幼馴染でクラスメイトな小日向美穂

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111 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:34:38.05 ID:5ObZZxVKO

加蓮「お待たせー」

 僕らの準備体操が後半に差し掛かった辺りで、北条さんが着替え終えて向かって来た。

鷺沢「…………いや、待ってないぞ。今来たとこ」

加蓮「ふふっ、分かりやすっ」

 水色のビキニ姿の北条さん……
 ……で、デカ……っうおぉ……

P「……良いな、北条さん」

鷺沢「何見てんだよ殺すぞ」

P「褒めてるのに殺されるの理不尽過ぎない?」

 褒め殺しとはまさにこの事な気がする。

P「そう言えば小日向と緒方さんは?」

加蓮「え? 居るよ? 私の背後に」

美穂「……うぅ……やっぱりやめておけば良かった……」

智絵里「そ、そんなに恥ずかしがらなくても……」

加蓮「はいはい、あんた達も準備体操するよ」

 北条さんがサッっと横にズレた。
 その先には、先日買いに行ったビキニ姿の小日向。
 ……そして、天使。
 正式名称水着姿の緒方智絵里。

智絵里「……ど、どう……かな……」

P「凄く似合ってて可愛いと思うよ」

鷺沢「あぁ、最高に可愛いぞ緒方さん」

智絵里「……え、えへへ……」

加蓮「ふんっ!」

美穂「せいっ!」

 同時、僕と鷺沢の足が別々に踏み抜かれた。

P「アビスッ!」

鷺沢「中世の拷問!!」

 裸足なのにそれは本当に痛い。
 しばらくプールサイドを無様に飛び跳ねるゴミが二匹居た。

美穂「もーっ……わたしだって勇気出したのに……」

鷺沢「あぁごめん小日向、めちゃくちゃ可愛いと思うぞ」

P「何見てんだよ殺すぞ」

鷺沢「お前なぁ」

加蓮「……ふーん、目移りなんていい御身分じゃん鷺沢」

鷺沢「……プール入ってくる」

 鷺沢も流されに行った。
112 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:35:21.55 ID:5ObZZxVKO



 ……さて。

P「準備体操はちゃんとやっといた方が良いぞ」

加蓮「言われなくても分かってるって」

 屈伸した後、ぴょんぴょんとその場で跳ぶ北条さん。
 揺れるエデン、宙を飛ぶラピュタ。
 豊満な果実は正しく禁断のソレであり、手を出すのは禁忌である為眺めるのみに済ます。
 ……ふふふ……来て良かった。

美穂「……Pくん、わたしも準備運動してるんですけど!!」

P「ちゃんと体ほぐしとけよ」

美穂「他にっ! 言うべき事とか見るべき場所とか向けるべき視線とか抱くべき欲望とかあると思いませんかっ?!」

 めっちゃ早口である。
 よくそれ噛まずに言えたなと褒めたら多分怒られるんだろうな。

智絵里「暑い…………加蓮ちゃん、わたし達はあっちのプール行きませんか?」

加蓮「ん、おっけー。また後でねー五十嵐、美穂」

 北条さんと緒方さんが遠くへと行ってしまった。

美穂「……ほ、褒めてよ! わたしにも可愛いって言って下さい!」

P「ん、前も言ったけどすっごく可愛いと思うぞ」

美穂「……そういう時だけはほんっとにアッサリ言えちゃうんですよねー、Pくんって」

P「割と心に素直に生きてるつもりだからな」

美穂「……よ、欲望に素直になっても良いんですよ……?」

P「マジで?! 緒方さん達のとこ混ざってくる!!」

美穂「天使の施し!!」

 僕の小指に落とされた一撃はまるで悪魔の様だった。

113 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:36:18.55 ID:5ObZZxVKO




 おっぱいを、集めてはやし、流れるプール(字余り)。

 そんなに流れも早くない流れるプールにて、僕はひたすら揺られていた。
 いや、本当は鷺沢とか新田とウォータースライダー行きたいのだが、小日向が流れるプールでのんびりしたいと言うので僕も居る。
 北条さんとか緒方さんが居ればそっちに任せて僕もはしゃぎに行くんだけど、残念ながらその二人は別のプールに行ってしまった為今こうしてるナウ。
 僕が居る必要? あるに決まってるだろ知らないゴミ(男とも言う)が小日向に触れたらどうすんだお前責任取れるのか? あ?

美穂「ふわぁ……寝そう……」

P「寝るな、死んじゃう、比喩じゃなく冗談でもなく」

 浮き輪に座って揺られている小日向は、時折あくびをしながら幸せそうに流されていた。
 ……まぁ、いいか。
 小日向が幸せそうだし。
 別にこの流れるプールでも沢山おっぱいあるし。

美穂「あ、PくんPくんっ! 一緒にウォータースライダーしに行きませんかっ?!」

P「別にいいけど、どれにする?」

 一口にウォータースライダーと言っても、直線タイプから複数人で浮き輪に乗ってトンネル状のスライダーに流されるタイプと色々ある。

美穂「うーん……一緒に乗れるのが良いですっ!」

P「んじゃあっちのだな。浮き輪は借りられると思うから」

 適当なタイミングで流れるプールから上がり、ウォータースライダーを目指す。
 ……む。

加蓮「あれ、さっきぶり二人とも」

智絵里「あ……二人も並びますか?」

美穂「うん、せっかくだから乗りたいなーって」

P「ならせっかくだし四人で乗らない?」

 どうやら一度に四人まで浮き輪に搭乗可能らしいし。
 せっかくなら大人数で楽しみたいし。
 決して、決っっして北条さんや緒方さんとの接触を意図的に試みようとしている訳では無い。
 それはそれとして不可抗力って言葉はとても便利だと思う。

加蓮「やだ、今五十嵐ゲスな視線してたし」

智絵里「美穂ちゃんと二人で乗って下さい……」

P「…………」

美穂「……やっぱりわたし、加蓮ちゃん達と乗ろうかな……」

P「一人で乗るの寂しすぎるし一緒に乗ってくれ小日向」

114 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:37:22.70 ID:5ObZZxVKO


新田「この借りてきた浮き輪、さっき女子大生集団が借りてたやつだぜ」

鷺沢「寄越せ新田、命が惜しくばな」

P「生ゴミみたいな理由で喧嘩してるんじゃないよゴミ共、喧嘩両成敗だその浮き輪は僕が貰う」

 水深1メートルもない波のプールの端で、男子高校生三人が全力で浮き輪を奪い合う構図。
 多分見るに耐えない映像だと思う。

 女子組はどうやらジャグジープールの方で遊んでいるらしい。
 きっときゃっきゃウフフしてて華やかなんだろうな。
 それに比べて僕らはなんだ。
 比べるのも烏滸がましくなるくらいに底辺オブ底辺、高さは0だから面積も0だ。

 まぁだからって女子大生浮き輪は譲らないけど。

新田「……ん、そう言えばだけど」

鷺沢「……妙案を思いついた顔してどうした? 妙案でも思いついたか?」

P「発言前半の無駄さ何?」

新田「……これだけ女性が居るんだし、ナンパしたら成功すんじゃね?」

鷺沢「…………成功! あわよくば性こ」

P「やめろ汚い」

 ……ナンパ、かぁ。
 残念ながら僕にそんな勇気は無い。
 突然話しかけられて怖い思いをしてしまう女性もいるだろう。
 ところでナンパって漢字で書くと軟派なんだろうか。

P「硬派なナンパもあるのか?」

新田「やぁやぁ其処行く美しい御嬢様方、是非とも拙者達とお茶の一つでも如何であろうか?」

 無さそうだ。

鷺沢「……後が怖いしやめとくか」

新田「なんだお前チキってんのか?」

鷺沢「なんだお前、俺が本気出せば女性の二人やマンション二棟くらい楽勝だからな」

P「マンション関係ある?」

 っていうかどんな財力してるんだよ。

鷺沢「……でも後が怖いんだよなぁ」

新田「チッ、これだから妻帯者は……おい五十嵐」

P「僕も嫌だよ」

新田「女子大生のおっぱい」

P「やっぱやるか」

新田「そうこなくっちゃ」

鷺沢「待て、俺も同行する」

P「そうこなくっちゃ」

新田「先にナンパ成功させた奴が勝ちな!」

鷺沢「良いだろう」

 同行とはなんだったのか。

 かくして、さっきまで浮き輪一つを奪い合ってたバカ三人がそれぞれナンパに挑戦する事となった。

115 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:37:56.76 ID:5ObZZxVKO




 ……筈だった。

 二人と別れてからしばらく暇そうな女性を探しつつおっぱいを眺めて歩いていた僕は、どうやらプール内を一周してしまった様で。
 ナンパとかさっさと諦めて女子組と合流して遊ぼうと思っていた所……

仮面を付けた男性A「……へ、へいへーいそこのエンジェルちゃん達、俺らと一緒にご飯どーよ!」

仮面を付けた男性B「……やぁやぁ其処行く美しい御嬢様方、是非とも拙者達とお茶の一つでも如何であろうか?」

加蓮「もっと上手くやんなよ」

美穂「た、助けてPくん……」

加蓮「美穂も演技下手過ぎ」

智絵里「……あっ、違うんです……あの人達は、その、恥ずかしいけど知り合いで……」

 小日向と北条さんが、二人の不審者にナンパされていた。

 は? 殺す。
 ……なんてバイオレンスなシーンを近くに居る緒方さんに見せる訳にもいかないので。

P「……すまーんはぐれて! さ、お昼ご飯にしようぜ!」

 プランA、颯爽と登場してさっさとみんなを連れて退場する。

仮面を付けた男性A「おいおいなんだよ兄ちゃん、この子達の知り合い?」

仮面を付けた男性B「我らは今軟派とやらをしている故、口出しは許さぬ」

 なんか聞いた事ある声だけど、こんな不審者みたいな奴らは僕の知り合いには居ないので多分知らない人。

加蓮「おー、カッコいい登場」

美穂「こ、怖かったですPくんっ!」

智絵里「違うんです……あの、本当に大丈夫ですから……!」

 小日向が水着だと言うのに腕に抱き付いて来た。
 ……慣れすぎてなんの感動も無い、と言うか女子としての意識をちゃんと持ってくれ。
 軽々しく男子にしがみつくもんじゃないぞ。
 北条さんは是非僕に抱き付いてくれ。
116 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:39:18.50 ID:5ObZZxVKO


P「悪いっすけど、こいつら僕……俺の連れてなんで」

仮面を付けた男性A「へいへーい、何カッコつけちゃってんのー?」

仮面を付けた男性B「もうこの際貴様で良い、我々とお茶をしろ。断るのであれば貴様の命は保証出来ぬ」

 一人やべぇ奴居る。
 いや、仮面付けてる時点で両方ヤバいけど。
 警備員何やってんの早く追い出して。

加蓮「俺の連れだってさ、キモッ」

美穂「……俺って言うPくん、すっごく不自然……」

 背後の二人は僕の味方なの? 敵なの?

仮面を付けた男性A「まぁテメェは良いや。へいへーい女の子、俺らとお昼どーよ? 奢っちゃうよー?」

仮面を付けた男性B「奢るよ」

P「僕にも奢ってくれたり」

仮面を付けた男性A「する訳ねぇだろボケ」

仮面を付けた男性B「ボケ」

P「じゃあさっさと別を当たって下さい、こいつらは俺と食うんで」

 しつこいなこいつら……
 北条さんも小日向も怖がってるじゃないか。

仮面を付けた男性A「へいへーい、行くぜお嬢ちゃん達!」

仮面を付けた男性B「へいへーい!」

加蓮「きゃっ!  離して! ……あっ、でも無理矢理求められる感じも悪くないかも……!」

美穂「た、助けてPくん!!」

P「お前らっ!!」

 斯くなる上は、肉を切らせて骨を断つプランBに移行だ。

P「でもこっちの照れ屋っぽい方、めっちゃ食うぞ!」

加蓮「は?」

美穂「は?」

P「お前らに払えるのか? 福沢の一人や二人で足りると思うなよ?」

仮面を付けた男性A「…………」

仮面を付けた男性B「…………」

 ふふふ、諦めるが良いさ。
 割と冗談抜きに、福沢とは行かなくても小日向めっちゃ食べるし人に奢られるとなると値段見ないぞ。

仮面を付けた男性A「……嘘吐くにしても女子の気持ち考えろボケ!」

仮面を付けた男性B「……だからお前は女心が分からないって言わるんだよ!!」

P「仮面付けてナンパする不審者には言われたくないかなぁ!」

智絵里「はぁ……ごめんなさい……やっぱりあの人達、知り合いじゃ無かったです……」

 警備員に二人が連れられて行った。
 逆になんでさっきまで警備員が来なかったのかほんと不思議でならない。

P「……ふぅ、良かった良かった」

 さて、気を取り直してお昼ご飯にしよう。
 新田と鷺沢は何処行ったんだろ、まだナンパしてるのかな。

加蓮「……最っ底」

美穂「ふんっ! ふんっ!」

 足の指が小指から順に踏み抜かれ。

 昼ご飯全額奢りになった。
117 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:39:58.91 ID:5ObZZxVKO


P「……暑い……」

 気温35度、天気は快晴。
 嫌になるほど空は広く太陽は眩しい八月頭。

 夏の暑さも彼岸までというのであれば、去年の時点で彼岸過ぎてるんだからさっさと涼しくなって頂きたい。
 そんな地球相手に恨みを覚えてしまうくらいには、八月に入った日本は暑過ぎた。
 夏休みに入り色々な場所に遊びに行こうと思っていた日が懐かしい。
 余りにも暑過ぎる夏の空気は、人々から気力とか水分とかその辺をごっそりと奪っていた。

P「……まだか……」

 待ち合わせの時間から既に八分。
 何があったんだワッツハップン。
 期せずして韻を踏んでしまったが、もしや僕にはラッパーの才能でもあるのだろうか。
 無いよ、暑さで脳が蒸発してる。

 正直、適当な喫茶店に入って待ちたい。
 けれどそういう時に限って待ち人が来てしまう。
 得てして待ち合わせとはそういうものだ。
 だから、早く、来て。

美穂「あっ、Pくーんっ! お待たせしましたーっ!」

P「お、おはよう小日向。十分遅刻とは随分な重役出勤だな」

 長い針が数字を二個刻んだところで、小日向が此方へと駆け寄って来た。
 以前は余り意識していなかったが、最近の小日向はどんどんお洒落になっている気がする。
 中学や高校入りたての頃に比べて、私服が、こう、垢抜けてるって言うんだろうか。
 まぁ僕はファッションに詳しい訳では無いし下手な事は言わずに……

美穂「どうですかっ?」

P「可愛いと思う」

美穂「えっへん! 雑です!!」

 褒める、取り敢えず褒める。
 いや、実際嘘偽りなく本心から思っている為取り敢えずも何も無いのだけれど。

美穂「…………」

P「何キョロキョロしてるんだ、首がまだ座ってないのか?」

美穂「……響子ちゃんは?」

P「来ないよ、呼んでないし」

美穂「卯月ちゃんは……?」

P「だから呼んでないって」

美穂「加蓮ちゃんとか智絵里ちゃんとか……」

P「今日はちゃんと二人きりだって」

美穂「…………ほんとに?」

P「ほんとに。もし居たとしても僕が呼んだ訳じゃ無いし、ただの尾行だろ」

美穂「……なら良いでしょう!」

 なんでこいつが、やけに二人きりである事に拘るのか。
 他の誰かが居るかどうかを気にしているのか。

 それは……

P「デートなら二人でするものだしな」

美穂「って言っておきながら鷺沢くんと加蓮ちゃんを呼んでダブルデートとか……」

P「流石に僕への信頼無さ過ぎじゃないか?」

 今日は、デートだからだ。
 先に言っておくと、僕と小日向が付き合っている訳ではない。
 ただ単純に、久し振りに二人っきりで出掛けようってなっただけだ。
 まだまだ先の長い夏休みの一日をこいつに割くくらい、別にわけない。

118 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:40:26.77 ID:5ObZZxVKO


美穂「……それじゃ……ふー……」

 こいつが深呼吸をする時は、大体その後大胆な発言か大胆な行動が飛び出す事を僕はよく知っている。
 何が起きても対処出来る様に、僕も大きく息を吸って構えた。

美穂「え、えいっ!」

 ぎゅぅぅっ、っと。
 小日向が僕の腕に抱き着いて来た。

美穂「……どっ、どうでしょうかっ?!」

P「腕が痛い」

美穂「もー、照れなくたって良いんですよっ?」

 いや、照れてる余裕無いから。
 小日向の方が恥ずかしい思いをしてるんだろうが、それはそれとして力加減はして頂きたいものである。

美穂「ほらほらPくん。今日はデートなんですから、今日のわたしは恋人です!」

P「恋人……小日向が恋人……恋人が小日向……小日向が小日向……」

美穂「……ダメ?」

P「ダメ」

美穂「ふんっ!」

 被っていた帽子でバシーンと顔を叩かれた。
 痛い。

美穂「もう一回チャンスをあげますっ!」

P「叩かれる?」

美穂「叩かれない様にする、に決まってるじゃないですか!!」

P「……出来るだけ手加減してくれると嬉しい」

美穂「ほんとに本気でグーパンするよ?」

P「じゃあ僕はパーを出す」

美穂「じゃ、じゃあわたしはチョキを出しますっ!」

P「じゃあ僕はグーを出す」

美穂「女の子に拳を振るうなんて……」

 どうやら僕に勝ち目は無さそうだ。
 仕方ない……

P「ほらっ、行くぞ」

美穂「きゃっ」

 少し強めに、小日向の腕を引いた。
 よろけながらも僕の腕にしがみついて、そのまま暫く黙って小日向は着いてから。

P「……強引なのはお望みじゃなかった?」

美穂「えっ? あっ、いえ……その、突然積極的になられてビックリしちゃっただけですから!」

P「そう。ところでさ……」

美穂「なんですか?」

 取り敢えず歩き出したは良いけれど。

P「僕らは何処に向かってるんだ?」

美穂「……え、デートプランは?」

P「月々定額使い放題だけど」

美穂「それデータプラン!!」

 と、言うわけで。

 行き当たりばったり明後日の方へと向かって、僕らのデートが始まった。
119 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:40:52.76 ID:5ObZZxVKO



 映画、全席満員。
 ボーリング、全レーン使用中。
 遊園地、改装中。
 プラネタリウム、全公演終了。

 行く先行く先悉く、誰かが先回りして妨害してるんじゃないかと思うくらいの不振っぷり。
 歩いて、歩いて、蹴られて、歩いて。

P「またプール行く?」

美穂「水着持って来てません」

 それもそうだよな。
 僕も持って来てないし。

P「買い物は?」

美穂「奢ってくれるの?」

 次。

P「……ゲーセン……」

美穂「何分もつと思いますか?」

 ……次。

P「スイパラ」

美穂「カロリー」

P「田んぼ」

美穂「大雨の日にでも一人でどうぞ」

P「校庭」

美穂「運動部が使ってます」

P「下駄箱」

美穂「そんなデートありますか?」

 非常によろしくない。
 これじゃまるで僕が良いとこナシじゃないか。

 ……あぁいや、別に小日向にそう思われるのは構わないんだけど。

P「……あ」

美穂「何か思い付きましたか?」

P「……動物園とかどうだろ?」

美穂「……Pくんにしては悪くない案だと思います」

 よかった、咄嗟に思いついて。
 いつも通りうちで良くない? なんて言わずに済んで。
 ……それはそれとして、小日向も否定するばっかりじゃなくて案出してくれれば良かったのに。
 言わないが、結果は見えてるから。

P「んじゃ、電車使うか」

美穂「ですねー」

 ……なんだろう?
 なんとなく、いつもの小日向と違う気がする。

 ……まぁ、良いか。
120 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:41:21.01 ID:5ObZZxVKO




美穂「見て下さいPくんっ! Pくんが沢山居ますっ!!」

P「あれニホンザル、僕は人間」

美穂「わぁっ、自分でバナナ剥けるんですね! Pくんも出来ますかっ?!」

P「…………出来るよ」

 出来るけれども。
 張り合ってる時点で、もう既になんか負けな気がした。

 やって来たのは隣町の動物園。
 入場料もそこそこの値段で一日中楽しめるデートに割と持ってこいなスポット。
 案内は有難い事に木陰が多く、猛暑もある程度は和らいでいた。
 それでも汗はかくけれど。

美穂「あっ! ハトが居ます!!」

P「あれ多分野生のハトだよ」

美穂「……野生の猿も居ます!!」

P「そろそろ怒っても許されると思う」

 さっきのは、僕の勘違いだったのだろうか。
 今では小日向も全力ではしゃぎ回っている。
 ……勘違い、だろうな。
 きっと、そうに違いない。

美穂「あれはなんて動物ですか?」

P「自動販売機って言ってお腹に沢山飲み物を溜め込む生き物だな」

美穂「その隣のスペースに決まってるじゃないですか!!」

P「ゴミ箱だな。お腹に沢山ゴミを詰め込められる生き物だ」

美穂「逆逆そっちじゃなくて」

P「あれは……鳥?」

美穂「いえそれは見れば分かりますけど……」

 僕だって別段動物に詳しい訳じゃないんだから。
 そもそもそう言った特別な知識が無くても楽しめる様に出来ているのが動物園だろう。
 ほら、こうしてボードにその動物の正式名称と説明が事細かく記載されて……

P「……カタカナって八文字以上続くと読み辛い」

美穂「凄く同意します」

 名前を覚える事は出来なかったが、取り敢えずなんか鳥だった。
 きっとカッコいい名前なんだろうな、だってカタカナだし。
121 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:41:49.25 ID:5ObZZxVKO



 それからしばらく、僕らは腕を組みながら園内をのんびりと歩き回った。
 会話が少ないのは、消費エネルギーの抑制という事で。
 ぐるっと一周、外に出ているゲージの殆どは見終わった筈だ。
 後は屋内にある特別なブースとかその辺だろう。

P「……正直な事言って良い?」

美穂「……どうぞ」

 さて、どうしたものか。
 正直な事言って良い? という前置きに許可まで下りたが。

 ……言うのは、よしておくべきなのだろう。

P「……暑い、疲れた」

美穂「……腕、組んでるからですか?」

P「いや単純に今日暑いだろ」

美穂「……腕、組んでるからなんじゃないんですか?」

P「そっちは別に良いや、デートだし」

美穂「……それじゃ、そういう事にしておいてあげます」

 ……なんだこいつ。
 ほんと、今日はいつにも増して面倒くさいぞ。

P「……それじゃそろそろお互い疲れただろうし、喫茶店でも入るか!」

美穂「はいっ!」

122 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:42:16.69 ID:5ObZZxVKO



 コーヒーを飲む。
 カップを下ろす。
 コーヒーを飲む。
 カップを下ろす。

 この行動を何度か繰り返すとコーヒーは全て飲み干されてしまう訳だが。
 驚く事に、なんとその間お互い一切の会話が無かったのだ。
 凄い、今までこんな事あった?
 僕も自分で驚いてるよ、自分が喋らずにコーヒー飲み干した事。

P「……涼しいな」

美穂「溜めに溜めた感想がそれですか……」

P「事実であれど口に出して確認するのは大切だぞ、プラシーボ効果ってのもあるし」

美穂「難しい言葉で誤魔化そうとしてる?」

P「プラシーボ効果を難しい言葉だと言い張るのは若干無理がある」

 コーヒーの味は正直あんまり分からなかった。
 これで500円とか、それならドーナツショップのお代わりし放題のコーヒーの方が良いな。

P「……え、もう十六時回ってんのか」

 外がまだ明るいから気付かなかったが、どうやら結構な時間を動物園で使っていたらしい。
 夏だし、仕方ない。

美穂「Pくんがデートプランちゃんと立ててこないからじゃないですかー?」

P「悪かったって、次は気を付けるよ」

美穂「…………そうですか」

 再び、沈黙。
 こんな時に新田とか鷺沢とか北条さんが居てくれれば良いのに、とか思ってしまう。
 けれど勿論、この場にアイツらは居ない。
 であれば……僕一人の力で戦うしか、ない。

P「……カンガルーの誕生日って、母親の袋から顔を出した日らしいな」

美穂「へー」

 スマホを弄るな。
 普通にしんどい。

P「……キリンの交尾は九割が雄同士らしいぞ」

美穂「そうなんですね」

 せめてこっち見て、スマホ置いて。
 僕が聞いてもいないのに豆知識を披露する動物オタクみたいになっちゃってるから。
 さっき動物園で知ったばっかりでちゃんと調べた訳でもないし。
 それもそろそろネタ尽きるし。

 ……いや、実際聞かれてないんだけどさ。
 僕が勝手に喋ってるだけなんだけどさ。

P「コウモリの睡眠時間ってナマケモノより長いんだってさ。真の怠けキングはコウモリに」

美穂「ねぇ、Pくん」

 僕の雑学は、小日向に遮られた。

美穂「…………そろそろ、帰りませんか?」

123 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:42:42.32 ID:5ObZZxVKO




 八月、コンクリートが続く道。
 道の両脇はひたすらに畑、またその先には夕方の空。
 昼が暑過ぎたせいだろう、この時間の風は涼しく感じて。
 遠くから響く様々な虫の鳴き声だけが、やけに大きく五月蝿く聞こえた。

P「一日ってあっという間だな、ほんと」

美穂「ですね、あっという間です」

 今が一番、陽が長い時期だと言うのに。
 長い夏に憧れて過ごして来たなら、今はどの時期に憧れれば良いんだろう。
 もっと、もっと長く。
 そう思ってしまうのは、無い物ねだりが過ぎるだろうか。

P「で、どうだった? デートってのは」

 デートラストの帰り道にするには、丁度良い話題だった。

美穂「うーん……そうですね……」

 人差し指を顎に当て、空を見上げて考える小日向。
 うーん、えーっと、なんて言いながら今日一日の出来事を思い出しているかの様に。

 ……そんなフリをしなくても、答えなんて分かってるのに。

美穂「正直、こんなものなんだなーって感じでした」

 がっかりした様な素振りすら見せず、サラッと言ってのける小日向。
 まったく、軽く言ってくれるなよ。
 沈黙を出来るだけ埋める為に、僕がどれだけ必死に知恵を振り絞ったと思っているんだ。
 なんて、言っても仕方ないか。

P「そっか、良い勉強になったな」

美穂「ずっと憧れてた筈なんですよね、デート。わたしだって女の子だもんっ」

P「そっか……いや、お前が女の子って事は分かってたけどさ」

 憧れてた筈、か。
 その念願のデートで楽しめなかったのだとしたら、落胆させてしまったのだとしたら。

 その原因は、一つしかないのだろう。
124 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:43:16.81 ID:5ObZZxVKO




美穂「わたしが、君の事を好きじゃないからだと思います」


 ……そうだろうな。

P「デートってのは好きな人とするものだからな」

美穂「うん、お勉強になりましたっ」

 当たり前の事だ。
 恋愛感情かどうかはおいといて、好きでも無い奴と一日過ごして楽しい筈がない。
 そんな当たり前の事、知ってただろうに。

P「……僕の事が好きじゃない、か」

美穂「はい。今日一日Pくんと二人っきりで過ごして思ったけど……やっぱり君は、そんなにカッコ良くありませんでした」

 嫌われてないだけ良かったよ、なんて巫山戯るのはナシだ。

P「……そんな事は僕が誰よりも知ってるよ」

美穂「ざーんねんっ! わたしの方がずっとずーっと沢山知ってますっ!」

P「そこ張り合うのか」

美穂「ずっと君の事を見てきましたから……ここだけの話、ほんとはわたし……」

 ……出来れば。
 その言葉の先は、言って欲しくなかったな。

美穂「…………君の事、好きだったんです」

P「…………そっか」

美穂「気付いてなかったでしょ?」

P「うん、気付いてなかった」

 気付かないフリをしてた。
 いや、違うか。
 自分の勘違いで、小日向が僕に恋愛感情を抱いてる訳が無くて。
 僕がこいつに恋愛感情を抱く訳も無い、と。

 そう、ずっと自分に思い込ませていただけだ。

美穂「……そっかー、結構アピールしてたつもりなんですけど……」

P「で? そこから?」

美穂「……でも、ふと思ったんです。なんでわたし、君の事が好きなんだろう、って」

P「で、デートしてみた、と」

美穂「はいっ、一日君と二人っきりで過ごせば、好きになったところが見つけられたり思い出せたりするんじゃないかなーなんて思ったんです」

P「それで、良いとこが無かった。思い出せなかった」

美穂「うん、ダメな所なら幾らでも見つかりましたけど」

P「だろうな。自分で言うのはアレだけど、今日のはデートとしては0点だ」

美穂「……多分わたしは、恋がしたかっただけだったんじゃないかな……」

P「恋に恋する、ってやつか」

美穂「多分それだと思います。だから、ずっと一番近くに居た君の事が好きなんだって勘違いしてた」

P「勘違いか」

美穂「はい。勘違いです」
125 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:43:47.76 ID:5ObZZxVKO



 だったら、僕は間違いじゃなかった。
 勘違いで向けられた好意で、僕まで勘違いしてしまえば。
 こいつの……僕が一番大切にしたかった幼馴染の人生を、僕なんかが無茶苦茶にしてしまうから。
 実際はそんな大それた事にはならないにしても、そんな恋に恋する女の子の恋心を踏み躙る事になり兼ねなかったから。

P「……良かったな、早目に気付けて」

美穂「はい、良かったです」

 でも、小日向がそれをようやく勘違いだと気づいて。

 ……ここまで言い訳。
 ここから本音。

 だから、僕は……

P「実を言うと、僕も昔は小日向の事が好きだった」

 ……ようやくきちんと、勘違いが出来る。

 嫌だったから。
 きちんと僕が、自分の力で好きになって貰いたかったから。
 小日向の勘違いした、恋に恋する気持ちを利用するなんて。
 そんな事、絶対にしたくなかったから。

 だから待った、ずっと待った。
 小日向が一度冷めるのを、目を覚ますのをずっと待った。

美穂「…………そっか」

P「……正直、僕も今日はつまらなかったぞ。暑いし、小日向が全部僕のせいにしてくるし、自分からは全然喋らないし」

美穂「そうだと思います。それに、君だってもうわたしの事好きじゃないですよね?」

P「何がこんなもんかだよ、自分から楽しもうとしない奴がよく言えたなって思ったし」

美穂「君だって……わたしと楽しむつもりなんて無かったでしょ……?」

P「人を試すとか普通に僕の嫌いなタイプの人間だし、どうせ小日向は良い所を探すつもりなんて最初から無かったんだろ」

美穂「…………君だって……わたしの事なんて……」

 文句は尽きない。
 言おうと思えば、この十年以上に渡る付き合いの中から幾らでも捻出出来る。
 でも、そんな事したって意味無いし。
 ここで怒ったら、それこそダメだって事くらいは僕の頭でも理解出来てるし。

 ……そんな辛そうな顔してる小日向なんて、見たくなかったから。
126 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:44:35.97 ID:5ObZZxVKO


P「……何があった?」

 今日一日、ずっと聞こうと思ってた。
 何があって、こんな事を僕に伝えた?
 何があって、こんな時にデートをした?
 恋に恋する女の子は、なんで今突然目を覚ました?

 ……これは自惚れだけど。
 なんで、無理やり恋を諦めようとしたんだ?

美穂「……何もありません」

P「何を焦ってるんだ?」

美穂「……焦ってなんてません……」

P「…………いなくなったり……しないよな?」

美穂「…………教えてあげません……」

P「…………そっか」

 あーあ……

 最低な気分だ。
 考えた事すらなかった、最悪な事だ。

P「…………」

美穂「…………」

 会話、続かないな。
 今までは何があっても大体僕一人で喋り続けてた気がするけど。
 気不味くなるのが嫌で、ひたすら喋れる様に頑張って来たのに。
 僕は今まで、どうやって喋っていたんだっけ。

P「…………よしっ! 考えても仕方ない!!」

美穂「…………えっ、ここで何時ものテンションに戻すんですか?!」

 うるさいな。
 これ以上沈んでたらダメだろうに。
 お前、今にも泣きそうな表情していたんだぞ。
 ……もしかしたら、それは僕にも当てはまるかもしれないけれど。
127 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:45:03.46 ID:5ObZZxVKO



P「リベンジだ」

美穂「…………えっ?」

 負けっぱなしではいられない。
 僕だって人生初デートだったのに、こんなにつまらなくて最低な思い出ばかりじゃ悔しくて仕方がない。

P「……だから、もう一回デートするって事だよ」

美穂「……君、さっきのわたしのお話聞いてました?」

P「……今日はちょっと調子悪かったから」

美穂「……ダサい……」

P「……明後日、神社の夏祭りあるだろ。あれ一緒に行こうぜ」

美穂「…………」

P「毎年一緒に行ってたけど……今年は、デートとして」

美穂「…………」

P「……そして、今度こそ……勘違いじゃなくしてみせる」

美穂「……君がそんな事する必要なんて無いのに……」

P「まぁ見とけって、ダメ出しする場所なんて無いくらい最高の彼氏になってやるよ」

美穂「…………無理だと思う」

P「そんなの自分が一番分かってる。でも……もし小日向が一瞬でもそう思ったのなら……全部、聞かせてくれ」

美穂「…………」

P「…………ダメか?」

 これでダメなら、もうどうしようもない。
 
美穂「…………」

P「…………」

 しばらく俯いて考え込んで。
 待たされている時間は、凄く長く感じて。
 今更になって、先程の僕の言葉が殆ど告白の様なものだったと自分で気付いた頃に。
 ようやく小日向は、頭をあげた。

美穂「……もう少し現実的に可能な条件にしませんか?」

P「お前何がしたいの?」

128 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:45:37.80 ID:5ObZZxVKO


 ドンッ! ドンッ!

 太鼓の音に祭囃子、絶え間ない喧騒にテキ屋の客引き。
 油断すると一瞬で人の波に流されてしまいそうな人口密度。
 夕方の涼しさを上塗りして昼以上に熱くする人々の熱気。
 匂い、音、光、雰囲気全てが四方からひたすらに押しかかってくる。

 夏の風物詩ーー夏祭りは、目の前でひたすらに夏を作っていた。

 はてさて、僕はと言えば。
 例年通りだったのであれば他の連中と浴衣の女性ひゃっほうとか言いながらはしゃぎ回って他の方々に迷惑を掛けていたであろうが。
 今年、今日、この夏祭りだけはいつも通りと言う訳にもいかず。
 今回こそはとひたすら必死に組み上げたデートプラン(と言う名の行き当たりばったり)を小日向相手に敢行しようとして……

加蓮「ばっっっか! なんでポテトに勝手にケチャップつけちゃったの?!」

鷺沢「え、だって加蓮いつもつけて食べてるじゃん」

新田「浴衣の真の良さは浴衣自体ではなく、それを着こなしきれず慣れないながらそれでも可愛らしく振る舞おうとする女子にこそあると思う」

智絵里「あっ……金魚さん、全然掬えませんでした……」

卯月「あ、五十嵐くーん! こっちですこっち!」

響子「お兄ちゃーん! たこ焼き一緒に食べたせんかーっ?!」

 ……なんか、みんな居た。
 あぁいや、こいつらが来る事は分かっていた、地元だし。

 問題はそっちでは無くて……

美穂「やっぱり大勢で楽しんだ方が楽しいですからっ!」

 小日向が、デートだと言うのに他の連中に声を掛けた、という事だ。

 えーってなってる。
 お前ほんとどっちなの?
 ホントはホントにデートしたくなかった?
 僕がこの二日で立てた綿密な計画が水の泡となってしまった訳だが、その辺はどうお考えなのだろう。

美穂「だって君、前にわたしとのデートの時に響子ちゃんと卯月ちゃん呼んだじゃないですか」

P「…………あれはデートでは無かったので」

 今思うと、僕なかなか酷い事をしてしまってたんじゃないだろうか。
 いや、けれどあれは別にデートでは無かった訳で。
129 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:46:05.36 ID:5ObZZxVKO


加蓮「美穂ーっ! 射的やるよ!!」

美穂「はーいっ!」

 ……行ってしまった。

 やっばい、本格的に僕に勝ち目が無い。
 この時点で既に減点食らっててもおかしくなさそうだ。

新田「なぁ五十嵐、あっちで浴衣コンテストが」

P「黙れゴミ、こっちは頭使ってるんだ」

新田「明日殺す」

 ……ふむ、明日……ね。
 どうやらこいつらは、僕と小日向が今どうなっているかを知っていそうだ。
 ……なんで来た、帰れ。
 今日も今日とて僕の恋路の邪魔をするんじゃない。

鷺沢「ん、俺? 悪いけど俺彼女いるから……」

 鷺沢は浴衣の女の子にナンパ(?)されていた、死ね。
 背は低めおっぱいは小さめだけどとっても可愛らしい女の子に声掛けられるとか死ね。
 っていうかお前らやっぱり付き合ってたのか、死ね。
 にしてもあの子可愛いな、読モとかやってそう、鷺沢は死ね。

P「……マジでどうしよう」

卯月「聞きましたよ、五十嵐君」

P「島村さん……浴衣、めっちゃ似合ってて可愛いよ」

卯月「…………五十嵐君、一回きちんと振られた方が良いと思います」

 振られたんだけどね、一昨日。
 それはそれとして、島村さんまで敵に回ってしまったのが哀しくて仕方がない。
 
智絵里「……五十嵐くん……えっと、お願いがあるんですけど……」

P「緒方さん……」

 今僕の心を癒してくれるのは緒方さんしか……

智絵里「……鷺沢くんの事呼んで貰えますか……?」

 ……あいつやっぱ一回きちんと死んだ方が良いと思う。

 ……さて。
 何はともあれ、まずは小日向を探さないとお話にならないな。

130 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:46:33.33 ID:5ObZZxVKO


加蓮「げ、来た」

 再開して早々酷い。

美穂「か、加蓮ちゃん。型抜きしに行きませんか?」

加蓮「おっけー。そんな訳で五十嵐、アンタは他所の女の尻でも追っかけてれば?」

P「随分なご挨拶だな、さっき鷺沢がナンパされ……してたぞ」

加蓮「何処」

P「鳥居付近」

 僕がそう言葉にした頃には、北条さんの姿は無くなっていた。
 恋する女の子は強い。

P「……さて、小日向」

美穂「わ、わたし門限が」

P「無い」

美穂「今日はお祭りなので……」

P「だったら尚更遅い筈だ」

美穂「……珍しいですね、君が強引なの」

P「うるさいな、必死なんだよ」

 と言うか小日向。
 なんとなくだけど、僕以外には全部の事情話してるんじゃないか?

美穂「……どうだと思いますか?」

P「そうだとしたら凄く辛い」

美穂「積年の怨みです」

P「勘違いだったんだろ?」

美穂「勘違いだったとしても、です」

 ……やめておこう。
 ここで僕が捻くれたって、話は何も進まない。

P「……さ、デートだ。まずは親御さんに挨拶からだな」

美穂「そんなデートある?」
131 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:46:59.73 ID:5ObZZxVKO


 と、冗談は置いといて……

P「射的やりに行こうぜ。僕この日の為に家のエアガンで練習したんだ」

美穂「さっき加蓮ちゃんとやって来たから……」

P「……じゃあ金魚掬い。お望みとあらば全匹掬ってやる」

美穂「わたし、多分ちゃんとお世話出来ないから……」

P「……御神籤引く?」

美穂「お祭りである必要性が……」

P「…………型抜き、苦手なんだよな……」

美穂「なんで次わたしがやりに行こうとしたのはピンポイントで苦手なんですか……」

P「うるさい! やってやるよ! ほら腕組むぞ!!」

美穂「あ、浴衣崩れちゃうのでちょっと……」

 リベンジ、早速失敗しそうな予感がする。

美穂「……だから……手くらいなら、握ってあげます」

P「汗凄そう」

美穂「ふんっ!」

 小日向がいつも通り僕の足を踏み抜こうと足を振り上げた。

 おいバカ、こんな人混みの中浴衣で片足上げたら……

美穂「きゃっ!」

 近くを通り過ぎた人がぶつかり、小日向が倒れ込んで来た。
 予定調和とも言える。

P「っと、セーフ」

 勿論、僕も慣れている。
 普段から僕の方へと倒れ込んで来る奴だったから。
 倒れかけた小日向を支えつつ、そのまま引き寄せ腕を組んだ。

美穂「…………なんだか今の動き、すっごく洗礼されてませんでした?」

P「気のせいだろ」

 良かった、小日向が倒れ込んで来た時に支えつつナチュラルに腕を組む練習しといて。
 プンスカ怒りながらも付き合ってくれた響子には感謝しかない。

美穂「……あ、あと…………ありがとうございました」

P「今の割とカッコよくなかった?」

美穂「今ので大幅減点です」


132 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:47:26.33 ID:5ObZZxVKO



 仏頂面、照れ顔、苛ついた顔、満面の笑顔。

 目まぐるしくコロコロ変わる小日向の表情を眺めながら、僕は沢山の屋台へとエスコートした。
 分かっていた事ではあるが、小日向ってやっぱりすっごく可愛いんだよな。
 勿論二日前の僕なら、だからと言って付き合いたいとか恋人になりたいなんて思いは微塵も抱かなかったけれど。
 と言うよりも、だからこそ僕なんかが彼女の勘違いのせいで付き合ってしまうなんて事態を避けようとしての今な訳だが。

美穂「あのっ! やっぱりあのクマのぬいぐるみ取って下さいっ!」

P「任せとけ、一発で射止めてやる」

 二千円かけて射的でぬいぐるみを落としたり。

美穂「あの金魚、怒ってる時の加蓮ちゃんに似てませんかっ?!」

P「でも胸が無い」

美穂「さようなら」

 金魚掬いで勝負したり。

美穂「…………」

P「…………」

 お互い無言で型抜きに熱中したり。

美穂「あっふ、あっっふいれふっ!」

P「ちゃんと冷ましてから食べぁっっっつ!!」

 たこ焼きで口の中を火傷したり。

美穂「あっっっっふいっ!」

P「っふぁっふいっ!!」

 お好み焼きで口の中を火傷したり。

美穂「熱くないって良いですね……」

P「あぁ、このアイス熱くない」

 アイスキャンデー交換して食べたり。

 喉自慢の音痴なおじさんの熱唱で笑ったり。

 あんず飴落として僕の足べちゃべちゃになったり。

 かき氷食べて舌の色見て笑い合ったり。

 ……なんだか、デートとかそんな事忘れて楽しんでた。
 きっと小日向も、なんだろう。
 自分で言うのは難だが僕はそこそこ鈍感な方なので、もしかしたら去年も一昨年も僕へと小日向はアタックしては砕けてたんだろう。
 けれど今は、そんな恋心とか計算とか打算とか抜きに子供の様にはしゃぎ回って。

 ……こんな時間がずっと続けば良いな、って。

 正直こんな時間が続くのであれば、別に僕は小日向と恋人にならなくたって良かった。
 友達で、その中で誰よりも距離の近い幼馴染でいられれば良かった。
 教室に行けば毎日会える様な、クラスメイトでいられれば良かった。
 幼馴染でクラスメイトな、そんな小日向美穂と……

133 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:47:55.37 ID:5ObZZxVKO





P「……さて、休憩がてら神社裏でも向かうか」

美穂「ふぁーい」

 綿あめを齧りながらかき氷を頬張る器用な小日向と、少し静かな神社の裏手に回る。
 更にそのまま林の方に向かうと石段があって。
 知ってる人は少ないから、今年もそこは僕らだけの陣地で。
 毎年此処で、祭りの最後に打ち上げられる花火を眺めてた。

P「っふぅ……疲れた」

美穂「年寄り臭いですよー」

P「まだ十六なんだがな」

美穂「じゃあわたしもおばあさんです」

 そうはならない気もする。

 ……ふぅ。
 現実逃避も程々に、聞かなきゃいけない事がある。
 小日向も、もう気付いている。
 僕がこれから、きちんと向き合おうとしている事に。

 大きく息を吸い込んだ。
 遠くの喧騒が、少しだけ静かになった気がした。
 きちんと、お互いに目を見て。
 これから、僕は……

P「……小ひにゃ」

美穂「…………」

P「…………」

 …………死にたい。

 緊張し過ぎて噛んだ。
 本っっっ当に恥ずかしい。
 人生でも屈指の人生の汚点だ。
 人生の汚点を人生以外で作れないから当たり前だが。

美穂「…………」

P「…………」

美穂「…………」

P「…………」

美穂「…………ふふっ……」

 一拍。

 まるで、打ち合わせたかの様に。

P・美穂「「っふふふふふふっっっ、っあっはっははははっっ!!」」

 僕らの笑い声が、林中に重なって響いた。

134 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:48:23.02 ID:5ObZZxVKO




美穂「こひにゃ! こひにゃって誰ですかっ?! っふふふふっっっ!!」

P「うるせぇぇぇぇぇぇっっっ!! 今のはほんと無かった事にしてくれないかなぁぁぁぁ!!!!」

美穂「カッコつけといてっ! ちょっと良い雰囲気作っておいて! こひにゃ! こひにゃですかっ!!」

P「…………こひにゃ」

美穂「っっっ! キメ顔っ!! ズルイっっっ!!!!」

 しばらく持ちネタに出来そうだ。
 出来れば墓場まで持って行きたいが。
 遠くから聴こえてくる喉自慢の演歌がbgmとして良い味をだしてる。

P「……帰る」

美穂「待ってくださいっ! こひにゃた美穂さんは優しいのでもう一回チャンスをあげますからっ!!」

P「お前ほんと……」

 バカにするのも程々にして欲しい。
 今いい感じにメンタル磨り減ってるから。

P「……で、何があった?」

美穂「うーん……別に今更隠す必要は無いので話しますけど……」

 一回、大きく息を吸う。

 ……あぁ、これは碌でもない話だ。

美穂「…………わたし、アイドル始めるんです」

 そう言った小日向の目には。
 まだ、迷いがあった。

P「…………アイドル、か……」

 知らない訳が無い。
 歌や踊りでテレビで活躍する、若いタレントみたいな仕事だった筈だ。
 ドラマに出たり、写真集を出したり、ライブをやったり。
 そんな、誰もが一度は憧れた存在で……

P「小日向が? アイドル?」

美穂「むっ、バカにしてますか?」

 本気で言ってるのか?

 引っ込み思案で、臆病で、なのに時折勇猛果敢で。
 ひたすらに真っ直ぐで、傷付きやすくて、優しくて、バカで。
 アホ毛で、恥ずかしがり屋で。
 人一倍誰かの事を考えられる奴で、なのに自分の事となると途端に弱くなって。
135 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:48:57.16 ID:5ObZZxVKO

 ……僕が知る限り、一番可愛い女の子なら。

P「……頑張れよ、小日向」

 絶対、上手くいく。
 僕は絶対、応援する。

美穂「……はい、頑張ります!」

P「あだ名にこひにゃって使って良いぞ」

美穂「絶対イヤです」

P「……アイドルか、ヤバイな……テレビで小日向が全国放送されるのか……」

美穂「嬉しいですか?」

P「…………あぁ、勿論」

 そんな訳あるか。
 嫉妬に狂うに決まってる。
 最近の自分のよく分からない感情に、ようやく名前を見つけられたんだ。
 日本中の男性が小日向を見るならその目を潰すってハンムラビ法典にも書いてあったぞ。

美穂「…………今日、君とデートして……やっぱり思ったんです。わたしは本当に、君の事が好きじゃなかったんだって」

P「……デートの点数は?」

美穂「減点式なら0点です」

P「……手厳しいな」

美穂「どんどん減ってって、こひにゃで0点になりました」

P「……無かった事にしてくれると嬉しい」

美穂「それでも赤点です」

P「……ま、そうだよな」

美穂「……はい」

 自分でも分かってた。
 リベンジは、お世辞にも良いデートとは言えなかった。
 グダグダだし、あまりカッコいいところ見せられなかったし。
 っていうか多分序盤必死なの本当に見苦しかったと思う。

美穂「……でも……」

 えへへ、とはにかんで。

 小日向美穂は、花火の様に笑顔を咲かせた。

美穂「……加点式なら、花丸です」

P「……加点式とか減点式とか、よく知ってたな」

美穂「こひにゃ」

P「僕の負けだ」

 勝ち目は無さそうだ。

美穂「……だから今は、君の事が好き」

P「お、やったね」

美穂「必死になって空回りしたり、カッコつかなかったり……でも、そんないつも通りのキミも……わたしは、好きかな」

 ひとまず、ひと段落。
 僕の方の課題はクリア。
136 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:49:27.08 ID:5ObZZxVKO



 ……本題は。
 きっと、ここからだ。

美穂「…………何か、言わないんですか?」

P「動物に纏わる豆知識で良ければ」

美穂「……遠くに行っちゃうかもしれないんですよ?」

P「……応援してるよ」

美穂「……学校にも、全然行けなくなっちゃうかもしれないんですよ?」

P「ちゃんと席掃除しといてやるよ」

美穂「…………今までみたいには会えなくなっちゃうかもしれないんだよ?」

P「……でも、テレビとかラジオで」

 応援するんだ、僕は。
 例え何があっても、例えファンが僕だけだったとしても。
 必ず、小日向を応援して、背中を押して。
 かつて自分で決めた、『小日向の為』をこれからも守る為に。

 ……って言うかそれ知ってれば、僕はこんな好きだとか言ったりデートとかしなかったんだけど。

美穂「…………わたしは……? わたしの気持ちは……?」

P「……アイドル、やるんだろ」

美穂「…………止めてよ……引き留めてよ……」

P「……僕は、小日向の事が大切だから。邪魔したくないんだ」

美穂「……分かってよ…………分かってよ!!!」
137 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:49:55.82 ID:5ObZZxVKO



 そこから先は、ただひたすらに思いが溢れただけだった。

美穂「今更好きとかずるいよ! わたしずっと片思いだったんだよ?! この数年間ずっと! そのくせわたしが諦めようとしたら突然好きだったなんて言うとかあり得ないよ!!」

美穂「どうせ君は分かってるんでしょ?! わたしが君を諦めた筈が無いって! 諦められる筈が無いって! だからそんな事言ったんじゃないの?!」

美穂「ふざけないでよっ! 大好きだったんだもん! ずっと! 君の事が!!」

美穂「好きじゃないなんて言葉もウソですよ! それも分かってたんですよね? 分かってくれてたよね?! だったらその時言ってよ!」

美穂「君の事が好きじゃないって勘違いしたかったの! でも出来なくてっ、そのくせ君はわたしの恋心だけを勘違いにしようとするんだもん! そこは普通に怒ってるよ!!」

美穂「勘違いだったかもしれないよ? 最初はっ、きっかけはそうだったかもしれないですけど!」

美穂「でもっ! それからずっと一緒にいてどんどん好きになって! ずっと好きだったって気持ちまで……勘違いな訳無いじゃないですか!!」

美穂「……だからっ、今も分かってよ! 引き留めてようとしてよ! そしたら! わたしは……っ!!」

P「……小日向、僕は……」

美穂「……そうやって君は……自分だけ涼しい顔して……結局わたし一人だけがまたこうやって空回りしちゃってるんだもん……」

P「……違う、小日向……っ」

美穂「もういいですっ!!」

 ダッ、っと。

 僕が手を伸ばすよりも早く、小日向は祭りの方へと走って行った。
 浴衣なのにお速い事で、それでも僕の方が早いっ!

卯月「あ、五十嵐君! ゴミはちゃんと捨てなきゃダメですよ!」

P「……これ小日向の……あ、はい」

 あいつが残した綿あめの割り箸とかき氷の容器をきちんとゴミ箱に捨ててから、僕も走りだした。

 ドンッ!!

 祭りも終盤宴もたけなわ、今になって花火が上がりだした。
 そのせいでお祭りは更に熱気を増し、人は尚更ギュウギュウになる。
 小日向の姿は見当たらない、けれどあのまま走ってると怪我をしかねない。
 ……なんとかして、小日向を探さないと……

 賽銭箱前、居ない。
 ベンチ、居ない。
 北条さんの近く、居ない。
 どこ、ほんとどこ。

 多分あいつは、本気で逃げてる。
 僕が普通に叫んだ程度じゃ、止まってくれない。
 そして今、逃したら。
 きっともう、お互いに伝え合う機会なんて……

P「……新田!」

新田「ん、なんだ? 浴衣の女子大生ナンパなら付き合うぞ」

P「……喉自慢、まだエントリー出来るかな!」



138 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:50:23.08 ID:5ObZZxVKO




 嫌い! 嫌い! 嫌い!

 君なんで大っ嫌いです!!
 好きになって、大好きになって。
 ようやく好きじゃなくなった筈なのに、余計に大好きになっちゃって。
 だから、大っ嫌いっ!!

 わたしの事分かってくれるくせに、肝心な時だけ全然分かってくれなくて!
 分かって欲しい事だけは分かってくれなくて。
 そのくせ自分はきちんと分かってるみたな。
 わたしの為みたいな、そんなわたしが言い返せない事ばっかり言って……!

 ドンッ!

 花火が上がり始めたみたいです。
 でも、そんなの見る気分じゃありません。
 人混みを掻き分けて、わたしは神社の外へと目指します。
 もう、早く帰りたかったから。

 ……引き留めて欲しかったのかもしれません。
 本当は、追い付いて、わたしの事を止めて欲しかったのかもしれません。
 分かんないですけど、今わたしが本当はどんな事を求めてるかなんて。
 ……だから、君だけは分かっていて欲しかったのに……!

 神社の出口、鳥居が見えて来ました。
 あれを潜り抜ければ、今みたいな人混みは無くなって。
 わたしは、もう完全に逃げ切れちゃうんですよ?
 ……なのに、君は追い掛けてくれなくて。

 あと一歩で、神社の外で。
 君は結局、追い付いてくれなくって……!
139 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:51:05.54 ID:5ObZZxVKO



美穂「…………もうっっ! 君の事なんてっ! 大っっ」

P『小日向ぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!』

 キィィィンッッ!

美穂「えっ…………っ?!」

 神社内の各所に取り付けられたスピーカーから、ハウリングと聞いた事のある声が響きました。

P『ボリュームでっかっっ! 耳いてぇ!!』

 ……な、何をしてるんですか……?

P『どうせまだ居るんだろ! 居なかった場合とんでもなく恥ずかしいから居て欲しいなぁ!!』

 そんな『居ない人は手を挙げて』みたいな……

 ザワザワって、神社内がどよめきました
 それもそうです、花火が上がってみんな鑑賞に夢中になってた筈なんですから。

P『ふぅぅー…………小日向美穂さんっ!!』

美穂「はっ、はいっっ!!」

 思わず返事しちゃいました。
 周りの人達がわたしの方を驚いた目で見てきます。
 ……どうせこっちの声なんて届く筈が無いのに。
 それでも、わたしは立ち止まっちゃって。

P『……気付かないフリしてたのは本当に申し訳ないと思うし! もっと言うとフリじゃ無くて本当に気付いて無かったって言ったら怒るだろうから言わないけど!!』

美穂「言ってるーー!! 言っちゃってる! 言っちゃってますよー!!!!」

P『密着されてもドキドキするってより、女の子としてどうなんだろうって心配する事の方が多かったけど! 毎朝起こしに来てあげてるとか言う癖に、いつも僕が起こす羽目になるのどうかと思うけど!!』

美穂「それ今叫ぶ必要ありますかっっっっ?!」

 これ以上わたしの恥を他の人に知られる訳にはいきません。
 急いで翻して、神社中央のヤグラに向かって走り出しました。

P『そんな! 面倒な幼馴染で! 隙だらけなクラスメイトな! そんな小日向美穂と……ずっと一緒に! 誰よりも側に居たかったから!!』

美穂「……だったら……言ってよ! 叫んでよ! 愚痴とかじゃなくて! 失言とかじゃなくて!!」

P『……何があっても、僕が小日向にとって一番近い場所に居たいから! これから会える機会が少なくなっても! 邪魔しないように! 小日向の事を見守っていたいから!!』

美穂「言い訳とかいらないから! 聞かせてよっ!」

P『……っ! それでも! やっぱり僕はっっ!!』

美穂「君の気持ちを……っ! 素直な気持ちを!! わたしへの想いを叫んでよっっっ!!」

P『っっ僕はっ!! 小日向の事が大好きです!! もし今この場にまだ居てくれて、僕の想いを聞いてくれていたなら!! 僕と! この夏だけでも! 付き合って下さいっっ!!!!』
140 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:51:39.48 ID:5ObZZxVKO



 一瞬、神社全体が静かになって。
 その瞬間だけは、花火の音も聞こえなくなって。
 夏の全てが、凍っちゃったみたいで。
 そんな時間を溶かしたのは、わたしの、わたしより先にステージで熱演しちゃったPくんへの素直な想いでした。

美穂「他の人に迷惑です!!」

P『……喉自慢だし、これオリジナルソングって事にならないかな』

 そんな恥ずかし過ぎるオリジナルソングはやめて下さい……

美穂「……会えなくなっても良いの?!」

P『会いに行くから!!』

 近くで聞くと、想像以上にうるさい音でした。
 それでもヤグラの真下なら、この場所なら。

 わたしの返事も、想いも、君に届けられるから。

美穂「止めてくれないの?!」

P『どうせもう色々決定してるんだろ?!』

美穂「そうだけど!!」

P『それで……返事、貰えるか?』

 ……もちろんです。
 わたしの気持ちなんて、とっくに決まってます。
 君が抱くより、ずっと前から。
 君が勘違いしてると思い始めたよりも、きっと前から。

美穂「……わたしもっ!」

 ドンッ!

 止まっていた時間が動き出したかの様に、花火がまた上がり始めました。
 でも、わたしの声は、想いは。
 そんな音じゃかき消せないくらい、大きいから。
 止まったままの恋心を、前に進める為に。

美穂「誰よりも側に居たいです! もっと見てたい! 素直になりたい! Pくんの笑顔を、想いを! わたしだけに向けて欲しいから!!」

 すーっと。
 大きく、息を吸って。

美穂「ーーPくんの事が大好きですっっ!! この夏だけなんて言わないで! わたしと! ずーっと! 付き合って下さいっっ!!!!」
141 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:52:12.95 ID:5ObZZxVKO




 やっと……言えた! 伝えられました!
 恥ずかしさと嬉しさと、もう自分でも分からない気持ちがゴチャ混ぜになって涙が出ちゃいましたけど。
 それでも、ようやく。
 勘違いは、あまりにも場違いな告白で本物になってくれて。

 静寂は、一秒にも満たなかったと思います。

「「「「「ふぅぅぅぅぉぉぉぉぉうっっっ!!」」」」」

 神社全体が叫んだみたいに、歓声が巻き起こりました。
 大量の花火がひたすらに広がって、夏の夜空を恋の色に染め上げます。

P『…………ごめんっ!!』

美穂「…………えっ?」

「「「「「は?」」」」」

 ……えっ?
 断られた……?
 自分から告白しておいて、返事まで求めておいて。
 なのに、振ったんですか……?

P『うるさくて聞こえなかった! もう一回言って貰えない!?』

 ……もう一度だけ。
 わたしは大きく、息を吸い込んで…………

美穂「二回も言える訳無いでしょっっ!! ばかぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

 夏祭りは節分に姿を変えて。
 Pくんに向かって投げつけられた大量のゴミや小銭やスーパーボールや風車は。

 今だけは、結婚式のフラワーシャワーみたいに輝いて見えました。



142 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:52:42.94 ID:5ObZZxVKO



 ピピピピッ、ピピピピッ

 目覚ましのアラームで目を覚ませば、窓から既に朝陽が射し込んでいた。
 自ら温もりを手放さなければならない事実に恨みを募らせながらも、僕は布団を捲り上げる。
 ……もちろん、布団の中に僕以外の誰かが居る訳も無い。
 思い切り布団を足元までまくり、寒さに備える為制服に着替える。

 十月になった朝の空気は、余りにも人間に優しくない。
 これで十二月とかになったらどうなってしまうのだろう。
 すぐ来年になっちゃうんだろうな。
 あと師走でよく思うのが、師を走らせるなよ、と。

P「…………ふぅ」

 こうして静かな朝を迎えるのも、もう慣れた。
 一学期以前だったら、もっとうるさく又は騒がしい朝を迎えていたのだけれど。
 うるさいも騒がしいも似たような意味か、寝起きだからまだ思考にキレがない。
 頭のキレる最近の若者達を目指して頑張ろう。

 コンコンッ!

響子「お兄ちゃん、朝ご飯出来てますよー」

P「はーい、すぐ行くから」

 ……ふぅ、今日も寒そうだ。
 そろそろブレザー着ようかな。

 鏡の中の僕はまだ眠そうな顔をしている。
 ぱんっと頬を叩いて、根気入れて冷たい水に手を伸ばす。
 顔を洗って歯を磨いて、暖房の効いたリビングへ。
 テーブルには既に朝ごはんが並べられていた。

P「……ん? 辛子なんて僕使わないぞ」

響子「……あ、そっか……」

 使わない物は冷蔵庫へ。
 調味料長持ちの秘訣である。
 ところで辛子って要冷蔵だったっけ?

響子「それで、最近学校で話題のラブ師匠なんですけど……」

P「そんな奴居るのか、そう呼ばれて恥ずかしくないのかな」

 二人で食べる朝ごはんも、もう慣れた。
 いや、元々慣れるも何もそうだったんだ。

響子「……お兄ちゃん、元気無いですよね」

P「そうでも無いさ」

響子「ほんとですかー? 素直になれば私が慰めてあげるんですよー?」

P「いやほんと、まだ眠いだけだ」

 二学期入ってから、響子が随分と僕を揶揄う様になって来た。
 いや、正確には八月のあの日からだけれど。

P「……ところでラブ師匠って女の子? 可愛いのかな」

響子「噂によると醜さと汚さの塊らしいです」

P「可哀想過ぎるだろ噂もあだ名も」

143 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:53:24.44 ID:5ObZZxVKO



新田「あーあ、何が衣替えだよ。おっぱいが遠ざかっちまうじゃねぇか」

鷺沢「じゃあお前ブレザー着るなよ?」

加蓮「はー……ほんと、男子って馬鹿ばっかだよね」

智絵里「え……加蓮ちゃんって男の子だったんですか……?」

 いつも通りの教室。

 僕はさっさと荷物を置いて、寝る。
 机は良い、うるさくないから。
 二学期に入って席替えをしたから、僕の席は窓際後ろから二番目。
 窓の外から吹き込む朝の空気がめっちゃ寒いなんで窓開いてるの。

卯月「二十五分までは換気しなきゃいけないって決まりがあるんですっ」

P「あ、おはよう島村さん」

 ……やっぱり島村さんはブレザー着てる方が可愛いな。
 あの生地の下には、抑え付けられたおっぱいが二つもあるのか。
 僕もブレザーになりたいな。
 ……ダメだ、その下にはシャツとセーターとブラが立ちはだかってる。

新田「よう五十嵐。元気か?」

P「元気だよ昨日も会っただろ、今僕は『たちはだかる』って言葉の響きに心を打たれてるんだ」

新田「心配して損したわ」

P「誰も頼んで無いだろ」

 いつも通りとは言ったが、二学期に入って僕の周りは多少変わった。
 教室にいると、やたら心配される様になった。
 あの日の僕の告白は殆ど全員が知ってるだろうから、二学期入ると同時にからかわれまくると思っていたのたけれど。
 なんだか……こう、気遣いが心地悪い。

鷺沢「……五十嵐、これやるよ。寂しくなったら使え」

P「なんだこれ」

鷺沢「テンガ」

P「滅びろ」

 慰め方がとても不器用。
 というか教室でそんなもん渡すな。

加蓮「捨てられてないと良いけどね」

智絵里「か、加蓮ちゃん……」

新田「そうだぞ五十嵐、お前使わないなら俺が貰ってやる」

鷺沢「絶対加蓮が言ったのは意味違ってるから」

 ……そして。

卯月「…………美穂ちゃん、今日も来れないんですね……」

加蓮「…………」

智絵里「…………」

新田「…………」

鷺沢「…………」

 僕のとなりの席は。
 二学期に入ってから、一度も座られていなかった。


144 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:53:51.68 ID:5ObZZxVKO



新田「ほんと、からかい辛いからお前さっさと元気出せよ」

P「いや単に眠いだけなんだって」

鷺沢「元気出せよ、ソープでも行くか?」

P「行きた……あぁいや、高校生って行けるのか?」

鷺沢「まぁ俺は行かないが」

P「なんで誘った、僕も行かないが」

新田「はーっ、これだから妻帯者はよぉ!」

 頭の悪い会話をしながらのお昼休み。
 野郎三人で机を寄せ合って食べるお弁当はなんとも悲しい。
 以前だったらここに小日向も居たのだが。
 どうやら残念ながらあいつは今日も仕事らしい。

新田「にしても凄いよな。デビューしたてでもう新曲出すんだろ?」

P「随分凄い大手の事務所なんだとさ、専属のマネージャーとかプロデューサーとかがつくとか」

鷺沢「取られないと良いな、小日向の事」

P「女性だってよ、担当さんは」

新田「今や恋愛に性別なんて関係の無い時代だぞお前」

P「んでレッスンとオーディオ受けつつ撮影やったり収録したりと大忙しらしい」

鷺沢「二学期入ってから一回も来てないからな……寂しいんだろお前」

P「…………別に」

鷺沢「連絡は?」

P「殆ど来ない」

新田「…………」

鷺沢「…………」

P「……なんだよ」

新田・鷺沢「「…………ソープ、行くか?」」


145 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:54:19.46 ID:5ObZZxVKO



新田「なぁほんとにソープ行かないのか? 行こうぜ! 元気とか色々出るぞ!!」

 キャッチの兄ちゃんみたいなテンションの新田と歩く帰り道。
 こいつどんだけ飢えてるんだよ。
 普通に怖いよ。
 そんなに行きたいなら一人で行ってこいよ。
 
 小日向と二人で帰ってたあの頃がどれほど平和だか良く理解した。
 カムバック小日向、今ならカムバックログインキャンペーンやってるぞ。

新田「……はっ、恋人いるのにますかくしか能のないチキンが」

P「お前一人で行くのが不安なだけだろ」

新田「…………怖くない?」

P「分かるけれども」

新田「不安は仲間と分かち合うもんだろ」

P「喜びを分かち合えよ」

新田「悦びなら」

P「……お一人でどうぞ」

新田「……お前、本当に元気無さそうだな……悪い」

 ……いや、だから本気で心配されても困るんだって。
 本当にただの寝不足だから。

新田「……良い店探しとくから、必ず行こうな」

P「行かないって言ってんだろ」

 新田と別れて、一人で歩く帰り道。
 あぁ……寒い。
 こういう時隣に恋人がいれば、身も心も温まれたろうに。
 カイロ、そろそろ使おうかな。

 何事もなく、一日が終わった。
 特に面白くもなんとも無い一日だった。
 というか、ひたすらに眠かった。
 睡魔……スイマー……大して面白い事は言えなさそうだ。
146 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:55:03.67 ID:5ObZZxVKO



 それもこれも、全部……

P「……ただいまー」

 家の扉を開けて、ただいまの挨拶。

 家の内側から、外よりは温かい空気が流れ出てきて。
 二階の部屋から、扉の開く音がして。
 ドンドンドンドンっ! とうるさい音が降りて来て。
 その音源は一直線に、僕へと向かって突っ込んで来た。

美穂「おかえりなさいっ、Pくんっ!!」

P「痛いっ!!」

 ギュゥゥっと、抱き着かれると、人は死ぬ(575)。
 いつになったらこいつは力加減というものを覚えてくれるのだろう。

美穂「もうっ、Pくん。ただいまの挨拶はただいまですよ?」

P「凄い、何も言ってないのと同義だ」

美穂「寒いので早く部屋に戻りませんか?」

P「凄い、何も言ってない事にされた」

 小日向に腕を引っ張られ、階段に躓きながら部屋に拉致された。
 まさか自分の部屋に拉致される日が来るとは本当に思わなかった。

美穂「はい、Pくんっ!」

P「はい、なんでしょうか」

美穂「わたしはずーっとPくんの帰りを待ってました」

P「僕はずーっと学校に居たけど」

美穂「帰って来てよ!!」

P「帰って来たよ!!」

美穂「……おかえりなさいっ!!」

P「勢いで誤魔化せると思うな」

美穂「……ぎゅ、ぎゅぅぅぅぅっっ!!」

P「だから苦しい」

美穂「幸せ過ぎてですか?」

P「いや物理的に」

美穂「……つ、つまりそれって……わたしの胸がPくんに密着しちゃってるからって事……だよね……?」

P「いや、別に…………まぁそれで良いか」
147 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:56:16.66 ID:5ObZZxVKO


 夏祭りのあの日、僕はてっきり小日向が何処か遠くの街に行ってしまうものだと思っていたけれど。
 どうやら別にそんな事は無く、引っ越しも特に無かったらしい。
 確かにこいつ、引っ越すとは言ってなかった。
 けれども色々とスケジュールが詰まっていて学校にはしばらく殆ど来れないと聞いた時はやっぱり悲しくなったが。

 こいつ、多分あの日以降殆ど毎日僕の家に来てる。

 仕事の方が終わるとすぐうちに来ると言ってたけど、それアイドルとして大丈夫なんだろうかと不安にもなる。
 事務所曰くバレないようにとの事らしいが、まぁそれはそれとして、そんな訳で。
 僕が帰れば小日向が僕の部屋に居て。
 僕の帰宅時点で居なくても大体夜勝手に入ってくる。

 時間帯が朝から夕方や夜に変わっただけの、以前と殆ど変わらない小日向との距離が此処にはあった。
 そのせいで僕が寝不足気味連日記録を更新し続けてるわけだけど、こいつにとっちゃそんな事はどうでも良いのだろう。

美穂「学校も行きたいんですけど、最初の三ヶ月は本当に色々と大変なので……」

P「ふーん」

美穂「……もうちょっと興味持ってくれませんか?」

P「……なぁ、小日向」

美穂「もー、Pくんっ。せっかく恋人になったんですから美穂って呼んでくれても良いんですよっ?!」

P「あぁいや、それは今は」

美穂「…………呼んでくれないんですか?」

P「……いや、だからさ……」

美穂「……Pくん……ほんとはわたしの事好きじゃないんですよね……」

P「…………美穂」

美穂「……えへへ……ふふふ……はいっ! Pくんの恋人の小日向美穂ですっ!」

P「……なぁ、一つ聞いて良いか?」

美穂「82です!」

P「聞いてないから」

美穂「…………そうだよね……卯月ちゃん達くらいないと、Pくんは満足してくれませんよね……」

P「…………してるよ……」

美穂「……えっち」

P「言わせた奴が何を」

 いや、そんな罵倒は別に良いんだ。
 そっちでは無い。
 今聞きたいのは、小日向に尋ねたいのは。
 お前のバストサイズでも生理周期でも好みの体位……ごほんっ。
148 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:56:42.90 ID:5ObZZxVKO


P「…………このダンボールの山、何?」

美穂「わたしの私物ですっ!」

P「…………そう」

 もうオチが読めた。

P「…………響子ー! お客様がお帰りになるってよ!!」

美穂「やだっ! 住むーっ! 住むのーっ! わたしPくんのお部屋で暮らすんだもんっっ!!」

 幼馴染

 幼い頃に親しくしていた友達の事。 英語で書くと old playmate
 同性・異性を問わない「友達」を指す。
 けれど一般的には幼馴染という単語を聞くと異性の相手を思い浮かべる人が多く。
 こいつに至っては、もはやそのレベルじゃない誤認をしていて……

美穂「だって幼馴染ですよっ?!」

P「そこ恋人ですよじゃないのかよ!」

 余りにも近過ぎる距離感は、けれど幼馴染だからという言葉で全て解決させられ。
 それでも僕が反論すると、今度はそこで恋人なのにと納得させられる。

 あんまり以前とそんなに変わっていない気もするけれど。

美穂「じゃあ恋人だから同棲しても良いんですよねっ?」

P「……一部屋貸すから」

美穂「この部屋で良いのに……」

P「僕のプライベートとは」

美穂「わたしとの恋人生活って意味ですっ!」

 幼馴染は恋人に。
 クラスメイトはルームメイトにランクアップした。

 ……まぁ、良いか。
 
美穂「……ところで、これってテンg」

P「ごめんなさい」



fin
149 : ◆x8ozAX/AOWSO [saga]:2018/10/22(月) 00:57:08.81 ID:5ObZZxVKO

以上です
お付き合いありがとうございました
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/22(月) 05:04:40.79 ID:tAiD7OmAO
長くてつまらないという最悪なパターンだな…
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/10/22(月) 06:03:51.84 ID:L3qoAXG/O
前から思ってたけど、地の文で一文を連用形とか仮定形の言葉で締めるのは個人的に読みにくくて。
体言止めも多すぎて気になるし。
たぶん癖か個性のつもりで書いてるんだと思うけど、どうしてもそこが鼻について素直に内容が頭に入ってこないという感想。
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/22(月) 13:22:56.37 ID:tAiD7OmAO
まとめでも言われてるけどモバマスでやる意味無いだろ
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/22(月) 20:33:29.62 ID:4tlUp9pyo
作者が書きたい事書きゃ良いんだよ
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/22(月) 22:05:07.47 ID:V/k6VeP80
モバマスでやる意味ないって本気で言ってんのか
確かに主人公をPにする必要性は皆無だけど、「小日向美穂」でこういう物語を書きたかったから必然的に周りも主人公もこうなったんだろ
表記を幼馴染とか友1にしても問題はないんだろうが既存のキャラクター使われたほうが最初に読もうと思えたし
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/23(火) 01:52:06.95 ID:KMS2+MgO0
モバマスキャラの名前を使ったなろう小説だろコレ
しかしとにかく主人公のPが生理的に気持ち悪いな・・・
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/23(火) 21:39:12.47 ID:Fz8Xz2k6o
まあ書きたいこと書けはその通りだ
SSにしてもそれに対する感想にしてもな
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/24(水) 12:15:33.78 ID:Ub9whYxvo
私は好きだし、そのまま続けてほしい
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/24(水) 13:57:54.14 ID:VM2nlpqho
SSに上から目線で評価垂らしてる評論家様()が いっぱいるけど、とりま乙

個人的にはすっげえ好き
バカテスみたいな感じの高校生みたいなかんじのこういうアホなノリとかが最高に面白いと思った

とりあえず、同棲編むずかしいなら是非加蓮のサイドストーリー書いてくださいませ…
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/25(木) 21:15:06.81 ID:30nBLQUj0
ちょっと待って!響子ルートと卯月ルートが入ってないやん
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/27(土) 22:25:31.41 ID:0g7BsR/v0
え、特にデートのくだりとか凄く好きなんだけど……
これからも何か書くなら見たい
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