【ブラクラ】レヴィ「麻雀大会だぁ?」【咲-Saki-】

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2 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 15:31:51.15 ID:QDyuGkHb0
――ロアナプラ『サンカン・パレス・ホテル』

バラライカ「ハアイ。調子はいかが?」

池田「……」

バラライカ「相変わらずだんまりなのね。まあ、いいわそれでも。昨夜もちゃんと勝ったみたいだし」

池田「……ここに居たくない」

バラライカ「あら、ご不満? この街で一等ホテルのスイートなんだけど」

池田「もうこんな街に居たくないし!」

バラライカ「あのね、お嬢ちゃん。なにか勘違いしているようだから言っておくけど、これはビジネスなの。私たちはあなたの麻雀の実力を買っている。だからこうして特別待遇で贅沢もさせているし、子供には破格の報酬もあげてるわ。しかも、米国ドルじゃなくわざわざ日本円でね」

池田「で、でも……っ!」

バラライカ「大好きなキャプテンに、喜んでもらいたいのよね?」
3 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 15:32:21.79 ID:QDyuGkHb0
バラライカ「本番は明日の午後よ。それまでゆっくり体を休めてちょうだい」

池田「もうお金はいらないし! だから、日本に帰してほしいし!」

バラライカ「池田ァ!」

池田「ひっ!」ビクッ

バラライカ「いいかよく聞けヤポンスキー。猫並のお前の頭でも分かりやすいように話してやろう。今、お前の心臓が一定のリズムを刻んで動いていられるのは一重に我らの温情だ。本来なら、日本での鷲峯組殲滅作戦の時、傘下組の事務所にいたお前も一緒に殺しても良かった。さっきお前の麻雀の腕を買ったと言ったが、あれは建前だ。実際は我々はお前の命そのものを買ってやったんだよ。どうしても自由になりたいと言うなら――」

冷たく硬いスチェッキンの銃口が額にキスをした。

バラライカ「命か同等のものを置いて行け」
4 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 15:33:06.36 ID:QDyuGkHb0
バラライカ「一応言っとくけど、別にあなたを骨の髄まで利用してポイ捨てしようってワケじゃないのよ? あなたが明日の勝負に勝てばちゃあんとお家に帰してあげるわ」

池田「そ、それは生きて無事に≠チて前提で?」

バラライカ「当たり前でしょ。私たちも別に鬼じゃないわ。その辺は心得てるし、約束も守るわよ。ただ、それはあくまでもあなた次第だけどね」

バラライカは弾倉を抜いた銃を側近らしきゴツい男へと投げ渡した。

バラライカ「それまではくれぐれも良い子にしていてね。前に連れてきたブリヌイとタコスの区別もつかない娘のように真冬のオホーツク海で魚を見ながらお寝んねしたくないでしょ?」

池田(……最近見ないと思ってたら)

バラライカ「それじゃあ軍曹。お姫様のことをお願いね」

ボリス「大尉。どちらへ?」

バラライカ「ちょっとラグーンの事務所へ」
5 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 15:33:43.99 ID:QDyuGkHb0
――暴力教会。礼拝堂

エダ「よぉよぉ、トゥーハンド。知ってっかァ?」

レヴィ「知らねーよ。つーか、興味もねえ」

エダ「んだよノリわりーなぁ。せっかくの儲け話だってのによ」

レヴィ「尚更興味ねえ。お前の口から出る儲け話≠チてのは総じてくたびれ儲け≠チてのがオチだからな」

エダ「人の話は最後まで聞けってんだよ脳筋女。既に三合会やホテル・モスクワも動いてるっつーから信憑性は折り紙つきさ」

レヴィ「与太抜かしてる暇があったら磔ヤローの像の前で祈っときな。エダ」

ジャキッ!

エダ「百聞は一見に如かずってな。チャカ構えてイキってねーでコイツを見てみな」

レヴィ「このビラがなんだってんだ」

レヴィ「……麻雀大会?」
6 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 15:35:23.00 ID:QDyuGkHb0
エダ「明日の午後、黄金夜会主催でイエローフラッグを貸し切って麻雀大会を行うらしいんだよ」

レヴィ「……アホくさ」

エダ「おいおい。ますますノリわりーじゃんかよ〜」

レヴィ「ったりめーだろ。そもそも、そんなくだらねぇレクリエーションに旦那や姐御が首を突っ込むなんざ、どう考えたってありえねーだろ。まだネッシー発見とかUFO襲来のほうが気が利いてるぜ」

エダ「でもよ、流石にネッシーやUFOに一千万ドルの賞金は出ねぇよな?」

レヴィ「一千万ドルだぁ!?」

エダ「ほら、ココ見てみなよ。エテ公でも数字とケタぐらいはわかんだろ?」

レヴィ「一、十、百、千。……いやいや。おかしいだろこの額は。どっかの石油王でもパトロンにいやがんのかよ」

エダ「とにかく、スポンサーがジョブズだろうゲイツだろうがノープロブレムなんだよ。一千万ドルだぜ、一千万ドル。ちなみに、このチケットが出場権だ」

レヴィ「なんでそんなものを暴力教会が持ってるんだよ」

エダ「前にマニサレラ・カルテルのボンクラ共が教会にブリット撃ち込んだ事があったろ? そん時のワビだっつってこいつをくれたってわけよ。この紙切れが一晩で一千万ドルに化けるかも知れねーっつーんなら、こっちも慈悲の御心で許してやるしかねぇだろうがよ」

レヴィ「一千万ドル……」ゴクリ

エダ「で、どうすんだよトゥーハンド? んん?」

レヴィ「決まってんだろ! その賞金、あたいらが総取りだ!」
7 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 15:36:16.83 ID:QDyuGkHb0
――ラグーン商会事務所

ダッチ「おっと。こいつは驚きだ。誰かと思えばあんたも来たのか。今日は千客万来だな」

バラライカ「あんたも≠チてことは」

張「よお、ミス・バラライカ。元気そうじゃないか」

バラライカ「やっぱりあなたも来てたのね。張」

ベニー「この二人が同時に訪ねてくるなんて珍しいね」

ダッチ「ああ、まったくだ。今日ほど事務所にシェルターを作っておかなかったことを後悔した日はねえ。生きた心地がしねえぜ」

張「心配すんなよ、ダッチ。俺とミス・バラライカはいつだって仲良しこよしさ。なんなら、このあと二人でジェラートでも食べながらスペイン広場を練り歩いてもいい」

ダッチ「ロアナプラの休日じゃイマイチ締まらねえぜ、張さん」

バラライカ「無駄話をしにここまで来たワケじゃないでしょ? ベイヴ」

張「その呼び方はやめてくれと頼んだじゃないか、バラライカ。まあいい。本題に入ろう」

張は上着の内ポケットから一枚の紙を取り出し、ダッチに差し出した。

バラライカ(やはりか……)
8 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 15:36:51.50 ID:QDyuGkHb0
ダッチ「こいつはなんだい? 張さん」

張「こいつはな、ダッチ。云わば値千金のドリームチケットだ」

張は事の経緯を話した。

ダッチ「張さん、悪いがこいつは受け取れねえ」

張「よく考えたのかダッチ。一千万ドルだぞ?」

ダッチ「よく考えた結果だよ。こいつはヤバい匂いしかしねえ。いくらなんでもイカレ過ぎている」

張「察しがいいヤツは嫌いじゃないぜ。ダッチ」

ダッチ「値千金とはよく言ったもんだぜ張さん。おたくら、自分たちのしのぎ≠賭けたな?」

ベニー「そ、それって――」

バラライカ「そう。その一夜でロアナプラの真の支配者が決まる」
9 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 15:37:36.91 ID:QDyuGkHb0
ダッチ「武器、麻薬、その他諸々のヤバいブツ。これらすべての商売の権利を総取りとなりゃ、確かにその価値は一千万ドル。いや、それ以上だ。獲れれば文句無しにこの街の支配者だな」

張「この千載一遇の機会を前にコロンビア農夫とナポリ野郎共はこの大舞台を降りた。賢い選択だ。100か0かのレバレッジだからな。俺とバラライカは特別に半分の50を勝者に献上する条件でサレンダーを認めてやったのさ」

バラライカ「この話を断れば、ホテル・モスクワと三合会は互いに停戦協定を結んででも戦争を仕掛け全てを略奪すると告げたら、彼らは二つ返事で降りたわ」

ダッチ「ロニーたちが不憫でならねぇ」
10 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 15:38:31.75 ID:QDyuGkHb0
ダッチ「しかし解せねえな、張さん。あんた、以前はあれほど均衡や共存を重んじていたじゃねぇか。それをなんでまた急に」

張「どこの世界にも景気の良し悪しはある。自分とこの畑が不作なら、隣の畑の作物に手を伸ばしたくなるものさ」

バラライカ「かといって私たちの商売柄、頭を下げて貸しを作るなんてとてもじゃないけど出来やしない。お互いに遺恨のあるホテル・モスクワと三合会との間では尚のこと」

張「とくれば、ダッチ。お前ならどうする?」

ダッチ「ったく、これだからあんたらの家業は好きになれねぇぜ。損得の天秤にプライドを乗っけたってわけか」

張「そんな高尚なものじゃないさ。程度の良い言葉で例えるなら……」

バラライカ「お互いがこの街で息をしているのが気に入らない≠チてとこよね? ベイヴ」

張「穏やかじゃないな、バラライカ。もっと言い方ってものがあるだろう。正しくはどちらかが相手の墓前に花を供えなければ気が済まない≠セ」

ダッチ「こりゃ、真剣に事務所の移転を考えとかねぇとな」

ベニー「僕、ちょっとパスポート更新してくるよ」
11 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 15:39:05.47 ID:QDyuGkHb0

コンコン

ベニー「っと、こんな時にどちら様?」

ダッチ「客だったら今は臨時休業中だって言っときな。ベニーボーイ」

ベニー「いや、それがさ……」

一「すみません。ラグーン商会ってここでいいのかな?」

ダッチ「Oh……メイド服。今最も見たくなかったモンが全部揃った。負の役満だぜチクショウ」
12 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 15:40:22.20 ID:QDyuGkHb0
――ロアナプラ郊外

俺は痛感した。つくづくこの街に染まっているのだと。

携帯電話のように住人が持っている銃や、その辺の石ころのように転がっている人の死。

悪党の顔と名前が一致し、そいつらが俺の名を呼ぶようになった頃から目に映る風景に違和感を感じなくなっていた。

日常が崩壊して得た今の日常。遠い異国の眩しい日差しに目を細め、額の汗を拭いネクタイを緩める俺の横を懐かしい風が通り過ぎた。

ふわりと靡く黒髪。異国の地には明らかに不釣り合いな服装。俺を置き去りにした日常の亡霊を見た気がして、思わず振り返り彼女に声をかけた。

ロック「あ、あのっ。そこの君!」

その少女は歩みを止めた。そりゃそうだ。日本語に反応できる輩なんてここじゃ限られる。

桃子「……うちのことっすか?」
13 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 15:40:58.55 ID:QDyuGkHb0
ロック「いやあ。珍しいこともあるもんだなあ。まさかこんな街で日本の女子高生に出会うなんて」

桃子「あはは。声をかけられた時はさすがにビックリしたっす」

ロック「ああゴメンね。驚かせようと思ったワケじゃないんだ。ただ、ここではあまりにも目立つ格好だったからさ」

桃子「目立つ……。これまたビックリ発言っす」

ロック「えっ?」

桃子「い、いえ。なんでもないっす」

ロック「それにしても君。なんでこんな街に一人でいるの? 修学旅行生……じゃないよね」

桃子「大事な人を探しているっす」

ロック「大事な人。肉親か、恋人?」

桃子「同じ部活の先輩っす。でも、私にとっては誰よりも大切な人」
14 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 15:41:37.13 ID:QDyuGkHb0

ロック「……そうか。日本で拉致されたのか」

桃子「はい。移動中のバスが外国人グループにジャックされて。私とその先輩だけ捕まって」

ロック「この街に売り飛ばされたと」

桃子「はい。でも、船から降ろされる直前で先輩が身を呈して私だけ逃がしてくれて」

ロック「そうだったのか」

桃子「もし先輩の身に何かあったら、私、生きていけないっす……」ポロポロ
15 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 15:42:37.15 ID:QDyuGkHb0
ロック「……その人の名前。それと、君らを攫った奴らの特徴をできるだけ詳しく教えてくれ」

桃子「えっ?」

彼女の大事な先輩とやらは、もうこの世にはいないかもしれない。仮に生きていたとしても無事でいる保証などない。

けれど、もしも万に一つでも可能性があるのなら俺はそれに賭けてみたい。分の悪い賭けだ。それでも、またあんな思いをするのはたくさんだ。

『覚めてしまった今となっては……遠過ぎるんです。その土地は』

そう強く思ってしまったのは、目の前で泣いている制服姿の彼女が、記憶の中の彼女≠ニ重なって見えたからかもしれない。

『苦労をおかけいたしました。これにて一切の騒動落着を』

桃子「どうしたっすか? なんか、顔が怖いっす」

ロック「ああ、いやごめん。なんでもないよ。とりあえず、ここじゃ何だから場所を移そうか。どっか腰を落ちつけられるところへ」
16 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 15:43:14.52 ID:QDyuGkHb0
張「ようやく来たか。紹介しよう。その娘がうちの代打ちだ」

一「国広一だよ。よろしくね」

バラライカ「あなたもヤキが回ったわね、ベイヴ。そんな小娘に代打ちを任せるなんて」

張「彼女を侮ると痛い目を見るぞバラライカ。この娘はそんじょそこいらの雀ゴロ雀プロよりよっぽど頼りになる。それに、小娘を囲ってオイタさせてるのは君だって同じだろう?」

バラライカ「こっちの情報も筒抜けってわけ? 面白くないわね」

ダッチ「おいおい、短気はよしてくれ。ここを爆心地にだけはしてくれるなよ。お二人さん」

張「そう怯えるなよダッチ。俺たちは今すぐここでどうこうするつもりはサラサラない」

バラライカ「私たちに相応しい舞台で、相応しい方法でケリを着ける」

ダッチ「バオが憐れでならねえぜ。さすがに今回ばかりは店の存続は厳しいだろうよ」
17 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 15:45:01.01 ID:QDyuGkHb0
ロック「ただいま」

ガチャッ

ベニー「おかえり、ロック。――って、その娘、だれ?」

ロック「ああ、ちょっと街で会ってさ。同卿のよしみっていうのかな。ちょっとこの街でトラブってるみたいだから、話でも聞こうと思って」

一「君は確か……鶴賀の」

桃子「あっ!? 龍門渕の」

ロック「えっと、もしかして探してた人って、彼女?」

桃子「違うっす。部活で知り合った他校の先輩っす」

一「驚いたよ。こんなところで会うなんて奇遇だね」
18 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 15:48:11.82 ID:QDyuGkHb0
張「そちらのお嬢さんは知り合いかな?」

一「はい。他校だけど、彼女も強豪麻雀部の部員なんだ」

張「くはははっ! そうかそうか。それはちょうどいい。なァ、バラライカ?」

バラライカ「ええ、本当に。二人っきりのダンスってのも、淋しいと思ってたところよ」

ダッチ「二人ともよしてくれ! こいつを掻き立てるとロクなことにならねえのはメイドの件でわかったはずだ!」

ロック「張さんにバラライカさん。珍しいですね。二人が揃って事務所に来るなんて。ダンスって、いったい何の話です?」

張「ロック。お前にこいつをやるよ」

ロック「なんです? これ」

バラライカ「フフフッ、それはね……」
19 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 15:49:43.49 ID:QDyuGkHb0
ロック「なっ!? いくらなんでも馬鹿げている!」

張「馬鹿げたギャンブルに興じたくなるほど、俺たちは痺れを切らしてるんだよ」

ロック「そ、それでも、何もこんなやり方で――」

バラライカ「何だっていいのよ、ロック。それこそ、コインの裏表を賭け合ったっていい。極端な話、この場で互いの得物の撃鉄を起こして……」

チャキッ!

張「互いの脳天に銃口を突き付けるってのも、それもまたシンプルでいい」

ジャキン! ジャキン!

桃子「ひぃっ! ほ、本物のピストル!?」

ダッチ「いい加減にしてくれ二人とも! 冗談にしても度が過ぎてるぜ」

張「まっ、とにかくそのチケットはお前にやるよ。先日のラブレス家の一件での、お前への報酬だと思ってくれればいい。話はそれだけだ。行くぞ、一」

一「はぁい。それじゃ、またね」

バラライカ「もちろん、あなたが負けても何も取らないから安心するといいわ。いらなければチケットはそっちで破棄してちょうだい。それじゃ、またねダッチ」

ガチャ、バタン

ベニー「行っちゃった……」

ダッチ「俺はちょいと横になってくる。あとで胃薬と頭痛薬を持ってきてくれ」
20 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 15:50:38.82 ID:QDyuGkHb0
ロック「あ、あのさ、ダッチ。このチケットだけど……」

ダッチ「先に言っとくぜ。俺は今回の件は断固反対だ。お前がもし、その件に首を突っ込むってんなら、俺はお前をクビにしなきゃならねえ」

ベニー「ダ、ダッチ! それはいくらなんでも」

ダッチ「だが、明日は日曜だ。オフの日にどういう休日の過ごし方をするかは個人の自由だ。朝っぱらに教会へ祈りに行くのも、馴染みの酒場で一杯ひっかけるのも」

ロック「そ、それじゃあ」

ダッチ「勘違いすんじゃねぇぞ、ロック。お前さんは明日たまたまイエローフラッグへ酒を飲みに行く。そしてシャツのポケットにはたまたまその妙な紙切れが入っていた。たったそれだけのことだ。そうだろう?」

ダッチ「何よりも大事なのは翌日の出勤に響かない≠ニいうことが大前提だ。雇い主として俺が言えるのはここまでだ」

ロック「ダッチ」

ダッチ「なんだ、ロック」

ロック「ありがとう」

ダッチ「避けることが出来ぬものは抱擁すべし=v

ロック「えっ?」

ダッチ「俺は向こうで一睡してくるが、目が覚めたときここがあの世じゃないことを願うぜ」

ガチャ、バタン

ロック「さて……モモちゃん、だっけ? 急な話で悪いけど、ひとつお願いがある」

モモ「な、なんすか?」ビクッ!

ロック「俺と分の悪い賭けを張ってもらいたい」

ベニー(うわぁ、悪い顔してる)
21 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 15:51:09.45 ID:QDyuGkHb0
――暴力教会、礼拝堂

レヴィ「しっかし、エダ。お前随分イイ根性してるじゃねぇか。あの二人と卓を囲もうだなんてよ」

エダ「あたしゃ麻雀のルールなんざわかんねーよ。だからあんたに声をかけたんじゃないのさ」

レヴィ「……は?」

エダ「だーかーらー、あんたが打つんだよ。あたしの代わりに」

レヴィ「いやいやいや、ちょっと待てエダ。あたしだって麻雀やったことねーよ」

エダ「おいおい! マジかよ!? そりゃないぜレヴィ! あんたが打てなきゃどうしようもないじゃないのさァ」

レヴィ「てめぇが勝手に勘違いしたんだろうが! そもそも、なんであたしが麻雀出来るって思ったんだよ!?」

エダ「だぁ〜ってよぉ〜、チャイニーズの血が入ってンだろ? 麻雀くらいできると思うじゃんよ〜」

レヴィ「ジャップがみんなスシ握れると思ってんのか? ああ?」

エダ「ハァ〜、仕方ねぇ。今からロアナプラ中駆けずりまわって代打ちを探すしかねーかなぁ」

レヴィ「……あ、ちょっと待て。一人だけ心当たりがある」

エダ「ホントか!?」

レヴィ「まあ、お前と同じ理屈だが、アイツならひょっとしたら……」
22 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 15:52:00.56 ID:QDyuGkHb0
――麻雀大会当日

張「悪いな、マスター。無理言って貸し切っちまってよ」

バオ「いいさ。どうせこの街じゃあんたたち二人が言ったことは例え黒でも白くなる。俺の意思なんざ鼻くそみてーなモンさ」

ギィィィ バタン

バラライカ「ジャスト21:00。来てくれると信じてたわ、ロック」

ロック「……」

張「良い目をするようになったな、ロック。そうでなくちゃつまらん。さあ、卓へ。ルールは三麻で――ん? 何の音だ?」

ブロロロ!

無線「大尉」

バラライカ「どうした? 何事だ!」

無線「はっ、こちらへ高速で向かってくる車両を一台確認しました」

バラライカ「やれやれ。無粋な輩もいたものね。構わん。狙撃しろ」

無線「いや、そ、それが……」

ドカァァアン!

レヴィ「ちょーっと待ったァ!」

エダ「ゲッホゲホ。だァーチクショウ! 死ぬかと思ったぜ」

ロック「レヴィ! エダ!」
23 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 15:55:08.23 ID:QDyuGkHb0
バオ「おいレヴィてめー! 店内と駐車場の区別もつかねーのか!」

レヴィ「こまけ―こと言ってんじゃねーよ! どーせ中も外も公衆便所と変わらね―だろ!」

バオ「な、なにィ!」

バラライカ「あなたたち、一体何の用かしら? もし酒を飲みに来ただけっていうのなら場所を変えてもらえない?」

レヴィ「ションベンみてーなクソまずい酒をひっかけるためにわざわざ車一台スクラップにしねーよ、アネゴ。こいつの引き換えはここでやってんだろ?」

バラライカ「あら。連中の分、あなたたちが持ってたのね」

張「まあ、オープニングセレモニーにしちゃ上出来だ。四組揃ったところで、そろそろ始めようか。すべてを決する麻雀大会を」
24 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 15:56:19.32 ID:QDyuGkHb0
張「まずルールを確認しよう。互いに持ち点は25000点。その時点で持ち点最もが多い組が勝者とする。但しハコテンが出たら即終了。その時点での点数の多いものが勝ちだ。そして、ダラダラと勝負が長引いて未成年に徹マンさせるのは俺としても忍びない。そこで、勝負は東風一回限りだ。異論はあるかな?」

バラライカ「問題ないわ」

張「さて、次はプレイヤーだが、三合会の代打ちはこの娘だ」

一(放浪麻雀修行の集大成。必ず勝って透華のもとへ!)

三合会代打ち:国広一

バラライカ「我らホテル・モスクワの代打ちはこいつだ」

池田(無事に帰れますように無事に帰れますように無事にry)

ホテル・モスクワ代打ち:池田華菜

ロック「……平気かい?」

モモ「大丈夫っす。うちは絶対に負けないっす!」

ロック、東横ペア:東横桃

エダ「さて、うちの代打ちだが……」

レヴィ「おーい、さっさと出てこいよ!」

シェンホア「ケホケホ。あんたら運転乱暴すぎるますよ! レガーチよりヒドイね!」

ロアナプラかしまし三人娘:シェンホア
25 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 15:57:08.96 ID:QDyuGkHb0
東一局 三本場 親:池田

池田「よーし! またまたリーチだし!」

モモ「ま、またリーチっすか」

シェンホア「う〜ん、コレなら通るか?」

池田「残念! ロン! リーピンドラドラ! 裏は……よし乗った! 親満だし!」

シェンホア「あいや〜、ダメか」

池田(華菜ちゃん絶好調! このまま誰かをトバせば親を回さずに華菜ちゃんブッちぎり一位も夢じゃない!)
26 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 15:58:21.92 ID:QDyuGkHb0
東一局 四本場 親:池田

池田「本日四度目のリーチ! 今度は……オープンしちゃうし!」

一(うそっ!? もうテンパったの?)

モモ(オープンリーチにタンヤオ。待ちはドラの五萬単騎。河には一枚も切れてない。まだ山にも数枚眠ってる可能性大っす。最悪、この勢いならあっさり一発でツモことも……)

シェンホア(もうこれ以上振り込めないね。ここはベタオリ一択よ)

一(親の連チャン。一発ツモあがりだけは絶対に避けたい。ごめんね、透華。今日だけあの日の約束を破るよ)

スッ、カチャ

池田「今なら引ける気がする! ……って、残念。一発ならずかぁ。字牌はいらないし」

コトッ

一(ボクの手牌の中≠ニツモ山を入れ替えさせてもらったよ。でも、そうしなかったらアガられてた。そして、その中≠ヘ……)

モモ「あっ、それロンっす。中のみ」

池田「ガーン! ノミ手でアガられたぁ〜!」
27 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 15:59:15.86 ID:QDyuGkHb0
東二局 一本場 親:シェンホア

シェンホア「う〜ん。今日はあまりツイてないね。配牌がどうも悪いよ」

レヴィ「おいコラですだよねーちゃん! やられっぱなしじゃねーか! 真面目にやれよ!」

シェンホア「何をそんなに怒ってやがりますかアバズレ。子供相手の遊びに大人げないよ」

エダ(ちょいとレヴィ。やっこさん、単なるゲーム大会と思って完全にナメてるよ。この試合の重大性、話といた方がいいんじゃないかい?)

レヴィ(冗談じゃねーよ。そんなことしてみろ。取り分が三分の一になっちまうだろうが!)

エダ(でもさぁ、欲かいて負けたら元も子もないよ)

シェンホア「ん? なにヒソヒソ話してるか?」

レヴィ「い、いやなんでもねえよ?」

シェンホア「あんたら最初からどうも様子オカシイよ。このゲーム大会に何か隠してるコトないカ?」

張「なんだシェンホア。知らずに参加してたのか?」

レヴィ「だ、旦那!?」

バラライカ「いいじゃない。何も知らないってのはフェアじゃないわ。そうよね? レヴィ」

レヴィ「ちょ、ちょっと待ってくれってアネゴまで!」

エダ「あ〜りゃりゃ。こりゃ、完全に隠し通すのは無理だね」
28 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 15:59:48.51 ID:QDyuGkHb0
バラライカ「――とまあ、つまりこの試合はロアナプラの覇権争いというわけよ」

シェンホア「……」

レヴィ「ち、違うんだよシェンホア! 別に隠してお前をタダで使おうとしたわけじゃなくてだな!」

エダ「あとで分け前の話をしようと思ってたのさ! 大勝負とわかったら気負いしちまうかと心配でさぁ!」

一(チャンスだ。今なら皆の意識が卓から離れている。怖いお姉さんたちが揉めているうちに……)

シェンホア「……そういうことならハナシ別よ」

シュル、キィィィンッッッ!!

一「!!?」

池田「ほほほ、本物の剣!?」

モモ「手錠の鎖が真っ二つっす!」

シェンホア「イカサマするなら手枷するよくないね。やるなら外してやるヨロシ。でも、さっきの見逃したけど次ないよ。次は罰符の点棒代わりに手首を落としてもよいな?」
29 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 16:01:16.66 ID:QDyuGkHb0
シェンホア「アバズレ。取り分の話はコレ終わったらきっちりするよ。あとアマさん。アンタにはいつぞやの借りがあるね。二人ともトンズラするノーよ。お遊戯会はお終い。ここからビジネスよ」

張「ヒールを脱いだか。シェンホアのやつ、本気だな」

シェンホア「ほら、続けるますだよ? ぼさっとしてるナシね。早くツモってきるよ」

池田「ひゃっ、ひゃい! きるから斬らないで!」

モモ(履物脱いだら強くなるって、まるで清澄の嶺上使いみたいっす)

一(こっからはヒラで打つしかない、か)

シェンホア「オゥ、その六萬。ロンですだよ」

池田「ええっ! またうちから!?」

モモ「しかもちゃっかり跳満っす」

暫定順位《1位:シェンホア、2位、池田、3位、モモ、4位、一》
30 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 16:01:43.61 ID:QDyuGkHb0
東二局 【三本場】 親:シェンホア

シェンホア「ノーテンよ」

モモ「ノーテンっす」

一「ノーテン」

池田「形式テンパイ!」ドヤァ

ロック(シェンホアの親が流れた。この時点でホテルモスクワを僅かに抜いてレヴィのチームが一歩リードか)

バラライカ(順位は入れ替わってしまったが、まだ十分に巻き替えせる。だが、楽観はできん。今この戦局で最も警戒せねばならないのはヤツ≠フ存在だ)チラッ

張(せいぜい今のうちに安堵しているといい。次はこちらの親番。攻めに転じるには頃合いだな)
31 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 16:02:34.00 ID:QDyuGkHb0
強さを手に入れるために中国マフィアに近づき、命がけの闇賭博で場数を踏むこと幾百戦。遂には海を渡って辿りついた先がこの魔都ロアナプラ。

この期に及んで手品なんかに頼ったのは、心の弱さと甘えがまだ抜けきってなかったからだ。

今日ここにあの日のメンツが揃ったのも、きっと神様の思し召し。己に打ち勝てとボクに与えてくださった最後の試練に違いない。

もう迷わない。ボクは真正面からこの試練を乗り越えてみせる。そして胸を張って帰るんだ。ボクらの龍門渕へ。

一「待っててね、透華」シュルッ、バサッ

メイド服がふわりと舞い上がり、中に着込んでいた一の私服が露わになった。
32 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 16:04:00.90 ID:QDyuGkHb0
東三局 親:一

ロック「うわっ、なんて際どい服装なんだ。目のやり場に困るなぁ」

エダ「よぉよぉ色男。あんたの国じゃあーいうファッションが流行ってんの?」

レヴィ「つーかもう服じゃねーだろありゃ。ほぼ半裸じゃねぇか」

バラライカ「おい張。いつからこの場は下賤な脱衣麻雀になり下がった?」

張「熱気にあてられるなよバラライカ。勝負は常にクールに立ちまわった方に転がり込んで来るもんさ。願かけみたいなモンだよ。あのコスチュームに深い意味はない」

ロック(張さんのあの余裕。一体何を考えているんだ? それにあの娘の目。さっきとは違う。あの目付き。ここの住人たちの目によく似ている)

レヴィ「あのガキがここ出て10秒でレイプされるに2000ドル」

エダ「読みが浅いんだよトゥーハンド。その10秒後にまたレイプされるに3000だ」
33 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 16:04:45.24 ID:QDyuGkHb0
シェンホア(あの娘。さっきまでと目付き違うね。もし次またなにか仕掛けるなら遠慮なく腕一つ貰うますよ)コトッ

一「ロン。タンヤオドラ1」

シェンホア(その手で三色捨ててそこで待つか? 打ち筋が読めなさすぎて却って不気味ね)

レヴィ「気にすんな。シェンホア。やっすい点数だ。まだまだ痛くも痒くもねーよ」

エダ「そーそー。また一発デカイのかまして巻き上げればいいんだからさ」

一本場

池田「んじゃ、四ピン!」

一「ロン。白のみ」

二本場

シェンホア「これは通るか?」

一「ロン。ホンイツ」

三本場

一「ツモ。ダブトン」

四本場

一「ツモ。タンヤオのみ」

ロック「ちょ、ちょっと待ってくれ。この娘まさか!?」
34 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 16:05:30.13 ID:QDyuGkHb0
六本場

一「ツモ。イーペーコ」

モモ「まさか……そんな……」

シェンホア「オゥ、面倒なったね」

池田「こんなのありえないし!」

ロック「これはとんでもない展開になったぞ」

エダ「なんだよなんだよ。一体全体どうなったのさ。なんか葬式みてーな雰囲気になってんじゃないのさ」

レヴィ「知るか! ルール知らねぇんだからアタシに聞くんじゃねーよ! おい、ロック。今この場はどうなってやがるんだ!?」

ロック「レヴィ。麻雀には役というものがあり、その点数の高さを競うゲームだ。その中には当然、最も高い点数の役というものが存在する。麻雀の場合、それが役満と呼ばれる役だ」

レヴィ「でもあのガキのアガリは全部安い役じゃねーか。一回もそんな役出てねーぞ。今のだって――」

ロック「数ある役満の中にはこんなものもある。『八回連続でアガれれば、問答無用で役満達成』っていう特殊な役が」

エダ「八回連続、つーことは……」

ロック「そう。今のアガりで七本場へ突入。即ち、彼女が次にアガればその点数は役満。ただのノミ手でさえ八連荘≠ニ呼ばれる役満へ昇華する」

レヴィ「はぁ!? なんだそりゃ!!」

エダ「おいおいどーすんだよ! めちゃんこヤバいじゃないのさ!」

ロック「ただ、八連荘自体が相当特殊な役だから対局前に予めどう扱うか取り決めがなされていると思うんだけど、これはヘタすると……」
35 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 16:06:51.54 ID:QDyuGkHb0
張「バラライカ。配牌前に八連荘のルールをもう一度確認しておきたいのだが」

バラライカ「……八連荘達成の場合、次回以降。つまり八回目以降の和了も役満として扱う」ギリッ

レヴィ「おい、それじゃあ!?」

ロック「彼女が親でアガリ続ける限り役満が連荘する。このまま全員ハコテンの可能性も充分あり得るぞ」

張「ふふっ、結構。では、七本場を始めよう」

七本場 五巡目

一「リーチ」コトッ

打、赤Dピン

一の手牌

【一二三 八八 @B UUU 中中中】 Aピン待ち
36 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 16:08:07.98 ID:QDyuGkHb0
一が八連荘を前に敢えて不要なリーチ≠掛けたのには明確な意図があった。

一(悪く思わないでね。勝負は弱っている相手から倒すのがセオリーだから)

一はモモを一瞥する。そう、この卓での勝負は、始めからモモのみが不利だった。

修行の為に自ら裏社会へ足を踏み入れた一、成り行きではあるが、ここに至るまで相応の場数を踏んで来た池田、そしてもともと裏稼業を生業にしているシェンホア。

モモを除く3名は皆、個人差はあれど裏の勝負を経験している。

今この卓で起こっている勝負は、高校生の麻雀大会レベルなど遠く及ばぬほど純度の高い真剣勝負そのものであり、狼狽えるなと言う方が酷な話である。

八連荘達成手前でのリーチは、モモにとってはまさに首筋に突き立てられた死神の鎌。

この勝負が正真正銘「命懸け」であると言うことを脅迫的に教えていた。
37 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 16:11:15.46 ID:QDyuGkHb0
空気が重い……。

呼吸をする度に、まるで肺の中にタールが流れ込んでくるかのよう。

店内に染み付いたタバコと酒、硝煙と血の匂い。

自身が身を置く現実味のない環境と極限まで張りつめた緊張も相まって、頭を鈍らせ意識が朦朧としてくる。

もう、自分が今どこで何をしているのかさえ曖昧に思えるほどに。

モモ(八連荘(アレ)に振り込んじゃったら……もうトビっす)

震える指先で点棒に触れる。まるで、剥き出しの心臓を目視しているような錯覚さえ覚えた。

脳裏に浮かぶのは、憧れの先輩の笑顔。

モモ(先輩……)
38 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 16:12:04.74 ID:QDyuGkHb0
この勝負の行方が間接的に先輩の未来に繋がっているとわかっているからこそ、心に伸し掛かってくる重圧。

自分の命だけが掛かっているなら、きっとここまで憔悴はしないだろう。

ロック「大丈夫かい、モモちゃん。顔色が悪いみたいだけど」

モモ「え、ええ。大丈夫っす」

レヴィ「おいロック、テメェなにドサクサに紛れてそいつの身体に触ってやがるんだ」

ロック「誤解を招く言い方はやめてくれよ。軽く肩に触れただけじゃないか。モモちゃん、さっきから具合が悪そうなんだよ」

レヴィ「ゲームの形式を取っちゃいるが、あたしらは今、ロアナプラの覇権を賭けた戦争やってんだよ。タマの取り合いについてこれねー温室育ちのお嬢様はさっさとご退室頂いても構わねーんだぜ? なぁ、アネゴ」

バラライカ「レヴィの言う通りよ、ロック。あなたたちにどんな事情があるかは知らないけど、今この場で行われていることの意味を理解した上で覚悟を決めてここに座っているのならプレイヤーじゃないあなたは黙って見てなさい」

モモ「岡島さん、お気遣いありがとうございました。うちは大丈夫っすから」

ロック「モモちゃん……」
39 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 16:12:54.99 ID:QDyuGkHb0
七本場 六巡目

シェンホア「う〜ん、もう安牌ゼロね。なら……これは通るか?」

打、Dピン

一(こっちの待ちはとっくに読めているはずなのに。意地の悪い打ち方をするなぁ)

池田「ラッキー! それなら華菜ちゃんも出せちゃうし!」

打、Dピン

モモ(……また、うちのツモ順っすか)

一巡凌いだが、またもや回ってきた死神の鎌。

嗚呼、このまま泡や煙みたいに本当に消えてしまえたらどんなに楽だろうか。

誰にも知られず、悟られず。本当に消えてしまえたら……。

『私は、君が欲しい!』

モモ「あの時……先輩はうちを見つけてくれた」

ふと頭を過った懐かしい言葉。この死地に活路を見出す為には、モモにはその一言で充分だった。

ロック「モモちゃん?」

モモ「だから次はうちが、先輩を見つける番っす!」


打、Aピン
40 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 16:13:34.75 ID:QDyuGkHb0

バラライカ「チッ……振り込んだか」

シェンホア「終局ね」

張「フッ、終わったな」

一「ロン! これで八連荘達――」

池田「ちょ、ちょっと待つし! これ……」

池田が指示した桃子の捨て牌。


モモから放たれたAピンの隣には、既にAピンが捨てられていた。
41 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 16:15:10.38 ID:QDyuGkHb0
一「そんな!? 」

シェンホア「あいやー、フリテンね」

レヴィ「なんだなんだ、どういうこった。説明しろ、ロック!」

ロックロック「麻雀では、リーチ以降に一度捨てられ通った牌ではロン上がりしてはいけないというルールがある。逆に言えば、そのルールがあるからこそ麻雀は相手の手の内の読み合いがよりシンプルなものになるんだ。確かに起こり得るミスではあるが、それにしても……」

バラライカ「そこは私もロックと同意見よ。この張りつめた状況下でフリテンが生じるのは逆に不自然。何か意図的なものを感じるわね」

エダ「ヘイヘイ、そこのゴーストねーちゃん、なんかサマやったんじゃねぇの?」

シェンホア「それないね。何かしてたら今頃卓上は血の雨よ」

一(相手が鶴賀の人だって分かった時からステルスには注意していた。もちろん、この対局中は一瞬たりとも彼女から気を逸らさなかった。それにも関わらず一巡前に仕掛けられていたことにさえ気づかなかったなんて……)

一「すみません、肝心なところでしくじっちゃいました」

張「気にする必要はない。八連荘は成らなかったが、充分過ぎるほど点棒は稼いだんだ。次のオーラスで逃げ切ればそれで良い。それに……」

モモ「」バタン

ロック「モモちゃん!」

張「そちらのお嬢さんは既に限界のようだしな」
42 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 16:16:39.21 ID:QDyuGkHb0
張(偶然か奇跡かはわからんが、完全にこちらの手中にあった流れを変えてきたか。何が彼女をそうさせたかは知らんが、いずれにせよ身の丈以上の運ってやつは時として自らを滅ぼすもの。麻雀でよく言われる「九蓮宝燈をアガると死ぬ」っても、詰まるところそこに起因する)

ロック「モモちゃん、しっかりするんだ!」

モモ「なんとか、なんとか切り抜けたっす……。でも、せっかくの親番なのに……。もう、オーラスなのに……体が震えて……力が……入らないっす……」

ロック「モモちゃん……」

張「さて、一人欠員が出たわけだが、ここからは三麻に切り替えて――」

ロック「待ってください、張さん。もともとこのチケットは俺にくれたものですよね?」

張「もちろんだとも、ロック。この卓は別にレディースシートなんかじゃあない。お前にその気があるのなら遠慮せず座るといい。チケットを手にしたお前にはその権利がある。それに一の親が流れた今、オーラスはそちらの親番だしな」
43 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 16:17:53.61 ID:QDyuGkHb0
オーラス 配牌

池田(配牌の時点で既にイーシャンテン! しかも満貫確定! 裏次第じゃ跳満もあり得るし!)

シェンホア(中と白が暗刻で揃ってやがりますだよ。發も1枚入っているし、一気に役満も見えてるますね)

一(もう高い手はいらない。喰いタン狙いで誰よりも早く逃げ切る!)

ロック(……)

オーラス、最終局

池田「テンパイ!」

シェンホア「こっちもテンパイよ」

一「ボクもテンパイ」

ロック「……」

バラライカ「終局、だな」

張「まぁ、三家同時リーチを掻い潜っただけでも良くやった方だ。配牌が悪かったのも災いしたな、ロック」

ロック「12000点」

張「なに?」

ロック「親の流し満貫です」
44 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 16:18:47.85 ID:QDyuGkHb0
役満よりも安い点数にも関わらず、役満並みに達成が難しいとされる流し満貫。

手配ではなく、捨て牌で完成させる役と言っても過言ではない流し満貫とは、誰にも鳴かれずに幺九牌(一、九などの端っこの数字、あるいは字牌)だけ捨てた状態で流局を迎えた際に発生する特殊役。

狙って出来るようなものでは当然無く、またアガりというよりは救済措置として見なされる場合が殆どである。

ロック「張さん。ここでのルールの場合、親の流し満貫達成の場合は親番はどうなりますか?」

張「……続行だ」

ロック「わかりました。では、一本場」

この場にいる人間は皆、薄々気づき始めていた。

この男が卓に入ってから空気がガラリと変わったこと、そして流れが大きく変わったことに。
45 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 16:20:08.45 ID:QDyuGkHb0
オーラス、一本場、配牌

一(なにこれ!?)

一は、理牌時に己の手牌の異様さに戦慄した。

一(既にテンパイしてる……)

先ほどの配牌、そして今。非常に好ましい手が集まってきている。

現時点で一の手には、四、七萬をツモれれば地和が完成する。

だが、あまりにも出来すぎていて却って不気味に感じていた。

シェンホア(……)

池田(……)

一と同じ感覚を、他も覚えているだろう。そう、ロック以外は。

ロック「……」
46 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 16:21:29.52 ID:QDyuGkHb0
オーラス、一本場、四巡目

ロック「ロン、タンヤオドラ2」

一からアガったロックの手には、一の待ち牌である四萬ち七萬が3枚ずつ使われていたのだ。

一(もう間違いない……)

池田(この人、めちゃくちゃ強いし!)

シェンホア(……)

オーラス、二本場、三巡目

シェンホア「……そのツモ、チョット待つよ」

ロック「え?」

ロックの頬に一筋の線が走る。卓上に赤い雫がポタリと落ちたのは、そのすぐ後だった。
47 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 16:25:04.06 ID:QDyuGkHb0
シェンホア「大人しく今ツモしたその手を開くね。じゃないと、今度は頬より下をバッサリ斬りますだよ」

レヴィ「シェンホア! てめー何してやがる!」

シェンホア「少し静かにするよクサレアマ。確かに今、その手に別の牌を握り込んだの見たよ。最初に忠告したはずね。イカサマしたら罰符取り立てると」

狐のように細いシェンホアの目がギラリとロックを射抜く。しかし、ロックは微塵も臆してなどいなかった。

ロック「……もし、この手にツモ牌以外の牌が握られていなかった場合、そちらはどう落とし前を付けるんです?」

シェンホア「私の目節穴言うか? 今この場でお前を三枚に卸しても良いな」

ロック「あなたは今、俺がイカサマをしたとアヤをつけている。もし、これでもしこの手にイカサマの痕跡が無かったとして「間違えました」では筋が通らない。何よりあなたは今三合会とホテル・モスクワの前で啖呵を切った≠だ。場合が場合なら、そちらにも相応の落とし所があるでしょう」

レヴィ「なっ、ロックお前……!」

シェンホア「くっ……」

ロックが握り込んだのは間違いない。だがもし、それが見間違いだったとしたら。

そう思い込まざるを得ない≠謔、に、ロックは言葉を選んで吐いたのだ。

シェンホアの刃を止めるには、その1ミリにも満たない疑念で十分過ぎた。

もしロックが本当にイカサマをしていたなら、オーラスが始まったときからそれは行われていたということ。事実、シェンホアは今に至るまで気づかなかった。

それほどの技量をロックが持っているなら敢えてバレるようにイカサマを仕掛けたように見せた≠ツまり、フェイクを仕掛けてきたという可能性が出てくるのだ。

ロックは今、張とバラライカというこの街で一等上等な二挺拳銃≠ナシェンホアの脳天に照準を合わせた。
48 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 16:26:49.04 ID:QDyuGkHb0
この麻雀以上に分の悪い賭けをするほど、シェンホアも愚かではない。

ロック「沈黙は、このままツモっても良いと受け取って良いですね?」

そのままツモった牌と手配を倒し、ロックは告げた。

ロック「ツモ、三暗刻、ドラ3」

この時、この場にいる全員が気づく。この男(ロック)はとっくに仕掛けていたのだと。

一が八連荘を達成する直前でのAピンによるフリテン。

あれは、モモを気づかうフリをしてロックが河をすり替えたものだったのだ。

モモにのみ気を向けていた一が気づかないのも無理は無い。シェンホアでさえも今に至るまで気づけないでいたのだから。

ロック「日本の男は、大抵タバコを覚えると同じ時期に麻雀を覚える。そして、社会人になると接待麻雀という文化もある。お偉いさんの機嫌を取るためにわざと負けてやらなきゃいけない。だが、普通に負けてやるだけではダメだ。わざと負けたのを悟られないように。加えて、相手が満足するような劇的な状況を演出して負けてやるのが一流。たかが遊びに何千万の契約だったり、自分の出世なりが掛かっている。つまり、命がけの場数は、麻雀に限って言えば俺だって負けちゃいないさ」

タバコに火をつけ、ゆっくりと吸い込んだ煙を吐き出し、ネクタイを緩めながらロックは言い放った。

ロック「日本のサラリーマンを、舐めるなよ!」
49 : ◆akTsNxs6xE :2018/08/26(日) 16:28:57.90 ID:QDyuGkHb0
それから1時間もしないうちに決着は着いた。

レヴィ「しっかしよー、ロック。ホントに良かったのかよ」

ロック「何が?」

レヴィ「ばっか、あのチケットのことだよ。その気になりゃお前。あの一夜でお前がこの街のキング。悪党の王にまで成れたってのによ」

ロック「レヴィ、俺は自分の身の丈を知っているつもりさ。それに、アシンメトリーってあんまり好きじゃないんだよ」

刀を抜いたら元の鞘に。おもちゃで遊んだらおもちゃ箱へ。悪党だろうが子供だろうが、ルールは同じ。傾きかけた街の天秤は、今は平行に保たれている。

レヴィ「だからって、もっと他に願っても良かったんじゃねーのか?」

各組織のしのぎの権利を放棄し、代案で俺が願ったもの。

それは、行方不明となっていたモモちゃんの先輩とやらの捜索と安全の確保。そして、この件にかかわった俺以外の日本人全員の帰国までをすべて手配して厚遇すること。

この街の二大組織である三合会とホテル・モスクワの情報捜査網を使えれば、人ひとりを探すことなどカップ麺が出来るよりも早く事が済む。

探し人であった先輩は、ラチャダストリートのローワンの店で発見された。

三合会とヴィソトニキというビッグネームの急な来店に青ざめたローワンは、しこたま呑んだ後のように気持ちよく何でも吐いてくれたという。

先輩を売りにきた人身売買グループの詳細、そして商品は傷ひとつない新品の上物であること。

その後、その人身売買グループの話をこの街で聞くことはなかった。まるで、元から存在しなかったものであるかのように。

ロック「そう、身の丈ぐらいわかっちゃいるんだ。ただ……」

『いい悪党になるぞ、……お前は』

いつぞや日本でバラライカに言われた一言だけが、あの夜以来ずっと頭の中で反芻され続けていた。

終わり
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/28(火) 19:04:37.46 ID:qQzwIM9fO
おつ。すごくロワナプラ感満載で面白かったわ。
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/28(日) 22:03:06.19 ID:yv2VKn2wO
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