男「恋愛アンチなのに異世界でチートな魅了スキルを授かった件」

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699 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/07(月) 15:34:15.47 ID:d3hCy8e20



女友「あの人は私のIfです。親から教育ではなく愛情を注がれて育ち、女という私自身を見てくれる人間と出会わなかった私です」



女「えっと……どういう反応をすればいいの?」

女友「照れてください。のろけてるのに困惑されるとこっちが恥ずかしくなります」

女「ごめん……私のこと大事に思ってくれてありがとうね」

女友「さ、さらに恥ずかしくなったじゃないですかぁ!」



女(女友が顔を真っ赤にしている。珍しい一幕だ)

女(珍しく攻勢に入れそうだったので、このままいじり倒そうと私は考えるが)



女友「そういう女は昨日のデートのフリどうだったんですか!」

女「あぅ……」

女(カウンターが思いっきり急所に入る)



女友「少しは進展があったんですよね?」

女「そ、それは……」

女友「終わったら話す約束でしたよね? あーあ私は一人寂しく別荘地で無駄骨な聞き込みをしたっていうのに……」

女「わ、分かったから! 話すから!」

女(泣きマネまで始めた女友に私は昨日のデートのフリについて詳細に話す)

700 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/07(月) 15:34:44.67 ID:d3hCy8e20



女「――――――ということで宝玉が見つかって甘い雰囲気は終了したんだけどね」

女「でも男君と手を繋いで楽しんだり、十分に進展したでしょ!」

女(最初こそ話すことを恥ずかしがっていたが、途中から調子が乗ってきて意気揚々と話した私を)



女友「最低限、といったところでしょうか」

女「ぐっ……」

女(女友はバッサリと切り落とした)



女友「手を繋いだくらいで、誇らしげにならないでください。小学生レベルですか」

女「えっ、今どきの小学生ってそんなに進んでるの!?」

女友「さあ、知りませんけど。ですが一緒に旅をして酒を飲むほどなんですから、せめてハグだったりキスくらい行くものだと思ってました」



女「ハグ……っ!? キス……っ!? そ、そんなの早すぎるって!!」

女友「日本では今や高校生女子の40%がキスを経験しているって調査結果を聞いたことがあります」

女友「ましてや15で成人と扱われる異世界ですし、むしろ遅すぎるくらいです」



女(もっと先にあると思ったものを身近に言われて私は混乱する)

701 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/07(月) 15:35:17.90 ID:d3hCy8e20

女「で、でも……相手は男君だし……」

女友「……まあ、そうですね。男性側からのリードが望めないと考えると頑張った方ですか」

女「で、でしょ!」

女友「それに興味深い話も聞けたようですしね」

女「うん。男君も本当は人を信じられるようになりたいんだよ」

女(ポロっとこぼれた言葉、だからこそ本音だと思われるその言葉)



女友「考えてみれば男さんもこの異世界で人を信じないことで痛い目にあっていますしね」

女友「トラウマを克服したいと考えてしかるべきでした」



女「これって一つの進歩だよね!」

女「男君が人間不信を克服すれば、それを元にする恋愛アンチも解消される」

女「男君自身が直したいと思っているならすぐだよね!」



女(そうなれば……フリとはいえ、昨日のデートあんなに楽しめたのだ)

女(私と男君、相性は悪くないはず。付き合うことも可能になるはずだと――)

702 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/07(月) 15:36:12.02 ID:d3hCy8e20



女友「早考は控えておいてください」

女(しかし、明るい展望に女友が水を差す)



女「え……どうして?」

女友「本人が直したいと思っている、なのに直っていない。そのことが男さんのトラウマの根の深さを表しているからです」

女「それは……」

女友「まあ全く直す気がないよりはマシであることは確かなのですが……今回の出来事が影響しないといいですね……」

女「今回の出来事?」

女(首をひねる私に、女友が例え話を繰り出す)



女友「例えば女が新たな豊胸マッサージの話を聞いて頑張ろうとしますが」

女友「先にそれを体験した人がいて『このマッサージ全然効果が無かった!』なんて訴えてたらやる気が無くなるでしょう?」



女「例えが酷くない?」

女(私にいじられたことをまだ根に持っているのだろうか)

703 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/07(月) 15:36:48.57 ID:d3hCy8e20



女友「人を信じようとする男さんが、プロポーズするお嬢様と男性から『自分もこのように信じ合いたいな』と思っていたとして」

女友「その絆が偽りだったと判明したら……やっぱり人を信じるなんて馬鹿がすることだと……」

女友「そう思ってしまうことが心配なんです」



女「それは……」

女(女友が暗い可能性を指摘したそのとき)





男「すまんな、二人とも」

女(一人この場を離れていた男君が帰ってきた)



女「あ、男君」

男「女は女友から話を聞いたか?」

女「えっと……二人の婚約が結婚詐欺かもしれないって話?」



男「ああ、それだ。そして……どうやらそれは真実のようだ」



女「…………」

女(男君の思い詰めた顔を見て、どうやら恐れが現実になったことを感じ取った)

704 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/07(月) 15:40:20.81 ID:d3hCy8e20
続く。

ちなみに性交渉は約20%だそうです……え、それ本当に現実?
705 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/07(月) 17:48:45.16 ID:WreaMhRqO
乙!
706 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/07(月) 23:02:43.93 ID:QChbayi00

…に、20%だとっ!?
707 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/07(月) 23:59:14.36 ID:LP1VWOIsO
乙ー
708 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/08(火) 06:29:11.67 ID:xxVMa1xK0

逆に考えるんだ
俺たちは残りの平凡な80%の中の1人だと
709 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/09(水) 21:48:21.89 ID:/xRtS9Ep0
乙、ありがとうございます。

>>706 リアクションありがとうございます。

>>708 そうだ、そうだ。

投下します。
710 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/09(水) 21:49:12.74 ID:/xRtS9Ep0

男(酒場から宿屋に帰ってきた俺たちはもう夜も遅かったためその日は寝て)

男(翌朝俺が聞いた話を二人に伝えた)



女友「盗み聞いたのがちょうど求めていた話とは、男さんも豪運ですね」

男「一応怪しそうな酒場を選んで入ったとはいえ、俺もここまで上手く行くとは思ってなかった」

男「これで婚約破棄から宝玉を手に入れるルートが確立されたな」

女友「では具体的にどうするか詰めていきましょうか」



男「あーそうしたいんだが……」

男(俺は発言が無いもう一人の方を見る)

711 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/09(水) 21:50:32.62 ID:/xRtS9Ep0

女「…………」

男「女、まだ納得できないのか?」

女「あ……ご、ごめん」

男(話を聞いている間も仏頂面だった女。このわだかまりを解くのが先のようだ)



男「気になっているのはあの二人の関係が偽りだったことか?」

女「……うん。やっぱりどうしても……」

女友「言いたいことがあるなら言った方がいいですよ」



女「じゃあその……今の話が男君の聞き間違いだったってことはないかな? やっぱり信じられなくて」

男「……まあ根拠は俺の盗み聞きだけだし、別に信じられなくても仕方ないがな」



女「そ、そんな……私は男君を疑っているわけじゃなくて……!」

男(女が慌てて否定する。今の言い方は俺が悪かったか)

712 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/09(水) 21:51:00.53 ID:/xRtS9Ep0

男「落ち着け。女を否定しているわけじゃない」

男「俺だって逆の立場だったら、たまたま行った酒場で盗み聞いた話がちょうど求めていたものだった、なんて胡散臭すぎて信じられないしな」

男「内容もあんなプロポーズをしたカップルが結婚詐欺だったなんて思いたくないものでもあるし」



女「それでも……私が男君のことを信じられなかったのは事実で……」

男(フォローの甲斐無く、女が落ち込む)

男(本当に疑われても仕方ないって思っているのに……どうしてこうなるんだ)





女友「そこまで!」

男(パン、と手を叩き女友が話に割り込んだ)



女友「話が逸れてますよ。宝玉を手に入れるための話し合いをしたいんですが」

男「すまん」

女「ごめん、女友」

713 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/09(水) 21:51:27.09 ID:/xRtS9Ep0

女友「事の真相は全て暴けば分かることです。答え合わせはそのときにでもしてください」

女友「ただ今は男さんの話が真実だと仮定して動きます」

女友「結婚詐欺が真実ならば早めに動いて潰した方がいいですし、もし間違いだったとすればそれはそれで結果オーライです」

女友「私たちが疑ってしまった罪悪感を抱えるだけで済むなら安いものでしょう」



男「ああ、そうだな」

女「分かった」

男(女友が強引に話を進める)

男(確かにやつらは計画が最終段階に入ったと言っていた。動くなら早めがいい)

714 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/09(水) 21:52:02.55 ID:/xRtS9Ep0

女「じゃあ早速だけど私たちがしないといけないのは、詐欺師って人の身柄を押さえること……でいいのかな?」

男「いや、それだけだとやつが『結婚詐欺をしようとしていたなんて言いがかりだろ!』って認めない可能性がある」

男「俺が話を盗み聞きしていたってだけじゃ根拠が薄いしな」

女「そっか。じゃあ必要なのは結婚詐欺をしようとしていた物的証拠ってことでいいかな?」

男「ああ、それでいいだろう」



男(前回のスパイ騒動で騙していたのが女性の秘書さんであったのと違って、今回の結婚詐欺で騙しているのは男性の方だ)

男(身柄を押さえて魅了スキルを使い即自白とは出来ないのである)



男(これが昨夜酒場で何もせずに帰ってきた理由でもある)

男(対象人物の確保だけでいいなら、VIPルームとはいえ壁一枚隔てたところに目的の人物がいると分かっていた昨夜は絶好のチャンスだった)

715 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/09(水) 21:52:30.46 ID:/xRtS9Ep0

女「でも物的証拠ってどうやって手に入れるの?」

男「やつの拠点になら何らかの証拠はあるだろう。だからそれを突き止めるのが先なんだが……」

女「何か気になることがあるの?」

男「ああ。言ったかもしれないが、やつには数人の部下がいるみたいだった」

男(自作自演の救出劇のためだったり、他にも色々お嬢様を落とすのに協力したと見ていいだろう)



女友「組織だった犯行ということですか……となると犯罪者グループが絡んでいるのかもしれませんね」



男「犯罪者グループ?」



女友「ええ。最近この観光の町に巣くっているそうです」

女友「役所で資料探ししているときにそのような話をしているのを聞きました」

女友「どうやらこのころ万引き、ひったくり、強盗、その他色々な犯罪件数が増加しているようで」

女友「捜査したところ集団的な動きが背景にあると判明したそうです」

女友「宝玉を探索する際に、私は男さん一人で動かない方がいいと言いましたよね? それもこの輩に巻き込まれるのを恐れてです」

716 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/09(水) 21:52:57.33 ID:/xRtS9Ep0

男「なるほどな……じゃあひったくりに見られないようデートのフリをするように言ったのも、今思えばおおげさだと思っていたが、その辺りと繋がるのか」

女友「ええ。観光で成り立っているこの町ですから、治安の悪化は死活問題です」

女友「観光客に物々しい印象を与えないため目立たないようにですが、かなり警備が強化されているみたいです」

男「それは気づかなかったな」



男「じゃあ詐欺師とその部下たちは、犯罪者グループに所属している結婚詐欺部門のチームだと考えていいのか?」

女友「その可能性は高そうですね」

女「そして物的証拠は拠点にあるかもしれないって話だから……」

女「私たちはその犯罪者グループのアジトを見つけないといけないってこと?」



男「うわぁ……面倒くさいな……」

男(思わず俺は顔をしかめる)

717 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/09(水) 21:53:25.69 ID:/xRtS9Ep0

女友「犯罪者グループですから、荒事に通じている人間もそのアジトに何人かいるでしょう」

女友「しかし、私と女の敵ではないはずです」

女「流石にドラゴンより強い人なんてそういないだろうし」



女友「つまりアジトに乗り込みさえすれば勝ちなのですが、その場所が分かりません」

女友「おそらくこの町の治安維持を務めている側も掴んでないでしょう。分かっていたら乗り込んでいるでしょうし」



女「だったらその場所を地道に探さないといけないってわけ?」

女友「まあ……そうなりますね」

男(女と女友の言葉からは勘弁してくれというニュアンスが感じ取られる)



男(それもそのはずだ)

男(つまり新たなおつかいイベント、犯罪者グループのアジトを探せ、が発令されたという事なのだから)

718 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/09(水) 21:53:51.40 ID:/xRtS9Ep0

男(この町を駆けずり回って、犯罪被害や犯罪者目撃の証言を集めて、怪しいところを訪れて)

男(その途中で治安維持側にこそこそ嗅ぎ回る俺たちが犯罪者グループの仲間でないかと間違って疑われ争い)

男(結局和解したところで新たな情報を聞くことが出来て)

男(それと俺たちが持っていた情報を組み合わせて判明したアジトに突入する…………)





男「ああもう、やってられるか!!」





男(そんな面倒な手間はもうごめんだった)

719 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/09(水) 21:54:17.81 ID:/xRtS9Ep0

女「男君、気持ちは分かるけど抑えて……」

男「いいや、もう抑えねえ。犯罪者グループ、すなわち悪だろ? だったらこっちも手段を選ぶ必要はないよな?」

女「手段……って、もしかして……」





男「魅了スキルを使う。それでアジトの場所を暴いてやる」

男(この世界でも埒外の力を使ってショートカットしよう)





女友「そうですね、お嬢様のことを考えると早めに解決するのがいいのも確かですが……」

女友「スキルを使うにしても、当てはあるのですか?」

720 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/09(水) 21:54:54.06 ID:/xRtS9Ep0

男「ああ。昨夜の酒場だ」

男「あそこは詐欺師たちがVIPルームを使えるくらい、犯罪者グループと通じているってことだろ?」

男「だったらアジトの場所を知っているやつがいてもおかしくない」

男「もちろん犯罪者が御用達にしているくらいだから口は固いだろうが、魅了スキルを使えばそんなの関係ないしな」

男(そして事情に通じていそうな人物の目星も付いている)



男「バーテンダーだ。あの人に魅了スキルをかける」



男(人の都合に振り回されるのはここまでだ)

男(ここからはこっちから動いてやる)

721 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/09(水) 21:55:37.53 ID:/xRtS9Ep0
続く。

主人公の見せ場到来。
722 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/09(水) 22:34:34.60 ID:a/In8ByIO
乙ー
723 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/10(木) 06:09:15.52 ID:7ztgfcCbO
乙!
724 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/11(金) 19:37:10.53 ID:O4Qw7sdy0
乙、ありがとうございます。

投下します。
725 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/11(金) 19:37:42.28 ID:O4Qw7sdy0

女(夜になって私たちは昨日と同じ酒場を再び訪れていた)

女(今回の目的は魅了スキルを使って犯罪者グループのアジトの場所を聞き出すこと)

女(虜にする対象はバーテンダーだ)



女「って、よく見るとすごく綺麗な人だよね……」

女(シェイカーを振るバーテンダーを私は観察する)

女(中性的な顔立ちで背は高めの女性だ)

女(首元にはスカーフを巻いて、手には白いロンググローブもしている)

女(観光の町は温暖な気候なのに暑そうだ)

女(よほど首元や手を隠したいのかな?)



女(その前にある席に男君は座っている)

女(まだ魅了スキルは使っていない。虜にした後、自然とアジトの場所を聞き出すためにあのように近づいているのだ)

726 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/11(金) 19:39:41.18 ID:O4Qw7sdy0

バーテンダー「……どうぞ」

男「ありがとうございます」



女(バーテンダーが小さな声と共に差し出したカクテルを男君は受け取る)

女(観察していて分かったことだが、あのバーテンダーは基本は声を出さない)

女(無口でお客の話には頷いたり微笑んだりというリアクションを返している)

女(必要なときだけあのように小さく言葉を発するようだ)

女(その振る舞いや雰囲気からミステリアスさが出ている)



女「…………」

女(魅了スキルの対象は『魅力的な異性』)

女(つまりあの人に魅了スキルをかけられると思ったって事は、男君は魅力的に思っている)

女(私とは対照的なタイプだけど……もしかしてああいう女性の方が好きなのかな)

女(私もあんな風にふるまったら……)



女『男君……行きましょ?』

女『私……頑張る』

女『……好き』



女(うーん……何か違う気がする)

727 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/11(金) 19:40:08.41 ID:O4Qw7sdy0

女友「何ぼーっとしているんですか」

女「わっ、ビックリした」



女友「私たちの役割を忘れたんですか」

女友「今までの順番からして次の曲のタイミングで作戦決行出来ると思います」

女友「幸いなことに現在席に座っている女性はいませんが、男さんの5m以内に立ち止まっている女性が二人居ます」

女友「なので女はあちらの女性を遠ざけてください、私はこっちに行くので」



女「うん、分かった」

728 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/11(金) 19:40:40.26 ID:O4Qw7sdy0

女(これは事前に決めておいたとおりだった)

女(人の多い場所で魅了スキルを発動する際に気をつけないといけない点が二つ存在する)

女(それが効果範囲とピンク色の発光である)



女(魅了スキルは効果範囲の5m以内にいる対象に無差別にかけてしまう)

女(特定の対象だけを選んでということが出来ない)

女(そのせいで暴発した際に女友や私に魅了スキルがかかってしまったわけだし)



女(今回の狙いはバーテンダー一人だけだ)

女(その他の対象にかけて面倒ごとになるのは避けたいので)

女(私と女友で男君の周囲5mにいる女性がバーテンダー一人だけになるように誘導する)

729 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/11(金) 19:41:07.25 ID:O4Qw7sdy0

女(もう一つの注意点がピンク色の発光)

女(魅了スキルを発動の際に起きるこれが結構目立つ)

女(他の人に何をしているんだと不審がられるかもしれないし)

女(注目が集まった中で虜になったバーテンダーからアジトを聞き出しにくい)

女(これの対策についてはちょうどこの酒場という場所が解決してくれた)



ダンサー「次の曲、行きまーす!」



女(酒場の中央のステージ。専属のダンサーの合図で曲が流れ始めた)

女(ポップ調の曲に合わせて踊るダンサーに見入る観客)

女(そしてサビに入ると同時に、天井の照明が曲に合わせたピンク色の光でステージを染め上げて)



男「魅了、発動」



女(瞬間、壁際にあるカウンターバーの辺りでもピンク色の光が発せられた)

730 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/11(金) 19:41:36.08 ID:O4Qw7sdy0

女「……ん、大丈夫みたいだね」

女(そのことに気づいた客は私たち以外にいないようだ)

女(上手く魅了スキルの発光を紛らわせることが出来た)



女友「作戦成功ですね」

女(別の女性客を誘導していた女友が役割も終わったということで、私のところにやってくる)



女「うん、良かったよ」

女友「三人で話を聞くのも目立ちますし、後は男さんに任せて私たちは待ちましょう」



女(見ると男君はバーテンダーに話しかけている)

女(私たちが少し離れているのと、酒場全体が盛り上がって騒がしいから内容は聞こえないけど)

731 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/11(金) 19:42:03.25 ID:O4Qw7sdy0

女「そうだね、後は男君を信じて……」

女友「女……?」

女「……私、どうして今朝男君のことを信じられなかったんだろう」



女(ふいに思い出してしまう)

女(男君が盗み聞きした結婚詐欺の話について、私は信じることが出来なかった)

女(男君に『別に信じられなくても仕方ないがな』なんて、悲しいこと言わせちゃったし……)



女友「それですか。言っておきますけど、今回悪いのは女ですよ」

女「……うん、そうだよね」



女友「ああもう、誤解してますね」

女友「男さんの言った通り、根拠が薄い話ですから信じられなくて当然という事です」

女友「それなのに信じられなかったと後悔している女が間違っています」



女「……? どういうこと?」

女友「今の女は男君に少しでも良く思われるために、嫌われることを極端に避けようとしているんじゃないですか?」

女「っ……それは……」
732 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/11(金) 19:42:44.75 ID:O4Qw7sdy0

女友「はあ……。相手のことを何もかも肯定すればいいという訳じゃないです」

女友「今の女のような人が、彼氏にDVされたときに『彼が暴力を振るうのには理由があるの。彼は悪くない。私が悪いだけ』なんて思いこむ駄目女になるんですよ」



女「お、男君は暴力を振るう人じゃないよ!」

女友「そんなこと言ってません。ていうか告白もしてないのに彼女面してどうするんですか」

女友「デートのフリのせいで勘違いしているんですか?」



女「彼女面……しているつもりはないけど。男君のこと全部理解しないとって思うようになってたかも」

女「だってあのときは本当に楽しくて、心から通じ合っていると……錯覚したから。それを壊さないようにって」



女友「良くない傾向です。商業都市で真っ向から男さんを否定したときの気持ちを思い返してください」

女友「間違っていることは間違っていると、信じられないことは信じられないと、思っていることはちゃんと言いましょう」

733 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/11(金) 19:43:14.05 ID:O4Qw7sdy0

女「でも……そんなことしたらケンカになることもあるよね。男君が私のことを嫌いになるかもしれないよね」



女友「カップルになったらケンカなんて付き物ですよ」

女友「逆にケンカが無い状況は大抵どちらかが我慢している場合です」

女友「そういう関係は、その不満が爆発して破綻すると相場が決まっています」



女「……」

女友「大体商業都市であれだけケンカしたのに、今もこうして一緒に行動しているじゃないですか。二人なら大丈夫ですよ」



女(女友の言う通りだ)

女(今の私は男君の器が小さいと……侮っているのと同じだ)

女(そんな人じゃないことは男君に恋する私が一番知っている)

734 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/11(金) 19:43:47.81 ID:O4Qw7sdy0

男「遅くなったな」

女「……っ!? お、男君!?」

女(そのとき男君が私たちのところまで戻ってきた)



女(現在の状況を思い出す。おそらくバーテンダーの人から情報を聞き出し終わったのだろう)

女(気持ちを切り替える)

女(宝玉ゲットのため、もし結婚詐欺が本当ならお嬢様を救うため、集中しないと)



女友「首尾はどうでしたか?」



女(女友の質問に男君は――)

735 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/11(金) 19:44:16.53 ID:O4Qw7sdy0



男「作戦失敗だ」



女(苦々しい顔つきでそのように答えた)



女「作戦失敗って……あ、もしかしてバーテンダーさんがアジトの場所を知らなかったとか?」

女(バーテンダーなら事情に通じているだろうというのは、私たちの勝手な推測だ。間違っていてもおかしくはない)



女友「その失敗なら分かりますが、それでも事情を知っていそうな他の人物や何か小さな手がかりでもいいから聞き出すって話でしたよね」

女友「嘘を吐けないので何らかの収穫は得られる物だと思っていたんですが、そちらはどうだったんですか?」



女(本命のアジトの場所が分からなくても、少しでもヒントを掴む)

女(そういう副案だったのだが――男君の答えは私たちも予想していないものだった)

736 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/11(金) 19:44:43.63 ID:O4Qw7sdy0





男「いや、問題はそれ以前のものだ。バーテンダーが虜状態にならなかった」





女「え……?」

女友「なっ……!?」





男「魅了スキルが……失敗したんだ」





737 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/11(金) 19:45:29.30 ID:O4Qw7sdy0
続く。

見せ場、どこ……?
738 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/11(金) 21:17:02.21 ID:lVF8Ai5CO
乙ー
739 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/11(金) 23:38:27.62 ID:ub/NQfHy0
指と喉仏隠してるのか
740 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/12(土) 14:17:07.57 ID:uf89VoZ70
741 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/12(土) 21:11:03.35 ID:oRMm2M570
乙!
742 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/13(日) 21:16:03.08 ID:RrpwwqvB0
乙、ありがとうございます。

投下します。
743 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/13(日) 21:21:08.61 ID:RrpwwqvB0

男(魅了スキルが失敗した)

男(俺の言葉に驚く女と女友だったが……一番驚いているのは俺自身だった)

男(魅了スキルの力は絶対の物だと思っていたが……本当はそうでは無かったのか?)



女「どういうことなの……?」

男「正直俺も訳が分からなくて……いや、スキル使った本人が何言ってんだって話だけど……」



女友「こういうときは初心に戻ってみませんか? 何が原因だったか一から検討しましょう」

男「俺もそうしようと思っていたところだ。付き合ってもらえるとありがたい」

女「私も参加するよ!」

男(ということで三人で魅了スキルが失敗した原因を話し合うことにする)



女友「とりあえず魅了スキルの詳細を呼び出してもらえませんか? 何か見落としている事項があるかもしれません」

男「ああ、そうだな」

男(女友に言われて俺は久しぶりにステータス画面を開き、魅了スキルの詳細を表示した)

744 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/13(日) 21:22:12.39 ID:RrpwwqvB0

 スキル『魅了』

 効果範囲:術者から周囲5m

 効果対象:術者が魅力的だと思う異性のみ



・発動すると範囲内の対象を虜にする。

・虜になった対象は術者に対して好意を持つ。

・虜になった対象は術者のどんな命令にも身体が従う。

・元々対象が術者に特別な好意を持っている場合、このスキルは効力を発揮しない。

・一度かけたスキルの解除は不可能。

745 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/13(日) 21:22:43.36 ID:RrpwwqvB0

男「まず魅了スキルの発動自体はしたはずだ。謎の感覚でそれは自覚している」

女友「ピンクの発光は私たちも見ました」



男「効果範囲の5m以内にバーテンダーはいたよな」

女「うん。男君の周囲5mでカウンターバー全体捉えていたはずだし」



男「効果対象の魅力的な異性にも当てはまる容姿だ」

女友「あのような女性もタイプだったんですね」

男「ええい、茶化すな」



男「発動すると範囲内の対象を虜にするわけだが……どうも虜になった様子はなかった」

女「男君に対する好意的な素振りを見せなかったの?」

男「かける前と後で同じ対応だったな」



女友「命令はしたんですか?」

男「冗談めかした感じの命令をしてみたんだが、従う様子はなかった」



女「じゃあ次の記述は……っ!?」

男(何故か女が息を呑む。次の行に何か気になることが書いてあったか?)

746 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/13(日) 21:23:32.30 ID:RrpwwqvB0

男「えっと『元々対象が術者に特別な好意を持っている場合、このスキルは効力を発揮しない』」

男「……こんな記述あったのか。今まで見落としてたな」

男「これに当てはまっていたなら理解できるんだが、でもただの客である俺に特別な好意を持つはずないし違うだろ」

男「つうか俺が魅了スキル無しに好かれるなんてことないし、今後も無意味な記述だな」



女友「……いえ、そんなこと無いですよ。現に身近なところに特別な好意をもがっ!?」

女「本当女友は面白いこと言うね!!!」



男(女友が何か言い掛けて、女に口を塞がれる)

男(ちょうど酒場の客が叫び声上げて聞き取れなかったんだが、何て言ったんだ?)

男(聞き直せる雰囲気ではないので諦めるが、女友が本気で苦しげにタップしているのは見過ごせない事態だ。



男「おい、女。じゃれつくのはそのへんにしておけ」

女友「……ぷはっ、はぁっ、はぁっ。竜闘士の本気で締め上げないでください!」

女友「ちょっとした冗談じゃないですか! 危うく窒息するところでしたよ!」

女「冗談になってないってば!!」



男(それからしばらく女友と女が言い争う)

男(本当女友は何を言おうとしたのだろうか?)

747 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/13(日) 21:24:11.87 ID:RrpwwqvB0

男「二人とも落ち着いたか?」

女友「はい……」

女「ごめんね、男君……」

男(他の客も注目するほどの騒ぎになったところで、二人はようやく落ち着きを取り戻した)



男「詳しいことは聞かない。解決したってことで、話を再開するぞ」

女「ありがとう……でも、魅了スキルの詳細に書いてあるのはあと『一度かけたスキルの解除は不可能』だけで、これも関係ないよね」



男「そうだな。スキルの内容について見落としていることは無さそうだが……」

男「まだ考えられる可能性としては、女への魅了スキルが中途半端になっている原因『状態異常耐性』のスキルとかもあるな」



男(すっかり忘れそうになるが、女は完全に魅了スキルにかかっているわけではない)

男(俺への好意的な様子からして効果は出ているのだが、付いてくるなという命令を破った実績がある)

748 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/13(日) 21:24:46.68 ID:RrpwwqvB0



女友「中途半端……? あ、そんな設定ありましたね。もちろん嘘でもがっ!?」

女「女友? 何か言った?」



男(また女友が女に取り押さえられている)

男(しかし、この酒場本当騒がしいな。また聞き取れなかった)



男「えっと……立て込んでるなら話し合い中断しても良いぞ?」

女「ご、ごめん、男君。もう大丈夫だから。ね、女友」

女友「ええ……流石に懲りましたよ」

男(ぐったりした様子の女友。命の危機になってでも言いたかったことなのだろうか)



男「それで『状態異常耐性』だが、竜闘士の女でも魅了スキルを完全に防ぐことは出来なかったんだ」

男「あのバーテンダーがそれ以上の使い手だとは思えないし、この可能性も無いだろう」



女友「ええ、そうですね」

女「うん、そうに決まってるよ!」

749 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/13(日) 21:25:29.24 ID:RrpwwqvB0

女「となると失敗した原因分からないね。もう思いつく可能性は当たったよね?」

女友「私もお手上げです」

男(話が振り出しに戻り、首をひねる女と女友)



男「………………」

男(俺は考えながらふらっと歩いて二人の側を離れる)

男(何も分からないのは俺も一緒で…………いや)



男(実はあと一つだけ考えられる可能性が俺の中にあった)



男(だったらそれを話せばいいだけなのだが……その内容が正直馬鹿げているものなのだ)

男(消去法から導き出した可能性だけを論ずるならあり得るというもので、二人に話しても信じられないと一蹴されるだろう)

750 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/13(日) 21:26:09.73 ID:RrpwwqvB0

女友「上の空で歩いてますけど、どうしたんですか?」

男「え……?」

男(女友が女から離れて、俺の元までやってくる)



女友「男さん自身が一番気になってそうな魅了スキル失敗の原因を考えているのにその様子ということは」

女友「もしかしてまだ何か考えがあるといったところでしょうか?」

男「それは……」



女友「もう、何ですか。もったいぶって私たちを焦らそうと……しているわけではなさそうですね」

男「……ちょっとな」

女友「つまりは何らかの言いたくない事情があると」

男「……」

女友「はぁ……。本当そっくりですね。似たもの夫婦なんですか?」

男「え? どういう意味だ?」



女友「先日のデートのフリについて。何があったのか女から全部聞きました」



男(女友は質問には答えず、とんでもないことを暴露した)

751 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/13(日) 21:26:57.06 ID:RrpwwqvB0

男「なっ! 女のやつ、話したのかよ!」

女友「ふふっ、最初から約束していたので。どうやらとても楽しそうに過ごしたみたいですね」

男「くっ……」

男(ニヤニヤとした笑みを隠さない女友。一番知られたくない人に知られたようだ)



女友「締めくくりに行った夕日の見える浜辺の丘では、ふと漏らした言葉を聞かれてしまって」

女友「それを受けて女が男さんも人を信じられるようになれるって言ったんですよね」

男「そこまで詳細に語ったのか」



女友「それで男さんのことですから……」

女友「どうして俺が変われるって思うのか、何か裏があるんじゃないか、本当は騙しているんじゃないかと」

女友「そんなこと思っているんじゃないですか?」



男「……ああ、その通りだ」

男(ここまで当てられると開き直って肯定するしかなくなる)

752 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/13(日) 21:27:48.64 ID:RrpwwqvB0

女友「まあ気持ちは分かります」

女友「女を見ていると、どうしてそこまで人を信じられるのかと、疑いたくなりますし」

女友「一足跳びに信じられるようになれると言われても、今まで疑って生きてきた男さんが受け入れられないのは当然です」



男「……なあ、どうして女は俺に対してあんなことを言ったんだ? 女友なら分かるんじゃないか?」

女友「ええ、何となくですが分かります。しかし、教えてあげません」

男「なっ……」



女友「女本人に聞けばいいじゃないですか」

女友「『正直おまえの言葉を疑っていて……理由を教えて欲しいんだけど』って」

女友「大丈夫です、それくらいで怒るような人ではありませんよ。親友の私が保証します」



男「……」



女友「言葉をため込まないでください」

女友「間違っていることは間違っていると、信じられないことは信じられないと、思っていることはちゃんと言いましょう」

女友「………………って、これ今日二回目ですね」



男(そこで女友は言いたいことは終わったとばかりに、女の元に戻っていく)

753 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/13(日) 21:28:26.40 ID:RrpwwqvB0

男「…………」

男(分からないことがあれば聞けばいい。とても単純な理屈だ)

男(なのにそれを出来なかったのは何故なのか?)



男(いつもの俺なら遠慮無く聞いたはずだ)

男(商業都市の時なんか、今思い返しても商会長相手によくあそこまで遠慮無く交渉できたものだと感心する)



男(そうやって気を使わないのは、相手のことをどうでもいいと思っているからだ)

男(全てを疑うとは、信じられるのは自分自身だけであり、他の人間は全てどうでもいいと思っているからだ)





男(そんな俺が女には遠慮した)

男(疑っていると明かして、相手が気を悪くすることを避けた)





男(その理由は……)

754 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/13(日) 21:28:56.57 ID:RrpwwqvB0



男「……何、気の迷いだ。あのときはちょうどデートのフリをしていたしな」



男(俺は思考を打ち切る)



男(そうだ、今重要なのは魅了スキルが失敗した原因だ)

男(遠慮する必要はない、別に二人に信じられなくても構わないだろ)

男(俺が俺自身を信じられればいい)



女「あ、男君戻ってきた」

女友「調子はどうですか?」



男(俺は二人の元に戻ると前置き無しにその可能性について語る)

755 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/13(日) 21:29:27.43 ID:RrpwwqvB0





男「なあ、バーテンダーは効果対象の『魅力的な異性』じゃなかった」

男「だから魅了スキルは失敗した……って考えられないか?」





女「いきなりだね。でも、魅力的な異性じゃないって……?」

女友「えっと……どういうことですか?」



男「そのままの意味だ」



女「そのままって……もしかして男君ああいう人タイプじゃないの?」

女友「どんな特殊性癖なんですか……ロリコン、熟女好き、B専……」

女「え、それって…………」



男(二人にすごい疑いの眼差しを向けられる。何とも不名誉なことだ)

756 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/13(日) 21:29:58.16 ID:RrpwwqvB0

男「いやいや、おかしいだろ!」

男「そもそも二人に魅了スキルをかけることが出来たんだぞ」

男「それだと自分が特殊な容姿だと言っているようなものじゃねえか」



女「あ、そうだった……」

女友「だったらどういう意味ですか? 『魅力的な異性』ではないとは……」

男(もったいぶった言い方をした俺が良くなかったようだ。俺の考えの根本を示す)



男「『魅力的な異性』って言葉は二つの要素で出来ているだろ。『魅力的』と『異性』だ」



女「それは分かっているけど……」

女友「……っ! まさか……!」



男(女と違って女友はピンと来たようだ)

男(そのまま俺は……正直馬鹿げた可能性を話す)

757 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/13(日) 21:30:23.92 ID:RrpwwqvB0





男「あのバーテンダーは俺にとって『魅力的』であっても『異性』ではないんじゃないか?」





男(つまりは……女装した男性という可能性だ)



758 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/13(日) 21:32:20.62 ID:RrpwwqvB0
続く。

説明は次回しますが>>739で正解です。
お見事!
759 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/13(日) 22:08:30.69 ID:Z/QZqJXvO
乙ー
760 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/14(月) 07:08:54.93 ID:lBbgR1vu0
乙!
761 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/15(火) 20:18:36.09 ID:ei+ZrJM+0
乙、ありがとうございます。

投下します。
762 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/15(火) 20:19:16.77 ID:ei+ZrJM+0



女「バーテンダーが……男性!? そんなことあるはずないって!! だってあんなに綺麗な人なんだよ!!」

女(私は、男君の言葉に思わず叫ぶ)



男「まあ、そうだろうな。だが俺も荒唐無稽なことを言ってるんじゃない、最初からヒントはあったんだ」

女「……え?」

男「あの人の格好を見てみろ。男性であることを隠す工夫があるだろ?」

女(男君は少し離れたカウンターバーで今も働いているバーテンダーを指さす)



女「格好というと……スカーフしてるのは特徴的だよね」

女「だって温暖な観光の町だし暑そうじゃん。なんかおしゃれのこだわりなのかな?」

男「おしゃれかどうかはセンスの無い俺には分からないが、女装を見破られるのを防ぐ重要なアイテムであると推測できる」



女「スカーフで男だって見破られるのを防げるの?」

男「ああ。何故なら男には喉仏があるからな。ふとしたときに見えて男だとバレてしまうから、首もとを隠すのは理に叶っている」

女「へえ、知らなかった」

763 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/15(火) 20:19:54.70 ID:ei+ZrJM+0

男「そして手袋しているのも女装バレを防ぐためだろう」

男「男の手は武骨になったり、血管浮きやすかったりと女の手と差が出やすいからな。隠しておいた方が無難だ」

女「…………」



男「最後に声だ。姿を女性らしくしても、声まで女性に真似るのは難しい」

男「だから極力しゃべらないように、しゃべるときでも小さな声にしているんだろう」

女「…………」



男「……って、どうしたんだ、女? 反応がないけど」

女(途中から黙ってしまった私を心配する男君だけど……)



女「いや、そのね……。真面目な話の時に悪いなあとは思うんだけど……男君女装について詳しくない?」

男「はぁっ!?」

女「だからその男君女装が趣味なのかなって……あっ、いや、趣味は人それぞれだから別に気にしてないけどね!!」

男「変な気遣いやめろ!! それに趣味じゃねえ! 昔読んだ本に出てきた登場人物が話してたのを覚えていただけだ!」



女(男君の弁明によると推理小説の登場人物だったらしい)

女(主人公の探偵に女装とは何たるかを4ページほど使って説いたそのインパクトは強くて)

女(だからこそ殺されたときは『キャラ強かったしな』と妙に納得したと)

764 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/15(火) 20:20:35.70 ID:ei+ZrJM+0

女友「まあ、男さんの女装趣味疑惑については置いといて」

男「置いとくな。断じて違うぞ」

女友「私も同じ話を聞いたことがあるので、あのバーテンダーが女装バレを意識していると見ることには賛成です」

男「おまえだって女装趣味認定してやるぞ」

女友「女性が女装してどうするんですか。普通ですよ」

女(男君も結構テンパっているようだ)



男「ああもう。さっきの特殊性癖扱いといい、不当な目で見られることが多い日だな」

男「女友はともかく女にそんな疑われるとは思わなかったぞ」



女「こんな私は嫌かな?」

男「……まあ今朝みたいにウジウジされるよりはマシだが」

女(そっか……だったら女友のアドバイスは的を射ていたようだ)

765 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/15(火) 20:21:03.54 ID:ei+ZrJM+0

女「それにしてもバーテンダーが女装……ね」

男「ここまで言っておいてなんだが、もちろん証拠はない」

男「疑わしい状況が散見しているだけだ。だが俺はこれしかないと思っている」



女「私も男君の考えを信じるよ」

男「……そうか」

女「あ、理由はあるんだよ。検証した通り、魅了スキル側に失敗する原因は見当たらないし」

女「だからもうあの人が男性だってくらいしか思い当たらないもんね」

男「ああ……そういうことだ」



女「どうして最初からこの可能性を言わなかったの? 今さっき思いついたとか?」

男「いや、失敗した時点で疑ってはいたんだが……正直考えにくいだろ」

男「見た目は完璧女性だしな。でも、思っていることは遠慮せず言ってみろ……って女友に諭されてな」

女「そっか」



女(そういえば魅了スキルが失敗した理由を考えてたときに、ふらっと離れた男君の元に女友が行ってたけど……そのときかな?)

766 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/15(火) 20:21:33.18 ID:ei+ZrJM+0



男「だからついでに言ってみるが……なあ、あのデートのフリの最後で、どうして俺なら変われる、信じられるようになるって言ったんだ?」

男「だって疑ってばかりの俺だぞ。正直何か裏があるんじゃないかと……女を疑っているんだ」

男「いや、そんなこと無いとは思う自分もいるんだが……」

男「お嬢様と詐欺師のように永遠を誓い合ったように見えた二人が騙していることもある世の中なんだ」

男「どうしても否定しきれなくてな……」



女(男君が自身の思いを吐露する)

女(私に打ち明けてくれたことはとても嬉しかった。でも……)



女(ズキッ、と心が痛む)

女(あの日告げた言葉に嘘はない)

女(けどそれより前に、私が男君を騙しているのは本当だから)

767 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/15(火) 20:22:00.34 ID:ei+ZrJM+0

女「疑うって……もう酷いなあ。裏も何もないよ」

女(それでも男君が思い詰めないように、努めて明るい雰囲気で言う)



男「だったら何でなんだ?」

女「何でって言われると……男君を信じてるから、かな」

男「じゃあどうして俺を信じられるんだ」



女「信じるのに理由はいらないけど……強いて言うなら――――」

男「言うなら……?」



女(男君のことが魅了スキルなんて関係無しに好きだから)



女「……だって私には魅了スキルがかかってるんだよ? 好意を持った人を信じて当然じゃん」

男「あ……。そっか、なるほどな」

768 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/15(火) 20:22:28.21 ID:ei+ZrJM+0

女「……」

女(本当の私の思いを打ち明ける勇気が出ない。嘘を重ねてしまった私が嫌になる)

女(デートのフリをしている間、ずっとこの関係が本物になって欲しいと思っていた)



女(でも、私が吐いた嘘の責任がこの期に及んで重くのしかかる)



女(もしなけなしの勇気を振り絞って本当は魅了スキルがかかってないと告白しても)

女(男君は私に騙されていたのだと分かって傷付くだろう)



女(私の弱さから吐いた嘘は既に男君の中に定着してしまっている)

女(今さら嘘だったと明かすことは、私が楽になるだけ)

女(女友の言うとおりだった。嘘だったと明かすなら、すぐにするべきだった)

769 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/15(火) 20:22:53.71 ID:ei+ZrJM+0

女「……」

女(でもこの嘘が無ければ、今の関係はなかった)

女(人からの好意を疑っている男君が、私の好意を弾かないのは魅了スキルによるものだと思っているからだ)

女(自分が暴発させたのが原因で、理屈あるもので、裏がないものだと思っているからだ)

女(この嘘がなければフリとはいえ、デートすらしてくれなかっただろう)



女(騙している罪悪感は私が抱えないといけない)

女(その上で、私がするべきことは簡単だ)

女(嘘を嘘と暴かないままに関係を進展させればいい)



女(魅了スキルによる好意だと分かっているけど……それでも女の好意が嬉しくて、俺も応えたいと男君に思わせる)



女(つまりやることに代わりはない。ただ、退路が断たれたことだけは自覚する)

770 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/15(火) 20:23:19.09 ID:ei+ZrJM+0

女「ふふっ、でも男君らしくないね。いつもならその場で疑っているとか言いそうなのに」

女(そんな決意を悟らせないようにいつも通りの一念で勝手に出た軽口に)



男「……」

女(男君は何故か黙った)



女「……あれ、何か私おかしなこと言った?」

男「いや……おかしくはないが」



女「じゃあどうしてなの?」

女(言ってみてその通りだと思った。男君なら遠慮無く言いそうなのに)

771 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/15(火) 20:23:49.86 ID:ei+ZrJM+0



男「あー、そのだな……たぶん雰囲気を壊したくなかったんだろう」

男「あのときはフリとはいえデートをしていたわけだしな」



女(そっぽを向き、頬をかきながら、恥ずかしそうに言う男君)



女(男君のその様子は……フリではあるけど、フリではないと少しでも思ってくれた証で)



女「じゃあ今度もう一回しようよ?」

男「ああもう言っただろ! 今後デートのフリはしないって!」



女(私は胸の内が多幸感で溢れるのを自覚した)

772 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/15(火) 20:24:15.84 ID:ei+ZrJM+0





女友「完全に二人きりの世界ですね……はいはい、私はお邪魔虫ですよーっと」

女(私たちがいじける女友に気づくのはもう少し後のことである)





773 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/15(火) 20:25:06.54 ID:ei+ZrJM+0
続く。

3章『観光の町』編も大詰めに入っています。
あと二話で終わる予定です。
774 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/15(火) 20:39:19.30 ID:wD01KcipO
775 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/15(火) 21:02:53.88 ID:bOlnFZqMO
乙ー
776 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/16(水) 07:19:47.28 ID:p2nk/oa9O
乙!
777 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/17(木) 20:22:45.05 ID:AIwwANCX0
乙、ありがとうございます。

投下します。
778 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/17(木) 20:23:32.13 ID:AIwwANCX0

女友「さて二人っきりの話から真面目なところに話を戻しますよ!」

女「ごめんなさい……」

男「一人だけ蚊帳の外に置いてすまん」

男(トゲたっぷりの女友の言葉に女と俺は平謝りする)

男(完全に女友のことを忘れて、女と話し込んでいた)







女友「話がどこまで進んだかというとバーテンダー相手に魅了スキルが失敗した原因が分かったということですね」

女友「しかし、分かっただけです。状況は一歩も進んでいません」



男「そうだな……」

男(女友の言うとおりだ)

男(結婚詐欺の証拠を手に入れるため、犯罪者グループのアジトを掴み突入する)

男(そのためにバーテンダーから魅了スキルを使って聞き出そうとしていたのだが、その魅了スキルが失敗したわけだ)



男(原因が分かったことで成功するようになるわけでもなく)

男(それどころか絶対に魅了スキルがかからないことが判明したわけである)

779 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/17(木) 20:24:03.00 ID:AIwwANCX0

女「だったら他の人に魅了スキルをかけて聞き出すとか?」

女友「それもいいですが……あとこの酒場で働いている女性はホールスタッフやダンサーなどで、情報を知ってそうな人物が少ないんですよね……」



男(偉くなればなるほど、様々な事情を知っているはずだ)

男(バーテンダーは女性でありながらカウンターバーを一手に任されているようで)

男(この酒場のスタッフでも上の方の地位にいると判断して俺は魅了スキルをかけようと考えたのだ)

男(だが、やつが男性だったことで計画は崩れて……)



女「どうしたの、男君?」

男「うーん……本当に男性なんだよな?」

女「あ、バーテンダーのこと? 見ていると疑わしくなるよね」

男(今も客にカクテルを振る舞い、話に合わせてミステリアスな笑みを浮かべる様子はとても男性に見えない)

男(魅了スキルを失敗していなければ、男性だと言われても鼻で笑い飛ばしていただろう)
780 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/17(木) 20:24:55.49 ID:AIwwANCX0

男「……あ、いや。元の世界の常識で考えちゃ駄目なのか?」

男「変身スキルとかいうのがあって、それで女性のような見た目になっているとも考えられるよな?」

男(そうだ、この異世界にはスキルや魔法があるのだ)

男(別に地道に努力をしなくても、女性のような見た目になるのは可能で……)



女友「いえ、それはあり得ません。あの人はスキルも魔法も使ってないでしょう」



男「どういうことだ?」

女友「男さんの言うとおり、変身魔法やスキルといったものはこの世界に存在します」

女友「ですがそのようなスキル頼りの偽装は簡単に見破ることが出来るんですよ」

女友「私の判別魔法『真実の眼(トゥルーアイ)』で」

男(ピースサインを当てて目を強調する女友。そのポーズかっけえな)

781 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/17(木) 20:25:39.27 ID:AIwwANCX0

男「あーそんなのあったか。商業都市で秘書さんの『認識阻害(ジャミング)』を見破った魔法だよな」

男「けど『真実の眼(トゥルーアイ)』でも見破れない可能性ってのもあるんじゃないのか?」



女友「基本的にはないですね」

女友「偽装系と判別系の魔法やスキルががぶつかった際にはよりレベルの高い方が通るのですが」

女友「私の『真実の眼(トゥルーアイ)』は判別魔法の中でも最上位ですので、私の目を欺くのはほぼ不可能でしょう」



男(改めてチートな性能が語られる)

男(戦闘力だけで言えば女の方が強いのだろうが、女友の魔導士はこうして色んな方面に強い)



男「それで『真実の眼(トゥルーアイ)』でバーテンダーを見たからスキルを使ってないって分かったのか。いつの間に見たんだ?」

女友「最初です。魅了スキルをかけるために男さんが接近しないといけませんでしたから」

女友「何らかのスキルを隠し持っていた場合危険ですのでチェックしておきました」

男「そんな確認までしてたのか。サンキューな」

782 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/17(木) 20:26:06.41 ID:AIwwANCX0

女友「男さんの言うとおりスキルを使えば簡単に姿を変えることが出来ます」

女友「しかし、当然ですが私以外にもこの異世界には判別魔法やそれに類するスキルを使える人はいます」

女友「そういう人に見抜かれないように、あのバーテンダーはスキル無しで相当努力したんでしょうね」



男「なるほどな……」

男(それなのに俺の魅了スキルのせいで見抜かれて……悪いことを………………ことを……)







男「じゃあそこまで努力した女装のことをバラすって脅せば、あのバーテンダーからアジトの情報を聞けるんじゃないか?」







女「……」

女友「……」

男(女と女友から本日三度目の冷ややかな眼差しを頂戴する)

783 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/17(木) 20:26:44.52 ID:AIwwANCX0

女「それは流石に悪いでしょ」

男「そうか? 相手が善人なら俺だって良心の呵責を感じただろうが、犯罪者グループに荷担している悪人のはずだしな」

女友「そもそも酒場側はバーテンダーが男性であるってことを知っているんじゃないですか?」

男「いや、人の口には戸を立てられない。本人以外が知っていれば、絶対に噂が広まっているだろう」

男「それにあれを見る感じ無いな」

男(俺はカウンターバーを指さす)



男(ちょうど従業員の男性が何かの用があったのかバーテンダーに話しかけていて……)

男(その去り際の表情、完全に鼻の下が長くなっている。相手が男性であるとは1ミリも疑っていないだろう)



男「というわけだ」

男「もちろん脅迫以外の選択肢もあるが、その場合はまた一から聞き込みだったり面倒な手間を挟む必要があるだろう」

男「二人がそれでもいいなら俺もそうするが?」



女「……」

女友「……」

784 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/17(木) 20:27:12.43 ID:AIwwANCX0



男(そして)

男(俺たちは酒場の営業時間終了まで張り込み、バーテンダーが帰宅するところを捕まえる)

男(女装ではないかとちらつかせると否定、罵倒、青ざめ、媚び売りと変化していき)

男(バラさない代わりに犯罪者グループのアジトを教えろと要求すると、飛びつくように従った)



785 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/17(木) 20:27:42.46 ID:AIwwANCX0



男(その翌日、俺たちは別荘地の外れにある、今は誰も住んでいない廃墟を訪れていた。話によるとそこが犯罪者グループのアジトらしい)



男(俺たちは正面から突入した。突然の侵入者に驚きながらも対応する犯罪者たちだが、竜闘士の女と魔導士の女友の前に為すすべはない)



男(特に予想外のことも無く、順当に女と女友は犯罪者全員を投降させた。観光の町の治安維持隊に引き渡して後の処理は任せる)



男(全員の罪が暴かれて、償うように取りはからわれるだろう)



男(その中には予想通り詐欺師もいて……その一報はお嬢様にも届いたようだ)



786 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/17(木) 20:28:14.07 ID:AIwwANCX0





お嬢様「あなたどうして捕まって……それに結婚詐欺って…………ど、どういうこと?」



詐欺師「……はんっ、本当に気づいてなかったのかよ。世間知らずのお嬢さんだな! おまえは騙されてたんだよ!」






男(ちょうど面会に立ち会うことが出来た俺たちは顔を真っ青にしたお嬢様さんと、開き直った詐欺師を見て)



男「これで完了……だが」

女「後味悪いね……」



男(正しいことをしたはずだ)

男(あのまま気づかれず金を騙し取られるのが良かったはずがない)

男(しかしお嬢様さんのことを見ていられず……)

787 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/17(木) 20:28:55.41 ID:AIwwANCX0

女「ねえ。男君の魅了スキルで『今回のことは気にせず生きろ』って命令したりとか………………」

女「いや、でもそういうの良くないよね」



男「気持ちは分かるが、だからといってそれは俺たちが落ち込む姿を見たくないってだけの傲慢な考えだろ」

男「そもそもお嬢様に魅了スキルがかかるかも怪しい」



女「え……あ、もしかしてお嬢様さんが対象の『魅力的な異性』じゃないってこと?」

女「でも、最初は魅了スキルかけて婚約指輪を奪うって選択肢を上げてたし、魅力的だと思ったんじゃないの?」

男「それは容姿しか見えてなかったからだな。お嬢様さんの素の様子、人の迷惑を省みずワガママ放題な様を俺は知ってしまった」

男「正直ああいうタイプ苦手でな……魅力的に見れるか怪しい」

男(魅了スキルが暴発した際にクラスの女子の大半がかからなかったのも素の様子を知っていたからだった)

男(人間というのは原理的に一目惚れの方がしやすいのである)





女友「だったら、そうですね……宝玉の回収ついでに、私がアフターケアといきましょう」

男(そんな俺たちを慮ってか、女友が私に任せてくださいと胸をたたいた)

788 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/17(木) 20:29:31.55 ID:AIwwANCX0
続く。

次が3章最終話です。
789 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/17(木) 20:40:09.92 ID:yVW8h/tiO
乙ー
790 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/17(木) 22:38:30.12 ID:05nQiUzlo
乙!
791 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/18(金) 07:52:14.00 ID:Xpwf+G4fO
乙!
792 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/22(火) 18:23:13.96 ID:nxHoX85d0
乙、ありがとうございます。

少し遅くなりました。
3章最終話投下します。
793 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/22(火) 18:23:44.50 ID:nxHoX85d0

男(翌日)

男(俺たちは先日の御用聞きと同じく、古参商会の商会員と共にお嬢様の住む別荘を訪れていた)



執事「ご足労ありがとうございます。用件というのが二件ありまして」

商会員「ええ、お聞きします」

執事「ではまず前回の注文に関してなのですが、キャンセルしたい件を……」



男(執事に出迎えられて、商会員の人が話を聞いている)

男(前回の注文のキャンセル……察するにお嬢様が詐欺師のために頼んでいたものだろう)

男(結婚詐欺が暴かれたため、この別荘で一緒に住む予定が無くなったと)



商会員「……はい。……はい」

男(商会員は執事の言葉を聞いてメモを取っている)

男(かなりの注文がキャンセルとなり、大打撃のはずがどこか落ち着いているように見える)

794 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/22(火) 18:24:10.46 ID:nxHoX85d0

女友「私があらかじめ結婚詐欺の可能性について古参商会には連絡しておいたんです」

男「なるほど……想定済みだったってわけか」

女友「はい。そうでなくても、お嬢様はワガママ放題で、このような予定変更は日常茶飯事らしいですね」

女友「それを差し引いても大量に買ってくれるので上客らしいですが」

男(文句は多いがお得意さまというわけか……応対するの大変そうだな)



男(そうしている内に注文キャンセルの件が終わったようだ)



執事「二つ目の案件ですが……古参商会の方でこちらの指輪を引き取ってもらうことは可能でしょうか?」

男(言いながら執事が出したものはお嬢様の婚約指輪)

男(すなわち宝玉の設えられたものである)



男「……っ」

男(目的の物が目の前に出てきて俺は息を飲む)

795 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/22(火) 18:24:39.55 ID:nxHoX85d0

商会員「それは可能ですが……どうなさったんですか?」

執事「古参商会ともなれば巷間の噂はご存じでしょう」

執事「そうでなくとも今回の注文キャンセルから分かると思いますが……お嬢様の婚約が破談となりまして」

執事「昨日帰ってきた際に、お嬢様がその指輪を私に投げ付け『それ、もう見たくないの! 処分しといて!』と申されまして」

執事「気持ちは分かりますが、しかし指輪自体に罪はありませぬ」

執事「捨てるのは制作者がかわいそうだということで、お嬢様の意にはそぐいますが引き取りをお願いしたく……」



商会員「そういうことでしたら預からせてもらいます……じゃあ、君」

男(商会員は俺たちに指輪を受け取るよう指示する。俺たちはこの人の見習いという設定だ)

男(というわけで恐縮した様子の執事から、女が指輪を受け取って)



男「(これで宝玉三個目ゲット……だな)」



男(場の雰囲気から声には出さないが、女と女友も同じように一段落付いたということでホッとしたのが見て取れた)



男(ようやくこの町の宝玉を手に入れることが出来た)

男(つまりこの町での用は済んだということだが、しかし傷ついたお嬢様を見過ごすのもいかんしがたい)

796 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/22(火) 18:25:08.73 ID:nxHoX85d0

女友「お嬢様は今日どうされていますか?」

男(ということで商会員の人が用具の確認のため席を外したタイミングで、女友が口を開いた)



執事「……お嬢様は昨日別荘に帰ってきて、一通り当たり散らした後自分の部屋からずっと出ておりません」

男(昨日……というと、俺たちも立ち会うことが出来た詐欺師との面会の後ということだろう)

男(あの暴言を食らって八つ当たりした後、部屋に引きこもっていると)



女友「食事はどうされているんですか?」

執事「部屋の前に置いたものが気付くと無くなっているので、食べていると思います」

女友「そうですか、食事を出来るくらい元気なら大丈夫ですね」

執事「ええ。時間はかかるでしょうが、また元気な姿を見せてくれると信じています」



男(執事がお嬢様を思いやっていることが伝わる)

男(この前来たときに婚約を心の底から喜んでいたし、おそらく仕事だけではない関係なのだろう)

男(いい人だな、と頷いていると)

797 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/22(火) 18:25:36.02 ID:nxHoX85d0



女友「なるほど。とても大事に扱われていて…………」

女友「では、どうしてお嬢様はずっと別荘暮らしをしているのでしょうか?」



男(女友が奇妙な質問を投げていた)

男(どういう意味か考える俺に対して、直接質問をぶつけられた執事はというと)



執事「それは……」

男(何故か狼狽えている)

798 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/01/22(火) 18:26:15.24 ID:nxHoX85d0

男「どういうことだ、女友?」

女友「簡単なことですよ。別荘っていうからには、本宅が無いと成立しないんです」

男「本宅……?」

女友「そちらにお嬢様の両親はいられるのでしょう」

男「…………」

男(両親と別に暮らしているというのは……)



女友「愛情という名の下に全てを与えて育てた結果、ワガママ放題に育ったお嬢様を」

女友「両親が大きくなったのだからそろそろしっかりしなさいと当然のように方針変更したのでしょうね」

女友「しかし、お嬢様はいつまでも親の庇護下に居れると勘違いしていたためそれに付いていけず」

女友「呆れ見捨てられ……この別荘に隔離されたのではないでしょうか?」



男「隔離って……」

女友「ああ、もちろん名目は違いますよ。金持ちは体面を気にしますからね」

女友「おそらくはありもしない病気の療養だとか、静養のためだとかでお嬢様は望んでこの別荘にいることになっているのでしょう」

女友「ここにいる使用人たちはその監視兼世話係ですね」

女友「家の評判に関わるほどのことをされても、一人で放置して死なれても困りますし」
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