男「恋愛アンチなのに異世界でチートな魅了スキルを授かった件」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

107 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/07(水) 20:14:15.70 ID:YRuZMajN0

男(対人関係だけではない。俺の内面にも影響はあった)

男(告白失敗から俺が学んだのは、人間とは心の奥底で何を考えているか分からないということだった)

男(あの子の好意は嘘だった)

男(俺が勝手に勘違いして、期待したのも悪かったかもしれない)

男(それでも当時の俺はただ裏切られたとしか思わなかった)



男(告白というのは自分の好意を晒け出すことだ)

男(失敗すれば心をズタボロに引き裂かれる)

男(ともすれば、自分自身を否定されたようにも感じるだろう)



男(その傷を癒す方法は色々ある)

男(例えば勉強やスポーツに打ち込んで失恋の傷を癒すなんてのはよく聞く話だ)

男(他にも新しい恋を探すなんて方法もある)



男(そんな中、俺は自己否定を重ねて傷を癒した)

108 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/07(水) 20:14:57.82 ID:YRuZMajN0

男(相手に好意を持ったのが悪かった。告白したのが悪かった……と)

男(恋愛なんてしたのが悪かった、と)



男(過去の自分を否定して、今の自分を守った)

男(もちろんその代償は存在する)

男(度重なる自己否定で俺の思考は偏り、恋愛アンチとなったのだ)



男(人に好意を持たないようにした。誰にも心を許さないようにした)

男(最初から好意を持たなければ報われず傷付くこともない。信じなければ裏切られることはない)

男(その二つを強要する恋愛なんてもってのほか)

男(本気で打ち込むやつらの考えが知れない)



男(こうして俺は歪みと引き替えに心の安寧を勝ち取った)

『人は一人では生きていけなくても、独りでは生きていける』

男(これを俺の座右の銘にした)

男(順風満帆ではなく……凪のようにひたすらに平穏な人生を送っていくつもりだった)

109 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/07(水) 20:15:39.10 ID:YRuZMajN0

男(なのに)

男(この異世界に来てその目論見は崩れ去った)

男(魅了スキルのせいで俺に好意を向けるようになった女や女友の存在だ)

男(偽りの好意だと分かっているのに……かつて捨て去ったはずの理想が叶うのではと期待してしまう俺がいた)

男(ああ、そうだ。俺は恋愛アンチになった今でも、恋愛に夢を見ているんだ)

男(それは、いつの日か俺の前に心の底から――――)

110 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/07(水) 20:16:13.26 ID:YRuZMajN0



魔物「ブモオオオオオッ!!」



男「……っ!?」

男(近くで上がった鳴き声に俺は思考を中断して立ち上がる)

男(月明かりしか無かった森に、いつの間にかイノシシ型の魔物が現れていた。俺の目の前5mほどの距離にいて、完全にこちらを認識している)



男「っ、なんだおまえか。雑魚の相手をしている場合じゃないんだ。とっとと…………………………」

男(そこまで言って俺は気づいた。この森には何度も入っていたが、毎回誰かと一緒でそいつが魔物を蹴散らしていた)

男(俺は一度も戦闘をしたことがなかった)

男(それも当然だ。俺に備わった力は『魅了』スキルのみ。戦闘で使える力ではない)



男(当たり前すぎて、なのにごちゃごちゃした感情のせいで忘れていた。今さらのように注意を思い出す)

男「一般人が魔物によって殺されるという事件はよくあること……」

男(そして、俺の戦闘力は一般人と同じかそれ以下だ)

111 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/07(水) 20:16:50.08 ID:YRuZMajN0

男「………………」

男(浮かび上がるは恐怖)



魔物「ブモオオオオオッ!!」


男(再度雄叫びを上げると、イノシシの魔物は地を蹴り、俺に向かって突進してきた)



男「く、来るな……!!」

男(その言葉には、いかほどの力もこもっていない)

男(速度にして人間が走ったのと変わりないくらいの突進だったのに、まともに食らって俺は冗談のように吹っ飛んだ)



男「ぐっ……」

男(突進の衝撃で腹部を強く打ち、地面を転がったせいで腕や足の至る所に擦り傷が付く)

男(重傷ではない。だが、大きな怪我をしたこともなく、スポーツもケンカもまともにやったことのない俺は初めての味わう大きな痛みに動けないでいた)

男(さらに悪いことは、イノシシの魔物は追撃を加えようと俺に迫っていることだ)

112 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/07(水) 20:17:52.83 ID:YRuZMajN0

男「…………」

男(立ち上がる力が沸かない)

男(自分が嫌になって逃げたその先で襲われて死ぬ)

男(なんと惨めな終わり方だろうか)

男(いや、でも……それが俺にふさわしいんだろうな)
 
男(目の前に迫る最期に、俺は諦めて――)



男「嫌だ……俺は、まだ……っ!!」

男(諦めきれずに漏れた声に応えたのか)





???「『影の弾丸(シャドウバレット)』!!」





男(黒い弾丸が音も無く月明かりに照らされた森を進み標的を打ち抜いた)

113 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/07(水) 20:18:50.25 ID:YRuZMajN0

男「……え?」

男(気づくとイノシシの魔物は倒れていて……)

男「助かった……のか?」

男(何が起きたのか信じられない俺は呆然となる)



イケメン「間一髪だったみたいだね」



男(その背後には人差し指を標的に向けたポーズで副委員長のイケメンが立っていた)

男(俺は腰が抜けて、へたりこんだ状態のままイケメンに話しかける)



男「ど、どうしてここが……」

イケメン「元々あの夕食後の騒ぎには加わってなくてね。遠くから見ていたんだけど、そしたら君が一人森の中に向かうからあわてて付いてきたんだ。君が魔物と戦う力を持っていないのは承知済みだったからさ」

男「そうか……すまない、失念していた」

イケメン「いいさ、いいさ。気にしないでくれ」

男(様になる笑みを浮かべるイケメン)

114 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/07(水) 20:19:57.96 ID:YRuZMajN0

男「とにかく助かった……ここは危険だな、すぐに拠点に戻らないと。悪いけど護衛を……………………………………」

男(言いかけて俺は言葉が止まる)



男(何かがおかしい。失念している)

男(助けてもらったことは感謝しているが……イケメンは、こいつは……ああ、そうだ)

男(さっきの表情、顔は笑っていたけど……目はぎらついて濁っていた)





男「なあ、イケメン。助けてもらってなんだが……おまえは本当に俺を助けに来たのか?」



イケメン「くくっ、中々鋭い……まあ隠すつもりも無かったけどね」





男(善人としての仮面を脱ぎ捨て、本性丸出しの笑みを浮かべるイケメン)

115 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/07(水) 20:21:08.03 ID:YRuZMajN0

イケメン「ところで僕の職は『影使い(シャドウマスター)』っていうんだ」

男(ふいにイケメンはそんな話を始める)

イケメン「これが中々に強力なスキルが目白押しでね。音もなく対象を打ち抜く『影の弾丸(シャドウバレット)』」

イケメン「影を操ることで任意の映像を出す『影の投影(シャドウコントロール)』」

イケメン「影に潜み敵をやり過ごすための『潜伏影(ハイドシャドウ)』とまあ色々あってね」

イケメン「中でもお気に入りがこれさ! 『影の束縛(シャドウバインド)』!!」



男「くっ……!」

男(イケメンがスキルを唱えると、俺の足下の影が蠢き、主である俺の体をかけ走って拘束する)



イケメン「くくっ、すごいだろう? 誰だって自分の影を掴むことは出来ない。その影が主を拘束する。完璧な拘束術さ!!」

男(俺を空中に磔にしてあざ笑うイケメン)

116 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/07(水) 20:22:00.87 ID:YRuZMajN0

イケメン「さてそろそろ疑問に答えようか。僕は君を助けに来たのか、だったね」

イケメン「それは愚問だろう? こうして君を魔物から守ったことからさぁ!」

男「……ここまで胡散臭い言葉もあったんだな」



イケメン「ははっ、何を言っているんだ。僕は失うわけにはいかないんだよ」

イケメン「君を……いや、君の魅了スキルをね!!」

男「俺の魅了スキルを……?」

男(どういうことだ。俺の魅了スキルがこいつに利するなんてことは…………)



男「いや、まさか……」

イケメン「そうだ、君には――」



男(愉悦の表情を浮かべ、両手を広げたイケメンは、自身の欲望を語る)





イケメン「手当たり次第に魅了スキルを女どもにかけて、僕に奉仕するように命令するための道具になってもらうってことさ!!」





117 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/07(水) 20:23:13.28 ID:YRuZMajN0
続く。

こっちにはルビ機能が無いのが辛いです。

元作品 http://ncode.syosetu.com/n3495fc/
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/07(水) 20:31:15.81 ID:8Do6VrJKO
乙ー
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/08(木) 20:48:47.63 ID:mzn6V75G0
ギャルは利用していただけだったか…描写的にいいやつでもなかったし、こいつも何か報いを受けそう
120 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/08(木) 21:36:15.52 ID:INPf73SG0

男(いつもの善人面を脱ぎ捨てたイケメンが語った欲望はつまり)

男「ハーレム願望ってことか」

男(恋愛アンチな俺が珍しいだけで、魅了スキルなんてものを持てばまずは考えることだろう)

男(モテない男が魅了スキルに類するものをもらって、女性相手に欲望の限り好き放題する作品がごまんと存在するのがその証拠だ)

男(だが……それをイケメンが語ったのは不可解だった)



男「おまえにはギャルって彼女がいたじゃねえか。随分と惚れられているようだし、あいつじゃ満足しないのか?」

男(リア充で彼女持ちのやつが、浮かべる欲望には似合わない)



イケメン「ギャルか……あんなやつで僕が満足すると思ったのか? あいつはただのキープさ」

イケメン「あっちから寄ってきて、見てくれも良いから側に置いておくことにした。それだけさ」

イケメン「本命が手に入れば捨てるつもりだった」



男「冷酷なやつめ」

イケメン「何を言ってる、ギャルも夢見れてるんだ。むしろ慈善事業だと思ってほしいね」

男(そこに虚偽も誇張もない。イケメンは本気なのだろう。何とも自分勝手なやつだ)

121 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/08(木) 21:37:32.94 ID:INPf73SG0
男「にしても……おまえの願いは俺に魅了スキルをかけさせて、自分に奉仕するように命令させるだったか」

イケメン「その通りだ。素晴らしいだろう?」

男「どこが。一ミリも引かれねえよ。それに何か勘違いしてねえか?」

イケメン「勘違い?」



男「ああ、だって俺の魅了スキルは術者に好意が向くスキルだ。それに命令では人の心を操れないことも確認している」

男「つまり、おまえが言う通りにしたところで……心までは手に入らないんだよ」

男(俺に好意が向いている女子に奉仕されたところで空しいだろう)





イケメン「くくっ、何を言い出すかと思えば、そんなことか」

男「何がおかしい?」



イケメン「――別に心なんて必要ないだろう? 従順に命令通りの行動をする身体、それさえあれば十分さ!」

イケメン「むしろ心が自分に向いてない方が、無理やり感や征服感があって良いくらいだ!!」

122 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/08(木) 21:38:26.64 ID:INPf73SG0

男「…………」

男(イケメンの言葉に俺は黙る。というのもイケメンの返答が思ってもいないものだからだった)



男(……いや、でも考えてみればそうだな。女を物扱いだったり、屈服させることが好きという人種もいる。それくらい俺だって分かってはいる)

男(なのに失念していたのは……ああ、そうだ)



男「ちっとも良くねえよ。身体だけ手に入っても……こちらに好意的な素振りを見せたところで、心が伴っていなければ意味ねえだろ」



男(俺の理想と相反する考え方だからだ)



男「お互いが心の底から愛し合う……恋愛ってのはそれが理想だろうが!」



123 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/08(木) 21:39:03.29 ID:INPf73SG0

イケメン「へえ……」

イケメン「なるほど魅了スキルなんてものを貰っておきながら、どうして女友や女にあらゆる命令を出さずに自重しているのかようやく分かったよ」

イケメン「君は純愛家なのか。似合ってないな」



男「そんなこと分かってるっつうの」

イケメン「お節介な忠告だが、君のその態度では一生叶わないよ」

男「叶わないことを追い求めるからこそ理想なんだろ」

イケメン「心なんて無駄なものを追い求めるのは、やはりロマンチストだからか?」

男「身体だけで満足する即物主義者には分からねえだろうよ」

124 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/08(木) 21:40:38.61 ID:INPf73SG0

イケメン「平行線だね……まあ、君の主張なんてどうでもいい」

イケメン「君はこれから道具になる。道具には理想なんてもの必要ないからな」

男「ぐっ……!?」



男(イケメンが『影の束縛(シャドウバインド)』の拘束の力を上げる。締められた四肢が痛み、俺は声を上げる)



イケメン「話はここまで。これから君を痛め続け……泣いても、叫んでも、喚いても止めない。心を破壊するまで」



男(痛みによる調教。魅了スキルが無くても出来る、相手を自分の意のままに動かすための原始的な方法)



イケメン「君のステータスは確認済み。職(ジョブ)が『冒険者』で戦う力は無く、スキルも『魅了』のみ」

イケメン「魅了スキルは相手を命令を聞かせることが出来るがその対象は異性のみ。つまり男の僕には効かない以上、この場で君は無力だ」



イケメン「クラスメイトたちの前でこんなことをしたらスキルを使って止められただろう」

イケメン「だからみんなに付いてこないように命令し、わざわざ自分からこの森の中に入ったのはまさにカモがネギをしょってきたようなものだったよ!!」

イケメン「さあ、もう一段階上げようか!! 時間をかけてはいられないのでね!!」

125 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/08(木) 21:41:22.44 ID:INPf73SG0

男「ごほっ……ごほっ……」

男(影が首にまで及び締められ酸素が欠乏する)

男「……ああ……そうだな。馬鹿は俺の方じゃねえか……!」

男(それでも俺は自嘲の言葉を出さずにはいられなかった)



男(魅了スキル。俺には無用の長物なスキル……だが、どうして他の者まで同じ評価をすると思った?)

男(その強大な力に引かれ、イケメンのように我が物にしようとするやつが現れるのを予想してしかるべきだった)

男(男と女。世界の半分を意のままに出来るこのスキルは、残りの半分に対して無力で羨望の対象になることを分かっていなかった。)

男(そして今さら認識したところで……もう遅い)



男「うっ……っ……ああっ……」

男(四肢の拘束は堅く、ずっともがいているが抜け出せる気配すらない。首の拘束により、呼吸も困難になってきて………………俺、は…………)

126 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/08(木) 21:42:13.58 ID:INPf73SG0



イケメン「ああ、これで世界中の女性を僕の物に出来る……! ああ、だがどんなに美しい女性を手にしても一番は……そう。女、君だからね……!」



男「おん…………な……」

男(俺が魅了スキルをかけてしまった少女の名前を、イケメンが口にする)



男(この状況、自力でどうにかするのは不可能だろう)

男(だが、俺を助けに来る者がいるとは思えなかった)

男(クラスメイトとはろくに話したことも無く、俺を助ける義理なんて無い)

男(可能性があるとすれば、魅了スキルをかけてしまった女と女友がその好意に従って助けに来ることぐらいだったが)



男『――命令だ、二人とも絶対に俺を追ってくるな』



男(二人には他でもない俺が付いてくるなと命令を出している)

男(こんな事態になったのも……日頃の俺の行いのせいだろう)

127 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/08(木) 21:43:35.43 ID:INPf73SG0



男「ははっ…………おまえ、なんかに………言われなくても………………分かって……るんだ、自分でも」

男「…………そもそも……傷つくのおそれて、誰も信じない俺が………………」

男「お互いを信じ合う、関係を………………作れるはずが無いって、そんなことくらい……!!」



イケメン「今さら後悔か! 遅い、遅すぎる!! その教訓は来世にでも生かしてくださいねぇっ!!」

イケメン「今世は僕に尽くす道具として働いて貰うからさぁ!!」



男(苦痛と酸素の欠乏により麻痺した思考が、もう全てを諦めようとしていた)

男(いいじゃないか、こいつの道具になることくらい)

男(どうせ生きてたっていいことはない)



男(分かってるのに……ああ、そうだ。さっきイノシシ型の魔物に襲われたときも思ったが、どうやら俺は諦めが悪いようだ)

男(何がそこまで俺をかき立てるのか)



男(そうだ、俺は恋愛アンチになっても捨てられない理想……)

男(いつかこんな俺の全てを愛してくれて、俺も全てを愛することが出来る……そんな相手が現れてくれないかと思っているんだ)

男(もちろん自分から誰も信じない俺はその土俵にも立てない。宝くじを買っていないのに、3億円で何をするか考えているような馬鹿だ)





男「こんなことなら……俺は…………誰かを……信じて…………みるべきだったな……」

男(今さらな言葉が宙に消えようとした――そのとき)



128 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/08(木) 21:44:27.67 ID:INPf73SG0




???「『竜の咆哮(ドラゴンシャウト)』!!」





ゴォォォォッ!!

男(夜の森の静寂を破るように、重低音のうなり声と同時に風切り音が轟いた)



イケメン「ぐはっ!」

男(その正体は指向性の衝撃波。対象にされたイケメンは踏ん張ることも出来ずに吹き飛ばされる)



男「っ……げほっ、ごほっ…………はあ、はあ……」

男(イケメンがダメージを負ったことで集中が途切れたのか『影の束縛(シャドウバインド)』が解除される)



男「はぁはぁ……はぁはぁ……」

男(呼吸できることがこんなにありがたいことだとは……)

男(空中での磔を解かれた俺は、地に倒れ込んで大きく深呼吸する)

129 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/08(木) 21:50:35.82 ID:INPf73SG0





女「大丈夫だった、男君?」





男(そんな俺に言葉と共に手を差し出したのは……ここに来れるはずが無い少女)

男(女だ)



男「……どうして? 追ってくるなって魅了スキルで命令したはずなのに」

女「私が男君を助けようと思ったから……それだけじゃ駄目かな?」

男「それは…………」



男(あり得るはずがない)

男(確かに、女は状態異常耐性で魅了スキルのかかりが中途半端だ。それでもスリーサイズを聞いたときのように命令には従うはず)

男(……いや、でも命令についても中途半端で、効かないときがあったということか?)



男(だとしても、助けたいという思いは好意を起点に発する感情だ)

男(魅了スキルから生まれた思いなら、同時に追ってくるなという命令も干渉するのが道理で女がこの場に現れることは出来ないはずだ)

男(しかし、女はこうして俺を助けてくれた。それを成し遂げられたのは……論理的に考えると……)

130 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/08(木) 21:52:33.05 ID:INPf73SG0



男「魅了スキルの外で……女自身が、俺を助けようと思ったから……。だから命令が効かなかった……ってことなのか?」

女「ふふっ……どうだろうね?」



男(女は俺の質問を軽やかにかわすと、守るように俺を背にしてイケメンに問いかける)



女「それで……イケメン君? これはどういう状況なのかな?」

女「男君を魔物から守ってくれたのは助かったけど……私の目にはあなたが男君が拘束して痛めつけているように見えた。どういうことなの?」





イケメン「そ、それが……き、聞いてくれ!」

イケメン「あ、あの拘束は男君を本当は守るための物だったんだ。魔物がたくさん現れたのでそうするしかなかったんだ!」

イケメン「それでどうにか魔物を倒したところで、勘違いした女に吹き飛ばされて……」

イケメン「ああ、そうだ男の言葉を信じては行けないからな、どうやら魔物に襲われた衝撃で混乱しているから。そして――――」



女「うん、説明ありがとう。よく分かったよ」



イケメン「そ、そうか。良かったよ、誤解が無くなって。じゃあ、これで――」

131 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/08(木) 21:53:28.47 ID:INPf73SG0



女「本当によく分かったよ――反省する気が無いって事が。『竜の震脚(ドラゴンスタンプ)』!!」



ゴォォォォォッ!!

男(再び放たれた衝撃波がイケメンに直撃する)

イケメン「ぐはっ……!」



男(先ほどと違って天空から放たれた攻撃は、イケメンを吹き飛ばさず、地面に押しつけることでダメージを逃させない)

男(無慈悲な鉄槌を下した女は哀れみの表情を浮かべていた)



女「ここで非を認めてくれれば更正の余地もあったんだけど……はあ、どうして私がこの場所を分かったと思っているんだろう」

男「そういえば……どうしてなんだ?」

女「言ったでしょ、男君を魔物から守ってくれて助かったって。全部見ていたんだよ」

女「竜の眼は千里を駆ける。竜闘士のスキルの一つ『千里眼』でね」

男「……ずいぶんと便利なスキルだな」



男(女の職『竜闘士』この火力に広域探知能力付きとは……強力だと思った『影使い(シャドウマスター)』を持つイケメンがまるで赤子のようだ)

132 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/08(木) 21:54:17.23 ID:INPf73SG0

イケメン「…………」

男(衝撃を一身に受けたイケメンは動く様子がない。どうやら今の一撃で気を失ったようだ)



女「とりあえずこれで一見落着かな。イケメン君をどうするかは考えないと行けないけど……」

女「あっ、そうだ!」 ポンッ!



男「何か気づいたのか?」

女「男君が私のパーティーに入った場合のメリットだよ! 男君の身に危険が迫っても、私の力でこうやって守ることが出来る。これって大きいんじゃない!?」

男「……まだそんなこと言ってたのか」

女「ま、まだって……そ、そんなに私と一緒のパーティーが嫌なの? でも、私は諦めたり――」



男「いいぞ」

女「しないんだから…………って、え?」

133 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/08(木) 21:56:56.88 ID:INPf73SG0

男「俺は馬鹿だからこいつに襲われてようやく身に染みて分かったんだ。俺のスキルが欲望の対象になるってことに」

男(最初から理解していれば今回の騒動は起こらなかっただろう)



男「これから先も魅了スキルのことが知られれば、その力を手に入れんと狙われることもあるはずだ」

男「そんなときに戦闘能力0な俺を護衛してくれる人がいてくれたら……今回みたいに守ってくれる人がいたらとても心強いと思ってな」

女「じゃ、じゃあ私のパーティーに入ってもらえるの!?」

男「いや、そうじゃないんだ」

女「え……?」



男(断りの言葉を発した俺に、女はまた否定されるのではないかと顔を強ばらせる)

男(そんな顔をさせるのは本意ではなかったが、俺にも男の意地がある。そのまま頷くことは出来ない)

男(つまり、俺は頭を深々と下げて)



男「お願いします。俺を女のパーティーに入れてください」

女「……うん、もちろんだよ!!」



男(飛び上がり全身で喜びを表現する女)

男(それには魅了スキルによってもたらされた好意も関わっているだろうとは分かっていたが……)



男「よろしく頼む、女」

女「こちらこそだよ!!」



男(死の間際にあんな後悔をするくらいなら……少しくらい人を信じてみるかと俺は手を差し出し、女が握り返すのだった)



134 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/08(木) 21:59:10.45 ID:INPf73SG0
続く。

>>118 ありがとうございます。

>>119 こんな風になりました。

元作品 http://ncode.syosetu.com/n3495fc/
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/09(金) 00:27:40.75 ID:6X9PTzldo
乙ー
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/09(金) 07:27:11.25 ID:GEFonTbXO
乙!
137 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/09(金) 22:30:10.81 ID:Rwugbgsq0

男(イケメンの騒動も収まり、パーティーについての話もまとまった。そんなタイミングを狙ってなのかは分からないが)

女友「ふぅ、ようやく追い付けました……って、あらこの状況は……」

男(女友がその場に顔を出した)



女「あ、女友。どうしたの?」

女友「どうしたの、じゃありませんよ。女が突然『男君が危ない』って言って森の中に飛び込むから、みんな浮き足だってしまって」

女友「それを落ち着けて待つように言ってから追ってきたんですよ。気持ちは分かりますが、女は現在クラスのリーダーなんですから、もう少し落ち着いた行動をお願いします」

女「あはは、ごめん……フォローありがとね、女友」

女友「それくらいはどうということありません。リーダーの重圧を押しつけているのも理解していますから」

138 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/09(金) 22:30:52.88 ID:Rwugbgsq0

女友「それで状況は……ああ、なるほど。イケメンさんが暴走したってところですか。いつかはすると思っていましたが、大変でしたね男さん」

女友「しかし、二人とも無事にパーティーが組めたようで何よりです」

男(地に伏して倒れたイケメンと傷ついた俺、喜んでいる女などの情報を総合的に判断した女友はすぐに状況を理解する)



男「いや、どうして分かるんだよ。察しが良すぎやしねえか?」

女友「これくらい乙女の嗜みですよ」

男「そんな乙女がいてたまるか。というか、大体俺を追ってくるなって魅了スキルで命令したはずだよな? 耐性を持つ女はともかく、あんたには絶対の効力を発揮するはずだが」

女友「ええ、ですから私は男さんではなく、女を追ってきたんですよ。そうしたら……まあ、男さんが偶然いてビックリです!」

男「……へいへい」

139 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/09(金) 22:31:27.64 ID:Rwugbgsq0

女友「しかし、そうですね。私はともかく、女はどうして命令を破ることが出来たんでしょうか?」

女「えっ!? そ、それは……その、私の魅了スキルのかかりが中途半端だからで……」

男「いや、それだとおかしいだろ。俺を助けたいという好意が十分に働いているのに、命令だけ効かないなんてやっぱり勝手すぎる」



女「え、えっと……そ、それは……」

男「だから魅了スキルがかかっていない部分で俺を助けたいと思い行動に移した。さっきは答えてもらえなかったがそんなところじゃないのか?」

女「ち、違うんじゃないかなー……何となく…………ううっ……」

男(目がきょろきょろと泳いでいる女。どうやら思い当たるところがあるようだ)



男「俺も思い当たるところがあるんだ。つまり――」

女「……もう誤魔化せないみたいだね。そう――」

140 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/09(金) 22:32:25.01 ID:Rwugbgsq0



男「俺がクラスメイトだからってことか」

女「私は………………え?」

男(女はきょとんとしている……あれ、ハズレだったか?)



男「考えてみれば女は学級委員長だもんな。責任感も強いし、クラスメイトの俺を守らないといけないって思った。だから助けに来た……ってところだろ」

女「………………そうそうそう!! そういうことだよ!!」

男(と、思うと今度は残像が出るほど首を縦に振りまくっている。やっぱり合ってたか)





女友「全く……女も不器用ですね。そろそろ真実を問いただすことにして……今はそれよりあちらですか」

141 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/09(金) 22:33:05.29 ID:Rwugbgsq0



ギャル「……どういうこと? どうしてイケメンが倒れてるの?」



男「イケメンの彼女……ギャルだったか」

男(この場にさらに増えた人影)

男(今時のギャルで高圧的な態度を苦手に感じた結果、俺の魅了スキルが対象外の評価を下した相手の名を呼ぶ)



女友「イケメンさんを追ってきたってところでしょうか。……まずは状況を説明しないといけませんね」

男「そうだな」

男(イケメンだけが倒れているこの状況は、それが俺たちの仕業であることを示している)

男(正当防衛ではあるのだが、俺たちがイケメンを襲った悪いやつに見えかねない)

男(だから説明するために口を開こうとしたその矢先――)

142 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/09(金) 22:34:01.24 ID:Rwugbgsq0



イケメン「た、助けてくれギャル!! 男が魅了スキルの命令で女と女友をけしかけて、為す術も無くて!!」



男(気絶していると思っていたイケメンが起き上がり、恐怖を訴えた)

男「っ……!?」

女友「狸寝入りでしたか!」

女「ち、違うよ、ギャル! 本当は……」

男(女が慌てて否定しようとするが、ギャルは彼氏優先の女。その言葉には耳を貸さずに)



ギャル「だ、大丈夫なの、イケメン!?」

イケメン「そ、それは……いや、大丈夫だ。ここにいたら君も危ない。ギャル、君だけでも早く逃げて――」

男(イケメンの嘘はまるで俺たちに襲われたが、ギャルを危機に巻き込まないように必死に逃がそうとするヒーローのようだ)

男(現実は真逆でイケメンが襲ってきた悪役なのだが、ギャルは嘘を盲目的に信じてスキルを発動)



ギャル「私だけ逃げるって……そんなこと出来ないって!! 今助けるから……『雷速駆動(ライジングスピード)』!!」



男「くっ……!」

男(カッ! と、辺りに閃光が走り一時的に俺たちは目が眩む)

143 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/09(金) 22:34:54.62 ID:Rwugbgsq0



男(視力が回復して目に飛び込んできた光景は、ギャルがスキルの効果により一瞬でイケメンの元まで駆けつけて背負い超スピードで戦域を離脱するところだった)



男「速い……!?」

女友「落ち着いて話を聞いて貰うために捕らえます! 『森の鳥籠(フォレストケージ)』!!」

男(驚くだけの俺と違って、何をするべきか理解していた女友。その身に宿す職『魔導師』は魔法使い系の職でも最上級で、様々な高位魔法が使える)

男(その中から選択したのは拘束魔法のようだ。イケメンを背負ったギャルの行く手を阻むように周りの木々からツタが走り、捕らえて――)



女「違う、女友!! そっちじゃない!!」

女友「え……?」

男(ツタが二人をすり抜けた。するとラグが走ったように、二人の姿が揺れて消える)

144 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/09(金) 22:35:30.01 ID:Rwugbgsq0

男(その光景には思い当たる物があった)

男「っ……イケメンのスキル『影の投影(シャドウコントロール)』だ!!」

男(俺はイケメンが正体を明かしたときの言葉を思い出す。影を操ることで任意のビジョンを映し出すスキルだったか)

男(おそらく俺たちが閃光で目を眩んだ一瞬に発動したのだろう。逃げる映像を見せることで、そちらに注意を向けさせた)

男(だが、本体はどこに――?)



イケメン「解除『潜伏影(ハイドシャドウ)』」

男(映像が逃げたのと反対の方向から声が聞こえてイケメンとギャルの姿が現れた。……確か影に紛れることで見えなくなるスキルだったか)

男(映像に気を取られている隙に隠れて逃げる。単純だがしてやられた。距離も大きく稼がれ、これではどうしようもない)



女「待ってギャル! あなたは……!!」

男(女の叫びも空しく、イケメンとギャルは夜の森に消えた)

145 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/09(金) 22:36:34.52 ID:Rwugbgsq0



 男たちから逃げて尚、駆け続けるイケメンとギャル。



ギャル「酷い傷……イケメン、大丈夫なの?」

イケメン「何とかね。『影の装甲(シャドウアーマー)』でダメージは減らしたから」



イケメン(女の一撃『竜の震脚(ドラゴンスタンプ)』を食らい気絶したようにみせかけて、実は防御スキルを発動して僕は何とか耐えていた)

イケメン(しかし彼我の力の差からまともにやりあっても勝てないと判断し、やられたフリをして不意打ちの機会を窺っていた)

イケメン(でも女は男とパーティーを組めるようになって喜んでいる間も警戒を解いていない様子で、さらに女友までやってきて戦力差が絶望的になったのを知り、ギャルがやってきたのに合わせて逃走を選んだというわけだった)

146 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/09(金) 22:37:16.13 ID:Rwugbgsq0

ギャル「しゃどうあーまー? そういやイケメンの職って何だったっけ?」

イケメン「ああ『影使い』って職なんだ。言ってなくてごめんね」

ギャル「へえ、かっこいーじゃん」

イケメン(自分の彼女にすら手の内を晒したくなかったというわけなのだが、ギャルは特に気づいた様子はない)



イケメン「それでさっきの状況なんだが……」

ギャル「分かってるって。どうせあの男って根暗が調子乗ったんでしょ。女と女友を従えて気を大きくしたあいつが、イケメンを襲った」

イケメン「……ああ、どうにも横暴が過ぎてね。操られている女と女友の為を思って、注意をしたんだが……逆上されてそれで……」

ギャル「イケメンってば優しー。それを……あの根暗私を魅力がないって言うに飽きたらず、イケメンの優しさまで無碍にするなんて……本当ムカつく」



イケメン(僕の言葉を都合のいいように誤解して、男に敵意を向けるギャル)

イケメン(あまりにも飲み込みが良すぎて、どうやって操るのか考えていたのに拍子抜けだな)

147 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/09(金) 22:38:04.53 ID:Rwugbgsq0

ギャル「それで……これからどうすんの? あいつが女と女友を言いなりにしてるのってやっぱりヤバくない?」

イケメン「ああ。竜闘士の力は莫大だし、それに女の言葉を操ればクラスのみんなだって従えられる。だからみんなの元には帰れない」

ギャル「マジ無理じゃん」

イケメン「そんなことない、大丈夫さ。今は逃げるしかない。でも、いつか必ずやつを倒しみんなを解放する。それまで協力してくれるか、ギャル」

ギャル「もちろん!」

イケメン(ギャルは頷く。嘘だらけの状況認識を全く疑う様子がない)



イケメン「………………」

イケメン(この女も利用して力を蓄えてやる)

イケメン(女はあいつを守ることを決めてしまった。少なくともあの竜闘士の力を退けるだけの力を用意しなければ今日と同じ結末になってしまうだけだ)

イケメン(おそらく女には酷いことをしてしまうが……魅了スキルさえ手に入れば問題ない。どんな命令でも効かせられるから)

イケメン(僕が知る限り最上の女。手に入れるために……)



イケメン「今はせいぜい安心しておくがいい……必ずや復讐してみせる……!」



148 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/09(金) 22:39:07.79 ID:Rwugbgsq0



女(私たちは、猛スピードで去り闇夜に紛れたイケメン君とギャルの追跡を諦め拠点に戻ってきた)



女「おやすみ、男君」

男「ああ、おやすみな、女、女友。……しかし、俺には聞かせられない話なのか?」

女友「乙女の秘密を殿方に明かすわけには行きませんので」

男「うーん……そういうことなら」

女(男君を寝所まで無事に届けると、女友が二人きりで話したいことがあるというのでまた外に出る)







女友「明日が出発ってときに、ごめんなさいね、女」

女(拠点内、男君と二人で話したこともあったベンチに腰掛けると女友が申し訳なさそうに口を開いた)



女「それで話って何なの、女友? 何か重大なこと?」

女友「いえ、ちょっとしたことです。本格的な冒険に出る前にそろそろ真実を――女にかかった魅了スキルについて、明らかにしようと思いまして」

女「……し、真実? 魅了スキル? な、何のことかな?」

女友「思い当たる様子があるみたいですね」

女(動揺したことで、こちらの胸の内を当てられる。この親友は本当に人の機微に鋭い)

149 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/09(金) 22:39:56.66 ID:Rwugbgsq0

女「そ、それよりイケメン君とギャルをどうするか考えないとね! このまま帰ってこないなら、みんなにどう説明するかも考えないといけないし」

女友「……まあ、真実を言うわけにも行きませんね。仮にも副委員長で人望を集めていたのでみんな動揺してしまうでしょうし。適当に嘘を付くとしましょうか」



女(女友は露骨な話題逸らしに乗っかりながらもジト目を返される……これ追求を諦めてないかも)

女(どうにか勢いで忘れさせられないかと、私は矢継ぎ早に話題を変える)



女「そ、そういえば『千里眼』で見てたんだけど、イケメン君の目的って男君の魅了スキルを使って好き勝手する事だったんだって! ねえ、酷いと思わない!?」

女友「……別に、あの男ならそれくらいやりかねないでしょう。爽やかな表層と裏腹な欲深い本性は分かっていたので」

女「まあ……それは私も時々ぎらついた視線を向けられていたから分かっていたけど……。ギャルって彼女がいるのに、酷いよね」

女友「あの人からすれば、彼女とも思っていないでしょう。イメージを保つための道具くらいの認識かと」



女友「……それより、女がイケメンになびかないことが意外でしたね。少々性格の問題はありますが、外面はイケメンで優良物件のように思えましたが」

女「正直タイプじゃないのよねー……ああいうタイプよりむしろ――」

女友「ああ別に意外ではないですか。男君の方がタイプなんですよね」

女「そうそう、男君みたいな…………って、い、今のは魅了スキルで好意を持っているから当然の返答なんだからね!!」

女友「はぁ……」

150 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/09(金) 22:40:47.72 ID:Rwugbgsq0

女友「しかし、イケメンも馬鹿げたことを考えたものです。女を支配するために魅了スキルに頼ろうとは。……いえ、それが男の性なんでしょうね、私には理解できませんが」

女友「そうです、私に分かることといったら……もしイケメンさんが目論見通りに事を運んだとしても一番に望むもの――女の身体は手に入らなかっただろうということです」



女「え、えっとー…………それはー…………」

女(逸らしたはずの話題を軌道修正される。私はどうにかここから挽回する手が無いか模索するが、時既に遅く)





女友「何故なら――本当は女に魅了スキルなどかかっていないのですから」





女「………………」

女(言い当てられた真実に私は言葉を返すことが出来なかった)

151 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/09(金) 22:43:35.20 ID:Rwugbgsq0
続く。

>>135 >>136 ありがとうございます。

次回は図星な指摘をされた伏線回収する回です。

元作品 http://ncode.syosetu.com/n3495fc/
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/09(金) 22:45:10.50 ID:g+w0spQD0

他のクラスメイト達の反応が描写されていないけれど、必要がないから省いたのかな?
どう考えても女>>>>>>イケメンの信頼度だし
153 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/09(金) 22:53:30.95 ID:Rwugbgsq0
>>152
あ、三人が帰ってきた時点でもうみんな寝てる設定です。描写忘れてましたね。
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/09(金) 22:55:27.87 ID:g+w0spQD0
>>153
いきなり寝ているシーンに移ったからびっくりした
意図的じゃなくて単に忘れていただけか
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/10(土) 07:41:35.89 ID:nvFUBo3HO
乙ー
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/10(土) 08:03:59.17 ID:GUenqY9QO
乙!
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/10(土) 21:27:42.31 ID:tdKo6Zqf0
女さんが男君が好きになった理由も語られてほしいが…
158 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/10(土) 21:51:51.47 ID:hc/kgHeB0
女友「その反応……やはり、思っていた通りなんですね」

女「……いつから、気づいていたの?」

女友「最初から疑っていました。というより、今まで気づかれなかったのが不思議なくらい綱渡りでしたよね? 私がフォローしなければ今ごろどうなっていたことやら」

女「それは感謝しているけど……気づいていたなら見逃して欲しかったなあ……って」



女友「そんなこと出来るわけありません。こんな親友が面白……悩んでいる状況を見過ごすなんて……!」

女「ねえ、今面白いって言おうとしたよね?」

女(よよよ、と嘘泣きしている親友を半眼で睨みつける)



女友「それよりはっきりさせておきましょう」

女友「まずは魅了スキルの詳細について振り返っておきましょうか」

女「えっと……こうだったっけ」

159 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/10(土) 21:52:33.71 ID:hc/kgHeB0

 スキル『魅了』

 効果範囲:術者から周囲5m

 効果対象:術者が魅力的だと思う異性のみ



・発動すると範囲内の対象を虜(とりこ)にする。

・虜(とりこ)になった対象は術者に対して好意を持つ。

・虜(とりこ)になった対象は術者のどんな命令にも身体が従う。

・元々対象が術者に特別な好意を持っている場合、このスキルは効力を発揮しない。

・一度かけたスキルの解除は不可能。

160 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/10(土) 21:53:29.09 ID:hc/kgHeB0

女友「それで女。あなたは男さんが魅了スキルを発動した際に、効果範囲5mの内にいました」

女「はい」

女友「男さんが漏らした言葉から、効果対象の魅力的な異性にも当てはまっているはずです」

女「……えへへ、魅力的だって。男君、私を魅力的だって思ってるんだって!」

女友「そこ、ニヤケない! 真面目な話をしているんですよ」

女「真面目なのかな……?」

女友「とにかく、ここまで条件が揃っているのに、女が魅了スキルにかかっていない理由です。それは――」



女「私が……魅了スキルにかかる前から……元の世界にいたときから、男君をその……す、好きだから……ってことだよね」



女友「それによって魅了スキルの詳細にあった文の一つ『元々対象が術者に特別な好意を持っている場合、このスキルは効力を発揮しない』が当てはまり、そもそも魅了スキルは女に対して失敗していたということですね」



女(普通に考えれば好意を持たれている相手を虜にしようなんて思わない。無駄な手間だからだ)

女(ということで、男君もおそらく重要視していないこの一文こそが私にとって厄介な状況を作っていた)

161 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/10(土) 21:54:37.17 ID:hc/kgHeB0

女友「そう、ここまでは事故のようなものです。女は悪くないでしょう。つまりこのヘタレがやらかすのはここからなのです」

女「ヘ、ヘタレって……否定できないけど……」

女友「『魅了スキルが失敗した理由……それはつまりあなたのことが好きなんです』と男さんに告白する度胸が無く、あろうことか誤魔化すために自分にも魅了スキルがかかっていると嘘を付きだしたのです」

女「あのままだと失敗した理由にたどりついたかもしれなかったからね。咄嗟にしてはいい判断――」

女友「ではもちろんありませんでした」

女「うわーん、酷いよぅ」



女友「すぐに子作りを迫った私との反応の違いを指摘されて、魅了スキルがかかってないんじゃないか? と男さんに疑われたでしょうが」

女「あのときはありがとね。状態異常耐性なんて言い訳をくれて」



女(状態異常耐性のおかげで魅了スキルが中途半端にかかっているというのは、魅了スキルが失敗している以上もちろん嘘である)

女(女友が言い出した苦肉の策だったが、案外上手くハマっていた)

162 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/10(土) 21:56:19.47 ID:hc/kgHeB0

女友「それで対応の違いを誤魔化し、命令にも一通り従った姿を見せて、どうにか男さんに魅了スキルがかかっていると思わせることに成功しました」

女「……そういえば、最初から私が魅了スキルにかかってないと疑ってたって言ったよね? だったらどこで気づいたの?」

女友「正直元の世界にいたときから女の気持ちには薄々気づいていましたから」

女「え、そうなの!? 初耳だよ、それ!!」

女友「ですが、実際状態異常耐性があるのも分かっていたので半々の可能性といったところですね。確信したのは、男さんにスリーサイズを言うように命令されたときです」

女友「スリーサイズ?」



女友「ええ。女が言ったのは84・60・80でしたか」

女「そうだね」

女友「……この数値、鯖を読んでますよね?」

女「い、いやそんなこと……私はナイススタイルで……」

女友「親友の目を誤魔化せると思ったのですか。本当はもっと貧乳でしょう。パッドを入れた数値を申告した時点で、命令に従っていない=魅了スキルにかかっていないと判断しました」

女「な、何で私の本当のスリーサイズを知ってるの!? ていうか酷いっ! そんな判断方法を取るなんて!」

女友「あなたが空しい見栄を張るのが悪いんです」

女(女友の言葉は容赦がない。ちなみに女友との胸囲格差も容赦がない)



女友「となれば後の出来事は簡単です。男さんがイケメンさんに襲われた際、魅了スキルで追ってくるなと命令されていたのに駆けつけられたのは」

女友「そもそも魅了スキルになんてかかっていなかったから命令の意味が無かったということですね。魅了スキルの外で助けたいと思ったとか関係ありません」

女「はい……その通りです」

163 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/10(土) 21:57:03.51 ID:hc/kgHeB0

女友「ここまでボロが出てるのに気づかれなかったのは、色んな要因が重なったからでしょうか。まずは女が元の世界で男さんが好きだってことをおくびにも出したことが無かったこと」

女「隠すのは上手いからね!」

女友「まあ、ヘタレなだけですが。次に男さんの自己評価の低さからでしょうか。学校にいたときから女に好かれているなんて、おそらく一片たりとも考えたことが無いのでしょうね」

女「うーん……これはどう反応すべきなの?」

女友「ヘタレ女と自己評価の低い男で相性がいいんじゃないですか、適当ですけど」

女「やったー……って適当なの!?」

女友「こんなの真面目に付き合ってたら、精神力がいくらあっても足りないです。後は女と男さんが釣り合いが取れてないからでしょうか?」

女友「スクールカーストトップが、言い方悪いですが最低辺に恋するなんて思いもよらないですからね。一体どういう経緯で好きになったのかは気になるところですが」



女「え、えっと……言わないと駄目?」

女友「いえ、お楽しみはまたの機会に取っておきましょう。……ではなくて、あまりに一度にたくさん聞き出すと女も大変でしょうからね遠慮しておきます」

女「今の言い直す必要あった!?」

女(面白がっていることを隠そうともしていない)

164 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/10(土) 21:58:44.46 ID:hc/kgHeB0

女友「というわけで状況の整理は出来ましたが……これからどうするつもりですか?」

女「どうするつもり……って、宝玉を集めて元の世界に戻るためにみんなで頑張って」

女友「そういう大局的なことではありません。男さんとの仲をどうするつもりなのかってことです」

女「お、男君と!?」

女友「話の流れで分かりませんか?」

女(だんだん女友の迫力が増している。……それほど私のヘタレさにイライラしているのかもしれない)



女「えっと……それを聞いて、どうするの?」

女友「そう構えないでください。アドバイスをしようと思っているだけです。あわよくば楽しもうなんて思っていません」

女「それ思ってるよね……でも、女友も魅了スキルにかかって男君に好意を持っているはずなのに、私にアドバイスって……その大丈夫なの?」



女友「最初こそ突然の好意に振り回されて子作り宣言してしまいましたが、慣れた今は完全に支配下においています。心境としては親友が良き男性とくっつくのを応援したいといった感じでしょうか」

女「そ、そう……良かった、女友が恋敵になんてなったら、一瞬で負けてもおかしくないし」

女友「まあ、ヘタレに負けるとは思えません」

女(酷い言われようだ)

165 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/10(土) 22:00:01.03 ID:hc/kgHeB0

女友「それで男さんとの仲はどうするつもりなのですか」



女「そ、それは……せっかく一緒のパーティーになったんだし、宝玉を集めながらも仲を深めて……こっちも魅了スキルで好意を持っているって言い訳で迫ることが出来るし……それでいつの日か男君から告白してきてゴールインって感じで……」



女友「全く、脳内お花畑ですね♪」

女「辛辣すぎない!?」



女友「男さんがどうして一人拠点を飛び出したのか忘れたんですか? 事情は分かりませんが……どうやら、男さんは嘘の好意にトラウマを持っているようです」

女友「……勝手な予想ですが、自分に好意的な女子に告白したけど、相手は眼中に無かったとかいう出来事を過去に体験しているとかでしょうか」

女「まるで見てきたことのように話すね……」



女友「つまり女にいくら迫られたところで、男さんの視点では女は魅了スキルにかかっていると思っています」

女友「となればそれは作られた好意により起こした行動、心の籠もっていない行動となり、受け入れることはあり得ません。つまり二人が結ばれる日は永遠に来ないのです」



女「…………ど、どうしよう、女友」

女友「今ごろ事の重大さに気づいたのですか」

166 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/10(土) 22:00:43.77 ID:hc/kgHeB0

女友「しょうがない親友のために二つ選択肢を示しましょう。いいですか?」

女「はい、女友様!」

女友「調子のいい子ですね……一つ目は、すぐに自分が魅了スキルにかかってないことを明かし、元の世界にいたときから好きだったと告白することですが」

女「(ブンブンブン)」

女友「残像が出るほどに首を横に振っている以上無理でしょうね。そんな度胸があるならこんなややこしい事態になっていません」

女友「……全く、どうしてああやってパーティーに誘うことは出来たのに告白は出来ないんでしょうか?」



女「だ、だって……あれはまだ魅了スキルのせいって心の中で言い訳出来たから……。あ、あれでも心臓が張り裂けそうだったんだよ! 告白なんてしたら、心臓が破裂して死んじゃうって!!」

女友「死ぬわけ無いでしょうが」

167 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/10(土) 22:01:37.65 ID:hc/kgHeB0

女友「はぁ……では二つ目の方法です。それはこのまま誘惑を続けることです」

女「誘惑……って、ん? 私が言った男君に迫るってのと何か違うの?」

女友「まあ、似たようなものですね」

女「えー……なのに私お花畑って罵倒されたの?」

女友「黙らっしゃい。似てはいますが、狙いが違います。男さんはトラウマにより、このままでは女を恋愛対象と見ることがありません」

女「ふむふむ」



女友「しかし、男さんは年頃の男の子です。トラウマを抱えているとはいえ、性欲はあるはずです」

女「なるほ……えっ!?」



女友「なので誘惑することで既成事実を作り、責任を取るように迫りましょう」

女「ちょ、そ、それはあんまりだよ!」

168 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/10(土) 22:02:29.84 ID:hc/kgHeB0

女友「そうですね……女の心配も分かります」

女「よ、良かった……女友が分かってくれて」



女友「つまり、女はこう言ういたいのですね――流石に妊娠はマズいと」



女「そんな心配してないって!? ああいや、確かに言っていることは正しいけど!?」

女友「男さんが重すぎる責任を恐れて、逃げるという可能性を考えているんですね」

女「いや、そうじゃなくて……女友はさ、こう、倫理的って言葉を覚えようって!!」

女友「倫……理……? はて……?」

女「いや、知らない振りしないでよ」



女友「というわけで既成事実はマズいですから、まあ行為ぐらいで我慢しましょう。男さんならばそれくらいでも責任は感じてくれるはずです」



女「こ、行為って……それって……////」

女(顔からプシューと煙が出そうなくらい熱くなる)

女(そういえば女友は男君にいの一番に子作りを迫っていたり、どうにも思想が過激だ)

169 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/10(土) 22:03:18.10 ID:hc/kgHeB0

女友「煮え切らないですね。自分から告白する勇気がないならばこれが一番の近道なのですが……何が不満なんですか?」

女「だ、だって…………」

女友「……?」

女「理由言っても笑わない?」

女友「内容を聞かないことには分かりませんとしか」



女「そこは嘘でも笑わないって言って欲しかったけど……そ、そのね。そうやって男君の一時的な衝動から負い目作ってそこに付け込んで付き合っても……心が通じ合っているとは言えないじゃない」

女友「心……」



女友「お互いがお互いを想い合う……それが私の恋愛の理想なんだけど……あはは、やっぱり夢見過ぎかな?」

女友「………………」



女(照れ臭くなった私は笑って誤魔化すが、思いの外女友は真面目な顔つきだった)

170 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/10(土) 22:03:56.54 ID:hc/kgHeB0



女友「いえ……そういう人がいてもいいと思いますよ。私には理解できませんが……その考えは尊重します」

女「女友……」



女(親友が遠い目をしている)

女(これでも長年の付き合いなので何となく分かる、女友の家庭環境が関係するのだろう)

女(でも、それを自ら言いださないということは踏み込むタイミングではないということだ)

女(ならばその女友の意志を尊重するし……逆に助けを求めてくれれば、いつだって絶対に駆けつけると決心する)







女友「っ……」

女(女友は珍しく感傷に浸っていたことが恥ずかしいのか気まずそうに顔を伏せて)

女友「………………まあそれとは別に、自分から告白する勇気もない人が心を通じ合わせられるのかは疑問ですが」

女「そ、それは言わないでもらえるとありがたいです……」

女(ここまで切れ味鋭い毒が飛んでくるなら、もういつも通りに戻っているかな)

171 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/10(土) 22:05:17.59 ID:hc/kgHeB0



女友「では、女の要望をまとめておきましょうか。過激なことをするのはNGで、負い目に付け込むのではなく心が通じ合った関係を作るために、相手は自分をトラウマに思う状況を作っていますけど、それでも自分から告白する勇気はないので相手から告白するように仕向けたいということですか」



女「……あ、あれ? そうやって並べられてみると私わがまま過ぎない……?」

女友「今さらですか」

女「女友えもん、何か解決策出してよ〜」

女友「ネコ型ロボットではありません。……まあなら方法は一つしかないでしょう。男さんのトラウマから来る恋愛アンチを克服させるということです」

女友「逐一指示は出しますが、基本的には男との距離を縮めればいいでしょう。出来ますね?」

女「うん! 頑張るよ!」



女(元の世界に戻るために宝玉を集めるのも大事だけど……でも、この異世界にいる間に絶対に男君といい仲になってみせる!!)

女(私は決まった方針にガッツポーズを作って奮起した)









女友(トラウマから来る恋愛アンチの克服……言葉にすれば簡単ですが、それがどれだけ茨の道なのかは……分かってなさそうですね)

女友「はぁ……」

女友(のうてんきな親友を見て、今夜何度目になるか分からない溜め息を吐いた)

172 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/10(土) 22:09:14.77 ID:hc/kgHeB0
続く。

>>155 >>156 ありがとうございます。
>>157 またの機会になります、申し訳ないです。

元作品 http://ncode.syosetu.com/n3495fc/
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/10(土) 23:33:47.52 ID:vWwgNgouo
乙ー
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/11(日) 02:44:13.18 ID:YnP6vLE40
乙!
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/11(日) 08:19:55.62 ID:z2Onz+Fk0

女友さん、まるで知っていたように男のトラウマあてるな……
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/11(日) 16:33:13.86 ID:QaR4CcZO0
ワシの好きなタイプの主人公やな
177 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/11(日) 21:58:34.51 ID:R0pBPhLP0
>>173 >>174 ありがとうございます。

>>175 どうなんでしょう、知っていたんですかね。作者にも分かりません(酷い)

>>176 卑屈系主人公ワシも好き

投下します。
178 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/11(日) 22:01:32.30 ID:R0pBPhLP0

男(俺の自己嫌悪から陥った危機、イケメンの襲撃、パーティーの結成など色々あった濃い夜も明けて朝を迎える)



女「それじゃ出発するよ!」

男(女の言葉に、クラスメイトたちは森へ一歩踏み出す)

男(異世界に来てからずっと生活の拠点としていた広場を出て、人里を目指すときが来た)



男「こんな短い期間だったけど、少しは感慨深く……ならないな」

男(本当生活できるってだけで最低限の施設しかなかったし、現代の日本の暮らしに慣れた俺たちにとって充実度は最悪だった)

男(まあでも未練がないわけではない)



男「あの石碑はやっぱり気になるよな……」

男(俺たちを異世界に呼んだと思われる者によるメッセージ……宝玉を集めれば、世界を救い、元の世界に戻れる……どういうことなのだろうか?)

179 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/11(日) 22:02:49.38 ID:R0pBPhLP0

クラスメイト1「しかし、イケメンも自分たちだけ別行動するとか水臭いよな」

クラスメイト2「何がだ。ちゃんと彼女のギャルも連れて行ってるんだろ? さながら異世界デートってところじゃねえのか?」

クラスメイト3「デートってより旅行じゃね。羨ましいよな」



男(魔物が出る森を気楽に進んでいるクラスメイトたちの話し声が聞こえてきた。まあ、俺以外のやつにとっては危険じゃない場所ではあるが)



男「にしても……イケメンとギャルか……」

男(昨夜、猛スピードで去ったため追跡を諦めた二人は、結局今朝になっても拠点に戻ってくることはなかった)

男(突然の消失に騒ぎになるクラスメイトたちだったが、女が二人は今から向かう村以外に人里を見つけてそちらを見てくるために急遽出たという嘘で収めていた)

男(後で事情を聞いたが、あんなやつでも表では人望があったので、真実を伝えては動揺するだろうから配慮してとのことらしい)

男(結果、昨夜起きたことを知っているのは俺と女と女友の三人だけのようだ)

180 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/11(日) 22:04:04.89 ID:R0pBPhLP0

男「あいつ絶対また襲ってくるよな……」

男(反省しているなら戻ってくるはずだ。それが逃げて潜伏するのを選んだということは……俺の魅了スキルをまだ諦めていないということだろう)

男「まあ、そのときのために女とパーティーを組んだんだ。考え無しに突っ込んできたら返り討ちだ……女の手によって」

男(他力本願でイキる小悪党のような発言をしたところで)



女「……あれ、私の名前呼んだ?」

男「あ、女」

男(集団を先導していたはずの女が、後ろの方にいる俺のところまで戻ってきていた)



男「一番前にいなくていいのか?」

女「私たちは拠点から東を調査していたけど、今は人里がある西に向かってるでしょ? だから正直今どこにいて、どっちに向かっているのかも分からなくて……正直私が先導する意味って無いの」

女「まあ何かトラブルがあったときは対処しないといけないけど」

男「なるほどな」

男(リーダーとして前には立っていたが、道案内は他に任せていたってことだろう。で、今は順調だからこうやって後ろに来る余裕もあると)

181 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/11(日) 22:05:07.43 ID:R0pBPhLP0

男(しかし余裕があるのと、実際に行動するのは別だ。ずっと前にいても良いのにわざわざ下がって俺なんかのところまで来た理由は)

男(……ああ、そういえば昨夜も自分がみんなを導く立場に押しつぶされそうになってたな。それ関連だろう)



男「もしかしてこの後についての相談か? この異世界で初めて人に会うってわけで、どうすればいいか不安になるのも分かるが、俺だって出たとこ勝負だとしか言えないぞ」

男(パターンとしては良くある旅人として無関心に対応されるか、よそものとして排斥されるか……)

男(いや、意外と異世界召喚がメジャーで事情を完璧に把握されているという可能性とかもあるのか)

男(とにかくこの世界の文化が分からない以上、俺たちがどんな態度をとられるかは想像も付かない)



女「あ、うん、そうだね」

男「……あれ、この用件じゃなかったか?」

女「いや気にはなってたけどそうじゃなくて。……あっ、でも男君と同じで出たとこ勝負だと思ってたから、同じ意見ってのは嬉しいよ」



男「……? なら、どうしてわざわざ俺のところなんかに来たんだ?」

男(昨夜みたいに相談でないのならどうして?)

男(何か他に大層な理由があるのかと俺が考えていると)

182 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/11(日) 22:05:58.56 ID:R0pBPhLP0

女「え、特に用はないよ」

男「だったら……」

女「男君と話したかったから……じゃ駄目かな?//」

男(女は少々照れたのか頬を染めて、こちらを上目使いに見てくる凶悪コンボをかましてくる)



男「い、いや……そう言われてもな……」



クラスメイト「……ん? 委員長! ちょっと来てくれないか!?」



女「何かトラブルかな……? ごめんね、男君来たばかりなのに。私行かないと」

男「……ああ、俺のことなんか気にせず行ってこい」

女「うん、じゃあまた後でゆっくり話そうね!」



男「………………」

男「………………」

男「………………」



男「だあっ、もう! ……あれは魅了スキルによるものだ、好意的な仕草に心を動かされるのは仕方ないが……ああ内心どう思っているのかなんて分かりやしない」

男「……勘違いするな、また失敗を繰り返したいのか俺…………信じる? いや無理だろ…………そうだ…………結局…………」

183 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/11(日) 22:06:49.54 ID:R0pBPhLP0

 歩きながらぶつぶつと自戒の言葉をつぶやく男は端から見たら不審者であった。

 男は気にする余裕もなかったが、クラスメイトたちからも奇異な視線を向けられている。

 だが、その内の一つは興味深い物を見る視線で。



女友(思っている以上に女の言葉に心を動かされていますね。トラウマを持っていたとしても、そこは思春期の男の子といったところですか)

女友(糸口が見えてきたように思えますが……反面難しさも明らかになりましたね。執拗なまでの自戒はトラウマの深さの現れですから)

女友(しかし女の上目使い……狙ってやったのならなかなか小悪魔ですが……天然だとしたらなおのこと恐ろしい娘ですね……)

184 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/11(日) 22:08:27.26 ID:R0pBPhLP0

男(女が呼ばれたというトラブルも大したことが無かったようで、一行はその後特に障害無く目的地近くまでやってきていた)



男「聞いてはいたが、規模からしてやっぱり村って感じだな」



男(家や教会など建物がまばらに並んでいるのを見て俺は評価する。あまり大きくは無いが……それでも異世界で初めての人里だ)

男「周辺には畑や田んぼ……農耕で生計を立てているってところか」

男(元の世界の田舎と何ら変わらない光景……強いて言うなら、さらにその外縁を堀や柵で囲っているのが違うか)

男「魔物対策……なんだろうな」

男(この世界で暮らす以上、無視できない驚異への備えといったところだろう)



男(と、観察しながら歩いていたところで先頭が村に後一歩というところまで近づいたようだ)



青年「ふわぁ……っ……。……って、何だ、ちょっと止まれ!」



男(警備なのか村の入り口で突っ立っていた青年が俺たちの姿を認めて制止を要求する。……だが、その直前の大きなあくびのせいで緊張感が全然感じられない)

185 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/11(日) 22:09:18.32 ID:R0pBPhLP0

女「……どうやら言葉は通じるみたいだね。良かった」

男(異世界人とコミュニケーションが取れそうなことに胸をなで下ろす女。……そういや異世界なのに日本語が通じるんだな、石碑も読むことが出来たし心配はしてなかったが)

男(まあ異世界召喚ならよくある話で、勝手に翻訳されてるとかそんなところだろう。



青年「しかしこうもぞろぞろと東から人が来るとは……何の用だ、おまえたち!」

女「申し遅れました。私は女といいます。この村には――」

青年「……って、東? でも、ここより先はあれしか………………思い当たるのは……まさか……!? ちょっと待っていろ、おまえたち!!」

女「あ、あの……話を……」

男(女の自己紹介の途中で、何かに気づいたのか血相を変えて村の中に走って引き返す男)



男(取り残される俺たちだが、相手ははっきりと俺たちに待っていろと要求した。なら、勝手に村に入るのは良くないだろう)

男「しかしあの反応は……俺たちの存在について何か心当たりがあるというところか……?」

男(ならばこの後、無関心な対応は無いだろう)

男(歓待か敵対か。出来れば前者であって欲しいが……後者であっても、これだけの実力者が揃っていればどうにか出来るだろう)

186 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/11(日) 22:10:14.53 ID:R0pBPhLP0

男(しばらくして青年は戻ってきた)

青年「村長、この人たちです! 東からやってきたというのは!!」

村長「……ふむ」

男(村長と呼ばれた老人は顎に手を当て値踏みするように俺たちを見回す)



村長「なるほどな……」 

村長「ここは大陸の東の果て……ここより東に人里は存在しない。あるのは……忘れ去られし女神教の祭壇場のみのはずじゃ」

村長「察するに……おぬしらは女神様の遣い……なのじゃろうか。まさかこんな日が来るとは……」

男(女神教……祭壇場……女神様の遣い。次々に発せられる聞き慣れぬ名詞)



女「つまり……どういうことなのでしょうか?」

村長「おっと、すまぬな若人よ。これだから年を取るというのは辛い。相手の都合にまで気が回らなくなる」

女「は、はぁ……」

村長「ワシは村長じゃ。女神教の神父も兼任しておる。おぬしたちを歓迎しよう」

男(反省はしているようだが、次々と畳みかける言葉はやはり俺たちを置いてきぼりにしている感は否めない)



男「とりあえず……歓迎してくれるようだな」

男(俺たちがはっきりと分かったのはそれくらいだった)

187 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/11(日) 22:13:50.87 ID:R0pBPhLP0
続く。

新展開です。設定説明回が続くと思います。

元作品 http://ncode.syosetu.com/n3495fc/
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/12(月) 00:47:05.30 ID:37oBWH360

男は中学生のメンツとは完全に会わなくなったと思っているけど、全員覚えているとは思えないんだよね
つまり、女友さんが一緒の中学の可能性が……ないか
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/12(月) 01:03:34.56 ID:7x8hZRTdo
乙ー
190 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/12(月) 17:21:39.29 ID:8qMeLV5G0
>>188 >>189 乙ありがとうございます。

投下します。
191 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/12(月) 17:22:51.31 ID:8qMeLV5G0

青年「この家も随分前に主が死んで空き家になっていましてね。息子もいたんですけど、都会に住み慣れたのか帰っても来なくて」

青年「家財道具もそのまま残っているし、ときどき掃除はしていたんで寝ることくらいは出来るはずです。使ってください」

女「ありがとうございます」



男(村長に歓迎すると言われた俺たち)

男(その村長は何やら準備があるということで、村の案内は残った青年がすることになった)

男(今は一通り村を見て回ったところで、最後に俺たちが泊まる場所に来ている)



青年「あともう一件空き家があるんで、そちらも案内しましょうか。それで人数的には十分ですかね」

女「ありがとうございます、青年さん。じゃあこっちの空き家は男子が使って、もう一つは女子が使うことにしようか」



男(元々異世界にやってきたクラスメイトは28人。その内イケメンとギャルは失踪してどうやらこの村にも来ていない)

男(俺たちが訪れることが分かっていたから避けたのだろう。というわけでここにいるのは26人)

男(男女比は半々ということで、一つの空き家に13人が泊まることになる。

男(だが、十分にその人数を収容してあまりあるスペースだった。かなり立派な家である。これが息子も帰ってこないで、空き家になっているということは……)



男「魔法もあるファンタジー世界なのに過疎農村ってわけか。世知辛いな」

男(ここも一つの現実なのだと俺は再認識した)

192 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/12(月) 17:23:41.84 ID:8qMeLV5G0

男(荷物を置いた俺たちは、準備が整ったという村長の要請に従って、村の隅にある教会に向かう)

男(教会には参列者用の席が置いてあり俺たちがそこに座ると教壇に立った村長が口を開く)



村長「おお、参ったな女神の遣いたちよ。色々と確認に時間がかかった。本当にこのような機会が来るとは……」

村長「伝承がワシが生きている内に本当に起こるとは思わなんだ。しかし、同時に世界の危機ともいうわけで……悩ましいのう」



男「いや、だから……」

男(相変わらずのこちらの事情を考慮しないマシンガントークに言葉を上げたのは意外な人物だった)



青年「ああもう、だから親父! みんな置いてきぼりじゃねえか!!」

男(俺たちをここまで案内した青年だ。先ほどまでの丁寧な口調をかなぐり捨てている)



男「親父……? その青年さんって」

青年「ああ、そこの村長の息子だ。すまんな、親父もちょっとボケが回ってきていてな」

村長「失礼な! ワシはボケておらんわい!!」

青年「それはボケ老人の口癖だっつうの!!」

193 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/12(月) 17:24:20.27 ID:8qMeLV5G0

村長「全く。村の番もろくに出来ない、親をバカにする息子でワシは悲しいわい」

青年「ったく、口が減らねえジジイだな。とにかく、こいつらが理解できるように一から説明しろってんだ!」

青年「女神から遣わされたってことは、この世界について何も知らないはずなんだからな!」

村長「言われんでも分かっておるわい!」

男(分かってねえだろ、と俺は心の中でツッコむ。さすがに青年さんのように口に出す勇気はない)



村長「気を取り直して……青年も言っておったが、おぬしらは別世界より呼ばれし者。この世界についての知識はほとんど無いということでいいんじゃな?」

女「はい、その通りです」

村長「ふむ、ではどこから話せばいいのか…………うむ、ではまずこの大陸について話そう」

194 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/12(月) 17:25:04.78 ID:8qMeLV5G0

男(それから数分後……俺は世界共通の真理を見つけていた)



男「どこの世界だろうと老人の話は……支離滅裂だな」



男(最初こそちゃんと説明していた村長だが、話が脇に逸れたりあまり関係ない自分の体験談を挟んだりでとても理路整然とした話では無かった)

男(度々青年さんが注意してくれてその直後は大丈夫なのだが、少しするとまた話が脇に逸れる)

男(そんな何が大事なのか分からなくなる会話を、どうにか俺の中でまとめた)



男(まず、俺たちは巨大な大陸にいるらしい)

男(大陸には王国、帝国、新興国、商業都市、学術都市などさまざまな生活圏があるようで、村長は多くの国に訪れたことがあるようだ。そのせいで体験談などを挟み話が長くなったのだが)

男(今いる村は大陸の東、人里としては最東端に位置しているようだ。これより東にあるのは女神教の祭壇場のみ、とはこの村に来たときも聞かされてはいたが……)

195 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/12(月) 17:26:53.78 ID:8qMeLV5G0

村長「女神教とは太古の昔、この大陸に降りかかった災いを鎮めた女神様を祀る宗教のことじゃ」

女「災い……とは何なんですか?」



村長「そこまでは記されておらぬ。この大陸の危機、人類の存亡にまでかかわつような大きな出来事だったそうじゃが……」

村長「とにかく女神様……いや、祀られる前じゃから一人の女性じゃが、災いを愛の力を活用して収めたのじゃ」

村長「その功績を讃えて、女神として祀られるようになった」



女「なるほど」

男(女神に愛の力ねえ……胡散臭く感じるのは俺が日本生まれの無宗教者だからだろうか)



村長「災いから救って貰った感謝の念があったのか、女神教は瞬く間に大陸全土で信仰されるようになった」

村長「全盛期には、教会の決定は絶対であったほどじゃ」

村長「じゃが、先ほども言ったように災いがあったのも太古の昔、伝承も感謝の念もうつろい風化し……」

村長「次第に女神教を信仰するものは少なくなっていった」

村長「今では女神を信じるものはほとんどおらず……教会がちゃんと残っておるのはこの村くらいじゃ」



男(一つの宗教の栄枯盛衰の物語。ちゃんとこの世界にも歴史があることを実感する)

196 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/12(月) 17:30:52.61 ID:8qMeLV5G0

村長「しかし、それで諦めるワシではない。少しずつ布教活動を繰り返して、最近では――」

女友「それで私たちが女神様の遣いというのはどういうことなのでしょうか?」

男(女友が村長の言葉に割り込む形で質問する。放っておけば自分の過去を語り出す村長の扱いを徐々に分かってきたようだ)



村長「おう、その話があったな。それは女神様が亡くなる最期の言葉のことじゃ。有名な話で、代々伝えられたそれが……こうじゃ」



村長「『災いはまだ終わっていない。この大陸に再度降りかかる。しかし心配はいらない。その時には我が遣いがこの世に召喚され防ぐであろう』……とな」



女友「それは……どういうことでしょうか……?」

村長「ワシにも分からん。こう言っては罰当たりかもしれんが、当然ワシは災いも女神様もこの目で見たことはない。太古の昔、教えの中の存在なのじゃ」

村長「抽象的な、こう概念だと思っておったのが……こうして女神の遣いが目の前に現れたことでワシも驚いているというのが正直なところじゃ」

村長「そして同時に女神の遣いが現実だったということは……」



女友「災いだって現実に起きてもおかしくない……というわけですね」



男(災い……石碑にこの世界を救うとは、再び降り注ごうとするその災いを防ぐということなのだろうか?)

197 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/12(月) 17:31:45.27 ID:8qMeLV5G0

青年「正直親父に言われて祭壇場を定期的に掃除していた俺も驚きましたね」

青年「こんな面倒なことを続ける意味があるのかと思ってましたが……どうやら役に立ったようで良かったです」

男(あの広場……祭壇場の施設は妙に整備が行き届いていると思っていたが、そんな裏話があったとは)



村長「あの地はその昔上からの指令で、代々この村の教会に仕えるものが整備を任されておってな」

村長「女神の遣いが召喚される場所だとは聞いておったが……ワシが生きておる間に本当に起こるとは……」



村長「しかし、どういうことじゃ!? 今おぬしは神聖な祭壇場の掃除を、面倒と言ったな!?」

青年「実際面倒じゃねえか! 魔物が現れる森の中を切り抜けるのが、どれだけ手間なのか分かってるのか!?」

村長「ふん、おぬしには信仰心が足りんのじゃ!」

男(唐突に始まる親子喧嘩。村長に意見してくれる青年もありがたいが……正直これにもかなり時間を取られたような気がする)



村長「説明はこんなところじゃな。分からぬところがあったら聞くぞ」

女友「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて……村長は宝玉という物に心当たりは無いでしょうか?」

女友「石碑に記されていたのですが、どうやら私たちの使命はそれを集めることらしくて……」

198 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/12(月) 17:32:40.12 ID:8qMeLV5G0

村長「宝玉……ふむ、教えにはそのような存在が記された覚えは無かったが……」

青年「石碑にメッセージ……? そんなの見た覚えないですが、召喚と同時に刻まれたんですかね?」

青年「俺も宝玉なんて聞いたことが無いですが……もしかして……」



女友「何かありますか?」

青年「ええ、女神教では教会毎に女神様の像を祀っていたのですが……その胸元にかかっているアクセサリーには本物の青い宝石が使われているんです。この教会にもあって……あれです」

男(壇上に立つ村長の頭上を示す。そこには教会を見下ろすように女神の像が祀ってあった)



女友「言う通り胸元が青く光っていますね」

女「宝石……見せてもらってもいいでしょうか?」

村長「うーむ……神聖な女神像をいじるのは恐れ深いことじゃが……女神の遣いの頼みじゃ。仕方がないのう。倉に整備をする際のはしごがあったはずじゃ。取ってこい」

青年「分かってるっつうの。大体、毎年誰が整備していると思ってるんだ」



男(文句を言いながら青年が教会の外に出て、はしごを取って戻ってくる)

男(それを教会の壁に立てかけて登り、宝石だけを取り外して降りてきた)

199 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/12(月) 17:33:35.02 ID:8qMeLV5G0

青年「ほら、これだ。中に魔法陣みたいな模様があるし特別な代物であるとは思っていたが……でも、本当にその宝玉ってやつなのかは分からないぞ」

青年「正確に判断するには……そうだな、都会に行けば鑑定スキルを持っているやつもいるだろうしそれに頼んで……」



女「いえ、その必要はありません。鑑定スキルなら私も持っています」

青年「……マジかよ。持っていれば多方面から引く手数多で就職にも困らないレアスキルを?」

女「そんなに珍しいんですか?」

村長「食料や鉱石の採集にも役立つから民間からも引っ張りだこじゃし、商品偽造を取り締まる監察官など公務員にもポストがある」

村長「ワシのせがれにもそのようなスキルがあれば、就職に失敗して村に戻ってくることも無かったんじゃがな」

青年「う、うっせえよ、親父! よけいなお世話だ!」

男(どうやら青年は就職に失敗して故郷に戻ってきた口のようだ。……本当この世界は世知辛い)

200 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/12(月) 17:35:15.26 ID:8qMeLV5G0

青年「しかし、鑑定スキルまで持っているやつがいるとは……女神の遣い、あんたたちがどんな力を持っているか気になってきたぜ。後で見せて貰ってもいいか?」

女「それくらいなら。ですが、今はこっちの確認を……」

青年「ああ、気にせずやってくれ」

女「では……『鑑定』!!」

男(女は青い宝石に触れてスキルを発動した)

男(すると、宝石からウィンドウがホップアップして……そこに表示されたのは)



『名称 宝玉
 効果 世界を渡る力を持つ。数を集めることで力が増す』



女「宝玉……やった一つ目見つけたよ!!」



男(俺たちが目的とするその物であることが判明した)

男(一つ目だからかあっさりと手に入ったな)
201 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/12(月) 17:39:45.02 ID:8qMeLV5G0
続く。

この話の主軸は古来から続く『散らばった何かを集める』系の話です。

元作品 http://ncode.syosetu.com/n3495fc/
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/12(月) 18:18:15.88 ID:C5TqywfwO
乙!
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/12(月) 18:51:30.46 ID:1+pCmCMro
乙です!
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/12(月) 18:52:04.63 ID:1+pCmCMro
乙です
続き楽しみに待ってます
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/12(月) 19:05:46.25 ID:bjH8u2qno
色々とキッついな
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/12(月) 21:41:14.63 ID:7ckK6xMqO
乙ー
554.90 KB Speed:0.4   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)