マリ「超特急デネブ?」結月「そうです」

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396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 02:38:24.61 ID:GYsMFmGgo

妹「兄ちゃん〜」

一輝「分かってるよ、ケバブだろ?」

妹「うん!」

栞奈「一輝、食べたことあるの?」

一輝「いや、無いけど……」

栞奈「フッ、時代に取り残されてるね、あんた」

一輝「ファーストフード食べたことなかったお前に言われたくないけどな!」

妹「……」

栞奈「あります〜、ハンバーガーくらいあります〜」

一輝「おとといの話だろうが」

スタスタ...


「おいしかったね、京都のハンバーガー」

「観光地で全国チェーンの店入るとか信じられねーよ」


妹「……兄ちゃん!」

日向「あー、妹ちゃん、私たちと行こう」

妹「……」

マリ「綿あめ買ってあげるよ! たこ焼きもあるよ! 焼きそばも可!」

リン「お姉ちゃん……渡したお小遣い全部使っちゃいそう……」

めぐみ「ありえるな……」

結月「あれ、報瀬さんは?」

綾乃「武家屋敷行くってさ。私もデネブに戻るから、また後でね」

結月「また単独行動ですか……。はい、また後で」


みこと「……」

秋槻「くぅ……くぅ……すぅ」


マリ「みこっちゃん、どうする?」


みこと「此処に居る」


マリ「うん、分かった。お兄さんが起きたらおいでね〜」

妹「もう、兄ちゃんってば……!」

日向「まぁまぁ、あの二人は大事な話があるから、二人だけにしておこう」

スタスタ...


みこと「……」

秋槻「すぅ……ん…ん……――りさ―」

みこと「……?」

秋槻「……ん……ん?」

みこと「起きた?」

秋槻「あ……うん、……寝てたのか、俺……」

みこと「10分くらい……?」

秋槻「そっか……、ふぁぁ……!」ノビノビ
397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 02:40:26.07 ID:GYsMFmGgo

みこと「どんな夢を見てたの?」

秋槻「ん……懐かしい……夢……だったな……?」

みこと「ありさ、さん?」

秋槻「……どうしてその名前を……って、電話に出たんだっけ……?」

みこと「うん……。それに、寝言……言ってた」

秋槻「……マジか。……懐かしい夢見てたせいだな……格好悪い……ふぁぁああ」

みこと「……高校の時の人?」

秋槻「ん……まぁ……」

みこと「好きだった人って……」

秋槻「まぁね。それより、みんなどこ行ったの?」

みこと「屋台見て回るって……」

秋槻「それじゃ、俺たちも行こうか」スッ

みこと「……今でも……その人のこと……好きなの?」

秋槻「いや、そんなことないよ。なんであんな夢を見たのか分からないけど」

みこと「……」

秋槻「それに彼女――……ありさは結婚するから」

みこと「え――」

秋槻「先日の連絡はその報告だったんだよ。披露宴に出席するのかって」

みこと「……」

秋槻「ほら、行こう。お腹減ってしまったよ」

みこと「……うん」


……


398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 02:57:58.13 ID:GYsMFmGgo

―― 夜・デネブ・展望車


日向「えー、乾杯の前に、みんな、スポンサーにお礼を言うようにー」


一同「「「 ありがとうございました! 」」」


秋槻「はは……いいよ、これくらいでお詫びが出来るなら安いもんだから」

結月「食べ物や飲み物以外にも……料理代金まで払ってもらって……申し訳ないです」

秋槻「いや……本当にね、気にしないで欲しいんだ。
    俺のせいで遠路はるばる来てもらったのに」

めぐみ「というより、私たちも此処に居ていいのか……?」

リン「うん……いいの? おねえちゃん……?」

マリ「大丈夫。車掌さんに話したら『今回だけですよ、ウィンク』ってオッケーもらったから」

報瀬「ウィンクを口にしたらダメでしょ」

栞奈「屋台で食べきらないで良かった……! 良かったよぉ!」

みこと「……」

一輝「俺たちも後でお礼言わないとな」

妹「うん……」

日向「どこかお店を借りてって案もあったんだけど、
    せっかく料理長が調理してくれたんだからさ、ここで食べたいだろ?」

マリ「うん!」

秋槻「本当に、これくらいなら安いもんだから」

結月「……ですね」


日向「それでーはー、改めまして。なわとび大会は惜しくも入賞には至りませんでしたが、
   私たちらしい、いい結果になったと思います」


一輝「本当にそう思ってるのか」

栞奈「艱難辛苦を乗り越え辿り着いた奇跡としか言えない数字、それはゼロ。
    無限を現す数字、それはゼロ。故に、満願成就に至る訳よ」

一輝「適当言うな」


日向「大村もここまで栞奈役お疲れ〜」


一輝「お、おう……」

妹「カンナ役?」

報瀬「あのお姉ちゃんの相手してくれたんだよ」

妹「兄ちゃんが? どうして?」

報瀬「ウマが合うってこと」


日向「この旅も終わりが近づいているので、今日は存分に楽しもう! 
    ってことで、カンパーイ!」


「「「 カンパーイ! 」」」
399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 02:59:52.01 ID:GYsMFmGgo

みこと「……」

マリ「カンパ……! あれ、みこっちゃんどうしたの?」

みこと「え? あ……!」

結月「乗り遅れてしまいましたね。日向さん」


日向「はいよ。じゃ、もう一回、カンパーイ!」


「「「 カンパーイ!! 」」」

みこと「か、乾杯……!」

マリ「イェーイ!」

栞奈「一輝は始発から乗ってたんだっけ?」

一輝「いや、福岡から。ほら、美味しいから食べてみろって」

妹「貝……嫌い……」

一輝「じゃあ俺が食べるな。もぐもぐ……うん、美味しい」

妹「……」

マリ「調理した人が一流だからね!」エッヘン

リン「お姉ちゃん……」

めぐみ「なんでキマリがしたり顔なんだ?」

日向「良く知る人だからな。金沢までなんの用だったんだ?」

一輝「まぁ、ただの旅行だ。特に理由は無かったんだよな」

秋槻「もぐもぐ……。当てのない旅ね」

みこと「……」

一輝「旅って言えるほどじゃないですけどね。ほら、もう無くなっちゃうぞ」

妹「……食べる」

栞奈「うへへ、お嬢ちゃんカワイイね、歳いくつ?」

一輝「危ない人に見えるから止めろ!」

妹「10歳……」モグモグ

栞奈「そっかぁ、4年生かぁ……うちの弟と同じくらいだねぇ。これも美味しいからお食べ〜」

一輝「弟、中学生って言ってなかったか?」

栞奈「同じくらい、って言ったでしょ」

一輝「くらいの範囲が広すぎるんだよ」

栞奈「この魚ね、出世したら鰤になるんだよ」

妹「もぐもぐ……」ジー

一輝「? なんだよ?」

妹「別に……」

日向報瀬「「 兄妹だ! 間違いなく兄妹だ! 」」

一輝「そんなハモらなくても……」


結月「なんだか柔らかくなりましたね、大村さん。妹さんが居るからでしょうか」

マリ「旅の終わりだからじゃないかな?」

結月「あぁ、そうかもしれませんね。なんとなく分かります」

みこと「……」
400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:00:58.35 ID:GYsMFmGgo

マリ「みこっちゃん、さっきから元気ないね? 美味しいからちゃんと食べないと」

みこと「うん……」

報瀬「どうしたの?」

みこと「……ううん、なんでもない」

結月「ほら、言って?」

みこと「…………」

結月「思ってること、言ってみる。それが、色んな事に繋がるから」

みこと「――……」

秋槻「……」モグモグ


みこと「結月さん、東京まで……?」


結月「うん、撮影もそこで終わりだから。次の仕事もあるし」


みこと「報瀬さん、日向さんは……明後日……?」


日向「そうだな……。高崎で終わり」

報瀬「松本の次になる」


みこと「キマリさんは?」


マリ「私は――……ちょっと悩み中……あはは」


一輝「お前どうすんだよ」

栞奈「私も……最後まで行こうかなって」

一輝「……」


みこと「ずっと……続けばいいのにって……思って」


結月「……」

報瀬「……」

日向「……」


マリ「すごいよね、旅って」


みこと「え?」


マリ「めぐっちゃん、リンも……二人が此処に居ることがすごい」


めぐみ「……?」

リン「どういうこと?」


マリ「だって、数日前……、ううん、数時間前までは、ここで、こんな人たちが居るって知らなかったでしょ?」


めぐみ「まぁ、うん」

リン「……」コクリ
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:03:12.72 ID:GYsMFmGgo

マリ「私も、デネブちゃんに乗る前は知らなかった。
   みこっちゃんが居ること、秋槻さんが居ること、大村君が居ること、栞奈ちゃんが居ること」


みこと「……」

秋槻「……」

一輝「……」

栞奈「もぐもぐ」


マリ「たった数日だけど、友達が出来た」


みこと「友達?」


マリ「ひぐっ」グスッ


日向「だから、泣くな」


みこと「旅仲間……じゃないの?」


報瀬「たった数日でも、友達になれる」

結月「同じものを見て、同じものを食べて、同じ時間を過ごして、同じ気持ちになれば」


マリ「きっと、良いところを見せる必要ないから。
   ありのままの自分を見せても、問題ないから」


栞奈「……」


マリ「そんな人たちと出会えるから。旅って――……すごいんだ……!」


みこと「……うん!」


一輝「始まりがあれば終わりはある。出会えば必ず、別れは来る」

妹「お母さん言ってたよね」

一輝「……うん」


みこと「……」


一輝「忘れなきゃいいんだよ。こんな濃い毎日なんてそうそうないからな」

妹「兄ちゃん、忘れない?」

一輝「忘れたくても忘れられないだろ。こんな連中のこと」

栞奈「かぁー、素直じゃないねぇ」

一輝「誰だよお前は」


マリ「だから、怖くない。むしろ、嬉しいことだよ」

みこと「うん……!」

秋槻「人は生まれながらにして旅人」

報瀬「え?」

秋槻「あ、いや……昔の曲で、そういうフレーズがあってね」
402 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:05:49.82 ID:GYsMFmGgo

日向「人は生まれながらにして旅人である! ――三宅日向!!」


結月「自分が言ったことにするんですか!」

日向「あはは、ダメですかね?」

秋槻「オッケーだよ」

日向「よっしゃ!」

報瀬「著作権に触れてない?」

日向「真面目か!」

みこと「ふふっ、ふふふ」

日向「あははっ」

一輝「ふっ、ははっ」

栞奈「くっくっく、あははっ」

報瀬「フフッ、あはは」

結月「ふふふっ、バカなやりとりなのに、笑ってしまいますねっ」

めぐみ「これは、一体……?」

リン「みなさんにしか分からない雰囲気ですね」


マリ「思ったんだけど、またキャンプしたいよね!?」

結月「あ、いいですね! キマリさんだけ別のテントであれば!」

日向「いいな! 焚火囲んでマシュマロ! キマリは別テントで!」

報瀬「いいかも。キマリは別で」

マリ「 ひどい!! 」

みこと「? どうしてキマリさんだけ?」

めぐみ「寝相悪いからな……」

リン「うん……部屋、別になったのそれが理由だから」

マリ「え!? そうだったの!? 意外な真実!?」

一輝「意外か?」

マリ「意外だよ! 知らなかったよ!!」

栞奈「妹ちゃんはお兄ちゃんと一緒の部屋?」

妹「うん」

栞奈「マジ?」

報瀬「兄妹仲良くてイイネ」

一輝「そのリアクションで決めました。帰ったら別な」

妹「えー!? なんで兄ちゃん〜!!」

一輝「前々から考えてたことだ、諦めろ」

妹「嫌だ」

一輝「分かったよ、テレビとかはやるから。好きなもん持ってけばいい」

妹「んー……!」

マリ「このやり取り、なにかことわざであったよね」

めぐみ「獅子は我が子を千尋の谷に落とす」

マリ「それそれ」
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:07:30.86 ID:GYsMFmGgo

結月「なんだかあっさり決めましたね」

報瀬「なんで急に?」

一輝「きっかけが欲しかったんですよ。
   うちの両親が忙しくて面倒見切れるのが俺しかいなかったから」

報瀬「ふぅん……。そういえば、みことにも世話焼いてるというか、
   気にしてた感じだったから、放っておけないってことだったんだね」

一輝「……まぁ……そう……なんですかね」

マリ「そういえば、なんで報瀬ちゃんだけ敬語?」

結月「敬語というか、怯えてる風ですけど」

妹「じー……」

報瀬「……?」

妹「この人、マネさんに似てる」

一輝「バッ、指さすな!」

日向「ビビりすぎだろ〜」

マリ結月「「 似てるだけで? 」」

栞奈「ねぇ、妹ちゃん、この美人なお姉ちゃんとマネージャーさん、どう似てるの?」

妹「目と髪の毛」

報瀬「……」

一輝「……」

栞奈「それだけ?」

妹「うん」

秋槻「その共通点だけで思い出してしまうなんて、相当厳しいんだろうね……。
   というか、何部なの?」

一輝「野球部です」

秋槻「おぉ、野球かぁ」

栞奈「一輝、レギュラーじゃないのに厳しくされてるの?」

一輝「そうだよ、レギュラーじゃないのに厳しいんだよ。
   だから、レギュラーはもっと厳しいんだ」

マリ「どういう人なんだろ? 会ってみたいね」

日向「確かに。報瀬に似てるおっかない人か……」

報瀬「……」

秋槻「女子野球で話題になった高校があったよね」

一輝「あ、知ってるんですか? 部を作って1年で春大会優勝したっていう」

秋槻「そう、そこ。選手もレベルが高いって話で」

一輝「マネージャーがその学校行きたかったって毎日ボヤいてるんですよね。
   ショートとサードが滅茶苦茶上手いらしくて」


日向「野球談議始まっちゃったな」

みこと「男の人って好きだよね……」

結月「なんか、みことが大人な感じが……!」

みこと「お父さんがテレビで観てて」

結月「そうよね……」

みこと「?」

結月「なんでもない」
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:09:17.46 ID:GYsMFmGgo


さくら「その高校にね、子役時代に会ったことある子がいるのよ〜」

秋槻「子役時代……? といったら……5、6年くらいですかね」

さくら「そのくらいになるわね〜。おでこなんて出しちゃって可愛くなってたわ〜」

一輝「なんか目立ちたがり屋がいるって聞いたことあります。
   口だけじゃなくて打率も凄いって言ってて……」

さくら「あら、あんな細腕で凄いじゃない〜♪」

栞奈「……」


日向「いつの間にかさくらちゃんも交じってるな」

マリ「それより、そろそろ来るんじゃない? カニ!」

めぐみ「カニなんてあるのか?」

マリ「うん、輪島で買ってきた食材を〜、料理長にお願いしたんだよ〜」

リン「他に何買ったの?」

マリ「日向ちゃんが魚買ってたよね」

日向「アジだよ、鯵」

マリ「アジ? ……えっと、アジのアジってどんなアジだっけ」

報瀬「アジはアジでしょ」

マリ「サンマ系?」

報瀬「だから、アジ」

マリ「それが分かんないんだよ!」

結月「何の話してるんですか?」

日向「さぁな。お、来たみたいだ」


綾乃「お待たせしました〜」


マリ「来た! カニ!!」


妹「……?」

一輝「カニだってさ。気になるなら行ってこい」

妹「いい」

一輝「いいなら、別にいいけど」

妹「……」

栞奈「まったく、優しくないね〜。ほら、行こうか、妹ちゃん」

妹「……うん」


日向「で、どうやって食べるんだこれ」

報瀬「知らない」

めぐみ「中身を取り出す……のでは?」

マリ「茹でガニはあまり縁が無いから食べ方分からないね。料理長に聞いてこようか」

栞奈「まったく、しょうがないな〜。私が御指南して差し上げましょう」

結月「分かるんですか?」

栞奈「モチのツモよ」

妹「つも……?」
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:11:04.60 ID:GYsMFmGgo

報瀬「自力で上がること」

みこと「あがる……?」

報瀬「モチのロンを捩ったんだけど、ロンっていうのが、他家の牌で上がることで」

妹みこと「「 ??? 」」

栞奈「説明されると恥ずかしいわけですけど」

マリ「カニの食べ方なんてわかるの?」

栞奈「身の取り出し方なんて簡単簡単〜。まずは脚からね〜、ここを折って〜」

日向「手慣れてるな。どこで覚えたんだ?」

栞奈「小さい頃から食べてるからね。カニのカンナと呼ばれてるくらいだよ」

マリ「カニ缶だね」

リン「ぷふっ」

みこと「……ふふ」

栞奈「フッフッフ」

結月「してやったりって 顔ですね」

栞奈「はい、出来た。どうぞ」

妹「いいの?」

マリ「どうぞどうぞ」

妹「ぱくっ」

日向「お、出来た。テレビで見るような形になったぞ、栞奈!」

栞奈「やるじゃん、日向」

妹「もぐもぐ……?」

めぐみ「あまり味が分からないみたいだな……」

マリ「うっま! うまいよこれ! カニだよ!!」

報瀬「見ればわかるから」

みこと「子供のころから食べてたの?」

栞奈「うん。地元が稚内だからカニは意外と身近にあるんだよね〜」

日向マリ報瀬「「「 えっ! そうなの!? 」」」

結月「北海道生まれだったんですか!?」

栞奈「そうだよん」

リン「どうしてそんなに驚いてるの?」

マリ「だって! だって……! あれ、なんで?」

日向「広島から乗ってきて、松本で降りるって言うからさ……」

マリ「そうそう。意外過ぎてびっくりだよ」

栞奈「カニ鍋もサイコーなんだけどなぁ。みんなで食べたいね。炬燵で囲んでさぁ」

結月「あ、いいですね♪」

報瀬「疑問なんだけど、広島から乗って松本で降りる理由って?」

日向「そうだよ、最終駅の……稚内まで行けばいいだろ? お金もその方が安上がりだし」

栞奈「その通りなんだよ。うん、やっぱり最後まで行っちゃおうかな〜」
406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:13:01.21 ID:GYsMFmGgo


一輝「……」

秋槻「本当だ、美味しいですねこのカニ……。部活は何されてたんですか?」

さくら「小中は空手部なの〜。高校入ってレスリング部に入って……というか、入らされて」

秋槻「随分と険しい道を歩いてきてるんですね」

さくら「でも、この道の中であなたという運命に出会えたのよね」ポッ

pipipipi

秋槻「あ、電話……ちょっと席を外します」スッ

さくら「はいは〜い」

一輝「……さくらさんはどこまで乗車するんですか?」

さくら「私? 私は結月ちゃんと一緒に降りるわよ。東京までね」

一輝「…………そうですか。仕事だから当然と言えば当然ですよね」

さくら「なによ〜、もの言いたげね〜」

一輝「将来と今って、どっちが大切ですか?」

さくら「ふぅむ……難しい質問ね」

一輝「将来の為に努力してた人が、この旅の中でターニングポイントになって……
   将来がぼやけてしまいそうになってる」

さくら「誰の話?」

一輝「……アイツです。他人の為にカニをむいてるけど、自分は食べてないヤツのことです」

さくら「栞奈ちゃんが悩んでるのね」

一輝「悩みというか……どうするんだろって思って」

さくら「さっきの質問の返しは、両方よね」

一輝「……」

さくら「今、努力していない人が将来を語ってもしょうがないし」

一輝「……ですね」

さくら「でも、努力するのは将来のためだし。ということで両方ね」

一輝「……」

さくら「でもね、私は思うんだけど、結局人それぞれなのよね」

一輝「どういうことですか……?」

さくら「私は小さい頃から親父……パパに言われて空手をやらされてたんだけど」

一輝「……」

さくら「そうやって精神や体を鍛えていても、私はこうやって芸能関係で働いてる訳でしょ?」

一輝「えっと……失礼な言い方ですけど……無駄だったってことですか?」

さくら「ううん、そうじゃないわ。
    例え、私がピアノを習ってたとしても、結局はこの仕事をやってるんだと思うのよ」

一輝「……」

さくら「私がやりたかったことは決まってたからね」

一輝「――……」


みこと「あれ?」

マリ「どうしたの?」

みこと「秋槻さんが居ない」

マリ「あ、本当だ」

結月「さっき外へ出て行きましたよ。電話じゃないですかね」
407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:14:19.42 ID:GYsMFmGgo

報瀬「あれ?」

日向「どした?」

報瀬「カニが居ない」

栞奈「さっきみんなの口へ吸い込まれていったよ。完食ですね〜」

報瀬「は?」

妹「……っ!」ビクッ

報瀬「まだ食べてないんだけど!? 日向!」

日向「ん! んんん!!」パクッ

報瀬「それ2本目でしょ!?」

日向「ん、んーん」フルフル

報瀬「嘘つかないで!」

日向「もぐもぐ……ごくん。……3本目だ!」

報瀬「く……!」

日向「はぁ〜、美味しかった〜」

報瀬「し、信じられない……」ワナワナ

妹「ど、どうぞ」

栞奈「食べかけじゃないの。そこまで気を遣わなくてもいいよ〜?」

妹「で、でも……」

栞奈「大丈夫大丈夫。あのお姉ちゃんは我慢できる人だから」

報瀬「フー」

結月「狩る者の目ですね……。報瀬さん、私のどうぞ」

報瀬「いいの?」

結月「私もカニは身近にある方なので」

報瀬「ありがとう! ありがとう!!」

結月「いえいえ」

マリ「マヨネーズつけると美味しいらしいよ」

報瀬「外道ね」

マリ「ひぃぃっ!」

報瀬「あ、そうじゃなくて。高級食材を無駄にする食べ方が良くないって意味で、
   そんな食べ方をする人が信じられないってことだから」

マリ「ごめんなさいぃぃぃ」シクシク

日向「そうなんじゃないか」

栞奈「あはは」

みこと「……戻ってきた」

結月「?」


秋槻「なんか空気がギスギスしてるような?」

みこと「どこ行ってたの……?」

秋槻「友達に呼び出されてね。これなんだけど」

ペラッ

日向「んー? あ、これ!」
408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:17:05.59 ID:GYsMFmGgo

秋槻「いつ撮ったの?」

みこと「秋槻さんが寝てる間に……」

秋槻「うん、まぁそうだよね……」

マリ「あはは、お兄さん変な顔〜」

結月「プリントまでしてくれたんですね」

栞奈「おぉー、集合写真だ! いいねいいね」

みこと「撮った人、秋槻さんの友達?」

秋槻「うん、わざわざ東京から出てきて、こんな写真撮ってるんだよ」


報瀬「もぐもぐ、もぐもぐ」

日向「おい、食い意地張ってないで輪に入れよ〜」


めぐみ「……ふぅ」

リン「なんだか、空気に入れませんね」

めぐみ「そうだな……」

リン「お姉ちゃんたち、楽しそう」

めぐみ「……うん」


さくら「お二人さん、こっちへいらっしゃい〜♪」


めぐみ「え?」


さくら「おいでおいで〜♪」


リン「……」


さくら「私は結月ちゃんがこの列車に乗車した企画のスタイリストを任されてるの」

めぐみ「……そうですか」

リン「初めまして……」

一輝「……」


秋槻「それから、これ」

日向「なに?」

マリ「こ、この形の箱……もしかして!」

秋槻「ケーキだって。友達から差し入れ」

妹「ケーキ? それも?」

秋槻「うん、人数が分からないから二つ用意したって」

マリ「開け……! 開けてもよろしいですか!?」

秋槻「どうぞ。みんなで食べて」

報瀬「私、苺が乗ってるやつで」

日向「まだ開けてないだろ! どこまで食い意地張ってるんだよ!」

マリ「ジャーン! おぉー! イチゴショートケーキ、定番であり王道!!」

結月「ホールケーキ……。高そうですね」
409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:18:41.77 ID:GYsMFmGgo

マリ「こっちは!? おぉー!」

日向「リアクションが同じになるくらいの感動だな!」

妹「チョコだ……」

栞奈「妹ちゃん、チョコが好きなんだ?」

妹「う、うん」

日向「あ……」ピコーン

報瀬「どうしたの?」

日向「いいこと思いついた。キマリ、食堂車行って切ってこよう」

マリ「うん! ケーキだ!」

日向「落ち着け! 落とすなよ!?」

結月「私も行きますよ」

日向「いいからいいから、私たちに任せとけって〜」

結月「? お願いしますね」

マリ「あれ、何人分切ればいいの?」

日向「人数は私に任せろ。キマリは安全に運ぶことだけ考えるんだ」

マリ「なんかひどい!?」

スタスタ...

結月「日向さん、なにか企んでません?」

報瀬「……そうかも。でも、大したことじゃないでしょ」

結月「ですね。日向さんですから」

栞奈「……なにする気なの」ヒソヒソ

報瀬「分からないけど、多分、結月に関すること」ヒソヒソ

栞奈「ふぅん……それは楽しみだ」


みこと「どうしてケーキを?」

秋槻「俺が列車の旅行してるの知って、様子を見に来たらしい」

みこと「……?」

秋槻「まぁ、理解できないよね。前に電話に出たでしょ?」

みこと「えっと……ありさ、さん?」

秋槻「そうそう」

さくら「女の影……!?」

一輝「写真撮ったの男の人ですよね? どういう繋がりなんですか?」

秋槻「二人が今度結婚するんだよ。古い付き合いだからね」

一輝「へぇ……」

さくら「あらぁ、めでたいじゃない〜♪」

めぐみ「テンションが上がった……?」

みこと「……」

秋槻「君が電話に出たから、不審に思われてさ……はは」

リン「……」
410 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:21:17.87 ID:GYsMFmGgo

秋槻「はは……本当に、何もないんだけどね……はは……」

リン「……」

結月「リン、大丈夫だから……秋槻さんは大丈夫だから」

報瀬「警戒しなくてもいいから、ね」

リン「……はい」

栞奈「ぷっ……くくっ」

秋槻「……は……はは」


みこと「秋槻さん、平気?」


秋槻「……うん」


結月「?」

報瀬「?」

栞奈「なに、が……?」

みこと「……」

秋槻「あぁもう……恥の上塗りになるけども……旅の恥はかき捨てだから言うよ」


めぐみ「?」

リン「?」

さくら「一世一代の告白みたい……!」


秋槻「その、ありさって人は……高校時代に、好きになった人なんだ」


一輝「!」

栞奈「おぉ、それはそれは」

結月「複雑な感じですね……。だからみことが聞いたわけですか」

報瀬「……」


秋槻「前にも言ったけど、もうそんな気持ちは無いから、平気だよ」

みこと「……うん」


めぐみ「様子を見に来るくらいに、深い付き合い……ということですね」

秋槻「どうかな……? 疎遠になりがちだったけど……
    結婚の話で連絡が来るようになっただけだから」

一輝「…………後悔してるって」

秋槻「行動を起こせなかったことに、ね。彼女と今も一緒に居たいっていう後悔じゃないよ」

一輝「……」

栞奈「甘酸っぱいですねぇ。ケーキに乗った苺のように」

報瀬「……?」

結月「……」

みこと「……」

めぐみ「……」

リン「……」

栞奈「あれ、君たちリアクションが薄いね」

さくら「あら? みんな、もしかして、恋はまだ……?」
411 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:22:48.27 ID:GYsMFmGgo

パチッ


結月「あ、あれ? 明かりが消えましたけど……」

秋槻「停電……じゃないね。なんだろ?」

リン「向こうが明るいですよ」

報瀬「あ……それがやりたかったのね、日向」

栞奈「ワクワク」

一輝「なんだ、居ないと思ったら一緒に行ってたのか」


ウィーン


マリ「ハッピバースデートゥーユー」

日向「ハッピバースデェトゥーュゥ」


めぐみ「蝋燭まで点けてる……」

結月「誰の誕生日なんですかね?」

みこと「だれ?」

秋槻「さぁ?」

リン「……?」


マリ日向「「 ハッピィバァスデェディァ 」」


マリ「結月ちゃん〜♪」

日向「ゆ〜づ〜♪」


結月「はい?」


一輝「ふぅん、そうなんだ?」

栞奈「ううん、結月ちゃんの誕生日は12月10日生まれの射手座。
   身長152cm。血液型はA型。好きなものはケーキと暖かい場所だから……違う」

一輝「なんか怖いわお前」


マリ「はい、火を吹き消して!」

日向「しかもふたぁつ!!」


結月「なんですかこれ?」


マリ「日向ちゃんがバースデーケーキにしようっていうもんだから」

日向「サプライズなのだよ」

結月「誕生日近いの日向さんですよね?」

日向「私はさ……もう……過ぎ去った日々のことは忘れたいんだよ」

結月「そんな重い話してないと思うんですけど!
   それだったら、私より早い報瀬さんじゃないんですか?」

報瀬「私は……まだ……この歳で……居たいから……あと少しだけでも」

結月「変にドラマ仕立てにしないでくれませんか!」


妹「ロウソク買ってきたの私なんだよ?」

一輝「そうか、偉いな」ナデナデ

妹「えへへー」
412 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:29:09.46 ID:GYsMFmGgo


結月「って、なんでカメラ回してるんですか!」

日向「えーい、ごちゃごちゃとウルサイ!
   早く食べたいんだからさっさと消せー!」

結月「……分かりましたよ」

マリ「えっへへー」

結月「なんですか?」

マリ「結月ちゃん凄いね。去年は南極で……今年はデネブちゃんで誕生日!」

報瀬「確かに……。滅多に出来ない経験ね」

栞奈「はい、じゃあみなさん、もう一度!」


「「「 ハッピバースデートゥーユー♪ 」」」

「「「 ハッピバースデートゥーユ〜〜♪ 」」」


「「「「 ハッピバースデーディア 」」」


「結月ちゃん〜」

「ゆづ〜」

「結月〜」

「白石結月〜」

「結月お姉ちゃん〜」

「鳥羽結月〜」


結月「名字を変えないでください栞奈さん」


栞奈「おぉ、聖徳太子」


「「「 ハッピバースデ〜〜トゥ〜〜〜ユ〜〜♪ 」」」


結月「ふ、ふぅ〜〜」


マリ「わー!」パチパチ


パチパチ
 パチパチ


結月「あ、えっと……みなさん、ありがとうございます……?」

日向「なんで疑問形?」

結月「誕生日じゃないからです。誕生月ですらないですから!」

報瀬「まぁそうなるよね」

マリ「よーし、食べよう食べよう〜」

栞奈「まだ切られてないけど、包丁持ってきたの?」

マリ「ううん、もう一度食堂車もっていかないといけないの」

栞奈「あ、そうだね……包丁持って歩けないからね」

日向「二度手間だけどしょうがないな。それじゃ、切ってくるよ」

さくら「あ、ちょっと待って」

マリ日向「「 ? 」」
413 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:31:02.81 ID:GYsMFmGgo

さくら「結月ちゃん、写真撮りましょう」

結月「え、でも……」

さくら「仕事じゃなくて、プライベートの写真よ」

結月「は、はい……みなさん、いいですか?」

栞奈「もっちろぉん!!」

一輝「うわ、キモイ声……」

栞奈「結月ちゃんが可愛すぎてテンション上がりすぎた結果なんだよ」

一輝「そうか、ごめんなキモイとか言って……そのままでいいと思うぞ」

栞奈「こっちこそごめん……。自分を抑えることにするよ……」

妹「……」


さくら「それじゃ撮るわよ〜、ハイ!」


マリ「チーズケーキ!」

報瀬「ショートケーキでしょ?」

妹「チョコケーキだよ」

日向「真面目かお前らー! チーズケーキ!!」


パシャッ


さくら「はい、オッケー♪」


マリ「じゃ、切って来るね〜」

スタスタ...


結月「……」

報瀬「嬉しい企みだったね」

結月「……ですね」

栞奈「また火を点けて入ってきたら面白いよね」

結月報瀬「「 ………… 」」

一輝「おまえ、つまらないこと言って余韻を壊すなよ、こっち来い」

栞奈「えー、でも本当に面白くない?」

一輝「早くケーキ食べさせろって空気が出るから、紙一重で面白くない」

栞奈「フッ、時代が栞奈ちゃんのセンスについてこれないんだね」

一輝「お前は常に先にいるからな」

栞奈「お、分かってるじゃん!」

一輝「その先端から落ちてる」

栞奈「なんだとこの!」ドスッ

一輝「殴るなって」

妹「……」


……


414 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:37:20.87 ID:GYsMFmGgo

リン「さっきも言ったけど、明日の朝に帰るよ」

マリ「ふーん、そうなんだぁ。どこに泊まるの?」

リン「めぐみさんと、近くのビジネスホテルに。二人の方が安いからって」

マリ「同じ方向に向かうのに別々で移動するって変な感じだね」

リン「しょうがないよ。私はもっと早い時間に出発するんだけど」

マリ「そっかぁ……」

めぐみ「北か南か……どっちにしよう……?」

妹「ふぁぁ……」

日向「もういい時間だな。そろそろお開きにしますかね」

報瀬「そうね。片付け始めましょ」

結月「日向さん、締めをお願いします」

日向「はーい、みなさーん、よろしいですかー?」


秋槻「書いてるのは宇宙が舞台なんだよ」

みこと「言っていいの?」

秋槻「これくらいなら平気。それに、まだ商品にもならないレベルだから」

栞奈「宇宙と言ったら冒険と旅がメインになりますね?」

秋槻「そうそう。そんな感じのものを書いてるよ」

あくら「あら、素敵☆」

一輝「宇宙人とか出てくるんですか?」

秋槻「いや、出てこないよ。ヒューマンドラマにするから」

栞奈「最近見た映画で最高傑作を観たんですよ」

秋槻「へぇ、どんな?」

栞奈「衰退する地球から離れて、別の惑星へ移住しなきゃいけないんだけど、
   人類に適した惑星を発見しても、技術が足りなくて移住できないって話」

秋槻「子どもの好奇心と大人の知識でメッセージを解いて物語が始まるんだよね」

栞奈「あ、やっぱり知ってました!?」


日向「盛り上がってるところ悪いんだけどぉ、いいかな?」


栞奈「え、あぁ、ごめんごめん」

一輝「知ってるか?」

みこと「ううん、知らない」

さくら「どうしたの、日向ちゃん?」


日向「お開きにしたいと思いまして。片付いたら残るのも自由ってことで」


……


415 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:41:11.30 ID:GYsMFmGgo

―― 金沢駅・ホーム


妹「んん……」ウトウト

栞奈「ほら、お兄ちゃんにしっかり掴まって」

妹「うん〜……」ウトウト

一輝「悪いな、後片付け手伝わなくて」

マリ「いいよいいよ、みんなでやればあっという間だよ」

一輝「ありがと」

マリ「うん、みんなに伝えておくよ」

一輝「明日、見送りに行くからさ」

栞奈「一旦帰るの?」

一輝「いや、近くにあるホテルで。親が用意してくれてさ」

マリ「優しいご両親だね〜」

一輝「……まぁ、そんなとこ」

妹「すぅ……」

一輝「おい、立ったまま寝るな。……それじゃ」

栞奈「またね〜」

マリ「ばいばーい」


「もうちょっとだけ頑張って起きるんだ」

「うん〜……ん〜……」

スタスタ...


マリ「それじゃ、ちゃっちゃと片付けちゃおうか」

栞奈「……」

マリ「どしたの?」

栞奈「ずっとああやって妹ちゃんの面倒を見てたんだろうね」

マリ「……うん」

栞奈「両親が忙しいって言ってたから、家で独りにさせたくないんだと思う」

マリ「……」

栞奈「私のとこも似たようなもんだから分かるんだよね……」

マリ「そっか……だからあんなに懐いてたんだね」

栞奈「うん」


「おーい、キマリ〜!」


マリ「あ、日向ちゃんが呼んでる」

栞奈「そうだ、二人に言っておきたいことがあった」

マリ「ん?」


「なにやってるんだよー? 栞奈も片付け手伝え〜!」


栞奈「日向、ちょっと来てー!」
416 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:42:56.93 ID:GYsMFmGgo

...タッタッタ


日向「どうした? なにかあったの?」


栞奈「話したよ、一輝と」


マリ「……」

日向「……」


栞奈「ごめん、って謝ったらさ。『こっちこそ、怒鳴って悪かった。ごめん。ふふん』って」

日向「それ、大村のマネか?」

マリ「あはは」

栞奈「ちゃんと仲直り出来た。あんな気持ちで旅が終わらなくて本当に良かった」

日向「そっか……良かったな」

マリ「よかったね」

栞奈「いろいろと行き違いはあったけど、解消できてよかった。二人のおかげ、ありがとう」

日向「なにもしてないけどな」

マリ「そうそう、なにもしてない」

栞奈「それでも、助かったし……救われた。みんなに背中押してもらわなかったら、
   きっと、私から謝ることなんて出来なかったから」

日向「……」

マリ「……」

栞奈「以上です。さ、片付け片付け」

日向「……え?」

マリ「もうちょっとみんなで話してたいよね〜」

栞奈「したいよね〜、ってか、しよう!」

日向「ちょっと待って、終わり?」

マリ「?」

栞奈「終わり……って?」

日向「いや、二人が仲直り出来た。それはよかった……で、次は?」

マリ「次?」

栞奈「???」

日向「あれ、……いや……もっとこう……なにかあると思ったんだけど」

マリ「なにが?}

栞奈「何言ってるの?」

日向「いや……うん、ごめん。なんでもない」

マリ「なにか心残りでもある?」

栞奈「お土産買い忘れたとか?」

マリ「明日の朝にでも買いに行こうよ」

日向「それはダメだ! 絶対にデネブから離れるなよキマリ!!」

栞奈「うむ、そうだぞ!」

マリ「えぇ〜……」


……


417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 03:44:54.11 ID:GYsMFmGgo

―― デネブ・展望車


マリ「食器の片づけ終わったよ〜」

日向「こっちはどうだ〜?」


報瀬「こっちももう終わり」

結月「秋槻さんがゴミを捨てに行ってくれてます」

みこと「キマリさん、それは?」

マリ「トロピカルレインボースペシャルミックススーパーデラックスドリンク
   みんなの分あるよ!」

報瀬結月「「 え 」」

日向「安心しろ、私が監修した」

報瀬結月「「 ホッ 」」

マリ「なんで!?」

リン「どうして安心してるのかな?」

めぐみ「キマリが独特な味を創ったんだろう……」

リン「あ……」

マリ「あって、なに!?」

めぐみ「それじゃ、私たちは行くな、キマリ」

マリ「行くって?」

めぐみ「ホテルに戻るんだよ」

リン「お姉ちゃん、朝ごはんはこっちでいいの? ホテルで朝食抜きにしたんだけど」

マリ「うん、食堂車で一緒に食べよ。美味しいから」

めぐみ「分かった。出発前だな」

マリ「うん!」

リン「それではみなさん、おやすみなさい」ペコリ

めぐみ「それじゃ」

日向「お〜、それじゃ〜な〜」フリフリ

結月「はい、それでは」

報瀬「……おやすみ」

マリ「また、明日ね〜……って!
   トロピカルレインボースペシャルミックススーパーデラックスベントウ無視!?」

日向「弁当って言っちゃったよ」

みこと「……」

マリ「なんか、変な気持ち」

報瀬「変って?」

マリ「いままでずっと一緒にいためぐっちゃんとリンと、
   見知らぬ土地でまた明日ってお別れしてることが」

みこと「ずっと?」

マリ「めぐっちゃんは小さい頃から一緒。リンは家でも一緒だから余計に変な感じ」

みこと「……」

報瀬「あれ、栞奈は?」

日向「車掌さんと話してるよ」

418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 17:16:19.74 ID:GYsMFmGgo

秋槻「もう片付いたんだ。お疲れ様」


マリ「いえいえ、ってソレは!?」

秋槻「さっき自販機で見つけてね……つい」

マリ「おぉ〜、お兄さんはもうプリンシェイクの虜……!」

秋槻「飲んだことないんだけどね」

マリ「え? 前に渡したのは?」

秋槻「あー……えっと……車掌さんに飲んでもらって」

マリ「……そうなんだ」

結月「わざわざプリンを飲み物にしなくてもいいのに、って思いますけどね」

マリ「プリンは飲み物だよ?」

日向「そう思ってるのはお前とプリン好きな人たちだけだ。
   少なくとも此処に居る連中はそう思ってない」

マリ「またまた〜そんなこといって〜」

日向「照れ隠しで言ったわけじゃないからな!」


報瀬「日向、そっちの飲み物取って」

日向「いいけど……って、みことが寝てるのか?」

みこと「……すぅ……すぅ」

報瀬「うん、起きそうにないから動けなくて」

結月「こっちでいいですか?」

報瀬「うん」

マリ「作ってきたドリンクは? なんで飲んでくれないの?」

日向「前科があるからだよ」

秋槻「思ったより薄いねこれ……もっと甘いものかと思ってたんだけど」

マリ「振りすぎたからだよ、お兄さん。普通は2回シェイクだからね」

秋槻「5回振るって書いてあるから振ったけど……それでも飲みにくかったよ?」

マリ「それがいいんだよ〜」

日向「特製スペシャルドリンク、意外と美味しいからみんな飲んでみろって〜」

結月「では……試しに」

みこと「……すぅ」

報瀬「朝、早かったからね……」

秋槻「それじゃ、俺も個室に戻るよ」

結月「人工的な味がしないのがいいですね……。お仕事が残っているんですか?」

秋槻「いや、ひと段落ついたから、今日はもう寝るよ。あとは明日からだね」

マリ「はい、どうぞスペシャルナントカドリンクです」

秋槻「ありがと。コップは食堂車に返せばいいのかな?」

マリ「ういうい」

秋槻「それじゃ、また明日」

スタスタ...

日向「それじゃ私らはどうする?」

結月「特にすることもないですよね」

報瀬「うん……」
419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 17:21:42.83 ID:GYsMFmGgo

マリ「でも、なんか……まだ終わって欲しくないね」

みこと「……すぅ……すぅ」

日向「だな。今日がまだ終わって欲しくないな」

報瀬「まぁね」

結月「ですね」


栞奈「おい〜っす〜。おや、人が減っちゃったね〜」


マリ「もう少しだけ話してようか」

日向「そうするかぁ」

報瀬「うん」

結月「そうですね。まだ日付が変わるまで時間ありますから」

栞奈「あれ、ケーキ片付けちゃったかい?」

マリ「余ったのは綾乃ちゃんたちに食べてもらったよ」

日向「喜んでたな」

報瀬「まだ食べたかったの?」

栞奈「まだっていうか、私はひとっつも食べてないですけどね!」

結月「あ、そうだったんですか……」

栞奈「いいけどね〜。代わりといてはなんだけど、南極の話を聞かせてくれないかい?」

日向「なにが聞きたいんだ?」

栞奈「なんでもいいよ」

報瀬「じゃあ、ペンギンの話でも」

栞奈「ペンギンなんて水族館にいるからなぁ……できればシャチの話でもしてくれない?」

結月「それも水族館にいるじゃないですか」

栞奈「ペンギンなんてよちよち歩いてるだけじゃん」

マリ「あんなこと言ってますぜ、親びん」

報瀬「はぁ……本物のペンギンを見たことないなんて……可哀想」

日向「まったくだ、好奇心旺盛なあの生き物を知らないってことか」

栞奈「好奇心は子猫をも……って言うじゃない? 天敵が多いらしいじゃないか?」

報瀬「残酷な話やめて」

みこと「……ッ!?」ビクッ

結月「ど、どうしたの、みこと……?」
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 17:28:35.53 ID:GYsMFmGgo

みこと「あ……あれ……?」

日向「怖い夢でもみたか〜?」

みこと「うん……」ブルブル

マリ「もう大丈夫だよ〜。怖くない、怖くない〜」

スリスリ

 ナデナデ

みこと「……ふ…ぁ…」

栞奈「どんな夢みたの? 話したら意外と大したことなくて恐怖が消えていくかもよ〜」

みこと「……うん。ペンギンが……シャチに食べられて――」

報瀬「わー! わー!! わぁー!! 聞こえない聞こえない!!」

日向「本格的に怖い話だったな」

結月「あんな話するからですよ」

栞奈「くくっ、あはははっ」


……





―― 深夜:マリの個室


マリ「すぅ……すぃ……すぴぃ」


pipipipi


『南に行ってみる』


マリ「涙の数だけ雨が降るんだよ」


マリ「くぅ……すふぅ……」

421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 17:30:39.45 ID:GYsMFmGgo


―― 8月9日



女の子「れっしゃ、れっしゃだ〜♪」

テッテッテ


ドテッ

女の子「ふぎゅっ」


報瀬「あっ!」

みこと「どうしたの?」

報瀬「女の子が転んだ……!」

テッテッテ


女の子「ふぇ……っ」


報瀬「大丈夫? 大丈夫!?」


女の子「ふぇぇっ」


報瀬「痛くない? 痛くない!?」


女の子「ふぇぇぇ!!」


報瀬「あぁぁっ、大丈夫だから!」

日向「あやし方下手だな報瀬……」


栞奈「ちょっとごめんね、おじょうちゃん〜」


女の子「びぇぇえええ!!」


栞奈「……うん、怪我はないね。びっくりしたよね」


女の子「うええぇぇえん!! おがぁぁさぁああん」


栞奈「よーし、お姉ちゃんが魔法をかけてあげよう〜」


女の子「ひぐっ……まほう……?」


栞奈「そう。痛みが無くなる魔法。いくよ〜?」


女の子「ぐすっ……うぅぅ」


栞奈「痛いの痛いの〜〜、あのお兄ちゃんに飛んでいけ〜〜!!」


一輝「えっ!?」


女の子「グスッ……?」


一輝「くっ……ぐぁぁあっ……痛いッ」
422 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 17:32:15.53 ID:GYsMFmGgo

女の子「……ぐすっ……お兄ちゃん……だいじょうぶ?」


一輝「あ、あぁ、大丈夫……優しい子だな、君は」


母「ユミ? どうしたの?」

女の子「お母さん!!」


栞奈「この子、転んじゃって。
   怪我はないみたいですけど、一応気にかけてあげてください」

母「あらら……。迷惑をかけてしまったみたいで、すいません」

栞奈「いえいえ、特に何もしてませんから〜。ね、一輝」

一輝「……まぁ、はい」

女の子「……」

母「ほら、ちゃんとお礼言って」

女の子「ありが……とう。お姉ちゃん、お兄ちゃん」

栞奈「こんなとこ走ったら危ないから、気を付けるんだよ〜?」

一輝「気をつけてな」

女の子「うん……」

母「電車来ちゃったから行きましょ。それでは」ペコリ

栞奈「バイバーイ」フリフリ

一輝「……」


「ばいば〜い」


栞奈「かわいいね〜。って、妹ちゃんは?」

一輝「あっちで親に電話してる」

栞奈「離れちゃ危ないでしょ。近くに居なきゃ」

一輝「おまえが無茶ぶりしたせいだろ。ってか、やらせんなよ」

栞奈「まぁまぁ。あの子も泣き止んで良かったじゃん?」

一輝「まぁ、いいけど」


日向「くっ……ぐぁぁあっ……痛いッ」

結月「……」

報瀬「ふふっ」


一輝「やっぱり良くないわ」

栞奈「あははは! お腹痛い! 傑作だったよあの演技! あっはっは!!」


マリ「えぇぇぇえええ!?」


一輝「なんだ、どうしたんだ?」

栞奈「くふっ……さぁ?」


マリ「いつも逆の方向に行くんだからー! もぉー!」

栞奈「どうしたの?」

日向「幼馴染が『富士山見てくる』って伝言残して出発したんだってさ」

栞奈「ふぅん……」
423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 17:34:07.78 ID:GYsMFmGgo

リン「お姉ちゃんにメッセージ送ったって言ってたよ?」

マリ「気付いてたけど、南に行ってくるって意味が分からなかったんだよ……。
   それを聞こうと思ってたのに……」

リン「あ、私もう時間だから行くね」

マリ「見送るよ」

リン「いいよ、ここで。それでは、みなさん。とても短い間でしたが楽しかったです」

報瀬「こちらこそ。気を付けて帰ってね」

結月「また連絡するからね」

リン「はい。いつもありがとうございます。姉をよろしくお願いします」ペコリ

日向「おー、またね〜」

栞奈「まーたね〜」

マリ「見送って来るね」

リン「だから、いいって言ってるのに。どうせ明日の夜にはお家で会うんだから」

マリ「いいからいいから」

リン「地元に帰るだけなのに……」

スタスタ...

みこと「……」

結月「私も見送ってきますね」

日向「寄り道しないでまっすぐデネブに戻ってくるようにな」

結月「大丈夫ですよ、時間もありますから」

日向「よく思い出せ、ゆづ。そう言って結局走ることになった今までを……」

結月「……ですね。分かりました」

テッテッテ...

報瀬「明日か……」


妹「じー……」


報瀬「……?」


妹「似てる……やっぱりマネさんに似てる」


報瀬「……」


一輝「だから、失礼なことするなってっ」

報瀬「されてないけど?」

一輝「……はい」


栞奈「ぷっ、くふふっ」

日向「どんな人なんだろうな……」


秋槻「おはよう」


一輝「おはようございます」


秋槻「長いとまでは言えないけど、短くもない時間だったね」

一輝「そうですね、福岡からだから……まぁ、それくらいには」
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 17:35:58.66 ID:GYsMFmGgo

秋槻「楽しかったよ、ありがとう」

一輝「俺も、楽しかったです。秋槻さんが居なかったらどうなってたか」

秋槻「それは俺も同じかなぁ。同性として助かった部分はたくさんあったよ」

一輝「仕事、応援してますから」

秋槻「うん、ありがとう。どこかで名前を見られるように頑張るよ」

一輝「なんなら自慢できるくらいには」

秋槻「あはは、そうだね。知り合いなんだって言われるくらいになりたいね」

一輝「お元気で」

秋槻「うん、君も、元気でね」

一輝「はい」


日向「……終わりかっ!」


秋槻「男同士はこんなものだよ」

一輝「うん」

秋槻「ちょっとコンビニ行ってくるよ」

みこと「遅れないで……?」

秋槻「分かってる。すぐ戻るよ」

スタスタ...


報瀬「元気でね」

一輝「はい」


報瀬「……」

一輝「……」


日向「男同士より短いな!?」


栞奈「うぅ、ぐすっ……一輝ぃ、寂しいよぉ〜」シクシク

一輝「ウソ泣き止めろ」

栞奈「ちょっと、感動の別れを壊さないでよ!」

一輝「壊してるのお前だろ! 過剰演出してないで普通にしてくれ」

栞奈「じゃあ思い出話でも……。一輝が女装して駅前で踊ったのは笑ったな〜」

一輝「そっちは明日降りるんだっけ? 群馬だったか」

日向「そうだけどさ……」

妹「兄ちゃん……」

一輝「距離で考えたら結構あるんだけど、時間で考えたらあっという間なんだよな」

日向「妹にはリアクションしてやれっての……。時間と距離か……そんなものなのか?」

一輝「まぁ、移動中に色んな事あったから、短く感じただけなのかもな」

みこと「相対性理論?」

一輝「難しいことは知らんけど」

日向「大村はなんか変わったな。最初は仏頂面してたのに」

一輝「コンビニで3人でカップ麺食べてるの見て、変な奴らって思ったからな」

日向「あはは、あったな〜」
425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 17:38:18.75 ID:GYsMFmGgo

栞奈「料理長とリンゴの皮むき勝負は意外な結末だったよ〜」

一輝「まぁ、元気で。楽しかったよ」

日向「お、おう。大村がそんなこというなんて、驚いた」

一輝「最後だからな」

妹「どうなったの、兄ちゃん?」

一輝「そんな勝負は無かったんだよ。この人間が言うことは6割がた嘘だからな?」

栞奈「私の打率はそんなものだからね」

一輝「化け物かお前は」

栞奈「それじゃあさ、一輝」

一輝「?」

栞奈「野球、始めなよ」

一輝「――!」

栞奈「いつもイライラして、仏頂面してるのは我慢してるからじゃない?」

一輝「……」

栞奈「我慢を止めて、走り出したらどうなるか私は知りたい」

一輝「……」

栞奈「一輝が球場で活躍してたら、私は間違いなく感動するよ」

一輝「……ハァ、お前は赤の他人じゃないだろうが」

栞奈「あー……それもそうだね」


報瀬「?」

日向「何の話だ?」

みこと「赤の他人が実際にあった話に感動できるのかどうかって話……」

報瀬「当事者以外は感動できないってこと?」

みこと「うん……栞奈さんが言ってた」


一輝「ふぅぅ……はぁ……そうだな」

妹「……兄ちゃん?」

一輝「あのな、藍……俺……部活で遅くなると思うんだけど、いいか?」

妹「……」

一輝「これから本気で始めるから、毎日だな」

妹「……」

一輝「今までの時間を取り戻すにはそうでもしないと絶対に足りないから――」

妹「うん」

一輝「……いいのか?」

妹「うん、いいよ」

一輝「一人でいる時間が多くなるし――……いや、うん、ありがとう、藍」

妹「毎日応援しに行くから寂しくないよ!」

一輝「家から高校までそんなに近くないだろ……。でも、ありがとな」ワシワシ

妹「えへへー」
426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 17:39:28.62 ID:GYsMFmGgo


栞奈「ぐすっ……甲子園優勝するなんて……すごい約束しちゃったね……」

一輝「してない」

栞奈「してないね」

一輝「……けど、それくらいの気持ちでやらないとな」

栞奈「あ……うん」

一輝「ありがと、栞奈」

栞奈「う、うん……」

一輝「……なんだよ、どうした?」

栞奈「な、なんか……照れちゃって……いきなり礼なんて言わないでよね、バカ」

一輝「……なんなんだよ、お前は…」


日向「にひ……」ニヤニヤ

報瀬「どうしたの、日向? 気持ち悪い笑い方して?」

日向「気持ち悪い言うな!」

みこと「……」


マリ「ただいま〜……あれ?」

結月「どうしたんですか、二人とも?」


一輝栞奈「「 別に…… 」」


一輝「真似すんなよ」

栞奈「あははっ、言うと思ったんだよね!」


妹「じー……」


秋槻「よかった、まだ間に合った」

みこと「?」

秋槻「これを、渡したかったんだ」


一輝「俺に……?」

栞奈「なんですか?」


秋槻「ネットの記事。昨日のなわとび大会のことが書かれてるよ。君たちのことがね」


日向「え、どれどれ!?」

報瀬「見せて!」

一輝「ち、近いですから!」

栞奈「ちょっと、動かさないで一輝!」

秋槻「はい、もう一つ」

マリ「ふむふむ、コラム?」
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 17:44:07.61 ID:GYsMFmGgo

結月「なんて書かれているんですか?」

みこと「『満足の0回』」

マリ「『夏の夕暮れ。少しずつ寂しさを感じさせる焼けた空に笑い声が響いて行く――』」

『 先日、金沢城公園にてなわとび大会が開催された。
  数年前に旅行者が子供たちと仲良くなわとびをしていたことからこの大会が開催されるようになった。
  今年も近所の児童会を中心とした大会の参加者達が思い思いに縄を飛び越えて行った 』

『 今年の最後の挑戦者チームは、玉木マリさん率いる超特急デネブの乗客たち10名。 』 


日向報瀬結月「「「 ん? 」」」

栞奈「引っかかるのは分かるけど、先を読もうよ?」


『 ギネス記録を目指すと全員が気合を入れて、掛け声とともに縄が回り始める。
  しかし、次に縄が回ることは無かった。
  脚に引っかかり失敗してしまったのだ。記録は0。
  司会者がもう一度挑戦することを促す。会場に居た誰もがそうすると思っただろう。
  玉木マリさんは言う。 』

マリ「『きっと、世界記録を出しても、誰か偉い人に賞状を渡されても、
    こんな気持ちにはなれないんです。
    だからこれでいいんです。みんなで一つになった今のままでいいんです。
    私たちの記録は0回です!』」

『 と、笑顔を残したまま会場を後にした。
  夕暮れに秋の気配を感じたが、今年の夏はまだまだ終わらなさそうだ。 』
    

栞奈「ほぉ……」

一輝「こんなこと言ったのか……」


マリ「……?」


日向「『言ったっけ?』って顔してるけど、どうなんだ?」


マリ「言った……ね、うん。言ったよね……?」

報瀬「いや、私はそのとき近くに居なかったから」

結月「あ、でも……誰かと話をしてたのは覚えてます」

マリ「じゃあ言ったんだよ」

日向「じゃあってなんだよ。自信無いんか」

みこと「……みんな、笑ってる」

妹「兄ちゃんも笑ってるね」

一輝「うん……」

秋槻「俺は苦笑いだけどね……。それだけじゃないよ、後ろにいる人たちも笑ってるでしょ」

結月「あ、本当ですね」

日向「応援してくれた人たちも」

報瀬「みんな笑顔……」

みこと「キマリさんの言葉、この写真を見たら納得できるよ」

マリ「……うん!」

428 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 17:46:08.84 ID:GYsMFmGgo

一輝「……そろそろ、時間だな」

妹「……」


報瀬「……」

結月「……」

日向「じゃあ乗るか」

栞奈「じゃあね、一輝。走って追いかけたりしないでよ、危ないから」


一輝「誰がするか」


報瀬「元気で。楽しかった」


一輝「……はい。それでは」


みこと「楽しかった……です。ありがとう……ございました」ペコリ


一輝「これから先、気をつけてな」


マリ「それじゃ、元気でね。また、どこかで逢えたらいいね」


一輝「……うん。……みんなのおかげで楽しかった。元気でいてくれ」


日向「じゃ、な」スッ


一輝「……」スッ


ギュッ


日向「おぉ、意外と大きい手だな」


一輝「一応、野球やってるから」


日向「ははっ、そうだったな。じゃあな〜♪」


一輝「じゃあ、な」


結月「えっと、色々とありがとうございました」


一輝「なにもしてないけど。……――あのさ」


結月「……はい?」



日向「ひぃ、痛たた……アイツ、ちょっと力込めやがって〜」

マリ「男の子だからね」

報瀬「キマリがちゃんと乗り込んでると感動するかも」

みこと「うん」

マリ「うんって、みこっちゃん!」

栞奈「……ん?」

日向「どうした?」

栞奈「なにか、渡してる?」

みこと「結月さんに……?」
429 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 17:47:41.09 ID:GYsMFmGgo


結月「……ふぅ」

マリ「結月ちゃん、顔真っ赤だけど、どうしたの?」

結月「え、いえ……なんでも?」

栞奈「……」

報瀬「なにか渡されたの?」

結月「い、いえ……なんでもないですって」

日向「ふぅん……?」

栞奈「…………」



秋槻「――……それは賭け?」

一輝「賭けというか、そうなるだろうなっていう、確信みたいなものですね」

秋槻「今渡さないのはどうして?」

一輝「アイツの足を引っ張りたくないので……」

秋槻「そっか、そっかぁ。
    うん、見届けられないのは残念だけど、二人の未来を俺も信じるよ」

一輝「そ、そんなじゃないですけど」

妹「兄ちゃん、顔真っ赤〜」

一輝「うるさい。それじゃ、秋槻さん、さっきも言いましたけど、お元気で」スッ

秋槻「うん、お互いこれからも頑張ろう」スッ


ギュッ

一輝「さようなら、ですね」

秋槻「うん、さようなら」


prrrrrrrrrr



妹「またね、じゃないの?」

一輝「秋槻さんとは、もう逢えない気がする」

妹「なんで?」

一輝「大人だから、かな。進む方向が別々だから、な」

妹「みんなは?」

一輝「逢えそうな気がする」

妹「なんで? 子どもだから?」

一輝「分からん。どこかで逢えるといいなって思ってるからかな」



プシュー


ガタン

 ゴトン
430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 17:50:44.05 ID:GYsMFmGgo

―― デネブ


ガタン

 ゴトン


秋槻「どうしてかな……さようならって言葉がしっくりきたんだよ」

みこと「どうして?」

秋槻「もう逢えないって、思ったのかも……」

みこと「……」

秋槻「お互い、そう感じたのかもね」

マリ「何があるか分からないから人生。だから面白い」

日向「だそうですよ」

秋槻「あはは、そうだね。さて、俺も準備するかな。じゃあね」

スタスタ...

報瀬「……最後、か」

結月「――……」

栞奈「……」

日向「さぁって、私らはどうする?」

マリ「次、どこだっけ? 松本だ!!」

日向「疑問から回答まで一瞬だったな! そうだ松本だ!」

報瀬「……松本城」

日向「なんで城がまっさきに来るんだよ!」

マリ「城マニアだったんだ」

みこと「今まで一番だった城は?」

報瀬「首里城?」

マリ「沖縄行ったことあるの?」

日向「え、いつだよ? 飛行機乗ったのアレが初めてだったんだろ?」

報瀬「テレビで……観たけど?」

日向「直で見たかのように言うから……」

報瀬「首里城? って疑問形で言ったでしょ」

日向「そういえばそうだったな。……なぁ、このやり取り意味あるのか?」

みこと「無いと思う」

マリ「私もテレビで観たけど、首里城って城って感じじゃないよね」

日向「もう城の話はいいから行くぞ〜」
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 17:53:12.14 ID:GYsMFmGgo


栞奈「……」


みこと「あの、栞奈さん……」

報瀬「行こう、みこと」

みこと「う、うん……」

日向「相棒が降りたんだ、色々と思うところもあるだろう」


結月「…………」


マリ「そうだね。……結月ちゃんも行くよ〜?」

結月「は、はい」



……




―― 展望車


マリ「あ、そろそろ富山駅だよ」

報瀬「なにかあるの?」

マリ「リンが乗った列車を追い越すんだよね。見つけられるかな?」

日向「無理だな」

結月「次、糸魚川でしたっけ?」

報瀬「うん。30分停止」

みこと「松本は、キマリさん達の地元?」

報瀬日向「「 違う 」」

みこと「?」

マリ「みこっちゃん、大きく括ったでしょ?」

みこと「うん……? 群馬がどこにあるのかも分からない?」

報瀬「待って、実際に地図見た方が早い」ポチポチ

マリ「松本は長野だから」

報瀬「ここ、ここが群馬だから」

みこと「……うん」

日向「ちゃんと覚えるように。テストに出るからな」

結月「なにをそこまで熱くさせるんでしょうか」

マリ「北海道はいいよね、絶対に間違えられることないもんね」

結月「なんか……すいません……」

日向「謝ることじゃない。別に怒ってる訳じゃないからな。
    ただ、影が薄いからと覚えてもらえないのは憤りを覚えますな」

報瀬「それはあるかも」

マリ「うむうむ、覚えますね」

結月「怒ってるじゃないですか」
432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 17:56:25.65 ID:GYsMFmGgo

みこと「鳥取と島根と同じくらい難しい」

日向「しまね、か……」

報瀬「とっとり……ね」

マリ「……えっと?」

結月「3人とも鳥取と島根の人に怒られてください」

日向「なんだよ、ゆづは知ってるのか!? 地図を指してみろ!」

結月「ここですよ、鳥取! その隣が島根です!」

マリ「本当かなぁ? それでは、県名表示オープン!」

報瀬「はい」ポチ

みこと「……当たってる」

日向「ところで、さっきアイツからなにを受け取ったんだ?」

結月「誤魔化さないでくれませんか」ズイ

日向「ハイ、スイマセン」

結月「……なんていうか、どう判断したらいいのか分からないんですよね」

報瀬「うん?」

マリ「どういうこと?」

結月「明日の――」


ウィーン


栞奈「やぁやぁ、みんな。朝日を浴びて走る列車のなんと美しいことか」

日向「適当なこと言ってるな……。ゆづ、それで?」

結月「いえ、そういうことです」

報瀬「え?」

マリ「???」

みこと「……?」

栞奈「おや、話し中だったかい?」

結月「ちょうど終わったところですよ」

日向「……」

栞奈「あり、お邪魔だった?」

結月「いえいえ、気にしないでください。観光地を考えてただけなので」

マリ「え、でも――」

日向「みんなに言っておきたいことがあるんだ」

報瀬「どうしたの、いきなり?」

日向「私、もう金欠で動きが制限されてしまうんだよぉ!」

マリ「それは大変だ!」

報瀬「まぁ、それは私もだけど」


タタン 
 タタン


みこと「…………」
433 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 17:58:16.24 ID:GYsMFmGgo

結月「リーズナブルなお店でも探しましょうか」

マリ「ご飯もいいけど、観光地も考えないとね。みんなどこ行きたい?」

報瀬「松本城の近くに旧開智学校校舎がある」

日向「昔の学校か、いいねぇ」

栞奈「歴史的好奇心旺盛でいいんじゃないかな」

日向「なんだその言葉」


みこと「キマリさん」


マリ「うん? どうしたのみこっちゃん、行きたい場所ある?」

みこと「……富山駅過ぎたよ?」

マリ「ええぇぇええええ!?」

栞奈「富山駅になにがあったの?」

マリ「リンが居たんだよ……! みこっちゃん、早く言ってくれないと!」

みこと「ごめんなさい……?」


「結月ちゃ〜ん」


結月「さくらさんが呼んでるから行きますね、それでは」スッ

スタスタ...


栞奈「結月ちゃんの車掌服姿、明日までだもんね。私も付いて行こう〜♪」

テッテッテ


報瀬「栞奈って、次で降りるんだよね?」

日向「うん、確かにそう言ってたよな……」

マリ「結月ちゃん、なにを言おうとしてたんだろう?」

日向「栞奈のことだろ。どういうことなのか、大体察しは付いたけど」

みこと「うん」

報瀬マリ「「 ? 」」


……


434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 18:00:16.74 ID:GYsMFmGgo

―― 売店車


店員「いらっしゃいませ〜」


マリ「松本の観光ガイドください!」

店員「はい、どうぞ〜」

マリ「ありがとうございます!」

みこと「……」

マリ「どこ行こうか? 温泉もあるんだって」

みこと「次で、最後なんだよね」

マリ「うん、そうだね〜。だから、思い出深い場所にしたいよね」

みこと「キマリさん、どうして東京まで行くの?」

マリ「結月ちゃんの付き添い、かな? 結月ちゃんの最初から最後まで一緒に居たいからね」

みこと「……それなら、その次、は?」

マリ「次?」

みこと「仙台……まで」

マリ「うーん……。仙台……行ってみたいけど……。みこっちゃんも東京まででしょ?」

みこと「うん……」

マリ「もしかして、旅を続けたくなった?」

みこと「うん……終わりたくないなって」

マリ「そっかぁ……」

みこと「キマリさんが行くなら……私も……」

マリ「うーん……そうだなぁ……」


日向「どうした、難しい顔して?」


みこと「部屋の片付け、終わったの?」

日向「終わった終わった〜。というより、あまり散らかってないからな、キマリと違って」

マリ「そんなことないよ!」

日向「それじゃ、個室を拝見してもよろしいですか?」

マリ「え〜っと、一時間待ってくれる?」

日向「そんなことあるんだよな」

みこと「ふふ」

マリ「あ、笑った。みこっちゃんひどい〜!」

報瀬「何やってるの、こんなところで?」

日向「いや、別に」

報瀬「観光ガイド買ったんだ? 見せて」

マリ「はいよ」

日向「食べ物だけじゃなくて、いい景色が見たいな〜」

報瀬「此処に居ると邪魔になるから移動しましょ」


……


435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 18:01:46.26 ID:GYsMFmGgo

―― 4号車


マリ「こっちで撮影してたんだね、結月ちゃん達」

報瀬「栞奈、変な顔してる」

みこと「ボーっとしてるのかな」

日向「しょうがないな……。おーい、栞奈〜」


栞奈「……?」


日向「ちょっと話あるからこっち来てくれ〜」


栞奈「なになに、どうしたの?」

報瀬「なにかあったの、ボーっとしてたけど?」

栞奈「ううん、なにも〜?」

マリ「栞奈ちゃん、次で降りるんだよね?」

栞奈「そのつもりだったけど、最後まで行こうと思ってね〜♪」

みこと「稚内まで?」

栞奈「その通り〜」

日向「気になってたんだけど、地元が稚内なのになんで松本で降りる予定だったんだ?」

栞奈「試験があってさ〜、それに受けるつもりだったんだよね〜」

報瀬「……ということは、受けないってこと?」

栞奈「ま、そういうこと。後で挽回すればいいから問題無いさ」

マリ「うん、そうだよね。後で頑張ればいいもんね!」

日向「普段から勉強してる人が言える台詞だからな、キマリ」

マリ「うっ……」

みこと「……最後まで…」

マリ「……」

栞奈「よかったらみんなも行こうよ〜」

日向「私は出来ないんだよ。予定入ってるし、バイトもあるからな」

報瀬「私も、おばあちゃんが心配するし」

栞奈「え〜、一生に一度の経験だよ、冒険だよ?」

日向「それはそうなんだけどさ」

マリ「あっ、見て外」

みこと「どうしたの?」

報瀬「海……。日本海だ……」

日向「おー……いいねぇ」

みこと「太平洋と違って、なんだか寒いイメージがある」

マリ「あ、分かる分かる」


栞奈「……みんなと一緒なら……絶対に楽しいんだけどな」


報瀬「栞奈……」

日向「……」

マリ「…………」

みこと「……うん」
436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 18:03:32.15 ID:GYsMFmGgo

栞奈「あっ、今の無し! なんだからしくないとこ言っちゃったよ! あははっ」


報瀬「……」

日向「……」

マリ「……」

みこと「……」

栞奈「ごめーん、変な空気にしちゃって」

報瀬「きっと、他の人が乗って来るよ」

日向「うん、そうだな。まだ見ぬ誰かと楽しめればいいじゃん?」

マリ「……」

みこと「……代わりは居ないよ」

マリ「みこっちゃん……」

栞奈「そうなのだ。君たちの代わりは存在しない! なーんて。
   前に観た映画の台詞を言ってみたりして」

報瀬「……」

日向「……」

栞奈「うーん……なんか変だね、私。……ちょっと向こうに行ってくるよ」

スタスタ...


報瀬「無理してるみたい」

日向「頭の中がごちゃごちゃしてるんじゃないかな。
   なにか抱えてるみたいだけど、私たちには何も言ってないからな」

マリ「私たちには?」

日向「相棒には話してたんじゃないか? 想像だけどさ」

マリ「あぁ……うん、そうだね、きっと」

みこと「話、聞く?」

報瀬「ううん、私たちからは聞かないでおこう」

日向「そうだな。今まで話さなかったのは自分の問題だって思ってるからだろう」

マリ「待っていよう」

みこと「……うん」

ガタン

 ゴトン


日向「お、減速したみたい。そろそろ着くかな?」

マリ「リンは半日かけて地元に帰るって言ってたけど……デネブちゃんならあっという間だね」

報瀬「半日もかかるの?」

マリ「みたいだよ〜?」

みこと「糸魚川って海が近くにあるんだよね……?」

報瀬「そうみたいだけど?」

マリ「もしかして、行ってみたいの?」

みこと「……」コクリ

日向「いやいや、無理だって……停車時間30分しかないんだから」


……


437 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 18:04:35.48 ID:GYsMFmGgo

―― 糸魚川駅


プシュー


マリ「ハッ!」

シュタッ


マリ「糸魚川、降臨!」

結月「遊んでる場合じゃないですよ、キマリさん!」


日向「スタァァアアアット!!!」


栞奈「よっしゃああ!!!」ダッ

みこと「……ッ!」ダッ

報瀬「……フッ!」ダッ

タッタッタ


マリ「あぁっ、待って!」


栞奈「報瀬っ、出口はどこ!?」

報瀬「日本海口があるからっ、そこっ!」

結月「あっ、ありました! あっちですよ!」

みこと「……っっ」

タッタッタ


日向「キマリー! ちゃんと付いてきてるか〜!?」


マリ「うん〜! 大丈夫〜!!」


駅員「……?」


報瀬「はいっ、乗車証です!」


駅員「はい、どうぞ」


栞奈「どうも〜!」


結月「失礼します!」


駅員「ん? 車掌服……?」


日向「通りまーす!」


みこと「ふぅっ、ふぅ」


マリ「よし、私で最後だね! レッツゴー!!」


駅員「……デネブの乗客……だよな?」
438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 18:06:24.71 ID:GYsMFmGgo

―― ヒスイロード


タッタッタ


報瀬「こっちであってるんだよね!?」

栞奈「うん! 標識にも日本海ってあったから大丈夫!!」

結月「はぁっ、はぁっ」

栞奈「結月ちゃん、そんな格好で走るなんてダイタ〜ン♪」

結月「いいじゃないですか、着替えてる暇なかったんですから!」

栞奈「悪いなんて言ってないよ、むしろ――」

報瀬「いいからっ、喋ってないで走って!」

タッタッタ


日向「みこと〜、大丈夫か〜!?」


みこと「はふっ、はうっ」

マリ「大丈夫だよみこっちゃんっ、歩いて5分の距離だからね!」


日向「キマリは自分のペース守っててくれ、みことは私が見てるから!」


マリ「イエスマム!」


みこと「ふぅっ、はぁっ」


日向「よしよし、みことも走ることに集中するんだ」


タッタッタ


マリ「日向ちゃん、カメラ持つよ!」

日向「そうだな、任せた!」

マリ「よーし、前を走る3人を追いかけ――……って、速いっ!?」

タッタッタ


―― 日本海


報瀬「ふぅ……意外と……近かった」

栞奈「はぁふぅ……全力で走ったからね」

結月「はぁはぁ……ふぅ……」

報瀬「日本海……」

栞奈「この海に……あの美味しい魚たちが泳いでいるんだ……」

結月「ロマンの欠片もないですね」


マリ「防波堤に立つ3人……絵になるなぁ」ジー

439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 18:07:40.84 ID:GYsMFmGgo

結月「よいしょっ」ピョン

シュタッ


栞奈「あれ、もう見ないの?」


結月「人の目がありますから」


栞奈「旅の恥はかき捨てだよ」


結月「私はそうもいかないんです。どうぞ、捨て続けてください」


報瀬「……」


マリ「よいしょっ……おぉ、これが日本海!」


栞奈「後の二人は?」

マリ「もうすぐ来るよ」

報瀬「ゆっくりもしてられないんだけど……」


結月「あ、来ましたね」


日向「車来ないな、今がチャンスだ、渡るぞみこと!」

みこと「う、うんっ」

タッタッタ


日向「よいしょ、っと」

報瀬「みこと、手」

みこと「う、うん」

報瀬「……」グイッ


日向「日本海、到着!」

マリ「これが海です」ジー

栞奈「いいねぇ、みんなと並んで海を見る。青春だね!」

みこと「日本海……」

報瀬「どう?」

みこと「列車の中から見るのとは違う……」

結月「匂いと風……五感で海を感じているみたい」

栞奈「恥を捨てに来たのかい?」

結月「私だけ下に居るのは嫌でしたから」

栞奈「素直でかわいい〜」

結月「…………時間ですよ?」

マリ「もう!?」

報瀬「それじゃ、行こう。出発に遅れたら洒落にならない」

日向「日本海、出発!」
440 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 18:09:22.86 ID:GYsMFmGgo

―― ヒスイロード


みこと「みんなっ……さきに……行ってていいのに……っ」

報瀬「大丈夫、時間に余裕はあるから」

日向「歩いても間に合うけど、一応走ってるわけだから平気〜」

結月「うん……心配しないでいいから」

タッタッタ


マリ「友情です」


報瀬「なんで撮ってるの?」


マリ「これを撮らずになにを撮るのか、と日向ちゃんが」


栞奈「なんか、あの曲が流れそうな雰囲気だね」

日向「どの曲だよ。キマリ、カメラ交代するから、貸して」

マリ「はいよ」

タッタッタ


結月「時間はまだ余裕ですね」

報瀬「なにがあるか分からないから出来るだけ急ごう」

栞奈「そうだね……。あ、駅が見えてきた」

みこと「はぁっ……はぁっ」

マリ「日本海、見られて良かったね〜」

みこと「うんっ……良かったっ」

日向「感想は後だ。呼吸乱すと走りにくくなるぞ」

タッタッタ

栞奈「大丈夫だって、もうすぐそこなんだから」

マリ「そうだよ、日向ちゃん〜」

タッタッタ

報瀬「……キマリに付いて行って大丈夫なの?」

結月「私も今、ふと疑問に思ったんですよ」

日向「なぁ、キマリ……」

マリ「うん?」

タッタッタ

日向「なんか、違うとこ走ってないか?」

マリ「なんで?」

みこと「はあっ、はぁっ」

日向「行きと帰りの時間感覚がおかしい気がするんだけど?」

マリ「そうかな?」

栞奈「あれ、駅の横回り込んでない?」

マリ「……?」

報瀬「うわっ、駐車場じゃないここ!」

日向「戻れ戻れ!!」
441 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 18:11:11.22 ID:GYsMFmGgo

結月「な、な……!?」

みこと「えっ?」

栞奈「私たち入り口から逆に向かって走ってたんだよ!」

みこと「う、うそ……!」

マリ「…………」

タッタッタ

報瀬「なんで誰も気づかないで左に曲がったんだろう……!」

タッタッタ

結月「キ、キマリさんが自然に先を行くので安心してました……!」

タッタッタ

日向「どれだけロスしたんだ……!?」

タッタッタ

栞奈「うーん……2.3分だけど……」

タッタッタ

報瀬「それなら平気でしょ」

タッタッタ

日向「呑気に言ってくれるな……!」

みこと「はっ、ふっ、はっ」

日向「とにかくペースを崩さず走り続けるんだぞ、みこと……!」

みこと「う、うんっ」

マリ「……」

タッタッタ


―― 糸魚川駅


報瀬「着いた!」

栞奈「階段だ、昇れ昇れ〜!」

結月「うぇ……!」

マリ「……」

報瀬「さっきからキマリが静かなんだけど……」

日向「みことっ、辛いときほど前を向け!」

みこと「は、はいっ」

報瀬「なんか、部活やってるみたい」

栞奈「最後の奴はグラウンド10周追加!!」

マリ「……!」

ダダダダッ

結月「あ、本気出しましたよ……!」

報瀬「キマリにだけは負けないッ!」

ダダダダッ

栞奈「階段踏み外さないように気を付けてよー!?」

日向「ほんと、怪我だけはするなよ〜?」

みこと「ふっ、はっ」

タッタッタ
442 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 18:13:23.44 ID:GYsMFmGgo

―― デネブ


キマリ「ぜぇぜぇ……っ」

報瀬「ふぅ……間に合った……」

結月「はぁ……大変でしたね……」

栞奈「でも楽しかった。誘ってくれてサンキュッ」

キマリ「ぜぇはぁぜぇはぁ」

報瀬「みんなで行った方が楽しいからね、って言ってる」

結月「本当にそう言ってるんですか?」

キマリ「ぜぃぜぇはぁはぁ」コクコク

栞奈「お、みことちゃんと日向も到着だ」


日向「おーし、着いたぞみこと! よく頑張ったな!」

みこと「ぜぇはぁぜぇはぁ」

栞奈「え? ジャンボパフェが食べたいって?」

みこと「ぜぃぜぇはぁはぁ」フルフル

栞奈「じゃあ、行こうか」

結月「首振ってましたよ」


prrrrrrrrrr


報瀬「……結構ギリギリだったのね」

日向「キマリが間違えなければ余裕だったんだけどな……って、本人どこ行った?」

みこと「中に……はぁ……入って行ったよ……ふぅ」

報瀬「逃げ足は速いんだから……」

結月「汗拭かないと風邪ひきますね」

栞奈「冷房効いてるから気を付けてね、みんな」


……


443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 18:14:21.44 ID:GYsMFmGgo


―― 娯楽車


ガタン

 ゴトン


キマリ「ぐぬぬぬ……よしっ!」

バババババーン


キマリ「ボス倒したー! やったー!」


みこと「キマリさん」


キマリ「みこっちゃん? どうしたの?」

みこと「秋槻さん……見なかった?」

キマリ「さっき食堂車で料理長と話してたよ。なんで?」

みこと「見かけないなと思って……用事は無いんだけど」

キマリ「ふぅん……。よぉし、残機はまだ余裕、このステージもクリアしちゃうもんね」

みこと「……」


……



―― 2号車


みこと「報瀬さん」


報瀬「あ、みこと」

みこと「秋槻さん、見た?」

報瀬「さっきまで1号車で栞奈と話してたよ。『どこまで行くのか』って。
   邪魔したら悪いと思って声かけなかったけど」

みこと「……そうなんだ」

報瀬「話でもあった?」

みこと「ううん、そういうわけじゃないよ」

報瀬「ふぅん……」


……


444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 18:17:09.28 ID:GYsMFmGgo

―― 展望車


みこと「……」


結月「みこと……? どうしたの?」


みこと「仕事中?」

結月「ううん、終わったところ。今日はあと、観光地で撮るだけ」

みこと「……そうなんだ」

結月「なにか用事あった?」

みこと「秋槻さん見たかなって」

結月「さっきまでさくらさんと話してたけど……いつの間にか居なくなってた」

みこと「……」

結月「さくらさん、驚いてたような気がするけど……何の話だったんだろうね」

みこと「そうなんだ……」

結月「糸魚川出発してから、山と山の間をゆっくり走ってていいよね」

みこと「こういうところがいいの?」

結月「というか、珍しいのかも。さっき放送で車掌さんが湖の話してたの聞いた?」

みこと「うん。キマリさんと窓から見たよ」

結月「水上スキーって言うの? 楽しんでいる人がいたよね」

みこと「キマリさんがやってみたいって言ってた」

結月「……みことは?」

みこと「……私?」

結月「みことはやってみたいって思わない?」

みこと「うん……」

結月「水上をボートに引っ張られていくの、楽しそうじゃない?」

みこと「結月さんはやってみたいの?」

結月「私は……そうでもないけど……みんなで一緒にやってみたいって思う」

みこと「みんなとなら、私も……」


結月「……」

みこと「……?」


結月「みことは、あの時――
    食堂車でインタビューを受けた時、どんな気持ちで答えていたの?」

みこと「……え?」

結月「秋槻さんとディナーを楽しんでいるとき、私たちが邪魔したでしょ?」

みこと「……」

結月「言ってみて? どんな気持ちだったのか」

みこと「どうして?」

結月「みことは、人と自分の気持ちを重ねることが出来る、いい子だって思う」

みこと「……」

結月「でも、自分の気持ちを出せたら、もっと――……何て言うんだろう……」

みこと「……」
445 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 18:18:52.19 ID:GYsMFmGgo

結月「もっと――世界が広がるんじゃないかって思ったから」

みこと「世界……」

結月「だから、聞かせて?」

みこと「あの時――……あの時は……」


みこと「秋槻さんが、お母さんの本の話をしてくれて……その本の主人公の気持ちを言ったんだと思う」


結月「……」


みこと「私も、その主人公と気持ちが重なったから」


結月「そっか……そうなんだ……」

みこと「うん」

結月「教えてくれてありがとう。それじゃ、私は着替えてくるから」

みこと「……うん」


……




―― 動力車


日向「よぉ、みこと〜」


みこと「……」


日向「どした?」

みこと「車掌さん……」

日向「車掌さんなら中にいるよ。用があるなら後にした方がいいな。
   仕事で忙しいみたいだから」

みこと「……うん」

日向「相談か?」

みこと「ううん。聞きたいことがあっただけ……」

日向「そうか〜。なら私に聞いてみ? 解決できるかは分からんけどな!」

みこと「世界が広がるってどういうこと?」

日向「ん、んん? 意外と哲学的だな?」
446 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 18:20:02.17 ID:GYsMFmGgo

みこと「さっき、結月さんと話してて……自分の気持ちを出せたら世界が広がるよって」

日向「そうか、ゆづが……」

みこと「キマリさんがよく言ってる世界?」

日向「うん、その世界だな。地球規模の話じゃなくて、
   自分の価値観とか視野とか、そういうをひっくるめての、世界」

みこと「……」

日向「あ、でも……地球規模にもなるかな?」

みこと「どうして?」

日向「自分の視野を広げるにはどうすればいいと思う?」

みこと「……沢山の世界を知る?」

日向「具体的には?」

みこと「色んな所へ行ったり、見たり聞いたりして……行動すること」

日向「そうだな、この列車の旅でしてきたことだ」

みこと「うん」

日向「あれ? みことはこの列車の旅でそれを実体験してるから、それは知ってるよな。
   ということは、ゆづの言ってる世界とは違うのか……?」

みこと「……違うの?」

日向「ごめん、分からなくなった……」

みこと「……」

日向「ごめんごめん。どうしてゆづがみことにそんなこと言ったのかよく分かんなくて」

みこと「……うん」

日向「分かることは、ゆづがみことに教えたいことがあるってことだ。うん!」

ポンポン

日向「だから、悩め若人よ!」

みこと「う、うん……」

日向「なーんて。お、建物が増えてきた。松本までもうすぐだな」

みこと「……」


……


447 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 18:22:04.36 ID:GYsMFmGgo

―― 松本駅


プシュー

マリ「よっ」ピョン

シュタッ

マリ「松本、見参!」


日向「見参て、お前……」

報瀬「あ、意外と涼しい……」

結月「昨日からずっと雨降ってたみたいですよ」

みこと「……晴れて良かった」



―― 動力車付近


車掌「確認ヨシ」


「こんにちは、この列車の車掌さんですか?」


車掌「はい、そうです。乗客の方ですか?」


「いえいえ、違うんです。娘がお世話になったのでそのお礼を――って!」


車掌「あ――……! もしかして……!!」


「つばさちゃん!?」


車掌「星奈さん!?」

星奈「うっわー! 久しぶりっていうか、綺麗になって! うっわー!!」

車掌「星奈さんこそ綺麗になって――!」


綾乃「……」


車掌「こ、こほん。どうしました、宮城さん?」

綾乃「りょ、料理長が……今日の献立を……」

車掌「はい、承りました」

綾乃「し、失礼します」

テッテッテ


星奈「ごめんね? なんか威厳を失ったみたいで」

車掌「もう……。星奈さんは相変わらずですね。娘さんにそっくりです」

星奈「あはは、そう? よくできた娘でね〜」

車掌「初めに会った時、びっくりしましたよ。
    あの頃の星奈さんがそのままいるんですから」

星奈「え〜、そんなに似てるかな?」

車掌「似てますよ。とっても」


秋槻「あ、あの、すいません」


車掌「は、はい。何かありましたか?」
448 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 18:26:29.74 ID:GYsMFmGgo

秋槻「挨拶に来ました。短い間でしたが、ありがとうございました」

車掌「はい……。当特急ヴェガへのご乗車誠にありがとうございました」

秋槻「とても楽しく旅が出来て良かったです。
   時間が流れていることを思い出せました」

車掌「そう言っていただけると嬉しい限りです」


さくら「さよならは言わないわよ」グスン


秋槻「あはは……。さくらさんも、お元気で」


星奈「…………」


……




―― 1号車付近


栞奈「どこが涼しいのさ?」

報瀬「糸魚川よりは涼しいでしょ」

栞奈「比べたらそれは、ねぇ……じめじめしてない?」

結月「不快感はないですけどね」

日向「こんなところで文句言ってても時間が過ぎるだけだぞキマリ〜?」

マリ「ちょっと待って、お兄さんがどこ行くか聞かないと」

みこと「うん」

日向「そうだな、夕ご飯をたかろう」

結月「よくないですよ、それ」

栞奈「時計の針を遅くする方法があるんだな〜」

日向「なんだそれ、有意義に過ごすって方法ってこと?」

マリ「教えて!」

栞奈「電池の力を使い切ればいい」

報瀬「哲学的なこと言うのかと思ったけど当たり前のことだった」

みこと「時計が遅れてるだけだよ?」

マリ「時間は遅くなってないよね?」

栞奈「そうだね」

日向「いつの間にか話が噛み合ってるな……」

結月「何の話ですか?」

日向「キマリとみことは最初話が全然噛み合わなかったんだよ」


秋槻「まだ観光に行ってなかったんだ、良かった」


みこと「……?」

キマリ「その荷物は……?」


秋槻「ここで降りるんだ」


マリ「ええぇえぇええ!?」

結月「キマリさん、声が大きいです」
449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 21:57:50.94 ID:GYsMFmGgo

報瀬「……どうしていきなり?」

秋槻「本当はもっと早く降りなきゃいけなかったんだけど、
   やりたいことやり終えたから、やるべきことやらないとね」

栞奈「やるべきこと……」

みこと「…………」

秋槻「これから急いで東京へ向かわないといけないんだ。
    時間が無いから慌ただしくて悪いけど、これでね」

キマリ「そうですか……残念だけど、しょうがないですね」スッ

秋槻「君たちのおかげで貴重な体験が出来たよ。ありがとう」スッ

ギュッ

結月「いろいろとご迷惑をお掛けしました」スッ

秋槻「迷惑じゃないよ。君たちと同じ歳の自分と比べることができて面白かったから」スッ

ギュッ

報瀬「こっちも秋槻さんのおかげで色々と楽しく旅ができました。ありがとうございました」

秋槻「……そう言ってくれると嬉しいよ」

日向「最初からずっとお世話になりっぱなしで、すいませんというか、ありがとうございました」

秋槻「繰り返すようだけど、君たちのおかげだから。ありがとう」

栞奈「いい作品は創れそうですか?」

秋槻「多分、今までの中で一番の出来になるかな。手ごたえはあるよ」

栞奈「ずっと個室に籠ってましたからね〜」

秋槻「豪華列車に乗って、観光地でも閉じこもっていた甲斐があったよ」

マリ「それじゃ期待しています!」

日向「作品になったら必ず感想を送ります!」

秋槻「そうだね……クレジットで名前が残るように頑張るよ!」

結月「あまり気を負いすぎないでください。期待値が大きすぎる気が……」

秋槻「まぁそれも今は励みになるから」


みこと「…………」


秋槻「そうだ、君には、これを譲るよ」スッ


みこと「え――……いいの……?」


秋槻「君たちがまた、逢えるようにね」


みこと「――……!」

マリ「あ――……鵲……」


栞奈「天の川の橋となった鳥だよね」

日向「おー、あの記念バッヂ」


みこと「――……」

450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 21:59:16.18 ID:GYsMFmGgo

秋槻「それじゃ行くよ。東京行きの列車がすぐ出発するから」

報瀬「はい、それでは、お元気で」

秋槻「うん、みんなも元気でね。それじゃ、さようなら――」


みこと「秋槻さん」


秋槻「……?」


みこと「好きです」


秋槻「え……?」


マリ「――!」

日向「――!?」

報瀬「え――!!」

結月「…………」

栞奈「おぅ……」


みこと「秋槻悟さん、あなたのことが、好きです」


秋槻「――……」


みこと「ぁ……ぅ……す…すき……です」


秋槻「――ありがとう」


みこと「……っっ」


秋槻「そう言ってくれて嬉しいよ」


みこと「ぁ……ぃぇ……ッッ」


秋槻「でも、ごめん――」


みこと「……ッ!」


秋槻「君は、可愛い姪っ子にしか見えないんだ」


みこと「……ぁぅ……は……ぃ」


秋槻「ありがとう。それじゃ、みんな、いい旅を――」


スタスタ...


みこと「……ぅ……ぅ……」


結月「……みこと…」


マリ「ど、どうしよう……」

日向「わ、分かんないって」

報瀬「わ、私たちが動揺してどうするのっ」

栞奈「すごいな……みことちゃん……」
451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:00:06.56 ID:GYsMFmGgo


結月「今のは、小説の内容と気持ちが重なったから出た言葉?」


みこと「……ううん。『さようなら』って言われたら終わると思ったから」


結月「紛れもない、自分の気持ちなんだよね」


みこと「うん」


結月「偉いね、みこと」スッ


みこと「ゆ…ゆづきさん……?」


ぎゅううう


結月「とても素敵だよ、みこと」


みこと「……うん……出会えてよかったよ…」


ぎゅううう



マリ「うぅぅ……」ボロボロ

日向「なんでキマリが泣くんだよぉ」グスッ

マリ「だって、だってぇ」ボロボロ

報瀬「ひぐっ、おぐっ」ボロボロ

栞奈「…………どうして、告白できたの?」


みこと「このまま別れたら……この気持ちも一緒に消えちゃうと思ったから……」


栞奈「うわぁぁあああん、みことぉぉぉ」ガバッ


みこと「ひゃぁっ!」


マリ「みこっちゃぁぁあんん」ガバッ

日向「みことぉぉぉおおお!」ガバッ

報瀬「みごどぉぉぉおぉお!」ガバッ


みこと「むぎゅうう」

結月「うっ、く、苦しい……なんで私まで……!」


栞奈「みことちゃんっ! 幸せになるんだよぉぉおお!?」

みこと「う、うん……?」



星奈「…………いい旅を、してるんだね」


452 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:01:29.02 ID:GYsMFmGgo

結月「か、観光に行きましょう……!」

マリ「そうだね! 上高地!」

日向「この時間から行けるか! 遠いわ!!」

報瀬「松本城!」

栞奈「言うと思ったけどね」

みこと「うん、みんなで、行こう……!」


星奈「ちょっといい?」


栞奈「え――……?」

マリ「ん?」

日向「誰?」

結月「誰ですか?」

報瀬「さぁ……?」

みこと「……似ている?」

栞奈「か、母さん!?」


マリ「えっ!?」

日向「か、栞奈のお母さん!?」

報瀬「に、似てる!」

結月「あぁ、本当ですね……似ています」


栞奈「どうしてここに居るの!?」

星奈「選択を聞きに来たのだよ」

栞奈「選択って――……!?」

星奈「大事な娘の将来に関わることだからね」

栞奈「――ッ!!」


日向「将来……?」


星奈「どうするの?」

栞奈「な、なにが……?」

星奈「デネブに乗り続けるのか、試験を受けるために帰るのか」

栞奈「……ッ」

星奈「帰るのなら、早く支度してちょうだい。飛行機の時間が迫っているから」

栞奈「乗り続けるよ」

星奈「それでいいんだね?」

栞奈「……うん」

星奈「後悔しないね?」

栞奈「……しない」

星奈「……」

栞奈「だから、一人で帰ってよ」
453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:03:04.68 ID:GYsMFmGgo

星奈「自分で決めたことなら、お母さん、何も言わない」

栞奈「……決めたよ、私が」

星奈「だけど、一つだけ言わせて」

栞奈「……」

星奈「お父さんの後を追うのを止めなさい」

栞奈「は……!?」

星奈「お父さんが今、どうして広島に居るのか、分かっているでしょ?」

栞奈「わ、分かってるよ……!」

星奈「家族と離れて一人でも頑張れるのは覚悟があるからよ」

栞奈「わ、私に覚悟が無いって言いたいの……!?」


結月「か、栞奈さん……」

報瀬「あんなに余裕のない栞奈見るの初めて……」

日向「うん……」

マリ「…………」

みこと「……」


星奈「無いでしょ」

栞奈「はぁ……!? なんで言い切れるわけ!?」

星奈「デネブは逃げるための道具じゃないのよ」

栞奈「――ッ!!」


みこと「そ、そんな言い方あんまりです……!」

マリ「み、みこっちゃん、ダメ……!」


星奈「悪いけど、家族のことに口出ししないでね」

栞奈「友達にそんな言い方しないでよ!」

星奈「言わせてるのはあなたでしょ」

栞奈「なんでそんな嫌な言い方するわけ!?」

星奈「お父さんもね、あなたと同じ歳に悩んでたの」

栞奈「……っっ」

星奈「『親が敷いたレールの上を歩くのは嫌だ』って」


星奈「それでも自分で決めたの。だから、今ままでも、今でも頑張れているの」


星奈「あなたに、その覚悟は無い」

栞奈「だからッ! なんで言い切れるわけ!?」

星奈「流されているだけだからよ」

栞奈「――ッ」

星奈「このまま乗り続けて、お父さんと同じ道を進んで、挫けそうになった時」


星奈「栞奈、あなたはこの旅を言い訳にしないでそれでも進んでいける?」


星奈「あの時、こうしていたら、ああしていれば、なんて言わずに――」

栞奈「もう、いい……分かったから」

星奈「……」
454 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:04:35.75 ID:GYsMFmGgo

栞奈「父さん、可哀想だった……っ」グスッ

星奈「……うん」

栞奈「あんなに、たくさんの人を救ったのに……それなのに……っ」

星奈「うん」

栞奈「父さんのせいにされてっ……辛い思いさせられてっ」グスッ

星奈「お父さん、どうだった?」

栞奈「頑張ってた……ッ」

星奈「凄いでしょ? 私が好きになった人なんだから」

栞奈「いいよ、そういうの恥ずかしい……。
    ちょっと待ってて荷物取って来る」ゴシゴシ

タッタッタ


星奈「……ふぅ」


車掌「いい子、ですね……栞奈さんは」

星奈「当然よ〜。なんてったって、私たちの子供だからね〜」

車掌「デネブに乗せたのは、迷っていたからでしょうか」

星奈「ううん。ただ、純粋に今の時間を楽しんで欲しいってだけ。
    あの子、思春期の真っただ中なのに、年相応の振舞いしてこなかったから」

車掌「……少なくとも、この旅の中では年相応の子でしたよ」

星奈「楽しかったんだろうね。だから、このまま楽しい気持ちでいたいって思ったはず」

車掌「……」

星奈「だけど、それで大事な場面を何度も流されて選んで来てたから」

車掌「そうですか……」


星奈「あなた達もごめんね、変なところ見せちゃって」


日向「い、いえ……」

報瀬「……」

マリ「……」

結月「……」

みこと「……」


栞奈「……」


星奈「……時間が無いから急いで」


栞奈「分かってるってば……!」


マリ「……」

栞奈「私、ここで降りるから……」

報瀬「……うん」
455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:05:44.57 ID:GYsMFmGgo

栞奈「みんなは、楽しく旅を続けて……って、もう次で最後だっけ」

日向「まぁ……うん」

栞奈「ありがとね、色々と。こんな最後になっちゃったけど……」

みこと「……栞奈……さん」

マリ「……」

栞奈「それじゃ――……バイバイ!」


マリ「栞奈ちゃん!」


栞奈「……?」


マリ「まだ、旅は終わらないよ!」


栞奈「……!」


マリ「バイバイ、だね」

日向「じゃぁな、栞奈!」

報瀬「元気でね! 今までありがとう!」

結月「あ……ぅ……!」

みこと「ば、バイバイ……!」


栞奈「うん、ありがとう、みんな!」

タッタッタ


星奈「……」ペコリ


マリ「……」

日向「……」

報瀬「……」

結月「…………」

みこと「……」
456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:06:23.13 ID:GYsMFmGgo


マリ「行ってしまったね……」

日向「栞奈も降りてしまったか……」

報瀬「栞奈は、とても悩んでいたと思う。
    降りる準備はしていたけど、それでも乗り続けていたいって」

結月「……」

みこと「うん……」

マリ「観光、行こうか」

日向「だな。最後の観光だから思いっきり楽しみたいけど……金が無いからな!」

報瀬「お金のかからない場所ってどこ?」

みこと「松本城……だけ?」

日向「だけなのかよ」

結月「あぁ……あ……」

マリ「どうしたの、結月ちゃん」

結月「い、いえ……後で話します」

マリ「……?」



……


457 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:08:52.51 ID:GYsMFmGgo

―― 夜・展望車


日向「本当に夕飯、これでいいのか?」

みこと「うん」

結月「か、カップ麺……」

報瀬「売店の店員さんに変な顔されたんだけど」

マリ「食堂車でお湯入れてもらって、そのまま来たからね」

日向「シュールだな、豪華列車でカップ麺もって歩く女子高生とか」

みこと「あ……」

結月「どうしたの?」

みこと「お箸がない……」

報瀬「私が持ってるから大丈夫」

マリ「あ……」

日向「今度はどうした?」

マリ「おにぎり買えばよかったね……!?」

報瀬「今からでも買ってくる?」

みこと「お湯入れちゃったから、戻ってきたときはもうのびてる」

マリ「ああぁぁあ! おにぎりぃぃい!!」

結月「そんなに悲観しないでください!」

日向「はい、それじゃー、いただきまーす」

報瀬結月みこと「「「 いただきます 」」」

マリ「いただき……おにぎり……ます」

日向「ずるずるっ、ん、んまい!」

報瀬「ずるずる」

結月「ちゅるちゅる」

みこと「ずる……ずる……」

マリ「ずずーっ! うんまい!」


綾乃「あ、もう食べてる」


日向「もぐもぐ?」


綾乃「おにぎりの差し入れ〜」


マリ「神だ!」

日向「本当だ! 神様がいる!!」


綾乃「え」


報瀬「大丈夫。おにぎり持ってきてくれて嬉しくてしょうがないだけだから」

綾乃「そ、そうですか」

みこと「いいの?」

綾乃「料理長が持っていけって」

結月「さすがに、カップ麺は同情されますよね……」
458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:10:56.97 ID:GYsMFmGgo

マリ「ありがとう、綾乃ちゃん!」

綾乃「いえいえ。あ、でもちょっとした余興がありまして〜」

報瀬「余興?」

綾乃「そのうちの一個のおにぎりには爆弾が仕掛けてあります」

マリ「……なんだって!?」

日向「ま、マジかー……」

報瀬「爆弾って?」

綾乃「それは食べてからのお楽しみってことで。お皿は持ってきてくださいね」

スタスタ...

結月「…………」

みこと「どうするの?」

日向「いや、食べるよ。報瀬、先に取ってくれ」

報瀬「ど、どうして」

日向「引きそうだからだよ。その後に私ら取るから」

報瀬「何言ってるのよ、そんなわけないでしょ」スッ


マリ結月みこと「「「 引きそう…… 」」」


日向「あ、まだ食べるなよ? みんなで一緒にな。私はこれー」

マリ「じゃ、これー」

結月「これ」

みこと「……」

報瀬「みんな持ったよね、それじゃ」


「「「「「 いただきます 」」」」」


日向「ん、昆布だ!」

結月「私はツナマヨですね。美味しいですぅ」

みこと「……梅干しだった」

マリ「うん〜、なんだろ?」


報瀬「んーーーー!?」ガタッ


日向「やっぱり引いたか?」

マリ「あ、ダメだよ報瀬ちゃん!
   料理長が食べ物で遊ぶはずないから、ちゃんと食べられるよ!」

報瀬「んー! んー……」モグモグ

結月「何をしようとしてたんですか」

報瀬「もぐもぐ……ごくん。口から出して、問題なければもう一度食べようと思って」

結月「な……!?」

日向「おい、美少女……」


みこと「キマリさんは?」

マリ「プリンかな?」
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:12:02.98 ID:GYsMFmGgo


日向「おまえ、私たち以外でそういうことするなよ、絶対に」

報瀬「なんで?」

日向「残念過ぎるからだよ!」

報瀬「するわけないでしょ」


結月「プリンって……食べ物で遊ばないんじゃなかったんですか?」

マリ「遊んでないよ?」

結月「いえ、おにぎりにプリンってどう考えても……」

みこと「食べてみていい?」

マリ「うん、いいよ」

みこと「もぐもぐ……ウニじゃない?」

マリ「そうなの? プリンに醤油掛けたらウニになるってことじゃないの?」

みこと「?」

マリ「?」

日向「やっぱり噛み合ってないわ、この二人」

結月「報瀬さんのは結局なんだったんですか?」

報瀬「生臭いような気がした。あと、歯ごたえがあった、だからびっくりした」

日向「それだけじゃわからないんだけど。もう全部食ったのか?」

マリ「みたいだね。具はもうないよ」

みこと「一口で食べきれるもの?」

結月「なんだろ……?」

報瀬「分からない……」

日向「キマリが大当たりってことか」


……


460 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:14:30.86 ID:GYsMFmGgo

―― 展望車



マリ「片付け終わったよー」


日向「おー、ありがとー」


マリ「みんな歯磨き終わったの?」

報瀬「うん」

結月「明日の打ち合わせも終わりました」

日向「後は寝るだけだな」


マリ「じゃ、磨いて来よう、みこっちゃん」

みこと「うん」


マリ「また後でねー」

スタスタ...


報瀬「後で、ね……」

日向「またここに来る気だな」

結月「他にすることありませんからね……」

報瀬「……うん」

日向「ふぁ〜……」バタリ

報瀬「座席で横になったら行儀悪いでしょ」

日向「他に来る人いないだろ、この時間なら」

報瀬「そうだけど……」

結月「……明日で、終わりですね」

日向「そうだな……」


報瀬「ありがとう、結月」


結月「え?」

報瀬「この列車の旅に誘ってくれたから」

結月「あ――……」

日向「ありがとな、ゆづ〜」

結月「いえ……私こそ、ありがとうございます」

報瀬「……?」

結月「みなさんと、こうやって遊ぶことってもうないかもって思っているんです」

日向「遊ぶならいつでもできるだろ〜?」

結月「これから、大学に進学とかするじゃないですか。
   だから、時間を作るのって難しいと思ったんですよね」

報瀬「まぁ、確かに……」

日向「……だから、この列車に乗ろうって思った?」

結月「はい。みなさんと一緒に乗りたいって」
461 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:15:32.07 ID:GYsMFmGgo

報瀬「そういえば、列車に乗る動機って、飯山みらいさんじゃなかった?」

結月「そうですよ」

日向「寂しい顔してたんだっけ? その理由が知りたいって」

結月「はい……」

報瀬「分かった?」

結月「今はまだ。多分、時間を置いたら分かるようになる気がします」

日向「そっか……」

報瀬「……」

結月「キマリさんと、あの時約束しましたけど……」

日向「約束?」

結月「みんなでまた来ようて約束したじゃないですか」

報瀬「南極ね」

結月「そうです。私は、難しいかなって思ったりするんですよね」

日向「……そんなことないだろ」

結月「そう思います? 難しくないですか?」

報瀬「どうしてそう思うの?」

結月「私だけ、みなさんと違うから……」

日向「女優だからか」

結月「……そうです。特殊というかなんというか」

報瀬「……」


「そんなことないよ!」


結月「うわぁ!」

報瀬「びっくりした……!」

日向「なんだよキマリ!」


マリ「約束したんだから、行けるよ、絶対!」


結月「聞いてたんですか……」


みこと「……女優…」


日向「どうした、みこと?」


みこと「ううん」


報瀬「というか、もう歯磨き終わったの?」

マリ「まだ。それより、車掌さんと話して、いいこと思いついたんだ。ね、みこっちゃん?」

みこと「うん」

日向「いいこと〜?」

結月「なんです?」

みこと「みんなでここで寝ようって」


……


462 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:16:42.16 ID:GYsMFmGgo

マリ「なんで私だけ下なの〜?」


結月「どうせ落ちるじゃないですか」


マリ「え〜〜?」


日向「まさか座席で寝るなんてな」

報瀬「カーテン降ろすけど、いい?」

みこと「うん」

日向「施錠はちゃんとしたな?」

結月「はい、車掌さんがしっかりと」


マリ「トイレはそこから行けるよ」


日向「報瀬、全部の窓のカーテン降ろしてくれ」

報瀬「他人にやらせてないで自分もやって」

日向「はい」

みこと「こっち、降ろすよ?」


マリ「うん、お願い」


結月「キマリさんも手伝ってください」


マリ「遠い……!」


結月「そこで寝転がってると、踏まれますよ」


マリ「分かったよぉ……」モゾモゾ


日向「よし、全部降ろしたな」

みこと「うん」


マリ「終わっちゃったよ……」モゾモゾ


報瀬「ふぅ……」

日向「……電気は誰が消すんだ?」

結月「車掌さんですかね」


マリ「入口の所にスイッチがあるよ」


報瀬「キマリ」

日向「キマリ」

結月「キマリさん」

みこと「……」


マリ「んもぉーーー!!」ガバッ

463 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:18:21.60 ID:GYsMFmGgo

報瀬「いつでも消していいよ」

日向「いいぞー」

結月「……」

みこと「……」


マリ「はい、消灯」


パチッ


日向「……明日どうする?」

報瀬「今日はほとんど松本城に居たから……それ以外?」

日向「ゆづの撮影があったからなぁ……」

結月「行きたいところに行っていいって、言ったじゃないですか」

報瀬「といっても、そんな気分じゃなかったから」

日向「そうだな……」

結月「……そうですね」

みこと「……」


マリ「……」


結月「昨日のこの時間、この場所は……たくさん人が居たんですよね」


マリ「何人いたっけ?」


日向「11……12人か」

報瀬「そんなに居たんだ……」

みこと「…………なんだか」

結月「……?」

みこと「なんだか……ウソみたい」


マリ「どうして?」


みこと「今が、静かすぎて……。色々ありすぎて、気持ちが追い付かなくて」


マリ「……」


みこと「そのまま、気持ちも置いてきてしまったみたいで……」


みこと「昨日のあの時間は……ウソだったみたいに感じる……」


マリ「嘘なんかじゃない。本当にあったんだよ」


みこと「……うん」


日向「しょがない、アレを見せるか」

報瀬「アレって?」

結月「撮影してましたね」

日向「そういうこと〜」

みこと「……」
464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:22:47.44 ID:GYsMFmGgo

マリ「見たい見たい」


日向「だったら、こっち来て」


マリ「はいよ」


日向「みことも、こっち」

みこと「……うん」

日向「じゃあ、まずは〜」

報瀬「スマホ?」

日向「デネブの出発前に撮った写真があるんだよ。ほら、見てみ」

結月「あ……キマリさん、ですね」

マリ「いつの間に撮ったの?」

日向「だから、出発前だよ。夢の崎だぞ、ここ」

みこと「…………」

マリ「この時はまだ、みこっちゃんが乗ってるなんて知らなかったんだよね」

日向「そうそう。後で教えてもらったんだよな」

みこと「誰に……?」

マリ「あ、写ってる!」

日向「ん?」

マリ「ほら、写真撮ってる人いるでしょ、この人だよ!」

みこと「あ……」

結月「……何をしてるんですか?」

マリ「デネブちゃんを撮ってたんだって」

報瀬「ふーん……」

日向「報瀬の興味が薄いから次行くぞー」

みこと「……」

マリ「次は、福岡だよね」

日向「そうそう、観光地でもプリンシェイク飲むキマリ」

報瀬「わざわざこんなところにまで来て……」

マリ「日向ちゃんとおんなじこと言ってる……!」

結月「大体の人はそう言うと思います」

みこと「…………」

日向「な、みこと、ちゃんとあっただろ?」

報瀬「うん、嘘じゃない」

結月「誰かが描いた本の中の物語なんかじゃない、みことが居た世界だから」

みこと「……うん」

マリ「次は次は?」

日向「慌てるな、まだまだ時間はあるからな」

報瀬「朝まで見る気?」

結月「ここに辿り着くまで見ましょう」

報瀬「まぁ、いいけど」
465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:23:53.31 ID:GYsMFmGgo

マリ「私も写真撮ったりしたんだよ。ちょっと取って来る」

日向「それは出来ないだろ。施錠してるんだから」

マリ「あ、そっか」

みこと「……」

マリ「眠たい?」

みこと「ううん、まだ眠くない」

日向「じゃ、眠くなるまで見てよう」

みこと「……うん」

報瀬「これは……ラーメン?」

マリ「ちゃんぽんだよ」

結月「屋台みたいですね……」

みこと「美味しかった……」

日向「な、美味しかったよな〜」

報瀬「止めて、こんな時間に美味しそうな画像見せないでっ」

結月「そうですよ、次です次……!」

マリ「おぉ〜、ジャンボパフェ!」

報瀬「日向ぁ……!」

日向「なんでだよ! わざとじゃないだろ!?」

みこと「ふふっ」



……





結月「これは、遊園地ですか?」

マリ「そうそう名古屋の遊園地」

報瀬「あぁ、水族館行かないでこっちに行ったんだっけ」

日向「スリルがあって楽しかったな」

マリ「ね〜」

みこと「この時、名古屋駅でアイドルがミニライブやってたよね」

結月「……」

報瀬「はい、次次〜」

日向「なんで焦ってるんだよ、報瀬?」


……



466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:24:42.39 ID:GYsMFmGgo

マリ「おぉ、みんなで撮った写真」

日向「さくらちゃんに貰ったんだよ」

報瀬「あとで、ちょうだい」

マリ「私も、ね」

日向「分かったよ……って」

みこと「すぅ……すぅ……」

結月「寝ちゃいましたね」

日向「私らも寝るか……」

報瀬「……うん」

マリ「ウソじゃないからね。ちゃんと、今も……みんないるからね」

みこと「……すぅ……すぅ」

報瀬「おやすみ」

結月「おやすみなさい」

日向「おやすみ〜……」

マリ「……」


マリ「…………」



……


467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:25:41.16 ID:GYsMFmGgo

―― 8月10日



「キマリ〜」


マリ「ん……ん……?」


「起きろ〜、キマリ〜」


マリ「うぇ……?」


日向「はい、おはよう」


マリ「おは…………ん?」


報瀬「目、覚めた?」

みこと「……ぅ…ん」

報瀬「結月は着替えに行ったからみことも、急いで」

みこと「どこ……行くの?」

報瀬「ジョギングしよう、最後に」

みこと「うん……」


マリ「あれ、なんで私だけ離れて寝てるの?」

日向「寝相が悪いからだ。何度も言ってるだろ」



……


468 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:26:29.43 ID:GYsMFmGgo

―― 浅間温泉


日向「ふぃ〜……」

報瀬「温泉に変更したのはいい判断だったね」

マリ「うん、ナイスだよ日向ちゃん!」

日向「看板が目に入って良かったよ。温泉なんて無意識に除外してたからな」

みこと「ふぅ……」

結月「結局、ジョギングは無しになりましたけどいいんですか?」

マリ「駅まで走る?」

日向「どれだけ距離があると思ってるんだよ……」

報瀬「温泉出て走りたくない」

マリ「確かに」

みこと「……繩手通ってところ行ってみたい」

日向「どういうとこ?」

みこと「タイムスリップした気分になれるって」

結月「場所は?」

みこと「バスで行ける……?」

報瀬「調べてみて行けそうだったら行こう」

日向「そうだな。他に、行くところも無いし」

マリ「上高地は?」

結月「絶対に無理です」


……


469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:27:33.42 ID:GYsMFmGgo

―― 繩手通り


マリ「おぉ〜、おぉぉ〜〜」

日向「なるほど、タイムスリップした気分ってこういことか」

報瀬「レトロな雰囲気……」

結月「なんだか、たい焼きを推してるみたいですけど、名物なんですかね」

マリ「よし、じゃあ買おう」

みこと「たこ焼きもあるよ。あと、カエルも」

日向報瀬結月「「「 カエル!? 」」」

みこと「うん、ほら」

日向「なんだよ! 置きものじゃないか!」

みこと「うん……?」

報瀬「びっくりした……食べ物の話してたんだから」

マリ「でも、食用ガエルってあるよね」

結月「今はその情報いりませんから……!」

日向「もんじゃ焼きもあるな! よし食べよう!」

みこと「パワーストーンもある」

マリ「それは食べられないね」

報瀬「日向、昼ごはんはここで済ませるの?」

日向「そうしようと思って」

報瀬「ふーん……私もそうしようかな……?」

結月「いいですけど、時間を忘れないでくださいね」

マリ「せんべいがあるよ。あ、カエルがここにもある!」

みこと「カエル推しなんだ……ここ……」

報瀬「カエルはもういいから……」


……


470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:28:36.98 ID:GYsMFmGgo

―― デネブ



ダダダダッ


「なんで最後まで走ってるんだよ〜!!」

「ふぇぇ〜〜!」

「うぅっ、食べた後の全力は……厳しいっ……」

「待ってください! みことが付いてきていないです!」


「「 えぇ〜〜!? 」」


車掌「あら……?」


「「 みことー! 頑張れ〜〜! 」」

「みこっちゃ〜ん!!」

「あ……!」


車掌「……」


「よし、あとちょっとだ……!」

「ファイト、みこと……!」

「う、うん……!」

「慌てずゆっくり急いで!」

「無茶言わないでください!」

ダダダダッ


車掌「……」


日向「よぉし、ここまで来ればセーフだな」

報瀬「タクシーが捕まらなかったのは不運――」


prrrrrrrr


マリ結月みこと「「「 あ……! 」」」

日向「急げ――」

報瀬「待って、車掌さん居るから、落ち着いて!」

マリ「う、うん」

結月「冷静に、ですね」

みこと「……」


車掌「はい、それでは出発します」


日向「お願いしま〜す」

報瀬「……はぁ、最後まで全力で走らなきゃいけないなんて」


……


471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:29:18.41 ID:GYsMFmGgo

―― 寝台車


ガタン

 ゴトン


マリ「個室に戻るの?」

日向「あぁ、荷物をまとめないとな」

報瀬「といっても、忘れ物が無いか確認するだけだけど」

マリ「そっか……」

みこと「……」

日向「それで、結局キマリはどうするんだ?」

マリ「うん……」

報瀬「……どうするか、決まってそうね」

マリ「……うん」

みこと「どうするの?」

マリ「それはぁ、えっとぉ」

報瀬「……それじゃ、後でね」

ガチャ

日向「後でな〜」

バタン

みこと「……」

マリ「あはは……展望車にでも行こうか」

みこと「……うん」


……


472 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:30:14.94 ID:GYsMFmGgo

―― 動力車


車掌「あら、どうされました?」

日向「挨拶に来ました。次の高崎で降りるので」

車掌「そうですか……」

日向「楽しく旅が出来ました。
   それも車掌さんのおかげです、ありがとうございました!」

車掌「いえ、私はなにも……」

日向「いつも見守ってくれたので、私たちも安心してここまで来ることができました」

車掌「……!」

日向「なので、ありがとうございました」

車掌「当特急デネブへのご乗車誠にありがとうございました」


……




―― 食堂車


綾乃「いらっしゃいませ〜。あ、報瀬さん」

報瀬「こんにちは」

綾乃「お食事ですか?」

報瀬「ううん、最後のあいさつに」

綾乃「……え?」

報瀬「私、次で降りるから」

綾乃「あ……そうなんだ……」

報瀬「いつも、美味しい料理をありがとうございました」

料理長「うん、長旅お疲れさま」

明菜「ご利用ありがとうございました」

報瀬「はい。それでは、みなさん、お元気で」

綾乃「ありがとうございました」

報瀬「それじゃあ、ね」

綾乃「うん、バイバイ」


……


473 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:31:27.75 ID:GYsMFmGgo

―― 売店車


店員「東京のガイドブックはいかがですか?」

日向「私は、必要ないんですよ〜。次で降りるので」

店員「そうなんですか……」

日向「そういえば、20周年記念バッチって幾つ用意してあったんですか?」

店員「20個ですよ。発車してすぐに売り切れてしまいました」

日向「そんなに早く……買っておいてよかったぁ」

店員「記念になればと思います」

日向「もちろん、記念になりましたけど……ご利益あればいいなって」

店員「再会したい人が居るんですか?」

日向「私じゃないですけど、再会させたいと思う人がいるんですよね」

店員「そうですか。それなら、懸け橋になってくれたら嬉しいです」

日向「ですね〜」


……




―― 4号車


さくら「あら、報瀬ちゃんじゃない」

報瀬「さくらさん……いま、撮影ですか?」

さくら「今は段取りを確認しているところよ。どうかしたの?」

報瀬「お別れのあいさつに」

さくら「あら……そうなの。降りちゃうのね」

報瀬「結月のこと、よろしくお願いします」ペコリ

さくら「もちろんよ。任せてちょうだい」

報瀬「東京まで、じゃなくて……これから先もです」

さくら「あらまぁ、安請け合いしちゃったかしら」

報瀬「ふふ、さくらさんが居てくれたら私たちも安心できますから」

さくら「えぇ、任せて。悪い虫なんて追い払っちゃうんだから」

報瀬「お願いします」


……


474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:33:11.37 ID:GYsMFmGgo

―― 2号車



日向「そっちは挨拶終わった?」

報瀬「うん。それじゃ、私は向こうね」

日向「一緒に挨拶行けばよかったな。別々だとちょいと迷惑かも」

報瀬「それは思った」

日向「はは……それじゃ、後で」

報瀬「また後で。キマリたちは娯楽車で遊んでるよ」

日向「こんな時でも遊んでるのかよ……」


……




―― 娯楽車


店員「遊んで行かれますか?」

日向「いえ、挨拶に来ました。今までお世話になりました。キマリ共々」

店員「よく来ていただいて、楽しそうに遊んでもらいました」


マリ「よっ……ぬぬぬ……!」

 ドドドーン

ちゅどーん


みこと「……」



日向「……おーい、キマリ〜」


マリ「ふんのっ……あぶなっ……よし!」

みこと「少しでクリア……するって」


日向「もう着くんだけど。まぁいいや、着いたら降りてるからな〜」

スタスタ...


みこと「…………もう……着いちゃう……」
475 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:33:59.10 ID:GYsMFmGgo


マリ「ぬおぉぉお!! 行け行け!!」

ちゅどーん

 ちゅどーん どどーん


マリ「やった! 記録更新だ!!」

   
店員「おめでとうございます。クリアできましたね」


マリ「ありがとうございます! ね、見てたみこっちゃん? あれ?」


店員「展望車の方へ」


マリ「…………」


ガタン


 ゴトン



マリ「あ……着いちゃった……」



……



476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:35:07.25 ID:GYsMFmGgo

―― 高崎駅


プシュー


日向「よっ」ピョン

シュタッ

日向「着いたー!!」

報瀬「見慣れた場所に着いた……」

日向「んーー! 達成感あるなー!」ノビノビ

報瀬「日向は真っ直ぐ帰るんでしょ?」

日向「うん、そのつもりだけど……なにかあるのか?」

報瀬「聞いただけ」

日向「なんだよそれー……って、誰も降りてこないな」

報瀬「……うん」

日向「見送りくらい来いよな……まったくもー」

報瀬「あっちに居るの、結月じゃない?」

日向「ん?」


結月「……」


報瀬「行ってみよう」

日向「うん」

タッタッタ


結月「報瀬さん……日向さん……」

報瀬「どうしたの?」

日向「どした?」

結月「みことが……」


報瀬日向「「 ? 」」

477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:37:37.46 ID:GYsMFmGgo

―― 展望車


マリ「みこっちゃん……」

みこと「……っ」


報瀬「何があったの?」

マリ「あ、報瀬ちゃん……それが……」

日向「……?」


みこと「…………っ」


報瀬「みこと……?」

みこと「さびしくなって……っ」

日向「……」

みこと「別れることがこんなに寂しいって知らなかったから……いやだ」


マリ「……」

結月「……」


みこと「みんなと別れるの……いや……っ」

報瀬「……うん」

みこと「一緒に最後まで行きたい……」

報瀬「……」

みこと「そうすれば、受け入れられるから……っ」

報瀬「ううん、それは出来ない」

みこと「……っ」

報瀬「私たち、ここにいる5人はそれぞれの道があるから」

みこと「……そうだけど…」

報瀬「今、偶然的に一緒に居るだけで、いつかは別々の道に進むことは決まっていた」

みこと「そうだけど……っ」

報瀬「みこと――」

みこと「……」

報瀬「ここに居たら、時間は私たちを置いてどんどん進んで行くよ」

みこと「……」

報瀬「立ち止まっていても、誰も追いかけて来ない」

みこと「……」

報瀬「私たちも進むしかない。
    その先にまた同じ道を歩く人と出会えるかもしれないから、それを信じて」

みこと「……」

報瀬「寂しく思えるのはいいことだから。それを持って進んで行こう」

みこと「……っ」
478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:39:08.88 ID:GYsMFmGgo

報瀬「私、思うんだけど」

みこと「……?」

報瀬「別れの挨拶が出来るって、とてもいいことだと思う」

みこと「あ――……」

報瀬「うん、私は……出来なかったから」

みこと「……っ」グスッ

日向「ありがとな、みこと」

みこと「……?」グスッ

日向「寂しく思うってことは、いい出会いだった証拠だから」

みこと「……ッ」グスッ

日向「私も寂しいよ」

みこと「〜〜ッ!」ボロボロ


マリ「記念撮影しよう」

結月「な……なんですかいきなり……っ」


マリ「この時の、この気持ちを切り取ろう」

日向「なんだその名言を言おうとした台詞」

報瀬「ふふっ」

結月「いいですね、撮りましょう。……ね、みこと」


みこと「……っ」コクリ
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:41:35.43 ID:GYsMFmGgo

―― 高崎駅


マリ「ハイ、群馬」

パシャ


結月「なんですか、今の」

日向「どうだ?」

報瀬「いいんじゃない?」

みこと「……」

マリ「はい、日向ちゃん」

日向「うん……うん?」

報瀬「プリントしてきて」

日向「なんで私が」

結月「足、速いじゃないですか」


日向「なんでまた走るんだよぉぉおお!!」

ダダダダッ


マリ「急いでよー!」


「分かっとるわ!」


報瀬「あ……」

マリ「どうしたの?」

報瀬「キマリが東京でプリントすればよかったんじゃない?」

マリ「あ……そうだね」

結月「……」シラー

みこと「結月さん……気付いてたんじゃないの……?」

結月「……」ギクッ


……




日向「プリントしてきたぞー! って、居ないな……?」

車掌「駅前の案内板で待ってるそうですよ」

日向「あ、案内板!?」

車掌「自分の土地を教えるとか」

日向「なんだよ、まったく! じゃ、行ってきます」

車掌「はい、行ってらっしゃいませ」スッ

日向「行ってきまーす! それじゃ、またどこかでー!」

タッタッタ


車掌「ふふ、また」


……


480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:43:01.37 ID:GYsMFmGgo

―― 高崎駅前


マリ「ここが私の家でしょ。こっちが私たちが通ってる学校」

みこと「……」ウンウン

結月「真剣に聞いてる……意味が無いと思うんだけど……」

報瀬「……」


日向「おい、こら」


報瀬「ちゃんとプリントしてきた?」

日向「してきたよ。移動するなら連絡くらいしろよなー?」

結月「車掌さんが伝えてくれると言ってくれましたので……」

日向「まぁいいけどさ。なにしてるんだ?」

報瀬「キマリが暮らしてる場所を説明してる」

マリ「こっちが小学校のころに修学旅行で行った場所で〜」

みこと「……」

日向「こんな大雑把な地図で分かるのかよ。それより、ほら、みこと」

みこと「?」

日向「プリントしてきたよ。日向ちゃんが必死に走った写真なんだから大事にしろよ?」

みこと「うん……! ありがとう日向さん……!」

日向「……いや、そこまで感謝されるほどじゃないけども」

マリ「2枚?」

結月「さっき撮ったのと、……私の誕生祝のですか。全員揃ってますからね」

報瀬「一昨日の夜なのに、随分前のような気がする」

みこと「……うん」

日向「この写真が証明してる。本当にあった時間だってさ」

みこと「…………」

日向「だから、進めるよな」

報瀬「また、こんな時間に逢うために」

みこと「うん」


マリ「……」

結月「……」


日向「そろそろ時間だぞ」

みこと「……うん」

報瀬「また全力で走ることになるよ」

みこと「うん……っ」

日向「……」

報瀬「……」
481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:44:16.96 ID:GYsMFmGgo

みこと「あの、握手……」

日向「うん……じゃあな!」

ギュッ

みこと「……っ」

日向「そんな顔するなよ〜……」

みこと「うん……っ」

日向「これから先の幸運を祈ってるよ」

みこと「また――」

日向「ん?」

みこと「また……逢えますか?」

日向「もっちろん!」


報瀬「じゃあ、私も」

みこと「うん……!」

ギュッ

報瀬「本当にあっという間だったけど、全部が楽しかった」

みこと「うん……っ」

報瀬「みことが居てくれたからだよ、ありがとう」

みこと「……っっ」グスッ

報瀬「泣かないで、みこと」

みこと「うん……ッ」グスッ

報瀬「終わりは始まることだから」

みこと「はい……!」


マリ「じゃ、行こうか」

結月「行こう」


みこと「うん……」


ギュッ


報瀬「……」

日向「……」


みこと「……」


報瀬「みこと、放してくれないと」

みこと「……うん」

日向「旅の醍醐味は時間を共有する心地よさである」

みこと「……?」

日向「みことにこの言葉を贈ろう」

みこと「誰の言葉?」

日向「私!」

みこと「ふふ」
482 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:44:53.03 ID:GYsMFmGgo

報瀬「はい、行ってらっしゃい」

日向「グッドラック!」

みこと「うん!」


マリ「それじゃね、報瀬ちゃん、日向ちゃん!」

結月「また、です!」


報瀬「みんな、くれぐれも、気を付けて!」

日向「できれば笑って、な!」


みこと「またね、報瀬さん! 日向さん……!」



……



483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:47:19.29 ID:GYsMFmGgo

―― デネブ


ダダダダッ


マリ「ぬぉぉぉおおお!!」

結月「な、なんで走ってるんですか!?」

みこと「……ッ」


マリ「ゴォーール!」

結月「だ、だからなんで走ってたんですか私たち……!」

みこと「はぁっ、はあっ」

マリ「どうせだから、最後も走ろうかと思って」

結月「そんな思い付きですか……はぁ……」

みこと「ふぅ……ふぅっ」


prrrrrrrr


マリ「最後の区間だね、レッツゴー!」

結月「なんでそんなにハイテンションなんですか……」

みこと「……はぁ……ふぅっ……あ――…」

マリ「どうしたの?」

みこと「見て、空に月が」

結月「……青い空に白い月」

マリ「…………」

みこと「私、忘れない」

結月「え?」

みこと「この空にある月を、私はきっと忘れない」


マリ「……うん!」



……


484 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:48:50.42 ID:GYsMFmGgo

―― 1号車


ガタン

 ゴトン


みこと「さくらさん」

さくら「あら、みことちゃん? どうしたの?」

みこと「さくらさん、東京まで?」

さくら「そうよん。結月ちゃんの撮影も終わるからね」

みこと「あの……」

さくら「うん?」

みこと「ありがとうございました」

さくら「どうしたの、突然……ってわけでもないか」

みこと「さくらさんが、私を変えてくれたから、ここまで来ることができました」

さくら「……それは違うわ」

みこと「……?」

さくら「確かに、女の子は外見が変わると中身も変わる素敵な存在だけどね」

みこと「……」

さくら「あなたは、きっと外見が変わらなくても、変わってたわ」

みこと「そうかな……?」

さくら「えぇ、きっとね。だから、礼には及ばないわ」

みこと「でも、さくらさんが居てくれたから……良かった」

さくら「あぁん! 寂しくなってきちゃうじゃない」クネクネ

みこと「ふふ」

さくら「笑うようになったわね。私の実力もまだまだ足りないって感じるわ」

みこと「?」

さくら「こっちの話よ。結月ちゃんの撮影も大詰めだから、見てく?」

みこと「うん……!」


……


485 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:50:44.06 ID:GYsMFmGgo

―― 食堂車


マリ「もぐもぐ」


みこと「あ……」

結月「ここに居たんですか」


マリ「もぐ?」

みこと「車内を歩いてると思って……」

結月「車掌さんに聞いたらここにいるって」

マリ「もぐもぐ」

みこと「お昼ご飯?」

マリ「もぐ」コクリ

結月「東京まで間もないですけど?」

マリ「もぐ……ごくり。今まで歩き回ってたから、此処に居ようと思って。
   結月ちゃん、撮影は終わったの?」

結月「あとは東京駅で撮って終わりですね」

みこと「そういえば、あの撮影ってどうなったの?」

マリ「ん?」

みこと「みんなで撮った……」

結月「あれはもう終わったよ。最後までグダグダだったけどね……」

マリ「あとはネットで配信されるのを待つだけだね〜……」パクッ

みこと「……」

結月「今までの乗車の人たちが入ってたりしますけど、大丈夫なんですかね」

マリ「大丈夫じゃないかな、日向ちゃんが確認取ってたし」

結月「そうなんですか……それなら、問題ない……かな……?」

みこと「あの、ね」

マリ「?」

結月「?」

みこと「聞いて欲しいことがあるんだけど……いい?」

マリ「もちろん」

結月「どうしたの?」

みこと「本を読むと……幸福感で満たされてた……」


みこと「特に……お母さんが描く物語が好き。幸せで終わるから」


マリ「うん、分かるよ。あの探偵ものもそうだったね」

結月「え、最後まで読んだんですか?}

マリ「そうだけど……なんで驚いてるの?」


みこと「あの嫌味な探偵ライバルも最後は主人公を助けて犯人を追い詰める。
    厳しくて辛いこともあるけど、お母さんが描く世界は優しく終わりを迎える」

結月「…………」


みこと「この旅も同じに思った。最初は、辛いことしかないと思ってたけど……」

486 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:52:33.40 ID:GYsMFmGgo

みこと「お母さんの世界みたいに、厳しくて辛いこともあったけど、優しかった」


マリ「……」


みこと「だから、よかった。この列車に乗って」


結月「……うん」

マリ「……そっか」

みこと「……?」

結月「ごめんね、みこと……。ちょっと気になったことがあって」

みこと「なに?」


結月「私、その探偵シリーズは注目してるから大体は把握してるんだけど、それ、知らない……」

みこと「それ……?」

マリ「……あの嫌味なライバル……最後は協力するんだ?」

みこと「……あ」

マリ「あって、なに!?」

みこと「……」サァー

結月「もしかしなくても、未発表なんじゃ……?」

みこと「ううん、なんでもない」

マリ「あぁっ、すごいネタバレされたよ!?」

結月「というか、最後ってことは……次で終わり?」

みこと「えっと……この話はこれでお終い」

マリ「報瀬ちゃんのマネしてるよね?」

みこと「ううん」フルフル

結月「キマリさん、今聞いた話は他言無用ですからね?」

マリ「なんで?」

結月「ファンからしたら衝撃的な内容だからです。ネタバレされたら嫌ですよね?」

マリ「そうだね……うん。……分かった」

みこと「あ、あの……ごめんなさい」

結月「いいから。もう忘れるから」

マリ「うん、忘れた」

みこと「……」

結月「でも、本当に好きなんだね、本を読むことが」

みこと「うん」

マリ「じゃあ、今と今までって本の中に居るみたいなんだ?」

みこと「え――?」

結月「まえに、ここで同じこと言ってたよね。
    本の中に登場する人物と同じ気持ちになったって」

みこと「……うん……あ――……」

マリ「どうしたの?」

みこと「今……なにかが……見えたような……」

結月「……」
487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:54:27.77 ID:GYsMFmGgo


綾乃「失礼しま〜す。デネブ特製、スペシャルプリンになりま〜す」


マリ「えっ!? プリン!?」

綾乃「料理長から特別サービスです」

マリ「やった♪」

結月「あの……?」

みこと「私たちの分も……?」

綾乃「よかったらどうぞ」

みこと結月「「 ありがとうございます 」」

綾乃「それでは、最後までごゆっくり〜」

スタスタ...


マリ「ではさっそく〜、うまい! はむっ」

みこと「キマリさん……口に入れる前にうまいって…」

マリ「味は確約されてるからね。うん、うまい!」

結月「どこぞのグルメ番組みたいですね……確かに美味しいですけど」

マリ「こんな美味しいプリンが食べられるなんて、幸せ〜♪」

みこと「キマリさんが綾乃さん達と仲良くなったおかげ……」

結月「綾乃さんって、旅行のためにこの列車に乗ったんですかね?」ハムハム

マリ「なんかね、地元出身のアーチストが引退するんだって。
   そのラストツアーに参戦するって。最初が札幌で、ファイナルが地元だって」

みこと「地元……沖縄の?」

マリ「うん、沖縄の人。綾乃ちゃんのお母さんが大ファンで、綾乃ちゃんもファンになったって。
   最初と最後のライブに行くから楽しみなんだって」

結月「その人なら知ってます。長年活躍されていましたから結構騒がれてますよね」

マリ「そうみたいだね。最後はお母さんと一緒に行くって言ってたよ。楽しそうだよね」

みこと「ファン……」

結月「思い入れがあると引退は寂しく感じるでしょうね」

マリ「あとね、明菜さんは彼氏さんに会いに行くって」

みこと「北海道に住んでるの?」

マリ「ん〜……? どこだったかな?」

結月「というか、明菜さんはどこ出身なんですか?」

マリ「四国のどこか?」

結月「曖昧ですね」

みこと「遠距離恋愛?」

マリ「いいよね、遠く離れていても思いは通じているんだよ」キラキラ

結月「……確かに、ちょっと憧れますね」

マリ「えっ!? 結月ちゃんにもそういう人が……!?」

結月「いませんけど」

みこと「……」
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:55:29.52 ID:GYsMFmGgo

マリ「じゃあ、みこっちゃんにもそういう人――」

結月「ちょっ! キマリさん!!」

マリ「え、あ……ごめん――」

みこと「うん、いる」

マリ「あぁ、なんか眩しい」

結月「ですね……なんか、差が付いたような気分です」

みこと「…………」

マリ「また、逢えるよきっと」

みこと「……そうかな…?」

結月「私もそう思うよ、みこと」

みこと「どうして……?」

結月「それは自分で探して。答えはきっと、この旅の中にあるから」

マリ「あ、なんかカッコイイ!」

結月「茶化さないでください」

マリ「えへへ、ごめんごめん」

みこと「自分で?」

結月「きっと、みことの未来……将来に関わることだから自分でみつけないと、ね」

みこと「……」

マリ「ん〜? 将来〜?」

結月「まぁ、可能性の話ですから」

みこと「あの人が言ってた」

マリ結月「「 ? 」」

みこと「人との出会いは運が大きく絡むんだって」

マリ「運? 運命のこと?」

みこと「少し違うと思う……。悪い人に出会えば悪い運勢になる、善い人に出会えば……」

結月「善い運勢になる……?」

みこと「そう言ってた」
489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:56:10.37 ID:GYsMFmGgo

マリ「そっかぁ……うん、分かる。結月ちゃんに出会わなければ、今ここに私は居ないもんね」

結月「……ですね。キマリさん達に出会わなければ私もここにいませんから」

みこと「それじゃあ、私も……善い運勢になった?」

マリ「それは、みこっちゃん次第だよ」

みこと「私の?」

マリ「決めるのは自分だからね」

結月「ですね」

みこと「……うん」コクリ

マリ「あー……もう、東京に着いちゃうぅぅ」

結月「キマリさん、片付けは済んだのですか?」

マリ「…………あはは」

結月「着きますよ?」

マリ「分かってるよぉ」

みこと「……着いちゃう」


ガタン

 ゴトン


……



490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 22:57:55.74 ID:GYsMFmGgo

―― マリの個室


マリ「あれ、鞄に入らない……」

ギュウギュウ

マリ「あれれ」


コンコン


マリ「はーい」

ガチャ


車掌「お忙しいところ申し訳ありません。少しよろしいでしょうか?」

マリ「車掌さん……は、はい。えっと、すいません……まだ……そのぉ」

車掌「決めかねている……のですね」

マリ「……はい」

車掌「鶴見さんはなんと?」

マリ「この先を行きたいと言っていまして……私も……うーん……」

車掌「一緒に行きたい気持ちはあるのですね?」

マリ「それはもちろんです!」

車掌「その気持ちを止めるものはなんでしょう?」

マリ「みこっちゃんはみこっちゃんの旅があって……私はただ、心配ってだけで……」

車掌「鶴見さんの旅に支障が出てしまうのではないか、と」

マリ「はい……。私が降りるって言ったら、みこっちゃんも降りるって言ってて……」

車掌「……」

マリ「でも、この列車に乗り続けて欲しい気持ちもあって……」

車掌「玉木さんの思うままにしてくださって構いませんので」

マリ「……はい」

車掌「よく考えて答えを出すより、気持ちに従って行動するのもまた必要です。それでは」

マリ「ありがとうございます」

車掌「いえ」ペコリ

スタスタ...


マリ「…………」

ガタン

 ゴトン


マリ「あ……東京駅……」


ゴトン


マリ「着いちゃった」


プシュー


……


491 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:02:22.09 ID:GYsMFmGgo

―― 東京駅


結月「広島から東京までの列車の旅はここでお終いになります!
   みなさん楽しめていただけたでしょうか!」


結月「また、この旅の裏側では南極観測隊のメンバーがいつも通りグダグダではありますが。
   楽しく旅をしている様子を収めた動画もありますので
   それも視聴してみたら、より列車の旅を味わえるのではないかと思います!」


結月「それでは、超特急デネブはまだ最終駅まで走りますが、私の一日車掌はここで終点です!」


結月「みなさん、ありがとうございました! それではまた、どこかでお会いしましょう〜!」


ディレクター「はい、オッケー!」


結月「お疲れさまでした」ペコリ

ディレクター「それじゃ、10分後に生放送入るから、準備よろしく!」

結月「はい!」

さくら「結月ちゃん、チェック入るわねぇ〜」

結月「はい、お願いします」


マリ「プロだ……」

みこと「うん……」

マリ「こんなに人が居るのに……やっぱり結月ちゃん、凄い人だったんだ……!」

みこと「……キマリさん」

マリ「うん?」

みこと「どうするの?」

マリ「あ……えっと……続ける……かな?」

みこと「本当?」

マリ「う…ん……」

みこと「私も続ける……」

マリ「みこっちゃんはどうして旅を続けたいの?」

みこと「……楽しいから?」

マリ「他には……理由……ないの?」

みこと「……?」

マリ「例えば……そう、自分探しの旅とか!」

みこと「自分探し……」

マリ「いや、あのね、そんな真剣に考えて欲しいわけじゃなくってね……」

みこと「続ける理由が無いと……ダメ?」

マリ「駄目ってわけじゃないよ? むしろ無くていいくらいだから」

みこと「……」

マリ「でも、続けたい理由がなんなのか知りたいなぁって思って」

みこと「……うん」
492 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:06:01.52 ID:GYsMFmGgo

マリ「あ、そのこと車掌さんに伝えてこないと」

みこと「キマリさんは?」

マリ「私は結月ちゃんと居るから先に行ってて」

みこと「うん、分かった」

テッテッテ

マリ「……ふぅ」


マリ「……ん〜」


マリ「ど〜しよ〜」


ディレクター「玉木さん、お願いがあるんですがいいでしょうか?」

マリ「はいはい、なんですか?」

ディレクター「これから生放送で白石さんの友人として出演してくれませんか?」

マリ「はい、いいですよ〜」


結月「え!?」


ディレクター「ありがとうございます。ただ一緒に映るだけですので」

マリ「それくらいなら全然〜。並んで立っていればいいんですよね?」

ディレクター「はい、お願いします。家石さん」

さくら「はいは〜い。キマリちゃん、ちょっとメイクしちゃうわね〜」

マリ「化粧するんですか?」

さくら「カメラ映りが良くなるのよ♪」

マリ「なんか面白い」

結月「き、キマリさん本当にいいんですか?」

マリ「並んで立ってるだけだから大丈夫だよ」

結月「お昼の報道番組、『こんにちは笑って日本列島』ですよ?」

マリ「ん?」

さくら「ちょっと動かないでね〜?」

マリ「あ、ごめんなさい。えっと、結月ちゃん、今なんて言ったの?」

結月「こんにちは笑って日本列島。あのサングラスの人が司会している番組です」

マリ「えぇぇええーーーーー!?」

さくら「あん、ダメよぉ。時間が無いんだから、動かないで♪」

マリ「じぇ、じぇんきょく放送……!」


みこと「キマリさん、車掌さん居なかった……なにしてるの?」


マリ「みみみみ、みこっちゃん! タッチ! チェンジ! 交代!」

みこと「?」

さくら「そうしますぅ?」

ディレクター「うーん、もう時間無いから両方出てもらうというのは?」

マリ「それならオッケーです!」

さくら「じゃ、みことちゃんもちょっと待っててねぇ。すぐ済ませちゃうから」

みこと「……うん?」
493 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:08:11.52 ID:GYsMFmGgo

マリ「な、なんでこんなことに……!」

結月「安請け合いするからです」ポチポチ

みこと「電話?」

結月「うん、あの二人にメッセージをね。テレビに出るよって」

みこと「テレビ? 出るの?」

結月「ね、みこと」

みこと「?」

結月「また、あの時みたいに本の中の住人になったつもりで答えてみて」

みこと「どうして?」

結月「緊張しないで済むでしょ?」

みこと「……」

さくら「次はみことちゃんね、ジッとしててね♪」

マリ「結月ちゃん、化粧した私、どうかな?」

結月「はい、手鏡です」

マリ「こ、これが私……! あんまり変わってない!!」

結月「テレビ画面で見ると違いがはっきりしていますけどね」

マリ「ふぅん……」

さくら「はい、オッケー」

みこと「……」

さくら「ディレクターちゃん、こっちは準備オッケーよ♪」

ディレクター「それじゃ、打ち合わせ通りに。あとはアドリブでお願いしますね」

結月「はい、分かりました!」

マリ「あ、アドリブ……!?」

結月「大丈夫ですよ、私に任せてください」

マリ「た、頼もしい……!」

みこと「……」


アシスタントディレクター「中継入りまーす!」


結月「では、お願いします。キマリさん、みこと」

マリ「え、もう!?」

みこと「……」


ディレクター「あの子、表情が変わらないけど、大丈夫かな……」

さくら「ふふ、作ってるのかもしれないわねぇ。役を」


『今日は話題の超特急デネブが到着した東京駅からの中継です。一日車掌の白石結月さーん』


結月「はい、白石結月です。
   紹介にありました超特急デネブが今、ここ東京駅のホームへ到着しました〜」


『どうでしたか、豪華特急列車の旅は?』


結月「8月3日から今日までの一週間、列車の旅を一日車掌として努めてまいりましたが、
   とっても充実した時間で、本当にあっという間でした〜」
494 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:11:35.81 ID:GYsMFmGgo


『その表情が列車の旅の内容を物語っていますね〜。どうですか、ハモリさん』

『結月ちゃん、最近髪切った?』


マリ「おぉ……!」

結月「切っていません〜。次の役の為に伸ばしているんです〜」


『あれ、そっかい? おっかしいなぁ』

『あはは、二人のやり取りもお約束な感じですね〜』


マリ「は、ハモさんだ……みこっちゃん、ハモさんだよっ」

みこと「うんうん、ハモさんだ……!」

マリ「あれ? みこっちゃん……?」


ディレクター「……なんだか、様子が変わったな?」

さくら「何の役を演じているのかしら……? それとも誰かを演じて……?」


『ところで、結月ちゃんの隣にいるのは?』


結月「ここまで一緒に旅を同行してくれた仲間です。
   一人は南極へ一緒に観測隊の同行者として行動した玉木マリさんです」

マリ「こ、こんにちは……。私は……乗車した区間? 始発からここまで乗りました。
   それから……えっと……結月ちゃんとの関係ですね……友達です!」

結月「思い出に残ってる観光地はどこですか?」

マリ「えっと……みんなで行った場所? それは……色々あって」

結月「キマリさん、カンペは補助なのでパッ思いついた場所でいいですよ」

マリ「は、はい」

結月「私たちは去年南極へ行きましたよね。それを踏まえて答えてください」

マリ「ふ、踏まえて? 動物園行って、ペンギンを見ました! 名古屋の水族館でした!」

結月「違います。大阪の海遊館ですね」

マリ「……そうです。名古屋は初代しらせを見ました!」

結月「違います。南極観測船ふじ、ですね」

マリ「……はい」

結月「どうやら緊張しているみたいですね。いつも自由な発想でみんなを引っ張ってくれる存在なんです」

マリ「結月ちゃん、アドリブでいいって言っ」

結月「ハイ! それでは隣のあなた!」

みこと「雨上がりの京都の夜景が綺麗でした。雨に濡れて楽しかったのが印象的です」

マリ「あれ、みこっちゃんが出てきたとき雨止んで」

結月「それは青春を感じていいですね! まだ何も聞いてなかったですけど」

みこと「その後に温泉に入って気持ちよかったです。
    今日も朝に松本で温泉に入りました。最後の楽園って感じです」

マリ「ラストパラダイスです」

結月「そうですか、なんで英語で言い直したのか分かりませんけど。
    二人は美味しかった名産品などありましたか?」

マリみこと「「 昨日の夜食べたカップラー 」」

結月「現地の特産品でお願いします!!」
495 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:13:52.77 ID:GYsMFmGgo

マリ「名古屋のひまつぶしが一番です! 値段的にも!!」

結月「うなぎのひつまぶしですね」

みこと「広島の海軍カレーが美味しかったです。値段的にも」

結月「リーズナブルな価格って言いたいんですね」

マリ「結月ちゃんはどこが良かった?」

結月「私はジンベイザメですね。ぬいぐるみも買いましたし」

みこと「え、ジンベイザメを……?」

マリ「食べたの……?」

結月「食べてません。どこで話が曲げられたのか分かりませんが、長旅お疲れさまでした〜!
   それではスタジオにお返ししま〜す」


『いやぁ、面白いねぇ。アドリブなんでしょ今の』

『そうみたいですね。ハモさんも列車の旅が好きだとか』

『若い頃は乗ってたんだよ。地方の局に行った時――』


結月「ふぅ……」


ディレクター「お疲れ様ー」

さくら「おつかれさま〜♪」


結月「なんか、結局グダグダになってしまいました……すいません」

ディレクター「ゆるい番組だから平気だよ。スタジオの雰囲気も悪くないから」

結月「そう言っていただけると……」フゥ

マリ「いつも通りだったね」

みこと「……うん」

結月「というか、なんでキマリさんを演じたの? よりによって」

マリ「え、私の真似だったの!?」

みこと「うん。いつも近くに居たから……」

結月「他に誰が居るんですか」

マリ「えー……てっきり、日向ちゃんかと」

さくら「ふふ、幼虫がサナギに変態したってところね」

マリ「へ、ヘンタイ!?」

結月「姿を変えることをそう言うんです。勘違いしないでください」

ディレクター「それじゃ、長旅お疲れ様。気を付けて帰ってね」

マリ「あ、はい。お疲れさまでした」

みこと「……お疲れさまでした」

さくら「ここでお別れなんて寂しいわ」

みこと「……うん」

マリ「デネブちゃんの護衛、お疲れさまでした!」ビシッ

さくら「そういうつもりじゃなかったんだけど……役に立てたなら嬉しいわ♪」

みこと「ありがとう、さくらさん」

さくら「うふふ、貴女はいいライバルだったわ。それじゃね♪」

みこと「……うん、それじゃ」
496 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:14:55.57 ID:GYsMFmGgo

マリ「ライバルってなんのこと?」

結月「……まぁ、キマリさんは分かりませんよね。それでは、私もここで」

みこと「えっ、結月さんも?」

結月「この後、打ち合わせが入ってて。明日も早いから東京に泊まることになってるけど……」チラッ

マリ「え、あぁ……そうなんだ。頑張ってね」

結月「また後で連絡します。それじゃ、また」

マリ「うん」

みこと「……」

結月「みことは乗り続けるんだよね」

みこと「……うん」

結月「それじゃ、明日の出発には来るから」

みこと「うん」

結月「それじゃ、さくらさん達が待ってるので私はこれで」

テッテッテ

マリ「うん、またね〜」フリフリ

みこと「……」

マリ「……とうとう、二人になっちゃったね」

みこと「うん……」

マリ「どこ行こっか?」

みこと「どこでも……」

マリ「じゃあ……あそこ、行ってみたいところがあるんだ〜」


……


497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:16:35.24 ID:GYsMFmGgo

―― 井の頭公園


みこと「ボートに乗るの?」

マリ「うん、楽しそうでしょ」

みこと「恋人同士で乗るんじゃないの?」

マリ「え、でも……恋人同士で乗ると別れるから乗らないんじゃないの?」

みこと「……うん」

マリ「ほら、いいからいいから〜、時間無いよ、乗って乗って〜」

みこと「う、うん……時間無いの?」

マリ「よいしょっ、しゅっぱーつ」

グラングラン

マリ「あと1時間くらいで終わりみたい」

みこと「……東京なのに、緑が多い」

マリ「これ桜の木なんだって。春に来たら別世界だろうね」

みこと「うん、見てみたい」

マリ「見たいと思ったら見られるよ」

みこと「……でも、人が多いから……一人じゃ無理……」

マリ「確かに人多いよね。1年365日、24時間お祭りだよ」

みこと「漕ぐの代わる?」

マリ「ううん、大丈夫。これくらい、なんともなーい」

みこと「楽しそう」

マリ「うん、楽しい」

みこと「キマリさん、いつも楽しそうだった」

マリ「そうかな?」

みこと「うん……。だから、私も楽しかった」

マリ「えへへ、なんか照れるね」

みこと「……」

マリ「だぁっ暑い! 夕方なのになにこの暑さ!!」

みこと「代わる?」

マリ「やってみたいの?」

みこと「うん」

マリ「それじゃ、はい。しばらくはこのままでいいよ、戻るときにお願いね」

みこと「……うん」

マリ「よいしょっと」

みこと「寝るの?」

マリ「ううん、仰向けになるだけだよ」

みこと「……」

マリ「ふぃ〜……遠くまで来たね〜」

みこと「ここの方がお家に近いよ」

マリ「そうだけど……そうじゃなくて……」

みこと「……?」
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:18:13.93 ID:GYsMFmGgo

マリ「色んな景色見て、色んな物を食べて、色んな人に出会って……」

みこと「……」

マリ「ね。最初は私たち三人だったのに……今は二人でこうしてる」

みこと「うん……。私も、横になっていい?」

マリ「いいよ〜、茜色の空が綺麗だよ〜」

みこと「……しょ……と。……本当だ……綺麗」

マリ「きっと私たち、周りから変な目で見られてるね」

みこと「うん……だけど……かき捨てだから」

マリ「そうだね」

みこと「……さっきキマリさんが言ったこと、分かったかもしれない」

マリ「うん?」

みこと「遠くまで来たって……実感してきた……」

マリ「だよね……。あ、そういえば」

みこと「……?」

マリ「みこっちゃん、お母さんに連絡した?」

みこと「あ……そうだった……」

マリ「まだなの!? 必ずしないと!」

みこと「う、うん……」

マリ「今、かけたら?」

みこと「……いま?」

マリ「うん、今」

みこと「……うん」ピッピッポ

マリ「リンにメッセージ送っとこう……」ポチポチ


―― 帰るの明日になると思う。お母さんに言っといて。


マリ「うぅっ、絶対に怒られる……っ」


みこと「もしもし……お母さん……?」


マリ「……しょうがない、怒られよう」


みこと「あ、あの……お願いがあって……っ」


マリ「…………」


マリ「空が……寂しい……」


……


499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:19:20.52 ID:GYsMFmGgo

―― 東京駅:コインロッカー


マリ「ぐぬぬ……入らない……っ」


マリ「くぅ……やっぱり送った方がいいかな……?」


ピロリロリ〜♪


マリ「うっ……」


ピロロリロリロリ〜


マリ「……」

プツッ


マリ「……はい」

『マリさ〜ん? 今どこにいるんですか〜?』

マリ「トキョエキデス」

『え、なんて?』

マリ「東京駅に居ます!」

『なんで?』

マリ「え〜っと、それには深いわけがありまして」

『その訳とは?』

マリ「何から話せばいいのか」

『今のこの時間まで連絡もよこさずに悩むようなことがあったと?』

マリ「違うんだよ、お母さん! 帰るよ! 帰ろうと思ってるよ!」

『じゃあなに? なんでまだ東京駅に居るの』

マリ「えっとぉ……えぇっと……」

『……』

マリ「む、無言の圧力……!」

『……』
500 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:19:57.98 ID:GYsMFmGgo

マリ「と、友達が心配で……」

『……』

マリ「あのねっ、列車に乗って友達になったんだけどねっ、まだ中学生でねっ」

『……』

マリ「まだ列車に乗り続けたいって言っててねっ、だから心配でっ」

『自分もまだ乗り続けたい、と』

マリ「……そうじゃないけど」

『そうじゃないの?』

マリ「うん……」

『お父さんも心配してるのよ、リンも』

マリ「うん……」

『明日には帰って来るのね?』

マリ「……うん」

『分かった。それじゃ、また連絡して』

マリ「うん、分かった」

プツッ


マリ「明日帰るよ……多分」


……


501 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:21:21.80 ID:GYsMFmGgo

―― デネブ


みこと「どこ行ってたの?」

マリ「えっ、えーっと……お、お母さんに連絡を……?」

みこと「……」

マリ「それより、みこっちゃんのお母さんはどうだったの?」

みこと「何も言わなかった……」

マリ「う……怒ってるのかな? ……当然かもだけど」

みこと「今までそんなことなかったから……分からない」

マリ「まぁ、そうだよね……自分の娘がまだ帰らないって心配だよね……人のこと言えないけど」

みこと「……うん」

マリ「帰る?」

みこと「ううん、まだ……続けたい……」

マリ「……そっか」

みこと「ご飯、どうしよう?」

マリ「せっかく東京に来たんだから、安いお店探してみようか。なにかあるかも」

みこと「うん」

マリ「じゃ、ネットで調べてみるね〜。激安・晩御飯・東京……っと」

みこと「……」

マリ「出てきた……おっ、凄い安いお店発見! 400円でコスパ最高って書いてあるよ」

みこと「どこ?」

マリ「有楽町だって」

みこと「……どこ?」

マリ「どこだろうね。なんか東京駅から遠い場所にあるっぽい。勘だけど」

みこと「そうなんだ……」

マリ「遠い場所だったら移動にお金使うから意味ないよね」

みこと「……うん」

マリ「えっと、他には……女子会で一人1000円? お酒が出る店じゃないか!」

みこと「……」

マリ「うーん……もっとこう……ワンコインで楽しめる店はないモノか……」

みこと「テレビで見たことある……激安ってお店」

マリ「うんうん、分かる。そういうのが出てくればいいよね〜」

みこと「……」

マリ「あ、いいのあった」

みこと「どこ?」

マリ「アキバ原ってところ。結構安い」

みこと「秋葉原?」

マリ「そうそう。有楽町よりは近いと思う。そこ行ってみようか」

みこと「うん」

マリ「といっても、場所分からないからまずは車掌さんに相談だ」フンス


……


502 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:24:22.73 ID:GYsMFmGgo

―― 東京駅・切符売り場


ガヤガヤ

 ガヤガヤ


マリ「えっと……二つとなりだから……」

みこと「キマリ…さん……」

マリ「どうしたの?」

みこと「ちょっと……気分が……」

マリ「あ、人が多くて疲れちゃった?」

みこと「……うん」

マリ「えっと、それじゃ――」


男「ねぇ、君たち、ひょっとして観光客?」


マリ「え、あ、はい」

男「どこ行くの?」

マリ「アキバ原にご飯を食べに行こうかと……」

男「へぇ、それじゃ俺たちが案内しようか?」

マリ「いやぁ、でも、友達がちょっと気分を悪くしてて」

男「じゃあ、近くの店で少し休んでさぁ」

マリ「うーん、どうしよっか、みこっちゃ――……あれ、居ない?」


「キマリさーん」


マリ「えっ!? あんなとこに!?」

男「もちろんあの子も一緒に、ね?」

マリ「いやぁ、でもぉ」


「キマリ! 早く! 列車が来てる!!」


マリ「し、報瀬ちゃん……!?」


「急いで!」


マリ「う、うん。そ、それじゃ」

テッテッテ


男「へ……?」
503 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:24:56.75 ID:GYsMFmGgo


テッテッテ

マリ「みこっちゃん、今報瀬ちゃんの真似したよね!」

みこと「……うん」

マリ「似てた似てた! 凄い!」

みこと「キマリさん、変な人に付いて行きそうだった……」

マリ「え、そんなことないよ」

みこと「日向さんと報瀬さんに注意されてたから……」

マリ「えー……」

みこと「ごめんなさい……キマリさん……っ」

マリ「デネブちゃんに戻ろっか」

みこと「うん……」


……


504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:27:34.58 ID:GYsMFmGgo

―― みことの個室


コンコン


みこと「……はい」


ガチャ


マリ「みこっちゃん、今大丈夫?」

みこと「うん」

マリ「じゃあさ、車掌さんのところ行かない?」

みこと「うん。何かあるの?」

マリ「ほら、前にヴェガのこと聞きたいって言ったでしょ? 今から聞きにいこう」

みこと「……うん」


……




―― 食堂車


料理長「なんだ、だからさっきここで食べに来たんだね」

マリ「どこも人が多くて……夜になったら減るどころか増えてるみたいだったのですよ」

料理長「そりゃそうだろうね」

マリ「それに、慣れ親しんだ料理って安心するんですよね」

料理長「そんな長い間食べてたかね……そう言ってくれるのは悪い気しないけど」

みこと「料理長さんは……どこからどこまで乗車したんですか……?」

料理長「ん?」

みこと「ヴェガの乗車区間……」

料理長「京都から最後まで行ったな……。余計な奴も一緒に」

マリ「余計な?」

料理長「こっちの話。食堂車でウェイトレスしてたんだよ」

マリ「料理長もウェイトレスしてたんですね……」

みこと「車掌さんとは区間が別だったって……」

料理長「そうだよ。私が乗車した時はもう居なかったなぁ」

マリ「それなのに今は一緒に働いてるって凄いですね! 凄い!」

料理長「確かにね。私も最初聞いた時は驚いたな」

みこと「こういうことって……あるんだ……」

料理長「偶然ってわけでもないさ。私が料理長として乗りたいと思ったように、
     車掌だってそうしたいと思っていたはずだから」

マリ「必然だ!」

料理長「そうかもね」

みこと「必然……」
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:30:51.51 ID:GYsMFmGgo


車掌「こんばんは。なんだか賑わっていますね」


マリ「あ、車掌さん! お疲れ様です!」

みこと「……」ペコリ

料理長「お疲れ。そっちは点検終わった?」

車掌「はい、終わりました。後は最終チェックをしてから個室に戻ろうかと」

料理長「じゃあ私も終わらせてくるよ。また後で」

スタスタ...

マリ「まだ話聞きたかったのに……」

車掌「また後で来るみたいなのでその時に」

マリ「はい。……それでは、車掌さんはどこからどこまで乗車したんですか?」

車掌「私は札幌から茨木の水戸まで乗車しましたよ」

みこと「結構短い……?」

車掌「そうですね……。兄の結婚式に招待されたのが乗車した理由ですから、
   特にこれと言った目的はなかったので」

みこと「目的……」

車掌「お二人には、ご姉妹は?」

マリ「私は妹が一人います」

みこと「私は居ない……」

車掌「義理の姉はいい人で、今も仲良く暮らしているんですが、
   当時の私は兄を取られたような気分になってて、少し落ち込んでいたんですよ」クスクス

マリ「それはなんとなく……分かる……ような?」

みこと「分かるの?」

マリ「リンがお嫁さんに行ったらと思うと……寂しい……かな?」

車掌「仲が良ければその分、そう思ってしまうのかもしれませんね。
   特に、その時の兄は学生でしたから」

マリ「学生結婚!」

車掌「そうです。いきなりだったものですから、親も親戚も大慌てで」

みこと「それだけ、相手のことが好きだった……?」

車掌「みたいですね。それだけに、当時の私はショックだったのかもしれません」

マリ「車掌さんは幾つだったんですか?」

車掌「鶴見さんと同じ歳でしたよ」

みこと「……!」

マリ「そうなんですか……!」

車掌「札幌から水戸まで、日本を縦断するヴェガにとってはそう時間のかかる距離ではありませんでしたが、
    それでもいろいろなことがあって、気が付けば沈んでいた気持ちも忘れてしまっていました」

マリ「……」

車掌「私が伝えられることと言えばこのくらいですね」

みこと「いろいろあった……って……?」

車掌「ふふ、そうですね……。お二人はあの飯山みらいさんがヴェガに乗車していたことは知っていましたか?」

マリ「は、はい」

みこと「……」コクリ

車掌「では、その飯山みらいさんの友人である二人の娘が――」
506 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:33:00.55 ID:GYsMFmGgo


料理長「話の途中でごめんよ、はい、差し入れ」


マリ「ジュースとスイカ!」

みこと「ありがとうございます……」

料理長「私も混ぜてもらおうかな」

車掌「もう、いいところで話を遮るんですから」

料理長「え、そうなの?」

車掌「そうです。今日はお酒、飲まないんですか?」

料理長「飲まないよ。あの日は特別だったからさ。古い友人に再会できてうれしかったから」

車掌「……そうですか」

マリ「シャクシャク、うん、んまい!」

みこと「……料理長さん」

料理長「うん? どうした?」

みこと「……最後まで乗ってたんですよね?」

料理長「ヴェガに? そうだけど」

みこと「どんな気持ちだったのかなって……」

料理長「どんな気持ち……ねぇ」

車掌「そうですね、聞きたいです。最後の都市、福岡から出発してからのヴェガの雰囲気」

マリ「シャクシャク……」

料理長「乗客はほとんど降りてしまってるから、寂しくなったのは覚えてるよ」

みこと「……」

料理長「夢の崎の一つ前、阿蘇駅でも人は降りてしまって。
    いよいよ次が最後の駅ってなると、もう人は乗ってないんじゃないかってくらいに誰もいなかった」

車掌「……」

料理長「寂寥感が広がる車内でも、ヴェガは走り続けていたよ。それが余計に、胸に来てね」

マリ「……」

料理長「普段は会いたくない奴がいてさ、顔を合わせればケンカばかりしてたんだけど……。
    その時は、お互いに憎まれ口なんて出なくて……妙な気持ちになったもんだ」

みこと「……その人も、寂しかったの?」

料理長「そうなんじゃないかな。普段は高飛車で偉そうなことばっかり言ってたのに、
    その時ばかりはさすがの嫌な性格もその空気に捉われてたんだよ」

マリ「あ、さっき言ってた余計な奴って、その人だったんですね」

料理長「そういうこと。今でも繋がりのある友人だよ」

車掌「確かに、特別な日ですね」

料理長「……うん。かけがえのない友人になったよ。ヴェガに乗ったおかげでね」

マリ「…………」

みこと「…………」

料理長「最後まで行くの?」

みこと「え、あ……はい……?」

料理長「ふふっ、まだ分からないって感じだね」


車掌「……」チラッ

マリ「…………」
507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:34:07.87 ID:GYsMFmGgo


みこと「最後まで行けば……料理長さんが言った……寂寥感が包まれた世界を……?」

料理長「うん、味わえると思うよ」

みこと「――……」


マリ「みこっちゃん……」


車掌「今日はどちらでお休みになられますか?」

マリ「えっと……みこっちゃんにお世話になろうかな〜って」

車掌「もし、当てがなれけば車掌室まで来てくださいね」

マリ「あ、ありがとうございます」ペコリ


料理長「高校からの腐れ縁で、いろいろあったからね、ソイツとは」

みこと「因縁?」

料理長「はは、そういうことだね。とにかく仲が悪かった……いや、最悪だったから」

マリ「犬猿の仲……水と油……虎に翼?」

料理長「最後は違う」

車掌「そんな二人に何があったら、寂寥感を共感できるまでになったのでしょう?」

みこと「うん……」

マリ「知りたいです!」

料理長「うーん……あんまり面白い話じゃないんだけどねぇ」

車掌「まだ時間はありますから、いいじゃないですか」

みこと「……」ウンウン

マリ「さ、飲み物をどうぞ」

トクトクトク

料理長「アイツのプライベートに関わるけど……まぁいいか」

マリ「いいんですか!?」

料理長「いいって。ソイツは、お嬢様で――」

みこと「……」

マリ「ふむふむ」


……


508 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:36:44.44 ID:GYsMFmGgo

―― みことの個室


コンコン


みこと「はい……?」


「みこっちゃーん、寝る準備できた〜?」


ガチャ


みこと「うん……」

マリ「あのね、一緒に寝てもいいかな?」

みこと「……うん」

マリ「ごめんね、いきなりで。ゆっくり話したいな〜って思って」

みこと「……」

マリ「あ、邪魔かな?」

みこと「ううん、私も、キマリさんと話したい……から」

マリ「ありがと〜。断れたらどうしよって思ってたんだよ。あ、でも……」

みこと「?」

マリ「迷惑なら言ってね?」

みこと「ううん、思ってないよ。どうぞ、入って?」

マリ「失礼しま〜す」

みこと「二人の話、面白かった」

マリ「いい話だったね〜。横座るね」ストッ

みこと「南極の話、聞きたい」

マリ「そういえば、動画ってどこまで見たの?」

みこと「南極に着いたところまで」

マリ「そっか。じゃあ、一緒に観よう」

みこと「うん、ありがとう」

マリ「コンセントどこ?」

みこと「あっち」

マリ「あとで充電しないとだから。まだ大丈夫だけど……。えっとね〜」

みこと「……」

マリ「実はあんまり見てないんだよね」

みこと「どうして?」

マリ「撮ったの日向ちゃんでしょ? 
   日向ちゃん目線で見ると、私の見た記憶がごっちゃになりそうでさ〜」

みこと「そういうものなんだ?」

マリ「多分ね」

みこと「……」

マリ「これ、かな?」

みこと「それは視たから……次?」

マリ「あ……これ……」

みこと「……?」
509 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:39:23.43 ID:GYsMFmGgo

マリ「百夜って言ってね、陽が傾いたまま夜になるんだよ」

みこと「うん……」

マリ「太陽がね、転がるんだよ。面白いよね」

みこと「――……」

マリ「この時は、その太陽を見ながら歌ってたんだ」

みこと「……」

マリ「あ、私の話より動画だよね」

みこと「ううん、聞きたい」

マリ「……そう?」

みこと「動画はいつでも見ることができるから……」

マリ「……うん」

みこと「自転車乗ってた」

マリ「雪を固めて道を作って、その上を走ったんだよ〜。
   まぁ、固めない方が走りやすかったんだけどね」

みこと「…………楽しそう」

マリ「それがそうでもなかったんだよ。すぐ転んで、報瀬ちゃん怒るし、
   日向ちゃん笑ってるし、それみて結月ちゃん呆れてるし」

みこと「楽しそう」

マリ「……うん、そうだね。……4人いつも一緒だったから楽しかった」

みこと「…………」

マリ「この旅でも一緒だったよね。みこっちゃんも」

みこと「…………うん」

マリ「……みこっちゃん?」

みこと「………………うん?」

マリ「眠たいの?」

みこと「ううん……」

マリ「人がたくさん居て疲れちゃったよね……。色んなことがあったし……」

みこと「……ううん…………はなし……ききた……い」

マリ「……また……今度ね」

みこと「こんど……って……いつ……?」

マリ「……ッ!」

みこと「……ききたい……はなし……」

マリ「うん、分かった。このあとね、雪上バイクに乗せてもらったりしたんだよ」

みこと「…………うん」

マリ「遊んでばっかりに見えるけど、ちゃんと観測隊としてやるべきことやってたんだからね」

みこと「………………うん」
510 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:40:32.38 ID:GYsMFmGgo

マリ「料理手伝ったり、掃除したり、研究や調査の補助したり」

みこと「………………」

マリ「自分のことは自分でやるんだよ〜。それは当たり前のことで……」

みこと「……すぅ……すぅ」

マリ「……難しいことで……でも……慣れたら……」

みこと「すぅ……すぅ……」

マリ「ごめんね、みこっちゃん」ナデナデ

みこと「すぅ……」

マリ「私は最後まで行けないよ」

みこと「……すぅ」

マリ「ごめんね……っ」グスッ

みこと「すぅ……すぅ……」


……





マリ「魔法少女になれたんだね、助手くん」

みこと「……?」

マリ「すやすや」

みこと「あれ……寝ちゃった……?」

マリ「くーすかー」

みこと「……」

マリ「むにゃむにゃ」

みこと「ありがとう……キマリさん」

マリ「かーすかー」

みこと「……ありがとう」

511 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:43:51.87 ID:GYsMFmGgo


―― 8月11日



「あれっ落とした?」


「ウソでしょッ!?」


「どこに落としちゃったんだろぉ……!」


「まずい……まずいわ……そろそろこの魔晄列車が発車するというのに……!」


「堕天使ヨハネを置いて、発車してしまうというのに……!」


「そ、そうよ、一度はこの私の手の中にあったのだから、
 きっと魔力が少しくらい乗車証にも移っているはず」


「感じるのよ、ヨハネ……魔力を! 自分の力を見つけ出すの……!」


「ムムムム……!」



結月「…………」


「あ、結月ちゃんだ」

「あ……!」


結月「キマリさん、みこと!」


マリ「来てたんだね」

みこと「……どうしたの、変な顔してる」

結月「ううん、なんでもない」


「来たわ! あっちね……!」

テッテッテ


マリ「ん? あの子はどうしたのかな?」

結月「なんだか、探し物をしてたみたいで……」

みこと「知り合い?」

結月「そんなわけないでしょ? それはそうと、どこ行ってたんです?」

マリ「えっとね〜」

みこと「都庁と浅草と……」

マリ「アキバ原行ってきたよ。安くて美味しいランチ食べてきた」

結月「なんか、嬉しそうですね」

マリ「昨日行こうと思ったけど断念したからね。念願叶ったみたいで嬉しかったよ、ね?」

みこと「うん」

結月「そうですか。朝から移動してたんですか?」

マリ「うん。人が多くて大変だったけど、回れてよかったよね」

みこと「キマリさんに付いて行っただけ……だけど」
512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/04(水) 23:46:41.57 ID:GYsMFmGgo

結月「みこと、人込み苦手って言ってたからね……。疲れたでしょ?」

みこと「うん……だけど、楽しかった」

結月「……!」

マリ「どうしたの?」

結月「いえ、意外で……少し驚いてしまいました」

みこと「……」

結月「そろそろ出発の時間ですね……」

マリ「……うん」

みこと「……」

マリ「あの、ね……みこっちゃん」

みこと「うん……?」

マリ「言わなきゃいけないことが――」


「おーい、おーーい!! ちょっと待ってーー!!」


マリ「え?」

みこと「……あ」

結月「……!」


「乗ります、乗ります〜〜!」


マリ「手伝ってくる!」

テッテッテ


結月「わざわざ……」

みこと「わ、私も……」

テッテッテ


結月「……なにしてるんだか」



「ぬおおお、鞄が揺れる〜〜!」

マリ「貸して!」

「助かるよ、パスッ!」

マリ「ぐぅっ、お、重い……!」ズシッ

「おっしゃー! 全速前進! ヨ―ソロー!」

ダダダダッ

マリ「ぐぬぬっ」

みこと「手伝うッ!」

マリ「ありがとう、みこっちゃん!」

みこと「うぅっ……!?」ズシッ

マリ「本当に、何が入ってるんだか……!」ヨロヨロ

みこと「ふぅっ……」ヨロヨロ


「あはは、よろめいてる」アハハ

結月「発車までまだ余裕があるんですけど」
513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:29:48.79 ID:wQFDgRACo

「それは、君に逢うために急いできたからさ。他に理由がいるかい?」キラン

結月「相変わらずですね……」


マリ「か、栞奈ちゃん……! 何が入ってるのこれ……!」


栞奈「漬物石」


マリ「え……!?」

みこと「……!?」


栞奈「あ、嘘だよウソ。教材が入ってるんだよね」

マリ「なんで!?」

栞奈「いやー、試験でちょっと力不足感じちゃってさ」

結月「デネブの中でも勉強するんですか」

栞奈「まぁ、出来ることはやろうと思ってね。大丈夫、みことちゃん?」

みこと「はぁっ……はぁっっ」

マリ「戻って来たんだね」

栞奈「色々と、取り残したものがあるからね」

結月「栞奈さん、これ」

栞奈「……? なにそれ?」

結月「電話番号です」

栞奈「え!? 結月ちゃんとのホットライン……!?」

結月「違います。あの人の番号です」

栞奈「え――?」

マリ「ん?」

みこと「あの人って……はぁふぅ」

栞奈「……」ピッピップ

結月「あ……! 違います! 今じゃなくて最終駅で――」

trrrrrrrrr

プツッ

『はい』

栞奈「もしもし、白石結月です」

『バカじゃないのか?』

栞奈「そんな、ひどいです大村さん」

『いまって、東京だよな……?』

栞奈「そうですけど」

『なんで電話してんだよ? 最終駅でって伝えたはずだけど??』

栞奈「なによ、今電話したら不服だって言うの?」

『いや……声聞けて……嬉しかったけどさ……』

栞奈「え――ッ!?」ボフッ


マリ「あ、真っ赤」

みこと「うん」

結月「……」
514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:32:06.50 ID:wQFDgRACo


栞奈「ば、バカ! 変なこと言わないでよ!」

『それより、試験はどうしたんだ?』

栞奈「ちゃ……ちゃんと受けてきたよ……」

『そっか……』

栞奈「私、試験も受けて、デネブで最後まで行くことにしたから」


マリ「……」


栞奈「どっちかを選べ、なんて言われてないから……どっちも選ぶんだよ」

『そうか。そうするのが栞奈らしいなって思うよ』

栞奈「そう……かな?」

『あぁ』

栞奈「私が東京に戻って来るって思ってたんだ?」

『賭け、みたいなものだったけどな――……って、ごめん、切るわ』

栞奈「え?」

『大村ァァアアアア!!』

『は、はい!』

『お前、なに女と話なんかしてんだよ! アァ!?」

『す、すいません』

栞奈「もしかして練習中?」

『そうなんだよ。だから、後で……っていうか、最終駅でな』

栞奈「なんかごめんね、忙しいところに……」

『いや、いいよ。じゃあ、頑張ろうな、栞奈』

栞奈「うん、頑張ろうね、一輝」

『感動させるから、甲子園で』

栞奈「――期待してる」

『大村ァ! グランド10周走ってこい!!』

『はい!』

プツッ

栞奈「……いまの声……報瀬に似てるって言う……マネージャーかな」


マリ「……」

みこと「……」

結月「どうでしたか?」

栞奈「えっ、どうって言われても……!?」

みこと「動揺してる」

栞奈「し、してないですぅ」

マリ「ふぅん」

栞奈「ごほん。私はね、月の裏側にワームホールがあると思ってるんだよ」

結月「なにを言い出すんですか」
515 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:34:00.25 ID:wQFDgRACo

マリ「わーむほーる?」

みこと「宇宙のどこかにあって、そこを通るとどれだけ離れても一瞬で移動できる」

マリ「それが月の裏に? そんなのあるわけないよ〜。南極が20度超えるくらいありえない〜」

栞奈「そうだね……。ともかく、結月ちゃん、ありがとね」

結月「いえ……渡せてよかったです」

栞奈「でも、よかったの?」

結月「なにがです?」

栞奈「私に番号渡して……」

結月「なにを言い出すかと思えば……言っておきますけど、私、大村さんはタイプじゃないですから」

栞奈「プフッ、振られちゃった」

結月「栞奈さん、私が言うのもなんですけど、デリカシーがあまりにも」


「ない……! ない……!!」オロオロ


結月「あ……まだ探してる」

栞奈「あの子は何を探してるの?」

みこと「分からない」

マリ「あ……」

結月「どうしたんです?」

マリ「それじゃない? 自販機のとこに落ちてる」

栞奈「財布……結構入ってるっぽいね」

結月「見つかって良かったですね」

マリ「うん、みこっちゃん」

みこと「渡してくる」

テッテッテ


「まずい……アレが無いと私……!」オロオロ


みこと「あの……」


「え?」


みこと「これ落ちてました」


「財布……?」


みこと「どうぞ」


「あ、うん……。うわ、かなり分厚い」


みこと「?」


「ごくり……」

「ゴクリ……じゃないずら」

「ひゃっ、ずら丸!」
516 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:36:21.25 ID:wQFDgRACo

「ジー……」

「な、なによ」

「善子ちゃん、ひょっとして……ネコバ」

善子「するわけないでしょ!」


みこと「……?」


善子「コホン。私のじゃないわよ、これ」

みこと「え?」


マリ「持ち主じゃないみたいだね」

栞奈「おぉー……ブルジョワー」

結月「財布は駅員さんに渡しましょうか……持ち主は困ってるでしょうし」


みこと「じゃあ誰の……?」

善子「さぁ? 知らないわ」

「あ、ちょうど駅員さんが来たずら」


駅員「ここを通ったんですね?」

男性「はい……」


みこと「あの、駅員さん」


駅員「すいません、今取り込んでいまして……他の――」

男性「あ、それ!」


みこと「そこの……自動販売機の下に落ちて……」


男性「私のです!」


駅員「中身を確認してもよろしいですか?」

男性「はい。免許証が入っていますので、お願いします」

駅員「それでは失礼します」


マリ「見つかって良かったね」

結月「ですね」

栞奈「それで、君たちはなにを探していたのかね?」


善子「え? 私たち?」

「?」


栞奈「何か探していたのではないかね?」


善子「あ! そうだった!!」

「なにを落としたの、善子ちゃん」

善子「天界から堕ちたのは私、ヨハネよ」キラン

「落とした本人に余裕があるみたいなので、気にしないでください」ニコニコ


栞奈「そう?」

517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:38:28.51 ID:wQFDgRACo

駅員「それでは、私はこれで」

男性「ありがとうございました」

みこと「……私もこれで」

男性「あ、待って……お礼をしたいんだけど」

みこと「ううん、いいです」

男性「そうはいかないよ。この財布を失っていたら私は大変なことになっていたんだ」

みこと「でも……」


マリ「お礼ってなんだろ?」

結月「そんなこと言ってないで、助けてあげてください」


善子「あなたの胸元にある白鳥のバッチ、それと同じものを探してるのよ」

「善子ちゃん、乗車証を落としちゃったの!?」

善子「だから焦ってるのよ! 一緒に探しなさいよずら丸!」

「わ、わかったずら!」

栞奈「どれ、私も探してしんぜよう」

善子「え?」

栞奈「私もこの列車に乗るんじゃよ。いや、乗ってたんじゃよ?」

善子「どういうこと……というかなんのキャラ?」


男性「君たち、デネブに乗るんだね。じゃあ、6枚でいいかな」

みこと「……?」

マリ「なにかな?」

男性「札幌にあるホテルのレストランお食事券。大通公園を見渡せる場所にあるんだよ」

マリ「おぉー……」

結月「有名なホテルですよ、ここ。値段も結構します……」


栞奈「なるほど、車掌さんに受け取った後、個室に入って、その後持っていないことに気付いたと」

善子「そうなのよ」

栞奈「列車の中は探したんだね?」

善子「そうよ」

栞奈「と、いうことは……ふむ、なるほどね。分かったよ」

善子「分かったの!? 私はどこに落としたの!?」

「なんだか、探偵さんみたいずら〜」

栞奈「迷宮入りだ」

善子「……はい?」

栞奈「お手上げってことだよ、フッ」

善子「役に立たない頭使うくらいなら探しなさいよ! この迷探偵!!」


男性「私はここのオーナーだから。気にしないで欲しい。
   この財布の中にはお金より、カードよりも大事な物が入っていたんだ」

みこと「……」
518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:40:20.84 ID:wQFDgRACo

男性「だからとても助かった。その気持ちだよ、受け取って欲しい」

みこと「……キマリさん」

マリ「せっかくだから、受け取ってもいいんじゃないかな」

みこと「……うん」

男性「良かった。君たちには最高のもてなしをさせてもらうよ」

栞奈「え、私も!? 超ラッキー♪」

善子「あれ、私たちも数に入ってる?」

「そうみたいずら」

結月「あ、私は行かないので、5枚で……」

男性「そう? じゃあ、はい」

マリ「あ、あの……! 私も行かないので……!」

みこと「……」

男性「じゃあ、4枚だね」

善子「あ、もう一人いるので5枚で!」

「善子ちゃん、ルビィちゃんの分って解ってるけど、結構図々しいと思う……!」

男性「5枚でいい?」

栞奈善子「「 はい 」」

みこと「……」

結月「ほぼ関係のない二人が頷きましたね……」

男性「本当にありがとう、それじゃ、娘と共に札幌で待ってるよ」

スタスタ...

栞奈善子「「 ありがとうございます!! 」」

マリ「仲良くなるの早いね」

栞奈「これが高級ホテルのお食事券……!」

善子「わ、私たちが行ってもいいの……!?」

マリ「どう、みこっちゃん」

みこと「……うん」

結月「みこと……?」


「善子ちゃん、マル達は札幌まで行かないずら」

善子「そ、そうだった……!」

栞奈「どこまで行くの?」

「函館で友達が待ってるから、そこまでです」

善子「なんか良さそうなホテルの食事券……行きたい……!」

栞奈「君たち、名前は?」

「国木田花丸、といいます。よろしくお願いしますずら」

善子「堕天使ヨハネ」ビシッ

花丸「こっちは、津島善子ちゃんです」

栞奈「私は、ベルゼブブ。この世に混沌をもたらす者」バーン

善子「ぐっ、なんかランクが上がったような……!」

花丸「善子ちゃんと息が合ってるずら」
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:42:45.07 ID:wQFDgRACo


みこと「キマリさん、行かないの?」

マリ「……うん」

みこと「…………」

マリ「黙っててごめんね。中々言い出せなくて……」


結月「言ってなかったんですか……」

栞奈「……」

善子「天を追放された私だけど、ハエなんかに――」

花丸「善子ちゃん、ちょっと待つずら」

善子「?」


みこと「行かないって、決めてたの……?」

マリ「うん……」

みこと「いつから……?」

マリ「京都から……?」

みこと「……そう……なんだ」

マリ「みこっちゃんが、一人で映画村に行くって言った時、期待してる顔してた」

みこと「……?」

マリ「ワクワクするようなドキドキするような、そんな顔」

みこと「でも、何もなかった」

マリ「本当に? 本当に何もなかった?」

みこと「……うん。なにか印象に残るモノもなかったよ?」

マリ「一人でバスに乗って行ったよね。それは何もなかったってことになる?」

みこと「ううん、初めて乗るバスだから行先があってるのかどうか不安だった」

マリ「きっとね、みこっちゃんが動いたから、その事実が大切なんだよ」

みこと「……」

マリ「期待を超える何かがあっても、無くても、みこっちゃんが行動したことに意味があるんだよ」

みこと「……」

マリ「楽しくても、嫌なことがあっても、それはみこっちゃんだけが経験できたことだから」

みこと「……」

マリ「だからね、この先……私がいなくても、きっとみこっちゃんにとって意味があるんだよ」

みこと「楽しくないって思っても?」

マリ「もちろん!」

みこと「……」

マリ「楽しくないなんてことはないけどね、絶対!」

みこと「……うん」


車掌「……」

「……」
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:45:20.30 ID:wQFDgRACo


マリ「本当は行きたいよ。最後まで行ってみたい」

みこと「……」

マリ「だけどね、みこっちゃんを心配してる気持ちが大きいから、それはなんか違うって思うんだよ」

みこと「違う……?」

マリ「みこっちゃんのように、ワクワクドキドキする気持ちじゃないから」

みこと「……」

マリ「きっと、みこっちゃんの旅に私はもう必要ないんだ」

みこと「そんなことない……!」

マリ「あ……」

みこと「だって、キマリさんが居たからこんな気持ちになれた……!」

マリ「……」

みこと「楽しいだけじゃなくて色々教えてもらったから……もう少し続けたいって思えた……!」

マリ「みこっちゃん……」

みこと「だから……だから……!」

マリ「えへへ、ありがとう」

ぎゅうう

みこと「だから……もう少し一緒に居たい……っ」ボロボロ

マリ「ありがとね、そう思っててくれて」

みこと「おねがい……キマリさん……」ボロボロ

マリ「ううん、私はここで降りるよ」

みこと「……っ」

マリ「旅を続けて」

みこと「……グスッ」

マリ「いい旅を、続けて」



車掌「……」

「……」



マリ「みこっちゃんの旅がここから、ここから始まるんだ」

みこと「……」

マリ「大丈夫だよ、栞奈ちゃんもいるし、新しい旅仲間もいるんだから」

みこと「……?」


栞奈「うん、私たちに任せなさいっ」グスッ

善子「……私たち……?」

花丸「……」
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:46:53.82 ID:wQFDgRACo

マリ「鶴見琴ちゃん、始発駅から一緒にここまで来ました。よろしくお願いします!」

みこと「……っ」


花丸「よろしくお願いします」ペコリ

善子「えっと……」オロオロ

栞奈「君たち可愛いね、歳いくつ?」

花丸「高校2年生です」ニコニコ


結月「……」


マリ「これ、私の乗車証」スッ

善子「え、いいの?」

マリ「うん!」

善子「あ……ありがとう」


マリ「そうだ、記念撮影しよう! 日向ちゃんと報瀬ちゃんに教えたい!」

栞奈「オッケー!」


車掌「撮りましょうか?」

マリ「あ、車掌さん、お願いします!」

善子「あの、この乗車証……」

車掌「ふふ、構いませんよ。大事にしてくださいね」

善子「は、はい……」

花丸「ま、マルたちもいいずら……?」

栞奈「かまへんかまへん」

結月「栞奈さんは一体どういうキャラなんですか……」

みこと「……」

マリ「ほら、みこっちゃん、笑って〜♪」


「あの、車掌さん、私が撮りましょうか?」


みこと「あ……」

結月「あれ……?」


車掌「よろしいのですか?」

「えぇ、構いませんよ。一緒に写った方が記念になると思いますから」

車掌「みなさん、私も一緒で」

マリ「もちろんです! お願いします!」

車掌「それでは、お願いします」

「はい……。えっと、ここを押せばいいのかしら?」

マリ「あ、そっちは録画なので……こっちを」

「わかったわ」
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:50:29.78 ID:wQFDgRACo

善子「フフ、大いなる旅路の始まりに相応しい瞬間を残すわよ」ビシッ

栞奈「じゃあ、私はヨハンナと対になる感じで」ビシッ

善子「ヨハネよ、間違えないで」

花丸「えっと、えっと……」オロオロ

結月「こっちに」

花丸「は、はい……なんか焦ってしまって」アセアセ

結月「いきなり巻き込んですいません……」

車掌「……」

マリ「はい、準備オッケーです」

みこと「…………」


「琴……」


マリ「ハイ、東京!」

みこと「……」


「後悔のないように、ね」


みこと「……――!」


栞奈「ちょっといいかな、キマリ? その東京ってなにさ」

マリ「撮影の合図」

栞奈「もうちょっと、こう……他にないかい?」

マリ「今まで地名でやってきたんだよ?」

栞奈「そうかもしれないけどさぁ」

車掌「あのお楽しみのところ悪いのですが、そろそろ出発になりますので」

結月「掛け声はなんでもいいですから、早く撮ってもらいましょう」

善子「不死鳥フェニックス、ってのはどう?」

栞奈「長い」

善子「そ、そう」

花丸「ミューズはどうずら?」

栞奈「うーん、石鹸かぁ」

花丸「違うずら。9人の女神様ずら〜」

栞奈「よし、採用」

マリ「あれ、なんか私のアイデンティティが……」

結月「待たせてしまってすいません、お願いします!」


「撮りますよ、ハイ、チーズ」


栞奈花丸「「 ミューズ! 」」

車掌「……」

善子「蛇王炎刹黒龍覇!」

マリ「南極!!」

結月「なんて統一感のない人たち……」

みこと「ふふっ」
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:52:17.20 ID:wQFDgRACo


パシャ


栞奈「ちょっと、なんで合わせないの!?」

マリ「それはこっちの台詞だよ、なんで合わせないの!」

結月「南極は無理があります……」

花丸「あぁ……勢いに任せて……なんだか恥ずかしいずら……」ポッ

善子「私は何物にも縛られない。それが堕天使ヨハネよ!」

結月「それより、キマリさん」

マリ「あ、そうだった。ありがとうございます」

「いえ……。こちらこそ」

マリ「……?」


みこと「あの、お母さん」

「……どこまで行くか決めてるの?」


マリ「お母さん?」

結月「みことのお母さんです。鶴見さとみさん」

マリ「ゑえぇぇえええ!?」

栞奈「綺麗な人だな……みことちゃんのお姉さんでも通じるね」

花丸「鶴見……さとみ……? もしかして、千歳さとみさん? あの恋愛小説がドラマ化した……!」

善子「有名なの?」

花丸「とっても……とぉっっても有名ずら!
    読みやすいからって善子ちゃんに勧めた探偵シリーズの作者ずら!」

善子「ふぅん……」

花丸「曜ちゃんに教えないとっ」

栞奈「花丸ちゃん、凄い興奮してるね」

善子「本の虫だからね、この子」


みこと「最後まで……行きたい」

さとみ「……わかった」

みこと「いいの?」

さとみ「駄目って言ったら、行かないの?」

みこと「……ううん」

さとみ「一つだけ、教えて」

みこと「……なに?」

さとみ「どうして、旅を続けようと思ったの?」

みこと「それは……」

さとみ「……」

みこと「この列車に、乗ったから……かな」

さとみ「ふふっ」

みこと「?」

さとみ「やっぱり、親子なのね」ナデナデ

みこと「え……?」
524 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:53:26.65 ID:wQFDgRACo

さとみ「私も昔、同じことを言ったのよ。20年前に走ったヴェガに乗ってね」

みこと「え……!?」


マリ「……!」

結月「そうだったんですか……」


栞奈「うちの母さんもヴェガに乗ってたんだって。飯山みらいと友達ってのは本当みたいだよ」

結月「そうだったんですか……!?」


さとみ「行ってらっしゃい」

みこと「うん……行ってきます……」


マリ「引き返せるうちは旅ではない。
   引き返せなくなった時に初めてそれは旅になるのだ」

みこと「……!」

結月「名言っぽいですね……誰の言葉なんですか?」

マリ「私……!」

結月「本当ですか?」ジー

マリ「も、モチロン」

結月「嘘ですね?」


車掌「それでは皆様、時間となりますので乗り遅れに注意してください」


マリ「車掌さん」


車掌「はい」


マリ「長い間ありがとうございました」


車掌「当特急デネブへのご乗車誠にありがとうございました」


マリ「とても楽しかったです」


車掌「そう言っていただけてなによりです。どうか、お気をつけてお帰りください」


マリ「はい!」


車掌「……」スッ


マリ「……」ペコリ


車掌「……」

スタスタ...


マリ「…………」

525 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:55:27.53 ID:wQFDgRACo

栞奈「さて、乗り込みますか」


結月「栞奈さん、お元気で」


栞奈「うん、またどこかで、必ず会おうね」


結月「はい、その時を待ってますね」


栞奈「みんなに逢えてよかったよ、ありがとう」


結月「こちらこそ、ですよ」


栞奈「あ、そうだ……キマリに言いたいことがあったんだ」


マリ「?」


栞奈「私さ、デネブに乗ってる間はずっと楽しくて……つまらないことばっかり言ってた」


マリ「……」


栞奈「そんな私にも付き合ってくれたみんなが嬉しくてさ、楽しくてしょうがなかったよ」


マリ「うん、私も」


栞奈「広島で、乗車する前……私の重い鞄持ってくれたでしょ。その時から予感はあったんだよね」


マリ「……」


栞奈「絶対に楽しい旅になるって」


マリ「うん」


栞奈「その予感は的中したよ。ラッキーだね!」


マリ「ここからはどう?」


栞奈「うーん、どうだろうね〜」


善子「この魔晄列車の旅は魔道と呼ばれし険しき道よ。
   私と契約を交わしリトルデーモンになるなら、私が守護してあげる!」ビシッ

花丸「友達になって欲しいと言ってるずら〜」

善子「ちょっ、何言ってるのよずら丸!」


栞奈「サチコちゃんも楽しい子だし、退屈はしなさそうだね」

善子「善子よ! ……じゃなくて、ヨハネよ! 堕天使ヨハネ!!」

pipipipi

花丸「わ、ルビィちゃんから電話。……はい、もしもし、マルずら〜」


結月「本当に、退屈はしなさそうですね」

マリ「うん、本当に……」

526 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:56:24.36 ID:wQFDgRACo

「おーい、キマリさーん!」


マリ「あ、綾乃ちゃん! お仕事頑張ってねー!!」ブンブン


「元気でね〜! さよーならー!」


マリ「バイバーイ、またねー!!」


栞奈「小さい子たちの日常の別れみたいだね」


みこと「キマリさん」


マリ「残り、まだまだ遠いけど、気を付けてね」


みこと「……うん」


マリ「日常に戻っても、きっと忘れないよ」


みこと「……うんっ」


マリ「体には気を付けてね!」


みこと「あのっ」


マリ「……?」


みこと「またっ……いっしょに……っ……遠い……どこかに……っ」


マリ「……うん」


みこと「いっしょに……っ……行って……くれますか……っ?」グスッ


マリ「うん、行こう!」


みこと「……っっ」ボロボロ


マリ「遠いどこかじゃない、南極に!」


みこと「……ッ!」ゴシゴシ


マリ「みこっちゃんの知らない世界が、そこにあるんだよ!」


みこと「うん……!」

527 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:57:14.48 ID:wQFDgRACo

prrrrrrrrr



さとみ「行ってらっしゃい」


みこと「行ってきます」グスッ



結月「また、ね」


みこと「うん! ありがとう、結月さん」



マリ「また、5人で旅をしよう、みこっちゃん!」


みこと「うん……必ず……!」


栞奈「それじゃっ!」

善子「乗車証、ありがと……!」

花丸「善子ちゃんがお世話になりました」ペコリ

みこと「バイバイ、キマリさん、結月さん」


結月「また逢う日まで――」

マリ「さようなら、みこっちゃん」


プシュー


ガタン


 ゴトン


ガタン ゴトン

 ガタンゴトン



マリ「……」

結月「……」



ガタン

 ゴトン
528 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 00:59:14.87 ID:wQFDgRACo

ガタン

 ゴトン


マリ「……行っちゃった」

結月「行っちゃいましたね」


さとみ「娘のこと、ありがとう」


マリ「いえ、こちらこそです」

結月「そうです。私たちも一緒で楽しかったですから」


さとみ「ありがとう。……それじゃ」

スタスタ...


マリ「……」

結月「ふぅ……まさかお母さんが来るとは」

マリ「あ、しまった」

結月「どうしたんですか?」

マリ「サイン貰えばよかった!」

結月「またそれですか」

マリ「えー、だってー……」

結月「それより、これからどうするんです?」

マリ「うん、帰る!」

結月「まぁ、そうですよね」

マリ「結月ちゃんは?」

結月「一度、実家に帰ります。宿題とかいろいろありますから」

マリ「ヘーソウナンダー」

結月「まだ夏休みですから、平気ですよね、キマリさんの宿題」

マリ「うん」

結月「即答なのが気になりますけど……」

マリ「……」

結月「……」

マリ「楽しかったね」

結月「はい」

マリ「デネブちゃんを見送る気持ちって、変な気分だね」

結月「寂しいですか?」

マリ「うん……寂しい。ずっと一緒に居た旅仲間だからね」

結月「ですね」

マリ「じゃあ、帰ろうか」
529 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 01:00:24.48 ID:wQFDgRACo

結月「ここでお別れ、ですね」

マリ「うん。じゃあ、また連絡するね」

結月「あの……キマリさん」

マリ「うん?」

結月「前にも言いましたけど、やっぱり難しいと思うんです」

マリ「なにが?」

結月「南極が、です」

マリ「……」

結月「あれから半年経ちましたけど、私だけあまり進んでいないって言うか」

マリ「私と報瀬ちゃんも、最初そうだったんだよ」

結月「へ?」

マリ「無理だって言われて、影で笑われて。
   それでも、私たちは――……ううん、報瀬ちゃんは諦めなかった」

結月「――そうでしたね」

マリ「だから、大丈夫だよ」

結月「……はい」

マリ「おっと、時間が無いや。荷物取ってこなくちゃ」

結月「それじゃ、またですね、キマリさん」

マリ「うん、またね、結月ちゃん!」

テッテッテ



結月「ふぅ……」


結月「あぁ……終わってしまった……」


結月「もう少し、あのまま時間が止まってくれたらよかったのに」


pipipi


結月「……?」


結月「あ……さっきの……」


結月「……」


――――


キマリ ― みんなで撮った最後の写真だよ!


報瀬 ―― 知らない二人が居る。

日向 ―― というか、栞奈戻ってきてたのかよ! やっぱりな!


――――


結月「……ふふ」
530 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 01:01:14.34 ID:wQFDgRACo

――――


ゆづ ―― 月が見えますね。


日向 ―― ほんとうだ、こっちからでも見えた。

報瀬 ―― なんか綺麗。

キマリ ― みんなどこから見てるの?

ゆづ ―― 東京駅のホームから。

日向 ―― バイト先から。

報瀬 ―― 家の庭から。

キマリ ― コインロッカーから。

日向 ―― 一人だけ浪漫の欠片も無い奴がいる。

キマリ ― 日向ちゃん……。

日向 ―― お前だ!

ゆづ ―― 日向さんもじゃないですか?

報瀬 ―― 日向もでしょ。

日向 ―― いやいや、ゴミ出しをしながら見てるんだよ。キマリよりはある。


――――


結月「大丈夫、ですよね」


……


531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 01:14:04.53 ID:wQFDgRACo


帰りの電車の中。


「……」


タタンタタン

 タタンタタン


「……」



少女は空を見ていた。

沈みゆく太陽が空に光を残すのを見ていた。


夜との境に月が佇む。


「……」


少女は月を眺める。


今までの旅の記憶を思い出しながら。


「……」


次第に薄れゆく意識の中で。

旅を続けている年下の子を想いながら。

疲れを電車の揺れに乗せて眠りに就いた。



「お姉ちゃん」


「……ふへ?」


「着いたよ、起きて! 急いで降りないと!」


「あ、うん! あわわわわ!」



到着した電車のドアから荷物を抱えて飛び降りた少女たち。



「やっぱり寝てた」


「ありがとう、リン。なんか気持ちがふわふわしちゃってて」



夜の風が二人を通り過ぎていく。



「おかえり、お姉ちゃん」


「うん、ただいま!」


532 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 01:15:22.17 ID:wQFDgRACo


少女たちは荷物を引いて並んで歩きだした。



「1週間とちょっと、家を留守にしてたんだね」


「たった数日なのに、ね」



少しだけの懐かしさを感じながら歩いて行く。



「お腹空いたでしょ?」


「うん、もうペコペコ」


「お姉ちゃん、喜ぶよ、きっと」


「やった! タマゴパラダイス!」



いつも見ていた風景の中に見慣れた形が見えてくる。



「はい、お家に到着」


「おぉ、懐かしの我が家〜♪」



玄関の扉を開けて。

大きな声で帰りを伝える。



「ただいま〜!」


「おかえり〜」



母親の声を聞いた。

それは少女の旅が終わりを告げた時だった。



end

533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 22:36:18.75 ID:wQFDgRACo


…………

……



534 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 22:48:04.34 ID:wQFDgRACo


ウミネコが鳴く港で、一つの影が揺らめいている。

船を見上げるその顔は懐かしさを浮かべていた。



「あれから3年も経ったんだよね……あ、違うか……前に乗ったのは4年前だ」



「おーい、キマリ〜!」


マリ「あ、日向ちゃん!」


日向「お〜、ひっさしぶり〜!!」


マリ「本当、すっごい久ぶり……だよね……」


日向「だな……。なのに……」


マリ日向「「 久しぶりって感じがしないね(な)…… 」」


日向「キマリたちが高校卒業して以来だろ? 2年近く会ってないのにな」

マリ「ね。なんでだろ?」

日向「まぁ、携帯電話で繋がってたからな。連絡はしてたし」

マリ「そだね」

日向「キマリ、海外にも派遣されてたんだろ? 見れば分かるけど、大丈夫だったか?」

マリ「うん! 地元の人たちとも交流あって……こう言っちゃなんだけど、嬉しかったよ」

日向「ふぅん……見た目もけっこうしっかりしてきたな」

マリ「そうかな? でも、鍛えてるからね! イエス、アマゾネス!!」

日向「なんだそれ、流行ってるのか?」

マリ「ううん、別に。ただなんとなく言ってみただけ」

日向「みんな結構心配してたんだけど、まぁ、元気そうでなによりだ」

マリ「日向ちゃん、大学の研究室に入ったんだよね」

日向「そうそう。南極を研究してるとこ」

マリ「研究テーマが南極?」

日向「そうだぞ。この船に乗せて貰えるだけ有難いよ。報瀬様様だ」

マリ「ということは、報瀬ちゃんとは会ってたんだ?」

日向「そんな頻繁にって訳でもないけどな。みんな忙しかったし」ニヒヒ

マリ「えへへ、そうだよね」

日向「前に会ったのが交流会した時の、1ヶ月前くらいだな。
    ゆづと他の出演者にも会ったよ」

マリ「えっ、本当に!?」

日向「うん。そのときの報瀬は、見習い副隊長として」

マリ「おぉ〜、報瀬ちゃん凄い!」

日向「あいつは人を引っ張る力があるからなぁ」

マリ「結月ちゃんと他の出演者もいたんだね、行きたかったな〜」

日向「出演者は一人除いてだな。飯山みらいさんのサインもゲットした!」

マリ「ウソ!? いいなぁ〜!」
535 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 22:50:23.34 ID:wQFDgRACo

日向「あとで見せてやるよ」ニヒヒ

マリ「いいよ、自分で貰うから。サイン色紙用意してるんだ。5人分!」

日向「いや、ゆづのまで貰う気かよ」

マリ「当然!」


「えーっ、ハリウッドで撮影なんじゃないのー!?」

「逢坂さん、ここまで来て何を……」


日向「お、噂をすれば」

マリ「えーっと、今回の映画の出演者だよね」

日向「そうだよ。名前は確か……」


「私、ゆかりちゃんや監督にハリウッド行ってきますって言っちゃったよ!?」

「それは、話を全然聞いていなかったあなたの問題で、私に言われても――……あ」


マリ「あ、テレビで見たことある……!」

日向「それはそうだろう」


「ちょっと、マネージャーに話を聞いてくる……!」

「私はあの方たちに挨拶をしてくるので、ご自由に」

スタスタ...


マリ「こ、こっち来る……!」

日向「なに緊張してるんだよ」

マリ「い、いやだって有名人だよ……!?」

日向「それはそうだけど」


「こんにちは、日向さん」


日向「こ、こんにちは」

マリ「日向ちゃんも緊張してるじゃん!」

日向「うるさいな!」


「大きい船ですね……。これに乗って南極まで……」


日向「まぁ、乗ってから分かります。南極へ行くための大きさだと」

マリ「うん、久しぶりに見ても、やっぱり大きい……!」


「えっと、玉木マリさん……でしたよね?」


マリ「は、はい。玉木マリ……です」


「玉木さんは初めましてですね。日向さんとは顔合わせの時にお会いしていました」


マリ「ひ、日向ちゃん、芸能人と知り合いだったなんて……!」

日向「いや、お前もだろ。というか、挨拶されてるんだから返せよな」

マリ「あ、そうだね。は、初めまして。玉木マリといいます。
   えっと……キマリって呼んでください」
536 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/03/05(木) 22:51:59.96 ID:wQFDgRACo


「ふふ、話に聞いていた通りですね」


マリ「話?」


「えぇ、白石結月さんから」


マリ「結月ちゃんとも顔見知りだったんですね」


「そうです。子役時代からの……」


日向「今回の映画で数年ぶりの共演ってことで話題になってますね〜」


「その話題だけで終わらないよう、作品として完成度を高めるため努力は怠らないつもりです。
 よろしくお願いします」


マリ「こ、こちらこそよろしくお願いします」

日向「と言っても、私たちは見てるだけなんですけどね……」


「それで……小淵沢さんは一緒では?」


マリ「報瀬ちゃんならもう乗ってますよ。なんてったって副隊長ですからね」エッヘン

日向「なんでキマリが偉そうなんだよ」


「それなら、挨拶はあとでいいわね……」


「おはようございます。逢坂ここです♪」


マリ「おぉ、いきなりだ」

日向「ど、どうも」


ここ「これから南極までよろしくお願いしまーす♪」


日向「……」

マリ「日向ちゃん役ですよね! 知ってます!!」


ここ「私ってそんなに有名〜? ちょっと照れちゃいますね〜♪ 慣れてますけど♪」


日向「私、こんなか?」

マリ「違うけど……撮影始まったらちゃんと日向ちゃんになるよ」

日向「うーん、自分で言うのもなんだけど、イメージが違う気がするんだよなぁ」


「逢坂さん、話は済んだのですか?」

ここ「うん! まぁ、ハリウッドと南極、あんまり変わらないよね」

「結構違うと思いますけど……まぁいいです。自己紹介が遅れました。
 私、白鷺千聖と申します。改めてよろしくお願いします」


マリ「は、はい。玉木マリといいます。よろしくお願いします」

日向「なんで2回言うんだよ」
537 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 22:54:33.53 ID:wQFDgRACo

マリ「逢坂さんの試合見ました!
   野球あんまり分からないけど女子が活躍できるなんてすごいって思いました!」


ここ「……ありがとうございます」


マリ「あれ……私、変なこと言った?」

日向「わ、分からん……」


ここ「私の活躍が目立ったのは事実ですけど、あの場所へ行ったのは努力の成果であって、
   男女の違いは関係ないと思います」


マリ「……はい」


千聖「ふふ。結果を出すには努力をすることは当たり前。
    だけど、普遍的な努力では到底辿り着けない場所は必ずある。そういうことですね」

ここ「分かってるじゃない千聖ちゃん♪
   私たちが他の高校と違うのは、練習内容と楽しく過ごした時間だけなんだから」

千聖「あの、会ってそう時間は経っていないのだから名前で呼ばれるのは」

ここ「それじゃ、私はスタッフさん達に挨拶してくる。また後でね〜♪」

テッテッテ

千聖「……ハァ。……アヤちゃんとヒナちゃんを足して割ったような人ね」


マリ「なんか、本物って感じ……」


千聖「私も見ましたが、あの場所に立つという結果は並々ならぬ努力の賜物でしょう」


日向「確かに……」


千聖「そういう人と共演できる幸運に感謝しています。この話の流れでお聞きしたいのですが」


マリ「……?」


千聖「小淵沢報瀬さんの役として私にオファーがあったのですが、誰の意図でしょうか?」


マリ「ん?」

日向「私たちはそういうことに疎くて……分からないですね?」


千聖「そうですか……。何はともあれ、
   先ほども言いましたが今作の完成度を高める気持ちは皆さんと一緒です。
   何卒、ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」


マリ「い、いえいえ! 私たちも……4年前の南極探検隊が小説になって実写化されるとは思いもしなかったので」

日向「演技のことは難しいですけど、他に出来ることなら目一杯協力しますので!」


千聖「そう言ってくださると心強いです。それでは、私も他の方に挨拶へ行ってきますので、これで」


マリ「はい、また後で〜」

日向「……確か、アイドルをやってたんだよな。バンドやってたとか」

マリ「演奏、聞きたいな〜」

日向「まぁ、余興とかで歌ってくれるかもな。望みは薄いけど」

マリ「そんなことないよ。宇宙から見たら音楽に国境線なんてないんだから」

日向「色々と混ざった壮大な名言だな」
538 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 22:58:03.94 ID:wQFDgRACo

マリ「は、しまった! サイン貰うの忘れてた!」

日向「またかよ! でも、確かに変な気持ちだな。小説になって実写化されるなんて」

マリ「実写化って変な響きだよね。私たちのことだからかな」

日向「事実を元にしたフィクションってやつだな。小説は読んだけど、どうなるのか楽しみだ」

マリ「あれ? 私の役って誰?」

日向「え?」

マリ「だから、私の役……玉木マリ役は誰なの?」

日向「なんで知らないんだよ?」

マリ「寮の生活は規則が厳しいんだよ〜。だから知らない情報とか多くて」

日向「自分を演じる人のことくらい知っておけよな」

マリ「日向ちゃん役は逢坂ここちゃんでしょ? 結月ちゃん役は結月ちゃんでしょ?」

日向「報瀬役は白鷺千聖さんで、吟隊長役は飯山みらいさん」



「……」

スタスタ...


マリ「報瀬ちゃんって、みこっちゃんじゃないの?」

日向「いや、みことは――って、噂をすれば」

マリ「?」

日向「後ろ、見てみ?」

マリ「……?」クルッ


「キマリさん、日向さん」


マリ「……あ」


「久しぶり」


マリ「あれ、、髪切った?」

「うん、前髪揃えた。あの時のキマリさんみたいに」

マリ「うーん? あんまり似合ってない?」

「え、そう?」


日向「おまえら、3年ぶりの再会にどうでもいい会話するなよな!」


マリ「あはは……。久しぶりだね、みこっちゃん」

日向「久しぶり〜」

みこと「うん……」

マリ「元気してた?」

みこと「うん、してた」

マリ「なんか、体が大きくなったような? 身長伸びた?」

みこと「うん、5センチくらい」

マリ「ほぇ〜!」
539 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 23:00:05.81 ID:wQFDgRACo

日向「なんで顔合わせの時、来なかったんだよ? 制作発表の時も居なかったな?」

みこと「やること一杯あったから。ここに来るために、しなきゃいけないことが」

日向「ふぅん。……まぁ、それで色々と話題になってるよな、今回の映画」

マリ「話題?」

日向「さっきの、野球娘、逢坂ここ。ゆづとの数年ぶりの共演、白鷺千聖。
   若手女優にして作者の娘、鶴見琴。ゆづと、飯山みらい。などなど」

マリ「ほぉ〜」

みこと「でも、出演者だけじゃないよ、スタッフの人たちも凄い人たちばかりで」

日向「そこはよく分からないんだけどな」

マリ「え!? 私の役ってみこっちゃん!?」

みこと「うん」

マリ「なんで!? 報瀬ちゃんじゃないの!?」

みこと「報瀬さん役は白鷺さんだよ?」

マリ「うん、さっき聞いた! なんで私!?」

みこと「他にイメージの合う人いなかったから?」

マリ「そうなんだ……。私、結構美人なんだね」

日向「自分のことよくそう言えるな……」

みこと「一番近くでキマリさんを見てて、一番近くでお母さんの小説が生まれるところを見てたから」

マリ「……」

みこと「ダメだった?」

マリ「ううん、むしろ光栄だよ」

みこと「……よかった」

日向「話を聞いてたら、キャスティングしたの、みことになるんだけど……そうなのか?」

みこと「うん、お母さんと考えたよ」

マリ「へぇ……」

みこと「色んな人にわがままいって迷惑かけたみたい」

日向「そうなのか……よく分からないけど」

みこと「さくらさんも、ちゃんと居たよね?」

マリ「あ、うん。さっき挨拶したよ」

日向「なんか、凄い人脈を持ってるような気がしてきた」

みこと「利用できることは全部利用した……この日の為に」


マリ「…………」


みこと「演劇部の部長さんも、劇団の人たちも。
    お母さんにお願いしてキマリさん達の旅を小説にしてもらった」

日向「うんうん、何度か取材に来て話したな」

マリ「何度も?」

日向「3回くらいかな」

マリ「なんで!? 私、1回だよ!」

日向「いや、キマリ……忙しそうだから……」

マリ「おかしいよ、まだサイン貰ってないのに!」

みこと「私が……キマリさんのこと、話してたから……かな」

マリ「うーん、なんか釈然としないような……」
540 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 23:02:10.14 ID:wQFDgRACo

日向「いいじゃないか。小説の中のキマリもちゃんとキマリしてたぞ。名前違うけど」

みこと「うん」

マリ「演劇部に入ってたの?」

みこと「うん……あの旅が終わってから」

マリ「どうして?」

みこと「どうしたら、また……キマリさん達と旅が出来るか……。
    南極へ一緒に行けるのか……東京を出発してから考え始めた」

日向「……」

みこと「考え出すと止まらなかった。
     お母さんの小説と、結月さんとの出会いを中心に物語が進み始めたから」

マリ「物語……?」

みこと「うん……。妄想……とも言えるけど……」

日向「でも、現実に、みことと一緒に、私たちはここにいる。南極に行ける」

みこと「うん……! 私、たくさん動いたよ。キマリさんに教えてもらったから」


マリ「…………」


みこと「東京で別れてから、デネブの旅が終わっても……私の旅は続いてた」


マリ「…………」


みこと「長かったけど……あっという間だった。だけど……ようやく辿り着いた」


マリ「……うん」


みこと「それが嬉しい」


マリ「分かる、分かるよ。報瀬ちゃんもそうだった」


みこと「……」


マリ「高校生という時間を、南極へ行くために費やしてたんだよ」


みこと「……うん。……取材で知ってる」


マリ「でもね、違うよ、みこっちゃん」


みこと「?」


マリ「ここはゴールじゃない。スタート地点だよ」


みこと「……」


マリ「まだ、旅は終わらないよ!」


日向「……だな」


みこと「――……」

541 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 23:03:57.43 ID:wQFDgRACo

マリ「そこで、みこっちゃんに、一つ課題を提示します!」


みこと「え?」


日向「懐かしいな。始発駅でもそんなこと言ってた」


マリ「この船に乗る人と仲良くなること! 出演者はもちろん、私たちとも!」


みこと「キマリさん達……?」


マリ「そうだよ。今回は私たち自衛隊も乗船するんだから――」


「玉木」


マリ「は、はい! 西住隊長!」ビシッ


西住「そろそろ時間だ。準備はいいか?」

マリ「はい、準備は出来ています!」

西住「ふむ、ならいい。……友人か?」

マリ「そうです! 前回の南極へ行った時の友人と、旅仲間です!」

西住「そうか……。出発まで時間はある。その時まで準備は怠らないようにな」

マリ「はい!」

西住「では」

スタスタ...


マリ「……ふぅ」


日向「おぉ……あの人が今回の……自衛隊の隊長さんか……」

みこと「……」

マリ「うぅ、西住隊長の前だといつも体が強張る……っ」ブルブル

日向「貫禄ある人だな……どういう人?」

マリ「西住隊長、戦車の腕は歴代を超えるんだっていう、凄い人。階級は中尉だよ」

日向「ふぅん。で、キマリの階級は?」

マリ「……少佐」

日向「なんでお前が上なんだよ!? 隊長さんに言うからな!」

マリ「ごめんなさい許して! 自衛隊はそういうの本ッッ当に厳しいんだから!!」


みこと「キマリさん、厳しい。いつも肝心なところで甘やかしてくれない」


マリ「みこっちゃんがどんな世界を切り開くのかって、思ったらね」

みこと「そのおかげで今の私があるよ。だから厳しいけど、とても優しい」

マリ「そっか……」

日向「全員と仲良くか……大変だな」

みこと「前回の課題は達成できてる?」

マリ「うん、とっくに!」
542 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 23:06:12.41 ID:wQFDgRACo

みこと「これ、覚えてる?」

日向「あー、あの記念バッチ……」

マリ「もちろん。私も持ってるよ。ただの記念じゃなくて、私たちの懸け橋になったね」

みこと「うん……鵲……」

日向「ご利益があったんだな〜」

みこと「……あの旅でも、最後まで行こうと思ったから……いまに繋がってる。
    凄いね……キマリさんに出会って、ここまで私の世界が変わるなんて」

マリ「ううん、私だけじゃない。日向ちゃんや報瀬ちゃん、結月ちゃん……。
   あの旅で出会った人、みこっちゃんがここまでに来る途中で出会った人すべてだよ」

みこと「……でも、一番最初に展望車から連れ出してくれたの、キマリさんだから」

日向「……」

マリ「……そこまで言ってくれると、ちょっと照れるね」

日向「キマリとみことを繋げたのって、あの人だよな」

みこと「?」

マリ「あ、うん。お兄さんだ」

みこと「……そうなの?」

マリ日向「「 うん 」」

みこと「あ……そう言ってた……展望車でみんなで寝た時」

マリ「あぁ、あったね! なんだか懐かしい!」

日向「まぁ、後で本人に聞くといい」

みこと「……!」

マリ「居るの?」

日向「あぁ、助監督だって」

マリみこと「「 そうなんだ……!? 」」

日向「いやいや、なんでみことまで知らないんだよ!」

みこと「お母さんそんなこと一言も言ってない……!」

日向「黙ってたんじゃないか?」ニヒヒ

マリ「あ〜、惜しい」

日向「なにが?」

マリ「あと、あの二人が居たらなぁって!」

日向「そう言うと思って、動画を持ってきました」

みこと「?」

日向「その顔だとみことも知らないんだな。甲子園の映像だよ。アイツ、カメラに映ってた」

マリ「見たい!」

日向「応援席で制服着て応援してたよ。お前、大学生だろ! って思わず突っ込んでしまった」

みこと「見たい見たい!」

日向「今はカメラ回ってないからキマリの真似しなくていいんだぞー」
543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 23:06:57.23 ID:wQFDgRACo


マリ「…………ん〜〜!」


みこと「札幌でもね、面白いことがあって――」

日向「待て待て、話は船の上で聞こうじゃないか。旅は長いんだから」

みこと「うん!」


マリ「楽しみ〜〜!!」


日向「どうした?」

みこと「どうしたの?」


マリ「まだ始まっていないのに、すでに楽しいから!
   この旅が楽しいものになるって実感してるんだよ!」


日向「分かる! 分かるぞ、それ!」

みこと「うん!」


ヴォーー!

 ヴォーー!!


マリ「船もそうだって、言ってる!」

日向「試運転か何かだろ! でも分かる!!」

みこと「うん!!」



マリ「行こう! 南極へ!」


マリ「私たちの旅を、また始めよう――!」


「「 おおーーッ! 」」


544 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2020/03/05(木) 23:07:41.38 ID:wQFDgRACo



腕を掲げて高揚感を隠し切れない三人の影が揺らめく。


その姿を船の上から二人の友人が眺めていた。


船はまた、南極へ向けた航海を始める。


列車から船へ。


また、旅へ――。






545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/03/05(木) 23:08:56.15 ID:wQFDgRACo

これで終わりです。
ここまで読んでくれた方、ありがとうございました。
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