ「うん、楽しそうでしょ」

みこと「恋人同士で乗るんじゃないの?」

マリ「え、でも……恋人同士で乗ると別れるから乗らないんじゃないの?」

みこと「……うん」

マリ「ほら、いいからいいから〜、時間無いよ、乗って乗って〜」

みこと「う、うん……時間無いの?」

マリ「よいしょっ、しゅっぱーつ」

グラングラン

マリ「あと1時間くらいで終わりみたい」

みこと「……東京なのに、緑が多い」

マリ「これ桜の木なんだって。春に来たら別世界だろうね」

みこと「うん、見てみたい」

マリ「見たいと思ったら見られるよ」

みこと「……でも、人が多いから……一人じゃ無理……」

マリ「確かに人多いよね。1年365日、24時間お祭りだよ」

みこと「漕ぐの代わる?」

マリ「ううん、大丈夫。これくらい、なんともなーい」

みこと「楽しそう」

マリ「うん、楽しい」

みこと「キマリさん、いつも楽しそうだった」

マリ「そうかな?」

みこと「うん……。だから、私も楽しかった」

マリ「えへへ、なんか照れるね」

みこと「……」

マリ「だぁっ暑い! 夕方なのになにこの暑さ!!」

みこと「代わる?」

マリ「やってみたいの?」

みこと「うん」

マリ「それじゃ、はい。しばらくはこのままでいいよ、戻るときにお願いね」

みこと「……うん」

マリ「よいしょっと」

みこと「寝るの?」

マリ「ううん、仰向けになるだけだよ」

みこと「……」

マリ「ふぃ〜……遠くまで来たね〜」

みこと「ここの方がお家に近いよ」

マリ「そうだけど……そうじゃなくて……」

みこと「……?」
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:18:13.93 ID:GYsMFmGgo

マリ「色んな景色見て、色んな物を食べて、色んな人に出会って……」

みこと「……」

マリ「ね。最初は私たち三人だったのに……今は二人でこうしてる」

みこと「うん……。私も、横になっていい?」

マリ「いいよ〜、茜色の空が綺麗だよ〜」

みこと「……しょ……と。……本当だ……綺麗」

マリ「きっと私たち、周りから変な目で見られてるね」

みこと「うん……だけど……かき捨てだから」

マリ「そうだね」

みこと「……さっきキマリさんが言ったこと、分かったかもしれない」

マリ「うん?」

みこと「遠くまで来たって……実感してきた……」

マリ「だよね……。あ、そういえば」

みこと「……?」

マリ「みこっちゃん、お母さんに連絡した?」

みこと「あ……そうだった……」

マリ「まだなの!? 必ずしないと!」

みこと「う、うん……」

マリ「今、かけたら?」

みこと「……いま?」

マリ「うん、今」

みこと「……うん」ピッピッポ

マリ「リンにメッセージ送っとこう……」ポチポチ


―― 帰るの明日になると思う。お母さんに言っといて。


マリ「うぅっ、絶対に怒られる……っ」


みこと「もしもし……お母さん……?」


マリ「……しょうがない、怒られよう」


みこと「あ、あの……お願いがあって……っ」


マリ「…………」


マリ「空が……寂しい……」


……


499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:19:20.52 ID:GYsMFmGgo

―― 東京駅:コインロッカー


マリ「ぐぬぬ……入らない……っ」


マリ「くぅ……やっぱり送った方がいいかな……?」


ピロリロリ〜♪


マリ「うっ……」


ピロロリロリロリ〜


マリ「……」

プツッ


マリ「……はい」

『マリさ〜ん? 今どこにいるんですか〜?』

マリ「トキョエキデス」

『え、なんて?』

マリ「東京駅に居ます!」

『なんで?』

マリ「え〜っと、それには深いわけがありまして」

『その訳とは?』

マリ「何から話せばいいのか」

『今のこの時間まで連絡もよこさずに悩むようなことがあったと?』

マリ「違うんだよ、お母さん! 帰るよ! 帰ろうと思ってるよ!」

『じゃあなに? なんでまだ東京駅に居るの』

マリ「えっとぉ……えぇっと……」

『……』

マリ「む、無言の圧力……!」

『……』
500 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:19:57.98 ID:GYsMFmGgo

マリ「と、友達が心配で……」

『……』

マリ「あのねっ、列車に乗って友達になったんだけどねっ、まだ中学生でねっ」

『……』

マリ「まだ列車に乗り続けたいって言っててねっ、だから心配でっ」

『自分もまだ乗り続けたい、と』

マリ「……そうじゃないけど」

『そうじゃないの?』

マリ「うん……」

『お父さんも心配してるのよ、リンも』

マリ「うん……」

『明日には帰って来るのね?』

マリ「……うん」

『分かった。それじゃ、また連絡して』

マリ「うん、分かった」

プツッ


マリ「明日帰るよ……多分」


……


501 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:21:21.80 ID:GYsMFmGgo

―― デネブ


みこと「どこ行ってたの?」

マリ「えっ、えーっと……お、お母さんに連絡を……?」

みこと「……」

マリ「それより、みこっちゃんのお母さんはどうだったの?」

みこと「何も言わなかった……」

マリ「う……怒ってるのかな? ……当然かもだけど」

みこと「今までそんなことなかったから……分からない」

マリ「まぁ、そうだよね……自分の娘がまだ帰らないって心配だよね……人のこと言えないけど」

みこと「……うん」

マリ「帰る?」

みこと「ううん、まだ……続けたい……」

マリ「……そっか」

みこと「ご飯、どうしよう?」

マリ「せっかく東京に来たんだから、安いお店探してみようか。なにかあるかも」

みこと「うん」

マリ「じゃ、ネットで調べてみるね〜。激安・晩御飯・東京……っと」

みこと「……」

マリ「出てきた……おっ、凄い安いお店発見! 400円でコスパ最高って書いてあるよ」

みこと「どこ?」

マリ「有楽町だって」

みこと「……どこ?」

マリ「どこだろうね。なんか東京駅から遠い場所にあるっぽい。勘だけど」

みこと「そうなんだ……」

マリ「遠い場所だったら移動にお金使うから意味ないよね」

みこと「……うん」

マリ「えっと、他には……女子会で一人1000円? お酒が出る店じゃないか!」

みこと「……」

マリ「うーん……もっとこう……ワンコインで楽しめる店はないモノか……」

みこと「テレビで見たことある……激安ってお店」

マリ「うんうん、分かる。そういうのが出てくればいいよね〜」

みこと「……」

マリ「あ、いいのあった」

みこと「どこ?」

マリ「アキバ原ってところ。結構安い」

みこと「秋葉原?」

マリ「そうそう。有楽町よりは近いと思う。そこ行ってみようか」

みこと「うん」

マリ「といっても、場所分からないからまずは車掌さんに相談だ」フンス


……


502 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:24:22.73 ID:GYsMFmGgo

―― 東京駅・切符売り場


ガヤガヤ

 ガヤガヤ


マリ「えっと……二つとなりだから……」

みこと「キマリ…さん……」

マリ「どうしたの?」

みこと「ちょっと……気分が……」

マリ「あ、人が多くて疲れちゃった?」

みこと「……うん」

マリ「えっと、それじゃ――」


男「ねぇ、君たち、ひょっとして観光客?」


マリ「え、あ、はい」

男「どこ行くの?」

マリ「アキバ原にご飯を食べに行こうかと……」

男「へぇ、それじゃ俺たちが案内しようか?」

マリ「いやぁ、でも、友達がちょっと気分を悪くしてて」

男「じゃあ、近くの店で少し休んでさぁ」

マリ「うーん、どうしよっか、みこっちゃ――……あれ、居ない?」


「キマリさーん」


マリ「えっ!? あんなとこに!?」

男「もちろんあの子も一緒に、ね?」

マリ「いやぁ、でもぉ」


「キマリ! 早く! 列車が来てる!!」


マリ「し、報瀬ちゃん……!?」


「急いで!」


マリ「う、うん。そ、それじゃ」

テッテッテ


男「へ……?」
503 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:24:56.75 ID:GYsMFmGgo


テッテッテ

マリ「みこっちゃん、今報瀬ちゃんの真似したよね!」

みこと「……うん」

マリ「似てた似てた! 凄い!」

みこと「キマリさん、変な人に付いて行きそうだった……」

マリ「え、そんなことないよ」

みこと「日向さんと報瀬さんに注意されてたから……」

マリ「えー……」

みこと「ごめんなさい……キマリさん……っ」

マリ「デネブちゃんに戻ろっか」

みこと「うん……」


……


504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:27:34.58 ID:GYsMFmGgo

―― みことの個室


コンコン


みこと「……はい」


ガチャ


マリ「みこっちゃん、今大丈夫?」

みこと「うん」

マリ「じゃあさ、車掌さんのところ行かない?」

みこと「うん。何かあるの?」

マリ「ほら、前にヴェガのこと聞きたいって言ったでしょ? 今から聞きにいこう」

みこと「……うん」


……




―― 食堂車


料理長「なんだ、だからさっきここで食べに来たんだね」

マリ「どこも人が多くて……夜になったら減るどころか増えてるみたいだったのですよ」

料理長「そりゃそうだろうね」

マリ「それに、慣れ親しんだ料理って安心するんですよね」

料理長「そんな長い間食べてたかね……そう言ってくれるのは悪い気しないけど」

みこと「料理長さんは……どこからどこまで乗車したんですか……?」

料理長「ん?」

みこと「ヴェガの乗車区間……」

料理長「京都から最後まで行ったな……。余計な奴も一緒に」

マリ「余計な?」

料理長「こっちの話。食堂車でウェイトレスしてたんだよ」

マリ「料理長もウェイトレスしてたんですね……」

みこと「車掌さんとは区間が別だったって……」

料理長「そうだよ。私が乗車した時はもう居なかったなぁ」

マリ「それなのに今は一緒に働いてるって凄いですね! 凄い!」

料理長「確かにね。私も最初聞いた時は驚いたな」

みこと「こういうことって……あるんだ……」

料理長「偶然ってわけでもないさ。私が料理長として乗りたいと思ったように、
     車掌だってそうしたいと思っていたはずだから」

マリ「必然だ!」

料理長「そうかもね」

みこと「必然……」
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:30:51.51 ID:GYsMFmGgo


車掌「こんばんは。なんだか賑わっていますね」


マリ「あ、車掌さん! お疲れ様です!」

みこと「……」ペコリ

料理長「お疲れ。そっちは点検終わった?」

車掌「はい、終わりました。後は最終チェックをしてから個室に戻ろうかと」

料理長「じゃあ私も終わらせてくるよ。また後で」

スタスタ...

マリ「まだ話聞きたかったのに……」

車掌「また後で来るみたいなのでその時に」

マリ「はい。……それでは、車掌さんはどこからどこまで乗車したんですか?」

車掌「私は札幌から茨木の水戸まで乗車しましたよ」

みこと「結構短い……?」

車掌「そうですね……。兄の結婚式に招待されたのが乗車した理由ですから、
   特にこれと言った目的はなかったので」

みこと「目的……」

車掌「お二人には、ご姉妹は?」

マリ「私は妹が一人います」

みこと「私は居ない……」

車掌「義理の姉はいい人で、今も仲良く暮らしているんですが、
   当時の私は兄を取られたような気分になってて、少し落ち込んでいたんですよ」クスクス

マリ「それはなんとなく……分かる……ような?」

みこと「分かるの?」

マリ「リンがお嫁さんに行ったらと思うと……寂しい……かな?」

車掌「仲が良ければその分、そう思ってしまうのかもしれませんね。
   特に、その時の兄は学生でしたから」

マリ「学生結婚!」

車掌「そうです。いきなりだったものですから、親も親戚も大慌てで」

みこと「それだけ、相手のことが好きだった……?」

車掌「みたいですね。それだけに、当時の私はショックだったのかもしれません」

マリ「車掌さんは幾つだったんですか?」

車掌「鶴見さんと同じ歳でしたよ」

みこと「……!」

マリ「そうなんですか……!」

車掌「札幌から水戸まで、日本を縦断するヴェガにとってはそう時間のかかる距離ではありませんでしたが、
    それでもいろいろなことがあって、気が付けば沈んでいた気持ちも忘れてしまっていました」

マリ「……」

車掌「私が伝えられることと言えばこのくらいですね」

みこと「いろいろあった……って……?」

車掌「ふふ、そうですね……。お二人はあの飯山みらいさんがヴェガに乗車していたことは知っていましたか?」

マリ「は、はい」

みこと「……」コクリ

車掌「では、その飯山みらいさんの友人である二人の娘が――」
506 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:33:00.55 ID:GYsMFmGgo


料理長「話の途中でごめんよ、はい、差し入れ」


マリ「ジュースとスイカ!」

みこと「ありがとうございます……」

料理長「私も混ぜてもらおうかな」

車掌「もう、いいところで話を遮るんですから」

料理長「え、そうなの?」

車掌「そうです。今日はお酒、飲まないんですか?」

料理長「飲まないよ。あの日は特別だったからさ。古い友人に再会できてうれしかったから」

車掌「……そうですか」

マリ「シャクシャク、うん、んまい!」

みこと「……料理長さん」

料理長「うん? どうした?」

みこと「……最後まで乗ってたんですよね?」

料理長「ヴェガに? そうだけど」

みこと「どんな気持ちだったのかなって……」

料理長「どんな気持ち……ねぇ」

車掌「そうですね、聞きたいです。最後の都市、福岡から出発してからのヴェガの雰囲気」

マリ「シャクシャク……」

料理長「乗客はほとんど降りてしまってるから、寂しくなったのは覚えてるよ」

みこと「……」

料理長「夢の崎の一つ前、阿蘇駅でも人は降りてしまって。
    いよいよ次が最後の駅ってなると、もう人は乗ってないんじゃないかってくらいに誰もいなかった」

車掌「……」

料理長「寂寥感が広がる車内でも、ヴェガは走り続けていたよ。それが余計に、胸に来てね」

マリ「……」

料理長「普段は会いたくない奴がいてさ、顔を合わせればケンカばかりしてたんだけど……。
    その時は、お互いに憎まれ口なんて出なくて……妙な気持ちになったもんだ」

みこと「……その人も、寂しかったの?」

料理長「そうなんじゃないかな。普段は高飛車で偉そうなことばっかり言ってたのに、
    その時ばかりはさすがの嫌な性格もその空気に捉われてたんだよ」

マリ「あ、さっき言ってた余計な奴って、その人だったんですね」

料理長「そういうこと。今でも繋がりのある友人だよ」

車掌「確かに、特別な日ですね」

料理長「……うん。かけがえのない友人になったよ。ヴェガに乗ったおかげでね」

マリ「…………」

みこと「…………」

料理長「最後まで行くの?」

みこと「え、あ……はい……?」

料理長「ふふっ、まだ分からないって感じだね」


車掌「……」チラッ

マリ「…………」
507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:34:07.87 ID:GYsMFmGgo


みこと「最後まで行けば……料理長さんが言った……寂寥感が包まれた世界を……?」

料理長「うん、味わえると思うよ」

みこと「――……」


マリ「みこっちゃん……」


車掌「今日はどちらでお休みになられますか?」

マリ「えっと……みこっちゃんにお世話になろうかな〜って」

車掌「もし、当てがなれけば車掌室まで来てくださいね」

マリ「あ、ありがとうございます」ペコリ


料理長「高校からの腐れ縁で、いろいろあったからね、ソイツとは」

みこと「因縁?」

料理長「はは、そういうことだね。とにかく仲が悪かった……いや、最悪だったから」

マリ「犬猿の仲……水と油……虎に翼?」

料理長「最後は違う」

車掌「そんな二人に何があったら、寂寥感を共感できるまでになったのでしょう?」

みこと「うん……」

マリ「知りたいです!」

料理長「うーん……あんまり面白い話じゃないんだけどねぇ」

車掌「まだ時間はありますから、いいじゃないですか」

みこと「……」ウンウン

マリ「さ、飲み物をどうぞ」

トクトクトク

料理長「アイツのプライベートに関わるけど……まぁいいか」

マリ「いいんですか!?」

料理長「いいって。ソイツは、お嬢様で――」

みこと「……」

マリ「ふむふむ」


……


508 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:36:44.44 ID:GYsMFmGgo

―― みことの個室


コンコン


みこと「はい……?」


「みこっちゃーん、寝る準備できた〜?」


ガチャ


みこと「うん……」

マリ「あのね、一緒に寝てもいいかな?」

みこと「……うん」

マリ「ごめんね、いきなりで。ゆっくり話したいな〜って思って」

みこと「……」

マリ「あ、邪魔かな?」

みこと「ううん、私も、キマリさんと話したい……から」

マリ「ありがと〜。断れたらどうしよって思ってたんだよ。あ、でも……」

みこと「?」

マリ「迷惑なら言ってね?」

みこと「ううん、思ってないよ。どうぞ、入って?」

マリ「失礼しま〜す」

みこと「二人の話、面白かった」

マリ「いい話だったね〜。横座るね」ストッ

みこと「南極の話、聞きたい」

マリ「そういえば、動画ってどこまで見たの?」

みこと「南極に着いたところまで」

マリ「そっか。じゃあ、一緒に観よう」

みこと「うん、ありがとう」

マリ「コンセントどこ?」

みこと「あっち」

マリ「あとで充電しないとだから。まだ大丈夫だけど……。えっとね〜」

みこと「……」

マリ「実はあんまり見てないんだよね」

みこと「どうして?」

マリ「撮ったの日向ちゃんでしょ? 
   日向ちゃん目線で見ると、私の見た記憶がごっちゃになりそうでさ〜」

みこと「そういうものなんだ?」

マリ「多分ね」

みこと「……」

マリ「これ、かな?」

みこと「それは視たから……次?」

マリ「あ……これ……」

みこと「……?」
509 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:39:23.43 ID:GYsMFmGgo

マリ「百夜って言ってね、陽が傾いたまま夜になるんだよ」

みこと「うん……」

マリ「太陽がね、転がるんだよ。面白いよね」

みこと「――……」

マリ「この時は、その太陽を見ながら歌ってたんだ」

みこと「……」

マリ「あ、私の話より動画だよね」

みこと「ううん、聞きたい」

マリ「……そう?」

みこと「動画はいつでも見ることができるから……」

マリ「……うん」

みこと「自転車乗ってた」

マリ「雪を固めて道を作って、その上を走ったんだよ〜。
   まぁ、固めない方が走りやすかったんだけどね」

みこと「…………楽しそう」

マリ「それがそうでもなかったんだよ。すぐ転んで、報瀬ちゃん怒るし、
   日向ちゃん笑ってるし、それみて結月ちゃん呆れてるし」

みこと「楽しそう」

マリ「……うん、そうだね。……4人いつも一緒だったから楽しかった」

みこと「…………」

マリ「この旅でも一緒だったよね。みこっちゃんも」

みこと「…………うん」

マリ「……みこっちゃん?」

みこと「………………うん?」

マリ「眠たいの?」

みこと「ううん……」

マリ「人がたくさん居て疲れちゃったよね……。色んなことがあったし……」

みこと「……ううん…………はなし……ききた……い」

マリ「……また……今度ね」

みこと「こんど……って……いつ……?」

マリ「……ッ!」

みこと「……ききたい……はなし……」

マリ「うん、分かった。このあとね、雪上バイクに乗せてもらったりしたんだよ」

みこと「…………うん」

マリ「遊んでばっかりに見えるけど、ちゃんと観測隊としてやるべきことやってたんだからね」

みこと「………………うん」
510 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:40:32.38 ID:GYsMFmGgo

マリ「料理手伝ったり、掃除したり、研究や調査の補助したり」

みこと「………………」

マリ「自分のことは自分でやるんだよ〜。それは当たり前のことで……」

みこと「……すぅ……すぅ」

マリ「……難しいことで……でも……慣れたら……」

みこと「すぅ……すぅ……」

マリ「ごめんね、みこっちゃん」ナデナデ

みこと「すぅ……」

マリ「私は最後まで行けないよ」

みこと「……すぅ」

マリ「ごめんね……っ」グスッ

みこと「すぅ……すぅ……」


……





マリ「魔法少女になれたんだね、助手くん」

みこと「……?」

マリ「すやすや」

みこと「あれ……寝ちゃった……?」

マリ「くーすかー」

みこと「……」

マリ「むにゃむにゃ」

みこと「ありがとう……キマリさん」

マリ「かーすかー」

みこと「……ありがとう」

511 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:43:51.87 ID:GYsMFmGgo


―― 8月11日



「あれっ落とした?」


「ウソでしょッ!?」


「どこに落としちゃったんだろぉ……!」


「まずい……まずいわ……そろそろこの魔晄列車が発車するというのに……!」


「堕天使ヨハネを置いて、発車してしまうというのに……!」


「そ、そうよ、一度はこの私の手の中にあったのだから、
 きっと魔力が少しくらい乗車証にも移っているはず」


「感じるのよ、ヨハネ……魔力を! 自分の力を見つけ出すの……!」


「ムムムム……!」



結月「…………」


「あ、結月ちゃんだ」

「あ……!」


結月「キマリさん、みこと!」


マリ「来てたんだね」

みこと「……どうしたの、変な顔してる」

結月「ううん、なんでもない」


「来たわ! あっちね……!」

テッテッテ


マリ「ん? あの子はどうしたのかな?」

結月「なんだか、探し物をしてたみたいで……」

みこと「知り合い?」

結月「そんなわけないでしょ? それはそうと、どこ行ってたんです?」

マリ「えっとね〜」

みこと「都庁と浅草と……」

マリ「アキバ原行ってきたよ。安くて美味しいランチ食べてきた」

結月「なんか、嬉しそうですね」

マリ「昨日行こうと思ったけど断念したからね。念願叶ったみたいで嬉しかったよ、ね?」

みこと「うん」

結月「そうですか。朝から移動してたんですか?」

マリ「うん。人が多くて大変だったけど、回れてよかったよね」

みこと「キマリさんに付いて行っただけ……だけど」
512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:46:41.57 ID:GYsMFmGgo

結月「みこと、人込み苦手って言ってたからね……。疲れたでしょ?」

みこと「うん……だけど、楽しかった」

結月「……!」

マリ「どうしたの?」

結月「いえ、意外で……少し驚いてしまいました」

みこと「……」

結月「そろそろ出発の時間ですね……」

マリ「……うん」

みこと「……」

マリ「あの、ね……みこっちゃん」

みこと「うん……?」

マリ「言わなきゃいけないことが――」


「おーい、おーーい!! ちょっと待ってーー!!」


マリ「え?」

みこと「……あ」

結月「……!」


「乗ります、乗ります〜〜!」


マリ「手伝ってくる!」

テッテッテ


結月「わざわざ……」

みこと「わ、私も……」

テッテッテ


結月「……なにしてるんだか」



「ぬおおお、鞄が揺れる〜〜!」

マリ「貸して!」

「助かるよ、パスッ!」

マリ「ぐぅっ、お、重い……!」ズシッ

「おっしゃー! 全速前進! ヨ―ソロー!」

ダダダダッ

マリ「ぐぬぬっ」

みこと「手伝うッ!」

マリ「ありがとう、みこっちゃん!」

みこと「うぅっ……!?」ズシッ

マリ「本当に、何が入ってるんだか……!」ヨロヨロ

みこと「ふぅっ……」ヨロヨロ


「あはは、よろめいてる」アハハ

結月「発車までまだ余裕があるんですけど」
513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:29:48.79 ID:wQFDgRACo

「それは、君に逢うために急いできたからさ。他に理由がいるかい?」キラン

結月「相変わらずですね……」


マリ「か、栞奈ちゃん……! 何が入ってるのこれ……!」


栞奈「漬物石」


マリ「え……!?」

みこと「……!?」


栞奈「あ、嘘だよウソ。教材が入ってるんだよね」

マリ「なんで!?」

栞奈「いやー、試験でちょっと力不足感じちゃってさ」

結月「デネブの中でも勉強するんですか」

栞奈「まぁ、出来ることはやろうと思ってね。大丈夫、みことちゃん?」

みこと「はぁっ……はぁっっ」

マリ「戻って来たんだね」

栞奈「色々と、取り残したものがあるからね」

結月「栞奈さん、これ」

栞奈「……? なにそれ?」

結月「電話番号です」

栞奈「え!? 結月ちゃんとのホットライン……!?」

結月「違います。あの人の番号です」

栞奈「え――?」

マリ「ん?」

みこと「あの人って……はぁふぅ」

栞奈「……」ピッピップ

結月「あ……! 違います! 今じゃなくて最終駅で――」

trrrrrrrrr

プツッ

『はい』

栞奈「もしもし、白石結月です」

『バカじゃないのか?』

栞奈「そんな、ひどいです大村さん」

『いまって、東京だよな……?』

栞奈「そうですけど」

『なんで電話してんだよ? 最終駅でって伝えたはずだけど??』

栞奈「なによ、今電話したら不服だって言うの?」

『いや……声聞けて……嬉しかったけどさ……』

栞奈「え――ッ!?」ボフッ


マリ「あ、真っ赤」

みこと「うん」

結月「……」
514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:32:06.50 ID:wQFDgRACo


栞奈「ば、バカ! 変なこと言わないでよ!」

『それより、試験はどうしたんだ?』

栞奈「ちゃ……ちゃんと受けてきたよ……」

『そっか……』

栞奈「私、試験も受けて、デネブで最後まで行くことにしたから」


マリ「……」


栞奈「どっちかを選べ、なんて言われてないから……どっちも選ぶんだよ」

『そうか。そうするのが栞奈らしいなって思うよ』

栞奈「そう……かな?」

『あぁ』

栞奈「私が東京に戻って来るって思ってたんだ?」

『賭け、みたいなものだったけどな――……って、ごめん、切るわ』

栞奈「え?」

『大村ァァアアアア!!』

『は、はい!』

『お前、なに女と話なんかしてんだよ! アァ!?」

『す、すいません』

栞奈「もしかして練習中?」

『そうなんだよ。だから、後で……っていうか、最終駅でな』

栞奈「なんかごめんね、忙しいところに……」

『いや、いいよ。じゃあ、頑張ろうな、栞奈』

栞奈「うん、頑張ろうね、一輝」

『感動させるから、甲子園で』

栞奈「――期待してる」

『大村ァ! グランド10周走ってこい!!』

『はい!』

プツッ

栞奈「……いまの声……報瀬に似てるって言う……マネージャーかな」


マリ「……」

みこと「……」

結月「どうでしたか?」

栞奈「えっ、どうって言われても……!?」

みこと「動揺してる」

栞奈「し、してないですぅ」

マリ「ふぅん」

栞奈「ごほん。私はね、月の裏側にワームホールがあると思ってるんだよ」

結月「なにを言い出すんですか」
515 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:34:00.25 ID:wQFDgRACo

マリ「わーむほーる?」

みこと「宇宙のどこかにあって、そこを通るとどれだけ離れても一瞬で移動できる」

マリ「それが月の裏に? そんなのあるわけないよ〜。南極が20度超えるくらいありえない〜」

栞奈「そうだね……。ともかく、結月ちゃん、ありがとね」

結月「いえ……渡せてよかったです」

栞奈「でも、よかったの?」

結月「なにがです?」

栞奈「私に番号渡して……」

結月「なにを言い出すかと思えば……言っておきますけど、私、大村さんはタイプじゃないですから」

栞奈「プフッ、振られちゃった」

結月「栞奈さん、私が言うのもなんですけど、デリカシーがあまりにも」


「ない……! ない……!!」オロオロ


結月「あ……まだ探してる」

栞奈「あの子は何を探してるの?」

みこと「分からない」

マリ「あ……」

結月「どうしたんです?」

マリ「それじゃない? 自販機のとこに落ちてる」

栞奈「財布……結構入ってるっぽいね」

結月「見つかって良かったですね」

マリ「うん、みこっちゃん」

みこと「渡してくる」

テッテッテ


「まずい……アレが無いと私……!」オロオロ


みこと「あの……」


「え?」


みこと「これ落ちてました」


「財布……?」


みこと「どうぞ」


「あ、うん……。うわ、かなり分厚い」


みこと「?」


「ごくり……」

「ゴクリ……じゃないずら」

「ひゃっ、ずら丸!」
516 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:36:21.25 ID:wQFDgRACo

「ジー……」

「な、なによ」

「善子ちゃん、ひょっとして……ネコバ」

善子「するわけないでしょ!」


みこと「……?」


善子「コホン。私のじゃないわよ、これ」

みこと「え?」


マリ「持ち主じゃないみたいだね」

栞奈「おぉー……ブルジョワー」

結月「財布は駅員さんに渡しましょうか……持ち主は困ってるでしょうし」


みこと「じゃあ誰の……?」

善子「さぁ? 知らないわ」

「あ、ちょうど駅員さんが来たずら」


駅員「ここを通ったんですね?」

男性「はい……」


みこと「あの、駅員さん」


駅員「すいません、今取り込んでいまして……他の――」

男性「あ、それ!」


みこと「そこの……自動販売機の下に落ちて……」


男性「私のです!」


駅員「中身を確認してもよろしいですか?」

男性「はい。免許証が入っていますので、お願いします」

駅員「それでは失礼します」


マリ「見つかって良かったね」

結月「ですね」

栞奈「それで、君たちはなにを探していたのかね?」


善子「え? 私たち?」

「?」


栞奈「何か探していたのではないかね?」


善子「あ! そうだった!!」

「なにを落としたの、善子ちゃん」

善子「天界から堕ちたのは私、ヨハネよ」キラン

「落とした本人に余裕があるみたいなので、気にしないでください」ニコニコ


栞奈「そう?」

517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:38:28.51 ID:wQFDgRACo

駅員「それでは、私はこれで」

男性「ありがとうございました」

みこと「……私もこれで」

男性「あ、待って……お礼をしたいんだけど」

みこと「ううん、いいです」

男性「そうはいかないよ。この財布を失っていたら私は大変なことになっていたんだ」

みこと「でも……」


マリ「お礼ってなんだろ?」

結月「そんなこと言ってないで、助けてあげてください」


善子「あなたの胸元にある白鳥のバッチ、それと同じものを探してるのよ」

「善子ちゃん、乗車証を落としちゃったの!?」

善子「だから焦ってるのよ! 一緒に探しなさいよずら丸!」

「わ、わかったずら!」

栞奈「どれ、私も探してしんぜよう」

善子「え?」

栞奈「私もこの列車に乗るんじゃよ。いや、乗ってたんじゃよ?」

善子「どういうこと……というかなんのキャラ?」


男性「君たち、デネブに乗るんだね。じゃあ、6枚でいいかな」

みこと「……?」

マリ「なにかな?」

男性「札幌にあるホテルのレストランお食事券。大通公園を見渡せる場所にあるんだよ」

マリ「おぉー……」

結月「有名なホテルですよ、ここ。値段も結構します……」


栞奈「なるほど、車掌さんに受け取った後、個室に入って、その後持っていないことに気付いたと」

善子「そうなのよ」

栞奈「列車の中は探したんだね?」

善子「そうよ」

栞奈「と、いうことは……ふむ、なるほどね。分かったよ」

善子「分かったの!? 私はどこに落としたの!?」

「なんだか、探偵さんみたいずら〜」

栞奈「迷宮入りだ」

善子「……はい?」

栞奈「お手上げってことだよ、フッ」

善子「役に立たない頭使うくらいなら探しなさいよ! この迷探偵!!」


男性「私はここのオーナーだから。気にしないで欲しい。
   この財布の中にはお金より、カードよりも大事な物が入っていたんだ」

みこと「……」
518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:40:20.84 ID:wQFDgRACo

男性「だからとても助かった。その気持ちだよ、受け取って欲しい」

みこと「……キマリさん」

マリ「せっかくだから、受け取ってもいいんじゃないかな」

みこと「……うん」

男性「良かった。君たちには最高のもてなしをさせてもらうよ」

栞奈「え、私も!? 超ラッキー♪」

善子「あれ、私たちも数に入ってる?」

「そうみたいずら」

結月「あ、私は行かないので、5枚で……」

男性「そう? じゃあ、はい」

マリ「あ、あの……! 私も行かないので……!」

みこと「……」

男性「じゃあ、4枚だね」

善子「あ、もう一人いるので5枚で!」

「善子ちゃん、ルビィちゃんの分って解ってるけど、結構図々しいと思う……!」

男性「5枚でいい?」

栞奈善子「「 はい 」」

みこと「……」

結月「ほぼ関係のない二人が頷きましたね……」

男性「本当にありがとう、それじゃ、娘と共に札幌で待ってるよ」

スタスタ...

栞奈善子「「 ありがとうございます!! 」」

マリ「仲良くなるの早いね」

栞奈「これが高級ホテルのお食事券……!」

善子「わ、私たちが行ってもいいの……!?」

マリ「どう、みこっちゃん」

みこと「……うん」

結月「みこと……?」


「善子ちゃん、マル達は札幌まで行かないずら」

善子「そ、そうだった……!」

栞奈「どこまで行くの?」

「函館で友達が待ってるから、そこまでです」

善子「なんか良さそうなホテルの食事券……行きたい……!」

栞奈「君たち、名前は?」

「国木田花丸、といいます。よろしくお願いしますずら」

善子「堕天使ヨハネ」ビシッ

花丸「こっちは、津島善子ちゃんです」

栞奈「私は、ベルゼブブ。この世に混沌をもたらす者」バーン

善子「ぐっ、なんかランクが上がったような……!」

花丸「善子ちゃんと息が合ってるずら」
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:42:45.07 ID:wQFDgRACo


みこと「キマリさん、行かないの?」

マリ「……うん」

みこと「…………」

マリ「黙っててごめんね。中々言い出せなくて……」


結月「言ってなかったんですか……」

栞奈「……」

善子「天を追放された私だけど、ハエなんかに――」

花丸「善子ちゃん、ちょっと待つずら」

善子「?」


みこと「行かないって、決めてたの……?」

マリ「うん……」

みこと「いつから……?」

マリ「京都から……?」

みこと「……そう……なんだ」

マリ「みこっちゃんが、一人で映画村に行くって言った時、期待してる顔してた」

みこと「……?」

マリ「ワクワクするようなドキドキするような、そんな顔」

みこと「でも、何もなかった」

マリ「本当に? 本当に何もなかった?」

みこと「……うん。なにか印象に残るモノもなかったよ?」

マリ「一人でバスに乗って行ったよね。それは何もなかったってことになる?」

みこと「ううん、初めて乗るバスだから行先があってるのかどうか不安だった」

マリ「きっとね、みこっちゃんが動いたから、その事実が大切なんだよ」

みこと「……」

マリ「期待を超える何かがあっても、無くても、みこっちゃんが行動したことに意味があるんだよ」

みこと「……」

マリ「楽しくても、嫌なことがあっても、それはみこっちゃんだけが経験できたことだから」

みこと「……」

マリ「だからね、この先……私がいなくても、きっとみこっちゃんにとって意味があるんだよ」

みこと「楽しくないって思っても?」

マリ「もちろん!」

みこと「……」

マリ「楽しくないなんてことはないけどね、絶対!」

みこと「……うん」


車掌「……」

「……」
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:45:20.30 ID:wQFDgRACo


マリ「本当は行きたいよ。最後まで行ってみたい」

みこと「……」

マリ「だけどね、みこっちゃんを心配してる気持ちが大きいから、それはなんか違うって思うんだよ」

みこと「違う……?」

マリ「みこっちゃんのように、ワクワクドキドキする気持ちじゃないから」

みこと「……」

マリ「きっと、みこっちゃんの旅に私はもう必要ないんだ」

みこと「そんなことない……!」

マリ「あ……」

みこと「だって、キマリさんが居たからこんな気持ちになれた……!」

マリ「……」

みこと「楽しいだけじゃなくて色々教えてもらったから……もう少し続けたいって思えた……!」

マリ「みこっちゃん……」

みこと「だから……だから……!」

マリ「えへへ、ありがとう」

ぎゅうう

みこと「だから……もう少し一緒に居たい……っ」ボロボロ

マリ「ありがとね、そう思っててくれて」

みこと「おねがい……キマリさん……」ボロボロ

マリ「ううん、私はここで降りるよ」

みこと「……っ」

マリ「旅を続けて」

みこと「……グスッ」

マリ「いい旅を、続けて」



車掌「……」

「……」



マリ「みこっちゃんの旅がここから、ここから始まるんだ」

みこと「……」

マリ「大丈夫だよ、栞奈ちゃんもいるし、新しい旅仲間もいるんだから」

みこと「……?」


栞奈「うん、私たちに任せなさいっ」グスッ

善子「……私たち……?」

花丸「……」
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:46:53.82 ID:wQFDgRACo

マリ「鶴見琴ちゃん、始発駅から一緒にここまで来ました。よろしくお願いします!」

みこと「……っ」


花丸「よろしくお願いします」ペコリ

善子「えっと……」オロオロ

栞奈「君たち可愛いね、歳いくつ?」

花丸「高校2年生です」ニコニコ


結月「……」


マリ「これ、私の乗車証」スッ

善子「え、いいの?」

マリ「うん!」

善子「あ……ありがとう」


マリ「そうだ、記念撮影しよう! 日向ちゃんと報瀬ちゃんに教えたい!」

栞奈「オッケー!」


車掌「撮りましょうか?」

マリ「あ、車掌さん、お願いします!」

善子「あの、この乗車証……」

車掌「ふふ、構いませんよ。大事にしてくださいね」

善子「は、はい……」

花丸「ま、マルたちもいいずら……?」

栞奈「かまへんかまへん」

結月「栞奈さんは一体どういうキャラなんですか……」

みこと「……」

マリ「ほら、みこっちゃん、笑って〜♪」


「あの、車掌さん、私が撮りましょうか?」


みこと「あ……」

結月「あれ……?」


車掌「よろしいのですか?」

「えぇ、構いませんよ。一緒に写った方が記念になると思いますから」

車掌「みなさん、私も一緒で」

マリ「もちろんです! お願いします!」

車掌「それでは、お願いします」

「はい……。えっと、ここを押せばいいのかしら?」

マリ「あ、そっちは録画なので……こっちを」

「わかったわ」
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:50:29.78 ID:wQFDgRACo

善子「フフ、大いなる旅路の始まりに相応しい瞬間を残すわよ」ビシッ

栞奈「じゃあ、私はヨハンナと対になる感じで」ビシッ

善子「ヨハネよ、間違えないで」

花丸「えっと、えっと……」オロオロ

結月「こっちに」

花丸「は、はい……なんか焦ってしまって」アセアセ

結月「いきなり巻き込んですいません……」

車掌「……」

マリ「はい、準備オッケーです」

みこと「…………」


「琴……」


マリ「ハイ、東京!」

みこと「……」


「後悔のないように、ね」


みこと「……――!」


栞奈「ちょっといいかな、キマリ? その東京ってなにさ」

マリ「撮影の合図」

栞奈「もうちょっと、こう……他にないかい?」

マリ「今まで地名でやってきたんだよ?」

栞奈「そうかもしれないけどさぁ」

車掌「あのお楽しみのところ悪いのですが、そろそろ出発になりますので」

結月「掛け声はなんでもいいですから、早く撮ってもらいましょう」

善子「不死鳥フェニックス、ってのはどう?」

栞奈「長い」

善子「そ、そう」

花丸「ミューズはどうずら?」

栞奈「うーん、石鹸かぁ」

花丸「違うずら。9人の女神様ずら〜」

栞奈「よし、採用」

マリ「あれ、なんか私のアイデンティティが……」

結月「待たせてしまってすいません、お願いします!」


「撮りますよ、ハイ、チーズ」


栞奈花丸「「 ミューズ! 」」

車掌「……」

善子「蛇王炎刹黒龍覇!」

マリ「南極!!」

結月「なんて統一感のない人たち……」

みこと「ふふっ」
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:52:17.20 ID:wQFDgRACo


パシャ


栞奈「ちょっと、なんで合わせないの!?」

マリ「それはこっちの台詞だよ、なんで合わせないの!」

結月「南極は無理があります……」

花丸「あぁ……勢いに任せて……なんだか恥ずかしいずら……」ポッ

善子「私は何物にも縛られない。それが堕天使ヨハネよ!」

結月「それより、キマリさん」

マリ「あ、そうだった。ありがとうございます」

「いえ……。こちらこそ」

マリ「……?」


みこと「あの、お母さん」

「……どこまで行くか決めてるの?」


マリ「お母さん?」

結月「みことのお母さんです。鶴見さとみさん」

マリ「ゑえぇぇえええ!?」

栞奈「綺麗な人だな……みことちゃんのお姉さんでも通じるね」

花丸「鶴見……さとみ……? もしかして、千歳さとみさん? あの恋愛小説がドラマ化した……!」

善子「有名なの?」

花丸「とっても……とぉっっても有名ずら!
    読みやすいからって善子ちゃんに勧めた探偵シリーズの作者ずら!」

善子「ふぅん……」

花丸「曜ちゃんに教えないとっ」

栞奈「花丸ちゃん、凄い興奮してるね」

善子「本の虫だからね、この子」


みこと「最後まで……行きたい」

さとみ「……わかった」

みこと「いいの?」

さとみ「駄目って言ったら、行かないの?」

みこと「……ううん」

さとみ「一つだけ、教えて」

みこと「……なに?」

さとみ「どうして、旅を続けようと思ったの?」

みこと「それは……」

さとみ「……」

みこと「この列車に、乗ったから……かな」

さとみ「ふふっ」

みこと「?」

さとみ「やっぱり、親子なのね」ナデナデ

みこと「え……?」
524 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:53:26.65 ID:wQFDgRACo

さとみ「私も昔、同じことを言ったのよ。20年前に走ったヴェガに乗ってね」

みこと「え……!?」


マリ「……!」

結月「そうだったんですか……」


栞奈「うちの母さんもヴェガに乗ってたんだって。飯山みらいと友達ってのは本当みたいだよ」

結月「そうだったんですか……!?」


さとみ「行ってらっしゃい」

みこと「うん……行ってきます……」


マリ「引き返せるうちは旅ではない。
   引き返せなくなった時に初めてそれは旅になるのだ」

みこと「……!」

結月「名言っぽいですね……誰の言葉なんですか?」

マリ「私……!」

結月「本当ですか?」ジー

マリ「も、モチロン」

結月「嘘ですね?」


車掌「それでは皆様、時間となりますので乗り遅れに注意してください」


マリ「車掌さん」


車掌「はい」


マリ「長い間ありがとうございました」


車掌「当特急デネブへのご乗車誠にありがとうございました」


マリ「とても楽しかったです」


車掌「そう言っていただけてなによりです。どうか、お気をつけてお帰りください」


マリ「はい!」


車掌「……」スッ


マリ「……」ペコリ


車掌「……」

スタスタ...


マリ「…………」

525 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:55:27.53 ID:wQFDgRACo

栞奈「さて、乗り込みますか」


結月「栞奈さん、お元気で」


栞奈「うん、またどこかで、必ず会おうね」


結月「はい、その時を待ってますね」


栞奈「みんなに逢えてよかったよ、ありがとう」


結月「こちらこそ、ですよ」


栞奈「あ、そうだ……キマリに言いたいことがあったんだ」


マリ「?」


栞奈「私さ、デネブに乗ってる間はずっと楽しくて……つまらないことばっかり言ってた」


マリ「……」


栞奈「そんな私にも付き合ってくれたみんなが嬉しくてさ、楽しくてしょうがなかったよ」


マリ「うん、私も」


栞奈「広島で、乗車する前……私の重い鞄持ってくれたでしょ。その時から予感はあったんだよね」


マリ「……」


栞奈「絶対に楽しい旅になるって」


マリ「うん」


栞奈「その予感は的中したよ。ラッキーだね!」


マリ「ここからはどう?」


栞奈「うーん、どうだろうね〜」


善子「この魔晄列車の旅は魔道と呼ばれし険しき道よ。
   私と契約を交わしリトルデーモンになるなら、私が守護してあげる!」ビシッ

花丸「友達になって欲しいと言ってるずら〜」

善子「ちょっ、何言ってるのよずら丸!」


栞奈「サチコちゃんも楽しい子だし、退屈はしなさそうだね」

善子「善子よ! ……じゃなくて、ヨハネよ! 堕天使ヨハネ!!」

pipipipi

花丸「わ、ルビィちゃんから電話。……はい、もしもし、マルずら〜」


結月「本当に、退屈はしなさそうですね」

マリ「うん、本当に……」

526 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:56:24.36 ID:wQFDgRACo

「おーい、キマリさーん!」


マリ「あ、綾乃ちゃん! お仕事頑張ってねー!!」ブンブン


「元気でね〜! さよーならー!」


マリ「バイバーイ、またねー!!」


栞奈「小さい子たちの日常の別れみたいだね」


みこと「キマリさん」


マリ「残り、まだまだ遠いけど、気を付けてね」


みこと「……うん」


マリ「日常に戻っても、きっと忘れないよ」


みこと「……うんっ」


マリ「体には気を付けてね!」


みこと「あのっ」


マリ「……?」


みこと「またっ……いっしょに……っ……遠い……どこかに……っ」


マリ「……うん」


みこと「いっしょに……っ……行って……くれますか……っ?」グスッ


マリ「うん、行こう!」


みこと「……っっ」ボロボロ


マリ「遠いどこかじゃない、南極に!」


みこと「……ッ!」ゴシゴシ


マリ「みこっちゃんの知らない世界が、そこにあるんだよ!」


みこと「うん……!」

527 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:57:14.48 ID:wQFDgRACo

prrrrrrrrr



さとみ「行ってらっしゃい」


みこと「行ってきます」グスッ



結月「また、ね」


みこと「うん! ありがとう、結月さん」



マリ「また、5人で旅をしよう、みこっちゃん!」


みこと「うん……必ず……!」


栞奈「それじゃっ!」

善子「乗車証、ありがと……!」

花丸「善子ちゃんがお世話になりました」ペコリ

みこと「バイバイ、キマリさん、結月さん」


結月「また逢う日まで――」

マリ「さようなら、みこっちゃん」


プシュー


ガタン


 ゴトン


ガタン ゴトン

 ガタンゴトン



マリ「……」

結月「……」



ガタン

 ゴトン
528 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:59:14.87 ID:wQFDgRACo

ガタン

 ゴトン


マリ「……行っちゃった」

結月「行っちゃいましたね」


さとみ「娘のこと、ありがとう」


マリ「いえ、こちらこそです」

結月「そうです。私たちも一緒で楽しかったですから」


さとみ「ありがとう。……それじゃ」

スタスタ...


マリ「……」

結月「ふぅ……まさかお母さんが来るとは」

マリ「あ、しまった」

結月「どうしたんですか?」

マリ「サイン貰えばよかった!」

結月「またそれですか」

マリ「えー、だってー……」

結月「それより、これからどうするんです?」

マリ「うん、帰る!」

結月「まぁ、そうですよね」

マリ「結月ちゃんは?」

結月「一度、実家に帰ります。宿題とかいろいろありますから」

マリ「ヘーソウナンダー」

結月「まだ夏休みですから、平気ですよね、キマリさんの宿題」

マリ「うん」

結月「即答なのが気になりますけど……」

マリ「……」

結月「……」

マリ「楽しかったね」

結月「はい」

マリ「デネブちゃんを見送る気持ちって、変な気分だね」

結月「寂しいですか?」

マリ「うん……寂しい。ずっと一緒に居た旅仲間だからね」

結月「ですね」

マリ「じゃあ、帰ろうか」
529 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 01:00:24.48 ID:wQFDgRACo

結月「ここでお別れ、ですね」

マリ「うん。じゃあ、また連絡するね」

結月「あの……キマリさん」

マリ「うん?」

結月「前にも言いましたけど、やっぱり難しいと思うんです」

マリ「なにが?」

結月「南極が、です」

マリ「……」

結月「あれから半年経ちましたけど、私だけあまり進んでいないって言うか」

マリ「私と報瀬ちゃんも、最初そうだったんだよ」

結月「へ?」

マリ「無理だって言われて、影で笑われて。
   それでも、私たちは――……ううん、報瀬ちゃんは諦めなかった」

結月「――そうでしたね」

マリ「だから、大丈夫だよ」

結月「……はい」

マリ「おっと、時間が無いや。荷物取ってこなくちゃ」

結月「それじゃ、またですね、キマリさん」

マリ「うん、またね、結月ちゃん!」

テッテッテ



結月「ふぅ……」


結月「あぁ……終わってしまった……」


結月「もう少し、あのまま時間が止まってくれたらよかったのに」


pipipi


結月「……?」


結月「あ……さっきの……」


結月「……」


――――


キマリ ― みんなで撮った最後の写真だよ!


報瀬 ―― 知らない二人が居る。

日向 ―― というか、栞奈戻ってきてたのかよ! やっぱりな!


――――


結月「……ふふ」
530 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 01:01:14.34 ID:wQFDgRACo

――――


ゆづ ―― 月が見えますね。


日向 ―― ほんとうだ、こっちからでも見えた。

報瀬 ―― なんか綺麗。

キマリ ― みんなどこから見てるの?

ゆづ ―― 東京駅のホームから。

日向 ―― バイト先から。

報瀬 ―― 家の庭から。

キマリ ― コインロッカーから。

日向 ―― 一人だけ浪漫の欠片も無い奴がいる。

キマリ ― 日向ちゃん……。

日向 ―― お前だ!

ゆづ ―― 日向さんもじゃないですか?

報瀬 ―― 日向もでしょ。

日向 ―― いやいや、ゴミ出しをしながら見てるんだよ。キマリよりはある。


――――


結月「大丈夫、ですよね」


……


531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 01:14:04.53 ID:wQFDgRACo


帰りの電車の中。


「……」


タタンタタン

 タタンタタン


「……」



少女は空を見ていた。

沈みゆく太陽が空に光を残すのを見ていた。


夜との境に月が佇む。


「……」


少女は月を眺める。


今までの旅の記憶を思い出しながら。


「……」


次第に薄れゆく意識の中で。

旅を続けている年下の子を想いながら。

疲れを電車の揺れに乗せて眠りに就いた。



「お姉ちゃん」


「……ふへ?」


「着いたよ、起きて! 急いで降りないと!」


「あ、うん! あわわわわ!」



到着した電車のドアから荷物を抱えて飛び降りた少女たち。



「やっぱり寝てた」


「ありがとう、リン。なんか気持ちがふわふわしちゃってて」



夜の風が二人を通り過ぎていく。



「おかえり、お姉ちゃん」


「うん、ただいま!」


532 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 01:15:22.17 ID:wQFDgRACo


少女たちは荷物を引いて並んで歩きだした。



「1週間とちょっと、家を留守にしてたんだね」


「たった数日なのに、ね」



少しだけの懐かしさを感じながら歩いて行く。



「お腹空いたでしょ?」


「うん、もうペコペコ」


「お姉ちゃん、喜ぶよ、きっと」


「やった! タマゴパラダイス!」



いつも見ていた風景の中に見慣れた形が見えてくる。



「はい、お家に到着」


「おぉ、懐かしの我が家〜♪」



玄関の扉を開けて。

大きな声で帰りを伝える。



「ただいま〜!」


「おかえり〜」



母親の声を聞いた。

それは少女の旅が終わりを告げた時だった。



end

533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 22:36:18.75 ID:wQFDgRACo


…………

……



534 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 22:48:04.34 ID:wQFDgRACo


ウミネコが鳴く港で、一つの影が揺らめいている。

船を見上げるその顔は懐かしさを浮かべていた。



「あれから3年も経ったんだよね……あ、違うか……前に乗ったのは4年前だ」



「おーい、キマリ〜!」


マリ「あ、日向ちゃん!」


日向「お〜、ひっさしぶり〜!!」


マリ「本当、すっごい久ぶり……だよね……」


日向「だな……。なのに……」


マリ日向「「 久しぶりって感じがしないね(な)…… 」」


日向「キマリたちが高校卒業して以来だろ? 2年近く会ってないのにな」

マリ「ね。なんでだろ?」

日向「まぁ、携帯電話で繋がってたからな。連絡はしてたし」

マリ「そだね」

日向「キマリ、海外にも派遣されてたんだろ? 見れば分かるけど、大丈夫だったか?」

マリ「うん! 地元の人たちとも交流あって……こう言っちゃなんだけど、嬉しかったよ」

日向「ふぅん……見た目もけっこうしっかりしてきたな」

マリ「そうかな? でも、鍛えてるからね! イエス、アマゾネス!!」

日向「なんだそれ、流行ってるのか?」

マリ「ううん、別に。ただなんとなく言ってみただけ」

日向「みんな結構心配してたんだけど、まぁ、元気そうでなによりだ」

マリ「日向ちゃん、大学の研究室に入ったんだよね」

日向「そうそう。南極を研究してるとこ」

マリ「研究テーマが南極?」

日向「そうだぞ。この船に乗せて貰えるだけ有難いよ。報瀬様様だ」

マリ「ということは、報瀬ちゃんとは会ってたんだ?」

日向「そんな頻繁にって訳でもないけどな。みんな忙しかったし」ニヒヒ

マリ「えへへ、そうだよね」

日向「前に会ったのが交流会した時の、1ヶ月前くらいだな。
    ゆづと他の出演者にも会ったよ」

マリ「えっ、本当に!?」

日向「うん。そのときの報瀬は、見習い副隊長として」

マリ「おぉ〜、報瀬ちゃん凄い!」

日向「あいつは人を引っ張る力があるからなぁ」

マリ「結月ちゃんと他の出演者もいたんだね、行きたかったな〜」

日向「出演者は一人除いてだな。飯山みらいさんのサインもゲットした!」

マリ「ウソ!? いいなぁ〜!」
535 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 22:50:23.34 ID:wQFDgRACo

日向「あとで見せてやるよ」ニヒヒ

マリ「いいよ、自分で貰うから。サイン色紙用意してるんだ。5人分!」

日向「いや、ゆづのまで貰う気かよ」

マリ「当然!」


「えーっ、ハリウッドで撮影なんじゃないのー!?」

「逢坂さん、ここまで来て何を……」


日向「お、噂をすれば」

マリ「えーっと、今回の映画の出演者だよね」

日向「そうだよ。名前は確か……」


「私、ゆかりちゃんや監督にハリウッド行ってきますって言っちゃったよ!?」

「それは、話を全然聞いていなかったあなたの問題で、私に言われても――……あ」


マリ「あ、テレビで見たことある……!」

日向「それはそうだろう」


「ちょっと、マネージャーに話を聞いてくる……!」

「私はあの方たちに挨拶をしてくるので、ご自由に」

スタスタ...


マリ「こ、こっち来る……!」

日向「なに緊張してるんだよ」

マリ「い、いやだって有名人だよ……!?」

日向「それはそうだけど」


「こんにちは、日向さん」


日向「こ、こんにちは」

マリ「日向ちゃんも緊張してるじゃん!」

日向「うるさいな!」


「大きい船ですね……。これに乗って南極まで……」


日向「まぁ、乗ってから分かります。南極へ行くための大きさだと」

マリ「うん、久しぶりに見ても、やっぱり大きい……!」


「えっと、玉木マリさん……でしたよね?」


マリ「は、はい。玉木マリ……です」


「玉木さんは初めましてですね。日向さんとは顔合わせの時にお会いしていました」


マリ「ひ、日向ちゃん、芸能人と知り合いだったなんて……!」

日向「いや、お前もだろ。というか、挨拶されてるんだから返せよな」

マリ「あ、そうだね。は、初めまして。玉木マリといいます。
   えっと……キマリって呼んでください」
536 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/03/05(木) 22:51:59.96 ID:wQFDgRACo


「ふふ、話に聞いていた通りですね」


マリ「話?」


「えぇ、白石結月さんから」


マリ「結月ちゃんとも顔見知りだったんですね」


「そうです。子役時代からの……」


日向「今回の映画で数年ぶりの共演ってことで話題になってますね〜」


「その話題だけで終わらないよう、作品として完成度を高めるため努力は怠らないつもりです。
 よろしくお願いします」


マリ「こ、こちらこそよろしくお願いします」

日向「と言っても、私たちは見てるだけなんですけどね……」


「それで……小淵沢さんは一緒では?」


マリ「報瀬ちゃんならもう乗ってますよ。なんてったって副隊長ですからね」エッヘン

日向「なんでキマリが偉そうなんだよ」


「それなら、挨拶はあとでいいわね……」


「おはようございます。逢坂ここです♪」


マリ「おぉ、いきなりだ」

日向「ど、どうも」


ここ「これから南極までよろしくお願いしまーす♪」


日向「……」

マリ「日向ちゃん役ですよね! 知ってます!!」


ここ「私ってそんなに有名〜? ちょっと照れちゃいますね〜♪ 慣れてますけど♪」


日向「私、こんなか?」

マリ「違うけど……撮影始まったらちゃんと日向ちゃんになるよ」

日向「うーん、自分で言うのもなんだけど、イメージが違う気がするんだよなぁ」


「逢坂さん、話は済んだのですか?」

ここ「うん! まぁ、ハリウッドと南極、あんまり変わらないよね」

「結構違うと思いますけど……まぁいいです。自己紹介が遅れました。
 私、白鷺千聖と申します。改めてよろしくお願いします」


マリ「は、はい。玉木マリといいます。よろしくお願いします」

日向「なんで2回言うんだよ」
537 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 22:54:33.53 ID:wQFDgRACo

マリ「逢坂さんの試合見ました!
   野球あんまり分からないけど女子が活躍できるなんてすごいって思いました!」


ここ「……ありがとうございます」


マリ「あれ……私、変なこと言った?」

日向「わ、分からん……」


ここ「私の活躍が目立ったのは事実ですけど、あの場所へ行ったのは努力の成果であって、
   男女の違いは関係ないと思います」


マリ「……はい」


千聖「ふふ。結果を出すには努力をすることは当たり前。
    だけど、普遍的な努力では到底辿り着けない場所は必ずある。そういうことですね」

ここ「分かってるじゃない千聖ちゃん♪
   私たちが他の高校と違うのは、練習内容と楽しく過ごした時間だけなんだから」

千聖「あの、会ってそう時間は経っていないのだから名前で呼ばれるのは」

ここ「それじゃ、私はスタッフさん達に挨拶してくる。また後でね〜♪」

テッテッテ

千聖「……ハァ。……アヤちゃんとヒナちゃんを足して割ったような人ね」


マリ「なんか、本物って感じ……」


千聖「私も見ましたが、あの場所に立つという結果は並々ならぬ努力の賜物でしょう」


日向「確かに……」


千聖「そういう人と共演できる幸運に感謝しています。この話の流れでお聞きしたいのですが」


マリ「……?」


千聖「小淵沢報瀬さんの役として私にオファーがあったのですが、誰の意図でしょうか?」


マリ「ん?」

日向「私たちはそういうことに疎くて……分からないですね?」


千聖「そうですか……。何はともあれ、
   先ほども言いましたが今作の完成度を高める気持ちは皆さんと一緒です。
   何卒、ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」


マリ「い、いえいえ! 私たちも……4年前の南極探検隊が小説になって実写化されるとは思いもしなかったので」

日向「演技のことは難しいですけど、他に出来ることなら目一杯協力しますので!」


千聖「そう言ってくださると心強いです。それでは、私も他の方に挨拶へ行ってきますので、これで」


マリ「はい、また後で〜」

日向「……確か、アイドルをやってたんだよな。バンドやってたとか」

マリ「演奏、聞きたいな〜」

日向「まぁ、余興とかで歌ってくれるかもな。望みは薄いけど」

マリ「そんなことないよ。宇宙から見たら音楽に国境線なんてないんだから」

日向「色々と混ざった壮大な名言だな」
538 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 22:58:03.94 ID:wQFDgRACo

マリ「は、しまった! サイン貰うの忘れてた!」

日向「またかよ! でも、確かに変な気持ちだな。小説になって実写化されるなんて」

マリ「実写化って変な響きだよね。私たちのことだからかな」

日向「事実を元にしたフィクションってやつだな。小説は読んだけど、どうなるのか楽しみだ」

マリ「あれ? 私の役って誰?」

日向「え?」

マリ「だから、私の役……玉木マリ役は誰なの?」

日向「なんで知らないんだよ?」

マリ「寮の生活は規則が厳しいんだよ〜。だから知らない情報とか多くて」

日向「自分を演じる人のことくらい知っておけよな」

マリ「日向ちゃん役は逢坂ここちゃんでしょ? 結月ちゃん役は結月ちゃんでしょ?」

日向「報瀬役は白鷺千聖さんで、吟隊長役は飯山みらいさん」



「……」

スタスタ...


マリ「報瀬ちゃんって、みこっちゃんじゃないの?」

日向「いや、みことは――って、噂をすれば」

マリ「?」

日向「後ろ、見てみ?」

マリ「……?」クルッ


「キマリさん、日向さん」


マリ「……あ」


「久しぶり」


マリ「あれ、、髪切った?」

「うん、前髪揃えた。あの時のキマリさんみたいに」

マリ「うーん? あんまり似合ってない?」

「え、そう?」


日向「おまえら、3年ぶりの再会にどうでもいい会話するなよな!」


マリ「あはは……。久しぶりだね、みこっちゃん」

日向「久しぶり〜」

みこと「うん……」

マリ「元気してた?」

みこと「うん、してた」

マリ「なんか、体が大きくなったような? 身長伸びた?」

みこと「うん、5センチくらい」

マリ「ほぇ〜!」
539 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 23:00:05.81 ID:wQFDgRACo

日向「なんで顔合わせの時、来なかったんだよ? 制作発表の時も居なかったな?」

みこと「やること一杯あったから。ここに来るために、しなきゃいけないことが」

日向「ふぅん。……まぁ、それで色々と話題になってるよな、今回の映画」

マリ「話題?」

日向「さっきの、野球娘、逢坂ここ。ゆづとの数年ぶりの共演、白鷺千聖。
   若手女優にして作者の娘、鶴見琴。ゆづと、飯山みらい。などなど」

マリ「ほぉ〜」

みこと「でも、出演者だけじゃないよ、スタッフの人たちも凄い人たちばかりで」

日向「そこはよく分からないんだけどな」

マリ「え!? 私の役ってみこっちゃん!?」

みこと「うん」

マリ「なんで!? 報瀬ちゃんじゃないの!?」

みこと「報瀬さん役は白鷺さんだよ?」

マリ「うん、さっき聞いた! なんで私!?」

みこと「他にイメージの合う人いなかったから?」

マリ「そうなんだ……。私、結構美人なんだね」

日向「自分のことよくそう言えるな……」

みこと「一番近くでキマリさんを見てて、一番近くでお母さんの小説が生まれるところを見てたから」

マリ「……」

みこと「ダメだった?」

マリ「ううん、むしろ光栄だよ」

みこと「……よかった」

日向「話を聞いてたら、キャスティングしたの、みことになるんだけど……そうなのか?」

みこと「うん、お母さんと考えたよ」

マリ「へぇ……」

みこと「色んな人にわがままいって迷惑かけたみたい」

日向「そうなのか……よく分からないけど」

みこと「さくらさんも、ちゃんと居たよね?」

マリ「あ、うん。さっき挨拶したよ」

日向「なんか、凄い人脈を持ってるような気がしてきた」

みこと「利用できることは全部利用した……この日の為に」


マリ「…………」


みこと「演劇部の部長さんも、劇団の人たちも。
    お母さんにお願いしてキマリさん達の旅を小説にしてもらった」

日向「うんうん、何度か取材に来て話したな」

マリ「何度も?」

日向「3回くらいかな」

マリ「なんで!? 私、1回だよ!」

日向「いや、キマリ……忙しそうだから……」

マリ「おかしいよ、まだサイン貰ってないのに!」

みこと「私が……キマリさんのこと、話してたから……かな」

マリ「うーん、なんか釈然としないような……」
540 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 23:02:10.14 ID:wQFDgRACo

日向「いいじゃないか。小説の中のキマリもちゃんとキマリしてたぞ。名前違うけど」

みこと「うん」

マリ「演劇部に入ってたの?」

みこと「うん……あの旅が終わってから」

マリ「どうして?」

みこと「どうしたら、また……キマリさん達と旅が出来るか……。
    南極へ一緒に行けるのか……東京を出発してから考え始めた」

日向「……」

みこと「考え出すと止まらなかった。
     お母さんの小説と、結月さんとの出会いを中心に物語が進み始めたから」

マリ「物語……?」

みこと「うん……。妄想……とも言えるけど……」

日向「でも、現実に、みことと一緒に、私たちはここにいる。南極に行ける」

みこと「うん……! 私、たくさん動いたよ。キマリさんに教えてもらったから」


マリ「…………」


みこと「東京で別れてから、デネブの旅が終わっても……私の旅は続いてた」


マリ「…………」


みこと「長かったけど……あっという間だった。だけど……ようやく辿り着いた」


マリ「……うん」


みこと「それが嬉しい」


マリ「分かる、分かるよ。報瀬ちゃんもそうだった」


みこと「……」


マリ「高校生という時間を、南極へ行くために費やしてたんだよ」


みこと「……うん。……取材で知ってる」


マリ「でもね、違うよ、みこっちゃん」


みこと「?」


マリ「ここはゴールじゃない。スタート地点だよ」


みこと「……」


マリ「まだ、旅は終わらないよ!」


日向「……だな」


みこと「――……」

541 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 23:03:57.43 ID:wQFDgRACo

マリ「そこで、みこっちゃんに、一つ課題を提示します!」


みこと「え?」


日向「懐かしいな。始発駅でもそんなこと言ってた」


マリ「この船に乗る人と仲良くなること! 出演者はもちろん、私たちとも!」


みこと「キマリさん達……?」


マリ「そうだよ。今回は私たち自衛隊も乗船するんだから――」


「玉木」


マリ「は、はい! 西住隊長!」ビシッ


西住「そろそろ時間だ。準備はいいか?」

マリ「はい、準備は出来ています!」

西住「ふむ、ならいい。……友人か?」

マリ「そうです! 前回の南極へ行った時の友人と、旅仲間です!」

西住「そうか……。出発まで時間はある。その時まで準備は怠らないようにな」

マリ「はい!」

西住「では」

スタスタ...


マリ「……ふぅ」


日向「おぉ……あの人が今回の……自衛隊の隊長さんか……」

みこと「……」

マリ「うぅ、西住隊長の前だといつも体が強張る……っ」ブルブル

日向「貫禄ある人だな……どういう人?」

マリ「西住隊長、戦車の腕は歴代を超えるんだっていう、凄い人。階級は中尉だよ」

日向「ふぅん。で、キマリの階級は?」

マリ「……少佐」

日向「なんでお前が上なんだよ!? 隊長さんに言うからな!」

マリ「ごめんなさい許して! 自衛隊はそういうの本ッッ当に厳しいんだから!!」


みこと「キマリさん、厳しい。いつも肝心なところで甘やかしてくれない」


マリ「みこっちゃんがどんな世界を切り開くのかって、思ったらね」

みこと「そのおかげで今の私があるよ。だから厳しいけど、とても優しい」

マリ「そっか……」

日向「全員と仲良くか……大変だな」

みこと「前回の課題は達成できてる?」

マリ「うん、とっくに!」
542 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 23:06:12.41 ID:wQFDgRACo

みこと「これ、覚えてる?」

日向「あー、あの記念バッチ……」

マリ「もちろん。私も持ってるよ。ただの記念じゃなくて、私たちの懸け橋になったね」

みこと「うん……鵲……」

日向「ご利益があったんだな〜」

みこと「……あの旅でも、最後まで行こうと思ったから……いまに繋がってる。
    凄いね……キマリさんに出会って、ここまで私の世界が変わるなんて」

マリ「ううん、私だけじゃない。日向ちゃんや報瀬ちゃん、結月ちゃん……。
   あの旅で出会った人、みこっちゃんがここまでに来る途中で出会った人すべてだよ」

みこと「……でも、一番最初に展望車から連れ出してくれたの、キマリさんだから」

日向「……」

マリ「……そこまで言ってくれると、ちょっと照れるね」

日向「キマリとみことを繋げたのって、あの人だよな」

みこと「?」

マリ「あ、うん。お兄さんだ」

みこと「……そうなの?」

マリ日向「「 うん 」」

みこと「あ……そう言ってた……展望車でみんなで寝た時」

マリ「あぁ、あったね! なんだか懐かしい!」

日向「まぁ、後で本人に聞くといい」

みこと「……!」

マリ「居るの?」

日向「あぁ、助監督だって」

マリみこと「「 そうなんだ……!? 」」

日向「いやいや、なんでみことまで知らないんだよ!」

みこと「お母さんそんなこと一言も言ってない……!」

日向「黙ってたんじゃないか?」ニヒヒ

マリ「あ〜、惜しい」

日向「なにが?」

マリ「あと、あの二人が居たらなぁって!」

日向「そう言うと思って、動画を持ってきました」

みこと「?」

日向「その顔だとみことも知らないんだな。甲子園の映像だよ。アイツ、カメラに映ってた」

マリ「見たい!」

日向「応援席で制服着て応援してたよ。お前、大学生だろ! って思わず突っ込んでしまった」

みこと「見たい見たい!」

日向「今はカメラ回ってないからキマリの真似しなくていいんだぞー」
543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 23:06:57.23 ID:wQFDgRACo


マリ「…………ん〜〜!」


みこと「札幌でもね、面白いことがあって――」

日向「待て待て、話は船の上で聞こうじゃないか。旅は長いんだから」

みこと「うん!」


マリ「楽しみ〜〜!!」


日向「どうした?」

みこと「どうしたの?」


マリ「まだ始まっていないのに、すでに楽しいから!
   この旅が楽しいものになるって実感してるんだよ!」


日向「分かる! 分かるぞ、それ!」

みこと「うん!」


ヴォーー!

 ヴォーー!!


マリ「船もそうだって、言ってる!」

日向「試運転か何かだろ! でも分かる!!」

みこと「うん!!」



マリ「行こう! 南極へ!」


マリ「私たちの旅を、また始めよう――!」


「「 おおーーッ! 」」


544 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 23:07:41.38 ID:wQFDgRACo



腕を掲げて高揚感を隠し切れない三人の影が揺らめく。


その姿を船の上から二人の友人が眺めていた。


船はまた、南極へ向けた航海を始める。


列車から船へ。


また、旅へ――。






545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/03/05(木) 23:08:56.15 ID:wQFDgRACo

これで終わりです。
ここまで読んでくれた方、ありがとうございました。
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