【バンドリ安価】湊友希那「ロゼリアのレベルアップを計る」

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108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/31(金) 12:03:01.20 ID:atTWqqDZ0
>>107
oh...
申し訳ないです、ご指摘ありがとうございます
ちょっと吊ってきます(;´・ω・)
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/31(金) 12:05:18.19 ID:atTWqqDZ0

【木曜日】

――白金家 燐子の部屋――

燐子(竹細工……若宮さんと一緒に習って……まだちょっとだけ、だけど……)

燐子(竹ひごを編んで……曲げるだけで籠が作れたり……そういった細々した作業がすごく楽しい……)

燐子(竹ひごを曲げるためには……ちょっと力が必要で大変だけど……)

燐子(でも……昨日読んだ本には……竹細工のアクセサリーっていうのもあったから……ロゼリアでも和風の衣装を作るのもいいかも……)

燐子「……最初はどうなるんだろって思ったけど……やっぱり何事も挑戦してみるのが……大切なんだ」

スマホ<ピロリン

燐子「……あれ? 若宮さんからメッセージが……」

燐子「えっと……」

イヴ『おはようございます、燐子さん! お師匠からの連絡です! 今日は動きやすく、長袖長ズボンの格好で教室に来てほしい、とのことです!』

燐子「動きやすい格好……? 確かに……小さなものを作るのにも力がいるし……なにか大きいものでも作るのかな……」

燐子(とりあえず……若宮さんに返信しなくちゃ……)

燐子『分かりました。連絡ありがとうございます。今日もよろしくお願いしますね、若宮さん』

燐子「……動きやすい格好……何かあったかな……?」


……………………
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/31(金) 12:06:34.55 ID:atTWqqDZ0

――竹細工教室――

イヴ「おはようございます、リンコさん!」

燐子「うん……おはようございます、若宮さん……」

イヴ「今日はどんなことをするんでしょうね? 動きやすい格好、ということは、何か激しい竹細工に挑戦するんでしょうか?」

燐子「激しい竹細工……大きな竹を割ったり、等身大のミッシェルを作ったり……?」

イヴ「あ、竹で出来た大きなミッシェルさんは可愛いですね! ちょっと作ってみたいです!」

燐子「すごく大変そうだけど……それより、若宮さん……」

イヴ「はい?」

燐子「その……どうして忍び装束なんですか……?」

イヴ「動きやすい長袖長ズボンと言われたので、これがピッタリだと思ったんです!」

燐子「全身真っ黒の服だけど……暑くないんですか……?」

イヴ「実は少し……ですが、これも修行の内です! シントウメッキャクすれば火もまた涼し、の精神ですね!」

燐子(ちょっと違うと思うけど……若宮さんが楽しそうだし、いいのかな……?)

――ガラッ

お師匠「……おはようございます」ペコリ

イヴ「おはようございます、お師匠!」

燐子「お、おはようございます……」
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/31(金) 12:07:24.56 ID:atTWqqDZ0

イヴ「お師匠、言われた通り動きやすい格好で来ました!」

お師匠「……忍者スタイル……」

イヴ「はい! ブシドーを極めるためには、影に暗躍するニンジャのことも知らなくてはいけませんから!」

燐子「そう、かな……?」

イヴ「ところで、どうして動きやすい格好なんですか? やはり等身大ミッシェルさんの作成をするんですか?」

お師匠「ミッシェル……商店街のマスコット……それもいいかもしれない……」

燐子「え、えっと……本当は何をするつもりなんですか……?」

お師匠「……竹取」

燐子「え?」

お師匠「竹細工は……竹あってのもの……」

お師匠「竹を知ってこそ、竹細工は完成します……」

お師匠「だから……山へ」

燐子「山へって……竹を取りに……?」

お師匠「…………」コクン

イヴ「なるほど! 敵を知り、己をしれば百戦危うからず、ということですね!」

燐子「だ、だから動きやすい格好……」

イヴ「山へはどうやって行くんですか?」

お師匠「トラックを借りてきたので……それで」

イヴ「分かりました!」

燐子「…………」

燐子(山……完全にわたしとは縁遠いアウトドア……)

燐子(……で、でも、これも挑戦……です……)

燐子「わ、分かりました……!」

お師匠「それでは……表にトラックを停めてあるので……」


……………………
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/31(金) 12:08:26.12 ID:atTWqqDZ0

――トラック車内――

イヴ「トラックって初めて乗りました!」

燐子「わたしも……初めて……」

お師匠「一応……ワイドの平トラックを借りてきましたので……」

イヴ「ワイド、ですか?」

お師匠「標準的なトラックの幅が広いもので……その分キャビン……運転席も広く作られています」

お師匠「だから3人掛けでもあまり狭くなく……乗り心地は悪いけれど、それは仕方ないので……」

燐子「……前の席に3人も座れるんですね……」

お師匠「トラックは基本そう、ですね……」

イヴ「そうなんですね」

燐子「あの、若宮さん……真ん中に座ってもらっちゃってますけど、大丈夫ですか……?」

燐子(いくらワイドって言っても……お師匠さんの肩幅が広いから狭いんじゃ……)

イヴ「大丈夫ですよ! お師匠の運転が近くで見れて、なんだか楽しいです!」

イヴ「シフト操作、というんですよね。その手さばきも鮮やかです!」

お師匠「…………」フイ

燐子(あ、顔を逸らした……もしかして照れてるのかな……)
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/31(金) 12:09:47.45 ID:atTWqqDZ0

燐子「そういえば……あの……山って、どの辺りまで行くんですか……?」

お師匠「……東京の少し外れまで……」

お師匠「そこに自分の実家があって……竹林のある山を所有しているので……」

イヴ「お師匠、山をお持ちなんですか?」

お師匠「……先祖代々所有している土地で……あまり管理もされていないけれど、一応は……」

燐子「す、すごいですね……」

お師匠「そんなことは……」

イヴ「ご謙遜なさらないで下さい! お師匠は職人だけでなく、山のヌシ様でもあったんですね! それはとてもすごいと思います!」

お師匠「…………」ポリポリ

燐子(なんとも言えない表情で頬をかいてる……やっぱり照れてるんだ……)

イヴ「お師匠の山に竹取さんとしての手さばき、とても楽しみです!」


……………………
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/31(金) 12:11:19.68 ID:atTWqqDZ0

――山中の竹林――

燐子(高速道路に乗って都心から離れ、緑の多くなった場所で下道に降りました)

燐子(それから少し狭い山道を走って、お師匠さんは少し拓けた砂利道にトラックを停めました)

燐子(目の前には竹の茂った林があります)

お師匠「ここが……いつも竹を取る竹林」

燐子(お師匠さんに続いてトラックを降りると、竹の青い匂いが風に運ばれてきます)

イヴ「すごいですね! カグヤヒメが居そうです! さながらお師匠は竹取のオキナですね!」

お師匠「……自分はまだ翁というほど歳は……」

燐子「輝夜姫……金閣寺の一枚天井……」

イヴ「おや、どうかしましたか?」

お師匠「いや……」

燐子「なんでもないです……」

イヴ「そうですか。それで、お師匠。これからどうするんですか?」

お師匠「……自分が竹を切って……2人は、竹の枝打ちを……」

イヴ「エダウチ、ですか?」

お師匠「ええ……枝を取り払ってもらいます……。鉈を使うので……作業手袋と、それから安全長靴……あと、帽子も持ってきてあるのでそれを身につけてもらって……」

お師匠「……あ、どれも新品を用意したから気にせずに……」

燐子(新品を用意してもらったっていう方が気になるけど……)

お師匠「まずは自分が一連の作業を見せるので……」

イヴ「分かりました! お師匠のお手並み拝見、ですね!」


……………………
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/31(金) 12:12:10.55 ID:atTWqqDZ0

燐子(お師匠さんの手際は非常に良かったです)

燐子(専用のノコギリを使って、サッと竹を伐採すると、トラックを置いた方面へ竹を倒します)

燐子(そしてその竹を4分割にすると、1人で拓けた砂利道にまで持ち出して、竹に付いた枝葉を鉈でトントンと打ち切っていきます)

お師匠「これで……ひとまずは完了……」

燐子(ものの10分ほどで、先ほどまで枝葉を茂らせて空に伸びていた長い竹が、裸になって地面に寝転がった姿になっていました)

イヴ「わぁ、鮮やかなお手並みです、お師匠!」

お師匠「……慣れているので」

燐子「いつも……1人でこうやって採取してるんですか……?」

お師匠「ええ、まぁ」

燐子「な、なるほど……だからそんなに筋骨隆々に……」

お師匠「あ、いや……」

イヴ「生活の中で己をケンサンする……見事なブシドー精神ですね!」

お師匠「…………」

お師匠(……筋トレが趣味だと……言い出せなくなってしまった……)

イヴ「私たちはエダウチ、でしたね。お師匠のようにナタでトントンとすればいいんですね?」

お師匠「……ええ。怪我には気を付けて……」

燐子「わ、分かりました……」

お師匠「では……竹を切って持ってきます」


……………………
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/31(金) 12:14:23.80 ID:atTWqqDZ0

――公園――

はぐみ「それじゃあ今日は、実際のマラソンの走り方について練習するね!」

リサ「はーい。今日もよろしくね、はぐみ」

はぐみ「うん!」

リサ「それで、走り方っていうと……昨日教えてくれた『5メートル先を見て、猫背にならない』っていうやつみたいな?」

はぐみ「ううん、今日はね、ペース配分と休憩の仕方!」

リサ「ペース配分はなんとなく分かるけど……休憩の仕方って?」

はぐみ「んっとね、マラソン大会だと、5キロごとに給水所があるんだ」

リサ「あー、走りながら水飲んだりしてるアレ?」

はぐみ「そう、ソレ!」

はぐみ「たくさん走るとお腹も減っちゃうし、何にも補給しないで走ってるとすぐにヘロヘロになっちゃうんだ」

はぐみ「だからね、給水所での休憩の仕方!」

リサ「ふむふむ」

はぐみ「さっき走りながらって言ってたけどね、アレは本気でタイムを目指してる人がやるんだ」

リサ「そうなの?」

はぐみ「うん、休憩してる時間がもったいないからね。でも完走が目的なら、ゆっくり歩きながら補給したり、邪魔にならない場所で立ち止まったっていいんだよ」

リサ「へぇー」

はぐみ「それにね、給水所ってすっごい混むんだ。バラバラに走ってるけど、そこだけはみんなが寄るから」

リサ「あー、確かにそうだよね」
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/31(金) 12:15:45.00 ID:atTWqqDZ0

はぐみ「だから給水所の近くまで来たら、慌てないこと! 『急がないと!』って焦っちゃうとすっごく疲れちゃうから、『せっかくだしちょっと休憩しよう』くらいの気持ちでゆっくりすること大切だと思うよ!」

リサ「なるほど。確かに混んでる場所で急いだって仕方ないもんね」

はぐみ「うん! それと、お腹が減ると走れなくなっちゃうから、途中でおにぎりとかバナナを食べるのも大切だよ」

リサ「そういうのも給水所にあるの?」

はぐみ「あるよ〜。商店街が協賛だからね、はぐみのお店のコロッケもあるよ」

リサ「マラソンでコロッケはちょっと……どうだろ……?」

はぐみ「マラソン大会用の特製コロッケだから美味しいよ!」

リサ「いや、美味しいのは知ってるんだけどさ……走りながらだとちょっとアタシにはキツいかも」

リサ「コロッケは走り終わってからゆっくり味わって食べたいかなぁ……」

はぐみ「そっかぁ。んっと、それ以外のオススメだと……ジェルだね」

リサ「ジェル?」

はぐみ「ゼリーみたいな飲み物だよ!」

リサ「あー、コンビニの栄養ドリンクコーナーにあるみたいな?」

はぐみ「それだね! ハーフマラソンならそれをちょっと飲むだけでもヘーキだと思うな!」

はぐみ「でもそういうのは用意されてないから、自分で用意してポーチとかに入れてこないといけないんだよね」

リサ「なるほどなるほど……でもその方が動きながらでも飲みやすいし、アタシはそっちの方がいいかも」

はぐみ「そっか! それじゃあはぐみのマラソンポーチ、貸してあげるよ!」

リサ「え、いいの?」

はぐみ「うん! 何個か持ってるからね! 走る用のしっかりしたのじゃないとマラソン中邪魔になっちゃうし!」

はぐみ「だからジェルも軽くて小さいやつがいいと思うよ。薬局とかにいけば色んな種類があるから選んでみて!」

リサ「うん、分かった。色々ありがとね、はぐみ」

はぐみ「どういたしまして!」
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/31(金) 12:18:14.48 ID:atTWqqDZ0

はぐみ「それじゃあ次はペース配分についてだね」

リサ「そっちはなんとなく分かるなぁ。出来るだけ同じペースで走った方がいいんだよね?」

はぐみ「そうなんだけど……完走が目標なら、最初はゆっくりして、あとから頑張る方がいいと思うな」

リサ「そうなの?」

はぐみ「うん。あのね、周りにたくさんの人が走ってるとね、それについていきたくなって速く走ろうとしちゃうんだ」

はぐみ「それで『同じペースで走らなきゃ!』って思っちゃうと、前半だけですっごく疲れちゃうから、最初はゆっくりゆっくりって走った方がいいと思う」

リサ「確かに言われてみれば……」

はぐみ「力が残ってるなら後からもっと頑張って走ればいいんだし、ゴールするまでの全部のことをちゃんと考えて走る方がタイムもよくなると思うんだ」

リサ「なるほどね〜。んー、考えてみると、ベースと似たような感じかな?」

リサ「ペースを乱さず、周りに釣られず……って。リズム隊がリズム乱してちゃ、バンドとしてまとまんないし」

はぐみ「あ、そうかもしれないね!」

リサ「まぁ、とは言ってもロゼリアだと紗夜が一番正確なリズムで音を出してるんだけどさ……」

はぐみ「ハロハピは……みんなでどっかーんってして、かのちゃん先輩がふぇぇってしてるかな?」

リサ「あはは、すごい想像できるなぁ、その光景」

リサ「それじゃあ今日はそういうペースを意識して走る練習、かな?」

はぐみ「うん、そうだね! 最初はゆっくり、あとからバビューン! っていう練習!」

リサ「オッケー!」

はぐみ「じゃあ行こっか、リサさん!」


……………………
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/31(金) 12:21:27.56 ID:atTWqqDZ0

――商店街――

紗夜「さて……昨日は人命救助を優先してしまったから、今日こそは本来の目的を達成させましょう」

紗夜(そしてナンパなんてふざけたことはさっさと終わらせてしまいたいわ)

紗夜「また昨日のように誰か知った顔がいればいいんだけれど……」

紗夜「…………」キョロキョロ

紗夜「……まぁ、そうそういないわよね」

紗夜「どうしようかしら……」

「あの……」

紗夜(呟きつつ考えていると、後ろから声をかけられた。振り返るとそこには……)

↓1
(※ロゼリア、薫、イヴ、はぐみ、つぐみ、日菜以外の誰かでおねがいします)
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/31(金) 12:34:42.38 ID:TRQzilobo
美咲

だめなら彩
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/01(土) 12:20:35.92 ID:EN4g3tUY0

美咲「あ、やっぱり紗夜先輩だ」

紗夜「奥沢さん……どうも、こんにちは」

美咲「ええ、こんにちは。また会いましたね」

紗夜「そうね。体調はどうですか?」

美咲「おかげさまで……まぁ、ちょっと寝不足ですけど」

紗夜「夏休みだからといってあまり夜更かしをしていてはいけませんよ」

美咲「……紗夜先輩のせいなんだけどね、寝れなかったの……」

紗夜「私がどうかしましたか?」

美咲「い、いえいえ、なんでもないです」

美咲「そういえば昨日も商店街にいましたけど、何をしていたんですか?」

紗夜「私は……」

紗夜「…………」

美咲「あ、ごめんなさい、あんまり知られたくないことでしたか?」

紗夜「……いえ。そうね……有り体に言ってしまうと、ナンパね……」

美咲「へ?」

紗夜「ロゼリアのレベルアップを計ると湊さんが言い出して、その為にやることのくじを引いたらナンパをしろと出たのよ……」

美咲「あー……それはなんというか、災難ですね」

紗夜「ええ……けれど、引いたからにはしっかりやらなくてはいけないので」

紗夜「湊さんも弦巻さんのお宅で綱渡りしましたし」

美咲「こころの家でって……あのアスレチックですか?」

紗夜「ええ。中央の辺りで落ちましたが」

美咲「いやー、あれは初見殺しにもほどがありますからね。というか、むしろよく真ん中までいけましたね、湊さん」

紗夜「何やら『私は猫だ』と言いながらズンズン進んでいってましたね」

美咲(……ロゼリアってあたしが思ってるより、なんていうかこう……ハチャメチャなのかな……)
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/01(土) 12:21:31.38 ID:EN4g3tUY0

紗夜「すみません。少し話し込んでしまいましたね」

美咲「あ、いえ、あたしは特になんの用事もなかったので……」

紗夜「そうでしたか」

美咲「ええ、はい」

美咲「…………」

紗夜「奥沢さん? どうかしましたか?」

美咲「あの、紗夜先輩……ナンパをするんですよね?」

紗夜「……ええ、まぁ」

美咲「その相手って……あたしじゃダメ……ですか?」

紗夜「え?」

美咲「あ、その、変な意味じゃないですよっ? ほら、昨日助けてもらいましたし?」

美咲「昨日はあたしのせいで紗夜先輩がナンパできなかったっていうなら申し訳ないですし……だから、えっと……」

美咲「あたしで良ければ……その、一緒に……」

紗夜「ありがとうございます、奥沢さん。ですが……」

美咲「やっぱりダメ、ですかね……?」

紗夜「……いえ。その、色々とややこしいのですが、ナンパをするのは私の方からでないといけないと思いますので……」

紗夜「あまり状況に流されてばかりいては他のメンバーに顔向けできません。なので……すみません、私に少し意地を張らせてください」

美咲「じゃ、じゃあ……」

紗夜「はい。奥沢さん、もしもお時間があるようなら、少し付き合ってくれませんか?」

美咲「は、はいっ、付き合います!」

紗夜「ありがとうございます。それでは……少し休めるところへ行きましょうか」


……………………
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/01(土) 12:23:49.88 ID:EN4g3tUY0

――竹林――

燐子(お師匠さんが切ってくる竹。わたしと若宮さんは、その枝打ち作業を続けていきます)

燐子(最初は難しくて……なかなか枝が取れず、取れてもその表面がささくれ立ってしまったりと、大変な作業でした)

燐子(だけど何度か続けていくうちに、流石にお師匠さんと同じくらい、とは言い難いけど……私も若宮さんもそれなりに綺麗に枝が取れるようになりました)

イヴ「ふふ、なんだか楽しいですね」

燐子「うん……最初は大変だったけど……綺麗に取れると達成感があって……」

イヴ「やっぱりリンコさんは手捌きが丁寧ですね。私が切るよりも、とっても綺麗に出来ています」

燐子「でも力がなくて時間がかかりますから……若宮さんの方がすごく早く出来てて、すごいなって思います……」

イヴ「いえいえ、そんなことないです! リンコさんの方がすごいです!」

燐子「う、ううん……若宮さんの方が……」

お師匠「……これで最後」ドサッ

燐子(そんな譲り合いをしていると、お師匠がまた竹を持ってきました)

イヴ「あ、お師匠! これで最後、ということは、竹のエダウチはもうおしまいですか?」

お師匠「…………」コクリ
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/01(土) 12:24:28.90 ID:EN4g3tUY0

燐子「そんなに数が多くないんですね……」

お師匠「……本来は、冬に伐採するので……今日はちょっと補充をするだけ……ですから」

イヴ「そうなんですね! それでは、これもバッサリ枝を打ってしまいましょう!」

燐子「うん……そうだね……」

燐子(若宮さんの言葉に頷いて、鉈で枝を払っていきます)

イヴ「えいっ、とぉっ!」タンタン、タンタン

燐子(……やっぱり若宮さん、早いなぁ)

燐子「わたしはわたしのペースで……」タン、タン、タン

お師匠「2人とも……結構なお手前で……」

イヴ「これもお師匠の教えのタマモノです!」

お師匠「…………」ポリポリ

燐子「これで終わり、ですね」

イヴ「この後はどうするんですか?」

お師匠「次は、竹をトラックに積んで……実家で加工します」


……………………
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/01(土) 12:25:25.03 ID:EN4g3tUY0

燐子(お師匠さんは竹林でトラックに竹を積んで、それを手際よくロープで固定しました)

燐子(わたしと若宮さんも積むのを手伝いましたけど……竹、とっても重くて……あまりお役には立てませんでした)

燐子(それでもお師匠さんはわたしたちにお礼を言って、トラックを走らせます)

燐子(そして大体20分ほど、でしょうか)

燐子(山や川が近い、のどかな景観の中に立つ庭付きの一軒家にトラックは辿り着きます)

燐子(とても広々とした庭の一角に、何か工場のような建物がありました)

燐子(お師匠さんはそこへトラックを後ろ付けにします)

お師匠「ここで……竹の油抜きをします……」

イヴ「へぇ、そうなんですね」

お師匠「ええ……油抜きをして、3週間ほど天日干しをして……竹細工の材料として切り分けます……」

燐子「3週間も……」

イヴ「私たちに何かできることはありますか?」

お師匠「では……採ってきた竹を洗いましょう」

燐子「分かりました……」

イヴ「了解しました!」
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/01(土) 12:25:59.98 ID:EN4g3tUY0

お師匠「ちょっと待っててください……」

燐子(お師匠さんはそう言って工場の中に入っていき、鉄製の土台のようなものを2つ持って出てきました)

お師匠「ここへ竹を乗せて……柔らかいタワシで水洗いします……」

イヴ「お水ですね。水道は……」

お師匠「そこにあるので……タワシも置いてあります。ホースとシャワーヘッドを繋げてあるので……」

燐子「はい……持ってきますね」

お師匠「お願いします……自分は竹を下ろすので……」

燐子(お師匠さんはそう言って、テキパキと荷台から下ろした竹を土台の上に置いて行きます)

燐子(わたしと若宮さんは水道からホースとタワシを持ってきました)

お師匠「では……汚れを落とそうと強くこするのではなく、水でタワシを滑らせるように優しく洗ってください……」

イヴ「分かりました!」

燐子「はい……」
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/01(土) 12:26:45.04 ID:EN4g3tUY0

―竹を洗い終わって―

燐子(お師匠さんの言う通り、優しくタワシでこするだけでも竹の表面は綺麗になりました)

燐子(それはいいのですが……そうなると、わたしたちが最初に枝打ちをした部分の拙さがより一層目立ってしまいました……)

イヴ「うーん、やっぱり最初にやった部分はちょっと……」

燐子「うん……」

お師匠「…………」

燐子「お師匠さん……これだとやっぱり、竹細工には使えませんか……?」

お師匠「いえ……籠や飾り物だけが竹細工ではありませんので……」

お師匠「こういった竹でも……例えば、半分に割って……流しそうめんなどに使えます」

燐子「あ……そうなんですね……よかった」

イヴ「ナガシソウメン?」

燐子「えっと……半分に割った竹を繋げて……そこにそうめんと水を流して食べるんです」

イヴ「そうめんにそんな食べ方があるんですね!」

燐子「うん……最近はあんまり見ないけど……夏の風物詩、かな……」

イヴ「そうなんですね! 是非ともやってみたいです!」
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/01(土) 12:27:56.85 ID:EN4g3tUY0

お師匠「……やりますか……?」

燐子「え?」

イヴ「いいんですか?」

お師匠「ええ……せっかく自分たちで採った竹ですから……自分で使う方がいいでしょう」

お師匠「そうしたら……枝打ちが上手くいかなかった竹はこのまま持って帰って……流しそうめん用にみなさんで加工しましょう」

お師匠「竹の加工も体験出来て……一石二鳥です」

イヴ「わぁ、ありがとうございます、お師匠!」

お師匠「いえ……」

燐子「す、すみません……わたしたちが失敗しちゃったのに……」

お師匠「……失敗は必ずしも悪いことではないので」

お師匠「挑戦をして失敗したとしても……何か得るものがあったのなら……それでいいと自分は思います」

燐子「…………」

お師匠「……あの……自分、何かおかしなことを……言ってしまいましたか……?」

燐子「い、いえ……」

お師匠「……よかった……」ホッ

イヴ「楽しみですね、流しそうめん!」

お師匠「……ええ。では……この先は自分しか出来ないので……2人は休んでいてください」

燐子「分かりました……」

イヴ「ガッテンショウチ!」


……………………
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/01(土) 12:29:45.44 ID:EN4g3tUY0

――ファーストフード店――

紗夜「――という訳で、ロゼリアのメンバーはそれぞれがそれぞれのことに挑戦しているんです」

美咲「へぇ……なんていうか、すごいですね。音楽のために色んなことに挑戦して……」

紗夜「たまに湊さんは思い付きで突拍子もないことを始めますから。ただ、それはロゼリアを想ってのことだとは分かっていますので、私も強く反対することはありませんね」

美咲「湊さんってすごくしっかりしてそうですもんね」

紗夜「……そうですね」

紗夜(……猫を前にすると人が変わることや、あれで意外と抜けているところがあるのは言わないでいた方がいいかしらね)

美咲「それにリサさんに燐子先輩もいるし……」

美咲「はぁぁ……周りがみんなしっかりしてて、紗夜先輩が羨ましいです」

紗夜「そうかしら」

美咲「そうですよ。ハロハピは大変ですから……」

紗夜「まぁ……そうね。私もあのメンバーに囲まれて何かをしろと言われたら戸惑います。特に弦巻さんの扱いが大変そうだわ」

美咲「ええ、大変ですよ……本当、唐突にとんでもないこと言い出しますから……」

紗夜「でも……ふふ」

美咲「どうかしましたか、紗夜先輩?」

紗夜「いえ、すみません。随分楽しそうな表情で喋るんだな、と思って」

美咲「あ……」

紗夜「口では色々言っているけれど、ハローハッピーワールドのことが好きなんですね」

美咲「いや……その……」

紗夜「照れる必要なんてないと思いますよ。仲が良いに越したことはないでしょう」

美咲「それでも照れくさいものは照れくさいですって……」

紗夜「ふふ、そうですか」

美咲「うぅ……なんだこれ、すごく恥ずかしいんだけど……」
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/01(土) 12:31:43.47 ID:EN4g3tUY0

丸山彩「お待たせしましたー! 揚げたてのポテト、お持ちしましたっ」

紗夜「ありがとうございます、丸山さん」

美咲「どうも、彩先輩……」

彩「ううん! それにしても……」

紗夜「……? どうかしましたか?」

彩「あ、うん、紗夜ちゃんと美咲ちゃんが2人でいるの、ちょっと珍しいなって」

紗夜「まぁ……色々な縁がありましたので」

美咲「……やばい、昨日のアレを思い出しそう」

彩「昨日のアレ?」

美咲「あー……いや、なんでもないです」

紗夜「簡単に言うと人命救助かしらね」

彩「ふーん? でも、ちょっと羨ましいなぁ」

紗夜「何がですか?」

彩「普段あんまりお喋りしない人と一緒に何かすること。なんだか新しい自分を発見できそうだし、楽しそうだなって」

紗夜「新しい自分……そういうものかしら……」

彩「うーん、私はそう思うけどなぁ」
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/01(土) 12:32:39.85 ID:EN4g3tUY0

美咲「……あー、あたしはそれ、なんとなく分かります」

彩「本当?」

美咲「はい。なんていうか……いつもハロハピのみんなに――というかほとんどこころが原因ですけど、まぁとにかく色々と振り回されて……それで家でも妹の面倒見ますし」

美咲「だからこう、しっかり者の紗夜先輩と一緒にいると……なんでしょうね。気が緩むっていうか、つい甘えたくなるっていうか……」

彩「…………」

紗夜「…………」

美咲「……あれ? なんかあたし今、とんでもないこと口走ったような……」

紗夜「私に甘えたいんですか?」

美咲「やっぱり口走ってた!?」

紗夜「まぁ……節度を守って頂ければ私は気にしませんが……」

美咲「さっ、紗夜先輩、今の無しで! 無かったことにしてください!」

紗夜「は、はぁ……」

彩「いつもしっかりしてる美咲ちゃんもやっぱり年下なんだなぁ〜。ふふっ、可愛い」

美咲「あ、彩先輩もからかわないでくださいよ!」

彩「ねぇねぇ紗夜ちゃん。せっかくだから、日菜ちゃんに接するみたいにしてあげたらどうかな?」

紗夜「日菜に接するように……それも挑戦かしらね……」

美咲「ちょっ、ちょっと!? 彩先輩、余計なことは言わないでいいですから!」
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/01(土) 12:34:05.86 ID:EN4g3tUY0

紗夜「では、コホン。……美咲」

美咲「は、はいっ!? え、本気でやるんですか!?」

紗夜「あまり大きな声は出さないの。他のお客さんに迷惑でしょう?」

美咲「あ……はい……」

紗夜「まったく……元気なのはいいけど、場所は選んで頂戴」

美咲「え、えっと……はい、なんかすいません……」

紗夜(……奥沢さん、シュンとしてしまったわね……。日菜ならここから『ごめんごめーん!』と反省してない口ぶりで謝ってきて、何も変わらず次の話題を振ってくるのだけど……)

紗夜(でも……可能性は低いけれど、日菜ももしかしたら本当は少し落ち込んでいるのかもしれないわね)

紗夜(宇田川さんが提案してくる音楽以外のことも大抵はぶっきらぼうに断ってしまっているし……)

紗夜(もう少しあの子にも、周りの友人たちにも……私は優しく接するべきかもしれないわ)

紗夜「その、少し言い過ぎたかもしれないわね。ごめんなさい」

美咲「あ、い、いえ……」

紗夜「……別にあなたのことが嫌いとか、そういう訳じゃないのよ」

美咲「え?」

紗夜「あなたにはいつでも元気でいて欲しいと思っているし、いつも甘えてくるのを鬱陶しいとは思っていないわ」

紗夜「ただ……少しだけ周りのことを考えてくれれば、それでいいのよ」

紗夜「分かってくれるかしら?」

美咲「……えと」

美咲「…………」

美咲「……うん……ごめんなさい」

紗夜「いいえ、分かってくれたならもういいのよ。あなたはちゃんと、やれば出来る子なんだって私は知っているから」

美咲「うん……おねーちゃん……」
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/01(土) 12:37:44.15 ID:EN4g3tUY0

彩「おー……すごいおねーちゃんオーラ……」

紗夜「……これくらいでいいかしらね」

彩「うん。美咲ちゃんもすっかり妹の顔になってるもん」

美咲「……はっ!? あたしは今なにを……!?」

彩「いいなぁ、紗夜ちゃんの厳しくも優しいおねーちゃんオーラ……私にもそういう威厳が欲しいなぁ……」

紗夜「そんな大層なものじゃありませんよ。私からすれば、丸山さんの親しみやすい姉というイメージの方がとても魅力的に見えますから」

彩「そ、そう? えへへ……」

巴「彩さーん! 話ししてないで早くカウンターに戻ってきてくださーい!」

彩「あっ、ご、ごめんね巴ちゃん!」

彩「それじゃあ2人とも、ゆっくりしていってね。あ、美咲ちゃん、おねーちゃんが欲しいなら私だっていつでも――」

上原ひまり「彩さん早く〜! このままだと花音さんがぁ〜!!」

松原花音「えっとオレンジジュースとフライドポテトとハンバーガーとナゲットとフライドサラダとチーズジュースがマスタードソースでテイクオフだったよね、えへへ、なんとかなりそうでよかったぁえへへへへ……」バタバタ

彩「は、はーいっ、すぐ戻ります! 花音ちゃんごめーん!」タッタッタ...

紗夜「……やっぱり丸山さんのああいうところは私には無いものね」

美咲「…………」

紗夜「奥沢さん? 先ほどから何やら頭を抱えていますが、どうかされましたか?」

美咲「いえ……ついさっきの記憶をどうにか消せないかなと……気にしないでください……」

紗夜「はぁ……?」

美咲「ああぁぁ……これまた夜寝れなくなるやつだよ……先輩をおねーちゃんなんて呼ぶって……いや正直悪くはなかったけどさぁ、でも限度ってものが……」ブツブツ

紗夜(……疲れているのかしらね。そっと見守りましょう)


――――――――――――
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/01(土) 13:40:06.53 ID:FI4i6OIgo
みささよ最高か?
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/01(土) 17:13:34.35 ID:k8r3LMY1o
花音はどこに離陸するんだ?
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/02(日) 12:38:36.71 ID:Uqb1WtcQ0

【金曜日】

――竹細工教室 裏庭――

燐子(竹を取った翌日の教室。今日は平屋の裏庭で、竹を流しそうめん用に加工することになりました)

お師匠「……このように……竹に割れ目を入れて……鉈と金づちで少しずつ割っていきます……」トントントン

イヴ「ふむふむ……」

お師匠「ある程度鉈が進むと……こうして、手でも……」パキパキパキ

燐子「……綺麗に真っ二つに割れるんですね……」

イヴ「これがハチクの勢い、というものですね!」

お師匠「はい……三國時代終焉の諺ですね……」

燐子「これをわたしたちも……?」

お師匠「ええ……少し力は必要かもしれませんが……根気よく叩けばいずれ割れます……」

イヴ「分かりました!」

お師匠「刃物を扱うので……昨日同様、必ず作業手袋を着用して……怪我をしないように……鉈から目を離さないでください……」

燐子「わ、分かりました……」

お師匠「……それと……」

イヴ「はい?」

お師匠「…………」

燐子「あの……何かありましたか……?」
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/02(日) 12:39:12.75 ID:Uqb1WtcQ0

お師匠「いえ……その、もしお友達も参加されたいなら、呼んで頂いても平気ですので……」

イヴ「本当ですか? そうしたら私、パスパレのみなさんに声をかけてみますね!」

お師匠「はい……」

燐子「あの、でも、ご迷惑になるんじゃ……」

お師匠「大丈夫……です」

お師匠「仕事の関係で……大人数用の調理鍋などもありますから……」

お師匠「それに……お中元で頂いたそうめんが山のようにありまして……消化に手伝ってほしいので……」

燐子「わ、分かりました……そういうことであれば……」

お師匠「はい……」

燐子(わたしもロゼリアのみんなを誘ってみよう……)

燐子(そういえば……わたしからみんなを遊びというか、こういうことに誘うのって……あんまりなかったっけ……)

燐子(……どういう風にメッセージを送ればいいんだろう?)

イヴ「リンコさん、何かお悩みですか?」

燐子「あ、えっと……ロゼリアのみんなを誘おうと思うんですけど……なんてメッセージを送ればいいのかなって……」

イヴ「それなら簡単です! 『明日、流しそうめんをやりましょう!』と送ればいいと思います!」

燐子「いきなりなのにそれだけでいいのかな……もっと何か言葉を足した方が……」

イヴ「シンプルイズベスト、直截簡明というじゃないですか。パスパレのみなさんと私のように、ロゼリアのみなさんとリンコさんも、きっとそれだけで分かり合えます!」

燐子「……そう、ですね……その通りです……」

燐子「みんなにそう……メッセージを送ってみます……」


……………………
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/02(日) 12:39:49.03 ID:Uqb1WtcQ0

――宇田川家 キッチン――

あこ「純粋なクッキーの味じゃあリサ姉と紗夜さんには敵わない」

あこ「そう思って色んなクッキー作り過ぎちゃった……」

139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/02(日) 12:40:41.05 ID:Uqb1WtcQ0

――水曜日のあこちゃん――

あこ「つぐちんに教えてもらった簡単アレンジクッキー!」

あこ「普通のプレーンクッキーにチョコソースでラッピング!」

あこ「顔を描いたり出来て目でも楽しめる一品だよ!」

巴「クッキーにチョコかぁ。あっまいなーコレ」サクサク

巴「お、このクッキーに描いてるのってもしかしてアタシか?」

あこ「うん! 上手に描けてるでしょー?」

巴「ああ、流石あこだな。何でも出来る天才だ!」

あこ「えへへ〜」

―4時間後―

あこ「ちょっこれいと♪ ちょっこれいと♪ チョコレートは、モリナガ♪ ……あれ、なんか違う気が……」

あこ「んーまぁいっか。そんなチョコを溶かして小さな円形に固めたものを、これまた小さなバンズっぽいプレーンクッキーで挟んだクッキーチョコハンバーガー!」

あこ「本物を意識してクッキーに少しゴマを入れてみたよ!」

巴「おー、なんかこんだけハンバーガーが並んでるとバイトしてるみたいだ」ポリポリ

巴「お、ゴマの風味がなかなかいいな」

あこ「分量にかなり気を遣いました!」

巴「流石あこだな。将来いいお嫁さんになるぞ!」

あこ「えへへ〜」

140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/02(日) 12:42:32.77 ID:Uqb1WtcQ0

――木曜日のあこちゃん――

あこ「ココアはやっぱりメイ・ジ♪ ……あれ、どっちがどっちだっけ……」

あこ「それはともかくとして、やっぱり奇をてらわずに王道! 闇の魔力をグワーンと注ぎ込んだ、深淵のココアクッキー!」

あこ「砂糖控えめの大人の味だよ!」

巴「最近甘いものばっかり食べてたからなぁ。たまにはビターなのもいいな」ボリボリ

巴「……!? これだけやけに苦いな……」

あこ「わらわの全力全開の闇の魔力……それを一身に受けたクッキーが混じっているのだ……」

巴「あー、これだけインスタントコーヒー混ぜてあんのか」

あこ「うん! おねーちゃんバイト前だし、そういうのの方がシャッキリするかなって」

巴「あこ……なんていい子なんだ……おねーちゃんは嬉しいぞ……!」

あこ「バイト頑張ってね、おねーちゃん!」

巴「ああ! あこに元気貰ったからな、全開で頑張ってくるぜ!」

あこ「行ってらっしゃーい!」

―7時間後―

あこ「βカロテン、カリウム、食物繊維……身体にいいものたくさん入ってます!」

あこ「人参嫌いなお子様にも! キャロットクッキー!」

あこ「ピーナッツも加えて歯ごたえ抜群だよ!」

巴「あー、なんか優しい味がする……疲れた身体に染み渡るぜ……」モグモグ

巴「今日は忙しかったからなぁ……花音さんなんてテイクオフしそうだったし……」

あこ「いつもお疲れ様、おねーちゃん。あんまり無理しちゃダメだよ?」

巴「あ、あこ……本当にこんないい子に育って……おねーちゃんは嬉しいぞぉ!」ナデナデナデ

あこ「あはは! くすぐったいよーおねーちゃん〜」


……………………
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/02(日) 12:43:34.23 ID:Uqb1WtcQ0

あこ「おねーちゃんにも食べてもらったけど、それでも余ったクッキーが冷蔵庫にたくさん……」

あこ「うーん、本当はロゼリアのみんなに食べてもらいたいんだけど……みんな、自分の挑戦に忙しいよね……」

スマホ<ブブッ

あこ「あれ、メッセージが……りんりんからだ!」

あこ「珍しいなぁ、りんりんからロゼリアのグループトークに発信するなんて!」

あこ「なになに……流しそうめん……?」


……………………
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/02(日) 12:46:03.27 ID:Uqb1WtcQ0

――羽沢珈琲店――

紗夜「また会いましたね」

美咲「ええ。奇遇ですね」

紗夜「3日連続で商店街で顔を合わせるなんて、そんな偶然もあるものですね」

美咲「……そうですね」

つぐみ「あ、いらっしゃいませ、紗夜さん。それに美咲ちゃんも」

紗夜「ええ。こんにちは、つぐみさん」

美咲「どうも」

紗夜「湊さんはどうでしたか? ご迷惑をおかけしませんでしたか? もし何かしでかしたようなら遠慮なく言ってくださいね。私の方からもキツく言っておきますので」

つぐみ「い、いえいえ……むしろすごく助けてもらいました。昨日も人が足りなくなって、そしたら友希那先輩の方から手伝ってくれるって言ってくれましたし……」

紗夜「湊さんから……?」

つぐみ「はい。お言葉に甘えて頼らせてもらっちゃいました」

紗夜「そう……」

紗夜(……私もつぐみさんに頼られたいわね)

つぐみ「それにしても……紗夜さんと美咲ちゃんが一緒って、なんだか珍しいですね」

美咲「あー、彩先輩にも同じこと言われたなぁ」

つぐみ「どうしたんですか?」

紗夜「まぁ……人命救助と色々な縁が重なったんですよ」

つぐみ「人命救助?」

美咲「深くは聞かないで、羽沢さん……」

つぐみ「え、う、うん……」
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/02(日) 12:46:29.24 ID:Uqb1WtcQ0

つぐみ「あ、そうだ。注文をお聞きしますね?」

紗夜「私はいつもので」

つぐみ「はい」

美咲「……いつもので通じるんだ……」

つぐみ「美咲ちゃんはどうします?」

美咲「あたしは……紗夜先輩と同じので」

つぐみ「はい、ケーキセットですね。では少々お待ちください」

紗夜「奥沢さん、メニューも見ずに決めてしまって良かったんですか?」

美咲「大丈夫です。多分」

紗夜「多分とは……」

美咲「いえ、ちょっとこう、何か意地のようなものがあたしの中に生まれただけなので……気にしないでください」

紗夜「はぁ……?」
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/02(日) 12:49:41.27 ID:Uqb1WtcQ0

―しばらくして―

つぐみ「お待たせしました、珈琲とケーキのセットです」

紗夜「ありがとうございます、つぐみさん」

美咲「どうもです」

つぐみ「前、失礼しますね」カチャ、カチャ...

美咲「……あれ」

紗夜「どうかしましたか、奥沢さん?」

美咲「あ、いえ……」

つぐみ「そういえば紗夜さん。友希那先輩がちょっと寂しがってましたよ」

紗夜「湊さんが?」

つぐみ「はい。一昨日、ロゼリアのメンバーで紗夜さんだけがいらっしゃらなかったので」

紗夜「……そうだったの」

美咲「う……なんかごめんなさい、紗夜先輩」

紗夜「いいえ、奥沢さんのせいではありませんよ。あのまま放っておくことなんて出来ませんでしたし、気にしないでください」

つぐみ「私もちょっと寂しかったなぁ……なんて」

紗夜「…………」

美咲「……あの、紗夜先輩? ちょっとあたしを見る目が鋭くなってません?」

紗夜「気のせいでしょう」

「すいませーん」

つぐみ「あ、はーい! ただいまお伺いしまーす!」

つぐみ「それじゃあ2人とも、どうぞごゆっくり」

紗夜「ええ」

美咲「はい」
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/02(日) 12:51:17.35 ID:Uqb1WtcQ0

紗夜「さて、それでは珈琲を頂きましょうか」

美咲「ええ。……あ」

紗夜「……? どうかしましたか?」

美咲「えっと……」

紗夜「……ミルク、先に使いますか?」

美咲「あー、いえ、平気です……」

紗夜「そうですか」

美咲「……カップの持ち手の向きがあたしと違ったのってそういうことか……」

美咲「いつもの注文も好みの飲み方も全部知ってるよ、ってことね……」

美咲「…………」

紗夜「奥沢さん? 先ほどから様子が変ですが、大丈夫ですか?」

美咲「いえ、大丈夫です。ちょっと今、自分の中の理性と願望が戦ってるんで」

紗夜「……そうですか」

紗夜(理性と願望……?)

美咲「…………」

紗夜「…………」

美咲「あの、紗夜先輩」

紗夜「はい?」

美咲「あたしも先輩のこと、紗夜さんって呼んでもいいですか」

紗夜「別に構いませんが……」

美咲「じゃあ今度からそう呼びますね、紗夜さん」

紗夜「ええ」

紗夜(……一昨日からどうにも様子が変ね、奥沢さん)

スマホ<ピピッ

紗夜「おや……白金さんからのメッセージ? 珍しいわね」

紗夜(……とは私もあまり言えたことではないかしら)

紗夜「内容は……流しそうめん?」


……………………
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/02(日) 12:52:12.91 ID:Uqb1WtcQ0

――公園――

はぐみ「それじゃあ今日は軽めに、ってことで、これくらいでおしまい!」

リサ「うん、了解だよ。今日もありがとうございました、はぐみ先生」

はぐみ「どういたしまして!」

リサ「はー、もう明後日かぁ……ちゃんと完走できるかなぁ」

はぐみ「きっと大丈夫だよ、やることはぜーんぶやったんだもん!」

リサ「ん、そうだね……せっかくはぐみがこんなに手伝ってくれたんだもん、しっかり頑張らなくっちゃね!」

はぐみ「そうそう! 元気があれば何でも出来るって言うしね!」

リサ「うん、元気出して頑張るよ!」

スマホ<ピロピロ

リサ「あれ、メッセージ……燐子から?」

リサ「なになに……明日、流しそうめんやりませんか……」

はぐみ「どうしたの?」

リサ「あ、うん。燐子がね、明日流しそうめんやらないかって」

はぐみ「へー! すっごく楽しそうだね!」

リサ「うーん、楽しそうは楽しそうだけど……大会前にそうめんかぁ。それで力出るかなぁ?」

はぐみ「出ると思うよ!」

リサ「え、そう?」

はぐみ「うん! マラソン前にはおうどんを食べるって人も多いし、そういう麺類って結構エネルギーになるんだ!」

リサ「へー、そうなんだ」

はぐみ「あ、でも食べ過ぎはもちろん駄目だよ! お腹痛くなっちゃったら走るどころじゃなくなっちゃうからね」

リサ「うん、分かったよ。それじゃあ燐子のお誘いにオーケーしようかな」
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/02(日) 12:52:57.59 ID:Uqb1WtcQ0

リサ「明日は走らないで、ストレッチとかして身体を休ませるんだよね?」

はぐみ「そうだよ。本当はもっと前から休ませた方がいいんだけど……」

リサ「急だったからね。走り方とかそういうの、教わらないといけなかったからしょうがないよ」

はぐみ「うん……でも、はぐみがもっと教えるの上手なら……」

リサ「なーに言ってんの。はぐみは教えるのすっごく上手だったよ」

はぐみ「でもでも、基本のことを教え終わるの、こんなギリギリになっちゃったよ……?」

リサ「それはアタシの体力っていうか、知識がなかったせいだって」

リサ「むしろすっごく丁寧に教えてもらえたから、大会当日もしっかり練習で覚えたことを生かせそうだよ」

リサ「だからありがとう、はぐみ。はぐみが一緒に練習してくれたから、アタシもちゃんと頑張ろうって思えるんだ」

リサ「明日は一緒に練習出来ないけどさ、明後日、頑張ろうね!」

はぐみ「リサさん……うん!」

はぐみ「よーし、はぐみは上位を目指して、リサさんは完走を目指して、頑張ろー!」

リサ「おー!」


……………………
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/02(日) 12:53:46.87 ID:Uqb1WtcQ0

――猫カフェ――

友希那「にゃーんちゃん、にゃーんちゃん」

猫<ウニャァ

友希那「ふふ……あなたたちのおかげで大きなミスもなく、バイトをこなすことが出来たわ」

友希那「今日はそのお礼よ……ほら、ここのカフェのおやつ……1人で買える限界まで買ったのよ」

猫たち<ニャーニャー!

友希那「こーら、そんなに慌てないの。たくさんあるからゆっくり……」

スマホ<ニャーン

友希那「あら? 燐子からのメッセージね」

猫<ニャー?

友希那「…………」

スマホ<ニャーン

友希那「……そう、流しそうめんね。みんな参加するのね」

猫<ナーォ

友希那「…………」

友希那「よし、私はあとで返しましょう」

友希那「猫だって恩返しをする時代だもの、人間の私がそれをおざなりになんて出来るハズがないわ」

友希那「きっとみんなも取り込み中だって理解してくれるでしょう」

猫<ウニャー?

友希那「はいはい、おやつね。今あげるから……こらこら、私の身体を昇ってこないの。もう、仕方のない子たちね……ふふ」


――――――――――――
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/02(日) 17:42:28.28 ID:vkvA4QN8O
一人だけ悪化してますねぇ…
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/22(月) 07:41:38.10 ID:cDz1r2qIO
復帰しないかなぁ
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/01/08(火) 10:11:16.98 ID:j0xzfzqF0
面白かったから復帰を熱望してる
152 :エタってましたごめんなさい。 :2019/02/26(火) 19:23:07.50 ID:OMi8DRIw0

【土曜日】


――竹細工教室 裏庭――

燐子「えっと……こちらで流しそうめんをやります……」

リサ「へー、商店街にこんな教室があったんだね〜」

燐子「わたしも……調べるまで知りませんでした……」

紗夜「意外と広いわね」

あこ「ですね! バレーとか出来そう!」

友希那「……猫の竹細工もあるのね」

リサ「ん? どうかした、友希那?」

友希那「いえ、別に」

お師匠「……あの、白金さん」ヌッ

友希那「!?」

紗夜「!?」

リサ「わっ!?」

あこ「おー!」

お師匠「っ!?」ビクッ
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:23:46.59 ID:OMi8DRIw0

燐子「あ、お師匠さん……どうかしましたか……?」

お師匠「あ……いえ、竹を設置するのを……手伝って貰おうと……」

燐子「分かりました……」

お師匠「では……お手数ですがこちらへ……」

燐子「はい……。すいません、ちょっと行ってきますね……」

友希那「え、ええ……」

あこ「すごいですね、お師匠さん! ムッキムキだ!」

お師匠「……どうも」ペコリ

友希那「…………」

紗夜「……行ってしまいましたね」

リサ「なんていうか……燐子、大丈夫なのかな……こう、色々と」

友希那「竹細工を楽しんでいるようだったし……恐らくは……」

紗夜「どうしてあの人まで驚いていたんでしょうか……」

あこ「すごい筋肉でしたね! NFOの戦士みたいでカッコいいなぁ〜!」

リサ「あ、あはは、あこはいつも通りだね……」
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:24:20.50 ID:OMi8DRIw0

――ガラッ

イヴ「こちらが裏庭です! 今日はここで流しそうめんを敢行します!」

紗夜「あら……若宮さん?」

イヴ「あ、ロゼリアのみなさん! どうも、こんにちは!」

友希那「ええ、こんにちは。そういえば、燐子が若宮さんと一緒にやってるって言っていたわね」

日菜「ロゼリアのみなさんってことは……あ、やっぱりおねーちゃんもいる! やっほーおねーちゃん!」

紗夜「日菜まで……」

彩「お、お邪魔しまーす」

リサ「パスパレのみんなも誘われたんだ?」

彩「うん、イヴちゃんに」

日菜「千聖ちゃんと麻弥ちゃんは仕事で来れないんだけどね〜。それにしても水臭いなぁおねーちゃんってば。一緒に来たかったなぁ〜」

紗夜「あなたが誘われているのを知らなかったからしょうがないでしょう」

イヴ「おや? リンコさんの姿が見えませんが……」

あこ「りんりんはね、お師匠さんと一緒に準備してるみたいだよ」

イヴ「そうなんですね! それでは私もお手伝いをしなくては!」

彩「お師匠さん?」

イヴ「竹細工のお師匠様です! お師匠はすごいです、口ではなく技で語る、まさに日ノ本の職人さんです!」

日菜「へー、どんな人なんだろ?」
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:25:00.54 ID:OMi8DRIw0

お師匠「……おや、若宮さん」ヌッ

彩「きゃっ!?」

日菜「わーっ、マッチョさんだ!」

お師匠「っ!?」ビクッ

イヴ「あ、お師匠! 担いでいるのは昨日の竹ですね? 私も運ぶのをお手伝いします!」

お師匠「あ……は、はい、お願いします……」

彩「…………」

日菜「すごい筋肉だね、お師匠さん!」

お師匠「……ありがとうございます……。では、若宮さんもこちらへ……」

イヴ「はい!」

日菜「あれ、どしたの彩ちゃん、変な顔で固まって?」

彩「え、えっと、何ていうか……すごく大きな人でびっくりしたっていうか……日菜ちゃんはびっくりしなかった?」

日菜「全然?」

彩「……私の反応の方がおかしいのかな」

リサ「うーん……彩の反応の方が正しいと思うなぁ」

紗夜「悪い人ではないのだろうというの分かりますが……」

友希那「……失礼だというのは承知しているけれど、初対面で驚かない人の方が少ないんじゃないかしら」

彩「だよね……よかった……」

156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:26:02.57 ID:OMi8DRIw0

―しばらくして―

イヴ「わー、これが流しそうめんなんですね! 水の流れが涼しげで、風流です!」

日菜「あっはは〜! 彩ちゃん、後ろにいたらぜーんぶあたしが食べちゃうよ〜!」

彩「え、え〜!?」

紗夜「はぁ……日菜、そんなに前の方で独り占めしないの」

日菜「はーい」

あこ「ふっふっふ……我が闇のスティックで、白き……えーっと」

燐子「聖なる糸……がいいんじゃないかな……」

あこ「おー、いいね! 我が闇のスティックで、白き聖なる糸を絡めとってくれようぞ!」

友希那「……やっぱりパスパレの3人がいるとにぎやかね」

リサ「だねぇ」

友希那「せっかく集まったんだしみんなの進捗状況でも確認しようと思っていたけれど、そんな空気でもないわね」

リサ「まー今はいいじゃん。友希那も一緒に楽しもうよ」

友希那「そうね」

日菜「秘技、そうめん掬い!」シュバ

イヴ「流石ヒナさん、ワザマエです! 私も負けません!」シュババ

あこ「むむ、わらわの闇の力も負けてられぬ!」シュバババ

彩「ど、どうして3人とも私の前で取り合うの〜!?」

紗夜「勝負じゃないでしょうに……」

友希那「……やっぱりもう少し落ち着いてから混ざるわ」

リサ「あはは……」
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:27:27.95 ID:OMi8DRIw0

燐子「…………」

お師匠「白金さんは……混ざらないのですか……?」

燐子「わたしは……もう少しここでみんなを見てようかなって……思います……」

お師匠「そうですか……では、一緒にそうめんを流しますか……?」

燐子「はい、そうします……」

お師匠「こちらの菜箸を使ってください……」

燐子「はい……」

お師匠「…………」

燐子「……なんだか……不思議、です……」

お師匠「何が……ですか……?」

燐子「あの竹は……わたしと若宮さんが、枝打ちに失敗してしまったものです……」

燐子「だけど……こうやってみんなを楽しませることが出来ていて……それが不思議で、それと……嬉しいです」

燐子「お師匠さんが言った通り……失敗はしましたけど……得るものがあったので……挑戦してよかったなって……思います」

お師匠「それなら何より……です……」

日菜「ふっふーん! そんな箸捌きじゃ、あたしからそうめんは奪えないよ!」

あこ「くっ、このままでは……こうなったら……りんりーん、助けてー!」

燐子「うん……分かったよ、あこちゃん……。それじゃあ……ちょっと行ってきますね……」

お師匠「はい……ご武運を」

彩「燐子ちゃんまで来るの!? 私、始まってからまだ一口も食べられてないのに!?」

イヴ「アヤさん、こういう時こそブシドーです!」

彩「みんなが全部取っちゃうからブシドーでも無理だよぉ!」
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:28:17.27 ID:OMi8DRIw0

紗夜「まったく日菜ったら……返事だけで言うことを聞かないんだから」

リサ「紗夜と一緒に遊べるからテンション上がってるんじゃない?」

紗夜「だからと言って、ああしてほとんどそうめんを独占するのは……」

友希那「いいじゃない。あんなに食べていたら、きっとすぐにお腹いっぱいになるわ」

紗夜「……まぁ、そうです――」グゥゥ...

友希那「…………」

リサ「…………」

紗夜「…………」

友希那「……私たちを気にすることはないわよ?」

リサ「ほら、せっかくだしヒナと一緒に食べてきなって」

紗夜「……そうですね妹の暴挙を止めるのも姉の使命ですから少し行ってきます」

友希那「ええ、行ってらっしゃい」

リサ「気をつけてね〜」


<ヒナ、イイカゲンヒトリジメスルノハヤメナサイ

<ソレジャアオネーチャンノブンモトッテアゲルネ!

<サ、サヨチャンマデキチャッタラ、マスマスワタシノブンガ...!


友希那「……紗夜、顔を赤くしていたわね」

リサ「ね。珍しいもの見れたね」


……………………
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:29:01.47 ID:OMi8DRIw0

―食後―

燐子「すいません……後片付け、手伝って貰って……」

紗夜「いいえ。私たちはごちそうになった立場なのですから、片付けくらい手伝うのは当然です」

あこ「そーだよ、りんりん!」

リサ「そーそー。むしろこれくらいしか出来なくてゴメンねって感じだし」

燐子「ありがとうございます……」

友希那「それにしてもリサったら、今日は結構食べていたわね」

リサ「あー、まぁね。明日はエネルギー使うからさ、少し多めに食べとこって思って」

友希那「リサは明日が本番だものね。どう? しっかり完走できそうかしら」

リサ「やることはやったよ。はぐみにも色々教えてもらったし、走りきってみせるよ」

紗夜「ええ、その意気です。今井さんなら大丈夫ですよ。私だってナンパなんて無茶なものに挑戦したのだから」

友希那「そういえば、紗夜はどんな風にナンパしたの?」

紗夜「……まぁ、日菜経由で瀬田さんに連絡を取って、色々教えてもらいました」

リサ「確かに薫以上の適任はいなさそうだねぇ」

紗夜「あとは人命救助と、それから奥沢さんと2日間一緒に過ごしましたね」

燐子「人命救助……?」

紗夜「人命救助です。それ以外の何物でもありませんでした」
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:30:17.63 ID:OMi8DRIw0

日菜「へー。美咲ちゃんと何してたの?」ニュッ

紗夜「っ!?」ビクッ

あこ「わっ、ひなちん!」

紗夜「……気配を消して後ろから近付いてこないの。びっくりするじゃない」

日菜「あははー、ごめんごめん。それで?」

紗夜「それでって?」

日菜「美咲ちゃんと何してたのか気になるなぁ〜って」

紗夜「別に特別なことは何もしてないわよ。ただ一緒にお茶をしただけで」

彩「え? でも紗夜ちゃん、美咲ちゃんに『おねーちゃん』って呼ばれてたよね?」

日菜「は?」

紗夜「丸山さん、いつからそこに……」

彩「あ、ごめんね? 日菜ちゃんに用があって。ねぇ、日菜ちゃ――」

日菜「ちょっとおねーちゃん! どーいうことなのそれ!」

彩「え、あの、日菜ちゃん……?」

紗夜「どういうこともなにも、挑戦だったのよ」

日菜「意味わかんない! やだー! おねーちゃんはあたしだけのおねーちゃんなの!!」

紗夜「別に奥沢さんを本当に妹にするとかそういう話じゃないわよ」

日菜「そういう問題じゃないの! あたしとも一緒にお茶しよーよぉおねーちゃーん! ねぇねぇ〜!」

紗夜「もう、そんなに駄々をこねないの」

日菜「やだ! やだやだやだ〜!!」

紗夜「はぁ……まったくこの子は……」

彩「……なんていうか、ごめんね?」

紗夜「いえ……やったのは私の方ですから……」

日菜「おねーちゃんから姉萌えプレイしてたの!? あたしのことは全然構ってくれないのに!? あたしじゃおねーちゃんのこと満足させられないの!?」

紗夜「言葉はキチンと選びなさいとこの前も言ったでしょう」
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:31:00.14 ID:OMi8DRIw0

友希那「……姉妹喧嘩っていうのかしらね、これは」

リサ「ヒナが紗夜に構ってもらいたいだけじゃないかなぁ……」

あこ「りんりーん、どうしてさっきからあこの耳塞いでるの?」

燐子「うん……色々あるんだ……ごめんね、あこちゃん」

あこ「わー、何喋ってるのか全然分かんないやー」

友希那「紗夜は置いておくとして……あこはどうかしら」

あこ「はい? なんですか、友希那さん?」

友希那「……丸山さん。申し訳ないんだけど、紗夜と日菜をあっちに連れて行ってもらえるかしら」

彩「あ、うん。元からそのつもりだったから平気だよ。……日菜ちゃん、イヴちゃんが呼んでるよ。紗夜ちゃんと一緒でいいからちょっといい?」

日菜「分かった、あっちでゆっくり話そうおねーちゃんっ!」

紗夜「ちょ、どうして私まで……」

友希那「もういいわよ、燐子」

燐子「はい……」スッ

あこ「おお……風の音が聞こえる……黒い風が、また泣き始めた……」

燐子「……〜♪」ハナウタ

あこ「よかろう、かかって来い……。死のかくごが出来たのならな!」

燐子「テーテーテテーテレレレー♪」ハミング

友希那「……なんの話なの?」

燐子「あ……ごめんなさい……つい……」

あこ「魔王さまとカエルがカッコいい〜って話です!」

燐子「戦闘に入るまでの……一連のセリフとBGMがいいんです……」

友希那「…………」

友希那「……そう」

リサ(あ、理解を諦めた時の顔だ)
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:31:55.45 ID:OMi8DRIw0

あこ「それでどうしたんですか、友希那さん?」

友希那「あこの挑戦の方はどうかしら?」

あこ「はい! ばっちりクッキー作ってます!」

あこ「それでおねーちゃんに味見してもらって、あ、そうだ! いっぱい作り過ぎちゃったから持ってきてるんですよ! えーっと……」ゴソゴソ

あこ「あったあった! じゃーん、コレです!」

リサ「おー、綺麗に作れてるじゃん!」

燐子「お店に売ってるクッキーみたいだね……」

あこ「でしょでしょ! えへへ〜、あこの闇の魔力をスティックに込めて、いっぱい叩いたからね〜!」

リサ「スティック?」

あこ「そう! めん棒がお家になくて、新しいドラムスティックで作ったんだ!」

リサ「へ〜」

友希那「…………」

あこ「あ、やっぱりスティックでお菓子作りはダメでした……?」

友希那「いえ、いいと思うわよ」

あこ「よ、よかったぁ……友希那さんと紗夜さんには怒られるんじゃないかなってちょっとだけ思ってた……」

友希那(昔の私なら確実に怒ってたわね)

リサ(昔の友希那なら絶対怒ってたろうなぁ)

友希那「何が音楽にいい影響を与えるかはやってみないと分からないもの。あこがそれで何か得るものがあったのなら、それでいいのよ」

あこ「はい! リサ姉と紗夜さんがお菓子作って来てくれる気持ちが分かって、それに生地を叩いてたらなんだかリズム感が良くなった気がしてます!」

友希那「そう。なら、その経験は無駄ではないわ。よく頑張ったわね、あこ」

あこ「えへへ、ありがとうございます!」

燐子「よかったね、あこちゃん……」

あこ「うん!」
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:32:33.09 ID:OMi8DRIw0

友希那「それじゃあ次は燐子ね」

燐子「は、はい……!」

友希那「……でも、燐子はもうこの場でやってることを見せてもらったし、それでいいかしらね」

燐子「そう……ですか?」

友希那「ええ。人見知りのあなたがこういう教室に参加して……それに山へ竹を採りに行ったんでしょう?」

友希那「加えて私たちをこういう場所に誘ってくれたし、積極的に挑戦しようっていう気持ちが十分に見てとれるわ」

友希那「よく頑張ったわね、燐子」

燐子「はい……ありがとうございます……」

燐子「最初はちょっと……怖かったですけど……一歩を踏み出してみたら……素晴らしい体験が出来て……」

燐子「やっぱり……挑戦って大事なんだなって、すごく思いました……」

友希那「ふふ、流石ね」
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:34:02.17 ID:OMi8DRIw0

リサ「そういう友希那はどうだったの?」

友希那「私も貴重な体験が出来たわ。最初こそ接客業なんて勝手が全然分からなかったけど、色々と調べて経験して、自分の世界を広げることが出来たわ」

友希那「今までは食わず嫌いというか、知りもしないで避けていたこと(猫カフェ)もちゃんと調べてみれば素敵なものだったし、働くということの責任を(猫たちに)教えてもらったわ」

友希那「アルバイトは社会経験とはよく言うけれど、その言葉の意味を(猫カフェで)身を持って知ることが出来た」

友希那「これは間違いなく人生においてプラスだったし、この(猫カフェでの)経験を作曲や歌の表現にも生かせるハズよ」キリッ

リサ「おー」

燐子「流石ですね……友希那さん……」

あこ「あこもバイトしてみたいなぁ」

燐子「あこちゃんは……もうちょっと待たないとね……」

リサ「高校生になったらアタシと一緒にコンビニでやる?」

あこ「リサ姉と一緒も捨てがたいけど……やっぱりおねーちゃんと一緒がいいな」

リサ「あはは、振られちゃった」

あこ「ごめんね、リサ姉」

リサ「いやいや。流石に巴には敵わないよ」

燐子「わたしも羽沢さんのお家で……うう、でもやっぱり接客業はまだ……」

友希那「燐子もあこもしっかりやっているし、紗夜もやることはやっているでしょう」

友希那「リサは明日が本番だから、頑張ってね。この前話した通り、応援に行くわ」

あこ「あこもリサ姉応援しに行くよ!」

燐子「わたしも……行きます……」


<ソレジャアライシュウハアタシトデートダヨデート! ジャナキャユルサナインダカラネ!

<ハァ...ワカッタワヨ、ツキアウワ


友希那「……きっと紗夜も来てくれるわ」

リサ「みんな、ありがと。みっともないとこ見せないように、しっかり頑張るね」


――――――――――――
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:34:50.97 ID:OMi8DRIw0

【日曜日】


――商店街――

リサ「ふぅー……今日もいい天気だなぁ」

はぐみ「おーい、リサさーん!」

リサ「おっ、おはよーはぐみ」

はぐみ「おはよー! 今日は晴れてよかったね!」

リサ「んー、でもあんまり晴れてると暑くて大変そうだなぁ……まぁー雨が降るよりはいいけどさ」

はぐみ「あ、そうそう! これがリサさんの分のマラソンポーチだよ!」

リサ「お、ありがとう。オレンジ色でけっこう可愛いデザインだね」

はぐみ「えへへ、昔使ってたお気に入りなんだ」

リサ「そんなに大切なやつ、借りちゃっていいの?」

はぐみ「うん! 押し入れにずっと入ってるより、リサさんと一緒に走れる方がポーチも嬉しいと思うから!」

リサ「……そっか。それじゃあありがたく使わせてもらうね」

はぐみ「どうぞ!」

リサ「えーっと、普通にウェストポーチみたいにつければいいのかな?」

はぐみ「うん。マジックテープでしっかり止めてね!」

リサ「ん、りょーかい」

はぐみ「持ってきたジェルは一番大きなとこに入れて……それと、秘密兵器を小さなポケットに入れといたよ」

リサ「え、秘密兵器?」

はぐみ「うん! 秘密だからね。今は見ないで、もうダメだって時かゴールしてから使ってね!」

リサ「よく分かんないけど分かったよ。何から何までありがとね、はぐみ」

はぐみ「ううん!」

リサ「さってと、スタートまではまだ時間があるね」

はぐみ「うん。そしたらまず……」

リサ「準備体操だね」

はぐみ「うん!」


……………………
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:35:19.89 ID:OMi8DRIw0

――スタート地点――

リサ「うひゃー、意外と参加者多いんだね」

はぐみ「夏はあんまりマラソン大会がないからね。色んなところから参加者が来るんだ」

リサ「へー……ん? あれは……」

はぐみ「あ、ロゼリアのみんなだね!」

友希那「リサ、応援に来たわよ」

紗夜「今井さんなら完走くらい余裕でしょう。怪我だけは気を付けてくださいね」

あこ「頑張れ、リサ姉!」

燐子「頑張ってください……」

リサ「うん、ありがと! 精一杯やってくるよ!」

はぐみ「いいなぁ、リサさん……」

リサ「はぐみだって、ほらあそこ」

はぐみ「え?」

花音「は、はぐみちゃーん!」

美咲「こんな暑い中マラソンって大丈夫なのかな……」

薫「ふふ……はぐみならきっと大丈夫さ」

はぐみ「わっ、みんな応援に来てくれたの!?」

花音「うん。流石に一緒には走れないけど、応援くらいならって思って……」

美咲「釈迦に説法かもだけど、今日も暑いし気をつけてね」

薫「来れなかったこころとミッシェルの分まで私たちが応援するよ」

はぐみ「うん、ありがと! よーしっ、一番目指して頑張るぞー!」

リサ「アタシも完走目指して頑張るぞー!」

『間もなくスタートです。出場者の方は集まって下さい』

はぐみ「もう始まるね。それじゃあ、はぐみは前の方に行ってくる!」

リサ「アタシは後ろの方で、ペースを崩さないように行くよ」

はぐみ「一緒に頑張ろうね!」

リサ「うん!」


……………………
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:36:18.77 ID:OMi8DRIw0

リサ(はぐみは列の前の方に行っちゃったし、ここからはアタシひとりで頑張んないとね)

リサ(えーっと、スタートしたらまずは焦らずに走ること、それと給水所の場所はスタート地点のこことちょうど街を半周したあたり……)

リサ(あーヤバい、ちょっと緊張してきた)

『スタートの時刻になりました』

はぐみ父「準備はいいですかー! それでは位置について、よーい……」

――パァン!

リサ(スターターピストルの音と一緒に周りの人たちが「わっ」と一斉に走り出す)

リサ(みんな、思ったよりも早いペースで走り出してるな……)

リサ「けど、慌てない慌てない……」タッタッタ...

リサ(確かに周りのペースに釣られそうになるけど、はぐみとの練習で教わった「最初はゆっくり、あとからバビューン!」だね)

リサ(昨日は練習しないで休んでたから身体も軽いし、ベースを弾く時みたいに、ペースを崩さず行かなくちゃ)

リサ「はぐみは……わっ、すごい。もうあんな遠くに」

リサ(先頭集団の方へ視線を巡らせると、はぐみの姿はその中でも前の方にあって、明るい色のショートヘアーが軽やかに揺れていた)

リサ(やっぱ走るのが好きなだけあって速いなぁ)

リサ「すー……ふー……」

リサ(どことなく置いてけぼりにされてる気がしちゃうけど、はぐみははぐみでアタシはアタシ)

リサ(ゆっくり呼吸をして気持ちを落ち着かせて、完走目指して行こう!)
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:37:20.88 ID:OMi8DRIw0


燐子「今井さん……結構後ろの方ですね……」

あこ「大丈夫かな……」

紗夜「目標は上位入賞ではなく完走ですからね。ペース配分を考えているんでしょう」

友希那「ええ、きっとそうよ」


美咲「うわー、はぐみすごい速い……」

花音「体力、持つのかな……大丈夫かな……」

薫「案ずることはないさ、花音。はぐみはマラソンのスペシャリストだからね」


……………………
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:38:00.16 ID:OMi8DRIw0

――タッタッタ...

リサ(真夏の太陽光がアスファルトを照りつけて、道路に陽炎が揺らめいている)

リサ(その揺らぎを踏みしめては蹴りだして、アタシはただ前へ進む)

リサ(スタートしてからどのくらい経ったろうか。どのくらい走っただろうか)

リサ(時間は分からないけれど、見慣れた街の景色からなら大体どのくらい走ったか分かりそうだ)

リサ(いつものんびり歩く商店街を抜けて、花咲川女子学園に続く道)

リサ(確かここまで歩くと20分くらいだったはずだから、距離にすると……あー、どのくらいだろ。やっぱ分かんないや)

リサ(そんなことを考えながら、ペースを乱さないように足を動かす)

リサ(最初は大きく固まって走っていた参加者たちも、段々とバラけていった)

リサ(アタシの近くには4人。それぞれが規則正しく腕を振って走っている)

リサ(アタシもそれに倣って、はぐみに教えてもらったことを頭で反芻しながら走る)

リサ(目線は5メートルくらい先にして猫背にならないように、まだ序盤だから抑えめに走る、それから休憩所では慌てずゆっくりする……)

リサ(駆けるリズムに合わせて頭の中で何度も繰り返す)

リサ(そうしているうちに、近くを走っていた4人のうちの2人を段々と後方に離していった)

リサ(あの人たちがペースを落としたのか、それとも、今もまだ近くを走る2人のペースが上がったのか)

リサ(分からないけど、とにかくアタシはアタシの思うリズムで走れば平気のはず)

リサ(ああ、それにしても暑い。真夏の太陽は本当に容赦がない)

リサ(額から噴き出る汗が眉にかかって、アタシはそれをピッと指で払った)

170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:38:38.68 ID:OMi8DRIw0

― 一方その頃 ―

はぐみ「うりゃー!」タタタタ...

お師匠「……!」ダッダッダッダ!

はぐみ(竹屋さん、今日も速いなー! あんなにおっきな身体なのに!)

お師匠(北沢さんの娘さん……やはり今回も速い……)

はぐみ(この前は負けちゃったけど、今日は絶対に勝つ!)

お師匠(大人げないとは思うけれど……今回も負けません……!)

はぐみ「負けないぞー!」

お師匠「私もです……!」

171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:39:30.51 ID:OMi8DRIw0

リサ(暑い。暑い。喉が渇いた)

リサ(足元からせり上がってくる照り返しの熱気が身体中にまとわりつく)

リサ(ペースは崩していない、はず)

リサ(近くを走っている2人とは全然はぐれないし、大丈夫なはず)

リサ(でもあっついものは暑い!!)

リサ「はぁ、はぁ……!」

リサ(ちょっと前までは頭の中でベースを奏でてリズムを取る余裕があったけど、今はそんなものはない)

リサ(肩で呼吸をする、とまではいかないけど、徐々に徐々に息遣いが早く荒くなってきてる)

リサ「はぁ……っと!」

リサ(顔がかなり下を向いていたのに気付いて、ハッとして身体を起こす)

リサ(少しだけ腰のあたりが楽になったような気がした。気がしただけかもだけど)

リサ(スタートからどれくらい経ったんだろう)

リサ(ペースを乱さないことばっかり考えてて、時間に関しては皆目見当もつかない)

リサ(せめて給水所が見えてくれば分かるのに……)

リサ「はぁ、はぁ……?」

リサ(そんなことを思ったところで、左前方に商店街の名前が書かれた組み立て式の白テントと、人がたくさん集まっているのが見えた)

リサ(給水所だ、と一拍おいてから理解すると、深い息が一度漏れた)

リサ(給水所は5キロに1回。ということは、これで4分の1を走り終えたということだ)
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:40:25.27 ID:OMi8DRIw0

リサ「はぁ……はぁー……」

リサ(ペースをゆっくり落としていく)

リサ(はぐみの言葉が頭の中に蘇る。給水所では慌てずに、ゆっくり休憩するくらいの気持ちでいた方がいい……って)

リサ「慌てる……余裕も……ない……ってば……」

リサ(早歩きとほとんど変わらない速度までペースを落としたところで給水所の前に辿り着く)

リサ(ここまで一緒に走ってきた2人はアタシよりかは速い足並みで紙コップを受け取って、それをすぐに口にしていた)

リサ(アタシもそれに倣って、白テントの真下に設けられた長方形のテーブルから紙コップを手にする)

リサ「っ、っ……ふはぁ……」

リサ(アンダンテのリズムで足を進めながら、紙コップに入った水をゆっくりと飲み干した)

リサ(キンキンに冷えてる、とは言えない温度の水だったけれど、身体が内側からゆっくり冷やされた)

リサ(太陽の光に茹だった思考も少しだけ冷静になった)

リサ「すー、はー……」

リサ(深呼吸しつつ、腿を少し大きく上げて歩く。はぐみとの練習を頭に呼び起こす)

リサ「……釣られてたなぁー」

リサ(1週間という短い期間の練習だったけれど、それでもなんとなく身体が「ゆっくり走る」ペースを覚えていた)

リサ(そのペースは、スタート地点からここまで走ったものと比べるとずっとゆっくりで、アタシが合わせるべきはあの時離れた2人だったんだと今さら気付く)

リサ(完走が目標だ、とは言っているけれど、それでもやっぱり順位が上がると嬉しいものだ。一緒に走ってた人を引き離して、知らない間にテンションが上がって、もっとイケるって足を動かしていたらしい)

リサ「……よっし、頑張ろっ」

リサ(空になった紙コップを備えられた大きなゴミ袋に捨てて、アタシはもう一度ペース配分を頭に入れて、再び地面を蹴った)

173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:41:28.35 ID:OMi8DRIw0

― 一方その頃 ―

紗夜「奥沢さんたちも北沢さんの応援に来ていたんですね」

美咲「ええ、はい」

あこ「それにしても暑い……」

燐子「こんな中マラソンなんて……わたしがコレを引いていたら……死んでたかも……」

友希那「あら、先頭集団が戻ってきたみたいね」

花音「あ、本当だ。はぐみちゃん、いるかな?」

薫「きっといるさ。はぐみはスピードスターだからね」

美咲「あ、はぐみ見つけ――」

はぐみ「おおー!」タタタタタタ

お師匠「……っ!」ドドドドド

美咲「――た……って、もう通り過ぎた!?」

燐子「あれ……北沢さんと競り合ってたの……お師匠さんじゃ……」

友希那「…………」

紗夜「湊さん? どうかしましたか?」

友希那「……いえ」

174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:42:14.74 ID:OMi8DRIw0

リサ(ペース配分)

リサ(ペース配分)

リサ(リズム。アダージョ、アレグロ・モデラート、ア・テンポ)

リサ(このテンポで走って、ダ・カーポ、繰り返す、初めから繰り返す)

リサ(季節は巡る、春はあけぼの、ソメイヨシノ、さくら、懐かしい夢)

リサ(……何考えてんだろ)

リサ(頭の中に浮かぶ言葉は単調なものばかりで、あちらこちらへフラフラと、まるでサーカスの曲芸師が渡る綱のように寄る辺なく揺れ惑う)

リサ(走るペースは再確認したけれど、それでも足を動かし続けることで身体にかかる負担はどんどん積み重なる)

リサ(綱渡りといえば友希那が落っこちた時の悲鳴ちょっと可愛かったなー……なんて)

リサ(身体にかかった負担はだんだんと正常な思考能力も削いでいって、考える内容をあらぬ方向へ捻じ曲げる)

リサ(それでも足は止めない。そういう風にプログラムされた機械のようにただ前へ進み続ける)

リサ(どれくらい走っただろう、どれくらい時間が経っただろう)

リサ(それを考えることさえ今は出来そうにない)
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:42:54.68 ID:OMi8DRIw0

リサ「はっ、はっ、はっ……」

リサ(浅い呼吸を忙しなく繰り返す)

リサ(そうしていると、スタート地点の給水所が見えてきた)

あこ「リサ姉〜!」

リサ(その近くにいたあこがアタシにぶんぶんと両手を振った)

燐子「い、今井さん、頑張って下さい……!」

紗夜「ここで折り返しよ。もう半分、頑張って」

リサ(隣に並ぶ紗夜と燐子も声援をくれた)

リサ(それらに笑顔を浮かべようとしたけど、あんまり上手くいかなかったような気がしたから、アタシはヒラヒラと右手を振り返した)

リサ(2回目の給水所。折り返し。1度目のダ・カーポ)

リサ(もう1度ここからだ)

リサ(ペースを落として、アタシはテーブルに置かれた紙コップを手にした)

176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:43:26.35 ID:OMi8DRIw0

燐子「今井さん……すごく苦しそうでしたね……」

あこ「リサ姉……大丈夫かな……」

紗夜「……大丈夫よ。今井さんは強いもの」

紗夜(自分の挑戦内容にかまけて少しキツく当たり過ぎたわね……反省しないと……)

燐子「…………」キョロキョロ

あこ「どうしたの、りんりん?」

燐子「友希那さん……まだ戻ってこないなって……」

紗夜「そういえば……飲み物を買いに行くって言ったっきりね」

177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:43:56.91 ID:OMi8DRIw0

― 一方その頃 ―

はぐみ「はぁ、はぁ……」タタタタ

お師匠「ふっ……ふっ……」ダダダダ

はぐみ「はぁ、息が、上がってるよ? ちゃんとそこで給水、した方がいいと思うよ?」

お師匠「ふぅ、そちらこそ……少し休んで……いかれては……?」

はぐみ「はぐみは、まだ、ヘーキだよっ!」

お師匠「私も……まだ、まだっ……!」

178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:45:11.71 ID:OMi8DRIw0

リサ(給水して、ただ足を動かす)

リサ(アスファルトを踏みつけて前へ前へ)

リサ(今日2回目の景色が通り過ぎる)

リサ「はぁ、はぁ、はぁ……!」

リサ(息が苦しい。苦しくて苦しくてしょうがない)

リサ(頭も回らない。脳裏に浮かぶのは変な自問自答だけ)

リサ(アタシは何のために走ってるのか、どうして走ってるのか)

リサ(なんでこんなキツイ思いしてんのかって、ただそれだけ)

リサ(足を止めたい。疲れた)

リサ(ゴールはどこなのか、って、さっき通り過ぎたばっかだ)

リサ(遠い。遠すぎる。もう一度、もう一度って、この距離を走らなくちゃいけないのか)

リサ(途方もない。頭の中に浮かぶゴールは蜃気楼だ)

リサ(アスファルトに伸びるアタシの影さえ蒸発しそうな炎天下に揺らめく、触れることの出来ない蜃気楼だ)
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:45:42.01 ID:OMi8DRIw0

リサ「ああ、もう、何考えて、んのさ……」

リサ(頭を振った。頬にしたる汗が飛び散った)

リサ(もう一度背筋を伸ばす。腰のあたりで衣擦れがあって、はぐみに借りたポーチの存在を今さら思い出した)

リサ(そうだ、エネルギーを補給しないと)

リサ(走るペースを緩めて、ポーチをお腹の方へ回す。そして入れておいたジェルを取り出して、口をつける)

リサ(息が詰まって上手に飲めないけど、少しずつ、少しずつ飲み下していく)

リサ(そもそもこれってこういう風に飲むんだろうか、給水の時に飲めばよかったんじゃないだろうか……と今になって思うけれど、もう遅い)

リサ(四苦八苦しながら飲み切って、空になった容器をポーチにしまう)

リサ(少しだけ元気が出たような気がした)
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:46:23.34 ID:OMi8DRIw0

リサ(けれど少し走っているうちに、その元気も全部、汗と一緒に流れ出てしまったような気がした)

リサ(もうゴールしたい。ここをゴールにしてしまいたい)

リサ(そう思ってやまない)

リサ(ほとんど惰性のように足を動かし続けていると、前方に給水所が見えた)

リサ(距離にすれば300メートルとかそんなものだろうか)

リサ(だけどその距離すら遥か彼方に思えてしまう)

リサ(それならばスタート地点は、ゴールとなる場所へはあとどれだけ足を動かせばいいんだ)

リサ(思い浮かべた距離は途方もなくて、アタシから気力を奪っていく)

リサ(アタシはひとりで何をやってるんだ)

リサ(もうダメだ、もうダメだ……と、ネガティブなことばかりを胸中で繰り返した)

リサ(そうしているうちに給水所へ辿り着いた)

リサ(ペースが落ちていく。重たい足がますます重たくなっていく)

リサ(もう諦めてしまえばいい)

リサ(とうとう思い浮かんだのはそんなギブアップの言葉で、どんどん気持ちが萎んでいく。頭が重くて俯いてしまう)
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:47:50.28 ID:OMi8DRIw0

友希那「リサ」

リサ「えっ……?」

リサ(けど、その声を聞いて、ふっと顔が持ちあがった)

友希那「あともう少しよ。頑張って」

リサ(視線の先、白テントの下。スタート地点にいるはずの友希那が、紙コップを持って立っていた)

リサ「え、え……なんで、友希那がここに……」

友希那「この辺りが一番大変だと思ったからよ」

リサ(言いつつ、もうほとんど歩く速さと変わらないアタシに友希那は歩調を合わせる)

友希那「あっちにはみんながいるわ。だから私はこっちへ来たの。運営の人に『友達に飲み物を渡したい』って言ったら快く了承してもらえたわ」

リサ(「はい、これ」……と友希那が差し出す紙コップを受け取る)

友希那「さっき買ってきたばかりのスポーツドリンクが入っているわ。さぁ、飲んで」

リサ「……うん」

リサ(乱れた息を整えながら頷いて、コップに口をつける。口の中に冷たさとほのかな甘さが広がって、それを一息に飲み込んだ)

リサ「っはぁ……」

友希那「大丈夫? ……いえ、リサなら大丈夫よね」

リサ「……うん。友希那のおかげで元気出た」

友希那「それならよかった。さぁ、あともうちょっとよ。最後まで頑張って」

リサ「うんっ!」

リサ(不思議だった。さっきまではあんなに萎れていた気力が、友希那の応援だけで一気に大きくなった)

リサ(アタシは友希那に頷きかえして、大きく息を吸ってから吐き出す)

リサ(そしてアスファルトを強く蹴りだした)

182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:48:37.02 ID:OMi8DRIw0

友希那「……こっちに来ておいてよかった。あんなに苦しそうなリサ、初めて見たわ」

友希那(でも、しっかり元気になってくれてよかった)

友希那(人に頼らず自分の力で挑戦すること……なんて先週言ったけれど、これくらいなら紗夜も大目に見てくれるでしょう)

友希那(あとはゴール地点でリサを待って……)

友希那「…………」

友希那「あ」

友希那(……マズイ、いま気付いたけれど……どうやってリサより先にあっちへ戻ればいいのかしら……)

友希那(ゴールの瞬間にリーダーかつ発案者の私がいないって、絶対に締まらないわよね……)

友希那(走って? いや、リサより早く戻れる自信がないわ。行きはリサよりも早く出たから歩いてでも間に合ったけれど……)

友希那「……どうしよう」

183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:49:23.05 ID:OMi8DRIw0

リサ(友希那に応援してもらってからしばらく走って、ふと思い出したことがあった)

リサ(ポーチの小さなポケットに入った、はぐみ曰く『秘密兵器』)

リサ(もうダメだって時は過ぎちゃったけど……ちょっとだけ、見てみよう)

リサ(そう思って、ポーチの小さなポケットを開ける。そこにはトランプくらいの大きさの厚紙が2枚入っていた)

リサ(それに付箋が貼ってあって、『もうダメ用』『ゴール用』とそれぞれ書いてあった)

リサ(アタシは『もうダメ用』の付箋を引っ張って、厚紙を取り出す。そして紙面に目を通す)

『リサさん、ファイトー!!』

リサ(そこには元気一杯の大きな文字で、そう書かれていた)

リサ「ふっ、ふふ……」

リサ(それを見て、相変わらず息が苦しいけれど、思わずアタシは笑ってしまった)

リサ(あーそうだ。そういえばみんなで曲作って歌ったっけな。その張本人がそれを忘れてるんだから世話ないなぁ)

リサ(『ひとりで何やってるんだ』って、本当にバカなことを考えていたものだ)

リサ(友希那が応援してくれて、あこと燐子と紗夜も応援してくれて、はぐみがこんなにもアタシをサポートしてくれる。それならアタシは全然……)

リサ「……ひとりじゃないんだから」

リサ(呟いた言葉がアタシの背中を押す。気力はもうゲージを振り切るレベルで満タンだ)

リサ(あこが、燐子が、紗夜が、そしてなにより友希那が絶対に待ってくれているゴールを想像する)

リサ(それは決して蜃気楼や幻なんかじゃなくて、確かな輪郭を持った現実として、何があったって絶対に辿り着ける目的地として、明確に思い描ける)

リサ(もう少しで、あと少しでそこへ辿り着けるんだ。やってやる、最後まで頑張り抜いてやるんだ)

リサ(アタシの足は、ただその風景を目指してまっすぐに突き進んでいった)

184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:50:49.70 ID:OMi8DRIw0

――ゴール地点――

紗夜「ハーフマラソンに参加してる人たちが着々とゴールしてるわね……」

燐子「はい……今井さんももうそろそろでしょうか……」

あこ「んー……あっ!」

リサ「はぁ、はぁ、はぁ……!」

リサ(見えた……あそこがゴールだ……)

あこ「リサ姉来た! リサ姉〜!!」ブンブン

燐子「やっぱり苦しそう……が、頑張って下さい……!」

紗夜「今井さん! もう少しです、頑張って!」

リサ(あこが大きく手を振って、燐子がキュッと祈るように両手を組んで、紗夜が珍しく大声を出して……)

リサ(ああ、やっぱりだ。アタシが思った通りの風景だ)

リサ(『もう少し、あと少し』で、やっとここまで来れた)

リサ(『もうダメだ』を乗り切れたんだ)

リサ(アスファルトから立ち上る陽炎がゴールを揺らす)

リサ(けどあれは蜃気楼なんかじゃない。しっかり触れられる現実だ)

リサ(あんなに遠かったのに足を踏み出すたび近づけるんだ)

リサ「はぁ、はぁ……!」

リサ(足が重たい。身体が重たい。それでも前へ進む)

リサ(もうすぐそこなんだ)

リサ(一歩、二歩、三歩……交互に足を踏み出して、挫けそうになったけど、これでやっと……)

リサ「はぁ、ゴール……だっ!」

リサ(アタシは最後の一歩をしっかり踏みしめた)

リサ(ゴールしたんだ。完走できたんだ)

リサ(そう思うと身体から力が抜けた。ペースを歩くくらいのものに落とした足がふらついた、けど)

友希那「完走おめでとう、リサ」

リサ「はぁ、はぁ……うん……超、頑張った……」

リサ(タオルを手にした友希那が出迎えてくれたから、アタシは笑顔を浮かべることが出来るのだった)


……………………
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:51:37.47 ID:OMi8DRIw0

リサ(花咲川マラソン大会は、その後も滞りなく進行していき、参加者全員がゴールした)

リサ(ハーフマラソンに参加した人数は58人いて、アタシはその中で29位だった)

はぐみ「初めてなのに真ん中なんてすごいよ!」

リサ(……と、大会後にはぐみが嬉しそうに褒めてくれて、アタシも嬉しかった)

リサ(はぐみといえば、『ゴール用』と書かれた厚紙には、こう書かれてあった)

『おめでとう、リサさん! はぐみも頑張るよ!』

リサ(「はぐみはフルだから、リサさんにすぐにおめでとうって伝えるために用意したんだ」と、これまた嬉しそうに言う姿に、アタシもやっぱり嬉しくなった)

リサ(そのはぐみはフルマラソン参加者71人中、9位だったらしい)

リサ(アタシの2倍走ってその順位って凄すぎると素直に思った。あと、その後ろで燐子のお師匠さんが「負けた……」と落ち込んでいたのがやたら印象に残っている)

リサ(そして今は帰り道。西に傾き出した太陽を背に、ロゼリアの5人で並んで、アタシは友希那に少し肩を貸してもらって歩いている)

あこ「そういえば友希那さん、途中からどこに行ってたんですか?」

リサ(そんな中、ふと思い出したようにあこが友希那にそう尋ねた)
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:52:33.23 ID:OMi8DRIw0

友希那「ああ、ちょっとリサの応援に行っていたのよ」

燐子「応援……?」

あこ「応援って、あこたちもしてましたよ?」

友希那「あのマラソン大会にはもう1ヶ所給水所があるって聞いたから、私はそっちの方でリサを応援したの」

友希那「半分を過ぎてあともう少しという時が一番辛い思ったし、スタート地点の方にはみんながいたもの」

あこ「そうだったんですね!」

リサ「あの時は本当に助かったよ」

リサ「正直、あそこで友希那に応援してもらえなかったらギブアップしてたかも、ってくらいキツかったんだよね」

友希那「それなら何よりだわ」

友希那(ゴール地点に戻る手段をまったく考えていなかった時は私もどうなることかと思ったけれど……給水所のテントに羽沢さんのお父さんがいて助かったわ)

友希那(車で送ってもらえなかったら確実に間に合っていなかったわね)
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:53:18.60 ID:OMi8DRIw0

紗夜「…………」

燐子「あの……氷川さん……?」

紗夜「え? あ、何かしら?」

燐子「いえ……さっきからずっと黙っていたので……どこか具合でも悪いんじゃないかなって……」

リサ「そういえばそうだね。大丈夫?」

紗夜「……いえ、身体の具合はどこも悪くありません」

リサ「ほんと? 今日は暑かったし、調子がおかしいならすぐに言ってね?」

紗夜「それはどちらかというと私の台詞だと思うけれど……いえ、そうではなくて、その、今井さん」

リサ「ん?」

紗夜「……ごめんなさい」

リサ「え? えーっと……それ、何に対しての謝罪?」

紗夜「先週に挑戦することを決めた時から、私は自分の挑戦に不満を抱いて、あなたにも少しキツく当たってしまっていたわ」

紗夜「それで……この猛暑の中、すごく苦しそうに走っている今井さんを見て、自分の狭量さを実感したのよ」

紗夜「だから、軽々しくフルマラソンで走るべきだとか、そういうことを言ってしまってごめんなさい」

リサ「…………」

紗夜「…………」
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:53:55.74 ID:OMi8DRIw0

リサ「え、もしかしてさっきからずっとそんなこと考えてたの?」

紗夜「……ええ。自分の小ささが不甲斐なくて、今井さんに申し訳がなくて」

リサ「ふっ、はは!」

紗夜「なっ、どうして笑うのよ?」

リサ「あーごめんごめん。やっぱり紗夜は真面目だなーって思って」

リサ「そんなこと、アタシは全然気にしてないよ。むしろこんな暑い中応援に来てくれて嬉しかったし……それに」

紗夜「……それに?」

リサ「走りながら、ゴールする時のことをずっと考えてたんだ。みんなが待っててくれるんだって」

リサ「きっとあこはぶんぶん両手を振って、燐子は祈るみたいにしてて、紗夜はまっすぐに応援してくれて、友希那が出迎えてくれるだろうなー……っていう感じにさ」

リサ「そう思ったからアタシは最後まで頑張れたし、実際にそうだった」

リサ「アタシが頑張れたのはみんなの応援と、この1週間ずっと練習に付き合ってくれたはぐみのおかげだよ。だから、今日は本当にありがとうね、紗夜」

紗夜「今井さん……」

リサ「もちろん紗夜だけじゃなくって、あこも燐子も、友希那も」

燐子「はい……」

あこ「えへへ、リサ姉に元気があげられたならよかったよ!」

友希那「……そうね」
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:54:47.88 ID:OMi8DRIw0

友希那(よかった……本当に、あそこに羽沢さんのお父さんがいてよかった……)

友希那(リサのゴールに間に合わなかったら締まらないとかそういうレベルじゃないくらいに私の立つ瀬がなかったわ……)

あこ「友希那さん、なんかいっぱい汗かいてません?」

リサ「わ、ホントだ。大丈夫、友希那?」

友希那「え、ええ、大丈夫よ、万事滞りなく平常よ」

友希那「それより、私のことはともかくとして、これでみんなの挑戦が終わったわね」

紗夜「そうですね。最初はどうなることかと思いましたけど」

友希那「そうしたら、明日も練習は休みにしてこの1週間の反省会にしましょう」

友希那「体験して学んだことを振り返ることで、その経験は確かなものとなって自分の中に蓄積されるのだから」

あこ「わっかりましたー! 場所はどこにするんですか? いつものファミレスですか?」

友希那「……いえ、場所は――」


――――――――――――
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:55:58.08 ID:OMi8DRIw0

【翌日】

――今井家 リサの部屋――

リサ「うぅ……身体中痛い……」

友希那「やっぱりこうなったわね」

リサ「大丈夫だと思ったんだけどねー……イタタ……」

紗夜「あれだけ走ったのだから、筋肉痛になって当然でしょう」

あこ「大丈夫? 湿布貼ったりお薬塗ろっか?」

リサ「それはさっき友希那にやってもらったから大丈夫だよ。それよりお茶出さなくっちゃ……」

燐子「今井さんは……大人しく寝ててください……」

あこ「そうだよー、今日は絶対安静だよ!」

友希那「あこの言う通りよ。そもそも反省会をここでやるのは、リサが無理しないか見張るためでもあるんだから」

友希那「お茶は私が用意してくるわ。リサの家なら勝手は分かっているし」

リサ「……友希那に任せるの、ちょっと不安なんだけどなー」

友希那「何か言ったかしら」

リサ「ううん、何も。えーっと、それじゃあお願いしていい? 今日はお母さん出掛けてるから……」

友希那「ええ、任せて」

燐子「あ……それじゃあわたしが……一緒に行きますね……」

リサ「うん。お願いね、燐子」

友希那「リサ? 燐子? どういうつもりかしら?」

リサ「あー……ほら、5人分の用意だと友希那だけじゃ大変じゃん?」

燐子「そうです……2人でやった方が早く終わりますから……」

友希那「……それもそうね。それじゃあリサ、少しキッチンを借りるわよ」

リサ「うん、お願いね」

燐子「じゃあ……行きましょうか、友希那さん……」

友希那「ええ」

――ガチャ、パタン

紗夜「……日頃の行いって大事ね」

リサ「あはは……」


……………………
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:56:38.02 ID:OMi8DRIw0

友希那「さて、お茶も用意したし、そろそろ反省会を始めましょうか」

リサ「はーい」

あこ「はーい!」

紗夜「はい」

燐子「はい……」

友希那「じゃあ……くじを引いた順でいいかしらね。まずはあこから」

あこ「はい! クッキー作り、すごく楽しかったです!」

友希那「……まぁ、予想していた通りの答えね。他には何かあったかしら?」

あこ「あとは流しそうめんの時に話した通りです!」

あこ「クッキーを作ってる時にね、ロゼリアのみんなが美味しいって言ってくれるかなーとか、あこのクッキーでみんなが笑顔になってくれたら嬉しいなって思うとすごく楽しくて、きっとリサ姉と紗夜さんもこういう気持ちなんだなって思いました!」

リサ「うんうん、分かるよその気持ち」

紗夜「私は別に……いえ、そうね。宇田川さんの言う通りかしらね」

あこ「えへへ、これからはあこもクッキーとか作ってくるね!」

リサ「よーし、それじゃあ今度一緒に作ろっか」

あこ「うん!」
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:58:06.02 ID:OMi8DRIw0

友希那「なるほど。あこはクッキー作りを通して、みんなに対する気持ちを再確認できた、というところかしら」

あこ「そんな感じです! あ、そうだ、今日もクッキー持ってきたんだ! みんなで食べましょう!」

燐子「あ……あこちゃん、クッキーを出すなら……これに……」サッ

友希那「それは……」

燐子「お師匠さんに教えてもらって……若宮さんと一緒に作った……竹で編んだお皿、です……」

あこ「え、これりんりんが作ったの!?」

燐子「うん……少し形が歪んじゃったけど……」

リサ(え、歪んでるかな、これ?)

紗夜(綺麗な円のお皿になっていると思うけれど……)

友希那「すごいわね、お店に並んでても不思議じゃないわよ」

燐子「そんなこと……ないです……。お師匠さんに比べたら全然で……」

リサ「いやいや、本職の人と比べられる時点で十分すごいって」

紗夜「ええ、その通りよ」

燐子「そう、ですか……? ありがとうございます……」
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:59:13.85 ID:OMi8DRIw0

友希那「燐子が作ったのは流しそうめんの竹だけじゃなかったのね」

燐子「はい……あの竹は……わたしと若宮さんが枝打ちに失敗したものを利用したので……」

燐子「失敗してしまったものでも……ああやって……みんなを楽しませることが出来たのが不思議で……なんだか嬉しかったです……」

友希那「燐子もこの1週間で得るものがあった、という訳ね」

燐子「はい……貴重な体験が出来ました……。ロゼリアの衣装も……たまには和風にするのもいいなって思えましたし……勇気を出してよかったです……」

あこ「りんりん、直接クッキーのせていいの?」

燐子「あ……そのままだと衛生的にダメだから……クッキングシート、敷くね……」

リサ「それも持ってきたんだ?」

燐子「はい……あこちゃんならきっとクッキーを作って……持ってくるだろうなって思ったので……」

あこ「えへへ、りんりんとあこの協力奥義だね!」

燐子「そうだね……。はい、敷き終わったから……出していいよ、あこちゃん……」

あこ「りょうかーい! よいしょーっと」

友希那「ありがとう、あこ。せっかくだし食べながら話をしましょうか」

紗夜「ええ。頂きます、宇田川さん」

あこ「はーいっ、どうぞ召し上がれ!」
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 20:00:39.17 ID:OMi8DRIw0

友希那「それで紗夜はどうだった? ナンパをしてみて」

紗夜「……ナンパをしてみて、なんていう風に言われると少し言い辛いのですが、もう少し素直になろうと思いましたね」

友希那「素直に?」

紗夜「はい。奥沢さんと話をしている時に、あることが心に引っかかりまして……」

紗夜「私はこういう性分だから、つい言い方がキツくなってしまって、それで誰かを傷付けているんじゃないか……と。自分を見つめ直してみると、そういう場面がいくつも思い浮かびました」

リサ「ああ、だから昨日あんな風に謝ってきたんだ」

紗夜「ええ。自分で発した言葉には責任が伴うということ改めて実感したわ」

紗夜「だからもう少し素直に、相手のことを慮れるようになろうと思いました。……音楽にはあまり関係ないことかもしれませんが」

友希那「そんなことはないわよ、紗夜」

友希那「私たちの演奏は確かな技術を主体にしたものだけど、だからといってただ正確に音を奏でるだけじゃ、機械と何も変わらないわ」

友希那「内面の充実は音楽の表現の幅を広げることに繋がると、私はそう信じている」

友希那「だからあなたがナンパで培ったその経験は決して無駄ではないわ」

紗夜「……そう言って頂けると私の苦労も浮かばれます。ありがとうございます、湊さん」

リサ(ナンパで培った経験って字面も結構アレだなぁ……)

燐子(本当に……わたしが氷川さんのくじを引かなくてよかった……)

あこ(1つだけ混ぜた闇の魔力マックスの大きいクッキー、誰が食べるかなぁ)
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 20:02:03.01 ID:OMi8DRIw0

友希那「次はリサね」

リサ「はーい……って言っても、アタシはほとんど昨日に言った通りなんだよね」

リサ「走ってる時はひとりぼっちの気がして挫けそうだったけどさ、はぐみがすごいサポートしてくれたし、みんなも応援してくれて、『アタシはひとりじゃないんだな』ってすごい実感出来たよ」

リサ「だからこれからも何か困難があってもめげずに頑張れそうだなって思ったし、誰かが挫けそうなら真っ先に駆け寄って助けてあげたいって思った……かな」

あこ「あこはいつもリサ姉に助けられてるよ! 寝ぐせ直してくれたり、宿題の分かんないとこ教えてくれたり、お菓子作って来てくれたり!」

リサ「あはは、ありがと、あこ」

あこ「あこの方こそ! いつもありがとね、リサ姉!」

紗夜(……素直になるってこういうことよね。宇田川さんがとてもいいお手本だわ)

燐子「わたしも……今井さんにはいつも……お世話になってばかりです……」

紗夜「私も同感です」

友希那「そうね。リサはもう少し自分勝手でもいいと思うわよ」

リサ「いやいや、自分勝手って」

友希那「あなたはいつも私たちを気遣ってくれるから、それくらいでちょうどいいってことよ」

リサ「……そっか」

リサ(でもそう言われると、アタシがみんなの助けになってるってことだから……うーん、もっと助けてあげたいし何かしてあげたいって思っちゃうんだよなぁ……)

友希那(ああ、あの顔……絶対に『そう言われるともっと助けたくなる』みたいなこと考えてるわね)ジトー

リサ(あ、考えてること友希那にバレたな、これ)

友希那「はぁ……まったく、リサはしょうがないわね」

リサ「あー……まぁ、アタシもそういう性分だからさ」

紗夜(今、確実に2人の間でしか伝わらないアイコンタクトがあったわね)

燐子(幼馴染って……みんな目と目で会話が出来るのかな……)

あこ(あ、友希那さんが闇のクッキー取った)
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 20:03:58.06 ID:OMi8DRIw0

友希那「リサのことは置いておくとして……最後は私ね」

紗夜「どうでしたか、羽沢珈琲店でのバイトは」

友希那「そうね、とても貴重な経験だったわ」

友希那「私は今までアルバイトもしたことがないし、文化祭とかでもあまりクラスの出し物に参加していなかった。だから接客業なんて勝手が分からなかったけれど、実際にやってみると色々な発見があったわ」

あこ(なかなか食べないなぁ、友希那さん)

友希那「紗夜は来なかったけれど、私がバイトの日にはみんなが来てくれた。そこで見たあなたたちの顔は、ロゼリアで見るものと違っていた」

友希那「従業員とお客さんという立場であなたたちを見て、みんなへの理解がより深まったような感覚がしたわ」

友希那「さっき紗夜に言った通り、私は内面の充実は音楽の表現の幅を広げることに繋がると思っている」

友希那「今後の作曲にも、私の歌にも、この経験は十分に生かせるはずよ」

紗夜「流石湊さんですね。つぐみさんもとても良くしてもらったと言っていたし、やることをしっかりやったみたいですね」

友希那「リーダーとして当然よ。それに、羽沢さんのお父さんには……いえ、この話はいいわね」

紗夜「……言いかけてやめるのはあまり感心しませんが」

友希那「他愛のない話よ。気にしないでちょうだい」

紗夜(……気になる。つぐみさんのお父さんと何があったのだろうか)

友希那(危ないわ。マラソンの時のことを言ってしまったら私のリーダーとしての威厳があっという間に崩壊してしまうところだった)

紗夜(まさか『羽沢珈琲店に永久就職しないか?』という提案を受けたとか……いえ、流石にそれはないはず……でももしかしたら……そうだとしたら私はどうすれば……?)

燐子(氷川さんが……ものすごい真面目な顔で何か考え事してる……)

あこ(まだ食べないなー友希那さん)
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 20:04:45.62 ID:OMi8DRIw0

友希那「さて、これでみんなの報告も終わりね」

リサ「だね。もう真面目な話はいいんじゃない?」

友希那「……そうね。みんな、改めて……1週間お疲れさま」

燐子「はい……」

あこ「はーい!」

紗夜「…………」

友希那「この1週間でロゼリアは間違いなくレベルアップしたはずよ。今回学んだことを、次のライブで見せてちょうだい」

友希那「……だけど、今日のところはそんな話は抜きね。リサが無理しないよう見張りながら、こうしてあこが作って来てくれたクッキーを食べて、」サクッ

あこ(あ、とうとう食べた!)

友希那「たまにはのんびり――けふっ!?」
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 20:06:01.72 ID:OMi8DRIw0

リサ「えっ、急にどうしたの友希那!?」

友希那「な、ごほっ、ごほっ! に、にが、にが……けほっ!」

リサ「ちょ、お茶飲んでお茶!」

友希那「っ、っ……!!」ゴクゴク

リサ「うわぁ、友希那がメチャクチャ涙目に……」

リサ(……普段とギャップがあってちょっと可愛い)

紗夜「…………」

あこ「ふっふっふ……そのクッキーは聖堕天使あこの全ての闇の魔力を込めた逸品……魔界より生まれし暗黒の力を味わうがいい!」

燐子「あ、あこちゃん……」

あこ「えへへ〜、その1個だけ、インスタントコーヒーを大量に入れた苦々クッキーにしてたんだよ! どう、りんりん? あこのセリフカッコよかった?」

燐子「そ、それどころじゃないと……思うよ……?」
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 20:06:58.35 ID:OMi8DRIw0

友希那「……あこ」ユラリ...

あこ「……あ、あれ? 友希那さん、顔がとーっても怖くなってますよ……?」

友希那「よくも、よくもやってくれたわね……覚悟しなさい!」ダッ

あこ「わー!? ご、ごめんなさーい!!」

リサ「ちょ、友希那! 苦いの嫌いなのは知ってるけど部屋の中で暴れないでって!」

紗夜「…………」

燐子「そんなに……苦いのかな……」サクッ

燐子「っ……!?」

リサ「え、え? 燐子、友希那の食べかけ食べたの!?」

燐子「に、にが……」

リサ「燐子まで両手で口押さえて涙目……そんなにヤバいの、これ……!?」

紗夜「…………」
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 20:07:55.98 ID:OMi8DRIw0

友希那「待ちなさい、あこっ!」

あこ「ひぇ〜!」

リサ「アタシもちょっと食べてみよ……」サクッ

リサ「…………」

リサ「え? そんなに苦いかな、これ?」

紗夜「…………」

あこ「紗夜さーん、助けてー!」サッ

紗夜「……え?」

友希那「紗夜……大人しくあこをこっちに渡しなさい……」

紗夜「え……!?」

紗夜(……宇田川さんが私の背に隠れていて、湊さんが涙目で目の前に立っていて、白金さんが両手で口を押さえて俯いていて、今井さんが首を傾げながらクッキーを食べている……)

紗夜(私がつぐみさんのことを考えているうちに一体何が……?)
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 20:09:19.07 ID:OMi8DRIw0

友希那「そう……紗夜もそちら側なのね……」

あこ「紗夜さん、あこは信じてました!」

紗夜「え、あの、状況がよく分からないのですが……」

友希那「そっちがその気なら……リサ、そのクッキーをこっちに」

リサ「あ、うん」

友希那「さぁ紗夜、これを食べなさい」

紗夜「食べかけのクッキーじゃないですか。これがなにか……」サクッ

紗夜「……うぇっ!?」

友希那「苦い? 苦いわよね? その悪魔のクッキーを作ったのがあなたの後ろにいる困ったさんなのよ」

紗夜「の、飲みものを……」

友希那「あこと交換よ」

紗夜「どうぞ……」サッ

あこ「まさかの裏切りですか!?」

友希那「リサがお茶を出してくれるわ。私はちょっとあこと個人的な話をするわね」

紗夜「ごゆっくり……」
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 20:10:19.93 ID:OMi8DRIw0

友希那「さぁ……覚悟はいいかしら、聖堕天使さん?」

あこ「……い、痛くしないでくださいね?」

友希那「無理ね」

紗夜「今井さん……私にも、お茶を……」

リサ「はーい、どーぞ。……そんな苦いかなぁ、あのクッキー」

紗夜「ありがとう……」ゴクゴク

燐子「…………」フルフル

リサ「あ、燐子もお茶?」

燐子「…………」コクコク

リサ「はい、お茶」

燐子「…………」ペコペコ

リサ「……苦いなら口に入れたままにしないで、すぐに飲み込んじゃえばいいのに」

燐子「……っ、はぁ……無理、です……苦すぎて……咀嚼することを……脳が拒みました……」

紗夜「本当よ……。あれが苦くないって、今井さんの舌は一体どうなっているの……」

リサ「どうもなってないと思うけどなぁ」
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 20:11:46.97 ID:OMi8DRIw0

あこ「い、いたたたた!! 友希那さんっ、それ以上グリグリされるとあこの頭が割れちゃいますよ!?」

友希那「大丈夫よ、人間の身体は丈夫に出来ているもの。それにあの苦みに比べれば……うっ、思い出すだけで……」グリグリ

あこ「ごめんなさい、もうしませんっ、もうしませんからぁ!!」

紗夜「……さっきまで真面目な話をしていたのに、すごい賑やかになったわね」

燐子「あのクッキーのせいですね……間違いなく……」

リサ「まー、なんていうか……これもロゼリアらしい……のかな?」

204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 20:13:00.39 ID:OMi8DRIw0

◇ロゼリアのレベルアップを計った結果◇


宇田川あこ

ロゼリアのメンバーに対する理解度があがった

リズム感がなんとなくあがった

お菓子作り【レベル1】をおぼえた

イタズラをおぼえた


白金燐子

手先の器用さがあがった

勇気があがった

服飾の幅が広がった

マッチョな男性への免疫力があがった


氷川紗夜

素直さがあがった

ナンパをおぼえた

無自覚ジゴロ【レベル1】をおぼえた

日菜に弱みを握られた


今井リサ

体力が大きくあがった

精神力が大きくあがった

優しさがあがった

苦味無効をおぼえた


湊友希那

猫への理解度があがった

猫カフェへの理解度が大きくあがった

ロゼリアのメンバーに弱点(苦いの嫌い)がバレた

カリスマが崩壊した



おわり
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 20:13:32.53 ID:OMi8DRIw0

前に書いたバンドリ安価SSが全然安価SSしてなかったのでリベンジのつもりで書き始めた結果がごらんの有様です。土曜日以降の話で矛盾などがあったら本当にごめんなさい。

そんな話でしたが、最後までお付き合いいただきまして誠にありがとうございました。


HTML化依頼出してきます。
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/26(火) 20:14:17.67 ID:73iWwwyTo
おつ。楽しかったよ
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/27(水) 17:36:05.65 ID:hMuLKeKh0
ありがとう面白かった
次回作も楽しみにしてます
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