【バンドリ安価】湊友希那「ロゼリアのレベルアップを計る」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/26(日) 12:36:01.57 ID:9C+yLBRQ0

薫「やっぱり顔が赤いね。このまま歩いていては倒れてしまうんじゃないかい?」

りみ「それは……薫さんが近くて……」

薫「おっと、失礼したね。りみちゃんがあまりに可憐だから吸い寄せられてしまったよ」

りみ「そ、そんなこと……」

薫「君のような可憐なお姫様がもし倒れでもしたら……そう思うだけで私は心苦しいんだ」

薫「それにもしりみちゃんの調子が悪くなったら、お母様もきっと悲しむだろう?」

りみ「お母さんが……」

紗夜(時に優しく、時に両親を盾にして良心を呵責……なるほど)

薫「だから、急ぎの用じゃなければ、私をりみちゃんの休憩の話し相手にさせてくれないかい?」

薫「ほら、あそこの喫茶店。あそこの珈琲と紅茶はとても美味しいと千聖が言っていたんだ。あそこならきっと涼しいよ」

薫「1人で入るには勇気がいるだろうし……どうだろう。一緒に少し涼んでいかないかい?」

りみ「え、えっと……それじゃあ少しだけ……」

薫「ありがとう、りみちゃん」

紗夜(あとは勢いで丸め込む……と)

紗夜「……見事なナンパね」

紗夜(けど、私にこれは絶対無理だわ)


……………………
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/26(日) 12:38:15.57 ID:9C+yLBRQ0

――公園――

リサ「おーい、はぐみー!」

はぐみ「あ、リサさん! おはよー!」

リサ「うん、おはよっ。ごめんね、少し遅れちゃって」

はぐみ「ううん! はぐみも今来たとこだよ!」

リサ「そっかそっか。なら良かったよ」

はぐみ「あ、リサさん、そのシューズ……」

リサ「うん。昨日はぐみに言われた通り、スポーツショップに行って買ってきたんだ」

リサ「いやー、すごいね。靴変えるだけですっごく歩きやすくなったよ」

はぐみ「でしょー! ちゃんと店員さんに話して、しっかり自分に合ったシューズを履くのがマラソンの第一歩なんだよ!」

はぐみ「それに、ちゃんと自分に合ったやつじゃないと怪我しやすくなっちゃうからね!」

リサ「だね〜。早速アドバイスしてくれてありがと、はぐみ」

はぐみ「ううん!」

リサ「それじゃあ今日はよろしくね」

はぐみ「うん!」

リサ「そしたらまず何をやればいい?」

はぐみ「まずはね、準備体操! スポーツは準備体操に始まり整理運動に終わるんだよ!」

リサ「整理運動……あ、運動後のストレッチみたいな?」

はぐみ「そう、それ!」

リサ「ん、りょーかい。それじゃあまずは準備体操だね」

はぐみ「うん! しっかりやらないと、身体がキチンと動いてくれないからね」

リサ「オッケー。よーし、頑張るぞー」

はぐみ「おー!」
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/26(日) 12:40:00.42 ID:9C+yLBRQ0

―しばらくして―

はぐみ「最後はゆっくり深呼吸して……」

リサ「すー……はー……」

はぐみ「スー……ハァー……」

はぐみ「……はい、準備体操おしまい!」

リサ「やー、こんなにしっかり準備体操したのって小学校以来かも」

リサ「なんだか身体がちょい軽くなったような気がするよ」

はぐみ「ダンスとかテニスする時はしないの?」

リサ「んー、一応するはするんだけど……流れ作業っていうか、バッチリやるってことがないんだよね……」

リサ「でもキチンとやればちゃんと効果があるんだし、これからはしっかりやらなくっちゃね」

はぐみ「うん!」

リサ「次はどうすればいいかな?」

はぐみ「準備体操のあとはウォーキング!」

はぐみ「ソフトボールでもね、いきなり思いっきりボールを投げると、肩と肘がすごく痛くなっちゃうんだ」

はぐみ「だからキャッチボールも近い距離からやって、ちょっとずつ距離を離していくんだよ」

リサ「へぇ〜」

はぐみ「マラソンもいきなり思いっきり走っちゃったら怪我しちゃうから、最初は歩くところから始めるんだ!」

リサ「なるほどね」

はぐみ「それじゃあ行こっか、リサさん!」

リサ「はーい。よろしくね、はぐみ先生っ」


……………………
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/26(日) 12:42:54.91 ID:9C+yLBRQ0

――都内某所 猫カフェ前――

友希那「……ついに来てしまったわ」

友希那(猫カフェについて調べていたら、とうとう興味が抑えきれなくなってしまった)

友希那(そもそも猫カフェは私の持つ美学に反すると思って避けていたのだけれど……)

友希那(いや、でも何事も食わず嫌いはよくないわ。何かを評価するのであれば、実際にそれに触れてみなければ正当な判断は下せないハズよ)

友希那(それにこれは……言ってみれば職場体験)

友希那(ネットで調べるよりも、実際にカフェで店員さんの動きを見て学ぶ方がずっと身になるわ)

友希那(だから、決して、カフェのアルバイトについて知ろうとしていたことをうっかり忘れていた訳ではない)

友希那(昨日終日猫カフェの動画巡りをしていたのもそういうことだから)

友希那(その辺りは勘違いしないで欲しい)

友希那「よし」

友希那(誰にするでもない言い訳を心の中で唱えたあと、私は猫カフェの扉を開く)

友希那「……あら、お出迎えかしら」

友希那(そして一番に目に付いたのは受付カウンターの上に大人しくお座りしている猫ちゃん)

友希那(私が声をかけると、やや気だるそうな声で鳴き返してくれた)

スタッフ「いらっしゃいませー」

友希那(それからすぐに、人間のスタッフさんが声をかけてきた)

友希那「すみません、初めてなんですけど」

スタッフ「あ、はい。ご来店ありがとうございます。猫カフェのルールなどは……」

友希那「その辺りについては昨日調べてきたので……まずは手の消毒ですよね」

スタッフ「ええ、ありがとうございます。当店の料金は退店時の清算ですので……」

友希那(スタッフさんと話をしている間も、カウンターに座る猫ちゃんはあくびをしては私を見たり、スタッフさんを見たり、何もない空間をぼんやりと見つめていた)

友希那(なるほど……これが接客というものなのね)


……………………
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/27(月) 12:10:56.15 ID:npNa0ncm0

――宇田川家――

あこ「んっと、バターにお砂糖と卵と薄力粉、それにお塩をひとつまみ入れたクッキー生地……」

あこ「冷蔵庫で30分くらい寝かせるって書いてあったけど、そろそろいいかな?」ガチャ

あこ「わー、ひんやりしてる……これがあのクッキーになるんだ」

あこ「次の工程は……めん棒で生地を叩いて柔らかくして、薄く伸ばす、っと」

あこ「えっと、めん棒めん棒……あれ、無い?」

あこ「お鍋の棚……にも無い」

あこ「うーん……どうしよう……」

あこ「何かめん棒の代わりになるもの……あっ」

あこ「ドラムスティック……細いけどいけるかな?」

あこ「代わりになりそうなのって他に無いし……確かまだ使ってない新品のが部屋にあったはず……」

あこ「……でもドラムスティックをお料理に使っちゃっていいのかな……。友希那さんと紗夜さんに見られたらすごく怒られそうな気がするけど……」

あこ「うーん、でも他に代わりになるものが……」

あこ「…………」

あこ「……よし、とりあえず使ってみよう!」

あこ「さあやちゃんも『めん棒をスティックに持ち替えて……』って言ってたし、きっと平気だよね!」

あこ「そうと決まればスティック持ってこよっと!」
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/27(月) 12:11:49.80 ID:npNa0ncm0

―スティック回収後―

あこ「よーし、これで生地を叩いて柔らかくしよう!」

あこ「せーの、」

あこ「はいっ、はいっ、はいっ!」タンタンタタタン

あこ「そりゃっ、うりゃー!」タタタタタタタン

あこ「……なんだか楽しくなってきちゃった!」タンタンタンタン

あこ「ふふふ……我の闇の剣はクッキーに飢えておる……」タンタンタタタン

あこ「今宵の生贄は……貴様だぁ〜!」タタタタタンタンタタタンタン

巴「あこ? 何してんだ?」

あこ「クッキーづくり!」タンタンタタタンタンタタタン

巴「ん、そっか。そういやそうだったなぁ」

巴(……でもクッキーってあんな風に作るもんだっけ?)

あこ「漆黒の聖堕天使が纏いしこの闇の力で……えっと、シュババーン! ってなるがいい!」タタタンタンタタタンタンタタンタンタタタン

巴「まぁ、あこが楽しそうだし……いっか」


……………………
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/27(月) 12:13:46.55 ID:npNa0ncm0

――羽沢珈琲店――

薫「――という風に、こころが美咲をベッドへと押し倒すことになったのさ」

りみ「へぇ……美咲ちゃん、大変そうだなぁ……」

紗夜「個室に2人っきりでいて押し倒す……瀬田さんの話を聞かずにその場面を目撃したら、私なら風紀の乱れだと注意していますね」

薫「ふふ……シェイクスピアもこう言っている。『恋は盲目で、恋人たちは恋人が犯す小さな失敗が見えなくなる』と。つまりそういうことさ」

りみ「薫さんって博識ですよね。こういう時にパッと格言が出るのってすごいなぁ」

紗夜「言葉を覚えているだけ、というような気もしますが……」

薫「は、はは……なに、想像の翼はみんなが自由に広げられるんだ。私に対する印象は子猫ちゃん1人1人のものなのさ……」

りみ「あっ、もうこんな時間……そろそろおつかいに行かなくちゃ」

薫「おや、気が付いたら随分と時が過ぎていたね。ふふ、りみちゃんと一緒だったからかな……楽しい時間というものは早く過ぎ去ってしまうものだ」

りみ「そ、そんなことないですよ……えへへ」

紗夜(……別れ際まで気障なことを言うんですね。牛込さんもいつの間にか満更じゃなさそうな表情をしているわ)

紗夜(これがプロの女たらし……)

りみ「えっと、お茶に誘ってくれてありがとうございました。実は私、さっきまで暑くてフラフラしてたから……やっぱり休んでよかったかもしれないです」

薫「いいや、こちらこそ。楽しい時間をありがとう。りみちゃんを手伝えないのが残念だけど……」

りみ「い、いえいえ! それじゃあ私は行きますね。さようなら、薫さん、紗夜先輩」

紗夜「はい。気を付けてくださいね?」

薫「もし辛くなったらいつでも連絡をして欲しい。何をおいてもりみちゃんの元へ駆けつけるよ」

りみ「はい、ありがとうございます。それじゃあ……」

紗夜「ええ、また」

薫「一刻の別れだ……また会おう、りみちゃん」

りみ「はい」

――カランコロン...

薫「…………」

紗夜「……行ってしまいましたね」

薫「ああ。ふふ、りみちゃんはいつでも可憐な子猫ちゃんだね」
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/27(月) 12:15:54.23 ID:npNa0ncm0

薫「さて、参考になったかい? お姫様をお茶に誘うというのを私なりに実演して見せたが」

紗夜「一言で言えば、見事なお手前だったと思います」

薫「そうかい?」

紗夜「はい。もしも瀬田さんが男性であれば、女性の敵だとしてしょっぴいていたと思います」

薫「ふふ……それだけ私の美しさが罪という訳だね。ああ、儚い……」

紗夜「しかし、参考になったかと言えば微妙ですね」

薫「おや、そうなのかい?」

紗夜「はい。瀬田さんなら息をするように気障な言葉を吐いたって様になりますが、私がそんなことをしてもただ滑稽なだけでしょう」

紗夜「そういったお誘いの仕方は私には似合わないわ」

紗夜(まぁ、そもそもナンパなんていう行動自体が私にそぐわないんだけど)

薫「なるほど。確かに行動だけを見ればそうかもしれないね。だけど、紗夜ちゃん」

紗夜「はい?」

薫「一番大切なのは言葉や行動じゃない。気持ちだよ」

紗夜「気持ち、ですか」

薫「そう。私が一番に思っているのは、目の前の子猫ちゃんを楽しませること」

薫「もしもある少女が悩みを抱えて憂鬱な気分でいたとしても、私と話しているひと時だけはそのことを忘れられるように……いつでもそう願って振舞っているのさ」

薫「一番大切なのは、そういった気持ちだ」

紗夜「…………」

薫「例えば、今日みたいにりみちゃんが辛そうな顔をしていたとしたら」

薫「それをどうしてあげれば笑顔に変えられるだろうか、朗らかな顔になってくれるだろうか……私はそれを考えて行動していたに過ぎないよ」

紗夜「……なるほど」

薫「それに、私は私であり、紗夜ちゃんは紗夜ちゃんだ」

薫「君にしかない良いところがたくさんあるじゃないか」

薫「今日だって陽射しのあたる暑い席には率先して自分が座って、りみちゃんを出来るだけ涼しい席へ座らせてあげていた」

薫「私にはそこまでの気遣いが出来ていなかったよ」

紗夜「……よく見ていますね。ですが、それはただの偶然ですよ」

薫「ふふ、ではそういうことにしておこうか」
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/27(月) 12:17:18.40 ID:npNa0ncm0

紗夜「ええ。私はそんなに出来た人間ではありませんので」

薫「そうか。だけど紗夜ちゃんがそう言うのなら、私はこう言おう。『君は素晴らしい人間だ』と」

紗夜「そんなことはありませんよ」

薫「一言では君にそう思わせるのは無理かもしれないね」

薫「それだったら何万文字、何十万行を用いて私は『君は素晴らしい人間だ』と言おう」

薫「1日、2日で分かってもらえないのなら、10年かけて君を説き伏せよう」

紗夜「意外としつこいですね、瀬田さんは。……ですが、そうまでされたら流石に私もその言葉を信じるかもしれません」

薫「これは全くの例え話だけど、私がやっていることはつまりそういうことさ」

紗夜「なんとなくですが、瀬田さんの伝えたいことが分かったような気がします」

薫「それなら何よりだ。では、私からの最後のアドバイスは……そうだね、紗夜ちゃんは世界に1人しかいない、ということだ」

紗夜「はぁ……?」

薫「紗夜ちゃんは紗夜ちゃんだけの心を持って、独自のフィロソフィーに基づいて行動している」

薫「紗夜ちゃんは誰かのコピーでもないし、誰かをコピーしなければいけないということもない」

薫「私には私なりの行動があるように……君は君の、君だからこその行動をすればいいのさ」

紗夜「……そうですね。確かにその通りです」

薫「少し口うるさくなってしまったね。すまない」

紗夜「いいえ。おかげでいい方向に進めそうです」

紗夜(確かに瀬田さんの言う通りだ。私は私が出来ることをやればいいんだ)

紗夜(まぁ、今回やることはナンパなんだけど……でも、これも力加減というものを深く知るためには大切なことなのかもしれない)

紗夜(そう思うと、無理難題を突き付けられた時から肩に圧しかかっていたものが少しだけ軽くなったような気がするわ)
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/27(月) 12:18:05.98 ID:npNa0ncm0

薫「……やっと明るい顔になってくれたね、紗夜ちゃん」

紗夜「え?」

薫「ふふ、待ち合わせ場所で落ち合った時から、ほとんどずっと眉間に皺が寄っていたよ」

薫「そんな君が、私の言葉で少しでも和やかな表情をしてくれた」

薫「それだけで今日という日が訪れたことに大きな意味があったよ」

紗夜「どこまでも気障なんですね、あなたは」

薫「これも罪な美しさを持って生まれた者の宿命……私はこの罪と一生寄り添って生きていくのさ……ふふ、儚い……」

紗夜(そういうところがなければ最後まで決まるのに……)

紗夜「……まぁそれが瀬田さんらしさ、というものなのかしらね」

薫「何か言ったかい?」

紗夜「いえ、なんでもありません。そろそろ私たちも出ましょうか」

薫「そうだね。ではお会計は……」

紗夜「済ませてあります」

薫「え?」

紗夜「では、いきましょうか」

薫「あ、ああ……しかし、紗夜ちゃん」

紗夜「なにか?」

薫「……いや、なんでもないよ。ありがとう。ごちそうになったよ」

紗夜「いえ」

薫「今度は私がごちそうしよう」

紗夜「いいえ、結構です。ここは今日のお礼ですから」

薫「そ、そうかい……」

紗夜「ええ。お気になさらずに」

薫(義理堅いというのか、なんというのか……)

薫(しかしなんだろう、この胸に生まれた感情は)

薫(どちらかというと私はいつもする側だから、何だか胸がくすぐったいというか……不思議な気持ちだよ、紗夜ちゃん……)


……………………
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/27(月) 12:19:34.39 ID:npNa0ncm0

――宇田川家――

あこ「叩いて柔らかくしたクッキー生地を平たく伸ばして、型抜きで抜いたやつをオーブンに入れて、大体10分ちょっと……」

あこ「もうそろそろ焼けたかなぁ?」

あこ「んーしょっと……おお!」

あこ「わー、ちゃんとクッキーになってる!」

あこ「すごいなぁ、本当にバターとお砂糖からよく見るクッキーになるんだ」

あこ「なんかお菓子作りって結構楽しいかも。リサ姉と紗夜さんがたくさん作って来てくれるのもちょっと分かるなぁ〜」

あこ「それじゃあ早速味見……したいけど、まだ熱いよね。キチンと冷まさないと」

巴「お、いい匂いがするな。クッキー出来たのか、あこ?」

あこ「あ、おねーちゃん! うん、焼きたてだよ!」

巴「そっかそっか。どれどれ……おお、すごいな。お店で並んでる物とほとんど一緒だ」

あこ「えへへ、ありがと。でもちゃんと美味しく出来てるかちょっと不安だなぁ……」

巴「大丈夫だよ、あこが作ったんならマズいものなんて出来っこないって!」

あこ「うーん、だといいんだけど」

巴「よーし、そしたらおねーちゃんが味見して……」

あこ「あ、おねーちゃんっ! まだ冷まさないと――」

巴「あっつ!! うわ、めっちゃくちゃ熱いなこれ!?」

あこ「もー、あこが注意する前に食べようとして……ちゃんと人の話聞かないとダメだよー?」

巴「あ、あはは……わりぃわりぃ……」

あこ「完成したらおねーちゃんの部屋に持ってくから、大人しく待っててね?」

巴「はいよー」

あこ「まったく……」

巴「いや、反省してるって。そんなジトーって見つめてこないでくれよ」

あこ「……なんだか今日はあこがおねーちゃんみたいだね」

巴「確かに……そうだな。うーん、あこも本当に立派になったよなぁ」

あこ「あ、今のおねーちゃん、親戚のおばさんみたい」

巴「な、なにおぅ、アタシはそこまで老けてねーぞ! そんなことを言うのはこの口か〜!」

あこ「あはは! ごめんって、冗談だよ〜!」


……………………
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/27(月) 12:21:10.17 ID:npNa0ncm0

――猫カフェ――

友希那「にゃーんちゃん、ほらほら」ナデナデ

猫<ニャー、ゴロゴロ...

友希那「そう。あなたはここを撫でられるのが好きなのね」

猫<フニャー

友希那「ふふ……サービス精神旺盛な甘えんぼさんに、ツンツンしてる俺様系、ずっと眠りこけているのんびり屋さん……それぞれがそれぞれ好きなように過ごしている」

友希那「私は猫カフェというものを勘違いしていたわ」

友希那「ここでも猫は猫らしく、それぞれの猫の哲学に沿って猫であり続けているのね」

友希那「やっぱり食わず嫌いは良くないわ。どこにいようと猫ちゃんは猫ちゃん」

友希那「幸せそうに、自由気ままでいるのなら場所なんて関係ないのね」

友希那「いい勉強になったわ。ここへやってきて良かった」

猫<ナゥー

友希那「あら、ごめんなさい。手が止まっていたわね。ほら……」ワシワシ

猫<ニャーン...ゴロゴロゴロ...

友希那「ふふふ……可愛いわね……」


――――――――――――
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/27(月) 12:39:02.47 ID:Z2T8ZyB8o
可愛いのはお前じゃい
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/27(月) 21:11:11.57 ID:Xbfqb+npO
猫30匹くらい放った部屋に友希那一人いれてその映像をリサ姉と一緒にモニタリングしたい。
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/27(月) 23:35:18.07 ID:FIh0egXmo
1人だけレベルアップしそうにないですね...
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/28(火) 12:02:20.06 ID:4s9GDU010

【水曜日】

――羽沢珈琲店――

羽沢つぐみ「今日はよろしくお願いします、友希那先輩」

友希那「ええ、こちらこそ。それと、急なお願いになってしまってごめんなさい」

つぐみ「いえいえ。ちょうど他のアルバイトの人が夏季休暇だったのでこっちも助かります」

友希那「そう。それならよかった」

つぐみ「友希那先輩はこういうところでバイトしたことはありますか?」

友希那「いいえ。こういうところとかそういう以前に、バイトをすること自体が初めてね」

つぐみ「分かりました。分からないことがあったらなんでも聞いてくださいね」

友希那「ええ、ありがとう。一応だけど、私も個人的に喫茶店の仕事について調べてきたわ。髪の毛もこうやって結ばないといけないのよね?」

つぐみ「あ、はい。そのポニーテールなら大丈夫です」

友希那「よかった。なるべく迷惑をかけないように頑張るわね」

つぐみ「はい。じゃあまず、やってもらうことを簡単に説明しますね?」

友希那「分かったわ」

つぐみ「最初はまずお皿洗いですね。お客さんが使った食器や、調理に使ったものを洗ってもらいます」

友希那「あら、そうなの?」

つぐみ「はい。流石にいきなりオーダーを取ったりレジを打ったりって言うのは難しいと思いますから」

つぐみ「喫茶店の雰囲気に慣れてきたら、注文された料理や飲み物を配膳してもらうと思いますけど、やるのはそれくらいまでになると思います」

友希那「了解したわ。まずはお皿洗いね」
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/28(火) 12:04:06.88 ID:4s9GDU010

つぐみ「お皿洗いはお家でもしたことありますよね?」

友希那「ええ。リサがあまり包丁を握らせてくれないから、あの子がご飯を作りに来てくれた時は大抵私が後片付けをしているわ」

つぐみ「へー、リサ先輩って友希那先輩のお家にご飯作りに行くんですね」

友希那「家が隣同士の幼馴染だもの。とは言っても週に1回くらいだから、そんなに回数は多くないんだけれど」

つぐみ(……十分多いような気がするけどなぁ)

友希那「羽沢さんはそういったことはないの?」

つぐみ「うーん、みんなウチのお店に来てくれることはありますけど……手料理を振舞いに行くっていうのはあんまり、ですね」

友希那「そうなのね。羽沢さんはお菓子作りも上手だと聞いたから、日頃からアフターグロウの子たちに振舞っているのかと思っていたわ」

つぐみ「いえいえ、そんな……私なんて全然ですよ」

友希那「謙遜する必要はないわよ。あなたの武勇伝は紗夜から耳にタコが出来るほど聞いているもの」

つぐみ「ぶ、武勇伝……?」

友希那「ええ」

つぐみ(紗夜さん……普段ロゼリアのみなさんに私のことをなんて言ってるんだろ……)

友希那「気になるかしら?」

つぐみ「え、えーっと、気にならないと言ったら嘘になりますけど……でも、ここで勝手に聞いちゃうのもちょっと悪い気がするので……」

友希那「…………」

つぐみ「あれ、どうしたんですか、友希那先輩?」

友希那「紗夜の言った通り、すごく周りを気遣うのね。なるほど、じゃああの嘘だと思ったアレやコレも実話なのかしら……末恐ろしいわね、羽沢さん……」

友希那「『つぐみさんはとんでもないものを盗んでいきました』なんて言ってたけど……なるほど……」

つぐみ「え、えっ……!?」

友希那「そろそろオープンの時間ね。それじゃあ私は厨房の方へ行けばいいかしら」

つぐみ「あ、は、はい、お願いします」


……………………
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/28(火) 12:06:01.98 ID:4s9GDU010

友希那(羽沢珈琲店がオープンしてから、羽沢さんのお母さんに指示された通りに食器を洗い続けている)カチャカチャ

友希那(単調かつ簡単な作業であるけれど、気は抜けない)

友希那(うっかり手が滑ってお皿を割ってしまうのはもってのほかだし、洗い残しのある食器をお客さんに出す訳にもいかないだろう)ジャー

友希那(『労働とはお金を対価に責任を全うすることだ』と、いつか見た経済ドキュメンタリー番組の中で、どこかの社長さんが言っていた)

友希那(つまり猫カフェの猫ちゃんと同じだろう)キュッ、キュッ

友希那(あの子たちも悠々自適な生活の対価として、それぞれがそれぞれの猫の哲学を貫いているのだ)

友希那(時に甘えたり、時に釣れない態度で焦らしてきたり、そもそも私の存在など意に介さず眠っていたりして……カフェに売っているおやつを手にしたら鮮やかな変わり身を見せてすり寄ってくる)カチャカチャカチャ

友希那(そんな姿でお客さんを癒し、元気を与えてくれるのがあの子たちの責任だ)ゴシゴシ

友希那(ふふ……思い出すだけで笑ってしまいそうになる――)ツルッ

友希那「っ!? っ、っ……ふぅ、危ないところだったわね……」

友希那(頬が緩むのと同時に気持ちまで緩んでしまったみたいね。危うく高そうなコーヒーカップを落とすところだったわ)

友希那(額ににわかに冷や汗が滲む)

友希那(いけない。こんなことでは、身を持って働くということを私に教えてくれたあの猫ちゃんたちに顔向けできないわ)

友希那(そして羽沢さんにも迷惑をかけることになるし、紗夜に想像も出来ない何かをされてしまう。落ち着きましょう。一度深呼吸ね)

友希那「すー、はー……」

友希那(気合を入れなおさないと。今の私はあそこで働いていた猫ちゃんと同じ……)
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/28(火) 12:08:23.53 ID:4s9GDU010

友希那「……そう、今の私はいわば猫そのもの。薫り高く、未来永劫咲き誇るのよ」

つぐみ「友希那先輩、いま平気ですか?」

友希那「あら羽沢さん。大丈夫よ。別にコーヒーカップを落としそうになんてなってないわよ。平気よ。なんて言ったって猫だもの」

つぐみ「え?」

友希那「……なんでもないわ。どうかしたかしら?」

つぐみ「あ、はい。ちょうど今の時間帯はお客さんも少ないので、そろそろ配膳してみませんか?」

友希那(言われてチラリと時計を見ると、10時を半ばほど回っていた。集中していたからか、思ったよりも時間が過ぎているわね)

友希那「ええ、やってみるわ」

つぐみ「はい。それじゃあこの紅茶とクッキーのセットを5番のテーブルに……あ、5番テーブルって分かります?」

友希那「大丈夫、何回か来ているから分かっているわ。5、と書かれた札のある席よね?」

つぐみ「そうです。そのテーブルにこちらをお願いします」

友希那「分かったわ」

友希那(頷いて、手をしっかり洗って消毒してから、厨房のテーブルに置かれた紅茶のカップとクッキーが盛りつけられたお皿を手にする)

友希那(そこでふと、いつかに紗夜とした一連のやり取りを思い出す)

紗夜『つぐみさんは珈琲を配膳する時、必ずカップの持ち手側とスプーンの柄を右にして出すんです。それが一般的なマナーですからね、流石つぐみさんです。ですが、私の時には持ち手を左側にするんですよ。どうしてか分かりますか? そもそも珈琲というのはまずブラックで飲むのが正しい飲み方であって(中略)私はそう飲みますからね。つまりそれだけつぐみさんが私に対して深い理解を示していてくれているということであって、まさに(以下略)』

友希那(……詳しくは分からないけれど、紅茶も同じよね。その辺りを意識してお客さんに出しましょう)

友希那(そう思い、厨房からフロアに足を運ぶ)
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/28(火) 12:10:55.86 ID:4s9GDU010

友希那(5番テーブル。確か入り口からすぐの場所だったような記憶がある)

友希那(それを頼りに足を動かすと、やはりその記憶は正しかったようだ)

友希那(不慣れではあるけれど丁寧さを意識して、私は声を出す)

友希那「お待たせしました。紅茶とクッキーのセッ……ト……」

あこ「あ、こんにちは、友希那さん!」

友希那「……誰かと思ったらあこじゃない。どうしたの?」

あこ「えへへ、クッキーづくりの参考にって思って、ここのクッキーを食べに来たんですよ!」

友希那「そう。しっかり挑戦してくれているみたいで安心したわ」

友希那(言いつつ、手に持ったままだったカップとクッキーをテーブルに置く。……意外とソーサーごとだと置きにくいのね)

あこ「友希那さんはどうですか?」

友希那「私は見ての通りよ。とても貴重な体験をさせてもらっているわ」

あこ「あー確かに! 友希那さんのエプロン姿ってなんだか新鮮ですね!」

友希那「……まず目に付くのがそこなの?」

友希那(でも確かに……私が真っ白なエプロンをつけるだなんて、普段のイメージとは離れているわね)

友希那(……今更だけど、どこかおかしかったりしないかしら)

あこ「はい! とっても似合ってますよ!」

友希那「そう……ありがとう」

友希那(あこは無垢な笑顔でそう言ってくれる。この子がそう言ってくれるなら……いや、でももしかしたらいつものよく分からない呪文のようなイメージなのかもしれないわね……)

あこ「友希那さんは何時までバイトなんですか?」

友希那「予定では午後4時までね」

あこ「そうなんですね。頑張って下さい!」

友希那「ありがとう。あこもしっかりね」

あこ「分かりました! リサ姉や紗夜さんに負けないクッキーを作るため、ここでしっかり研究します!」

友希那「ええ。では、どうぞごゆっくり」

あこ「はーい!」
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/28(火) 12:13:04.51 ID:4s9GDU010

友希那(あこの元気な返事を聞いて厨房へと引き返す)

つぐみ「あ、おかえりなさい。どうでしたか?」

友希那(すると、少し心配そうな顔をしていた羽沢さんがすぐに目についた)

友希那「ええ、無事にこなせたわ。羽沢さん、あこからの注文だって分かって私に行かせてくれたのね。気を遣ってくれてありがとう」

つぐみ「いえいえ……」

つぐみ「でも、最初だと緊張するかなって思ったんですけど、やっぱり友希那先輩はすごいですね。堂々としてたので、私、余計なお節介しちゃったかなって思っちゃいました」

友希那「そんなことないわ。あなたが紗夜に接客をしてくれたからこそ、私は落ち着いて配膳出来たのよ」

つぐみ「え、どうしてここで紗夜さんの名前が……?」

友希那「ところで羽沢さん」

つぐみ「は、はい」

友希那「このエプロン、私がつけててもおかしくないわよね?」

つぐみ「え? えっと、とっても可愛いなって私は思いますけど。ポニーテールもエプロンによく合ってますし」

友希那「……そう。ありがとう」

友希那(可愛い。とっても可愛い。それは私の普段のイメージと大分違う気がするけど……)

友希那「まぁ、いいのかしら?」

つぐみ「えっと、はい、多分……?」


……………………
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/28(火) 12:15:01.49 ID:4s9GDU010

つぐみ「それじゃあ友希那先輩、次はこれを8番にお願いします」

友希那「ええ、分かったわ」

友希那(あこに配膳をしてから約30分)

友希那(その間に6組のお客さんへの配膳を任されて、段々と食器の置き方や持ったまま歩くことのコツが分かってきたような気がするわ)

友希那(だけどこういう時こそ気を引き締めなければならない)

友希那(さっきみたいについうっかりコーヒーカップを……なんてお客さんの前でやったら大惨事ね)

友希那(何があっても動じないようにしなければ。例えるなら……そう、猫カフェでカウンターに鎮座していたあの子みたいに)

友希那(……ふふ、お行儀よくお座りしている姿……とても愛らしかったわね)

友希那「っと、いけない。また思考がそれかけたわ」

つぐみ「友希那先輩? どうかしましたか?」

友希那「いいえ、なんでもないわ。8番テーブルよね? すぐに持っていくわ」

友希那(羽沢さんにそう返して、厨房を出る)

友希那(今回は珈琲だけ。これくらいなら今の私にはなんてことないわ……と思うと危ないのよね)

友希那(丁寧に持っていきましょう。8番は……あそこね)

友希那「お待たせしました。珈琲をお持ち……」

燐子「あ……友希那さん……ど、どうも、こんにちは……」

友希那「……こんにちは。今度は燐子が来たのね」
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/28(火) 12:17:41.75 ID:4s9GDU010

燐子「今度は……?」

友希那「さっきまであこがいたのよ。クッキーの研究がしたいから、ここのものを食べに来ていたの」

燐子「そうだったんですね……」

友希那「燐子はどうしたの?」

燐子「わたしは……この本を読みに……」

友希那「『できる 竹細工入門』……なるほど、燐子らしいわね」

燐子「はい……お師匠さんに勧められたので……」

友希那「お師匠さん?」

燐子「えっと……わたし、今、竹細工の教室に通っていて……」

燐子「そこの先生のことを……若宮さんが『お師匠』と呼んでいるので……わたしもそう呼んでいるんです」

友希那「そうなの。若宮さんが一緒みたいだけど、燐子が自分からそういうところに通うなんて珍しいわね」

燐子「その、これも挑戦……だと思ったので……勇気を出しました」

友希那「それはいいことね。今日はその教室には行かないの?」

燐子「水曜日はお休みなんです……。それで、せっかくなら友希那さんがバイトをしているここで……本を読もうかな、って……」

友希那「なるほど。……あら、ごめんなさい。すっかり話し込んでしまったわ」

燐子「いえ……」

友希那「珈琲、ここに置いておくわ。どうぞごゆっくり」

燐子「はい……友希那さんも……頑張って下さいね……」

友希那「ええ、ありがとう」
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/28(火) 12:18:44.92 ID:4s9GDU010

友希那(燐子に小さく礼をして、私は厨房へ引き返す。するとあこの時と同じように羽沢さんがすぐに目についた)

つぐみ「今日は知り合いの方がたくさん来ますね」

友希那「いつもはこんなに来ないのかしら?」

つぐみ「はい、そこまでは。ふふ、この分だと紗夜さんとリサ先輩も来そうですね」

友希那「まぁ、そうね。紗夜は分からないけど、リサはほぼ確実に来るわね」

つぐみ「あ……そう、なんですね」

友希那(……? 私、何か変なことを言ったかしら?)


……………………
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/28(火) 12:21:07.00 ID:4s9GDU010

――商店街――

紗夜(さて……昨日の瀬田さんのアドバイスを元に、私もしっかり自分のやるべきことをやらなければいけないわね)

紗夜「とりあえず商店街に来たものの……どうしましょうか」

紗夜(流石にいきなり知らない人に、というのは無理ね。それはハードルが高すぎるわ)

紗夜(誰か知り合いが偶然通りかかってくれればいいのだけど……)

紗夜「……あら、あれは……↓1」

(※ロゼリア、薫、りみ、つぐみ、はぐみ、日菜以外の誰かでお願いします)
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [ sage]:2018/08/28(火) 12:41:05.84 ID:bpQu0uyxO
ミッシェル(クマ状態)
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/28(火) 13:01:53.47 ID:Ab/zoW2ho
えぇ…
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [ sage]:2018/08/28(火) 19:06:07.37 ID:BTHV4khkO
なるほど……
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/29(水) 02:16:20.65 ID:OVpAt4AU0
なんで紗夜→つぐみの時だけつぐみさん呼びなんだろ
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/29(水) 15:29:54.31 ID:umO2zs3q0
>>88
自分の場合は妄想が捗るからです
アプリだとつぐみさん呼びは商店街でのエリア会話で1度だけですから、恐らく羽沢さん呼びが正式なんだと思います
でも妄想が捗るので自分の場合は概ねつぐみさん呼びです。ごめんなさい(´・ω・)
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/29(水) 15:33:10.23 ID:umO2zs3q0

ミッシェル「…………」

紗夜「……ミッシェル、ね。ということは奥沢さんかしら……」

紗夜(なにかフラフラしながら歩いているけれど……大丈夫かしら。ちょっと声をかけてみましょう)

紗夜「あの……」

ミッシェル「あ、はい……」

紗夜「ええと、ミッシェル……奥沢さん、ですか?」

ミッシェル「そうですよー……。どうも、氷川先輩」

紗夜「ええ、こんにちは。どうしたんですか、キグルミで商店街に来るなんて?」

ミッシェル「あー、なんて言いますか……新しいミッシェルの実験? に付き合わされているって感じですね……」

紗夜「実験?」

ミッシェル「ええ。ミッシェルはこころのお付きの人たち……あたしたちは黒服って呼んでるんですけど、その人たちがですね……」

黒服『奥沢様。新しいミッシェルを開発しましたので、試着をお願いします。今回のテーマはドラマ性です。この格好で街を少し歩いてみてください』

ミッシェル「……とだけ言って、あたしにこれを着せてきたんです」

紗夜「ドラマ性……私はあまり近くで見る機会がありませんが、特にいつものミッシェルと変わりないような気がしますね……」

ミッシェル「ですよね、あたしもそう思ってたんですけど……」

紗夜「けど?」

ミッシェル「これ、なんか知らないんですけど脱げないんです……」

紗夜「え?」

ミッシェル「脱げないんですよ、どうやっても……。だからかれこれ1時間くらいずっとこのままなんです……」

ミッシェル「こころの家に行こうにも今日は家族と一緒に出かけちゃってるみたいで……それでこの格好で入れる場所なんてそうそうないですし……」

紗夜「1時間もその格好で外に? 大丈夫なんですか、奥沢さん」

ミッシェル「正直かなりキツいです……とにかく暑いですし……なんだか頭もちょっとボーっとしてて……」

紗夜(本当に辛そうな声ね……私のことは置いておいて、どうにかしなくては……)

紗夜「とりあえず涼しい場所へ行きましょう。……けれど、ミッシェルのまま室内に入れる場所は……CiRCLEなら、まりなさんに話を通せば平気かしらね」

ミッシェル「あー、確かに……なんで思いつかなかったんだろ……」

紗夜「奥沢さん、私の肩を貸します。ゆっくりでいいので行きましょう」

ミッシェル「ありがとうございます……氷川先輩が見つけてくれて良かったぁ……」


……………………
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/29(水) 15:36:12.66 ID:umO2zs3q0

――CiRCLE スタジオ――

紗夜(まりなさんに事情を話すと、すぐにミッシェルを室内に入れてくれた)

紗夜(ただ、今日はグリッターグリーンのライブがあって人が多いから、ラウンジにミッシェルは居られないようだった)

紗夜(なので、まりなさんは空いているスタジオに私とミッシェルを案内してくれた)

紗夜「大丈夫ですか、奥沢さん」

ミッシェル「ええ、はい……ちょっとマシになりました」

紗夜「ラウンジでスポーツドリンクを買ってきましたけど……それを脱がないと飲めませんよね」

ミッシェル「ですね……」

紗夜「どうすれば脱げるのかしら……」

ミッシェル「多分力づくじゃ無理なんだと思います……。あたしもミッシェルになってからかなり力持ちになりましたけど、ほんと、ビクともしなかったんで」

紗夜「……ということは、何か脱がすための手順があるはずね」

ミッシェル「ええ、恐らくは」

紗夜「キグルミのどこかに仕掛けでもあるのかしら」

紗夜(呟きつつ、壁にもたれて座っているミッシェルをくまなく観察する)

ミッシェル「氷川先輩って、優しいですね」

紗夜「え?」

ミッシェル「ああいえ、なんというか……学校やロゼリアだとすごく厳しい人だって印象があったので」

紗夜「それは時と場合によります。学校の風紀を乱すことは許しませんし、音楽に対して生半可な気持ちになるのも許されませんから」

紗夜(……まぁ、その音楽のためにナンパなんかする羽目になっているのだけど……)

紗夜「ですが、困っている人がいるのなら……ましてやそれが後輩とあれば、放っておけません。それを助けようと思うのは当たり前のことです」

ミッシェル「ありがとうございます……氷川先輩が偶然商店街にいてくれて助かりました……。もうホント、なんてお礼をすればいいのか……」

紗夜「気にしないで。疲れているでしょう、休むことに専念していてください」

ミッシェル「はい……」

紗夜(私の言葉を聞いて、ミッシェルはさらに深く壁にもたれる)

紗夜(相当体力を消耗しているみたいね……早くなんとかしてあげないと)
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/29(水) 15:37:51.24 ID:umO2zs3q0

紗夜「……それにしても、意外と手触りがいいのね」

紗夜「体毛もこんなにモフモフしていて……着ている洋服も上等な生地で出来ているわ。流石、弦巻財閥ね……」

紗夜「……あら?」

紗夜(と、ミッシェルの背中に何かの文字が縫い込まれているのが目に付いた。壁にもたれているからよく見えないけど、何かの英文……かしら)

紗夜「奥沢さん、お疲れのところすみませんが、少し体を起こして貰えますか?」

ミッシェル「あ、はい。よっこらせ……っと」

紗夜(ミッシェルが壁から離れる。それで縫い込まれた文字の全文が見えた)

紗夜(“La Belle et la Bete”)

紗夜(それからその隣に“Snow White and the Seven Dwarfs”)

紗夜「フランス語と英語、かしら」

紗夜(両方ともどこかで見た覚えがある。確か……片方は映画の原題で、もう片方はある話の原題だ)

紗夜「ドラマ性って……そういうことなのかしら……」

ミッシェル「あの、氷川先輩? 何かあったんですか?」

紗夜「ええ、まぁ……恐らくコレを脱ぐための答えが」

ミッシェル「本当ですか? よかったぁ、やっとミッシェルが脱げる……」

紗夜(奥沢さんは心の底から安心したような声を出す。それを聞いてしまうと、やはり、私がどうにかしてあげないと……という気持ちが胸中に浮かぶ)

紗夜「けど……」

紗夜(2つの話の結末を思い浮かべる。本来の姿に戻るために話の中の登場人物がとった行動は……愛の言葉を伝えることと口づけだった)
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/29(水) 15:38:41.45 ID:umO2zs3q0

紗夜「…………」

ミッシェル「それで、氷川先輩。どうすればいいんですか?」

紗夜「そう……ね」

紗夜(……色々と思うところはある)

紗夜(けれど、これは後輩のためだ。言ってしまえば不可抗力であり、奥沢さんを助けるためには仕方のないことだ)

紗夜(それに考えてみればこれもナンパの一環だと言えなくはないだろうか。いや言えるはずだ。大丈夫、きっと大丈夫のはず)

紗夜(加えて相手は決して奥沢さんではない。ミッシェルだ。フワフワの毛並みを身にまとった商店街のマスコットだ。大丈夫。それに人命救助だ。これはノーカン……ノーカウントだ。誰がなんといおうがセーフなのだ)

紗夜「……よし」

紗夜(理論武装は万全。あとは私が踏ん切りをつけるだけだ)

紗夜「奥沢さん」

ミッシェル「はい?」

紗夜「奥沢さんの顔って、ミッシェルのどの辺にありますか?」
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/29(水) 15:39:56.94 ID:umO2zs3q0



ミッシェル「え、あたしの顔ですか……」

ミッシェル(いきなりどうしたんだろう、氷川先輩)

ミッシェル(……まぁ、氷川先輩に限って無駄なことなんてするはずないし、これもミッシェルを脱ぐのに必要なのかな?)

ミッシェル「えっと、覗き穴が口の横のあたりにあるので……大体ミッシェルの顎のあたり、ですかね」

紗夜「そう。そこにあるのね」

ミッシェル「はい。でもそれがどう――」ドン

ミッシェル(言いかけたところで、氷川先輩の顔がグッと近くに来る。そしてあたしの逃げ場をなくすように、先輩の両手があたしを挟んで壁につけられる)

ミッシェル「え、ひ、氷川先輩……?」

紗夜「…………」

ミッシェル(戸惑いながら呼びかけるも、氷川先輩はただ無言でジッとあたしを見つめるだけだった)

ミッシェル(そう、どうしてか、あたしの顔の位置を正確に把握しているかのように、バッチリと目が合っている)

ミッシェル(整った顔立ち。いつも凛々しい目元。それが少しだけ、まるであたしを安心させるかのように優しく綻ぶ)

紗夜「大丈夫です。これはミッシェルにすることですから……奥沢さんは気にしないでくださいね……?」

ミッシェル「あの……」

ミッシェル(紡がれた言葉はいつも学校やライブハウスで聞くものよりずっと温かな響きをもっていた。それにまた戸惑ってしまう。氷川先輩はどうするつもりなんだろう。あたしは何をされてしまうんだろう)
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [ sage]:2018/08/29(水) 15:41:42.62 ID:R4LzBUk2O
本人たちは真剣である。笑ってはいけない
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/29(水) 15:43:48.25 ID:umO2zs3q0

紗夜「ミッシェル……私はあなたを、愛しています」

ミッシェル「え――」

紗夜「ん……」

ミッシェル(唐突な甘い言葉。それがスルリと耳から入り込んで、茹だった脳をくすぐる。そして何かを言おうとしたあたしの口へ……ミッシェルを挟んで、氷川先輩の唇が重なる)

ミッシェル(『カチッ』と、首元で何かが外れる音がした)

ミッシェル(それから氷川先輩の顔が離れる)

ミッシェル(何が起こったのか理解できない。ただ、あたしの熱を持った頭は寝ぼけたことだけを反芻する)

ミッシェル(瞳を閉じた氷川先輩の顔がとても綺麗だったこととか、長い睫毛が微かに震えていたこと、ミッシェル越しに合わさった先輩の唇の柔らかさだとか……)

ミッシェル(それらが頭の中を何周も巡りに巡り、あたしの顔が今日一番の熱を帯びたところで、そっとミッシェルの頭を氷川先輩が持ち上げた)

奥沢美咲「…………」

紗夜「おはようございます、奥沢さん」

美咲(そして氷川先輩はそう言って、優しくあたしに微笑みかけるのだった)


97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/29(水) 15:45:51.69 ID:umO2zs3q0

美咲「…………」

紗夜(……反応がない上に、顔がかなり赤くなっているわね……)

紗夜(大丈夫かしら。熱中症になっていなければいいんだけど)

美咲「…………」

紗夜「奥沢さん? 大丈夫ですか?」

美咲「へっ!? あ、あああ、はい、だい、大丈夫です、よ……」

紗夜「そう。けど、かなり顔が赤くなっているわね」

美咲「そ、それは暑さのせいっていうか、その、氷川先輩が……」

紗夜「……?」

美咲「え、ええっと、なんでも……ないです……」

紗夜「そう。では、コレをどうぞ。汗をたくさんかいたでしょう。水分補給をしてください」

美咲「あ、はい……」

紗夜(奥沢さんは頷いて、おっかなびっくり私の手からスポーツドリンクを受け取る)

紗夜(……どうしたのかしら。さっきと大分様子が違うみたいだけど)

美咲「…………」チラ

紗夜(どうしてかこちらの様子をチラチラうかがっているし……まぁ、暑さで少し朦朧としているのかもしれないわね)
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/29(水) 15:48:32.36 ID:umO2zs3q0

紗夜(それよりこれね。ミッシェルの頭部……)

紗夜「……やっぱり、この中にスイッチのようなものがありそうね」

紗夜(傍らに置いたミッシェルヘッドを手に取り、先ほど口づけたあたりをまさぐってみると、掌に柔らかい弾力を感じる)

紗夜(内側も同じように手で触ってみると、そちらにも同じような感触を見つけた)

美咲「あ、あわわ……キスしたところを手で……」

紗夜(恐らくだけど……愛の言葉をマイクか何かで拾って、このスイッチに両側から衝撃が加わるとロックが外れる……というような仕組みになっているのね)

紗夜(ドラマ性……美女と野獣に白雪姫……誰も背中の文字に気付かなかったらどうするつもりだったのかしら)

紗夜(というか、こういう仕組みなら口づけじゃなくて手で押すだけでもよかったわね……)

美咲「あ、あのっ、氷川先輩っ?」

紗夜「はい、なんでしょうか」

美咲「えっと、その、さっきのアレは……」

紗夜「……アレはミッシェル相手のものです」

美咲「え?」

紗夜「ミッシェルにしたものです。なのでノーカウントです」

美咲「え、え?」

紗夜「それより、これを見てください。このスイッチが……」

美咲「…………」

紗夜「……という仕組みになっているようですね。どうして弦巻財閥はこんなものを作ったのかしら」

美咲「そ、それじゃあアレはあたしを助けるためだってことで……」

紗夜「はい。それ以上でも以下でもありませんので、奥沢さんも気にしないでください」

美咲「えっと……はい……夢に見そうですけど……はい……」
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/29(水) 15:53:46.30 ID:umO2zs3q0

紗夜「けど、奥沢さんも大変ですね。弦巻さんに押し倒されたり、こんなものを被らされたり」

美咲「えっ!? な、なんでこころに押し倒されたこと……!?」

紗夜「先日、瀬田さんから話を伺いました。そのことに関して私からはとやかく言いません」

美咲「ち、違います! アレは不可抗力だったんですって! ああしないと部屋から出られなくて……」

紗夜「大丈夫です。その辺りの話も瀬田さんが教えてくれました」

美咲「ほ、本当に違うんですよ……? その、変な勘違いはしないでくださいね……?」

紗夜「まぁ……そうですね。今回のこれも不可抗力でしたし、それと同じことかもしれないわね」

美咲「あ……そっか……」

美咲「…………」

美咲「え、なんであたし、今ちょっとがっかりしたの……?」

紗夜「奥沢さん?」

美咲「なっ、なんでもないです! その、氷川先輩……ありがとうございました」

紗夜「いいえ。困っている人を助けるのは当然のことですからね」

紗夜「それより、身体の方は大丈夫ですか?」

美咲「えーっと……まだ少し変な熱が残ってるというか、なんというか……」

紗夜「そう……仕方ないわね。奥沢さんが良くなるまで付き添いましょう」

美咲「で、でもそれはちょっと悪いですよ……」

紗夜「乗りかかった舟です。最後まで付き合いますよ。それに、1人でミッシェルを返しに行くのも大変でしょう?」

紗夜(本当は湊さんのところへ冷やかしにいこうと思っていたけれど……流石に今の奥沢さんを放っておくわけにもいかないわ)

美咲「…………」

美咲「そう、ですね。それじゃあ申し訳ないんですけど……もう少しだけ、その、傍にいてくれますか……?」

紗夜「ええ」

美咲「……本当は黒服の人がミッシェルの回収に来てくれるけど」

紗夜「なにか言いましたか?」

美咲「いえ……なんでもないです」

紗夜「そうですか。それでは、下も脱いでしまいましょう」

美咲「っ!? あ、ああ……ミッシェルのことですよね……はは……」

紗夜(……奥沢さん、やっぱりまだ様子がおかしいわね。意識がはっきりするまで看ていましょう)


……………………
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/29(水) 15:55:36.65 ID:umO2zs3q0

――羽沢珈琲店――

友希那(配膳、食器洗い、それからお客さんが帰ったあとの後片付けもするようになって、集中して働いていたらもう15時を回っていた)

友希那(お昼ご飯に賄いを貰ったのがついさっきのように思えるくらい、時間が早く流れていた)

友希那(今日のバイトもあと1時間。ここまで大きな失敗もなくやってこれたし、残りもしっかりやりましょう)

つぐみ「友希那先輩、アイスティーのセットを10番にお願いします」

友希那「了解よ」

友希那(羽沢さんの言葉に頷く。もう慣れたものだ。アイスティーの入ったグラスとチーズケーキの乗ったお皿を手に、指定された席へ向かう)

友希那「……あら、リサ」

リサ「やっほー友希那〜」

友希那「やっぱり来たわね」

友希那(午前中は席に座る人の顔を見る余裕もなかったけど、今となっては通りすがる席のお客さんの表情まで確認できる余裕があった)

友希那(少しだけ呆れたような口調でそう言って、グラスとお皿をテーブルに置く)

リサ「しっかり働けてるみたいで安心したよ〜」

友希那「それはどういう意味かしら?」

リサ「あはは、ごめんごめん、気にしないで」

友希那「まったく……私だってやれば出来るのよ」

リサ「そうだね。それにそのエプロンと髪型……新鮮だけどすごく似合ってるよ、友希那」

友希那「そう。ありがとう。羽沢さんとあこにも同じことを言われたわ」

リサ「今度のライブ、そういうのでやってみる?」

友希那「遠慮しておくわ。あまりにもロゼリアのイメージとかけ離れているもの」

リサ「そっか、残念だなぁ」

友希那(さして残念と思っていなさそうな口ぶりでそう言って、リサはアイスティーに口をつけ、一息に3分の1ほどを飲み干した)
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/29(水) 15:56:33.80 ID:umO2zs3q0

友希那「……そんなに喉が渇いていたの?」

リサ「ん? あー、ほら、アタシの挑戦ってマラソンじゃん?」

友希那「そうね」

リサ「んでさ、はぐみのとこにマラソン大会の出場申し込みいったらね、はぐみが練習に付き合ってくれるって言ってくれてね」

友希那「へぇ、北沢さんが。確かにあの子、走るのが好きそうね」

リサ「そうそう、そのイメージ通りだったよ。それで今日もはぐみと一緒に練習してきたんだ〜。だから、ちょっとね」

友希那「そうなのね」

リサ「うん。あ、それでさ……アタシの挑戦、フルマラソンだったじゃん?」

友希那「ええ」

リサ「あれさ、フルマラソンは初心者じゃ半年くらい練習しないとって言われちゃって……ハーフマラソンにしちゃったんだけど、ヘーキかな?」

友希那「…………」

友希那(リサは申し訳なさそうに、上目遣いでこちらを窺う。それに少しだけ考えたあと、私は口を開く)

友希那「いいと思うわよ」

リサ「ほんと!? よかったぁ、ダメだって言われたらどうしようかと思ったよ〜」

友希那「まぁ……無理をしてロゼリアの活動に支障が出てしまっては、元も子もないもの」

リサ「そっか。ありがと、友希那」

友希那「いいえ。まぁ紗夜がなんて言うかは分からないけれど」

リサ「あー確かに……『ハーフマラソン? 結構。それでは上位入賞くらいはして当然ですよね?』とか言われるかな……」

友希那「……くじを引いた時の様子を考えると、恐らく言うわね」

リサ「だよねぇ……でも、あは。なんかその姿がすっごく簡単に想像できておかしいなぁ」

友希那「ふふ、そうね」
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/29(水) 15:58:10.81 ID:umO2zs3q0

リサ「友希那はどう? バイト、もうすぐ終わりでしょ?」

友希那「私は……ええ、得るものは確実にあったわね」

友希那(猫に対する理解と、猫カフェに対する理解と、働くということを猫を通して学んだことと、あとは何でもない日常の1コマからも学ぶことがあるのではないか、ということ)

友希那(この前のプールと同じね。ここへお客さんとしてやってきたあこと燐子の横顔を見ることで、あの子たちの普段の様子を垣間見れたような気がするわ)

友希那(ロゼリアの仲間としての顔ではなく、従業員とお客さんという中での表情)

友希那(何が得られたか、とはしっかりとした言葉で残せないかもしれないけど、それでも何かしらの糧として、それを私の中に残せたような気がしている)

リサ「そっかそっか。みんなも苦労してるのかなぁ」

友希那「どうかしらね。あこはいつも通り楽しそうだったし、燐子も若宮さんと一緒に竹細工教室に通っているみたいで、それもいい経験になっていると思うわ」

友希那「紗夜はここへは来なかったから分からないけれど、あの子のことだもの。きっと真面目に取り組んでいるに違いないわ」

リサ「へぇ……よっし、アタシも頑張んなきゃね」

友希那「ええ。日曜日、応援に行くわ」

リサ「ありがと。友希那にカッコ悪いとこ見せない様にしっかり練習するよ」

リサ「……あっと、つい話し込んじゃったね。バイト中にごめん」

友希那「いいえ。今の時間帯はそんなに忙しくないみたいだから平気よ」

リサ「ん、そっか。友希那、4時までだったよね?」

友希那「ええそうよ」

リサ「それじゃあここで待ってるから、終わったら一緒に帰ろーよ」

友希那「了解よ。それじゃあ、どうぞごゆっくり」

リサ「うん!」
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/29(水) 15:59:57.93 ID:umO2zs3q0

友希那(リサに一礼してから厨房へ引き返す。すると、羽沢さんと羽沢さんのお父さんが何かを話しているようだった)

つぐみ「……うーん、どうしよう……」

友希那「羽沢さん? 何かあったのかしら?」

つぐみ「あ、友希那先輩。いえ、そんなに大したことじゃなくて、ちょっと明日のシフトがですね……」

友希那「……なるほど、他のアルバイトの方が風邪を引いて欠員が出た、と」

つぐみ「そうなんですよ。だから友希那先輩は気にしないでくださいね」

友希那「……それって、私が入ればどうにかなるかしら?」

つぐみ「え?」

友希那「アルバイトの欠員が出たのよね? それなら、そこへ私が入れば解決できるんじゃないかしら」

つぐみ「そうですね……そうすれば全然問題なくなるんですけど……でも」

友希那「それなら、もう1日だけアルバイトをさせてくれないかしら。迷惑なようならいいんだけど……」

つぐみ「い、いえいえ、迷惑だなんて! むしろ助かっちゃうんですけど、友希那先輩は平気なんですか?」

友希那「大丈夫よ。今週は日曜日以外に特に用事はないもの」

つぐみ「それじゃあ……お願いしちゃってもいいですか?」

友希那「ええ、任せて頂戴」

つぐみ「ありがとうございます、友希那先輩」

友希那(私の言葉に羽沢さんは笑顔でお礼をする)

友希那(……私自身としても、自分からこんな提案をすることが少し意外だった)

友希那(けれどまぁ、こういう経験も決して悪くはないものだというのはもう分かっている。こういう時くらいはいいだろう)

友希那(羽沢さんには紗夜もお世話になっているみたいだし、たまには私だって後輩にいい顔をしてみせたいし、猫カフェを巡るためにはそれなりの資金が必要な訳だし)

友希那(ふふ……今度はどんなカフェに行ってみようかしらね)

友希那(そんなことを思いながら、私は残りの1時間を過ごすのだった)


――――――――――――
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/29(水) 19:15:13.96 ID:w/le2L60o
みささよ...イケるな
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [ sage]:2018/08/29(水) 19:18:53.37 ID:5udmdgHr0
ナイスミッシェルであった
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/29(水) 20:42:12.03 ID:rltcIrQD0
ラルゴの時からみささよに目覚めていた自分にとっては最高だよ…
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/30(木) 23:59:48.99 ID:AoeoeoUx0
>>89
なるほどいいですね
因みに細かいようですが美咲は紗夜先輩呼びですね
何故か日菜は日菜さん呼びだけど
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/31(金) 12:03:01.20 ID:atTWqqDZ0
>>107
oh...
申し訳ないです、ご指摘ありがとうございます
ちょっと吊ってきます(;´・ω・)
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/31(金) 12:05:18.19 ID:atTWqqDZ0

【木曜日】

――白金家 燐子の部屋――

燐子(竹細工……若宮さんと一緒に習って……まだちょっとだけ、だけど……)

燐子(竹ひごを編んで……曲げるだけで籠が作れたり……そういった細々した作業がすごく楽しい……)

燐子(竹ひごを曲げるためには……ちょっと力が必要で大変だけど……)

燐子(でも……昨日読んだ本には……竹細工のアクセサリーっていうのもあったから……ロゼリアでも和風の衣装を作るのもいいかも……)

燐子「……最初はどうなるんだろって思ったけど……やっぱり何事も挑戦してみるのが……大切なんだ」

スマホ<ピロリン

燐子「……あれ? 若宮さんからメッセージが……」

燐子「えっと……」

イヴ『おはようございます、燐子さん! お師匠からの連絡です! 今日は動きやすく、長袖長ズボンの格好で教室に来てほしい、とのことです!』

燐子「動きやすい格好……? 確かに……小さなものを作るのにも力がいるし……なにか大きいものでも作るのかな……」

燐子(とりあえず……若宮さんに返信しなくちゃ……)

燐子『分かりました。連絡ありがとうございます。今日もよろしくお願いしますね、若宮さん』

燐子「……動きやすい格好……何かあったかな……?」


……………………
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/31(金) 12:06:34.55 ID:atTWqqDZ0

――竹細工教室――

イヴ「おはようございます、リンコさん!」

燐子「うん……おはようございます、若宮さん……」

イヴ「今日はどんなことをするんでしょうね? 動きやすい格好、ということは、何か激しい竹細工に挑戦するんでしょうか?」

燐子「激しい竹細工……大きな竹を割ったり、等身大のミッシェルを作ったり……?」

イヴ「あ、竹で出来た大きなミッシェルさんは可愛いですね! ちょっと作ってみたいです!」

燐子「すごく大変そうだけど……それより、若宮さん……」

イヴ「はい?」

燐子「その……どうして忍び装束なんですか……?」

イヴ「動きやすい長袖長ズボンと言われたので、これがピッタリだと思ったんです!」

燐子「全身真っ黒の服だけど……暑くないんですか……?」

イヴ「実は少し……ですが、これも修行の内です! シントウメッキャクすれば火もまた涼し、の精神ですね!」

燐子(ちょっと違うと思うけど……若宮さんが楽しそうだし、いいのかな……?)

――ガラッ

お師匠「……おはようございます」ペコリ

イヴ「おはようございます、お師匠!」

燐子「お、おはようございます……」
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/31(金) 12:07:24.56 ID:atTWqqDZ0

イヴ「お師匠、言われた通り動きやすい格好で来ました!」

お師匠「……忍者スタイル……」

イヴ「はい! ブシドーを極めるためには、影に暗躍するニンジャのことも知らなくてはいけませんから!」

燐子「そう、かな……?」

イヴ「ところで、どうして動きやすい格好なんですか? やはり等身大ミッシェルさんの作成をするんですか?」

お師匠「ミッシェル……商店街のマスコット……それもいいかもしれない……」

燐子「え、えっと……本当は何をするつもりなんですか……?」

お師匠「……竹取」

燐子「え?」

お師匠「竹細工は……竹あってのもの……」

お師匠「竹を知ってこそ、竹細工は完成します……」

お師匠「だから……山へ」

燐子「山へって……竹を取りに……?」

お師匠「…………」コクン

イヴ「なるほど! 敵を知り、己をしれば百戦危うからず、ということですね!」

燐子「だ、だから動きやすい格好……」

イヴ「山へはどうやって行くんですか?」

お師匠「トラックを借りてきたので……それで」

イヴ「分かりました!」

燐子「…………」

燐子(山……完全にわたしとは縁遠いアウトドア……)

燐子(……で、でも、これも挑戦……です……)

燐子「わ、分かりました……!」

お師匠「それでは……表にトラックを停めてあるので……」


……………………
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/31(金) 12:08:26.12 ID:atTWqqDZ0

――トラック車内――

イヴ「トラックって初めて乗りました!」

燐子「わたしも……初めて……」

お師匠「一応……ワイドの平トラックを借りてきましたので……」

イヴ「ワイド、ですか?」

お師匠「標準的なトラックの幅が広いもので……その分キャビン……運転席も広く作られています」

お師匠「だから3人掛けでもあまり狭くなく……乗り心地は悪いけれど、それは仕方ないので……」

燐子「……前の席に3人も座れるんですね……」

お師匠「トラックは基本そう、ですね……」

イヴ「そうなんですね」

燐子「あの、若宮さん……真ん中に座ってもらっちゃってますけど、大丈夫ですか……?」

燐子(いくらワイドって言っても……お師匠さんの肩幅が広いから狭いんじゃ……)

イヴ「大丈夫ですよ! お師匠の運転が近くで見れて、なんだか楽しいです!」

イヴ「シフト操作、というんですよね。その手さばきも鮮やかです!」

お師匠「…………」フイ

燐子(あ、顔を逸らした……もしかして照れてるのかな……)
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/31(金) 12:09:47.45 ID:atTWqqDZ0

燐子「そういえば……あの……山って、どの辺りまで行くんですか……?」

お師匠「……東京の少し外れまで……」

お師匠「そこに自分の実家があって……竹林のある山を所有しているので……」

イヴ「お師匠、山をお持ちなんですか?」

お師匠「……先祖代々所有している土地で……あまり管理もされていないけれど、一応は……」

燐子「す、すごいですね……」

お師匠「そんなことは……」

イヴ「ご謙遜なさらないで下さい! お師匠は職人だけでなく、山のヌシ様でもあったんですね! それはとてもすごいと思います!」

お師匠「…………」ポリポリ

燐子(なんとも言えない表情で頬をかいてる……やっぱり照れてるんだ……)

イヴ「お師匠の山に竹取さんとしての手さばき、とても楽しみです!」


……………………
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/31(金) 12:11:19.68 ID:atTWqqDZ0

――山中の竹林――

燐子(高速道路に乗って都心から離れ、緑の多くなった場所で下道に降りました)

燐子(それから少し狭い山道を走って、お師匠さんは少し拓けた砂利道にトラックを停めました)

燐子(目の前には竹の茂った林があります)

お師匠「ここが……いつも竹を取る竹林」

燐子(お師匠さんに続いてトラックを降りると、竹の青い匂いが風に運ばれてきます)

イヴ「すごいですね! カグヤヒメが居そうです! さながらお師匠は竹取のオキナですね!」

お師匠「……自分はまだ翁というほど歳は……」

燐子「輝夜姫……金閣寺の一枚天井……」

イヴ「おや、どうかしましたか?」

お師匠「いや……」

燐子「なんでもないです……」

イヴ「そうですか。それで、お師匠。これからどうするんですか?」

お師匠「……自分が竹を切って……2人は、竹の枝打ちを……」

イヴ「エダウチ、ですか?」

お師匠「ええ……枝を取り払ってもらいます……。鉈を使うので……作業手袋と、それから安全長靴……あと、帽子も持ってきてあるのでそれを身につけてもらって……」

お師匠「……あ、どれも新品を用意したから気にせずに……」

燐子(新品を用意してもらったっていう方が気になるけど……)

お師匠「まずは自分が一連の作業を見せるので……」

イヴ「分かりました! お師匠のお手並み拝見、ですね!」


……………………
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/31(金) 12:12:10.55 ID:atTWqqDZ0

燐子(お師匠さんの手際は非常に良かったです)

燐子(専用のノコギリを使って、サッと竹を伐採すると、トラックを置いた方面へ竹を倒します)

燐子(そしてその竹を4分割にすると、1人で拓けた砂利道にまで持ち出して、竹に付いた枝葉を鉈でトントンと打ち切っていきます)

お師匠「これで……ひとまずは完了……」

燐子(ものの10分ほどで、先ほどまで枝葉を茂らせて空に伸びていた長い竹が、裸になって地面に寝転がった姿になっていました)

イヴ「わぁ、鮮やかなお手並みです、お師匠!」

お師匠「……慣れているので」

燐子「いつも……1人でこうやって採取してるんですか……?」

お師匠「ええ、まぁ」

燐子「な、なるほど……だからそんなに筋骨隆々に……」

お師匠「あ、いや……」

イヴ「生活の中で己をケンサンする……見事なブシドー精神ですね!」

お師匠「…………」

お師匠(……筋トレが趣味だと……言い出せなくなってしまった……)

イヴ「私たちはエダウチ、でしたね。お師匠のようにナタでトントンとすればいいんですね?」

お師匠「……ええ。怪我には気を付けて……」

燐子「わ、分かりました……」

お師匠「では……竹を切って持ってきます」


……………………
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/31(金) 12:14:23.80 ID:atTWqqDZ0

――公園――

はぐみ「それじゃあ今日は、実際のマラソンの走り方について練習するね!」

リサ「はーい。今日もよろしくね、はぐみ」

はぐみ「うん!」

リサ「それで、走り方っていうと……昨日教えてくれた『5メートル先を見て、猫背にならない』っていうやつみたいな?」

はぐみ「ううん、今日はね、ペース配分と休憩の仕方!」

リサ「ペース配分はなんとなく分かるけど……休憩の仕方って?」

はぐみ「んっとね、マラソン大会だと、5キロごとに給水所があるんだ」

リサ「あー、走りながら水飲んだりしてるアレ?」

はぐみ「そう、ソレ!」

はぐみ「たくさん走るとお腹も減っちゃうし、何にも補給しないで走ってるとすぐにヘロヘロになっちゃうんだ」

はぐみ「だからね、給水所での休憩の仕方!」

リサ「ふむふむ」

はぐみ「さっき走りながらって言ってたけどね、アレは本気でタイムを目指してる人がやるんだ」

リサ「そうなの?」

はぐみ「うん、休憩してる時間がもったいないからね。でも完走が目的なら、ゆっくり歩きながら補給したり、邪魔にならない場所で立ち止まったっていいんだよ」

リサ「へぇー」

はぐみ「それにね、給水所ってすっごい混むんだ。バラバラに走ってるけど、そこだけはみんなが寄るから」

リサ「あー、確かにそうだよね」
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/31(金) 12:15:45.00 ID:atTWqqDZ0

はぐみ「だから給水所の近くまで来たら、慌てないこと! 『急がないと!』って焦っちゃうとすっごく疲れちゃうから、『せっかくだしちょっと休憩しよう』くらいの気持ちでゆっくりすること大切だと思うよ!」

リサ「なるほど。確かに混んでる場所で急いだって仕方ないもんね」

はぐみ「うん! それと、お腹が減ると走れなくなっちゃうから、途中でおにぎりとかバナナを食べるのも大切だよ」

リサ「そういうのも給水所にあるの?」

はぐみ「あるよ〜。商店街が協賛だからね、はぐみのお店のコロッケもあるよ」

リサ「マラソンでコロッケはちょっと……どうだろ……?」

はぐみ「マラソン大会用の特製コロッケだから美味しいよ!」

リサ「いや、美味しいのは知ってるんだけどさ……走りながらだとちょっとアタシにはキツいかも」

リサ「コロッケは走り終わってからゆっくり味わって食べたいかなぁ……」

はぐみ「そっかぁ。んっと、それ以外のオススメだと……ジェルだね」

リサ「ジェル?」

はぐみ「ゼリーみたいな飲み物だよ!」

リサ「あー、コンビニの栄養ドリンクコーナーにあるみたいな?」

はぐみ「それだね! ハーフマラソンならそれをちょっと飲むだけでもヘーキだと思うな!」

はぐみ「でもそういうのは用意されてないから、自分で用意してポーチとかに入れてこないといけないんだよね」

リサ「なるほどなるほど……でもその方が動きながらでも飲みやすいし、アタシはそっちの方がいいかも」

はぐみ「そっか! それじゃあはぐみのマラソンポーチ、貸してあげるよ!」

リサ「え、いいの?」

はぐみ「うん! 何個か持ってるからね! 走る用のしっかりしたのじゃないとマラソン中邪魔になっちゃうし!」

はぐみ「だからジェルも軽くて小さいやつがいいと思うよ。薬局とかにいけば色んな種類があるから選んでみて!」

リサ「うん、分かった。色々ありがとね、はぐみ」

はぐみ「どういたしまして!」
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/31(金) 12:18:14.48 ID:atTWqqDZ0

はぐみ「それじゃあ次はペース配分についてだね」

リサ「そっちはなんとなく分かるなぁ。出来るだけ同じペースで走った方がいいんだよね?」

はぐみ「そうなんだけど……完走が目標なら、最初はゆっくりして、あとから頑張る方がいいと思うな」

リサ「そうなの?」

はぐみ「うん。あのね、周りにたくさんの人が走ってるとね、それについていきたくなって速く走ろうとしちゃうんだ」

はぐみ「それで『同じペースで走らなきゃ!』って思っちゃうと、前半だけですっごく疲れちゃうから、最初はゆっくりゆっくりって走った方がいいと思う」

リサ「確かに言われてみれば……」

はぐみ「力が残ってるなら後からもっと頑張って走ればいいんだし、ゴールするまでの全部のことをちゃんと考えて走る方がタイムもよくなると思うんだ」

リサ「なるほどね〜。んー、考えてみると、ベースと似たような感じかな?」

リサ「ペースを乱さず、周りに釣られず……って。リズム隊がリズム乱してちゃ、バンドとしてまとまんないし」

はぐみ「あ、そうかもしれないね!」

リサ「まぁ、とは言ってもロゼリアだと紗夜が一番正確なリズムで音を出してるんだけどさ……」

はぐみ「ハロハピは……みんなでどっかーんってして、かのちゃん先輩がふぇぇってしてるかな?」

リサ「あはは、すごい想像できるなぁ、その光景」

リサ「それじゃあ今日はそういうペースを意識して走る練習、かな?」

はぐみ「うん、そうだね! 最初はゆっくり、あとからバビューン! っていう練習!」

リサ「オッケー!」

はぐみ「じゃあ行こっか、リサさん!」


……………………
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/31(金) 12:21:27.56 ID:atTWqqDZ0

――商店街――

紗夜「さて……昨日は人命救助を優先してしまったから、今日こそは本来の目的を達成させましょう」

紗夜(そしてナンパなんてふざけたことはさっさと終わらせてしまいたいわ)

紗夜「また昨日のように誰か知った顔がいればいいんだけれど……」

紗夜「…………」キョロキョロ

紗夜「……まぁ、そうそういないわよね」

紗夜「どうしようかしら……」

「あの……」

紗夜(呟きつつ考えていると、後ろから声をかけられた。振り返るとそこには……)

↓1
(※ロゼリア、薫、イヴ、はぐみ、つぐみ、日菜以外の誰かでおねがいします)
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/31(金) 12:34:42.38 ID:TRQzilobo
美咲

だめなら彩
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/01(土) 12:20:35.92 ID:EN4g3tUY0

美咲「あ、やっぱり紗夜先輩だ」

紗夜「奥沢さん……どうも、こんにちは」

美咲「ええ、こんにちは。また会いましたね」

紗夜「そうね。体調はどうですか?」

美咲「おかげさまで……まぁ、ちょっと寝不足ですけど」

紗夜「夏休みだからといってあまり夜更かしをしていてはいけませんよ」

美咲「……紗夜先輩のせいなんだけどね、寝れなかったの……」

紗夜「私がどうかしましたか?」

美咲「い、いえいえ、なんでもないです」

美咲「そういえば昨日も商店街にいましたけど、何をしていたんですか?」

紗夜「私は……」

紗夜「…………」

美咲「あ、ごめんなさい、あんまり知られたくないことでしたか?」

紗夜「……いえ。そうね……有り体に言ってしまうと、ナンパね……」

美咲「へ?」

紗夜「ロゼリアのレベルアップを計ると湊さんが言い出して、その為にやることのくじを引いたらナンパをしろと出たのよ……」

美咲「あー……それはなんというか、災難ですね」

紗夜「ええ……けれど、引いたからにはしっかりやらなくてはいけないので」

紗夜「湊さんも弦巻さんのお宅で綱渡りしましたし」

美咲「こころの家でって……あのアスレチックですか?」

紗夜「ええ。中央の辺りで落ちましたが」

美咲「いやー、あれは初見殺しにもほどがありますからね。というか、むしろよく真ん中までいけましたね、湊さん」

紗夜「何やら『私は猫だ』と言いながらズンズン進んでいってましたね」

美咲(……ロゼリアってあたしが思ってるより、なんていうかこう……ハチャメチャなのかな……)
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/01(土) 12:21:31.38 ID:EN4g3tUY0

紗夜「すみません。少し話し込んでしまいましたね」

美咲「あ、いえ、あたしは特になんの用事もなかったので……」

紗夜「そうでしたか」

美咲「ええ、はい」

美咲「…………」

紗夜「奥沢さん? どうかしましたか?」

美咲「あの、紗夜先輩……ナンパをするんですよね?」

紗夜「……ええ、まぁ」

美咲「その相手って……あたしじゃダメ……ですか?」

紗夜「え?」

美咲「あ、その、変な意味じゃないですよっ? ほら、昨日助けてもらいましたし?」

美咲「昨日はあたしのせいで紗夜先輩がナンパできなかったっていうなら申し訳ないですし……だから、えっと……」

美咲「あたしで良ければ……その、一緒に……」

紗夜「ありがとうございます、奥沢さん。ですが……」

美咲「やっぱりダメ、ですかね……?」

紗夜「……いえ。その、色々とややこしいのですが、ナンパをするのは私の方からでないといけないと思いますので……」

紗夜「あまり状況に流されてばかりいては他のメンバーに顔向けできません。なので……すみません、私に少し意地を張らせてください」

美咲「じゃ、じゃあ……」

紗夜「はい。奥沢さん、もしもお時間があるようなら、少し付き合ってくれませんか?」

美咲「は、はいっ、付き合います!」

紗夜「ありがとうございます。それでは……少し休めるところへ行きましょうか」


……………………
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/01(土) 12:23:49.88 ID:EN4g3tUY0

――竹林――

燐子(お師匠さんが切ってくる竹。わたしと若宮さんは、その枝打ち作業を続けていきます)

燐子(最初は難しくて……なかなか枝が取れず、取れてもその表面がささくれ立ってしまったりと、大変な作業でした)

燐子(だけど何度か続けていくうちに、流石にお師匠さんと同じくらい、とは言い難いけど……私も若宮さんもそれなりに綺麗に枝が取れるようになりました)

イヴ「ふふ、なんだか楽しいですね」

燐子「うん……最初は大変だったけど……綺麗に取れると達成感があって……」

イヴ「やっぱりリンコさんは手捌きが丁寧ですね。私が切るよりも、とっても綺麗に出来ています」

燐子「でも力がなくて時間がかかりますから……若宮さんの方がすごく早く出来てて、すごいなって思います……」

イヴ「いえいえ、そんなことないです! リンコさんの方がすごいです!」

燐子「う、ううん……若宮さんの方が……」

お師匠「……これで最後」ドサッ

燐子(そんな譲り合いをしていると、お師匠がまた竹を持ってきました)

イヴ「あ、お師匠! これで最後、ということは、竹のエダウチはもうおしまいですか?」

お師匠「…………」コクリ
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/01(土) 12:24:28.90 ID:EN4g3tUY0

燐子「そんなに数が多くないんですね……」

お師匠「……本来は、冬に伐採するので……今日はちょっと補充をするだけ……ですから」

イヴ「そうなんですね! それでは、これもバッサリ枝を打ってしまいましょう!」

燐子「うん……そうだね……」

燐子(若宮さんの言葉に頷いて、鉈で枝を払っていきます)

イヴ「えいっ、とぉっ!」タンタン、タンタン

燐子(……やっぱり若宮さん、早いなぁ)

燐子「わたしはわたしのペースで……」タン、タン、タン

お師匠「2人とも……結構なお手前で……」

イヴ「これもお師匠の教えのタマモノです!」

お師匠「…………」ポリポリ

燐子「これで終わり、ですね」

イヴ「この後はどうするんですか?」

お師匠「次は、竹をトラックに積んで……実家で加工します」


……………………
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/01(土) 12:25:25.03 ID:EN4g3tUY0

燐子(お師匠さんは竹林でトラックに竹を積んで、それを手際よくロープで固定しました)

燐子(わたしと若宮さんも積むのを手伝いましたけど……竹、とっても重くて……あまりお役には立てませんでした)

燐子(それでもお師匠さんはわたしたちにお礼を言って、トラックを走らせます)

燐子(そして大体20分ほど、でしょうか)

燐子(山や川が近い、のどかな景観の中に立つ庭付きの一軒家にトラックは辿り着きます)

燐子(とても広々とした庭の一角に、何か工場のような建物がありました)

燐子(お師匠さんはそこへトラックを後ろ付けにします)

お師匠「ここで……竹の油抜きをします……」

イヴ「へぇ、そうなんですね」

お師匠「ええ……油抜きをして、3週間ほど天日干しをして……竹細工の材料として切り分けます……」

燐子「3週間も……」

イヴ「私たちに何かできることはありますか?」

お師匠「では……採ってきた竹を洗いましょう」

燐子「分かりました……」

イヴ「了解しました!」
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/01(土) 12:25:59.98 ID:EN4g3tUY0

お師匠「ちょっと待っててください……」

燐子(お師匠さんはそう言って工場の中に入っていき、鉄製の土台のようなものを2つ持って出てきました)

お師匠「ここへ竹を乗せて……柔らかいタワシで水洗いします……」

イヴ「お水ですね。水道は……」

お師匠「そこにあるので……タワシも置いてあります。ホースとシャワーヘッドを繋げてあるので……」

燐子「はい……持ってきますね」

お師匠「お願いします……自分は竹を下ろすので……」

燐子(お師匠さんはそう言って、テキパキと荷台から下ろした竹を土台の上に置いて行きます)

燐子(わたしと若宮さんは水道からホースとタワシを持ってきました)

お師匠「では……汚れを落とそうと強くこするのではなく、水でタワシを滑らせるように優しく洗ってください……」

イヴ「分かりました!」

燐子「はい……」
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/01(土) 12:26:45.04 ID:EN4g3tUY0

―竹を洗い終わって―

燐子(お師匠さんの言う通り、優しくタワシでこするだけでも竹の表面は綺麗になりました)

燐子(それはいいのですが……そうなると、わたしたちが最初に枝打ちをした部分の拙さがより一層目立ってしまいました……)

イヴ「うーん、やっぱり最初にやった部分はちょっと……」

燐子「うん……」

お師匠「…………」

燐子「お師匠さん……これだとやっぱり、竹細工には使えませんか……?」

お師匠「いえ……籠や飾り物だけが竹細工ではありませんので……」

お師匠「こういった竹でも……例えば、半分に割って……流しそうめんなどに使えます」

燐子「あ……そうなんですね……よかった」

イヴ「ナガシソウメン?」

燐子「えっと……半分に割った竹を繋げて……そこにそうめんと水を流して食べるんです」

イヴ「そうめんにそんな食べ方があるんですね!」

燐子「うん……最近はあんまり見ないけど……夏の風物詩、かな……」

イヴ「そうなんですね! 是非ともやってみたいです!」
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/01(土) 12:27:56.85 ID:EN4g3tUY0

お師匠「……やりますか……?」

燐子「え?」

イヴ「いいんですか?」

お師匠「ええ……せっかく自分たちで採った竹ですから……自分で使う方がいいでしょう」

お師匠「そうしたら……枝打ちが上手くいかなかった竹はこのまま持って帰って……流しそうめん用にみなさんで加工しましょう」

お師匠「竹の加工も体験出来て……一石二鳥です」

イヴ「わぁ、ありがとうございます、お師匠!」

お師匠「いえ……」

燐子「す、すみません……わたしたちが失敗しちゃったのに……」

お師匠「……失敗は必ずしも悪いことではないので」

お師匠「挑戦をして失敗したとしても……何か得るものがあったのなら……それでいいと自分は思います」

燐子「…………」

お師匠「……あの……自分、何かおかしなことを……言ってしまいましたか……?」

燐子「い、いえ……」

お師匠「……よかった……」ホッ

イヴ「楽しみですね、流しそうめん!」

お師匠「……ええ。では……この先は自分しか出来ないので……2人は休んでいてください」

燐子「分かりました……」

イヴ「ガッテンショウチ!」


……………………
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/01(土) 12:29:45.44 ID:EN4g3tUY0

――ファーストフード店――

紗夜「――という訳で、ロゼリアのメンバーはそれぞれがそれぞれのことに挑戦しているんです」

美咲「へぇ……なんていうか、すごいですね。音楽のために色んなことに挑戦して……」

紗夜「たまに湊さんは思い付きで突拍子もないことを始めますから。ただ、それはロゼリアを想ってのことだとは分かっていますので、私も強く反対することはありませんね」

美咲「湊さんってすごくしっかりしてそうですもんね」

紗夜「……そうですね」

紗夜(……猫を前にすると人が変わることや、あれで意外と抜けているところがあるのは言わないでいた方がいいかしらね)

美咲「それにリサさんに燐子先輩もいるし……」

美咲「はぁぁ……周りがみんなしっかりしてて、紗夜先輩が羨ましいです」

紗夜「そうかしら」

美咲「そうですよ。ハロハピは大変ですから……」

紗夜「まぁ……そうね。私もあのメンバーに囲まれて何かをしろと言われたら戸惑います。特に弦巻さんの扱いが大変そうだわ」

美咲「ええ、大変ですよ……本当、唐突にとんでもないこと言い出しますから……」

紗夜「でも……ふふ」

美咲「どうかしましたか、紗夜先輩?」

紗夜「いえ、すみません。随分楽しそうな表情で喋るんだな、と思って」

美咲「あ……」

紗夜「口では色々言っているけれど、ハローハッピーワールドのことが好きなんですね」

美咲「いや……その……」

紗夜「照れる必要なんてないと思いますよ。仲が良いに越したことはないでしょう」

美咲「それでも照れくさいものは照れくさいですって……」

紗夜「ふふ、そうですか」

美咲「うぅ……なんだこれ、すごく恥ずかしいんだけど……」
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/01(土) 12:31:43.47 ID:EN4g3tUY0

丸山彩「お待たせしましたー! 揚げたてのポテト、お持ちしましたっ」

紗夜「ありがとうございます、丸山さん」

美咲「どうも、彩先輩……」

彩「ううん! それにしても……」

紗夜「……? どうかしましたか?」

彩「あ、うん、紗夜ちゃんと美咲ちゃんが2人でいるの、ちょっと珍しいなって」

紗夜「まぁ……色々な縁がありましたので」

美咲「……やばい、昨日のアレを思い出しそう」

彩「昨日のアレ?」

美咲「あー……いや、なんでもないです」

紗夜「簡単に言うと人命救助かしらね」

彩「ふーん? でも、ちょっと羨ましいなぁ」

紗夜「何がですか?」

彩「普段あんまりお喋りしない人と一緒に何かすること。なんだか新しい自分を発見できそうだし、楽しそうだなって」

紗夜「新しい自分……そういうものかしら……」

彩「うーん、私はそう思うけどなぁ」
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/01(土) 12:32:39.85 ID:EN4g3tUY0

美咲「……あー、あたしはそれ、なんとなく分かります」

彩「本当?」

美咲「はい。なんていうか……いつもハロハピのみんなに――というかほとんどこころが原因ですけど、まぁとにかく色々と振り回されて……それで家でも妹の面倒見ますし」

美咲「だからこう、しっかり者の紗夜先輩と一緒にいると……なんでしょうね。気が緩むっていうか、つい甘えたくなるっていうか……」

彩「…………」

紗夜「…………」

美咲「……あれ? なんかあたし今、とんでもないこと口走ったような……」

紗夜「私に甘えたいんですか?」

美咲「やっぱり口走ってた!?」

紗夜「まぁ……節度を守って頂ければ私は気にしませんが……」

美咲「さっ、紗夜先輩、今の無しで! 無かったことにしてください!」

紗夜「は、はぁ……」

彩「いつもしっかりしてる美咲ちゃんもやっぱり年下なんだなぁ〜。ふふっ、可愛い」

美咲「あ、彩先輩もからかわないでくださいよ!」

彩「ねぇねぇ紗夜ちゃん。せっかくだから、日菜ちゃんに接するみたいにしてあげたらどうかな?」

紗夜「日菜に接するように……それも挑戦かしらね……」

美咲「ちょっ、ちょっと!? 彩先輩、余計なことは言わないでいいですから!」
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/01(土) 12:34:05.86 ID:EN4g3tUY0

紗夜「では、コホン。……美咲」

美咲「は、はいっ!? え、本気でやるんですか!?」

紗夜「あまり大きな声は出さないの。他のお客さんに迷惑でしょう?」

美咲「あ……はい……」

紗夜「まったく……元気なのはいいけど、場所は選んで頂戴」

美咲「え、えっと……はい、なんかすいません……」

紗夜(……奥沢さん、シュンとしてしまったわね……。日菜ならここから『ごめんごめーん!』と反省してない口ぶりで謝ってきて、何も変わらず次の話題を振ってくるのだけど……)

紗夜(でも……可能性は低いけれど、日菜ももしかしたら本当は少し落ち込んでいるのかもしれないわね)

紗夜(宇田川さんが提案してくる音楽以外のことも大抵はぶっきらぼうに断ってしまっているし……)

紗夜(もう少しあの子にも、周りの友人たちにも……私は優しく接するべきかもしれないわ)

紗夜「その、少し言い過ぎたかもしれないわね。ごめんなさい」

美咲「あ、い、いえ……」

紗夜「……別にあなたのことが嫌いとか、そういう訳じゃないのよ」

美咲「え?」

紗夜「あなたにはいつでも元気でいて欲しいと思っているし、いつも甘えてくるのを鬱陶しいとは思っていないわ」

紗夜「ただ……少しだけ周りのことを考えてくれれば、それでいいのよ」

紗夜「分かってくれるかしら?」

美咲「……えと」

美咲「…………」

美咲「……うん……ごめんなさい」

紗夜「いいえ、分かってくれたならもういいのよ。あなたはちゃんと、やれば出来る子なんだって私は知っているから」

美咲「うん……おねーちゃん……」
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/01(土) 12:37:44.15 ID:EN4g3tUY0

彩「おー……すごいおねーちゃんオーラ……」

紗夜「……これくらいでいいかしらね」

彩「うん。美咲ちゃんもすっかり妹の顔になってるもん」

美咲「……はっ!? あたしは今なにを……!?」

彩「いいなぁ、紗夜ちゃんの厳しくも優しいおねーちゃんオーラ……私にもそういう威厳が欲しいなぁ……」

紗夜「そんな大層なものじゃありませんよ。私からすれば、丸山さんの親しみやすい姉というイメージの方がとても魅力的に見えますから」

彩「そ、そう? えへへ……」

巴「彩さーん! 話ししてないで早くカウンターに戻ってきてくださーい!」

彩「あっ、ご、ごめんね巴ちゃん!」

彩「それじゃあ2人とも、ゆっくりしていってね。あ、美咲ちゃん、おねーちゃんが欲しいなら私だっていつでも――」

上原ひまり「彩さん早く〜! このままだと花音さんがぁ〜!!」

松原花音「えっとオレンジジュースとフライドポテトとハンバーガーとナゲットとフライドサラダとチーズジュースがマスタードソースでテイクオフだったよね、えへへ、なんとかなりそうでよかったぁえへへへへ……」バタバタ

彩「は、はーいっ、すぐ戻ります! 花音ちゃんごめーん!」タッタッタ...

紗夜「……やっぱり丸山さんのああいうところは私には無いものね」

美咲「…………」

紗夜「奥沢さん? 先ほどから何やら頭を抱えていますが、どうかされましたか?」

美咲「いえ……ついさっきの記憶をどうにか消せないかなと……気にしないでください……」

紗夜「はぁ……?」

美咲「ああぁぁ……これまた夜寝れなくなるやつだよ……先輩をおねーちゃんなんて呼ぶって……いや正直悪くはなかったけどさぁ、でも限度ってものが……」ブツブツ

紗夜(……疲れているのかしらね。そっと見守りましょう)


――――――――――――
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/01(土) 13:40:06.53 ID:FI4i6OIgo
みささよ最高か?
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/01(土) 17:13:34.35 ID:k8r3LMY1o
花音はどこに離陸するんだ?
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/02(日) 12:38:36.71 ID:Uqb1WtcQ0

【金曜日】

――竹細工教室 裏庭――

燐子(竹を取った翌日の教室。今日は平屋の裏庭で、竹を流しそうめん用に加工することになりました)

お師匠「……このように……竹に割れ目を入れて……鉈と金づちで少しずつ割っていきます……」トントントン

イヴ「ふむふむ……」

お師匠「ある程度鉈が進むと……こうして、手でも……」パキパキパキ

燐子「……綺麗に真っ二つに割れるんですね……」

イヴ「これがハチクの勢い、というものですね!」

お師匠「はい……三國時代終焉の諺ですね……」

燐子「これをわたしたちも……?」

お師匠「ええ……少し力は必要かもしれませんが……根気よく叩けばいずれ割れます……」

イヴ「分かりました!」

お師匠「刃物を扱うので……昨日同様、必ず作業手袋を着用して……怪我をしないように……鉈から目を離さないでください……」

燐子「わ、分かりました……」

お師匠「……それと……」

イヴ「はい?」

お師匠「…………」

燐子「あの……何かありましたか……?」
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/02(日) 12:39:12.75 ID:Uqb1WtcQ0

お師匠「いえ……その、もしお友達も参加されたいなら、呼んで頂いても平気ですので……」

イヴ「本当ですか? そうしたら私、パスパレのみなさんに声をかけてみますね!」

お師匠「はい……」

燐子「あの、でも、ご迷惑になるんじゃ……」

お師匠「大丈夫……です」

お師匠「仕事の関係で……大人数用の調理鍋などもありますから……」

お師匠「それに……お中元で頂いたそうめんが山のようにありまして……消化に手伝ってほしいので……」

燐子「わ、分かりました……そういうことであれば……」

お師匠「はい……」

燐子(わたしもロゼリアのみんなを誘ってみよう……)

燐子(そういえば……わたしからみんなを遊びというか、こういうことに誘うのって……あんまりなかったっけ……)

燐子(……どういう風にメッセージを送ればいいんだろう?)

イヴ「リンコさん、何かお悩みですか?」

燐子「あ、えっと……ロゼリアのみんなを誘おうと思うんですけど……なんてメッセージを送ればいいのかなって……」

イヴ「それなら簡単です! 『明日、流しそうめんをやりましょう!』と送ればいいと思います!」

燐子「いきなりなのにそれだけでいいのかな……もっと何か言葉を足した方が……」

イヴ「シンプルイズベスト、直截簡明というじゃないですか。パスパレのみなさんと私のように、ロゼリアのみなさんとリンコさんも、きっとそれだけで分かり合えます!」

燐子「……そう、ですね……その通りです……」

燐子「みんなにそう……メッセージを送ってみます……」


……………………
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/02(日) 12:39:49.03 ID:Uqb1WtcQ0

――宇田川家 キッチン――

あこ「純粋なクッキーの味じゃあリサ姉と紗夜さんには敵わない」

あこ「そう思って色んなクッキー作り過ぎちゃった……」

139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/02(日) 12:40:41.05 ID:Uqb1WtcQ0

――水曜日のあこちゃん――

あこ「つぐちんに教えてもらった簡単アレンジクッキー!」

あこ「普通のプレーンクッキーにチョコソースでラッピング!」

あこ「顔を描いたり出来て目でも楽しめる一品だよ!」

巴「クッキーにチョコかぁ。あっまいなーコレ」サクサク

巴「お、このクッキーに描いてるのってもしかしてアタシか?」

あこ「うん! 上手に描けてるでしょー?」

巴「ああ、流石あこだな。何でも出来る天才だ!」

あこ「えへへ〜」

―4時間後―

あこ「ちょっこれいと♪ ちょっこれいと♪ チョコレートは、モリナガ♪ ……あれ、なんか違う気が……」

あこ「んーまぁいっか。そんなチョコを溶かして小さな円形に固めたものを、これまた小さなバンズっぽいプレーンクッキーで挟んだクッキーチョコハンバーガー!」

あこ「本物を意識してクッキーに少しゴマを入れてみたよ!」

巴「おー、なんかこんだけハンバーガーが並んでるとバイトしてるみたいだ」ポリポリ

巴「お、ゴマの風味がなかなかいいな」

あこ「分量にかなり気を遣いました!」

巴「流石あこだな。将来いいお嫁さんになるぞ!」

あこ「えへへ〜」

140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/02(日) 12:42:32.77 ID:Uqb1WtcQ0

――木曜日のあこちゃん――

あこ「ココアはやっぱりメイ・ジ♪ ……あれ、どっちがどっちだっけ……」

あこ「それはともかくとして、やっぱり奇をてらわずに王道! 闇の魔力をグワーンと注ぎ込んだ、深淵のココアクッキー!」

あこ「砂糖控えめの大人の味だよ!」

巴「最近甘いものばっかり食べてたからなぁ。たまにはビターなのもいいな」ボリボリ

巴「……!? これだけやけに苦いな……」

あこ「わらわの全力全開の闇の魔力……それを一身に受けたクッキーが混じっているのだ……」

巴「あー、これだけインスタントコーヒー混ぜてあんのか」

あこ「うん! おねーちゃんバイト前だし、そういうのの方がシャッキリするかなって」

巴「あこ……なんていい子なんだ……おねーちゃんは嬉しいぞ……!」

あこ「バイト頑張ってね、おねーちゃん!」

巴「ああ! あこに元気貰ったからな、全開で頑張ってくるぜ!」

あこ「行ってらっしゃーい!」

―7時間後―

あこ「βカロテン、カリウム、食物繊維……身体にいいものたくさん入ってます!」

あこ「人参嫌いなお子様にも! キャロットクッキー!」

あこ「ピーナッツも加えて歯ごたえ抜群だよ!」

巴「あー、なんか優しい味がする……疲れた身体に染み渡るぜ……」モグモグ

巴「今日は忙しかったからなぁ……花音さんなんてテイクオフしそうだったし……」

あこ「いつもお疲れ様、おねーちゃん。あんまり無理しちゃダメだよ?」

巴「あ、あこ……本当にこんないい子に育って……おねーちゃんは嬉しいぞぉ!」ナデナデナデ

あこ「あはは! くすぐったいよーおねーちゃん〜」


……………………
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/02(日) 12:43:34.23 ID:Uqb1WtcQ0

あこ「おねーちゃんにも食べてもらったけど、それでも余ったクッキーが冷蔵庫にたくさん……」

あこ「うーん、本当はロゼリアのみんなに食べてもらいたいんだけど……みんな、自分の挑戦に忙しいよね……」

スマホ<ブブッ

あこ「あれ、メッセージが……りんりんからだ!」

あこ「珍しいなぁ、りんりんからロゼリアのグループトークに発信するなんて!」

あこ「なになに……流しそうめん……?」


……………………
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/02(日) 12:46:03.27 ID:Uqb1WtcQ0

――羽沢珈琲店――

紗夜「また会いましたね」

美咲「ええ。奇遇ですね」

紗夜「3日連続で商店街で顔を合わせるなんて、そんな偶然もあるものですね」

美咲「……そうですね」

つぐみ「あ、いらっしゃいませ、紗夜さん。それに美咲ちゃんも」

紗夜「ええ。こんにちは、つぐみさん」

美咲「どうも」

紗夜「湊さんはどうでしたか? ご迷惑をおかけしませんでしたか? もし何かしでかしたようなら遠慮なく言ってくださいね。私の方からもキツく言っておきますので」

つぐみ「い、いえいえ……むしろすごく助けてもらいました。昨日も人が足りなくなって、そしたら友希那先輩の方から手伝ってくれるって言ってくれましたし……」

紗夜「湊さんから……?」

つぐみ「はい。お言葉に甘えて頼らせてもらっちゃいました」

紗夜「そう……」

紗夜(……私もつぐみさんに頼られたいわね)

つぐみ「それにしても……紗夜さんと美咲ちゃんが一緒って、なんだか珍しいですね」

美咲「あー、彩先輩にも同じこと言われたなぁ」

つぐみ「どうしたんですか?」

紗夜「まぁ……人命救助と色々な縁が重なったんですよ」

つぐみ「人命救助?」

美咲「深くは聞かないで、羽沢さん……」

つぐみ「え、う、うん……」
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/02(日) 12:46:29.24 ID:Uqb1WtcQ0

つぐみ「あ、そうだ。注文をお聞きしますね?」

紗夜「私はいつもので」

つぐみ「はい」

美咲「……いつもので通じるんだ……」

つぐみ「美咲ちゃんはどうします?」

美咲「あたしは……紗夜先輩と同じので」

つぐみ「はい、ケーキセットですね。では少々お待ちください」

紗夜「奥沢さん、メニューも見ずに決めてしまって良かったんですか?」

美咲「大丈夫です。多分」

紗夜「多分とは……」

美咲「いえ、ちょっとこう、何か意地のようなものがあたしの中に生まれただけなので……気にしないでください」

紗夜「はぁ……?」
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/02(日) 12:49:41.27 ID:Uqb1WtcQ0

―しばらくして―

つぐみ「お待たせしました、珈琲とケーキのセットです」

紗夜「ありがとうございます、つぐみさん」

美咲「どうもです」

つぐみ「前、失礼しますね」カチャ、カチャ...

美咲「……あれ」

紗夜「どうかしましたか、奥沢さん?」

美咲「あ、いえ……」

つぐみ「そういえば紗夜さん。友希那先輩がちょっと寂しがってましたよ」

紗夜「湊さんが?」

つぐみ「はい。一昨日、ロゼリアのメンバーで紗夜さんだけがいらっしゃらなかったので」

紗夜「……そうだったの」

美咲「う……なんかごめんなさい、紗夜先輩」

紗夜「いいえ、奥沢さんのせいではありませんよ。あのまま放っておくことなんて出来ませんでしたし、気にしないでください」

つぐみ「私もちょっと寂しかったなぁ……なんて」

紗夜「…………」

美咲「……あの、紗夜先輩? ちょっとあたしを見る目が鋭くなってません?」

紗夜「気のせいでしょう」

「すいませーん」

つぐみ「あ、はーい! ただいまお伺いしまーす!」

つぐみ「それじゃあ2人とも、どうぞごゆっくり」

紗夜「ええ」

美咲「はい」
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/02(日) 12:51:17.35 ID:Uqb1WtcQ0

紗夜「さて、それでは珈琲を頂きましょうか」

美咲「ええ。……あ」

紗夜「……? どうかしましたか?」

美咲「えっと……」

紗夜「……ミルク、先に使いますか?」

美咲「あー、いえ、平気です……」

紗夜「そうですか」

美咲「……カップの持ち手の向きがあたしと違ったのってそういうことか……」

美咲「いつもの注文も好みの飲み方も全部知ってるよ、ってことね……」

美咲「…………」

紗夜「奥沢さん? 先ほどから様子が変ですが、大丈夫ですか?」

美咲「いえ、大丈夫です。ちょっと今、自分の中の理性と願望が戦ってるんで」

紗夜「……そうですか」

紗夜(理性と願望……?)

美咲「…………」

紗夜「…………」

美咲「あの、紗夜先輩」

紗夜「はい?」

美咲「あたしも先輩のこと、紗夜さんって呼んでもいいですか」

紗夜「別に構いませんが……」

美咲「じゃあ今度からそう呼びますね、紗夜さん」

紗夜「ええ」

紗夜(……一昨日からどうにも様子が変ね、奥沢さん)

スマホ<ピピッ

紗夜「おや……白金さんからのメッセージ? 珍しいわね」

紗夜(……とは私もあまり言えたことではないかしら)

紗夜「内容は……流しそうめん?」


……………………
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/02(日) 12:52:12.91 ID:Uqb1WtcQ0

――公園――

はぐみ「それじゃあ今日は軽めに、ってことで、これくらいでおしまい!」

リサ「うん、了解だよ。今日もありがとうございました、はぐみ先生」

はぐみ「どういたしまして!」

リサ「はー、もう明後日かぁ……ちゃんと完走できるかなぁ」

はぐみ「きっと大丈夫だよ、やることはぜーんぶやったんだもん!」

リサ「ん、そうだね……せっかくはぐみがこんなに手伝ってくれたんだもん、しっかり頑張らなくっちゃね!」

はぐみ「そうそう! 元気があれば何でも出来るって言うしね!」

リサ「うん、元気出して頑張るよ!」

スマホ<ピロピロ

リサ「あれ、メッセージ……燐子から?」

リサ「なになに……明日、流しそうめんやりませんか……」

はぐみ「どうしたの?」

リサ「あ、うん。燐子がね、明日流しそうめんやらないかって」

はぐみ「へー! すっごく楽しそうだね!」

リサ「うーん、楽しそうは楽しそうだけど……大会前にそうめんかぁ。それで力出るかなぁ?」

はぐみ「出ると思うよ!」

リサ「え、そう?」

はぐみ「うん! マラソン前にはおうどんを食べるって人も多いし、そういう麺類って結構エネルギーになるんだ!」

リサ「へー、そうなんだ」

はぐみ「あ、でも食べ過ぎはもちろん駄目だよ! お腹痛くなっちゃったら走るどころじゃなくなっちゃうからね」

リサ「うん、分かったよ。それじゃあ燐子のお誘いにオーケーしようかな」
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/02(日) 12:52:57.59 ID:Uqb1WtcQ0

リサ「明日は走らないで、ストレッチとかして身体を休ませるんだよね?」

はぐみ「そうだよ。本当はもっと前から休ませた方がいいんだけど……」

リサ「急だったからね。走り方とかそういうの、教わらないといけなかったからしょうがないよ」

はぐみ「うん……でも、はぐみがもっと教えるの上手なら……」

リサ「なーに言ってんの。はぐみは教えるのすっごく上手だったよ」

はぐみ「でもでも、基本のことを教え終わるの、こんなギリギリになっちゃったよ……?」

リサ「それはアタシの体力っていうか、知識がなかったせいだって」

リサ「むしろすっごく丁寧に教えてもらえたから、大会当日もしっかり練習で覚えたことを生かせそうだよ」

リサ「だからありがとう、はぐみ。はぐみが一緒に練習してくれたから、アタシもちゃんと頑張ろうって思えるんだ」

リサ「明日は一緒に練習出来ないけどさ、明後日、頑張ろうね!」

はぐみ「リサさん……うん!」

はぐみ「よーし、はぐみは上位を目指して、リサさんは完走を目指して、頑張ろー!」

リサ「おー!」


……………………
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/02(日) 12:53:46.87 ID:Uqb1WtcQ0

――猫カフェ――

友希那「にゃーんちゃん、にゃーんちゃん」

猫<ウニャァ

友希那「ふふ……あなたたちのおかげで大きなミスもなく、バイトをこなすことが出来たわ」

友希那「今日はそのお礼よ……ほら、ここのカフェのおやつ……1人で買える限界まで買ったのよ」

猫たち<ニャーニャー!

友希那「こーら、そんなに慌てないの。たくさんあるからゆっくり……」

スマホ<ニャーン

友希那「あら? 燐子からのメッセージね」

猫<ニャー?

友希那「…………」

スマホ<ニャーン

友希那「……そう、流しそうめんね。みんな参加するのね」

猫<ナーォ

友希那「…………」

友希那「よし、私はあとで返しましょう」

友希那「猫だって恩返しをする時代だもの、人間の私がそれをおざなりになんて出来るハズがないわ」

友希那「きっとみんなも取り込み中だって理解してくれるでしょう」

猫<ウニャー?

友希那「はいはい、おやつね。今あげるから……こらこら、私の身体を昇ってこないの。もう、仕方のない子たちね……ふふ」


――――――――――――
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/02(日) 17:42:28.28 ID:vkvA4QN8O
一人だけ悪化してますねぇ…
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/22(月) 07:41:38.10 ID:cDz1r2qIO
復帰しないかなぁ
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/01/08(火) 10:11:16.98 ID:j0xzfzqF0
面白かったから復帰を熱望してる
152 :エタってましたごめんなさい。 :2019/02/26(火) 19:23:07.50 ID:OMi8DRIw0

【土曜日】


――竹細工教室 裏庭――

燐子「えっと……こちらで流しそうめんをやります……」

リサ「へー、商店街にこんな教室があったんだね〜」

燐子「わたしも……調べるまで知りませんでした……」

紗夜「意外と広いわね」

あこ「ですね! バレーとか出来そう!」

友希那「……猫の竹細工もあるのね」

リサ「ん? どうかした、友希那?」

友希那「いえ、別に」

お師匠「……あの、白金さん」ヌッ

友希那「!?」

紗夜「!?」

リサ「わっ!?」

あこ「おー!」

お師匠「っ!?」ビクッ
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:23:46.59 ID:OMi8DRIw0

燐子「あ、お師匠さん……どうかしましたか……?」

お師匠「あ……いえ、竹を設置するのを……手伝って貰おうと……」

燐子「分かりました……」

お師匠「では……お手数ですがこちらへ……」

燐子「はい……。すいません、ちょっと行ってきますね……」

友希那「え、ええ……」

あこ「すごいですね、お師匠さん! ムッキムキだ!」

お師匠「……どうも」ペコリ

友希那「…………」

紗夜「……行ってしまいましたね」

リサ「なんていうか……燐子、大丈夫なのかな……こう、色々と」

友希那「竹細工を楽しんでいるようだったし……恐らくは……」

紗夜「どうしてあの人まで驚いていたんでしょうか……」

あこ「すごい筋肉でしたね! NFOの戦士みたいでカッコいいなぁ〜!」

リサ「あ、あはは、あこはいつも通りだね……」
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:24:20.50 ID:OMi8DRIw0

――ガラッ

イヴ「こちらが裏庭です! 今日はここで流しそうめんを敢行します!」

紗夜「あら……若宮さん?」

イヴ「あ、ロゼリアのみなさん! どうも、こんにちは!」

友希那「ええ、こんにちは。そういえば、燐子が若宮さんと一緒にやってるって言っていたわね」

日菜「ロゼリアのみなさんってことは……あ、やっぱりおねーちゃんもいる! やっほーおねーちゃん!」

紗夜「日菜まで……」

彩「お、お邪魔しまーす」

リサ「パスパレのみんなも誘われたんだ?」

彩「うん、イヴちゃんに」

日菜「千聖ちゃんと麻弥ちゃんは仕事で来れないんだけどね〜。それにしても水臭いなぁおねーちゃんってば。一緒に来たかったなぁ〜」

紗夜「あなたが誘われているのを知らなかったからしょうがないでしょう」

イヴ「おや? リンコさんの姿が見えませんが……」

あこ「りんりんはね、お師匠さんと一緒に準備してるみたいだよ」

イヴ「そうなんですね! それでは私もお手伝いをしなくては!」

彩「お師匠さん?」

イヴ「竹細工のお師匠様です! お師匠はすごいです、口ではなく技で語る、まさに日ノ本の職人さんです!」

日菜「へー、どんな人なんだろ?」
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:25:00.54 ID:OMi8DRIw0

お師匠「……おや、若宮さん」ヌッ

彩「きゃっ!?」

日菜「わーっ、マッチョさんだ!」

お師匠「っ!?」ビクッ

イヴ「あ、お師匠! 担いでいるのは昨日の竹ですね? 私も運ぶのをお手伝いします!」

お師匠「あ……は、はい、お願いします……」

彩「…………」

日菜「すごい筋肉だね、お師匠さん!」

お師匠「……ありがとうございます……。では、若宮さんもこちらへ……」

イヴ「はい!」

日菜「あれ、どしたの彩ちゃん、変な顔で固まって?」

彩「え、えっと、何ていうか……すごく大きな人でびっくりしたっていうか……日菜ちゃんはびっくりしなかった?」

日菜「全然?」

彩「……私の反応の方がおかしいのかな」

リサ「うーん……彩の反応の方が正しいと思うなぁ」

紗夜「悪い人ではないのだろうというの分かりますが……」

友希那「……失礼だというのは承知しているけれど、初対面で驚かない人の方が少ないんじゃないかしら」

彩「だよね……よかった……」

156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:26:02.57 ID:OMi8DRIw0

―しばらくして―

イヴ「わー、これが流しそうめんなんですね! 水の流れが涼しげで、風流です!」

日菜「あっはは〜! 彩ちゃん、後ろにいたらぜーんぶあたしが食べちゃうよ〜!」

彩「え、え〜!?」

紗夜「はぁ……日菜、そんなに前の方で独り占めしないの」

日菜「はーい」

あこ「ふっふっふ……我が闇のスティックで、白き……えーっと」

燐子「聖なる糸……がいいんじゃないかな……」

あこ「おー、いいね! 我が闇のスティックで、白き聖なる糸を絡めとってくれようぞ!」

友希那「……やっぱりパスパレの3人がいるとにぎやかね」

リサ「だねぇ」

友希那「せっかく集まったんだしみんなの進捗状況でも確認しようと思っていたけれど、そんな空気でもないわね」

リサ「まー今はいいじゃん。友希那も一緒に楽しもうよ」

友希那「そうね」

日菜「秘技、そうめん掬い!」シュバ

イヴ「流石ヒナさん、ワザマエです! 私も負けません!」シュババ

あこ「むむ、わらわの闇の力も負けてられぬ!」シュバババ

彩「ど、どうして3人とも私の前で取り合うの〜!?」

紗夜「勝負じゃないでしょうに……」

友希那「……やっぱりもう少し落ち着いてから混ざるわ」

リサ「あはは……」
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:27:27.95 ID:OMi8DRIw0

燐子「…………」

お師匠「白金さんは……混ざらないのですか……?」

燐子「わたしは……もう少しここでみんなを見てようかなって……思います……」

お師匠「そうですか……では、一緒にそうめんを流しますか……?」

燐子「はい、そうします……」

お師匠「こちらの菜箸を使ってください……」

燐子「はい……」

お師匠「…………」

燐子「……なんだか……不思議、です……」

お師匠「何が……ですか……?」

燐子「あの竹は……わたしと若宮さんが、枝打ちに失敗してしまったものです……」

燐子「だけど……こうやってみんなを楽しませることが出来ていて……それが不思議で、それと……嬉しいです」

燐子「お師匠さんが言った通り……失敗はしましたけど……得るものがあったので……挑戦してよかったなって……思います」

お師匠「それなら何より……です……」

日菜「ふっふーん! そんな箸捌きじゃ、あたしからそうめんは奪えないよ!」

あこ「くっ、このままでは……こうなったら……りんりーん、助けてー!」

燐子「うん……分かったよ、あこちゃん……。それじゃあ……ちょっと行ってきますね……」

お師匠「はい……ご武運を」

彩「燐子ちゃんまで来るの!? 私、始まってからまだ一口も食べられてないのに!?」

イヴ「アヤさん、こういう時こそブシドーです!」

彩「みんなが全部取っちゃうからブシドーでも無理だよぉ!」
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:28:17.27 ID:OMi8DRIw0

紗夜「まったく日菜ったら……返事だけで言うことを聞かないんだから」

リサ「紗夜と一緒に遊べるからテンション上がってるんじゃない?」

紗夜「だからと言って、ああしてほとんどそうめんを独占するのは……」

友希那「いいじゃない。あんなに食べていたら、きっとすぐにお腹いっぱいになるわ」

紗夜「……まぁ、そうです――」グゥゥ...

友希那「…………」

リサ「…………」

紗夜「…………」

友希那「……私たちを気にすることはないわよ?」

リサ「ほら、せっかくだしヒナと一緒に食べてきなって」

紗夜「……そうですね妹の暴挙を止めるのも姉の使命ですから少し行ってきます」

友希那「ええ、行ってらっしゃい」

リサ「気をつけてね〜」


<ヒナ、イイカゲンヒトリジメスルノハヤメナサイ

<ソレジャアオネーチャンノブンモトッテアゲルネ!

<サ、サヨチャンマデキチャッタラ、マスマスワタシノブンガ...!


友希那「……紗夜、顔を赤くしていたわね」

リサ「ね。珍しいもの見れたね」


……………………
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/26(火) 19:29:01.47 ID:OMi8DRIw0

―食後―

燐子「すいません……後片付け、手伝って貰って……」

紗夜「いいえ。私たちはごちそうになった立場なのですから、片付けくらい手伝うのは当然です」

あこ「そーだよ、りんりん!」

リサ「そーそー。むしろこれくらいしか出来なくてゴメンねって感じだし」

燐子「ありがとうございます……」

友希那「それにしてもリサったら、今日は結構食べていたわね」

リサ「あー、まぁね。明日はエネルギー使うからさ、少し多めに食べとこって思って」

友希那「リサは明日が本番だものね。どう? しっかり完走できそうかしら」

リサ「やることはやったよ。はぐみにも色々教えてもらったし、走りきってみせるよ」

紗夜「ええ、その意気です。今井さんなら大丈夫ですよ。私だってナンパなんて無茶なものに挑戦したのだから」

友希那「そういえば、紗夜はどんな風にナンパしたの?」

紗夜「……まぁ、日菜経由で瀬田さんに連絡を取って、色々教えてもらいました」

リサ「確かに薫以上の適任はいなさそうだねぇ」

紗夜「あとは人命救助と、それから奥沢さんと2日間一緒に過ごしましたね」

燐子「人命救助……?」

紗夜「人命救助です。それ以外の何物でもありませんでした」
218.20 KB Speed:0.1   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)