男「恋愛アンチなのに異世界でチートな魅了スキルを授かった件」

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429 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/27(火) 22:46:40.16 ID:ZofcgQfe0

男「効いている……」

男(飛んで近付いた女がまるで小鳥のように見えることから、ドラゴンの大きさを相対的に俺は掴んだ)

男(圧倒的なサイズ比だが、正面から相手の攻撃を打ち落とし一撃を入れたのは女の方だ)



男(さらに女の攻撃の手は止まらない)



女「『竜の震脚(ドラゴンスタンプ)』!!」



男(天空から落とす衝撃波を竜の背中に打ち込むとその体が揺れる。またも良い攻撃が入った)



男(とはいえドラゴンもやられっぱなしでいるつもりはないようだ)

男(首を回し顔の正面に女を捉える。そして少しのタメがあって)



ドラゴン「ゴォォォォッ!!」



男(口から火を噴いた)

430 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/27(火) 22:47:12.44 ID:ZofcgQfe0

男「っ……!」

男(商会の資料で対火装備を推奨していた。それはこれを恐れて書かれていたのだろう)

男(ファイアーブレス)

男(高速・広範囲に撒かれた火に女は逃げられず)



女「『竜の鱗(ドラゴンスケイル)』!!」



男(俺が初めて見るスキルを発動すると、女の周囲がエネルギー体の球状で覆われる。防御スキルか)

男(それによって火をやりすごすが、どうやらその間動けないようだ)

男(ドラゴンが追撃のために尻尾を鋭く振って、上空の女を撃ち落とさんとするが)





女友「『吹雪の一撃(ブリザードアタック)』!!」

男(野球ボールほどのある氷塊が雨のように降って、ドラゴンの体を打ち付ける)

男(その痛みでたまらず攻撃を中断)

男(女もその隙に動けるようになり危機を脱する)

431 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/27(火) 22:47:44.24 ID:ZofcgQfe0

男「ふぅ……。今のは女友の魔法だよな?」

女友「はい。サポートが私の役目ですので」

男「女を上手く救ったな」

女友「まあ、必要なかったかもしれませんですが。女ならあの尻尾攻撃も防御しきれたでしょうし」

男「そうなのか?」

男(ブレスで削れたところに攻撃されたらヤバいと思ったがそうでもなかったようだ)



女友「男さんもそろそろ落ち着きましたか?」

男「え?」

女友「ドラゴンに威嚇されてからずっと恐怖していたでしょう?」

女友「ですがこの通り……私たちにかかれば敵ではありません」

男「……みたいだな」

男(もう少し苦戦するものかと思ったが、ここまでの攻防で終始ドラゴンを圧倒している)

432 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/27(火) 22:48:13.65 ID:ZofcgQfe0

女友「もう少し苦戦する……と思っていたんじゃないですか?」

男「心を読んだかのようにピッタリ当てるな」



女友「男さんが分かりやすいんですよ。それに苦戦なんてするはず無いじゃないですか」

女友「私たちだって死ぬのは怖いですから」

女友「絶対にドラゴンに勝てる、勝率100%だと確信しているからこそ、こうしてドラゴン討伐に挑んでいるんです」



男「……そうだな。失敗したら死だと考えると、例え80%だとしても絶対挑戦したくねえ」

男(ゲームならとりあえずで挑むだろうがここは現実だ)

男(道中で再確認したつもりだったが、まだ分かっていなかったようだ)

433 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/27(火) 22:48:55.54 ID:ZofcgQfe0

女友「ということで後は大船に乗ったつもりで見ていてください。『雷の槍(サンダーランス)』!!」

男(女友が魔法を発動すると、雷の槍がドラゴンの足を刺して動きを一時的に止める)



女「ナイス、女友!! 『竜の拳(ドラゴンナックル)』!!」

男(女はドラゴンの懐に潜り込むと、竜の力を込めた拳で思いっきり殴りつける)



ドラゴン「グガァァァァッ……!!」

男(ドラゴンはたまらず声をあげる。痛みに喚いている)



男「大船か……そうさせてもらうか」

男(ドラゴンからは先ほどまでの威圧感が全く感じられなかった)



434 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/27(火) 22:49:36.61 ID:ZofcgQfe0

男(それからドラゴンと戦闘を続けること数分)

男(特に想定外は起きず、順調に追いつめていく)

男(女友曰く、想定外とは実力が伯仲している場合に起きること)

男(私たちとドラゴン相手では差がありすぎます、ということらしい)



男(ダメージを負ったドラゴンの動きは見る見る精細を欠いていき、決着はもう間近と思われた)

男(が、そこで女友が戸惑いを露わにする)



女友「おかしいですね……」

男「何か気になることがあるのか!?」



男(やはり最後まで順調には行かないのかと、俺は警戒するが)

435 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/27(火) 22:50:26.43 ID:ZofcgQfe0

女友「いえ、ドラゴンが予想以上に粘っているというだけです」

女友「詰みまでの手順が延びるだけで、大勢に影響は無いのですが……」

女友「この粘りは何から来ているのでしょうか?」



男「あー気迫が凄いとは思っていたが……死にたくないってだけじゃないのか?」

女友「んー……それだけでしょうか?」

男(俺の答えでは納得できないようで、女友が疑問をつぶやいたそのとき)





男(広場に新たなドラゴンが現れた)



436 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/27(火) 22:50:59.24 ID:ZofcgQfe0

男「っ……!?」

男(現在ドラゴンと戦っている広場には、俺たちが通ってきた通路以外にも横穴があるようだった)

男(その一つからドラゴンが出てきたのだ)



男(といっても絶望するような状況ではない)

男(何故ならそのドラゴンは現在戦っているものと比べて、とても小さかったからだ)

男(距離があるから正確には分からないが、体長2〜3mほどだろうか)

男(サイズの差からして俺は自然と思いつくものがあった)





男「あれは……ドラゴンの子供なのか?」

437 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/27(火) 22:51:27.66 ID:ZofcgQfe0
続く。

戦闘描写久しぶりに書きました。
438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/27(火) 23:42:04.75 ID:4wFlMyAno
乙ー
439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/28(水) 06:37:26.30 ID:6oAeISqMO
乙!
440 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/28(水) 23:21:35.31 ID:UXkdiw4H0
乙、ありがとうございます。

投下します。
441 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/28(水) 23:22:40.92 ID:UXkdiw4H0

男(討伐完了しようとした目前、広場に新たな小さいドラゴンが現れたことで戦局はさらに傾いた)

男(今まで戦っていた大きい方のドラゴンが、小さなドラゴンを庇うような立ち回りに変化したからだった)

男(それでは動きが制限され、女の攻撃を避けることも出来ない)

男(元々俺たちが優勢だったのが、盤石となっていく)

男(とはいえやりづらいところがあった)



男「親が子を守ろうとしている……みたいだな」

男(見たまま率直な感想をつぶやく)

男(子を守る親を攻撃する絵面がリンチのようだ)

男(女も同じことを感じたのか、一度引いて俺たちのところに戻ってくる)

442 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/28(水) 23:23:21.50 ID:UXkdiw4H0

女「えっと……どうしようか?」

男「目的としてはドラゴン討伐だったんだが……このまま倒しちまっていいのか?」

女「あの小さいのたぶん子供だよね。で、親が守ろうとしている……って思うとやりづらいよね」

男(ドラゴンの気迫の源はこの子供ドラゴンだったのだろう)

男(自分が倒れたら次は子供が、と思って踏ん張っていたのだ)



男(ドラゴンは攻撃が止んで、俺たちに接近する絶好のチャンスだというのに動く様子がない)

男(それだけダメージを食らったということだろう)

男(休息に務めているところに、子供ドラゴンが寄り添っていた)

443 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/28(水) 23:23:56.44 ID:UXkdiw4H0

男「………………」

男(さっきまで魔物だからって倒すことに躊躇っても無かったのに、こうして迷っているのは勝手過ぎる)

男(だが、思ってしまったことは取り消せない)



男(どうするかと悩んでいると)



女友「何言ってるんですか、二人とも。絶好のチャンスですし、このまま二体とも倒しましょう」



男(女友が事も無げに告げた)



男「いや、だからな……」

女友「親が子供を庇おうとしてるから倒しづらいですか。そんなことありえませんよ」



男「え?」

男(何か女友の様子が……)

444 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/28(水) 23:24:28.64 ID:UXkdiw4H0

女友「子供っていうのは親の奴隷です。道具です」

女友「親の言うことを聞いて完璧こなさなければなりません」

女友「子にとって親は変えようがありませんが、親にとって子供は変わりを用意できます」



女友「なのに命をかけて庇うなんてありえません」

女友「ですからあれは演技です。私たちの情に訴えかけるための」

女友「実際こうして攻撃の手を緩めてドラゴンの回復させています」



女友「それを許してはいけません」

女友「ですから今すぐに攻撃して二体まとめて――」







男「女友、深呼吸しろ。命令だ」

女友「えっ? すう……はあ……。すう……はあ……」

男(女友が戸惑いながら深呼吸する。魅了スキルの命令によって強制的に落ち着かせる)

445 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/28(水) 23:25:04.56 ID:UXkdiw4H0

男「よし、止めていいぞ」

女友「………………すいません、男さん」

男「もう大丈夫か?」

女友「はい♪ もういつも通りの私ですよ♪」

男(流石と言える切り替えの早さだ)



男「……ならいい」

男(子供は親の奴隷で道具……か)

男(いつもの様子が超然としているため考えもしなかったが)

男(当然俺の恋愛アンチのように女友にだって何か抱えているものがあっておかしくない)

男(今のはそれが表に出てきたというわけだろう)



男(しかし女友はすぐに取り繕った。触れて欲しくないということだ)

男(俺も恋愛アンチについて触れて欲しくないから気持ちは分かる)

男(だから何も言わなかった)

446 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/28(水) 23:26:06.24 ID:UXkdiw4H0

女友「さて落ち着きましたけど、それでも私の意見は変わりませんよ。あのドラゴンを討伐するべきです」

男「……まあ、そうだな。元々の目的がドラゴン討伐だしな。ここまで来たのが無駄になっちまう」

女友「ええ。それにドラゴンは強力な魔物です」

女友「生きているだけで周辺の土地を汚染し、魔物を発生させますので討伐すべきです」

男「あー、害獣みたいな扱いされてるんだったか」



男(日本でも山を下りてきた獣が畑を荒らしたり、人を襲ったりする被害はあった)

男(それを食い止めるために殺処分すると「かわいそうじゃないか!」という声があがったものだった)



男(気持ちは分かるが、だったら被害を受けてもいいのか)

男(殺処分だってしたくてしているわけじゃない。麻酔で眠らせて返せばいいだろ)

男(そもそも住処を奪った人間が悪いんだ……というように紛糾した議論を思い出す)



男(つまりは難しい問題ということだ。どっちが正しいと断言することは、俺には出来ない)

447 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/28(水) 23:26:40.58 ID:UXkdiw4H0



男「女はどうするつもりで……女?」



男(なのでもう一人の仲間に意見を仰ごうとしたところで、おかしな行動を取っているのが目に入った)



女「何か見た覚えがあるんだけど……」

男(女は自分のステータス画面を呼び出して、スキルの一覧をスクロールしている)



男「どうしたんだ?」

女「あ、男君。えっとね、この状況で使える『竜闘士』のスキルがあったはずなんだけど」

女「珍しいスキルだから説明もう一回読んでおこうと思って……あった!」



男(女は快哉を上げると、スキルの詳細を読み始める)

男(この状況で使えるスキル? 何なんだろうか?)

448 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/28(水) 23:27:08.53 ID:UXkdiw4H0

男「女友、何か知ってるか?」

女友「いえ。知っていれば私からその方法を提案してますよ」

男「そうか」



男(現状俺が思いつく手段は討伐か見逃すかの二択である)

男(討伐するのは感情的にやりにくく、見逃せばこのまま魔物が増え続ける状況を放置することになる)

男(どちらも取りにくい)



女「……うん、うん! これなら行けそうだよ! 男君に女友も聞いてくれる!?」



男(そんな中、女が現状を打破する第三の選択肢を提示するのだった)

449 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/28(水) 23:27:42.26 ID:UXkdiw4H0



男(数時間後)



男(俺と女友は古参商会・本館の買い取り区画にいた)



受付「お客様、どうぞー」

男「はい」

男(現在五つあるカウンターの内二つしか稼働していない)

男(昨日は朝だったからか人が多かったが、現在はもう昼過ぎでこの時間から売りに来る客は少ないから絞っているようだ)



受付「今日のご用は何でしょうか?」

男「あーその、ドラゴンについて何ですが」

受付「ドラゴンですか!?」



男(受付の女の人が驚いている。一年仕入れが無いレア素材なわけで珍しいのだろう)

450 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/28(水) 23:28:41.06 ID:UXkdiw4H0

受付「……お客様違っていたら申し訳ありません。昨日ドラゴンの資料を借りたお連れの方ですよね」

男「ドラゴンの資料……あー女が借りてきた」



受付「ここ最近ドラゴンに挑戦する人は珍しかったので覚えていたんです」

受付「それでは当商会にドラゴンの素材を売っていただけるということでしょうか」

受付「開発部門も流通部門も知ったら喜びそうです」



男(受付の人はニコニコとしている)

男(さっきから感情表現が多いな……まあ現在俺たちしかカウンターの前に立っていないし、良く言えば余裕があり、悪く言えば暇というわけか)

男(まあ機械的に応対されるより、こういう人間的な応対を好む人の方が主流だとは知っている)



男(個人的には苦手だけどな)

男(元の世界でも服屋や家電量販店に入ったときに、店員に声をかけられたくないタイプだった)

451 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/28(水) 23:29:24.77 ID:UXkdiw4H0

男(それは置いといて)

男(受付の人の言葉には訂正しないといけないところがあった)



男「すいません、俺たちドラゴンの素材を売りに来たわけではないんです」

受付「……これは申し訳ありません。早とちりしましたでしょうか」

男「いや、大筋ではあっているんですけど……正確にはドラゴンの素材ではなくて」

受付「なくて?」





男「ドラゴン自体を売りに来たんです。親と子供の二体を捕獲――テイムしたので」





受付「……え?」

452 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/28(水) 23:42:34.92 ID:UXkdiw4H0
続く。
453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/29(木) 00:30:01.66 ID:fGbX0XfV0

男もだけど女もかなりチート気味だな
すき
454 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/29(木) 01:50:50.92 ID:DQZxHBqPo
乙ー
455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/29(木) 06:52:24.63 ID:Xgl3A7hUO
乙!
456 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/29(木) 23:33:50.97 ID:OIWjkGmY0
乙、ありがとうございます。

>>453 女は作中でも最強格の強さですね。

投下します。
457 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/29(木) 23:40:24.19 ID:OIWjkGmY0

受付「これは……すごいですね」

男(俺と女友、そして受付の人の三人は商業都市の外までやってきていた)

男(そこにはテイムされたドラゴン二体と、その主である女がいた)







男(経緯はこうだった)

男(洞窟の広場でドラゴンを討伐目前まで追いつめた俺たちは、子供を庇っている姿から躊躇した)

男(しかし、生きているだけで周囲に魔物を発生させるドラゴンを見逃すのもどうかと悩んでいたところ)

男(女が『竜闘士』のスキルによる第三の選択肢を示したのだ)



女「じゃあやるね。『竜の主(ドラゴンロード)』!!」



男(『竜闘士』の女はドラゴン限定のテイムスキルを発動する)

男(スキルだけは駄目で、テイムするためにはその対象に圧倒的な力を見せることも必要なそうだ)

男(その二つを満たした結果、ドラゴンは主である女の命令を聞くようになった)

男(また付属的な効果として周囲を汚染して魔物を発生させてしまう影響も抑えることが出来るらしい)

458 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/29(木) 23:41:04.42 ID:OIWjkGmY0

男(子供のドラゴンも同じようにテイムが成功した後、傷ついた親ドラゴンに女友が回復魔法をかけて治癒させる)

男(そしてドラゴンに乗って、空を飛び商業都市付近まで帰ってきた)

男(行きより早く数時間で帰ってこれたのはこのためである)



男(ドラゴンはテイム状態でも安全上の問題やそもそも道の幅が足りないことから商業都市の内部へは立ち入り禁止のようだ)

男(なので主として女をその場に残し、俺と女友の二人で古参商会の本館まで向かい)

男(こうして受付の人を連れて戻ってきたということだった。





モブA「ねえ、ねえ。ドラゴンだよ! 初めて見た!」

モブB「竜騎士部隊がこんなところに来ているのか?」

モブC「いや、新たにテイムを成功させたらしいぞ」



男(戻ってくる間に、女を含むドラゴンは人だかりに囲まれていた。やはり珍しいのようだ)

男(俺たちがすぐに戻ってこれるように、商業都市に出入りする門の近くに待機していて人目に付きやすかったということもあるだろうが)

459 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/29(木) 23:41:33.78 ID:OIWjkGmY0

女「あ、男君に女友! 古参商会の受付さんも昨日ぶりです!」

男(女がこちらに気づいて声をかける。どうやら受付の人の顔を覚えていたようだ)



男「テイムした状態で連れて来ましたがこれでも買い取ってもらえるんですか? やっぱり素材の方がいいとか」

受付「そんなとんでもないです!!」

受付「そもそもドラゴンをテイムするなんて普通では出来ないから張り紙に書いていなかっただけで、テイムした状態の方がよっぽど価値があります!!」




受付「あーどうしましょう。ドラゴン自体を取り扱うのは初めてです」

受付「やっぱり交渉先は王国でしょうか。パイプはあるので交渉部門の方に連絡して、竜騎士部隊に取り合ってもらうように話して」

受付「……それまでの移送は大丈夫でしょうか。流通部門にも話を付けて……それで……」

男(商人の血が騒ぐのか算段を立て始めている。頼もしい限りだ)

460 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/29(木) 23:42:01.99 ID:OIWjkGmY0

男「俺たちがした方がいいことはありますか?」

受付「あ、すいません! 大事なお客様を蔑ろにしてしまって!」

受付「もう一度確認ですが、本当にこのドラゴンについて当商会と売買契約を結ぶということでよろしいでしょうか!」

男「はい。古参商会じゃないと意味が無いので」

受付「ありがとうございます!」

男(深くお辞儀される)



受付「今すぐ流通部門の方に連絡するので、準備が整うまでテイム主は残ってもらえますか?」

受付「あと条件の面について、とんぼ返りですが本館の方で交渉も行いたいのですが」



女「分かった、私がここに残るね」

女友「では私が交渉に赴きましょうか」



男「じゃあ俺はここに残るわ」

男(俺はどちらに付いていくか迷ったが女と一緒に残ることにした)

男(女友と受付の人が商業都市の内部に戻っていくのを見送る)

461 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/29(木) 23:42:35.39 ID:OIWjkGmY0

男(二体のドラゴンはここまでの道中で疲れたのか眠りだした)

男(女はその側を離れて俺の近くまで来る)



女「本当に売っちゃうんだね……」

男「まだ数時間しか一緒にいないだろうに。情が沸いたのか」

女「それは沸くでしょ。家で飼ってた犬のことを思い出しちゃった。今ごろ元気かな」

男「犬とは規模がまた違うと思うが……まあそうか」

男(親の方針でペットは飼っていなかった俺には分からない感覚があるのだろう)



女「本当は私たちで飼いたいくらいだけど……ドラゴンの世話なんて出来る気がしないし」

女「ちゃんと世話できないのに飼うのは無責任だもんね」



男「移動は楽になるし、戦闘においても戦力になるだろうけど」

男「あんなの連れてたら目立つし、一般的に魔物であるから連れ回る際は事情の説明が必要だろうし」

男「ドラゴンの習性どころかエサとして何を与えればいいのかすら分からないしな」



男(楽になる部分以上の問題を抱えることは目に見えている)

462 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/29(木) 23:43:14.69 ID:OIWjkGmY0

女「だったらやっぱりテイムなんてしないで放置した方が良かったのかな」

女「見方によっては私たちってドラゴンを捕らえて売り払う悪徳人だよね」

男「どころか、まんまその通りだぞ」

女「あの洞窟で二体一緒に自由に生きてた方が幸せで――」

男「その内俺たち以外の手によって討伐されていただろうな」

女「……」





男「テイムするために必要なのは圧倒的な力を見せつけることに専用のスキルが必要なんだろ」

女「……うん」

男「となれば、おそらく女以外には中々出来ることじゃないんだろう」

男「テイムした方が価値があるのに、一年前ドラゴンは討伐されたのがその証拠だ」

女「そうだね」

463 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/29(木) 23:43:54.85 ID:OIWjkGmY0

男「存在するだけで魔物を生み出し人間に害になる以上あのドラゴンもいつか討伐されるはずだった」

男「それがこうして人の手によって飼われることになったとはいえ生きていけるんだから」

男「そっちの方が救いがあるとも考えられるだろ」

女「……」



男「これであの洞窟からドラゴンがいなくなったわけだから、魔物の発生も減っていくはずだ」

男「鉱石の採掘にもまた行けるようになる」

男「俺たちも当初の目的通り古参商会に価値を示すことが出来た」

男「全てが上手く行ってるじゃないか」



女「分かってはいるんだけど……」

男(女の顔は晴れない)
464 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/29(木) 23:45:01.66 ID:OIWjkGmY0

男「何が心残りなんだ?」

女「みんなが……あのドラゴン親子も含めて、もっともっと幸せになる道があったんじゃないか……と思って」

男「強欲だな」



女「分かってる。でも悪いことかな?」



男「……さあな。俺には分からん」

男(煙に巻いたようにも取れる発言だったが、俺の本心だった)



男(女は常に理想を追い求めようとしているのだろう)

男(俺とは真反対の姿勢だ)

男(だから俺の価値観で良し悪しを計ることは出来ない)

465 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/29(木) 23:45:42.13 ID:OIWjkGmY0

男「…………」

男(いつの日か女とは衝突することになるだろうな)

男(価値観の相違とは争いを生むものだから)





女「……あ、古参商会の人が来たみたい」

男(ちょうどそのとき商業都市の門から慌ただしく数人出てくるのが見えた。話に聞いていた流通部門の人たちだろう)

男(女はその人たちとドラゴンの移送の方法や、テイム主の引き継ぎについて話し始める)

男(専門的な話はよく分からない俺は黙って隣で聞いてるのだった)
466 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/29(木) 23:47:06.23 ID:OIWjkGmY0
続く。

こういう心の動きがある回は言葉回しあってるのか、説明抜けてないかと心配になります。
467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/30(金) 01:38:52.82 ID:EssTNlyIo
乙ー
468 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/30(金) 08:25:04.42 ID:WF9yqplj0

男は女が魅力にかかっていなかったことを知ったらすぐに切り離しそうなイメージがあるな。今の所
相性悪そうだもの
469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/30(金) 08:36:29.85 ID:OaYTObcJO
乙!
470 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/30(金) 22:55:46.17 ID:AnSU76xv0
乙、ありがとうございます。

>>468 今の段階だとどちらかというと「嘘乙」になりそうですね
自分が好かれているとは毛ほども想定してないので

投下します。
471 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/30(金) 22:56:21.88 ID:AnSU76xv0
男(それから少ししてドラゴンの移送について話がまとまったため)

男(後は流通部門の人たちに任せて俺たちは商業都市の内部に戻った)



男(古参商会・本館を再び訪れるとそのまま応接室へと通される)



女友「女に男さん。そちらの話は付いたんですか?」



男(そこにはドラゴンの売買において条件の交渉をしていた女友がいた)

男(対面には最初に俺たちに対応した受付の人もいる)

472 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/30(金) 22:57:07.48 ID:AnSU76xv0

女「さっき終わったよ。女友の方は交渉どうだった?」

女友「ええ。かなりの金額もらえることになりました。宝玉を買い取っても十分にお釣りが来るほどです」

女「……あまり無理言ってないよね?」

女友「大丈夫ですよ。ギリギリを見極めましたから」



受付「女友さんにはありとあらゆる揺さぶりからこちらの限界を探られて……」

受付「本当ここまでやりにくい人は初めてです。結局押し負けました」

男(受付の人がグッタリしている。どうやら熱い交渉バトルがあったようだ)



女友「それと商会長と秘書さんは一時間後、私たちにお礼を言うため会ってくれるようです」



受付「こう見えて私も古参商会入って長いですが、それでもドラゴンを取り扱うのも初めてですからね」

受付「王国とのパイプも補強されましたし、皆さんには感謝してもしきれません」

受付「会長の気持ちも同じだと思います。ですからこの後の視察を延期して皆さんと会うことに決めたのでしょうし」



男「……そうか」

男(わざわざ用事を後回ししてでも俺たちと会うほどの『価値』があると示すことが出来たわけだ)

男(同時に『対価』の用意も出来たようだし、この地における宝玉は手に入れたも同然だな)

473 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/30(金) 22:58:44.05 ID:AnSU76xv0

女「じゃあ一時間はのんびりする?」

男(女が提案する。確かにあとは商会長が帰ってくるのを待てばいいだけだ)

男(思えばこの商業都市に来てからまだ二日しか経っていないが、その間かなり密度の濃い時間を過ごしていた気がする)

男(ここらでゆっくりしても罰は当たらないだろう)



男「そうだな。ここの応接室にいてもいいんですか」

受付「ええ、もちろんです。用があったら何でも申しつけてください!」

男(受付の人が胸に手を当てて任せてくださいとアピールする)



男(俺はその言葉に甘えてソファに腰掛ける。とてもフカフカで座るというより沈むという感触だ)

男(この都市で一番の勢力を誇る商会だけあるな)

474 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/30(金) 22:59:39.25 ID:AnSU76xv0

受付「お茶とお茶菓子も持ってきましょうか!」

男(やる気満々の受付の人だが、肩肘張りすぎていて見ているこちらが疲れてきそうだ)



女友「いえ、そこまではいいですよ」

受付「遠慮しないでください! 皆さんをもてなすことが現在の私の仕事ですから!」

女友「そうですか……では少し世間話に付き合ってもらえますか?」

受付「おやすいご用ですよ!」



女友「なら……今回のドラゴンの売買に関してです。これだけ大きな商談ですと、邪魔されたりしたら大変ですよね」

男(世間話というには話題が切り出しから物騒だ)



受付「……え、ええ。そうですね」

男(案の定受付の人も困惑している)

475 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/30(金) 23:00:34.82 ID:AnSU76xv0

女「もう、女友。迷惑かけちゃだめだよ」

女友「そのつもりはないですが」

女「大体誰が邪魔するのよ。古参商会ってこの都市でも一番の力を持つんでしょ?」

女友「ええ。ですから正面切って横槍入れるような人はいないでしょうね」

女友「ですが手段なんていくらでもあるものですよ」



受付「女友さんが心配しているのはスパイについてですか?」

男(女友の遠回しな言葉は受付の人に伝わったようだ)



男(スパイ……あーそういやそんな話があったか)

男(古参商会に入り込んでいる新参商会のスパイ)

男(機密情報が漏れているとしか思えない状況から巷で噂されているほどの問題)

男(スパイを捕まえれば交換で宝玉を譲ってもらえるように交渉出来ると思っていたが、今はドラゴンの交渉で得たお金があるからな)

男(魅了スキルでズル出来るとはいえ、スパイ捜査には時間がかかるだろう)

男(だったら金で済ませられることは済ませて、次の宝玉を探しに行った方がいい)

476 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/30(金) 23:01:19.80 ID:AnSU76xv0

男(だから興味がないな、とこれまでの疲れと座り心地の良さからうとうとしだしたところで)





受付「それならしばらくは大丈夫ですよ。この前新たにスパイが捕まりましたので」





男「…………」

男(受付の言葉に気になるところがあって目をつぶったまま耳を傾ける)



女友「しばらく……新たに、ですか?」

男(女友も同じところが引っかかったようで聞き返す)



受付「というのも……って、これよく考えたら外部の人に言っていい情報じゃないような……」

男(今さらながら受付の人が気づく。商会の内部情報だし、いくら俺たちが上客だからって話していいものではないだろう)

477 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/30(金) 23:02:01.88 ID:AnSU76xv0

女友「えー、そこまで言ったのにお預けはないですよ」

女「もう、女友…………と言いたいところだけど、正直私も気になります」

受付「二人ともですか」



女友「私たちしかいませんしいいと思いません? それにさっき何でもしますって言いましたよね?」

女「あ、言いました、言いました!」

受付「……もう仕方ありませんね。絶対誰にも内緒ですよ♪」

女友「はい♪」

女「分かってます♪」



男(仕方ありませんといいながら、受付の人の声音がウキウキしている。おしゃべり好きなのだろう)

男(こうして内緒話って広がっていくんだな)

478 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/30(金) 23:03:16.11 ID:AnSU76xv0

受付「女友さんたちはスパイのことについて、どこまで知っているんですか?」

女友「私が聞いたのは古参商会の機密情報が新参商会に流れているとしか思えない状況だってことくらいですね」

女「私も女友が知ってる話を聞いただけだから一緒かな」



受付「では順番に話しますね。まず情報漏洩が発覚した時点で内部調査会が発足するんです」

受付「秘書さんが長を務めて、内密に調査を始めます」

女友「秘書さんというと、古参会長の右腕のですか」

女「信頼されてるんだ」



受付「二人とも知っていたんですか。秘書さんは能力が高いですからね、すぐにスパイを見つけるんですよ」

受付「その後は調査会に呼んで聴取するんです。けど、毎回スパイは『自分は違う』って否定するそうですね」

女友「まあ認めませんよね」

女「ご、拷問とかしませんよね?……」



受付「そんな野蛮なことはしませんよ。実際聴取した時点でスパイの証拠は掴んでますからね」

受付「他にも調査を進める途中で業務上の横領だったり別件の犯罪も見つかったので警察に引き渡して終了……」

受付「……なら、普通なんですがね」



女友「ええ、ここまでだと普通の案件ですね」

女「どうなるの……?」

479 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/30(金) 23:04:26.59 ID:AnSU76xv0

受付「スパイを捕まえてしばらく、まあ一年ほど経つと、また情報漏洩が起きてしまうんです」

女友「ということは……新たなスパイが?」

女「また見つけないと!」



受付「ええ。さっき言った流れが、スパイだと認めなかったり、別件の犯罪が見つかった点も含めて、そのままもう一回あり、新たなスパイも警察に引き渡しました」

受付「……ですが、しばらく経つとまた情報漏洩が……」

女友「ループしてますね」

女「その度に何回もスパイを捕まえてるってこと?」



受付「そういうことです。もう何人か捕まえていて、最新は一ヶ月前ですね」

女友「先ほど『新たに』って言ったのはそういうことですか」

女「だから『しばらく』は大丈夫って言ったんですね。これまで通りならスパイを一度捕まえると情報漏洩もしばらくは収まるから」

480 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/30(金) 23:05:47.75 ID:AnSU76xv0

受付「はい。スパイを捕まえることは対処療法でしかありません」

受付「もっと根本的に解決したいとは私はもちろん、会長や秘書さんも同じ気持ちを持っていると思います」

女友「根本的というと……何故捕まえても新たにスパイが出てくるのかってことですね」

女「元スパイだった人に話を聞けば……って、スパイだと認めてないんだったね」



受付「話を聞きに言っても『自分はスパイじゃない!』と開き直られて調査は難航している状態です」

女友「考えられる可能性は、スパイが潜入しているわけではなくて、寝返らせているといったところでしょうか?」

女「例えば新参商会の人が、古参商会の人に『金を渡すから情報を売れ』みたいなことをしているってこと? それなら何人捕まえても終わらない理由が分かるね」



受付「ええ。商会も現在その方向で考えていて、新参商会に対する調査をしているところです」

受付「……あ、これは本当ヤバいので秘密にしてください」

女友「分かりました。しかし…………本当に…………いえ……ですが…………」

女「どうしたの、女友? 何か考え事?」



受付「気になることがあるんですか?」

女友「ちょっと他の可能性について考えたんですが……まあ、あり得ませんね。忘れてください」

女「えー、何? 気になるじゃん」





男「…………」 

男(その後三人は違う話で盛り上がり始めた)

男(恋愛話やこの町で有名な食べ物屋などの話題には興味は無く、今の話について俺なりの考えを練って……)

男(そして結論を出した)

481 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/30(金) 23:06:26.22 ID:AnSU76xv0

男(一時間後)



受付「ここが会長室です」

男(俺たちは受付の人に連れられるまま、古参商会・本館の最上階を訪れていた)



男(受付の人は扉をノックする)

受付「会長。三人を連れてきました」

商会長「ああ。入りたまえ」

受付「……だそうです。では、私はこれで」

男(受付の人は俺たちに一礼すると、来た道を帰って行った。俺たちをここまで連れてくるのが仕事だったのだろう)



女「失礼します」

男(女が扉を開けて入り、俺と女友が後に続く)

482 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/30(金) 23:07:24.73 ID:AnSU76xv0

男(会長室入って正面の執務卓。そこに目当ての人物は座って俺たちを待ちかまえていた)





商会長「やはり君たちか。ドラゴンをテイムした者の特徴報告を受けたときはもしやと思ったが……」

商会長「まさかあれから二日も経っていないのにまた会うとはな」



男「言われたとおり『価値』を示したぞ。『対価』の用意もばっちりだ」





男(一歩前に出た俺はカッコつけて言い放つが)



女友「まあどちらもドラゴンと戦った私と女のおかげですけどね」

女「ちょっと女友、男君が話してるんだから黙ってないと」

男(後ろの二人のヒソヒソ声でいろいろ台無しだった)

483 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/30(金) 23:08:26.85 ID:AnSU76xv0
続く。

一ヶ月毎日投下完了!
というところで書き溜めが尽きたので明日はお休みします。
次は明後日予定。
484 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/30(金) 23:48:09.35 ID:RUHGGpKMO

485 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/12/01(土) 00:10:44.92 ID:zd1UM0VBo
乙ー
486 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/02(日) 17:52:28.62 ID:LH3gA5kf0
乙、ありがとうございます。

投下します。
487 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/02(日) 17:53:24.49 ID:LH3gA5kf0

女「すごくすっきりしておいしいです!」

女(私は振る舞われたお茶に対して感想を述べる)



女(商会長と秘書さんに会うことが出来た私たちは早速交渉に入ろうとした)

女(しかし会長が『今日は礼を言うために呼んだんだ、まずは歓迎させてくれないか』と提案したため)

女(私たちは秘書さんが淹れたお茶を片手にテーブルを囲んで座っている)



商会長「そうであろう。秘書の淹れるお茶は絶品でな」

秘書「恐縮です」



女友「先ほどは断っておいて正解でしたね。こうなると思っていましたし」

女(女友の言葉は先ほど受付の人にお茶を持ってこようか提案されたのを断ったことだろう)



男「…………」

女(男君は無言でお茶を飲んでいる。表情から焦れていることは見て取れた)

女(さっさと本題に入りたいけど、この雰囲気から言い出せないんだろう)

488 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/02(日) 17:54:15.10 ID:LH3gA5kf0

商会長「さて。今回はドラゴンについて交渉相手を当商会に選んでくれたこと、とても感謝している」

女(しばらくお茶を楽しんでから、おもむろに商会長が切り出した)



男「古参商会を選んだのは別の目的があるからだ」

商会長「だとしても感謝していることには変わりない。だからその気持ちを行動で表そう」

商会長「君たちだろうと思っていたから、ここに来る前に倉庫から引っ張り出しておいた」

女(商会長はポケットから小箱を取り出して、中身を見せる)



女(そこにあったのは中に魔法陣が描かれた青い宝石)

女(私たちが求めている宝玉そのものだ)



女友「女の持っている一個目と全く同じですね」

女「これで二つ目だ!」

489 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/02(日) 17:54:55.76 ID:LH3gA5kf0

男「本物か……一安心したな」

女(私と女友が喜んでいる中、一人男君だけは別のところに着目していた)



女「それって……本当は商会長が宝玉を持っていないんじゃないかと疑っていたってこと? もう失礼だよ、男君」

商会長「いや、いい。元々酒場で飲んだくれていたおっさんがした話だからな。信じられないのも分かる」

女(商会長は許したけど……私は何か嫌だな。そういう考え方)



商会長「しかし三人でドラゴンに挑んだという話は驚いた」

商会長「失礼は承知だが……もし良ければステータスを見せてもらえるだろうか」

女「分かりました」

男「……あ、おいっ」



女(私は即答してステータスを開いたため、男君の制止の声は間に合わなかった。

女(たぶん軽率なことはするな、と注意するつもりだったんだろう)

女(ステータスは個人情報だ。他人に見せびらかすものではない)

女(私だって分かっているけど……商会長は信頼できる人だ。問題ない)

490 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/02(日) 17:55:41.97 ID:LH3gA5kf0

商会長「ふむふむ……職は伝説の傭兵と同じ『竜闘士』」

商会長「それにスキル欄にもびっしりと有用なスキルが……」

秘書「目を見張るような内容ですね」

秘書「しかし納得しました。確かにこれならドラゴンをテイムすることが出来るでしょう」

女(どちらも反応は薄目だが商会長と秘書さんは私のステータスを見て驚いているようだった)

女(それにしても……村長の息子、青年さんも言ってたけど、私と同じ『竜闘士』らしい伝説の傭兵ってどんな人なんだろう?)





女友「女が見せたなら、私も見せておきましょうか」

商会長「こちらの少女は魔導士で……高位魔法含めて、ほとんどの魔法が使えるのか」

秘書「二人だけでちょっとした軍隊レベルの戦力ですね」

女(秘書さんの評価は大げさではないだろう。実際百人で苦戦するドラゴンを二人だけで圧倒したわけだし)

491 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/02(日) 17:56:17.78 ID:LH3gA5kf0

商会長「そうなると残る少年は……」

男「期待しているところ悪いが、俺はステータスを見せられない」

男「それに職もただの冒険者だから、二人と違って戦闘力は全くないぞ」

女(男君はにべもなく断る)



女(商会長は私、女友とステータスを見て、男君も同じくらい強いと思ったのだろう)

女(でも、男君は初期職の冒険者だ)

女(ステータスを見せられないのは、男君の気持ちもあるのだろうが、魅了スキルの存在について明かしたくないからだろう)

女(女性を支配できるそのスキルは、知られると欲望の標的にされてもおかしくない)

女(だからなるべく秘密にするべきとは分かっている)



秘書「……そうですか」

女(秘書さんは頷くが疑問を抱いていることは見て取れた)

女(ただの冒険者であるなら、どうして私と女友のようなとても高い戦闘力を持つ人と組んでいるのか気になったのだろう)

女(魅了スキルの存在を知らなければ腑に落ちるはずがない)

女(しかし何らかの事情があることを察して質問はしなかったみたいだ)

492 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/02(日) 17:56:58.54 ID:LH3gA5kf0

商会長「三人ともどうだろう、古参商会に入るつもりはないか? 今なら最高の待遇で迎えることを約束しよう」

女「お誘いは嬉しいですが、私たちには使命があって……ごめんなさい」



商会長「使命……というと、酒場で少年が言っていた女神の遣いといったものか」

商会長「異なる世界より女神によって召喚され、元の世界に世界を戻るため、この世界を守るために宝玉を集めると」

女「はい」



商会長「少年の様子から嘘は吐いていないのだろうとは思っていたし」

商会長「こうして宝玉を手に入れるための執念を見せられては認めるしかないが……」

商会長「世界の危機……か」

女(商会長が悩んでいる)

女(理屈では真実だと思っていても、スケールが大きすぎる話に本能が否定してしまうのだろう)

493 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/02(日) 17:57:39.66 ID:LH3gA5kf0

商会長「秘書はどう思う?」

秘書「……判断が付きかねますので、私は会長の選択を全面的に支持します」

商会長「そうか。ならばなおさら慎重に考えないといけないな」

女(秘書さんが寄せる全幅の信頼に、商会長もさらりと応える)





女「お二人って付き合っていたりしないんですか?」

女(二人の絆を感じさせるやりとりに、私は気づいたときには口を開いていた)





女友「女……その質問は流石に……」

男「恐れ知らず過ぎるだろ」

女(絶句する女友に、男君に呆れられる始末)



女「ご、ごめんなさい!! 私失礼なことを聞いてしまって……!」

女(慌てて私は謝る)

494 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/02(日) 17:58:24.82 ID:LH3gA5kf0

女(しかし、二人には聞こえていなかったようだ)



商会長「そうだな……秘書とはもう十年来の付き合いだ」

商会長「様々な難局を共に乗り切った右腕であることに、私に伴侶がいないこともあって、邪推をされるのは初めてではない」

商会長「……だがそのようなことは一切無い。大体もう50にもなるおっさんでは釣り合いが取れないだろう」



秘書「商会で歴代の中でも一番に才があると言われている会長です」

秘書「対して私はその補佐でしかありません」

秘書「愛想もない女ですし、私の方こそ会長に釣り合いが取れていません」



女「…………」

女(二人の否定が本心ではないことは誰にでも分かっただろう)



女友「あら……」

女(女友も興味深そうにしている。さっきまで私に絶句していたのに)

495 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/02(日) 17:59:07.40 ID:LH3gA5kf0

女(そして男君も………………)



女「えっと……大丈夫、男君?」



女(男君の反応を窺った私は思わず心配した)

女(商会長と秘書さんを見ている男君の表情が、今までに見たことが無いほどの渋面だったからだ)

女(だけどそれも一瞬のことで)



男「商会長、宝玉の交渉について一つ提案があるんですか」

女(今度は不自然なほど無の表情を作って、男君は商会長に話しかける)



商会長「……何だ、少年よ」

女(感傷に浸っていた商会長は切り替えて応じる)

496 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/02(日) 18:00:02.86 ID:LH3gA5kf0

男「宝玉の『対価』に払う物を、お金から別の物に変更したいんですが」

商会長「……どういうことだ? 宝玉には高い価値がある」

商会長「その『対価』になるほどの物をお金以外で用意できるというのか?」





男「はい。俺の行動で用意します」

男「現在古参商会を悩ませているスパイ騒動……それを完全に解決した暁には宝玉を譲ってもらえないでしょうか?」





女「…………」

女(男君の提案は……当初想定していたものだった)

女(でも私は道中で男君の考えを聞いていた)



男『ドラゴンの交渉でお金がたくさん入った今はわざわざスパイを見つける必要がない』

男『それに時間をかけるくらいなら次の宝玉を探しに行った方がいい』



女(なのにどうしてこのタイミングで心変わりしたのか?)



男「返事をお聞かせください」

女(男君の能面のような表情からは何も読み取れない)
497 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/02(日) 18:00:46.29 ID:LH3gA5kf0
続く。

今後は不定期更新となります。
週2〜3回は投下できるように頑張りたいです。
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/02(日) 18:13:48.61 ID:xJfk9j9Wo
おつ
女性陣と男でこれまで以上に考え方の違いが浮き彫りになりつつあるね
499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/12/02(日) 18:20:00.80 ID:4MPlHblEo
乙ー
500 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/02(日) 20:27:31.45 ID:0fhdFJTV0
乙!
501 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:37:34.77 ID:BuxzHRpr0
乙、ありがとうございます。

>>498 さらに浮き彫りにしていきます。

投下します。
502 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:38:17.64 ID:BuxzHRpr0

商会長「スパイかは分からないが先月当商会の機密情報を漏洩させていた職員を解雇したところだ」

商会長「その後被害の続報はないため解決したとの見解を出している」



女(商会長の発言は公式を意識したものだ)

女(確たる証拠もないのに新参商会のスパイだと名指しして、批判するわけにはいかない。状況的に違いないとしても)



男「本質は違うでしょう。もう何年も前からスパイを捕まえても、新たなスパイが出てくる状況に陥っているんですよね?」

女(男君の言葉は建前をやめて本音で話すように商会長に要求している)



商会長「……そういえば君たちの世話をしていたのはあやつだったか。全く、口が軽い」

男「どこで知ったかは関係ないでしょう。返事はどうなんですか?」



女(ともすれば話題を逸らそうとする意図には乗らず、男君は強く切り込む)

503 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:39:05.55 ID:BuxzHRpr0

商会長「……少し考えさせてくれないか」

女(商会長は待ったをかけた)

女(男君が本当にスパイ騒動を解決できるのか、だとしてそれは宝玉の代金と釣り合うのか)

女(もしかしたら何か裏の意図があるのではないか……と色々な計算が巡っているのだろう)



男「すいません、性急すぎましたね。考えが付くまで待ちましょう」

女(男君の表情は相変わらず無だ。何を思っているのか全く読みとれない)



女(会話が止まったところで、女友が口を開いた)



女友「男さん、やっぱり先ほどの受付さんとの話聞いていたんですね。ソファーに座って寝ているように見えましたが」

男「狸寝入りだったからな。やっぱり、ってことは気づいていたのか」

女友「はい。見破るコツは喉です。人間は寝ているとき唾が出ないんですよ」

女友「だから唾を飲み込む仕草があったら、その人は狸寝入りをしているってことです」

男「そうなのか……今後は参考にしよう」



女(へえ、そうなんだ。女友の豆知識を私も脳内メモに書き込む)

女(……って、今の知識男君が知ってたらこの前私が酔ったときの狸寝入りもバレていたよね。危ない、危ない)

504 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:39:44.97 ID:BuxzHRpr0

女「でもどういうことなの、男君」

女「ドラゴンの交渉で入ったお金があるから、それを使ってさっさと次の宝玉を探しに行った方がいいんじゃなかったの?」



男「それには前提があるだろ?」

女「前提?」

男「スパイを捜すのは俺のスキルを使っても時間がかかるから、って前提だ」

男「逆に時間がかからないならスパイを見つけた方が節約できて得だろ」



女「えっと、ということは……もしかして男君はもう既にこの騒動の犯人に検討が付いてるってこと?」

男「ああ。今まで聞いた話とさっきの話を統合して考えたら分かった」

女「だ、誰なの!? それにまだ何も調べていないのに……」

女(淡々と話す男君に、私は驚くと同時に不可解な気持ちになった)



女(私たちのアドバンテージは男君の魅了スキルを使って、女性相手に嘘を吐かせない捜査が出来るところのはずだ)

女(なのに男君は魅了スキルをまだ一度も使っていないこの段階で犯人が分かったと言っている)

女(話を聞いただけで分かるような簡単な事件なら、どうして商会は今まで犯人を捕まえることが出来なかったのか)

女(逆にどうして男君は犯人が分かったのか)



女「…………」

女(何か嫌な予感がした)

505 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:40:50.23 ID:BuxzHRpr0

商会長「すまない。待たせたな、少年」

女(そのタイミングで商会長は考えの整理が付いたようだった)



男「結論は出ましたか?」

商会長「その前にここからは建前を捨てて本音で話そう」

商会長「この場に私たちしかいないことだし、君たちが外に漏らすことはしないと信頼してのことでもある」

男「もちろんです」



商会長「確かに数年前から当商会は新参商会によるものだと思われるスパイには悩まされていたのだ」

商会長「一時期経営が傾きかけたくらいだからな」

商会長「何人かは捕まえているが、対症療法にしかなっていない」

商会長「本当に完全な解決が出来るならば、それは宝玉を譲るほどに価値のある行いだ」



男「ということは……」



商会長「条件付きで君の提案を呑もう」



506 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:41:52.62 ID:BuxzHRpr0

男「ありがとうございます。……それで条件とは何でしょうか?」

商会長「君の見解をこの場で語って欲しいということだ。あまりにも的外れな場合、調査を任せるわけには行かないからな」

男「ごもっともですね。分かりました、俺の考えを……何なら犯人の指摘までここで終わらせましょうか」

商会長「犯人が……もう分かっているというのか?」

女(先ほどの私たちの会話は聞こえてなかったようで、商会長は驚いている)



男「ええ。順を追って話しましょう」



男「今回のスパイ騒動、詳細は皆さん知っていると思うので省きます」

男「注目するべきポイントは三つ」



男「『捕まった者は自分がスパイだと認めなかったこと』『別の犯罪が同時に発覚したこと』『何度捕まえても新たにスパイが出てくること』です」



507 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:42:26.57 ID:BuxzHRpr0

女「……? 別に認めないのが普通じゃないの? それにスパイするくらいだから別の犯罪していてもおかしくないし」

男「そうだな、女。前者二つはそうおかしいことではない」

男「だから最初は『何度捕まえても新たにスパイが出てくること』これについて考えたいと思います」

商会長「続けてくれ」



男「じゃあ質問だ、女。どうして何度捕まえても新たにスパイが出てくるんだと思うか」

女「それは……新参商会の人が、スパイが捕まる度に古参商会の職員に対して寝返り工作を行うから……じゃないの?」

女(受付の人と話していた時の結論をそのまま話す)



男「考えられる可能性の一つだな。古参商会も現在この方向で調査しているんでしょう?」

商会長「外聞が悪いから世間には秘密にしてくれ」

508 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:43:06.37 ID:BuxzHRpr0

男「さて、新参商会が古参商会に対して寝返り工作を行っていると仮定して……」

男「この場合困難な問題があります。女友なら気づいているんじゃないか?」



女友「……ええ。新参商会は寝返り工作を行う対象をどのように選定しているのか、ということですよね?」

女「どういうこと?」



男「例えば女が古参商会の職員だったら、機密情報を売ってくれないかと頼まれたときどうする?」

女「そんなの『悪いことは出来ません!』って突っぱねるに決まってるよ!」



男「ああ。このように正義感や、商会に対する忠誠心の強いやつに対しての寝返り工作は失敗するってことだ」

男「そしてそんなこと頼んできたやつを逆に調査して、新参商会の手の者だったと逆に暴いてしまえばいい」

女「そっか……そんなリスクがあるんだ」

509 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:44:20.20 ID:BuxzHRpr0

男「でも現在古参商会の調査は滞っている」

男「つまり新参商会の寝返り工作らしきものを受けた職員はいないということですね?」

商会長「ああ。聞き取り調査をしたが、そのような話を受けた者はいないようだ」



女「だったら機密情報を売ってくれそうな人間に絞って寝返り工作を仕掛ければいいんじゃないの?」

女「実際、これまでに見つかったスパイって業務上の横領だったり別の犯罪をしていたような人たちなんでしょ?」



女友「それだと新参商会はどうしてスパイに寝返らせる前から、犯罪をしている職員を突き止められたのかという疑問が上がります」

女友「それだって重要な内部情報ですから」



女「あ、そっか。内部情報を売らせる前から、内部情報に精通しているってことになるんだね」



商会長「商会でもその壁にぶち当たっているところでな」

商会長「……しかし他に有力な可能性が思いつかないため、地道な調査を続けているところだ」



女「うーん……」

女(私がこのスパイ騒動の難解さをやっと認識したところで)

510 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:45:00.71 ID:BuxzHRpr0



男「卵が先か、鶏が先か……哲学の問題ですが、そのような難解な出来事が現実に起こることはそうそうありません」

男「だったら疑うべきは前提の部分」

男「そもそも新参商会は寝返り工作を仕掛けていないんじゃないでしょうか?」



女(男君が問題を一刀両断した)



女「寝返り工作していない……って、じゃあどうなるの?」

男「新参商会は古参商会の内部にスパイを潜入させているってことだ」

女「スパイの潜入……でも、これまでに何人も捕まっているよね」



男「それは全員偽物だ」

女「偽物!?」



女(話の展開が急になってきた)

511 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:46:03.89 ID:BuxzHRpr0

男「ああ。今までに捕まったのは、真のスパイによって仕立て上げられた偽のスパイだ」

女「で、でもそんな突拍子もない可能性……」



男「何言ってるんだ。証拠はあるだろ。捕まった者は自分がスパイだと認めなかった、って」

男「認めなかったんじゃなくて、本当にスパイじゃなかったんだ」



女「じゃあ嘘を吐いてたんじゃなくて、本当のことを言ってたってわけ!?」

女(スパイだから口が固いんだと思ってたのに、そんな裏があるとは)





男「全員が別の犯罪をしていたのも当然だ。真のスパイは古参商会の内部情報に精通しているはず」

男「だから犯罪をしている職員を狙って、自分の身代わりに仕立て上げたんだ」



女「他に悪いことをしている人間だから、認めないけどスパイ行為もしていたに違いない……って思わせるために?」

男「そうだろうな。そして偽のスパイが捕まる度に真のスパイは情報漏洩を止めた」

男「そいつが本当にスパイだったと思わせるための罠としてな」





女(男君によって真実が明らかになっていくことに私はドキドキする)

女(しかし、それは私だけだったようだ)

512 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:46:59.66 ID:BuxzHRpr0

商会長「すまないが、少年。君の考えには一つ抜けているところがあるぞ」

男「何ですか?」

商会長「それは真のスパイが仕掛けた偽の証拠に私たちが騙されているというところだ」

男「…………」



商会長「情報漏洩の対処には私直属の調査会が当たっている。秘書をリーダーに置いたメンバーたちの技量は疑うまでもない」

男「……」



商会長「その者たちが偽のスパイに誘導されることなどあるはずがない」

商会長「逆に仕掛けを見抜いて真のスパイに辿り着くはずだ」

商会長「つまり君の考えは間違っている」



女(商会長の指摘。秘書さんをよっぽど信頼しているのが伝わってくる)



男「女友も同じ考えなのか?」

女友「……その通りですね」



女(女友も頷く)

女(どうやら私以外の二人は、男君が語った真実をとっくに想定していて、間違っていると判断していたようだった)



女「えっと……だったら、やっぱり新参商会が寝返り工作を仕掛けていたってこと……?」

女(何が正しいのか、分からない。ぐるぐると思考が堂々巡り始めたところで)

513 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:47:39.64 ID:BuxzHRpr0





男「はぁ……だから誰も今まで解決できなかったのか」





女(男君は大きく溜め息を吐いた)



商会長「あー……少年、どういうことかね?」

女(含まれた嘲りの意図に、怒りより先に困惑した様子の商会長)



男「すいません、失礼でしたね」

男「ですが商業の世界を、情ではなく数字や策謀が支配する世界を生き抜いてきたはずの商会長ともあろう人が」

男「そこで思考停止しているとは思ってもみなくて」



女(そして男君はとんでもないことを言い出した)

514 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:48:08.94 ID:BuxzHRpr0





男「調査会なら真のスパイに騙されるはずがない?」

男「だったら真のスパイが調査会の内部にいたらどうなるんですか?」

男「騙し放題ですよね?」





商会長「な……?」

女「え?」

女友「やはり……」



女(その言葉の意味を理解しようとする私たちの前で――)

515 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:48:55.44 ID:BuxzHRpr0





男「発動、『魅了』スキル」





女(男君はその身に宿すただ一つのスキルの発動を宣告した)



女「えっ!? どうしてこのタイミングで……」

女(これで二回目となる魅了スキルの発動。ピンク色の光が部屋を埋めて対象を虜状態にする)



女(効果範囲となる5m以内にいるのは――)



女(商会長は男性のため条件に当てはまらない)

女(私は男君に特別な行為を抱いているため今回も不発)

女(女友は既に魅了スキルにかかっているため意味はない)



女(だから、最後の一人)

516 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:49:29.66 ID:BuxzHRpr0



秘書「っ……!?」



女(ここまでずっと黙って話を聞いていた秘書さん)

女(魅了スキルは成功しただろう)

女(効果範囲の周囲5m内だし、対象の『魅力的だと思う異性』も秘書さんは私から見ても綺麗な人だし当てはまるはず)



秘書「こ、これは……」



女(秘書さんが顔を横に振って何かに抗おうとしている)

女(虜になった時点で、術者の男君に好意を持つはず)

女(女友が子作り発言をしてしまったくらいだ)

女(好意から衝動的な行動に移ろうとするのを押しとどめようとしているのだろう)

517 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:50:16.82 ID:BuxzHRpr0

女(そしてもちろん魅了スキルの効果はそれだけではない)



男「秘書さん、命令です。これから質問には必ず真実で答えてください」



女(男君の目的は最初からこれだったのだろう)

女(魅了スキルによって嘘を吐けないようにして)



男「あなたが新参商会のスパイなんですよね?」



女(犯人に自白を促す)



秘書「私は……くっ!」

女(意志に反して話し出した口を手で塞ぐことで秘書さんは抵抗する)

518 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:50:53.64 ID:BuxzHRpr0



男「命令です。口から手を離してください。発言の邪魔となる行動をしないでください」

女(しかし男君は無慈悲に命令を追加して)



男「もう一回質問します。あなたが新参商会のスパイなんですよね?」



秘書「…………はい」



女(秘書さんは容疑を認めた)





商会長「ど、どういうことだ……秘書。そんな……う、嘘だよな?」

女(商会長はその光景にただただ狼狽えていた)

519 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:51:37.77 ID:BuxzHRpr0
続く。

次は木曜投下予定です。
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/12/04(火) 23:59:01.73 ID:YsCrU/ewo
乙ー
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/05(水) 06:10:21.71 ID:IHxn8bypO
乙!
522 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/06(木) 23:33:33.43 ID:Sapf2Y8Z0
待っていた方にはすいません。
ちょっと延期します。
明日か明後日投下します。
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/12/07(金) 00:30:33.28 ID:oVfYTSiRo
待ってる
524 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/08(土) 23:34:15.56 ID:6+JBI1Sn0
乙、ありがとうございます。

>>523 その一言に感謝を。

遅くなりましたが、投下します。
525 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/08(土) 23:35:06.35 ID:6+JBI1Sn0

男「ふぅ……」

男(俺は一息つく)

男(推理の披露から犯人の指摘も終わって、探偵の役目も終わり)

男(後は犯人が勝手に自供してくれるものだと思っていたのだが)



秘書「申し訳ありません……申し訳ありません……!!」

商会長「違う! 私はそのような言葉を聞きたいのではない!!」



男(謝り倒す秘書さんに、混乱している商会長を見るにどうやらもう一働きしないといけないようだ)

526 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/08(土) 23:35:43.27 ID:6+JBI1Sn0

男「秘書さん、命令です。あなたが新参商会のスパイであるという確固たる証拠を持ってきてください」

男(俺は魅了スキルによる命令を出す)



男(ちなみに毎回『命令です』と前置きするのには理由がある)

男(魅了スキルの命令は対象が認識する事が必要だからだ)



男(『〜〜してください』だけでは、対象が『これはお願いかな? 命令じゃないよね?』と自己の認識を操ることで命令をすり抜けられる可能性がある)

男(それを防ぐために一番いいのは命令形で強く『〜〜しろ』と言うことなのだが、目上の人にそのような口調を使うのも良くない)

男(だから『命令です』と言うことで逃れられないようにしているのだ)



秘書「分かりました」

男(命令に従い会長室を出て証拠を取りに行く秘書さんを見送る)

527 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/08(土) 23:36:39.31 ID:6+JBI1Sn0

商会長「少年……どういうことだ? 秘書が……商会を苦しめていたスパイだったと?」

商会長「そんな……そんなことあるはずが……そうだ、何か変なスキルを使っていたな?」

商会長「それで秘書を操って、あのような発言をさせた……そうに違いないんだろう?」



男(商会長はどうしても信頼していた人に裏切られていたという事実を受け入れられないようだ)

男(仕方ないので俺はステータス画面を開いてみせる)



男「これが先ほどは見せられなかった俺のステータスです。他言無用でお願いします」

男「ご覧のように初期職の『冒険者』で戦闘力は無いですし、スキルも一つだけです」

男「しかしその『魅了』スキルがとても強力な代物で……詳細がこれです」



商会長「魅了……異性を虜にして……命令に従わせる……?」

528 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/08(土) 23:37:15.89 ID:6+JBI1Sn0

男「これで秘書さんに真実を語らせたというわけです。命令した内容も聞こえてましたよね?」

商会長「そう……だが。なら、あの秘書は別物だ……私と共に難局を乗り越えた秘書は別にいるんだ……」

商会長「どこかで入れ替わったんだ……そうに違いない」

男(あー今度はそうやって逃避するのか。だが、それは無いと分かっている)



男「秘書さんは最初からスパイとして活動していたはずですよ」

男「秘書さんが会長の右腕に付いた10年前と新参商会の発足が10年前で一致していますから」

男「新参商会が破竹の勢いで発展したのは、秘書さんが右腕に付いたことで得た古参商会全体のノウハウを横流ししたからだと思います」



商会長「そんなはずが…………」



男(否定の言葉が弱くなったな)

男(これで秘書さんが最初から自分を騙すために近付いてきたのだと理解しただろう)

男(関係が幻想だったと分かっただろう)

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