川島瑞樹「ミュージック・アワー」

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39 : ◆u2ReYOnfZaUs [sage]:2018/08/01(水) 01:16:53.83 ID:Ai+XpKnp0
いえ……“もう”半年、ね。

瑞樹は知っていた。現場から一旦遠ざかれば、それはもう局にとっては、他人なのだと。
アナウンサーでありながらも、部外者のように扱われる人間は、存在する。
瑞樹の同期にも、いた。

ほんの些細なタイミングのずれで、跡形もなく消えてしまう。
アナウンサーだけでない。マスコミや芸能界でも……アイドルの世界でも。

どうして、自分はだいじょうぶだと……。

瑞樹はテレビ局から飛び出した。
プロジェクトが終わって、後に自分の居場所が戻ってくるだろうか。
否。決してもどりはしない。

瑞樹はテレビ局が、“エンターテイメント”のために自分を切り捨てたことを悟った。
30前のアナウンサー。人気がおとろえているのは自分でもわかっていた。
せいぜい有効に利用したかっただろう。

だからって、だからって……。

またアナウンサーとして一からはじめる?
嫌。
ペコペコ頭を下げて、脂ぎったいやらしい視線と指に我慢して、またあの場所に戻りたい?
絶対に、嫌。

忘れられるのは………。

瑞樹はほぼ無意識に、プロデューサーに電話した。

『おかけになった電話番号は……』

「ごめん、P君」

『はい、こちらP君です』

「忘れられないためには、どうしたらいい?」

瑞樹は単刀直入に尋ねた。答えがもらえないかもしれない、と覚悟していた。
だがプロデューサーは答えた。

『日本で……いえ、世界で一番可愛いひとになればいんですよ』

「美しい、ではなく?」

『表面的な美しさはいずれ無くなります。内面的な美しさは、すぐには伝わりません。
 ですが、“可愛い”はいつでもまっすぐ飛んでいきます。
 
 世界中の、どこにだって……誰にだって』

ルックスのことを言っているわけではない。瑞樹にもわかる。

「どうしたら可愛くなれるかしら」

『それ、は……うーん』

先ほどとは打って変わって、プロデューサーがしどろもどろになった。
瑞樹は、この男が何故アイドル達から信頼を得るのか、理解できた。

仕事ができる、なんてことじゃない。
このひとが時々みせる“隙”が、アイドルがやりたいことと、してあげたいこととおなじなんだわ。

「今度……いえ、すぐに、じっくり話し合いましょう」
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