男「恋愛アンチなのに異世界でチートな魅了スキルを授かった件」

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208 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/13(火) 22:03:29.91 ID:+Qc41FMC0
乙ありがとうございます。

>>207
異世界にも社会はあるってことで、存在するつもりで書きましたね

投下します。
209 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/13(火) 22:05:46.17 ID:+Qc41FMC0

男「宝玉……こうもあっさり見つかるとはな」

男(女の鑑定スキルによって表示されたウィンドウにはしっかりと俺たちが集めるべき宝玉の名が記されていた) 



青年「おう、正解だったのか。良かったな」

村長「ふむ、喜ばしいが……しかし……」



女「よし、宝玉一つ目を見つけたね。これが何個かあってどれくらい集めないといけないのかも分からないけど……他の在処もこれで検討が付いた」

女友「そうですね、教会の女神像のアクセサリーに使われている……ということは、他の教会を回っていけば自然と集められることになりますから」



男「いや、そう簡単には行かないぞ。さっき言ってただろ、女神教は既に廃れた宗教。信者も少なくなり……教会が残っているのはこの村くらいだって」

村長「悔しいが、そこの少年が言う通りじゃ。信仰者のいない教会ほど無駄な建物は無い。取り壊しの際に女神像も一緒に壊されてしまったじゃろう」

210 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/13(火) 22:06:31.92 ID:+Qc41FMC0

女「えっ……じゃあ宝玉も壊されて……」

青年「いや、それは無いと思いますね。ここまで綺麗な宝石は珍しいですから、目敏い人間が壊す前に取っているでしょう」

青年「そのまま所有しているか売ったかは分かりませんが……人の手に渡っていると思います」



男「そうだな。壊されていないだろうが、これで面倒な手順が増やされた」

男「教会を壊した際に、誰の元に宝玉が手渡ったのか調べて、さらに今の持ち主にそれを譲って貰うように頼まないといけない」

村長「女神の遣いという立場も、世界を災いから救うという理由も、信仰が失われて久しい今では通じないじゃろうな」



女友「つまり正面から価値のある宝石を譲ってもらわないといけないということですか」

女友「交渉手段として、お金を積む、頼みを聞くなどありそうですが……いずれにしても簡単に行くとは思いませんね」



男(これなら異世界にあるダンジョンの奥地に宝玉があるとか、謎の敵が持っているから奪えとかの方が、力押しが出来て楽だったな)

男(とはいえ、それならそれでやりようがある。……というより、魅了スキルを持つ俺の独壇場だ)

211 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/13(火) 22:07:11.59 ID:+Qc41FMC0

女「村長さん、女神教の教会がどこにあったのか、何か地図でもありませんか?」

村長「それなら探せばすぐに見つかるじゃろうが……一時は大陸全土で信仰されていた宗教じゃ。教会もかなりの数があるぞ?」

女「大丈夫です。すいませんがすぐに用意してもらえますか?」

村長「それならお安いご用じゃ」



女「じゃあそれを待っている間にみんな聞いて!」

女「話の通り教会の数も多いみたいだから、昨夜もちょっと言っていたけど私たちクラスを分けて事に当たることにするね」

女「といっても分散しすぎは良くないから……一つのパーティーは三人以上で構成すること。職やスキルの戦闘スタイルのバランスも考えて組んで欲しいけど……」

女「おそらく長い旅になると思うから、個々人の相性がやっぱり一番かな」

女「というわけで早速だけど……パーティー分け開始!」



男(女の突然の宣言は、二人組作れーならぬ、三人組以上を作れーである)

男(体育の授業ですら争いの種となるこれが、この異世界で期限が検討の付かない生活を左右するのだ)



「…………」

男(教会の空気が一瞬でピリッと張りつめる)

212 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/13(火) 22:08:05.48 ID:+Qc41FMC0

男「……まあ、こうなるよな。良かった先に決まっといて」

男(すでに女と女友、三人でパーティーを組むことに決まっている俺はこれより始まる争いに参加する必要が無いため気楽だ)



村長「……ん、何か皆の様子がおかしいぞ?」

青年「あーこれは……うん、親父逃げた方がいいぜ」

男(察した青年が村長を引っ張って、地図を探しに教会を辞したその直後)



クラスメイト1「俺とパーティー組んでくれませんか!?」

クラスメイト2「あっ、ずるいぞ!! 俺が先に言おうと思っていたのに!!」



クラスメイト3「あ、じゃあ私たち一緒に組もうか」

クラスメイト4「え……う、うん」



クラスメイト5「私もそのパーティーに入りたいけど……駄目?」

クラスメイト6「俺も、俺も! 立候補します!」

クラスメイト7「え、あんたが入ってくるなら止めようっと」



クラスメイト8「……ねえ、私たち友達だよね?」

クラスメイト9「あら、そう思っているのはあなただけよ?」



男(そこかしこで始まる大競り合い、小競り合い)

男(参加していれば胃痛が止まらなかったのだろうが、安全地帯にいるならばこんなにも悲喜交々が混じった面白いエンターテイメントも無いのだな、とまさに人ごとな感想を俺は思い浮かべるのだった)

213 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/13(火) 22:08:42.67 ID:+Qc41FMC0

男(そうして昼ごろに始まったパーティー分けが何とか終わったのは夕方だった)

男(その後は用意してもらった地図を見て俺たちは各パーティーがどこの町に向かうかを話し合った)

男(無事に決まった後、その他細々としたことを決めて明日の朝には旅に出れるほどに準備がまとまったころには夜になっていた)



男(村長はどうやら地図を探しに行った際に村の人たちに事情を説明していたようで話が広まった結果、村の中央の広場で俺たちの歓迎の宴が始まることになった)

男(村の中央には篝火がたかれ、それを村民やクラスメイトたちが囲んでいる。用意された料理や酒を手に、飲めや食えや騒げやで大盛り上がりだ)



クラスメイト1「はっはっは! 初めて飲んだけど、俺って酒強いみたいだな! 全然酔ってねえぜ!」

クラスメイト2「……いや、おまえどっち向いて話してんだよ? 俺はこっちだぞ?」

クラスメイト3「酔ってるやつほど酔ってないって言うの本当なんだな」



男(クラスメイトの中には酒を飲んでいる者もいる。どうやらこの世界では15才から飲酒がOKなようで、高校二年の俺たちは全員その条件を満たしている)

男(元の世界ではまだ飲める年齢ではないので、憧れながらも体験出来無かった飲酒に挑戦している者もいるようだ)

214 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/13(火) 22:09:31.94 ID:+Qc41FMC0

男「しかし光あるところに影があるか……死屍累々が転がっているところもあるな」

男(盛り上がっている一団から視線をはずし広場の一角に目を向けると)



クラスメイト男子A「………………」

クラスメイト男子B「………………」

クラスメイト男子C「………………」



男(クラスメイトの男子三人が顔を付き合わせて放心している)

男(そういや見てたがあいつらは三人一緒のパーティーだったな。……まあ、そりゃ男三人だけで組むことになったときには、ああなってもおかしくないか)

男(クラス全体の男女比は半々であるが、俺が女と女友の女子二人と組むことが決まっている以上、その時点で男女の数は偏っている)

男(また最小単位が三人で奇数なのも、偏らせる原因となったのだろう。気づけば男三人が余り……それに気づいたときの絶望顔は見ているこっちまで胸が痛んだ)

男(これから長い異世界生活に華が無く、むさいことが決定しているのだ。騒ぐ元気も無いということだろう)

男(恋愛アンチの俺ではあるが、それが=女の顔を見たくもないというわけでは無いし、断じてホモでも無い)
215 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/13(火) 22:10:00.16 ID:+Qc41FMC0

男「本当料理が旨いな……酒も飲んでみたいが、また今度の機会だな。ちょっと考えないといけないこともあるし」

男(用意されたサラダや唐揚げを俺は摘む。拠点ではクラスメイトが作る料理を食べていたので、異世界人による料理を口にしたのは初めてだ)

男(文化的に違いはあまり無いようで、元の世界に似た食べ物が散見されるのはありがたい)



村民1「あんたらが女神の遣いか! 話は聞いてるぞ!」

村民2「おう、俺の酒が飲めねえのか!?」

村民3「向こうの世界ではそんなことが……すげえな!」



男(村の人たちにも村長の村長から俺たちの事情が話されたようで歓迎ムードで騒いでいる声が聞こえてくる)

男(しかし、この歓迎もこの地に女神教の信仰が残っているからで、他の場所ではそう行かないだろうと言われている)



男「そういう意味で本当に居心地がいい村だな……明日にはここを出ないといけないのが寂しいくらいだ」

男(今日で準備も出来たとなれば長居は無用。宝玉集めがどれくらい大変なのか分からない以上、少しでも早く取りかかった方がいい)

男(ということで明日朝にはそれぞれの目的地に出発することになっている))

216 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/13(火) 22:10:37.31 ID:+Qc41FMC0

男「さて腹も満たしたし……向かうべきはあそこだろうな」

男(広場には大小さまざまな集団が出来ているが、その中でも真面目な話をしている一団がいる。そこには)



女「あ、男君」

村長「おお、少年か」

女友「ちょうど良かったです、男さんも一緒に聞いていてもらえませんか?」

青年「魅了スキルの少年ですか」



男(女に村長。生徒側と村側のトップに、女友と青年もいる)



男「ああ、いいぞ。こっちも聞きたいことがあるしな」



217 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/13(火) 22:12:48.98 ID:+Qc41FMC0
続く。

この話もなろう式異世界なので、ファンタジー要素がありながら、現実世界的なところもあるという何とも都合のいい世界になっています。

元作品 http://ncode.syosetu.com/n3495fc/
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/14(水) 01:46:01.61 ID:N7U4OaJgO
乙ー
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/14(水) 07:44:41.32 ID:mw7/nX+CO
乙!
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/14(水) 18:51:11.77 ID:q1BBaQbe0
221 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/14(水) 21:45:42.55 ID:kc1O/Kdp0
乙ありがとうございます。

投下します。
222 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/14(水) 21:46:29.20 ID:kc1O/Kdp0

男(俺、女、女友、村長、青年とこの場にいる五人で最初に口を開いたのは女だった)



女「まずお礼を言わせてください。私たちに宝玉を譲ってくださり、旅の資金までも工面してもらって……本当にいただいても良かったのでしょうか?」

村長「ほっほっ、気にするで無い。女神の遣いの使命なのじゃ。宝玉はおぬしらが持っておいた方がいいであろう」

村長「宝玉が無くとも、女神像さえ残っておれば信仰の偶像として成り立つ」

村長「資金だって教会への寄付金を取っておいたものじゃ。なら女神の遣いのために使っても文句は無かろう」



男(今の話は夕方ごろにパーティーが決まり、地図でどこに向かうか決めた後、村長が突然言い出したことだった)

男(教会で見つけた宝玉はそのまま持って行っていいということ。そして教会に集まっている寄付金から、俺たちの旅の資金を援助すると)



男(宝玉は代表して女が受け取り、旅の資金は出来上がった8つのパーティーで分配することにした)

男(女神教は廃れた宗教でもう寄付金も少ないと村長は謙遜したが、それでも分配して尚、およそ二週間は過ごせるだろうという額らしく、先立つものがない俺たちにはありがたかった)

223 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/14(水) 21:47:20.62 ID:kc1O/Kdp0

青年「とはいえ資金援助出来るのもこの一回きりなので、尽きたら自分たちで稼いでもらうしかないですね。……まあ皆さんのステータスからすれば楽に稼げるでしょうが」

男(少しやさぐれている青年)

男(宴の前に話をしていた俺たちのステータス確認を行ったのだが、どうやら俺たちのステータスはこの異世界基準でもかなり高いらしい)



青年「伝説の傭兵も持っていると言われる『竜闘士』の職に、その他有用なスキルを多数持っている女さん」

青年「覚えている呪文数が、学術都市の大魔術師に迫る勢いの女友さん」

青年「唯一、初期職の『冒険家』で親近感も沸いた男さんも『魅了』なんて聞いたこともないスキルを持っていて、ここにいる人だけでもすごい人ばかりじゃないですか」

青年「あーあ、俺もその内一つでも持ってれば、楽に就職出来たのに」



村長「全く。おぬしのそういう性根が見抜かれて、採用され無かったんじゃろうな」

青年「うぐっ……痛いところ突くなよ、親父」

男(どうやら就職に困っているらしいことは聞いていたが、青年は俺たち異世界召喚者が持っているスキルが羨ましいようだ)

224 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/14(水) 21:47:59.75 ID:kc1O/Kdp0

男「しかし……やはり魅了スキルというのは、これまで確認されたことがないスキルなんですね?」

村長「そうじゃな、ワシももう長い間生きておるが聞いたこともない」

男(魅了スキルがこの世界にありふれていたら、それぞれが欲望の限りを尽くして社会がまともに回らないだろう)

男(だから俺はレアなスキルだと踏んでいたが、どうやら当たっていたようだ)



男(にしても齢80は過ぎていそうで、過去の話からして色んな体験をしている村長さんが知らないと言うのだから)

男(レアどころかこれまでこの世界に魅了スキルの使い手は俺だけしかいないと見るのが正しいのだろう)

男(となると、どうして俺がそんなスキルを持っているかは気になるところだが……ふむ)



青年「魅了スキルによって男さんは、この女友さんと女さんにも好意を抱かれているって話でしたよね」

青年「いやー羨ましいです。どんな命令も聞くって事は、あんなことやこんなこともしたんですか?」

男(実に下世話な話を振ってくる。言動が軽い青年だ)

225 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/14(水) 21:48:37.17 ID:kc1O/Kdp0

男「してません。女と女友に対しても暴発みたいなもので……俺は以降、この魅了スキルは宝玉を集めるためにしか使わないつもりです」

村長「うむ。真面目な少年じゃな。うちのせがれのような者が、強大な力故に身を滅ぼしかねないスキルを持たんで良かったわい」



青年「何だよ、親父。いいじゃねえか夢見るくらい。俺だって魅了スキルがあれば大勢の女がかしずくハーレムを作って……」

村長「それを聞きつけた欲深い者に殺されかけて、力で従うように言われるオチじゃろうな」

青年「うえっ、そうか。厄介事も背負いそうだな。なら、噂にならないくらいの規模でハーレムを作って……」

村長「おぬしがそのように欲望を制御できるわけ無かろう」

青年「……ぐっ。くそっ、言い返せねえ」

男(青年が村長にぐうの音が出ない正論をぶつけられる。……しかし鋭いな、今の懸念は正に俺を襲ってきたイケメンのことを言い当てている)

226 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/14(水) 21:49:05.68 ID:kc1O/Kdp0

女「でも宝玉を集めるために魅了スキルを使うってどういうこと?」

男「ああ、言ってなかったな。宝玉が人の手にあるって聞いて思いついたんだ」

男「例えばもし女性が宝玉を持っているなら、俺が魅了スキルをかけて譲るように命令するだけで手に入れることが出来るだろ」



女「そ、それは……」

女友「宝玉は価値ある宝石だと思われています。正面から譲ってもらうのは大変とは先ほども話してましたが……まさかそのような方法があるとは」



男「まあ、その反応も分かるさ。つまるところ俺のやろうとしていることは強盗だしな」

女「そうだよ!! そんなことやっちゃ駄目だって!!」

女友「……ですが、そうやって一概に否定する方法でもないと思いますよ。金を積んで譲ってもらえるならやりやすいですが」

女友「例えば宝玉が親の形見になっている人なんていたら、譲ってもらうのは困難です。そういうときは男さんの魅了スキルの強引さも必要だと思います」



男「まあなるべく犯罪はしないようにするって。普段は円滑にゲットするためのサポートに使うくらいだ」

男「そういう強引な手段は最後にする。これも元の世界に戻るため、ひいては世界を救うためなんだ」

女「世界を……うーんいや、でも」

女友「私はいいと思いますよ」

227 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/14(水) 21:49:35.97 ID:kc1O/Kdp0

村長「これこれ、全くワシの前で堂々と犯罪相談をするでない」

男「あ、村長さん」

村長「女神教の教主としては犯罪に手を染めることは賛成出来ぬ」

青年「でも、親父よう。男さんの言うことも一理あると思うぜ」

青年「大体元々女神教のものだったんだ。それを取り返すって考えればいいんじゃねえか?」



村長「取り返す……? うーむ……そうか。……そう考えると……悩ましいが…………」

村長「………………」

村長「少年も言っていたように、なるべく犯罪にならないように手段を尽くすこと」

村長「それでもやむを得ぬ場合は……女神教最後の教主として、そなたの行動を赦そう」

男「お墨付きか。ありがたいな」



女「……分かった。でも、ズルは駄目だからね。私が見逃さないんだから」

男「分かってるって。そもそも魅了スキルのことを余り多くの人に知られたくないんだ。目立つような行動は避けるって」

男(多くの人に知られれば、その中にイケメンのように俺の魅了スキルを手に入れようとする者が現れるかもしれない)

男(元から目立つような犯罪をするつもりはなかった)

228 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/14(水) 21:50:11.24 ID:kc1O/Kdp0

男「というわけでそんな感じで集めるとして……でも、やっぱりどうして女神像に宝玉が使われていたのかは気になるよな」

女友「……そうですね、どこの教会も同じだったということは、誰か指示したものがいたということです。もしかしたらその方は宝玉の価値を分かっていたのかもしれません」

村長「そうじゃな。ワシは宝玉について知らんかったが……その昔、女神教の中枢にいたものなら知っておってもおかしくはない」

村長「といっても組織も崩壊して久しいから、知っておった者も亡くなっておるじゃろう。知識を記した書物などが残っておればいいが……」

男「そういうのが見つかったらありがたいんだけどな」



男(この村に来て分かったことも多いとはいえ、未だに宝玉が何個あって何個集めれば元の世界に戻れるのか)

男(大昔に起きて今また起きようとしている災いとは何なのか)

男(なぜ宝玉を集めることが世界の危機を救うことになるのか、など疑問は尽きない)

229 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/14(水) 21:50:40.23 ID:kc1O/Kdp0

村長「まあ難しい話はここらへんで良かろう。今宵は宴、そろそろ若人らしく飲んで食べて騒いではどうじゃ?」

女「そうですね、お言葉に甘えさせてもらいます。ちょっとみんなに挨拶して回ろうかな」

女友「なら、私も付き合いましょうか」

男(女と女友は一礼すると、未だ続いている騒ぎの中心に向かう)



青年「っと、俺もそろそろ手伝いに戻らないとやばいか。……あーでも若いからってこき使われるんだよなー、嫌だなあ」

男(青年も実に気が進まない様子でその場を離れる)



男「………………」

村長「………………」

男(残ったのは俺と村長だけになった。何となくこの場を離れるタイミングを逃したな……)

230 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/14(水) 21:51:06.78 ID:kc1O/Kdp0

村長「少年、おぬしは少女たちと一緒に行かなくていいのか?」

男「あー……二人と違ってみんなと挨拶するような仲でも無いので。明日からしばらく会えないって言ってもそれでという感じで……まあなのでそろそろ空き家に戻って寝ようかと」

村長「ふむ、これが近頃話題のドライな若者といったやつなのか?」

男「あ、こっちの世界でも問題になってるんですね」

男(この世界に来てから何度も同じようなことを思っている気がする)



村長「しかし……」

男「……?」

村長「先ほどは真面目な少年と言ったが……どうやらそうではないようじゃな」

村長「大きな歪みを抱えておるのに、それを表面上は取り繕って過ごしておる。実に危うい状態じゃ」

男「っ……!?」

231 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/14(水) 21:51:49.83 ID:kc1O/Kdp0

村長「良ければ事情を聞いても……」

男「どうしてそんなこと話さないといけないんですか?」

男(感情が制御できず、ありったけの拒絶の意がこもってしまう)



村長「……それもそうじゃな。いやはや出過ぎたことを言った、忘れてくれ」

男(気まずそうに頬を掻く村長)

男(俺の事情を表に出したつもりはないが……年の功と教会の神父といった立場から見抜いたってところだろうか? だとすれば流石である)



男「いえ……こちらこそすいません」

男「ですが、俺自身でどうにかするつもりなので大丈夫です」



村長「そうか……やはり余計な言葉だったな」

村長「女神教の神父として、そなたの行く末に祝福を願おう」



男「ありがとうございます」

男(一礼して俺は空き家に向かった)

232 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/14(水) 21:52:34.49 ID:kc1O/Kdp0
続く。
明日が第一章最終話です。

元作品 http://ncode.syosetu.com/n3495fc/
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/14(水) 21:58:55.18 ID:N7U4OaJgO
乙ー
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/14(水) 22:02:32.35 ID:Ulxx42UY0

男が誰かに自分の過去を話す機会はあるのだろうか……
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/15(木) 06:57:34.65 ID:Ojdzh+KAO
乙!
236 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/15(木) 19:48:00.65 ID:X9VmG+0p0
毎度、乙ありがとうございます。

>>234 そんな機会が来るくらいエタらずに頑張りたいですねー。

投下します。
237 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/15(木) 19:48:39.85 ID:X9VmG+0p0

男(宴の翌朝。これより俺たちは元の世界に戻るため、この世界の各地に赴き、宝玉を集めることになる)

男(そんな旅立ちの朝にふさわしい晴れ空の下には――)



クラスメイト1「あー……飲み過ぎた……」

クラスメイト2「二日酔いってこんなに辛いのか……」

クラスメイト3「うげえ……吐きそう……」

男(実に顔色の悪いクラスメイトたちがいた)



女友「全く締まりませんね……ほら、二日酔いにも効く魔法をかけますから、一列に並んでください」

男「そんなのあるんかい」

男(女友が軽く言い出したことに驚く俺。どうやら状態異常を治す魔法の一種らしいが、その中でも系統上位の魔法は二日酔いに効くらしい。それを女友は持っているというのだ)

238 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/15(木) 19:49:32.49 ID:X9VmG+0p0

女「青年さんも言ってたけど、女友が覚えている魔法ってすごい多いみたいだね」

女「そういえば男君は二日酔い大丈夫だったの?」

男「ああ、昨日は酒飲む気分じゃなくてな」

女「私と同じだね。私の家系って下戸が多いからたぶんすぐ酔っちゃうだろうし遠慮しといたんだ」

男「そうか。俺は両親ともに酒に強かったしおそらく大丈夫だとは思うが」



男「というか二日酔いが状態異常扱いなら、耐性がある女は大丈夫じゃないのか? 魅了スキルだってかかり悪くしているわけだし」

女「あ、そう言われてみるとどうなんだろう……? な、なら……え、えっと……その、今度機会があったら、お酒付き合ってくれる?」

男「……まあ一緒のパーティーなわけだし、機会くらいあるだろ。そのときにな」

女「うん、約束したからね!」



男(顔をほころばせて嬉しそうにしている女)

男(……うん、まあ、あれだ。サラリーマンだった両親も、飲みニケーションは大事って言ってたしな)

男(これよりしばらく行動をともにするわけだしその一環で女も提案しているだけだろう。そうに違いない)

男(……しかし、お酒付き合ってってなんか大人なセリフだよな)

239 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/15(木) 19:50:15.39 ID:X9VmG+0p0

女友「最後の一人も終わり……っと」

女「女友、お疲れさま」

女友「これくらいお安い御用です。それより見てましたが、自然と男を誘えてましたね」

女「……しょ、正直未だにすごく心臓がバクバクしてます」

女友「それでも誘えたなら上出来ですよ。……しかしお酒の席、酔った二人、一夜の過ちには絶好のシチュエーションなんですけど……」

女「だ、だからそういう強引なのは駄目だからね!!」





男「……ん、何か二人で話してるな」

男(女が女友を労いに向かい少し離れたので、何を話しているのか聞こえないが……)

男(どうやら仕草から見て女が女友にからかわれているようだ)



男「しかし、あの女をからかえるなんて、やっぱり大物だよな女友は……」

男(俺から見ると女にそんな隙は無いように思えるのだが……親友の前だと違うのだろうか?)

240 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/15(木) 19:50:49.02 ID:X9VmG+0p0

男(二日酔いも治り、気を取り直した俺たちはそれぞれ荷物を持って村の広場に集合する)



クラスメイト1「また……絶対に会おうな」

クラスメイト2「当たり前だろ!!」



男(ガッシリと固い握手を組むクラスメイトの男子二人)

男(広場ではパーティー間での交流が行われていた)

男(これより俺たちは8つに分かれて行動を開始する。同じパーティーなら長い間行動を共にするわけだが、それは裏返すと違うパーティーとは長い間会えないことになる)

男(そのため違うパーティーに仲のいい友達が存在するようなやつらはその別れを惜しんでいるというわけだった)

241 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/15(木) 19:52:02.48 ID:X9VmG+0p0

男「つまり、俺にとってはどうでもいいってことだな」

男(魅了スキルで繋がりが出来た女と女友以外とは未だに馴染めていない。興味も無く、所在なさげに佇んでいたところに)



クラスメイト1「そういや男! おまえの魅了スキルは頼りにしているからな!」

クラスメイト2「そうよ、女の話によると女性からなら無条件に宝玉を譲ってもらえるんでしょ?」

クラスメイト3「すげースキルだが……俺の方が絶対集めてやるんだからな!!」



男(何故か人だかりが出来ていた)



男「……どういうことだ、これ?」

男(ほとんどが話したこともないクラスメイトだ。なのに妙に馴れ馴れしいというか……)

242 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/15(木) 19:52:44.97 ID:X9VmG+0p0

女友「昨夜の宴で女が魅了スキルの有用性について説いて回ったからかもしれませんね」

男「女が?」

女友「ええ。村長の村長さんの話を聞いた後に挨拶に回ったって言いましたよね? そのときに、話の流れから女が男の力について力説して……」

男「そんなことがあったのかよ。……ったく、どうして女友も止めてくれなかったんだ?」

女友「それは止める理由が無かったからですわね」

男「いや、あるだろ。俺の力についてあんまりアピールされるととマズいんだっての」

男(女性を支配するスキルなんて、知れば欲しがるやつは出てくるだろう。その内イケメンのような強硬な行動を取るやつが出てきてもおかしくない)



女友「だからこそです。魅了スキルの強力さと同時に危うさも伝えて、なるべく言いふらさないように注意しておきました」

男「なるほど……女もそのつもりで」

女友「いえ。女は子供を自慢気に話す母親のように、男さんを誉め讃えるだけでしたから、私が補足したところです」

男「駄目じゃねえか」

243 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/15(木) 19:53:21.20 ID:X9VmG+0p0

クラスメイトA「期待してるぞー」

クラスメイトB「頑張ってね」

クラスメイトC「応援しているからな」



女「わっ、すごい人だかり。もしかしてこれって……男君に対する応援!? 良かったね、男君!」

男「いや、どこに喜ぶ要素があるんだよ。正直俺をよくも知らないのにどうしてあんなに期待できるんだか呆れる気持ちの方が大きいな」

男「まあ言うだけならタダだし、俺が頑張ってくれればラッキーだからな。ノーリスクハイリターンってわけか」

女「え、えっと……ずいぶん個性的な考え方だね」



男「まあな。そりゃ俺だって元の世界に戻りたいんだ。やる気はあるが、失敗する可能性もある。期待されても困るんだっつーの」

女「でも、ほら。期待されてると、それに応えてやるぞーって感じで力が漲ってこない?」

男「こないな」

女「全否定っ!?」



男(女が驚いているが、そのような楽観論に基づいた思考回路は俺の脳内に存在しない)

男(あるのは勝手に期待しておいて、失敗したら勝手に失望するだろうウザい反応が気にくわないという思いだけだ)

244 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/15(木) 19:53:55.81 ID:X9VmG+0p0

女友「二人とも逆のベクトルなんですね。期待に対して女は正の面に、男は負の面に捉えていると」

男「みたいだな。……まあでも女の考え方も分かるさ。そうでもないとみんなの期待を一身に背負うリーダーなんて出来ないからな」

男「ただ理解は出来るが、俺にはゴメンってだけだ」

女友「そうですね。ただ逆のベクトルとはいえ、二人とも期待に誠実に向き合っています。似たもの同士ですね」

男「対極故に近しいってやつか」



女「似たもの同士って……もう、恥ずかしいじゃない、女友!」

男(何故か恥ずかしがっている女。似てはいるが真逆のため相容れ無いという話なのだが……分かっているのだろうか?)



男「まあいいか……ところで女友、あんたは他人に期待されたらどうするんだ?」

女友「それはもちろん……期待を裏切るに決まってますわ。良い方向か悪い方向はともかく、期待通りの行動なんて詰まらないですもの♪」

男「ああ、あんたは期待に対して最も不誠実なやつだよ」

245 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/15(木) 19:54:31.05 ID:X9VmG+0p0

男(そんな出発直前とは思えない緊張感の無い会話だったが、時間になりみんな整列して女が前に立つとさすがに引き締まる)



女「これより私たちは宝玉探索のための旅に出ます。目標は元の世界への帰還、並びに世界の危機を防ぐこと」

女「人の手に渡った宝玉を譲ってもらうことには苦労がかかると思う。だから、みんなの尽力を期待しているね」

男(女の言葉に小さく、しかししっかりとうなずくクラスメイトたち)



女「きっと多くの困難も待ちかまえていると思う。でも、私は信じているから。みんななら、私たちなら成し遂げられるって!!」

男(女の言葉は大仰であるが……異世界でその世界を救うなんて事態になっているのだ。その言葉にあうだけのスケール感はあるだろう)



女「みんなバラバラになることに心寂しく思うかもしれない」

女「でも、忘れないで。離ればなれになってもこの世界のどこかに仲間がいて、一緒に頑張っているってことを!」

女「それではしばしの別れを……必ずの再会を願って!!」



クラスメイトたち「「「うおおおおおおっっ!!」」」



男(雄叫びのような声が上がる)

246 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/15(木) 19:54:57.73 ID:X9VmG+0p0

男「……大したやつだな」

男(異世界に来て力を授かったとはいえ、元の世界では高校生だった身)

男(何が起こるか分からないこの異世界でバラバラになることに不安を持っているやつだっていたはずなのに、今の女の言葉がそれを吹き飛ばした)



男(とはいえ、もちろん女の言葉だって無責任な期待だ。先ほど俺に投げられた言葉と何ら代わりやしない)



男「いつか俺も人を信じて……こういう言葉に応えたいって思うようになるんだろうか……?」

男(死の間際に後悔して、治そうとは思っている俺の性格。とはいえ深く根付いたそれは一朝一夕で変えられるようなものでは無いが……)



男「この長くなるであろう異世界の旅路で……変われるのか?」



247 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/15(木) 19:55:36.62 ID:X9VmG+0p0

男(それから村の外まで場所を移した)



村長「頑張るんじゃぞ、女神の遣いたちよ!」

青年「まあほどほどにな!」

村民「また帰ってきたときは宴を開くからな!」

男(村長やその青年、その他村民に見守られながら)



女「行くよ!」



男(俺たち26名は、それぞれの目的地に向け、八つの方向に一歩踏み出した)

男(旅の開始である)
248 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/15(木) 19:57:04.77 ID:X9VmG+0p0
一章完。
続きの二章『商業都市』編は新スレを立ててやろうと思います。

ここまで読んでいただきありがとうございました。
これからもどうかよろしくお願いします。



この作品は同タイトルで小説家になろうに投稿している作品を、ss用にいじって投下しています。
元作品 http://ncode.syosetu.com/n3495fc/
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/15(木) 20:11:29.26 ID:5piKgi/4O
乙ー
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/15(木) 20:59:18.89 ID:iG029GJUo

だけど章ごとにスレ分けると叩かれそう
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/16(金) 08:29:13.73 ID:tzup/e3AO
乙!
252 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/16(金) 21:35:30.88 ID:KSI/sfAT0
乙、ありがとうございます。

>>250 ですね。やっぱりこのスレで続きを書いて行こうと思います。



というわけで二章『商業都市』編投下します。
253 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/16(金) 21:36:10.46 ID:KSI/sfAT0
男(目的地に向け歩き出した俺たち)

男(現在地は森の中……ここ数十分は変わらない景色が続いている)

男(とはいえ人が行き交う道のようで整備がされているため、祭壇場の周りを探索していた頃よりかは歩きやすい)



女「旅の開始だね……よしっ、やるぞー!!」

女友「あまり最初から飛ばしすぎるとバテますよ」


男(先行する女と女友の二人に俺が遅れて続くという形で進んでいる)

男(クラスメイト26人だったのが一気にパーティーメンバーの3人、俺と女と女友だけになって居心地が悪く……)



男「ならないな……元々二人とくらいしか会話してなかったし」

男(クラスで孤立していたことがここで影響するとは)

254 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/16(金) 21:36:44.10 ID:KSI/sfAT0

男「ところで俺たちが最初に向かう商業都市ってどんなところなんだ?」

女友「ええ、ちょうどその確認をしようと思っていたところです」

男(女友は頷くと、村長から授かった情報を披露した)



女友「商業都市の起源は元々商人が長旅をする際の宿泊地だったそうです」

女友「それが多くの人がやってくるようになって宿が増え、商人相手に商売する者も現れて、町の規模が大きくなって」

女友「商人たちが共同でお金を出し合い、魔物の対策のために塀で囲い兵を雇って……と、商人を中心に発展した経緯がありますね」
男「なるほど」

女友「そのため今でも商業都市は大商人会という、大きな商会のトップが集まる会議が行政を担っているようです」

女友「この地にあった女神教の教会の取り壊しもおそらく行政側が行ったでしょうから、その大商人会の誰かの手に宝玉が渡ったのではないか……と、村長さんの予想です」



男「売り飛ばしてなければ、今もその大商人ってのが持っているわけか……」

女「どう思う、男君?」

男「最初から面倒な案件になりそうだな」

255 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/16(金) 21:37:55.68 ID:KSI/sfAT0

男「まず、現在の俺たちの身分は村民って扱いだ」

女友「村長がそのように図ってくれたからですね」



男(『俺たちは異世界出身の女神の遣いです』なんて言葉は女神教の信仰も失われた現代では通じないため、村長が親切にも申し出てくれた)

男(日本のようにガチガチな管理社会でもないため、村長がこいつは村の出身だという書類を書くだけで簡単に身分の偽造が通るらしい)



男「つまり女神の遣いだからって特別な権限は何も持っていないただの一般人だ」

男「対して相手は町の行政を担うようなトップ階級」

男「となれば会うのも一苦労、ましてや宝玉がどうなったのか、持っているなら譲ってもらうように話を付けるなんてそれ以上の難題だ」



女友「商業都市は都市と名が付いていますが、一つの独立した国のようなものです」

女友「そのトップとなると日本でいえば総理大臣のようなもの……対して私たちはただの旅行客という事ですから、交渉の場を設けること自体が厳しいでしょう」

256 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/16(金) 21:38:37.89 ID:KSI/sfAT0

女「あんまり気は進まないけど……宝玉を持っている大商人を魅了スキルで虜にして、取引に応じてもらうか譲ってもらうように命令する……のが早いのかな」

男「その大商人が女で、しかも俺が魅力的だと思えたならな」

女「あっ、その条件があった……」



男(魅了スキルにかけられた二つの枷。異性で魅力的な相手にしかかけられないというもの)

男(男やブスに間違ってかけるという失敗が無いのはいいものの、それは男やブスを操れないということでもある)

男(商会のトップを務めるようなやつだ。男女共同参画社会なんて言葉がこっちの異世界でも流行っているのかは分からないが、まあ十中八九で男だろう)



男「まあ抜け道は存在するけどな。大商人が男だったとしても、例えばその妻から攻略する方法がある」

男「魅了スキルをかけて夫に会わせるように命令するとかな。偉いやつが妻にするような女だから、おそらく魅力的だろうし」

女「そんな方法が……」

男「他にも色々方法は考えている。魅了スキルで女を支配できる以上、選択肢はかなり多い」

男「難易度が高いとはいえ、こんなところで躓いてられないしさっさと攻略するぞ」



男(魅了スキルだけがこの異世界における俺の武器だ。使い方、生かし方は常日頃から模索している)

257 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/16(金) 21:39:05.37 ID:KSI/sfAT0

女「すごいね……男君は」

男(何故か女が意気消沈している)



男「どうした?」

女「だって……その目論見通りに行ったとしたら、私がすることなんて無いでしょ?」

女「みんなに対して頑張ろうって言ったのに……私だけこんなおんぶにだっこでいいのかな……って」

男「つまり自分が役立たずだと……言いたいわけだな?」

女「うん」



男「はぁ……そんなわけあるか」

女「いてっ」

男(女に右手でチョップを軽く下ろす)

258 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/16(金) 21:39:41.36 ID:KSI/sfAT0

男「適材適所ってだけだ。俺が魅了スキルで交渉に適しているから今回の宝玉獲得に向いてるだけだ」

男「今後女の力じゃないと駄目なパターンもあるだろうし……それにどうして俺が女とパーティーを組みたいって言ったのか忘れたのか?」

女「えっと……何かあったときに守って欲しいから?」

男「そういうことだ。というわけで……早速頼むぞ」

女友「そうですね、女。顔を上げてください」



男(うつむいていたため、女は気づいていないようだが、女友は既に臨戦態勢に入っている)

男(というのも、目の前に魔物が現れたからだ)

男(形態は不定形。俗に言うスライムというやつだろうか。とはいえ人間の腰ぐらいの大きさがあり、自身の意志を持って蠢いている姿は中々に恐怖だ)



女友「比較的魔物が現れにくい道だという話でしたが……」

男「まあ低いというだけで出てもおかしくはないだろ。安全な道って事だからおそらく弱い魔物なんだろうが……」

女「それでも戦う力を持っていない男君にとっては十分な脅威……ってことか。うん、分かった、私がやっつけるからね!!」

女友「たち、です。一人で突っ走らないでくださいね、サポートはします」



男(スライムに意気揚々と向かう女に、女友はため息をついて魔法杖を掲げる)

男(予想通り弱い魔物だったため、この世界でもトップクラスの力を持つ二人に一瞬で狩られるのだった)

259 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/16(金) 21:40:22.24 ID:KSI/sfAT0

男(それからしばらく歩いたが、魔物とはその一回しか遭遇していない順調な旅路)

男(ただ、徐々に問題が現れ始めた)



男「はぁ……はぁ……疲れた……」

男(インドア派の俺にとって、数時間ぶっ続けで歩く機会はほとんどない)

男(足が棒になるとは、比喩でもなく本当にあることなのだと実感していた)



女「大丈夫、男君?」

女友「結構歩きましたものね」

男(息絶え絶えな俺に対して涼しい様子の二人)



男(最初こそ女二人が音を上げないのに俺だけ泣き言言ってられるかと頑張っていたが、そもそも異世界に来て力を授かった二人とは体力が違うことを忘れていた)

男(魔導士の女友でもある程度は体力にブーストはかかっているようで俺以上の体力である)

男(女に至ってはそれ以上のブーストで、俺を振り返りながら後ろ向きに歩いたり、時にはスキップをしていたのに息も切れていない)

260 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/16(金) 21:40:51.54 ID:KSI/sfAT0

女友「ちょっと確認します。『世界全図(ワールドビジョン)』発動」

男(女友が魔法を発動するとその前方に地図が表示される。見慣れない地形はおそらくこの異世界の地図だからだろうか)

男(となると一カ所だけ光る点があるのは現在地ということだろう)

男「ずいぶんと便利な魔法だな……」

男(ようはGPSってことか。旅で迷う恐れが無くなるのはとてもありがたい)



女友「どうやらこのペースですと商業都市までは……あと一時間といったところでしょうか」

男(女友が今までに歩いてきた距離とかかった時間から、残りの道のりを踏破する時間を算出する)



男「一時間……か」

男(既に数時間歩いたのだ。あと一時間だけと考えるべきか、まだ一時間もあると考えるべきか)

男(……ああ、駄目だ。まだ一時間もあるとしか考えられねえ)



男「はぁ……」

男(あとどれだけ歩かないといけないかをはっきりと自覚したことで、どっぷりと疲れが沸いてきてしまった)

261 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/16(金) 21:41:35.99 ID:KSI/sfAT0

女友「男さん、少し休みますか?」

男「……いや、今のペースでも目的地にたどり着くのが夕方になる」

男「そこから宿も探さないといけないんだ。これ以上遅れるわけにはいかないだろ」

男(理屈では分かっているんだ。ここで弱音を吐いている場合ではない。頑張れ、俺!!)

男(どうにか奮起して歩く覚悟を決めたところで)





女「あ、そうだ。それくらいの距離なら行けるかも」

男「行けるって、どういうことだ?」

女「それは……うん、説明するよりやってみた方が早いかも。ちょっと失礼するね、男君」



男(説明を求める俺の言葉を無視して、女は行動する。具体的に言うと、少しかがんで俺の腰と膝裏に両腕を伸ばして)



女「やっぱりこの世界に来て力強くなってるなあ……軽いね、男君」



男(いわゆるお姫様だっこで俺を抱えたのだ)

262 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/16(金) 21:42:38.41 ID:KSI/sfAT0

男「………………」

男(いや、男がお姫様だっこされるって普通逆だろ!?)

男(ってか、何する気だよ!?)

男(とりあえず嫌な予感しかしないぞ!?)



男(渦巻く思考から出てきた言葉は)



男「ちょっと待――――!!」

男(とりあえず魅了スキルによる制止の命令を出そうとする)

男(だが、それよりも一瞬早く)



女「じゃあ行くね。……『竜の翼(ドラゴンウィング)』!!」

男(女の背中から可視化されたエネルギー体、竜の翼が生える)

男(俺の身体を抱えたまま宙に浮くと、そのまま猛スピードで進み始めた)



女「あははっ、速い速ーいっ!!」

男「ひぃぃぃぃっ……!!」



男(生身で空を飛ぶ初の体験に楽しんでいる女とビビっている俺)

男(あとで聞いたのだが『竜闘士』職の副次効果として、スキルを熟練した技術として扱えるようだ。そのためで飛ぶことに対して恐怖を覚えなかったらしい)



男(対して俺は初体験でただでさえ恐怖だというのに、お姫様だっこは存外不安定な態勢だということがそれに拍車をかけている)

男(ちゃんと落ちないように掴んでくれているが……不安は拭いきれない)

263 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/16(金) 21:43:20.78 ID:KSI/sfAT0

置いて行かれた女友はというと。

女友「気軽にお姫様だっこなんてしていますが……」

女友「まあ、疲れている男さんを助けたい一心で一時的に羞恥心を忘れているということでしょうか」

女友「後で思い返して顔を真っ赤にしそうですね」

女友(はぁ、と一息吐いて)



女友「さて、私も追いつきましょうか。発動『妖精の羽根(フェアリーフェザー)』!! 『一陣の風(ストレートウィンド)』!!」



女友(身体を極限まで軽くする魔法と風を起こす魔法で疑似的ではあるが私も空を飛ぶ)

女友(魔法をかけ続けないといけない分消費が大きいのだが、自分の豊富な魔力なら歩いて一時間の距離なら十分に保てると感覚で理解していた)

女友(女の方は『竜闘士』の歴とした飛翔スキル。複合魔法の私よりも消費は少ないはずですので、男さん分の重量を抱えていても保つでしょうね)



女「危ないっ!」

男「ひぃっ!!」

女友(木を避けるために旋回する女と、その挙動に悲鳴を上げる男)



女友「まあ魔力が保っても、男さんの精神が持つかは少々不安ですが…………」







 結局歩いて一時間合った距離を、ショートカットで十分で突破できたようだ。空から進入しては騒ぎになるということで、目的地の商業都市周辺に降り立った三人だが、そのときにはすでに男も騒ぐ元気がなくなっていたという。

264 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/16(金) 21:44:09.93 ID:KSI/sfAT0
続く。

導入部分がしばらく続くと思います。
265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/17(土) 01:35:36.88 ID:1Jy1yvscO
乙ー
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/17(土) 07:58:56.18 ID:t+6gA7Ud0
乙!
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/17(土) 09:02:17.23 ID:ISxccwTVO

女、そんな相手の行動していると好感度下がるぞ〜
まあ、男が多少達観しているか大丈夫か
268 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/17(土) 21:20:51.91 ID:ys877Mgc0
乙、ありがとうございます。

>>267 本編でもその内触れますが、女は現在好きだった男と一緒に旅に出たことで舞い上がっていますので、暖かく見守ってやってください。

投下します。
269 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/17(土) 21:21:36.74 ID:ys877Mgc0

女友「すごいですね……」



女友(商業都市は魔物対策か高い壁に囲まれています)

女友(そのため都市への出入りは東西南北の四つの門からしか行えないようです)

女友(私たち三人は東の門の前にいましたが、そこではこの異世界に来てからみた人間の数を軽く数倍は越える量が行き来していました)



女友「門が四つあるので、単純に考えるとこれでも人の量は四分の一なんですよね……。ずいぶん活気がある都市ですね」



男「………………」

女「………………」



女友「男さんに女。いつまで静かにしているんですか?」



男「つっても……くっ、まだぐらぐらする……」

女「お、男君を……お、お姫様だっこ? わ、私はなんてはしたないことを…………」

女友(ここまで空を飛んできた影響でまだ身体がふらつく男さんに)

女友(冷静になって自分の行動が恥ずかしくなってきた女)



女友「はぁ……。さっさと行きますよ。今日の宿も見つけないといけないんですからね」

女友(理由は違えどテンションの低い二人を連れて私たちは商業都市、東門に歩を進めた)

270 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/17(土) 21:22:29.08 ID:ys877Mgc0

男「ふう……。ようやく落ち着いてきたが……今度は人の多さで酔いそうだな」



男(門では身分や持ち物の軽いチェックが行われていた)

男(大勢の人の流れに身を任せて、俺たちは村長が用意してくれた村民だという証明を見せて通過する)

男(そうして町の中に入ると、さらなる人の渦に巻き込まれることとなった)



客引きA「長旅ご苦労さまっ!! お腹が空いたなら、これ!! 古参商会印のパンはいかが!!」

客引きB「今日お見せするのは新商品!! 今朝入ったばかり旬のフルーツを使ったジュースだよっ!!」

客引きC「さあさあ、パンならこっちだ!! 新参商会のパンはどこよりも安いぞ!!」



男(人の流れに流されるまま、道の左右に構える店から聞こえてくる商品の宣伝)

男(門の前は一番人が行き来する場所なのだろう)

男(現代世界で駅前は商業施設がよく賑わっているのと同じで、交通量が多い場所はもっとも客の見込める場所だ)

男(そのためほとんど叫ぶような客引きの声が行き交っている)



男「商業が盛んな都市の中でもさらに熾烈な場所なんだろうな……」

女友「色々と気になる商品もありますが……とりあえずこの一帯を抜けましょう」

女「あっちのパンおいしそう……あ、そ、そうだね」

男(買い物好きの女子の本性が垣間見えるが、それでも我慢したようで門前の区画をどうにか抜けた)

271 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/17(土) 21:23:16.26 ID:ys877Mgc0

男「流石にどこもかしこもあの人の数では無いんだな」

男(メインストリートを外れた枝道に入ると、人の流れはかなり減った)

男(とはいえここに構えている店もあり、その客や通行人がそこそこいる)



女「これからどうしようか?」

男(俺たちは人の邪魔にならない道の脇に立ち止まって行動方針を話し合うことにした)



男「とりあえず今日やるべきことは二つだろうな」

女友「一つは先から言っていたように今日泊まる宿を探すことでしょうか?」

女「そうだろうね。もう一つは何なの、男君?」



男「情報収集だ。俺たちはこの商業都市について村長の話でしか知らないだろ」

男「もうずいぶん前に訪れたってことだったから、情報変わっている可能性もあるし、最近の情勢についても不明だ」

男「だから情報を集めることで、宝玉をゲットするための道筋を考える」



女友「言われてみると基本中の基本ですね。分かりました」

女「宿屋探しと情報収集ね。了解!!」

272 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/17(土) 21:24:07.19 ID:ys877Mgc0

女友「それで一つ目の宿屋探しですが……この商業都市には多くの宿屋があるみたいですね」

女友「外から訪れる人が多いからでしょうか?」

男「この並びにも二、三軒あるみたいだしな」

女「数が多いとどこを選ぶべきか悩むね。やっぱり安さ重視かな。旅の資金も多くあるわけじゃないし……」



男(現在手元にあるのは女神教に寄付金として集まったものをの厚意により授かった分のみである)

男(しばらく生活する分はあるが、先立つものは多い方がいいし、金さえあれば宝玉を買い取るという選択も出来る)



男(俺が魅了スキルで強奪まがいのことをすれば簡単に金を増やせるだろうが)

男(女が賛成するわけがないし、それに目立つ行動をして魅了スキルのことが広く知れ渡ることは避けないといけない)

男(となると今後金を稼がないといけなくなったら、女と女友を頼ることになるだろう)

男(村の青年に聞いたところ、竜闘士と魔導士の力をもってすれば、魔物退治などで荒稼ぎも楽勝らしい)

男(……二人が稼いだ金で養ってもらう俺は完全にヒモだな、これ)



女友「男さんはどう思いますか?」

男「え、俺?」

女「今晩泊まる宿についてだよ。どこがいいのかな」



男「……ああそれか」

男「そうだな、活気のある酒場が近くにある宿屋を探すぞ」

273 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/17(土) 21:24:35.31 ID:ys877Mgc0

男(それからしばらく歩いて)



女「こことかいいんじゃない?」

女友「そうですね、ここまで騒ぎ声が聞こえるくらいですし」

男「酒場に併設された宿屋か。まさにぴったりじゃねえか」

男(地図が無いためさまよっていた俺たちは、日が落ちた頃に目当ての物を見つけることが出来た)



男(俺が酒場が近くにある宿を望んだのは、もう一つの目的、情報収集のためだ)

男(古来より情報収集といえば酒場と決まっている。この世界では俺たちも飲酒してもいいようだし、活かさない手はない)

男(女と女友の二人も反対意見はなかった)



女友「まずは宿屋の方からですね。部屋が空いていればいいですが」

女「そうだね、これだけ人が多いと埋まっているかもしれないし……」

男「こればかりは祈るしかないな」



男(俺たちは宿屋に入って、受付に話を聞く)

男(結果からして、良い知らせと悪い知らせがあった)

274 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/17(土) 21:25:17.93 ID:ys877Mgc0

女友「部屋は空いてますが残り一部屋だけ、と。そういうことですね?」

受付「そうさね、昼間に引き払った人がいてね。ちょうど三人部屋だし……ははっ、お客さんたち運が良かったよ」

女友「良かったです。それではその部屋でお願い――」



女「ちょ、ちょっと待ってよ!?」



女友「……どうしましたか女? 何か駄目なところがあったでしょうか?」

女「大ありだって!! 三人で一部屋って……それって男君も一緒の部屋で寝泊まりするって事でしょ!?」

女「そ、そんな男女が一緒の部屋で寝るなんて駄目だよ!!」



男「……まああまり良いことではないよな」

男(俺も女寄りの立場である)

275 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/17(土) 21:26:04.75 ID:ys877Mgc0

女友「えっと……それの何が良くないのでしょうか?」

女「分からないフリしてない、女友?」

女友「あらバレましたか」



女友「ですが、半分は本気ですよ。三人で旅するって決まった時点でこんな事態になるのはあり得る思ってましたから」

女友「まさかこれくらいの想定外も無い順風満帆の旅が続くとは女も思ってませんよね?」

女「それは……」



女友「お金も余裕あるわけではないですから、二部屋より一部屋の方が節約できますしちょうどいいじゃないですか」

女友「それに……もし男さんに何かするつもりがあるなら、魅了スキルで命令に逆らえない私たちはとっくに襲われてます」

男「まあ、そうだが……」



女友「というわけで何も問題は無いということです」

男(反論しにくい……。少々釈然としないが、女友の言い分を認めるしかない)

276 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/17(土) 21:26:39.15 ID:ys877Mgc0

受付「どうだい? ここに決めなって。この時間だし他の宿に行っても旅人が押し寄せて埋まっていると思うよ」

受付「今なら特別に割り引きするから……ほらね」

男(受付のお姉さんの援護射撃が飛ぶ。厚意が半分、せっかくの客を逃がしたくない気持ちが半分だろう)



女「ううっ…………でも……」

男(渋々ではあるが俺が認めたため、残る反対派は女だけである)

男(理屈としては納得しているようだが、心の方の整理が付かないようだ。

男(魅了スキルでは心を操れないためどうすることも出来ない。そもそも俺が無理強い出来る立場でもないし)

男(どうしても譲れない場合は他の宿を探すことも考えながら待っていると)



女友「はぁ……ちょっと耳を貸してください、女」

女「え、何?」

男(埒があかないと判断した女友が女に何やら耳打ちする)

277 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/17(土) 21:27:09.51 ID:ys877Mgc0

男(それから少しして)



女「分かったわ!! 三人一緒の部屋でいいわよ!!」



男「……どんな心変わりがあったんだ?」

女「まあ、そのよく考えてみれば……チャンスだもんね……!!」

男「チャンス?」

女「な、何でも無いって!!」



受付「話がまとまったみたいさね。毎度あり!! はい、これ鍵。二階の207号室だよ」



男「よし、じゃあ一回部屋に行くか」

女友「分かりました」

女「荷物を置いたら早速酒場に行って情報収集だね」



男(俺たちは指定された部屋に向かう)

男(宿屋の部屋は特に俺たちの想像を超えるところはなかった)

男(三つのベッド、窓際のテーブル、トイレやシャワーも完備されている)

男(異世界ならではのトンデモは無かったが、これはこれでいつもと同じで落ち着けるためありがたかった)

278 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/17(土) 21:28:25.46 ID:ys877Mgc0
続く。

ちょいと短め。
一日の分量は区切りのいいところまでで決めているので、日によって長さが変わります。
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/18(日) 02:10:08.45 ID:Im2ow4CfO
乙ー
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/18(日) 03:05:47.96 ID:/0Z7gsR60
乙!
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/18(日) 04:44:50.31 ID:P6nO09rRO
シャワーとかは魔法とかでなんとかしてんのかな
282 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/18(日) 22:50:45.14 ID:p3k1G/RO0
乙、ありがとうございます。

>>281 魔法とかでなんとかしてる感じです。

投下します。
283 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/18(日) 22:51:54.18 ID:p3k1G/RO0

男(部屋に荷物を置いた俺たちは早速宿屋に併設されている酒場に向かった)



客「おーい、こっちにビール五杯もらえるかー!!」

店員「はーい、ビール五ね!! こっちはおつまみセットはいお待ち!!」

客「ようやく来たか! サンキューな!!」



男(入り口から一望できる小じんまりとした店内にはところせましと丸テーブルとイスが置かれている)

男(それを囲む客と間を縫って進む店員の声が溢れている)



女「すごい活気だね」

女友「ざっと数えて四、五十人くらいはいるでしょうか?」

男「少し尻込みするな……」



男(正直騒々しいところはあまり好きではないが、そのようなことを言っている場合ではない)

男(ここでどうにか宝玉の手がかりや、この商業都市の最新の情勢を仕入れなければ)

284 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/18(日) 22:53:46.42 ID:p3k1G/RO0

男(俺たちは隅の方に空いてたテーブルを見つけてそこに三人囲んで座ると目聡い店員が寄ってきた)



店員「注文は何にしますかー!」

男(店内では叫び声がデフォルトだ。そうでも無いとかき消されるのでしょうがないが)



男「えっと……」

女友「そうですね……」

女「まずは……」

男(酒場に入るのが初めてな俺たちは戸惑う。何から頼めばいいんだ?)



おっさん「兄ちゃん嬢ちゃんたち酒場は初めてか?」

おっさん「こういうときはとりあえず生三つとあつまみセット言っとけばいいぞ!」



男(見かねたのか隣のテーブルの赤ら顔したおっさんが割り込んできた)

男(仕切りがないため、テーブルを越えた交流はそこかしこで行われている)

285 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/18(日) 22:55:51.49 ID:p3k1G/RO0

店員「それでいいでしょうか?」

男「それでお願いします」

店員「了解しました。生三つとおつまみセット入りまーす!!」



男(こういうときは経験者に従うのが吉であろう)

男(厨房に注文を伝えに戻った店員を見送ると、おっさんはさらに絡んできた)



おっさん「ふむ、若いな。注文にもたついていたことといい、酒場は初めてかね?」

男「そんなところです」

おっさん「若い男女……宿屋の方から来たという事はここに宿泊……ということは……もしかして駆け落ちかね!?」

女「か、駆け落ちって……そ、それは……!?」



男「違います、俺たちは目的があって旅している最中で……」

おっさん「がははっ、兄ちゃんすごいな。両手に花で駆け落ちたあ滅多にないぞ!!」



男「……聞いてねえ」

男(既にかなり飲んでいるのか、すっかり出来上がっているようだ。酔いの回ったおっさんは俺の話が耳に入っていない)

286 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/18(日) 22:57:58.51 ID:p3k1G/RO0

おっさん「良いねえ、両手に花! 男のロマンだ! おっさんももう少し若ければ……」

女性「自分の立場を考えてください」

おっさん「痛てっ!?」

男(耳を引っ張っておっさんの暴走を止めたのは、同じテーブルに座っている女性)



女性「すいません、迷惑をかけまして。この人、酔うと歯止めが効かないもので」

おっさん「何おう!? おっさんはまだ酔ってないぞ!」

女性「その言葉は耳にタコが出来るくらい聞きました」



男(女性の言動の節々からは怜悧な印象が受け取れる)

男(歳が50は行ってそうなおっさんに対して、女性は30前半と見える。このコンビは……一体どんな関係性なのだろうか?

男(気にはなるが突っ込んだことを聞く度胸も無い)

287 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/18(日) 23:01:07.88 ID:p3k1G/RO0

男(その内注文の品である生三つとあつまみセットがやってきたため乾杯することになった)



おっさん「それではこの出会いに祝福して! 乾杯!!」

男「乾杯」

女「乾杯ー!」

女友「乾杯です」



男(おっさんの音頭で俺たちは杯を掲げ)

男(新たな酒を片手にテンションが高いおっさん)

男(それに釣られて俺たちもテンションが上がりこの場に何とか付いて行けているため正直助かっている)



男「って、苦っ……!?」

女「ビールってこんな味なんだ……」

女友「私は好きな味ですね」

おっさん「最初はそんなもんだ! しかし、嬢ちゃんは見込みがあるな!!」

男(顔をしかめている俺と女に対し、ゴクゴクと一息で飲み干さんばかりの勢いで杯を傾ける女友。凄えな)

288 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/18(日) 23:03:16.21 ID:p3k1G/RO0

おっさん「これはおっさんの奢りだ! 生もう一つ追加!!」

女友「ありがとうございます」

女性「……はあ、全くこの人は」



男「女友のやつノリノリだな」

女「あんな姿初めて見たよ。お酒強いんだね」

男「あ、そういえばだが、早速一緒にお酒飲むって約束達成したな」

女「そうだね。……男君とお酒。うん、いいね! よーし、じゃあ盛り上がっていくよー!!」

男「いや情報収集も忘れないように……っていうかもう酔ってないか?」



男(まだ一口飲んだだけだというのに、女の頬がほんのり赤い)

男(スキル状態異常耐性で酔いにくいって話だったのに……)

男(いや、それを差し引いてこれだとすると、元はかなりお酒に弱いってことか?)



女「ごくごく……ぷはーっ!!」

おっさん「お、そっちの嬢ちゃんの飲みっぷりもすごいな!!」

女友「流石ですね、女。……ですけど、負けませんよ」

男(何故かライバル視する女友)

男(これは……俺が一人で情報収集頑張るしかないか)

289 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/18(日) 23:07:20.61 ID:p3k1G/RO0

男「すいません、ちょっといいですか?」

女性「何でしょうか?」

男(俺は会話が成り立ちそうな女性の方に話しかける)

男(彼女も片手に酒を持っているが、この落ち着いた様子は酔いにくい体質ということか)



男「俺たち今日この商業都市に着いたばかりで……」

男「この都市の成り立ちだったり、商業が盛んだってことは知っているんですが最近の情勢には疎くて」

男「特に大商人会について知っていることがあったら教えてもらえませんか?」

女性「……なるほど、いいでしょう」



女性「基本的なことは知っていると言いましたね?」

女性「なら大商人会が、大きな商会によって成り立っていることはご存じですね?」

男「ああ」



女性「大商人会は現在10の商会で運営されています」

女性「共に統治するという目的のため、その10人に地位の優劣は無いのですが……」

女性「それでもそれぞれの商会の規模により発言力の大小はどうしても生まれます」



男「それは……何とも面倒そうだな」

男(建前として立場は同格だが、力には差がある)

男(大商人会では神経すり減らすやりとりが為されているだろうことは容易に想像が付く)

290 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/18(日) 23:12:32.45 ID:p3k1G/RO0

女性「その中でも一番大きいのが古参商会といいます」

女性「この宿屋と酒場もそこの経営ですね。商業都市発足時から存在するという、最古参の商会です」

男「古くからいるやつが一番発言力があるってわけか。上手く行っている内はいいだろうな」



女性「ええ、その危惧の通り最近その古参商会の地位を脅かす存在が現れたのです」

女性「10年ほど前に出来た新参商会、大商人会の中でも一番若い商会です」

男「やっぱりか」

男(古参とくれば対抗するのは新参だろう)



女性「新参商会の勢いは凄まじく、その地位にあぐらをかいていたところがあった古参商会は改革を迫られました」

女性「そういう意味では良い刺激だったと言えるでしょう」

男「だが、その改革がことごとく的外れで、古参商会はますます力を落としていく……そんなところか?」

男(話の流れを読み切ったと俺は先に言い当てようとしてみせるが女性は否定する)



女性「いえ、それが古参商会の商会長はどうやら才があったようで、改革は上手く行きました」

女性「ですが……それでも新参商会に遅れを取っているのが現状です」

男「ふーん、珍しいな。……しかし、遅れを取っているとはどういうことだ」

女性「それは……私の口から言えるところではありません」



男(女性は口をつぐむ)

男(気になるな……どういうことなんだろうか……?)

291 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/18(日) 23:14:38.12 ID:p3k1G/RO0

男(まあいい、色々な情報を得られた。最後に駄目元で聞いてみるか)



男「えっと、すいません。ちょっと変なことを聞きますが……女神教ってご存じですか?」

女性「古くに廃れた宗教だと理解していますが……それが何か?」

男「この都市にも昔女神教の教会があったと聞きます。その教会の取り壊しを主導したのがどこなのかを調べていて」

女性「教会の取り壊し……」

男「ああ、いや、その、昔のことらしいので知らなくても……」



女性「――それなら30年前に古参商会が主導して行っていますね。その跡地を利用できる契約で引き受けたと記憶しています」

男「ほ、本当ですか!?」

女性「ええ。資料も残っていると思いますが、実際に立ち会った人に話を聞くとすれば……」

女性「30年前となると当事者は商会長くらいしか残っていないでしょうね」

男「商会長……ですか。分かりました。情報ありがとうございます!!」

男(望外の情報を手に入れたことにガッツポーズを取る)

292 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/18(日) 23:19:45.68 ID:p3k1G/RO0

男(これで道筋は立った)

男(この都市のトップ、古参商会が教会を取り壊した)

男(その際に女神像に埋め込まれた宝玉を……商人だしその価値を理解して壊す前に取っているだろう)

男(問題はその後売り飛ばしたりしていないかだが……こればかりは直接聞くしかないか)

男(とりあえず足がかりは古参商会の商会長だ。どうにか会えないか、明日から探ってみよう)



男(と、興奮冷めやらない頭で考えていたが、ふと疑問が沸いた)

男(その情報を知っているこの女性は……何者なんだ?)

男(そうだ、俺は駄目元で聞いたんだ。普通に考えて、昔に教会の取り壊しをどこが行ったのかを知っているなんて思わない)

男(なのにこの女性は知っていた)

男(これは、もしかして……)

293 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/18(日) 23:20:38.05 ID:p3k1G/RO0

女性「さて、そろそろ時間ですよ。会長」

男(女性がおっさんの耳を引っ張る)



おっさん「痛っ!? ……もうそんな時間か?」

女性「はい。もう十分に視察できたでしょう」

おっさん「えーもうちょっと飲んでたかったのに……あ、いえ何でも無いです」

男(女性に凄まれると慌てて取り繕うおっさん)



男(古参商会に詳しかったこと、その経営であるこの酒場に視察に来る立場、さらに会長という言葉……)



男「二人は古参商会の商会長とその補佐といったところですか?」



女性→秘書「補佐ではなく秘書です」

秘書「……しかし、流石にしゃべりすぎましたか。私も少し酔っていましたね」



おっさん「やーいやーい、失敗してやんの。いつも儂に注意してるのに」

秘書「何か言いましたか、会長?」

おっさん「いえ、何でもありません」

294 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/18(日) 23:23:48.80 ID:p3k1G/RO0

秘書「周囲にバレると騒ぎになるので、黙っていてもらえると助かります」

秘書「さっきの情報が対価ということでよろしいでしょうか?」



男「それは構わないですが……」

男(少しちぐはぐさを感じる。商会のトップのような人なら、その顔も有名じゃないのか?)

男(騒がれるのが嫌なら変装でもして対策するばいいのに、それもしておらず、なのに誰にも気づかれていない)



男(これは……ああそうか、元の世界の常識で考えちゃいけないのか)

男(他者からの認識を阻害するようなスキルを使っているのだろう。しかし、俺には女性が話しすぎたため気づかれてしまったと)



男(まさかこんな大衆酒場に、行政トップの人間がいるとは……いや、このおっさんの馴染みっぷりが異常だし気づく方が無理だ)

男(というか正直今も疑っている。このどこにでもいそうなおっさんが古参商会のトップなのか)

男(改革も上手く行った才ある人だと言っていたが……)



おっさん「世界が揺れてる……あれをもらえるか、秘書よ」

秘書「はい、酔いさましです」

オッサン「おう、サンキュー」

男(女性が差し出した錠剤を受け取り口に含むおっさん。すると――)

295 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/18(日) 23:29:09.03 ID:p3k1G/RO0



おっさん→商会長「……相変わらずこの感覚は慣れないな」



秘書「でしたらそこまで酔わないでください。その酔いさましは上級の魔法を合成しているので高いんですよ」

商会長「そう言うな、客として最大限に楽しんだ方が問題点が見えやすいからな」

秘書「それは分かっていますが……それでここの評価はどうですか」



商会長「いいだろう。店員の教育も行き届いているようだしな」

商会長「少々騒々しいが、それがこの場所の特色だ。奪ってはならんだろう」

商会長「後は細かいところは……後にするか。ちょっとそこの少年がしていた話に興味があるのでな」

秘書「次もあるので短めにお願いしますよ」

296 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/18(日) 23:29:41.03 ID:p3k1G/RO0

男「……はっ!?」

男(そこの少年……おそらく俺のことが話題に出てようやく頭のフリーズが解けた)

男(しかし、混乱は収まっていない)

男(……誰だ、この人!?)

男(酔いが醒めた瞬間、貫禄のあるおっさん……いやおじさんになった。同一人物とは全く思えない豹変ぶり)



秘書「商会長は酒癖が悪いところだけが玉に傷です」

商会長「そう言うな、これでも一線は弁えている。それに完璧な上司は部下から引かれるものだ」

商会長「これくらいの欠点があった方が上に立つものとしてちょうどいい」

男(やけに計算高いセリフを吐くおじさん……いや、商会長と呼ぶべきだろうか)



男(どうやら宝玉の行方を知っている人物と早々に邂逅したようだった)



297 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/18(日) 23:31:05.99 ID:p3k1G/RO0
続く。

章ボスと早めに一度会っておくのってよくある展開ですよね。
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/19(月) 00:42:47.48 ID:rIApKFCMo
乙ー
299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/19(月) 03:19:38.29 ID:QOb9NvPj0
乙!
300 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/19(月) 17:18:56.55 ID:akT/PIun0
乙、ありがとうございます。

投下します。
301 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/19(月) 17:19:45.38 ID:akT/PIun0

男(相変わらず酒場は騒がしいが、俺はそれを遠い出来事のように感じていた)

男(目の前の二人と向き合うことに集中していたからだ)



商会長「秘書よ。少年は君に女神教の教会の取り壊しについて聞いていたな」

秘書「そのようです。取り壊したのは30年前で間違っていませんでしたよね?」

商会長「ああ、そうだ。しかし君が商会に入る前の出来事ではなかったか?」

秘書「資料整理の際に一度見かけたのを覚えていただけです」

商会長「だけ、というのは謙遜だと思うがな。一度見ただけで記憶出来るなど普通ではない」

秘書「恐縮です」



男(どうやら女神教の教会を取り壊したのは古参商会で確定のようだ)

男(その際に女神像のアクセサリーとして付けられていた宝玉の行方について聞きたいところだが……)

302 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/19(月) 17:21:08.69 ID:akT/PIun0

商会長「さて、少年。君の目的は……宝玉だろうか」

男「っ……!? それをどうして……!?」

男(まるで心を読まれたようなセリフに俺は動揺を隠せない)



商会長「何、簡単な推理だ。君の年齢からして30年前は生まれていなかっただろうから、取り壊し自体に用があるとは思えない」

商会長「なら跡地を使える契約についてだろうかとも思ったが、商会の関係者ならば私の顔を知らないはずがない」

商会長「残る要素を考えて……取り壊しで得た宝玉について鎌をかけたところ当たったというわけだ」



男「………………」

男(相手は商会の長。長年商売の場で人と関わって生きてきた者だ)

男(俺のような若輩者の狙いを読むことなど訳ないのだろう)

303 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/19(月) 17:22:01.89 ID:akT/PIun0

男「宝玉をどうしたんですか? やはり売り払ったんですか?」



商会長「あのサイズの宝石となるとかなりの価値があるのでな」

商会長「掘り出し物だと思って売り払おうと思っていたが、鑑定の結果を見て気が変わった」

商会長「『世界を渡る力を持つ』なんて文言、それに女神像のアクセサリーに使われていたことに何らかの意味を感じて今も手元に置いてある」

商会長「もっとも30年の月日は長く、埃を被っているだろうな」



男「……そうですか」

商会長「何故宝玉を求める? 私はその理由について興味がある」



男(商会長の質問に俺には危惧していることがあった)

男(俺たちが女神の遣いで災いを防ぐために宝玉を集めているなんて言葉を信じてもらえるのかというものだ)

男(女神教が廃れた現代では、おそらく世迷い言だと思われてしまうだろう)



男(だったら嘘を吐いて誤魔化すか……しかし、この人を前に嘘を吐いて見破られない自信がない)

男(なら仕方ない。どっちにしろ信じられないのなら俺にとっての真実を話すだけだ)

304 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/19(月) 17:22:37.77 ID:akT/PIun0

男(俺は腹を括って女神の遣いであることなど全てを話す)



男「――それで世界を救うため、俺たちが元の世界に戻るため宝玉を譲ってもらえないかとお願いしたいわけです」

男「虫の良いことを言っていることは自覚しています」



商会長「なるほどな。一般的な意見を言ってもいいだろうか?」

男「はい」



商会長「今の君は壮大な作り話で騙して宝石を奪おうとする詐欺師だとしか見られないだろう」



男「……でしょうね」

男(覚悟していたので詐欺師呼ばわりも受け入れる)

305 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/19(月) 17:23:20.28 ID:akT/PIun0

商会長「そこで反発しないだけの分別はあるか」

商会長「しかし信じられないだろうことを分かっていて、そのまま話す辺りは未熟であるな」

商会長「世の中正しいことだけでは動かない」

商会長「もし今の話が本当で、世界平和のために宝玉を欲するならば、嘘を吐いてでも私を納得させるべきだった」



男「……そうしたら嘘を見抜いて、俺を詐欺師扱いするんじゃないですか?」

商会長「もちろんだ。嘘は見破られる方が悪い」



男(そもそも八方塞がりだったか)

306 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/19(月) 17:23:57.57 ID:akT/PIun0

商会長「まあ良い。荒唐無稽な話ではあるが、少年が嘘を吐いていないことは分かる」

男「それだけ俺が分かりやすいってことですか」

商会長「そう不貞腐れるな。何にしろ人に信じてもらえるのは才能だぞ」

男(相手に励まされる始末だ。ボッチは人と話さないため対人での駆け引きに疎い。それが浮き彫りになった形である)





商会長「だが、それでも今の君には宝玉を渡せない」

男「俺に何が足りないんですか?」

商会長「まずは『対価』だ。言ったとおり、宝玉は宝石として価値ある物だ」

商会長「私も商人でな、金を払えない者に商品を渡すことは出来ないのだが……そうだな、大体これくらいだが君は支払えるのか?」

男「……」

男(提示された金額は現在の俺たちの全財産より大きい)

307 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/19(月) 17:24:40.78 ID:akT/PIun0

商会長「そして金があったとしても、もう一つ『価値』が無ければ売ることは出来ない。というのも――」

秘書「時間です、会長。そろそろ次の商談に向かわないと」

男(そのときずっと黙って見守っていた秘書が声をかけた)



商会長「分かっている。では行くぞ、秘書」

秘書「了解しました」



男(秘書を付き従えてその場を去ろうとする商会長)

男(いきなりのことに俺は慌てて引き留めようとした)



男「ちょ、ちょっと待っ……」

商会長「残念だが待てない」



男(が、その歩みを止めないまま商会長は返事する)

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