男「恋愛アンチなのに異世界でチートな魅了スキルを授かった件」

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499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/12/02(日) 18:20:00.80 ID:4MPlHblEo
乙ー
500 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/02(日) 20:27:31.45 ID:0fhdFJTV0
乙!
501 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:37:34.77 ID:BuxzHRpr0
乙、ありがとうございます。

>>498 さらに浮き彫りにしていきます。

投下します。
502 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:38:17.64 ID:BuxzHRpr0

商会長「スパイかは分からないが先月当商会の機密情報を漏洩させていた職員を解雇したところだ」

商会長「その後被害の続報はないため解決したとの見解を出している」



女(商会長の発言は公式を意識したものだ)

女(確たる証拠もないのに新参商会のスパイだと名指しして、批判するわけにはいかない。状況的に違いないとしても)



男「本質は違うでしょう。もう何年も前からスパイを捕まえても、新たなスパイが出てくる状況に陥っているんですよね?」

女(男君の言葉は建前をやめて本音で話すように商会長に要求している)



商会長「……そういえば君たちの世話をしていたのはあやつだったか。全く、口が軽い」

男「どこで知ったかは関係ないでしょう。返事はどうなんですか?」



女(ともすれば話題を逸らそうとする意図には乗らず、男君は強く切り込む)

503 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:39:05.55 ID:BuxzHRpr0

商会長「……少し考えさせてくれないか」

女(商会長は待ったをかけた)

女(男君が本当にスパイ騒動を解決できるのか、だとしてそれは宝玉の代金と釣り合うのか)

女(もしかしたら何か裏の意図があるのではないか……と色々な計算が巡っているのだろう)



男「すいません、性急すぎましたね。考えが付くまで待ちましょう」

女(男君の表情は相変わらず無だ。何を思っているのか全く読みとれない)



女(会話が止まったところで、女友が口を開いた)



女友「男さん、やっぱり先ほどの受付さんとの話聞いていたんですね。ソファーに座って寝ているように見えましたが」

男「狸寝入りだったからな。やっぱり、ってことは気づいていたのか」

女友「はい。見破るコツは喉です。人間は寝ているとき唾が出ないんですよ」

女友「だから唾を飲み込む仕草があったら、その人は狸寝入りをしているってことです」

男「そうなのか……今後は参考にしよう」



女(へえ、そうなんだ。女友の豆知識を私も脳内メモに書き込む)

女(……って、今の知識男君が知ってたらこの前私が酔ったときの狸寝入りもバレていたよね。危ない、危ない)

504 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:39:44.97 ID:BuxzHRpr0

女「でもどういうことなの、男君」

女「ドラゴンの交渉で入ったお金があるから、それを使ってさっさと次の宝玉を探しに行った方がいいんじゃなかったの?」



男「それには前提があるだろ?」

女「前提?」

男「スパイを捜すのは俺のスキルを使っても時間がかかるから、って前提だ」

男「逆に時間がかからないならスパイを見つけた方が節約できて得だろ」



女「えっと、ということは……もしかして男君はもう既にこの騒動の犯人に検討が付いてるってこと?」

男「ああ。今まで聞いた話とさっきの話を統合して考えたら分かった」

女「だ、誰なの!? それにまだ何も調べていないのに……」

女(淡々と話す男君に、私は驚くと同時に不可解な気持ちになった)



女(私たちのアドバンテージは男君の魅了スキルを使って、女性相手に嘘を吐かせない捜査が出来るところのはずだ)

女(なのに男君は魅了スキルをまだ一度も使っていないこの段階で犯人が分かったと言っている)

女(話を聞いただけで分かるような簡単な事件なら、どうして商会は今まで犯人を捕まえることが出来なかったのか)

女(逆にどうして男君は犯人が分かったのか)



女「…………」

女(何か嫌な予感がした)

505 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:40:50.23 ID:BuxzHRpr0

商会長「すまない。待たせたな、少年」

女(そのタイミングで商会長は考えの整理が付いたようだった)



男「結論は出ましたか?」

商会長「その前にここからは建前を捨てて本音で話そう」

商会長「この場に私たちしかいないことだし、君たちが外に漏らすことはしないと信頼してのことでもある」

男「もちろんです」



商会長「確かに数年前から当商会は新参商会によるものだと思われるスパイには悩まされていたのだ」

商会長「一時期経営が傾きかけたくらいだからな」

商会長「何人かは捕まえているが、対症療法にしかなっていない」

商会長「本当に完全な解決が出来るならば、それは宝玉を譲るほどに価値のある行いだ」



男「ということは……」



商会長「条件付きで君の提案を呑もう」



506 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:41:52.62 ID:BuxzHRpr0

男「ありがとうございます。……それで条件とは何でしょうか?」

商会長「君の見解をこの場で語って欲しいということだ。あまりにも的外れな場合、調査を任せるわけには行かないからな」

男「ごもっともですね。分かりました、俺の考えを……何なら犯人の指摘までここで終わらせましょうか」

商会長「犯人が……もう分かっているというのか?」

女(先ほどの私たちの会話は聞こえてなかったようで、商会長は驚いている)



男「ええ。順を追って話しましょう」



男「今回のスパイ騒動、詳細は皆さん知っていると思うので省きます」

男「注目するべきポイントは三つ」



男「『捕まった者は自分がスパイだと認めなかったこと』『別の犯罪が同時に発覚したこと』『何度捕まえても新たにスパイが出てくること』です」



507 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:42:26.57 ID:BuxzHRpr0

女「……? 別に認めないのが普通じゃないの? それにスパイするくらいだから別の犯罪していてもおかしくないし」

男「そうだな、女。前者二つはそうおかしいことではない」

男「だから最初は『何度捕まえても新たにスパイが出てくること』これについて考えたいと思います」

商会長「続けてくれ」



男「じゃあ質問だ、女。どうして何度捕まえても新たにスパイが出てくるんだと思うか」

女「それは……新参商会の人が、スパイが捕まる度に古参商会の職員に対して寝返り工作を行うから……じゃないの?」

女(受付の人と話していた時の結論をそのまま話す)



男「考えられる可能性の一つだな。古参商会も現在この方向で調査しているんでしょう?」

商会長「外聞が悪いから世間には秘密にしてくれ」

508 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:43:06.37 ID:BuxzHRpr0

男「さて、新参商会が古参商会に対して寝返り工作を行っていると仮定して……」

男「この場合困難な問題があります。女友なら気づいているんじゃないか?」



女友「……ええ。新参商会は寝返り工作を行う対象をどのように選定しているのか、ということですよね?」

女「どういうこと?」



男「例えば女が古参商会の職員だったら、機密情報を売ってくれないかと頼まれたときどうする?」

女「そんなの『悪いことは出来ません!』って突っぱねるに決まってるよ!」



男「ああ。このように正義感や、商会に対する忠誠心の強いやつに対しての寝返り工作は失敗するってことだ」

男「そしてそんなこと頼んできたやつを逆に調査して、新参商会の手の者だったと逆に暴いてしまえばいい」

女「そっか……そんなリスクがあるんだ」

509 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:44:20.20 ID:BuxzHRpr0

男「でも現在古参商会の調査は滞っている」

男「つまり新参商会の寝返り工作らしきものを受けた職員はいないということですね?」

商会長「ああ。聞き取り調査をしたが、そのような話を受けた者はいないようだ」



女「だったら機密情報を売ってくれそうな人間に絞って寝返り工作を仕掛ければいいんじゃないの?」

女「実際、これまでに見つかったスパイって業務上の横領だったり別の犯罪をしていたような人たちなんでしょ?」



女友「それだと新参商会はどうしてスパイに寝返らせる前から、犯罪をしている職員を突き止められたのかという疑問が上がります」

女友「それだって重要な内部情報ですから」



女「あ、そっか。内部情報を売らせる前から、内部情報に精通しているってことになるんだね」



商会長「商会でもその壁にぶち当たっているところでな」

商会長「……しかし他に有力な可能性が思いつかないため、地道な調査を続けているところだ」



女「うーん……」

女(私がこのスパイ騒動の難解さをやっと認識したところで)

510 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:45:00.71 ID:BuxzHRpr0



男「卵が先か、鶏が先か……哲学の問題ですが、そのような難解な出来事が現実に起こることはそうそうありません」

男「だったら疑うべきは前提の部分」

男「そもそも新参商会は寝返り工作を仕掛けていないんじゃないでしょうか?」



女(男君が問題を一刀両断した)



女「寝返り工作していない……って、じゃあどうなるの?」

男「新参商会は古参商会の内部にスパイを潜入させているってことだ」

女「スパイの潜入……でも、これまでに何人も捕まっているよね」



男「それは全員偽物だ」

女「偽物!?」



女(話の展開が急になってきた)

511 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:46:03.89 ID:BuxzHRpr0

男「ああ。今までに捕まったのは、真のスパイによって仕立て上げられた偽のスパイだ」

女「で、でもそんな突拍子もない可能性……」



男「何言ってるんだ。証拠はあるだろ。捕まった者は自分がスパイだと認めなかった、って」

男「認めなかったんじゃなくて、本当にスパイじゃなかったんだ」



女「じゃあ嘘を吐いてたんじゃなくて、本当のことを言ってたってわけ!?」

女(スパイだから口が固いんだと思ってたのに、そんな裏があるとは)





男「全員が別の犯罪をしていたのも当然だ。真のスパイは古参商会の内部情報に精通しているはず」

男「だから犯罪をしている職員を狙って、自分の身代わりに仕立て上げたんだ」



女「他に悪いことをしている人間だから、認めないけどスパイ行為もしていたに違いない……って思わせるために?」

男「そうだろうな。そして偽のスパイが捕まる度に真のスパイは情報漏洩を止めた」

男「そいつが本当にスパイだったと思わせるための罠としてな」





女(男君によって真実が明らかになっていくことに私はドキドキする)

女(しかし、それは私だけだったようだ)

512 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:46:59.66 ID:BuxzHRpr0

商会長「すまないが、少年。君の考えには一つ抜けているところがあるぞ」

男「何ですか?」

商会長「それは真のスパイが仕掛けた偽の証拠に私たちが騙されているというところだ」

男「…………」



商会長「情報漏洩の対処には私直属の調査会が当たっている。秘書をリーダーに置いたメンバーたちの技量は疑うまでもない」

男「……」



商会長「その者たちが偽のスパイに誘導されることなどあるはずがない」

商会長「逆に仕掛けを見抜いて真のスパイに辿り着くはずだ」

商会長「つまり君の考えは間違っている」



女(商会長の指摘。秘書さんをよっぽど信頼しているのが伝わってくる)



男「女友も同じ考えなのか?」

女友「……その通りですね」



女(女友も頷く)

女(どうやら私以外の二人は、男君が語った真実をとっくに想定していて、間違っていると判断していたようだった)



女「えっと……だったら、やっぱり新参商会が寝返り工作を仕掛けていたってこと……?」

女(何が正しいのか、分からない。ぐるぐると思考が堂々巡り始めたところで)

513 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:47:39.64 ID:BuxzHRpr0





男「はぁ……だから誰も今まで解決できなかったのか」





女(男君は大きく溜め息を吐いた)



商会長「あー……少年、どういうことかね?」

女(含まれた嘲りの意図に、怒りより先に困惑した様子の商会長)



男「すいません、失礼でしたね」

男「ですが商業の世界を、情ではなく数字や策謀が支配する世界を生き抜いてきたはずの商会長ともあろう人が」

男「そこで思考停止しているとは思ってもみなくて」



女(そして男君はとんでもないことを言い出した)

514 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:48:08.94 ID:BuxzHRpr0





男「調査会なら真のスパイに騙されるはずがない?」

男「だったら真のスパイが調査会の内部にいたらどうなるんですか?」

男「騙し放題ですよね?」





商会長「な……?」

女「え?」

女友「やはり……」



女(その言葉の意味を理解しようとする私たちの前で――)

515 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:48:55.44 ID:BuxzHRpr0





男「発動、『魅了』スキル」





女(男君はその身に宿すただ一つのスキルの発動を宣告した)



女「えっ!? どうしてこのタイミングで……」

女(これで二回目となる魅了スキルの発動。ピンク色の光が部屋を埋めて対象を虜状態にする)



女(効果範囲となる5m以内にいるのは――)



女(商会長は男性のため条件に当てはまらない)

女(私は男君に特別な行為を抱いているため今回も不発)

女(女友は既に魅了スキルにかかっているため意味はない)



女(だから、最後の一人)

516 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:49:29.66 ID:BuxzHRpr0



秘書「っ……!?」



女(ここまでずっと黙って話を聞いていた秘書さん)

女(魅了スキルは成功しただろう)

女(効果範囲の周囲5m内だし、対象の『魅力的だと思う異性』も秘書さんは私から見ても綺麗な人だし当てはまるはず)



秘書「こ、これは……」



女(秘書さんが顔を横に振って何かに抗おうとしている)

女(虜になった時点で、術者の男君に好意を持つはず)

女(女友が子作り発言をしてしまったくらいだ)

女(好意から衝動的な行動に移ろうとするのを押しとどめようとしているのだろう)

517 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:50:16.82 ID:BuxzHRpr0

女(そしてもちろん魅了スキルの効果はそれだけではない)



男「秘書さん、命令です。これから質問には必ず真実で答えてください」



女(男君の目的は最初からこれだったのだろう)

女(魅了スキルによって嘘を吐けないようにして)



男「あなたが新参商会のスパイなんですよね?」



女(犯人に自白を促す)



秘書「私は……くっ!」

女(意志に反して話し出した口を手で塞ぐことで秘書さんは抵抗する)

518 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:50:53.64 ID:BuxzHRpr0



男「命令です。口から手を離してください。発言の邪魔となる行動をしないでください」

女(しかし男君は無慈悲に命令を追加して)



男「もう一回質問します。あなたが新参商会のスパイなんですよね?」



秘書「…………はい」



女(秘書さんは容疑を認めた)





商会長「ど、どういうことだ……秘書。そんな……う、嘘だよな?」

女(商会長はその光景にただただ狼狽えていた)

519 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/04(火) 22:51:37.77 ID:BuxzHRpr0
続く。

次は木曜投下予定です。
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/12/04(火) 23:59:01.73 ID:YsCrU/ewo
乙ー
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/05(水) 06:10:21.71 ID:IHxn8bypO
乙!
522 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/06(木) 23:33:33.43 ID:Sapf2Y8Z0
待っていた方にはすいません。
ちょっと延期します。
明日か明後日投下します。
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/12/07(金) 00:30:33.28 ID:oVfYTSiRo
待ってる
524 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/08(土) 23:34:15.56 ID:6+JBI1Sn0
乙、ありがとうございます。

>>523 その一言に感謝を。

遅くなりましたが、投下します。
525 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/08(土) 23:35:06.35 ID:6+JBI1Sn0

男「ふぅ……」

男(俺は一息つく)

男(推理の披露から犯人の指摘も終わって、探偵の役目も終わり)

男(後は犯人が勝手に自供してくれるものだと思っていたのだが)



秘書「申し訳ありません……申し訳ありません……!!」

商会長「違う! 私はそのような言葉を聞きたいのではない!!」



男(謝り倒す秘書さんに、混乱している商会長を見るにどうやらもう一働きしないといけないようだ)

526 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/08(土) 23:35:43.27 ID:6+JBI1Sn0

男「秘書さん、命令です。あなたが新参商会のスパイであるという確固たる証拠を持ってきてください」

男(俺は魅了スキルによる命令を出す)



男(ちなみに毎回『命令です』と前置きするのには理由がある)

男(魅了スキルの命令は対象が認識する事が必要だからだ)



男(『〜〜してください』だけでは、対象が『これはお願いかな? 命令じゃないよね?』と自己の認識を操ることで命令をすり抜けられる可能性がある)

男(それを防ぐために一番いいのは命令形で強く『〜〜しろ』と言うことなのだが、目上の人にそのような口調を使うのも良くない)

男(だから『命令です』と言うことで逃れられないようにしているのだ)



秘書「分かりました」

男(命令に従い会長室を出て証拠を取りに行く秘書さんを見送る)

527 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/08(土) 23:36:39.31 ID:6+JBI1Sn0

商会長「少年……どういうことだ? 秘書が……商会を苦しめていたスパイだったと?」

商会長「そんな……そんなことあるはずが……そうだ、何か変なスキルを使っていたな?」

商会長「それで秘書を操って、あのような発言をさせた……そうに違いないんだろう?」



男(商会長はどうしても信頼していた人に裏切られていたという事実を受け入れられないようだ)

男(仕方ないので俺はステータス画面を開いてみせる)



男「これが先ほどは見せられなかった俺のステータスです。他言無用でお願いします」

男「ご覧のように初期職の『冒険者』で戦闘力は無いですし、スキルも一つだけです」

男「しかしその『魅了』スキルがとても強力な代物で……詳細がこれです」



商会長「魅了……異性を虜にして……命令に従わせる……?」

528 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/08(土) 23:37:15.89 ID:6+JBI1Sn0

男「これで秘書さんに真実を語らせたというわけです。命令した内容も聞こえてましたよね?」

商会長「そう……だが。なら、あの秘書は別物だ……私と共に難局を乗り越えた秘書は別にいるんだ……」

商会長「どこかで入れ替わったんだ……そうに違いない」

男(あー今度はそうやって逃避するのか。だが、それは無いと分かっている)



男「秘書さんは最初からスパイとして活動していたはずですよ」

男「秘書さんが会長の右腕に付いた10年前と新参商会の発足が10年前で一致していますから」

男「新参商会が破竹の勢いで発展したのは、秘書さんが右腕に付いたことで得た古参商会全体のノウハウを横流ししたからだと思います」



商会長「そんなはずが…………」



男(否定の言葉が弱くなったな)

男(これで秘書さんが最初から自分を騙すために近付いてきたのだと理解しただろう)

男(関係が幻想だったと分かっただろう)

529 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/08(土) 23:38:04.75 ID:6+JBI1Sn0

男(これで商会長を救えたな)

男(俺は達成感を覚えていた)



男(女に言ったように、俺は受付の人の話を盗み聞きした時点で秘書さんがスパイだと分かっていた)

男(だが、別に暴くつもりはなかったのだ)



男(わざわざ指摘するのも面倒だったし、商会がこれからも苦しもうが俺にはどうでもいい)

男(宝玉の交渉さえ終わらせれば今後関わることの無い相手だからだ)



男(しかし、商会長と秘書さんの絆を見て気が変わった)

男(商会長が騙されているのに秘書さんを信頼している姿が……)

男(過去の俺、『あの子』に騙されているのに好きになってしまった俺に、重なって見えたのだ)



男(だから幻想から解放するために、こうして現実を見せた)

530 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/08(土) 23:38:34.59 ID:6+JBI1Sn0

男(これで俺のように、商会長の秘書さんに対する気持ちも尽きるだろう)

男(もちろん傷は大きいはずだ)



男(俺は自己否定でそれをどうにかしたが、商会長ならいくらでも癒す手段はあるだろう)

男(その気になれば新たな相手も見つかるだろう)

男(50のおっさんでも絶大な権力に金があるのだから)



男(俺のように恋愛アンチになってしまう可能性もあるが……)

男(まあそれも仕方ないあのまま騙され続けるよりは良いはずだ)



男(さて、商会長は何を選ぶのか。俺の目に映った光景は――)





商会長「秘書……」

男(未だに騙された相手を呼ぶ姿だった)

531 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/08(土) 23:39:02.73 ID:6+JBI1Sn0

男「あれ……?」

男(それは予想外だった)



男(……あーでも、そっか。俺の言葉だけじゃ弱かったのか)

男(俺よりも長く10年騙されていたのだ。簡単に夢からは覚めないのだろう)

男(秘書さんが戻ってきて、裏切りの証拠をきちんと突きつける必要がありそうだ)



男(仕方ない、と待つ体勢に入った俺に)





女「間違ってる……男君は、間違っているよ!!」





男(女が激昂した)

532 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/08(土) 23:39:37.98 ID:6+JBI1Sn0

男「……俺が間違っている? いやいや、そんなことないだろ」

男「ちゃんと推理は説明した、論理に欠落はないはず」

男「いや、そこに間違いがあろうと関係ないんだ」

男「女も魅了スキルの効果は分かっているだろ」

男「虜になった秘書さんは真実を語るんだから、スパイであることに間違いは――――」



女「そんなことはどうでもいいのっ!!」

女「どうして男君は二人の様子を見ていたはずなのに秘書さんを疑ったの!?」



男(俺の答えを聞いてますますヒートアップする女。地雷を踏んでしまったか?)

男(しかし、女の言葉の意味が分からない。説明を聞けそうにもないし……こういうときは)

533 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/08(土) 23:40:04.48 ID:6+JBI1Sn0

男「女友。女は何を言いたいんだ?」

女友「秘書さんは商会長と10年を共にした相棒です」

女友「強い絆で結ばれているのは、端から見た私たちでも分かりましたよね?」

男「そうだな」



女友「ならば普通はその人が裏切っているなんて考えない……いや、考えたくないものです」

女友「なのに平然と疑った男さんは間違っている……と女は、そして私も言いたいのです」



男「……そういうことか」

男(話は分かった。納得は一切無かった)

534 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/08(土) 23:40:35.20 ID:6+JBI1Sn0



男「女。実際秘書さんは裏切ってたじゃないか。だったら疑って当然だろ」



女「違う! そっちが先じゃない!!」

女「秘書さんを疑う気持ちがなければ、裏切りに気づけるはずがないもん!!」



女「男君は……そもそも人を信じるつもりが無いんでしょ!!」



男「…………」



男(女の言葉はいやに刺さった)

男(あの夜、死にかけた俺は、人を信じられるようになりたい、と誓った)

男(なのに今、俺は人を信じるつもりがないと女に指摘されて……それを認めていた)

男(全く変わっていない自分のズボラさを図星で指摘された俺は……ついむきになって言い返した)

535 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/08(土) 23:41:24.82 ID:6+JBI1Sn0

男「……だったら何だよ。俺が人を信じて、誰も疑わないで」

男「それで商会長は秘書さんに騙され続ける方が良かったっていうのかよ!!」

女「そういうこと言ってるんじゃないってば! 私は男君自身について言ってるの!」

男「ならその通りだよ! いつか裏切られるくらいなら、信じない方がマシじゃねえか!」

男「人を信じたから、二人だってこんな状況になってるんだろ!!」



男(商会長の落ち込んでいる姿で俺の正当性を証明する)

男(しかし)



女「そっか……。男君のスタンスは別にして、スパイであることを見抜いたのはすごいと思ってたけど……」

女「別に気づいたんじゃなくて、ただ否定したのが当たっただけなんだね」



男「え……?」



女「だって裏切った裏切られたしか見えていなくて、二人の本当の思いなんて全く考えてないんでしょ?」



男(そのとき、秘書さんがその手に自分がスパイである証拠を持って会長室に戻ってきた)



女「秘書さん、質問に答えてください」

男(その前に女が立つ)

536 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/08(土) 23:42:15.27 ID:6+JBI1Sn0

女「あなたは会長を騙すことに心苦しさを感じていませんでしたか?」

秘書「……最初はありませんでした。私はそのために古参商会に潜り込んだのですから」



女「では、そのあとは?」

秘書「……一緒に働くにつれて、会長を支える日々が続くにつれて、会長の信頼を寄せられることになって、心苦しくなったのは事実です」



女「それでもやめるわけにはいけない事情があったんですよね?」

秘書「はい。新参商会の会長に私は恩義がある身で、その人に従ってずっと生きていました」

秘書「古参商会に潜入することも命令されたことです」



秘書「心苦しさを感じたある日、スパイ活動をやめたいと私は初めて反抗しました」

秘書「しかし返事は『情が移ったか。だが、今さらそんなことが出来るわけない。いいか、勝手に情報の横流しをやめてみろ。そのときはおまえがスパイだったってことをバラして、古参商会に居れなくするからな』と」



女「脅されていたんですか」

秘書「そうなったら……私はどこにも居場所が無くなります。だから私は……!」



男(自分を抱きしめて震え出す秘書さん)

男(その彼女を包み込むように背後から抱きしめる者がいた)

537 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/08(土) 23:42:51.17 ID:6+JBI1Sn0

商会長「もう良い、秘書よ」

秘書「会長……」



商会長「私は盲目的に信頼して……おまえの苦しみに気づけていなかったのだな」

秘書「会長が悪いのではありません! 全ては私がしたことです! 今まで商会に莫大な損害を与えて……」



商会長「償えば良いだけだ、私も協力しよう。それよりもこれからについてだ」

商会長「私はおまえに秘書を続けてもらいたいと思っている」

秘書「本気ですか……?」



商会長「もちろんだ。私を支えられる者がおまえ以外におるわけ無かろう」

秘書「しかし、私はスパイで……商会を裏切っていて……」

秘書「みなさんにどう説明すればいいのか……それに新参商会の会長を…………」



商会長「大事なのはそのようなことではない。秘書、おまえの気持ちだ」

秘書「私も…………叶うことなら、これからも会長の側にいたいです……」



商会長「そうか。その言葉さえあればどうにでもなる」

秘書「会長……!」



男(秘書さんは体の向きを反転させて、商会長と正面から抱き合う)



女「うん、うん……!」

男(見守る女は涙ぐんでいて)

538 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/08(土) 23:43:21.74 ID:6+JBI1Sn0



男「何だよ……これ……」



男(目の前で何が行われているのか。俺には理解できなかった)



男(騙しているのに思い続けて)

男(騙されていたのに思い続けて)

男(そんな光景、想像したこともなかった)



男「…………」

男(だったら俺が間違っていたっていうのかよ)

男(騙されていたからってすぐに思いを捨てたことが)

539 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/08(土) 23:44:31.81 ID:6+JBI1Sn0

女友「男さんの負け、ですね」

男(気づくと女友が近くまで来ていた)



男「女友……勝ち負けの問題じゃないだろ」

女友「そうですか? 当の男さんが敗北感を持っていると思いますが」

男「……ふん。だったらまだ分かんねえぞ」

男「秘書さんの今の話が全部会長を欺くための嘘だったって可能性もある」



女友「それはないですね。同じく魅了スキルにかかっているから、何となく分かるんです」

女友「男さんが秘書さんへ最初にした命令『質問には必ず真実で答えてください』はおそらくまだ有効ですから」

男「…………」

女友「何なら命令すればいいじゃないですか。今の話が本当だったのか答えろって」



男「……分かったよ、俺の負けだ」

女友「ふふっ、勝ち負けの問題じゃなかったんじゃないですか?」

男(無駄な抵抗を諦めて俺が両手を上げると女友は愉快そうに微笑む)





男(こうして紆余曲折があったものの、二つ目の宝玉を手に入れるための話は幕を閉じた)

540 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/08(土) 23:46:00.83 ID:6+JBI1Sn0
続く。

次が第二章最終話です。月曜投下予定。
541 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/09(日) 01:29:43.50 ID:ItsSEdsX0
542 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/09(日) 01:33:58.77 ID:a5cak8yR0
乙!
543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/12/09(日) 03:48:27.10 ID:hOfvduKqo
乙ー
544 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/10(月) 21:08:16.54 ID:lKHt+drB0
乙、ありがとうございます。

投下します。
545 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/10(月) 21:09:28.82 ID:lKHt+drB0
男(話が終わったときにはもうすっかり夜になっていた)

男(今からでは空いてる宿も見つからないだろう、ということで商会長の厚意により)

男(古参商会・本館にある客室に俺たちは一晩泊まった)

男(そして翌日の朝)



商会長「性急だな。今日にはもうここを旅立つのか」

男「宝玉が手に入った以上、長居は無用なので」



男(俺と商会長の二人は、昨日色んなドラマのあった会長室にいた)

男(女友と女の二人はドラゴンの交渉において最後の詰めをするために出ておりこの場にはいない)

男(秘書さんも仕事の準備で離れているようだ)

546 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/10(月) 21:10:00.10 ID:lKHt+drB0

商会長「少年たち女神の遣いの使命だったな。この古参商会が全力でバックアップしよう」

男「それについては助かります」



男(話が付いた後に商会長が言い出したことだった)

男(当初の交渉通りスパイ問題について完全に解決したため宝玉を譲ってもらい)

男(しかもここ以外の宝玉の行方について古参商会が捜索を手伝うと提案したのだ)



男(教会の取り壊しはかなり昔に行われたことだ)

男(今回こそ運良く宝玉の行方がすぐに分かったが、普通はそう簡単に行かないだろう)

男(だからとてもありがたい申し出ではあるが、流石にそこまでさせるのはと思い断ろうとした)

男(しかし会長はすでに各地にある古参商会の支所へと指令を出していた。強引な人である)

547 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/10(月) 21:10:31.29 ID:lKHt+drB0

商会長「何、世界が無くなっては商売も出来ないからな。それに恩人のために尽くすのは当然だ」

男「恩人って……俺たちのことですか」

商会長「ああ。少年たちが居なければ、今も秘書は苦しみ、私は気づけないままだっただろう。感謝している」

男「あ、また……顔を上げてください」

男(商会長と秘書さんは俺たちに恩義を感じているようで、昨日から何回も頭を下げられた)



商会長「どうしてそのように遠慮するのだ? 少年がしたことはとても大きな事だぞ」

男「結果的にそうなったとしても……子供の癇癪のようなものですから」



男(女に言われた通り、俺がやったことはトラウマを刺激されて商会長と秘書さんの関係を壊したことだけだ)

男(女が人を信じて、諦めず理想を追い求め続けて、二人の思いに気づきまた絆を結び直さなければバラバラになっていた)



商会長「難儀なのだな」

男「……そうですね、自分のことながら厄介なやつだと思います」

548 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/10(月) 21:10:57.66 ID:lKHt+drB0

男(自分が人を信じるつもりが無いことを、何も変わってないことを痛烈に感じさせられた)



男(だが、思えば俺はそんなやつだった)

男(毎年夏休みが来る度に『今年こそは宿題を7月中に終わらせる』なんて目標を立てて、結局最終日に慌てていた)

男(人を信じられるようになる、という目標立てるだけ立てて、何の努力もしていなかったのだ)



男(だったらどうすれば人を信じられるようになるのか)

男(そのための努力って……一体何をすればいいんだろうな?)

549 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/10(月) 21:11:40.43 ID:lKHt+drB0

男「そういえば……秘書さんの処遇はどうなったんですか?」

商会長「ああ、言ってなかったな。昨夜、内密に新参商会の会長と話して取り引きをしてきた」

商会長「秘書によるスパイ活動について不問にする代わりに、今後一切秘書に関わらないように要求した」

商会長「相手は二つ返事だったぞ、まあスパイ活動のことを公にされては新参商会も立つ瀬がないからな」



男「今まで被害を受けてたのに許したんですか」

男「……やろうと思えば、秘書さんによって新参商会に逆スパイを仕掛けて報復することも出来たでしょうに」

商会長「分かっておる。だからこれは秘書にもう手を汚して欲しくなかった私のエゴだ」

男(本当に商会長が秘書さんを思っていることが伝わってくる)



男「それでこれまでと変わらず秘書さんが秘書を続けるんですか?」

商会長「ああ。商会内部の人間にもスパイ事件の顛末は話した。秘書が犯人だったという事も含めてな」

商会長「しかし私の我が儘で秘書に秘書を続けさせて欲しいと頼んで……最初は反対されたな」

男「大丈夫だったんですか?」

商会長「ああ。反対とは言ったが一般常識の観点によるものだ」

商会長「皆秘書を慕っていたからな、最終的には満場一致で承認されたよ」

男(そういえばあの受付の人もずいぶん秘書さんを尊敬していた)

男(秘書さんはスパイで古参商会を裏切っていたわけだが、そんな中でも関係を築いていたのだろう。商会長に対してと同様に)

550 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/10(月) 21:12:15.79 ID:lKHt+drB0

男「……ごめんなさい。秘書さんに自白をさせるためとはいえ、魅了スキルをかけてしまって」

男「命令は全部解除しましたが、魅了スキル自体は解除できないんです」

男「だから彼女は俺に好意を持ち続けることに……」

商会長「何、気にするな。恩人に好意を持つくらい普通のことだ。それくらい構わぬ」

男(本当に気にしていないという様子の商会長。何とも器の大きな人だ)



秘書「失礼します、会長。そろそろ出かけないと商談に間に合いません」

商会長「おお、そうか」



男(そのとき秘書さんが会長室に入ってきた)

男(会長と秘書さんは今日も変わらず忙しいようだ)

男(そしてそれはとても幸せなことなのだろう)

551 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/10(月) 21:13:05.68 ID:lKHt+drB0

男「……じゃあ俺も行こうと思います。ありがとうございました」



商会長「ああそうだ、一つ聞くのを忘れておった、少年よ」

男「何ですか?」

商会長「酒場で言っただろう。今度会ったら両手の花のどちらが本命なのか教えて欲しいと」

男「……その話ですか。言いましたよね、二人は魅了スキルが暴発した結果で一緒にいるのだと」

男(魅了スキルの詳細については開示したため、ついでにその話もしていた)



商会長「そうは言っても君も男だ。一緒に旅をする内に、どちらかに引かれていたりはしないのか?」

男「ありません。今度こそ失礼します」

男(商会の長らしくない下世話な話を打ち切って俺は会長室を後にした)

552 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/10(月) 21:13:51.72 ID:lKHt+drB0



男の去った後の会長室にて。



商会長「ふむ、そうか。少年のことだから嘘は吐いていないのだろう」

商会長「……ならばいつか気づけるといいがな。自分の寂しい生き方に本気で怒ってくれる少女の気持ちを」



秘書「私も心からそう思います。彼には彼女がピッタリでしょう」



商会長「……では私たちも行くとしよう。今日の最初の案件はどこだったか?」

秘書「それなら――」



二人はいつも通り仕事の話を始めた。



553 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/10(月) 21:14:35.43 ID:lKHt+drB0

女(私は諸々の案件を終わらせて、男君との待ち合わせ場所である古参商会・本館に帰る途中だった)



女友「無事に終わりましたね。では今日の内に出発して、次の教会跡地に向かいましょうか」

女(隣には付き添ってくれた女友がいる)

女(商業都市は今日も盛況で、たくさんの歩行者で溢れている)

女(はぐれないように気を付けて歩きながら口を開く)



女「女友、今回の件で私分かったよ」

女友「だと思いましたよ」

女(女友は私の言いたいことなどお見通しのようだった。なので前置きなしに告げる)





女「男君は……幸せになるつもりが無いんだね」





女(私と男君が結ばれるための障害は根深いものだった)

554 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/10(月) 21:15:15.69 ID:lKHt+drB0

女友「幸せの形は無数にあるので語弊を生まないように幸せを+の出来事、不幸を−の出来事とでも簡単に定義しておきましょうか」

女「うん」

女友「それで男さんは+を求めていません」

女友「何故なら+になってしまえば、−になってしまう危険が常に付きまといます」



女友「男さんの理想は『0』がずっと続くことです。+が無い代わりに−も無い」



女友「元々男さんにはそういう気質があったのでしょう」

女友「それが恋愛での失敗により強化され、恋愛アンチへとなったわけです」



女(欲がない若者は近年よく言われる問題だ……って高校生の私が言うのもなんだけど)

女(男君はそれが極端に現れているということなのだろう)



女(私の考えとは大きく違っている)

555 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/10(月) 21:16:04.47 ID:lKHt+drB0

女「私ね。男君を見ていて気づいたんだ」

女「これまで意識したこと無かったんだけど自分が『人はすべからく幸せを目指して生きるべき』って思ってることに」



女友「端から見ている私は分かってましたけどね。だから男さんとは根本的にズレていると表現したわけですし」

女「だって寂しいじゃん。人生は一度きりなのにただただ生きたってだけだと」

女友「だから失敗を恐れる男さんに、失敗が起こるかもしれない理想を求める道を歩めと言うんですか?」



女「うん。だって恋愛アンチのままだと私の方を振り向いてもらえないでしょ」

女「でもそれだけじゃなくてね――」



女(男君がどんな傷を抱えているのか)

女(私は女友の勝手な予想でしか知らない)

女(おそらくもう二度と失敗したくないというほどに傷ついたのだろう)

女(その痛みを知らない私がとやかく言うのは間違っている)



女(だから男君の全てを知りたい)

女(そしてその生き方を変えて見せたい)

女(その理由は――)



女「私は男君にも幸せになって欲しいんだ」



556 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/10(月) 21:16:48.39 ID:lKHt+drB0

女友「……傲慢ですね」

女「悪いかな?」

女友「いえ。男さんの凝り固まった思想を壊すにはそれくらいがちょうどいいですよ」

女「ありがと」

女友「これからもサポートしていきます。頑張っていきましょう!」

女「おー!!」

女(私と女友、二人で拳を突き上げる)







男「あ、二人ともちょうど良いタイミングだな。用事が終わったならさっさと行こうぜ」



女(そのとき古参商会・本館前で出迎える男君の姿が見えた)

女(決意を新たにして私たちは次の目的地を目指す)

557 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/10(月) 21:18:04.31 ID:lKHt+drB0

 2章『商業都市』編、完。

 ここまで読んでいただきありがとうございました。



 3章『観光の町(仮)』編の準備のため少し休みます。

 続いて読んでもらえると幸いです。



 乙や感想などをもらえるとモチベーションが上がります。

 どうかよろしくお願いします。

なろう版 http://ncode.syosetu.com/n3495fc/
558 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/12/11(火) 00:42:01.67 ID:ZbjhOE5AO
乙ー
559 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/11(火) 02:16:04.73 ID:WstE8k0s0

待ってるぞ
560 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/11(火) 05:18:31.44 ID:ONVIpWLLO
乙!
次も楽しみに待ってます。
561 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/11(火) 12:41:22.30 ID:P4Sf1JGMO
562 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/11(火) 20:57:27.59 ID:RG4eM2Vbo
まだまだ続きそうだな
頑張って
563 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/18(火) 21:22:12.98 ID:lCeMl+eh0
暖かい言葉の数々。
とてもとてもありがとうございます。

3章『観光の町』編開始します。
564 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/18(火) 21:22:50.48 ID:lCeMl+eh0

男(古参商会本館を後にした俺たちは、ある場所に移動して座り待ちながら話を始めた)



男「しかし、この商業都市に正味三日弱しかいなかったんだな」

男(商業都市に辿り着いたその日の夜に酒場で古参会長や秘書さんと会い、宝玉の行方を知り)

男(その翌日朝の内にドラゴン討伐に向かって)

男(次の日にドラゴンをテイムして都市まで戻り交渉して、会長と再び会いスパイ問題を解決して宝玉を譲ってもらった)



女「早かったなあ。他のみんなはどんな状況だろう?」

女友「おそらく私たちが一番乗りだとは思いますけどね」



男(現在異世界に召喚された俺たちクラスメイト28人の内)

男(俺を襲撃した副委員長イケメンと連れだって逃げたギャルの2人を除いた26人は、8つのパーティーに分かれている)

男(それぞれが別の女神教の教会跡地に向かって、宝玉の行方を追っている)

男(女の言う通り他のパーティーの進捗は気になるが、女友の予想通り俺たちが一番目だろう。

565 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/18(火) 21:24:27.66 ID:lCeMl+eh0

男「って、そういえば他のパーティーの様子ってどうやって把握するんだ?」

男(元の世界ならメッセージアプリでクラスメイト全員のグループでも作って『宝玉ゲットなう』とか書き込めば)

男(『早すぎ、やばたにえん』とか『マジ卍!』とか返ってくるのだろう)

男(……いやボッチでメッセージアプリすら入れてない俺は実際どういうノリなのかは知らないけど)

男(だがそれも元の世界の話であり、この世界ではスマホが使えないのだ)



女友「聞くところによるとこの異世界にも離れた場所でも電話のようにやりとりが出来る念話球なるものがあるらしいですが、調達できませんでしたからね」

女友「なので連絡手段は手紙です」

男「手紙」

男(これまた原始的な手段が出てきた)

566 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/18(火) 21:24:55.13 ID:lCeMl+eh0

女友「私たちが商業都市で宝玉を手に入れて次の町に向かうことは今朝手紙に書いて送っておきました」

女友「宛先は最初にたどり着いた村の村長さんです」

女「みんな何かあったら村長さんに連絡するように決めたんだよね」

男「あーなるほど。村で情報をまとめているわけだな。他のパーティーについての情報も経由して教えてもらえるってことか」

男(村長さんを中継とした三角連絡である。そんな協力もしてもらっているとは)

男(旅の資金を援助してもらったことといい頭が上がらない)





馬<ヒヒーン!!

男(と、そのとき馬の鳴き声が聞こえてきた)



男「お、ようやく来たか」

男(俺たちは停留所のベンチから立ち上がり、やってきた馬車に乗り込む。切符はすでに購入済みだ)

567 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/18(火) 21:25:53.78 ID:lCeMl+eh0

男(最初の村は田舎だったため商人の流通用の馬車は時々来るらしいが、一般客を乗せる馬車は通っていなかった)

男(しかしこの商業都市から次の目的地には定期的に出ているらしい。それだけ往来する人が多いそうだ)

男(待っていた客が全員乗り込むと馬車は出発した)



男「これで夜まで乗っていれば到着だから楽だな」

男(村から商業都市への移動、ドラゴンの洞窟への移動、と思えばこの三日間は足を使い駆けずりまわっていた)

男(舗装されたアスファルトを走る自動車に比べれば、整備されているとはいえ土の道を行く馬車の揺れは酷い)

男(それでもとてもありがたい)



男(つまりそれだけ遠い場所に行くということだ)

男(まあ近くの町は他のクラスメイトのパーティーが向かっているので仕方ないことだが)

568 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/18(火) 21:26:22.36 ID:lCeMl+eh0

女友「これから行く次の女神教の教会跡地は観光が盛んな町です」

男「観光といっても色々あるよな。目玉は何なんだ?」

女友「透明度の高く遠浅の海に年中温暖な気候で絶好の海水浴スポットとなっています」



女「海ね。夏休みになったらいつも田舎のおじいちゃん家の近くの海に遊びに行ってたなあ。男君はどうだった?」

男「そう言われると生まれてこの方行ったことがないな」

男(アクティブな活動とは無縁な人生を送っている)



女友「遠路はるばる来る人もいますから、ビーチの側には観光客向けのホテルや酒場町があります」

男「夜は海に出れないから、飲めや騒げやってことか」



女友「また別荘地としても有名だそうですね」

女友「少し内陸の方に行くと別荘が建ち並び、その富裕層向けの高級店が集まるエリアもあるようです」

男「温暖な気候で海が近いとなると絶好のロケーションだな」



男(商業都市とはガラリと変わった場所になりそうだ)

569 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/18(火) 21:27:22.14 ID:lCeMl+eh0

女友「そして目的の宝玉ですが……どこにあるかは検討も付きません」

男「古参商会の調査も昨日の今日じゃ当てに出来なさそうだしな」

男(スパイ騒動を解決した結果商会長の好意により俺たちの使命を手伝ってくれるという話なのだが)

男(今回は自分たちの手で探す必要がありそうだ)



女「商業都市のときはたまたま宝玉の行方を知っている人と早々に出会えたけど……今回もそんな偶然が起きるとは思えないよね」

女友「目星としては今回同様に行政側が教会の取り壊しを決行したはずですから」

女友「役場の資料から当時どのように工事が行われたのか調べるのがスタートになると思いますね」



女「でも商業都市では取り壊しが30年前に行われたって話だったよね」

女「観光の町でもそう変わらないだろうし……そんな昔の資料残っているかな」

女友「残っていると願うしかありませんね。自分たちの手で一から知っている人を探すとなると途方も付かないでしょうし」





男(女と女友は心配しているが……俺は正直何とかなると思っていた)

男(商業都市の時だって構えていたが、結局あっさり手に入れることが出来たんだ。今回もどうにかなるだろう)

男(そうして宝玉をがんがん手に入れて元の世界に戻ってやる!)



男(馬車での道中は特にトラブルもなく、その日の夜には観光の町にたどり着いた)

男(俺たちは宿に泊まり、翌日から宝玉の捜索に取りかかる)

570 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/18(火) 21:27:57.15 ID:lCeMl+eh0







――そして一週間が経った。







男「………………」

男(宝玉の行方は依然として知れない)

男(現実は非情である)

571 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/18(火) 21:28:59.41 ID:lCeMl+eh0
続く。

2章はストレートだったので、今回は変化球です。
572 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/12/19(水) 01:22:49.82 ID:Y2O9ZHDJo
乙ー
573 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/19(水) 06:21:31.24 ID:K/j7LuxQO
乙!
574 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/20(木) 20:05:30.69 ID:NoBGgYUc0
乙、ありがとうございます。

投下します。
575 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/20(木) 20:06:49.85 ID:NoBGgYUc0

女(私はこの観光の町に来てからの一週間を振り返る)



女(一日目は予定通り役場に向かった)

女(受付で教会の取り壊しについて知りたいと話すと、応対してくれた若い事務員はそもそも女神教自体を知らなかった)

女(なので一番古株の人に取り次いでくれたが、その人も女神教のことは知っていてもこの町に教会があったことすら知らなかった)

女(なので役場に残っている何十年分もの資料を全て借りた)

女(公共工事についての資料だけで良かったのだが、ちゃんと整理が出来ていなかったようで)

女(議事録、連絡メモ、予算表など雑多に入り混じる資料の山から探さないといけなかった)

女(私たち三人総当たりで調べ始めたが、収穫無くその日は終わった)



女(二日目も朝から引き続き作業を続けて、夕方ごろようやく教会の取り壊した工事の資料を見つけた)

女(どうやら40年ほど前に行われたこと、そして内部から出てきた物は当時の町長が受け取ったことが判明した)

576 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/20(木) 20:07:34.31 ID:NoBGgYUc0

女(三日目は当時町長だったという人物にアポを取り話を聞こうとした)

女(しかし、40年前で既に高齢だったため亡くなっていることが分かった)

女(そのため息子である人に話を聞くことにしたが、当事者でないためどうなったのか詳しくは知らないということだった)

女(アポを取るために使った時間もあり、その日の調査はそこで終了した)



女(四日目はその息子さんに頼んで遺留物の中に宝玉が無いかを調べた)

女(町長を務めるくらいなのでその屋敷は大きく、捜索するだけで一日が終わった。宝玉は見つからなかった)



女(五日目。捜索したのに見つからないのは変だと関係者に色々と聞き込み回った結果)

女(どうやらお金に困った屋敷の清掃係のおばさんが遺留物の中から価値のありそうな物を盗み)

女(一年ほど前に売り払ったのだと白状した)

女(私たちが息子さんに突き出すと『困っていたなら相談してくれれば良かったのに』『申し訳ありません』と何やらドラマが始まった)

女(が、私たちが関与することでもないため、どこに売り払ったのかだけを聞いて後にした)

577 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/20(木) 20:08:07.44 ID:NoBGgYUc0

女(六日目。遺留物を買い取ったという業者に話を聞く)

女(するとその中に宝玉はあったということで、今度こそ手に入ったと思った)

女(しかし、そこは買い取った物も販売する現代で言うリサイクルショップのようなもので)

女(買い取った後、商品として出されていた宝玉は既に購入されていた)



女(購入者が誰なのかと聞くと、顧客の情報を伝えるのはちょっとと難色を示されたが)

女(女友が『間違って売ってしまったんですけど、祖父の大事な形見の品なんです! どうか教えてくれませんか!』)

女(と真に迫った演技を披露して、漏らしたことを絶対に口外しない代わりに教えてもらった)

578 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/20(木) 20:08:35.36 ID:NoBGgYUc0

女(七日目。教えてもらった購入者、富裕層向けの高級宝飾店を訪れる。この店のオーナーが宝玉を買ったようだ)

女(店員がそのとき聞いた話によると、加工して商品として売り出すつもりとのこと)

女(なので店内を一巡するが、宝玉らしき商品は見つからない。ここでもまた誰かに買われたのだと推測した)



女(店員に買った客の話を聞いたが、店の信頼問題だからと何も教えてもらえなかった)

女(宝石店の顧客情報はそのまま泥棒の標的になる。明かせないのも分かるところだ)



女(仕方ないので出入りする客に話を聞いて回る)

女(すると、常連の一人から気になる情報が手に入った)

女(曰く、そのような青い魔法陣が浮かぶ宝石をあしらったアクセサリーがこの前まで店頭に並んでいたが、最近無くなったので誰かが買ったんじゃないかと)

女(どのような種類のアクセサリーかは覚えていなかったようだったが、特徴的な宝石だったため間違いはないと太鼓判を押された)



女(そして夜になったため調査を切り上げ宿屋に戻って……現在に至る)

579 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/20(木) 20:09:10.58 ID:NoBGgYUc0



男「ああもう、おつかいイベントはうんざりだ!!」 



女(夕食の席で男君が心から叫ぶ)

女(ゲーム用語らしいそれを私はゲームをしないので知らなかったが)

女(この数日男君は何度も同じ事を言っているので意味は教えられていた)

女(どこどこに行ってくれ、という依頼が連続することをおつかいイベントというらしい)



女友「そうですね……流石に私もグッタリです」

女(前回の宝玉が楽に手に入っただけで、普通はこんなものですよ、と連日男君をなだめていた女友も、今日は同意していた)



女「だ、大丈夫だよ。あともう少しのはずだし……たぶん?」

女(私のみんなを奮い立たせる言葉もついに疑問形になってしまう)

580 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/20(木) 20:09:39.66 ID:NoBGgYUc0

男「……まあ、そうだな。宝飾店に売られていた商品を買ったのは個人だろう。今度こそ他の場所に手渡っていないはず」

女友「そうですね、あと一歩のはず」

女(それでも効果があったようで男君と女友が少し前向きになったところに、私は続けて発破をかける)



女「そうだよ! だからどこの誰が買ったのか全く手がかりもないけど、頑張って探そうね!」



男「ぐはっ……!!」

女友「……」



女(男君が大ダメージを受けたような断末魔を発し、女友の目が虚ろになる)

女(どうやら二人にトドメを刺してしまったようだ)



女(……うん、言ってから私もマズいなと思った)

581 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/20(木) 20:10:12.36 ID:NoBGgYUc0

女(しばらくしてダメージから回復した二人がポツポツ話し始める)



男「まあ現実問題あとは総当たりするしかないよな……だったら最初からそうするべきだったか?」

女友「誰かが宝玉をしまって表に出してないんじゃないかという不安を抱えながら調べるよりはマシですよ」

男「でも今回買った客がしまっている可能性とか観賞用で家に飾っているという可能性もあるぞ?」

女友「新しく買った宝石ですし、見せびらかすために身につけて出歩いているはずですよ……たぶん」

男「観光客が旅先で珍しい宝石を見つけた、と買ってもう元々住んでいた町に戻っている可能性も……」

女友「考えたくないです……」



女(男君の考えがネガティブになっている)

女(でも実際男君の言った可能性は全て考えられるものだ)

女(特に最後の可能性、もうこの町から出てしまっている場合はお手上げだろう)



男「せめて何のアクセサリーに使われていたのか分かったら助かったんだが」

男「あの店に並んでいた種類全ての可能性があるんだろ?」

女友「ブローチにネックレス、指輪やイヤリング……」

女友「宝石を使ったものって色々ありますからね。……やっぱり無理でしょうか?」

女(女友までネガティブになりかける)

582 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/20(木) 20:10:55.18 ID:NoBGgYUc0



女「で、でも見つかりさえすればスパイ問題解決で節約したおかげでドラゴンの交渉で得たお金がたくさん残っているし、買い取ることは可能だよね!」



男「そうだな……余裕はあるし、元の二倍や三倍の値段を吹っかけてでも絶対に譲ってもらおう」

女「うん!」

男「つうかここまで来て諦めたらそれこそ今までの苦労が何だったんだって話だよな」

女「そうだよ!」

女(少しずつ男君が前向きになる)



男「よし。じゃあ後は総当たりなんだ。明日は手分けして探すことにするか?」

女「そうだね、これまでみたいに三人一緒に探す必要もないよね」



女(男君の提案に私は頷く)

女(この流れで女友も前向きにしようと、そちらを見てみると)

583 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/20(木) 20:11:27.53 ID:NoBGgYUc0



女友「手分け……して……?」



女(雷に打たれたような衝撃を受けていた)



女「えっと……女友?」

女(一変した雰囲気の女友におそるおそる声をかけるが届いてないようだ)



女(私が見守る中、女友は考え込む様子を続けた後)



女友「ふふっ……」



女(小悪魔的な笑みを浮かべて私をチラリと見た)

女(……え、今のどういう意味?)

女(しかしそれも一瞬で、女友はいつもの調子で男君に話しかける)

584 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/20(木) 20:12:15.72 ID:NoBGgYUc0

女友「そうですね、男さん。手分けして探すこと賛成です」

男「そうか。じゃあどう分かれるか?」

女友「まず前提として三手に分かれるのは無しです」

女友「男さん一人にすると身を守る手段が無いというのは以前にも言いましたよね」

女友「この町でちょっと良くない噂を聞きますし、警戒するに越したことはありません」



女(女友の言うことはもっともだけど……じゃあ何故私にあのような表情を向けたのかピンと来ない)

女(それに良くない噂って何だろう?)



男「じゃあ二手ってことになるか。戦闘力のない俺が女か女友のどちらかと組んで……」

女友「それはもちろん女です」

男「……? どういうことだ?」

585 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/20(木) 20:12:46.08 ID:NoBGgYUc0

女友「手分けする意味を考えればってことです」

女友「同じ場所を探しても仕方ないですし、色んな可能性を想定しないといけません」

女友「ですから私は富裕層が家に飾っている可能性を想定して別荘地で聞き込みをします」

女友「あの店員の時と同じように『祖父の形見なんです!』と訴えれば話は聞いてもらえるでしょう」



男「あー、あのときの演技は凄かったな。いきなり何言ってんだってこっちが困惑するくらいだったし」

男「そして聞き込みは一人で十分だから、俺と女が組めってことか」

女友「理解が早くて助かります」



女(ニコッとする女友だが……何故かそれを見て私は鳥肌が立った)

女(一体私の親友は何を企んでいるのだろうか?)

586 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/20(木) 20:13:22.30 ID:NoBGgYUc0

男「俺たち二人はどこを探せばいいんだ?」

女友「誰かが身につけて出歩いている可能性を考えて人の多い場所を探し回ってもらえますか?」

女友「もうこの町から出てしまった可能性は一旦置いておきましょう、キリが無くなるので」

男「人の多い場所か。観光の盛んな町だけあって候補はたくさんあるけど、そこを回っていくって事で……」



女友「あ、一つ注意事項があります」

男「……何だ?」



女友「それは露骨に宝玉を探している雰囲気を出してはいけないということです」

女友「考えても見てください。観光地で他の客が身につけているものを窺って回る人がいたらどう思いますか?」



男「引ったくりが獲物を品定めしているように思えるな。なるほど」

女友「ええ。なので他の観光客に紛れるために、楽しむことを忘れずに回ってください。そうですね――――」



女(女友は私の方を流し見ながら、その言葉を告げる)



587 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/20(木) 20:14:08.87 ID:NoBGgYUc0





女友「ちょうど男さんと女の男女二人きりなのですから」


女友「まるでデートでもしているような雰囲気で観光地を回るとかどうでしょうか?」





女「…………」

女(デート……?)

女(デートって……男女が連れだって楽しむ……あのデート、だよね?)

女(それを……私と男君が……?)





女友「ふふっ……楽しみですね♪」

588 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/20(木) 20:14:43.14 ID:NoBGgYUc0
続く。

コメディタッチの展開が続きます。
589 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/12/20(木) 22:07:21.94 ID:mhOdmMzzo
乙ー
590 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/24(月) 14:54:47.20 ID:CnsW+nv90
乙、ありがとうございます。

投下します。
591 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/24(月) 14:56:05.07 ID:CnsW+nv90



女「ちょっと、女友!! 私と男君が……デ、デートってどういうこと!?」



女(男君には一足先に部屋に戻ってもらい、私は宿屋の廊下、人の迷惑にならない場所に親友を呼びだして問いつめる)



女友「どういうことと言われましても、説明した通り宝玉を探すのに必要なことで……」

女「そういう建前はいいの! あからさまな提案をして、何か意図があるんでしょ!!」



女友「それでしたらもちろん二人をくっつけるためですよ」

女「うっ……」

女(きっぱりと本音をぶつけられるとこっちがひるんでしまう)

592 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/24(月) 14:56:56.92 ID:CnsW+nv90

女友「今まで失念していましたが、客観的に見ると私ってお邪魔虫ですもんね」

女友「私さえいなければ女は男さんと二人きり……良い響きです」



女「何言ってるの。女友はお邪魔虫じゃないよ。私の大切な仲間だって」

女友「女……」

女「だから明日もやっぱり三人で――」



女友「と、それはさておき明日は二人で出かけてもらいますからね」

女「ちょっとくらい流されてくれてもいいじゃん!」

593 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/24(月) 14:57:28.59 ID:CnsW+nv90

女友「大体どうして渋っているんですか。別に男さんとデートするのが嫌ってことでは無いんでしょう?」

女「それは……そうだけど」

女(むしろ何回と妄想したくらいだ)



女友「だったら何が心配なんですか?」

女「その……いざ本当にデートするってなると……緊張して」

女友「…………」



女「や、やっぱり段階飛ばしすぎだって! こう、もうちょっと手頃なところから始めて……!」

女友「駄目です」

女「そんなっ!?」

594 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/24(月) 14:58:15.04 ID:CnsW+nv90

女友「商業都市で三日、観光の町で七日なので、三人で一緒に旅を始めてもう十日ほど経ちましたか」

女友「私分かったんですよ。女が死ぬほど奥手だってことに」

女「うっ……」



女友「元の世界で好意をひた隠しにしていた時点で気づくべきだったんですけどね」

女友「日中は共に行動して、夜は一緒の部屋で寝泊まりしているというのに、全く関係が進展しないとは思ってもみませんでした」



女「それは……この一週間は宝玉の捜索に忙しかったからで」

女友「そうやって出来ない言い訳ばかりを積み重ねてたら、元の世界に戻るときまでこのままですよ」

女友「そして魅了スキルにかかっているフリという関係性を失って他人同士に戻ってもいいんですか?」



女「それは……嫌だよ」

女友「ですから強引に距離を縮める場を用意したというわけです」

女友「……もし本当に余計なお世話でしたら撤回しますが」



女「……ううん。ありがとう、女友」

女友「礼はいいです。結果で返してくれることを期待してますね」

女(親友がここまで私のためを思って恋の応援をしてくれているのだ。私が臆してどうする)

595 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/24(月) 14:59:17.40 ID:CnsW+nv90

女「でも、実際明日はどんな感じに動けばいいのかな?」

女「こっちはデートのつもりでも、男君は宝玉を探す目的に終始するかもしれないし」

女友「デートが成立するためにはお互いの意識が大切ですからね」

女「うん」

女(私がこうして意気込んでいても、恋愛アンチの男君がいつもの調子ならデートの甘い雰囲気にはならないだろう)



女友「なのでデートのフリをするように男さんに言っておいたんですよ」

女「え? どういうこと?」

女友「宝玉を物色して引ったくりに見られるのを防ぐため、男さんにデートのフリをするようにと言ったじゃないですか」

女「あーそういえば言ってたような……デートって単語のインパクトが強くて、ちょっと記憶が曖昧で」

女友「世話が焼けますね……」



女友「男さんの返答も『デートのフリ……か。まあ必要ならやるけど』と言ってましたので大丈夫ですよ」

女「それなら心配いらないね」

596 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/24(月) 15:00:01.68 ID:CnsW+nv90

女友「明日はいつもより積極的に行ってくださいね?」

女「はい!」



女友「はあ……返事だけはいいですね」

女友「魅了スキルにかかったフリに、デートのフリまで加えたんですから」

女友「恥ずかしがりの女でも上手くやれると信じてます」



女(信じるという割には懐疑的な眼差しだ)

女(今までの行いからして否定できないけど)



女「まあそのさっき言われたように結果で示すので……」

女「女友も明日は別荘地での聞き込み頑張ってね」



女友「………………え、そ、そうですね」



女(私の何気ない言葉に、女友は狼狽えながら答える)

597 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/24(月) 15:01:14.98 ID:CnsW+nv90

女「何よその間……。……あ、もしかして明日私たちのデートの後を尾けようとしてるんじゃないでしょうね!?」

女友「そ、そんな考えていませんよ。……ちょっとしか」

女「考えてるんじゃない!!」



女友「いいじゃないですか! こうしてセッティングしたんですから、初々しい二人の様子を生暖かい眼差しで眺める役得くらいあっても!!」

女「駄目だって! その……恥ずかしいじゃない!! それに捜索サボるってどういうつもりよ!」

女友「正直別荘地に無いと思うのでいいんじゃないですか?」

女「あった場合どうするのよ!!」



女(私と女友の言い争いはしばらく続いた)

女(最終的に私がデートで何があったのか詳細に報告することを条件に別荘地を捜索すると話を付けた)

女(女友相手だから嘘を吐いても見破られるので誤魔化しは効かないだろう)

女(それでも直接見られるよりはマシだった)

598 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/12/24(月) 15:01:53.49 ID:CnsW+nv90

女(翌日の朝)

女(別荘地に向かう女友と先に出る男君を見送り、十分ほど経ってから出かける)

女(男君と一緒に行動するのに遅れて出たのはあのやりとりをするためだった)



女(待ち合わせ場所に指定した公園の噴水前)

女(立ち尽くしていた男君に私は駆け寄って声をかける)



女「ごめん、遅くなって。待ったよね?」

男「いや、今来たところだ」



女(男君は呆れた表情を我慢して、何でもないように装い返事する)

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